2015年09月05日

姫「魔王子との政略結婚」(3/3)

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161 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:35:35.31 ID:1mfqxhrH0



魔王子「だああぁぁ、クソッ!!」

魔王子の方も良くない状況にいた。
いつもの彼ならとっくに姫の国まで馬を飛ばしている所だが、姫と引き離される際に大暴れしたせいで監視付きの軟禁生活を強いられ、それも叶わなかった。

それに辛いのは、それだけじゃない。

「恐ろしい女でしたね、あの姫君は」
「やはり人間の女など迎えたのは間違いでしたな」
「姫君の母国では、まるで我々が姫君をいびったかのように噂されているとか…全く、腹立たしい」

魔王子「うるせえええぇぇ、ぶん殴られたいのかお前らは!!」

魔王子の剣幕に、姫の悪口を言う者達が散る。姫がいなくなってから、何度こうやって怒鳴り散らしたことか。

妖姫「全く、盲目的な恋ってのは恐ろしいわねぇ」フゥ

魔王子「恋じゃない、愛だ。俺と姫様は夫婦なんだ」

妖姫「でも、婚姻解消の話が進んでいるそうじゃない?」クスクス

魔王子「当事者同士が納得していない。そんなの無効だ、無効!」

魔王子は強気で言い切る。例え婚姻が正式に解消されたとしても、そんなのは形式的な話は無視していつでも姫を迎えに行く気は満々だった。
彼のそんな決意を悟ってか、妖姫はフゥとため息をつく。

妖姫「ねぇ知ってる?噂なんだけど――」

魔王子「軟禁生活で噂も耳に入ってこねーよ。何だ?」

怪訝な顔をする魔王子に、妖姫はにやりと笑う。

妖姫「姫様、勇者と再婚するそうよ?」

魔王子「あ…!?」

163 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:36:17.48 ID:1mfqxhrH0
まだ噂段階の話だが、まるでそう決まったかのように魔王子に教えてやった。
どうせいずれ本当になるのだろうし、早い内に諦めさせてやりたくて。

魔王子「勝手に話進めやがって…!絶対に阻止する!!」

妖姫「どうやって?」

魔王子は答えない。いや、答えられないのだ。
今この状況で、勇者と姫の婚姻を邪魔する方法なんて思い浮かぶはずもない。

妖姫「それにアンタね、次期魔王としての自覚が足りないんじゃないの?」

魔王子「何…?」

妖姫は畳み掛ける。

妖姫「今の姫様を魔王の妻として、誰が支持するの?」

魔王子「…」

妖姫「次期魔王に相応しいのは、魔物の全てに認められる女――」

それは例えば、目の前にいるような。

妖姫「容疑が晴れていない姫様を、このまま次期魔王の妻として置いておけると思っているの?」

こう言われてはぐうの音も出まい。

164 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:36:52.52 ID:1mfqxhrH0
…と妖姫は思ったが。

魔王子「問題はない」

妖姫「は…?」

魔王子は全く動揺せずに答えた。

魔王子「例え命を狙われても、姫様は俺の妻――そう主張すればいいだろう」

妖姫「なっ――」

そのぶっとんだ返答に、妖姫は何も言えなかった。

魔王子「俺の命を狙ってきてる奴が姫様に疑いを向けさせようとしているのはわかった。けど、それを証明する方法はない。だからそう主張する。それでも文句言う奴は、俺がぶっとばす」

妖姫「ば、馬鹿じゃないの!」

妖姫は引きながらも、ようやく抗議の声を出すことができた。

妖姫「そんな疑われたままの状況、姫様にとっても肩身が狭いだけでしょ!?それなのにアンタの所に戻ってくると思うの!?」

魔王子「俺はまだ、姫様自身から答えを聞いていない」

妖姫「っ」

魔王子「姫様がそう言ったなら考える――だけど俺は、最後の最後まで、絶対に諦めない」

言っていることはふざけているが、彼の目は真剣だ。
まただ。姫のことになると魔王子は真剣になる。

彼は真剣に、あの姫を愛している――

妖姫「…っ」

妖姫は唇を噛み締める。この一途な馬鹿の心を揺らがす、それだけのことがこんなにも難しいなんて。

妖姫(魔王子――)

それが彼女にとって、悔しくてたまらなかった。

165 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:37:20.96 ID:1mfqxhrH0



姫「…っ」

固いものに触れた頭に、刺すような激痛が走る。
だけど私は構わず暴れ続けた。

勇者「~っ…」

暴れた際に、彼の歯に頭が思い切り当たったのだ。
これには勇者も流石に怯み、血の出ている口元を抑える。

姫「…最低!」バチーン

勇者「っ!!」

そして私は自由になった片手で、続けざまに彼の頬を平手打ちした。
人にこんな暴力を振るうのは初めてだ。だけど後悔していない、それくらい私は興奮していた。

姫「離れて!早く!!」

勇者「…姫様」

切ない顔で勇者は私のもう片方の手を離した。
それと同時私は部屋の隅っこまで駆け出し、花瓶を手に取った。
近づけばこれで攻撃する、そういう姿勢を見せて。

勇者「…そんなに、俺が嫌ですか」

姫「嫌です――」

あの日から彼に抱いていた気持ちは今、嫌悪感となって膨れ上がっていた。


勇者『あの男――殺されてしまえば良かったのに』


姫「彼の人の死を望む貴方なんて!嫌いです!!顔も見たくありません!!」

勇者「――っ!?」

166 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:37:59.10 ID:1mfqxhrH0
勇者「何故、それを…!?」

一瞬心を読まれたかと、勇者の体に冷たいものが走った。

姫「貴方が従者に話しているのを聞きました!!」

勇者(まさか聞かれていたとは…)


あの日従者と会い、姫の近況を聞いていた。姫と顔を合わせるのは、まだ辛くて。
2人は大変仲睦まじい夫婦であり、魔王子は姫にとって良き夫であると。

だがその話を聞けば聞く程、嫉妬心やらが自分の中で大きくなっていき…

勇者『あの男――殺されてしまえば良かったのに』

その気持ちが、言葉となって表れた。
自分の姫への気持ちを知っている従者にだからこそ言えた、軽い気持ちで言った、しかし悪意に包まれた言葉。


姫「貴方が――」

勇者「――っ」

姫「貴方がお兄様や従者と共謀して、魔王子様の命を狙ったんですか!?」

勇者「!!!」


そして軽い気持ちで放った言葉は、想い人からの信頼を奪い去ってしまっていた。

167 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:38:53.01 ID:1mfqxhrH0
勇者「――それは誤解です!!」

勇者は動揺した顔で叫んだ。
その迫力に、私は若干怯む。

勇者「俺は確かに魔王子に悪意を抱いていました。それは陛下もです――だけど、魔王子暗殺の件に我々は一切関わっていない!それだけは信じて下さい!!」

姫「…そう簡単に、信用できません!」

彼を疑う根拠も無かったが、一旦膨れ上がった嫌悪感は収まりがつかず、私は感情のまま彼をなじる。

勇者「…俺には、その疑いを晴らす手立てはありません。ならせめて聞いて頂けますか、姫様」

姫「何ですか…」

勇者「俺は…従者が魔王子の命を狙ったことも、何かの間違いだと思っている」

姫「従者が…!?」

だって彼はあの覆面をつけていて、不審者として殺害されたわけで――

勇者「状況からして従者が疑われるのは仕方ありません。ですが従者は――魔王子を慕っておりました」

姫「…!!」

勇者「従者から直接魔王子の話を聞いた俺の、ただの推測です。ですが従者は確かに魔王子を…」

姫「…貴方の言いたいことはわかりました。ですが、もう出て行って下さい」

勇者「姫様…」

姫「今は貴方の顔も声も、受け付けられません!早く!」

勇者「…」

勇者は何かを言おうとして、途中でやめた。
それから諦めたように私に背を向ける。

勇者「…失礼します、姫様」

そして彼らしからぬか細い声でそう言うと、彼は部屋を後にした。

168 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:39:46.47 ID:1mfqxhrH0
姫(従者が…)

勇者が出て行ってから少しだけ興奮が冷め、彼の言っていたことを思い返す。


勇者『状況からして従者が疑われるのは仕方ありません。ですが従者は――魔王子を慕っておりました』


確かに魔王子と従者は何度も訓練で手を合わせていたと聞いた。
2人は性格も似ていて、気が合うようには見えた。

だけどそう油断させて魔王子を討とうというのが、従者の目的ではなかったのか。

姫(だけど…)


魔王子『俺の寝込みを襲撃してきたのは、従者じゃない』

魔王子『従者とは何度か訓練で手を合わせているけど、従者と襲撃者の動きは全然違った』


少なくとも、あの晩に彼を襲った襲撃者は従者ではなかった。
証拠としては弱いけど、従者の動きを知っている魔王子が言うなら信じてみようと思う。

姫(でも、だったら――)


従者『アッハハハ、そんな大した怪我じゃないから…』


従者のあの、頭の怪我は何だったのだろう?
従者の言う通り襲撃者にやられたのなら、何故仲間が従者を攻撃したのだろうか?襲撃者にやられたというのも嘘なら、あの怪我は――

169 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:40:26.79 ID:1mfqxhrH0
>魔王城

魔王子「…ん」

気晴らしに庭に出た魔王子は、目に入ったものが早速気になった。

魔王子「何やってんの?」

メイド「あ…魔王子様」

メイドは束ねた花を庭に置いて、何か祈りを捧げているように見えた。
魔王子に声をかけられたメイドは、気まずそうな顔をする。

あぁ、そういえばここは――

魔王子「従者に祈りを捧げてるのか?」

メイド「…っ!!」

メイドはびくっと硬直する。
ここは確か、従者が死んだ場所だ。

魔王子「従者のこと好きだったんだもんなー、メイド。辛いよなー…」

メイド「すっ、すみまっ…」

魔王子「ん?何で謝るの?」

メイド「だって…従者は、魔王子様のことを…」

魔王子「あぁ、そうか」

命を狙われた当事者だというのに、すっかり忘れていた。
直接暗殺者に扮した従者と対峙したことがないせいか、今だに信じられない。


従者『えぇ、魔王子様相手とはいえ手加減はしませんよー』ニヤリ

従者『くそー!何なんだよあんたは、顔よし、スタイルよしの上に強いって!!完璧超人ですか!!』


魔王子(俺、結構従者のこと気に入ってたしなぁ…現実、受け入れられんわ)

170 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:41:40.78 ID:1mfqxhrH0
メイド「私…今だに信じられなくて」

魔王子「俺もだよ。襲撃者に扮した従者と最初遭遇したの、メイドと姫様だったっけ?」

メイド「えぇ…」

魔王子(そん時は従者だって気付かなかっただろうなぁ)

メイド「でも…どうして従者はあんな覆面で城内を歩いていたんでしょうね」

魔王子「…?俺を殺す為じゃ」

メイド「けど、従者なら堂々と城を歩き回れますよね。変装なんてしなくても――」

魔王子「――っ!!」

メイドが何気なく言った一言は、魔王子の中で大きな衝撃となった。

魔王子「それだ!!」

メイド「え?」

魔王子(そういうことか…)

魔王子「メイド…よくそこに気付いた!」

メイド「えっ、あのっ?」

キョトンとするメイドをそこに残し、彼はある場所に駆け出した。

171 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:42:11.05 ID:1mfqxhrH0
魔王子(従者が頭を怪我していた理由もわかった――)

これはまだ推測段階の話。
だが、これが正しいとすれば――

兵士「魔王子様、どちらへ!!」

馬の厩舎に足を向けた魔王子に不審感を抱いてか、複数の魔物達が彼を囲んだ。
だが――

魔王子「邪魔だお前達」

兵士「何ですと!?」

魔王子「今の俺は止められん」

魔王子はそう言って、1番近くにいた魔物を正面から殴り飛ばす。
そしてその魔物が持っていた剣を奪い、構える。

魔王子「どうしても邪魔しようってんなら――止めてみな!!」

172 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:46:08.04 ID:1mfqxhrH0
今日はここまで。
魔王子に黄色い声援がつくと嬉しいなーとか(妄想

173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/03/07(土) 18:52:53.82 ID:KPBcWN4C0

キャー魔王子ー(重低音

174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/07(土) 18:59:11.21 ID:DeiPgVDIO
乙です
魔王子様、ステキー(脛毛がもっさもさ)

176 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:47:16.61 ID:8ET0rAO30
兵士「申し訳ございません!魔王子様に逃げられました!」

魔王「あの馬鹿息子…。国中の兵に魔王子を確保するよう指示しろ」

城内が喧騒に包まれる。
しかし魔王に動揺はない。今の魔王子の状態なら、こうなることは十分に予測できていた。

魔王「行き先は姫君の国だろう。なら緊急事態を理由に国境を封鎖すれば良い」

悪魔「しかし並の兵では奴を止められないのでは?」

魔王「国境に結界を張らせる。あの脳筋の馬鹿息子に、それを打ち破る能力はあるまい」

自分の息子に何て言い様だと、悪魔は苦笑する。

悪魔(確かに奴は脳筋だが――)

魔王「どこへ行くのだ悪魔」

悪魔「俺も奴の捜索を手伝おう」

そう言って広間を後にする。

悪魔(脳筋の恋愛脳だが、万が一ということもある。それに…)


妖姫「鼻いいんでしょアンタ!!魔王子を探しに行きなさいよ!!」

メイド「あの、でも…」

悪魔(ん…?妖姫?)

廊下の途中で、メイドを怒鳴りつけている娘を見つけた。

177 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:47:43.78 ID:8ET0rAO30
メイド「他にも鼻のいい兵士達が捜索にあたっていますし…」

妖姫「アンタ、姫様と仲良かったものねぇ」

メイド「い、いえ、そういうわけではなく!!」

誰がどう見ても言いがかりだ。
だけど混血種嫌いの妖姫とはいえ、こうあからさまに辛く当たるのは珍しい。

メイド「そ、それに私がどうしようと…魔王子様のお気持ちは姫様に…」

妖姫「っ!」ダンッ

メイド「」ビクッ

妖姫はメイドの背後の壁を殴った。
これはもう、やりすぎだ。

悪魔「やめておけ、妖姫」

妖姫「お父様…!!」

悪魔「すまんなメイド」

メイド「い、いえっ…」

悪魔が顎で「行け」と合図し、メイドはそこから逃げるように立ち去った。
残されたのは怒りが収まらない妖姫と、それを宥めようとする悪魔。

妖姫「…何でよ」

悪魔「?」

妖姫「何であんな人間の女に、魔王子…!!」

悪魔「…」

悪魔は妖姫の想いを知っている。半分は次期魔王の妻の座を狙う気持ち。もう半分は、純粋に魔王子を想う気持ち。
だが妖姫は相当にひねくれている。そこが、あの姫とは大きく違う。だから魔王子の気持ちを奪うことができない。

妖姫「このままあの女を想い続けるなら、いっそ…」

妖姫はその先を言わない。だがその顔は憎々しげに歪んでいた。
その先の言葉――それは容易に察することができる。

悪魔「…」

悪魔は追及せずに、娘が落ち着くのをただ待っていた。

178 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:48:11.25 ID:8ET0rAO30
魔王子「~っ…」

一方、逃げ出した魔王子の方も困っていた。
一目散に国境付近に来たが結界に阻まれ、その内自分を探す兵士達の姿をあちらこちらで見かけるようになった。

兵士「魔王子様はどこに…」

魔王子(早く向こう行けっ!)

兵士「うーん…」スタスタ

魔王子(あぁ…生きた心地しねぇ)フゥ

魔王子は潜んでいた物陰から出た。
あの程度の兵士、気絶させることは容易い。だが無闇な暴力は避けるべき、その程度の分別ならついた。

魔王子(さてどうするか)

結界に阻まれて国から出られないとしても、城には戻りたくない。
とりあえず今は1人で落ち着ける場所に行きたい。

魔王子(…つったら、やっぱあそこしかないよな)

179 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:48:39.47 ID:8ET0rAO30
馬を走らせること10分――近場の木に馬をくくりつけ、魔王子は周囲を警戒しながら、崖の割れ目に入って行った。

魔王子(やっぱここだよなー)

魔王子が着いた先は秘密基地。暗がりの中で光る花は、いつ来ても幻想的だ。
だけど今はその光景に浸っている気分でもなく、とりあえず体を休ませる為にそこに腰を下ろす。

魔王子(姫様…)

前に来た時は姫の膝枕で、最高の気分を味わえた。
今度来る時も姫と一緒に来よう、そう思っていたのに。

魔王子(挫けるなよ俺…!遠回りしてでも姫様に会いに行くんだ)


魔王子『奥さんを守れない男は夫失格。そうだろ?』


魔王子(そやって姫様と約束したじゃんよ!破ってんじゃねぇよ、俺!!)ベシベシ

魔王子(よし、休んでる暇はないぞ…また、姫様とここに来るんだ!)

そう決意して立ち上がろうとした――が。

魔王子「…っ!?」クラッ

突然、頭がくらついた。

魔王子(何だ…!?そういや今日は)

魔王子(花の香りが…強いような…)

魔王子(くっ、意識…が…)

魔王子「…ぐぅ」

180 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:49:13.48 ID:8ET0rAO30
>姫の母国、書斎

姫(確かこの辺に…)

私が探しているのは魔道書。
現代人は昔に比べると魔法の適正が低くなっており、私も例に漏れず才能には恵まれていないのだけれど、何とか拙い回復魔法は習得できた。
今からすぐに新しい魔法を覚えるのは難しいかもしれないけど、何か現状を覆すことができる魔法は…そんな藁にもすがる気持ちで魔道書を探していた。

姫(あ、あった。でも…)

目当ての書は高い所にある。
うんと背伸びして、ようやく本に触れることができた。

姫「うーん…」

指先で少しずつ引っ張る。
もう少し、もう少し…。

姫「取れ…」

バサバサッ

姫「あーん」

隣に並んでいた本を落としてしまった。
これなら初めから踏み台を持ってくれば良かったと、横着したことを後悔する。

姫(これ片付けないと…)

と、散乱している本を何気なく手に取った。
すると。

姫(…あら?)

本と本の間にしおりが落ちていた。
きっとどれかの本に挟まっていたが、今の拍子に落ちたのだろう。
別段気にしないで、何気なくそれを手に取った。

だが――

姫「…!?」


そのしおりを手に取った瞬間、頭の中に記憶が流れ込んだ。

181 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:49:49.13 ID:8ET0rAO30
『絶対に、忘れないでよ』

それは遠い昔の、既に色あせていた記憶。

『これ、約束の証ね』


私の初恋。家族と行った小旅行で出会った男の子。
その男の子は私に花をくれた。その花を、私は押し花のしおりにした。

私は長い間それを忘れていた。

だけど――

『俺、いつでも待っているからさ――』

十数年振りに思い出した男の子の顔は――



魔王子『だから、また遊びに来てよ!』



姫「魔王子…様…?」


思い出すのは幼い顔。だけど確かに彼には、魔王子の面影があった。


あぁ――そういうことか。

182 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:50:25.22 ID:8ET0rAO30
私はしおりの花を見た。
この花を私は最近見たことがある。


魔王子『どう?俺の秘密の場所』

姫『綺麗です…』


光こそ失っているが、あの場所の花だ。

そうだったんだ。あの時貰ったのは、あの花で――

姫(私の初恋…魔王子様だったんだ)

忘れてかけていた思い出だった。
だけど思い出せて、途端に胸が痛くなって――

姫(魔王子様――)

彼に触れて欲しい。そうしなければ痛みが収まらない。
痛みで張り裂けそうで、私は身を縮めた。

その時だった。

ピュッ

姫「あっ!?」

しおりが風で飛んだ。
とっさに手を伸ばすが、しおりは私の手をすり抜けていく。

姫「ちょっ、待ってぇ!!」

しかししおりは窓の外に飛んで行った。私はすぐに図書室を飛び出す。

一方頭の片隅に、疑問があった。
風が吹いたのは窓とは反対方向から――どこから吹いた風なの?

183 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:50:58.87 ID:8ET0rAO30
姫「あった…」

しおりはすぐに見つかった。図書室の窓の外の地面に落ちていた。
もう手放すまいと、それを拾い上げる。さぁ、図書室の片付けをしないと…。

その時、気がついた。

姫(…あら?)

城の裏口の様子が目に入る。
いつもは見張りを立てているのに、今は誰もいなかった。

姫(今なら抜け出せる…)

良からぬ気持ちが沸く。
抜け出してどこへ行こうというのか。

姫(だけど…)


王『婚姻解消が決まったら、お前は勇者と結婚しろ』

勇者『姫様…陛下のご命令です』


現状は最悪。状況が良くなる気はしないが、今より悪くなる気は何故だかしなかった。

姫(…よし!)

ベンチに置いてあった、庭師の上着を拝借し少しでも目立たないようにする。
こうして私は無計画のまま城を飛び出した。

184 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:51:30.62 ID:8ET0rAO30
姫は気付いていなかった。

勇者「…姫様?」

その様子をたまたま、勇者が目撃していたことを。

勇者は、今すぐ連れ戻さねば――と思ったが、同時に。


姫『…最低!』バチーン

勇者『っ!!』

姫『離れて!早く!!』


姫に拒絶された時のことを思い出し、体が強ばる。

勇者(もし、また拒絶されたら――)

城を抜け出した姫を連れ戻すというのは、勇者としては真っ当な業務。
だけど怖くて、それができない。きっと自分はまた傷つくのだろうと思ってしまって。

勇者(…だが放っておくわけには)

勇者「…」

185 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:52:14.20 ID:8ET0rAO30
>一方魔王子

ここは――

彼は秘密基地の中心に立っていた。だが視界はいつもより低い位置を映していて、地面の花がいつもより近い。
それもそうだ。魔王子の体は幼少期に戻っていた。
夢の中にいる彼は、その状態に疑問を持たない。

そんな彼の目の前には――

魔王子「君は――」

少女の後ろ姿があった。艷やかな髪を長く伸ばした、自分より小さな少女だった。
その顔は見えない。だけど彼女の姿を認めた途端、何だか懐かしい気持ちがこみ上げてきた。

魔王子(この子は確か…)

幼少期のわずかな期間を共に過ごした少女。
自分に初めて、恋でときめく気持ちを教えてくれた少女。
人間に拒絶される痛みを知るきっかけになった少女――

「…」タタッ

魔王子「あっ!」

少女は振り返ることなく、そこから駆けていく。
魔王子はとっさに少女を追いかけた。

魔王子「ま、待って!」

「…」

それでも少女は魔王子が見えていないかのように、彼を無視して駆けていく。
彼女が駆けるのは、魔王子が見知った道。
少女に追いつくことができない。それでも見失わないように、ひたすら彼女を追いかける。疲れがないのは、夢の中だから。

魔王子「あっ…?」

少女が立ち止まった。
彼女の目の前には結界が張ってあった。魔王子を国の外に出さない為に張ってあるそれは、彼女の行く手をも阻む。

魔王子「あの…」

結界に触れている少女に近づく。この子は、何をしているのだろう?
と、その時だった。

「…」

魔王子「!?」

少女が触れていた結界が消えた。
これは、一体…?

呆気に取られいると、少女はゆっくり振り返り――


魔王子「…姫様?」


夢は、そこで途切れた。

186 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:52:52.20 ID:8ET0rAO30
魔王子「はっ!?」

目を覚ました魔王子は、ぼーっとした頭を覚醒させながら状況確認する。
そうだ。どうしてか急に意識が遠くなって、倒れてしまったんだ。体調管理は万全だったはずなのに、おかしい。

それに――

魔王子(今の夢…)

はっきり覚えていた。
最後に見た顔――姫の面影を残す少女。あれはこの場所が見せたのか、それとも姫を恋しく思う気持ちが見せた夢なのか。

魔王子(あの子が行った場所は…)

魔王子も知っている場所だ。山道にある国境で、あそこを通る者はいないので警備もいない。
だけど結界はしっかり張っているはずだ。ここから馬を走らせれば、そう遠くないが…。

魔王子(…ん?)

ふと、服に引っかかっていたそれを手に取る。
この秘密基地に咲く花だ。倒れた拍子に、引っかかってしまったのだろう。

魔王子(この花は魔力の宿る花…こいつが見せてくれた夢だとしたら…)

光る花を見つめながら、魔王子は考えていた。
そして考えるというのは、彼の性には合わず。

魔王子(とりあえず行ってみるか!)

次の瞬間には行動する為、足を動かしていた。

187 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:53:28.53 ID:8ET0rAO30
魔王子(ここだな)

道中、誰かと鉢合わせることなく国境に着いた。
けど夢で見た光景とは違い、結界は張ってあるままだ。

魔王子(ま、そりゃそんな上手くはいかんわな)

期待が小さかった分、そんなに落胆もしなかった。
だけどあそこであの夢を見たことに、何か意味を見出したくてたまらなかった。

魔王子(結界無理矢理突き破ったらどうなるかなぁ?)

全身大火傷で済めばいい方だろう。
そんな怪我を負えば、姫に会いに行く前に力尽きてしまう。

魔王子(こんなことなら魔法についてもっと勉強しておくべきだったかなー…)

とはいっても、魔法適正の低い自分じゃ勉強した所で大して実にはならなかったろうが。

その時、ビュンと風が吹いた。

魔王子「あ」

その拍子に胸ポケットに入れていた花が飛ぶ。
花は真っ直ぐ結界に向かっていき…

バチバチバチィ

魔王子「うわぁ!?」

魔力と魔力がぶつかったせいか、物凄い衝撃が響いた。
魔王子はとっさに耳を塞ぐ。

魔王子「~っ…ん?」

キーンとする耳にクラクラしながらも、目の前の光景にはすぐ気がついた。

魔王子(…は?結界が部分的に消えている?)

魔王子は地面に落ちた、焼け焦げてしまった花を拾い上げる。
その花は光を失い、魔力もほとんど残っていない。

魔王子(まさか、この花が…?)

こんな小さな花に、それだけの魔力が…どうにも信じられない事態だったが。

魔王子「さんきゅ。後は姫様の所まで、俺の力でたどり着いてみせるよ」

奇跡を信じることにして、花に感謝を述べた。
花の墓…というのは間抜けだが、他に弔う方法も思い浮かばずに花を土に返し、魔王子は馬を走らせた。

188 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:54:09.63 ID:8ET0rAO30
国境を越えた後はスムーズだった。今は自然の多い緩やかな山道を走っている。
まさか誰も自分が結界を突破したなんて思っていないだろうから、追っ手の心配はない。
姫の母国に入ったことは数える程度しかないが、地図は頭に入っている。馬を走らせれば、今日の夜には城に着く。

魔王子(その後は――)

気難しいと聞く姫の兄王を説得するのは難しい。
けど姫をさらって駆け落ちするなんて、犯罪者のような真似はできない。

それでも今は、姫の声を聞きたい。彼女の気持ちを知りたい。
弱ってなんていられない。彼女への気持ちは、そんなに脆いものじゃない。

魔王子(気合い入れていきますかー!!)

そう、気持ちを燃え上がらせていた、その時だった。

魔王子「…っ!?」

戦慄。直感が魔王子を振り返らせた。
そしてその判断は、間違っていなかった。

魔王子「く…っ!!」

魔王子はとっさに馬から飛び降りる。勢いよく地面に落下したが、受け身を取ってダメージを軽減する。
そして自分がいた位置には…

ビュンッ

魔王子「…っ!!」

火の玉がそこを通り過ぎた。
馬から飛び降りなければ、あれに直撃していた――

「流石魔王子、いい反応だ」

魔王子「お前っ――」

そして魔王子は振り返り、そこにいた人物を睨みつけた。

189 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:54:37.78 ID:8ET0rAO30
この考えに至るきっかけは、メイドのあの言葉だった。


メイド『けど、従者なら堂々と城を歩き回れますよね。変装なんてしなくても――』


変装は自分の正体を隠す為のもの。だが、あの変装で城内を歩き回ればかえって目立つ。
俺を殺すつもりなら、俺を襲う直前に覆面を被る方がリスクは少ない。だが不審者として目撃された時、俺は全く違う場所にいた。

なら何故従者は変装していたか?考えられる可能性といえば――2人に見つかった不審者、あいつは従者ではないということだ。

だが本当に俺を狙っている奴は、従者に罪をなすりつけようとしていた。
だから従者に、俺の寝込みを襲った奴と同じ怪我をさせた。

そしてあの日――2人に見つかった不審者は城内を騒がせた後、誰もいない所で覆面を脱いだ。
それから従者を捕らえて、覆面を被せて――

190 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:55:13.52 ID:8ET0rAO30
悪魔「叔父に対してお前、はないんじゃないか。魔王子」

魔王子「…」

翼を広げ地面に降り立つ悪魔の温和な笑みの前にも、魔王子は警戒をとかない。

魔王子「…奇襲とは趣味の悪い。下手すりゃ…」

悪魔「ああでもしないと止まらないだろう、お前。それにお前があの程度で…」

魔王子「死ねば、都合が良かったんでしょうけどね」

悪魔「!?」

魔王子は敵意剥き出しで剣を構えた。
悪魔は理解できない、といった顔をした。だが魔王子に、悪魔の芝居に付き合う気はない。

魔王子「俺の命を狙い、従者に罪を被せようとしたのは――叔父上、貴方でしょう」

悪魔「…」

沈黙。しかし悪魔は不敵な笑みを返した。
魔王子はそれを肯定と受け取る。瞬時、敵と判断し悪魔に向かっていった。

197 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:47:24.14 ID:6xtssEe/0
悪魔「驚いたな、お前にも考える頭があったとは」

悪魔は片手で魔王子の剣を受け止める。

魔王「俺が死ねば王位継承の権利はアンタに移る。それを狙ってんのか?」

悪魔「まぁ、それもある」ブンッ

悪魔が振り放った腕を、魔王子は即座に回避。
だがすぐに攻撃を続けた。

魔王子「やり方が回りくどいな…何で姫様や従者になすりつけようとした?」

素早い剣撃を何発も繰り出す。
だが悪魔は怯むことなく、それを的確に受け止めていた。

悪魔「むしろお前を消すことそのものよりも、そちらの方が重要だ」

魔王子「どういう意味だ」

悪魔「わからんか」

悪魔は数発の火の玉を放つ。

魔王子「わかんねぇよ!」

魔王子はそれを軽くかわした。

悪魔「ならもう少しヒントをやろうか。姫君や従者への疑いは、向こうの国王にも向く…」

魔王子「…まさかとは思うが」

あまりにも馬鹿馬鹿しい予想に、魔王子は苦笑いを浮かべた。

魔王子「両国の間に亀裂を入れることが目的だったのか?」

悪魔はその返答を、不敵な笑みでもって返した。

198 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:47:56.12 ID:6xtssEe/0
魔王子「アンタがあの国に恨みを持っていることは知っていたけどよ…」

悪魔は昔、姫の母に騙され、国に殺されかけた。

魔王子「けど両種族が争っている時代に、人間の国で遊び歩いていたアンタにも非はあるんじゃないか」

悪魔「耳が痛い…」フッ

魔王子「昔の恨みで両国巻き込んで和平にヒビ入れようとは、見逃せねぇな。ブッ倒して全部親父にチクってやる」

悪魔「俺の気持ちを理解しろとは言わん…だが魔王子、お前も姫君が関わると冷静ではいられまい?」

魔王子「あ?」

悪魔「このまま離縁され、姫君が勇者の妻になれば――お前もあの国を憎むだろう」

魔王子「一緒にするんじゃねーよ」

魔王子はためらうことなく答えると、大きく跳躍した。

魔王子「…っつーかそうなったらアンタのせいだろ!!」ビュンッ

悪魔「っ!」

大振りの一擊を寸前回避…されたが魔王子は手首をひねらせ、剣先を悪魔の喉元に当てる。

魔王子「アンタのしていることは、ただの八つ当たりだ!」

悪魔「フッ…そうだな」

悪魔は少しも抵抗の素振りを見せない。魔力を手に溜めている様子もない。

悪魔「あぁ八つ当たりだ――だが俺1人が望んでいることではない」

魔王子「何だと」

悪魔「忘れたか?俺には――」

魔王子「――」

途端、腹が熱くなり、急激な痛みが走った。

199 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:48:30.33 ID:6xtssEe/0
魔王子「グ…」

魔王子は膝をつく。腹には貫通した穴。
やられた――腹を貫通した魔法弾が飛んできた方向を睨む。
睨んだ先の木の陰で、何者かが魔力を放出したての手をこちらに掲げていた。

悪魔「俺には協力者がいただろう」

魔王子「俺を襲ってきた暗殺者どもか…!!」

完全に悪魔以外に注意を払っていなかった。これは自分の落ち度。
血が溢れる腹を抑え、悪魔と距離を取る。

魔王子「そいつらも争いを望んでいるってのか…!?何の為に!!」

悪魔「お前にはわかるまい」

悪魔はそう言って、手の中で火の玉を作り出す。

悪魔「魔物は古き時代、邪神が神々の国を侵略する為に生み出した戦闘民族…争いを望むのは本能。それが人間と和平を結び平和ボケしろだと?馬鹿げている…」

魔王子「馬鹿はそっちだろ」

魔王子は即座に反論した。

魔王子「争いを望むのは本能だ?本能のままにしか行動できない、理性のない馬鹿だって自分で言ってるぜ」

悪魔「だが、そんな馬鹿が多いのも事実。お前はそれでも魔王になった時、和平を持続できるか?」

魔王子「してみせる」

悪魔「フ…」

こんな状況にも関わらず強がりで堂々としている魔王子に、悪魔は苦笑する。

200 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:49:09.78 ID:6xtssEe/0
悪魔(流石兄上の息子か――だが、その態度が命を縮めるのだ)

悪魔は手の中にあった火の玉を、魔王子に向けて放った。
魔王子は腹のダメージのせいか、膝をついたまま、そこから動く様子はない。

魔王子「争いを望むのが本能ってんなら…」

魔王子は膝をついたままの姿勢で剣を振った。そして…

「ぐああぁぁ!!」

火の玉を剣で打ち返し、その火の玉は先ほど魔王子を襲撃した術者に直撃した。

悪魔「!!」

魔王子「魔物ん中で1番強くなりゃ、誰も文句は言えなくなるだろ…」

悪魔(あの姿勢からそんな技を繰り出すとは…)

悪魔も流石に、これには驚きを隠せない。

悪魔「だが所詮は手負い…!!」ドガッ

魔王子「っ!?」

悪魔は思い切り、魔王子の腹を蹴り上げた。
そして続けざまに、衝撃波を繰り出す。

魔王子「うわあああぁぁっ!?」

魔王子は衝撃に耐えられず吹っ飛ぶ。
今ので悪魔は力を大分消費したが、魔王子には致命的なダメージを与えたはず…疲れと安堵から、悪魔はふうとため息をつく。

魔王子は思ったより飛び、段差に落ちてその姿を草の中に隠した。
だがあの怪我ではろくに動けまいと、悪魔はゆっくり呼吸を整えていた。

201 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:50:34.16 ID:6xtssEe/0
魔王子(くっ…)

魔王子は傷口を抑えながら、痛みを堪え、這いつくばっていた。
この怪我では悪魔に勝てない。そう判断し、ここから逃げることを選択した。

悪魔「どこへ行った、魔王子?」

魔王子「…っ!!」

悪魔の声はまだ遠い。

悪魔「まぁ、その体ではそう遠くまで逃げられまい?」

魔王子(くそ…!!)

今更ながら、慢心していた自分に腹が立つ。
背の高い草の陰に身を隠し、息を殺していた。心臓はバクバクいって、頭はどうしても冷静になれない。

魔王子(死ぬわけにはいかない…)

もしこの国で死ねば、魔物達に更なる誤解を与え、両国間に決定的な亀裂を与えかねない。
それに自分が死んで王位継承の権利が悪魔に移れば、確実に争いを起こす。

魔王子(それに…)

死ねるわけがない。最愛の人と、あんな別れ方をしたままじゃ。

魔王子(姫様…)

202 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:51:09.24 ID:6xtssEe/0
魔王『お前…今日は姫君との顔合わせの日だと伝えておいたが?』

魔王子『わりわり。忘れてた』


自分は最初、結婚話に乗り気ではなかった。
まだ精神的に小僧な自分に、妻なんて持てるわけがないと思っていた。


魔王子『宜しくなぁ、お姫様~』

姫『え、えぇ…』


初めて見た時の姫も何だか不安そうで、自分より小さな存在に見えて。


魔王子『こんなバカ王子と結婚するなんてー、って思わなかった?』

姫『え、あ、いえっ!』アワワ


一挙一動が可愛くて。


姫『種族なんて関係ありません』


優しそうな女の子で。


魔王子『夫として精一杯努めますので…宜しくお願いします』

姫『――こちらこそ』


この子を守ってみたい。この子となら結婚してもいい――そう思えた。

203 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:51:58.61 ID:6xtssEe/0
魔王子(その後も色々あったなぁ)


姫様を守っていくと俺は決意していた。
だけど勇気が出なくて逃げていた俺に、姫様は夫婦としての段階をゆっくり踏んで行こうと言ってくれた。
俺のつまらない嫉妬に嫌な顔一つせずに、そんな俺も嫌いではないと言ってくれた。
ガキっぽさの抜けない俺に、いつでも優しい笑顔を向けてくれた。

いつしか、姫様は俺にとって守るだけの存在ではなくなって――

姫様が支えてくれるから俺は真っ直ぐ立っていられる――そんな存在だった。


魔王子(って、何で過去形なんだよ…)


気持ちでは「これから先の結末」を受け入れていない。
だがそれは感情的な方の自分で。

悪魔「いい加減観念しろ魔王子。それとも――」


もう一方の冷静な自分は、頭の片隅で


悪魔「今頃走馬灯でも見ているのか?」


このまま死ぬのだろう、って思っていて――


悪魔「ここか――っ!?」ガサッ


魔王子(姫様…っ!!)

204 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:52:33.67 ID:6xtssEe/0
悪魔「…いないか」

魔王子「~っ…」

間一髪、見つかるのを回避し、悪魔はそこから離れていく。

口を塞ぐ手の指の隙間から息が漏れる。冷や汗と吐息がその手を濡らしていた。

だけど悪魔のことは頭の片隅に追いやられ、今は目の前にある驚きがそれを上回っていた。
危うく見つかる寸前、ろくに動けない自分を引っ張って悪魔から姿を隠してくれたのは――


魔王子「姫…様…?」


その手の隙間から、掻き消えそうな声で魔王子はその名を呼んだ。

死ぬ前に幻が見えたのかと思った。
だけど幻にしては、自分を抱きしめる彼女の感触は柔らかくて、暖かくて。


姫「魔王子様…」


その澄んだ目も、不安に歪んだ繊細な表情も、か細い声も全て――


魔王子「姫様…本当に、姫様なんだね――」


これは現実なんだと、ようやく理解が追いついた。
魔王子の中には、やっと姫と会えた喜びが広がっていた。
欲を言えばこんな状況でじゃない方が良かったけれど。

205 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:53:38.98 ID:6xtssEe/0
魔王子「姫様…何でここに?」ヒソヒソ

姫「これです…」

姫が取り出したのは押し花のしおり。光こそ失っているが、秘密基地の花に違いない。

姫「城を抜け出したら、これの強い香りがして…香りを追ってきたら、ここに…」

魔王子「…そうか」

魔王子はすぐにその話を受け入れた。その花には、先ほど自分も世話になったばかりだ。
花が自分と姫を引き合わせてくれた――自然とそんな考えに行き着く。

姫「ところで何故悪魔様が――魔王子様、今傷を治癒します」

魔王子「…っ、それは待…」

止める前に姫は魔王子の腹に手をあて、魔法を繰り出す。
もう手遅れか――魔王子は手を伸ばし、剣を手に取る。


悪魔「そこか!」

姫「ひぃ!?」ビクッ

姫は急に見つかったことを驚いている様子だ。
そりゃあ、急に回復魔法で魔力を使えばそれを察知されるだろう…と思ったが、口には出さない。

魔王子「姫様、さんきゅ。下がってな…」

姫「だ、駄目です!まだ中途半端にしか塞がってません…」

悪魔「おやおや、何故こんな所に姫君が…?」

魔王子は姫を庇うように、彼女の前に立つ。このままなら悪魔は、口封じに姫も殺すだろう。
傷口はまだ痛むが、さっきよりは全然動ける。だから何としても姫を守らないといけない。

206 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:54:28.20 ID:6xtssEe/0
姫「あ、悪魔様だったんですか…!?魔王子様の命を狙っていたのは…」

悪魔「知ったからには生かしてはおけんな」

姫「ひっ!?」

魔王子「させるかよ!」

魔王子はすぐさま悪魔に飛びかかる。だけど痛みでいつもの動きができない。
その分手数を増やし、悪魔に反撃の隙を与えなかった。

悪魔「チッ…半端に強いから面倒だ」

悪魔は後ろに大きく跳躍した。

悪魔「仕方ない。大分力を消費するから、これはやりたくなかったが…」

魔王子「!?」

悪魔の手に膨大な魔力が集中する。
そしてそれは巨大な、5メートルくらいある炎の剣に形を作った。

悪魔「今のお前にこれをどうにかはできない」

魔王子「これは…」

本格的にまずいと、魔王子は冷や汗をたらした。

207 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:55:11.82 ID:6xtssEe/0
悪魔「姫君を連れ出した魔王子による無理心中…そういうシナリオでいいかな」

悪魔は不敵に微笑みながら、近寄ってくる。
まずい、このままじゃ…。

魔王子「姫様、逃げな…あの坂を登れば俺の馬がいるから」

姫「で、でもっ!」

わかっている。姫が自分を置いて逃げられる性格じゃないと。

魔王子「まだ俺、全然戦えるから。姫様がいると集中して戦えないよ」

だから嘘をつく。

魔王子「それより、会えたら言いたかったことあるんだけど――」

でもそれを言えば、姫は逃げられなくなるだろうから。

魔王子「後で言うわ」

できない約束をした。

悪魔「さぁ行くぞ、魔王子…!!」

魔王子「あぁ…!!」

せめて姫が安心して逃げられるよう、それまで全力で戦う。ダメージのせいで、長時間は戦えないだろうけど。
悪魔と対峙しながら姫の様子を伺う。不安そうな様子ながらもゆっくり立ち上がり、自分の指した坂を見ている。

それでいい。そのまま逃げてくれれば――だけど、

悪魔「逃がさん!」

魔王子「!?」

悪魔は翼を広げ魔王子を乗り越え――向かう先には、姫。

魔王子「やめろ――っ!!」

魔王子はすぐさまダッシュする。

それだけはさせない。そんなこと、あっちゃいけない。

悪魔に剣を向けられ、怯んでいる姫を庇うように、魔王子は両手を広げて立ちふさがった。

姫「魔王子様!?」


姫様、俺――


魔王子「大丈夫だから…」

その微笑みは最後の嘘。


俺は姫様のこと――


悪魔「死ねえええぇっ!!」

魔王子「―――っ!!」


――心の底から、愛しているよ

212 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:03:36.95 ID:MBhieQVp0
シュッという風を切る音が静かに鳴った。
その音は自分の命を奪う音――魔王子は一瞬、そう錯覚した。

悪魔「何…!?」

魔王子「…!?」

だが、それは違った。

悪魔の手にあった炎の剣は掻き消えていて、自分もダメージは負っていない。

姫「ど、どうして…!?」

魔王子の代わりに、姫がその言葉を口にする。
だがそいつは、事も無げに言い放った。


勇者「姫様の身が危険に晒されている――なら当然の事」

213 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:04:03.12 ID:MBhieQVp0
魔王子「姫様…勇者と一緒に来たの?」

姫「い、いえっ!?」

勇者に尾行されていたとは知らない姫は即座に否定した。
だが勇者はそれを言わず、ただ悪魔に向き合う。

悪魔「王国一の剣の使い手である勇者か…面白い」

勇者「笑っている余裕があるのか?見た所かなり疲れているように見えるが」

悪魔は図星をつかれていた。魔王子と姫を葬る為に作り出した剣は、彼のスタミナを相当消耗していた。
万全な時に戦っても手強いであろう勇者に今は勝ち目がないだろう――正々堂々と戦えば。

悪魔「全く、仕方ないな…出てこい!」

魔王子「!!」

姫「あっ!?」

悪魔の呼びかけにぞろぞろと、隠れていた魔物達が姿を現す。
その数、約10人程度。

魔王子「まだ潜んでやがったのかよ…!!」

勇者「だからどうした?」

魔王子「あ?」

勇者はフンと鼻を鳴らし、剣を構える。

勇者「この程度の数で俺が苦戦すると思われるのは心外だな…まぁ、お前には荷が重いかもしれんがな」

魔王子「何だと~…俺だって怪我さえしてなけりゃこの程度なー!!」

勇者「わかったから黙っていろ。声が邪魔だ」

魔王子「」ムカ

214 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:04:28.30 ID:MBhieQVp0
姫「ま、魔王子様!今のうちに治癒を!」

魔王子「お、おう…」

勇者は前の方に躍り出て、襲いかかる魔物の攻撃をかわし見事な剣技を繰り出す。
不利な状況だと思わせない程見事な戦いぶりに、魔王子は目を奪われる。

魔王子(こりゃ…俺より強ぇかもな…)

姫「もう少しかかります、ごめんなさい…!」

魔王子(姫様、勇者と…)

姫「…?どうしました魔王子様?」

ここに来る前は自分と姫は相思相愛だと強気でいられた。
だけど実際姫の顔を見て、勇者の活躍を見ると気持ちが弱ってしまって。

魔王子「すげぇ奴だな…勇者って…」

姫はキョトンとした顔をしていた。だけどすぐに、ニッコリと優しい微笑みを浮かべた。

姫「そうですね…でも――」

魔王子「――っ」

額への不意打ちの口づけ。一瞬だったけど、頭が真っ白になった。

姫「私は貴方一筋、ですから…」

魔王子「…」

真っ直ぐな瞳。
当たり前のことだった。姫が他の男に心移りするわけない。それなのに自分はまたつまらない嫉妬をして…。

魔王子「姫様ありがとう…もう大丈夫だから、下がってな!」

恥ずかしい気持ちを誤魔化すかのように立ち上がり、勇ましく言った。

215 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:05:01.62 ID:MBhieQVp0
悪魔(馬鹿な…)

大勢とはいえ、勇者を討てるとは思っていなかった。
ただ自分が体力を回復させるまでの時間稼ぎでもできれば――その程度に思っていたが。

悪魔(まだ1分も経っていないというのに…!)

勇者「増援はこれで終わりか?」

勇者の足元には、戦闘不能になった全ての手駒が倒れていた。

魔王子「後は叔父貴だけか…」

勇者「ん」

怪我を回復させた魔王子は、勇者の横に並ぶ。

魔王子「助かったぜ勇者…後は俺がやるから」

勇者「当然だ」

魔王子「は!?」

思ってもいなかった返答に、魔王子は呆気に取られる。

勇者「お前が我が国に呼び込んだ災厄だ。責任持って何とかして貰うのは当然」

魔王子「…」

正論なんだが腑に落ちない。

魔王子「まぁいい…終わらせるか、叔父上」

悪魔「…っ」

今の悪魔に、勝ち目はなかった。

216 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:05:30.81 ID:MBhieQVp0
悪魔(何故、こいつらは――)


『助けてくれてありがと。お兄さん、最高にかっこいい!』

悪魔は、昔を思い出していた。

『賭博も程々にしなよー?遊び人なんて、若い内しか許されないよ!』

顔は姫と似ている女。だけど性格は正反対で。

『あっはっは、悪魔がいいとこの坊ちゃんだってー?冗談きっついよ、それー』

気さくで、大きな口を開けて笑う女だった。

だけどその女と知り合ってから、自分の命を狙う奴が現れるようになって。

『悪魔、こっち!!隠れて、早く!!』

その女にはよく助けられた。
自分といたら危険――そう思って、その女とは縁を切ろうと思ったが。

『馬鹿言わないでよ!』

別れを告げた日、女は激昴した。

『命を狙われてるから危険!?わかってるよそんなの…でも、私に守らせてよ、貴方を…!!』

その女にとっての精一杯の力で、服をぎゅっと掴まれた。
振り払おうと思えば容易かった。だけど自分は、それができなくて――

『一緒にいたいんだよ、悪魔ぁ…』


その言葉を信じてしまう程、盲目になっていた。


悪魔「が…っ」

正面から切られて倒れるまでの間、悪魔は回想に浸っていた。


魔王子「…殺しはしない。生きたまま国に帰って、親父に全部吐いてもらうぜ」

217 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:05:58.92 ID:MBhieQVp0
姫「魔王子様…お怪我はっ」

魔王子「こら」コツン

姫「きゃっ」

すぐに駆け寄ってきた姫を、魔王子は軽ーく小突いた。

魔王子「俺の活躍見てなかったの?怪我するどころか、攻撃ちっとも当たってねーよ」

姫「え、うぅ…」

魔王子「うお!?ご、ごめん、怒ってないよ!!」アセアセ

姫「違うんですー…ご無事で、良かったと…」グスッ

魔王子「泣くなーって。大丈夫って言ったろ、な、な?」ヨシヨシ


悪魔「何故だ…」

魔王子「あ?」

地面に仰向けに倒れた悪魔は、心底理解できないといった風に呟いた。

悪魔「何故お前達はそれ程信じ合い、愛し合うことができる…魔物にとって人間は戦うべき相手であり、人間にとって魔物は脅威の存在のはず…」

だから、自分は彼女に裏切られた。

悪魔「あの女は、その姫君のように――まるで悪意を感じさせない、全く同じ顔で、俺を裏切った…!」

自分は信じていた。想っていたから、信じられた――

悪魔「魔物と人間は通じ合えん!お前達も、いずれ…」

姫「…悪魔様」

姫は悪魔に、静かに声をかけた。

218 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:06:30.70 ID:MBhieQVp0
姫「私、貴方から母の話を聞いてから考えたんですけれど――」

記憶にはない母。肖像画でしか見たことはないが、私と似た顔をした母。
悪魔はきっと私に母を投影し、憎んでいたのだと思う。
だからこそ、これだけは言いたかった。

姫「おっしゃっていましたね。母は貴方を何度か助けた、悪意のない顔を向けていたと」

悪魔「俺を信じさせる為にな…恐ろしい女だ」

姫「私は、そうとは思えません…」

悪魔「何だと」

私が生まれる前に死んでしまったから、本当のことはわからない。だけど――

姫「母は貴方を――本当に想っていたのではありませんか」

悪魔「!?」

自分の嫁ぎ先の国が悪魔を狙っていたから、彼を守りたかった。
悪魔にだから、素直な笑顔を向けることができた。

だけど母が父のもとに嫁いだことで、悪魔は母の正体を知り、誤解した。

悪魔「俺の誤解だと…!?そんなのは推測に過ぎんな!」

姫「貴方のおっしゃる「悪意」も、推測に過ぎません」

悪魔「…っ」

その推測は、都合よく組み立てられた妄想かもしれない。
だけど母なら。私と同じ血が流れる母なら――

姫「そんなに器用に人を騙せる人じゃない――私はそう思います」

悪魔「…!」

219 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:06:58.49 ID:MBhieQVp0
悪魔(あいつは…俺を騙していなかった?)

長年、騙されたと思ってきた。

だが少なくとも、自分の記憶の中にいるあいつは――


『もー悪魔ったら意地悪だなー』プンプン

『うわぁ、すっごぉーい!!カード遊び極めてるんだねー悪魔!』

『良かった…悪魔、無事で良かったぁ…』


感情豊かで、ストレートな物言いをする、裏表が無い女だった。

その顔、言葉、全て本当だったとしたら――

悪魔(あいつと過ごした時間…それは嘘でなくて…)

今となっては確かめる手立てがない。
彼女は他の男の妻となり、もうこの世にはいない。

だけど、そう考えてもいいのなら。あの時間の全てが本当だという可能性があるのなら――

悪魔(信じても――いいのか?)

それは悪魔の中で、小さな希望を生みつつあった。

220 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:07:28.37 ID:MBhieQVp0
姫(悪魔様…気持ちが楽になったかしら)

魔王子「姫様ー!」ギュッ

姫「きゃっ!?」

魔王子「やっとイチャコラできるわ~、姫様~ぁ」ナデナデナデナデ

姫「あっ、あの、魔王子様ぁ!?」

魔王子は私を抱きしめ、もみくちゃにする。
そりゃあ嬉しい。嬉しいけど、今は――

勇者「おい」ゴン

魔王子「いでぇ!?」

勇者「今はそれ所じゃないだろう馬鹿王子。後始末があるんだろう」

魔王子「だっ誰が馬鹿王子だ!」

勇者「お前以外誰がいる」

魔王子「ほー…?喧嘩売ってるんですねー?」

姫「ま、まぁまぁ」

221 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:07:59.44 ID:MBhieQVp0
勇者「…まぁいい。そいつらはそちらの国で裁くべきだろう。今、護送用の馬車を手配してやる」

魔王子「そりゃどうも…」

それから魔王子は私の方を振り返った。

魔王子「姫様、俺はこいつらを国に護送しなきゃならねぇ。けど近い内に、また会いに来るから」

姫「…えぇ」

口ではそう返事したけれど、本当はちょっと不満。
せっかく会えたのだから、まだ一緒にいたい――けど、彼を困らせてはいけない。

姫「待っていますね、魔王子様」

魔王子「うん。それまで――」

姫「あ――」

不意に唇を奪われる。それは濃厚に吸い付いてきて、荒くなる息使いが彼の興奮を教えた。
このまま全てを奪われてもいい――そう思ってしまって、離れることができなくて。

魔王子「…ぷはっ」

先に唇を引き離したのは彼の方だった。
私はそれに未練を抱いたけれど。

魔王子「少しの間、お互いに我慢――な?」

姫「…はい!」

224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/10(火) 17:22:50.52 ID:zf0gR/gcO
よかった...ホッ

225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/10(火) 17:29:50.26 ID:yNjbqApDO
イチャイチャ…w

226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/10(火) 22:59:13.43 ID:Xmf6FIluO


227 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 09:56:24.15 ID:gnffr16D0
魔王子と別れて2日経過した。

魔王からは、事の顛末が詳細に記された手紙が届いた。
悪魔が自分の犯した罪を認めた為、彼は魔物の国の法に則った罰を与えられる。
私や従者の容疑は晴れ、私達の名誉は回復したそうだ。
悪魔の娘である妖姫は父の件で居づらくなったのか、城を出て行ったらしい。

これで問題は解決された。そう思っていたが――

王「魔物達の内部争いか…やはり魔物はどうしようもないな」

どうにも兄の気持ちは動かないようだった。

王「今回は首謀者を捕らえることができたが、まだ人間との争いを望む魔物はいるかもしれない。これから先も、こういったトラブルが起きる気がするな」

姫「魔物に限った話ではありませんよお兄様。人間にだって、争いを望む者がいるかもしれないです」

王「あぁ、いるだろうな。やはり和平など不可能ではないか」

姫「それは…」

人間同士にだって争いがある。人間と魔物は、互いの溝がそれより少し深いだけ。
だけど魔物への差別意識が根付いている兄を納得させる言葉は見つからなくて。

姫(どうすればいいんだろう…)

言葉を選びながら、困り果てていた。
その時だった。

228 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 09:56:54.02 ID:gnffr16D0
文官「陛下ーっ!!」

王「ん…?どうした」

文官「魔王子殿がいらっしゃっています…」

姫「魔王子様が!?」

王「む、来るとは連絡が無かったが。まぁいい、通せ」

文官「それがですね…困ったことが」

王「?」

姫「?」

229 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 09:57:49.47 ID:gnffr16D0
>城門前

ザワザワ

門番「あのー…人目が気になるんで、入って頂けないでしょうか…」

「なぁ、あれって…」
「間違いない、魔王子だ…」

王「何だ何だ…」

姫「あれ…?」

城門前には人だかりができていた。
その人だかりの視線が集中している所を見ると…。

姫「魔王子様…?」

魔王子が、城門前で正座していた。
何名かの門番がそこから離れるよう彼に説得を試みているが、彼は頑として動かない。

と、その時。魔王子はこちらに気付いたようで「あっ」と声をあげた。

姫「あのぅ…何をされているんですか?」

魔王子「…国王陛下、姫様!!」

彼はそう叫ぶと――

魔王子「大変、申し訳ございませんでしたああぁぁっ!!」

姫「!?」

王「!?」

物凄い勢いで、地面に頭をこすりつけるように土下座をした。

230 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 09:58:29.06 ID:gnffr16D0
魔王子「今回の件は俺の不足が招いた事態!!姫様を守ることもできず、そちらの国の方々には多大なる心労をおかけしました!!」

王「お、おい…」

場が更にざわめき始めた。流石の兄もこれには戸惑いを隠せない。

姫「あ、頭を上げて下さい魔王子様」オロオロ

魔王子「そうはいかない!!今日はこの魔王子、姫様を敬愛する者達に石を投げられる覚悟で来ました!」

私を敬愛する者達というのは、恐らく国の民のことだろう。
民達も互いに顔を見合わせ、困惑する。

国民達は事の顛末を知らない。だから魔王子にどの程度の非があるのかも知らない。
だというのに、わざわざこんなことをするなんて――

姫(どうしよう…魔王子様、頑として動かないつもりだわ)

魔王子「ですが!!」

と、魔王子の手が震え出した。

魔王子「この魔王子、姫様を愛する気持ちは揺らいでいません!!」

姫「!?」

王「な…」

公衆の面前での大胆な告白に、私は頭が爆発しかけた。
誰もかもが呆気に取られている。

それでも魔王子が上げた顔は――その目は、真っ直ぐで。

魔王子「お願いします…もう1度、俺に姫様の夫となるチャンスを下さい!!」

姫「魔王子…様…」

231 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 09:59:16.14 ID:gnffr16D0
と、その時。

勇者「おらーっ!!」ドガッ

魔王子「ぶべっ!?」

姫「勇者様!?」

そこに急遽乱入した勇者が魔王子を思い切り蹴り飛ばし、魔王子は思い切り吹っ飛ばされる。
私はすぐに勇者に抗議する。が。

勇者「石を投げられる覚悟で来たと言っていたでしょう」

勇者はさらりと一蹴した。

そして、呆気に取られている兄に振り返った。

勇者「陛下、チャンスを与えてやってはどうです」

王「勇者!?」

兄は勇者の言葉に驚く。

勇者「この者、自分の命を省みず、身を挺して姫様を守ろうとした程です。その気持ちは真剣でしょう」

姫「勇者様…」

勇者「それに…」


「おい、もう姫様を泣かせるんじゃねーぞ!!」ドガッ
「姫様は俺たちの女神だからな!」ドゴッ
「しっかりやれよ!」ボカッ

魔王子「いでっ、いでっ!!」

姫「きゃああぁ、皆さん勘弁してあげて下さい~」オロオロ


勇者「あの者は民の心を掴んだようです」

王「…」

232 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 09:59:53.10 ID:gnffr16D0
王「おい」

魔王子「ん…?」

魔王子をボコボコにしていた民は、国王が近づいてきたことで一旦引き下がった。
それから、兄と魔王子は向き合った。

王「その言葉に、偽りはないな…?」

魔王子「はい」

王「…もしもまたこのような事態に陥り、和平にヒビが入るような事があれば…!」

兄は腰の剣を抜き、魔王子に突き付ける。
威厳に満ちた兄の姿に、周囲はしんと静まり返る。

魔王子「その時は是非、俺を罰して下さい」

だが魔王子は、怯むことなく答えた。

魔王子「誓います…俺は姫様を、いかなる時も愛し、守りましょう」

王「…」

兄は黙って剣を納めた。
その眼差しは強いままだったが、やがて沈黙の中、一言。

王「その言葉、忘れるなよ…」

兄はそう言って振り返り、城まで戻っていく。
場はまだ静まったままだ。状況の理解が、追いついていない。

姫(でも、これって、つまり…)

魔王子「…っしゃあ」

姫「え…?」

魔王子の顔は――最高の笑みを浮かべていた。

233 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 10:00:37.74 ID:gnffr16D0
魔王子「よっしゃ、姫様ああぁぁっ!!」

姫「あっ、魔王子様!?」

魔王子は私を持ち上げ、踊るようにくるくる回った。
と、思ったら。

魔王子「姫様…俺、不安だった…!」ギュウ

今度は、引き寄せるように抱きしめる。

姫「な、何が不安だったんですか…?」

魔王子「んー、まぁ色々だ、色々!」

姫「何ですかそれは!」

魔王子「ま、いいじゃん!俺たちまた夫婦に戻れるよ…!」

魔王子は顔は明るいけど、体は今にでも泣き出しそうな程震えていた。
そんな彼の体を、私も強く抱きしめる。

姫「私は、ずっと貴方の妻でしたよ」

魔王子「ありがとう…姫様、ありがとう」

姫「もう、何で…」

だけど、私の言葉は周囲の声にかき消された。声は私達を祝福し、暖かい空気で包んでくれた。

また、彼と一緒にいられる――幸せで胸がきゅんとなって、頭の中は彼一色に染まった。


勇者「おめでとうございます、お二方――」

姫「あ、勇者様…」

私が勇者の声に気付いて反応した時には、彼は既にこちらに背を向けていて。

勇者「お幸せに」

そう言い残し、勇者も城に戻っていった。


姫「あ…」

魔王子「どうかした、姫様?」

姫「…いえ」

私はすぐに魔王子に視線を戻し、彼に微笑んだ。


姫「帰りましょうか――魔王城へ」

234 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 10:01:13.35 ID:gnffr16D0
激動の時は過去のものとなり、平穏な時が過ぎていく。

魔王「この馬鹿息子が」グリグリ

魔王子「いでああああぁぁぁ」

姫「お、お義父様、その辺でご勘弁を…」オロオロ

メイド「今度は何をやらかしたんですか魔王子様。この間は式典を忘れて酔いつぶれ、その前は王家の家宝にチョコをつけたりしましたよね」

魔王子「いやー…羽目外しちゃって、中庭の小屋壊しちゃったんだよね~…」

魔王「責任持って直してこい、今すぐ!!」グリグリ

魔王子「わかりましたからあああぁぁ!!やめでえええええぇぇ!!」

姫「私もお手伝いします魔王子様」

魔王子「い、いや女性にさせる仕事じゃないし!姫様は待ってて」

姫「いいえ、私にもお役に立てることがあるはずです…一緒に行かせて下さい」

姫「それに夫婦連帯責任なら、魔王子様もちゃんと行動をお考えになるでしょう?」ニッコリ

魔王子「…はい」

魔王(姫君の圧力が…)

メイド(笑顔が怖い…)

235 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 10:02:15.40 ID:gnffr16D0
魔王子「ふー…作業も大分進んだなー」ゴロン

姫「お疲れ様です、お茶どうぞ」

魔王子「さんきゅ。おっ、茶菓子もある!これ手作り?」

姫「はい。頑張ったので、グレードアップです」

魔王子「そいや結婚したての頃、そんな約束もしてたなぁ。…甘くて美味~♪」

姫「結婚前の約束、覚えています?」

魔王子「ん…何だっけ?」

姫「色々苦労かけると思うけど、夫として精一杯努める…ふふ、その通りになっていますね」

魔王子「いやホントすみません」

萎縮する姿はまるで子供。

姫「でも、私も納得して来ましたから」

そんな彼と寄り添っていくと決めた。

姫「落ち着いてしまったら、魔王子様じゃなくなりますものね」

魔王子「フッ、よくわかってんね」

姫「うふふ?」ニコニコ

魔王子「すみませんっした」ドゲザ

ちょっとだけ、彼の操縦方法もわかってきたことだし。

236 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 10:03:19.38 ID:gnffr16D0
兵士「魔王子様、大変です!」

魔王子「ん?どうした?」

兵士「すぐ近くの街で人間達による暴動が起こっているそうです!!」

魔王子「はーん…」

魔王子の顔が不敵に歪む。あ、これは悪いことを考えている。

魔王子「しゃーねぇ。いっちょ行ってきて、俺の強さを見せつけてやりますか」

姫「動機が不純です」

魔王子「強くなけりゃ魔王とは認められん。これも立派な社会活動!」

姫(何か違うと思う)

彼の望む和平はまだまだ不完全。
だけど、彼はそれを諦めたりしないだろう。

姫「お気をつけて、魔王子様」

和平の架け橋である私達が、諦めたりしてはいけない。

魔王子「俺がいない間、泣かないでな~?」

彼をずっと支えていくと決めたから。
だから私は、彼を笑顔で送り出す。


姫「行ってらっしゃい…あなた!」


Fin
237 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 10:04:01.55 ID:gnffr16D0
本編終了です。ご読了&乙ありがとうございました。
魔王子と姫が引き離されたあたりで一旦テンションが下がりましたが、ハッピーエンドにする為頑張りました。

作者都合により夕方以降になりますが、この後おまけを投下予定です。
内容は短めのいちゃラブです。胸焼けしても構わん!という方のみお付き合い下さいませ。では後ほど。

238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 10:36:33.07 ID:AEf66sH5O
おつおつー!

胸焼けさせてみろよオラァ(楽しみにしてるぜ!)

239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 12:14:17.65 ID:LFsvSICto

待ってる

240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 12:28:28.01 ID:QWk2rkDQO
乙です
お子さんとかまだですかね?(初夜とかはよ!!)

241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 12:49:21.66 ID:I+eY7c/DO
楽しみw

242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 13:58:29.45 ID:5SndoF1Z0

アイスコーヒーにガムシロ4つ入れて自分鍛えて待ってる

243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 17:15:22.63 ID:Ay1H9iKuO


244 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 18:19:23.74 ID:gnffr16D0
姫(久しぶりだなぁ、ここで寝るのは)

寝室の造り、暖かさ、香り――どれもこれも懐かしい。数日間母国で過ごしただけで、ここがこんなにも懐かしくなるなんて。
母国に連れて戻されている間は勿論1人寝だった。
その間も毎晩、隣にいない彼を恋しく思っていた。

姫(魔王子様もその間、ずっとこのベッドで…)

メイドがきちんとベッドメイクしてくれたシーツに顔を埋める。
染み付いた魔王子の匂いに何だか胸がぽやっとなって、とろけそう…。

トントン

姫「きゃっ!?」ビクッ

魔王子「姫様ー、入ってもいいー?」

姫「え、あ、どうぞ!!」

私は慌ててベッドから離れる。寝室に入ってきた魔王子は顔を合わせるなり、首を傾げる。

魔王子「どうしたの姫様?真っ赤だよ」

姫「い、いえっ!何でも!」

シーツに染み付いた貴方の香りを嗅いでいました…なんて言えるわけがない。っていうか改めて言葉にすると、私は何をやっていたんだって思う。

魔王子「でも嬉しいなー」

姫「え?」

魔王子「2人で寝るの久しぶりじゃん」

魔王子は素直だ。嬉しいという気持ちをストレートに言葉に、表情に出してくれる。

姫「私も、嬉しいです」

だから私も素直にそう言えた。
素直な言葉を口に出すっていうのは、照れくさいけど気持ちがいいものだと思う。

245 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 18:20:05.41 ID:gnffr16D0
魔王子「…にしても、まさか互いが初恋の相手だったなんてなー」

横になった魔王子は、早速その話題を出した。
あの花の力で、私達2人とも同じような光景を目にしたのだ。これはもう、確定だろう。

魔王子「何か…運命ってやつだな!」

姫「えぇ…最近まで忘れかけていたのが、申し訳ないです」

魔王子「いやー子供時代の事だし仕方ないよ。大事なのは今、一緒にいられることだろ?」

魔王子は真っ直ぐな瞳をして言った。
ちょっと恥ずかしいけど、それは私がずっと恋しいと思っていた彼で。

姫「…手を握っていて下さいませんか?」

魔王子「?いいけど…」ギュ

姫「この感触…本当に魔王子様なのですね」

魔王子「そりゃそうだよ。何?夢だと思った?」

姫「半分くらいは」

離れていた間は彼が恋しくて、彼の夢を見たこともあった。
今またこうして一緒にいられるなんて、幸せ過ぎて、夢のようで。

姫「目が覚めたら貴方がいない――なんてことは、ありませんよね?」

魔王子「…やっぱ俺と姫様って運命の相手だね」

姫「え?」

魔王子「同じこと、俺も思っていた」

彼はちょっとだけ弱った笑顔を浮かべた。

246 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 18:20:39.93 ID:gnffr16D0
魔王子「明日は先に目が覚めても、姫様が起きるの待ってるよ」

姫「えぇ…でも、いつも私の方が早いでしょう」

魔王子「明日は俺の方が先。姫様の寝顔じっくり見たいから」

姫「やだ恥ずかしい。絶対、貴方より先に起きます」

そんなちょっとした言い合いをしながらも、繋いだ手の指と指は絡み合う。
彼と触れ合っている――それだけで安心できる。

だけど。

魔王子「ん?」

私は彼の手を掴むと、その手を私の頬に触れさせた。
魔王子は抵抗しないが、キョトンとしている。

姫「好きな所に触れて下さい――魔王子様」

安心感だけじゃ、物足りなくて。

魔王子「あ、うん――」

彼は戸惑いながらも、私の頬を柔らかく撫でる。
その指に私の長い髪が絡まって、彼は手を髪に這わせた。

魔王子「ほんとサラサラしてて、気持ちいいよね」

姫「ふふ。なら、もっと…」

魔王子「っ」

彼と距離を詰める。彼の手は私の後頭部。何だか抱きしめられているような感じがする位、2人の距離は近い。
彼の吐息が私の肌を撫でる。それが体の熱を更に高めて。

姫「魔王子様…」

遂に私は彼の胸に密着した。
彼の心音が伝わる。鼓動は高く脈打っている。

魔王子「どうした姫様…。今日はやけに積極的だね…?」

戸惑う彼の声はかすかに震えていた。

彼は、意識している――それなら

姫「女の口から、言わせるつもりですか…?」

魔王子「…っ」

247 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 18:21:15.54 ID:gnffr16D0
姫『少しずつ、段階を踏んでいきませんか…?』


私達は順調に段階を踏んできた。
手と手を繋いだ。抱き合った。唇で触れ合った。

だけど日に日に大きくなっていく気持ちは貪欲になって、それだけじゃ足りなくなって。

姫「魔王子様…」

上目遣いで、彼の薄い寝間着をぎゅっと掴む。それが私にできる、精一杯のおねだり。
はしたないと思われないだろうか。拒絶されないだろうか――そんな気持ちが胸を締めた。

魔王子「姫様」

姫「っ」

だけど魔王子は、そんな私を優しく包み込んでくれて。
頬と頬が、優しく触れ合う。

魔王子「そんなこと言われたら、俺――止まれないよ」

私を気遣うような声が彼の本能を閉じ込めている。

あぁ――彼も私と同じなんだ。

姫「止まれないのは、私も同じです」

彼と同じ歩幅で、進んでいきたい。

魔王子「…灯り、消すよ」

姫「はい…」

248 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 18:21:45.77 ID:gnffr16D0
2人を包み込んだ闇の中で、私は彼だけを感じていた。
彼の吐息も、香りも、声も、肌の感触も、全て逃すまいと私は貪欲に彼を求める。

誰も知らない私を曝け出せるのは、彼にだから。
そして私は、誰も知らない彼を知る。

愛しい気持ちが膨れて、苦痛すらも夢心地の中に溶かされる。
ぎこちなさも、共に歩んでいるからこそと喜びになる。

私が流した涙の意味を誤解し、彼は私の髪を優しく撫でる。

違うんです、涙の意味は――

それは言葉にすることができず、抱きしめる強さで気持ちを伝えた。

249 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 18:22:14.71 ID:gnffr16D0



姫「ん…」

日差しが眩しい――あぁ、朝が来たのか。
起き上がろうとした時、ふと感触に気付いて躊躇した。

姫(手――)

魔王子「すやーすやー」

先に起きると宣言していた彼はまだ眠っている。けどその手はしっかりと、私の手を握りしめていて。

姫(ずっと、握っていてくれたんだ…)

姫「…」

彼の無防備な寝顔を見つめ、愛しいという気持ちは増す。

姫「ん――っ」

魔王子「…ん?」

頬に触れた感触に気付いたのか、彼は目を覚ました。

魔王子「あ、姫様…おはよう」

何事も無かったかのような鈍い反応に、少しだけやきもきする。
だから私は、ちょっとだけ意地悪に笑った。

姫「おはようございます…やっぱり私の方が早起きでしたね」

魔王子「いや、一旦先に起きたよ。二度寝しただけだし」

姫「ふふ、そういうことにしておきましょう」

魔王子「本当だってば」

こんな事でムキになる彼が可愛かった。

姫「起きましょうか」

だけど繋いだ手を、彼は離そうとしない。

姫「どうされたんですか、魔王子様?」

魔王子「もうちょっと、こうしていたい。…駄目?」

きゅんとした。そんなこと言われてしまったら…

姫「えぇ…いいですよ」

手に戻ってきた幸せに今は浸っていたくて、私はその手を手放すまいとぎゅっと握り締めた。

これからも共に歩んで行きましょう――ずっと、ずっと。


fin


252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 18:26:25.01 ID:nMGRRjAlo
甘いのを摂取しすぎて今年の健康診断が怖くなったぞどうしてくれる(執筆乙でした!!)

256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 18:53:22.55 ID:e21jO8Hro
おつですのよー

最後砂糖が足りなくないですか?(ブラックコーヒー20杯目

258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 21:59:33.57 ID:I+eY7c/DO
甘い話でにやにやしますね(笑)

259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 22:30:01.79 ID:Ay1H9iKuO


260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 23:31:05.06 ID:bLelXYlsO
乙です
子供ができた後の話を書けばいいんじゃないかなかな?

261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/12(木) 02:34:44.45 ID:hri1P3GW0
孫には甘々な魔王とか見てみたい

262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/12(木) 03:50:54.05 ID:0ZTCCK8k0
大変萌えさせていただきました。

褥シーンも見たかったです
posted by ぽんざれす at 10:05| Comment(2) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
従者が…
メイドと従者が幸せになって欲しかった。
Posted by 仁 at 2016年06月25日 22:51
メイドさん救済は、まとめブログさんでもチラホラご要望がありましたねぇ。
主役2人の話に集中しすぎたのは反省点ですね。
Posted by ぽんざれす@作者 at 2016年06月27日 15:09
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