2015年10月14日

【スピンオフ】女勇者「勇者よりも、お姫様になりたかった」【その後】

女勇者「勇者よりも、お姫様になりたかった」のスピンオフです。



女の子は、誰だってお姫様になれる。

フリフリのドレス、キラキラのアクセサリー、ガラスの靴を身につけて。
お風呂に入って香水をつけて、髪を綺麗に結って…。

今の私は、お姫様。

この一面の花畑の中に溶け込むように、貴方から隠れるの。


この花達の中から、どうか。


「……」


私を見つけて、王子様――


「見つけた」ポン


見つけてくれた!


王子様――私はそう呟く。


そう、目の前にいるのは私の――



「さぁ勇者! 一緒に魔王を倒しに行こうか!」



勇者「――は?」






チュンチュン


勇者「…夢か………」

精霊「夢か、じゃないよ全くもう」

目の前の王子様――もとい精霊は、呆れたように言った。

精霊「呼んでも揺すっても起きないんだもん」

勇者「それで魔王を倒しに行こう、ってか」

魔王と聞くと体が反応して起きてしまうのは、もはや職業病だろう。
勇者は自分の習性に呆れつつ、体を起こした。

精霊「ところで勇者、どんな夢見てたの? 王子様、って」

勇者「ブフッ」

聞かれていた。

精霊「夢の中の話でも、浮気しないでよ~。俺、妬いちゃうよ?」

勇者「ち、ちがっ」

が、勇者はここで発言を止める。
浮気はしていない。だって自分の目の前に現れた王子とは、精霊のことだったのだから。
だが、だからと言って…。

勇者(夢の中で精霊のこと『王子様』って呼んでたなんて言えるか――っ!!)

精霊「ほらほら、ご飯食べて支度する。仕事に遅れるよ」

勇者「うん」


まだ眠気は残っていたものの、服を着替えた頃には目が覚めてきた。
服というのは不思議だ。着る服に合わせ、気分も大きく変わるのだから。

例えばフリフリなドレスを着れば乙女チックな気分になれるし、鎧を着れば気が引き締まるし――


勇者「でりゃあああぁぁぁ」ビシイイィィッ

弟子A「うわあああぁぁ」


道着を着れば、男気に満ちた気分になるし。


勇者「その程度かぁ!! 相手にならん、全員でかかってこい!!」

弟子B「流石、勇者殿…!!」

弟子C「男が束になっても勝てる気がしない…!!」

勇者(何で私はこんなことやってるんだろう…)ズーン


今現在、勇者は剣の指南所で講師をやっていた。
魔王を討伐した後も剣を振る運命から逃れられないのが、勇者というものなのだ。

勇者「いいか、よく見てろ! こうだ! だあああぁぁぁっ!!」

そんなこんなで、今日も勇者は勇ましく剣を振るう。





>夕方


弟子達「ありがとうございましたっ!」

勇者「うん、訓練の後はゆっくり体を休めるように」


今日の指南を終えた勇者は更衣室で汗を拭く。

勇者(そういえば、今日は精霊が着替えを用意してくれたんだっけ…)ゴソゴソ

精霊のことだからフリフリ衣装を入れていないだろうか…という心配が頭をよぎっていたのは、つい先日までの話である。
従者として勇者に仕えるようになって、少しは自重という言葉を覚えたようで…。

勇者(大人しめのブラウスに、ロングスカートだ…よくやった精霊!)

フリフリを着る前に、まずは女物の服に慣れていく必要がある。そんな勇者には、丁度いい。
違和感なく着こなせる、かつ女性らしい服だ。さり気なく花模様が刺繍されている所もポイントが高い。

勇者(これで少しは女性らしく見えるかな~)フンフン♪

勇者「………」

勇者「肩幅、広っ」

更衣室の鏡を見て、勇者は崩れ落ちた。



勇者(今まで男装だったから違和感なかったけど、女物の服着たら、やっぱり体格が目立つなぁ~…)

ゴリラ体型…とまではいかないが、少なくとも自分は可愛らしい体格ではない。
いつぞや精霊が買ってきてくれたワンピース…あれを着た時も、もしかしてガッチリしてたのが目立ってたんじゃあ…。

勇者(筋肉落とさないと『フリフリの似合う女』にはなれない…!)

勇者(でも筋肉落とすには指南所辞めないと…いや無理、一族総出で怒られる)

勇者(どうしろってんだ………)ズーン

正に、八方塞がりな状況である。


勇者(『フリフリの似合う女になる』って言ったのに……)


早くも、前途多難であった。






精霊「~♪」

屋敷では精霊が蔵の掃除をしていた。

精霊「おーわりっと」

蔵から出てエプロンを外し一息ついていると、向こうから重騎士がやってきた。

重騎士「よ、精霊。ちゃんと掃除したかー?」

精霊「やったよ。ほーら」

蔵の扉を開けると、中はピッカピカであった。

精霊「俺には物を動かす能力があるんだもんね~。掃除なんて楽チンだよ」

重騎士「便利な能力だなー」

精霊はフフンと得意げに鼻を鳴らした。

重騎士「しかしこの蔵、懐かしいな。まだ子供の頃、ここで遊んだこともある」

精霊「ふぅん。そういえば、古いオモチャとかもあったね」

重騎士「おぉっ、懐かしい。名剣エクスカリバーだ!」

精霊「オモチャの剣じゃん」

重騎士「命名は勇者だぞ」

精霊「ブッ」

剣に封印されてた頃、子供時代の勇者は何度か目にしたことはあるが、しっかりした子供に見えた。
それでもこういう、子供らしい場面もあったらしい。

精霊「他にも何かある? 勇者が使ってたモノ」

重騎士「どうだろうなぁ、勇者ってあまりオモチャで遊ばなかったし…」

そう言いながら重騎士は蔵にあった箱を開けていった。
箱の中は木材だとか布だとか、使えそうなものも色々入っている。
次の箱を開けた時、重騎士の口から「おっ」と声が出た。

精霊「何? …わぁ、可愛い!」

重騎士「やっぱお前、こういうの好きなんだな」

その箱の中には、木造りの小人人形がいくつか入っていた。

重騎士「これは賢者が子供の頃遊んでた人形だ」

精霊「賢者の? 何でこの家にあるのかな?」

重騎士「賢者が人形遊び卒業したから、この家に譲られたんでねーかな」

精霊「あぁ、じゃあ勇者もこのお人形さんで遊んだんだね」

重騎士「いや、多分遊んでない」

精霊「え?」

重騎士「何か、一族の奴らは勇者を男らしく育てる為、女らしい格好どころか、遊びまで制限かけてたからなぁ。こういう人形遊びは、勇者もやってないんでないか」

精霊「えー…」

勇者の育ちについて話は聞いていたが、改めて、窮屈な育ち方をしたなと思った。
男の自分も人形は好きだし、そこまで制限をかけなくてもいいと思うが。

精霊「こんな蔵の中に閉じ込められて、お人形さん達が可哀想」

重騎士「じゃあお前が引き取れよ。その方が人形も喜ぶだろ」

精霊「いいの?」

重騎士「俺からご主人に言っておいてやるよ。この蔵にあるのは不用品だから、いいと思うぜ」

精霊「それなら…へへ、友達が増えた」

精霊は小人人形ひとつひとつに、よろしくねと声をかけた。
普通の人間にとってはただの人形だが、精霊にとっては違う。





小人人形A「精霊君って言うんだー」

小人人形B「長いこと暗いとこで寂しかったよー」

精霊「うんうん、俺も寂しいのは苦手だよー」

部屋に戻った精霊は、人形との会話を楽しんでいた。
新しい友達ができるのは、嬉しいことなのだ。

精霊「ところで君らって、どんな人をモチーフにして作られた人形さんなの?」

小人人形C「僕らは、職人さんなんだ」

精霊「職人さん? それは何の――」

と、会話の途中で。


勇者「ただいまー」


精霊「あっ、勇者が帰ってきた!!」

小人人形A「勇者? あぁ、この家のお嬢さんだよね?」

精霊「そう。それで、俺の大事な人っ!」

小人人形B「そうか。じゃあお出迎えしてあげて」

精霊「うん! また後でねっ!」





精霊「勇者、おかえりぃ♪」

精霊は満面のスマイルで勇者を出迎えた。

勇者「精霊、蔵の掃除してくれたんだって? ありがとう」

精霊「えへへ~、勇者ぁ、ヨシヨシしてぇ」

勇者「おーヨシヨシ」グシャグシャ

精霊「ちょっ、荒い! 勇者、手つき荒い!」

精霊は髪を整え直す。
と、その時、勇者の格好を見て気づく。

精霊「勇者ぁ、どうして上着着てるの? せっかくのお洒落なブラウスが、隠れちゃってるじゃん」

勇者「えー…と、寒い…から」

精霊「寒い? 半袖でも十分だよね今時期」

勇者「………」

精霊「勇者?」

勇者(言えない…肩幅広いからなんて恥ずかしくて言えない…!!)ズーン



僧侶「お邪魔しまーす」ヒョコ

精霊「うげ。猥褻僧侶」

僧侶「露骨にイヤ~な顔をしないでくれるかなぁ? 王様に頼まれて招待状を届けに来たよ」

勇者「招待状?」

僧侶「是非、2人で参加したまえ。それじゃあね~」

僧侶は用件を済ませると、忙しそうに走っていった。

精霊「なになに、何の招待状?」

勇者「えーと……うっ」

精霊「?」

勇者の持ってる招待状を覗き込むと…。

精霊「ダンスパーティー!!」

精霊は目を輝かせた。

精霊「いいね、いいね! 俺、ダンス大好きだよ! ねぇねぇ行こうよ勇者!」

勇者「ごめん…私行かない」

精霊「えっ?」

精霊は首を傾げた。

精霊「どうしてー? 勇者、ダンスパーティー嫌い?」

勇者「…うん。嫌い」

精霊「え、そうなの?」

お姫様に憧れる勇者にしては意外だと思いながら、精霊は考えを巡らせる。
何とか勇者を誘い出す文句はないものか…そこで、閃いた。

精霊「キラキラのドレス着ようよ、せっかくのパーティーなんだし。それで俺と踊ろう!」

勇者「…っ!!」

だが、その言葉を聞いた途端勇者の表情が変わり――

勇者「いやっ、出ない! 私は参加しないっ!」

精霊「あ、勇者――」

呼び止める間もなく、勇者は行ってしまった。



精霊「………」







精霊「ああぁ~っ、もうダメだぁ!!」

部屋に戻った精霊はベッドに伏せて悶えていた。
そんな精霊を、ぬいぐるみ達が気遣う。

テディベア「どうしたのさ。君らしくもない」

精霊「だって…だって、勇者…」



精霊『キラキラのドレス着ようよ、せっかくのパーティーなんだし。それで俺と踊ろう!』

勇者『いやっ、出ない! 私は参加しないっ!』



精霊「俺の言葉に勇者は拒絶を示したんだ…」

だとしたら、間違いない――


精霊「勇者は、人前で俺と踊るのが嫌なんだああぁぁ!!」ジタバタ

テディベア「何でそう言えるのさ」

精霊「だって……」


かつて勇者に言われた言葉を思い出す。



勇者『頑張って鍛えて、身長を伸ばそう! 私も協力するよ!』

勇者『…だって、精霊には私より大きくなってもらいたいんだもん』



精霊「なのに…なのに…」

テディベア「あー…」

精霊の身長は、相変わらずチビのままだった。

精霊「俺だって身長伸ばす方法調べて実施してるんだよ!! でも、伸びないんだよ~…」

テディベア「うーん。それは辛い」

精霊「ううぅー…」

勇者自身が精霊を好きでいてくれても、勇者は人々の英雄なのだ。
そんな勇者だから、自分より背の低い男を、パートナーとして人に紹介できないのだろう。

精霊「俺…これじゃあ、ダメじゃん……」

身長を伸ばすと勇者に約束したのに。

精霊「こんなんじゃ、勇者の王子様になれない……」



小人人形A「ねぇ精霊君、勇者ちゃんと踊りたいの?」

精霊「踊りたいのも当然あるけど…勇者にドレスを着せてあげたい」

小人人形B「勇者ちゃんはドレスを着たがってるの?」

精霊「勇者はお姫様に憧れてる女の子だもん、ドレス着たいに決まってるよ!」

小人人形C「じゃあ、勇者ちゃんはパーティーっていうのが嫌なのかな?」

精霊「そうだと思う。俺と人前に出るのが嫌なんだよ~…」

小人人形D「じゃあ、人前でなければ問題ないんじゃない?」

精霊「――え?」


そう言えば勇者と初めて踊った時、あの場には誰もいなかった。
あれと同じようなシチュエーションなら、勇者は――


精霊「…あ、でもダメだ」ガクッ

小人人形A「何がダメなの?」

精霊「勇者、ドレス持ってないんだ」

パーティーに出ないのに、わざわざドレスの新調などしないだろう。
ドレスを新調するとなると、デザイナーを呼ぶ必要があるわ、出費もかさむわで、話が大きくなるのだから。

精霊「ダメだ~、勇者をお姫様にしてあげられない」

小人人形B「…ねぇ。確か蔵に、使っていない布がなかった?」

精霊「うん?」

言われてみれば、あったような気がする。
それがどうしたというのか。

小人人形C「精霊君、任せて! あのね~…」ゴニョゴニョ

精霊「うん、うん……んっ!?」


小人人形の計画を聞いて、精霊は目を大きく見開いた。







勇者(精霊に悪いことしたかな~…)

精霊がダンスが好きなのは、初めて会った時から知っている。
きっとパーティーにも出たいだろう。

勇者(精霊は…私以外の子と踊らないだろうし)

勇者「…って何思い上がってるの」ボッ

顔が真っ赤になり、慌てて自分の思考を打ち消す。

勇者(私だって出たいよ。精霊とダンスしたいし……)

勇者(ドレス、着たい。でも……)

鏡で自分の姿を見る。
こんな筋肉質な体にドレスは似合わないだろうし、人前に出るのも恥ずかしい。

勇者(せめて、小柄だったらなぁ…)


それなら、精霊と並んでも「女の子」でいられるのに。

精霊の言ってくれた言葉を思い返す。


精霊『お姫様が羨ましいなら、俺だけのお姫様になればいいのに~』


勇者「………」

勇者(こんなんじゃ、お姫様になれないよ……)






それから日にちは経っていく。


勇者「でりゃあああぁぁっ!!」

弟子A「うわあぁーっ!!」


勇者はますます剣にのめり込んでいた。


勇者「ただいま」

精霊「お帰り…あっ」

勇者の服装は、精霊が選んだ大人しめのワンピースではなかった。
あれから勇者は、精霊の選んだ服を着ていない。

精霊「……」

勇者「じゃ…お風呂入ってくる」ソソクサ

勇者も何だか申し訳なくて、精霊を避けてしまう。
一方で精霊も、必要以上に勇者に擦り寄ってこない。
以前の精霊なら、勇者が避けようと何しようと構わずひっついてきただろうが…。

勇者(精霊に気を使わせてる…ああぁ、どうしよう)

そう思いながらも、どうすればいいかわからない。



一方の精霊は。

精霊「むぅー…」

そう簡単に引き下がる性格ではなかった。

精霊「ダンスパーティーまであと3日! 勝負はそこだ!」

テディベア「おー」



>そして、ダンスパーティー当日…


勇者「はぁ…」

今日の剣の稽古を終えた勇者は、風呂に入りベッドに伏せていた。
頭の中は、ダンスパーティーのことで一杯だ。

勇者(皆、綺麗なドレスを着て来るんだろうなぁ…)

勇者(いいなぁいいなぁ、いいなぁ~!! ドレス、着たいっ!!)

勇者(でも、いい笑いものだよ…)

そんな風に悶えては落胆する、それを繰り返す。


勇者「あー…うー…」

精霊「勇者ぁ、入っていい?」トントン

勇者「精霊? いいけど…」

ダンスパーティーの誘いだろうか。
だとしたらどう断ろうかと、頭を巡らせる。

精霊「勇者、出かけなーい?」ニヘヘッ

勇者「…どこへ?」

精霊「ちょっと、湖畔まで」

勇者「湖畔?」

ダンスパーティーではないのか。
それにはホッとしたが、理由がわからない。

精霊「お散歩デートしようよ。勇者に見せたいものがあるんだ」

勇者「見せたいもの? なに?」

精霊「それは行くまでのお楽しみってことで。ねぇねぇ勇者」

勇者「うーん…」

考える。
きっと精霊は、本当はダンスパーティーに行きたかったのだろう。
だけど譲歩して、散歩デートでいいと言ってくれているのだ。これを断るのは、申し訳ない。

勇者「わかった。行こうか」

精霊「うん、じゃあ支度しておいてね!」バタン

勇者「支度…」

そうだ。せっかくのデートだから、こんな適当な服じゃ駄目だ。
だけど…

勇者(可愛い服…似合わないし…)

臆病になっていた。
今の自分に、可愛い服を着る勇気はない。

勇者(…これとこれだな)

地味めで体の線があまり出ない服を選び、せめてものお洒落として花の髪飾りをつけた。



精霊「早かったね~勇者。あれ、それ」

リビングのソファーで待っていた精霊は、勇者を見るなり反応した。

精霊「俺があげた髪飾りだ~。嬉しいなぁ」

勇者「あはは…うん」

勇者(本当は、もっと可愛い服に合うんだろうけどね…)

精霊「じゃあ行こう勇者、ねっ!」

精霊は勇者の手を握り、無邪気な笑顔を見せる。
精霊の顔は本当に嬉しそうで、こんな気持ちでいることに申し訳なくなってくる。

精霊「行ってきま~す♪ デート、デート♪」

勇者「大声でデートって言うなっ!」






>湖畔


勇者「静かだねー…」

水面は静かに揺れ、穏やかなものだ。

精霊「今日は月が雲で隠れてて、暗いからね。わざわざ湖畔に来る人もいないだろうね」

勇者「それで精霊、見せたいものって何?」

精霊「ふふふっ…これのことっ!」

精霊はそう言って上空に手をかざし――魔法を放つ。
魔法は天高く上っていき、そして――

精霊「どーん☆」

勇者「うあっ!?」

空の上で魔法が弾け、一瞬、流れ星が流れたかのように錯覚した。
そしてその衝撃で、月にかかっていた雲が晴れた。

精霊「あ、見て見て」

精霊は湖の方を指差した。
水面には月の光が反射し、一瞬にして美しい光景が作り出された。

勇者「綺麗だねー…やることムチャクチャだけど」

精霊「これで終わりじゃないよ。せーのっ」

精霊の合図と同時――2人の周辺で淡い光が発生した。

勇者(これは――)

色とりどりの光。
よく見るとそれは――

勇者(てっ、天使!?)

天使達がランプを持って浮かんでいた。…って、そんなわけない。

勇者「天使の人形か…」

精霊「ふふふふっ」

精霊は得意気に笑う。
見せたかったものとは、これか。

精霊「勇者、結婚式の時に言ってたじゃない、『天使の楽園』って。俺なりに天使の楽園を作り出してみたんだけど、どうかな?」

勇者「…うん」

人工的に作り出された楽園とはいえ、暗闇を照らす月光も、色とりどりの光も幻想的で。
精霊に命を与えられた天使たちの微笑みは優しく、まるで本物の天使だ。

上手く言葉にできないけど、この光景が美しいと思える気持ちは本物。

勇者「精霊、ありがとう。私、こういうの大好き」


そう感謝を述べたのだけれど――精霊の表情は少し曇っていて、そして意外な言葉が彼の口から出た。


精霊「勇者、ごめんね」

勇者「えっ!?」

精霊「俺、身長伸ばす約束したのに…」

勇者「え? あ、いや…」

その約束を忘れたわけではなかったが、かといって勇者は気にしてもいなかった。

勇者(私が大きいんだってのもあるしね…)ズーン

精霊「ねぇ勇者…ひとつ、聞きたいことがあったんだ」

勇者「聞きたいこと? なに?」

精霊「勇者は――」


精霊は真っ直ぐ勇者を見つめていたが、その瞳はちょっと弱気で――


精霊「俺のこと、今でも王子様って思ってくれている?」

勇者「――っ!?」


想像もしなかった質問だ。
だって、自分は――


勇者「……思ってるよ」

言うのは恥ずかしいけど。

いつも明るい笑顔を見せてくれて。
いつも気遣ってくれて。
いつも「好き」って気持ちを精一杯表現してくれて。

勇者「精霊は――私の王子様だよ」

精霊「そうか…」

精霊はほっとため息をつく。
きっと、不安だったのだろう――だって、自分も不安だ。


私は、精霊のお姫様でいれているかな――?


だけど、それを口にする前に、勇者の不安をかき消すように――精霊は勇者の手を優しく握って言った。

精霊「俺の、お姫様」

勇者「――っ!」

精霊は、欲しかった言葉をくれた。
今でも自分をお姫様として見てくれている。王子様でいてくれる――


精霊「ねぇ勇者…俺と踊ってくれないかな?」

勇者「えっ!? で、でもっ、こんな格好じゃ…」

精霊「大丈夫。勇者に贈り物があるんだ」

勇者「贈り物…?」

精霊「そう。せーのっ」

精霊は指をパチンと鳴らした。
すると――

勇者「わわっ!?」

色は薄いピンク。裾は三段重ねのフリルであしらっていて、薔薇模様が上品な――勇者の服は、一瞬でドレスに姿を変えた。
服だけではない。ぺったんこの革靴は花のついたパーティーシューズに変わり、金のネックレスやイヤリングまで勇者を装飾している。

変わらないのは、頭を飾る花の髪飾りだけ。

勇者「こ、これはっ!?」

精霊「えへへ。最近友達になった小人さんが服飾の職人さんでね~」

精霊の部屋でこっそりドレスを作っていたのだが、ここ数日勇者が素っ気無かったのもあって、気づかれずに作業を進めることができた。

精霊「これで一緒に踊れるよね、勇者」

勇者「で、でも…」

勇者は身を縮めるように肩を抱く。
こんなドレスでは、ガッチリした体が目立ってしまうのでは…そんな不安に苛まれて。

だけど――

精霊「恥ずかしいの~? 可愛いなぁ、もう」

勇者「――っ」

精霊は宙に浮かび、勇者の頬にキスをした。
不意打ちのキスに一瞬呆然としたけど、精霊はスッと手を出してきて。


精霊「踊ろう――俺のお姫様」

勇者「精霊…っ」


勇者はその手を取った――彼と、踊りたかった。

精霊に体を引き寄せられ、勇者は身を委ねる。


精霊「そう、俺がリードするから…」

そう精霊が言うと、音楽が聞こえ始めた。
これは――城のダンスパーティーの音がここまで届いたのだ。
まるで見計らったかのようなタイミングで流れた音楽に合わせ、精霊はステップを踏む。

精霊「初めて会った時みたいだね」

そう――あの時と同じく、精霊は勇者を力強くリードする。
軽やかに踊る精霊は本当に楽しそうで、心から踊りを楽しんでいる。



精霊「勇者、ごめんね――飛ぶよ」

勇者「え――えっ!?」


急に、ふわっと体が浮いた。
精霊は勇者を抱きかかえたまま。宙に浮いたのだ。

精霊「大丈夫、絶対落とさないから」

精霊はそう言ったが、勇者はそんな心配は抱えていない。

それよりも、精霊ががっちりと自分を支えてくれていることが――

勇者(女の子扱いされてる――)

それが勇者にとって何よりも嬉しいことで。
力強い精霊に、安心して身を委ねることができた。


2人が舞うのは湖の上。
月光に照らされた湖は、2人だけのダンスフロア。


勇者(あぁ――)


幻想的な雰囲気に酔いしれる。

まるで、今の自分達は――


精霊「俺たち、王子様とお姫様だね――」

勇者「――うん」


その言葉を合図に、唇と唇が重なる。

その口づけは、初めてのキスとも、不意打ちで奪われた時とも、違う。


今は、両思いになったから。


『好きな人』とのキスは、特別なものだった。


2人は月の下で踊り続けた。
そして音楽が聞こえなくなってからも、互いの手を放すことはなかった。





精霊「楽しかったねー!」

勇者「うん」

2人で湖のほとりに腰を下ろしていた。
月はまだ輝いていて、それがダンスの余韻に浸らせてくれた。


精霊「ごめんね勇者…パーティー会場で踊らせてあげたかったんだけど」

勇者「何で謝るの? 謝らなきゃいけないのは私の方だよ…精霊、行きたかったんでしょ」

精霊「俺は勇者と踊れれば、それで良かったんだけど…ほら、やっぱね」

勇者「え、何?」

勇者はわけがわからず追及する。
精霊は恥ずかしそうに俯いて、ボソボソッと言った。

精霊「だって…俺をパートナーとして人前に出せないでしょ?」

勇者「…………はい?」

何を言ってるのだろう。

勇者「あの、何のこと?」

精霊「だって俺、全然かっこよくないし!」

勇者(…あー、そう言えば)


精霊『勇者、ごめんね。俺、身長伸ばす約束したのに…』


踊る前の精霊の発言を思い出し、ようやく理解した。
精霊は身長にコンプレックスがあって、それで勘違いをしたのか。


勇者「精霊、違う違う」

精霊「えっ?」

勇者「私がパーティー参加を断ったのはね――」


それから勇者は全部説明した。
自分の体格がコンプレックスになり、ドレスを着る勇気がなかったこと――


説明した後、精霊は顔を真っ赤にして興奮していた。

精霊「何言ってんだよ! 気にする程、ガッチリしてないよ!!」

勇者「そ、そんなこと…」

精霊「もー、そんなことなら早めに言ってよ。勇者は可愛いってば~」

勇者「わっ」

精霊は勇者に抱きつき、頭を撫でる。
…何だか、くすぐったい。

精霊「あぁ、でも良かった。俺の背丈のせいだと思ってたから」

勇者「そんなわけないじゃない」

精霊「だって勇者、身長を伸ばせって言ったじゃん」

勇者「それは……」

確かに言った。だけど…。

勇者「…確かに、私より背が高いのが理想ではあるよ。でも、そこまで気にしなくていい」

精霊「ほんと?」

勇者「うん、だって精霊は精霊だもん」

精霊「そっかー…」

精霊はほっとため息をついて、それからニカッと笑った。

精霊「わかった! でも勇者の理想に近づきたいから、頑張るよ!」

勇者「そう」

その返事を聞いて勇者もほっとした。
そんなことで精霊が気を病むのは、勇者としても本意ではない。


精霊「…そーだ」

精霊は思い出したように言う。

精霊「あのねー…」モジモジ

勇者「なに? どうしたの?」

精霊がモジモジするなんて珍しい。

精霊「小人さん達、もう一着作ってくれたんだよねー…」

勇者「へぇ~。どんな服?」

精霊「えぇと…」

精霊は勇者に顔を寄せ、そっと耳打ちした。


精霊「――」

勇者「……」ボッ

勇者はそれを聞いて沸騰した。


勇者「な、なな何で!?」

精霊「あはは…何か、張り切っちゃったみたい」

勇者「…張り切りすぎ」

精霊「勇者、どうする…着る?」

勇者「………」


長考の末、勇者はようやく答えを出す。


勇者「精霊…どうしてほしい?」

精霊「俺? 俺は……」

精霊は少し戸惑っていたが。

精霊「見たいなぁ…勇者が着た所」

勇者「そう……」

その返事を聞いて、勇者は決断する。

勇者「わかった精霊…それに正直、私も着てみたいんだ」

精霊「うん、それじゃあ」


精霊は先ほどと同じように、指をパチンと鳴らした。
すると勇者のドレスはまた変化を遂げ――

精霊「…わぁ」

精霊は感嘆の声を漏らす。


それは純白のドレス。
夜闇の中において輝きが栄える白は、無垢の象徴。
何段にも重なったフリルが可愛らしく、それでいて勇者の頭を覆うベールが神秘的な――

世界にたった1つの、ウエディングドレスだった。


勇者「…どう、かな」

少し恥ずかしい。
正直、今でも自分にドレスは似合わないのではないかという気持ちがある。

だが一方で、期待もしていた。
きっと目の前の彼は、欲しい言葉をくれて――

精霊「…綺麗だよ、勇者」


こんな自分を、お姫様として扱ってくれるのだから。


勇者「…小人さんに、もう一着作ってもらわないとね」

精霊「もう一着? どんなの?」

勇者「決まってるじゃない」

勇者はニコッと笑った。

勇者「精霊の――」











勇者(……あんなこともあったなぁ)


勇者は少し前のことを思い出していた。
服というのは不思議なもので、着るものによって気分も変わる。

勇者(これを着ると、あの時のことを思い出すなぁ)

これを着るのは2度目になる。
あの時も幸せな気持ちだったが、今日はもっと幸せだ。

賢者「勇者さん、精霊君も準備ができましたよ!」

勇者「っ!」


重騎士と僧侶にせっつかれ、精霊が入ってきた。

精霊「あうぅ」

精霊はモジモジしていた。
今日初めて着たその服に、着心地の悪さでも感じているのだろうか。

精霊「…勇者、綺麗」

勇者「見るの、2度目でしょ」

精霊「うん…それでも綺麗だよ」

勇者「ありがとう。精霊も、素敵だよ」

精霊「ほんと? …俺チビだし、不釣り合いじゃない?」

勇者「全然。私の王子様なんだから、ビシッとしなよ!」

精霊「う…うん!」


重騎士「あーあー、あっちぃなぁオイ」

僧侶「うん、妬けてくるね」

賢者「くやしー…勇者さんに先越されるなんてぇ」

勇者「うっさい! とっとと会場行け!」

精霊「勇者! お姫様、お姫様!」



女の子は、誰だってお姫様になれる。


司会「それでは、新郎新婦のご入場です」


沢山の観衆が私達を祝福してくれた。
これから先、何があっても怖くない。

精霊「勇者――」

だって彼は、私という存在を見つけてくれた。選んでくれた。愛してくれた。


神父「それでは、誓いのキスを――」

精霊の瞳は真っ直ぐ勇者を捉え、そして――


精霊「ん――っ」

勇者「――」


唇が重なり合う。
情熱的で、それでいて無垢。そんなキスは勇者を夢心地へと誘った。

観客達の歓声が響く。
それでも――


勇者「…精霊」

精霊「うん?」

その小さな声を、互いに聞き逃しはしなかった。

今日は人生最良の日。
願わくば、その幸せが永遠に続くように――


勇者「これからも――私の王子様でいてね!」


Fin



あとがき

リクエスト内容:女勇者「勇者よりも、お姫様になりたかった」の続編
更に勇者に白いドレスをという素敵なご注文を頂きました!何てときめくシチュエーションなんだ!
勇者にドレスを着せてあげる機会を下さったもえ様、ありがとうございます!

勇者と精霊、どちらも体型コンプレックスを抱えそうなキャラですね。体型はそう簡単に変わらないので、解消は難しいんです。
でも好きな人にお姫様扱いされたらコンプレックスも吹っ飛ばせるのが勇者だったり。

このssを書く上でのスローガンは「全力でスイーツ(笑)」
posted by ぽんざれす at 21:27| Comment(2) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
相思相愛なのに、心の葛藤…きゅんきゅんしてしまいました。
湖畔での2人きりのダンスパーティー素敵すぎです…しかもあのタイミングで純白ドレスが…くぅっ!
やっぱり、2人は王子様とお姫様です(*´ω`*)
ほろ苦さもありの、あま~いスイーツ大好き!もう大満足です!
ありがとうございました
Posted by もえ at 2015年10月15日 02:45
リクエストありがとうございましたーσ(´ω`*)
ダンスはノリノリで書かせて頂きました(( ˘ω ˘ *))
楽しい作品が出来上がり、こちらこそ感謝です(σ´∀`)σ
Posted by ぽんざれす@作者 at 2015年10月15日 06:24
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