2017年03月25日

青年「狂騒世界の人形遊び」

青年「はぁ……」

環境が変わってからはや1ヶ月。
この憂鬱は五月病のせいか、青年はため息をついた。

青年(浮浪者の対処……なんて、明らかに汚れ仕事を押し付けられただけだよな……)

最近ストレスで食欲は減退し、睡眠は浅くなり、趣味もろくに手につかない。
今日もまた『誰でもこなせるが誰もやりたがらない』仕事を命じられ、それをただこなす。

それが青年――この街の領主代行たる、彼の日常だった。





>1ヶ月前

青年「領主代行……俺が?」

父から聞かされた時、聞き間違えたかと思った。
広い地方を治める領主である父は、隠居を控える年齢になり、子供達に領地を分け与えているところだった。
だが兄弟の中でもとりわけ出来の悪い自分は、下働きのような仕事でも与えられ、肩身の狭い思いをして生きていくのかと思っていたが。

父「あぁ。三男の治める街に、領主代行として趣いてくれ。あいつもなかなか忙しい奴でな」

三男。頭脳、剣技に優れ、10代半ばから領主を務めている天才。
あいつと兄弟であることに卑屈さを感じている俺なんかが、あいつの代行業務なんて務まるのか……。

父「お前も領主の仕事は学んできたはずだ。しっかりやれ」

青年「……はい」

不安を覚えつつ、俺は三男の治める地方に転居することとなった。





そして転居初日、俺は早くも現実に打ちのめされることとなる。

三男「そう気張らなくて大丈夫ですよ兄上。……僕には優秀な補佐がいますから、兄上が苦労することはないでしょう」

青年「……」

綺麗に整った笑顔で吐いた言葉の意味を、俺はすぐに理解した。
『お前なんて必要じゃない』――そういうことだ。

青年(なるほど、そういうことか)

要するに領主代行とは名ばかりなのだ。一族の者はそれなりの地位に就かせなければならないから、この『1人で大体のことはこなせる』三男の代行に命じられたのだろう。ようやく合点がいった。
というか、むしろ気付くの遅すぎた。

青年「……とりあえず報酬を貰う以上、仕事をくれると助かる」

三男「わかりました。では、この手紙をギルドに届けてくれませんか」

青年(使い走りか。ま、いいけど)

ドブさらいや家畜の世話をさせられるかと思っていたので、それくらいなら。
三男にも外聞があるし、領主代行の兄に与える仕事は、流石に選ぶか。

青年(でも、これからどうなるかわからないけど)

そして、そのネガティヴな予感は早くも的中した。
俺が手紙を届けたギルドの担当員、こいつが高圧的で人の話をろくに聞かない。まさに『誰も相手したくない』街の嫌われ者だった。





青年「はぁ……」

この1ヶ月、本当にストレスフルだ。
ギルドの担当員を始め、俺が任せられるのは街の嫌われ者、厄介者の相手ばかり。
こいつらが独自の理論をかまし、マトモな会話ができず、自分のことしか考えてない奴ばかり。相手すれば精神を消耗するのに、上手く対処できたところで得るものがほとんどない。……正直、殺したい。

「あ、領主代行様。こんにちは!」

街の人々に顔は覚えてもらえたが、やはり勘付く者は勘付くようで……。

「どうして領主代行様は、あんな仕事ばかりさせられているのかしら?」
「そういう仕事しかできないからだろ」
「他のご兄弟は別の地で領主をされているのに、あの方だけ代行ですもんねぇ」

青年(おもっくそ聞こえてますけど)

だが悔しいことに、言い返せない。
努力しなかったわけではないが、俺は勉強も剣技も並以下だ。それに、これといって秀でた能力もない。

「領主代行さまって、顔立ちは整ってるけど……童顔の上に背も低いから、異性としては微妙だよねー」
「好きなものは人形らしいよ」
「ちょっと陰気だよね」

青年(その悪口、関係ある?)

事実だからと、好き勝手言い過ぎじゃないか。
おまけに――

「妾腹なんですって、代行様」

青年(……)

「妾腹……ってことは、領主様のお父様に愛人が? あの名主と名高いお方に?」
「いや、それがはめられたそうだよ」
「と言うと?」
「酒場にいた女に酔い潰されて、無理矢理関係を持たされたんだってよ」
「あ、聞いたことある。しかもその女、高額な養育費をせびっていたとか」
「代行様が子供の頃にアル中で死んだらしいけど……よく、代行様を引き取る気になったよな。流石、人格者は違う」

青年(噂が広まるのって早いな)

それも事実だ。母親は夜の女で、俺が5歳の頃に死んだ。
薄汚れた世界で育った俺はその歳まで、ろくな躾も受けていなかった。だから引き取られた後は、環境に適応するのに相当苦労した。
その時点で俺は、他の兄弟達から出遅れていたのだ。

青年(だから無能でも仕方ない……なんて言い訳、通用するわけがないよな)





>街外れ


青年(ここだよな……)

「街の外れに浮浪者の女が現れるようになった」と聞くようになったのは、ほんの数日前。
そいつが人に危害を加えたということはないが、それでも放置しておくわけにはいかない。

ガサガサ

青年「ん?」

女「……」

早速現れた。
ボサボサの金髪、あちらこちら破れて汚れたローブ。栄養不足か体は痩せこけ、靴を履いていない素足は痛々しい。

青年(こいつか)

報告によると、その女は――

女「……ご主人様」

青年「……」

女「ご主人様、ご主人様ぁ」

――気が触れているらしい。

青年(報告通りだな)

女は数日前、街で病死した旅の商人が連れていた奴隷らしい。
この奴隷娘の気が触れたタイミングはわからないが――彼女はどうやら目に映る男が、死んだ『ご主人様』に見えるようになったそうだ。

奴隷娘「ご主人様、待ってましたぁ」

青年(やれやれ)

薄汚いとはいえ、女は女。いつ変な奴に襲われるともわからない。

青年(こいつの"対処"か……)

檻のついた山奥の施設にぶちこむか?
奴隷の身分なら、売り払うか?
それともいっそ――殺してしまうか?

青年(……どれにしても、汚れ仕事だな)

三男は具体的な指示を出さなかった。だからこそ汚名も俺にかかってくるのだが……。

奴隷娘「ご主人様?」

青年「いや……」

気の触れた浮浪者の女、と聞いた段階でなら、上で挙げたどれかをやる覚悟はしていた。
だがこう、直接女を見てみると……。

奴隷娘「?」

青年(うーん)

何て言えばいいかわからないが、こいつの目はとても純粋だ。俺を「ご主人様」と呼ぶ声も無邪気そのもので、何だか愛嬌がある。
ここ1ヶ月相手してた連中がひどいのばかりで、マシに見えるだけかもしれないが……。

青年(罪悪感が……)

奴隷娘「ご主人様、どうされました?」

青年(……とりあえず、保護するのが先決だよな)

奴隷娘「?」

青年「行くぞ。俺についてこい」

奴隷娘「はぁい」

ひとまず、俺の家に連れて行くこととなった。





俺の暮らしている家も街のはずれにある。街に馴染んでない俺としては、割かし過ごしやすい場所だ。

青年(やっぱ施設に入れるのが1番人道的かねぇ)

奴隷娘を風呂に入らせている間、俺は今後のことを考えていた。
施設となると俺が全手続きをすることになるのだが、それは仕事だから構わない。だが問題はある。

青年(文句を言う家族がいないのをいいことに、入所者に非人道的な行いをする施設も多いと聞く。施設選びが課題か……)

虐待を見極めるのは簡単ではない。
何せそういうのは人目につきにくい上、職員達に隠蔽されているのが現状だ。

青年(そういう施設に若い女が入ったら……間違いなく、格好の餌食だよな)

奴隷娘「ご主人様ー」

青年「あぁ、上がったか……」

と、振り返ると。

青年「」

奴隷娘「ご主人様?」

青年「お、おおおお前!? なな何で、服っ……」

奴隷娘「なくなってたので……」

青年「シャツ置いておいただろ!?」

奴隷娘「あれはご主人様のでは……」

青年「お前の服は洗うから!! つか、服がないからって裸で出てくる奴がいるか!!」

奴隷娘「でもご主人様ですし……」

青年「いいから着てこいっ!!」

目の焦点をなるべく奴隷娘から外し、俺は女を追い返した。

青年(全く……。この危機感のなさ、やっぱり施設選びは慎重にやらないとな!!)ドキドキ

青年(それにしても……あの刺青は)

今のゴタゴタで有耶無耶になりかけていたが、奴隷娘の体に刻まれた刺青を、俺は見逃していなかった。

青年(ま、いいか。……後で聞くか)


>5分後

奴隷娘「着替えてきました、ご主人様」

青年「ん」

俺の部屋着を着て奴隷娘は出てきた。
俺の服はサイズが小さめだが、流石にやせ型の女が着るとダボッとしている。

青年(それにしても……)

奴隷娘「?」

風呂に入って薄汚さがなくなったら、奴隷娘はそれなりに可愛らしい容姿をしている。不健康そうな雰囲気で、大分損しているが。

青年「その……」

奴隷娘「?」

青年「えーと……お前、いくつだったっけ?」

奴隷娘「お忘れですかご主人様ぁ。18です~」

青年「あ、あぁ。そうだったな」

こいつは俺を『ご主人様』として見ているから、会話運びに頭を使う。
『ご主人様』であることを否定すればいいかもしれないが……それで発狂でもされたらかなわん。

青年(だが、どうするか……刺青のこと、どう聞けばいい?)

あの刺青は半魔の印。つまりこの女は魔物と人間のハーフで、純粋な人間ではない。
けど『ご主人様』なら、当然知ってるだろうし……。

青年「……」

奴隷娘「?」

青年(まぁ、いいか)

半魔はそれなりに珍しい存在ではあるが、この女は人間とさほど差異はなさそうだ。
とりあえず半魔であるという事実だけ頭に入れて、その話は切り出さないことにした。

青年「とりあえず今日はもう遅い。もう休んでおけ」

奴隷娘「ご主人様は?」

青年「俺は仕事を片付けてから休む」

奴隷娘「ご主人様より先に休むのは……」

青年「む。そうか……」

仕事と言っても重要ではない書類整理で、とりわけ急ぐわけでもない。
この女に合わせた方が、ボロが出る可能性は低い。

青年「なら、俺も休む。そこの部屋を使ってくれ」

奴隷娘「あ……」

青年「お休み」

やや落ち着かない気分を抑え、ベッドに入る。
どうやら知らずの内に疲れていたようで、意識はすぐに眠りに誘われた。

青年「すうぅ……」

ようやく今日が終わる。
何の希望もない明日はすぐにやってくる。
明日は今日よりマシでありますように。

青年「んんん……」

モゾモゾ

青年「……ん?」

何だ? 寝相が悪くて布団でもずれたか……。

奴隷娘「すやすや」

青年「!!?!?」

布団どころじゃなかった。

青年「おい!?」

奴隷娘「んん~……? どうされましたぁ、ご主人様?」

青年「何で俺のベッドに入ってくる!?」

奴隷娘「? いつも、そうしてますよねぇ……?」

青年「え」

何だと。

青年(あぁ……こいつ、愛玩奴隷だったのか)

青年「今日はそういう気分じゃない。1人で寝ろ」

奴隷娘「私、1人じゃ寝れません~」

青年「……」

こいつの死んだ主人は、少なくとも、奴隷がワガママを言えるような男だったようだ。

青年(困った)

奴隷娘「今日のご主人様、なんか変ですねぇ?」

青年「えーと、そのー……」

出来の悪い頭では、言い訳が思いつかない。

青年「……わかった。並んで寝るだけだぞ」

俺が手を出さなければいい。そういう結論しか出せなかった。

奴隷娘「すやすや」

青年(はぁ……)

何一つ警戒していない奴隷娘の寝姿を見て、早く良い施設を見つけねばと思った。





>翌日、診療所


医者「数日前に死んだ行商人ですかい?」

朝早くに俺は、行商人を看取ったという医者のところにまで来た。
別にこれは仕事ではないが、どんな人間なのか一応聞いておこうと思った。

医者「ここに運び込まれてきた時、既に虫の息でしたからねぇ。どんな人間かは、ようわかりません」

青年「虫の息……魔物にでもやられたか?」

医者「いえ、病気ですね。あれは先天性のものですな」

青年「そうか、病気か。……愛玩奴隷を残して逝くとは、何てタイミングの悪い」

医者「愛玩? あれは違うでしょ」

青年「? 何故だ?」

医者「あの行商人の病気じゃ、確実に不能ですよ」

青年「……」

不能。死してなお不名誉なことを言われるとは、気の毒な。
しかし、ひとつ安心した。あの奴隷の『ご主人様』が不能ということは、彼女が俺に性行為を求めてくる可能性は極めて低い。

青年「わかった、礼を言う」

行商人の大体のパーソナルデータがわかったので、俺は診療所を後にした。

青年(さて、仕事に向かうか)

と、三男のいる屋敷に向かう途中……

バシャー

青年「うわっ!?」

唐突に体全体に冷たさを感じた。
これは……泥水!?

酔っ払い「ざまぁみやがれ!!」ダッ

青年「……」

俺に泥水をぶっかけた酔っ払いは一目散に逃げていった。
あいつ、覚えている。数日前の仕事相手だ。ある申請をしてきたので俺が手続きを担当したのだが、まぁ面倒な相手だった。
自分の要望(しかもかなり無茶な)が全て通らないとわかると怒鳴り散らし、最後まで文句しか言わない奴だったが……まさか、こんな報復行動に出るとは。

「代行様、大丈夫ですか? タオルをどうぞ」

青年「いや、大丈夫だ。気遣いありがとう」

親切はありがたいが、口元がニヤついてやがる。
笑いものになるのも不愉快なので、俺はさっさとそこから立ち去った。



>屋敷前


三男「おや、兄上。おはようございます」

屋敷に着くと、三男が丁度外に出ていた。

青年「俺の仕事相手にやられた。一旦帰って体を洗ってから出直す」

本当は守衛から伝えてほしかったが、三男がいる以上直接伝えるしかなかった。

三男「それは大変でしたね。わざわざそれを伝える為だけに、一旦ここへ?」

青年「あぁ。理由も言わずに遅刻はできないだろう」

三男「兄上は本当に真面目ですね」

青年「……」

こいつがこの笑顔を見せるのは、俺を馬鹿にしてる時だ。
『真面目なのに無能ですよね』とでも、言いたいのだろう。

三男「浴室なら、屋敷のを使っても構いませんよ」

青年「着替えはどうする。俺とお前では体格も違う」

三男「使用人の服がありますから」

青年「……使用人の服では仕事にならん」

三男「ん? あぁ、そうでしたね」

立場上、俺は仕事時には正装しているが、そんなこともどうでもいいのだろう。
確かに俺の容姿は、正装したところで威厳もないが……。

三男「では、帰り道もお気を付けて。底辺の人間は何をしでかすかわかりませんからね」

青年「……あぁ」

底辺の人間――八方美人の三男も、たまに失言をする。
俺の仕事相手は三男にとって底辺ばかり。だから俺に相手をさせる――同じ、底辺の人間だから。

青年(まぁいい……)

前々からわかっていたことだ、そんなのは。それよりも帰って体を洗わねば。





>自宅


青年「さて」

奴隷娘「お帰りなさい」

青年(あ、そうだった)

家から絶対に出るなと言いつけて、こいつを留守番させていたんだった。
奴隷娘は俺を見るなり、目を大きくした。

奴隷娘「ご主人様、その格好は……」

青年「色々あってな。すぐに体を洗って、また出かける」

奴隷娘「お風呂ですね!」

青年「いや、軽く洗い流すだけだ」

奴隷娘「なら、お着替え用意しますね!」

奴隷娘はパタパタと走っていった。
俺の着替えがわかるのか……とか言うのも無粋だろう。
俺はすぐに浴室に向かい、体を洗い流した。

奴隷娘「ご主人様ぁ、お背中流しましょうか~?」

青年「いや、いい。入ってくるなよ?」

奴隷娘「はぁい」

青年(もういいか。早めに着替えよう)

青年「……よし。髪がまだ濡れているが、乾くだろう」

奴隷娘「ご主人様~」

青年「何だ?」

奴隷娘「浴後のお飲み物です~」

青年「あ、ありがとう」

奴隷娘「……」ニコニコ

青年「では行ってくる」

奴隷娘「ご主人様、今度はお気を付け下さいね~。いくら暖かい時期でも、濡れてたら風邪引いちゃいますから~」

青年「あ、あぁ。夕方には帰る」

奴隷娘「では行ってらっしゃい~」ニコニコ

青年「……あぁ」

俺の姿を見送る奴隷娘は、まるで使用人のようだが悪い気はしない。
それに――

青年(……いつ振りだ、あんな風な笑顔を向けられたのは)





青年「ふぅ……」

仕事が終わるとホッとする。
今日も散々仕事相手に怒鳴られたり、ネチネチ言われたり、面と向かって貶されたりしたが、朝のように危害を加えられることはなかった。

青年(今日は、いつもツバをかけてくる奴が無害だった。だから良かった)

なんて、我ながら麻痺したことを考える。

奴隷娘「お帰りなさい、ご主人様ぁ」

青年「ただいま」

奴隷娘「今、お食事できたところです~」

青年「何。……お前が作ってくれたのか?」

奴隷娘「はい~。私のお仕事ですから」

青年「……おぉ」

食卓に並んでいたのは、焼きたてのパン、温かいスープ、彩のいいサラダ。
俺も一人暮らしだから自分の飯は自分で用意していたが、ちゃんとした『料理』を食卓に並べたことはない。

奴隷娘「どうぞ召し上がって下さい~」ニコニコ

青年「……」モグ

奴隷娘「……」ニコニコ

青年「美味いな。……久々に、飯を美味いと思った」

青年(あ。しまった)

気が抜けてつい言ってしまったが、奴隷娘の『ご主人様』は、いつも彼女の飯を食べていたはずだ。
この言い方では、いつもは美味しくないか、もしくは久々に彼女の飯を食べたかのようだ。

奴隷娘「良かったです~」ニコニコ

青年「……」

だが意外なことに、奴隷娘はこれといった反応を示さなかった。

青年(……色々と都合良く解釈してくれているのか?)

思えば奴隷娘と『ご主人様』は行商をしているはずなのに、俺の家にいることに対して、彼女は何の疑問も口にしない。
気が触れているせいなのか知らないが、恐らく彼女の中で整合性が取れているのだろう。……きっとそれが、彼女の心を守る手段なのだから。

青年「お前は食べないのか?」

奴隷娘「食べます! 一緒に食べましょう!」

青年「ん。なら早く席につけ、飯が冷めるぞ」

奴隷娘「はぁい」

青年「……」

奴隷娘「うーん、今日のは上手くできた」ニコニコ

青年「……なぁ」

奴隷娘「はい!」

青年「いいな、こういうの。ホッとする」

奴隷娘「ホッとしましたか~。いつもお疲れ様です!」

青年「……あぁ」

彼女の言葉は俺でなく、『ご主人様』に向けられたものだ。
それでも、久々に触れる思いやりは、気持ちがいいものだ。

青年(……明日の食卓も、こうだといいな)





ギルド担当員「……ああぁあ! もう何十回申請書類書き直したと思うんだよ!! いい加減にしろよ!」

青年「まだ4回だ。それに、毎回説明しているように」

ギルド担当員「不備があるったってしょーがねぇだろがあぁ! 前に辞めた奴が不備残して辞めやがったからよォ!!」

青年「それはそちらの都合であり」

ギルド担当員「大体、こんな監査ごときで何がわかるってんだよ! 俺らはちゃんと仕事して税金収めてんだぞ!!」

青年(あぁーうるせ)



青年「三男。今日の報告書類ができた」

三男「はい、お疲れ様です。そこ置いておいて下さい」

領主補佐「領主様。最近街の周りに増えた魔物の件についてですが……」

三男「あぁ、早急に手を打つつもりだ。四男の領地に既に連絡は……」

三男と補佐で話が始まったので、俺は小さく挨拶して部屋を出た。
俺の書類も三男ではない誰かが、手が空いた時にでも目を通すのだろう。
厄介な人間を相手にしてるというのは周知の事実である為、失敗しても特に咎められないが、重要性の低い仕事である為、上手くいったところで達成感もない。

青年(……やり甲斐ねーな)


1度、父に家を出ると言ったことがある。だが、全力で止められた。
確か言われた言葉はこうだ。

父『お前がどこに行っても、我が一族出身であることは人に知られることになるだろう』

父『お前1人の力で生きていける程、外の世界は甘くない』

――つまり、『よそに行って恥を晒すな。一族の中で誰にも迷惑かけずに大人しくしてろ』ということだ。
名主である父が言うなら間違いない。俺に、自分の力で生きていく力なんてないのだ。

青年(現状を脱却したければ、無能を脱却しろ……)

……今まで何度試みたことか。あぁ、どうせ努力不足なのだろうけど。


青年「ただいま」

奴隷娘「お帰りなさーい」

家に戻って彼女の顔を見るとホッとする。
明日は休日だ。1日中外に出ず、ゆっくり過ごすのが良いだろう。

奴隷娘「ねぇご主人様ぁ」

青年「ん、何だ?」

奴隷娘「2階のお部屋を掃除しようと思ったんですが、作業部屋みたいのがあって……触っちゃ駄目かと思って、何もしませんでした」

青年「あぁ。そう言えば、作業を途中で投げ出して散らかしっぱなしだった。あそこは放っておいていい」

奴隷娘「作業ですかぁ?」

青年「あぁ。人形を作っていた」

奴隷娘「人形!」

奴隷娘はぱっと顔を明るくした。
人形作りは俺の趣味だが、ここ最近気が滅入って作っていなかった。

奴隷娘「どんなお人形を作っているんですか?」

青年「人間でも、動物でも、色々だ。ほら、そこに置いてる小人も俺が作った」

奴隷娘「あら可愛い」

青年「いや……」

小人は手足の長さがチグハグで、立たせることができないので座らせている。
目の肥えてない人間には良く出来ているように見えるかもしれないが、粗はかなりある。
唯一の趣味も、俺の腕前だとこんなものだ。

奴隷娘「でも、どうして人形作りを?」

青年「……暇つぶしだ」

まだ母のもとにいた頃、遊ぶ玩具がなくて、ゴミ処理場で拾った人形で遊んでいた。
その人形は父に引き取られる際に処分させられたが、その頃の名残で人形が好きだったりする。
だが男が人形を所持するのは少し抵抗がある為、だったら物造りの趣味として……というのが、人形作りを始めた理由だ。

青年「まぁ人形はいい。それより飯を」

奴隷娘「はぁ~い」

飯を食いながら、俺は思い出に浸っていた。
幼かった俺は、あの人形に大層執着していた。少し癖のかかった金色の髪、どこか虚ろだがぱっちりした目玉……。

青年(……そう言えば、似てる気がするな)

奴隷娘「もぐもぐ」

青年(……やめよう)

この歳になって考えるようなことじゃない。
生身の人間と人形を同一視するなんて……頭がおかしいじゃないか。





>翌日


青年「ふあぁ」

今日は休日だ。ゆっくり体を休め……

ドンドォン

奴隷娘「お客さんですかねぇ。かなり激しいですねぇ」

青年「……奥の部屋にいろ。絶対、出てくるなよ」

俺は奴隷娘に強めに言って、玄関のドアを開けた。
すると……

ギルド担当員「おいコラァ! この書類も通らないって、どういうことだあぁ!!」

青年「俺は今日は休みだ。明日になったら聞く」

ギルド担当員「知るか、そんなこと!! こっちは切羽詰まってるんだよ!!」

青年(だったら、こちらの話をきちんと聞け……)

せっかくの休日なのに、何たる災難。
ギルド担当員はぐいぐいと書類を押し付けてくる。全く、何て勝手な。

青年「……ん? 明らかに枚数が足りないが」

ギルド担当員「……あぁ、忘れてきちまった」

青年(……抜けてるのは、書類の中身だけでないようだ)

ギルド担当員「何だ、その目は!! 持ってくりゃいいんだろ!!」

青年「今日は休みだから、明日赴く……」

ギルド「待ってろよ、この野郎!!」

青年(聞いちゃいねぇ)

参った。
休日が潰れるのは勿論困るし、相手すれば『こいつ相手なら無理が通る』と思われて、他にも色んな奴が押し寄せてくるようになる。

……逃げるか。

青年「奴隷娘」

奴隷娘「はぁい」

青年「出かけるぞ。格好はそのままでいい」

奴隷娘「わかりました~」

目的地は1番近くの街……四男の治める街だ。





>四男の街


青年(ここまで来れば流石に大丈夫だな)

奴隷娘「色んなお店がありますね~」

青年(わざわざ四男に会いに行くこともないし、どこか適当な店で……)

奴隷娘「……」ジー

青年「どうした。……んっ」

奴隷娘の視線の先……そこは服屋で、ショーウィンドウに洒落た服が飾られていた。

青年(……そう言えば、こいつ他に服を持っていなかったな)

施設選びが難航している今、いつまで彼女がうちにいるかわからない。
……金は使い道がない。

青年「入るか?」

奴隷娘「えっ……そ、そんな、悪いです!」ブンブン

青年「悪くない。入るぞ」

奴隷娘「あっ、はい」

奴隷娘は遠慮しつつも、俺が手を引くと素直についてきた。
幸い、この街の人間に俺の顔は知られていない。だから堂々と2人で一緒にいられる。

奴隷娘「おおぉー」キョロキョロ

青年「欲しいものがあれば言え」

奴隷娘「うぅーん」

奴隷娘は目を輝かせながら、店内の商品を色々見ていた。
俺は別に見るものがないので、店の隅で奴隷娘の様子を見ていた。

そして30分経過。

青年(女の服選びは時間がかかるものだな)

奴隷娘「あー、うー」

青年「……どうした、決まらないのか」

奴隷娘「わかんないんですー」

青年「わからない? 好きなのを選べばいいだろう」

奴隷娘「よくわかんないんですよぉー。どれも可愛いけど、私はどれを着ればいいのか……」

青年「……うーん」

奴隷の立場にいたから、自分で服を選ぶことができないのか?
まぁ、気持ちはわかる。俺も自分の好みで服を選んだことはないので、好きなのと言われてもなかなか選べないだろう。

奴隷娘「ご主人様が選んで下さい~」

青年「俺が? 女の服はわからんぞ」

奴隷娘「ご主人様から見て、私に似合いそうなものでいいんです~」

青年「……そ、そう言うなら」

とは言って商品を見たものの、やっぱりよくわからない。
店員に聞くのが1番良いか……。

青年「……ん」

と、その時、1着のワンピースが目に入った。

青年(あれは……)

似ている。俺が昔大事にしていた人形が着ていた服にそっくりだ。
シックで控えめな茶色が、人形の金髪を輝かせて……――

青年「……あれにしよう」

気付けば、俺の口からそんな言葉が出ていた。

奴隷娘「可愛いですねぇ。お人形さんの服みたい」

青年「良かったら……着ていくか?」

奴隷娘「いいんですかぁ?」

青年「あぁ。試着室を借りて、そのまま会計しよう」

奴隷娘「わかりました~」

奴隷娘は言われた通り、ワンピースを持って試着室に入っていった。

青年(あいつが着たら……どんな風になるのか)

妙に気分が高揚していた。
女慣れしていないと、こういうものなのか。

奴隷娘「着替えました~」

青年「……――っ!!」

そしてその姿を見て、俺は絶句した。

青年(似てる……あの人形に、そっくりだ!!)

それまで記憶の中で朧げだった人形の姿が、一気に頭の中に蘇った。
それと同時、妙な興奮が俺の中に芽生えた。どうしてこんなに心が躍るのだろう。俺は今、非常に喜びを覚えている。

青年「他に、あれも買うぞ!」

あの人形は、髪をリボンでまとめていた。
控えめなネックレスを首から下げていて、あとは――

奴隷娘「このリボンとネックレスも……ですか?」

青年「あぁ。是非、身につけてくれ」

奴隷娘「あ、はい」

イメージはこれがピッタリだが、他にも替えがあれば……

店員「全てお買い上げですか?」

青年「あぁ!」

店員「ふふ。彼女さんを大事にされているんですねぇ。お客さん、とても嬉しそう」

青年「……っ!」

青年(俺は……何を)

ようやく、我を忘れていたことに気付く。

青年(……疲れているんだな。最近、ストレスフルだったから)

会計を済ませ、俺は早足で店を出た。





>夜


青年(あーあ)

家に戻ると玄関ドアが歪んでいた。あのギルド担当員の仕業だろうか。
他にこれといった被害はない。俺がいないとわかって、諦めて帰ったのか。

三男『では、帰り道もお気を付けて。底辺の人間は何をしでかすかわかりませんからね』


三男の言葉を思い出す。本当に、この手の連中は何をしでかすかわからないから、『正しい対処法』がない。
だから出来るだけ関わらないように生きていくしかないのだが……仕事相手だけに、そうはいかない。

青年(……ドア、修理しないと隙間風が入るな。今はいいが、これから寒くなるからな)

また余計な仕事が増えた。
こんなことになるなら出かけなければ良かったか……。だが、相手したらその方が疲れただろうし……。
というか明日ギルドに赴けば、担当員は確実にブチギレてるな。

青年(あー……どっと疲れた)

ブチギレて血管切れて死んでくれないか。そう願ってしまう程に憂鬱だ。

奴隷娘「ご主人様に買って頂いたお洋服とアクセサリー、可愛いです♪」

呑気な奴隷娘は、新しい服を着て鏡を見ながらぴょんぴょんしている。

奴隷娘「~♪」

青年(人形……)

疲れているのか、奴隷娘が人形に見えてきた。

青年(う……)クラッ

奴隷娘「お疲れですかぁ、ご主人様。今日はもうお休みになられます?」

青年「あ、あぁ」

ベッドに横になると、奴隷娘も入ってくる。彼女が初めて来た日から恒例だ。

奴隷娘「すやーすやー」

奴隷娘の寝つきはいい。いつも、ベッドに入ってすぐに寝る。
俺はというと……

青年(休日が終わる……)

休日の終わりは特に寝つきが悪い。
憂鬱な明日が訪れる不安感で、心臓が潰れそうになる。

青年「はぁ……」

奴隷娘「すやすや」

青年「……」

穏やかに眠る奴隷娘の髪をそっと撫でる。
少しウェーブのかかった髪は、細く柔らかい。

青年(お前だけだ……俺の癒やしは)

例え明日が憂鬱でも、奴隷娘は俺の元にいる。
そう思うだけで、気持ちは大分安らかになった。

明日もまた生きよう。
そうやって生きていれば、いつか終わることができるんだから――





ギルド担当員「馬鹿にするのもいい加減にしやがれ!!」

憂鬱な予感は的中し、俺は朝一番で担当員の怒声を浴びていた。

ギルド担当員「あぁしても駄目、こうしても駄目、結局上の人間は粗探ししてぇだけなんだよ!!」

青年「……何度も言っているように、指示した通りにやれと」

ギルド担当員「そっちの指示がわかりにくいんだよ!」

青年(だったら、その時点で質問しろ……)

ストレスをぶつけたいだけなのかもしれないが、仕事なので邪険にもできないのが苛立たしい。

青年「わかりやすいように指示書を作ってきてやった。この通りにやれ」

ギルド担当員「馬鹿にしてんのか!」

青年「明日また来る」

これ以上ストレスが溜まる前に、出ていこうとしたが……。

ドゴッ

青年「!!?」

背中に痛みを感じ、俺はよろめいた。

酔っ払い「この野郎は本当、ムカつく奴だな! ヒハハ、俺が代わりにやってやるよォ!」

青年「お前……っ!」

この間、泥水をかけてきた酔っ払いだった。
酔っ払いはこのギルドの利用者らしく、その腕で俺に掴みかかってきた。

酔っ払い「この野郎、この野郎ォ!!」

青年「ぐは……っ!」

床に倒され、殴られる。
顔面、胸、腹、腕――酔っ払っている相手は、手加減する気配がない。

青年「ぐっ、うぅ……っ」

攻撃に耐えるので精一杯だったが、ギルドの人間たちが大騒ぎしているのは聞こえた。
実際殴られている時間は、体感より遥かに短かったのだろう。酔っ払いはギルドにいた人間たちによって引き剥がされ、やがて憲兵にしょっぴかれていった。



三男「災難でしたね兄上」

青年「……あぁ」

怪我を治療した後、三男に呼び出されて屋敷に趣いた。
三男は、さも憐れむような目で俺を見ている。

三男「しかし兄上、殴られている間まるで抵抗しなかったとか。正当防衛として抵抗は認められるのですよ」

青年「……」

三男「まぁ良いです。その怪我で仕事を続けるのは酷でしょう。しばらくの間、休んで下さい」

青年「……すまない」

屋敷を出た後、俺は舌打ちした。

青年(白々しい……抵抗『できなかった』んだよ!!)

ギルド利用者は戦闘に心得がある者が多く、あの酔っ払いも俺より体格が良く、力もあった。
そんな奴が酔っ払ってリミッターを外して襲いかかってきたら、ろくに抵抗できるわけがなかった。

青年(く……)

護身術なら習った。基礎体力も鍛えられた。それなのにこのザマだ。

青年(くそっ!)

イライラする。
無能なのは覆せない。だから俺の一生は、こんなもんだ。

青年(なんで、なんでこんな目に……ッ!!)

なのに俺は、それを受け入れられずにいた。



青年「ただいま」

奴隷娘「お帰りなさ……」

奴隷娘は俺を出迎えるなり、ギョッとしていた。

奴隷娘「ご、ご主人様!? そのお怪我は!?」

青年「まぁ……ちょっとな。怪我が治るまで、休むことになった」

ぞんざいに言うと、俺は部屋へ戻ろうとした。

奴隷娘「あのっ、ご主人様……!

事情を聞こうとでも言うのか。
当然の疑問かもしれないが、今はそれも煩わしい。

青年「悪いが1人にしてくれ! 今は人と話す気分じゃ……」

奴隷娘「……っう」

青年「!?」

泣いてる? ……泣かせた? 俺が?
女を泣かせるのは、流石に気まずい。

青年「……すまない、気が立っていた」

奴隷娘「ぐすっ、うえぇん」

青年「そ、そんなに泣くな! 悪かったから!」

奴隷娘「うえっ、だってぇ……ご主人様、可哀想で……」

青年「……可哀想?」

奴隷娘「すっごく痛そうなんだもん……グスッ」

青年「痛いは痛いが、そこまででもない……。そこまで気の毒がらなくていい」

奴隷娘「ご主人様ぁ……どうして、そこまでして行っちゃうんですかぁ?」

青年「……ん? どういうことだ?」

奴隷娘「だってご主人様、いっつも、暗い顔して出て行くんだもん……。ご主人様、外でひどいことされてるんですよね?」

青年「……っ!!」

頭の足りない娘かと思っていたが、そこまで気付いていただと……?

青年「……そんなことはない」

ひどいことをされることなんて滅多にない。
俺の無能さが招いた日常なのだから、辛くても、耐えなければいけない。

奴隷娘「ご主人様ぁ……ご自分を大事にして下さいよぉ」

青年「その辺は上手く休息を取っている。大丈夫だ」

本当は、ギリギリだけど。

奴隷娘「ご主人様が潰れてしまったら、私、私……」

青年「……つらい、か?」

奴隷娘「つらいだけじゃ、済まないです……」

奴隷娘は鼻をすすりながら、言葉を続けた。

奴隷娘「だって……生きていけないもん。ご主人様なしじゃ、どうしていけばいいかわからないもん……!」

青年「――っ」

ぞわっ――全身にゾクゾクとした何かが走る。
そうだ。こいつは奴隷。主人への隷属と、主人からの庇護で人生を決められてきた存在。
だから主人を失ってもなお、主人を求め、彷徨っていた。

そして今、こいつの「ご主人様」をしているのは俺であり――

青年(こいつは――世界で1番、俺を必要としてくれている)

誰にも認められたことのない、この俺を。

青年「奴隷娘……」

奴隷娘「何でしょうか?」

俺は、自分が愛される存在だと思っていない。だから、誰からの好意も信じられない。
だけど――

青年「ずっと……俺の側にいてくれるか?」

彼女だけは信じられる。
彼女は俺を見ていないから。世界が狂っているから。

奴隷娘「勿論ですよ、ご主人様」

青年「……っ」

願わくば、彼女は永遠に狂ったままでいて――

青年「俺も――お前の側にいる」

狂った世界で、俺によって救われますように。





それから数日は穏やかに過ごした。
怪我は数日で治り、俺は仕事に復帰した。

だが、前のような憂鬱さはない。

青年「会計頼む」

店員「は、はい」

怒鳴られても罵られても、たまに危害を加えられても、今の俺には心の支えがある。

「代行様、また女性ものの衣装を買っていかれたな……」
「恋人でもできたのかねぇ」
「でも、そんな様子ないよなぁ。相変わらず家からあまり出ないみたいだし」
「まさか女装癖でもあるんじゃ」
「っていうか最近、目つきがおかしいよね。もしかして、気が触れたんじゃ……」

耳に入る雑音も心には届かない。
好きなように言えばいい。俺の世界は、俺と彼女だけが理解できればそれでいい。



青年「買ってきたぞ。お前に似合うと思って」

奴隷娘「ありがとうございます、ご主人様♪ 可愛いですね~」

青年「……この服には、この間買ってきた髪飾りが似合うんじゃないか」

奴隷娘「ご主人様がおっしゃるなら!」

彼女は従順だ。
俺の言うことを聞いてくれるし、見た目も俺好みに飾ってくれる。
まるで人形のような女。そんな彼女との戯れは人形遊び。

青年「奴隷娘……お前は本当に愛らしいな……」

奴隷娘「ご主人様が、そうして下さったのですよ」

俺がいなければ生きていけない。
思考を俺に委ねて、手のひらで転がされて――それで安心していられる、可愛い女。



青年「報告書ができた」

三男「お疲れ様です。……それよりも兄上、どうしたのです? 服が汚れていますが」

青年「仕事相手にやられただけだ」

三男「そう、ですか……」

青年「では失礼する」

三男「はい」

パタン

領主補佐「代行殿はメンタルが強くなられたのでしょうかね……。まるで動じていない」

三男「麻痺してきたのだろう。まぁ最初の頃の陰気さがなくなってきたのは良いことだ」

領主補佐「……これが、先代様の狙いでしょうかね」

三男「さぁな。……どうなろうと、我々に影響はさほどない」





奴隷娘が来てから1ヶ月。
毎日飯が美味い。2人並んで取る睡眠は至福。趣味は必要なくなった。

奴隷娘「行ってらっしゃいませ、ご主人様ぁ」

青年「今日も早めに帰る」

朝の空気が気持ちいい。
今日もどうでもいい仕事が適度にある。適度に片付けて、早く帰るとしよう。
すれ違う街の人間とは挨拶だけ交わし、仕事先に向かう。

青年(……ん?)

ふと街の外から妙な気配を感じた。
他の人間たちも気付いているようで、その場がざわつきだす。
若い男達のグループが、誰かに頼まれるでもなく様子を見に行った。

青年(何だというんだ?)

それから少しして、男たちは血相を変えて戻ってきた。

「クマが! クマの魔物が!」

青年「!」

この辺に生息するクマといえば獰猛なことで有名で、戦闘を避けるよう徹底的に言われている。
しかし基本的に山に生息する生き物なので、街に来ることなど今までなかったはずだが……。

青年(餌を求めて下りてきたのか!?)

「俺、衛兵に知らせてくる! お前はギルドに救援要請を!」
「早く、建物の中に逃げろ!」

人々がまばらに避難活動を始めたが――

「きゃあぁ――ッ!!」

青年「!!」

クマ「グルル……」

巨大なクマが姿を現した。
相当腹をすかせているのか、目に殺気がこもっている。

「うわああぁ――ッ!!」
「逃げろぉーっ!!」

クマ「グルアアアァァアアァァ――ッ!!」

人々の喧騒で興奮したのか、クマは雄叫びをあげて走り出した。
まずい――!!

青年「……くそっ!!」

俺は腰の剣を抜いてクマに向かっていった。
今、この場で武器を所持しているのは俺のみ。これでも実家にいた頃は、鍛えていたのだが――

クマ「ガァッ!!」

青年「ぐおっ!」

突進を喰らい、俺は地面に倒れる。
やはり、相手が悪すぎる。

「代行様!」

だが――

青年「俺が引きつけておくから、早く助けを呼べ……!!」

退くわけにはいかない。街の秩序を守るのも、(一応)俺の仕事なのだ。

クマ「ガアァァッ!!」

青年「ぐ、ぎぎ……っ!!」

爪での一擊一擊が肉を大きく抉ってくる。
戦局は防戦一方ながら、急所をやられることだけはギリギリ回避する。

青年(痛ぇ……)

気が遠くなりそうな程痛いし、というか出血で本当に気が遠くなってきた。
今まで見てきた物語の主人公たちは、よくこんなの耐えられたものだ……!!

そして、当然もたなかった。

クマ「ガフッ!!」

青年「――……ッ!!」

クマは、俺の脚に噛み付いてきた。
俺は膝を崩し、そこに倒れる。息を荒くしたクマの顔が、すぐそこにあった。

クマ「グルッ、ビチャッ」

青年(こいつ……俺の肉を食ってやがる……!!)

俺は今、生きながら食われている。
恐怖、戦慄、嫌悪――色んな感情に頭を殴られて、俺はもう正気を保てなかった。

青年(あ、ああぁ、あぁあぁ……)

静かな発狂は俺の意識を朧げにする。
それでいい。こんな恐怖心を味わい続けるなら、気を失って殺される方がマシだ。

青年「――っ」

視界が真っ暗になって、気を失う――その寸前だった。

クマ「ガアァアアァァ――ッ!!」

青年(……?)

クマの声色が苦痛に変わった気がした。
どうした……? そう言えば、クマが俺から離れたような……脚の感覚がほぼなくなっていて、はっきりしないけど。
そう言えば周囲の空気感も何か違う。さっきまでの不安だったり恐怖だったりが、一気に消し飛んだような……。

三男「ふん……僕の街に入って来た報いですよ」

青年「……っ」

うっすら目を開けると、三男の姿が見えた。
三男はいつも通りの、綺麗な笑みを浮かべていた――真っ赤に染まった剣を構えて。

クマ「グ、ガ……」

三男「いやにしぶといですね。まぁいいでしょう、どうせ仕留めるんですから」

そう言うと三男は迷いなく、クマに突っ込んでいき……――

クマ「グアアアァアァァッ!!」

三男「……ふっ」

一閃。クマの喉元を切り裂いた。

「流石、領主様! やはりあの方は天才だ!」
「素敵ぃっ!」

三男の活躍に人々は歓喜の声をあげる。
それでも三男はあくまで冷静に、人々に言った。

三男「本来、ここに来ないはずのクマが来た……ということは、何か原因があるはずです。その原因を調査するので、皆さんは念のため、あまり出歩かないようお願いします」

三男の部下達がぞろぞろやってきて、人々を避難させたり、クマの死体を処理させていた。

青年(終わったか……)

起き上がれないながらも、俺はホッとしていた。

領主代行「今、医者がこちらに向かっているはずです」

三男「そうですか。……酷い怪我だ、兄上」

三男が近づいてきた。
俺は大丈夫だ……そう言おうとしたが、声も出なかった。

三男「しかし、命はあるようですね」

三男は俺の脈を確かめると、はぁとため息をつき――

三男「……死んでくれたら良かったのに」

青年「――」

周囲の誰にも聞こえないような、小さな声で言った。

三男「人々を守って命を落とした領主代行……そんな名誉ある称号、これからの人生で貴方が得られますか?」

……得られるわけがない。
俺は人に称えられるどころか、認められるような人間でもない。

三男「……まぁ、命拾いしてしまったものは仕方ありませんね。ですが……これ以上、一族の面を汚すのは、勘弁して下さいよ?」

青年「――っ」

頭が働かない。抉られて痛んだのは、肉か心か――
答えを出す間もなく、俺の視界は暗転した……。





医者「……脚の神経が損傷している。もう、以前のように動かすことはできないでしょうね」

青年「……」

目を覚ました時に告げられた言葉に、不思議とショックを受けなかった。
脚が不自由になる。ハンデを背負える。だから劣っていても許される――そんな風に考えてしまうのは、本心か、心を守る為の嘘なのか。

三男『……死んでくれたら良かったのに』

もし、俺が襲われたのが人目のない場所だったりしたら、三男は助けを遅らせて俺を死なせていたかもしれない。
だが三男は『命拾いしてしまったものは仕方ない』とも言った。
死んではほしいが、殺意を抱く程ではない。俺はあくまで無能なだけで、無害な存在だから。

青年(……命拾いしたなら仕方ない)

俺も別に、生きても死んでもどちらでも良かった。
死なないから生きる。ただ、それだけだから。

青年(奴隷娘は、家で待っていてくれているだろうか……)

食料は家に十分あるから死にはしないだろう。だが知らせもなく帰らなかったら不安になるだろう。
会いたい。彼女の心の不安を慰めて、自分の心の隙間を埋めてほしい――心は彼女のことで一杯だった。





入院して3日経った。
傷は完治していないが、俺は自宅での治療を希望し、退院することになった。
しばらく車椅子での生活になるが、自宅の段差が少ないので大丈夫だろう。

医者「本当に1人で帰るんですか」

青年「あぁ、世話になった」

三男から部下を送迎によこすかの打診があったが、断った。
俺なんかの為に人の手を煩わせることなどない。

「代行様、ご無事で良かった」
「無事、退院されたのですね」

街人達の白々しい挨拶に適当に対応し、帰り道を急ぐ。

青年(奴隷娘……)

外に出るなとは言ってあるが、言いつけを守っているだろうか。

青年(見えた)

家が見えてきた。車椅子では若干不自由な道を、精一杯腕の力を使い進んでいく。
もう少し、もう少しで彼女に――

三男「兄上」

物陰から三男が現れた。

青年「!!」

三男「失礼。送迎はいらないとのことでしたが、用があるのでこちらで待たせて頂きました」

青年「用だと……?」

三男「大した要件ではありませんよ。しばらく兄上の仕事を他の者に任せるので、資料が必要でしてね」

俺の仕事の引き継ぎが、大した要件ではない……か。まぁいい。

青年「資料なら家にある、取って来る」

三男「いえいえ、兄上の脚はまだその状態ですから。家に入れて頂ければ、僕が取ってきますよ」

青年「人を家に入れたくない。余計な気遣いはよせ」

三男「見られたくないものでも、おありですか?」

青年「……!」

三男「……まぁ、いいでしょう。誰しも隠したいものはあります。ですが兄上、妙な噂をたてられるようなことは……」

青年「……迂闊だったと認める。今後は気をつける」

女物の衣装を買っていたことに対して、妙な噂がたっているのは知っているが、大したことでもない。何もしなければ勝手に風化していくだろう。
どうせ、奴隷娘も外に出ないだろうし――

「……ご主人様?」

青年「――っ!!」

出ないだろう、と思っていたが――

奴隷娘「ご主人様」

青年「!!!!」

どうして――

三男「……? 兄上、使用人でも雇っていらっしゃったのですか?」

俺の家から出てきた奴隷娘を見て、三男が首を傾げる。
まずい。きっと奴隷娘は、人の声が聞こえたので出てきてしまったのだろう。

奴隷娘「ご主人様、やっと帰ってきてくれた……」

青年「う、あ……」

言い訳のしようがない。
彼女の存在が、やましいことの全て。誰にも――いや、彼女自身も、俺の所業は知られてはいけない。

青年「家に戻――」

そう、言いかけた時だった。

奴隷娘「ご主人様ぁ」

三男「?」

青年「――っ」

信じられない光景だった。
奴隷娘が、三男に向かって『ご主人様』と呼んだのだ。

青年(あ……)

思い出した。彼女をずっと外に出さず、1度外出した時も俺がずっと側にいたせいで、そうならなかったが――彼女は目に映る男が全て、『ご主人様』に見えるのだ。

三男「はて? 失礼ですが、どこかでお会いしましたか?」

三男は首を傾げ、状況が掴めていない。
そんな三男に、奴隷娘は無邪気に甘えたような仕草をする。

奴隷娘「あ。今日は髪をちゃんと整えてなかったから、わかりませんでした? 私ですよ、ご主人様」

三男「ご主人様……? 僕ではなく、彼ではないですかね」

奴隷娘「え?」

奴隷娘は俺の方を見て、目をパチパチさせた。

奴隷娘「……ご主人様なんですかぁ?」

青年「……っ!!」

三男「ふむ……」

そんな俺達の様子を見て、三男は何か察したのかどうなのか知らないが……。

三男「まぁ良いでしょう。僕はここで待っているので、資料を」

特に何も追及してこず、興味なさげに言った。

青年「……」





三男は資料を受け取ると、そのまま帰っていった。
奴隷娘のことを誰かに話すかもしれない。
だが、俺にとってはどうでも良かった。

奴隷娘「お帰りをずっと待ってましたよ、ご主人様ぁ」

横で無邪気に話してくる奴隷娘が、

奴隷娘「脚、どうされたんですか……? また何か、ひどいことされたんですか……?」

俺の唯一の癒やしだったはずの彼女が――今はとんでもなく、憎らしく思えた。

青年「……」

奴隷娘「ご主人様?」

彼女は『俺』を見ていない。だから閉じ込めて、俺だけのものにしていた。
そんなのはわかっていた。わかっていたのに、実際にあんな姿を見てしまうと――

奴隷娘「ご主人様、どう……――」

青年「……じゃない」

奴隷娘「え?」

間違っているのは俺だ。そんなこともわかっている。
それでも感情が胸の中で暴れて、正論なんて聞かなくなっていて、どうしようもなくて。

青年「俺は……ご主人様じゃない!!」

奴隷娘「……え?」

その言葉が全てを終わらせると知っていたのに、止めることができなかった。

奴隷娘「ご主人様じゃ、ない……?」

青年「……思い出せ。お前の主人は、死んだ」

奴隷娘「え……あ、あれ……?」

奴隷娘の目がぐるぐる回る。
そして彼女は、その場に膝をついた。

奴隷娘「う、うぅ……っ!?」

彼女が構築していた世界が壊れていく。
その構築の手助けをしたのは俺。その俺が、あっさりと彼女を裏切った。

青年「……」

こんな俺だから、誰にも愛されない。

奴隷娘「う、ぅ……だ、だれ……?」

彼女の世界が正しい姿を映し出したのか、俺はもう『ご主人様』ではなくなっていた。

青年「……誰でもない。俺とお前は、何の関係もない」

奴隷娘「だけど……この数日、私は貴方と……」

青年「それは覚えてるのか。……俺はお前の妄想を利用していた。それだけだ」

奴隷娘「……!」

罵倒されるか、それとも泣き出すか。そのどちらかと思ったが、どちらでもない。
奴隷娘はただ、不思議そうな顔で俺を見ている。

青年「……何だ。何が言いたい」

奇っ怪なものとして見られているようで、どうにも居心地が悪い。
耐え切れず、俺は言葉を求めた。

奴隷娘「あの……貴方は私に付き合って下さっていたんですか?」

どういうことだ、それは。

奴隷娘「ご主人様を失ったことを、私が受け入れられずにいたから……それで、貴方は……」

青年「違う」

奴隷娘「違う?」

青年「俺は……俺を否定しない人形が欲しかっただけだ」

奴隷娘「人形……私が?」

青年「あぁ。そうだ」

彼女は人形だった。
自分の意思で何かを決めることなく、俺の言うことを、ただ忠実に守る人形。

青年(あぁ……)

ようやく正気に戻ったような気になったと同時、自分に反吐が出た。
俺はマトモに人間との関係を築けない。今までも、きっとこれからも。
こんなのが自分だなんて、思いたくない……!

青年「……っ」

奴隷娘「あ、あの……?」

青年「……今まで悪かった。もう、自由にしていい」

奴隷娘「自由……?」

青年「俺の側にいなくてもいい。……俺を訴えたければ、そうすればいい」

奴隷娘「訴える……」

奴隷娘はピンときていないようだ。
それとも正気に戻ってもまだ、自分の頭で考えられないのか。

青年「お前は俺が、憎くないのか!」

奴隷娘「え?」

青年「お前を騙して、お前を人形のように扱った俺が、憎くないのかと聞いてるんだ!」

許されたくない。こんな人間が許されていいわけがない。
こんなの、俺が軽蔑していた底辺の奴らより、遥かに卑しいじゃないか。
だけど奴隷娘は、首を横に振った。

奴隷娘「憎く……ないです」

青年「何故だ……」

奴隷娘「だって貴方は、私にひどいことをしませんでした。それに……」

そして彼女は、俺が思っていた以上に残酷だった。

奴隷娘「可哀想だから」

青年「――っ」

可哀想? 俺が?
はっきりと突きつけられた残酷な事実が、俺の頭を狂わせる。

奴隷娘「貴方はいつも、暗い顔をしていた。貴方の毎日は過酷だったんですよね?」

青年「う、ぅ……」

奴隷娘「そんな人を憎むことなんて、できません。憎んでしまったら、もっと可哀想なことになるから……」

青年「憐れむな!!」

奴隷娘「?」

憎むにも値しないほど惨めな人間――そう評されたことが悔しくて、わずかなプライドが打ち砕かれた。

青年「過酷なのは俺が悪いんだよ……! 全部、自業自得なのだから!」

何をやっても駄目で、見た目も悪い。
得意なことも、人に好かれる魅力も何もない。
なのに1人で、自分の力で生きていく力もない。

青年「これ以上、もう嫌なんだよ! 俺は、俺を終わらせたいんだよ……っ!!」

――自分で自分を殺す度胸も、ないくせに。

青年「……っ、うぅ……」

惨めさから涙が出てきた。自業自得なのに、女々しい。

奴隷娘「あ、あのぅ……」

奴隷娘は戸惑いながら声をかけてくる。
哀れみのつもりなのか、声は弱々しい。

青年「何なんだ……!」

許されている立場で俺は逆上する。
それでも彼女は、表情を変えることなく、疑問符を浮かべた顔で――

奴隷娘「あの……それって、貴方を苦しめていい理由になるんですか?」

青年「――っ」

今度は、俺の欲していた言葉をくれた。

奴隷娘「人に好かれたいけど、その方法がわからないのって……普通のことだと思うんです。でも、そういう人だって……幸せになっても、いいと思うんです」

青年「……っ」

どうせ好かれないからと諦めていた。
だけど本当は――

奴隷娘「大丈夫ですよ」

青年「……!」

彼女の抱擁は優しくて。

奴隷娘「私、貴方の側にいますから。貴方のこと、支えますから」

青年「……っ、うっ、うぅ……っ」

例えそれが同情からくる優しさだとしても、その言葉に救われてみたくて。

青年「うっ、あっ……ああぁあぁぁ――っ!!」

奴隷娘「よしよし……」

俺はしばらく、彼女の腕の中で泣き続けていた。





長年の悩みが吐き出されてからは、スッキリした気分だった。

奴隷娘「いい天気ですねぇ~」

青年「あぁ、そうだな」

奴隷娘に車椅子を押してもらい、街を散策する。
街人には彼女はヘルパーだと伝えてあり、奇異な目で見てくる者もいない。

青年「……いつかまた、自分の足で歩けるようになるだろうか」

奴隷娘「貴方次第だと思います。リハビリを頑張れば、歩けるようになりますよ」

青年「どうだろうな。……俺には何かを成し遂げたことがない」

奴隷娘「それならそれでいいじゃないですか。私が貴方を支えます」

青年「あぁ。頑張るが、自分に期待はしないよ」

奴隷娘「それでいいんですよ」

彼女といると心が穏やかになれる。
俺を無条件で受け入れてくれる人間がいるというのが、こんなにも幸せだとは思わなかった。

青年「少し休むか。お前も疲れただろう」

奴隷娘「では、あそこのベンチに座りますね」

商店街から外れている為か、この時間のこの辺は静かだ。
人の目が苦手な俺の為に、彼女はわざわざ人の少ない場所を通ってくれた。

奴隷娘「あ。私、ちょっとおトイレ行ってきてもいいでしょうか」

青年「あぁ、待ってる」

奴隷娘の姿が見えなくなり、少しうとうとする。
穏やかで平和で、ずっとこうしていたい――

ギルド担当員「おい」

青年「!」

ふと、その声で目が覚めた。
振り返ると、前の仕事相手――ギルド担当員が、そこにいた。

ギルド担当員「久しぶりだな、代行さんよ。命拾いしたようじゃねぇか」

青年「……あぁ」

口調から嘲りを感じ、不快感が沸く。
ギルドの人間は仕事柄、人の生き死にへの感覚が若干ズレているとは聞くが、こいつはそんなの関係なしに人間性に問題がある。

ギルド担当員「あんた、仕事復帰しねぇのか?」

青年「この脚なので、以前のように各所を回るのは不可能だな」

ギルド担当員「頼むよぉ、うちの担当に戻ってきてくれよ。今の担当員の野郎、気に食わねぇんだよ」

青年「……俺は、貴方に気に入られていたように感じなかったが?」

ギルド担当員「今の担当員よりはずっとマシだよ。あいつは高圧的な上、理詰めで来るからいけねぇや」

青年「……」

要するに、今の担当員はナメてかかれないのが気に入らないのだろう。
わかっていたが、俺は相当バカにされていたのだ。外見的にナメられやすいのと、その担当員ほど口が上手くないのは認めるが。

ギルド担当員「あんたの方が立場上なんだろ? 今の担当員に、揚げ足取るなって言っておいてくれよ」

青年「悪いが俺ではどうしようもないな」

ギルド担当員「そこを何とかさぁ!」

青年「俺に言うな。今の俺は、貴方とは無関係で……」

ギルド担当員「何だとオイ!」

青年「!」

急に胸ぐらを掴まれた。こいつは今まで暴力に頼ってくることはなかっただけに、俺は驚く。

ギルド担当員「いつまで偉そうにしてやがるんだ、名ばかりの代行様がよォ」

青年「やめろ……! これは暴行になるぞ」

ギルド担当員「はんっ、バレなきゃいいんだろ! 大体、この街にテメーの味方なんていねぇんだよ!」

青年「……っ」

ギルド担当員「出来損ないの分際でいい身分につきやがって! いっそ死んでくれりゃスカッとしたのによぉ! それとも今ここでやってやろうか、あぁ!?」

青年「やめ、ろ……っ」

殺せるわけがない。だが今の俺に、抵抗する術はない。
ギルド担当員は手を振り上げる。殴られる、と思った。

だが。

――グシャッ

青年「……え?」

目の前の光景を、すぐに理解できなかった。
何かが破裂し、周囲に赤い液体が飛び散る。どさっと倒れるギルド担当員の体。

青年「……っ!」

それを見て、ようやく理解した。
今破裂したのは――ギルド担当員の首だ。

青年「え、あ……――?」

吐き気がこみ上げる。
死んだ? 目の前で、人が? どうして、こんな――頭がグラグラして、気が遠くなる。

奴隷娘「遅くなりました、青年さん」

青年「……!」

ゆっくりした足取りで、奴隷娘が戻ってきた。
彼女の視界には、この首なし死体が映っているはずだが――動じる気配は微塵もない。

奴隷娘「少し冷えてきましたね。そろそろ帰りましょう」

青年「ど、奴隷娘……その死体を……」

奴隷娘は一瞬キョトンとしたが、すぐに笑顔になり――

奴隷娘「大丈夫ですよ、バレませんから」

青年「……っ!?」

薄々感づいていたが、やったのは奴隷娘だ。どういう方法を使ったのかは見当もつかないが……。

奴隷娘「何か、問題ありました?」

青年「え……っ」

奴隷娘「この人も、貴方を苦しめていた1人なんですよね?」

青年「………」

だからと言って、殺していいわけがない――なんて言えなかった。
奴隷娘の言うことは事実であり、口には出せないが、俺は正直……――

奴隷娘「いいんですよ、青年さん」

青年「!!」

そんな俺の心を見透かしたように、彼女は優しく微笑んだ。

奴隷娘「貴方は何もしなくていいんです。……私は、貴方を守ります」

青年「う、ぅ……」

奴隷娘「ご自分でわかっていらっしゃるでしょう? 貴方を苦しめるものが、何なのか――」

青年「それ、は……」

奴隷娘「……貴方を苦しめるものを、ひとつひとつ、取り除いていきます。私はそうやって、貴方を守りますから」

青年「うぅ……」

恐ろしい思考だった。俺を苦しめるものを取り除いていけば、いずれは――
だが、それを止める言葉も出てこなかった。
何故なら俺は、彼女の提案を恐ろしく思う以上に、魅力的に思えて仕方がなかったのだ。

奴隷娘「帰りましょう」

奴隷娘が俺の車椅子を押す。
進行方向は彼女次第。

青年(あぁ……)

俺は、彼女がいなければ生きていけない。
思考を彼女に委ねて、手のひらで転がされて――それで安心していられる。

青年(……あれ)

そんな奴が、俺の身近にいたような気がした。
だけど思い出せない……どうでもいい。考えるだけ無駄だ。

青年(まぁ、いいか……)

世界が狂っていくのを感じていた。
その狂った世界で、彼女は俺を救ってくれる――だから俺は、思考を手放した。





>診療所


看護師「あれ」

医者「どうした?」

看護師「この袋、誰かの私物かしら。ここらのものに紛れていたみたいです」

医者「名前は書いてないか?」

看護師「えーと……あ、"行商人"と」

医者「確か、ここで病死した患者だったか……。身請人もいないし、処分しておいてくれ」

看護師「わかりました」

袋の中身は見られることなく、処分された。
そこに入っていた紙には、こう書かれていた。


『この手紙を誰か、力のある者に渡してほしい。
結論から書くと、私の連れていた奴隷は、危険な存在だ。

彼女の父は魔王の子孫であり、母親は淫魔と人間の混血種なのだ。
私の祖先はかつて魔王を倒した勇者だ。しかし、魔王を倒した際に呪いがかけられ、その子孫は短命の宿命を背負ったのである。
私の一族は代々、魔王の子孫を追っていた。そして見つけたのが彼女――奴隷娘だ。

彼女を殺すのが私の使命。しかし、できなかった。
淫魔の血を引く彼女には、男を魅了する力がある。私とて例外ではない。彼女を殺さねばならないと頭ではわかっているのに、悪魔的な魅力に支配され、彼女に手を出せず、逆らうことができないのだ。
それでも私は何とか、彼女の記憶を封じることができた。私といる限り、彼女は自分の素性を思い出すことはないだろう。

しかし一族にかけられた呪いのせいで、私の寿命はもう長くないだろう。
私が死ねば、彼女は記憶を取り戻してしまう。
だから私は、彼女の魅了に逆らい、最後の力でこの手紙を書いた。

どうか私の代わりに、彼女を――』





奴隷娘「あぁ~、今日もいい天気」

私は外の空気を吸いながら、んーと背伸びをした。
青年さんは、昨晩の疲れのせいか、まだグッスリ寝ている。

奴隷娘「……ふふっ」

彼は、精力を吸い尽くしてしまうには勿体無い人だ。
彼の抱える心の闇は無限大で、少しつつけば容易にネガティヴな感情が溢れ出す。
彼が欲する言葉はわかりやすくて、それを言えば容易に救われてくれる。

……要するに彼は扱いやすくて、可愛い人。

人間のマイナス感情は私に力を与えてくれる。だから彼の存在はありがたい。
それに童顔で背は低いけど、顔貌自体は悪くないし。

奴隷娘「では、行ってきますね。楽しみに待っていて下さい」

青年さん。私に貴方をくれたお礼に、私は貴方を苦しめるものを取り除いてあげる――私は魔力の翼で大きく羽ばたいた。

奴隷娘「あぁ、いい天気」

……って、さっきも言ったね、この言葉。
この黒雲はきっと祝福してくれているのだ。ひとつの『街』が消える、その時を。



Fin




あとがき

病んでるのが書きたかったんですよー。
青年さんの心理描写がキッツくてなかなか進まなかったんですが、何とか書けました。

今まで無力感を感じている、行き詰まっている主人公は沢山書いてきましたが、良い出会いがあって前に進んでこれたのです。その出会う相手が悪かったのが今回の青年さんですね。
世界は無能な人間を苦しめるってのが今回のテーマかな~。
posted by ぽんざれす at 12:44| Comment(4) | ブログオリジナルss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月01日

頂き物イラスト

お久しぶりです、ぽんざれすです
素敵イラストを頂いたので、自慢の為にうpです

以下、あべ様に「何か私のssのキャラ書いて下さい」とクレクレさせて頂いたイラストです(※マジです)

乙女ゲープレイヤー「魔王を攻略しよう」の魔王様と乙女ちゃんです

IMG_1995.JPG

素晴らしい美麗カップルです。コミュ障クールメイドの乙女ちゃんを抱き寄せる、俺様系バリバリの強気な魔王様がホンットに胸にギュンッギュンと来ますね
もう絵画としてコンセプトカフェに飾ってあっても何ら違和感ありません。素晴らしい!

ss作者なのに語彙力ねーなとか言っちゃいけない。
posted by ぽんざれす at 20:04| Comment(0) | 頂き物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月25日

ある少年と聖女の話

この世界の地と空は繋がっている。
繋がっていないのは、世界に住む者たちの心。
俺達は地面に境目を作って、そこで所属を作り、敵と味方に分かれて――

少年(……疲れた)

そして、“敗者”はその世界を堂々と歩けない。
今の俺のように――傷ついて、飢えて、帰る場所もない地で、ただ彷徨う。

少年(……もう、駄目だ)

熱い日差しに体力を奪われ、俺はそこに倒れた。
太陽の熱を吸収した地面に、褐色の肌が更に焦がされそうだ。
立ち上がる力もない。この3日間、ろくに飯も食ってない。

少年(俺は、死ぬのか……――)

やり残したことはない。未練と呼べるものもない。
何とか死にたくない理由を考えてみるが、思いつかない。むなしい。

少年(だけど、死にたくないな……)

涙も出ない。心はこんなに泣いているのに。例え未練がなくても、生きたいと思っているのに――

ギュッ

手を握られる感触があった。
あぁ、死者へのお迎えか? 柔らかい手だな。死神の手って、こんなに温かいものなのか?

「……元気を出して下さい」

おかしなことを言う死神だ。
これから死ぬってのに、元気も何も――

「どうぞ……生きて下さい」

少年「――え?」

体から倦怠感が抜ける。
魂が肉体から解放されたのか――とも思ったが、そういうわけではないらしい。

少年「……えっ」

生きてる。起き上がって体を動かしてみるが、ピンピンしている。
何でだ……? 何か口にしたならともかく……まだ、腹減ってるし。

女「あぁ、良かった。手遅れにならずに」

目の前で女がほっとした笑顔を見せていた。
綺麗な顔だ――特別美人でもない女に、そんな第一印象を抱いた。
俺より10くらい歳上だろうか。服装から察するに、聖職者のようだ。

少年「……俺に、何した?」

女「はい。生命力が弱っていらっしゃったので、力を注入させて頂きました」

少年「へ、へぇ?」

注入したと言うのならそうなんだろう。よくわかんないけど。

少年「……ありがとうよ」グウゥ

って、そこで鳴るな俺の腹。

女「空腹でいらっしゃいましたか。これは気づかずに……どうぞ、これを」

少年「……プリン」

女「私のおやつでしたが、どうぞ召し上がって下さい」

この炎天下でぬるくなったプリンって。有難いけど、何かこう……まぁいいや。
三口で食ったが、空腹のお陰で温度は気にならなかった。

女「丁度、この近くに村があります。そちらでお食事を召し上がってはいかがでしょう?」

少年「あ……金、持ってなくて」

女「それなら、良いお店を知っています。お皿洗いのお手伝いをすると、一食分無料で頂けるんです」

少年「皿洗いか……。それなら出来る。案内してくれるか?」

女「えぇ。私も丁度、その村に用事があったのです」

俺は有り難く好意に甘えることにした。

少年(……っと)

腕に巻いていた布が緩んでいることに気付いた。
女には見えないようにこれをしっかり締め直し、俺は女の後をついて行った。



>村


少年「はぁ~、生き返った」

飯を食って皿洗いを終わらせ、店を出た。
腹が一杯になると悲観的な気持ちも吹っ飛び、ひとまず次はどうしようかと考えられる。

少年(どっかでバイト募集してないか……)

とりあえず店の多そうな通りをぶらついてみることにした。
と、すぐにある光景が目に入った。

<わいわい

女「ふふ、順番ですよ」

少年(あ。さっきの……)

さっきの女が村の人間に囲まれていた。
あの様子からするに、どうやら女は村の人気者のようだが。

村人「おや。君はさっき、聖女様と一緒に村に来た子だね」

少年「聖女様?」

村人「あぁ、彼女は聖女様と言ってね。その信心深さにより、神より力を授かったお方だ」

少年「そうなのか……。じゃあ、死にかけてた俺を救ってくれたのも」

村人「聖女様は癒やしの力をお持ちだ。その力で近隣の村を回り、我々を癒して下さっているんだ」

少年「へぇ~」

村人「死にかけていたところを聖女様に救われたということは……これも神様の導きかもしれないな」

少年「はは……」

愛想笑いを浮かべながら、内心、そんなわけないと毒づく。
神だって救う人間を選ぶ。俺を救ったのは、神じゃなくて――

聖女「それでは皆さん、ご機嫌よう」

少年「……」



>山道


聖女「ふぅ……ひと休み」

山歩きに疲れた聖女は、山道の岩に腰を下ろした。
いくら若い体とはいえ、鍛えていない足での山歩きは結構つらい。

聖女「ふぅ~……」

少年「水でも飲むか?」

背後から声をかけられ、少し驚く。

聖女「あら。貴方は……」

少年「追いかけてきて良かった~。ほら、井戸で汲んだ水」

少年はそう言って、聖女に竹筒を渡した。
聖女は戸惑いながらそれを受け取ったが……口をつけるのを躊躇した。

聖女「貴方、走って来られたんですか? 体の方は……」

少年「あぁ、平気平気。3日も飯食ってなくてブッ倒れてたけど、一食食えば元気満タンよ」

聖女「それでも、この山道を走ってくるのはなかなか……」

少年「慣れてる。ほら、この通り」

少年はピンピンしているとアピールするように、体を大きく動かした。
健康的な褐色の肌に、程よくついた脚の筋肉。それを見て納得したのか、聖女は竹筒に口をつけた。

聖女「ごくん。ありがとうございます。わざわざ、これを届けに?」

少年「いや、そういうわけじゃないけど……礼をしてなかったからさ」

聖女「お礼? ありがとうの言葉なら確かにお聞きしましたが……」

聖女が不思議そうに尋ねると、少年は照れ笑いを浮かべた。

少年「あ~……。その、ちょっと話したいと思ってさ」

聖女「お話ですか?」

少年「あぁ。あんたのこと、村で聞いたよ」

彼女はあらゆる癒やしの力を身につけた聖女らしい。
その実力と信心深さにより神の加護を受け、永遠の命を授かり、人々を癒す役目を担っているという。
聖女となってからは、神への信仰の厚いこの地に住み、周辺の村を回っているとのことだ。

少年「不老不死って、見た目の歳取らないんだろ?」

聖女「えぇ。でも、神様に不老不死の肉体を頂いて3年ですから、まだ見た目と実年齢はそこまで離れていませんよ」

少年「そっかー。実年齢、20代くらいだろ? 若いのに、やるじゃん」

聖女「ありがとうございます。神様に認められたことは、私にとっての誇りなんです」

少年「俺もあんたを認める。何てったって命の恩人だからな、誇りに思っていいぜ!」

聖女「ふふ。そうですね、ありがとうございます」

少年「なぁ。あの村に、また来るのか?」

聖女「えぇ。私は周辺の7つの村を回っているので、来週のこの曜日にまた来ます」

少年「よし! 俺、しばらくあの村にいるから、待ってるよ!」

聖女「はい。また、お会いしましょう。お水、ありがとうございました」

聖女は丁寧に礼を言って竹筒を少年に返し、帰り道を歩いて行った。

少年(不思議な女だなぁ。冗談言っても真面目に返してくるし……ちょっと天然なのか?)



>1週間後


聖女「では皆さん、ご機嫌よう」

村人「聖女様、また来週も宜しくお願いします」

聖女「えぇ。……そう言えば」

村人「?」

聖女「先週、この村に男の子が来ましたよね。彼は、どうされています?」

村人「あぁ、この村で力仕事をやってくれてます。よく働く奴ですよ。ただ人見知りなのか、必要以上にコミュニケーションを取ろうとしませんが……まだ子供ですからね、村の大人が気にかけていいます」

聖女「人見知り……ですか」

村人「あいつが、どうかしましたか?」

聖女「いえ、少し気になったもので。今度こそ、ご機嫌よう」



>食堂・厨房


少年「よいしょっと。ふぅ、終わった終わった」

店長「おぉ、よく働いてくれたな」

少年「これくらいなら」

店長「あぁ……そう言えば先程、聖女様が来られたぞ。もう帰ってしまったが」

少年「!! すみません、俺ちょっと聖女サマに話があるので!!」

店長「おう。……うん? 竹筒持っていくのか?」

少年「はい。聖女サマ、こないだもこの炎天下で水飲んでなかったんで、一応」

店長「はは。聖女様は不老不死のお体だぞ。水を飲まなくても平気さ」

少年「あ……」

店長「まぁいい、失礼のないようにな~」

少年(……水、どうしよう)



結局俺は、竹筒を持って聖女サマを追いかけることにした。

少年(あ、いたいた)

聖女サマはまた岩に座って休んでいた。
かなり疲れた顔をしている。やっぱり、水を持って来て正解だった。

少年「おーい、聖女サマ~」

聖女「!!」

聖女サマは、声をかけられるとびっくりしていた。
俺に気付くと――いつもの綺麗な笑顔を向けてくれた。

聖女「ご機嫌よう。お久しぶりですね」

少年「ほら、水。竹筒あげるから、今度からちゃんと飲み物持ち歩きなよ」

聖女「まぁ、それは悪いですよ」

少年「いいんだよ、竹筒くらいいくらでも作れるから」

聖女「では、有り難く頂くとしましょう。ところで……何か御用があるのでしょうか? もしかして、どこか悪いところがあるとか……」

少年「いやいや、見ての通りの健康体。聖女サマに渡したいものがあってさ」

聖女「?」

少年「これ……大したもんではないけど」

聖女「まぁ」

俺は1週間かけて掘った木彫りの人形を手渡した。
聖女サマは……あぁ、やっぱりポカンとしている。

少年「お、俺、体力仕事と、薬作りと、彫り物くらいしか能がないからさ! でもほら、薬って聖女サマに必要ないじゃん? だから……」

だから人形を作りました……なんて、幼稚だよな。作ってる最中も何度も思ったさ。
けど、他に思いつくことなんてなかったから……。

少年「助けてくれた礼だと思ってくれ。……ほんと、こんなことしかできなくて悪いけど」

聖女「……いいえ」

少年「!」

聖女サマが笑った。
その笑顔は――

聖女「本当に嬉しいです。……大事にしますね」

いつも綺麗な笑顔に、色がついたようだった。
その顔があまりにも眩くて、俺は――

少年「う、うん――」

間抜けな声を出すしかできなかった。

聖女「では、私はこれで。……帰り道、お気を付け下さい」

少年「う、うん。聖女サマも、気をつけてな」

聖女サマはぺこり、と頭を下げて帰り道を行った。
男としては送ってやりたいが……所詮俺は子供だ、聖女サマに断られるだろう。

少年(……人形、喜んでくれた)

とにかく今は、それが嬉しかった。



それから聖女サマは週イチで村に来てくれた。
聖女サマは村人の怪我や病気を癒やし、祈りを捧げてくれている。
俺は健康体なので、あれ以来聖女サマの世話になることはなかった。擦り傷くらいならできるけど、そんなの治すのに力を使わせるのも悪いし。

聖女「では皆さん、ご機嫌よう」

少年(今日はもう帰るんだなぁ)

そんなわけで俺には聖女サマと話すきっかけがない。
遠目で姿を見て、ちゃんと竹筒を持ってることを確認するだけだ。

それでも――

聖女「にこっ」

少年「!」

聖女サマは俺に気付くと、笑顔を送ってくれる。
誰にでも愛想のいい聖女サマだ。別に俺が特別ってわけではないだろうが……。

少年(やったぜ)

そういう日は、何か得した気分になれる。これも聖女サマの癒やしの力ってやつだろうか。

少年(また、人形でも作ろうかなぁ……)

なんて頭が沸くこともあるが、すぐに冷静に戻る。

少年(人形ばっかあげても置き場所困るよな! それに……渡す理由がないし)

それよりも、いつかちゃんとした礼が返せるように、きちんとした人間にならねば。
聖女サマが本当に喜ぶ礼をしたい……何せ俺の命の恩人だ。聖女サマは歳を取らないから、それまで待っていてくれるだろう。

少年(よし、明日も明後日も頑張るぞ!)



俺がこの村に来て2ヶ月程経過した頃、村で病が流行した。
体に紫色のブツブツができて、動けなくなるという病だ。
この村だけでなく、近隣の村でも同じらしい。

村人「聖女様が来られるのは2日後か……」

聖女サマの力に依存しているここらは、医療技術が発達していない。
だから聖女サマが来ない日は、病人達はただ耐えるしかないのである。

少年「……どうしたもんか」

幸い、俺はまだ病にはかかっていない。
独り身の病人の世話を任されているが、どうにもただ待つだけは気が落ち着かない。

老人「うーん、うーん」

少年(苦しそうだ……)

あと2日、この状態で過ごすのはつらいだろう。
その間ずっと苦しんでいるというのは……気の毒としか言い様がない。

少年(……治せないまでも、多少楽になれる薬なら作れるかもしれない。だけど……)

どうにも躊躇してしまう。
そんな得体の知れない薬作っていると知られたら――

老人「うぅーん……」

少年「……」

駄目だ、やっぱり放っておけない。
俺は誰にも見つからないように村の外で薬草を採ってきて、煎じた。

少年(この薬を、さりげなく飯に混ぜて……)

少年「ほら、口開けて」

意識が朦朧としている老人の口に粥を流し込む。
老人は薬ごと、ごくんと飲み込んだ。

老人「すや、すや」

少年(良かった……)

穏やかな寝顔からして、薬は効いたようだ。

少年(他の村人達にも……いや、駄目だ。もしバレたら……)



>2日後


村人「聖女様はまだだろうか……」

聖女サマの来訪日、村人たちはそわそわしていた。
病人の数は村全体の約3分の1。そりゃ不安にもなるし、気も滅入る。

「聖女様だー!」

誰かが声をあげると村人たちが沸いた。
俺が姿を視認する前に村人たちは聖女サマの元に集まった。
どうやら病人達はここに来れないので、聖女サマに一軒一軒回ってもらうそうだ。

少年(俺の出番はないかな)

そう思って家に戻ろうとした時――ふと、聖女サマの姿が目に入った。

少年(……あれ)

聖女サマは、やや顔色が悪かった。
病的というわけではないが、何か……いつもの元気さがない。

少年(そいや、他の村でも病が流行してるんだもんな……。魔力を使いすぎたか?)

どうにも気がかりで、俺はこっそり聖女サマの後を追った。



少年(この家に入っていったか)

<聖女様、それでは困ります!

少年「!?」

村人の叫び声がしたので、そっと聞き耳を立てる。

村人「完全には治せないなんて……うちの者は、いつまで苦しめばいいんですか!?」

聖女「わかりません……。それだけこの病は厄介なものです。ですが、何度か癒やしの力を重ねれば……」

村人「聖女様は1週間に1度しか来られないじゃありませんか! それじゃあ、いつまで経っても……うっ、うぅ」

聖女「……」

重い空気を感じる。
聖女サマが責められていると、何だか良い気分がしない。
そりゃ、やっと病が治ると思って待ってたんだから、納得できないのはわかるけど……。

聖女「……申し訳ありません」

少年「……」

どうにも釈然としなかった。



>山道


聖女「……」トボトボ

少年「聖女サマーっ!」

聖女「!! ご機嫌よう。お元気そうで、何よりです」

少年「あのさ。……これ、良かったらだけど使って」

聖女「?」

少年「えっと……薬、作った。病気を治せるわけじゃないけどさ……使えば、苦しさを紛らわすことができる。副作用も眠くなる程度。……村人たちのギスギスも、少しも治まるんじゃないかな」

聖女「……まぁ」

少年「あー、でも使わないなら捨てて! 薬術とかって宗教的なしがらみ色々あるし!? 禁忌犯すわけには……」

聖女「いえ、有り難く使わせて頂きます。……薬の力を見てみましたが、悪いものではないようです」

少年「そっか。……あ、こっちの村でも使うけどさ、聖女サマから貰ったって言っていい? 俺が作ったって言うと、こう……色々と、アレだから」

聖女「えぇ、構いませんよ。……ありがとうございます」

少年「ん?」

聖女「正直、助かります……。私の力だけでは、皆さんを治すのに時間がかかりますので……」

少年「そっか。なら良かった。……聖女サマも、無理すんなよ」

聖女「ですが、皆さんには私の力が必要ですから……」

少年「だけど聖女サマが身を削ってまでやる必要ないよ。余裕のない人間が人を救えるわけない……ってのが、俺の親からの教え」

聖女「私は神の恩恵を受けた、不老不死の身……ですから、余裕は十分に」

少年「ないよ。聖女サマ、いっぱいいっぱいだ。……体は健康でも、心が磨り減ってる」

聖女「!!」

少年「それが使命だってんなら、止めないけど……。俺はちょっとでもいいから、聖女サマの力になりたいよ」

聖女「……ふふっ」

少年「?」

どうして、そこで笑う?

聖女「ねぇ。もしかして貴方は、信仰心が薄い方なのでしょうか」

少年「!!?」

聖女「あぁ……。気を悪くされたなら、申し訳ありません。貴方は、この地に住む方々とは違うなと思って」

少年「まぁ出身地も違うしな……。どこが違うの?」

聖女「聖女は人間を超越した存在――それが、神を信仰する方々の共通認識です。ですから貴方のように、私を1人の人間として扱って下さる方は……初めてです」

少年「そっかー……。聖女サマの言う通り、俺は信仰心が薄いんだ。……ごめんな」

聖女「謝らないで下さい。むしろ……」

聖女サマは一瞬だけ、表情がぱっと明るくなり――すぐに、いつもの綺麗な笑顔になった。

聖女「……いえ。何でもありません。貴方の優しさに感謝します。それではまた、来週お会いしましょう」

少年「……おう」

何だろう。
聖女サマは笑顔なのに、どこか寂しげに見えた。

少年(聖女サマの許しも得たし……薬、いっぱい作らないとな)

それから3ヶ月ほどして徐々にだが、村から病は去った。



少年「ふぅ……」

俺が村に住み着いてから約半年が経過した。
季節は冬。この地方では雪は降らないようだが、それでも冷気に手がかじかむ。

少年(今日は聖女サマの訪問の日か……)

ほとんど変わらない日々を過ごしているので、聖女サマが来る日を気にしてはいる。
病が去って薬を渡すことがなくなってから、俺と聖女サマの関係は元に戻った。
寂しくは思うが、何か理由を作って聖女サマに近寄っていくなんて、女々しい真似はできない。
それに聖女サマは、『皆の聖女様』なのだから。

村人「他の村で風邪が流行しているらしい。お前も気をつけろよ」

少年(あ、そうか)

さっき遠目で見た聖女サマは元気がないように見えたが、人々の風邪を治すのに力を使いすぎたせいだったんだな。
薬……は、必要だろうか。以前流行った病ほど切羽詰ってはいないだろうし、作るのは聖女サマに聞いてからでいいか。

少年(……これは必要だから声かけるんだよ、うん。決して接点持ちたいからじゃない。……言い訳したら、ますます下心あるみたいじゃん)

聖女サマは……村人に囲まれている。今は声をかけない方がいいだろう。
いつもの通り、聖女サマが村を出てから……

「うわあぁあぁ――ッ!!」

少年「えっ?」

何か騒がしいので、そちらに気を取られる。
見ると、狩りに出ていた連中が血相変えて村に駆け込んでいた。
村人の1人がどうしたのか尋ねる。すると……

「こ、これくらいの、お、大きな魔物が! 村に向かってきてる!」

「!!」

それを聞いた人々は慌てふためく。
ここ周辺は魔物による被害がほとんどなく、こういった事態には不慣れらしい。
どうしようかと皆で焦る中、1人の村人が聖女サマの方を見た。

「聖女様! 聖女様の御力で、魔物を追い払えないでしょうか!」

聖女「え……」

その言葉で、村人たちは一斉に聖女サマを見て――その目は、期待の眼差しに変わった。

「お願いします、聖女様! 我々をお守り下さい!」
「神の力があれば、きっと!」
「我々は無力なのです、お願いします!!」

聖女「……っ」

聖女サマは即答しない。
その表情は『無』であり、何を考えているのか――

「あっ!!」

少年「!!」

そうこうしている内に、こちらに来る魔物の足音が聞こえた。
見ると、体長3メートルはありそうな、ツノの生えた四足の魔物がこちらに突進してきていた。

「ひいいぃぃ!!」

村人たちは散り散りになり、室内に逃げ込む。
聖女サマは――

聖女「……っ!」

1人、慌てることなく、その場に留まっていた。
村人たちの期待通り、魔物を対処する気か。

少年(……いや、駄目だ!!)

聖女サマは体の調子が優れない。
それに今、追い払えたところで、あの魔物をここらに解き放っておくのは危険だ。
つまり平穏の為には、あの魔物を殺さねばなるまい――そんなこと、聖女サマにさせられない!

店長「おい、お前も早く避難しろ!」

少年「……あのっ! この料理包丁、借りますんで!」

店長「えっ!?」

武器として不格好ではあるが、研ぎたてのピカピカ。切れ味は十分。
俺は包丁を片手に魔物に突っ込んでいった。

聖女「あっ!!?」

すれ違い様、聖女サマが驚いた声をあげた。
聖女サマだけでなく、村人たちも何か声をあげているが――そんなの聞いていられない。

少年(やるの、久しぶりだけど――)

聖女「!」

全身に魔力を纏う。身体能力はこれで跳ね上がった。
包丁に魔力を纏わせる。包丁の耐久力は限界まで上がる。

殺気を醸しだし、魔物をこちらに誘導する――作戦成功!!

少年「だりゃああぁああぁぁぁぁっ!!」

高く跳躍し、魔物の視界から消える。
一瞬、魔物に戸惑いが見えた。その隙を、見逃さない。

少年「おらあぁっ!!」

魔物「ッ!!!!」

料理包丁を額に突き刺す。
驚いた魔物は首を大きく振り、俺は勢いで振り落とされた。

少年「いでぇっ!!」

思い切り、地面に叩きつけられた。魔力を纏っていなかったら大怪我していたところだ。
と――魔物は額から血を流しながらも、怒ってこちらに突進してくる。何て生命力の強い奴だ。

少年「……っとに、しつけぇなあぁ!」

魔物の突進をギリギリでかわす。余裕がないと口も悪くなる。

少年「とっとと、死ねやああぁぁ――ッ!!」

魔物「――ッ!!」

今度は喉元に突き刺した。
その際に腕を引っ掻かれ、固い毛が傷口にチクチク刺さる。

少年「……っ!」

包丁を引き抜くと血が大量にぶちまけられ、魔物は地面に倒れる。
今度こそ、絶命した。

少年「ふぅ……っ。……いってて!!」

気が抜けたと同時、激しい痛みが襲ってきた。
腕を抑えてうずくまる俺の背後で、村人たちの歓声がわいた。

「凄いなお前! 強かったなんて、知らなかったぞ!」
「ひどい怪我だ! 聖女様、治してやって下さい!」

聖女「は、はい!」

駆け寄ってくる聖女サマや村人たち。
俺はというと――気が抜けていたせいで、『それ』に気付くのが遅かった。

「あ――」

そしてそれは、致命的な遅れであり――

「その刺青は……」

少年「――ッ!!」

腕を覆っていた布が破られていた。
そのせいで――腕に刻まれた刺青を、見られてしまった。

「お前……"黒の一族"だったのか!?」

少年「……っ!!」

黒の一族。
かつて神であったが、堕落し魔神と呼ばれるようになった者がいた。
魔神は己の子達を人間と交わらせ、己の血で人間たちを穢していった――
その穢れを受けた魔神の子孫は、黒の一族と呼ばれるようになった。

「黒の一族は、聖国によって滅びたんじゃないのか!?」

少年「……」

その通り。俺の住んでいた地は、神を信仰する国によって滅ぼされた。
俺の他に生き残りがいるかはわからない。
ただ言えることは――

「黒の一族の者が村にいたとは! 汚らわしい!」

この世界に、黒の一族の者にとっての安寧の場はなくなったのである。

「我々を欺いていたんだな!」
「以前、病が流行ったのもお前のせいか!」
「魔物も、お前に惹きつけられてきたんだ!」
「出て行け! 黒の一族は災いしかもたらさん!!」

少年「……言われなくてもそうするよ。ただ、私物だけは取らせてくれ」

暴言を聞き続けられる程、メンタルは強くない。
俺が通ると村人たちは露骨に俺を避け始めた。それもまた刺さるが、石を投げつけられるよりずっとマシか。

聖女「あ……」

少年「……」

聖女サマの顔はマトモに見られなかった。
神を信仰する聖女サマにとって、俺は害悪な存在だ。
だからきっと、軽蔑している――それを目で確かめてしまえば、きっと俺は立ち直れなくなる。

少年「……じゃあな」

俺は私物を取ると、足早に村から去った。
誰の顔も見ることができなかった。腕の痛みなんて麻痺していた。

少年(もう……どうしようかな)

先のことなんて考えられないから、今はとにかくそこから逃げた。



少年(ここらの村には、噂が知れ渡るはずだよなぁ……)

1人で放浪しているガキ自体が珍しいから目立つだろうし、腕を見せろと言われればそれで終わりだ。
金はある程度貯まったので、遠くに行く余裕は多少できた。黒の一族への偏見がさほどない、信仰が根強くない地にまで移動しようか。
だが問題がある。
俺の一族を滅ぼした国は現在、神の名の下に侵略活動を行っている。信仰の根強くない地は格好のターゲットであり、そこに移動したところで平和ではないのだ。

少年(……けど、ここらでブラブラするよりはマシだろ)

きっと長い旅路となる。そうと決まれば……

少年(……いててっ)

怪我した腕がまだ痛い。服を破って応急処置したが、こんなんで良くならないだろう。
歩きながら薬草を探しているが、季節のせいもあり、なかなか見つからない。

少年(山の麓はもうちょい気温高いだろうし、いいのあるかな? ……おぉ、いてぇ)

そう思っても耐えねば仕方あるまい。
なるべく腕を気遣いながら行こうとすると――

「待って下さい!」

少年「……え?」

一瞬、思考停止。その次に驚愕。
振り返り、目に入ったのは――

聖女「少年さん! どうか、そこでお待ちになって!」

少年「せ、聖女サマ!?」

もう永遠に会うことなどないと思っていた、聖女サマだった。

少年「な、何すか!?」

聖女「あぁ、驚かせて申し訳ありません。貴方に危害を加えるつもりはありません」

少年「い、いや、そんな心配してねぇし!」

聖女「腕を出して下さい。怪我をしている方の」

少年「え……っ?」

ポカンとしている内に、聖女サマに腕を取られた。
そして――

聖女「どうか癒やしを……」

少年「あ……」

聖女サマは――俺の腕を、癒してくれた。

聖女「これで大丈夫です。……間に合って、良かった」

少年「何で……?」

聖女「……」

聖女サマは口をつぐむ。
俺の質問の意図がわからない程、能天気なわけでもあるまい。

少年「何で、こんなことするんだよ……! 俺は異教徒だろ! 聖女サマにとっては、穢れた存在だろ!」

聖女「……私は、そうは思いません」

少年「……いいよ、別に。気を使わなくて。いくら俺が黒の一族の者とはいえ、聖女サマは優しいから、このままにしておけなかったんだろ? ありがとうな。……何も返せなくて、ごめん。それじゃ」

聖女「待って下さい!」

少年「!」

聖女サマは俺の腕を掴み、引き止める。
こんな強引な聖女サマは初めてだ。

少年「何だよ……! 俺の心は強くないんだ、大人しく去るから見逃してくれ!」

聖女「違います! 私は貴方を傷つけたり、排除しようなんて思っていない!」

少年「聖女サマの信仰する神は、黒の一族を異端者とした。だから、神の加護を受けた聖女サマだって……」

聖女「違う。……違うんです」

少年「……?」

聖女サマの声が弱々しい。
伝わってくるものは、悲しみ。……どうしてそんな顔をするんだ? 俺なんかの為にか?

聖女「……確かに私は神を信仰する者です。ですが今から言う私の言葉は……"聖女"としてではなく、私個人のものであるとして、聞いてほしいのです」

少年「?」

聖女サマ、個人のもの?
聖女サマ、には"聖女"である以外の一面があるというのか……?

聖女「私は……貴方という方を知っている。ですから、黒の一族というだけで、貴方を異端視したくはない」

少年「……」

聖女「……黒の一族に偏見がない、なんて言うつもりはありません。ですが、私は……貴方が、貴方が……」

少年「……うん、わかった。ありがとう、聖女サマ」

聖女「!」

きっと嘘ではない。
聖女サマは黒の一族の者としてではなく、個人としての俺を見てくれている。

少年「嬉しいよ。やっぱり、聖女サマは優しいな」

それだけで俺は、救われた気持ちになれたんだ。

聖女「……違う。私は……貴方の思っているような人間ではない」

少年「?」

どうしたんだろう。聖女サマの様子が変だ。

聖女「……あの、少年さん」

少年「ん、どうした?」

聖女「その……私の家に、来ませんか?」

少年「……はい?」

唐突だな。一体、何考えてるんだ。

聖女「少年さんは、行く場所がないでしょうし……。私の家に住みませんか? あ、私の住まいは森の中にあって、そこは誰も訪れない場所なんです」

少年「……匿ってくれる、ってこと?」

聖女「はい……」

少年「そりゃ……有難いけどさ……」

聖女「何か問題でも……? 遠慮は無用ですよ」

少年「あ、いや。俺がガキだから意識してないかもしれないけどさ……俺、あと2、3年もしたら立派な『男』だよ?」

聖女「……?」

少年「で、聖女サマはずっと歳取らないんだろ? ……きっと意識するようになるよ、聖女サマのこと」

聖女「しませんよ。少年さんはモラルのある方ですし」

少年(いや、危機感もてよ!)

確かに俺もモラルを大事にしたいが、男の本能はどうなるかわからない。

少年(だが……)

今は争いが激化している。
そんな中、ふらふらと旅をするのは危険なのは確かだ。

少年「……なら、2、3年。それまで置いてくれないか。……あとは、世界の状況次第で動く」

聖女「……えぇ」

少年「……何だよ、嬉しそうな顔して」

聖女「ふふ。だって、嬉しいですから」

少年「わっけわかんねぇ……何度も言うが、俺は異端者のガキだぞ」

聖女「えぇ。でも少年さんは……」

少年「?」

聖女「……いえ、何でもありません。案内しますね」



少年(ここか……森の中にある以外は、意外と普通の家だな)

聖女「掃除はしていますが、あまり細かいところには手が届いていないかもしれないです……」モジモジ

少年「毎日、村を訪問してるもんな。掃除は俺に任せな」

少年(物が少ないもんな。掃除は楽そうだ。……ん?)

ふと、棚の上のものが目に入った。

少年「あ! あれ、俺があげた人形! 飾ってくれてたの!」

聖女「えぇ。頂いた日に、すぐ飾りました」

少年「ホコリ被ってないし、大事にしてくれてたんだな! 嬉しいよ!」

聖女「そ、そんなに嬉しいものですか?」

少年「うん! 俺、ちゃんと聖女様にお礼できてたんだな!」

聖女「お礼……?」

少年「正直、結構心配だったんだよ。人形がお礼になってるかって。でも聖女サマが飾ってくれる程度に喜んでくれてたってことは、俺の気持ちは一方通行じゃなかったんだ」

聖女「気持ちの一方通行……?」

少年「そう。こっちはお礼の気持ちでも、聖女サマが喜んでくれてなきゃ、それはただの押し付けだろ。そんなの、嫌じゃん。対等じゃない」

聖女「……!」

少年「つっても、命を助けてくれたお礼にはまだまだ足りないんだけどね。だから俺、しっかり働くよ聖女サマ!」

と、こっちは強気で宣言してみたのだけれど。

聖女「……」

少年「聖女サマ?」

聖女サマはどこか上の空だった。
何? 聞いてる? おーい?

少年「どうした聖女サマ? 俺、何か変なこと言った?」

聖女「……いえ。変なことではありません。少年さんは、私に色々なことを気付かせて下さいますね」

少年「色々なこと……?」

聖女「ふふ。幼少の頃よりずっと宗教という狭い世界にいたもので、価値観が凝り固まっていたんです」

少年「そうか。よくわかんないけど、異教徒の価値観て新鮮?」

聖女「えぇ」

少年「そっかー。……多分価値観の違いでぶつかることもあるだろうけど、なるべく聖女サマに合わせるから!」

聖女「気を使いすぎですよ、少年さん。それよりも、今日は休まれた方がいいでしょう。ベッドがなくて申し訳ないんですが……そこの部屋にソファーがありますので」

少年「十分、ありがたいよ! それじゃ、お言葉に甘えて!」

俺は部屋に駆け込み……あ、大事なことを言い忘れていた。

少年「聖女サマ、おやす……」

と、振り返った時。

聖女「……」

少年「……っ!」

聖女サマの顔が悲哀を帯びていた。
どうしてだかわからないけど、何だか見てはいけないものを見たような気がして……。

少年「……聖女サマ、お休み」

俺は見なかった振りをして、ドアを閉めた。



いくら聖女サマが相手とはいえ、他人との共同生活は大変だろう……と思ってはいたものの、そうでもなかった。

聖女「では、行って参りますね」

少年「行ってらっしゃーい」

聖女サマは毎日近隣の村を慰問しているので、日中あまり顔を合わせることはない。
家事だけだと午前中に終わるので、割かし暇である。

少年「でりゃあぁあぁ――ッ!!」

そういうわけで日中のほとんどは体や魔力を鍛える修行に費やしている。
一生聖女サマの世話になるわけにはいかないし、力をつけておくのは大事だ。



聖女「あらあら。今日も美味しいお食事、ありがとうございます」

少年「色々ぶち込んだだけのチャーハンだよ。ただのズボラ飯だよ」

洗濯以外の家事は任せて貰っているが、聖女サマは家事の出来には大らかなので気は楽だ。(だからと言ってサボりはしないが)

少年「今日は大変だったか?」

聖女「そんなことありませんよ。いつも通りです」

少年「そうかぁ」

聖女サマは必要とされている存在。だからそうそう嫌な目に遭わないだろうし、もし遭ったとしても言わないだろう。

聖女「毎日退屈していませんか、少年さん」

少年「いや大丈夫。聖女サマこそ多忙だけど大丈夫かよ」

聖女「えぇ。不老不死ですから」

不老不死ってそこまで万能なのか。なったことないし周囲にもいなかったから、よくわからん。
けどまぁ、聖女サマはこれだけ優しく、心が広く、慈悲深いからこそ、神に選ばれたのだろう。

少年(全く、不老不死ってやつは規格外だね)

きっと俺は聖女サマを永遠に理解することはない。
常人には理解できないからこそ、特別な存在なのだ。

聖女「あら、このスープも美味しいですねぇ~」

少年(……こう生身で接すると、普通の人間なんだが)



少年「だぁっ、でりゃぁっ!」

少年(大分サマにはなってきたとは思うが、実戦経験も積まないとなかなか強くならないよなぁ……)

トコトコ

少年「ん?」

黒狼「ガルル」

少年「お。黒狼じゃん」

こいつは魔物だが、俺にとってはその辺の魔物とはちょっと違う。黒の一族が信仰する魔神に仕える神獣とも呼ばれていて、黒の一族とは友好関係にあるのだ。

少年『どうした、迷子か?』

その気になれば、会話だってできる。

黒狼『黒の一族の魔力を感じたのでな。生き残りがいたとは、喜ばしいことだ』

少年『今、よそじゃどうなってるんだ?』

黒狼『聖国による他宗教への侵略は激化している。滅ぼされたのは、黒の一族だけではない』

少年『そうか……』

わかっていた事態だが心苦しい。
抑えて生活しているが、聖国に対して恨みもある。その気持ちでまだ腸が煮えくり返って、苦しい。

少年『何なんだ、今回の侵略は。神による指示か?』

黒狼『聖国の王は神の声を聞ける。恐らく、そうだろうな』

少年『くそっ、神め……!』

黒狼『ところで。お前が身を寄せているのは、聖女の下か?』

少年『あぁ。……いい人だよ、聖女サマは』

黒狼『そうだろうな。例え神に命令されても、聖女はお前を裏切らないだろう』

少年『俺もそう思う。根っからの善人だから』

黒狼『そうではない』

少年『え?』

黒狼『おっと、遠くで仲間が呼んでいる。……また来るぞ』

少年『おう』

少年(そうだ。今度会った時、特訓の相手してくれないかなぁ。ちゃんとおやつも用意しといてやろう)



>晩


少年(今日は遅いな、聖女サマ)

いつもならとっくに帰って夕飯を食べてる時間だ。
いくら神の加護がある聖女サマだからといって、心配になってくる。

少年(まさか、何かトラブルでも……)

不安が生まれ、探してこようと上着を羽織った。その時。

聖女「ただいま、遅れました」

少年「聖女サマ!」

声が聞こえてほっとした。
俺は聖女サマを出迎えに、玄関まで走った。

少年「聖女サマ、おかえ……」

と、すぐにその姿を見てギョッとした。

少年「聖女サマ!? 顔色悪いぞ、病気か!?」

聖女「いえ、大丈夫です。今日は魔力を使い切ってしまったので、少し疲れただけです……」

少年「? 何か病気でも流行ったのか」

聖女「最近、魔物の数が増えていて……怪我をされる方が増えていらっしゃいまして」

少年(あ)

黒狼、そういや『仲間が呼んでる』と言ってたな。
……とはいえあいつらも住処を追われてここに来たんだ。だから、あいつらを悪く言うことはできない。

少年「体調悪そうだし、ゆっくり休んだ方がいいよ。お粥か何か作るよ」

聖女「すみません……。お言葉に甘えますね」

少年「もし何なら精力剤でも……って、駄目だよな。異教徒の作る薬なんて」

聖女「どんなお薬でも作れるんですか?」

少年「ん? 一般の店に置いてあるような効能のは。ちゃんと薬草を集める必要はあるけど」

聖女「なら……この辺で採れる薬草で作れるお薬、何でも良いので……お願いしてもよろしいですか?」

少年「いいけど、村人に使うの?」

聖女「はい。……正直、私の魔力だけでは限界もありまして……」

少年「なら、この薬の出処は……」

聖女「えぇ、秘密にしておきます」

少年(俺の薬に頼るなんて、よほど患者が多いんだなぁ。皆、聖女サマに頼りすぎだろ)

俺は家の周辺にある薬草を採ってきて、言われた通り沢山の薬を作った。



それからしばらく、聖女サマが魔力を尽かせて帰ってくる日が続いた。
悪いことは続くもので、怪我だけでなく病も流行し始めたらしい。
聖女サマ1人では手が足りない状態ではあるが、医者は聖国の戦争で招集されているらしく、こんな小さな村に呼ぶことはできないそうだ。

聖女「ふぅ……」

少年「……」

聖女「あ、少年さん。デザートありがとうございました、腕を上げましたね」

聖女サマは明らかに疲れていた。
だけど俺の前では明るく振舞おうとするのが困ったものだ。
人に心配させまいとする性分なのだろうが、これでは気が休まらないだろう。

少年「お休み、聖女サマ。ゆっくり休みなよ?」

聖女「えぇ、お休みなさい」

だから俺はなるべく気を使わせないように、聖女サマと距離を置く。

少年(あ。……新しい薬、補充しとかないと)

精力剤を台所に置いているのだが、聖女サマは毎日服用しているようで、減りが早い。

少年(寝る前に煎じておくか)

聖女「ねぇ少年さん」

少年「何?」

聖女「……もっと強いお薬は、作れないでしょうか?」

少年「……っ!」

聖女「あぁ、服用するのは私じゃありませんよ。村の方が……」

少年「……これ以上強い薬は、副作用が出るから」

聖女「わかりました」

少年(……わかってるんだよ聖女サマ。だって、この薬服用すると――目が充血するんだよ。今の聖女サマみたいに)



少年「どりゃああぁぁっ!」

黒狼『精が出るな、少年よ』

少年『よ。お前か。ちゃんと食えてるか?』

黒狼『細々とな。時々お前が飯を持たせてくれるので、助かる』

少年『困った時はお互い様だろ。今日も訓練の相手、宜しく頼むぞ!』

あれから黒狼は何度かここを訪れ、こうやって交流している。
黒狼は神獣。飢えて全盛期の力を出せないにしても、生身の人間相手には十分に驚異的な力を持っている。
その黒狼に戦闘の指導をしてもらえるのは、非常に有意義なことだ。

少年『ハァ、ハァ……。少しは腕、上がったろ……?』

黒狼『あぁ。吸収の良い年頃なだけあるな』

少年『ありがとよ。聖女サマのお陰で、食いっぱぐれることもないしな』

黒狼『その聖女なのだが……』

少年『? 聖女サマがどうした?』

黒狼『慰問の様子を遠目に見たことがある。随分と、身を削っているな』

少年『そうだよなぁ。いくら不老不死とはいえ、あんなに魔力使っちゃボロボロになるよな……』

黒狼『……疲弊しているのは、体だけではあるまい』

少年『体と心は表裏一体だしな。こう激務が続けばそりゃ……』

黒狼『そんな単純な話ではない』

少年『え?』

黒狼『聖女はここの所、村人たちに責められている』

少年『責められて……!? な、何で!?』

黒狼『主に慰問の頻度について。それから、聖女の力が万能でないことについて。……最も村人達の求めるレベルとは、神の領域に達しているがな』

そういえば心当たりはある。
俺が村にいた頃、病が流行った。あの時も村人たちは聖女サマを責めた。
あの時は病のせいで少しギスギスしてただけかと思ったが……。

黒狼『いたわってやるのだな、少年よ。いくら聖女自身が支えを欲していないからといって、あれではな……』

そう言って黒狼は去っていった。

少年(まさか、そんなことになっていたなんて……)



>晩


少年(黒狼に言われた通り、言ってやるんだ! 今までお節介かなと思ってたけど、やっぱこのままじゃ駄目だよな!)

聖女「只今戻りました」

少年「あ、お帰り聖女サマ……」

言いたいこと、全部シミュレーションした。
あとは無理矢理でもそれを口にするだけ……なのだが、聖女サマの顔を見た瞬間、それが消し飛んだ。

少年「……どうしたの、その額の傷」

聖女「えっ? あぁ……転びました」

少年「どこで?」

聖女「山道です。足を滑らせてしまって……」

少年「山道で転んだら、服が汚れるはずだよね。聖女サマの服は白いから、汚れは目立つはずだよ」

聖女「……」

少年「……なぁ。村人にやられたの?」

聖女サマは黙り込んだが、俺が引かずにじっと目を見つめると、観念したかのように呟いた。

聖女「……私は。遂に、人を死なせてしまいました……」

少年「!」

聖女「1週間に1度の訪問では、病を治せなかった。あの方は長期間苦しんで、苦しみ抜いた末に、遂に……」

少年「で……そいつの家族か恋人にでも、やられたの?」

聖女「……はい」

聖女サマの目にじわりと涙が浮かぶ。
責められた辛さかと思ったが、そうではないようだ。

聖女「私の力が及ばず、救えなかった……! だからご家族の怒りは、当然のものです……」

少年「いや待て、それはおかしいよ」

宗教観念の違いかもしれないが、それは否定せざるを得ない。

少年「皆は聖女サマに助けられてんじゃん。なのに責めるなんて、おかしいよ」

聖女「ですが、私は神に人々を救えと……」

少年「それは聖女サマの力でできる範囲のことだろ。医者だって万能じゃないのに」

聖女「……」

少年「そりゃ……家族を失った失望が聖女サマに向かうのも、わからなくもない。わかるけど……手を出すのは、絶対に駄目なことだよ」

それに――

少年「前々から思ってたけど、村人たちは聖女サマに頼りすぎなんだよ。週1の慰問じゃ限界あるって、そんなのわかりきってるだろ……」

聖女「……私の力に限界があるから、失望させてしまい……」

少年「そうじゃねぇ! 限界なんてあるに決まってるだろ! そもそも、何で『やってもらって当たり前』なんだよ!」

聖女「……!」

少年「俺にはそっちの宗教観念はわからない。けど聖女サマと村人たちの関係は、聖女サマの一方的な奉仕で成り立ってる。それは絶対におかしい!」

聖女「……見返りを求めろ、ということですか……?」

少年「健全な関係は、見返りを求めなくても何かしら返ってくる。そういうもんだと俺は思うけど?」

聖女「!」

医者なら金銭という見返りがある。
無償の奉仕には感謝の気持ちという見返りがある。
それもなく、ただ聖女サマを奉仕させ、責め立てるというのは――

少年「そんな関係性は不健全だ。だから聖女サマ、ボロボロになってるんじゃん」

聖女「……」

気付くのが遅れたことが悔やまれる。
もっと早く気付けていれば、聖女サマに忠告できた。
対等な関係性を重視する俺と違い、一方的な奉仕を当然とする聖女サマがそれに気付けるはずが……

聖女「……やっぱり、そうだったんですね」

少年「へ?」

やっぱり、とは。

聖女「……少年さんは異教徒の方ですから。だから皆さんと違うだけだと思っていましたが……」

聖女サマはそう言うと――哀しげに笑った。

聖女「そんな貴方だからこそ、一緒にいて気持ちが良かった」

少年「……え?」

聖女「初めは、私の為に水を持って来て下さった時でしょうか」

出会った当初のことだ。
聖女サマは飲み物も持たずに暑い道を歩いていたので、俺は追いかけて水を渡したんだ。

聖女「あの時も嬉しかったけれど……はっきり感じたのは、人形を頂いた時ですね」

少年「えっ? 人形?」

聖女「えぇ。……『お礼』として何かを受け取るのは、あれが初めてでした」

少年「……!」

そう言えば人形を渡した時、あんなもので大げさに喜ぶ人だなと思っていた。
だけど飾ってくれていたということは、人形を本当に気に入ってくれたのかと思った。
けど、それもあるかもしれないけど――そうじゃなくて。

聖女「貴方は……気持ちを返してくれるから」

人形に込められた、俺の気持ちの方だったんだ。

聖女「貴方は私を上にも下にも見ず……対等に接して下さった。だから私、貴方のことが好きです」

少年「聖女サマ……」

人形なんかが嬉しいのか、とずっと思っていた。
逆を言えば、人形なんかを喜ぶ程、喜びに対するハードルが低いんだ。
……要するに、それだけ満たされてない人だったんだ。

少年「……当然じゃんか。命助けられて、村を追い出された後も世話してくれて……対等にならないのは失礼だよ」

例え恩人であっても、聖女サマを上に見てしまえば、聖女サマからの奉仕を無償で受け取ってしまいそうで。
だから俺は対等になる為に、一生懸命返してきた。
それに――

少年「俺だって嬉しかったんだよ、聖女サマ! この世界に居場所がなくなった俺を、助けてくれて! 聖女サマは誰よりも、俺に優しい人だから!」

俺だって、満たされていないんだから。

聖女「……少年さん。貴方は私を買い被りすぎですよ」

少年「え?」

聖女「私が優しい人間なら――村の方々の目など気にせず、貴方を助けていました」

少年「……」

俺が村人達に糾弾された時、聖女サマは黙っていた。俺を助けてくれたのは、人の目がない場所でだ。
だとしても、だ。

少年「それは当たり前じゃないか。聖女サマに立場を悪くしてまで庇って欲しいなんて、俺は思っちゃいないよ」

聖女「……私が、今の立場から逃げ出すことは簡単なのです。だけど――」

聖女サマの笑顔は、どこか自嘲気味だった。

聖女「私は――後ろ指を刺されるのが怖くて、『聖女』であることをやめられない。『特別』な今にしがみついて離れられない。そんな汚い人間なのですよ――」

少年「……だから、どうした」

聖女「……!」

少年「それも人間らしさだろ。人間らしい部分を、汚いなんて後ろめたく思わなきゃいけないなんて、そっちの方が間違ってるよ」

聖女「う……」

少年「どうしたの、聖女サマ?」

聖女サマは――泣いていた。
両手で顔を覆って、隙間から涙がこぼれる。

聖女「貴方は、私に汚い面があることを『当然』として下さる……それが本当に、嬉しいのです」

少年「……うん」

嬉しいという気持ちは本当だろう。俺との関わりで視野が広がったのもあるだろう。
だけど――ただ、それだけだ。

聖女「ありがとうございます、少年さん。……私、勇気を頂けました」

聖女サマは「聖女」であることをやめない。
だから苦しみから解放されることはない。
それは永遠に。不老不死の身で、魂が限界を迎えるまで。

少年「……」



少年『黒狼、いるか?』

深夜。俺はこっそり外に出て、魔力を飛ばした。
しばらくすると、俺の魔力に気付いたのか黒狼がやってきた。

黒狼『どうした、少年』

少年『黒狼一族は情報通だろ。聞きたいことがある』

黒狼『何だ』

少年『戦争の現状についてだが――』






聖女「……行ってしまわれるのですね」

聖女サマは寂しそうな顔で言った。
無理もない。黒狼と会った翌朝、俺はここを出て行くと聖女サマに告げ、その翌日には旅立とうとしているのだから。

少年「まぁ、もし向こうで上手くやれなかったら、また戻ってくるからさ」

黒狼に聞いたのだが、横暴な聖国に対抗する為の組織が、遠くの地で結成されていた。
俺はこれから、その組織に入れてもらおうかと思っている。

聖女「たまには、遊びに来て下さいね」

少年「あぁ。愚痴ならたっぷり聞いてやるからな!」

本当は聖女サマの側にいて、支えてやるのがいいのかもしれない。
だけど俺が、それをしたくないのだ。

少年「またな聖女サマ! 俺が味方でいるから、それだけは忘れんなよ!」

手を振る聖女サマの姿が遠くなる。
俺を救ってくれた聖女サマ。今現在も悩み、苦しんでいる聖女サマ。
そんな聖女サマから離れるのは、俺も寂しいが――

黒狼『良いのか。……これからお前が行く道は、彼女とは真逆だろう』

少年『いいんだよ』

だから歩くと決めた道だ。
聖女サマが後ろ指を刺されるのを恐れているのなら――俺が悪者になればいい。

俺は、いつか必ず――



黒の一族――魔神の血が混ざっているという忌まわしき一族。
今は大分魔神の血が薄れてはきたが、血を覚醒させれば驚異的な力を得られる。

呪術師「本当に良いのですね?」

少年「あぁ」

俺に迷いはない。
まだ子供である俺が組織で戦っていくには、これしか手段がない。

呪術師「貴方の中にある魔神の血を覚醒させれば、確かに我が組織にとって有力な戦力になるでしょう。しかし――それだけ貴方は、人間からは遠い存在となる」

少年「人間であることって、そんなに尊いことか?」

呪術師「……貴方はまだお若い。無鉄砲になるのは良いが、取り返しのつかないことは――」

少年「甘いこと言ってんなよ。これはあんたらにとっても、生き残りを賭けた戦争だろ?」

呪術師「……わかりました」

呪術師は俺の刺青に手をあてる。
これから俺は、人間でなくなる。

呪術師「……覚醒せよ!!」

少年「……――ッ!!」

焼けるような熱さが、刺青から全身に回っていく。

少年「ぎ……ッ、いいぃ――……ッ!!」

気が狂いそうな痛みに悶える一方、痛みが心地よく思える快感が脳を痺れさせる。
俺は最初に、「痛みによる苦しみ」というものを失うのだ。
それが魔神になるということ。人間でなくなるということ。

そんな中でも、俺は――

少年(聖女サマ、聖女サマ……ッ!!)

失ってはいけない唯一の想いだけは、手放すまいとあがいていた。



「……」

暗闇の中目を覚まし、思い返すは今の夢。
あれは、自分が人間をやめた時の記憶か。

(……『その時』が近づいているという、予兆か)

あれからどれだけの時が経っただろう。
自分はあの時を境に、色々なものが変わった。

人間にとって苦痛に思うことが何でもなくなった。
視界に入る生物の全てが、脆く儚く見えるようになった。
『不可能』なものがほとんど無くなって、満たされることも減った。

『黒狼はいるか』

黒狼『……何か御用かな?』

長い時を共にした黒狼も、すっかり歳をとった。
唯一、俺の弱さを知っているこいつは、今でも信頼の置ける存在だ。

『夢を見た。……『時』が近づいているんじゃないのか』

黒狼『あぁ、そうだろう。……行くのか?』

『……俺が行っても、彼女は喜ぶまい』

黒狼『ふっ。臆病だな』

『何だと』

黒狼『お前は、彼女に拒絶されるのが怖いだけだろう。その言い訳に彼女の感情を持ち出すとは、臆病な上に女々しいな』

『ふん。……俺にそこまで言えるのは、お前だけだ』

黒狼『行ってやれ。……他の者には、適当に言っておいてやる』

『頼んだぞ、黒狼』

黒狼『道中、気をつけるのだぞ。お前を狙う者は多いからな……――』

そう。俺は憎まれ、恐れられる存在となった。
俺を知らぬ者は――この世界に、誰一人としていない。

黒狼『良き再会を望む……魔王よ』



魔王「……」

時が流れても、自然的なものに変わりはない。
しかし流石に建造物はそうはいかず、何度も修理した跡でもはやボロボロだ。

魔王(まだ、ここに住んでいるのか)

わずかな魔力を感じ、確信を得る。
魔神の血を覚醒させてからも、何度かここを訪れたことがある。だが本格的に魔王として動くようになってから、1度も会っていない。

魔王(怒っているだろうか)

いや、怒るような性格ではない。どちらかというと、悲しんでいるか。
どちらにせよ、良い感情とはいえない。……俺は彼女からの恩を、仇で返してしまったことになるな。

魔王「失礼する」

意を決して扉を開け、中に入るが返事はない。
ギシギシ軋む床を歩き、俺は魔力を感じる方へと足を運んだ。

魔王「……久しぶりだな」

そう言って、部屋のドアを開けると――

聖女「ゴホ、ゴホ。……貴方ですか。随分、力強くなられて」

彼女は弱々しく――それでいて、穏やかに言った。

魔王「俺のことを忘れていなかったか」

聖女「忘れるものですか。……貴方は私に、物事を広く見ることを教えてくれた方ですから」

魔王「しかし広く見えるようになったところで、貴方は生き方を変えなかった」

聖女「えぇ。……変えるだけの勇気が、私にはありませんでしたねぇ」

魔王「貴方は清廉潔白を貫いた。それは誇って良いことだろう」

聖女「……いいえ。私は、貴方を悪者にしてしまった」

魔王「何のことだ」

聖女「私が最も欲していたものを、貴方は知っていた」

魔王「……」

彼女の欲していたもの――それは解放。

聖女「貴方は私の為に――神を殺し、魔王となった」

魔王「……」

神を殺すには、魔王になるしかなかった。
まずは俺自身が魔神の力を覚醒させ、組織を強化し、聖国を滅ぼし、更に力をつけた。
そうして神々と全面戦争になり――

聖女「神は滅び、私は解放された」

それは神に与えられた役目から。そして、不老不死の肉体から――

魔王「勘違いするな。貴方の為ではない。……故郷を滅ぼされた、復讐の為だ」

聖女「……神を殺す少し前に、貴方は私に会いに来て下さいましたね。あの時の貴方は、私と一緒に暮らしていた時の貴方だった」

魔王「……俺は変わってしまった」

聖女「どうでしょうね。変わった部分もあれば、変わっていない部分もあるでしょう」

魔王「……変わらないな、貴方は」

聖女「まぁまぁ。今の私を見てそうおっしゃるなんて……確かに、紳士になられたかしら?」

魔王「からかうな。……俺は、貴方の信仰する神を殺した魔王だぞ」

聖女「そうでしたね。なら――"聖女"としてでなく、"私"として言います」

彼女は笑った。
その笑顔は、やはり昔と変わらない――

聖女「また――会えて良かった」

心優しい、"聖女サマ"のもので――

魔王「……っ」

痛い。胸が鷲掴みにされたようだ。
こんな痛み、とうの昔に忘れていたのに――

聖女「……貴方にひとつ、わがままを言ってもよろしいでしょうか」

魔王「……何でも言うといい」

聖女「では……手を握って下さいませんか?」

魔王「あぁ」

俺は望み通り、彼女の手を握る。
既に体温がほとんど冷めた、シワの多い手を。

聖女「貴方に会えなければ――この瞬間は、来なかったのですね」

魔王「……っ」

聖女「ありがとうございます。……貴方には、感謝するばかりです」

魔王「……俺だって……」

聖女「ゴホ、ゴホッ」

魔王「……!」

触れ合った手で、彼女の灯火が弱まっているのを感じる。
今の俺なら、それをどうにかすることもできる。……だけど、しなかった。

魔王「……」

終わりはただ静かで、それでいて穏やかで……――

魔王「……」

彼女は――満たされることが、できただろうか。

立ち去ろうとした時、ふと彼女の側にあるものが目に入った。
人形だ。……あれからずっと、大事にしてくれていたのか。

魔王「……」

一瞬それに手を伸ばしかけたが――やめた。
俺が持つのは、彼女と過ごした記憶だけでいい。


聖女『また――会えて良かった』

俺もだよ――聖女サマ。


貴方に会えて良かった。

貴方のお陰で、俺は『生きる』ことができた。


魔王「ではな」


俺はもう少しだけ生きていく。

俺自身の手で、『魔王』を終わらせる為に――



Fin



あとがき

久々のssでした。お付き合い頂きありがとうございました。
自分にとって書きやすい恋愛やギャグではないので、なかなかタイピングが進まないのなんの(;´д`)
テーマは「見返り」ですかね。世界観の描写は簡潔でメイン2人のやりとりばかりになってるのは自分のssではお約束。

本ssはブログ限定ssなので、優しいコメント頂けたら喜びます(´∀`)
posted by ぽんざれす at 12:06| Comment(6) | ブログオリジナルss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月27日

魔姫「捕まえてごらんなさい、色男」/分岐ルート後日談

魔姫「捕まえてごらんなさい、色男」の分岐ルートスピンオフ、各ルートの後日談です。


以下のリンクから各ルートに飛びます

ハンタールート
猫耳ルート
勇者ルート







ハンタールート

わいわい

魔姫「綺麗に手入れされた庭園、爽やかなそよ風……紅茶の香りが私に癒やしを与える」

ハンター「……」

魔姫「ね? いいお店でしょ、ハンター」

ハンター「……確かに店はいい。景観もメニューも文句はない。だが……」

魔姫「何よ?」

ハンター「何で、知らん内にここが俺のバイト先になってるんだ!?」

店長「ハンター君、ネクタイ曲がってるよ」

魔姫「だって、店員さんの制服が素敵なんだもの。是非、ハンターに着て欲しくて」

ハンター「いや納得せんぞ」

魔姫「どうせ今日は私の貸切なんだし、楽なお仕事じゃないの」

ハンター「そういう問題では……。ハァ、言い合いしても無駄か」

魔姫「そういうこと。ほら、ネクタイ直してあげるわよ」

ハンター「ありがとうございます、お客様ー」

魔姫「あら照れ隠しに棒読みなんて、可愛い~。心の中ではドキドキしてるんでしょ~?」

ハンター「いや別に。慣れてるからな」

魔姫「………」

ハンター「いつまでかかって……ってオイ」

魔姫「あらハンター、ねじねじネクタイも素敵ねぇ~」

ハンター「お前な……。そういうイタズラするところがお子様だな」

魔姫「そのお子様に惚れた貴方は少女趣味なのかしら?」

ハンター「しょ……断じて違う! というかお前も成人近いのだから、その自覚を持て」

魔姫「ふぅん? どうやったら成人らしくなるのかしら?」

ハンター「そうだな……。大人としての振る舞いを身に付け……」

魔姫「わかった。店長さーん!」

ハンター「は?」



魔姫「いらっしゃいませー」

ハンター「……待て。何でお前もバイトしてるんだ?」

魔姫「大人としての振る舞いを身に付ける為よ」

ハンター「だからって何故バイト」

魔姫「1度やってみたかったのよね~。猫には内緒ね!」

ハンター「いやちょっと待て。……オイ!」

魔姫「いらっしゃいませお客様、お席はこちらになりまーす♪」

ハンター「……」

魔姫「ご注文如何ですか? はい、コーヒーと……あれっ、何だっけ」

魔姫「テーブル拭くわね~」ビチャビチャ

魔姫「え、モンブランご注文でない……。あら、どこのテーブルだったっけ??」

ハンター(いかん……。初日とはいえ駄目すぎる)

客「おい! 何だこのコーヒーのブレンドは、クソにがいぞ!」

魔姫「あらっ」

ハンター(あぁ、やらかした……)ガクッ

魔姫「申し訳ございません、お客様。すぐにお取替え致しますね」

客「待てよ、姉ちゃん。こんな濃いコーヒー飲んじまったせいで、今日は俺は眠れそうにない」

魔姫「はぁ……?」

客「だから姉ちゃんもこのコーヒー飲んで、今夜は眠らず俺に付き合ってくれよおぉ!」ヒヒヒ

魔姫「……は?」

ハンター(まずい……モンスター客だったか!)

客「いいだろう姉ちゃん、可愛いねぇ~」

魔姫「おほほお客様、ご冗談を」ゴゴゴ

客「冗談じゃねぇよ、いいからとっとと……」

ハンター「……お客様」ニッコリ

客「あん? テメェは黙って――」

ハンター「……」グビッ

客「」

魔姫「い、一気飲み……」

ハンター「……お客様。彼女の代わりに、この私がお付き合い致しますので」ニコニコ

客「い、いや、そんな……」

ハンター「私 が お 付 き 合 い 致 し ま す の で」

客「……いいや。代わりの持ってきて」ショボン



魔姫「何よぅ、私の威圧よりハンターの威圧の方が怖かったっての?」ブツブツ

ハンター「ああいう、女相手でないと強気になれない奴もいるんだ。またひとつ勉強になったな」

魔姫「ふぅん。なるほど、こうやって色んな人を知っていくのね」

ハンター「今日は頑張ったな。だが、お前がこの手のバイトに慣れるには時間がかかりそうだ」

魔姫「あー疲れたわ…。肉体的ってより精神的に」

ハンター「そう。だから大人は酔う程酒を飲むんだ」

魔姫「不健全ねぇ~。早めに寝た方がいいかしらぁ~…」フアァ

ハンター「……いや、眠るのは待て」

魔姫「ん?」

ハンター「今夜は付き合え。お前の淹れたコーヒーのせいで眠れそうにない」壁ドン

魔姫「………」

ハンター「もう一段階、大人の階段……昇ってみないか?」

魔姫「……あのオジサン客と関節キッスした口はちょっと」

ハンター「……うげぇ」

魔姫「大丈夫? 背中擦る?」

ハンター「誰のせいで……。お前、覚えてろよ」

<終わり>








猫耳ルート

わいわい

魔姫「誕生日に城で立食パーティーが開かれるなんて、流石勇者。英雄ねぇ」

猫耳「はい魔姫、料理取ってきたよ~」

魔姫「ありがとう。でも、そんな気を使わなくていいのよ?」

猫耳「なーに言ってるの。魔姫に料理を盛らせるなんて、できないよ!」

魔姫「でも、立食パーティーなんだから……」

猫耳「僕は魔姫に恥をかかせたくないんだ!」

魔姫「まぁ猫ったら」

魔姫(柄にもなく格好つけちゃって。でもまぁ、悪い気分じゃないわ)フフ

猫耳(魔姫が盛り付けたら、せっかくの料理がぐちゃぐちゃになるからね……)

魔姫「うん…一流シェフの味付けね」

猫耳「? 魔姫、もしかしてお腹空いてなかった?」

魔姫「え? どうして?」

猫耳「魔姫っていつも、凄く美味しそうに食べるからさ。今日の反応はイマイチに見えるなー、って」

魔姫「う。猫の目は誤魔化せないわね……」

猫耳「お腹空いてないなら、デザートとか……」

魔姫「だけど、まだまだ私を見る目が未熟ねぇ。私はお腹一杯じゃないし、お料理も美味しく頂いているわよ」

猫耳「んん~? ……あ、パーティーだからお上品ぶってるとか」

魔姫「私は『ぶってる』んじゃなくて、本当にお上品なのよ、猫ちゃ~ん?」ギュウゥ~

猫耳「あいたた~!」

魔姫「もー、猫。理由はひとつしか考えられないじゃない」

猫耳「いたた……。な、何?」

魔姫「普段頂いているお料理の方が、美味しいからよ」

猫耳「………へ?」ポカン

魔姫「ほら猫、早く食べないと冷めちゃうわよ」

猫耳「あ、う、うん! ……そ、そっかぁ。僕の料理が……」

魔姫(猫ったら照れちゃって。可愛いんだから)

猫耳「……あっ。新しい料理追加されたから、持ってくるねっ!」

魔姫「ありがとう~」

貴族A「魔姫様、ご機嫌よう」

魔姫「ん?」

貴族B「初めて貴方をお近くで拝見しましたが…やはり、お美しい」

魔姫「あら、ありがとう」(うん、知ってる)

貴族A「魔姫様、どうか今度行われる僕の家のパーティーにご出席下さい」

貴族B「僕たちの家は、代々国王陛下と懇意の仲であり……」

魔姫「あらー」ニコニコ

魔姫(いや知らないし。でも心なしか周囲の注目も集めちゃってるし、手ひどく振って恥かかすのも気が引けるし……)

猫耳「ま、魔姫……」

魔姫「あ、猫……」

貴族A「おや。魔姫様の確か従者の……」

貴族B「ご機嫌よう、坊や。少し魔姫さんとお話させてもらっても良いかな?」

魔姫「いえ、猫は……」

がばっ

魔姫「!? ね、猫……」

猫耳「……駄目」

貴族A「え?」

猫耳「魔姫は僕の~っ!」フーッ

魔姫「!?」

ざわざわ

貴族B「……へ? ぼ、坊やの?」

魔姫「え、えぇ。私と彼はお付き合いしてて……」

猫耳「フシャーッ」

貴族A「そ、そうですか。では」ソソクサ

貴族B「うーかゆい、猫アレルギーが……」ポリポリ

魔姫「猫、もー……貴方ねぇ」

猫耳「作戦成功だにゃー」クスクス

魔姫「!?」

猫耳「これだけ大勢の前でラブラブな様子を見せつけたら、魔姫を取ろうなんて男はいなくなるからにゃ~。これで公認だね~♪」ニコニコ

魔姫「なっ……」

猫耳「あと……魔姫は、こういうの照れるんだよね」ニーッ

魔姫「こ、こらっ……! このぶりっ子~っ!」

<終わり>






勇者ルート

勇者「お、お、俺でいいんですか!?」

魔姫「えぇ。観劇のチケット2枚頂いたから…もしかして嫌い?」

勇者「とんでもありませんっ! ほとんど見たことないけど、魔姫さんと一緒なら!!」

魔姫「そう。じゃあ明後日、お洒落して行くわ」

勇者「お、お洒落っ!?」

魔姫「そうよ。……せっかくの、ほら、デート……なんだし」

勇者「~っ……」ボロボロ

魔姫「!? な、何で泣くのよ!?」

勇者「すみません……。魔姫さんを前にすると、俺……情緒不安定なんです」

魔姫「『冷静でいられない』とか『感情を乱される』とか、マシな言い回しはないの」ガクッ



魔姫「忘れてたわ、今日は暗黒騎士シリーズの最新刊発売日だった! 売り切れてなければいいけど!」バサバサ

勇者「……」

魔姫「あら、勇者だわ。衣装屋に入ったみたいだけど……声をかけてみようかしら」

カランカラン

魔姫「勇――」

勇者「どう?」

魔姫「………」

魔姫(何、あのカラフルで目がチカチカする格好は)

店員「よ、よくお似合いですが……。うーん、組み合わせをもうちょっとですね」

勇者「そっか。服とかよくわかんないから、任せた!」

店員「ちなみに、どのような目的で着るものでしょうか?」

勇者「観劇に行く為にね!」

魔姫(明後日用だったの!? 何でサーカスみたいな服選ぶのよ!?)

店員「観劇ですか……。スーツが無難かと」

勇者「スーツは動きにくい。客の中に襲撃者がいたら困る」

店員「しゅ、襲撃者!?」

魔姫(……考えられるわね、勇者なら)

店員「なら、こちらの伸縮性素材のスーツは如何でしょうか」

勇者「ふむ……。着心地は悪くない。ただ……」

店員「ただ?」

勇者「似合わんな。俺の顔がショボすぎる」

店員「い、いえ……そんなことは」

魔姫(店員さん困らせてんじゃないわよ!」

勇者「中の下が無理してお洒落したら駄目だな。だが、魔姫さんに恥はかかせられないし……」ウーン

魔姫(別に中の下とは思わないけど……。でも、私の為に真剣に選んでくれているわ)

勇者「やっぱ勇者といえばコレっしょ! 店員さん、この鎧――」

魔姫「デートに鎧を着ていくバカがいるかーっ!」

勇者「あ、魔姫さん!?」

魔姫「騎士だって休日デートには鎧を脱ぐわよ、鎧が私服じゃあるまいし!」」

勇者「うーん、服のことよくわからなくて……」

魔姫「なら私が選ぶわ。うーん、勇者は体格がいいから……」ジー

勇者「……」ジーン

魔姫「ねぇ勇者はどっちの色が……って、勇者? おーい?」

勇者「……魔姫さんっ!」ガシッ

魔姫「な、何?」

勇者「魔姫さんに服を選んで頂けるなんて、身に余る幸せ! しかし、俺はこの通りのダサ男……。魔姫さんさえ良ければ、これからも俺の服を選んで頂けますか!?」

魔姫「え、ま、まぁ……。し、仕方ないわねぇ! この私にコーデしてもらえるなんて、貴方は本当に幸せな男よ!」

勇者「魔姫さーん。下着なんですが、綿100%のやつよりこういうの履いた方がいいでしょうかー?」

魔姫「それは自分で選びなさい!!」



勇者「魔姫さん、今日はありがとうございました!」

魔姫「沢山買ったわねぇ。いい、絶対柄物と柄物の組み合わせはやめなさいよ?」

勇者「了解です! 組み合わせたらハンターに見てもらおうかな~……」

魔姫「そこまでしなくていいんじゃない。今日買った服なら、そうそう変な組み合わせにならないだろうし」

勇者「いーえ! 魔姫さんとの記念すべき初デートなのですから、手は抜きませんよ!」

魔姫「……ねぇ勇者、ツッコんでもいいかしら?」

勇者「へ? 俺なんかボケました?」

魔姫「この状況が、既にデートだと思わない?」

勇者「」ポトッ

魔姫「……勇者?」

勇者「ぎゃあああぁぁ!! 何てことだ、魔姫さんとの初デートなのにこんなモブみたいな服でええぇぇ!!」

魔姫「いやそこまで取り乱さなくても」

勇者「着替えます! 今すぐ着替えます!」

魔姫「ここで着替えるな……物陰行っても駄目ーっ!!」

<終わり>






あとがき

いちゃラブとは何ぞや。
元は恋愛ゲームを意識して書いたssなので、どのルートもアリで御座います。
このssを本当に乙女ゲーにしたら、王子ルートとかも隠しでありそうですね。
posted by ぽんざれす at 18:20| Comment(0) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月18日

魔姫「捕まえてごらんなさい、色男」/勇者ルート

本編はこちら


その少年が神童と呼ばれたのは、いつ頃からか――

魔物『ガアァッ!』

王子『ひっ!』

ダダダッ

『王子、伏せろ――ッ!!』

王子『!!』

出生、血筋――どれを取っても、彼に『特別』なものなど無かった。

『でりゃあぁ――ッ!!』ザシュッ

魔物『グアアアァァ』

だが平凡な少年は、やがてこう呼ばれるようになった。


勇者『討伐完了……立てるか?』


世界を救う英雄――『勇者』と。





魔姫「裏社会ギルド?」

ハンター「あぁ」

ハンターは朝早くこちらを訪れるなり、聞きなれない名前を口にした。

ハンター「俺たちは今、ギルドで残党狩りの依頼を行っているが……裏社会にも同様に、裏社会の人間に仕事を斡旋するギルドが存在する」

猫耳「あぁ聞いたことある。そのギルドを介して、魔物と手を組む人間もいるんだよね」

ハンター「で、だ……その裏社会ギルドの依頼書を入手したのだが……」ピラ

・討伐依頼
標的:魔姫一行
報酬:狩った獲物により変化、詳細は下記

魔姫「で、討伐報酬は……ちょっと嘘でしょ! 勇者が私より高いのはわかるけど、3倍はないでしょ3倍は!」

ハンター「俺なんてお前より3割少ないんだからな……」

猫耳「皆はマトモな額だからいいよ…。僕なんかワンコインだよ……」

魔姫「この値付けは正直納得できないけど……この値段なら、ギルドの依頼を見た連中がこぞって勇者を襲うんじゃない?」

ハンター「……それだが、既にその事態は起こっているかもしれん」

魔姫「……どういうこと?」

ハンター「今朝、勇者の家を訪れたのだが、応答がなかった。しかし扉に鍵がかかっておらず、不審に思い開けると……入口に、この依頼書が落ちていた」

魔姫「!! じゃあ、まさか……」

猫耳「勇者はギルドの依頼を受けた奴から襲撃を受けて……」

ハンター「この依頼書は、恐らくそいつが落としたものだろうな」

魔姫「大変じゃない! こんなとこでお喋りしてる場合じゃないわ!!」

ハンター「だが、勇者がどこにいるかわからん。すぐに通報したから、今頃兵士たちが勇者を探しているだろうが……」

猫耳「うにゃあ……魔姫も討伐依頼されてる身だよ。今は下手に動かない方がいいかも」

魔姫「でも……」

ハンター「勇者は強い。あいつが自力で何ともできない状況というのは……俺たちでは微力にすらならん」

魔姫「……」

魔姫(勇者……)


助手「失礼します!! ハンター様っ!!」バァン

魔姫「!!」

ハンター「助手、どうした!」

助手「勇者様が……勇者様が……ッ!!」

魔姫「……!!」





ワーワー

<まさか勇者様が……
<裏社会ギルドだって?
<物騒ねぇ……

魔姫「……」

ハンター「魔姫。気落ちするな」

魔姫「だって…だって……ッ!! 勇者が!!」

ワーワー


<キャー勇者様ー! 素敵ー!

勇者「はっはっは、ありがとう!」

<でも流石ですね勇者様!
<まさか、たった1人で裏社会ギルドを潰すなんて!


魔姫「悔しいいぃぃ!! 私達が情報を知った時には、勇者はまた1つ武勇伝を増やしていたなんて!!」

ハンター「言うな……。惨めになる」

猫耳「にゃー……ドアの鍵は締め忘れてただけなんだねぇ」


勇者「あ、魔姫さんとオマケ2人! おはようさんです!」

魔姫「勇者、あんたねえぇ!! 何か言ってから行きなさいよ、心配したでしょ!!」

勇者「えっ!! ま、魔姫さんが、俺の心配を……感激だああぁぁ!!」

魔姫「感激してないで、何で黙って行ったのか説明しなさい!!」

勇者「はい、魔姫さん! こんなタダ働きは、俺1人でチャッチャと済ませようと思ったからです!!」ビシッ

魔姫「私はお金目当てで残党狩りしてるわけじゃないのよ!! 名声独り占めなんてズルイじゃないの!」

勇者「あはは、魔姫さん何をおっしゃっているんですか。魔姫さんは世界で最も尊い女性じゃありませんか!」

魔姫「誤魔化すなあぁ――ッ!!」


ハンター「いや……誤魔化しじゃなくて本気だな」

猫耳「激怒状態の魔姫に動じないのは勇者だけだにゃー……」


魔姫「ぜぇっぜぇっ」

ハンター「勇者、裏社会ギルドの情報はどこで入手した?」

勇者「友達に聞いたんだよ。ほら俺って交友関係広いからさ」

ハンター「そうか。だが俺たちはパーティーだ、危険なことをする時は一言伝えて行け」

勇者「危険なこと……? うーん、俺にとって危険なことってそうそうないしなぁ」

ハンター「あのな……」

魔姫「よぉー…く、わかったわ」

勇者「はい?」

魔姫「勇者にとって、私達は頼りない仲間なのね! フン!!」スタスタ

勇者「あぁっ、魔姫さん! 誤解です、貴方は誰よりも強く美しく気高い!!」

ハンター「どうでもいいが、周囲に人がいるんだぞ」

<クスクス、もう勇者様ったらー



猫耳「ま、魔姫、待ってよぉ。勇者だって多分そんなつもりじゃ……」

魔姫「えぇ、そうでしょうね」

猫耳「うにゃー……そりゃまぁ名声独り占めかもしれないけど……」

魔姫「それは本気で言ったわけじゃないわ」

猫耳「だと思った。魔姫、何でそんなに怒っているの?」

魔姫「だって……」


キャーキャー

勇者「サイン? 俺にジャンケンで勝った人だけねー」

<うわー勇者様、字きたねー

勇者「うっせぇよ! 英雄様のサインだからな、プレミアつくぞ!」ハハハ


魔姫「……」

届かない。あまりにも遠すぎる。
だからこそ勇者にイライラしてしまう。これは私の身勝手――





>翌日・城前広場


猫耳「チラシ配ってた。音楽の国で祭典があるんだって」

魔姫「どんなことをするのかしら」

ハンター「昔、参加したことがあるな…。まぁ簡単に言うと音楽祭だ。その日は国中が音楽に包まれる」

魔姫「あら面白そうじゃない。人間の作る音楽は好きよ」

猫耳「オルゴールとか売ってるといいね~」

ハンター「露店が出ているはず……あ、勇者が戻ってきたぞ」


勇者「ちぃーす、お待たせ~」

ハンター「勇者。陛下からの呼び出しとは何だったのだ?」

勇者「あー。なんか、これ押し付けられた」パカ

猫耳「これは……」

勇者が開いた箱の中では、緑色の宝石がきらきら光っていた。

魔姫「み、見事なエメラルドだわ……!」

ハンター「大きさからして、俺の給料3ヶ月分くらいだな」

猫耳「勇者凄いね、良かったじゃない!」

勇者「はは……俺、宝石とかよくわからないし」

魔姫「ねぇ、これ……もしかして、ギルドを潰したご褒美じゃない?」

勇者「………え?」

猫耳「きっとそうだよ。だってあれだけ大きなことをしておいて、報酬ナシは割に合わないもん」

ハンター「褒美だと言えばお前は拒否するだろうから、押し付けたんだろうな」

勇者「………」

魔姫「素直に受け取っておきなさい。褒美を突き返されちゃ、王様の面目丸つぶれよ」

勇者「そういうことなら……魔姫さん、受け取って下さい」

魔姫「……え?」

猫耳&ハンター「!?」

勇者「この宝石が相応しいのは、俺ではなく、貴方だ。魔姫さんならこの宝石を、より輝かせられると思うんだ」

魔姫「う、受け取れないわ! だってギルドを潰したのは貴方であって……」

勇者「魔姫さんが狙われているんじゃなかったら、俺は裏社会ギルドまでたどり着けなかった。だから…魔姫さん、受け取って下さい」

魔姫「~っ……」

ハンター「くっ。宝石プラス口説き文句……見事に女のツボを突いてやがる!」

猫耳「うにゃあ……! 魔姫が陥落する……ッ!!」

勇者「はい、魔姫さん。俺が持ってても、引き出しの奥底で眠らせるだけなんで」グイ

魔姫「あ……ありが、とう……」

勇者「どういたしまして」ニコ

ハンター「……勝てる気がしない」ガクッ

猫耳「実力で得られるものは大きい……ッ!」ガクッ

勇者「あ、猫耳! それ、音楽の国の祭典のチラシじゃん! 俺、あの祭典好きなんよ~!!」

猫耳「あ、うん。面白そうだな~って皆で話してたの」

勇者「面白いぜぇ~。夜のダンスパーティーなんか、最っ高にムードあって!」

魔姫(ダンスパーティー……)


~魔姫の頭の中~

魔姫「私、ダンスは得意なのよ。一緒に踊ってくれる殿方がいれば、喜んで参加するのだけれど……」

勇者「魔姫さん……俺は立候補できない。貴方のような美しくて完璧な女性と踊るなんて、俺には……!」

魔姫「構わないわ、勇者」

勇者「えっ!」

魔姫「素敵なエメラルドを頂いたんですもの。そのお礼だと思いなさい」

勇者「お、おおぉ……! 感激だあぁ、美しくて完璧な魔姫さんとダンスができるなんて!!」

~終了~


魔姫(……な~んてね! た、ただのお礼だし!)

魔姫「ねぇ、勇」

勇者「よし! じゃあ行こうぜ、全員で!!」

魔姫「………」

勇者「俺、こう見えてダンスは得意なんだよな~。阿波踊りってやつ! あ ホイサホイサ~ってね」

ハンター「……おい勇者、後ろ見ろ」

勇者「へ?」クルッ

魔姫「おほほ、当日楽しみにしてるわね~」ゴゴゴゴ

勇者「あ、はい! 俺も楽しみにしてます、魔姫さん!」

ハンター(と、鳥肌が……!)

魔姫「じゃあね。帰るわよ猫」ゴゴゴゴ

猫耳「う、うん……」


勇者「魔姫さん、お腹空いたのかねー?」

ハンター「……お前がモテない理由がよくわかった」





>屋敷


魔姫「もーっ、やっぱり勇者腹立つーっ!!」ジタバタ

猫耳「喧嘩はハンターとの方が多いのにね。どこが腹立つの?」

魔姫「何か……悔しいの~っ! 強いくせに天然で心広くて無欲で、何なのよっ!!」

猫耳「あー……それは嫉妬だねぇ。劣等感だよ」

魔姫「あぁもう、何で私が嫉妬しないといけないのよっ! 勇者めっ!」

猫耳「可哀想な勇者……。好きな女の子に張り合われるなんて……」

魔姫「好きな女の子ぉ~?」

猫耳(あっ!! ヤバッ!!)

魔姫「だったらねぇ、ちゃんと口説きなさいよね! あいつがやってる賞賛は、ただのミーハーよ! 肝心な時にチャンス逃すんじゃないわよ!!」

猫耳「……え?」

魔姫「何なのよぉ~……あれが草食系ってやつなの~……?」ウーン

猫耳「……ねぇ、魔姫」

魔姫「何よ」

猫耳「もしかして……気付いてる? 勇者の気持ち……」

魔姫「あんなに露骨なの、気付かない方がどうかしてるわよ」

猫耳(だよねー)

魔姫「だけど気持ちがあるだけじゃ、駄目なのよ……」

猫耳「勇者は行動もしてるよ。魔姫を守る為にギルドを潰したり、宝石をくれたり……僕やハンターじゃ、できないよ」

魔姫「……そうなんだけどね」

素直に喜ぶことができない。
そればかりか、悔しいという気持ちが一杯で。

こんなにして貰って素直に喜べないなんて――そんな自分がワガママでイヤになる。


猫耳「魔姫はワガママだにゃ~」

魔姫「~っ…自覚してても、言われるのは腹立つわねぇ……」

猫耳「僕は魔姫のワガママに慣れてるけどさぁ…勇者はいつまで辛抱できるかにゃ~?」

魔姫「……どういうことよ」

猫耳「勇者の周りには、優しくて素直で勇者を好きな女の子が沢山いるよ。好きな子がいつまでもつれなかったら、誘惑に乗るかも……」

魔姫「初耳なんだけど! 勇者を好きな女の子が沢山!?」

猫耳「そりゃ世界的な英雄で、交友関係も広い勇者だからにゃ~」

魔姫「~っ……」

猫耳「本人は激ニブだから気付いてないかもしれないけど、それなら女の子達だってアピール方法変えてくるだろうし……」

魔姫「……何が言いたいの」

猫耳「さぁ?」ニコ

魔姫「わかったわよ! ちょっと出かけてくるわ!」

猫耳「行ってらっしゃ~い♪」





>勇者の家の前


魔姫(とはいえ、行って何を言うべきか……)

魔姫(あら無用心ね、カーテン開きっぱなし……って、勇者?)


勇者「………」

兵士「………」


魔姫(兵士と何か話してるわ。後にした方がいいかしら)


勇者「………!!」


魔姫(……? 何か深刻そうね……?)


勇者「じゃあ……悪魔王は生きてるのか!?」


魔姫「……っ!?」


兵士「それは何とも……ですが城の司祭が、奴の気配を強く感じると言っており……」

勇者「わかった、俺が行く。杞憂でないなら、何か起こる前に叩かないとな」

兵士「お仲間に知らせなくてよろしいのですか?」

勇者「あぁ、俺1人でちゃっちゃと済ますよ」ガチャ

タッタッ……


魔姫「……」

魔姫「何よ、それ……。冗談じゃないわ、また置いてけぼりにされてたまるもんですか!」





>城


勇者「敵の気配はないな」

兵士「はい、侵入の形跡もありません。しかし相手が悪魔王ともあれば、もしかしたら……」

勇者「悪魔王を倒したバルコニーに行ってみる。他の奴らは避難していてほしい」

兵士「ですが、援護は……」

勇者「援護はいいや。俺は協力して戦うってのが苦手なもんで、任せてほしい」

兵士「かしこまりました。健闘を祈ります」



勇者「さーて……確かここだったな、悪魔王をブッ殺したのは」

"ククク……"

勇者「!!」バッ

勇者(黒いもや……これは悪魔王の……!)

勇者「悪魔王!! お前なのか!」

"………"

勇者「……?」

"………!!"バッ

勇者「わっ!」ヒョイ

シュバババッ

勇者(くっ、俺に明確な殺意を持ってやがる……あの時仕留め損なってたのか!)

勇者「だとしたら俺の責任だな……今度こそ、仕留めてやるよ!!」バッ


ばさばさっ

魔姫(勇者が戦ってる…! あのもや、悪魔王の力を感じるわ)

魔姫(そういえば、死後に"呪い"を産む魔物が稀にいるけど……悪魔王も、そうだったのね)


勇者「でりゃあぁ――っ!」ズバッ

勇者「はんっ! 悪魔王ごときが俺に一矢報いようなんぞ、百万年早――」

ビュンッ

勇者「うわっ!!」

勇者「はー……流石に数が多いな。切るだけの単純作業じゃ飽きるんですけどー!」


魔姫「なら、手伝いましょうか?」

勇者「わわっ!? 魔姫さん!?」

魔姫「また1人で動いたわね。後でお説教よ」

勇者「魔姫さん、危険です! 早く避難を――」

ビュンッ

魔姫「お断りよっ!!」バチバチイイィィッ

勇者「……っ!」

魔姫「貴方、やっぱり私達を信頼していないの? こういう時はね――」

勇者「魔姫さん、伏せてっ!!」

魔姫「……えっ?」

ビュンッ

魔姫「!!」

魔姫(嘘……私の魔法攻撃じゃ、倒せてなかっ……)

勇者「このーっ!」バッ

魔姫「!!」

ブォンッ

勇者「……っう!!」

魔姫「勇者、大丈夫!?」

勇者「だ、大丈夫……! それより敵は全滅していない。魔姫さん、上に避難していてくれないっすか」

魔姫「けど……」

勇者「頼みます! 後で、いくらでも説教は聞くんで!」

魔姫「……わかった」


勇者「おらあああぁぁぁ!!」


魔姫(……情けないけど、私では勇者の足を引っ張るだけだわ)


勇者「ハァ、ハァ……これで最後だ……。でりゃあぁっ!!」

ズバッ――

勇者「はぁ…終わった……」

魔姫「勇者、お疲れ様。ごめんなさい、邪魔をして……」

勇者「はは、いいんすよ。ふぅ…数が多くて気が滅入ってたけど、魔姫さんのお顔を見れたお陰…で……」ガクッ

魔姫「勇者!?」

勇者「だ、大丈夫、です……。疲れているだけだから……。ハァ、ハァ」

魔姫「ゆ、勇者。その腕……」

勇者「ん……っう!?」


魔姫(勇者の左腕は、黒いもやに覆われていた――そこは勇者が攻撃を喰らった部位。嫌な予感がした)





>勇者の家


勇者「ハァ、ハァ……」

猫耳「うにゃー……勇者の顔色がどんどん青白くなっているよ……」

助手「……」

魔姫「ど、どう、助手……」

助手「……まずいことになりましたね」

ハンター「どうまずいのだ?」

助手「今回発生したもやは、悪魔王の死後に発生した呪いです。呪いそのものに意思はないものの、本能的に勇者様に襲いかかったのでしょう」

魔姫「単刀直入に聞くけど、勇者の腕はどうなってしまうの?」

助手「……悪魔王の特性を覚えていらっしゃいますか?」

魔姫「悪魔王の……?」

助手「奴は王子様に憑依し、身柄を乗っ取った。そして勇者様の腕も……悪魔王に侵食されています」

魔姫「!!」

ハンター「では…侵食が進めば、勇者が悪魔王に身柄を乗っ取られるのか!?」

助手「今は勇者様の強靭な精神力で、それを食い止めていますが……。それが限界に来れば、恐らく……」

猫耳「そんな……」

魔姫「……っ」

魔姫(わ、私のせいだわ……私が出しゃばらなければ、勇者は……)


勇者「はは。皆、何そんな悲壮感醸し出してるんだよ。心配ないって!」

魔姫「……!」

ハンター「勇者、お前は話を理解して……」

勇者「理解した。このままだと俺、王子の二の舞になるわけだろ?」

ハンター「わかっているなら、何故そんなにお気楽なんだ……!」

勇者「まだ、全身乗っ取られてねーもん。でも、駄目そうだったらさ……」チャキ

猫耳「!! 勇者、剣で何を……」

魔姫「――っ!! やめて勇者! それだけは!!」ガシッ

勇者「……魔姫さん」

ハンター「お前……今、自害しようとしていたのか……?」

勇者「ちげーし。腕を切り落とそうかとね」

ハンター「……っ! 俺たちの見ている前でやるとは、悪趣味な奴だな!」

猫耳「か、関係ないよぅ……。僕たちがいようがいまいが、そんなことやめてよ……」グスグス

勇者「わり。まぁ、そこまで気を落とすなよ」ハハハ

魔姫「……ごめんなさい、勇者………」

勇者「ん?」

魔姫「私のせいで、こんなことに……! どんな形になってもいいから、絶対に償うから!!」

勇者「……頭上げて下さい、魔姫さん」

魔姫「……勇者?」

勇者「償いなんて、必要ない。俺は勇者として生きると決めた時から、どんな命運も受け入れるって決めていました。魔姫さんにそんな顔をさせてしまうことの方が、遥かに俺の心が痛みます」

魔姫「勇者……」

勇者「心配しなくても、俺はそう簡単に侵食されませんから。むしろ根気で勝負して、呪いを追い出してやりますよ!」アハハ

ハンター「根気も何も、呪いに根性などないのだが……」

魔姫「……」クルッ

勇者「……ん、魔姫さん?」

魔姫「………」スタスタ

勇者「あちゃー……魔姫さん泣かせちゃった? 俺、何かまずいことでも言ったかなぁ……」

ハンター「あいつ……」タタッ

猫耳「魔姫……」



ハンター「おい待て!」

魔姫「……何」

ハンター「いや、確かにお前に非はあるが……。お前が自分を責めるのは勇者にとって本位ではない。だから……」

魔姫「慰めなんかいらないわ。それに私……別に泣いてないわよ」

ハンター「そうか……」

魔姫「私は、怒ってるのよ」

ハンター「……は?」

魔姫「ちょっと行ってくるわ! くれぐれも、勇者が変な気起こさないように見張ってて!」バサッ

ハンター「あっ、おい!? どこへ行く!?」


魔姫(呪いの進行を食い止めるには……あれしかないわ!)



ハンター「全く、あいつは何を……なぁ、勇――」

勇者「ハァ、ハァ……」

ハンター「……!? おい、俺が部屋を出てる少しの間に、何があった!?」

勇者「何でもねぇ……ちょっと気が抜けたんだよな……。ハハ……」

猫耳「魔姫の前では、無理していたみたいで……」

ハンター「勇者……何故、そこまで……」

勇者「うーん、何でだろうなぁ。でも理由を言うとしたら――」

こんな気の使い方、魔姫さんは気に入らなくて――きっと俺は、ますます嫌われるだろうけど――


勇者「魔姫さんのこと――好きだから」





>魔王城


魔姫「……ここへ来るのは久しぶりね」

父が倒されるまで、ずっと住んでいた城――懐かしくもあるが、今は思い出に浸っている場合ではない。
迷わずに真っ直ぐ大広間に向かい、立ち止まった。

魔姫「城に眠る亡者の魂よ、私の声を受け入れよ――"開け"」

ゴゴゴ……

魔姫(魔王城の隠し扉。お父様亡き後、この城を探索した人間には見つけられていないようね)

魔姫(この先にある空間は――異世界。お父様には絶対に入ってはいけないと言われていたけど――)

魔姫(ここまで来たら、行くしかないわ!)ダッ

ブオオオォォン

魔姫「うぅん……異世界トリップ、話には聞いてたけど酔うわね……こう、空間がぐにゃっとねじれるような感じが……」

魔姫「……って」


<グオオオォォォ
<ピギャーピギャー
<フワアァンフワアァン


魔姫「う……」タジッ

魔姫(ここに潜むのは魔物ではなく、"異形"……異形の世界なら、私でもアウェイ……)

魔姫(けどひるんでいられないわね……『あれ』がここにあるのは知っているのよ)

<キョエエエェェ

魔姫「っ!」バッ

<ヒョヒョヒョヒョ
<プギャープギャー

魔姫「やっぱりねぇ……探し物ひとつ、そう簡単にできないと思っていたわ。ま、確かに異物を排除するのは生物の本能でしょうね」

<ピュルピュルルルル

魔姫「何言ってるかわかんないわよ。この世界を探索させてもらうわ」バサバサッ

<ヒョゲアアアァァァ!! バッ

魔姫「せりゃああぁぁぁ!!」バチバチバリイイィィッ

<ゴアアアァァァァァ!! バタバタッ

魔姫(数は多いけれど、1匹1匹は大したことないわね。これなら……)

魔姫「悪いけど、侵略させてもらうわ! 私は魔王の末裔だからねっ!!」バチバチッ

<グパアァッ バッ

魔姫「遅いの……よっ!!」バキィ

<ゴフッ

――ゴオオオォォッ

魔姫「――っう!」

<ヒョゴォ! ボコッ

魔姫「痛っ……!!」

魔姫(こんな、モロに物理攻撃喰らったの久しぶりだわ……! けど……)

<グオオオォォォ
<ピギャーピギャー
<フワアァンフワアァン

魔姫(ひるんでる場合じゃないわね……!!)ヨロッ

魔姫「上等……! これくらいの痛みは喰らっておかないと、償いにはならないわね!!」





魔姫「せやあぁ――っ!!」バチバチィッ

<グアアアァァ バタッ

<ギュルルル
<ゴルルルル

魔姫(全く、次から次へと……! 早く目的のものを……!)

ヒュー……サラサラ

魔姫「……! あの木は……」タッタッ ブチッ

魔姫(この手触り……間違いないわ。これが『呪詛の実』ね)

<グオアアァァァ!! バキィ

魔姫「きゃああぁっ!!」ドサッ、ズザザー

魔姫「いったた……」ヨロ…

<ゲギャアアァァ

魔姫「悪いけど、もうこの世界は用済みなのよ! バイバイ!!」バサバサゥ

ヒュンヒュンッ

魔姫(って言って、わかりましたバイバイって言ってくれる相手じゃないわね……まぁいいわ、ひたすら逃げるだけよ)ササッ

魔姫(あとは、この実を勇者の元に――)

バッ

魔姫「!! 追いつかれ――」

バキイイイィィッ

魔姫「――っう!!」

ドサアアァァッ

魔姫「いった……あ、でも。殴り飛ばされた衝撃で、元の世界への出口まで飛ばされたわ」

魔姫「とにかく今は、この世界を出なきゃ……」ズルズル





勇者「うぅん……」

ハンター「苦しそうだな……助手、経過はどうだ?」

助手「侵食が広がってきましたね……。流石の勇者様でも、精神力に歪みが出ているようで……」

猫耳「勇者、負けたら駄目だよ! 勇者は、悪魔王なんかに負けないんだ!」

ハンター「俺たちはお前を信じているんだ。……勿論、魔姫もな」

勇者「う、うぅ……魔姫、さん……」

猫耳「そうだよ、魔姫のこと好きなんだろ!? だったら諦めないで!」

ハンター「これを乗り切ったら……癪だが、お前の恋を応援してやるよ」

勇者「う、うぐぐ……ハァ、ハァ……」

猫耳「うにゃあ……魔姫がここにいれば……」


バァン


魔姫「ただい……ま……」

猫耳「あっ、魔姫!? どこに行――」

ハンター「お、お前!? 何だ、そのボロボロの姿は!?」

魔姫「何てことないわよ……それより、これ……」

猫耳「この実は……」

助手「……呪詛の実」

ハンター「な、何だ。その呪詛の実というのは」

助手「食べれば、一定時間だけ"呪い"の力を得ることができる実ですよ。魔姫様、それをどうなさるおつもりで……」

魔姫「こうするのっ!」

パクッ ゴクリ

猫耳「っ!?」

ハンター「飲んだ!?」

助手「まさか、魔姫様……」

魔姫「毒には毒! 私の呪いの力で、悪魔王の呪いを追い出してやるのよ!」

ハンター「何て無茶苦茶な……。だが、何もやらないよりはマシか」

猫耳「魔姫! 勇者を救ってね!」

魔姫「えぇ!」


魔姫「勇者、ちょっと苦しいかもしれないけど…ごめんねっ!」

勇者「うぅっ!! んぎゃあぁっ!」

助手「勇者様の体内で、呪いの力がぶつかり合っている……これは……」

勇者「がひゃああぁ――ッ!!」ジタバタジタバタ

魔姫「くっ、悪魔王の呪いはやっぱり根強いわ……!!」ブルブル

ハンター「おい、お前も勇者もヤバいじゃないか! やめろ!」

勇者「ぐぎぎ……だっ、大丈夫だから……!!」

ハンター「勇者!?」

勇者「それよりハンター……俺のこと、抑えててくれ……!! 多少、殴ってもいい!!」

ハンター「勇者……くっ、わかった!」

勇者「ありが……んぎゃああぁぁ、あっ、ああぁ――ッ!!」

魔姫「……っ!!」ブルブル

猫耳「魔姫……」


魔姫(付け焼刃の力で、悪魔王を追い払うのは難解……)

勇者「んっ、んんっ……はぁっ、はぁっ」

魔姫(くっ。やっぱり……私じゃ、駄目なの!?)


"俺は、魔姫さんを信じる……"


魔姫「……え?」


"魔姫さんの努力を無駄にしない……俺は絶対に、悪魔王を追い払う!"


魔姫「……」

魔姫(勇者の、声?)

勇者「ぐぎぎ、あああぁ……!!」

魔姫(勇者は私を信じて、意思の力で悪魔王を拒絶してくれている……)

勇者「あああぁ、んああぁ、お、おぉ……んっ!!」

魔姫(だったら、私が諦めるわけにはいかない!!)


"悪魔王、テメェ……"


魔姫(勇者の、心の声が聞こえる)


"王子の体を弄んだ上、テメェは……!"
"魔姫さんのことまで苦しめやがって! 絶対に許さねぇからな!!"
"今度こそ、お前を滅ぼしてやる! お前はもう1度、俺に殺されるんだ!"


魔姫(こんな時にまで、自分のことは後回し……バカね、本当に)

魔姫(私、貴方のそういうところ大嫌い。何だか腹が立つのよ)

魔姫(だけどね――)


勇者「ぐぐ……負ける、もんか……ッ!!」

魔姫(そうやって溢れ出る、貴方の男気が、私――)


猫耳「い、今、どんな状態なの!?」

助手「少しずつですが、悪魔王の呪いが弱まっています。……しかし」

猫耳「しかし?」

助手「勇者様の精神力が限界に近い……勇者様が気を失っては、形勢逆転に――」


勇者「ハァ、ハァ――」

魔姫「あと少し……あと少しなのに……ッ!!」


"俺――絶、対に、諦め――"


魔姫「そうよ! 諦めるんじゃないわよ……ッ!!」

勇者「んっ、ハァ……」


"悪魔王の、好きには――魔姫、さん――……"


魔姫「……っ!」


"――俺、魔姫さんの……こと――……"


魔姫(そんな、最後の言葉みたな――)

勇者「…はぁっ」カクン


"魔、姫さんの、こと――……好――"


魔姫「――勇者っ!!」

勇者「え――っ!?」


ハンター「……!」

助手「魔姫、様……」

猫耳「え、嘘……き、き……」


魔姫「――」

勇者「………」

勇者(魔姫さんの、唇が………)

魔姫「……ハァッ。勇者」

勇者「ま、魔姫、さん……」ブルブル

魔姫「そう簡単に、諦めるんじゃ……」

勇者「んがあああぁぁ――ッ!!」ゴオオォォォ

魔姫「!?」

猫耳「!?」

ハンター「!?」


勇者「……フゥッ」

助手「………悪魔王の呪いが、消え去りました」

勇者「はー……スッキリ!」

ハンター「は? ……そんなに簡単な話だったのか?」

猫耳「……う、うん、良かったね! おめでとう!」

勇者「ありがとう!」

魔姫「ちょっ……何よ、このドラマ性のない終わり方は!? せっかく人前で……ちょっと勇者ぁ!」

勇者「魔姫さん、ありがとうございます! 魔姫さんの祝福を受けたなら、俺は神をも越えられますよ!」

魔姫「あっさりしすぎなのよ! もうちょっとねぇ……」

勇者「あ……すみません、魔姫さん。フワァ……」

魔姫「え?」

勇者「急激に眠気が……。ちょっと寝かせて下さい」

魔姫「え、ちょっ、待ちなさい、話はまだ……」

勇者「グガー」

猫耳「寝つきがいいねぇ。そういえば昨晩から寝てなかったもんね」

ハンター「……モテないわけだ」ハァ

魔姫「~っ……」

魔姫「やっぱり、勇者なんか嫌いーっ!!」





魔姫「……はぁ」

魔姫(良かったけど……何か、もやもやする)

魔姫(勇者って本当に何なのよ……わけ、わかんない)


勇者「ご心配おかけしました、魔姫さん!」

魔姫「!」

勇者「お陰で気分爽快、スッキリです! 魔姫さんは俺の命の恩人だぁ!」

魔姫「……そう、良かったわ」

勇者「それより、魔姫さんお怪我は大丈夫ですか!? さっきは朦朧としてたけど、ボロボロだったじゃないですか!」

魔姫「大したことないわ……。助手の回復魔法で何とかなる程度」

勇者「そうですか、良かったー……。魔姫さんの体に傷でも残ったらどうしようかと」

魔姫「……元々は、私のせいなのよ! バカなんじゃないの!」

勇者「へ?」

魔姫「私が怪我をしたのは自業自得! 貴方は私のせいで呪われた被害者! わかってるの!?」

勇者「えー、と……。呪われたのは悪魔王のせいであって……」

魔姫「ずっとそうよね、貴方は私を少しも責めない! 貴方の好意は好意じゃなくて、盲目的信仰なのよ! 嬉しくないわ!」

勇者「……魔姫さん、怒ってます?」

魔姫「怒ってるわよ、ずーっとね!」

勇者「そっかー……無自覚で怒らせるなんて、駄目だなぁ」ハハ

魔姫「何で笑うのよ!」

勇者「だって……俺は"勇者"だから」

魔姫「!」

勇者「誰かの為に戦って、誰かを守って、誰かの為に傷ついて……俺はそれが嫌だと思ったことないから。でも、魔姫さんはそんな俺が嫌なんですね」

魔姫「嫌……っていうか、理解できない。どうして、そういう風に思えるの」

勇者「どうして……。うーん。その答えは俺にもわからないけど、これだけは言えます」


勇者は自信満々の顔で言った。


勇者「俺は特別な出生も血筋もない、平凡な人間でした。そんな俺が"勇者"になれたのは――その価値観のお陰だと思っています」

魔姫「……やっぱり天才って変な人が多いわね。貴方は大の変人よ」グスグス

勇者「……魔姫さん、泣いてます?」

魔姫「何で、貴方なんかの為に泣かないといけないのよ……。私は、自分が許せないのよ……。貴方が、私を責めてくれないから……」グスッ

勇者「うーん……どうしたことか。魔姫さんを責めるわけにはいかないし……」

魔姫「私に聞いてどうするのよ! バカッ!」

勇者「う、うーん……」


勇者はバカ。
比べたくないけど――猫やハンターなら、もっと上手く対処してくると思う。

こうやって、鈍感で、裏表がなくて――そういう勇者だから、私はきっと――


勇者「……魔姫さん! 約束します!」

魔姫「――え?」

勇者「俺はもっと強くなります! で、魔姫さんを守れて、俺自身も傷つかないような! そんな男になります!」

魔姫「………」


わかってない。根本的に、わかってない。もう本当に、バカ。


魔姫「ふ、ふふ……」

勇者「……魔姫さん? 何か可笑し――」

魔姫「ふざけんじゃないわよーっ!! 私は守られヒロインじゃないのよっ!!」

勇者「うわあぁ!?」

魔姫「……でも、そうね」


行儀が悪いと思いつつ、私はビシッと勇者を指差した。


魔姫「……負けないから、勇者。私――貴方に並べるようになってみせるわ」

勇者「……はい?」ポカン

魔姫「でも、そう簡単に追い越されるんじゃないわよ! じゃないと、惚れ甲斐がないからね」

勇者「えーと、むしろ俺が魔姫さんに並べる男になる方が……って、ん? 惚れ、甲斐……?」

魔姫「ぐだぐだうるさい!」グイッ

勇者「――えっ」


チュッ


勇者「」

魔姫「……まずは一勝、ね」ニヤリ

勇者「ま、ま、魔姫さん……」ブルブル

魔姫「何よ」

勇者「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ」ゴオオォォォ

魔姫「!?」

勇者「落ち着いていられねええぇぇ!! 恥ずかしいいいいぃぃ!!」ダーッ

魔姫「あっ、ちょっ!? 待ちなさい!」


とことんバカ。……こっちが追いかけられているんだか、追っているんだか、わかりやしない。
だけど――


勇者「俺は……魔姫さんのこと、好きだぁ――っ!!」

魔姫「知ってるわよ、バカーっ!」


こんなバカに惚れた私も、ウルトラ級のバカ女。
これから前途多難だとは思うけれど……。


魔姫「絶対に捕まえてやるんだから! 覚悟しなさいよっ!!」


Fin



あとがき

本編で最も魔姫とフラグ立ってない男だったので、苦労しました~…。
ステータスが強さに全振りで他はアレですが、基本的には善意の人です。

乙女ゲーssでも言ってましたね、「勇者はどのルートでもいい人」と。……いい人止まりとか言ってはいけない。

男3人の中で唯一魔姫より強いんですが、魔姫は素直に守られてくれる子じゃないから難儀ですね!
posted by ぽんざれす at 13:10| Comment(0) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月07日

魔姫「捕まえてごらんなさい、色男」/猫耳ルート

本編はこちら


>朝


魔姫「ふぁあぁ~……」

魔姫「あ……。つい、早起きしちゃったわ。今日は特に何もないんだっけ……」

魔王軍の残党狩りを初めて早くも半年。
私達の活動は実を結び、最近は人間に危害を加える魔物もグッと減った。

魔姫「それじゃ二度寝決定ね。おやすみ~……」

ホカホカ……

魔姫「ん~? いい香りね~……」

トントン

猫耳「魔姫~…まだ寝てるのかな?」

魔姫(あ、猫。ゴメンね、私はもう少し寝ていたいの)

猫耳「寝てるなら仕方ないにゃー。せっかく、新作の紅茶を淹れたのに……」スタスタ

魔姫「おはよう、猫っ!!」バーン

猫耳「おはよう。ちゃんと、服に着替えてから来てね?」ニコ





魔姫「この紅茶いいわね~、クセになりそう♪」

ハンター「……俺には違いがわからん」

勇者「俺はわかりますよ! 魔姫さんが紅茶好きだから、俺も色々と勉強してるんです!」

ハンター「砂糖を入れないと飲めないみたいだがな」

勇者「美味しく飲めればいいんですぅー!!」

魔姫「ところで今日は非番よね。どうして2人とも、うちに来たの?」

勇者「そうだ! 魔姫さん、海行きませんか!!」

魔姫「海……?」

勇者「そーそー、海! たまにはパーッと遊ぶのもいいと思って!! な、ハンター! 助手も誘ってさ!」

ハンター「俺はバイトしようと思ったが……ま、まぁ、付き合いも大事にしないとな」

魔姫「今月は音楽の国でのお祭りもあるのよねぇ。海かぁ……」

勇者「あっ! もしかして魔姫さん、泳げないとか!? 大丈夫! 浮き輪もあるし、何なら俺が教えますよ! それとも日焼けですか!? いいオイルが」

ハンター(がっつきすぎだ、勇者!)


猫耳「スコーン焼けたよ~」トタトタ

魔姫「あらありがとう。ねぇ猫、海ってどう?」

猫耳「うーん……僕、泳げな」

勇者「大丈夫! 浮き輪もあるし、何なら俺が」

ハンター「落ち着け勇者」

魔姫「そういえば、昔は水遊びやったわね。ほら、魔王城の中庭に噴水があったじゃない?」

猫耳「うにゃー……思い出してきちゃった……」

魔姫「猫ったら水が苦手なものだから、足までしか入らなかったのよね~。それを私が猫にしがみついて引きずり込んで……」クスクス

猫耳「笑い事じゃないよ~。あれだけ密着されたら抵抗できないし……」

勇者「ね~こ~み~み~」

ハンター「俺が許す…やれ!」

猫耳「え、な、何?」ガクブル

魔姫「あ。私、水着持ってないわ」

勇者&ハンター「「何っ!」」ガーン

魔姫「残念ねぇ、海で遊ぶのも面白いと思ったんだけど……」

猫耳「あるよ、水着」

魔姫「え?」

猫耳「可愛いの見つけたから衝動買いしてたんだよね。デザイン気に入るかわからないけど……」

魔姫「猫のセンスなら大丈夫でしょ。海、行けるわね」

勇者「よくやったぞ! グッジョブだ、猫耳!!」グッ

ハンター「今ほどお前を有能な猫だと思ったことはない」

猫耳「うん、皆で遊ぶのも楽しいよねぇ」

魔姫「でも、サイズ大丈夫?」

猫耳「大丈夫だよ、僕は魔姫のサイズちゃんと把握し」

勇者「やっぱ許さん!!」ギュウゥ

ハンター「それではすぐに落ちる、なるべく長く苦しませろ!」

猫耳「フギャアアァァ!!」ジタバタ





>海


ザザザザザー


魔姫「急な雨ね」

猫耳「急な雨だね」

助手「急な雨ですね」

ハンター「……タイミングの悪い」

勇者「チッキショオオォォォ!!」ガクッ

魔姫「仕方ないわね。海辺のお店でお茶でも頂こうかしら?」


勇者「ううぅ……せっかくの計画が……」ヨロヨロ

ハンター「また次の機会を待つか……」


猫耳「魔姫、助手、水着着てよ」

勇者&ハンター「「!!!」」

魔姫「どうしてよ」

猫耳「2人の水着姿を見れるチャンスなんて、そうそうないじゃない。せめてもの雰囲気作りで、ね?」

魔姫「そんなに見たいわけ、私達の水着姿?」

猫耳「うん!!」ニコッ

魔姫「もう、仕方ないわねぇ」

助手「それでは、あちらの更衣室で着替えてきましょう」スタスタ


ハンター「フン…上手いこと言うじゃないか、猫耳」

勇者「よっ、この天然スケベ~!」ナデナデ

猫耳「ス、スケベ!? そ、そんなつもりじゃ」アワワ

勇者「赤くなるなよ、こいつぅ!」ギュウゥ

ハンター「ふっ……1人だけ純情ぶるのは許さん」

猫耳「ギニャアアァ、どうしてこんな目に遭うワケェ~!!」ジタバタ


<ギャーギャー


魔姫「何かうるさいわねー。ま、男3人仲悪いよりはいいわね」

助手「このメンバーでいると、ハンター様は活き活きとされています」

魔姫「そう、私もよ。友達とワイワイやってた思い出がないから、今はとても楽しいわ」

助手「そうでしたか。魔王城では、勉強漬けだったとか?」

魔姫「いえ、違うのよ」





魔王城にいた頃は――人間達との争いや、定期的に起こる反乱で、国は荒れていた。
その為、魔王の一人娘である私は安全性を重視され、外に出ることは許されてこなかった。

魔姫『息が詰まるわ! 他の子は自由に遊んでいるのに、私だけダメなんて!』

魔王『仕方ないのだ……姫が外に出れば、必ず姫に危害を加えようという者が現れる』

魔姫『どうして私はお父様の娘に生まれたのよ! 毎日こんなんなら、お姫様になんてなりたくなかったわ!』

魔王『姫……』

今となってはひどいことを言っていたと思うけど――子供の頃の私は、自由が欲しかった。

<あはははっ
<ふふふっ

魔姫『……』

魔姫(いいなぁ)

毎日、外で遊ぶ子供達を眺めていた。同じ国、同じ世界にいるというのに、その子達の存在はまるでファンタジー。
外で遊ぶなんてのは、私にとって遠い世界での話のようだった。





助手「そうだったんですか……確かに、時代が時代でしたからね」

魔姫「私ってワガママで好奇心旺盛だったからね……お父様、かなり苦労されたと思うわ」

助手「子供にとっては当然の不満ですよ。……あ、でも、猫耳さんがいらっしゃいましたよね」

魔姫「あぁ、猫ね。あの子と出会ったのは5歳くらいの頃かしらね」





『西部はほぼ壊滅状態だ……くっ、悪魔王め!』
『こんな時に反乱を起こすなど……』
『大きな痛手だぞ! 悪魔王、許さん!』

魔姫(どうしたのかしら)

大人たちがバタバタしていたのは覚えている。
外の世界を知らない私にとっては、まるで他人事だったけれど。

『生き残りの子供を保護したぞ! どいてくれ!』バタバタ

魔姫『んっ?』クルッ

不意に振り返ったその時――その魔物が抱えていた存在が目に入った。

魔姫(あっ……)

私はその時、初めて間近で小さな子供を見た。
だけどその子は、傷だらけで、土まみれで――その時は顔がよく見えなかった。

私はその子を追いかけて、すぐに医務室に飛び込んだ。

魔姫『ねぇ……』

と、声をかけようとしたら――

魔姫『――』

ベッド上に寝かされたその子はぐったりしていた。
正に、虫の息。
外の子達とは違う。弱い存在。儚い命――幼心に、そんなものを感じた。

『やはりダメかもしれない……この幼い体が、悪魔王の技に耐えられるわけが……』

魔姫『ダメ!』

『! 魔姫様……』

魔姫『お願い、その子を助けて! 治してあげてよ!』


まだ『死』という概念をはっきり知らない私だったけれど、それでも彼を救わないといけないということだけは強くわかった。
ともかく、医師、薬師、魔法使い――あらゆる治療のプロが手を尽くし、彼は1週間後に目を覚ました。


猫耳『………』


その子が、猫耳だった。





助手「そんな出会いが……」

魔姫「あぁ……猫には、本当にひどいことしたわ」ハァ

助手「? 何か」

魔姫「あの子、事件で家族も友達も皆失って……心に傷を負っていたのよ。それで、体が治った後もなかなか心を開かなかったんだけれど……」

助手「そうでしょうね……」

魔姫「私ってばお構いなしに『暗い子ね!』って言って、猫のこと引き連れ回してたのよ」

助手「…………」

魔姫「今では、猫本人は『あのお陰で陰鬱な気分から立ち直れたよ』って笑い話にしてくれているんだけど……。それにしても、ねぇ?」

助手「うーん……ご本人がいいとおっしゃっているなら、結果オーライということで」

魔姫「それでいいのかしらね」

助手「昔の話ですよ。それよりも、早く水着に着替えてしまいましょう」

魔姫「あ、そうね。皆を待たせているものね」ヌギッ

助手「……」ヌギッ

魔姫「……ねぇ助手」

助手「何でしょう?」

魔姫「貴方……着やせするタイプだったのね。ボリュームが……」ジッ

助手「!! あ、あまり見ないで下さい……。魔姫様とは違い、肌も荒れていますし……」

魔姫「水着は肌を晒すのよ、恥ずかしがってどうするのよ~」

助手「ひぃっ、狙いを定めないでーっ」

魔姫「あはは、助手ってばいつもクールだから新鮮だわ~」

助手「ま、魔姫様ぁ~……」


ズドオオオォォォン


魔姫「!? 壁が……」

助手「破壊された!?」


<ワアアアァァ バタバタ……

大たこ焼き「グオオオォォン」

魔姫「野生の魔物だわ!! ふん、蹴散らしてやるわよ!!」

助手「……服、どこに行きましたかね?」

魔姫「………」


勇者「魔姫さーん、助手ーっ!」ダダツ

魔姫&助手「「!!!」」

勇者「あぁ良かった、無事なnゲブヒャアアァァッ」

魔姫「来るなーっ!!」バチバチバチッ

助手「接近禁止です!」ゴオオォォ


ハンター「おぉ……見事に最悪なタイミングだったわけか」

猫耳「視線そらしていこー……」

勇者「く……しかしデッケェ魔物だな。雨で良かったかもな、海水浴客が多かったらパニックになっていた」


大たこ焼き「グオオオォォッ」ビュン

魔姫「!!」

猫耳「……っ!! 魔姫、逃げ――」


バッ


ハンター「何をしようとしている、この軟体動物が」ザシュッ

勇者「無防備な女性を狙う辺り、下等生物だな」ザシュッ

ボトッ

猫耳「!! タコの足を切り落とした……」


ハンター「助手、魔姫。そこでじっとしていろ、すぐに終わらせてやる」

勇者「この程度の奴ら、俺たち2人がいりゃ十分だな!」

大たこ焼き「グオオォォォン!!」

ハンター「勇者。タコの痛覚は、目にしかないそうだ」

勇者「へぇ、なるほど。じゃ、目を狙っていくか」

大たこ焼き「グオオオオォォォ!!」ビュンッ

勇者「でりゃあああぁぁぁ――っ!!」ザシュッ

ボトッ

勇者「攻めてこようがガードされようが関係ねぇ。邪魔なモン全部、切り落とすだけだ」

ハンター「その通り。単純作業だが、まぁいいか」チャキ


猫耳(わ、わぁ……。圧倒的だ)

魔姫「猫!」

猫耳「えっ、な、何?」

魔姫「バスタオル持ってたわよね! ちょうだい!」

猫耳「あ、う、うん!」

魔姫「猫! 上、上っ!」

ドンッ

猫耳「ぎにゃあ!?」

勇者「わり、猫耳。そっち気にかける余裕なかった」

ハンター「気をつけておけ…ここは戦場だからな」

猫耳(ひどいよー…でっかいタコ足もろに当ててくるなんて)クラクラ

助手「……勝負あり、ですね」

猫耳「え?」


勇者&ハンター「「はああぁぁ――っ!!」」

――ズシュ

大たこ焼き「グアアアァァァァッ!!」

ドオオォォン

魔姫「討伐完了。ま、勇者ならノーダメージで倒せると信じていたわ」

勇者「魔姫さああぁん! 貴方からお褒めの言葉を頂くなんて、俺は幸せ者ですッ!!」

ハンター「おい、勇者だけか!? 俺は」

魔姫「だから、こっち見るな!!」バチバチバリイィィッ

勇者&ハンター「「ぐああああぁぁぁ」」

魔姫「猫、早くバスタオルを」

猫耳「う、うん! ……ねぇ」

魔姫「なに?」

猫耳「その……僕はいいの?」

魔姫「? 何が?」

猫耳「あ、いや……何でもない。はい、バスタオル」

魔姫「ありがと。さて、ガレキに埋もれた服を探し……って、貴重な男手がノビてるわ」

助手「攻撃したのは、魔姫様ですがね……」

猫耳「ぼ、僕が探すよ!」

魔姫「いいわよ、力自慢の2人にやってもらうから。ほら2人とも、起きた起きた!」ペチペチ

猫耳「………」





>翌日


魔姫「ふぇっくしょん!」

ハンター「風邪でも引いたか?」

魔姫「そうかもね……」グスグス

ハンター「ずっと裸で雨に打たれていたからな。助手も昨日から寝込んでいる」

勇者「申し訳ないです! 俺が海に誘ったばっかりに!!」

魔姫「別に気にしなくて……ふぇっくし!」

猫耳「魔姫、寝た方がいいよ。早く治さないと、今度のお祭りにも行けなくなるし……」

魔姫「そうねー…何か新しい仕事入ったみたいなのに、行けなくてゴメンね」

勇者「なーに言ってんですか、魔姫さん! 俺が魔姫さんの分まで戦いますって!」

魔姫「そうね、勇者は頼れるわ」

ハンター「おい。俺に当てつけか?」

勇者「仕方ないじゃん。ハンター、魔姫さんより弱いんだし」

魔姫「大丈夫大丈夫、ハンターも人間にしてはやるから。頼れはしないけど」

ハンター「お前らなぁ~……」

勇者「はいはい、さっさと行くよハンター」ズルズル

ハンター「覚えてろ……」グヌヌ

魔姫「行ってら……ふぇっくしょん! ふぅー。寝てくるわ」

猫耳「あ。うん」





魔姫(とはいえ、昨晩はタップリ寝たから眠くないのよねー……)

トントン

猫耳「魔姫ぇ……起きてる?」

魔姫「あら猫? どうしたの」

猫耳「ホットミルク作ったよ。飲む?」

魔姫「あら、ありがとう。頂くわ」

猫耳「入るよ。……あー、魔姫。ダメでしょ、そんな薄いパジャマ着てー」

魔姫「だって暑いんだもの」

猫耳「風邪の時はあったかくして、おでこと脇の下を冷やすんだよ。保冷剤持ってくるから、ちゃんと着替えておいてね」

魔姫「はーい」ヌギッ

猫耳「!! 僕が出てってから着替えて!!」

魔姫「何を怒っているのよ。それより、保冷剤持ってきて」

猫耳「~っ……」





猫耳「はい、持ってきたよ」

魔姫「ありがとう。んー、冷たいの気持ちいい♪」

猫耳「当てるのはほっぺじゃなくて、おでこだよ」

魔姫「暑いんだもの。汗を流したいわー……」

猫耳「熱が下がるまで、お風呂はダメだよ」

魔姫「えー、そんなのイヤよ」

猫耳「イヤでもダメなの! 魔姫ってそうやって言うこと聞かないで、よく風邪を悪化させるよね!」

魔姫「もー、わかったわよ。だから怒らないで、猫」

猫耳「うん、言うこと聞くならいいよ」

魔姫「だから、体拭いてよ」

猫耳「………にゃ?」

魔姫「おねがーい……体がダルくて力入らないのよー……」

猫耳「ダ、ダメだよぉ! 女の子の体を拭くなんて、そんな」アワアワ

魔姫「なーに言ってるのよ、私と猫の関係じゃない」

猫耳「………」

魔姫「猫?」

猫耳「……背中だけだよ」

魔姫「えぇ、お願いねー♪」

猫耳「……」





魔姫「ふぅ、さっぱりしたわー」

猫耳「はぁー…もう何もない?」

魔姫「えぇ、ありがとう。何か眠くなってきたわー…」フアァ

猫耳「なら、寝た方がいいよ。僕は夕飯でも作っているよ」

魔姫「よく働くわねぇ。ちょっとは休みなさいよ」

猫耳「いや…僕は疲れてないから」

魔姫「そう? 何か様子がいつもと違うわよ。余裕がないみたい」

猫耳「……っ」

魔姫「私のせいかしら?」

猫耳「えっ!?」

魔姫「いつもの猫なら、不満はちゃんと言ってくれるのに……私が風邪を引いているから我慢してるのよね」

猫耳「……本当だよ」

魔姫「ごめんね。猫にはつい甘えちゃってワガママばかり…なんて、言い訳にならないか。伏せている間、反省しておくから」

猫耳「……甘えられるのも、ワガママ言われるのも、嫌じゃないよ」

魔姫「え?」

猫耳「だって魔姫は僕にとって特別だから……だから、全然嫌じゃない」

魔姫「……そうね。私にとっても昔から、猫は特別な存在よ」

猫耳「どういう意味で?」

魔姫「え?」

猫耳「魔姫は僕に対して無防備すぎるよ……! 僕に気を許してくれているのかもしれないけど、どうしてなの! 僕には度胸も力もないから安全だと思ってるの!? それとも――」

魔姫「猫……?」

猫耳「――それとも」


僕のこと、男だと――


ドォン


魔姫&猫耳「「!?」」

魔姫「下で音がしたわね……」

猫耳「僕が見てくるよ! 魔姫はここにいて!」ダッ


猫耳(尋常じゃない物音だったけど……)


「おい、そこのクソガキ!!」

猫耳「!!」バッ

賊A「魔姫んとこのガキだな?」

賊B「間違いねぇ。魔姫の従者の、猫耳だ」

猫耳「だ、誰だ! 勝手に入ってきて!」

賊C「あぁ? ただのお客様だよ、お客様!」


猫耳(そんなわけない。こいつら人間みたいだけど……そう言えば!)

猫耳(魔姫達がギルドの依頼で残党狩りをしているように……裏社会にも、裏社会にとって邪魔な者を排除するギルドがあると聞いたことがある)

猫耳(こいつら……ギルドの依頼で、魔姫を殺しに来たんじゃ……!)

賊A「聞いたぜ。お宅の今日の残党狩り、今日は人間2人だったそうじゃないか?」

賊B「魔姫は体調でも崩したか? それとも、人間とは仲違いしたか?」

賊C「ちょっくら、ご挨拶させてくんねェかなぁ?」

猫耳(魔姫は今、大分弱っている……。こいつらに会わせるわけにはいかない!)

猫耳「魔姫は出掛けているよ。帰りは遅くなるんじゃないかなぁ?」

賊A「へぇ? それじゃ、待たせてくれねェかな」

賊B「そいつはいい。茶でも出して、もてなしてくれや」

猫耳「……」

猫耳(こいつらを追い出す手段はない……ここに留まらせておいて、勇者とハンターが戻ってくるのを待つしか……)

賊C「いや、待て」

猫耳「っ」

賊C「もし先に、勇者達が戻ってきたらどうする。相当厄介なことになるぞ」

猫耳(…っ、読まれていた!)

賊A「それもそうだが、引き返すわけにもいかねぇだろ」

賊B「だなァ……どうするんだ?」

賊C「そりゃ勿論」ジロ

猫耳(……!? ぼ、僕!?)

賊C「おいガキ。魔姫がどこ行ったか、知ってるんだろ?」

猫耳「えっ……し、知らな」

ドゴォ

猫耳「――っう!! ゲホ、ゲホッ!!」

賊A「従者であるお前が知らないはずがない。おい、教えな」グイ

猫耳「本当だよ……魔姫は勝手に出かけること多いから……」

賊B「嘘つくんじゃねぇぞ!!」バキィ

猫耳「ぎにゃっ!!」

賊C「どうしてもそう言い張るなら……徹底的に痛めつけるだけだ」グリグリ

猫耳「~~っ……」

猫耳(耐える……こんなの、大したこと――)


バッ


魔姫「何をしているのかしら?」


猫耳「!! 魔姫……」

賊A「はっ、出かけてたなんて嘘じゃねーか。パジャマ着て真昼間からグースカ寝てたわけかよ」

魔姫「黙りなさい。私を怒らせたからには、どうなるかわかっているんでしょうね?」

賊B「望むところだ。お前の首には莫大な懸賞金がかかっているんだ」

賊C「それに見たところ顔が赤い。熱でもあるんじゃねーか?」

猫耳「魔姫、早く逃げて! こいつら、魔姫のこと――」

魔姫「心外ね」

猫耳「っ!?」

魔姫「いくら弱ってても、小物にやられる私じゃないわーっ!!」バチバチバチッ

賊's「「ぐあああぁぁぁ」」

魔姫「ふん、反省なさい」

猫耳「魔姫…ぇ」

魔姫「猫、怪我してるわ! 早く治療を……」タタッ

猫耳「!! 魔姫、危ないっ!!」バッ

魔姫「え――」


ドゴォ


魔姫「!!」

猫耳「~~っ……ゴホッ」

賊A「ちっ、このガキ邪魔しやがって。狙いを外したぜ」

魔姫「なっ……!? ピンピンしてる!?」

賊B「ちょっとシビれるくらいで、大したことなかったぜ」

賊C「どうやら、魔力まで弱っているみたいだな?」

猫耳「……ぅ」

魔姫「猫、猫っ!! しっかりして!!」

猫耳「僕はいいから……逃げて、魔姫……」

賊A「おっと、そうはいかねぇ。俺らは、お前を殺す為に来たんだよ」

魔姫「……っ!」ギリッ

賊A「そう睨むなよ。強がってるのが見え見えで可愛いねぇ」ヘヘヘ

賊B「顔だけは傷つけんなよ。ギルドに出す時、判別がつかなくなるからな」

賊C「あばよ、姫様……地獄でお父様がお待ちしてるぜ」

魔姫「……っ!!」

猫耳(魔姫……っ!!)


――どかっ


賊A「ぐっ!?」

魔姫「あ――」

猫耳「……え?」


勇者「何か……グッドタイミング? あ、それとも遅かった?」

ハンター「2人とも生きている。だが――」

勇者&ハンター「「お前たちは許さん」」

賊's「ひっ……」


ぐあああああぁぁぁぁぁ……


魔姫「2人とも、来てくれたのね……。猫、無事……?」

猫耳「うん……僕は大丈夫」

魔姫「そう……何か、安心したらどっと眠気が……」フラッ

猫耳「魔姫……うっ」ズキッ

勇者「あ、魔姫さんと猫耳が!」

ハンター「こいつらの粛清の続きは後でだな。おい、今助けてやるからな!」ヒョイッ

猫耳「ありがと……う」ガクッ

猫耳(力強い腕。魔姫を守るに相応しい。僕とは……何もかもが、違う)





魔姫「う~ん……」

勇者「何てこった! 魔姫さんの熱が上がったぞ」

ハンター「今、医者を呼んだ。熱が下がるまで、俺とお前が交代で護衛だな」

猫耳「ごめん……」

勇者「謝ることじゃないって。それより、自分の体心配しな」

猫耳「大丈夫。見た目が派手なだけで、大したことないから……」

ハンター「そうか、安心した。俺は一旦家に戻って諸用を済ませたい。2人とも、この場は任せたぞ」

勇者「了解。さーて…猫耳、ちょっと休ませてくれ。ちょっと疲れててよ……異変があったら大声で叫んでくれ」

猫耳「うん、わかった」

猫耳「……」

魔姫「うぅーん……」

猫耳「魔姫、安心してね……。頼りになる2人がいてくれるんだもん。もう、怖い目に遭うことはないよ」

猫耳「てか勇者はわかりやすいけど、ハンターも絶対、魔姫のこと好きだよね」

魔姫「うーん、うーん……」

猫耳「でもね、魔姫。僕だって――」スッ

魔姫「……すぅーっ」

猫耳「魔姫のこと――守りたいって、思っているんだよ……?」





『あいつ、出来損ないなんだってよ』

『魔物のくせに、戦えないんだ』

『何であんな奴が、魔姫様のお側にいるんだ』


猫耳『……』


魔物というものは本来、屈強な肉体もしくは魔力に恵まれた、戦う力に優れた種族だ。
だけど――僕は多くの魔物が持つその特性から、外れてしまった。


猫耳『力が……出ない』


それは、死の淵から生還した代わりに失ったもの。
悪魔王の技で傷つけられた体は、戦いの為の機能を失ってしまった。
悪魔王に恐怖心を植えつけられた心は、魔力を生み出すことができなくなってしまった。


猫耳(僕は――どうして生き残ってしまったのだろう)


生き残っても仕方ない。この命に価値はない。死んでも、誰も悲しまない――はずだった。

だけど――


魔姫『猫っ!』ポンッ

猫耳『! 魔姫様……』

魔姫『ボーっとして、どうしたのよ。相変わらず、暗い子ねぇ』

猫耳『ほっといてよ……』

魔姫『いーえ、ほっとかないわ! ダーツの相手を探してたのよ!』

猫耳『何で僕……』

魔姫『相手がいないからに決まってるでしょ』

猫耳『……変な奴』


他に友達がいれば、自分なんかに寄り付きもしないだろう――けど、


魔姫『ホラ、来なさい! 来ないなら、引っ張っていくわよ!』

猫耳『……わかったよ』クス


魔姫は、自分を必要としてくれる、唯一の存在だったから――





魔姫「うぅん……」


朦朧とする意識の中、夢を見ていた。
あれは――昔の光景。


猫耳『もーっ、魔姫のばかぁ!』

魔姫『何よぅ、猫のわからずや!』

昔、猫と喧嘩したことがある。理由は今にしてみれば、他愛ないことだった。
とにかくその喧嘩で、私は猫と絶交することにした。…のだけれど。

魔姫『猫ったら、何で謝りに来ないのよーっ!』プンスカ

喧嘩から2日経っても猫が謝りに来ないことに、私はひどく憤慨していた。

魔姫『謝りに来たら、許してあげようと思ってたのに……』

魔姫『謝りに来れない理由でもあるの? ……どうして、来てくれないのよ……』

魔姫『もしかして。猫が私を許してない、とか……?』

ワガママ放題に生きてきた私は、そんなことすら気付くのに遅れて。

魔姫『……何で、私が謝らないといけないのよ!』

魔姫『……でも………』

魔姫『このまま……猫と遊べなくなるのかしら』ジワァ

初めての喧嘩で、どうしていいかわからなくなって、心がぐちゃぐちゃになって。

魔姫『……そんなのは、イヤ!』

だけど、だからこそ、行動しなきゃ、って思えて――
気づいたら、猫の所に走り出していた。

魔姫(猫、猫――)

はやる気持ちが足を急がせた。
1分でも、1秒でも早く猫に会いたくて――


魔姫『猫――っ!』





魔姫「猫……」

ボーっとする。景色が変わり、目の前に天井があった。
猫はどこ――そう考えながら周辺を見て、ようやく気付く。

あぁ、あれは夢だったの。

魔姫「……猫?」

だけど夢から覚めても、私は猫を探していた。
何だか心細くて、猫に会いたくて――

ガチャ

魔姫「!」バッ

ハンター「よぅ。起きてたか」

魔姫「……猫は?」

ハンター「今はいない」

魔姫「え……っ」

ハンター「俺と勇者に看病を任せると言って、どこかに行っちまった。行き先くらい告げていきゃいいものを……」

魔姫「猫が、いない……」

ハンター「まぁあいつのことだ、そう遠くには……」

魔姫「猫……」ポロポロ

ハンター「!?」

魔姫「どうして、どうしていないのよ……」

ハンター「あー…まだ熱があるのか? 寝ておけ、じゃあな!」ピュー

魔姫「猫……」

何故だか無性に悲しかった。
猫がいない状況、夢の続きみたいで――まるで、あの時の私の心境そのもの。
どうしてこんな気持ちになるのかわからない。だけど、とにかく――

猫に、傍にいて欲しかった。





それから熱にうなされながら、何度か夢を見た。
夢の中の私は、猫を探していた。
生まれ育った魔王城、父亡き後に転々とした地、中央国のお祭り――

一緒に過ごした場所なのに、猫はどこにもいなかった。

孤独だった私の側にいてくれた。
父を失った後も側にいてくれた。

側にいてくれたから、私は元気でいられた。

だから――猫がいないだけで、私の心はこんなにも心細くなって、世界から取り残されたような暗闇に包まれてしまうの。


「魔姫」

魔姫「!」





魔姫「……」

猫耳「あ、目を開けた。お薬、飲める?」

魔姫「……猫」

猫耳「僕のこと、わかるの? 2人から聞いた話では、何か熱で頭がボーッとしてるって聞いたから……」

魔姫「猫っ!」ギュッ

猫耳「にゃにゃっ!?」

魔姫「どこ行ってたのよぉ……探したんだからね……!!」

猫耳「探し……? ぼ、僕も薬草を探しに行ってたんだよ」

魔姫「薬草……?」

猫耳「うん。お医者さんによると、魔姫は変なウイルスに感染してたみたいで……その薬草は、ネコ科が好きな類のって聞いて」

魔姫「だからってどーして、わざわざ貴方が採りに行くのよ!! バカなんじゃないの!」ポカポカ

猫耳「バ、バカって……。でも、そうだよね……僕みたいな奴が行くより、他の人に頼んだ方が確実だもんね」

魔姫「そういうこと、言ってるんじゃない……」ギュウ

猫耳「え……っと?」

魔姫「こういう時に、いなくならないでよ……猫は、いて当たり前なの! いなきゃダメなの!」

猫耳「……ワガママだなぁ、魔姫は」

魔姫「ワガママな私を受け入れてくれるのは、貴方だけだもの……」グスグス

猫耳「そんなことないよ。勇者やハンターだって……。魔姫はもう、僕以外にも仲間がいるじゃない」

魔姫「それでも、猫が特別なのはずっと変わらない」

猫耳「魔姫……」

魔姫「貴方がいないだけで、不安で心細くてたまらないのよ……だって猫はもう、私にとって特別な家族で……」

猫耳「……ぅ」

魔姫「……?」

猫耳「魔姫ぇ」ボロボロ

魔姫「ちょ、猫!? あ、貴方、何泣いてるのよ!?」アセアセ

猫耳「ふええぇぇぇ」





魔姫「落ち着いた? 全く…病人に気を遣わせるんじゃないわよ」

猫耳「グスッ、ごめんね魔姫……でも僕、僕、嬉しくて……」グスグス

魔姫「嬉しい……?」

猫耳「僕は……力もないし、弱いし、頼りにならないし……。魔姫だけが僕を必要としてくれていたのに、僕はずっと、役に立たないままで……だからせめて役に立ちたくて……」グスッ

魔姫「……だから、薬草を」

猫耳「せめて、僕も魔姫の助けになりたいって思って……」グスッ

魔姫「十分、助けてもらってるわよ。猫がいなければ私、とっくに孤独死してたわ」

猫耳「魔姫……」

魔姫「だから……ね? 猫には、側にいてほしいの。今までだけじゃなくて、これからもずっと……」

猫耳「うん……うん!」


~♪


魔姫「……あら、この音楽は?」

猫耳「お祭りの音楽かな? 今日だったんだよ」

魔姫「あぁ……風邪のせいで、行きそびれちゃったわねぇ」

猫耳「来年行こうよ。……僕たち、ずっと一緒なんでしょ?」

魔姫「ふふ……そうね」


~♪


猫耳「……それにしても、聞き覚えある曲だよね。何の曲だっけ?」

魔姫「ウエディングソングの定番じゃなかったかしら」

猫耳「あ、そうだったねぇ。はは、昔を思い出す……」

魔姫「……」

猫耳「……」

魔姫「ね、ねぇ」

猫耳「な、何っ!?」

魔姫「む……昔はよくやったわよね! 結婚式ごっこ!」

猫耳「にゃにゃっ!? お、思い出しちゃったの!?」

魔姫「まぁ……。むしろ、何で忘れてたのかが不思議なくらい……」

猫耳「そ、そう」

魔姫「ねぇ、猫」

猫耳「ん……?」

魔姫「また……する?」

猫耳「……ふにゃっ!?」

魔姫「せ、せっかくロマンチックな音楽だし……お祭り、行けないし……ねぇ?」

猫耳「理由になってないにゃ……」

魔姫「……嫌かしら?」

猫耳「………」ドキドキ


猫は黙って目を閉じる。

男女の役割が逆でしょ――そう苦笑いしながら、私は彼との距離を縮める。
昔と変わらず、あどけなくて可愛らしい顔に胸が高まる。

気分を盛り上げるのは、音楽の国の演奏――って、ん?


魔姫「……待って。何で、遠方の国の音楽がここまで聞こえ……」

<ガサガサ

魔姫「ん? 窓の外に何か……」


ハンター「おい、音楽止まったぞ。ネジ巻け、ネジ」

勇者「待って、待って! ねーじねーじ」グルグル

ハンター「全く……肝心な時に音楽が止まるとは、お前のそういう所が女を遠ざけているんだな」ハァ

勇者「何だとぉ! 俺だって頑張って……」


魔姫「何をしてるのかしら?」ニッコリ

勇者&ハンター「」


<グアアアアァァァァ


猫耳「魔姫の調子が戻ったにゃー」

魔姫「もー…まさか見られてたなんて」カアァ

猫耳「いいじゃん魔姫、見せつけてやれば♪」

魔姫「……えっ?」


チュッ


魔姫「……」

猫耳「えへへ。これで、公認カップルだにゃ~」

魔姫「な、な……」プルプル

ハンター「天然……なんだよな?」

勇者「恐ろしい逸材ですな」

魔姫「ね、猫ぉーっ!」

猫耳「わー、逃げろぉーっ!」


私と猫は、ずっと一緒。今までも、これからも――それを誓い合った今日は、特別な日。


魔姫「覚えてなさいよーっ。一生逃がさないからねっ!」



Fin


あとがき

猫耳は、本編では魔姫に男と意識されてない状態だったので、恋愛仲にするにはどうしたもんかと悩みました。
幼馴染って王道だけど、ずっと友達止まりの関係だったら進展が難しいんですねコリャ。
でも、魔姫が1番素直になれる相手は猫耳だと思ってます。

ちなみに悪魔王のせいで戦えなくなった設定は完全なる後付けなのですが、矛盾はない……ですよね?((
posted by ぽんざれす at 17:14| Comment(0) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月31日

魔姫「捕まえてごらんなさい、色男」/ハンタールート

本編はこちら


悪魔王との戦いから半年…


魔姫「はああぁっ!!」バチバチバリィッ

焼き鳥A「ギャヒイィィ」

魔姫「どう、雷撃の味は。いいスパイスになるかしら?」

焼き鳥's「ギュアアァァッ!!」

魔姫「何羽来ようと同じこと……」

――ザシュッ

魔姫「!」

ハンター「全く…数が多いばかりで手応えがないな」

魔姫「ちょっとハンター、邪魔しないで。そいつら、私の獲物なんだから」

ハンター「ふん。張り合うなら、とっとと獲物を狩ればいいものを」

魔姫「ちなみに貴方、何羽倒したの?」

ハンター「今ので12羽だな」

魔姫「あら、そう。私は20羽」ニッコリ

ハンター「……」

ハンター「これからが本領発揮だああぁぁ!!」ダダッ

魔姫「だから人の獲物取るんじゃないわよーっ!!」

<ギャーギャー


勇者「ははっ…2人とも苦戦する様子ないな、流石!」←スコア:40羽





勇者「それじゃ、焼き鳥の討伐をギルドに知らせてくるわ~」←最終スコア:87羽


ハンター「くっ……」←最終スコア:23羽

魔姫「数が多いだけで大したことなかったわねぇ」←最終スコア:31羽

ハンター「………フン」

魔姫「そんなに気落ちしないで。貴方、人間にしてはかなりやる方だと思うわよ?」

ハンター「えぇい、中途半端な慰めなどいらん!」

魔姫「あら、そう。なら…まだまだね」フッ

ハンター「俺に話しかけるな!」

魔姫「何よそれ!」

<ギャーギャー


勇者「報酬受け取ってき……って、また喧嘩かよ。ハンター、いい加減にしなよ~」

魔姫「そうよ、いい加減にしなさいよ~」

ハンター「俺が悪いのか!?」

勇者「魔姫さんが悪いわけないだろ」

魔姫「あらありがとう勇者。貴方って紳士よね~」

勇者「魔姫さん……! 俺は貴方を信じていますよ、このクールぶったキザ野郎が全部悪いんです!」

ハンター「…一生やってろ」ハァ


魔姫とその他一行は、人間に危害を加える残党刈り退治をしていた。





>魔姫の住む屋敷


猫耳「お帰りぃ~♪ 果物のタルト焼いたから召し上がれ!」

魔姫「あら、いい香りねぇ。猫、紅茶を淹れて」

勇者「俺は緑茶~! で、ハンターは……」

ハンター「…コーヒー」ムスッ


猫耳「ハンターの奴、機嫌悪いね」ヒソヒソ

勇者「あぁ、いつものアレだよ」

猫耳「そっかぁ、また魔姫に負けたのかぁ」

勇者「全くハンターの奴、魔姫さんに対抗意識燃やしちゃって……」


魔姫「砂糖とミルクは入れないの?」

ハンター「入れん。コーヒーの風味そのままを楽しむんだ」

魔姫「よく、そんな苦いの飲めるわねぇ」

ハンター「お子様にはわかるまい」フッ

魔姫「へぇー? 今だに辛い歯磨き粉使えない男が『お子様には』ねぇ?」

ハンター「」ブッ

魔姫「うんうん、ミントの風味は辛いもんねぇ。ふ、ふふふ……っ」

ハンター「えぇい黙れ、ピーマン食えない典型的子供舌が!」

魔姫「歯磨き粉よりはよっぽど一般的よ!」

<ギャーギャー


猫耳「まーたやってるよ」

勇者「魔姫さんのような素晴らしい方にケチをつけるなんて、由々しい奴だな」


助手「お邪魔致します」

魔姫「あら助手。いらっしゃい」ゼーゼー

ハンター「どうした」ゼーゼー

助手「お手紙を届けに。音楽の国の国王陛下からです」

勇者「音楽の国っつーと隣国だな。王様から手紙?」

助手「はい。1週間後の晩、国で祭典を行うので是非参加して下さい、と……」

魔姫「祭典? 美味しいもの食べれるの?」

勇者「勿論ですよ魔姫さん。それだけでなく、その日は楽器のメロディが国全体を包むんですよ。何せ、どこ行っても音楽、音楽、音楽ですから」

猫耳「へぇ面白そう!」

魔姫「音楽は静かな方が好きなんだけど…まぁ、美味しいものが食べられるならいいわ」

猫耳「魔姫ったら食べることばっかりだにゃ~」

勇者「ははっ、ご馳走も祭りを彩る大事な要素だからな。でも何と言っても、メインイベントは…」

魔姫「メインイベント?」

勇者「夜8時に行われるダンスパーティーですよ! その時間は国中がダンスフロア、どこを見てもリア充、リア充、リア充!」

魔姫「あら。私、ダンスは結構自信あるのよ」

猫耳「行きたい、行きたーい!」

勇者「うーん、スケジュールは大丈夫かな?」

助手「えぇ。我々の活動が実を結んだのか、現在指名手配されている残党はいません。祭典の日だけでなく、しばらく休む余裕はありますよ」

魔姫「報われたわぁ~。着ていく服、選ばないと!」

<わいわい

ハンター「……」

助手「ハンター様、祭典には……」

ハンター「俺は出ない」

魔姫「……え?」

ハンター「残党がいないならバイトする。…ああいう場は好かない」ガタッ

スタスタ

魔姫「……何よ、つまんない男ね」

勇者「あいつは元々付き合いが悪いですからね」

猫耳「行きたくないなら仕方ないにゃ~」

魔姫「…たまには、付き合ってくれたっていいじゃない……」

猫耳「ん~? そうだねぇ、ハンターと仲良くしたいよね」

魔姫「!!!」

猫耳「ハンターとは喧嘩ばかりだもんねぇ。楽しいことを共有して一緒に笑い合うってのも……」

魔姫「おほほほ! 何を言ってるのかしら、猫ちゃぁ~ん!」ギュウゥ

猫耳「ふぎゃあぁ、苦しい、苦しい!!」

勇者「いいなぁ猫耳、魔姫さんに締めてもらえて……」

魔姫(ハンターと仲良くしたいなんて有り得ないし! あいつは下僕のくせに生意気なのよ!!)





魔姫「ところでハンターのバイトって、何かしら?」

勇者「あぁ、それは……」





魔姫「……で、勇者に聞いて来てみたけど……」

カランカラン

ハンター「いらっしゃいま――せっ!?」

魔姫「ふふ、遊びに来たわよ」

ハンター「……冷やかしなら帰れ」

魔姫「冷やかしじゃないわ。紅茶を頂きたいのよ、ほら私って紅茶好きでしょ?」

ハンター「……1名様、ご案内致します」

わいわい

魔姫(それにしてもバイトがまさかの接客…しかも、お洒落めのカフェの店員なんてねぇ)

ハンター「ニヤニヤ見てくるな、気が散る」

魔姫「仕事に集中なさいよ。ほら、あそこのテーブルのお客さんが呼んでるわよ」

ハンター「ったく……お待たせ致しました、ご注文はお決まりでしょうか」

魔姫(意外とサマになってるじゃない。それに、いつも戦闘服ばかりだから、ワイシャツにエプロン姿ってのはかなり新鮮だわ)

魔姫(そう言えば、ハンターは元々お坊ちゃんなんだっけ。普段は荒々しいけど、きちんとしようと思えばできるのね)

ハンター「ご注文はお決まりでしょうか」

魔姫「えぇ。日替わりのケーキと紅茶のセットをお願い」

ハンター「かしこまりました」

魔姫「ハァ……」

ハンター「何か」

魔姫「ハンターがいつもこうならいいのに~」

ハンター「……失礼致します」サッ

魔姫(あら、挑発に乗ってこないわねぇ)

魔姫(…っていうか……)


クレーマー「おい店員! 紅茶が熱くて舌火傷したじゃねぇか、どうしてくれる!」

ハンター「大丈夫ですか? すぐに水をお持ち致します」

クレーマー「ふざけんな! 金返せ! 治療費よこせ!」

ハンター「申し訳ありませんが、それはできかねます」

<ギャーギャー


魔姫(……ふぅん、大人の対応できるんだ。何か、イメージ全然違うわ)





店長「上がっていいよ、お疲れさん」

ハンター「お疲れ様です、お先失礼します」


ハンター「ふぅ……」

魔姫「お疲れ様」ヒョコッ

ハンター「何だ。出てくるのを待っていたのか?」

魔姫「まぁね~。貴方も大変ねぇ、ああいうお客さんよくいるの?」

ハンター「たまにいるが、大変ではない。……もっと厄介なのと、ほぼ毎日顔を合わせているからな」

魔姫「そうなのォ、本当に大変ねー?」ニヤニヤ

ハンター「……自覚あるのかないのか、どちらだ」

魔姫「ないわ。でもハンター、私は貴方を見直したわ」

ハンター「見直した?」

魔姫「ほら、貴方って最年長なのに大人気ないし、クールぶってる割に感情表現豊かだし、意外と後先考えないし」

ハンター「俺を罵倒しに来たのか」

魔姫「いえ。そんな部分を出さずにキチンと働いてるから、凄いなと思ったわけよ」

ハンター「金を稼ぐとはそういうことだ」

魔姫(……ハンターの家は元々裕福だったけれど、父親が魔物に殺されて生活は一変した。ハンターは、母親に裕福な暮らしをさせたいと思っているようだけれど……)

ハンター「残党刈りの仕事がしばらく無いようなら、もう1、2件バイトを増やさんとな……」

魔姫「……偉いっ!」バシッ

ハンター「っ!?」

魔姫(ハンターのお母様自身はそんなこと望んでないと思うけど、でも……)

魔姫「私はもう、親孝行できないから。貴方は後悔のないようにやるのよ!」

ハンター「はぁ……?」

魔姫「よしハンター、労ってあげる。私の奢りよ」

ハンター「は?」

魔姫「飲みに行こうって言ってるのよ。好きでしょ、お酒」

ハンター「おい……お前は飲めないだろ」

魔姫「私はノンアルでいいわよ。さぁさぁ、行くわよ」

ハンター「……ったく。未成年と飲み屋に行くのは気が進まんが、お前は強引だからな」ハァ

魔姫「魔王の血筋は酒豪の血筋よ、成人したら負けないんだから!」

ハンター「そうかそうか。だが、飲み比べは体に悪いからやらないぞ」

魔姫「ノリ悪いわねぇ。まぁいいわ、アダルトに夜の街を案内してよ」

ハンター「じゃあ、あそこの店にするか。女に人気の店だぞ」

魔姫「いいわね~、外装も素敵。それじゃ、行きましょ♪」

ハンター「本当に、飲むなよ」





魔姫「うぅ~……」フラフラ

ハンター「本当にお前は……」ハァ

魔姫「何よぅ、飲んでないじゃない~」フラフラ

ハンター「夜ふかしできないなら、あらかじめ言え! ったく、酔ってないのに道端で寝そうだな……」

魔姫「寝ないわよぉ~。ふぁ~……」

ハンター「……お前、本当に一滴も飲んでないんだよな?」

魔姫「当たり前でしょぉ~。飲酒は成人を過ぎてから、睡眠は日付が変わる前に、の健康優良児よ!」

ハンター「やっぱり、子供は子供か……」

魔姫「子供子供って、バカにして~」

ハンター「馬鹿にする意味ではない。事実を述べただけだ」

魔姫「………」

魔姫(ハンターは私のこと、子供として見てるのかしら……)

ハンター「ほら、おぶされ」グイッ

魔姫「あっ」

ハンター「屋敷まで運んでやるよ。恥ずかしいかもしれないが、お互い様だ」

魔姫「お…重く、ない?」

ハンター「余程の肥満でもなければ、別に重くない」

魔姫「何よそれ~…」

ハンター「文句を言うな。黙って寝てろ」

魔姫「……」

魔姫(顔が近くて、アルコールの匂いがする。体は意外と筋肉質で……大人の男、って感じがする)

魔姫(ハンターは大人だから……子供の私には……)

ハンター「全く……大人しくしてりゃ、それなりに可愛げがあるものを」フゥ

魔姫「……うるさい。お互い様」ボソッ





>屋敷


猫耳「にゃにゃっ、魔姫に一体何が!?」

ハンター「眠気が来ただけだ。別に変なことはしていない」

猫耳「ありがとうハンター。魔姫ぇ~、こんな風になるまで夜遊びするなんて……」

魔姫「むにゃむにゃ…猫のくせに、説教なんて……すやーっ」

ハンター「寝言もハッキリしているのだな、こいつは」

猫耳「お恥ずかしいにゃ…」

ハンター「寝室はどこだ。お前じゃベッドに運べないだろう」

猫耳「2階の突き当たり。何から何までありがとうね、ハンター」





ハンター「よっこいせ、っと」

魔姫「すやー、すやー」

ハンター「人の気も知らずにのん気なことだ。さて、俺は帰るか」

魔姫「むにゃむにゃ……待ちなさいよぉ~」

ハンター「ん?」

魔姫「服のままで寝るの、イヤ~……」

ハンター「……自分で着替えろ」

魔姫「何よぅ。せっかく、こぉんなハイスペック美女が誘ってあげてるっていうのにぃ」

ハンター「……お前、本当に酔ってないよな? 凄まじい寝ぼけ方をするな……」

魔姫「寝ぼけてないぃ。着替えるの手伝ってぇ」

ハンター「猫耳に手伝ってもらえ。伝えておいてやる」パタン

魔姫「あ……」

魔姫(私って……そんなに魅力ないのかしら……)





>で


魔姫「このドレスがいいわ!」

猫耳「それは胸元が開きすぎてるよ」

魔姫「じゃあこれは!」

勇者「スリットがちょっと…。いや個人的には嬉しいんですがね、魔姫さんにはあまり肌を晒して欲しくないというか……」

魔姫「なら、どれがいいのよーっ! ひと皮剥けた、アダルトな私の魅力を出せるドレスはどれ!」

勇者「魔姫さん、どうしちまったんだ?」ヒソヒソ

猫耳「さぁ?」ヒソヒソ


ハンター「ここにいたのか」

勇者「あ、ハンター」

ハンター「女の衣装屋で何をしている」

猫耳「いやぁ、魔姫が祭典に着ていくドレスを買うから、男の意見が欲しいと言われて……」

ハンター「ろくに女経験のない2人の意見など聞いてもな……」ククク

勇者「何だとテメェー!」

猫耳「聞き捨てならないにゃーっ!」


魔姫(ハンターは女経験豊富なのかしら?)ジロ

助手「それよりも、ギルドより依頼が入りまして」

魔姫「ギルドから? 何かしら」

助手「はい。魔王軍残党、妖花の群れが農村地帯に被害を及ぼしたそうです。その妖花の討伐依頼が出されました」

魔姫「妖花…あぁ、魔王城の警備をしていた連中ね」

ハンター「数の多い連中だ。1日で全てを狩るのは不可能だというのがギルドの見解だが……」

助手「住処への往復も含め、3日はかかるでしょうか」

猫耳「待って。それって……」

勇者「おもっくそ、祭典と被るじゃん」

魔姫「まぁ…何てタイミングの悪い」

勇者「楽しみだったのになぁー…。でも人々の為だ、我慢するか!」

猫耳「じゃあ僕は1人で参加してくるにゃー」

勇者「うわぁーっ、それは許さん! お前も道連れじゃい!」

猫耳「フギャーッ、理不尽ーっ!」

ハンター「いや、お前たちは祭典に参加してこい」

魔姫「え?」

ハンター「数は多いが、相手はCクラス。俺と助手で何とかなる相手だ」

魔姫「でもハンター……」

勇者「よっしゃ任せたぞハンター! 全員討伐したら、褒美に飯奢ってやるよ!」バシバシ

魔姫「ちょ、ちょっと! もし何かあったら……」

ハンター「ふぅ…俺はお前に信頼されていないんだな」

魔姫「!! ち、違う、そういうわけじゃ……」

勇者「大丈夫ですよ魔姫さん。ハンターはこういう仕事、大ベテランですから」

猫耳「好意は素直に受け取った方がいいよ。ありがとう、ハンター」

魔姫「……」





>祭典当日


魔姫「ハァ……」

猫耳「魔姫、もう準備できた……わぁっ、そのドレスやっぱり似合うね! シックって言うのかな? 大人っぽいよ、魔姫!」

魔姫「ありがとう。猫も今日の衣装は素敵ね」

猫耳「主役は女の子だから目立たない程度に、でも連れの女の子に恥をかかせないように…って、ハンターが選んでくれたんだ」

魔姫「…そうなの」

魔姫(そういうTPO知ってるってことは…お祭りは好かないとか言いつつ、参加したことあるんじゃないの?)モヤモヤ

猫耳「音楽の国までは、馬車で1時間かかるんだってね。もうすぐ迎えに来ると思うけど……」

魔姫「ハンターは今頃、戦ってるのかしらね……」

猫耳「ん、そうだと思うよ。……あ、そう言えばさぁ。妖花が襲ったのって農村だっけ?」

魔姫「そう言ってたわね。それがどうかした?」

猫耳「確か妖花って、自然の養分を糧にしてたよなー…って」

魔姫「……!!」

猫耳「農村を襲ったともなると、作物に大分被害出ただろうねぇ。可哀想に……」

魔姫「ごめん、猫っ!」ガタッ

猫耳「どうしたの?」

魔姫「急用ができたわ! 祭典には先に行ってて!」バサッ

猫耳「え、急用って……魔姫ぇーっ!!」


バサバサッ


魔姫(全速力で飛べば……!!)






ハンター「ハァッ!」シュッ

妖花A「グファッ…」

ハンター「仕留めたか!?」

妖花A「ガアァ――ッ!!」ビュンッ

ハンター「ちっ!!」バッ


ハンター「たかが花とはいえ、デカいだけあって防御力が高いな」

助手「いっそ焼き払いましょうか?」

ハンター「ここは可燃物が多すぎる。できればそれは最終手段でいきたいが……」

妖花B「ガフォッ」

ハンター「……? 何かを振りまいている?」

助手「鼻と口を塞いで下さい! あれは、幻惑の花粉です!」

ハンター「!!」バッ

ハンター(くっ…少し吸い込んでしまった。少しだけ、気分が悪い……)


うぞぞ……


ハンター「……!!」

妖花ボス「グファ……」

ハンター(でかい…あいつが頭か)

ハンター「早々に討つ! 喰らえ!」ダッ

妖花ボス「ガファアァ――ッ!!」ビュンッ

ハンター「!!! 速――」

ベチーン

ハンター「つっ……」

助手「ハンター様!」

ハンター「平気だ。しかし…この素早さと力で、Cクラスだと!」

助手「恐らく、農村の作物の養分を吸い取ってパワーアップしたのでしょう。申し訳ありません、予想できていたはずなのに……」

ハンター「なに、気にするな。パワーアップされたなら、報酬を値上げ交渉するだけのこと」チャキ

妖花ボス「グルアァ――ッ!!」

ハンター「助手! ボスは俺がやる、他の奴らの対処を頼む!」ダッ

ベチーン

ハンター「ぐっ」

助手(ハンター様の動きがいつもより鈍い…幻惑の花粉のせいか)

ハンター「……この程度!」シュッ

ズブッ 妖花ボス「ゲヒャアァ!!」ピュッ

ハンター「何だ……?」サッ

シュウゥ

ハンター(これは…溶解性の粘液か。こんな技まで使うとは……)

妖花ボス「ギュアアァ!!」ピュッピュッ

ハンター「ふん…回避は容易い」サッ

シュルル

ハンター「!! しまった!」





魔姫(妖花の香りが漂ってくる…この辺で間違いないはずだけど……)


助手「ハンター様!」


魔姫「んっ?」


ハンター「くっ……」ズルズル


魔姫(ハンターが引きずられて…あっ、妖花のツルが足に!)


妖花ボス「ゲヒョア……」

ハンター「ち……っ! 粘液の狙い、ばっちり定めてやがる」

助手「ハンター様……!! くっ、雑魚が邪魔!!」

妖花ボス「ギュアアァ!!」ピュッ


魔姫「させないわ! ハン――」


ハンター「――甘いんだよ」


魔姫「え?」


ハンター「はああぁ――ッ!!」ブンッ

シュウウゥ

妖花ボス「!!! グギャアアァァ」


魔姫(足を振り上げて、妖花のツルで粘液をガードした……!)


妖花ボス「グウウゥ……」

ハンター「植物も苦しむんだな。沢山の魔物を狩ってきたが、これは初めて知ったな」

妖花ボス「ゲャアアァァ!!」シュッ

ハンター「おらっ!!」ズブッ

妖花ボス「ゲアアァァァ!!」


魔姫(あのパワーアップ版妖花を圧倒するなんて…ハンターって、あんなに強かったかしら?)


ハンター「何度……」


魔姫「え?」


ハンター「何度、いけ好かない小娘に泣かされてきたと思っている。あいつに比べればお前達の攻撃など、ぬるすぎてあくびが出る」


魔姫(何よそれ、いけ好かない小娘って私?)ムッ


妖花ボス「グギャアアァァァ!!」ビュンッ

ハンター「その上、お前たちは実力だけでなく――」ヒョイッ


魔姫「……?」


ハンター「――花としても、あいつに負けている。本物の花なら、あいつの足元程度には可憐になれ」


魔姫「――っ!!?」ボッ


ハンター「……なんて、知能の低い生物に言っても理解できないか」タタッ

ハンター「ハァッ!」ズシャッ

妖花ボス「グゲアアァァッ!!」ドサッ


魔姫「あっ……いけない!!」


ハンター「ようやく倒れたか。植物も首をはねれば死ぬのか。……どこが首だかわからんが」チャキ

魔姫「待って!!」

ハンター「……!! お前、どうしてここに」

魔姫「話は後よ。それより……妖花!」

妖花ボス「ギュルル……」

魔姫「全く、貴方はこのご時世に何をやっているの。迂闊なことをすれば残党刈りの対象よ、わかっているの?」クドクド

妖花ボス「しゅん」

ハンター「妖花が大人しくなった……?」

魔姫「ごめんなさい、ハンター。妖花を狩るのはストップしてもらっていいかしら?」

ハンター「何を言ってやがる」

魔姫「妖花の特性を思い出したのよ。この子達、人間に敵意は持っていないわ」

ハンター「どういうことだ」

魔姫「妖花は生きていく為に、養分を吸収しないといけないのよ。だけど」ギロリ

妖花ボス「」ビクッ

魔姫「考えなしの行動で、農村の作物の養分まで吸収してしまった。そうよね?」

妖花ボス「……ギュル」コクリ

魔姫「つまり今回の行動は悪意によるものでなくて、うっかりなのよ。だからって罪がないわけじゃないけど……命を狩る程のことではないと思って」

ハンター「……」

魔姫「妖花には人に迷惑をかけない住処に移住してもらって、農村には私から償いをするわ。だから……」

ハンター「……」

助手「ハンター様……」

ハンター「……本当に、もう人間に被害を出さないんだな?」

妖花ボス「ギュルル」

魔姫「ホホホ。万が一またこういうことがあったら、私の顔に泥を塗ったということで…わかっているわね?」ニコ

妖花ボス「ギュルッ!! グギャギャ~」ブルブル

ハンター「怯えているぞ。どれだけ恐ろしいんだ、お前は」

助手「どうなさいますか、ハンター様」

ハンター「そういうことなら仕方ないだろう。全く…無駄足だったな」ハァ

魔姫「そう言わないで。…ありがとう、ハンター」フフ

ハンター「何で礼……。まぁいい。ところでお前、祭典はどうした」

魔姫「あっ! もう始まっている時間だったわ……どうしよう」

ハンター「まぁ、飛んでいけば途中からでも参加できるだろう。ギルドには俺たちから伝えておいてやる、早く行……」

魔姫「そうはいかない!」ガシッ

ハンター「!!?」

魔姫「貴方も行くわよ、ハンター!」バサッ

ハンター「はっ!? だから俺は参加しないと……離せ!!」

助手「ギルドには私から伝えておきます。楽しんできて下さい」

魔姫「ありがとう助手! お土産買っておくわ、それじゃあ!」

ばっさばっさ <おーろーせー!





~♪


魔姫「フフッ…セーフね」ハァハァ

ハンター「大分遅くなったな。もうダンスが始まる時間じゃないか。俺を置いてきた方が早く着いただろ」

魔姫「駄目。たまには付き合いなさい」

ハンター「本当に強引だな…来てしまったものは仕方ないか」ハァ

魔姫「そんなに嫌なの?」

ハンター「そういうわけではないが……音楽に興味はないのでな」

魔姫「じゃあ、目の前にあるものを楽しめば?」

ハンター「あ?」

魔姫「気付かない? ほら私、いつもと違うでしょ?」クルッ

ハンター「……言われてみれば、地味になったな」

魔姫「うわぁ、ひどい感想。貴方、絶対モテないでしょ」

ハンター「文句を言う前に、レディー扱いしてもらえる女になれ」

魔姫「レディー、ねぇ。……でも」

ハンター「?」

魔姫「お花のようには思ってもらえてるみたいよね」ニヒッ

ハンター「!!!」ブッ

魔姫「ごめんねぇ~、あまりにも声が大きくて聞こえちゃったのよ~。ふふ、花かぁ」

ハンター「ちょ、待、違っ」

魔姫「へぇ、何が違うのよ?」

ハンター「それは、だな……お、お前のような半人前の小娘にすら負ける程ひどいと言いたかったんだ!」

魔姫「何よそれーっ! 人のこと、また小娘扱いしてーっ!!」

魔姫(ツンデレだとしても、言っていいことと悪いことがあるのよ!)プイッ

ハンター「……いや、その点については悪かった」

魔姫「え?」

ハンター「先日、お前に言われた通りだ。俺は大人気ないし、お前の方がよほど達観している」

魔姫「あら、そう思う出来事があったの?」

ハンター「俺がお前を追っていた頃からだ。お前は自分の父親が殺されても、勇者を憎んでいなかった。人間と魔物の争いという背景があったとはいえ……そう頭で割り切ることは、俺にはできない。俺はずっと、父親を殺された恨みで動いていたからな」

魔姫「誰だって感情はあるんだし、無理に割り切る必要はないのよ。私が憎んでいるのは勇者じゃなくて、時代だし……」

ハンター「それだ。お前は広い視野で物事を見ている。先ほどの妖花とのことだって、平和的解決の道をお前は提示した」

魔姫「まぁ……私も魔物だから、人間とは視点がちょっと違うというか……」

ハンター「……普段自信満々なくせに、褒められると謙遜するんだな? 照れ屋か?」ニヤ

魔姫「!!!」カアァー

ハンター「褒め言葉は素直に受け取っておけ。俺がお前を褒めることは、この先ないぞ」

魔姫「まぁーっ! 本当、ひねくれた男ね!」

ハンター「お互い様だ」ククク

魔姫「むむ……」

魔姫(なんか…ハンターが素直だと、調子狂うわ……)


ハンター「それにしても……これだけ人が多いと、勇者や猫耳を見つけられんな」

魔姫「そうね」

ハンター「2人とも、お前と踊りたかっただろうな」

魔姫「踊りたいのは2人だけじゃないわ」

ハンター「ん? …あぁ、お前もか。まぁ祭典にこだわらずとも、ダンスパーティーの機会はいくらでも……」

魔姫「今日じゃないと駄目なのよ。……だから」

ハンター「ん?」

魔姫「ハンター。私と踊りなさい!」

ハンター「……は?」

魔姫「ほら、始まるわ! 早く早く!」ダダッ

ハンター「ちょっ……」


~♪

魔姫「ほら、しっかり手を取って」

ハンター「いや待て……踊れと言われてもどうすればいいのか……」

魔姫「周囲の人の真似をしなさい。大丈夫よ、貴方は運動神経いいんだし」

ハンター「無茶なことを」ハァ

魔姫「ふふっ」

ハンター「どうした」

魔姫「いえ。何だかんだで、付き合ってくれるのねぇ」

ハンター「付き合わされているんだ。全く、好意的に受け取りやがって」

魔姫「……でも、このドレスを選んで良かったわ」

ハンター「? ドレスがどうかしたか」

魔姫「このドレス、大人っぽいじゃない? 貴方と踊るには、ぴったりだと思って」

ハンター「……ん? おい……」

魔姫「何かしら?」

ハンター「いや、勘違いなら悪いが……。まるで俺と踊る為にドレスを選んだかのような……」

魔姫「ほら、足がもつれてるわ! ここでターンよ!」

ハンター「……っ!」クルッ

魔姫「ふふ、上手い上手い! 貴方、ダンスの才能あるわよ!」

ハンター「~っ…もうダンスは2度とごめんだ」

魔姫「あら、どうしてよ?」

ハンター「だから元々こういったものは好かないと……」

魔姫「ひねくれてるわねぇ。楽しんでるの、伝わってくるわよ?」

ハンター「……」

ハンター「それは――だから」ボソッ

魔姫「え、何か言った?」

ハンター「……っ!! 意を決して言ったのに、お前は!」

魔姫「あら、ごめんなさい。もう1回言ってくれる?」

ハンター「……っ。いいか、聞き逃すなよ! 俺が楽しんでいるのは、相手が――」

~♪ ……

魔姫「あら、音楽が終わったわ」

ハンター「……」

魔姫「楽しい時間って、あっという間ね。これで終わりかしら」

ハンター「……終わらせない」

魔姫「え? ――っ」


ハンター「――」

魔姫「――」


ハンター「……ぷはっ」

魔姫「ハ、ハンター…今、唇……」

ハンター「終わらせたり、しない……」

魔姫「……え?」

ハンター「お前を他の男と踊らせる気はない。だから…この時間を、終わらせたりしない」

魔姫「ハン、ター……」

ハンター「……」ドキドキ

魔姫「……」ドキドキ


ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ


魔姫(何か言いなさいよ! どうしろってのよ、この状況!!!)カアアァァ


「あらヤダ奥さん、見ました?」

「見た見た、やーねぇ」


魔姫&ハンター「!!?」ガバッ


勇者「なァんか行動が不審だと思っていたら……そういうことだったのねェ」

猫耳「いつの間にそんな関係になってたのかしらねぇ。気づかなかったわァ」

勇者「ハンターさんたら興味なさそうにしてたくせに、やーねぇ」

猫耳「魔姫さんもよォ。いつも喧嘩ばかりしてたのに、まんざらでもなさそうよ」

勇者&猫耳「「やーねぇ」」


魔姫「ね、猫ぉ!?」

ハンター「勇者!? どうしてここに!?」

勇者「どうしてって。そりゃ、俺らだって祭典に参加してたんだから当たり前だろ。バーカ」

猫耳「僕たちは悲しく男同士で踊ってたのににゃ~。ふーん、へーぇ」

魔姫「こ、ここここれはっ! 違うの、ハンターの痴漢だから!」

ハンター「ちか……お前なあぁ、通報案件をサラッと口にするな!!」

勇者「はいはい、ツンデレツンデレ。喧嘩もいちゃラブのひとつなんですね、ご馳走様です」

魔姫「いやっ、だからっ、そのっ!」

猫耳「勇者、悲しい独り身同士で飲もうか~。お酒駄目だけど」

勇者「いいねぇ猫耳、傷心の俺を慰めてくれ。俺も酒駄目だけど」

ハンター「おい待て!」


猫耳「じゃあね~♪」

勇者「ごゆっくり~♪」


魔姫&ハンター「……」

魔姫「……どうするのよ」

ハンター「開き直るしかないんじゃないか?」

魔姫「……はい?」

ハンター「ほら、2曲目が始まる。踊るぞ」ギュッ

魔姫「!!! ちょっ」

ハンター「嫌か?」

魔姫「……」

魔姫「いや、じゃない。……いい」

ハンター「そうか」フッ

魔姫「そういう言い方は、ずるいわよ……」

ハンター「一応大人なのでな。経験値の差だ」

魔姫「!! そう言えばハンター、貴方過去に女性経験……」

ハンター「ステップが遅れているぞ。仕方ない、リードしてやるよ」グイッ

魔姫「ちょっ……後で覚えてなさいよ!!」


どうにも素直になれない2人だけど――
だけどきっと、気持ちは一緒だから。


ハンター「一生かけて尋問しろ。逃げも隠れもしない」

魔姫「望むところよ。今度は私が、捕まえてやるんだからね!」


Fin





あとがき

ハンタールートでした。
基本的にちゃんとした大人だけど、感情で無茶な行動を取ることもある所がハンターの魅力だと思っています。
そして勇者猫耳に比べると遥かにひねくれていて、ある意味1番大人であり、1番子供なのかもしれないですね。

それよりもバイト中の正装敬語ハンターをもっと書きたかったかもしれん((

ハンターの異性経験値? ご想像にお任せしますってことで~。
posted by ぽんざれす at 20:47| Comment(0) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月29日

スピンオフのお知らせ

乙女「スタートボタン、オン! あぁもう、広告とか邪魔! 早く早く!」

魔王「どうした乙女、そんなに焦って。む…ゲームか」

乙女「はい、"逃走プリンセス"のスピンオフが出たんです! もうずっと待ちに待っていたので、早くやりたくて!!」

魔王「そうか。何だか本当にずっと待っていた気がするな」

乙女「あ、ゲーム画面になった! というわけで…スタートッ!!」

       

つまりどういうことかというと魔姫「捕まえてごらんなさい、色男」の分岐ルートスピンオフやりますよ。
完結から1年くらい経ってるし、賞味期限切れてますよねヒャハハ

今現在、頑張って書いている最中で御座います
ハンター→猫耳→勇者の順番で書いていますので、書き終わり次第どんどんうpしていきたいと思います~


紹介してくれたのは、乙女ゲープレイヤー「魔王を攻略しよう」より、乙女と魔王でした
posted by ぽんざれす at 21:25| Comment(0) | スレ立てお知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月17日

プロット大公開

ゴミ箱を漁ったらプロットが出てきたので公開してみます
読み返してみると、結構プロットから本編の展開が変わってるssがほとんどですねぇ
「自分さえわかればいい」って感じで書いたものなので、読みにくいのは仕方ない

僧侶「このパンツどうしよう
パンツプロット.jpg
あんなアホなssでもプロット書いてたのか…(愕然
パンツの細かい設定が本編ではカットされましたね。

盗賊娘「ハンターラビット」
うさちゃんプロット.jpg
終盤の、うさぎが盗賊になる展開の辺りが変わりましたね。
この頃まだ王子は残念な人じゃなかったw

魔女「世界から弾かれた私と彼」
暗黒魔女プロット.jpg
終盤の展開大きく違いますね。
魔女の性格も、この頃は大人っぽい性格を想定していたみたい。

執事「魔王よりもお嬢様の方が怖い」
お嬢執事プロット.jpg
細かいとこが変わってますね。
あれおかしいな、お嬢がセクハラする設定がどこにも書かれていないが…(錯乱

乙女ゲープレイヤー「魔王を攻略しよう」
乙女ゲープロット1.jpg
乙女ゲープロット2.jpg
側近の立ち位置がッ!!
このプロットやけに描写細かいですね。側近以外はほぼ本編通りですね。

勇者「パーティーでのカーストが最下位でつらい」
神界の騎士プロット.jpg
この時は恋愛ssだったんですねぇ。
何というか、女同士のドロドロを書きたかったので、話の本筋自体は割とシンプルなものにしたのですね。

勇者「俺はヒーローになれなかった」
俺ヒーロープロット.jpg
終盤の決戦時の展開が違いますねぇ。てか魔王倒された直後に魔王に村娘預けるってどゆことwww
邪神様本編では大物だったけど、プロットでは小悪党みたいな真似してますなぁ。

魔王「俺の体臭がやばい」
体臭プロット.jpg
ドロヘドロやアンテッドの下りカットしたんですなぁ。
このssは「魔王は引きこもっている間何をしているか」でtwitterでアンケートして筋トレすることに決まったので、筋トレのことはプロットに全く書いてないのですよ。

魔法使い「男は嫌い…」
百合プロット.jpg
武闘家は戦士だったのかぁ。
他に目立った変更点はないですね。しかし勇者はこの頃から最悪だw
posted by ぽんざれす at 14:13| Comment(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月07日

魔王「俺の体臭がやばい」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1470218651/


1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/03(水) 19:04:11.33 ID:voHP6eV+0
側近「遂に魔王様が復活されるぞ……!!」


500年前、大賢者により封印された魔王。
その魔王の封印が今、解かれようとしていた。


北のドラゴン「500年――長いようで短かった」

西の悪魔「ウケケ。伝説となった大賢者とはいえ、所詮は人間。魔王様復活まで寿命はもたなかったなァ」

東の妖姫「ふふ…500年前の魔王様の武勇、心強いと同時に身震いがしますわ」

南の地蔵「細身ながら、数々の勇者を葬ってきた猛者じゃからのう」

側近「思い出話はそこまでです。見なさい、封印の力がどんどん弱まっている……」

ゴゴゴ…

側近(さぁ目覚めて下さい魔王様…そして、人間達に恐怖と絶望を!!)

北のドラゴン「なぁ…何か、空気がおかしくないか?」

西の悪魔「そう言われてみや…全身の感覚器官がゾワゾワするっつーか……」

東の妖姫「魔力……にしては、少々妙ですわね」

南の地蔵「見るのじゃ! 魔王様の封印が!!」

側近「!!?」


カッ――


2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/03(水) 19:04:37.11 ID:voHP6eV+0
魔王「ふぅ……」


彼こそが魔王。
まだ少年であった頃、魔王であった父に謀反を起こし、その座を奪ったという猛者である。


魔王「クク、血が騒ぐぞ…。500年、戦いを封じられたこの体が! 暴れたいと疼いている!!」


彼の欲求は世界の支配でも、魔物の繁栄でもない。

強い者と戦いたい――ただ、それだけである。


魔王「長らく待たせたな、側近、四天王よ! この俺が復活したからには! この大地に安らぎの時など与えぬぞおおぉぉ!!」


恐怖と絶望の時代が、今――


側近「……」プルプル

魔王「……? 側近、どうした?」

側近「……っせ」

魔王「せ?」

側近「くせえええぇぇぇ!!」

魔王「え?」

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/03(水) 19:05:10.80 ID:voHP6eV+0
側近「くせぇ、くせええぇぇ!!」ゴロゴロゴロゴロ

魔王「き、貴様! この俺に何たる暴言を……」

北のドラゴン「ま、魔王ひゃま……」プルプル

魔王「何だ……ってどうした、鼻に詰め物なんかして」

西の悪魔「詰め物しても……駄目だオゲエエェッ!!」ゲロゲロ

東の妖姫「イヤ! 匂いがうつる!!」ダッ

南の地蔵「わしゃもう駄目じゃ……」パタリ

魔王「………え?」

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/03(水) 19:05:39.18 ID:voHP6eV+0
>それで


魔王「配下が皆城を去って、はや一週間……」

魔王「500年分の垢が溜まったのかと思って体を擦り切れる程洗ったが、体臭は改善されていないらしい」

魔王「たまに、俺の復活を聞きつけた襲撃者は来るが……」


勇者「な、何だこの悪臭は……!!」

魔法使い「勇者…私、これ以上進めない!!」

僧侶「大変です! 戦士さんが気絶しました!」

勇者「撤退だ撤退ィ!!」


魔王「……と、俺の所にたどり着いた者はいない」

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/03(水) 19:06:07.15 ID:voHP6eV+0
魔王「仕方ないので人間の大都市を襲いに行ってみたが……」


兵士A「オエエエェェッ!!」

兵士B「くっせ、くっせええぇぇ!!」

兵士C「何だよ、この悪臭!! 毒ガスだってもうちょっと鼻に優しいぞ!!」

王「魔王よ、降伏しよう。だからもうここには…オゲップ」

魔王「……」

魔王「帰る…」トボトボ

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/03(水) 19:06:37.43 ID:voHP6eV+0
魔王「戦う前に降伏されては、気持ちも萎えるというもの」

魔王「それに会う奴会う奴に臭いと言われて、流石に俺も傷つく」ズーン

魔王「悪臭のせいで味方も敵ももういない」

魔王「……むなしい」



こうして、1年が経過した。

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/03(水) 19:07:04.95 ID:voHP6eV+0



少女「はぁ、はぁ……」

<どこだー!! 出てこい!!

少女「うぅ、足が痛いよぅ…」グスッ

<こっちに足跡が!
<よし、こっちだ!!

少女「このままじゃ捕まっちゃう…どこか、隠れる場所は……」

少女「……あっ!」

少女「あれは……お城?」

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:53:44.33 ID:A+BNMxSZ0
>城内


少女「ふぅ、ふぅ……」

少女(廃城…なのかな? 誰もいないけど…)

少女(ホコリっぽい…でも、私がいた場所よりは綺麗かも)

<ガタッ

少女「っ!」ビクッ

少女(あの扉からだ…住んでる人、いるんだ……。って私、勝手に入ってきちゃった! どうしよう!!)

少女(と、とりあえず…挨拶しないと)

少女「すみません、お邪魔しまー……」ギー

「ふぅっ…ふぅっ……」

少女「っ!?」

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:54:25.66 ID:A+BNMxSZ0
魔王「28、29…30! フゥ…次回からウェイトを上げてもいいかもしれんな」

魔王「この1年、誰とも顔を合わさず、外にも出ず、やることがなくて延々と筋トレしていたが…」

魔王「あの細身が、大分サマ変わりしたものだな。フフフ……」ムキッ

魔王「この逞しい上腕二頭筋!  鋼鉄のような大胸筋! 6パックに割れた腹筋! 大黒柱のような安定感を誇る大腿四頭筋!」

魔王「フハハハ!! 美しき筋肉に俺自身が魅了されるッ!!」ビリビリビリ


少女「き、筋肉でシャツを破った!?」

魔王「!!!!」ビクウウウゥゥッ

少女「あっ」

魔王「ひ、ひ、ひ、人おおぉぉ!?」ガバッ

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:55:18.83 ID:A+BNMxSZ0
魔王「だ、だだだだ誰だ貴様はぁ!!」ガタガタ

少女「す、すみません! 勝手に入り込んじゃって、その、私……」

魔王「えぇい近寄るな! 貴様も言葉の刃で俺を傷つけるつもりだろう!!」ガタガタ

少女「えと…言葉の刃? ……はっ」

少女(この無人の城、『1年誰とも会ってない』という言葉。まさか……)

少女「……可哀想に」ホロリ

魔王「え?」

少女「貴方は人の悪意に触れて、傷つけられて、閉じこもってしまったのですね…。でも大丈夫、私は貴方を傷つけは……」

魔王「うわあああぁぁ、寄るな! 近寄……あれ?」

少女「どうしました?」

魔王「お前…俺の匂いが平気なのか?」

少女(匂い…? 筋トレしてたから汗の匂いが気になるのかな……?)

少女「匂いませんよ、大丈夫です」

魔王「そうか!!」ダッ

少女「わっ!?」

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:56:07.36 ID:A+BNMxSZ0
ダダダダ…

魔王(理由はわからんが、この1年で体臭が消えたようだ! ということは……)

魔王(ようやく外に出れる!!)



追っ手A「あの女はどこに行った。…気づけば、魔王城の前まで来てしまった」

追っ手B「なぁ…まさか、この城の中に逃げ込んだんじゃ……」

追っ手C「まさか。人を寄せ付けない、毒霧の城って話だぜ」

追っ手D「だよなー」ハハハ

ダダダ……

追っ手's「ん?」


魔王「外に出れるぞおおぉぉ――っ!!」

追っ手's「」

魔王「ん?」


追っ手A「ぐせえええぇぇぇ!! 何だこの、毒と汗が混ざったような悪臭は!!」

追っ手B「うぇろうぇろうぇろ」

追っ手C「目にきた…前が見えない!!」

追っ手D「もう、駄目……だ」パタッ

<キョエエエエェェェェ、ぎゃーぎゃー


魔王「」

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:56:37.09 ID:A+BNMxSZ0
魔王「ううぅ」グスッ

少女「あのぅ…そんなに気落ちしないで下さい」

魔王「黙れ! 変に期待を持たせやがって!!」

少女「ひいぃ! すみません!!」

魔王「俺の体臭が平気だなんて、お前肥溜めで生まれ育ったんじゃねぇの!? 名前はうん子だろ、ミスうん子!」

少女「流石にひどいですううぅぅ!!」

魔王「ハァ…俺はこのままここで、筋トレをして一生を終えるのか……」

少女「別に筋トレに固執する必要は…。でも、匂いが原因でこんな人里離れた場所で暮らしていらっしゃるんですか?」

魔王「ん? …お前、ここがどこだかわかっているか?」

少女「いえ…世間に疎いもので」

魔王「流石、肥溜めで育った奴は教養がないな」

少女「違いますぅ! 肥溜め出身じゃないですうぅ! びえええぇん!!」

魔王「肥溜めじゃなけりゃ、生ゴミ処理場か、ヘドロ沼か、運動部の更衣室か!? とにかく帰れ帰れ!」

少女「……うぅ」グスッ

魔王「何だ」

少女「帰る場所が、ないんです……」グスグス

魔王「え?」

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:57:06.50 ID:A+BNMxSZ0
少女「私…今追われてて、ここに逃げてきたんです……」グスグス

魔王「あ? 何だお前、犯罪者か?」

少女「ち、違います! 犯罪者なんかじゃ……」

魔王「しかし人間社会から弾かれた存在であるのは確かだな?」

少女「……ぐすっ」

魔王「同情はせんぞ。俺だって体臭が原因で弾かれた身だ。弾かれたなら弾かれたなりの生き方というものがある」

少女(さっきは泣いてたのに……)

魔王「弾かれた理由を見つめ直し、今後どうして生きていくかをだな……」

少女「ふえええぇぇぇん」グスグス

魔王「うわ、凄く面倒くさい」

少女「ぐすっ、悪かったですね、ぐすぐす」

魔王「…あー、わかったわかった。なら、この城を好きに使え」

少女「……え?」

魔王「俺1人で、この大きな城を持て余していたのだ。俺の体臭が原因で、追っ手も入って来れないだろう」

少女「い、いいんですか……?」

魔王「勝手にしろ。ただし、体臭が伝染ったとか文句を言うなよ」

少女「あ……行っちゃった」

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:57:47.58 ID:A+BNMxSZ0
>翌日


魔王「今日は有酸素運動の日だ。余分な脂肪を落として更に筋肉を……」

モヤモヤモヤ……

魔王「ん? 何だ、この焦げ臭い匂いは。厨房か?」



少女「~♪」

魔王「な、何だ、この充満した煙は!」

少女「あ、おはようございます。台所の食材、勝手に使わせて頂きました」

魔王「それより、何だその鍋の物体Xは! お前は魔女か、毒薬でも生成しているのか!?」

少女「いえ、朝ごはんです」

魔王「食えるようには見えないのだが……」

少女「食べられますよ」パクパク

魔王「……味は?」

少女「とてもマズイです」

魔王「何故平然と食う」

少女「お腹を満たしてくれる食べ物への礼儀です。ふぅ、ご馳走様」

魔王「うむ、食材を無駄にしないのは良い心がけだ」

少女「ところで、このお城を掃除したいので、掃除用具の場所教えて頂けますか?」

魔王「わかった」

16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/04(木) 18:58:24.15 ID:+W2KT+vtO
電車の中の臭いに耐えながら読んでるわ
ワキガは滅ぶべし

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:58:25.80 ID:A+BNMxSZ0
少女「ふぅ~」

少女(このお城は広くて、1日じゃ手が回らないなぁ。毎日掃除する必要がありそう)

少女(でも、自分のお仕事があるっていいなぁ♪ お城が綺麗になっていくのも、気持ちがいいし)

魔王「随分熱心だな」

少女「あ、魔王さん! 集中してたら、時間がたつのも忘れて……」

魔王「しかし詰めが甘いな。お前、あまり掃除したことないだろ」

少女「う゛」

魔王「まぁ俺は綺麗好きというわけでもない。無理のない程度にやれ」

少女「はい…あ、魔王さん、どこに行かれるんですか?」

魔王「食料を採りにな。中庭の畑で野菜を育てていて、あと食う為の家畜を育てている」

少女「ええぇ! 魔王ともあろう方が、そこまでやっているんですか!?」

魔王「配下が去ってしまった以上、そうも言っていられん。奴隷なりを働かせることも考えたが、体臭が原因で倒れるのは目に見えているしな」

少女「素直に感心します…。本当に、ちゃんと1人で生きていけるように適応したんですね」

魔王「現状を受け入れねば前に進めん。それにきちんと食わないと良質な筋肉は作れんからな!」

少女「強い方なんですね、魔王さんは……」

魔王(全く、この卑屈なネガティヴ女は……待てよ)

魔王「そうだ、お前も筋トレをやれ!」

少女「はい!?」


18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:59:18.24 ID:A+BNMxSZ0
魔王「筋トレはいいことだらけだぞ。アドレナリンが脳に回れば、ネガティヴな気持ちも吹っ飛ぶ」

少女「た、確かに運動はいいと聞きますが……」

魔王「それに運動した後の飯は美味いし、夜もぐっすり眠れる!!」

少女「それは確かにいいですねぇ」

魔王「そして! 筋肉がつけば自信もつく! お前は貧相な体しているから心も貧相なのだ!」

少女「うぐ。でも、私は運動音痴だし……」

魔王「筋トレに運動神経は必要ないぞ。貧相ならば軽いウェイトから始めればいいのだからな」

少女「そうなんですか? けど、とても気の長い話です……」

魔王「大丈夫だ。基本通りにやっていけば、3ヶ月で効果が現れてくる」

少女「そんなにすぐに!?」

魔王「どうだ。筋肉…欲しくなってこないか?」

少女「……欲しいです!」

魔王「よし! ならば筋トレ用具の説明からしよう! 来い!!」ハハハ

少女「はい!!」


こうして2人の筋トレ生活が始まった。

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:59:46.72 ID:A+BNMxSZ0
魔王「馬鹿者、いきなり重いウェイトでやるな! 10回の運動で限界がくる程度のウェイトでやれ!」

少女「は、はい!」


魔王「筋トレ後はストレッチをすることにより、後の疲れが軽減されるぞ!」

少女「はい…っ! イタタタ」


魔王「運動後は30分以内にプロテイン摂取だ。だがプロテインはあくまで栄養補助、飯でもしっかりタンパク質を摂れ!」

少女「はい……」グビグビ


魔王「筋肉は休んでいる間に作られる。筋トレ後は最低2日間は筋トレを休め。筋肉痛や疲労が残っている状態でトレーニングしたら、効率が悪いぞ!」

少女「はい!」


魔王「そして睡眠は……」

少女「8時間程度ですね!」

魔王「その通りだ! 今日はもう寝ろ!」

少女「はい! お休みなさい!!」

21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/04(木) 19:18:02.31 ID:2BVfjksfO
筋トレで体臭は改善されなかった模様

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:40:05.40 ID:oPOaqAAe0
>そんなこんなで3ヶ月後


少女「これが…私……?」

魔王「うむ。まだまだムキムキとは言えんが、まぁ貧弱さは抜けたな」

少女「凄い、本当に効果が現れるなんて! 私じゃないみたい!!」

魔王「どうだ、筋肉という鎧を纏った気分は?」

少女「最高です! 何か、自分は最強なんじゃないかって思えてくるくらいに!!」

魔王「はっはっは、馬鹿を言うな。お前以上の筋肉を纏った者は、この世に腐る程いるのだぞ」

少女「はい師匠! けど…自分がトレーニングをしてみると……」チラ

魔王「?」

少女「師匠の筋肉がいかに素晴らしいか、とてもよくわかります」ポッ

魔王「そうだろう、そうだろう! これぞ俺の筋トレの成果だっ!!」ムキッ

少女(無駄のない筋肉。真剣に取り組んだ証だわ……素敵)ドキドキ

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:40:35.35 ID:oPOaqAAe0
魔王「夕飯の親子丼だ! 鶏肉と卵で、タンパク質を摂取だ!」

少女「卵がとろとろで美味しいです~。師匠は何でもできますね」

魔王「本を読みながら勉強したからな。一人暮らしの賜物というものだ!」

少女「ご立派ですねぇ。私なんか煮物くらいしか作れなくて…」

魔王「そうだなぁ…。筋トレのコツも覚えたようだし、今度は飯作りでも教えてやろう」

少女「本当ですか!」

魔王「お前の作る物体Xは筋肉に良くない! この機会に、筋トレに活かせる栄養学も教えてやる!」

少女「お願いします、師匠!」

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:41:07.89 ID:oPOaqAAe0
>夜


少女「では師匠、お休みなさい」

魔王「あぁ、明日も頑張るぞ」


魔王(ここのところ、毎日が楽しい)

魔王(封印されていた間の500年は野望に燃えていたが…この1年間は、空虚を筋トレで埋めるだけの1年間だった)

魔王(しかし、あいつが来て変わった。あいつは俺を臭がらず、俺の教えを素直に吸収してくれる)

魔王(俺は戦いの中でしか生きられぬ者だと思っていたが――)

魔王(こういう日々も、悪くないものだな)

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:41:56.58 ID:oPOaqAAe0
>一方、某国の城


魔術師「陛下、あの娘の所在が掴めました」

皇帝「ほう。あの娘は今、どこに?」

魔術師「はい。魔王城…今は"毒霧の城"と呼ばれている、あの場所です」

皇帝「それはまた厄介な。あそこは侵入すら許さぬ、異臭がする猛毒が流れているという場所…大人数で攻めても無意味」

魔術師「しかも、その毒霧の正体は掴めておりません。鉄仮面等の装備も突破し、体を蝕むとか…」

皇帝「流石は魔王。自身は毒霧の中に身を置き、襲撃に対して完璧な備え。一筋縄ではいかない男よ」

魔術師「その城にあの娘が入れたということは…やはり、血筋でしょうか」

皇帝「あぁ、あの娘はやはり危険だ。もしあの娘が覚醒し、魔王と手を組んだら……」

魔術師「絶望的な話ですね」

皇帝「暗い顔をするな。既に対策は練ってある」

魔術師「対策…ですか?」

皇帝「先日、城より逃げ帰った勇者に、特別な改造を施している所だ――」

魔術師「特別な改造……?」

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:42:28.85 ID:oPOaqAAe0
>研究所


勇者「ぐああああぁぁぁ……」


魔術師「こ、これは……!!」

皇帝「クク…ガラス越しではわからないだろう。この勇者を閉じ込めている密閉した部屋、実は壁中に人糞を塗りたくっている」

魔術師「……」

皇帝「室内の気温と湿度を調整し、空気は梅雨時期に合わせた。悪臭の上、生ぬるく湿った空気というのはさぞ不快であろう……」

皇帝「部屋に出入りし給仕しているのは、先日捕えたオークだ。体を洗っていないから、汗と精液の匂いが染み付いているぞ」

皇帝「勇者に出す食事には微量の毒を混ぜている…。まぁ死に至る程ではない、せいぜい腹を下す程度だ」

皇帝「と言っても、同じ室内に設置してある汲み取り式のトイレは、さぞかし匂うだろうなぁ……!!」


勇者「ぐおおおぉぉぉぉぉぉ」


皇帝「どうだ、完璧なる勇者改造計画だ! ハハハハ、ハーッハッハッハッハ!!」

魔術師(皇帝陛下…恐ろしいお方だ)ブルブル

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:43:25.23 ID:oPOaqAAe0
>魔王城


少女「へぇ、包丁での皮むきってそうやるんですねぇ!! 器用ですね師匠!」

魔王「いや、お前この程度もできなかったのか……。ってことは物体Xには、皮付きの野菜を入れてたわけか?」

少女「ここに来る前は、皮ばかり食べてましたから」

魔王「だから貧相な体をしていたのか。まぁいい、練習してみろ」

少女「はい!」

魔王(詮索するのは好きでないから、こいつの素性は知らんが…それにしても、謎が多すぎる)

魔王(物の知らなさや、生活習慣、そして悪臭への耐性を見る感じ、下の階級の者だと想像はつくが)

魔王(しかし貧困層なら、馬車馬のように働いていたはず。にも関わらず、こいつは料理も掃除も不慣れな様子が見て取れる)

魔王(何一つできることがない、というのは生きていくのも一苦労だろうが……)

少女「師匠! 皮むきしました!」

魔王「不器用だな、皮が分厚いじゃないか」

少女「ごめんなさい…責任持って、その皮を食べますから」

魔王「いや、いい。豚の餌にするから無駄にはならん」

魔王(何だかんだで素直な奴だ。社会的には駄目な奴かもしれんが、側に置くにはこういう奴がいい)

魔王「少しずつ上達していけばいい」ポンッ

少女「!!」

魔王「俺も最初は下手くそだったからな。気持ちさえあれば、何とかなるものだ」

少女「…へへっ、師匠~」ニマー

魔王「声がたるんでいるぞ。そんな奴は、腹筋100回だ」

少女「申し訳ありません! 勘弁して下さい!」ピシッ

魔王「……フッ」

少女「ど、どうしました?」

魔王「いや……別に」ククク

少女「…? 変な師匠」

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:44:02.37 ID:oPOaqAAe0
>夜


魔王「こうして俺は竜の一族の長を倒し、そいつを四天王に迎え、魔王軍を大きくしていった」

少女「へーぇ」キラキラ

魔王「続きはまた明日だ。これでもまだ序盤だぞ」

少女「師匠って本当に凄い方だったんですね!」

魔王「過去の栄光だがな。知っての通り、今では現役を退いて筋トレするだけの日々を送っている」

少女「もったいないですよね~」

魔王「おかしなことを言うな。お前も人間側、魔王の敵だろう?」

少女「うーん…前にもお話した通り、世間に疎いもので……」

魔王「そうか。今はどのような時代なのか、話を聞く前に配下に去られたので、俺も全くわからんな」

少女「その配下の方々、元気にやっていらっしゃるんですかねぇ」

魔王「四天王も側近も野望を持った者たちだ。新たな魔王として君臨していても何ら不思議ではない」

少女「何か、寂しいですね」

魔王「いや、そんな奴らだからこそ俺と気が合ったのだ。俺の下を去って栄光を掴むのなら、喜ばしいことだ」

少女「師匠…」

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:45:47.62 ID:oPOaqAAe0
魔王「それより今はお前だ。『師匠の武勇伝聞かせて下さい』と言って、書物を渡すと『字があまり読めないんです』ときたものだ。こんなに手のかかる奴は初めてだ」

少女「ご、ごめんなさい。…でも」

魔王「何だ?」

少女「師匠の口から聞かせて頂く方が…師匠と過ごす時間が増えて、いいかなって」

魔王「……馬鹿かお前は」

少女「あ、あはは、馬鹿ですね~」

魔王「変な依存をしなくとも、互いに、他の者と会えぬ身だ。余裕を持て」

少女「そうですね~。…あ、そうだ!」

魔王「何だ?」

少女「師匠、字を教えて下さい! 自分で書物を読めるようにします!」

魔王「…話を聞かせてやるより、字を教える方が遥かに時間も労力もかかるな?」

少女「あ」

魔王「まぁ、良いだろう。お前ほどに不出来だと教え甲斐がある」

少女「むうぅ、反論できない~…」

魔王「お前が俺に反論しようなどと100年早い」

少女「100年経ったら死んじゃいますよ~」

魔王「そうか、お前にはわからん比喩だったか。『一生無理』ということだ」

少女「うわぁ~ん!」

魔王「クク、からかい甲斐のある奴だな、ククク」

少女「師匠の意地悪~っ!」

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:46:17.64 ID:oPOaqAAe0
今日はここまで。
前回書き忘れていましたが、魔王はプロテインを原材料から作っています。

36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/05(金) 19:01:46.01 ID:azWqIbczo
乙、流石魔王様
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/05(金) 19:29:56.21 ID:jcqugDvi0
乙です。
人間相手の比喩まで知ってるとはさすが魔王だな。

38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/05(金) 20:10:24.76 ID:CUUAV39PO
魔王△

39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/05(金) 22:15:56.71 ID:d/cZN+7OO
>>35
臭い以外は本当に優秀だな、臭い以外は

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 18:54:03.28 ID:cz/8kbpt0



魔王「さて、今日も筋トレの日だな」

魔王(不肖の弟子は、俺の教えを吸収し成長している。それが楽しくて仕方ない)

魔王(こういう毎日を過ごしていると、嘘のように思えてくるな。以前は戦闘狂だった自分が……)

魔王(戦闘狂が戦闘を奪われ、一時期は自暴自棄になった。だが心というのは案外強いもので、それならそれなりの生き方に順応する)

魔王「全く……人生というものはわからないもので……」


キュピーン


魔王「……っ!! これは、魔力反応!?」

少女「師匠、おはようござ……」

魔王「伏せろ!!」

少女「え?」


ドカアアァァン

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 18:54:44.67 ID:cz/8kbpt0
少女「ゲホ、ゲホッ」

魔王「大丈夫か?」

少女「は、はい…師匠、この爆発は……」

魔王「襲撃者、だな。城を破壊するなど……」


<ウォゲエエエェェェ


魔王「ん?」


魔法使いA「だから言ったじゃねぇか! 城に穴を空けたら、毒ガスが漏れ……オゲエェェッ」

魔法使いB「射程範囲ギリギリまで距離取って、追い風なのに……ウオエエェェッ」

魔法使いC「撤退だ撤退ィ!!」


魔王「」

少女(あわわ…師匠の心にダメージが……)

魔王「フッ、ゴミ虫共が」

少女「師匠!?」

魔王「今更、ゴミ虫ごときの暴言に傷つく俺ではない! 自ら肥溜めに突っ込んで文句を垂れるな、ゴミ虫共が!!」

少女(師匠、強くなったのね! でも自分を肥溜めなんて、ひどい自虐です!)


勇者「貴様が魔王か……」

魔王「ん?」

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 18:55:14.71 ID:cz/8kbpt0
魔王「何だ、貴様は」

勇者「俺は勇者……お前を討つ者だ」

魔王「お前……まさか俺の体臭が平気なのか?」

勇者「いや、臭いは臭い。だが、毒物や臭いものには、ある程度の耐性がついた」

魔王「ほう、流石勇者を名乗るだけのことはある。お前のような者が現れるとは、人生とはわからんものだな」

少女「師匠……」

魔王「お前は下がっていろ」

少女「は、はい」


勇者「お前の実力は聞いているぞ、魔王。しかし俺も勇者として選ばれた身、お前に勝つ!」

<頑張れ勇者様 ウオオオォォォ

魔王「ほう、大層な人気ぶりだな」

勇者「勇者だからな」

<(ここで魔王を倒してくれないと…増員の為、俺らまであの悪臭実験室に放り込まれる!!)

魔王「そうか。ならば来い、勇――」


――ドゴッ


魔王「――っ!?」

少女「師匠っ!?」

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 18:55:59.66 ID:cz/8kbpt0
勇者「どうしたァ、動きが鈍いぞ魔王ォ!!」シュッシュッ

魔王「がハァッ……」ドサッ


魔王(目で追えているのに、体が追いつかない……どういうことだ)

魔王「はっ!」

魔王(俺がこの1年で身につけた筋肉は戦闘ではなく、観賞用に特化している…つまり)

魔王(筋肉のせいで、俺の動きが鈍ったというのか!?)


勇者「どうしたァ、その筋肉は見掛け倒しかァ!」

魔王(全くもってその通りだ!!)


ズバッ


魔王「ぐっ……」

47 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 18:56:35.85 ID:cz/8kbpt0
魔王「こうなれば……魔界への扉よ、今開け!」

勇者「!! まさか、魔法か!」

魔王「その通り! 魔界への扉を開き、邪神の力を借り、魔法を発動させる! 塵となるがいい、勇者よ!!」

勇者「くっ……」ガバッ

魔王「防御姿勢など無駄だァ! 喰らえ、"灼熱の業火"!!」


シーン……


魔王「……」

勇者「……」

魔王「おい、邪神……」


邪神「扉開けないで! 匂いがこっちに来る!」


魔王「待て、邪神なら匂いも何とかしてみせろ! おい!!」

勇者「オラァ!」ズバッ

魔王「カハァ!!」

48 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 18:57:03.07 ID:cz/8kbpt0
ゴンッ

勇者「いでっ!!」

魔王「……っ!?」


少女「し、師匠を、傷つけないでっ!」

魔王「馬鹿お前…下がっていろと言ったろう!」

少女「見ていられません…! 師匠が、師匠が傷つけられるなんて!」

魔王「お前に何ができる! お前のような、か弱い小娘に!!」

<(その女が投げて勇者の頭にクリーンヒットしたの、ダンベルなんですが)


勇者「く…。小娘、やはり魔王と手を組んでいたのか」フラフラ

少女「きゃっ、起きた!」

魔王「…? 『やはり』とは……」

勇者「しかしまだ、"覚醒"はしていない様子だなァ!!」

少女「えっ……?」

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 18:57:32.23 ID:cz/8kbpt0
魔王「覚醒…? 何のことだ?」

勇者「そうか、お前たちは知らないか……。だが教えてやる義理もない、俺は任務を全うするのみ!!」バッ

少女「ひっ」

魔王「こいつに手を出すな!」バッ

勇者「ならばお前から死ねえぇ――っ!!」バキィ

魔王「カハッ!!」

少女「し、師匠!!」

少女(このままじゃ、師匠が……!!)


?『困っているようですね、私の愛しき血族よ』


少女「……え?」

50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 18:58:13.51 ID:cz/8kbpt0
少女「だ、誰……? 声はするけど姿が……」キョロキョロ

?『私は、既に朽ちた身。しかし魂だけは、子孫である貴方の側におります』

少女「私のご先祖様……?」

?『はい――名は、大賢者と申します』

少女「大賢者……!? それって確か、師匠を封印したという……!!」

大賢者『はい、かつてあの魔王を封じた、大賢者です』

少女「私のご先祖様は大賢者……? でも、そしたらどうして私は……」

大賢者『説明している時間はありません』

少女「そ、そうだ、師匠!」


魔王「ぐっ……」

勇者「はん、頑丈だな。防御力だけは優秀な筋肉だな」


少女「きゃっ、師匠が殺されちゃう! またダンベルを……」ヒョイッ

大賢者『それはよしなさい』

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 19:03:59.47 ID:cz/8kbpt0
大賢者『貴方には私の血が流れています。ですから、覚醒すれば魔王を助けることができます』

少女「覚醒…?」

大賢者『心を鎮めるのです。そうしたら、私が貴方の力を引き出しましょう』

少女「心を鎮めるって、どうやって……」

大賢者『何も余計なことを考えず、周囲の情報を遮断し……』

少女「そんな簡単に言われても……」

大賢者『貴方が最も心を静かにする時はいつですか?』

少女「心を静かに…あ、筋トレの3セット目です!」

大賢者『じゃあそれで』

少女「待って下さい、今急いでダンベルを上げ下げするので!」

大賢者『私の子孫に脳筋がいるとは予想外です』

53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/06(土) 19:28:48.31 ID:/WMcAnmao

筋肉欲しくなってきた

54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/06(土) 19:41:45.14 ID:Gc30pLlp0
乙です。
使う所が全く違うし付けすぎると重いからな、戦闘用の筋肉は闘争の中でのみ作られるってどこかの地上最強の生物が実践してたな。

57 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:29:20.31 ID:oVY1bby+0
大賢者『……私はかつて魔王を封印する際、保険として魔王に呪いをかけました。貴方の力で、呪いから魔王を解放して下さい……』

少女「……あの、ご先祖様」

大賢者『何でしょう』

少女「どうして師匠と戦った貴方が、師匠を助けてくれるんですか?」

大賢者『そうですね……500年経ち、あの時とは状況が違ってきましたからね』

少女「?」

大賢者『今は心を鎮めなさい。そして魔王に纏っている呪いの気を、取り払うのです』

少女「は、はい!」


カアァ――ッ


魔王「!!」

勇者「なっ!?」

少女「これは――」

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:29:49.28 ID:oVY1bby+0
勇者「毒霧が……消えた!?」

少女(そうか…ご先祖様の呪いって、師匠の体臭のことだったんだ!)

魔王「……」

勇者「……」


勇者「ハーッハッハッハ! これで息を思い切り吸って戦えるぞおぉ!!」

<毒霧が晴れたぞー!
<我々も続けー!


少女「ってええぇぇ、呪い解除したら逆効果じゃないのよおおぉぉ!!」


「魔王様……大変お待たせ致しました」


少女「……え?」

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:30:19.26 ID:oVY1bby+0
ブオッ

北のドラゴン「人間風情が、舐めた真似を」


バサッ

西の悪魔「ウケケ。頭数揃えてきたんだから、ちったぁ手応えあるんだろうなァ」


ヴァンッ

東の妖姫「数よりも質…。勇者を討った方の優勝、ということでよろしいかしら?」


ドンッ

南の地蔵「これこれ、張り合うでない。それよりも……」


スタッ

側近「魔王様を痛めつけたあの男に、いかに苦痛を与えるか……それが1番重要ですね」


魔王「側近、四天王!」

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:31:04.76 ID:oVY1bby+0
側近「この1年あまり、お側にいられず…申し訳ありません、魔王様」

魔王「それより、どうしてここに……」

側近「はい。我々、魔王様の体臭が届かぬ位置にて、ずっと魔王様を見守り続けておりました」

魔王「そ、そうだったのか……!!」


勇者「魔王の部下か……。蹴散らせえぇ!!」

魔法使い's「うおおおおぉぉぉ!!」


北のドラゴン「蹴散らされるのは貴様らだ、矮小なる人間どもが!!」ブォンッ

魔法使い's「ぎゃああぁぁ」

西の悪魔「所詮テメェら、モブだよなァ!!」ザシュッ

東の妖姫「この程度の魔力で私達を相手しようと? 笑えますわ」ゴオォ

南の地蔵「現代人は肉体が劣化したのぅ」ドスーン

<うわあああぁぁぁ
<ぐおおぉぉぉ

勇者「つ、強い……!!」

側近「おっと、他人事ではありませんよ」パキポキ

勇者「!!」

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:32:07.32 ID:oVY1bby+0
側近「よくも魔王様をおおぉぉ!! その身をもって償うが良い!!」

勇者「くっ、せめて魔王だけでも……」ダッ

魔王「!」

側近「しまった! おのれ、足払いっ!」バッ

勇者「おっと!」ピョン

側近「くっ、かわされた!」

勇者「喰らえ魔王――」

ガシッ

勇者「……え?」

側近「おぉ! 勇者をキャッチした!」

魔王「攻撃の軌道が読みやすい、上空から仕掛けてきたのが失敗だったな……おらあああぁぁ!!」ブォン

勇者「うわああぁ!?」

側近「勇者を持ち上げた!?」

少女「あれはショルダープレスの構え!」

魔王「そして必殺のォ……」ゴオオォォ

勇者「!!!」

魔王「牛殺し――ッ!!」ガンッ

勇者「カハッ……」

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:32:36.83 ID:oVY1bby+0
補足

ショルダープレスとは:ダンベルなど重いものを持ち上げて、肩を鍛えるトレーニング

牛殺しとは:相手を持ち上げて、片膝に当てるように落とす技


63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:33:16.25 ID:oVY1bby+0
勇者「」ピクピク

北のドラゴン「やりましたな、魔王様」

西の悪魔「ちぇー。ピンチだったくせに、結局いいとこ持っていくんだから」

東の妖姫「良いではありませんの。それでこそ、私どもの王ですわ」

南の地蔵「無計画な筋肉の付け方をしたのは、少々頂けませんがな」

魔王「もう戦いに戻ることはないと思っていたからな、大目に見ろ。というか、お前……」

少女「は、はい」

魔王「俺の体臭を消したのはお前か。一体、どうやったんだ?」

少女「あのぅ……わ、私もさっき知ったんですけど……」

魔王「?」

少女「私、その…師匠を封印した、大賢者の子孫みたいで」

魔王「大賢者の……お前が?」

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:34:17.48 ID:oVY1bby+0
少女「さっき、ご先祖様の声が聞こえたんです! それで私の力を解放し、師匠にかけた体臭の呪いを解いて……」

西の悪魔「あの体臭は呪いだったのかよ。だよなァ、じゃねぇとあんな、ひっでぇ匂い……」

東の妖姫「シッ!!」

北のドラゴン「何でそんな呪いをかけたんだよ……」

南の地蔵「魔王様を孤立させる為じゃろ。事実、呪いは効果的じゃったしのう」

魔王「なるほど、子孫なら俺にかかっていた呪いを解いたのも合点がいく。……しかし、疑問が沸くな」

少女「はい……私もです」

魔王(魔王を封じた大賢者となれば、英雄として崇められていたはず。その大賢者の子孫が、あんな貧相な身なりで、しかも追われていたなど……)

側近「魔王様。大賢者の子孫の扱いは、魔王様が想像しているものと違うのですよ」

魔王「どういうことだ」

側近「権力者達は恐れたのですよ…大賢者の持つ力、そしてカリスマ性を」

魔王「恐れた、だと……?」

側近「そう。400年前ですかな――時の皇帝が、大賢者の子孫である一族を、まとめて牢獄に投じたのは」

魔王「!?」

少女「……」

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:34:57.56 ID:oVY1bby+0
少女「私は牢獄で生まれ、牢獄で育ちました……」

魔王「何だと……」

少女「私の両親も、またその両親も…同じく、牢獄で生まれ育ちました。その理由は、ご先祖様が罪を犯したからだと聞かされてきましたが……」

側近「その罪というのも、勿論濡れ衣ですが……」

魔王「馬鹿な! それに牢獄の中で子孫を繁栄させるなど……」

側近「何が大賢者の子孫の力を解放するきっかけになるかわかりませんからね。恐らく投獄するだけで精一杯で、なるべく刺激を与えぬようにしていたのかと……」

魔王「ふん。大それたことをする割に小心者だな」

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:35:43.47 ID:oVY1bby+0
魔王「お前、牢獄からどうやって脱したのだ?」

少女「同じく投獄されていた方々が、抜け穴を掘っていたんです。そして囚人の中で1番歳の若い私が逃げろ、と……」

魔王「ふむ…それで追われて、俺の城にやってきたというわけだな?」

北のドラゴン「呪いをかけられた魔王様の体臭が平気だったのは、血筋のお陰か」

南の地蔵「先祖のかけた呪いじゃからのぅ」

少女「うぅーん……」

魔王「何だ?」

少女「わからないですねー。牢獄の環境も悪かったので、鼻がすっかり悪臭に慣れていたのかも!」

魔王「お前まで悪臭とか言うな」

少女「わわっ、すみません!」

魔王「まぁ、結果としては良かったのだろう」

少女「え?」

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:36:12.85 ID:oVY1bby+0
魔王「もしかしたら俺とお前が会ったのは、大賢者の導きかもしれんな。奴は俺に、子孫を救って欲しかったのかもしれん」

少女「そうなのでしょうか……。だとしたら魔王様には多大な迷惑を……!!」

魔王「俺がお前を迷惑だと言ったか?」

少女「え……っ」

魔王「そりゃ確かにお前は教養はないし、品もないし、とにかく手のかかる奴だった」

少女「うぅ」

魔王「だからこそ、退屈せずに済んだ。俺はお前に感謝している」

少女「感謝……?」

魔王「そう。嫌な顔をせず俺の側にいてくれたこと。俺に充実した時間をくれたこと。そして――野蛮人だった俺に、穏やかな気持ちを教えてくれたこと」

少女「師匠……」

側近「ちょっ」

68 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:36:55.72 ID:oVY1bby+0
側近「ま、ま、魔王様、穏やかって……」

魔王「側近、四天王。約1年もの間、気苦労をかけたな」

側近「それは、また魔王様と暴れる日を望んで……」

魔王「だが俺はもう、昔のような野蛮人ではない。お前たちと離れている時間は、俺を変えた」

側近「なっ!?」

北のドラゴン(そりゃまぁ、悪臭から逃げた部下なんか愛想つかすよなー……)

西の悪魔(戦闘狂だったのが戦えなくなってたんだから、変わりもするよな)

東の妖姫(牙の抜けた魔王様……500年前じゃ考えられませんわ)

南の地蔵(魔王様は本格的に引退かのう)

側近(そんな、魔王様……)ブルブル

魔王「俺の脳みそは考える力を身につけた。そして、これからの指針は――」

側近(聞きたくない……!!)ギュッ

魔王「――世界征服だ」

側近「……っ!!?」

69 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:38:10.16 ID:oVY1bby+0
魔王「大賢者は、この俺を封じた有能なる者。その者に敬意も払えぬ人間の権力者などに、世界を牛耳る権利などない」

魔王「それに不肖の弟子が迫害される世の中というのも、俺は気に食わん」

少女「師匠……」

魔王「俺は人間の権力者どもを倒し、この世界を手に入れる」

側近(魔王様……!!)

魔王「久々の大暴れだ。俺に賛同する者は、ついてこい」

南の地蔵「……ふっ。魔王様はやはり魔王様じゃ」

北のドラゴン「そんなの、答えは決まっています」

東の妖姫「そういう貴方だからこそ、私達はお慕いしておりますのよ」

西の悪魔「ついていくに決まってんだろォ、魔王サマぁ!!」

魔王「期待しているぞ、四天王」

側近「私もです! 側にいさせて下さい、魔王様!」

魔王「頼もしいな、側近」

少女「し、師匠……わ、私も……」

魔王「ん?」

70 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:38:53.70 ID:oVY1bby+0
少女「さっき、大賢者の力に目覚めてから……体に力がみなぎってくるんです」

魔王(…確かに、今まで感じなかった魔力の波動を感じる)

少女「師匠、魔法の使い方を教えて下さい! そして私、師匠と共に戦いたいです!」

魔王「お前が……俺と?」

少女「はい。きっと理不尽な目に合っているのは私だけじゃない…私は、そういう人たちを助けたいんです」

魔王「……やれやれ。教えることが、また増えたな」

少女「え……じゃあ、師匠!!」

魔王「いいだろう、魔法の使い方を教えてやる。俺はお前の、師匠だからな」

少女「やったぁ! 私、頑張ります!!」


東の妖姫「大賢者の子孫ですもの。あの子きっと、強くなるでしょうねぇ」

西の悪魔「ケケッ、俺らなんて抜かしちまうかもしれないなァ!」

側近「ま、負けるものか……!」ゴゴゴ

北のドラゴン「何の対抗心だ、何の」

南の地蔵「ほっほっほ。若いのは羨ましいのう」

71 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:40:13.69 ID:oVY1bby+0
魔王「ではまず手始めに、勇者のいた国から制圧するか。さぁ、行くぞ!」

東の妖姫「いっ、今からですか!?」

魔王「当たり前だ。俺自ら、奴らに勇者の敗北を報せてやろう!!」

西の悪魔「作戦とか無いんスか」

魔王「ない!! 力押しで何とかしろ!!」

南の地蔵「おやおや、これまた強引な。魔王様、ご自分が弱体化していることをお忘れですか?」

魔王「勇者以下の者と戦うなら、レベルダウンした位の方が楽しめる。勘は戦いながら取り戻せば良い。背中に乗せろドラゴン!!」

北のドラゴン「はいはい。全く、どこが穏やかになったんだか」

側近(いや…ただ大暴れするだけだった魔王様が、暴れる理由と目的を手に入れた。理由と目的があれば、暴れる意思は更に強くなる!)


魔王「おい、お前も行くぞ」

少女「い、今の私が行って、足を引っ張りませんか!?」

魔王「心配か? なら思う存分に足を引っ張れ。逆境を覆すのも面白い」グイッ

少女「きゃっ…し、師匠……」ドキドキ

72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:40:45.61 ID:oVY1bby+0
側近「聞こえますか、魔王様。各地に散り散りになっていた魔物達が、魔王様の臭気が消えたことを感知し、集まってきています」

魔王「懐かしい感覚だ。今日が俺の、魔王としての復活記念日だな」

少女「魔王としての……」

魔王「どうした、不安そうな顔をして」

少女「いえ。師匠が魔王として活躍するのは喜ばしいことですが…何だか、穏やかな日々がなくなってしまうのかと思って……」

魔王「心配するな。しばらくはドタバタするかもしれないが、すぐに手に入れてやる」

少女「手に入れる……何をですか?」

魔王「世界を征服した先に手に入れる――本当の意味で、お前が穏やかに過ごせる時間だ」

少女「師匠……はいっ!!」


魔王「行くぞ、者共! 欲しいものは全て、己の手で勝ち取るのだ!!」

ワアアァァ……


Fin

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:41:25.59 ID:oVY1bby+0
ご読了ありがとうございました。
決して打ち切りではなく、魔王の体臭が消えたので、ここでキリがいいかなと思いました。

74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/07(日) 18:13:16.25 ID:jZSrQuaMO

笑いながら読んでたわ

75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/07(日) 18:21:52.43 ID:0VT9FFjXO
乙です。
この後は蛇足か……。

76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/07(日) 18:24:47.99 ID:9CX2Ha6Wo
乙乙、面白かった


posted by ぽんざれす at 18:41| Comment(4) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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