2016年08月07日

魔王「俺の体臭がやばい」

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1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/03(水) 19:04:11.33 ID:voHP6eV+0
側近「遂に魔王様が復活されるぞ……!!」


500年前、大賢者により封印された魔王。
その魔王の封印が今、解かれようとしていた。


北のドラゴン「500年――長いようで短かった」

西の悪魔「ウケケ。伝説となった大賢者とはいえ、所詮は人間。魔王様復活まで寿命はもたなかったなァ」

東の妖姫「ふふ…500年前の魔王様の武勇、心強いと同時に身震いがしますわ」

南の地蔵「細身ながら、数々の勇者を葬ってきた猛者じゃからのう」

側近「思い出話はそこまでです。見なさい、封印の力がどんどん弱まっている……」

ゴゴゴ…

側近(さぁ目覚めて下さい魔王様…そして、人間達に恐怖と絶望を!!)

北のドラゴン「なぁ…何か、空気がおかしくないか?」

西の悪魔「そう言われてみや…全身の感覚器官がゾワゾワするっつーか……」

東の妖姫「魔力……にしては、少々妙ですわね」

南の地蔵「見るのじゃ! 魔王様の封印が!!」

側近「!!?」


カッ――


2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/03(水) 19:04:37.11 ID:voHP6eV+0
魔王「ふぅ……」


彼こそが魔王。
まだ少年であった頃、魔王であった父に謀反を起こし、その座を奪ったという猛者である。


魔王「クク、血が騒ぐぞ…。500年、戦いを封じられたこの体が! 暴れたいと疼いている!!」


彼の欲求は世界の支配でも、魔物の繁栄でもない。

強い者と戦いたい――ただ、それだけである。


魔王「長らく待たせたな、側近、四天王よ! この俺が復活したからには! この大地に安らぎの時など与えぬぞおおぉぉ!!」


恐怖と絶望の時代が、今――


側近「……」プルプル

魔王「……? 側近、どうした?」

側近「……っせ」

魔王「せ?」

側近「くせえええぇぇぇ!!」

魔王「え?」

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/03(水) 19:05:10.80 ID:voHP6eV+0
側近「くせぇ、くせええぇぇ!!」ゴロゴロゴロゴロ

魔王「き、貴様! この俺に何たる暴言を……」

北のドラゴン「ま、魔王ひゃま……」プルプル

魔王「何だ……ってどうした、鼻に詰め物なんかして」

西の悪魔「詰め物しても……駄目だオゲエエェッ!!」ゲロゲロ

東の妖姫「イヤ! 匂いがうつる!!」ダッ

南の地蔵「わしゃもう駄目じゃ……」パタリ

魔王「………え?」

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/03(水) 19:05:39.18 ID:voHP6eV+0
>それで


魔王「配下が皆城を去って、はや一週間……」

魔王「500年分の垢が溜まったのかと思って体を擦り切れる程洗ったが、体臭は改善されていないらしい」

魔王「たまに、俺の復活を聞きつけた襲撃者は来るが……」


勇者「な、何だこの悪臭は……!!」

魔法使い「勇者…私、これ以上進めない!!」

僧侶「大変です! 戦士さんが気絶しました!」

勇者「撤退だ撤退ィ!!」


魔王「……と、俺の所にたどり着いた者はいない」

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/03(水) 19:06:07.15 ID:voHP6eV+0
魔王「仕方ないので人間の大都市を襲いに行ってみたが……」


兵士A「オエエエェェッ!!」

兵士B「くっせ、くっせええぇぇ!!」

兵士C「何だよ、この悪臭!! 毒ガスだってもうちょっと鼻に優しいぞ!!」

王「魔王よ、降伏しよう。だからもうここには…オゲップ」

魔王「……」

魔王「帰る…」トボトボ

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/03(水) 19:06:37.43 ID:voHP6eV+0
魔王「戦う前に降伏されては、気持ちも萎えるというもの」

魔王「それに会う奴会う奴に臭いと言われて、流石に俺も傷つく」ズーン

魔王「悪臭のせいで味方も敵ももういない」

魔王「……むなしい」



こうして、1年が経過した。

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/03(水) 19:07:04.95 ID:voHP6eV+0



少女「はぁ、はぁ……」

<どこだー!! 出てこい!!

少女「うぅ、足が痛いよぅ…」グスッ

<こっちに足跡が!
<よし、こっちだ!!

少女「このままじゃ捕まっちゃう…どこか、隠れる場所は……」

少女「……あっ!」

少女「あれは……お城?」

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:53:44.33 ID:A+BNMxSZ0
>城内


少女「ふぅ、ふぅ……」

少女(廃城…なのかな? 誰もいないけど…)

少女(ホコリっぽい…でも、私がいた場所よりは綺麗かも)

<ガタッ

少女「っ!」ビクッ

少女(あの扉からだ…住んでる人、いるんだ……。って私、勝手に入ってきちゃった! どうしよう!!)

少女(と、とりあえず…挨拶しないと)

少女「すみません、お邪魔しまー……」ギー

「ふぅっ…ふぅっ……」

少女「っ!?」

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:54:25.66 ID:A+BNMxSZ0
魔王「28、29…30! フゥ…次回からウェイトを上げてもいいかもしれんな」

魔王「この1年、誰とも顔を合わさず、外にも出ず、やることがなくて延々と筋トレしていたが…」

魔王「あの細身が、大分サマ変わりしたものだな。フフフ……」ムキッ

魔王「この逞しい上腕二頭筋!  鋼鉄のような大胸筋! 6パックに割れた腹筋! 大黒柱のような安定感を誇る大腿四頭筋!」

魔王「フハハハ!! 美しき筋肉に俺自身が魅了されるッ!!」ビリビリビリ


少女「き、筋肉でシャツを破った!?」

魔王「!!!!」ビクウウウゥゥッ

少女「あっ」

魔王「ひ、ひ、ひ、人おおぉぉ!?」ガバッ

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:55:18.83 ID:A+BNMxSZ0
魔王「だ、だだだだ誰だ貴様はぁ!!」ガタガタ

少女「す、すみません! 勝手に入り込んじゃって、その、私……」

魔王「えぇい近寄るな! 貴様も言葉の刃で俺を傷つけるつもりだろう!!」ガタガタ

少女「えと…言葉の刃? ……はっ」

少女(この無人の城、『1年誰とも会ってない』という言葉。まさか……)

少女「……可哀想に」ホロリ

魔王「え?」

少女「貴方は人の悪意に触れて、傷つけられて、閉じこもってしまったのですね…。でも大丈夫、私は貴方を傷つけは……」

魔王「うわあああぁぁ、寄るな! 近寄……あれ?」

少女「どうしました?」

魔王「お前…俺の匂いが平気なのか?」

少女(匂い…? 筋トレしてたから汗の匂いが気になるのかな……?)

少女「匂いませんよ、大丈夫です」

魔王「そうか!!」ダッ

少女「わっ!?」

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:56:07.36 ID:A+BNMxSZ0
ダダダダ…

魔王(理由はわからんが、この1年で体臭が消えたようだ! ということは……)

魔王(ようやく外に出れる!!)



追っ手A「あの女はどこに行った。…気づけば、魔王城の前まで来てしまった」

追っ手B「なぁ…まさか、この城の中に逃げ込んだんじゃ……」

追っ手C「まさか。人を寄せ付けない、毒霧の城って話だぜ」

追っ手D「だよなー」ハハハ

ダダダ……

追っ手's「ん?」


魔王「外に出れるぞおおぉぉ――っ!!」

追っ手's「」

魔王「ん?」


追っ手A「ぐせえええぇぇぇ!! 何だこの、毒と汗が混ざったような悪臭は!!」

追っ手B「うぇろうぇろうぇろ」

追っ手C「目にきた…前が見えない!!」

追っ手D「もう、駄目……だ」パタッ

<キョエエエエェェェェ、ぎゃーぎゃー


魔王「」

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:56:37.09 ID:A+BNMxSZ0
魔王「ううぅ」グスッ

少女「あのぅ…そんなに気落ちしないで下さい」

魔王「黙れ! 変に期待を持たせやがって!!」

少女「ひいぃ! すみません!!」

魔王「俺の体臭が平気だなんて、お前肥溜めで生まれ育ったんじゃねぇの!? 名前はうん子だろ、ミスうん子!」

少女「流石にひどいですううぅぅ!!」

魔王「ハァ…俺はこのままここで、筋トレをして一生を終えるのか……」

少女「別に筋トレに固執する必要は…。でも、匂いが原因でこんな人里離れた場所で暮らしていらっしゃるんですか?」

魔王「ん? …お前、ここがどこだかわかっているか?」

少女「いえ…世間に疎いもので」

魔王「流石、肥溜めで育った奴は教養がないな」

少女「違いますぅ! 肥溜め出身じゃないですうぅ! びえええぇん!!」

魔王「肥溜めじゃなけりゃ、生ゴミ処理場か、ヘドロ沼か、運動部の更衣室か!? とにかく帰れ帰れ!」

少女「……うぅ」グスッ

魔王「何だ」

少女「帰る場所が、ないんです……」グスグス

魔王「え?」

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:57:06.50 ID:A+BNMxSZ0
少女「私…今追われてて、ここに逃げてきたんです……」グスグス

魔王「あ? 何だお前、犯罪者か?」

少女「ち、違います! 犯罪者なんかじゃ……」

魔王「しかし人間社会から弾かれた存在であるのは確かだな?」

少女「……ぐすっ」

魔王「同情はせんぞ。俺だって体臭が原因で弾かれた身だ。弾かれたなら弾かれたなりの生き方というものがある」

少女(さっきは泣いてたのに……)

魔王「弾かれた理由を見つめ直し、今後どうして生きていくかをだな……」

少女「ふえええぇぇぇん」グスグス

魔王「うわ、凄く面倒くさい」

少女「ぐすっ、悪かったですね、ぐすぐす」

魔王「…あー、わかったわかった。なら、この城を好きに使え」

少女「……え?」

魔王「俺1人で、この大きな城を持て余していたのだ。俺の体臭が原因で、追っ手も入って来れないだろう」

少女「い、いいんですか……?」

魔王「勝手にしろ。ただし、体臭が伝染ったとか文句を言うなよ」

少女「あ……行っちゃった」

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:57:47.58 ID:A+BNMxSZ0
>翌日


魔王「今日は有酸素運動の日だ。余分な脂肪を落として更に筋肉を……」

モヤモヤモヤ……

魔王「ん? 何だ、この焦げ臭い匂いは。厨房か?」



少女「~♪」

魔王「な、何だ、この充満した煙は!」

少女「あ、おはようございます。台所の食材、勝手に使わせて頂きました」

魔王「それより、何だその鍋の物体Xは! お前は魔女か、毒薬でも生成しているのか!?」

少女「いえ、朝ごはんです」

魔王「食えるようには見えないのだが……」

少女「食べられますよ」パクパク

魔王「……味は?」

少女「とてもマズイです」

魔王「何故平然と食う」

少女「お腹を満たしてくれる食べ物への礼儀です。ふぅ、ご馳走様」

魔王「うむ、食材を無駄にしないのは良い心がけだ」

少女「ところで、このお城を掃除したいので、掃除用具の場所教えて頂けますか?」

魔王「わかった」

16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/04(木) 18:58:24.15 ID:+W2KT+vtO
電車の中の臭いに耐えながら読んでるわ
ワキガは滅ぶべし

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:58:25.80 ID:A+BNMxSZ0
少女「ふぅ~」

少女(このお城は広くて、1日じゃ手が回らないなぁ。毎日掃除する必要がありそう)

少女(でも、自分のお仕事があるっていいなぁ♪ お城が綺麗になっていくのも、気持ちがいいし)

魔王「随分熱心だな」

少女「あ、魔王さん! 集中してたら、時間がたつのも忘れて……」

魔王「しかし詰めが甘いな。お前、あまり掃除したことないだろ」

少女「う゛」

魔王「まぁ俺は綺麗好きというわけでもない。無理のない程度にやれ」

少女「はい…あ、魔王さん、どこに行かれるんですか?」

魔王「食料を採りにな。中庭の畑で野菜を育てていて、あと食う為の家畜を育てている」

少女「ええぇ! 魔王ともあろう方が、そこまでやっているんですか!?」

魔王「配下が去ってしまった以上、そうも言っていられん。奴隷なりを働かせることも考えたが、体臭が原因で倒れるのは目に見えているしな」

少女「素直に感心します…。本当に、ちゃんと1人で生きていけるように適応したんですね」

魔王「現状を受け入れねば前に進めん。それにきちんと食わないと良質な筋肉は作れんからな!」

少女「強い方なんですね、魔王さんは……」

魔王(全く、この卑屈なネガティヴ女は……待てよ)

魔王「そうだ、お前も筋トレをやれ!」

少女「はい!?」


18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:59:18.24 ID:A+BNMxSZ0
魔王「筋トレはいいことだらけだぞ。アドレナリンが脳に回れば、ネガティヴな気持ちも吹っ飛ぶ」

少女「た、確かに運動はいいと聞きますが……」

魔王「それに運動した後の飯は美味いし、夜もぐっすり眠れる!!」

少女「それは確かにいいですねぇ」

魔王「そして! 筋肉がつけば自信もつく! お前は貧相な体しているから心も貧相なのだ!」

少女「うぐ。でも、私は運動音痴だし……」

魔王「筋トレに運動神経は必要ないぞ。貧相ならば軽いウェイトから始めればいいのだからな」

少女「そうなんですか? けど、とても気の長い話です……」

魔王「大丈夫だ。基本通りにやっていけば、3ヶ月で効果が現れてくる」

少女「そんなにすぐに!?」

魔王「どうだ。筋肉…欲しくなってこないか?」

少女「……欲しいです!」

魔王「よし! ならば筋トレ用具の説明からしよう! 来い!!」ハハハ

少女「はい!!」


こうして2人の筋トレ生活が始まった。

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/04(木) 18:59:46.72 ID:A+BNMxSZ0
魔王「馬鹿者、いきなり重いウェイトでやるな! 10回の運動で限界がくる程度のウェイトでやれ!」

少女「は、はい!」


魔王「筋トレ後はストレッチをすることにより、後の疲れが軽減されるぞ!」

少女「はい…っ! イタタタ」


魔王「運動後は30分以内にプロテイン摂取だ。だがプロテインはあくまで栄養補助、飯でもしっかりタンパク質を摂れ!」

少女「はい……」グビグビ


魔王「筋肉は休んでいる間に作られる。筋トレ後は最低2日間は筋トレを休め。筋肉痛や疲労が残っている状態でトレーニングしたら、効率が悪いぞ!」

少女「はい!」


魔王「そして睡眠は……」

少女「8時間程度ですね!」

魔王「その通りだ! 今日はもう寝ろ!」

少女「はい! お休みなさい!!」

21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/04(木) 19:18:02.31 ID:2BVfjksfO
筋トレで体臭は改善されなかった模様

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:40:05.40 ID:oPOaqAAe0
>そんなこんなで3ヶ月後


少女「これが…私……?」

魔王「うむ。まだまだムキムキとは言えんが、まぁ貧弱さは抜けたな」

少女「凄い、本当に効果が現れるなんて! 私じゃないみたい!!」

魔王「どうだ、筋肉という鎧を纏った気分は?」

少女「最高です! 何か、自分は最強なんじゃないかって思えてくるくらいに!!」

魔王「はっはっは、馬鹿を言うな。お前以上の筋肉を纏った者は、この世に腐る程いるのだぞ」

少女「はい師匠! けど…自分がトレーニングをしてみると……」チラ

魔王「?」

少女「師匠の筋肉がいかに素晴らしいか、とてもよくわかります」ポッ

魔王「そうだろう、そうだろう! これぞ俺の筋トレの成果だっ!!」ムキッ

少女(無駄のない筋肉。真剣に取り組んだ証だわ……素敵)ドキドキ

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:40:35.35 ID:oPOaqAAe0
魔王「夕飯の親子丼だ! 鶏肉と卵で、タンパク質を摂取だ!」

少女「卵がとろとろで美味しいです~。師匠は何でもできますね」

魔王「本を読みながら勉強したからな。一人暮らしの賜物というものだ!」

少女「ご立派ですねぇ。私なんか煮物くらいしか作れなくて…」

魔王「そうだなぁ…。筋トレのコツも覚えたようだし、今度は飯作りでも教えてやろう」

少女「本当ですか!」

魔王「お前の作る物体Xは筋肉に良くない! この機会に、筋トレに活かせる栄養学も教えてやる!」

少女「お願いします、師匠!」

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:41:07.89 ID:oPOaqAAe0
>夜


少女「では師匠、お休みなさい」

魔王「あぁ、明日も頑張るぞ」


魔王(ここのところ、毎日が楽しい)

魔王(封印されていた間の500年は野望に燃えていたが…この1年間は、空虚を筋トレで埋めるだけの1年間だった)

魔王(しかし、あいつが来て変わった。あいつは俺を臭がらず、俺の教えを素直に吸収してくれる)

魔王(俺は戦いの中でしか生きられぬ者だと思っていたが――)

魔王(こういう日々も、悪くないものだな)

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:41:56.58 ID:oPOaqAAe0
>一方、某国の城


魔術師「陛下、あの娘の所在が掴めました」

皇帝「ほう。あの娘は今、どこに?」

魔術師「はい。魔王城…今は"毒霧の城"と呼ばれている、あの場所です」

皇帝「それはまた厄介な。あそこは侵入すら許さぬ、異臭がする猛毒が流れているという場所…大人数で攻めても無意味」

魔術師「しかも、その毒霧の正体は掴めておりません。鉄仮面等の装備も突破し、体を蝕むとか…」

皇帝「流石は魔王。自身は毒霧の中に身を置き、襲撃に対して完璧な備え。一筋縄ではいかない男よ」

魔術師「その城にあの娘が入れたということは…やはり、血筋でしょうか」

皇帝「あぁ、あの娘はやはり危険だ。もしあの娘が覚醒し、魔王と手を組んだら……」

魔術師「絶望的な話ですね」

皇帝「暗い顔をするな。既に対策は練ってある」

魔術師「対策…ですか?」

皇帝「先日、城より逃げ帰った勇者に、特別な改造を施している所だ――」

魔術師「特別な改造……?」

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:42:28.85 ID:oPOaqAAe0
>研究所


勇者「ぐああああぁぁぁ……」


魔術師「こ、これは……!!」

皇帝「クク…ガラス越しではわからないだろう。この勇者を閉じ込めている密閉した部屋、実は壁中に人糞を塗りたくっている」

魔術師「……」

皇帝「室内の気温と湿度を調整し、空気は梅雨時期に合わせた。悪臭の上、生ぬるく湿った空気というのはさぞ不快であろう……」

皇帝「部屋に出入りし給仕しているのは、先日捕えたオークだ。体を洗っていないから、汗と精液の匂いが染み付いているぞ」

皇帝「勇者に出す食事には微量の毒を混ぜている…。まぁ死に至る程ではない、せいぜい腹を下す程度だ」

皇帝「と言っても、同じ室内に設置してある汲み取り式のトイレは、さぞかし匂うだろうなぁ……!!」


勇者「ぐおおおぉぉぉぉぉぉ」


皇帝「どうだ、完璧なる勇者改造計画だ! ハハハハ、ハーッハッハッハッハ!!」

魔術師(皇帝陛下…恐ろしいお方だ)ブルブル

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:43:25.23 ID:oPOaqAAe0
>魔王城


少女「へぇ、包丁での皮むきってそうやるんですねぇ!! 器用ですね師匠!」

魔王「いや、お前この程度もできなかったのか……。ってことは物体Xには、皮付きの野菜を入れてたわけか?」

少女「ここに来る前は、皮ばかり食べてましたから」

魔王「だから貧相な体をしていたのか。まぁいい、練習してみろ」

少女「はい!」

魔王(詮索するのは好きでないから、こいつの素性は知らんが…それにしても、謎が多すぎる)

魔王(物の知らなさや、生活習慣、そして悪臭への耐性を見る感じ、下の階級の者だと想像はつくが)

魔王(しかし貧困層なら、馬車馬のように働いていたはず。にも関わらず、こいつは料理も掃除も不慣れな様子が見て取れる)

魔王(何一つできることがない、というのは生きていくのも一苦労だろうが……)

少女「師匠! 皮むきしました!」

魔王「不器用だな、皮が分厚いじゃないか」

少女「ごめんなさい…責任持って、その皮を食べますから」

魔王「いや、いい。豚の餌にするから無駄にはならん」

魔王(何だかんだで素直な奴だ。社会的には駄目な奴かもしれんが、側に置くにはこういう奴がいい)

魔王「少しずつ上達していけばいい」ポンッ

少女「!!」

魔王「俺も最初は下手くそだったからな。気持ちさえあれば、何とかなるものだ」

少女「…へへっ、師匠~」ニマー

魔王「声がたるんでいるぞ。そんな奴は、腹筋100回だ」

少女「申し訳ありません! 勘弁して下さい!」ピシッ

魔王「……フッ」

少女「ど、どうしました?」

魔王「いや……別に」ククク

少女「…? 変な師匠」

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:44:02.37 ID:oPOaqAAe0
>夜


魔王「こうして俺は竜の一族の長を倒し、そいつを四天王に迎え、魔王軍を大きくしていった」

少女「へーぇ」キラキラ

魔王「続きはまた明日だ。これでもまだ序盤だぞ」

少女「師匠って本当に凄い方だったんですね!」

魔王「過去の栄光だがな。知っての通り、今では現役を退いて筋トレするだけの日々を送っている」

少女「もったいないですよね~」

魔王「おかしなことを言うな。お前も人間側、魔王の敵だろう?」

少女「うーん…前にもお話した通り、世間に疎いもので……」

魔王「そうか。今はどのような時代なのか、話を聞く前に配下に去られたので、俺も全くわからんな」

少女「その配下の方々、元気にやっていらっしゃるんですかねぇ」

魔王「四天王も側近も野望を持った者たちだ。新たな魔王として君臨していても何ら不思議ではない」

少女「何か、寂しいですね」

魔王「いや、そんな奴らだからこそ俺と気が合ったのだ。俺の下を去って栄光を掴むのなら、喜ばしいことだ」

少女「師匠…」

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:45:47.62 ID:oPOaqAAe0
魔王「それより今はお前だ。『師匠の武勇伝聞かせて下さい』と言って、書物を渡すと『字があまり読めないんです』ときたものだ。こんなに手のかかる奴は初めてだ」

少女「ご、ごめんなさい。…でも」

魔王「何だ?」

少女「師匠の口から聞かせて頂く方が…師匠と過ごす時間が増えて、いいかなって」

魔王「……馬鹿かお前は」

少女「あ、あはは、馬鹿ですね~」

魔王「変な依存をしなくとも、互いに、他の者と会えぬ身だ。余裕を持て」

少女「そうですね~。…あ、そうだ!」

魔王「何だ?」

少女「師匠、字を教えて下さい! 自分で書物を読めるようにします!」

魔王「…話を聞かせてやるより、字を教える方が遥かに時間も労力もかかるな?」

少女「あ」

魔王「まぁ、良いだろう。お前ほどに不出来だと教え甲斐がある」

少女「むうぅ、反論できない~…」

魔王「お前が俺に反論しようなどと100年早い」

少女「100年経ったら死んじゃいますよ~」

魔王「そうか、お前にはわからん比喩だったか。『一生無理』ということだ」

少女「うわぁ~ん!」

魔王「クク、からかい甲斐のある奴だな、ククク」

少女「師匠の意地悪~っ!」

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/05(金) 18:46:17.64 ID:oPOaqAAe0
今日はここまで。
前回書き忘れていましたが、魔王はプロテインを原材料から作っています。

36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/05(金) 19:01:46.01 ID:azWqIbczo
乙、流石魔王様
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/05(金) 19:29:56.21 ID:jcqugDvi0
乙です。
人間相手の比喩まで知ってるとはさすが魔王だな。

38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/05(金) 20:10:24.76 ID:CUUAV39PO
魔王△

39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/05(金) 22:15:56.71 ID:d/cZN+7OO
>>35
臭い以外は本当に優秀だな、臭い以外は

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 18:54:03.28 ID:cz/8kbpt0



魔王「さて、今日も筋トレの日だな」

魔王(不肖の弟子は、俺の教えを吸収し成長している。それが楽しくて仕方ない)

魔王(こういう毎日を過ごしていると、嘘のように思えてくるな。以前は戦闘狂だった自分が……)

魔王(戦闘狂が戦闘を奪われ、一時期は自暴自棄になった。だが心というのは案外強いもので、それならそれなりの生き方に順応する)

魔王「全く……人生というものはわからないもので……」


キュピーン


魔王「……っ!! これは、魔力反応!?」

少女「師匠、おはようござ……」

魔王「伏せろ!!」

少女「え?」


ドカアアァァン

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 18:54:44.67 ID:cz/8kbpt0
少女「ゲホ、ゲホッ」

魔王「大丈夫か?」

少女「は、はい…師匠、この爆発は……」

魔王「襲撃者、だな。城を破壊するなど……」


<ウォゲエエエェェェ


魔王「ん?」


魔法使いA「だから言ったじゃねぇか! 城に穴を空けたら、毒ガスが漏れ……オゲエェェッ」

魔法使いB「射程範囲ギリギリまで距離取って、追い風なのに……ウオエエェェッ」

魔法使いC「撤退だ撤退ィ!!」


魔王「」

少女(あわわ…師匠の心にダメージが……)

魔王「フッ、ゴミ虫共が」

少女「師匠!?」

魔王「今更、ゴミ虫ごときの暴言に傷つく俺ではない! 自ら肥溜めに突っ込んで文句を垂れるな、ゴミ虫共が!!」

少女(師匠、強くなったのね! でも自分を肥溜めなんて、ひどい自虐です!)


勇者「貴様が魔王か……」

魔王「ん?」

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 18:55:14.71 ID:cz/8kbpt0
魔王「何だ、貴様は」

勇者「俺は勇者……お前を討つ者だ」

魔王「お前……まさか俺の体臭が平気なのか?」

勇者「いや、臭いは臭い。だが、毒物や臭いものには、ある程度の耐性がついた」

魔王「ほう、流石勇者を名乗るだけのことはある。お前のような者が現れるとは、人生とはわからんものだな」

少女「師匠……」

魔王「お前は下がっていろ」

少女「は、はい」


勇者「お前の実力は聞いているぞ、魔王。しかし俺も勇者として選ばれた身、お前に勝つ!」

<頑張れ勇者様 ウオオオォォォ

魔王「ほう、大層な人気ぶりだな」

勇者「勇者だからな」

<(ここで魔王を倒してくれないと…増員の為、俺らまであの悪臭実験室に放り込まれる!!)

魔王「そうか。ならば来い、勇――」


――ドゴッ


魔王「――っ!?」

少女「師匠っ!?」

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 18:55:59.66 ID:cz/8kbpt0
勇者「どうしたァ、動きが鈍いぞ魔王ォ!!」シュッシュッ

魔王「がハァッ……」ドサッ


魔王(目で追えているのに、体が追いつかない……どういうことだ)

魔王「はっ!」

魔王(俺がこの1年で身につけた筋肉は戦闘ではなく、観賞用に特化している…つまり)

魔王(筋肉のせいで、俺の動きが鈍ったというのか!?)


勇者「どうしたァ、その筋肉は見掛け倒しかァ!」

魔王(全くもってその通りだ!!)


ズバッ


魔王「ぐっ……」

47 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 18:56:35.85 ID:cz/8kbpt0
魔王「こうなれば……魔界への扉よ、今開け!」

勇者「!! まさか、魔法か!」

魔王「その通り! 魔界への扉を開き、邪神の力を借り、魔法を発動させる! 塵となるがいい、勇者よ!!」

勇者「くっ……」ガバッ

魔王「防御姿勢など無駄だァ! 喰らえ、"灼熱の業火"!!」


シーン……


魔王「……」

勇者「……」

魔王「おい、邪神……」


邪神「扉開けないで! 匂いがこっちに来る!」


魔王「待て、邪神なら匂いも何とかしてみせろ! おい!!」

勇者「オラァ!」ズバッ

魔王「カハァ!!」

48 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 18:57:03.07 ID:cz/8kbpt0
ゴンッ

勇者「いでっ!!」

魔王「……っ!?」


少女「し、師匠を、傷つけないでっ!」

魔王「馬鹿お前…下がっていろと言ったろう!」

少女「見ていられません…! 師匠が、師匠が傷つけられるなんて!」

魔王「お前に何ができる! お前のような、か弱い小娘に!!」

<(その女が投げて勇者の頭にクリーンヒットしたの、ダンベルなんですが)


勇者「く…。小娘、やはり魔王と手を組んでいたのか」フラフラ

少女「きゃっ、起きた!」

魔王「…? 『やはり』とは……」

勇者「しかしまだ、"覚醒"はしていない様子だなァ!!」

少女「えっ……?」

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 18:57:32.23 ID:cz/8kbpt0
魔王「覚醒…? 何のことだ?」

勇者「そうか、お前たちは知らないか……。だが教えてやる義理もない、俺は任務を全うするのみ!!」バッ

少女「ひっ」

魔王「こいつに手を出すな!」バッ

勇者「ならばお前から死ねえぇ――っ!!」バキィ

魔王「カハッ!!」

少女「し、師匠!!」

少女(このままじゃ、師匠が……!!)


?『困っているようですね、私の愛しき血族よ』


少女「……え?」

50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 18:58:13.51 ID:cz/8kbpt0
少女「だ、誰……? 声はするけど姿が……」キョロキョロ

?『私は、既に朽ちた身。しかし魂だけは、子孫である貴方の側におります』

少女「私のご先祖様……?」

?『はい――名は、大賢者と申します』

少女「大賢者……!? それって確か、師匠を封印したという……!!」

大賢者『はい、かつてあの魔王を封じた、大賢者です』

少女「私のご先祖様は大賢者……? でも、そしたらどうして私は……」

大賢者『説明している時間はありません』

少女「そ、そうだ、師匠!」


魔王「ぐっ……」

勇者「はん、頑丈だな。防御力だけは優秀な筋肉だな」


少女「きゃっ、師匠が殺されちゃう! またダンベルを……」ヒョイッ

大賢者『それはよしなさい』

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/06(土) 19:03:59.47 ID:cz/8kbpt0
大賢者『貴方には私の血が流れています。ですから、覚醒すれば魔王を助けることができます』

少女「覚醒…?」

大賢者『心を鎮めるのです。そうしたら、私が貴方の力を引き出しましょう』

少女「心を鎮めるって、どうやって……」

大賢者『何も余計なことを考えず、周囲の情報を遮断し……』

少女「そんな簡単に言われても……」

大賢者『貴方が最も心を静かにする時はいつですか?』

少女「心を静かに…あ、筋トレの3セット目です!」

大賢者『じゃあそれで』

少女「待って下さい、今急いでダンベルを上げ下げするので!」

大賢者『私の子孫に脳筋がいるとは予想外です』

53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/06(土) 19:28:48.31 ID:/WMcAnmao

筋肉欲しくなってきた

54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/06(土) 19:41:45.14 ID:Gc30pLlp0
乙です。
使う所が全く違うし付けすぎると重いからな、戦闘用の筋肉は闘争の中でのみ作られるってどこかの地上最強の生物が実践してたな。

57 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:29:20.31 ID:oVY1bby+0
大賢者『……私はかつて魔王を封印する際、保険として魔王に呪いをかけました。貴方の力で、呪いから魔王を解放して下さい……』

少女「……あの、ご先祖様」

大賢者『何でしょう』

少女「どうして師匠と戦った貴方が、師匠を助けてくれるんですか?」

大賢者『そうですね……500年経ち、あの時とは状況が違ってきましたからね』

少女「?」

大賢者『今は心を鎮めなさい。そして魔王に纏っている呪いの気を、取り払うのです』

少女「は、はい!」


カアァ――ッ


魔王「!!」

勇者「なっ!?」

少女「これは――」

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:29:49.28 ID:oVY1bby+0
勇者「毒霧が……消えた!?」

少女(そうか…ご先祖様の呪いって、師匠の体臭のことだったんだ!)

魔王「……」

勇者「……」


勇者「ハーッハッハッハ! これで息を思い切り吸って戦えるぞおぉ!!」

<毒霧が晴れたぞー!
<我々も続けー!


少女「ってええぇぇ、呪い解除したら逆効果じゃないのよおおぉぉ!!」


「魔王様……大変お待たせ致しました」


少女「……え?」

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:30:19.26 ID:oVY1bby+0
ブオッ

北のドラゴン「人間風情が、舐めた真似を」


バサッ

西の悪魔「ウケケ。頭数揃えてきたんだから、ちったぁ手応えあるんだろうなァ」


ヴァンッ

東の妖姫「数よりも質…。勇者を討った方の優勝、ということでよろしいかしら?」


ドンッ

南の地蔵「これこれ、張り合うでない。それよりも……」


スタッ

側近「魔王様を痛めつけたあの男に、いかに苦痛を与えるか……それが1番重要ですね」


魔王「側近、四天王!」

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:31:04.76 ID:oVY1bby+0
側近「この1年あまり、お側にいられず…申し訳ありません、魔王様」

魔王「それより、どうしてここに……」

側近「はい。我々、魔王様の体臭が届かぬ位置にて、ずっと魔王様を見守り続けておりました」

魔王「そ、そうだったのか……!!」


勇者「魔王の部下か……。蹴散らせえぇ!!」

魔法使い's「うおおおおぉぉぉ!!」


北のドラゴン「蹴散らされるのは貴様らだ、矮小なる人間どもが!!」ブォンッ

魔法使い's「ぎゃああぁぁ」

西の悪魔「所詮テメェら、モブだよなァ!!」ザシュッ

東の妖姫「この程度の魔力で私達を相手しようと? 笑えますわ」ゴオォ

南の地蔵「現代人は肉体が劣化したのぅ」ドスーン

<うわあああぁぁぁ
<ぐおおぉぉぉ

勇者「つ、強い……!!」

側近「おっと、他人事ではありませんよ」パキポキ

勇者「!!」

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:32:07.32 ID:oVY1bby+0
側近「よくも魔王様をおおぉぉ!! その身をもって償うが良い!!」

勇者「くっ、せめて魔王だけでも……」ダッ

魔王「!」

側近「しまった! おのれ、足払いっ!」バッ

勇者「おっと!」ピョン

側近「くっ、かわされた!」

勇者「喰らえ魔王――」

ガシッ

勇者「……え?」

側近「おぉ! 勇者をキャッチした!」

魔王「攻撃の軌道が読みやすい、上空から仕掛けてきたのが失敗だったな……おらあああぁぁ!!」ブォン

勇者「うわああぁ!?」

側近「勇者を持ち上げた!?」

少女「あれはショルダープレスの構え!」

魔王「そして必殺のォ……」ゴオオォォ

勇者「!!!」

魔王「牛殺し――ッ!!」ガンッ

勇者「カハッ……」

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:32:36.83 ID:oVY1bby+0
補足

ショルダープレスとは:ダンベルなど重いものを持ち上げて、肩を鍛えるトレーニング

牛殺しとは:相手を持ち上げて、片膝に当てるように落とす技


63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:33:16.25 ID:oVY1bby+0
勇者「」ピクピク

北のドラゴン「やりましたな、魔王様」

西の悪魔「ちぇー。ピンチだったくせに、結局いいとこ持っていくんだから」

東の妖姫「良いではありませんの。それでこそ、私どもの王ですわ」

南の地蔵「無計画な筋肉の付け方をしたのは、少々頂けませんがな」

魔王「もう戦いに戻ることはないと思っていたからな、大目に見ろ。というか、お前……」

少女「は、はい」

魔王「俺の体臭を消したのはお前か。一体、どうやったんだ?」

少女「あのぅ……わ、私もさっき知ったんですけど……」

魔王「?」

少女「私、その…師匠を封印した、大賢者の子孫みたいで」

魔王「大賢者の……お前が?」

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:34:17.48 ID:oVY1bby+0
少女「さっき、ご先祖様の声が聞こえたんです! それで私の力を解放し、師匠にかけた体臭の呪いを解いて……」

西の悪魔「あの体臭は呪いだったのかよ。だよなァ、じゃねぇとあんな、ひっでぇ匂い……」

東の妖姫「シッ!!」

北のドラゴン「何でそんな呪いをかけたんだよ……」

南の地蔵「魔王様を孤立させる為じゃろ。事実、呪いは効果的じゃったしのう」

魔王「なるほど、子孫なら俺にかかっていた呪いを解いたのも合点がいく。……しかし、疑問が沸くな」

少女「はい……私もです」

魔王(魔王を封じた大賢者となれば、英雄として崇められていたはず。その大賢者の子孫が、あんな貧相な身なりで、しかも追われていたなど……)

側近「魔王様。大賢者の子孫の扱いは、魔王様が想像しているものと違うのですよ」

魔王「どういうことだ」

側近「権力者達は恐れたのですよ…大賢者の持つ力、そしてカリスマ性を」

魔王「恐れた、だと……?」

側近「そう。400年前ですかな――時の皇帝が、大賢者の子孫である一族を、まとめて牢獄に投じたのは」

魔王「!?」

少女「……」

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:34:57.56 ID:oVY1bby+0
少女「私は牢獄で生まれ、牢獄で育ちました……」

魔王「何だと……」

少女「私の両親も、またその両親も…同じく、牢獄で生まれ育ちました。その理由は、ご先祖様が罪を犯したからだと聞かされてきましたが……」

側近「その罪というのも、勿論濡れ衣ですが……」

魔王「馬鹿な! それに牢獄の中で子孫を繁栄させるなど……」

側近「何が大賢者の子孫の力を解放するきっかけになるかわかりませんからね。恐らく投獄するだけで精一杯で、なるべく刺激を与えぬようにしていたのかと……」

魔王「ふん。大それたことをする割に小心者だな」

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:35:43.47 ID:oVY1bby+0
魔王「お前、牢獄からどうやって脱したのだ?」

少女「同じく投獄されていた方々が、抜け穴を掘っていたんです。そして囚人の中で1番歳の若い私が逃げろ、と……」

魔王「ふむ…それで追われて、俺の城にやってきたというわけだな?」

北のドラゴン「呪いをかけられた魔王様の体臭が平気だったのは、血筋のお陰か」

南の地蔵「先祖のかけた呪いじゃからのぅ」

少女「うぅーん……」

魔王「何だ?」

少女「わからないですねー。牢獄の環境も悪かったので、鼻がすっかり悪臭に慣れていたのかも!」

魔王「お前まで悪臭とか言うな」

少女「わわっ、すみません!」

魔王「まぁ、結果としては良かったのだろう」

少女「え?」

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:36:12.85 ID:oVY1bby+0
魔王「もしかしたら俺とお前が会ったのは、大賢者の導きかもしれんな。奴は俺に、子孫を救って欲しかったのかもしれん」

少女「そうなのでしょうか……。だとしたら魔王様には多大な迷惑を……!!」

魔王「俺がお前を迷惑だと言ったか?」

少女「え……っ」

魔王「そりゃ確かにお前は教養はないし、品もないし、とにかく手のかかる奴だった」

少女「うぅ」

魔王「だからこそ、退屈せずに済んだ。俺はお前に感謝している」

少女「感謝……?」

魔王「そう。嫌な顔をせず俺の側にいてくれたこと。俺に充実した時間をくれたこと。そして――野蛮人だった俺に、穏やかな気持ちを教えてくれたこと」

少女「師匠……」

側近「ちょっ」

68 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:36:55.72 ID:oVY1bby+0
側近「ま、ま、魔王様、穏やかって……」

魔王「側近、四天王。約1年もの間、気苦労をかけたな」

側近「それは、また魔王様と暴れる日を望んで……」

魔王「だが俺はもう、昔のような野蛮人ではない。お前たちと離れている時間は、俺を変えた」

側近「なっ!?」

北のドラゴン(そりゃまぁ、悪臭から逃げた部下なんか愛想つかすよなー……)

西の悪魔(戦闘狂だったのが戦えなくなってたんだから、変わりもするよな)

東の妖姫(牙の抜けた魔王様……500年前じゃ考えられませんわ)

南の地蔵(魔王様は本格的に引退かのう)

側近(そんな、魔王様……)ブルブル

魔王「俺の脳みそは考える力を身につけた。そして、これからの指針は――」

側近(聞きたくない……!!)ギュッ

魔王「――世界征服だ」

側近「……っ!!?」

69 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:38:10.16 ID:oVY1bby+0
魔王「大賢者は、この俺を封じた有能なる者。その者に敬意も払えぬ人間の権力者などに、世界を牛耳る権利などない」

魔王「それに不肖の弟子が迫害される世の中というのも、俺は気に食わん」

少女「師匠……」

魔王「俺は人間の権力者どもを倒し、この世界を手に入れる」

側近(魔王様……!!)

魔王「久々の大暴れだ。俺に賛同する者は、ついてこい」

南の地蔵「……ふっ。魔王様はやはり魔王様じゃ」

北のドラゴン「そんなの、答えは決まっています」

東の妖姫「そういう貴方だからこそ、私達はお慕いしておりますのよ」

西の悪魔「ついていくに決まってんだろォ、魔王サマぁ!!」

魔王「期待しているぞ、四天王」

側近「私もです! 側にいさせて下さい、魔王様!」

魔王「頼もしいな、側近」

少女「し、師匠……わ、私も……」

魔王「ん?」

70 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:38:53.70 ID:oVY1bby+0
少女「さっき、大賢者の力に目覚めてから……体に力がみなぎってくるんです」

魔王(…確かに、今まで感じなかった魔力の波動を感じる)

少女「師匠、魔法の使い方を教えて下さい! そして私、師匠と共に戦いたいです!」

魔王「お前が……俺と?」

少女「はい。きっと理不尽な目に合っているのは私だけじゃない…私は、そういう人たちを助けたいんです」

魔王「……やれやれ。教えることが、また増えたな」

少女「え……じゃあ、師匠!!」

魔王「いいだろう、魔法の使い方を教えてやる。俺はお前の、師匠だからな」

少女「やったぁ! 私、頑張ります!!」


東の妖姫「大賢者の子孫ですもの。あの子きっと、強くなるでしょうねぇ」

西の悪魔「ケケッ、俺らなんて抜かしちまうかもしれないなァ!」

側近「ま、負けるものか……!」ゴゴゴ

北のドラゴン「何の対抗心だ、何の」

南の地蔵「ほっほっほ。若いのは羨ましいのう」

71 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:40:13.69 ID:oVY1bby+0
魔王「ではまず手始めに、勇者のいた国から制圧するか。さぁ、行くぞ!」

東の妖姫「いっ、今からですか!?」

魔王「当たり前だ。俺自ら、奴らに勇者の敗北を報せてやろう!!」

西の悪魔「作戦とか無いんスか」

魔王「ない!! 力押しで何とかしろ!!」

南の地蔵「おやおや、これまた強引な。魔王様、ご自分が弱体化していることをお忘れですか?」

魔王「勇者以下の者と戦うなら、レベルダウンした位の方が楽しめる。勘は戦いながら取り戻せば良い。背中に乗せろドラゴン!!」

北のドラゴン「はいはい。全く、どこが穏やかになったんだか」

側近(いや…ただ大暴れするだけだった魔王様が、暴れる理由と目的を手に入れた。理由と目的があれば、暴れる意思は更に強くなる!)


魔王「おい、お前も行くぞ」

少女「い、今の私が行って、足を引っ張りませんか!?」

魔王「心配か? なら思う存分に足を引っ張れ。逆境を覆すのも面白い」グイッ

少女「きゃっ…し、師匠……」ドキドキ

72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:40:45.61 ID:oVY1bby+0
側近「聞こえますか、魔王様。各地に散り散りになっていた魔物達が、魔王様の臭気が消えたことを感知し、集まってきています」

魔王「懐かしい感覚だ。今日が俺の、魔王としての復活記念日だな」

少女「魔王としての……」

魔王「どうした、不安そうな顔をして」

少女「いえ。師匠が魔王として活躍するのは喜ばしいことですが…何だか、穏やかな日々がなくなってしまうのかと思って……」

魔王「心配するな。しばらくはドタバタするかもしれないが、すぐに手に入れてやる」

少女「手に入れる……何をですか?」

魔王「世界を征服した先に手に入れる――本当の意味で、お前が穏やかに過ごせる時間だ」

少女「師匠……はいっ!!」


魔王「行くぞ、者共! 欲しいものは全て、己の手で勝ち取るのだ!!」

ワアアァァ……


Fin

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/08/07(日) 17:41:25.59 ID:oVY1bby+0
ご読了ありがとうございました。
決して打ち切りではなく、魔王の体臭が消えたので、ここでキリがいいかなと思いました。

74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/08/07(日) 18:13:16.25 ID:jZSrQuaMO

笑いながら読んでたわ

75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/07(日) 18:21:52.43 ID:0VT9FFjXO
乙です。
この後は蛇足か……。

76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/08/07(日) 18:24:47.99 ID:9CX2Ha6Wo
乙乙、面白かった


posted by ぽんざれす at 18:41| Comment(4) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年07月06日

魔法使い「男は嫌い…」

1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/06/30(木) 21:01:59.34 ID:sm7FpiKv0
百合有り。苦手な方はお気を付け下さい。

2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/06/30(木) 21:02:24.96 ID:sm7FpiKv0
私は昔から、男が嫌いだ。


勇者「君たちが、俺と冒険を共にしてくれる子達か。宜しくな」ニコ


今日から旅と共にする勇者も、その例外ではない。


魔法使い(騙されないわよ、その笑顔の下に隠された下心!)ジト


そして男嫌いの一方で――


武闘家「いい人そうで良かったね、魔法使いちゃん♪」

魔法使い「……えぇ、そうね」


私は一生、叶わない恋をしている。

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/06/30(木) 21:02:51.95 ID:sm7FpiKv0
人間と魔王との戦が始まって約10年。
争いで沢山の人が死に、人間の国々は疲弊していた。

そんな中現れたのが、この剣の申し子たる勇者なのだが――


勇者「皆可愛くてびっくりしたよ! これなら毎日頑張れそうだ!」

僧侶「ふふ、ありがとうございます」

盗賊「頼りにしてるです、勇者君」

魔法使い(騙されるんじゃないわよ、こんな二面性タラシに!!)

武闘家「魔王を倒した人って、姫様と結婚できるんだっけ?」

魔法使い「そうだけど……」


勇者「ねぇ、彼氏いる?」ニコニコ

僧侶「いえ、お付き合いしている男性はいません」

盗賊「い、いないのです~」

魔法使い(うわー、早速品定めしてる)


僧侶「では、早速ですが魔王城までの経路について話し合いませんか? 私、これについては少し詳しいので、色々とプランを考えてきたのですが…」

勇者「僧侶にお任せするよ、それより皆で遊びに行かない?」

魔法使い「却下!」


4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/06/30(木) 21:03:20.10 ID:sm7FpiKv0




>宿・女部屋


僧侶「では改めて皆さん、今日から宜しくお願い致します」

盗賊「仲良くやるです!」

武闘家「こちらこそ! ね、魔法使いちゃん」

魔法使い「そうね」

僧侶「武闘家さんと魔法使いさんは、お友達同士でしたっけ?」

武闘家「うん、幼馴染み! 魔法使いちゃんは、しっかり者のお嬢様で、頼りになるんだ~」

盗賊「わわっ、どうしよ! ボク育ち悪いから、色々と引かれちゃうかもしれんです……」

魔法使い「気にしないわ、手のかかる子は武闘家で慣れてるもの」フッ

武闘家「魔法使いちゃん、辛辣~!」

魔法使い「まぁ私、女の子には優しいから。特に貴方達みたいな、可愛い子には」フフ

僧侶「……へぇ」

魔法使い「?」

僧侶「魔法使いさん、案外気さくなんですね。顔合わせの際は無口だったので、そういう方なのかと思っていましたが…」

魔法使い「あー…それは……」

武闘家「魔法使いちゃんは男の人がいるとああなんだよ~」ハハハ

僧侶「そうなんですか」

魔法使い「……えぇ。私、男嫌いなの」

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/06/30(木) 21:03:49.59 ID:sm7FpiKv0
魔法使い「父には8人の妻がいるのよ」

盗賊「8人!」


魔王との戦いで死んだ者のほとんどが男。
そのせいで、この世界の男女比は現在約2:8と言われている。
世界中で年々人口が減り続ける状況の為、ほとんどの国で一夫多妻制が導入されていた。


魔法使い「勇者もきっと、姫様の他にも何人かの妻を娶るでしょうね」

盗賊「そうかも。でも、複数の女の人を養える地位なら問題ないのです」

僧侶「世界を救った勇者様となれば、十分にその権利はありますし……」

魔法使い「そういう問題じゃないのよ…」

僧侶「と言うと?」

魔法使い「私達…その妻候補なのよ」

盗賊「……」

僧侶「……」

武闘家「えーっ!」

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/06/30(木) 21:04:19.95 ID:sm7FpiKv0
魔法使い「私、聞いたのよ! あれは勇者の仲間募集のビラを見て、それについての質問をしに城を訪れた時……」


~回想~

魔法使い(あ、あれは勇者と騎士団長さん……。あ、集まった応募用紙を見てるみたい)


騎士団長『早くも志願者が集まりましたね。ほら見て下さい、レベル50越えの猛者も…』

勇者『不採用』

騎士団長『え?』

勇者『ゴツい男なんか御免だね。それより女の子、女の子!』

騎士団長『えーと…女性志願者は少ないですが、今のところ彼女と彼女と……』

勇者『この僧侶ちゃんと盗賊ちゃん採用』

騎士団長『え!? …お言葉ですが、もっと優秀な志願者は沢山……』

勇者『仲間の強さとかどうでもいいよ。どうせ俺が活躍するんだし。それより……』

騎士団長『それより?』

勇者『可愛い女の子のハーレムパーティー作って、ウハウハしたいんだよおぉ!! これぞ男のロマン!! 吊り橋効果イヤッホー!!』


魔法使い『……さいってー』

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/06/30(木) 21:04:48.78 ID:sm7FpiKv0
魔法使い「不純、不潔! あんな勇者に、私は絶対心を許さないわ!!」

僧侶「なるほど…。ですが、女性に囲まれることで勇者様の士気が上がるのなら効率的ですよ」

盗賊「そうそう、男の子ってそんなものだと思うです。魔法使いちゃんはちょっと過敏なのです」

魔法使い「いーえ! 男は女の子のこと、せ、せ、せ……」

僧侶「せ?」

魔法使い「せ…性欲解消の対象としか、見てないし……」モジモジ

僧侶「うーん。そういう男性もいるかもしれませんが、『としか』ではないと思いますよ」

魔法使い「じゃあ男は『そういう行為』なしで女の子と付き合えるんですかー!! 無理でしょ、男ってそういう生き物!!」

僧侶「流石に極論ですよ」

魔法使い「極論でもなんでも、男のそういうとこが嫌いなの! 私は勇者に心を許さないから!」

僧侶「男性が苦手な理由はわかりましたが…」

盗賊「何で、勇者パーティーに志願したです?」

魔法使い「……」


だって――


武闘家「仕方ないなぁ、魔法使いちゃんは。でも、必要なコミュニケーションはちゃんと取ってね」

魔法使い(武闘家に…志願しようって誘われたから……)

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/06/30(木) 21:05:38.84 ID:sm7FpiKv0
>子供時代


約2:8に偏った男女比のせいか、その繁殖能力のせいか――人間社会は男性優位だ。

女好きの父親、威張る男たち、精神発達の遅い男児――周囲はそんな男ばかりで、私は自然と男嫌いになっていた。
男性優位の社会において、私のように勝気な女子は周囲から浮きがちだった。

そんな中、私と仲良くしてくれたのが――


いじめっ子『ぎゃあー、鬼ババが怒ったー』ダッ

魔法使い『今度この子をいじめてみなさい、焼くわよ!』

武闘家『ぐすん……』


近所に住む同い年の女の子、武闘家だった。
彼女は頭の回転の悪さ故か、それとも小柄な体のせいか…とにかく、いじめられることが多かった。


魔法使い『そんなに泣いてたら、ますますあいつら喜ぶわよ。全く、何でやられっぱなしなのよ』

武闘家『ぐすっ…女の子は弱くて守られている存在だから、男の子に逆らっちゃ駄目なんだって』

魔法使い『あんた、あんな奴らに守られたいの?』

武闘家『……』

魔法使い『私は冗談じゃないわ。自分の身くらい、自分で守るわよ』

武闘家『…私も、強くなりたい。魔法使いちゃんみたく、強くなりたい』

魔法使い『そう。応援するわよ』

武闘家『強くなるのに、どれくらいかかるかわからないけど……』

魔法使い『……大丈夫よ』ポン


――あんたが強くなるまで、私が守るから

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/06/30(木) 21:06:30.03 ID:sm7FpiKv0
>そして今現在


武闘家「どっせえええぇぇい!!」バキイイィィッ

魔物達「「ギャース!!」」

盗賊「凄いです! 魔物を蹴り殺し、更にその死体で魔物達が将棋倒しに!」

魔法使い(強くなりすぎよ!!)


そう、宣言通り強くなった。…肉体の力だけで男を凌駕する程に。


勇者「凄いな武闘家。その小さな体で、そんなパワーが出るなんて」

武闘家「筋肉があれば、できないことなんてないんだよ!」ムキッ

勇者「おおぉ、固いな~。でも、柔らかいところは柔らかいんだな」サワサワ

魔法使い(うぐぐぐぐ、男がその子の体に触るんじゃないわよ!!)ギロリ


非常に面白くない。武闘家本人が触らせているとはいえ。


武闘家「ふぅ、汗びしょびしょ~」ペロッ

魔法使い「!! ちょっと、武闘家!! 何、服をめくってるのよ!!」

武闘家「だってー、こうした方が背中拭きやすいんだもん。それに、出したのもお腹だけだよ?」

魔法使い「いやお腹だけでも…あーもう、こっち向きなさい! タオル貸して!」

武闘家「? …ひゃんっ、あはは、くすぐったい~」

魔法使い「じっとする! もう、ほんとあんたは無頓着なんだから…」フキフキ

武闘家「いつもありがとー、魔法使いちゃん。ごめんね、世話の焼ける友達で」

魔法使い「別に…ヤじゃないし。世話、焼けなくなる方が寂しいし……」ボソボソ

武闘家「ん? ごめんね、聞き取れなかった。何て言ったの?」

魔法使い「何でもないわ! それより汗拭いたから、行くわよ!」

武闘家「はーい」

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/06/30(木) 21:07:05.67 ID:sm7FpiKv0
>宿屋


魔法使い「……はぁ」

魔法使い(武闘家の体…ちょっと固いけど、でもやっぱり女の子だった)


まだ感触が手に残る。思い出しては、ため息。


魔法使い(武闘家は私に無防備……。女の子同士だから。……"そういう対象"じゃないから)


勿論、それが普通のこと。変なのは、私の方だ。


魔法使い(勇者に…いや、どんな男にも、武闘家を触らせたくない)


いつ頃からかはわからないけど、武闘家は私にとって"友達"で収まる存在じゃなくなっていた。
ちょっとおバカで、ドジで、だけど元気で可愛くて、懷っこくて――そんなところが愛おしくて、守ってあげたくなる。彼女はそんな子。


魔法使い「……はぁ」

武闘家「たっだいまー♪ いいお風呂だったよー!」バァン

魔法使い「わわっ! お、お帰り!」

武闘家「どうしたの、慌てて? あ、あのね、盗賊ちゃんボインボインなんだよ!」

魔法使い「ふ、ふーん」

武闘家「魔法使いちゃんも一緒に入れば良かったのに~」

魔法使い「いえ、私は…同性でも、裸を見られるのに抵抗あるから。後で入る」

武闘家「そうだったね。細くてスタイルいいのに勿体無~い」


言った理由は嘘。本当は、私は変態だから。


魔法使い(美少女達と一緒にお風呂とか…刺激が強すぎるのよ!)ドキドキ

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/06/30(木) 21:07:32.95 ID:sm7FpiKv0
今日はここまで。

本編に上手く入れることができなかったので、女の子4人の容姿を簡単に紹介します。

魔法使い→背が高くて大人びている。Dカップ。
武闘家→チビでやや筋肉質。Aカップ。
僧侶→清楚系、肌が白い。Cカップ。
盗賊→童顔、健康的な褐色肌。Fカップ。

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/01(金) 19:09:18.31 ID:5MZvt89P0
>ある日


魔法使い「よし、移動魔法を習得したわ!」

僧侶「お疲れ様です。これで、旅が大分楽になりますね」

勇者「あ、じゃあ城下町に戻れないかな?」

魔法使い「いいけど…何か忘れ物でもした?」

勇者「いやぁ…姫様と文通してはいるけど、そろそろ顔を見せないと寂しいかなと思ってね」フッ

魔法使い(いつの間に、そんな仲に…てか、流石タラシ男はマメね)


旅を始めてから約1週間。私の勇者への不信感はぐんぐん上がっていた。


僧侶「勇者様…もうっ」プイッ

勇者「そんな顔するなよ…可愛すぎて困るよ」

魔法使い(お堅い聖職者を1週間で落とすって、どんなテクニックよ!? ていうか落とされてるんじゃないわよ僧侶!!)

武闘家「姫様の好感度上げとかないとねー」

勇者「武闘家…妬いてくれないんだね、ちょっと寂しいよ」ポン

魔法使い(てめええぇ、沢山の女に触れたその汚れた手で!! 武闘家に触るんじゃねぇわよ!!)ゴゴゴゴ

勇者「魔法使い、移動魔法を頼む」

魔法使い「言われなくてもわかってるわ!!」

勇者「……何で俺、怒られたの?」

武闘家「んー、勇者が嫌われてるからだと思う!」

勇者「ははっ、魔法使いは相変わらずだなぁ。でも、それでこそ落としがいがあるよね♪」

魔法使い「うっさい! きもい!」

<ワーワー

盗賊「……」

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/01(金) 19:09:49.07 ID:5MZvt89P0
>城下町


僧侶「私は礼拝堂にいます。最近、ゆっくりお祈り出来ていなかったので…」

魔法使い「私はどうするかなー」

武闘家「ね、ね、魔法使いちゃん! ケーキのビュッフェ行こっ、可愛いお店があるんだ~」

魔法使い「あんた、そういうの好きよねぇ。いいわよ」

武闘家「やったぁ♪ あ、盗賊ちゃんも行こうよ!」

盗賊「……え?」

魔法使い「ん…もしかして、気が乗らない感じ?」

盗賊「あ、えーと…ボク、ダイエット中なのです」

武闘家「そっかー、残念だなぁ。けど、女の子にとって体型維持は大事だもんね!」

魔法使い「毎日三杯飯のアンタが言ってもね……」

武闘家「良質な筋肉を作る為には沢山食べなきゃ駄目なんだよ! 消費カロリー以上食べてプロテイン飲んで……」

魔法使い「筋肉の話はいいわ。じゃあ盗賊、また後でね」

盗賊「はいです……」

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/01(金) 19:10:21.28 ID:5MZvt89P0
>1時間後


武闘家「はぁ~、食べた食べた~」

魔法使い「凄まじい食べっぷりだったわね。お店潰れなきゃいいけど……」

武闘家「え、潰れるの!? 大変!! 筋トレ仲間にお店を宣伝して、お客さん増やそう!」

魔法使い「その連中も沢山食べるんでしょ、トドメ刺す気か!」

武闘家「追々考えるとして…ねぇ、食後の散歩に"天使の庭園"行こうよ!」

魔法使い「天使の庭園…? …あ、聞いたことはあるような……」

武闘家「城の一流庭師が創り上げた庭園らしいよ~。とてもロマンチックで、定番デートスポットらしいんだ~」エヘヘ

魔法使い「相変わらず乙女趣味ねぇ。けど私も興味あるわ、行きましょう」

武闘家「うん! へへっ、魔法使いちゃんとデートぉ♪」ギュッ

魔法使い「ちょっ」

魔法使い(女同士でよくあるじゃれあいだけど…あんたにやられると、冗談じゃ済まないのよ)ドキドキ

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/01(金) 19:11:21.43 ID:5MZvt89P0
>天使の庭園


魔法使い「へぇ~…綺麗ねぇ」


途端、視界に広がる優美な庭に目を奪われる。
丹念に刈り揃えられた緑の道と、それを彩る鮮やかな花々。舞踏会の娘達のように咲き誇る姿が、煌めいて可愛らしい。
天使をかたどる白い噴水は、水飛沫に輝き涼しげな音を奏でていた。


魔法使い「流石、天使の庭園って感じ。ね、武闘……」

武闘家「わぁーい!」タッタッタ

魔法使い「あら、ランニング?」

武闘家「あのね、全身で庭園の空気を感じているの!」

魔法使い「? 空気なんて、そこにいるだけで感じられるでしょ……」

武闘家「勢いつけて走った方が、強く感じられるんだよー」

魔法使い「よくわからないわね」

武闘家「えっとねー…えいっ!」ムギュッ

魔法使い「!!?!?」

武闘家「ねっ? 勢いよく抱きついた方が、私のこと強く感じられるでしょ?」

魔法使い(武闘家とくっついてる武闘家とくっついてる武闘家とくっついてる武闘家とくっついてる武闘家とくっついてる武闘家とくっついてる武闘家とくっついてる)

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/01(金) 19:11:57.13 ID:5MZvt89P0
魔法使い「ちょ、は、離れなさい! 人に見られたらどうするの!」アタフタ

武闘家「あ……そうだね。ここ最近、法律も厳しくなってきたもんね」パッ

魔法使い「……」


あっさり離れてくれて良かったのだけれど、ちょっと残念。
だけど冗談じゃなく、人に見られたらマズイ。


魔法使い「同性愛者への最も重い罰は…鞭打ちだったわね」

武闘家「この前も、同性のカップルが捕まったよね…可哀想」


国々は人口減少への対策に追われ、一夫多妻制を導入しただけではなく、同性愛の厳罰化を決定した。


魔法使い「厳罰化したからって、同性愛者が異性を好きになるわけじゃないのにね」

武闘家「好きじゃなくても子供を作れってことでしょ? 何か…そういうの、やだよね……」

魔法使い「……そうね」

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/01(金) 19:12:26.58 ID:5MZvt89P0
権力者には男が多い。この法律を作ったのも男。
男なんてのは女を性欲の対象か、子供を産む道具にしか思っていない。だから、男は嫌い。


魔法使い(……だけど)

武闘家「あ、オシャレなベンチがある! ね、座ろうよ!」


例え、そんな法律が無かったとしても――


武闘家「久しぶりだよね、魔法使いちゃんと2人きりは!」

魔法使い「そうね。旅を始めてからは、仲間の誰かがいたものね」

武闘家「皆いい人だから好きだけど…でも、やっぱり魔法使いちゃんと一緒だから幸せ」ヘヘ

魔法使い「……羨ましいわ、あんたのそういう性分」

武闘家「え?」


私はきっと、武闘家に想いを伝えられない。


魔法使い「幼いとこよ。いつになったら手がかからなくなるのかしら~?」

武闘家「えぇー。見捨てないでよ、魔法使いちゃーん」ギュゥ

魔法使い「あーもうっ、わかったから離れなさいよ!」


武闘家はさっき、勢いよく抱きついた方が"彼女"を感じられると言ったが――私にとっては、逆。
昔からの距離感。友達という距離感。その変わらない距離感で一緒にいる方が、彼女を強く感じていられる。
その距離を詰める必要なんてない。だって私の気持ちは、秘めていなければならないもので――


魔法使い(いつか…離れちゃうんだろうな)

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/01(金) 19:13:09.22 ID:5MZvt89P0
<わいわい


魔法使い「ん…誰か来る? ……まぁそうよね、定番デートスポットだもんね」

武闘家「ねぇ…聞いたことある声だと思わない?」

魔法使い「え?」



勇者「それでですね……」

姫「まぁ」フフフ



武闘家「あ、ほら。勇者と姫様だ」

魔法使い「こっちには気付いてないわね。邪魔しちゃ悪いし、そろそろ引き上げる?」

武闘家「そうだね。楽しかったねー♪」

魔法使い「えぇ……」

<ふぅ……

魔法使い「……ん?」


盗賊「……はぁ」

武闘家「盗賊ちゃん? どうしたの、そんなとこに隠れて」

盗賊「わわっ! 魔法使いちゃんに武闘家ちゃん……」

魔法使い(私達に気付いてなかった? …それに、盗賊が見てたのは……)



勇者「…ですよね」

姫「えぇ、そうですね」



武闘家「もしかして、盗賊ちゃん。あの2人を見てたの?」

盗賊「……」

魔法使い「…話は後よ。とりあえず、ここを去りましょう」

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/01(金) 19:14:01.61 ID:5MZvt89P0
>宿屋


盗賊「恥ずかしい姿をお見せしました……」

武闘家「ううん、一途でいいと思うよ。ね、魔法使いちゃん」

魔法使い(どいつもこいつも、あのタラシに引っかかりやがって……)ゴゴゴ

盗賊「いいと思っているようには見えんのです……」ブルブル

武闘家「けど盗賊ちゃん、2人を見てて辛そうだったね。どうしたの?」

盗賊「それは……。お恥ずかしい話ですが……」

武闘家「うん」

盗賊「……姫様って、綺麗で、品があって、教養があって…だから、自分が惨めで」

武闘家「うん?」

盗賊「ボクは…卑しい身分に生まれ、底辺で育ってきたです。言葉を覚えるのも遅くて、今でも言語に自信ないです」

武闘家「そう? 気にしたことないけど……」

盗賊「ボクは気にしてるです。…同じ人間で、同じ女なのに、ボクと姫様は何もかもが違いすぎる」

魔法使い(……相手はあの姫様だものね)


容姿、頭脳、品格――全てに秀でている、正に「高嶺の花」。
盗賊じゃなくたって、あの姫様と並べる女性なんてそうそういない。


魔法使い(まーでも、勇者は可愛い女なら受け入れる感じだし)

魔法使い「気にしない、気にしない。盗賊には盗賊のいい所が、沢山あるわよ」

武闘家「そうそう! それに、魔王を倒したら盗賊ちゃんは"英雄"だよ! ほら、姫様と並べるよ!」

盗賊「2人とも……」

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/01(金) 19:14:32.28 ID:5MZvt89P0
盗賊「へへ…ありがとうです、ボクはいい仲間を持ったです」ギュッ

武闘家「当たり前だよ。だって私達、盗賊ちゃんのこと大好きだから!」ナデナデ

盗賊「ありがとう、武闘家ちゃん…魔法使いちゃんも!」

魔法使い(くぅ…大きな胸が押し付けられて、なんかやばいわ)ドキドキ

僧侶「只今戻りました…あら?」

盗賊「あ、僧侶ちゃん! お帰りなさいです!」

僧侶「私のいない間に仲を深められたようで…少し妬けますね」

盗賊「僧侶ちゃんも大好きなのです!」ギュー

僧侶「あらあら…私も好きですよ、盗賊さん」

魔法使い(勇者に落とされた女の子同士で友情を確かめ合っている……)


仲が良いのはいいのだけれど、それでも非常に面白くない事態だった。

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/02(土) 17:24:29.26 ID:5HfrqQBu0
それから勇者は、3日に1回くらいの割合で城下町に戻った。


魔法使い「今日もアイツはデート!! いい加減にしろっつーの!!」

武闘家「姫様に相当入れ込んでるよね~」

魔法使い「バッカじゃないの、魔王を討伐してこその勇者でしょーがっ!!」

僧侶「まぁ、猶予はあると思いますよ。最近世代交代した魔王は、先代より比較的穏健派ですし」

魔法使い「そうなの? でも、まだあちらこちらで火花が散ってる状態よね?」

僧侶「魔王にも色々なしがらみがあるのですよ」

武闘家「僧侶ちゃん詳しいよねー。旅も僧侶ちゃんのプランに従って進んでるからか、今のとこ順調だしね!」

魔法使い「そうね。頼りにしてるわ」

僧侶「恐縮です」

魔法使い「そうだ…詳しいついでに聞きたいんだけど、『魔王が進めている恐ろしい研究』って何だか知らない?」

僧侶「あぁ…一部の権力者の間でのみ広まっている、あの話ですね」

魔法使い「何か研究しているのは聞いたけど、肝心の内容がわからないのよね。僧侶は知らない?」

僧侶「……はっきりはわかりませんが、どうやら『生物の常識を覆し、人間社会に悪影響を与える』ものらしいですよ」

魔法使い「随分とぼんやりしてるけど…阻止しなきゃいけないものだってことだけはわかったわ」

僧侶「…そうですね」

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/02(土) 17:25:06.83 ID:5HfrqQBu0
盗賊「ただいまです……」フゥ

魔法使い「あら、お帰り。デートの尾行は終わったの?」

盗賊「ハイです。姫様、お忍びに町娘の格好をしていたけど…それでも気品に溢れていたです」フゥ

魔法使い「あの姫様だもんね~。あれ程の女性は稀だから、気落ちする必要ないわよ」

魔法使い(あれ程の人が勇者と結婚するなんて…あぁ勿体無い)


勇者「たっだいま~♪」

魔法使い「ここ女子部屋。男は入ってくるな、シッシッ」

勇者「魔法使いは相変わらずつれないなぁ。姫様からのお土産だよ、手作りクロワッサンだってさ」

武闘家「わぁ~い♪ 姫様ってパンまで焼けるんだ~♪」モグモグ

盗賊「あの方は、何でもできるです…」ハァ

僧侶「……」プイ

勇者「何だよ僧侶~。あ、妬いてるんだろ?」

僧侶「妬いてません。どうぞお好きになさって下さい」ツーン

勇者「本当、僧侶は可愛いなぁ…ますます妬かせてやりたくなるよ」

僧侶「性格悪いですね」

勇者「可愛い女の子には意地悪したくなるものさ…心配しなくても、俺は僧侶のことだって……」サワッ

僧侶「ストップ」

勇者「?」

僧侶「婚前に、度が過ぎたスキンシップはしない主義なんです。いくら勇者様相手でもね」

勇者「…あぁ、そうだったね。ゴメンゴメン」チッ

魔法使い(うわ舌打ち聞こえた)「よそでやれ、よそで!! つか出てけ!!」

勇者「わぁ。じゃあ皆、明日からも頑張ろう♪」

武闘家「うん!」モグモグ

僧侶「フン」

盗賊「……ハァ~」

魔法使い(何であんな最低男を許容できるのよ…私がおかしいの!?)グヌヌ

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/02(土) 17:25:39.87 ID:5HfrqQBu0
それでもとりあえず、魔王城には着実に近づいていった。


魔法使い「うーん…」

僧侶「どうしました?」

魔法使い「いや。何か、魔物達の攻撃がヌルくない? 魔王城に近づいてるんだから、もっと刺客を送ってきてもおかしくないと思うんだけど……」

勇者「俺に恐怖してるんだろ」フッ

僧侶「以前も言いましたが、魔王は比較的穏健派ですから。気にしなくていいと思いますよ」

魔法使い「うーん…」

魔法使い(いくら穏健派でも、敵を放置するなんて有り得るの…? それとも何か企んで……)

武闘家「ねぇねぇー!」

魔法使い「うん? どうしたの、武闘家」

武闘家「何と! 遂に、腹筋が6パックに割れました~♪」バッ

魔法使い「こらーっ、お腹を出して見せるな!!」

勇者「おぉ、見事な筋肉だ」サワサワ

魔法使い「女の子のお腹を気安く触ってんじゃないわよ!!」

勇者「武闘家…実は、俺の筋肉も凄いんだぞ。見てみたいか?」

武闘家「ホント!? 見たい見たーい!」

勇者「それじゃ今晩、俺の部屋に……」

魔法使い「断固阻止する!! 武闘家、こっち来なさい!!」


魔法使い「あんたね、もうちょっと警戒心ってもんをね…」クドクド

武闘家「えー、でもー」


勇者「……厄介な女」

勇者「こうなりゃ、順序を変えるか……」

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/02(土) 17:26:06.72 ID:5HfrqQBu0
>夜


武闘家「それじゃ、お風呂入ってくるね~」

魔法使い「行ってらっしゃい」

魔法使い(さて…魔術書でも読むか。と言っても、もうほとんどの魔法は覚えちゃったわけだけど……)

<トントン

魔法使い「はーい?」

勇者「やぁ、こんばんは」ガチャ

魔法使い「…何。皆なら、お風呂に行ったけど」

勇者「知ってる。魔法使いに用があって来たからさ」

魔法使い「私に? 何よ、さっさと言いなさい」

勇者「…はぁ。魔法使いは本っ…当~に俺のことが嫌いみたいだね」

魔法使い「嫌いよ、大嫌い」

勇者「ふふ…そのツンケンしたところが可愛くもあるんだけどね」

魔法使い「そういう軟派な所が嫌われてるんだって自覚はあるかしら?」

勇者「魔法使いは固いよなぁ。でも今のご時世、男は沢山の女を口説いてナンボだよ?」

魔法使い「そうね。だから私、今のご時世の男は大嫌いなの」

勇者「流石に凹むよ」スタスタ

魔法使い「!!」ビク

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/02(土) 17:26:40.24 ID:5HfrqQBu0
勇者「どうかした、魔法使い?」

魔法使い「べ、別に…ってか、こっち来ないでよね!」

勇者「どうして? …まさか、魔法使いって……」クスクス

魔法使い「な、何よ」

勇者「男が怖いのかな?」

魔法使い「!!」


男は嫌い。嫌いだけど――


魔法使い「あ、あんたなんか怖いもんですか! 変なこと言わないで!」

勇者「へぇ。じゃあ何で、そんなに緊張しているのかな?」

魔法使い「嫌いだからよ、男なんて――女のこと、性欲の対象にしか見てない生き物は!」

勇者「それが怖いってことじゃないの?」

魔法使い「……っ!」

勇者「やっぱり。怖いんでしょ、性的な目で見られるのが」ククッ

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/02(土) 17:27:52.60 ID:5HfrqQBu0
魔法使い「そ、そこまで自意識過剰じゃないわよ!」

勇者「へぇ、そう? 俺は、魔法使いのことそういう風に見てるよ?」クスッ

魔法使い「…っ!!?」

勇者「美人だし、スタイルもいいし…ツンケンしたとこも、男が怖いからだと思えば可愛く見えるよ」

魔法使い「や、やめて……」


そんなこと言わないで。私を、そんな目で見ないで――


勇者「魔法使いは、男を知らなすぎるんだよ。ちゃんと愛されてみれば、男が好きになると思うよ…?」

魔法使い「ぅ…やだ……」


クラクラする。勇者が一歩一歩近づいてくる度に、体が硬直していって……。


勇者「そういうお嬢さんは案外、荒療治でコロッと変わったりするんだよね……」スッ

魔法使い「!!!」


勇者に触れられた途端、全身に鳥肌が立った。


魔法使い「ゃ、やだ……」ガタガタ

勇者「大丈夫…俺は魔法使いのこと、ちゃんと愛するよ……」

魔法使い「――っ!!」

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/02(土) 17:28:19.30 ID:5HfrqQBu0
バァン


武闘家「魔法使いちゃーん!」

魔法使い「!!」

勇者「ぶ、武闘家……」

武闘家「魔法使いちゃん、お風呂におサルが来たよ!」グイッ

魔法使い「あっ!?」

武闘家「早く来て、ねぇねぇ!」

バタバタ…

勇者「………ちっ」

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/02(土) 17:28:53.29 ID:5HfrqQBu0
魔法使い「……」

武闘家「田舎って凄いよね~。あ、でも餌付けするのは駄目みたいだよ。あとね……」

魔法使い「…武闘家」

武闘家「え、何? ……って」


急に全身の力が抜けて、私は武闘家にもたれかかった。
だけど彼女は嫌がらずに、背中をさすってくれた。


武闘家「よしよし、怖かったね~」

魔法使い「……ぐすっ」

武闘家「もう、あんなことないようにするからね。私が守るから」

魔法使い「グス…変なの。あんたが私を守るなんて……」

武闘家「あはは、そうだね。小さい頃からずっと、魔法使いちゃんが私を守ってくれてたもんね」

魔法使い「ほんとよ…。あんたって幼いし、すぐ泣くし……」

武闘家「でも私、そんな自分を変えたくて体を鍛えてきたんだよ。だから今度は、私が魔法使いちゃんを守る番」

魔法使い「……やだ」

武闘家「何で!?」ガーン

魔法使い「そんなの生意気。私だって、あんたのこと守るし……」

武闘家「えー。私の方が強いよー?」

魔法使い「それでもよ! 私は、守られるだけなんてイヤ!」

武闘家「……くすっ」

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/02(土) 17:29:27.12 ID:5HfrqQBu0
武闘家「嬉しいよ、魔法使いちゃん。…うん、そうだね。私も、まだまだ頼りないもんね」

魔法使い「そうよ。あんたってば今でも1人で行動できないし、道には迷うし、脳筋だし……」

武闘家「あ、あははー。ほんと世話の焼ける友達だよねー」

魔法使い「別に、いいわよ。世話の焼けるあんたで」

武闘家「ほんとに? 欠点なのに?」

魔法使い「何を今更。…私がカバーするだけだし」

武闘家「ありがとうっ! 魔法使いちゃん、大好きっ!」ギュッ

魔法使い「っ!!」


大好き。きっと私の思う"好き"とは違う。
違うけど――


魔法使い「……ありがとう」

武闘家「? 何に対してのお礼?」

魔法使い「別に……何となく」

武闘家「あはは、何それー。変な魔法使いちゃん」

魔法使い「あんたに変だなんて言われたくない」

武闘家「もー、ひどいなー」アハハ



――ありがとう。私と一緒にいてくれて。

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/02(土) 17:29:59.19 ID:5HfrqQBu0
僧侶「あの、そろそろいいでしょうか」

盗賊「うー。友情が眩しいです」

魔法使い「わわっ、2人とも!?」

僧侶「言っておきますが、武闘家さんに忠告したのは私ですよ。勇者様の行動が怪しい、と……」

魔法使い「そ、そうだったの。ありがとう…って、何で?」

盗賊「男の人を苦手としてる魔法使いちゃんに、下心を持った勇者君が近づこうとしている。これは由々しき事態なのです」

僧侶「そういうことです。……まぁ、私としても勇者様の関心が他の女性に向くのは好ましくありませんし」

盗賊「僧侶ちゃんは素直じゃないのです。魔法使いちゃんのこと本当に心配してたのに」

僧侶「……そんなことありません」プイ

魔法使い「盗賊、僧侶……」

僧侶「……何ですか?」

魔法使い「2人とも、男の趣味は悪いけど……何て、いい子達なのっ!!」ギュッ

盗賊「えっ?」

僧侶「っ!」

魔法使い「こんな私のこと心配してくれるなんて、嬉しくて嬉しくて……」

僧侶「そ、それは…仲間、ですし……」

盗賊「そうなのです。それにボク達、魔法使いちゃんのこと好きですよ」

武闘家「うぅー、いいなぁ。私なんか魔法使いちゃんからギュッとして貰ったことないのにー」

僧侶「ま、まぁ…。とにかく、魔法使いさんはしばらく単独行動をやめましょう」

盗賊「と、いうことで~…一緒にお風呂入るのです!」

魔法使い「え、ええぇーっ!?」

武闘家「行こう行こう!」

僧侶「裸の付き合いも大事ですよ」

盗賊「絶対に逃がさないです~♪」

魔法使い(ちょっ……普通にヤバいってー!!)


その後、風呂場で煙幕魔法を使うという手段でとりあえず乗り切った。


41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/03(日) 19:32:38.45 ID:pUUG/5wW0
>後日


勇者「……そうして手に入れたのが、この"戦女神の剣"というわけです」

姫「まぁ、流石勇者様ですわ」フフフ


魔法使い「話を盛ってるわー。あれは盗賊の探索能力のお陰だったじゃない」

武闘家「それにしてもびっくりだね。まさか、私達がお茶してるカフェにデートで来るなんてね」

魔法使い「何で入口側の席に座ってるのよ…。店を出ようにも、あの位置からじゃ気付かれるじゃない」ハァ

武闘家「気付かれたら、何か気まずいもんねー…あ、立ち上がったよ。お店を出るみたい」

魔法使い「そうね。じゃあ私達も出ましょう」

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/03(日) 19:33:08.28 ID:pUUG/5wW0
盗賊「…はぁ~」

魔法使い「盗賊、相変わらずストーキングしてるの?」

盗賊「うぅ…姫様は本当に素敵です……」

武闘家「ん、勇者と姫様が……」



姫「では今日は、これで失礼しますわ」

勇者「おや…もう一件、行きたい所があったのですが……」

姫「少し用事がありまして…。それに、勇者様の旅も終盤でしょう? あまり、時間を取らせるわけにはいきませんわ」

勇者「姫様…俺にとって、貴方と過ごす時よりも大切な時間はありません」

姫「そんなことを言ってはいけませんわ。貴方は世界の希望を背負った勇者様なのですから」

勇者「そんな、俺は……」

姫「では勇者様、ご機嫌よう。城はすぐそこなので、1人で帰りますわ」ニコ



武闘家「うーん、流石姫様。ガードが固いねぇ~」

魔法使い「あーあ。姫様、もっとガツンと言って下さって構わないのに」

盗賊「勇者君と姫様、くっついちゃうんでしょうか……」

魔法使い「そうなんじゃない? でも、勇者は女好きだし、盗賊も第二第三夫人なら……」

姫「ねぇ」ニコニコ

魔法使い「!!?」ビクッ

武闘家「わぁ!?」

盗賊「ひ、ひひひひ姫様!?」

姫「ふふ、ご機嫌よう。勇者様のお仲間様」

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/03(日) 19:33:35.43 ID:pUUG/5wW0
盗賊「ご、ごごごご機嫌麗しゅう……」ガチガチ

魔法使い「き、奇遇ですねぇ~」

武闘家(うわぁ…近くで見ると、本当に綺麗)

姫「ねぇ…貴方」

盗賊「ボ、ボク!? は、はいです!!」

姫「貴方…私と勇者様の逢瀬、たびたび見ていらっしゃったわね?」

盗賊「!!!」

魔法使い(あちゃー…気付かれていたか)

武闘家(姫様、意外と勘がいいんだなぁ)

盗賊「そ、そ、それは……」

姫「ふふっ…言い訳しなくていいのですよ。ねぇ、盗賊様…でしたわね?」

盗賊「そ、そんな、呼び捨てでいいです! 敬語も必要ありません!!」ブンブン

姫「では、盗賊…少し、2人きりで話しましょう?」

盗賊「!!!」

魔法使い(まさか……私刑!?)

武闘家(大変だあぁーっ!!)

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/03(日) 19:34:03.40 ID:pUUG/5wW0



僧侶「で、盗賊さんは姫様と、この庭園に入って行かれたと」

魔法使い「万が一盗賊がひどい目に遭いそうになったら、助けなきゃ!」

武闘家「あ……2人がいたよ!!」



姫「私と勇者様でここを歩いていた時からずっと、陰で見ていたわね……?」

盗賊「は、はい、です……」

姫「うふふ。どうしてそんなに緊張しているの?」

盗賊「だ、だって……」



魔法使い「怯えてるのかしら…あんなに緊張して」

武闘家「そんなに怖いかなぁ?」

魔法使い「そりゃそうでしょ。威厳というか、オーラが違うわ」

僧侶「うーん……」

魔法使い「どうしたの、僧侶?」

僧侶「怯え、にしては…何か、様子がおかしいような……」

魔法使い「え?」



姫「勇者様から聞いていた感じと違うわね。盗賊は明るくて純朴な女の子、って聞いたけど」

盗賊「あ、ううぅ。だ、だって……」モジモジ

姫「私が相手だから?」

盗賊「!!!」

姫「ふふ、わかっているわ――」スッ


そして姫様は、盗賊の頬にそっと触れ――


姫「貴方――私のこと、好きなのでしょう?」


魔法使い「え?」

武闘家「え?」

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/03(日) 19:34:32.89 ID:pUUG/5wW0
盗賊「そ、そそそそれは……」

姫「気付いていたわ…貴方が私に送ってくる熱い視線に。どうなのかしら?」

盗賊「……はい、です」コクリ

姫「ふふ、やっぱり……」

盗賊「み、見てるだけで良かったのです! 同性愛は禁止されているし、それに……」

姫「それに?]


盗賊「……ボクみたいに卑しい身分の者は……姫様に近づくことすら、おこがましいから……」

姫「そんなことないわ」ギュッ

盗賊「!!! ひ、姫様――」

姫「盗賊……貴方、可愛い」

盗賊「っ!?!!?」

姫「可愛い。そうやって弱気になっちゃうところも、一途なところも――」ナデナデ

盗賊「ぁ……ひ、姫様、そこは……っ」

姫「ふふ、ひと目見た時から、貴方が欲しいって思っていたの。そう簡単には、離さないわ……」

盗賊「ひ、姫、さまぁ……」



魔法使い「……退散」

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/03(日) 19:35:02.76 ID:pUUG/5wW0
僧侶「見てはいけないものを見てしまいましたね……」

武闘家「凄かったねー」

魔法使い「……」ドキドキ

魔法使い(まさか盗賊の尾行の目当てが姫様の方だったなんて……。でも、今思い返せば……)


盗賊『……姫様って、綺麗で、品があって、教養があって…だから、自分が惨めで』

盗賊『ボクは気にしてるです。…同じ人間で、同じ女なのに、ボクと姫様は何もかもが違いすぎる』


魔法使い(……うん。姫様と自分が釣り合わないと思っての発言ね)

僧侶「それにしても、どうしましょうね…。このまま黙認しているのも……」

魔法使い「まさか僧侶……通報する気!?」

武闘家「駄目! それは駄目だよ!」

僧侶「武闘家さん……?」

47 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/03(日) 19:35:36.66 ID:pUUG/5wW0
武闘家「2人の仲を無理矢理引き裂くなんて、そんなの駄目! 可哀想だよ!」

僧侶「だけれど…私達が黙認していたとしても、2人は結ばれることが許されぬ仲…」

魔法使い(そう、同性愛は御法度。だからこそ盗賊も苦しんで……)

武闘家「社会が許さなくても、私が認めるもん!」

魔法使い「……え?」

武闘家「今の法律の方が間違ってるよ…だから私、法律を変える! 魔王を倒して、偉い人になって……何年かかるかわからないけど、そんなことで罰せられることのない世の中にしてみせるよ!」

魔法使い(武闘家……)

僧侶「……まぁ、通報しては十中八九、盗賊さんが重い罰を受けます。私としても、それは避けたい事態です」

魔法使い「そうね。とりあえず黙認して…他の人にバレないようにしないとね」

武闘家「魔法使いちゃん、僧侶ちゃん…わかってくれるの?」

魔法使い「そりゃ、ね。私も今の法律が間違ってると思うし……」

武闘家「……へへっ」

魔法使い「な、何よ? 人の顔をジッと見て」

武闘家「嬉しいなぁ~って。魔法使いちゃん、私と同じだね~♪」

魔法使い「何で嬉しいのよ。変な子ね」

僧侶「……」

48 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/03(日) 19:36:06.09 ID:pUUG/5wW0
>その晩


盗賊「姫様…あぁ姫様」ポー

僧侶「……くれぐれも、ボロは出さないようにして下さいね?」


魔法使い「ちょっと、勇者」

勇者「うん、何だい魔法使い」

魔法使い「旅も終盤、気を引き締めないといけないわ。だから魔王を倒すまで、城下町に戻るのはナシよ」

武闘家「そうそう。今まで息抜きしすぎだったと思うよ」

勇者「うーん…。あ! じゃあ魔法使い、しばらく君が姫様の代わりを務めるというのは」

魔法使い「死ね」ギロ

勇者「死ねはないだろ……」

武闘家「魔法使いちゃーん、行こう行こう~」

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/03(日) 19:36:37.21 ID:pUUG/5wW0
魔法使い「これでいいわ。城下町に戻れば盗賊と姫様が会ってボロを出すこともないだろうし……」

武闘家「うん。少なくとも、魔王を倒すまでの間は誤魔化せるね」

魔法使い「折角姫様と通じ合えたところで盗賊には気の毒だけど……あ、見て武闘家」

武闘家「ん、何……わぁ、綺麗な星空だねぇ~!!」

魔法使い「えぇ。久々に見たわ、こんな満天の星は」

武闘家「魔法使いちゃん…あのね、星占いによるとね、盗賊ちゃんと姫様の相性はバツグンなんだよ」

魔法使い「そう。2人とも幸せになれるといいわね」

武闘家「そうだね! こういう星空の下を、2人で堂々とデートできるようになれるといいよね!」

魔法使い(本当そうね……っていうか)


星空の下を、2人でデート……それは、今の私と武闘家じゃないか。


魔法使い(…なんて、バカよね。盗賊達とは違うんだから、デートにならないって)

武闘家「……ねぇ、魔法使いちゃん」

魔法使い「ん?」

武闘家「あれ……僧侶ちゃんと勇者じゃない?」

魔法使い「本当だ…あんなところで、コソコソ何やってるのかしら」

50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/03(日) 19:37:03.74 ID:pUUG/5wW0
僧侶「……困ります」

勇者「そんなこと言わないで。僧侶だって俺のこと、好きだろう?」

僧侶「それとこれとは、話が別です……」

勇者「姫様との逢瀬を禁止されてしまった。……俺にはもう、僧侶しかいないんだよ」

僧侶「…でも……」

勇者「誰にも愛されてなかったら、俺、駄目なんだよ。こういう状態で魔王を倒せる気がしない……」

僧侶「……わかりました」

勇者「!! 本当!?」

僧侶「ですけれど…キスも婚前交渉も駄目ですよ」

勇者「えー…。それじゃ意味ないじゃん」ハァ

僧侶「……胸くらいならいいですよ」

勇者「えっ? 触ってもいいってこと?」

僧侶「えぇ…そこまでなら譲歩できます」

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/03(日) 19:37:32.14 ID:pUUG/5wW0
魔法使い「何あいつ!! 最低、燃やしてやるわ!!」

武闘家「ストップ、ストップ! 魔法使いちゃん、押さえて!」

魔法使い「止めないで武闘家! 僧侶にそんなことさせられないわよ!!」

武闘家「でも、僧侶ちゃんは勇者のこと好きなんだよね?」

魔法使い「……そうみたいね」

武闘家「それに僧侶ちゃんは、イヤなことはハッキリ断れる子だよ。勇者の誘い方が気に入らないのはわかるけどさ……」

魔法使い「……わかった、見逃す。合意の上なら仕方ないわね」

武闘家「うん。見つからない内に行こう」

魔法使い(それにしても……)


勇者「僧侶…君の肌は綺麗だね。純潔を守る君らしい白さだ……」

僧侶「ん……っ」


魔法使い(僧侶…ほんとに、何で勇者なんかに惚れたの?)

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/03(日) 19:38:11.58 ID:pUUG/5wW0
その日からは、魔王城に一直線だった。


武闘家「どりゃっ、せええぇぇいっ!!」バキィ

魔法使い「巨神兵の鎧をブチ破る程になったわ…。恐ろしい子」

武闘家「筋肉に、できないことなんてないんだよ!」

勇者「あ、ははは。武闘家は凄いなぁ~」

魔法使い(恐れてる恐れてる)


勇者は武闘家や、彼女と常に一緒にいる私にチョッカイをかけてくることはなくなった。


盗賊「隠し通路を見つけたです! これで、魔王城まで大分近道になるですよ!」


盗賊の様子に変わりはない。内心は姫様に会えなくて寂しがっているだろうけど、それを表に出すことはない。


勇者「僧侶…ちょっといいかな?」

僧侶「……はい」

魔法使い(またやってるわ……)


僧侶と勇者は、奇妙な関係を続けている。覗き見ているわけでないので、何をしているかは知らないけど……。


魔法使い「今日もお疲れー。あぁ疲れた」ドサッ

武闘家「魔法使いちゃん、一緒に寝るー?」ドサッ

魔法使い「バッ…バカじゃないの!? 子供じゃないんだし、1人で寝なさい!!」

盗賊「でも、この宿のベッドは大きいのです。これは皆で寝ないと損なのです」

魔法使い「意味がわからないわ」

僧侶「皆さん、魔法使いさんを取り押さえますよ」

魔法使い「ちょっ」

武闘家「えーい♪」ギュッ

盗賊「やー! なのです!」ギュッ

僧侶「ふふっ、たまにはいいでしょう」ギュッ

魔法使い(色々とヤバいわあああぁぁ!!)ドキドキドキドキ


私達女子4人は、仲良くやっていた。

55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/07/03(日) 20:23:23.91 ID:5fhWv8E1O
このNTRはむしろGJ

57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/04(月) 12:48:30.58 ID:xyEwQ5m1O
百合にもNTRにも食指は動かんがこれは認めよう

認めよう

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/04(月) 18:40:30.12 ID:6bFq7v+S0
>そんで


武闘家「遂に来たね……」

魔法使い「これが魔王城……」

盗賊「何か、ヤな気配がするです~…」

僧侶「……」

勇者「皆、緊張しちゃってんの~? 今の俺たちに敵なんかいないって~♪」

魔法使い「油断するな、足元すくわれるわよ」

勇者「魔法使いったら、本当に怖がりだね~♪ か~わ~い~い~」

魔法使い(こいつ、魔王と相打ちにならないかな)

僧侶「何が待ち受けているか、わかりませんよ」

勇者「そんな警戒しなくていいだろ、道中だって大したことなかったんだしさ」

僧侶「それなら勇者様、先頭を歩いて下さいませんか?」

勇者「任せろ。俺が君たちを守る」グッ

魔法使い「はよ行け」

勇者「おう…開け、魔王城の扉よ!!」バァン


ドガアアアァァァン


魔法使い「うわ、早速やられた」

盗賊「扉を開いたと同時に衝撃波とは、予想外なのです」

武闘家「先に行ってもらって良かったねー」

僧侶「勇者様あぁ――っ!!」

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/04(月) 18:40:59.44 ID:6bFq7v+S0
?「フ…よくぞ来た、勇者とその一行の者共よ。待ちわびていたぞ……!!」


盗賊「…! だ、誰なのです!?」

魔法使い「あの女…尋常じゃない魔力の持ち主よ!!」


?「フフフフ……何者と問うなら応えてやろう」



魔王「我が名は魔王! 魔物達を統べる王である!!」


盗賊「魔王……あの人が!?」

武闘家「結構細身だねー。私の方が力はありそう」

魔法使い「油断するんじゃないわよ武闘家。何せ、勇者を一擊で葬った奴なんだから……」


勇者「何て美しい女性だ!」

魔法使い「あ、生きてた」

勇者「魔王……不毛な戦いなんてやめにしないか? 勇者と魔王、手を取り合って…和平の為に愛し合」

魔王「死ね」ゴオオォォッ

勇者「ぎゃばー!!」

魔法使い「勇者が死んだわよー。さぁ皆、構えて構えて」

勇者「いや…生きてる」ボロボロ

魔法使い「あそう。じゃ、剣構えて」

勇者「鬼か!!」

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/04(月) 18:41:25.98 ID:6bFq7v+S0
魔法使い「まさか初っ端から魔王が出迎えてくれるとは思わなかったわ」

魔王「無駄に犠牲者を出すことは好まん。ならば、私が相手するのが良かろう」

盗賊「おぉ。部下思いの魔王なのです」

武闘家「それでも人間の敵だよ。魔王との争いで、人間達は数を減らしたんだから」

魔王「あぁ、先代は血の気が多い方だったからな…。しかし私も、歴代魔王の業を背負った身。言い逃れなどせんよ」

魔法使い「潔くて結構。穏健派と聞いて戦うことに戸惑いはあったけど、これなら思う存分戦えるわ」

武闘家「行くよ…全てを終わらせるんだ!」

盗賊「戦闘準備、オッケーなのです!」


勇者「俺が置き去りだよぅ……」

僧侶「今、回復魔法かけますから」

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/04(月) 18:41:52.40 ID:6bFq7v+S0
魔王「喰らえ、黒雷!!」バチバチッ

魔法使い「シールド!!」

魔王「ほう、私の攻撃を魔法で防げる人間がいるとはな」ニヤリ

魔法使い「防御だけじゃないわよ! 煙幕っ!」

魔王「視界を曇らせるか…しかし気配を追えば、こんなもの……」

シュッ

魔王(投げナイフ……!?)サッ

盗賊「おぉ、煙幕と投げナイフのコンボを最初から回避したのは、魔王が初めてなのです! でも、諦めないです!」

シュッシュッ

魔王(くっ……素早い奴だ。気配を追うので精一杯だ!)サッサッ

武闘家「私を忘れてもらっちゃ困るなぁ~」

魔王「!! いつの間に……」

武闘家「喰らええぇ――っ!!」


――バキィ


魔王「――っ」

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/04(月) 18:42:31.48 ID:6bFq7v+S0
魔王「人間にしては、力強い一擊だ……この"邪神の加護"がなければ、骨を折られていただろう」

魔法使い「何…? 魔王が纏っている魔力が、ダメージを吸収した?」

僧侶「あれは代々魔王に伝わる、邪神の加護。あれがある限り、彼女に致命傷を与えることはできません」

魔法使い「何それ、初耳なんだけど!? そんなの相手にどうダメージを与えるのよ!?」

僧侶「攻略法はあります。邪神の加護を打ち破ることができるのは"戦女神の剣"であり――」

勇者「その剣を扱える俺が、救世主ってわけだ」フフン

魔法使い「あら勇者、復活したの」

勇者「見てろよ皆…この俺が、魔王に纏っている加護を打ち破ってみせよう!」

魔法使い「うん、わかったからとっとと行って」


勇者「魔王よ…お前の時代は終わりだ。大人しく降伏して、俺の女になるがいい!!」ビシッ


魔法使い(何言ってんのあのバカ)


魔王「面白い。来るがいい、勇者よ」

勇者「はあああぁぁ――っ!!」ダダッ

武闘家「無駄のない走り、これなら行ける――」

勇者「喰らえ――」


僧侶「……肉を破れ。"堕天使の咎"」

バリバリバリッ

勇者「ぎゃあああぁぁっ!?」

盗賊「!? 勇者君の全身から血が……」

魔法使い「今の魔力は……」バッ


僧侶「……ふふ」

魔法使い「僧侶……あんたの仕業!?」

僧侶「はは……はははははっ!!」

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/04(月) 18:42:58.53 ID:6bFq7v+S0
僧侶「回復魔法のついでに、『勇者』の体内に仕掛けをしたのですよ。面白い程に引っかかりましたね」

勇者「う……」ピクピク

僧侶「戦女神の剣……預からせて頂きます」

魔法使い「何で…? 裏切ったの、僧侶!?」

僧侶「いいえ、裏切ったわけではありません……。だって最初から、私は『魔王様』側の人間ですから」

魔法使い「何ですって……!!」


魔王「よくぞやった、僧侶よ……。勇者一行を欺くことに成功したようだな」

僧侶「えぇ魔王様、全ては貴方の為に――」

魔法使い「どういうことよ! 僧侶、私達を騙してたの!?」

僧侶「えぇ、そうです。勇者一行に入り、貴方達が魔王様を討てぬように旅を誘導させて頂きました」

魔法使い「誘導…!? そう言えば――」



僧侶『では、早速ですが魔王城までの経路について話し合いませんか? 私、これについては少し詳しいので、色々とプランを考えてきたのですが…』

勇者『僧侶にお任せするよ』



魔法使い「私達、僧侶の考えたプラン通りに旅を進めてきたわ…。まさか、それが策略だったの!?」

僧侶「えぇ、魔物側にとって重要な戦力を潰されぬよう誘導しました。あとついでに、魔王様を倒す為に必要な武具や、その情報を得られないようにも誘導しました」

魔法使い「な……旅が変にサクサク進むと思ってたら……」

盗賊「くうぅ…戦女神の剣を入手したことで、舞い上がっていたのです……」

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/04(月) 18:43:41.63 ID:6bFq7v+S0
勇者「うぐぐ…僧侶……」

僧侶「あら。随分しぶといんですねぇ」

勇者「どうしてだ僧侶……俺はお前のこと、好きだったのに……」

僧侶「……笑わせてくれますね」フフッ

勇者「!!?」

僧侶「言っておきますが、私は貴方を好いているように見せていただけですよ。本当は心の底から大嫌いだし、むしろ一刻も早く便所に流されろゴミクズと思っていました」ニッコリ

勇者「ゴ、ゴミクズ……」ガーン

僧侶「あははは、脳みそが下半身に、頭に精液が詰まってる男は単純ですよね!! あはは、あはははははっ」

勇者「く、くそ……。惨めだ…俺は、惨めだ!!」


魔法使い(1ミリも同情できないわー)

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/04(月) 18:44:10.25 ID:6bFq7v+S0
僧侶「魔法使いさん、武闘家さん、盗賊さん」

魔法使い「な、何…」

僧侶「大人しく帰って頂けませんか。貴方達では、魔王様にかないませんよ」

魔法使い「……帰ったら、貴方達はどうするの?」

僧侶「研究を進めるだけですよ。もうじき、研究は完成する予定……」

魔法使い「それって――」



魔法使い『『魔王が進めている恐ろしい研究』って何だか知らない? 何か研究しているのは聞いたけど、肝心の内容がわからないのよね。僧侶は知らない?』

僧侶『……はっきりはわかりませんが、どうやら『生物の常識を覆し、人間社会に悪影響を与える』ものらしいですよ』



魔法使い「人間社会に悪影響を与えるっていう、あの研究!?」

僧侶「悪影響…そうですね、悪影響かもしれませんね。だけど研究を完成させることが、私達の悲願ですから……」

武闘家「何だかわからないけど…私達は、魔王の野望を阻止しに来たんだよ!」

盗賊「ここで諦めるわけにはいかんのです!」

勇者「あのー…回復アイテム持ってないですか」ボロボロ

魔法使い「ない! 隅っこ行ってろ!」


僧侶「…仕方ありませんね。痛い目に遭ってもらいましょうか」

魔王「下がっていろ、僧侶。脅すだけなら、これで十分――」

魔法使い「!! この莫大な魔力は……」

盗賊「い、隕石が上空に!!」

魔王「凶星よ降り注げ…"黒雲の審判"」


ドガアアァァン

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/04(月) 18:44:39.64 ID:6bFq7v+S0
魔法使い「み、皆…大丈夫?」

武闘家「う、うん…攻撃が外れたお陰で……」

魔王「今のはわざと外したのだぞ。だが……次はないぞ?」

盗賊「ひっ……」

魔法使い(何てこと…あんな魔法攻撃、防ぎきれないわ!)

僧侶「おわかり頂けましたか? 魔王様の攻撃を防ぐ防具も、魔王様が纏う加護を貫く武器もない貴方達に、勝つ方法なんて無いんですよ」


魔法使い「くっ…」

魔法使い(確かにその通りだわ…これだけの力を見せつけられたら、絶望的……)

盗賊「うぅ…打つ手がないのです……」

魔法使い「撤退…するしかないの?」

武闘家「駄目だよ」

魔法使い「武闘家…!? でも、僧侶の言う通り私達に勝つ手段は……」

武闘家「大丈夫!! 魔法使いちゃん、私、いつも言ってたよね」

魔法使い「え……?」

武闘家「筋肉に、できないことなんてないんだよ……!!」

68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/04(月) 18:49:38.31 ID:K0mjP5QXo
レズもNTRも好きな身としては、誰と誰がくっついてもおいしい神展開

69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/04(月) 20:06:02.75 ID:fvUUryvwO
俺も僧侶のおっぱい揉みたい

70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/05(火) 16:02:55.81 ID:RFrXHIkwo
NLも百合も(薔薇も)それぞれ魅力あるよね

71 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/05(火) 19:16:27.60 ID:iTyYYhYB0
魔王「ほう、人間…まだ私に立ち向かおうと言うのか?」

武闘家「私達は偉くなって、法律を変えなきゃいけないんだよね。その為に、絶対に貴方を倒すよ」

魔王「勇敢な小娘だな…だが、それだけで私には勝てぬぞ!」ゴゴゴ

盗賊「出たです、隕石!!」

魔王「降り注げ!! 黒雲の審判!!」

魔法使い「きゃああぁ、降ってくるぅーっ!!」

武闘家「すううぅぅ……」

魔法使い「どれくらい効果あるかわからないけど……シールd」

武闘家「はああああぁぁぁっ!!」


バキイイイィィッ


魔法使い「」

盗賊「な……」

武闘家「どう?」ニヤリ

魔王「馬鹿な……光速で降り注ぐ隕石を砕いただと!?」

魔法使い「え……。え?」

72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/05(火) 19:17:00.90 ID:iTyYYhYB0
魔王「何かの間違いだ! 喰らうがいい、爆炎、黒雷!」

武闘家「せあっ!!」ビュンッ

魔法使い「蹴りで…かき消した……」ポカーン

魔王「な…僧侶、何なのだ、あの人間は!?」

僧侶「ぶ、武闘家さんは、ただの怪力で……で、でも、あそこまでの力は……」

武闘家「あったんだなぁ、それが。今まで大した敵と戦ってなかったから、お披露目する機会がなかったけど」フフン

盗賊「そっか…魔物側の重要戦力との戦闘を回避させたせいで、僧侶ちゃんも武闘家ちゃんの戦力を正しく測れてなかったのです!」

僧侶「ま、魔王様…申し訳ありません!」

魔王「良い。それよりも、規格外の人間がいたものだな…面白い!!」

僧侶「ですが…きっとこのままでは、筋肉の力で邪神の加護も打ち破られるパターンです!」

魔法使い「パターンて言うな」

魔王「それならそれで……」ゴゴッ

魔法使い「!! この魔力の波動は……!!」

盗賊「くっ…吹き飛ばされそうなのです……!!」

魔王「距離を詰めなければ良いだけのこと。さぁ、どうする!?」

武闘家「…っ、厄介だなぁ」


勇者「」←吹っ飛ばされて壁に激突して気絶した

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/05(火) 19:17:33.50 ID:iTyYYhYB0
武闘家「でも、行くしかないよね…! せりゃああぁぁっ!!」

魔法使い「無理矢理行った!!」

魔王「ほほー、やるな。だが……」クイッ

武闘家「!?」ヨロッ

魔法使い「!! 波動の向きが、向かい風から追い風に変わった!?」

盗賊「前方に勢いをつけていた分、追い風による前方へのよろめきが大きいです!」

魔王「隙ありだ」ドゴォン

武闘家「うわあぁぁっ!!」ドサァッ

魔法使い「武闘家ぁーっ!!」

武闘家「いてて…。大丈夫、とっさに防御姿勢取ったから!」

魔王「この程度の攻撃魔法では大したダメージも与えられぬか。見かけによらず、鎧のような筋肉だな」

僧侶「ですが魔王様、距離を空けたままダメージを積み重ねればいずれは……」

武闘家「めげるもんか! おらぁーっ!!」ダダッ

74 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/05(火) 19:18:00.24 ID:iTyYYhYB0



武闘家「…はぁ、はぁ……」

魔王「かなりしぶといな。何発喰らわせただろうな?」

僧侶「しかし確実にダメージは蓄積しています。それに、体力も大分消耗してますよ」

武闘家「くっ、まだまだ……」

魔法使い「やめて武闘家、このままだと死んじゃうわ!」ガシッ

武闘家「!! 魔法使いちゃん……」

魔法使い「もう見ていられない! 武闘家がこれ以上傷つくのは、嫌よ!!」

盗賊「なのです…。ここは撤退して、出直した方が良いのです」

魔王「そうはいかんぞ」

僧侶「魔王様?」

魔王「勇者以外の虫けら程度、逃がしても支障はないと思っていたが…。事情が変わった。その筋肉娘は、確実に仕留める!!」

武闘家「…っ!」

魔王「これが私の全力だ……はああぁぁぁっ!!」

魔法使い「魔王の魔力が城中に蔓延して……危ないっ!!」


ドガアアァァン

75 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/05(火) 19:18:53.49 ID:iTyYYhYB0
僧侶「……ゴホッ。城ごと吹っ飛ばすとは、正気ですか魔王様」

魔王「こうでもしないと倒せないと判断した。城は直せば良い」

僧侶「そう…ですね」

魔王「どうした僧侶。仲間だった者たちが気がかりか?」

僧侶「!! い、いえ、そんなことは……」

魔王「わかっている、お前は心優しい娘だ。仲間だった者たちに情がわかぬはずがない」

僧侶「……はい。あ、勇者のゴミクズはどうでもいいですけど」

魔王「すまない。お前には、辛い役目を任せたな……」

僧侶「魔王様の為なら、何だって……」

76 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/05(火) 19:19:25.33 ID:iTyYYhYB0
魔法使い「う……」

魔法使い(いたた……。私、生きてる……?)

武闘家「良かったぁ、魔法使いちゃん。大した怪我はないね?」

魔法使い「!! ぶ、武闘家……」

武闘家「大分、吹っ飛ばされちゃったね? すっごい威力だったぁ~…」

魔法使い「あんた、す、凄い怪我じゃない!!」

武闘家「大丈夫だよ、見た目は派手だけど大したことないから」

魔法使い「嘘おっしゃい! あんたが嘘ついてたら、わかるんだからね!!」

武闘家「へ、へへ…やっぱり、魔法使いちゃんにはかなわないなぁ」

魔法使い「……私を庇ったんでしょ」

武闘家「………」

魔法使い「どうしてこんな無茶したのよ…!! 私のせいで、あんたが……」グスッ

武闘家「そんな、泣かないでよ魔法使いちゃん。私、ちゃんと生きてるんだよ?」

魔法使い「バカ……女の子なんだから、傷跡が残るとか、考えなさいよ……」

武闘家「あはは! 魔法使いちゃん、こんな時にずれてるー」

魔法使い「笑い事じゃないわよ……私にとっては、とってもとっても大事なことで……」グスグス

武闘家「うん、うん。ありがとう魔法使いちゃん。……ごめんね、泣かせて」ポンポン

77 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/05(火) 19:19:52.19 ID:iTyYYhYB0
武闘家「さて、魔王のとこ戻ろうか」

魔法使い「!! あんた、その体でまだ戦おうっての!? やめなさい、逃げるわよ!」

武闘家「大丈夫。今ので、いい作戦思いついたんだ。あのね……」

魔法使い「あんたが思いつく作戦なんかで、あの魔王を打ち破れるわけないでしょ!」

武闘家「ひどいなぁ」プクゥ

魔法使い「せめて…体を治してから再戦するのよ! 僧侶が向こうについちゃったから、今は回復手段がないんだからね!!」

武闘家「それじゃ駄目だよ。今の魔王こそ、魔力を大きく消費してて、倒すチャンスでしょ?」

魔法使い「魔王以上にあんたが消耗してるのよ! それくらいわからないの、バカ!!」

武闘家「そりゃまバカだけど。どうして、そんなに止めるのさ」

魔法使い「……あんたに死なれたくないからに決まってるでしょ!!」

武闘家「魔法使いちゃん……」

魔法使い「負けてもいいし、世界がどうなってもいいのよ! あんたが生きてさえいれば……私は、どんな世界でだって笑って生きていけるんだから!!」

武闘家「……」

78 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/05(火) 19:20:37.11 ID:iTyYYhYB0
武闘家「へ、へへへ……嬉しいなぁ」

魔法使い「人の気も知らずに……」グスグス

武闘家「あー、ごめんね魔法使いちゃん。泣かないで、ね?」

魔法使い「泣いてない! バカ! いいから帰るわよ!」

武闘家「魔法使いちゃん、言ったよね……? 体を治してから再戦なら、いいって」

魔法使い「言った、けど……」

武闘家「じゃあ――そうするね」クイッ

魔法使い「えっ、何――」


チュッ


魔法使い「――」

武闘家「……」


柔らかいものが、私の唇を塞いでいる。目の前にあるのは、彼女の顔で――


武闘家「……ぷはぁ」

魔法使い「……」ポカン

武闘家「へへ…ごめんね、魔法使いちゃん♪」

魔法使い「………え?」

79 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/05(火) 19:21:13.84 ID:iTyYYhYB0
武闘家「さて回復したよ! 行こうか!」

魔法使い「ちょっ、あんた……っ、わわわ、私のファースト……」

武闘家「話は後! 魔王の魔力が回復する前に行かなきゃ!!」

魔法使い「ちょっ……いや、行ったところで勝てるわけ……」

武闘家「言ったじゃない、作戦があるって」

魔法使い「……どんな作戦よ?」

武闘家「それはねー……」

83 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/06(水) 19:16:43.79 ID:8wdOIHkV0



盗賊「ううぅ……」

魔王「おや、1人見つけたぞ。良かったな僧侶、生きていたぞ」

僧侶「えぇ…"回復魔法"」

僧侶(魔法使いさんと武闘家さんも…できれば、逃げていて下されば良いのですが……)


武闘家「魔王ーっ!!」

僧侶「!! 武闘家さん、魔法使いさん……」

魔王「ほほう、あれを喰らってピンピンしているか。面白い!」

僧侶(な、何で逃げてくれなかったんですか! 殺されますよ!)

武闘家「行こう魔法使いちゃん! 協力して魔王を倒すんだ!」

魔法使い「えぇ!」ゴオォ……

魔王(あれは攻撃魔法の類か……だがあの程度の魔力、恐れるに足りん)

魔法使い「はああぁ――っ!!」

魔王「フンっ!!」ビュン

僧侶(流石、魔王様。人間の中でもトップクラスの使い手である魔法使いさんの魔法を、片手でかき消した!)

84 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/06(水) 19:17:25.95 ID:8wdOIHkV0
魔法使い「まだまだ! でりゃあぁぁっ!!」

魔王「何発打ち込もうが無駄だ! 全て、かき消してやる!」ゴォッ

魔法使い(来た…魔力の波動による向かい風!!)

魔法使い「私の魔力で押し返す!!」ゴゴッ

魔王「ほう抵抗するか…しかし、脆弱だな」

武闘家「十分だよ!」ダッ

魔王「来るか、筋肉娘!!」

武闘家「うらぁーっ!!」ダダッ


僧侶「魔法使いさんの波動による後押しにより、魔王様の波動への抵抗力が強まっている! このままでは、距離を詰めれれる――」

魔王「それならそれで構わん」クイッ


武闘家「!!」ヨロッ

魔法使い(出た――また、向かい風を追い風に変えた!)


魔王「よろめいた一瞬の隙――今度こそ、仕留める」スッ


魔法使い「……っ!!」

魔法使い(作戦通り!!)

魔法使い「でりゃああぁ――っ!!」ドゴオオォォン

魔王「――っ!?」

85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/06(水) 19:17:52.46 ID:8wdOIHkV0
~先刻~


武闘家『魔法使いちゃんの魔法で、何とか魔王による波動を引き出してほしいの。そこからが勝負だよ』

魔法使い『波動って…あの技はシンプルだけど厄介よ。魔王も、いいタイミングで向かい風を追い風に変えてくるし…』

武闘家『うん、そこを狙うんだよ。私がよろめいた一瞬の隙――そこが魔王にとっての隙でもある』

魔法使い『まさか、そこを攻撃魔法で突けっての? それは無理よ。私の攻撃じゃ、魔王が纏っている加護を貫けないわ』

武闘家『そうじゃない。魔法使いちゃんが狙うのは魔王じゃなくて、私』

魔法使い『……え?』

武闘家『私を魔法で吹っ飛ばして。魔王の懐まで』

魔法使い『!!?!?』

86 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/06(水) 19:18:26.18 ID:8wdOIHkV0
魔王「な――っ」

武闘家「へへっ……リーチ入りました♪」

魔法使い「攻撃ブチ込め、武闘家!!」

バッ

僧侶「させません!!」

魔法使い「!! 僧侶が間に……」

盗賊「邪魔させないのですっ!!」ガバッ

僧侶「!!! 離っ……」ジタバタ

魔法使い「盗賊……ナイス!! あとは……」


武闘家「でりゃああぁぁ――っ!!」

魔王「――っ!!」


幾つもの打撃音が、その場に響き渡った。

87 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/06(水) 19:19:27.57 ID:8wdOIHkV0
魔王「う……」バタッ

僧侶「ま、魔王様……」


武闘家「ふぅ…倒したっ!」

魔法使い「信じられない……本当に筋肉の力だけでやりやがったわ」

盗賊「あれ? 魔法使いちゃん、武闘家ちゃんを信じて協力したんじゃないですか?」

魔法使い「そんなわけないでしょ! 武闘家がワガママ言って聞かないから……」

武闘家「いつもありがと、私のワガママ聞いてくれて。魔法使いちゃん、大好きだよ」ギュッ

魔法使い「!!!」

盗賊「おやおやぁ~? 何かアヤシイですね、お2人さん」

<ふっふっふ……

盗賊「ん?」

88 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/06(水) 19:19:53.78 ID:8wdOIHkV0
勇者「よくやったな!! 僧侶の妨害工作にもめげず魔王を打ち破るとは、流石勇者パーティーだ!!」

魔法使い「うわ。あんた、何でピンピンしてるの」

勇者「10分寝たら回復した」

魔法使い「生命力だけは勇者ね。ゴキブリの称号を与えたいわ」

勇者「さて、魔王。敗者には審判が下される、それが戦いのルールだ」

魔王「ぐ……」

勇者「魔王よ……俺の女になれ!!」


武闘家(ないわー)

盗賊(何かシャクなのです)

魔法使い(ものすごく魔王を助けたい)


魔王「くっ、誰が……」

勇者「随分と反抗的だな……だが、思い知らせてやるよ。お前が、女だということをな」クイッ

魔王「!!」

ゴゴゴゴゴゴ

勇者「!?」

魔法使い「なっ!? この魔力は……」

89 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/06(水) 19:20:26.19 ID:8wdOIHkV0
僧侶「魔王様に触れるな……このゴミクズが……」ゴゴゴゴゴ

勇者「ひぇえぇ!?」

魔王「やめろ、僧侶! それはお前の命を削る最終奥義!! 今は使うべき時ではない!!」

僧侶「いいえ、魔王様! そんなゴミクズに貴方が汚されるくらいなら、私はゴミクズもろとも死ぬことを選びます!!」

魔法使い「ゴミク…じゃなくて勇者! ヤバいから魔王から離れなさい!」

勇者「う……」パッ


僧侶「あぁ魔王様、大丈夫ですか! あの性病菌まみれの手で魔王様に触れるなんて、うううぅ」

魔王「大丈夫だ……僧侶、そこまで追い詰めてすまない」ギュッ

僧侶「魔王様…魔王様ぁ……」グスグス


魔法使い「…ねぇ、この2人の関係性って……」

武闘家「……うん、そうだよね」

盗賊「間違いないのです」ウンウン

勇者「え、えっ?」

90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/06(水) 19:20:55.13 ID:8wdOIHkV0
魔王「しかし、私は敗者確定だ……。お前と結ばれることは永遠にかなわん」

僧侶「そんなの、死んだ方がマシです……」シクシク

魔王「それが敗者の宿命というものだ。お前には、辛い思いをさせる。本当にすまない」

僧侶「いいえ魔王様! 私、諦めません! たとえ時間がかかっても……」


魔法使い「何か…可哀想よね」

武闘家「うん……僧侶ちゃんは、愛を貫いただけなんだよね」ホロリ

盗賊「見逃してあげたいけど……」


勇者「ファーッハッハッハ!! 百合だか何だか知らんが、諦めて俺の女になるんだな!!」

魔法使い&武闘家&盗賊(こいつのアレ、もげればいいのに)


僧侶「私達の意思を継いだ魔物達が、研究を完成させるでしょう! その時こそ、私は魔王様と……」


魔法使い(研究……そうだ、研究って何だったの?)


僧侶「魔王様の子を、産んでみせますとも!!」


魔法使い「……は?」

武闘家「え?」

盗賊「子……えっ、えっ?」

91 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/06(水) 19:21:21.46 ID:8wdOIHkV0
魔王「完成間近だったのだがな…"同性同士で子を作れる研究"は」


魔法使い「」ピクッ


僧侶「きっと邪魔されます……だってあの研究は、"生物の常識を覆し、人間社会に影響を与え"ますから! 完成すれば"男優位の社会"が崩れ去ります!!」


武闘家「」ピクッ

盗賊「」ピクッ


魔王「そうだな…人間社会の偉い奴らは男ばかり。そんな研究、認めないだろうな」

僧侶「うぅ……私、魔王様との子が欲しいです……」


勇者「な、何て恐ろしい研究だ! 生殖の常識を覆すとは、生命への冒涜!! そんなの、俺たちが許すわけ……」

魔法使い「……皆、いいわね?」ゴゴゴ

武闘家「うん」ググッ

盗賊「やっちゃうのです」ビュンビュン

勇者「………え? 皆、戦闘準備なんかして何を…って、何で俺を見て……うわやめろ、何をする――」


ウゴヴァアアアアァァァァァ……



こうして私達は闇落ちしたのだった。

92 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/06(水) 19:21:47.66 ID:8wdOIHkV0
それから1年……


武闘家「魔法使いちゃん、魔法使いちゃん!」ドンドン

魔法使い「ふゎあ~…何よ、うるさいわね」

武闘家「遂に人間社会で制定されたよ…"同性同士の婚姻"制度が!!」

魔法使い「本当!?」ガバッ


闇落ちした私達は、魔王城に居ついて研究を手伝っていた。
その一方で全世界の同性愛者、女性人権団体などと手を組み、人間社会で革命を起こした。
色々あったけどそれらが全部上手くいって、今に至る。


武闘家「今日、婚姻届出そうよ!! ほら、私はもう全部記入済みだよ!!」

魔法使い「後で書くから、二度寝させて……いつもならまだ寝てる時間……」

武闘家「魔法使いちゃんたら、寝坊助なんだから~」ゴソゴソ

魔法使い「ん……何ぃ、布団入ってきて」

武闘家「一緒に寝よう♪」イヒヒ

魔法使い「………」

93 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/06(水) 19:22:14.18 ID:8wdOIHkV0
魔法使い「もー…どうしてあんたって、そんなに可愛いのよ……」ギュッ

武闘家「甘えたいんだもん」スリスリ

魔法使い「昔から本当、変わらないわね……」ナデナデ

武闘家「これでも我慢してたんだよー? 魔法使いちゃん、なかなかデレてくれないから……」

魔法使い「そりゃ……同性愛禁止だってのに、デレるわけにはいかないでしょ。本当にバカね……」

武闘家「両思いってわかってからも、同じじゃん! 魔法使いちゃん冷たいよ~」

魔法使い「あー、うん。ごめんね」

武闘家「絶対に許さないもん! 罰としてキス跡つけてやるっ!」

魔法使い「ちょっ、バカ! あーもう毎日毎日、このキス魔!」ポカッ

武闘家「ぎゃふっ」

魔法使い「ったく…ずっと焦がれてたのは、私の方もだっての。もう離さないわよ」ギュッ

武闘家「えへへ~……」

94 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/06(水) 19:22:43.76 ID:8wdOIHkV0
生き物の常識は変わる。それは神の意思に反しているのかもしれないけれど。


僧侶「魔王様…あの、私、身篭ったみたいです」

魔王「何、本当か!! よくやったなぁ!!」ギュッ

僧侶「魔王様…愛しています」

魔王「私もだ! お前と産まれる子を、永遠に愛すると誓おう!」


私達は、それでも愛を貫くと決めた。


姫「盗賊、このドレスがいいんじゃないかしら?」

盗賊「ぼ、ボクには高貴すぎるのです…」

姫「結婚式用だもの、これくらい華やかな方がいいわ! もう盗賊ったら、可愛いんだから~!」チュッ

盗賊「姫様ぁ、まだお昼ですぅーっ!」


この愛を、永遠のものにすると決めたのだ。


武闘家「さて引越し完了! 今日から始まるんだね、私達の夫婦生活が!」

魔法使い「夫婦って…何をすればいいのかしらね?」

武闘家「とりあえず2、3年はイチャイチャしようよ! 子供作るのはそれからで……」

魔法使い「そうねぇ、武闘家が産みたくなってからでいいわよ」

武闘家「産むのは魔法使いちゃんだよ?」

魔法使い「え?」

武闘家「え?」

95 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/06(水) 19:23:33.47 ID:8wdOIHkV0
魔法使い「どう考えても、甘えん坊なあんたの方が奥さん役でしょ!」

武闘家「私の方が力強いよ! 奥さん役は魔法使いちゃんだよ!」

魔法使い「あんたが産む子供の方が、絶対愛嬌あって可愛いわよ!」

武闘家「魔法使いちゃんの子供なら、頭の良い子になるよ!」

魔法使い「……」

武闘家「……」


きっと、新しい家族が増えても幸せでいられる。
この子となら、どんな世界でだって笑っていられる。


魔法使い「し、仕方ないわねぇ。……順番に、ってのはどう?」

武闘家「う、うん…そうだね」


Fin

96 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/06(水) 19:24:10.27 ID:8wdOIHkV0
おまけ・勇者のその後


>酒場


勇者「うぅ…姫様にも仲間にも、キープしてた子達にもフラれたよぅ。チキショウ、女なんて、女なんて!」

ガチムチ「ニィちゃん、気の毒だなぁ。ほら、飲め飲め」

勇者「ありがとうございます…うぅ、酔いが回ってきた……」

ガチムチ「とことん酔いつぶれちまいな! イヤなことを忘れるには、それが1番だぜ!」

勇者「はい!!」グビグビ

ガチムチ「ニヤリ」





>1時間後


ガチムチ「ハァハァ、勇者、勇者ぁ……ひと目見た時から、良いと思ってたんだよ!」ズッコンバッコン

勇者「らめぇ、裂けちゃう! 肛門裂けちゃう!!」

ガチムチ「孕めやあぁァッ!! せやっ!」パンパンパンッ

勇者「アッー!!」


勇者はその後、5人の子供を産んだ。

97 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/07/06(水) 19:24:45.42 ID:8wdOIHkV0
ご読了ありがとうございました。
魔王を倒した時の作戦は、VS戸愚呂兄弟戦のパクry

勇者は物語の時代背景を考えるとそこまでモラルに反したことはしてないので、救済しておきました(´∀`)

98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/06(水) 19:27:53.64 ID:EuIZEeCZO
毎度ながら楽しかった乙

そうか最後のは霊○だったか

posted by ぽんざれす at 19:36| Comment(7) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年05月09日

勇者「魔王を倒しに行く」 介護ヘルパー「60年前に倒したよ~」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1462793059/

1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/09(月) 20:24:19.70 ID:bUEcKGDH0
>グループホーム"ふぁんた爺"


==============
・介護記録
勇者 様

9:30 起床後、光の装備一式に更衣されていたので、声かけにてトレーナーに着替えて頂く

12:00 魔王を倒しに行くと言われるが、昼食の為席について頂く

14:50 再度魔王を倒しに行くと言われ、おやつの為席について頂く

15:30 風船バレーの風船が魔物に見えたらしく、風船を一刀両断されご満悦の様子

16:30 入浴。「今日は一杯戦ったから血と汗を流さないとね」と笑顔見られる

18:00 明日の旅支度をされてから入床

18:30 巡回。入眠確認
==============

ヘルパー「勇者さんの様子いつもと変わりなし、と」

勇者(76)「すやすや」

ヘルパー「勇者さん、入所したばかりでまだ落ち着かないけど、その内馴染んでくれるといいなぁ」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1462793059
2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/09(月) 20:24:41.29 ID:bUEcKGDH0
>翌日


ヘルパー「あら勇者さん、どこに行くのかな~?」

勇者「ちょっと装備品を揃えに行くの」

ヘルパー「あら~。この街の武器屋さんは、お菓子屋さんになっちゃったんだよ~」

勇者「そうなのかぁ」

ヘルパー「そうだ。買い物なら、皆の分のおやつ買いに一緒に行こうか!」

勇者「それもいいねぇ」

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/09(月) 20:25:22.22 ID:bUEcKGDH0
>翌日


ヘルパー「あら勇者さん、お出かけ?」

勇者「街の人たちから情報を集めようかと思ってね」

ヘルパー「それはねー、勇者さんの特技の"思い出す"を使うといいよ!」

勇者「えーと…『魔王は闇の力を使うから、光の装備を揃えるといい』『北の神殿には魔王軍の幹部がいるそうだよ』『天界のオーブを揃えるのだ』」

ヘルパー「わぁ凄い、勇者さん記憶力とってもいいねー!」

勇者「ところで、あんた誰だっけ?」

ヘルパー「私はモブの介護ヘルパーだよー! さぁ、お風呂入ろうか!」

勇者「いいねぇ風呂」ニコニコ

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/09(月) 20:25:49.66 ID:bUEcKGDH0
>翌日


ヘルパー「あれ勇者さん、どこか行くの?」

勇者「仲間を探しに行くの」

ヘルパー「ここにいる皆も仲間だよ~。皆で折り紙折ろうよ!」

勇者「わし、こういうの得意でなくてねぇ」

ヘルパー「じゃあ一緒に折ろうか~。はい、こうやって折って~」

勇者「うーん、難しいねぇ」

ヘルパー「そうだね。でも一緒に苦難を乗り越えてこそ、本当の仲間だよね!」

勇者「よし頑張る」

ヘルパー「その意気だよ勇者さん!」

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/09(月) 20:26:17.83 ID:bUEcKGDH0
>翌日


勇者「えぇーと」キョロキョロ

ヘルパー「勇者さーん!」タタタッ

勇者「あ、あんたか。迎えに来てくれたの?」

ヘルパー「ごめんねぇ、バタバタしてて外に行ってたの気付けなくて。怪我とかない?」

勇者「大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

ヘルパー「勇者さん、迷子になってたの~?」

勇者「魔王を倒しに行こうとして、道がわからなくなってねぇ」

ヘルパー「そうなんだ~。あのね、魔王は60年前に倒したよ!」

勇者「……そうだっけ?」

ヘルパー「そう! 勇者さんが倒したんだよー!」

勇者「…あぁー!」

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/09(月) 20:26:40.64 ID:bUEcKGDH0
勇者「そういえば魔王を倒した後、わし結婚したんだったね」

ヘルパー「そうそう。仲間の賢者さんとね!」

勇者「それで2人の子供に恵まれて…」

ヘルパー「よく会いに来てくれるし、親孝行なお子さんだよね~」

勇者「で、小説家と音楽家と画家の孫がいて……」

ヘルパー「凄いよね~、皆、芸術家だよ!」

勇者「すっかり忘れてたよ」

ヘルパー「うんうん良かったねぇ、思い出せて」

勇者「……はぁ」

ヘルパー「?」

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/09(月) 20:27:10.22 ID:bUEcKGDH0
>翌日


勇者「……」

ヘルパー「あら勇者さん、今日はお出かけしないんだ」

勇者「うん、もう魔王は倒したからね」

ヘルパー「あら」

ヘルパー(入所して1ヶ月くらいになるし…。勇者さん、施設に馴染んできたのかな?)

勇者「……」ボー

ヘルパー「勇者さん? 皆と一緒にお歌歌わない?」

勇者「そういうの得意でなくてねぇ。わしは聞いてるよ」

ヘルパー「うんうん、それじゃホールの方に行こうか!」

勇者「……はぁ」

ヘルパー「……」

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/09(月) 20:27:37.26 ID:bUEcKGDH0
==============
・介護記録
勇者 様

7:00 巡回時臥床中。開眼しているものの離床されず

8:00 トレーナーに更衣された後、朝食

12:00 お部屋で過ごしていたところをお呼びし、昼食

14:00 レクにお誘いするも気乗りしないようで、お断りされる

15:00 ティータイム。話を振るも会話に参加されず、食べ終わるとすぐに自室へ戻られる

16:30 「全然汗かいてないから」と入浴をお断りされる

17:00 「お腹すいてないの」と夕食を半分残される

18:00 入眠確認
==============

ヘルパー「うーん。勇者さん、外出願望と共に元気が無くなったなぁ」

ヘルパー「老人性のうつかなぁ? 病院行って診てもらった方がいいかも」

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/09(月) 20:28:04.76 ID:bUEcKGDH0
>翌日


勇者「わしは病気じゃないよ」

ヘルパー「それを証明する為に、行ってみない? ちょっと先生とお話しするだけだから、ね?」

勇者「わしがそういう病院に行ったら、変な噂がたつじゃない」

ヘルパー「そんなことないよ~」

勇者「…わしはもう、噂にもならないんだね」

ヘルパー「え?」

勇者「魔王を倒したから、あとは忘れられていくだけなんだ」

ヘルパー「……勇者さん、ちょっとお出かけしない?」

勇者「病院?」

ヘルパー「ううん、病院は行かない。街をぶらぶらしようよ、ね?」

勇者「うん、それならいいよ」

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/09(月) 20:28:35.56 ID:bUEcKGDH0
勇者「町並みもすっかり変わったねぇ」

ヘルパー「昔はどうだったの~?」

勇者「武装してる人が沢山いて、冒険者向けの店が立ち並んでいてね」

ヘルパー「へぇ~。私の世代だと、絵画とかで見たことある光景だわ~」

勇者「その頃は、皆武装していたもんだよ」

ヘルパー「時代が時代だからねぇ。勇者さんの世代は強い人が多いよね~」

勇者「その頃、芸術家というものは軽んじられていたんだけど…時代は変わったもんだねぇ」

ヘルパー「そうだね~。今お孫さん達、大活躍だもんね!」

勇者「もう、戦いを生業としている人は、ほとんどいないんだねぇ」

ヘルパー「平和だからね~」

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/09(月) 20:29:01.46 ID:bUEcKGDH0
ヘルパー「勇者さんにとっては、魔王討伐の旅をしていた頃が1番輝かしい時代だったんだね」

勇者「わかるの?」

ヘルパー(1番戻りたいって思う年齢に戻るのも、認知症の症状だからね)

勇者「人々が魔王に恐怖していた時代が懐かしいなんて、勇者失格だねぇ」

ヘルパー「そんなことないよ。勇者さんが輝いていた時代だもん」

勇者「その輝いている時代が過ぎて、もう"勇者"の価値はなくなったねぇ」

ヘルパー「……」

勇者「子育てが終わって、おっ母も見送って…余生が長いなぁ」

ヘルパー「ねぇ勇者さん、街を歩いていて気付かない?」

勇者「ん」

ヘルパー「勇者さんが存在している価値は、この街の光景にこそあるんだよ」

勇者「え?」

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/09(月) 20:29:36.57 ID:bUEcKGDH0
ヘルパー「勇者さんが魔王を倒したから、人々は武装をといてお洒落を楽しめるようになった」

ヘルパー「勇者さんが平和をくれたから、冒険者向けのお店じゃなくて、皆が楽しめるお店が街に並ぶようになった」

勇者「……」

ヘルパー「街の光景だけじゃないよ。勇者さんが魔王を倒さなかったら、お孫さん達は夢を叶えられなかったじゃない?」

勇者「……」コクン

ヘルパー「ほらね、勇者さんは私達の世代に"今この時"をくれた。魔王を倒したらそれで終わり、じゃないよ」

勇者「終わりじゃない……?」

ヘルパー「まだまだ『余生』には早すぎるよ。勇者さんが勝ち取った"今この時"を生きていかないと、もったいないよ」

勇者「今、この時……」

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/09(月) 20:30:04.03 ID:bUEcKGDH0
>その後


勇者「できたよ~」ニコニコ

ヘルパー「あら勇者さん! 鶴、綺麗に折れたね~」


あれから、勇者さんは沢山笑顔を見せてくれるようになった。


勇者「ちょっと魔王倒しに行ってくる」


それでも、勇者さんが1番輝かしかった時代に戻ることは度々あるけれど。


ヘルパー「じゃあ、私もパーティーに入れて。一緒に行こうか~」

勇者「うん」ニコニコ


そういう時はこうやって、一緒に街を歩くのだ。


勇者「…あぁ、この街は平和だねぇ」

ヘルパー「うんうん。平和って素晴らしいね~」

勇者「そうだねぇ」ニコ


自分がもたらした平和だと知ってか知らずか、勇者さんは街の光景を見ると穏やかになるのだ。

そして私達も忘れてはいけない。この平和をくれた勇者さんに対する感謝の心を。


ヘルパー「さて帰ろう勇者さん。皆が勇者さんを待ってるよ」

勇者「うん、帰ろうか」



終わり

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/09(月) 20:30:54.53 ID:bUEcKGDH0
勇者の老後ってこんな感じでしょうかね。

実際の介護現場は、外出願望に余裕のある対応ができない所がほとんどだと思いますね。
現場環境の改善は難しいでしょうが、せめて自分が要介護者になった時、ヘルパーさんに迷惑をかけないようにしたいものです。

(関連作品省略)

17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/09(月) 21:18:50.00 ID:4PJhkowto
ヘルパーさんが患者の骨折りまくってるのを見ると最強は介護ヘルパーなのかなと…大腿骨折り過ぎ

18 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/05/09(月) 21:21:18.88 ID:bUEcKGDH0

>>17
・ヘルパーが最強というより、お年寄りが弱い
・その弱いお年寄りと接する機会が多いので、怪我をさせてしまう機会も多い
んじゃないかなぁと思います、確信はありませんが


posted by ぽんざれす at 21:23| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年05月06日

盗賊娘「ハンターラビット」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1462015928/

1 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/04/30(土) 20:32:08.26 ID:RloJRskG0
盗賊「いよっしゃ、"皇帝の黒真珠"ゲット!」ビシッ

私は盗賊。この世界に点在しているダンジョンのお宝を収集している。
世の中は勇者だの魔王だの言ってるけど、私はあまり関心がない。

盗賊「この黒真珠はコレクションするとして…」

袋の中には、ついでに集めた旧時代の食器や工芸品が入っている。
私は、こういうものを換金して生活しているのである。

盗賊(どうせ魔物がウロウロしているようなダンジョンにある物だし、貰っても咎められないよな)



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1462015928

2 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/04/30(土) 20:32:51.76 ID:RloJRskG0
>街


道具屋「全部で2万ゴールドになります」

盗賊「ま、こんな所か。じゃあ、また来るね~」

これで、しばらく食いっぱぐれることはない。
そんな満足感に浸り、稼いだお金を懐に突っ込みながら歩いていると…。

どんっ

盗賊「あ、ごめ……」

酔っ払い「ん? ねーちゃん可愛いなぁ。いくらだ?」

盗賊(うわ)

この男はどうやら、私を娼婦と勘違いしているようだ。
こんな夜の飲み屋街で、露出多めの格好をしていれば間違われるのも仕方ないが。

盗賊「ごめんな、私は商売女とは違うの。他をあたって、じゃあな」

酔っ払い「でも貧しい身なりしてるじゃねぇか。そのボインでサービスしてくれたら、礼ははずむぜぇ?」

盗賊「はぁ……」

面倒くさいのに捕まってしまった。
私は金に執着している方ではあるが、春を売る気は全くない。

盗賊「結構だよ。それじゃ」

酔っ払い「待てよ」ガシッ

盗賊「!!」

手を掴まれた。この男、よく見ればかなりの筋肉質で、力が強い。

盗賊(あー、厄介なのに捕まったわー。喧嘩は好きじゃないけど)

空いている方の手で、ナイフに手をかけた。


「おい、そこの男!!」

盗賊「!」

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/30(土) 20:33:35.69 ID:RloJRskG0
酔っ払い「あー? 何だテメェ?」

大勢の人が見て見ぬフリをして通り過ぎていく中、1人の若い男が止めに入ってくれた。
夜の飲み屋街にいる割に身なりはきちんとしており、場末の飲み屋よりも、お洒落なバーが似合う。そんな第一印象。

男「しつこくするのはやめておけ。お前のやっていることは条例違反だぞ」

酔っ払い「条例違反だぁ~? ハンッ、憲兵だって一々全部取り締まってねーよ!」

男「あぁそうだな。なら、俺のすることも取り締まらないだろうな」

酔っ払い「あ? 何を――」

ドカッ

酔っ払いの顔面に蹴りが入る。そのまま酔っ払いは吹っ飛ばされた。
蹴りを入れた男、細身ではあるが、図体のでかい酔っ払いを吹っ飛ばせる程度には鍛えているようだ。

盗賊(うわぁ~)

柄にもなく見惚れてしまった。
上品な雰囲気にも関わらず、力強いというギャップ。
そして、そんな男に助けられるというシチュエーション。

盗賊(なんか、いいシチュエーション…って、バカ)

盗賊「あの、ありが……」

と、礼を言おうとしたところ。

憲兵「喧嘩があっただと!?」バタバタ

男「面倒だな…それではな!」ダッ

盗賊「あっ」

男は素早くそこから立ち去った。
その後憲兵から事情聴取され、酔っ払いはしょっぴかれて行ったが…。

盗賊(お礼、言いそびれちゃったな。あーあ…やっぱ私みたいな底辺はラブコメと縁がないみたい)チェッ

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/30(土) 20:34:08.60 ID:RloJRskG0
盗賊は赤ん坊の頃から孤児院で育った。
だがその孤児院の環境は劣悪なもので、彼女は6歳の頃に孤児院から脱走した。

身寄りのない子供が1人で生きていくなど、通常なら困難なものだが…。

盗賊(運のいいことに、私には盗賊としての才能があった)

ダンジョンに入り、魔物との戦闘を避け、罠を突破し、金目のものを集める。
そういったことに天性の才能があった彼女は、ずっとそうやって生きてきた。





盗賊(久々にベッドで寝れる…。あぁ、ふかふかで気持ちいい~)

「お休みのところ申し訳ありません」トントン

盗賊「はーい?」

使者「失礼。中央国の使者と申します。盗賊様、ですね?」

盗賊「あぁ、そうさ。どでかい中央国の使者サマが、私みたいな底辺に用事?」

使者「ご謙遜を。トレジャーハントを生業としている方々の中でも、腕が良いと評判の盗賊様ではありませんか」

盗賊「……ふぅん」

愛想笑いを返した。
普段、上流階級の者が自分のことを"下賎な盗人"だの"廃屋荒らし"だのと陰口を叩いていることは知っている。
きっと、この使者の言葉も社交辞令だろう。

盗賊「で、何の用?」

使者「実は…貴方様に、トレジャーハントのご依頼をしたく」

盗賊「へぇ?」

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/30(土) 20:34:56.69 ID:RloJRskG0
使者「我が国の末姫様のことはご存じでしょうか?」

盗賊「えーと…神託で勇者に選ばれたとかいう?」

使者「そう。末姫様は勇者に相応しい、勇敢で優秀な剣の使い手でいらっしゃいます。しかし…」

盗賊「しかし?」

使者「ダンジョンを探索するということが苦手な方でして」

盗賊「ま、強ければいいってもんじゃないからね、探索は」

使者「神託によれば、魔王を倒すには5つの神器を集める必要があるのですが…その神器の1つが、難易度の高いダンジョンにあるそうで。そこで、貴方にご依頼をかけることになったのです」

盗賊「餅は餅屋だね。で、そのダンジョンてどこ?」

使者「はい…黒霧の森にある、廃城です」

盗賊「あぁ、あそこ。魔物が強いっていうから敬遠してたけど…」

使者「依頼を受けて下さるのでしたら、前払いでこれだけ……」ソッ

盗賊「!!! ……ゼロひとつ多くない?」

使者「もし神器を獲得して下されば、この倍の……」

盗賊「やる!!」

こうして盗賊は、金に目がくらんで依頼を引き受けることとなった。

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/30(土) 20:35:28.60 ID:RloJRskG0
盗賊「あぁ、でも、黒霧の森の魔物って強いじゃない? 廃城に行くまでの間の護衛がいるといいんだけど……」





盗賊(とお願いして、護衛をつけてもらうことになった。待ち合わせ場所に来たけど…)

盗賊「あ、武装集団。あれかな? おーい」

盗賊は5名の武装集団に声をかけた。
彼らの装備には中央国の紋章が入っていたので、すぐにわかった。

兵士「盗賊様ですね。本日は、王子の率いる白兎(はくと)騎士団が貴方を護衛します」

盗賊「王子が?」

兵士「はい、今席を外しておりますが…あ、戻ってこられた。王子ーっ」

と、兵士が声をかけた先には…。

盗賊「……!」

王子「む」

盗賊「あ、あんた……王子だったの?」

王子と呼ばれた男、昨晩盗賊を助けた、あの男だった。

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/30(土) 20:35:54.77 ID:RloJRskG0
王子「そうか、君が盗賊殿だったか」

盗賊「あ、き、昨日はありがとうございました!! お礼言いそびれちゃって……」

王子「いや、気にすることはない」

王子はフッと笑うと、今度は胸に手を当てて会釈した。

王子「改めて自己紹介する。俺は中央国王家第三子、王子。白兎騎士団を率いている」

盗賊「宜しく。まさか王子様率いる騎士団に護衛して頂けるなんてね」

王子「これは、それだけ重要な仕事だからな。それに、俺も少しでも妹の力になりたい」

盗賊(なるほど、こっちも失敗できないねぇ)

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/30(土) 20:37:00.00 ID:RloJRskG0
>黒霧の森


王子「せやあぁっ!」

白兎騎士団は、襲いかかってくる魔物を苦戦することなく返り討ちにした。

盗賊「さっすが。頼もしい~」

王子「我々にとっては本業だからな。逆にダンジョンに入った後は、足手まといになってしまうかもしれんが……」

盗賊「あはは。ダンジョンに着いたら私1人で大丈夫! ダンジョンで魔物を避ける方法は心得てるんでね」

王子「頼もしいものだな、酔っ払い1人はねのけるのに苦戦していた娘が」

盗賊「苦戦? 苦戦ってほどじゃないっすねー、割と慣れてるもんで!」アハハ

王子「……慣れている、か」

盗賊(あれ? しんみりして、どうしたのかな?)

王子「もう少し、異性に対して危機感を持った方がいい。せめて、夜の街を歩く時の格好に気をつけるのだな。挑発的な格好は、品のない男を引き寄せるぞ」

盗賊「あははー…服を買うお金が勿体無いもんで」

王子「……なぁ」

盗賊「はい?」

王子「正式に、中央国のトレジャーハンターとして雇われる気はないか」

盗賊「!」

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/30(土) 20:37:33.69 ID:RloJRskG0
トレジャーハンターとして国に雇われる。
確かに安定した収入は得られるが……。

盗賊「う~ん」

王子「どうした」

盗賊「あ、いや~…。雇われのトレジャーハンターって、今より自由がきかないって聞いたことあるもんで」

王子「返答を急ぎはしない。だが、君の望む条件は叶うよう善処する」

盗賊「王子様、見た目に反して軽率っすね~。よく知らない人間をそう簡単にスカウトしちゃ駄目っすよ~」

王子「…軽率か。そう思うならそれで構わない。だが……」

盗賊「?」

王子「…若い娘が、服も買えぬような貧しい暮らしをしているのは、どうも心が痛いものでな」

盗賊「……!」

盗賊(何、キュンときた~!! こんなことサラッと言えるなんて、高貴な男ってヤッベェ!!)

王子「どうかしたか」

盗賊「あ、いえいえ」

盗賊(なんてねー、浮かれるのも程々にしないとね。身分違いの恋に焦がれる程、私はバカじゃないよ~)

10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/30(土) 20:37:35.83 ID:MinfIzP2O
期待

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/01(日) 20:07:06.21 ID:vZY183Z90
>廃城


王子「着いたな」

盗賊「さて、ちょっくら行ってきます!」

王子「本当に1人で大丈夫か」

盗賊「大丈夫っすよ。そんじゃ、期待して待ててくっさい!」


盗賊(探す神器は『星神の冠』だったね。よし、捜索開始!)

ダンジョンに入ると、盗賊の感性は研ぎ澄まされる。
五感を頼りに、タンジョンの中を探ってみる。

盗賊(あっちの道は魔物が多いね。こっちから探ってみるかな)

素早く、音をたてずに行く。この走り方は、長年の盗賊生活で身につけた技術だ。
しかし魔物は聴覚だけでなく、嗅覚も発達している。これに対してはどうするかというと…。

盗賊「よし、ここにするかな」

魔物「ガルル…」

盗賊(来た来た。退散~)ササッ

匂い袋を設置し、そこに魔物を引き寄せる。
こうして魔物が匂い袋に騙されている内に、ダンジョンの中を探るのである。

盗賊(あ。匂い袋の代金、王子に請求できるかな。後で聞いてみよっと)

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/01(日) 20:08:16.65 ID:vZY183Z90
魔物「グオオォォ!!」

盗賊「やば、見つかった」

すかさずダッシュ。足の速さには自信がある。

盗賊(とはいえ、走り続けてればスタミナ切れを起こす)

盗賊(この廃城は、旧帝時代の建築物。その時代の罠のパターンは……)

魔物「ガアアァ!!」

盗賊「ここをポチっとぉ!!」ドン

盗賊は壁を強く叩き、すぐに伏せた。

ビュンッ

魔物「ガハァッ!!」

盗賊(あぁ、やっぱこういう罠。うん、わかってきた)

盗賊(この時代の城は大体、地下を宝物庫にしていた。よし、早速地下を探そう)

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/01(日) 20:09:41.45 ID:vZY183Z90



盗賊「地下に到達、っと」

盗賊(道中、色々と金目のものがあったけど…それは後回しにして、早いとこ星神の冠を手に入れなきゃね~)

盗賊「…んっ!」

地下に頑丈そうな扉を見つけた。
怪しい、と盗賊の勘が言っている。

盗賊「怪しい場所には飛び込んでみなきゃね! たのもーっ!」

盗賊「…むっ!」

扉を開けた視線の先には――宝箱があった。

盗賊(あれは、まさか……)

盗賊は周囲を警戒しながら、宝箱を開けた。
すると……。

盗賊「……!!」

中に入っていたのは――キラキラした装飾が施された、冠だった。

盗賊(間違いない、これが星神の冠だ。よっしゃ!)

盗賊(早速、これを王子の元に……)

と、ふと視界がぴかっと明るくなった。
光を発したのは――手に持っている、星神の冠。

盗賊(な!? 何これ…何の光!?)

結論を出す余裕もなく――

カアァ――ッ!!

盗賊「―――!!」

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/01(日) 20:10:09.75 ID:vZY183Z90
>城外


王子(どうも落ち着かないな)ソワソワ

王子(待ち時間が長く感じる…盗賊は大丈夫だろうか)

兵士「お、王子ーっ!」

王子「どうした」

兵士「これ…っ、星神の冠で間違いないですよね!?」

王子「!! 間違いない、星神の冠だ! 盗賊は上手いことやってくれたのか!」

兵士「そ、それが…これを持ってきたのは、盗賊様ではなく……」

王子「何? 盗賊ではない?」

兵士「は、はい! 星神の冠を持ってきたのは、その…こいつです!!」

王子「!!」


うさぎ「……」

王子「……うさぎ?」

兵士「はい、うさぎです!」

王子「何の冗談だ? ん?」

兵士「いやいやいや、本当なんですって! このうさぎが、星神の冠をくわえて出てきたのです!」

王子「何だと……」


うさぎ「………」

うさぎ(そりゃ、おかしいと思うよねー)

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/01(日) 20:10:39.30 ID:vZY183Z90
>先刻


カアァ――ッ!!

盗賊「―――!!」

辺りを包む光に目が眩み、盗賊はそこに倒れた。
すぐに目を覚ましたが……。

(うーん…何だったのかな、今の光は。星神の冠は……あった! ……って)

(え、何か冠、大きくなってない?)

(つーか…部屋全体が大きくなっているような……。変な罠だな~、早いとこ部屋を抜け出さないと)

(……あれ?)

と、違和感に気付き盗賊は自分の体を見る。
そして仰天した。何せ、彼女の体は――

うさぎ(何じゃこりゃあああぁぁ!?)

白いうさぎに姿を変えていたのだから。

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/01(日) 20:11:28.77 ID:vZY183Z90



王子「いたか?」

兵士「いえ…ダンジョン中を探索しているのですが、盗賊様の姿は見つからず……」

王子「何てことだ…! まさか、罠にかかって……」

うさぎ(そんなヘマしない…と言いたい所だけど、罠にかかってうさぎになっちゃったんだよねー。いやー参ったわ)

兵士「王子……暗くなってきましたし、今日は引き上げた方が……」

王子「人の命がかかっているのだぞ! 我々が依頼して行方不明になったというのに、見捨てることができるか!」

うさぎ(何て良い人。いや私なんかの為に、申し訳)

兵士「ですが我々の探索能力では、これが限界でしょう。一旦引き上げ、探索能力に優れた方々に探して頂いた方がよろしいかと」

王子「むむ……」

兵士「それに…星神の冠が手に入ったことを報告もせねばなりません」

王子「くっ。できれば、こんな気持ちで冠を手にしたくはなかったが……」

うさぎ(気にしないでいいよー、私のヘマだし)

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/01(日) 20:12:09.13 ID:vZY183Z90
王子「お前たちは冠を持って城に戻れ。俺はもう少し、ここで盗賊の帰りを待ってみる」

兵士「わかりました。どうか、お1人で廃城に入らぬように」

王子「わかっている。行方不明者が増えるだけだからな」

うさぎ(王子も疲れてるだろうに。申し訳ないなー)ジー

王子「む。…心配してくれているのか、うさぎよ」

うさぎ(えぇ、まぁ)

王子「……うさぎ、か」キョロキョロ

うさぎ(ん?)

王子「よし誰もいなくなった……もう我慢ならん!!」ヒョイッ

うさぎ「!?」

王子「うさぎ…うさぎ………」

うさぎ(え、え、何!?)

王子「ふ、ふふふ……」



王子「あああぁぁぁぁ、うさちゃん可愛いいいぃぃぃ!! うさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃん」ナデナデスリスリ

うさぎ(ひいいいいぃぃぃぃ!?)

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/01(日) 20:12:38.25 ID:vZY183Z90
うさぎ(王子…カタブツだと思ってたのに……)

王子「ふわふわの、おめめパチクリで、可愛いねぇ~」デレデレ

うさぎ(誰も見てないとこうなのかよ! 何かショックだわ!!)

王子「うさちゃ~ん? どうちて、こんな危ないとこにいたのかなー? 怖い魔物が、がおーってなるぞー?」

うさぎ(赤ちゃん言葉まで使い出したよ!?)

王子「うさちゃんパクッて食べられちゃうぞー。こわいこわい」

うさぎ(いやお前の方が怖いっつーの!!)

王子「…よし、うちに来るといいよ~。ずっとうさぎが欲しかったんだ~」

うさぎ(……へ?)

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/01(日) 20:13:13.41 ID:vZY183Z90
その時、盗賊の頭の中では、猛スピードで考えが紡ぎ出されていた。


人間としての生活
・貧しく衣食住に不自由
・食い扶持確保に危険が伴う
・将来性がない
・社会的底辺

王室うさぎとしての生活
・城で良いご飯が食べられる
・頑張らなくていい
・王子に可愛がられている限り安泰
・ちやほやされる


うさぎ(………おいしい!)

うさぎ「きゅー」スリスリ

王子「そっか、来たいか~。うさちゃん可愛いなぁ~」デレー


こうして盗賊は、人間としてのプライドをあっさり捨てた。

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/01(日) 20:14:14.37 ID:vZY183Z90
>城


兵士「トレジャーハンターに盗賊様の捜索を依頼しておきました」

王子「何かわかればいいのだが……」

うさぎ(わからん、わからん)ブンブン


うさぎ(そんなことよりニンジンうめぇ♪)ポリポリ

王子「一杯食べるといい」

兄「帰っていたのか、王子」

姉「トラブルはあったようだけれど、星神の冠は手に入ったようね。お疲れ様」

王子「兄上、姉上…」

うさぎ(そういえば王子は第三子って言ってたっけ。勇者が末姫って言ってたし、四人兄弟かな?)

王子「この白兎騎士団、微力ながら誠心誠意国に仕えるつもりです。何か御座いましたら、何なりとご命令下さい」

兄「そうだな。盗賊の護衛のような、丁度いい任務を見繕っておく」

うさぎ(は?)

姉「あまり簡単な任務ばかりでも困りますわ、お兄様。王家の"格"が下がりますもの」

兄「かといって危険な任務を任せれば、どうなるか目に見えているだろう? だから、丁度いい任務を見繕わねば」

姉「まぁ、そうですわね」

王子「……申し訳ありません、力不足で」

うさぎ(王子……)

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/01(日) 20:14:48.17 ID:vZY183Z90
王子「…はぁ」

うさぎ(シャキッとせんかい!)耳ペシペシ

王子「情けない所を見せたな。俺が無能なばかりに、2人には苦労をかけている」

うさぎ(無能? 王子が?)

王子「才知に優れた2人に、武芸に秀でた末姫……俺1人が凡人なんだ」

うさぎ(マジか)

王子「少しでも国に貢献したいと思ってはいるのだが……なかなか上手くいかなくてな」フゥ

うさぎ(うんうん、そういうこともあるよね)

王子「護衛対象を守ることもできなかった……」

うさぎ(いやいや気にすんなって! 養ってくれりゃそれでいいって!)

王子「俺は本当に…駄目な王子だ」

うさぎ「……」

うさぎ(そんなことないのに)

王子は、夜の街で自分を助けてくれた。たったそれだけのことかもしれないが、自分の手で下賎な者を助けてくれる王族がどれだけいるか。
それに王子はこうやって、真剣に自分の心配をしてくれている。

うさぎ(それだけ思いやりのある人間が、下々の人間を気遣える人間が、駄目なわけがないじゃん)

王子「あああぁぁ~、つらいよー!! 俺をなぐさめて、うさちゃん!!」スリスリスリスリ

うさぎ(こういうとこは駄目だけどな!!)

26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/01(日) 20:41:59.85 ID:kf4Dhax/0
いいねー

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/01(日) 20:45:08.11 ID:pUI5Dc/ko
うさぎの正体に気付いても気付かなくてもおいしいな

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/02(月) 19:08:15.80 ID:kdCA4GR10
こうして盗賊のうさぎ生活が始まった。


*ごはん

王子「うさちゃんは一杯食べるなぁ」ニコニコ

うさぎ(高級食材うめええぇ!! 生野菜も美味しく頂けるうさぎ舌万歳!!)


*お風呂

うさぎ(あったけー……)ヌクヌク

王子「じゃぶじゃぶしたらブラッシングしようね~」

うさぎ(やってもらうって楽チンだな~)

王子「ああああぁぁ、サラサラしてるううぅぅ!!」ナデナデナデナデ

うさぎ(おい、毛並みが乱れるだろ)

王子「そうだ、リボンを買ったんだ。耳…に結ぶわけにはいかないから、首に……」

うさぎ(お、どーよ?)

王子「………!」

うさぎ(ん?)

王子「ああああぁぁ、可愛い可愛い可愛い可愛い!!」ナデナデナデナデ

うさぎ(病気かこいつは)


*うさんぽ

王子「良い天気だな」←人目があるのでキリッとしてる

うさぎ(タンポポ食べたいなぁ~)

子供「うさちゃんだー! なでなでしてもいい、王子様ぁ?」

王子「あぁ、良いぞ」

子供「わぁい、うさちゃーん!」ナデナデ

うさぎ(愛想振りまかなくてもデレるんだから人間てチョロいよな~)


*睡眠

王子「お休み、うさちゃん」

うさぎ(ふかふかベッドはいいなぁ)ヌクヌク

王子「お休みのちゅー…」

うさぎ「は、断る!!」シャッ

王子「あたっ。怒ってても可愛いなぁ」ナデナデ

うさぎ(チョロいにも程があるぞ)

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/02(月) 19:09:17.25 ID:kdCA4GR10
うさぎ(金持ちに飼われたペットって人生イージーモードじゃん…私、めっちゃ勝ち組)ゴロゴロ


王子「むむぅ」ソワソワ

うさぎ(どうしたんだろ王子、朝からソワソワしてるけど)

ガチャッ

末姫「おにーさまっ! ただいまぁ~♪」ガバッ

王子「うわっと!」

うさぎ(『おにーさま』? あぁ、この子が勇者の末姫か)

王子「ノックくらいしろ、末姫。全く……」

末姫「えへへー♪ お兄様、星神の冠ありがとうね~。とっても役に立ってるよ、あれ!」

王子「……俺ではない。探してきたのは、そこのうさだ」

末姫「あ、この子がうさちゃん! 可愛いねぇ~♪」ナデナデ

うさぎ(デレた時の笑顔はそっくりだわ、流石兄妹)

末姫「でも、盗賊さんは今でも行方不明だとか……。心配だね」

王子「お前が心を痛める必要はない。俺の責任だからな」

うさぎ(いやいや、もう忘れてくれていいんだけどね)

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/02(月) 19:09:56.30 ID:kdCA4GR10
王子「ところで帰省とは珍しいな」

末姫「うん…ちょっと、行き詰まっちゃって」

王子「どうした?」

末姫「神器"皇帝の鎧"を手に入れたんだけど……それ、どうも力を発揮しないの」

王子「あぁ、聞いたことがある。神器によっては、他の何かと組み合わせて使用するものもあるそうだな」

末姫「そう、それで調べに戻ってきたんだけど……あぁもう、最悪!!」

王子「ど、どうしたんだ」

末姫「鎧に"皇帝の黒真珠"っていうものをはめ込まないと使えないみたいなんだけど! その真珠がどこにあるのか、わからないのよ~」

うさぎ(……ん? 皇帝の黒真珠?)

王子「そうか…。アイテム探しは不得手だからな、お前は。じゃあ、国のトレジャーハンターに依頼するしかあるまい」

末姫「そうねぇ~。でも、うぅ~。手がかりなしじゃ行き詰まるよね~」グスグス

うさぎ(それって確か……)ダッ

王子「あ、うさ!? どこへ行く!?」

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/02(月) 19:10:26.60 ID:kdCA4GR10
>国境外の森


うさ(ここに……)ベリベリ

盗賊は木に噛み付いて、皮を剥がした。すると、木の中は空洞になっていた。
ここが、盗賊の宝の隠し場所である。

うさぎ(皇帝の黒真珠、綺麗だったからコレクションしてたんだよね。えーと…)ゴソゴソ

うさぎ(あった!)

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/02(月) 19:11:30.97 ID:kdCA4GR10
王子「う、うさ!?」

末姫「これって……皇帝の黒真珠?」

うさぎ(どーよ)ドヤ

城と森の往復に3日かかったが、とにかく無事に黒真珠を持ち帰った。
その知らせに、城中は大騒ぎだ。

末姫「これで鎧が真価を発揮するわ! ありがとう、うさちゃん!」ギュー

兄「信じられん……まさか、うさぎが黒真珠を持ち帰るとは……」

うさぎ(そう、敬え)ドヤ

王子「うさ、お前凄いな。よし、今日はご馳走だぞ」

うさぎ(その言葉が聞きたかった!!)

姉「ねぇ…確かそのうさぎ、以前にも星神の冠を持ち帰ったのよね?」

王子「はい。その時は偶然かと思っていましたが……」

姉「もしかしたら、そのうさぎ…トレジャーハントの能力を持つの!?」

うさぎ(いやいや、うさぎになった今じゃその能力も……)

姉「……試してみる価値はありそうね」

うさぎ(げ)

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/02(月) 19:12:14.37 ID:kdCA4GR10
姉「神器"守護天使の盾"は、邪神の神殿にあるという話よ」

兄「強力な魔物、複雑な設計…プロのトレジャーハンターにとっても難易度の高いダンジョンと言われている」

うさぎ(うん、私でも避けてたもん)

姉「そのうさぎに、邪神の神殿を捜索させてみてはいかが?」

うさぎ(無茶言うんじゃねぇ!)

王子「危険すぎます! うさは、戦闘力もないただのうさぎなのですよ!」

うさぎ(そうだそうだ!)

姉「心配いらないわ、護衛をつけるから。うさぎに護衛、っていうのもまぁおかしな話だけど」

兄「神器探しはうさぎの手を借りたい程に難航しているのだ」

うさぎ(いいぃぃやあぁぁだああぁぁぁぁ!!)

姉「それで、うさぎの護衛候補だけど…全員、出てきなさい」


くじ男「白鯨騎士団団長、くじ男で御座います」

カミ男「銀狼騎士団団長、カミ男で御座います」

シャケ男「紅鮭騎士団団長、シャケ男で御座います」


姉「我が国が誇る一流の騎士団達よ。どう、うさぎさん?」

うさぎ(顔が生理的に受け付けん!!)ブンブン

王子「何か、嫌がってますね」

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/02(月) 19:12:58.52 ID:kdCA4GR10
姉「うさぎに嫌がるも何もないでしょ。とりあえず連れて行くわよ」

うさぎ(いやだいやだいやだいやだいやだいやだああぁぁ!!)

兄「むぅ。王子のズボンに噛み付いて離れないなぁ」

王子「だから嫌がってると言ったでしょう」

末姫「うさちゃん、お兄様と離れたくないのね~」

姉「うさぎに頼るという考えが間違っていたのかしら」

うさぎ(そうだそうだ! 私はほのぼのうさぎライフを楽しんでいたいんだ! 働きたくねぇ!)

末姫「あ、それならさぁ」

王子「ん?」

末姫「白兎騎士団……お兄様が護衛につくってのはどうかな?」

王子「……え?」

うさぎ(……は?)

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/02(月) 19:13:30.09 ID:kdCA4GR10
末姫「うさちゃんは、お兄様のことが大好きみたいだし。お兄様と一緒なら、行くんじゃない?」

うさぎ(いやいやいやいやそれは大きな誤解ですよお嬢さん!?)

兄「…白兎騎士団に任せるのか……」

姉「それはちょっと恐ろしいかも……」

王子「……俺は恐れてなどいませんよ」

うさぎ(ちょ、おま…)

王子「だけど俺は、うさが嫌がることはさせたくない」

うさぎ(お?)

王子「兄上と姉上のおっしゃる通り、俺は力不足だ。けどそれ以上に、うさは俺にとって大事な存在で……」

うさぎ「………」

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/02(月) 19:14:26.08 ID:kdCA4GR10
王子『才知に優れた2人に、武芸に秀でた末姫……俺1人が凡人なんだ』

王子『少しでも国に貢献したいと思ってはいるのだが……なかなか上手くいかなくてな』フゥ

王子『俺は本当に…駄目な王子だ』


うさぎ(全く……これはチャンスじゃないかっての)

姉「そう言うなら仕方ないわ、やっぱり別の方法を……」

うさぎ「……」クイクイ

王子「ん、どうした? うさ?」

うさぎ(とっとと来いっつってんだよおぉ!!)クイクイッ

末姫「まさか、うさちゃん…お兄様に『行こう』って言ってる?」

うさぎ(おう!)コクリ

王子「な…待て、うさ! 邪神の神殿は本当に危険な場所で…」

うさぎ(わかってらい!)ゲシッ

王子「いでっ!」

うさぎ(だからこそ、汚名返上のチャンスじゃんか! この私が協力してやるんだから、上手くやれよ!)クイクイ

王子「うさ……」

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/02(月) 19:15:09.96 ID:kdCA4GR10
王子「今より、我々白兎騎士団は邪神の神殿に乗り込む! 全ては世界平和の為だ!」

オオォーッ

うさぎ(騎士団の皆、気合入ってるなぁ。私も頑張らないと)

王子「うさ、怖くなったら俺に飛びつけよ」

うさぎ(それはそれで怖いんだけどな)


王子「さて、神殿内に入るか……」

うさぎ(…! 駄目だ)ダッ

王子「どこへ行く、うさ!?」

うさぎ(正面突破は危険な予感がする。別の入口は……あった!)

うさぎ(あ、でも高いところにあるなぁ。ロープがあれば入り込めるんだけど…)ウーン

王子「あそこから入れってか、うさ?」

うさぎ(方法があるのかな?)コクリ

王子「よし、俺の服の中に入れ。さて、と…」ヨジリッ

うさぎ(え、まさか……)

王子「よいしょ、よいしょっと」

うさぎ(おぉ凄い、わずかな凹凸を利用して壁をよじ登っている!)

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/02(月) 19:16:10.57 ID:kdCA4GR10
王子「全員、神殿内に入ったな。よし、探索にとりかかるか」

うさぎ(うーん、道は3つか…)


"私はここにいます"


うさぎ(……ん?)

長い耳が、女の声を拾った。
男性のみで結成されている白兎騎士団の団員ではない。

うさぎ(まさか! ダンジョン内で迷ってる女がいるのか!?)


"こっち、こっち…"


うさぎ(こっちの道だ!)ダッ

王子「うさが走り出した! 全員、続け!」

うさぎ(無事でいろよ…って!!)

立ち止まる。盗賊の耳は、足音を拾っていた。
そして、王子の後ろに隠れる。

王子「どうした、うさ?」

うさぎ(群れがこっちに来る!)

王子「…! 魔物だ、行くぞ!」

10匹程度の魔物が前方から現れ、騎士団の団員達は戦闘に入る。
その間、盗賊は物陰に避難していた。

うさぎ(この体、トレジャーハントには不便かと思ったけど、聴力と素早さが上がったのは割と便利)

うさぎ(おぉ。白兎騎士団、結構強いじゃん。あっという間に魔物をやっつけた)

のほほんとしていると、王子が物陰から盗賊を抱き上げた。

王子「怖かっただろう、うさ? だが安心しろ、俺がお前を守る」

うさぎ「……」ドキ

うさぎ(全く、格好つけちゃって……本音は『よしよし怖かったでちゅね、うさちゃ~んスリスリ』だろ)

そう思いつつも、紳士的な言葉に悪い気はしなかった。

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/03(火) 18:51:49.12 ID:NS9V854j0
"こっち…こっち……"


うさぎ(声が近くなっている。よし、助けられる!)

「おやおや。まさかここまでたどり着ける人間がいるとは」

うさぎ「!!」

声が聞こえると同時、盗賊は王子の後ろに隠れた。
そして煙と共に姿を現したのは――

闇神官「私は闇神官。この神殿を守る者。人間風情がここまで来れるとは、正直驚きましたよ」

うさぎ(だって罠、そんなに無かったよね?)

闇神官「貴方達、分岐路の多い道から正確なルートを辿ってきましたね? そんなことができたのは、貴方達が初めてですよ」

うさぎ(分岐路…あぁー、違ったルートだったら罠にかかってたのか。ナルホド)

王子「俺たちは守護天使の盾を探している。そこをどいてもらおうか」

闇神官「そうはさせませんよ……!!」

王子「!!」

うさぎ「!!」

闇神官の手から、黒い光が発せられた。

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/03(火) 18:53:06.82 ID:NS9V854j0
王子「大丈夫か、うさ!」

うさぎ(な、何とか……)

王子が庇ってくれたお陰で、ダメージは免れた。
だが騎士団員の何名かは光を喰らったようで、怪我を負っている。

闇神官「この忌々しい神器、破壊どころか、我々魔物は触れることすらかなわない。なので私はここで、神器を求めて来る人間を排除しているのですよ!」

王子「奴の攻撃、広範囲型か…数で押しても無駄だな」

そう言って、王子は近くにいた者に盗賊を渡した。

王子「こいつは俺がやる! 全員、物陰に避難して援護を!」

騎士団の者たちは王子の命令通り、物陰に潜み、装備を弓矢に切り替える。
盗賊は顔をひょいと出して、王子の戦闘を見守った。

闇神官「はああぁ!」

王子「でりゃああぁぁ――ッ!!」ズバッ

うさぎ(すげぇ! 魔法を一刀両断した!)

闇神官「やりますねぇ! ですがこちらも魔王様にこの場を任された身、貴方には負けませんよ!」

闇神官は弓矢を弾き落とし、魔法攻撃で王子に距離を詰めさせない。
自信満々な発言は、確かな実力があってこそのもののようだ。

うさぎ(王子……!)

王子は闇神官の魔法を切るだけで、防戦一方だ。

闇神官「ふふふ! 守るだけでは勝てませんよ!」

王子「確かにお前の言う通りだな」

として王子は、剣先を闇神官に向け――

闇神官「……!?」

うさぎ(な、何あれ!? 剣が光ってる! あの光って、闇神官の魔法そっくり……)

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/03(火) 18:54:09.97 ID:NS9V854j0
王子「俺は魔法を切っていたわけではない。吸収していたのだ」

闇神官「きゅ、吸収…!?」

王子「お前のように、近づくことすら困難な敵には効果的だ。こうやって……」

王子が剣を振ると――光の刃が、闇神官を切った。

闇神官「カハ…ッ」

王子「同じ性質の技を、倍にして返す。単純な話だろう?」

闇神官は、信じられない、といった顔で倒れた。
出血量からして、絶命したと思われる。

騎士団の面々が姿を現して王子を気遣うが、王子は相変わらずの涼しい顔で「大丈夫だ」と返していた。

うさぎ「……」

うさぎ(やるじゃん、王子…。どこが凡人だよ)

王子「どうした、うさ。俺に見惚れていたのか?」

うさぎ「~っ」

王子は冗談めいた笑顔で声をかけてきた。
キザったらしいったらありゃしない。人目がないと、うさぎにデレデレのくせして。

うさぎ(そんなこたーどうでもいい! 早く、声の主を助けないと。確か、こっち……)

と、声の方に走っていったが――

うさぎ(あれ?)

そこには誰もいなくて――代わりに、盾があった。

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/03(火) 18:54:39.46 ID:NS9V854j0
王子「これは間違いない、守護天使の盾だ」

うさぎ(それも大事だけど、人助けをしないと……)


"見つけてくれて、ありがとう"


うさぎ(……へ? ありがとう?)

キョロキョロ辺りを見回してみたが、やはり女性の姿などない。
どういうことだ――と思ったその時、あるものと目が合った。

うさぎ(まさか……)

王子が持っている盾に装飾された天使が、一瞬だけ笑顔になった。
まさかとは思うが……。

うさぎ(盾の声を聞いたってのか…?)

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/03(火) 18:55:09.65 ID:NS9V854j0
>中央国、城


城では神器を持ち帰った白兎騎士団の面々が暖かく迎え入れられた。
うさぎや王子の武勇伝も、あっという間に広まった。

うさぎ(どーよ! 崇めてくれて構わんよ!)ドヤァ

王子「全部、うさのお陰だ。今日はご馳走だからな」

うさぎ(よっしゃあ!)

兄「王子」

姉「よく戻ったわね」

王子「兄上、姉上」

うさぎ(どうだ、見たか! あんたらがバカにしてた弟は見事に……)

姉「……良かったわ」ウルッ

うさぎ(え?)

姉「私、王子が無事なのか心配で心配で……」

兄「あまり重要な任務はお前に任せたくなかったのだが……よくぞやった、王子!」

うさぎ(…んー?)

47 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/03(火) 18:56:16.34 ID:NS9V854j0
王子「俺が凡人なばかりに、2人から信頼を得ることができない」

うさぎ(いや…あの2人、単純に王子の身を案じてるだけじゃないか? ちょっと伝え方が不器用なのと、過保護なだけで……)

王子「今回だって、全部うさちゃんのお陰だよぉ~、俺は駄目なんだぁ~」スリスリ

うさぎ(甘えん坊だなー、こいつ)

末姫「お兄様ーっ!」タッタッ

王子「コホン。おぉ末姫、どうし……」

末姫「お兄様ぁ!」ギュッ

王子「!」

うさぎ(わお)

末姫「聞いたよお兄様、神殿のボスを1人でやっつけたんでしょ? えへへ、やっぱりお兄様は凄いなぁ~」

王子「……俺など、凄くはない」

うさぎ(いや凄いって。何でこんなに自信ないのかねぇ、王子は。あー、尻を叩いてやりたいわ)

王子「…俺には、お前のような剣の才能はない」

王子はボソリと呟いた。

王子「俺の剣術には、正攻法で勝つ力がない。……王族の者としては恥である、姑息な剣術だ」

うさぎ(姑息……?)

闇神官との戦いで見せたあのトリッキーな技が姑息というのか。
確かに剣を使った戦いとしては邪道かもしれないが…。

うさぎ(でも、あの剣術があったから闇神官に勝てたんじゃん! もっと自分を誇っていいよ!)ゲシゲシ

王子「俺に、お前のような才能があれば……」

うさぎ(そうじゃねぇっつーの!! ああぁ、言葉を伝えられないのがもどかしいーっ!!)

末姫「お兄様は、凄いよ!」

うさぎ(お?)

末姫「それはお兄様が身につけた"技"だもん、十分に誇れるものだよ! もっと自信持ってよ、お兄様!」ギュゥ

王子「末姫……」

うさぎ(そうそう。……それ、私が言いたかったのになー)モヤモヤ

48 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/03(火) 18:57:44.06 ID:NS9V854j0
その後うさぎの評判は広まり、度々ダンジョン探索に行かされたが…。


"こっちだよ"
"気をつけて、こっちに来ちゃ駄目だよ"
"ここに隠し扉があるよ、おいで"


うさぎ(やっぱ、幻聴じゃないんだな…)

神殿に乗り込んだ時よりも、色んな声が聞こえるようになっていた。
そしてその声に従えば、難なくダンジョンを探索できた。

うさぎ(うさぎの聴力って凄いんだなぁ。おかげで忙しいけど、まぁいっか)

敵は白兎騎士団の連中が倒してくれるし、城に戻れば良い待遇を受けられた。
人間の頃に比べれば、大分楽な生活だ。

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/03(火) 18:58:57.26 ID:NS9V854j0
王子「うさちゃんは凄いなぁ~…」ナデナデ

今日もダンジョン探索を終えた王子は、ぐったりしながらベッドで盗賊を撫でていた。
すっかりダンジョン探索班となった白兎騎士団で、毎日大変なのだろう。

うさぎ(何せ私は、白兎騎士団以外の騎士団にはデレないもんね。そうやって王子の株上げに貢献してるんだぞ~)

王子「どうして俺なんかに懐いてくれるのかな~? 不思議だなぁ……」

うさぎ(自分を卑下すんじゃねぇよ!)ゲシゲシ

王子「あたた。…なぁ、うさちゃん」

うさぎ(ん?)

王子「正直、うさちゃんの能力についてずっと半信半疑だったけど、今なら言える。…その能力で、盗賊を探せないか?」

うさぎ「!」

王子「兄上達は、行方不明になってから日数が経っているから諦めろと言う。だが、俺は……」

うさぎ「……」ゲシゲシッ

王子「いたたっ、な、何!?」

うさぎ(もう、本当にこいつは…どうしてこんなに私なんかのことを気にかけるんだよ!)ジッ

王子「うさちゃん……?」」

うさぎ(もう"盗賊"はいないの!)ブンブン

王子「まさか…無理だ、って言ってる?」

うさぎ(そう!)コクリ

王子「………」

50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/03(火) 18:59:53.18 ID:NS9V854j0
王子「うさちゃ~ん……」ギュウゥ

うさぎ(どうしたよ)

王子「俺はつらい…誰も死なせたくないのに」

うさぎ(この時代にそれは現実的じゃないぞ。死体とか飽きる程見てきたし)

王子「……盗賊は、可愛らしい娘だった」

うさぎ(な!?)

王子「彼女の人生を思うと、つらい。貧しい生活を送り、最期はダンジョンの中で人知れず……」

うさぎ「………」

王子「…彼女に仕事を依頼した中央国に、大きな責任がある。俺も、加害者の1人だ」

うさぎ(仮に死んでたとしても、私はあんたを恨まないのに)

王子「加害者の俺が彼女を悼むのは偽善でしかない。だが…それ以外に何もできない。俺は無力だから……」

うさぎ(……ほんとに、王子は弱いな)

自分のせいで王子が心を痛めるなんて、不本意だ。自分は誰かに死を悼まれる程、価値のある人間じゃないのに。
王子は繊細だ。それは王族として、騎士団を率いる者として、致命的な弱点だ。

うさぎ(優しすぎるんだね、王子は)スリスリ

言葉を伝えられないのがもどかしい。
一瞬だけでも人間に戻れたら、ありがとうと伝えたい。何でありがとうなのかは、自分でもわからないけど。

うさぎ(私が側にいるから、癒されなよ。盗賊よりうさぎの方が、ずっと可愛いだろ?)

52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/03(火) 19:03:15.64 ID:AK2nT/Sa0
盗賊ちゃんもかわいいで

53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/03(火) 21:29:44.74 ID:F6A3yZ56o

兄と姉がほんとに不器用なだけだったなら可愛いやつしかいなくて素晴らしいな

55 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/04(水) 19:20:32.70 ID:Rk5gdONU0
>ある日


末姫「うさちゃあぁ~ん、助けてぇ~!!」ギュム

うさぎ(何だよぅ)

王子「末姫。確か神器を揃えて魔王城に向かったはずでは…」

末姫「あのね、魔王城ね、色んな謎解きとか仕掛けがあって進めないの! もー、イライラするーっ!!」

王子「なるほど、それはお前にとっては頭が痛い問題だな」

末姫「だから、ね! うさちゃんに助けてほしいの!」

王子「うさを連れて行くなら俺も行くぞ。足を引っ張るだけなので、魔王戦には参加できんが」

末姫「オッケー、オッケー! よっしゃ、もう逃がさないよ魔王!」

王子「魔王が逃げるわけないだろう」ハハハ

うさぎ(魔王城か…難易度MAXだろうなぁ)

兄「王子が魔王城に…くっ、動悸が」

姉「無理しないで、怪我したら帰ってきなさいね?」

王子「俺は…何て信用がないんだ」ズーン

うさぎ(2人のあの目は慈愛の目だろ、よく見ろアホ!!)ゲシゲシッ

56 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/04(水) 19:20:59.66 ID:Rk5gdONU0
そういうわけで、末姫ら勇者一行と、白兎騎士団は魔王城までやって来た。


末姫「じゃじゃーん、ここが魔王城でぇーっす!」

うさぎ(うっわー。何かヤな雰囲気……)

末姫「ん、何、戦士? え、疲れた? わかった。皆ぁ、各自休憩!」

王子「呑気なものだな……」

うさぎ(強者の余裕なのかねぇ)

末姫の戦闘を生で見たことはないが、実力は世界的に有名だ。
幼少期は魔物をちぎっては投げ、反抗期にグレて悪魔狩りをし、素手でドラゴンを倒したとかいう噂も……。

うさぎ(ま、流石に誇張してるだろうけどね)

王子「うさ、怖くないか? 木陰で少し休もうか」

うさぎ(まぁ私は大丈夫……ん?)

ふと、何者かが近づいてくる音がした。それも複数…これは人間の足音ではない。
盗賊は警戒し、耳をぴんと立ててそちらの方を見た。

王子「魔物か!?」

盗賊の様子に気付いたらしき王子は、剣に手をかける。
草を踏むガサガサという音は段々と近づいてきて、その姿を――

わらわら

うさぎ「………」

王子「………」


うさぎの群れ?


王子「う、う、うううぅぅうううううぅぅぅううぅぅぅ」

うさぎ(あ、これヤバい)

王子「うさくぁwせdrftgyふじこlp;!!!」

うさぎ(うさ萌え野郎が発狂したぞ!!)

57 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/04(水) 19:21:34.18 ID:Rk5gdONU0
王子「ああぁぁ可愛い可愛い可愛い可愛い」ナデナデナデナデ

うさぎ(誰もいなくて良かったなー…)

王子「幸せだ…もしこれが魔王の罠だったとしたら、俺は喜んで死ぬだろう」 ゲシゲシッ>

うさぎ(めっちゃ踏まれてるじゃん、うさぎの群れに)


黒うさぎ「失礼」

うさぎ「お?」

黒うさぎ「貴方様はこれから…魔王城に乗り込まれるのですか?」

うさぎ「まぁね。あ、うちのうさ萌え野郎がゴメンな」

黒うさぎ「いえ。人間に癒やしを与えるのも、我らうさぎ一族の役目。我々も魔王の討伐と世界平和を望んでいるのです」

うさぎ「そうなのか。うさぎも大変だねぇ」

黒うさぎ「彼が、貴方様を守護する方ですか?」

うさぎ「そう。あぁ見えて、頼れる奴だよ」

王子「うさぁ~」

黒うさぎ「微力ながら…我々うさぎ一族から、彼に祝福を……」

王子「いて、いててっ! あぁもう、無邪気だなぁ!!」 ボコスカ>

うさぎ(うさパンチかい。まぁ王子が幸せそうならいいけど)

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/04(水) 19:22:15.90 ID:Rk5gdONU0
>魔王城内


末姫「お兄様、土埃まみれだけど大丈夫?」

王子「気にするな。転んだだけだ」

うさぎ(自ら寝転がってうさぎに踏まれたんだけどな)

末姫「でねー、前に来た時はこの行き止まりから進めなくなったんだけどねー」

王子「割と早い段階だな」

うさぎ(ん…? 何か罠がある予感……)

末姫「でね、このボタンをポチッと押したらね」ポチッ

うさぎ(ちょ、それ、罠!!)


ドオオオォォン


うさぎ「」

末姫「こうやって巨大からくり兵が現れる仕掛けでね」

王子「わかってて押すな!! ……って、危ない!!」

5メートルほどある、鉄筋でできた巨大からくり兵は斧を振り下ろし――

末姫「うっさいわ!」バキィ グシャ

うさぎ(えっ)

末姫「一杯倒したら次の道が開けるかな~と思ったんだけど、100体倒しても駄目で。諦めちゃった」

王子「多分、その攻略法間違っているぞ」

うさぎ(ワンパンで倒した……)

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/04(水) 19:22:51.78 ID:Rk5gdONU0
王子「うさ、わかるか?」

うさぎ(これは……)トコトコ

末姫「どこ行くの、うさちゃん?」

うさぎ(ここをこう行ってこう行って……)

王子「…? さっきの場所からどんどん離れているな」

うさぎ(ここだ)

末姫「あ、階段」

王子「……」

末姫「ありがとう、うさちゃん! よし、新しい道が開けたわ!」

王子「単純に道を間違っていただけかあぁ!!」

末姫「何よー。こんだけ広いんだから仕方ないでしょー」プクー

うさぎ(このパーティーは全員、方向音痴かい。こりゃ魔王の所までお守りする必要あるな……)ガックリ

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/04(水) 19:23:22.47 ID:Rk5gdONU0
うさぎ(ん)

王子「どうした、うさ」

うさぎ(この壁……)ポンポン

王子「む、壁の間から光が漏れているな。これは隠し扉か」

末姫「どうやって開けるの?」

王子「見ろ、ここに数字盤がある。恐らく、この階のどこかにヒントがあるはずだ」

末姫「めんどくさっ。何でわざわざそんなことするのよ?」

うさぎ(魔王の遊び心だと思うよ)

王子「不満を言っていても仕方ない、ヒント探しを……」

末姫「イヤ。あんまり歩き回りたくない」

王子「あのな…。仕方ない、じゃあお前はここで待って……」

末姫「ううん、探しに行く必要がないのよ。見てて」

王子「?」

うさぎ「?」

末姫「だりゃあああぁぁっ!!」バキィッ

うさぎ「」

末姫「あちゃー、一擊じゃ無理かぁ。まぁ何度か殴れば破れるでしょ、おらああぁ!!」バキィベキィ

うさぎ(堅い壁を…破壊している……)ボウゼン

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/04(水) 19:23:48.63 ID:Rk5gdONU0
>その後も……


<岩が転がってきたぞー!

うさぎ(大丈夫、回避できるポイントが……)

末姫「よっと」

うさぎ(片手で止めた…!!)



<うわっ、この像、火を吹くぞ!

うさぎ(火除けに、そこらにある岩を転がして……)

末姫「らあああぁぁ!!」ビュンビュン

うさぎ(!? 剣風で火を消しながら像に接近して……)

末姫「あっついじゃないのよっ!」バキィ

うさぎ(破壊したー!!)



<魔物の群れが……

末姫「はいはい」ズバズバッ

うさぎ(あー、うん、舐めプだよね)



王子「流石、末姫だ。それに比べ、俺は……」

うさぎ(いやいやいや! 末姫が異常だから! あれと比べて卑屈になるの絶対間違ってるから!!)

もしかして魔王は、本当に末姫から逃げる為に罠を用意したのかもしれない…そんな風に思えてきた。

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/04(水) 19:24:16.04 ID:Rk5gdONU0
末姫「何か、魔王に近づいていってる感じがするよー♪ うさちゃんのお陰だねー♪」

うさぎ(いやいやいや、それ以上にあんたが凄いから)

末姫「あ、この扉も開かないね。よーし、破壊を……」

うさぎ(やめい、この扉はそうじゃなくて……)ブンブン

王子「これも何度か見かけたことある仕掛けだな。魔法で開かない仕組みになっている」

うさぎ(そうそう、力技じゃ無理)

末姫「あ、それなら。任せて!」ポワァ

うさぎ(お、魔法?)

ギギギ…

王子「おぉ開いた。末姫、何をした?」

末姫「この星神の冠は、魔法効果を打ち消す効果があるの。どうよ、賢いでしょ!」エッヘン

王子「冠の効果を知っていれば普通に考えつく手段だと思うがな……」

末姫「ええぇー」

王子「まぁお前にしてはよく頭が働いた方だ」ナデナデ

末姫「えへへー」

うさぎ「……」ジー

王子「? どうした、うさ」

うさぎ(フンッ!)ゲシッ

王子「いたっ」

末姫「お兄様…モテモテだね」ニヒヒ

王子「???」

64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/04(水) 22:43:40.72 ID:Xl4nbU4t0

うさちゃんかわゆい

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/05(木) 18:37:23.90 ID:g8HxF4dz0



末姫「この通路の先に魔王がいるって神器が訴えてる~! よーし追い詰めたぞー!」

うさぎ(可哀想に…今頃怯えてるだろうなぁ、魔王)

王子「ここから先はお前と仲間で進め。俺たちは足を引っ張るだけだ。大丈夫だよな、うさ?」

うさぎ(うん、もう罠の気配はないよ)コクリ

末姫「おっけー♪ 避難しといて、お兄様! じゃあ皆、気合入れて行こーっ!」


王子「さて戻るか……」

うさぎ(……ん? 何か、フロア全体が…)ピクリ

王子「どうした、うさ?」

グラグラ…

うさぎ(こいつぁーヤバい! 早く避難しなきゃ!)ダッ

王子「まさか罠か! 全員、うさを追うぞ!」

ガラガラッ

うさぎ「!!!」

その時、床が崩れ、体が空中に放り出された。

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/05(木) 18:37:57.26 ID:g8HxF4dz0
うさぎ(いてて、うーん……)

周囲をキョロキョロ見回すが、王子や、騎士団員の姿は見えない。

うさぎ(あちゃー、はぐれたか。魔物を避けながら探すか……)

「忌々しいうさぎめが……」

うさぎ「!!」ガバッ

ばさばさっと翼の音が聞こえ、身構える。
そいつは、盗賊の前に降り立った。

悪魔「よ~ォ、うさぎ姫様? 今まで、よくもやってくれましたねェ?」

うさぎ(うげげ……私狙いかよ!)

悪魔「お前のせいで、魔王様があの化物勇者にブッ殺される。俺たち魔物は、新たな魔王が現れるまで、また何百年も待つ羽目になるわけだ」

うさぎ(部下に負け予想されてる魔王って……あいや、末姫相手なら仕方ないけど)

悪魔「忌々しい血族の血は、17年前に絶やしたと思ったが……」

うさぎ「?」

悪魔「まさか、その末裔が生きてたとはなあぁ!! だが今度こそ、その血を絶やしてやるよおォ!」バキィ

うさぎ(ひいぃーっ!)ピョン

盗賊はギリギリ攻撃を回避し、文字通り脱兎のごとく逃げ出した。

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/05(木) 18:38:25.39 ID:g8HxF4dz0
うさぎ(ヤベェのに目ぇつけられたーっ! 怖い怖い!)ダダダッ

悪魔「待てやァーっ!!」

うさぎ(あいつも素早い! 逃げ切れんの、これ!?)

悪魔「オラァ!」ドカァン

うさぎ(ぎゃっ!)

直撃はしなかったが、軽い体が爆風に吹っ飛ばされる。
悟った。これは、逃げきれない。

うさぎ(死ぬんかい、私……)

元々、命が軽い世界にいただけに、悟った後は潔いものだった。
人はいつか死ぬ。それが今。ただ、それだけのこと。

うさぎ(けど――)

悪魔「覚悟したか…」

うさぎ(せめて死ぬ前に……)


――王子に言いたいこと、沢山あったなぁ


悪魔「死ねや――」ゴオオオォォン「ゲファッ!?」

うさぎ「!?」

柱が倒れた。急に。これは一体……?


ドドド…

黒うさぎ「間に合いましたね」

うさぎ「う、うさぎ一族!?」

68 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/05(木) 18:38:59.89 ID:g8HxF4dz0
「あの方に手を出すなー!」ポカポカ
「命に代えても守ってみせる!」カジカジ
「今こそ、我が一族の悲願を!」ゲシゲシ

悪魔「いてっ、いてぇっ!」

黒うさぎ「大丈夫でしたか、うさ様」

うさぎ「あ、ありがとう…。助けに来てくれたの?」

黒うさぎ「貴方様だけを危険な目に遭わせるわけにはいきませんからね」

うさぎ「でも、うさぎが集まって勝てる相手じゃないと思うんだけど……」

黒うさぎ「ぬかりはありません」

うさぎ「え?」


タッタッタ

王子「待て待て~、うさちゃん達ぃ~」アハハ

うさ三等兵「例の男を連れて参りました!」

うさぎ「お、王子!」

69 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/05(木) 18:39:36.89 ID:g8HxF4dz0
王子「んなっ!? うさちゃんズが魔物を攻撃している……!!」

悪魔「このうさぎ共、いい加減に……」ゴゴゴ

王子「うさちゃんズに手を出すなあぁ――っ!!」バキィ

悪魔「グハァ!!」

うさぎ(王子ぃーっ、ナイスイケメン!)ピョーン

王子「あ、うさ! 無事だったか!」

悪魔「チッ、勇者の血縁の者か…。そのうさぎを消す邪魔をするなら、テメェも消すぞ…!」

王子「…」ビュンッ

悪魔「!?」サッ

王子「ちっ、討ち損ねたか」

悪魔「何の迷いもなく殺しにかかってきたな…!?」

王子「うさぎの敵は俺の敵。何を迷う必要がある」

うさぎ(流石うさ萌え男、ブレねーな)

王子「覚悟ォ――ッ!!」

悪魔「くっ」

70 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/05(木) 18:40:06.53 ID:g8HxF4dz0
ガキン、ガキイイィィン

王子「やるな…!」

悪魔「こっちの台詞だ!」


うさぎ「剣と爪の打ち合い…実力は互角か」

黒うさぎ「あれでは、王子殿の方が不利ですね」

うさぎ「え、どゆこと……」


悪魔「こうなったらぁっ!」バサッ

王子「っ、上空に逃げたか」

悪魔「逃げたわけじゃねぇよッ!!」ゴオオォォッ

王子「!!」

ザクッ

王子「くっ……!」


黒うさぎ「奴には、翼がある…」

うさぎ「猛スピードの急降下での、切り裂き!? あんなん、どうやって防ぐんだよ!?」

71 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/05(木) 18:40:39.19 ID:g8HxF4dz0
悪魔「何度でも行くぞオォッ!!」バサッ

王子「またか…!」


黒うさぎ「狙うタイミングがあるとしたら、上昇中ですかね」

うさぎ「王子の遠距離攻撃は私が知る限り、魔法を吸収しての放出のみ。けど悪魔は攻撃魔法を使わないから、その手段が取れない…!」

黒うさぎ「我々も援護のしようがありませんね…」

うさぎ(何かないか、何か……!)キョロキョロ

その時、壁に、あるものを見つけた。

うさぎ「あ、あれは…!」


悪魔「オラアァ!!」ズバァッ

王子「がはっ!!」


黒うさぎ「なるほど、あれを使って…」

うさぎ「……無理だ! この体じゃ……」

黒うさぎ「うさぎの体では…ということですか?」

うさぎ「うさぎの体じゃ力が足りない、どうすれば…」

黒うさぎ「ならば――」

うさぎ「………え?」

72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/05(木) 18:41:12.02 ID:g8HxF4dz0
悪魔「4回も耐えるとはなァ。見た目に反して、頑丈じゃねぇか」

王子「一応、子供の頃からあの末姫と兄妹喧嘩してたからな……!」

悪魔「だが、いつまでも持ちはしねぇだろうなァ! よっしゃ、もう1回行くぜぇっ!!」バサッ

王子「ぐ……」


「今だぁっ!」


王子「――えっ?」

ざくざくっ

王子「――」

悪魔「――え?」

悪魔の体に数本の矢が刺さった。
そして、矢が飛んできた方を見ると――


盗賊「これぞ、壁ドン矢発射トラップ。どうよ!」

王子「盗賊……?」

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/05(木) 18:41:42.29 ID:g8HxF4dz0
>つい数秒前


黒うさぎ「"擬人化の術"というものが御座います」

黒うさぎは急ぎ目に説明を始めた。

黒うさぎ「これを貴方に使えば、貴方は人間の姿になるでしょう」

うさぎ「やって、それ!」

黒うさぎ「本当に構いませんか? …正体がバレますよ」

うさぎ「あぁ、構わないよ!」

そりゃうさぎでいる間、色々とやましい気持ちがあったのは否定できないけれど。
人間になったらもう、王子との生活は帰ってこないだろうけど。

うさぎ「とにかく王子を助けることが最優先だろ!」

だから、迷わなかった。

黒うさぎ「了解しました。では…擬人化の術ッ!!」ピカー

80 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/06(金) 19:11:58.15 ID:o+EceZM40



悪魔「バカな……」

悪魔は地面に落ち、そのまま動かなくなった。
矢はどうやら、急所に刺さったらしい。

王子「……」

だが王子はそんなことよりも、盗賊から目を離さない。
何だか、気まずかった。

王子「その首のリボン……」

盗賊「ん?」

王子「俺がうさに結んだものだ……」

盗賊「……うん」

誤魔化しはきかない。こうなれば、腹をくくって――

王子「うさの正体は――盗賊、だったのか?」



長老うさぎ「ちょっと違あぁう!!」

盗賊「うわぁ!?」ビクッ

王子「うさぎが喋った!?」

81 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/06(金) 19:12:55.86 ID:o+EceZM40
長老うさぎ「ワシはうさぎ一族で唯一、人語を話せるのじゃ。2人とも、よーやったのぅ」

王子「口調からして恐らく年寄り…! けど可愛い……!」キュン

盗賊「うさ萌えバカめが」

長老うさぎ「王子殿、我らの姫を守ってくれて感謝じゃ」

王子「姫? うさ…じゃなくて、盗賊が?」

盗賊「ん?」

そう言えば悪魔もそんなことを言っていた気がする。
逃げるのに必死で深く考えなかったが、自分に「忌々しき血族の末裔」だの…。

盗賊「どういうこと?」

長老うさぎ「先ほど、王子殿は言ったのう。うさ姫の正体が盗賊、と」

王子「あぁ、言ったな」

長老うさぎ「逆じゃ。盗賊の正体がうさ姫、ということじゃ」

盗賊「……へ?」

王子「ん?」

82 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/06(金) 19:13:21.91 ID:o+EceZM40
長老うさぎ「覚えておらんのも無理はない。うさ姫に擬人化の術をかけたのは、まだ姫が赤ん坊の頃じゃ」

盗賊「え…えっ!? っつーことは私は……」

長老うさぎ「うさぎの姿こそ本来の姿じゃ」

盗賊「ちょっと待て、意味わかんない! 何で、どゆこと、私は何!?」

王子「すまない、順を追って説明してくれないか」

長老うさぎ「わかった。あれは17年前じゃ――」


17年前、うさぎ一族は魔物達の襲撃を受けた。
魔物達の狙いは、うさぎ一族の王の血筋を絶やすこと――
そして王の血筋には、当時生まれたばかりだった姫がいた。

長老うさぎ「我々は魔物に立ち向かうこととなったが、正直、勝ち目はほとんど無かった。だから、せめて幼き姫だけでも魔物の手から逃れられるよう、擬人化の術をかけたのじゃ」

盗賊「それが、私……」

長老うさぎ「魔物に勘付かれてはいけないので、我々は擬人化してからの姫をお守りすることができなかった…。しかし、ご立派に成長されたようで…これほど嬉しいことはないのう」

王子「何故、魔物達はうさぎ一族の王の血筋を狙ったのだ?」

長老うさぎ「それは代々、王の血筋に受け継がれている力のせいじゃよ」

盗賊「代々、受け継がれている力……?」

長老うさぎ「そう。それは、いかなるダンジョンの攻略法も見抜く特殊能力じゃよ」

盗賊「……!!」

83 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/06(金) 19:14:19.23 ID:o+EceZM40
盗賊「それじゃ私がダンジョン探索を得意としていたのも、うさぎになってからその能力に磨きがかかったのも…」

長老うさぎ「王の血筋の力、じゃな」

盗賊「なるほどね…。でも何で擬人化の術が急に解けたんだろうな?」

王子「星神の冠のせいじゃないか? ほら、末姫が言っていただろう」

盗賊「え? えーと……」


末姫『この星神の冠は、魔法効果を打ち消す効果があるの』


盗賊「………あ」

王子「星神の冠が擬人化の術を解いてしまったのだろうな。そうか…うさは盗賊だったのか」

盗賊「な、何だよ。ガッカリした?」

王子「まさか」

王子はニコッと笑った。

王子「ずっと、君の件について後悔していたのだ。だが、君は生きていた。それだけで俺は嬉しい」

盗賊(~っ、こいつはまた、こういうことをサラッと……)

盗賊「か、かっこつけてんじゃないっての! うさぎの前では"あんなん"なるくせにさぁ~!」

王子「………!!」

盗賊(あ、こいつ今更気付いたか、自分が恥晒したことに……)

王子「うわああああぁぁぁぁ!!」ガクッ

盗賊「!!? 崩れ落ち……」

王子「死ぬしかない死ぬしかない死ぬしかない…あんな姿をバラされるくらいなら死ぬしか」ブツブツブツブツ

盗賊「バラさねーから!! 落ち着けよ、な、な!? 死ぬな!?」

王子「ほんとだな!? な!?」ユッサユッサ

盗賊(マジで見てはいけないモンだったんだな、あの姿は…)

84 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/06(金) 19:15:02.61 ID:o+EceZM40
長老うさぎ「さて。これは先ほど、一族全員で話し合ったことなのじゃが…」

盗賊「ん?」

長老うさぎ「またいつか新たな魔王が現れ、我々一族を襲うじゃろう。だが、時代の流れと共にうさぎ一族と魔物の実力差は開いていき、次こそ本当に一族は滅ぼされかねん」

盗賊「そうだね…」

長老うさぎ「じゃが、王の血筋に代々受け継がれている力だけは守っていかねばならぬ。そこで、姫様や」

盗賊「はい?」

長老うさぎ「姫様には、より強い種族の者と子孫を残して欲しいのじゃ」

盗賊「それって……」

長老うさぎ「そうすれば、より強い子孫にその力が受け継がれていく。…姫様には、相手もおるようじゃしのう?」チラッ

王子「……」

盗賊「ち、ちちち、ちげーし!! 王子はそういうんじゃないしぃーっ!!」

長老うさぎ「わしは王子殿とは言っておらぬが?」

王子「……っ」

盗賊(ハメやがったな、このジジうさぎ……)グヌヌ

長老うさぎ(ちょろいのう、姫様や)

85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/06(金) 19:15:43.18 ID:o+EceZM40
盗賊「だ、駄目だよ! だって王子は中央国の王子様なんだよ! 色々と、しがらみのある立場だし……」

王子「いや、俺は第三子だしな。割と自由になるぞ」

盗賊「あ、いや、そういう問題じゃなくて」アワワ

王子「それに君はうさぎ一族の姫君。身分的にも、問題はないだろう」

盗賊「いや、だから、そういう問題でもなくて……」

王子「…なら、こう言えばいいか?」

盗賊「――え?」

王子は優雅な動作で、盗賊の手を取って跪いた。

王子「――君に恋をした。君が良ければ、交際から始めないか」

盗賊「!!!」

86 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/06(金) 19:16:36.45 ID:o+EceZM40
盗賊「な、何で……?」アワワ

王子「こういうのは理屈ではなく、感覚的なものだからな…。まぁ1番は容姿か」

盗賊「私、育ちは悪いし品のない女だよ!? きっと、王子に沢山恥かかすよ!?」

王子「こちらは、既に恥を晒しているしな……」

盗賊「あ、あと…えっと……」

王子「君の気持ちは?」

盗賊「…え?」

王子「君にも選ぶ権利がある。俺など嫌なら、そう言ってくれればいい」

盗賊(…また、そういうこと言う)


そりゃうさぎを前にすると残念な男だけど、思いやりがあるし、努力家だし、勇敢だし。
そういった良い所を知る度に、自分は――彼に、惹かれていった。


盗賊「……後悔しても知らないからな。私、尻に敷くぞ」

王子「構わん。知っての通り、俺は好きな相手には割と被虐的なのだ」

盗賊「恥の部分、既に開き直ってんな!」

王子「もっと俺を知って欲しいからな。嫌か?」

盗賊「…嫌なわけない。そういうとこも含めて、あんたのこと、その……」

王子「ん?」

盗賊「……何でもない!!」

王子「?」

長老うさぎ(いやぁ、初々しいのう)ホッホッホ

87 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/06(金) 19:17:05.29 ID:o+EceZM40
王子「そうと決まれば城に帰るか。白兎騎士団の者はもう城外に避難を済ませているはずだ」スッ

盗賊「あっ」

王子は盗賊の手を取った。
まるで恋人としての第一歩。なんかちょっと、ドキドキする。

王子「うさぎ一族も来るがいい! 全員、城で世話しよう!」

ゾロゾロ

王子「ああぁ…うさちゃん達が群れをなして俺の後をついてくる……」デレー

盗賊「おい。…まさか、うさぎ目当てで私に交際を申し込んだ?」

王子「安心しろ、それは理由のひとつに過ぎん!」

盗賊「安心できるかあぁ!!」

ドキドキ撤回。やっぱり王子は残念だ。

88 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/06(金) 19:17:51.11 ID:o+EceZM40
長老うさぎ「おや」

盗賊「どうした?」

長老うさぎ「上の階での戦闘音が止んだ。どうやら、勇者殿が魔王を討ち取ったそうじゃぞ」

盗賊(あ。……完っ璧に、魔王戦のこと忘れてた)

王子「今日はめでたい日だな。しばらくは祝いが続くぞ」

盗賊「お、美味しいもん食べれる!?」ジュル

王子「あぁ、勿論だ。君は食いっぷりがいいからな」

盗賊「に、人間になったら自重すっし! うさぎの時と違うしー!」

王子「そうかそうか」ハハハ


こうしてうさぎ物語の1章はハッピーエンドを迎えた。
これから続いていく未来もハッピーでいたいと、うさぎ姫は王子の隣で願っていた。


Fin

89 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/05/06(金) 19:18:18.38 ID:o+EceZM40
ご読了ありがとうございました。
登場キャラへの好意的なレスを沢山頂けて嬉しかったです(小並感
うさぎにした理由は可愛いからです。


過去作こちらになります
http://ponpon2323gongon.seesaa.net/

90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/06(金) 19:23:15.79 ID:/5Sz/6sjO
ついに1文字すら台詞がなかった魔王くん
おつ

91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/06(金) 19:32:41.78 ID:vLBZQgnFo
おつ
良かった
posted by ぽんざれす at 19:59| Comment(4) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月09日

僧侶「このパンツどうしよう」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1460169206/

1 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/04/09(土) 11:33:26.93 ID:G/xEmEe50
勇者「装備品買ってきたぞー。はい重騎士、新しい盾だ」

重騎士「サンキュ!」

勇者「で賢者に軽装鎧な。これなら装備できるだろ?」

賢者「ありがとう。性能もかなり良いわね」

勇者「で、僧侶には装飾品な」

僧侶「…ありがとうございます」


僧侶(それで、剣士君は……)チラ

勇者「重騎士、賢者、僧侶。今まで使っていた装備を剣士にあげてくれ」

剣士「よっしゃあ、装備品が一気に3つグレードアップしたぞ!!」

重騎士「良かったな剣士!」

僧侶(また、皆のお古なんだ…)



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1460169206
2 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/04/09(土) 11:33:53.31 ID:G/xEmEe50



勇者「旅をスムーズにする為、装備品や消耗品にかける費用は惜しみたくない。その代わり、節約できるところは節約していこうと思う」

僧侶(…というのが、旅を始めた当初に勇者様が言っていた方針)



剣士「自由時間だ~」フンフーン

僧侶「あ、あの、剣士君」

剣士「僧侶ちゃん? どうしたの?」

僧侶「あのぅ…。わ、私から勇者様に言う前に…剣士君と話しておかないと駄目かな、って」モジモジ

剣士「ん? 何を?」

僧侶「その…剣士君は新しい防具買って貰えてないから……」

剣士「………」

僧侶「勇者様が費用を惜しまないと言うなら、剣士君にも新しい防具を……」

剣士「あーあー、それこそ金の無駄だから」アハハ

僧侶「…っ」

3 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/04/09(土) 11:34:45.00 ID:G/xEmEe50
剣士「戦力の要である勇者、皆を守る重騎士、防御力の低い賢者、回復担当の僧侶ちゃん……この4人は防御をしっかり固めないといけないから、装備品に金を惜しまないのは当然だよ」

僧侶「でも剣士君だって」

剣士「俺は皆のお下がりで十分かな。小さい頃から兄貴や姉貴のお下がり着て育ってるから、慣れっこよ」

僧侶「だけど使い古した防具は、機能が落ちていますし……」

剣士「大丈夫、俺って防御よりもスピード重視だし。それに俺って4人に比べると、欠けても支障ないしね!」

僧侶「そんな欠けるなんて……剣士君だってパーティーに必要な方ですよ……」

剣士「そんな顔しないでよ僧侶ちゃ~ん、冗談だから! それに俺の防具を新品で買ってたら、その代わりに飯のグレードがダウンしちまう。そっちのが俺にとって致命的~」

僧侶「……」

剣士「ま、ありがとな僧侶ちゃん! こんなチビで目つき悪いバカ男に気を使ってくれるなんて、僧侶ちゃんは世界一、俺に優しい女の子だわ」

僧侶「そんなこと……」

剣士「そうだ僧侶ちゃん、結婚しよう!」

僧侶「!!!!」ボッ

剣士「うそうそ、喪男ジョーク! 忘れて! それじゃっ!」ダッ

僧侶(剣士君………)

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:35:10.10 ID:G/xEmEe50
僧侶(このパーティーは私以外は皆、幼馴染の仲。だから私は最初の頃、皆に溶け込めるか不安だった)

僧侶(だけど……)


剣士『僧侶ちゃんってお淑やかだよな! いて下さるだけで俺のメンタルポイントがグングン回復します!』グッ

僧侶『そ、そんなこと……』

剣士『メンタルポイントMAXになったから、道中ムーンウォークするわ!』カサカサ

勇者『無駄な動きしてんじゃねーよ』

賢者『しかも、できてないしー』

剣士『あー疲れた…僧侶ちゃん、膝枕しt』

重騎士『だからお前はモテないんだよ!』ゴンッ

剣士『あだーっ!!』

アハハハ…

僧侶『……くすっ』


僧侶(ムードメーカーの剣士君は私の緊張を取り払ってくれた。お陰で私は、皆に溶け込むことができた)

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:35:37.25 ID:G/xEmEe50
剣士『僧侶ちゃんは世界で1番、俺に優しくしてくれる女の子だよ。そうだ、結婚しよう!』


僧侶(剣士君……)ポー

僧侶(剣士君はムードメーカーなんだけど、道化を演じているせいか、何だか軽んじられている気がする)

僧侶(いつも皆を元気にしてくれる剣士君に、もっと元気になってもらえるお礼がしたいなぁ)

僧侶(だけど私なんて特技もないし性格も暗いし……)ハァ

僧侶(そうだ、賢者さんに相談してみよう。剣士君の幼馴染の1人だもんね)

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:36:07.11 ID:G/xEmEe50
>宿屋


僧侶「賢者さーん…」ガチャ

僧侶(あら、いない。お風呂かな?)

僧侶(隣の男性部屋に行ってみよう。勇者様と重騎士さん、いるかな?)

<おおおぉぉ~
<ヒヒヒヒ

僧侶(うん? 何か盛り上がってるなぁ)

僧侶「あのー」

と、ドアをノックしようとした時だった。

勇者「良かったなぁ重騎士! 本当に良かったなぁ!」

重騎士「あぁ! 忍び込んだ時はマジで生きた心地しなかったけど、遂に手に入れたぞ!」


僧侶(何かいいものが手に入ったのかな?)


重騎士「遂に手に入れたぞ……賢者のパンツを!!」


僧侶「」

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:36:34.50 ID:G/xEmEe50
重騎士「羨ましかったんです! 姫様のパンツをオカズにしている勇者が、ずっと羨ましかったんです!!」

勇者「フフフ。何せ、城の警備をかいくぐって手に入れたパンツだ。これは俺の勲章と言ってもいい!!」

重騎士「いくら頭を地面に擦りつけても貸してくれなかったもんなぁ~…。だが、そんな悔しい日々も今日で終わりです!」

勇者「そうだな、お前ずっと賢者のこと好きだったもんな! 惚れた女のパンツなんて、最高じゃないか!!」

重騎士「ありがとう、本当にありがとう! パンツは元気の源です!!」

勇者「さて重騎士…パンツを手に入れてすることと言えば…?」

重騎士「決まっている……!!」

勇者&重騎士「「シコるしかない!!」」


シコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコ


僧侶(う、うわぁ)

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:37:00.04 ID:G/xEmEe50
僧侶(見てない聞いてない、私は何も知らない)ソソクサ

<はぁ、ハァハァ姫様ぁ~姫様ぁ~
<賢者ぁ……好きだぁ、フヒッフヒッ

僧侶(隣の部屋にいても聞こえてくる…とてもここにいられないよぅ)シクシク

僧侶(そ、そうだ。この街の教会に行ってこよう!)ダッ


>教会

僧侶「神よ、我らを導きたまえ…」

僧侶(魔王討伐の旅も終盤。魔王を倒して、皆で生きて戻りたい)

僧侶(だからお願いします……貴方の加護を)


「いつも御苦労」

僧侶「えっ?」

ふと上の方を見ると…

天使「やぁ」

僧侶「そのお姿は……まさか、て、天使様!?」

天使「その通り」

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:37:32.15 ID:G/xEmEe50
天使「世界を平和に導く為に、日夜戦いを続ける信心深き僧侶よ」

僧侶「は、はい!」

天使「神様はいつでも君達を見守っている。恐れるな…君達は神に愛されている人間なのだから」

僧侶「あ、ありがとうございます! 私も信仰の民とは未熟ゆえに、そのようなお言葉は身に余る感激でして…」

天使「まぁ、そんなに固くならずとも良い。私が降りてきたのは、君に用があってだ」

僧侶「用…ですか? 私に?」

天使「そう。神の力を使う信仰深き者に、ささやかな贈り物を届けにきた」

僧侶「贈り物…とは?」

天使「我々天使の加護を受けた装備品だ。魔王との決戦で、きっと役に立つことだろう」

僧侶「まぁ…。感謝致します、天使様」

天使「良い。それよりも、どうか魔王との戦いで命を落とさぬようにな」

僧侶「天使様……」

天使「では、時間だ」

僧侶「あっ!」


そして光と共に天使は姿を消した。

僧侶(まさか天使様とお会いできるなんて…夢みたいだった……)

だが、それが夢でなかったと証明するように――

僧侶 パサッ「!」

僧侶の足元に落ちてきたそれは――

僧侶「………」


天使の羽が装飾された、純白のパンツだった。

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:37:59.62 ID:G/xEmEe50
僧侶(て、天使様の贈り物って、下着!?)

僧侶(ん…聖なる力を感じる。ということは…天使様のご加護を受けた下着?)

僧侶「………」


>宿屋

僧侶(装備したけど…うぅ、下半身にご加護の力を感じて何だかムズムズする)モゾモゾ

僧侶(とりあえず新しく、この下着を装備するとして……)

僧侶(前に使ってた下着も、防御力が高くて結構いいものなのなんだけど…装備品グレードアップしたら必要なくなるしなぁ)

僧侶(でも売るのも恥ずかしいし、捨てるしかないのかな……)

賢者「僧侶ぉー!」バァン

僧侶「きゃっ! け、賢者さん、どうしました?」

賢者「私の下着が1枚無くなったと思ってたら、重騎士の奴がオカズにしてたのよ! 勇者も一緒に誰かの下着で致してたから、2人ともきっちりシメてやったわ!」

僧侶「わ、わぁー」

賢者「全く……そんなことする位だったら、ちゃんと好きって言ってくれればいいのに。バカなんだから……」

僧侶「どうしてそんなことしたんでしょうねぇ……」

賢者「うちの男どもはバカ揃いだから。パンツを与えておけば24時間戦えるようなバカなのよ」

僧侶「そ、そうなんですか!?」

賢者「あー…そういえば子供の頃とか、3人で近所のお姉さんのパンツとか盗んでこっぴどく叱られてたわねー…。あの頃と変わってないわね」

僧侶「………」

僧侶(これだ!!)

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:38:27.32 ID:G/xEmEe50
>翌日

剣士「ふわ~ぁ……早起きしたから体操でもしよう。はー、どっこいどっこい」

僧侶「け、剣士君! おはようございます!」

剣士「あ、おはよう僧侶ちゃん。互いに起きるの早いなー」

僧侶「剣士君…そ、その……」

剣士「どうした?」

僧侶「これっ! 受け取って下さい!」

剣士「ん? 何が入ってるのかな?」

僧侶「そ、それは……」カアアァ

剣士「??」

僧侶「ひ、1人でいる時に見て下さいっ!!」ダッ

剣士「僧侶ちゃん?」


剣士(何だろう…)ガサガサ

剣士「………」

剣士(これは……パンツ?)

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:38:54.72 ID:G/xEmEe50
僧侶「んにゃああああぁぁぁ!!」ジタバタジタバタ

僧侶(あげちゃったー!! 剣士君、今中身見てるかなあぁ!! 喜んでくれてるかなあぁ!!)

僧侶(『あんな地味女のパンツじゃあなー…』ってガッカリされてるかなぁ……)

僧侶(でも剣士君もパンツが好きって言ってたし……)


~妄想~

剣士『はぁ、僧侶ちゃんのパンツ……この純白が女の子のお尻を守っていたのか……』ハァハァ

シコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコ

~妄想終了~


僧侶(きゃーっ、剣士君たらもーっ!! もっと元気になってぇ、遠慮しないでシコシコしてぇーっ!!)ジタバタ

賢者「ふわぁ~…僧侶どうしたのぉ~? 何か、せわしないわねぇ~?」

僧侶「な、なな何でもないんです!! おはようございます!!」

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:39:23.63 ID:G/xEmEe50



剣士「今倒したモンスターの真似しまーす。うぉーん、うぉーん」ピョンピョン

重騎士「ぎゃははは、めっちゃ似てるわ! 剣士、お前モンスターになれるわ!!」ベシベシ

勇者「よっ、魔物男!」

剣士「うぉーん、うぉーん」ピョンピョン


僧侶(剣士君はいつも通りか……)

賢者「どうしたの僧侶? そんな神妙な顔して」

僧侶「え、あ、別に」

重騎士「お前が寒いからだよ剣士!」ベシベシ

剣士「イヤァーン、尻はやめてー! 気持ちよくなっちゃう~!」

勇者「気持ち悪いっつーの!」ハハハ

賢者「パンツ泥棒が何を言う」

重騎士「ごめんなさい」

勇者「ごめんなさい」

僧侶「……」チラッ

剣士「あはは、2人ともバカだな~。僧侶ちゃんも気をつけなよ?」ニコ

僧侶(剣士君……えぇ、私の下着は剣士君だけのものだから)ポッ

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:39:57.92 ID:G/xEmEe50
>数日後


勇者「明日は魔王城に乗り込もうと思う。皆、決戦前夜を悔いの残らないように過ごしてくれ!」


僧侶(と言われて教会でお祈りも捧げたし…。何かするより、体を休めていようかなぁ)

僧侶(……うん? あれは重騎士さんと賢者さん)


重騎士「賢者、その……」

賢者「…何よ。呼び出したんだから、さっさと言いなさいよ」

重騎士「俺…昔からずっと、賢者のこと……」

賢者「……」

重騎士「……賢者ぁ!」

賢者「な、何?」

重騎士「お前と一生一緒にいたい! だから絶対に、最終決戦生き残ろう!」

賢者「重騎士……うん」コクリ


僧侶(わぁー、ちゃんと進展していたんですね、あの2人)

僧侶(……いいなぁ)

僧侶(剣士君……どこにいるのかなぁ)

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:40:27.17 ID:G/xEmEe50
>池


剣士「ほれほれ、餌だぞ~」ポイポイッ

アヒル「がーがー」

僧侶「こちらにいらっしゃったんですね」

剣士「お、僧侶ちゃん! いやー、決戦前日って実感がなくてさぁ~」アハハ

僧侶「私は緊張しています。でも、剣士君といたらリラックスできるかな、って思って」

剣士「そう? じゃあ一緒にアヒルに餌やろうぜ! 可愛いぞ~アヒル」

アヒル「がーがー」

僧侶「ふふ、可愛い」

剣士「がーがー、餌くれー。がーがー」

僧侶「あははっ、もう、剣士君ったら」

剣士「お、僧侶ちゃん。その笑顔、緊張ほぐれてきたね!」

僧侶「ふふ、そうですね。剣士君のお陰です」

剣士「なーに。……俺も僧侶ちゃんに元気貰ったからさ」

僧侶「!!」キュン

僧侶(やっぱり剣士君…私の下着でシコシコと……)ドキドキ

剣士「明日、頑張ろうな!」ニッ

僧侶「はい!!」

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:40:55.63 ID:G/xEmEe50
>翌日、魔王城


剣士「でりゃああぁぁ」ザザザッ

魔物「グアアアァァッ」

勇者「絶好調だな剣士」

剣士「俺は素早い動きで複数を相手にするのが得意だからな。敵がウジャウジャいる魔王城だと、いい運動になるわ!」

僧侶(剣士君……素敵)ポッ

重騎士「やけに元気だな剣士」

剣士「まぁね~♪」

僧侶(剣士君……)


~妄想~

剣士『明日は最終決戦だ! 後悔のないように…出し切るぞおぉッ!!』

シコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコ

~妄想終了~


僧侶(あぁ剣士君っ、一杯出して気持ちよくなってぇっ!!)

賢者「ん…こっちから凄い魔力を感じるわ」

勇者「魔王か?」

賢者「わからない…けど、その可能性は大きいと思う」

勇者「よし、行ってみるか!」

僧侶(そうだった、真面目な局面だったわ…ヨダレ拭こう)キュッ

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:41:21.30 ID:G/xEmEe50
>そんでもって


魔王「よくぞここまでたどり着いたな、勇者一行よ。こうなれば我の手で直接、貴様らを葬ってやろう!」

勇者「お前を直接葬る為に来たんだ! 俺たちは負けやしない!」

重騎士「行くぞォーっ!!」


僧侶(基本戦略は男性陣3人が前衛。重騎士さんは防衛担当、剣士君と勇者様で攻撃を叩き込む)

僧侶(私と賢者さんは後衛で魔法によるサポート。魔王とは距離があり、なおかつシールドを張っているので、ポジションとしては安全)


賢者「3人とも…死なないでね、絶対に……!」ギュッ

僧侶(安全とはいえ、3人が戦っている様子を遠くから見ているのは心中穏やかじゃない)


剣士「ハァ~…おっさん、しぶといね!」

僧侶(小柄な剣士君は敵の攻撃を『受ける』よりも『避ける』ことに特化した素早さタイプで、ダメージを受けることが少ない)

僧侶(だけど……大きな一擊を喰らったら、それが致命傷に繋がる!!)


魔王「えぇい、チョロチョロと!」ブンッ

剣士「よっと! はい、俺はすばしっこいネズミで~す」ヒョイヒョイッ

僧侶(剣士君……!)

剣士「!! 僧侶ちゃん、後ろ!!」

僧侶「え……っ!?」

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:41:56.15 ID:G/xEmEe50
賢者「はあぁっ、炎魔法っ!!」ゴオオォ

僧侶「!!」

僧侶(魔物が接近していた…気付かなかった)ドキドキ

魔王「全力で貴様らを葬るつもりだ……我が魔王軍の総力をもってな!」

勇者「ちっ、敵はお前1人じゃないか」

重騎士「しかし挟まれるとはな…これはヤベェなオイ」


僧侶(そう、魔王と魔物達に挟まれることによって、後衛の安全は崩される)

勇者「……」

僧侶(戦局は、勇者様の判断にかかっている!)


勇者「…重騎士、剣士!」

重騎士「おう!」

剣士「どうした!」

勇者「俺が魔王をやる! お前達は賢者と僧侶を魔物達から守れ!」

重騎士&剣士「「了解!」」

僧侶「……!」

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:42:27.80 ID:G/xEmEe50
僧侶(陣形としては、男性陣が二手に分かれることで、後衛の安全を守る形になった)

僧侶(だけど分かれたことで、男性陣の負担は増えたと思うのだけれど……)


勇者「せやあぁっ!!」

僧侶(流石は勇者様。魔王相手にひけをとっていない)


重騎士「魔王に比べると手応えがねぇな。ハァ~、魔王を相手にしてる勇者がやっぱ1番のヒーローになるんだなぁ」

僧侶(守りの要である重騎士さんのおかげで、私達の安全は守られている)


剣士「ま、いいんじゃねぇのー! 1番頑張ってる勇者に華を持たせてやろーぜ!」ズバァッ

僧侶(剣士君…素早い動きで、敵の数を確実に減らしてくれている!)


賢者「この陣形が崩れないようにサポートするわよ、僧侶!」

僧侶「はい!!」

僧侶(皆を信じられる…これなら、魔王に勝てる!!)

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:42:55.67 ID:G/xEmEe50



魔王「…ハァ、ハァ……」

剣士「へへっ……魔物は全員倒したぜ」ゼーゼー

重騎士「あとはお前だけだ、魔王」ゼーゼー

勇者「…覚悟するんだな」

魔王「くっ…貴様ら……!!」


僧侶(私も大分魔力を消費してしまったけれど、こちらの戦力損失はゼロ…そして魔王は満身創痍。行ける!)


魔王「ク、ククク……」

勇者「何がおかしい」

魔王「褒めてやろう…我にこの技を使わせるのは、貴様らが初めてだ」

勇者「何っ」

魔王「ハアアァァ……」ゴゴゴ


賢者「!!」

僧侶「魔王の力がみなぎっている……?」

賢者「それだけじゃないわ……魔王の奴、生命力を削っている!」

勇者「何だって!」

賢者「皆、警戒して! 僧侶、シールドを強化するわよ!」

僧侶「は、はい!」


魔王「破壊神よ我に力を……"殺戮の旋風"」


僧侶「!!!」

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:43:21.73 ID:G/xEmEe50
旋風が巻き起こったと同時、"不吉"を感じた。
旋風は空気を切り刻み、シールドを突き抜け、まるで触れるものに"死"を与えるような――

僧侶「――」

僧侶は感じていた。
旋風が自分の肉体を切り刻もうと迫っている。

だけど防ぐことも、回避することもできない。

すなわち待つのは、"死"――



剣士「僧侶ちゃん、危ないっ!!」

僧侶「――えっ?」


ドサアァッ

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:43:52.70 ID:G/xEmEe50
勇者「な、何て凶悪な技だ……」ゴホッ

重騎士「賢者……大丈夫か?」

賢者「重騎士、アンタ私を庇うなんて無茶して!」

重騎士「俺のでかい図体はその為にあるんだよ。お前が無事で良かっ」

僧侶「剣士君が、剣士君があぁ!!」

勇者「えっ?」

剣士は僧侶を庇って、彼女に覆いかぶさる形で倒れていた。
全身は旋風に刻まれ、立ち上がる様子を見せない。

勇者「け、剣士! くっ魔王、許さないぞ!」バッ

魔王「フ…今ので貴様らも大きなダメージを喰らったはずだ。そんな体で我に勝てるのか?」

勇者「やってみせる……絶対にお前を倒す!」


僧侶「け、剣士君……!!」

先ほどから回復魔法をかけているのだが、剣士は目を覚まさない。

僧侶「剣士君……」ジワァ

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:44:18.86 ID:G/xEmEe50
魔王「覇ああぁっ!」ビュンッ

勇者「くっ!」

重騎士「がっ!!」

賢者「重騎士、勇者!!」

魔王「クク…形勢逆転だな。1人1人、確実に命を貰おうか!」


僧侶(皆もボロボロ…だけど私の魔力はもうわずか……)

僧侶(もう駄目……っ!!)


ここで皆死んでしまうのだ。
勇者は前夜、悔いのないようにと言っていた。だけど僧侶はひとつ、悔いを残していた。


僧侶(せめて死ぬ前に――)


――剣士君に、気持ちを伝えておけば良かったなぁ。



「絶望するにはまだ早いぞ」

僧侶「……えっ!?」

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:44:47.18 ID:G/xEmEe50
天使「僧侶よ…私の姿が見えるか」

僧侶「て、天使様! な、何故!」

天使「先日、贈り物をしただろう。それを通じて私は、君の想いを受け取ったのだ」

僧侶「天使様……どうか私達をお救い下さい!」

天使「私は君たちを救うことはできぬ……が、贈り物を通して、君の手助けならできる」

僧侶「どうすれば良いのでしょうか……?」

天使「ひたすら強く想うのだ。嘘偽りない気持ちを、強く念じるのだ」

僧侶「は、はい!」

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:45:17.99 ID:G/xEmEe50
僧侶(私の想い。世界平和、皆の無事、そして――)


魔王「な、何だ!?」

賢者「僧侶の"聖なる力"が、高まっている……?」


僧侶(剣士君……私は貴方のことが――)


天使「良いぞ…下半身に強い気持ちが集まっている! もっともっと、強く想うのだ!」

僧侶(剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君)

天使「今だ!! その高めた力を、一気に放出するぞ!!」

僧侶「はいっ!!」



カアアァァ――ッ


勇者「!!!」

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:45:44.45 ID:G/xEmEe50
勇者「傷がふさがった…それに体も軽い」

魔王「そ、そんな馬鹿な!?」

勇者「今なら魔王…お前を倒せる!」

魔王「クッ…ならばもう1度……」

勇者「させるかあぁ!!」ズバアァ

魔王「!!!」

勇者「今度は確実に仕留める……魔王、覚悟ォっ!」ダッ

魔王「う、うわああぁぁ――っ!!」

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:46:12.39 ID:G/xEmEe50
重騎士「やった! 魔王を倒したぞ!」

賢者「剣士は……」クルッ


剣士「フゥ、フゥ……」

僧侶「息を吹き返しました…! 良かった、良かったぁ……」グスグス

賢者「そう……」ホッ

重騎士「あぁヒヤヒヤしたぜ…剣士は俺や勇者と違って、筋肉が発達していないから」

僧侶「傷を見たのですが、頭への直撃は免れていたようで」

勇者「けど服がズタズタだな。内蔵がやられて即死でもおかしくなかったぞ」


剣士「う、うーん……?」

賢者「あっ! 目を覚ました!!」

僧侶「剣士君……大丈夫ですか?」

剣士「あぁ、皆生きてるんだな……安心した」

重騎士「1番心配かけた奴がよく言うぜ!」

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:46:39.75 ID:G/xEmEe50
勇者「剣士、立てるか? 肩貸すか?」

剣士「大丈夫、大丈夫! 全然立てますよっと」スッ

賢者「あっ、服の切れ端が……」

ボロボロッ


勇者「………」

重騎士「………」

賢者「………」

僧侶「………………………………………」

剣士「イヤン、はずかちー」

勇者「………なぁ剣士」

剣士「ん?」

勇者「何で…女物のパンツ履いてるの?」

僧侶「わ、わわわわ私があげた下着いいぃぃぃ!?」

賢者「………はぁ!?」

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:47:18.11 ID:G/xEmEe50
賢者「僧侶、あんた剣士にパンツあげ……はぁっ!?」

重騎士「何それ羨ま…じゃなくて剣士お前、僧侶からパンツなんて貰ってたのかあぁ!!」

勇者「それはいいとして、お前シコり会に1度も参加してないよな!? 1人でシコってたのか、あぁん!?」

賢者「いや論点そこじゃないでしょ。何で履いてるのよ」

剣士「えっ? これお下がりじゃないの?」

僧侶「えっ」

剣士「俺が履いてたパンツより防御力スゲェ高かったからさ。てっきりいつものお下がりかと……」

賢者「いやいやいやいやその発想はおかしい」

勇者「……あ、でも」

賢者「ん?」

勇者「そのパンツを履いていたから……剣士の急所が魔王の技から守られて、即死を免れたんじゃないか?」

重騎士「………」

賢者「………」

剣士「僧侶ちゃんは俺の女神だ! ありがとう僧侶ちゃん、ありがとう!」

僧侶「剣士君……」ウルッ

賢者「待て」

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:47:47.83 ID:G/xEmEe50
賢者「僧侶……あんた、そもそも何で剣士にパンツなんてあげたの?」

僧侶「そ、それは……」

勇者「剣士は小柄だから、僧侶のパンツも入ると思ったから?」

重騎士「シコってもらう為?」

賢者「黙ってろシコメン共。僧侶がそんなこと考えるわけ……」

僧侶「………そうです」

賢者「は?」

僧侶「オカズにして欲しかったんです………剣士君に」ポッ

剣士「僧侶ちゃん……」

賢者「………は?」

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:48:15.98 ID:G/xEmEe50
僧侶「私、ずっと剣士君のこと――」

剣士「……僧侶ちゃん!」ギュッ

僧侶「!!!」カアァッ

剣士「お願い、俺から言わせて! ……こういうのは、男の口から言うもんだからさ」

僧侶「……」コクリ

剣士「……好きだよ、僧侶ちゃん。いつも俺に優しくしてくれた君のこと、大好きだ」

僧侶「私も…いつも明るくて私に元気をくれる剣士君のこと、大好きです」

剣士「生きてて良かったあああぁぁ!!」

僧侶「ふふっ……私もです」


勇者「良かった、良かった」ウルウル

重騎士「本当だなぁ」グスグス

賢者「おい。ssだからわかりにくいけど、剣士は今パンモロ中だからね? しかも女物のパンツね?」

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:48:42.85 ID:G/xEmEe50
ワーワー


天使「……ふっ、一件落着だな」

天使「神様から僧侶に下着を贈れと命じられた時は『ハァ、何故下着なんだよ馬鹿じゃねぇのエロジジイ』と思ったものだが……」

天使「結果、勇者一行の命を救い、彼らを勝利に導く結果となった。やはり神様は侮れないお方だ」

天使「最後に天界の者として祝福を贈ろう……」

天使「どうか、神に愛されし、信心深き少女に、永遠の幸せを……」

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:49:43.55 ID:G/xEmEe50
>そして


剣士「僧侶ちゃん、ごめんごめーん!」

僧侶「もう、遅いですーっ。初デートに遅刻なんて、御法度ですよ」プクー

剣士「ほんと、ごめんって! 今日は僧侶ちゃんの行きたい場所に行こう、ね!」

僧侶「それじゃあ服屋さんに行きましょう」

剣士「服屋? いいね、欲しいのプレゼントするから遠慮しないでね!」

僧侶「違います。メンズ服屋さんです」

剣士「メンズ?」

僧侶「今日は剣士君の服を見たいんです」

剣士「えっと……いいの?」

僧侶「はい。お古じゃない新しい服、買いましょうよ。ね?」ニコ

剣士「……うん。俺センスないから、僧侶ちゃんに見立ててほしいな~♪」

僧侶「わ、私がですか」アワワ

剣士「いいでしょ~、僧侶ちゃん好みの男になりた~い♪」ギュッ

僧侶「も、もー、剣士君ったら!」


旅が終わっても、私と彼は一緒です。これからも毎日、彼と一緒に幸せを感じていけることでしょう。


剣士「けどパンツは女物の方がいいかな~。何かあれからクセになっちゃって」

僧侶「!!?!?」


……ちょっと受難もありそうです。


Fin
posted by ぽんざれす at 11:53| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月01日

執事「魔王よりお嬢様の方が怖い」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1458986149/

1 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/03/26(土) 18:55:59.09 ID:Engg58SE0
執事「ここ…で、間違いないな」

場所は山奥にそびえる屋敷の前。

執事(5年前、魔王を倒した勇者一行。ここは、その一行にいた魔法使いの屋敷だ)

執事(その魔法使いが使用人を募集していると聞き応募したが…まさか書類選考だけで採用決定とは)

執事(まぁ、俺は運が良かったのだろう。とりあえずは…)

執事は呼び鈴を鳴らした。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458986149
2 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/03/26(土) 18:56:47.00 ID:Engg58SE0
少しして…

魔法使い「いらっしゃい。貴方が執事ね、書類で顔は覚えたわ」

執事「お初にお目にかかります。今日から宜しくお願いします、えっと…魔法使い様?」

魔法使い「貴方、確か19歳だったかしら?」

執事「はっ? はい、そうですが…」

魔法使い「なら"お嬢様"がいいわ。私、貴方の1つ下なのよ」

執事「お嬢様…ですか?」

魔法使い→お嬢「あら、いいわぁ~。憧れてたのよ、『お嬢様』呼び♪」

執事「では、お嬢様。先輩の使用人さん方にご挨拶をしたいのですが…」

お嬢「いないわよ」

執事「……はい?」

3 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/03/26(土) 18:57:35.11 ID:Engg58SE0
お嬢「あら説明を受けていなかった? 私は今まで使用人を雇ったことがないのよ」

執事「えっと…この大きな屋敷で、ずっとお1人で?」

お嬢「えぇ。まぁ行商人がたまに来るから、孤独死の心配はなかったけどね」

執事「掃除はお嬢様がされていたのですか…?」

お嬢「"ルンバ"って掃除魔法を編み出したのだけれど、綺麗になるのよねコレが」

執事「お食事は?」

お嬢「行商人が出入りしていると言ったでしょう」

執事「……」ジー

お嬢「? あ。栄養が体…特に胸に回っていないとか思ってる?」

執事 ギクッ「い、いえ!!」

お嬢「これは遺伝よ。貴方は大きい方が好みかしら?」

執事「お、俺は……」

お嬢「正直に言いなさい。使用人の胸の好みくらい把握しておきたいからねぇ」フフフ

執事「…胸ならどんな大きさでも好きですね」

お嬢「………ぅゎ」

執事「何で引くんですか!?」

4 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/03/26(土) 18:58:14.78 ID:Engg58SE0
お嬢「とりあえず仕事内容はマニュアル化しておいたわ。…何か不安そうね?」

執事「執事の仕事をするのはここが初めてなので…先輩がいないのは不安ですね」

お嬢「多少の失敗くらいは大目に見るわよ。給仕だの行商人への対応だの、そんなに重要な仕事でもないしね」

執事「そう…ですか?」

お嬢「それより応募書類に、特技は料理って書いてたわね。今日の夕飯は貴方の得意料理が食べたいわ」

執事「は、はい! では準備に取り掛かります!」

お嬢「楽しみにしてるわ。厨房はそこを真っ直ぐ行って右よ」


執事(色々と不安はあるが…まぁ、ひとまず印象を悪くすることはなかったようだ)

執事(最初の仕事は夕飯作りか…あれ、飯作りって執事の仕事だっけ? …まぁいいか、都合がいい)

5 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/03/26(土) 18:58:44.53 ID:Engg58SE0
執事「ビーフストロガノフと海鮮サラダで御座います」

お嬢「ビーフスト……? ハヤシライスみたいね」

執事「ハヤシライスとは違って、ビーフストロガノフはサワークリームをですね」

お嬢「蘊蓄はいいわ。食事は美味しければそれでいいのよ」

執事「はい、味には自信があります」

お嬢「もぐ…あら本当、美味しいわ」

執事「でしょう?」

お嬢「貴方を雇って良かったわ~。スプーンが止まらな、い……」カクッ

執事「どうぞ、どんどん召し上がって下さい」ククッ

お嬢「ん……何か、ねむ……」クター

執事「ふ……っ」

6 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/03/26(土) 18:59:10.00 ID:Engg58SE0
お嬢「すやーすやー」

執事「さて…と」

執事はお嬢を抱え上げると、ソファーに寝かせた。
そして、服のリボンに手をかける。

執事「どんなもんかねぇ」ゴソゴソ

執事「うわぁ、ガキっぽい下着。18とは思えねぇ」

執事「…胸は小さいが、悪くはない体だ」

お嬢を下着姿にした執事は、お嬢の体の上に跨った。

執事「悪ぃな…だが、これも復讐の為だ。頂くぜ、お前の体!!」

と、下着に手をかけようとしたその時――

お嬢「へぇ…それが目的」

執事「なっ!?」

馬鹿な、こんなに早く目を覚ますはずが――と思った瞬間。

執事「」パタッ

今度は執事が気を失った。

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/26(土) 18:59:47.47 ID:Engg58SE0



執事「う、うーん……?」

お嬢「おはよう、猥褻執事」クスクス

執事「!!!」

執事が目を覚ますと、そこは薄暗い部屋だった。
両手両足は拘束され、身動きが取れない。

お嬢「ふふ、若い男が拘束されてる姿…なかなかそそるじゃない」

執事「くっ…何故だ、料理には大量の薬を仕込んでいたはず…!!」

お嬢「私は自分の体に自動回復魔法をかけているのよ。薬による睡眠状態なんて、1ターンで完治よ」

執事「くそ…それで俺に不意打ちを喰らわせてきたのか…! 迂闊だった……!!」

お嬢「やることはゲスだけど、目の付け所はいいじゃない。そんなに魅力的だった、私?」

執事「…別に」プイ

お嬢「ところで『復讐の為』って言ってたわね。私、貴方に何かしたかしら?」

執事「………」

お嬢「神童だの天才だの呼ばれて妬まれてはきたけれど、人に恨みを買うようなことをした覚えはないのよねぇ」

執事「…………」

お嬢「あら、黙秘? 困ったわねぇ。だったら、それなりの手段を取るわよ?」

執事(拷問にでもかけるつもりか…?)ゴクリ

お嬢「カモーン、触手ちゃーん」

執事「しょ、触手!?」

ウネウネ

執事「なっ!?」

お嬢「"驚く間もなかった。触手に足を絡め取られた男は強引に足を開かされ、衣服はビリビリと引き裂かれた。粘着質な触手が体を這い、ゾクゾクと鳥肌が立つ。だが、触手が男の性感帯を刺激すると――"」

執事「いやいやいやいや、待て待て!? 男を触手責めして誰が喜ぶんだよ!?」

お嬢「私が喜ぶ」ジュルリ

ウネウネ

執事「うわああぁぁぁ!! わかった、わかった白状するから! それはやめてくれ!!」

お嬢「根性なしが」チッ

執事(くっそ、この変態女が…)

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/26(土) 19:00:47.10 ID:Engg58SE0
執事「俺は魔王の息子だ」

お嬢「あら」

執事「5年前、お前たち勇者一行に親父を倒されて以来…ずっと復讐の機会を伺っていたんだ」

お嬢「逆恨みねぇ。魔界から来た魔王が、私達の世界を侵略しようとしたのが悪いんじゃない」

執事「私怨だ…理解してもらおうとは思っていない」

お嬢「なるほど、私怨。てことは、そちらの政治的なアレコレじゃないわけね。通りで計画がずさんだと思ったわ」

執事「………」

お嬢「しかもやることが小さいわ。女で、パーティー最年少の私を狙う辺りもね」

執事「……人選にミスはない」

お嬢「まぁ、それもそうね」フッ

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/26(土) 19:01:32.33 ID:Engg58SE0
魔王討伐から5年、勇者一行の状況にも色々変化があった。

お嬢「勇者は姫様と結婚したけど、結婚3年目から浮気三昧。まぁ勇者は元々モテモテのタラシだからね~、姫様が可哀想」

お嬢「戦士は毎日、酒、酒、酒。今じゃただの飲んだくれおじさんだし」

お嬢「僧侶に至っては怪しい新興宗教を興す始末。魔王討伐報酬の倍以上も稼いでウハウハみたねぇ」

執事「勇者一行で落ちぶれていないのは、お前だけだ」

お嬢「そうね~。山奥の洋館にこもって魔道書の執筆活動中。正に品行方正そのものね」

執事「……知っていたのか?」

お嬢「え?」

執事「魔王の息子である俺が復讐の為に動いていることを知っていたのか…? だから5年間も1人でいたのに、わざわざ使用人募集という罠を……」

お嬢「だったら貴方の目的なんか聞かないわよ。たまたま執事モノのラノベを読んで、専属執事が欲しくなっただけよ」

執事「俺を選んだのは…」

お嬢「単純に好みで選んだわ」

執事(運がいいのか、悪いのか……)

執事「バレた以上、命乞いはしねぇよ…とっとと殺しな」

お嬢「触手ちゃー…」

執事「それはやめろ!!」

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/26(土) 19:02:21.05 ID:Engg58SE0
お嬢「殺す気なんてないわよ。私好みの顔してるのに、勿体無い」

執事「は…趣味悪ぃな」

お嬢「あら謙遜しないで。私、"受け"っぽい顔が好きなのよ~」

執事「その言葉、男の尊厳を踏みにじってるからな?」

お嬢「女の尊厳を踏みにじろうとした猥褻クソ男が何を言ってるのかしら?」

執事「くそ、反論できん…。で、俺を生かしておいて何する気だ?」

お嬢「私、執事も欲しかったけど…ペットも欲しかったのよね~♪」

執事「……は?」

お嬢「というわけで」カチャカチャ

執事「!?」

お嬢が執事の首にはめたのは、犬の首輪だった。

お嬢「今日から貴方は私の"わんこ執事"よ。ハイ決定」

執事「はあああぁぁぁ!?」

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/26(土) 19:03:05.10 ID:Engg58SE0
執事「ふざけんな、誰がそんなモンに…ぐっ!?」

お嬢は執事の体に覆いかぶさり、嗜虐的な目で執事を見下ろしていた。

お嬢「まずは"しつけ"が必要みたいねぇ~?」

執事「な、何するつもりだ!?」

お嬢「私こう見えても、えっちなものは創作物でしか知らないのよねぇ」

執事「こう見えても何も見たまんま…って、何してやがる!?」

お嬢「だーかーらー、実物を知りたくなって」ゴソゴソ

執事「うわああぁぁ、やめろ脱がすな!!」

お嬢「貴方は私の体見たのにぃ?」

執事「ぐぬぬ…。これ以上尊厳を踏みにじるくらいなら、殺せ……」

お嬢「あら~、やられっぱなしでいいの? 復讐するんじゃないの?」

執事「それに失敗したから言ってるんだろう…。ましてや、復讐対象に仕えるなんてできるか」

お嬢「あら~、わんこ執事をやればチャンスならいくらでもあるわよ。それなら、拘束も監視もする気はないし」

執事「……24時間、お前を狙い放題ってわけか…。確かにチャンスではあるな」

お嬢「そ。私は貴方をナメてるから、本気で反撃なんてしないわ」

執事「で…そのナメてる俺に出し抜かれたらどうするんだ」

お嬢「私の純潔なり命なり奪えば~?」

執事「……わかった。お前に仕えてやるよ」

お嬢「オーケー♪」

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/26(土) 19:05:44.08 ID:BoLnC1vhO
いいじゃないか


17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:46:48.15 ID:3sfXE9350
こうして執事の"わんこ執事"としての生活が始まった。

執事「…おはようございます、お嬢様」ムスー

お嬢「おはよう。気持ちのいい朝ね♪」ニコ

執事(お前だけな)

昨晩は寝込みを襲おうと寝室前を張っていたのだが、部屋の灯りが一晩中消えなかったので、お嬢がいつ寝たのかわからなかった。
その上、部屋からは魔力が溢れていた為、踏み入るのに怖気づいてしまった。

執事(寝ながら結界を維持してやがったな…天才と呼ばれただけあって実力は本物だな、クソ)

お嬢「あら、焼きたてパン。美味しそう~」

執事「ジャムを塗って召し上がれ」

お嬢「口を開けなさい」

執事「はん?」

お嬢「せやっ!」ガッ

執事「!!!」ボフッ

お嬢「うん、薬は入ってないようね。頂きま~す」

執事「……」フガフガ

お嬢「いつまでそうしてるの。そのフェラ顔をオカズに召し上がれ、とでも言いたいの?」

執事「…朝から下ネタは慎め」

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:47:51.53 ID:3sfXE9350
その後仕事をこなしながらお嬢の隙を伺っていたが、どうにも隙がなかった。

執事「紅茶だ…」カチャン

お嬢「ん。ありがとう」

執事(今度は毒見もさせないのか…俺が怖気づいたことを読んでやがるな)グヌヌ

お嬢「窓辺で読書をしながら執事に給仕させる…これって正に"お嬢様"って感じよね~」

執事「『お嬢様って感じ』って…。それっぽいだけじゃないか」

お嬢「それっぽければいいのよ。大事なのはリアルさじゃなくて、萌えよ萌え」

執事「こんな無愛想な執事に萌えるのか」

お嬢「そういう属性だと思えば。それに、これからデレさせるんだしね」

執事「誰がデレるか」

お嬢「お手」

執事「……わん」ポン

口で反抗的なことを言っても、わんこ執事の契約がある以上、逆らうことができない。

お嬢「あぁ、でも1つだけ残念。普通のカッコイイ執事となら、月光の湖畔でデートしたかったのに」

執事「悪かったな。何だ、そのメルヘンな名前のデートスポットは」

お嬢「月光が水面に反射する湖畔よ。満月の日なんて、夜なのに湖畔がキラキラして明るいの」

執事「ほー」

お嬢「そんなロマンチックな湖畔で、わんこ執事の散歩なんてとてもとても……」

執事「うるせぇわ」

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:48:30.14 ID:3sfXE9350
お嬢「私は部屋で仕事をしているから、書庫の本を並べ直しておいてちょうだい。著者ごとにね」


執事(本棚にしまわれてない本が山積みになってやがる。ガサツだなぁ)

執事(ま、これくらいなら1時間くらいでできるだろう)セッセ

執事「えーと、これは…ん」

"やさしい魔法入門~お姉さんが優しく教えてア・ゲ・ル♪~ 著者/魔法使い"
"乙女の為のドキドキ魔道書 キラキラらぶらぶ大作戦! 著者/魔法使い"
"これで貴方もガチムチに!? 魔力は最高のプロテイン 著者/魔法使い"

執事(…色々書いてるのは知ってたが、ギャグなタイトルばっかじゃねーか…)ペラッ

執事(ん…でも結構わかりやすいな。へぇ、魔力をこう応用する方法もあるのか)

執事(えっとこれは…『相手の魔力を封じる方法』?)

執事「……これだ!!」

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:48:55.90 ID:3sfXE9350
お嬢「ふぁー…」カリカリ


執事「……」ソロー

執事(よし、仕事に集中してるぞ。やるなら今…!!)

執事「覚悟オォ、変態お嬢!!」バッ

お嬢「!!」

執事「喰らえええぇ、魔力封じいいぃぃ!!」ゴオオオォォ

お嬢「きゃーっ!!」バリバリバリッ

執事「はははは、見たかああぁぁっ!!」

お嬢「…なんてね♪」ペロ

執事「…は?」

お嬢「せーのっ」ゴオオオォォォ

執事「んなぁ!? 封じたはずの魔力がみなぎってる!?」

お嬢「反撃」クイッ

執事「…っ!?」

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:49:50.94 ID:3sfXE9350
お嬢の魔法により、執事は部屋の上空をふわふわ浮かされていた。

お嬢「やっぱり、たまに反抗してくれた方が面白いわねぇ。私の編み出した魔法で私をやろう、っていう浅知恵が可愛いわ」オホホ

執事「くそ、何で効かねーんだよ!! インチキじゃねぇか!!」

お嬢「付け焼刃で身に付けた技術なんて、自分より遥かに上のレベルにいる相手に効かないわよ。貴方…」クイッ

執事「!!?」ボタンブチブチッ

お嬢「魔法は不得手な、肉体派でしょ。だからそんなにイイ体してるのねぇ~♪」ジュルリ

執事「胸元開ける必要あったか!? くそ、降ろせ!!」

お嬢「それが主人に物を頼む態度?」ニコ

執事「……ご無礼をどうかお許し下さい。降ろして頂ければ幸いです、お嬢様」

お嬢「まぁいいでしょう。はいっ」

執事「ふぅ…。やっぱり一筋縄じゃいかないな…」

お嬢「それにしても…」ジー

執事「?」

お嬢「ああぁ、開発したい! 至る所を開発してやりたいわ!!」

執事「ちょっ…もう俺を見るな! 気持ち悪いこと言ってんじゃねぇぞ変態女!」

お嬢「性的な意味じゃないわ。もし性的な意味だとしたら『気持ち悪い』じゃなくて『気持ち良い』よ」

執事「引くわ!!」

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:50:49.62 ID:3sfXE9350
お嬢「魔王の血筋ってことは、開発すればそれなりの魔法の使い手になるはずよ」

執事「そいつはないな…魔法に関しちゃダメダメなんでね」

お嬢「あら。どうしてそう決め付けるの?」

執事「魔王城イチの魔術師を師匠にしても駄目だったんでな」

お嬢「…」クイクイ

執事「ん? 何だ?」

お嬢「その師より優れている魔法使いがここにいるわよ?」ニコ

執事「………」


~妄想~

お嬢「これは淫魔が使うのと同じ魔法よ。ほーらほーら、ええのかー、ここがええのんかー」

執事「んああぁぁっ」ビクンビクン

お嬢「ほらほら、跳ね返さないと頭がどんどんバカになるわよ~?」

~妄想終了~


お嬢「『メチャクチャにしてえぇ、俺の感じるところ、全部バカにしてええぇ!』『オホホ、遂に本性を表したわね淫乱執事! お望み通り、いっぱいいじめてあげるわ』『んあー、いい、すごくいい!』」

執事「人の妄想に続きを入れるな!」

お嬢「開発したいわ。受けメンを開発するのが夢だったのよ」

執事「どっちの意味での開発だ。あと受けメンて何だよ」

お嬢「じゃあこれは命令よ。私に仕えるに相応しい魔法力を得なさい。特別に、この私がタダで教えてあげるわ。得したわね!」

執事「後で『体で払え』とか言わないだろうな」

お嬢「………まさか~」

執事「何だよ今の間は!!」

お嬢「ま、そうと決まれば修行しましょう。腕がなるわ~」

執事(マジかよ…まぁセクハラじみたことしてこなけりゃいいか)

執事(…それに、実際魔法の能力を得れば……)

執事("魔王の息子"として恥じることもなくなるかもしれない……)

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:51:28.47 ID:3sfXE9350
>で


執事「………」

お嬢「もうちょっと右ぃ~」

執事「………」ゴシゴシ

お嬢「あんあん、そこそこォ~♪」

執事「…ってオイ!!」

お嬢「ん? なによ?」

執事「『セクハラじみたことしてこなけりゃいい』と思った次のレスで早速セクハラしてきてんじゃねぇよ!!」

お嬢「なによぅ、背中を洗わせているだけでしょう?」

執事「若いんだから背中に手くらい届くだろ…。これのどこが修行だ」

お嬢「煩悩を鎮める精神修行よ」

執事「それっぽいこと言ってんじゃねぇ!!」

お嬢「いいからその逞しい手で私の柔肌を磨きなさいよ」

執事(くっそ…結局、下僕としてこき使われてるだけじゃねぇか。しかも…)

執事(お嬢の体…こうして見るとやっぱ肌が綺麗だしなめらかだし……)ゴクリ

執事(~っ、馬鹿、俺、こんな変態女に発情してんじゃねぇよ!!)ゴシゴシゴシゴシ

お嬢「さて、背中はもういいわ」

執事「じゃあ俺は外に出てるぞ」

お嬢「待ちなさい」

執事「何だ。まさか前を洗えとは言わないよな?」

お嬢「今度は私が貴方の背中を流す番よ」

執事「………は?」

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:52:59.52 ID:3sfXE9350
執事「………」

お嬢「うぅーん、逞しい男の背中♪ ゴツゴツしてる…♪」ウットリ

執事(説明しよう!! 俺は浴室から逃げようとしたが、お嬢の魔法に捕まって結局このザマである!!)

お嬢「何うつむいてるのよ、ウブねぇ~」

執事「そんなんじゃねぇし!! たかだか女の裸くらいで!!」

お嬢「ふぅん? だったら何で見ないのよ?」

執事(正直、下半身が反応しちまうからだよ……!!)

お嬢「さて、洗い終わり」

執事「じゃあ今度こそ俺は出るぞ」

お嬢「待って。一緒に湯船入りましょうよ」

執事「!! 冗談じゃねぇ、何でお前と一緒に入らないといけないんだよ!?」

お嬢「いいじゃない、湯船は広いんだし。ペットとお風呂入るだけだし」

執事「良くねぇよ! 大体俺は、そのペットってのも納得いってねーし!!」

お嬢「仕方ないわね。触手ちゃ…」

執事「わーっ!! わかったから触手はやめろ!!」

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:53:45.20 ID:3sfXE9350
お嬢「ふぅ気持ちいいわねぇ」

執事(良かった…泡風呂だから体を見られない)

お嬢「ちゃんと煩悩は鎮められてる~? これは修行だって忘れてないわよねぇ?」クスクス

執事「ぼ、煩悩も何もねぇし! そっちこそ俺の体で発情してんじゃねぇだろうな!?」

お嬢「オカズになることは間違いないわ」グッ

執事「オカ……お前、本当イカレてんな」

お嬢「へぇ、どの辺が?」

執事「そりゃ…自分の貞操を狙った男を近くに置いて、性的な言葉を浴びせてくるとか…そんな女いねぇよ」

お嬢「私は天才だし? 普通の女じゃないし~」

執事「自分で言うな」

お嬢「可愛いわよ貴方は。絶対勝てない相手に反抗しちゃう所とか」

執事「ぐぬぬ…」

執事(この女、ぜってー悔し泣きさせてやるからな…)

お嬢「可愛いものよ。…貴方程度の悪意は」

執事「え?」

お嬢「さて、そろそろ上がるわ」ザパッ

執事「お、おう」プイ←見ないようにしてる

29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/27(日) 20:28:22.76 ID:ezBwTiRTO
良いではないか…乙

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:02:36.44 ID:VMcou+Gz0
>翌日


執事「炎魔法っ!」ゴオォッ

お嬢「ふむ……」

執事「これが精一杯だな。で、どうだ」

お嬢「魔力の質は悪くないわね…魔力放出の基本もできている、だけど威力が小さいのはどうしてか…」ブツブツ

執事(珍しく真剣だな…やっぱ本職のこととなるとスイッチ入るのか)

お嬢「わかったわ、威力不足の原因」

執事「ほう。教えてもらおうか」

お嬢「貴方、M気質なのよ」

執事「………少しでも『見直した』とか思った俺が馬鹿だった」

お嬢「真面目な話よ。魔法の適正と性癖は、実は密接な関係にあるのよ」

執事「…聞かせてみろ。信じないだろうけど」

お嬢「Mは魔法適正が低いのよ。それゆえMは己の肉体をいじめて鍛え上げ、戦いでは敵の攻撃をその肉体に味わい…」

執事「百歩譲って俺がMだとして。適正が低いのにどうやって魔法の腕を上げるんだよ」

お嬢「簡単よ」

執事「ほう?」

お嬢「魔法適正の高い性癖に目覚めるよう、肉体を開発すればいいのよ…ニヒヒヒヒ」

執事「断固拒否する!!」

お嬢「困ったわね。あとは地道に基礎能力を上げるしかないわ」

執事「そっちでいいだろ、そっちで…」

お嬢「オーケー。じゃあまずレッスン1…」

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:03:16.32 ID:VMcou+Gz0



執事「ゼェ、ゼェ…」

お嬢「はーい、お疲れ様~♪」

1時間程、執事はお嬢と魔力のぶつけ合いをしていた。勿論、お嬢の方は手加減していたが。
剣の打ち合いのようなものだと説明されたが、本当にこれで基礎能力が上がるのかは疑問である。

お嬢「1日目で劇的に上がることはないでしょうね。でも指導者が有能だから、実感のないままレベルアップするはずよ」

執事「そういうもんか…」

お嬢「沢山修行した後は、たっぷり休むことね。私は仕事をしてるから、好きに過ごすといいわ」

執事「おう……」

執事(この1時間…本当に真面目だったな、珍しく)

執事(あのお嬢、真剣になると貫禄があるというか…いつもとのギャップが……)

執事「……」

執事「あああぁぁ!! 変態が普通になっただけじゃねぇか、惑わされるな俺ええぇぇ!!」ブンブン

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:03:49.85 ID:VMcou+Gz0
お嬢「ふぅ~」カリカリ

トントン

お嬢「執事? どうぞ~」

執事「ケーキ作ってみた。一旦ティータイムどうだ」

お嬢「あら、気が利くわね~。でも、ひとつ不満」

執事「何だ?」

お嬢「台詞が執事っぽくない。やり直し」

執事「……お嬢様の為にケーキと紅茶をご用意致しました。どうぞ召し上がって下さい」

お嬢「よろしい。普段からその口調でいてくれれば萌えるのに」

執事「奉仕したくなるような可愛いお嬢様相手なら、喜んで執事やるんだけどな~」

お嬢「まぁいいわ、生意気な執事も可愛いし」

執事「男に対して可愛いは、全く褒め言葉になってないからな?」

お嬢「褒めてると思った?」

執事「………」

お嬢「なーんてね♪ いじめたくなるわよねー、貴方って」

執事「…うちの姉のようなことを言うな」

お嬢「あら、お姉さんいたの? わかった、お姉さんの尻に敷かれていたんでしょ~」

執事「あーもう、黙ってケーキ食え!」

お嬢「はいはい。あら、甘くて美味しい~」

執事(くっそ…図星突かれた)

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:04:59.72 ID:VMcou+Gz0
>午後


お嬢「執事、街に降りるわよ。支度しなさい」

執事「唐突だな。何か用事でもできたか?」

お嬢「お買い物がしたくなったのよ」

執事「はいはい。山道を下るならスーツじゃいかんよな…」

お嬢「移動魔法で行けるから、その心配はいらないわ。執事服で来なさい」

執事「りょーかい。じゃ特に支度するものはないな」

お嬢「日傘持って行くわよ! 執事が差す日傘に入るとか、萌えるじゃない」

執事「空、曇ってるけどな」

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:05:59.58 ID:VMcou+Gz0
>服屋


執事(何か、いかにも女の子な店だな…俺一人じゃ入れないわ)

お嬢「これとー、これとー」

執事(これ全部、俺が持つんだろうな。まぁそれくらいなら構わないけど)

お嬢「あら、このデザインいいわね。でも、色のバリエーションが多いわ」

執事「そうだな…5種類か」

お嬢「ねぇ、どれがいいと思う?」

執事「…その質問には答えんぞ」

お嬢「あら、どうして?」

執事「女のその質問に対する正解は『どれも似合ってるよ』だろ? そんなお世辞言いたかねぇ」

お嬢「ねぇ執事…貴方って童貞?」

執事「店の中でなんつー質問してんだよ」

お嬢「『女って~』ってレッテル貼る視野の狭さが童貞臭いのよ。少なくとも、私はそんな女じゃないもの。答えが決まってる質問なんて無意味だと思うわ」

執事「なら…ピンクかな」

お嬢「そう。1番ないわって思ってた色だわ」

執事「おい!!」

お嬢「でも、貴方が好きなのを欲しいわ」

執事「…へ?」

お嬢「ピンクを買うわ。選んでくれてありがとう」ニコ

執事「お、おう…」

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:06:40.51 ID:VMcou+Gz0
お嬢「重くない? 私も持ちましょうか?」

執事「重くない。そんな気を使うな」

お嬢「あらー優しい。私の執事としての自覚が芽生えてきたの?」

執事「執事としてじゃない。男だからな」

お嬢「悪くないわねー、女の子扱いされるのって♪」

執事「女の子…あぁ、そういや女の子だったな」

お嬢「何だと思ってた? 素敵なお姉様?」

執事「魔王より怖い凶悪お嬢」

お嬢「怖がりねぇ、私より怖いものなんて沢山あるでしょう」

執事「でも、お前自身は怖いものないだろ。オバケとかゾンビや虫、地震雷火事親父」

お嬢「魔法で何とかなるものばかりね。何が怖いのか理解できないわ」

執事「だろうな」

執事(羨ましいもんだ…魔王の息子である俺でさえ、怖いもんは沢山あるってのに)

?「ねー」

執事「ん?」クルッ

子供「これ、落としたよー」

執事「あ、ハンカチ。ありがとうな坊主」

子供「どういたしましてー」

執事「お嬢からもお礼言って…」

お嬢「…………」

執事「…お嬢?」

お嬢「あ、ありがとう、ね」

執事「…?」

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:07:18.71 ID:VMcou+Gz0
お嬢「……はぁ」

執事「なぁお嬢。まさか…」

お嬢「え?」

執事「子供が怖いとか?」

お嬢「っ! ち、違うわよ! 怖いんじゃなくて…子供嫌いなだけよ」

執事「へぇー? 何で?」

お嬢「理由なんてないわ。嫌いなものは嫌いなの」

執事「そうか。そいやー勇者が魔王を倒したのは、お嬢が13歳の時だっけ。パーティーの中じゃ1番ガキだったろー」

お嬢「年齢はそうだけど、『全然子供らしくなくて可愛げがない』って言われてたわよ」

執事「あぁ、なるほど。じゃー周囲の“子供らしい子供”とは気が合わなかっただろうな」

お嬢「…私と気の合う人なんて、いないわよ」

執事「え?」

お嬢「それより、早く帰りましょう。買った服と手持ちのアクセサリーを合わせてみたいわ」

執事「お、おう」

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:07:41.56 ID:VMcou+Gz0
執事(そして帰宅し、俺は晩飯の支度に取り掛かっている)

執事(あ、コンソメが足りない。食在庫まで取りに行かないとな)


執事(ランプつけて、っと)

執事「コンソメは…あ、あった」

お嬢「食在庫にいたのね。今日の夕飯は何かしら?」

執事「ミネストローネでも作ろうかとな。…お、着替えたんだな」

お嬢「えぇ。どうせなら社交辞令でも『可愛いな』とか何か言いなさいよ」

執事「なら、どうせなら俺が選んだのを着てみせろってーの。やっぱ色が気に入らなかったか?」

お嬢「室温に合った服を選んだだけよ。ごめんねぇ、男心を察してあげられなくて」

執事「いえいえー。生身の男をろくに知らんお嬢に、そこまでの配慮なんてとてもとても」

お嬢「さしずめ、清純派の天然お嬢様ってとこかしらね」

執事「突っ込みきれねぇぞおい」

執事(やっぱ、口でも勝てる気がしねぇ。こういうとこが姉貴と被るから可愛くな…)

フッ

お嬢「きゃっ」

執事(あ、ランプ消えちまった。…って、『きゃ』?)

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:08:23.76 ID:VMcou+Gz0
執事「炎魔法、っと」ボッ

お嬢「うっかり者」

執事「つか、ランプ消えた時に『きゃっ』て言ったよな?」

お嬢「!? い、言ってないわ!」

執事(お? 珍しくムキになってやがる…。ははーん、さては弱点なんだな)

執事「素直に言えよな~、暗いのが怖いんだって」

お嬢「ち、違うわよ! 怖くない!」

執事「そいやー寝る時も部屋の灯り消さないよな~。何で? 何で?」

お嬢「…っ!」

執事「いやいやいや。まさか英雄たるお嬢にそんな弱点があったとは…」

執事(今までの仕返しだ、ほれほれ。ムキになれよ)

お嬢「………」クイ

執事「へっ?」



ウネウネ

執事「お嬢様、大変失礼を致しました。なのでどうか解放して頂けないでしょうか」

お嬢「どうしよっかな~」ムスッ

執事「本当お願いします! 俺は貴方の犬です、わん、わんっ!」

お嬢「もう、仕方ないわね」クイ

執事(あぁ解放された……。触手に四肢を絡め取られて、流石にヤられると思ったぜ……)

お嬢「覚えておきなさい、私はヒスる女よ」

執事「はい……覚えておきます」

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:08:49.24 ID:VMcou+Gz0
今日はここまで。
変態成分不足で申し訳ない。

41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 20:25:21.07 ID:6dGYNY81O
その分イチャイチャ甘々要素が多くて僕満足

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:23:14.83 ID:DiBZ8pyD0
お嬢「やっぱり執事の作る料理は美味しいわね~。毎日の食事が楽しみだわ♪」

執事(いやー良かった、機嫌直してくれて)

お嬢「ところで執事。料理は魔王城にいた頃からやっていたの? 王族は料理をするイメージがないけど」

執事「あぁ。料理に興味あったんで、小さい頃から厨房に入り浸って習っていた」

お嬢「ふぅん。魔王はそれを了承していたの?」

執事「俺は魔王の後継者の器ではなかったしな。割と自由にさせてもらっていた」

お嬢「じゃあ、後継者はお姉さんの方だったの?」

執事「あぁ、そうだ。俺と違って、将来の魔王に相応しい人だ」

お嬢「どんな人?」

執事「お嬢の胸をでかくした感じだ」

お嬢「なるほど、それは確かに魔王の器だわ。お姉さんは、今は何をされているの?」

執事「さぁ。魔界に帰ったはずだけど、ここ5年はろくに顔も合わせていないしな」

お嬢「あら、寂しいわね。唯一の身内でしょう」

執事「別に。むしろ、せいせいしてる」

お嬢「よっぽどお姉さんが怖いのね~」フフフ

執事「い、いやいやいやいや怖くねぇし!?」

お嬢「ふーん?」ニヤニヤ

執事(このヤロ…。けど言われてみりゃ、今頃何やってんだろうな姉貴は)

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:24:12.32 ID:DiBZ8pyD0
>数日後……


執事「はああぁぁっ!」

お嬢「はい、そこまで~」

あれから毎日、魔法の打ち合い訓練をしていた。

お嬢「初日に比べると慣れてきたわね。その調子よ」

執事「相手にしてる相手が相手なだけに、順調だと実感できないな…」

お嬢「順調よ。戦略次第では実戦でも使えるんじゃないかしらね」

執事「戦略、ねぇ…。考えるのが苦手だな」

お嬢「戦略は大事よ。例えば私の場合、戦闘で消費する魔力は7割にとどめておくわ」

執事「じゃ、7割使ったらどうするんだ?」

お嬢「残り3割を逃亡に費やすわね」

執事「その3割で勝てるかもしれないのに?」

お嬢「こちらが全魔力を使い切った後に、相手が奥の手を使ってくる可能性もある。実際、そういう場面はいくつもあったわ」

執事「なるほどな。臆病に見えなくもないが、そのお陰で命を繋いでこれたのかもしれないな」

お嬢「そういうこと」

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:24:45.76 ID:DiBZ8pyD0
お嬢「実戦を積めば段々わかってくると思うけど…まぁ、その話はまた今度ね。とりあえず休憩しましょう」

執事「訓練前、プリン作って冷やしてたんだよ。食べるか?」

お嬢「あら、いいわね~。クリームとか乗せて食べたいわ」

執事「了解。すぐ用意する…」

<カラーン

お嬢「あら呼び鈴が」

執事「行商人だろうか。俺が対応するか?」

お嬢「すぐそこだし、私も行くわ」

執事「おう」


執事「はいはーい…」ガチャ

国の使い「魔法使い様! 大変です!」

執事(国の使いか。何か大分切羽詰った様子だな)

お嬢「あら。何があったの?」

国の使い「戦士様が…闇討ちされました!!」

お嬢「何ですって」

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:25:38.85 ID:DiBZ8pyD0
国の使いが言うには、戦士は飲み歩いていた昨晩、人通りの少ない路地裏で暴行されたらしい。
何とか一命は取り留めたものの、かなりの重症を負ったそうだ。

お嬢「そんな酔っ払いの喧嘩で『闇討ち』なんて大げさな」

国の使い「しかし英雄である戦士様を暴行するなど、まさか国に対する反逆者の仕業かも!!」

お嬢「ないない。それに、あの飲んだくれのどこに"英雄"たる威厳があるのよ」

国の使い「それは………」

お嬢「とにかく戦士のことなんて私は知ったことではないわ。それだけの用事なら帰って」

国の使い「……わかりました」


執事「ひでー言い草だな。かつての仲間だろ?」

お嬢「別に、心で繋がっていたわけじゃないから」

執事「そうか。本人がそう言うなら仕方ないわな」

お嬢「それよりもプリン、プリン!」

執事「はいはい…ったく、ガキかよ」


執事(それにしても、戦士って怪力を誇る実力者だよな…。いくら泥酔してたからって、そう簡単にやられるもんか?)

執事(…何だろう、胸騒ぎがする)

47 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:27:35.96 ID:DiBZ8pyD0
数日後、その不安は的中した。

お嬢「今度は僧侶がやられた~?」

国の使い「はい。瀕死の状態で見つかりました。やはり反逆者の仕業かもしれないと、陛下も警戒しております」

お嬢「怨恨じゃないの~? 僧侶が教祖やってる新興宗教、悪どいこともしてたんでしょ?」

国の使い「そ、それは………」

お嬢「戦士の時といい、なるべくしてなった事態じゃない。私は知らないわよ、もう」

国の使い「しかし、陛下は"英雄の保護"を考えております。ですから是非、城の方に…」

お嬢「やだわ~。城で軟禁生活なんてストレス溜まる~」

国の使い「うぅ……」トボトボ


執事「…国王には逆らわない方がいいんじゃないのか?」

お嬢「あら、どうしてよ?」

執事「そりゃ、お嬢の身の潔白を証明する為だよ」

お嬢「はい? 何で私が身の潔白を証明しなきゃいけないのよ?」

執事「落ちぶれたとはいえ英雄が2人もやられたんだ。国はあらゆる可能性を考える…お嬢が2人をやった、という可能性もな」

お嬢「どうしてそこに行き着くのよ」

執事「まず戦士や僧侶を倒せる奴、というだけで大分限られてくる。それにお嬢にもメリットがある…元仲間が全滅すりゃ、名声はお嬢が独り占めだろ」

お嬢「邪推ねぇ。…でも、本当に疑われたら面倒ね」


こうしてお嬢は、城に身を寄せることとなった。

48 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:29:43.62 ID:DiBZ8pyD0
>そんでもって


お嬢「城のスイーツは上品なばかりでイマイチだわ! 執事、毎日差し入れなさい!」


執事(っつー命令で俺は城の近くに部屋を借り、お嬢の所まで差し入れを届ける毎日だ)

執事(当たり前の話だが、素性の知れない俺は城に置いてはもらえない。お嬢と会う時間が1時間許されているくらいだ)

執事(ちなみにお嬢に『差し入れは脱ぎたてのパンツでもいいわよ』と言われたが、無視だ)


執事「お嬢様、ドーナッツをお持ちしました」←人前では敬語

お嬢「あぁ~、もう執事の差し入れが唯一の楽しみよ」

執事「大分、心労がたまっていらっしゃるご様子で」

お嬢「えぇ。保護の目的で常時監視付き! 気が休まらないったらありゃしないわ!」

執事「いやぁ、本当にお気の毒…ククク……」

お嬢「執事ぃ? 私が苦しんでる様子を見るのがそんなに楽しいのかしらぁ~?」

執事「いえいえ、まさか…」クク

お嬢「覚えてなさい、帰ったら可愛がってあげるから」

執事「いえいえ勿体無いお言葉で」


こうして他愛ない話をする。
そうやって今日も、1時間が過ぎる。

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:30:57.65 ID:DiBZ8pyD0
執事(帰宅~、っと)

執事(………そうだ。お嬢に『魔法の特訓に付き合えないから、本を読んで自主練しなさい』って言われてたんだっけ)ペラペラ

執事(1人でやる自主練って眠くなってくるよな~…でも他にすることもないんだよなぁ)フワァ

執事(自分が食う分だけだと思ったら、マトモに料理するのも面倒だし)

執事(明日の差し入れは何にするかな…一昨日はシュークリームで昨日はトリュフで……)

執事「………って」

執事(さっきから、あの変態お嬢に関することばっか考えてるじゃん。せっかく解放されたんだし、リフレッシュしねーと)

執事(…どうやればいいんだ? リフレッシュって)

執事(いかん、あの変態お嬢に大分毒されている。こうして考えてみると濃い毎日を送ってたな)

執事(攻撃を仕掛けても、打ち負かされて。いじめられるわ、セクハラされるわ、こき使われるわ)

執事(思えばあのお嬢との生活で心が休まったことなんて1度もねぇ)

執事(今はそういうのが無いんだよな……)

執事(…それって、なんて開放的で……)


執事「なんか、つまらないなぁ……」

50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/29(火) 18:32:20.82 ID:ct/LMQpzO
大分落とされてきてるな

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:37:08.87 ID:DiBZ8pyD0
>翌日


執事(今日のデザートはアイスケーキだ。溶けない内に行かないとな)タタッ

執事「……ん?」


勇者「……」コソコソ


執事(勇者じゃねーか…何やってんだ、1人でコソコソして)

執事(ははーん、あいつも監視生活に嫌気がさして、抜け出したんだな)

執事(ま、いいや。そんなことより差し入れ差し入れ)タタッ



お嬢「口の中でひんやりしたバニラが溶ける~。幸せぇ~」

執事「お喜び頂き光栄です、お嬢様。…あ、そういえば」

お嬢「ん、何かしら?」

執事「さっき、城の外で勇者を見かけたぞ」ヒソヒソ

お嬢「あー…そうね、今回の件で女遊びまでできなくなって溜まってるわ」ヒソヒソ

執事「愛人と密会でもするんだろうか」ヒソヒソ

お嬢「みたいね。どうやら戦士や僧侶の件辺りから仲を深めていた女がいるようでね」ヒソヒソ

執事「どうしようもねーな…。あんなに可愛らしくて品のある奥さんがいながら」ヒソヒソ

お嬢「そうそう、王室育ちで品のある奥さんを変態プレイに目覚めさせるのが面白いのにね」ヒソヒソ

執事「勇者までお前みたいな変態なのか」ヒソヒソ

お嬢「さぁね~。でもまぁ、アレは病的な女好きの浮気性ってことは間違いないわ」

執事(かつての仲間を『アレ』呼ばわりかい)

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:37:41.54 ID:DiBZ8pyD0
>帰路


執事(さーて、夕飯の買い物でもしながら帰るか)

執事(お、リンゴが安いじゃん。そうだなー、明日はアップルパイでも焼いてやるかな)

執事(明日は楽しみだ。城を抜け出した勇者がどうなったか聞けるんだもんな)ククク

――と、その時。

執事「……!!」

執事は"ある気配"を察知し、振り返った。

執事(この気配…まさか……)

執事(……いや、間違いない!!)ダッ

その気配は、知っている魔力だった。
それを感じる方向に向かって、執事は駆けた。

53 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:38:12.01 ID:DiBZ8pyD0
執事「宿屋……ここだ! ここに"アイツ"が……」


がしゃーん

執事「!!」

窓ガラスの破れる音が耳に痛い。
そして次の瞬間には、執事の目の前に何かが落ちてきた。

執事「…っ!? ゆ、勇者!!」

勇者「ううぅ……」

それは全身に大ダメージを受けた、瀕死の勇者だった。


?「あら~ん?」

執事「!!!」ビクウウゥゥッ


そしてその声を聞いたと同時、執事は反射的に跳ね上がった。

?「その顔は…久しぶりねぇ~」

執事「…っ」ガタガタ

執事の前に降り立ったのは――


姉姫「久しぶりねぇ、ボクちゃ~ん?」


執事がこの世で最も恐れる、姉だった。

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:38:57.17 ID:DiBZ8pyD0
執事「あ、姉貴……」

姉姫「『姉貴』? んまぁ~、反抗期のなかったボクちゃんが生意気になっちゃって」

執事(反抗期なかったんじゃなくて、反抗させなかったんだろーが…。…って、ちょっと待てよ)

執事「姉上、その勇者は……」

姉姫「あぁ、ハニートラップ仕掛けてハメたのよ。どお~、お姉ちゃん強くなったでしょ。英雄相手に連戦連勝!」

執事「………は?」

姉姫「ねぇねぇ聞いてボクちゃん。お姉ちゃんね、パパの仇である英雄どもをサクサク倒してるのよ」

執事「………」

姉姫「こりゃあ人間も絶望するわよねえぇ! ざまあああぁぁぁ!!」ゲラゲラ

執事(こいつの仕業だったんかい……って、ちょっと待て!!)

姉姫「あは、あはは…ふぅー。さーて…」

執事(となると、次のターゲットは…!!)

姉姫「残す英雄はあと1人…魔法使いだけね」

執事「!!」

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 18:46:57.00 ID:iliJNy0E0
姉姫「こいつは厄介だわ~。他3人みたいな迂闊な行動を取らないし、城で保護されているし。さーて、どうするか……」

執事「あ、姉上!? 勇者を倒したのだから、それで十分では……」

執事(別に庇ってるわけじゃねぇぞ変態お嬢! お前に復讐するのは俺だから……)

姉姫「えぇそうね。…私怨ならね♪」ニコッ

執事「………え?」

姉姫「でも生憎、これは私怨じゃないの。戦争よ戦争」

執事「姉上…おっしゃってる意味が……」

姉姫「決まってるじゃない。パパが叶えられなかった夢…世界征服を私が叶えるのよ」

執事「!!」

姉姫「全面戦争になる前に英雄を各個撃破…どう、お姉ちゃん頭いいでしょ~」

執事「し、しかしですね…。勇者までやられては、より一層警戒するでしょうし……」

姉姫「わかってないわねぇ。より一層警戒されたとこを打ち破るから気持ちいいんじゃない」

執事「現実的ではないかと……」

姉姫「あらあらボクちゃん? どうして魔法使いを庇うのかなぁ? お姉ちゃん悲しいなぁ~」ウルウル

執事「そ、それは……」

姉姫「……魔法使いの執事をやってるから?」

執事「!!!」

姉姫「わかるんだぞォ、ボクちゃん。その執事服に染み付いてる魔力が誰のものか……」

執事「こ、これは……」

姉姫「まさかボクちゃん、魔法使いに心から屈しちゃったのかしら~?」

執事「ち、違います! 俺は…奴を討つ為に、近づいただけです!」

姉姫「そ、それなら安心♪ そうよね~、魔王の子息たる者がまさかねぇ」

執事(そうだ…俺は別に、奴に忠誠を誓ったわけじゃねぇ…!!)

姉姫「だったら、お姉ちゃんがやってあげる! 協力して、あの魔法使いを倒そうよ、ね!」

執事「……っ」

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 18:48:25.76 ID:iliJNy0E0
>翌日


執事(勇者がやられたとあって、街中の雰囲気が沈んでいるな…落ちぶれたとはいえ、勇者は勇者か)

執事(次にお嬢が狙われることも、予想されているだろう…)

執事「……」


お嬢「まぁ、今日はアップルパイ?」

執事「リンゴが安かったので。…嫌いでしたか?」

お嬢「パイは貴方の方が好きでしょ、大きいのも小さいのも」

執事「……人前では慎んで下さい」プルプル

お嬢「勿論、私も好きよ。紅茶と一緒に頂くわ」

執事(この現状でも、お嬢に動揺は見られない…)

お嬢「ただ、紅茶を淹れてくれるのがベテランのおじさん執事でね。別に悪いってわけじゃないんだけど、萌えないっていうか…」

執事「…少しは警戒しろよな、馬鹿お嬢」

お嬢「え?」


兵士「た、大変です!」バタバタ

お嬢「どうしたの?」

兵士「魔物の群れが、城に向かってきています!!」

お嬢「何ですって…」

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 18:49:33.36 ID:iliJNy0E0
兵士長「であえーッ!!」

オオオォォォ


姉姫「フフフ、この臨場感…やっぱり戦争っていいわね」ウットリ


お嬢「ここ数日の事件、魔物の仕業だったのかしらね?」

兵士長「魔法使い様、出てきてはなりません。奴らの狙いは、きっと貴方です」

お嬢「奴らの狙いが私だから来たのよ。私が戦えば、余計な犠牲は出ないでしょ?」

兵士長「しかし、危険です! 残った英雄である貴方がやられては、人々は希望を見失う…!!」

お嬢「『残った英雄』って、まるで3人が死んだみたいに…。自ら戦わないで守られて、何が英雄よ。守られヒロインなんて、私のキャラじゃないの」

お嬢は兵士長の制止を無視して、前に出て行った。


執事(やっぱりな……お嬢は、黙って隠れている性分じゃない)


お嬢「私が魔法使いよ! 私の命が欲しい奴は、どいつ!」


姉姫「あらぁ勇ましく出てきたわね~。好きよぉ、勇敢な女の子って。でも…殺すけどね♪」


兵士長「!! 魔物の群れが魔法使い様に……」

お嬢「上等…」バチバチッ

バリバリバリイイィィッ


姉姫「あらぁ…刺激的。惚れるわぁ」


お嬢「次にやられたいのは誰かしら? お相手するわよ」

10匹近くの魔物を撃ち落としたお嬢は、勝気に笑った。

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 18:50:40.12 ID:iliJNy0E0
魔物「あの魔法使い、攻撃範囲が広すぎます。数で押すのは無駄でしょう」

姉姫「なら私が行くわ~。被害は最小限でいきましょ」


姉姫「初めまして、英雄さん」スタッ

お嬢「人間…に見えるけど、魔力は人間のものではないわね」

姉姫「うふふ、近くで見ると可愛いお嬢さんねぇ~。殺すのが惜しいくらいだわ」

お嬢「殺す? 笑えないご冗談を。そもそも、お姉さんは何者かしら?」

姉姫「私は、貴方達が倒した魔王の娘よ。そうねぇ、現魔王…を名乗ってもいいのかしら」

お嬢「へぇ、貴方が。弟さんとは似ていないのねぇ」

姉姫「ボクちゃん…じゃなくて、弟がお世話になったわね。だから余計に貴方は許せないのよぉ」

お嬢「どういうこと?」

姉姫「それは――」


姉姫「あの子を尻に敷くのは、私だけの特権なのよ…!」ビュンッ

お嬢(素早い!!)

目で姉姫の動きは追えなかったものの、お嬢は咄嗟の判断で自分の周囲に魔力を纏った。
この魔力に触れればダメージを喰らう。近接攻撃を苦手とする彼女にとって、最大の防御手段だった。

姉姫「…ふぅ~、危ない魔法を使うのねぇ。綺麗な薔薇にはトゲがある、ってね?」

お嬢(魔力に触れる寸前の所で停止した…)

姉姫「どうやら肉弾戦は悪手みたいねぇ。なら…」スッ

お嬢「!!」

姉姫「私も貴方と同じ土俵…魔法攻撃で戦ってあげるわ♪」

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 18:51:29.85 ID:iliJNy0E0
姉姫「せやぁっ!」ゴゴゴゴゴ

お嬢(…っ!! 地面が割れっ……)ヒュウゥ

姉姫「安心してね、割った地面は直すから。…貴方が地の底に落ちた後で♪」

お嬢「単純な作戦ね」フヨフヨ

姉姫「あら、貴方浮けるのねぇ」

お嬢「今度はこっちの番よ!!」

お嬢の周囲に大量の水が現れる。その水は龍の形を作り、姉姫を睨みつけた。

お嬢「水圧に潰されてしまいなさい!」

姉姫「!!」

お嬢の指揮で水の龍は姉姫に襲いかかり、全身を飲み込んだ。

お嬢「どうよ、騎士の鎧をも押しつぶす水圧の威力は」

姉姫「あぁもう、お気に入りのドレスがビシャビシャだわ」

お嬢「…!」

姉姫にダメージを喰らった様子はなく、困ったようにビシャビシャのドレスの裾をしぼっていた。

姉姫「"圧力"には"圧力"で返す…基本的戦略よねぇ」

お嬢「なるほど、上から来る水圧に対して、下から圧力を放ったわけ…」

姉姫「うふふ、貴方って凄腕の魔法の使い手だけど、割と何とかなるのねぇ~」

お嬢「それはどうかしら」スッ

姉姫「……? 寒くなってきたわね……」

お嬢「濡れた体には辛いでしょう? "絶対零度"!!」

姉姫「……!!」

姉姫の体は、一瞬にして凍りついた。

お嬢「魔法の腕だけじゃなくて知恵も回るのよ…天才だからね」

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 18:54:54.40 ID:iliJNy0E0
執事(し、信じられねぇ……)

物陰から見ていた執事は目を疑った。
まさかあの最凶の姉が、1対1の戦いで氷漬けにされる日が来るとは…。


兵士長「やりましたね魔法使い様! 現魔王をお1人で倒すとは!!」

お嬢「……まだ倒していないわ。これ位で死ぬようなお姉さんに見えないもの」

執事(俺もそう思う)

兵士長「では、トドメを刺した方が……」

お嬢「………」

執事(お嬢?)

お嬢「…そこにいるんでしょ、執事」

執事「!!」ビクッ

お嬢「………」

執事(無言の圧力を感じる…出て行くしかねぇか……)

執事「……」スッ

執事(俺までやられるのか…!?)ビクビク

お嬢「……ねぇ、執事」


お嬢「お姉さんまでやられたら……貴方はつらい?」

執事「……えっ?」

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 18:55:53.02 ID:iliJNy0E0
お嬢「貴方はお姉さんのこと好きでない、というようなことを言っていたけれど…それでも、血の繋がったお姉さんなのよね」

執事(何を言っているんだ、こいつは?)

質問の答えを考えるよりも、その質問自体に驚いていた。
お嬢にとって、命を狙ってきた姉姫は敵だ。その敵にトドメを刺さずに、あろうことか同じく"敵"である自分にそんなことを聞いてくるなんて。

執事(何を企んでやがる…まさか、俺を試しているのか?)

お嬢「どうなのよ。さっさと答えなさい」

執事「お、俺は……」


「嘘よねぇ? ボクちゃんが、お姉ちゃんのこと好きじゃないなんて」


お嬢「!!!」ガバッ

執事(うおぉ……)

お嬢「……まさか、あの氷を溶かすなんてね」


執事にとっては、ある程度予測できていた事態だった。
とはいえ、やはりその最凶っぷりに圧倒はしたが。


姉姫「ボクちゃんとは後でゆっくりお話するとしてぇ…。お嬢さんは徹底的にやらないと駄目みたいねぇ」ニコニコ

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 18:58:17.81 ID:iliJNy0E0
姉姫「魔界への門よ開け…そして集え、亡者の魂!」ゴゴゴ

お嬢「何…この禍々しい気配は…」

姉姫「亡者の魂よ、その罪人の魂を喰らうがいい!!」ゴオオオォォ

お嬢「!!」


執事(いきなり最強クラスの技かよ!? 姉貴の奴、切れてやがる…!!)

そんな執事の心配をよそに、亡者の魂達はお嬢に襲いかかっていった。

執事(お嬢…!!)

圧倒的な姉姫の力を恐れると同時、執事は心のどこかで信じていた。

あのお嬢がやられるわけない。例え、あの最凶の姉の最強クラスの技を受けたとしても――


お嬢「……ハァッ」

執事「お嬢!!」

そして予想は的中していた。

姉姫「あら驚いたぁ…亡者の魂を全て消し去るなんて」

執事(やっぱり一筋縄じゃいかねぇな、お嬢!!)

お嬢「………」

執事(お嬢? 様子が変だな……)

お嬢「……くっ」ドロン

執事「あっ!!」

姉姫「まぁまぁ…逃げるなんて、残念」

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 19:00:58.44 ID:iliJNy0E0
魔物「如何致しましょう、姉姫様」

姉姫「私達の狙いは彼女だからねぇ…追うしかないでしょ」

魔物「しかし、追うと言っても行き先が……」

姉姫「彼女の残り魔力からして、逃げられる範囲はせいぜい国内ね。魔物達を総動員して探し出すわよ」


執事「………」

姉姫「どうボクちゃん、お姉ちゃんカッコイイでしょ~?」ニコニコ

執事「えぇ…流石は現魔王たるお力の持ち主です」

姉姫「でも困ったわねぇ、いくらこの狭い国内だからって、女の子1人探し出すなんて骨の折れる作業よ~。ボクちゃんも手伝ってくれる?」

執事「姉上…あの女の性格上、隠れる場所は大体想像できます」

姉姫「まぁボクちゃん、賢くなったのねぇ。それで? あの子はどんな場所にいるのかしら?」

執事「あの女が隠れるのは――」


執事「暗い場所、でしょうね」

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 19:01:28.82 ID:iliJNy0E0
執事「……」キョロキョロ

執事は魔物とは別行動し、国中を歩き回っていた。
お嬢と過ごした屋敷やその周辺の森、一緒に歩いた街…。
どこを探しても、お嬢の姿は見当たらない。

執事(もう日も沈んできたな…長引く隠れんぼだな)

執事(どこにいるんだお嬢…これより暗くなったら、あいつの行ける場所なんて…)

執事(……待てよ。確か以前、お嬢の奴……)

執事「……」

執事「足を運ぶ価値は十分にあり、だな」

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:15:48.42 ID:lqYstiKL0
お嬢「……」

物陰に隠れながら、魔力を回復させる。
回復した魔力は、全体の5割といったところか。

お嬢(駄目…こんな魔力じゃまだ、あの女とは戦えないわ)

お嬢(あの女の狙いは私だから、他に被害は及ばないとは思うけど…私が見つからないままだと、どんな強硬手段に出るかもわからないわ)

お嬢(もどかしい…早く回復しなさいよ魔力!!)

既に逃亡から3時間は経過しただろうか。
沈んできた夕日が、時間の経過を思わせる。

お嬢(……暗く、なってきた………)

お嬢「………」



『出して、ここから出してよぉーっ!!』

『怖い…やだよ……誰か気付いてよ……』

『私のこと、助けてぇーっ!!』



お嬢「…っ!」ブンブン

お嬢(怖くない、暗闇なんて怖くない…!! だって今は、あの時とは違うもの!!)

お嬢(……でも)


1人って、やだな……――


「見つけた」

お嬢「!!」

74 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:16:35.24 ID:lqYstiKL0
執事「よぉ」

お嬢「あ、貴方……何で?」

執事(初めて見るな、お嬢の面食らった顔は)

けど今は、からかってやる気にはなれない。

執事「夜になっても明るい場所――以前、月光の湖畔について話していたろ」

お嬢「そう言えば、そうだったわね……それで私の居場所を特定できたの」

執事「あの時は『満月の夜には明るい』って言ってたが、今日の晩は新月だ。きっと暗くなるぞ」

お嬢「……そうね」

執事「怖いだろ」

お嬢「怖くない」

執事「暗いのが怖いから、ここに来たんだろ?」

お嬢「…怖くない!!」

お嬢は珍しく感情的に叫び、執事の服の裾を掴んだ。

執事「……何だ?」

お嬢「側に、いなさいよ」

執事「俺はお前の敵だぞ」

お嬢「知ってる。でも貴方は危険じゃないから」

執事「ナメてんのか」

お嬢「ナメてなければ私の執事にしてないわよ」

執事「そうかい」

執事はふぅとため息をついて、お嬢の隣に腰を下ろした。

75 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:17:23.83 ID:lqYstiKL0
お嬢「尻尾を巻いて逃げ出すなんて、私まで英雄の名に泥を塗ったわね」

執事「戦略的撤退だろ?」

お嬢「難癖つけてでも私を貶めようって奴は珍しくないわ。嫌われ者だからね、私」

執事「…本当、ひねくれてるよな。よっぽどひどい目に遭ってきたのか?」

お嬢「神童の苦悩なんて凡人にはわからないでしょうね」

執事「いじめられてきたんだろ」

お嬢「なっ」

執事「大人と違って子供って正直だし、容赦なく悪意を向けてくるからな。だから嫌いなんだろ、子供が」

お嬢「……」

執事「暗いのが苦手なのも、いじめの影響でか?」

お嬢「…そんな軽い感じで言わないで。何時間、閉じ込められたと思ってるのよ」

執事「暗い所にか?」

お嬢「えぇそうよ。それもご丁寧に、魔封じの結界まで用意してね。脱出手段を封じてくるなんて、悪質にも程があるわ」

執事「ガキって残酷…」

お嬢「だけど誤解しないで! 私は暗いのが怖いわけじゃない!」

執事「へいへい」

お嬢「…私が怖いのは――」ギュ

執事「――っ?」

お嬢「暗闇に1人――それが怖いのよ」

執事「…っ」ドキ

普段見せないお嬢の弱気な表情に、執事は動揺した。

76 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:17:52.39 ID:lqYstiKL0
お嬢「ところで執事、私の居場所を知らせなくていいの?」

執事「え、あ、えっ?」

お嬢「貴方、私の敵なんでしょ? だから私を探しに来たんでしょ?」

執事「えーと…俺を信じないなら信じないで構わないが、今後のことについて1つ、提案がある」

お嬢「提案? 何かしら。言ってみなさい」

執事「お嬢…この世界を捨てる気はないか?」

お嬢「捨てる? …この世界を?」

ピンときていないようで、お嬢はキョトンとしていた。
だけどこの話を持ちかけるのが、執事の目的だった。

執事「お前はきっと姉貴に勝てない。それにあの女は執念深いから、逃げても逃げても追ってくる。…だったらいっそ、異世界へ逃げた方がいい」

お嬢「異世界? 馴染みのない言葉ね」

執事「俺たち魔族がいた魔界の他にも、異世界はいくつも存在する。そして、俺はその異世界へ続く道をいくつか知っている」

お嬢「ふーん…そうなの」

執事「信じないなら信じないで構わないと言っただろう」

お嬢「…信じる信じない以前にわからないわ」

執事「何が?」

お嬢「貴方、私の敵じゃないの? どうして私を逃がそうとするの?」

執事「確かに敵だ。けど先に敵に対して情けをかけたのは、そっちだろ」

お嬢「え?」

執事「姉貴を氷漬けにした時、あのままトドメを刺せばお前の勝ちだった。なのにお前は、わざわざ俺を気遣った」

お嬢「………」

執事「お前が俺を気遣う必要はないわけで……けど、気遣われたからには見捨てられないっつーか……」

お嬢「………」

執事「……あー、もう何か言えよ!! とにかく、そういうことだ! わかったか!!」

お嬢「…全然わかんないけど、まぁわかったわ」クスッ

77 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:18:20.28 ID:lqYstiKL0
お嬢「…行くわ。この世界に未練なんてないし」

執事「あっさり決めたな」

お嬢「貴方の言う通り、私は貴方のお姉様に勝つことも、逃げ切ることもできない。だからそれを選ぶしかない。…それに」

執事「…それに?」

お嬢「さっきも言ったけど、私は貴方をナメているの。貴方が言ったのが嘘だとしても、私は貴方に出し抜かれたりなんてしないわよ」フフン

執事「……やっぱ可愛くねぇ女だな」

お嬢「あら、今更じゃない。それとも、可愛いって思えるシーンがあったのかしら?」

執事「ね、ねーよ!!」

お嬢「ふーん? まぁ行動は早い内がいいわ。案内してもらおうかしら、異世界への道を」

執事「あぁ。1番近い場所でここからあまり離れてないから……」


「何なにぃ、異世界がどうだってぇ?」

執事「!!」バッ

お嬢「……あら」


姉姫「ヤッホー♪ 見ぃ~つけた~♪」

執事(最悪だ……)

78 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:19:06.53 ID:lqYstiKL0
姉姫「ねぇねぇボクちゃん、異世界ってどういうことかなぁ?」

執事「そ、それは……」

姉姫「勿論、その子を騙す為の口実だよねぇ? ボクちゃんはお姉ちゃんを裏切らないよねぇ~?」

執事「う……」ブルッ

お嬢「ボクちゃんボクちゃんって、弟萌えなの? 全く、どうしようもない姉ね」

姉姫「ん~? 何か文句でもあるの~?」

お嬢「あら気付かない? 執事が執事服に身を包んだ姿は、弟属性という枠を超えて執事萌えを生み出しているのよ」

姉姫「わかっていないわね。ボクちゃんがどんな格好をしようと『可愛い弟』という枠は越えられない。それがブラコンにとっての弟という存在なの」

執事(………何の話をしてるんだ、何の)


姉姫「まぁ、どうせ相容れないことはわかっていたわ」バチバチッ

お嬢「ふん…逃がしてくれそうにないわね」

執事(まずい……!!)

執事「あ、姉上!」

姉姫「ん、どうしたのボクちゃん?」

執事「先ほどの勝負でこいつが逃げ出したことで、人間たちは"英雄"に対する希望をもう十分失ったはずです! ですから…」

姉姫「だからその子を見逃せ、ってことかしら?」

執事「姉上は1度勝利したのです、だからいいでしょう!」

姉姫「ボクちゃん、私は勝ってないわ」

執事「!!」

姉姫「ボクちゃんも言っていたじゃない。氷漬けにされている間にトドメを刺されれば、私は負けだった、って」

執事(き、聞かれていた……)

79 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:19:51.16 ID:lqYstiKL0
姉姫「負けっぱなしはプライドが許さないのよねぇ…今度こそ、完璧に勝つわ」

執事(姉貴の奴、引く気がねぇ……)

お嬢「……完璧に勝つ?こっちの台詞よ」

執事(お嬢はさっきの戦いで魔力を大分消費した……)

姉姫「強がりな子は嫌いじゃないわよ~。最後の最後に命乞いするのだけはやめてね」


執事(どうすりゃいいんだよ……)

執事(い、いや、俺がお嬢のことを気にかける必要はないんだ…だってあいつ、親父を殺した奴なんだぞ)

執事(そうだ……俺にできることなんてない……)

執事(何かを変える力もない、俺なんて……)


姉姫「さああぁぁて、早期決着といきましょうかねええぇ!!」バッ


――なのに


ガキィン


姉姫「!!」

お嬢「な――」

執事「あ、ははは……」


俺なんて、何もできないのに――


執事(何でお嬢の前に立って、姉貴の刃を受け止めちゃったりしてんの俺ええぇ――っ!!)

80 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:20:52.46 ID:lqYstiKL0
姉姫「あらボクちゃん? 何の冗談かしらぁ?」

執事「……――くない」

姉姫「え?」


こんなこと思うなんて、俺はおかしくなったのかもしれない。

こいつは、親父を殺した女で。


お嬢『私こう見えても、えっちなものは創作物でしか知らないのよねぇ。だーかーらー、実物を知りたくなって』ゴソゴソ

お嬢『私、執事も欲しかったけど…ペットも欲しかったのよね~♪ というわけで今日から貴方は私の"わんこ執事"よ。ハイ決定』

俺のこと、オカズとかペット扱いするような変態女で。
一緒に過ごした日々を思い返しても、正直ろくな思い出はない。


だとしても。


執事「俺は――お嬢を死なせたくない」

お嬢「――」


理屈なんて抜きで、その気持ちは本物だった。


執事「だから俺は、姉貴! お前と戦う!!」

81 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:21:23.60 ID:lqYstiKL0
姉姫「……」ガーンガーンガーン

執事「あ、姉…上……?」

姉姫「ショック……ボクちゃんがこんな、こんな……」プルプル

執事「ほ、本気だからな!?」

姉姫「……ふぅん、本気。だったら……」

執事「……へ?」


姉姫「こっちも本気出さないと失礼よねええぇぇ!!!」ゴオオオォォォ


執事「うわっ!!」バッ

お嬢「危険よ執事、貴方が勝てる相手じゃ……」

執事「お嬢、この道を真っ直ぐ! 魚型の岩のところまで行け!」

お嬢「えっ?」

執事「そこに行けば空間の歪み…異世界の扉がある! これが空間を開ける鍵だ!」ヒュンッ

お嬢「!」パシッ

姉姫「行かせないわっ!!」バッ

執事「邪魔はさせねぇ!!」カンッ


執事「早く行け、お嬢! 俺が姉貴を食い止める!!」

お嬢「…っ!」ダッ

85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:43:22.24 ID:BWg893K70
姉姫「行かせちゃって良かったのかしら~? せめてあの子と2人がかりじゃないとツライでしょ~?」

執事「問題ない。あいつを逃がす為だ、一緒に戦うんじゃ意味がない」

姉姫「お姉ちゃん知ってるわよ…ボクちゃんの力の程度くらいはねぇ!!」

執事(魔法となると姉貴が遥かに上。だから姉貴が魔法を使えば俺は――)

姉姫「早い内に降参しちゃいなさいねぇっ!!」バチバチィッ

執事(間違いなく勝てない――)


執事「――って考えるのは、5年前のままで止まってるな」

姉姫「――えっ?」

執事「それが変わったんだあぁ!!」

カッ

姉姫「打ち消した…!? ボクちゃんの魔法で、私の魔法を!」


お嬢『1日目で劇的に上がることはないでしょうね。でも指導者が有能だから、実感のないままレベルアップするはずよ』


執事(マジだったな…日々の積み重ねで、着実にレベルアップしていた)

姉姫「だけどいつまでそれができるかしらね!!」バチバチィッ

執事(そう、俺と姉貴じゃ魔力の量に大差ある。防御を続けていりゃ、俺の方が先に魔力切れを起こす)

執事「だったら!!」ダッ

姉姫「!!」

執事("回避"と"防御"を使い分けながら――姉貴と距離を詰める。戦略が大事だってのも、あいつの教えだかんな!!)

執事「おらああぁぁ!!」バッ

姉姫「ふんっ!」カァン

執事が振り下ろした一擊を、姉姫は召喚した剣で受け止めた。

86 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:43:58.78 ID:BWg893K70
姉姫「距離を詰めれば何とかなると思ったの? でも残念ね、剣の腕もボクちゃんよりお姉ちゃんの方が…」

執事「その考えも、5年前で止まってんだよ!!」ガキィン

姉姫「――っ!! ち、力が強っ……」

執事「当時14歳、成長期真っ只中。そっから5年も鍛えてりゃ、力は劇的に上がってんだよ!」

姉姫「っ、追い風っ!!」ビュウゥッ

執事「……っ!」

姉姫「近接戦で不利なら、距離を開け――」

執事「――させねぇ」

姉姫「!!」

突風を全身に浴びながらも、執事はその場に踏みとどまっていた。

執事「俺の間合い以上は意地でも開けさせねぇ!! 何されようが、逃がさねぇからな!!」

姉姫「……!!!」

87 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:44:38.31 ID:BWg893K70
姉姫「……フフッ」

執事「…っ? な、何だ?」

姉姫「ねぇ気付いてるボクちゃん…お姉ちゃんね、さっきからずっと、左手使ってないのよ」

執事「はっ!?」

姉姫「ボクちゃんたら、視野が狭いわねぇ……フフ、感じるぅ~?」

執事(こ、これは……)

姉姫の左手には魔力が溜まっていた。
恐らく今までの攻防の間に、ずっと溜めていたのだろう。

姉姫「最後の忠告よ……降参しなさい」

執事「~っ…いやだ!!」

姉姫「そう……」

姉姫が左手をこちらに向けてきた。
回避、防御――恐らくどちらも不可能。それだけの魔力を溜めさせてしまった。


そうとわかっていても――

執事(なら、耐える!!)

執事は、全く諦めていなかった。


姉姫「いい顔になったわボクちゃん。でも精神論じゃ勝てないのよ……いい勉強になったわね」

執事「………っ!!」

88 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:45:16.09 ID:BWg893K70
ドォン

姉姫「――っ!?」ドサァッ

執事「……はっ?」

「視野が狭いのは姉弟揃ってよね……」

執事「お、お前……」


お嬢「私の存在に気付かなかったのは致命的だったわねぇ…お姉さん」

執事「お前、逃げなかったのかよ!?」

お嬢「負けそうになってたくせに、何を言ってるんだか…」フゥ

執事「~っ…だけど俺は、お前が異世界に逃げられるだけの時間は稼いでいたぞ」

お嬢「そうかもね」

執事「……」

執事(いや、わかってる……悪いのは俺だ)

執事「俺が足止めすらできない、頼りない男だと思うもんな……安心して逃げられるわけ、ないか」

お嬢「違うわ」

執事「……違う?」

執事はポカンとした。

お嬢「この場を貴方に託せば私は異世界に逃げ込むことができる……それは信じられた。だけど、それができなかった」

執事「意味わかんね……だったら何で逃げなかった」

お嬢「見知らぬ異世界なんて、暗闇のようなものよ。言ったじゃない、暗闇に1人は怖いって」

執事「お嬢……」

お嬢「異世界に逃げるにしても…貴方が一緒じゃないと、嫌」

89 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:45:42.25 ID:BWg893K70
執事「そ、その言葉はまさか……」

お嬢「……察しの悪い男ね」

執事「…いいんだな? お嬢も俺と同じ気持ちだって――そう思って、いいんだな?」

お嬢「……」コクリ

執事「…お嬢っ!」ギュッ

お嬢「――っ」

執事「……――っ」ドキドキ

執事(ここはやっぱり…男としては……)

お嬢「………」

執事(キス――するとこだよな!!)


執事「お嬢……」スッ

お嬢「……!!」




姉姫「ちょっと待ったあああぁぁ!!」ガバッ

執事「うわああああぁぁぁぁ!?」ビクウウウゥゥゥッ

90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:46:08.32 ID:BWg893K70
お嬢「あら…まさか起き上がるとはねぇ」

姉姫「あーイタタ、起きるのつらぁ…。でも!! ブラコンとしては見逃せないのよね!!」

執事「な、何だ!? まだやろうってのか!?」

姉姫「やってみなさい。まぁお姉ちゃん、それで死んでゾンビになっても邪魔してあげるけどね」フフン

執事「怖ぇよ!!」

お嬢「さっきのが致命傷となって、貴方はもう戦えないはずよ」

姉姫「えぇそうね…だけど――」

姉姫は空に向かって手を掲げた。

姉姫「私には、やらなくちゃいけないことがあるのよ!!」パンパンッ

執事「しまっ……」

お嬢「何の魔法…!?」バッ

執事「空からバラバラと何か落ちてき――」

ポンポンッ

お嬢「……花?」

執事「花……だな」

姉姫「ふ、ふふふふ……――」


姉姫「2人とも、おめでとーっ!!」

執事「……は?」

お嬢「え?」

91 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:47:03.66 ID:BWg893K70
姉姫「ううぅ…お姉ちゃん悲しいなぁ…。でも応援するからね!!」

執事「おい待て…何のことだよ」

姉姫「え、だって2人は両思いなんでしょ? だったら結婚するでしょ?」

お嬢「……はい?」

執事「け、けけ結婚!?」

姉姫「さっき邪魔したのは、お姉ちゃんは順序にうるさいからよ。キスは正式に婚約してからにしなさい」

お嬢「話がぶっ飛びすぎてて、理解できないんだけど……」

執事「さっきまで命狙ってた相手と弟の結婚を認めるとか!? あっ、もしかして今までのは茶番かよ!?」

姉姫「いいえ? 魔法使いちゃんのことは本気で殺す気だったし、ボクちゃんを倒す気もあったわよ」

執事「だったら何で!?」

姉姫「だって。ボクちゃんは魔法使いちゃんを逃がす為に諦めず戦った。そして魔法使いちゃんはボクちゃんを見捨てずに戻ってきた。それって、本物の愛じゃない?」

執事「……っ!」ボッ

姉姫「本物の愛を見せられたんじゃあ、認めるしかないわよ。…私にとって世界征服は大事だけど、ボクちゃんの幸せの方がもっと大事だもの」

お嬢「お義姉様……」

執事「おい、受け入れんなよ……ツッコミ所満載じゃねーか…」

姉姫「そうね。まぁ人間への報復は、別の形で行うことにするわ」

執事「いやそういうことじゃなく」

お嬢「人間への報復と言いましたね。別の形とは?」

姉姫「ふふ、そうねぇ……」


姉姫「英雄…魔法使いちゃんを、この世界から奪うことかしら」

お嬢「……え?」

執事「お嬢を…この世界から奪う?」

92 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:47:37.72 ID:BWg893K70
姉姫「ボクちゃん。パパがこの世界を征服しようとした理由を覚えている?」

執事「あぁ。魔界では勢力争いが激化していて、危険地帯と化していたからな。だから親父は魔界を脱し、異世界であるここを征服しようとした」

お嬢「あらそうだったの。…私達にとっては、とんだ迷惑な話ね」

執事「そうだな……。それは否定できない」

お嬢「あら、逆恨みで復讐しようとした頃から大分成長したじゃない」

執事「うるせーよ」

姉姫「パパが討たれてから5年…その間、私は魔界の荒くれ者と日夜戦闘を繰り返し、レベルアップを図っていたわ」

お嬢「随分アグレッシブなお姉様ね」

執事「うん、生まれながらの戦闘民族」

姉姫「これだけレベルアップしたのだから、パパの悲願を達成しようかと思ったけど……事情が変わったわ」

執事「ふーん…それで、どうすんの?」

姉姫「言ったでしょ、魔法使いちゃんをこの世界から奪うって」

姉姫はそう言うと、お嬢の手を両手で握った。

姉姫「一緒にやりましょう魔法使いちゃん……魔界の制覇を!!」

お嬢「……!!」

執事「………は?」

93 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:48:06.74 ID:BWg893K70
姉姫「魔法使いちゃんが味方になってくれれば、魔界制覇も夢じゃないわ。広がる夢は無限大!!」

執事「待てええぇぇい、荒くれ者が集う魔界を制覇なんて並大抵じゃねーぞ!?」

姉姫「ボクちゃんは魔界が怖くて逃げ出しちゃった子だもんねぇ~」

執事「言うな!!」

姉姫「並大抵じゃないから、やり甲斐があるのよ。魔界の王として見下ろす景色は……きっと最高よ」

お嬢「確かに見てみたいわね…その最高の景色」

執事「お嬢!?」

お嬢「正直、こっちの世界に退屈してたのよ~。天才ゆえに、やり甲斐のあることが見つからなくてね」

執事「けど……お前はこの世界に必要な英雄だろ」

お嬢「知ったことじゃないわ!!」

執事(えー)

姉姫「そうと決まれば善は急げ、ね」

お嬢「そうですね。あ、でも一旦家に戻って、荷物をまとめたいですね」

執事「本当に行くのかよ……。未練も何もないんだな」

お嬢「あ、執事。適当な言い訳の手紙書いて、王様に出しておいて」

執事「しかも面倒なことは俺に丸投げかい!?」

お嬢「えぇ。だって貴方は私の執事なんだから。当然でしょう?」

執事「……そうだけど、違うだろ」クイッ

お嬢「!」


執事「お前は俺の……可愛い奥さんになるんだろ?」

お嬢「……ふふっ。貴方の方が可愛いわよ?」

執事「だから、褒め言葉になってねーし」

お嬢「だから、褒めてないし」

姉姫(ううぅ……イチャイチャを間近で見ると、やっぱり妬いちゃうなぁ……)

94 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:48:36.25 ID:BWg893K70
>お嬢の屋敷


お嬢「この服と、この服と~……」

執事「もうカバン3つになったぞ。まだ持っていくのか?」

お嬢「当たり前よ! 魔界には私の趣味に合う衣装屋あるかわからないし、なるべく沢山持っていきたいわ!」

執事(ま、いいけど……ん、そういや)

執事「お嬢ってピンクの服、全然持ってないんだな」

お嬢「あら。女ならピンクだろ、って決めつけ~?」

執事「そうじゃねーよ。……お嬢に似合う色だと思ってるから」

お嬢「……初めて言われたわ」

執事「嘘じゃない。その…お嬢は可愛いのが似合うと思うし……」

お嬢「……」

執事(ああぁ、上手い言葉が見つからねえぇ!!)

お嬢「ねぇ執事……ちょっと、待っててくれる?」

執事「え? ……あ、うん」

95 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:49:03.60 ID:BWg893K70



お嬢「お待たせ」

執事「お……」

お嬢が着替えてきたのは、いつぞや執事が選んだピンクの服だった。

執事「初めて見たわ、それ着るの」

お嬢「……だって、着てなかったもの」

執事「わざわざ俺に選ばせたのに? 何で今まで着なかった?」

お嬢「だって……」モジモジ

執事「?」

お嬢「せっかく選んでくれたのに、いざ着てみて似合わなかったら……ガッカリするでしょ?」

執事「…………」

96 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:49:37.33 ID:BWg893K70
執事「お嬢っ!!」ギュー

お嬢「きゃっ!?」

執事「ガッカリするわけないだろ、可愛いよお嬢、すっげー可愛い!」

お嬢「~っ、連呼しないでよ!!」

執事「ほほ~、案外攻められると弱いんですねぇ~?」

お嬢「……Mな受けメンのくせに、生意気」ジトー

執事「そうやって強がってしまう所も可愛らしいですね、お嬢様」

お嬢「~っ……」

執事(よしよーし、ようやくお嬢のツボがわかってきたぜ……って、ん?)

フッ

執事「うわ、部屋の灯りが……ランプの火が消えちまったか?」

お嬢「………」

執事「暗いな……お嬢、大丈夫か?」

お嬢「言ったはずよ。暗いのが怖いんじゃない。……暗闇に1人が怖いんだ、って」

執事「そうだったな……今は俺がいるもんな」

お嬢「えぇ……そうねぇ~」

執事(……? 今、声が何か嬉しそうな……)

モゾモゾ

執事「……へ?」

97 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:50:15.47 ID:BWg893K70
執事「何も見えなくて手探りか? 俺の服を乱してるぞ?」

お嬢「見えてるわ。暗視の魔法を発動したから」

執事「あ、そうなんだ……って、じゃあわざとやってるの?」

お嬢「えぇ勿論」

執事「えーと……何でかな?」

お嬢「何でって。生意気なわんこに対するしつけよ、しつけ」

執事「しつ、け……?」

お嬢「あぁ、もどかしいわ!!」

ビリビリッ

執事「!!?!? 何で破るの俺の服!?」

お嬢「丸見えよ」

執事「ちょっ、見るな!! 何をする気で……」

お嬢「私ねぇ、貴方に主導権握らせる気はないのよねぇ~」

執事「え、えーと……?」汗ダラダラ

お嬢「だから……」

執事「……!!」

お嬢「……いただきますっ!!」ガバッ

執事「いやあああぁぁぁぁ!?」


その夜のことは、俺とお嬢だけの秘密である。

98 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:50:46.41 ID:BWg893K70
>魔界


姉姫「覇ああぁぁ――っ!!」

お嬢「喰らいなさい!!」

ドカアアァァン

お嬢「やりましたね、お義姉様! 敵の城が木っ端微塵だわ!」

姉姫「えぇ、守りを失った敵はこちらに降伏するでしょう」ニヤリ


執事「毎日毎日、楽しそうだな」

お嬢「えぇ楽しいわ。刺激的な毎日って最高」

執事「俺の思っていた以上にアブない奴だった……」

お嬢「そんなことはどうでもいいわ。執事、今日のおやつは?」

執事「クッキーを焼いた」

お嬢「やり直し」

執事「お嬢様、クッキーで御座います。紅茶と共にお召し上がり下さい」

お嬢「よろしい」

執事「なぁ…俺は永遠に執事プレイをしなきゃいけないのか?」

お嬢「そうねぇ……魔界に来てから、別の萌えも発見したわ」

執事「ほう?」

お嬢「騎士とかどうかしら。私をオークに見立てて『くっ殺せ』とかやるの」

執事「……執事のままで良いです」

99 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:51:17.00 ID:BWg893K70
お嬢「見なさい執事、この魔界の景色を」

執事「?」

お嬢「貴方がかつて恐れをなしたこの世界を…いつか必ず征服して、貴方に安らぎを与えてあげるわ」

執事「男前すぎて反応に困る」

お嬢「だけど、これから先は見えない暗闇に包まれているわ。だから……」ギュ

執事「っ」

お嬢「私が歩いていくには、貴方の支えが必要なのよ」

執事「……」グッ


時にいじめてきて、時に甘えてきて……


執事「任せな。いつでも、側で支えているから」

お嬢「えぇ!」


俺はすっかり、この"お嬢様"に心を支配されていた。
そんなところがやっぱり――


執事「魔王よりお嬢様の方が怖い」


Fin

100 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:51:45.78 ID:BWg893K70
ご読了ありがとうございました。
プロット段階では重々しい話だったのですが軽くなりました。変態成分て素晴らしい。


過去作こちらになります
http://ponpon2323gongon.seesaa.net/

105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/01(金) 19:00:03.47 ID:zbEGQC5pO
posted by ぽんざれす at 19:17| Comment(2) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年03月20日

女勇者「アイドルから勇者に転身しました♪」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1458467371/

1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:49:41.76 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師(王様のご命令で、勇者様御一行の様子を視察しに来たけれど…)


中ボス「ガーッ」

勇者「きゃーん!」


戦士「ゆうちゃん危ない!」バッ

賢者「僕がゆうちゃん周囲に防護壁を張る! 2人とも、魔物をやっつけて!」

弓師「よしきた! 今すぐ片付けるから心配すんなよ、ゆうちゃん!」


勇者「ゆう、応援ソング歌うよー! 皆ぁ、拍手お願ーい!」

楽師「よし出番だ!」ポロロン♪

追っかけ「「ウオオオオオォォォ」」

~♪


王宮魔術師(何だこれ?)



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458467371
2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:50:25.60 ID:ngPDwe0M0
楽師「戦闘終了…」ポロロ~ン♪

勇者「皆ぁ、戦闘お疲れ様♪」ニコニコ

戦士「ゆうちゃんこそ、歌お疲れ様! はい、水!」

賢者「いいコンサートでしたよ、ゆうちゃん。僕のMPも回復しました!」

弓師「皆、ゆうちゃんに拍手だ!」

追っかけ「ゆうちゃーん」「ウオオオォォ」「最高ーッ!」


王宮魔術師「もしもし?」

賢者「あ、王宮魔術師さん。ごきげんよう」

王宮魔術師「只今の戦闘を拝見させて頂きましたが…」

戦士「いい歌だったろ。それに間奏の時のダンスも可愛いよな~」

弓師「俺、振り付け覚えた!」

王宮魔術師「えっと。現在パーティーの人数は…40名ほどですか?」

戦士「いや? 4人だぜ?」

王宮魔術師「…では彼は?」

楽師「ただの楽曲担当です。メインはあくまでゆうちゃんですので、私のことは気にせずに…」ポロン♪

王宮魔術師「それで、彼らは…」

追っかけ「俺らはただの追っかけです。ゆうちゃんと同じステージに立つなど、そんなのはおこがましい!」

勇者「皆、いつもありがとー♪ ゆうと皆はパーティーは違っても、心で繋がってるよー♪」

追っかけ「「ウオオオオォォォ」」

王宮魔術師「と、とりあえずパーティーに属してないことはわかりました」

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:51:01.68 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師「次に、パーティーにおける各々の役割ですが…」

戦士「俺は前衛での戦いや、力仕事を担当している」

賢者「僕は魔法全般と、情報収集等ですかね」

弓師「俺は後衛で2人のバックアップと、あと家事担当」

王宮魔術師「それで、勇者様は?」

勇者「歌です」ニコ

王宮魔術師「……」

戦士「一言で歌と言っても、ゆうちゃんの持ち歌は20を越える!」

賢者「状況によって歌やダンスを使い分け、我々の士気を上げる…その判断力、侮れません」

弓師「しかも、本番で失敗しない為に毎日練習を怠らないんだ。その頑張りっぷりには頭が下がるぜ」

勇者「皆も、いつも戦ってくれてありがとう♪」

王宮魔術師「ちょっと待て」

勇者「どうしたんですか~?」

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:51:42.86 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師「勇者様、背中に剣を背負ってますよね?」

勇者「そうそう、これかっこいいでしょ~♪ ファンの方に頂いたんです!」

王宮魔術師「それ、使ったことはありますか?」

勇者「勿論、ありますよぅ」

戦士「ゆうちゃんの剣さばきは見事なんだぜ!」

王宮魔術師「ほう。見せて頂いてもよろしいでしょうか?」

勇者「オッケー! ミュージック、スタート!」

王宮魔術師「…ミュージック?」

楽師「奏でます…"戦乙女は愛ゆえに"」ポロロン♪


勇者「♪花よ蝶よと言うけれど~、乙女の道は甘くない~」

追っかけ「「ハイ、ハイ、ハイハイハイッ!」」

勇者「♪そうよ剣は箸より重いけど! 戦うの、この茨道~」チャキ

王宮魔術師(あ、剣を抜いた)

勇者「♪行くわ私、愛の為に! 辛くて泣いちゃう時もあるけど、それは許してね~」シュッシュッ

追っかけ「「辛けりゃいいんだ泣いたってー!」」

王宮魔術師「……」

王宮魔術師(音楽が始まった段階で、踊りのフリで使うことは予想できてました)ハァ

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:52:22.61 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師「で、その剣で魔物を斬ったことはないんですね?」

勇者「やーん、そんなの怖くてできなぁーい!」

戦士「いいんだよゆうちゃん、魔物なんてのは俺がやっちゃるから」グッ

賢者「ゆうちゃんの剣は魔物を斬る為ではなく、癒やしの為の剣ですからね」

王宮魔術師「あのー…。貴方がたの旅の目的は?」

弓師「魔王を倒すことだろ?」

王宮魔術師「…で、"勇者"とは何だかわかっています?」

弓師「人々の英雄だろ?」

王宮魔術師「それで…その為に勇者様は何をすべきですか?」

勇者「頑張って歌います!」

追っかけ「「頑張れゆうちゃーん!!」」ウオオオォォ

王宮魔術師(ちっげーだろが…)ビキビキビキビキ

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:53:10.14 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師「すみません、少し勇者様と2人きりでお話しをしたいのですが」

戦士「おう、いいぜ。でも妙なことすんなよ」

賢者「まぁ王宮魔術師さんは女性ですから、ゆうちゃんに変なことはしないと思いますけど」

勇者「皆ぁ、ちょっと待っててね~♪」


勇者「それで、お話って何ですかぁ?」

王宮魔術師「…そりゃ、貴方は気の毒だとは思いますよ」

勇者「はい?」キョトーン

王宮魔術師「全国を渡り歩いてアイドル活動していた所で、神託により勇者に選ばれ、魔王討伐の責務を背負わせてしまった境遇…同情はします」

勇者「そんなそんな! 全然、気にしてませんよぅ!」ブンブン

王宮魔術師「ですがね、もう少し勇者としての自覚を持って頂きたいのです」

勇者「勇者としての自覚…ですかぁ?」

王宮魔術師「例えば弱い魔物相手でいいので、修行するとか…」

勇者「やぁ~ん。ゆう、乱暴なことするのはイヤー。それに戦うのは戦士君達がやってくれるしぃ~…」

王宮魔術師「いい加減にしなさい」

勇者「っ!」ビクッ

王宮魔術師「魔王討伐の旅は道楽じゃないんです。人々を救う為、貴方にも本気になって頂かないと困るのですよ」

勇者「……」

勇者「…うふふっ」

王宮魔術師「? 何がおかしいのですか?」

勇者「だってねーぇ…」

勇者「おバカな男の人を手玉に取って利用することの何がいけないんですかぁ?」クスクス

王宮魔術師「」

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:53:53.35 ID:ngPDwe0M0
勇者「王宮魔術師さん、知ってますぅ? 戦士君も賢者君も弓師君も、最初はもっと弱かったんですよぉ」

王宮魔術師「ま、まぁ確かに…短期間でかなりのレベルアップをされているようですが」

勇者「それはね、ゆうが応援したから3人とも頑張ってくれたんですよぉ~」

王宮魔術師「そ、それなら貴方も頑張って…」

勇者「駄目ですよぉ。あの3人は、守るものがある方が燃えるタイプだもん。ゆうが強くなったら、萎えちゃうと思うなぁ~」

王宮魔術師「貴方は"勇者"なんですよ!?」

勇者「仲間の皆を強くして魔王を倒すのも十分アリだと思いますぅ」

王宮魔術師「仲間ばかり危ない目に遭わせて、罪悪感はないんですか!?」

勇者「そこは役割分担ですよぉ」

王宮魔術師「…仲間の方々に言いつけますよ」

勇者「女の嫉妬だと思われるのがオチですよ?」

王宮魔術師「……」

勇者「ふふっ」ニコッ

王宮魔術師「…よく、その本音を明かしましたね?」

勇者「女性相手にブリッコしても仕方ないじゃないですかぁ~」

王宮魔術師(この女…)

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:57:46.32 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師「しかし心配ですね。男性陣は皆、貴方を崇拝していて判断力が鈍っていないか…」

勇者「そうそう、皆おバカなんですよ~。あ、おバカってのは愛情表現であって、純粋という意味でぇ」

王宮魔術師「勇者様が大きな失敗をすれば、それが致命傷となりかねない…。それがひどく心配です」

勇者「んー、じゃあ~…王宮魔術師さんも旅に同行しますぅ?」

王宮魔術師「……え?」

勇者「知的で有能で若くして王宮付きになった王宮魔術師さんなら、心強いです~」ニコニコ

王宮魔術師(このブリッコが同性相手に媚びるとは…何を企んでいるの!?)ビクビク

勇者「それにぃ、同じ女の子のお友達も欲しかったしぃ」モジモジ

王宮魔術師(…見下し要員? 私のような冴えない女を側に置くことで自分の魅力を強調する気?)

勇者「ねぇ~? 皆おバカなんだもん、王宮魔術師さんも来て下さいよぉ~」ギュッ

王宮魔術師(そうですね…確かにこのままだと、パーティーの行く末が心配です)

王宮魔術師「わかりました、同行しましょう勇者様」

勇者「やったぁ♪ じゃあ、ゆうのことは"ゆうちゃん"って呼んで!」

王宮魔術師「ゆ、ゆうちゃん?」

勇者「それで私は王宮魔術師さんのこと…おねーさまって呼ばせて頂きますぅ~!」

王宮魔術師(おばさんって意味かしら…? まぁ、この子に比べればおばさんなんだけど…)

勇者「それじゃあ早速皆に挨拶しましょうねぇ、おねーさまぁ♪」グイッ

王宮魔術師「わわっ」

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:58:18.22 ID:ngPDwe0M0
>そして


魔物「ガルルル!」

勇者「きゃーん」

戦士「ゆうちゃんに手を出すんじゃねえええぇぇ!!」ズバアアァッ

魔物「ギャアアァァ」

勇者「怖かったぁ~。戦士君は頼りになるね!」

戦士「へへへへへ」

王宮魔術師(勇者様の叫び声ひとつで、ここまでやる気を出すとは…)


勇者「あ、弓師君。あの木になったリンゴが食べたいなぁ♪」

弓師「任せろ!」ビュンッ

勇者「わー、採れた! 弓師君、凄いすごぉい!」

楽師「腕を上げたな」ポロン♪

弓師「へへっ、ゆうちゃんの為よ!」

王宮魔術師(きっと本当に勇者様の為に頑張ったのでしょうねぇ)


賢者「ゆうちゃん! 今日は魔物を沢山倒したので、沢山ゴールドが貯まりましたよ!!」

勇者「わぁ、皆のお陰だねっ♪」

賢者「フフ…今日はスイートルームに泊まって下さい、ゆうちゃん!」

勇者「えぇ、いいのぉ!?」

賢者「勿論。あ、ゆうちゃんの大好きなショコラケーキを買う余裕もありますね」

勇者「やったぁ♪ ありがとう、ゆう嬉しいなぁ~」

賢者「何を言いますか。ゆうちゃんが1番頑張っていたじゃありませんか」フフン

王宮魔術師(勇者様の為に気持ちよく貢いでいる…)

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:59:00.15 ID:ngPDwe0M0
>風呂


王宮魔術師「身近で見ると、勇者様は本当に上手くパーティーの手綱を握っているのがわかります」

勇者「ゆうちゃんって呼んでって言ってるのにぃ~」プンプン

王宮魔術師「いえ…それは抵抗があると言いますか…」

勇者「おねーさまったら、奥ゆかしいんだからぁ」ウフフ

王宮魔術師「その『おねーさま』も、ガラじゃありませんし…」

勇者「でもでもぉ~。おねーさま、お胸おっきぃしぃ♪ いいなぁ、EかFくらいあるんじゃないですかぁ~?」

王宮魔術師「!!! ふ、太ってるからですよ…!」カアァ

勇者「そんなことなぁ~い。ぷにぷにしてもいいですかぁ~?」

王宮魔術師「や、やめて下さい! 私はもう上がりますよ!!」

勇者「おねーさまのいけずぅ~」

王宮魔術師「全く…」


王宮魔術師(意外となつっこくて…彼女をちやほやする男性陣の気持ちもわかってきてしまいます)

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:00:46.11 ID:ngPDwe0M0
>そして


勇者「みんなぁー、遂に来たよぉー。せーのっ」

追っかけ「「「魔王城オォォォ!!」」」

王宮魔術師(追っかけの数が最初の頃の倍以上になっている)

勇者「何だか雰囲気くらーい。ゆう、こわーい」

戦士「大丈夫だぜゆうちゃん、俺らが守る!」

賢者「そうです。ゆうちゃんはいつも通りに歌って踊ってくれればいいんですよ」

弓師「それにはゆうちゃん! 楽しもう!」

王宮魔術師「いや楽しんじゃ駄目だろ」

勇者「みんなぁー、ふぁいとー♪」

追っかけ「「「いっぱあああぁぁつ!!」」」

ウオオオォォォ

王宮魔術師(まぁ…皆やる気満々ならそれでいいか)

勇者「おねーさまも♪ ふぁーいとっ!」

王宮魔術師「え? は、はい。いっぱーつ…」

勇者「ふふっ、それじゃあ行きましょっ!」

王宮魔術師(明るいなぁ)

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:01:12.46 ID:ngPDwe0M0
>城内


幹部「貴様らが勇者一行か! 幹部の名にかけて、ここは通さ…」

追っかけ「引っ込めコラァ!!」「ゆうちゃんの邪魔すんのかコラァ!!」「踏み潰すぞオラァ!!」

幹部「!?」

王宮魔術師(これだけ数がいれば過激派も出てきますねぇ…)

勇者「皆ぁ、もっと心をピュアハートに染めて! それじゃ景気づけに一曲歌いまーす!」

楽師「"ファンタジックゆうちゃんパレード"」ポロローン♪

勇者「♪行け行け行け! ゴーゴーゴー! 進むぞ皆でレッツゴー!」

追っかけ「「「ウオオオオオォォォォ」」」ドドドドド

幹部「ぎゃあああぁぁぁ……」

~♪

幹部「」死ーん

王宮魔術師(狙って殺しにかかりましたね勇者様…恐ろしい方)


14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:01:43.88 ID:ngPDwe0M0
勇者「♪この心のときめき止まらない~」

賢者「…! 向こうから強大な魔力を感じます」

戦士「ってことは魔王がいるのか!」

弓師「燃えてきたな…!」

王宮魔術師(追っかけの功績により、ここまで戦闘による消耗は避けてきた…これなら存分に力を出せますね)

勇者「皆ぁ、ここまでありがとー♪」

追っかけ「「「ゆうちゃあああぁぁん!!」」」

王宮魔術師(つーか追っかけ達が1番元気ってどういうこと)

勇者「それじゃあここでバラード行きます…"涙は未来への鍵"」

王宮魔術師「いや、はよ行け」

勇者「♪涙を堪える必要なんてない、明日はきっと笑えるよ~」

戦士「いい歌だよなぁ」ジワリ

王宮魔術師(仕方ない…曲が終わるのを待つか)


?「ほう、いい歌声だな」

王宮魔術師「――えっ?」

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:02:16.05 ID:ngPDwe0M0
ギギギ…

王宮魔術師「!! 扉が開いて…」

魔王「よくぞ来たな…俺に逆らう人間どもよ!!」

王宮魔術師「お前が魔王か…!! 人間に仇なす魔物の王よ、覚悟…」バチバチッ

魔王「まぁ待て。まだ勇者の歌が終わっていない」

王宮魔術師「え?」


勇者「♪涙は未来への鍵、希望の扉を開けるよ~」

賢者「ゆうちゃーん」ウルウル

弓師「希望の扉ぁーっ」涙ドバー


魔王「歌を邪魔するのは無粋であろう?」

王宮魔術師(な、何て大きな心の持ち主…)


勇者「皆ぁ、ありがとーっ」

追っかけ「「「ゆうちゃああぁぁん」」」ピューピュー

魔王「さて勇者よ」

勇者「さてバラードで泣いた後は…笑顔になれる曲、いっちゃおー!」

王宮魔術師「いい加減にしろ」

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:04:21.09 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師「ほら、魔王ですよ皆さん」

魔王「ふふ、我が魔王城で好き勝手してくれたな?」

戦士「い、いつの間に!!」

王宮魔術師「もし歌の最中に魔王に攻撃されてたら、全滅してましたからね?」


魔王「評判通り、可愛らしい勇者だ。それに男を虜にする歌声と舞…勇者にしておくには勿体無い」ニッ

勇者「…っ」

魔王「決めた…」

魔王はマントを広げ、戦闘態勢に入った。

魔王「勇者よ…お前をこの、魔王様のモノにしてやる!!」

戦士「あ?」

賢者「あ?」

弓師「あ?」

追っかけ「「「あ?」」」


王宮魔術師(全力で地雷を踏みましたね魔王…)

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:06:32.66 ID:ngPDwe0M0
戦士「すぉんなことさせるくぁwせdrftgyふじこlp;」

賢者「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」ブツブツ

弓師「へへへ…久々にクズ野郎の心臓を撃ち抜けるんですねぇ~ケケケケケケケ」

追っかけ「「「ウワアアアアアァァァァァァ」」」

王宮魔術師「いやちょっと皆さん錯乱しすぎでしょ」

楽師「恐らく相手が相手だからでしょう」ポロン♪

王宮魔術師「というと?」

楽師「見て下さい、魔王の顔を…どう思います?」ポロン♪

王宮魔術師「…まぁ美男子ですね。凛々しくて逞しい男の顔です」

楽師「対して、こちら陣営の男性陣の顔…どう思います?」ポロン♪

王宮魔術師「良く見積もってフツメンですね」

楽師「つまり…そういうことです」ポロロン♪

王宮魔術師「なるほど」

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:07:00.67 ID:ngPDwe0M0
戦士「ぶっ殺してやんよ魔王オオォォォ!!」ダッ

賢者「殺す殺す…"死の狂風"」ビュウッ

弓師「心臓ちょォだァ~い♪」ビュンッ

追っかけ「「「うおりゃああああぁぁぁぁ」」」ドドドドド

王宮魔術師「一気に行った…! これなら魔王も無事では済まない」


魔王「……フッ」バチバチッ

王宮魔術師「!! あの魔力は……!!」

魔王「喰らえ…"黒雷の旋風"!」

バチバチバリイイイィィィッ

王宮魔術師「くっ…勇者様、危ない!!」バッ

勇者「…っ!?」

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:07:29.87 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師「ハァ、ハァ…」


戦士「ううぅ…」

賢者「く……」

弓師「…ガハッ」

追っかけ「「「」」」ピクピク

楽師「あーこれ無理」パタッ


王宮魔術師「一擊で全員に致命傷を負わせるとは…カハッ」

勇者「お、おねーさま…そのダメージ…」

王宮魔術師「私は、大丈夫です…か弱い女の子にこんな魔法、喰らわせるわけにはいかないでしょう…?」

勇者「……!」

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:08:09.92 ID:ngPDwe0M0
魔王「ふふ…勇者よ。もう守ってくれる者はいないぞ?」

勇者「…っ」

王宮魔術師「お逃げ下さい、勇者様…!」

勇者「そ、そんな…そんなこと……」

魔王「怯えなくとも良い…俺はお前を傷つけん」ジワリジワリ

勇者「ひっ…」

王宮魔術師「おのれ魔王…! 勇者様に近寄るな……っ!!」バチバチッ

魔王「邪魔だ」ドォン

王宮魔術師「きゃあぁ!!」

勇者「おねーさま!!」

王宮魔術師「く…」


魔王「さぁ勇者よ――俺の手に抱かれるが良…――」



ざくり


魔王「……え?」

勇者「……」

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:08:36.92 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師「ゆ、勇者様…?」

王宮魔術師は目を疑った。
しかし目を凝らしても間違いなく、魔王の胸に剣を突き立てているのは勇者で――

魔王「はっ……? 馬鹿な、太刀筋が見え……」

勇者「身の程知らずとはこのことねぇ、魔王様ぁ?」ニコ

魔王「…は?」

王宮魔術師「へ?」

勇者「…だああぁれがテメェのモンになるかあああぁぁ!!」ズバアアアァァァッ

魔王「!!!!!」

勇者「この魔王様のモノにしてやる? あー気持ち悪い気持ち悪い、ふっざけんなああぁぁ!!」ズバババッ

勇者「多少顔が良くても、テメェはゲロ以下の汚い魔物なんだよ、ばあぁか、ぶわあああぁぁぁか!!」ズバッズバッ

勇者「って、顔をズタズタにしたら、なァんの価値も無くなりましたねええぇ!! ざまあああぁぁぁ!!!」ズシュウウウゥゥッ

魔王「」

王宮魔術師「ひいいいいぃぃぃ」ブルブル

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:09:05.24 ID:ngPDwe0M0
勇者「討伐完了、っと♪」フー

勇者「はい、おねーさま。これ、回復薬♪」

王宮魔術師「あ、あの」ガタガタ

勇者「ん? どうしたんですかぁ~?」

王宮魔術師「その豹変ぶりと腕前…何なんですか?」ブルブル

勇者「えぇ~っ? 何のことですかぁ~?」

王宮魔術師「いや、だから今の…」

勇者「…何のことですか?」マガオ

王宮魔術師「…何でもございません」

勇者「うっふふー♪ 皆にも回復薬ぅ~♪」

戦士「うーん…」

賢者「ハッ! ゆうちゃん、無事だったのですね!」

弓師「で魔王は…こ、この惨殺死体は……!!」

勇者「あのね、妖精さんが助けてくれたの~」

戦士「そうかそうか、妖精さんかぁ」

賢者「ゆうちゃんの歌声は妖精さんを呼びますからねぇ」

弓師「怖い思いさせてごめんな、ゆうちゃん」

勇者「えへへ。妖精さんに感謝だねっ!」

王宮魔術師(こんなスプラッタな妖精がいてたまるか…って言いたいけどやめとこう怖いし)

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:09:40.06 ID:ngPDwe0M0
こうして世界には平和が戻った。
今や世界の英雄となった勇者のコンサートは、チケットが即完売になる程の人気ぶりである。

勇者「♪皆の笑顔が見たいから~」

追っかけ「「「ゆうちゃーん!!」」」

王宮魔術師(VIP席のチケットを頂いて、来てみましたが…こうして見ると、勇者様の歌と踊りは惹かれるものがありますねぇ)


勇者「皆ぁ~! 実は今日は、ゆうからの大事なお話があるのー!!」

王宮魔術師「大事なお話?」

勇者「ゆう…アイドル活動を一旦、休止したいと思います!!」

ええええええぇぇぇ

戦士「何でだゆうちゃーん!」

賢者「せっかく平和が戻ったというのに!!」

弓師「どうしたの、体調不良!?」

勇者「実はね、ゆう…好きな人ができちゃったんだ」

えええええええぇぇぇぇぇ


王宮魔術師(恋をしながらのアイドル活動は、ある意味ファンへの裏切りですからねぇ…。ファンにとっては悲しいでしょうけれど)

勇者「そして実はぁ…今日、その好きな人を、会場に呼んじゃいましたー!!」

王宮魔術師(へぇ。あの勇者様の心を射止めるとは一体、どんな男性なのでしょうね)

勇者「私、貴方のことが大好きです…――」




勇者「王宮魔術師の、おねーさま」

王宮魔術師「…………は?」

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:10:08.20 ID:ngPDwe0M0
ウオオオオオオォォォォォ

勇者「おねーさまああぁ!!」ギュッ

王宮魔術師「え、ちょ!?」

勇者「あぁ、おねーさまぁ…ずっとこうしたかった…ハァハァ」ギュウウゥ

王宮魔術師「ちょ、どこ触って…! 勇者様!?」

勇者「おねーさまはずっと、ゆうのこと甘やかさないで厳しく叱ってくれたりして…それがゆう、嬉しかったの」スリスリ

王宮魔術師「あんっ、ちょっ…そこそんな風に触ったら…」

勇者「それにね、おねーさまは、ゆうのこと守ってくれた…その時からゆう、おねーさまのことが…」ペロペロ

王宮魔術師「ん、フゥ…っ」


戦士「そうか…ゆうちゃんに恋人ができるのはちょっと寂しいけど」

賢者「相手が女性なら、あまり嫌な気はしませんね」

弓師「応援すんよー! ゆうちゃああぁぁん!!」

追っかけ「「「うおおおおおぉぉぉ」」」


王宮魔術師(あぁ、もう何か…いいや)パタッ

勇者「ふふ、もう離さないわ。ゆうだけの、おねーさまぁ…♪」

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:10:58.12 ID:ngPDwe0M0
>そして


勇者「おねーさまぁ♪ 今日は肉じゃがを作って参りましたっ!」

王宮魔術師「あら、ありがとう。ここのところ魔術師研究で忙しくて、栄養が偏っていたのよ」

勇者「おねーさまったら、研究研究で、ゆう寂しい…」モミモミ

王宮魔術師「ちょっ、そこ揉まないで!」

勇者「栄養が偏っていても、おねーさまはスタイル抜群ね…」ウットリ

王宮魔術師「~っ……と、ところで貴方は最近、政治活動にも参加しているとか。ちゃんとやれている?」

勇者「えぇ。私のイエスマン…じゃなくて支持者は多いから、王様も私を無視できないみたいです」

王宮魔術師「そ、そう。ところで、どんな活動をしているのかしら?」

勇者「ふふ…勿論、同性婚を法律で許可してもらうんですよ」

王宮魔術師「ど、同性婚!? それって…」

勇者「この法案が通ったら、私とおねーさまは晴れて夫婦となれるのです…あぁ、素敵」

王宮魔術師「べ、別に法的な縛りにこだわる必要は…」

勇者「そして法案が通れば、王宮の魔術師チームには同性同士で子供を作る方法を研究して頂くつもりです」

王宮魔術師「!!?」ブッ

勇者「ゆう、おねーさまとの子供が欲しいんですぅ…2人で一緒に産みましょう?」ギュウ

王宮魔術師「ちょっ、離…」

勇者「ダ~メ。おねーさまがゆうのワガママを聞いてくれる方法、わかってるも~ん」ペロペロ

王宮魔術師「あん…っ」


アイドル活動を休止した勇者だが、後に彼女らは国で第一号の同性夫婦となり、国民的夫婦となる。だがそれは、また別のお話。


FIN

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:11:37.77 ID:ngPDwe0M0
ご読了ありがとうございました。
可愛いは正義。

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/20(日) 19:19:33.64 ID:Sfnk6H0uo
妖精さんすげー
乙でした

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/20(日) 19:34:23.73 ID:xWeexI6JO
面白かった


29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/20(日) 19:48:21.64 ID:fcNkykVC0
ぅゎょぅせぃっょぃ

31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/20(日) 20:14:43.71 ID:8HQwfbRx0
妖精って強いんだなぁ

32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/20(日) 20:17:35.28 ID:jWvJRVAxo
ようせいさんならしょうがないな


33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/20(日) 20:25:16.71 ID:5Ef0H5oLO
斬新なチート勇者だった
そして意外といい子だった
posted by ぽんざれす at 19:40| Comment(2) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年03月08日

勇者「俺はヒーローになれなかった」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1456825309/

1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:41:49.39 ID:MRDQUi9u0
季節は冬の始まり。
木々の葉が枯れ落ち、森は景色すらも寒々しい。

勇者「……」

その森に1人の男が行き倒れていた。
彼は勇者。つい先日まで英雄として人間たちの希望を背負っていた男だが――

勇者(もう、いいや…)

今やその表情は希望を失い、まるで亡者のようだった。

勇者(このまま、死んでしまおう……)


勇者がこうなった原因は、つい先日の出来事にある…――


2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:42:17.76 ID:MRDQUi9u0



踊り子「勇者♪」チュッ

勇者「あぁ…踊り子か」

旅の途中の休憩中、勇者はイタズラで昼寝から目を覚ました。
勇者と知り合った当初からアピールしてきた踊り子だが、ここ最近は特にそのアピールに大胆さが増していた。

勇者「そう簡単に、男のほっぺにキスするもんじゃないぞ」

硬派を気取ってたしなめてみるが、

踊り子「勇者にだけだも~ん♪」

甘えるように反抗されてしまうだけだ。

勇者(全く、困ったもんだ)

心の中で呟いてみるも、勇者の心臓は高鳴っていた。
それもそうだ。両親と早い内に死に別れた勇者は、娯楽の少ない田舎に住む祖父に引き取られ、剣一筋で生きてきた。
そんな勇者だから、田舎娘にはない派手さを持った美女にちょっかいを出されては、ほだされるのも仕方なかった。

騎士「ケッ、見せつけやがってよ~。いいないいな~」

僧侶「それくらいの娯楽は大目に見ましょう。娯楽の少ない旅ですから」

勇者「はは…」

剣の腕を見初められ、魔王討伐の旅を命じられたのがつい3ヶ月前。
騎士団より騎士が旅の供として同行し、各地で名をあげていた僧侶を仲間にし、そして最後に仲間にしたのが…

踊り子「勇者、飲み物ちょっと貰うわね~♪」

自ら志願してパーティーに入ってきた、踊り子だった。
男所帯に女1人というのも申し訳なくて断ったのだが、それでも強引に押し切られて今に至る。

勇者「それ、俺の飲みかけ…」

踊り子「知ってるぅ♪」ペロ

勇者「うぐ」ドキドキ

そして勇者は、その踊り子を意識するようになってきた。

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:42:47.48 ID:MRDQUi9u0
騎士「おい見えてきたぜ、あれが魔王城だ」

勇者「あれが…――」

旅は終盤を迎えていた。
今まで制圧されてきた街を解放し、刺客として来た幹部達を倒し、旅は順調だった。
それだけに、最後の最後で何かあるんじゃないかと不安に思っていたが…。

僧侶「恐れていても仕方ありません。行きましょう」

勇者「そうだな」

意を決して、城に乗り込んだ。
しかし予想に反して、城内に魔物の気配はなかった。

騎士「どうなってやがる…?」

僧侶「魔王の周囲を固めているのでしょうかねぇ…?」

それでも緊張感は抜けず、慎重に足を進めていると…

踊り子「あ、あれは!」

勇者「ん? 何のことだ?」

踊り子「あれよあれ! ほら…」タタッ

踊り子がある方向に向けて走り出した。
追いかけようとした、その時…――

バッ

踊り子「きゃあっ!?」

勇者「!!」

黒い影が踊り子に襲いかかった。

そして…――

「よくぞ来たな勇者よ…クク、待ちわびたぞ」

勇者「何者だ!!」



魔王「我は魔王…――探していたのだろう、我を」

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:43:16.18 ID:MRDQUi9u0
踊り子「う、ううぅ…」

勇者「魔王…!! 踊り子を放せ!!」

踊り子は魔王の腕に抱かれ、恐怖の為か身動きが取れなくなっている。
勇者は怒気を含んで魔王に言い放った。

魔王「覇気は一人前だな、勇者よ。だが、このままお前を殺すのもつまらん」

勇者「何だと…!」

魔王「遊戯といこうか」

そう言って魔王は、踊り子を捕まえたまま宙に浮かんだ。

魔王「追ってくるがいい、勇者よ!」

勇者「待て…――っ!!」

即座に魔王の後を追う。
しかし、この判断の早さは直後、仇となった。

勇者「…――っ」


――落ちている?


騎士「勇者!!」

僧侶「勇者さん!」


唐突に床に穴が開き、勇者はそこから急降下した。

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:43:42.22 ID:MRDQUi9u0
ばしゃーん

勇者「ぶっ…!」

落ちた先は水場。濁った汚い水だが、床に叩きつけられるよりは大分マシか。
その汚い水場から出る――と同時、勇者は舌打ちした。

勇者「そういう罠か…」

周囲には魔物の気配。どいつもこいつも、殺気を隠そうともしていない。
これだけの数の魔物を、1人で相手しろということか。

勇者(脱いでいる時間は、くれそうにないな)

水を吸収した装備で戦うのは体が重いが、そう弱音も吐いていられない。
このまま戦うしかないなら、そうするだけだ。

勇者「さぁ来い!! 魔王の手先ども!!」

勇者が叫ぶと同時、魔物達は一斉に襲いかかってきた…――

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:44:20.14 ID:MRDQUi9u0
勇者「ハァ、ハァ…」

戦闘開始から約30分後、全ての魔物を倒した勇者は急いでその場を後にした。
とにかく今は行動しないと、また何があるかわからない――

そう思った直後だった。

ゴゴゴ…

勇者「…っ!?」

突然、トゲの壁が迫ってきた。しかも結構なスピードで。

勇者(くそ、全力疾走でスタミナ節約もさせないってことか!!)

勇者は急いで壁から逃げる。
逃げる先に、曲がり角があった。

あそこまで行けばとりあえず大丈夫だろう…と思ったが。

ボフッ

勇者「うわっ!?」

疾走に全力を注いでいた勇者はトラップに気付かず、霧をもろに浴びた。
霧には毒性が含まれているのか、目と鼻に刺激を感じる。

勇者「くそ…!!」

涙と鼻水を袖で拭いながらも、勇者は走るスピードを緩めずに曲がり角を曲がった。
迫りくる壁は正面の壁にぶつかると、そのまま動きを止めた。

勇者「ハァハァ……ん?」

ほっとしたのも束の間、今度は向こうから気配がした。

「ンオオォォ…」

勇者「げ…」

わらわらとやってきたのは、アンテッドの群れだった。

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:44:47.19 ID:MRDQUi9u0
勇者「ゼェ、ゼェ…」

狭い通路でアンテッドを切ったせいで腐った返り血をモロに浴び、心地が悪い。


しかも罠はそれで終わらなかった、


勇者「うわああぁぁ!?」

時には石像が吹く炎をギリギリでかわし、


勇者「ん…? ここ、さっきも……」

時には無限ループの道を歩かされ、


キイイィィン

勇者「うおおぉぉ……」

時には超音波の中を進まされた。

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:45:13.86 ID:MRDQUi9u0



勇者「ハァ、ハァ……」

もう既に勇者はボロボロだった。
それでも諦めない…――全ては、魔王を倒す為。

勇者(踊り子…無事でいてくれ)


踊り子『私、踊り子って言います! 勇者様のパーティーで戦わせて下さい、お願いします!!』

踊り子『勇者、って呼んでもいいかしら? いいの!? やったぁ~!』

踊り子『凄い、凄ぉい! 幹部を倒しちゃうなんて、勇者かっこいいー!』

踊り子『グスッ…私なんて、勇者の足を引っ張っちゃってるわよね…』


勇者(踊り子…君は既に、俺の大事な仲間…いや、)


踊り子『ねぇ勇者』


勇者(俺は、君が…――)


踊り子『…――守って、くれる……?』


勇者(君が、好きなんだ…!!)

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:45:53.66 ID:MRDQUi9u0
勇者「…!」

無意識に大きな扉を開けていた。
そしてそこにいたのは…――

魔王「よくぞここまでたどり着いたな…勇者よ」

勇者「魔王…!!」

魔王は尊大な態度で、玉座に座っていた。
そして、その側では…

踊り子「勇者ぁ!」

騎士「勇者…すまねぇ!」

僧侶「勇者さん!」

勇者「皆!」

仲間たちが囚われていた。
その姿を見て、勇者は憤怒する。

勇者「魔王、貴様!! 1対1の勝負なら受けてやる、正々堂々と戦え!!」

魔王「いいだろう…。かかってこい、勇者よ」

勇者「はあぁ――っ!!」

勇者は迷わずに駆けた。
まずは魔王を玉座から立たせる…――その勢いで斬りかかった。が…

魔王「喰らえ、暗黒魔法…――」

勇者「――っ!!」

回避できず、勇者は魔王の魔法をもろに喰らった。

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:46:21.05 ID:MRDQUi9u0
勇者「ぐ…っ」

魔王「おやおや勇者よ、簡単に吹っ飛ばされたものだな」

勇者「俺はまだ、やられていない…!!」ヨロ…

魔王「なら、これはどうだ?」ドォン

勇者「うわああぁ――っ!!」

今度はかなりのダメージを喰らい、勇者は地面に伏した。
起き上がらなければ…だが、体が言うことを聞かない。

魔王「たった2発で終わりか。何ともつまらない戦いだった」

そう言って魔王はようやく立ち上がった。そして仲間たちに近づいていき…――

魔王「お前」クイッ

踊り子「――っ!!」

勇者「!!!」

魔王が踊り子の顎を引いた。
踊り子は怯え切った顔で硬直している。

魔王「我に逆らった者がどうなるか…――身をもって知らせてやるのもいいな」

踊り子「ひ……っ」

勇者「やめろ……!!」

体中が痛む。それでも立ち上がる。
そんなこと、絶対にさせやしない…!

勇者「やめろ、魔王おぉ――っ!!」

踊り子「勇者ぁ――っ!!」

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:46:50.80 ID:MRDQUi9u0
その時だった。
踊り子の体を拘束していた鎖が弾け飛んだ。

踊り子はすぐさま勇者に駆け寄る。

勇者(踊り子…っ!!)

今の勇者を動かしているのは、踊り子への気持ちだった。
その踊り子が両手を広げ、こちらへ駆け寄ってくる。

勇者(踊り子、俺は…――っ)

踊り子「勇者ぁ…っ!!」


そして、2人の距離が数センチという所にまで来た時…


バキィ

勇者「――っ」


勇者の顔面を衝撃が襲った。
その衝撃で、勇者はその場に大の字に倒れた。

だが、勇者を襲った衝撃は物理的なものよりもむしろ――…

勇者「なん……で……」

踊り子「フ、フフ……」

勇者を見下ろして、見たことないような笑いを浮かべる踊り子に対しての方が大きかった。


踊り子「フフ…あはは、あははははははっ!!」

勇者(…――?)

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:47:25.08 ID:ai59nQkK0
勇者は必死に考えた。

罠だ。これは罠だ。
踊り子に扮した魔物が、俺を騙し討ちしたに違いない――

そうだよな、踊り子…――?


魔王「ハハハ…面白いものを見せてもらったぞ!! なぁ、踊り子?」

踊り子「はい、魔王様」クスクス

勇者「やめろ…その姿と声で、魔王を呼ぶな……」

踊り子「え? あ、もしかして…私が偽物だとか思ってる? 勇者~?」

勇者「何…だと?」

踊り子「本当、勇者ったら頭の方はパーなんだからぁ。そんな勇者の為にわかりやすく教えてあげるとぉ~…」



踊り子「私ね、魔王様の側室なんだぁ~♪」


勇者「………は?」

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:47:56.77 ID:ai59nQkK0
――意味がわからない。


踊り子「パーティーに入ったのも、魔王様からの命令っていうかぁ~」


――初めから、騙していたのか…?


踊り子「何ヶ月も魔王様に会えなかったのは寂しかったぁ」

魔王「悪い悪い。その分、たっぷり可愛がってやるからな」ナデナデ


――じゃあ、俺といた時の言葉もあの顔も…


魔王「感謝するぞ勇者。道中、我に反抗的だった幹部どもを倒してくれたのだからな」

踊り子「ま、それで勇者も名をあげられたんだから、いいわよねぇ」


――全部…――


踊り子「それにしても勇者ったらおっかしい~!! 必死な顔して罠を突っ切って行くんだもん、笑い堪えるの大変だったぁ!!」

魔王「お陰で体も臭くなったな、勇者」


勇者「全部…嘘だったのか……?」

踊り子「は? そうに決まってるじゃない、バッカじゃないの?」

魔王「本当に頭の悪い勇者だな」グリグリ

勇者「……!」


その時、頭を踏みつけてくる魔王のピアスに映った自分の顔は――

勇者「――っ」


負け犬の顔だった。

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:48:24.04 ID:ai59nQkK0
勇者「……殺せよ」

勇者はもう起き上がる気力もなかった。
ただでさえ体がボロボロだというのに、心も折られてしまった。
戦う余力なんて残されていない。このまま惨めな敗北者となってしまおう。

しかし…

魔王「我はお前を殺さん」

魔王は堂々と言った。

勇者「…? 囚人か、それとも奴隷か…? これ以上、俺に何しようってんだ……」

魔王「何もせん。お前はお役御免になるだけだ」

勇者「は……?」

勇者は事態が飲み込めずにいた。
そんな勇者に、魔王は――

魔王「これを見ろ」

懐に入っていた書を、高らかに広げて見せた。
難しい文章が目に入ってきて理解に遅れたが、勇者はあるものが目に入った。

勇者「その紋章は…我が国の……」

魔王「そう、お前の国の王と交わした文書だ」

勇者「……どういうことだ」

魔王「お前がノロノロ旅をしている間、我は人間の国の王たちと書をやりとりしていた」

初耳だ。訪れた国の王たちは、そんなこと一切…

魔王「そしてお前の国の王が最後だ。…我々は、和平の為に手を結ぶことにした」

勇者「……は?」

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:48:52.33 ID:ai59nQkK0
手を結ぶ? 和平の為に?
だったら、戦う必要なんてこれっぽっちも…――

魔王「お前の国の王は、和平交渉が決裂した時の保険にお前を旅立たせた。お前は知らなかったようだがな」

勇者「じゃあ…」

踊り子「そ。"勇者"はお役御免♪」

勇者「……!! 嘘をつくな!! そんなの、信じないぞ!!」

踊り子「信じないって言われても事実だもの…ねぇ~、騎士?」

勇者「え……?」

騎士「……」

騎士は気まずそうに勇者から視線をそらしていた。
そうだ、国の騎士団から派遣された騎士なら…。

勇者「嘘だろ騎士! そんなこと…――」

騎士「…事実だ」

勇者「!!!」

打ちのめされたような衝撃が勇者を打った。
騎士はそんな素振りを見せたこともなかった…つまり、ずっと騙していた…!?

踊り子「そういうワケだから、とっとと勇者をこの城から連れ出してくれない? くっさいのよ、さっきから」

騎士「……」

僧侶「……」

2人は拘束をとかれ、勇者の側に寄ってきた。

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:49:21.92 ID:ai59nQkK0
動けない勇者は2人に抱えられるが…納得していない。

勇者「み、認めない! 2人とも離せ、こんなの…――」

僧侶「もういいじゃないですか勇者さん」

同じく事情を知らないはずの僧侶が冷たくそう言い放った。

僧侶「いい加減気付いたらどうですか勇者さん。…貴方、魔王に遊ばれていたんですよ」

勇者「…遊ばれて、いた……?」

僧侶「丁度このタイミングで和平が決まるなんて、狙ったとしか思えない。…そうですよね?」

踊り子「流石僧侶、頭いい~♪」

勇者「じゃあ……」

魔王「そう恨むな、勇者よ」

魔王はフンッと鼻で笑った。

魔王「国に利用されるのも、我に遊ばれるのも、滑稽さはそう変わらん」

勇者「………」


これは悪夢、そう思いたかった。それでもその事実に、勇者の心は刺されていた。
あまりにも衝撃的なことが続き、勇者の心は痛みすら覚えない。

勇者(俺は…何だったんだ……)


ただ、虚無へと向かっていた…――

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:49:50.25 ID:ai59nQkK0
そして…

勇者「……」

人間と魔物の和平が決まってから、国は勇者に手の平を返した。
事情をろくに知らぬ者は勇者の存在が和平交渉の妨げであったと非難し、事情を知る者は勇者を嘲笑した。
勇者は逃げるように国を離れ、各地を転々としていた。

勇者(じいちゃん…)

育ての親にして、剣の師でもあった、今は亡き祖父。
祖父は「正しき道を進め」と教えてくれた。その教え通り、自分は正しい道を歩んできたはずだ。
なのに、自分が受けた仕打ちはこうだ。

もう世界に絶望した。
正しい道しか知らない自分は、こんな世界で生きていけやしない。

勇者(じいちゃん…俺、そっち行くよ…。末代で恥を晒して、ごめんな…)

勇者(俺、もう……)

勇者「………」



村娘「うぅ~さみさみ…。早く帰んなきゃあ」

村娘「…うん? ありは……」

村娘「!!」

村娘「て、大変だ! 男の人が倒れんよ! 村の人さ呼ばんと!!」

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:50:22.24 ID:ai59nQkK0
勇者「う…?」

目を覚ました時、木の天井が目に映った。
何だか体が暖かい。ここは……?

村娘「あー良かったぁ! 目ぇ覚ましたぁ!」

勇者「……?」

視線を横に移すと、勇者より少し年下くらいの女の子がいた。
質素な麻の服を着て、顔は化粧っ気がないのに真っ赤なほっぺ。
言葉の訛った、いかにもな田舎娘だ。

村娘「大丈夫だすか…? お粥あっためましょか?」

勇者「ここは……?」

村娘「あぁ、ここは私ん家だす! お客さん、森で倒れてたんすよ!」

勇者「俺は……」

村娘「体が冷えてたんで、お布団であっためますた! お粥作ったんで、体の芯からあったまってくだせ…」

勇者「……死んでも、良かったのに」

村娘「はぇ……?」

村娘はその言葉を聞いて、ポカンとしていた。

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:51:00.43 ID:ai59nQkK0
勇者「俺は、死んでも良かったんだ……」

もう1度、吐き捨てるように言った。八つ当たりに近い感情もあったかもしれない。
中途半端に助けられて、この先どうしろと言うのか。また惨めに生きていけというのか、こんな世界で。

勇者「どうして助けた…!! 俺にはもう何もない、生きてたって……」

ポン

勇者「……え?」

頭に手が置かれた。
勿論、村娘の手だ。

村娘「よしよし」

勇者「!!」

村娘はその手で、優しく勇者の頭を撫でた。

村娘「よっぽど、つらい思いしたんねぇ」

勇者「つら、い……?」

村娘「あたし馬鹿だから、上手い言葉は見つからないす。そんでも、大丈夫!」

村娘はそう言って、元気に立ち上がった。

村娘「あったかいもんお腹一杯食べたら、きっと元気になるす! 今、お粥持ってくるから待っててくだせぇ!」

勇者「あ……」

村娘はパタパタと部屋から出て行き、すぐに戻ってきた。

村娘「はい! うちの村で採れた米で作ったお粥だすよ! たんまり食べて元気になるす!」

そう言って、湯気の出ているお粥を、満面の笑顔で差し出してきた。

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:51:27.38 ID:ai59nQkK0
勇者「……」

正直、食欲はない。
だけど村娘の笑顔を見ると、断るのに罪悪感があって…。

勇者「…頂きます」

素直に食べることにした。
にこにこ笑顔の村娘に見守られながら、スプーンを口に運んだ。

勇者(…あったかい)

湯気があるから熱いのかと思ったが、食べやすいくらいの暖かさだ。
息で冷ますことなく、お粥を口に入れる。ちょっとだけ咀嚼して、飲み込んだ。

勇者(あ、美味い)

お粥は塩で薄く味付けされていた。
感動する程のものではないが、美味しい。
食欲の無かった胃袋は、そのお粥を拒まない。むしろ一口入れたことにより、もっともっとと欲して…。

勇者(俺、飢えてたんだな)

ふた口、三口と口に入れる。
食べるというのは命を繋ぐ行為であり、死にたいという願望と矛盾している。
だけど、手が止まらない。このお粥を、もっと食べたい。

勇者「…美味いよ」

村娘「良かったぁ…都会の人には物足りねぇかと思ったんだすけど…」

勇者「…美味い」

村娘「……お客さん?」

視界が濁った。湯気のせいかと思ったけど、違う。これは涙だ。自分は、泣いているのだ。

勇者「美味い…美味いよ……」

涙が止まらなかった。
体が内側から暖かくて、その温もりは自分を慰めてくれているようで…

村娘「よしよし」

頭を撫でてくれる手が、何よりも優しかった。

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/03(木) 00:12:01.39 ID:xEjOPcAxo
辛いな…

29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/03(木) 02:11:18.43 ID:uvFCjLwwO
僧侶と騎士の罪は重い

33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/03(木) 14:45:49.64 ID:4hBE3EeV0
乙乙
罪深いな…目が乾くよ…

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:27:16.85 ID:rCZJDAb40
勇者「ありがとう…美味しかった」

村娘「それは何よりだす」

途中の号泣など気にしていないように、村娘はニコニコしていた。
この笑顔に癒されるけれど…それに甘えてはいけない。

勇者「俺はもう行くよ。本当にありがとう」

村娘「待ってくだせぇ」

勇者「? なに?」

村娘「お客さん、何かワケありの様子だったす。このままほっとけないす」

勇者「大丈夫…ちょっと自暴自棄になってただけだから」

村娘「死んでもいい…なんて、ちょっとの自暴自棄で言える言葉でねぇ。心配すよ」

勇者「…それで、俺をほっとかないでどうする気?」

村娘「力になるだすよ! あたしなんて大したことできねけど…あ、でも村の人達の力も借りれば……」

勇者「……」

都会の人間にはないお節介さだと思った。
田舎育ちの自分には、何だか懐かしい感覚で、それでいて今は心地がいい。

勇者「…ありがとう。でも本当、大丈夫だから」

村娘「けども…」

勇者「…俺は、勇者だよ」

村娘「!!」

このお節介焼きを諦めさせるには、素性を明かすしかないと思った。

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:27:44.70 ID:rCZJDAb40
勇者「信じなくてもいいけどね。勇者の件については、知ってるだろ?」

村娘「勇者…お客さんが……」

勇者「どこに行っても後暗い目で見られる。そんな日々に嫌気が差したんだ」

村娘「……」

勇者「そういうわけだから。それじゃ…」

村娘「すげ…」

勇者「え?」

村娘「本物の勇者様だす!! お顔さ見れて、感動したす!!」

勇者「!?」

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:28:46.47 ID:rCZJDAb40
村娘「勇者様は人々の為に戦ってくれた英雄す! そんな方に、とんだご無礼を失礼致しますたぁ!!」ハハー

勇者「あの!? 知ってるよな、勇者は結局必要とされてなかったわけで――」

村娘「和平が決まるまでの間、あたしらの心を勇気づけてくだすったのは勇者様だす」

勇者「っ!」

村娘「必要とされてなかったなんて、とんでもね。勇者様がおらんかったら、それこそ希望を失って死を選んでた人がいたはずっす。…あたしだって、勇者様に心を助けられた1人だす」

勇者「君が…?」

村娘「はい。この村は魔物の襲撃さ受けて大打撃を受けたことがあるす。…あたしの家族も、それで殺されますた」

勇者「!!」

村娘「あたしもしばらくは立ち直れなかったし、正直死んでしまいたいと思ったす…。でも、勇者様が…」

勇者「俺が……?」

村娘「勇者様が人々の為に戦ってくれていると知って、あたし…心からあったかくなって、いつしか元気を取り戻せただす! 勇者様はあたしの恩人で、英雄なんす!」

勇者「……!」


勇者(そう、だったんだ…)

正しい道を歩んでも報われないと思っていた。
自分が正しいと思った道は正しくなかったのかと、悩みもした。

だけど――

村娘「へへへ」ニコニコ

勇者(少なくとも、俺は、この子を――この子の心を、守れたんだ……)

それだけで勇者は、報われたような気がしたのだった。

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:29:19.91 ID:rCZJDAb40
村娘「勇者様…どこさ行っても後暗い目で見られると言ってますたよね?」

勇者「う、うん……」

村娘「だったら、この村に住んだらどうでしょ?」

勇者「え…っ?」

村娘「この村の人が、勇者様を悪く言ってるの聞いたことねっす。もし心配なら、勇者様の正体は内緒にしとくす」

勇者「……」

村娘「…嫌、だすか? まぁ、勇者様にとってはつまらない田舎だしょうけど…」

勇者「……嫌じゃない」

村娘「ほんとだすか!!」

勇者「うん。…あ、でもひとつ、お願いがある」

村娘「なんだすか? なんだすか?」

勇者「それは……」

勇者は知らずの内に、自然な笑顔を取り戻していた。

勇者「勇者"様"って呼び方しないで。呼び捨てとか、"さん"とかがいいな」

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:29:46.09 ID:rCZJDAb40
こうして勇者は、この村で生活を始めた。

勇者「よいしょ、っと」

村人A「おっ、勇者さ力持ちだなぁ! こりゃ牛車いらずだべ!」ハハハ

勇者「伊達に鍛えてませんよ! 力仕事なら任せて下さい!」

勇者は正体を隠さなかったが、それでも元々許容されていたのか、すぐに村に馴染んだ。
田舎育ちのお陰か、村での暮らしにも抵抗はない。それに元々、勇者として持て囃されていた頃の派手な生活には違和感があったのだ。

勇者(あぁ疲れた…。戦うのとは体力配分が全然違うな)

まだ完全に立ち直ったわけではないが、この時期は毎日雪かきに薪割りと忙しく、落ち込んでいる暇なんてない。


村娘「みなさーん」

勇者「村娘ちゃん。あ、もうこんな時間か」

村娘「村人さんの奥さん達と豚汁さ作ったす! 皆で食べてくだせぇ!」

村人A「おぉ豚汁かぁ! 食うべ食うべ!」

村人B「ふぅ~…体の芯からあったまるな!」

村娘「たっぷり食べてくだせぇ! 力仕事、いつもお疲れ様す!」

勇者「村娘ちゃんも。この時期は水仕事、辛いだろ」

村娘「何てことねっす! 田舎育ち16年は伊達じゃねんすよ!」フフン

村人A「何言うべ。うちのカカアに比べりゃ村娘なんぞ、まだまだヒヨッコだべ!」ハハ

勇者「まぁ、事実若いですからね」

この村は人同士の距離が近い。だから寂しさを感じる日なんてない。
自分はこの輪に受け入れられている。それが嬉しくて、幸せなんだと思う。

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:31:36.51 ID:rCZJDAb40
村人A「そろそろ切り上げるべー」

勇者「お疲れ様でーす」

今日は雪が降らなかったので、早めに仕事を切り上げることができた。

村娘「勇者さーん、今終わったんだすかー?」

勇者「あ、村娘ちゃん。うん、今終わったとこ」

村娘「はい。勇者さんの為に、防寒服さ作ったす」

勇者「おぉ! ありがとう、嬉しいわ」

村娘「都会のモンに比べたら、あんまいい出来じゃないんだすけど…」

勇者「どうだ? 似合うか?」

村娘「!!」

勇者「? どうした?」

村娘「いえ。…勇者様は何を着ても、素敵だなって」モジモジ

勇者「服の出来がいいからだよ。ありがたく着させてもらうから!」ニコッ

村娘「~っ…」

勇者「…? 村娘ちゃん、顔赤いな?」

村娘「さ、寒いからだす!」

勇者「そうだなぁ…俺も家に戻って風呂にするかな」

村娘「あ、うちで入ってくだせぇ! 丁度、風呂釜に水を貯めてたとこだす」

勇者「そうだな…その方が井戸水の節約になるし、有り難く頂くかな」

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:32:10.30 ID:rCZJDAb40
勇者「悪いね村娘ちゃん。風呂、先に頂いちゃって」ホカホカ

村娘「かまわねぇだすよ。こういうこと、よくあるんす」

勇者「それじゃあ俺は帰るから、村娘ちゃんもゆっくり暖まって」

村娘「あ、待って勇者さん。勇者さんの分のお食事も用意してっす」

勇者「流石に悪いよ、それは」

村娘「えぇんすよ、あたしも勇者さんと一緒のが楽しいだす」

勇者「そう言われたらね。じゃあ待ってるから、冷めない内に風呂入ってきな」

村娘「はい!」スタタ

勇者(…ん。この状況……)



村娘「ふぅ、気持ち良かったぁ」ホカホカ

勇者「なぁ村娘ちゃん」

村娘「どうしますた?」

勇者「男を家に上げて風呂に入るってさ…」

村娘「へぇ」

勇者「かなー…り、無防備だぜ。村娘ちゃん若いんだし、気ぃつけろよー」

村娘「」

村娘「な、ななな何言ってんすか勇者さんはあぁ!!」

勇者「ごめん、ごめん! けどもし俺がやらしい奴だったら、変なことになってたわけで…」

村娘「別に、えぇのに…」ボソッ

勇者「え?」

村娘「何でもねっす! それに、勇者さんば信用してんすからね!」

勇者「それは何より。これからも信頼に値する男でいます」

村娘「~っ…それよりもご飯だすよ!」プンプン

勇者(…? 怒ってる?)ポカーン

41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:33:42.64 ID:rCZJDAb40
勇者(そして帰宅)

勇者(今日も村娘ちゃん、綺麗に布団敷いてくれてる)

勇者が外で仕事をしている間、村娘が勇者の家の家事をしてくれている。

勇者(まるで通い女房だなぁ)

そう思ってから、自分の考えに対して吹き出す。
村人皆で助けあっているこの村で、村娘が家事の世話をしてくれるのに特別な感情はない。
さっきも村娘は言っていたではないか、「こういうことはよくある」と。

勇者(思い上がりは良くないよな)

勇者として旅をしていた頃ならともかく、力しか取り柄のない今の自分に、女の子が惚れるわけがない。
村娘は優しくて親切で、なつっこいのだ。

勇者(…それに、結構可愛いよな)

どうにも都会の娘に比べると地味なせいで魅力に気付くのが遅れてしまったが、村娘の容姿は可愛らしい。
化粧をして綺麗な衣装を着れば、清楚な美少女になり得る要素は十分にある。

勇者(でも村娘ちゃんの場合、垢抜けない雰囲気もまた魅力なんだよな…)

勇者(って、駄目だ。女の子を好きになったら辛いだけだぞ)

勇者(それより、もう寝よう。布団ふかふかで気持ちいいな~)

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:34:20.87 ID:rCZJDAb40
>翌日


勇者(今日は暖かいから雪が溶けて氷が張ってるな…危ないから砂撒いたり割らないとな)

村娘「勇者さん、おはようさんです」

勇者「あ、おはよう。…あれ、雪で何か作ってるの?」

村娘「見てくんさい! あたしの好きな動物さ作りました!」

勇者「へぇ。可愛いネズミだね」

村娘「むうぅ~!」ポカポカ

勇者「え、なに、どうした?」

村娘「キツネだす!」

勇者「あ、あぁ。ごめんごめん…ククッ」

村娘「あーっ、勇者さん笑ったぁー!!」プンプン

勇者「ご、ごめ…あはは、あははははっ!!」

村娘「何なんだすかーっ!!」

勇者「い、いやぁ。ムキになる村娘ちゃん可愛いなって」クク…

村娘「!!!」ボッ

勇者「でも、ちょうどベタベタ雪で何か作りやすい感じになってるな。仕事終わったら、かまくらでも作るかな」

村娘「かまくら!! あたし、犬小屋くらいのなら作ったことあるけども…」

勇者「俺は力あるから、大きいの作れるよ。楽しみにしといて!」

村娘「楽しみだす! かまくら、かまくら♪」

勇者(怒ったと思ったら、こんなにハシャいじゃって…)

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:34:54.13 ID:rCZJDAb40
>そして


勇者「ふぅ、出来た」

夕方、勇者は大人が何人か入れそうなかまくらを作った。
休憩せずに集中して作ったせいか、体は汗だくだ。

村娘「勇者さーん、出来たんすねー!」

勇者「おう、我が雪の城へようこそ!」

村娘「七輪と炭を持ってきたす! 今日はここでご飯にしましょ!」

勇者「お、いいねー。村娘ちゃん張り切ってるね」

2人はかまくらの中に入ると、早速魚や餅を焼き始めた。
薄暗い中で明るい火に照らされた食べ物は美味しそうに見えて、お腹も鳴る。

村人A「お? かまくらで飯かー、美味そだな!」

村人B「匂いが漂ってくるなぁ。くぅ、腹減ってきたべ!」

村娘「良かったらご一緒にどうすかー?」

村人A「ほんなら、カカアと一緒にお邪魔させてもらうべ! 丁度、うちにホタテが一杯あるべ!」

村人B「おらも、うちから甘酒でも持ってくるだよ」

村娘「ほんなら、お待ちしてっすー!」

村人C「お、かまくらで食事会かぁ! ええなぁ!」

村人D「おし、うちから鍋持ってくるだ! 宴会だ宴会!」

勇者(何か、どんどん話が大きくなってるなぁ)

こうして村人のほとんどが集まり、かまくらの周囲で大宴会となったのだった。

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:35:31.80 ID:rCZJDAb40
村人A「カカッ、勇者さも飲まねが~?」

勇者「み、未成年なので」

村人B「関係ねぇべ、おらは15から親父に飲まされてただ!」

奥方A「こら! 勇者さんを困らせるでねの! ほら、酔っ払いはここさ集まって飲む!」

村人A「へいへ~い。おー、うちのカカアはおっかね」

奥方A「ごめんなさいねぇ、うちのダンナが」

勇者「いえいえ」

正直少し困っていたが、妻の尻に敷かれている村人たちに同情しながら笑う。
でも、奥方達も物言いはきついが、普段は旦那を支えている。きっと彼らは、信頼を築いている夫婦なのだ。

勇者「…いいもんだな」

村娘「何がすか?」

勇者「あ、いや。ここの村はほんと、皆仲良くていいな~って」

村娘「そっすね。でも都会の人から見たら、田舎モンは馴れ馴れしくていけねと聞いたんすけど」

勇者「その馴れ馴れしさが心地よくてね。俺はこの村が好きだよ」

村娘「良かったす。勇者さんもすっかり、この村の一員だすね」

勇者「そうだね」

雪が溶けたら農作物を育て、冬には雪をかいて。
この村でそんな毎日を繰り返しながら、年をとって死ぬのだろう。
そんな素朴で平凡でありふれた人生を送れることが、何だか幸せに思える。

勇者(やっぱ俺、勇者には向いてなかったんだな)

でもそれは口にしない。

村娘「勇者さん、お茶だす~。飲みやすい熱さにしてんすよ」

勇者「ありがとう」

自分に救われたと言ってくれる人もいるのだから。
だから、それは心に秘めておくだけ。

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:43:28.55 ID:Cem6vXyp0
>翌日


勇者「へくしっ。…うー」

風邪を引いた。
かまくらの中はあったかいからと、汗だくのまま過ごしたツケか。

勇者(あー、皆に申し訳ない)

外は昨日と変わって雪。村は雪かきの人手を必要としているだろう。
けど頭がボケーっとして、協力できそうにない。

勇者(体調管理がなってないなぁ…。あぁ、自己嫌悪)

ガラッ、パタパタ

勇者「…ん?」

村娘「勇者さん、おはようさんだすー。どしたんすか、家に閉じこもって」

勇者「風邪引いた…ぶぇっくし!! 今日は雪かきできない、って皆に伝えてくれないかな?」ズズッ

村娘「風邪!? あちゃー、そりは大変だす!」

勇者「本当に申し訳ない。助け合っていかないといけないのに、風邪なんて引いちまって…」

村娘「何言ってんすか、風邪なんて誰でも引くだす。そんなことで自分を責めるなんて、おかしな勇者さんだすな」

勇者「そ、そっかな…? …へくしっ!」

村娘「そいじゃ、あたしが伝えてくるだす。ゆっくりしててくだせぇ」パタパタ

勇者(おかしな…か。何で俺、自分を責めてるんだろうな?)

勇者(……あ)


僧侶『風邪ですか…自己管理がなってませんね』

騎士『早く治せよ~。その分、旅が停滞しちまうからな』


勇者(そっか…あの頃は風邪引いたら、そういう風に言われたからな…。まぁ、魔王討伐の使命を背負っていた以上、仕方ないよな)

勇者(……何か、思い出しちまったなぁ)ゴホゴホ

最近は、あの頃の記憶が薄れてきていたというのに。
だけど熱のせいか、色んなことを思い出した。

50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:43:57.23 ID:Cem6vXyp0
騎士『かあぁーっ、また負けたぁーっ! 勇者、頼む! もう1本手合わせしてくれ!!』

豪快で負けず嫌いの騎士。
共に剣のことで語り合い、切磋琢磨してきた仲だった。


僧侶『保存食を作りましたよ。栄養はたっぷり入っています、これで力をつけて下さい』

クールで知的な僧侶。
彼の頭脳や、冷静な判断力はいつでも頼りになった。


そして――


踊り子『勇者、新しい舞を覚えたの! ねぇねぇ、見て!』

勇者『俺は舞のことはよくわからないから…』

踊り子『それでもいいの! だって勇者に見てもらいたいんだもん♪』

勇者『…俺なんかでいいの?』

踊り子『うん! 勇者は運動神経いいから、いつか一緒に踊れるといいなぁ』

勇者『…そうだな。旅が終わったら、踊りを教えてくれよ』

踊り子『!! 勿論よ勇者!』



勇者(――好きだったなぁ)

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:44:23.64 ID:Cem6vXyp0
勇者「…ん……」

村娘「はぅ! す、すんません勇者さん、起こしちまいましたか!」

勇者「村娘…ちゃん……?」

いつの間にか寝てたらしい。
頭がひんやりする。これは…冷たいタオル?

勇者「看病…してくれたの……?」

村娘「勇者さん一人暮らしだもの、看病が必要だす。あ、勇者さんが寝てる間に、お医者様に見てもらったすよ!」

勇者「医者か…。全然気がつかなかったな」

村娘「はい、お水! お薬飲んで、もっかい寝るだす!」

勇者「ん……」ゴクリ

村娘「飲んだすね。あ、あたしはお粥作ってっすから。何かあれば呼んでくだせぇ」

勇者「…ずっと、この家にいてくれるの?」

村娘「えぇ。勇者さんば放っておけないだす!」

勇者「…そっか」

優しさがいつもより身にしみる。
風邪のせいで、心も弱っているみたいだ。

勇者「なら…。ずっと風邪引いてようかな……」

村娘「へっ?」

勇者「…すやー」

村娘「……?」

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:46:23.17 ID:Cem6vXyp0
最初は長引くかと思ったが、3日目には大分体調も良くなってきた。
その間ほとんど寝ていて記憶があまりないが、部屋には村の人たちからのお見舞い品が沢山置かれていた。

勇者(今日から仕事に復帰するかなぁ)

村娘「おはようさんだす、勇者さん。顔色が大分良くなってきたすね!」

勇者「うん。村娘ちゃんのお陰だよ、ありがとう」

村娘「とんでもねぇす」

勇者「皆にも心配かけちまったしなぁ。今までの倍働くからな!」

村娘「無理して風邪ぶり返さないように注意だすよ~」

そう言いながら2人一緒に家を出た。
久々の外は、何だか様子が違って見えて――

勇者(…何か騒がしくない?)

村人A「た、大変だぁ!」

勇者「どうしたんですか?」

村人A「村周辺に魔物が現れ始めたべ!!」

勇者「…!?」


奥方B「ひゃああぁ――っ!」

村人A「この声は、Bんとこのカカアの声だべ!」

勇者「行ってみます!」ダッ

53 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:46:51.21 ID:Cem6vXyp0
奥方B「ひ、ひいぃ…」

村人B「寄るな、この魔物め!」

村の中に侵入してきた魔物に、村人は怯えながらもクワを持って威嚇していた。

村人B「カカア、早く逃げるだ!」

奥方B「あんたを残して行けるかい!」

村人B「何言ってるだ、早くしねと…」

魔物「ガアァ――ッ!!」

村人B「!!!」


勇者「だああぁーっ!!」バキィ

魔物「ゴハッ!!」

村人B「!! ゆ、勇者さ!」

勇者「Bさん、クワを貸して!」

村人B「へ、へぇ!」

魔物「ガルル…ガアアァァッ!!」バッ

勇者「でりゃあぁ!!」ズシュッ

魔物「ガ……」パタッ

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:47:22.70 ID:Cem6vXyp0
村人B「勇者さ、助かったべ!」

勇者「何で魔物が……」

和平が成立してから、人間と魔物は住処を「住み分け」することになったはずだ。
だから人間の村に魔物が入ってくるなど、ありえないことなのだが…。

しかし、考えている間もなかった。

村人A「て、大変だぁ――っ!!」

勇者「どうしました!」

村人A「また魔物が村に入ってきたべ! 女子供は家ん中さ避難させといたが…」

勇者「わかりました、皆さんも避難して下さい!」ダッ

村人A「勇者さ!?」


勇者が駆けつけると、10匹近くの魔物が村に侵入していた。
魔物達は勇者の姿を見つけると、一斉に襲いかかってくる。

勇者(久々の感覚だな…――)

まさかまた魔物と戦う日がやってくるとは思わなかった。
剣に比べてクワは戦闘に向かないが――

勇者「お前たちには、これで十分だ!!」

勇者は威勢よく、魔物達に立ち向かっていった。

55 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:47:50.62 ID:Cem6vXyp0
勇者「…ふん」

あっという間に魔物を片付け、勇者は村中を見回った。
もう他に魔物が入ってきた様子はない。

村人A「た、助かった…べか?」

勇者「えぇ。ひとまずは、大丈夫の様です」

村人A「良かったべ~…勇者さがいなければ、どうなってたことか……」

村人達がぞろぞろと家の中から出てきた。
彼らは安堵の表情を浮かべ、勇者に駆け寄ってきた。

「ありがとう、勇者さん!」「勇者さんのお陰だす!」「勇者さは村の守り神だべ!」

勇者(あ、はは…参ったなこりゃ)

村娘「勇者さん!」ダッ

勇者「村娘ちゃん、無事で良かった」

村娘「怪我はないだすか! 病み上がりなのに…」アワワ

勇者「うん、大丈夫。雪かきよりも戦う方が楽なくらいだよ」アハハ

村娘「もー、勇者さんたら…」

村人A「んだけども、何で魔物が現れたんだべな?」

村人B「おっかねぇかったなぁ。これで済むと良いんだが……」

勇者「……」


そしてその日の正午、答えはやってきた。

56 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:48:23.61 ID:Cem6vXyp0
兵「邪神が現れた」

村人A「じゃ、邪神!?」

国からやってきた兵の報せにより、村人たちがざわついた。
邪神とは――勇者も初めて名を聞く。

兵「その邪神は、魔物の国に突如現れた、魔王の反対勢力らしい。魔王も今までその存在を知らず、あちら側も困惑している」

村人B「その影響で村に魔物が現れたってのか!」

兵「国中の町村に兵が派遣される予定だ。だが、突然のことで国も混乱していてな…」

村人A「どうすんだべ~…せっかく平和になったと思ったのに、また昔に後戻りだべ」

村人B「そんで、国から何人の兵が来るんだべ?」

兵「この村には、5人と…」

村人A「5人!? たった5人だべか!?」

兵「規模的に、どうしても都会部を優先することになり…」

村人B「村から切り捨てようってのかぁ!」

兵「そういうわけでは……」

勇者「…俺が村を守りますよ」

兵「!! 貴方は……」

勇者の顔を知っているのか、兵は勇者の顔を見て驚きの表情を見せた。

勇者「俺の分の剣を持ってきて下さい。俺1人で、その5人の兵以上の仕事をしてみせますよ」

57 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:49:14.26 ID:Cem6vXyp0
宣言通り、勇者は5人分以上の働きをした。

勇者「でりゃああぁぁ――っ!!」

魔物「ガハッ…」

たまに魔物が現れる村だったが、勇者の活躍により被害は出なかった。


勇者「…! 村娘ちゃん、家に隠れて」

村娘「どうしたんすか?」

勇者「魔物が近づいてきてる!」

村娘「!」

この小さな村の中、魔物の気配がすればすぐに察知できる程の勘を取り戻した。


勇者「よっこいしょ、っとおぉ!!」

村人A「お、おおぉ…そんな大岩を持ち上げるとは……」

勇者「よし…筋力アップ!」

村の守人となった勇者は、今までの仕事時間をトレーニングに費やせるようになった。


勇者「だあぁ!」バシッ

兵「くっ…流石勇者殿。5人がかりでも1本も取れないとは…」

勇者「もう1本行きますか。今度はちゃんと、俺の剣の動きを見て」

兵「はい!」

兵士たちに剣の稽古をつけながら、自身も剣を振る感覚を取り戻していた。

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:49:52.64 ID:Cem6vXyp0
>夜


兵「今日もお疲れ様です、勇者殿!」

勇者「ん。俺は家にいるんで、何かあったらすぐ知らせて下さい」


村娘「あ、勇者さん。お帰りなせぇ」

勇者「ただいま。いい匂いするなぁ…」

村娘「今日はお肉だす。一杯、力をつけてくだせぇ」

勇者「悪いね村娘ちゃん、すっかり毎晩の夕飯支度までさせちゃって…」

村娘「何言ってるんだすか! 勇者さんはこの村を守ってくれてんだもの、これ位は当然だす!」

勇者「…何か、既婚男の気持ちがわかるわ」

村娘「え?」

勇者「こうやって世話を焼いてくれる奥さんがいるから、仕事に集中できるんだよな~」

村娘「お、おおおおお奥さん!? そ、そそそそんなら、あ、あ、あたし、勇者さんの奥さ」ガチガチ

グウウウゥゥゥ

勇者「腹減ったんで、頂きます」

村娘「………」

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:50:30.85 ID:Cem6vXyp0
>その頃――


悪魔「ウケケ。人間共め恐怖してやがるな…。恐怖は邪神様にとっていい糧になる、もっともっと恐怖しろ!!」

1匹の悪魔が翼を広げ、地上を見下ろしていた。

悪魔「あんな腑抜けの魔王なんざ、とっとと隠居させてやんよ。時代は邪神様だぜェ!!」

コウモリ「悪魔様」バッサバッサ

悪魔「おう、人間社会の侵略は順調か?」

コウモリ「はい。しかしこの国で1件、被害を与えられていない村がありまして…」

悪魔「ハァ? 村だろ村! 村相手だからって手ェ抜いてんじゃねぇだろなぁ!!」

コウモリ「いえ。その村には兵士もたった5名しか派遣されていないにも関わらず、50名以上の魔物が狩られています」

悪魔「そんなにか…。そりゃきっと何かあるんだろうな」

悪魔は凶悪に笑った。

悪魔「こうなりゃ、俺自ら行くしかねぇみてぇだな…!!」

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:38:37.56 ID:OlIPKK2z0
>深夜、村


勇者「Zzz…」

バタバタ

兵「勇者殿!」

勇者「ん…どうしたんですか」

安眠から起こされた勇者だったが、兵士の緊迫した様子に、すぐにスイッチを入れる。

兵「遠方の上空に魔物らしき影を確認! こちらの村に向かってきます!」

勇者「了解。急いで向かう」

勇者は急いで着替え、剣を持って家を飛び出した。

兵「あれです」

勇者「ん――」



悪魔「さぁ~て、挨拶に一発…」ゴオォ…

悪魔「爆炎ブッ放してやんよおおぉぉ!!」

ドゴォ――


勇者「はああぁ――っ!!」

悪魔「…へぇ~?」

高く跳躍した勇者は、悪魔の放った魔法を一刀両断した。
それを見た悪魔は面白そうに笑う。

悪魔「おいテメェ! 俺の魔法を斬るとは、只者じゃねぇなぁ~!?」

勇者「…」クイッ

悪魔「?」

勇者は「来い」と指で指示し、村の外へ出る。
悪魔は素直に、勇者の側に降りた。

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:39:07.49 ID:OlIPKK2z0
勇者「村の皆の睡眠を邪魔するな」

悪魔「随分と余裕じゃ~ん? けどご心配なく、村ごとテメェを葬ってやるからよォ」ケケケ

勇者「させねぇよ…!!」

勇者は悪魔へと一直線に駆け、迷わず剣を振り下ろした。

悪魔「おっとォ!」ヒョイ

勇者(素早い!)

悪魔「今までの雑魚と同じに考えんなよぉ…喰らえッ!!」

勇者「!!」

高速の爪攻撃が勇者に襲いかかる。

勇者(回避? いや――)

回避すれば体勢が崩れ、その隙を突かれる。
それよりも――

勇者「…――っ!」パシッ

悪魔「!!」

勇者は悪魔の手首を掴んで攻撃を止めた。

悪魔「…いでででっ!!!」

そして、一気にひねり上げた。

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:39:36.41 ID:OlIPKK2z0
悪魔「クッ!!」バッ

勇者「…ちっ」

上空に逃げられた。これだから翼のある相手は面倒くさい。

悪魔「やるじゃねぇかよ、力自慢さんよォ!! なら、これはどうよ!!」

勇者「…っ!」

何発もの爆炎が悪魔から放たれた。
だが、恐るるに足りない。次々と切り裂き、剣でかき消す。

勇者「そんな攻撃じゃ俺は殺せないぞ…」

悪魔「そうみたいねぇ~。それじゃ、これは?」

勇者「!?」

勇者の周辺で爆音が轟いた。
地面の砂が舞い上がり、視界を遮る。

勇者(視覚を封じて攻撃を叩き込もうっていう魂胆か…だが!)

爆炎1発目。気配を察知し切る。
反対方向から続けて2発目。これも難なく切る。
3発目、4発目は同時に放たれた。それも見極めて切る。

勇者(5発目――来る)

構える、と同時――

悪魔「バァ♪ 爆炎かと思ったァ――ッ!? ざあぁんねぇん!!」バキィ

勇者「――っ!!」ドンッ

鋭い蹴りを腹に喰らい、勇者は木に体を打ち付けた。

悪魔「爆炎と俺じゃスピードは全然違うんだよなぁ。思い込みって怖いね~♪」

勇者(こいつ…!!)

痛みを堪えて、勇者は再び構えた。

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:40:08.54 ID:OlIPKK2z0
悪魔「ヒャッハアァァ!!」バキィ

勇者「!!!」

悪魔「さっきより動きが鈍ってんぜえぇ!! 痛くて動けないのかな、ケケケケ!!」バキベキッ

勇者「――っ」

ドォン

勇者「…ッハァッ」

悪魔「おぉ~、神回避だねぇ。でもォ!!」ドゴォ

勇者「――っ!!!」

悪魔「回避した瞬間には隙が生まれますねー♪ その必死感がマジウケる~」

勇者(この野郎、意外と考えてやがる…!)

ダメージで余裕を失っているのは事実。
頭の中で落ち着けと自分に言い聞かせたところで、冷静な考えが浮かぶわけでもない。

勇者「…だったらぁ!!」ビュンッ

悪魔「おっ?」サッ

――捨て身でひたすら攻めるのみ!

悪魔「わ、ちょっ…」ササッ

スタミナ配分など気にしていないかのような剣の連続攻撃に、悪魔は回避するのが手一杯の様子だ。

悪魔「あークソ、これだからヤケクソになったバカはっ!!」バッ

勇者(よし――)


自分の隙が回避した瞬間に生まれるのなら――

勇者「おらぁ!!」ブンッ

悪魔「――」

この悪魔の隙は、空中に舞い上がっている最中に生まれる――

悪魔「――えっ?」


悪魔の腹には、勇者が投擲した剣がざっくりと刺さっていた。


勇者「翼を生やした魔物と戦うのは、お前が初めてじゃないんだよな…」

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:40:55.06 ID:OlIPKK2z0
悪魔「ガハ…ッ!!」

悪魔は地面に倒れた。
勇者が悪魔の腹から剣を抜くと、血がどぼどぼ溢れ出した。

悪魔「ヘ、ヘヘ…ッ、見事じゃねぇか…!」

顔は血の気を失いながらも、悪魔は笑った。

悪魔「最後に教えてくれよ…テメーの名は何ていうんだオイ?」

勇者「……勇者だ」

悪魔「勇者……って、あぁ。あの勇者ね……」

何を思ったのか、悪魔は納得したように言った。

悪魔「世界には馬鹿ばっかかよ、お前程の奴を冷遇するなんて…ゲホッ」

勇者「……」

悪魔「あー、ここでリタイアは惜しいけど仕方ねぇな…。邪神様、万歳…ッ!」

勇者「……」

悪魔はそのまま動かなくなった。
だがこの強敵に勝利したというのに、勇者の気持ちはどこか重い。
それはこの悪魔が、敵として勇者に敬意を抱いてくれた為かもしれない。

勇者(…そんなことで喜びを感じたなら、俺はちょろい奴だよな)

兵「勇者殿ー!」

勇者「あぁ。終わりましたよ」

兵「しかし怪我をされていますね…。家に戻って治療をしましょう!」

勇者「はい」

その場を後にしながら、勇者は心の中で悪魔に言った。

――お前も、スゲェ奴だったよ。いい相手と戦えた、って久しぶりに思えた。

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:41:21.54 ID:OlIPKK2z0
>翌朝


村娘「ほ、ほんなに強ぇ魔物が来たんだすか」

勇者「あー…お陰で寝不足」ボー

村娘「お怪我の具合はどうなんだすか!?」アワワ

勇者「大丈夫大丈夫。俺の体は叩いても切っても燃やしても壊れないから」

村娘「んなわけないだしょ」

勇者「それは冗談だけど大丈夫なのは本当。ありがとな、心配してくれて」

村娘「一杯栄養つけて、体ば休めてくだせぇ」

勇者「ん。あー、味噌汁うめぇ…」


<ガヤガヤ


勇者「…ん?」

村娘「外が騒がしいすね…」

勇者「もしかして魔物かも。行ってくる!」

村娘「お気をつけて!」

68 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:41:47.75 ID:OlIPKK2z0
勇者「…うっ?」

外に出た勇者はすぐに異変に気付いた。
早朝だというのに空が薄暗い。暗雲の間を雷が鳴り響いている。

勇者(…やな空気だな。単に天気が悪いわけじゃなさそうだ)

兵「あ、あれは!!」

勇者「!!」

暗雲の隙間から影が現れた。

それは、正しく"不吉"を象徴するような、異形の存在――

その異形は雷を背に、村の上空へと降りてきた。
感じるのは本能的な"危険"と"恐怖"――そしてその異形ははっきりと、勇者を見ていた。

この不吉――間違いない。

勇者「――お前が、邪神か」

邪神「いかにも」

囁くような口調だったが、その声は脳に響いた。
ただ声を出すだけで、ここまで不吉なものを感じさせる生物がいたとは…。

69 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:42:16.12 ID:OlIPKK2z0
邪神「我が腹心、悪魔を倒したそうだな」

勇者「…あぁ。先に仕掛けてきたのは向こうだ」

邪神「それは構わぬ。奴がお前より弱かっただけのこと――お前、名は何と言う」

勇者「勇者だ」

邪神「勇者――そうか、お前が勇者か。人間たちに翻弄され、魔王に弄ばれた哀れな者よ」

勇者「…同情はいらない」

邪神「勇者よ――私と手を組まぬか」

勇者「何を言ってやがる」

邪神「私は有能な者を側に置きたい。お前とて、お前を愚弄した者たちが憎いだろう?」

勇者「…そんなことはもう忘れた」

邪神「こんな寂れた村でお前は朽ちていくつもりか?」

勇者「…だったらどうする」

邪神「この村を滅ぼす…と言ったらどうする?」

勇者「………」

その言葉を聞いた村人たちの顔に絶望が浮かぶ。

70 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:42:43.58 ID:OlIPKK2z0
勇者は表面的には冷静を装っていたが、内心で焦っていた。
この邪神の威圧感――それに世界の現状から考えて、邪神は、魔王と同等かそれ以上の力を持っているだろう。
そんな力の持ち主が村を襲えば――

勇者は考える。

勇者(お前を愚弄した者が憎いだろう…ね。助けたい、って思わなくなったのは事実だ)


そして、先の悪魔の言葉を思い出す。

悪魔『ヘ、ヘヘ…ッ、見事じゃねぇか…!』

悪魔『世界には馬鹿ばっかかよ、お前程の奴を冷遇するなんて…』


勇者(こいつらは、俺を愚弄した人間達とは違う…)


村人A「ゆ、勇者さ……」

村人B「ううぅ……」

勇者「……」

村人たちは懇願するような目で勇者を見る。
彼らとて、勇者が最悪な選択を迫られていることくらいわかっているだろう。

勇者「…心配いりませんよ」

勇者はそう言って村人たちに笑いかけた。
そう――勇者にとって大事なのは世界よりも……

勇者「俺は、この村が1番大事だから――」

村娘「勇者さん、駄目だす!!」

勇者(村娘ちゃん)

家から飛び出してきた村娘が、勇者に向かって叫んだ。

71 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:43:10.14 ID:OlIPKK2z0
村娘「勇者さんは、人々の為に戦ってきたヒーローだす!!」

勇者(正確には、ヒーローになり損ねたんだけどな)

村娘「勇者さんの存在は希望なんす! 悪い奴の言葉に耳を傾けちゃ駄目だす!」

勇者(俺にはもう、何が希望で、何が悪いのかも判断はつかないよ)

村娘「勇者さんは…勇者さんは、ヒーローのままでいて――」

勇者「…村娘ちゃん、ごめん」

村娘「え――っ?」

72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:43:52.09 ID:OlIPKK2z0
勇者「邪神、こちらの条件を聞いてもらっていいか?」

邪神「言ってみろ」

勇者「ひとつ、俺は人間は殺せない。もうひとつ――この村にだけは手を出さないこと」

村娘「――っ!!」


邪神「――いいだろう」

勇者「ん。それならお前の下に行くよ、邪神」

勇者は邪神に手を伸ばす。
叫ぶ村娘に背を向けて。

村娘「何で! どうして勇者さん、そんな――」

――本当にごめんな、村娘ちゃん。


勇者「大事なものを守る為なら、堕ちてもいい」

村娘「!!」

――君はそんな俺が嫌いだろうから。


邪神「共に行こう、勇者よ…」

勇者「あぁ…」

――俺はもう、ここに戻らない。


村娘「勇者さあぁぁ――ん!!」


――大好きだよ、村娘ちゃん。

80 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/06(日) 16:23:34.03 ID:HfPL457d0
勇者「そんで……」

神殿に招かれた勇者は、早速話を切り出した。

勇者「俺は何をすればいいんだ?」

邪神「気の早い。そんなに復讐したくてウズウズしているのか?」

勇者「そうじゃない。俺がお前と手を組んだ理由をもう忘れたか」

邪神「クク、すまない。こんな情報が入っていてな…」

勇者「どんな?」

邪神「魔王の国と人間の大国が手を組んで、近々私を倒しに来るそうだ」

勇者「へぇ」

邪神「そしてその連合軍を率いるのは…魔王だそうだ」

勇者「かつては城で敵を待つだけの身分だったのが、自分から敵を倒しに来る身分になったか」

邪神「我々は奴らが来るのを待つだけだ」

勇者「こちらからは仕掛けないのか?」

邪神「あぁ、正面から叩き潰してこそ、我々の力が本物であると証明される。…矮小な手を使うような小物と一緒にするな」

勇者「…」

魔王に聞かせてやりたくなるような皮肉。
邪神に比べると、あの魔王が小物に思えてくるのが不思議だ。

81 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/06(日) 16:24:02.59 ID:HfPL457d0
勇者「なぁ。この神殿に、悪魔並に強い奴はいるか?」

邪神「あぁ、いる。それがどうしたのだ?」

勇者「そいつら相手に修行したい。腕を上げるには実戦が1番だ」

邪神「ほう。向上心のあることだな。寂れた村で戦闘意欲が疼いていたのか?」

勇者「さてね。寝不足なんで、一眠りしてから修行させてもらう」

邪神「ふ。修行相手にはとびきりの実力者を用意しよう」

勇者「…そうだ邪神」

邪神「何だ」

勇者「お前の目的を聞くのを忘れていた。…お前は何の為に、世界に攻撃を仕掛けている?」

邪神「簡単な話だ。恐怖、絶望…その"感情"こそが、私の糧。だから世界を恐怖と絶望に包む、それだけだ」

勇者「わかった」

それだけ聞くと、勇者はそこを後にした。
心の中で邪神に「生きにくい体質だな」と声をかけて。

勇者(俺の糧は――さっき、捨てちまったけど)

82 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/06(日) 16:24:30.00 ID:HfPL457d0
それから勇者は、ひたすら修行にのめり込んだ。

勇者「ハァ、ハァ…おらあぁぁ――っ!!」

竜「やるな、人間よ…!」

考える時間があれば、考えてしまうから。
だから、そんな時間を作らないように。

勇者「ゼェッ…――Zzz」

竜「馬鹿みたく剣を振ってたと思ったら寝やがった」

自分の判断を後悔しているわけではない。

ただ…――


村娘『勇者さんは…勇者さんは、ヒーローのままでいて――』


勇者「!!!」ガバッ

竜「お、起きたか」

勇者「…もう1回やるぞ」

竜「またかよ」


裏切って開き直れる程、勇者の心は図太くなかった。

83 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/06(日) 16:25:15.97 ID:HfPL457d0
>数日後――


邪神「フフ…感じるぞ。強者の軍勢がこの神殿に、どんどん近づいてきている」

勇者「…魔王もいるか」

邪神「あぁ。軍勢で最も強い力の持ち主…あれが魔王だろう」

勇者「そうか……」

邪神「魔王と戦いたいか? 勇者よ…」

勇者「…どうでもいい」

邪神「そうか。だがどの道、お前は人間を斬ることはできない」

勇者「……」

邪神「魔王はお前がやれ、勇者。味わった屈辱を、倍にして返すのだ」

勇者「…わかった」

命令だから。そこに私的な感情は持ち込まない――

84 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/06(日) 16:25:45.20 ID:HfPL457d0
――はずだった。


ワアアァァ

勇者「――」

魔王「邪神についたという噂は、本当だったか…」

踊り子「……」

混戦の中、魔王を見つけた。側に踊り子を連れて。
その2人の姿を見た途端――


勇者「…――っ」



魔王『ハハハ…面白いものを見せてもらったぞ!! なぁ、踊り子?』

踊り子『はい、魔王様』クスクス


踊り子『それにしても勇者ったらおっかしい~!! 必死な顔して罠を突っ切って行くんだもん、笑い堪えるの大変だったぁ!!』

魔王『お陰で体も臭くなったな、勇者』


踊り子『そういうワケだから、とっとと勇者をこの城から連れ出してくれない? くっさいのよ、さっきから』


魔王『国に利用されるのも、我に遊ばれるのも、滑稽さはそう変わらん』



勇者「うわああぁ――っ!!」バッ

魔王「!!」

糸が切れたように、勇者は魔王に飛びかかった。

85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/06(日) 16:26:19.78 ID:HfPL457d0
勇者「あああぁ――…っ!!」


これは命令、これは命令、これは命令、これは命令…――


踊り子「魔王様…くっ!」

踊り子は周囲の激戦の波に飲まれていった。
戦いの現状は勇者と魔王、1対1。

魔王「はぁっ!!」

勇者「!!」

魔王の拳が勇者の腹を打つ――が、

勇者「この程度かよ、魔王」

そのダメージは、戦いに支障ない。勇者は勢いを失うことなく魔王を挑発した。

魔王「この…っ、暗黒魔法!!」

勇者「オラァ!!」ズバッ

魔王「!! 斬…っ!?」

勇者「どうした…? まさか今のが本気とは言わねぇよな…?」

魔王「ク…!」シュッ

勇者「遅ぇ!!」バキィ

魔王「が…っ」


――あれ?


勇者(魔王って、こんなに手応えなかったか…?)

86 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/06(日) 16:26:45.57 ID:HfPL457d0
――あぁ、そうか


勇者「そういやお前は…罠で嵌めねぇと俺と戦えもしない、臆病者だったよなぁ」

あの時どうして自分は疑問に思わなかったのか。
あれは1対1の対等な戦いなんかじゃなかった。数々の罠で、自分は疲弊していたではないか。

勇者「は、ははは……」

魔王「……っ!?」

勇者「はははははははははははは!!!」

心の底から笑えてきた。
自分をコケにしたのは、この程度の奴だった。

勇者「……はぁーっ…」

そして笑いが収まると、今度は頭が冷えてきた。

勇者「――…す」


こんな奴に、自分はコケにされた――


勇者「殺す…ぶっ殺してやるよ魔王オォ!!」

魔王「!!!」


自分の味わった屈辱を、忘れる為に――!!

87 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/06(日) 16:27:24.42 ID:HfPL457d0
勇者「――」


その時ふと、あるものが目に入った。

それは魔王のピアス。あの時、自分の"負け犬"の顔を映し出した、あの忌まわしいピアス。

勇者「あ――」

そこに映った顔を見て、勇者の勢いは衰えた。

勇者(何て…邪悪な顔だ……)

信じられなかった。自分がこんな顔をするなんて。
しかしそこに映っていたのは確かに、"殺し"を楽しんでいる自分の顔で――

勇者「あ、ああぁ……」


"人間"の顔ではなかった。

90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/07(月) 17:58:01.57 ID:l1GA4Hpk0
――別に、いいじゃないか。俺はそこまでのことをされたんだ。

勇者「あああぁ……」

――こいつらが、俺を"人間"でなくしたんだ。



勇者(――違う)

確かに自暴自棄になっていた時期はあった。
人間であるどころか、命すら放棄しようとしていた。

そんな自分が踏みとどまれたのは…――


村娘『あったかいもんお腹一杯食べたら、きっと元気になるす!』


勇者(…そうだ)

自分は今の今まで、生きてきた。
生きていこうと希望が沸いたのは、彼女のお陰で――


村娘『勇者様が人々の為に戦ってくれていると知って、あたし…心からあったかくなって、いつしか元気を取り戻せただす! 勇者様はあたしの恩人で、英雄なんす!』


勇者(…――駄目だよな、こんな俺じゃ)


その彼女は、自分に"人間"であることを望むはずだ。


勇者「…おい、魔王」

魔王「……っ?」

91 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/07(月) 17:58:43.30 ID:l1GA4Hpk0



邪神「ほう…私の元にたどり着いたか」

魔王「……我が地位を奪おうという不届き者め。我が手で制裁を加えてやろう」

邪神「来い、矮小なる王よ。貴様を葬り、新たな絶望を味わわせてもらおう」


両者が戦闘態勢に入ると同時、溢れ出る魔力が空間を揺らした。
互いに魔力を主張し、威嚇し合う。

魔王「喰らえ――っ!!」

先に仕掛けたのは魔王だった。
暗黒魔法を連続で10発――いずれも、1擊で城ひとつを破壊できる程の威力だ。

邪神「ふん」

邪神はそこから動かぬまま、魔力でもってそれを打ち消した。

邪神「連続魔法とは、これくらいでないとな――」

邪神の周囲に魔力の球体が浮かぶ。その数は有に100を越える。

邪神「どうだ」

魔王「覇ぁっ!!」カァン

邪神「…ほう」

魔王の爪が球体を弾き、そして球体は軌道を変え邪神へ――


ドカアアァァン


魔王「やはり爆発魔法の類だったか…自身の技の味はどうだ」

邪神「悪くはない」

魔王「!!」

巨大な爆発だったにも関わらず、直撃した邪神は無傷だった。

92 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/07(月) 17:59:09.59 ID:l1GA4Hpk0
魔王「くっ…暗黒魔法!!」

邪神「――」

また魔法が直撃した。しかし――

邪神「うむ。お前の魔法も悪くはない」

魔王「何だと…!!」

邪神がダメージを受けた様子は無かった。

魔王「この…っ!」

魔王は今度は爪を立て、邪神に向かっていった。
邪神が放つ魔法を回避し、打ち消し、邪神との距離を詰める。

魔王「ハアァッ!」

爪で空気を斬り、放つ真空斬。

邪神「――っ」

邪神は眉をひそめる。今度は、ダメージを与えたようだ。
手応えを感じた魔王は、一気に邪神の正面へと立った。

魔王「喰らえ!」

邪神「!!」

爪を胸に刺す。
このまま心臓を抉り取る――魔王はズブズブと深く爪を食い込ませた。

邪神「…っ」

魔王「痛みで声も出ないか?」

もうすぐ心臓に届く――勝ちを確信した魔王はニヤリと笑った。

邪神「――いや」

邪神は大きく口を開く。

邪神「痛みなど、感じない――」

魔王「っ!?」

突如、馬鹿でかい魔力を魔王は感じた。
当たってはまずい――本能的に察知はした。

だが、間に合わなかった。

魔王「――」

全身を焼き尽くすような魔力に、苦痛を感じたのは、ほんの一瞬だった。

邪神「お前が物理攻撃に転じたと同時、私は体内でお前に気付かれぬように魔力を貯めたのだよ」

邪神がそれを話し終わった時、既に魔王の肉体は消滅していた。

93 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/07(月) 17:59:42.18 ID:l1GA4Hpk0
邪神「ふぅ」

魔力を治癒に当てる。確実に魔王を討つ為とはいえ、肉体にかなり負担をかけた。
あと数秒技を出すのが遅れていたら、こちらの負けだった。

邪神「…よし」

傷は塞いだ。かなりの魔力を消費したが。
しかし、これで敵将は討った。あとはこの程度の魔力でも、十分な相手ばかり――


勇者「なるほど。お前の戦い方はそんな感じか」

邪神「勇者。魔王にやられたのかと思ったが、無事だったのだな」

勇者「まぁね。それより、今の戦い見てわかった」

邪神「何をだ?」

勇者「お前と魔王の実力差はそんなに無い。魔王に先の戦いの疲れとダメージが残っていなかったら、勝敗は逆転していたかもしれない」

邪神「そこは私との勝負を焦った魔王の判断ミスだろうな」

勇者「で…俺は万全の状態の魔王よりも強い」

邪神「ほう」

勇者「だから…」

勇者は剣を抜き、邪神に向けた。

勇者「俺は多分――お前より強い」

94 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/07(月) 18:00:19.18 ID:l1GA4Hpk0
時は少し前にさかのぼり…


勇者「…おい、魔王」

魔王「……っ?」

トドメを覚悟していたのか、急に動きを止めた勇者を、魔王は不思議そうに見た。

勇者「お前みたいな小物には興味も失せた。とっとと邪神の所まで行っちまえ」

魔王「…!? 馬鹿な、我を見逃すというのか?」

勇者「勘違いするな。お前を殺すのが、俺でなくて邪神になっただけだ」

魔王「……」

勇者「何だ」

魔王「何を企んでいる?」

勇者「知る必要はない。お前は、俺にいいように利用されてりゃいいんだよ」

魔王「…クッ」

屈辱的な様子ながら、魔王は勇者の言う通り邪神の居場所へと向かった。
魔王の"無様な負け犬"の姿を見ただけで、大分溜飲は下がった。

だが、見逃すだけでは意味がない。

勇者(邪神の力は未知――魔王との戦いを観察して力を測り、なおかつ力を消耗させられれば…)





95 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/07(月) 18:01:05.96 ID:l1GA4Hpk0
邪神「私に挑むと言うのか、勇者」

勇者「…驚かないんだな? 裏切りは想定内か?」

邪神「何があろうと驚きはしない。やはり人間への情が戻ったか? 勇者よ」

勇者「そんなんじゃねーよ」

人間とか魔物とか、邪神の目的なんてどうでもいい。
だけど――

勇者「俺にも大事なものがあってね」

大事な人達を守る為に、自分は人間であることを捨てようとした。
だけどそれは間違いだった。
その道を突き進めば、その人達の“心”を守れない。

勇者「大事なものを守る為に、別の大事なものを捨てるのは違うって気付いたんだ」

邪神たちは自分を認めてくれた。自分が味わった屈辱を理解してくれた。だけど――

勇者「感謝はしている。…だけどやっぱ俺、人であることは捨てられない」

自分が語っているのは理想もしくは夢と呼ばれるものかもしれない。
だけどそれでいいじゃないか。理想や夢を追いかけて何が悪い。

勇者「守りたいもの守って、手に入れたいもの全部手に入れてやるよ…お前を倒してな!」

邪神「…何があったか知らんが、面白い。いいだろう、来い」

96 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/07(月) 18:01:31.84 ID:l1GA4Hpk0
勇者(邪神は魔力を大分消耗している。倒すチャンスは今しかない)ダッ

邪神「喰らえ」

邪神は魔王に放ったものと同じ球体を勇者に向けて放つ。

勇者「だあぁっ!」

自分に向かってきた球体を1つ斬る――が、

ドカァン

勇者「!!」バッ

邪神「いい反応だ。よく回避したな」

勇者(斬ったら爆発するのか…だったら)

魔王のように球体を跳ね返すなんて芸当は自分にはできない。
だからひたすら回避――しながら、邪神に接近する!

勇者「おらあぁ――っ!!」

邪神「甘い」

勇者「!!」

切りかかろうとした時、球体が勇者に襲いかかった。
とっさにこれを回避する。少しかすって、軽く肌が焦げた。

邪神「お前は私に近づくことすらかなわん」

勇者(そう簡単に隙は与えてくれないか…なら俺の体力と邪神の魔力、どっちが先に尽きるかの持久戦だな)

97 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/07(月) 18:01:59.32 ID:l1GA4Hpk0



勇者「なかなかタフだな」

邪神「お前もな…」

しばらく、一進一退の攻防が続いた。
勇者はひたすら接近と回避を繰り返し、未だ互いにダメージはない。

勇者(よくここまで粘れるもんだな、俺…けど油断してたらヤベェぞ)

肉体と魔法で戦う魔王より、魔法主体で戦う邪神の方が、相手としてはやりづらい。
それに魔法の質――回避よりも斬ることで防ぐことを得意とする勇者には、厄介な魔法を使われる。

勇者(けどやるしかねぇからな!!)

勇者「はあぁ…っ」

邪神「…」スッ

勇者「――っ」

接近した時、邪神が勇者に手を延ばした。
回避できない――とっさに勇者は防御の構えをとった。

ドカァン

邪神「…仕留めそこなったな」

勇者「が…っ」

魔法を喰らった勇者は、壁に全身を叩きつけられた。
先の戦いでの邪神の魔力消費と、とっさの判断で取った防御のお陰で、何とか命拾いした。

115 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:22:35.75 ID:ZUDFeiaJ0
勇者「く…」

とはいえ全身にダメージを受けたことには変わりない。
このまま有利な状況に持ち込めるか――

ビュンッ

勇者「!!!」サッ

しかし考える時間など与えられず、邪神から放たれた攻撃魔法をギリギリで回避した。
体が痛くて、重い。

邪神「喰らうがいい」

勇者「く…っ!!」

それでも、勇者は回避を続けた。
勝つ方法が見つからないにせよ、今は命を繋ぐことが最優先だ。

勇者(見苦しいもんだな。でも…)

潔く死ぬなんて選択肢はない。死にたくない。
だって自分は、勝つことを今だって諦めていない。

邪神「…諦めの悪いことだな」

勇者「そりゃ、どうも……っ!!」

会話しながらも放たれる攻撃をかわす。
こうしている内に邪神の魔力が尽きてくれれば――と思うが、なかなかそうはいかないようだ。

邪神「だが動きが鈍ってきたな…魔法を変えるか」

勇者「…っ!」

そう言って邪神の手に、長いヤリのようなものが現れた。
そしてその先端は――真っ直ぐ勇者を捉えている。

邪神「終わりだ」

勇者(早い!)

避けられないなら、防ぐ――勇者は即座に剣を構えた。



「ナイスガッツ、勇者」

勇者「…えっ!?」

116 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:23:18.58 ID:ZUDFeiaJ0
勇者「!!!」ドサッ

勇者の体に何かが覆いかぶさってきた。
勢いよく乗っかってきたそいつのせいで、体は激しく地面に打ち付けられたが…。

騎士「よぉ!」

勇者「騎士…?」

自分の上に乗っているのは、紛れもなく、仲間だった騎士であった。
色々と思考が追いつかないが、事実なのは、騎士は自分を庇ってくれて――

僧侶「その体勢は色々とまずいんじゃないでしょうか、お2人さん」

騎士「変な誤解すんなや!」バッ

僧侶「まぁ何でもいいですけどね。勇者さん」パアァ

勇者「!」

傷が塞がり痛みが軽減される。これは、回復魔法だ。

僧侶「…図々しいことを願っているのは承知です。ですがもう、勇者さんしか頼れる方はいないのです」

騎士「頼む、勇者…邪神を倒してくれ!!」

勇者「……」

恐らく彼らも邪神を討つ為に来たのだ。
だけど魔王が敗れた今、他に希望がないのだろう。

勇者「言われなくてもやるよ」

無愛想にそう返事した。まだ彼らに愛想良くできる程、許せちゃいない。
それでも――

勇者「助かった、ありがとな」

これで、邪神に勝つ希望が見えた――!

117 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:23:46.11 ID:ZUDFeiaJ0
邪神「ダメージを回復させた所で万全ではなかろう。体力は消費したままだ」

勇者「それでいい。回復魔法がそこまで万能だと、俺が卑怯すぎる」

邪神「脆弱な人間は、群れて初めて魔物と対等になる。その程度のことで文句を言う程、私は小さくない」

勇者「寛大なお心をどうも」

邪神がそう言うのなら、気にしない。
だけどこれ以上、誰の助けも借りる気はない。

勇者「決着つけるぞ、邪神!」


勇者は邪神に向かって駆けた。
邪神と距離を詰める戦法は、先ほど通り。

邪神「同じ方法では勝てんぞ、勇者よ」

そう言いながら邪神はまた、あの爆発する球体を生み出す。
邪神の方も同じ方法を取る様子だ。

勇者(好都合。思いついた戦法があるんだよな…――)

勇者は気にせず、邪神へと突っ込んでいく。

邪神「変わらんか…ならば塵となれ」

邪神が操る球体が、勇者に襲いかかろ――

勇者「うおおぉぉっ!!」

邪神「――!」

118 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:24:13.38 ID:ZUDFeiaJ0
勇者は球体を斬ると同時、跳躍した。
宙に浮いた勇者はそのまま、爆風に飛ばされ――

邪神「――」

邪神との距離を一気に詰めた。
邪神はそのスピードに対応できず――

勇者「――終わりだ」

ずぶり。


邪神の喉に、深く剣を突き刺した。

119 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:24:45.57 ID:ZUDFeiaJ0
邪神「――」

邪神は呆然と、己の喉に突き刺さる剣を凝視していた。

勇者(魔王よりも魔法能力は優れていたが、身体能力は劣っていたみたいだな)

勇者が剣を引き抜くと、邪神はその場に倒れた。
しかし邪神には自己治癒の力がある、トドメを刺さねば――そう思い勇者は剣を構え直した。

邪神"…見事だ、勇者よ"

と、邪神の声が頭に響いてきた。

邪神"お前こそ真の勇者。よくぞ、この私を打ち破った"

勇者「……」

邪神"最後に1つ、尋ねたい。お前の手に入れたいものとは、何だ? 地位か、名誉か――それとも勇者としての誇りか"

勇者「全部違う」

邪神"では?"

勇者「"勇者"であることなんて、とっくの昔に捨てた。俺が望むのは――」

勇者は邪神の胸に剣を突きたて――


勇者「人として生きていく道だ」

その心臓を貫いた。

120 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:25:20.84 ID:ZUDFeiaJ0



王「よくぞやってくれた、勇者よ」

勇者「…どうも」

邪神を討った勇者は城に招かれ、英雄としてもてなされた。
だが賞賛の言葉も、人々の歓声も耳に入ってこない。

勇者(白々しいなオイ)

彼らは勇者が、邪神を討つ為に邪神の下へ潜り込んだ、と勘違いしてくれている。
とはいえ勇者も無駄に敵を作りたくないから、その誤解を解こうとは思わなかったが。

勇者「…じゃ、俺はもう行きますよ」

王「待て、どこへ行くのだ勇者よ」

勇者「すぐにでもやりたいことがあるんで」

褒美を受け取った勇者は、王からの言葉を途中で切り上げて立ち去った。

121 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:26:19.32 ID:ZUDFeiaJ0
踊り子「勇者…」

勇者「…踊り子」

廊下の途中で踊り子と出くわした。
何やら、しおらしい表情を浮かべているが…。

勇者「…じゃあな」

踊り子「ま、待って勇者!」

勇者「君と話すことは何もないな」

踊り子「でも、勇者……」

勇者「勘弁してくれ」

例え謝罪の言葉だったとしても受け取りたくはない。
何より、踊り子と顔を合わせるだけで自分の中に湧き上がる、醜い感情に耐えられない。

勇者「今後、俺の前に現れるな。じゃあな」

踊り子「う……」

踊り子も魔王を失って弱気になっているのだろう。もしくは、心の底から悔いているのかもしれない。
今や“英雄”である勇者にしたかつての仕打ちが知られれば、彼女もこれから制裁を受けるだろう。
だとしても――

踊り子「う、ううぅ…」

すすり泣く踊り子の声にすら反応せず、勇者はそこから足早に立ち去った。

122 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:26:47.64 ID:ZUDFeiaJ0
勇者(俺は…正しい道なんて歩けていない)

自分は没落した勇者から、本当の勇者として認められた。
だけど、歩んできた過程は以前より汚れている。

自分を受け入れてくれた邪神を裏切った。
人間と手を組み、"侵略者"である邪神を討とうとした魔王を利用した。
最愛の人を失い傷ついている踊り子を見捨てた。

勇者(…駄目だ。開き直れない)

勇者はその心残りをいつまでも抱えていくことになるだろう。
世界が勇者を認めようと、勇者は自分を認めることなんてできない。

勇者(…もうすぐ着く)

ずっと近くで勇者を見てくれていた彼女は、今の勇者をどう見てくれるか――

勇者(…怖いな)

いい予感はしなかった。それでも勇者は、彼女に会う為に足を進めた。

123 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:27:19.43 ID:ZUDFeiaJ0
勇者(…何か懐かしいな、ここに来るのは)

心が温かいのは雪溶けの時期だからか。
とにかく勇者は、邪神の神殿を出て初めて、和やかな気持ちを取り戻した。

勇者(会いたいな)

迷わずに進む。
今、どうしているだろう。きっとここにいるはずだが…。

勇者「…あっ!!」

勇者は声を上げた。
すると彼女はビクッと肩を鳴らし、こちらに振り返り――

村娘「…勇者さん?」

勇者「…やぁ、村娘ちゃん。久しぶり」

勇者を見ても村娘は笑わない。
どうしたものかと、勇者は苦笑した。

124 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:27:53.13 ID:ZUDFeiaJ0
村娘「勇者さん…話は聞いたす」

勇者「うん。倒したよ、邪神を」

村娘「…勇者さんは邪神を倒す為に、邪神の下に潜り込んだと言われてっすけど」

勇者「…」

やっぱり、村娘にはわかるか。

村娘「勇者さんは…この村の為に、本当に邪神についただす」

勇者「…うん」

言い訳するつもりはない。だって村娘の言う通りだ。

勇者「村を守る為とはいえ、俺は1度、人の道を捨てた。この村さえ守れれば世界がどうなっても良かったんだ」

村娘「…でも、心変わりしたんだすか?」

勇者「そんなとこだ」

心変わり――あの心境の変化は、その一言で済ませていいものか。
とも思ったが、反論しなかった。とにかく邪神についたけど、気持ちが変わって邪神を討ったのは事実だ。

勇者「俺は世界がもてはやすような英雄じゃない」

もっと汚くて、醜くて、卑怯な人間だ。

勇者「…ごめんな村娘ちゃん。君が抱いていた“ヒーロー”像を、俺は裏切った」

村娘「…」

勇者「やっぱ、こんな俺のことは嫌いになったよな…」

予想できていたとはいえ、少し悲しい。
嫌われてまで一緒にいるのは互いにとって望ましくないだろう。だからこの村から去ろうかと思うが…。

勇者「ひとつ言わせて、村娘ちゃん」

これだけは言いたくて。

勇者「俺――村娘ちゃんのこと、好きだよ」

村娘「!!」

勇者「それだけ。じゃあ…」

村娘「…待つだす」

勇者「ん?」

呼び止められて、足を止めた。

125 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:28:24.74 ID:ZUDFeiaJ0
村娘「なして返事も待たずに行くんすか。…怖いんだすか、勇者さん」

勇者「…そりゃ怖いよ」

自分だって踊り子に冷たくしたけど、自分がされるのは怖い。だからその前に去ろうと思った。

村娘「勇者さんは臆病者だす」

村娘は目に涙を浮かべていた。
その涙は、何の涙か――

村娘「勇者さんがあたしのヒーローだったことは変わらんす。だけど、それだけでねぇ。…勇者さんは優しくて、働き者で…臆病で、傷つきやすい、普通の人だす」

勇者「…」

村娘「けどもう、勇者さんは…普通の人でねぇ」

流れる涙を見せまいとしているのか、村娘は顔を手で覆った。

村娘「勇者さんは世界中の英雄になったす…もう、あたしが独り占めできる人じゃねぇす! 世界が救われた嬉しさよりも、そっちの悲しさの方が大きい…あたし、そんなに心が汚いだす!!」

勇者「――」

今、村娘は何と――つまり彼女は、自分のことを――

村娘「――あたしも、勇者さんが好きす」

勇者「――!!」

勇者は頭が真っ白で、しばしボケッとしていた。
鼻をすすった村娘は、首を傾げる。

村娘「…どしたんだすか、勇者さん」

勇者「そっか…そうだったんだ……」

村娘「へ?」

勇者「…村娘ちゃん」

村娘「は、はい?」

勇者「………結婚して下さい」

村娘「!!?」

126 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:29:01.65 ID:ZUDFeiaJ0
勇者「こんな弱くて、世界を裏切るような卑怯者の俺でも好きでいてくれると言うのなら…村娘ちゃんを幸せにする為に、頑張るから!」

村娘「ま、待って…そ、そんなん…」

勇者「……やっぱ、無理か?」

村娘「だ、だって…勇者さんはもう、世界の英雄で…あたしなんか…」

勇者「そんな事言わないで。俺は"英雄"なんかにとてもなれない。君がいて、ようやく"人間"でいられるだけの男だよ」

村娘「!」

勇者は村娘の手を握った。

勇者「…俺達の出会い、覚えているか? あの時の俺は生きる気力を失って、本当に駄目になっていた。そんな俺を救って、支えてくれたのは、村娘ちゃんじゃないか」

村娘「勇者さん…」

勇者「もう1度言う。…結婚しよう。俺は、村娘ちゃんじゃないと駄目だ」

村娘「え、ううぅ…」

勇者「村娘ちゃん?」

村娘「…浮気したら、許さんよ?」

勇者「しない。万が一したらチョン切ってくれていい」

村娘「あたし、尻に敷くすよ?」

勇者「俺は村娘ちゃんを守るよ」

村娘「…勇者さんっ!」ギュッ

勇者「っ」

村娘「その言葉、忘れんでね! あたし、勇者さんのお嫁さんになるだす!!」

勇者「…あぁ。幸せになろうな」ニコ

127 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:29:27.94 ID:ZUDFeiaJ0
月日は流れていく。
人々は平和に慣れていき、戦いの記憶を過去に置いていく。

村娘「こらぁ、起きるす!」

勇者「うー…眠い」

村娘「もう村の人達は外に出てんよ! ほらほら、早く顔さ洗ってご飯食べて、雪かきしてくるす!」

勇者「うぇーい」

世界は平和になり、かつての英雄は、村で平凡に過ごしていた。

勇者「あー、何か今日はねみぃなー」フアー

村人A「毎晩張り切りすぎなんでねぇのー?」ハハ

勇者「!!! そ、そそそげなこたありゃーしませんがなー!」

村人A「勇者さは動揺したら訛るから、わかりやすいべ」

村人B「若ぇってええなー。はよ子供が見たいべ」

勇者「~っ…」

128 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:29:54.10 ID:ZUDFeiaJ0
勇者「うー、さみさみ」

村娘「お疲れさんだす。お粥作ってっすよ」

勇者「この冷えた体には有り難い。頂きます」

村娘「お塩で味付けたす」

勇者「…塩粥食べたら思い出すな、君に拾われた時のこと」

村娘「あぁ…懐かしいだすなぁ」

勇者「これのお陰で今の俺があるんだなぁ」

村娘「んな大げさな」

勇者「大げさじゃないよ」

魔王との戦いを思い出す。
あの時、人間でなくなりかけていた自分を人に戻したのは――

勇者「この、内側から"温かい"って思える感じを思い出せたから、俺は戻ってこられた」

村娘「そうだすか」

村娘はニコニコと話を聞いてくれている。
彼女は今も昔も、自分に寄り添ってくれる良い妻だ。

129 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:30:30.73 ID:ZUDFeiaJ0
勇者「平穏てのはいいもんだね」

村娘「そうだすなぁ」

勇者「"ヒーロー"が必要ない、平和な世界が理想なんだろうな」

村娘「違うすよ」

勇者「?」

村娘「この平穏な日々の中でも、毎日一生懸命働いてくれて…。んだから、勇者さんはあたしのヒーローだす」

勇者「…そうか」ニコ

村娘「そうだす」ニコ

世界が自分を忘れたとしても、これからも村娘と支えあって生きていくことができる。
それだけで、この平凡な日々が幸せだった。

勇者「お粥、お代わりしてもいい?」

村娘「ええよ。一杯食べて、心さぽかぽかにするだす!」


Fin

130 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:30:59.04 ID:ZUDFeiaJ0
ご読了ありがとうございました。
男主人公モノはギャグ以外だと久しぶりです。


過去作こちらになります。
http://ponpon2323gongon.seesaa.net/

131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/08(火) 18:32:13.17 ID:tox57Puio

posted by ぽんざれす at 19:10| Comment(10) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年02月17日

女勇者「優しくされたいなぁ」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1455616807/

1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/16(火) 19:00:07.89 ID:pYX9d+WG0
子供の頃…


父「おぉ、村に入ってきた魔物を退治したのか!」

少女「うん! 弱い魔物だったから、ボク1人で倒せたよ!」

父「お前は剣の才能に恵まれているな」ナデナデ

母「そうね、きっと男にも負けない凄腕の剣士になれるわよ」

村人「騎士団に入れば、この村の出世頭だな」

友達「少女ちゃん、かっこいいー!」

少女「えへへー」


剣の腕を上げれば上げる程、皆はボクを褒めてくれた。
それが嬉しくて、ボクはひたすら腕を上げた。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1455616807
2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/16(火) 19:00:36.26 ID:pYX9d+WG0
そして数年後…


王「剣術大会で見事優勝を果たしたお主に、勇者の称号を与えよう」

勇者「光栄でございます…ですが本当によろしいのでしょうか」

王「当然だろう。何を遠慮する必要がある?」

少女は誰もが認める剣士となり、国で開催された剣術大会で優勝する程の腕前になった。
その剣術大会は勇者を決める為の大会で、勇者は魔王討伐の旅のバックアップが受けられるのである。

勇者「故郷ではもう『お前は優勝できて当たり前』って言われてたもので、改めて祝福して頂けると嬉しいというか…」

王「何を言っておる。お主は我々の救世主となる者だぞ」

勇者「えへ、えへへへ…」

王「お主が利用する施設の料金は国で負担しよう。それから旅を共にする者もこちらで選考しておいた」

戦士・魔法使い・僧侶「宜しくお願いします!」

勇者「宜しく!」

戦士「へぇ、あんたが剣術大会で優勝したのか。どんなゴリラかと思ったら、可愛いめの女の子じゃねぇかよ!」

魔法使い「こらこら戦士、早速ナンパしないの。宜しく勇者、足引っ張らないように頑張るね!」

僧侶「大会で勇士を拝見していましたよ。とても力強く、頼りがいがありますね」

勇者「えへへー、それほどでもぉ」

勇者(絶対に皆をガッカリさせないように頑張ろう!)

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/16(火) 19:01:05.41 ID:pYX9d+WG0
勇者「でりゃああぁーっ!!」ズババッ

魔物「ガハッ」

戦士「すっげー!! あの巨体を一擊かよ!」

僧侶「流石です、勇者さん!」

勇者「えへへ、これくらいなら慣れてるからね~」

魔法使い「でも勇者、女の子なんだから掛け声には気をつけなさい」

勇者「ああいう掛け声出した方が力入るもんで…」

僧侶「なるほど、あの掛け声も勇者さんの力の秘訣なんですね」

魔法使い「それはいいけど、嫁の貰い手がなくなるわよー」

勇者「えへへ…別にいいや、剣さえできれば皆認めてくれるでしょ?」

戦士「まぁ、勇者を認めない奴なんていないと思うけど」

勇者「じゃあ、それでいい! ボクにとって1番大事なのは、強くあることだから!」

魔法使い「そう。ごめんね上から目線で色々言っちゃって」

勇者「ううん、いいよー」

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/16(火) 19:01:36.08 ID:pYX9d+WG0
>1週間後


勇者「でりゃあああぁぁっ!!」ズババッ

魔物「ガハッ」

魔法使い「よし倒したね」

僧侶「お怪我はありませんね? では行きましょうか」

勇者「……」

戦士「どうした勇者?」

勇者「今ボクが倒した魔物、新種だったよね?」

僧侶「? そうですね」

勇者「今までの敵で1番体も大きかったし…」

魔法使い「そうね」

戦士「でも勇者なら倒せるだろ、これくらい?」

勇者「………うん」

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/16(火) 19:02:02.90 ID:pYX9d+WG0
勇者「でりゃぁーっ!」ザクザクッ

魔物「グハアアァッ」

勇者「ねぇねぇ、見て見て! 10匹切り達成し…」

魔法使い「戦士、大丈夫?」

戦士「ちょっと腕をやっちまった、いてて」

僧侶「今、回復しますね」

勇者「……ねぇ」

僧侶「あ、ごめんなさい勇者さん。今ちょっと忙しくて」

戦士「僧侶の回復魔法には助けられるなぁ~」

勇者「……ボク、魔物10匹倒した」

魔法使い「うん、お疲れ様」

勇者「………」

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/16(火) 19:02:29.15 ID:pYX9d+WG0
>夜


戦士「カードやらねー?」

魔法使い「いいわね。あれ、勇者は?」

僧侶「外で体を動かしてくるとのことですよ」

戦士「元気だなー」



勇者「でりゃああぁぁっ!!」ブンブン

勇者「ハァ、ハァ……」

勇者(もっと、もっと強くなる…)

勇者(もっと強くなれば、きっと褒めてもらえる!!)

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/16(火) 19:02:58.67 ID:pYX9d+WG0
勇者「どりゃあぁーっ!!」ズバアアァァッ

魔物「ウグッ」

勇者「ねぇねぇ、20匹倒したよ! 見て見て!」

戦士「あぁ、そうだな」

勇者「そうだな…って……」

魔法使い「そんな大げさに言うことじゃないでしょ。勇者ならもっとやれるんでしょ?」

勇者「……え?」

僧侶「最近、宿についた後もトレーニングされているようですし。余裕あるんですよね?」

戦士「勇者ならできて当然だろ。つぅか疲れた……」

勇者「………」

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/16(火) 19:03:29.11 ID:pYX9d+WG0
>夜


勇者「ハァ…」

勇者(「もっとやれる」「余裕ある」「できて当然」)

勇者(違うもん…ボクだって努力してるもん)

勇者(どうすればまた皆、前みたく褒めてくれるかな…)

勇者(そうだ! 自分がされて嬉しいことは人にやれって言うよね!)

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/16(火) 19:04:01.42 ID:pYX9d+WG0
勇者「戦士、腕上げたね! やっぱ男の人だし腕力はかなわないや!」

戦士「……あ、うん」

勇者「魔法使いって色んな魔法使えて凄いよね~! ボクは頭悪いから、こんなに覚えられないや」

魔法使い「……そう」

勇者「僧侶の回復魔法って重宝するよね! 聖魔法習得は厳しい修行を必要とするって聞くし、ありがたいよね!」

僧侶「……どうも」

勇者(何でも自分自分じゃダメだよね~。皆だって凄いとこ一杯あるんだもん、これからはガンガン褒めていこう!)

勇者「あ、それで皆って~…」

戦士「…なぁ」

勇者「ん、なーに?」

戦士「そんな風におだてられてもさ。俺とお前はかなり差があるし、皮肉にしか聞こえねーんだよな」

勇者「えっ」

魔法使い「いくら魔法を覚えたところで、勇者程貢献してないし…」

勇者「そ、そんなこと」

僧侶「それに勇者さんダメージ受けないから、私の力を必要としていないじゃないですか」

勇者「!!」

戦士「慰めるつもりでそういうこと言うのやめてくれ、惨めになる」

魔法使い「私達、勇者みたいな天才じゃないんだから」

僧侶「それよりも行きましょう。私達が足を引っ張ってしまっているので申し訳ありませんけど」

勇者「あ、あの…」

勇者「………」

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/16(火) 19:04:28.98 ID:pYX9d+WG0
>夜


勇者「うぅ、ゴホゴホ」グスッ

勇者(そんなつもりないのに…ボク、皆のこと大事な仲間だって思ってるのに)

勇者(剣の稽古ばっかりで、皆とあんまり遊んだりお喋りしたりしてないもんなぁ…)

勇者(今日は稽古は休み! 宿に戻って皆と一緒にいよう!)ゴホゴホ



勇者「ただいま~…コホッ」

魔法使い「お帰り勇者…あれ、顔が赤いわね?」

勇者「え?」

戦士「何か声も変だな」

僧侶「ちょっと熱計ってみましょう」

勇者「……? ゴホッ」

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/16(火) 19:04:54.88 ID:pYX9d+WG0
勇者「あうぅー…」

魔法使い「まさか風邪なんてね~」

勇者「ゴメンね、ゴホッ…」

僧侶「いえ、気にしないで下さい。それにしても勇者さんだけ風邪を引くなんてねぇ」

戦士「勇者も超人ではないわけだ」アハハ

勇者「当然だよぉ…。ボクのこと何だと思ってたの」

戦士「はは、わりわり。リンゴ剥いてやるよ勇者」

魔法使い「何か食べたいものある?」

僧侶「無理しないで、ゆっくり体を休めて下さいね」

勇者「……えへへ」

勇者(風邪引いたら、みんな優しいなぁ……)

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/16(火) 19:05:24.63 ID:pYX9d+WG0
>3日後


勇者「完全復活! 今までゴメンね、さぁ行こう!」

戦士「良かったな、すっかり元気になって」

魔法使い「いい休息になったわ。リフレッシュもしたし、行きますか」


ワーワー

勇者「でりゃーっ!!」ズバッ

魔物「ガハッ」

勇者「……」

戦士「おらっ!」

魔法使い「喰らえ、火炎魔法!」

僧侶「サポートします!!」

勇者(何か元通りだなぁ……ちょっと寂しい)

戦士「おい、勇者、後ろっ!」

勇者「え?」


ガンッ

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/16(火) 19:05:55.20 ID:pYX9d+WG0
魔法使い「火炎魔法! よし倒したわ、勇者は!?」

勇者「いちち……」

戦士「だ、だだだ大丈夫か勇者!?」

僧侶「凄い出血…。今、回復魔法をかけますね!!」

勇者「はは、そんな焦らなくても…」

魔法使い「勇者が攻撃を喰らうなんて珍しいもの…焦るわよ」

戦士「あー、でも良かったぜ命に別状が無さそうで」

僧侶「痛みませんか、勇者さん?」

勇者「…あ、うん」

勇者(そうか……皆、風邪を引いたり怪我をしたら優しくしてくれるんだ)

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/16(火) 19:06:26.31 ID:pYX9d+WG0
ズバッ

勇者「いたーっ」

ボコッ

勇者「~っ!」

ドカッ

勇者「あたたっ」


戦士「……」

魔法使い「……」

勇者「ごめん僧侶、回復魔法かけて!」

僧侶「…もうMPも残り少ないんですよ」

勇者「あ、そう? じゃあ町に着くまで頑張るよ!」

戦士「……おい勇者」

勇者「ん、なーに?」

戦士「お前、ここのところ不注意だな」

勇者「え?」

魔法使い「ふざけてるの? あの程度の魔物、勇者なら攻撃をよけられるわよね?」

勇者「え…っと」

魔法使い「真面目にやってよね!」

勇者「………」

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/16(火) 19:06:53.24 ID:pYX9d+WG0
>夜


勇者(また元通りだ…)

勇者(ボクは強くて当然だから、怪我したら怒られるんだ)

勇者(ひどいよ。ボクだって怪我したら痛いんだよ)

勇者(どうしてわかってくれないのかなぁ…)

勇者(ここの所、皆と一緒にいるのつらいや……)

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/16(火) 19:07:43.15 ID:pYX9d+WG0
今日はここまで。
嫌な予感がしたら読むのやめましょう。

18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/16(火) 20:58:33.22 ID:JTfd1+Ps0
悲しいな…

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/17(水) 19:17:28.64 ID:9ElyWsRfO
いやもうこの仲間いる必要ないから置いていこう勇者よ。
代わりに私が仲間になりますよウヘヘヘ

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 21:57:58.17 ID:pAcWS+JR0
>洞窟


戦士「複雑な洞窟だなぁ…」

魔法使い「これじゃあ目的のものがどこにあるんだかわかったもんじゃないわね」

勇者「じゃあさ…二手に別れて行動しない?」

僧侶「二手に…ですか?」

勇者「うん。ボクは1人でこの先見てくるから、皆はこっちをお願い」

戦士「おい、1人で大丈夫かよ!?」

勇者(あ、心配してもらえた♪)

勇者「大丈夫、大丈夫! それじゃ、お互いにがんばろー!」

魔法使い「気をつけてねー」

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 21:58:33.17 ID:pAcWS+JR0
勇者(こっちには何もなかった、っと)

勇者(さてと皆は…)

<うわああぁぁぁ

勇者「ん?」


戦士「くっ、数が多すぎる!!」

魔法使い「ハァ、ハァ…」

僧侶「皆さん…もう、駄目……」


勇者(皆が大量の魔物にやられている!)

勇者「やめろぉーっ!!」

戦士「!! 勇者!」

勇者「皆を傷つけるなああぁぁっ」

ズバババッ

勇者「ふぅ…皆、大丈夫だった?」

僧侶「…勇者……」

勇者「ん?」

魔法使い「…ありがとう!!」ガバッ

勇者「!!」

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 21:59:08.24 ID:pAcWS+JR0
戦士「危うく死ぬかと思ったぜ…助かったよ勇者」

魔法使い「やっぱり私達、勇者がいないと駄目だよぉ~」

僧侶「勇者さんが来てくれて、良かったぁ…」

勇者「………!!」パアァ

勇者「当然だよ! だって皆は、ボクの大事な仲間だもん!」

魔法使い「ありがとう、ありがとう……」

勇者「えへへへ……」ジーン

勇者(そうか、これだ……)

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 21:59:40.94 ID:pAcWS+JR0



勇者「それじゃ皆、ちょっと休憩しようか!」

魔法使い「さんせーっ」

僧侶「ふぅ、疲れましたねぇ…」

勇者「あ、ちょっとボクトイレ。皆ここで待っててね」

戦士「おう、気をつけてな」


勇者(確かこの辺は肉食の魔物が沢山生息しているはず…)コソッ


<うわーっ
<きゃあぁーっ


勇者(早速皆のピンチだ! 行かなきゃ!)

勇者「待て! ボクの仲間に手出しは許さないよ!」

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 22:00:18.12 ID:pAcWS+JR0
魔法使い「ありがとう、ありがとう勇者…」グスッ

僧侶「また助けられてしまいましたね…」

勇者「これくらい、当たり前じゃない!」

戦士「お前は俺たちの恩人だ。本当に頼りになるぜ」

勇者「えへへ……」ジィーン

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 22:00:56.07 ID:pAcWS+JR0



魔法使い「くっ、もう駄目……」

勇者「皆、今助けるね!!」

ズババッ

戦士「……」

勇者「皆、大丈夫だった?」

魔法使い「うん…ありがとう」

僧侶「ありがとう、ございます……」

戦士「……助かったぜ」

勇者「?」

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 22:01:29.87 ID:pAcWS+JR0
>夜


勇者(今までの傾向から見て、何回も同じことがあったら皆もう「助けてもらって当たり前」になってるのかな)

勇者(もう、皆贅沢だなぁ! でもまぁ、仕方ないか)

勇者(今日の稽古は早めに終わらせて、宿に戻ろう)



勇者「ただい…」


魔法使い「…やっぱ、そうよね?」


勇者(? 中で何か深刻そうな話をしているなぁ)


僧侶「だって、おかしいですよ…私達3人の時に必ず魔物達に囲まれるなんて…」

戦士「それに勇者の奴ここんとこ頻繁に1人になるが、何をしているんだ…?」


勇者(ボクの話……?)


魔法使い「考えられる可能性はひとつ…」

戦士「勇者は、魔物側の内通者……!!」


勇者「!!!」

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 22:02:00.25 ID:pAcWS+JR0
どうして…?


戦士「勇者選考の剣術大会にも、内通者として出場したのかもしれない…!」


どうして、そんなこと言うの…?


魔法使い「思えばあの人間離れした強さも胡散臭かったのよね…」


違うよ…――


僧侶「私達を助けるのも、油断させる為でしょうか?」


違うのに……


戦士「俺たちの情報は魔王に筒抜けかもしれないな…」

魔法使い「勇者に気を許さない方がいいわね」

僧侶「一旦首都へ戻って、王様にそのお話をした方がいいかも……」


勇者「――っ!!」ダッ

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 22:02:35.87 ID:pAcWS+JR0
勇者「何で、何で何で何で何でなんでなんでなんでなんで――っ!?」

勇者「皆、どうしてそんなこと言うんだよぉ…」グスッ


最初はあんなに優しかったのに――


勇者「優しくしてよぉ…」


褒めてくれない、信じてくれない……――


勇者「そんなの、そんなの……」


仲間だと、思われてない……――


勇者「………」

勇者「…あはっ」



それなら――



勇者「あははははははははははははははははははははははははははははははは」


勇者「皆もう…」





勇者「…――いらないや」

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 22:03:15.01 ID:pAcWS+JR0
>翌日


勇者「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね」

戦士「あぁ」

魔法使い「……」

僧侶「…よし、後をつけましょう」


戦士「昨日はああ言ったけど、やっぱ信じたいよな…」

魔法使い「私達の目で決定的な所を見ない内に決めつけたら、駄目よね…」

僧侶「あれ? 勇者さんどこに…」


ザザッ

戦士「うわっ!!」

魔法使い「魔物の大群!? くっ、こんな時に…」

僧侶「皆さん! 応戦しましょう!」



勇者「……」コソッ

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 22:03:47.82 ID:pAcWS+JR0
戦士「くっ…ゼェゼェ」

魔法使い「キリがないわ…いつもの魔物の群れと量が全然違う!!」

僧侶「もうほとんどMP残っていません……」

ザシュッ

戦士「うわああぁぁっ!!」

魔法使い「戦士ぃーっ!!」

戦士「ガ、ハ……」ピクピク

魔法使い「ちょっと、う、嘘でしょ…!?」ガタガタ

僧侶「う、えうぅ…」グスッ

魔法使い「ちょっと僧侶、泣かないでよこんな時に!!」

僧侶「いつもなら、勇者さんが助けてくれたのに……」

魔法使い「……っ」

僧侶「きっと勇者さんと、入れ違いになちゃったんですよ……」

魔法使い「そ、そんなこと言わないでよ…」

僧侶「仲間を疑ったバチが当たっちゃったんですよ……」

魔法使い「!!!」

ガルルル

魔法使い「い……」


魔法使い「いやああぁぁ―――っ!!」




勇者「……」

勇者「皆、さようなら」

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 22:04:40.37 ID:pAcWS+JR0
>魔王城


魔王「勇者が我に会いたがっている、だと?」

いつものように玉座で指令を出していた魔王は、突然の報せに怪訝な顔をした。

側近「はい。人間側に出回っている人相書きと照らし合わせてみましたが、勇者でしたね」

魔王「確か勇者一行の者は魔物達に殺され、勇者自身も生死不明ではなかったか?」

側近「勇者だけは難を逃れて生き残ったのでしょう」

魔王「ふむ…そして我々を欺く為に、身を潜めていたか…」

側近「恐らくは」

魔王「しかし、わからんな。我を殺す為に来たのなら、何故乗り込んで来ぬのだ」

側近「何か企んでいるのでしょう。…如何致しましょう、魔王様」

魔王「…良い。奴が仕掛けた罠だというのなら、打ち破ってやろう。ここに通せ」

側近「はっ」

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 22:05:31.25 ID:pAcWS+JR0
勇者「初めまして、魔王」ニコニコ

魔王「貴様が勇者か。話には聞いていたが、とても剣など扱えそうにない小娘だな」

勇者「そんなことないよ? ボクは人間で1番強いんだよ~」

勇者「ボクの仲間だった皆もね、3人合わせたってボクの足元にも及ばなかったんだから」

勇者「この小さい体でそれだけの力を得る為にどれだけ頑張ったか…わかってくれるかなー?」

勇者「それなのにね、皆はボクを天才だって決め付けて。ボクは強くて当たり前だって言って」

勇者「でもね…多分魔王を倒せば、世界中の皆から褒めてもらえるの!」

魔王「ほう…賞賛を得る為に我を倒すと申すか」

勇者「ううん」

魔王「何」

勇者「最初はきっと褒めてくれる。だけど皆すぐにそれが当たり前になって、褒めてくれなくなる。そんなのむなしいじゃない」

勇者「ねぇねぇ魔王」

魔王「何だ」

勇者「魔王は…ボクを褒めてくれる?」

魔王「っ!?」

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 22:06:11.26 ID:pAcWS+JR0
兵「があぁっ!!」

勇者「あー弱い弱い。皆弱い!!」ズババッ

兵「がは……」パタッ

兵「ぐぐ…お逃げ下さ…へい、か……」


勇者「さぁ~て、残りは…」

王「ゆ、勇者よ……」

勇者「あはは、情けない顔~。駄目ですよ、一国を統べる人がそんな顔したら!」

王「何故だ…何故、裏切ったのだ!?」

勇者「何故?」

勇者「そう言うならさぁ…」チャキ

王「!!」



勇者「どうして、皆ボクに優しくないんだろうね…――?」


王「――っ」

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 22:06:51.41 ID:pAcWS+JR0
魔王「…本当に、たった1人で国を壊滅させるとは…」

勇者「ねぇねぇ、凄い? ねぇ魔王ーっ」

魔王(この力…敵に回すのは得策ではないな)

勇者「ねぇ魔王ったら! 1人でやったんだよ、ボク1人で! ねぇったら!」

魔王(自身も人間に追われる身となった今…こいつが我を裏切ることはない、と考えて良いだろう)

勇者「…魔王も褒めてくれないの?」

魔王(それなら……)

勇者「それなら……」チャキ…

魔王「よくやった」

勇者「!」

魔王「お前の力は我々にとって大きな助けとなるだろう…歓迎しよう」

勇者「!!!」パアァ

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 22:07:23.57 ID:pAcWS+JR0
魔王(そして勇者は我の配下となり、3つの国を壊滅させた)

勇者「どう魔王! 今回は結構骨が折れたよ~」

魔王「あぁ、よくやってくれた。お前の活躍で魔王軍は安泰だ」

勇者「えへへ、それほどでもぉ~」

魔王(この実力…勇者は努力のみで身につけたと言っているが、恐らく才能もあったのだろう)

魔王(そしてその血筋…試してみる価値はある)

勇者「魔王?」

魔王「勇者よ」

勇者「ん?」

魔王「我の妻となれ」

勇者「!!!」

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 22:07:56.90 ID:pAcWS+JR0
ワーワー

勇者「えへへ。剣一筋だったボクがお嫁さんになれるとは思わなかったなぁ~」

魔王「我にはお前が必要なのだ」

勇者「えへへ~。たっくさん子供作ろうね、魔王!」

魔王「あぁ。そうすれば我々の国は安泰だ」

勇者「そうなの? ボクが子供産めば安泰なの?」

魔王「我々魔物は血統よりも実力主義…しかし我々の子ならばこの国を率いる程の逸材になれるであろう」

勇者「そうなんだ! よし、今晩から頑張ろうね魔王!」チュッ

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 22:08:31.71 ID:pAcWS+JR0
>数ヵ月後


勇者「ねぇ魔王」

魔王「どうした」

勇者「…出来ちゃったみたい」

魔王「…む?」

勇者「ボクたちの、子供……」

魔王「!! 本当か!」

勇者「うん…お医者様が、そう言ってたから……」

魔王「よくやった!!」ギュッ

勇者「っ!!」

魔王「よくぞ我の子を身ごもってくれた…こちらの国に来てからのお前の働きには感謝してもし足りない」

勇者「…えへへ」ニコニコ

勇者(幸せだなぁ……)

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 22:09:01.17 ID:pAcWS+JR0
>3ヶ月後


勇者「…ねぇ魔王」

魔王「どうした」

勇者「あのね、お腹の子の様子なんだけどお医者様がね」

魔王「後にしてくれ。今、我は忙しいのだ」

勇者「……」

魔王「経過は順調だと聞いている。あまり城を動き回るな、何かあっては困るからな」

勇者「………」

勇者(まただ…)

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 22:09:33.95 ID:pAcWS+JR0
勇者(皆ボクが何をしても、それが「当たり前」になって冷たくなっていく)

勇者(魔王は違うと思ったんだけどなぁ…結局、同じか)

勇者(どうすれば皆、ずっと優しくしてくれるのかなぁ?)

勇者「……そうだ」


ここは魔物の国。血縁よりも実力が物を言う世界。
それならば――実力を示せばいいのだ。


勇者「どうして今まで気付かなかったのかなぁ…えへへ、待っててね魔王」



勇者「ボクが、その座を奪ってあげるから…――」


Fin

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/17(水) 22:10:02.50 ID:pAcWS+JR0
ご読了ありがとうございました。
バッドエンド耐性ない方はすみませんでした。

posted by ぽんざれす at 22:12| Comment(2) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年02月05日

勇者「パーティーでのカーストが最下位でつらい」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1454152849/

1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/01/30(土) 20:20:49.32 ID:O+DFJ7tW0
>ある町の教会


勇者(あぁ神様、どうかお願いします……)

夜、人気のない教会で手を組み祈っていた。
故郷から旅立って3日目、彼女はまだ新米の勇者である。

勇者「神様、どうか私を…」


勇者「私を勇者の座から下ろして下さい!!」

2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/01/30(土) 20:21:13.69 ID:O+DFJ7tW0
話は3日前、父と共に王城に呼ばれた所に遡る。


勇者「私が勇者……ですか?」

王「うむ。神託によるとお主が魔王を討つ勇者であるそうだ」

勇者「そ、そんな…」アワアワ

騎士団長「…確かに娘には、護身の為の剣を幼い頃より教え込んできました。伸び代はありますが、まだまだ腕は未熟でして……」

王「神の言葉を疑うのか、騎士団長」

騎士団長「いえ、ですが…」

勇者「ううぅ、無理だよぅお父さん…」グスッ

騎士団長「…この通りの娘でして」

王「ふむ、まぁ気持ちはよくわかる。だが国を救う為だ、頼まれてはくれぬか」

勇者「国を、救う……」グスグス

王「旅の供はこちらで用意しよう。女子ばかりなら、怖くなかろう?」

勇者「……」グスッ

国のトップたる王にこう頼まれては、気弱な彼女に逆らえるはずもなかった。
こうして騎士団長の娘は勇者として旅立つこととなった。

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/01/30(土) 20:21:40.79 ID:O+DFJ7tW0
勇者「怖いなぁ…」トボトボ

王子「やぁ、子猫ちゃん♪」

勇者「っ!」ビクッ

彼は国の第一王子。勇者にとって苦手な相手だった。

王子「聞いたよ、勇者に選ばれたんだって? 大人しい君が勇者だなんて、世の中ってわからないものだねぇ」ナデナデ

勇者「ううぅ…」

勇者(あまり、くっつかないでほしいなぁ…。でも言ったら何をされるかわからないし……)

王子「そうだ、僕が君の為に装備を特注しておこうかな♪」

勇者「お、王子様が…ですか?」

王子「そう。ほら、あんな感じの」

勇者「?」

王子が窓の外を指差すと、そこには旅の女剣士がいた。
その女剣士が着ていたのは――

勇者「~~っ!!」カアアァァ

王子「ほらぁ、子猫ちゃんもあんなビキニアーマー着る勇気が大事だと思うよ~?」ニヤニヤ

勇者「し、し、失礼しますっ!」ダッ

王子「あはは、じゃあまたね~♪」

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/01/30(土) 20:22:09.31 ID:O+DFJ7tW0
そして3日後の夜、今現在――


勇者「私を勇者の座から下ろして下さい!!」


早々にへこたれた彼女は、神に神託の取り消しを祈るのであった。


勇者「私、もう駄目ですぅ…やっていけません……」


『へー、何で?』


勇者「きゃああぁぁ!?」ビクッ

まさか誰かに聞かれているとは思わず、勇者は跳ね上がった。

『自分から神に声かけといて、返答が来たら驚くって…そりゃねーだろ』

勇者「え、えっ?」キョロキョロ

周囲を見渡すが、人の姿は見当たらない。
男の声ははっきり聞こえるのだけれど…。

『いくら探しても見えねーよ。俺には実体がないんだから』

勇者「実体が、ない……?」

『あぁ、自己紹介がまだだったな』


神界の騎士『お兄さんは神界の騎士。神に仕える者だ』

勇者「神界の騎士……神に、仕える者……」

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/01/30(土) 20:22:38.86 ID:O+DFJ7tW0
神界の騎士『ところで、質問してもいいか?』

勇者「は、はい」

神界の騎士『勇者の座を下ろせ、つったよな? 理由は?』

勇者「え…理由?」

神界の騎士『あんた、神が選んだ勇者だろ? それを下りたいっつーなら、それなりの理由がないとな?』

勇者「えと、その……旅が辛いんです」

神界の騎士『あ? 辛い?』

勇者「皆の足を引っ張ってしまって…いたたまれないんですよ……」

神界の騎士『でも見たところあんた、まだ経験積んでないよな? 今投げ出すのは早いんじゃないのか?』

勇者「だって…」

神界の騎士『だって?』

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/01/30(土) 20:23:09.77 ID:O+DFJ7tW0
~回想・旅立ち数分後~


魔法使い「それでその男に言ってやったわけよ、『フツメン未満が勘違いするんじゃないわよ』って~」

踊り子「いるいる、そういう勘違い男」

僧侶「魔法使いさんだから言えたんですね~。私ならとてもとても」

キャイキャイ


勇者(話について行けないなぁ…)

魔法使い「勇者は何かある? 男との話」

勇者「え、えっ?」

踊り子「あ、いいわね。聞きた~い♪」

勇者「わ、私は特に」アワアワ

魔法使い「ないの!? えー、ないんだー! ごめんね、まさかないとは思わなくて~!!」

踊り子「ごめんね勇者ちゃ~ん」

勇者「あ、いえ、別に……」

勇者(何で嬉しそうなんだろう……?)


僧侶「…あれ、確か勇者さんて王子様に気に入られているんですよね?」

勇者「えっ!?」

魔法使い「……え?」

踊り子「王子様って…あの王子様?」

僧侶「えぇ。私はそう聞きましたけど…」

勇者「そ、その…」

勇者(そんなんじゃないし…私むしろ王子様のこと苦手で……ん?)

魔法使い「……」チッ

勇者「………?」

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/01/30(土) 20:23:35.23 ID:O+DFJ7tW0
~回想・防具屋にて~


勇者(どうしようかなぁ…)

魔法使い「あ、これなんてどうかな?」

踊り子「あらいいわね~、魔法使いちゃんによく似合う♪」

勇者(流石2人ともオシャレだなぁ)

僧侶「まだ決まらないんですか勇者さん」

勇者「ご、ごめんなさい!」

魔法使い「これとかどう?」

踊り子「いいんじゃないの、防御力も高いし」

勇者「あ、じゃあこれ買ってきます」


クスクス

勇者「…?」

魔法使い「やだー、あんなダサいの私は着れな~い」

踊り子「魔法使いちゃんが勧めたんじゃな~い」

魔法使い「まぁ前衛で戦うなら、あれでもいいんじゃないのクスクス」


勇者「……」

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/01/30(土) 20:24:06.91 ID:O+DFJ7tW0
~回想・戦闘にて~


僧侶「ふぅ…皆さんお怪我はありませんか」

勇者「あぅあぅ…」ガタガタ

魔法使い「勇者ぁ、何やってんのよ。1匹も倒してないじゃない」

勇者「ご、ごめんなさい…」

勇者(王様は『少しずつ戦いに馴れていけばいい』って言ってたのに…)

踊り子「魔法使いちゃんは魔法を沢山使えて、凄いわね!」

魔法使い「べっつにー? 魔王討伐の旅してるんだから、これくらい当たり前じゃなーい?」

クスクス


勇者(ううぅ…)ズキッ

僧侶「あの、東と西、どっちの町に寄ります?」

魔法使い「東がいいわ。美味しいスイーツショップがあるのよ」

踊り子「えーホント? 行きたい行きたい!」

魔法使い「そうと決まれば行こう!」

勇者「あっ、待っ…」


魔法使い「それでさっきの続きだけど~」アハハ

僧侶「あらら」

踊り子「もう、やだぁー」


勇者「……」ポツン

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/01/30(土) 20:24:37.51 ID:O+DFJ7tW0



勇者「…というわけで」

神界の騎士『女グループのヤなとこ凝縮したようなパーティーだな…』

勇者「わ、悪いのは私なんです」

神界の騎士『いや、1番弱いあんたに意地悪する女どもが性格悪いだろ。言い返してやれよ』

勇者「…言い返せません。私が駄目なんだから…」

神界の騎士『駄目だから、ってなぁ。神に選ばれたんだから自信を持てよなー、そんなウジウジしてるから…』

勇者「……グスッ」

神界の騎士『………あ?』

勇者「ウジウジしててすみません~…。私、いつも人をイラつかせてばかりで…」グスグス

神界の騎士『ちょ、待!? え、これ俺が泣かせたの!?』

勇者「違うんです、全部私が悪いんです…えううぅぅ」グスグス

神界の騎士『ごめん、ごめんて! ひとまず泣き止もう、な!?』

勇者「ううぅ…」グスッ

神界の騎士『参ったなー、こりゃ…』

神界の騎士の姿は見えないけれど、本当に困っている様子が窺い知れる。
大変申し訳なく思う。

勇者「私なんて…弱いし、臆病だし……駄目なんですよぉ……」グスグス

神界の騎士『……』


神界の騎士『…しゃーねぇ! お兄さんが手ぇ貸してやるよ!』

勇者「……え?」

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/01/30(土) 20:25:16.65 ID:O+DFJ7tW0
手を貸すとは…?
疑問を口にしようとしたその時、不意に――

勇者「きゃあぁ!?」モミモミ

勇者の手が勝手に動き、軽く揉んだ。乳を。

神界の騎士『おぉー、意外とボリュームあるじゃねぇか!』

勇者「な、なななななな…」

神界の騎士『驚いただろ。今な、俺があんたの体に一部憑依してるんだよ』

勇者「憑依…?」

神界の騎士『そ。こういうこともできる』サワサワ

勇者「きゃああぁぁ!?」

神界の騎士『そういう反応はお兄さんのような男を喜ばせるだけだぞォ~?』

勇者「やだやだぁ」グスッ

神界の騎士『っつー冗談は置いといて。腕に自信がないなら、お兄さんが代わりに戦ってあげよう!』

勇者「神界の騎士さんが…代わりに……?」

神界の騎士『どうせ神も王も、あんたが勇者の座を下りること許しはしないぞ。それよりは…』サワサワ

勇者「きゃあぁ!」

神界の騎士『なーに、スキンシップ、スキンシップ! っつーわけで宜しくなー勇者!』

勇者「うぅぅ…」

勇者は諦めた。

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/01/31(日) 18:16:32.58 ID:M0sRaDE50
>翌朝


勇者「……」

神界の騎士『なぁ、全員遅くね?』

勇者「支度に時間かかっているんですよ」

神界の騎士『支度~? んなもん時間取られる程のことじゃ…』


僧侶「おはようございます」

魔法使い「ふぁー、ねむ。行こ~」

踊り子「今日はどこへ向かうの~?」


神界の騎士『……何、支度ってもしかして服選びとか化粧?』

勇者「はい、オシャレですよね」

神界の騎士『いやいやいや魔王討伐の旅を何だと思ってるんだって!!』

勇者「まぁ女性ですから…」


魔法使い「勇者、さっさと行くよー」

勇者「あ、はい! すみません」

神界の騎士『謝るんじゃねぇよ、あいつらの方が先にこっちを待たせていたじゃねぇか!!』

勇者「そんなこと言われても…」

神界の騎士(あー駄目だ、完璧に上下関係に呑まれてやがる)

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/01/31(日) 18:16:58.45 ID:M0sRaDE50
キャイキャイ

魔法使い「でさでさぁ、見てよこの雑誌。ここ行ってみたくない?」

踊り子「わぁ、行きたい! ねぇねぇ行きましょうよ!」

魔法使い「そうね! この街に向かおうか」

僧侶「異論はありません」


勇者「……」

神界の騎士『なぁ聞いてもいいか?』

勇者「はい?」

神界の騎士『何で、あいつら主導で動いてんの?』

勇者「だって…私は勇者とはいえ弱いから指揮を取れる立場じゃないし、反論もないし……」

神界の騎士『けど、せめて勇者にも意見を聞くくらいしていいんじゃねぇか?』

勇者「私なんか……」


と、その時――

踊り子「魔物が現れたわ! 戦闘準備よ!」

勇者(え、えええぇぇ)アタフタ

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/01/31(日) 18:17:31.86 ID:M0sRaDE50
魔法使い「勇者、ボーっとしてんじゃないわよ!」ドンッ

勇者「きゃっ」

魔法使い「喰らえ、炎魔法!!」

勇者「ううぅ…」

神界の騎士『おいおい、ビビってる場合か。仲間たちが戦ってるぞ』

勇者「私なんて皆の邪魔になるだけだし…」

神界の騎士『そう言ってたらいつまでもレベルアップなんかしないだろ』

勇者「そう…なんですけど……」

剣を握る勇者の体は震えている。
戦わなければいけないと頭では理解してはいるが、その一歩が踏み出せない。

神界の騎士は、戦っている勇者の仲間たちを見る。
王に選抜されただけあってなかなかの実力者揃いではある――だが、勇者への配慮は一切無いらしい。

神界の騎士『…明らかな人選ミスだな王。心の弱い女の子を戦場に送り出すなら、もうちょい優しいメンバーを選ぶべきだったな』

勇者「う、ううぅ……」

神界の騎士『でもまぁ、勇者がグループで軽んじられている理由がよーくわかった。でも、今日からは――』

勇者「っ!?」

体の震えが収まり、勇者の剣を持つ手に力が入る。
これは――

神界の騎士『――下克上開始だ!』

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/01/31(日) 18:18:02.41 ID:M0sRaDE50
勇者「きゃあぁ!?」

踊り子「!?」

勇者の意思に反して、体が高く跳躍する。そして――

勇者「――っ!?」

神界の騎士『はあぁ――っ!!』ズバァッ

魔法使い「!?」

目の前にいた魔物を、一刀両断で切り伏せた。


一体何が起こったのか――仲間たちどころか、勇者自身も信じられなかった。
それでも魔物達は本能的に危険を察知してか、勇者に襲いかかっていった。

だが――

勇者「…」ズババッ

その剣はひと振りで3匹の魔物を切り伏せ、

勇者「…」ドカッ

鋭い蹴りが魔物を吹っ飛ばした。

魔物達は勇者を取り囲み、次々と襲いかかる。
だが、勇者の剣は、攻撃を喰らう前に魔物達の急所を貫いていった。

そして――

僧侶「何てこと……」

勇者「……」

あっと言う間に、生きてる魔物の姿はなくなった。

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/01/31(日) 18:18:28.75 ID:M0sRaDE50
魔法使い「ちょ……」

魔法使いは信じられなかった。
あの足手まといの勇者が、こんな簡単に魔物達を蹴散らすなんて――

踊り子「勇者ちゃん…?」


勇者「……」ガタガタ

一方の勇者は血の気が引いていた。
自分の意思と反して、体は魔物達の間を駆け抜けた。その恐怖心、手に残る感触――どちらもトラウマになりそうで。


だけど――

勇者『なーんだ、この程度かー』

魔法使い「……え?」

勇者(えええぇぇ!?)

これまた自分の意思に反して、勝手に声が出てきた。
すぐさま訂正しようとしたが、自分の意思で声が出せない。

勇者『ちょっと腕試し程度に戦ってみたんですけどー…』

勇者『弱すぎてびっくりしちゃいましたー!! いや、皆さんが手こずっている相手だから強いのかなーって思ったんですけどぉー…』

勇者(し、神界の騎士さん…?)ブルブル

神界の騎士『事実だもんよ』

勇者(で、でも……)


魔法使い「……」ギロ

踊り子「……」ムスッ

勇者(ヒイイィィ、怒らせちゃいましたああぁぁ!!)

神界の騎士『お、やるか? やるならドサクサに紛れて乳もんだろ』ヒヒヒ

勇者(やめて下さい~!!)


魔法使い「…行くわよ!」クルッ

勇者「……え?」

明らかに面白くなさそうだが、仲間たちはそれ以上何も言わずに先を行く。
その姿を追いかけながら、勇者は喧嘩にならなかったことを内心ホッとしていた。

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/01/31(日) 18:19:05.06 ID:M0sRaDE50
神界の騎士『このパーティーの力関係がわかった』

勇者「力関係…ですか?」ヒソヒソ

神界の騎士『このパーティーでの力関係を作っている要素は3つ。「容姿」「気の強さ」「戦闘力」だ』

勇者「はぁ…」

神界の騎士『俺の目から見て、勇者以外の容姿レベルは踊り子>僧侶≧魔法使いってとこだな』

勇者「え、魔法使いさん美人だしスタイルもいいじゃないですか」

神界の騎士『それはお洒落補正でそう見えるだけだ。冷静な目で見れば顔貌は中の下レベルだし、体も肉感が無くて欲情しねぇ』

勇者「そうなんですか…?」

神界の騎士『でもああいう鶏ガラが女の世界じゃ持て囃されるからな。とまぁ補正込みで「容姿」は踊り子≧魔法使い>僧侶、と位置づけるとしよう』

神界の騎士『次に「気の強さ」。これは魔法使い≧踊り子>僧侶。この時点で僧侶はナンバー1争いからは外れた』

勇者「まぁ…僧侶さんは、お2人よりは大人しいですからね」

神界の騎士『そして順位を決定づけたのが「戦闘力」。これを魔法使いが踊り子を大きく上回ったことにより、このパーティーのナンバー1が決定したわけだ』

勇者「な、なるほど…?」

神界の騎士『他人事みたいに言ってんじゃねぇ。あんた、序列最下位の見下し要員にされてたんだぞ』

勇者「ううぅ…」ガーン

神界の騎士『ま、へこむな。さっきも言ったろ、今日から下克上だって』

勇者「下克上って…何をするつもりですか?」

神界の騎士『ま、お兄さんに任せなさーい!』ガハハ

勇者(嫌な予感しかしない…)

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/01/31(日) 18:20:23.26 ID:M0sRaDE50
今日はここまで。

勇者が自分の意思で話す言葉→勇者「」
神界の騎士が勇者に憑依して話す言葉→勇者『』
と、カッコの形で区別宜しくお願いします。

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/01(月) 01:04:56.94 ID:Xr6PeOzAO

ギャフンと言わせてやれ

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/01(月) 18:55:13.75 ID:+gqJTuWP0
>街


神界の騎士『よぅし、自由行動の時間だ! 早速買い物するぞ!』

勇者「買い物? 何を買うんですか?」

神界の騎士『防具だよ、防具!』

勇者(防具か…てっきり勝負下着とか言うのかと)

神界の騎士『さっき戦ってわかったが、あんたは防具が体に合ってない! 筋力ないのにこんな重い防具つけてたら、思うように動けないぞ』

勇者「そ、そうですか? ダメージ軽減されるから良いと思ったんですけど…」

神界の騎士『防具で軽減するんじゃなくて、回避して軽減するんだ。とりあえず防具屋に行くぞ、お兄さんがアドバイスしてやる!』

勇者「は、はい。わかりました」



>防具屋


神界の騎士『ヒョォ~、この金属臭さ、たまんねぇなぁ~』

勇者「それで…どんな防具にすれば?」

神界の騎士『そうさなぁ~…動きやすさ重視で、でも何かしらの付属効果があればいいな…』ブツブツ

勇者(流石、神様に仕える騎士だわ)

神界の騎士『で、あとはその"少しキツそうにCカップブラに押し込んでるけど実はDカップのバスト"を活かしたいとこだな!』

勇者「な、ななななんでカップ数わかって…」アワワワ

神界の騎士『お、あれとかいいじゃん!』

勇者「これは…」

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/01(月) 18:55:50.85 ID:+gqJTuWP0
防具屋「ありがとうございやした~」

勇者「買っちゃった…」

神界の騎士『古い防具も売ったし、明日からはそれ装備な! じゃ一旦、その鎧は宿に置いていこうぜ』

勇者「まだどこか行くんですか?」

神界の騎士『確か魔法使い達が行ったのは…雑誌に載ってたカフェだったな』

勇者「え? そうですね」

神界の騎士『よっしゃ! ちょっと体借りるぞ勇者!』

勇者「え――」



>カフェ


魔法使い「このケーキ美味しい~っ」

僧侶「お洒落な雰囲気も最高です。来て良かったですね」

踊り子「これで彼氏とかと一緒だったら最高なんだけど…」

魔法使い「こーらっ。今は旅をしてるんだから、男なんて作ってる場合じゃないわよ~」

踊り子「そうよね~。私達、モテない女同士で仲良くしましょう~」

僧侶「ふふ、そう言って2人に抜けがけされちゃいそう」

魔法使い「もー何言ってんのよぉ、私らの友情はそんな脆いもんじゃないわよ!」


カランカラン

店員「いらっしゃいませ~」

イケメンA「3名で」

イケメンB「タバコは吸わないです」


踊り子「あら、あの人たちかっこいいわねぇ」

魔法使い「ほんとだ。目の保養でもさせて……」


勇者『ホントにおごってもらっちゃっていいんですかぁ…?』モジモジ


魔法使い「」ブッ


イケメンA「いいのいいの、誘ったの俺たちだし♪」

イケメンB「こんなに可愛い子とお茶できるなんて、滅多にない機会だしな!」

勇者『それじゃあ…お言葉に甘えちゃおっかな♪』キャッ

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/01(月) 18:56:42.35 ID:+gqJTuWP0
<ワイワイ


踊り子「あれ…勇者ちゃんよね?」

僧侶「ど、どういうことですかね…?」

魔法使い「イケメン達と楽しそうに…!!」


<ギロー

勇者(すっごく睨まれてますよ~…)アワワ

神界の騎士『おー、妬んでる妬んでる。いい調子だ』

勇者(全然良くないですよ!?)

神界の騎士『よし、トドメだ!』

勇者『あ! 魔法使いさん、こちらにいたんですねー!!』

魔法使い「……」ギロ

勇者『踊り子さんと僧侶さんも一緒ですか…何か意外かも』

魔法使い「…どういう意味よ?」

勇者『だって、こういうお洒落なカフェって…』



勇者『ボーイフレンドとかと一緒に入りたいじゃないですか~!! 魔法使いさんくらい綺麗なら、1人や2人いらっしゃいますよね~?』

魔法使い「……」ビキビキ

神界の騎士『よっしゃあ、会心の一撃!!』

勇者(これ、もうまずいです……)シクシク

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/01(月) 18:57:36.44 ID:+gqJTuWP0
魔法使い「ボーイフレンドも何も…私、旅の最中だし? 旅先で捕まえたりとかありえないしー? ねぇ?」

踊り子「そう、ねぇ…」

魔法使い「あ、まさか勇者…今までも私達と別行動して、とっかえひっかえしてたのー!? やだー!!」

神界の騎士『お前がハブってたんじゃねーかよ』

魔法使い「大した女だわ~。まさかそんなビッチだとは思わなかった~」

神界の騎士『流石、気の強いこって。そんなら望み通り、負けてやろう』ニヤリ

勇者『ビッチじゃないですぅ~!!』エーン

魔法使い「…は?」

勇者『違いますもんねぇ~?』ウルウル

イケメンA「ひどいこと言うなー。勇者ちゃん、いっつもいじめられてたの?」

魔法使い「はぁ!? ちょっ、変な誤解……」

イケメンA「よしよし勇者ちゃん。あれはね、モテない女の僻みだよ」

魔法使い「」

イケメンB「女グループってモテる子を潰すって聞いてたけど、まさかマジとは…うわー」


魔法使い「」ビキビキ

僧侶「お、抑えて魔法使いさん…」

踊り子(魔法使いちゃんに同調したら私まで喪女扱いされるわ。スルーしとこ)

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/01(月) 18:58:19.42 ID:+gqJTuWP0
魔法使い「あんた魔王討伐の旅の最中でしょ!? そんな時に男2人も連れてヨロシクするなんて、ビッチもいいとこじゃないの!」

勇者『魔法使いさんたら、発想がやらしい~』

魔法使い「やらしいのはあんたの方でしょ!?」

勇者『違いますよ~。このお2人は情報屋さんですもの』

魔法使い「…へ? 情報屋……?」

イケメンA「そ。旅の指針の為に情報が欲しいって言われてね。それで、このカフェで話をしようってことになったのさ」

イケメンB「じゃ、俺たちは話をするんで」

魔法使い「………」


イケメンA「いやー、自分たちだって遊んでるくせに勇者ちゃんをビッチ扱いとは」

イケメンB「勇者ちゃんが可愛いから嫉妬してるんだよ、おぉ怖」


魔法使い「……」ビキビキ

僧侶「ま、魔法使いさん…ケーキ食べましょう?」

踊り子(あらまぁ魔法使いちゃんたらお気の毒)クス


勇者(この男の人達も、魔法使いさんを貶めて私を持ち上げるなんて、絶対良くないですよ…)

神界の騎士『おう。最低男の香りがしたから連れてきた』

勇者(ええぇー……)

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/01(月) 18:59:02.12 ID:+gqJTuWP0
>宿屋


勇者「あぁ、気まずいなぁ…」ズーン

神界の騎士『ほう? 見下し要員のままが良かった?』

勇者「そうじゃないですけど…」

神界の騎士『勇者ってマジでウジウジしてるよな~。お兄さんイライラしちゃうぞ~』

勇者「うぅ。どうせ私なんて……」

神界の騎士『…あのさぁ男視点で言うとさ』

勇者「……はい?」

神界の騎士『容姿だけなら勇者が1番可愛いぜ?』

勇者「!!!」

神界の騎士『さっきの男たちも言ってたじゃん。ウジウジしてなけりゃ、絶対に勇者が1番男ウケするんだって』

勇者「そ、そんな……」アワアワ

神界の騎士『あ、でもさっきの男たちは「あわよくばヤりたい」からチヤホヤしてただけだから。騙されないようにな』

勇者「……」ズーン

神界の騎士『まぁ、俺はその辺見抜くのは得意だから。お兄さんに任せなさい!』

勇者「むうぅ…」

神界の騎士『それより明日に備えて早く寝な! 男女関わらず、早寝早起きの健康体が1番!』

勇者「はい……」

勇者(明日から気まずいなぁ…)

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/01(月) 18:59:46.93 ID:+gqJTuWP0
>翌日


魔法使い「今日の小物はこれにしようかな~」

踊り子「魔法使いちゃんはお洒落に余念がないわねぇ」

魔法使い「まぁね~」

僧侶(正直、そんな細かい所誰も見てませんけどね)

踊り子(素の容姿だけで勝負できない子って大変ねぇ)


僧侶「おはようございま…す?」

勇者「お、おはようございます」

踊り子「あら…その鎧は?」

勇者「あっこれ…昨日、買ったんです…」

神界の騎士が選んでくれた鎧は、軽装鎧だった。
守る部分は手足、胸部、腰周りと、今までの装備よりは面積が小さいけれど、軽くて動きやすかった。

勇者(ちょっと恥ずかしいなぁ…)モジモジ

ヘソと太ももが出たデザインだったので、スパッツを履いて露出を抑えることにした。それでも体のラインが出るので、恥ずかしかった。
もうちょっと露出の小さいデザインがいいと言ったのだけれど…。

神界の騎士『勇者はスタイルいいんだから、見せつけてやろうぜ! それに、この程度なら全然やらしくねーって!』

そう言われ、押し切られてしまったのだ。

魔法使い「…今までの鎧の方が性能良かったんじゃないの?」

勇者(ううぅ、目が怖い)

神界の騎士『俺に任せろ』

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/01(月) 19:00:26.51 ID:+gqJTuWP0
勇者『動きやすさを重視しました。まぁ、確かに恥ずかしいんですけれど~…』

魔法使い「そうよね~、ヘソと太もも出るデザイン装備なんて、ビッチみたいで…」

勇者『ですよねー。だからスパッツ履いてごまかさなきゃいけないんですよー。私…スタイル良くないですから』

魔法使い「……は?」

勇者『魔法使いさんはいいですよね~、何を着ても や ら し く 見 え な く て』

魔法使い「」

踊り子「…プッ」

僧侶「お、踊り子さん」アワワ

踊り子「いや、だって…」クスクス

魔法使い「あ、あんたね…!!」ブルブル

勇者『それより昨日の情報屋さんに聞いたんですけど、首都周辺が最近色々物騒みたいですよ』

踊り子「首都周辺が? まぁそれは気になるわね」

勇者『でしょう? ちょっと行ってみましょう』

魔法使い「ちょっ、勝手に決めるんじゃ…」

踊り子「まぁいいじゃない魔法使いちゃん」

僧侶「あ…私もそれでいいです」

魔法使い「くっ」

神界の騎士『おぉ、力関係が徐々にこっちに傾いてきたぞ』

勇者(こうも簡単に…!?)

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/01(月) 19:00:55.84 ID:+gqJTuWP0
魔法使いの移動魔法により勇者一行は首都に戻ってきた。
久々に戻る故郷は懐かしく思えたが、どこかピリピリしているように思えた。

勇者「陛下…」

王「おぉ勇者よ、よくぞ戻った!」

僧侶「こちらが最近物騒だと耳に入りまして。何があったのですか?」

王「うむ。魔王軍幹部が付近に配属されたようでな…。首都周辺の魔物が強くなったのだ」

踊り子「まぁ、幹部が!」

王「幹部を討伐に行きたい所だが、騎士団も周辺の魔物から首都を守るので手一杯でな…」

その時、兵が広間に駆け込んできた。

兵「陛下、報告します! 敵の不意打ちにより、騎士団長殿が負傷されました!」

勇者「!! お父さんが…」

王「勇者、すぐに行ってやれ!」


41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/02(火) 18:24:01.07 ID:l6OZ/d3Y0
>城内・救護室


勇者「お父さん!」

救護室に駆け込むと、上半身に包帯を巻いた父がベッドに伏せていた。

騎士団長「おぉ勇者…久しぶりだな」

勇者「お父さん、お父さん……」ジワァ

騎士団長「なぁに、命に別状はない。しかし正直、こちらの状況はジリ貧だ…」

僧侶「やはり幹部を討たねば状況は改善されないでしょう」

踊り子「でも、騎士団ですら手こずっている状況だというのに…」

魔法使い「どうするのよ……」

勇者「……」

勇者「私達がやりましょう!」

魔法使い「はぁ!?」

騎士団長「勇者、お前の手に負える相手では…」

勇者「いえ、私達がやるしかない……。このまま黙って状況を見ていられません」

僧侶「勇者さん……」

踊り子「……」

勇者「…各自、準備をして1時間後中央広場で合流しましょう」

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/02(火) 18:24:33.29 ID:l6OZ/d3Y0
神界の騎士『よく言った、偉いぞ勇者』

勇者「…えうぅ」

神界の騎士『?』

勇者「怖いです…すっごく…グスッ」ブルブル

神界の騎士『…あぁそうだな、怖いよな』

勇者「グスッ、神界の騎士さん…私、貴方に頼るしかできない…」

神界の騎士『構わんよ』

勇者「私、こんなに情けなくて臆病なのに……皆に偉そうに命令なんかしちゃって…グスッ」

神界の騎士『何言ってんだ。自分が行く、って言えるようになっただけ成長じゃねぇの。お兄さん感心したよ~?』

勇者「うぅっ、グスッ…」

神界の騎士『俺に実体がありゃ頭を撫でてやるとこなんだけど…俺がすべきなのは、それじゃないわな』

勇者「グスッ、ヒック…」

神界の騎士『あとは任せな。お兄さんがパパッと解決してやるよ』

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/02(火) 18:25:13.28 ID:l6OZ/d3Y0
魔王軍幹部の居場所は西の山――そう情報を得た勇者たちは、早速山へと向かった。

勇者「――っ!!」

神界の騎士『オラオラオラーっ、雑魚は邪魔なんだよ!!』

勇者(怖い怖い怖い怖い怖い)

装備を変えた為か、動きは昨日よりも軽やかだった。
騎士団が苦労しているという魔物達を相手にしても、神界の騎士は苦戦する様子がない。

神界の騎士『はいはいはい、次切られたいのはどいつかな~?』

1匹、また1匹と切り伏せる。
正直、まだこの感触には慣れない。だけど――

勇者(逃げてちゃ駄目…ちゃんと向き合わないと)


踊り子「勇者ちゃんたら覚醒したわねぇ。とっても頼りになる」

僧侶「そうですね」

魔法使い「……」フン

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/02(火) 18:26:26.51 ID:l6OZ/d3Y0
>頂上


僧侶「情報によると、この辺に幹部がいるとのことですが…」

神界の騎士『…邪悪な力が漂ってやがるぜ』


“お前達、勇者一味だな?”


勇者「!!」

目の前で黒い霧が発生し、霧の中から全身鎧を纏った魔物が現れた。

魔剣士「俺は魔王軍幹部、魔剣士。魔王様に刃向かう危険因子は殺す」

踊り子「流石に強そうねぇ。勝てるかしら?」

魔法使い「…やるしかないじゃない」


勇者「…頼みましたよ、神界の騎士さん」

神界の騎士『任せろ!!』

神界の騎士は勇者に憑依し剣を抜く。
魔剣士の禍々しい魔力を前にしても怯むことなく、意気揚々と飛びかかっていった。


魔法使い「…っ、勇者に遅れをとらず行くわよ!!」

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/02(火) 18:27:01.53 ID:l6OZ/d3Y0
剣が合わさった金属音が高く響く。

神界の騎士(筋力は相手のが上――力押しできる相手じゃねぇな)

素早く判断した神界の騎士は、力で押し切るのは諦め、一旦跳躍し距離を取った。

神界の騎士(ここは手数で勝負だな!)

地面を蹴り、魔剣士との距離を一気に詰めた。
狙うは、全身鎧の隙間――関節部分。

魔剣士「…させるか!」カァン

神界の騎士(おー、なかなかやるねぇコイツ)

勇者の体で勝つのはなかなか難易度が高そうだ。
そう思いながらも、負ける気は微塵もない。


踊り子「時の精霊、召喚! 敵の時間を遅らせて!」

魔剣士「――っ」

魔法使い「一気にカタつけるわよ!! 喰らえ、大爆発!!」

神界の騎士(あ、バカ)


ドカアアァァン


魔法使い「やった!?」

勇者『いえ。油断しないで下さい』

魔法使い「え!?」

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/02(火) 18:27:46.05 ID:l6OZ/d3Y0
魔剣士「…無駄なことを」

魔法使い「…っ、無傷!?」

神界の騎士(無傷なだけなら良かったんだけど…)

勇者『3人とも、凄いのが来ますよ。魔法でできるだけ強力なシールドを作って下さい』

魔法使い「何を言って……っ!?」

魔剣士「ふん…」

突き刺さるような魔力が魔剣士から放たれていた。
それもそうだ――

勇者『魔剣士の鎧――魔力を吸収する効能があるようです』

僧侶「魔力を…!?」

勇者『いいから早く防御を――っ』

――危険を感じ、とっさに横に跳んだ。
勇者が立っていた場所で爆音が響いた。吸収した魔力を、返されたか――

魔剣士「今のはよく避けたな、褒めてやろう」

神界の騎士『剣だけでなく魔法の扱いも優れてるとは、厄介な奴だぜ。つーか…』


魔法使い「う…」

踊り子「魔法使いちゃん、大丈夫!?」

僧侶「今、回復魔法をかけます!」


神界の騎士『前に出てきたのが失敗だったな。ま、命拾いしたようで何より』

勇者「か…勝てるんですか?」ブルブル

神界の騎士『ん?』

勇者「あんなとんでもない敵を相手に、勝てますか……?」

神界の騎士『おいおい、やるっつったのは勇者だよな?』

勇者「そう…ですけど……」

魔法使いは王に選ばれただけあって、かなり優秀な魔法の使い手だった。今まで共に旅をして、彼女の強さはよく知っていた。
それだけに、こうも簡単に魔法使いがやられてしまう場面を見ると、恐怖心がこみ上げてきて――

神界の騎士『余計な心配すんな』

勇者「……?」

神界の騎士はそこに転がっていた、魔法使いの杖を拾い上げた。
一体何をするつもりだろうか…聞く前に違和感が発生した。

勇者(こ、これは…!?)

47 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/02(火) 18:29:12.24 ID:l6OZ/d3Y0
神界の騎士『魔力充電完了~』

彼は魔法使いの杖にこもっていた魔力を吸収し、剣に纏わせたのだ。
こんな人間業ではない芸当は出来れば封じておきたかったが――

神界の騎士『ま、そんなこと言ってられんわな。確実にあいつを討たないとどうしようもねぇ』

勇者「神界の騎士さん…?」

神界の騎士『心配すんな勇者。お兄さんがキッチリ、あいつに引導渡してやるからよ』


魔剣士に向かって駆ける。
こちらが剣を振り下ろせば、魔剣士はそれを剣で受け止める――

神界の騎士『――前に、退くっ!』

魔剣士「!?」

神界の騎士『そんでェ!!』

勇者の剣は魔剣士の胴を打った。しかし刃は鎧に受け止められ、魔剣士にダメージを与えない。

魔剣士「無駄なことを……――」

と、魔剣士は違和感に気付いた様子だった。

ドカァン!

神界の騎士『やっぱ吸収した魔力程度じゃ、大した爆発は起こせなかったか』

魔剣士「無駄だということを学習しなかったのか。魔力を返すぞ…――」

勇者『しまった! 皆、早く防御を――』



勇者『――なんてね♪』

魔剣士「――っ!?」


ドゴオオォォン


目の前で魔剣士が爆発し、鎧の破片が飛び散った。

48 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/02(火) 18:29:46.62 ID:l6OZ/d3Y0
神界の騎士『剣が鎧に当たった時…俺はあいつの鎧に仕掛けをした』

勇者「仕掛け…?」

神界の騎士『そう。“魔力を外に放出させないよう内に封じる”仕掛け。俺が起こした爆発はフェイク』

魔力は鎧の内側に封じられ、放出できずに鎧の内側で爆発が起こった。
鎧の中身は、爆発に耐えうるだけの耐久力はなかったようだ。

神界の騎士『まともに剣でやり合うより、こっちのが確実だった。…それよりお仲間さん大丈夫か?』

勇者「あ、あのっ、魔法使いさんはっ!」


魔法使い「うぅ…」

踊り子「大丈夫よ、意識は戻ったわ」

勇者「魔法使いさん…あの、大丈夫ですか」

魔法使い「…城に戻るわよ」

勇者「えっ?」

僧侶「お体の調子は…」

魔法使い「放っておいて! さっさと戻るわよ!!」


踊り子「もう、何なのかしら~?」

僧侶「さぁ…?」

神界の騎士『ヒスですねー、おぉ怖』

勇者「……」


52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/02(火) 22:53:03.00 ID:lDWdwVFko
戦闘では戦犯だし異性には喪女扱いされるし…いいぞ、もっとやれ
乙でした

54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/02(火) 23:23:11.22 ID:K2zzXYMz0
鎧の内側に爆発って魔剣士さんミンチじゃないですか

57 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/03(水) 19:55:03.41 ID:DAyh9BNS0
>城


王「よくぞ戻った!!」

勇者「あ、あの…私達、西の山で魔剣士を…」

王「あぁ、王宮魔術師の魔法で戦いの様子は見ていた。強くなったな、勇者よ!」

勇者「え、あ……」

王「褒美としてはささやかなものだが、今夜は城で晩餐を取ると良い。それまで体を休めておくのだ!」

勇者「あ、は、はい…」


神界の騎士『いいなぁいいなぁ、城の豪華飯いいなぁ~』

勇者「神界の騎士さん、私に憑依して召し上がります…?」

神界の騎士『マジでいいの!? お兄さん頑張った甲斐があったなー!』


魔法使い「……」スタスタ

勇者「あ、魔法使いさん…お体の方は」

魔法使い「何よ…。心の中でほくそ笑んでいるんでしょ」

勇者「え…?」

魔法使い「あんたは城の皆に勇姿を見せたけど、私は恥を晒しただけだわ。ざまぁ、って思ってるんでしょ!」

勇者『あ、はい』

魔法使い「…」ビキビキ

勇者「いえいえいえいえいえ、違いますっ!!」

勇者(神界の騎士さん~っ!!!)

神界の騎士『わり。つい本音がポロッと』

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/03(水) 19:55:31.46 ID:DAyh9BNS0
王子「やぁ子猫ちゃ~ん♪」

勇者「!」

魔法使い「!」

神界の騎士『お? 何だあのチャラいボンボンは』

勇者「お、王子様…」

神界の騎士『王子? へぇ、まぁ顔は確かに王子様って感じだけど』

王子「子猫ちゃんの活躍見てたよ~。まさか子猫ちゃんがあんなに強くなってるなんて、僕は感動したよ!」

勇者「は、はぁ…」

魔法使い「…」フン

王子「本当なら子猫ちゃんをあそこまで頑張らせなくても良いはずだったんだけど…ねぇ魔法使い?」

魔法使い「…っ!」

勇者「え?」

王子「子猫ちゃんがか弱いお姫様でいられるように、魔王討伐隊にはよりすぐりのメンバーを選んだはずなんだ。それがまさか、敵に一擊も与えられず倒されるなんてね…」ハァ

魔法使い「……」

王子「全く、恥を知りなよ? 君には魔法が優れている以外、何一ついいとこがないんだからさぁ」

魔法使い「~っ…!!」

王子「ねー子猫ちゃん? ところで今日の晩餐会の後、君に用が…」サワッ

勇者『…触るな』

王子「え?」

勇者『…』ゲシッ

王子「!!!」チーン♪

勇者『あら御免あそばせ~。変質者にはとっさに体が反応するようになりましたの』オホホ

王子「ウグググ……」

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/03(水) 19:56:01.77 ID:DAyh9BNS0
王子「全く子猫ちゃんたら…♪ ぼ、僕はちょっと用事を思い出したよ…」フラフラ

神界の騎士『股間抑えて歩く後ろ姿ってみじめですねぇ』オホホ

勇者「い、いいのかな…」

魔法使い「…っ」グスッ

勇者「……え?」

魔法使い「もー何なのよ…。最悪よ、王子もだけど……私はもっと最悪じゃない」グスグス

勇者「ま、魔法使いさん?」

魔法使い「…今までごめんなさい」

勇者「え?」

魔法使い「ごめんなさい…私、王子のことが好きで、王子に気に入られているあんたに冷たくしてたのよ。…さっきので恋心も冷めたけどね」

勇者「そ…そうだったんですか…」

神界の騎士『男を見る目が最悪だな。だからって正当化できる話じゃねーけどな』

魔法使い「今更謝って許されることじゃないとわかってるわ。でも…ごめんなさい」

勇者「……」

勇者「いえ、許しますよ」

魔法使い「…えっ?」

神界の騎士『えー』

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/03(水) 19:56:28.90 ID:DAyh9BNS0
神界の騎士『そう簡単に許していいのかよ。これ、勇者が見下し要員でなくなったから、しおらしくなっただけだぞ』

勇者「いいんです…魔法使いさんに冷たくされてる理由がわかって、良かったです」

魔法使い「良かった…って」

勇者「そりゃ冷たくされてて辛かったですけど…でもウジウジしていた私にも責任はあると思うんです」

魔法使い「そんなこと…」

勇者「それに…これ以上仲をこじらせても仕方ないですよ。一緒に魔王を倒しに行く…仲間なんですから」

魔法使い「勇者…」

勇者「…改めて、宜しくお願いしますね」ニコ

魔法使い「…えぇ。宜しくね」


神界の騎士『ま、勇者がいいならいいけどさ。お人好しだな、勇者って』

勇者「あはは…」

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/03(水) 19:56:59.55 ID:DAyh9BNS0
その日から、パーティーは変わった。

魔法使い「勇者! そっちをお願い!」

勇者「はい!」

勇者と魔法使いの連携が取れるようになり、パーティーの戦闘力が上がった。


踊り子「ねぇ、幹部の情報が2つ入ったけど、どちらを優先する?」

勇者「相談で決めましょう」

僧侶「そうですねぇ、私は…」

話し合いは平等に行われるようになり、それにより全員の不満が軽減された。


踊り子「さっき倒した魔物がこんなもの持ってたわよ~」

魔法使い「これは…魔法のレオタード! レアアイテムよ!」

僧侶「せ、性能は良さそうですが…」

勇者「こ、こんなの着て歩くんですか…!?」

魔法使い「よーし、じゃゲームで負けた人が着るってのはどうよ」

僧侶「えぇ!?」

勇者『魔法使いさんが着るとバストの布が余りますね』

踊り子「…アハハッ」

魔法使い「何ですってー!! 踊り子、あんたも笑うなあぁ!」

勇者(神界の騎士さん!?)アワワ

神界の騎士『事実を述べただけ~♪』

何より、パーティーの雰囲気が良くなった。

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/03(水) 19:57:29.48 ID:DAyh9BNS0
そんな感じで旅は順調に進み、倒した幹部の数も5人、勇者一行の名は広まっていた。

宿屋「これは勇者ご一行様。世界の為に戦う貴方達から料金は取れません、遠慮なく泊まって下さい!」


勇者「ふぅ…何かどこ行っても優遇してもらえるようになってきましたねぇ」

神界の騎士『これくれー当たり前だって。世界の為に命懸けで戦ってんのよー?』

勇者「何か申し訳ないです…戦っているのは私でなく神界の騎士さんなのに、私ばかり持ち上げられて…」

神界の騎士『あ、俺? 俺は別に名声とか興味ねぇから!』

勇者「でも…」

神界の騎士『それよりも女の子と体を共有できる方がお兄さんにとってはご褒美だなぁ、ウヒヒ』

勇者「も、もうっ!」

神界の騎士『ま、俺に体を預けてくれるだけで勇者は貢献してるんだしさ。気後れしなくて良いって』

勇者「…ねぇ神界の騎士さん」

神界の騎士『ん?』

勇者「どうして、私に力を貸して下さるんですか?」

神界の騎士『それ、今更聞く?』

勇者「聞く機会がないまま、ずっと過ごしてきちゃって…」

神界の騎士『んー…そうだな。ま、この機会に話しておくか』

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/03(水) 19:57:55.73 ID:DAyh9BNS0
神界の騎士『俺は昔、魔王に挑んだことがあるんだよ』

勇者「えぇっ!?」

神界の騎士『知っての通り魔王はご存命、つまり結果は俺の負け。あ、でもお兄さん結構いいとこまで行ったんだぜ~?』

勇者「えーと…でも神界の騎士さんもご存命ですよね?」

神界の騎士『どうなんだかなー…』

勇者「え?」

神界の騎士『俺は肉体を魔王に封じられて、魂だけの存在になった。これって幽霊みたいなもんじゃね?』

勇者「ゆ、幽霊!?」

神界の騎士『みたいなもん、だって。それに肉体を取り戻せば、俺は元のイケてるお兄さんに戻れるわけだし』

勇者「あ、でももし肉体を破壊されていたら…」

神界の騎士『神界の騎士の肉体は破壊されても再生可能なんだぜ。問題なし』

勇者「へぇ…それなら私より、神界の方々の方が勇者に相応しいのでは…」

神界の騎士「いや、魔王を倒せるのは神が見初めた勇者だけらしい。その辺のシステムは俺でもよーわからん」

勇者「私なんか、とても勇者になれる器じゃないのに…」

神界の騎士『いや、器はいいぜ?』

勇者「え?」

神界の騎士『俺は誰にでも憑依可能だけど、勇者程しっくり来る体の奴はいなかったからなぁ』

勇者「そ、そうなんですか」

神界の騎士『おう、俺と勇者の体は相性がいい!』

勇者「何かヤラシイです!」

神界の騎士『とにかく俺は神に仕える者として、また魔王にリベンジする為に協力しているわけだ。わかったら、安心してお兄さんに委ねなさーい!』

勇者「は、はい」

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/03(水) 19:58:21.42 ID:DAyh9BNS0
そして…

魔法使い「遂に来たわね、魔王城」

僧侶「ここに、魔王がいるんですね…」

踊り子「ふふ…何だか今までのことを考えると感慨深いわねぇ」


神界の騎士『おぉー、この感じ久しぶり! あー何か柄にもなく緊張しちまうぜ。な、勇し…』

勇者「」ガタガタガタガタ

神界の騎士『おいこら。しっかりせんかい!』

勇者「き、ききき来ちゃいましたねええぇぇ」ガタガタガタ

神界の騎士『あー駄目だこりゃ…。ま、気絶しててもいいぜ。その間に終わらせておくから』

勇者「ほ、ほんとですか…?」

神界の騎士『……ただし、お兄さんがイタズラしちゃうからな?』

勇者「やめて下さいよ~っ!」

神界の騎士『そっちこそ冗談を「ほんとですか」ってマジに受け取るんじゃねぇ!! 寝るなよ!!』


魔法使い「どうしたの勇者? 入りましょう」

勇者「うっ…ちょっ待」

勇者『さぁさっさと終わらせますよ!!』タッタッタ

踊り子「勇者ちゃんたら肝が座ってるわねぇ」

僧侶「えぇ、成長しましたね」


勇者(神界の騎士さああぁぁぁん、待って、ちょっと待ってええええぇぇ!!)ガタガタガタガタ

神界の騎士『前進あるのみ! ほら早速魔物のお出迎えだぜ!』


73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/04(木) 17:13:02.59 ID:i+BdEZpb0
踊り子「ここは任せて…〝魔神召喚”!!」

ズゴッバキッバキッ

僧侶「おぉ凄い、次々と魔物を蹴散らしていきますね」

魔法使い「よし道ができたわ! 進みましょう!」

神界の騎士『……ん?』

勇者「ど、どうかしました?」

神界の騎士『何か、このフロアから妙な魔力を感じるんだが…』

勇者「妙な魔力…? まさか、罠――」

と、言いかけたその時。


勇者「きゃあっ!?」

魔法使い「っ!?」

僧侶「えっ――」

踊り子「な…っ!」


瞬時、4人の姿はそこから消えた。

74 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/04(木) 17:13:43.57 ID:i+BdEZpb0
勇者「は、わわっ!?」

次の瞬間、勇者は見知らぬ場所にいた。
暗く広い部屋には、霧が不気味に流れている。

勇者「み、皆さーん…?」

神界の騎士『…どうやら別のフロアに飛ばされたようだな。あと気ぃ引き締めな、勇者』

勇者「え――?」


「待っていたぞ、勇者よ」


勇者「~~っ!?!?」

神界の騎士『この感じ…忘れちゃいねぇぜ。なぁ…?』


魔王「我は魔王――この世を暗黒に包む者である」


神界の騎士『リベンジしに来たぜ…魔王!!』

勇者「」


意気込む神界の騎士に反して、気絶寸前の勇者であった。

75 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/04(木) 17:14:11.65 ID:i+BdEZpb0
魔王「話は聞いているぞ勇者…その細腕で、我が魔王軍の幹部達を次々と切り伏せてきたようだな」

勇者「あ、ま、まぁ…」

魔王「そして幹部達を葬ってきたその剣で、今度は我の命を取る気らしいな?」

勇者「えーと…? どなたが言ったんでしょうねー…?」汗ダラダラ

魔王「だが我も甘くはないぞ…貴様が我に抱いている殺意を、そっくりそのまま返してやろう」

勇者「えーと、そっくりそのままどころか倍返しされる予感が…」

神界の騎士『しっかりしろや勇者ァ!! 気絶したらイタズラすっからなぁ!!』

勇者(無理ですよぉ!! あとは神界の騎士さんがやって下さいよおおぉぉ!!)

神界の騎士『ったく仕方ないなァ…せめて起きてろよ?』


魔王「随分弱気なことだな、勇者よ。我を前にして怖気づいたか…?」

勇者『ハァ? 調子こいてんじゃねーですよ、このクソジジイ様』

魔王「…何?」

勇者『話が長ぇんですよ、さっさとやろうじゃないですかぁ…殺し合いをよォ、ケケケ』ギロリ

魔王「ほう…?」


勇者(キャラ変わってますよ…?)

神界の騎士『ちょっとやってみたかったんだよねー、キ○ガイ殺人鬼』

76 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/04(木) 17:14:38.17 ID:i+BdEZpb0
魔王「そこまで言うなら…我の暗黒の力を喰らうが良い!!」

魔王の手から黒い塊が10発ほど放たれた。
あれはどんな魔法か――考える間もなく、神界の騎士は一直線に魔王へと向かう。

神界の騎士『こんな塊、無視だ無視!』

軽く跳躍し、次々と塊を回避する。

神界の騎士『隙間を縫えば回避なんぞ簡単――』

魔王「馬鹿め――誘い込んだのだ」

待っていたとばかりに魔王は、勇者に向かって衝撃波を放った。
これは罠だったのか――


神界の騎士『…バーカ、バレバレだっつーの』

神界の騎士は剣を抜き、そして――

神界の騎士『おらああぁぁ――っ!!』

衝撃波を、剣で真っ二つにした。


魔王「…ほう? まさか我の魔法を切れる人間がいたとはな」

神界の騎士『人間業じゃねぇってか? そりゃ人間じゃねぇからな~』

軽口を叩きながらも確実に魔王との距離を詰め――

神界の騎士『でりゃあぁ!!』


魔王の肩に、重い一擊を加えた。

77 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/04(木) 17:15:05.50 ID:i+BdEZpb0
魔王「…っ、貴様の技量を舐めていた。だが――」

魔王は今度は爪を肥大化させ、勇者の喉元を狙った。
神界の騎士はそれを剣で受け止める。

神界の騎士『…っと、流石に単純な力で勝負するには分が悪いな』

一旦跳躍し魔王との距離を空ける。

神界の騎士『距離を空ければ、魔王が取る手段は――』

魔王「我からは逃げられんぞ…」バチバチッ

魔王は手の中に雷を召喚をする。
それを見て神界の騎士は――

神界の騎士『待ってましたァ!!』

歓喜した。

魔王「覇ァ!」

勇者の周囲を囲むように雷が襲いかかってくる。雷をなぎ払うことも、回避することも不可――に見えた。
神界の騎士は動じず、ただ黙って剣を高く掲げた。

そして――

魔王「!!」

神界の騎士『美味い魔力を、ご馳走様…♪』

剣は、魔王が放った雷を纏っていた。

神界の騎士『おらあぁ――ッ!!』

神界の騎士は意気揚々と魔王を切りつけた。
バチバチという電気音と共に、魔王の傷口からは焦げた匂いが漂った。

78 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/04(木) 17:15:35.57 ID:i+BdEZpb0
勇者(す、凄い…)

先ほどからただ神界の騎士に任せていた勇者だったが、信じられない気持ちで一杯だった。
神界の騎士の強さは知っていたが、それでも魔王相手ともなると、1対1では厳しいものがあるだろうと思っていた。

勇者(なのに――)

神界の騎士『手応え十分…』

神界の騎士は対等――いや、それ以上に魔王と渡り合っていた。

勇者(神界の騎士さん凄い! もしかして本当に…魔王を倒せちゃう!?)


魔王「……」

魔王「どうも戦い方が人間離れしていると思ったが…思い出したぞ」

勇者「…え?」

魔王「貴様…我がその肉体を封じた、神界の騎士だな?」

神界の騎士『おーや…バレちまった』

魔王「そうか、神界の者は肉体を封じても、魂は自在に動き回れるのだったな。だが――」

次の瞬間、魔王から強い魔力が放出され――

神界の騎士『――っ』

その魔力がフロア全体を包み込んだ、と同時――


勇者「…っ!? あ、あれ……?」

魔王「フ…これでどうだ」

勇者「え…あ……」

神界の騎士の気配が、その場から消えた。

79 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/04(木) 17:16:04.93 ID:i+BdEZpb0



魔法使い「今、強い魔力を感じたわ! こっちよ!」

僧侶「勇者さん無事でしょうか…」

踊り子「あっ、あれ!!」

魔法使い「!!」


遅れて駆けつけた魔法使い達が見たのは――


魔王「さぁ無力な勇者よ、死ねぇ――っ!!」

勇者「――っ」


魔法使い「いけない、届け炎魔法!!」

僧侶「聖なる矢!」

踊り子「精霊召喚!!」


勇者に襲いかからんとする魔王に向かい、遠距離攻撃を放ったが――


魔王「無駄だあぁっ!!」


魔法使い「きゃああぁぁ!?」


フロア全体に強い揺れが生じ、その場にいた全員が吹っ飛ばされた。

84 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/05(金) 19:03:38.29 ID:AkYriVYm0
魔王「まずは貴様からだ。仲間たちもすぐにお前の後を追わせてやろう」

勇者「あ…あぁ……」

魔法使い「く…勇者…!!」


勇者(怖くて、動けない……)

勇者(やっぱり私は駄目だ…神界の騎士さんに頼らないと、何もできない…)

勇者(世界を、救えない…!!)ギュッ


諦めるようにして覚悟を決めた。
魔王はそんな勇者の様子を察してか、ニヤリと上機嫌に笑った。


魔王「さぁ死ね、勇者ぁ――っ!!」

勇者「――っ」

その時、勇者に異変が起こった。
ある意味、頭は混乱に近かった。だが一方で冷めた自分がいて、衝動的に体が動いて――


カキィン


魔王「な――っ!」

勇者は剣で、魔王の爪を受け止めていた。


勇者(見える…魔王の動きが!?)

85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/05(金) 19:04:05.42 ID:AkYriVYm0
思えば――


神界の騎士『オラオラオラーっ、雑魚は邪魔なんだよ!!』

勇者(怖い怖い怖い怖い怖い)


神界の騎士の戦い方を誰よりも近くで見てきた。

勇者(まさか…神界の騎士さんの戦い方が、私の体に刻まれて…?)

魔王「今のは偶然だ…!! 喰らえ――っ!!」

勇者「はっ!」

今度は跳躍し、魔法を回避した。
今ので勇者は確信した。

勇者(私…戦える!)

勇者「魔法使いさん、踊り子さん、僧侶さんっ!!」

魔法使い「!」

勇者「援護お願いします! 私…やります!!」

魔法使い「…言われなくてもそのつもりよ!」

踊り子「ちょっと体は痛いけど、まぁ動けるわ」

僧侶「ここは踏ん張り所ですね!」

自分は、神界の騎士のように1人では戦えない。
だから全員の協力を得て、確実に魔王を討つ――…!

86 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/05(金) 19:04:34.73 ID:AkYriVYm0
僧侶「聖なる力で皆さんを強化します…さぁ、全力でどうぞ!」

魔法使い「喰らいなさい、超本気・爆発魔法!!」

魔王「く…」

踊り子「それで終わりじゃないわよ…大魔神ぱ~んちっ!!」

魔王「!!」

連続攻撃で魔王の体は吹っ飛ばされる。
その先を、勇者は先回りしていた。

勇者「でやっ!!」

魔王「ふんっ!」

勇者の一擊を魔王は爪で受け止めた。
もう片方の手の爪でそのまま勇者の喉元を狙ったが――

勇者「…っとぉ!」

勇者はそれをギリギリ回避。元々身軽ではあるが、僧侶の強化魔法のおかげで回避できた。

勇者(やっぱり怖い…けど、このまま押す!!)

勇者は再び魔王に一擊加えようと剣を振り上げた――が、

魔王「遊びはここまでだあぁ――っ!!」

勇者「っ!!」

瞬時、本能的に身の危険を感じ、後方へと跳ねた。

87 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/05(金) 19:05:06.04 ID:AkYriVYm0
魔法使い「勇者! 魔王に近づいちゃ駄目!!」

後ろから魔法使いが大声をあげる。

魔法使い「そいつ、触れるだけで精神を蝕む魔力を纏っている! 勇者は下がってなさい!!」

勇者(なっ…)

咄嗟に感じた身の危険は、やはり当たっていたようだ。


魔法使い「距離をとって攻撃するわよ…喰らえ爆発魔法!!」

踊り子「魔神召喚!」

僧侶「聖なる雨!!」


魔王「無駄だ…!!」ゴォッ

僧侶「…!! かき消した!」

魔法使い「まさか…あの魔力は魔王自身を守る鎧ともなり得るわけ…!?」

踊り子「それじゃあ、攻撃しようがないじゃない!」

魔王「驚くのはまだ早い…この魔力を広げることも可能なのだぞ?」

勇者「!!」

触れるだけで精神を蝕む魔力――そんなものを喰らえばきっと、戦いどころじゃない。

魔王「喰らうがいい!!」

勇者「――っ!!」

88 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/05(金) 19:05:33.89 ID:AkYriVYm0
魔力はみるみる広がっていく。

魔法使い「逃げて、早くっ!!」

逃げても、きっと逃げ切ることはできない。
それなら――

踊り子「…勇者ちゃん?」

精神を蝕む――それは一体どんなものなのか、よくわからないけど。

勇者「…突っ込みます!」

魔法使い「はあぁ!?」

魔王「…ほう?」ニヤリ

勇者「そうでもしないと魔王は倒せません…!」

僧侶「本気…ですか!?」

魔王「面白いぞ勇者…! ならば来い!!」

勇者「そう簡単にやられませんよ…」

いつも駄目な自分だったから。
こういう時くらい、強い精神でいなくてどうする。

勇者「絶対に、負けないんだから!!」




「――よく言った」



――えっ?

89 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/05(金) 19:06:02.26 ID:AkYriVYm0
魔王「――っ!?」

視界に人影が映った。
その人影は魔王の背後に回り、手にした刃を魔王に振り下ろした。

魔王「っ!!」

魔王は刃を爪で受け止める。
その刃を振り下ろしている男を、勇者は見た。

勇者「貴方は――」

「やっぱ勇者たるもの、そうじゃないと…な?」


大人っぽい顔立ちに浮かべる、懐っこい笑顔。
その顔は初めて見るけれど、抱いていた印象そのままで――


勇者「神界の騎士さん――ですね?」

神界の騎士「おう! お兄さん、戻ってきたぜ!」

90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/05(金) 19:06:56.68 ID:AkYriVYm0
魔王「クッ…貴様、どうやって!」

神界の騎士「お前に封じられていた肉体を取り戻しただけだよ。お前が魔力を大分消費してたお陰で、封印の力も弱まっていたぜ」

魔王「何故、この魔力の中にいて平気なのだ…!!」

神界の騎士「神に仕える者の精神力をナメてもらっちゃー困るな」

ニヤリと笑うと神界の騎士は、再び勇者を見た。

神界の騎士「おい勇者、決着つけるぞ!!」

勇者「…はい!」

返事をすると同時、神界の騎士は剣を振り上げた。
彼が何をしようとしているのかはわからない。わからないけど、勇者は走り出していた。

わからなくても、読める――

勇者(だって私と神界の騎士さんは、ずっと一緒にいたんだから…!!)


神界の騎士「オラアアァッ!!」

神界の騎士が剣を思い切り振り下ろすと、魔力が割れた。
その魔力の割れ目が魔王までの道を作り出し――勇者は迷わず駆けた。

神界の騎士「行け、勇者ぁ――っ!!」

2人同時に剣を振り下ろす。
息の合った剣――まるで、神界の騎士が自分の体にいた時のように、自然に体が動いて。


魔王「――ガハッ」

魔王の胸を貫いた感触も、2人で共有しているかのような錯覚が頭にあった。

91 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/05(金) 19:07:50.86 ID:AkYriVYm0
魔法使い「魔王を、倒した…!?」

踊り子「やったわ…やったのよ!!」

僧侶「勇者さんが、勝った!!」

仲間たちから歓声が上がる。
それでようやく現実に戻ったような気になった。

勇者「魔王を…倒した……!?」

とんでもない事実に、後から感情が追いついてくる。
倒した。この自分が、魔王を。

勇者「あ、わわわ……」ブルブル

神界の騎士「おいおい、もうちょっと締まった顔しろっての」

勇者「だ、だだだって……」

神界の騎士「ま…それでこそ勇者だけどな」


魔法使い「勇者」

勇者「あ…皆さん、無事でしたか?」

踊り子「えぇ、お陰様で。ところで、その方はどなた?」

勇者「そ、そうでした! 皆さんに全部説明しま…」

僧侶「あっ!?」

勇者「え?」

僧侶が声をあげて、その視線の先――神界の騎士の方に振り返った。

勇者「神界の騎士さん…!?」

神界の騎士の体は、透過していた。

92 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/05(金) 19:08:18.02 ID:AkYriVYm0
神界の騎士「俺の役目が終わったみたいだ」

勇者「役目…!?」

神界の騎士「あぁ。俺は神界に戻らないといけない」

勇者「!!」

そんな、せっかく会えたのに――

勇者「嫌です、行かないで下さい!! 私、貴方に言いたいことが沢山――」

神界の騎士「そういうこと言わない。お兄さん、心残りができるでしょーが」

勇者「だって、だって…」

神界の騎士「お兄さんはいつでも、神界から勇者を見守ってるぞ。だから――」

勇者「!!」


――悲しむ必要なんて、ないから……


魔法使い「…消えた……」

踊り子「神界……?」

僧侶「勇者さん、彼は…」

勇者「…っ」

魔法使い「…勇者?」

勇者「ひっく、やだぁ…うあああぁぁ――っ!!」


神界の騎士さん、ごめんなさい。やっぱり私、泣かずにいられません。
だけどいつか、貴方がいない日常を受け入れますから――

だから私を嫌わないで、見守っていて下さい。

93 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/05(金) 19:08:44.40 ID:AkYriVYm0



勇者「ふぅー」

魔王を倒してから数ヵ月。季節はすっかり冬。
白い息を吐きながら、勇者は雪道を歩く。

「勇者ちゃん、こんにちは! 遊びに行くのかしら?」

勇者「こんにちは。ちょっと魔法使いさん達に、お茶に誘われまして」

「あら、そう。女の子同士、楽しんでいらっしゃい」

平和になった世界で、勇者は普通の少女に戻って日常を過ごしている。
魔法使いらのお陰で友人も増え、充実した毎日を送っていた。

勇者(だけど――)

心のどこかに寂しさを覚えていることは、きっと誰にもわからないだろう。

勇者(あ、時間より早く来すぎちゃった)

勇者(どこかで暖を取りたいわ、どこで…あっ)

ふと目に入ったのは教会。
ここなら待ち合わせまでの間、暖を取れる。

勇者「お邪魔しま~す…」

教会の中は無人だった。

94 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/05(金) 19:09:11.04 ID:AkYriVYm0
勇者「ふぅ、あったかい…それにしても」

祭壇を前に気持ちが引き締まる。
教会は神に近い場所と言われているが――

勇者(…何だか、あの日を思い出すわ)

あの日、自分は泣き言を言いに教会を訪れた。
当時の自分には、あの状況が辛くて辛くて。

勇者(でも、彼のお陰で変わることができた)

彼が助けてくれたから。だから自分も変わることができた。

勇者「神界の騎士さん…私の言葉は届いていますか?」

勇者「私、きっと剣の道には戻らないでしょうけど…でも貴方のお陰で、色んな強さを身につけることができました」

勇者「もし、願いが叶うのなら――」

勇者「また、貴方に会いたいです…」





「いいよ」


勇者「……えっ?」

95 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/05(金) 19:09:40.41 ID:AkYriVYm0
勇者「――っ!!」

空からズドンと何かが降ってきた。
そして降ってきた“彼”はこちらを見るなりニヒッと――

神界の騎士「よっ!」

懐っこい笑顔を見せた。

勇者「……」

神界の騎士「おやおや? どした、ボーっとしちゃって」

勇者「神界の騎士、さん…?」

神界の騎士「そうだよ? あれ、まさかお兄さんの顔うろ覚え?」

勇者「な、ななな何、で……」

神界の騎士「下に降りたいって神に言ったら、いいよって言われたから」

勇者「………」

神界の騎士「勇者?」

勇者「…神界の騎士さあぁ~ん」グスッ

神界の騎士「ぬっ!?」

96 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/05(金) 19:10:07.79 ID:AkYriVYm0
神界の騎士「おいおいおい勇者ぁ、強くなったんじゃなかったのかぁ?」

勇者「グスッ…なりましたよ、強くなりました…。神界の騎士さんの、ばか」

神界の騎士「ばかって何だよ、ばかって~。お兄さんも流石に傷つくぞ~」

勇者「私だって傷ついてましたから、おあいこですよ~だ!」

神界の騎士「うわちゃー、確かに強くなったなぁ。…やっぱ女ってコエー」

勇者「ふんだ」

神界の騎士「悪かった、お兄さんが悪かった。勇者の言うこと聞くから、そうむくれないでくれ」

勇者「…本当に聞いてくれます?」

神界の騎士「あ、あぁ。勇者のことだから非常識なことは…言わない、よな?」

勇者「それじゃあ…」

神界の騎士「……」ドキドキ

勇者「…また、一緒にいてくれますか?」

神界の騎士「何だ、そんなことか」

勇者「今までいなくなっていたくせに」ジー

神界の騎士「悪かったってば! はい、小指」

小指と小指を絡めて約束する。
思えば、直接触れ合うのはこれが初めてだったか――そう思ったら、小指を離すのが惜しくなって。


神界の騎士「約束するよ…これからもずっと、勇者の側にいる」

交わした約束は尊く、触れ合いは心の隙間を埋め、今この瞬間に幸せを感じていた。


Fin

97 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/02/05(金) 19:10:33.75 ID:AkYriVYm0
ご読了ありがとうございました。
当初は恋愛作品書こうとしてたのに予定がズレました(´・ω・`)

過去作も宜しくお願いします。
http://ponpon2323gongon.seesaa.net/

98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/05(金) 20:03:35.57 ID:U/cQxwDV0


posted by ぽんざれす at 20:30| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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