2015年11月09日

【スピンオフ】魔女「不死者を拾いました」

魔女「不死者を拾いました」のスピンオフです




もしも、あの時こうしていれば――


過去を振り返ることがよくある。特に『後悔』というものは、長く生きれば生きる程積み重なっていくものだ。

私の心には、今でも消えない傷がある。

失ったものは取り戻せないから、余計に惜しくなる。


もしも、あの時こうしていれば――


私はまた振り返る。未練を抱いているものは、既に失ったものだと解りながらも。


魔女「…戻れたらいいのに」


彼と過ごせた尊い時間に。
例え、ハッピーエンドにならないとわかっていても。


魔女「もしも、あの時――」


私はまた、後悔を繰り返す。







魔女「…っ」


突如、目の前の景色が変わった。

理解が追いつかず頭がぽやっとする。
さっきまで部屋で研究をしていて、それで――



不死者「…っあぁ!!」

勇者「痛いかよ、でももうすぐ死ぬんだからギャーギャー騒ぐんじゃねぇ!!」


魔女「……えっ!?」


目の前では、両手を失った不死者さんが勇者さんに襲われていた。

魔女(…どういうこと!?)


不死者さんは死んだ。それは何年も前の出来事のはず。

なのに目の前にいる不死者さんは、生きて苦痛に顔を歪めていて――

魔女「…あっ!」


思い出した。確かこの後、不死者さんは勇者さんに――


勇者「次は…ほらあぁ!!」

不死者「ぐあああぁぁっ!!」


片足を吹っ飛ばされる。
勇者さんが次に狙うのはもう片方の足。

両手両足を切断し、最後には――



魔女(…させないっ!!)ダッ


――あの時と同じ結末は。


私は考えるよりも先に動いていた。

このままだと私はずっと後悔することになる。
もしも、あの時こうしていれば――そんな思いをずっと抱いて。

その「あの時」が今こうして、やってきたのだ。


魔女「やめて下さいっ!!」

私は不死者さんを庇うように、2人の間に入った。


不死者「お嬢…ちゃん?」


これは「あの時」にはなかった展開。
だけど――やり直したからには絶対に、


魔女「不死者さんを、殺さないでぇっ!!」


――後悔しない道を選ぶ。


勇者「どきな…! じゃないと、あんたも殺すぞ!!」

勇者さんは興奮して声を荒げている。
無理もない。不死者さんは勇者さんにとって、恋人の仇。その仇を討とうという時に、興奮するのは当然のことだ。

だけど。

魔女「…どきません」

足が震える程、怖いけど。

魔女「不死者さんを殺させない…!」

だけどここで退いたら、絶対後悔するから。

魔女「殺すなら、私を先に殺して下さい!!」


もう残されるのは、嫌だから。


だけど――

不死者「バカやってんじゃねぇよ」

魔女「不死者さん!?」

手を失った腕を体に回され、私を引き止めた。

不死者「勇者…標的を誤るなよ?」

勇者「…俺だってその魔女は殺したくない。お前が大人しく命を差し出せ」

不死者「そのつもりだ…」

そう言って不死者さんは、足を引きずりながら前に出ようとしたけれど。

魔女「駄目っ!」

私は、彼の服を掴んで止めた。

不死者「おい離せ!」

魔女「いや、いやですっ!」

不死者さんに引き離されそうになったけど、私は彼に抱きついた。

魔女「不死者さんが死ぬなんて、そんなの駄目! 嫌です!」

不死者「はっ?」

不死者さんは呆気にとられたような顔をしている。
理由はわかる。だって、不死者さんは――

不死者「何言ってんだよ、俺は元々死ぬつもりだったろ!?」

魔女「わかっています……でも、駄目なんですーっ!!」


そう、わかっている。それが、不死者さんが私の側にいてくれた理由だから。

魔女「大事なんです、不死者さんのことが! 不死者さんは私に、あったかい時間をくれた人だからぁ…っ、嫌です、不死者さんがいなくなるなんてイヤぁ!」


理屈なんかじゃない。これは私のワガママ。だけど私は子供のように泣き叫ぶ。
これだけは、譲れないから。

不死者「…っ、そんなこと、言うなよ……」

不死者さんは困ったようにそう言うと勇者さんを見る。

不死者「おい、早く俺の心臓を突け。…じゃねぇと、俺も揺らぎそうだ」

勇者「あぁ…」

魔女「あ…っ」

勇者さんは剣を構える。その瞳は、不死者さんを映している。

勇者「死ね――っ!!」

刃が不死者さんに迫る――


不死者「――っ」

魔女「だめえええぇぇっ!!」


勇者「っ!?」

不死者「は…っ!?」


飛び出したと同時、熱いものが胸を貫き、焼けるような痛みが走った。


魔女「う…っ」

不死者「お、おいお嬢ちゃん!」


強烈な痛みに目眩がして、私はその場に倒れてしまった。


勇者「チッ…狙いを外した」

不死者「しっかりしろ! おいっ!!」

魔女「コホッ…不死者さん……」


意識が遠くなる。だけど目の前に不死者さんがいることが、嬉しかった。

魔女「良かった…ぁ」

不死者「何が良かったんだよ!?」

魔女「だって私…もう、置いていかれること、ないんだもん……」

不死者「……っ!!」


こんなに痛いの初めてで、泣きそうになる。
だけど残される痛みよりは、遥かにマシ。


魔女「失うのは、いやなんです……」

私は不死者さんの首に手を回した。

魔女「不死者さん、私――」

そして少し強引に、彼の頭を引き寄せる。

魔女「ん――」

不死者「――っ」

魔女「…えへへ。キス……しちゃった」

不死者「お嬢ちゃん――」

幸せだった。例えこれから死ぬとしても――
だけど、これが自分達に許された、最高のハッピーエンドの形だと疑わなかった。

不死者「おい…目ぇ覚ませ、おいっ!!」


そして私の意識は、最高潮の幸せを感じたまま途絶えた。









覚えていますか? 私達の出会いを。


不死者『何回何十回何百回痛みを与えられても死ぬ事ができない!! あとどれ位死ぬような痛みを与えられながら生き地獄を味わわねばならんのだ、魔王オオォォ!! ふはっ、はははは…』

魔女『…ぃ、ぇぅ…』ブルブル

不死者『…ん?』

魔女『怖いよおぉ~』


第一印象は怖い人でした。
だって貴方は目つきは悪いし、狂気に憑りつかれていて…今思い出しても、とっても怖いです。


不死者『こんな体になって10年、俺はいい加減死にたくなってきた。魔女なら何とかできるんじゃないのか』


そんな貴方が気の毒で、私は協力を申し入れました。


魔女『グスッ実は私調合グスッ下手なんですシクシク』


失敗ばかりで、私は駄目な魔女なんです。


不死者『怒ってない、怒ってないから泣くな、な?』ポンポン


そんな私を慰めてくれる頭ポンポンが、大好きでした。


不死者『大丈夫だ。女の方がデリケートだからな』


貴方はいつでも優しくて、あったかくて。


不死者『でも、あんたでブスなら、あいつらもっと悲惨だと思うんだけどな』

不死者『じゃあ俺が側で見ているから、油断せずにやってみ』

不死者『もっと自信持て~』ポンポン


貴方との思い出は、全てが宝物なんです。

今度は――絶対に後悔しません。



――不死者さん、貴方に出会えて良かった。








魔女「……ん」

目を開けると見慣れた天井。
ちょっと肌寒くて、それに体がズキズキする。

この状況は――


不死者「…起きたか」

魔女「!」

側に不死者さんがいた。
2人とも生きてる――その事実に興奮して、起き上がろうとしたけど、

魔女「痛っ…」

不死者「無理すんな。傷は深いぞ」

魔女「あうぅ」

寝たままお話するのはちょっと恥ずかしい。
格好も、こんなパジャマだし――って、パジャマ!?

魔女「ふ、ふ、ふ、不死者さん、こ、この服っ」

不死者「あぁ…血まみれだったから着替えさせた」

魔女「…グスッ」

不死者「おぉい!? 悪かったごめん! でも女手がないし、血まみれの服のままにしておくわけにもいかないだろ!?」

魔女「違うんですぅ…こんなちんちくりんな体、恥ずかしくて」シクシク

不死者「…ばーか」

不死者さんは顔をプイッとそむけた。

魔女「…あれから、どうなったんですか? 勇者さんは…」

不死者「…あぁ」





>回想


不死者「お嬢ちゃん!? おい、目ぇ覚ませ!!」

勇者「…チッ」

勇者は剣を鞘に収めた。そしてあるものを拾い上げ…

勇者「おい、これ、くっつけられるんだろ?」

不死者「!」

勇者が投げ渡したのは、切り捨てた不死者の手足だった。

勇者「その魔女を死なせたくはない。…お前が治療しろ」

不死者「だが…」

勇者「お前を許したわけじゃない」

勇者はその場から去りながら、こちらを見ずに言った。

勇者「俺は魔王を討つ。そうすればお前も死ぬ。…それまでの猶予が、魔女に対する礼代わりだ」





不死者「そういうわけで。何とか、命拾いした」

魔女「良かった…」

不死者「良くねーよ」

不死者さんにコツンと頭を叩かれた。

不死者「無茶しすぎだ。危うく死ぬ所だったんだぞ」

魔女「言ったじゃないですか。…残されるのは、嫌なんですよ」

不死者「……魔王が討たれれば、俺も死ぬぞ」

魔女「えぇ…それでもです」

私は不死者さんの手をギュッと握る。

魔女「不死者さんを見殺しにするよりは、いいんです。少しでも長く、不死者さんと一緒にいたいんです」

不死者「……」

不死者さんは、釈然としないといった顔をしていた。


魔女「私ね、未来から戻ってきたんです」

不死者「未来から…?」

魔女「はい。あの時の私は何もできず、不死者さんを見殺しにしてしまいました」

思い出すだけで痛い。
不死者さんを失った辛さ。見殺しにしてしまった罪悪感。

魔女「勇者さんは魔王を倒し、私は勇者さんに協力した魔女として人々に受け入れられるようになった――でも、貴方のことを引きずっていました。…そんな日々を送っていて、ある時、猫さんに出会ったんです」

不死者「猫…?」

魔女「はい。不死者さんそっくりの猫さんです」

目つきが悪くて、全然甘えてこないけど。私が怪我をしたり泣いている時は、側にいてくれる子だった。

魔女「その猫さんのお陰で、寂しさを紛らわすことができました。…でもそれは、少しの間だけなんです」

不死者「少しの間…?」

魔女「私は不老不死の魔女で、猫さんは普通の猫さんですよ?」

猫さんはあっという間に歳を取った。
最近は病気がちで、元気も無くなってきた。

魔女「そんな猫さんの看病をしている時、あぁ、私はまた1人になるのかって思って…。それで、不死者さんのことをよく思い出すようになって……」

不死者「……」

魔女「ずっと…ずっと後悔していました……」

涙が溢れてきた。
私は泣き虫だ。こんなんじゃ駄目なのに、不死者さんといる時は笑っていたいのに。

不死者「…信じられねぇ話だが、その後悔は終わりだ」

不死者さんは頭をポンポン叩いてくれた。
大好きな感触。それで不死者さんが側にいるんだって実感できて。

不死者「俺は生き残った。…ありがとうな」

魔女「不死者さぁん…」

不死者「だーかーら、泣くなって。今のあんたには看病が必要だし、魔王が倒される日まで側にいてやるから」

…そうだ、不死者さんは生き残ったけれど、タイムリミットがある。
だから、今度は後悔のないようにしなきゃいけない。

魔女「…不死者さん」

不死者「ん、どうした?」

魔女「ぎゅっとしてくれますか?」

不死者「は……?」


不死者さんを失ってから、私はこの気持ちに気付いた。
いざ本人を目の前にすると、言うのはとても恥ずかしいけれど。


魔女「私――不死者さんのこと、大好きです」


言わないと、もっと後悔するだろうから。


魔女「不死者さんと過ごした時間が、私の宝物なんです」


不死者「……」

不死者さんはちょっと困っているようだった。
その困った顔のまま、口元はちょっと笑ってくれた。

不死者「……何て言ったらいいんだろうな。えーと…」

魔女「……?」

不死者「その…嬉しいよ」

不死者さんはそう言うと、それだけで顔を真っ赤にした。


不死者「俺もな…あんたが」

魔女「はい」

不死者「その…何て言うか」

魔女「……」

不死者「えーと、だな、そのー……」

なんだかタジタジしていて、不死者さんらしくない。
しばらくそうした後、不死者さんはゴクリとツバを飲み込んだ。


そして――


不死者「っ」

魔女「――っ!」


無言のまま、私を抱きしめてくれた。
傷んでいる体を気遣ってくれてか、あまり強くはなかったけれど――


不死者「…返事は、これでいいだろうか?」


不死者さんは耳元でボソボソと言った。
きっとこれが、不死者さんの精一杯。


魔女「…はいっ」


私も不死者さんの背中に手を回す。
ずっとこのままでいい、もう離したくない――傷口が痛むのを堪えて、私は強く強く抱きしめた。





私達に残された時間は決して長くはない。
だから『その時』が来るまで、私達はなるべく一緒にいることにした。

不死者「お粥できたぞ~」

魔女「あ、ありがとうございますぅ」

不死者さんは、怪我であまり動けない私のお世話をしてくれた。

魔女「いただきま…あつぅ!」

手に上手く力が入らなくて、スプーンにすくったお粥をこぼしてしまった。

不死者「あぁ、無理すんな、食わせてやるから。ほら口開けて」

魔女「はぁーい…」

不死者「…」フーッフーッ

魔女「あーん…」パクッ

不死者「どうよ」

魔女「むぐ…はい、丁度いい暖かさです」

不死者「そうか」

不死者さんはお粥を冷ましては私に食べさせてくれた。
そんなお食事を続けている内に、思うことがあった。

魔女「不死者さん」

不死者「何だ?」

魔女「まるでお母さんみたいですねぇ~」

不死者「」

魔女「ご飯作ってくれて、あーんって食べさせてくれるんですよねぇ? えへへ、お母さんってこんな感じなんですねぇ」

不死者「…今の俺が母さんなら、今のあんたは幼児だぞ」

魔女「えっ! あ、そうかぁ!」

不死者「あーもう、黙って食え」

魔女「はぁい」

不死者(読んできた恋愛小説にこういうシチュエーション無かったのかよ…)ガックリ





魔女「お風呂入りたいぃ…」

不死者「しばらくは我慢しろ」

魔女「クサくないですか!? 私、クサくないですか!?」

不死者「クサくねーから。ほら」

不死者さんはお湯を入れた洗面器とタオルをくれた。

不死者「俺は近くの部屋掃除してるから、体拭き終わったら呼びな」

魔女「は~い」

本当はあまり力が入らないから不死者さんに拭いて貰った方がいいのかもしれないけど、恥ずかくてそれは頼めなかった。
背中にもちゃんと手は届くし、自分でできなくもない。

魔女(体拭くだけじゃ寒いなぁ~…)ブルブル

魔女(あっ…)



不死者(清拭に手間取ってないか、大丈夫か)

どんがらがっしゃーん

不死者「!?」



不死者「だ、大丈夫か!? …って」

魔女「あうぅ~」ピヨピヨ

不死者(何で上半身裸でベッドから落ちてんだよ)

魔女「う、えうっ…不死者さぁん……そこのタンスから、し、し、下着、取って…グスッ」

不死者「あーハイハイ…」

魔女(すっごく恥ずかしいよおぉ~)グスッグスッ

不死者(何だ、この罪悪感は…)





魔女「…あ、不死者さん見て下さい、外」

不死者「んー?」

カーテンをめくって不死者さんに外を見せる。
星空がキラキラ輝いていて、夜だというのに明るかった。

不死者「あぁ、なかなかいい景色だな」

魔女「外に出たいなぁ」

不死者「まだ体、思うようには動かせないんだろ?」

魔女「はいぃ…」シュン

1日中ベッドにいる生活になって、もう何日目だろうか。こんなのはもうこりごりなんだけれど、不死者さんの言う通りだ。
だけど今日の星空が綺麗で、私は未練がましく星空を見ていた。

不死者「…たく、しょうがねぇな」

魔女「えっ?」

不死者「よいしょ、っと」

魔女「きゃっ!?」

不死者さんが私を抱え上げた。
これは…この状況は……。

魔女「ふっ、不死者さん、わわ私…その、重くないですかっ!?」

不死者「ちんちくりん抱え上げて重たがる程、やわじゃねーよ」

魔女(ううぅ、ちんちくりんだけどぉ…)

不死者「じゃ、出かけるか。俺につかまってろよ」

魔女「ふ、不死者さぁん…」


ドキドキする。吐息が頬を撫でるくらい、不死者さんの顔が近い。
不死者さんの腕は力強くて、素直に体を委ねられる。

不死者「どうよ、外の空気は」

外に出ると空一面に星。
キラキラ輝いていて、私達を照らしてくれる。

不死者「…寒くないか?」

魔女「あったかいです…」

むしろ熱い。薄地のパジャマごしに不死者さんが触れてくれている。それだけで心臓がドキドキ高鳴って、私の体の熱を上げていた。

魔女「流れ星…流れないかなぁ」

不死者「何だ、願い事でもあるのか?」

魔女「えぇ、まぁ…」

不死者「あんたニブいから、願い事言う前に流れちまうだろうなぁ」

魔女「むぅ~」

不死者「…つーか魔女なら、流れ星に頼らないで自分で叶えてみれ~」

魔女「それができたら苦労しませんよぅ」

不死者さんは意地悪っぽく笑った。彼も知っての通り、私は調合がとっても下手だ。
もし私が凄腕の魔女なら、この願いは叶えられただろうか。

魔女(不死者さん……)

不死者「どうかしたか?」

魔女「いえ…」

彼はどう思っているのだろう。


少なくとも、私は――

魔女(もっともっと、不死者さんと一緒にいたい)

今こうして一緒にいられるのだって恵まれているんだって、わかっている。
わかっているんだけど、もっともっとっていう欲求が自分の中で止まらなくて。

魔女(私達に残された時間は、あとわずか……)

このまま時間が止まればいい。そうすれば、終わりの時間はやってこない。
ずっとずっと、こうして不死者さんの腕の中にいられれば、どれだけ幸せか――

不死者「? どうした」

だけど、そんなのは無理な話。


だから――


魔女「…」グイ

不死者「――っ」


不意打ちで重ねる唇。
不死者さんは驚いて、目を見開いている。

魔女「…ふうっ」

不死者「…おい、急に何だ」

魔女「えへへ……」

無理に笑う。本当は泣きたい気分なのだけれど。

魔女「星空に照らされてのキス…って、憧れていたんです」

不死者「…そうか」

不死者さんの顔は真っ赤だ。相変わらず、こういうのは慣れないみたいで。

魔女「そろそろ戻りましょうか、不死者さん」

不死者「お…おう」

この腕への未練はまだ残っているけど、これ以上不死者さんに負担をかけるわけにはいかない。
未練は手放さなければいけないものだから――


不死者「もう遅いし、今日は寝ておきな」

私はベッドに戻ってきた。
暖かいお布団。だけど、その温もりは何だか物足りない。

不死者「じゃ、俺も寝るから…お休み」

不死者さんはそう言って部屋から出ようとしたけど。

魔女「待って下さい」

不死者「っ」

私は不死者さんの服を掴んで、引き止めた。

不死者「どうした?」


私は、貴方の温もりが欲しくて――


魔女「一緒に…寝てくれませんか?」

不死者「………はい?」

不死者さんはポカーンとしていた。
わかっている。私が頼んでいるのは変なこと。

魔女「一緒にいたいんです…不死者さんと」

そうとわかっていても、私は手を離せなかった。


不死者「…俺の体大きいから、ベッド狭くなるぞ」

魔女「いいんです」

不死者「寝相とイビキは…大丈夫だって保証しねーぞ」

魔女「いいんです」

寝心地の悪さも、一緒にいられるって証になるから。

魔女「お願いします、不死者さん…」

不死者「……」

不死者さんは一旦ふぅっとため息をついた。

不死者「…わかった。寝支度整えるから、一旦待ってろ」

魔女「はい…!」





魔女「…」ドキドキ

1つのベッドに2つの枕。
すぐ目の前には大好きな顔。

不死者「…」

不死者さんの鋭い目は、今は閉じてゆったりしている。
心配していたイビキは鳴らず、静かな寝息がすぅすぅ聞こえる。
穏やかな息が私の頬を撫でて、何だかちょっとくすぐったい。

魔女(不死者さんが隣で寝てるよおおぉぉ)

私はというと興奮しちゃって眠るどころじゃなかった。
布団が暑いのは、2人分の体温のせいか、それとも高陽しているせいか。

魔女(絶対後者だよおぉ)モジモジ

不死者「…おい、どーしたよ?」

魔女「!!」

不死者さんは目を瞑ったまま言葉を発した。
寝言…じゃないよね?

魔女「ご、ごめんなさい不死者さん…起こしちゃいました?」

不死者「いや、別に。寝れないのか?」

魔女「えぇと…」

不死者「やっぱ狭いベッドに2人は寝づらいんじゃねぇの?」

魔女「そ、そそそんなことありません」

寝れないのは不死者さんが隣にいるから、ってのは確かだけど。
不死者さんは目を開けた。

不死者「…顔、真っ赤だぞ。熱でもあるか?」

魔女「うぅぅ、熱も上がりますよぅ…」

不死者「それもそうか」フッ

意味に気付いたのか、不死者さんは笑った。天然なのか、わざとなのか、私にはわからない。

魔女「わ、私なんか気にせず寝て下さい! 不死者さん、働いて疲れているんですから…」

不死者「いや、寝れんわ」

魔女「えっ?」

不死者「ほら」グッ

魔女「っ!」

不死者さんは突然、私の顔に胸を押し付けた。
急なことで私の頭はパニクりかけたけど…。

魔女(あ…)

ドクン、ドクン。不死者さんの心臓は大きく早く鳴っている。

不死者「…わかるか?」

魔女「不死者さんも……」

ドクン、ドクン。私と同じ早さ。不死者さんも、緊張しているんだ。
脈打つ心臓の音が、今は心地よい。

心臓の音、温もり。不死者さんは今、間違いなく生きている――

魔女「…ずっと、こうしていたいですね」

不死者「そうだな」

魔女「…無理ですよね」

不死者「そうだな」

勇者さんはきっと近い内に魔王を討つ。
こうしている今も、いつ命を失うかわからないのに、不死者さんの返答は軽い。

魔女「不死者さんは…怖くないんですか?」

不死者「死ねない辛さを味わってきたからな」

愚問だった。不死者さんは元々、死を望んでいたのだ。
不老不死の私にとって死の恐怖は遠い存在だけど――でも、失う辛さはわかっている。
ハッピーエンドの物語みたいなご都合主義は存在しない。

魔女(もし、また過去に戻れたら――)

勇者さんからの依頼を私は断る。
私は不死者さんと出会う。
肉体浄化の薬の依頼を不死者さんから引き受ける。
それで、薬作りの失敗を続ければ――ずっと不死者さんと一緒にいられる。

魔女(…あぁ、でもそれは駄目だ)

そうなれば魔王は討てない。訪れるのは人間にとってのバッドエンド。
こんなこと考えるなんて、私は本当に人間たちの言う『有害な魔女』になってしまったのだろうか。

不死者「正直…恨んでるよ、あんたを」

魔女「えっ?」

不死者さんは唐突にそんなことを言った。

不死者「魔王の下にいる時は、早く死にたくて仕方なかった。死ぬような痛みをいくら味わっても死ねないのが苦しくて仕方なかった。俺はずっと死ねないんだと思っていた――もう、幼馴染もいないこの世界で」

幼馴染さん。不死者さんはかつて、理不尽なお別れを経験した。
不死者さんは既に、残される辛さを経験しているのだ。

不死者「…でも、あんたと過ごした時間…久しぶりに穏やかな時間だったよ」

魔女「私との時間が…?」

不死者「まぁ、よく爆発したりで慌ただしい時もあったけどな」

魔女「あうぅ」

不死者さんはちょっと意地悪に笑った。

不死者「…でも、楽しかった。だから恨んでいる。…俺に生きる充実感を思い出させて、死ぬ決心を鈍らせて」

魔女「…死ぬ決心なんて、本来はいらないものですよ」

不死者「そうかもしれないな。けど死は受け入れないといけないもんだ」

そう言って不死者さんは頭をポンポン叩いてきた。
まるで――私の心を見透かしたように。私を、宥めるように。

魔女「…受け入れたくないです」

不死者「駄目だ。俺がいなくなっても、生きていかなきゃならないんだから」

魔女「生きてはいけます。でも…辛いです」

気付けば目から涙が溢れていた。
駄目だ。こんな顔してたら、不死者さんも未練を残してしまう。それでも、涙を止める方法なんて無くて――

不死者「本当、泣き虫だな」

困ったように笑いながら、不死者さんは私の涙を袖で拭いてくれた。

不死者「大丈夫だ…。あんたは長生きだから、色んな出会いがあるだろう」

魔女「グスッ…その度に、こうやって辛い思いをするんですか?」

不死者「生まれ変わって、何度でも会える。あんたが覚えてくれるなら、また会える」

魔女「絶対に、忘れませんよぅ…」

不死者「約束だぞ。また会えたら教えてくれよ。生まれ変わる前の、俺とあんたの思い出を」

魔女「グスッ、はいっ…何度でも、ひっく、教えますから…っ」

不死者「それ聞いて安心した。あんたが覚えていてくれるなら『俺』は無くならない」

不死者さんはそう言って、私をぎゅっと抱きしめてくれた。


不死者「感じるか? 今、俺はあんたの側にいる――忘れないでくれよ、俺のこと」


まるで体に記憶を刻み付けるかのように、不死者さんは強く抱きしめてくれた。

体が密着して、ちょっと苦しくて痛いけど――それが『一緒なんだ』っていう安心感になって。


――私、絶対に忘れません


そう思うだけで心がぽかぽかになって――


気付けば私は不死者さんの腕の中で、深い眠りに落ちていた。


―――――――
――――
―――




魔女「ん…」


どれ位眠っていたのだろう。時計は9時ちょっと過ぎを指していて、ちょっとお寝坊。
朝方の空気は寒くて、お布団への未練を手放せない。

魔女「…あれ?」

気付いた。ベッドにいるのは私1人だった。

魔女「不死者さん…?」

モゾモゾ

魔女「えっ?」

布団が動いて、腰のあたりにちょっとくすぐったい感触があった。
そして、ひょっこり頭を出したのは…。

猫「にゃあ」

魔女「え、あっ、猫さん!?」

猫「にゃー……」グウゥ

魔女「あ、ご、ごめんね! お腹すいたよね!」

慌ててベッドから出て、ご飯を用意する。
エサ入れに魚を入れると、猫さんは喜んで飛んできた。

猫「にゃー♪」

魔女「……」

魔女(不死者さん…夢だったのね)

なんだかとってもリアルな夢だった。
今でも不死者さんの腕の感触が、体に残っているような…。

猫「にゃー?」

魔女「ふふ、何でもないわ。さーて、今日も調合がんばろ…」

と、言いかけた所で異臭に気付く。

魔女「…なに、この匂い!?」

私は調合部屋に急いで駆け込んだ。
すると調合のツボから変な煙が出ていた。

魔女「え、な、何で? ……あっ!!」

猫「にゃー?」

そうだ、大樹の根は10時間以上漬けておいたら駄目なんだった。
起きてから取り出そうと思ったのに、寝坊したもんだから…。

魔女「た、大変! 今すぐ取り出さなきゃ!!」ゴツン

慌てていたせいで、棚のビンを落としてしまい…。

チャポン

魔女「え、今何入っ――」

と、その時。


ドゴオオオォォォン


魔女「きゃあああぁぁぁああぁ!?」

猫「フギャアアアァァァ」


見事な爆発だった。


魔女「ゴホゴホ…えううぅ、またお掃除しなきゃあ」グスグス

部屋も体もススまみれになってしまって、泣けてきた。



「ったく…いつになったら調合の腕を上げるんだ?」


魔女「――え?」


と、聞きなれた声があった。

目の前にいたのは――


「ほんと、ずっと変わらねーよな」

頭に猫耳を生やした、見知らぬ男の人だった。
だけど、その目つきは…


魔女「不死者…さん?」

不死者?「…よう」

魔女「…擬人化、されました?」

不死者?「…みてーだな」


目の前で起こった現象こそ夢のようで、私はしばらくぽかーんとしていた。
だけど不死者さん?はちょっと不満そう。

不死者?「何だよ、喜ばねぇのかよ」

魔女「ほ、ほんとに?」

不死者?「あぁ。…約束しただろ、また会いに来てやるって」

魔女「あ――」



不死者『生まれ変わって、何度でも会える。あんたが覚えてくれるなら、また会える』


不死者さんのあの言葉は、夢であって、でも、夢じゃなくて――


不死者?「おい、何ボーッとしてんだ?」

魔女「あぅっ、えっ、はひっ! …えううぅぅ」グスッ

不死者?「…何で泣く?」

魔女「だ、だって、だってえええぇぇぇ…」

不死者?「…あー、まぁ、言いたいことはわかる」

不死者さんはポンポンと頭を叩いてくれた。

不死者?「話は後だ。さっさと風呂入って飯食ってこい」

魔女「グスッ、いなくならないで下さいね?」

不死者?「ならねーから。ほらほら、行った行った」

魔女「はい…。あ、そうだ、不死者さん」

不死者?「ん?」


会えたら言おうと思っていた。
不死者さんと沢山やっておきたかったこと――


魔女「今日から――いっぱい、デートして下さいねっ!」



Fin


あとがき

リクエスト内容は、不死者が生きていた場合のifということで。
いや、あのですね、このssは恋愛ジャンルに置いてませんけどね、不死者と魔女は作者的に公認カップルでしてね(黙
遂に念願のイチャイチャを書けたぞー!! ってことで、リクエスト下さったづっきーに様に感謝!!ヾ(*´∀`*)ノ

勇者を切り抜けても魔王を倒せば不死者死んでしまうし、かといって魔女は魔王を倒すのを邪魔する子でもないので、こういう話の流れになりました。

書きたいシーンが多すぎて取捨選択に迷いましたが、とりあえずやりたいこと大体やりました!☆-(ノ゚Д゚)八(゚Д゚ )ノイエーイ
posted by ぽんざれす at 16:24| Comment(4) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
リクに応えて下さりありがとうございます!魔女が報われてよかったー!猫耳の元不死者さんとのイチャラブ妄想しながら寝ます( •̀ .̫ •́ )✧
新作も楽しみにしてます〜これからも良い作品を作って下され(゚∀゚)
Posted by づっきーに at 2015年11月11日 22:57
リクエストありがとうございました〜σ(´ω`*)
今後も宜しくお願いします(( ˘ω ˘ *))
Posted by ぽんざれす@作者 at 2015年11月12日 06:27
コメントしようかずっと迷っていました。が、我慢できん!!ということで、
づっきーに様!リクエストGJ!GJ!!
作者様!素晴らしい!!きゅん氏にしそう…
本編と続けて読むとヤバイことになる…(´;ω;`)ブワッ

もう何度も読み返しています。ハッピーエンドありがとうございました。( ;ω;)_ _))ペコリン
Posted by もえ at 2015年11月21日 16:30
もえ様コメントありがとうございますσ(´ω`*)
本編では悲しい結末だったので、私もこのスピンオフは好きですね(( ˘ω ˘ *))
これからも頑張ります( °∀°)o彡°
Posted by ぽんざれす@作者 at 2015年11月21日 17:15
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