2015年12月26日

【スピンオフ】奴隷少女「私を、守って下さい…」執事「それが貴方の願いならば」

奴隷少女「私を、守って下さい…」執事「それが貴方の願いならば」のスピンオフです。





ここは天界から繋がる異世界に存在する屋敷。
今日もいつも通り、主人と使用人によるティータイムが始まろうとしていた。

執事「お嬢様、本日のおやつで御座います」

媛「今日のおやつは…わぁ~、チョコレートケーキですね!」

犬男「それもチョコレートケーキの王様、ザッハトルテだぜ」

猿少年「いただきまーす!!」バクバク

雉娘「猿~、そんな食べ方する奴初めて見たわよ」

媛(えっ。…見てなかった)

媛(食べ方、ってあるの? 横に生クリームが添えてあるけど…)

媛(ケーキをクリームにつけて食べるの? それともケーキとクリームを交互に食べる? それとも…)

媛「…………」

執事「…? 召し上がらないのですか、お嬢様」

媛「い、いえ、食べます! どうぞ皆さんも召し上がって下さい!」

執事「では」

雉娘「口の中でとろけて甘~い♪」

犬男「執事も腕上げたなぁ」

媛「…………」ジー

媛(執事さんはケーキを生クリームにつけて、犬さんはコーヒーにクリームを入れて、雉さんはクリームに手をつけてない…)

執事「…お嬢様?」

媛「…ぐすっ」

執事「!?」

媛「食べ方が、わからないです…」グスグス

猿少年「だ、大丈夫だから! うるさいマナーとか何もないから!」

雉娘「すっごく甘いケーキだから、無糖の生クリームで好きに味を調整して食べればいいの! 私はほら、甘いの好きだからつけてないだけ!」

執事「お嬢様、ハンカチを」スッ

媛「はい…」グスッ

雉娘「犬、あんたがややこしいことしたせいだからね」ボソッ

犬男「……俺かよ」

天女の記憶もやや朧げで、優雅な風習に今だ慣れぬ媛にはこういった困難(?)もあったが、使用人みんなと過ごす時間を楽しんでいた。





執事「買い出しに行って参ります。この買い物メモ以外に必要なものはありますか」

犬男「えーと。あ、バニラエッセンスとドライフルーツがあと少しだから買ってきてくれ」

媛(一緒に行きたいけど…買い出し先は天界だもんね、私は行かない方が良さそう)

犬男「そーいや、お嬢様は何か食いたいもんあるか?」

媛「わ、私ですか?」

犬男「遠慮せず言ってくれ。何でも作れるぜ」

媛「そ、そのー…」

執事「?」

媛「あのぅ…サツマイモの味が懐かしいな、って」

執事「かしこまりました、買って参ります」

犬男「サツマイモ好きだったのか」

媛「ま、まぁ」

ちょっと嘘。奴隷時代に散々食べてきたものだ。
だけど屋敷に来てからご馳走続きで、舌がサツマイモを懐かしがってきたというか…。

媛「そう言えば天女の子孫の件は今、どうなっているんでしょう」

天界に来て半年。だが天界から隔離された世界にずっといた為、世論のことは全く耳に入らない生活だった。
久々に地上のことを思い出したのがきっかけで、魔王がいそしんでいるその件についてもふと思い出した。

執事「あの魔王のことです、上手くやっているのではないでしょうか」

執事はあからさまに態度には出さないが、その件に触れたくない様子だ。地上の件には関わりたくない、というのが本音なのだろう。

犬男「でも俺も気になるな。買い出しのついでに話を聞いてきてくれよ執事」

執事「犬。余計なことに首を…」

媛「わ、私からもお願いします執事さん…」

執事「…かしこまりました」

執事は媛のお願いには弱い。何せ媛はお願いする時に申し訳なさそうな気弱さが前面に出ていて、断るのに罪悪感を要するのである。

媛「ありがとうございます執事さん」ニコッ

執事「いえ」

その上、この極上の笑顔。これは断われという方が無理だ…と、執事は心の中で苦笑した。





猿少年「ウキー。庭の木から桃をもいできたよー」

雉娘「あらぁ美味しそう」

媛「このまま食べても美味しいですけど、犬さんはおやつを作ったりするんですか?」

犬男「あぁ。桃団子を作るぜ」

猿少年「何か執事が『貴方がた3人と桃の組み合わせを見たら団子が食べたくなりますね』とか、わけのわからないことを言ってたんだよな」

媛「げん担ぎでしょうかね??」


執事「只今戻りました」

犬男「お、帰ってきた。焼き芋の準備しとくか」

媛「執事さぁーん」トタトタ

雉娘「おやぁお嬢様ったら急いじゃってぇ、ほんっとーに執事が好きねぇ」

猿少年「あはは。いい奥さんになるよね」


媛「執事さん、お帰りなさい!」

執事「お嬢様…わざわざお出迎え、ありがとうございます。何か変わったことは御座いませんでしたか?」

媛「特には。それより執事さん、重いでしょう。半分持ちますよ」

執事「いえ。お嬢様にお持ちさせるわけには」

媛「気にしないで下さい、そんなの。私がお手伝いしたいんですから」

執事「そのご厚意に甘えるようでは、執事として、男としてすたります。お嬢様、貴方の前では格好をつけさせて頂きたい」

媛「執事さんたら…」キュン


猿少年「うわー。荷物持ち手伝おうかと思ったけど、何か行きにくい雰囲気」

雉娘「カッコつけさせときゃ良いんじゃなーい」





執事「お嬢様。例の件、聞いて参りましたよ」

媛「ハフッ、ハフッ。あ、ありが…あつっ!」

犬男「急ぐな急ぐな。で、どうだったよ?」

執事「はい。魔王は9人目の子孫を見つけたそうです。その子孫の方も奴隷の身分だとか」

雉娘「ふーん。それなら天界に来る方がマトモな生活できるわねー」

執事「ですがどうやら、その方の主人が引き渡しに応じられないらしく」

媛「えーっ。それは大変ですね」

猿少年「魔王相手に応じないとはなかなか度胸ある奴ウキー」

犬「まさか渋る素振りをして、引き渡し料を高値に吊り上げようっつー狡猾な奴とか」

執事「ありえますね」

媛「……」ウーン

執事「お嬢様?」

媛「え、あ、あっ! 執事さん、なな何でも」

執事「…気になりますか、お嬢様」

媛「あぅ。ご、ごめんなさい…」

執事は地上のあれこれに介入することを好いていない。
現状を聞いてきてくれただけでも有り難いのだから、これ以上のことは望んではいけないのだ――と思っていたが。

執事「…仕方ありませんね」

媛「え?」

執事「お嬢様の気がかりを払拭するよう努めましょう」ニコ





魔王「全く、困ったものだ」

魔王は玉座に座しながら、苦悶の表情を浮かべていた。
今月だけで、流行りの病で約300人が死んだとの報告があった。
世界が滅びに向かっている現状、一刻も早く天界の助けが必要だ。

にも関わらず、天女の子孫集めは9人目にして行き詰まっていた。

悪魔「魔王様、申し訳ありません。今日も門前払いでした」

魔王「そうか」

術師「魔王様、こうなれば強行手段に出ては」

魔王「それはいかん。本人を納得させて天界に送らねば、その者を不幸にするだけだ」

悪魔「ですがこのままでは地上の世界が滅びます」

術師「納得させようにも、聞く耳も持たないのです」

魔王「根気よく説得を続けるしかないか」

そう結論を出そうとした時だった。


媛「し、しし失礼しますっ!」ドキドキ

執事「失礼致します」

やけに緊張した様子の女主人は、対照的に堂々とした執事を連れてやって来た。


魔王「お主達か。どうした」

執事「事情は聞きました。9人目の方の説得が上手くいかないとか」

魔王「うむ。説得が難航している」

執事「先方に事情は説明したのか? お嬢様の時のように、強引なやり方で迫っていないでしょうね…」

魔王「もうあんなことはせぬよう部下にも伝えてある。だが、天界についての事情説明はしていない」

執事「ふむ…」

一部の権力者には、世界の現状をこのままでと望んでいる者もいる。悪知恵の働く奴なら、天女の子孫を人質に天界に交換取引を持ちかける奴もいる――魔王は以前そう言っていた。

執事「先方の者は、悪巧みを考えるような輩なのか?」

魔王「そうではない。…悪巧みをするような輩なら、まだ簡単だった」

執事「と言うと?」

魔王「…色恋沙汰だ」

執事「何と」

媛「まぁ」

つまり主人が奴隷に強い恋愛感情を抱き、手放そうとしないということか。
なるほど、これは確かに難しい話だ。

執事「それなら尚更、事情を説明する必要があるのでは」

魔王「情熱的な輩なら『世界がどうなろうと想い人とは離れたくない』と燃え上がるのではないか」

執事「ほう。魔王ともあろう者が情熱的な想像をするものだ」

魔王「お主ならそうだろうとな。なぁ?」ニヤ

執事「な」

媛「」カーッ

執事「と、とにかく! お嬢様、そういうことらしいので帰りましょう」

媛「あのぅ……」

執事「?」

媛「私達で説得に行ってみません?」

執事「!」





媛「私達なら立場も近いですし…。もしかしたら少しは耳を傾けて頂けるかも」

媛にそう言われたので、教えられた場所へ向かうが、執事は内心不服だった。
不服だが…

媛「執事さんごめんなさい…ご面倒おかけして」ジッ

執事「いえ。お嬢様の気がかりを払拭すると約束しましたので」

こう上目遣いで縮こまられては、執事としても従わざるを得ない。
行動が不服でも、媛が可愛ければそれでいい…と思ってしまう。



執事「ここがその方々の住処ですか」

執事は渡された地図を見て何度も確認する。
奴隷持ちの家というのはそれなりに裕福な層が多いのだが、この家はそんなに大きくはない。

媛「看板が出てますね。仕立て屋さんらしいです」

執事「とりあえず入りますか?」

媛「待って! 誰か出てきます!」


奴隷娘「では買い出しに行って参ります、ご主人様」

主人「待て隷娘。俺も行く」

奴隷の娘を追って出てきたのは、若い男だった。
やはり住んでいる家同様、身なりは富裕層のものとは違う。

奴隷娘「そんな、私1人で大丈夫ですよ」

主人「いや。魔王様がお前を見初めたようだからな、お前を1人にしておけん」

奴隷娘「ですが…」

主人「お前を奪われては、俺はきっと一生後悔する。お前は絶対に誰にも渡さないからな」

奴隷娘「ご主人様…」


媛「2人は両思いですね」

執事「そう…なのですか?」

媛「はい! あの目は間違いなく、恋する乙女の眼差しです!」

執事「…?」

媛(執事さんにそれがわかるなら、私の気持ちに早く気付いてくれてたもんね)

片思いだった頃は割と大胆にアプローチしてたと思うが、執事はそれでも気付かなかった程の天然だ。だから、仕方ない。

媛「とりあえず、お2人が帰ってきたら声をかけてみましょうか」

執事「そうですね」





奴隷娘「ご主人様、すみません…重い荷物を持たせてしまって」

主人「気にするな。男として当然じゃないか」

奴隷娘「で、でも」

<ざわざわ

主人「ん?」


媛「男として当然、かぁ。執事さんも同じようなことをおっしゃっていましたねぇ」

執事「それを当然としない男は恋などすべきではない。余程軟弱なのでしたら、仕方ありませんがね」

媛「執事さんは見た目は華奢だけど男らしいですよね」ポ

執事「男ですから」フ


主人「おい」

媛「きゃあ!?」

主人「なに、俺らをダシにしてイチャついてるんだよ。アンタらどこかの貴族の令嬢と執事か?」

媛「聞きました執事さん、私が貴族の令嬢ですってぇ!!」キャー

執事「お嬢様ほど可憐ならそう思われても仕方ありませんね。勿論、私にとっては地上の貴族ごときより、お嬢様の方が遥かに尊い存在でありますが」

媛「もうっ、執事さんったら」

主人「人前で堂々とイチャついてんじゃねええぇぇ!」

奴隷娘「ご、ご主人様、もう行きましょう」

媛「あ、待って下さい! 私達、魔王のお使いで来た者で…」

主人「…魔王様の?」

主人は警戒心を露わにした。
しまった、と媛は思う。しかしもう遅く、主人は奴隷娘の手を引いている。

主人「こいつを引き渡す件なら断ったはずだ。行くぞ、隷娘」

媛「あっ、待って下さい!」

媛は慌てて追ったが、主人はうんざりしたような表情で手を振り、拒否の仕草をした。

主人「帰りな、返答は変わらない」

媛「せめて話だけでも」

主人「しつこいな…!」

主人は足を止め、媛の手を払いのけ――ようとして、

主人「いででええぇぇ!!」

執事「いけませんねぇ、お嬢様に手をあげようなど」ニコニコ&ギュウウゥゥ

執事に腕を締め上げられていた。

主人「いだだだだああぁぁ!」

執事「私としては、貴方がたが地上と共に滅ぼうが興味ないのですが…」

奴隷娘「地上と共に滅ぶ…?」

執事「それではお嬢様の御心が傷ついてしまうのですよ。なので話を…」

主人「いやだああぁぁ、隷娘は渡さないいぃ!」

執事「…私は『話を聞いてくれ』と言っているだけですが」

主人「そう言って、いでで、俺から隷娘を騙し取るつもりだろおぉ…」

執事「どうしましょうねお嬢様、この者は話が通じません」

媛「そ、そんな痛めつけなくても」アワアワ

彼が媛の手を払いのけようとしたせいだと思うが、それだけで執事は過剰な敵意を抱いてしまったようだ。
こうなってはどう宥めようかと媛は慌てる。

奴隷娘「ご主人様、お話だけでも聞いてみませんか?」

主人「え?」ゼェゼェ

奴隷娘が説得に回ると同時、執事は攻撃の手を緩めた。

奴隷娘「魔王様なら強硬手段を取ることもできるでしょうに、この方たちにそのつもりはないようですし…」

主人「けど、お前が言葉巧みに騙されたら…。俺はお前の心が離れていくのが辛い」

奴隷娘「ご主人様が私を捕まえていて下さる限り、私はご主人様から離れませんよ」

主人「隷娘…俺は、俺は……」


執事「困りましたね。勝手に酔って勝手に燃え上がっています」

媛「……」

媛(身に覚えがある…恥ずかしい)カアァ

主人「いいだろう、話だけは聞いてやる! どんな障害も、俺たちを引き離すことはできないけどな!」キリッ

執事「ほう?」





主人「せ、世界が…!?」

家の中に通されて、執事は事細かに世界の現状や、魔王と天界の交渉について話をした。
地上の者には寝耳に水であろう話を聞き、2人とも目をぱちくりさせていた。

奴隷娘「では、私含む天女の子孫が天界へ行けば、世界は天界の祝福を得られると…」

主人「し、信じられん…」

執事「証明する手段なら幾らでも御座いますよ。かつて天女様がこの世界に祝福をもたらしたことが記述されている書物は地上にも存在するでしょうし、何でしたら直接天界のお偉い方々と話ができるよう取り持っても」

主人「う、うぅ」

執事の物言いが堂々としている為か、どうやら主人の方も信じ始めてきたようだ。
だけれど…

奴隷娘「そういう事情でしたら、私は…」

主人「い、いやだ!」

奴隷娘「え?」

主人「世界がどうなろうと、お前とは離れたくない!!」ギュゥ

奴隷娘「ご主人様…!」

媛&執事(魔王の予想していた言葉まんまだ…)

主人「この世界が滅ぶまで、俺はお前と共にいる! 俺は、俺は、お前のことが…」

執事「これは間違いなくラリっていますね。お嬢様、説得は諦めましょう」

媛「諦めが早すぎますよ!?」

媛(どうしよう、どうしよう…あ、そうだ)

媛「あのぅ…」

主人「何だ! 俺たちの愛を引き裂こうというのか、この悪m」

執事「お嬢様への暴言は許しませんよ?」ニコニコ&ギュウウゥゥ

主人「んぐーっ、んぐーっ!」←凄い力で頬を締められている

媛「し、執事さん、そんなにしなくても…。あ、あの、主人さんはこの世界に思い入れがないのですか?」

主人「ゼェゼェ…。そりゃ、富裕層や権力者でもない限り、ある奴の方が少ないだろ。こんな治安が悪くて、いつ死病に冒されるかわからん世界…」

執事「ほう。愛する女性をそんな世界に置いておこうとは、何という鬼畜」

主人「ウッ…」ガーン

執事「本当に愛しているのなら、その方の為にどうすればいいかを1番に考えるはずなのですがねぇ…」

主人「ウゥッ…」ガガーン

執事「正にエゴの塊。最低の男ですね」

主人「」ガーンガーンガーン

媛「し、執事さん、容赦なさすぎですよ」

奴隷娘「ご、ご主人様…」

主人「うぅっ、隷娘~」グスグス

媛「!?」

主人「やだよ~、隷娘と離れたくないよぉ~。こんな俺は最低だぁ~」グスグス

奴隷娘「ご、ご主人様、泣かないで、ね? 私もご主人様のお側が1番ですよ」ヨシヨシ

主人「隷娘~」グスグス


執事「えぇい苛立たしい男だ」

媛「執事さん、もうちょっと優しく。ね?」

執事「的確に指摘してやるのが同じ男としての優しさです」

媛(何か違う気が…)

執事(私は貴方にだから優しいのであって、これが私の平常運転なのですよ、お嬢様)


媛「あ、そ、それでですね」

主人「ん?」

ある程度の涙が収まってきた所で、媛は話を切り出した。

媛「隷娘さんと離れたくなくて、この世界に思い入れがないなら…こういうのはどうでしょう」

主人「?」

媛「主人さんも一緒に天界に来られてはどうですか?」

主人「なぬっ」

奴隷娘「まぁ」

執事「…」

媛(あ…)

微妙な表情の執事を見て、しまった、と思った。
事前にこの案を彼と相談しておかなかったのは、まずかっただろうか。

媛「もしかして…駄目、なんでしょうか?」

執事「いえ…。天界人の血を引かぬ者でも、住むこと自体は禁止されておりません。ただ…」

主人「ただ?」

執事「お嬢様ですら冷遇されているような現状ですので…。天界人の血を引かぬ彼は、更に冷遇されるかと」

媛「あぁ…」

媛にとって屋敷の生活は快適なものだが、それは屋敷が天界から隔離された世界にあり、執事ら使用人達がいてくれるからである。
天界人は地上の者を見下しているふしがある。無闇に暴言や暴力を振るってくることはないだろうが、それでも滲み出る差別的な態度が媛の心を傷つけるだろう、と執事は言っていた。だから買い出しひとつにしても執事任せで、媛はまともに天界を歩いたことがない。

執事「他の子孫の方々は、天界でも差別の少ない所で身を寄せ合って生活しているようですが…。天界人の血を引かぬ者は、そこでもあからさまな差別を受けるかと…」

主人「……」

執事「どうなるかは私にもわかりませんよ。あとはそちらの判断です」

主人「………」

奴隷娘「そんな、ご主人様が差別を受けるなんて…」

主人「…でも天界なら、隷娘は奴隷の身分から解放されるんだよな?」

奴隷娘「え?」

主人「あの執事に最低な男って言われて、頭が冷えたよ。隷娘、お前はこの世界では差別されている。それなら、俺が差別を受ける方がいいじゃないか」

奴隷娘「そんな! ご主人様が救って下さったから、私はこの世界で生きるのは辛くありません!」

主人「奴隷市場でお前に一目惚れしてから…俺、ずっとお前を幸せにしてやりたかった。今って、1番のチャンスじゃん」

奴隷娘「私の幸せは…ご主人様と共にあります」

主人「なら天界に行こう。お前が1番幸せになれる場所だ」

奴隷娘「そんなことない! ご主人様が幸せでないと…」


<あーでもないこーでもない


媛「愛し合ってますね…」ウルウル

執事(帰ってもいいだろうか)

媛「ねぇ、執事さん」ウルウル

執事「は、はい!」ドキッ

媛「ひとつ…ワガママを聞いて頂いてもいいでしょうか」

執事「何でしょうか」

執事(潤んだ目で見上げられては、何も断れませんよお嬢様……)

媛「あのですね……」

執事「……!」





>屋敷近く


猿少年「ウキー。こんなもんでどうかな」

雉娘「ふぅ、ひっさびさの大仕事だったねぇー」

媛「如何でしょうか?」

主人「俺には勿体無いくらいだ。大変ありがたい」

奴隷娘「えぇ、本当に」

犬男「しかし執事から聞いた時はびっくりしたぜ。『新しい家を建てなさい』とはな」

使用人達の手により、屋敷近くに2人が住む家が建てられた。
同じく隔離された世界なら、彼らも平穏に過ごせるだろうという媛の提案である。

執事「わざわざ建てた家です、大事に使うように」

犬男「しっかし、閉鎖的な執事が了承するとはね~」

雉娘「そりゃお嬢様からのお願い断れないよね~」

猿少年「執事はお嬢様に弱いウキー」

執事「黙りなさい」

媛「ご近所に新しいお友達ができて嬉しいです!」

奴隷娘「えぇ、私としても心強いです!」


主人「絶対に恩は返すぜ」

執事「貴方ごときに見返りなど期待していませんよ」

主人「俺は仕立て屋をやってたから、衣装作りくらいならできるんだが…」

執事「…オーダーメイドでも?」ヒソッ

主人「任せとけ」グッ

犬男(執事め。『私の理想の衣装でお嬢様を飾りたい』とか企んでやがるな)


猿少年「あ。どうせなら、他の子孫もこの辺に集めちゃえば?」

執事「!」

媛「いいですねソレ」

雉娘「他の子孫がいい奴ばっかとは限らないわよー?」

犬男「そん時ゃ追い出せばいいだけだよ、俺はかまわねーぜ」

媛「……執事さん」←上目遣い

執事「…えぇ、お嬢様がおっしゃるのでしたら」

媛「わぁ、執事さんありがとうございます! 優しい執事さん大好き!」ギュゥ

執事(…断れるか!)

犬男「執事の心臓バックンバックン言ってるのが聞こえる」

猿少年「顔は平静を装っているけどね」

雉娘「確信した。執事はムッツリだわ」


執事(全く…優しいのは貴方の方ですよ、お嬢様)

今回だって、媛が言い出さなければ自分は知らんぷりを決め込んでいた。
だけどこれが天女の生まれ変わりたる慈愛の精神か。

執事(…いや、違うか)

地上全体を包み込むような天女の包容力とは違う、媛の等身大の優しさだ。
その優しさは、時に執事を困らせたりもするのだけれど。

媛「えへへ~、執事さぁん」ギュウゥ

執事(…それが心地いい)

素直に甘えてくれる媛が、ただただ愛しく思えた。








執事「10人目の子孫が見つかったそうですよ」

雉娘「へぇ、順調ねぇ~」

猿少年「このペースなら年内には13人全員見つかるんじゃない?」

執事「ですが説得に難航しているそうで」

犬男「へぇ。今度はどんな理由でだ?」

執事「その方は既婚者で、両親の介護を抱えているとか」

雉娘「あらー。家族ごと天界に…って考えると腰も重くなるわねー」

猿少年「魔王は説得のやり方が下手だから、時間かかりそうだウキー」

媛「…」ソワソワ

犬男「どうした、お嬢様?」

媛「い、いえっ」

話を聞いて媛は行動したくてたまらなかった。
だけどそれは言えない。ただでさえ、散々皆を振り回したばかりだというのに。

執事「……」

媛「……」ウズウズ

だけどそれを見越したかのように――

執事「行きましょうか、お嬢様」

媛「え…っ!?」

執事「その一家への説得です。…気になっていらっしゃるように見えるのは、私の思い過ごしでしょうか?」

媛「!!」

地上の問題を避けている執事が、自分から行こうと言ってくれた。
それなら――

媛「はい! 行きましょう!」

それに思い切り甘えようと思った。


執事「では留守の間、頼みましたよ」

犬男「おう、任せとけ」

猿少年「行ってらっしゃーい」

雉娘「思わしくない結果でも泣かないでね、お嬢様」

媛「ふふ、大丈夫ですよ」


泣く時も、辛い時も、執事が一緒にいてくれるから――


媛「行きましょう、執事さん!」


彼と一緒なら、どこへでも行ける。何でもできる、そう思えた。


Fin





づっきーに様より執事ssの続編ということでした。リクエストありがとうございます!
本編は媛と執事の恋愛に焦点を絞っていたので「いや世界はどうなるんだよ」って疑問が残ったと思うので、そっちに焦点を当ててみました。まぁ作者は2人が幸せなら世界がどうなってもいry
執事がいくらかバカになりましたが、愛するお嬢様を思っての事なのでご愛嬌。
posted by ぽんざれす at 21:14| Comment(4) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今回も面白く読ませて頂きました!

執事さんのキャラがスゴくいいですねー。
お嬢様の前の紳士的な姿と
「主人」の前の毒舌ぶりな姿のギャップがよかったです!

お嬢様の為に作った箱庭が賑やかになると、
執事さんの苦労もたくさん増えそうだけど、
ご近所さんと楽しく過ごしてるお嬢様を見て癒されてる姿が思い描ける、
そんなお話でした!
Posted by 魔王城執政官(見習い) at 2015年12月27日 16:51
コメントありがとうございます~(´∀`)
執事はプライベートでお嬢様の元を離れたら人あたりが悪そうですね!(`・ω・´)b
ご近所トラブルでストレス爆発しないかだけが心配です!w
Posted by ぽんざれす@作者 at 2015年12月27日 17:33
いつもいつも無理言って申し訳っす(;´・ω・)
すごく良いラストで、改めてリクエストして良かった〜と思っとります(゚∀゚)
子孫が全員集まって、暗黒大陸にも長い祝福がありますように…ヽ(゚∀゚)ノ
Posted by づっきーに at 2015年12月28日 21:55
わーい祝福だ*(\´∀`\)*:
幸せなssを集めていきたいと思います(`・ω・´)
Posted by ぽんざれす@作者 at 2015年12月29日 07:15
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