2018年12月27日

魔王討伐から13年後……(2/4)

>街

魔王『こんなに人間がいる場に出るのは、久々だ』

剣士「ほんと、首都は人多いよな~。田舎から出てきた時は驚いたよ」

魔王『規模が違うだろうな。そして……お前は何のアピールだ、それ』

少女「……」ガタガタ

剣士「さっきから俺の服を掴んで離さない……」

少女「こわいこわいこわいこわい」ブルブル

魔王『だろうな引きこもり』

剣士「ははは。慣れだな、慣れ。で少女さん、どこ行きたい?」

少女「あ、あの、飲み物飲めるお店っての……行ってみたい」

剣士「喫茶店かな。いいよ、行こう」



>喫茶店

少女「……」ガタガタガタガタ

剣士「少女さーん? 震えて飲み物こぼれてるよー?」

少女「わ、わ私、注文の時に変じゃなかった?」

剣士「全然、変なとこはなかったよ?」

少女(魔)『まぁアイスかホットか聞かれた時、脳内でアイスをアイスクリームと勘違いしてたから、教えてやったがな』

少女「ばらさないで! ばか魔王!」

剣士「ところで、何で喫茶店?」

少女「ひ、人馴れの修行……。無難かなーと思って……」

剣士「そうか。偉いな、少女さんは」

少女「わ私なんか剣士さんに比べれば全然……」

剣士「いーや、少女さんは偉い! 俺、頑張る子は応援するよ!」

少女「ありがと……あの、これからも、嫌じゃなかったら……」モジモジ

剣士「勿論、協力させてくれ。少女さんの役に立てるなら、本望だよ!」

少女「あの……ありがとう」モジモジ

魔王『~っ』イライライライラ

少女「な、何よ?」

少女(魔)『何かむず痒い! セルフの砂糖とミルクを全て喰らい尽くしてやろうか!!』

少女「!! ここでイタズラはやめてよ!」

剣士「相変わらず小さい魔王だな……」

少女(魔)『ケッ』

少女「何なのよ、もう……」

魔王は私の口から出す声を引っ込めて、私だけに言う。

魔王『これはデートだな』

なっ!?

魔王『奴もお前に好意的だ。はたから見ると恋人同士にしか見えんしな』

少女「や、やめてよ!」アワアワ

剣士「?」

少女(剣士さんか……)

背が高くて、優しくて、いい人。とても良いお友達。
だけど、恋人なんて、恋人なんて……。

少女(早すぎるーっ!! 流石に早すぎる、わかんないーっ!!)ジタバタジタバタ

剣士「???」

魔王『ククク、悩め悩め』

楽しんでるんじゃないわよ、魔王のばか!!
それに剣士さんくらい明るかったら、もっと色んな女の子が……。

同級生A「あら剣士じゃない。奇遇ねー」

同級生B「ほんとだ。やっほー」

剣士「あれ、みんな。よぉ」

少女「…………ほらね」

魔王『おぉ?』

男女混合の5人組が来店した。
剣士さんと、かなり友好的みたい。

同級生C「その子誰? 可愛いね、彼女?」

少女「!!!」ビクッ

剣士「えと……世話になってるとこで知り合った子だよ」

同級生D「そっか~、紹介しろよ」

剣士「この子、人見知りだから駄目。あとデート中は遠慮してくれ」

同級生E「流石、人気者~。学校で言いふらしてやろーっと」

剣士「おー、好きにしなー。やましいことはないもんねー」

アハハー

少女「~っ」

魔王『嫉妬か?』

違う、うるさい、ばか。

同級生A「それじゃ剣士、邪魔して悪かったね。また学校でね~」

剣士「あぁ、じゃあな。少女さんごめんな、やかましい奴らだったろ」

少女「ううん。仲良いんだね」

剣士「友達だからね~。田舎者を差別しない、いい奴らだ」

少女「うん……」

あの人達がいい人なのも本当だろうけど、剣士さんの人柄が好かれているんだと思う。
そうだよね……。私と友達になってくれるような人だもん。

剣士「少女さん、この後どうする? 他にもお店回る?」

少女「う、ううん。今日はこれくらいにしておく。剣士さんも、勉強あるでしょ」

剣士「そう。じゃあ、もうちょっとゆっくりしてから帰ろうか。いい息抜きになったよ」

少女「うん」



>自室

少女「うー、うー」

魔王『告白してしまえば~?』

少女「そういうのじゃないって言ったでしょ!」ギュウウゥゥ

魔王『痛い、痛い! 自分の手をつねるな! 俺も痛いがお前も痛いだろ!?』

少女「フン!」

魔王『いだだ。……実際、友人間でも嫉妬は起こり得るものだ。同性間でもあるぞ』

少女「うー」

魔王『特にお前は、友達があいつだけだからな。人間関係の比重があいつに寄るのも当然のことだ』

少女「……」

魔王『お前は未熟なのだ。まぁ、こうして俺がいつでも相談に乗ってやって……』

少女「元はと言えば! 貴方のせいでこうなってるんでしょーっ!!」ギュウウウウゥゥゥ

魔王『痛たたたたたたた!! 痛い、やめ、痛い!!』





カン、カァン

勇者「よし、段々良くなっているぞ。少し休憩をしよう」

剣士「ありがとうございます! ふぅー」

勇者「……ところで剣士。今日、娘と街を歩いたようだな」

剣士「はい。な、何か、まずいことでもしました!?」

勇者「いや。……最近、娘もだが、魔王の様子も変わってきたな」

剣士「あぁ。多分あいつ、すっかり牙が抜けたんだと思います」

勇者「それもあるだろうが、君が来てからは全然違う。前のような、くだらない悪戯をしなくなった」

剣士「うーん、俺は以前の魔王をよく知らないんで……。でも、良かったです」

勇者「……君はやはり、重騎士と似ている」

剣士「親父とですか?」

勇者「あぁ。重騎士は私にとって、兄のような存在だった。魔王討伐しか頭になかった私に、色んなことを教えてくれたのが重騎士だ」

剣士「そうなんですか」

勇者「……今の私を見たら、重騎士は失望するだろうな」

剣士「え?」

勇者「私は、また周囲が見えなくなっていた。……昔から、何も成長していない」

剣士「それは……少女さんの件ですか?」

勇者「そうだな。他にも色々あるが、私は娘に向き合うことができなかった」

剣士「今からでも遅くないです」

勇者「いや。……娘に愛情を持つには、向き合うのが遅すぎた」

剣士「……」

勇者「ろくでもないとは自分でもわかっている。だが今、私と娘を繋ぐのは、血の繋がりと、責任感のみだ。魔王や妻の件を置いておいてもな」

剣士「……」

勇者「軽蔑されても仕方ない。……私がこんなことを言えるのは、今は君だけだ」

剣士「……いいんです。俺がどうこう言えることじゃないのは、わかってるんで」





>数日後

魔王『お前、いくら何でも無謀じゃないか?』

少女「大丈夫よ、剣士さんと何回か来たもの」

剣士さんとの街歩きも慣れてきたので、今日は1人で街に出てみることにした。
喫茶店に行ってココアを飲んで帰ってくる、これが自分に課した今日のミッション。

魔王『まだ早いと思うがな~』

少女「そんなことない。子供でもできることよ」

魔王『でも道、通り過ぎてるぞ』

少女「……」

魔王『ほらな?』

少女「ちょっと間違えただけじゃない!」

魔王(やれやれ)

確か動物の看板があって、花屋があって、そこを曲がって……あそこだ。
よし、到達できた。これで今日のミッションは8割達成。

少女「こ、ここここここここココアをホッホホットで」

魔王『そんな飲み物ねーよ』

店員「ホットココアですね。かしこまりました」

少女「ほらね、伝わったでしょ」ドヤァ

魔王『店員に感謝しろ』

次。席で飲み物を待つ。
次。飲み物を飲む。
次。伝票を持ってお金を払う。

少女「ふふ、完璧ね」キリッ

魔王『喫茶店とは、もう少しゆっくりする場所だと思うがな』

少女「ゆっくりしてたら、次の手順を忘れるでしょ」

魔王『手順というほどのことでは……。忘れたら忘れたで、俺が教えてやるぞ』

少女「それはイヤ。嘘言いそうだもん」

魔王『言わんて』

まぁ、これで大分成長したでしょ。想定外のことが起こらなければ、街歩きもスムーズに……。

チャラ男「すんませ~ん」

少女「!?」ビクッ

魔王『街歩きは想定外のことだらけだぞ』

チャラ男「道、教えて貰ってもいいすか~。俺、ここ来たの初めてで~」

少女「わ、私も、は初めてです! ごめんなさい!」

チャラ男「へぇ、そうなんだ! どこから来たの、君ひとり?」

少女「あ、わわわ……」

魔王『こんな子供にナンパか……。相手するな』

少女「ご、ごめんなさ……」

チャラ男「待ってよ。ねぇ、俺困ってるんだって~」

少女「う、ぅ……」ブルブル

魔王『……』

相手するなと言われても、つきまとわれてどうしようもない。
こんな時、どうすればいいの……。

魔王『ナメられているからだ。……やれやれ』

少女「えっ……あっ!?」

意識が遠のく。これは、魔王に肉体を乗っ取られる時の感じだ。
まさか、魔王……。

少女(魔)『しつこい男だ……迷惑だというのが、わからんか?』ゴゴゴ

チャラ男「え……声……。な、なに、何っ!?」

少女(魔)『いくら力が弱っているとはいえ、貴様ごとき、突然死に見かけて殺すことなど容易い。……どうせ貴様の命など、必要なかろう?』

チャラ男「ひぃ!?」

ちょっ、いくらなんでもやめてよ!! ちょっと、ねぇ!?
私、人殺しなんてイヤ! ねぇ、やめてーっ!!

「ちょっと、すみませーん!」

少女(魔)『!?』

剣士「はぁはぁ、見つけた……。すみません! この子、俺の連れなんで!」

剣士さん!?

剣士「急いでるんで、行きます! 観光楽しんで!」

チャラ男「へ、へい……」ヘナヘナッ



少女「剣士さん、何でここに……?」

剣士「たまたまだよ。通りかかったら、あの場面だった」

少女「そう。……ありがとう」

剣士「気にしないで。ところで、何で1人で出かけたの?」

少女「修行……」

剣士「そうか、偉いな! でも1人で出かけるのは、ちょっと早かったかな? ま、いい経験になったと思うよ」

少女「迷惑かけちゃった……」

剣士「気にしなくていいってば。あと何回かは俺と出かけて、徐々に慣れていこうな」

少女「うん……」

今日ので身にしみた。私はちょっと焦りすぎていた。
剣士さんがたまたま通りかからなかったら、今頃……。

魔王『たまたま通りかかった、というのは嘘だな』

え?

魔王『あいつ、あの男に「観光楽しんで」と言っていたな。先の会話を聞いていないと、観光という言葉は出てこない』

……そういえば。

魔王『いつからかはわからんが、お前のことを見守っていたんじゃないか?』

……そっか。剣士さん、そういう人だもんね。やっぱり優しいな。
優しさに甘えたくなっちゃうじゃない。……そのせいで嫉妬しちゃうから、駄目なのに。それが苦しいから、焦るのに。

剣士「ちょっと寄り道していく? この間行った店が、面白かったんだ」

いつか、剣士さんと離れても、平気な時が来るのかな。……想像できないな。

魔王『……』





剣士さんと過ごす時間はゆったり流れていた。
毎日他愛ない話をしたり、お出かけしたり、特別変わらない日々だった。
少し物足りなく感じることもあったけれど、剣士さんと会うまでの日々を思い出し、あの頃よりは遥かに幸せなんだと思い直す。

そうした日々の中で、変化もほんの少しずつ起きていく。
剣士さんは剣の腕が上がって、マナーも身についてきた。
魔王はたまに出てきて剣士さんに悪態をつくけれど、目立った悪さをしなくなった。
私も……ちょっとだけれど人に慣れて、買い物ができるようになった。

やがて、変化していくものに意識を向けなくなって、あっという間に時は流れていった。





剣士「でやっ、とりゃあ!」ブンブンッ

少女「おはよう、素振り? 気合入っているね」

剣士「おはよ。もうすぐ大会だからね」

少女「そう、応援してる。確か大会の後にパーティーがあるはずだけれど……」

剣士「なら優勝して泊が付いたら、エスコートさせて頂くよ。レディ」スッ

少女「喜んで」

と、手を取ろうとした時……

少女(魔)『隙有りだあああぁぁ!!』シュッ

剣士「うぉっとおおおぉぉ!!」ガキイイィィン

ガコン、ガコン、ガコーン

少女(魔)『また腕を上げたな、剣士! ならばこれはどうだ……喰らえ!!』

バチバチバリイイィィッ!!

少女(魔)『ふっ、跡形もないか。哀れ、剣士。夢を叶えることはなかったな』

剣士「お仕置きいいぃ!!」デコピンッ

少女(魔)『づっ』

剣士「いやー。ちょっと油断したら、マジで跡形もなくなってたよ」アハハ

少女「笑い事じゃないよ……」

剣士「でも魔力上がったんじゃない、少女さん?」

少女(魔)『賢者の血筋と、師の教えの賜物だ』フフン

少女「特に役には立たないんだけれどね……」

剣士「でも護身術はあった方がいいよ。女の子は、いつ変な奴に狙われるかわからないからね」

少女「そうだね。たまに変な男に声かけられるもの」

剣士「それは少女さんが素敵なレディになってきた証拠だよ」

少女「そう?」フフ

少女(魔)『変な奴ってのは大体、弱そうで簡単に引っかかりそうな奴に声かけてくるって言われていてな』

少女「弱そうで、何だって?」バリバリ

少女(魔)『ぎゃあああぁぁ!!』

私は14歳、剣士さんは16歳。ついでに魔王は30手前。
それぞれ相応の成長と退化をしながら、出会いから1年が経っていた。





>大会当日


ワーワー

剣士「おぉー、首都の大会は人が多いなー」

少女「そ、そ、そうね」ガタガタ

剣士「これだけの人数の頂点に立つのは、気持ちいいだろうな~。やるぞー」

「にいさーん」

少女「あら、誰か来たわ?」

剣士「おー、次男! 久しぶりじゃな! 少女さん、これ俺の弟!」

次男「どうも、次男です。少女さんのことは、手紙で伺っています」

少女「は、初めまして。私も、お話は聞いてます」

剣士さんの2つ下の弟さん。剣を振るより本を読むのが好きな人だと剣士さんが言っていた。
兄弟なだけあって剣士さんと顔は似ているけど、落ち着いた雰囲気の子だ。

次男「父さんや、幼馴染達も応援に来てるよ。兄さん、頑張ってな」

剣士「ありがとー! わしゃ優勝するからのう!」

剣士さんは剣術大会の優勝常連らしいけど、それは15歳以下限定の大会で、これより規模の小さなものだったらしい。
この大会は国内外から沢山の手練が集まり、しかも16歳以上は年齢制限がない。

剣士「お、もうすぐ待機時間だ。じゃ、俺行くわ!」

それでも剣士さんは、とっても強気だった。
この調子なら、剣士さんのベストを尽くせると思う。



魔王『それで、本当に決勝まで進むとはな』

少女「け、剣士さーん。がんばれぇー」

魔王『声、届かないぞ。いっそ爆発魔法でドーンと』

少女「ばかじゃないの」

魔王『ばか!?』

少女「それで、決勝の相手は……」

ワーワー

傭兵「あぁ、どこを見渡してもいい光景だ。街中の麗しいレディが足を運んでくれているんだ、最高だね」

20代半ばにして、その名を轟かせているという傭兵だ。……何か、変な人っぽい。

魔王『傭兵か。地位は低いな』

少女「でも、何度も優勝を経験しているらしいよ」

魔王『階級に興味ないタイプか? 顔は剣士の負けだな』

少女「でも剣士さんの方が腕太いし」

魔王『お前は年相応の女子目線で男を見ないのか』

少女「?」

魔王『まぁいい。とにかくこの試合、どうなるものか』

剣士さんが入場し、両者は顔を合わせる。
傭兵は温和に腕を差し出し、剣士さんもその手を取る。

傭兵「君のことは聞いているよ。重騎士さんの息子さんで、腕が立つようだね」

剣士「どーも。傭兵さんのことも聞いてますよ。負けるつもりはないですけど」

傭兵「うん、その意気だ。それくらいの気持ちで来てくれないと、こちらも退屈だ」

剣士「宜しくお願いします」

握手を終え、試合開始の号令が鳴る。
同時に両者の剣は、高い金属音を鳴らしてぶつかり合った。

――ガキィン

魔王『力は剣士が上だな』

激しい打ち合いの中、傭兵がわずかに後退する。
勢いをつけた剣士さんはどんどん攻めていく。攻撃は激しさを増し、傭兵の剣は守りの体制に入っていた。

少女「いける! 剣士さん、このまま攻めれば……」

魔王『いや』

その言葉と同時、傭兵が横に跳躍した。

魔王『傭兵は剣の流れを伺っていたのだろう。攻め一辺倒の流れになっていた剣士は、ペースが乱れ――』

シュッ――

剣士「――……ッ!!」

傭兵の剣の先が、剣士さんの首に突きつけられる。
ほんの、一瞬だった。

傭兵「決まりだね」

そこまで。審判の声が大きく響く。
勝負がつくのは早かった。それだけ、実力に差があった。

傭兵「強かったよ、君。ひとつ欠点をあげるとしたら……実直すぎるところかな」

剣士「……っ」

少女「剣士さん……」

こうして大歓声の中、大会は幕を閉じた。
会場の中心には、いつになく表情を曇らせる剣士さんがいた。





>邸宅、中庭

剣士「……」

どうしよう。もうすぐパーティーに行く時間なのに、剣士さん意気消沈したままだよ。
準優勝でも十分凄いのに……。しかも、10代で上位にいるのは剣士さんだけだ。
それでも剣士さんは、優勝しか見ていなかったんだろうなぁ。

魔王『わかっていないな。常に全力だからこそ、1回の負けが大きなダメージになるのだ。俺も昔は』

少女「う~ん」

剣士さん、どうすれば元気が戻るかな。パーティーに出るの、無理なんじゃ……。
そう思ったところで、大柄な男性が彼に近づいていくことに気付いた。

重騎士「ガッハッハ! ここにいたか、馬鹿息子! 落ち込んでおるのう、ガハハハ!!」

剣士「親父……」

親父……重騎士さんって、彼のことか。
剣士さんに聞いていた通り、とても豪快な方だ。

重騎士「今日は旧友との再会で、ワシは気分がええ! 陰気臭い顔で、水を差すな!」

剣士「そなら、ほっとけや! 俺は親父とは違うんじゃい!」

重騎士「わかるぞ息子! ワシも若い頃は悩んだものだ!」

剣士「親父がー? なんじゃ、悩みとは?」

重騎士「あれは魔王討伐の旅でのことじゃ。ゴーレムとの相撲に勝てんでのう……」

剣士「ほー?」

重騎士「そんなこた、どうでもええ!!」バシィ

剣士「ごはっ!?」

えぇー

重騎士「ともかくワシも勇者も、何度も負けを経験しとる! じゃが、そんなことで一々落ち込んでいられるほど、魔王討伐の旅は甘くなかったわ! おめもとっとと立ち直るがええ、貧弱息子!」

剣士「誰が貧弱じゃ!? 言われんでも落ち込んでおらんわ、豪快屁こき親父!」

重騎士「それでええ! ならワシは、一足先に宴会会場へ向かわせてもわう! 旧友との酒はええもんじゃあ、賢者や僧侶もおれば言うことなしじゃったのう! ガッハッハ!!」

剣士「あの親父……」

少女「あ、あのう……」

剣士「少女さん」

重騎士さんの強烈な登場で、すっかり出る幕がなくなってしまった。
剣士さん、大分元気になったみたいだし。

剣士「かっこ悪いとこ見せたね」

少女「ううん。剣士さん、凄かったよ。これからに期待できるって、皆に言われてたじゃない」

剣士「これから、ね。はは……まだまだ遠いなぁ」

少女(魔)『人生は長いのだ。経験を積めば、相応に成長していく』

剣士「経験積まずに成長止まってた奴が言うと説得力ねーな」

少女(魔)『何だと貴様ぁ!!』

少女「ま、まぁとにかく、準優勝も凄いよ剣士さん。来年こそ優勝だね」

剣士「そうだな、来年だな! ……でもなー」

少女「でも?」

剣士「どうせなら、初出場、初優勝! って肩書き欲しかったな~。かっこいいじゃん?」

少女(魔)『お前、相変わらず阿呆だな』

剣士「かっこよさは大事! 何故なら俺の夢は、かっこいい男!!」

少女「それなら、パーティーでスマートに振舞わないとね? 今の剣士さんに、それができるかしら~?」

剣士「手厳しいご意見です。まぁその通りだな、そろそろ行こうか」

少女「私、お父様の娘として参加できないから、一般参加するね」

剣士「そっかー。美味しいもの食べて、楽しんでおいで」

少女(魔)『腹減ったー』

既に街の方はお祭りが始まっていて、明るく賑やかだ。
これからお城でパーティーが始まって、街の人々が剣士さん達をお祝いする。
魔王討伐から13年経って、平和が訪れた今でも、強い人はもてはやされるのだ。

魔王『剣士の将来は安泰だな』

そうね。これだけの実績があれば騎士として申し分ない。
このまま順調にいけば、剣士さんの夢である「かっこいい男」も叶うだろう。

剣士「――あれ?」

そう。

剣士「空から降る、あの光……なんだ?」

――順調にいけば、ね。


カッ――


少女「!?」

剣士「なっ……」

魔王『この魔力は……!!』





それは、凶悪な光だった。
それを目にした者は本能的に身を固くした。その理由は恐怖によるものだが、恐怖と自覚する前に、次の不吉が襲ってきた。

「ぁッ……」

光――正確には、光に混じる魔力に触れた者が次々と倒れた。
魔力の密度の高い部分に触れた者は、その害をもろに喰らった。

「お、おい、大丈夫か!」
「し……死んでる……!!」

複数の者が、一瞬にして命を奪われた。
その謎の現象に、街はパニックに陥る。

「うわああああぁぁ!!」
「わっ、押すな……ぎゃあぁ!」

特に、今日は全国から人が集まる日。それだけに、人々の混乱は多くの二次災害をもたらした。
そんな人々の狂乱を、上空から眺める男が1人。

?「愉快、愉快。弱者はやはり、こうでないと」

勇者「貴様の仕業か、今の魔法は!」

重騎士「何じゃあ、お主は!」

?「おや……」





少女(魔)『今のは呪力魔法……! あれだけのものだったら、街にかなりの被害が出たはずだ!』

剣士「何者かの襲来か!? 行かないと!」

少女(魔)『馬鹿者、突っ走るな! お前もやられるだけだ!』

剣士「けど、街の人達はきっと恐怖に襲われているはずだ! 黙っていられないだろ!?」

少女(魔)『まずは敵の正体を確かめる。あれだけの力の持ち主なら、特定しやすい』

魔王は魔法で球体を作り出した。
そこに映るのは、どこかの建物の屋上。そこに3人の人影がある。
お父様と、重騎士さんと、もう1人は……知らない、亜人。

少女(魔)『こいつは……!!』

魔王は見覚えがあるようだった。だけど、魔王がその名を呼ぶ前に、

勇者『お前、僧侶か!?』

球体の向こうから、お父様がその名を呼んだのだった。





僧侶「お久しぶりです、勇者さん、重騎士さん。随分、ご無沙汰しておりました」

重騎士「そ、僧侶なのか!? 今のはお主がやったのか!?」

僧侶「えぇ、僕です。……成長したでしょう?」ニッコリ

勇者「ふざけるな、僧侶! 何故、このようなことを!」

僧侶「はい、それを言いに来ました」

僧侶はニッコリと、2人に笑いかける。

僧侶「僕は、再び人間に恐怖を与えたいと思います。そうですね……第二の魔王になる、と言えばわかりやすいでしょうか」

重騎士「ふざけるなぁ!!」

重騎士さんが僧侶に殴りかかる……が、僧侶を守る壁のようなものに、衝撃が吸収された。
激怒する重騎士さんとは反対に、お父様は冷静に、剣を構えていた。

勇者「僧侶。こんな惨劇を起こした上、その宣言……もう、取り消せんぞ」

僧侶「はは、勇者さんは相変わらずですねー! ……ちょっと悲しくなりますよ。もう少し、葛藤を見せてくれてもいいじゃないですか」

勇者「戯言を!」シュッ

僧侶「!」

お父様の剣が壁を貫く。僧侶は回避したが、反応が遅れ、肩から血を流す。
回復魔法により傷はすぐ塞がるものの、お父様の斬撃は、僧侶のシールドを突破できた。

勇者「重騎士、2人でかかるぞ。倒せぬ相手ではないが、確実に仕留める」

僧侶「おや、僕を評価して下さるんですね。嬉しいなぁ、貴方に認めて貰えるなんて」

勇者「お前は亜人。戦闘の資質は人間に勝る。この13年で、どんな成長をしたかはわからないからな」

僧侶「……そうですね」

何か気に障ったのか、僧侶の眉が釣り上がる。
それと同時、今までとは比にならない魔力が放たれた。

僧侶「さぁ来て下さい、勇者さん、重騎士さん!! 平和ボケした貴方がたとは、違うんですよ!!」

勇者「誰が平和ボケしたと?」

僧侶「っ!」

ふたつの刃が僧侶に振り下ろされる。
僧侶はそれを回避するも、刃の追撃は次々と放たれる。

重騎士「そうじゃあ! 見くびるでないぞ、僧侶!」

僧侶「くっ」

重騎士さんの強力な一擊が足場を破壊する。
僧侶はバランスを崩し、空中に放り出される。

勇者「覇ぁ!」

僧侶「!!」

ズシャッ――僧侶の左腕が切り落とされた。

僧侶「ぐああぁ……!!」

勇者「次は首だ」

僧侶「く、ぅ……ここまで、とは……! 何故、戦いから遠ざかっていた貴方達が、ここまで……」

勇者「……お前は頭が良かったはずだが」

お父様はため息をつく。

勇者「確かにこの13年間、敵などいなかった。しかし魔王がいなくなっても、永遠に平和が続くわけではない。……だから、私自身が脅威でなければならなかった。周囲でくだらん争いが起こらんようにな」

僧侶「なるほど。勇者とは英雄。英雄とはシンボル……。シンボルであり続けるには、強さを維持しなければ意味がない」

重騎士「そうじゃあ! それにワシにも勇者にも、守るモンがおる!」

僧侶「守るもの?」

重騎士「あぁ、そうじゃ! カミさんとせがれがおるからのう、男は強くあり続けねばならんのじゃ!」

僧侶「……は?」

僧侶の顔つきが変わった。

僧侶「まぁ、重騎士さんはいいでしょう。ですが、勇者さんはどうなんです? シンボルであるために、自身の汚点は徹底的に隠して……1番守っていたのは、自分の名誉じゃないですか」

重騎士「? 何のことじゃ?」

勇者「……もういい、話し合いなど無意味。とっとと終わらせる」

僧侶「その言葉、そっくりお返しします。今の貴方なんて……!」

勇者「!!」

暗雲が僧侶の周囲に集まる。
先ほどに輪をかけての、膨大な魔力――それはもう、想像を絶するほどの呪力を宿している。

僧侶「消えろおォ――ッ!!」

勇者「――っ」

重騎士「!!」





魔王『……ッ』

剣士「おい、何も見えなくなったぞ! 親父は!? 勇者さんは!?」

少女「魔力が溢れすぎていて、何もわからない……! 魔王、どうなってるの!?」

魔王『これが、一介の亜人の力だと……。これは、この力は……』

剣士「……あっ!?」

水晶に映る暗雲が晴れる。そして、そこには――

僧侶『……ふぅ』

顔と胸に大きな傷を負った、僧侶がふらふら立っていた。
お父様と、重騎士さんは……!?

少女(魔)『呪力魔法最大の技は……相手の生命力を、奪うもの』

剣士「それじゃ、親父は……」

少女(魔)『……命の灯火を感じない。やられた、2人とも……』

少女「そ、そんな……お父様が……!?」

剣士「親父……! くそ、許せねぇ……!!」

少女(魔)『仇を取るつもりか! 今のお前には無理だ!』

剣士「だけど、このままじゃ……」

剣士さんは感情的になっている。お父様と不仲だった私でもショックなのだ、剣士さんのは比べ物にならないだろう。
でも、私と魔王は必死に止める。こんな状況で、剣士さんまで失いたくない。


僧侶『さて』


水晶の中で、息を整えた僧侶は言った。


僧侶『次は――子孫の方、ですね」


その視線の先は――私たち。
まるで水晶を通して、こちらを見ているような……。


少女(魔)『まずい! 俺の魔力が察知された!』

剣士「何だと……!?」

少女(魔)『子孫の方と言っていた……奴の狙いは、お前たちでもあるそうだ』

剣士「……くそっ!」

少女「あっ!」

剣士さんは私の手を取って、走り出した。その方向は、街とは反対側。
逃げている。父親を殺した憎い相手から。

少女(剣士さん、ごめん……ごめんね……!!)

罪悪感で一杯になる。
剣士さんを戦わせてはいけない。逃げるのは正しい。だけど剣士さんにとって、本意ではない。
彼が立ち向かわないのは、怖いからじゃない。……私を、逃がす為だ。

少女(魔)『剣士、構えろ。囲まれたぞ』

剣士「らしいね」

少女「えっ」

剣士さんが立ち止まる。ガサガサという足音が近づいてくる。
何だろう、と思った次の瞬間には、私たちは周囲を魔物に囲まれていた。

少女「ひっ!?」

剣士「下がってて! だぁ――ッ!!」

剣士さんは果敢に飛び込んで、一気に魔物たちを切り伏せる。
4匹、5匹――まだ数匹残っているが、剣士さんは再び私の手を取った。逃げるには十分と判断したのかもしれない。

少女「ま、魔法で蹴散らす方が早かった!?」

剣士「いや、魔力は察知されやすい。あの程度なら問題ないから」

少女(魔)『しかし、恐らくまた襲ってくるだろう。奴らは僧侶の傘下に下った魔物……そういう奴がまだいても、おかしくない』

剣士「それ、確かなのか」

少女(魔)『あれは統率者がいる魔物の動きだった。今の僧侶なら十分に、その資質がある』

剣士「用意周到ってわけか……。くそっ!」

少女「はぁ、はぁ……」

つらい。口には出さないけど、息が苦しい。
もっと今後のことを考えるべきなのに、今現在の苦痛で頭がいっぱいだ。

魔王『俺が代わる』

いらない。

魔王『何』

魔王の魔力で、相手に察知されるでしょ。

魔王『……』

今は、剣士さんの足を引っ張るわけにはいかないの。だからちょっと、黙ってて。

魔王『……わかった』





剣士「ぜぇ、ぜぇ……。大分、遠のいたと思うけど……」

道中何匹かの魔物を斬り、元いた場所から遠く離れた森で、剣士さんはようやく足を止めた。

少女「はっ、はぁはぁ、はぁ……ゴホゴホッ」

剣士「あっ! ご、ごめん少女さん! 俺、逃げるのに精一杯で……」

少女「ごほごほ。だ、大丈夫……ごほっ」

剣士「飲み物か何か、喉潤すもの探してくる!」

少女「そんな、剣士さんも疲れてるのに……私も探す」

剣士「少女さんはここに隠れてて。すぐ戻ってくるから、な?」

少女「……うん」

また罪悪感。私は足を引っ張ってばかり。
夜遅いこともあり、剣士さんの姿はすぐに見えなくなる。なんだか、それで心細くなる。

少女「……はぁ」

一息ついて、1人になって、ようやく今後のことに頭を回せる。
あんな騒動を起こされて、これから国は……世界は、どうなっていくんだろう。
追われているのだから、屋敷には戻れない。今後、私たちは追われ続けるの? ずっとこうやって?

少女「……なんだかな」

つらい? 苦しい? 絶望? ……わからない。麻痺しているのか何なのか、大きな感情が沸き立たない。
最も予想できる未来は何か。今日明日、自分と剣士さんが殺されること。最悪のパターンだ。……でも、だから何? という感じ。
最低だ。剣士さんは私を生かそうとしてくれているのに。自分でも驚きだ。自分どころか剣士さんまで死ぬかもしれないのに、それを恐怖しないなんて。

魔王『まだ現実味を帯びていないだけだ。……いずれ感情が追いついてくる』

あぁ、そう。

魔王『お前がどう思おうが、死なせない』

貴方も死ぬものね。

魔王『好きなように受け取れ』

わかってるよ、貴方のことは。死ぬのが何より嫌なんだものね。

魔王『その通りだ』

でしょうね。

魔王『……』

……

魔王『……』

何か言えば?

魔王『言うことはない』

八つ当たりされるのが嫌?

魔王『八つ当たりなのか?』

えぇ。何か全部、貴方が悪いんじゃないかって気がしてきた。

魔王『……全部とは、どこからどこまで?』

今日のことも。……あと、私の性根が歪んだことも。全部、全部。

魔王『間違っていないな。僧侶は俺のことを知っている。無関係とは言い切れん』

……あぁ、嫌だ。

魔王『何がだ?』

今、安心しちゃった。貴方のせいにできたことに、凄くホッとした。……そういう自分の根性が、すっごく嫌。

魔王『それも俺のせいだ』

何でよ。何でいっつも人の嫌がることしてきたのに、こういう時には大人しいの。
それも私への嫌がらせ? ほら、こうやって考えてしまうところが嫌なの!

魔王『お前の性分はわかっている。当たりたいなら、当たれ』

少女「だから……!!」

つい声に出てしまった。それを止める。
不毛だ、こんなの。魔王を責めれば責めるほど、自分が歪んでいく。歪んだ自分を思い返すのは、つらい。顔が苦痛に歪むのは、そのせい。

剣士「少女さん?」

このタイミングで彼が来た。きっと勘違いをされた。今の彼からすれば、私は不幸な少女なのかしら。

剣士「……少女さんのこと守るから、俺。これ以上、ひどい目には遭わせない」

彼は私の隣に座り、寄り添ってくれた。
罪悪感でますます心が痛い。心優しい彼が守るのは、こんなに醜い私なのだから。
何が嫌なのかって。……少し、嬉しく思ってしまうところだ。

あぁ、嫌だ。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌……

魔王『……』

嫌なの。どうでもいいの。私も、貴方も、この世界も。

魔王『……』

うるさいな。

魔王『……』

何も言ってないだろうって? ……そうじゃない。
貴方は私の心を読んで、きっと何かを思っている。聞こえないけど、うるさい。

魔王『……少女』

何。

魔王『悪かった』

……聞きたくないよ、そんな言葉。

魔王『俺は消える。それが、お前の望みだろう』

今更?

魔王『……すまなかった』

……
……
………

全部、遅すぎるよ。やっぱり貴方、最低。


自分の中から魔王の気配がなくなった。いなくなったのか、意識を閉じたのか……。ともかく、生まれて初めての感覚だった。
ずっと願っていたことなのに、あるのは爽快感ではなく、違和感。
これも魔王のタイミングが悪い。でも、いずれ慣れる。そう思わないと、やっていられない。

魔王のいない最初の朝を迎え、剣士さんに伝えた。
剣士さんは喜んでくれた。……少しだけ、悲しそうでもあった。魔王とは仲が良かったのだから、それも当然。また剣士さんに気を使わせてしまった。
それ以上、互いに魔王の話題を出すことはなく、逃亡の旅路が始まった。

剣士「隣国に逃げようと思う。もう、こっちの出来事は伝わっているはずだ」

少女「隣国……。今日の夕方には着くかな」

剣士「馬を借りられればいいんだけど、国内は混乱してるかな……。とりあえず、1番近い村に寄ってみよう」

少女「うん」

山で採れた果物をかじりながら、道中を行く。
隣国に着いたら、ごはん食べられるかな。お風呂入れるかな。……馬鹿かな、私は。

剣士「とりゃーっ!」

道中現れる魔物を、剣士さんは難なく切り伏せる。
彼の方が疲れているはずなのに、それを感じさせない。
戦闘後、怪我はないか聞いてみるけど、彼は平気そうに言う。

剣士「半端な鍛え方はしてないよ。騎士を目指してるんだから」

少女「……ありがとうね、剣士さん」

剣士「気にすんな、唯一の取り柄だから。ここで発揮しないでどうすんのって」

少女「剣士さんのいいところ、いっぱいあるよ。今だって私を気遣ってくれてるし、雰囲気悪くしないようにしてくれて……」

剣士「やめ~、こっぱずかしいんじゃ! ささ、歩くよ歩くよ」

いい人だなぁ。知ってたけど。
騎士にはまだなっていないけど、夢、叶えてるじゃない。剣士さんは、本当にかっこいい人だと思う。
どうして今まで、気付かなかったのかなぁ。

……違う。気付かなかったんじゃなくて、当たり前になってただけ。

剣士「どうした? 足痛い?」

少女「何でもない。ごめんね」

剣士さんはいつか私の前からいなくなる。
そう思って勝手に拗ねて、彼をちゃんと見ようとしなくなっていたのかな。
彼はちゃんと、私のそばにいてくれたのに。

少女(……ごめんね)

私は本当に歪んでいる。
せめてこれ以上、彼を困らせたりしない。



立ち寄った村でわかったのは、僧侶はあの後城を乗っ取り、この国を支配下にすると宣言したということだった。
その騒動で国を出る人が続出したらしく、馬を借りることはできなかった。
私たちも早々に村を出て、人目のない道を進むことになった。

剣士「残念だったね……」

少女「でも、ごはん買えたね」

剣士「そうだね。元気出た?」

少女「うん。これで沢山歩ける」

本当はかなり、足が痛い。
でも急いで国を出ないといけないし……それに剣士さんも、元気がなくなってきている。

少女(剣士さん……)

気丈に振舞っても、彼も疲弊してるんだ。
期待は薄かったとはいえ、馬を借りられなかった落胆もあるだろう。

剣士「少女さん。……ちょっと、休もうか」

少女「う、うん」

丁度いい倒木に腰掛けて、無言。
気まずく思って、剣士さんの顔を見れない。

少女(どうしよう……)

何て声をかけたらいいかわからない。
気を使ったら、大丈夫って答えるに決まってる。それどころか、無理して元気に振舞うかも。
わからない。……こういう時、どうすればいいのかな。


ねぇ。――教えてよ、魔王。


剣士「……っ」

少女「?」

どうしたんだろう、急に顔を上げて。

剣士「……少女さん、走れ」

少女「え?」

剣士「走れ! どこでもいい、遠くへ!!」

走れって、何?
どうしてそんなに、絶望的な顔をしているの? 剣士さん――

「逃しませんよ」

一瞬の内に、理由がわかった。

僧侶「ここにいましたか。随分と、鈍足な旅路でしたね」

剣士「……っ!」

少女「あっ……」

見つかってしまった。せっかくここまで逃げてきたのに。
剣士さんは私の前に出て、剣を構える。

剣士「会いたかったぞ、僧侶。よくも親父と、勇者さんを……」

僧侶「その目つき、重騎士さんにそっくりだ。彼も眼光だけで獣を蹴散らす程の方でしたよ。ま……今はもう、いないんですけどね」

剣士「お前……!」

僧侶「それより」

僧侶は剣士さんの感情などどうでもよさそうに私を見て、そして首をかしげた。

僧侶「魔王の気配がしませんね。昨日までは居た気がするんですが……」

剣士「魔王に用だったのか? じゃあ、俺達に用はないだろう」

僧侶「そうはいきません。英雄の子孫に希望を託す方々もいるのでね」

剣士「随分と細かい奴だ。大物の器じゃないな」

僧侶「細かいことも手を抜かないのが僕の信条でしてね。小さな芽であっても、摘ませて頂きますよ」

僧侶の手に呪の魔力が宿る。
お父様に切られ隻腕となったが、支障はないようだ。

剣士「ひとつ聞く。僧侶は聖魔法の使い手だったと親父に聞いていたが」

僧侶「信仰を変えただけのことです」

剣士「人間だけでなく、神も裏切ったのか」

僧侶「どうせ僕は、中途半端な亜人ですから。信仰も中途半端だったんですよ」

剣士「今のお前の神は、魔物の――」

僧侶「時間稼ぎで体力回復ですか? ……甘いですよ!!」

剣士「っ!!」

剣士さんは私を抱え、大きく跳躍した。
私たちが元いた場所は……跡形もなくなっていて、黒い影だけが残っていた。

剣士「少女さん、そこに隠れてて!」

少女「あっ!」

剣士さんは僧侶に向かっていく。逃げられないと判断したのだろう。

剣士「このっ、裏切り者!!」

僧侶「ふっ……」

僧侶の影が刃を形作り、剣士さんの刃を弾く。

僧侶「いいですね、実直な攻め方だ! 君はきっと、まっすぐな人なんでしょうね!」

剣士「うるさい!」

僧侶「人にも才能にも恵まれて、幸せに生きてきたのでしょう。だけどもう、今日で終わり!」

剣士「終わってたまるか!!」

僧侶「終わるんですよ! さぁ絶望して下さい、その絶望が我が神を潤わせ……――」

バチバチッ

僧侶「――ッ!!」ドサァッ

少女「……うっさいの、貴方」

剣士「少女さん!」

私の魔法ごときに吹っ飛ばされるなんて、何が第二の魔王よ。勘違いも甚だしい。
私はかなり腹を立てている。剣士さんを笑うなんて、許さない。

剣士「でりゃあっ!」

僧侶「――がっ」

体制を崩した僧侶の胸に、剣が突き刺さる。
迷いのない一擊は致命傷。溢れ出す大量の鮮血が、一気にそこらを赤く染めた。

――だが

僧侶「――ひっ、きひひっ」

何かがおかしい。

僧侶「まさか子孫ごときに、ここまでやられるとは……」

剣士「!?」

べちゃっ。剣士さんが、血の海に引きずり込まれる。
今度は何……? 思考が停止し、そこに硬直する。

――そして、後悔した

剣士「――っ!?」

血の海……見間違えていた。それは僧侶1人のものではなく。

――アアァアァァ

少女「あ、あ……――」

一帯の亡者。死してなお咆哮をあげる死人。
血の海は彼らから出たものなのか、それとも血の海から彼らが湧いたのか――

剣士「しょ、少女さん……! に、逃げ……!!」

少女「剣士さん!!」

飲み込まれていく。剣士さんが、亡者の群れに。
手は届かない。足は動かない。何もできない。

これが、死。
死ぬのではない。死に、引きずり込まれるのだ。

少女「い、いや……」


無理。無理、無理、無理、無理……――!!




死ぬって、こんなに怖いことだったんだ。


















勇者『まさか魔王が、お前のような奴だったとはな』

そうだろうな。こんな若造だったとは、思いもしなかっただろう。
齢はまだ15。早熟でもなく、むしろ遊んでいたい方だ。

勇者『敗北を認めて死ぬほど、高潔でもなさそうだ』

当然だ。死にたくなどない。……負けたとしてもだ。



少女(これ、何の記憶?)



死ぬなんて御免だ。小さな怪我をするのだって嫌いなのだ。血なんて見たら身震いする。何事もなく過ごせるのが1番だ。

『このままだと、世界が滅んでしまう……!』

だが、そうはいかなかった。

『ここと並行する世界と、その世界の神が、力を強めている。このままでは、こちらの世界が滅びてしまう』

だから世界と共に、死ねと?
御免だ。死にたくない。死なせたくない。

『並行世界と戦わねば、この世界は残ることができない』

並行世界にとっては迷惑な話だ。悪者はこちらだ。だからどうした。
俺が率先してやる。最も憎まれるのは、俺でいい。


魔王『魔物どもよ……俺に続け!!』






少女(――うん、死にたくないよね)



少女(今ならわかるよ――魔王)








少女「……ぅ」

魔王『目が覚めたか』

少女「……どこ、ここ」

魔王『俺の生まれた世界だ。……とっくに、死んだ世界だが』

廃墟。それ以外に言いようがない。
建物はボロボロに崩れ、空気は汚れている。生命の息吹も感じられない。
死後の世界かな、ここは。

魔王『お前は生きている。……あの時、お前は気を失った。それで、俺が目覚め……』

少女「……っ、剣士さんは!?」

急に頭が回り始め、あの時のことを思い出す。
全身が冷えていく感覚があった。あの時、私は間近に死を感じ、そして一緒にいた剣士さんは――

魔王『……駄目だった』

少女「……」

色んな感情がごちゃごちゃしてる。
駄目だった? 剣士さんが? 私は助かったのに? 嘘でしょ? ねぇ?

魔王『お前1人を逃がすので精一杯だった。あの状況では――ウッ!?』

少女「……ッ」

衝動的に、私は自分の脚を魔法で攻撃していた。
魔王を痛めつけるのが目的じゃない。……心の痛みを、そうやって誤魔化すしかなかった。

少女「くうぅ……ッ」

魔王『やめろ! そんな方法をとっても……』

少女「……わかってる。こんな痛み、もう嫌。……耐えられないよ」

ぼろぼろ。涙で視界が曇ってくる。
どっちの痛みで泣いてるの? わかんない、もうわかんない。

魔王『ゆっくり考えるがいい。……幸いここには、邪魔する者がいない』

私1人で?

魔王『俺がいる。今のお前を、1人にできるか』

……ばぁか。

少女「うっ、うぅ……」

つらくて寂しくて、今は何も考えられない。
太陽のない世界では時間もわからず、私は疲れ果てるまで泣き続けた。
その間、ずっと魔王は側にいた。何も言わず、ただ見守ってくれていた。
それがなんだかムカついて、少しだけ気が晴れた。
posted by ぽんざれす at 16:55| Comment(0) | ブログオリジナルss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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