2015年09月05日

姫「王子の代わりに戦う使命を負った」(1/2)

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2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:22:29.09 ID:v18eES5U0
私は姫であり、王子である――


氷河魔人「貴様が人間達の希望、王子か」

姫「そうだ」

男装に身を包んだ私は嘘をつく。
声を太くし、不安な気持ちを顔から消し去って――

姫「魔王軍、氷河魔人。我が国の平和の為、切らせてもらう!!」

氷河魔人「面白い!」

相手から繰り出される氷のつぶてを剣でなぎ払う。
女の身であっても、剣では男と対等に戦えると私は自信を持っている。
つぶてが顔をかすったが、私は痛みを無視し氷河魔人に接近していく。

氷河魔人「捉えた!!」

氷河魔人の手から大きなつららが生え、その先端がこちらに迫ってきた。

刺さる――

姫「てやあぁ――っ!!」

それを、私は正面から叩き落とした。
つららの氷が弾け、それは氷河魔人の視界から私を一瞬だけ消した。

その一瞬。

氷河魔人「がっ――」

急所は外さない。

姫「終わりだ――氷河魔人」

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:23:08.77 ID:v18eES5U0



王「ご苦労だったな。ほとんどの国が魔王に屈服する中、お前の活躍は我が国の誇りだ」

姫「…はい」

氷河魔人を倒した報告をし、父である王は事務的に言った。
「王子」を讃える兵士達の声があたりから聞こえる。だけど兵士達は私が私であると知らない。
今この空間で私を知っているのは、たった3人――

王妃「これからも頼みますよ、王子」

姫よりも王子を愛する母。

獣人「…」

無愛想な私の側近。

王「では下がれ」

そして、私に王子であれと命じた父――


私を知る人達の温かみのない態度にはもう慣れた。
私は廊下に出て、部屋まで戻ろうとしたが…


王子「よぉ帰ったのか」

女装に身を包んだ王子――私の双子の兄に出くわした。
周囲に人がいない所では、彼は男口調で話す。

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:23:49.87 ID:v18eES5U0
王子「氷河魔人倒したってマジ?いやぁ、流石だねぇ「王子」は」

姫「…いえ」

王子「うっわ!顔に傷ついてんじゃん!顔は国民へのアピールポイントなんだから大事にしてくれよ~?」

姫「すみません」

王子「あ、そだ。ついでに飴買ってきてくれた?」

姫「いえ、言われなかったので」

王子「うわぁ気がきかねー。女は気遣いが大事だぞ…って、常時男装してるガサツ女にそんなん期待しても駄目かぁ」ハァ

姫「すみません」

王子「ま、いいや。あ、明日は俺王子として街で皆から賞賛を頂いてくるから、お前は女の格好してろよ」

王子「それじゃーこれからも頼むよ、俺の代わりとして~」ハハハ

姫「…」

この兄に好き勝手言われるのは慣れている。反論すれば火がついて喧嘩になり、そうなったら周囲は兄の肩を持つ。
小さい時からそうだ。だから兄はワガママになったし、私は今更腹が立ったり傷ついたりしない。

思うのはただ、この兄の相手は面倒だということだけ。

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:24:17.94 ID:v18eES5U0
私と王子はたまに入れ替わる。
私の役目は王子として魔物達と戦い、国の人々に希望を与えること。
本物の王子は剣の心得がないわけではない。しかし世継ぎとして大事にされ、私の振りをしながら安全に暮らしている。それでいて、私の戦歴だけを盗っていく。
それを知る者は国の重役でもごくわずか。知っていて、皆黙認している。
私は王子の為に存在していて、王子の代わりに危険を背負う。それしか価値しかない人間。

姫(あぁ疲れた…)

ここの所魔物達との戦いが激化している。
連日の戦いで私は疲弊しているが、貧しさにより兵力の弱い国からのバックアップはまるで期待できない。
英雄に仕立て上げられた私がたまたま剣の才能に恵まれていたのは、この国にとってそれなりに大きな利益だったに違いない。

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:25:12.08 ID:v18eES5U0
獣人「王子!」

姫「どうした!?」

部屋のドアが乱暴に叩かれ、獣人が入ってくる。
まだ男装をといていない私は、王子として獣人に返事をする。

獣人「西の森に、魔族と思われる群れが現れたそうです」

姫「そうか…今行く」

私は剣を手に取り、部屋を出る。
幸い氷河魔人との戦いで大した怪我は負っていない。だからまだ戦える。
疲れは顔に出さない…だって私は、皆の希望である王子なのだから。

「王子様、流石頼りになる」
「頑張って下さい王子!」
「王子、ご無事を祈っています」

誰も私を見ていない。皆が期待をかけているのは王子。

例えそうでも――

姫「ありがとう、行ってくる」

私は、王子として人々を守る。それだけが、私の必要とされる理由だから。

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:25:43.37 ID:v18eES5U0
>西の森

姫「魔族はどこに…?」

獣人「あちらから匂いがします」

気配を殺して獣人の後を着いて行く。
すると…

姫(あっ)

遠くてよくは見えないが、魔族と思われる者達が5人程集まって何やら話をしている。

姫「話の内容…聞こえる?」

獣人「…どうやら街への侵入方法を話し合っているようですね」

姫「そうか…」

今まで魔物達が国に攻め入ってきたことはないが、最近は争いが激化している。
彼らが国に襲撃を仕掛けようと企てていても、何ら不思議ではない。

姫「奴らの作戦を知っておけば、対策がとれるかもしれない」

獣人「そうですね」

私達はここでの戦いは避け、このまま聞き耳をたてようと企てた。
しかし…

翼人「コソコソ何をやっている?」

姫「!」

獣人「!」

上空に翼の生えた魔族――しまった、見つかった。
翼人の大声に、集まっていた魔族たちもこちらに気がついた。

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:27:31.98 ID:v18eES5U0
翼人「王家の紋章…お前が王子だな」

翼人は私の胸にあった紋章を見て言った。
魔族たちはざわつき始める。

姫「そうだ。我が国に攻め入ろうというのなら、切らせてもらう」

私は剣を構える。相手は6人――少々つらいが、獣人と協力すれば戦えない人数ではない。

?「今日はやり合うつもりは無かったが…仕方ないな」

翼人「魔王子様」

リーダー格と思わしき魔族が前に出た。
さっきから気になってはいた。仮面のせいで表情は伺えないが、こいつだけさっきから闘気がだだ漏れだった。
魔王子と呼ばれた男は無言のまま、大きな剣を抜いた。そして…

魔王子「…」

そのまま躊躇なく私に飛びかかってくる。私は瞬時に反応して剣を受け止める。
力強い――だが、乱暴な振りだ。

姫「はぁ!」

今度はこちらの攻撃。魔王子はこれを回避し、すぐに攻撃に転換する。
だだ漏れの闘気からもわかる通り、彼の戦い方はかなり攻撃的だ。
次々放たれる連続攻撃に回避と防御を交え、私はダメージを避ける。

姫(守っているばかりでは勝てない)

そう思い、次の首を狙った攻撃を避け――

姫「てやーっ!!」

魔王子「…!」

魔王子の足を払い、彼の体勢を崩す。

姫(今だ…!!)

私は彼の胸に突きを放った。

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:28:00.03 ID:v18eES5U0
魔王子「…っ」バッ

姫「!」

魔王子の姿が消えた。否。後方に大きく跳んだのだ。
魔族というのは人間と身体能力が変わらない種族だと聞いていたが、今の跳躍は大きく人間離れしている。

姫(今まで本気じゃなかったってこと…!?)

私は一層緊張する。
今までのが小手調べだとしたら、今度はどんな攻撃を仕掛けてくるというのか。

しかし。

翼人「魔王子様、そこまでです――まだ決着をつける時ではありません」

魔王子「…」

翼人の声で魔王子は剣をしまう。それでもまだ、闘気は消えていないが。

翼人「王子よ、今日は退散させて貰う――しかし次会った時は、その命を頂こう」

姫「…」

私は剣を収める。向こうが退散すると言うなら、無闇に戦うのはこちらも避けたい。
彼らが去っていく様子を、私はただ黙って見ていた。

獣人「魔王子…名前は聞いたことがあります。奴は魔王の息子です」

姫「そうか…」

魔王の息子…そう言われると納得の強さだった。
いずれ、彼と決着をつける時が来る。それまでに、もっと剣の腕を上げておかないと――

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:28:27.02 ID:v18eES5U0
>翌日

姫「ふぅ~…」

久々の女の格好に落ち着く。
ここの所王子に代わる日が続いていたので、ようやく自分に戻れたような気がして緊張が解けた。

王子は今頃、氷河魔人を倒した功績を自慢し街の人達にちやほやされているのだろう。
なら私も、今日は休みを取らせてもらおう。

姫「少し出掛けてきます」

獣人「あまり遠くへ行かれぬよう」

姫「わかっています」

お忍びの格好で外へ出る。服装を質素にすれば、案外気づかれないものだ。
しかし、人の多い所へ行くつもりはない。気分転換に城の周囲を散歩するだけだ。
自然の多い場所で花を見たり、小鳥のさえずりを聞いたりするのが私の趣味だ。

姫(空気が気持ちいい)

日頃の疲れが癒されていくようだった。

姫「…ん?」

気になる人物を発見した。

姫(……不審者?)

若い男が何やら険しい顔で城の方をじーっと見ていた。
何やら大きな包みを抱えているが…泥棒?

姫「ねぇ」

「うわぁ!?」

その男は私の接近に気づいていなかったのか、声をかけたらとても驚いていた。

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:29:08.96 ID:v18eES5U0
姫「何をしているんですか…侵入経路の確認?」

飴売り「違う違う、俺はただの飴売り」

飴売りはさわやかに返答する。第一印象は気さくな人だ。

飴売り「城に行商に行こうかと思ってたんだけど、いざ城を目の前にすると緊張してなぁ」

姫「…本当かしら」

飴売り「本当本当!…って、あれ?」

と、飴売りは訝しげに私の顔をじーっと見つめてきた。

飴売り「もしかして…お姫さん?」

姫「そ、そうですけど…」

まずい。この飴売りもしかして、王子の知り合いだろうか?
王子は飴が大好きだし、飴売り商人と知り合いでも何らおかしくはない。

飴売り「やっぱね、王子とそっくりだからそうだと思った。ご無礼すみませんね」ペコリ

姫「あ、いえ」

王子でいる時の私を見たことがあるのだろうか…?
とりあえず「姫」とは初対面らしいので、私はスカートの裾をつまんでぺこりと頭を下げた。

飴売り「へー…」

姫「?どうなさいました」

飴売り「いや、ここの国の姫様は傲慢で高圧的で男勝りって聞いていたんだが、そんな感じしないもんでね」

姫「…」

それはきっと、私の振りをしている王子のせいだ。

姫「貴方は物言いのはっきりした方みたいですね」

飴売り「悪いね、俺は育ちが悪いもんで」

飴売りは悪びれていない笑顔で頷く。まぁ、別に不快ではない。
それでも――私は兄が演じる「姫」とのギャップを無くしておかなければならない。

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:29:54.26 ID:v18eES5U0
姫「今日は機嫌がいいから許したけれど、そうでなければ貴方を怒鳴り散らしていたかもしれませんよ」

少なくとも、王子演じる姫ならそうしていただろう。
今度「姫」に会った時は気をつけろ――そういう忠告を込めて言ったつもりだが、

飴売り「こんな品のあるお姫様が怒鳴る様子、想像つかなくて逆に見てみたいね」

飴売りは物怖じする様子なく笑って言った。

姫「…貴方と話すと疲れますね」

飴売り「顔に似合わずひねくれているんだなぁ、美人が台無し」

姫「放っておいて下さい」

愛想良くすると、王子演じる姫とのギャップが生まれてしまう。
王子のように威張るのは好きではないので、姫でいる時はいつも無愛想にしている。
それでも、この飴売りは人の感情に鈍いのか、様子が変わらなかった。

飴売り「まぁ、この国って男性優位だもんな。何かといや王子、王子じゃひねくれますわな」

姫「別に、そういうわけじゃ…」

飴売り「俺にも兄がいてねー…仲が上手くいかなくて、参ってる」

姫「…私も兄と仲が良いわけではありませんよ」

飴売り「やっぱ色々あるよねー、兄弟って難しいね本当」

飴売りは急に真面目な顔になる。

姫「…」

わざわざこんな話をしたということは、私もそうだと思ったからだろう。
彼の邪推は間違っていない。私と兄はずっと差をつけられてきたし、仲もはっきり言って悪い。
だけれど英雄である王子と、傲慢な姫。それなら非があるのは姫の方。そう思われるのが普通。

だというのに。

飴売り「姫さんも苦労してるよねー」

この飴売りの態度、私の気持ちもわかると言いたげだ。

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:30:21.24 ID:v18eES5U0
姫「別に…」

ただ、わかってくれる人がいるからと言って喜ぶ気持ちにもなれなかった。
私が王子として人々の支持を集めている間、兄は姫として好き勝手に振舞う。それを父である王は認めていた。
私は兄の為に存在していて、引き立て役も私の役割――そう教え込まれていたからには、そう振舞わないといけない。

姫「貴方とわかりあうつもりはありません」

彼を突き放し、私はその場を離れようとした。
だけど。

飴売り「あー、待ってお姫さん」

姫「何ですか?」

飴売り「飴、好きだって聞いてるよ。はいプレゼント」

飴売りが差し出したのは、包み紙に入った飴3つ。

姫「…変な人」

無表情で受け取るが、内心少し可笑しく思う。評判の悪い私の顔色を伺うことなく、物怖じせず飴を渡してくる人なんて、少なくとも今まで出会ったことがない。

姫「ありがとうございます」

飴売り「あ、やっと笑った」

姫「え?」

しまった、表情が緩んでしまったか。

飴売り「いやー、どんな姫様かと思ってヒヤヒヤしてたけど、こう実際会ってみると…」

姫「何です?」

飴売り「人に媚びない雰囲気がいいね、孤高って感じで。俺、ファンになったよ」

飴売りは口を釣り上げて笑った。
つくづく、変な人。

姫「さようなら」

また会えるかはわからない。今度は王子演じる姫に会って、彼は姫を嫌いになるかもしれない。
それでも、それなりに面白い話し相手だった。今日会った変わり者のことは、きっとしばらく忘れられないだろう。

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:30:47.71 ID:v18eES5U0
姫が去った後、飴売りは美麗な姫と会話した余韻に浸っていた。

飴売り「はぁー、いい息抜きになったわー」

「こんな所にいましたか」

飴売り「お。お帰りー」

「何ですかその格好は…敵襲にあったらどうするのです」

飴売り「この格好なら敵襲にあわねーって。お姫様も俺を警戒してなかったぜ」

「だからといって、武器も防具も置いていくのはどうかと思いますが」

飴売り「俺、あれ嫌い。確かに装備すると強くなれるけど、何かイライラしてくるし」

「貴方に必要なものなのですから。今すぐ装備して下さい」

飴売り「はいはい…」

飴売りは手渡された仮面をつける。
その姿は――

魔王子(飴売り)「全く、口うるさいな翼は」

翼人「貴方の為を思ってのことですよ――魔王子様」


16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/20(火) 16:53:43.15 ID:n3lcMWZRo
超期待

17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/20(火) 17:25:42.61 ID:+sX/qLhDO
乙! 期待

18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/20(火) 17:51:41.17 ID:e4UwrtnTo
乙乙

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:42:52.87 ID:GKiPRO/F0
>翌日


王子「や、姫」

廊下を通りがかると王子が声をかけてきた。
王子に群がっていた人達は一斉にこちらを向く。あぁ、このまま通り過ぎようと思っていたのに。

姫「ごきげんよう」

私が声をかけると皆は頭を下げる。
でもさっき見逃さなかった。私を見た瞬間、彼らが引きつった顔になったのを。
これも嫌われ者の宿命か。

姫「私は部屋に戻りますので」

普段王子扮する傲慢な姫と接している城の者と話すと、私とのギャップが生まれて入れ替わりがばれてしまいかねない。
だから私は王子がいる時は大抵部屋にこもっている。それを城の者は「王子の目があると姫は大人しい」と都合良く解釈してくれるようだけど。

王子「そうか。こもってばかりも良くないぞ」

王子でいる時の王子は、人前では優しい。つまりは外面がいい。
傲慢でワガママな本性が表れるのは私の振りをしている時。自分でいる時に自分を出せないとは、彼も窮屈な身だろう。

メイド「王子様、もっと王子様の武勇伝を聞かせて下さい」

王子「あぁいいだろう。それでな…」

一体どんな作り話で人々の気を引いているのやら。
耳に入れば吹き出してしまいそうで、そのまま無視して行こうとした。
その時。

獣人「王子」

王子「ん」

獣人が姿を現した。
その視線は王子に向いているが、私も立ち止まる。

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:43:20.08 ID:GKiPRO/F0
王子「どうした…?」

獣人「北の山に魔物の群れが潜伏しているとのことです」

姫「…」

私は無関心な振りをする。判断を下すのは王子。まぁ、王子がどんな判断を下すかはわかっているけど――

王子「わかった、早い内に殲滅しよう」

やっぱり。

王子「準備を整えたら行こう」

獣人「かしこまりました」

姫「…」

私は黙って部屋に向かう。
王子が決めたのだから。

「王子、どうぞご無事で!」
「ご武運を祈っています!」

王子「…」

人々の応援の声に応えながら、王子は私に目で訴える。

姫(わかってる)

私に行けと言いたいことくらい、わかっている。
貴方は安全にお姫様をやっていればいい。

部屋に戻り、私と王子は入れ替わった。

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:43:46.16 ID:GKiPRO/F0



結論から言うと、北の山の魔物達は大した相手ではなかった。
せっかく馬を走らせてはるばる来たというのに、全滅させるのに10分もかからなかった。

姫「わざわざ私が来た意味あったの?」

獣人「申し訳ありません。何せ、急な情報だったもので敵の戦力を測れておらず」

姫「ま…いいけど」

大した戦力にならない兵士達じゃあ、この程度の相手でも手こずったかもしれない。
それに、近隣の村が騒ぎになる前に殲滅できて良かったのではないか。

姫「でも、すっかり日も暮れてきたね…」

来たばかりで、またすぐ城に戻るのも面倒だ。何せここは、移動に時間がかかる。

獣人「今日は近隣の村に宿泊し、明日城に戻りましょう」

姫「そうだね」

よくあることなので、私は拒否しなかった。

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:44:19.59 ID:GKiPRO/F0
姫「ふぅ~」

村の露天風呂で疲れを癒す。
ちなみに共同浴場を使う必要があるので、男装はといて宿をとっている。勿論、姫という素性は隠しているけど。

姫(あぁいい気持ち…)

~♪

姫「…ん?」

岩陰から何か…

「~♪」

姫(…鼻歌?)

他に人がいたのか。気がつかなかった。
それにしてもこの鼻歌…何か違和感が。

姫「…」

私は違和感の正体を確かめる為、鼻歌が聞こえる方に近づいていく。
違和感の正体、それは…

飴売り「フンフンフ~ン♪」

姫「…」

飴売り「フンフ~…あれ?」

姫「…」




違和感の正体。それは、声が女性のものにしては野太いというものだった。

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:44:48.81 ID:GKiPRO/F0
飴売り「どぉいうこったああぁぁ!?」

宿屋「わりーわりー、露天風呂には男性時間と女性時間あるんだけど、説明すんの忘れてたよ!」

姫「…忘れますか普通」

宿屋「普段客のこねー宿屋だからさぁ、まぁ許してくれ」ハハハ



姫「冗談じゃありませんね」

飴売り「こっちの台詞…あーいでで、まだ口ん中血の味する」

姫「本当にすみません」

痴漢かと思って、つい殴ってしまったのだ。
これは本当に悪いことをした。

飴売り「でも姫様と混浴かぁ、こりゃいい思い出になったぜヒヒヒヒヒ」

前言撤回。

姫「記憶を消しましょうか?」

飴売り「わー、ストップストップ!!バスタオルと湯けむりのせいでほとんど何も見えなかったし!」

姫「本当ですか?」

飴売り「本当だって~」

何か胡散臭い笑いだけど…まぁ彼に非はないから、これ以上追求するのはやめよう。

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:45:19.85 ID:GKiPRO/F0
飴売り「にしても驚いたねー、姫さんがこんなへんぴな村に来てるなんて」

姫「…お忍びで来ているので、絶対ばらさないで下さいね」

飴売り「別にばらして得もないし、ばらさないけどよ」

こんな所で彼に会ったのは本当にまずいことだったりする。
城に王子扮する姫がいる以上、私は姫として誰かに会うわけにはいかなかったのだ。

飴売り「あ、そだ。昨日あげた飴どうだった?」

姫「えぇ、美味しかったですよ」

飴売り「そっかー。じゃ、またあげるわ。はい!」

姫「いいんですか…?売り物をそんなに簡単に人にあげて」

飴売り「まぁ…利益を得る為に飴売りやってるわけじゃないしなぁ」

姫「じゃあ何の為に…?」

飴売り「んー…楽しいからかな」

姫「……?」

やっぱりおかしな人だ。

姫(ま…色んな事情があるしね)

飴売り「ところでー…」

姫「?」

飴売り「王子もこの辺に来たんだって?」

姫「!?」

人目につかないように来たつもりだし、村に入る時は男装をといていた。
なのに何故…?

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:45:45.67 ID:GKiPRO/F0
姫「ど、どこでその情報を…!?」

飴売り「あ、いや…客に」

飴売り(まさか魔物達からの報告なんて言えねぇよな)

姫「多分、そのお客さんの見間違いですね」

飴売り「え、いやそんなはず…」

飴売り(いや、王子が魔物達を倒したって報告が…)

姫「いえ、見間違いです」

飴売り「でも」

姫「見間違いです」

飴売り「………わかりました」

何か釈然としていないようだけど、誤魔化すことはできたようだ。

飴売り(極秘情報かな…この姫さんは知らないか、口が固いかのどっちかだな)

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:46:12.56 ID:GKiPRO/F0
姫「それじゃあ、私はこれで」

飴売り「あー、待ってよ姫さん」

姫「…何ですか」

飴売り「もちょっと話さない?田舎は娯楽がなくて暇で暇で」

姫「結構です」スタスタ

飴売り「あぁー」

飴売り(あーあ、つれねーの…ま、でも流石姫さんガードが固い)

こちらとてそこまで拒絶したいわけじゃないけれど、話せば話す程ボロが出る危険がある。

姫(今日は早く休もう…)

姫「…っ!」

飴売り「ふあぁ~、もう寝るか…」

姫「危ない!!」

飴売り「――へっ?」

私はとっさに飴売りをその場に押し倒す。
飴売りは呆気に取られた顔で私を見上げていた。

飴売り「え、なになに…姫さん、まさか…」

と、その時。

ドガシャアアアァァ

飴売り「!?」

姫「…っ」

宿屋の壁が、大きな音をたててぶち破られた。

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:46:42.17 ID:GKiPRO/F0
飴売り「へっ…」

茫然としている飴売りは放っておいて、私は立ち上がり構える。
するとぶち破られた壁の向こうからは――

呪術師「おやおやぁ…外しましたか」

ローブに身を包んだ魔物が姿を現す。
体中に彫ったあの刺青は呪術師の証。

飴売り「な…」

姫「…」

姫(私を狙ってきたの?)

飴売り「…」

飴売り(狙いは姫さん…?いや…俺だよな)

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:47:26.68 ID:GKiPRO/F0
~飴売りの回想~

俺には、母親違いの兄がいる。

魔王子「あ、兄上…」

兄王子「よう」

廊下で兄上とばったり出会った。彼の体に香水の匂いが染み付いている。
魔王の息子というだけで寄ってくる頭も尻も軽い女たちを、兄上は拒まない。

兄王子「最近姿を見ないな。また部屋にこもって勉強でもしていたのか?」

魔王子「はい…」

兄王子「熱心だな。お前も人間の基準なら美形らしいから、人間の女で遊んできたらどうだ?」

魔王子「いえ、俺は…将来、兄上を支える刃とならなければなりませんから」

本音ではない。しかしこの兄に、俺の建前を見抜く力などなく。

兄王子「そうかそうか!お前のような従順な弟を持って、俺は幸せだワッハッハ」

魔王子「…」

俺は、享楽的で怠惰な兄を嫌っていた。

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:47:52.35 ID:GKiPRO/F0
翼人「魔王子様…私は納得がいきません」

魔王子「何がだ…?」

翼人「兄王子様はとても魔王の器とは思えない…次期魔王に相応しいのは、魔王子様の方です」

翼人「魔王子様が人間との混血というだけで候補から外れるのは、納得がいかない…!」

魔王子「…やめろ、翼人。俺は魔王になる気はない」

翼人「しかし…」

魔王子「そうやって一部の家臣が俺を推すことで、兄上派の家臣と対立するだろ」

俺は兄以上に、面倒事と、物騒な事を嫌った。

魔王子「父上も最近体の調子が悪い、こんなことで心労をかけさせるな」

翼人「魔王子様…お聞き下さい」

魔王子「何だ…?」

翼人「対立は、既に始まっています」

魔王子「!」

翼人「最近、兄王子様派の動きが不穏になっております」

翼人「いつ命を狙われても不思議ではありません…くれぐれも、油断せぬよう」

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:49:37.74 ID:GKiPRO/F0
今日はここまで。
仮面を被っている時と魔王城にいる時は「魔王子」で、普段は「飴売り」って感じで使い分けていますが同一人物だということだけ覚えていて下さればおkです。

31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/21(水) 17:55:42.92 ID:jZ8uopZcO
乙、続き期待

32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/21(水) 18:34:16.10 ID:1zXnAiJuo
これは期待

33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/21(水) 18:43:03.16 ID:QVBm2jEAO
乙良いな

34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/21(水) 19:19:24.71 ID:vnDLdE8DO
楽しみに続きまってるー

35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/22(木) 00:12:32.06 ID:BejNtXwXO


36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:03:44.72 ID:d+YTB6p10
飴売り(あの呪術師…多分兄上派の刺客だな)

飴売り「逃げな姫さん」

姫「え、でも…」

飴売りは呪術師と対峙し、剣を抜いていた。
私を狙ってきたのなら、彼に任せて逃げるなんてできるわけがない。

飴売り「であぁ!!」

真っ直ぐ呪術師に突っ込む。勢いは悪くない。
だが呪術師はそれより素早く、宙に魔法陣を描いていた。

呪術師「覇ぁ!」

飴売り「…っ!」

魔法陣から光線が発せられるが、飴売りはそれを横に避ける。
そして不規則なステップを踏んで呪術師に接近し――

飴売り「おらぁ!」

呪術師「ふん!」

飴売りの太刀を呪術師は腕を硬化させたのか、受け止めた。
だが――

飴売り「そこだっ!!」

呪術師「――っ!!」

呪術師の脇腹を蹴り、呪術師を宿の外に放り出す。
これで、これ以上の建物への損害は免れるが――

姫(飴売りは弱くはない、けど…)

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:04:19.77 ID:d+YTB6p10
駆ける飴売りを呪術師が追う。
飴売りが向かうのは気兼ねなく力を発揮できる場所――村の外。

飴売り(村ん中でこれを使ったら、色んなものを巻き込んじまう…!!)

呪術師「逃しませんよ!」

飴売り「…っ!!」

呪術師の魔法に足元を撃たれ、飴売りは吹っ飛ぶ。
何とか着地したが、呪術師の二擊目三擊目は容赦なく襲ってくる。

飴売り「ぐ…」

呪術師「貴方の考えることはわかっているのですよ…貴方は甘い方ですからねぇ」

こいつは、自分が性格上、ここで「あれ」を使わないことを理解している。
だから村の外に出す前に仕留めよう…そういうことだ。

飴売りは懐にあったもの――仮面に手をあてる。

飴売り(狂戦士の仮面…使用者の潜在能力を引き出すが、その効果は手加減を知らない)

これをつけた時はひどく好戦的な気分になり、思考力がどんと落ちる。
きっとここで使えば自分は、村が破壊されるのもおかまいなしに暴れることだろう。

飴売り(それはできないな…)

仮面から手を放し、再び剣を構えて呪術師に対峙する。

飴売り「おい、俺は魔王になる気はない…無駄な争いだと思わないか」

呪術師「貴方の意思が問題なのではない…貴方が生きていることが問題なのですよ」

交渉の余地もない。
飴売りは苦笑する。自分の命がかかっているのに、こんな人間の村の被害を気にして力を発揮できないでいる自分は魔王に相応しくない。だというのに、対抗勢力の過激派はそんなことも考慮しないのか。

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:04:56.46 ID:d+YTB6p10
飴売り(仮面を使わなきゃ俺の実力は魔物達の中じゃ中級レベル…)

自分を殺す為に派遣された相手が、仮面を使わずに勝てるとは思わないが。

飴売り(それでも、やらなきゃな!!)

飴売りは呪術師に突っ込んでいく。
硬質化された腕による防御を取られるが、攻め続ける。
と、呪術師は大きく息を吸い始めた。

呪術師「覇!」

飴売り「…っ!?」

呪術師の口から火が吹かれる。後ろに跳んだが、少し火傷した。
この程度の怪我なら問題ない…だが、この多彩な技を持つ相手に、次はどう攻めればいい?

飴売り「く…っ」

呪術師「貴方程度では攻略不可能ですよ」

飴売り「…っ」

思考は再び逃げることに切り替える。
その隙はあるのか…だが、とにかく諦めてはいけない。

呪術師「そろそろ…ひと思いに死にますかっ!!」

飴売り「…!!」

呪術師から大きな閃光が発せられ、それは――熱をもって、飴売りへと襲いかかる。
逃げられない――

「でりゃあああぁぁ」

飴売り「!?」

その声と同時――

呪術師「!?」



姫「飴売り…大丈夫?」

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:05:28.50 ID:d+YTB6p10
飴売り(は、姫さん…?てか、今…この姫さん、閃光切ったよなぁ!?)

姫「好き勝手暴れてくれたみたいね」

私は飴売りの前に出て呪術師に剣先を向ける。
これ以上、この飴売りに怪我をさせるわけにはいかない。

呪術師「邪魔が入ったか…まぁいい、まとめて殺してやりましょう!!」

呪術師の手から次々、閃光が飛ばされる――私はこれを切る。
下手に避けて、村に被害を出してはいけない。

飴売り(す、すげぇ…魔法を斬るなんて、普通にできる芸当じゃねぇよ…)

呪術師「少しはやるようですね…ですが!!」

姫「!」

大きな炎が襲いかかってくる…しかも、私を挟むように両側から。
これは私の剣速じゃ斬れない――ならば回避。私は炎を避けるように、一気に前に駆ける。

呪術師「かかりましたね!」

おや、罠だったか――呪術師は目論見が通ったと満足そうに笑っている。と思ったと同時、私の額目掛けて高速で閃光が飛んできた。
これを切る余裕はなく、剣を盾にして防御する――が、思った以上に威力が強かった。
私は後ろに吹っ飛ばされる。このままいけば――炎に突っ込む。

姫「…っ」

飴売り「おっとぉ!」

姫「!」

と、飴売りが炎の前に立って私の背中を受け止めた。

飴売り「大丈夫か姫さん」

姫「えぇ…貴方こそ大丈夫?」

飴売り「俺は男だから!」

姫「…どういう理屈?」

口から出た疑問に、飴売りはへへっと笑いで返した。答えになっていない。

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:05:59.95 ID:d+YTB6p10
飴売り「奴の技は多彩で威力がでかい…しかも奴は村に被害を出しても構わない、厄介な相手だ」

姫「みたいですね」

飴売り「ここは協力しないか」

姫「…貴方と?」

この飴売りの実力はわからないし、昨日今日会った相手と息を合わせるなどできる気がしない。

姫「どうやって…?」

飴売り「こうやって!」バッ

姫「あ!?」

飴売りは呪術師に突っ込んでいく。
これは――飴売りが捨て身の攻撃を仕掛けるから、隙を伺って倒せということだろうか?

姫(リスクが高すぎる…!!)

それでも飴売りは呪術師に攻撃を仕掛けていた。

飴売り「おらおらぁ!!」

呪術師「雑な攻撃ですねぇ」

姫(早々に勝負をつけないと…飴売りが危ない!!)

呪術師の視界の外に回り込む。飴売りが猛攻撃を仕掛けてくれているから、一応やりやすくはなった。
だが、飴売りもいつまでももたないだろう。

姫(全く…!!死んだらどうする気!?)

41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:06:30.79 ID:d+YTB6p10
姫(もう少し…!)

飴売りとの戦闘に集中している呪術師に、背後から距離を詰めていく。
飴売りは…案の定無理をしているのか、ダメージが蓄積している。

姫(今助けるから…!)

飴売りの人懐っこい笑顔を思い出す。私は、ああいう笑顔を守る為に戦っている。
それが私のせいで失われるなんて――

姫(冗談じゃない!!)

あと3歩――

呪術師「私が――貴方を気にしていないとお思いでしょうか?」

姫「!」

途端、激しい熱。呪術師の体が発火した。
飴売りは…良かった、1歩下がってダメージを回避している。

呪術師「人間にしてはやりますねぇ、しかし!!数々の勇者を名乗る者を葬ってきた私を殺すことなど、人間には――」

ぐさり

呪術師「…え?」

姫「うるさい、ごちゃごちゃと」

呪術師は恐る恐る、信じられないといった様子で視線を下に向ける。
呪術師の首には剣――私が狙って投げた刃が、彼を貫いていた。

姫「貴方が葬ってきた人達より私の方が強い…そう考えられなかったの」

答えを言う前に、呪術師はどさりと倒れる。
そもそも呪術師の耳に私の声は届いていなかったかもしれない。
私は倒れた呪術師から剣を引っこ抜き、絶命を確認してから警戒をといた。

姫「手間がかかったわ…」

飴売り「…」

飴売りはポカンと私を見ていた。

姫「迷惑をかけましたね…治療代はこちらで」

飴売り「…れた」

姫「え?」

飴売り「惚れた!!」

姫「!?」

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:07:03.82 ID:d+YTB6p10
飴売り「姫さん強かったのかよ、全然知らんかったわ!!美人で気位が高くておまけに強いって、最高じゃん!!」

姫「え、あの…」

飴売り「姫さん、俺と付き合わない!?」

姫「は…?」

目をキラキラ輝かせて、何を言っているのだろうこの男は。

飴売り「今まで出会ったどんな女より…いや、これから先も姫さん以上の人と出会える気がしないッ!俺は直感を信じる!」

姫「ば、ばか言わないで。身分の差をわきまえなさい」

飴売り「あー、俺飴売りなんてやってるけどこれはボンボンの道楽みたいなもんで、実際結構いい家の…」

と、その時。

ズシーンズシーン

飴売り「…へ?」

姫「あら」

「…」

飴売り「おわあああぁぁぁぁ!?」

飴売りが腰を抜かす。
そこに現れたのは両手を鮮血で染めた、3メートル程ある獣だったのだ。

飴売り「ま、まままだいたのかよぉ!?」

姫「いえ、違うわ」

私が言ったと同時…

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:07:46.52 ID:d+YTB6p10
獣人「姫様、助けが遅れました…ですがご無事のようで何より」

獣は体を縮め、獣人に変化した。

姫「今まで何をやっていたの獣人?」

獣人「村に魔物が潜んでいたので、狩っておりました」

姫「なるほど…刺客は呪術師だけじゃなかったの」

飴売り「」アワアワ

獣人「…姫様、彼は?」

姫「あぁ…戦いに巻き込んでしまったの。獣人、治療費を渡して差し上げて。それから宿屋にも、修繕費用を」

獣人「はい」

飴売り(本当は巻き込んじまったの俺なんだけど…何か上手く勘違いしてくれてるみたいだな)

姫「それじゃあ、これで…もう、危険に首は突っ込まないように」

飴売り「あ、は、はい」

飴売り「…」

飴売り「姫さーん」

姫「はい?」

少し距離が空いた頃、飴売りが私を呼び止めた。

飴売り「俺、結構本気だからー。俺のお嫁さんになりたかったら、いつでも言ってくれー」

姫「…」

本気で頭がおかしくなったのか。
そう思う反面…

姫「ふ、ふふ…」

彼を面白いと思う自分がいた。
初めて貰う男性からの求愛の言葉は、不思議と嫌な気持ちにはならない。

姫「一生待ってなさーい」

飴売り「おう、俺は辛抱強いぞ!」

決して受け入れたわけではない。それでも、冗談のやりとりという一歩踏み込んだコミュニケーションくらいは、いいかと思った。

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:08:18.25 ID:d+YTB6p10
獣人「姫様、彼は…」

姫「変な人なのよね」

獣人「前々からの知り合いですか?」

姫「たまたま昨日知り合った飴売りよ」

獣人「飴売り…ですか」

姫「どうかした?」

獣人「…いえ、何でも」





飴売り「くっそー、とんだ邪魔が入ったぜ」

翼人「災難でしたね王子…」バサッ

飴売り「いたのかよ翼。いたなら助けてくれてもいいじゃん」

翼人「いえ、いつ仮面をお使いになるのかと思いましてね」

飴売り「こんな所じゃ使わないって」

翼人「その格好なら襲撃されないとおっしゃって、油断していたのはどなたでしたかね?」

飴売り「うぎぎ…悪かったって。まさか、本当に俺を殺しに来るとは思わなかったんだよ」

翼人「魔王子様は危機感が足りていませんね…それに何ですか、姫君に告白なさるとは」

飴売り「惚れたもんは仕方ないだろ?初めてなんだよ、女に惚れたのは」

翼人「貴方の宿敵の妹君ですよ?」

飴売り「別に俺は王子を宿敵とは思ってねーよ、それにさぁ」

翼人「…何です?」

飴売り「俺と姫さんが結婚すれば争いは収まって和平ハッピーエンドじゃね?」ハハハ

翼人「馬鹿ですか」ボソッ

飴売り「はいはい俺は馬鹿ですよー、馬鹿は魔王になれませーん」

翼人「開き直らないで下さい」

飴売り「まぁまずは魔王城に帰るぞ。父上に報告しないと」

翼人「はい」



46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/22(木) 18:20:11.19 ID:VSnRvXju0


47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/22(木) 19:17:03.33 ID:i7GTHqYAO

ロミオとジュリエットになるか、最後に愛は勝つになるか、はたまた別ルートがあるのか。
期待してるわ。

48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/22(木) 21:06:53.93 ID:AujOFVJDO
飴売りの一直線っぷり、好きだw

49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/22(木) 22:12:55.79 ID:Rk4bfO5yO


50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:23:53.35 ID:MbiRcDMj0
>翌日

王子「よぉ、相手大したことなかったんだって?」

城に戻ると、人のいない所で王子が声をかけてきた。
あぁ、また面倒臭い。

王子「大したことないなら俺が行っても良かったかもな~。あ、でも田舎の汚い宿屋に泊まるのか勘弁だな、体が汚れちまう」

姫「行かなくて正解でしたよお兄様」

王子の剣の腕も悪くはないけれど、実戦経験の少ない彼なら呪術師の襲撃に対処できなかっただろう。

姫「そうだお兄様…姫でいる時に、飴売りと知り合いになりました」

王子「飴売り?」

姫「20代前半くらいの若い男性で…かなり馴れ馴れしい方です。遭遇した時は適当にあしらっておいて下さい」

彼を悪く言うのは嫌だったが、あまり王子と話してほしくない。
そういう意図があるとは知らずに、王子はハイハイと適当に返事を返した。

姫「あ、彼から貰った飴です。良ければ…」

王子「お、さんきゅー♪」

王子は飴をあげれば機嫌が良くなる。本当、子供っぽい。

姫(将来結婚できるかはわからないけど、王子以下の男性はそうそういないわね…)ハァ


>城下町

飴売り「らっしゃーい」

飴売りは不機嫌さを押し隠すように行商に没頭していた。

飴売り(くっそ…)

魔王城であったことを思い前す。

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:24:36.26 ID:MbiRcDMj0
父は最近体の調子が悪く、顔色が悪い。
それでも魔王としての責任からか、それとも人に弱みを見せるのを嫌う性格からか、自分が城に戻った時も威厳たっぷりに出迎えた。

魔王子「父上、謀反人が現れました」

魔王「ほう…?」

魔王子「俺が宿泊していた宿が襲撃され、呪術師と名乗る魔物に命を狙われました」

呪術師が兄王子派の者かもしれないというのは伏せておく。
証拠のない不確かな情報だし、父に心労をかけさせたくなかった。のだが…

魔王「ふん…我はまだまだ現役だ、早まった馬鹿が…」

魔王子「父上…」

魔王は次期魔王候補の派閥争いだと、気がついたようだ。

魔王子「父上、俺は争いを好みません。兄上が次期魔王であると父上の口から…」

魔王「甘えるな阿呆」

魔王子「!?」

魔王「お前は命を狙われたくないだけであろう?自分の身は自分で守れ、我が息子ならな」

魔王子「いやしかし…無益な内部争いなど…」

魔王「有益かも知れんぞ…争いでしか得られぬものもある」

魔王子「…」

父も争いの末に様々なものを手にれたと言われている。
魔王の座も、名声も、人間達に女神のようだと讃えられていた母も――
そんな豪傑な父は自分に、我が息子なら戦え、腑抜けるようなら死ねと言っている。実の親子でも、彼はそういう性格だ。

魔王子(それでも俺は――)

沢山の命を散らしてまで何かを手に入れたいとは思わなかった。

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:25:10.11 ID:MbiRcDMj0
飴売り「まいどありー」

行商は好きだ。何ていうか自分も「社会の一部」になったような気がして、働いた充実感が得られる。人と直接触れ合う仕事は、自分に向いていると思う。

流石都会、今日は飴の売れ行きがいい。特に女性客が多く、遠巻きにこっちを見ている女性もいる。
まぁ姫さんも飴好きと有名だし、この国の女性は飴が好きなのかもしれない。

王子「飴下さる?」

飴売り「へい、まいど…ってあれ、姫さん?」

王子「え…?」

飴売りの顔がぱっと明るくなる。
今日首都に来たのは、姫に会えるかもしれないという下心が多少あったのは否めない。

飴売り(姫さんのこと考えた途端姫さんが来るとは…もしかしてこれって運命?)

そんなことを考えると自然ににやついてしまい、姫に扮する王子は頭を傾げた。

王子(何だ…このアホ面は)

53 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:25:38.51 ID:MbiRcDMj0
飴売り「いつもと雰囲気違うね、一瞬気付かなかったよ。よし知り合いのよしみで1個おまけするよ!」

王子「…」

王子(こいつが姫の言ってた飴売りか?本当に馴れ馴れしい奴だな)

飴売り「ところで姫さん、昨日の件、ちょっとは考えてくれた?」

王子「は?昨日の件…?」

飴売り「冷てーな相変わらず!俺と付き合ってくれってことだよ」

王子「………は?」

人懐っこい笑顔を浮かべて言う飴売りに、王子は眉をひそめる。

王子(何だこいつ下賤な飴売りの分際で、一国の姫に告白したのか?何て身の程知らずな)

王子(何かムカつくし、蹴り上げてやろうか…待てよ)ニヤ

飴売り(…にしても姫さん、やっぱいつもと何か違うよなぁ?)

王子「飴売り様、あの…」

飴売り「ん?」

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:26:14.19 ID:MbiRcDMj0
姫(何だろう…用事って)

王子は帰ってくるなり、入れ替わりを一旦元に戻すと言い出した。
それで飴売りと会う約束をしたから、城の裏の庭園に行けとのことだ。

王子『飴売りがお前と話したいことあるみたいなんだけど、俺じゃよくわからないから行ってきてくれ』

姫(また告白の件かな?)

王子が行けと言うから行くしかあるまい。
私は先ほどまで王子が着ていた服を着て、庭園に足を運んだ。

姫(飴売りは…いた)

飴売り「あ、姫さん…」

飴売りは何やらソワソワしている。
何だろう?愛の告白すら全く恥じらわずに行った彼らしくない。

姫「お待たせ致しました」

飴売り「来てくれたんだ…嬉しいよ」

姫「えぇまぁ、約束ですから」

王子はそう言っていた。

飴売り「まさか、本当に来てくれるとは思わなくて」

姫「え?」

飴売り「俺こんなおちゃらけた奴だけど、こういう事には真剣なつもりだから…」

姫「あの、何――」

―――

唐突のことに頭が真っ白になる。
飛びつくように、飴売りは私を抱きしめてきた。

そして――

55 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:26:47.80 ID:MbiRcDMj0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

王子『飴売り様…まだ少し返事を迷っていまして、それで…後ほど、城の裏庭に来て頂けませんか?』

飴売り『裏庭に?』

王子『その時までに絶対に答えを見つけてきますから…』

王子『もし私が来たらその時は――』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



姫「――!?」

飴売り「…っ」

声を塞がれるように、触れるように――唇を、奪われた。

姫「…っ、無礼者っ!」

混乱しつつも、私は飴売りを引き離し頬を引っぱたく。

飴売り「っ…!」

しばらく、飴売りは茫然とした顔で私を見ていた。だが――

飴売り「…ごめん」

姫「…え?」

飴売り「浮かれていた…間に受けるもんじゃないよな」

姫(な、何――?)

飴売りの言葉も態度もわけがわからない――と、その時。

クスクス…

姫「――っ!?」

私の正面、飴売りの後方にある木の陰――そこにいた人物とその顔を見て、何があったのかわかった。

姫(王子…っ!!)

56 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:27:31.80 ID:MbiRcDMj0
王子は声を押し殺して笑っていた。その目にこもっているのは、私への嘲り。
これは悪戯だ。それも、相当に性質の悪い。下賤な身分の者に唇を奪われた私を嘲笑したい、ただそれだけの目的。

飴売り「無礼を償いたい…これを」

そんなことに気付かない飴売りが私に差し出したのは、剣。

飴売り「お姫様への猥褻行為をしたのだから切り殺されても文句は言えない。どうぞ――」

姫「ちがっ――」

私は慌てる。きっと彼は王子に騙されただけで、何も悪くない。だが何と説明すればいい?

王子は私を見て腹を抱えていた。私の慌てる様子を見て楽しんでいる。
ここ数年、どんなことを言われても私は動じなかった。それがつまらなくなっていたのだろう。

姫「…怒っていません」

そんな言葉しか出てこなかった。

姫「少し、驚いただけです」

飴売り「姫さん…」

できるだけ彼の罪悪感を取り除くように言葉を選ぶ。

姫「今日はお帰り下さい…暴力を振るって、申し訳ありませんでした」

飴売り「あぁ」

去っていく飴売りの背中は哀愁を醸し出す。
あのいつも朗らかな彼を傷つけてしまった――そんな罪悪感が私の胸を締め付ける。

そして怒りの矛先は勿論…

姫「王子…!!」

57 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:28:35.47 ID:MbiRcDMj0
王子「くくく…お前初めてだよなぁ?良かったじゃん、下賤だけど顔はいい相手でさぁ。お前どうせ評判悪くて言い寄ってくる男いないんだし、あいつと結婚しちゃえば良いじゃないか」

姫「…ふざけないで下さい」

数年ぶりだ、彼に怒りを表すのは。
そんな様子を見て、王子はますます可笑しそうに笑う。

王子「何?「姫」があいつを誘い込んだんだろ?何で俺にキレてんの?」

姫「誘い込んだのは貴方です…!」

王子「おーコワ。じゃ何?俺を殴る?いいよ殴れ、ほらほら」

姫「…っ!」

そんなことしたら私が責められる。事の経緯を説明したとしても、結局悪いことになるのは私。
王子はそれをよくわかっている。わかっているから、ここまで私を馬鹿にできるのだ。
それでも――

姫「私は貴方の代わりではあるけど、貴方を楽しませる玩具じゃありません!!」

私は真剣な怒りをぶつける。
唇を、しかも初めてをこんな形で奪われるなんて、顔を思い切り殴られる程ショックな出来事だ。
それも王子の為に恋愛事を避けてきた私に、こんな仕打ちを――

王子「お前さぁ、誰に向かって口きいてるかわかってんの?」

姫「はぁ…!?」

王子「俺はこの国の世継ぎ。次期国王。お前は俺のオマケで生まれてきた卑しい片割れ。わかってる?この差…」

姫「…!」

王子の言葉は私達双子の今まで歩んできた人生。
私は女で、王子より卑しい存在であり、王子の為に存在していて――

王子「俺がお前をどうしようと、勝手だろ」

姫「そんっ――」

抗議しかけた、その時だった。

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:29:16.59 ID:MbiRcDMj0
獣人「王子――」

王子「っ!?」

姫「…どうしたの獣人」

こんな時に…と八つ当たりに近い苛立ちを感じながら、獣人に返事する。

獣人「街に魔物が接近しているとの事ですが――」

王子「よーしわかった。お前、ちゃんと行けよ!」

姫「…」

私は返事をしない。けれど私に拒否する権利はない。
どんな目に遭わされても、私は王子に逆らうことを許されていない。

私は黙って、王子の振りをする為に城に足を向けた。


62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 10:27:40.31 ID:DwvQyPQ90
魔物の接近を知らされ、街の人々は避難を始めていた。

飴売り(まさか街への襲撃命令が…!?いや、また俺…!?)

飴売りは混乱の中を縫い、街の外へと出る。
魔物の気配は――こっちからだ。

飴売り「止まれっ!!」

飴売りが大声を出すと、街に向かっていた魔物達が立ち止まった。
何匹かのウルフを率いていたのは、大型のウルフに乗った猛獣使いだ。

飴売り「お前には見覚えがあるな」

確か兄王子の側近の1人――

飴売り「これは兄上の命令か?それともお前の独断か?」

猛獣使い「――どうでしょうね」ピュー

飴売り「――っ」

猛獣使いが口笛を鳴らすと、ウルフ達が一斉に飛びかかってきた。

飴売り(やっぱ俺が標的か…だったら気兼ねはいらないな!)

ウルフの爪と牙を何とかかわし、剣を振り回して追い払う。
そうしてウルフの攻撃を避けながら、懐に手を入れようとするが――

ビュン

飴売り「ぐっ…」

猛獣使い「仮面は、使わせませんよ…」

やはり仮面を警戒していたか――
剣でウルフを牽制しながら、何とか仮面を取り出せる機会がないかと伺う。
しかし…

ビュンッビュン

飴売り(チッ、この連携プレー…厄介だな…!!)

飴売り「――っ!!」

と、ウルフが飴売りの喉目掛けて飛びかかってきた。

防御が間に合わない――!!

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 10:28:10.71 ID:DwvQyPQ90
翼人「魔王子様!」

猛獣使い「――!」

大きな風を巻き起こしながら、翼人が地面に降り立った。
風に吹き飛ばされてウルフは、飴売りに攻撃をしかけることなく地面に着地。

翼人「まさか貴方が魔王子様に牙を剥くとは…」

猛獣使い「…ふん」

猛獣使いは動じず、ウルフを飴売りと翼人にけしかける。
両者、これを回避。

飴売り「翼!お前に任せた!」

翼人「はい」

飴売りは後退し、翼人がウルフの群れに突っ込んでいく。
翼人はウルフが飴売りを襲わないよう、全体を見渡しながら風を起こす。

飴売り「助かったよ翼…これで」

飴売りは懐から狂戦士の仮面を取り出し――

魔王子「思い切り、暴れられる――!!」

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 10:28:37.44 ID:DwvQyPQ90
姫「…っ!?」

私が来た時には既に終わっていた。
と、いうより…何があった?

翼人「おや…王子」

魔王子「…」

魔王子の全身が血まみれだ。だが、それはきっと彼のものではない。
周囲に散らばっている肉片――魔王子の仕業だ。
だが、何故?肉片は魔物のものに見えるが、どうして魔王の息子である彼が魔物に?

だが、そんな疑問を浮かべている間もなく――

魔王子「…」

姫「…っ」

魔王子が剣先をこちらに向けてきた。これは…戦いの合図か。

姫「…相手する!」

私は魔王子と対峙した。

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 10:29:19.45 ID:DwvQyPQ90
――全然、暴れ足りない――

魔王子「…」ビュン

姫「はッ!!」カキィン

――剣に十分な手応えを感じる。
こいつは、強い――

姫「でりゃ、たあぁっ!」カンカァン

――こいつとの戦いは、胸躍る――

魔王子「…」

――だが、何故だ――

姫「はぁーッ!!」カァン

――こいつには何か、違和感が――

魔王子「――っ」ビュン

――まぁ――

姫「くっ」カァン

――切り刻んでしまえば、どうでも良くなる――

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 10:29:45.54 ID:DwvQyPQ90
姫「…っ」

一撃一撃が重い。この魔王子、やはり強い。
何とかダメージは避けてきたが、いつまで避けていられるかわからない。

魔王子「…」ビュンッ

姫「…うっ!?」

今の一撃を受け止めたと同時、腕全体に痺れが行き渡った。
何となくそんな感じはしていたが、確信をもつ――

姫(魔王子…戦闘中に少しずつ強くなっている!?)

魔王子「…」ビュンッ

姫「くっ」

今度は回避。ギリギリだった。

姫(このままじゃ…)

こちらが押し切られる――そんな危機感を持った。

魔王子「…っ」ガキィン

姫「…っう!!」

受け止めたと同時、足元がふらつく。
何て威力…!!

魔王子「…ッハァ!!」

姫「!!」

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 10:30:14.19 ID:DwvQyPQ90
姫「…っつぅ…」

咄嗟に一撃を受け止めたが、私は思い切り吹っ飛ばされた。
体が地面をこすり、鈍い痛みが体を伝う。

魔王子「…」

姫「くっ…」

しかし魔王子はじりじり近づいてくる。痛みを気にしている場合じゃない。
急いで立ち上がり、魔王子に向き直ろうとした。

だが、その時。

魔王子「…ッアァ」

姫「…?」

魔王子の動きが止まった…震えている?
そして頭を抑え…

魔王子「…ガアアアァァァァーッ!!」

姫「!?」

翼人「いけない!」

獣人と戦っていた翼人が急に戦闘をやめ、魔王子に向かっていった。
そして魔王子の体を抱えて、宙に飛ぶ。

翼人「退散させてもらおう…王子よ、また会おう」

姫「あっ!」

翼人はそう言うと慌てた様子で、魔王子を連れ去っていった。
その姿は、あっという間に見えなくなる。

姫「…助かった」

獣人「そうですね…」

68 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 10:31:39.13 ID:DwvQyPQ90



飴売り「ハァ、ハァ…」

全身から汗が吹き出す。体が妙に熱い。
それに――さっきまでの自分は、明らかに正気を失っていた。

翼人「仮面を長時間つけていたせいか…」

飴売り「くそ…!!」

危うく意識が飲み込まれる所だった。あれ以上戦っていたら、自分は…。

翼人「猛獣使いからの連戦でしたからね…そうでなければ王子を討てたかも」

飴売り「そんなこと気にしてねぇ…」

猛獣使いはいい。自分に殺意をもって向かってきた相手だ、こちらも全力で対処する。
だけど王子は違う。自分と遭遇した時はまだ戦う素振りも見せていなかった。なのに自分は王子を殺しにかかった…それはただ単純に、暴れたかっただけだ。

自分が段々仮面の狂気に染まっていき、自分が自分でなくなっていく感覚――思い返せばゾッとする。

飴売り「おっかねぇ…」

翼人「…仮面がですか?」

飴売り「違う…」

飴売りは体をギュッと締めてガタガタ震えだす。

飴売り「俺はもう、こんな…戦いなんて、うんざりだ…!!」

69 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 10:32:31.62 ID:DwvQyPQ90
夜の更新は未定。
飴売り→魔王子になる際仮面を被っただけで服装は一緒ですが、全身血塗れなので姫は気づいていません。

70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/24(土) 10:43:09.34 ID:8bgtyjSWo
乙乙

71 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 17:38:15.49 ID:DwvQyPQ90
王「ご苦労だったな王子よ」

報告をすると父はお決まりのように言った。
心のこもっていない事務的な言葉。その言葉では、私の達成感は満たされない。

王妃「しかし魔物達もいよいよ、我が国の城下町を狙うようになりましたか…」

王「あぁ…これは由々しき事態だな」

姫「…」

兵力の強化を怠っている張本人達が何を言っているのか――そう思ったが、言葉をぐっと堪える。

王子「いっそ他国みたく魔王に下っちゃえば~?」

王「それはできん。我が国の株が下がる。それに王子の今まで積み上げてきた名声も崩れるぞ」

王子「あぁ、それはいかんね」

名声だけを得ている王子は、現状をわかっていない。
けど、いっそ魔王に下ってしまえば――私もそう思うことはある。魔王に下った国の王達は権力を失い、自分の国のことも自分達で決められなくなる。
だけど、人々を守ることはできる。誇りを失っても、命は守れる。
我が国は弱小国の分際で、最後まで戦い抜くという誇りを捨てきれない。それは全て、私の重圧となるというのに。

王子「じゃ、もう魔王城攻めちゃえば?」

姫「…!!それはできない!」

私は即抗議する。
魔王城やその近辺には、主力となる魔物達がうじゃうじゃいるということだ。
今までは魔王のプライドが許さなかったのか、主力である魔物達が国に侵入してきたことはほとんどない。だから私が主力の魔物と戦う時はいつも、少数相手だった。
しかし魔王城近辺に行くということは主力である魔物との連戦――そんなことしたら、私がもたない。

それを王子でもわかるよう、わかりやすく述べたが、

王子「でも今の内に行っておかないと、国にもっと強い魔物達が攻めてくるんでねぇの」

王子はあっけらかんと答えた。

王子「魔王を討ったとなりゃ、王子は国だけじゃなくて全世界の英雄だぞ。国の為に動けよ」

そう言う王子の顔は強欲に満ち、下卑て見えた。

72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 17:38:44.75 ID:DwvQyPQ90
私の発言はどこまでも無力だ。

王「そうだな、魔王を叩くなら今かもしれん。まだ我が国にダメージがない内がいい」
王妃「それも国を守るということ…」
王子「城に潜入して魔王だけ討てばいいんだよ、後の魔物は逃げろ逃げろ」

戦わない人達は理想を掲げ、私に責務だけ押し付ける。反論しても、それがお前の義務だと聞き入れもしない。
そして、出来なかったら私を責めるのだろう――もっとも今回の場合は、責められる以前に死ぬかもしれないが。

姫(もし私が死んだら――)

あの人達は戦えない。だから魔王に下るしかなくなる。
この国の人々の為ならそれもいいじゃないか。だけど、私が無駄死にだ。

無駄死に――そうか。私は無駄死にさせてもいい程度の存在だった。

王「明日出発するように」

いいでしょう、どうせ私は王子の手先でしかない。
戦い抜いた末無駄死にしても、貴方達の失望の声は私に届かない。

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 17:39:11.48 ID:DwvQyPQ90
姫「行きましょうか、獣人」

獣人「お待ち下さい。提案が」

姫「何?」

獣人「王子の格好で出征すれば噂は広まるでしょうし、敵に狙われやすくなります。魔王城付近までは、王子でない格好に変装して行かれた方がよろしいかと」

姫「…それもそうね。でも獣人はどうするの?貴方も顔を知られているから私と居れば目立つでしょ」

獣人「私は別行動します…何かあれば、この笛で」

姫「わかった」

私に笛を渡すと獣人は姿を消した。
さて、どんな格好で行こうか…と考えた末私は、

姫「ま、いいか、こんなんで」

普通に女の格好で行くことにした。

姫(今日は一気に国境越えちゃって、隣国の首都に行こうかな…田舎より街の方が、旅人は目立たないし)

74 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 17:40:12.90 ID:DwvQyPQ90
翼人「…では魔王城には戻られないと?」

飴売り「魔王城は敵だらけだろ…戻りたくない」

翼人「では、どうなさるんですか?」

飴売り「人間の国に留まっていたい」

翼人「…そうやって、また逃げるつもりですか」

飴売り「わかってるだろ…俺は争いも面倒事も嫌いなんだ。逃げないとそれを避けることはできないんだ。逃げて何が悪い?」

翼人は呆れたのか諦めたのか、ふぅとため息をつく。

翼人「わかりました…ですが留まるにしても場所を選んだ方が良いですよ」

飴売り「あぁ、あまり魔物達が攻め入ってこれない場所だろ?」

翼人「はい。この国は兵力が弱いので魔物の侵入も容易いですが…」

飴売り「隣国は防衛力の強い国だし、そこなら問題はないな」

翼人「えぇ、ですが魔物の侵入も容易くはない。なので私は魔王子様の側にいられませんが…」

飴売り「そこまで翼に面倒かけられない。危なくなったら仮面で自分の命くらい守るよ」

翼人「そうですか…しかし残念です」

飴売り「何が?」

翼人「それは…いえ、私などが言うのはおこがましいですね」

そして、飴売りは1人になった。


後半へ続く
posted by ぽんざれす at 09:53| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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