2015年10月24日

【スピンオフ】魔道士「僕のお嫁さんを召喚するよ☆」【その後】

魔道士「僕のお嫁さんを召喚するよ☆」のスピンオフです。



町娘「魔道士さんーっ!?」

魔道士「アハーン、どうしたのかな町娘ちゃん?」

町娘「どうしたのかなじゃありませんよ、あんなに部屋を散らかしてっ!!」

魔道士「散らかしただなんて。過ごしやすいようにしたら、ああなっただけさ☆」

町娘「だから物を失くすんですよ! こないだも~…」

魔道士「アイタタタ、耳が、耳がアイタタだよ」

町娘「仮病は通じませんからねーっ!!」

ワーワー

弟「……」

弟(まーたやってる)

僕は今日はお姉ちゃんに会いに、魔道士兄ちゃんの所に遊びに来ていた。

魔道士「弟君~、町娘ちゃんは厳しいねぇ」シュン

弟「お姉ちゃんはキッチリしてるからね~」

町娘「あーっ、魔道士さん! また夜中にこんな体に悪いもの食べましたねーっ…」

魔道士「ヤバッ★ 僕はちょっと仕事に出てくるね~♪」

町娘「待ちなさーいっ!!」

弟(賑やかだなぁ)

きっとこれがいつもの2人なのだと思う。
これでも魔道士兄ちゃんはお姉ちゃんを好きなのだから、悪い関係ではないと思うけど…。

弟(うーん、もうちょっと進展があればなぁ)





そしてまた、魔道士兄ちゃんの所に遊びに来た日…


魔道士「チャオ☆ 弟君、いい所に来たねぇ」

弟「ちゃお~♪ どうしたの、兄ちゃん」

魔道士「弟君、パーティーは好きかい?」

弟「パーティー? うん、好きっ!」

魔道士「それじゃあ、君もおいでよ。これなんだけど…」

そう言って兄ちゃんは招待状を見せてきた。
どれどれ…


――私の誕生日パーティーを開きます。お友達も連れておいで。 父より


魔道士「うちの一族や、他の魔導一族も集まって、毎年盛大にやるんだ。パパは顔が広いからねぇ」

弟「ってことは魔法使いさんが一杯来るの!? 行きたい、行きたい!!」キラキラ

魔道士「ハイ決定~♪ 弟君が行くなら君も行くよね、町娘ちゃん」

町娘「ぐぬぬ」

弟「毎年お友達を連れて行ってるの?」

魔道士「……いなかったんだ、友達」ズーン

町娘&弟(あちゃー…)

弟「僕と兄ちゃんは友達だよ! 兄ちゃん、胸張っていいよ!」グッ

魔道士「そうだね、マイベストフレンド!」ガシッ

町娘「パーティーは一週間後か…着ていく服とかプレゼントとか色々用意したいですね」

魔道士「オーケー、町まで送るよ★ ちなみにパパは甘いものが好きだから、町娘ちゃん手作りのお菓子とか喜ぶと思うよ!」

町娘「わかりました、それじゃあ材料を買っておきます」

弟「僕も手伝うよ、お姉ちゃん!」




>町、商店街


町娘「ハァ…気が重いわ」

弟「どうして? 楽しそうじゃない、パーティー」

町娘「色々と気を遣うのよ。…魔道士さんのご両親とお会いするのも初めてだし」

弟「前に写真を見たことあるけど、優しそうな人たちだよね」

小太りなお父さんは絵描きだった頃の兄ちゃんにそっくりで、綺麗なお母さんは今の兄ちゃんに似ている。
写真に写っていた3人は仲が良さそうだった。それにあの兄ちゃんの両親なら、きっと優しい人に決まっている。

町娘「うん…優しい人だとは思うんだけどね」

弟「だったら何の不安もないじゃん。それよりもお菓子の材料選ぼうよ~」

町娘「う、うん」

町娘「………」



~町娘の想像~

父「チャオ☆ おぉ魔道士君、彼女が君の言っていたお嫁さんか~い?」

母「うちの魔道士ちゃんはパパそっくりの立派な男の子になるわよ★」

父「ハハッ、ママの育て方が良かったんだよ、アハ~ン♪ 僕もママの手料理で、お腹がこんなに立派に育っちゃってね☆」

母「あらやだもうパパったら~♪ 町娘ちゃん、魔道士ちゃんのことを宜しくねっ♪」

父「アハハハハハッ☆」

母「ウフフフフフッ★」

~想像終了~


町娘「…駄目だ、まともな想像ができないっ!!」

弟「うん、何せ魔導一族の人だもんね! きっと凄い人たちだよね!」

町娘「弟君の純粋さを見てたら、私の心が汚れているみたいだわ…」

弟「ところでお姉ちゃん、パーティーに着ていく服あるの?」

町娘「あるわよ。ほら、御曹司さんの家のパーティーにも着ていったやつ…」

弟「あんなの駄目だよ、もう流行遅れの服じゃん!」

町娘「でもパーティーに着ていける服はあれしか持ってないのよねー…。新しく買う余裕もないし」

弟「あ、じゃあ仕立て屋の兄ちゃんに安く借りられないか頼んでみるね!」ダッ

町娘「えっ、ちょっと…こらーっ、待ちなさい!」

弟(だって、こういう時くらい…)

少しでも綺麗なお姉ちゃんを見てもらいたかったから。
魔道士の兄ちゃんにも、兄ちゃんの一族の皆にも…。





>当日


町娘「もー…ほんとにこれ借りて大丈夫なの?」

弟「大丈夫、大丈夫。仕立て屋の兄ちゃんも、美人さんに着てもらえると嬉しいって言ってたよ」

町娘「お世辞だからねそれ」

肩を出すのも、膝丈くらいのスカートも、少し派手めなピンク色も、普段お姉ちゃんが着慣れないデザインだ。
お姉ちゃんは恥ずかしがっているけど、弟である僕から見ても、普段と違った雰囲気で綺麗だと思う。

魔道士「チャオ~、迎えに来……っ、町娘ちゃん!?」

町娘「ま、魔道士さん!」

向かい合って2人は固まる。
2人とも、顔が真っ赤だ。

魔道士「え、えーとね…き、ききき、きれ…アハァ~ン」

弟(うわーあ)

素になった兄ちゃんはとてもシャイだ。
見ていてわかりやすい。

町娘「い、いい行きましょう、魔道士さん、ねっ!?」

魔道士「オ、オーケー!」

弟(目ぇ合わせて喋りなよ2人とも…)

何だか、2人の仲に進展がないのも納得な状態だった。





>会場


町娘「わぁ、立派なお屋敷」

魔道士兄ちゃんの案内でやってきたのは、セレブな住宅地にある洋館だった。
外観は物語に出てきそうな古い造りをしているけど、モダンな感じがお洒落だ。

魔道士「パパとママは魔導商売を引退して、ここでのんびり生活しているのさ。ごめんくださーい」カランカラン

メイド「あら、お坊ちゃま。ようこそおいで下さいました」

町娘(ぼ、坊ちゃま……)

魔道士「こちらは僕の友人だよ。会場に通してくれるかな?」

メイド「かしこまりました、どうぞこちらへ」

町娘「え……えっ!?」

弟「どうしたのお姉ちゃん」

町娘「魔道士さんが『チャオ』って言わなかった…!!」

弟「え、そこ?」

メイドさんの案内で廊下を歩く。
建物自体のデザインは古いけど中は綺麗なので、古い造りは家主の趣味なのだと思う。

メイド「どうぞこちらです」

魔道士「パパ、ママ!」

町娘「……!!」(どんな人!?)

弟「……?」



父「おぉよく来た魔道士」

母「こちらの方はお友達? ふふ、ようこそ来て下さいました」

魔道士「町娘ちゃんと、その弟の弟君だよ」

父「来てくれてありがとう。今日は楽しんでいってくれたまえ」

町娘「は、はい、ご招待ありがとうございます…」

弟「お誕生日おめでとうございます!」


町娘「………どうしよう。普通だ」

弟「何を言ってるの、お姉ちゃん?」

町娘「……ってか」


親戚A「よぉ魔道士、久しぶりだな!」

魔道士「やぁ、久しぶり! 元気そうだね」

親戚B「お前の活躍聞いてるぞー、凄いじゃん魔道士!」

魔道士「ありがとう。でも、パパにはかなわないけどね」

親戚C「お前は本当ファザコンで、ついでにマザコンだよな~」

魔道士「やめてくれよ~」


町娘「どうしよう!! 魔道士さんがマトモで、いつもの魔道士さんじゃない!!」

弟「だから何を言ってるの、お姉ちゃん?」

親戚A「あ、こちらもしかして、魔道士が求婚したっていう町娘さん?」

魔道士「」ブハッ

町娘「え、あ、あぁ、初めまして…町娘と申します」

親戚B「おい噂は聞いてるぞ魔道士~、お前にしては大胆だなぁオイ」

魔道士「えー…と、それはだねー……」汗ダラダラ

親戚C「あ、あと噂によるとお前『チャオ』とか『アハーン』とか言ってるって…」

町娘「え? むしろそれが通常運転じゃ…」

魔道士「ストオオオォォォップ!!」

弟(…大変だなぁ、イメチェンした人は)


兄ちゃんには「魔道士」と「絵描き」、2つの顔がある。
「絵描き」の部分にコンプレックスがある兄ちゃんは、最初はそれを隠してお姉ちゃんに求婚した。
でもそれがバレた今は、隠しても仕方ないのだけれど…。

魔道士「アハーン町娘ちゃん…本当申し訳ないんだけど、僕に話を合わせてくれるかなぁ?」汗ダラダラ

町娘「わ、わかりました…」

兄ちゃんはお姉ちゃんの前では「絵描き」の部分を隠していることが多い。

弟(…だからかなぁ、2人の距離が縮まないのは)


?「ねぇ。君、魔道士お兄ちゃんのお知り合い?」

弟「うん?」

ふと、僕と同い年位の女の子が話しかけてきた。

従妹「私、魔道士お兄ちゃんの従妹なの。初めまして」ペコッ

弟「あ、僕は弟。魔道士兄ちゃんの友達なんだ」

従妹「あ、そうなの。じゃあ仲良くしましょう」

弟「うん!」

町娘「あら、友達できたの。せっかくだし、2人で遊んでいるといいわ。但し、騒がないようにね」

弟「わかったー」

従妹「ねぇねぇ、食べ物とってこよう。私もうお腹ペコペコなのー」

弟「そうだね。ねぇ君は何が好き? 僕はねー…」





従妹「へぇ、弟君は魔法使いに憧れているの」

弟「うん! 小さい頃は魔法使いになるのが夢だったんだ」

従妹「今は違うの?」

弟「僕には無理だよ、魔法なんて使えないし」

従妹「そうねぇ…。あ、そうだ。だったら一緒に作ってみない、魔法道具?」

弟「いいねー、魔法使いっぽい! どんなものが作れるの?」

従妹「運気を上げるお守りくらいだったら、すぐに作れると思うわ」

弟「あ、じゃあ…恋愛運のお守りは作れる?」

従妹「うん。弟君、好きな人がいるの?」

弟「いや僕じゃなくてね。お守りをあげたい人がいるんだ」

従妹「わかった。じゃあ、一緒に作ってみよう!」

従妹ちゃんに手を引かれ、庭の方に出た。
庭には花が沢山咲いている。

従妹「おじ様ごめんなさいっ、1枚頂きます」

そう言いながら従妹ちゃんは、何かの花から花びらを1枚抜いた。

弟「もしかして、それが材料?」

従妹「そう。花言葉って知ってる? それと同じように花にはそれぞれ、運気を上げる力があるの。この花が恋愛運にはいいわ」

弟「へぇ~、そうなんだ」

従妹「この花びらをこうして小瓶に入れてね…」

僕は従妹ちゃんに聞きながら、お守り作りにとりかかっていた。
なんだか工作みたいで、面白い。

弟(魔道士兄ちゃんが報われますように……)

そんな願いを込めていた。





僕は体が弱くて、小さい頃は病気ばかりしていた。
だから他の子みたく外で遊べなかったし、友達もあまり作れなかった。

それでも僕は、寂しくなんかなかった。

弟『~♪』

1人で本の世界に浸ることで、ドキドキもワクワクもできたから。
本だけが僕の友達だった。


ある日僕は、溜めたお小遣いを持って古本屋に出かけた。

弟『何かいい本が見つかるといいな…うん?』

商店街にあるベンチでスケッチブックを広げている兄ちゃんがいた。
とても真剣に手を動かしているのが、見ていてわかる。

弟(どんな絵を描いているのかなぁ)

僕はそっと兄ちゃんの後ろに回り込んだ。すると…

弟『わぁ~!』

絵描き『!?』ビクッ

スケッチブックの中には『世界』が広がっていた。

弟『凄い、凄い! 世界を作り出せるなんて、天才だよ!』

絵描き『え、えーと…』

兄ちゃんは気弱な目で僕を見ていた。
しまった、驚かせちゃったか。

弟『あ、ごめんね。僕、絵とか好きだから気になって…』

絵描き『そ、そう』

弟『ねぇねぇ、他にも絵ある?』

絵描き『あ、あるけど…』

弟『本当! ねぇ見せて見せて!』

絵描きの兄ちゃんは戸惑いながらも、僕にスケッチブックを見せてくれた。
動物、植物、町並み…色んなものを描いていて、そこにも『世界』がある。

弟『絵本みたーい』

それは僕にとって精一杯の褒め言葉だった。

絵描き『その…絵、いる?』

弟『くれるの! 欲しい!』

少ないお小遣いをやりくりして本を買っている僕にとって、嬉しい話だった。
その時の僕の目はキラキラしてたんだと思う。僕のそんな様子を見て、兄ちゃんもちょっと笑ってくれて。

弟『兄ちゃん、いつもここにいるの?』

絵描き『えーと…しばらくは、この町のどこかにいる予定』

弟『じゃあ、また来てもいいかな?』

絵描き『う、うん、いいよ』

弟『やったぁ! じゃあ兄ちゃんと僕は友達だね!』

絵描き『と、友達…』

その時の兄ちゃんは戸惑いながらも、どこか、嬉しそうだった。



それからの僕は、体の調子がいい時に、兄ちゃんの所に遊びに行っていた。

弟『兄ちゃん兄ちゃん』

その時の僕は人との距離感なんてよくわかっていなかったから、

弟『ねぇ兄ちゃん、この本面白いけど挿絵がないんだ。兄ちゃんのイメージで絵を描いてみてよ』

こういうお願いを平然としていた。
だけど兄ちゃんは優しいものだから、

絵描き『いいよ。本、借りてもいい?』

僕が頼んだことは、笑顔で叶えてくれた。

弟『まるで魔法だよね』

絵描き『ま、魔法?』

弟『うん。真っ白なスケッチブックに『世界』を作り出していく…それって魔法みたいだなって』

絵描き『…そう言ってくれるのなら』

兄ちゃんは、褒めると照れる人だった。





弟『遊びに行ってきまーす』

町娘『弟君、最近よく出かけるわね。何か面白いことでも見つけた?』

弟『うん! あのね、絵描きの兄ちゃんと友達になったの』

町娘『絵描き?』

弟『そう。見てこれ、全部兄ちゃんに描いてもらったの』

町娘『まぁ…こんなに沢山』

弟『兄ちゃん、優しいんだよ。僕のお話も聞いてくれるし』

町娘『1度お礼に伺わないと。お姉ちゃんも行っていい?』

弟『うん、いいよ!』



弟『絵描き兄ちゃーん』

絵描き『あ、弟く…』

いつものように兄ちゃんは出迎えようとしてくれていたけど。

絵描き『――っ!?』

弟『?』

町娘『こんにちは、弟君の姉の、町娘です』

その時の僕はわからなかった。
兄ちゃんは、女の人が苦手だってことを。

町娘『いつも弟がお世話になっています』

絵描き『い、いえ…こちらこそ…』オドオド

町娘『…素敵ですね』

絵描き『えっ!?』

町娘『その絵。芸術には詳しくないんですけど、とても素敵だと思います』

絵描き『ど、どうも』

町娘『弟君、あまり友達がいないんです。これからも宜しくしてあげて下さい』ペコッ

絵描き『は、はいっ!』





絵描き『ご、ご馳走になって…あ、ありがとうございます』

町娘『いいえ、また来て下さいね。弟君の大事なお友達ですから』

絵描き『は、はい』

弟(兄ちゃんってお姉ちゃんの前では、いっつもオドオドするなー)

思い返せば、あの頃からだったのかもしれない。

弟『ねぇ兄ちゃん、お姉ちゃんのこと苦手?』

絵描き『!? い、いや、そんなことないよ!』

弟『ふぅん』

兄ちゃんは、あの頃からお姉ちゃんが好きだったんだ。

絵描き『綺麗で…優しい人だと思ってる』

弟『本当? へへ、自慢のお姉ちゃんだよ』

絵描き『うん…あ、お姉さんには言わないでね』

弟『わかった。言わないね!』





ある日…

弟『あれー、今日は兄ちゃんいないなぁ』キョロキョロ

弟『どこ行っちゃったのかなー』

その日僕は、兄ちゃんを探して歩き回っていた。

ポツ

弟『あ、雨…』

その時は傘も持っていなくて、町から少し離れていた為雨宿りする場所もなかった。
僕は急いで家に戻ろうと走った。

弟『ゼェゼェ』

さっきまで歩き回っていて疲れていた。
ただでさえ体力のない僕は、少し走っただけで息切れしてしまう。

弟『もうちょっと歩けば…』

絵描き『弟君!』

弟『あ…』

バッタリ、絵描き兄ちゃんと遭遇した。
その時の僕は、兄ちゃんに会えた安心感で一杯だった。

絵描き『弟君、顔色悪いよ! た、大変だ』

兄ちゃんは僕を背負って走り出した。
雨に濡れた僕を背負って走って、兄ちゃんもかなり息切れしてたけど、それでもスピードを落とさず走ってくれた。


絵描き『お、弟君がっ』

叔父『びしょ濡れじゃないか、早く着替えさせないと!』

絵描き『す、すみません…僕を探して遠くまで行ってしまったようで…』

叔父『いや、送ってくれてありがとな。あんたも服乾かしていきな』

弟『うぅーん…』


それから僕は風邪を引いてしまい、何日か寝込んでいたらしい。
その間は熱にうなされていたので、記憶が定かじゃない。

だけど、1つ覚えているのは――



『弟君、ごめんね』

――誰?

うっすらと聞こえる声に、僕は反応も返せずにいた。
だけど暖かい手が、僕の手を握ってくれて。

『家の都合で――僕はもう行かないといけない』

『お守りを置いていくよ…。君が少しでも丈夫になれるように、願いを込めておいた』

『君のお陰で楽しかった。君が僕の初めての友達になってくれたんだ』

『次に会う時までに、もっともっと立派になるから――』

『その時は、また僕と遊んでね』


弟『絵描き…兄ちゃん……?』


何日かして僕は動けるようになったけど、その時にはもう、絵描き兄ちゃんは町を去った後だった。僕の枕元に、お守りを残して――





従妹「ねぇ」

お守り作りも仕上げという所で、従妹ちゃんがふとこんな話をしてきた。

従妹「お守りをあげたい人って、弟君にとって大事な人?」

弟「うん! 魔道士兄ちゃんなんだけどね、僕のお姉ちゃんのことが好きなんだ」

従妹「じゃあ2人が結婚したら、魔道士お兄ちゃんと親戚になるのね」

弟「そうだね」

魔道士兄ちゃんとは今でも仲の良い友達。
だけど僕の本当の兄ちゃんになってくれたら、どんなに嬉しいことか。

弟「それに魔道士兄ちゃんなら、お姉ちゃんを幸せにしてくれると思うんだ」

従妹「優しいもんね、魔道士お兄ちゃん」

弟「うん!」

兄ちゃんは明るくてかっこよくなっても、昔と変わらず優しいままだ。
僕はお姉ちゃんも魔道士兄ちゃんも大好きだから、2人には幸せになってもらいたい。

従妹「叶うといいね、恋愛成就」

弟「うん!」


魔道士兄ちゃんはちょっとだらしない所があって、お姉ちゃんに怒られてばかりいる。
でもお姉ちゃんだって、魔道士兄ちゃんのいい所は沢山知っているはずだ。

魔法の腕が凄い所。
絵が上手な所。
いつでも穏やかで優しい所。
ピンチな時には助けてくれる所。

そんな兄ちゃんの想いが報われるように――

従妹「よし、お守りはこれで完成よ」

弟「ありがとう! 早速、兄ちゃんに渡してくる!」

僕はちょっとでも、兄ちゃんの力になりたかった。



弟「兄ちゃーん…?」

パーティー会場に戻って兄ちゃんの姿を探すけど、いない。
お姉ちゃんもいないし、どこに行ったのだろう。

従妹「あっちの方から魔道士お兄ちゃんの魔力を感じるわよ」

弟「そっか。ありがとう!」

早くお守りを渡したくて僕は急いだ。
そして、兄ちゃんの姿を見つけたけれど――


町娘「しっかりして下さい魔道士さん」

魔道士「アハーン……」

弟(あ、お姉ちゃんも一緒だ)

お守りはお姉ちゃんのいない時に渡したい。
そう思ってタイミングを見計らっていたけれど。

魔道士「本当に大丈夫かなぁ…」

魔道士兄ちゃんは、何やら浮かない様子だった。

魔道士「皆、絵描きだった頃の僕を知っているから…昔のように、馬鹿にされるんじゃないかって思って…」

弟(何があったのかな?)

魔道士兄ちゃんの顔は弱気で、昔の面影が強く出ていた。
僕は兄ちゃんが痩せてから、兄ちゃんのあんな顔を見たことがない。だから余計に心配で。

魔道士「やっぱり、あんまり目立ったことはしたくないなぁ…」

何だかよくわからないけど、弱気になっている兄ちゃんを励ましたいと思った。
だけど――

町娘「大丈夫ですよ魔道士さん」

僕が出て行く前に、お姉ちゃんはそう言った。

町娘「今の魔道士さんは魔導名家の当主を立派に務めているじゃありませんか。魔道士さんを馬鹿にできる人なんて、いませんよ」

魔道士「でも僕が誇れるのは、魔法の腕だけで…」

町娘「もっともっと、魔道士さんは自分を誇っていいと私は思います」

僕は、こんな光景を初めて見る。

町娘「昔の魔道士さんを知ってるからこそ、今の魔道士さんは輝いて見えますよ。魔道士さんは一生懸命努力され、それだけの力を手に入れたんですから」

お姉ちゃんが、魔道士兄ちゃんを励ますなんて。

町娘「それに私――魔道士さんが描く絵は素敵だと思います」

魔道士「町娘ちゃん…」

その言葉で、兄ちゃんは笑顔を取り戻して。

魔道士「アハハ~ン、町娘ちゃんたら大胆告白ぅ☆ そうだね、卑屈になるなんて僕らしくなかったね! 輝いて目立って、君のハートを射止めちゃうぞっ」バァン

町娘「真面目に」

魔道士「………」モジモジ

町娘「だから何で真面目だとそうなるんですか!? 中間はないんですか!?」


弟「……」


元気になった魔道士兄ちゃんとお姉ちゃんはパーティー会場に戻っていく。
僕も2人に気づかれないように、その後を追った。


魔道士「パパ、遅くなったけどプレゼントを渡したいんだ」

魔道士兄ちゃんがお父さんに声をかけた所で、皆の視線が兄ちゃんに向いた。
兄ちゃんが弱気になっていたのは、プレゼントのせいだろうか…? 僕は黙って見ていることにした。

父「ほう、何をくれるのかな魔道士」

魔道士「これだよ」

魔道士兄ちゃんが上空に魔法を放つと、何もなかった所に何かが出てきた。
あれは――

魔道士「パパの故郷の絵だよ。1ヶ月かけて描いてたんだ」

弟(わぁ)


魔道士『皆、絵描きだった頃の僕を知っているから…昔のように、馬鹿にされるんじゃないかって思って…』


さっき兄ちゃんの言っていた言葉の意味がわかった。
絵を見せることで「絵描き」だった頃の自分を馬鹿にされるのではないか――兄ちゃんは、それが怖かったんだ。

弟(でも大丈夫だよ、兄ちゃん)


父「これは嬉しいな!」


おじさんは大きな声で言った。

父「これは魔法では作り出せない、世界でたった1つの絵だ。故郷での懐かしい思い出が、キャンパスに浮かんでいるようだ」

母「そうねぇ、とても素敵なプレゼントだわ」

父「ありがとう魔道士。私室に大事に飾らせてもらう」

魔道士「パパ…」

それを聞いた時の魔道士兄ちゃんは恥ずかしそうだけど、嬉しそうに見えた。


親戚A「お前、まだ絵描いてたのかよーっ」ポンッ

魔道士「あ、ま、まぁね」

親戚B「そうだったなー、昔から絵ばっか描いてたよな」

親戚C「もうやめちまったのかと思ってたよ」

魔道士「ハハ…まぁ、最近はスケッチ程度しか描かなくなっていたけどね」

親戚A「何でー? もったいない!」

魔道士「…えっ?」

その言葉に、兄ちゃんは驚いていた。

親戚B「魔法商売の他にも、絵を売ってみたらどうよ?」

親戚C「それいいな。俺が買うぞ」

魔道士「……」

町娘「…ね、言ったでしょ?」

魔道士「うん…そうだね!」

兄ちゃんは満面の笑みを浮かべた。
きっと絵を認められたことで、コンプレックスが1つ解消したのだろう。
兄ちゃんは凄い人だけど、それだけのことが、すっごくすっごく嬉しいのだ。


従妹「弟君、お守り渡せた?」

弟「ううん」

従妹「どうして?」

弟「だって…」


さっきの2人の様子を見て思った。
兄ちゃんの魅力は、ちゃんとお姉ちゃんに伝わっている。


弟「兄ちゃんなら大丈夫! 僕、もっと兄ちゃんの力を信じてみるよ!」

従妹「そっか。…うん、それがいいね!」


2人が僕が望む関係になるのは、いつになるかはわからないけど。


弟「おじさん、これプレゼント!」

父「おっ、これは?」

弟「あのね、いつまでも奥さんと仲良く、っていうお願いを込めたお守り!」

父「おやおや、ありがとう。これは夫婦喧嘩もできんなぁ」ハハハ

母「ふふ、そうですねぇ」


いつかはきっと、そうなれると信じて。


町娘「弟君、迷子にならなかった?」

弟「うん! お姉ちゃん、僕はもう一人前だから、僕のこと気にかけなくても大丈夫だよ!」

町娘「あらあら、言うようになったわねぇ」


2人が自分の幸せに向かえるように、僕のことを気にかけなくても大丈夫なように、僕はもっと強くなろうと思う。

そうと決まれば――


弟「よーし…頑張ろうっ!」



Fin


あとがき

リクエスト下さったシヅキ様、ありがとうございます(´▽`)ノ
魔道士「僕のお嫁さんを召喚するよ☆」 のチャオさん一族との会食や弟視点のメイン2人との事でした。

チャオさんの一族もチャオな人らかなと当初思っていたんですが、チャオな一族の中で絵描きさんみたいな人が育つわけないなと思い直し、普通の人になりました。
チャオさん一族でおかしいのはチャオさんただ1人だ!!クワッ

ってか今作のチャオさんわりかしマトモな人でしたね。私は頭のおかしなチャオさんが好きですが、頭おかしいだけだと町娘と絶対添い遂げませんなwww
posted by ぽんざれす at 15:37| Comment(2) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは、リクエストにお応えいただきありがとうございます!
チャオさん一族がみんなマトモでチャオさんどんだけキャラ作ってたのかと噴いてしまいました。いつもより大人しいチャオさんはちょっと残念ですが、流石に家族の前であのキャラは出来ませんものねーしかし見たかった(笑)
個人的にチャオさんと町娘ちゃんにはじっくり愛を育んでほしいのであのようなリクエスト内容にしましたが……ほのぼのラブ、イイ!
まあ弟くんの言ったとおり夫婦になるのも秒読みみたいですが♪( ̄∀ ̄*)ニヤニヤ

今回は素敵なスピンオフ本当にありがとうございました。それでは(^◇^)┛
Posted by シヅキ at 2015年10月26日 16:48
チャオさんは相当無理していたようですねw
万が一親族にあのキャラを見られたら、チャオさんは枕に顔を埋めて「あああぁぁぁ」とか叫びながら引きこもっちゃう人です(`・ω・´)
ラブラブになってもきっと、町娘はチャオさんを怒っていることでしょう(´∀`)
Posted by ぽんざれす@作者 at 2015年10月26日 17:25
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