2015年09月05日

姫「魔王子との政略結婚」(2/3)

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前回


131 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:54:58.65 ID:ANNa1cPO0
姫「私は何も知りません…」

広間にて魔王や悪魔、その他大勢の魔物達に囲まれながら、私は弁解の言葉を発する。
嫌疑、不信感、敵意――彼らの目は様々な感情を表している。正直、怖い。だけどここで堂々としていないと、そこをつけ込まれるだけなので――

姫「従者が何をしようとしていたかなんて、私にはわかりません」

「嘘をついてもわかるのだぞ!」

姫「それなら有難いです。私が嘘をついていない証明になるでしょうから…」

彼らの厳しい追及にも、物怖じせずに答える。
だけど頭の中は混乱していて――

姫(本当に従者が裏切っていたなんて――どうして?お兄様からの命令?)

信頼を裏切られた事、死なれた事、2つのショックはあまりにも大きかった。

魔王子「…俺も姫様を信用している」

彼は私の側について、家臣達への弁解を助けてくれた。

魔王子「姫様も共謀しているなら、もっと確実に俺の命を取れる場面はいくつもあった。姫様は本当に知らなかったんだろう」

悪魔「そこも策略の内だとしたら?」

魔王子「邪推が過ぎますよ叔父上」

いつもの通り、2人の間に火花が散る。
だけどいつもと違うのは、そこで止めるはずの魔王がずっと黙っていることだ。

悪魔「俺も昔、似たような方法で騙された――これは経験談だ」

魔王子「一緒にするなと言ったでしょう。叔父上の目には、人間の女が全部同じに見えるんですか?」

悪魔「…折角だし昔話をしてもいいか?俺を騙したその性悪女の話だ」

魔王子「話したきゃご勝手に」

悪魔「では――」

132 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:55:38.99 ID:ANNa1cPO0
まだ魔物と人間が争っていた頃の話。勤勉な兄(魔王)と違って当時は遊び人だった悪魔は、魔物の身体的特徴を隠してちょくちょく人間の国に遊びに行っていた。
ある日いつものように夜遊びをしていると、女性が複数の酔っ払いに絡まれているのと鉢合わせした。彼はそれを、気まぐれで助けた。
それからそこに遊びに行く度に、その女性と顔を合わせるようになった。何度も顔を合わせれば自然と親しくなっていくものだ、と悪魔は語る。

悪魔「――だがそれとほぼ同時期だったな、俺の命を狙う者が現れ出したのは」

魔王子「…今の俺と同じですか」

悪魔は魔物の身体的特徴は隠していた――が、魔王の一族の者として、国の一部の者に顔は割れていたのだ。

悪魔「その女には何度か窮地を助けられたが、今思えば演技だったのだな。俺を確実に仕留める為、信頼を得る為の――」

魔王子「で、俺の妻がその女と同じだと?馬鹿げている」

悪魔「その女も俺同様、身分を隠していてな――人間の国の、姫君だった。だから俺の顔を知っていたのだろう」

魔王子「…だから、それが何だと」

イライラを顔に表して文句を言おうとする魔王子を、悪魔が手で制す。

悪魔「俺に刺客を送った国――そしてその女が嫁いだ先が――」

姫「…!!」

悪魔は私の方に目を向ける。

魔王子「まさか――」

悪魔「そう…姫君の母国なのだよ」

姫「……!?」

ちょっと待って。
時期的なことを考えると、そのお姫様というのは――

姫「まさか…お母様?」

133 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:56:18.58 ID:ANNa1cPO0
魔王子「…だから、それが何だって言うんですか!!」

魔王子はイライラが爆発したように、悪魔に詰め寄った。

魔王子「姫様の母上が叔父上を騙した!?だから姫様も一緒!?そう言いたいんですか、叔父上!!」

悪魔「…姫君の母国は、そういうことをする国だ。和平を結んだからといって、それが簡単に変わると思えん」

魔王子「今は姫様の兄上が国王に代わったのですよ!」

悪魔「…姫君にお聞きしたいのだが」

悪魔は魔王子を無視した。

悪魔「母上が殺された頃、乳幼児だった貴方は母上の記憶すら無い――だが兄上…いや、国王陛下はどうだ?」

姫「…っ」

兄は私より6つ上。母を覚えていないわけがない。
それに、それが原因で――

悪魔「国王陛下は、魔物を憎んでいないのか?」

姫「それは――」

表に出さないだけで、兄は魔物を嫌っている。
兄が感情だけで動く人だったら、和平などに尽力せずに魔物と戦を続けたかもしれない。

それはやはり、母のことが原因している。

悪魔「もし姫君の兄である国王陛下が絡んでいるのなら…これは和平を揺るがす大問題になる」

姫「――っ!!」

それは考えられる、最悪のパターンだった。
悪魔の憶測を聞き、他の家臣達もざわつき始めた。

134 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:56:45.73 ID:ANNa1cPO0
魔王「…全員落ち着け」

しかし魔王の一言が、ざわつきを沈めた。

魔王子「親父!憶測で物を決め付けるにはまだ早い、だから――」

魔王「落ち着けと言っている、魔王子」

一蹴され、魔王子は納得いっていない様子で引き下がる。
魔王は落ち着いた様子で、全員に向かって声をかけた。

魔王「魔王子の言う通り、憶測で物を決めるにはまだ早い。それに悪魔の言う通りだったとしても――我はこれを大事にしたくはない」

悪魔「…兄上、理由を」

魔王「この程度の事件で和平が崩れ、陰惨な争いの時代を再び繰り返す等――あってはならぬ」

悪魔「この程度ねぇ…狙われているのは貴方の一人息子ですが」

魔王「だからこそだ。我の一人息子がこの程度で死ぬわけない」

魔王はそう言って魔王子に顔を向けると、魔王子も無言で頷いた。
そのやりとりだけで、この親子には信頼関係があるのだと伝わってくる。

悪魔「ふ…そうか、このまま静観か…」

魔王子「それでいい。命を狙われているのは俺だけだ、何の問題もない」

魔王「だが」

魔王の一言が、また場を静寂に変える。

魔王「姫君の処遇をこのままには――というわけにはいかない」

魔王子「なっ――!?」


魔王子が抗議の声を上げかかった、その時だった。

「失礼する」

姫「――っ!!」

135 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:57:12.66 ID:ANNa1cPO0
広間の扉を開けて入ってきたのは――

姫「勇者様…!?」

勇者「お久しぶりです、姫様」

勇者の登場に、場はざわついた。
それでも彼は動じずに、私の方だけを見ている。

魔王子「は…何で勇者がここに?」

魔王「我が呼んだ」

魔王子「は…?」

魔王「姫君を母国に送り届けてくれとな――」

姫「!?」

魔王子「はあぁ!?」

魔王子は魔王に掴みかからんとする勢いで迫る。

魔王子「おい、どういうことだよ!?親父まで姫様を疑ってるのか!?」

魔王「そうではない。だが、今回の件で姫君を疑う者が増えただろう」

勇者「そんな環境に姫様を置いておくわけにはいかない」

魔王子「――っ!」

136 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:57:54.91 ID:ANNa1cPO0
姫「わ、私は平気です」

魔王「姫君が平気でも、疑心暗鬼になられては家臣達の統率力が乱れる…」

悪魔「もし姫君の兄である国王陛下が裏で糸を引いているとしたらだ――統率力の乱れた我々に攻め入る、絶好のチャンスになるじゃないか」

勇者「…馬鹿げたことを」

勇者はフンと鼻を鳴らした。

勇者「陛下や姫様にあらぬ疑いをかけるな。これが公の場だったら、戦争に発展しかねんぞ」

魔王「そうなることを避けてお主を呼んだのだ。穏便に、姫君を連れ帰ってくれ」

魔王子「ちょっと、待てよ…!!それっていつまでだよ!?母国に戻されて、俺と姫様の関係はどうなる!?」

魔王「それは…追々、向こうの国王と話し合うつもりだ」

魔王子「ふざけんなよ!俺と姫様の関係を、どうして他の奴に決められなきゃいけないんだ!」

勇者「それが政略結婚というものだろう」

魔王子「何だと!」

勇者「姫様と貴方は、国王陛下と魔王陛下が決めて婚姻を結んだ…違うか?」

魔王子「…っ」

魔王「ともかく」

魔王子の勢いが弱まった一瞬を見逃さず、魔王は話を切った。

魔王「姫君には一旦母国へ戻って貰おう。それが最も穏便に済む手段だ」

姫「…」

何も言えなかった。
いや、理屈ではわかっている。自分の存在が魔物達の不安を煽っている。なら、このまま魔王の言う通りにするのがいいのだろう。
だけれど、気持ちは――

137 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:58:28.96 ID:ANNa1cPO0
勇者「行きましょう姫様。馬車を待たせています」

姫「あっ――」

遂に勇者に手を引かれた。

姫(もう、このまま彼と――)

そう思った途端背筋が寒くなって、私は後ろを振り返った。
魔王子は家臣達に引き止められながらも、私に向かって必死に手を伸ばしていた。

魔王子「待てよ…!」

魔王「見苦しい真似はよせ魔王子」

魔王子「離せよ親父、こんなのは…!!」

彼の気持ちも私と同じ。
彼のその手を掴みたくなって、1歩彼に向かって踏み出したけれど――

姫「魔王子様――」

勇者「…姫様!」グイ

姫「あっ」

彼が遠くなる。強引な手が、彼の温もりも、彼の声も、彼の香りも届かない所へ、私を連れ去ろうとする。

勇者「姫様、受け入れて下さい…おわかりでしょう?」

わかっている、これが最善策だと。わかってはいるけど…!!

姫「――嫌です」

勇者「はい?」

気持ちは、最善策を受け入れない。

姫「…魔王子様ぁ!!」

気付いた時には私は勇者の手を振り払い、魔王子の元へと駆け出そうとしていた。

138 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:59:02.89 ID:ANNa1cPO0
勇者「姫様っ!」

姫「っ!」

だがあっさり勇者に腕を掴まれ、魔王子との距離を詰めることは叶わなかった。

勇者「失礼!」

姫「あっ!?」

そしてそのまま勇者は私を抱え、そこから駆け出した。
無駄な抵抗とわかっていながらも私は必死に足掻き、魔王子に必死に手を伸ばした。

魔王子「姫様、俺!!」

互いに伸ばした手は遠い。
だけど目と目はしっかり互いを見つめていた。

魔王子「姫様のこと、あい――」

それでも無慈悲に、扉は2人の間を遮断した。
彼の姿も、声も、まだ扉の向こうにある。私はそれに未練を抱き、必死に手を伸ばした。

勇者「姫様…っ!」

勇者の複雑に歪んだ顔も、今の私の目には入らない。
それだけ強く思っても、私はもう魔王子の姿を見ることすらできない。


こうして私は強引に、母国へ連れ戻されることとなった。

140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/04(水) 18:02:21.75 ID:l1V3y4Vgo
つらぁ...

142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/04(水) 23:11:01.75 ID:QELGcWJ4O


143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/05(木) 16:43:51.21 ID:oFvwXvIDO
くそ勇者ぁぁ!

144 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:31:56.96 ID:3sj+YNHb0
>母国、謁見の間

王「久しぶりだな姫――思ったよりは元気そうだな」

姫「お兄様…!!」

馬車に押し込まれてからは抵抗する気力もなくなり憔悴していた。
けれど尊大な態度で私を出迎えた兄の顔を見るなり、私の感情に火がつく。

姫「どういうことなのか!説明して下さい!!」

王「何がだ?」

姫「どうして従者があんなことを!!お兄様は何を命令したのですか!!」

王「わけがわからんな」

私が怒りをぶつけても、兄は平然としていた。

王「従者のことは、俺が知りたい位だ。全く、お前まで俺を疑うのか」

姫「従者が自分の意思で魔王子様の命を狙ったと…!?」

王「状況からして、そういうことになるな」

兄はふうとため息をつく。

王「従者もお前の従者であるが、意思を持った個人だ。奴が何を思い何故そんな行動に至ったかはわからんが、そういうこともあるだろう。それにしても…」

兄は懐から手紙を取り出した。
さらりとそれに目を通すと、苦々しい顔をした。

王「わずか短期間の間にこれだけの事が起こっているとは…やはり魔物は民度が低いな」

兄は躊躇なく、魔物への嫌悪感を口に出す。
周囲に家臣がいないからこそ言える、彼の本音だった。

王「元々和平の為に仕方なく結んだ婚姻だったが――こんな事なら、離縁されて良かったな」

姫「私と魔王子様は、夫婦です!離縁などしていません!」

王「そうだな――今はな」

兄の冷笑に私の背筋は凍る。

私と魔王子の婚姻を決めたのは彼。だから、それの解消を決めるのも――

姫(このまま…お兄様の思い通りになってしまうの…!?

145 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:32:44.66 ID:3sj+YNHb0
久しぶりに戻った母国の城の廊下を歩きながら、私は色んな思いを巡らせていた。


魔王子『ちょっと、待てよ…!!それっていつまでだよ!?母国に戻されて、俺と姫様の関係はどうなる!?』

魔王『それは…追々、向こうの国王と話し合うつもりだ』


兄と、魔王で話し合い。それは私の意思も、魔王子の意思も関係ないという意味だ。
そしてこのままじゃ、兄は私と魔王子を離婚させる方向に持っていくだろう。

姫(お兄様の話…どこまでが本当なの)

従者の行動について、兄は何も知らないと言っていた。
それでも従者に裏切られた今は、何を信じていいかわからない。

そう、誰かが命を狙われる事態というのは、何も信じられなくなってもおかしくはない。
悪魔が昔、母にされたように、裏切る人は平気で信頼を裏切る。

姫(それでも魔王子様は――)

私を信用してくれた。それだけは間違いなかった。


魔王子『ふざけんなよ!俺と姫様の関係を、どうして他の奴に決められなきゃいけないんだ!』


姫(そうよ)

この状況を良くする方法なんて思いつきはしなかったけど、このままじゃ絶対に良くない。
私達の意思を無視されたまま、彼と別れさせられてたまるものか。

姫(私が何でもお兄様の思い通りになると思ったら、大間違いよ…!!)

そう思って私の取った行動は、感情的で、無計画なものだった。

146 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:33:27.57 ID:3sj+YNHb0
姫「…」キョロキョロ

人目につかずに庭にまで出てきた。
今の時間、庭は人が少ない。

姫(今の内――)

勇者「姫様、どちらへ?」

姫「!?」

いつの間に…だけど動揺を悟られないように、私は愛想笑いを返す。

姫「散歩です。久しぶりに戻ってきましたからね」

勇者「…不自然ですね」

姫「…」

それもそうだ。あれ程魔王子と離れることに抵抗したというのに、日も変わらぬ内に城内を散歩など不自然すぎる。
ここで勇者から逃げられるわけがないし、下手なことをすればもっと監視が強くなる――そう思い、その場はあっさり引き下がった。

姫「部屋に戻ります」

勇者「…姫様」

背を向けた私を勇者が呼び止める。

勇者「俺は、魔王子――あの男が憎い」

姫「…」

その言葉と同時に、勇者が以前言っていた言葉を思い出した。


勇者『あの男――殺されてしまえば良かったのに』


姫「…失礼します」

途端に気分が悪くなって、私は振り返らずにその場を去った。


勇者「………姫様」

147 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:34:12.22 ID:3sj+YNHb0
姫が魔物の国より戻ってきたことにより、母国では様々な噂がたった。
魔王子の暗殺未遂という事件は伝わっていなかったが、新婚早々1人で帰ってきたことを好意的に思っている者はいない。

「もう喧嘩別れしたのかな?」
「やっぱ人間と魔物じゃ合わなかったんじゃ…」

勇者「…」カランカラン

「いらっしゃいませー…あ、勇者様」

馴染みの店の席につく。
常連客達はやはり、姫のことを噂していた。

「姫様と魔王子は別れそうですか、勇者様?」

勇者「さあな…俺にはわからん」

「初めから俺は結婚には反対だったんですよ。姫様には勇者様がいるのに」
「確かに人間と魔物の和平は大事だが、政略結婚なんて当人達が可哀想だよな」

勇者「…」

自分と姫ははっきり婚約したわけでもなく、恋仲だったわけでもなく、ただ何となく周囲に将来結婚するだろうと言われていた――
姫の気持ちが自分に向いていないことはわかっていた。

だが、それでも。

姫『貴方が一緒だと心強いです、勇者様』

心優しく、華憐な姫が。

勇者『姫様…魔物の国へ嫁ぐなど、危険です』

姫『いいえ勇者様。これもこの国の姫として生まれた者の使命です』

国を愛していた、気丈な姫が――

姫『私が和平への架け橋となれるのなら、是非見てみたいのです――人間と魔物が手を取り合うことのできる世界を』

勇者『姫様…!』



勇者(どうして俺は、もっと必死になって止めなかったのだろう)

148 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:35:16.92 ID:3sj+YNHb0
政略結婚は心の通わぬ婚姻。当人達は駒。姫の結婚が決まった当初は、自分もそう思っていた。

勇者(しかし…)

姫『とにかく心配は不要ですわ。私は今、幸せで一杯ですから』

あの時の姫の笑顔は、偽りではなかった。

従者から聞いていた。姫と魔王子は、仲の良い夫婦であると。
それは従者からの知らせだけでなく――
魔王城での姫の様子を思い返す。あんなに取り乱した姫を見るのは初めてだった。
あんなに気丈だった姫が、魔王子と引き離されそうになって取り乱すなど――それはもう、完全に姫の心が魔王子のものになってしまったという事。

勇者(姫様はあの男に、俺の知らない顔を見せている…)

グラスを持つ手に力が入る。

どうして姫は、自分に気持ちを向けてくれなかったのか。
それどころかきっと、こちらの気持ちにも気付いていない。そんな姫が、少し憎たらしくて。

国王に逆らって、この気持ちを伝えていれば良かったのだろうか。
そうすれば今頃、姫の気持ちを独占しているのは――

勇者(…なんて、都合のいい妄想か)

自分はもう完全に負けた。それどころか、2人を引き離した自分は姫にとって敵だろう。
今頃姫も、魔王子も、互いのことを想い合っている。それを思うと、また胸の炎が燃え上がる。

勇者(あの男――殺されてしまえば良かったのに)

そして恋に敗れた男が、みっともない想いを心の中に潜めた。

149 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:35:46.75 ID:3sj+YNHb0
>王の部屋

勇者「失礼します――お呼びでしょうか、陛下」

王「あぁ。魔王から手紙が届いた」

勇者「!!」

内心待ち望んでいた知らせに、勇者の気持ちが高揚する。
そして手紙の内容というのは――

王「直接顔を合わせて話し合いをしようとな。その日程の打ち合わせが必要になる」

まだ離縁は確定していない――だがこのままなら確実だろう。

王「話し合いの際はお前も護衛として同行してくれ」

勇者「かしこまりました」

王「あと、これはどういう事なんだか――」

勇者「はい?」

王「…姫がこちらに帰ってから、魔王子への刺客が途絶えたと書いてある」

勇者「!!」

王は苦笑を顔に浮かべていた。

150 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:36:29.71 ID:3sj+YNHb0
姫「…」

知らせが来てから何度も兄に説得を試みているが、今日も叶わなかった。

兄が婚姻継続に乗り気でない理由は、魔物への嫌悪感からだけではない。

まず1つ。和平の為に結んだ婚姻だったが、国内での両種族間のトラブルは別段増えても減ってもいない。
これには抗議した。新婚期間だというのに、和平に即効性を求めるのは間違っていると。
兄もそれなりに納得した。

そしてもう1つ。それは、私達の無実を晴らすのが難しいということだ。
魔王子への刺客を生け捕りにすれば彼らの正体が掴めたかもしれないが、刺客が途絶えた今、それも叶わない。
しかも実際に従者がやらかしているというのは、もう打ち消しようのない事実。
そんな状況で私を魔物の国に戻すというのは、火に油を注ぐことになること間違いなしということだ。

兄の言うことは間違ってはいない。国を背負っている兄の主張を覆すだけの頭は、私にはない。

婚姻継続を望む1番の理由は、魔王子への未練。
だけど彼の望むもの――つまり和平にも心配はあった。

あのまま私が向こうにいても亀裂が入っていたかもしれないが、こんなに早く離縁されたとなってもいい印象は抱かれないだろう。
それが両種族の互いへの差別意識に繋がりかねない。つまり今のままじゃどちらにしてもマイナスだということだ。

姫(どうすれば…)

窓から魔物の国の方角を見る。ここからでは何も見えない。
だけど私が見ている方角に魔王子はいるのだ。

会いたい――

この城は私にとって檻。2人の間にある障害は、あまりにも大きい。

だけどそんな悲劇的な気持ちに浸っていて、事態が良くなるわけではない。

姫(何とか、いい方法を考えないと!)

しかし「いい考え」は浮かばず、ただただ時が過ぎるだけであった。

151 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:37:04.50 ID:3sj+YNHb0
そんな折、王が姫の部屋を訪れた。

王「わかっていると思うが…後日の話し合いで、俺は離縁の方向で話を進めるつもりだ」

姫「…」

わかっていたことなので、それを聞いても別段衝撃は受けない。
むしろどうしてわざわざ自分にそれを告げに来たのかの方がわからない。

姫「私は納得していませんよ」

王「俺もお前も濡れ衣を着せられたままだしな…まぁ魔王がこちらに戦争を仕掛けるつもりがないのが幸いか」

姫「…お兄様は本当に、何も手を出していないのですか?」

王「何度も言っている。魔王子を殺すつもりなら、お前をわざわざ嫁がせたりなどしない」

姫「…」

そこは確かに腑に落ちなかった所だ。
従者を魔王城内部に潜ませて魔王子を殺すことがが目的――ならば、確実性はあまりにも薄い。潜ませるならもっと戦闘力の高い者を潜ませる。護衛向きの従者では、暗殺は不適任。

王「それにその計画は成功しても、お前が国に戻ってくることを想定しなければならない」

兄の目が、私を蔑むようなものに変わる。

王「魔物によって穢された姫というのは――戻ってきても扱いに困る」

姫「けがっ――」

そして兄はあまりにも安易に、禁句に触れた。


魔王子『俺と結婚することで穢れたら――』

魔王子『姫様がそういう風に思われていると思うと、俺…』


あの魔王子が唯一私に弱みを見せた、痛みの部分。
魔王子は聞いていないとか、そういう問題じゃない。

姫「穢されてなどいません!!」

私は感情のまま、強く叫んだ。

私の叫びに、兄は目を大きくする。
だけどそれは、私が怒ったからではなかった。

王「まさか――まだ初夜を済ませていなかったのか」

姫「…っ」

デリカシーのない質問に、私は何も答えられない。

王「お前、本当に魔王子に愛されていたのか?」

姫「彼は――」

152 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:37:46.27 ID:3sj+YNHb0
魔王子『姫様のこと大事にしなきゃって思えば思う程…勇気が無くなるっていうか…』


普段の言動に反して、そういうことには消極的な人だった。
だけど私も不安で、積極的にはなれなくて。


姫『少しずつ、段階を踏んでいきませんか…?』


手と手を繋いだ。抱き合った。唇で触れ合った。

それでもまだ、最後の段階には行き着いていなかった。


姫(だけど――)


『俺の妻を疑おうと言うのなら、叔父上でも許さない…!』

『嫉妬したの!君と勇者が喋ってる所見て!』

『俺はお姫様の、運命の王子様――ってわけだ』

『…なぁ姫様。弱音吐いていい?』

『心配してもらえりゃ、ゼッテー死なねーって思えるから。だから、ありがとうな姫様』

『君が関わっていなければそれでいい――心から、俺の奥さんでいてくれれば…』


姫「彼は――私を愛して下さいました」

それだけは揺るぎない。
彼と過ごした時を、私は覚えている。

もし、彼が私を想っていないというのなら――


『姫様がグルだったら、そのやりとり全部嘘になる――だから、俺は姫様を信じる』


それこそ彼の言う通り、全てが嘘だったことになる。

153 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:38:20.98 ID:3sj+YNHb0
王「…まぁいい」

私の返事に兄は愉快な顔をしなかった。
魔物と愛し合うなど、彼には理解できないのだろう。

王「だが、お前は我が国の姫だということを忘れるな――おい、入れ」

姫「…!?」

兄がそう言って部屋に招き入れたのは――

勇者「失礼致します」

姫「勇者様…?」

勇者はこちらに目を合わせようとしない。
その表情はどこか、後ろめたいものを感じる。

姫「どういうことですかお兄様?勇者様を招き入れるなど」

王「お前が魔王子と交わっていないのは、せめてもの救いだった」

姫「…はい?」

兄はそう言って背を向ける。
ちょっと待って、まだ話は終わっていない――と思った瞬間だった。

王「婚姻解消が決まったら、お前は勇者と結婚しろ」

姫「――っ!?」

あまりの衝撃に、何を言っているのか理解できなかった。
だけど兄は矢継ぎ早に言葉を続ける。

王「これから魔物の国と更に関係が悪化するに違いない。我が国民達もその心配をしている。だから我が王家と勇者一族の繋がりを強める為に、勇者と夫婦になれ」

姫「ちょっと待って下さいお兄様、私は――」

言うだけ言って部屋から去ろうとする兄を追おうとした時だった。

勇者「…姫様!」

姫「っ!?」

勇者が私の前に立ち、行く手をはばかる。
そうこうしている内に、兄は部屋のドアに手をかけ――

王「勇者…あとは好きにするといい」

姫「――っ!?」

その言葉に、全身が凍りついた。

154 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:38:53.39 ID:3sj+YNHb0
勇者「姫様っ!」

姫「あっ!?」

勇者に手を掴まれる。
そうしている内に、部屋の扉は閉じられた。

今、部屋には勇者と2人きり。
兄の言う「好きに」といいうのは、つまり――

姫「嫌です、離して下さ――」

勇者「姫様…陛下のご命令です」

勇者の眼差しは強い。

姫「やめて、お願い、誰かぁ!!」

勇者「呼んでも誰も来ませんよ」

怖い――その眼差しはまるで、獲物を捕らえようとする獣のようで。
私は食われまいと抵抗する獲物のように暴れ、叫ぶ。

だけど勇者への抵抗は無力でしかなく――

勇者「姫様――」

姫「――っ!!」

勇者の顔が近づいてくる。

姫(嫌ぁ…)


耐えられない。まだ私の唇は、魔王子の感触を覚えている。
彼以外の誰かにその記憶を上乗せされるなんて、彼以外の誰かに触れるなんて――


姫(絶対に、嫌――ッ!!)

155 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:40:17.27 ID:3sj+YNHb0
今日はここまで。
いちゃラブ成分不足…(-ω-||)

156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/06(金) 17:43:44.03 ID:0lXsXJ+PO

こんな所できるなんてひでぇ

158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/06(金) 18:32:04.08 ID:I0vbvQzvo
おつ
魔王子はよ!はよ!!!

159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/06(金) 18:39:09.52 ID:xdLZZ2FDO
勇者に金的ぶちかませ姫!!


次回へ続く
posted by ぽんざれす at 10:02| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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