2015年09月04日

勇者の娘「お父様の仇を討ちます」(2/2)

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前回はこちら


90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/29(土) 18:17:53.23 ID:bgv+9Y2M0
魔姫「…」

普段は休ませている両翼を広げ、私は森の上空を飛んでいた。
泣きたい気持ちは存分にある。だけれどそれは一旦どこかに置いておく。
失ってから彼の大切さに気付いた愚かな私に、ずっと沈んでいる資格なんてない。

――見つけた

上空から見覚えのある顔を見つけ、私はそこに舞い降りた。

91 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/29(土) 18:18:20.66 ID:bgv+9Y2M0
王子「――!」

翼を広げたお嬢さんが僕の前に降り立った。魔物――ということは、味方ではない。
兵達の緊張感が増す。相手はお嬢さんとはいえ、どんな力を持っているかはわからない。

魔姫「中央国王子、よね」

王子「えぇ」

魔姫「昨夜、城に侵入し幹部を討ったのは貴方?」

王子「おやおや」

知らぬ間に敵側では物騒なことが起こっていたものだ。しかも犯人は判明していないのだろう、だから魔王の敵である自分に疑いがかかったのだ。

王子「心当たりがないなぁ。証明する手段はないけど、とにかく僕じゃない」

魔姫「…そう」

それにしても魔王軍幹部の暗殺か。それで「城に侵入し」ということは城内で起こったことだ。誰にも気づかれずにそれをやれるのは外部の者ではなく、内部の者ではないだろうか。
魔王軍幹部が全員あの猫ちゃん位強いのだとすれば、それをできる者も限られてくる。その上、動機のある人物といえば――

王子(犯人は従者君かな)

感情のまま突っ走る傾向のある彼を思い浮かべた。令嬢様の仕業、もしくは共犯なら、光の剣で死体を消滅させるはず。

魔姫「だけど貴方が私達の敵であることは確かよね」

彼女は僕を信じていないようで、手に魔力を貯めている。
兵士が小声で、弓を射るかと尋ねる。だが僕はそれを制した。

王子「まぁ待ってよ」

僕は彼女になるべく、温和に、柔らかく、微笑んだ。

王子「令嬢様のご友人とは、戦えないな」

魔姫「―――え?」

王子「その髪飾り、貴方が身につけている他の装飾に比べて控えめだ。少なくとも貴方が選んで購入したものではない…令嬢様は装飾品には無頓着な方だったが、選ぶならそういう物を選ぶ」

魔姫「…」

王子「間違っているかな?」

魔姫「いいえ。私とあの子は友達で、これはあの子に貰った物。…貴方がそう言うなら、こちらも戦えないわね」

王子「良かった」

もし彼女を斬れば、きっと令嬢様は悲しんだだろう。

92 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/29(土) 18:18:59.93 ID:bgv+9Y2M0
暗黒騎士「魔姫様…何でここに!?」

魔姫「暗黒騎士!」

あぁ、タイミング悪く来たものだ。僕が彼女と戦おうとしているように見えたのだろうか。

王子「…魔王軍幹部だね?」

暗黒騎士「あぁ…中央国王子よ、討伐命令により貴様を討つ」

何て面倒な三文芝居。だけれど第三者の目があるから、一応は演技をしないと。
それに彼は魔王を討つつもりだと言ってはいたが、こちらも100%信用しているわけではない。

王子「御託はいいや。行くよ!」

暗黒騎士「…!!」

剣を打ち合わせる。この手応え、彼は相当な実力者だとわかる。流石、魔王を討とうと決意しただけある。

暗黒騎士「…少し打ち合ったら撤退しろ。俺はお前を討つ気はない」

王子「うーん、兵たちの手前、すぐに逃げるわけにはいかないんだよねぇ。君が撤退してよ」

暗黒騎士「こちらにも魔姫様の目がある。そう簡単に撤退しては面子が潰れるんだよ」

王子「おやおや困ったねぇ」

小声で会話しながらも、鋭い剣を打ち合う。殺し合う気は無かったが、互いに一歩も譲らない。双方共プライドが高くて困ったものだ。
やれやれ仕方ない、ここは僕が譲ってあげよう。

打ち合いの最中、僕は後方へ跳んだ。

王子「全員撤退。幹部が殺された後だ、殺気立った魔物達が集まってくる予感がする」

兵士達は僕の言葉に従い撤退を始める。我ながら、いい口実を思いついたものだ。
全員撤退するまで、僕は暗黒騎士と睨み合う必要がある。僕は最後に馬に飛び乗って逃げればいい。
少人数で来て良かった。撤退はすぐにでも終わりそう…

「王子ぃ!」

王子「!?」

遠くから声がした。
そこにいたのは――

93 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/29(土) 18:19:34.44 ID:bgv+9Y2M0
私は2人の睨み合いの緊張で、声への反応が遅れていた。

王子「…従者君?」

魔姫「え…!?」

最近、暗黒騎士の部下になった従者だ。暗黒騎士の部下なのだから、ここにいるのはおかしいことではない。だけれど、従者が抱えているそれが問題だった。

魔姫「令嬢…!?」

従者が抱えていたのは令嬢だった。見た所、気を失っている様子だ。これは一体…!?

暗黒騎士「おい猿、どういう事だ…!?」

従者「王子…」

従者は暗黒騎士を無視し、王子に向かって言った。

従者「お嬢様を連れて帰って下さい!お願いします!」

王子「!」

暗黒騎士「何だと!?」

従者「魔王城に潜伏していなくても、魔王を討つ手段はあります!!これ以上お嬢様を魔王城に置いてはおけない!!」

魔姫(どういう事…!?)

従者が裏切った…!?いや、彼は元々侵入者として入り込んだ者。ということは元々王子側の者だったと?
だけれど魔王城に潜伏とは…?それに王子も、従者の行動に驚いているようにも見えるが…。

王子「…令嬢様はそれを望んでいないよ」

従者「しかし王子、このままではお嬢様の心は暗黒騎士のものになってしまいます!!」

王子「何だって…!」

暗黒騎士「おい猿、何を言っている!」

暗黒騎士が従者に詰め寄るが、従者は令嬢を地面に下ろすと、素早く小刀を取り出して暗黒騎士に飛びかかった。

従者「王子、今の内に早く!!」

従者は焦っている。王子はそんな彼を見て、戸惑いを隠せていなかった。
そんな時だった。

猫男爵「…これはどういう状況だ?」

呪術師「わからんなぁ」

悪魔「猿が、暴れている…?」

暗黒騎士「クソ、こんな時に…!!」

本当にそうだ。現状でも説明不足だというのに、彼らが来ては更なる混乱が予想された。

94 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/29(土) 18:20:04.60 ID:bgv+9Y2M0
悪魔「何だ…猿の裏切りか暗黒騎士?」

暗黒騎士「………そうだ」

何か後ろめたいことがあるのだろうか、暗黒騎士は即答はしなかった。

呪術師「ヒヒヒ、それなら加勢しようか」

従者「…っ、逃げて下さい王子、早く!お嬢様を連れて!」

王子「く…っ」

流石にこの人数の幹部相手に戦うのは分が悪いと思ったのか、王子は令嬢を抱えた。しかし。

呪術師「逃がさんぞおぉ!」

王子「っ!」

呪術師の魔法が、令嬢を巻き込もうが関係あるまいと王子を狙う。王子は間一髪避けたが、このまま逃げるのは大変そうだ。

魔姫「ちょっと」

私は他の全員には聞こえないように、小声で王子に声をかける。

魔姫「私を人質にすれば彼ら、手は出せないわ」

王子「!?そ、そんな事」

魔姫「このままじゃその子も殺されるでしょ!決断なさい!」

王子「…くっ、失礼します!」

王子は言われるまま、背後から私を捕らえる。やはり、それで幹部達の動きは止まった。

95 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/29(土) 18:25:17.43 ID:bgv+9Y2M0
暗黒騎士「くそ、待て!」

王子が令嬢と私を馬に乗せ、走る。途端、暗黒騎士が馬を追おうとした。
しかし彼の前に従者が立ちはだかる。

暗黒騎士「どけ猿!」

従者「暗黒騎士さん、全部バラしてもいいんですか?」

暗黒騎士「くっ、お前…!!」

その様子が遠ざかり、何の会話をしているのかは聞こえない。辛うじてわかるのは、従者が暗黒騎士の動揺を誘った事くらい。
だけど私は、その瞬間を見逃さなかった。


魔姫「あ――」


呟いたのとほぼ同時だった。




従者「――――っ!?」

悪魔「バカが…!」



悪魔の腕が、従者の胸を貫いたのは――



令嬢「あ…あ…」

魔姫「!?」

いつの間にか令嬢は目を覚ましていた。そして私が見たのと同じ光景を、直視していた。




令嬢「従者…従者、従者ああぁぁ―――ッ!!」


地面に倒れる従者を見ながら、令嬢は叫んだ。それは私が初めて見る、彼女の取り乱した姿。
だけれど馬はただ無慈悲に彼女から、それらの光景を遠ざけていくばかりだった。

96 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/29(土) 18:25:44.06 ID:bgv+9Y2M0
従者「…」

幹部達が俺を見下ろしている。
トドメを刺すのだろうか?――どうせ、放っておいても俺は死ぬだろうけど。

暗黒騎士「猿、お前…」

他の幹部達が俺に嘲りの目を向ける中、暗黒騎士さんだけが憐れむような目をしていた。

あんたはお嬢様の恩人だし、あんたの事嫌いじゃなかった。だけれど、あんたがお嬢様の心を奪ったのは許せなかった。




暗黒騎士『お前は俺の妻だ』

令嬢『――』



あんなお嬢様の顔、俺は初めて見たんだ。
小さい頃から俺とお嬢様はずっと一緒だった。それなのに、俺はあんなお嬢様を知らなかった。

お嬢様にあんな顔をさせることができるあんたが、羨ましくて、憎かった――



――あぁ、そうか。相手が王子なら諦めがついていたんだ。あの人はお嬢様の心まで奪わないから。

俺は王子よりもお嬢様を知っていると、安心できていたんだ。


ずっと、この気持ちは秘めていた。


俺は、お嬢様のことがずっと―――――

97 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/29(土) 18:29:29.71 ID:bgv+9Y2M0
今日はここまで。
きっと嘆く人がいないような気がするので、作者が嘆きます。

従者あああぁぁ!!!・゜・(ノД`)・゜・

98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/29(土) 18:32:36.51 ID:SFNiYhQKo
悪魔よくやった!

99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/29(土) 21:36:24.78 ID:42OubUzgO
でも俺は従者の気持ち分かるぞ

100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/30(日) 03:43:03.49 ID:ukf8jTYpo
従者の動機はやっぱりそういう事だったか
ならなおのこと翼人はターゲットから外した方が安全だったろうに


103 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/30(日) 15:41:15.44 ID:wf+uCNAm0
令嬢「…」

魔王城から連れ出されて丸一日経った。
とりあえず私は、中央国の王城で保護されている。
我が家が襲撃されて以来人間達はかなり動揺していたようで、私の帰還は国総出で祝われた。
昨日から色んなお偉方が私に挨拶に来られ、もうくたくただ。

魔姫「元気出しなさいよ、暗いわよ」

令嬢「…敵の捕虜になったというのに、魔姫さんはいつもと変わりありませんね」

魔姫さんは私や王子の願いで、捕虜とはいえ特に拘束されずにいる。とはいえここは敵地だ。

魔姫「貴方だってそうだったでしょ」

あぁ、彼女も私同様、かなりの強情っぱりですものね。そう思うと、思わず笑ってしまった。

魔姫「そうそう、そうやって笑っていなさいよ。貴方の笑った顔、とっても好きよ」

令嬢「魔姫さん…」

彼女には全て話した。従者が翼人を殺したことや、その理由。そして私が魔王を討つ為、暗黒騎士の妻になったことも。
昨日それを話した時の魔姫さんは複雑そうな顔をしていた。きっと翼人の死を引きずり、私や従者を恨むだろうと思った。だけど今日再会した彼女は、そんなこと顔にも出さず、相変わらず私と友好的にしてくれた。

従者のこと、許せないわよ――魔姫さんははっきりそう言った。その後で続けて、

魔姫「でも貴方は関係ない。それにもう従者は殺されてしまった。だからこの気持ちをどう消化するかは、私次第よ」

そう言った彼女の目には、前に進もうという決意が表れていた。

私はというと――従者の件が頭から離れない。目が覚めた時最初に見たのは、従者が殺される光景だった。
小さい頃からずっと一緒で、私の1番の味方だった従者。それがどうしてあんな事を――わからない。翼人を殺した辺りから、従者の行動がわからなくなっていた。

それに、頭から離れないのは従者の事だけではなかった。




暗黒騎士『お前は俺の妻だ』



もうここは魔王城ではない。だから私達は夫婦ではない。
私達の関係は今、何なのだろう――もう、ああやって、彼と過ごすことはないのだろうか。

104 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/30(日) 15:41:42.88 ID:wf+uCNAm0
令嬢(これじゃあいけない…私はまだ魔王を討ち取っていない)

魔姫さんと別れた後、訓練場へ足を伸ばした。今は丁度、誰もいない。
訓練場にあった剣を振る。駄目だ、こんな腕前じゃ魔王はおろか、幹部達とも戦えない。

令嬢(だけど光の剣なら――)

私にとって唯一の希望と言っていい技だった。
魔王城では暗黒騎士不在の時に、持続時間の維持を試みていた。あれなら――

令嬢「――――え」

王子「令嬢様…?」

令嬢「!」

それは王子に見られていた。何て悪いタイミングだ。

王子「令嬢様…今、光の剣が」

令嬢「…」

言い訳のしようがなく、私は茫然としながら、答えた。

令嬢「私の光の剣…小さくなった。前よりもずっと。どうして…?」

王子「…」

王子も答えられるわけがなく、ただ気まずいまま2人、しばらく何も言えなかった。

105 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/30(日) 15:42:10.03 ID:wf+uCNAm0
王子「父上――」

令嬢様の光の剣の件を父に伝える。
光の件の存在は勇者一族と、それに仕える一部の者しか知らなかったが、僕が令嬢様と婚約した時点で国王と僕も知る存在になっていた。

王「光の剣は本人の精神で強くも弱くもなるものだったな?」

王子「はい、では令嬢様は今弱っていると」

王「うむ…敵地から戻ったばかりだ、疲弊していてもおかしくはない」

本当にそうだろうか?以前再会した時の彼女は元気そうだったが――それともそれは気丈に振舞っていただけであって、本当はとても疲弊していたのか?それに昨日、従者君の事があったばかりだ。

王「魔王はいつ攻めてくるかわからんな。彼女の精神を安定させることが最優先か――王子よ」

王子「はい」

王「明日にでも、お前と勇者殿の婚儀を執り行おう」

王子「―――!?」

106 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/30(日) 15:42:49.88 ID:wf+uCNAm0
令嬢「え―――」

結婚の件を王子から聞かされた時、思考停止した。

王子「予定より早くなりましたが、こんな状態ですから…」

私も王子もどこか他人事。自分達の意思が関係ないのは、昔から同じ事。
これは元々決まっていた事だ。それが嫌だと思った事は無かった。それが人々の期待であり、家同士が決めたものだったのだから。

だけれど――

令嬢「もう少し…時間が欲しいです」

つい、そんな言葉が口から出た。

王子「そうですよね」

王子は追及しない。彼も、突然だと思っているのだろう。

王子「ですが父はもうその気になって、もう話を進めております。すみません、父も焦っているのです」

令嬢「で、ですが…」

王子「どうしても心の準備ができないようであれば、父に強く言っておきます。ですが令嬢様――」

王子はそう言うと私の手を握る。

王子「いつかは、その覚悟ができますでしょうか――?」

令嬢「…っ!」

私は王子の手を振り払った。つい咄嗟の行動で、自分でもどうしてそんな事をしたかわからない。
目の前の王子は驚く様子もなく、私の様子をじっと見つめていた。

令嬢「す、すみません…」

王子「いいえ」

令嬢「…すみません、王子。今日は休ませて下さい。お返事は…必ずしますから」

そう言うと私は逃げるようにその場から立ち去った。

どうしてか――王子に触れられた途端、嫌だと思った。前は、抱きしめられても嫌だとは思わなかったのに。

107 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/30(日) 15:43:19.08 ID:wf+uCNAm0
王子「…やっぱり」


従者『このままではお嬢様の心は暗黒騎士のものになってしまいます!!』


従者君が言っていたのはこの事か――
それにしてもこうはっきり拒絶されては、流石に傷ついてしまう。

魔姫「ちょっと」

王子「おや、魔姫様。…見ていらっしゃったんですか」

魔姫「バッチリ見てたわよ。あんた軽い男ね!レディーに軽々しく触れるものじゃないわ!」

王子「一応、僕と令嬢様は婚約しているのですが…」

魔姫「一応、ね…。ねぇ、聞いてもいい?」

王子「何でしょう」

魔姫「あんた、令嬢のこと愛してる?」

何てストレートな質問を…硬直していると、魔姫様は続けて言われた。

魔姫「愛しているわけじゃないのね」

王子「…わかりません」

僕は正直に答える。

令嬢様が生まれた時、僕は2歳。その時から決められていたのだ。兄が国を継ぎ、次男の僕は勇者一族の者と結ばれることを。
勇者の夫に相応しい武力を――それが僕に期待されたもの。僕はずっと、勇者の夫となる為の教育を受けてきた。王子とはいえ、僕も王族と勇者一族の婚儀という目的の為の駒に過ぎない。僕は、それに疑問を持たずに生きてきた。

令嬢様は素晴らしいお方だと思っている。だけれど…

王子「流されているだけなのかもしれないですね――僕も、彼女も」

108 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/30(日) 15:44:05.20 ID:wf+uCNAm0
令嬢「…」

何もする気が起きない。
自分で自分の事がわからない。どうして今まで受け入れていた事が、急に無理になったのか――

私は、弱くなった。



暗黒騎士『いつもいつも強がっていたお前が弱っていれば、俺にはすぐわかるんだよ』


どうして、彼の顔が浮かぶのだろう。


暗黒騎士『それを身につけたお前を、見たい…』


いつから、こんな気持ちになったのだろう。


何もわからない。ただ胸が痛い。
誰にも頼らないと決めたのに、1人で戦うと決めたのに、彼を思う気持ちが止まらなかった。

その時、部屋の扉がドンドンと乱暴に叩かれた。

兵士「勇者様!」

令嬢「はい!」

私は扉の向こうに返事をする。切羽詰っている様子に、何事かと私も緊張感を持つ。

兵士「魔物達が、攻めてきました!!」

令嬢「!」

111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/30(日) 17:47:22.21 ID:+0p9KF7XO
おのれ国王!!
令嬢は暗黒騎士のもんだ!!

112 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/01(月) 14:37:32.47 ID:WIUjoUbb0
人々は屋内に避難させ、兵士達を街の外に出動させる。
魔物達の群れだ――それは見たこともない程の軍勢だった。

魔姫「お父様の指示かしら…」

王子「…」

魔姫様を取り戻しに来たのであれば向こうに返すつもりで連れてきた。彼女を人質にする気は一切ない。

魔姫「あっ!」

魔姫様が声をあげる。その視線の先には――

王子「魔王!!」

魔王「…」

僕が遠目で魔王の姿を視認したと同時だった。魔王が手を高く掲げる。そして。

王子「――――!?」

ズドオォンと大きな轟音。魔王は躊躇なく、魔法を放ってきた。
咄嗟だったが僕は前に出て、魔法を切った。だが同時に、僕は信じられなかった。

魔姫「ど、どうして…!?」

魔姫様が狼狽えるのも無理はない。

魔姫様がいるのに、撃ってきた―――?

魔姫「どうして、お父様…!?」

魔王「―――今は人間達の希望を刈り取る好機」

そして魔王は、魔姫様に残酷な言葉を口にした。

魔王「その足手纏いとなるなら、我が娘でも切り捨てよう!!」

魔姫「え――――」

王子「何てことを…!!」

他人事ながら怒りが湧いてくる。そもそも魔王は、彼女がこちらの捕虜になっていたのに、構わず攻めてきた。その時点で、気付くべきだった。

113 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/01(月) 14:38:02.21 ID:WIUjoUbb0
駆けつけるのが遅れたが、私は魔王のその無慈悲な台詞を聞き逃しはしなかった。

令嬢「魔姫さん。私、魔王を討ちます」

魔姫「令嬢…」

魔姫さんの顔が悲痛に歪んでいる。彼女は魔王が討たれても悲しまない性格だと以前翼人が言っていた。それでも彼女は翼人の死で死への価値観が変わり、彼女なりに父親を愛していたのだ。
父親への愛情は、例え見捨てられたとしてもそう簡単に捨てられるものではない――だから、先に魔姫に言った。

魔王「よくぞノコノコ出てこれたな勇者よ」

令嬢「勇者だからよ」

それに――

令嬢「暗黒騎士はどこ!」

私は軍勢の中に彼の姿を探す。
猫男爵、呪術師、悪魔――幹部はすぐに見つかった。だけれど暗黒騎士がいない。彼ならまだ魔王側にいるはずだ。

魔王「魔王城にいた頃の夫のことは気になるか」

魔王は皮肉の笑みを浮かべる。
笑っていられるのは今の内だ。幹部最強の彼が裏切る事を、魔王はまだ予測できていない――

魔王「奴なら来ていない」

令嬢「え――!?」

そう言って魔王は私の足元に投げ捨てた――暗黒騎士の、壊れた兜を。

令嬢「こ、これは…」

114 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/01(月) 14:38:33.21 ID:WIUjoUbb0
魔王「殺してはいない」

想像することすら拒絶したその言葉を、魔王はすぐに否定した。

魔王「仕置きをしただけだ。暗黒騎士はお前を殺す事に対し、抗議してきたからな」

令嬢「仕置き…って…」

悪魔「仕置きは仕置きだ!」

3人の幹部達が一斉に飛びかかってきた。

王子「おっと!」

すかさず王子が間に入る。そして相変わらずの優雅な剣さばきで、3人を牽制した。
それと同時、兵士達が魔物の群れに押し寄せていく。頭数ではほぼ兵士側が勝っている。後は――

魔王「やはり、勇者と魔王の戦いになるか」

令嬢「…!」

暗黒騎士はいない。暗黒騎士に会えない――そんな事を、こんな状況でも思う。

令嬢「それなら、1人でも戦う…!」

ここで勝てば、また暗黒騎士に会うことが出来る。
だから私は、勝つ。

魔王「――!?」

光の剣を出した。それは今までにない位に大きくなっていた。
これなら、魔王を討てる――私は確信する。

魔王「流石勇者…妙な技を隠し持っていたのだな」

115 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/01(月) 14:39:03.40 ID:WIUjoUbb0
私は剣を構え、魔王に飛びかかる。
魔王は余裕の表情で、爪で剣を弾く。

魔王「!!」

光の剣に触れた爪はその場で溶けるように消滅した。
爪程度、魔王なら再生は可能だろう。しかし魔王の表情は歪む。

魔王「その剣は触れると危険なようだな」

そう言った魔王は魔力を纏う。そして貯めた魔力を、こちらに向かって放ってきた。
剣に触れぬよう警戒して私を討つつもりか――それは甘い考えだ。

令嬢「はっ!」

襲いかかる魔法を光の剣で斬る。光の剣が消すことができるのは、敵の体だけではない。

魔王「ほう…」

光の剣で消滅した魔法を見て、その手段も無駄だと悟ったようだ。
魔王は筋肉を肥大化させ始める。

魔王「強力な技を持っているようだが、当たらなければいいだけの事だ」

先ほど打ち消した爪はもう再生していた。
それ所か先ほどより肥大化し始め――

令嬢「…っ!」

容赦なく私に襲いかかった。今のは避けられた――だが、連続攻撃が次々と来る。
何とか避けながら、光の剣でその爪を打ち消す。そうしても今度はその拳が、攻撃を止めない。

116 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/01(月) 14:39:43.38 ID:WIUjoUbb0
令嬢「…っ!!」

魔王の拳が私の肩を打ち、私は後ろに吹っ飛んだ――が、すぐ着地し体勢を立て直す。

魔王「ははは、小娘にしてはやるじゃないか!」

令嬢「私は勇者よ」

挑発には乗らない。純粋な強さでは魔王の方が遥か上。だからせめて、気持ちでは負けない。

痛みは感じる。けれど私を鈍らせる程ではない。
この程度、あの時の心の痛みに比べれば何ともない。



暗黒騎士『お前は俺の妻だ』

令嬢『――』



私は彼を傷つけたままだ。ずっと私を見てくれた彼は、今はいない。彼に会いたい。その気持ちが私に力を与える。

令嬢「負けない…!!」

目の前の敵からの攻撃を的確にかわし、剣を振る。魔王も光の剣を警戒している様子が伺える。
私は立ち向かえる。魔王と戦う事ができる。そう確信する。

だけどそれは、1対1ならばの話で――


令嬢「…っあ!」

呪術師「ヒヒヒ、周囲が見えていなかったな…!!」

不意打ちの魔法に、私は吹っ飛ばされた。

117 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/01(月) 14:40:10.32 ID:WIUjoUbb0
王子「く…!」

幹部3人を相手にしている王子に、呪術師を止めることはできなかった。

今のは私の油断――結構ダメージを受けたけれど、まだ戦える。

魔王「相変わらず表情一つ変えんで、本当に強情な小娘だな」

令嬢「平気だから」

この程度の痛みに負けちゃいけない。
誰にも頼れない。
私は自分の力で戦う。

令嬢「勇者は、魔王を討つものだから」

魔王「その余裕ぶった態度をやめろおぉ!!」

いつの間にかまた再生していた爪が私に襲いかかる。
体は痛い、けれど戦う――私は構えていた。





「また、強がっているのか」



――――!?

118 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/01(月) 14:40:36.80 ID:WIUjoUbb0
「言っただろう?逃げるなり叫ぶなりしろ、と」


一閃、爪は弾け飛ぶ。それよりも――


「俺が守るから」



歓喜、興奮、感動――私の頭はそれで一杯だった。何故なら目の前に現れた彼は――


暗黒騎士「お前は俺の妻なんだから――な?」

令嬢「…はい!」


ボロボロの姿になりながらも、相変わらずその目で、私を見てくれていたのだから。

119 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/01(月) 14:45:05.01 ID:WIUjoUbb0
今日はここまで。
作者が1番興奮しています。

待ってたぜ暗黒騎士いいぃぃぃ!!

120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/01(月) 17:46:39.74 ID:04nAot6AO
男前が来たー

121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/01(月) 19:13:10.87 ID:2Q6kx1JBO
かっこいいー
きゅんきゅんするー

122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/01(月) 20:23:42.63 ID:6ZjY196AO
乙!
コブラなみの男前だぜ!!

123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/01(月) 21:56:44.64 ID:p9PZ0aJfO
今なら暗黒騎士に掘られてもいい

124 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:00:47.58 ID:4wPycDZ60
魔王「暗黒騎士…お前どういうつもりだ」

魔王も幹部達も、突然現れた彼の姿に驚きを見せる。
しかし彼は、ふてぶてしい態度を取った。

暗黒騎士「こいつに手ぇ出すなと言っただろ」

猫男爵「暗黒騎士!それは魔王様に対する背信行為…」

暗黒騎士「だとしたら!?」

そう言うと暗黒騎士は魔王に飛びかかる。魔王は爪を失った拳で剣を弾いた。それでも防ぎきれず、その拳は変な方向に曲がる。

悪魔「暗黒騎士、貴様…!魔王様、加勢しま…」

王子「君らの相手は僕だよ」

暗黒騎士に襲いかかろうとする幹部の前に王子が立ちはだかる。
魔王と暗黒騎士の攻防は1対1。仕置きのダメージが体に残っている暗黒騎士の方が不利か。

魔王「そうか裏切るか!その体でよく我に逆らうことができたな!!」

暗黒騎士「俺はもう昔の俺じゃない」

暗黒騎士はボロボロの姿でも、一歩も退かなかった。

暗黒騎士「殺されかけた相手に忠誠誓うような情けない俺は今日で終わりだ。俺は自分の意思に正直に、お前を倒す」

魔王「そうか暗黒騎士…ずっと我に復讐心を抱いていたのだな!だが思い上がるな!」

暗黒騎士「復讐心か…今は少し違うな」

魔王「まぁ何でもいい!我に逆らったことを後悔させてやろう!」

魔王は無傷の方の手で暗黒騎士に襲いかかるが――

令嬢「てりゃっ」

魔王「…っ!?」

乱入し、その腕を光の剣で斬った。斬られた腕は消滅し、これで両腕とも重傷。

125 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:01:13.87 ID:4wPycDZ60
魔王「くっ、この小娘が!」

魔王はすかさず魔法を私に向けて撃とうとした。

暗黒騎士「おっとぉ!」

令嬢「!」

だが、暗黒騎士がすぐに私を抱え、魔法をかわす。
遠目で見てもボロボロだった暗黒騎士は近くで見ると更に痛々しさが目立ち、よくこれで戦えるものだと感心する。

令嬢「もう大丈夫ですよ。下ろして下さい」

暗黒騎士「いや…ちょっと待て」

令嬢「…?どうしました」

暗黒騎士「あと5秒…今の俺には癒やしも必要でな」

令嬢「…馬鹿ですか」

彼も、それにときめく私も。

5秒経過し、暗黒騎士は私を下ろすと再び魔王に飛びかかっていった。心なしか、さっきより大分元気になった。
暗黒騎士は魔王の両腕を重点的に攻めている。これでは、再生の隙もない。

呪術師「くっ魔王様!」

令嬢「!」

さっきと同じく、呪術師が王子の隙をついてこちらを狙ってきていた。
しかし次の瞬間、呪術師の体は雷に討たれて吹っ飛んだ。雷を発したのは――

魔姫「…邪魔はさせないわよ」

令嬢「魔姫さん…」

魔姫さんは私と目が合うと、勝ち気に微笑んでみせた。

126 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:01:40.08 ID:4wPycDZ60
令嬢「加勢します!」

私は光の剣を構えて魔王の背後に回る。魔王は光の剣を恐れてか、翼を広げ高く跳躍――しようとして、暗黒騎士に片翼を切られる。
連続で光の剣が魔王の首を狙うが魔王は私の脇をすり抜け、即攻撃に転じ、私に魔法を撃つ。
やられる――そう思ったが、暗黒騎士にぐいっと肩を引っ張られ回避した。

暗黒騎士「お前はあまり前に出るな」

令嬢「そうはいきませんよ」

あぁこれは言い争いになりそうだ…と思ったが、魔王が両翼で攻撃してきた。
私はこれを回避――暗黒騎士はすぐに攻めに転じていた。

魔王「この為だったのか、暗黒騎士…!!あの日勇者の娘を欲しいと言ったのは、我を討つ為だったのか!!」

魔王は憎々しいといった口ぶりで言った。

暗黒騎士「そうだな」

打ち込む手をゆるめず、暗黒騎士は平然と答える。

暗黒騎士「勇者なら不死の魔王を倒せる――俺はそんな御伽噺を信じて、あいつを利用しようと考えた」

魔王「まさかお前に、そこまでの計算ができたとはな!!」

暗黒騎士「いや、計算はできなかった」

襲いかかってきた両翼を弾き、暗黒騎士は言った。

暗黒騎士「利用しようとしてできなくなった。今は、あいつを守る為に死んでもいい」

令嬢「本当に馬鹿ですね」

私は暗黒騎士に並ぶ。

令嬢「生きましょう、一緒に戦って」

暗黒騎士は一瞬私を咎めようとしたが、すぐにやめた。多分、押し問答で私に勝てないと判断したのだろう。
それでも彼の顔に不安は浮かんでいない。きっと、私を守ると決めているから。

127 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:02:09.07 ID:4wPycDZ60
魔王「くっ…暗黒騎士っ!!」

両腕も翼もボロボロになり、再生が追いつかない。
魔王の表情は苦渋に歪んでいた。

暗黒騎士「見苦しいぞ魔王!」

魔王「が…っ!!」

暗黒騎士の剣が、魔王の胸を切りつける。

暗黒騎士「お前は不死の肉体に慢心していた」

そう――だからかつて倒した相手である暗黒騎士に追い越された。
そして、死をもたらす光の剣を相当恐れていた。

魔王「く…!!我はこんな所で敗れん!!」

魔王の体中から、魔力が溢れる。

魔王「全力を賭けて、貴様らを殺す!!」

そして溢れ出した魔力は波のように、私達に迫ってきた。
これは逃げられない――暗黒騎士は私を庇うように前に出る。

令嬢「大丈夫」

だけど私は、暗黒騎士の更に前に出た。
そして光の剣を出し、迫ってくる魔力に対峙する。

令嬢「私が道を作りますから、貴方は魔王に――」

暗黒騎士「あぁ」

私を信じてくれている。この大役、失敗するわけにはいかない。

128 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:02:35.44 ID:4wPycDZ60
暗黒騎士「守るなんて言ったが、お前は俺なんかより凄いな」

令嬢「いいえ、違います」

光の剣は心で強くなる剣。ならば今の、この光の剣は――

令嬢「貴方のお陰で、強くなれましたから」

暗黒騎士に声が届いたかどうか――反応を確かめる暇はない。私は迫ってきた魔力を一刀両断に斬った。
それと同時、暗黒騎士が魔王に向かって駆けていく。

そして暗黒騎士の剣は、吸い込まれるように――

魔王「ガハァ…ッ!!」

魔王の胸に、深く突き刺さったのだった。

129 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:03:02.60 ID:4wPycDZ60
魔王が崩れる。胸の一撃は致命傷――普通の体なら。

魔王「おのれ…!!」

魔王は目の前の暗黒騎士に手を伸ばす。と同時に、一気に手が再生を始めた。他の部分の再生を諦め、手に集中したのだろう。

魔王「貴様だけでも道連れにしてくれる…!!」

肥大化した爪が暗黒騎士に迫り――

令嬢「本当に見苦しい」

そしてそれは、光の剣により消滅した。
魔王が悪あがきするだろうということは予測済み。だから暗黒騎士が駆けたと同時、私も魔王に迫っていた。

令嬢「終わりですよ」

魔王――私の誇りであった父の仇。人々に災厄をもたらそうとした、勇者の敵。
私は確かに貴方を恐れていた。心を厳重に武装して、恐怖心を誤魔化していた。私1人なら、絶対に勝てなかった。

――貴方がいたから、私は魔王を討てる。

暗黒騎士「行けーッ!」

共に戦ってくれた彼の声が私を後押しし――


光の剣は、魔王の首を断ち切った。

130 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:03:29.86 ID:4wPycDZ60
令嬢「…やっ…た…」

光の剣に命を断たれた魔王の肉体は消えていく。

悪魔「う、嘘だろ…魔王様が」

猫男爵「あの不死身の魔王様が…」

呪術師「ど、どどどうすればいいんだーッ!?」

魔物達は動揺するばかり。魔王が討たれた瞬間敵には敗北ムードが漂い、戦いが一斉に止まった。中にはそこから逃げ出す魔物もいた。

魔姫「…負けたのよ、魔王は」

動揺する魔物達に、魔姫さんが毅然とした態度で言った。

魔姫「魔王なき魔王軍には野望も目的も存在しない。敗軍は徹しなさい」

悪魔「は…はっ!」

彼女の言葉で魔物達が退散を始めた。それを追う者はいない。
魔物達は元々各々好き好きに活動していた者達。将を失った今は軍から個に戻り、敵ではなかった。

魔姫「…お父様は勇者との戦で敗れた。魔王の娘だもの…いつか、こうなる日が来ると思っていたわ」

そう言う魔姫さんの顔には、かつて翼人を失った時のような悲壮感は浮かんでいなかった。
あるのは相変わらずの、前に進もうという意思だった。

131 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:03:57.51 ID:4wPycDZ60
これで終わった。魔王との決戦も、父の仇討ちも――

そう思った瞬間、これまでの疲れがどっと押し寄せ、私の足はふらっとよろめく。

暗黒騎士「しっかりしろ、勇者」

よろめいた私を、暗黒騎士がすぐに支えてくれた。
私を支える暗黒騎士は――あぁ、私を心配してくれている顔だ。

令嬢「大丈夫よ…ちょっと疲れただけで」

暗黒騎士「あぁ…よくやったな」

彼は安心したように笑う。その笑顔を見た瞬間、私はある衝動に駆られた。

暗黒騎士「お、おい!?」

そしてその衝動のまま、暗黒騎士に飛びつく。突然のことに彼は慌てふためいていた。

魔姫「…ちょっと。人目を気にしなさいよ」

王子「ははは…」

周囲の兵たちの歓声も、その時の私の耳には入っていなかった。

132 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:04:29.60 ID:4wPycDZ60
王「勇者よ――」

令嬢「!」

兵士達が道を開け、国王がやってきた。
私はすぐに暗黒騎士から離れた。

王「よくぞやってくれた。お主は魔王を討った、人々の希望――正に勇者だ」

令嬢「…はい」

王「しかし…」

王は視線を、私の側にいる暗黒騎士に移す。一部始終見ていたのだろう、訝しげな目で彼を見た。

王「勇者よ、その男は一体…。人間から魔族に転生した者の特徴があるが…」

令嬢「…」

何と言えばいいのだろう。元魔王軍の幹部?魔王軍の裏切り者?魔王城での夫?――どうしよう、説明するとややこしい。

暗黒騎士「おい…俺から説明しても信用されないだろうから、何とか言ってくれ」

暗黒騎士が困ったように私をせっつくが、私は言葉を詰まらせる。
そんな様子を見て、王はますます訝しげな顔になった。

王「まぁ、いい」

いいのか。

王「ところで、王子との婚姻だが――」

令嬢「―――!!」

王「良ければ明日にでもだな…」

令嬢「…申し訳ありません、王様」

王「何?」

私は王に一礼すると、暗黒騎士にくるっと向き直った。そして。

令嬢「暗黒騎士…逃げますよ!」

暗黒騎士「え…はっ!?」

私は困惑する暗黒騎士の手を取り、そこから走り去る。
王は勿論、兵士達もざわついた。

133 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:05:07.61 ID:4wPycDZ60
王「な、何だ!?」

兵士「馬で追いますか!?」

王子「―――いや」

走り去る2人をその場で、僕達2人だけが冷静に見ていた。

王子「大丈夫ですよ、令嬢様なら待っていれば戻ってこられるでしょう」

魔姫「今は邪魔しちゃいけないわね」

王「ど、どういう事だ…!?」

王子「あれが、婚姻に対する返事ですよ」

僕の完敗だ。だけど悔しくない。

魔姫「ちゃんとキス位してから戻ってくるでしょうね」

王子「どうでしょうね、2人とも奥手そうですから」

魔姫様と顔を合わせてそんな話をした。
今はただ、魔王を倒したという達成感と、2人を祝福する気持ちで笑っていたかった。

134 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:05:40.42 ID:4wPycDZ60
しばらく走った。やがて人里離れた湖畔に辿りついた。
もう体力の限界だったのか、暗黒騎士はその場にへたり込んだ。

暗黒騎士「ゼェゼェ…お前な、怪我人に無理させるなよ」

令嬢「ふー、ふー…ふ、ふふふふっ」

暗黒騎士「ど、どうした」

令嬢「初めてなんです、ああやって問題行動起こしたの。今頃きっと皆あたふたしているわ」

暗黒騎士「あのな…いいのか、それで」

令嬢「貴方はどうしたいですか?」

暗黒騎士が硬直する。
何てわかりやすい人だ。こんなにわかりやすい人なのに、私は全然気付かなかったなんてね。

暗黒騎士「…しばらく、ここにいたい」

令嬢「えぇ、そうしましょう」

私は暗黒騎士の隣に腰を下ろした。
戻ればやる事は沢山ある。他国への挨拶回りや催事への参加、自分が当主となった家でのあれこれ…多分しばらくは忙しい日が続く。その日々に、いつも一緒にいた従者はもう着いてきてくれない。

令嬢「…今だけは忘れていたい、全部」

暗黒騎士「あぁ…そうしろ」

暗黒騎士は何も聞かず、頷いてくれた。
彼が許してくれるというなら忘れよう、今ここにいる、彼以外のことを。

135 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:06:34.67 ID:4wPycDZ60
令嬢「暗黒騎士」

暗黒騎士「!」

体を彼に寄せる。暗黒騎士はビクッと跳ねたが、抵抗しなかった。
言葉はなく、時が静かに流れる。

暗黒騎士「―――なぁ」

先に沈黙を破ったのは暗黒騎士だった。

暗黒騎士「王が言っていただろう…王子との婚姻は」

令嬢「…私はもう、貴方の妻ですよ」

暗黒騎士「そ、それは…」

それは魔王城での話だ――言葉はそう続くのだろう。
だけど私にはわかる。暗黒騎士はその先の言葉を、言いたくはないのだ。

令嬢「私は、貴方の妻ですよ」

今度は彼の目を見つめて言った。
彼は唇をぎゅっと結び、私から目を離さなかった。

暗黒騎士「…本当なんだな?」

その声色は掻き消えそうなくらい不安で一杯で、彼にしては弱々しい。

暗黒騎士「お前はずっと…俺の側にいてくれるんだな?」

あの時の目だ。彼の私への気持ちが全て込められた、あの時と同じ目。
だけどその目はあの時のように私を突き刺すことはなく――

令嬢「――はい」

初めて彼に満面の笑顔を向けた。今はその目も、紅潮する顔も、愛しく思える。

ゆっくり時間が流れる湖畔。私と彼は互いの存在を確かめ合うように、触れ合った。

141 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/03(水) 17:01:31.93 ID:VzcDf6bM0
魔姫「…それじゃあ私は帰るわ」

兵たちの混乱が収まり、とりあえず現在国は令嬢の帰還待ち。
私はこれといってやることもないので、王子に挨拶し翼を広げた。

王子「魔姫様はこれからどうなさるのですか?」

魔姫「決まっているわ」

そう、決まっている。お父様の背中を見ながら抱いていた夢――

魔姫「私が次の魔王になるわ」

王子「お、おぉ」

王子はリアクションに困った様子で、地味に驚いていた。

魔姫「でも勇者と戦う気はないわよ。あの子は私の唯一の友達なんだからね」

王子「ですよね~」

魔姫「そうねぇ。私が魔王になった暁には人間達と和平条約でも結ばせてもらおうかしら。その時には是非宜しく頼むわよ」

王子「えぇ勿論」

きっと和平条約に、人間達はそう簡単に納得はしないだろう。
だけどこの王子が力になってくれれば、とても心強い。

魔姫「その前に魔物達に私が魔王と認めさせる必要があるわ。何年かかかりそう」

王子「はは。魔姫様、それまで僕は独身でお待ちしていますよ」

――――はい?

王子「魔王と王子の婚姻…和平を結ぶには効果的と思いませんか」

魔姫「え、ちょ…あ、あんたやっぱり軽い男ね!」

王子「いいえ。確かに僕はまだ愛を知りませんけれど…貴方のようにはっきりとしている女性、好きですよ」

魔姫「~っ…」

よくもこんな、下心なんてありませんという風なさわやかな笑顔でそんな事が言えるものだ。

魔姫「…まぁ考えておいてあげるわ。今は魔王になる事で頭が一杯なの」

――それに私には、まだ忘れられない人がいる。

魔姫「それじゃあ…またいつかお会いしましょう」

王子「はい――お元気で」

142 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/03(水) 17:02:10.77 ID:VzcDf6bM0
国に戻ってからしばらくは、案の定激動の日々が続いた。
勇者と懇意にしようというコミュニティが国内外問わず現れ、その対応に追われていた。面倒臭いから適当にしておきたがったが、家の対面を考えて接しなければならないので不本意でも愛想笑い位はしておかなければならない。
お父様、貴方もこんなに大変だったのですね――亡き父への想いは悲しみから同情に変わる。

しかし1番厄介だと思っていた問題は――

王子「婚約の取り消しが正式に決まりましたよ」

令嬢「思ったよりあっさりでしたね」

王子「いえいえ…皆を説得するのにとても苦労しましたよ」

令嬢「あらすみません」

いつも優雅な王子の笑顔が一瞬引きつったので、苦労したのだろう本当に。

王子「認められなくて駆け落ちされる方が国にとって打撃でしょうから」

令嬢「あら、読まれていましたか」

王子「…王家に勇者の血を――これは中央国の欲です」

王子は真面目な顔で言った。

王子「勇者は人々の希望となる絶対的な存在。その勇者の血が中央国王家に混じれば、人々も周辺国も中央国にますます頭が上がらなくなる。だから周辺国は、本音では僕達の婚約を苦々しく思っていたはずですよ」

令嬢「…難しい話はあまりしたくありませんわ」

王子「失礼」

難しい話――思えば自分の事なのにほとんど考えた事が無かった。以前の自分はそんなに意思が無かったのかと、今になっては恥ずかしい。

王子「これからは、どうぞご自分の幸せを考えて」

令嬢「えぇ。王子様もね」

そう言うと王子は苦笑した。互いに同じだったのだ――だけどその時の王子の笑顔は肩の荷が降りたような、そんな安心感に溢れていた。

143 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/03(水) 17:02:43.98 ID:VzcDf6bM0
魔王討伐の興奮も冷めた頃、また人々は平和な暮らしに浸かり始めた。


令嬢「…っ、も、もう、いいですって!」

魔姫「な~に言っているの。今日はうんと綺麗にならなくちゃ」


魔姫さんは魔王城に残った魔物達を束ね、人間との和平の為、魔王を目指している。
嫌味幹部3人組は相変わらずのようだが、魔姫さんの尻に敷かれっぱなしらしい。


令嬢「お化粧嫌い…」

魔姫「特別な日なんだから、我慢なさい」

令嬢「う~…」


人間と魔物の和平と共存――それは本当に実現可能なのか。


魔姫「あら?貴方のそのペンダント…」


今はまだ、わからない。


令嬢「…衣装と合わないかもしれませんが、これは絶対外せないんです。1番大事な物なので…」

魔姫「~っ…令嬢ったら可愛いんだから!早くその姿暗黒騎士に見せてあげなさい!!」

令嬢「ちょっ、押さないで下さい魔姫さん!」


だけれど今は


暗黒騎士「お、おぉ」

令嬢「…」

魔姫「…ちょっと、何とか言いなさいよ」

暗黒騎士「あ、その…えーとだな、お前、その…き、きれ、い…」

令嬢「…言わないで下さい」


この平和に浸ってよう。

144 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/03(水) 17:03:38.69 ID:VzcDf6bM0
王子「来賓の方々お待ちですよ。ささ、早く出て出て」

令嬢「ううぅ~…恥ずかしい、こんな格好で人前に出るなんて」

暗黒騎士「お、お俺だってなぁ~…」

魔姫「いいから出なさい」


魔姫さんに押されるように人前に出る。
そこには身分は関係なく、私達を祝福してくれる人達の笑顔が溢れていた。


「結婚おめでとうございます勇者様!」「勇者様お綺麗ですよ!」「勇者様万歳!」


2人ともこういう場は苦手だったが、周囲からの強い圧力により、こうして式を挙げることとなった。
恥ずかしさのあまり顔が熱い。心を強固に武装するしか…駄目だ、祝いの場でそれは。

神父の言葉通りに指輪交換。ガッチガチでちゃんとできているか不安。
落ち着いて、落ち着いて。よし、大丈夫――

神父「それでは誓いのキスを――」



これがあった―――――!!



暗黒騎士「…目瞑れ」

令嬢「え、あ―――」




―――――



歓声が上がる。拍手が送られる。私の熱は最高潮。

暗黒騎士「…今のが永遠の誓いだ」

発熱しそうな顔で暗黒騎士が言った。あぁ、多分気持ちは私と一緒。

令嬢「―――はい」



祝福の中、私達は本当の夫婦になった。
永遠を誓ったその日、これからの幸せを一緒に守っていこうと心に決めた。


fin

145 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/03(水) 17:04:07.47 ID:VzcDf6bM0
最後までお付き合い下さいありがとうございました。
今回の作品もコメントで元気を頂きながら楽しんで書き上げることができました。

まだHTML依頼出さないので、質問等ありましたらお気軽にどうぞ(´∀`)ノ


しばらく連作していましたが、今回ので色んなもん出し切ったので休みます。

146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/03(水) 17:15:07.35 ID:9leqKmjFO
おつ!よかったよ!

147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/03(水) 17:32:31.68 ID:hANB7p8qO
素敵!

148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/03(水) 19:26:53.12 ID:thYmmSYrO
乙!
もっと見たかった!

149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/03(水) 20:13:21.28 ID:zYR1oTx40


150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/03(水) 21:58:25.17 ID:0yoNU4ouO
前の暗黒騎士モノも良かったけど、今作もドキドキして面白かったよ!

151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/04(木) 07:09:14.73 ID:LJOzLaX8o
乙!
posted by ぽんざれす at 21:31| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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