2015年12月24日

【クリスマススピンオフ】女勇者「勇者よりも、お姫様になりたかった」

女勇者「勇者よりも、お姫様になりたかった」のスピンオフです。





精霊「メリークリスマス、勇者!」

勇者「……」

暖炉からサンタの格好をした精霊が出てきた。
体中ススまみれで、一瞬魔物が入ってきたかと思った。

勇者「何のつもり?」

精霊「ほらほらサンタだよサンタ! プレゼントしに来たんだよ!」

勇者「サンタが来るのは夜中ね。今、真昼間」

精霊「あ、そうなのか! ごめーん、俺、勉強不足で~」ハハハ

幼少期をぬいぐるみと過ごし、魔王の側で邪神をやって、長年封印されてきた…という経緯を考えると、精霊にとってこういうイベント事は身近ではなかったのだろう。

精霊「夜また来るねー! それじゃ」ソソクサ

勇者「いや暖炉から帰らなくても。普通にドアから出なさい、あとお風呂入って来なさい」





勇者「夜に来るのかぁ、精霊」

こちらの地方ではクリスマスは家族で祝う風習があるので、今日は使用人は帰らせている。
だけど帰る家のない精霊は勿論、この屋敷に残るのだ。

勇者(家の者は公務で忙しいけど、私は急遽お休みになったんだよねー…だから精霊と2人きりになるなぁ)

勇者「ってことは……」

勇者はクローゼットをガラガラッと開けた。

勇者「秘蔵、フリフリお洋服コレクション~っ!」

そこには家の者に内緒で買ったフリフリ服がずらっと並んでいた。
まだ外に着ていく勇気はなく、部屋で1人で楽しむのがほとんどなのだが。

勇者(精霊と2人きりなら、いいよね……)ドキドキ

勇者(着て見せたら、精霊何て言うかなぁ)


精霊『うわぁ、可愛いね勇者ぁ!』


勇者(って言ってくれるかなぁ。それとも…)


精霊『やっぱり勇者は俺のお姫様だよ』


勇者(それでそれで~…)


精霊『世界でたった1人の、俺のお姫様…もっと近くでその姿を見せて…。あぁ勇者、俺にその唇を……』


勇者(なんちゃってなんちゃってなんちゃってー!! きゃああぁぁ)ダンダンッ

勇者はベッドに顔を埋めて悶絶していた。

勇者(あ、そうだ。精霊に『これ』も渡さないと)

勇者(……)

勇者(まぁ後でいいか)


そんな感じで、勇者は久々の休日にゆっくり体を休めていた。


>夜


勇者「へ、変じゃないよね?」

悩みに悩んで選んだフリフリ服は、ひざ下までの丈のドレスだった。
白地にピンクの薔薇模様が刺繍してあって、袖にはふわっとした膨らみがある。勇者のお気に入りポイントは、3段フリルになっているスカート。
少し開いた胸元はシンプルなネックレス、まとめた長い髪は花飾りで留め、装飾をしてみた。
靴は精霊との身長差がこれ以上開かないように、ぺったんこのパンプスを選んだ。

勇者(うわー凄い、女の子みたい)

全身鏡を見て勇者はドキドキする。
こんな可愛い服を着た姿を精霊に披露するなんて…。

勇者(あああぁぁぁ、やっぱ恥ずかしいいいぃぃぃ!!)

トントン

その時、窓を叩く音がした。

勇者(も、もしかして精霊?)

勇者は恐る恐るカーテンを開けた。すると…

精霊「メリークリスマ…すぅっ!?」

勇者「め、めりー…くりすます……」

精霊「……」ハッ

精霊は3秒くらい固まった後、我に返ったようだった。

精霊「窓の鍵開けて、勇者!」

勇者「あ、うん」ガチャ、ガラガラッ

精霊「もう、勇者ぁ~っ!」ギュウゥ

勇者「わぁ!?」

部屋に飛び込んでくるなり、精霊は思い切り抱きついてきた。

精霊「どこのお姫様かと思ったら、俺のお姫様じゃ~ん! 俺の為に可愛くしてくれたの~? 嬉しいなぁ、もう~」

勇者「そ、そう?」

精霊「えへへ~、勇者ぁ~…って違った! デレデレしてる場合じゃないっ!」

勇者「?」

精霊は一旦、ピシッと良い姿勢になる。
そして跪いたかと思うと…。

精霊「お待たせ致しました、おれっ…我が姫君。今夜はおっ、私が貴方だけのサンタになります」シドロモドロ

勇者「……」

このグダグダっぷり、きっと本か何かの影響を受けて練習したセリフだろう。
だが、しかし…。

勇者(どうしよう…私の好み、どストライクなんですけど!!)キューン

勇者(って、ダメダメ、こんな単純なことでときめいてたら…)

精霊「私と共に参りましょう、お姫様」スッ

勇者「はいぃっ!!」ドキイイィィッ





勇者は精霊に手を取られ、食堂までやってきた。

勇者「真っ暗だね、灯りつけないと…」

精霊「ストーップ!」

勇者「え?」

勇者は動きを止める。
精霊はキザに笑うと、指をパチンと鳴らした。

するとぽやっとした光が放たれ――

勇者「…うわぁ」

勇者はその光景に目を奪われた。
聖職者の格好をした人形たちが灯りを持ち、並んでいる。
楽隊がクリスマスの曲を奏で、それに合わせて聖歌隊が歌う。雪だるまやサンタ、トナカイの人形がくるくる踊りだし、可愛らしい光景だ。

勇者「凄い…」

お伽話の世界に来たかのような、不思議な感覚だった。
勇者の目が、耳が、非日常を感じている。

勇者「最高だよ精霊! メルヘンチックで、こういうの大好き!」

精霊「そう、俺の作り出す世界はメルヘン…そしてメルヘンを完成させるには」グイッ

勇者「あっ!?」

勇者の体は精霊に引き寄せられた。そのまま体がふわっと浮く感覚があって、そして――

精霊「主役のお姫様が揃えば、完璧だよ~っ!」

精霊は勇者を抱えて、食堂の真ん中まで駆ける。

精霊「皆ぁ、お姫様がやってきたよ! 今日は存分に楽しんでもらおうじゃない!」

人形たちは祝福するように2人を囲み、拍手を送った。
踊っていた人形たちは、2人の周りをくるくる踊りながら駆ける。

勇者「に、人形相手とはいえ、照れるなぁ……」

精霊「奥ゆかしいお姫様だなぁ」ニーッ

勇者「ば、ばかっ。てか…あんたも……」ボソボソ

精霊「んー?」

自分が主役なら、彼だって主役のはずで――

勇者「あ、あんたも…王子様でしょ」

自分をお姫様扱いしてくれる、世界でたった1人の人。
お姫様の相手に王子様がいるのは、メルヘン童話のお決まりじゃないか。

精霊「困ったなぁ~。今日の俺はサンタでいこうと思ったんだけど……」

勇者「じゃあ、サンタで王子様ね!」

精霊「それ良い組み合わせだね~! わーい、サンタ王子だ~」

精霊は喜んでぴょんぴょん飛び回っている。彼はきっと深く考えていないだろうけど――追及されたら、自分が困る。

精霊「勇者、パーティーしよ、パーティー! コックさん人形に料理作ってもらったんだ~」

勇者「うん!」





精霊「うわぁ~、これがクリスマス料理かぁ! 見た目も綺麗で美味しそうだね~!!」

初めてクリスマス料理を見るらしい精霊は目を輝かせていた。
見た目より幼いハシャぎっぷりが、勇者には微笑ましく思えた。

勇者「カンパイしよ精霊」

精霊「はい、カンパ~イ! いただきまーす!」

2人ともお酒は飲めないのでジュースで乾杯。
精霊はニコニコしながら料理を口にして、とても美味しそうに食べる。

精霊「ぷはぁ~、サイコ~。クリスマスになったら、どこの家でもこんなご馳走を作るの?」

勇者「大抵はね。私もこんなに豪華なクリスマスは、子供の時以来だよ」

精霊「あ、そうなの?」

勇者「勇者一族は色々忙しくてね。ここ数年は、前日に使用人が作り置きしてくれたものを食べてたなぁ」

精霊「勇者は料理しないの?」

勇者「う゛」

痛い所を突かれた。
やっぱり自分の年頃になれば、女性は料理くらいできるようになっておくべきか…。

精霊「まぁ困らないんだったらしなくていいよね。料理って難しそうだし」

完全に押し黙ってしまった勇者の様子を察してか、精霊はフォローするように言ってくれた。

勇者「ぶ、不器用なんだ、私……」

精霊「そうなんだ~。まぁ勇者の育ちを考えたら、苦手でも仕方ないよね~」

勇者「えーとね、精霊!」

精霊「?」

勇者は立ち上がった。

勇者「ちょ、ちょっと待っててね!」

そう言ってダッシュし食堂から出ていき、少しして戻ってきた。
手にはクリスマス模様の紙袋を持っている。
顔は何だか…恥ずかしそうだ。

勇者「こ、これ…クリスマスプレゼント!」

精霊「おぉ~! ありがとう、勇者♪」

勇者「わ、笑わないでね!」

精霊「?」

精霊は首を傾げながら袋を開けた。そこに入っていたのは…。

精霊「わぁ~」

ウサギのぬいぐるみだった。精霊は袋から取り出すと、ギュッと抱きしめる。

精霊「可愛いね~。ふっかふかだし…」

勇者「気に入ってくれた…? 良かったぁ~、1ヶ月前から作った甲斐があったよ…」

精霊「えっ、このウサギさん、勇者の手作りなのォ! 全然不器用じゃないじゃん!」

勇者「も、もう作れないよ! 魔物と戦うより神経使ったよ~…」

精霊「そっか。それじゃこの子、特別な子なんだね」

精霊はウサギと目を合わせ、へへっと笑った。
そして――ウサギにキスをする。

精霊から命を与えられたウサギは、そこらをぴょんぴょん跳びまわった。そんな様子を精霊は嬉しそうに見ている。

精霊「ありがとう勇者。友達増えた」ヘヘヘ

精霊にとってのぬいぐるみは友達。
孤独を嫌う精霊にとって、友達とは特別なものなのだ。

勇者(良かった…喜んでもらえて)

精霊「それじゃお礼に勇者…俺からのプレゼント」

精霊はそう言うと、勇者の手を取って、指をくるっと回した。
手元でキラキラした光が、何かを形作った。

勇者「…わぁ」

光は雪の結晶をモチーフにした指輪となり、勇者の指に丁度よくはめられていた。

精霊「うーん、チョイス失敗したかな?」

勇者「な、何で!?」

精霊「だって。勇者が可愛いもんだから、指輪がかすんじゃって」

勇者「そ、そんなことないって!! もー…」

恥ずかしくて勇者は顔を真っ赤にする。

勇者「ありがとう精霊。宝物にするね」

精霊「へへ。クリスマスって特別なこと尽くしだね。衣装も、料理も、プレゼントも…俺、今日のことは、ずっと忘れないよ」

勇者「クリスマスは毎年あるよ、精霊」

精霊「なら、ぜーんぶ忘れない! 勇者と過ごす時間を忘れたら、勿体無いじゃん!」

勇者「精霊ったら…」

精霊は自分を大事に思ってくれている。自分と一緒にいる時間を大切にしてくれる。
それは精霊にとっての特別でいさせてくれるということだから。

勇者「うん、約束だね」

もう精霊を孤独にはさせない。
これから先は、ずっと自分が一緒だから。


精霊「ところでクリスマスって、他に何すればいいのかな?」

勇者「うーん。家族で一緒の時間を楽しむのが一般的だね」

精霊「じゃあ来年のクリスマスまでには、家族になろっか♪」

勇者「んなっ!」

…これから先、ずっと精霊に惑わされることになりそうだ。来年のクリスマスはどうなっているか…それは来年のお楽しみ。


Fin




あとがき

カップルってクリスマスどう過ごしてるんだ?(悲しい疑問)
とっても平和ないちゃラブスピンオフとなりました。爆発すれ。
posted by ぽんざれす at 18:38| Comment(0) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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