2016年06月02日

元勇者「嫁にして下さい」 暗黒騎士「は?」

>暗黒砦


元勇者「実家に絶縁言い渡して、嫁入り道具も持ってきました! さぁ、この婚姻届に印鑑を!」

暗黒騎士「いや待て。お前、勇者としての使命はどうした」

元勇者「勇者交代したんだよねー。まぁ簡単に言うとお役御免ですわ」

暗黒騎士「早いな。まだ旅立って3ヶ月じゃなかったか?」

元勇者「おのれ、人間どもめ…この私を闇落ちさせたらどうなるか、思い知らせてやる…!!」ゴゴゴ

暗黒騎士「事情がわからん」

元勇者「お、聞きたい、聞きたい!? よーし、聞かせてあげましょう!!」

暗黒騎士「手短にな」


元勇者「そもそも私は"勇者一族"の末裔なの。そして私には、双子の兄がいるの」

暗黒騎士「ふむ」

元勇者「だけど兄は7歳の頃に行方をくらまし、発見された頃には意識を失っていた。それから10年間、眠り続けたままだった」

暗黒騎士「あぁ…聞いたことがあるな」

元勇者「それから、この私が勇者一族の跡取りとして育てられることとなった」

暗黒騎士「女だてらに苦労したな」

元勇者「そして魔王が目覚め、私が旅に出ることとなった。ところがっ!!」

暗黒騎士「ところが?」

元勇者「私が旅立って3ヶ月というタイミングで、兄が目を覚ました!! 私はこの寝坊助に、勇者の座を奪われたってわけよ!!」

暗黒騎士「いくら男とはいえ、10年も寝ていた奴に勇者なんて務まるのか?」

元勇者「この10年、兄の魂は天界の神と共にあったそうな」

暗黒騎士「……ほう?」

元勇者「神の下で修行を詰んだ兄の剣技は、そりゃもう見事なもんです。えぇ、私なんて瞬殺される程に」

暗黒騎士「……」

元勇者「ふ、ふふふ……」

暗黒騎士「どうした?」

元勇者「うがああぁぁ――ッ!!」ダンダンッ

暗黒騎士「!?」

元勇者「ふざけんなよクソが!! 私の10年間は何だったんだ!! 神のバッキャロー!!」ダンダンッ

暗黒騎士「……まぁ気持ちはわかる」

元勇者「というわけで闇落ちすることに決めたわけ。嫁にして、暗黒騎士」

暗黒騎士「何故そうなる」

元勇者「だって暗黒騎士だって、人間サイドから闇落ちして魔王の配下になったんでしょ? 色々教えて下さい、パイセン!」

暗黒騎士「俺に何のメリットもないな」

元勇者「B87、W58、H88」

暗黒騎士「体をアピールしてどうする」

元勇者「闇落ちの基本は陵辱でしょ」

暗黒騎士「陵辱する前から堕ちる気満々でどうする。そもそも俺にそんな趣味はない」

元勇者「じゃあどうしろってんだよォ!!」ダンダンッ

暗黒騎士「逆ギレするな」





悪魔「お茶だぜェ~」

元勇者「ありがとう」

暗黒騎士「で、元勇者よ……」

元勇者「その呼び名はヤダ」

暗黒騎士「そうか。何と呼べばいい?」

元勇者「そうだな~…"暗黒の花嫁"とかどう?」

暗黒騎士「勇者と呼ばれる前は何と呼ばれていた?」

元勇者「むぅ。"嬢"だよ、勇者一族のお嬢さん」

暗黒騎士「そうか、お嬢。とりあえず帰れ」

元勇者→嬢「えぇー、何でー。闇落ちさせてよ闇落ちー」

暗黒騎士「一時の感情で闇落ちなんてするものじゃないぞ。これは先輩からの忠告だ」

嬢「一時の感情じゃないもん! 人間にしっぺ返しする気満々だもん!」

暗黒騎士「闇落ちを気楽に考える阿呆なぞ邪魔なだけだ。帰れ帰れ」

嬢「むううぅ~……」



暗黒騎士「ふぅ、帰ったか」

悪魔「ヒャヒャッ。暗黒騎士ぃ、良かったのかー。利用価値ありそうな小娘だったじゃんよォ」

暗黒騎士「あんな阿呆娘を利用するほど落ちぶれていない」

暗黒騎士(それに、あの阿呆娘の動機といい境遇といい……)

暗黒騎士(俺と、色々重なるところがある。…だからこそ、受け入れたくなかった)





俺は元々、聖都の聖騎士団――人間側で、騎士団を率いていた。
だが元老院は魔王側と和平を結ぶことを決定し、その際に聖騎士団を切り捨てた。今までの魔王との諍いの原因は聖騎士団にあると、聖騎士団に罪を被せてきたのだ。

元老院が俺に下した処罰は、斬首刑――

裏切られた怒り。死にたくないという想い。
この2つの気持ちから、俺は、人間を裏切ることを決めた。


暗黒騎士「う……」


しかし今でも、あのことは夢に出てくる。
俺は脱獄の際に――


『ああぁ――ッ!』
『た、たすけ……』
『う……ッ』


元老院の人間を1人残らず――殺した。


暗黒騎士「……ハッ!」

ベッドの上で飛び起きる。また、あの夢だ。

暗黒騎士(魔王軍に寝返ったことを後悔しているわけじゃない。だが…それでも嫌なものだ。人を切る、という感覚は)

嬢「どったの暗黒騎士? 悪夢でも見た?」

暗黒騎士「」


<うわあああああぁぁぁぁぁぁ

悪魔「暗黒騎士の声!?」ガバッ


悪魔「どしたっ!!」ダダッ

暗黒騎士「何でここにいるんだ! この、このっ!」バシバシ

嬢「夜這いだよ夜這い~。ねぇねぇ、どぅお~?」

暗黒騎士「寄るなぁ!!」バシバシ

悪魔「おわちゃー。ビバ☆肉食系女子って感じィ?」

暗黒騎士「警備兵はどうしたぁ!!」

悪魔「廊下で倒れてたぞ」

嬢「全滅させた☆ あ、気絶させただけだから殺してないよ」テヘペロ

暗黒騎士「何て恐ろしい女だ……!!」

嬢「You、もう娶っちゃいなよ!」

暗黒騎士「…ついて来い!」グイッ

嬢「あらヤダ暗黒騎士ったら大胆なんだからぁ」

暗黒騎士「ここに立て」

嬢「わぁ真っ暗! そっか暗黒騎士って電気消すタイプなんだね~」


ガチャン


嬢「ガチャン? ん? なに、この鉄格子?」

暗黒騎士「そこに入ってろ!」

嬢「えっ、もしかして監禁プレイ!? やだー、レベル高~い!」

暗黒騎士「無視だ、無視」スタスタ

悪魔「おやすみィ~♪」



>翌日


暗黒騎士「いつあいつが牢獄を破ってくるかという心労から、全然眠れなかった……」

悪魔「牢屋の中にいるから大丈夫だぜ~。元気に三杯飯も食ったし!」

暗黒騎士「あいつの処遇をこれからどうするか……」

猫耳「暗黒騎士ぃー!」バァン

暗黒騎士「猫、どうした」

猫耳「砦に人間が近付いてきてる! 間違いない…あいつ、新勇者だ!」

暗黒騎士「!!」

悪魔「おやァ。妹を助けに来たのかねェ?」

暗黒騎士「あー…非常に厄介だな」

悪魔「ほっとくわけにはいかねぇだろ」

暗黒騎士「そうだな……」



>砦前


勇者「嬢は、この砦に囚われているのか…。待ってろよ、助けてやるからな!!」

暗黒騎士「よくぞ来たな、勇者よ」スッ

勇者「その鎧…元聖騎士長、現魔王軍幹部の暗黒騎士だな! まさか砦のボス自ら現れるとは……」

暗黒騎士「お前の目的は、あの元勇者か?」

勇者「そうだ! 妹を返してもらう!」

暗黒騎士「いいだろう」

勇者「え?」


悪魔「連れてきたぞー」

嬢「!! お兄様……」

勇者(嬢…!? いや…これは罠か!?)

暗黒騎士(さっさと連れ帰ってくれ)

嬢「お兄様ぁーっ!」ダダッ

勇者「嬢……!」

暗黒騎士(よし行ったか)

嬢「お兄様ぁ、私、私……」ダダッ

勇者「安心しろ嬢、俺が守ってや……」

嬢「どっせええぇい!!」バキイイィッ

勇者「」

暗黒騎士「」

悪魔「ナイスヒット!」グッ

勇者「ガハ……」ピクピク

嬢「さぁ暗黒騎士! どうする、殺る!? それとも魔王に引き渡す!?」

暗黒騎士「待て」





猫耳「勇者、帰ったよ~」

暗黒騎士「そうか、良かった」

嬢「何で無事に帰すの? やる気ないの?」

暗黒騎士「こちらの尊厳に関わるんだ!」

嬢「尊厳? ハンッ、私らの尊厳を踏みにじったのは人間の方じゃんか! 外道な手段もバンバンやっちゃいましょうぜ!」

暗黒騎士「お前のような極悪人と同類にはなりたくない。とにかく余計なことはするな、わかったか!」

ガチャン

嬢「ちぇー、また監禁アンド放置プレイかー」

悪魔「わりーね。あいつ、聖騎士団を率いていただけあって、卑怯者になりきれないんだよなぁ」

猫耳「まぁボクらで良ければ話し相手にはなるよ、暇だし」

嬢「ねぇねぇ。暗黒騎士ってここの砦の番人…貴方達の上司でしょ? 上司に対してフレンドリーだね?」

悪魔「あー、魔王軍は割と上下関係がユルいからな。アットホームが売りの職場よ!」

猫耳「魔王様も基本無礼講な人だしにゃ~」

嬢「あ、そーなの。てっきり怖い人かと思ったわー」

悪魔「ま、怖いっちゃ怖いよ。暗黒騎士が勇者を見逃したのも、魔王様が怖いからだろうし」

嬢「ん? どゆこと?」

猫耳「魔王様は好戦的だからにゃ~。口には出さないけど、自ら勇者と戦いたがってるんだよね~」

悪魔「オレらが勇者を倒しちまったら、それこそ魔王様の逆鱗に触れるんだよなァ。だから、オレらは適度にサボっておくのが1番いいわけ」

嬢「ヌルい職場だね~!」


<あはははは


暗黒騎士(えぇい、和気藹々とするな……!!)



>翌日


嬢「でさ~!」

魔物たち「ワハハハハハ」

暗黒騎士「おい!!」

嬢「あ、暗黒騎士! 求婚しに来たの?」

暗黒騎士「違う! おいお前たち、仕事をサボって談笑するな!!」

悪魔「いいじゃん。可愛い女の子と喋れる機会って、そうそう無いんだからさ~」

猫耳「嬢と話すのは面白いにゃ~」

暗黒騎士「お前たち……男所帯のせいで、女に対して異様に甘くなったのか……。ちなみに、どんな話をしていたのだ?」

猫耳「今は国王暗殺計画のパターン14について」

暗黒騎士「そんな話をする女にほだされるな!!」

嬢「真剣な恋バナなんだよ。国王の首を持って来れば、暗黒騎士は私を好きになってくれるかなぁ…って」チラッ

暗黒騎士「物騒な女は願い下げだ。俺は淑やかな女が好きなのでな」

嬢「舞踊とか、お茶とかお花なら心得があるよ。通信教育で!」

暗黒騎士「何故通信…というのは、どうでもいいか。教養の問題ではなく、日頃の言動がだな……」

悪魔「おやおや~。『俺の理想はこうだ』って教えてやるってことは、嬢ちゃんにそうなれってことかな~?」

猫耳「やったね嬢、チャンス大ありだよ!」

暗黒騎士「!!」

嬢「暗黒騎士様…私、貴方様の為に精進致しますわ」

暗黒騎士「えぇい気色悪い! もう来ないからな!」

<ヒソヒソ

嬢「私って魅力ないのかなぁ……」シュン

悪魔「そんなことねーって! 嬢ちゃんは可愛いって!」

猫耳「そうだな~。髪伸ばして、可愛い服着たら大変身しそう」

嬢「そっかな~。ちょっと伸ばしてみよっかな」

<ワイワイ

暗黒騎士(あー…何てゆるい雰囲気だ)





魔物――敵対していた頃は恐ろしい相手だった。
人間側にいた頃、魔物に対抗する為に日夜修行を続けていた。
修行に相当な時間を費やし、私生活のほとんどを職務に捧げてきた。


だというのに――


悪魔「んぎゃー、猫テメェー!! オレのプリン食ったなあぁ!!」

猫耳「こないだボクのクッキー食べたから、その仕返しだもんね~」

悪魔「プリンとクッキーじゃレベルがちっげーだろが! よっしゃテメェ、表出ろやァ!」

猫耳「はんっ、やなこった。何故ならボクが100%負けるからね!」

悪魔「てめぇコラアアァァ!!」ゴオオォォ

暗黒騎士「下らないことで魔法を発動させるなーっ!!」

暗黒騎士(何て幼稚な奴らだ……)


あれだけ恐ろしく思えていた魔物は、身内となれば阿呆の集まり。
こんな奴らの為に自分はあれだけ頑張っていたのかと思うと、何だかむなしくなる時がある。


暗黒騎士(まぁ…人間は精一杯の努力をして、ようやく魔物に並べるのだろう)





猫耳「暗黒騎士~、嬢から伝言~」

悪魔「伝言~」

暗黒騎士「…一応聞いておこう。何だ」

猫耳「息が詰まるから出して欲しいって」

暗黒騎士「却下。あいつを野放しにしたら、俺の貞操が危険だ」

悪魔「へぇー。暗黒騎士は女の子に貞操奪われちゃう程度の男なんだ~?」

暗黒騎士「ただの女じゃないだろう、あれは」

猫耳「童貞なんてとっとと捨てちゃえって~」

暗黒騎士「余計なお世話だ!」

悪魔「そう言うと思って、嬢ちゃんから手紙預かってきたんだよ。見ろホラ」

暗黒騎士「……」カサ


"ごめんなさい、本当すみません。こんな私のようなクズで良ければ、まずはお友達から…あ、それすらおこがましかったですね。まずは下僕にして頂けませんか? それともこんな小汚い女はイヤでしょうか。 嬢"


暗黒騎士「何でこんなに卑屈になっているんだ」

猫耳「ほら、日光に当たらないとメンタルやられるって言うし」

暗黒騎士「……わかった、出してやれ。悪魔、猫耳、お前たちが監視しておけよ」

悪魔&猫耳「ウーッス」



嬢「あぁ…シャバの空気は美味しいわ……」フラフラ

暗黒騎士「……少し見ない間にやつれたな」

嬢「あぁ暗黒騎士様、私のようなゴミクズに声をかけて下さるなんて!」パアァ

暗黒騎士「本当にお前どうしたんだ」

悪魔「大丈夫だって、ちょっと嬢ちゃん連れて中立街に行ってくるわ!」

猫耳「中立街は人間と魔物が共存してるんだよ~。ボクらが一緒にいても誰も気にしないから!」

嬢「私なんかと一緒にいてくれるの…? 嬉しい」ポロポロ

ばっさばっさ

暗黒騎士(……あの2人、堂々と仕事をサボりやがった……)



>3時間後


嬢「ただいまダーリン♪ お帰りのキスして~!」ギュッ

暗黒騎士「えぇい、ひっつくな! この数時間の間に何があったのだ!」

悪魔「日光に存分に当たった」

猫耳「甘いもの一杯食べた」

暗黒騎士「いやちょっと待て、元気を取り戻すメカニズムが単純すぎるぞ」

嬢「さてパイセン! 改めて…私を闇落ちさせて下さいッ!!」ガバッ

暗黒騎士「数日日光に当たらなかっただけでやつれる奴が闇落ちできると思っているのか!」

悪魔「いやでも暗黒騎士、放置してたら勇者とか国王とかを殺しに行きかねないぞ」ヒソヒソ

暗黒騎士「……そうだな」ハァ

嬢「!! 闇落ちさせてくれるんですか!?」

暗黒騎士「砦の警備兵達に飲み物を差し入れしてこい。下っ端の仕事は雑用からだ」

嬢「了解!」タタッ

悪魔「お前、適当こいたろ?」

暗黒騎士「マトモに相手してやる義理はない。都合良く使える下っ端がいれば便利だし、嫌になれば帰るだろう」

悪魔「まぁ、そうだろうけどね~……」


<ゴポゴポ……ドカアアァァン

暗黒騎士「!?」

悪魔「な、何だ!? 厨房からだな!」

猫耳「あれ、厨房はさっき嬢が向かったハズ……」



嬢「うわちゃー……ゴホゴホ」

暗黒騎士「な、何だこの黒コゲは!?」

嬢「コーヒー作るの失敗しちゃった~」

暗黒騎士「コーヒーもまともに淹れられないのか…インスタントだぞ、これ」

嬢「うぅ……。悪かったですね、何も教わってこなかったんだもん……」グスグス

暗黒騎士「泣くなよ……」

猫耳「ボクが教えてあげるから、ね? 泣かないで、嬢」

嬢「うん……」グスッ

悪魔「見張ってねーといけねぇな。色んな意味で」

暗黒騎士「そうだな……」





それから数日…


悪魔「勇者だが、北の山を突破したそうだぞ」

暗黒騎士「そうか。結局、砦を攻めてきたのは1度だけだったな」

暗黒騎士(妹が心配ではないのか。それとも殺さないと思って、後回しにしているのか?)

悪魔「あと中央国軍と、東の砦が交戦を始めた。軍師の読みでは、決着がつくのは何週間かかかるっぽい」

暗黒騎士「その内、増援として呼ばれるかもしれんな。とりあえずこちらは、砦をしっかり守っておくか」

嬢「暗黒騎士様~、悪魔くーん!」タタタッ

悪魔「お?」

嬢「コーヒー淹れましたよ。暗黒騎士様はブラック、悪魔君はミルク多めだったよね!」

悪魔「さんきゅー」

暗黒騎士「ようやくマトモにコーヒーを淹れられるようになったな」

悪魔「掃除の仕方やら、包丁の使い方やら、猫に色々と教わってるんだって?」

嬢「闇落ちの為、日々、頑張ってます!」ビシィ

暗黒騎士(それは闇落ちでなくて主婦業だ。疑問を持たないのか……)

悪魔「嬢ちゃん頑張ってるから、中立街でケーキ奢ってやるよ」

嬢「ケーキ! いいの!?」キラキラ

悪魔「可愛い女の子にケーキ奢るのが好きなんだよね~」

嬢「ありがとう悪魔君!」

暗黒騎士「……」

暗黒騎士(俺にひっついてくることはなくなり、魔物たちと上手くやっているようだな。このままでは家に帰らないだろうが…まぁ、いいか)


悪魔「タクシー鳥を用意しといたぜ~。行くか!」

猫耳「わーい、街だ街だ~」

暗黒騎士「お前たち、サボるにしてももっとコソコソとやれ」

悪魔「どうせ砦は暇だ。お前もたまには羽を伸ばせば~?」

暗黒騎士「結構だ」

嬢「あら暗黒騎士様。優れた戦士はきちんと休養も取るものですよ」

猫耳「いいこと言った、嬢! 暗黒騎士ったらずっと休んでないもんね!」

暗黒騎士「サボり魔の部下をカバーしているからなぁ?」

悪魔「お前がサボったら誰かがカバーしてくれるって。よし暗黒騎士、お前も行くぞ!」グイ

猫耳「連行決定!」グイ

暗黒騎士「おい!」

嬢「わーい、皆で遊びましょう!」

猫耳「休息、休息!」

悪魔「労わってやるからよぉ、生真面目な上司サマ!」

暗黒騎士(全く……)





>街


猫耳「並んだ甲斐あったね! 美味しいよ、これ!」

暗黒騎士「…別に構わんが、労わると言いながら俺の奢りか」

猫耳「いいじゃな~い、上司なんだから~」

暗黒騎士「そういえば、あの2人はどこに行った。行列は嫌いだから別行動すると言っていたが……」

猫耳「さぁね~。仲良くデートしてるんじゃない?」

暗黒騎士「そういう関係なのか?」

猫耳「冗談だってば。…あ、トイレ行きたくなってきた」

暗黒騎士「行ってこい、待っててやるから」

猫耳「行ってくる~」タタタ


暗黒騎士「ふー…」

悪魔「おーい、暗黒騎士ィ~」

暗黒騎士「ん、悪魔か……」クルッ


暗黒騎士「――っ」

嬢「っ!」ビクッ

暗黒騎士「……」

嬢「……」

悪魔「おぉー。な? 嬢ちゃん。暗黒騎士の奴、嬢ちゃんに見惚れてんぜ」イヒヒ

暗黒騎士「断じて違う。ただ…様変わりしたな」

悪魔「だろ? 髪伸びてきたからセットして、服はオレが見立てた。シックなデザインのドレス可愛いだろ、な?」

嬢「………」

悪魔「ん、どした? 嬢ちゃん」

嬢「……うううぅぅ~」

暗黒騎士「?」

嬢「やっぱ恥ずかしい! 私には似合わないよ、こういう女の子な格好は~」モジモジ

暗黒騎士(な、何だ? こいつの分際で恥じらっているのか?)

悪魔「なにをー。それはオレの見立てのセンスが悪いってことかぁ~?」

嬢「そういうことじゃなくて!! 自分で違和感が凄いんだよ~」

悪魔「慣れてねーだけだって、堂々としてな!」

嬢「無理! やっぱ元の服に着替えてくるぅ!」

悪魔「待て待てーィ!」ガシッ

嬢「やーだー!」ジタバタ

暗黒騎士「人前で騒ぐな阿呆共が」

嬢「だって……」モジモジ

悪魔「お前からも言ってやれよ、可愛いぞって!」

暗黒騎士「言えるか」

嬢「ですよねー」ショボン

暗黒騎士「…あー、その、何だ」

嬢「?」

暗黒騎士「服飾については疎いので、無責任に評価はできないが…悪くないと思うぞ」

嬢「………え?」

悪魔「ひねくれものー。『いい』って言えばいいものを」

暗黒騎士「そうとは言ってないが」

悪魔「お前の言う『悪くない』は『いい』って意味なの! 良かったなぁ、嬢ちゃん!」

嬢「……うん」コクン

暗黒騎士(勝手な解釈を……。しかし、この阿呆お嬢、また様子が変わったな?)

悪魔「猫の方がまだマトモな感想言いそうだな…そいや猫はどこへ…」


モブ「おい、あんた。魔王軍の暗黒騎士だろ?」

暗黒騎士「ん?」

悪魔「そうだけど何か?」

モブ「隠れた方がいい。魔王軍幹部が来てると聞きつけた中央国軍の奴らが、探してるぞ」

暗黒騎士「情報が伝わるのが早いな…」

悪魔「面倒だし、物陰に隠れようぜ。サンキューな、名もなきモブ!」



兵士A「……」

兵士B「……」


悪魔「うわー、この中立街で、鎧姿で堂々と闊歩してやがるぜ。ちょっとは忍べよな」

暗黒騎士「権威を見せつけているつもりか。だが、お陰で事前に遭遇を回避できた」

悪魔「よこすなら勇者をよこせっつーの。名もなきモブ兵なんかにやられる暗黒騎士じゃねぇぞ~」

嬢「多分、勇者は来ないよ。勇者一族と、中央国の方針は違うんだ」

悪魔「へぇ?」

嬢「勇者一族は、最短ルートで頭…魔王だけを討つことを目的としているけど、中央国は、反乱分子を根絶やしにするという方針なんだよね」

暗黒騎士「なるほど。方針の違いで揉めたりはしないのか」

嬢「表だって揉めはしないけど、やっぱり互いに不満はあるかな。でもそれぞれ、方針通りに動いてるから」

悪魔「フーン…っておい、兵士が一般人に絡んでやがるぜ」

暗黒騎士「悪魔、声を拾えるか」

悪魔「あいよ~。聴力増強魔法!」ギュゥーン


兵士A「チッ、誰に聞いても知らぬ存ぜぬ。中立街と言いつつ、ここの連中は魔物寄りなんじゃねぇか?」

兵士B「中立街の連中は揉め事を嫌うからな、仕方ない」

兵士C「取り巻きがいない今が、奴を討つチャンスなんだがな。コソコソ逃げ回りやがって、臆病者なのかもな」ハハハ


悪魔「うわ腹立つわー」

暗黒騎士「好きに言わせておけ。実際、揉め事を起こすわけにはいかないだろう」

嬢「仕掛けてきたのはあっちですよ」

暗黒騎士「揉め事を起こして中立街から弾かれるのは、人間にとっては大したことないかもしれないが、我々にとっては痛手なんだ」

嬢「ふむ?」

暗黒騎士「魔物側の商業的文化は人間より遥かに劣る。この中立街は魔物にとって貴重な商業地なんだ」

嬢「なるほど」

悪魔「ま、適当にやり過ごして………ッ!!」

暗黒騎士「どうした、悪魔」

悪魔「あれ…見ろ!」

嬢「え……?」

暗黒騎士「!!」


猫耳「んにゃあぁ~、痛い痛い! 耳引っ張らないでぇ~!!」

兵士D「魔王軍の魔物を見つけたぜ」


暗黒騎士「猫……! くっ、捕まったか!」

悪魔「野郎共、猫に何する気だ……!」


兵士A「魔王軍の魔物つっても下っ端だろ? 捕虜としての価値もねぇ」

兵士B「おい小僧、暗黒騎士の野郎はこの街にいるんだろ!」

猫耳「いないよ! ここへはボク1人で来…」

兵士C「嘘つくんじゃねぇぞ!」バチン

猫耳「うぶっ」

兵士D[本当のこと言えよオラァ!!」ドカッ

猫耳「ぐっ。嘘じゃない…!!」


悪魔「野郎…!!」

暗黒騎士「抑えろ。猫が耐えているのを無駄にできない」

悪魔「けど、このままじゃ猫が殺されちまうぞ! 見捨てるのかよ!」

暗黒騎士「出ていけば戦闘は免れないだろう。そうすれば我々の軍だけでなく、魔物全体が中立街に弾かれる可能性もあるぞ」

悪魔「クソ。中央国軍の奴ら、よりによってこんな場所で!」

暗黒騎士「中立街に弾かれるのは魔物にとって痛手。それも奴らの狙い通りだろう」

悪魔「ぐぐ…。暗黒騎士、オレはこのまま大人しくしていられる自信ねぇぞ…!」

暗黒騎士(俺だってそうだ…)ギュッ

自分の立場としての"最善"は、暗黒騎士個人としては不本意な手段だった。
こうして猫耳がやられている間、増幅する人間への憎しみ。後で倍にして返す。その為に今は、ひたすら耐えるしかない。


だが――


「やめろーっ!!」


暗黒騎士「!?」

悪魔「!!」


失念していた。ここに、イレギュラーな存在がいたことに。


猫耳「うぅ…嬢……?」

嬢「今すぐやめろ! 猫君は、私の友達だ!」

兵士A「元勇者殿…!?」

兵士B「確か、暗黒騎士に囚われていたのでは……」


悪魔「うわあぁ~…嬢ちゃん、それは自分の立場悪くするだけだぞ~…」

暗黒騎士(あの阿呆娘が……!)


兵士C「友達とおっしゃったか? こいつは我々の敵…魔王軍の魔物ですよ?」

嬢「そんなの関係ない、友達は友達だから!」

兵士C「どうやら彼女は、ストックホルム症候群にかかっているようだな」

兵士D「あぁ。これはすぐに保護する必要性があるだろう…力づくでもな」チャキ

猫耳「嬢! ダメだ、逃げ――」

兵士A「黙れ!!」バキィ

猫耳「!!!」

嬢「猫君っ!!」

兵士B「さぁ元勇者殿、帰りましょう。皆心配していますよ」ポン

嬢「……帰らない」

兵士B「え?」

嬢「私の人生メチャクチャにしたのは、その"皆"だろ――ッ!!」バキィ

兵士B「!!!」


悪魔「うわあぁー! 嬢ちゃんを止めないと…!」

暗黒騎士「待て! 我々が出ていくわけにはいかん!!」

暗黒騎士(それに…もう手遅れだ)


嬢「"勇者"として生きろと言われて、私はやりたいこと全部諦めてきた!」

嬢「もっと女の子らしいことしたかった! 友達も欲しかった! 恋人も欲しかった! だけど全部ダメだって、私には自由がなかった!!」

嬢「なのに、真の勇者が現れたら私はあっさりと見捨てられた! その証拠に、勇者以外誰一人として私を助けに来なかったじゃんか!」


暗黒騎士「………」

悪魔「兵士4人ともブッ倒しやがった…。中立街的には、人間サイドの内輪揉めと片付けられるだろうけど……」


兵士A「ク…暗黒騎士に凌辱されて堕ちたという噂もあったが、本当だったか」

兵士B「これは立派な反逆罪だ。国王に報告だ! 撤退するぞ!」

ダダッ……


嬢「猫君、大丈夫?」

猫耳「ううぅ~……」

暗黒騎士「…やってしまったな、阿呆娘」

嬢「……だって」

暗黒騎士「話は街を出てからだ。ここでは目立って仕方がない」

嬢「……はい」

悪魔「ほら、おぶされ。クソ人間どもめ、ゼッテー許さねぇぞ!」

猫耳「ありがとにゃ~……」





>暗黒砦


嬢「……」ソワソワ

暗黒騎士「おい、阿呆娘」

嬢「暗黒騎士様! 猫君は……」

暗黒騎士「見た目は派手な怪我だが、命に別状はない」

嬢「良かった~…」ホッ

暗黒騎士「良くはない、阿呆娘」コン

嬢「つっ」

暗黒騎士「これで、俺がお前を凌辱して闇落ちさせたというデマが拡散される。とんだ風評被害だ」

嬢「それは私が流した噂じゃないですし~……」

暗黒騎士「それに、これでお前は反逆者と認定されてしまった」

嬢「あら、心配してくれているんですか?」フフ

暗黒騎士「帰る場所がなくなったお前がここに居着くだろうと思うと、頭が痛いんだよ!」ゴンッ

嬢「いだぁ!!」

暗黒騎士「阿呆だ阿呆だと思っていたが、ここまで阿呆だとは…」クドクド

嬢「ひぃー…」

暗黒騎士「……でも、まぁ」ポン

嬢「!」

暗黒騎士「…猫を助けたこと、それだけは感謝する」ポンポン

嬢「……」ホケー

暗黒騎士「? どうした」

嬢「えへへ…暗黒騎士様に感謝されちゃった」

暗黒騎士「阿呆」グリグリ

嬢「あだぁ~!」

暗黒騎士「全く…自分の状況がわかっているのか」

嬢「わかっていますよ。初めてここに来た時に言った通り、私は闇落ちする気満々なんですから」

暗黒騎士「……」



嬢『"勇者"として生きろと言われて、私はやりたいこと全部諦めてきた!』

嬢『もっと女の子らしいことしたかった! 友達も欲しかった! 恋人も欲しかった! だけど全部ダメだって、私には自由がなかった!!』

嬢『なのに、真の勇者が現れたら私はあっさりと見捨てられた! その証拠に、勇者以外誰一人として私を助けに来なかったじゃんか!』



あの時の言葉は本音なのだろう。
今までの言動を振り返ってみても、それは頷ける。


嬢『舞踊とか、お茶とかお花なら心得があるよ。通信教育で!』

こいつの"やりたかったこと"は、堂々とできなかったのだろう。


暗黒騎士『コーヒーもまともに淹れられないのか…インスタントだぞ、これ』

嬢『うぅ……。悪かったですね、何も教わってこなかったんだもん……』グスグス

日常生活に必要なことは、ほとんど教えられずにきたのだろう。


嬢『やっぱ恥ずかしい! 私には似合わないよ、こういう女の子な格好は~』モジモジ

きっと"女"の部分を抑圧されて育ってきたのだろう。


暗黒騎士(7歳から、10年間か……)

人間の寿命を考えれば、10年という歳月は長い。若い時ならば、それは尚更だ。
彼女はその歳月を勇者として教育されてきた。そして、あっさり見捨てられた。


嬢「何を考えていらっしゃるんですか?」

暗黒騎士「…笑うな」

嬢「え?」

暗黒騎士「辛い気持ちを表に出すな、というのも教育の賜物か?」

嬢「えと…別に私、辛いなんて」

暗黒騎士「辛いとも思わないくせに、闇落ちしに来たのか?」

嬢「……」

暗黒騎士「どうなんだ」

嬢「…はは。そうですね。やっぱり私…辛いのかも」

暗黒騎士「初めからそう言え。強がる女は嫌いだ」

嬢「へへへ…。じゃあ暗黒騎士様。強がるのやめるので、私を側に置いて下さいますか?」

暗黒騎士「お前の望むようにはしない」

嬢「そんなぁ~!」

暗黒騎士「……お前は、あれだろう。俺の配下になりたいのだろう」

嬢「…? はい、まぁ」

暗黒騎士「俺は女を配下にしない主義なんだ」

嬢「ええぇ! 私、男に負けない自信ありますよ!」

暗黒騎士「関係ない。強かろうと、女を戦わせるのは嫌いだ」

嬢「ううぅ~…」

暗黒騎士「……俺がいいのか?」

嬢「……え?」

暗黒騎士「俺以外の幹部なら、お前を配下として使うかもしれん。それでも、俺がいいのか?」

嬢「はい!」

嬢は迷わずに答えた。

嬢「最初は、同じ人間だからという理由で貴方の元に来ました! けれど私は、実直で硬派な、暗黒騎士様が好きです!」

暗黒騎士(……好き?)

それはどういう意味で…と気にはなったが、あえてスルーする。
とりあえず、この嬢は元いた場所よりも他の場所よりも、自分の側を選んだ。

暗黒騎士「俺の側で闇落ちしたいなら、お前の役割はひとつ――」

嬢「……?」

暗黒騎士「――俺に、守られろ」

嬢「!!」

暗黒騎士「守るものが多い方が、俺は強くいられる。守られていろ、女ならな」

勇者として戦っていた――もしかしたら自分より強いかもしれない女を相手に、阿呆なことを言っているかもしれない。
だけどやっぱり、女は女であって、それはどうしても譲れない。

嬢「…ふふっ」

暗黒騎士「? どうした」

嬢「守ってもらえるなんて…まるで、物語のヒロインみたいですね。私、ずっとヒーローだったので」

暗黒騎士「…嫌か?」

嬢「まさか。上手く言えないけど…キュンとしました!」ヘヘッ

暗黒騎士「それは困る」

嬢「暗黒騎士様の意地悪~っ!」





守られろ、とは言ったが。


猫耳「コタツでみかんは最強だにゃ~…」ヌクヌク

悪魔「コタツから一歩も出れねー…」ヌクヌク

嬢「ダンジョンにコタツ置いてたら、もうそれがトラップだよねー…」ヌクヌク

暗黒騎士(平和だな)


相変わらず砦に攻めてくる敵もなく、平和に日々を過ごしていた。

ただひとつ、前より変わったことと言えば――


暗黒騎士「コタツから出ろ、戦闘訓練の時間だぞ」

悪魔「いやでーす」

猫耳「やーだー」

暗黒騎士「せめて『後でやります』と嘘でも言え。力ずくで引きずり出すぞ」グイッ

悪魔&猫耳「ギャース!!」

嬢「頑張ってね、2人とも。訓練後に、おやつと飲み物用意しとくから」

猫耳「ありがたやー」

悪魔「マイエンジェル~。それに比べてコイツは、悪魔のような男だな!」

暗黒騎士「悪魔に悪魔と言われたくない。…おい、嬢」

嬢「何ですか?」

暗黒騎士「風呂の準備も頼む。訓練後すぐに汗を流したい」

嬢「わかりました。頑張って下さい」フフ


嬢の名前を呼べるようになった。
嬢が自分の側にいることを受け入れたことで、心の距離が縮まったように思える。


暗黒騎士「ハアァッ!!」

悪魔「あだーっ!」

暗黒騎士「動きがワンパターンだ。折角の素早さを活かしきれてないぞ」

悪魔「へいへーい。あ、訓練終わりの時間だぜ~」

暗黒騎士「そうだな。各自、疲れを取っておけ」

悪魔&猫耳「うぃーっす」



暗黒騎士(さて風呂だが……)ガラガラッ

嬢「どうぞいらっしゃい♪」

暗黒騎士「……」ガラガラッ←閉めた

暗黒騎士「疲れているのかな」

嬢「暗黒騎士様ーっ、どうして出て行っちゃうんですかーっ!」ガラガラッ

暗黒騎士「薄着でスタンバっている痴女がいれば、そりゃあ逃げる」

嬢「お背中を流させて頂こうと思いまして…」

暗黒騎士「本音は?」

嬢「筋肉美たまらんわ~。手が滑ったフリして撫でつ触りつ」

ポイッ

嬢「暗黒騎士様ぁ~、窓から放り投げるなんてひどすぎます~っ! 寒い寒い!」

気安い仲になったこと自体は良いのだが…。

暗黒騎士「砦に押しかけて来た頃に逆戻りするな、阿呆娘が!!」





暗黒騎士「いい風呂だった。何かハプニングもあった気はするが忘れた。少し涼むか」

嬢「寒いよぉ~」ブルブル

暗黒騎士「嬢、どうしてそんな薄着で外にいるんだ? 風邪を引くぞ」

嬢「本気で忘れないで下さいよ!!」

悪魔「暗黒騎士ィ~」

暗黒騎士「悪魔、どうした」

悪魔「魔王様より通信だぜ。ハイヨ、魔鏡」ヨッコイセ

暗黒騎士「すまないな悪魔」

嬢(この鏡に魔王の姿が映るってわけ…。そういえば魔王の顔も知らなかったな)

暗黒騎士「魔王様、俺です」

もやもや…


魔王『暗黒騎士、久しぶりね』


嬢「ブフッ!」

悪魔「どうした嬢ちゃん?」

嬢「こ、この美人でセクシーなお姉様は……」

悪魔「魔王様だぜ?」

嬢「女の人だったのおおぉぉ!?」



魔王『勇者が着実に近づいてきているみたい。強いわね、彼』

暗黒騎士「招集命令はまだですか、魔王様。この砦は退屈でたまりません」

魔王『その時が来たら呼ぶから、焦らないの。貴方って本当に生真面目よねぇ』

暗黒騎士「魔王軍幹部として当然のことをしているまでです」

魔王『ふふ、頼もしい。でも私の性分は知っているでしょう? 勇者とは是非、一騎打ちでやりたいところよ』

暗黒騎士「…いくら貴方といえど、勇者相手に確実に勝てるとは思えません」

魔王『それはそれで仕方ないわ。私の方が弱いというだけなのだから』

暗黒騎士「しかし…」

魔王『私、思うのよ。これは私のご先祖様が始めた争いだから、私が責任を持つ。だけど貴方達にまで同じものを背負わせる必要はないんじゃないか…って』

暗黒騎士「我々の命は魔王様のものです。同じものを背負わせてもらえないというのは、酷というものです」

魔王『も~、暗黒騎士ったら真面目すぎて扱いに困るわ~。でもありがとう、時が来たら招集をかけるわ。それじゃあね』


プツン


暗黒騎士「悪魔、もう鏡を下ろしていいぞ」

悪魔「オウ」

嬢「暗黒騎士様……」プルプル

暗黒騎士「ん?」

嬢「何なんですかあぁ!? 暗黒騎士様は魔王が好きなんですか!? びえええぇぇぇん!!」

暗黒騎士「……は?」

悪魔「暗黒騎士、抱きしめて囁いてやれよ。『そんなことはない、お前だけだ』って」

暗黒騎士「断る」





嬢「暗黒騎士様のばかー」イジイジ

猫耳「どうしたの、嬢?」

悪魔「あぁ、かくかくしかじか」

猫耳「なるほどにゃー」

嬢「ううぅ、あんなに綺麗なお姉さん相手に太刀打ちできないよぅ…」

猫耳「まぁ確かに暗黒騎士にとって魔王様は特別な人だから」

嬢「びええええぇぇん!!」

悪魔「泣かせんなよ」

猫耳「本当のこと言っただけだもん」

悪魔「ったく。おい嬢ちゃん、暗黒騎士の闇落ちの経緯は知ってるな?」

嬢「うん、グスッ。聖騎士長をやっていたけど元老院に罪を被せられて、それで元老院を殺したんだよね?」グスグス

悪魔「そうそう。お陰で聖都は力を失っちまった」

嬢「私は元老院が悪いと思うな」

悪魔「いくら悪とはいえ、世界に影響を与えていたような偉い連中だ。だから、そいつらを殺した暗黒騎士は、もう人間側に戻れない」

嬢「うん……」

悪魔「魔王様は、行き場を失っていた暗黒騎士を自らの足で探し出し、迎え入れた。暗黒騎士にとって魔王様は、救世主なんだよな」

嬢「そうだね…。今の暗黒騎士様があるのも、魔王のお陰なんだもんね」

悪魔「そう、だから"特別な人"。わかるだろ?」

嬢「うん、わかる…。そうだね、魔王は救世主で、守るべき存在であって、道しるべであって」

猫耳「最愛の人」

嬢「……えうううぅぅ」ボロボロ

悪魔「おいクソ猫」

猫耳「てへっ」





>数日後


暗黒騎士「では行ってくる。砦を頼んだぞ」

勇者が魔王城付近の山地に足を踏み入れたことから、幹部に招集命令がかかった。
魔王は自分が討たれても仕方ないというスタンスではあるが、魔物達にとってそうはいかない。護衛は邪魔であっても、万が一の為に備えておく必要がある。

悪魔「おう、行ってこい! 頑張れよ暗黒騎士!」

猫耳「死んだりしないでよね~」

暗黒騎士「……」

悪魔「どうしたよ、暗黒騎士」

暗黒騎士「いや。あの阿呆娘は見送りに来ないのか、と」

悪魔「おやおや? 寂しいのかね?」

暗黒騎士「そういうわけではないが、いつもと違うと不吉な予感がしてな」

悪魔「やだ暗黒騎士ったら照れちゃってぇ~。素直に嬢ちゃんに見送りしてほしいって言えよォ」

暗黒騎士「ところで、そこに木があるな?」

悪魔「ん? うん」

暗黒騎士「……」ドンッ

嬢「ぎゃぅん!」ドスーン

悪魔「……」

暗黒騎士「木の上で待ち伏せて何をしようとしていた、ん? これが不吉でないとしたら何だ?」

嬢「暗黒騎士様、こわぁ~い……」汗ダラダラ

猫耳「邪魔しちゃいけないよね、ボク達は去ろう」

悪魔「これから始まるのはラブロマンスじゃなくて、主に説教だけどな」


暗黒騎士「お前は素っ頓狂な行動が目立って油断も隙もないな」クドクド

嬢「ううぅ」

暗黒騎士「まぁ、こちらも慣れてはきた。だがもう少し普通にできんのか、普通に」

嬢「『普通』がわからないんですよぅ……」

暗黒騎士「そうか。なら、落ち着いた行動を取れ。グイグイ来られると困る」

嬢「はい……」シュン

暗黒騎士「……? 今日はやけに聞き分けがいいな?」

嬢「だって…負けたくないんだもの」ボソ

暗黒騎士「負ける?」

嬢「何でもありません! とにかく全部、暗黒騎士様の言う通りにします!!」

暗黒騎士「……おい」

嬢「はい?」

暗黒騎士「いくら『普通』がわからないからって、全部俺の言うことを聞くというのは、お前らしさが死ぬぞ」

嬢「~っ…じゃあどうすればいいんですかーっ! 暗黒騎士様を困らせたら嫌われるじゃないですか!」

暗黒騎士「阿呆」ポン

嬢「!」

暗黒騎士「確かに困る。…だが、嫌いにはならん」

嬢「っ!!」

暗黒騎士「そういうわけだ。では行ってくる」サッ

嬢「~っ……」

飛龍に乗って飛んでいく暗黒騎士の姿を、嬢は姿が見えなくなるまで見送っていた。

嬢「どうすればいいのか、ますますわかんなくなったよ…暗黒騎士様の、ばか」





>魔王城


術師「感じる…感じますよ…! 勇者とその一味が、どんどん近づいている……!!」

暗黒騎士「来る者を拒むあの山道をものともしないか。流石は神に選ばれし勇者だな」

魔王「ふふ、面白くなりそうね」

暗黒騎士「魔王様、楽観視しすぎです」

魔王「逆よ。危険を感じるからこそ楽しんでいるの。この私の相手になる敵なんて、そうそういないからねぇ」

暗黒騎士「魔王様……」

魔王「あぁ、大丈夫よ。私の道楽で皆を路頭に迷わせるわけにはいかないからね。私が負けそうになったら加勢しなさい」

幹部一同「「はい」」

暗黒騎士(それも我々にとっては不本意であるが…魔王様にとってもそうだろうから、互いに譲歩だな)



暗黒騎士(しかし魔王城に来るのも久々だな。様子に変わりはないな)

暗黒騎士(思い出すな…初めてここに訪れた頃を。あの頃の俺は人間不信になっていた。そんな俺に希望を与えて下さったのが魔王様だ)

暗黒騎士(……同じなのだろうな、あの阿呆娘も。自分の境遇に絶望して、俺にすがりに来た)

暗黒騎士(もし自分の兄が討たれたら、あいつは平然としているのだろうか。わずかに気がかりではあるが…)

暗黒騎士(魔王様は俺が命を捧げたお方。あいつには悪いが、手加減はできない)

術師「暗黒騎士、ここにいましたか」

暗黒騎士「どうした、勇者達が来たか」

術師「いえ、違います。確かに勇者も近づいてきていますが……」

暗黒騎士「?」


悪魔「あ…暗黒騎士……」ヨロヨロ

暗黒騎士「悪魔!? どうした、その怪我は!!」

悪魔「中央国軍が…他国と連合を組んで、暗黒砦に攻めてきた……!!」

暗黒騎士「!!」

悪魔「すまねぇ、オレは逃げてくるので精一杯だった…。他の奴は、殺されてるかも…クッ」

暗黒騎士「そんなことは気にするな」

暗黒騎士(しかし、よりにもよってこのタイミングで…)

狙っていたとしか思えないタイミングだ。
とはいえ、まさか他国と連合まで組んで攻めてくるとは想定外。

暗黒騎士(動揺するな…。勇者のことに考えを集中しろ…!)

暗黒騎士「悪魔、お前は体を回復させろ。俺は当初の予定通り、魔王様と共に勇者を……」

魔王「待ちなさい」

暗黒騎士「魔王様……!」

魔王「話は聞かせてもらったわ。すぐに砦に戻りなさい、暗黒騎士」

暗黒騎士「…! いえ魔王様、今戻ったところで手遅れでしょう。それに勇者が近づいている今、砦が攻め入られることなど些細な……」

魔王「駄目。戻らないと、本当に手遅れになるかもしれないわよ」

暗黒騎士「!」

魔王「貴方1人が欠けたことが致命傷になるほど、魔王軍幹部は弱くないわ。命令よ、即刻戻りなさい」

暗黒騎士「……ありがとうございます、魔王様!」ダッ

暗黒騎士は飛龍に飛び乗る。
魔王は読んでいたのかもしれない、暗黒騎士の気がかりを。

暗黒騎士(間に合え……!!)





>暗黒砦


暗黒騎士「くっ、この惨状は……」

砦の内部は死臭に満ちていた。
見たところ、死体は人間のものと魔物のもの、半々だ。

暗黒騎士(しかし、砦は制圧されているかと思ったが…軍隊は引き上げたのか)

暗黒騎士「俺だ、暗黒騎士だ! 生きている者はいないか!」

「ううぅ…」ガラッ

暗黒騎士「!! 誰だ!?」

猫耳「にゃあ……暗黒騎士、戻ってきてくれたの?」ブルブル

暗黒騎士「猫! 隠れていたのか!」

猫耳「ごめんね暗黒騎士……」

暗黒騎士「何を謝る必要がある。よくぞ生きてた!」

猫耳「ボク、ボク…嬢を守れなかった……」

暗黒騎士「……!!」

血の気が引いた。
まさか、大量の死体と共に、嬢も――

猫耳「嬢は生きている。…多分」

暗黒騎士「多分、とは?」

猫耳「人間どもに連れて行かれたんだ。多分、奴らの目的は嬢だったんだ……」

暗黒騎士「……そうか」

意外性のない目的に、驚きはしない。
それよりも、自分が今すべきことは1つ――

暗黒騎士「猫。すまないが、生存者の治療を頼む」

猫耳「うん…。暗黒騎士はどうするの?」

暗黒騎士「決まっている」

暗黒騎士は迷わず、飛龍に飛び乗った。

暗黒騎士「守ると約束したんだ――あいつを」





>同時刻――中央国、城


嬢は兵士たちにより、王の前に組み伏せられていた。

王「すっかり"女"の顔になったな、裏切り者よ」

嬢「……」

王「さぞ、暗黒騎士に可愛がってもらったのだろうな? 勇者一族としての誇りなど、もう残っておるまい」

嬢(私から誇りを奪ったのは彼じゃない…お前たちだ)

王「唐突に勇者の役目を奪われたことに怒っていることは知っている。だがお主も勇者一族の者ならわかっているはずだ、人間の為の自己犠牲精神も必要なものであると」

嬢(確かに、そう教えられた…だけど、自己犠牲なんて冗談じゃない!!)

王「我々に何も告げずにお主の兄を連れ去った神を恨むか? 神を恨むなど、恐れ多いだろう」

嬢(私が恨んでいるのは、神と人間だ!)

王「……その反抗的な目をやめぬか。お主を許してやっても良いのだぞ?」

嬢「……許しを請うようなことなんて、していない」

王「そう言うな。大臣たちはお主を極刑にせよと言っておる。だが…」スッ

嬢「!!」

王「それを許すと言っておるのだ…わしの言うことさえ聞けばな」

嬢「触るな……!」

嬢(王の秘めた望み、それは勇者一族の懐柔…その為に……!)

王「わしの側室になれ。我が王家に、勇者一族の血を……!!」

嬢「冗談じゃない!!」ペッ

王「…っ!」

嬢(ふざけんな…! 私が子を産む相手に決めたのは……)





暗黒騎士「城が見えてきた…!」





嬢「誰がお前の女になるもんか! 今度私に触れたら、お前のことを殺……」

王「おい、兵を増員して押さえつけろ。それと、舌を噛まないように布をくわえさせろ」

兵士A「はっ」

嬢「!!」

王「威勢はいいな。だが子でも孕めば、反抗する気力も失せるだろう」

嬢「……っ!!」

王「諦めるのだな…わしの子を産むのが、お主の役割だ」

嬢(や、やだ……)

王「王家に勇者一族の血が混ざれば、傲慢な勇者一族の権威も多少は薄れるだろう。ククク……」

嬢(いや……)





暗黒騎士(馬鹿でかい城だな、嬢はどこに……!?)





勇者をやめてから、初めて好きな人ができた。
その好きな人と、まだ両思いにすらなれていないのに。

嬢(こんな奴が初めての男で、こいつの子を産むなんて……死んだ方がマシ!!)

王「よく見るとお主、良い体をしているなぁ?」サワッ

嬢「!!」ゾワワァ

王「頭の中でせいぜい、泣き叫ぶのだな。その顔が男の嗜虐心を刺激するのだと知っておけ…!」

嬢(嫌あぁ――っ!!)



ドオオオォォン


嬢「!?」

王「…っ! 天井が……」

ガラガラッ

王「ぐあっ!!」

嬢(な、何……!?)


「やはり、ここか」

嬢「!!」



暗黒騎士「叫び声が聞こえたような気がした。間に合ったようだな、嬢」

嬢「――っ」


叫んでなんていない。
なのに駆けつけてくれるなんて――こんなのって、奇跡なんて言葉じゃ説明できない。


兵士A「くっ暗黒騎士! 動くな!!」

嬢「!」

嬢を押さえつけていた兵士達が、一斉に嬢に刃を向けた。

兵士A「こいつを助けに来たのだろう! だがそうはさせん、大人しく投降しろ!!」

暗黒騎士「ほう?」

嬢「……?」

暗黒騎士に動揺は見られない。
それを察してか、兵士たちに焦りの様子が伺える。

兵士B「わざわざ、魔王を見捨ててまで助けに来た女だろう!」

兵士C「こいつがどうなっても良いのか!」

暗黒騎士「やってみろ」

迷わず答えた暗黒騎士に、兵士たちは驚愕した。
だがすぐに理由が見つかったのか、兵士の1人がそれを口にする。

兵士D「奴にとってはたかだか女。自分の身の方が可愛いのだろう」

兵士E「そういうことか…やはり魔王側に堕ちた者は、どこまでも自分勝手だな」

暗黒騎士「やってみろ、と言っている」

暗黒騎士は一歩踏み出す。
それを合図にしたように、兵士たちも動いた。

兵士A「言う通り、やってやる!!」

兵士B「元勇者よ、死ね――」



ズザザッ



兵士A「――え?」


ドサッ――


暗黒騎士「やってみろとは言ったが…」

暗黒騎士は、倒れる兵士たちを横目で見た。
腕にはしっかりと、嬢を抱えて。

暗黒騎士「こいつの命をやる、とは言っていない」

兵士B「バカ、な――」


王「あ、ああぁ……」

暗黒騎士の圧倒的な力を見てか、王は瓦礫を隠れ蓑にして引きつっていた。
暗黒騎士はそんな王の様子を一瞥し、嬢に目を向けた。

暗黒騎士「おい、何もされなかったか?」

嬢「平気…です」

暗黒騎士「そうか。…悪かったな、遅れて」

嬢「どうして…来てくれたんですか?」

暗黒騎士「…阿呆」

嬢「――」

これ以上阿呆なことを口にさせるかと――暗黒騎士は自らの唇で、嬢の言葉を塞いだ。


暗黒騎士「守りたいからだ――お前を」

嬢(あぁ――)


夢かと思うくらいに幸せで、嬢は暗黒騎士に身を委ねていた。





王「ク、クク…貴様は終わりだ!」

暗黒騎士「自分の置かれている状況がわからんのか、お前は」

暗黒騎士の手によって縛り上げられた王は、不敵に笑った。

王「暗黒騎士、貴様は魔王の護衛を抜け出して来たのだろう…勇者は魔王を討ち、この地に戻ってくるだろう!!」

暗黒騎士「かもしれんな。時間的に、決着がついた頃だ」

王「勇者は移動魔法ですぐに戻ってくる、貴様に逃げる時間などないぞ! 勇者相手に、貴様がかなうまい!!」

暗黒騎士「そうだな。魔王様を倒した相手となれば、俺などでは敵にもならん」

魔王が負けたとは思わないが、確信はない。
それに、王の言う通りだとしたらまずい。

暗黒騎士「逃げるぞ嬢。今後のことを考えるのは、安全が確保されてからだ――」


「その必要はない」


暗黒騎士「!!」

嬢「……っ!!」

王「おぉ……!!」


勇者「只今戻りました、陛下」


勇者の姿を確認したと同時、王と共に縛り上げられていた兵士たちは歓声を上げた。
勇者が戻ってきた。それはつまり――


暗黒騎士(魔王様……!!)


魔王との戦いは、勇者の勝利。そういうことだ。
主の敗北。暗黒騎士の胸に鈍器で殴られたような痛みがはしる。


王「勇者よ、この者らを討つのだ!! 見ての通り、我らに仇なす者だ!!」

嬢「させない…!! こんなとこで諦めたりしない!!」

暗黒騎士「……」

嬢の言う通り、諦めたりはしない。
現実的な思考など今は邪魔だ。魔王を討った相手に勝てる可能性が低いという事実など――


勇者「……」

暗黒騎士「……?」

しかし妙だった。勇者は戦う素振りを見せない。

王「どうしたのだ、勇者よ……?」

勇者「陛下。事実確認をよろしいでしょうか」

王「何だ?」

勇者「貴方の命令により、妹がここに連行され…何かしらの危害を与えようとした、というのは。事実でしょうか?」

嬢「!!」

王「…その娘は、魔物側に堕ちた者だ。だから相応の罰を与える為に連行するのは……」

勇者「理由なんざどうでもいい」

勇者は王をギロリと睨んだ。

勇者「嬢は俺の妹だ。危害を加えようと言うのなら、例え貴方といえど許さない」

王「……!!」

嬢「勇者……?」

嬢は呆気にとられていた。
まさか自分が裏切った兄が、そんなことを言うなんて…。

勇者「嬢。お前は俺の代わりに役目を果たそうとしてくれた。だから感謝もしているし、申し訳ないとも思っている」

勇者は嬢を真っ直ぐ見据えて言った。

勇者「だから、お前が俺を裏切ったとしても――俺はお前を尊重する」

嬢「勇者……」

暗黒騎士(そう来たか……)

全く想定外の事態だ。
自分たちにとっては好都合だが――

王「いい気になるな、勇者よ」

中央国と勇者一族の確執は、ますます深まるだけで――

王「お主が魔王を討ったとはいえ、権威は王家にある! 貴様の思い通りには……」

勇者「なるんだよ」

王「……何だと」

勇者「もう入ってきていいよ」

「えぇ」

暗黒騎士「……!!」


魔王「ご機嫌よう、国王陛下」

暗黒騎士「魔王様!?」

王「魔王…だと!? どういうことだ…まさか勇者!!」

勇者「……」

王「魔王と手を組んだ…とでも言うのか?」

勇者「だとしたら何だと?」

王「なっ……」

暗黒騎士「手を組んだ…!?」

全く予想外の展開についていけない。
魔王が生きていたというだけでも驚いたのに、まさか手を組んだなど――

勇者「うんざりなんだよ、俺も」

勇者は口早に説明を始めた。

勇者「俺は勇者になるという運命を強要された――勇者になる為に、何年を修行に費やしたと思っている」

嬢「10年――7歳から、10年……」

嬢が口にした歳月。それは彼女が犠牲にしてきた歳月で――

勇者「年相応の子供らしく過ごしたかった。家族と共に居たかった。だけどそんな苦しみ、勇者という大きな役割の前には――」

暗黒騎士(勇者も…だったのか……)

勇者も、嬢と同じ期間を犠牲にした。
裏切られた嬢と違い、勇者は報われていると思っていた。だが、違った。

勇者「うんざりなんだよ、運命に振り回されるのも、期待されるのも!」

彼も、納得していなかったのだ。

勇者「俺は、この世界に戻ってきて、勇者の名を与えられたその時から――ずっと、計画していた」

勇者はそう言って魔王の側まで歩み寄り――その手を取った。

勇者「魔王が話のわかる奴で良かった。俺は魔王と手を組み…人間を支配する」

王「な…!?」

魔王「あら、人間の支配者が変わるだけよ。人間と魔物の争いもこれで終結。最も平和的な手段だと思うわよ?」

勇者「そういうことだ」

王「待て…!! 認めぬぞ、人間の統治権は我ら王族に……」

勇者「馬鹿言ってんじゃねぇよ」

勇者はハンッと鼻で笑った。その目は完全に、王を見下している。

勇者「文句ある奴は俺を倒しに来ればいい…全員、ねじ伏せてやるからな?」ニヤァ

王「うぅ……っ」


嬢「……」ポカーン

暗黒騎士「まさか、あれが勇者の本音とはな……」

嬢「見事な闇落ちっぷりだわ……」

暗黒騎士「本当にな」

あれに比べれば嬢など遥かに可愛いものだったと、苦笑せざるを得なかった。





それから――


猫耳「このお菓子美味しい!! 人間の食品加工技術は凄いねーっ!」

悪魔「見ろよ、この上着。シャレてるだけでなくて、防御力も高いんだとよ。人間の装備品開発技術も侮れねぇ」

猫耳&悪魔「人間っていいな!」

暗黒騎士「ステルスマーケティングかと思う程に不自然だな」

嬢「あはは~。人間の文化に馴染みがない人たちには新鮮なのかもしれないですね」


人間と魔物は共存することとなった。
とはいえそれは表面上のもので、決して人々の賛同を得られているわけではない。

暗黒騎士「だが、人間達が持ち上げていた勇者の下した決断だからな…正面から批判できる人間はそうそういないだろう」

嬢「この形だけの和平、いつまでも続くとは思えないけれど……」

暗黒騎士「勇者はそれでも構わないのだろう」

嬢「そうでしょうね」

勇者は歪んでしまった。彼をさらった神は、それすらも計算通りなのか否か。

暗黒騎士(何にせよ…その形だけの和平に救われた身としては、何も言うまい)


嬢「暗黒騎士様ぁ」ギュッ

暗黒騎士「何だ」

嬢「素っ気ないですーっ! せっかく両思いなんだから、一杯甘えたいのにーっ!」

暗黒騎士「阿呆。俺が甘やかす男に見えるのか」

嬢「暗黒騎士様の、意地悪」イジイジ

暗黒騎士「何だと言うんだ、一体」

嬢「心配なんだもん。暗黒騎士様の口から、聞きたいんだもん……」

暗黒騎士「?」

嬢「現状は、いつまで続くかわからない和平で…いつ、世界がまた争いに包まれるかわからないから……」

暗黒騎士「……あぁ」


心配とはそういうことか――察して嬢の頭に手を置いた。本当に阿呆だ、と思いながら。


暗黒騎士「例え世界が再び争いに包まれようと――俺が守る、お前を」

嬢「……!!」

暗黒騎士「……どうした?」

嬢「暗黒騎士様、素敵っ! 愛してるっ!」ギュッ

暗黒騎士「だからひっつくな、阿呆」

嬢「やだやだ、ひっつく! 阿呆でもいい!」ギュゥー

暗黒騎士「…ったく」

つくづく厄介な女だと思った。
だけど、それも悪くない。自分もこの女に、落ちているのだから。


暗黒騎士「ずっと守られていろ――俺の側で」


Fin




あとがき

ご読了ありがとうございました。

作者の近況がスイーツからかけ離れていたので序盤はふざけ気味でしたが、後半でスイーツを取り戻せました。やったね!

え、世界はどうなるかって? 知らん←
自分の作品のオチが「主役2人は幸せ、その他の問題は投げっぱなし」なんてのは今に始まったことじゃない!!(改める気ゼロ


今作はブログオリジナルで、スレやまとめブログで感想を頂けないので、こちらのコメ欄に感想を頂ければ嬉しいのです(´∀`)ノ
posted by ぽんざれす at 21:52| Comment(6) | ブログオリジナルss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
超がつくほど積極的だけど全く駆け引き出来ないあほの子な元勇者ちゃんと、そっけない態度の暗黒騎士さんの掛け合いがとても楽しかったです!
人間達の間で流れているいかがわしい噂とのギャップに思わず笑いました。
やっぱり暗黒騎士さんは格好いい……
Posted by むーちょ at 2016年06月02日 23:53
最後までテンポよくスイーツに締め括られてて、爽快感のある甘々具合が呼んでて楽しかったです(*´ω`*)
やはり暗黒騎士はイケメン中のイケメンですね…!
Posted by りえると at 2016年06月03日 00:11
今回も素敵な暗黒騎士を堪能させて頂きました!
まさかこう来るとは……この勇者嫌いじゃない(笑)
この世界がこれからどうなっていくか見ものですね~。
Posted by 神隠 at 2016年06月03日 00:21
寝ている間にコメントが…興奮ですぐに目を覚ましました、皆様ありがとうございますσ(´ω`*)
書いてて楽しいお話で、コメントで報われました(*´艸`)
Posted by ぽんざれす@作者 at 2016年06月03日 05:56
遅ればせながら読ませて貰いました〜!!
ぽんざれすさんの書かれるssの暗黒騎士は硬派だけどいつも女の子のことめっちゃ大事にしてくれてもう最高です(;ω;)激萌してます……
辛いことがあっても明るく振る舞う嬢ちゃんにも元気を貰いました٩(●˙▽˙●)۶
Posted by 朱美 at 2016年06月06日 22:52
コメントありがとうございますσ(´ω`*)
暗黒騎士には女性の理想…あ違う、自分の理想を詰め込んでおります←
Posted by ぽんざれす@作者 at 2016年06月07日 05:40
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