2015年09月05日

姫「魔王子との政略結婚」(1/3)

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2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:15:12.58 ID:vBpN6/wS0
その日、不安で一杯だった。
私は魔王の一人息子との結婚が決まり、夫となる人と初の顔合わせする為、魔王城に来ていた。

姫(うぅ)

ジロジロ見られている。緊張。
でもここで弱々しい振る舞いをしたら、後々困るのは自分。
そう思い胸を張ってはいたものの、今にも心臓が飛び出しそうだ。

従者「魔王子とやら、来ませんね」ボソボソ

姫「そうね…」

私が謁見の間に来てから随分経った(ように感じる)
しかし夫となるはずの魔王子はなかなか現れず、無言のまま魔王と向き合う羽目になっていた。

魔王「…」ゴゴゴ

姫(帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい)

私は早くも、義父となるであろう魔王を相手に圧倒されていた。

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:16:43.12 ID:vBpN6/wS0
魔王「遅い…」

姫「」ビクッ

魔王「魔王子め何をやっている…」ゴゴゴ

姫(こ、怖い…)

怒っているのか、元々こんな人なのかはわからないが、威圧感は本物だ。
このままでは押しつぶされてしまいそうで…。

メイド「ま、魔王子様が帰られました!」

姫「!!」

その報告に救われた気がした。
目先の問題なのだが、とにかくこの空気を何とかしてほしくて。

だけど、

魔王子「あー、風呂くらい入らせてくれってぇ」

姫「!」

初めて見る彼は、

魔王子「ひとっ走りして体がくせーの何の。脇汗ビッショリで気持ちわりー」

姿を現したと同時、また悪い方向に空気を変えてしまった。

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:17:33.33 ID:vBpN6/wS0
魔王「お前…今日は姫君との顔合わせの日だと伝えておいたが?」

魔王子「わりわり。忘れてた」

姫(わ、わす…)

魔王子は魔王の威圧感にまるで気付いていないかのように、飄々としていた。
顔は美形で間違いないんだけれど、服装は運動着のようにラフだし、髪も乱れている。どうにも、きっちりした人ではないらしい。

従者「し、失礼ではないですか!!」

姫「ま、まぁまぁ」

魔王子「お。もしかして俺の奥さんになるお姫様?」

魔王子はピリついた空気に動じず、私に寄ってきた。
あまりに物怖じしない様子に、人見知りの気がある私は引き気味になる。
だけど魔王子はそんなの気にせずにニカッと笑い、

魔王子「宜しくなぁ、お姫様~」

私に手を差し出してきた。

姫「え、えぇ…」

私もその手を取りそうになったけれど、

魔王「魔王子…無礼にも程がある。顔合わせにも形式というものがあるのだ、奔放では困る」

魔王の威圧的な声に、私は出しそうになった手を思わず引っ込めた。
魔王子は機嫌の悪い顔になって、魔王に顔を向ける。

魔王子「あのさー、俺、当事者なんだよ?何で形式に縛られなきゃならんのですかー」

魔王「馬鹿者。お前の結婚は魔物と人間の和平がかかっていてな…」

魔王子「形式に縛られる理由にはなってねーな」

そう言うと魔王子は、

魔王子「失礼っ」

姫「っ!?」

一旦引っ込めた私の手を取った。

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:18:09.07 ID:vBpN6/wS0
魔王子「はいはい立って立って~」

姫「あ、あのっ…」オロオロ

魔王「どこへ行くつもりだ魔王子」

魔王子「デート」ニッ

魔王「あ?」

魔王子「結婚前に相手のことを知っておきたいじゃん。顔合わせだけじゃわかんねーっつーの」

そう言って魔王子は強引に私の手を引っ張っていった。
私はどうしていいかわからず、引っ張られるまま彼の後を追う。

魔王「待たんか魔王子!」

魔王子「いやでーす」

そして魔王子は謁見の間にいた者の視線を集めたまま、あっという間にそこから立ち去ってしまったのだ。
6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:18:46.15 ID:vBpN6/wS0
姫「あ、あの…」

魔王子「ん、何?」

姫「いいんですか…?」

魔王子「あー、いいのいいの、気にすんな!」

彼はそう言ったが、廊下にいた魔物達も彼の姿を見かけてぎょっとする。
一緒にいた私はそれで余計萎縮してしまった。

魔王子「こっちな」

そう言って彼が扉を開けると裏庭に出た。
そこには厩舎が建っており、彼はそこにいた馬を連れてきた。

魔王子「どうぞ、乗って。足元気をつけてな」

姫「あの…どこへ?」

魔王子「だから、デート」

姫「いえ、でも…」

魔王子「心配すんなって、終わったらちゃんと帰ってくるから。ほら乗って乗って」

姫「…」

魔王子に促されるまま、私は馬に跨る。続いて彼も跨ってきた。

魔王子「じゃ、しっかり掴まってろよー」

そう言うと彼は馬を走らせた。
何て自由な人。周囲を気にせず、人を巻き込むマイペースさ。

私は、この人の妻になるのか…。

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:19:24.03 ID:vBpN6/wS0
魔王子「よっしゃ、ここだ」

馬を少し走らせると、見晴らしのいい高原に着いた。。
魔王子は馬を止め、飛び降りるように着地する。

魔王子「いい空気だなー、そう思わない?」

姫「え、えぇ、そうですね」

魔王子「俺はこの場所が好きでさー」ゴロン

姫(早速寝転がった)

魔王子「姫様もどう…って無理か、ドレスが汚れちまうよな」

姫「あのー…」

魔王子「呆れた?」

姫「え?」

魔王子は寝返りをうって私に振り向く。
唐突な質問を、私はすぐに理解できなかった。

魔王子「こんなバカ王子と結婚するなんてー、って思わなかった?」

姫「え、あ、いえっ!」アワワ

何か誤解を与えてしまったかと、私は慌てて否定する。
そんな様子を見て、魔王子は可笑しそうに笑みを浮かべた。

魔王子「姫様は可愛いなー」

姫「えっ!?」

魔王子「ほんと。俺にはもったいない」

美麗な顔立ちには不釣り合いな無邪気さで、魔王子は笑った。
彼の言葉には重みがない。本当か冗談かもわからない。

だけど――

姫「ふ、ふふっ」

さっきまで私の心をガチガチに固めていた緊張は、彼によって一気に溶かされた。

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:20:06.48 ID:vBpN6/wS0
姫「自由な方ですね、魔王子様は」

魔王子「でも安心して、浮気とかしないから俺」

姫「不自由させてしまいますね、結婚すると」

魔王子「いやいや、元々女性関係は奔放じゃないし。姫様の方はどうなの?」

姫「え?」

魔王子「何か、勇者と結婚するって噂もあったけど…いいの、俺のとこに来ちゃって」

姫「…」

勇者。平和な現代においては「魔王を倒す」という使命こそ無くなったものの、今は母国の兵を率いて、武力をもって世の中の秩序を守る存在。
彼とは幼馴染の関係にあり、何となく結婚するのだろうと言われてきたけれど…。

姫「えぇ、納得して来ました」

魔王子との結婚が決まった今では、それは過去の噂話。

魔王子「そうか」

彼はそれ以上追及してこなかった。

魔王子「ねぇ、この景色見てみて」

姫「?」

私は魔王子のすぐ側に腰を下ろし、彼が見ているのと同じ景色を見る。
広がる高原、一杯の自然――正直どこを注視すればいいのかわからない。

魔王子「あそことか、あそことかに、うちの国が統治してる村があるんだよ」

あぁ、そこを見ればいいのか。

魔王子「人間も結構移住してきてるよ」

姫「えぇ、和平を結んでから互いの国に移住者が増えましたね」

魔王子「けど、まだ人間と魔物は仲が良いとは言えないな」

魔王子は少しだけ、顔をしかめた。

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:20:47.69 ID:vBpN6/wS0
人間と魔物側の戦いが幕を下ろしたのは、私が小さい頃の話。
それからは互いに交流を持つようにし、和平の為に双方のトップは力を尽くしてきた。

それでも、両者の溝はそう簡単に埋まらないのが現実だ。

王「姫…決して相手に心を許すなよ」

兄である王にも、そう忠告された。
王にとって和平や平等というのは建前であり、本音では魔物への差別意識を抱いている。

人の気持ちはそう上手くコントロールできるものではない。が、内心どうあれ、とりあえず王が和平を持続する方針なら、それで問題は起こらない。

問題なのはその意識を表に出してしまう人達であり、互いへの差別意識から来るちょっとした争いは耐えることがない。
しかもここ数年はその件数も増えてきて、和平にヒビが入りかねない状況になってきていた。

そこで今回の政略結婚に至った、というわけだ。どれだけ効果があるかは、わからないけれど。

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:21:56.64 ID:vBpN6/wS0
魔王子「俺、子供の頃に人間にちょっとした嫌な目に遭わされてさ」

姫「…そうでしたか」

彼と私は同年代だろうから、子供の頃というと終戦間もなく、まだ両者ともギスギスしていた時代。
彼の言う「ちょっとした嫌な目」というのは、その時代には珍しくなかったものだ。

魔王子「だから俺はさ、種族のことで嫌な目に遭わない世の中になればいいと思っている…つーか、俺がそういう世の中にしなきゃいけないんだけどね」

姫「ご立派です」

私がそう言うと彼は起き上がり、複雑な顔をした。

魔王子「…本当に納得してる?」

姫「何がです?」

魔王子「異種族に嫁入りすること」

姫「はい」

ここに来る前は、魔王の一人息子ということで不安はあった。
だけどそれは、厳格な人だったらどうしようという意味であり…

姫「種族なんて関係ありません」

魔王子「そう心から言える人、意外と少ないよ?」

姫「でも、これが本音ですから」

魔王子「そっか。この通りの俺だから色々苦労はかけると思うけど――」

魔王子は安心したように笑うと、照れくさそうに手を差し出した。

魔王子「夫として精一杯努めますので…宜しくお願いします」

姫「――こちらこそ」

私は彼の手を取った。
これが他の誰も知らない、私達の誓いとなった。

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:23:32.87 ID:vBpN6/wS0
今日はここまで。
敵地への嫁入りシチュエーションが大好きです。今作敵地じゃないけど。

12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/22(日) 17:06:54.93 ID:5XIpg0kDO
乙!

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/22(日) 17:24:58.91 ID:8zdUk13YO
あなたのssの恋愛模様にはいつも悶えさせられる。

14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/22(日) 18:58:49.63 ID:Hs8r5uJpO
乙です
これは良い導入部
期待

15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/22(日) 20:13:45.81 ID:SroNdoYsO
マジで少女漫画臭がするw乙

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:27:54.93 ID:sNcAsDFK0
初恋、というものなら昔に経験した。それこそ子供の頃の話だ。
相手は、家族と行った小旅行で出会った男の子だった。その頃の自分は今程人見知りでもなく、その男の子とすぐ仲良くなったと思う。
確か、その男の子に花を貰った。それを押し花のしおりにして、使っていたと思う。

だけどその思い出は心残りではない。今ではその男の子の顔も思い出せないのだから。


神父「その健やかなるときも、病めるときも~…」


2人きりで誓いを立ててから数日後、結婚式は滞りなく行われた。
流石に結婚式の場となると両種族の間にギスギスした空気はなく、これなら問題なく終わりそうだ。

だけど私は、感じていた。

王「…」

勇者「…」

特別席で見ている2名の視線が、決して祝福するものではないことを。

それでも。

神父「誓いのキスを…」

私は、彼の妻になるのだ。

魔王子「い、いい?」

姫「えぇ…」

魔王子「それじゃ――」


姫「――」


目を瞑って視界が真っ暗な中、人々の歓声と、彼に触れた感触を感じた。

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:28:31.72 ID:sNcAsDFK0



魔王子「長かったー…」

式が終わり、正装から普段着に着替えた彼は早速ソファーでグッタリしていた。
こういう式典は好きではないのだろう、むしろ今までよくもっていた方だ。

姫「お疲れ様です。はい、お茶どうぞ」

魔王子「さんきゅ。かみさんが茶を淹れてくれたのは新婚の時だけだー…ってならなきゃいいなぁ」

姫「ふふ、あなた次第です」

魔王子「じゃ、頑張ったらグレードアップしてくれな」

そんな冗談のやりとりで気が安らぐ。
私は彼の横に腰を下ろし、おかわりのお茶をつぐタイミングを見計らっていた。

「新婚早々、仲が良いな」

魔王子「あ?」

姫「あ」

向こうから人がやってきた。
確か彼は…魔王子の叔父である悪魔様に、その娘の妖姫様だ。

悪魔「魔物の頂点となる自覚が足りんぞ魔王子。あまりだらしない姿を人に見せるな」

魔王子「うるせーです、叔父上」

魔王子はやる気のない笑みを浮かべたまま、さらりと答えた。
悪魔はその様子を見て、苦笑いを浮かべる。

悪魔「いつまでも子供気分だから困る…姫君、魔王子の尻を叩いてやってくれ」

姫「あ、はい!」

魔王子「やめてー。余計なこと言わないで帰って叔父上ー」

魔王子は仰向けになって、手だけでシッシッという動作をした。

悪魔「やれやれ…では失礼する」

姫「あ、お疲れ様です…」

と、彼らを見送ろうとした時だった。

妖姫「…」ギロ

姫「!?」

妖姫「…」スタスタ

今、物凄い目で妖姫に睨まれたような…気のせいだろうか?

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:29:24.67 ID:sNcAsDFK0
彼らの気配が無くなると、魔王子は姿勢を正した。

魔王子「俺は叔父貴は好かん」

姫「あ、そうなんですか…」

てっきり、親しさを込めての無礼かと。

魔王子「叔父貴は人間嫌いだからな。…そりゃ、そうなる事情もあったんだろうけど、度々人間と揉め事起こされちゃかなわんよ」

姫「揉め事ですか…」

紳士的な人に見えたが、そうだったのか。
それなら内心、私のことも良く思っていないかもしれない。だったら、去り際の妖姫の目つきも――

魔王子「俺、妖姫と結婚するかもしれなかったんだ」

姫「…っ!?」

内心思い浮かべていた人の名前を出され、どきりとした。

魔王子「でも俺、妖姫にそんな感情抱いたこと1回もないから。向こうもそうなんじゃないかな」

姫「それは…」

向こうは貴方を――だからこその、あの視線なのでは。
今日から魔王城で暮らすというのに、早速不安が生まれた。

魔王子「守るから」

姫「――え?」

だけど魔王子は、私の不安を先読みしていたかのようにそう言った。

魔王子「奥さんを守れない男は夫失格。そうだろ?」

彼の柔らかい表情と声に、私は安心する。
これからどうなるかはわからないけど――

姫「頼りにしていますね、魔王子様」

彼なら信用してもいい――そう思えた。

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:30:00.74 ID:sNcAsDFK0
>夜

従者「姫様、今日は早めにお休みになって下さい」

姫「えぇ、ありがとう従者」

従者は母国から一緒に来た、魔物と人間の混血種だ。彼は心配過剰な所があり、さっきから私の体調を気遣ってくれている。

従者「それではお休みなさい」

頭を深く下げると、従者は出て行った。
私は寝室に1人になる。

さて。

姫「………」

姫(ど、どどどどどどどどうしよう!?)

結婚して最初の夜。
ということはつまり………そういうことだろう。

姫(心の準備が…)ドキドキドキドキ

一応、本でそれなりに知識は身につけた。だがその時が近づくと、どうにも緊張してしまう。
今だって心臓がドキドキいって…

姫(あああああああああぁぁぁぁぁ、もうっ!!)ブンブン

あれこれ想像しては悶絶する。いけないいけない、はしたない。

姫(落ち着いて深呼吸、深呼吸…)スーハー

それにしても。

姫(魔王子様、どこに行ったんだろう…)

出来れば来るのを待ってほしいけど、あまりにも遅いと気になってくる。
さて、どうしたことか。

とりあえず私は、寝室を出ることにした。そして、そこにいた女性に声をかけた。

姫「あっ、あの」

メイド「あら奥様。どうされました?」

姫「魔王子様の居場所ご存知ありません?」

メイド「いいえー。おかしいですね、お探ししましょうか?」

姫「え、あ、いいんです」

まだ遠慮する気持ちがあるので、申し出を断って寝室に戻った。
一体どこで何をしているのか…彼が来るまで待つつもりだったが、思った以上に私は疲れていたみたいで、その日はすぐに眠りについてしまった。

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:30:45.45 ID:sNcAsDFK0
>翌日

メイド「クッキー焼けましたよー」キャイキャイ

姫「あら、可愛い!食べるのが勿体無いですねー」

朝食後暇を持て余している所をメイドに誘われ、厨房で女子会を開いていた。
まぁ1人だけ、女子でないのが混ざっているけど…。

従者「へっへー、もーらいっ」

メイド「これっ!」ペシッ

従者「いでっ」

姫「もう従者ったら、はしたないわ」

従者「だってぇ、クッキー好きなんだもん」イジイジ

メイド「あんたは残骸でも食べてなさーい」

従者「わーい、残骸でも美味ぇー♪」パリパリ

メイド「ちょっとちょっとぉ、冗談で言ったのに…もう」

姫「ふふふ、早速仲良くなったのね2人とも」

メイド「ちょっ…!そ、そんなんじゃ」

従者「あぁ、同じ混血種ですからね。親近感は沸きますね」

メイド「ぶっ」

姫「混血種、母国の城には多かったのだけれど。こちらでは見かけませんね」

従者「ですねー」

メイド「深い理由はありませんよ。でも良かったです、奥様が魔物にも混血種にも寛容な方で」

従者「えっへん!」

メイド「何であんたが威張ってんの!でも魔王子様も種族差別しない方ですし、お2人の結婚は和平に大きく貢献しそうですね~」

姫「えぇ、尽力します」

その魔王子なのだけれど、今朝は――

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:31:13.59 ID:sNcAsDFK0
>今朝

姫「おはようございます」

魔王子「や、やぁ、おはよう!」

姫「…?」

早朝1番に顔を合わせたが、何故か目を合わせてくれない。
それに何だか気まずそうな…。

姫「魔王子様」

魔王子「ん、んっ!?」

姫「昨晩はどちらに――」

魔王子「え、あ、いや、まぁ色々やることがあってなー」

姫「そうですか」

魔王子「それより朝食会に行こうか!今日の朝飯は何かなーっと」

姫「…?」

何だか、妙に挙動不審だった。

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:31:53.48 ID:sNcAsDFK0
その日は城に仕える女性方と親交を深めた。

そして迎える夜。

姫(今日こそ…)ドキドキドキドキ

昨日と同じ緊張感で私は魔王子を待っていた。
今日も彼は遅い。もしかして、まだやることがあるのだろうか?

姫(今日は待ってなきゃ…)

窓際の椅子に腰掛け、お茶を飲みながら彼を待つ。
だけど彼は来ない。彼を待つ時間が長ければ長い程緊張感は増していき、お茶を持つ手が震えるのだけれど。

姫(ああああぁぁぁ、もおおおぉぉぉぉ!!)ブンブンブンブン

いけない妄想が一瞬頭を過ぎり、熱くなった顔を両手で押さえた。
これは…何ていうか、本当にまずい。

姫(いけないいけない、こんな顔じゃ…)ブンブン

と、表情を直す為、鏡の代わりに窓ガラスを見た。

姫(あら?)

そして見つけた。

魔王子「…」

窓の向こう、少し遠くの方に佇む魔王子を。
彼は頭を掻いたり、その場を往復したり、見た所かなり挙動不審だ。

姫(どうしたんだろう…)

姫「…」

姫(行ってみよう)

私は上着を羽織り、寝室を出た。

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:32:23.68 ID:sNcAsDFK0
魔王子「あぁう…」

魔王子の顔は既に真っ赤だった。
昨晩は何とか誤魔化せた。しかし今晩は…。いや今晩を誤魔化せたとしても、ずっと続きはしないだろう。

どうしよう…本当に情けない。

魔王子「あー、もー…」

頭で木によしかかる。それはまるで猿の反省ポーズ。

魔王子「どうしろってんだよマジで…」ブツブツ

姫「魔王子様?」

魔王子「うわぁ!?」

そして、魔王子にとって今1番会いたくない人物が現れた。

姫「魔王子様…お悩みですか?」

魔王子「え、あ、いや…」

姫「…?」

駄目だ。彼女と顔を合わせると気まずい。今朝からずっとだ。
そう、魔王子が頭を悩ませているのは、姫が原因だった。

姫「まさか調子がよろしくないとか…?」

魔王子「あ、いやまぁ、よろしくないような、違うような…」

姫「…?」

魔王子「えーと、まぁ何だ…ちょっと夜風に当たってた」

姫「そうでしたか。なら付き合います」

魔王子「え!?」

姫「え?」

魔王子「あー、いや、いいんだ、うん」

あまりよろしくない申し出だったが、断る口実も思い浮かばず、魔王子はそれを受け入れた。

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:32:49.37 ID:sNcAsDFK0
気分転換に、魔王城の庭を散歩することになった。

姫「お花が沢山咲いているんですね…明日明るい時に来てみようかしら」

魔王子「う、うん!いいんじゃないかな!」

姫「…?」

しかし魔王子の様子はずっとおかしい。
それにさっきから、こっちを全然見てくれない。

姫「…あら」

その時、月にかかってきた暗雲が晴れた。

姫「見て下さい魔王子様」

魔王子「ん?」

姫「月が綺麗で――」

魔王子「ストオオオォォップ!!」

姫「!?」

魔王子「あ、あのさ、意味わかってる?」

姫「え、あの?」

魔王子「…いや悪い。つーか別におかしいことじゃないんだよな…夫婦なんだし。そう、夫婦、夫婦…」

姫「魔王子様…朝から変ですよ?」

魔王子「」ギクッ

姫「どうしたんですか?」

魔王子「えーと…」

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:33:18.84 ID:sNcAsDFK0
魔王子「…本当にごめん」

姫「え?」

いきなり頭を下げてきた魔王子に私は戸惑う。

魔王子「遠い国から嫁いできたお姫様を、俺が守らなきゃとか、支えなきゃとか、そういう決意はしたんだけど――」

魔王子は真っ赤な顔をしていた。それに段々声が小さくなっている。
あの、初対面の時から飄々としていた彼の面影は、そこにない。

魔王子「その…待ってくれないか!」

姫「…え?何をですか…?」

魔王子「あのー…だな…」

魔王子「夫婦の…儀式」

………

姫「」ボッ

魔王子「いや、姫様と夫婦になるのが嫌なんじゃないから!な、何てーかさー…えーと」ボソボソ

魔王子「姫様のこと大事にしなきゃって思えば思う程…勇気が無くなるっていうか…」

魔王子「あ、いや姫様が悪いんじゃなくてね!?俺も女性経験ないから何か色々不安だし」

魔王子「こう見えて俺キスも、結婚式のが初めてで…」

姫「よ、よくわかりましたから、もういいです~…」

魔王子「…」

姫「…」

互いに目を合わせられない。
もう何なんだろう、これ以上ないくらい顔が熱い。

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:34:50.58 ID:sNcAsDFK0
魔王子「…ごめん、俺、本当情けないよな!!」

姫「い、いえ!」

私はすぐに魔王子に迫った。

姫「不安な気持ちは私も一緒でしたし!ですからあの、全然気にしないで下さい!!」

魔王子「だけどさー…安心させてやるのが俺の役目じゃん」

姫「…あまり気張らないで下さい、魔王子様。貴方が私を大切に思って下さっているのは、わかりましたから」

魔王子「姫様…」

姫「あの、魔王子様」ソッ

魔王子「…っ」

私は彼の手を取る。彼の手はガチガチに緊張していた。
何だか可笑しい。初対面では、あんなにがっちりと手を握ってきた人が。

姫「少しずつ、段階を踏んでいきませんか…?」

魔王子「段階…?」

姫「えぇ、例えば――」

私は緊張をほぐすように、彼の手を両手でゆっくりさすった。
ちょっとだらしなく爪が伸びた、大きな手――なのに何だか今は小さく感じて、愛おしい。

姫「こうやって、触れ合う所から」

魔王子「…」

魔王子は無言のまま、ぎゅっと私の手を握り返す。
すると包み込まれるような安心感が、私の心を暖かくした。

魔王子「姫様が、嫌じゃないなら」

姫「嫌じゃ、ないです」

魔王子「そっ、か…」

手を握り合ったまま向き合い、彼はちょっとだけ視線をそらす。

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:35:21.29 ID:sNcAsDFK0
姫「ふ、ふふふ…」

魔王子「!?笑われてる、俺!?」

姫「いえ違うんです――嬉しくて」

魔王子「嬉しい?」

姫「えぇ…新しい貴方を知ることができて」

魔王子「あー…あまり知られたくはなかったけどな…」

姫「それに、こういう一面を知っているのはきっと私だけかなって」

魔王子「うん、そりゃそうだ」

姫「私達まだ、お互いのこと全然知らないですし」

魔王子「そうだな…うん、互いのことを知るのが先だよな」

姫「そうですね、ふ、ふふ…」

魔王子「そんなに嬉しいの?」

姫「だって魔王子様、可愛いんですもの」

魔王子「やっぱ笑われてんじゃん!」

姫「ご、ごめ…あはははは!」

魔王子「あーもー」

魔王子は困ったように眉を下げながらも、口元には笑みを浮かべた。

魔王子「それ以上笑うようなら…お仕置きだ!」頭グシャグシャ

姫「きゃっ、ふふふっ」

魔王子「まだ笑うか、こいつめー…」


と、その時――

魔王子「――っ!!」


姫「――え?」

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:36:00.90 ID:sNcAsDFK0
一瞬――

理解が遅れた。
だけど気付いた時には、私は魔王子の腕の中にいて…。

姫「ちょっ――魔王子様!?」

抱き合うような姿勢に私の頭が沸騰する。
けど、彼の腕を見て、それは誤解だと気付いた。

姫(…血!?)

魔王子「…クッ」

魔王子の腕には、先ほどまで無かった傷がざっくりと開いていた。

魔王子「姫様、ここから動くなよ!」ダッ

姫「あっ!?」

魔王子はそう言うと駆けた。
その先――闇の中を舞う何者かがいた。

その何者かは、魔王子に向かって光るものを振り下ろした。

魔王子「っ!!」

魔王子はそれをギリギリでかわす。
そのやりとりを見て、私はようやく現状を理解した。

姫(ま、まさか暗殺者が!?)

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:36:57.07 ID:sNcAsDFK0
今日はここまで。

>>24のくだりで「何だ?」と思った方へ
「月が綺麗ですね」は遠まわしな「愛しています」の意味だそうです。

30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/23(月) 18:09:19.32 ID:YlaoM2VWO
乙です
姫様可愛い
魔王子はなかなかのイケメンだが、ソコはヘタれるんですね
「月が綺麗ですね」の件は有名なので知ってる人も多いかと
続きに期待

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:30:44.48 ID:twoSxGnW0
暗殺者(仮)の動きを注視する。
身のこなしは軽く、木と木を飛び移って魔王子を翻弄している。
魔王子とすれ違いざまに彼に刃を振るが、それは全て魔王子が間一髪で避けている。

暗殺者「…」シュッ

魔王子「くっ!!」

魔王子は大きく跳ね、近くの木の側へ着地。
そしてその木に生えていた枝をもぎ取り、暗殺者に対峙する。

暗殺者「…」バッ

魔王子「…っ!!」

暗殺者は構わず魔王子に刃を振り下ろした。魔王子はそれを枝で受け止める――が、枝は刃に粉砕された。
やはり、木の枝では刃相手には頼りない。

だが、

魔王子「大成功だよ…!!」ガシッ

暗殺者「!?」

魔王子は暗殺者の、刃を持った方の手を掴んだ。

魔王子「木の枝で戦うことはできないが、刃の勢いを弱めることはできる!!」

暗殺者「くっ!!」

暗殺者は魔王子の腕を引き離そうともがくが、魔王子も離すまいと掴みかかる。
暗殺者の手にある刃は、互いの喉元をかすめて危険な状態。

そして――

ドサアアァァッ

双方は勢いのまま、その場に倒れ込んだ。

姫「魔王子様!!」

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:31:11.46 ID:twoSxGnW0
魔王子「ハァハァ…大丈夫だ、だが」

姫「…っ」

立ち上がった魔王子の足元には暗殺者…その首には、刃が突き刺さっていた。
これは…間違いなく絶命している。

魔王子「見るな」

魔王子は私の視界を遮るように、目の前に立って体でその光景を隠した。

魔王子「生け捕りにして話を聞き出したかったが…こっちも必死で、やっちまった」

姫「ま、魔王子様…貴方、命を狙われ…」

魔王子「こんなん今日が初めてだよ…この時間この場所、狙いやすい時を狙われたな」

魔王子は苦々しいといった表情で暗殺者の死体を睨みつける。

姫「魔王子様…賊はまだ潜んでいるかもしれません」

魔王子「そうだな…早く城に戻って報告した方がいいな」

そう言って魔王子は私の手を引いて戻ろうとした。

姫「あ、待って下さい」

魔王子「ん?どうした?」

姫「その腕…」

私は傷口に触れぬように彼の腕を手に取り、集中した。
すると――

魔王子「これ…回復魔法?」

姫「こんな魔法しか使えませんが…」

魔王子「いや、元気になった。ありがとう姫様」

そう言うと魔王子は満面の笑みを見せてくれた。
命を狙われたばかりで不安だろうに、その笑みは私を気遣ってくれているように感じて――

姫(どうして、彼が――)

それだけ、私の胸が痛んだ。

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:31:45.86 ID:twoSxGnW0
彼は真っ先に寝室まで私を送ってくれた。

魔王子「1人で大丈夫か?」

姫「えぇ、するべき事をなさって下さい」

魔王子「何かあったらすぐ叫ぶようにな。兵士が駆けつけるから」

姫「えぇ」

心配過剰な気はするけど、その気持ちが嬉しい。私は報告に行く彼の背中を見送った。
少しして窓の外はバタバタし始めた。他に潜んでいる賊を探したり、賊の死体を回収したりと忙しいのだろう。

魔王の一人息子が命を狙われるなんて――この国で何が起こっているのか、私ではわからない。

だけど――

魔王子『だから俺はさ、種族のことで嫌な目に遭わない世の中になればいいと思っている…つーか、俺がそういう世の中にしなきゃいけないんだけどね』

魔王子は悪党ではない。自由な人ではあるけど、恨みを買うような人には見えない。
ならば政治絡みか。彼が死ねば都合がいいという連中がいるのか――

姫(そんなのは許せない)

頭に魔王子の笑顔を浮かべ、彼の為に祈った。
どうか彼の命が、誰かの手で絶たれることのないように。

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:32:44.36 ID:twoSxGnW0
翌日、朝から城中が不穏な空気で、どうにも居心地が悪かった。
朝食後、私は魔王子と共に会議室に呼ばれた。

魔王子「ま、何となく聞いてりゃいいよ。途中で席立つ場合は俺に言ってくれ」

私は魔王子の隣の席。そこは会議室の上座に位置する席で、何だか恐縮してしまう。
会議には他20名位の魔物達が参加した。勿論、魔王子の叔父上にあたる悪魔も。

「これは国家への反逆か…」
「何か大きな組織が…」
「魔王子様が狙われたのは偶然か…」

会議は重い空気の中、淡々と進む。
会議の中で、城内の警備の強化についての話が出て、私はあくびを噛み殺していた。

「まぁ、こんな所か」
「相手の正体もまだ掴めていないしな」

悪魔「ちょっといいか」

話題が尽きそうになった所で、それまでほとんど発言の無かった悪魔が言葉を発した。

魔王「どうした悪魔」

悪魔「少し気がかりなことがあってな」

魔王「気がかりとは?」

悪魔「誰も気にしていなかったようだが…昨日魔王子を襲った賊は、人と魔物の混血種だったようだな」

魔王「あぁそうだ。だがそれがどうかしたか?」

悪魔「混血種は我が国では希少――」

悪魔はそう言うと、私の方を見た。

悪魔「昨日の者は、姫君の母国の者ではないのか?」

姫「え――」

急にその場の視線が集中し、私は一気に目が覚めた。

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:33:20.50 ID:twoSxGnW0
魔王子「…だったら、何だと言うんですか?」

魔王子は低い声を発する。視線の先は悪魔――その目つきはどこか、敵意を含んでいる。
そんな視線を受けて、悪魔は肩をすくめた。

悪魔「俺は、姫君の母国の者ではないかと言っただけだが?」

魔王子「だから、それが何だと言うんですか」

魔王「悪魔…お前は、姫君が絡んでいると言いたいのか?」

悪魔「あくまで、可能性の1つだがね」

魔王子「そんな可能性はわずかにも無い!」

間髪いれず魔王子は机を叩いて大声をあげた。
そんな様子に、私の方が恐縮してしまう。

悪魔「視野が狭いな。例えばだ、姫君が暗殺者と打ち合わせし、お前を特定の場所に連れ出して――」

魔王子「あの場所に行ったのは俺の意思であり、彼女の思惑など絡んでいない!」

悪魔「姫君のいた城には、手練の混血種が大勢雇われていたようだが…」

魔王子「彼女が嫁いできて日も空けずに襲ってくるのはあからさますぎる!」

悪魔「だが」

魔王子「とにかくっ!」

魔王子は大声を張り上げ、悪魔の声をかき消した。

魔王子「俺の妻を疑おうと言うのなら、叔父上でも許さない…!」

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:33:56.24 ID:twoSxGnW0
会議室はしんと静まり返る。
普段温厚で不真面目な魔王子が珍しく、真剣に怒りを表した為か。

魔王「…落ち着け、魔王子」

その空気の中、魔王は動揺することなく言葉を発した。

魔王子「悪魔も。お前が人間嫌いなのはわかるが、確実なこともわからぬ内に安易な発言はよせ。和平の証である姫君に懐疑の目が向かっては困る」

悪魔「はい、兄上様」

悪魔はおどけた様子で素直に返事した。

こうして微妙な空気のまま、会議は終わった。

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:35:21.47 ID:twoSxGnW0
魔物達がぞろぞろと会議室を出て行く。
私は動かない魔王子の側にいて、彼の不機嫌そうな表情を伺っていた。

姫「…」

魔王子「…」

どうしよう。何て声をかければ…。

魔王子「わり」

姫「え?」

魔王子「もっと冷静に返せたよな。あれじゃ君をフォローできてない」

姫「い、いえっ」

苦々しい顔をする彼に、私はすぐにフォローに入る。

姫「私の為に怒って下さって…その、申し訳ないです」

魔王子「何で申し訳ないと思うんだよ。悪いのは叔父貴だろ」

姫「あの、でも…悪魔様のおっしゃることも、一利ありますし…」

魔王子「一利?ないない。だって違うんだろ?」

姫「そ、それは確かに事実とは違いますけど、でも彼らからしてみれば…」

魔王子「俺からしてみれば100%ないから、反論した。それだけだ」

姫「100%なんて…言い切れるんですか?」

魔王子「あのさ」

魔王子は私の手を握り、自分の胸の所に持っていった。

魔王子「昨日暗殺者が乱入してくるまで、俺ら何やってたか覚えてる?」

姫「――え?」

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:36:03.80 ID:twoSxGnW0
魔王子「俺たちはこうやって、強く手を握り合っていた」

夫婦として、少しずつ段階を踏んでいく為に。
恋愛事に奥手な2人の、第一歩だった。

魔王子「姫様は新しい俺を知れたって、笑っていた」

私が抱いた第一印象を覆すような彼の奥手ぶりが、何だか可愛らしくて。
恥じる彼の表情一つ一つ、思い出しては胸がきゅんとする。

魔王子「で…俺はこうした」

姫「きゃっ!?」

彼は手を私の頭に乗せ、ぐしゃぐしゃと撫で回した。
何だかくすぐった。だけど、その手は柔らかくて――

魔王子「それで笑い合ったよね、俺たち」

姫「はい…」

魔王子「だから言えるんだよ、100%ないって」

姫「え…えっ?」

彼は私の頭から手を滑りおろし、両手で私の頬に触れた。
正面で向かい合う形となり、彼は優しく微笑む。

魔王子「姫様がグルだったら、そのやりとり全部嘘になる――だから、俺は姫様を信じる」

姫「魔王子様――」

不確かな根拠。だからこそ感じる。私は彼に信頼されている、守ってもらえていると。
本当なら呆れるべきなのかもしれないけど、何だかたまらなく嬉しくて――

姫「ありがとう、ございます…」

魔王子「礼なんていらないよ、夫婦なんだから」

姫(もう、何で…)

彼の言葉はどうしてこう一々、私の心をときめかせるのだろう。
そんなにときめかされたら――全てを委ねてもいい、そんな気持ちになってしまう――

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:36:44.60 ID:twoSxGnW0
魔王「おい」

姫「!?」ビクッ

魔王子「!?」ビクッ

誰もいなくなったと思ったけど、魔王が戻ってきた。
私達はとっさに離れる。

魔王「会議室の鍵を閉めるから、早く出ろ」

魔王子「お、おーう」

私達はそそくさと会議室を出る。
けど魔王はすれ違いざまに、

魔王「スキンシップはいいが、自室でやれ」

姫「」

魔王子「うっせーな!見てねーフリしろよ!」

魔王「なら人目をはばかれ馬鹿息子が」グリグリ

魔王子「いでぁあああぁぁぁ」

姫「お、お義父様、その辺でご勘弁を」オロオロ

魔王の頭ぐりぐりは、頭蓋骨を破壊せんばかりの破壊力であった(ように見えた)。

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:37:37.60 ID:twoSxGnW0
今日はここまで。
早くもきゅんきゅんして仕方ないです。

41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/24(火) 18:10:50.32 ID:5GDtnDqMO
魔王子イケメン過ぎる惚れるわこんなん

42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/24(火) 19:54:23.52 ID:msO/tK2DO
乙です
魔王子がイケメン過ぎて生きてるのが辛い
姫様が可愛すぎて生きる希望を持てました

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:37:03.91 ID:lTIDVNiE0
魔王子「くっそー、あのクソ親父…」ズキズキ

姫「まぁまぁ…」

並んで歩きながら、魔王子は頭をさすっていた。
撫でてあげたい気持ちはあるが、人目をはばかれと言われたばかりだ。

そんな時、背後から声をかけられた。

妖姫「ねぇ」

姫「!!妖姫様…」

妖姫は腕組をし、やや高圧的な雰囲気で声をかけてきた。

魔王子「なになに、どうした」

妖姫「あんたじゃないわ。お姫様にお客様よ」

姫「私に…?」

妖姫「えぇ。勇者、と名乗っていたわ」

姫「!?」

どうして勇者が――

妖姫「昔の女を追って来るなんて、ふてぶてしい間男ねぇ」

姫「彼はそういうのでは…」

妖姫「いいからさっさと行きなさいよ。城の前で待っているわよ」

そう言って妖姫は去って行った。取り付く島もない。

姫「あ、じゃあ魔王子様…行ってきますので」

魔王子「…おう」

47 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:37:32.67 ID:lTIDVNiE0
勇者「姫様、魔王城での生活は如何ですか?」

姫「えぇ、皆さんよくして下さいます」

代々勇者の一族に生まれた勇者とは同年代で、幼馴染。はっきり婚約していたわけではないけど、周囲からは何となく結婚するだろうと思われていた。
私はどちらかというと、彼に兄に近い感情を抱いていた。

勇者「王様は貴方を心配しておいでです。様子を見て来いと命じられましてね」

姫「まぁお兄様ったら。まだ結婚してから日が経っていませんのに」

勇者「…俺も、心配してします」

姫「ありがとうございます勇者様。でも見ての通り、私は元気です」

勇者「…貴方は見ての通り、の人ではありません」

姫「え?」

勇者「辛いことがあってもそれを表に出さず、明るく振舞うような方だ――俺はそれをよく知っている」

姫「…」

辛い――というわけではないが、確かに魔王子が命を狙われた件で不安は残っている。
けれど無関係の勇者にそれを話す気にはなれなくて。

姫「本当に、元気でやっていますから」

勇者「そうですか――」

勇者は寂しそうな笑みを浮かべた。一体、どうしたというのか。

48 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:38:13.24 ID:lTIDVNiE0
勇者「結婚式の日、俺は貴方の運命を嘆いていましてね」

姫「え?」

勇者「和平の為の政略結婚…政治的手段で、婚姻を結ばされる方は駒だ。俺は貴方が駒になってしまったことが悔しく、しかし王を説得する力も無かった」

姫「考えすぎですよ勇者様」

政略結婚と言えば、冷たいイメージのする言葉だ。
だけど私の夫である魔王子は暖かい人で、優しくて――

姫「私は納得しています」

勇者「そう…ですか」

姫「えぇ。あの方に一生寄り添っていくつもりです」

勇者「もし」

姫「?」

勇者「もし王の決めたお相手があの魔王子でなければ――それでも貴方は、納得したでしょうか」

姫「…」

私は答えられなかった。
だってそれはもしかしての話であって、そんな経験は1度も無かったし、これからも有り得ないのだから。

姫「とにかく心配は不要ですわ。私は今、幸せで一杯ですから」

勇者を心配させないよう、私は満面の笑顔を見せた。

勇者「姫様――」

姫「はい?」

勇者「俺は…貴方が…」

姫「?」

勇者「…いえ」

言葉を止めると、勇者はくるっと振り返り私に背を向けた。

勇者「お時間を取らせてしまって申し訳ない…どうか、お幸せに」

姫「えぇ…お体に気をつけて」




魔王子「…」ジロー

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:38:47.28 ID:lTIDVNiE0
姫「只今戻り…あら?」

部屋に戻って早々、私は魔王子の顔に違和感を覚えた。

魔王子「おかえりー」ムスーッ

姫「…」

何だろう、機嫌が悪い。
この数分の間に何があったのか。

姫「あの…魔王子様?」

ソファーの、彼の横に腰掛ける。
機嫌が悪くても、彼に近寄りがたい空気はない。

姫「どうなさったんですか?」

魔王子「何がー?」

姫「何か嫌なことでもありました?」

魔王子「…」

魔王子は視線をそらして黙ってしまったが、何だかその表情はどこか照れくさそうだ。

魔王子「上から見てた」

姫「え?」

魔王子「…勇者って、いい男だね」

姫「そう言われていますね」

魔王子「嫉妬」

姫「…え。えっ?」

魔王子「だーかーらー」

魔王子は顔を真っ赤にし、こちらに振り返る。

魔王子「嫉妬したの!君と勇者が喋ってる所見て!」

姫「…」

姫「くすっ」

魔王子「いや確かに器小さいけどさ…笑わなくたっていいじゃん」ズーン

姫「いえ、そうでなくて」クスクス

50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:39:47.53 ID:lTIDVNiE0
姫「魔王子様って素直だなって…はっきり、嫉妬っておっしゃる方そうそういませんよ」

魔王子「はいはい、思ったことすぐ口にしちゃうガキですよー」

姫「そんな、すねないで。ね、魔王子様」ソッ

魔王子「っ!」

私は彼の肩に頭を預ける。彼の肩は一瞬ぴくっと強ばったものの、私から逃げようとはしない。

姫「そんな貴方も、嫌いではありませんよ」

魔王子「…こんなガキっぽい男でも?」

姫「むしろ貴方に嫉妬されるのは、何だか気持ちがいいです」

魔王子「……そうか?」

姫「えぇ。貴方が私を妻だと思って下さっている証拠ではありませんか」

魔王子「…」

魔王子は寄り添う私の頭に、そっと手を添える。
彼の顔は見えない。だけどその手から、彼の感情がダイレクトに伝わってくる。

魔王子「なぁ」

姫「はい?」

魔王子「しばらく、こうしていてもいい?」

姫「えぇ」

魔王子「姫様って…」

姫「はい?」

魔王子「いや…何でもない」

そうやって寄り添いながら、時間はゆっくり流れていった。
こうやって2人寄り添って、他愛なく過ごす――きっとこれから先の人生もそうなんだろう。

それって何だか幸せだな――

静寂すら心地よく思いながら、私はこの気持ちに浸っていた。

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:40:24.14 ID:lTIDVNiE0
それから城の警備は強化され、次の刺客が来ることはなかった。
だけれども。

魔王子「あー、うー…」ユサユサ

姫「魔王子様、貧乏ゆすりはいけませんよ」

魔王子「こんな生活してたら頭おかしくなるわああぁぁっ!!」

命を狙われた身である魔王子は外出を制限され、不満がかなり溜まっているようだった。

魔王子「外出は護衛つきなんて、息抜きになんねーし!!」

姫「仕方ありませんよ、魔王子様は国にとって大事な方です」

魔王子「ちきしょおおぉぉ、これじゃあどんどん先延ばしじゃねぇかあああぁぁ!!」バンバンッ

姫「何がですか?」

魔王子「新婚旅行!」

姫「あらら」

まさか私の為だとは…察してあげられず、申し訳ない。

姫「私は落ち着いてからで構いませんよ。それに、旅行のプランをじっくり考える時間ができたじゃありませんか」

魔王子「うーん…それもそうだな!よし、図書室から資料持ってくるから、旅行プラン考えようぜ姫様~」タタタッ

姫(元気になりましたねぇ…)

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:40:58.42 ID:lTIDVNiE0
魔王子「うらららっ!!」バシュバシュ

兵士「どひゃああぁぁ」

剣の稽古の時間、魔王子は鬱憤を晴らすかのように大暴れしていた。
八つ当たりの標的にされた訓練相手が、何だか気の毒に思えてくる。

魔王子「あ、姫様ー!どうどう俺の剣さばき、惚れたー!?」

姫「え、えぇ。手加減してあげて下さいね」

10人斬りを果たしても元気が有り余っている魔王子に、若干の苦笑いを禁じえない。

魔王子「次は誰が相手だ~?来いよホラ~」

兵士達「ヒイィ」

兵士達もすっかり引いているではないか。

「じゃ、俺が相手してもらっちゃおっかなー」バッ

魔王子「ん?」

そう言って魔王子の前にスタッと着地したのは…。

従者「どもども、魔王子様~♪」

魔王子「おーお前か。その実力確かめさせてもらうぞー」ニヤリ

従者「えぇ、魔王子様相手とはいえ手加減はしませんよー」ニヤリ

性格が似ている2人は、戦う前から楽しそうだ。
こういう、男の世界は、正直私には理解不能。

魔王子「行くぞっ!!」

従者「はいっ!!」

53 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:41:26.75 ID:lTIDVNiE0



従者「あだだ~」

結論から言うと、瞬殺だった。

魔王子「はっはっは、従者!まだまだ俺に挑むのは早かったな!」

姫(従者は護衛向きだから、真っ向勝負で負けるのも仕方ないんだけれど)

従者「くそー!何なんだよあんたは、顔よし、スタイルよしの上に強いって!!完璧超人ですか!!」

姫「従者、口のきき方に気をつけなさい」

魔王子「無礼講、無礼講。完璧超人か、なかなかいい響きだ」

従者「うおぉ、完璧超人を受け入れた!流石魔王子様!」

魔王子「ふっ…今の俺を倒せる者はいない!!」

魔王「本当だな?」

魔王子「」

姫「あら、お義父様」

魔王「通りがかったので様子を見に来た…そうか魔王子、今のお前は我にも勝てるのだな?」ゴゴゴ

魔王子「え、あ、いやー…」汗タラー

魔王「よし、久々に我が相手になってやろう!来い、魔王子いいぃぃ!!」ゴオオォォォッ

魔王子「どわああああぁぁぁ!?」

姫(あらー)

従者(うわー)

兵士(あーあ)

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:44:07.52 ID:lTIDVNiE0
今日はここまで。
更新の度にイチャイチャしてやがりますね。えぇ、いいことです。

55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/25(水) 17:44:49.63 ID:nYoxdcmMO
おつ!
平和なのは良いことですねぇ

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:04:38.41 ID:phlsbgjy0
そんなインドアな生活を過ごしてきたが、やはり数日経てば…。

魔王子「やっぱもう無理いいぃぃ!!外出してえええぇぇ!!」

遂に我慢の限界が来た。

魔王子「いいだろ親父!遊びに行かせてくれ!!」

魔王「…また暗殺者に狙われたらどうするんだ馬鹿息子」

魔王子「返り討ちにすりゃいいだけだろ。そう簡単にやられるようじゃ、次期魔王はつとまらねーよ」

魔王「全く…」

魔王は呆れたようにため息をついた。

魔王「まぁ、お前のことだから駄目だと言っても隙を見て城を抜け出すのだろう。もう止めはせん」

魔王子「よっしゃー、ありがと親父ー♪」

魔王「さて、葬式の準備をせねばな」

魔王子「おい…笑えない冗談はよせ」

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:05:11.19 ID:phlsbgjy0
魔王子「姫様ー、外出許可出たからデートしようぜデート」

姫(何かすんなりオーケーもらえた訳では無さそうな気がするけど)「どちらまで?」

魔王子「街の方に行こう、あそこは人間も沢山いるぜ!」

姫「えぇ、では行きましょう」

魔王子「ちょっと待ったぁ!」バサァ

姫「あら」

魔王子は手早く、私に頭からマントを被せた。

魔王子「忍んで行かなきゃ危ないぜ、俺のお姫様♪」

姫「…ふっ、ふふふふっ」

魔王子「笑うとこじゃない、ときめくとこ!!」

姫「ご、ごめんなさ…あははっ、ふふふふっ」

魔王子「ああぁ恥ずかしくなってきた!!もう、行くぞっ!!」

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:06:21.12 ID:phlsbgjy0
魔王子が走らせる馬に一緒に乗り、私達は街にやってきた。
初めて来たけれど、街は賑やかで楽しそうだ。

魔王子「どこから行こうかな~♪甘味屋にー、衣装屋にー、噴水広場にー」

だけどそれ以上に、魔王子が浮かれていた。

魔王子「ずっとさぁ、お姫様連れてきて、したかったことあるんだよ」

姫「何ですか?」

魔王子「手ぇ繋いで歩こうぜ!!」

姫「ふふ。えぇ、歩きましょう」

私は手を差し出す。
夫婦としての段階を踏んでいくと約束したが、手を繋ぐことにお互い抵抗はない。

魔王子「俺の側から離れんなよ~、なんてね~」

姫「どこまでも着いて参ります」

魔王子の足取りは軽く、表情も声も明るい。それだけ私と歩くのが嬉しいと思ってくれているということだ。
何だか嬉しい。こうやって一緒に街歩きすることも、姫に生まれた自分には難しいことだと思っていたけれど。

魔王子「この街は甘いもんの激戦区なんだよなー。ずっとお姫様に食わせてやりたかったの!」

彼なら身分に関係なく、色んな楽しいことを教えてくれそうだと思った。

魔王子「ねぇどれ食いたい?あ、食えるなら全部食ってもいいよ~」

姫「流石に太っちゃいますよ~」

魔王子「姫様痩せてるから多少大丈夫だよ。それに俺、ぽっちゃり体型もいいと思うよ」

姫「駄目ですよ…将来この国を背負って立つ方の妻がだらしない体型なんてしていたら…」

魔王子「やべ、可愛い…」

姫「え…?」

魔王子「健気で可愛いな~俺の奥さんは~」ナデナデ

姫「きゃっ、もう魔王子様ったら」


店主(何だこのバカップル)

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:07:25.97 ID:phlsbgjy0
手を繋ぎ、もう片方の手でクレープを持って移動する。
食べながら歩くなんて、母国の者に知れたらはしたないと叱られるだろう。

魔王子「民を治めるなら、民の生活に触れるのが1番だよやっぱ」

姫「お義父様はそのような方に見えませんでしたが…」

魔王子「あ、俺の持論だからね」

まぁそうだろう。
人間と魔物が和平を結ぶ前は、魔物達の王として勇者達と戦ってきた王だ。
幼少時代から平和に過ごしてきた、魔王子のような庶民的思考ではないだろう。

「んだとコラアァ!」
「あぁん、やんのかぁ!?」

姫「ひえっ!?」ビクッ

魔王子「何だ喧嘩か?ちょっと俺のクレープ持ってて」

そう言うと魔王子は、騒ぎのする方に駆け出していった。
私は慌てて彼の後を追う。

騒ぎは、そこからそう離れていない表街道で起こっていた。

「人間の分際でなめた口きいてんじゃねぇぞオイ!!」
「叫ぶんじゃねーよ、魔物の息はくせぇんだよ!!」

姫(あぁ…)

人間と魔物の喧嘩だった。これは母国でもよく起こっていた事態。
恐らくきっかけは些細なことだろうけれど、互いへの差別意識から大きな喧嘩に発展する。それは、よくあることだった。

幸い、この街は両種族が共存できている方であり、喧嘩を遠巻きに見る者はいても、便乗する者はいなかった。

魔王子「おい、白昼堂々こんな所で喧嘩してんじゃねーよ」

「何だと、お前も魔物か!」
「元はと言えばこの人間が!」

マントで顔をほとんど隠している為か、彼が魔王子だと気づく者はいないようだった。
だから彼の乱入は、抑止効果にはならなかった。

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:08:39.70 ID:phlsbgjy0
魔王子「何で喧嘩してるんだ」

「この魔物が~」
「この人間が~」

互いに興奮して叫んでいるので詳細はよくわからなかったが、要するにぶつかったとか、謝罪の仕方が気に食わなかったとか、そういう話のようだ。
魔王子はそれを聞いて、ハァとため息をつく。

魔王子「喧嘩が悪いこととは言わないけどさ。この魔物がー、とか人間がー、とか。今時種族差別は格好悪いぞオッサン達」

「何だと若造がぁ!!」

きっと彼らは、互いの種族が争ってきた時代を知っている者達。
だから互いへの差別意識を捨てきれずにいて、自分より若い魔王子からの上から目線が気に入らないのだろう。
だけど確かに、魔王子の言う通り、これが同種族同士なら喧嘩には発展しなかったのではないかと思う。

魔王子「オッサン達、家庭も仕事もあるんだろ?こんな所で喧嘩して捕まったら、支障があるぞ」

「うるさい!お前には関係ない!!」

魔王子「…しゃーねぇな」ポリポリ

魔王子は面倒くさそうに頭を掻いた。

魔王子「あんたら2人が加害者にならなけりゃ、問題はないわけだ」

「あぁ!?どういう意味だ!」

魔王子「簡単だ…!!」

そう言うと魔王子は、一気に駆け出した。そして――

ドガバキッ

魔王子「俺が加害者でお前達は被害者――これが平和的解決だろ」

魔王子に一擊ずつ喰らい、両者は吹っ飛んだ。
その一擊はもろ急所にヒットしたようで、2人とも起き上がれずにいる。

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:09:11.42 ID:phlsbgjy0
魔王子「さてと」

魔王子はそんな2人の様子を見ないで、人ごみをかき分けてこちらに走ってきた。
そして、私の手をがしっと掴む。

魔王子「逃げるぞ姫様!」

姫「え…えっ!?」

魔王子「今のは俺による暴行・傷害罪だ。親父にバレたらケツ叩き100発は喰らう!」

そう言う彼の顔はやや青みがかかっていた。
そんなに恐ろしいなら、やらなければ良かったのに…と思うが口には出さない。

兵士「こらー、何をやっているーっ!」

魔王子「ヤッベ、もう来たーっ!!」

姫「あ、あわわわ」

私は彼に手を引かれるまま疾走する。
後ろから兵士の怒鳴り声がしたが、振り向いている余裕はなかった。

やがて町外れで休ませていた馬の所に辿り着くと、急いで飛び乗り、私達は街から離れた。

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:10:51.53 ID:phlsbgjy0
姫「ハァ、ハァ…」

魔王子「ご、ごめんな?キツかったよな?」

姫「あ、いえ…それよりも、本当に良かったのかなって…」

魔王子「いや、全ッ然良くはない」

姫「もー…」

このドキドキは疲れというより、背徳感だ。品行方正に生きてきた自分には、少々辛い。

魔王子「田舎の方ならまだしも、街だとああいう事態はめったに無いんだけどなー…」

姫「…」

魔王子にとって久しぶりの外出が台無しになってしまった。気分を害するのも無理はない。

魔王子「本当ごめんな姫様。どうしても放っておけなくてさ」

姫「いえ…」

魔王子「あの2人、多分そんな悪い奴ではないと思うんだ。それが前科者になったら、ますます荒れると思って」

姫「…そうですね」

種族差別。それをするのは悪い者だけではない。
普段は差別意識を抑えている「善良な市民」でも、ちょっとしたことで差別意識が表に出て加害者になってしまうことがある。

私の兄だって、そういう人の1人で――

魔王子「お詫びと言っちゃ何だけどさ」

姫「はい?」

魔王子「気分転換に、他の場所連れて行くよ」

姫「他の場所…ですか?」

私が尋ねると、魔王子は無邪気に笑った。

魔王子「俺の、秘密基地!」

姫(秘密基地…)

男の子が大好きな、あれのことか。魔王子の年齢には幼いイメージがあるけれど、秘密基地と口にした時の魔王子は楽しそうだった。
それなら、きっといい場所なのだろう。

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:11:42.25 ID:phlsbgjy0
少し馬を走らせた後、崖の麓までやってきた。
やや荒れ気味な、難解な場所に見えるが…何度も来ている魔王子には、自分の庭のようなものなのだろう。

魔王子「ちょっと足場悪いけど、気をつけて」

木に馬を繋ぎ、足場の悪い道を、彼に手を引かれながら歩く。
ヒールの低い靴を履いてきたおかげで、足が痛くなることはなかった。

魔王子「ここ」

姫「ここ…ですか」

彼の案内で来たのは、崖の割れ目だった。割れ目は大きく広がっており、小さな洞窟のようになっている。

魔王子「さ、入って」

姫「え…えぇ」

一瞬躊躇したものの、魔王子に手を引かれて足を踏み入れた。
何だか怖くて、私は彼の手を強めに握っていた。

姫(…あら)

少し進むと、風を感じた。この空洞は、吹き抜けになっているようだ。
それに――

姫(明るくなってきた)

太陽の光が差し込む場所でもあるのだろうか。

魔王子「ほら、着いた」

辿りついた所にあった風景は――

姫「…わぁ~」

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:12:43.67 ID:phlsbgjy0
道の先には、広めの空間があった。
そしてその空間の壁中に、小さな光を発する花が咲き誇っていた。

薄暗い中で花が光を放つその幻想的な光景に、私は目を奪われてしまう。

魔王子「どう?俺の秘密の場所」

姫「綺麗です…」

単純すぎる感想だったけど、それ以外に言い様が無い。

魔王子「だろ?姫様、中心に立って」

姫「えぇと…こうですか?」

魔王子「うわー、いい!まるでお花の妖精!妖精の国のお姫様だよ!」

姫「も、も~、そんなぁ」

魔王子「で、俺は」

魔王子は私の側に来ると跪き、私に手を差し出す。
その動作に戸惑いながら、私は彼の手に触れた。

魔王子は私の手を取ると、その手にゆっくり唇を近づけて――

魔王子「俺はお姫様の、運命の王子様――ってわけだ」

姫「」

姫「」ボッ

一瞬、頭が沸いてクラッとした。
いつも不真面目だけど、やはり美麗な魔王子。こういう動作をすれば様になりすぎていて――

姫(もおおおおぉぉぉぉ、魔王子様っ、駄目、それ駄目ッ!!!)

魔王子「姫様ー?どうしたの?具合悪い?」

姫「貴方のせいですーっ!」

魔王子「そっか、なら良いや!」

姫「全っ然良くないです!!」

68 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:13:25.88 ID:phlsbgjy0
魔王子「この花には魔力が宿っているんだ。何か不思議な力がありそうじゃない?」

姫「そうですね…光っているのも、その為かもしれませんね」

魔王子「ま、とりあえず座ろうか」

姫「えぇ…」

私は草の上に腰を下ろした。
そして魔王子は――

魔王子「隙ありー」ガバッ

姫「えっ!?あっ!?」

滑り込むように、私の膝に頭を置いた。
それから、悪戯っぽい笑みを私に向ける。

魔王子「へっへへー」

姫「…もう、魔王子様ったら」

魔王子「ごめーん。でも中身入ってないから軽いだろ、俺の頭」

姫「何をおっしゃっているんですか」

口では彼を咎めながらも、思わず笑いがこぼれてしまう。
私に心を許し、甘えてくれる彼が、何だか可愛らしくて。

魔王子「しばらく、こうしていてもいい?」

姫「えぇ…構いませんよ」

魔王子「乙女チックな場所だけど、俺はここが好きでさ」

姫「私も、好きになりました」

魔王子「奥さんと一緒に来るのが夢だったんだ」

姫「何だか勿体無い気もしますね…こんなに綺麗な場所を、私と貴方しか知らないだなんて」

魔王子「…いや、ごめん」

姫「え…?」

魔王子「実はここを教えたのは、姫様が初めてじゃないんだ」

姫「まぁ、そうだったんですか」

口ではそう返事したものの――

69 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:14:13.85 ID:phlsbgjy0
魔王子にそれを聞いた瞬間、もやっとしたものが沸いた。
ここは魔王子の秘密の場所。それを知っているのは、私だけじゃない。
これは――

魔王子『嫉妬したの!君と勇者が喋ってる所見て!』

先日、彼の言っていた感情のことか。

魔王子「つっても、子供の頃の話な。教えた相手は、もうここに来ないよ」

姫「…というと?」

魔王子「相手はこっちに旅行に来てた女の子でね。旅行の間だけ、一緒に遊んでいたんだ。小さい子だったし、今じゃ忘れているかも」

姫「あらあら」

彼の言葉に、ほっとしてしまう自分がいた。
この場所が魔王子と自分だけの秘密の場所であるという事実が戻ってきた。ただそれだけのことが、本当に嬉しい。

魔王子「…なぁ姫様」

姫「はい、何でしょう?」

魔王子「弱音吐いていい?」

姫「どうされたんですか?」

魔王子「うん…ちょっと思い出しちゃってさ」

口調はいつも通りの朗らかな彼。だけどその瞳は何だか弱気になっている。
辛い過去は、思い出すだけで人の心を削る。いつも元気な彼にもそういう過去はあって、今の彼に辛い思いをさせている。

だけど口に出して共有することで和らぐ痛みだってあって――

姫「えぇ――おっしゃって下さい」

彼が望むなら、それを共有してあげたかった。

私は彼の頭をゆっくり撫でる。自分のできる限りの優しさで彼を包み込んであげられたら――そうしてあげたくて、仕方がなかった。

70 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:15:12.96 ID:phlsbgjy0
魔王子「その女の子さ――人間だったんだよね」

彼は恐る恐る自分の痛みに触れようとしているようで、ゆっくり語り始める。

魔王子「仲良くなったきっかけは俺も覚えていないけど、その子といると楽しくて…でも、許されなかった」

姫「許されなかった…?」

魔王子「うん」

魔王子の表情は沈む。

魔王子「その子の家の召使かな…?とにかく大人が出てきて、もうその子と会うなって俺に言ったんだよ」

姫「…」

魔王子「その時に言われた言葉がさ。「薄汚い魔物」とか「お前といると穢れる」とか…本当、バカみてーな言い分だよな」

姫「えぇ…口にするのもおぞましい言葉です」

魔王子「だけど怖かったんだよ俺。人間は俺のことをそう思っている。姫様だって…」

魔王子は私の頬に触れる。

魔王子「俺と結婚することで穢れたら――」

姫「穢れてなんていませんよ、魔王子様」

魔王子「でも、そう思う人間もいる。姫様がそういう風に思われていると思うと、俺…」

姫「私は気にしませんよ」

弱気な彼を包み込んであげたくて、彼の頭を両腕で包み込む。
彼の耳にあてた胸の音で、私は嘘をついていないと彼に教えた。

姫「夫婦じゃありませんか、私達は」

魔王子「…姫様」

彼は体を起こし、しがみつくように私の体を抱く。
その手は私の体をゆっくり這い上がっていき、頭に添えられた。

そして――


魔王子「んっ――」

姫「――」


触れるような優しい唇。結婚式以来、初めてとなる触れ合い。
だけどあの時とは比べ物にならない位、それは私の胸を熱くして――

姫(魔王子様――)

心を、幸せで満たしてくれた。


72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/26(木) 19:45:30.53 ID:KMLAE6QuO
乙です(何だこのバカップル)

73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/26(木) 19:49:34.41 ID:YfdnRTQOO
リア充爆発しろよ(いいぞもっとやれ)

74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/26(木) 19:59:01.35 ID:1StwEKXpo
おつ!

75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/26(木) 21:36:29.35 ID:n61I1Zj2O


76 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:33:00.29 ID:Oxszq2730



魔王子「そろそろ戻ろうか。遅くなったら親父がマジで葬式あげかねないし」

姫「そうですね」

しばらく静かな時間を過ごした後、魔王子が口を開いた。
私は立ち上がる…が、その瞬間よろめいた。

魔王子「おっと」

すかさず魔王子が支えてくれた。

魔王子「ごめんごめん、足痺れたよね」

姫「すみません…少し時間を置いて…」

魔王子「じゃあ、こうしようか」ヒョイ

姫「きゃあ!?」

魔王子は軽々と私を持ち上げた。
これは俗に言う、お姫様抱っこというやつだ。

魔王子「本物のお姫様をお姫様抱っこできるなんて、俺は贅沢者だぁ」

姫「ま、魔王子様…ぁ、恥ずかし…っ」

魔王子「恥ずかしがる姫様も可愛いよ~?」

姫「も、もーっ!」

さっきまでの弱気はどこへやら、今はすっかりいじめっ子だ。
本当に困った人だ…でも相手が魔王子だから、嫌という感情はない。

魔王子「あ、そうだ」

姫「?どうしました」

魔王子「俺、昔その子に花をあげたんだよね。姫様も持って帰る?」

姫「いえ、ここで咲かせてあげて下さい。私はまた来れますし」

魔王子「そうだね。また来よう」

姫「ところで魔王子様、お花をあげたということは、その子は貴方の初恋でしょうか?」ニッコリ

魔王子「………さー帰ろうか!」

姫「魔王子様~?」

77 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:33:42.13 ID:Oxszq2730
外に出ると夕日が出ていた。
馬を走らせ、魔王城までの道を戻る。

姫(えへへ~)ギュウ

先ほどまでの余韻に浸り、魔王子に強めに抱きついていた。
彼も何も言わない。気付いていないのか、照れているのか。

とにかく余韻に浸れる内はどっぷり浸っていたい。今、私の心はトロットロだ。

姫(幸せぇ)スリスリ

と、その時。

魔王子「ごめん姫様」

姫「え?」

魔王子は突然、馬を止めた。
それから、馬から飛び降りて、腰の剣を抜く。

姫「魔王子様…?」

魔王子「そこから動くなよ姫様」

それから魔王子は、ある方向を剣で指した。

魔王子「潜んでいるのはわかっている!出てこい!!」

姫(えっ!?)

魔王子が叫んだ直後――

ババッ

姫(3人!?)

木陰から、覆面で顔を隠した3人の暗殺者が現れ、魔王子に襲いかかった。

78 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:34:13.10 ID:Oxszq2730
魔王子「ナメられたもんだな…3人に増やしゃ俺を殺れると思ったか!!」

魔王子はそう言うと、襲いかかる刃を弾いた。
3人は魔王子を取り囲むように位置取りし、慣れた動きでそれぞれの方向から魔王子に迫った。

だが――

魔王子「無駄だっつってんだろ!!」

魔王子は素早い動きで体をひねらせ、3つの攻撃をそれぞれ防ぐ。

魔王子「でりゃっ!」

暗殺者A「っ!」

それから続けざまの攻撃で1人の暗殺者の手を打ち、刃を落とす。
残りの2人はその動作の間に魔王子に刃を突き出したが――

魔王子「鬱陶しい…!!」

魔王子は体制を低くし、刃をかわす。
それからすぐに体制を立て直し、剣をおお振りした。

暗殺者B&C「!!」

そして彼の放った剣はひと振りで、2人のそれぞれ腕と脇腹を切りつけた。

79 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:34:54.96 ID:Oxszq2730
姫(凄い、圧倒的…!!)

丸腰でこの間の暗殺者を撃退した時といい、訓練の時といい、彼が強いのはわかっていた。
だけど3人相手に圧倒する程とは、思ってもいなかった。

魔王子「さーてと…!!」

魔王子は攻めに転じる。次から次へと放たれる斬撃に、暗殺者達は3人がかりでも防ぐのに精一杯。

暗殺者A「…っ!!」

暗殺者B「ぐっ」

そして防ぎきることもできず、剣の刃が彼らの体に傷をつける。
このまま、魔王子が押し切れる――そう思っていた、その時。

暗殺者B&C「…!!」ダッ

魔王子「あっ!?」

暗殺者の内2人が、まるで打ち合わせていたかのようなタイミングで逃亡した。
これでは残された1人が圧倒的に不利だ。

魔王子「…何だか知らんけど、都合がいい」ドカッ

暗殺者A「!!」

魔王子は残された1人を蹴っ飛ばし、続けざまに地面に組み伏せる。

魔王子「3人いっぺんに運べねぇからな。1人残ってりゃ、十分だ」

暗殺者A「…!!」

魔王子「俺はデート邪魔されて機嫌が悪ぃ…覚悟しやがれ」

と、魔王子が彼をひねりあげようとした時だった。

暗殺者A「…っ!」ドガッ

魔王子「っ!」

暗殺者の蹴りで、魔王子がわずかに吹っ飛ぶ。だけど、本当にわずかな距離だ。
ここから反撃や逃亡に転じることは不可能そうだが――

暗殺者A「――」ズバッ

魔王子「―――っ!?」

姫「あぁっ!?」

暗殺者は躊躇なく、自分の首をかっ切った。

80 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:35:25.45 ID:Oxszq2730
姫「ひ…っ」

魔王子「姫様、向こう向いてろ」

私は首から大量の血を流す暗殺者を直視できず、横目で魔王子の動きを見た。
魔王子は暗殺者の側に寄り、脈を確かめている。

魔王子「…駄目だ、死なれた」

姫「わ…私がすぐに魔法を使っていれば…」

魔王子「いや、どっちみち駄目だったよ」

魔王子は私の側に寄り、気遣うように背中をさすってくれた。

魔王子「けどこれでわかったな。暗殺者は複数いる。こないだの奴が単独犯なのか、同じ組織の奴かはわからないけど…」

姫「魔王子様…」

魔王子「とにかく早く帰るか」

魔王子は馬に飛び乗ると、すぐに馬を走らせた。

姫(何だか…怖い)

魔王子は強い。警戒を強めた今、彼はそう簡単に殺されないだろう。
だけどたまらなく不安だ。どうして彼は、命を狙われる程の悪意に晒されているのか。

何もわからない。だから不安で、怖い。

先ほどとは違った意味で彼に強く抱きついた私に、彼は一言「大丈夫だよ」とだけ呟いた。

81 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:36:44.09 ID:Oxszq2730
城に戻ってすぐに、暗殺者が現れたことを魔王に報告する。
緊急で城の重役達が集められ、また会議を開くことになった。

「やはり狙いは魔王子様か…」
「しかし何故…」
「反逆者の仕業か…」

悪魔「ちょっといいかね」

悪魔が声を発したと同時、私の横にいた魔王子の目つきが険しくなった。
魔王子は彼の発言を快く思っていない――そして案の定、悪魔はその心配を裏切らなかった。

悪魔「また、姫君と2人でいる時を狙われたな」

魔王子「だから何だと言うんですか?」

魔王「落ち着け魔王子。で、悪魔。お前は相変わらず姫君を疑っているのか?」

悪魔「この間も言ったが可能性の1つだ。今回の外出はお忍びだったな、魔王子?」

魔王子「んなもん、城を張ってりゃ簡単にバレると思いますけど?」

魔王子は悪魔への敵意を隠そうともしない。
だが悪魔はそれに動じず、口元に笑みを浮かべた。

悪魔「魔王子から聞いた賊の行動、少々不自然ではないか?」

魔王「不自然、とは?」

悪魔「あぁ。賊の内2名は魔王子に勝てないとわかると一目散に逃げたとのことだが――」

それから悪魔は、私に冷たい目を向けた。

悪魔「俺が賊なら、姫君を人質に取るがね」

魔王子「何が言いたい?」

悪魔は「別に」と言って話を切る。だけど彼の言った意味はわかる。
つまり、彼らは私と手を組んでいるから、私に手を出さなかったのではないかと――

魔王子「…俺から弁解させて頂くと」

姫「?」

魔王子「姫様が連中と手を組んでいるとして、俺を狙うなら、もっといいタイミングはいくらでもあった。今日は散々隙だらけで甘えさせてもらったしな」

姫(なっ…)

こんな大勢の前で何を…恥ずかしくて、この場から消えたかった。
皆にドヤ顔を披露する魔王子とは対照的に、私は隣で縮こまっていた。
あぁ、他の皆も苦笑いしている。魔王なんて顔をしかめて、物凄い威圧感を醸し出しているではないか。

悪魔「…仲睦まじいことは結構だが、俺が姫君を信用しきれないのには理由があってね」

姫(え…?)

魔王「何だ悪魔。言ってみろ」

悪魔「はい…姫君の母上は、魔物に殺されたそうだな?」

姫「!!」

82 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:37:39.99 ID:Oxszq2730
それは私が物心つく前の出来事。
争いの終期に起こった事件であり、兄が魔物を憎むようになった大きなきっかけ。

当時の王であった父は妻を殺されて、魔物を憎む以上に、意気消沈していたそうだ。
魔物と人間の和平は、互いの平和を望む気持ちではなく、双方の憔悴によって築かれたものだと言われている。

だけれど――

姫「私は、魔物を憎んでなどいません」

これだけは、この場で言わねばならない。

姫「確かに母を殺した者を許してはいません。だけど魔物全体を憎んだり、無関係な魔王子様の命を狙うなど、その様なことは有り得ません」

悪魔「それが本当なら、姫君はお心の美しい方だ」

魔王子「お褒め頂き光栄です叔父上。俺の妻は美しい心の持ち主です」

魔王「やめんか2人とも」

また微妙な空気になった所を、魔王の言葉が遮った。

魔王「敵の狙いが魔王子だとはっきりわかったなら、警戒しておけばいいだけのこと。そう簡単には殺されんな、魔王子」

魔王子「当然」

魔王「それでこそ次期魔王だ。これからもお前の行動は制限せん。但し一緒にいると姫君にも危険に晒される可能性はあるから、そこだけは注意しておけ」

魔王子「はい」

魔王「うむ。では各自、警戒を強めておけ。では今日は解散だ」

こうして会議は終了となり、魔物達はぞろぞろと会議室を出て行った。

83 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:38:20.68 ID:Oxszq2730
姫「…」

今日は色々あった。
楽しいことも、ドキドキすることも、怖いことも、辛いことも。

魔王子「姫様?」

ベッドに端座位になって思いを巡らせていると、隣のベッドで臥床していた魔王子が気にかけて声をかけてきた。

魔王子「…叔父貴に言われたこと気にしてる?姫様に難癖つけたがってるだけだから、あいつは。他の皆だってわかってるよ」

姫「え、あ…」

魔王子「姫様もう会議に参加しなくてもいいよ。皆の前で色々言われるの嫌だろ」

姫「そ、それよりも」

魔王子「ん?」

姫「貴方の命を狙っている者がまだいるのだと思うと…私…」

魔王子「姫様は繊細だなぁ」

姫「え?」

魔王子は体を起こした。

魔王子「俺は次期魔王である以上、色んな奴の悪意に晒されるのは仕方ないと思っているよ。俺が死んで得する奴だって、当然いるだろう」

姫「そんな…」

魔王子「だから、それに負けないように強くなればいい。剣も、心も」

姫「魔王子様…」

意思のこもった瞳が私には眩しい。
彼はこの事態に少しも動じてはいない。それは彼がいい加減だからでなくて、強いからだ。私は彼に比べてあまりにも小さく、弱い。

何だか彼が一瞬、手の届かない存在のように見えて――

84 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:38:47.78 ID:Oxszq2730
魔王子「…つっても、姫様に心配してもらえるのも嬉しいんだけどね~」ニーッ

姫「…」

いつもの彼に戻った。

魔王子「新婚の内だけかもしれねぇなぁ、心配してもらえるの。俺が無敵だとわかったら心配もクソもねーし」

姫「そ、そんな、私は本当に…」

魔王子「うん、姫様はそれでいいよ」

姫「え…っ?」

魔王子「心配してもらえりゃ、ゼッテー死なねーって思えるから。だから、ありがとうな姫様」

姫「お礼を言われるようなことじゃ…」

魔王子「言いたくなるんだよ、こっちは。ありがとう」

姫「…ふふっ」

彼の満面の笑顔に、ついつられて笑ってしまった。

姫「今日はお疲れでしょう魔王子様。どうぞ、先にお休みになって下さい」

魔王子「じゃ、お先。おやすみー」

そう言ってから少しすると、彼は寝息をたて始めた。
この無防備な寝姿は、私を信用してくれている証拠だ。

彼は私を妻と認め、信用して、気遣って、守って――そして、想ってくれている。

彼と一緒にいると、幸せだった。
だからこそ失うのが怖い――そんな不安と恐怖も生まれた。

姫(私は彼に、何ができるんだろう…)

85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:40:28.53 ID:Oxszq2730
今日はここまで。
延々とイチャイチャを書いていたい気持ちはありますが話進めませんとね。

86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/28(土) 19:47:40.29 ID:OBRNPWtOo
おつー
ところどころラブラブでニヨニヨするwwww

87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/28(土) 21:43:55.86 ID:oeR2L0crO
乙です

88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/01(日) 08:00:46.29 ID:2nFgM9NuO


89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/01(日) 16:59:02.94 ID:2FNzqnXDO
乙! 魔王がいい人だ…!

90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:16:47.37 ID:UNrR2KEi0
翌日、魔王子は朝から剣の稽古と言って訓練場に入り浸っている。
なので私はまた、女性同士で交流を深めようと厨房のメイドを訪れた。

姫「ううぅ、腕が痛くなってきたわ~」

メイド「あはは。貸して下さい、お菓子作りは体力勝負ですからね~」

ボウルに入れた材料を混ぜるだけで一苦労。
お菓子作りの道は険しい…。

メイド「魔王子様は甘いもの大好きですからね~。奥様の手作りならお喜びになるでしょう」

魔王子が…。
頭に、甘いものを大きな口で貪りながら「ありがとう姫様♪」と言う魔王子の笑顔が浮かんだ。

姫「頑張りますっ!!」

メイド「その意気です!」

姫「…そう言えば、今日は他の皆さんは参加しないの?」

メイド「それがですねー…」

メイドは苦笑いを浮かべた。

メイド「ほら、魔王子様の件で…混血種への当たりが強くなってましてねー…」

姫「メイドがやったわけじゃないのに!?」

メイド「あ、いやいや、仕方ないんですよ。私と仲良くしていると、その人も嫌な目に遭ったりしちゃいますんで…」

姫「誰にそんなことを」

メイド「…まぁぶっちゃけ、妖姫様です」

姫「まぁ…」

この城内においてはかなりの権力を持つ女性だから、彼女より権力の弱い者達に恐れられているのだろう。
まさか女性達の間でそんなことになっているなんて…恥ずかしながら、全然気が付かなかった。

91 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:17:21.66 ID:UNrR2KEi0
結婚初日に睨まれて以来、妖姫のことは苦手に思っていたが、あれ以降これといったいざこざは無かった。
顔を合わせれば挨拶くらいはするけど、態度で彼女が私を嫌っているのは察している。
けど嫌がらせをされるわけでもなく、どうしても顔を合わせねばならない場面もなく、互いに上手く避けて何とかやり過ごしてきた。

姫「妖姫様にいじめられていない?」

メイド「いえー…まぁ嫌な顔をされる位ですね」

姫「そう。でも、あまり辛い目に遭うようなら私のお付きになるといいわ」

従者「それいいっすねー!」

メイド「うわ従者!あんたいつの間に!?」

従者「甘い香りに誘われて♪今日は何作ってんの~?」

姫「ケーキを作るそうよ」

従者「おおぉ!俺はねバナナのが好きで…」

メイド「あんたの好みは聞いてない!」

姫(…うん?)

確かメイドが用意した材料の中にバナナが…。

従者「今日も余ったやつくれるの?」

メイド「余るとは限らないでしょ!」

従者「でも結構毎回余らせてるよね?」

メイド「うっさいわね、毎回じゃないわよ!」

姫「…」

これは、私が知ってる言葉で例えるとしたら…。
鈍感男とツンデレ娘か。実に前途多難なカップルだと思う。

92 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:18:56.75 ID:UNrR2KEi0
その後はお菓子作りに従者も混じり、3人で色んな話をしながらケーキを作った。

従者「でな、混血種は魔物と人間のいいとこ取りだから、母国じゃエリートってわけ」エッヘン

メイド「悪いとこ取りの奴もいると思うけど?」ジー

従者「俺はエリートなの!」

メイド「…そうなんですか姫様?」

姫「えぇ、本当よ」

母国の城に仕えていた混血種は、従者の言うエリートが多かった。
両種族が争っていた時代、混血種は、魔物より戦力が劣る人間側に重宝されており、その名残だろう。

混血種への偏見は人間の方が薄いかもしれない。

姫(けどお兄様は…)

思い出す。
混血種の料理番が作った料理を、体調が悪いと言って手をつけようとしなかった。
混血種の侍女が整えたベッドは自分で整え直していた。
混血種の貴族に贈られた贈答品は、使わず倉庫で眠らせていた。

魔物を嫌っている兄は、混血種のことも快くは思っていなかった。
かといって父から王位を譲られた途端、雇っている混血種の首を切っては、兄自身の評判が落ちる。
その為、兄は特に何もしなかった。何となく嫌いながらも、表立って差別はしなかった。

だから私も、兄の魔物嫌いは大したものではないと思っていた。

けれど私と魔王子の結婚が決まった時――


王『姫…決して相手に心を許すなよ』


兄の心の闇は、私が思っていた以上に深いものだと、悟ってしまった。

93 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:19:26.20 ID:UNrR2KEi0
メイド「さて、あとは焼きあがるのを待つだけですね!」

姫「ここからが長いのよね~」

メイド「そうですねー、今の時間はっと…」

メイドにつられ時計を見る。
とその時、従者が「あっ」と声を出した。

姫「どうしたの、従者?」

従者「いえっ。ちょっと用事思い出しましたんで…」

メイド「そうなの。ケーキはとっておいてあげるから、行ってきなさい」

従者「おうっ!ありがとなーメイド、今度お礼に飯行こうぜーー」ダッ

メイド「そ、それって…デー…ト?ってこらーっ、聞きなさい!!」

姫「ふふっ」

メイド「ったく…。あいつ本当無頓着なんだから」

姫「あれでも、普段はとても真面目なのよ」

メイド「あー確かに第一印象とは変わってきてるかも…」

姫「貴方の前では、違う自分を出せるみたいね。それって従者の中で、貴方が特別な存在になっているってことに…」

メイド「な、なななっ!!」

メイドが赤面している。
私も魔王子の影響で、結構大胆になってしまったようだ。

姫「ふふ、ごめんなさい。焼きあがるのを待ちましょう」

メイド「は、はい…」

94 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:20:04.58 ID:UNrR2KEi0
メイド「ところでところで奥様ぁ、魔王子様とはどんな事を?」

姫「え…えっ!?」

メイド「傍から見てもわかりますよー、大変仲睦まじいようで。昨日のデートでも高原で添い寝したとか何とか」

姫「だ、誰がそんなことを!?そんなことしていませんよ!?」アセアセ

メイド「あれぇ。会議の中で魔王子様がそんなこと言ったって噂が」

姫「噂に尾ひれがついてますっ!!!」

メイド「へぇ~、じゃあ正確には何やったんです~?」

姫「そ、それはぁ…手を繋いで街中を歩いたり…」

メイド「それで終わりですか~?」

姫「え、えーと…」

魔王子が跪いて私の手に口づけたとか…
花畑で膝枕したとか…
お姫様抱っこしてもらえたとか…

姫「い、いいい言えませんっ!!」ブンブン

メイド「じゃあこれだけ!キスは!?キスはしました!?」

姫「いやああああぁぁ勘弁してえええぇぇ!!!」

メイド(この反応…したな)


妖姫「うっさいわね、大声でノロケ話?」

姫「あ」

メイド「あ」

95 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:20:57.90 ID:UNrR2KEi0
厨房の入り口には、いつの間にか妖姫が立っていた。

妖姫「そうやって魔王子との仲を大声で言いふらして、見せつけてくれるんだ…はーぁ、見かけによらず魔性の女ねー」

姫「別に、そういうわけでは…」

妖姫「っていうか何作ってるの?」

姫「ケーキですけど…」

妖姫「ふーん、まさか魔王子に?」

姫「えぇ…」

そう答えると、妖姫はニヤッと笑った。

妖姫「あらそう。じゃあ魔王子が毒にでもやられたら、これで証言が1つ取れるわね」

姫「ど、毒っ!?」

妖姫「ありえない話じゃないでしょ~?ってか魔王子が食べる前に毒見する必要あるわよね」

姫「…」

私やメイドを疑っているというより、これはただの嫌味に感じる。
けれど相手が同性なせいか、それとも悪意でしかないからか、悪魔に難癖をつけられた時よりも気分が悪い。

メイド「毒なんて盛っていません!何なら、私が毒見をしますよ!」

妖姫「卑しい出のあんたなら変なもの食べ慣れてるでしょ。毒にも耐性あるんでないの?」

メイド「なっ…」

姫「毒見なら私がします」

まともに相手をしていたら疲弊する。ここは堂々として、それで適当に流しておけばいい。

妖姫「例えばだけど、毒のない部分だけ食べて誤魔化したり…」

姫「それでしたら魔王子様に食べさせてもらっ…」

ん?


~妄想~

魔王子『はい姫様、あーんして♪』

姫『あ、あー…』

魔王子『やっぱ俺が姫様の唇を頂く!』ガバッ

姫『きゃっ、魔王子様ぁ』

~妄想終了~


姫(…って、サラッと何言ってんの私いいいぃぃぃ!?)ブンブン

メイド(奥様…何か妄想してるな)

妖姫「…」イラッ

96 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:21:26.58 ID:UNrR2KEi0
妖姫「フン、まぁいいわ。せっかくだし間男にでも食べさせてあげたら?」

姫「間男…?私、魔王子様と従者以外の男性とはほとんど話していませんが…」

妖姫「あら、そー」

妖姫はまたニヤッと笑った。

妖姫「さっき見かけたあの男、貴方の昔の恋人に似てたけど…見間違いだったかしら?」

…!?

彼女が言うのは勇者のことだと思うが…。
彼が来るなんて、一切聞いていない。

姫「ど、どこに!?」

妖姫「あら、密会する為にあんな所にいるんだと思ったけど…」

姫「違います、どこにいらっしゃるんですか!?」

妖姫「城の西側で見かけたわ~。姫様を待っているんじゃない?」

姫「…」

どうしよう。魔王子に教えるべきだろうけど、彼は今忙しいし…。
それに他の誰かに知られたら、勇者と良からぬ関係になっているという噂がたちかねない。

散々悩んだけど、本当に勇者が来ているのか、自分の目で確かめてみることにした。

97 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:22:33.32 ID:UNrR2KEi0
城の外に1人で出るのは初めてかも知れない。
兵士の守りがない城外は少しだけ怖いけど、そんなに離れなければ大丈夫だろう。

姫(…本当に勇者様が?)

正直、妖姫の言うことなので信用はできない。
けど勇者はこの間も事前連絡なく突然来たので、今回もその可能性はある。

姫(お城で待っていたら、その内来るかしら)

あまり城外をウロウロするのも嫌なので、すぐに引き返そうかと思い立った。

だが。

「~…」

姫(あら?)

わずかに声が聞こえた。
結構近くにいる?

あまり深く考えず、声のする方をそっと覗いてみた。

すると…

姫「…!?」

そこにいた人物に驚く。

1人は、妖姫の言っていた通り、勇者。
だけどその話し相手は――

姫(…従者?)

さっきまで一緒にお菓子作りをしていた従者が、勇者と一緒にいた。

98 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:23:03.04 ID:UNrR2KEi0
姫(従者の急用ってまさか…)

勇者と会う約束をしていたのか。
だけど、自分は何も聞いていない。会うなら密会などせず、城内で堂々と会えばいいものを。

姫(どうしよう、挨拶しようかしら?)

そう呑気なことを思っていると、自然と2人の会話は耳に入ってきて――

勇者「では魔王子は……なんだな?」

従者「はい、……で、……であり…」

姫(魔王子様の話…?)

わざわざ会って魔王子の話などするものなのか。そんな雑談をする程、2人は仲が良かっただろうか。
2人の顔も楽しそうなものではないが――

勇者「本当に、魔王子の奴――」

そう言って、勇者は顔を落とした。



勇者「あの男――殺されてしまえば良かったのに」


姫「…!?」

99 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:24:01.23 ID:UNrR2KEi0
従者「ですが彼は……で、……」

彼らの会話は聞き取れない。だけど、気持ちのいい話をしているわけではなさそうだ。
私はその場から離れながら、色んな思いを巡らせていた。

殺されてしまえば良かった?何を言っているの、あの人は?

私の中に沸き上がっている感情、これは怒りだろうか。魔王子にそんな悪意を向ける相手に、良い感情を持てるはずがない。

姫(どうして勇者様が――)

私は勇者を信頼していた。
母国にいた頃は、私の護衛として様々な所に同行し、私を危険から守ってくれた。
その武力をもって国中の信頼を集め、それでも驕らずにひたすら剣の道を極める、実直な人だった。

それなのに――


勇者『あの男――殺されてしまえば良かったのに』


姫「――っ」

信じたくない。嘘だと思いたい。
勇者は私の夫に、そんなひどいことを言う人じゃなかった。

姫(勇者様、どうして…?それに、従者も…)

ぐるぐると、嫌な考えばかりが頭を巡る。
それでも答えは出せない。彼らは、何を考えているのか。

100 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:24:42.02 ID:UNrR2KEi0
魔王子「あ、帰ってきた姫様!!」

姫「!!魔王子様…」

私が城に戻ると、すぐに魔王子が駆け寄ってきた。
彼は私の側に来ると、ほっとしたように大きなため息をついた。

魔王子「あー良かった帰ってきて。訓練終わって姫様探したのに、いねーんだもん」

姫「あ…ちょっと散歩に」

魔王子「駄目だろ」

魔王子は私の目をじっと見る。その目はつり上がっていて、口は「へ」の形。
これは…怒っている?

魔王子「今こんな状況なのに、護衛もつけず1人で外に出ちゃ駄目じゃないか」

姫「すみません…」

魔王子「あ、いや俺はただ怒ってるわけじゃなくてね!?」

私が沈んだ声で謝ると魔王子は勘違いしたのか、慌て始めた。

魔王子「君に何かあったらって思うと…本当、考えるだけで辛いから」

姫「魔王子様…」

顔を曇らせる魔王子。
彼は本当に私を心配し、大事にしてくれている。こんなに、優しい人なのに――

姫「――ぅっ」

魔王子「!?」

どうして彼に、あんなひどいことを――

魔王子「わ、悪かったって!泣かせるつもりは無かったんだ、本当に!!そこまで怒ってないから、な、な!?」

姫「グスッ…ちが…」


――違うんです。


勇者『辛いことがあってもそれを表に出さず、明るく振舞うような方だ――俺はそれをよく知っている』


――それは違います。
自分に対してなら、何を言われても平気でした。だけど――


魔王子「心配してただけだから――な?」ポンポン


――貴方への悪意の言葉は、どうしようもない位胸が痛くなるんです。


104 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/02(月) 19:42:51.19 ID:1OXgCFaS0
魔王子(ふーヤレヤレ)

泣き止まぬ姫を部屋まで送り届けている間、すれ違った奴にはジロジロ見られるわで心労が半端なかった。

魔王子(まぁ泣かせちまった俺も悪いんだけどな…)

最近、姫との距離は順調に詰めてこられたと思ったけれど、やはり女性への気遣いは難しい。

魔王子(さーて、どう巻き返すかな…)

妖姫「魔王子ぃ、姫様を泣かせたんだって?」

魔王子「うぐ…。最低男って罵りに来たのか?」

妖姫「逆。アンタは女をよくわかってないから教えてあげようとね」

魔王子「はい?どういう意味?」

妖姫「女って自分に非がある時でも、泣いて誤魔化すことあるから。被害者ぶってるだけかもよ」

魔王子「確かに黙って外出した姫様も良くないしなぁ。ま、落ち着いたらもう1回話し合ってみる」

妖姫「黙って外出した?姫様の非はそれだけかしら?」

魔王子「ん?どういう意味?」

妖姫「私、姫様に教えてあげたのよねぇ…」

妖姫はニヤッと笑った。

妖姫「城外に勇者が来てるってこと」

魔王子「勇者が?」

昔、姫と婚約しているという噂のあった男。魔王子にとっては1番の嫉妬の相手。
姫は勇者のことは何も言わなかった。
まさか自分に秘密で会いに行ったのか?まさか…だがそう言われれば、他に姫が外出する用事など考えられない。

妖姫「後ろめたいことでもあるんじゃないのかしらぁ?」

魔王子「…」

105 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/02(月) 19:43:22.14 ID:1OXgCFaS0
魔王子「ないよ」

妖姫「え!?」

魔王子はきっぱりと答えた。

魔王子「確かに姫様は勇者と会ってたのかもしれない。でもそれを言ったら俺が嫉妬するから、姫様は黙ってるんだ」

妖姫「…それが後ろめたいことでしょ」

魔王子「あぁ。姫様は後ろめたく思っているだろうけど、後ろめたいことはしていない」

現場を見たわけでもなくはっきりそう言う魔王子に、妖姫は若干戸惑う。

妖姫「どうしてそんなことがわかるのよ?」

魔王子「だって姫様は、俺のこと好きだから」

妖姫「!?」

きっぱり言った単純すぎる回答に、妖姫は若干引いてしまった。

妖姫「じゃ…勇者と秘密で会ってたこと許すの!?」

魔王子「いや」

妖姫「え…?」

魔王子「知ったからには黙っていられないだろ。ま、とりあえず時間を置くよ。じゃあな妖姫、教えてくれてありがと~」

妖姫「ちょっ待ちなさいよ!ど、どうするの!?」

魔王子「そこは俺たち夫婦の問題なんで」

妖姫「!?」

魔王子はいつも通りの飄々とした様子で、そこから立ち去っていった。
だけどそれは表向きの顔。内心どう思っているのかは、それは誰にも見せようとしない。

だけど魔王子はあの姫のことになると真剣になる――それは十数年の付き合いの自分ですら知らなかった、魔王子の一面。

妖姫「…」

妖姫は複雑な心情を抱きながら、そこに取り残された。

106 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/02(月) 19:43:59.50 ID:1OXgCFaS0
姫「…」

魔王子「…」

しかしそれから時間を置いても、姫の機嫌が直ることはなかった。

魔王子「今日の訓練では5人同時に相手にしてさー…」

姫「あっはい…」

魔王子「…」

終始この様子で、会話が続かない。

魔王子(困ったな…)

このまま機嫌が直るのを待つべきか、例の話題を持ちかけてみるか。
だが持ちかけてみて、姫がもっと落ち込むかと思うと…。

そうやって話を切り出せないまま、1日が終わろうとしていた。

魔王子(ヘタレだな俺は)グヌヌ

とりあえず一晩たてば姫も元気になるかもしれないと、寝支度を始めた。
今日は剣の訓練で疲れた…。

魔王子「先に寝るよー。おやすみー」

姫「おやすみなさい」

107 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/02(月) 19:44:35.29 ID:1OXgCFaS0
姫「はぁ…」

どうしよう。魔王子にかなり気を使われているのがわかる。
泣いてしまうなんて、何て情けないんだろう。


魔王子『だから、それに負けないように強くなればいい。剣も、心も』


彼は命を狙われている当人だというのに心を強く持っている。
なのに妻である私が挫けてどうするというのか。

姫(明日、魔王子様に謝ろう…あと勇者様のことも言わないと)

既に無防備な寝顔を晒している魔王子を見て、うんと決意した。
気分がもやもやして眠れなかったけど、明日は彼より早く起きないと。

姫(私も寝よう)

ガチャ

姫「…え?」

物音に、私は振り返った。

108 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/02(月) 19:45:31.94 ID:1OXgCFaS0
ゆっさゆっさ

姫「…きて、魔王子様ぁ!!起きてえええぇ!!」

魔王子「…んぁ?」

もう朝か――?

ヒュンッ

魔王子「――っ!?」

本能的に危険を察知して体をひねらせた。
次の瞬間、彼の体があった所には刃が突き刺さり――

暗殺者「――チッ」

魔王子「…!!また暗殺者かよ!?」

一気に目が覚めて、構える。
先日の奴同様、襲撃者は覆面を被っている。この間逃げた奴と同一人物かは、不明。

魔王子(姫様は――)

ベッドの側で震えていた。
避難しろ、と言いたいが、それで暗殺者の注意が彼女に向かったらまずい。

魔王子(俺だけに意識を集中させて――)ジリ

ベッドサイドテーブルから武器替わりに燭台を手に取り、さり気なく姫と暗殺者の間に移動する。
暗殺者はこちらの様子を伺っているようだが――

魔王子「来ねぇならこっちから行くぞ!!」

と、攻めようとした時だった。

暗殺者「…」ダッ

魔王子「って、また逃げんのかよ!?」

奴の作戦は寝込みを襲うことだったのだ。それが失敗したなら、騒ぎになる前に逃げる方がいい――のだろうけど、そうはさせない。

魔王子「でりゃっ!!」

魔王子は燭台を思い切り、暗殺者めがけて放り投げた。

暗殺者「!?」ガシャーン

そしてそれは、見事暗殺者の頭に直撃した。

109 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/02(月) 19:46:29.80 ID:1OXgCFaS0
暗殺者「…くっ!!」

だが暗殺者は動きを落とさず、そのまま窓の外に飛び降りた。

魔王子「くっそ、また逃がしたか…。姫様、大丈夫か」

姫「え…えぇ…」

魔王子「なぁ、何があった?」

姫「わ…私が寝ようとした時、窓が開いて…」

魔王子「窓が?」

窓の方を見たら、全開になっていた。ガラスが割れた形跡はない。

魔王子「…鍵を締め忘れたかな?でもおかしいな、俺は窓の開け閉めはしてないし…」

姫「私も、していません…」

魔王子「てことは使用人か従者あたりか…?城内だから油断したなー…ありがとうな姫様」

姫「ぇうっ、魔王子様ぁ…」ギュッ

魔王子「わっ!?」

体にしがみついてすすり泣く姫に、魔王子は戸惑う。

魔王子(…本当に、繊細なんだなぁ)

魔王子「大丈夫だから、姫様」ギュッ

姫「うぅ、でも、でも…」

魔王子「言ったろ、姫様が心配してくれているなら死ねないって…大丈夫、大丈夫だから」ナデナデ

姫「は、はいっ…」グスッ

魔王子「さて…この事を報告してこなくちゃいけないんだけど…部屋に姫様だけ残すのは不安だな」

姫「…一緒にいて下さい」

魔王子「ん。一緒に行こうか」

まるでお化けを怖がる子供のように萎縮している姫の手を引き、たまに頭を撫でてあげた。
そうすると姫はわずかにはにかむ。だけど無理をしているんだと、自分にはわかる。

魔王子(あー可愛い)

こんな時だというのに癒されてしまう、自分は馬鹿だろうか。

110 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/02(月) 19:47:14.47 ID:1OXgCFaS0
城内の警備兵に今あったことを報告すると、すぐに城中に話は広まった。
もう深夜近いというのに城内はざわつき、逃げた暗殺者を探す為何名もの兵が派遣された。

魔王「完全に警備の隙をつかれたな」

魔王子「はぁー、目ぇさえちまった」

姫「…」

広間に来てからも、姫はずっと自分にしがみついている。
今は大勢の家臣の目があるので頭を撫でてはやれないけど、その分強く手を握ってやった。

メイド「別の寝室をご用意致しました」

魔王子「そっか。じゃ行こうか姫様」

と、姫の手を引いて行こうとした時だった。

悪魔「大変だったな魔王子」

魔王子(わ。やな奴来た)

悪魔「どうやら窓の鍵を締め忘れていたようだな?それは――」

魔王子「ちょっと待って。ごめん姫様、先に寝室に行っててくれるか?」

姫「はい…」

魔王子(そんな捨てられた子犬のような目するなっての!!)

魔王子「すぐ行くから、な?」

姫「わかりました」

そして姫が広間を出たことを確認する。
さて、と…。

111 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/02(月) 19:49:13.73 ID:1OXgCFaS0
魔王子「また難癖ですか叔父上?」

悪魔「人聞きの悪い…俺は可能性のある話をしたいだけだが」

魔王子「叔父上の言いたいことはわかりますよ。姫様が鍵を開けていたんじゃないか、って言いたいんでしょう」

悪魔は「む」といった顔で唇を結ぶ。
やはり図星か。だが、今回はちゃんとした反論がある。

魔王子「姫様がグルなら、俺を起こさないでしょう。俺を助けてくれたのは姫様で――」

悪魔「ク、ククッ」

魔王子「…何がおかしい?」

悪魔「いやぁ。手口が似ていると思ってな」

魔王子「は――?」

悪魔「俺も昔すっかり騙されて、命を取られそうになったよ――人間の女にな」

魔王子「…っ!?」

悪魔「まぁ昔の話だ」クク

魔王子「…その女と姫様と、何の関係があるんですか?」

悪魔「あの女もそうやって時折、俺を助けるような素振りを見せた。今思えばそれも演技だったのだな。俺を信用させ、命を取りやすくする為の――」

魔王子「あの女「も」じゃない!!」

カッとなり叫び声をあげると、広間にいた奴らが一斉にこっちを見た。
いけない、冷静にならなくては…。

魔王子「…姫様はそんな事はしない。自分が騙されたからと、一緒にしないで頂きたい」

悪魔「話はこれで終わらないんだが…」

魔王子「結構!もう聞きたくありません!」

魔王子は悪魔の声を振り切るように、広間から去って行った。
その背中を見送り、悪魔は皮肉めいた笑みを浮かべる。

悪魔「反発して燃え上がる…か。だが燃えれば燃える程、後のダメージが大きいだろうな…」

116 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/03(火) 20:28:33.20 ID:Vs1+gKSy0



メイド「客室なので姫様達の寝室より質素なんですが、ベッドの寝心地は良いはずですから!」

姫「えぇ、ありがとうメイド」

ざわざわ

メイド「ん…?何か騒がしいですね」

姫「どうしたのかしら…?」

野次馬する気は無かったが、寝室に行くまでにざわついている場所を通る必要があり、自然とそちらの方に足を向けた。

メイド「ちょいとぉ、何があったの?」

兵士「それが…こいつが襲撃者に襲われたみたいで」

メイド「えぇ!?…って、従者じゃない!!」

姫「えっ!?」

後方にいた私はメイドの声に反応し、人だかりを割って入っていった。
すると…

従者「アッハハハ、そんな大した怪我じゃないから…」

姫「従者!!」

従者「あっ姫様」

姫「…っ!?」

こちらを振り向いた従者は頭に包帯を巻いていた。
血が滲んでいるのは後頭部――そこは確か…



魔王子『でりゃっ!!』

暗殺者『!?』ガシャーン



どうしてか、先ほどの光景が再生された。

117 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/03(火) 20:29:07.50 ID:Vs1+gKSy0
兵士「魔王子様が命を狙われているはずなのに、何でお前が襲われたんだろうな?」

従者「知らんよ、涼んでたらガーンとやられたんだよ」

兵士「まさかお前と魔王子様を見間違えて…って、そんなわけないよなー足の長さが全然違うし!!」

従者「うるせーわい!!野次馬はもう散れぃ!」

従者が叫ぶと、野次馬達は半笑いで散り散りになっていった。
その場には私と、従者と、メイドだけが残された。

メイド「従者、本当に大丈夫なの?」オロオロ

従者「大丈夫だって、俺はエリートなんだから。姫様も、もう夜遅いんでお休み下さい」

姫「…ねぇ従者」

従者「はい?」


冷静な振る舞いとは裏腹に、心臓はドキドキいっている。

――そんなわけない。

そう、これはただの確認で――


姫「貴方…私達の寝室の窓、開けた?」


彼を疑いたくはない。

だけど――

118 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/03(火) 20:29:38.62 ID:Vs1+gKSy0
従者「いえ?俺は開けてませんよ」

姫「…そう」

動じることなく答える従者。
だけど私はそれでほっとできない。

姫(私は――)

心の奥底で、従者を信用できずにいる。
それは何も、窓を開けることが可能だったとか、後頭部の傷だけが原因ではない。


勇者『あの男――殺されてしまえば良かったのに』

従者といた時の、勇者のあの言葉。


魔王『完全に警備の隙をつかれたな』

外部の人間ではそう簡単に隙をつけない警備状況。


従者1人でそんなことできるはずがない。
だけど協力者――それも"混血種”の刺客を用意することができる、従者に近しい協力者といえば――


王『姫…決して相手に心を許すなよ』


姫(…っ、そんなわけないじゃない!!何考えているの!!)

119 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/03(火) 20:30:21.11 ID:Vs1+gKSy0



魔王子「…あれっ」

寝室で帰りを待っていた私の顔を見て、魔王子は目を丸くする。

魔王子「…そっか、待っててくれたんだ。ごめん、遅くなって」

姫「いえ…」

魔王子「警備は強化しておいたから、安心して眠れるって…」

魔王子はそう言うと隣のベッドに入った。

姫「魔王子様…」

魔王子「ん?どうした?」

姫「…手を、握っていてくれませんか?」

魔王子「いいけど…やっぱ、怖い?」

魔王子は気遣うように優しい声で、私の手をそっと握ってくれた。

魔王子「はは、ガチガチだ姫様」

姫「だって…私、貴方が…」

魔王子「大丈夫大丈夫、新婚の奥さん残して死ぬわけないだろ」

姫「…」

心が痛い。
彼はそう言っているけど、さっきのだって私がもう少し早く寝ていたら危なかったわけで…。

魔王子「そうだ。姫様、今眠い?」

姫「いえ…目が冴えちゃって」

魔王子「俺も。せっかくだし、今聞いちゃうかな」

姫「何ですか…?」

魔王子「あのさ、昼間勇者と会った?」

姫「!!?」

何でそれを――と思ったが、すぐに妖姫の顔が頭に浮かんだ。きっと彼女が教えたのだろう。
私が勇者に会いに行ったのは本当だけど、無いことまで吹き込んでいないだろうか…。

120 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/03(火) 20:31:11.26 ID:Vs1+gKSy0
姫「…妖姫様に勇者様が来ていると聞きまして、遠目で姿を見かけましたが…直接会話はしていません」

魔王子「何で会話しなかったの?」

姫「…」

何と言えばいいのか。勇者があんなことを言っていたから立ち去った――なんて言えない。
だけど適当な嘘も思いつかず、私は言葉を詰まらせる。

魔王子「まぁ理由なんて無くてもいいんだ…後ろめたいことさえしてなけりゃ」

姫「う、後ろめたいことなんて!!」

私はすぐさま首を大きく振って否定した。

姫「もしわずかにでもお疑いでしたら、私に監視をつけて下さっても構いません!少しの外出や来客と会うのにも制限を設けるなら、それに従います!!」

魔王子「しねーよそんなん…束縛って最悪じゃん」

魔王子は苦笑した。

魔王子「夫婦の間でも隠し事はありだと思うよ。ただ今回の場合は知っちまったから、言わずにはいられなかった。別に姫様を疑ってはいないから、な?」

姫「…すみません、黙っていて」

魔王子「別に大したことはないけど、俺が嫉妬するから黙ってたんだろ?」

姫「えっ、嫉妬…」

魔王子「気ぃ使わせちゃったね~。俺も器でっかい男になれるよう頑張るよ、うん」

魔王子は、私に都合がいいように解釈してくれたようだ。このまま彼の嫉妬を恐れて、ということで誤魔化し切ることはできる。

だけど――

姫「…魔王子様」

魔王子「ん?」

姫「違うんです…」

嘘をついて彼のせいにするのは、絶対に嫌だった。

121 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/03(火) 20:31:55.02 ID:Vs1+gKSy0
姫「実は…」

私は彼に打ち明けることにした。
勇者と従者が密会していたこと、従者が後頭部を怪我したこと――

勇者が言っていた陰口のことは、流石に言えなかったけれど。

魔王子「つまり君は、従者を疑っているのか」

姫「それは…」

魔王子「…半信半疑ってとこか」

姫「兄は魔物を憎んでいます…もし、裏で兄が手を引いていたら…」

魔王子「うーん…それだけの情報だと何とも言えないけど…ただ、1つ確かなことはある」

姫「確かなこと?」

魔王子「あぁ。俺の寝込みを襲撃してきたのは、従者じゃない」

姫「え…!?」

魔王子「従者とは何度か訓練で手を合わせているけど、従者と襲撃者の動きは全然違った」

姫「本当ですか…!!」

これで1つ、不安が解消された。

姫「あ…でも、兄が関わっていないとはまだ言い切れないですよね…」

魔王子「どうだかねー…でも1番重要なのはそこじゃない」

姫「えっ…って、きゃっ!?」

魔王子は突然、私の体を抱き寄せた。そして耳元で優しく囁く。

魔王子「君が関わっていなければそれでいい――心から、俺の奥さんでいてくれれば…」

姫「ま、魔王子様…ぁ」

彼の胸に顔を埋める格好になり、彼が声を発すると耳に息が触れ、私の熱は上がる。
体が密着して、ドキドキがばれてしまわないだろうか。私を包む彼の腕は力強く、逃げられそうにない。

だけどそこから抜け出したいと思う反面、密着した部分が気持ちよくて――上がった熱の解放を、今なら彼に委ねてもいいと――

魔王子「あ、ごめん、苦しかったよな」パッ

姫「…」

魔王子「さーて、もういい加減寝るかー」

この時ばかりは、彼の鈍さをちょっとだけ恨んだ。


126 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:51:49.52 ID:ANNa1cPO0
>翌日

姫「おはようメイド」

メイド「おはようございます奥様!どうされたんですか、厨房までわざわざ」

姫「昨日、ケーキを魔王子様に持っていくの忘れちゃってて…」

メイド「そうでしたねー。取っておいてあるので、今出しますね!」

姫「従者にはもう食べさせたの?」

メイド「えぇ。美味しいって喜んでくれましたよ~♪」

姫「そう。良かったらまた作ってあげてね」

メイド「はい…じゃなくて、余ったらですよ、余ったら!あいつの為にわざわざ作りませんから!」

姫「はいはい」フフフ

メイド「んーと…あれ?昨日ここにしまっておいたのに無くなってる、ケーキ…」

姫「え?誰か持っていったかしら?」

メイド「どうでしょうね~。ちょっと今匂いを辿ってみますね~」

メイドはクンクンと鼻を鳴らす。

メイド「こっちですね」

姫「私も行きます」

そして厨房から廊下に出て、メイドに着いて行くと――

127 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:52:25.06 ID:ANNa1cPO0
姫「あっ…!!」

メイド「あぁっ…」

信じられないことに、廊下の真ん中でケーキがぐちゃぐちゃになっていた。

姫「ひどい…誰がこんなことを…」

メイド「朝、廊下は掃除したはずですから…1番新しい匂いは妖姫様のものですね…」

姫「妖姫様が…」

ケーキを床に叩きつける妖姫の嫌な顔が頭に浮かぶ。
あまり妖姫のことは意識しないようにしてきたが、やっぱり私も彼女のことが嫌いなようだ。
こんなことをされて、怒らないわけがない。

メイド「今回は残念ですが、また作りましょう…」

姫「そうね…」

メイド「じゃあ私はここ掃除しちゃいますので…」

と、その時曲がり角から大きな足音が聞こえた。誰かが走っているようだ。
そんなに急いでどうしたのだろう…ちょっと気になって曲がり角を見た。

すると――

メイド「ひっ!?」

姫「!?」

暗殺者「…」

廊下の曲がり角から出てきたのは覆面を被った者――(恐らく)魔王子に向けられた襲撃者だった。

128 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:53:06.44 ID:ANNa1cPO0
メイド「だっ誰かあああぁぁ!!」

メイドが廊下中に響く声で叫ぶ。
襲撃者はすぐに方向転換し逃亡。
ほんの数秒差で、兵士達が駆けつけた。

メイド「ふ、覆面を被った不審者が!あっちに行ったわ!!」

兵士「何だと…わかった!」

兵士達は叫びながら襲撃者を追った。


メイド「奥様も危険ですので、お部屋に退避されて下さい」

姫「え、えぇ!」

私はメイドに手を引かれ、すぐ近くにあった図書室に逃げ込む。
部屋に入った後メイドは扉に鍵をかけ、モップ片手に扉前に立っていた。

部屋の外は喧騒に包まれている。
魔王子は、大丈夫だろうか――

その時だった。
ふと見た窓の外で、何かが落下した。


べしゃっ


姫「――ひっ!?」

129 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:53:49.45 ID:ANNa1cPO0
赤い液体を撒き散らす、潰れたトマトのようなそれを見て、私は卒倒しかけていた。

メイド「奥様、しっかり!!」

姫「え、えぇ…」

私を支えるメイドの声も、外の喧騒も頭に入らない。
潰れたそれを視界の外に置きながら、私はぼうっと窓の外を見ていた。


悪魔「――やったぞ」

姫(…悪魔様?)


悪魔が翼を広げ、潰れたそれのすぐ側に降り立つ。
と同時に、図書室のドアをどんどんと叩く音が響いた。

兵士「姫様!ご無事ですか!」

メイド「奥様は無事よ!それより外のは…」

兵士「もう出てきても大丈夫です、悪魔様が侵入者を仕留めましたから!!」


ということは――あそこで潰れているのは襲撃者だったのか。

130 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:54:24.10 ID:ANNa1cPO0
メイド「襲撃者は死んだみたいですね…」

メイドが窓を開け、外の様子を見ている。
私はどうしてもそれを直視できず、耳で声だけを拾った。

兵士「やりましたね悪魔様」

悪魔「全く、手応えのない奴だった…」

メイド「そりゃそうよ。悪魔様相手だもの」

悪魔「しかし妙な覆面だな…こいつの素顔はどうなっているんだろうな」

兵士「今剥がします」

悪魔「あぁ、そっとだぞ…」

メイド「――えっ!?」

メイドのぎょっとする声に続き、外の声はざわつき始めた。

兵士「こいつは…!!」

悪魔「おやおや…」


メイド「奥様!!あ、あれ、あれは…」

姫「…?どうしたの?」

メイド「覆面の下…従者です…」

姫「!?」


悪魔「これはどういうことですかねぇ…姫君?」


悪魔は窓の外から私の方を見て、不敵な笑みを浮かべた。


次回に続く
posted by ぽんざれす at 10:00| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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