2015年09月04日

勇者の娘「お父様の仇を討ちます」(1/2)

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1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/20(木) 21:24:20.53 ID:cSJEM5KH0
自分の運命を自分で決める余地は無かった。
勇者一族の末裔なら勇者に。誰もがそれに疑いを持たない。
人々が自分にそれを期待しているというのに、どうして反発できようか。
こうして私は流されるまま、勇者となる運命をごく自然に受け入れていた。

しかし――

「貧相な人間の小娘だな。こんなのが勇者だと?」
「その一族に生まれただけの小娘に過ぎん」
「その血筋だというだけの者に希望を抱くとは、だから人間は頭が悪くて嫌いなのだ」

敵から浴びせられた嘲笑が私の頭の中で渦巻いていた。
彼らの言うことこそが正論。私は一族に生まれただけの小娘。
しかし、その心無い言葉と現状に、初めて私は決意した。


本当の勇者になってやろう、と――



2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/20(木) 21:24:56.21 ID:cSJEM5KH0
つい先ほどのことだった。私の家が魔物達からの襲撃に遭ったのは。
20年前に魔王が破られ、それなりに平和になった現代において、その襲撃は晴天の霹靂だった。
稼業である魔物退治を済ませ家に戻る道中、家から火の手が上がっていたのを遠目から発見したことを覚えている。

令嬢「まさか魔物の襲来…!?お父様っ!」

従者「お待ち下さいお嬢様!」

私は従者の言葉を耳に入れず、一目散に家に駆けていった。今思えば、これが浅はかだった。
既に戦闘の跡でボロボロになった屋内では、警備兵達が倒れていた。

お父様は――とその時、大広間の方から戦闘音が聞こえてきた。
お父様に違いない、そう思って迷わず大広間へ駆けた。20年前魔王を倒した英雄であるあの豪快な父ならば、どんな敵にでも負けないだろう。そう、思っていた。

だが。

令嬢「…っ!」

大広間の扉を開けた瞬間私が目にしたのは、信じられない光景だった。

父「が…っ」

?「…ふっ」




私が見たのは、魔族の爪に胸を貫かれた父だった。



令嬢「あ、あ…」

?「…勇者の娘か?」

そう言ったと同時、魔族は父を床に投げ捨てた。
魔族と、魔族を囲んでいた4名の魔物は一斉にこちらを向く。

とても勝てる相手じゃない――本能的にそう思った。だが同時に思った。きっと逃げ切ることもできない。
ならばどうするか。勇者らしくあれ、そう教育を受けてきた私に迷いはなかった。

令嬢「許さなっ――」

駆け出したと同時、上から衝撃があり、私は地面に組み伏せられる。
何事かと振り返ると、黒い鎧を纏った何者かが私を組み敷いていた。

?「余計な手出しを、暗黒騎士」

暗黒騎士「このような小娘、貴方の手を煩わせる必要もない」

令嬢「…貴方達、何者?」

勇者たるもの、常に堂々とあれ。そう教わってきた私は今の状況にも関わらず、なるべく冷静を装って言った。
そんな様子が滑稽なのか、魔族は私の問いに鼻で笑って答えた。

?「まぁいい、答えてやろう――



我は魔王。20年前討ち滅ぼされた魔王に代わり、魔物を統べる者だ」



しばらく理解ができなかった。

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/20(木) 21:25:42.11 ID:cSJEM5KH0



魔王「出だしは順調だ。英雄たる勇者を討たれ、人間達は絶望しただろう」

呪術師「でしょうねぇ…ヒヒヒ、人間達が我らに降伏するのも時間の問題…」

悪魔「しかし中央国の王子も勇者に劣らぬ剣の使い手と聞く。くれぐれも油断せぬよう」

翼人「誰にものを言っている。魔王様が油断なさるはずがない」

猫男爵「ともあれ今日の作戦は大成功だな」


令嬢「…」

私は捕まり、魔王城へ連れてこられた。我が家を襲撃した魔物達が、私の目の前で父の敗北を嬉々として語っている。
屈辱だ。けれど自分を落ち着かせ、表情を固くする。どんなに悔しくても、それを表には出したくない。

暗黒騎士「失礼します」

と、先ほど私を組み伏せた暗黒騎士が遅れてやってきた。

猫男爵「ご苦労暗黒騎士。さて、幹部が揃ったな」

呪術師「ヒヒ魔王様、例の件ですが…」

魔王「あぁ褒美の件だろう、忘れてはいない。勇者の邸宅から持ち帰ったものを好きに山分けするといい」

魔王がそう言ったタイミングで、下級の魔物が我が家から持ち帰った財産の数々を持ち込んできた。
怒りが収まらない。財産を山分けしている魔物達を見て、大事な思い出を汚された気分になった。

翼人「ところで魔王様」

翼を生やした人型の魔物は、ふと、私の方を見た。

翼人「勇者の一族に生まれた者は、勇者となるようですが――」

その言葉と同時に視線が私に集中した。


悪魔「貧相な人間の小娘だな。こんなのが勇者だと?」

呪術師「その一族に生まれただけの小娘に過ぎん」

猫男爵「その血筋だというだけの者に希望を抱くとは、だから人間は頭が悪くて嫌いなのだ」

次々に侮蔑の言葉を浴びせられる。
屈辱と恐怖で気が狂いそうだ。表面的に装っている平静はいつ崩れるか、時間の問題だ。
そして私の恐怖は、次の瞬間頂点に達した。

呪術師「だが、見た目は上玉な娘だ」

ぞわりと悪寒が走る。
わざわざ生かしておいたということは、やはりそういうことか――私は表情が歪むのを必死に堪える。

呪術師「ヒヒヒ…」

その目つきがおぞましい。
もしそいつが少しでも私に触れようものなら自害してやろう。きっと抵抗も、逃げることもできない。私は決意し、懐の小刀を見えないように握り締めた。

暗黒騎士「待て」

だが私に近寄ろうとする呪術師の肩を、暗黒騎士が止めた。

呪術師「何だ暗黒騎士?お前も混ざるか?」

暗黒騎士「褒美の件だが――俺はその娘を貰う」




令嬢「…………え?」

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/20(木) 21:26:15.03 ID:cSJEM5KH0
悪魔「ハハハ!本気か暗黒騎士!」

呪術師「暗黒騎士、あの小娘を独り占めしたいのか?」

猫男爵「まぁ暗黒騎士は今回ほとんど貢献していないから、それで十分かもしれんな」

暗黒騎士「あぁ。そいつを貰えれば後は何もいらん」

翼人「相当な入れ込みようだな。一目惚れでもしたのか」

魔王「堅物の暗黒騎士が女を欲しがるとはな!勇者一族の生き残りが魔王軍幹部の側室になるとは、面白い状況ではないか…!」

魔物達は大笑いしたり、怪訝そうにしたりと各々違う反応を見せた。
私はというと、状況が飲み込めないでいる。

悪魔「確かに面白い…」

悪魔は私ではなく、暗黒騎士を嘲笑するように見た。

悪魔「卑しい元人間のお前には、貧相な小娘がお似合いだ」

暗黒騎士「…」

令嬢「…?」

私はというと暗黒騎士が元人間という事実より、暗黒騎士を見る魔物達の、蔑むような視線が気になっていた。

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/20(木) 21:26:44.20 ID:cSJEM5KH0
令嬢「…」

あれから無言のまま暗黒騎士の部屋に案内された。最奥の小ぢんまりとした一室に通され、逃げることは不可能そうだ。
さて、どうするか。先ほど暗黒騎士が兜を脱いだが、人間と言われても違和感ない、少なくとも他の幹部に比べるとずっと生理的に受け付けられる(むしろ人によっては美形にも見えそうな)顔立ちをしていた。だからといってこのまま彼の側室になるのは嫌だし、かといって簡単に自害するのも躊躇われた。

とすると、もうこれしかない――

暗黒騎士「おい――」

暗黒騎士が部屋のドアを開けた。と同時。

暗黒騎士「…何のつもりだ?」

令嬢「動かないで」

ドアのすぐ側で構えていた私はすぐに暗黒騎士の背後に回り、その首に小刀を突きつけた。

令嬢「剣を捨てて。早く」

暗黒騎士「…」

暗黒騎士は言われるまま、剣を床に落とした。
よし――しかし、油断したのが良くなかった。

暗黒騎士「…」ビュン

令嬢「あっ!?」

唐突な手刀が私の手首を打つ。そして私は、小刀を落としてしまった。

令嬢「…」

暗黒騎士「何か言うことは?」

令嬢「許して頂けないかしら?」

ふてぶてしく言ってみせると、暗黒騎士はふっと静かに笑った。

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/20(木) 21:27:12.83 ID:cSJEM5KH0
暗黒騎士「面白い奴だな。何を許せって?」

令嬢「お忘れなら、忘れたままでいて下さい」

暗黒騎士はまた可笑しそうに吹き出す。しかし冷静を装う反面、私は焦っていた。これで自害もできなくなった。しかしこのまま彼に組み敷かれるというのは、どうしても受け入れがたい。

暗黒騎士「おい」

令嬢「!」

暗黒騎士が振り返り、私は壁に追い詰められた。逃げ場はない。

令嬢「デリカシーの欠片も感じませんね」

暗黒騎士「残念ながら俺は育ちが悪くてな」

令嬢「それで?これからどうする気…?」

高圧的な態度は精一杯の抵抗。それで状況が覆せるわけじゃないが、怯えを見せるよりはずっとマシ。

暗黒騎士「肝が座っているな。流石は勇者の末裔か」

暗黒騎士は顔をゆっくり近づけてきた。
あぁ駄目だ。やはり決心がつかない。せめて最後の抵抗で、思い切り蹴り上げてやろうか。
恐怖でガッチガチの私に気づいているのかどうか、暗黒騎士は小さく呟いた。



暗黒騎士「協力しろ――魔王を討つ」



令嬢「―――――!?」


予想外の言葉に、私は何も反応できずにいた。


11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/21(金) 22:08:30.93 ID:kJl2AN3m0
翌日の朝食会。他の幹部方が食卓を囲む中、私も暗黒騎士と共に席についた。

翼人「2人共、並ぶと見栄えはいいじゃないか」

暗黒騎士「どうも」

朝食会と聞き、それ相応に身なりを整えてきた。こういう場でみすぼらしい格好で来れば、ますます馬鹿にされるだけ。
常に好奇の視線が寄せられていると意識しながらも、私は食事を進めていた。

猫男爵「私には人型の美的感覚はわからんな」

呪術師「愛玩するにはなかなかの逸材ってとこだ、ヒヒヒ」

悪魔「フン、だが態度がふてぶてしくて可愛げがないな」

皆好き勝手に物を言う。好きにすればいい、私はここでは弱い立場だ。何を言われても仕方ない。
だけれども。

悪魔「本当にこんな小娘で良かったのか、暗黒騎士」

暗黒騎士「あぁ、後悔はしていない」

猫男爵「どういう所が気に入ったのだ?」

暗黒騎士「言葉では説明できんな」

冷やかし混じりに質問されているというのに、暗黒騎士は談笑するように愛想よく答える。
いちいちカッとなるよりは余裕があるけども、ただの八方美人にも見える。

勇者(これで、本心では魔王や幹部達を殺そうと考えているというのだから…)


私は、昨夜のことを思い出していた。

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/21(金) 22:09:02.55 ID:kJl2AN3m0
暗黒騎士「協力しろ――魔王を討つ」


―――何を言っているの?

魔王を討つ?それは上等。
協力しろ?勇者一族として当然。
だけど何故貴方がそんなことを言うのか。さっきまで魔王に頭を下げていた男が。

令嬢「理解ができないのですけれど?」

暗黒騎士「だろうな」

私の反応を予想できていたというのに、理解できない言葉を発したと言うのか。ますます訳のわからない男だと思う。

暗黒騎士「説明するには、俺の過去から話す必要があるのだが――」

令嬢「長い話なら、聞きませんよ」

暗黒騎士「なら短くまとめよう。さっき誰かが言ってたように俺は元人間だ。人間の頃魔王に殺されかけ、奴に忠誠を誓う代わりに命拾いをした。だが心の中では、まだ奴への復讐心が残っている」

令嬢「殺されかけた理由は?」

暗黒騎士「当時俺は魔物退治を生業としていた。仕事上の標的が魔王だったのが運の尽きだったわけだ」

令嬢「意外性が無くて平凡な話ですね」

暗黒騎士「同情してくれないのか?俺は被害者だ」

令嬢「無力化した女を壁際に追い詰めるような殿方に持ち合わせる同情心はありません」

そう言うと暗黒騎士はふっと笑いながら私から離れる。彼にとってはおふざけだったのだろう。こっちからすれば冗談ではないが。

暗黒騎士「俺に魔王は討てない」

暗黒騎士は自嘲気味に言った。

令嬢「貴方、自分の不甲斐なさを暴露するつもり?」

暗黒騎士「勇者でないと討てないんだ」

令嬢「どういう事かしら?」

暗黒騎士「魔王は、不死の肉体を持っている」

令嬢「―――!」


それだけで、彼の意図が私にはわかった。

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/21(金) 22:09:37.20 ID:kJl2AN3m0
意識を朝食会に戻す。暗黒騎士は相変わらず皮肉をおどけた笑顔で返している。それにしてもまあ、皮肉を言う方も、よくも飽きないものだ。

魔王「しかし、人間達の間では大騒動になっているようだぞ」

何の話の脈絡か、魔王が突然そう言い出した。

呪術師「そうでしょうね、先代魔王を倒した勇者が討たれ、その一人娘も我らの手に落ちたとなれば」

翼人「人間達は希望を奪われたも同然か…」

令嬢「…」

抗議したい気持ちをぐっと抑え込む。
手に落ちた?何、勝手なことを。私はまだ、諦めてはいない。

それと、人間達の大騒動の詳細が気になった。頼れる勇者がいなくなったことで奮起するか、それとも絶望するか――どうなるのかは読めない。

悪魔「暗黒騎士、その小娘をしっかり飼い慣らしておけよ」

えぇいうるさい。

暗黒騎士「難しいことを言うんだな」

同調しなかったことは評価してあげましょう。

猫男爵「卑しい元人間には相応しい任務じゃないか」

猫の分際で何を言う。

呪術師「女は何だかんだで、見た目のいい男に弱いしな」

貴方の見た目が1番きついのだけれど。

魔王「まぁ暗黒騎士にとっては初めての女だ!皆暖かく見守ってやれ、こいつが女を扱うのは赤子が猛獣を扱うようなもの…」


ダンッ!!


幹部達「!?」


あぁもう我慢の限界。
私は飲み物の入ったグラスを思い切りテーブルに叩きつけた。
その場の視線が私に集中したのを確認し、私は静寂の中言った。

令嬢「いい加減にして下さい。これ以上私の夫を侮辱するのは、許しませんよ」

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/21(金) 22:10:06.35 ID:kJl2AN3m0
しばらくの沈黙。
その後、誰かがふっと噴き出した。

悪魔「これはこれは!もう勇者を惚れさせたのか、やるな暗黒騎士!」

令嬢「見当違いですね」

高飛車に鼻で笑ってみせる。

令嬢「仮にも勇者の夫を侮辱するなど、魔物には常識を1から教える必要があるようですね」

翼人「ほほう」

猫男爵「…頭の悪い娘だ。我々の敵である勇者に敬意など持ち合わせるわけがない」

令嬢「私は魔王に敬意を持ち合わせていますわ――敵として」

場の空気が緊張する。
特に魔王、口元は笑みを浮かべているが警戒心が一気に強まった。この切り替わりの早さは流石だ。
周囲から感じる敵意に、私は危険を感じ取っていた。

だけれど私は、あくまで温和に、魔王に微笑んでみせた。

令嬢「ご馳走様でした、大変良いお食事でした」

そして私は緊張感漂う食堂で空気を読まずに堂々とした振る舞いのまま、その場から立ち去った。



翼人「…面白いな暗黒騎士、お前の妻は」

暗黒騎士(まさか、そうくるとは――)

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/21(金) 22:10:37.51 ID:kJl2AN3m0
囚われの身の現状、あの侮蔑の視線と言葉が今の私に対する正当な扱いだ。
しかし心まで折れたら負け。あんなものに押しつぶされないよう、心を厳重に武装する。

私は今まで、勇者となる運命を何となく受け入れていた。
だけれど今は今までとは違う。もう私しかいない。私が折れたら代わりはいない。


強く決意する。私は勇者となり、必ず魔王を討ち取ってみせる――


暗黒騎士「…意外と大胆なのだな」

令嬢「ちょっとこちらへ来て」

暗黒騎士「?」

無防備に近づいてきた暗黒騎士に、手を張り上げ…

――バチイイィィン

暗黒騎士「!?」

令嬢「仮にも勇者の夫が侮辱されてへらへら笑いなんて、私は許しませんよ」

私はそう言うと踵を返し、彼を置いて行った。

暗黒騎士「…あまり下手なことはするなよ」

置き去りにされた彼は動揺することなく、そう呟いた。
魔王を討つまで下手なことをするな、そう言いたいのだろう。わざわざ彼に忠告されなくても、わかっている。だけど彼が味方面をして忠告してきたことに反発を覚える。


私は、貴方のことも信用していない。


私は無視して突き進む。
言葉ではなく、態度で示したつもりだ。それが彼に伝わったかは、不明。


23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/22(土) 19:53:25.71 ID:lSunmYm30
令嬢「さて…」

時間ができたので城内を回ってみることにした。
城内を徘徊する魔物達の好奇の視線を感じるが、その内慣れてくるだろう。
魔物達は私を訝しげに見るものの、拘束しようという様子は見られない。ここから逃げ出そうとすれば捕まるかもしれないが、そうしないならある程度自由に動き回れるようだ。

令嬢(あそこ、夜なら身を潜められそうね)

幹部達の行動パターンを把握し、夜あそこから急襲すれば1人仕留められないか…とか、そういうことを考えながら色んな所を見回る。
あとは武器の調達だけど、どうしようか。
素手でも戦えそうな下級魔物から奪い、口封じして死体をどこかに埋めれば…その魔物がいなくなったことで、どの程度の騒ぎになるかが問題だ。

令嬢(やっぱり暗黒騎士に頼るのが1番危険が少ないかしら?)

あの壁ドン男に頼るのは癪だけれど、現状ではそれが確実だ。ほんっ…と~に不本意だけれど。

令嬢(一応他にも手もちゃんと考えておきましょう)

?「ちょっとそこの貴方」

令嬢「?」

自分のこととは思わなかったが、はっきりした強い口調につい振り返った。
すると豪華なドレスに身を包んだ、私と同い年くらいの女の魔族が、私の方を強い眼差しで見ていた。

令嬢「私のことかしら?」

?「貴方が暗黒騎士に嫁いだっていう勇者?」

令嬢「えぇ」

好奇心の強いどこかのお嬢さんだろうか。その程度に思っていたら、その女魔族がぐっと顔を近づけてきた。

?「一夫一妻は人間の常識よね」

令嬢「そうですね」

?「私…負けないから!あんたみたいな貧乳娘に!」

彼女はそう言うとくるっと振り返り、向こうに駆けて行った。

令嬢「貧乳…」

私はというと、地味なダメージを受けていた。

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/22(土) 19:54:16.91 ID:lSunmYm30
令嬢「武器を下さい」

暗黒騎士「…は?」

城内を一通り回った後、自室でくつろいでいた暗黒騎士に声をかけた。

令嬢「武器が無ければ戦えません。あと他の幹部達の行動パターンも教えて下されば、不意打ちでやりますよ」

暗黒騎士「待て。…少し積極的すぎないか」

暗黒騎士は呆れたように言った。

暗黒騎士「幹部を倒せばその分魔王の警戒心が強まる。だから最初に倒すのは幹部でなく、魔王だ」

令嬢「やるなら人間への被害が少ない内がいいです。彼らの足止めに、貴方は頼りないですしね」

暗黒騎士「耳が痛い」

令嬢「とにかく私に魔王を討つ協力をしろと言うなら、貴方にも何かしらの協力をして頂きたいのですが」

暗黒騎士「…わかった。とりあえず城を案内する」

令嬢「さっき回ったばかりですが」

暗黒騎士「幹部達の行動パターンを説明しながらだ。奴らの目をくぐらなければ魔王は討てないからな」

令嬢「わかりました」

私達は部屋を出ることにした。

暗黒騎士「猫男爵は朝食後中庭で紅茶を飲んでいることが多いな…呪術師は大抵あの部屋にこもっている」

魔物「お、暗黒騎士と勇者の娘だぜ。新婚ホヤホヤで仲のよろしいことで」

令嬢「…」

今までで1番不快な野次だった。暗黒騎士の横に並んで歩いているが、この状態は居心地悪い。私が彼を見る目は自然に険しくなっていた。

暗黒騎士「…どうした?」

令嬢「…いえ、別に」

じっくり見ても、顔以外魅力が見つからなかった。

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/22(土) 19:54:46.69 ID:lSunmYm30
暗黒騎士「何か向こうが騒がしいな」

令嬢「あら」

確かに何やら騒がしい。暗黒騎士が剣を手に駆けて行き、自分も気になるので着いて行った。
そこを遠目で見ると、庭園で5匹の魔物達がざわついていた。

暗黒騎士「どうした」

魔物「おぉ暗黒騎士様!侵入者です!」

暗黒騎士「侵入者…?どこにいる」

魔物「すばしっこい奴なんです!…ゴハッ」バタッ

突然魔物が倒れた。今、何があった?
そう考えている内に、魔物達が次々と倒れていった。

暗黒騎士「…そこか!」

暗黒騎士が剣を振り、カキィンと金属音。
その瞬間侵入者の動きが停止し、その姿を視認した。

令嬢「…あっ!」

小刀で暗黒騎士と競り合っていたのは猿型の魔物と人間の混血種。私は、彼を知っている――

令嬢「従者…」

我が家に仕えていた従者だった。

従者「お前手強いな…あっ!」

と、従者もこちらに気付いたようだ。

従者「お嬢さ…」

令嬢「しーっ、しーっ!」

他にも野次馬がおり、彼らの目を気にして私は人差し指で「黙ってろ」とジェスチャーする。
従者はクエスチョンマークを頭の上に浮かべていたが、その拍子に動きが止まり――

暗黒騎士「捕らえたぞ猿」

従者「いてててて!」

あっさり、暗黒騎士にねじ伏せられた。

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/22(土) 19:55:52.80 ID:lSunmYm30
私はすぐに従者をねじ伏せている暗黒騎士に駆け寄った。

令嬢「暗黒騎士」

近くにいた者は倒れているので、小声で話せば野次馬の魔物達にも聞こえないだろう。

令嬢「彼は私の従者なの」

暗黒騎士「そうか…ばれたら打ち首だな」

従者「いたたたた、少しは加減しろ~」

暗黒騎士「来い、猿。今からお前を魔王様の前に連行する。…死にたくなければ、俺に話を合わせろ」

従者「な、何だと~!」

令嬢「彼に従って、従者」

従者「は、はいお嬢様」

こうして従者は暗黒騎士に引っ張られていった。
それにしても、まさか従者が魔王城に乗り込んでくるとは…。幼い頃から知っている年下の従者は、猿の魔物と人間の混血種だが、我が家によく尽くしてくれている。

令嬢(暗黒騎士、上手くやってくれるかしら)

彼に期待できなかったので心配でたまらなかったが、その心配は1時間後あっさり杞憂になった。

従者「お嬢様~」

令嬢「従者!」

部屋で暗黒騎士が戻るのを待っていると、暗黒騎士は従者を連れて戻ってきた。

暗黒騎士「浮かれて城に乗り込んだアホ猿ということにしておいたので、厳重注意で済んだ。その実力を見込んで、俺の部下にすることに…」

従者「お嬢様、ご無事で何よりです!この従者、お嬢様が心配で心配で食事も喉を通らず…」グウウゥゥゥゥゥ

令嬢「まぁ大変!何か食べさせないと!」

暗黒騎士「…」

令嬢「どうしたんですか暗黒騎士」

暗黒騎士「いや、別に…」

いきなり機嫌が悪くなったけれどどうしたのだろう。まぁ今はそんなことより従者が心配だ。

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/22(土) 19:56:22.44 ID:lSunmYm30
従者「…っ、ええええぇぇぇぇ、お嬢様がこの男に嫁入りしたあああぁぁぁ!?」

食事を摂らせながら現状を説明すると、従者は気が狂ったかのような叫び声をあげた。
誤解されないよう、心までは奪われていないことは強調し説明する。従者はそれでほっとしたようだけれど、暗黒騎士の顔つきは険しくなった。

従者「あ、でも感謝してるよ暗黒騎士さん。あんたのお陰でまたお嬢様に仕えることができる」

暗黒騎士「…一応俺に仕える形になるのだが」

令嬢「同じことよ。従者、貴方が側にいてくれると心強いわ」

従者「はい!この従者、お嬢様にどこまでも尽くします!魔王討伐やり遂げましょう、お嬢様!」

令嬢「えぇ、頼りにしているわ」

暗黒騎士「…ふん」

そうやって従者との再会を喜んでいると、暗黒騎士は不機嫌そうに立ち上がった。

暗黒騎士「俺は仕事に戻る。くれぐれも目立ったことはするなよ」

令嬢「えぇ、行ってらっしゃい」

不機嫌な背中を見送り、私は従者の方に向き直す。

従者「彼は只者じゃない。あんな男が味方にいてくれるなら、心強いですね」

令嬢「私はあの男のことは信用していないわ。我が家を襲撃した1人だもの」

従者「でも信用していないのを態度に出したらまずいでしょう…」

令嬢「いいのよ、私の力にすがってるのは向こうの方なのだから」

従者「まぁ、そうですが…お嬢様、彼は恩人でもありますよ」

令嬢「恩人?…ま、彼に貰われなければひどい目に遭っていたのは確かね」

従者「それ以前にお嬢様」

令嬢「何?」

従者「屋敷で奴がお嬢様を止めなければ、お嬢様は魔王に殺されていたでしょう」

令嬢「――――あ」

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/22(土) 19:57:01.42 ID:lSunmYm30
翼人「どうした暗黒騎士、機嫌が悪いな」

暗黒騎士「放っておけ」

翼人「奥方と何かあったのか」

暗黒騎士「別に何もない」

翼人「そうか」

暗黒騎士「………あいつと話す時は、ごく普通に笑うんだな」ブツブツ

翼人「え?」

暗黒騎士「いや…何でもない」

30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/22(土) 20:58:02.58 ID:/lWn/D8sO
猫男爵は内P時代の有吉か

31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/22(土) 21:34:44.39 ID:Cz5QHPoAO
ルネッサーンス!

32 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/11/23(日) 08:25:03.14 ID://NXj2vrO
>>30
やwめwてwww
忘れてたけど思い出してしまったww

>>31
男爵違いやないかーい

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/23(日) 11:54:07.87 ID:O3+Giyc+0
従者「ところでお嬢様、魔王は不死身なんでしたっけ?」

室内で適当に時間を潰している時、従者がそんなことを言ってきた。

令嬢「えぇ、そうらしいわ。不死身の肉体を持ちながら、最近まで只の魔族として潜んでいたようね」

従者「目立ったことをしたら旦那様にすぐ狩られていたでしょうしね!事前に不死身だとわかっていれば、旦那様も負けなかったでしょうに…!!」

令嬢「それはどうしようもないわ。私は魔王が不死身だと知れたし、魔王を討てる希望はあるわ」

従者「えぇ…勇者一族に伝わる必殺技、光の剣でですね!」

光の剣。一族最初の勇者と言われる勇者が光の女神と契約を交わし、代々引き継がれてきた技。
光の剣に斬られれば、どんなに生命力の強い者でも「消滅する」のだ。
だけどその必殺技の存在は門外不出、一族とそれに仕える一部の者しか知らない技だ。

従者「暗黒騎士さんはその存在を知っていたんですかねぇ?」

令嬢「いいえ。もしかしたらと思って探ってみたけれど、その素振りは無かったわ。彼は勇者なら魔王を討てるという御伽噺を信じているのよ」

従者「あぁ、成程…。けど御伽噺なんかじゃありません、お嬢様しか不死身の魔王を倒せないんですから」

令嬢「えぇ、そうね。…でも」

私は手をかざし、集中した。

出ろ――光の剣

すると私の手が光り、その光はそのまま伸びて剣の形になった。

従者「出たーっ、勇者一族秘蔵の光の剣!」

令嬢「…駄目よ」

光の剣は一瞬で消える。

令嬢「私の光の剣は未熟なの。持続力がないし、短いから魔王に届かないかもしれない」

従者「そこは修行ですよ!光の剣は精神的なもので強くなるって言うじゃないですか、お嬢様ならすぐに強くなります!」

令嬢「…そうね、頑張ってみるわ」

今まで平和ボケしていたせいで強くならなかったのかもしれない。精神を鍛えるには、今はいい機会だ。
その為には心の武装が必要不可欠――やはり暗黒騎士相手にも心を許すわけにはいかない。

だけれども。

従者「魔王との戦いサポートできるよう、俺も一緒に頑張りますよ!!」

令嬢「…えぇ」

従者といる時だけは自然体でいよう。従者がいなければ、私は気持ちがもたなかったかもしれない。

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/23(日) 11:54:56.05 ID:O3+Giyc+0
>翌日

令嬢「…で、あそこなんて潜むのに最適だと思わない?」

従者「おー、いいですね。俺ならあそこから10メートルは跳躍できますよ!」

昨日から暗黒騎士が戻らない為、自室で朝食を済ませた後、従者に城内を案内して回っていた。
魔物達は自分たちが主従関係と知らない為この組み合わせに不思議そうな顔をしていたが、暗黒騎士の妻と、暗黒騎士の部下という関係ならいくらでも言い訳のしようはある。

令嬢「まぁ暗黒騎士は魔王を真っ先に討つ方がいいと言っていたから、私の光の剣が使い物になるまで目立ったことはしない方がいいのだけれどね」

従者「了解です!俺はなるべくここの魔物達に溶け込んでおきます!」

令嬢「声が大きい」

従者「わ、す、すみません」

令嬢「全くもう…」

有能なのに少し抜けている。けれどまぁ、従者のそういう所が気に入っていたりもする。私は、つい頬を緩めてしまった。

?「夫以外の男と仲良くするのね、貴方は」

令嬢「あら」

と、声をかけられて振り向くと、昨日の娘がいた。
貧乳と言われたせいで意識してしまうが、よく見るとなかなかぼいんぼいんだ。

令嬢「ご機嫌ようぼいんさん」

?「変な呼び名をつけないで下さる」

令嬢「失礼。お名前は」

?「あら知らなかったの?全く、誰も私のことを教えていないなんてどういう事…私は魔姫、魔王の娘よ」フフン

令嬢「魔王のぼいん娘…」

魔姫「一言余計!」キーッ

魔姫はプンプン怒っている。これはからかったら面白そうだ。

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/23(日) 11:55:25.01 ID:O3+Giyc+0
翼人「姫様、こちらにいらしたのですか」

魔姫の大声につられてか、幹部の1人がやってきた。魔姫は彼を見て「げっ」という顔をする。うーん、実にわかりやすい。

翼人「人間達の活動が活発になっているようなので、城内であってもあまりうろつかないように。昨日も侵入者に入られたようですし…」

従者「あ、それ俺俺ー」

魔姫「貴方達の警備がザルだからでしょう!全くもう、しっかりしなさいよ!」

翼人「いや申し訳ない。ですがしばらくは我慢を…」

魔姫「じゃないとあんたがお父様に怒られるものねぇ。わかったわよ、顔を立ててお部屋に戻ってあげるから、さっさと仕事に戻りなさい」

翼人「はい、ありがとうございます」

魔姫「あー、あと貴方!覚えてなさいよ!」

魔姫は私に捨て台詞を吐くと、昨日のように駆けていった。私は何もした覚えがないというのに、何なのだろう。

翼人「気分を悪くしたか。魔姫様は暗黒騎士に惚れているのでな」

と、翼人は私に普通に声をかけてきた。

令嬢「それは…理解できませんね」

翼人「…ふふっ」

令嬢「何か?」

翼人「いや…暗黒騎士の機嫌が悪かった理由がわかったような気がしてな」

翼人は可笑しそうに言っていた。何がツボに入ったのか、これだから魔物はわからない。

翼人「もうちょっと暗黒騎士に優しくしてやれ。あいつはあれで、割と傷つきやすい性分だ」

令嬢「あれで、ですか…」

あの壁ドン男がねぇ…と思っていたが、ふと気がつく。この翼人、私と普通に話してくれている。
そういえば今までも他の幹部は私や暗黒騎士に蔑むような態度だったが、よく思い出せばこの翼人だけはそうでもなかった気も。

翼人「それじゃ…あぁ、暗黒騎士は今日は遅めに帰ってくるぞ」

そう言って翼人は立ち去っていった。

従者「あの匂い…あいつ、人間の血がわずかに混ざってますね」

令嬢「成程…だからそこまで当たりがきつくないわけね」

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/23(日) 11:55:55.31 ID:O3+Giyc+0
令嬢「昨日は悪うございましたね」

暗黒騎士「…ん?」

翼人の言う通り、暗黒騎士が帰ってきたので、とりあえず声をかけた。

令嬢「命の恩人に対して冷たすぎましたね」

暗黒騎士「…別に気にしてはいない」

令嬢「従者や翼人に言われて少しは反省しました」

暗黒騎士「あの猿か…チッ というか翼人と会話したのか」

令嬢「えぇ、彼とは仲が良いのですか」

暗黒騎士「まぁ他の奴よりはな」

令嬢「へぇ。あ、あと魔姫さんにも声をかけられましたね」

暗黒騎士「あー…なかなかキツい人だろ、何か言われたか」

令嬢「…」


翼人は、魔姫が暗黒騎士に惚れていると言っていたが。暗黒騎士はそれに気づいていないのだろうか?


令嬢「貧乳と」

暗黒騎士「事実だな」

よし、やはり暗黒騎士もいずれ討とう。

暗黒騎士「魔王は、幹部の中から誰か、1番見込みのある奴を魔姫の婿にするつもりでいる」

令嬢「貴方も幹部では?」

暗黒騎士「俺は最も候補から遠いだろう。それに、政略結婚は好かん」

令嬢(貴方が今しているのもある意味政略結婚じゃあ)

暗黒騎士「それに俺は…ああいう世間知らずの箱入り娘でなくて」

令嬢「えぇ」

暗黒騎士「その…お前みたいな」

従者「お嬢様ぁー!夜食くすねてきましたー!!」バァン

暗黒騎士「……」

令嬢「あら美味しそうねぇ。食べましょう」

暗黒騎士「…この猿がーっ!」

従者「あだだどゎーっ!?」

暗黒騎士が従者の頭をぐりぐりし始めた。つまみ食いくらいでこんな制裁を加えるとは、何て厳しい人だ。

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/23(日) 11:56:29.15 ID:O3+Giyc+0
翼人「暗黒騎士ぃ!」

と、翼人も続いて入ってきた。従者は慌ててくすねてきた夜食を隠す。

暗黒騎士「どうした」

翼人「敵襲だ!中央国の王子が軍隊を率いて攻め入ってきた!」

令嬢「…!中央国が…」

暗黒騎士「わかった、すぐに支度して行く。お前は先に行ってろ」

翼人「あぁ!」

よく聞くと部屋の外が騒がしい。急な敵襲でバタバタしているのだろう。

従者「大変なことになりましたねぇ…しかし中央国の王子ですか」

暗黒騎士「おい猿、お前も来るんだよ!」

従者「それはまずいんじゃないですかねぇ…中央国の方々、俺の顔知ってますよ」

暗黒騎士「ん?…あぁそうか、勇者の従者なら中央国の者と面識があってもおかしくはないか」

従者「まー…っていうか知らないんすか暗黒騎士さん」

暗黒騎士「ん?」

従者「中央国の王子…お嬢様の婚約者なんですよ」

暗黒騎士「!?」


41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/24(月) 18:59:32.74 ID:h/zKXpHe0
中央国第2王子。軍隊を率いる彼の剣は英雄たる勇者にも劣らないと評判が高い。
今も魔王城に攻め入り、軍隊の戦闘に立って既に何十もの魔物を斬り、今、幹部の1人、猫男爵と打ち合いをしている所だった。

王子「やるね猫ちゃん!僕は沢山動物を飼ってきたけれど、こんな芸達者な猫ちゃんは初めてさ!」

猫男爵「く…!」

周囲の魔物が猫男爵に加勢するが、王子は剣ひと振りで3匹の魔物を斬る。
それでいながら猫男爵への攻めはまるで緩まず、圧倒的実力を見せていた。

呪術師「ヒヒヒ加勢するぞ猫男爵!喰らえ、幻惑の霧!」

王子「惑わされないぞ!」ブンッ

呪術師「霧を払っただと!?」

王子「君の技は人の心につけ入り、精神的に揺さぶりをかけるものだろう…だが僕にはきかないのさ」

呪術師「馬鹿な…いくら性質がわかっていても、人間ごときが打ち破れるものじゃ…」

王子「わからないかな?」フッ

王子はそう言うと剣を空に掲げ、叫ぶ。

王子「僕は選ばれし王子だからね!君なんかに惑わされているようじゃ、希望になんかなれやしないよ!」

呪術師「く…何だか知らんが物凄く殺したくなってきたぞ!」

猫男爵「余裕ぶるなあああぁぁぁ!」

王子「甘いよ猫ちゃん!さぁおいで!」

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/24(月) 19:00:01.30 ID:h/zKXpHe0
令嬢「相変わらずキザねぇ…」

魔王城のベランダから戦いを眺める。王子はこちらに気付かない。けれど城内の魔物達の警戒心が強まっており、これ以上近づくことはできなさそうだ。

従者「幹部の1人でも倒して下されば有難いですが、複数相手では難しそうですね」

令嬢「あれだけ戦えるだけでも十分よ」

見目麗しい王子の剣さばきは優雅にも見え、国の女性たちが心を鷲掴みにされている理由も納得できる。

従者「流石お嬢様の旦那様となるお方です」

令嬢「そうね」

上の空で私は答える。
目を向けるのは王子の戦い。戦況は決して楽ではない。しかし彼の顔は歪まない。王子はいつでも力強くて美しい。だからこそ、私には遠い世界の住人に見える。

悪魔「勇者の伴侶となる、王子か…」

令嬢「!」

背後の声が私を現実に引き戻す。いつの間にか幹部の1人が私達の側に来ていた。

悪魔「勇者がいなくなった今、奴が1番の要注意人物…しかし、奴の弱点はわかっている」

悪魔は私を見てニヤリと笑った。
彼の考えていることが私にはすぐわかった。同じような立場になったら、恐らく私も同じことを考える。
そして次の瞬間、彼はそれを実行に移した。私の体は乱暴に引き寄せられる。

従者「お嬢様ぁーっ!」

従者の叫び声は既に遠く。悪魔は私を抱え、その翼で戦いが繰り広げられる地面へ降り立った。

王子「おや…」

王子の剣がピタリと止まった。相変わらず表情は余裕を崩していないが、その目はしっかり私の方を見ていた。

悪魔「それ以上暴れるようなら、こいつがどうなるかわからんぞ?」

令嬢「すみません、こういう事になってしまいました」

王子「おやおや困りましたね」

久しぶりに会話する婚約者は緊張感なく答えた。まぁ、緊張感がないは私もだけれど。

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/24(月) 19:00:30.97 ID:h/zKXpHe0
王子「それで?僕への要求は何だい悪魔君」

悪魔「剣を捨てろ!」

王子「それはできないな。捨てたら僕を殺すだろう。確かに彼女は大事だが、僕が彼女の為に死ぬと思うかい」

王子は余裕たっぷりに答える。何を思っているのか、私には全くわからない。

王子「でももし彼女を殺したら、真っ先に君から斬ってあげるよ」

悪魔「何!」

私に爪を突きつけている悪魔は明らかに動揺していた。
実力では勝てないと判断したから人質をとった。その人質がいなくなれば、彼の命が即絶たれる。

王子「彼女をこちらに引き渡してくれれば、君を見逃してあげるけれど」

悪魔「そ、そんなことできるか!」

王子「じゃあ」

王子は大きく跳躍した。悪魔の乱入により停止していた魔物達は反応が遅れる。王子はその一瞬で、呪術師の側に立った。

王子「彼女を引き渡さないと彼を殺すと言ったら、どうする?」

呪術師「な、何いいぃぃ!!悪魔!そんな小娘くらいくれてやれ!」

悪魔「しかし…この小娘を捕らえているのは魔王様の判断だぞ」

猫男爵「あっさりと捕まる貴様が悪いのだ、この恥さらしめ!」

呪術師「何だと!?」

王子が人質でどれだけの効果を狙っていたかはわからないが、幹部達は言い争いを始めた。
幹部達の力関係はわからないが、少なくともこの呪術師の命は、私と天秤にかけられる程度には軽いようだ。

呪術師「頼む!俺はこんな所で死にたくない!」

呪術師は嘆願を始めたが、それでも悪魔は決断できないようで、爪を私に突き付けたまま硬直していた。

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/24(月) 19:00:59.53 ID:h/zKXpHe0
呪術師「ヒ、ヒヒ…そうか貴様、俺を見捨てるつもりか…ヒヒヒヒ」

呪術師は醜い顔に歪な笑顔を浮かべた。その顔が生理的に受け付けられず、ぞわりと悪寒。
物凄く嫌な予感がした。そしてそれはすぐに当たった。

呪術師「どうせ死ぬのなら、道連れだああぁぁ!!」

令嬢「!?」

呪術師の体が発光する。魔力が一瞬にして昂ぶったのを私は感じ取った。
何かが物凄いスピードでこちらに向かってくる。駄目だ、当たる。

当たれば私は死ぬ。

令嬢「――」

王子の剣が呪術師に振り下ろされたのを視界に捉え、私の体は宙に浮いた。




令嬢「――――え?」

目の前の光景は、一瞬で変わった。

悪魔「アグウウゥゥゥ」

呪術師「ひいいぃぃ」

王子「…失敗」

まず私は生きている。
悪魔が大怪我をしている。腕も1本失っている。
呪術師は腰をぬかしている。外傷はない。
王子の剣は――魔王の腕に止められていた。

魔王「迷いのない見事な振りだな、王子よ」

王子「お前が魔王か――」

王子の表情は先ほどまでとは変わり、真剣なものに変わっていた。恐らく肌で、目の前の相手が只者ではないと感じ取ったのだろう。

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/24(月) 19:01:27.14 ID:h/zKXpHe0
暗黒騎士「…おい」

令嬢「え?」

振り返ると暗黒騎士の顔。やっと気付いた。私は暗黒騎士に抱えられていたのだ。

令嬢「あら、助けて下さったの」

暗黒騎士「…嫌に平然としているな」

悪魔「ググゥ暗黒騎士…貴様、俺の腕を…!!」

地面に伏している悪魔は、暗黒騎士を恨みがましい目で見つめる。成程、暗黒騎士が悪魔の腕を斬って私を奪い取ったのか。その上呪術師の魔法までモロに喰らったのだから、散々な目に遭ったものだ。
だけれど暗黒騎士は冷めた様子で答える。

暗黒騎士「魔王様の体の一部から作られたお前なら、腕の再生は可能だろう」フン

令嬢「…あっ王子が」ゴッ

暗黒騎士「でっ!」

体をぴんと伸ばした拍子に肩が暗黒騎士の顎にヒットしたけれど、私は気にせず王子の方を見る。
王子と魔王は早くも戦いを始めていた。両者初めから本気で飛ばしている。

王子「その首頂く…!そして令嬢様を必ず取り返す!」

令嬢「王子…どうか無理をなさらぬよう」

暗黒騎士「…フン」ヒリヒリ

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/24(月) 19:01:58.64 ID:h/zKXpHe0
魔王「貴様を殺し、人間に更なる絶望を与えてくれよう!」

王子「そいつは無理だね…!」

魔王「!!」

激しい打ち合いの中、王子はいきなり姿を消した。いや違う、目で追いきれなかった――上だ。
そして上空から剣を振り下ろし――

王子「喰らえ!」

魔王「――――」

魔王の首を、一刀両断ではねた。
駄目だ。まだ終わっていない。

令嬢「油断しないで王子。その魔王は不死身です」

王子「何!」

暗黒騎士「おまっ――」

暗黒騎士が私を咎めようとしたと同時。

魔王「その通り」

王子「!?」

はねられた魔王の首が喋った。そして。

王子「…くっ!」

首を失った魔王の体が王子に追撃をした。安心していた王子はそれでバランスを崩したが、すぐに立て直す。

猫男爵「ちっ…不意打ち失敗したか」

呪術師「ヒヒ、だが奴に勝ち目はあるまい…」

王子「そのようだね」

それでも王子は笑みを浮かべる。それは何の笑いなのか。私にはまるで読み取れない。
彼はまた剣を構えた。相手が不死の王だと知りながらまだ戦う気か。

兵士「王子!」

その時だった。兵士の1人が叫びながら駆けてきたのは。

兵士「魔王軍の飛行部隊が我々の後方からこちらへ向かっているとの事です!このままでは、我が軍は囲まれます!」

王子「それはまずいな。全員、すぐに撤退しろ!」

王子の号令で兵士達は撤退を始める。
王子は――真面目な様子で、私に向いた。

王子「…令嬢様、申し訳ない。今すぐには、貴方を救えないようです」

令嬢「いいえ。貴方が生きていることの方が大事です」

王子「いつか助けに参ります…必ず」

そう言って微笑むと、彼も撤退を始めた。
撤退した王子達の軍を追うことも猫将軍から提案されたが、これ以上犠牲を増やさない為、戦いは一旦これで終了ということになった。

50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 13:24:15.91 ID:PkbS/31b0
魔王軍は怪我をした者を運んだり警備を強めたりしてバタバタしていた。そうしている間に夜は明ける。

従者「中央国軍に飛行部隊の情報伝えたの俺なんですよ~、やるでしょ~?」

令嬢「えぇ、お手柄よ従者」

暗黒騎士「…いや~~~~~に、くつろいでいるなお前達は…」

令嬢「あらお帰りなさい。あの後大変だったんですか」

暗黒騎士「あぁ…一睡もしていない」

令嬢「寝ます?」

暗黒騎士「気分が悪くて眠れん。魔王や幹部達からネチネチ言われたからな」

令嬢「今度は何でいじめられたんですか」

暗黒騎士「いじめられてはいない!お前が魔王の不死身を知っていた件について、説教されたんだよ!」

令嬢「まぁお気の毒」

暗黒騎士「誰のせいだ誰の」

令嬢「でもどうせ王子様にばれていたでしょ。私が何も言わなくても、魔王の不意打ちでやられる方じゃありませんわ」

暗黒騎士「お前の婚約者はほんっ…と~~~に完璧だなぁ」ヒクヒク

従者「そうなんですよ、王子は強くて美しいだけじゃなく、勤勉で多趣味で優雅で社交的で」

暗黒騎士「黙れ猿」グリグリ

従者「おどゎああぁぁぁぁ」

令嬢「眠いからって従者に八つ当たりしないで下さい」

暗黒騎士「なら眠気を覚ます…おい、散歩に付き合え」

令嬢「私?…まぁ、いいですよ」

どうせ今日も暇だし。

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 13:24:43.70 ID:PkbS/31b0
城内は落ち着きを取り戻し、魔物達も各々の仕事に戻っていた。
昨日戦いを覗き見していたベランダまで行き、同じ眺めを見る。こんな所から(抱えられていたとはいえ)飛び降りたなんて、改めて見るとヒヤヒヤする。

令嬢「そういえば、まだお礼を言っていませんでしたね」

暗黒騎士「…うん?」

令嬢「昨晩は助けて頂いて、ありがとうございました」

暗黒騎士「あぁ…いや別に、大した事じゃ」フ

令嬢「まぁあれは悪魔の暴走を止める為だから、私を助けたという意識は無いでしょうけれど」

暗黒騎士「…」ヒク

あら引きつっている。一瞬口元が緩んだように見えたのは気のせいだったか。それとも仲間の腕を切り落とすなんて事までさせておいて、お礼だけじゃ不満だっただろうか?

令嬢「何か私に求めることはありませんか?」

暗黒騎士「は!?」

令嬢「あ、お礼に」

暗黒騎士「え、い、いや別に…」

言い出すのが急だったようだ。うーん、タイミングって難しい。

暗黒騎士「求めることというか…聞いてもいいか」

令嬢「はい?」

暗黒騎士「お前は…俺に心を開いてはいないな?」

令嬢「はい」

暗黒騎士「…はっきり言うな」

令嬢「そう簡単に心を開くような者は、魔王を討つのに向かないと思いませんか」

暗黒騎士「そうだが…」

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 13:25:11.40 ID:PkbS/31b0
令嬢(そう言えば…)



翼人『もうちょっと暗黒騎士に優しくしてやれ。あいつはあれで、割と傷つきやすい性分だ』


傷つけるようなことは今の所言ってないと思う。
けれどもう少し優しくしてみよう。

令嬢「…まぁ、何度も助けて頂いたので感謝していますし、ある程度信頼もしていますよ」

暗黒騎士「そうか…ある程度、な…」

優しくしてみた結果、彼は複雑そうな表情を浮かべていた。失敗しただろうか?

暗黒騎士「…お前の表情があまり変わらないのは、心を強硬に武装しているからだろう。そうだろうな…敵地にいればそれも仕方ない」

いきなり何を。

暗黒騎士「お前にしてみれば俺も、敵の一味の1人かもしれない…だから俺に心を開かんのかもしれんが」

彼の様子がおかしい。

暗黒騎士「だけど俺は――」

令嬢「あの、何を…」

と、その時だった。何やら視線を感じた。

令嬢(…うん?)

魔姫「」ブツブツ

令嬢(あら覗き見。っていうか何か独り言言ってる?)

魔姫「やっぱり昨晩抱き合っていたし…もう2人はラブの頂点なのかしら」ブツブツ

令嬢(抱き合…!?)

心当たりがない。思い出せ。昨晩?…あぁ!暗黒騎士に助けられた時に抱えられたことか。あれは別に抱き合っていたわけじゃ…待てよ。人から見てそう見えたってことは…っていうか、確かにあの時結構密着していたような…。

令嬢「……………」

暗黒騎士「俺は、お前のおっ――」

令嬢「」ドガッ

暗黒騎士「………えっ」

53 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 13:25:38.83 ID:PkbS/31b0
不幸な事故だった。というか、自分でもわけがわからなかった。
とにかく彼と抱き合ったかもしれないという発想に行き着いた途端、急に頭が沸いて、つい彼をベランダから蹴り落としてしまったのだ。
結構な高さがあるけれど、大丈夫だろうか。

魔姫「…何をやっているの、貴方は」

魔姫はドン引きしながら近づいてきた。まぁ、そうだろう。

令嬢「ついうっかり」

魔姫「うっかり!?…ま、まぁ暗黒騎士なら大丈夫でしょう」

令嬢「魔姫さん、目の下にくまができていますよ」

魔姫「あぁこれ?ふふ、昨晩の戦いを見て、興奮して寝れなかったの!暗黒騎士はやっぱり素敵ねぇ」ウットリ

令嬢「まぁ、結構強いようですね」

魔姫「結構?結構どころじゃないわ。幹部で1番強いのは暗黒騎士よ」

令嬢「えっ」

確かに悪魔の腕を切り落としたのだから、最弱ではないと思ってはいたが。

令嬢「でも彼、皆に馬鹿にされていません?」

魔姫「元人間だからよ。全くもう馬鹿馬鹿しい…。悔しければ実力で見返せばいいものをね」

令嬢「そうだったんですか」

暗黒騎士は自身のことを、最も魔姫の婿候補から遠い、つまり見込みのない幹部だと言っていた。それは彼が弱いからではなく、元人間だからか。納得した。

魔姫「そういえば、お父様の首をはねた彼、貴方の婚約者だったんですって!?」

令嬢「あ、そうですが」

魔姫の顔が険しい。あぁ、不死身とはいえ父親を傷つけられたから怒っているのか。全く、私に怒られても困る…

魔姫「いいわねぇ貴方、強くて見目麗しい男性と縁があるのねぇ」

令嬢「………はい?」

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 13:26:07.72 ID:PkbS/31b0
魔姫「お父様の首をはねた時の彼、とても輝いていた…あぁ今思い出しても素敵」

令嬢「…あのう、怒っていないのですか。魔王、不死身とはいえ痛めつけられたんですよ」

魔姫「え?だって戦えば痛いものでしょう?」

令嬢「…」

不死身の父を持つとこうなのかもしれない。あまり深く考えないでおこう。

魔姫「そんなことより彼のこともっと教えて!」

令嬢「まぁ、私もあまり沢山のことは知りませんが…」

彼女は暗黒騎士が好きだと聞いたが、ただの美形好きのミーハーのようだ。
私の知り得る王子のエピソードを教えている間、魔姫は情景を想像しているのか興奮したりウットリしていた。表情がコロコロ変わってまぁ面白い。

魔姫「ありがとう、また色々教えてね!」

令嬢「まぁ、こんな話で良ければいつでも」

魔姫「貴方っていい人ね~、ごめんなさいね初対面でひどいこと言っちゃって」

令嬢「まぁ貧乳は事実ですし」

暗黒騎士「そうだな事実だ…で、いい人ではないな」

令嬢「あ」

振り返るとボロボロの暗黒騎士が足を引きずり、翼人に肩を借りていた。あぁすっかり忘れていた。

令嬢「あらすみません、大丈夫でした?」

暗黒騎士「大丈夫なわけあるか!」

翼人「いや驚いたよ、上から暗黒騎士が降ってくるなんてなハハハ」

暗黒騎士「笑い事じゃない!」

魔姫「訓練だと思いなさいな。高所から敵に突き落とされることだってよくあるでしょう」

暗黒騎士「それで自分は鍛えられません」

55 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 13:26:37.80 ID:PkbS/31b0
呪術師「おやおやズタボロだねぇ暗黒騎士…ヒヒヒ」

令嬢「む」

嫌味幹部3人組がやってきた。あぁ、これは面倒臭い。

悪魔「そんな小娘の為に俺を痛めつけてくれたからな、いい気味だ」

猫将軍「仕方あるまい、暗黒騎士はその貧相な小娘に相当入れ込んでいるからな」

呪術師「ヒヒ、あんな麗しい婚約者がいながら敵に抱かれるとは、いい趣味をしているヒヒヒヒヒ」

令嬢「…」

昨日は呪術師が人質に取られた時言い争いまでしていたというのに、すっかり仲直りしたようで。
こいつらの誰か1人でも、王子に討たれてしまえば良かったのに。

魔姫「貴方達!」

令嬢「!」

魔姫が嫌味幹部3人組に向かって一歩踏み出す。すると彼らは驚いた顔をした。

魔姫「魔王軍幹部ともあろう者が、ネチネチ嫌味言ってるんじゃないわよ!何がしたいの貴方達、昨日みっともない所を見せた腹いせ?」

悪魔「あ、いえ…」

3人とも魔姫に怒鳴られ、たじろいでいる。流石に魔王の娘には弱いのか。

魔姫「それと、この子の悪口を言うのは禁止よ」グイッ

令嬢「えっ」

魔姫に引き寄せられ、豊満な胸が当たる…ってのはどうでもいいとして

魔姫「彼女は、私の友人なのだからね!」

令嬢「………はい?」

その言葉で、そこにいた魔王軍幹部は5人とも変顔を見せた。

57 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:49:27.38 ID:PkbS/31b0
それから今日1日は激動の日だった。


魔姫「令嬢~、お昼ご一緒して下さる?」

令嬢「いいですよ」



魔姫「ねぇ、このドレス着てみて!きっと似合うわ!」

令嬢「胸の所が余りますね」



魔姫「お風呂行くわよ!洗いっこしましょう!」

令嬢「また胸の格差を見せつけるつもりですか」





令嬢「…ずっと振り回されて疲れた」

暗黒騎士「魔姫様は人との距離感が掴めていないんだろうな」

翼人「ずっと友達がいなかったので、わからないんだろう」

令嬢「あ、そうですか。私も友達いなかったので、もしかしてあれが普通なのかと」

暗黒騎士「…」

令嬢「何ですかその哀れみの目は」

翼人「ははは、でもそれなら丁度いいじゃないか。女同士仲良くな」

魔姫「令嬢~、いる~?」バァン

令嬢「また来た」

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:49:54.19 ID:PkbS/31b0
翼人「魔姫様、もうそろそろ寝る時間ですよ。明日にしましょう」

魔姫「あら翼人も来てたの。寝る前にお酒の相手でもしてもらおうかと思っていたのよ」

令嬢「私、飲めないです」

魔姫「そうなの。一人酒も寂しいわねぇ」

翼人「それなら私が付き合いますよ」

魔姫「あんたと~?あぁいいわ、それじゃあ翼人族の面白い話でも聞かせてよ」

翼人「はい。それじゃあな暗黒騎士、奥方」

2人が出て行った。ほっとした。

暗黒騎士「翼人、酒弱いんだがな」

令嬢「あら。それなのにお酒の相手なんてできるんですか」

暗黒騎士「精一杯平気な素振りをするだろうな、魔姫と一緒なら」

令嬢「…?」

暗黒騎士「お前…本当にその手の話には疎いな」

令嬢「何がですか?」

暗黒騎士「いや、まぁいい…。それよりもう寝るからな」

令嬢「???」

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:50:28.24 ID:PkbS/31b0
>翌日

翼人「ちょっといいか」

令嬢「あら、いらっしゃい」

暗黒騎士を見送った後、翼人が訪ねてきた。部屋の掃除をしていた従者がぎょっとしていたが、構わず招き入れる。

翼人「魔姫様の件で話がある」

令嬢「魔姫さんの?」

翼人「あの方は…君とは大分価値観が違う。もし魔王様が討たれたとしても、その相手を恨まずに賞賛するような方だ。だから、何も気にしないで君と接することができるんだ」

令嬢「…」

魔姫の父は、私の父を討った。魔姫はそれを知らず私に寄ってきているのかと思ったが、そういう価値観なのか。

令嬢「魔姫さんを恨む感情はありませんよ。彼女は父の件と何も関係がありませんから」

翼人「それなら良かった。…昨晩、酒を飲みながら魔姫様に話したんだ。君は魔王様に恨みを抱いているだろうと」

令嬢「それで、反応は?」

翼人「とても気にされていた。俺としては慎重に言葉を選んだつもりだったが、どうも上手くいかなくてな」

翼人は気まずい顔をした。まぁ仕方ない、こういう話は難しいと思う。

翼人「それでも、君が気にしないというなら、魔姫様と――」

その時、ドアがトントンと控えめにノックされた。
どうぞ、と声をかけると、魔姫がゆっくり静かにドアを開けた。

魔姫「お、おはよう…」

令嬢「おはようございます。入っては如何ですか」

魔姫「えぇ、失礼するわ…」

縮こまっている魔姫に、居心地悪そうにしている翼人。これでは私が悪者みたいではないか、全く。

令嬢「…魔姫さん、今日時間ありますか?」

魔姫「えぇ。あるけれど」

令嬢「それじゃあ、今日はお茶を飲みながらお話しませんか?」

魔姫「!」

魔姫の顔が、途端にぱぁっと明るくなった。

魔姫「えぇ、じゃあお薦めのお茶とお菓子を用意しておくわ!また後でね!」スタタタ

令嬢「…わかりやすくて可愛い人ですね」

翼人「あぁ。…有難う」

令嬢「え?」

翼人「感謝する。魔姫様を受け入れてくれて」

何故、彼が感謝するのだろう。まぁいいか。

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:51:07.55 ID:PkbS/31b0
従者「お嬢様…」

翼人が出て行った後、ずっと様子を見ていた従者が心配そうな顔をして声をかけてきた。

令嬢「今日はお茶してくるわ。…ん?同年代の女の子ってどんな話が好きなのかしら」

従者「…お嬢様、あまり魔王の娘に心を許さぬように」

令嬢「え?」

従者「貴方は、彼女の父親を討つのですよ」

令嬢「…えぇ、そうね」

例え魔姫がそんなこと気にしない価値観の持ち主だとしても、私はそうじゃない。だから、ずっと友達のままではいられない。

令嬢「何も心配しないで従者、わかっているから」

そう答えたが、従者はずっと心配そうな顔をしていた。

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:51:36.06 ID:PkbS/31b0
翼人「お前の奥方は笑顔が魅力的な方だな」

暗黒騎士「!?見たのか、あいつの笑顔!」

翼人「あぁ、魔姫様と話している時少しだけ…」

暗黒騎士「…俺はまだあいつの笑顔を引き出せん」

翼人「そうか。まだ緊張しているのかな」

暗黒騎士「…どうだろうな」

翼人(あーあ暗黒騎士の奴かなり気にしているな。あの奥方を笑わせる方法か…そうだ)

翼人「暗黒騎士、ちょっと次の仕事俺と代わってくれないか」

暗黒騎士「ん?何だ」

翼人「中央国への視察だ。俺よりお前の方が人間達に紛れることができて、適任だ」

暗黒騎士「視察か…まぁいいだろう。たまには遠くへ足を伸ばすか」

翼人「ついでに奥方も連れて行ってやれ…気分転換が必要だろう」

暗黒騎士「そうだな…人間の住む所に連れてってやるか」

翼人「上手くやれよ」ニヤ

暗黒騎士「!!お、お前何を想像して…」

翼人「おっとー、急がないと。それじゃあなー」

暗黒騎士「くっ…!し、しかしあいつと2人で外出か…。あいつは、喜ぶのか…」

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:52:13.90 ID:PkbS/31b0
>それで中央国

令嬢「久しぶりの街歩きです」

暗黒騎士「俺から離れるなよ」

令嬢「ところで、これで視察になるんですか?ただの商店街ですよ、ここ」

暗黒騎士「まぁ…気にするな」

何を視察するのかはわからないが、きっと何かの情報が得られるのだろう。
人ごみは昔から苦手だけれど、せっかくなので紛れてみることにした。

暗黒騎士「…何か欲しいものはないか」

令嬢「欲しいもの…ですか」

周りを見ると衣装屋やアクセサリー屋やらが立ち並んでいる。確かに女性が好きそうな店だ。

令嬢「魔姫さんに何かお土産でも買いましょうかね」

暗黒騎士「…お前のは?」

令嬢「うーん…私、お洒落には疎くて」

暗黒騎士「それにしては普段いい身なりをしているが…」

令嬢「それは身だしなみです。身につけるものによって人から得られる印象は違いますから、だらしなくはできません」

暗黒騎士「そうなのか…だけど着たいものはあるんじゃないのか」

令嬢「よくわからないですね。自分に似合わないものを選んでしまうかもしれないし」

ずっと使用人が選んだものを身に付けてきた。高潔なイメージを持たれるように、という父の方針で。
人が選んだ動きやすいドレスや控えめなアクセサリーを身につけてはいるが、私自身は女らしいことに無頓着なズボラ人間だ。

令嬢「…少し、人に酔ってきました」

暗黒騎士「そうか。じゃあ商店街を外れるか」

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:52:44.91 ID:PkbS/31b0
暗黒騎士「…すまんな、楽しくなかったか」

令嬢「え?」

人の群れから出て一休みしている時に、暗黒騎士が急にそんなことを言い出した。

暗黒騎士「いや…魔王城で待っていた方が良かったかとな」

令嬢「いえ。いい気分転換になりましたよ」

暗黒騎士「そうか。…そうだろうな、魔王城は居心地が悪いだろう」

令嬢「最初よりは慣れてきましたよ。従者もいるし、魔姫さんや翼人も割と好意的でいて下さいますし」

暗黒騎士「…俺は?」

令嬢「え?」

暗黒騎士「いや、何でもない」

令嬢「それに居心地悪いなんて言っていられませんよ。魔王を討たなければならないんですから」

暗黒騎士「…あぁ」

もしかしたら今日、逃げるチャンスはあるかもしれない。それでも私は魔王城に戻るだろう。
父の仇を討つのには、現在の状態がベストだ。

暗黒騎士「…魔王を討てば、お前は」

令嬢「はい?」

暗黒騎士「お前は――元の生活に戻るのか」

令嬢「…どうでしょうね。父がいなくなったので、元通りにはならないでしょうけれど」

暗黒騎士「お…俺が聞きたいのは、そういう事じゃなくてな」

令嬢「え?」

何だろう。暗黒騎士から緊張感が伝わってくる。彼の心臓音まで聞こえてきそうだ。

暗黒騎士「お前は、俺の元から――」

その時。

?「令嬢様…?」

暗黒騎士「!」

令嬢「あ…」

名前を呼ばれて、振り返ると。

王子「やはり、令嬢様ですね…」

お忍びの格好をした、王子がそこにいた。

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:53:21.83 ID:PkbS/31b0
王子「…君は、この間見たね。令嬢様を連れて、今日は何をしているのかな?」

王子は温和な笑みを浮かべながらも、どこか緊張感を醸し出して暗黒騎士に尋ねた。
暗黒騎士も負けずに、無表情に王子を睨む。

暗黒騎士「暴れに来たわけではない…剣を合わせようというのなら、相手するがな」

王子「それなら場所を変える必要があるね。…令嬢様を返して頂こうか」

令嬢「待って」

2人の間を割って入る。殺し合いになる前に、王子に説明する必要がある。

令嬢「王子様。私はまだ魔王を討つ為に、戻るわけにはいかないのです」

王子「…?どういう事ですかね」

王子に今までの経緯と、これからの指針を話した。説明を聞いて王子は暗黒騎士のことを訝しげに見たが、さっきよりは雰囲気が温和になった。

王子「つまり、彼の助力を得て魔王を討つと…。確かに、彼の妻として潜んでいる方が確実ですね」

令嬢「でしょう」

王子は光の剣を知っている。だから魔王を討てるのは私しかいないことも分かっている。

王子「本当は貴方に危険な事はして欲しくありませんが、貴方は頑固ですからね」

令嬢「えぇ。私は勇者ですよ、私がやらずにどうするんですか」

王子「わかりました。…魔王城で、お辛い目に遭ってはいないでしょうか」

令嬢「特に何も。魔王の娘が私に好意的でいて下さるので、大分居心地も悪くなくなりました」

王子「そうですか」

王子は安心したように笑う。そして。

王子「令嬢様」

令嬢「!」

私を、力強く抱きしめた。

王子「僕は、無力な自分が恨めしい。ですが貴方の選んだ道だというなら、僕は貴方のご武運を祈っております――」

令嬢「…えぇ」

綺麗な言葉、私を思いやる腕。彼に心を打たれたわけではないが、私は将来の夫になる彼に身を委ねていた。側にいる暗黒騎士が、どんな目でその様子を見ていたかも考えずに――

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:53:49.95 ID:PkbS/31b0
王子が去った後、暗黒騎士は何も言わなかった。互いに無言のまま、並んで歩く。
私は気まずいと思ってはいないが、彼はどうなのだろう。さっきまでとは、様子が違って見えるけれど。

令嬢「貴方も思うところがあるのですか?」

暗黒騎士「は?」

暗黒騎士が驚く。質問がストレートすぎただろうか。言葉選びは本当に難しい。

令嬢「少なくとも貴方と王子様が戦うことは無いでしょうね」

暗黒騎士「…だが王子もただお前を待っているわけではないだろうな」

令嬢「でしょうね、魔王を討てないなりにも何かする方です」

暗黒騎士「将来の夫のことは理解しているか」

令嬢「そこまで理解していませんよ。そんなに深い仲ではありませんし」

暗黒騎士「え!?」

令嬢「どうしました?」

暗黒騎士「でもお前達…婚約しているんじゃ」

令嬢「家同士が決めたことですよ。王家に勇者一族の血が交わるようにと。長年勇者一族にも王家にも男児しか生まれなかったので、なかなか実現できませんでしたが」

暗黒騎士「でも、嫌じゃないんだろう」

令嬢「小さい頃から決められてた事ですからね。王子は誠実な方なので私を思いやって下さいますが、愛があるわけじゃ…」

暗黒騎士「!!そうか」

令嬢「何で笑うんですか。…どうせ私は男性に愛される女じゃありませんけど」

暗黒騎士「ち違う!で…お前から王子に対しては」

令嬢「…どうなんでしょうね」

今まで人々の期待を裏切ることなく、流されるまま生きてきた。それなのに自分の気持ちがどうだとか、そんなこと聞かれても。

令嬢「自分の意思なんて関係ないんですよ、私には」

暗黒騎士「…そうか」

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:54:19.45 ID:PkbS/31b0
暗黒騎士「自分の意思も、身につけるものへのこだわりも無いか」

令嬢「そうですね」

暗黒騎士「…ちょっと待ってろ」

彼はそう言うと商店街の方へと歩いて行った。
この置き去り状態、私が逃げ出したらどうするのだろうか。…隠れて見てみたい気もするけど、悪質すぎるのでやめておくか。
少しすると、暗黒騎士が戻ってきた。何だろう、顔が赤いけれど。

令嬢「お帰りなさい」

暗黒騎士「…これ」

令嬢「え?」

暗黒騎士は無骨な態度で私に小さな箱を差し出した。

令嬢「何か買ったんですか?」

暗黒騎士「…いいから開けろ」

令嬢「はいはい。…あら」

箱を開けると、小さな宝石のペンダントが入っていた。どう見ても女物。…ということは?

令嬢「…私に、ですか」

暗黒騎士「あぁ」

暗黒騎士は視線を私から逸らす。そして、いつになく声を震わせながら言った。

暗黒騎士「お、お前が特に身につけるものにこだわりが無いなら…俺が選んだものをつけろ」

令嬢「…はい?」

暗黒騎士「お、お、俺は…」

暗黒騎士はゴクリと唾を飲み込み、やがて決心したように私の方を見た。

暗黒騎士「それを身につけたお前を、見たい…」

令嬢「…」

どうしよう。暗黒騎士の顔が今、物凄く面白いことになっている。
いや、でも笑えない。そんな台詞を言われて笑える人間がいるか。

いや――笑わないと、駄目なのか。

令嬢「ありがとう」

思えば彼に笑顔を向けたことはなかったかもしれない。彼も魔王の一味、油断してはならない相手。
それでも、今この時だけは――

令嬢「絶対に、大切にしますね」

心を許しても、いいと思った。

70 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/27(木) 13:16:14.83 ID:rE2yYOlV0
>魔王城

魔姫「~♪」

翼人「魔姫様。その髪飾り、初めて見ますね」

魔姫「あら気がついた?令嬢がお土産にくれたの。どう?」

翼人「いつもの装飾品に比べると控えめですが、雰囲気が変わっていいと思いますよ」

魔姫「そうそう、装飾品1つで雰囲気ガラッと変わるのよね。あの子も珍しく可愛らしいペンダントしてたわ~」

翼人「暗黒騎士の奥方が、ですか――」

魔姫「私の勘では、あれは暗黒騎士からのプレゼントね…ふふふ、やるじゃな~い」

翼人「おぉ~…やりましたね」

魔姫「私も今度人間の街に行ってお買い物したいわ。だから、連れていって頂戴」

翼人「…私が?」

魔姫「仕方ないでしょ!貴方しかいないの、わかった!?」

翼人「えぇ、喜んで」



翼人(暗黒騎士は上手くやったのかな…ふ、あいつ不器用だしなぁ)

翼人(俺も、頑張らないとな――)

その時だった。

翼人「――――ッ」

71 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/27(木) 13:16:40.36 ID:rE2yYOlV0
何だ?この血しぶき…俺のか?
痛みは遅れてやってくる。脇腹だ。
だけどどうして?奇襲?敵の姿は――

?「悪いが――」

翼人「!?」

声に反応し振り返る。
だけど、遅かった。

その場に思い切り転倒する。足をやられ、バランスを崩した。

足音はゆっくり近づいてくる。
そしてそいつは、翼人に刃を振り下ろす。


魔姫様――――



彼が最後に思ったのは、想いを寄せる相手の事だった。

72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/27(木) 13:17:09.25 ID:rE2yYOlV0
令嬢「――――え」

朝起きて最初に、それを聞かされた。

暗黒騎士「昨晩、翼人が廊下で殺されていたのが見つかった…」

昨晩は外出疲れで早めに寝ていた。だがその間に、そんな事があったなんて。
暗黒騎士は平静を装っているが、顔が少々青ざめている。私もショックでないといえば嘘になる。翼人は敵とはいえ数少ない、私に好意的な人だった。

令嬢「誰が、彼をやったんですか」

暗黒騎士「それがわかっていない。犯人の痕跡が残っていないそうだ」

魔王軍幹部である彼を殺し、痕跡を残さず立ち去る事ができる者とは――

暗黒騎士「他の幹部はお前を疑っている。あまり部屋の外には――」

令嬢「…少し出かけます。すぐ戻りますから」

暗黒騎士の静止を聞かず、私は部屋を飛び出る。
翼人が殺された場所は聞かなかったが、魔物達の騒ぎの声がする方向に――いや、直感で足を進めた。
案の定、そこでは捜査が始まっており、人だかりもできていた。彼らの噂話が耳に入る。翼人はここで殺されていたそうだ、と。

魔姫「どうして…」

令嬢「!」

聞きなれた声に、私はすぐに振り返った。
魔姫が泣いている。崩れ落ちそうになっている体を、配下の者に支えられながら。

魔姫は私に気付くと、フラフラしながら近づいてきた。

――動揺を、悟られないだろうか。

魔姫「ねぇ…令嬢」

令嬢「…魔姫さん」

魔姫「大事な人を失うのって、こんな気持ちだったのね――」

令嬢「――!」

彼女の痛々しい声が、私の心に突き刺さった。

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/27(木) 13:17:37.07 ID:rE2yYOlV0
魔姫「翼人は口うるさかったけれど、いつも私を気にかけてくれていた…。昨晩も一緒に会話したのに、どうして…」

令嬢「魔姫…さん…」

魔姫「貴方も、こんな気持ちだったのよね…ごめんなさい」

令嬢「違う…貴方のせいじゃ」

魔姫「翼人がいなくなって私、辛くて苦しいの!犯人が憎くてたまらない!貴方もそうだったのよね、私わからなかった!」

魔姫が私を抱きしめる。痛みに耐えながら、私の痛みを包み込むように。
痛い。苦しい。彼女の気持ちが、私を締め付ける。


その後は頭が真っ白で、どうやって彼女と別れたかも覚えていない。だけど私は確信を持って歩を進めていた。



令嬢「貴方が――」

彼を見つけた時、私の口から自然に言葉が出ていた。

令嬢「貴方が翼人を殺したのね――従者」

従者「…」


従者は無表情のまま、肯定も否定もしなかった。

74 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/27(木) 13:18:29.83 ID:rE2yYOlV0
令嬢『…で、あそこなんて潜むのに最適だと思わない?』

従者『おー、いいですね。俺ならあそこから10メートルは跳躍できますよ!』



令嬢「…以前、そんな会話をしたわね。翼人が殺されたのは、丁度その場所だった。答えなさい従者、貴方でしょう」

従者「…そうですよ」

従者は真っ直ぐ私を見て答えた。その様子に、後ろめたさは感じられない。

令嬢「どうして勝手なことを!」

私は感情を隠すことなく従者に詰め寄った。声は自然に怒り口調になる。

従者「お嬢様が――」

従者は震えていた。

令嬢「え…?」

従者「お嬢様が戻ってこなくなる気がして、怖かった」

怖かった?戻ってこなくなる?何を言っている?

従者「お嬢様は魔王を討つんです!俺が殺した幹部も、お嬢様の敵なんですよ!」

令嬢「そんなことはわかって…」

従者「いいえ、貴方は彼が死んだことに心を痛めている!」

令嬢「――」

何も言い返せなかった。
自分に好意的だった翼人への敵意はほとんど無くなっていた。むしろ、私自身好意的な感情を抱いていたかもしれない。
魔姫の悲しむ様子を見て、私は心を痛めた。これから彼女の父親を討とう、というのに。

従者「お嬢様が本当に暗黒騎士のものに…こっちに戻ってこなくなるんじゃないかって、不安で…」

令嬢「…」

自分の愚かさを痛感する。従者にこんな心配をかけてしまうとは――

私は甘えていた。敵だらけの状況の中、少しでも好意的にしてくれる者に対し、心を許しかけていた。
だけれど、それじゃあ駄目だ。心を厳重に武装すると決意したのは、私自身ではないか。

令嬢「…ごめんね従者。大丈夫だから」

私は従者の頭に手をやる。彼を安心させてやらねばならない。
ふと、昨日の暗黒騎士の顔が頭に浮かんだ。私が笑いかけた時の彼の戸惑った顔を思いだし、心が痛んだ。
だけど、それが甘え。甘えは許されない。心の痛みは無視し、暗黒騎士の事も頭から振り払った。

令嬢「もう、誰にも心は許さないから」

従者はまだ震えていた。それは何を思ってか。今は彼の気持ちがわからなかった。

76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/27(木) 15:26:01.59 ID:CzElUxm/O
うわあぁ翼のキャラ好きだったのにいぃぃ

77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/27(木) 15:33:46.82 ID:D4cexFe3o
従者うぜぇ…

78 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/28(金) 15:37:20.31 ID:JMJsGzxX0
暗黒騎士はまだ部屋にいるのか。あんな事が起こって、幹部の彼が自室待機でいるとは思えない。
だけれど戻る気になれなかった。あそこは暗黒騎士をよく思い出させる場所。今はそこを避けたかった。

令嬢(私は、何がしたいんだろう――)

行くあてもなく城内を彷徨う。私に何も思い出させない、落ち着ける場所を探して。

猫男爵「おい、止まれ。怪しいな」

だけれど、そんな場所存在しなかった。

呪術師「ヒヒヒ…1人で何をしているんだぁ?」

悪魔「泳がせておけば昨日の証拠隠滅でもしたんじゃないのか」

あぁ…そう言えば暗黒騎士が言っていた、他の幹部が私を疑っていると。
間違ってはいない。従者にあんな事をさせたのは、私だ。

令嬢「…何の用ですか」

悪魔「今日はいつも以上に仏頂面だな。何か後ろめたいことでもあったのか?」

猫男爵「翼人はお前に対し、油断していたしな」

令嬢「ご冗談を。魔王軍幹部ともあろう者が、私なんかにやられるわけないでしょう」

呪術師「あの王子を、この城に侵入させたんじゃないのか?」

令嬢(そうきたか…)

自然と3人が私を囲むような体勢になっていた。すり抜けて逃げることは簡単だ。だけどそれは、後ろめたい気持ちを認めるようで癪だ。この程度の事で、動じてはいけない。

令嬢「とにかく何も知りません。言いがかりなら根拠をもって……ッ!」

バランスを崩しよろける。悪魔が私の足を蹴飛ばしていた。

悪魔「調子に乗るな」

悪魔の顔は、明らかに苛ついていた。

79 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/28(金) 15:37:48.93 ID:JMJsGzxX0
悪魔「昨晩は俺も猫男爵も呪術師も城外にいた。外からの侵入者ならば、城内の翼人よりも俺達の方が狙いやすい。なのに翼人が狙われたのは、奴を殺したのが城内の者で、奴の油断を誘える相手だからだ」

令嬢「…私以外にも該当者は沢山いると思いますが」

猫男爵「1番怪しいのはお前だ」

呪術師「そうだ、この捕虜が!」

今度は呪術師が私の背中を押し、私はそこに膝をついた。
流石に身の危険を感じる。魔姫の後ろ盾がある私に手は出さないだろうと油断していたが――

呪術師「いい加減にしろよぉ…俺の技は拷問だってできるんだぞヒヒヒ」

令嬢「…!!」

呪術師が手に魔力を帯びて私に少しずつ寄ってくる。
拷問されたらまずい。従者のことを話してしまうかもしれない。そうすれば従者は間違いなく打ち首になる。
いや、そもそも彼の目的は本当に私から証言を取ることではなく、私をいたぶることなのかもしれない。彼らは私のことが気に入らない。もし私が死んだとしても、3人で口裏を合わせれば何とでも言える。

何にしても、この状況は打破しないと。

少しずつ迫ってくる呪術師の醜い顔に、私は唾を飲み込み決意する。
彼が間合いに入ったら、光の剣で斬る。光の剣の存在がばれないよう、悪魔と猫男爵からは見えない角度で。
それで2人が逆上した時は仕方ない、戦おう。光の剣で斬られた相手は消える。何も証拠は残らない。
ぐっと拳を握り締め、構える。

呪術師「ヒヒヒ、震えているぞ小娘?」

令嬢「!」

怯えを悟られるとは不覚。それほど私は、甘えた生活に慣れきっていた。
戦わなければならない。生き残る道は、自分で切り開かなければならない。それが――

暗黒騎士「おい、何をやっている!!」

令嬢「!!」

悪魔「チッ」

呪術師が私の間合いに入ろうとした時、暗黒騎士が駆けつけた。
何とか危機は脱した。だけど私は暗黒騎士を見た瞬間、ほっとしてしまった。そんな心の甘えを感じ、私は自分に腹が立った。

80 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/28(金) 15:38:24.73 ID:JMJsGzxX0
暗黒騎士「こんな時に何をやっているんだお前達!こいつに手を出したら許さんぞ!」

猫男爵「フン…お前がきちんとそいつの監視をしていないからだ」

そう言うと、3人はぞろぞろその場から去っていった。流石に幹部同士の争いという大事は避けたかったのか。
ただ3人の背中を見送っていると、暗黒騎士が私に寄ってきた。

暗黒騎士「だから忠告しただろう!ほら、すりむいているじゃないか!それにお前、戦おうとしていただろう!どうして逃げるなり叫ぶなりしなかった!?」

だって、私は誰にも頼れないから。

令嬢「…ありがとうございました。でも大丈夫ですから」

暗黒騎士「…は?」

貴方に頼らなくても、自分の力で戦うから。

令嬢「部屋に戻るので――放っておいて下さい」

暗黒騎士「ちょっ、待っ――」

貴方といると、辛いだけだから――

暗黒騎士「おい!」

令嬢「!」

先回りして、今度は壁に追い詰められる。この壁ドン、私は好きじゃない。

暗黒騎士「おい…部屋を出た後、何があった?」

令嬢「何もありません」

暗黒騎士「そんなわけあるか、変だぞお前!」

令嬢「いつもと同じじゃないですか」

暗黒騎士「同じじゃない!何でそんなによそよそしいんだ!」

令嬢「…私達、そんな関係ですよ」

暗黒騎士「は…?」

心を許せる関係じゃない。私達は――

令嬢「魔王を討つ為に、手を組んでいるだけですよ」

81 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/28(金) 15:39:19.13 ID:JMJsGzxX0
暗黒騎士「―――っ」

令嬢「…」

どうしてか彼の顔を見れない。後ろめたいことなんてない。何も間違ってはいない。
それなのに、彼と目を合わせたくなくて――

暗黒騎士「…俺は」

少しの沈黙の後、暗黒騎士が声を発する。だけどその後何も言わない。
だけど私からも何も言えない。続きの言葉を、ただ待つ。

暗黒騎士「俺はお前を――」

やがて暗黒騎士は静かに、言葉を発し始めた。

暗黒騎士「ずっと、見てきた」

令嬢「―――え?」

予想外の言葉に私は戸惑う。

暗黒騎士「いつもいつも強がっていたお前が弱っていれば、俺にはすぐわかるんだよ」

令嬢「!!」

悟られていた?どうして?私の心の甘えが原因?それとも――

暗黒騎士「お前の俺に対する気持ちがそうだとしても、少なくとも今は」

暗黒騎士は私の頬に触れ、自分に向かせる。
彼を見たくはなかった。けれど抵抗もできなくて、気付けばその顔は正面にあった。

そして――

暗黒騎士「お前は俺の妻だ」

令嬢「――」

その目には、彼自身の気持ち、私への気持ち全てが込められていた。

82 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/28(金) 15:40:17.81 ID:JMJsGzxX0
従者「暗黒騎士さん!」

暗黒騎士「…っ!?何だ猿、今それ所じゃ」

従者「付近の森に王子の軍が潜んでいるとの事で、出動命令が出ました!」

暗黒騎士「クソ、あのキザ王子めこんな時に…!わかった、今すぐ行く!」

暗黒騎士は私から離れた。それから一言、

暗黒騎士「…俺が帰ってきた時は、出迎えろよ」

私に向かって、そう言った。
返事をする前に彼は駆けていく。そしてそこには、私と従者だけが取り残された。従者は去っていく暗黒騎士の背中を見送りながら、ほっとしたように一息ついた。

従者「…お嬢様?」

令嬢「…っ」

あまりの痛みに、私は立っていられなくなった。

従者「お嬢様!?どうされたのです!?」

痛くて、辛くて、私は感情のまま涙を流していた。私は弱くなった。お父様が死んだ時にも耐えたのに。

令嬢「私、私…」


私は、暗黒騎士を傷つけた。


令嬢「どうしてぇ…」

彼の気持ちが私の心を締め付ける。心を許さないと決めた。なのにどうして、こんなに苦しいのだろう。

令嬢「耐えられない…もう私、どうしていいかわからないぃ…」

従者「お嬢様……」


87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/28(金) 20:47:30.18 ID:fnaUox+kO
いまのとこ従者はただただウザいな
どこに着地させるのかが楽しみだ

88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/28(金) 22:45:00.96 ID:kQqmGAkcO
なにこれ楽しい

89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/29(土) 08:27:00.34 ID:h7lCkBszO
まぁ従者からしてみれば、さらわれた主人に会いに敵地に乗り込んでみたら、主人が敵と仲良くやってるわけだから納得もできんわな。
だからって翼人殺したことは俺が許さん。


2/2へ続く
posted by ぽんざれす at 21:29| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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