2015年10月12日

【スピンオフ】アラサー賢者と魔王の呪い【その後】

アラサー賢者と魔王の呪いのスピンオフ作品です。



魔王との激戦から5年が経過した。

世界はこれといった大事件も起こらず、そこそこ平和を保っていた。

そんな世界で、魔王や大魔王と戦った英雄はというと…。


貴族「結婚して下さい!」

伯爵「いや、私の息子と是非!」

御曹司「貴方に一目惚れしました!!」


賢者「あぁ~っ、そんなにいっぺんに来られたら、困っちゃうな~」


只今の外見年齢は約15、6歳(実年齢は30と少し)
人生2度目の10代を迎えてお洒落心が芽生えたお陰か、賢者にはモテ期が到来していた。





賢者「ふぅ~、今日は凄い人が沢山来たなぁ」

賢者は料理をしながら、今日一日のことを思い返す。

今日は魔法教室の一般公開日だった…のだが、どうも魔法教室以外を目的としているお客人も沢山いたようで。

まあ、理由はわからなくもない。
本当に10代半ばだった頃、魔法に没頭していた賢者には縁のない話だったが、女性の平均初婚年齢が20代前半のこの国では、女性のモテ期は大体10代半ばから到来する。
それに、賢者は一応は高名な魔法使いの1人である。身分の高い男性陣から求婚されるのも無理はない。

しかし、だ。

賢者(う~ん、何かそういう対象に見れないのよね~。あの方達、実年齢は下だし、それに…私の方が強いだろうし)

幼女化した時はほぼ無力化してた賢者だったが、5年経過した今、魔力はそれなりに取り戻していた。
元々、魔法に関して「だけ」は天才な賢者なので、今程度の魔力でもかなり強いのである。



賢者(さてと、で~きたっ。うっ、でも…)

料理ができたので火を止める。
今日のメニューはハンバーグ……なのだが、型崩れがひどい。

賢者「やっぱり料理本見ただけじゃ上手くいかないかー…」ズーン

自分が食べるものなら、いつも適当だ。
だが、今日は…そういうわけにはいかない。

賢者「ああぁん、でも作り直してる時間なーい! ど、どうしよう…そうだ! 今日は外食に」

魔法戦士「先生、何騒いでるのー?」

賢者「きゃあぁ!?」ビクッ

魔法戦士「ごめん。何か声がしたから」

全開にしていた窓から、魔法戦士が顔を出していた。

賢者「ひ、久しぶりね魔法戦士君…」

今日は騎士団に入った魔法戦士が里帰りしてくる日だった。
夕飯を一緒に食べたいと手紙に書かれていたので、彼の好物のハンバーグを作っていたのだが。

賢者「い、今出かける支度するわね~。今日は先生が何でも奢ってあげるわ」

魔法戦士「あれ、先生の手料理じゃないの? それ期待してきたんだけど」

賢者「えーと」

魔法戦士「それにこの匂い、肉料理作ったんだよね? お邪魔しまーす」

魔法戦士は出入り口に回ってきて、家の中に入ってきた。
彼はこうやってよく賢者の家に出入りしていたので、今更遠慮はしない。

賢者「えーとね、失敗しちゃったから…」

賢者はそう言ってフライパンの上の崩れたハンバーグを見せる。
魔法戦士はそれを見て、一瞬目を見開いた後、苦笑した。

魔法戦士「先生、相変わらず不器用だなぁ」

賢者「う~…」

何も言い返せない。
魔法以外のことに関してはダメダメなままだ。

魔法戦士「でも匂いはいいし、味はどうかな」パクッ

賢者「あっ!?」

魔法戦士「うん…美味しいよ。今日の晩飯はこれにしよう」

味がいいのなら料理としては失敗でないが、それでも人に出すのは失礼ではないか。
だがまぁ、魔法戦士がそう言うのなら。

賢者「わかった…。今お皿に盛るわね」

魔法戦士「あ、先生。俺、グリルサラダ作ってきたんだ。これも食べよう」

賢者「……」

サラダは彩りも良く、綺麗に盛り付けられている。
きっと、味も良いのだろう。

賢者(並べたらハンバーグのひどさが際立つ…)ズーン

魔法戦士「どうしたの? 食べよう」





魔法戦士「あー美味かった」

魔法戦士はおかわりまでして、いい食べっぷりだった。
騎士団に入ってから体も大きくなったような気がする。きっと毎日沢山訓練をして、沢山食べているのだろう。

魔法戦士「しっかし、これで同級生の女子は皆結婚かぁ…」

賢者「ふふ、そうね」

魔法戦士が今回里帰りしてきたのは、同級生の結婚式の為である。

賢者「一期生の女の子達は皆、優秀だったからねぇ。魔法に没頭して嫁き遅れになる子がいなくて良かったわ~」

勿論、自虐である。

魔法戦士「…俺、明日結婚式が終わったら、すぐ戻らなきゃいけない」

賢者「まぁ、忙しいのねぇ」

魔法戦士「うん。…近々、大きな仕事を抱えていて」

平和になった世界といえど、悪い人間も、悪い魔物もいなくはならない。
大きな仕事…魔王討伐レベルとまではいかないだろうが、危険を伴う仕事なのだろう。

賢者「気をつけてね。先生、魔法戦士君の力を信じているわよ」

魔法戦士「……うん」





>後日……


賢者(あらー、盛大ねぇ)

賢者は正装し首都に来ていた。
街の人々は既に、城の前で賑わっている。

「来たぞ!」

誰かがそう言い、皆ある方向を向く。
花道の向こうから集団がやってくる。ラッパの音が彼らの帰還を祝福し、人々は歓声で出迎える。

「お帰りなさい!」「よくやった!」「お疲れ様ー!」

帰還したのは騎士団だった。
今日は彼らの為に、凱旋式が執り行われているのだ。

賢者(山で暴れていたドラゴンを討伐か…騎士団も力をつけてきたわねぇ)

そんなことを思いながら、賢者も拍手で騎士団を出迎える。
総勢20名程の集団の中に、見知った顔もいた。

賢者(いた。魔法戦士君)

賢者「凄いわよー、もう最高!」

観衆に手を振る魔法戦士が、こちらに気付いたかどうかはわからない。
だけど賢者は嬉しかった。自分の教え子だった魔法戦士が実績をあげ、こうして皆の歓声を受けているのは。

よく考えると「騎士団の一員」でいる魔法戦士を見たのは初めてかもしれない。
逞しい騎士団の人たちの中にいても浮かない位、今の魔法戦士は凛々しく「一人前の男」に見える。


賢者(こうして見ると…何か、嘘みたいだなぁ)


5年前、魔法戦士に言われた言葉。

その言葉は、あれ以来言われていないが、賢者は忘れていない。



魔法戦士『俺、ずっと先生のこと――』







賢者(ふぅ~流石に疲れたわぁ)

式が終わり、賢者は城の近くのベンチに腰掛けていた。
せっかく都会に来たのだから、少し体力を回復させてから街をぶらつこうという計画だ。

公爵「おや賢者殿。来ていらしたのですか」

賢者「あら、ご機嫌よう。はい、凱旋式に私の元教え子が参加していたもので」

公爵「あぁ、魔法戦士君ですね。それなら特別席で参加すればよろしかったのに」

賢者「いえ~分不相応ですわ~」

というのは建前で、本音はというと……

公爵「ところで私の甥っ子が今年成人しましてね、賢者殿のお見合い相手にどうかと……」

賢者(来たー)

特別席など行けば、こういう話をわんさか持ってこられるに決まっている。それで誰にも言わず、一般参加したというのに。

賢者「お、おほほ、その話は後日ということで…」

公爵「是非、ご検討下さい! 甥っ子は有名大学を主席で卒業し、留学経験もですね…」ペラペラ

賢者(勘弁してぇ~。でもあまり無碍にもできないし、どうしよう……)

終わりそうのない話に困惑していた所だった。

「先生!」

賢者「……え?」

振り返ると、そこには……。

魔法戦士「来てくれてたんだ、先生!」

賢者「魔法戦士君」

凱旋式が終わり自由時間になったのか、鎧を脱いで普段着の魔法戦士が声をかけてきた。
魔法戦士はそのまま無遠慮に近づいてきて…。

魔法戦士「俺、丁度先生に話があったんだ! ここじゃ言いづらいから、あっちで!」グイッ

賢者「え、あっ」

強引に手を引かれ、その場から連れ出された。
唐突な流れに、賢者も公爵もポカンとしていた。





魔法戦士「…はぁ。そろそろいいか」

少し歩いた頃、魔法戦士がようやく手を離した。

賢者「どうしたの魔法戦士君、慌てた様子だったけど」

魔法戦士「どうしたの、じゃないよ全く!」

魔法戦士が大きな声をあげる。
賢者は理由がわからず首を傾げた。

魔法戦士「断るならキッパリ断る! 先生はおっとりしてるから、しつこい奴につかまるんだよ!」

賢者「…あぁ~。そっか」

助けてくれたのだと、ようやく理解した。

賢者「ありがとう魔法戦士君。でもあんなやり方じゃ、公爵様に睨まれるわよ?」

魔法戦士「いいんだよ、先生が悪者になるよりは俺が悪者になった方が」

賢者「まぁ」

よくもまぁ、さらりとこんな台詞が言えるものだ。

賢者(でも、魔法戦士君らしいなぁ)

魔法戦士はこういうことが自然にできる男子だ。
自分が無力化した時も、精一杯守ってくれた。それこそ体を張って、命を賭けて。

賢者(何だか「守られてる」って感じがする。嬉しいなぁ)フフッ

魔法戦士「どうしたの、先生?」

賢者「ううん、何でも」

あの頃は10代の男子など子供のようにしか見えなかったが、20代になり大人になった彼は、立派な「男」だ。

賢者(魔法戦士君――今は私のこと、どう思ってくれているのかな)

そんなこと、口に出せないけど。



「魔法戦士さん」

魔法戦士「ん」

ふと、名前を呼ばれた。
振り返ると――

賢者「あら、お姫様」

姫「賢者さんも、ご機嫌よう」

この国の姫君だった。ここ数年で美しく成長し、淑やかで優しく、賢者も好感を抱いている。

魔法戦士「どうされました、姫様」

姫「あの――少し話があるんですけれど、良いかしら?」

魔法戦士「俺は構いませんが……」

姫「そのぅ……」

姫はチラッと賢者の方を見た。
賢者はそれで察する。自分がいると話しにくいのだろう。

賢者「あぁ、私そろそろ帰るわね。それじゃあ魔法戦士君、元気でね」

魔法戦士「あ、うん。またな先生」

賢者は手を振りその場から立ち去る。
途中、振り返って2人の様子を見た。2人とも笑顔で、楽しそうに何かを話している。

賢者(……あらー、もしかして)

賢者はすぐに目をそらし、その場から立ち去った。





>森


賢者(魔法戦士君もモテ期到来かしらね~)

魔法教室にいた頃から、魔法戦士は女子とも比較的上手くやっていた。
だからまぁ、女性にとって馴染みやすい男性なのだと思う。

賢者(実績も積んでるし、立派に成長しているし…うん、モテるわよね)

賢者(…モテるようになったら、選び放題よね~)

賢者(……)

賢者「って、何考えてるのかしら私? 変ねぇ」

時の精霊「お、賢者かー。よく来たなー」

賢者「あ、時の精霊様。お久しぶりです」

賢者は千年樹を訪れていた。
5年前大魔王の瘴気に犯され、今なお修復に追われている千年樹の様子を、定期的に見に来るのだ。

賢者「あら、大分瘴気が晴れましたね」

時の精霊「うん、でもまだまだかかりそうだ。あぁ、腰痛い」

賢者「はい、腰痛のお薬。差し入れです」

時の精霊「おぉありがとう。賢者の作った魔法道具はやっぱり一級品だな~」

賢者「ふふふ、大分魔法力も取り戻しましたから」

時の精霊「そうだな。いや驚いた、その分なら千年樹を完全に修復した時には、すっかり元の魔力に戻っているかもしれんな」

賢者「うーん、どうでしょうね」

時の精霊「今すぐ、元の魔力を取り戻したいか?」

賢者「まぁ、できることなら」

大分魔力を取り戻したとはいえ、全盛期には遠く及ばない。
元の魔力を取り戻せれば、もっともっと色んなことができるのに…と思わなくもない。

時の精霊「もしかしたらだけど…今の賢者の魔力なら、千年樹の修復を待たずとも、自力で元の姿に戻れるかもしれんよ」

賢者「えっ」

寝耳に水な話だった。

時の精霊「ただし当然、30ウン歳の姿になるわけだけどね。それでいいなら」

賢者「う~~~~~~~ん」


若さと魔力、未だにどちらを取るべきか選びかねていた。

とりあえずこの話は保留にすることにした。





>城・兵詰所


魔法戦士「団長!」

騎士団長「魔法戦士、どうした」

魔法戦士「何ですか、この新聞記事は。インタビュー受けたのは団長ですよね」

騎士団長「あぁ」

魔法戦士が指したのは、ドラゴン討伐の記事だ。そこには、魔法戦士の絵がでかでかと載っていた。
絵だけでない、記事の内容も魔法戦士の活躍についてピックアップされている。

騎士団長「不満だったか? 次回からはもっとページ数を使うように指定しておくか」ハハハ

魔法戦士「そっちの意味じゃありません! 俺だけが持ち上げられすぎです、騎士団の皆で掴んだ勝利なのに!」

騎士団長「謙虚だなぁ。栄誉は有り難く頂いておけ」

魔法戦士「この記事だけじゃありませんよ。ここ最近の俺に与えられる任務、俺には不釣り合いな程、大きな仕事ばかりじゃないですか」

騎士団に入ってまだ5年目。もう新人ではないとはいえ魔法戦士は、自分より強い先輩方よりも大きな仕事をこなした。

騎士団長「期待されているということだ。お前は騎士団の中でも比較的若いのだしな」

魔法戦士「おかしいです…。俺なんか、まだまだ……」

騎士団長「…なぁ魔法戦士。勇者、って知ってるよな」

魔法戦士「勇者…ですか?」

魔法戦士も冒険モノの物語が好きなので、よく知っている。
世界に平和をもたらす存在であったり、勇気に溢れる者だったり…とにかく英雄をテーマにした物語では、定番の存在である。

魔法戦士「勿論知っています」

騎士団長「勇者という存在は、国にとっても都合がいい。何故なら英雄というのは存在が人々のカリスマであり、強い信仰力を持つ…平和維持にはもってこいの存在だろう」

魔法戦士「そうですね…それがどうかしましたか?」

騎士団長「あぁ。…王は、お前にそういう存在になってもらいたいんだよ」

魔法戦士「はっ?」

あまりにも突拍子のない話で、魔法戦士は間抜けな声を出してしまった。
勇者? 英雄? ……自分が?

魔法戦士「はは…何ですかその冗談、笑えますね」

騎士団長「本気だ。お前は事実、大魔王を討った功績があるしな」

魔法戦士「あれは9割方、先生の力ですよ!」

賢者の力があってこそ収めた勝利だ。
たまたまその場にいたのが自分だから、大魔王にトドメを刺すことになっただけだ。

魔法戦士「知っての通り、俺の力はまだ未熟です。そんな、英雄なんて…将来的な話ならともかく、今そういう扱いをされるには不釣り合いすぎる」

騎士団長「実力の問題じゃないんだよ…。大魔王を討った若き英雄、その肩書きだけで人々の支持は得られる」

魔法戦士「そんな……」

魔法戦士の動揺は大きい。

自分は大魔王を討った直後、騎士団にスカウトされた。


魔法戦士『大魔王を討てたのは、9割方先生のお陰だ。それに俺、剣も魔法も正直中途半端だし、このまま勧誘を受けていいのか…』


そんな不安は抱いていた。
だけど――


賢者『王様だってそれは承知の上よ。騎士団に入ればビシバシ鍛えられるわよ』


伸び代を期待してもらえたのだと喜んだ。
その期待に応え、強くなろうと決意した。

それなのに――


魔法戦士(俺が求められた理由は実力じゃなくて――肩書きのおかげなのか)








>魔法教室


大魔道士「ほら賢者、魔法学会のお偉いさんから預かった、お見合い相手の資料だぞ」

賢者「こんなに~…」

授業後に訪れた大魔道士に、これまた困る話を持ってこられた。
放課後残ってた生徒達が興味本位で資料を見ている。

「うわー、この人ハゲてんじゃん!」「あれっ、この人って有名人じゃね?」「先生はモテていいなー」

賢者「困ったなー…」

大魔道士「魔王の呪いのおかげでモテ期が来たじゃないか、嫁き遅れていたくせにな」フフン

ゴーン

大魔道士「あだーっ! くっ、何故隕石が…」

賢者「うーん…」

大魔道士「何だ、何が不満だ。条件的には申し分ない相手ばかりじゃないか」

賢者「どうして私なのかなー…」

大魔道士「そりゃ認めたくないがお前は実績のある魔法使いだし、まぁ容姿も悪くはない。それに男を誘惑するそのいやらしい体…」

ゴーン

大魔道士「グハッ!!」

賢者(やっぱり、肩書きかー…私自身を見て、いいって言ってくれる人はいないのかなぁ……)

大魔道士「…そうだ。そういえばこの国の姫君も、結婚適齢期が近づいているそうだな」

賢者「えぇ。そうですね」

大魔道士「その婿候補に、ほら…お前の生徒だった男が浮上しているそうだぞ」

賢者「えぇ!? 魔法戦士君が…!?」

大魔道士「あぁ。最近、騎士団での活躍も目覚しいし、何といっても大魔王を討った奴だからな。…チッ」

賢者「……」

大魔道士「どうかしたか?」

賢者「え、あ、いえっ。そうですかー…私としても鼻が高いですね」

大魔道士「あぁー、お前の生徒ってだけで気に入ら」

ゴーン

大魔道士「いでーっ!」





>家


賢者「…」フー

賢者は料理をしながらも、どこか気が抜けた状態だった。

賢者「あ、いけない。…あー、煮崩れしちゃった」

賢者「まぁ味は悪くないけど…魔法戦士君みたく綺麗に作りたいわねぇ」

賢者「魔法戦士君…」



大魔道士『その婿候補に、ほら…お前の生徒だった男が浮上しているそうだぞ』

大魔道士『最近、騎士団での活躍も目覚しいし、何といっても大魔王を討った奴だからな』



賢者(お姫様のお婿さん候補なんて、凄いなぁ~…)

賢者(魔法戦士君…私の知らない所で、どんどん大きくなっているのねぇ)


魔法戦士は、覚えているだろうか。


魔法戦士『5年経ったら――先生に相応しい男になってみせる』


もう5年――彼の約束した歳月は経っている。


賢者「………魔法戦士君…」

魔法戦士「呼んだ?」

賢者「きゃあぁ!?」ビクウウゥゥッ

声に反応し賢者が振り返ると――全開になった窓の外に、魔法戦士が立っていた。

魔法戦士「よ、先生」

賢者「ど、どうしたの魔法戦士君!?」

魔法戦士「ほら、大きな仕事の後だから、長期の休みを貰えたんだ。それで里帰りしてきたわけ」

賢者「そ、そう」ドキドキ

魔法戦士「?」

挙動不審な様子に魔法戦士が首を傾げている。
まずい…今はどうも、彼と顔を合わせていられない。

賢者「あ、あ~っと、ごめんね魔法戦士君! 今からちょっと出かけるの!」

魔法戦士「出かける? …料理もできたばかりなのに?」

賢者「えーとね…明日の教材を切らしていることを思い出して! それじゃあ行くから…」

魔法戦士「待って先生。俺も行くよ」

賢者「えっ!?」

魔法戦士「少し暗くなってきたし、荷物も重いだろ。一緒に行く」

賢者「…」

魔法戦士は屈託のない笑顔を見せている。
そう、彼はそういう気遣いが、ごく自然にできる人なのだ。

賢者「それじゃあ…お願いするわね」

彼の好意を断れなくて、賢者はそれを了承してしまった。





魔法戦士「いやー教材を見たら思い出すね、教室に通ってた頃のこと」

魔法戦士は買い溜めた教材を全部持ってくれていた。
賢者からすると相当重そうな荷物なのだが、魔法戦士は汗ひとつかいていない。

賢者(本当、逞しいわね)

魔法戦士「ドジなの変わらないなぁ先生は。こんなに沢山の教材、どうやって運ぼうとしてたの」

賢者「魔法でちょちょいとね」

魔法戦士「あ、その手があったか! くっ、何て万能なんだ」

喋りながらコロコロ変わる表情には、生徒だった頃の面影が残っている。
立派に成長しても、魔法戦士はやはり魔法戦士なのだ。

賢者(でも、どっちの魔法戦士君も知っているから、この子の成長がわかるわ)

それがちょっと優越感だったりして。


魔法戦士「先生…さっきから何か俺の顔チラチラ見て、どうしたの?」

賢者「えっ、あっ」

慌てる。気付かれてしまった。

魔法戦士「何かあったの、先生?」

賢者「……」

何もない。そう誤魔化すのは簡単だ。

賢者(だけど――)


もやもやしたものを、吐き出したい気持ちもあって。


賢者「…魔法戦士君、お姫様のお婿さん候補になったんだって?」

魔法戦士「っ!?」

賢者「大魔道士さんに聞いたの。凄い出世したわね」

魔法戦士「……うん」

魔法戦士の返事が重い。
何だか気まずい空気だ…。

賢者「……ま、魔法戦士君の実力が認められたのよね」

魔法戦士「……っ」

魔法戦士(俺が認められたのは、実力じゃない……)

賢者「先生も鼻が高いわぁ」

魔法戦士の心を突き刺してるとは気付かず、賢者は魔法戦士を褒める。


賢者「最近、順調に実績をあげているんだって?」

魔法戦士(それは…俺を持ち上げようと、分不相応な任務を任せられているから)

賢者「教室にいた頃より、大分成長したのねぇ」

魔法戦士(そんなことない…俺の実力なんて、まだまだ…)

賢者「5年…」

そう、5年。魔法戦士と約束した5年だ。



魔法戦士『今の俺のままじゃ、自信を持って先生を迎えられない。だから俺は騎士団で自分を鍛えてくる』


賢者(そう言って、魔法戦士君は私の側を離れて)


魔法戦士『俺は先生からすればまだガキだし未熟者だし、そんな対象じゃないこともわかってる。だから――』


賢者(そう、そういう対象じゃなかった――あの頃は)


魔法戦士『5年後には立派な男になるから…』


賢者「約束通り、立派な男の人になったわね、魔法戦士君」

魔法戦士「――っ」

賢者「何だか――」

寂しい――そんな気持ちを抑えて、笑顔を浮かべる。


賢者「私じゃ手の届かない位――凄い大きな存在になっちゃったわね」

魔法戦士「……っ!!」





賢者「あ、家に着いたわ」

家の鍵を開け、魔法戦士から荷物を受け取る。

賢者「ありがとう魔法戦士君。助かったわ」

魔法戦士「うん……」

賢者「流石、魔法戦士君は頼りになるわね」

魔法戦士「――っ」


そんなはずない。
大魔王を倒した時だって、賢者が助けてくれたから――


魔法戦士(けど――)


魔法戦士『5年経ったら――先生に相応しい男になってみせる』


自分は、まだ相応しくなくて。


騎士団長『英雄というのは存在が人々のカリスマであり、強い信仰力を持つ…平和維持にはもってこいの存在だろう。…王は、お前にそういう存在になってもらいたいんだよ』


魔法戦士(英雄――英雄になれば、先生に相応しくなれるかもしれない)

魔法戦士(でも、そんなのは――)



賢者「それじゃあ今度、改めてお礼するわね。今日はちょっとお礼できるものがなくて――」

そう言って、賢者は家の中に入ろうとしていた。


魔法戦士「…なってない」

賢者「…え??」


賢者『私じゃ手の届かない位――凄い大きな存在になっちゃったわね』


魔法戦士「なってないよ、先生! 俺、大きくなんかない!!」

賢者「っ!?」


魔法戦士は拳を握りしめて震えていた。

大きな存在――そんなのは作られた偶像だ。

魔法戦士「先生がいなければ――俺は今、こんな栄誉を手にしていないよ!」

本当に凄いのは自分じゃない。
そして本当に凄いその人に、自分は今でも追いつけていなくて――

魔法戦士「俺…約束果たせていないよ」

賢者「約束……」

あれから5年経った。
体ばかり大きくなったが、気持ちはあの時と変われていない。

魔法戦士「俺は今でも、先生に相応しくない。先生、俺は――」


あの頃と変わらずに――


魔法戦士「今でも、先生のことだけが好きだ」

賢者「…っ」







賢者(どうして…――)




魔法戦士『先生のこと、ずっとずっと好きだったんだよ!!』


言われた言葉は、5年前と変わっていない。

賢者(それなのに…)

それなのに、どうして。

賢者(どうして私、こんなに――)


賢者の頭の中に、魔法戦士との思い出が流れた。


魔法戦士『俺は先生からすればまだガキだし未熟者だし、そんな対象じゃないこともわかってる』


そうだった。あの頃は魔法戦士のことを子供のように思っていた。


賢者『魔法戦士君、私なんて魔法以外何もできないオバサンよ。世の中には、もっと素敵な女性が沢山――』

魔法戦士『それでも俺、先生がいい』


彼の告白を、世間知らずの若者の言葉と真剣に受け取っていなかった。

だけど――


魔法戦士『いいんだよ、先生が悪者になるよりは俺が悪者になった方が』


5年が経ち、魔法戦士は大人になった。


魔法戦士『今でも、先生のことだけが好きだ』


それでも、自分を想ってくれていた。


魔法戦士『先生、相変わらず不器用だなぁ』

魔法戦士『ドジなの変わらないなぁ先生は』


相変わらず魔法以外はダメな――「賢者自身」を見てくれていた。



賢者(そうか、私、魔法戦士君のこと――)ポロッ

魔法戦士「…先生?」

賢者(一人前の男性として見てたんだ…!!)ポロポロ



魔法戦士「先生、どうしたの、先生!?」

突然涙を流し始めた賢者に、魔法戦士は慌てる。
流石の魔法戦士も、女性の涙には弱いようで。

魔法戦士「どこか痛いの!? びょ、病院まで行く!?」

賢者「もう…肝心な所で鈍感なのね」グスッ

魔法戦士「えっ?」

賢者「魔法戦士君の前で大人ぶるのはやめたかったのに…これじゃあ、まだまだ私は『先生』でいなければならないじゃない」

賢者は袖で涙を拭うと、笑った。

賢者「先生はね、嬉しくて泣いたのよ。…ふふっ、やるようになったじゃない魔法戦士君」

魔法戦士「せ、先生……」

魔法戦士は少しアタフタしている。
こういう場面には慣れていないのだろう…だけど、それが少し嬉しい。

魔法戦士「…せっ、先生! その…先生の料理食べさせて! …今日はまだ、帰りたくないから」

賢者「…えぇ、いいわよ」





魔法戦士「うわ~あ、見事な煮崩れ。先生は本当に不器用だなぁ」

賢者「むぅ」

提供された煮物を見るなり、魔法戦士は苦笑した。

賢者「どうせ、魔法以外はダメですよ~」

魔法戦士「そんなことないって、味は…うまいよ、これ」

賢者「魔法戦士君の方がお料理上手じゃない」

魔法戦士「そんなことないよ。俺は先生の作る飯の方が好きだ」

賢者「…ふふ、ありがとう」

魔法戦士「…先生、俺、明日王様に会ってくるよ。結構、勇気がいるんだけど…王様に言わなきゃいけないことがあって」

賢者「そう」

それ以上のことは彼自身が語らなかったから、あえて追及しなかった。
だけど、彼にとって重要な何かがあるのだろうから――。

賢者「頑張るのよ、魔法戦士君」

魔法戦士「…うん!」

彼を信じて、後押しすることにしよう。





魔法戦士「…というわけで王様、やはり英雄の座は辞退したいと思います」

王に全部告げた。
英雄の座は今の自分には不釣り合いなことも、納得していないことも。

王は魔法戦士の言葉を、遮ることなく聞いていた。

王「ふむ…やはり重荷であったか」

魔法戦士「王様…」

王「本人がそう言うのなら無理強いはできんな。すまんな魔法戦士、こちらに都合よく、お主を利用しようとしていた」

魔法戦士「い、いえっ。こちらこそ、ご期待に沿えず――」

思いがけず王に頭を下げさせてしまい、魔法戦士は慌てる。

王「期待に沿えない? 何を申しておる、お主はまだまだこれからだろう。今後も、期待しているぞ」

魔法戦士「…!!」

英雄でない自分に期待してくれた――それだけで、魔法戦士の心は晴れた。

魔法戦士「…はいっ!!」





時の精霊「よ、賢者。どうした」

賢者「この間の返答に来ました」

時の精霊「ふぅん。答えは決まったのか。

賢者「えぇ。私、やっぱり――」

この呪いのお陰で色んなことがあった。
思ったように魔法が使えずにもどかしい思いを何度もしたが――それでも、良いことも沢山あった。

賢者「呪い、解きません。このままの私でいます」

時の精霊「ふーん、そっか」

時の精霊は別段驚かずに答えた。

時の精霊「やっぱ若返りの方がメリット大きいか? 人間は短命だしな」

賢者「ふふ、そうですね」

否定する気はない。だって、それが事実だから。

賢者「呪われる前の私は魔法にばかり没頭していましたが――若返って、人生やり直して、魔法以外にも色んな楽しいことがあるんだって知ることができたんです」

時の精霊「なるほど。若返って、新しくやりたいことが見つかったか?」

賢者「――はい!」

賢者はもう、迷わなかった。





魔法戦士「先生ーっ」

賢者「あら魔法戦士君、お帰りなさい」

あれから魔法戦士は激務が減ったのか、ちょくちょく里帰りしてくるようになった。
その度に、賢者の家に晩飯を食べに来るのである。

魔法戦士「あれ先生。このポテトサラダ、ポテト以外に何も入ってないの」

賢者「コロッケ…なんだけど……」

魔法戦士「えっ」

型崩れのせいか、揚げ方が足りないのか、言われてもコロッケには見えない。

賢者「ご、ごめんね! やっぱりコロッケは冷凍食品の方がいいわよねぇ!」

魔法戦士「いやうまいよ、これ」モグモグ

賢者「ほ、本当!?」パアァ

魔法戦士「うん。味はフライドポテトだけど」

賢者「うぅー」ズーン

賢者は頭を抱える。
どうしてこう、料理本の通りやっても失敗するのだろう。

魔法戦士「いや俺は好きだよ…ぷぷっ、ははははっ!!」

賢者「え、な、何!? どうしたの!?」

唐突に大笑いを始めた魔法戦士に、賢者はアタフタする。

魔法戦士「だってさー…先生のこと、可愛く見えてきたから」

賢者「………」

魔法戦士「あーうまい」

賢者「…こらこら魔法戦士君、年上の女性に向かって「可愛い」とはなーに?」

魔法戦士「うーん、先生って年上って感じしないんだよな~」

賢者「ちょっとー!?」

賢者(そりゃ魔法戦士君のこと大人の男性として認めたけど、だからって大人の余裕を見せ付けられると悔しいというか…)

魔法戦士「ははは。あ、おかわりいただきまーす」

賢者「もう、笑うなら食べなくていいですーっ」

魔法戦士「やだ、食べたいもん」

そう言いながら、既に魔法戦士はコロッケ?を皿に盛っていた。

魔法戦士「俺、先生の料理なら――毎日食べたいよ」

賢者「…もう」

そんなこと言われては、許すしかなくなる。
本当にずるい。彼の言葉は、賢者の心をいちいちくすぐるのだから。


魔法戦士「あ、先生。久々に魔法のこと教えてくれないかな~。どうも最近、上手くいかなくて」

賢者「久しぶりの授業? ふふ、いいわよ」


自分達の関係は、まだまだ変わらない部分が沢山あるけど。


賢者「それじゃ、基本中の基本。五属性魔法の同時放出はできる?」

魔法戦士「…………」タラー

賢者「そこからかぁ。これはしごきがいがあるなぁ~」

魔法戦士「お手柔らかにお願いします……」


それでも、これから一緒に成長していけるから。


賢者「魔法戦士君」

魔法戦士「はい?」


だから、少しずつ進んでいけばいい。


賢者「よーし…一緒に頑張りますか!」



Fin



あとがき

リクエスト内容「賢者と魔法戦士のその後」
リクエスト下さったづっきーに様、ありがとうございました。

今作を書く上で1番頭を悩ませたのは「どうすれば賢者が魔法戦士を恋愛対象として見るようになるのか」って所です。
その辺の説得力が出ただろうか、ってのが今でも不安だ!!(`・ω・´)キリッ

まぁ本編自体、アラサー女性が若い男子に好意を寄せられる時点で無理あるっちゃ無理ある話ですが、創作物ってことで勘弁で…。
posted by ぽんざれす at 19:13| Comment(4) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんなに早くリクエストに答えてくださり、ありがとうです(゚∀゚)
2人の今後を考えてニヨニヨしております∩(´∀`)∩ただし賢者は私の嫁です、異論は認めるッッ
毎度新作楽しみにしております、お身体をご自愛の上、これからも頑張ってくださいませ◟꒰◍´Д‵◍꒱◞
Posted by づっきーに at 2015年10月12日 23:51
づっきーに様>
早速コメントありがとうございます( ゚∀゚)
賢者が嫁ですか。魔法戦士のライバルがここにww
今後もご拝読宜しくお願いしますσ(´ω`*)
Posted by ぽんざれす@作者 at 2015年10月13日 07:04
まとめサイトの過去スレでアラサー賢者と魔王の呪いを見てSSを書いている先生の作品を見たくて探してたらたどり着きました(*`・ω・´*)ゝ

まさか後日談もあるとは幸せでした!
他のSSも楽しまさせて貰ってます!頑張ってください(`・ω・´)
Posted by 太郎 at 2015年11月25日 11:06
太郎様いらっしゃいませ(*゚∀゚*)
わざわざ探して頂けるなんて嬉しいです*(\´∀`\)*:
これからも頑張ります( °∀°)o彡°
Posted by ぽんざれす@作者 at 2015年11月25日 11:58
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