2015年10月08日

女勇者「勇者よりも、お姫様になりたかった」

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1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/30(水) 19:24:56.04 ID:Kfzyy5RB0
※女性向けな気がします。


2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/30(水) 19:25:25.67 ID:Kfzyy5RB0
城内を行き交う淑女たちの声は明るい。
今日のパーティーの為にした目一杯のお洒落は、彼女らの心まで装飾する。

令嬢「あら勇者様、ご機嫌よう」

勇者「ご機嫌よう」

すれ違う人達に挨拶されるのは今日の主役。
この世界を救う為に日夜戦い続ける少女、勇者。

今日はこの勇者を労う為のパーティーが開かれるのである。

令嬢「素敵なお召し物ですわ、勇者様」

勇者「あぁ、これ? デザイナーのことはよくわからないけど、家の者が特注してくれたんです」

令嬢「勇者様の凛々しさが際立つ、見事なデザインです。これで勇者様が男性なら、私の心を虜にしたことでしょう」

勇者「…ありがとうございます」

凛々しい――その言葉を受け入れて、表情は崩さない。凛々しいは、男装に身を包んでいる勇者への最高の褒め言葉だろう。
純粋な笑顔でそう口にした令嬢の後ろ姿を見送りながら勇者は思う。

美しいのは、貴方の方だと。

勇者(ドレス…いいなぁ)

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/30(水) 19:25:51.35 ID:Kfzyy5RB0
一世紀程前、魔王を名乗る者が人間達に攻撃を仕掛けてきた。
それまで魔物すらいなかった世界に突如現れた、人間の『天敵』である。

人間達は総力を上げて魔王に立ち向かったが、魔王率いる軍勢は圧倒的な強さで人間達を蹂躙した。

一族当主「国々は争いで疲弊し、次々と白旗を上げていく中――女神を祀っていた一族の者が、女神の加護を受け、魔王に立ち向かった」

それが『勇者一族』の始まりである。

一族当主「魔王は勇者に討たれる前に予言した。『後に、我の意思を継ぐ者が再び現れ、世界を蹂躙するだろう』と」

勇者「はい――そして我々『勇者一族』は魔王との戦いに備え、その技を磨いてきた」

一族当主「我々一族の中で、最も女神の加護を強く受けているのはお前だ」

勇者「……はい」

一族当主「一族の者を率いて、必ずや魔王を……!」

勇者「……」

わかっている。幼い頃から何度も聞かされてきた言葉。

その為に自分は修行を続けてきた。
自分の性――女であることを、抑圧してまで。

勇者「必ずや魔王を討ち取ります」

それが使命なら、果たさねば世界を裏切ることになる。
我慢は、もう慣れた。

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/30(水) 19:26:19.78 ID:Kfzyy5RB0
勇者(いいなぁ…いいなぁ……)

遠目で招待客の女性達が身につけているドレスを眺める。
フリフリに、キラキラ。それを身につけている女性達は誰もが可愛らしく、美しい。

勇者(レースやリボンをふんだんに使ったデザインが好きかな~…薄いピンクだと可愛いよね~。あとアクセサリーは~…)ニヤニヤ

王子「やぁ、勇者。ニコニコご機嫌だな」

勇者「わわっ、王子様!?」

ドレスに見とれていた勇者は、王子の接近に気がつかなかった。
接近してきたのが暗殺者なら、危ない所だった。

勇者「きょ、今日は、わ私の為にこのような催しを、あり、ありっ…」アワアワ

王子「はは、慌てるな」

今日のパーティーの開催を王に提案してくれたのは、この王子だと聞いた。

王子「これ位はやらないと、勇者に申し訳が立たない」

勇者「わ、私には勿体無いお言葉…です……」

王子「とんでもない。勇者は人々の為に戦っているのだ、この程度じゃ足りない位だ」

勇者「………」

気さくに笑う王子の笑顔は、美しく、優しい。
将来この国を背負って立つ、この若き人格者は人々、特に女性達からの人気が高い。

勇者(王子様……)

そして勇者もご多分に漏れず、密かに王子のことを想っていた。

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/30(水) 19:26:52.95 ID:Kfzyy5RB0
王子「……それにしても、今回の魔王は曲者みたいだな」

王子はそう言いながら歩き始めた。
話を続ける為、勇者は彼について行く。

勇者「手下の魔物を仕向け、自身は身を隠しています。未だ所在も掴めず、申し訳ありません」

王子「焦る必要はない。だが、何を企んでいるかわからないのが不気味だ」

戦い始めて半年経つが、未だ所在の手がかりすら掴めぬ『宿敵』。
魔王は最悪のタイミングでこちらを出し抜いてくるのではないだろうか。この現状も、魔王の掌の上で踊らされているだけなのではないだろうか。そんな不安に苛まれる。

勇者「……私は、魔王に勝てるでしょうか」

王子「弱音か?」

勇者「い、いえっ! 失言です、お忘れ下さい…」

王子「ははは気にするな。勇者だって人間なのだから。私の前では、弱音くらい吐いても良い」

勇者「…っ」

王子「でも」

王子は途中にあったドアのノブに手をかける。
その部屋には、勇者も何度も足を踏み入れたことがある。その部屋は――

王子「あれをご覧」

部屋のドアが開き、2人は『それ』を見上げた。

6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/30(水) 19:28:00.76 ID:wx/udULMo
勇者ちゃん可愛い

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/30(水) 19:28:17.03 ID:Kfzyy5RB0
そこは先代の勇者が持ち帰った品々を置いてある部屋だった。
王子が見上げた先にあるのは剣――先代の勇者が魔王を討った時に使ったという代物だ。

使い古された上、製造技術も今より遅れていた時代に作られたその剣は、武器としてはもう使い物にならない。
それでも――

勇者「あの剣は、我が一族の誇りです」

見ると気が引き締まる。
あの剣には、先代の勇者が戦ってきた『歴史』が刻まれている。

王子「いずれ君の剣も、あの横に飾るつもりだ」

勇者「王子様……」

王子「君も勇者として名を残すのだ。私はそうなる未来を信じている」

未来。それは不確かなもの。
それでも王子は、信じると言ってくれた。

勇者「私も、信じます――」

それだけで勇者は、戦う決意を強く抱くことができた。

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/30(水) 19:29:41.61 ID:Kfzyy5RB0



パーティーは滞りなく進行した。
仲間達(同じ勇者一族の出身で、勇者の親戚)も各々、酒や料理で舌を唸らせ、楽しんでいる模様。

勇者(あの髪飾り可愛いなぁ……)

自分の外見で唯一女らしい(と思っている)長い髪は、地味なリボンで簡単に纏められているだけだ。

勇者(ちゃんと綺麗に結って、可愛い髪飾りつけて、それでドレスとか着たら……)



王子『見違えたぞ勇者…人々の為に戦う君も、可愛らしい一人の女性だったのだな』

勇者『王子様…これが私の本当の姿です。貴方の為に、私……』

王子『あぁ勇者…もっと近くでその姿を見せておくれ……』



勇者(なんちゃってなんちゃってなんちゃってー!!!)

勇者(って、いかんいかん。顔を引き締めて……)グググ

招待客A「勇者様の顔が険しい……」

招待客B「こんな時でも気を抜かないとは、流石勇者様だ……」

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/30(水) 19:30:32.75 ID:Kfzyy5RB0
賢者「勇者さぁ~ん、どうしたのぉ。そんなしかめっ面しちゃってぇ」

既に酔っ払っている仲間が近づいてきた。

勇者「何でもない。それより賢者、たるみすぎ」

賢者「たまにはいいじゃないですかぁ~。こういう時くらい、楽しまなきゃあ」

勇者「敵襲があったらどうするの」

賢者「大丈夫でーっす、私の大魔法でパパーっと片付けちゃうもんねぇ~」

勇者(お酒好きなくせに弱いんだから…)

この賢者、これでも普段は堅物なのである。

勇者「そんなに泥酔してちゃ、ダンスには出られそうにないね」

賢者「ダンスぅ? なんですかそれ~」

勇者「あれ、聞いてなかった? もう少ししたらダンスが始まるんだよ」

賢者「へぇ~そうなんだ~。まぁ私、ダンスは見てる方が好きですからぁ。じゃあ、いい観覧席を確保しときますかぁ~」

勇者「うん、また後でね」

勇者(……そうか、踊らないんだ)

普段の賢者はローブ装備だが、今日はパーティーに合わせて『大人の女性』といった格好をしている。
同じ一族出身でも、男らしく育てられた自分と違い、彼女は女性らしさを制限も抑圧もされずに育ってきた。

だから、何というか、こう……

勇者(私が賢者だったら、普段からもっと可愛い格好するし、ダンスにも出るのに!! あぁ何て勿体無いんだ!!)

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/30(水) 19:31:00.64 ID:Kfzyy5RB0
勇者(私も踊ってみたいけど…)

自分のこの格好では出られそうもない。出られたとしても、男役だ。

改めて周囲の、ドレスを着飾った女性達を見る。彼女らがダンスフロアを舞う光景は、さぞ華やかであろう。
ダンスが始まれば、彼女たち一人一人がお姫様になるのだ。

羨ましい。正直、そんな気持ちはある。

勇者(でも、そんなことに気を取られている場合じゃない……)



王子『君も勇者として名を残すのだ。私はそうなる未来を信じている』



勇者(王子が私を応援してくれているんだから)

勇者(だから今は――我慢、しなくちゃ)

勇者「……あれ?」

急に思い出して、勇者はキョロキョロ周囲を見渡した。

勇者(王子…どこに行ったのだろう)

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/30(水) 19:32:43.77 ID:Kfzyy5RB0
まだダンスパーティーまで時間がある。
勇者はそっとパーティー会場を出た。

勇者(王子、ダンスは出ないのかな?)

兵士「勇者殿、どなたかお探しですか?」

勇者「あっ、いえ、ちょっと外の空気を吸いに」

正直に言えず、適当に誤魔化す。
もしかしたら王子は外にいるかもしれないと、勇者は庭の方に出た。

勇者(ここは静かだなぁ)

特別パーティー会場をうるさいとも思わなかったが、こう静寂に包まれた場所に身を置くと落ち着く。

勇者(…そう言えば、夜のお城は初めてかも)

庭の風景を見渡す。庭師が毎日手入れをしている花壇や、一流の職人がデザインした彫刻品が、月夜に照らされ幻想的な美しさを醸し出している。
深夜、人々が寝静まった頃に、妖精達が集まって踊りだす――そんな光景が目に浮かぶようだ。

勇者(何だかロマンチックだなぁ。こういう場所で――)

「愛しています」

勇者(そう、王子に愛の言葉を――って、え?)

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/30(水) 19:34:37.27 ID:Kfzyy5RB0
声のした方に目をやると、バルコニーに王子がいた。

勇者(王子……?)

暗くてよく見えないが、他にもう一人いる。
勇者は目を凝らし、その光景をじっと見た。

勇者(あ、あの方は――)

姫「……」

見覚えがある。以前立ち寄った国の姫君だ。
小柄で大人しく、年齢よりも幼い雰囲気を持つ姫君だった。

勇者(お姫様も招待されてたんだ……あれ? 王子、さっきお姫様に……)

王子「もう一度言います――愛しています、姫様」

勇者「っ!?」

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/30(水) 19:35:03.28 ID:Kfzyy5RB0
姫「勿体無いお言葉でございます、王子様」

姫は俯きがちに答えた。

姫「私のような小国の姫は、貴方に相応しくありません。ですから……」

王子「姫様。貴方の私への気持ちをお聞かせ願えませんか?」

姫「それは……」

王子「貴方がわずかにでも、私に気持ちを抱いて下さるのなら、私はどの様な障害も取り払ってみせます。貴方の気持ちを、是非……」

姫「……私も」

姫はゆっくり顔を上げ、王子の目を見据える。

姫「私も、貴方を愛しています……王子様」

王子「姫様……」


勇者「……っ」

その光景を見ていられず、勇者はそこから静かに立ち去った。

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/30(水) 19:35:50.56 ID:Kfzyy5RB0
今の顔を誰にも見られたくなくて、勇者は人のいない場所――先ほど王子と訪れた部屋に向かっていた。
足早に歩きながらも、頭の中でぐるぐると色んな想いが渦巻く。


勇者(王子は――)


王子『愛しています、姫様』


勇者(そう…だよね、好きな人、いるよね)


王子『貴方がわずかにでも、私に気持ちを抱いて下さるのなら、私はどの様な障害も取り払ってみせます』


勇者(お姫様のこと、本当に好きなんだ……)


王子『とんでもない。勇者は人々の為に戦っているんだ、この程度じゃ足りない位だ』

王子『ははは気にするな。勇者だって人間なのだから。私の前では、弱音くらい吐いても良い』

王子『君も勇者として名を残すのだ。私はそうなる未来を信じている』


勇者(そう…王子は『勇者としての私』に期待しているだけだ)

勇者(それで……物凄く、優しいんだ……)

勇者(……私、舞い上がっちゃって。馬鹿みたい……)

勇者「う、うぅっ……」


部屋の中に足を踏み入れると、勇者は嗚咽を漏らした。

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/30(水) 19:36:54.66 ID:Kfzyy5RB0
姫『私も、貴方を愛しています……王子様』


勇者(お姫様……)

可愛らしい姫君だった。小柄で、大人しく、守ってあげたくなるような女性だ。

勇者(私とは、何もかもが正反対……)

幼い頃から修行に明け暮れ、立派に成長した体。
常に力強い存在であれと、すっかり様になった男装。
豆だらけの手。生傷の絶えない体。

勇者(私は、勇者だから……)

見上げると、先祖の剣が目に入った。
人々の為に立ち上がり、戦い、魔王を討ち取った勇敢な先祖は、誇りだった。だが――

勇者(可愛くしていたい。ピンク色の服を着て、髪を綺麗に結って、アクセサリーで装飾して、毎日お風呂に入って香水をつけて……)

勇者(……一人の男性を愛して、愛されたい――)

勇者(私は――)

自然と足が進み、剣に距離が近づいていく。
一族の誇りである剣――だが今は、それが『呪縛』のようなものに見えて――

勇者(勇者よりも、お姫様になりたかった……っ!!)

その想いをぶちまけるように、勇者は壁を殴った。

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/30(水) 19:37:37.52 ID:Kfzyy5RB0
カラーン

勇者「あっ」

壁を殴った衝撃のせいか、剣が目の前に落ちてきた。
勇者は我に返って慌てた。

勇者「こ、壊れてないよね!?」

剣を手に取ってじっくり見る。
一族の誇りを壊したともなれば、大変なことだ。

勇者「あぁ良かった……壊れてない」

?「痛いな~」

勇者「……え?」

空耳か、それとも外の声か……と、思ったその時。


?「あーうー…頭ぶっけた……」

勇者「え、えぇっ!?」

いつの間にか、少年が目の前に立っていた。
少年は文句を言いたげに頭を摩っている。

勇者(あれ、でもこの人……)

普通の人間じゃない。何故なら彼の体は、半透明になっていたから。

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/30(水) 19:38:08.65 ID:Kfzyy5RB0
勇者「幽霊かっ!?」

勇者は後方に大きく跳躍し、警戒する。
幽霊に遭遇のは初めてだが……。

勇者(悪霊だとしたら、この場から退散し僧侶と賢者を呼ぶ…物理攻撃が効かない相手なら、私は手を出せない)

?「幽霊…あ、もしかして俺? えっ!! 君っ、俺の姿見えるの!?」

幽霊少年は嬉しそうに詰め寄ってきた。
勇者はつい咄嗟に身構える。

精霊「あ、安心して。俺は~…剣の精霊! 怖くないよ~」

勇者「剣の…精霊?」

精霊「そ。わかったらナデナデしてよナデナデ。頭痛いの、ほーらっ」

勇者「わっ」

精霊はやや強引に勇者に頭を差し出してきた。
この感触――普通に実体があり、幽霊ではない。
勇者は一瞬躊躇したが、剣を落としてしまったのは自分なので、仕方ないと頭に手を置く。

勇者「ご、ごめんなさい……」ナデナデ

精霊「へへへ~、役得役得~♪」

精霊のニンマリした笑顔は、何というか無邪気だ。
身長は勇者より小さく、外見年齢的には10代半ばといった所だが、中身はもっと幼いのかもしれない。

勇者「痛いの治った?」

精霊「ん~…あ、そうだ。膝枕っ」ゴロン

勇者「調子に乗るな」ゴッ

精霊「あだーっ」

訂正。中身は下心バリバリのオッサンだ。

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/30(水) 19:40:51.87 ID:Kfzyy5RB0
精霊「いででで。所で君、勇者一族の人だよね?」

勇者「えぇ、まぁ。何でわかったの?」

精霊「たまーに、君がここを訪れるのを見ていたからね。それに君、先代の勇者にどことなく似てるし」

勇者「見ていた? でも君の姿、初めて見る」

精霊「どうしてかなー。ここに飾られるようになってから初めてだよ」

勇者「……確かこの剣は、ご先祖様が持ち帰ってからずっとここに飾られていたんじゃ……」

精霊「うん。だから人前に姿を表すのは一世紀ぶりかな~。ああぁ、あまりにも久しぶりで自分のキャラ忘れかけてたよ! 人と話せるの、嬉しいなぁ」ニコニコ

勇者「そんなに長いこと一人だったの」

精霊「まぁね~。何せこの部屋からも出られないし、たまにしか人来ないし、孤独で発狂しそうだったよ~」

勇者「そうだったの……」

精霊「この可哀想な俺を抱きしめて、お姉さ~」

勇者「……」ギロ

精霊「ごめんなさい何でもありません」

勇者「でも良かれと思って剣を大事に飾っていたのに、貴方には気の毒な思いをさせたね」

精霊「でしょ? だからね~、もし良かったら俺をこの部屋から出してくれないかなぁ?」

勇者「剣を持ち出すわけには……」

精霊「今夜だけ! ね、ねっ!? お願~い」

勇者「……」

手を合わせて上目遣いで懇願する精霊に、断りきれず、ひっそりと剣を持ち出すことにした。

20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/30(水) 19:51:29.29 ID:wx/udULMo
俺得だ乙

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/01(木) 19:13:04.03 ID:18qZdrt60
精霊「うわぁ~、お城だお城だ~!!」ドタドタ

勇者「廊下で騒がない」

精霊「大丈夫だよ、俺の姿が見えているのは君だけだもん。女の子のスカートの中も覗き放題だもんね♪」

勇者「そんなことしたらどうなるかわかってるね?」ゴゴゴ

精霊「うそごめん冗談やめて」

勇者「全く…剣を持っている所を人に見られたくないから、人のいない所に行くよ」

精霊「りょうか~い。じゃあさ、外に出たいなー」

勇者「外……」

庭には確か、王子と姫が……。

精霊「行こう行こう、ねっ!」

勇者「あっ」

躊躇していると、精霊は勇者の手を取って走り出した。

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/01(木) 19:13:55.44 ID:18qZdrt60
勇者「良かった……いなくなっている」

バルコニーを見上げ、誰もいないことを確認し勇者はほっとため息。
そんなこと知らない精霊は、庭で大いにハシャいでいる。

精霊「花だ~! 月だ、風だ、土だ~!!」ピョーン

宙に浮かび空中を飛び回る精霊。
月明かりの下で精霊が無邪気に遊んでいる光景だというのに、ちっとも幻想的に見えないのはどうしてか。

精霊「あぁ~懐かしいなぁ外は……うん?」

精霊はピタリと動きを止め、何やら城の方を気にしだした。

精霊「何かなこの音楽。フンフンフーン♪」

勇者「あぁ……今頃ダンスパーティーをやっているからね」

色んなことがあったせいで、すっかり忘れていた。
王子は今頃、姫と踊っているのだろうか…。

精霊「ふーん。君は参加しないの?」

勇者「うん、まぁ……こんな格好だし」

精霊「格好? 変かな?」

勇者「変だよ。皆ドレスなのに私だけ男装だよ」

精霊「ドレス着ればいいのに、可愛い顔してるんだから」

勇者「かっ!? か、かかか可愛いわけ」

精霊「あ~、ウズウズしちゃうなぁ。……我慢できないっ!!」ガシッ

勇者「えっ!?」

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/01(木) 19:14:32.40 ID:18qZdrt60
精霊は勇者の体を抱き寄せ、ステップを踏み始めた。
その小柄で細い体躯にも関わらず、抱き寄せる力は強いせい――というか勇者自身の戸惑いもあって、勇者は精霊のなすがままだ。

勇者「なっ、なっ!?」

精霊「あぁ大丈夫、俺に委ねてよ」

くるくる。音楽に合わせ、廻り、跳ねる。
月光に照らされたダンスフロア。貸し切りの舞台で主役は舞う。

精霊「あははっ、楽しいねー♪」

勇者「あっ、あのっ、あのねっ!?」

精霊「まるで俺達、王子様とお姫様だよ」

勇者「~っ!!!」

勇者はその言葉で耳まで真っ赤になった。

精霊「あれれ? もう疲れちゃった?」

勇者「そ、そそそんなんじゃないけど……」

初めてだった。こうやって、女の子扱いされるのは。
憧れだった。お姫様のように踊るのは。

勇者(……何か、変な気分)


音楽が止まるまで、2人は月の下で踊り続けた。

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/01(木) 19:15:47.14 ID:18qZdrt60
精霊「ああぁ~っ、楽しかった」ドサッ

精霊は芝生の上に大の字で寝転がった。
その動作だけなら無邪気そのものだが、自分より体の大きな勇者をリードして踊りきった体力はタフである。

勇者「もう……」

散々振り回された勇者だったが、そんな精霊の様子に、叱る気が失せてしまった。
それに何だかんだで、楽しくなかったと言えば嘘になる。

勇者(それに……)

精霊「楽しい時間って、あっという間だなぁ~…」シュン

勇者「そうだね…そろそろ剣を元の場所に戻さないといけないしね」

元の部屋に戻れば、精霊はまたあそこに居続けることになる。
それはまた一世紀続くのか、永久なのか、勇者にもわからない。

精霊「あーあ、このまま隠居なんてやだなぁ」

勇者「この剣は国にとっても宝だからね…連れて行ってあげたいけど」

精霊「本当!? 連れて行ってくれるの!?」ガバッ

勇者「いや、だから剣は国の宝だから連れては行けないって…」

精霊「それが、いい方法があるんだよね~」

勇者「いい方法?」

精霊「俺が剣の精霊をやめて、えっと……君の守護精霊になればいいんだよ」

勇者「……できるの、そんなこと?」

精霊「できる、できる!」

勇者(……ほんっとーにわからない、精霊の仕組み!!)

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/01(木) 19:16:16.24 ID:18qZdrt60
精霊「お願い、絶対に役に立ってみせるから!」

勇者「……」

先代の勇者の剣を守護していた精霊。そんな精霊の力を借りられるのなら、心強いかもしれない。
それに……ずっとあの場所にいる、というのも気の毒だし。

勇者「いいよ」

精霊「やったぁ~、お姉さん優しい!」

勇者「勇者でいいよ。で、守護精霊になるには何か、こう…儀式的なものは必要ないの?」

精霊「儀式? あぁ、あるある! 協力してくれるよね、勇者!」

勇者「どんな儀式?」

精霊「ふふ~ん」

精霊はイタズラっぽく笑う。
そして人差し指で、勇者の唇を軽くつつく。

精霊「キスするの♪」

勇者「…………」


勇者は無意識の内に、精霊を殴っていた。

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/01(木) 19:16:42.96 ID:18qZdrt60
精霊「いったあぁ~!! 何するのー!!」

勇者「グーパン」

精霊「真面目に言ってるんだよ~。口づけで俺の精気が吸引されて君の体に宿るんだよ」

勇者(精気とか宿るとか、何かヤラシイ響き…)

勇者にとって初キスは、本当に好きな人に捧げる為にとっておかねばならぬものである。
精霊との契約の為とはいえ、そう簡単に唇を許していいものか……。

精霊「大丈夫、キスとは言ったけど、実際はキスじゃなくて儀式だから!」

勇者「唇を重ねることに変わりはないよね!?」

精霊「ノーカンだよノーカン!」

勇者「でもぉ……」

精霊「それとも勇者……心に決めた人がいるの?」

勇者「……っ!」

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/01(木) 19:17:14.30 ID:18qZdrt60
心に決めた…とまでは言わないが、想いを寄せていた相手ならいた。
だけど――


王子『愛しています、姫様』

王子『貴方がわずかにでも、私に気持ちを抱いて下さるのなら、私はどの様な障害も取り払ってみせます』


自分の一方的な気持ちだった。
相手は自分を見ていない。これからも、ずっと…――。


精霊「それなら仕方ないよね。嫌なものを無理にするのもやだし…」

勇者「…いいよ!」

精霊「へ?」

勇者「しよう、儀式。いいよ、心に決めた相手もいないし」

精霊「でもさっき……」

勇者「いいからっ!」

精霊「っ!」

勇者は精霊に覆いかぶさるように体を近づける。
一旦深呼吸し、精霊の頭に手を回す。

勇者(どうせ、取っておいたって……)


――恋愛なんて、自分には無縁だから


勇者「んっ――」

精霊「――」

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/01(木) 19:17:41.01 ID:18qZdrt60
時が止まったような静寂。
初めてのキスは甘酸っぱくもなく、どこか味気ない。だけど柔らかな感触は唇を伝い、隙間から漏れる息が鼻をくすぐる。

精霊「んっ~、んんん~っ!!」ジタバタ

勇者「どうしたの」

異変に気づき唇を離すと、精霊はゼーハーゼーハー呼吸を乱していた。

精霊「ぷはぁ!! もっと優しくして、優しく!!」

勇者「やっ、優しくしたつもりだよ!」

精霊「えーん怖かったよ~、えーん」

勇者「私の初めてのキスなんだけど!? その感想、失礼だよ!!」

ロマンもムードもあったもんじゃない。
だが、おかげで気恥かしさとかが紛れたかもしれない。

精霊「…けど、これで」

精霊は泣き真似をやめて、こちらを見上げた。

精霊「儀式完了。改めて、宜しくぅ♪」

勇者「うん…宜しく」

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/02(金) 17:05:26.83 ID:Nn/3h/nI0
>翌日


重騎士「ハァ~、パーティーで食いすぎた。腹調子がわりぃ」

賢者「頭が痛いです……」

僧侶「ん~、昨日はお嬢さん達とハッスルしすぎたなぁ」

勇者「だから気を緩めすぎるなとあれ程言ったでしょ!」

精霊『あはは、勇者大変だぁ』

勇者「ほんとだよ……」

朝方、北の山で騎士団が襲われたという報せを受け、勇者一行は早速そこへ向かっていた。
ちなみに精霊の姿や声は、他の仲間には確認できないらしい。

精霊『まぁでも、これだと俺の力を発揮し甲斐があるよ』

勇者「全員、戦力外みたいなもんだからね……」

勇者(精霊にはどれだけの力があるのかわからないけど)

僧侶「勇者ちゃん、戦力外だなんて。君は相変わらず、手厳しいなぁ」サワサワ

勇者「うおぁ!?」ビクッ

精霊『……』


バチバチバチイッ!!


僧侶「ぐぁっぼあああぁぁぁぁ!!」

賢者「なっ!? 僧侶さんが黒い雷に打たれた!?」

重騎士「天罰だろ」

精霊『どうだ、参ったか!』

勇者(お、おー。力は本物だ)

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/02(金) 17:06:01.77 ID:Nn/3h/nI0
>北の山


勇者「この辺で騎士団が襲われたっていう話だけど……」

賢者「魔物の気配を感じませんねぇ」

精霊『……』ジー

勇者「どうしたの?」ヒソッ

精霊『あれ見て』

勇者「うん? あれは――」

精霊が指差した方向にいたのは――
勇者が口にする前に、賢者が小さく悲鳴をあげた。

賢者「へ、蛇いぃ!?」

重騎士「あぁ蛇だな」

賢者「やだやだっ、蛇いやぁ! あっち行って、シッシッ」

僧侶「僕も蛇はちょっと…」

重騎士「木の枝か何かないか、今追い払……」

勇者「この蛇?」ヒョイ

重騎士「て、手づかみ!?」

勇者「どうかしたー?」

僧侶「え、あ、いや……」

精霊(引かれてるよ勇者)

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/02(金) 17:06:33.49 ID:Nn/3h/nI0
勇者「で、この蛇がどうかしたの」ヒソッ

精霊『この蛇の眼球、なーんか妖しい』

勇者「眼球?」

精霊『ちょっと待ってね、ぐりぐり……よし、取れたよ眼球!』ヌメラーッ

勇者「汚いなぁ」

賢者「へ、蛇の、眼…きゅう……」ブクブク

僧侶「ビバ怪奇現象☆ ……おや、この眼球、変じゃない?」

重騎士「そりゃ勝手にくり抜かれて浮かんでるんだから、変な眼球だろ」

僧侶「そういうことじゃない。この眼球…水晶だよ」

パリーン

賢者「あ…割れた?」


「水晶を通してそちらの動きを伺うつもりだったが…それを見破るとはな。流石、勇者一行だ」


賢者「っ!? あれは……」

突然黒い霧がそこに集まっていき、霧は人の形となった。
肌は真っ青で、体中に文様が刻まれている――その姿は、魔族のものだ。

蛇使い「待っていたぞ勇者一行。私は蛇使い、魔王様の忠実なる下僕」

賢者「蛇使いぃ!? む、無理です、私……」ガタガタ

勇者「大丈夫、賢者。私が前衛で守るから」

勇者は勇ましく剣を構え、前に出た。

41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/02(金) 17:07:03.35 ID:Nn/3h/nI0
蛇使い「行け、我が下僕達よ!!」

蛇使いの手から召喚された蛇が一行に飛びかかる。
その数……およそ50匹!!

賢者「きゃああぁぁ!?」

重騎士「危ねぇ! ……うぐっ」

仲間を庇って、重騎士の腕に蛇が噛み付いた。
噛み後はみるみる内に赤く腫れ上がっていき、重騎士はそこに膝をつく。

賢者「これは…毒!?」

僧侶「普通の毒より回るのが早いね…完全治癒に時間がかかりそうだ」

膝をつく重騎士に寄り添うようにして、僧侶は回復魔法を唱える。
だがその格好は、2人とも隙だらけだ。

蛇使い「馬鹿め! もう1度行け、我が下僕……」

勇者「させるかああぁ!!」

勇者は重騎士達の側に着地すると、剣をひと振り。
そのひと振りで、5匹ばかりの蛇を叩っ切った。

勇者「あと何匹召喚する気? ま、何匹でも関係ないんだけど」

既に地面には、勇者が切ったと思われる蛇の残骸が大量に散らかっていた。

重騎士「ヘッ、流石勇者だな……俺らの出番、ないんじゃねーの」

僧侶「だとしたら、ただ毒を受けただけの重騎士君は格好悪すぎるね」

重騎士「うるせー」

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/02(金) 17:07:31.06 ID:Nn/3h/nI0
蛇使い「ほう、思った以上の腕前だな。では、これならどうか!!」


蛇使いの体が再び黒い霧と化す。
そして黒い霧は宙を高く上っていき、形を成していく。


精霊『これは……』

蛇使い「これぞ私の切り札〝大蛇変化”だ!!」

大蛇と化した蛇使いを見上げる。
全長は塔くらいの長さだろうか。巨大な蛇の睨みは、普通の蛇とは比べ物にならない程の威圧感がある。

蛇使い「行くぞ!!」

勇者「くっ」

蛇の頭が勇者に襲いかかる。
素早い一擊――だったが、勇者はそれを回避。

重騎士「よっしゃ、今の内だ! トリプルアタック仕掛けようぜ!」ガバッ

僧侶「オッケー、毒完治。サポートだ、賢者ちゃん」

賢者「了解です!」

重騎士「おらああああぁぁ!!」

重騎士の斧が表皮を切りつける。その傷口を広げるように、賢者と僧侶の攻撃魔法が追撃された。
既に完成されたと言っても遜色ないトリプルアタックは、周囲に轟音を響かせた。

精霊『行け行けーっ!』

簡単に毒を受けるような迂闊な重騎士に、蛇に尻込みする賢者、聖職者のくせに不真面目な僧侶だと思っていたが…。

精霊『でも彼らも勇者一族だ、やる時はやるんだね』

蛇使い「フッ……この程度か」

精霊『えっ』

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/02(金) 17:10:17.04 ID:Nn/3h/nI0
ドオオオォォン

精霊『なっ』

尾で地面を叩きつけただけで、地響きが鳴った。
3人はその攻撃をギリギリ回避したが、体制を崩している。

蛇使い「隙ができたな!! 死ねぇっ!!」

勇者「危ないっ!」ガンッ

間一髪、仲間に迫る蛇の歯を剣で受け止める勇者。

勇者「く……」

勇者は剣一本で蛇を止めている。
鍛え抜いた腕とはいえ相手は大蛇、かなり無理をしているのが伺える。

重騎士「加勢するぞ勇者」ダッ

勇者「お、おねが……」

蛇使い「させん!!」パァン

勇者「……っ!!」

勇者の体が宙に舞う。蛇使いの尾で、弾き飛ばされたのである。
そして勇者の下では――蛇使いが大きな口を開けて待っていた。

賢者「まずい! あの口を閉じさせないと!」

魔法で蛇使いの口元を狙って攻撃する。

蛇使い「ふんっ」バッ

だが、尾で魔法を防御された。
先ほども見た通り、表皮はかなりの防御力を誇っており、大ダメージに繋がらない。

重騎士「勇者ぁーっ!!」

勇者「仕方ない……!!」

勇者は剣を下に向ける形で構える。こうなれば、あえて口に落下し、飲み込まれる前に喉を突き刺すしかない。

蛇使い(私の喉を刺すつもりだな……だが、その前に飲み込んでやるぞ!)

勇者「……っ!!」

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/02(金) 17:10:45.76 ID:Nn/3h/nI0
だが――


蛇使い「……!?」

僧侶「あれっ?」

突然、勇者が消えた。
一瞬のことだった。蛇使いに飲み込まれた様子もない。

賢者「あ、あれっ!!」

最初に気付いた賢者が指差した方向には――勇者が、ふわふわ浮いていた。


勇者「せ、精霊……」

精霊『いやぁ、俺の出番が無くなるかと思ったよ。ああいう危険な作戦は賛成しないなぁ』

実際は、精霊が勇者を抱えて浮いていた。

精霊『しっかし、敵さん防御力が高いね~』

精霊は少し離れた所に勇者を下ろす。

勇者「でも倒せない相手じゃないよ」

精霊『うん。でも、その時には皆がボロボロになってるだろうね~。駄目だよそんなの』

そして、突然のことだった。

勇者「っ!?」

精霊が勇者をぎゅっと抱きしめたのは。

勇者(せ、せせせせ精霊!?)アワワ

戦闘中にも関わらず、勇者はフリーズする。

精霊『俺が守護精霊になったんだから、スマートに勝ってよね。勇者』

勇者「!」

ふと気付いた。触れ合っている部分を伝って、精霊から勇者に力が送り込まれていた。
これは――何なのだろうか。

蛇使い「何をボーっとしている!!」

尾を地面に叩きつける。
勇者は――回避しなかった。

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/02(金) 17:11:52.31 ID:Nn/3h/nI0
重騎士「ゆ、勇者ぁ!! ヤベェ、勇者が下敷きに! 助けに行くぞ!」

賢者「ちょっと待って下さい、おかしいです」

重騎士「何がだ?」

賢者「あんなに勢いよく尾を叩きつけたのに…今度は地響きが鳴りません」

僧侶「確かに……あっ、あれ!」


蛇使い「クッ…、な、何が起こった…っ!?」

蛇使いが尾をゆっくり上げる。
その尾には――ズタズタに切られた跡があった。

勇者「こ、これは…!?」

勇者自身、自分の体に起こった異変に理解ができずにいた。
防御の為に剣を振り回した。だけどその剣が硬い表皮を貫き、ダメージを与えているだなんて。

精霊『簡単な話。相手の防御力が高いなら、こっちの攻撃力を上げちゃえばいいんだよ』

勇者「これが、精霊の力……」

勇者を信じてか蛇使いの攻撃を避けていなかった精霊は、勇者の側で得意気に笑った。

精霊『余裕の勝利を頼むよ。そっちの方が、格好いいじゃん』

勇者「うん……任せて!」

勇者「でりゃああああぁぁ!!!」

蛇使い「!!」

足の力も強化された勇者の跳躍は、蛇使いの頭を超えた。
そして――

勇者「うらああぁっ!!」

蛇使い「――」

勇者の一閃が、蛇使いの首を切り落とした。

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/02(金) 17:12:33.18 ID:Nn/3h/nI0
僧侶「おぉ、凄い!」

賢者「勇者さん、いつの間にそんなに力を…」

勇者「え、えぇと……修行の成果、かな~」

重騎士「ははは、流石勇者だ! 見た目は細身でも実は脱いだらゴリラなのか、わっはっは」

勇者「」ガーン

僧侶「いや見てみたいものだね、勇者の一糸まとわぬ」バリバリバリッ「うぎゃあああぁぁぁぁ」

賢者「さて、帰って報告しましょうか」

勇者「うん……」(ゴリラ…ゴリラ……)

精霊『……』

勇者「あれ。行くよ、精霊」

精霊『あ、先行ってて』

勇者「?」

精霊『蛇ってのは強い呪力を持つ生物だからね。呪われるかもしれないから、浄化しておくね』

勇者「何か申し訳ないし、私も残るよ」

精霊『なーに勇者ぁ、俺と一緒にいたいのー? 大丈夫だよ、勇者が世界のどこにいても追いかけて行くからぁ』ニコーッ

勇者「だ、誰がぁ!!」

賢者「勇者さーん? 行かないんですかー?」

精霊『ホラホラ勇者ぁ、傍から見てると独り言言ってる怪しい人に見えるよ?』ギュム

勇者「むぐ~っ! 口を塞ぐなぁ! 先行ってるからね!」プンプン

精霊『は~ぁい♪』

精霊『……』

精霊『さ・て・と』

47 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/02(金) 17:13:08.05 ID:Nn/3h/nI0
蛇使い「グ、ウウゥ…」

精霊「やっぱ生きてた。タフだね~」

蛇使い「!?」

精霊は蛇使いにその姿を見せた。
唐突に姿を現した精霊に、蛇使いは驚きを隠せない。

精霊「ま、その内死ぬでしょ。でも、死ぬなら楽に死にたいよな?」

蛇使い「何を――っ!?」

精霊「質問に答えろよ、楽に死にたきゃ」

精霊は蛇使いを正面から睨みつける。
蛇使いはその表情を見て固まる。顔つきは少年そのものだが――その目は冷淡そのもので、『死』以上の恐怖を連想させる。

蛇使い「……っ」ガタガタ

精霊「質問だ。嘘ついてもわかるからね」

蛇使い「何…だ……?」

精霊「魔王はどこにいる?」

蛇使い「……!!」

配下の魔物を仕向けて、自身はその所在すら掴ませぬ、魔物達の王。

蛇使い(この者、勇者一味の者か? だから魔王様の居場所を――しかし)

精霊「答えろよ…痛い目に遭いたくないだろ?」

蛇使い「!!!」

精霊の視線が、首の切断面に移る。

精霊「延命の魔法をかけて苦痛だけ与えてやることだってできるんだよ。いやでしょ、そんなのは」

もし切断面を攻撃されては――その激痛を想像するだけで、蛇使いは震え上がった。

48 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/02(金) 17:13:54.27 ID:Nn/3h/nI0
蛇使い「し…知らん……」

精霊「え?」

蛇使い「ほ、本当なのだ! 魔王様は身を潜め、力を蓄えていらっしゃるという……居場所を知っているのは、限られた者のみ……」

精霊「ふーん……」

精霊の、蛇使いを値踏みするような目。
黒く濁ったその瞳からは、ただただ冷たい感情が伺える。

精霊「……ま、嘘は言ってないみたいだな。で、誰なら知ってそう?」

蛇使い「四天王なら、知っているはず……」

精霊「で、四天王はどこにいる?」

蛇使い「わからんのだ……四天王の動きは誰にも……」

精霊「そうかぁ…」

ため息をつきながら、精霊は蛇使いの頭に軽く手を乗せる。
そして次の瞬間――蛇使いの首が、激しく燃え盛った。

精霊「所詮、君ら魔物は邪神の力で生み出された傀儡……俺は同情なんてしない」

自分に言い聞かせるように呟く。
今殺した相手のことは忘れろ。自分が見るべきは、先のこと。

精霊「四天王か……よし、次の目標ができたぞ…」

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/02(金) 17:16:04.55 ID:Nn/3h/nI0
今日はここまで。
ショタは多少黒い方が可愛いと思っている。

50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/02(金) 17:25:04.67 ID:ngJFQjcXo
>ショタは多少黒い方が

すごくわかる

51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/02(金) 19:47:33.37 ID:ApaN8jqio
まったく同感だわ

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/03(土) 19:06:29.48 ID:Jofyg9690
>城


勇者は王の元に出向き、蛇使いとの戦闘のことを報告した。


王「ふむ。未だ魔王の所在は掴めずか……」

勇者「申し訳ありません」

王子「父上、まずは勇者を労うのが先です」

王「うむ、そうだったな。すまんな勇者、ご苦労である」

勇者「い、いえっ」

王子「あとはゆっくり休むといい。休養も大事だからな」ニコッ

勇者「……はい」

53 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/03(土) 19:07:29.46 ID:Jofyg9690
>城下町、宿


勇者「ハァーッ……」ゴロン

勇者(相変わらず優しいなぁ、王子……)

勇者「でも…………」


王子『愛しています、姫様』


勇者「~っ……」

勇者「いかんいかん! 王子のことは忘れないとっ!!」ガバッ


トントン

賢者「勇者さーん」

勇者「ん、どうしたの賢者」エッサエッサ←ダンベル

賢者「あら、筋トレですか。休まないんですか?」

勇者「うん、まだまだ余裕」

賢者「元気ですね……。あ、私は飲み屋へ行ってきますので」

重騎士「俺も街ブラついてるぜー!」

僧侶「僕もお嬢さん達とデートの約束があってね」

勇者「行ってらっしゃい」エッサエッサ

勇者(さて、もう1キロ重いやつにしてみるかな)


その時、バァンと音が鳴りドアが開いた。


精霊『勇者ぁ~、寂しかったでしょ~! お帰りのキスしてー!!』

勇者「あ、精霊。浄化お疲れ様」エッサエッサ

精霊『えー。休まずに筋トレしてるのー?』

勇者「うん、他にすることもないし」

精霊『じゃあ遊びに行こうよ。デートしよ、デート』

勇者「デート…ってねぇ」

勇者はダンベルを床に置く。
出会った時から度々思っていたが、こいつはどうも……

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/03(土) 19:08:05.79 ID:Jofyg9690
勇者(あの時も…)


勇者『ご、ごめんなさい……』ナデナデ

精霊『へへへ~、役得役得~♪』


勇者(あの時も…)


精霊『あははっ、楽しいねー♪』

勇者『あっ、あのっ、あのねっ!?』

精霊『まるで俺達、王子様とお姫様だよ』


勇者(…あの時も)


勇者『どんな儀式?』

精霊『キスするの♪』


勇者(………)ボッ

勇者(やっぱコイツ、距離が近すぎるっ!!)



勇者「あのね精霊!」

精霊『んー?』

勇者「恋人でもない女性にひっついたり軟派な言葉使ったりしないの!!」

精霊『あ、じゃあ恋人になる?』

勇者「」ブハッ

勇者、一瞬にして撃沈。

55 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/03(土) 19:08:51.55 ID:Jofyg9690
精霊『遊びに行きたいなぁ~』キラキラ

勇者「ひ、一人で行きなさい! 剣の精霊やってた頃と違って、今は私が許す限り、どこにでも行けるんでしょっ!」

精霊『勇者と行きたいのにぃ』イジイジ

勇者「すねるなーっ! いいから行けっ!」

精霊『ちぇー。はいはーい』

勇者「全くもう……」ドキドキ


勇者は心をかき乱されていた。
精霊の純粋そうな外見のお陰で大分誤魔化されてはいるものの、実際は僧侶より性質が悪い。


勇者「全く…あの容姿なら、もっと可愛い子を誘えるでしょ……」ブツブツ

精霊「ただいまぁーっ!!」バァン

勇者「早くない、帰ってくるの……って、あれ?」

精霊の体が透過していない。
それに、手には紙袋がいくつか…。

精霊「力を使えば、姿を現すことだってできるよ。それよりも、買い物してきたよ~」

勇者「便利な体だねー…。で、何買ったの?」

精霊「勇者のワンピースとか髪飾りとか」

勇者「!!?!?」

硬直している勇者を無視し、精霊は紙袋の中身を広げる。

精霊「見て見て、花柄ピンク! この大きなリボンが可愛いよね~。で髪飾りはねー…」

勇者「………」

勇者(か………っ、可愛い!!)キューン

56 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/03(土) 19:09:26.38 ID:Jofyg9690
精霊「ねぇねぇ、着てみて?」

勇者「むっ無理無理無理無理!! 着れない、こんなの着れないっ!!」

精霊「大丈夫だよ、勇者にぴったりのサイズ買ってきたから」

勇者「何で私の体のサイズを……って、そういうことじゃなーい!!」

精霊「もしかして勇者、こういうの嫌い?」シュン

勇者(大…っ、好きだけどッ!!)

勇者「こ、こういうの…家では禁止されてるの」

精霊「禁止? 何で?」

勇者「女々しくなったら困るから…って」

体には生傷、手にはマメ、髪を振り乱し、血と汗と泥にまみれて戦い続ける為に。
女らしいお洒落心は不要。そういう風に、教えられてきたから。

勇者「だからね、ごめんね…。家に背くわけには…」

精霊「あのさ勇者」

勇者「うん?」

精霊「勇者が戦い続ける決心って、可愛い服を着ただけで揺らぐものなの?」

勇者「それは……」

着たことがないので、何とも言えない。
だがもし、可愛らしい格好をして、その姿を王子に見てもらえたら……。

勇者「……揺らぐかもね」

ずっと自分に、可愛らしいイメージを持っていて貰いたくなるかもしれない。

勇者「ボロボロの姿になる戦場に、戻りたくなくなるかもしれない」

精霊「…ふぅーん」

57 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/03(土) 19:09:53.09 ID:Jofyg9690
精霊「よし勇者、やっぱり着よう!」

勇者「はぁ!?」

何を言っているのだこいつは。

精霊「ほらほら、着方わからないなら着付け手伝うよ!」

勇者「やめんか! てか、私の話聞いてた!?」

精霊「うん。でも、心配ないよ勇者」

勇者「どうしてそう言えるの」

精霊「だって、これからは俺がいるもん」

精霊はニコッと笑顔を見せた。
相変わらず純粋そのものな笑顔――それでいて、暖かい。

精霊「戦場でボロボロになんかさせないよ。俺が『可愛い勇者』を守る」

勇者「~っ」

こいつはどうして、こうも歯の浮くような台詞を…!

精霊「じゃあ着ててね! 俺は外で待ってるから!」

勇者「ちょっ、待っ!」

精霊「待ってるね~」パタン

勇者(な、何て強引な……)

勇者「…………」

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/03(土) 19:10:18.40 ID:Jofyg9690
勇者(でもこれ……)

ピンク地に花の模様、胸元の大きなリボン、裾はフリフリ。
露出は少なく、品のあるデザイン。

勇者(本当に可愛いなぁ~)ポヤーッ

正に、勇者の思う『女の子らしさ』が詰まった服だった。

勇者(こんなの着たのバレたら、一族総出で怒られるなぁ…)

勇者(でも可愛いなぁ)

勇者(……返品するのは、お店に申し訳ないよね?)

勇者(………)

勇者「ちょっとだけ…なら…」

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/03(土) 19:10:54.59 ID:Jofyg9690
精霊「おぉー」

勇者「~っ」

顔を合わせるなり、精霊は目をキラキラさせていた。

恥ずかしい。この服は自分好みだけれど、やはり女の装いは自分に不釣り合いだ。
その上、こんなにじっと見られては、何だか公開処刑を受けているような気分になる。

勇者「あんま見ないでよ…」

精霊「ゆーしゃっ♪」

勇者「わわっ!?」

精霊は勇者に飛びつく。
そしてトローンととろけるような笑顔を浮かべて頭を撫でてきた。

精霊「可愛いよ勇者ぁ。やっぱり勇者に似合うねぇ~」

勇者「ちょっ、バカッ、可愛いとか言うな!!」

精霊「じゃ、早速行こう!」ガシッ

勇者「ちょ、どこへ!?」

精霊「デート行くって約束したじゃん」

勇者「してないっ!!」

精霊「いいからいいから~」

勇者「こ、こらーっ!!」

こうして精霊に手を引っ張られるまま、街へ繰り出すことになったのである。

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/03(土) 19:11:27.00 ID:Jofyg9690
勇者「ううぅ……」

精霊「どうしたの萎縮して」

勇者「いや、何か……すれ違う人すれ違う人、私を笑っているような……」

精霊「笑ってないよ。堂々としていればいいのに」

勇者「でも、勇者だってバレたら……」

精霊「いつもと雰囲気違うから大丈夫だって。そだ、俺の買い物付き合ってよ」

勇者「何でさっき行かなかったの」

精霊「勇者に選んでもらいたくてね~」エヘヘ

勇者「私が選ぶもの? 武器とか、鎧とか?」

精霊「この店~」

勇者「………」



ぬいぐるみ屋さん?

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/03(土) 19:12:02.87 ID:Jofyg9690
精霊「猫もいいな~、うさぎもいいな~。目移りしちゃうよ」

勇者「…………」

精霊「やっぱ女の子のセンスで選んでほしいな! ねぇねぇ勇者!」

勇者「あんたね」

精霊「?」

勇者「そりゃあんた見た目は可愛いけど、年齢的におじいちゃんでしょ。それに若く見えるっていっても10代半ば位だし、ぬいぐるみ持ってブリッコするにはキッツいから」

精霊「勇者がいじめる~」シクシク

勇者「だから、ブリッコするな!」

精霊「男がぬいぐるみ好きじゃ、駄目?」

勇者「駄目じゃあないけど……」

精霊「じゃあ選んで! ねぇねぇ!!」

勇者「ちょっ声が大きい!」

クスクス

勇者(あーもう…注目集めてるし)

精霊「選んでくれないと、手足バタバタさせて騒いじゃうよ~?」

勇者「わかったよ…選べばいいんでしょ、選べば」

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/03(土) 19:12:29.28 ID:Jofyg9690
勇者「ほら、これなんてどう」

勇者は選んだテディベアを精霊に手渡す。

精霊「あぁ、これいいね! へへ~、勇者が選んでくれたクマさんだ。宜しくね~」チュ

勇者(何て幼いの……)

精霊「はい。勇者とも、ちゅ~」

勇者「むぐ!?」

精霊「あはは、間接キッスだ~」

勇者「~っ、ちょっとおおぉぉ!!」

精霊「店員さーん、これくださーい♪」

店員「あらボク、お姉さんとお買い物?」

精霊「違うよー、デートだよ! ねぇ、ゆう…むぐっ!?」

店員「ゆう?」

勇者「あはは何でもありません! それよりもお金、お金っ!」ジャラジャラ

精霊「ん゛ーっ、ん゛ーっ!!」ジタバタ

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/03(土) 19:13:10.52 ID:Jofyg9690
勇者「ばかか、名前を呼ぶな! ばれたらどうしてくれるの!!」

精霊「あははー、ごめーん」

勇者は店から出ると精霊を説教していたが、精霊に反省は見られない。

勇者「私はね、お子様な男はタイプじゃないの!」プンプン

精霊「ん、あれっ」

勇者「精霊、聞いてるの!」

精霊「ねぇ、あのバカさぁ」

勇者「ん?」



踊り子A「あーん、僧侶さんの活躍もっと聞きたぁい」

僧侶「あはは、そんなに聞きたい? 仕方ないなぁ、うん」サワサワ

踊り子B「もう、僧侶さんたらエッチぃ~」

踊り子C「あら~ん、私も触っていいのよぉ~」



勇者「げ。僧侶……」

精霊「こっち来るね」

勇者「かっ、かか隠れないと! 隠れる場所はっ!!」アタフタ

精霊「任せて」

勇者「えっ――」

精霊は手を引き、勇者の体を引き寄せる。
そして勇者を壁に押し付け――


精霊「んっ――」

勇者「――っ」


彼女を覆い隠すように、唇を塞いだ。

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/03(土) 19:13:37.99 ID:Jofyg9690
唇の隙間から漏れる吐息が鼻をくすぐる。
目の前には、可愛らしい精霊の顔。いつも無邪気な目は、口づけの魔力のせいか、今は妖艶に見える。

どきどき。心臓が大きく脈打つ。
強引に奪われた唇なのに、感触は柔らかくて、温かくて――


僧侶「おやおや。こんな所で、何て大胆なカップルだ」チラ

踊り子A「それよりそれより~」

僧侶「あぁ、そうだね。じゃあ行こうか」


勇者「~っ…ぶはっ」

精霊「行った行った。何とか誤魔化せたみたいだね」

勇者「……」

精霊「にしても、勇者って戦闘離れるとテンパり屋さんだよね~。駄目だよ、勇者たる者、常に冷静じゃなきゃ」アハハー

勇者「……からな」

精霊「え?」

勇者「今度は、許さないからなああぁぁっ!!」ガシィッ

精霊「ちょ、タンマタンマ、タンマーッ!!」

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/03(土) 19:14:11.72 ID:Jofyg9690
勇者「どこ叩かれたい? せめて選ばせてやるよ、ん?」

精霊「やめて~、俺が何したって言うんだよぉ」

勇者「ほぉ? いきなり、キ、キスするのは、あんたの中じゃ常識なわけ?」

精霊「だって1度した仲じゃない」

勇者「あれは儀式だ、儀式!」ブンブン

精霊「ぐああぁぁ、脳みそが揺れるううぅぅ」

勇者「儀式はノーカンだけど、今のはノーカンにならないじゃない、もう!」

精霊「はははー…減るもんじゃないしさぁ」

勇者「減・る・わ!」

精霊「何が減るの?」

勇者「そ、それは……と、とにかく減るの!!」

精霊「うーん?」

精霊はしばらく考える仕草をする。
天然なのかポーズなのか……と思ったその時、精霊はぱっと表情を明るくした。

精霊「減るなら、俺が独占しちゃえばいいんじゃないのかな!」

勇者「…何を?」

精霊「勇者の、心」

勇者「………」


勇者は、無言で精霊をぶん投げた。

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/03(土) 19:14:49.76 ID:Jofyg9690
精霊「あだだぁ~!」

勇者「もう知らない!」プンプン

精霊「あー、勇者ぁー…行っちゃった」

精霊「ほんっと、勇者って可愛いよね~」

精霊『さて……』

精霊は姿を消す。
そして浮かべた表情は――勇者には見せない、真剣そのものの顔。

精霊『お詫びがてら、ちょっと頑張ってくるかな……『可愛い勇者を守る為』に』

テディベアを勇者に見立てて一旦強く抱き、リュックにしまった。

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/03(土) 19:15:27.34 ID:Jofyg9690
>宿屋


勇者「全く、アイツ…」プンスカ

勇者は部屋着に着替え、筋トレを再開していた。
いつもは重く感じるダンベルが、今日は軽い。


精霊『にしても、勇者って戦闘離れるとテンパり屋さんだよね~。駄目だよ、勇者たる者、常に冷静じゃなきゃ』アハハー


勇者「誰が乱してると思ってるーっ!!」フンヌーッ

勇者「全く、もう……」

勇者(大体、あいつ距離感がおかしいんだって。私も慣れてないし、女の子扱いされるの……)

勇者(あいつ……本当に私のこと、女の子として見てるの……?)

勇者「………」

勇者「ああぁ、もーっ!!」ブンブンッ


ヒュウゥ

勇者「冷たっ…隙間風? …ん?」

いつの間にかそこに紙切れが落ちていた。
何だろう…勇者はそれを拾い上げる。


――ごめんねー、今夜は戻らないから by精霊


勇者「精霊……」

勇者(も、もしかして気にしてる? ……で、でも悪いの精霊だし!!)

勇者(私が罪悪感感じることないし! うん、精霊が悪いんだもんね! フ、フン!)

勇者(………は、反省してたら、許してあげなくもないけど、ね)

71 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/04(日) 15:45:43.73 ID:+gezPdYg0
>最果ての地


呪術師「フフフ…今度は蛇使いがやられたそうですね」

巨人「ハンッ! どーせ中ボスの1人だろう、何の痛手でもねぇわ!!」ガハハ

悪魔「けど、勇者はメキメキと力をつけてるんだとよォ」

妖姫「ウフフ、でも勇者がどれだけ力をつけようと、追いつけないわよぉ…」

妖姫は持っている鏡に映像を映し出す。
そこには――真っ黒なもやに包まれた柩が映し出されていた。

呪術師「もう少しですねぇ」

悪魔「あぁ…鏡越しでもわかるぜ、この凄まじい力……」

巨人「もうじき完全体となられるのだな」

妖姫「そうよ――力を蓄える為に眠りにつかれた、我らの魔王様がね」

その言葉と共に、その場に緊張感が生まれた。
圧倒的な力を持つであろう、魔王の完全体――魔王の忠臣といえども、その力を想像するだけで身震いしそうになる。
だがそれを顔に表す者はいない。弱みを見せる者に、ここに居る資格はない。

悪魔「あー、でもこうしてる間に勇者は調子こいてんだろ? 殺っちゃいて~」

妖姫「駄目よ、魔王様は眠りにつかれる前、勇者に手を出すなとおっしゃっていたでしょう」

悪魔「自分の手で勇者を葬るつもりだろうな。あーでも……つまんねええぇぇ!!」

巨人「だな! この手で勇者をひねり潰せないことが残念でならん!!」ガハハ


「なら、俺が相手しようか――?」


――っ!?

72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/04(日) 15:46:17.52 ID:+gezPdYg0
突然現れた声に、4人の魔物は緊張感を走らせる。
いつの間に――いや、そもそも、何者かがここに来られるわけがないのに。

精霊「やぁ」

悪魔「ガキ…?」

そう口にした悪魔ですら、目の前に現れたのが普通の子供でないことは察知していた。
ここは最果ての地。人里から幾つもの山を隔てた場所に入口を作った、異空間の中――人間どころか、彼ら以外の魔物ですら足を踏み入れることはできない。

精霊「君たちだろ、四天王って。まさか4人一緒にいるとはねぇ、仲良しさんなんだ」

妖姫「坊や…どうやってここに来たの?」

精霊「どうやって? 『力』を感じる方向に向かってみたら、異空間の扉があった。だからこんな感じで、こじ開けて…」ヨイショ

呪術師「こじ開け…!?」

妖姫「力は抑えていたはず…。異空間から漏れていたとしても、感知できる程のものでは……」

巨人「面白いガキだな」

巨人が精霊の前に立つ。
自分の体長の10倍はあるであろう巨人を前にして、精霊はなお笑顔を崩さない。

精霊「君たち、こんな所でコソコソしてるってことは怖がりなんだろ? 何もひどいことしないから、魔王の居場所教えてくれないかな?」

巨人「ほざけ!!」

ドゴオオォォン

悪魔「あーあ、こりゃペシャンコだろうな」

呪術師「聞きたいことは沢山あったんですけどねぇ…」

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/04(日) 15:46:49.68 ID:+gezPdYg0
精霊「聞きたいこと? 言ってみなよ」

巨人「!?」

精霊は巨人の背後に回っていた。

呪術師「…魔王様の居場所を知って、どうしようと言うのです?」

即座、思考を切り替える。
目の前の少年は尋常ではない力を持っている。ならば、知る必要がある。

精霊「決まってんじゃん」

人間側の者か、魔物側の者か――

精霊「その座を失脚させてやるよ。寝てる今がチャンスだ」

悪魔「…生きて帰すわけにゃ、いかねぇなぁ」

4人は即座に戦闘態勢に入る。
精霊が何者かは知らないが、知る必要はない。
魔王に楯突く者は排除する。ただ、それだけの簡単な話だ。

精霊「4人がかりで来るの?」

悪魔「全力尽くしてやんよ、クソガキッ!」ビュンッ

精霊(お。こいつ速い)ビュンッ

悪魔の爪攻撃を回避し空中へ逃亡する精霊。
素早さは対等。次から次へと繰り出される爪攻撃を、全て紙一重でかわす。

悪魔「今だやれ、デカブツッ!!」

巨人「おう!!」

だが、悪魔との攻防に集中していたせいで――

ドオオオォォン

精霊「――っ!!」

巨人の一擊をもろに受け、精霊は吹っ飛ばされた。

74 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/04(日) 15:47:33.12 ID:+gezPdYg0
精霊「いっ、たたた…――っ!?」

と、精霊の体に何かが巻き付く。
これは――髪だ。

妖姫「ボウヤ、つ~かまえた♪」

精霊「くっ……」

あっと言う間に両手両足を拘束され、動きを封じられる。
髪は蛇のように精霊を締め付け、精霊の力ではちぎれそうにもない。

精霊(魔法でも使うか――)

呪術師「魔封じの術!!」

精霊「っ!?」

放出しようとしていた魔力が引っ込む。
精霊は頑張って放出しようと踏ん張ってみたが、どうやら無駄のようだ。

呪術師「これでほぼ無力化したも同然ですが、一応弱体化の呪術は一通りかけておきましょう」

精霊「…っ、堅実な手段だよ、おじさ……グッ!?」ゴホッ

妖姫の髪は腹を締め付けてきた。
精霊は苦しさで咳き込む。

妖姫「あぁ、いいわぁ。可愛い男の子の苦しむ姿……このままジワジワ殺してあげましょう」ギリギリ

巨人「いい気味だガキめ」

精霊「………っ!!」

75 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/04(日) 15:48:10.44 ID:+gezPdYg0
精霊「あ…ぎ……ッ」

妖姫「どうしたのボウヤ、何か言いたいことでもあるのかしらぁ?」

精霊「…っはぁっ!! ハァ、ハァ」

腹への締め付けが一旦ゆるむ。
勿論、妖姫に精霊を解放する気はない。なるべく長時間いたぶる為、一時的に力を弱めただけだ。

精霊「ゼェ、ゼェ…正直、ハァ、なめてた、よ……」

妖姫「あら懺悔のつもり? 素直ないい子ねぇ」

精霊「違う……」

精霊は表情に徐々に生気を取り戻し、真っ直ぐ妖姫を睨みつけた。

精霊「この俺が…君らごときに頭下げるなんて、冗談じゃ……ガァッ!!」

再び腹が強く締め付けられる。
息ができない――汗が滲み、失神寸前の所で再び締め付けは緩められた。

精霊「ハァ、ハァッ……」

悪魔「あーあ、いたぶる対象が女だったら面白かったのになぁ。俺はもう飽きた、さっさとブッ殺そうぜ」

呪術師「まぁ、彼は無力化したも同然。妖姫さんの気の済むままやらせて差し上げましょう」

精霊「無力化……ハァ、ばかにしてんの……?」

精霊は呪術師を睨みつける。
どう見ても負け惜しみである。そんな様子を見て、四天王達は笑った。

呪術師「四肢を拘束され、魔力を封じられ、もうどうしようもないでしょう。何か秘策でも?」

精霊「秘策? ……ないよ」

妖姫「まぁまぁ、本当に素直な坊や。せめて気持ちで負けずに、って所かしら~?」

精霊「勘違いするなよ」

精霊は顔に冷や汗を浮かべながらも、口を笑みの形にした。

精霊「秘策っていうほど秘めてないんだよ…この程度の力で十分だ……!」

そう言うと、精霊の背中のリュックがパカっと開いた。

76 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/04(日) 15:49:02.56 ID:+gezPdYg0
巨人「ん……?」

一瞬、何かと思った。
だが警戒する程の現象ではなかった。テディベアが、ふよふよ浮いているだけだから。

呪術師「おや。魔法は封じたはずですが」

精霊「魔法じゃないからね。こういう力なんだよ」

悪魔「へー。で、ぬいぐるみ浮かせて何しようってんだ?」

精霊を小馬鹿にしたように笑う。
物を浮かせる能力…その程度に認識したが、見た所精霊は武器も所持していない。つまり――

精霊「恐るに足りない……とでも思ってる?」

妖姫「あら、人の心が読めるのかしら坊や?」

精霊「想像できるんだよ、魔物の思考くらい――」

テディベアが精霊に引き寄せられていく。
そして――

精霊「んっ――」

悪魔「は?」

クマは精霊にキスをする。
唇を離すと精霊は「ふふふ」と笑いを漏らした。

呪術師「何がおかしいのです……――!?」

と、ここで異変に気づく。

悪魔(んっ、あのクマ――)

精霊「こう見えて俺は博愛主義者なんだけど――邪神の傀儡には容赦しないよ!」

ドゴオオオォォン

77 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/04(日) 15:49:50.06 ID:+gezPdYg0
妖姫「が……ッ!?」

妖姫が吹っ飛ばされる。
強靭な硬度を誇っていた髪の毛は、途中でちぎれていた。

巨人「なっ…!?」

悪魔「何、だよこれ……」

彼らは目を疑う。
妖姫を吹っ飛ばしたのは紛れもなく――巨大化した、テディベアだった。

精霊「あぁ…やっと解放された」

それを尻目に精霊は、気持ち良さそうに伸び運動をしていた。

精霊「そうだ。ちなみにそのクマさんについて補足すると――」

ベシャッ

クマが地面を叩きつけた――いや、妖姫を叩き潰した。
精霊は口元に手をあて「あー」と呟く。

精霊「やっぱ強化しすぎたか…。まぁ俺が苦痛を感じれば感じる程、力が練られる仕組みだから仕方ないんだけどね」

巨人「くっ!!」

巨人がクマに突撃し、両手を掴む。
力は――やや巨人が上回り、クマは後ろに押されている。

巨人「呪術師、悪魔、今だ――」

精霊「それとー」

ズゴオオオォォォン

悪魔「げ……」

呪術師「あ、あぁ……」

精霊「ついでに封じられた俺の魔力も込めてみた。性能色々詰め込みすぎたね」

クマの口から放射された炎が消えた頃、そこには巨人だった塊が残されていた。

78 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/04(日) 15:50:35.73 ID:+gezPdYg0
精霊「そんじゃ、頑張ってー」

ドゴォ、ズゴオオォォン

呪術師「かはッ――」

悪魔「くっ!!」

暴れまわるクマに呪術師が押しつぶされ、悪魔は飛びながら攻撃を回避していた。
とはいえ逃げるだけで精一杯で、とても攻撃できる隙なんてありそうにない。

悪魔(クッソ……つーか何なんだよあの力は!?)

悪魔(無機物のぬいぐるみに、命を与えるなんて……)

そこで、悪魔はハッと気付いた。

悪魔「この力…まさか……」

悪魔の視線の先には精霊。目が合うと、精霊は嬉しそうに笑った。

精霊「あ、もしかして気付いた? そうそう、俺だよ、俺」

悪魔「だ、だがお前……いや貴方は、先代勇者に……」

精霊「そこんとこの説明、めんどくさい」


ドゴォッ――


精霊「だから消――って、あ。言うのが遅かった」

精霊「あー……そういや魔王の居場所聞き忘れた」

精霊「ま、いっか。これがあれば位置特定できるでしょ」

そう言って、妖姫の所持していた鏡を拾った。

精霊「あぁー…死ぬかと思った。おーい、帰るよクマくん」

その声でクマは動きを止め縮こまった。
精霊はクマを拾い上げると、愛おしそうに抱きしめる。

精霊「よしよし、いい子だ。さてと…帰ろうか」

82 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/05(月) 19:13:23.38 ID:JGi6H2BQ0
>精霊が家出して3日後…


勇者「あらよ、っとォ!!」

賢者「勇者さん、ここにいましたか…って、何ですかその樽は」

勇者「あぁこれ? 新しい魔物の情報もないから、酒樽運びの手伝いしてるの。いい筋トレになるよ」

賢者「一旦中断して下さい。王様よりお呼び出しです」

勇者「王様から? うん、わかった」



勇者「王様、只今参りました」

王「おぉ勇者。よくぞ参った。実は、情報が入ってな」

勇者「情報…ですか?」

王「うむ。魔王の居場所がわかったかもしれん」

勇者「魔王の!? それは本当ですか!!」

王「何とも言えん…その情報が確かなものと限らんし、もしかしたら罠かもしれん」

勇者「ふむ? どこからの情報ですか?」

王「先ほど、占星術師を名乗る者がやってきたのだ。奴は魔王の居場所をワシに伝えると、姿を消した」

勇者「姿を消した……?」

王「あぁ。言葉の通り、目の前で消えたのだ。知っての通り、王の間は防犯の為、魔法無効化の結界を張ってある。にも関わらず、だ……」

勇者「それは怪しいですね…。一体、どんな奴でした?」

王「そうだな…外見は13~16くらいの少年だった」

勇者「……」

王「手にはクマのぬいぐるみを持っていてな」

勇者(精霊いいいぃぃ!!)

83 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/05(月) 19:14:16.99 ID:JGi6H2BQ0
>宿屋


勇者「精霊……帰ってるでしょ」ガチャ

精霊「あ、勇者だ。お帰り~、俺がいない間寂しかった?」

勇者「わざわざ回りくどい伝え方して…近衛兵達が混乱したみたいだよ」

精霊「ああ演出した方が、盛り上がるじゃん。せっかくの最終決戦前なんだし~」

勇者「そうだ、何であんたが魔王の居場所を?」

精霊「そりゃ精霊だもん。人間にとって常識外れのことだってできるよ」

勇者「その情報…確かなんだろうね?」

精霊「うん、確かだよ。良かったじゃん、四天王すっ飛ばして魔王の所に行けるなんて」

勇者「四天王?」

精霊「あっ、何でもない! それより明日あたりから魔王の所に向かおう、ね!」

勇者「あぁ、うん……」

精霊(あれー? 勇者、何か元気ないなぁ)

84 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/05(月) 19:15:34.57 ID:JGi6H2BQ0
>山道


重騎士「なぁ勇者、敵の罠なんじゃねーの」

賢者「王様がおっしゃっていたという占星術師の少年、怪しい所だらけですよ」

僧侶「周囲は木、木、木。こんな所で敵に囲まれたら逃げ場がないよ」

精霊『もー、グチグチうるさい奴らだなー』

勇者「ほぼ間違いなくあんたのせいだけどね…」

勇者「罠だとしても、打ち破ればいいだけだよ。他に手がかりもないんだし」

重騎士「流石勇者だな、勇ましいことで!」

僧侶「でも歩き続けてどれくらい経つかなー。そろそろ疲れたよ」

勇者「もうすぐ、占星術師が言っていたという山頂に着くよ」

賢者「何の魔力も感じませんね…。ガセ情報な気がしてきましたよ」

勇者「本当に情報合ってるの?」ヒソヒソ

精霊『もし間違ってたら、俺の体を好きにしていいよ~♪』

勇者「生き物を解剖する趣味はないよ」

精霊『待って、好きにってのはそっちの意味じゃない』

85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/05(月) 19:16:34.90 ID:JGi6H2BQ0
>山頂


重騎士「着いたああぁぁ!! ヤッホオオオォォォォ」

ヤッホー……

勇者「……見事に何もないね」

僧侶「ウゥン、やっぱり嘘情報だったんだね」

勇者「…精霊、どういうこと」

精霊『あーと、それはね』

賢者「あ、この辺」

僧侶「ウン? どうしたんだい賢者ちゃん」

賢者「この辺に、空間の歪みが生じています。簡単に言うと、ここに異世界への扉があるということです」

重騎士「じゃあ…もしかして、その異世界に……」

精霊『ピンポーン♪ 魔王がいるってことだよ~』

僧侶「フム、どうやらガセ情報と決め付けるには早いようだね。でも問題は、どうやって異世界への扉を開けるか……」

勇者「どうすればいいの?」ヒソヒソ

精霊『簡単なことだよ。勇者、剣を手に掲げて』

勇者「こ、こう?」

精霊『で、唱えるんだ。『女神よ私に力を! 今こそ、この異世界への扉を開けん!』て』

勇者(恥ずかしー…でもやるしかないか)

勇者「め、女神よ、私に力を! 今こそ、この異世界への扉を開けん!」

精霊『はいはいっと』ガチャッ

勇者「」

重騎士「スゲェ、異世界への扉が開いたぜ!!」

賢者「流石、勇者さんですね!」

僧侶「おおぉ……僕は今、奇跡を見たよ」


勇者「……わざわざ、あれをさせる必要あった?」ゴゴゴ

精霊『演出、演出♪』

86 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/05(月) 19:18:39.87 ID:JGi6H2BQ0
精霊『さぁ、行った行った。最終決戦だよ、気合い入れていこう』

勇者「でも、ここは……」

勇者は躊躇する。精霊が開いた異空間への扉の向こうは、宇宙のような世界が広がっている。
足を踏み入れて大丈夫だろうか…。

精霊『大丈夫、大丈夫。ほらほら!』グイグイ

勇者「おわあぁ!?」

重騎士「おぉスゲェ、勇者の奴、勇ましく足を踏み入れたぞ」

賢者「こうなれば、私達も行くしかありませんね……」

僧侶「あぁ、正直怖いよ……。でもっ!」ダッ

仲間たちも続いて異世界に足を踏み入れる。

不思議な感覚だった。地面がなく、ふよふよ浮いているような感覚だ。
だけど足を動かせば思う方向に進行できて、まるで空気を踏んでいるようだ。

勇者「……」

精霊『ねー勇者』

勇者「何?」

精霊『ずっと表情暗いね。何かあった?』

勇者「あ、いや、別に……」

87 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/05(月) 19:19:49.72 ID:JGi6H2BQ0
勇者「………」



>回想・王の間にて


勇者『わかりました、北の山脈ですね。早速、仲間と共に向かってみようと思います』

王『うむ、罠かもしれんので気をつけるように。…あと勇者、もう1つ伝えておくことがある』

勇者『はい、何でしょう?』

王『息子と、小国の姫君の結婚が決まった』

勇者『…っ!!』

王『2人には、平和な世で式を挙げさせてやりたい』

勇者『………』

王『重圧をかけたくはないが……期待しているぞ、勇者』

勇者『はい………』



勇者(こうなるのはわかっていたのに、どうしてこんなに……)

88 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/05(月) 19:22:10.38 ID:JGi6H2BQ0
勇者「ハァ……」

精霊『……ねぇ勇者?』

勇者「うん?」

精霊『勇者は、王子のことが好きなの?』

勇者「~っ!?」

精霊『その顔は王子のことを考えている時の顔。剣の精霊やってた時から見てたから、わかるよ』

勇者「……」

誰にも見抜かれないようにしていたつもりだったが……迂闊だ、本当に。

勇者「…私は、お姫様が羨ましい」

どこかの国の姫に生まれるよりも、勇者に生まれることの方が、遥かに確率が低い。
けれど、そこまで低い可能性で生まれついた『勇者』という地位は、自分を抑圧してきた。

勇者「勇者も、お姫様も、なりたくてなれるものではないし、やめることもできない地位――だけどそれでも、私はお姫様が羨ましい」

精霊『…何か、俺は王子が羨ましい』

勇者「――え、それはどういう……」

問い返すが、精霊は返答の代わりに悪戯っぽい笑顔を見せる。

精霊『お姫様が羨ましいなら、俺だけのお姫様になればいいのに~』

勇者「~っ!!! ば、馬鹿なんじゃないの。…だ、大体、私なんかのどこがいいんだって……」

精霊『まず顔でしょ。あと勇者としての誇りがある所、勇ましいけど内面は女の子らしい所……』

勇者「わ、わかったわかった! もうやめて!」

精霊『わぁ真っ赤~。そういう反応が素直な所も好き』アハハ

勇者「精霊~っ!!」


賢者「勇者さん」

勇者「あっ、えっ、はいっ!?」

僧侶「どうしてのテンパって。見てよ、あれ」

勇者「…!! あれは……」

視線の先に、真っ黒なもやに包まれた柩があった。
本能的に察知する。あれは危険だ、と――

89 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/05(月) 19:23:52.55 ID:JGi6H2BQ0
精霊『あれが魔王の眠る柩。今は完全体になるべく、あそこで力を蓄えている所だよ』

勇者「…力を溜めて完全体になれば、柩から魔王が出てくる……ってこと?」

重騎士「そんなら出てくる前に叩こうぜ!!」ダッ

勇者「ちょっ、待っ」

勇者の静止も聞かず、重騎士は真っ直ぐ柩に突っ込んでいく。

重騎士「オラアアァァ!!」

重騎士の一擊で柩は真っ二つに割れる。
続けざまに、賢者と僧侶が攻撃魔法を放つ。

僧侶「これで倒せたら、ラッキーなんだけどね……!」

賢者「ラッキーって言う位だから、低確率ですけどね……」

3人の攻撃の手が止んだ頃、柩はボロボロになっていた。
それも黒いもやは晴れず、中身の様子はよく見えない。

辺りは静寂に包まれている。この異様な空間の中で時間が止まったように、動きがない。

勇者「……まさか、やったの?」

精霊『まさか』

そう言うと、精霊は柩に向かって手をかざした。

精霊『いつまで狸寝入りしてるんだ、起きろーッ!!』

ヒュオオオォォ

賢者「な、何!?」

精霊の姿が見えない3人からは、唐突な突風がもやを払ったようにしか見えない。
突風でもやが晴れ、それは姿を現した。

「我が眠りを覚ますのは誰だ……」

重騎士「…っ!!」

僧侶「あ、あれが……」


魔王「完全体まであと少しだったというのに……貴様らの罪は、重いぞ」


賢者「ほ、ほとんどダメージを受けていない!?」

精霊『魔王への目覚ましになっただけ、グッジョブってとこかな』

勇者「速攻で終わらせる! うらあああぁぁ!!」

勇者は魔王に真っ直ぐ突っ込んでいった。

90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/05(月) 19:25:03.97 ID:JGi6H2BQ0
カァン!

金属音が鳴る。
勇者の剣は魔王の腕で受け止められる。

勇者(な、何て頑丈な腕……けどっ!!)

躊躇なく、勇者は剣を振り回す。
カンカンと鳴り響く音。魔王は全ての攻撃を受け止め、ダメージはない。

勇者(なら――)

勇者「重騎士、賢者、僧侶っ!!」

重騎士「わかったぜ勇者!」

賢者「やりますよ!」

僧侶「よーし……」

ドガアアァァン

重騎士「どりゃあああぁぁ!!」

魔王「――っ」

勇者との攻防にいそしんでいた所への、攻撃魔法2発。
それに続き、重騎士の斧が魔王の背中を切った。

重騎士「どうだ、流石にダメージを受けただろ!!」

精霊『いや――』

重騎士「いっ!?」

重騎士は目を疑う。
確かに今、確かな手応えはあった――だが魔王の背中には、ほんのかすり傷しかついていなかった。

精霊『自然治癒の力だ…面倒な相手だよ』

魔王「目障りな奴らだ――覇っ!!」

ゴゴゴ……

勇者「――っ!!」

魔王を中心として、周囲に衝撃波が放たれる。
その力で、空間が揺れるのを感じ取った。

魔王「消え失せろ!!」

91 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/05(月) 19:25:30.28 ID:JGi6H2BQ0
しかし。

魔王「…!?」

重騎士「あ……れ?」

賢者「……何ともありませんね?」

僧侶「どういうことだ?」

妙だ。誰一人として衝撃波に倒れるどころか、わずかにもダメージを受けていない。
その理由を知るのは、たった2人。

精霊『即席シールド……ハァッ、焦ったー』

勇者(助かった……)


魔王「……」

魔王「…そうか、姿は見えないが……」

魔王「そこにいるのだろう、我が同志よ!!」

勇者「――え?」

精霊『……』

95 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/06(火) 18:44:37.31 ID:5CJJZx6/0
精霊「……誤解を招くこと言わないでくれるかなぁ」

重騎士「うわ、何だ!? 突然、ガキが現れたぞ!?」

唐突に姿を見せた精霊に、仲間たちは驚く。
だが、その姿を見た途端、魔王は嬉しそうに笑った。

魔王「やはりお前か。また我と共に、この世界を蹂躙するか」

勇者「せ、精霊…どういうこと? 『また』ってのは……?」

魔王「そいつは元々、魔王――我の同志だった」

精霊「それは…」

魔王「そうか、今は精霊と呼ばれているのか」

精霊が何か言いかけたが、魔王の声がそれを遮る。

魔王「一世紀前、そいつは――邪神、と呼ばれていたな」

勇者「じゃ、邪神!?」

精霊「…っ」

勇者(どうして反論しないの…まさか、精霊――)

精霊「もう、過去の話だ!!」

精霊は魔王に怒鳴りつけた。

精霊「魔王! 俺はお前と組む気はない!! 一世紀待ったんだ、お前を滅ぼしてやるっ!!」

魔王「それが贖罪のつもりか?」

精霊「……っ!!」

96 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/06(火) 18:45:58.13 ID:5CJJZx6/0
僧侶「ウゥン、どういうことだい? 勇者ちゃんは、あの不審な坊やと知り合いなのかな?」

賢者「その話は後です。それより、おかしな点がひとつ」

勇者「ん? どうした?」

賢者「一世紀前に先代魔王は先代勇者に倒され、現魔王は先代魔王の意思を継ぐ者のはず――ですが……」

勇者「あっ」


そうだ。魔王は先ほど言っていた。

『そいつは一世紀前、魔王――我の同志だった』――と。


賢者「あの魔王と先代魔王は同一人物…という風に聞き取れましたね」

勇者「先代勇者が魔王を討ったというのはまさか、歴史の捏造!?」

精霊「いや…先代魔王が討たれたのは確かだ。だけど……」

魔王「ゆっくりお喋りしている暇はないぞ!!」

僧侶「来るっ!!」

魔王の爆炎魔法が勇者一行に襲いかかる。
彼らは攻撃回避し、話を中断せざるを得なかった。

重騎士「どりゃあああぁぁ!!」ダダッ

攻撃の間を縫い、重騎士が魔王に突進していく。

重騎士「せやぁ!!」ビュオッ

そして魔王に切りつける――が、

魔王「ふんっ」ドゴッ

重騎士「うわあああぁぁ」ズザアアアァァ

勇者「重騎士ぃ!!」

またしても大してダメージは与えられず、重騎士は至近距離からの攻撃を受けて吹っ飛ばされた。

97 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/06(火) 18:46:24.07 ID:5CJJZx6/0
賢者「くっ、雷鳴!」バリバリッ

僧侶「聖なる矢!」シュババッ

魔王「小賢しい」ブンッ

魔王が腕を振ると同時、魔王に放たれた攻撃魔法が2人に跳ね返る。

賢者「きゃあっ!」ドサッ

僧侶「くふっ」ドサッ

勇者「賢者、僧侶! …くっ」

仲間に駆け寄りたい気持ちを抑え、魔王と向き合う。
完全体でないとはいえ、相手は魔王――ならば勇者である自分が倒されるわけにはいかない。

精霊「勇者っ!」

精霊が勇者に手を伸ばす。

精霊「俺と勇者が力を合わせないと駄目だ! だから…」

勇者「悪いけど精霊」

精霊「えっ」

勇者の声は冷淡なものだった。
精霊はびくっと肩をならし、伸ばした手を硬直させた。

勇者「私――精霊と協力はできない」

精霊「――っ」

98 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/06(火) 18:46:58.72 ID:5CJJZx6/0
魔王の口から語られた精霊の正体。
一世紀前、彼は邪神と呼ばれていて、魔王と共に居た。
そして精霊は、それを否定しなかった。

勇者「精霊はずっと、正体を隠していたよね」

精霊「それは――」

勇者「だから、駄目なんだ」

内心、勇者自身も揺れていた。

精霊と出会った時のこと。
夜の城で一緒に踊ったこと。
蛇使いを倒した時のこと。
街に引っ張り出されてデートした時のこと。

もうすっかり見慣れた、悪戯っぽい笑顔、無遠慮な言葉、あざとい仕草、その全てが――

勇者「信用しきれない」

嘘だなんて思いたくなかったけれど。

勇者「私は、あんたの力を借りない」

精霊「勇者……」

この混乱した頭を鎮めるには、突き放すしかなくて――

勇者「魔王、覚悟!!」

気付いた時には、駆け出していた。

99 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/06(火) 18:47:28.69 ID:5CJJZx6/0
勇者「でりゃあぁ!!」

魔王「…ほう、なかなかの太刀だな」

魔王は手で剣を弾く。それでも勇者は何度も剣で切りつける。
その内魔王の手には傷が増えていく。
手応えは、ある。

魔王「しかし、女神の力も衰えたか? 一世紀前の勇者とは、まるで違う…」

勇者「そうだろう、なぁっ!!」ズバァッ

魔王「…っ!!」

胸を切りつけ、魔王は血を吐く。
今のはなかなかのダメージだろう。

勇者「先代と私は別物だ。だけれど、お前を討つことに変わりはない!」

魔王「ほう、面白い冗談を言う」

勇者「本気だ!!」

ガシッ

勇者「――っ!!」

一擊を叩き込もうとしたその瞬間、剣を握る手を魔王に掴まれた。

魔王「お前のスピードには適応した」

勇者「グッ……」

100 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/06(火) 18:48:51.21 ID:5CJJZx6/0
魔王に力を込めている様子はないのに、その手を振りほどくことができない。
力は遥かに、魔王が上。

魔王「女神の加護の力が衰えたとはいえ――勇者一族は我にとって忌むべき存在」スッ

魔王の手が勇者の頭にかざされる。

魔王「一世紀前、人間相手とたかをくくり討たれたのは我の落ち度――ならば今度は油断せん。相手がどんなに矮小な相手だろうとな……」

勇者「……っ!!」

魔王の手に魔力がこもっているのがわかる。
まずい、こんな距離で攻撃を喰らっては――

勇者(く……っ)ボスッ

この状況を打破しようと抵抗し蹴りを入れたが、魔王は微動だにしない。

魔王「貴様から死ね、勇者よ――」

勇者「――っ」


――ドォン

その衝撃で空間が揺れた。

101 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/06(火) 18:49:30.07 ID:5CJJZx6/0
魔王の体は返り血で真っ赤だった。
だが魔王は、その汚れを拭わずに平然としていた。

魔王「……ほう」

素直に感心していた。
この状況は、魔王にも予想外だった。

精霊「か、ハ……っ」ボタボタ

勇者「せ、精霊…!!」

――それは、魔王の手から衝撃波が放たれる寸前のことだった。
精霊が勇者と魔王の間に割り込み、その攻撃を身代わりに受けた。
そして魔王の手に懇親の蹴りを入れ、魔王と勇者を引き離すことに成功した。

精霊「ゆう…しゃ、大丈夫…だった?」

その代償に受けたダメージは大きく、精霊の小さな体は血まみれになっていた。

勇者「どうしてこんな無茶を!!」

勇者の困惑は大きい。

精霊「言ったじゃん…」

それでも精霊は、さも当然のように笑った。

精霊「俺は勇者を守りたいんだよ……勇者のこと、好きだからさ」

勇者「……っ!!」

102 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/06(火) 18:50:00.50 ID:5CJJZx6/0
勇者「どうして……?」


精霊『戦場でボロボロになんかさせないよ。俺が『可愛い勇者』を守る』

精霊『減るなら、俺が独占しちゃえばいいんじゃないのかな! 勇者の、心』

精霊『お姫様が羨ましいなら、俺だけのお姫様になればいいのに~』


勇者(精霊…あんたの言葉も、あんた自身も信用したらダメなのかもしれないけど――)ギュッ

精霊「ゆう……しゃ?」

勇者は精霊の体を抱きしめる。
まだへばるな、元気を出せ――そんなメッセージを込めて、力強く。

勇者「あんたって本当、小悪魔っ子だね。ここまでされちゃ、もう信じるしかないじゃない……」

精霊「………」

精霊はその言葉に、少しポカンとしていた。
だけどすぐに理解が追いついたのか、勇者の手を握りニコッと笑った。

精霊「信じてもいいよ、勇者」

勇者「……うん!」

105 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/07(水) 18:12:41.97 ID:ZY6cmIjT0
魔王「まとめて死ぬ覚悟はできたのか?」

勇者「黙れ」

勇者は精霊から離れると気持ちを切り替え、剣を構える。
その後ろには精霊が立つ。

精霊「勇者、攻撃と防御と素早さを上げるよ。思い切り戦って」

勇者「オッケー」

勇者は力がみなぎるのを感じていた。
精霊を信じると言った。それなら信じて、遠慮なく力を拝借するのみ。

勇者「だああぁぁっ!!」

魔王「!!」

魔王は後方に跳躍し、その一擊を回避――したが、勇者はすぐに距離を詰めた。
これが精霊の力。信じられないくらい、体が軽かった。

勇者「でりゃ、おらっ!!」

魔王「くっ!!」

連続で叩き込まれる攻撃に魔王は回避で精一杯の様子だ。

魔王「仕方ない……」

そう言って魔王は魔力を纏い、衝撃波を繰り出そうと――

精霊「させるかあぁ!!」

ドオオォォン

魔王「っ!!」

魔王を上から叩きつけるのは、巨大化したテディベア。
精霊がテディベアに込めた『苦痛』は、魔王の脳天に大打撃を与えるには十分。

精霊「今だ勇者、行っけええええぇぇ!!」

勇者「どりゃああぁ!!」


ズバッ――

106 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/07(水) 18:13:16.71 ID:ZY6cmIjT0
魔王「が……ッ」

致命傷。そう呼ぶに相応しいダメージだった。
魔王はそこに膝をつく。その目に余裕は伺えない。

魔王「グ…貴様、ら……」

勇者「お前の負けだ、魔王」

重騎士「やったなぁ、勇者!」

いつの間にか起き上がっていた仲間たちから歓声があがる。
皆は無事だ。それを見て、勇者は安心する。

精霊「気を抜くな勇者、魔王には自然治癒の能力がある!」

勇者「そうだね」チャキ

魔王「……」

魔王はそこにうずくまったまま、動かない。
そんな様子に覚えた違和感を無視し、勇者は剣先を魔王に向ける。

勇者「魔王、覚悟――」

魔王「……勇者よ」ニヤ

勇者「えっ」

その時、顔を上げた魔王の視線は、勇者に向けられていなかった。

魔王「我は――不滅だ!!」ズシュゥ

そして誰もが目を疑った。

勇者「――っ!?」

魔王は、自分で自分の心臓を貫いたのだ。

そして――

精霊「うわあああぁぁぁ」

勇者「精霊!?」

107 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/07(水) 18:13:43.45 ID:ZY6cmIjT0
精霊「はっ、はぁ…っ」

精霊はそこに倒れ、息を切らす。
おかしい、何が起こった。

勇者(いや…私は見ていた)

魔王が心臓を貫き、絶命の瞬間、黒いもやが魔王から放たれた。
そしてそのもやは精霊にまとわりつき、今こうして、精霊を苦しめている。

勇者「僧侶、賢者、何なの!? このもやは!」

賢者「わ、わかりません! 魔力の類でないのは確かです」

僧侶「けど邪悪な気を感じるよ……。これは、僕の力でも祓えそうにない」

精霊「ハ…ァ……」

精霊が震える手を勇者に伸ばす。

精霊「勇者、お願い……」

勇者「どうしたの!? 精霊、何を伝えようとしているの!?」

精霊「お、俺、を……――」

勇者「――」

耳を疑った。

勇者(何? 今、何を言ったの?)

聞き逃してなんかいない。だけど、信じられなくて。


――俺を、殺して

108 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/07(水) 18:14:59.57 ID:ZY6cmIjT0
精霊「そもそも、一世紀前の魔王の話だけれど――」

精霊は急いでいるのか、息を切らしながらも口早に説明を始めた。

精霊「一世紀前に魔王が先代勇者に討たれたのは事実……。だけど、さっきの魔王は、先代魔王と同一人物だよ……」

勇者「ど、どういうこと!?」

精霊「ハァ…それが、魔王の力だ。魔王は……他の奴に魂を移すことができる……」

勇者「魂を……!?」

精霊「先代魔王は討たれる寸前に…ハァッ、近くにいた魔族に、魂を移した……。その魔族の体に馴染むまでに、一世紀かかったって、わ……」

勇者「ど、どうしたの精霊」

精霊「…ごめん、俺も魔王に侵食され…て……これ以上、は……」

勇者「精霊、しっかりしてよ!! あんた、そんなに弱い子じゃないでしょ!?」

精霊「あ、ははは……無理、だから……俺を殺して、魔王を――」

勇者「冗談じゃないよ! あんたごと魔王を殺すなんて、そんなこと……」

精霊「……」

勇者「…精霊?」

目を閉じた精霊は呼びかけに応えない。
ゆすっても、頬を叩いても――何の反応もしなくなっていた。

勇者「精霊、ねぇ、目を覚ませよぉ――っ!!」

109 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/07(水) 18:15:30.34 ID:ZY6cmIjT0
うっ、ひっく



精霊『……』


子供が、泣いている。


子供「ううっ、えうぅ」


ねぇ、どうしたの?

俺の問いかけは声にならなかった。


「いい加減いなくなってほしいわ、あの子」


この記憶は――


「あの子が、邪神と人間の間に生まれたっていう…」
「やぁね、邪神の血を受け継いでいるなんて……」
「でも母親はついこの間、死んだそうよ。子供一人で生きていけるわけないし、あの子もそう長くないでしょう」


子供「ママぁ…うえっ、えうぅ」


あぁ、思い出した。


この子は、昔の俺だ。

110 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/07(水) 18:18:08.53 ID:ZY6cmIjT0



子供「……あ」

森を彷徨っていると、猫のぬいぐるみを拾った。
誰かが捨てたのか、落としたのか。わからないけど、ここで1人にしておくのは可哀想だ。

猫のぬいぐるみを拾い上げ、声をかける。

子供「友達になろうよ」

猫のぬいぐるみ「うん、よろしくね!」

俺はぬいぐるみと話ができた。
俺にそういう能力があるのだと気付かない程、俺にとっては当たり前のことだった。

子供「じゃあ、一緒に帰ろうか」

猫のぬいぐるみ「君はどこに住んでいるの?」

子供「森の奥に小屋があってね、そこに住んでいるんだよ」

猫のぬいぐるみ「へぇ…寂しくないの?」

子供「寂しくないよ。友達が沢山いるから」


お母さんを亡くしてから、俺は沢山のぬいぐるみに囲まれて生きてきた。

111 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/07(水) 18:19:30.48 ID:ZY6cmIjT0
犬のぬいぐるみ「ご飯とってきたよー」

子供「ありがとう。君も食べる?」

犬のぬいぐるみ「僕は食べない。それより一杯食べて、早く大きくなりなよ」

子供「あはは、うん。俺、うんと大きくなるよ」


?「ぬいぐるみが動いている…。噂は本物だったか」

子供「え?」

知らないおじさんだ。
初めて訪れる、人間のお客さんだ。

?「そのぬいぐるみは、君の能力で動かしているのかな?」

子供「能力って? この子は俺の友達だよ」

犬のぬいぐるみ「……」

子供「俺以外の人の前では喋らなくなっちゃうんだ」

?「君は邪神の子だね?」

子供「うん…ママはそう言ってた。パパは人に嫌われているんだって」

?「そうかい。君は邪神について何も知らないんだね」

子供「ところで、おじさんは?」

?「おじさんはだな…。そうだな、邪神の親戚のようなものだよ」

子供「パパの?」

?「そう。そして、君を探していた」

おじさんはそう言って、にっこり笑った。

112 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/07(水) 18:20:29.60 ID:ZY6cmIjT0
精霊『……そうだ』

――これは、俺とあいつが出会った日の記憶。


?「おじさんの手伝いをしてくれないかい?」

子供「手伝い? なになに?」


精霊(――ダメだ)


?「おじさんは生き物を生成することはできるんだけど、魂が宿らなくてね。君の力を借りたい」

子供「???」

?「おじさんの友達を、動かしてほしいんだ」


精霊(ダメだ……!!)


子供「よくわからないけど……おじさんの友達、動けないの?」

?「そう。君の力があれば、おじさんの友達も元気になる」

子供「そっか、それなら手伝うよ! 友達が元気なかったら、心配だもんね!」

?「ありがとう。なら、早速一緒に来てくれるかな?」

子供「うん! ところでおじさん、名前なんていうの?」

?「おじさんの名前は……」


精霊(ダメだ…そいつに着いていったら!!)



?「いずれ『魔王』と呼ばれるようになる存在だ……だから君も、そう呼ぶといい」



精霊(―――っ!!!)

113 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/07(水) 18:21:41.00 ID:ZY6cmIjT0
精霊『そうだった……』

古い記憶が脳内で駆け巡り、気付けば精霊は涙を流していた。


精霊『それが俺と魔王の出会い…』

精霊『魔王の作り出した生命体に魂を与えるのが、俺の仕事だった』

精霊『そうしてこの世界には――魔物が生まれてしまった』



魔王の目的も何も知らず、ただ言われるまま魔物を生み出していた。
自分はあまりにも無邪気で、それでいて無知だった。


魔王「素晴らしい。お前の力のおかげで、願いが叶いそうだ」

子供「良かったね~。魔王の友達、皆元気になったもんね」


魔王への最大の協力者。そんな自分は、自身が邪神と呼ばれるようになっても尚、罪を自覚していなかった。

114 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/07(水) 18:22:41.27 ID:ZY6cmIjT0
先代勇者「ハァ、ハァ…遂に魔王を討ったぞ……」

子供「魔王……」

自分は知っていた。
魔王は近くにいた魔族に魂を移し、死んでいないことを。

先代勇者「次はお前だ、邪神――」

子供「え?」

先代勇者「だが邪神とはいえ、子供の姿をしているせいで殺しにくいな…」

子供「殺す…俺を?」

その言葉を聞いて、無意識に戦闘の構えを取っていた。

どうしてかわからないが、魔王の元に来てから、自分は命を狙われることも多くなった。
そういう奴を撃退する術は、魔王に教えてもらっている。

先代勇者「だが、仕方ない……お前を討たないことには、平和がやってこない……」

子供(何を言っているの…平和って、何のこと?)

115 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/07(水) 18:23:44.99 ID:ZY6cmIjT0
女神「待つのです、勇者よ」

先代勇者「女神様、どうなされました。まさか、この者を許せと?」

女神「その者は魔王に利用されただけなのです。どうか、命は奪わぬよう……」

先代勇者「…ですが、このまま放置しても良いのですか? 利用されていたとはいえ、この者は邪神。その影響力は人間と魔物、両種族にとって大きいでしょう」

女神「……わかりました。では、この者を剣に封印することにしましょう」

先代勇者「封印、ですか。それなら……」

子供「え? なに、何で封印――」

先代勇者「女神よ、その力を我に! 今こそのこの者を封印せよ!!」

子供「うわああぁぁ――ッ!!?」



女神「申し訳ありません…女神である私が、邪神である貴方を救うわけにはいかないのです」

女神「ですが、もし貴方が己の罪を知る時が来るのなら――」

116 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/07(水) 18:24:27.64 ID:ZY6cmIjT0



勇者が持ち帰った剣は、勇者の象徴として祭り上げられた。
魔王討伐の熱気に満ちた人々は、やがて歌を作り上げる。


『勇者と魔王の物語』


吟遊詩人は唄う。
平和な世界を襲った魔王、その魔王を滅ぼした勇者の英雄譚を。

人々は讃える。
彼らの英雄たる勇者一族と、彼を守護した女神を。


勇者のシンボルとして飾られた剣の前で、物語は繰り返し語られた。


子供『あ、ああぁ……』


彼らの声が、人知れず、1人の少年を苦しめる。

無知だった彼はようやく学んだ。魔王が世界に加えた危害と、自分が犯した罪を。


子供『俺は……何てことを……』


彼の後悔は声にならず、誰にも届かなかった。

119 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/08(木) 11:34:02.67 ID:D5Z8hfqq0




精霊『俺なんて、死んで当然だよなぁ…』


意識を手放しそうになりながら、精霊は呟いた。
体が段々魔王に侵食されていく。もうすぐ自分は自我を失くす。
それならせめて、自分が自分である内に――次の魔王を生み出さない内に。


精霊『俺が死んで世界平和……いいことじゃん』

精霊『勇者はもう役目から解放される…だから可愛い服、一杯着れるよ』

精霊『えへへ…良かったね、勇者……』


一世紀の孤独は、あまりにも長かった。

叫んでも声は届かない。泣いても想いを受け取ってもらえない。

徐々に人が訪れなくなっていったあの部屋で、何度発狂しかけたことか。

だから本当に嬉しかった。勇者と触れ合えたこと、話し合えたこと、一緒にいれたこと――



勇者『~っ!!! ば、馬鹿なんじゃないの。…だ、大体、私なんかのどこがいいんだって……』


精霊(勇者はそんなこと言ってたけど、勇者は――)


勇者は自分の一生の中で、1番、暖かい時間をくれた人だから。


精霊『ありがとうね、勇者……』



そして、意識が遠くなっていき――









勇者「待ちなさい、精霊!!」


精霊「――え?」

120 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/08(木) 11:34:39.14 ID:D5Z8hfqq0
勇者「でりゃああああぁぁぁ!!」

精霊「!!」


急に眠りから起こされた時のように、精霊は目覚めた。
意識が少し戻ってきた。一体、何が起こったのか――

勇者「えぇい、まとわりつくなっ!!」ブンッ

精霊「いっ!?」

精霊は面食らう。
勇者が剣を、こちらに向けて振り下ろしてきたのだ。
あまりにも突然のことに精霊は固まったが――

精霊「れれっ?」

勇者の剣が切ったのは精霊の体ではなく――精霊の体にまとわりついていた、黒いもやだった。
そしてもやが切られると同時、また精霊の意識は戻ってきた。

精霊「これ、は…?」

『間に合ったようですね』

精霊「!? お、お前は……」


その姿を見るのは一世紀ぶりになる。

女神『お久しぶりです、邪神――いえ、精霊』

精霊「女神…。この状況は一体、どういうこと……?」

121 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/08(木) 11:35:16.22 ID:D5Z8hfqq0
女神『貴方の記憶を勇者に流しました』

精霊「……っ、見られたの、勇者に……!?」

女神『ですが、貴方の罪を見ても尚、勇者は貴方を許すことに決めたのです』

精霊「許す…この俺を……?」

女神『はい。そして勇者の強い想いが、その力を覚醒させたのです』

精霊「その力…ってのは……」


勇者「精霊、大丈夫、助けるからっ!!」

勇者の剣でもやが祓われる。
魔王の最後の抵抗とばかりに、もやは勇者にも襲いかかったが、勇者はそれを全て切り払った。

精霊「……魔王だけを切る力、か――」

女神『精霊。私はずっと、貴方のことを気にかけていたのです』

精霊「俺を……? 何で?」

女神『一世紀の孤独という罰は適切だったのか――女神である私にも、それはわからない。ですが貴方が悔いているのなら、チャンスを与えてもいいと思いました」

精霊「…俺が悔いているのかなんて、わかるの……?」

女神『はい。勇者が初めてあの剣に触れたあの時、私は勇者を通して貴方の心に触れることができた』

精霊「…そっか。ずっと疑問だったんだ、どうして俺の姿が勇者に見えるようになったのか…。女神の仕業か、そりゃそうだよね」

精霊(だけど……)

自分は確かに悔いていた。一方で許されたい、救われたいと願っていた。
だけど自分が犯した罪の大きさも理解しているつもりだ。だから精霊自身が、許されたことに納得がいかない。

精霊「……良かったの、本当に。俺が忌むべき力を持っているのも変わらないことだよ」

女神『えぇ……。だって貴方は……』


勇者「精霊ぃ!」ギュッ

精霊「わわっ!?」


女神『事実、勇者の力に……支えになってくれましたから』

122 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/08(木) 11:36:09.76 ID:D5Z8hfqq0
勇者「精霊、精霊!! 良かった、本当に良かった……!!」

精霊「勇者……」

抱きしめてくる力は、勇者の気持ちの強さ。
力強い。だけど苦しくない。むしろ心地よくて、この腕の中にもっといたくて。

精霊「勇者……俺は、許されない罪を犯したんだよ」

勇者「知ってる。私が許す!」

勇者はぐしゃぐしゃと精霊の頭を撫でてきた。大雑把な勇者らしく、少し乱暴だ。
だけどその手が、今は何よりも優しく感じる。

精霊「ごめん…勇者のこと騙して、利用して」

自分は精霊を騙って封印から逃れた。
魔王を討つ為とはいえ、勇者を騙したことには変わりない。

勇者「いいんだ。私には魔王を倒す使命があった。あんたは、その力になってくれたんだから」

精霊「でも…でもね、俺…」

涙がぼろぼろと溢れてきた。
これだけは嘘じゃない。これだけは信じてほしい。

精霊「俺、勇者のこと本当に……っ」

それを伝えた後、返事を聞くのが怖かったけれど。

勇者「わかってるよ」

勇者の手が精霊の頭を柔らかく撫でる。
暖かくて、優しくて――その手から勇者の気持ちが伝わって、全てを委ねることができた。

勇者「一緒に帰ろう――ね?」

精霊「うん……うんっ!!」

123 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/08(木) 11:36:43.29 ID:D5Z8hfqq0
魔王が討たれた――その報せは瞬く間に世界に広がり、勇者一行は英雄として祭り上げられた。
精霊を知る者は、その勇者一行の者のみである。


賢者「正直、彼を信用していいのか私には判断できかねますが…勇者さんが見張るというのなら、安心してお任せできます」

僧侶「賛成。王様や一族の者に知られたら、色々面倒なことになりそうだ」

重騎士「それにソイツ、今まで勇者を守ってくれたんだしな!」

勇者「皆……ありがとう」


精霊は勇者が拾った孤児として、勇者の側に仕えることになった。


精霊「勇者ぁー、今日のお召し物はこれなんてどうかなーっ!?」

勇者「き、着れるかーっ、こんなフリフリのドレス!!」

精霊「えー、今日は人前に出るんでしょ。だから可愛い格好しようよ」

勇者「ばか、人前に出るからこそ着れないの!!」


賢者「何か、今日もドタバタやってますねぇ…」

僧侶「従者にしてはあまりにも無礼だけど、彼といると勇者ちゃん活き活きしてるねぇ」

重騎士「そんで俺らは2人のやりとりをニヤニヤしながら見るっつーな」ニヤニヤ

賢者「でもそろそろ急いで頂かないと。勇者さーん、早くー」

勇者「あ、ごめん、今すぐ準備するから!」バタバタ

重騎士「何せ特等席を用意されてるもんなぁ…王子と姫の、結婚式」

124 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/08(木) 11:37:14.08 ID:D5Z8hfqq0
式場の鐘が鳴る。
その日、主役の2人は人々に祝福され、永遠の愛を誓い合った。

王子「私は姫君と共に、この国を守っていくと誓おう!」

ワーワー


勇者(王子……)

夫婦の契を結んだ2人を見つめる。
我が国の若き人格者である王子に、それを支える淑やかな姫君。誰から見ても、似合いの夫婦だ。

勇者(私が貴方を想っていたことは、知らなかったでしょうね)

この秘密は墓場まで持っていく。
人々の英雄たる勇者が王子に片思いしていたなど、勇者一族にあってはならぬスキャンダルだ。

勇者「………」

精霊「…勇者、そろそろ式はお開きみたいだよ」

勇者「あ…うん。帰ろうか」

精霊(ボーッと王子達を見てた…やっぱり勇者、まだ王子のこと……)


そして帰り道でも、勇者は何かを考え込んでいた。

勇者「………」

精霊(…元気ないなぁ)

精霊「それにしても魔王討伐から結婚するまで、早かったね~」

勇者「……そうだね」

精霊(う。やっぱまだ失恋引きずってるのかなぁ?)

精霊「ゆ、勇者が頑張って戦ってる間から、式の準備始めてたのかな~。はは、呑気な連中だなぁ」

勇者「……」

精霊「派手な式だったよね~。特に……」

勇者「……お姫様の、ドレス」

精霊「………え?」

125 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/08(木) 11:37:59.27 ID:D5Z8hfqq0
勇者「お姫様のドレス、すっごい綺麗だったね! こう、キラキラしてて! それに会場の雰囲気も、まるで天使の楽園って感じ!? ああぁ~、もう素敵だった~!」

精霊「あの、もしもーし?」

勇者「あれぞ、お姫様の晴れ舞台だったよね~。あぁ~、思い出すだけで素敵」ウットリ

精霊「……あー良かった。式の余韻に浸ってただけか」

勇者「え、何が良かったの?」

精霊「ううん、別に」

勇者「? 変な精霊」

精霊「勇者も、ああいう結婚式したい?」

勇者「いいね~。キラキラのドレス……」

精霊「だからドレス着ようって言ったのに」

勇者「皆はまだ『勇ましい勇者』に幻想を抱いているんだもん、無理無理」

自分が勇ましくいることで、人々は安心することができるのだ。
もう少し魔王がいた頃の余波が消えないと、女らしい格好は……

精霊「はい、これ。プレゼント」

勇者「えっ?」

126 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/08(木) 11:38:27.84 ID:D5Z8hfqq0
精霊が頭に触れて、何かをつけてきた。
勇者は窓ガラスに映った自分の姿を見る。精霊がつけてきたのは、小さな花の髪飾りだ。

精霊「色んなモチーフの髪飾りあったけど、やっぱり王道の花が好きだなぁ。勇者は?」

勇者「あ、うん…私も……」

精霊「だよね~。もっと大きいのも良かったけど、控えめなデザインなら勇者も抵抗そんな無いかなって」

勇者「そう、だね……これ位のなら、いいかも」

精霊「へへ。良かった、気に入ってくれて」

勇者「そうだね…こうやって、ちょっとずつ可愛くしていけばいいのかも」

精霊「それで最終的に、理想のフリフリした可愛い格好になるんだね!」

勇者「理想のフリフリ…私が……」ジュル

精霊「勇者、ヨダレヨダレ」

127 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/08(木) 11:38:53.75 ID:D5Z8hfqq0
勇者「よーし決めた、私はフリフリの似合う女になる! 世界救ったんだもん、何にだってなれるよ!」

精霊「おー、その意気だー」

勇者「精霊、あんたも一緒に頑張ろうか」

精霊「え? 何を?」

勇者「頑張って鍛えて、身長を伸ばそう! 私も協力するよ!」

精霊「いっ!? む、無理無理!! 俺、体動かすの嫌いっ!」ダッ

勇者「だぁ~め」ガシッ

逃げようとする精霊の体を抱きしめるように捕まえ、動きを封じる。
精霊はにやけながらも、「うわぁーん」と嘘泣きで叫ぶ。

精霊「勘弁してよ~」

勇者「…だって、精霊には私より大きくなってもらいたいんだもん」

精霊「え…っと、何で…?」

勇者「決まってるじゃない」

精霊が何度も言ってくれた言葉。
それを今度は、自分が返す番だ。

勇者「だってあんたは――私の王子様なんだから」

精霊「勇者……」

128 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/10/08(木) 11:39:23.54 ID:D5Z8hfqq0
精霊(……この体勢じゃ、勇者が俺の王子様だよ)

精霊は悩ましげな顔をしたが、すぐに「よしっ」と何かを決意したようだ。

精霊「俺、大きくなるよ! すぐに勇者を追い越してやるからね!」

勇者「あはは。期待してる」

精霊「でも勇者、今は――」

勇者「あっ」

精霊は勇者の体を抱きしめ返した。
力強く、頼りがいがある。体は小さくても、やっぱり精霊は男だ。

精霊「今は、このままの俺で言わせて――」

勇者「……うん」

精霊「勇者、俺は勇者のことが――」


囁くような声は風の音に上書きされる。
だけど勇者は聞き逃さなかった。声の余韻を耳に残し、何度も何度も頭の中で反復させる。


勇者「私って――誰よりも幸せだろうね」

精霊「そう思う?」

勇者「うん…だって私――」


勇者「勇者にも、お姫様にもなれちゃったんだから!」


Fin


130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/08(木) 12:22:08.79 ID:z3az6rANO
乙!
きゅんきゅんきゅんきゅん!

131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/08(木) 12:39:24.50 ID:+Iz8tRI/O
乙!

132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/08(木) 18:07:43.59 ID:dsFUMoMBo
きゅんきゅんニヤニヤした
素晴らしいSSをありがとう乙

このSSで初めて知ったので過去作も読んでくる
posted by ぽんざれす at 19:43| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月20日

【介護ヘルパーシリーズ】女騎士「くっ、殺せ!」介護ヘルパー「お風呂だよ、お風呂!」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1442732519/

1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/20(日) 16:01:59.24 ID:/PT7z0I80
利用者情報/
女騎士 85歳
食事、戦闘は自立。トイレは時々間に合わないことがある。
入浴は持病がある為、見守りの必要がある。
認知症とせん妄あり、時々攻撃的になり入浴の拒否も見られる。

ヘルパー「お湯、暖かいよ~」

女騎士「体を汚されるくらいなら死んだ方がマシだ!!」

ヘルパー「汚すんじゃないよ~。お風呂入って、綺麗にするんだよ~」

2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/20(日) 16:02:18.86 ID:/PT7z0I80
女騎士「何を企んでいるのだ、オーク!!」

ヘルパー「よく見て。私は女だよ~。ほら声も女だ~」

女騎士「女…だと!? メスのオークか!?」

ヘルパー「私はねぇ、ヘルパーって言うんだよ~。先週も一緒にお風呂入ったよ~」

女騎士「先週もだと!? 記憶がまるで…まさか貴様ッ!! 私の体を弄んだ後、脳姦までしたというのか!?」

ヘルパー「ごめんね。女騎士さん、今何歳?」

女騎士「19だ!!」

ヘルパー「そっかぁ、美人盛りの年頃だね~」

女騎士「私はオークの犠牲になった数々の女騎士を知っている…彼女らが受けた屈辱、私は忘れはしない…っ!!」

ヘルパー「うんうん、女騎士さんの想いは脳姦に打ち勝つからね~。だからね、記憶がないなら、体を弄んだ事実もないし大丈夫だよ~」

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/20(日) 16:02:48.08 ID:/PT7z0I80
女騎士「貴様、魔王の手先だろう!」

ヘルパー「私はヘルパーステーションから派遣されてきたんだよ~」

女騎士「ヘルパーステーション…!? 何だその団体は! 誰の命令でここに来た!!」

ヘルパー「女騎士さんの息子さんだよ~」

女騎士「息子!? 貴様まさか、息子に色仕掛けを使って懐柔したのではないだろうな!?」

ヘルパー「やだー。女騎士さんの息子さんが、私の色仕掛けなんかに懐柔されるわけないじゃなーい」

女騎士「それもそうだ…私の息子は騎士団で今、団長を努めているからな」

ヘルパー「ところで女騎士さん、今何歳?」

女騎士「19だ!!」

ヘルパー「うーん、まぁいいか。ほら、お風呂冷めちゃうよ!」

女騎士「む…」

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/20(日) 16:03:17.42 ID:/PT7z0I80
女騎士「くっ、この香り…理性を溶かされ、誘われるようだ…」

ヘルパー「入浴剤の匂いだね」

女騎士「ま、まさか媚薬!? 私の感度を上げるつもりか、おのれッ!!」

ヘルパー「上がらないよ~。ほら、私も腕入れてみるね」チャポン

女騎士「…」コチョコチョ

ヘルパー「ほ~ら、平気だ~。だから女騎士さんが入っても平気だよ、ね?」

女騎士「しかし…」

ヘルパー「ほら、腕入れてみて。気持ちいいでしょ、ね?」チャポン

女騎士「くっ、これは…っ!!」

女騎士(理性が…溶かされる…っ!!)ゾクゾクゥ

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/20(日) 16:03:48.29 ID:/PT7z0I80
女騎士「い、良いだろう、入ってやる…!! だが、それで私に勝ったと思うなよ!!」

ヘルパー「あら良かった~。それじゃあ早速入ろう」

女騎士「だが、いくら女同士とはいえ、敵の前で裸になるのは…」ブツブツ

ヘルパー「女騎士さ~ん、脱がないなら触手で脱がしちゃうぞォ~」

女騎士「ま、待て! 自分で脱ぐ!」

ヘルパー「うんうん、女騎士さん着脱は自立してるもんね」

女騎士「敵に裸体を晒すとは…だが、これで私に屈辱を与えられると思うな…よ……?」

女騎士「…」

ヘルパー(あら、下着に汚染が。トイレ間に合わなかったんだなぁ)

女騎士「これ以上辱めを受けるのは御免だ!! 殺せええええぇぇ!!」

ヘルパー「あー大丈夫大丈夫、お風呂入って綺麗にしよう、ね?」

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/20(日) 16:04:18.42 ID:/PT7z0I80
シャワアアァァ…

女騎士「この屈辱…忘れはせんぞぉ~…」

ヘルパー(多分忘れると思うなぁ、その言葉聞いたの5回目だもん)

ヘルパー「はいシャワー終わり。お風呂入ろう」


チャポン…

女騎士「うっ…」

女騎士(温かな湯が、全身を包む…!)

女騎士(これは…これは…っ!!)

女騎士(悔しい…っ、でもっ、気持ちいい…っ!!)ゾクゾクゥ


ヘルパー「顔真っ赤だね~。のぼせてない~?」

女騎士「おのれぇ…快楽攻めとは卑怯な…!! だが私は屈さぬ…ぞ…!!」

ヘルパー「うんうん、ゆっくり温まってね~」

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/20(日) 16:04:46.37 ID:/PT7z0I80



ヘルパー(さて、持病の関係もあるし、そろそろ上がらないと)

女騎士「あっ…あぁっ…」

ヘルパー「女騎士さん、そろそろ上がろう~?」

女騎士「もっと…もっとォ…」

ヘルパー「これ以上は体に良くないよ~」

女騎士「それでもいい…私を滅茶苦茶にしてくれ~…」

ヘルパー「騎士の誇りはどこに行ったのー?」

女騎士「あざ笑うがいい…私は快楽に負け、誇りを捨てたのだ…」

ヘルパー「あらら。お湯抜いちゃうよ」スポッ

女騎士「あぁっ…快感が、抜けていく…」

ヘルパー「また来るから、ね?」

女騎士「また入れて、入れてええぇぇっ!!」

ヘルパー「うんうん、お風呂にね? 約束するから、まずは服着ようね?」

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/20(日) 16:05:17.92 ID:/PT7z0I80
ヘルパー「それじゃあまた来るね、女騎士さん。失礼しま~す」

女騎士「必ず来てくれぇっ…」ウルウル




>1週間後


ヘルパー「お邪魔しま~す、こんにちは女騎士さん!」

女騎士「馬鹿なっ、オークが砦に入り込んできただと!? だがここは突破させんぞ!」

ヘルパー「ちょっとごめんね~、お風呂の準備するから後ろ通るね~」

女騎士「いとも簡単に突破されただと…っ!? な、何て力を持つオークだ…!!」ガタガタ

ヘルパー「女騎士さん、お風呂入ろう」

女騎士「くっ……殺せ!!」



冒頭に戻る。

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/20(日) 16:05:45.36 ID:/PT7z0I80
ご読了ありがとうございました。
最近介護施設で事件がありましたが、良い介護職員さんは沢山いるんです。

  介護ヘルパー「魔王討伐に来ました」
  http://ponpon2323gongon.seesaa.net/article/425342211.html

  介護ヘルパー「よくぞ来たな、勇者よ!!」
  http://ponpon2323gongon.seesaa.net/article/425342264.html

10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/20(日) 16:07:09.82 ID:ktXODgqqO
セリフだけ見れば…やっぱり無理だ


11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/20(日) 16:41:22.01 ID:oF9uOgsb0
乙、85歳はきつい…

14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/20(日) 17:19:31.21 ID:mxARJVnFo
クソワロタ

15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/20(日) 17:22:46.21 ID:2osrUVI3o

ヘルパーさん毎回いい人だな

posted by ぽんざれす at 18:02| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月19日

先代勇者「あの時のツケがやってきたか…」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1442403178/


1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/16(水) 20:32:58.56 ID:zjwa/9Ee0
よくある話だが、この剣と魔法の世界に魔王が現れた。
そして、これまたよくある話だが、王様は魔王の元に勇者を送ることになったのである。

王「期待しているぞい、現勇者よ」

現勇者「は、はい王様…か、必ずや魔王を討ちとって…」ガチガチ

王「ほっほ、そんなに怖がる必要はない。のう、先代よ」

先代「はい、現勇者は我が指南所いちの剣の使い手です」

王「先代の勇者がこう言っておるのだ、お主は太鼓判を押されたも同然じゃ」

現勇者「は、はい! 先生…俺、先生の顔に泥を塗らないよう頑張ります!」

先代「…あぁ」


2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/16(水) 20:33:21.34 ID:zjwa/9Ee0
>町の入口前


「頑張れよー現勇者!」「帰ってきたらチューしてあげるーっ」「現勇者、ばんざーい!」

先代「…」

先代(生きて帰ってこい)

彼の名は先代。20数年前に先代魔王と戦い、平和を勝ち取った英雄である。
帰還後は指南所を開き、次世代の戦士を育ててきたが…。

町民A「あっ先代勇者様!」

先代(目立たぬようにしていたが、気付かれてしまったか…)フゥ

町民B「先代勇者様、現勇者に同行しないのですか?」

町民C「貴方から太鼓判を押されたとはいえ…やはり若者に頼るのは不安があります」

先代「俺ももう50近いんだ、若い奴の方が元気がある。それに、家族もいるしな…」

町民A「あぁ、3人のお子さんがいらっしゃるんでしたね」

町民B「お子さん、おいくつでしたっけ?」

先代「上から16、10、8で…」

先代(あぁ人に囲まれるのは疲れる)

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/16(水) 20:33:48.84 ID:zjwa/9Ee0




町民A「流石、先代勇者様です! それで~…」

先代「…悪いが、そろそろ帰らんと」

町民B「はっ、つい時間を忘れて」

町民C「ではご機嫌よう先代勇者様、またお話を聞かせて下さい!」

先代「あぁ」

先代(色々聞かれて、長引いてしまった…)

生真面目な性格のせいか、話を適当に切り上げることもできなかった。
帰り道を急ぐ。従順な性格の妻は、帰りが多少遅れた所でにこやかに待っていてくれるだろうが、待たせるのは気分が良くない。

急がねば――余裕が無くなっていたせいか、今すれ違った人間にも気を留めなかった。


「大人気ですねェ――英雄様」

先代「――」


背後から声をかけられて、立ち止まる。
振り返り、嫌な予感は的中した。

先代「お前は…!!」

黒「久しぶりィ~…グゲゲゲゲ」


全身真っ黒のその男は、先代と目が合うと不気味に笑った。

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/16(水) 20:34:14.17 ID:zjwa/9Ee0
>食卓


先代「…」


黒『また来るぜェ♪』


先代(あの後、あいつはすぐ去っていったが…)

長女「こらっ、ちゃんと野菜も食べなさい」

長男「はーい」

先代(あいつ――何故、今になって俺の前に姿を現した?)

次女「お父さん? なんか、ぼーっとしてるよ?」

先代「あ、いや…」

妻「今日はお父さんの生徒さんが旅に出たのよ。心配しているのよね、あなた」

先代「あ、あぁ…そんな所だ」

長男「その人も父さんみたいな英雄になるのかなー!」

長女「無事でいてくれるといいわね、父さん」

先代「そうだな」

先代(現勇者に危険が及ばんといいが…明日、招集をかけよう)

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/16(水) 20:34:40.39 ID:zjwa/9Ee0
>翌日、茶飲み処


先代は、かつて共に旅した仲間たちを呼び出していた。


自警団長「どうした、何かあったかい」

元賢者。女性ながら男勝りな性格で、現在は自警団の団長を務めている。


社長「ひょっとして、ビジネスの話ですかい」

元盗賊。金に関してはシビアで、現在は全国チェーンの万事屋の経営者。


隠居「勿体ぶらずに話せ。時間が惜しい」

元武闘家。現在は隠居し近所の嫌われ者。バツ2。


先代「話というのは、魔王の件だ」

自警団長「あぁ、新しい魔王が現れたんだってな。お陰でこっちも大忙しだよ」

社長「こっちもっすよ。ま、この機会に稼がせて貰いますよ」

隠居「旅立ったのはお前の所の教え子だそうだな、まだ若造という話だが」

先代「そうなのだが…少し、気がかりがあってな」

自警団長「…気がかりってのは?」

先代「詳しくは言えん」

自警団長「そうかい」

かつての仲間達は追及をしなかった。

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/16(水) 20:35:09.57 ID:zjwa/9Ee0
先代「お前達に頼みたいことがある」

社長「報酬次第っすよ」

隠居「仕方あるまい、力を貸してやろうではないか」

先代「自警団長。自警団で勇者へのサポートをしつつ、奴の行動を報告してくれないか」

自警団長「あぁ、いいよ」

隠居「最近の若造は、サポートでもしてやらんと頼りないからな」

先代「社長。現魔王の身辺調査を行ってくれるか」

社長「へいへい。盗賊時代の仲間に依頼してみます」

隠居「最近の若造は、自分の足で調べるということを知らんからな」

先代「隠居」

隠居「あぁ何だ、何でも言ってみろ」

先代「お前は何もするな」

隠居「何で呼んだ」

先代「お前だけ呼ばないと、すねるだろう」

社長「同感っす~」ハハハ

自警団長「流石の老害っぷりだ」

隠居「泣くぞ」

先代「では、俺はこれで」



自警団長「…何か隠しているねェ、あいつ」

社長「今更じゃないっすか~?」

隠居「それは、あの時からじゃないか」

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/16(水) 20:35:38.50 ID:zjwa/9Ee0
>20数年前、魔王城


勇者(先代)『ようやくたどり着いたぞ…! あとは魔王を討ち取るのみ!!』

『そうはいかん』

勇者(先代)『!?』

幹部A『道中はるばるご苦労だったなぁ勇者よ』

幹部B『しかしお前を通すわけにはいかないのでな』

幹部C『我ら〝紅の三幹部”が貴様の相手をしよう』

勇者(先代)『くっ、こんな所で足止めを喰らっている暇はないのに…!』

盗賊(社長)『そいじゃ勇者さん、魔王ん所まで突っ切って下さいや』

勇者(先代)『何っ』

賢者(自警団長)『本当は魔王と戦いたかったが、私らはこいつらで我慢してやるよ』

武闘家(隠居)『さぁかかってこい、三幹部とやら…!』

勇者(先代)『…っ、すまん!』ダッ

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/16(水) 20:36:12.39 ID:zjwa/9Ee0
自警団長「それから数時間して、奴は1人で戻ってきた。だが…」



勇者(先代)『討ち取ってきたぞ…魔王を』



社長「あん時の先代さんの面、な~んか怪しい匂いがプンプンしましたねェ」

隠居「余程、卑怯な手でも使ったのか、それとも…」

自警団長「…ま、どうでもいいわな。実際、世界は平和になったんだし」

社長「やましいことがあるのかもしれねぇけど、それを隠して英雄でいてくれる方が世界にとっちゃ都合がいい」

自警団長「元仲間つっても、魔王討伐という共通目的を掲げたビジネスの仲だ。いらんことに首を突っ込む道理はないね」

隠居「同意だ。それぞれ上手くやっている今、多少のことは見て見ぬフリするのが良いだろう」

社長(アンタは上手くやってねーだろ)

自警団長「つっても、万が一あいつの手に負えない問題に膨らんだら困るんだけどねェ…」

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/16(水) 20:36:40.69 ID:zjwa/9Ee0
先代(何か不審に思われただろうか…まぁ「大人の対応」を心得ている連中だ、気にするまい)

先代(それより、あの男が俺の手に負えない問題を起こさないか…)

先代(とにかく自警団長と社長頼りだ。それまでは焦るな…)

先代「ただいま」ガチャ

黒「お帰り~♪」

先代「」

長女「あ、お父さん。こちら、お父さんにお客さん」

長男「おじちゃーん、もっとお話聞かせてくれよ~」

次女「おじさんのお話、とっても面白~い」

黒「おうおう、いいぜェ! じゃあ次は邪神の鼻歌が大陸を滅ぼした話でも…」

先代「おい」グイ

黒「アイタタタ、耳つかまんでくれ~」

先代「…来い!!」ギュウウゥゥゥ

黒「あだだだだ~!!!」

長男「どうしたんだろ、父さん」

長女「親しいご友人かしら?」

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/16(水) 20:37:08.14 ID:zjwa/9Ee0
>町外れ


先代「お前なあああぁぁ!!!」

黒「グゲゲゲ、怒らないでぇ~」

先代「お前、俺の子供達に何もしていないだろうな…?」

黒「可愛い子供らじゃな~い。ちょっと一緒に遊んだだけだよ、そう目くじらたてんな!」グゲゲ

先代「不穏な動きをするようなら、牢獄に縛り付けてやってもいいんだぞ」

黒「睨むなよォ」

黒い男は口元に笑みを浮かべていたが、目をギラつかせ、強引に先代の肩に手を回した。

黒「知られたくないだろォ…テメーが倒したはずのオレが、実は生きてたってよォ」

先代「……っ!!」

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/16(水) 20:37:34.23 ID:zjwa/9Ee0
>20数年前、魔王戦


魔王(黒)『グギャッ…こ、この野郎……ッ!』

勇者(先代)『遂に追い詰めたぞ、魔王…!!』

1対1の戦いを制したのは先代だった。
魔王は今、正にその命に終止符を打たれようとしている。

魔王(黒)『グッ…』

勇者(先代)『魔王たる者が、まさかこの後に及んで命乞いなどという見苦しい真似はするまい?』

魔王(黒)『とっとと殺りな…魔王らしい最期で頼むぜ……』

勇者(先代)『…あぁ』チャキ

魔王(黒)『…と言うとでも思ったかァ♪』ニッ

勇者(先代)『!?』

先代が一瞬油断していた隙を付き、魔王は手をかざす。
しまった――そう思った時には遅かった。

魔王(黒)『邪神よ我に力を!! こいつに、ありったけの呪いをおおぉぉ!!』


カッ―――

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/16(水) 20:38:10.37 ID:zjwa/9Ee0
勇者(先代)『…っ?』

何か攻撃を仕掛けられたと思った。
だが、自分の体にこれといった変化は見られない。

魔王(黒)『グゲゲ…やったぜ……!!』

勇者(先代)『お前…俺に何をした? まぁいい…今度は油断せずにお前を』

魔王(黒)『いいのか? テメーにかけた呪いの効果を知らねーままで…』グゲゲ

勇者(先代)『なら答えろ。俺に何の呪いをかけた』

魔王(黒)『道連れ』

勇者(先代)『っ!?』

魔王(黒)『オレが死ねば、呪いをかけた相手も道連れに殺せる呪いだよ!! オレを殺して英雄様~って呼ばれたかったぁ~? グギャギャギャ、ざ~んね~んで~した! グギャギャギャギャ!』

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/16(水) 20:38:36.98 ID:zjwa/9Ee0
黒「あん時のテメーの面、思い出しただけで傑作だぜ…」グゲゲ

先代「……」

黒「つってもテメーも甘くはなかった。秘技だか何だか知らねぇが、オレは魔力を封じられて弱体化させられた」

黒「そんな恥ずかしい状態で魔王城に居続けるわけにもいかず、オレは死んだことにしてひっそり生きてきた。惨めだったぜェ~…」

黒「片や、テメーは人間の英雄扱い。『自分が死にたくないから魔王を討てませんでした』なんて、正直に言えなかったんだよなァ?」

先代「…」

黒「まぁ、テメーがどんな嘘ついてるかとかは今更どうでもいいんだよ。ただよ~…」

先代「ただ?」

黒「今の魔王が気に入らねェ。だから封じを解除してくれ」

先代「意味がわからん。そんな馬鹿げた話に乗るとでも?」

黒「ですよね~」

先代「わかったら、とっとと俺の前から…」

黒「そいじゃ、オレはこのまま現魔王の所に乗り込むわ」

先代「……何だと」

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/16(水) 20:39:02.33 ID:zjwa/9Ee0
黒「現魔王はオレが現役だった頃の、反魔王派の奴でよォ。あの野郎が魔王を名乗ってることが気にくわん」

先代「なら現勇者に任せておけ。あいつが現魔王を倒すだろう」

黒「わかってねぇなァ。オレの手で葬るからこそ燃えるんじゃねぇかよ」

先代「いい歳こいて、子供じみたことを言うのはやめておけ」

黒「ウケる~、先代勇者が先代魔王に説教かよ。本音じゃテメーが死にたくねーだけだろ?」

先代「あぁ、俺が道連れでなければ、お前が死ぬのは構わん。お前も無駄死にはしたくないだろう」

黒「無駄死にか…。だが今のオレは、何一つとして守るものが無ェから、無駄に死ぬのも構わねぇ。テメーと違ってな」グゲゲ

先代「…何としても、お前の封じを解くわけにはいかんな」

黒「もしオレが現魔王を倒したら、テメーにかけた呪いをといてやるよ」

先代「何……っ」

黒「まぁすぐに返事をよこせとは言わねェ。また来るぜ」

先代「………」

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/16(水) 20:39:31.56 ID:zjwa/9Ee0
>家


先代「………」フゥ


黒『『自分が死にたくないから魔王を討てませんでした』なんて、正直に言えなかったんだよなァ?』


妻「あなた、何かお悩みでしょうか?」

先代「あ。いや……何でもない」

長男「父さーん、皆でお風呂入ろうぜー」

次女「わーい、お風呂お風呂♪ お姉ちゃんも入ろ!」

長女「は、入るわけないでしょ! もうっ!」

先代「あぁ、3人で入ろう」


先代(あの時の俺は…故郷に妻を残していた。だから死にたくなかった)

先代(そして俺は英雄となり、子供が生まれ……嘘を貫き通す以外の道は無くなった)

先代(そのツケがやってきたのか…)

17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/16(水) 21:49:29.78 ID:MVpNogizO
なかなか人間味のある勇者だな

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/17(木) 18:39:52.85 ID:O4g1So+v0
>翌日


社長「おはよっす先代さん。現魔王の身辺調査ですが、とりあえず簡単なことだけわかりましたぜ」

先代「流石、仕事が早いな。それでどうだ、現魔王は」

社長「先代の魔王に比べりゃ甘ちゃんっすね」

先代「ほう?」

社長「活動範囲も狭いし、ローリスクローリターンなやり方を好んでやがる。臆病者っすわ、これ」

先代「慎重とも言えよう」

社長「どっちにせよ、先代魔王みてぇな大胆不敵な野郎に比べりゃ怖くねぇ相手だと思いますね」

先代「先代の魔王の方が色々と頭が悪かったと思うがな」

社長「あぁ、本人が直接殴り込みに来たり? まぁ確かに頭は悪かったけど、俺は予測できない行動を取る奴のが怖いっすよ。実際、強かったし」

先代「あとは現魔王の純粋な強さだが…」

社長「そこはまだ調査中っす。引き続き調査しておきますわ」

先代「あぁ、頼んだ」

社長「……あ。先代さん、ひとつだけ言っておきたいんすけどね」

先代「何だ」

社長「何企んでるか知らねぇけど、英雄の名を汚すような真似だけはせんで下さいよ」

先代「…あぁ」

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/17(木) 18:40:22.90 ID:O4g1So+v0
>町外れ


黒「おーヨシヨシ」

黒い男は町外れで野良猫達と戯れていた。
そんな彼を訪れる者が1人…。

先代「おい」

黒「お? そっちから来てくれるとは思わなかったなァ」

先代「昨日の返事に来た」

黒「ほう?」

先代「…答えはこうだ」シュッ

黒「――っ!!」

先代は闘気を隠したまま、隠し持っていた短剣を黒い男に突き出す――その突きを、黒い男はギリギリで回避。

黒「オォイ!! オレを殺してお前も死ぬってことかよ!!」

先代「やはりな。いい動きだ」

黒「あ?」

先代「いや。お前は曲りなりにも先代魔王。魔力を封じられたなら、体術の方を鍛えるだろうなと思ってな」

黒「あ~…。つっても全盛期程の力はねーけどな」

先代「だが、それならお前への封じを解く必要はないな」

黒「どういうことだ?」

先代「現魔王を倒しに行くぞ。俺と、お前で」

黒「ハァ?」

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/17(木) 18:40:50.35 ID:O4g1So+v0
先代「お前は自分の手で現魔王を討てれば満足なのだろう? なら、今の力のままで十分だ。俺と組めばいける」

黒「ちょ、待てや…テメーとパーティー組めってのかよ!? ふざけんな、冗談じゃねぇ!!」

先代「なら交渉決裂だ。そのままの姿で魔王の所に乗り込んで、殺されろ」

黒「オイ。本当にいいのかよ。オレが死んだらテメーも死ぬぜ?」

先代「構わん」

黒「あ?」

こいつは昨日言った。『自分にはお前と違い守るべきものがない』と。
確かに自分には守るべきものがある。だがそれは、自分の命ではない。

先代「嘘をついてきたツケは命で払う。だが――英雄の名誉だけは守らねばならんのだ、世界の為にも」

人々が英雄神話を信じているのなら、その信仰を崩すわけにはいかない。
その英雄が国に仕えることにより、国に反抗する者も減り、平和な世界を保ててきたのだから。

黒「ハンッ、自ら望んで国に利用されてやがんのかよ。テメー、ご立派だわ」

先代「で、返事は?」

黒「…わーったよ」

黒い男はかなり不服そうに言った。

黒「現魔王を倒すまでの間だけな。テメーと組んでやるよ」

先代「賢い選択だ」

黒「ケッ」

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/17(木) 18:41:35.30 ID:O4g1So+v0
先代「それで魔王城までのルートだが。自警団長に調べて貰ったが、3つのルートがある」

1つ、長い道のりだが、魔物が少ない安全なルート

2つ、最短距離だが、魔物が多く危険なルート

3つ、距離も危険度も中くらいのルート

先代「勇者は3つ目のルートを通っている」

黒「ケッ、現魔王同様のゆとりだな。1番中途半端なルート選びやがって」

先代「隠居の奴も同じことを言っていたな。自警団長はそれを老害だなどと言っていた」

黒「誰が。で、オレらが進む道は決まってんだろ」

先代「あぁ…お前がへこたれんかだけが気がかりだが」

黒「バーカ。余裕だよ余裕」

先代「そう言うなら、決定だな」

黒「あぁ、危険な最短距離ルート行くぜ!!」

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/17(木) 18:42:02.21 ID:O4g1So+v0
黒「…んどりゃああああぁぁぁぁッッ!!」ベキイイィィッ

巨人A「ゴフッ」

黒「グギャギャギャ、巨人までゆとりかよォ!! 図体でけーだけで手応えもクソもねーぞォ、ぶひゃひゃひゃひゃ!!」

巨人B「馬鹿な!? 我ら魔王軍精鋭、巨人部隊が全く手が出ないだと!?」

先代「精鋭? …捨て駒の間違いじゃないのか?」ズシュッ

巨人B「ガッ…」バタッ

巨人C「ウッ…あいつらヤベェ…!」

先代「残り何匹だ? 5、6…」

黒「ギヒャヒャヒャヒャ、皆殺しだから関係ねぇよォ!! オラアアアァァ、逃がさねぇぞグギャギャギャギャ!!」ダーッ

先代「…体力配分をまるで考えていないな、あの馬鹿め」

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/17(木) 18:42:29.96 ID:O4g1So+v0
黒「フゥーッ、お疲れさんオレ!! カンパーイ」

先代「よくまぁ死体に囲まれながら酒なんて飲めるな」

黒「テメーもどうだ? 死臭嗅ぎながら酔うってのは、案外癖になるぜ」グゲゲゲゲ

先代「結構だ。俺は真っ当でいたいのでな」

黒「かーっ、うめぇーっ!! やっぱ敵をブッ殺した後の酒は格別だよなァ!!」

先代「ところでお前、魔物を殺すのに躊躇はないのか? 魔王とはいえお前も魔物……同属だろう」

黒「グギャギャ、オレに従わねー魔物は死んでもいいんだよ!」

先代(恐ろしい奴)

黒「しっかしよォ、テメーも年取ったから衰えたもんかと思ったけど、そうでもねーじゃん! 何で、あんな若造に魔王討伐を託した?」

先代「未来ある若者に道を譲るのが、年寄りの役目だ」

黒「はァ~ん。それじゃ魔王が現れる度に若者は魔王討伐の責務を押し付けられるわけだ!」グゲゲゲ

先代「押し付けているわけではない。英雄の座を譲ると言っているんだ」

黒「同じことだろ。英雄なんて、国にいいように利用されるだけの駒じゃねぇか」

先代「そういうものだと割り切って受け入れれば、悪いものではないぞ」

黒「ドライなもんだな」

先代「現実はそんなもんだ」

黒「まぁいいけどよ、人間社会に染まる気はねーし。あー、酒うめぇ」

先代(やはりこいつ、実力はあっても魔王の器ではないな)

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/17(木) 18:43:01.62 ID:O4g1So+v0
危険度MAXの最短ルートだったが…


黒「グギャギャギャギャ、皆殺しだあああぁぁ!!」

魔物「うわあああああぁぁぁ!!」


先代と黒い男はそれをものともせず


魔物「グハッ…」パタッ

先代「大分、実践の感覚が戻ってきた」チャキ


チート級の強さで、立ちはだかる魔物達をバッタバッタと倒していった。


黒「あっぶねー、今テメーの剣がかすったぞ!!」ギャーギャー

先代「あそこで右に避けるお前が悪い」フン

魔物(俺ら無視で口喧嘩するのやめて)シクシク

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/17(木) 18:43:28.36 ID:O4g1So+v0
>酒場


黒「カーッ、殺戮の後の酒は格別だなぁ!」

先代「不穏な酒だな」

黒「テメーも飲め飲め。まさか飲めねーってことはねーだろ? 今度こそ付き合わねーなら、今夜は寝かせねーぞォ」グゲゲゲ

先代「…飲めるが、普段は飲まんな。酔っては家族に迷惑をかける」

黒「へぇ。お仲間とも飲まんのか?」

先代「そういう仲じゃない」

黒「お仲間なのに?」

先代「共に魔王討伐の旅をしただけに過ぎん」

黒「ア?? それこそ絆やら何やらが生まれるもんじゃねぇ??」

先代「お前は子供じみたことを言う奴だな。そんな馴れ合いの仲で厳しい旅を乗り越えられるものか」

黒「つまんねー旅だなぁ! せっかくの魔王討伐っていう大イベントなんだ、思い出作ろうぜ!!」

先代「お前は思い出作りで倒されたかったのか」

黒「それとこれとは別ですぅー、魔王は敬って下さぁーい」

先代「やれやれ」

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/17(木) 18:43:54.25 ID:O4g1So+v0
黒「でもよ、大きな目標を持って何かをするってのはワクワクすんな」

先代「そうか?」

黒「あぁ、昔テメーと戦った時もワクワクしたもんだぜ!!」

先代「勝手にわくわくするな」

黒「魔王軍をテメーらに送ってイヤガラセもしたよな~。あれはマジでウケたぜ」グゲゲゲ

先代「あぁ、本当にしつこかった…。思い出すだけでウンザリする」

黒「グゲゲゲゲ、その顔、その顔!! グギャギャギャギャ!!!」

先代「…そう言えば、何でお前は一般人を襲わずに俺達ばかり狙ってきたんだ?」

黒「一般人なんていつでも殺せるもん襲ってもつまんねぇの! いいか、敵が強大だからこそ一点集中でだなぁ~」グチグチ

先代(絡み酒か、面倒な…)

黒「…でだなぁ~、オレはワクワクしてェんだよぉ~」

先代「はいはい」

黒「この旅も…」

先代「ん?」

黒「ワク、ク…させ………グガアアァァ」

先代(勝手に喋って勝手に寝た。全く、仕方のない奴だ)

先代(しかしこれが、俺の宿敵の本音か……)

先代(もう昔のようにいがみ合える程若くないな、互いに)


31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/17(木) 20:02:48.88 ID:RPImtxFAo
この加齢臭が堪らない


32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/18(金) 04:48:34.55 ID:5G0s1Ufyo
本人たちは不服だろうが、いいオッサンコンビだw


33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/18(金) 18:29:24.84 ID:a/KnX4KF0
そして旅立ちから3日後…


黒「着きましたぁ、魔王城ォ~♪」

先代「うむ。新しいだけあって綺麗な城だな」

黒「オッシャ乗り込もうぜ!」

先代「あぁ」



黒「たのもーッ!!」バァン

現魔王「ようこそ、我が魔王城へ」

先代「魔王城の警備が薄いのではないか? 城に足を踏み入れてからここに来るまで、魔物と会わなかったぞ」

現魔王「馬鹿め、お前達をここへ誘い出す為の作戦だ。中年2人組がこちらへ向かっていることは報告済みだったからな」

黒「バカはテメーだ。まんまと侵入者を通しやがって」

現魔王「勇者ならともかく、ただの中年2人など…」

黒「オイ…テメー、オレの顔に見覚えあんだろ。コイツの顔も知らねぇの?」

現魔王「…?」

現魔王「」ハッ

現魔王「…」

現魔王「せ、先代魔王と先代勇者かあぁ! だ、だだ誰が相手だろうとわ我にとっては稚児同然」ブルブル

先代&黒(「やっちまった」って顔してる)

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/18(金) 18:29:54.31 ID:a/KnX4KF0
現魔王「魔力を欠片も感じなくて気付かなかったぞ先代魔王よ…何故生きているかは知らんが、貴様、弱体化しただろう?」

黒「まァな。ゆとりのガキ魔王には丁度いいハンデだろ?」グゲゲ

現魔王「ほざけ!!」ゴオオオォォォ

先代(魔力を解放しただけで、この重圧…やはり魔王を名乗るだけのことはあるな)

現魔王「喰らえっ!!」

先代「――っ」

城の床を伝って衝撃波が襲ってくる。
先代と魔王は、これを跳躍し回避。

しかし次の瞬間――

現魔王「ハアァッ!!」

ビュンッ――

先代「っ!?」

黒「うぉわ!?」

城壁が崩れ、魔力をまとい彼らに襲いかかってきた。

黒「…っざけんじゃねええぇぇ!!」バキィ

先代「…っ」カキィン

現魔王「回避できないから打ち返したか…流石だ」

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/18(金) 18:30:23.17 ID:a/KnX4KF0
ガラガラ…

先代(崩れた城壁が、元に戻っていく)

黒「城そのものがテメーの武器か。ド派手な技だな、嫌いじゃねぇ」

現魔王「感心している場合ではないぞ」スッ

ガガガガガッ

先代「…っ!!!」

黒「うわぁお!?」

さっきよりも沢山の破片が広間中を縦横無尽に飛び交い、2人に襲いかかった。
四方八方から飛んでくる破片に、回避も防御も間に合わない。

現魔王「ハーッハッハッハ!! 見たか、我の力を!! このまま体中に穴を開けて2人とも死…」

黒「…演出は派手でも、ダメージはチマチマだなオイ」

現魔王「…何?」

黒「もういいわ、飽きた」

先代「そうだな」スッ


ビュオオオォォッ!!


現魔王「なっ――」

先代が剣をおお振りすると、破片が風に飛ばされ――そして、道が開けた。
その道を一瞬で駆け抜けたのは――

黒「このクソガキがああああぁぁ!!」バキィッ

現魔王「ガハァッ!!」

現魔王は思考が追いつかぬまま、黒い男の一擊により吹っ飛ばされた。
先代勇者と先代魔王、2人の中年による、抜群のコンビネーションであった。

黒「オレの技量のおかげだかんな! テメーと息ピッタリとか冗談じゃねーぞ!!」

先代「はいはい」

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/18(金) 18:30:52.35 ID:a/KnX4KF0
現魔王(くっ、あの攻撃が効かなかっただと…!?)

黒「さぁ~て、クソ生意気なガキには仕置が必要だよなぁ」グゲゲゲ

現魔王「まずい…おい、援軍!」

側近A「魔王様っ、今参ります!」ダッ

側近B「全員、続けー!!」ドドド

黒「お? 流石臆病なゆとり魔王、援軍を控えさせていたか」グゲゲ

先代「いいだろう、まとめて相手してやる」

黒「何匹だ? じゅういち、じゅうに…」

側近O「続けー!」ドドド

側近P「おー!!」ドドド

黒「おー、数が多いな。これは少し骨がいりそうな…」

側近V「魔王様ー!」ドドド

側近W「おのれ、よくも魔王様を!」ドドド

先代「……」

黒「……」


>10分後


側近α「敵はどこだあぁ!」ギュウゥ

側近β「点呼だ点呼ー!」ギュウゥ

黒「せ、せめぇ…」ギュウゥ

先代「側近持て余してるな…」ギュウゥ

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/18(金) 18:31:26.90 ID:a/KnX4KF0
現魔王「敵はその2人だ! 総員、袋叩きにしろ!!」

側近ズ「「「うおおおぉぉぉ」」」

黒「グホッ、ゲフッ、ギョボッ!! テ、テメーら…ゲバアァ!!」

先代(くそ…これだけ多くてはどうにもならん!!)

多勢に無勢。2人のダメージはどんどん蓄積していく。
防御に精一杯で攻撃に転じることもできず、囲まれていては逃走も不可能。

黒「し、死ぬ…」ボロボロ

先代(このままでは…!!)


黒「オイ、コラァ!!」

先代「むっ!?」

黒「このままだと2人ともおっ死ぬぞ、テメー責任取れや!! バーカバーカ!!」

先代「そんなこと言っている場合か! どうしろと言うんだ!」

黒「オレの力の封印を解け!」

先代「!!」

力の封印を解く。
それはつまり、先代魔王の力を蘇らせるということで――

黒「先代魔王の力を解放すりゃ、こんな奴ら一瞬で葬れっからよォ!!」

先代「しかし…っ!!」

黒「このまま死ぬかァ、アァン!?」

先代「……」

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/18(金) 18:31:59.35 ID:a/KnX4KF0
>20数年前、魔王城


勇者(先代)『失せろ。どこへでも消えるがいい』

魔王(黒)『オイオイ、マジかよ…。本当にオレを見逃すつもりか?』

勇者(先代)『何度も言わせるな。失せろ』

魔王(黒)『グゲゲ…まさか勇者様ともあろうお方が、自分の命惜しさに魔王を見逃すとはなァ?』

勇者(先代)『何だ? 俺と心中したいのか?』

魔王(黒)『まさか。そいじゃ折角助かった命だ、サイナラ~♪』




先代(現状はあの時のツケだ…。俺は死ぬのか…)


先代の頭に様々な顔が浮かぶ。
長年連れ添った従順な妻、しっかり者の長女、やんちゃな長男、まだ幼くて無邪気な次女――


先代『嘘をついてきたツケは命で払う。だが――英雄の名誉だけは守らねばならんのだ、世界の為にも』


ここに来る前、黒い男にそう言った。
だが本音は――

先代(俺は――死ねない)

先代は決意する。
自分の誤った選択が招いた事態だ。ならば、自分で何とかする。


先代「黒!! 貴様の力を解放する!!」

黒「おおぉ、早くしろ…っ」ボロボロ

先代(まずは現状を打破する。そして……)

先代(打破し、呪いを解かせ…俺がこいつを殺す!!)


そして先代は封印を解除する為、天に手を掲げた――

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/18(金) 18:32:26.06 ID:a/KnX4KF0
ズドゴオオオオォォォン

黒「!?」

先代「!?」

現魔王「なっ!?」

突然の大爆発。何人かの側近が吹っ飛ばされた。

先代(あれは――)

勘が働き、先代は上を見上げる。
広間の吹き抜けにある窓枠には――3つの人影があった。


自警団長「何か妙な動きをしてると思ったら、そういうことだったのかい」

社長「ははは、そりゃ必死こいて隠しますわな~」

隠居「バッカモーン!! だからと言って、こんな無謀な行動する奴があるか!!」


先代「お、お前達…」

黒「ゲッ、先代勇者一行じゃねぇかァ!?」

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/18(金) 18:32:56.09 ID:a/KnX4KF0
現魔王「また侵入者か…側近よ、あいつらもやれ!!」

側近ズ「「「うおおおおぉぉぉ」」」

無数の側近が上空へ飛んでいく。
しかし3人とも余裕を崩さず、その様子を傍観している。

自警団長「どうすっか、こりゃ」

社長「こうなったら全部片付けて、あとは隠蔽工作っしょ」ハハハ

隠居「全く、何の得にもならん。だから来たくなかったんだ」ブツブツ

自警団長「そう言いなさんな、これも『世界の為』だ」


側近A「無駄口叩いている暇はないぞ!! 喰らえええぇぇ!!」

社長「あ、来ますよー」

自警団長「何とかなるだろ。私ら3人、1対1なら先代に劣るが…」

隠居「複数相手の戦闘なら、先代以上の力を発揮する…!!」ニヤリ

側近ズ「「「うおおおおおぉぉぉぉ」」」

自警団長「それじゃ、いっちょやるかい!」

3人は、窓から飛び降りた。

41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/18(金) 18:33:23.37 ID:a/KnX4KF0
自警団長「喰らえやあああぁぁぁ!!!」

広間中のあちらこちらで爆発が起こる。
かつて、世界一の魔法の使い手と言われた自警団長による爆発魔法――そして、

社長「お前ら、邪魔!」ポイポイッ

ドゴオオォォン

側近ズ「「「ぐああああぁぁぁ」」」

社長「どうよ~、うちの会社の爆弾の味は」

側近B「くっ、このっ!」ビュッ

社長「おっと」ヒョイッ

元盗賊である社長の動きは現役の頃より衰えておらず、側近達の攻撃を軽やかにかわす。

側近C「ならば、この年寄りからやる!!」ドドド

隠居「年寄り?」ピキッ

自警団長「お。禁句言っちまったな、アイツ」

社長「一旦避難~」

隠居「俺は…」ゴゴゴゴ

側近C(な、何だこの闘気は…っ!?)

隠居「まだ60歳だあああああぁぁぁ!!!!」

バキイイイィィッ

側近C「ガハッ」ドゴッ

側近D「ゲボッ」ドゴッ

側近E「ゲヒャッ」

自警団長「あーあ、将棋倒し」

社長「こんだけ数いりゃね~」

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/18(金) 18:33:57.77 ID:a/KnX4KF0
自警団長「オイ大丈夫か、先代」

先代「あぁ助かった。すまんな、面倒かけて」

自警団長「気にすんな。一応「勇者の仲間」として恩恵受けてる身としちゃ、まだアンタに死なれちゃ困るわけよ」

社長「これもビジネス、ビジネス♪」

隠居「お前達っ、休んでないで戦えええぇぇ!!」

社長「隠居さーん、若いんだから頑張ってー」

隠居「ウヌオオオォォォ」



現魔王「…」ソロー…

現魔王(無茶苦茶だ…こんな奴ら相手にできるか…)

黒「オォ~イ、現魔王様ァ~?」

現魔王「!!!!」

黒「よォ~くもやってくれましたねェ?」グゲゲゲゲゲ

現魔王「あ…ああぁ……」

黒「オレは甘くねぇぞクソガキャアアアァァ!!!」

現魔王「うわああああぁぁぁぁぁ!!!」

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/18(金) 18:34:23.86 ID:a/KnX4KF0
>3日後


現勇者「つ、遂に来たぞ、魔王城…!」

現勇者(コミュ力が足りなくて仲間が作れなかったが…大丈夫だろうか)

現勇者(だが行くしかない…全ては、世界の為!人類の為!未来の為!)

現勇者「魔王、来たぞォーっ!!」

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/18(金) 18:34:52.28 ID:a/KnX4KF0
社長「はいはい、いらっしゃーい♪」

現勇者「えっ、社長さん!?」

社長「ま、そこに座って。ビジネスの話をしよう」

現勇者「あの、何です!? 何で社長さんがここに!?」

社長「まぁまぁ現勇者君。君も成人近いわけだし、大人の話をしよう?」

現勇者「はぁ…」

社長「結論から言うと、魔王は倒しておいた」

現勇者「」

社長「だが、世界情勢を平穏にしておくには英雄を立てて、人々に安心感を与えておかねばならない」

社長「つまりだ。英雄というのは所詮シンボルなんだよ、シンボル。わかる? 実績が無くても、カリスマ性があればそれで良し」

社長「とりあえず、君の実績はこちらで用意しておこう。あ、いや別に偽造するわけじゃないよ。ただ、ちょっとばかし誇張表現が混ざるかもしれんがね」

現勇者「……」

社長「じゃあ復唱しようか。『僕が魔王を倒しました』。ハイッ」

現勇者「僕が…魔王を、倒しました…?」

社長「よし。それが事実だ。わかったね?」

現勇者「………」

現勇者(あぁ…これが社会の仕組みか)


こうして現勇者は、一歩大人になった。

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/18(金) 18:35:20.65 ID:a/KnX4KF0
>公園


黒「あーあ」ブスッ

先代「どうした。お望み通り、お前の手で現魔王を葬れたじゃないか」

黒「そうだけどよー」

先代「力が戻らなかったことが不満か?」

黒「ったりめーだろ。力が元に戻ってれば、オレは魔王として再び君臨できたのによー」

先代「なら尚更、封じを解くわけにはいかんな?」フッ

黒「ケッ」

先代「諦めて若者に席を譲れ。中年には中年なりの、人生の楽しみ方ってものがある」

黒「まーなァ。ここ20年の平穏な生活も、そんなには悪くはなかったけどよォ」

先代「ならいいだろう、それで」

黒「…ケッ」

返事はひねくれた呟きで返ってきたが、黒い男の表情は「それも悪くない」と語っていた。
今回ボコボコにされて懲りた為か、力を取り戻すのを諦めた為か、それは本人以外にはわからない。

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/18(金) 18:35:46.86 ID:a/KnX4KF0
黒「あ。そーだ」

先代「?」

黒「ほにゃららほにゃらら~。ホレッ」ポン

先代「何だ?」

黒「解いてやったぞ、テメーの呪い」

先代「……本当か?」

黒「約束だかんな。信じねぇならそれでいいけど」

先代「いや」

黒い男は嘘をついていない、目を見ればわかる。
それに――

先代「お前も大分、丸くなったな」

黒「だ、誰が中年太りじゃコラ!!」

先代「毛も薄くなってきたか?」

黒「なってねーよバーカ!! このバーカ!!」

47 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/18(金) 18:36:14.50 ID:a/KnX4KF0
次女「お父さん、おじさ~ん。ちょうちょつかまえた~」

先代「おぉ、綺麗だな」

黒「ハァー…」

先代「何だ」

黒「テメーはいいよなぁ。家族に囲まれて、なかなか幸せな中年ライフ送ってやがる」

先代「お前にはいい相手はいないのか」

黒「うるせー」イジイジ

先代(やれやれ)

次女「大丈夫だよ、おじさん」

黒「あー…?」

先代「?」

次女「私が大きくなったら、おじさんのお嫁さんになってあげる!」

先代「…………」

黒「いやー倫理的にそれは」

先代「貴様ああぁぁぁ!!」

黒「!?」

先代「やはりお前を生かしておいたのは間違いだったか! たたっ斬ってくれる!!」ダッ

黒「待て待て待て、オレはそんなつもりはうわあああぁぁぁ!?」



こうして今回の勇者と魔王の物語は、世の人々に知られることなく終わるのだった。

黒「でも何かテメーといると、また新しい物語が生まれそうな気がするぜ」

先代「もういい!!」


END

48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/18(金) 18:36:53.90 ID:y8b79Yr1O


50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/18(金) 18:44:34.10 ID:hxdquclW0
乙!

53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/19(土) 10:43:49.18 ID:QS8hUYGwo
現勇者君が大人の階段をのぼってしまった(性的じゃない意味で)
おっさんズよかった
乙!
posted by ぽんざれす at 10:02| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月13日

魔王子「僕が美しすぎて世界征服とかどうでもいい」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1441530538/

1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/06(日) 18:08:59.19 ID:G/XGonwb0
姫「…」

少ない乗客を乗せた馬車は揺れていた。
車内は会話もなく、ただ重々しい空気が流れている。

姫(もう国境は抜けた…どんどん近づいているんだ…)

姫(人間の敵。魔物の王がいる、魔王城が…)


2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/06(日) 18:09:19.68 ID:G/XGonwb0
>魔王城



魔王子「僕は何て美しいんだ」

魔王子は姿見にへばりついていた。

側近「あのー…? 魔王子様、聞いてらっしゃいます?」

魔王子「僕の美しさは周囲の情報を遮断する。故に聞いていない」

側近「鏡を見るのをやめて下さい」

魔王子「くっ、何てことだ…あまりの美しさに目が離せない!!」

側近(あーもう)イライラ

側近(魔王様が志半ばでぎっくり腰を患われてしまい、魔王子様が志を継ぐしかないというのに…)

側近(肝心の本人が自分にしか興味がないナルシスバカという始末…あぁ、嘆かわしい!!)

魔王子「僕は鏡の精霊に魅入られたのか…。あぁっ、美しすぎるというのは、十字架を背負うことでもあるんだね…!!」

側近「うっせーわ」

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/06(日) 18:09:47.20 ID:G/XGonwb0
魔物A「魔王子様、側近様」

側近「お、どうした」

魔物A「人間の小国の使いが魔王様にお会いしたいと」

側近「小国の使いが? 何も聞いてないぞ…困ったな、魔王様はぎっくり腰で休まれていらっしゃる」

魔物A「では魔王子様に」

魔王子「美しい」ウットリ

側近「あの魔王子様を人前に出せるか?」

魔物A「無理ですね」

魔王子「確かに僕が出て行ったら人を魅了してしまうね…あぁっ、僕はどうすればいいんだ!!」

側近「鏡と一緒に引きこもってろ」

魔物A「でも魔王子様に出て頂くしかありませんよ…」

側近「う、うぅむ…」

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/06(日) 18:10:17.25 ID:G/XGonwb0
側近「待たせたな」

小国の使い「急な訪問で申し訳ありません。…えぇと、魔王様は」

魔王子「僕が代理の魔王子だ」

小国の使い「魔王子様。お出迎えありがとうございま…」

魔王子「待て。頭を下げるな」

小国の使い「は?いや、しかし…」

魔王子「もう1度言う。頭を下げるな」

小国の使い(魔物と人間は敵同士…。ならば容易に魔物相手にへりくだって見せるな、ということか!? 敵に忠言などと、なんと傲慢な…)

小国の使い(…それとも、こちらが下手に出ようと、人間と馴れ合いをするつもりはないという牽制か…! くっ、この魔王子、こちらの手を読んでいるのか…。なかなかの切れ者だな……)ゴクリ

魔王子(下からのアングルでは美しさがやや落ちるんだよ…あぁ危なかった)

側近(どうせろくなこと考えてねーなコイツ)

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/06(日) 18:10:52.39 ID:G/XGonwb0
魔王子「ところで小国と言えば、宝石等の鉱物の産地だったな」

小国の使い「はい。実は本日、2品程魔王様に献上したいものが御座います。1つは我が国の鉱石から作ったこのダイヤで…」

側近「おぉ、これは見事な…」

魔王子「いらないよ」

小国の使い「なっ!?」

魔王子「もう1度言う。宝石など必要はない」

小国の使い「むむぅ…」

小国の使い(人間からの貢物は受け取らないだと…? クッ、手強い相手だな魔王子……)

魔王子(宝石など必要はない。何故ならどんな美しい宝石も僕の前では輝きを失ってしまうから…。何て罪深いんだ僕は)

側近「献上品は2つあると言っていたな。一応聞くが、もう1つは?」

小国の使い「は、はい。それでは少々お待ちを…」イソイソ

魔王子「?」

小国の使いは一旦その場から離れていく。
すぐに戻ってきたが、その時には、側に1人の女性を連れていた。

姫「…お初にお目にかかります。姫と申します」

側近「まさか、献上というのは…」

俯きがちな姫に代わり、小国の使いが頷く。
小国からの献上品とは、この姫のことだった。

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/06(日) 18:11:25.83 ID:G/XGonwb0
>魔王の寝室



魔王子「パパ~ン、こういう(省略)ことがあったんだけど、このお姫様どうしよう?」

姫(何で寝てるんだろう魔王…でも怖くて聞けない)ブルブル

側近(何で寝室にヨソ者を入れるんだよ…バカなんじゃねぇの)

魔王「ほう、それでこの姫君を受け取ったと?」

魔王子「拒否したんだけど、どうしてもって言われてね~。ねぇねぇパパ~ン」

魔王「ふむ…聞けば、姫君を乗せていたとは思えぬ程貧相な馬車で来たそうだな」

側近「はい…魔王様、やはり」

魔王「うむ」

魔王(姫の献上を他国に知られたくないということ…小国は我々に取り入って、他国を出し抜こうという魂胆か)

側近(小国は周辺国とも度々小競り合いを繰り返している…何か企んでいるのは確実と言える)

魔王子「…」

姫「…」

魔王子(他国の姫君を見るのは初めてだなぁ。同じ王族だというのに、僕と比べて何て貧相なんだ!!)

魔王子(うん、でも容姿は悪くないかもしれないな。もうちょっと近くで、正面から見れば…)ジッ

姫「ひっ」ビクッ

魔王子「!?」

側近「どうされましたかな、姫君」(真っ青だな。あんな魔王子様とはいえ、魔王様の子息。怯えているのだろう)

姫「い、いえ…」ブルブル

魔王子「…っ」ブルブル

側近「魔王子様も、どうされましたかな?」(こちらは真っ赤だな。姫君の瞳に映った自分に発情でもしたか変態め)

魔王子(こっ、この女…)

魔王子(こんなに美しい僕を目の前にして、見惚れるどころか、怯えるだと!?)

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/06(日) 18:11:54.97 ID:G/XGonwb0
側近「して…この姫君をどうされましょうか魔王様」ヒソヒソ

魔王「フン…小国の魂胆に乗るのは癪だな」

側近「では魔王様…」

魔王「フッ…そうだな」

魔王「姫君の首を、小国に送り返してやるか…!!」ニヤリ

姫「ひっ…」

魔王子「ちょっと待った!」

魔王「む。どうした魔王子よ」

姫「…?」ドキドキ

魔王子「パパン、このお姫様は僕が貰い受けるよ」

姫「えっ?」

魔王「なにっ」

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/06(日) 18:12:35.01 ID:G/XGonwb0
魔王「一体何を企んでいる魔王子。この姫君をどうする気だ」

魔王子「パパンは黙っていてよ」

魔王「む…」

魔王子「このお姫様が僕の計画の鍵を握っているんだ。誰にも邪魔させない」

側近(珍しく真剣な表情をされている…)

魔王(ほう、これは…)ニヤ

魔王「魔王子…お前に託していいのだな?」

魔王子「任せてよ、パパン…」

魔王(魔王子め、いい表情をするようになったな…流石は我が息子、邪悪なる血は受け継いでいるか)ニヤリ

魔王子「…」ジー

姫「…?」

魔王子(このお姫様は僕の美しさに見惚れない程に怯えている…)

魔王子(恐怖心で僕の美しさに気づかない女性がいるなんて由々しい事態だ)

魔王子(けれど必ずこの臆病なお姫様を魅了してみせよう!僕の神々しいまでの美しさで!!)

魔王子「フフフ、ハーッハッハッハ!!」

魔王「頼もしいな、魔王子…!」

姫(な、何て邪悪な笑い…怖いっ!

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/06(日) 18:13:05.15 ID:G/XGonwb0
>夜、魔王子の寝室前



姫「…」ドキドキ

姫(何とかこのお城に置いてもらえることになったけれど…)

姫(私がここに来た理由は1つ)

姫(その為には…)ゴクリ

姫は体の震えを抑え、意を決してドアノブに手をかけた。

姫「失礼します…っ!」ガチャ

魔王子「む?」

姫「きゃあぁ!?」

しかし、そこに立っていた魔王子は裸で腰にタオルだけを巻いた状態であった。

魔王子「どうしたのかな?」

姫「あのぅ、な、何をされているんですか…?」ブルブル

魔王子「あぁ気にしないで。風呂上りの日課なんだ」

魔王子(火照った僕の裸体…あぁ何て美しいんだ)ウットリ

姫(はっ、裸でニヤニヤしてる…怖い怖い怖い怖い)ブルブル

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/06(日) 18:13:32.37 ID:G/XGonwb0
姫(だ、だめ怯んじゃ…。私がここに来た理由は、これの為でしょっ…)

魔王子「むぅ、こんなポーズも良いな」

姫(魔王子は鏡に見惚れている。今なら…)

姫はそっと魔王子の背後に近寄る。

姫「ごめんなさっ…」

魔王子「あ、そうだ。丁度君に見せたいものがあったんだ」クルッ ハラリ

姫「」

魔王子が振り返ったと同時にタオルが落ちて、局部が露わになった。

魔王子「僕のこの、パーフェクト…」

姫「いっ…」

魔王子「?」

姫「いやあああああぁぁぁぁ!!!無理無理、やっぱり無理いいいぃぃぃっ!!」ダーッ

魔王子「な…僕を見ても魅了されずに逃げ出すだと!?」

魔王子(こんなに美しいというのに)ウットリ

12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/06(日) 18:15:42.50 ID:7BRKU+70o
花輪君とまる子ちゃんかな?

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/06(日) 18:16:31.03 ID:wqS5oYt90
乙でした、面白そう。

14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/06(日) 18:37:41.75 ID:BYITVCLlo
乙ー

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/07(月) 20:06:45.96 ID:PaFmWOtd0
>翌日



姫「あ、あのう…」

魔王子「もうすぐだ」

魔王子は姫を城から誘い出し、馬を走らせていた。

魔王子『魔物ばかりの城にいても気が休まらないだろう。我が国ならではの面白い場所に連れて行ってあげよう』

姫(って言われてついて来たけど…)

魔王子「ここだ」

姫「ここは…?」

魔王子が馬を止めたのは、虹色の霧が流れる森だった。

魔王子「夢幻の森という。美しいだろう。正に美しい僕に相応しい場所だ、ほらほら、ねっ?」

姫「何だか、怖い感じ…」

魔王子(な…こんなに美しい僕を見ていないだと!? クッ…まぁいい、今日の目的はそれじゃあない)ニヤリ

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/07(月) 20:07:13.39 ID:PaFmWOtd0
魔王子「この森は魔力が流れている。僕と居るから危険はないだろうが、たまに意地悪をしてくることもあってね。万が一の時の為に、これを君に預けておこう」

姫「これは…宝剣?」

魔王子「君のような非力な姫君でも扱いやすいだろう。それにその宝剣は――」

姫「…綺麗ですね」

魔王子「うん?」

魔王子は違和感を覚える。
姫が手にしている宝剣は使い勝手よりもデザイン性を重視した造りのもので、沢山の宝石で装飾されている。
姫はその宝剣に、ポーッと見惚れていた。

魔王子(確か彼女の出身である小国は、鉱物の生産地…)

姫「あっ。す、すみません、ボーッとしていて」

魔王子「いや…。それよりも森の中を歩こう」

魔王子は違和感を感じ取ったが、今はそれを無視することにして、姫に並んで森に足を踏み入れた。

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/07(月) 20:07:43.51 ID:PaFmWOtd0
姫(魔力が流れる森かぁ…何だか、魔物の国ならではって感じ)

姫「…」チラッ

魔王子「…」

姫(うぅ、無言は気まずいよ~…でも何を話せばいいのかわからないし…)

姫はこの慣れない雰囲気に居心地の悪さを覚え始めていた。

姫(何か話題ないかな、えーと、えーと)

姫「…あれっ?」

と、ふと前方の影に気付いた。あれは――…人だ。
足を進める度にその姿がはっきり見えてくる。遠くから見れば背が低い子供に見えたが、よく見ればそれはその女性が乗っている車椅子のせいで…。

姫「あ、貴方は…!!」

姫はその女性の顔をしっかり視認すると、驚き固まった。

?「…」

姫「ま、待って!」ダッ

車椅子の女性は姫に背を向け、立ち去ろうとした。
姫はそんな彼女を追って、必死に走った。

姫「待って、待って下さい!!」

だが走っても女性はどんどん遠ざかっていき、やがて霧の向こうに姿を消した。

姫「待って下さい…お姉様ぁーっ!!」

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/07(月) 20:08:09.65 ID:PaFmWOtd0
完全に彼女を見失った姫は途方に暮れていた。
だが同時に気付いたことが1つ。

姫「はっ」

周囲に誰もいない。
この森で頼りにしなければならないはずの、魔王子すらも。

姫「まっ、魔王子様っ!?」キョロキョロ

周囲を見回しながら必死に魔王子の名を呼ぶ。
しかし返事はない。

姫「ど、どうしよう…」


魔王子『この森は魔力が流れている。僕と居るから危険はないだろうが、たまに意地悪をしてくることもあってね』


魔王子からの忠告が今更になって身に染みた。
姫はどうしようもなくなって、その場に腰を落とした。

姫「う、えうぅ…」

こんな場所で自分はたった1人。そんな状況が怖くて、心細くて涙が出てきた。
もしかして自分はここで死ぬのだろうか。目的も果たせず、たった1人で。

姫「そんなの嫌ぁ…」

?「誰かいるのか…?」

姫「えっ!?」

声が聞こえて姫は振り返る。
今は誰でもいいから、自分に気付いてほしくて――

姫「――ひっ」

だけど「彼」の姿を見た瞬間、改めて姫は、ここが魔物の国だと実感した。

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/07(月) 20:08:36.58 ID:PaFmWOtd0
そこに現れた「彼」――いや、容姿からは男なのかどうかも判別できない。

顔貌は獣のようでありながらも、知性的な眼差しは人らしくもある。流れ落ちるような銀色の髪の毛は、陽の射さない森の中でも輝いて見えた。その美しい毛を掻き分けるようにしてそびえ立つ2本の大きなツノが頭を装飾し、彼の威圧感を際立たせていた。


姫「あ…ああぁ…」


胸板は「壁」のように分厚く、長く伸びたその両腕は獣をも弄びそうな程に筋肉質。身にまとっている粗末な布でさえも、貧相さを感じさせるどころか 筋骨隆々とした体躯を強調させていた。

極めつけは、彼の身体を覆うほどの、大きな銀色の翼。その翼が視界に入るだけで、まるで神の世界に来たかのような、そんな神秘性を秘めていた。


彼の強靭な肉体と、放たれる威圧感に、姫の体はガタガタ震えた

?「私が怖いか」

彼は姫の心を見透かしたように言った。

?「非力な人間にとっては仕方あるまい。だが私は何もしない――その剣を下ろせ」

姫「は、はい…」

宝剣を構えていた姫だったが、彼の言葉に逆らえるはずもなく剣を下ろした。
とにかく気分を害さないようにしないと――

?「魔神、という」

彼――魔神は姫と距離を縮めず、その場で名乗った。

姫「姫と申します…あの、迷ってしまって…」

その声が頑強な容姿とは不釣り合いに穏やかだったおかげで、姫はどうにかまともな言葉を返すことができた。

魔神「そうか」

魔神は短く返事を返すと、くるりと振り返った。

魔神「森の出口まで案内しよう。ついて来るんだ」

姫「えっ…は、はい」

姫は言われるまま、魔神の後を追った。
正直、まだ警戒心は消えていなかった。それでも、今は彼の言う通りにするしかなかった。

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/07(月) 20:09:21.48 ID:PaFmWOtd0
魔神「ところで、何故人間がたった1人でここにいる」

姫「その…魔王子様に連れてきて頂いたのですが、はぐれてしまって…」

魔神「魔王子が…そうか」

姫「魔王子…って」

姫は違和感を覚える。魔王子は魔物の王である魔王の息子。
その魔王子を呼ぶ際、魔神は彼を呼び捨てにした。

ならば、魔神は魔王子よりも高い地位にあるのだろうか。
もっとも恐ろしいと考えていた魔王に次ぐ筈の魔王子。しかしそれすらも格下に扱ってみせる魔神の存在。
もし本当にそのクラスの強敵がまだ他にいたとなれば、もはや魔物と人間の争いの結末は決まっている。

姫(……でも…)

争いの結末は、未だついていない。それはつまり……

姫「貴方は、魔王軍に所属していないのですか?」

魔神「…何故、そう思う?」

姫「だって――」

今まで人間と魔王軍は何度も戦いを繰り広げてきた。
姫も王族の人間として、伝聞は聞いている。だが、その中には――

姫「貴方のような魔物と戦ったという話は、聞いていませんもの」

魔神「そうだろうな…」

魔神は足を止め、姫に向かって振り返った。

魔神「私のような者が戦場に出れば――この姿だけで、人間を恐怖させることも可能だろうな」

姫「…」

姫は否定の言葉が出てこなかった。
事実、姫も魔神の姿を見ただけでその姿に恐怖したのだから。

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/07(月) 20:09:52.53 ID:PaFmWOtd0
魔神「争いにおいては力や戦略ばかりが重視されるが、容姿も案外影響力の大きいものだ」

姫「…容姿……」

否定も肯定もできない言葉だった。
確かに、威圧的な容姿をもった軍隊があれば、相手の士気を下げることにも繋がるだろう。
だが、例えば美男美女ばかりの兵団があったとして、その兵団は容姿を武器にできるだろうか。
敵にハニートラップを仕掛けるような戦略でもあれば多少武器にはなるだろうが、戦場においては関係ない。美醜に関係なく、力が無い者から死んでいく。それが戦場だ。

姫(だけど、この魔神さんは――彼の、容姿は……『特別』すぎる)

その容姿は威圧的にも、美しくも見えた。だが、ただの美醜で語るには、次元が違う。

確かに彼は容姿だけで、本能を攻撃する――畏怖という、争いにおいては致命的な感情を与えて。

魔神「だから、私は戦場には出ない」

姫「えっ…?」

その容姿が武器になり、人間との争いを有利に進めることができるのならば、何故戦いの場に出ないのか。
魔神はそんな姫の疑問を、躊躇することなく口にした。

魔神「争いが嫌いなのだ、私は」

それは単純ながら、姫にとっては想像もしていなかった答えだった。

魔神「他者に恐怖心を与えるなど不本意。この容姿は、私自身にとっても害悪」

姫「…」

考えれば単純なことだった。
姫も争いを好む性質ではない。それは姫の見た目や仕草にも反映されていた。華やかだけれど威圧感を与えない可愛らしいドレスも、お淑やかな振る舞いも、誰にも敵意を抱いていないという風に主張している。
だから、この魔神のような姿になりたいかと聞かれれば、全力で拒否したい所だ。
同じ争いを嫌う者としては、魔神の気持ちもわかるはずなのに――自分も見た目で判断していた。この魔神も同じなのだと、想像もしなかった。

姫(でもそれって…何て悲しいんだろう)

彼の容姿は、彼が望まない影響を人に与えてしまっている。

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/07(月) 20:10:19.92 ID:PaFmWOtd0
魔神「魔王子はそなたを信用していない。だからここに連れて来たのだろう」

姫「?」

何故、急に魔王子の話になるのか。だが姫は、それを問わなかった。

魔神「何か目的があって魔物の国へ来たのだろう」

姫「それは…」

目的があるのは事実。だが、口にできなかった。
魔神も、口をつぐんだ姫に追求はしてこなかった。

魔神「争いを好まないのなら、よく考えて行動することだ。そなたの行動が争いを激化させる原因になるかもしれないからな」

姫「…あのっ」

姫は、思い切って打ち明けようとした。
魔物相手、と考えればあまりに無謀な決意。だけれど、もうどうしようもなく 自分一人では抱えきれなくなっていたから――

だが――

姫「…えっ?」

いつの間にか、魔神の姿はそこに無かった。

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/07(月) 20:10:50.25 ID:PaFmWOtd0
姫「魔神…さん?」

気がつくと霧が晴れていて、森の外へ出ていた事を知った。
キョロキョロ見回して魔神の姿を探したが、あの存在感のある姿はどこにも見つからなかった。

姫(いつの間にいなくなったの…?)

魔王子「おーい」

姫「!!」

霧の中から魔王子が出てきた。

魔王子「あー良かった見つかって。流石の僕も焦ったよハハッ」

姫「あ、あの、魔王子様。森の中に、誰かが…」

魔王子「誰か?ああ、幻影だよ幻影」

姫「幻影?」

魔王子「あー、この森が見せる幻影だよ。よくあるよくある」

姫(じゃあ、あの魔神さんは――)

幻影。
今思えば、そう言われても違和感がない程、どこか現実離れした雰囲気を持つ魔神だった。

魔王子「そんな幻影よりもッ!! 目の前の、美しい僕を見なよッ!! アァッ、まるで神話の世界から姿を現した、美しき天使ッ!!」シュバシュバツ

姫(どうしよう…この人、本当にわけがわからない)

25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 21:26:12.71 ID:SMx3Wks0O
憎めない魔王子と姫の今後が気になるな
乙!

26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 21:29:17.18 ID:arAdDdIpO


面白そうだ

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/07(月) 23:13:32.17 ID:yootxVNQO
結構面白いw

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/08(火) 13:59:33.74 ID:mTCM3+CEo
魔王子さんの空回りっぷり半端ねぇw


29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/08(火) 18:36:14.68 ID:9WWacBwe0
>魔王城


魔王子「光射すテラスでのティータイム…優雅な僕にはピッタリだね! あまりの美しいシチュエーションに涙が…」ポロポロ

姫(もしかしてこの人は情緒不安定なのかしら…?)

メイド「紅茶のお味はいかがでしょうか?」

姫「あ、とても美味しいです。私の国には無い種類ですねぇ」

魔王子「おや、わかるかい? 何を隠そう、それは人食い花の紅茶なのさ!!」

姫「」

魔王子「人食い花の香りはリラクゼーション効果があってね、人食い花はそれで油断した人間をパクリと食べるのさ」ハハハ

姫(もうこの国イヤ)シクシク

魔王子「紅茶によるリラクゼーション、素晴らしきひと時…出来ればこんな優雅な時間を永遠に過ごしてい」

側近「魔王子様ーっ!」

魔王子「汚らわしい声で僕のティータイムを邪魔するな!」

側近「汚らわしくありません! ていうかティータイムどころじゃありませんよ!」

魔王子「どうした何があった」

側近「勇者一行が攻めてきました!」

魔王子「おやおや。なら出迎えないと失礼にあたるかな?」

側近(おや、まるで動じていらっしゃらない。流石は魔王様のご子息)

魔王子「ちょっとシャワー浴びて着替えてくるから、1時間くらい待ってもらって」

側近「とっとと行け」

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/08(火) 18:36:44.70 ID:9WWacBwe0
>魔王城、正門前



勇者「でりゃああぁぁ」ズバッ

魔物B「ぐわー」

勇者「クク、雑魚め。こんな雑魚ばかりでは腕ならしにもならん、出てこい魔王!」

威勢よく声を張り上げ、高々と剣をかざして格好をつけた青年。その後方から声援が飛んでくる。

女戦士「おー、かっこいいぞ勇者ー」

魔法使い「このまま魔王も倒しちゃえー」

僧侶「頑張りましょう、勇者さんっ」

魔物A(くっ、女3人引き連れて調子に乗りやがって…! 魔王様がぎっくり腰じゃなけりゃ、あんな奴…!)

「フッ、フフフフ…」

勇者「!? 何だ、この声は!」

「フフフフ……ハーッハッハッハッハッハ!!」

ズドオオオォォォン

勇者「!!!」

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/08(火) 18:37:55.79 ID:9WWacBwe0
奇怪な現象は、突然の爆発だけで終わらなかった。
まだ昼間だというのに辺りは闇に覆われる。空には満天の星、その星々がある一点を照らしていた。

そして爆炎が消える。その中から現れたのは…

魔王子「お初にお目にかかる、勇者…。僕は魔王子、魔物の国の美しき王子さ」

勇者「魔王の息子…ということか?」

魔法使い「な、なにアイツ…正気!?」フルフル

女戦士「どうしたんだ魔法使い」

魔法使い「アイツ…今のだけで魔力の半分を使い果たしているわ…!!」

僧侶「まさか、膨大な魔力で星を召喚したの!? 隕石による攻撃……!?」

勇者「…」

女戦士「…」

僧侶「…」

シーン…

魔王子「さぁ! 僕が君の相手をしようっ!」ピシーッ

女戦士「派手な登場シーン演出しただけ…なのか?」

勇者「魔王の息子がただの馬鹿…ってことはないよな?」

側近(ただの馬鹿です)

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/08(火) 18:38:21.76 ID:9WWacBwe0
魔王子「それにしても…」

勇者「?」

魔王子は勇者一行の面々を1人1人見た。
男1人に対し女が3人。そのパーティー構成を見て、魔王子はハァとため息をついた。

勇者「何だ」

魔王子「いや、ハーレムって男の憧れだよね、僕は好きじゃないけど。でもそうやって美少女3人に囲まれていると、羨望の眼差しで見られるだろう」

勇者「まぁな」フフン

魔王子「だから、ね…」ハァ

勇者「何だよ」

魔王子「いや~…」

魔王子は、今度は勇者の頭からつま先までをじっくり見た。

魔王子「ハーレムというのはいい男が作るから格好いいのであって。君がハーレムの中心というのは、こう…ねぇ?」

勇者「」

女戦士「男は顔じゃないんだぞ!」

魔法使い「そうよ、そりゃ勇者の顔は中の下だけど!」

僧侶「顔に目をつぶれば、勇者さんは名家の出身だし強いし悪くはないんですよ!」

勇者「君らフォローしてるようで俺を攻撃してるからね!? しかも敵、俺の顔について言ってるって確定してないからね!?」

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/08(火) 18:38:47.34 ID:9WWacBwe0
魔王子「へぇ…勇者は強いんだ。だけど…」

勇者「だけど…何だ?」

魔王子「僕を倒せないようじゃ、パパンも倒せない。魔王を倒して世界を平和に導くことができる位の強さじゃなきゃ、な~んの意味もないよね?」

勇者「心配無用…」ダッ

勇者は魔王子のもとまで駆けた。
その跳躍力をもって、あっという間に魔王子の目前に迫る。

勇者「お前ごとき、さっさと片付けてやるよ!!」

魔王子「…」

刃が目前に迫っても魔王子は微動だにしない。

そして――

ズシュッ

魔王子「――」

勇者の剣が、魔王子の胴体を切り裂いた。

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/08(火) 18:39:15.26 ID:9WWacBwe0
勇者「決まった…」フッ

勇者は付着した血を払うように、大きく剣を振って鞘に収めた。
倒した相手には既に興味をなくしたと言わんばかりに、魔王子に背を向け、得意気に笑う。

勇者「さぁ、次は――魔王だな」

魔法使い「ゆ、勇者…」

勇者「ん?」

「フ、フフフフフ…」

勇者「!?」ガバッ

魔王子「甘い、甘いよ君ぃ!! そんな激甘なことで世界を救えるのかい!?」

勇者「なんで…」

勇者は目を疑う。確かに自分は魔王子の体を切り裂いた。
それなのに、その白い肌には傷一つついてなくて…。

勇者「ってええぇぇ何で全裸なんだよ!?」

魔王子「服を切り裂いたのは君の方じゃないか」フッ

勇者「俺、上しか切ってないんだけど!? つーか恥じらえよ変態か!!」

魔王子「何を恥じらえというのだ、こんなに美しいのに…」

女戦士「…すげぇ」ゴクリ

魔法使い「うん…」ゴクリ

僧侶「何とご立派な…」ゴクリ

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/08(火) 18:39:45.54 ID:9WWacBwe0
勇者「この際、全裸はどうでもいい! それよりお前、回復魔法もかけてないのに何で回復してるんだよ!!」

魔王子「僕はとても美にこだわりがあってね…」

魔王子は体を勇者に見せつけるように、両手両足を広げた。

魔王子「この美しい体に傷一つつくのも嫌なのさ。そんな美意識が生んだ能力こそが、この……超・回・復ゥッ!!」

勇者「超回復…だって!?」

魔王子「隅々まで見るといいよ、僕の肢体を!! 見ての通り、ダメージを受けても僕の体はすぐに元に戻る…頭と心臓を同時に潰さない限りね!! この能力には回復だけでなく、美肌効果もあってだね」ベラベラ

勇者(なるほどな。だが、それなら頭と心臓を同時に潰せばいいだけのこと)

勇者「戦士、魔法使い、僧侶、攻撃を――」

魔王子「そうはいかないよ」

魔王子は高く跳躍し、勇者と仲間達を遮るように、彼らの間に着地した。
その瞳は勇者の仲間3人を捉えている。
彼女らは(股間が気になって)固まった。

魔王子「喰らえ…」

勇者「やめろ、何をっ――」

魔王子「パーフェクトビューティ魔王子フラーッシュ!!」

カッ――――

勇者「!!!」

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/08(火) 18:40:14.91 ID:9WWacBwe0
一瞬、強い光が放たれたような気がした。
見た所、仲間3人に異変はないが――

勇者「大丈夫か、3人とも――」

女戦士「す…」

勇者「す?」

女戦士・魔法使い・僧侶「「「素敵いぃーっ!!」」」

勇者「え」

女戦士「あれぞ美だよ~」メロメロ

魔法使い「私、魔王子様と戦えな~い」メロメロ

僧侶「あぁ、魔王子様…」メロメロ

勇者「あのう?」

女戦士「触んな童貞」ペシッ

勇者「」

魔法使い「勘違い野郎はマジ痛いわ~。私ら、ブサイクに好かれる為にオシャレしてるんじゃないんですけど~」

勇者「」

僧侶「強いのだけが取り柄だったのに、1人じゃ魔王子様を倒せませんものね…」

勇者「」プルプル

魔王子「男が泣くなよ」ポン

勇者「誰のせいでええぇ~」グスッ

魔王子「何てことだ、泣いたら美しくない顔が更に悲惨なことに!!」

勇者「うるさい!! もうやだ帰る! うわあん、マーマー!!!」ダーッ

魔王子「さ、君らもお帰り」

女戦士「えぇー、やぁーだぁー」

魔法使い「魔王子様ともっと一緒にいたぁい」

魔王子「僕を困らせるなんて、悪い子達だ」

僧侶「きゃーっ、魔王子様を困らせるなんてできなぁーいっ」

キャイキャイ

側近「…」

側近(魔王子様は誰一人として傷つけることなく、勇者を撃退した…)

魔王子「さぁ側近、パパンに今の戦いの報告に行こう」

側近「は、はい。今参ります」

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/08(火) 18:40:46.62 ID:9WWacBwe0
魔物A「初陣ながら、お見事でした魔王子様」

魔王子「まぁね」

魔王子は魔物Aからガウンを受け取り、派手に広げてそれを羽織った。 そして、魔物達から送られる賞賛の眼差しを得意気に受け止め、堂々と廊下の中央を歩いていく。

魔王子「やはり僕の美しさは偉大だね。世界をも魅了できるよ」

側近「ですが勇者は…」

魔王子「あぁ、ブ男に嫉妬されるのには困ったね。ならもっともっと美しさを磨いて、ブ男も魅了してやろう!!」

側近(無理に決まってんだろ)

しかし魔王子は早くも自信満々だった。
そしてそこを曲がって魔王の所へ…という所で、角から人が出てきた。

姫「魔王子様…」

魔王子「おや、お姫様。見ててくれた、僕の勇姿?」

姫「そ、そのぅ…途中から見ていませんが…」モジモジ

魔王子「えっ、何で!? 美しい僕の勇姿だよ!」

姫「えーと…」カアァァ

側近(全裸だからだよ)

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/08(火) 18:41:14.60 ID:9WWacBwe0
姫「そ、その魔王子様…大丈夫ですか?」

魔王子「え? 何が?」

姫「お体…」

姫は魔王子の胸にそっと手を添える。
そこは魔王子が、勇者に切られた箇所だった。

魔王子「あぁ大丈夫、僕には超回復という能力があるから。美を保つ為の素晴らしい能力さ!」

魔王子は得意気にそう言った。
けれど、姫の表情は晴れず…。

姫「でも…」

魔王子「でも?」

姫「切られたら…痛いでしょう?」

魔王子「…」

それは魔王子にとって、予想もしていなかった言葉だった。

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/08(火) 18:41:45.26 ID:9WWacBwe0
魔王子(痛み、か――)

魔王子が超回復の能力に目覚めたのは、子供の頃。
彼にとって怪我というものは、放っておいても勝手に治るものだった。

だからといって、彼は怪我を全く恐れずに生きてきたわけじゃない。

怪我をすれば痛い。痛覚を無くしたわけではないので、それは当然のことだった。
だが、超回復の能力を持つ彼を心配する者はいなかった。

だから姫の言葉で魔王子は、言いようのない衝撃を受けた。

魔王子「切られたら痛い、か…。ハハッ、臆病なお姫様らしいねぇ」

姫「だって…」

魔王子「…大丈夫」

姫「っ」

何か言いかけた姫の頭に、魔王子はそっと手を置いた。

魔王子「僕は大丈夫。…心配してくれて、ありがとう」

姫「あ…」

彼の声は穏やかで、頭に置かれた手は柔らかくて、姫の抱いていた魔王子のイメージとは違っていた。

魔王子「さっ、早くパパンに報告しなきゃ。僕の美しさで場を収めたってね~♪」

そして魔王子は話を切り替え、姫をそこに置き去りにした。

姫(魔王子様…)

そして姫は、確信はないけれど、何となく、魔王子の動揺を感じ取っていた。

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/08(火) 18:43:03.28 ID:9WWacBwe0
今日はここまで。

技解説:パーフェクトビューティー魔王子フラッシュ
高確率で相手を魅了する。ただし、全裸にならないと使えない。

41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage ]:2015/09/08(火) 19:21:54.16 ID:4MJfL0W00


42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/08(火) 20:41:34.34 ID:4iyHbqWbo
美しさを利用せずに、美しさそのものが目的なのが良い

43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/08(火) 21:37:19.40 ID:frv9984WO
某漫画の光魔法より強力とかすげえな

44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/08(火) 23:44:33.63 ID:de+QGBBvo
全裸縛りとか魔王子にとってデメリットがない笑

45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/09(水) 13:16:22.74 ID:5jYMjYeEo
なんかいい雰囲気だけど、ガウンの下は全裸なんだよな

46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/09(水) 14:11:55.57 ID:h1Uok8ZEo
>ブ男も魅了してやろう!!
王子・・・男女お構いなしか!まあ分け隔てないのは度量の広い証拠なのかな

47 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/09(水) 18:58:34.85 ID:E09Awk0S0
>夜、魔王子の寝室前


姫(魔王子様はもう眠られたかしら…)

姫は寝室前で立ち止まっていた。
手をドアノブにかけようとしていたが、何かを躊躇してそこから動けずにいる。

姫「…」


魔王子『パパン、このお姫様は僕が貰い受けるよ』

姫(魔王子様は、私の命を救って下さった)


魔王子『魔物ばかりの城にいても気が休まらないだろう。我が国ならではの面白い場所に連れて行ってあげよう』

姫(この国に居づらさを感じている私を、気遣って下さることもあった)


勇者『うるさい!! もうやだ帰る! うわあん、マーマー!!!』

姫(襲撃してきた勇者様に危害を加えることなく、彼を帰した)


魔王子『僕は大丈夫。…心配してくれて、ありがとう』

姫「…」


姫(魔王子様は悪い人ではない…)

姫(だけど、私がこの国に来た目的は…)

姫(私は、どうすれば…)


「眠れないのかい?」

姫「…っ!?」

48 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/09(水) 18:59:02.98 ID:E09Awk0S0
突然寝室のドアが開いた。
部屋の中から顔を出したのは勿論、部屋の主である魔王子。

魔王子「こんな時間にどうしのかな、僕の体目当てかい?」

姫「い、いえいえ」

ここにいる言い訳が見つからないのと、また訳のわからないことを言われたことで、姫は上手く言葉を返せなかった。
だが――

魔王子「あながち間違いではないだろう?」

姫「え――っ!?」

魔王子「望むなら。どうぞ、これ」ポン

姫「あ、え、えっ!?」

魔王子が姫に手渡したのは、夢幻の森の時にも渡した宝剣だった。

姫「え…っと?」

戸惑う姫に対し、魔王子は躊躇なく言った。

魔王子「君、小国の姫ではないだろう。小国から送られた暗殺者…って所かな?」

姫「…っ!!」

いきなり核心を突かれ、姫は言葉に詰まった。

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/09(水) 18:59:32.95 ID:E09Awk0S0
魔王子「いいよ、その宝剣でやってみなよ。ただし僕を殺すのは、どんな実力者にも難しいことだけどね」

姫「…どうして、わかったんですか?」

魔王子「うん?」

姫は宝剣を構えることもせず、絞り出すような声で魔王子に尋ねた。

姫「どうして私が小国の姫ではないと…私、どこかで失敗をしましたか?」

魔王子「その宝剣を見た時の反応だよ」

姫「え…?」

姫は手に持っている宝剣を見た。

魔王子「君、その宝剣を見た時に何て言ったかな?」

姫「えっと…。綺麗、と言いました」

魔王子「それだよ」

姫「え?」

魔王子「その宝剣、レプリカなんだ。宝石も偽物なんだよね」

姫「え…っ、偽物…?」

魔王子「そう」

まだ理解が追いつかない姫に、魔王子は説明を加える。

魔王子「小国は鉱物の産地。その小国の姫君なら、宝石を見る目も肥えているはず。そんな姫君が偽物の宝石を綺麗と言うなんて、おかしいと思うじゃない」

姫「!!」

50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/09(水) 19:00:08.46 ID:E09Awk0S0
姫「…お見事です」

姫は肩を落とす。
この国に入ってから、ずっと小国の姫の振りをしようと意気込んでいた。
だというのに、まさか、そのたった一言で見抜かれてしまったとは。

姫「…でも1つ訂正をさせて下さい。私は、姫であることには間違いないのです」

魔王子「と言うと?」

姫「小国に戦争で敗れた国の、姫です」

魔王子「…へぇ」

小国は周辺国と度々小競り合いを繰り返している…そんな話を聞いたことがある。
敗戦国の姫が、小国に命じられ魔物の国に入り込むとは。いよいよ、きな臭い話になってきた。

姫「私は小国に命じられ、貴方と魔王の命を奪う為、貢物としてこの国に送られました…。ですが正体がバレてしまった以上、仕方ありません。この国の法で私をお裁き下さい…」

魔王子「待った待った。話が飛躍するなぁ~。僕は別に君を裁くつもりはないよ」

姫「ですが…」

魔王子「君に殺される程、僕もパパンも甘くはないよ。大事にはしないから、君は小国の言いなりになるのを止めて姿を消した方がいい」

姫「そうはいきません」

魔王子「うん?」

姫「私の姉が…小国に人質に取られているのです」

魔王子「ウゥン……」

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/09(水) 19:00:41.64 ID:E09Awk0S0
姫「お姉様は…たった1人の私の家族なのです。だから…っ」

魔王子「…」

姫は宝剣を構える。
魔王子はそれを見ても表情を変えない。

魔王子「できるの? 君に」

姫「わ、私は…」

姫は体を震わせていた。
その顔は真っ青で、声もかすれていて――とても見ていられるものではなかった。

魔王子「無理だよお姫様には」

姫「…っ」

魔王子はゆっくり姫との距離を詰める。
姫が刺さないと確信してのことか、まるで警戒する様子がない。

そればかりか…

魔王子「試してみる?」グイ

姫「!!」

魔王子は姫の手をつかみ、僅かに震えていた剣先を支えた。いまやその切先は、心臓まで数センチを残してしっかりと魔王子を捉えている。

魔王子「まずはひと思いに、心臓から――」

握る手に、力が加えられた。

姫「――嫌っ!!」

そこで、姫は宝剣を床に落とした。

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/09(水) 19:01:14.24 ID:E09Awk0S0
魔王子「………」

姫「やっぱり無理…私、できない! お姉様、ごめんなさい…」

姫は床にへたり込んでさめざめと泣き出した。
誰かを殺すなんてできない。でも、姉を救うことも諦められなくて。

魔王子「どうすればいいと思う?」

姫「わからない…」

姫は泣きながらも即答した。

姫「私には何もできない! こんな無力で臆病な私なんかに、何も…」

魔王子「何もできないわけじゃないよ」

姫「え…?」

姫は顔を上げ、魔王子の顔を見る。
魔王子は姫のことを見ていた。それも彼にしては珍しく、真剣な表情で。
そしてゆっくりと、姫に手を差し出した。

魔王子「助けを求めてみれば、いいじゃない」

53 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/09(水) 19:01:42.32 ID:E09Awk0S0
姫は一瞬理解できなかった。
だが差し出された手を見て――理解して、慌てた。

姫「そ、そんな! 魔王子様のお手を煩わせるだなんて!」

魔王子「窮地に陥ったお姫様を救う…そんな僕、最高に美しいよね」

姫「私には、魔王子様に助けを求める資格は…」

姫は俯いた。

魔王子「僕は君が――とその前に、ごめん」

姫「え?」

魔王子はぺこりと頭を下げた。

魔王子「君を騙して、心を覗いたことが一度だけあるんだ」

姫「…えっ!?」

魔王子「夢幻の森に、行っただろう」

魔力が流れ、人に幻影を見せる、あの森のことか。

魔王子「あそこの森は入った者の心を映し出すこともできてね」

姫「えっ、あのっ、そのっ」アワアワ

その説明を聞いて姫は慌てた。
良心的に生きてきた姫とはいえ、覗かれたくない部分は持っている。

魔王子「慌てる程、深い部分は見ていないよ。僕が聞いた心の声は――」



姫『お姉様の為、私は彼を…。でも、誰かを傷つけるなんて嫌…そんなの絶対、間違ってる!!』



魔王子「あの時から僕は――君を救いたいと思っていたんだ」

姫「っ!!」

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/09(水) 19:02:15.10 ID:E09Awk0S0
姫「わ、私…」

姫は再び泣き始めた。

姫「自分に仕方ないと言い聞かせて、貴方を殺すのを実行しかけた時もあった…。私ったら、何てことを…!」

魔王子「ハハハ。そんな揺らいだ心じゃ、この僕を殺せないくらい、わかっていたさ」

姫(穏やかな顔、柔らかい口調…彼は私を気遣って下さっている)

姫(魔王子様…この方は本当に優しい。それに何て、清らかな心の持ち主でしょう…)

魔王子「…」



~回想・夢幻の森~

魔王子『フフフ、姫様の本音を聞かせて頂こう』

魔王子『さぁ!! 僕の美しさを讃える声を聞かせるが良い!!』

姫『お姉様の為、私は彼を…でも、そんなことしたくない…』

魔王子『…うん?』

魔王子『馬鹿な…っ、心の中ですら、僕を美しいという声がないだと!?』

姫『……誰かを傷つけるなんて嫌…絶対、間違ってる!!』

魔王子『なんか深刻そうで美しくない。美しくないとか、絶対間違ってる』

~回想終了~



姫(魔王子様の表情…私のことに真剣になって下さっている…)

魔王子(姫様を救って、絶対に僕を美しいと言わせてやる!!)ゴゴゴ

55 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/09(水) 19:03:47.49 ID:E09Awk0S0
今日はここまで。

実はいい人かと思いきや動機が不純なナルシスバカ、それでこそ魔王子だぜ!

56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/09(水) 19:21:42.13 ID:Ft31p2vBO
大好きだこの馬鹿www

57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/09(水) 23:14:59.03 ID:N9G/TwmaO
自分の信念を曲げないその心
感服でございます

58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/10(木) 17:51:23.47 ID:iGIB9Bv8o
さすが魔王子、ブレないぜ!

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/10(木) 18:31:35.71 ID:H6te6pwX0
>小国


王「姫を魔王の元へ潜り込ませ、数日経ったが…」

大臣「まだ、これといった動きは見られません。密偵の情報によると魔王は体調不良、との事ですが…」

王「それでも魔物の国の動きに変化がない所を見ると…」

大臣「恐らく密偵などにより、情報が漏れるのを踏んで、あえて魔王が弱っていると騙り、こちらを撹乱するつもりなのではないか、と」

王「そういえば、姫を送り込んだ際の使いも、王子ですら切れ者だったと報告していた」

大臣「野蛮な魔物共といえど、頂点ともなればそれなりの頭もあるようですな」

王「だが流石に、臆病で無力な姫が…まさか、暗殺者だとは思うまい。あとは誘惑して魔王の懐にもぐりこみ…隙を突けばいいだけの事」

大臣「ふふふ、きちんと夜伽を教え込んでから送り込んだ方が良かったですかな?」

王「かもしれんな、はははははは!!」

広間にて王と大臣の下卑た笑い声が響いていた。
ここら一帯の国と小競り合いを繰り返している小国の王。
策略を考え出す頭脳と大胆不敵な性格を兼ね揃えた彼は、人間の敵である魔王に対してですら、恐怖心を抱いていなかった。

兵士長「陛下!」

王「む。どうした」

兵士長「魔王国の魔王子が、城に入り込んできました!!」

王「何…っ」

魔王子「おっ、王様いたいた」

王「!!」

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/10(木) 18:32:05.13 ID:H6te6pwX0
尊大な態度で広間に入ってきた魔王子は、部下の一人ですらも連れておらず、表情も声色も穏やかなものだった。
しかしその片腕には姫を拘束していて、姫の表情はやや固い。

計画がバレたか――王はすぐに察した。

王「これはこれは。魔王子殿、お初にお目にかかります」

魔王子「社交辞令的な挨拶はいらないよ。僕が来た理由はわかるね?」

王「さて、見当もつきませんな?」

だが王は知らぬ振りをする。
この程度のことなら想定の内、堂々とした態度を崩さない。

魔王子「このお姫様は小国の姫ではないんだってね」

王「おや、使いが説明を怠りましたかな? 失敬しました。彼女は確かに我が国の姫ではないが、捕虜としてそちらの国に贈与したのは確かです」

魔王子「で…彼女は姉上を人質に取られて、僕とパパンを殺すよう命じられたんだって?」

王「まさか」

王は驚くふりをしたが、用意していた言い訳を口にする。

王「でまかせですね。その姫君は我が国に恨みを持っています。ですからそう嘘を述べて、我が国とそちらの国の間に亀裂を生むつもりだったのでしょう」

魔王子「…それは本当かな?」

王「我が国のような小国が魔王殿を相手に喧嘩を売るのは、荷が重すぎますよ」

王は、困ったように眉を下げて自嘲気味に笑った。

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/10(木) 18:32:34.22 ID:H6te6pwX0
王は魔王子と会話を交わしながら、広間全体の様子を伺う。
広間には兵士達が続々と入ってくる。

魔王子「まぁ、僕に嘘を見抜く力はないから――」

魔王子は会話に集中しているようで、王の方を向いたままだ。
弓兵がゆっくり、彼の背に回る。

王(よし――)

あとは隙を見て矢を射るだけだ――と思った時。

魔王子「さっきから後ろでコソコソ何やっているのかな?」

王(ちっ、気付いていたか)

面倒な――射姿の弓兵が魔王子に見つかれば、もはや言い逃れはできない。
必死に頭を動かして言い訳を捻り出そうとするが、
魔王子は相変わらずの微笑を浮かべたまま、ゆっくりと振り返っていき――

と、次の瞬間。

姫「え、えいっ!」

魔王子「――っ」ドサッ

王「!」

一瞬のことだった。腕に抱えられていたはずの姫は
魔王子の腕をねじり上げ足を払い、魔王子はそこに尻をついた。

姫(これで…いいのよね?)

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/10(木) 18:33:01.81 ID:H6te6pwX0
~回想~

魔王子『王の前で僕は隙を見せる。そうしたら君は僕を拘束するんだ』

姫『えっ、でも…』

魔王子『大丈夫、僕に任せて♪ 君はお姉さんを助けることだけ考えているんだ』

姫『はっ…はい…』

~回想終了~


姫(信じますよ、魔王子様…)

姫「王様、彼を捕らえました…。お姉様を解放して下さい」

王「…」

王の表情は固い。
演技がバレただろうか――? 姫は内心ヒヤヒヤしながら、彼の表情を伺う。

王「…まぁ、いいだろう。兵士長、姉姫を連れてこい」

兵士長「はっ」

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/10(木) 18:33:28.58 ID:H6te6pwX0
兵士長が姉姫を連れてくる間、魔王子は兵士達に取り押さえられ、両手両足を鎖で拘束されていた。
それに対し、魔王子は抵抗する素振りを見せる。

魔王子「縛られるなら薔薇を所望するよ。鎖だなんて、奴隷のようで美しくないなぁ」

王「聞いていた通りの変態だな」

魔王子「こうやって僕を拘束するってことは、やっぱりお姫様の言っていたことは本当なのかな?」

王「その通り。マヌケだな魔王子、まんまと罠にはまるとは」

マヌケなのはそっちだ――魔王子がそう思ったと同時、姫が叫ぶ。

姫「お姉様!」

姉姫「姫…!」

兵士長に連れられ、車椅子の女性が広間に入ってきた。
姫はすぐさま姉に駆け寄り、その体に抱きつく。

姉姫「あぁ姫、無事で良かった…魔王の元へ送られたと聞いて、どれだけ心配したことか…!」

姫「お姉様…お姉様ぁ」

抱き合う2人を横目で見て、魔王子はとりあえず安心する。

魔王子(まぁ良かった。さて、あとはあの二人が無事に開放されるのを待って、僕も抜け出すだけだね…)

しかし。

王「ご苦労だったな姫君よ――お前はもう、用済みだ」

姫「――えっ?」

魔王子「!?」

王の合図と同時、彼女らを囲んでいた兵士達が、一斉に武器を構えた。

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/10(木) 18:34:00.57 ID:H6te6pwX0
姫「え…あっ…?」

状況を理解できないのか、姫の声は言葉にならない。

魔王子「なるほど…そういう手を使う」

冷や汗をたらしながら魔王子は呟いた。

魔王子「口封じの為か知らないけど、用が済んだら処分するってわけ。やることが下衆だね」

王「お前こそ。姫君と手を組んでいたのだろう?」

魔王子「――っ!」

読まれていたか――魔王子は動揺を悟られぬように、強がって笑ってみせた。
それを見て、王はフンと鼻を鳴らす。

王「お前の死体も姫君の死体と一緒に捨ててやろう。シナリオは、そうだな――人間との禁断の恋に溺れた魔王子による無理心中、というのはどうだ。魔物はますます、人間にとって忌み嫌われる存在となるだろうな」

魔王子「両種族の争いを激化させるつもり…!? やめなよ、死人を増やすだけだ」

王「あぁ、死人が出れば出る程都合がいい。魔物との争いで疲弊した大国へ攻め入れば、我が国にも勝機はある…!」

魔王子「…っ、全く理解ができないね…!」

王「お前の父も同類だろう。この世界を掌握しようという考えの持ち主だろう」

魔王子「あぁ、うん…僕はパパンの考えも理解できないよ」

王「ほう?」

世界を力で支配するのは、美しいことではない。
父はそんな美しくない世界征服をして、何を得ようというのか。

美しくあることが、何よりも大事なことではないか。
ならばそんなものは、とっくに得ている。

魔王子「だって僕は――」

そうだ、僕の美しさの前では――

魔王子「僕が美しすぎて、世界征服とかどうでもいい」

世界征服など、興味も失せる。


魔王子(だけど――)

魔王子は兵士達に囲まれている姫達を見た。

姫「ひっ――」

姉姫「あ、ああぁ…」

魔王子(この状況を何とかしなきゃ――美しくないよね!)

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/10(木) 18:34:28.88 ID:H6te6pwX0
魔王子「あぁ何て醜いんだ!」

魔王子は広間中に響く声で叫んだ。その声で、注目は魔王子に集まる。

魔王子「考えることが矮小で、目も当てられない程醜いね。小国は鉱物の産地だけれど、その小国の王の人間性も鉱物同様…」

王「何が言いたい」

魔王子「わからない? 宝石のように美しくなるには、まだまだ程遠いって意味だよ!」

王「貴様…」

王の表情が歪んだ。
手応えを感じ、魔王子は続ける。

魔王子「君のような矮小な王に、この高貴な僕は殺せないよ。何故なら――」

王「超回復、か?」

魔王子「――っ」

知られていた。

魔王子(教えたのは勇者かな…あーあ、うっかりしてた)

人殺しなど、魔王子にとっては美しくない行為。だから、生かして帰したことについては後悔していない。
しかしあの時はつい、超回復について得意げに語ってしまった。そんな調子の良さは、反省すべき所だ。

王「頭と心臓を同時に潰さぬ限り、いくらでも再生するそうだな?」

と、今は反省している場合ではなかった。

魔王子は唇を噛み締め、無言を貫く。
王はそんな魔王子の様子を見て、ニヤリと笑った。

王「つまり頭と心臓を同時に潰せば死ぬということ――おい」

兵士長「はっ」

王は兵士長を呼ぶ。後ろに兵士達がついてきた。
その手には各々、武器を持っている。

姫「まさか――」

姫は顔を真っ青にして、その様子を見ていた。

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/10(木) 18:34:56.39 ID:H6te6pwX0
魔王子「…いやぁ参った」

兵士達に囲まれた魔王子は苦笑いを浮かべた。

魔王子「勘弁してくれないかな? それは僕が1番嫌なことなんだよ」

王「ほう…ならば早めに終わらせてやろう」

剣先が魔王子の頭と胸元に突きつけられる。
同時に潰す準備は、既にできている。

姫「駄目っ…嫌、そんなの!」

姫は必死になって魔王子に手を伸ばすが、兵士達に掴まれたその細腕は、それを振り払うこともできない。

姫「魔王子様を殺さないで…! やめて下さい、お願いしますっ!!」

叫ぶ。それでも状況に変わりはない。

姫「魔王子様、魔王子様ぁ!」

何度目かの呼びかけに、魔王子がようやくこちらを振り返る。
その顔は涼しげで――いつもと同じだ。ちょっと変わっているけど、それでも優しい、いつもの魔王子だ。

王「やれ!」

だが、そんな魔王子は――


姫「嫌ああぁぁ――――ッ!!」



2本の剣に体を貫かれ、鮮血を散らした。


72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/11(金) 18:15:54.93 ID:JOx1p0wj0
姫「あ、ああぁっ…」

姫はその場に泣き崩れた。



魔王子『あの時から僕は――君を救いたいと思っていたんだ』

優しくしてくれた魔王子が死んだ。
自分に同情し、味方になってくれたばかりに――


姫「魔王子様…魔王子様ぁ…」

名を呼んでも魔王子は蘇らない。
わかっていながらも未練を抱き、彼の名を呼び続ける。

姉姫「あ、あれ…」

姫「え…っ?」

姫は顔を上げる。
姉姫の指差した方向を見ると、血に染まった魔王子が――立っている?

魔王子「――…痛い」

彼の口から声が発されたと同時、場にはざわめきが起こった。

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/11(金) 18:16:22.89 ID:JOx1p0wj0
王「仕留めきれていなかったか…!? 追撃しろ!!」

今度は弓兵の放った矢が、魔王子の胸や頭に突き刺さる。
それでも魔王子は倒れない。

魔王子(…痛い)



姫『そ、その魔王子様…大丈夫ですか?』

姫『切られたら…痛いでしょう?』


魔王子(本当その通りだよ、姫様)

魔王子(誰だって痛いのは嫌だよね――それなのに争うから、痛いのも続く)


王「何故だ…!? 何故、倒れん!?」

何度も貫かれた魔王子の体は、血まみれで、面影はほとんど無くなっていた。

だが、奇怪な出来事は次の瞬間起こった。

王「…!?」

魔王子の体の傷が塞がる。だが、元の姿ではない。
明らかに魔王子の体は、筋肉が膨らんでいた。

魔王子「頭と心臓を同時に潰さない限り、僕の体はすぐに元に戻る――とは言ったが」

姫「この、声…っ!?」

声帯まで変形したのか、魔王子の声が変わる。
だがその声が流れた瞬間、広間はビリッとした緊張感に包まれた。

王(何故、だ――!?)

声に威圧された。そうとしか表現できなかった。
だが――たかが声で?

魔王子「頭と心臓を同時に潰せば死ぬ…って意味じゃないんだよ」

威圧感を纏った魔王子に追撃する者はいない。そうしている内に、魔王子の傷は全て塞がり――

魔王子「争いを避けてはきたが――やはり、争い自体を鎮圧する必要があるようだ」

王「…っ!!!」

兵士長「な…っ」



「魔王子の頭と心臓を同時に潰すと――『私』になる」


姫「あ、貴方は――」

74 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/11(金) 18:16:55.91 ID:JOx1p0wj0
そこに現れた「彼」―― その印象的な姿は、見間違うはずもない。

獣のような顔貌、知性的な眼差し、
輝く銀髪に、そびえ立つ2本の大きなツノ――

長く伸びた両腕は今、既に消えた傷跡を労わるかのように
彼のその強靭な体躯をしなやかに抱いている。

そして、その強靭な身体を覆う大きな銀色の翼――



姫「魔神…さん?」

そこに現れたのは、あの日、夢幻の森で出会った魔神であった。

魔神「魔神とは、魔王子の力を解放した姿――どちらも真の姿だが、私は魔神の姿を嫌っている」

その声は静かなものだった。
だが、その静かな声が通る程、広間は静まり返っていた。

皆、恐れていた。
目の前に現れた魔神の姿に圧倒され、動けずにいた。

姫(魔王子様が魔神さんだったなんて…)

ただ一人、魔神と面識のある姫だけは思考を冷静に働かせられた。
それでも自分に今できることはないと、その場にいた者たち同様、そこから動かなかった。

75 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/11(金) 18:17:27.59 ID:JOx1p0wj0
魔神「小国の王よ――」

王「…っ!!」

魔神と目が合い、名を呼ばれた。ただそれだけのことで、王の体は強張り、顔は青褪めていく。

殺される――そう言わんばかりの表情だ。

だが魔神は、ごくごく平坦な声で問いかけた。

魔神「私を敵に回したいか?」

王はガチガチになりながら首を横に振った。
策略を考え出す頭脳と大胆不敵な性格を兼ね揃えた、小国の王――そんな彼でも本能レベルで悟っていた。
魔神はそういうレベルの相手ではない。決して敵にしてはならない相手だと。

魔神「ならば良い――」

魔神は目線を戻す。
無言。それがかえって場の緊張感を高める。

魔神の視線は天井へと向いた。
それだけで兵士達の何名かがビクッと肩を鳴らした。魔神の一挙一動に、彼らは敏感に反応していた。

魔神「悪いが、突き破るぞ」

王「………え?」

王が間の抜けた声を出したと同時――魔神は屋根を突き破って、上空へ飛び立った。

76 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/11(金) 18:17:56.22 ID:JOx1p0wj0
破られた天井から空が見える。
まだ昼間で、さっきまで晴れていたというのに、空はみるみる内に暗く濁っていった。
不気味な空だ――まるで天変地異の前触れのような。


――全世界に告ぐ――


姫(…っ!? 魔神さんの声、でも…)

その声は頭に直接響いていた。
声が響くと同時、全員一斉に空を仰ぐ。

「滅びの神」――絵画であればそんな題名が相応しい光景だった。
天空より舞い降りた魔神が世界を滅ぼしに来た――そう思わせるような、凶悪な光景。

魔人が呼び寄せたのであろう暗雲は、太陽を覆い隠した。
そして、今はそこに… まるで太陽に成り代わったかのようにして、魔神が佇んでいる。

――銀色の、太陽

暗雲の下でも輝く、彼の見事な銀髪と銀翼は、人々をそんな錯覚に陥らせた。

「お、おしまいだぁ! 皆、殺されるんだ!!」

誰かがそんな風に叫んだ。
皆、恐怖心と絶望感に支配された顔をしていた。

姫(魔神さん…魔王子様!!)

ただ1人、姫は彼を信じて次の言葉を待った。

そして、次に頭に響いてきた言葉は――



――魔王軍に降伏せよ。争いは終わりだ――


それだけ言い残し、魔神は姿を消した。

77 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/11(金) 18:18:28.20 ID:JOx1p0wj0




>山奥の施設


姫「今日は少し肌寒いですね、お姉様」

姉姫「大丈夫よ姫、心地いいくらいだわ」

姫は姉姫の車椅子を押しながら散歩に出ていた。


魔神が全世界に降伏するよう告げたあの日――人間の国は次々と魔王軍に降伏を申し出た。
こうして両種族の争いは魔物側の勝利ということで収束した。

魔物C「あ、こんちは」

姫「こんにちは」ペコリ

各国に魔王軍の幹部が配置されるようになり、はや1ヶ月。
魔物が人間を蹂躙し抑圧する――初めの内は皆、そんな不安に苛まれていた。

姫(でも、今の所そんなトラブルは起こっていないようね)

少なくとも現在まで、魔物達は横柄なこともせず、人々は以前と変わらない暮らしを送っている。
小国より解放された姫も、のんびりした生活を送っていた。

姫(これも、彼のお陰よね――)

姫が思い浮かべた人物。
それは今現在、魔物の国の実権を握っている、平和主義者の彼だった。

78 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/11(金) 18:19:27.85 ID:JOx1p0wj0
姉姫「彼には感謝しても、し足りないわね」

姫と同じく平和を実感していたのか、姉姫がそんなことを呟いた。

姫「えぇ、本当に」

姉姫「姫。あれから彼には会っていないわね」

姫「…はい」

あの日、魔人化した魔王子は、宣告を終えると姿を消した。
恐らく魔王城に戻ったのだろうと思われるが、彼の元を訪れるのは躊躇われた。

姫「でも私、彼にまだお礼も言えていない…」

今の自分の立場では満足なお礼などできない。
だけどせめて一言だけでも、感謝の言葉を述べたい――。

姉姫「言うのは、お礼だけ?」

姫「…えっ」

姉姫の言葉に姫は硬直する。

姉姫「姫。彼のことを口にする時の貴方は、いつもと違うわよ」

姫「お、おおおお姉様!? なっ、何のことだかぁ!?」

姉姫「いいのよ姫。私がいるから、行くに行けないのでしょう」

姉姫の視線は姫の姿をしっかりと見据え、力強い。

姉姫「貴方は、貴方のやりたいように生きなさい」

姫「…」

79 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/11(金) 18:20:00.56 ID:JOx1p0wj0
>魔王城


魔王子「僕は何て美しいんだ」

魔王子は姿見にへばりついていた。

側近「あのー…? 魔王子様、聞いてらっしゃいます?」

魔王子「僕の美しさは周囲の情報を遮断する。故に聞いていない」

側近「鏡を見るのをやめて下さい」

魔王子「くっ、何てことだ…あまりの美しさに目が離せない!!」

側近(変わんねーな、この人は)イライラ

魔王のぎっくり腰は回復せず、魔王の国では事実上の政権交代が行われ、魔王子が実権を握っていた。
だが人間達に勝利を収めた後でも魔王子は人間達に危害を加えることはなく、魔王城も平和な日々を送っていた。

魔物A「魔王子様」

魔王子「後にしてくれないか。僕は今、美しすぎて何もできないんだ。僕は更なる美を追求せねばならないのに…アアッ! 僕自身に魅了されて、それすらもままならないッ!!」

側近(変わらないどころか、おかしさがエスカレートしてやがる)

魔物A「姫君が魔王子様に会いにおいでです」

魔王子「…っ、お姫様が?」ガバッ

83 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/12(土) 17:57:23.85 ID:sLQ73HxL0
>城門前


姫「…」ドキドキ

魔王子を待つ間、姫の気持ちは高ぶっていた。
別れてから1ヶ月――そのたった1ヶ月が、姫には1年も前のことのように感じられて。

と、足音が聞こえた。この軽い足音は――

魔王子「お待たせ」

姫「魔王子様!!」

姫の表情はぱっと明るくなる。
素直に嬉しく思える。また、魔王子に会うことができた。

魔王子「駄目じゃないかお姫様、こんな所まで来たら」

だが一方の魔王子は表情が固く、どこかよそよそしい。

姫(あ…そっか。今はもう……)

片や、世界を掌握した魔物の王。片や、亡国の姫。
2人の身分差は明らかなもので、下の立場の自分が、気軽に会いに来て良い相手ではないのかもしれない。

それでも言わねば。姫は意を決して口を開いた。

姫「魔王子様、私は――貴方に救われました」

魔王子「…僕は何もしていないよ。人間達を脅迫しただけだ」

姫「いいえ。確かにやり方は脅迫に近いものだったかもしれません。ですが――」

姫は知っている。
争いを嫌う魔王子の本心、魔王子の思惑を。

姫「魔王子様、私も貴方の心を覗きました」

魔王子「…えっ?」

それは、あの日、夢幻の森を訪れた時のこと――

姫「私、森で魔神さんに出会いました。彼は貴方の心を映し出した姿となって現れたのでしょう」

魔王子は一瞬、驚いた顔をしてから気まずそうに視線をそらした。

魔王子「参ったなぁ…。幻影を見たのは知っていたけれど。まさか、魔神の方と会っていたとはね」

84 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/12(土) 17:57:49.61 ID:sLQ73HxL0
魔王子「…それで、僕の心は何と言っていたのかな?」

姫「それは――」




魔神『だから、私は戦場には出ない』

魔神『争いが嫌いなのだ、私は』



姫「争いを嫌う貴方の本音です。そして貴方は、本当にこの世界から争いを無くしました」

魔王子「…まぁ、人間全体が魔王軍に降伏したわけだから、争いは止むよね」

姫「それでも事実、世界は平和になりました。私、祖国でもこんなに平和な生活を送った覚えがありません」

魔王子「だけど…」

魔王子は弱気に呟いた。

魔王子「人間達は魔神を恐れて争いを止めた。けれどそれは所詮、恐怖支配。人間への抑圧でしかないよ」

そう話す魔王子の表情は自嘲気味だった。
姫には、彼が何故そのような表情をするのかわかった。



魔神『私のような者が戦場に出れば――この姿だけで、人間を恐怖させることも可能だろうな』

魔神『他者に恐怖心を与えるなど不本意。この容姿は、私自身にとっても害悪』



不本意なのだ。
世界中の人々を恐怖させたという事が。

85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/12(土) 17:58:18.21 ID:sLQ73HxL0
姫「魔王子様、1つだけ…私のわがままを聞いて下さいませんか?」

魔王子「うん? 何かな?」

姫「私と――デートして下さいませんか?」

魔王子「!?」

魔王子は目をまん丸くする――が、すぐにいつもの飄々とした表情になる。

魔王子「ん~、この美しい僕を独占するだなんて、意外と大胆なことを考えるなぁ」

姫「はい。是非、魔王子様とご一緒したい所があるんです」

魔王子「うーん…」

魔王子(僕は(鏡にへばりつくので)忙しいのだけれど…でも、お姫様がそんな風に言うのなら)

魔王子「まぁ、ちょっと息抜きするのもいいかな。是非、案内してくれたまえ」

姫「はいっ!」

86 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/12(土) 17:58:44.38 ID:sLQ73HxL0
>大国、首都



魔王子「これは…」

首都に足を踏み入れた瞬間、魔王子はその光景に目を疑った。

魔神が、いる。
広場のオブジェ、店頭に飾られた絵画、屋敷の外壁のレリーフ…至る所に魔神をモチーフにした芸術品が飾られていた。

魔王子「…どういうことかな?」

姫「魔神さんの姿は、良い意味でも人々の心に焼き付いたということです」

魔王子はもう1度、周辺にある芸術品を見た。

魔王子「…まるで神のような扱いだね」

姫「魔神さんが人々に植え付けたのは、恐怖心だけではないということです」

魔王子「……畏敬…」

そんな言葉が出てきた。
どの芸術品も、作り手による畏敬の念が感じられる。

姫「今はまだ人々の恐怖心も完全には払拭されていないかもしれません。ですがいずれ貴方は、神話に名を連ねるような存在になれると私は思います」

魔王子「神話…」

神話から生まれる芸術品や音楽、舞台――それらはどれも美しく、人々の心を魅了する。
魔神となった自分も、いずれそんな存在になる。すべてを晒してしまえば…恐ろしい姿で人の心を苛む醜悪な魔の存在となってしまうと 信じて疑わなかったのに…。

87 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/12(土) 17:59:15.24 ID:sLQ73HxL0
魔王子「…でもなぁ」

魔王子は少しだけ不満そうな顔をする。

姫「どうされたんです?」

これだけでは魔王子の心は晴れなかったか…姫は魔王子の顔を覗いて、そんな心配を抱く。
だが、そうではなかった。

魔王子「芸術品は魔神化した僕の姿ばかりだね! 今の僕も最高に美しいのに!!」

魔王子は髪をかきあげて不満を口にした。
これだけ多くの人がいるというのに、誰も自分に目を奪われていない。こんなにも自分は美しいというのに。

魔王子「やはり僕のパーフェクトビューティ魔王子フラッシュで…」ブツブツ

姫「魔王子様」

姫はクスクスおかしそうに笑いながら、魔王子に1枚の紙を手渡した。

魔王子「ん。これは――」

鉛筆で簡単に描かれたスケッチだったが――描かれていたのが魔王子だとわかる程度には、よく描かれている。

魔王子(僕の特徴を的確に捉えているんだから、美しくないわけがない。だけど、何か、こう…)

彼が自分に抱いているイメージほど、キラキラしていない。
描かれていた魔王子の表情は温和で、安心感を覚えさせる――そんな絵だ。

姫「私が描いたものなのですが…」

魔王子「へぇ、君は絵が得意なのか」

姫「えぇ、芸術の国の出身ですから」

芸術の国…その名の通り芸術に秀でた国だというのは聞いたことがある。ただ、軍事に関してはめっぽう弱いという話だったが。

魔王子(そう言えば…)

魔王子は、姫に宝剣を渡した時の反応を思い出した。あの宝剣に、姫はボーッと見惚れていた。

魔王子(あぁ、そうか。あの宝剣の宝石は偽物だったけど、お姫様はデザイン性に惹かれたわけか。なるほど、芸術品を見る目は肥えているんだなぁ)

そう思いながら、魔王子はもう1度スケッチを見た。

88 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/12(土) 17:59:47.01 ID:sLQ73HxL0
魔王子「…これは、君が抱いている僕へのイメージ?」

姫「はい。あまり似ていないかもしれませんが…」

魔王子「そういうことじゃない。フゥ…君は僕に、案外素朴なイメージを抱いているんだなぁ。僕は輝ける程に美しいというのに…」

姫「ふふ、確かに魔王子様は美しいと思いますよ」

魔王子「っ!!」

魔王子(初めて、お姫様に美しいと言われた…!!)

姫「だけど私が思う魔王子様の美しさは、容姿だけではないんです」

魔王子「…容姿だけではない?」

姫「はい」

その言葉で魔王子は、柄にもなく混乱した。

魔王子(容姿ではない美しさ!? な、何のことだ!? それ以外の美しさなんて…いや、これではまるで僕が容姿だけの男のようじゃないか!!)アワワ

姫「私が思う魔王子様の美しさは――内面から溢れ出る、慈愛の心だと思います」

89 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/12(土) 18:00:13.41 ID:sLQ73HxL0
魔王子「慈愛――?」

魔王子は再度、描かれた自分の姿を見る。

慈愛――描かれた魔王子は、慈愛に満ちている。

魔王子(これは、僕自身が気付いていない僕の姿…? 僕の本当の――)

魔王子は顔を上げる。
じっと絵を見られているのが恥ずかしいのか、姫は恥ずかしそうにモジモジしていた。

魔王子(僕は、僕が美しいと思う行動を取っただけなんだけど…そうか、そうだったんだ――)

魔王子(僕は、心も美しかったんだ!!)パアァ

姫(魔王子様は、心のお美しい方だわ!!)パアァ

90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/12(土) 18:00:51.21 ID:sLQ73HxL0
姫「その…気に入って頂けましたか?」

姫は上目遣いで見つめてきた。
こんな才能がありながら、相変わらず弱気な姫が可愛らしくて、魔王子はフッと笑う。

魔王子「そうだな…僕の美しさを引き出すには、隣に女性を置いてみるといいかもしれないな」

姫「え、女性をはべらせるんですか!?」

魔王子「ただ女性をはべらせても美しさは引き出せないよ。勇者がいい例さ」ハハハハハ

姫はほっとする。が、勇者がナチュラルにバカにされたことについては、笑っていいのやら若干、複雑な心境だ。

姫「それでは…女性というのは…?」

不安を抱きつつも、恐る恐る尋ねた。

魔王子「勿論、僕の美しさを引き出してくれる女性のことさ」

そう言って、魔王子は姫を見つめた。

魔王子「僕の本当の魅力を教えてくれて、僕に新たな輝きを教えてくれた――たった一人の、女性」

姫「………えっ?」

魔王子「遠まわしに言うのはやめにする」

そして魔王子の表情は真剣そのものになり――

魔王子「君は僕の内面にある慈愛という美しさに気づかせてくれた。僕はもっともっと、美しくなれる」

魔王子「宝石よりも世界よりも君が必要だ。僕は、僕を他の何よりも輝かせてくれる君が好きだ」

姫「――」

91 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/12(土) 18:01:18.95 ID:sLQ73HxL0
姫は一瞬、ポカンとした。
それから数秒置いて、「ふふっ」と笑い出した。

姫「それは私への告白なのか、自分が大好きなのか、どっちですか?」

魔王子「勿論、両方さ!」

姫「もう、魔王子様ったら…」

そう呆れながらも、魔王子らしい。
可笑しくて、嬉しくて――姫は惜しみなく笑った。

姫「私も――」

姫は少し前から、はっきりと、この気持ちを自覚していた。
ちょっと変な彼。だけど優しくて、勇気があって、平和を愛する彼が――

姫「私も、貴方が好きです」

魔王子「姫様…」

92 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/12(土) 18:02:10.22 ID:sLQ73HxL0
魔王子「ハハハッ、やった、やったね!」

姫「きゃっ!?」

魔王子は突然、姫を抱え上げた。
そして人目をはばからず、くるくる踊るように回る。

姫「ちょっ、魔王子様、やだっ、恥ずかしっ…」

魔王子「君が、僕のお姫様になってくれたんだもの! 君といる時の僕は最高に美しい!! こんなに美しい瞬間を恥ずかしがることなんてないさ!」

「おっ、いいねー若いねー」「ヒューヒュー、やったな兄ちゃん!」「よっ、色男! 彼女さん泣かせんなよ!」

姫(あぁもう…)

やたらと目立って周囲からの注目と歓声を浴びるこの状態に、姫は真っ赤な顔を両手で覆った。

魔王子「約束するよ、お姫様」

魔王子は姫に顔を近づけ、囁く。

魔王子「僕は君の為に、今の平和を守ってみせる。僕達がいつまでも輝いていられるように――」

姫「……はい!」


未来はわからない。だけど彼を信じることができる。
二人で歩んで、沢山の笑顔が溢れる世界を作っていきたい。世界中の人々に、今自分達が抱いている溢れている幸せを分けていきたい。そう思える今はきっと――


魔王子「美しいハッピーエンドだよね!!」


Fin

93 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/12(土) 18:02:38.93 ID:sLQ73HxL0
ご読了ありがとうございました。
本編はこれで終わりですが、おまけを投下したいと思います。

このナルシスバカの物語をいい話で終わらせやしない。
余韻がブチ壊れますのでご注意。

94 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/12(土) 18:04:33.96 ID:sLQ73HxL0
おまけ1:魔王様がぎっくり腰になる前


魔王子「美しい」ウットリ

魔王「いい加減、鏡から離れろ馬鹿息子」

魔王子「離れたくても離れられない…僕の美しさは見る者の心を奪う」

魔王「少なくとも我の心は奪われていない」

魔王子「何だって、それは大変だ! よし、パーフェクトビューティ…」ヌギッ

魔王「そんな全裸にならないと使えん欠陥だらけの技は捨てろ」

魔王子「パパンの言っていることがわからないよ…こんなに美しいのに」ウットリ

魔王「この鏡のせいか」パリーン

魔王子「アァッ、鏡がッ!!」

魔王「これで少しは目が覚めるか…」

魔王子「破片1つ1つに僕の美しい姿が…あぁ、ここは楽園かい?」ポロポロ

魔王「楽園はお前の脳みそだ」

95 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/12(土) 18:05:01.58 ID:sLQ73HxL0
おまけ2:冬


側近「暖房をつけてはいるが、今日は寒いな」

魔王子「あぁ、いい風呂だった」

側近「裸で城内を歩くのはおやめ下さい」

魔王子「こんなに美しいのに?」

側近「そういう問題じゃなくて、風邪ひきますよ」

魔王子「ハハハ、風邪? 僕には超回復の能力があるんだ、風邪なんてひいたことないよ」

側近「…」

魔王子「それじゃあ、今日も僕の美しさを堪能しよう」スタスタ

側近「……」

側近(馬鹿が風邪ひかないっていうのは、本当なんだな…)

96 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/09/12(土) 18:06:03.76 ID:sLQ73HxL0
おまけ3:魔王子、負ける


魔王子「パーフェクトビューティ魔王子フラーッシュ!!」

勇者「…」シーン

魔王子「馬鹿なッ!? 美しさに磨きをかけたというのに、まだブ男を魅了できないだと!?」

勇者「ブ男って言うな!! そんな変態技が効くもんか!!」

魔王子「そうは言っても先日、パーフェクトビューティ魔王子フラッシュの凄さを君も見たはずだ」

勇者「ふっ、魔王子…お前がいくら美を磨いても、お前が俺から奪えない女だっているんだぜ」

魔王子「ほう? どんな女性かね」

勇者「俺の母さんだ!!」


母さん「あらあら勇者、今日も頑張っているのね」

母さん「皆が何て言おうと、勇者は世界一のいい男よ」

母さん「母さん、いつでも貴方の味方だからね」


魔王子「…あ、うん。そうだね」

勇者「ハーッハッハッハ!!」

魔王子(気の毒すぎて何もできないよ…)

98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/12(土) 19:14:22.07 ID:yaQlGg16O
乙乙
とても良かった

99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/13(日) 06:09:25.00 ID:bSOPbCdko
乙!
よい美しさだった

勇者は、まあ……がんばれ

100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/13(日) 10:23:29.09 ID:ayWrWvIkO
乙!
容姿だけでなく内面でも勇者に勝ち目無いからなぁ
posted by ぽんざれす at 15:43| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月05日

【合作】魔王「覚悟はいいか」 暗黒騎士「例え魔王であろうと、構わぬ!(2/2)

http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/14562/1425399140/

前回

63 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:13:42 ID:B/Q99lRI

―――――――――――――――――――

3日後、魔王城 拝殿の間
褒賞授与式


魔王「暗黒騎士。前へ」

暗黒騎士「……はっ」


姫「……」


名前を呼ばれると、暗黒騎士が隊列の中から歩み出てきた
真紅の絨毯に、その黒い鎧がよく映える

あの後、魔王は高く暗黒騎士の功績を評価し
今日の式典が急遽 開催されることになったのだった

64 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:14:21 ID:B/Q99lRI

魔王と私の座る2つの玉座まで歩み寄った暗黒騎士は
その手前にある段差の前で膝をつき、儀礼的に凛々しく頭を下げる


魔王「暗黒騎士。先日は手間をかけた。姫を守ってくれたことに礼を言おう」

暗黒騎士「恐れ入ります」

魔王「……あやうく、姫を倒してしまうところだったからね。本当に助かった」


魔王は苦笑して、畏まる暗黒騎士や皆の雰囲気を和ませる
魔王自身、こうして改まって褒章授与などするのは気恥ずかしいのだろう


アルラウネを引き抜くときの彼女の雄たけび
それは相手を死に至らせる、呪われた断末魔

引き抜くと同時に暗黒騎士が天辺から一刺しにしたがゆえ
本来の、『渾身の一声』が発揮されることはなかった
それでも、姫の頭をぐらつかせるには十分な威力があったのだ

あとほんの少し、アルラウネの喉と肺を突き破るのが遅ければ
私は死んでいたかもしれないという

65 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:15:27 ID:B/Q99lRI

ともあれ、魔王は自分自身で姫をそのような窮地においやってしまったのだ
褒美を与えるなどといっても、尻拭いをさせた相手に あまり偉そうにも振舞っていられない


魔王「姫の危機を救う。その為に、主君である俺の手元に躊躇なく剣を打ち込んだ」

魔王「並大抵の勇気ではないよ。自己保身を考えてしまえば、そんな行為はできやしない」

魔王「それに剣先を狂わすこと無く、的確な一刺し。それもまた日々の修練の賜物だろう」


魔王「真に守るべきものを違えず、真に守れるだけの技能を併せ持つ」

魔王「そんなお前が、我が騎士として仕えてくれるのは誇らしい。感謝と褒章を授けよう」

暗黒騎士「………その名誉。傷つけぬよう精進いたします」

魔王「ああ」ニッコリ


魔王「でも あんまり真面目にされると、俺の間抜けさばっかり際立っちゃうから。普段はテキトーでいいんだよ?」


魔王のつけたした言葉に、周囲は朗らかな笑い声をこぼす
アルラウネの一件の事情を知る者たちだろう
暗黒騎士も、僅かに苦笑して返答に窮している

66 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:16:05 ID:B/Q99lRI

姫(………あ)


暗黒騎士の細めた目に、見覚えがあった

青空の下で、二人きりで過ごした時間の中で
何度も、私に向かってそんな顔をしていた

『女の子らしくできない、不器用でしかたない』
そんな喪女だった私に、何度も 優しい言葉を添えて向けてくれた

嬉しくて、でも気恥ずかしくなるような
私のことを『おんなのこ』にしてくれるような、暗黒騎士のその表情

そんな時間が、大好きだった
そんな暗黒騎士が、大好きで。


今 その笑顔が私に向いていないのは、切なくて。

67 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:16:50 ID:B/Q99lRI

魔王「ああ、姫。姫からも 暗黒騎士に礼の言葉を述べてあげてよ」

姫「あ……」

暗黒騎士「……」


私が喋りだそうとすると、暗黒騎士はまた頭を下げ
儀礼的な態度で 控え改まる

ズキン。

せっかく、彼に釣り合うだけの容姿を 借りられているのに
その私は、『主君の娘』という立場になってしまっていて

あの笑顔はもう、私には 向けてもらえないのだろうか

こんなに近くにいるのに
私と彼の距離が、遠い。


魔王「姫? どうしたの?」

68 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:18:35 ID:B/Q99lRI

言葉なんて、紡ぎきれない
溢れそうなほどの想いが心の中を満たしている


姫「……暗黒騎士…」

暗黒騎士「……はっ」


私だけのためにくれた言葉と笑顔が、恋しい
今ならきっと、貴方の横で 可愛く笑っていられるとおもう

今度こそ、負い目を感じず 貴方の横で
貴方がいつも望んでくれたように 女の子らしくしていられるから

だから あの日々みたいに、また―― 


姫「私の側に…… 居て、ください」


貴方の隣に、私の居場所を作らせて。


暗黒騎士はその日から、私専属の近衛騎士になった

・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・

69 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:19:06 ID:B/Q99lRI

―――――――――――――――――――――

あれから数ヶ月

暗黒騎士はいつも私の側に控え、些細なことからも守ってくれた
どこに行くのも二人で一緒

だけど 


姫(私の知っている暗黒騎士さんとは…… あの日の暗黒騎士さんとは、違うのね)


暗黒騎士は、姫に対してどこまでも儀礼的だった
プライベートな時間だからと、私事で声をかけても そっけない返事しか返ってこない

いつだって、どこか暗鬱としたような表情で
あの漆黒の瞳は、いつだってどこか遠くをみつめているままで

話をする間、目を合わせていたとしても


姫(私のことを見ていないみたい……)

70 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:19:45 ID:B/Q99lRI

喪女であったときは、気安すぎるほどの気安さがあった
何もかも上手くできなくても、暗黒騎士は 仕方ないと笑ってくれる気がしていた


姫(そっか…。喪女だったから、許せたのかな。喪女だったから、見てもらえてたのかな)


今の私は姫なのに
姫としての知性も教養もまるで足りていない

淑女として振舞えない私は、せっかくの姿をもてあまして
ただ、余計に見苦しいだけになっているのかもしれない


でも、喪女だった私は
喪女だから仕方ないって いろんなことを諦めながら受け入れてたんだ


視察が終われば、居なくなってしまうことも
それをひきとめることもできない自分の立場も
格好いい貴方の横にいる、みすぼらしい自分の姿への恥ずかしさも

どうしようもないことだと、諦めるしかなかった

71 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:20:29 ID:B/Q99lRI

姫(……今なら…そういうの、無くして)

姫(私も、きちんと暗黒騎士さんに向き合える気がしたのにな……)


ようやくまっすぐに貴方をみつめることができるようになったのに
今度は、貴方が私をみつめてくれない


やはり、偽者だからなのだろうか

私は 偽者の姫だから、ただ見苦しいだけで
私なんかの傍に居ることは、彼にとって面白く無いものなのだろうか


姫(……喪女は、どこまでいっても 喪女なのかな……)

姫(どうやったって…… 暗黒騎士の隣には 本当の私の居場所は作れないのかな)


隣を歩く暗黒騎士
目的地につくまでの間、その横顔をじっとみつめていたけれど

彼は最後まで振り向いてくれなかった

・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・

72 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:21:07 ID:B/Q99lRI

――――――――――――――――――

魔王城 某日
魔王の誕生日パーティ


大広間は花々が飾られ、多くの明かりが灯され
豪勢な馳走が並び、美しい音色が響いている

その広間の中心では数組の男女が舞踏曲を踊って
たくさんの人々が集まって、それぞれ思い思いに心地よい時間を過ごしていた

それにしても……


姫(魔王が誕生日パーティって……)ガックリ

姫(なんだろ、なんか平和すぎる。イメージが…… 魔王城のイメージが…!!)


特設された、まるで高砂のようなテーブル席
私は今 そこに魔王と二人で座って宴席の様子を見ている

73 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:21:51 ID:B/Q99lRI

魔王「うちの四天王は、先々代の時代くらいに創られたんだけど。その祖の時代から、楽器が得意なんだよ」

姫(あれ、四天王だったんだ)


部屋の一角で、弦楽器を見事に鳴らしている4人の男女を見る

楽器の名前はよくわからないけれど、
それぞれ大きな楽器を巧みに操って、音色だけでなくその仕草までも麗しい


魔王「それからうちの騎士団は、踊りがお家芸みたいなものでね」

姫「え゛」

魔王「みんな、とても上手だよね。やっぱりこういう場だと本当に華やぐ」ニコニコ


言われてみると、中心で踊る男女の中で
特に際立って優雅に踊っている男性は、皆 腰に剣を携えている


姫(あの人たち…… 魔王城の騎士さんだったんだ…)

74 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:22:24 ID:B/Q99lRI

なんともいいがたい。
騎士と言うのは、こう 無骨で硬派なイメージがあったのに…


魔王「これもね、やっぱり先々代の頃に、ある踊りの得意な騎士がウチに直伝していったんだ」

魔王「うちの騎士団はみんな上手だし、踊れないヤツは騎士になれないんだよ。今じゃ選考基準のひとつだからね」ニコニコ

姫(魔王城としてどうなのよそれ。っていうか先々代の代、どうなってるのよ!?)

魔王「というわけだから姫も、踊っておいで? エスコートしてくれるはずだよ」


魔王の下を離れることになりった私は、まず一番に暗黒騎士の姿を探した
少なくとも踊っている数組の中にはみつけられない

今日の私は魔王の横に座することになったから
一緒に魔王の側近達に警護されることになった

だから近衛である暗黒騎士はその任をはずされている
昼くらいからずっと、暗黒騎士の姿を見ていない

75 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:22:57 ID:B/Q99lRI

姫(暗黒騎士さん…… どこにいるのかな)


大広間のテラスを抜け、バルコニーにでると
そこで庭先にたたずむ暗黒騎士の姿を見つけた


姫(居た!)


バルコニーから伸びる半螺旋階段を、急いで駆け降りる
かなり幅も広く、段数も多いその階段は 傾斜が緩やかな分、長かった
もどかしくなった私は、その途中の踊り場から暗黒騎士に声をかける


姫「あ、暗黒騎士さん!」

暗黒騎士「! ……これは、姫様。宴席の最中でしょう、どうなさいましたか」


暗黒騎士は私に気がついて声をかけてくれた
正直、ありえないことだろうけれど 気付かないふりをして無視されるような気もしていた
私は暗黒騎士の態度にほっとして、残りの階段も一気に駆け下りる

76 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:23:30 ID:B/Q99lRI

姫「暗黒騎士さん! 探したんですよ……っと、っとっと……!?」


煌びやかなドレスが足にまとわりついて、階段を踏み外す
踏ん張ろうにも、高さのあるハイヒールでは かえって足首をねじってしまい・・・


暗黒騎士「っ! 姫様!!」

姫「きゃああっ!?」


ドサ。

駆け寄ってくれた暗黒騎士の胸に、落下の勢いのままに飛び込んでいた


姫「ごごご、ごめんなさい!?」アワワ


そう謝りながら、私は思い出していた

私の、最期の瞬間を

抱きとめられたその腕の中は あの時と同じ
暗黒騎士の冷たく硬い鎧の感触があったから

77 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:24:07 ID:B/Q99lRI

でも


暗黒騎士「…………っ」グイ


その感触を堪能する間もないほどの速さで、引き離されてしまった


姫「あ……」

暗黒騎士「ご無事で何よりです。立ち上がれますか」

姫「……はい」


支えに差し出された手は、やはり儀礼的で
立ち上がってドレスの乱れを直すと、暗黒騎士は一歩下がって控える

78 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:24:44 ID:B/Q99lRI

暗黒騎士「…自分に、何か御用でしたか」

姫「あ、それは……」

暗黒騎士「お一人で警護の目から離れるのは あまり関心できません」

姫「……ご、ごめんなさい」

暗黒騎士「いえ」

姫「その……。踊りを踊ってはどうかと、父様に言われて。それで、暗黒騎士にその相手をお願いしようとおもって……」


しどろもどろになりながらも、思い切って誘ってみた
魔王は、魔王城の騎士は皆が踊れるといっていたし、暗黒騎士も踊れるに違いない

一緒に踊れば、すこしはきっと 暗黒騎士との距離感だって――
そんな風に、期待してしまったのだ


暗黒騎士「……光栄ですが、申し訳ありません。辞退させていただきたく」

姫「暗黒騎士…… じゃぁせめて、食事だけでも一緒に」

79 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:25:16 ID:B/Q99lRI

暗黒騎士「すみません、姫様。……しばらく自分の事など捨て置いて、パーティをお楽しみください」

姫「でも」

暗黒騎士「…申し訳ない。ですがどうかしばらく、放っておいて欲しいのです」

姫「っ」


沈黙が、統べる
澄み切った冷気だけが流れている


姫「私は……」

暗黒騎士「……?」


暗黒騎士の態度に、私はついに 耐え切れなくなった



姫「私は…… 暗黒騎士さんの事が、好きです」

80 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:27:26 ID:B/Q99lRI

月明かりはスポットライトのように私を照らしてくれる
緊張しきった瞳は きっと潤んでいる

完璧なまでのシチュエーション

あとは、目の前の…… 
漆黒の鎧を 月明かりの元で黒銀に輝かせた、この暗黒騎士が抱きしめてさえくれたら。


暗黒騎士「応える事は、出来ません」


でも現実は、物語ほどには上手くいかないものだった

打ちのめされる気がした
本当のお姫様だったならば、物語のようにうまくいったのかもしれない

そうだ、私は『偽者のお姫様』
どういうわけかはじまった いきなりの夢のようなものだったんだ

ならこれは罰なのじゃないかとも、思えてくる

お姫様気分で浮かれていた私への罰
『本当のお姫様』のことをないがしろにして、身分を弁えない私への罰

もしかしたら、この姫の姿に憑依してしまったこと自体
『身の程を思い知り、現実を知れ』という、美しい夢のような『悪夢』なのかもしれない

81 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:29:09 ID:B/Q99lRI

暗黒騎士「……こうなったのは… ただの、間違いなのです」


暗黒騎士が 小さく呟いた

ああ、やっぱり。
きっともうすぐこの夢は終わる

これはきっと 物語の最後にある種明かし
彼の口から、身の程を思い知れと聞かされるにちがいない


でも、私はとても立ち直りきれそうになくて… 真っ暗な視界の中から出て行けない



暗黒騎士「ほんの数ヶ月ほど前……。自分は敵情視察に、人間の国に行きました」

暗黒騎士「そこで出会ったのは、身なりからして貧しい一人の娘」

暗黒騎士「傷ついた指先で、一生懸命に自分の仕事をこなそうとしていた」

暗黒騎士「それが自分の役目だからと。理不尽な環境においても前向きに・・・」



暗黒騎士の口から聞かされる二人だけの回想録

82 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:29:42 ID:B/Q99lRI

それはまるで走馬灯のようだと思った
きっとこのまま聞いていて、話が終われば この悪夢は覚める

あの日、最後まで暗黒騎士の声を聞けなかった事を 唯一悔やんだ私だから
神様が哀れんで、彼の声で 生前の過ちを諭してくれるのだろう

この穏やかな声を最後まで聞き届けたら
この夢は終わって、今度こそ逝く事になるのだろう


暗黒騎士「本当は… 俺は、騎士など失格なのです」

暗黒騎士「申し訳ありません、姫様。俺は騎士を騙って自分を繕う若輩者」


暗黒騎士「『真に守るべきものを違えず、真に守れるだけの技能を併せ持つ』だなんて……人がよすぎる魔王様だからこその解釈です」

暗黒騎士「アルラウネを刺した時…。あれは本当は、魔王様と姫様を守るための判断というよりは……ただ、怖かっただけなのです」


暗黒騎士「……また、目の前で… 死なれてしまう。それが怖くて、飛び出してしまっただけ」

83 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:30:14 ID:B/Q99lRI

暗黒騎士「町で出会った彼女は―― 喪女は……。戦闘の最中、俺を癒すために飛び出してきて… 俺を守り、逝ってしまった」

暗黒騎士「きっと… きっと、誤解だってさせたままだ。弁解する間も無く逝かれてしまった」


暗黒騎士「俺は、騎士なのに……」

暗黒騎士「それなのに、喪女を守れなかったどころか… 傷つけて、守らせて、逝かせてしまった」

暗黒騎士「本当の想いも、伝えられぬままに」

暗黒騎士「全て、俺のせいだ…」



違うよ。それは、違うよ
暗黒騎士は何も悪くないよ

だって私は、とっても幸せに逝けたのだもの

84 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:30:47 ID:B/Q99lRI

暗黒騎士「まだ… その償いの方法もわからない。尽きる事ない反省と後悔が、いまだ胸中に渦巻いている……」

暗黒騎士「それなのに、貴方を守る役割を頂いてしまった… 期待されて…自分を騙ってしまった」

暗黒騎士「……喪女を守れなかった俺が、姫様を守るだなんて。出来るとは思えない」


暗黒騎士「魔王様に… 近衛の任を、解いてもらいます」


暗黒騎士「……もう、終わりにさせてください。もう、俺は…」


涙が溢れて止まらなかった
もしもこのままこの夢が終わってしまったら 暗黒騎士は傷ついたまま。


ごめんなさい、ごめんなさい。
私なんかが、貴方の道に影を射してしまった

貴方を好きになったばっかりに、無茶をして。
勝手に、幸せで最高の終わりを迎えて、その後の夢の中でまで 心を躍らせていた

その一方では 貴方を苦しませていたなんて。
知らなかった

85 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:31:45 ID:B/Q99lRI

神様、閻魔様。もう、充分です
私がいけなかったことは、よくわかったから…

だから、お願い
これ以上、暗黒騎士さんを巻き込まないで…苦しませないで。

もう、やめて
私なんかの… 喪女なんかの為に、貴方の強さを見失わないで。


それくらいならば、いっそ もう――


姫「もう――…… 喪女の事なんて、忘れてください…」


体中の血の気を引き上げて、言葉と共に吐き出したような感覚
言い切ると同時に、血の気が引いて 凍えるような思いだった


暗黒騎士「……姫…」


暑いのか寒いのかもわからない
私が回っているのか、世界が回っているのか


暗黒騎士「………俺は…」

86 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:32:23 ID:B/Q99lRI

それでも吐き出した言葉は、本心からの願い
だけどそれが、あまりに苦しくて…… 私は、そのまま 気が遠くなっていくのを感じた


姫(……これで… きっと。この夢物語は、終わる――……)


暗黒騎士「俺は… それでも、騎士として誇りを持って生きてきたんです……」

暗黒騎士「忘れるなんて…、できない。せめて、これだけは永遠に守っていきたい」

暗黒騎士「喪女への感謝と、償いを。そして何より――」


暗黒騎士「彼女を愛する想いだけは、永遠に守れる騎士でありたいのです…!」


今度こそ、最後まで
暗黒騎士の言葉を聞届けてから 意識が途絶えた


罪悪感が、切なさが、苦しさが、愛しさが、私を押しつぶす
倒れた先の地面は 夜露にぬれていた

・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・

87 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:32:53 ID:B/Q99lRI

―――――――――――――――――――――――――――


涙も枯れてぼんやりと意識が戻ったのは
どれほどの時間がたってからだろうか

空はすっかり白んでいる

私は独り、庭先のベンチに座らされていた
全身にすっぽりと漆黒のマントが被せられている


姫(え…… これは、暗黒騎士の)


魔王の誕生パーティでは正装をしていた暗黒騎士
その背には、普段はしていないマントをしていた
そしてそのマントが、いまここにある


姫(夢じゃ…ない?)


姫(目が覚めても、まだ、私はココに居る・・・?)

88 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/06(金) 04:34:15 ID:B/Q99lRI

魔王の娘の身体に憑依する、なんていう夢は
てっきりこれで終わるのだと思っていた

混乱が、止まらない

何が夢なのか、何が現実なのか
でも、少なくとも 今はまだ姫の身体のまま……


姫(なら。そうだとしたら、暗黒騎士のあの呟きは…?)

姫(……あの呟きが… もしも、現実だったなら…?)


暗黒騎士に、あんな想いを抱えさせたままでは いられない
あの人に、暗黒騎士に、きちんと伝えなくちゃいけない

いつまで、姫の身体にいられるかわからないから
私はちゃんと伝えて…… 暗黒騎士の心を、きちんと守らなくちゃ。


姫(それまでは、死んでも死ねない!!)


落ち着かない心を必死になだめながら、私は城内へ駆け出した

・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・



96 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:08:10 ID:XOSVzexw

:::::::::::::::::::::::


城内に戻ると、まず私の姿をみつけたメイドが大騒ぎをした

パーティの最中どころか、夜になっても戻らなかったせいで
朝になって一人現れた私を 皆が心配してくれた

私は急いで暗黒騎士を探したかったけれど
赤い目をして安堵する魔王の前では何もいえなかった

あたたかな湯船に浸された後、食堂に連れて行かれ、優しい味のスープを提供される
でも、そうされていながらも 私の心はここにあらずで……


姫(こんなことをしている場合じゃないのに。暗黒騎士は、あの後どうしてるのか…)


ザワザワ


姫「…? 何?」

メイド「様子がおかしゅうございますね?」

姫「うん。なんだか急に騒がしくなったのね」

メイド「姫様は、そのまま召し上がっていてください。見てまいります」

97 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:08:43 ID:XOSVzexw

メイドは一礼して、食堂を出て行く
後に残された私は、一気にスープを飲み干して メイドの戻りを待った
だけど、なかなか戻ってこない。


姫(……どうしたんだろう?)


外のざわめきはだんだんと大きくなっていく
不安に駆られて、自分でも様子をみてみようかと立ち上がった時だった

バタバタ…バタン!!


メイド「て、敵襲でございます!」

姫「!!」

98 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:09:29 ID:XOSVzexw

慌てふためいて食堂に駆け戻ってきたメイドは
蒼白な顔で私の手をとった


メイド「姫様、すぐに安全な奥のお部屋までお送りいたします、さあ!」

姫「…!」


気丈にそう言ったメイドの手もかすかに震えていた
そんなメイドの手を、私も強く握る

私たちはお互いに手を取り合って、食堂を出た


食堂を抜け廊下に出るとすぐ、激しく金属を打ち鳴らす音が聞こえてくる


メイド「! かなり近い… 姫様、急いでください!」

姫「うん!」

99 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:10:01 ID:XOSVzexw

廊下を、城の奥側に向かって駆ける

途中、窓から外の景色を見ると 魔王城の騎士団と公国軍の騎士団が既に交戦しているのが目に入る

その中には…


姫(っ! あれは!)


白銀の剣を掲げ、陣頭指揮を取る公国軍・騎士団長の姿


姫(あ…)


ギラリ、と光るその白銀の剣を見た瞬間 背中にありもしない傷の痛みが走った
その痛みを感じたと同時 足が震え、腰が抜ける。そして、私は声を失った

自らを死に追いやったその剣と姿、そのダメージ
その経験は、いまだ強く記憶と精神に残っていたようだった


メイド「姫様…… 姫様!? ここはまだ大丈夫でございます! どうか立ち上がってくださいませ!!」

100 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:11:22 ID:XOSVzexw

メイドが私の手を強く引く

立ち上がらなくてはならないと思ってはいるのに、思うように身体が動かなかった
体中から血の気が引いている
その感覚すらも、あの死の瞬間に似ていると思ってしまったから、なおさらに……


メイド「姫様ぁっ!!」


公国軍騎士「!!! 誰かいるぞ!!」

姫「!」

メイド「姫様!」


公国軍騎士「お前達は……! 魔王の手の者だな!?」


メイド「…っ ここは私がひきつけます! 姫様、どうか今のうちにお逃げください!!」

姫「…っ で でも……」

101 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:11:54 ID:XOSVzexw

動きたくても、動けない

目の前で私をかばって立つメイドに、すがるような視線を投げてしまった
メイドも、同じような視線を私に投げ返してきて……


公国軍騎士「捕らえろ!!」


公国の騎士たちは一斉に駆け寄ってきて、私達はあっという間に囲まれてしまった
メイドは既に後ろ手に拘束され 床に組み伏されている


メイド「姫様っ…!」

姫「メイドさんっっ!」

102 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:12:24 ID:XOSVzexw

公国軍騎士「……そちらの女性」

姫「!」

公国軍騎士「ご衣裳から、魔王城上位の方であるとお見受けする」

公国軍騎士「さらに女性であることを考慮し、抵抗しなければ乱暴には扱わないと約束しよう……」

姫「い、いや…… メイドさんを、放して!!」

公国軍騎士「抵抗されるようであれば、貴方も……」


マントを着けた騎士の一人が、近寄ってくる
そいつは私の目の前まで来ると、私の腕を掴もうと手を伸ばしてきて…


暗黒騎士「触れさせは、しない」


姫「!」


公国の騎士に腕を掴まれる寸前で、公国騎士と私の間に 黒剣が差し込まれた

103 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:12:55 ID:XOSVzexw

公国軍騎士「っ! 貴様!!」


暗黒騎士「無礼にも程がある。貴様、我らが魔王様のご令嬢に何をしようとした」

公国軍騎士「魔王の…令嬢だと!?」


暗黒騎士は、私を背後に隠すと その黒剣の先を公国騎士に突きつけたままで
抑揚のない口調で その非を詫びる


暗黒騎士「姫様、申し訳ありませんでした。今はまだ近衛の立場であるというのにも関わらず、姫様を危険な目にあわせました」

姫「そ、そんなことは 今は・・・」



公国軍騎士「ふ…… はは、ははは」

公国軍騎士「その漆黒の鎧姿…… 見覚えがあるぞ。貴様、暗黒騎士だな!」

暗黒騎士「見覚えがある、だと?」

公国軍騎士「以前は騎士団長の采配によりみすみす逃がしてしまったが・・・今度はそうはいかぬ!!」

104 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:13:28 ID:XOSVzexw

暗黒騎士「……そうか。あの時に、あの場に居た騎士の一人か」


公国軍騎士「くくく。そういえばお前、あの時も 我らが騎士団に、手も足も出なかったなぁ…」

暗黒騎士「……」

公国軍騎士「お前の力量は分かっている… 今度こそ、捕らえてやろう! それともまた、逃げ出すか!?」

暗黒騎士「……」

公国軍騎士「はははっ!! 喰らえ!!」チャキ!!


公国軍の騎士たちは、一斉に剣を抜き、暗黒騎士に向かって斬りかかる
暗黒騎士の背後で、私はただ目をぎゅっと瞑るくらいしかできなかった


シュ… ギャギャギャン、ガキーーーン!!


公国軍騎士「!!」

105 :以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/10(火) 05:14:01 ID:XOSVzexw

私がその金属音に驚いて目を開いたとき、
暗黒騎士は、軽く腰を落とし、あいかわらず剣を突き出した姿勢のままだった

離れた場所で、くるくると回転した白剣が床に刺さったのが見える
床の上でカラカラと音を立てて散らばされた白い剣達

メイドを床に押さえ込んでいた騎士も、跳んできた剣を避けようとしてメイドから離れる
その隙に立ち上がり逃げ出したメイドが叫んだ


メイド「姫様!」

暗黒騎士「この場は引き受けた。おまえは、先に逃げるがいい」

メイド「暗黒騎士様……!」

暗黒騎士「奥座へ」

メイド「……わかりました! ですがどうかっ、必ず姫様はお守りくださいませ!!」

暗黒騎士「………」

106 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:14:58 ID:XOSVzexw

メイドは、騎士達の動きを警戒しながらも そのまま後ずさって奥座へと走っていった
自分がいても戦力にはならない以上、余計な荷物になってしまうと判断したのだろう

単身、走り去っていくメイド
こんな時に、独りになるだなんてきっと心細いはずなのに… 


姫(メイドさん……! お願い、あなたも気をつけて……!)


公国軍騎士「……っ…!」


あっさりと剣を弾き飛ばされてしまった公国軍騎士は、明らかに動揺している
暗黒騎士に睨まれたままでは、剣を拾い上げることも出来ない


暗黒騎士「お遊びの剣に付き合うつもりはない。邪魔をせず道を開けろ」

公国軍騎士「貴様ぁ…!」

暗黒騎士「手抜きの剣も見破れぬような者には、まだ遅れを取るつもりはない」

公国軍騎士「~~~~~~っ」

107 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:15:29 ID:XOSVzexw

顔を真っ赤にした公国騎士は、無謀にも暗黒騎士に向かって飛び込んで行った
その蹴りをかわした暗黒騎士に向かって 背中のマントを広げて投げつけた


暗黒騎士「!」


咄嗟に剣でマントを斬り破ろうとした暗黒騎士だったか
どうやら特別製だったようで、破れる事はなく、剣にまとわりつく

暗黒騎士は一瞬だけ意外そうな反応をみせたが
器用に剣を引き抜いて マントから距離をとる


暗黒騎士「……なるほど。剣を拾うための時間稼ぎだったか」

公国軍騎士「くくく。ひっかかったな、間抜けな外道騎士め」

暗黒騎士「……さて、外道はどちらだろうな」


公国軍騎士「全員、かかれ!! こいつは魔王軍幹部だ、今度は決して油断をするな!」

108 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:15:59 ID:XOSVzexw

号令一声、勢いを取り戻した騎士達によって 次々と暗黒騎士に剣が振るわれる
その全てを鋭い剣筋で薙ぎかわし捌いていく暗黒騎士


暗黒騎士「力量差も見抜けぬとは。あまり無駄な時間をつかわせるな」

公国軍騎士「くそ・・・!! くそっ!? 何故だ!? 何故、一撃も当たらん!?」

暗黒騎士「簡単な話。……お前が、弱いからだ」

公国軍騎士「ふざけるなぁぁぁぁっ!!!」

暗黒騎士「激情に流されるな。 ……隙だらけだ」


暗黒騎士「その生の在り方から、見直せ」

公国軍騎士「!!!」


ザシュッ・・・


暗黒騎士は、敵の全てをあっという間に斬り払ってしまった
圧倒的な力量差だった

109 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:16:35 ID:XOSVzexw

暗黒騎士「姫様、まずは安全な場所へ」


暗黒騎士は私の手をとり、力強く引きあげた

が、ふるえきった私の足は 役にも立たない。
立ち上がったその瞬間に、逆に暗黒騎士の手を引きずり落とすかのようにして、そのままへたりこんでしまった


姫「っ! だ、だめ・・・です。 腰が、抜けているみたいで…」

暗黒騎士「・・・ならば、失礼」


暗黒騎士は、かがみこんで、私の身体を抱きかかえようとする

だが


公国軍騎士「行かせ、ない…」

暗黒騎士「っ」


死傷者の中、一人だけしぶとい者が紛れていたようだ

110 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:17:29 ID:XOSVzexw

生気を失った表情に、血まみれの身体でよろめいた公国騎士は
かがみこんだ暗黒騎士に向かって剣を構えている

あまりの死に体に、殺気すら感じられない
暗黒騎士もそのあまりに薄すぎる気配には、気付くのが遅れたようだった


暗黒騎士「そのような身でもまだ剣を握るとは…!」

公国騎士「………ま…だ…」フラッ


構えた剣を振り下ろすだけの踏ん張りもないのだろうか
その騎士は身体ごと暗黒騎士へと倒れこむ

その鋭い切っ先は暗黒騎士の兜の横を素通りし 私の眼前へと振り下ろされ…


暗黒騎士「くっ!!」


暗黒騎士は両手で私の身体を突き飛ばし、避けさせてくれた
それと同時に自らは大きく頭部を振り、兜を騎士の剣にぶつけ・・・軌道を逸らさせた

そして次の瞬間には、逆手に構えた剣で背後の公国騎士を一刺しして止めを刺す


暗黒騎士「……どうやら、多少の見込みはあったようだな」

111 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:18:28 ID:XOSVzexw

公国軍騎士「公、国 に…… 栄光、あ… れ……」


死の瞬間、その騎士は突き出したままだった剣を…… 勢いよく、振り切った


暗黒騎士「!!!」


首元を掠めて交されていたその白剣は
暗黒騎士の兜と甲冑の間を滑り抜けるようにして… 暗黒騎士の首を、掻き切った


姫「っ!!!! 暗黒騎士さん――――ッ!!!!!」


二人の騎士が、崩れ落ちる
完全に絶命した白い騎士と、よろめいてその上に倒れる黒い騎士


姫「暗黒騎士さんっ! 暗黒騎士さん、しっかりして!?」

暗黒騎士「……っ、やはり 俺も… 騎士、失格です ね。油断…しました」

姫「暗黒騎士さん・・・!!」

112 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:19:01 ID:XOSVzexw

暗黒騎士「…ですが… 今度は… 姫様を守れて、よかったです…」

姫「暗黒騎士さん……… 何を!」


暗黒騎士「これならば… 騎士として、死ねる・・・」

暗黒騎士「これなら…… あの世で、騎士として… 喪女に顔向けが出来る……」


姫「そ、そんな… 暗黒騎士さん、しっかりして!? 死んじゃだめぇっ!!」

暗黒騎士「……姫、様… 急いで、魔王様の元へ…」

姫「駄目です!! 暗黒騎士さんも、一緒に…!!」

暗黒騎士「い、え… 俺は… あの娘の元に……」

姫「そんな…!!」


暗黒騎士「姫、様… 早く… ここ、か…ら………」

姫「~~~~っ聞いて、暗黒騎士さん! あなたの思っているその喪女っていうのは……!」

暗黒騎士「………」

113 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:19:34 ID:XOSVzexw

言いかけている途中で、暗黒騎士の目は閉じてしまう
このままでは、もう――― その時に、ふと視界にあるものが目に付いた


姫(あれは!!)


先ほど倒した騎士たちの中に、衛生兵もいたのだろう
救急の印が描かれた白い雑多な道具袋が床におちているのが目にはいった


姫「~~~まって!! 死んじゃ、駄目だからね……!!」

暗黒騎士「……」


いまだに足も腰も役に立たない私だけど、そんなことはいっていられない
無理に立ち上がって歩こうとした瞬間、派手に転んだ

それでも止まる時間が惜しい
暗黒騎士は、既に意識があるのかどうかもわからない

這ったり転んだりして、無我夢中に道具袋に飛びついた

114 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:20:06 ID:XOSVzexw

姫(何か、何か、手当てや救命のための道具があれば…!!)


袋をひっくり返すが、詰め込まれすぎて中身がなかなか出てこない
中に手を突っ込みまさぐっていると、ザクリと指先を突き刺す何かがあった


姫「っ痛!!」


思わず手を引きそうになってから、すぐにその感触におもいあたるものがあった


姫(これは…!)


躊躇せずに、それを掴んで取り出す
道具袋から取り出されたのは、案の定 イガだらけの実だった
回復アイテムの木の実――。以前は毎日のように集めていた、それ


姫(これなら…!!)

115 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:20:40 ID:XOSVzexw

手袋などはない。あったとしても、つける時間が惜しい

素手で実から種子を取り出そうとすると
イガは容赦なく手につきささり、すぐに私の指を傷だらけにした
でも、そんなことに構っていられない


この木の実の剥き方は知っている
コツだって、とっくに掴んでいる

私はすばやく種子を取り出すことができた
暗黒騎士の口を無理矢理に開かせ、食べさせる


ゆっくりと、暗黒騎士の回復能力が高まっていく
勢いよく噴出していた血が止まっていくのが、それを表している

ぐずつく傷口までは癒えていないけれど
それでも暗黒騎士は確実に回復していく


暗黒騎士「……う…っ」

姫「暗黒騎士さん! 大丈夫ですか!?」

暗黒騎士「これは… 俺、は…?」

116 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:22:11 ID:XOSVzexw

姫「えへへ…。生命の樹の、実の効能です。よく、効くでしょう?」

暗黒騎士「生命の…木の実……」

姫「身体、もう 起こせますか?」

暗黒騎士「……はい」


暗黒騎士は、片手で自分の首元を押さえながら立ち上がった
だけど立ち上がった瞬間、わずかに暗黒騎士がよろめいた

私はその身体を支えて、眩暈が治まるまで無理はしないほうがいいと伝えて
暗黒騎士を一度すわらせた

大量出血後の、急激回復
脳や筋肉、血流量など 様々な場所にその影響は出ている
身体のバランスを取り切れないのも無理はない。でも、それもすぐに回復するだろう

117 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:23:45 ID:XOSVzexw

暗黒騎士「……ありがとうございます。もう、大丈夫です」

姫「よかった…… あ」


暗黒騎士を支えていた手を離すと
そこに赤くうっすらつぃた手形が残ってしまった


暗黒騎士「………これは、血…?」

姫「ご、ごめんなさい」


暗黒騎士「っ!! 姫様!? お手が!!」

姫「あ、あはは… 大丈夫ですよ! ちょっとイガが刺さっただけですから!!」

暗黒騎士「イガ・・・。まさか、生命の実を素手で!?」

姫「時間が惜しくて。でも、あれですね。実際につかう事なんて今までなかったけれど、イガを剥いただけで高く売れる理由がわかりました」

暗黒騎士「え……」

118 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:24:17 ID:XOSVzexw

姫「いざって言うとき、中身がすぐに使えないと 結構焦りますね…あは」

暗黒騎士「姫…様……?」


姫「あの頃は、イヤイヤ剥いていたけど…。誰かの為になれてたのかなって思うと、なんだか嬉しいです」

姫「それに、毎日努力してたコトは無駄にならないものですね。おかげで、今 手早く実を取り出して… 貴方を救えたんですから」

姫「嫌で仕方なかったトコもあったけど。やっていて、よかったって思えました」ニコ


暗黒騎士「姫、様………? あなたは…… 一体……」

姫「暗黒騎士さん…。 今度こそ、聞いてください。私は―――…」


…シャン、ガシャンガシャン……!


姫「!」

119 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:25:25 ID:XOSVzexw

暗黒騎士「……甲冑の足音。増援のようです。まだ距離はありそうですが、近づいてきます」

姫「そんな…。 なんで、こうも次々に…」

暗黒騎士「ともかく、今は一刻も早く魔王様の元へ」

姫「で、でも まって! 暗黒騎士さんに聞いてほしい事が――」


暗黒騎士「ここに増援があるということは、他の場所がやられたということです」

姫「!」

暗黒騎士「奇襲で、指揮がとれていないのでしょう。いつまでも分散していては、この城を守りきれなくなります」

姫「あ……」


暗黒騎士「………本当は… 今すぐにでも、詳しく話を聞きたい所ですが…」

姫「暗黒…騎士、さん……」

120 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:27:05 ID:XOSVzexw

暗黒騎士「……姫様は、必ず俺が守ります」


暗黒騎士「ですので 話は、後でお聞きします。 ――必ずです、姫様」

姫「―――はい!!」


私は 今度こそ、自分の足でしっかりと立ち上がった

面倒なヒールは脱ぎ捨てた
走るたびに顔にぶつかりそうになる大きなイヤリングも取り外す

ドレスの裾に仕込まれた、重たいペチコートもその場で脱いだ

これにはさすがに暗黒騎士も目を丸くしたけれど
そのすぐ後で、苦笑しているのも見えた

121 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:28:33 ID:XOSVzexw

暗黒騎士「どうしてこう、随分とワイルドな色仕掛けばかりなのか…」

姫「?」

暗黒騎士「いえ、なんでもありません」クス


私に向かって差し伸ばされた腕

私は 傷を負っている暗黒騎士の負担にならないよう
その腕の中に入り込み、身体を支えた

暗黒騎士も、そんな私の腰に腕を回し、背に掌をそっと添える

まるでダンスのエスコート
自然に身についているようなその仕草に、少しほほえましくなる


暗黒騎士「さぁ。いきましょう」



私達は眼を見合わせる
そしてお互いの呼吸があった瞬間、同時に走り出した
駆け踊るように、進んでいく

122 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:33:29 ID:XOSVzexw

途中、公国の騎士の一群に遭遇した
怯みそうになった私の背を、暗黒騎士は軽く押す

暗黒騎士にリードされて、自然に身体がターンをしていた
そして振り向いたときにはもう公国騎士は地に倒れていて、暗黒騎士はいつの間にか抜いていた剣を納めた


そこでようやく、それがダンスを装った護衛術なのだと気が付いた

魔王城に仕える騎士の全てが、この護衛術をマスターしているのだろうか
守られる側の負担と、精神的ストレスを考慮したその護衛法

この城では、この国では 誰もが優しく思いあっている

それは 『魔』という恐ろしい名を背負う彼らが
心穏かに生きていく為に取り入れた方法なのかもしれない


そんな優しさに守られながら、私は両の足でしっかりと床を踏みしめて走っていく
一歩踏みしめるたびに、実感できた


偽者でもなんでも、今 『私』は ここにいるんだと
私は今、確かに 暗黒騎士の隣に立って… 前に進んでいく

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・

123 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/10(火) 05:47:54 ID:ilpN5qDo
ここまでにしておきますー >>90は生キャラメル食べてきてくださいv

>>92 
マンドラゴラ(マンドレイク)とアルラウネは 微妙に違うらしいのですが
抜くときの方法などは同じだそうで。
アルラウネが可愛いってだけでアルラウネにしました。それ以上の意味はありません←

>>94
創作仲間として交流の機会がありまして。こっちも好きといわれると嬉しいですw 
まぁ今回は暗黒騎士の人のプロットなので、そのあたりもよかったのかな?w

>>90 >>93 >>95
俺、感涙しちゃうよ!! なんだかんだ全レスだよ、ごめん!!

124 :以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/10(火) 09:41:14 ID:VKWRs.Ck
正体すでにバレとりますなーw
しかしまだ油断できんね

>>123
全レスいいと思うんだけど、SS界隈じゃ大きな声では言えんねw
他だともちっと敷居が低かったりするんだけどな

125 :以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/11(水) 18:34:01 ID:Tfjlp3mc
なにこれ一気読みしたわ
はよはよ

126 :以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/16(月) 15:18:10 ID:rK708mGU
はよ

127 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:34:22 ID:sW1e0YSw

―――――――――――――――――――――――

魔王城・最奥 玉座


暗黒騎士は、その扉を躊躇なく押し開けた
勢いよく開かれる扉の中央から、部屋に駆け入る


魔王「!!」


部屋中に展開する数十の騎士の組
彼らはおもいおもいに魔王に向けて剣を振るっている
魔王も自ら剣を構え、それらを振り払っていたところだった


暗黒騎士「魔王様! ご無事でしたか!」

魔王「暗黒騎士… それに、姫!」


敵の殆どは満身創痍だったが、未だ倒れている者は僅かだ
『魔王』の戦いとしては 窮地にあるように見える

128 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:34:54 ID:sW1e0YSw

暗黒騎士「魔王様、微力ながら助太刀いたします!!!」

魔王「いや・・・」


魔王「いいよ」クス


魔王が、嗤った
その不吉な余裕の表情に、騎士達はそれぞれに警戒を高める


魔王「姫を、暗黒騎士が守っていてくれたのならば、いいんだ」

姫「え?」


そう呟く魔王の周りに、黒い靄が集まっていく
最初はゆっくりと霞んでいた靄は、集まるにつれて次第に流れを速め 急速にうねりはじめる


魔王「徹夜だったせいで、うたたねなんかしていたよ」

魔王「おかげで、うっかり城中に下賎な輩の侵入を許しちゃってね」

姫「う、うたたね・・・?」

129 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:35:30 ID:sW1e0YSw

魔王「ちょっと、迷ってたんだ。攻撃に転じようにも、姫がどこにいるかわからなかったし…下手に激情されて人質なんかにされても困るからね」

魔王「とりあえずなるべく人数をここに集中させて、他の場所の守備をあげておいただけだよ」


姫「えっと… 苦戦していたわけでは…?」

魔王「あはは、ああ コレ?」

魔王「姫がもし掴まってたら嫌だからね。追い詰められるふりをして油断させて、情報を吐かせようかと思ってただけ」ニッコリ

暗黒騎士「魔王様」

魔王「よかったよ、杞憂で済んで。姫は無事?」

姫「っ」コクコク

130 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:36:03 ID:sW1e0YSw

魔王「そっか。…でも、ちょっと落ち込むなぁ」

暗黒騎士「え……」

魔王「だってさ、これはまた俺の落ち度で姫を危険に晒したことになるんでしょう?」

姫「あ、あの…」

暗黒騎士「いえ。自分がきちんと姫様をお守りしてさえいれば、本来 危険に晒される可能性など…」

魔王「フォローしなくていよ、大丈夫。今度こそ、ちゃんと自分で責任を取るよ」

魔王「あんまり暗黒騎士にばかり世話をやかすと・・・褒章の準備をするのが大変だし?」クス

姫(そういう問題なの?)


魔王は苦笑しながら、渦巻き集まるもやの動きを静止させた
その後で、ゆっくりと暗黒騎士に視線を投げかける

その瞳は、魔王の名に相応しい強制力を持っている


魔王「お前は姫のことを守っていろ。……それが、役目だろう?」

暗黒騎士「……御意に」

131 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:36:34 ID:sW1e0YSw

暗黒騎士は、私を包むように抱え込むと、そのまま飛び上がった 
今まさに駆け寄ったばかりの魔王から 遠く離れた場所へ着地し、魔王に背を向けて私を隠す


姫「何を・・・?」

暗黒騎士「口も目も、全て塞いで身を丸めていてください」

姫「?」


公国の騎士達は警戒しつつ
お互いに目線をあわせてタイミングを測っている

何か仕掛けてくるのは分かっているはずで
思い思いの防御姿勢をとりながらも連携攻撃の為の準備は怠らないようだ

魔王はそれを見て、再度可笑しそうに嗤う


魔王「何かするつもりなら、早いほうがいいよ」クスクス


そういいながら、魔王はまっすぐに手を伸ばす
その手に扇のひとつでもあったのならば、舞にしか見えなかっただろう


可笑しそうに口元を綻ばせた後、ゆっくりとその手を振り払い……
立ち上る靄を扇いだ、その瞬間

132 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:37:04 ID:sW1e0YSw

ゴォオオォォォオッ!!!!


静止していた靄は、突如として重力を持ったかのように波となり、割れる
それはそのまま濁流のようなに黒い流れとなって部屋中を洗い流した


公国騎士達「「!!? ぐっ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」


ダン!! ダン、ドガッ!
部屋にいた騎士達は、一人残らずその靄の濁流に呑み込まれ壁へと叩きつけられる

ドガッ! ドガガガ!
叩きつけた後も、靄はその勢いを衰えさせることはなく
部屋中にあるものも次々と壁に押し付け、潰さんばかりに圧を加える

濁流のようなその黒い靄は、大気や水分の全てまで 押しつぶしていく


公国騎士A「・・・・ガハッ…」

公国騎士B「……」グッタリ


バタリバタリと床に落ちる騎士達
その場にいた全ての公国騎士は、急激な呼吸困難と圧によって昏睡していた

133 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:37:35 ID:sW1e0YSw

暗黒騎士「さ…… 流石です、魔王様」

魔王「暗黒騎士が、きちんと姫の安全を確保してくれるおかげだよ」ニッコリ

姫(ふざけきってても、魔王は魔王だったのね…)


目の前でふるわれた一方的過ぎる暴力に現実味を失う
呆然としていると、はっとした様子で魔王が駆け寄ってきた


魔王「姫、大丈夫? 怖かったの!? ごめんね!?」

暗黒騎士「…これは。申し訳ありません、まず退室しておくという配慮が足りませんでした」

魔王「そうだよ! 弱いものいじめしてると思われて、俺が嫌われたらどうしてくれるの!!」

暗黒騎士「……え、いや。嫌われ…」

魔王「俺が嫌われたら、それは暗黒騎士のせいだからね!!」

暗黒騎士「いえ、その。嫌われるかどうか以前に… あまり女性に残虐なところを見せるべきではなかったかと」

魔王「え?」

暗黒騎士「……」

姫「……」

134 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:38:10 ID:sW1e0YSw

魔王「え、そういうもの? 俺、残虐だった?」

暗黒騎士「はい。見慣れぬ者であれば、ちょっとしたトラウマになる程度には」

魔王「で、でもでもだって、俺 魔王だよ?」

暗黒騎士「存じ上げております」

魔王「姫!! 攻撃方法がちょっと過激なのは俺のせいじゃないからね!?」

暗黒騎士「俺のせいでもありませんので、嫌われた際の責任はご自分でお願いします」

魔王「 」


コロコロ表情を変える魔王と、無骨な表情できっぱりと物言いをする暗黒騎士
終わってみれば、そこにあるのは”いつも通り”の日常風景だった


姫「……ぷっ」

魔王「姫?」

暗黒騎士「姫様?」

135 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:39:09 ID:sW1e0YSw

姫「あはは・・・ 大丈夫です、父様。嫌ってなどいません。それに怖くもありませんでした」

魔王「だよね! ほらぁ、姫がこれくらいのことで…」


姫「暗黒騎士さんに、しっかりと抱いていただいていましたから」

魔王「うん?」

姫「前も……そうでした。やはり暗黒騎士さんの腕の中は、何処にいるよりも安心できると、再確認しました」

暗黒騎士「 」

魔王「え゛。ちょっとまって何それどういうことか詳しく」

姫「え?」


姫「……はっ!? ち、違いますよ!? 以前にも助けていただいた事があって…!!」

魔王「いつの話だよ! わかりやすく嘘だよね!? 今の絶対、実は抱かれてました的なパターンの言葉だったよね!?」

姫「ほ、本当です!!」

136 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:39:42 ID:sW1e0YSw

暗黒騎士「自分は少なくとも姫様に無礼を働くような真似は……!」


その時、ふと暗黒騎士の脳裏に、魔王の誕生日パーティの夜の事がよぎる
あの日は倒れた姫をベンチに寝かせ、マントを掛けたとはいえ放置してしまった


暗黒騎士「………いえ、申し訳ありません。無礼はありました」

魔王「自白!?」

姫「なななな、なんのことですか!? はっ、もしかして!? かぼちゃパンツのことは忘れてくださいね!?」

暗黒騎士「は? かぼちゃパンツ…?」

魔王「ふざけんなよ暗黒騎士!! 姫のパンツとか見てるんじゃねえ!」

暗黒騎士「ちょっとまってください、それは濡れ衣のような気もします!!」


姫「~~~~っ と、ともかく!!!」


そうだった、暗黒騎士さんにはまだきちんと説明していない
かぼちゃパンツだなどと、余計な自爆をしてしまう前に…きちんと伝えなきゃいけない言葉がある

137 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:40:14 ID:sW1e0YSw

姫「暗黒騎士さん… ありがとうございました」ペコリ

向かい合ってみたその漆黒の瞳には、急に改まった私への苦笑が浮かんで見えた
この穏かで感情豊かな魔王とのやりとりの中で、緊張が解けたのだろうか


暗黒騎士「…自分は近衛騎士ですので、姫様をお守りするのが本来の責務です」


それでも、表情の見えないきっぱりとした口調は崩さない
格好良くて、凛々しくて
頼りがいがあるけど、本当はきさくな所もある 優しい暗黒騎士


姫(変わらない…。 やっぱり、暗黒騎士さんは暗黒騎士さんだ)


生命の樹の下で、二人で過ごした時間を思い出す
喪女として過ごした、最期のあの日を思い出す


姫「……あの時も、私を守ってくれた…」

暗黒騎士「……あの時…と、いうのは…」


一歩、ゆっくりと暗黒騎士に近づく
暗黒騎士は、その言葉をしっかりと聞いてくれる

138 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:40:47 ID:sW1e0YSw

姫「私を逃がすために、守るために口にした言葉はひどかったけれど…」


そっと、暗黒騎士の腕に触れてみる
今度は、もう離れていったりせず… 私の言葉を、待ってくれている

真実を、知りたいと 思ってくれているのだろう


姫「でも それで一番傷ついたのは、あなた自身だったというのに。私の最期まで、あなたは私を守ってくださいました」


動かない暗黒騎士の胸に、頭を預けた
あの時と同じ、冷たい鎧の感触が 心地いい


暗黒騎士「姫様……。やはり、貴方が…… 喪女だとでも……?」

姫「……はい」コクン


感謝しても、しきれない
貴方にであえて、貴方と言葉を交わして
私がどれだけ幸せだったか

139 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:41:20 ID:sW1e0YSw

暗黒騎士「……で、ですが… 喪女は 確かに死んで…」

姫「……はい。私は死んでしまいました」

暗黒騎士「一体、これはどういうことで…」

姫「……それは、私にもわかりません」フルフル


姫「でも…」

姫「貴方を守るために死ねた事が、私にとって、とても誇らしいことだったのは…わかります」


暗黒騎士「あ……」

姫「だから… 暗黒騎士さんが、騎士失格だなんて。そんなこと言わないでください」

姫「私が、守りたくて…助けたくてしたことです。いけないことでしたか? ……守りたいっていう想いは、『騎士』のものだけではないんですよ?」ニコ

暗黒騎士「そんな、ことは。ですが俺なんかの為に、どうして…」


姫「きまってるじゃないですか。……貴方の事が、好きだからです」

暗黒騎士「っ」

140 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:41:51 ID:sW1e0YSw

姫「初めてあなたに出会った日、あなたに助けてもらった日。暗黒騎士さんは、樹から落ちた私をたすけてくれた…」

姫「私の居場所を作ってくれた。私にやりがいと、生きがいを持たせてくれた…それに」

暗黒騎士「……?」


姫「女として喪に服していたような私を救って、生き返らせてくれました。こんなに素晴らしい騎士様、他にいますか?」

暗黒騎士「姫様… いや、喪女…? ああ、くそ。訳が… こんな事態、一体どうしたら…」


額に手を添えて、混乱し 戸惑う暗黒騎士
無理もない…なにひとつ事態の説明なんかできていないのに 理解だけしろというのはわがままだろう

でも


姫「暗黒騎士さん… 好きです」


止められない気持ちが、口からこぼれる
伝えておきたい思いが、涙と共に溢れ出る

141 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:42:22 ID:sW1e0YSw

姫「こんな気持ちになるなんて…こんな思いを味わえるなんて、思ってなかった…!」

暗黒騎士「……喪女…?」

姫「知らなかった。知ってしまったら、愛しくて 恋しくて、たまらないのです。だからどうか、もう少し…」

姫「いつまでこうしていられるかわからないから。だから、もう少しだけ。どうか貴方の隣にいさせてください…!」


求めて、手を伸ばす
指先が、騎士甲冑の籠手に触れた


暗黒騎士「………いつまでか…わからなくても…」

姫「あん、こく……」


触れただけの指先を、絡み取られる
ひざまずいたかと思うと同時、掬い上げられ 暗黒騎士の手の上に沿わされる


暗黒騎士「……少しではなく… 最後まで」

142 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:43:06 ID:sW1e0YSw

暗黒騎士「今度こそ、最期まで… 貴方のこの手を、護らせてください」

暗黒騎士「決してもう、傷つけさせたりはしませんから――」

姫「暗黒… 騎士さん…っ」


暗黒騎士を助けるために 生命の樹のイガによって傷ついた私の掌を思ってのことなのか
それとも、私を守るためにと投げかけてしまった言葉に思いを馳せたのか

暗黒騎士は、眉根を寄せながら苦しそうな表情で指先に口付けをした
痛々しいほどの思いと誓いを込めた、騎士の忠誠の儀

とてもそんな事まで、堂々としてもらえるほど『姫』にはなりきれていない
私は思わず、暗黒騎士と同じようにその場にひざまずいて目線を合わせた

戸惑うようにゆっくりと開かれた漆黒の瞳は それでも穏かで優しくて…
見つめていると、段々と吸い寄せられていく気がして…


姫「……あ…」


私は 瞳を閉じた。
そのまま、身を委ねてもよいとさえ思った――


のに。

143 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:43:38 ID:sW1e0YSw

魔王「させるかぁぁぁぁぁぁっ!!!」

姫「うぇっ!?」


ものすごく派手に引き離された上
目を開いた時、私は魔王の腕の中に抱きとめられていた


魔王「何してんの!? 何してんの、父親の目の前で! いい根性だね暗黒騎士!?」

暗黒騎士「こ、これは魔王様!! 大変なご無礼をいたしました!!」

魔王「ほんとだよ!! やらせねぇよ!?」


暗黒騎士に向けて手をシッシと振る魔王と
真ん丸く目を見開いて慌てふためく暗黒騎士

慌ててフォローを試みる


姫「と、父様。あ あのね! 聞いていたかもしれないけど、実は私 本当の娘じゃないの!!」

暗黒騎士「なっ、喪女! いきなりそんな――…」

144 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:45:11 ID:sW1e0YSw

魔王「ちょっと待って! ちょっと待って、わけわからない!! 普通それ逆だからね!?『お前は俺の娘じゃないんだ』ならわかるよ!?」

魔王「いやいややっぱりわかんねえよ! 俺の子だよ! こちとら出産の瞬間から週1以上の割合でずっと成長過程を映像保存してるよ!?」

暗黒騎士「それはちょっと…… じゃなくて! 魔王様も、落ち着いてください!」

魔王「おまえがゆーなよ、諸悪の根源!?」

暗黒騎士「諸悪の根源という立ち位置は『魔王様』の物です!!」


またしても、混乱。


姫(ああ、せっかくの雰囲気が…!! 魔王がムードの破壊王すぎてどうしたらいいのか!!)


説明を後回しにしたコトを後悔する
というよりも、『魔王』の事を忘れて目の前でいちゃつこうとしてたとかありえない…

ともかく、今は事態を落ち着かせなくては。
私はなるべく大きな声で混乱に割って入った


姫「あ、あのね! 実は私 本当は…!!」

145 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:45:46 ID:sW1e0YSw

・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・


魔王「……16年間、人間の国で 『喪女』として生きていた…?」


手早くではあったけれど、自分に分かる限りの説明を試みた
魔王はソレを真剣な表情で聞いてくれた


姫「そう、なんです…。でもどういうわけか、死んだ後で気がついたら、この姫様の身体に憑依していて…」

魔王「……」


魔王は真面目な顔をしたまま、私の頭に手を載せた
そうして目をつぶり、じっと黙りこんで…


姫「……父様…?」

魔王「……」

146 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:46:39 ID:sW1e0YSw

触れられている場所が、とても暖かくなっていく
その感覚は、ふわふわと心地よくなるほどだった
何かされているのだとは分かるけれど、それが何かはわからない。ただ…


姫(ふぁー… きもち、いい)


暗黒騎士「魔王様… 如何ですか」

魔王「…うん、見えた」


暗黒騎士「では、彼女… いえ、姫様の身には一体何が…」

魔王「信じがたい話ではあるけれど・・・ 姫は姫だよ」

姫「え?」

魔王「……その喪女とやらも、姫自身で間違いないようだ。少なくとも憑依とかではないね」

姫「え? それって一体・・・? というより、今のは一体何を?」


暗黒騎士と魔王は何か訳有り顔で納得しはじめる
ひとりで置いてけぼりの私は、きっと間抜けな顔をしている

147 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:47:10 ID:sW1e0YSw

暗黒騎士「魔王様は、生物の魂を”視る”ことが出来るのです。この世で唯一、”魂”を使って魔物を創生できる方。その御業の成す偉業のひとつです」

魔王「すごいでしょー」ニコニコ

姫「魂・・・?」

魔王「そう、魂。その人物のコレまでの経験はもちろん、前世の様子も多少は分かる」


疑問を投げかけると
魔王はにこりと微笑んで説明してくれる


魔王「……姫は、さ。自分が眠りについた日のことを・・・ 16年前のことを、覚えている?」

姫「……」フルフル

魔王「そっか、覚えていないのか。 ……暗黒騎士は、なにか知ってる?」

暗黒騎士「自分は、その頃はまだ仕えておりませんでした」

魔王「はは。そうだったね」


魔王「……じゃあ 昔話をしてあげるね」


そう言って、魔王はぽつりぽつりと話し始めた。

148 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:47:41 ID:sW1e0YSw

・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・


まだ幼かった姫
当時の彼女は、戦争の理由を理解することもできない年齢だった

先代王の時代は大きな争いもなく、人も魔族も平和に生きてきた
だから姫の生まれた『現魔王の時代』では、身近にある絵物語なども平和の素晴らしさを歌うものばかりが揃えられていて……

魔王の娘であっても、
魔王と勇者の和平までの道のりを描いたその絵物語に魅せられていた



姫(幼少)「ねーねー! このお話って ひいおばーしゃまと おじーしゃまたちのお話なんだよねぇー?」

若魔王「ああ、そうだよ」

姫(幼少)「いいな、いいなー! いつか、わたちも――…」

149 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:48:30 ID:sW1e0YSw

物語の中の、壮大で 悲しくも美しい、恋物語
姫は幼心ながらに、それらに憧れていた

そして事あるごとに口にするのは いつもひとつ


姫(幼少)「ね、おとーしゃま! 戦争なんか、だめなんだよね! おじいしゃまみたいに、人間たちと仲良くしなくちゃ、駄目だよねぇ?」

若魔王「……うん。そうだね」ニコリ


そんな穏かな日々の中で、幼き姫は暮らしていた
そして、ついに問題のその日が来て・・・


若魔王「“公国”が・・・ 布告を?」

臣下「はい」


若魔王「そうか・・・。これまで、“王国”との間で 人間と魔族の関係はバランスを保ち続けてきたが・・・」

臣下「“王国”は、今回の事態をふまえ そのほかの周辺諸国への牽制を行い、静観を呼びかけています」

若魔王「ありがたい話だね」

150 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:49:02 ID:sW1e0YSw

臣下「ですが…」

若魔王「ああ。“公国”は、独裁国家で他国の仲介の一切を嫌う。力をつけさせすぎたな…あそこは、厄介だぞ」

臣下「では、やはり?」

若魔王「ああ…。魔国は、戦争に巻き込まれたといえる。不本意だが……厳戒態勢にはいる」

臣下「はっ!!」


戦争の幕開け
それを告げる緊張しきった空気

隣室で眠っていたはずの幼き姫はその空気を敏感に感じ取ったのか
寝ぼけ眼をこすりながら父親の様子を伺いに部屋を抜け出していた

そして、そんな会話を聞いてしまったのだ


姫(そんな…)ガタ


魔王「誰だ! …・・・姫!?」

姫「……っ」タタタタ

魔王「姫、待って……!」

151 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:49:39 ID:sW1e0YSw

臣下「追いかけましょうか」

魔王「……いや。戦争を嫌っていたんだ、きっとショックなのだろう」

臣下「では…?」

魔王「……幼くても、魔王の娘。納得させなくてはならない事もあるだろう…。辛くても向き合う必要がある」


魔王「少し、一人にさせておこう……」

臣下「……は」


魔王「姫……。不甲斐ない魔王で、ごめんね」


その後、姫は地下書庫に飛び込んだ
石造りの小さな小部屋で、城内にある立派な図書室とは異なる

そこにあるのは禁忌の書ばかり
歴代魔王の過去と歴史を遡るような、秘められた本の並ぶ部屋だった

そこで姫は難しい魔道書を何冊も開いて… 
未だ魔力統制も充分でない幼い身でありながら、公国と和解するための方法や手段を必死に探していた

152 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:50:12 ID:sW1e0YSw

そして


姫「これだ・・・!」


見つけ出したのは、絵物語でも語られていた禁忌の手法
『生きている者から、その魂を抜き出す術法』だった


姫(これを使って、公国の一番偉い人のところまで、私が直接乗り込んでいくの!)

姫(それで、きちんと戦争はやめてってお願いすれば… きちんとお話できれば、きっと・・・!)


本来ならば”在任中の魔王にしか使えぬ業”だった
幼い姫がこの危ない技術の詰まる部屋に出入りすることができるのも、それが前提だった


だが、姫には 曾祖母譲りの稀有な魔術の才能があったらしい
それとも思いの丈の強さが叶えたとでも言うのか…


ともあれ、どうしてか禁忌の術法は成り立ってしまった


魔王がその小部屋を訪れたとき
既に 姫の体からはその魂が抜け・・・ 肉体は仮死状態で眠りについていた

153 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:50:45 ID:sW1e0YSw

・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・


魔王「はは… あの時は、本当に生きた心地がしなかったな」

姫「そ、それで? その後、姫様はどうなさったんですか?」

魔王「もちろん俺は魂を探したけれど、見つからなかったんだ」

姫「え…」


魔王「おそらく、実際に抜け出してしまった魂は、どうにか公国にまで辿り着き…… そこで弱り、魂は器を求めたんだろう」

姫「器…?」

魔王「肉体のことだよ。もともとが生体の魂だから、生体を欲するのは当然で。それがないならば幼い魂は死ぬことになるだろうね」



魔王「・・・でも、既に魂の入っている『生きた人間の肉体』には入れない」

姫「え……」

154 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:51:16 ID:sW1e0YSw

魔王「……喪女っていうのは、どういう生い立ちの子なのかな」

姫「…………町外れの草原に捨てられていた、まだ生まれて間もないみなしごだったと聞いています」

魔王「そうか。では、きっと…その子は本当に”棄てられていた”んだろうね」

姫「……っ!」


暗黒騎士「姫様…」

姫「あ・・・大、丈夫です・・・」

魔王「……死んで間もない、生まれたての小さな赤ん坊の身体。姫は…… 君は」


魔王「喪女が姫に憑依したのではなく、姫が 喪女に憑依していたんだ」

姫「喪女…に…」


魔王「ともかく、まさかそんな器に入ってるなんて思わなかったし――」

魔王「結局、俺たちは 魂が戻るのを待つしかなかった。生身の身体があれば、いつかは必ず戻ると信じて、ね」

155 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:52:33 ID:sW1e0YSw

姫「……」

魔王「姫は・・・ 喪女という仮の生を生きたけれど。その生を終えることで魂が肉体から離れて、本来の肉体に戻って来たのが今の姫」

魔王「今の姫も、喪女であった君も もともとの優しい幼い姫も・・・ 全て、君だよ」


姫「私が・・・ 暗黒騎士と出会った喪女も私で… 本当のお姫様でもある・・・?」

魔王「そうだよ。君は 俺の大切な姫だ」


優しい掌が、頭を撫ぜる

どうしていいかわからず、思わず暗黒騎士を仰ぎ見たが
暗黒騎士も、その事実に驚いている様子だった


暗黒騎士「魔王様が、ああして仰る事なのだから。それが事実なのだろう…」 


私に向けられたものなのか
それとも自分自身を納得させるための言葉だったのか

ともあれ暗黒騎士は、改めて私に深く辞儀をした


暗黒騎士「数々のご無礼、お許しください」

156 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:53:08 ID:sW1e0YSw

姫「そんなこと…… ……あ…」


ひざまづいた暗黒騎士
困惑した私は視線を泳がせてしまい、その時ふいに暗黒騎士の後ろで昏倒する兵たちの姿が眼についた


姫「……戦争を仕掛けて…どうしたいんでしょうね」

魔王「……いろいろだよ。いろいろな感情があるし、思惑もある… 戦いの理由なんて、どちらにとっても“それらしいもの”ばかりだ」


戦いを挑む無謀な者達
彼らのせいで、きっと多くの者達の人生が狂わされたのだろう

それを思うと、疎ましく思わない気持ちもないわけじゃない
倒れている彼らを、やつあたりに叩いたとしても 責められることもないだろう

でも 幼かった私は、そうして争う事を厭い…
止めさせようと 絵物語に憧れて飛び出したらしい。ならば――


魔王「……? 姫、どうしたの?」

姫「……できること。やらなきゃいけないこと。やることだけは、やっておきたいと思いました」

157 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:53:39 ID:sW1e0YSw

周囲を見渡し、あるものを探す


姫(あった。公国騎士軍の、救命袋……)


中に手を入れて探り、生命の樹の実をみつけだす
私は暗黒騎士にした時と同じように、素手でそのイガを掴み…


暗黒騎士「姫様。何を・・・」

魔王「姫、手が傷だらけになっちゃう!!」

姫「いいんです」

魔王「よくないよ!!」

姫「でも、これが必要なんです」


そう言いきった時、勢い余って樹の実を取り落とす
拾おうとしたけれど、暗黒騎士が先に手を出して拾い上げてしまう

158 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:54:09 ID:sW1e0YSw

暗黒騎士「喪女には…自分の身体を大切にしろといいました」

姫「あ」

暗黒騎士「それに…目の前で、これ以上傷など負わせられません。先ほど、守るとお約束したばかりです」

姫「暗黒騎士さん…でも…ごめんなさい。やっぱり、返してください。その実を、つかいたいんです…!」


暗黒騎士「……いつだったか、『俺であればイガだけを剣で剥いて見せることも可能』と言ったのを覚えてますか」

姫「え…? あ、はい」

暗黒騎士「自信過剰なんかじゃないと、証明するにはいい機会です」

姫「…?」

暗黒騎士「……その。ですから」

159 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:54:50 ID:sW1e0YSw

魔王「いや、素直に『俺が剥くから手を出すな』って言えよこの気障騎士め!」

姫「あ」

暗黒騎士「~~魔王様の撃退なさった敵に味方するような真似、堂々とできるわけないでしょう!!」

魔王「真面目か!!!」



姫「・・・暗黒騎士さん、ありがとう」

暗黒騎士「……いえ。回りくどい言い方をして申し訳ありません」

魔王「まったくだよ」


姫「父様も…。あのね、私 あの人たちのこと、助けてあげたい。ちゃんと話して、ちゃんとやめさせてあげたい」

姫「帰る場所がきっとあるはずだから。ちゃんと、帰してあげたい! お願いします、手伝ってください!」ペコリ!



魔王「……やれやれ。16年たっても、人間びいきとは。困った姫だ」

160 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:55:23 ID:sW1e0YSw

そういって苦笑した魔王だったけれど
そのまま手を広げて 足りぬ分の木の実を、魔王がその術によって創り出していく

それを暗黒騎士が受け取っては、丁寧に剣で裂いていく
私は暗黒騎士が取り出した中身を受け取り、昏倒する兵達に食べさせていく

みんなで協力して、『敵』を助けようとするのは滑稽だろうか
意識が戻った公国騎士たちが見たものは、そうして必死に動き回る3人の『敵』の姿だったのだから・・・


公国騎士A「ああ、妻よ。俺は未練のあまりおかしな夢を見ているようだ…今度こそ君の元へ飛んで逝くよ」ガク


魔王「ちょっとまて! 起きたそばから妄言吐いて気絶するってどういう了見だ!!」

姫「は、ははは・・・」

暗黒騎士「もうひとつくらい余計に食べさせておきましょうか」ザックザック


ちょっと キリがなかった


・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・

161 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:56:16 ID:sW1e0YSw

目覚めて冷静さを取り戻し始めた騎士達は
お互いの顔を見回しながらも 魔王に降伏を申し出た

圧倒的な魔王の力に敵うわけもない
そしてそれ以上に、争う気の無い命の恩人に刃を向けられるわけもない・・・と。



暗黒騎士「ふん。騎士としては、まだその誇りを持つものであったか」

姫「父様・・・ あの」

魔王「うん?」

姫「……もう、戦争なんて、やめられないでしょうか…」

魔王「はは。『人間たちと仲良くしなきゃ、駄目だよ』って?」

162 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:57:06 ID:sW1e0YSw

姫「……私は…16年、人間として生きてきたから。だからその、贔屓にしてるっておもうかもしれないけど…」


ポン、と頭に手が載せられる


姫「ひゃ」

魔王「…わかってるよ。16年間、姫の言葉を真摯に聞かず、仕方ないと戦争を始めてしまった自分を後悔してきたんだ」

魔王「ちゃんと、俺が。一番偉い人と話をしなくちゃね」

姫「………父様」

魔王「今度こそ、姫にそんな役目をやらせたりしないよ」ニコリ


・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・

163 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:57:36 ID:sW1e0YSw

―――――――――――――――――――――

後日 魔王城・庭園 バルコニー


こうして魔国と公国の間には、とりあえずの休戦が決定した
私たちは訪れた平穏の中で、まったりと過ごしている

私は喪女として過ごしていた事を明かしたことで、
姫らしい振る舞いをうまくとれないことも多めに見てもらえることになった

暗黒騎士も、近衛騎士という直近の立場と
『友人』であった過去を考慮されて……喪女であったときに近い振る舞いを許された

暗黒騎士自身は、まだその立場に慣れないようでどこかぎこちないけれど
それでもその心は喪女であった頃に向けていたものと近い

今の私は、暗黒騎士の隣に負い目無く立っていられるようになった
こうして、共に歩きながら 世間話をするほどに。

当たり前に傍にいられるようになって――

164 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:58:08 ID:sW1e0YSw

姫「なんだか、すごく平和です。…でもまだ、本当の和平はこれからなんですよね」

暗黒騎士「ああ」

姫「でも きっと。ちゃんと話せばわかってくれますよね。ちゃんと誠意込めれば!」

暗黒騎士「・・・…」

姫「あ。今、『夢見がちで現実味がない根拠だなー』て思いましたね?」

暗黒騎士「そんなことは一言も言った記憶は無い」

姫「目がそう言ってるんです。暗黒騎士さんは、顔のほうがよくお話をしてくれます」


私がそういうと、暗黒騎士は複雑な表情で兜を被ってしまった


姫「ふふ。でもしょーがないじゃないですか?」

暗黒騎士「何がですか」

姫「喪女だったんですから」

暗黒騎士「は?」

165 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:58:38 ID:sW1e0YSw

姫「夢見がちな空想話くらいしか楽しみもなかったし。どうやら元々、大昔の絵物語の中の恋に憧れてたみたいだし」

暗黒騎士「ああ・・・」

姫「そんな私がお姫さまなんかになれたんだから・・・ そんな理想論だって信じちゃいます」

暗黒騎士「なれたんじゃなくて。貴方は、最初から姫だったんだと何度言ったら…」

姫「………ねぇ、暗黒騎士さん?」

暗黒騎士「ん? どうした」


姫「空想話とか、夢物語とかだと…最後に、お姫様がどうなるか、知ってますか?」

暗黒騎士「……どうなるんだ?」


姫(こんな時 私の憧れた絵物語だったら お姫様は、最後には オウジサマと・・・!)


思ってはいるけれど、それを言い出せずにもじついてしまう私
そんな私の様子をみて、言いたい事を察したのだろうか

暗黒騎士は苦笑して、立ち止まる

166 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:59:09 ID:sW1e0YSw

暗黒騎士「……どうした?」


優しい瞳に、言葉を促される
いつまでも言い出せずにいる私に焦れたような様子で、手を伸ばしてくれる


立場を考えれば、決して暗黒騎士からは言い出すことはできない
だから、私が言わなければ…叶うことはない『想い』なのだ


暗黒騎士はきっとちゃんと、わかっている
分かっているから、そんな風にして私を促してくれる

返答なんて分かっているのだから
安心して、私がそれを言えるようにしてくれる


本当は、自分で言いたいのかもしれない
言えなくて、もどかしい思いをしているのは暗黒騎士も同じなのかもしれない

だから、こんな風に… 

私がお願いをしようとしているのに
そう望んでいる暗黒騎士の願いを叶えてあげている気すらしてしまう


それほどに待ち望んでいると、バイザーの奥の瞳が教えてくれる
だから、魅せられるままに身を委ねて、言葉を紡いでしまいたくなる

167 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 06:59:39 ID:sW1e0YSw

姫「暗黒騎士さん…私と、結婚してください」

暗黒騎士「光栄です。生涯、あなたの剣となり 鎧となることを誓いましょう」


姫「……平和を作っていってくれますか? 私の居場所を守ってくれますか?」

暗黒騎士「それがあなたの願いとあらば…必ず、そうありましょう」


姫「暗黒、騎士さん・・・…」

暗黒騎士「……姫様………」


見つめあう二人の距離が、狭まる
指先を絡めて引き寄せあい、お互いの身体を抱きしめ合――


魔王「させないよったらさせないよーーーーーーーー!!!!!」ドーーン!



姫「またしてもムード破壊王!!」

暗黒騎士「ま、魔王様・・・」

168 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 07:00:09 ID:sW1e0YSw

姫「父様!! なんでそう邪魔をするのです!?」

魔王「むしろなんで邪魔をしちゃいけないのかな!」

姫「邪魔しちゃいけないオヤクソクってあるんです!! 今、物語のEDでお姫様はオウジサマと結ばれ、末永く幸せにって言うお決まりの--」

魔王「チチチ。俺だって、王子様とお姫様のEDなんか邪魔しないよ?」

姫「何を言ってるんですか! いまだっておもいっきり」

魔王「だってさあ」


魔王「オウジサマじゃなくて、暗黒騎士じゃん」

姫「」


暗黒騎士「はあ・・・ 確かに、自分は王子ではありません」

姫「そ、そういう屁理屈を・・」

169 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 07:00:39 ID:sW1e0YSw

魔王「それにさぁ、暗黒騎士・・・ 本当にわかっているのかなぁ」クス

姫「え?」


挑発的な瞳で、魔王は私の身体を引き寄せ 腕に抱いた
腰元から剣が引き抜かれ、切っ先を暗黒騎士の顔面に突きつける


姫「と、父様!?」


魔王「暗黒騎士。我が娘に手に出すという意味を、理解しているのかと聞いている」

暗黒騎士「何を・・・仰る」


娘姫を、溺愛している魔王

いくら信頼を買っているとはいえ、一介の近衛兵である暗黒騎士が
婚約者として歓迎される保証はない――そういうことだろうか


魔王の目に、ふざけた色はない
あるのはただ 断罪者の、冷徹さのみだ

170 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 07:01:09 ID:sW1e0YSw

魔王「……我が娘に結婚の誓いだと…? 覚悟はいいか、暗黒騎士」

暗黒騎士「く…っ!」


暗黒騎士に突きつけられた魔王の剣が、鈍く輝く
黒い靄が刀身を覆い、その圧力を増していく


姫「暗黒騎士さん…! 父様、やめて!」

魔王「こればかりはやめられない。守るために挑むこともある…戦争がなくならない理由のひとつでもあるね」

姫「そんな! ですがこんな、身内で争う合うようなこと…!!」

魔王「姫は黙って」

姫「っ」


魔王「暗黒騎士。答えよ。覚悟はいいか」

暗黒騎士「……ああ!! 覚悟はできている!」

姫「暗黒騎士!!」

魔王「では…」スッ

171 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 07:01:40 ID:sW1e0YSw

暗黒騎士「だが、誤解をしないで頂きたい! 我が覚悟、この身を散らせるための覚悟ではない!!」

魔王「ほう?」


暗黒騎士「俺は姫様を一生かけてお守りすると誓った! 二言はない! この意思を曲げようというのであれば…」



暗黒騎士「例え『魔王』であろうと、構わぬ!! この剣の折れるまで、挑む覚悟が済んだだけだ!!」


チャキン!

暗黒騎士は、自らの剣を抜き
合わせ鏡のように魔王にその切っ先を突きつけた


魔王「ふ。言ったな」ニヤリ

姫「父様…!?」

172 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 07:02:12 ID:sW1e0YSw

暗黒騎士「王子ではない、この身に至らぬ所が多いのも承知! 唯一誇れるのはこの剣技のみ!!」

暗黒騎士「相応しいと認めてもらうまで挑もせてもらう! 相応しき身になれるまで磨きあげるだけだ!」


魔王「………ふふ、面白い。本当にお前に、姫が守れるのか…見てやろう」


魔王は剣を引き、腰の鞘に剣を収めた


姫「父…様…?」

魔王「……」


そして空になった手を天高く掲げ… 指を、打ち鳴らした

パチン!!


ザザザッ!
その合図で、茂みから黒い影が4つ、飛び出してくる


姫「!!」

173 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 07:02:44 ID:sW1e0YSw

パンパカパーン♪


姫「え゛?」

暗黒騎士「な」


登場と同時、それぞれの楽器を手に
華々しいメロディを奏ではじめたのは四天王だった


魔王「おめでとー! 次期魔王婿が正式に決定いたしましたー! はいっ、ファンファーレ!」

四天王「おめでとー♪」プップカプー♪



姫「次期…」

暗黒騎士「魔王、婿…?」


魔王「そだよ? 姫は俺の一人娘、魔王は次代継承。つまり姫は次期魔王だって分かってる?」

姫「うえぇ!? 私『が』、魔王・・・?」

174 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 07:03:16 ID:sW1e0YSw

魔王「もう姫だって十分な年齢なんだし、そろそろ継承してもらわないとね」

姫「継承!?」

魔王「いやー、『魔王の業』を継ぐわけだから、強くなるよ! 本人の意思とは関係なしに残虐な業の数々が自動で身につくからね!」

魔王「暗黒騎士に『守る』なんてできるのかなー? 逆に守られちゃったりしてー? あはは」

暗黒騎士「 」


魔王「と、いうわけでさ。姫は魔王継承の儀を目前にしてるわけだし」

魔王「その未婚の魔王に、正式婚約もしてない一介の騎士が手をだしてちゃ マズいんだよねぇ」ウンウン

暗黒騎士「そ、それは確かに・・・。 俺は、なんと言うことを」

魔王「ま、でもほら 今ちゃんと俺の前で宣言したし? “婿候補”が 婿に正式決定したなら…まぁチューくらいだったら許してあげよっかなっ」

姫「宣言?」

魔王「言ったでしょ? 『この娘に手を出す意味をわかって、覚悟は済んでいるか』って聞いたらぁ、『魔王でも構わぬ』、っていったじゃーん♪」

姫「う、うぇ!?」

175 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 07:04:03 ID:sW1e0YSw

暗黒騎士「・・・姫様には一生おつかえしようと思っていたが…。 まさか、“魔王”婿として、とは」

魔王「ふふん。そーんな覚悟、できてませんでしたーって言っちゃう? 騎士の二言とか聞いてみちゃってもいいよー?」

暗黒騎士「・・・」


姫「暗黒騎士…」ハラハラ

暗黒騎士「ああ。確かにその覚悟まではできていなかった」

姫「っ」


暗黒騎士「だが、問題はない。どのような道であれ、その手を離さぬと誓ったことに変わりはない」

暗黒騎士「それが、魔王とその婿の道だと決まったに過ぎないのだからな」

姫「暗黒騎士…っ」ギュッ

暗黒騎士「っと」

176 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 07:04:35 ID:sW1e0YSw

魔王「っ、くぅぅぅう・・・」プルプルプル

暗黒騎士「魔王様・・・?」


魔王「うわぁぁぁん!! かっこつけやがってコンチクショウ!!」

姫「と、父様」


魔王「ちょっとくらいオロオロしてかっこ悪いとこ見せて姫にプークスされろとか思ってたのに!!」

暗黒騎士「プークス…?」

魔王「俺一人でなんかすっかりバカみたいじゃないかぁぁあああああ!!!」

姫(いつだって一人だけテンション違うと思うけど…)



魔王「うわぁぁん! 暗黒騎士なんか嫌いだあああああ!!!!」

暗黒騎士「っ! 魔王さm」

姫「あ…。 走って… いっちゃいました…」

177 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 07:05:06 ID:sW1e0YSw

暗黒騎士「……」

姫「……」

姫「あの。いくらなんでもアレが『魔王』の前提じゃないと思いますし・・・」

姫「私はもうちょっとちゃんとした魔王になりますので、ご安心ください・・・?」

暗黒騎士「……頼んだ」



先代の魔王…つまり私にとってのおばあさまなのだけれど
そのおばあさまの婿になったおじいさまにそっくりだと言われる父様

女魔王に嫁ぐためには、結構独特なメンタルが必要なのかもしれないと
おじいさまに想いを馳せる


姫(もしかして私、守られるお姫様とは程遠いのかしら…?)ウーン

暗黒騎士(嫁の尻にしかれるとか、そういうレベルの話じゃなくて組み敷かれる可能性があるのか…)ウーン


とんでもないけど、憎めないほど楽しい生活が待っている気がした

178 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 07:05:52 ID:sW1e0YSw

暗黒騎士「とりあえず…行きましょう、姫。 そろそろ予定が…」

姫「あ、は はい。行きましょ… っきゃ!?」

暗黒騎士「! 危ない!」


振り返ったとたんに、ヒールがスカートを巻き込んでしまいバランスを崩す
転びそうになった私を、暗黒騎士は支えてくれる


姫「あ、ありがとう…」

暗黒騎士「……やはり、守られるよりは 守っていたいですね」

姫「あはは…」

暗黒騎士「『魔王』よりも強くなって、お守りします」

姫「……うんっ!」

179 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 07:06:24 ID:sW1e0YSw

素直じゃないけど 誰よりも心優しい暗黒騎士に見つめられて

私はまだ これが夢なんじゃないかと思ってしまいそうだった
こんなに幸せだなんて、なにかとんでもないことの前触れなんじゃないかって思えてくる



暗黒騎士「…迂回するより、このままバルコニーを飛び越えよう。俺が支えますのでご心配なく」


でも 暗黒騎士が隣にいてくれるなら きっとどんなことでも頑張れる
戦争とか和平とか、魔王とかいろんなことがまってても、やっていける気がする


姫「……」

暗黒騎士「? どうした。跳ぶ覚悟が決まらないか?」

姫「覚悟…」

暗黒騎士「ああ、いや。無理にそんな覚悟なんてしなくとも――」

姫「いいえ! 覚悟していたところです!」

暗黒騎士「姫?」

180 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 07:07:15 ID:sW1e0YSw

あなたの隣っていう居場所を守るためになら
私はなんだってできそうだから


あなたの隣なら、安心していられる。強くいられる。
こんなに嬉しくて、こんなに楽しい気分にさせてくれるから、なんだってできる

だからそれだけ一生懸命に守っていきたい
「いつまでも幸せに暮らしました」って言えるように、がんばるしかない


喪女でも、お姫様でも、魔王でもなんにだってなれるけど
こうやって言えるようになったのは 貴方がいるっていうそれだけの理由なんだから

だからもう、自分が喪女だとか姫だとか
そんな役割なんかに惑わされない! 関係ない! なんにだって、なればいい!


私が誰だって、なんだって
出来る事をして一生懸命に生きていくだけなんだから!

だから


姫「魔王になって、みーんなで幸せになる覚悟が 出来ましたっ!」


----------------
おわり

181 :以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/18(水) 07:08:43 ID:qcioTZqI
おつかれさま!
戻ってきてくれてありがとう!

182 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/18(水) 07:09:06 ID:sW1e0YSw
以上です

ありがとうございました!

183 :以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/18(水) 07:28:10 ID:kp0wCjvw


184 :以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/18(水) 08:23:09 ID:LKn4k5E2
この作者コンビ結構いいかも...w
また組んで書いてよw

185 :以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/18(水) 12:31:26 ID:gaPokns6
ああなんかもう、みんな可愛かったw
よいハッピーエンドでした、ありがとう

乙!

186 :以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/18(水) 15:30:18 ID:GZHKl.0A
ちくしょう末永く爆発しやがれwwww

乙!面白かった!


ブログ管理者より 作者の生キャラメルさんのブログを紹介
http://woodybear1130.blog.fc2.com/
posted by ぽんざれす at 10:16| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【合作】魔王「覚悟はいいか」 暗黒騎士「例え魔王であろうと、構わぬ!(1/2)

http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/14562/1425399140/

※自分がプロット担当、生キャラメルさんが文章を担当した合作です

2 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:13:37 ID:Ncmbc8/o

――――――――――――――――――――――――――

公国領地のとある町外れ


喪女「はふ…。遠いなぁ、生命の樹…」


丘を登っているのは、ふもとの町に住む娘―― 喪女
16年前、町の外れの草原で拾われた赤子だった


喪女「でも頑張らなくちゃ! それが拾ってくれた義父さんへの恩義ってものだもの!」ムンッ

自分に渇を入れ、重たい足を引きずって歩く

喪女(昨日は朝から井戸で水汲みをして、馬にブラシをかけ、洗濯と繕い物を済ませた後で朝食を作り、
   片づけをした後に家の掃除と庭の手入れを終わらせて、昼食の用意と片づけを済ませてから買い物に行って、
   そのあとようやく生命の樹の木の実を取りに行って、家に帰ってから殻を剥いてたらすっかり遅くなってしまい、あまり眠れなかったし…)


ぶっちゃけ、喪女は拾われた家でコキ使われていたのだった
それでも死に絶えるだけだった赤子を拾い、育ててくれている一家への恩義は忘れない


喪女(むしろそれだけがモチベーションとも言えるのよね)

3 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:15:20 ID:Ncmbc8/o

生命の樹は、この丘のてっぺんにある
その樹になる実は回復アイテムとして非常に珍重されており、一家の生計の一端を担っていた

そしてその木の実を取り、回復アイテムとして使用可能な状態にするのが喪女のほぼ毎日の仕事になっている


喪女(あの実… イガだらけで剥くの痛いんだよね…。 ちゃんと皮手袋持ってきたっけ…?)


もちろん木の実は、それだけでも取引される貴重な代物だ
だがそれを即時使用可能な状態にしておくことにより、より高価で買い取ってもらえるようになる

なにしろそのイガというのは、皮手袋をはめても指まで貫通してくるほどの強固な実だからだ
そうして“上乗せされる金額”こそが、喪女の生活水準を支えているとも言えた

4 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:15:54 ID:Ncmbc8/o

喪女「よぉしっ! 今日も元気に、木の実をあつめましょう!」


そしてもちろん、木の実集めと言うのは… 木に登って行うものである
その姿は、まるで柿の木に登る猿のようだった


喪女(くすん。毎回思うけど、我ながらヒドイ格好。いいもんいいもん、こんな仕事をしてたら、色気なんて…)

グイ

喪女「っと。あれ? この木の実はまだ熟れてないのかな… ずいぶん、固…」


ズル。

喪女「!」

バキンッ!


喪女「や、っと、っと、と… あわわわわわ!? お、落ち…」

5 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:16:27 ID:Ncmbc8/o

こんな時、絵物語だったら 素敵な王子様が現れてそっと支えてくれるのだろう
そんな素敵なシーンを、私は大木から落下する最中、ひっくりかえった空をみながら妄想していた


ドサッ! ガチャン!

冷たく固い感触が、背中と太もものあたりにぶつかった

喪女「痛い……。 うぅ、生きてる。よかったぁ…」


「そうか。間に合ってよかった」

喪女「っ!?」


目を開けると、超至近距離に男の顔があった

仏頂面の、いかめしい顔立ちの男だ
……どうやら、木から落下したところを見事にお姫様抱っこで受け止めてもらったらしい


喪女「あwせdrfty」

6 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:17:01 ID:Ncmbc8/o

言葉を失っていると、その男はゆっくりと私を降ろした


「驚かせたか。まあ、休憩を取ろうとした瞬間、空から女性が降ってきて俺も驚いた。おあいこだ」


男はそういうと、樹の根元に放り出された兜を拾い上げ、付いた土を払った

よく見ると、兜こそ外しているものの その全身は真っ黒な甲冑につつまれている
腰に携えた長剣からして騎士なのだろうとは思うが、それにしても異様ないでたちだった


暗黒騎士「……暗黒騎士という。この全身鎧姿が、そんなに物珍しいか」

喪女「あっ ご、ごめんなさい!!」


いつの間にか凝視していたらしい
慌てて手を振り、悪気があった訳ではないと伝える


暗黒騎士「――怪我をしたのか?」

喪女「え?」

7 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:17:32 ID:Ncmbc8/o

暗黒騎士は兜を脇に抱えると
私が振っていた腕をおもむろに掴み、掌を検分した


暗黒騎士「傷だらけではないか。樹からおちる時にどこかに擦ったのか? 手当てをせねば…」

喪女「ち、ちがうんです!! これはその、元々で!」

暗黒騎士「元々?」


丁度近くに落ちていた木の実を指差す
イガだらけの木の実を見れば悟ってくれるだろう


暗黒騎士「なるほど、あの木の実のせいで木登りの最中に既に怪我をしていたのか」


悟ってくれなかった



仕方なく私は木の実を剥くのを実演してみせる
そうして掌の傷は決して今回の怪我ではないことを説明した

8 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:18:26 ID:Ncmbc8/o

暗黒騎士「つまり、今すぐに治療するべきような怪我はしていないと?」

喪女「はい…。あの、ご心配おかけしてすみません…。これは慢性的な古傷みたいなもので…」

暗黒騎士「……」ハァ


喪女「ぅ… (呆れたかな。心配させちゃって…悪いことしたなぁ)」

暗黒騎士「この掌が痛々しいことに代わりはないが、今回の怪我でないなら仕方ない」

喪女「……え?」


暗黒騎士は私の掌を取り
労うようにそっと反対の手を重ねて包んだ


暗黒騎士「目の前で女性に怪我をされては後味が悪い。怪我が無くてよかった。だが…」

喪女「?」

暗黒騎士「女であれば、身体は大事に扱え。その細指にその傷跡は 痛々しすぎて似合わん」

喪女「……っ//」

暗黒騎士「ではな」

9 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:19:14 ID:Ncmbc8/o

暗黒騎士は 慣れた手つきで兜を嵌め、あっという間に立ち去ってしまった
その後姿が見えなくなったときになって、ようやく礼を言っていなかったことに気がついた


喪女(助けてもらっておいて、いの一番にお礼の言葉も出てこないなんて…)


思わず膝をついてうなだれるほどに後悔する


喪女(でも……こんな私でも…)



喪女(あの人は、女の子として扱ってくれたんだな…)


力強く受け止められた腕の感触を思い出し、一人赤面した
思い出しながら顔がニヤけてしまう私は、きっと相当にキモちわるかったと思う


……ちょこっと、反省。でもやっぱり嬉しくて、ニヤけるのは止まりそうにない



・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・

10 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:19:54 ID:Ncmbc8/o

――――――――――――――――――――――


別の日、生命の樹の根元


喪女「さぁって…! 木の実、今日もがんばって取りますか!!」


ガシッ!


喪女「はっ!?」 

喪女「い、いつも手をかける枝が無い!? そっか、このあいだの時に折っちゃったのか…」

喪女「って!! ど、どうしようっ!?」アワワ


暗黒騎士「危なっかしくて見てられないな…。君にこそ全身甲冑を着させるべきだ」ハァ


喪女「うひゃっ!?」

11 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:20:26 ID:Ncmbc8/o

突然掛けられた声に、おどろいて変な悲鳴をあげてしまった
ガッシリと片足を木にかけた状態で首だけでふりむくと、そこには……


喪女「って…… 暗黒騎士さん!?」

暗黒騎士「また、会ったな」


あまりの醜態。
登るのは諦めて木を降りる

ズルリズルリとずり下がる私に、暗黒騎士は手を貸してくれた
無事に着地した私は、服についた細かな木屑を払い衣服を整える

……整えたところで、たいして代わり映えはしなかった
ともあれまずは、そんな私を見ている暗黒騎士に疑問を投げることにしよう


喪女「あ、あの なんで…」

暗黒騎士「数日の間、このあたりを視察に回っている。この丘は見晴らしがいい」

喪女「そ、そうでしたか」

12 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:20:57 ID:Ncmbc8/o

質問を言い切る前に、回答される
聞かれる事はあらかじめ予測がついていたようだ


喪女(……きっと、頭もいいんだろうなぁ)


そんな思いで一人関心していると、
暗黒騎士は苦笑しながら予想外なことを言った


暗黒騎士「ついでだ、手伝おう。……君よりはまだ、俺のほうが木登りが似合うだろう?」クス

喪女「あ、あwせdrft」


ごめんなさい、あなたより私のほうが、きっと木登りは似合うと思います……
でもそんな言葉すら、スラスラいえたりしない

正直、男性と話してるってだけで緊張する。
止める事もできないでいるうちに、暗黒騎士はスルスルと気の上に登っていってしまった

13 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:22:55 ID:Ncmbc8/o

暗黒騎士「これでいいか?」


私ではなかなか登れない、樹の高い場所にある大きくよく熟れた木の実を示される

ブンブンと首だけを縦に動かして充分だと伝えると、
暗黒騎士はさっと実を捥いで、投げる仕草をした


暗黒騎士「放るから、受け取ってくれ。カゴを持って登るのを忘れた」

喪女「あ」


カゴは私の腰に巻きつけてあるまま。すっかり渡すのを忘れていた

その直後に、見事なコントロールで私の手の中に木の実が飛んできた
私もそれを見事に取り落とし、暗黒騎士に『一度手の中に飛んできたものを落とすなんて。才能があるな』と笑われた


私も、笑うしかなかった

自嘲じみた乾いた笑いに溜息を吐き出しているとき
樹上では暗黒騎士が、楽しそうに次の実を選び始めていた


・・・・・・・・・
・・・・・
・・・

14 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:26:12 ID:Ncmbc8/o

――――――――――――――――――――――――


その日から、私たちはよく会うようになった

慌しい毎日で、浮いた話のひとつも無い私にとって
私を女性として扱ってくれる暗黒騎士と過ごす時間は、とろけそうなほど幸せだった

もっともっと、女の子として見て欲しい―― そう願ってしまうほどに




暗黒騎士「また木登りをしているのか? ……っと」


丘を登ってくる声に、振り向くと
暗黒騎士が、いつもよりもゆったりとした歩調で近づいてきた


喪女「あ! 暗黒騎士さん! 視察、おつかれさまです!」ニコッ

15 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:26:44 ID:Ncmbc8/o

昨日は雨だったから 私も仕事も少なくて、ゆっくり眠れた
肌の調子もいいし、元気だって有り余っている

『ちょっとでも可愛いところを見て欲しい!』なんて欲目が出ていた私は
鏡の前で猛練習したとびきりの笑顔をつくってみせた


喪女(こ、これなら少しは『見られるレベル』になってるはず……!!)


意気込みすぎて、もしかしたら少し顔が引きつってしまったかもしれない


暗黒騎士「おつか…… ああ。確かに少し疲れていたかもしれない。だが、疲れも吹き飛んだな」

喪女「?」


暗黒騎士の反応がおかしい

16 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:27:20 ID:Ncmbc8/o

暗黒騎士「目の保養にはよさそうだが… スカートで木登りとは。随分とワイルドな色仕掛けをしてくれる」

喪女「うぎゃ!?」


浮かれすぎて、本末転倒な失敗をしてしまった

喪女(さ、さすがに勝負パンツなんて履いてきてないのに! 見られた!?) 

喪女(っていうか、そうだ! ベージュのカボチャパンツだったはず! 私、最悪!)


喪女「~~~~~~っ//」


樹にしがみつきながらも、必死にスカートを脚の間に挟みこんでパンツを隠す
暗黒騎士は兜をかぶって、バイザーを降ろした


喪女(……お、降ろしたって、それ、見えてるよね? 絶対)アワワワ!

喪女(隠したのは、兜の中で笑いを堪えている暗黒騎士の表情だけなんじゃないですかああ!?!?)パニック!!

17 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:28:05 ID:Ncmbc8/o

そう思っていると、暗黒騎士は私に向かって両腕を伸ばしてきた


暗黒騎士「今日の分の仕事は代わろう。降りてこい、ほら」

喪女「……//」


差し伸ばされた腕に向かって飛び込む
暗黒騎士は 力強く、それでもやわらかく、膝や腕のクッションを使って受け止めてくれた


暗黒騎士「あまり無茶をするなと言っているだろう」コツン

喪女「み゛ゃゥ」


こういう時、とっさに可愛い声で「きゃんっ」とか、なかなか出ない

ちょっとこういうシチュエーションは憧れてたのに……自己嫌悪
なんだろう、今の轢かれた猫みたいな声。

18 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:28:45 ID:Ncmbc8/o

暗黒騎士「ほら。かごを外して、渡せ」

喪女「……うん!」


それでも暗黒騎士は、私のことをいつも暖かく見守ってくれる


しんどいとさえ思っていた木の実集めも、
たくさんの仕事を早くこなせるように頑張ることも、全てが楽しいものに代わっていった

全部が全部、暗黒騎士に会う為なら がんばれるような気がした


・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・

19 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:29:23 ID:Ncmbc8/o

――――――――――――――――――――

さらに別の日 生命の樹の根元



喪女「…それで、こうやって皮手袋を二重にしてイガが刺さらないようにしてたら…」

暗黒騎士「想像に難くない。思うように指先が動かせなくなったな?」


今日は、暗黒騎士とゆっくりおしゃべりをしている
必要なだけの木の実あつめも、仕事も、すっかり済ませておいたから

私、やれば出来る子。



喪女「なんでわかっちゃったんですか! そうなんです、だから結局、刺さらないように慎重にやるしか…」

暗黒騎士「そんなもの、刃で引き裂いてしまえばいい」

喪女「ふふ。中の実が傷ついたら、使い物にならなくなっちゃいます。だからみんな手で剥くんですよ!」

暗黒騎士「俺であれば、イガだけを剣で剥いて見せることも可能だな」

喪女「自信過剰っていうんですよぉ、ソレー」アハハ

暗黒騎士「言ってくれる。なら試しにひとつ……  っ!」

20 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:30:05 ID:Ncmbc8/o

暗黒騎士の表情が変わり、視線を丘の向こうへと流す

ザッザッ…
私もつられて耳を澄ますと、行進のような足音が聞こえた
ついで、8つほどの兜が見えてくる


喪女「あれ? あれは…もしかして公国の騎士団ですかね? こんな田舎町に一体何を…」

暗黒騎士「ちっ…。悪いが今日はこのまま帰る」


暗黒騎士は兜を手に立ち上がり、そのまま私に背をむけて――


喪女「え!? ちょ、暗黒騎士さん!?」

暗黒騎士「! 声が大き――…


思わず引き止めてしまった私の声に反応したのは
暗黒騎士だけではなかった


「見つけたぞ! あそこだ!!」

21 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:31:08 ID:Ncmbc8/o

喪女「え? え…? こっちに来る?」

暗黒騎士「見つかったか…… 厄介な」


公国の騎士団といえば、自警のための組織
特別悪いことをしたわけでもなければ、気にすることは無いはず

こんにちは!と声をかければ、にこやかに挨拶を返してくれる
喪女の知る限り、公国騎士団というのはそういった存在だった

だが



公国騎士C「誰かいます… 娘です! 人間の娘と一緒にいます!」

公国騎士A「娘も共に捕らえろ! 人間に扮している可能性もある!」


喪女「え、ええ? どういうこと…??」


私の頭は、すっかりパニックをおこしてしまった
おろおろして、思わず暗黒騎士の腕に掴まってしまうほどに

22 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:31:45 ID:Ncmbc8/o

暗黒騎士「……」


暗黒騎士(このまま俺が逃げてはこの娘が尋問される。だが連れて逃げたところで…後日、調査が入るだけだ)


暗黒騎士は、私と話す為に外していた兜を被りなおした

悠々とした動作のその間に、あっさり公国騎士団によって囲まれてしまう
だけれど、私を軽く抱いた暗黒騎士さんは、怖気た様子も無く堂々と立っったままで…


騎士団長「目撃情報は確かだったか。…貴様、暗黒騎士だな」

暗黒騎士「……なんだ。素知らぬふりでもしてやろうかと思ったのにな。既に情報を持っていたならつまらん」


世間話をするくらいの気軽さで、話を始めた

23 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:32:26 ID:Ncmbc8/o

騎士団長「その漆黒の全身甲冑、すぐにお前だとわかる。身を守る為のものの筈が… 逆に仇になったな」ニヤリ

暗黒騎士「コレは、いざとなればこの身が盾となり主君を守れるよう、硬度を必要として着込んでいるだけ」

暗黒騎士「はなから我が身を守るつもりでは着てないさ」


そういうと暗黒騎士さんは私を後ろへと押しやった
その更に後ろにあるのは生命の樹。ここなら背後を狙われることも無い


騎士団長「ふ。さすがは魔王軍幹部。腕にも自信はあるようだな」

暗黒騎士「……」

喪女(! ……魔王軍… 幹部!?)

24 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:33:18 ID:Ncmbc8/o

騎士団長「公国軍騎士団の誇りにかけて貴様を捕らえさせてもらう。覚悟はいいか」


スラッ… ジャキン!

騎士たちは一斉に抜剣し、構えをとった
戦闘知識なんてない私にもわかるほど、ピリリと空気が張り詰める


暗黒騎士「お前は戦いの度に、いちいち覚悟を決めているのか?」


軽口をたたきながらも、暗黒騎士は剣を引き抜き、片手で構えを取る
見えないけれど、きっとその口元も兜の中で微笑しているんだろうと思う

これだけの刃に睨まれているのに、恐怖なんてしていないようだった


騎士団長「ちっ。気取るな、外道騎士が」


騎士団長が剣を振りかざすした次の瞬間、暗黒騎士は意外にも前に躍り出た

暗黒騎士の剣と騎士団長の剣。激しい剣戟の響きが続く
そこに次々と、他の騎士たちも加勢していった

25 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:34:06 ID:Ncmbc8/o

暗黒騎士は公国騎士達の剣を全てかわしているけれど
少しづつふもとの方へ追いやられているようにも見える


喪女(暗黒騎士さん一人に、こんな大勢で…… わ、私も加勢しなきゃ!)


もっていた剥きかけの木の実を思い切り投げてみる

木の実は公国騎士の鎧に当たり、転がり落ちただけ
それでも、公国騎士はピクリと反応し 手が、止まった


喪女(やった!)


だが


騎士団長「邪魔をするな娘。邪魔をするならば、貴様も魔王軍の手のものと判断し、お前から捕縛させてもらうぞ…」ギロ

喪女「っ」

26 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:34:56 ID:Ncmbc8/o

ほんの一睨み
でもその眼は、私を震え上がるのには充分すぎる威圧感を放っていた

怖さのあまりへたりこみそうになったけれど
生命の樹にだきつくようにして なんとか私は身体を支えた

そんなやりとりを聞いた暗黒騎士は
他の騎士たちの剣を一蹴してから、一言だけ呟く


暗黒騎士「……勘違いしないでもらいたいな」



公国騎士「何……?」

喪女(……暗黒騎士さん…?)


暗黒騎士「このように艶やかさも色気も足りぬ小娘、情報収集の手段として利用していたに過ぎぬ」

喪女「!!」

27 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:35:55 ID:Ncmbc8/o

暗黒騎士「この娘、どうやら男に不慣れらしい。すこし撫でてやれば操るのも簡単なものだ」クク


公国騎士「……騎士の風上にも置けぬ輩めが。やはり、外道騎士であったか」

暗黒騎士「……なんとでも?」


喪女「暗黒…騎士、さん…。そんな」


考えてみれば、当たり前のこと
やっぱり、あんなに格好いい暗黒騎士さんが、私のことなんて女として見てくれるはずはなかったんだ


喪女「暗黒騎士さん……!」


呼びかけたが、暗黒騎士は僅かに覗くその目すらあわせてくれない
兜に覆われたその顔は、ただ無機質なまま冷え切ってそこにあるだけ


喪女「う……」


あまりのショックに涙がこぼれた

28 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:36:32 ID:Ncmbc8/o

本当なら、思い切った平手打ちでもしたい
でも―― 実際には私は あの騎士達が剣を構えて争うその場にすら、恐ろしくて向かっていけない

明らかに異質。ここに私の居場所は無い


喪女(ううん。私には 暗黒騎士さんの隣なんて…… 最初から、場違いだったんだ)


悔しさのあまり、走ってその場から逃げ出した


そのすぐ後に、激情した騎士団長が剣撃を繰り出す
激しい戦闘音を横目にすりぬけ、私は一目散に丘を降りた



丘の中腹ほどまで走った頃に、ふと気がついた


喪女(……視線…?)

29 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:37:16 ID:Ncmbc8/o

立ち止まり、振り向く

騎士団長の攻撃を避けながら、あるいは受けながらも
暗黒騎士のその目は 時折、私を追っている


私の逃げ道が安全であるかどうか、確認してくれているのだ


喪女(あ…… もしかして)


全ては、私を安全に逃がすためだった?


喪女(追いつめられるふりで私から離れて距離をとろうとしてた…?)

喪女(私が、暗黒騎士さんの仲間と思われないために、わざとあんなことを言った…?)


そう考えるほうが、自然。


暗黒騎士は、他の騎士たちの剣を軽々と一蹴したんだ
なら、追い詰められて丘を後退するなんておかしい

あのタイミングで
わざと騎士団長を怒らせて事態をこじらせるなんて、おかしい……!!

30 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:41:05 ID:Ncmbc8/o

喪女(私…… 卑屈に、なりすぎて。自分のコンプレックスに負けて…)

喪女(守ろうとしてくれた暗黒騎士を、見捨てようとしてる…?)


少し遠くなった金属音。
恐怖を飲み込み、私は丘を引き返そうとした


でも暗黒騎士はそれに気付いて
公国騎士に悟られぬよう、私へ合図を出してきた


『行け』


喪女「--っ」


暗黒騎士さんが合図を送るために生んでしまった一瞬の隙
ほんの少し、空降らせてしまったかのようなカモフラージュ

そこに、騎士団長の一撃が入る。剣ではなく、足蹴の一撃

31 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:42:06 ID:Ncmbc8/o

これは暗黒騎士も予想外だったのか、みぞおちに容赦ないダメージをくらった


暗黒騎士「ぐ・・・っ」

喪女「!!」


悔しいけれど、このままでは私はただの足手まとい
私は丘を登ろうとしていた足をとめ、再度 踵をかえした。


そしてそのまま―― 逃げ出す、フリをした



そうでないと、暗黒騎士はうまく戦えない
でも…見捨てるだけなんて、やっぱり出来ない


丘を迂回し、生命の樹の陰にはいるようにしてそっと近づいていく


騎士団員は皆、暗黒騎士に注目している
もしかしたら気付いている人もいるのかもしれないけど、私なんかには注視していない

32 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:43:11 ID:Ncmbc8/o

迂回している間に、暗黒騎士はさらに一手くらわされていたようだった
みぞおちのあたりを片手で押さえつつ、その手甲からも血が滴るのが見える

『喪女を逃がすための時間稼ぎ』――
その為に負ってしまった怪我とダメージに、本当に思うように戦えなくなってしまったようだった


喪女(私が・・・ 私の、せいだ)


見上げた先にあるのは、生命の樹
その奇跡の果実


喪女(これがあれば・・・。せめてこれを渡すことが出来れば、暗黒騎士さんは・・・!)


思うよりも早く、身体が動いていた
樹に手をかけて一心不乱に登った

33 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:44:15 ID:Ncmbc8/o

綺麗なハイヒールなんて履いてなくてよかった
豪奢なドレスも、重たい装飾品もつけてなくてよかった


喪女で、よかった。


だって、そんな風に着飾っていたら
こうして・・・


貴方の為に、全力になることなんて出来なかったから




樹の上で、慌しくイガにつつまれた木の実を剥く
慎重になどしてられない。手に突き刺さるイガも気にせず、手早く剥き終えた

34 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:44:48 ID:Ncmbc8/o

深手を負った暗黒騎士は
今度こそ“身を守るために”、生命の樹に背を預けようと近づいてきていた


丁度いい
ここからなら、私でも おもいっきり投げればきっと届く
暗黒騎士なら、きっとうまく受け取ってくれる


喪女「暗黒騎士さん!!!」


私は精一杯、声を張り上げた

見つかって、魔王軍の仲間と思われて捕らわれてもいい
あなたに居なくなられたら・・・ ようやく出来た私の居場所も、なくなってしまう


私の声に、暗黒騎士はすぐに気づいてくれた


喪女「受け取って―――!!」

35 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:48:23 ID:Ncmbc8/o

木の実を投げ渡そうとした

だけれど、暗黒騎士は何を思ったか、受け取るための動作をとらず…
私のいる樹の根元へ、一直線に駆け寄ってきた


喪女「――何を・・・!」

暗黒騎士「何をしている!? こうなったらもう、君を抱えて逃げるくらいしか――


騎士団長「暗黒騎士ィィ!!!」

暗黒騎士「っ!」


騎士団長「窮地にあるからといって、背を見せて逃げ出すとは! その腐った根性ごと斬ってやろう!!!」


暗黒騎士を見ていた騎士団長は、樹上の私が見えていないらしい


暗黒騎士に隙が生まれた理由には気づかず
背後からここぞとばかりに 大振りの一手を―――……

36 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:50:16 ID:Ncmbc8/o

喪女「だめえええええええええええええええ!!!!!!!!」



騎士団長「なっ!? くっ……!」


私はその瞬間、手を広げて樹から飛び降り… 
暗黒騎士の上に、覆い被さった


ザシュッ!!!


喪女「っ… あ…」

暗黒騎士「喪女!!」

騎士団長「なっ!?!」


騎士団長「これは・・・ 先ほどの娘!? 馬鹿な、斬り合いの最中に飛び込むなど!」

喪女「ぐ、ぅぅっ!」

暗黒騎士「喪女!! 喪女!!?」

37 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:50:47 ID:Ncmbc8/o

騎士団長「やむを得ぬ…! 暗黒騎士、一時休戦を申し込む!!」

騎士団長「救護兵、手当てを! 一般人が負傷した!」

救護兵「はっ!」


騎士団長が呼びかけると、どこにいたのか 救護兵と呼ばれた白服の男が駆け寄ってくる
だけれどその人が近づくよりもずっと早く、暗黒騎士は私を抱きしめてくれた


暗黒騎士「喪女! 大丈夫か、今・・・!」

喪女「あ… あんこく…きし… さ」


ズルリ。

甲冑を叩き斬る勢いの一撃は、
私の肩口から背にかけて 大きく斬り裂いていた

腕も上がらない
僅かに残された力で、肘を曲げ… 手に持っていたものを、差し出す

38 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:51:20 ID:Ncmbc8/o

喪女「これ・・・ 回復、アイテ…」

暗黒騎士「まさか…… それを俺に届ける為に、戻ってきたのか!?」

喪女「えへへ…」ニコ

暗黒騎士「なんて無茶を……!」


喪女「あり・・・ が、と」

暗黒騎士「何を! 感謝をするのはむしろ・・・ 



私は 暗黒騎士の言葉を最後まで聞き取ることも出来ないまま……

そのまま、死んでしまった


・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・

39 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:54:15 ID:Ncmbc8/o

――――――――――――――――――――――

ふわふわと、心地よい

うっすらと記憶に残るのは 暗黒騎士の冷たく硬い鎧の感触
それと、兜の下にある 強面だけれど、感情豊かな漆黒の瞳

あまり抑揚もないけれど、意地悪で自信過剰な 優しい声音


最期が 好きな男の人の腕の中だなんて
私にはきっとそれだけで充分に生きた価値があるんだとおもう


私を守るために、見事な嘘をついてくれた暗黒騎士は
最後まで私を守ろうとしてくれて。

私は、そんな彼の役に立つために動いて、守るために死んだ


こんな死に方、最高だと思う
こんな人生、本当に…… 私には 出来過ぎてるよ


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・

40 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:56:50 ID:Ncmbc8/o

――――――――――――――――――――――

目が覚めると豪華な部屋の一室だった


「ここは…? あれ? 天国・・・?」


身を起こしてあたりを眺め見ると、大きくて立派な扉があった

あの先には閻魔大王でもいるのかな?
私は審判でも受けるんだろうか?


「……ダイジョブ。生前に悪いことなんて、なにも……」

「……」

「そ、そんなには、してないはず!」

ガチャ、と
勢い込んでドアを開けた

その先に居たのは、小柄なメイド服の女の子だった


メイド「ひ・・・!?」

「わぁ、すごいなぁ……。イマドキ、天国でも天使がメイド服を着たりするんだ…」ウンウン

41 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:58:23 ID:Ncmbc8/o

メイド「姫様!?!?」

「え?」


――姫様?




その後は、怒涛のように時間が過ぎた

何よりも混乱している私は、冷静さを失って歓喜している周囲にもみくちゃにされた
情報を得れば得るほどに余計に混乱してしまい 理解するのに時間がかかった


てっきり私は死んだと思っていたのだけれど、どうやら…


16年間眠り続けたままだという『魔王の“娘”の身体』に、
どういうわけか、憑依してしまっていた……らしい


・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・

42 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 01:59:23 ID:Ncmbc8/o

―――――――――――――――――――――――

魔王城 姫の部屋


姫(元・喪女)「…………これが、私…」


思わずお決まりの台詞を口にしてしまう
鏡を見る度に、そこに映るのは美しい少女の姿

自分で言うのは気恥ずかしいけれど
ほんのすこし 目元は喪女であった自分に似ている気がする

とはいえ、美しく細長い指先や 痛みのない長い髪などは比べようもない
喪女であった自分には持ち得なかったものばかりだ


それになにより・・・

コンコン


姫「は、はい! 開いています、どうぞ!」

43 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 02:00:18 ID:Ncmbc8/o

魔王「姫―! おっはよーーー!」バターン!!


姫「ま゛ッ!!!」 


目が覚めてから何度も…というか、四六時中そばにいたけれど
やっぱりその姿を見ると心臓が飛び出しそうになる


そう。私は『魔王の娘』の身体になっているのだから…
ここは魔王城で。当然、魔王がいるわけで。


魔王「…あ、あれ。身支度の途中だった? 出直したほうがいいかな」ショボン

姫「え、えっとっ…! だだ、大丈夫です!」


父親である魔王は、娘の身体である私を 何も知らずに溺愛してくれた
16年間眠り続けた娘の目覚めを何よりも喜んだのは間違いなくこのヒトだ


魔王「そう? よかったー」ニコニコ

44 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 02:02:31 ID:Ncmbc8/o

魔王というくらいなんだから、もっとこう
『ゴゴゴ』みたいなのを想像してたんだけど。見た目は普通の人だった


姫(あ、訂正。やっぱり普通の人…ではないかな。よく見るとマントの下に尻尾生えてるし)

姫(角も生えて…… っていうか、角なのかなぁ、あれ)

姫(二箇所だけ、髪型がモコっとしてるところあるんだよね… 髪に埋もれてよく見えないけど……)


姫「……やっぱり、あれは耳なのかな…」ボソ

魔王「!? 耳じゃないよ! ちゃんと角だよ!?」


魔王が髪を掻き分けると、中から角が見えた
くるくる丸まった、ヒツジみたいな角だった


姫(……っていうか、口に出てた!? あの『魔王』に対して、私って命知らずすぎる!!)

姫(娘さんの身体じゃなかったら、きっと余裕で死んでたとこだよ!!)

45 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 02:03:25 ID:Ncmbc8/o

姫「お、おはようございます! 魔・・・じゃなくって。 と、父様!!」

魔王「うんっ おはよー! よく眠れた、姫?」ニッコリ


挨拶すると、魔王は嬉しそうに微笑んで近寄ってきた
横に立って、私の頭を愛しそうに撫で回す

こんなに暖かい掌、喪女だった時には知らなかった


メイド「失礼します」ペコリ

メイド「魔王様? 女性の部屋の扉は、開けたならば閉めていただかなくては」ニッコリ


魔王「えっ、開いてた!? ごめん!」

姫「あ、いえ。…私は別に構いません」

メイド「姫様なのですから、構っていただかなければ困ります」クスクス

46 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 02:05:08 ID:Ncmbc8/o

メイド「姫様、おはようございます。よくお眠りになられましたか?」

姫「うん。 じゃなくて、えっと… はい」


メイド「ふふ。お身体こそ立派に成長なされましたが、まだまだ幼さの残る振る舞いですね」

メイド「さすがに16年も眠り続けられたのですから、仕方のないことですが」クスクス

姫「ご、ごめんなさい(本当はこれが地のまま、この年になりました…)」ショボン

メイド「…ふふ。そのように肩を落とさずとも、大丈夫ですよ」


メイド「ゆっくり、ゆっくり。みんなついていますから・・・ 一緒に ひとつづつ時間を埋めていきましょうね」

魔王「俺もついてるよ」

魔王「姫は起きたばかりなんだ… 今はゆっくりと生活に馴染むことだけ考えていていいからね」ニコ

姫「……」


これまで、ないがしろにされつづけてきた自分は 
こうして皆に愛されることなど初めてで・・・ それこそ、“持ち得なかったもの”だった

47 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 02:08:01 ID:Ncmbc8/o

何もかもが夢の中なのではないかと錯覚しそうになる

メイドに、実は自分は町に住む喪女なのだと話してみたりもしたが
彼女は愉快そうに『それはそれは、随分と忙しい夢をご覧になっていたのですね』と笑っただけ


姫(喪女としてすごした16年こそが… 昏睡の中で見ていた、夢だったりして…?)


暗黒騎士との出会いだって、思い返してみると夢物語のように思える

貧しい生活の中でがんばって暮らしていて。
ある日偶然であった素敵な騎士に助けられるなんて、夢みたいな話で。
お互いに守りあって、最後には命をおとしてしまうなんて出来すぎた悲恋で。


姫(……本当に… 夢、だったのかも…)


そんな風にしか思えない『喪女としての自分』
それでも16年間のその記憶は確かに自分の中に残っている

私は夢とも現実ともわからないまま、それでも少しづつ
姫として… 魔王城に馴染んでいった


・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・

48 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 02:09:19 ID:Ncmbc8/o

――――――――――――――――――――――――

しばらくたったある日
魔王城 庭園
 

魔王「姫ー! お茶にしようよ! はやくこっちにおいでー!」ブンブン!

姫「はーい!!」


案内されたのは、花々の咲き乱れる庭園だった

若干、というか 全体的に黒い花が多いけれど
それでもあちらこちらに色々な花が咲いて賑やかな庭園


姫「うわぁ・・・! 綺麗・・・!」

魔王「姫は花が好き? そうだ! 似合いそうな花を選んで、摘んであげるよ!」

姫「えっ そんな! い、いいですよ!」

魔王「ん~~ これなんてどうかなぁ?」


姫(聞いてないし!!)

49 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 02:10:51 ID:Ncmbc8/o

魔王が選んで指をさした花は
大きな葉の茂る、黄色い巨大な花だった


姫「わ、わぁ」


それはヒマワリとかの、そういう元気な花ではなくて。
なんというか、いかにも『毒花の鮮やかさと妖艶さ』を併せ持っている花だった


姫「……さすが魔王城って感じです!」

魔王「えっと…。 これじゃだめかな。 気に入らない・・・かな?」


姫(……あ。すっごい不安そうにしちゃってる…)


魔王「ご、ごめん。あんまりこういうセンスはなくて・・・ 一番おっきくて、色もハッキリしてて、綺麗だとは思うんだけど・・・」


姫(ふふ。こんな魔王だなんて。花を選ぶのに必死になるなんて……)


姫「いいえ。すごく、すごく気に入りました! ありがとうございます、父様!」ニコッ

魔王「!」パァッ

50 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 02:12:07 ID:Ncmbc8/o

私の言葉は嘘なんかじゃなかった。
こんな風にして選んでくれた花を、気に入らないなんてありえない


姫「でもそれ、随分と大きな葉が茂っていて・・・ 切花にするのは難しそうですね?」

魔王「んー…… なら、一回抜いちゃえばいいんじゃないかなぁ」

姫「抜け……ますかね? 結構大きいし、根も深いんじゃないですか?」


魔王「うんこらしょーって、一緒にやってみよっか! あはは!」

姫「あはは。それならなんとかなるかもです! やってみましょう!!」


魔王は葉を掻き分けて、その茎の一番太い部分を両手でつかむ
私はその魔王の肩の当たりにつかまって、ひっぱった


魔王「よっこらしょー♪」グイー

姫「ど、ど… ど…っこい、しょぉー…ッ!」ググググ

51 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 02:12:55 ID:Ncmbc8/o

魔王は力を入れてるのか入れてないのか、花は抜けない
私ばかり、本気を出しているような気もする


魔王「もっともっと力いれてー♪ せーの、うんこらしょー、どっこいしょー♪」

姫「す、すっとこどっこいしょーぉぉッ!!!」フンヌー!!

魔王「ちょっ、なんか違うよ!?」

姫「ふぬぅぅぅう!!」ムギギ


つい、こういうのって熱くなってしまう
私は魔王のツッコミも無視して、引っ張り続けた


姫(ハイヒール! 超、邪魔!!!)


魔王「あはは。姫、そんなに引っ張らなくて大丈夫だよ。ちょっとした冗談だから」

姫「えっ」

魔王「多分、俺一人でも片手で抜けるよ、これ。あはは」

姫「 」

52 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 02:15:04 ID:Ncmbc8/o

あっけに取られて、魔王の肩から手を離す

本気をだしてしまったのが少し恥ずかしいけれど
考えてみればこのヒトは魔王なのだし、花が抜けないなんてこと、あるわけもなかった


がっくりとしていた私の背後を
通り過ぎようとした人影が、足を止めた


暗黒騎士(あれは… 魔王様? それに…)ジー


魔王「んじゃ抜くよー。見ててね、姫! できれば応援もね!」

姫「あ、はい…。 がんばれー父様―…」ハァ


暗黒騎士「!?!?」ギョッ


暗黒騎士「魔王様! 姫様! いけません、それは・・・!!!」ダダダッ


魔王・姫「「え?」」


暗黒騎士「くっ…… 御前、失礼!!」

53 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 02:16:23 ID:Ncmbc8/o

いきなり剣を抜いて振りかざし、こちらに駆け寄る暗黒騎士
離れた場所から高々と飛び上がり、花の上から一直線に・・・

ザクッ!!!!


『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ』


姫「ひゃぁぁぁぁっ!?」ビクッ!!

魔王「これは・・・!」



暗黒騎士「姫様! ご無事ですか!?」

姫「あ、頭が・・・ぐらぐらします・・・っ!?」


魔王「ちょ、暗黒騎士! 俺の心配は!?」

暗黒騎士「魔王様がアルラウネごときの叫びにやられるわけはないでしょう!」

魔王「いやまぁ、確かに ちょっとうるさかった程度だったけど…」

暗黒騎士「ですが、攻撃に対する耐性の弱い姫様が もし本当にアルラウネの叫びを聞いていたらどうなっていたか…」

魔王「アルラウネって、何??」

54 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 02:18:16 ID:Ncmbc8/o

暗黒騎士「……魔王様。いくら自分には影響しない魔物だからと言って、勉強不足すぎます。危険生物の把握くらいは、しておいてください」

魔王「なんでそんなもんが俺の庭に生えてるの?」

暗黒騎士「不審者用の警備の一環にきまっているじゃないですか! それをわざわざ姫様の前でお抜きになるなんて!!」

魔王「え゛」


その後、魔王は土下座の勢いで謝ってくれた

でも私は、一度こぼれだしたら止まらなくなってしまった涙を抑えられず
両手で顔を覆って、その場にへたりこんでしまっっていた


姫(暗黒騎士・・・ 夢じゃない・・・ 本当に、本当に 暗黒騎士は居たんだ・・・!)


魔王も暗黒騎士も、恐怖ゆえだと勘違いして 優しく慰め続けてくれた
だから私は余計に、その嬉し涙を堪える事が出来なくなっていた

また、暗黒騎士に会えたのが…… たまらなく、嬉しかった


・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・

55 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 02:19:29 ID:Ncmbc8/o

―――――――――――――――――

その夜、姫の自室


姫(………暗黒騎士さん…)

私は部屋でひとり、ぼんやりと鏡台に向かって座り、髪を整えていた
1日中くくっていたはずの長い髪は、髪飾りを外すと するりと解ける

鏡の中にいる、美しい姫君の姿

わずかにうねった髪も、その艶は失わないままで
かえって艶めかしさを増した雰囲気をかもし出している


姫(・・・・・・今の、私なら)


喪女ではない、『本当の姫』の事を思うと 心が痛んだ

暗黒騎士は本当に実在した
なら、喪女だった私はも実在したのだろう

今の私は、『偽者の姫』
なら、この身体の持ち主である『本当の姫』もいるはずなんだ

56 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 02:20:57 ID:Ncmbc8/o

なのに


鏡の中の、この 姫君なら
きっと、あの凛々しい暗黒騎士ともよく釣り合うとおもった


姫(……どうして、私がこんな身体になっちゃったのか わからないけど……)


姫(…ごめん、なさい。あなたの身体を……もう少し、貸していて…)


もうすこし
もうすこしだけ。


私に あの日の夢の続きを、見させてください――……


・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・

57 :生キャラメル ◆XksB4AwhxU:2015/03/04(水) 02:25:27 ID:Ncmbc8/o
眠くなってしまったので、今日はここまでにしときます
なるべくソッコーで完結するようにがんばります

58 :以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/04(水) 05:35:06 ID:OCOoiCig
どこかで見た名前だなー生キャラメル

59 :以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/04(水) 06:27:23 ID:zvKgM3Zg


60 :以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/04(水) 08:25:30 ID:svUwQFs.
暗黒騎士のひとかと思ったらアンタかあああ

おかえりって言っていいのかな?
てか、もっとゆっくりしてもいいのよw



61 :以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/06(金) 00:04:51 ID:VpFkgq1g
期待

62 :以下、名無しが深夜にお送りします:2015/03/06(金) 03:27:19 ID:bNTwV6QU
あく

2/2へ続く
posted by ぽんざれす at 10:14| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アラサー賢者と魔王の呪い

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1433640683/


1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/07(日) 10:31:33.41 ID:ikDVrmYL0
ここは魔物と人間が存在する、剣と魔法の世界。

賢者「それじゃあ皆、ちゃんと復習しておいてね」

教え子達「はーい」

この国には、世界でも高名な賢者がいた。

教え子「先生、さっき習った所ですけど…」

賢者「あぁちょっと待って。座りながらやりましょう。この歳になると立ちっぱなしは辛くて辛くて…」

教え子「えー、先生まだ若いでしょ?」

賢者「十分おばさんよ。最近なんて肩こりがひどくて…」

教え子(それは…その豊満な胸のせいだと思います)

賢者は魔法の学び舎を作り、自分の知識を教え子達に教えていた。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1433640683

2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/07(日) 10:32:16.61 ID:ikDVrmYL0
賢者「ふわわぁ」

魔法戦士「先生、お疲れですね」

賢者「あら魔法戦士君」

家の前で教え子の魔法戦士に出会った。
彼は魔法の腕で言えば劣等生だが、明るい性格の人気者である。

それに…

魔法戦士「はい先生これ差し入れ。うちでとれた野菜で作った煮物と漬物だよ」

賢者「まぁ、ありがとう。助かるわぁ。最近ジャンクフードばっかりでね…」

農家出身の魔法戦士は、授業料を現金ではなく食材で払っている。
彼は魔法以外のことに関してはズボラな賢者の食生活を支える、貴重な存在となっていた。

魔法戦士「駄目だよ先生、ちゃんとバランス良く食事取らないと。美人を保てないよ!」

賢者「うふふ、こんなおばさんに嬉しいこと言ってくれるわね。魔法戦士君、モテるわけだ」ウンウン

魔法戦士「~っ…子供扱いすんなよ」

賢者「あぁ、ごめんね」

賢者(魔法戦士君も成人手前だもんね。私から見れば子供みたいなものだけど、子供扱いなんて嫌よね~)

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/07(日) 10:33:25.67 ID:ikDVrmYL0
魔法戦士「じゃあな先生。また明日」

賢者「バイバ~イ」

賢者(教え子達が帰っちゃって、この時間になると寂しくなるわねぇ)

魔法にばかり没頭し、見合い話も断り続け、気付けば30手前。
女性の平均初婚年齢20前半のこの国において、賢者はいわゆる嫁き遅れだった。

賢者(まぁ、いいんだけど。私は魔法と結婚したようなものだし――)

最後にときめきを覚えたのはいつ頃か。
確かほんの小さな子供の頃、近所の青年に憧れていた。だけど、それが最後。

賢者の恋愛経験は、ませている少女たちよりも遥かに拙かった。

賢者(好きな人がいないのに結婚なんてねぇ…)

賢者(何かこう、一緒にいてドキドキして、ぎゅーって抱きしめてもらいたくなるような…)

そして30手前にして、年齢不相応に夢見がちだった。

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/07(日) 10:34:02.40 ID:ikDVrmYL0
そんな日々を送っていたある日のことだった。

王「そなたが賢者か」

賢者「はい」

賢者はある大国の王に呼ばれて城にやって来ていた。

王「話には聞いていたが、本当にまだ若いのだな」

賢者(ふふふふ、初老の家臣に囲まれている王様にとってはまだ若く見えるのね~♪)

王「そなたの功績は聞いている。山の火災を沈めたとか、盗賊の群れを撃退したとか、名声に恥じぬ実力の持ち主のようだな」

賢者「光栄ですわ。そして王様、今日はどのような御用で?」

王「実は…魔王を名乗る者が現れた」

賢者「!」

王の話によると魔王を名乗る者は先日、王の前に現れて、この世界を征服すると宣言をしたらしい。
唐突に現れた不審者に、城の兵士達は向かっていったが、その者はたった1人で、100人余りの兵士達を倒してしまったそうだ。

王「そこで、そなたにその者の討伐を依頼したい」

賢者「私が…ですか?」

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/07(日) 10:34:58.05 ID:ikDVrmYL0
魔法戦士「で、引き受けちゃったの先生!?」

賢者「まぁ、放ってはおけないしねぇ…」

家に戻った賢者は、早速荷物をまとめていた。
彼女の家に夕飯を作りに来ていた魔法戦士は、賢者とは正反対に慌てていた。

魔法戦士「1人じゃ危険だ!せめて誰かを連れて…」

賢者「私、人と協力して戦うのって苦手なの」

魔法戦士「でも先生…そんな凄い相手と戦うなんて…」

賢者「ふふ、心配しないの。先生、とっても強いのよ?」

魔法戦士の不安を沈めるように、彼の頭を撫でる。子供扱いしてはいけないとわかっていながらも、そんな不安そうな顔を見たらつい、大人ぶってしまう。

魔法戦士「先生…約束して」

賢者「なぁに?」

魔法戦士「絶対戻ってくるって…俺、まだ先生と一緒にいたい!!」

賢者「えぇ、約束するわ。魔法戦士君が成長した姿を見るまで、先生は死ねないわ」

魔法戦士「だから、子供扱いやめてって…」

賢者「ふふふ、ごめんなさいね」

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/07(日) 10:35:47.49 ID:ikDVrmYL0
賢者「さて、ここかぁ…」

王から魔王討伐命令を受けて2日後に、賢者は魔王の城に来ていた。
王城に残っていた魔王のわずかな魔力から居場所を特定するにやや苦労はしたものの、わかってしまえば移動魔法ですぐだった。

賢者「お邪魔しまーす」

魔物達「!?」

正面から堂々と乗り込む賢者は、まるで勝手知った道を歩くかのように堂々としており、その姿が魔物達をかえって動揺させた。
しかし賢者が自分たちの敵であることは、魔物達も一瞬遅れてだが察知し――

魔物達「であぁ――ッ!!」

その場にいた者たちは一斉に賢者に襲いかかったが――

賢者「えいっ」

魔物達「!?」

賢者が指をくるっと回したと同時、魔物達はそこから動けなくなった。

賢者「あまり、必要のない争いはしたくないんだ~。ごめんね」

そう言うと賢者は、停止した魔物達の間を通り、強い魔力を感じる方へと歩いて行った。

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/07(日) 10:36:26.92 ID:ikDVrmYL0
魔王「ここまで女1人で来たのか…」

賢者「移動魔法を使えば案外、楽に来れるものよ」

賢者は対峙した魔王に温和な笑みを向ける。

魔王(この女、只者ではないな)

賢者「ねぇ、人間との争いなんてやめにしない?身の丈に合わない欲は持つものじゃないわ」

魔王「フッ…面白いことを言う。我は魔王、魔王は世界を支配する者…!!」

賢者「それは間違いよ」

殺気を放つ魔王に、賢者は毅然と言い放った。

賢者「魔王は英雄に討たれる存在だって、昔から決まっているの」

魔王「面白いことを言う…!!」

魔王の魔力がぶわっと放たれ、やがてそれは炎の形を作った。

魔王「魔王に逆らう者よ、まずは貴様から葬ってくれよう!!」

賢者「――っ」

魔王の放った炎は爆炎となり、賢者に直撃した。
しかもそれは1発で収まらず、ドゴンドゴンと次々と絶えることなく放たれていった。

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/07(日) 10:37:06.80 ID:ikDVrmYL0
魔王「ふ…少々やりすぎたか」

100発程の爆炎が放たれた頃、魔王は攻撃の手を止めた。
壁には大きな穴が空き、煙が部屋に充満していた。賢者が攻撃を避けた様子は見られなかった。きっと、跡形も残っていないだろう。

魔王「城の耐久力に問題があるな。戦う度にこれでは、すぐに崩壊する」

賢者「貴方の戦い方に問題があるだけだと思うけど」

魔王「!?」

魔王は耳を疑った。
だが煙の中から現れたのは――

賢者「かなり乱暴なのねぇ。私から見れば不必要な力を使っているように見えるけれど」

魔王「貴様、何故生きている…!?」

それだけではない。
見た所外傷も無ければ、服や髪が焦げた様子すらない。

賢者「ガードしただけよ」

賢者は事も無げにそう言った。

一方魔王は冷や汗をたらす。相手を多少なめていたとはいえ、決して攻撃の手は抜いていない。
仮にガードしていたとしても、それなりのダメージを受けるはずだが…。

賢者「うん、貴方は魔物の王を名乗るに値する実力の持ち主だとは思うけれど」

賢者はそう言って魔力を放出した。

賢者「だけど魔王は決して、最強の存在ではないのよね~」

魔王「な…、何だ、この魔力は…!?」

魔王がそう呟いたと同時に――


ズシュッ

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/07(日) 10:37:44.89 ID:ikDVrmYL0
魔王「グ…ア…」ボタボタ

賢者「個人的には、力押しするのは好きじゃないのよ」

魔王の心臓から血が溢れる。
賢者の魔法は最低限の力で、魔王の急所を確実に突いていた。

だが、出すべき力を見誤った。
本当なら一擊で仕留めるつもりだったが、魔王は思ったよりも耐久力があった。
そのせいで無駄に苦しめてしまう…反省。

賢者(トドメを…)

魔王「ハァ、ハァ…」ニヤッ

賢者(え、何?)

魔王の笑みに一瞬躊躇する。
しかし、それが間違いだった。

魔王「まさか貴様程の実力者が人間にいたとはな…!!だが、ここに来たのは間違いだったな!!」ゴオオォ

賢者(この力…命を燃やしているの!?)

魔王「喰らうがいい、我の最後の力だ!!」

賢者「!?」


そしてその場は、光に包まれた――

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/07(日) 10:38:15.61 ID:ikDVrmYL0
賢者「う、うーん…」

気を失っていた。
体に痛みはない。だけど何だか、違和感が…。

賢者(魔王は死んだのかしら…?)

最後の瞬間、魔王は何をしたのか。
喰らってしまったのは自分の失態だ。だがそれを悔いていても仕方ない。

賢者(とりあえず帰って王様に報告を…)

と、立ち上がろうとした時。

賢者「…あら?」

違和感の正体がはっきりわかった。

賢者(私の体が…)

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/08(月) 17:49:41.71 ID:GcR/6xok0
>王城

王「うーむ、魔王城の方で大きな魔力の動きがあったそうだが…賢者は上手くやっただろうか」

兵士「王様!魔王城に偵察に向かった者からの報告で、魔王の死亡が確認されました!!」

王「おぉ、そうか!!賢者よ、よくやってくれた…!!」

兵士「それが…賢者殿が…」

王「どうした!?まさか賢者に何かあったのか!?」

兵士「はい…賢者殿も帰還されたのですが、その…」

王「?」

兵士「見て頂いた方が早いでしょう。賢者殿、お入り下さい」


「はい――」


王「!?」

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/08(月) 17:50:27.78 ID:GcR/6xok0
賢者「王様、只今戻りました」

王「え…え!?」

賢者「少し予想外なことはありましたが、無事魔王を討つことができました」

王「え、あ、いやちょっと待…え!?」

賢者「何か?」

王「そりゃ…」

王と話している彼女は、王の知っている賢者ではなくて――

王「どう見ても、子供ではないかーっ!?」

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/08(月) 17:51:01.68 ID:GcR/6xok0
賢者「魔王の呪いです」

王「呪い!?呪いで子供になったのか!?」

賢者「はい。魔王の目的は私を無力化することだったのでしょう…」

賢者は小さくなった自分の手を見た。

賢者「魔法が上手く使えないんです。この歳の頃、私はまだ魔法を習い始めたばかりでしたから」

王「そうか…大きな代償を払わせてしまったな」

賢者「いいえ、この程度で脅威が去ったのですから良いのです」

王「うむ…本当によくやってくれた。魔法力を失った分これから苦労するだろうが、生活に困窮しないよう我が国からも支援しよう」

賢者「かえって申し訳ありませんわ」

賢者(でも魔王討伐の報酬としては妥当かしらね)

賢者(魔法の知識は失っていないから魔道書の執筆もできるし)

賢者(それに…)

賢者は鏡を見る。
今の自分は大体10歳頃。何だか体が軽く感じる。

賢者(私若返ったのよね~、肌もツヤがいいわ~)

賢者はどちらかというと、今の状況を楽しんでいた。

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/08(月) 17:51:35.45 ID:GcR/6xok0
生徒A「ほ、本当に先生なの!?」

賢者「えぇそうよ、びっくりした?」

家に戻った賢者は、早速生徒達に囲まれていた。
自分より頭1つ分以上大きな生徒達を見上げるのは、何だか新鮮な気分だ。

生徒B「きゃあ、先生可愛い~。ぎゅってさせて~」

生徒C「っていうか先生、子供の頃から胸それなりにあったんですね…うぅ、敗北感」

生徒D「先生、体に問題はないの!?」

賢者「えぇ、魔法力は失ったけど知識は失っていないわ。授業もちゃんとできるから、心配しないで」

賢者は生徒たちを心配させないよう、明るい笑顔を見せていた。

魔法戦士「先生…」

だが、浮かない顔の生徒もいた。

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/08(月) 17:52:15.30 ID:GcR/6xok0
賢者「どうしたの、魔法戦士君?」

魔法戦士「その…元に戻る方法はないんでしょうか」

賢者「うーん、私の知る限りではわからないなぁ。探せばあるかもしれないけど」

魔法戦士「先生はそのままでいいんですか!?」

賢者「だってこうなっちゃったものは仕方ないじゃない」

魔法戦士「それはそうだけど…」

賢者「ふふ、心配ありがとうね魔法戦士君。でも先生、君の成績の方が心配だなぁ」

魔法戦士「先生…」

賢者「じゃあね魔法戦士君、明日までに宿題ちゃんとやっておいてね」

魔法戦士「ま、待って先生!!」

賢者「あら、なーに?」

魔法戦士「あ、危ないから送っていくよ」

賢者「まぁ、ありがとう魔法戦士君、それじゃあ甘えちゃおうかしら」

魔法戦士「うん…」

賢者(こうやって心配させちゃうのも悪いし、元に戻る方法も探さないとね)

賢者(ううぅ、でも若い体に未練はあるなぁ~)

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/08(月) 17:52:54.89 ID:GcR/6xok0
>翌日

生徒A「でね~…」

賢者「はいはーい、皆おはよ~」

生徒B「あ、先生。おはようございまーす」

賢者「早速席について…あら?」

背が縮んだせいか、いつもと光景が違うことに気付くのが遅れた。

賢者「E君達は遅刻かしら?」

教室には、何名かの生徒がまだ来ていなかった。

生徒C「先生がいなかった時の休みボケしてるのよきっと。先生、授業進めちゃって下さい」

生徒D「これだから男子は…あ、ごめんね魔法戦士、あんたみたく真面目に来てる男子もいるのにね」

魔法戦士「いや…」

賢者「それじゃあ、本を開いてね~」

魔法戦士「…」

だがその日、結局いなかった生徒達が来ることはなかった。

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/09(火) 18:41:36.35 ID:cq54Ny550
賢者(E君達どうしたのかな~。休みの間羽目を外して体壊しちゃったかしら?)

授業後賢者は、着る服を探しに街をぶらついていた。

賢者(あぁ、これフリフリ…こういうの若い時に敬遠してて、結局着られない年齢になっちゃったのよね~)

賢者(で、でも中身はオバサンだって皆知ってるんだし…やっぱり落ち着いた服を着るべきよね)

と、その時。

魔法戦士「…」タッタッ

賢者(あら、あれは魔法戦士君…)

人ごみの中、魔法戦士を見かけた。
何やら険しい顔つきで走っていくが…。

賢者(どうしたのかしら)

自然と、視線が魔法戦士の向かう先へ行く。
すると…。

魔法戦士「おい!」

生徒E「っ!」

賢者(あ、E君達だわ)

魔法戦士は今日の授業に来なかった3人の男子生徒の肩を掴んでいた。

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/09(火) 18:42:08.55 ID:cq54Ny550
賢者(な、何、喧嘩かしら?)

子供同士の喧嘩に大人が介入するのは良くないとは思うが、もし殴り合いになったら止めねば。
そう思い、少し離れた所から見守ることにした。

生徒F「何だよ魔法戦士…」

魔法戦士「今日、何で授業休んだんだよ。どっか悪いわけでもないだろ」

生徒F「いやー…」

生徒G「別に、何でも…」

魔法戦士に追及された生徒達は皆、微妙な顔をして言葉を濁していた。

魔法戦士「理由言えよ」

だが魔法戦士は食い下がり、しばらくそのやりとりが続いた。
賢者は不穏な空気にハラハラしながら、その様子を見ていた。

生徒E「いや、何ていうか…」

そこでようやく、1人の生徒が話し始めた。

生徒E「先生があんな姿になっちゃったから…」

賢者「え?」

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/09(火) 18:42:55.39 ID:cq54Ny550
生徒F「なー…何かあの姿の先生に魔法習うのは、ちょっと…」

魔法戦士「関係ないだろ。子供の姿にはなったけど、中身は大人のままだぞ」

生徒E「いやー…なぁ?」

生徒F「やっぱほら、美人な大人の先生だったから通ってたわけで…」

生徒G「俺ら元々、魔法そのものに興味ないんだよ」

魔法戦士「何だと!!」

賢者(まぁ…)

少しショックではあった。
彼らは優等生だったわけではないが、この前まで親しくしていた生徒達だ。

生徒E「戦闘職にはつかないから、もういいかなーって思ったんだよ」

魔法戦士「お前らな、今まで世話になった先生に申し訳ないと思わないのかよ!?」

生徒F「思うよ。けどなぁ、あれじゃやる気が…」

彼らが言い争いする一方、賢者は思いを巡らせていた。

賢者(そうかぁ…でも自分で選択することだし、私に引き止める権利なんてないわよね…)

生徒G「先生には謝っておくよ…魔法戦士も、ごめんな」

魔法戦士「~っ、なぁ、もうちょっと考え直してくれないか」

賢者(あの様子なら多分、暴力にはならないよね…)

これ以上聞いていられなくて、賢者はその場から離れた。

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/09(火) 18:45:15.33 ID:cq54Ny550
賢者「も~、ちょっと落ち込んじゃうなぁ」

家に戻った賢者は、魔道書の執筆作業に取り掛かっていたが、なかなかペンが進まずにいた。

魔法戦士「先生、野菜の差し入れに来たよ」

賢者「あ…魔法戦士君」

魔法戦士「?」

さっき見ていたことを思い出し複雑な気持ちになるが、見ていたとは言えない。

賢者「いつもありがとう。そこに置いておいて」

魔法戦士「いや、重いからしまって行くよ。先生その体じゃ重いもの持てないだろ」

賢者「そんなことないわよ。それに若返ったから、重いものを持っても腰を痛めないし♪」

魔法戦士「人の好意には素直に甘えて。しまうから」

賢者「ふふ、ありがとう魔法戦士君」

魔法戦士は慣れた様子で食料庫に野菜を片付けていく。
普段ろくに料理なんてしない賢者よりも、たまに食事を作りに来てくれる魔法戦士の方が食料庫の勝手をわかっていた。

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/09(火) 18:45:59.16 ID:cq54Ny550
魔法戦士「そうだ、先生」

賢者「ん?」

野菜のほとんどをしまった所で、魔法戦士が話を切り出した。

魔法戦士「さっきE達に会ったんだけど、家の事情でしばらく教室に来れないみたい。先生には申し訳ない、って」

賢者「あら、そうなの」

魔法戦士の顔も声も、平然としている。嘘をつくのが上手いな、と思った。
さっきの様子を見ていなかったら、きっと信じていただろう。

信じたふりをしながら、さっきの彼らの言葉を思い出す。

『俺ら元々、魔法そのものに興味ないんだよ』

賢者自身は若い頃から魔法に没頭しており、魔法教室も楽しんでいただけに、彼らがそう思っていることに気付かなかった。

賢者(でも高名な魔法使いって家や研究室にこもってる人が多いし、イメージ良くないわよね~…私だって嫁き遅れのオバサンだし…)ズヨーン

魔法戦士「先生?」

賢者「ねー魔法戦士君」

魔法戦士「はい」

賢者「魔法、好き?」

魔法戦士「え?」

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/09(火) 18:46:54.93 ID:cq54Ny550
賢者「魔法戦士君も剣をやってるそうだし、正直魔法ってどうなのかなぁって」

魔法戦士「うーん…」

魔法戦士は少し考え込んでいた。

魔法戦士「確かに勇者とか騎士って憧れですよ。それに知っての通り、俺頭悪いから魔法苦手だし」

賢者「魔法戦士君は、魔法やってて辛い?」

魔法戦士「いや、そんなことないよ」

魔法戦士は即答した。

魔法戦士「確かになかなか上達しなくて辛い時もあるけど、習ったことをできるようになるのは楽しいし」

賢者「そうよね、最初の頃より成長したもんね魔法戦士君」

魔法戦士「それに、先生に教えてもらったから…」

賢者「私?」

魔法戦士「う、うん」

魔法戦士は顔を背けてしまった。どうしたのだろう。

魔法戦士「先生はよく褒めてくれるし、教え方もわかりやすいし…」

賢者「あ、教え方が魔法戦士君に合ってたのね」

魔法戦士「じゃなくて!!」

賢者「?」

魔法戦士「お、俺…先生が…」ボソボソ

賢者「え?」

魔法戦士「あ、いや…何でもない!それより、もう帰るね!」

賢者「あ、うん。じゃあね、また明日」

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/09(火) 18:47:53.35 ID:cq54Ny550
賢者「それで、水魔法と氷魔法の関連性は~…」

翌日の教室も、昨日と変わらない面子が集まった。
来なくなった3人のことは、皆の間でどう言われているのだろうか。

賢者「じゃあ今日はここまでね~。皆、ちゃんと家で復習してくるのよ?」

そして今日の授業を終えて帰路を歩いていた時だった。

大魔道士「やぁ賢者、久しぶり」

賢者「あら、大魔道士さん」

たまに学会で会う、大魔道士だった。
彼もそれなりに高名な魔法の使い手なのだが、賢者にとっては少々苦手な相手である。

大魔道士「子供になったってのは本当だったんだな。それでも魔法の教室は続けているのか」

賢者「えぇ、知識だけなら伝えることは可能ですから」

大魔道士「だが実技は教えられまい。そちらの生徒も、別の魔法学園に移るんじゃないのかね」

賢者「どうでしょうねぇ」

自分の所の教室は学園よりも遥かに規律がゆるく学費も安いので、その心配はないと思うが。

大魔道士「ところで、君が倒した魔王とやらだが」

賢者「はい」

大魔道士「本当に魔王だったのかな?」

賢者「?」

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/09(火) 18:48:47.77 ID:cq54Ny550
大魔道士「いや、襲撃された王城以外は魔王による被害もなかったしな」

賢者「被害が出る前に倒しましたからねぇ」

大魔道士「実はただの小物だったんじゃないかという噂もあるんだが」

賢者「うーん」

噂を流したのは同業者だろう。こういう足の引っ張り合いは、珍しくもない。
名声に興味のない賢者は、それくらいで動じなかったが。

大魔道士「どっちみち、魔法力を失った君は今後学会には出られないかもなぁ」

賢者「そうかもしれませんね~」

大魔道士「いやぁ残念だよ、せっかくいいライバルだったのに…」ハッハッハ

大魔道士は実に愉快な笑いを残してそこから去っていった。

賢者(この姿のまま魔法力だけ取り戻せればな~)

だが賢者は相変わらずで、若さに執着していた。

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/10(水) 19:39:00.04 ID:SbEaGhS40
賢者「えーと…」

賢者は本をめくっていた。

賢者(自分の時間を進める魔法はあるんだけど、魔法力がなくて今は使えないし)

賢者(パワースポットに頼らないとどうしようもないわよね~)

パワースポットとは、魔法の力を秘めた場所のことである。

賢者(時の魔法に縁のある場所は…んっ)

賢者「「千年樹」…時の精霊が守護する樹木」

賢者「これだわ!!」

賢者(あ。でもこの樹木、魔物が沢山出る森の奥にあるのか…)

41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/10(水) 19:39:37.97 ID:SbEaGhS40
>王城

賢者「…というわけです」

王「ほう…」

賢者「そこで、千年樹までの護衛をお願いしたいのですが」

王「うーむ…協力してやりたいのは山々なのだが、我が国の兵団は魔王にやられたせいで人手不足でな」

賢者「そうですか…なら自力で協力して下さる方を探してみたいと思います」

王「すまんな。ギルドは城を出て真っ直ぐの所にある」



>ギルド

賢者「すみませーん」

マスター「何だ。ここは子供の来る所じゃないぞ」

賢者「あ、私こういう者です」つ 身分証明書

マスター「…っ!失礼した、噂の賢者殿だったか」

賢者「いえいえ。それよりも、お仕事の依頼をしたいのだけれど」

マスター「ふむ…」

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/10(水) 19:40:07.57 ID:SbEaGhS40
マスター「なるほど…千年樹までの護衛か」

賢者「この依頼だと報酬の相場はいくら位になるかしらね?」

マスター「いや、すまん…引き受けられない」

賢者「え?」

マスター「実はだな…」ヒソヒソ

マスターはしゃがんで賢者に耳打ちする。

マスター「あんたからの仕事は引き受けるなと、圧力がかけられていてな」

賢者「どなたから?」

マスター「名前は言えんが、あんたの同業者からだ」

賢者「まぁ」

驚きはしなかった。むしろ予想できる展開だっただけに、手を打つのが遅かったと思った。

賢者「それなら仕方ないわ。ごめんなさいねお邪魔して」

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/10(水) 19:41:47.08 ID:SbEaGhS40
賢者「うーん、どうしようかな~」

あの後、他のギルドや傭兵もあたってみたが断られ、賢者は家に戻っていた。

賢者「ま、諦めが肝心ね」

魔法戦士「何を諦めるって?」

賢者「あら、いらっしゃい魔法戦士君。いえ、こっちの話」

魔法戦士「ふーん…あれ、それは…」

魔法戦士はテーブルの上で開いたままになっていた本に注目した。

魔法戦士「千年樹…あ、そうか。パワースポットの力を借りれば元に戻るかもね」

賢者「それがねー、ちょっと駄目そう」

魔法戦士「え、何で!?」

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/10(水) 19:42:38.49 ID:SbEaGhS40
賢者「うーん」

魔法戦士に、魔法関係者同士の足の引っ張り合いの話などしていいものなのか、少し悩んだ。

賢者「人手不足みたいで、護衛を引き受けてくれる人がいないのよ」

魔法戦士「えーっ!?諦めるって、もしかしてそのこと!?」

賢者「えぇ、そう」

とっくにその覚悟はできていたので、賢者はケロッとそう答えた。
だが…

魔法戦士(先生、何ともないって感じだけど…でもさっき一瞬見せた悩ましげな顔は、やっぱり…)

魔法戦士は勘違いをしていた。

賢者「というわけで先生は若返りを楽しむことに…」

魔法戦士「先生、俺がやるよ!!」

賢者「え?」

一瞬、何のことやらわからなかったが――

魔法戦士「俺が先生を千年樹まで連れて行く!!」

賢者「…えっ!?」

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/10(水) 19:43:23.94 ID:SbEaGhS40
賢者「だ、駄目よ、魔法戦士君を危険な目に遭わせられないわ」

魔法戦士「大丈夫だよ。あまり遠出したことはないけど、千年樹の森なら何とかなると思う」

賢者「私の為にそんなことさせられないわ。私ならいいから、ね?」

魔法戦士「それが駄目って言うなら、俺は俺で先生を元に戻す手段を探すから」

賢者「魔法戦士君…私の為にそこまでしなくていいわ」

魔法戦士「いや…やらないと俺が納得しない!これは俺の為でもあるんだ!!」

賢者「魔法戦士君の為…?」

魔法戦士「うん…俺の為」

魔法戦士の眼差しで、彼の強い意思を感じ取る。
このままなら本当に彼は、1人で突っ走ってしまうだろう。

賢者「…わかったわ」

気乗りはしなかったが、彼の同行を受け入れることにした。
まだ自分と行動を共にしてくれていた方が、気が楽だ。

賢者(この姿じゃ、ちゃんと魔法を教えてあげることはできないしね…。魔法戦士君の為、私も頑張りますか)

50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/12(金) 16:52:22.52 ID:BCKoZav80
>千年樹の森

魔法戦士「千年樹までは、男の足だと大体2時間くらいかかるみたい。先生も一緒だから、それよりちょっと時間かかるかもね」

賢者「そうねぇ…あ、これを」

魔法戦士「香水?」

賢者「魔物よけの香水よ。全く遭遇しなくなるわけではないけど、道中が少しは楽になるわ」

魔法戦士「わかった、ありがとう」

賢者「さぁ行きま…きゃっ」

早速、段差に気づかずバランスを崩す。
だが即座に魔法戦士が肩を抑えてくれて、転倒は防いだ。

魔法戦士「気をつけて歩こうね先生」

賢者「はぁ~い…」

何だかいやーな予感がしていた。
そして、その予感は的中する。

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/12(金) 16:52:57.52 ID:BCKoZav80
賢者(ううぅ、道がでこぼこ…)

歩いて10分、早速整っていない道に嫌気が差していた。
今までこういう場所は移動魔法等で避けてきたので、まともに歩くのは十何年ぶりになるのか。

魔法戦士「先生、大丈夫?」

慣れているのか、魔法戦士は平気そうで、こちらを気遣う余裕も見せる。

賢者「だ、大丈夫よ!さぁ進みましょう!」

生徒の前で弱音は吐けないと、賢者は元気に返事をする。
けれど、かえってそれはわざとらしく。

魔法戦士「…」フゥ

賢者「えーと方位磁石によると…あっ!?」

魔法戦士「うわー、無法地帯だなこりゃ」

賢者「そ、そうねぇ~」

賢者の腰くらいまで伸びた草、雨のせいか湿り気たっぷりの地面、高低差の激しいでこぼこ道。
見ただけでウンザリする。

賢者(ああぁ~…こんな時に魔法が使えれば…)ズーン

魔法戦士「先生…」

賢者「あ、あはははは。さ、さぁ行きましょう~」

と、一歩踏み出そうとした時だった。

魔法戦士「無理すんなって」ヒョイッ

賢者「え、あっ、えっ!?」

いつの間にか、魔法戦士に体を抱えられていた。

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/12(金) 16:53:40.09 ID:BCKoZav80
賢者「ま、魔法戦士君…やだ、重いでしょ!?」

魔法戦士「俺、今の先生を重たがる程ひ弱じゃないよ」

賢者「大丈夫よ、歩けるから!だから下ろして、ね、ね!?」

魔法戦士「いや先生の体じゃ絶対きついだろ、この道」

賢者「だけど…」

魔法戦士「好意には素直に甘えてくれって」

魔法戦士はそう言うと、荒れた道を歩き始めた。
その足取りは軽いもので、苦労している様子は見られない。

賢者「流石男の子…と言うべきかしら?」

魔法戦士「子供扱いやめてくれ~」

賢者「あ、そういうつもりじゃないの。魔法戦士君って、頼りになるんだなぁって」

魔法戦士「フォローになってない!俺、そんな頼りないイメージあった?」

賢者「ううん、そうじゃないけど…」

どうしても上から見てしまう。だって魔法戦士は、自分にとって生徒だ。
魔法に関して言えば手がかかるけど、明るくて真面目で、足繁く通って食事の世話をしてくれる、そんな可愛い存在だった。

53 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/12(金) 16:54:16.54 ID:BCKoZav80
賢者「ごめんね、老婆心ってやつ。あれ、意味違ったかな?」

魔法戦士「~…」

魔法戦士は、かなり不満そうだ。

魔法戦士「年齢のこと持ち出すのは、ずるいよ…」

賢者「え?」

魔法戦士「いや、何でも」

賢者(でも魔法戦士君、本当に頼りになるんだなぁ…)

彼の腕の中にいて感じるのは、まずその力強さ。
息を乱さず汗もかいていない彼は、本当に無理をしていないのだとわかる。
それに今まで意識したことはなかったが、鍛えている彼の体はなかなかガッチリしている。身長だって高い方だし。

賢者(そりゃ、子供扱いしたら怒るわよねぇ)フフッ

魔法戦士「どうしたの、先生」

賢者「んーん、ちょっと思い出し笑い」

これからはちゃんと一人前の男扱いしてあげないと、そう思った。

賢者(…ってことは、あれ、私一人前の男の人に抱っこされてる?)

賢者(うーん、まぁいいか、魔法戦士君も別にそんな意識ないだろうし)

魔法戦士「…あっ!」

賢者「え?」

魔法戦士の見ている方――そこには、狼の魔物がいた。

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/12(金) 16:54:49.47 ID:BCKoZav80
賢者「まずいわね…」

あの魔物は縄張り意識が強く、侵入者にはとても攻撃的だ。
しかも狼というのは力も素早さもかなりあって、生身で戦うのはお勧めできない相手だ。

賢者「遠回りしましょう魔法戦士君、あれは危ないわ」

魔法戦士「いや先生…この森にはああいう魔物が沢山いるんだ。いちいち避けてたら千年樹に着くのが遅くなる」

賢者「それはそうだけど…」

魔法戦士「暗くなったら森は更に危険になるんだよ、先生」

魔法戦士はそう言うと賢者を地面に下ろした。

賢者「魔法戦士君、まさか戦うつもり!?」

魔法戦士「心配しなくていいよ。すぐ終わらせる」

魔法戦士は剣を抜いて、どんどん狼に近づいていった。
そんな彼に狼は、敵意をむき出しにする。

賢者「危険よ魔法戦士君、やっぱり…」

魔法戦士「子供扱いすんなって、先生」

魔法戦士は剣先を狼に向ける。

魔法戦士「俺、強いんだよ」

次の瞬間――

55 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/12(金) 16:55:19.07 ID:BCKoZav80
狼「グルアアアァァ――」

狼が魔法戦士に飛びかかっていった。
素早い――その距離はあっという間に1メートルに縮まった。

魔法戦士「喰らえ、爆炎!」

剣先から爆炎が5発、狼に向かう。

賢者(駄目だわ、あれじゃあ…!)

賢者の読み通り、爆炎は狼の毛をかするだけでダメージを与えることはなかった。
爆炎の威力が小さい。魔法戦士の技量なら、あの程度が限界だろう。

爆炎にひるまず狼は、その爪で魔法戦士を狙った。

魔法戦士「ふんっ」カキン

だが魔法戦士は軽くその爪を剣で受け止める。
それから後方へと跳躍する。

だが――

狼「ガアアァァッ!!」

狼は魔法戦士を追う。魔法戦士は狼の攻撃を受け止め、距離をとる。
そんな攻防が続いた。どちらも、動きを落とす様子は見せない。

賢者(どうしよう…)

魔法が全く使えないわけじゃないけれど、今の自分の力では援護射撃なんて無理だろう。
だけど、このままじゃ――

賢者「――」

その時、魔法戦士と目が合った。

心配すんなって言ったろ――彼の表情は、そう言っているようだった。

56 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/12(金) 16:55:59.32 ID:BCKoZav80
魔法戦士「喰らえ!」

再び爆炎が狼に襲いかかる。だが相変わらず威力は小さく、狼は容易に回避する。

やはり駄目だ――そう思った。
だが。

魔法戦士「狙い通りっ!」」

魔法戦士は意気揚々と狼と距離を詰める。
その剣先は見事に、狼の喉元をとらえていた。

そして一閃――

魔法戦士「…勝利」チャキン

一擊で狼を仕留めた魔法戦士は、剣を鞘に収めた。

魔法戦士「爆炎で狼の回避する方向を誘導した。あいつは見事、狙い通りの場所に回避してくれた」

賢者(そんな魔法の使い方もあったなんて…)

賢者は感心していた。
魔法でのみ戦う賢者にとって、そんな戦い方は思いつきもしなかった。

魔法戦士「どうだった、先生?」

賢者「剣と魔法を使いこなす魔法戦士君ならではね。そんな応用できるなんて凄いわ、先生驚いちゃった」ニコ

魔法戦士「あ、うん…」

賢者「?」

魔法戦士「それより行こう」

賢者「そうね」



魔法戦士「…かっこいいとか言ってくれよ」ボソッ

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/13(土) 18:53:45.88 ID:3MKFmPnr0
>千年樹

賢者「ふぅ、ようやく着いたわねぇ」

魔法戦士「でっけー木…」

遠目で見ても大きかったが、こう目の前に立つと、お城くらいあるように見えた。

魔法戦士「で、どうするんだっけ」

賢者「時の精霊と話をするわ。精霊を呼ぶ儀式があるのよ」

賢者はそう言って、荷物の中からロウソクや魔法陣の描かれた布を取り出す。
手際良く準備を進めると、呪文を唱え始めた。

賢者「~…」

魔法戦士(何て言ってるかわかんねぇ。語学も勉強しないとなぁ…)

賢者「ロウソクの火が大きくなった…来るわ!」

魔法戦士「!」

布の魔法陣が光を放つ。
魔法戦士も、その場の空気が変わるのを感じた。

そして――

時の精霊「ども~っす」

手のひらサイズの、少年の姿をした精霊が姿を現した。

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/13(土) 18:54:21.62 ID:3MKFmPnr0
賢者「貴方が時の精霊ですね」

時の精霊「そだよ。僕に何か用かな?」

魔法戦士「こんなちびっこに何とかできるもんなのか?」

時の精霊「失礼だな君は。僕はこう見えても人間の何十倍も生きてるんだぞ」

魔法戦士「そうか、悪かった。見た目で判断してた」

時の精霊「よかよか」

賢者「実は時の精霊様にお願いがあって…」

時の精霊「何かな…って君、よく見たら呪いがかけられてるじゃない」

賢者「わかりますか?」

時の精霊「まーね。呪いのせいで魔法力を失ったと見た、災難だねぇ」

賢者「でも若返ったのは結構嬉しいんですよ~」エヘヘ

時の精霊「あー、人間は老いが早いしね。じゃあいいんじゃない、そのままで」

魔法戦士「いいわけあるか!!」

時の精霊「何で君のが必死なの?」

魔法戦士「べ、別にっ!?それより、先生を元に戻すことはできるのか!?」

時の精霊「う~ん」

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/13(土) 18:55:22.52 ID:3MKFmPnr0
時の精霊「呪い自体は単純なものだけど、かけてきたのが厄介な奴だね。強大な力を持つ奴が命を燃やしてかけた呪いっしょ」

賢者「えぇ、その通り。貴方でも難しいですか?」

時の精霊「無理ではないけど、相当力を使う。僕の体調が万全の時じゃないと駄目だ」

魔法戦士「今は駄目なのか」

時の精霊「精霊の間で少子高齢化が進んでいてな、働き手が少ない分激務なんだ。精霊の働き手が増えて一息つけるまでは駄目だな」

魔法戦士「…それはいつまでかかる?」

時の精霊「人口ピラミッドの変化には500年位かかるかな」

賢者「流石精霊ねぇ、気の長い話だわ~」

魔法戦士「先生のん気だなぁ!?人間が待てる期間じゃないよ!?」

賢者「仕方ないわよ、あちらの事情があるんだもの」

魔法戦士「そりゃそうだけど…」

時の精霊「そう結論を急ぐな。僕の体調を万全にすればいい」

魔法戦士「どうやって」

時の精霊「じゃじゃーん」

時の精霊が差し出したのは、黄色い液体の入ったビンだった。

魔法戦士「これは…?」

時の精霊「精霊の間で評判の栄養ドリンクだ」

魔法戦士「へ、へー?」

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/13(土) 18:56:21.54 ID:3MKFmPnr0
時の精霊「これがなかなか希少なものでな、チビチビ飲んで何とか重労働に耐えている。けどこれを思う存分飲めれば、元気になるかもな~」チラッチラッ

賢者「わかりました、つまりこれを用意すればいいんですね」

魔法戦士「売ってるの?」

時の精霊「ちっがーう。このビンをやるから成分を分析して同じもん作ってこいや」

魔法戦士「げっ」

賢者「やってみます」

時の精霊「そいじゃ楽しみにしてる。あ、帰りは千年樹に住む鳥に送ってもらうよう頼むよ」

そう言い残すと時の精霊は姿を消し、賢者たちの元に大きな鳥が舞い降りた。
鳥は2人を背中に乗せると、森の上空を飛び始めた。

魔法戦士「何か、面倒なことになったね…」

賢者「私はこういうの大好き♪」

魔法戦士「流石先生だね…」

賢者「人生、回り道も必要よ。どうせなら回り道を楽しまなくちゃ」

魔法戦士(回り道に時間かけて本来の目的を見失わないか心配だな…)

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/13(土) 18:56:54.35 ID:3MKFmPnr0
賢者「うーん」

帰ってきた賢者は早速、栄養ドリンクの成分分析に取り掛かっていた。
家にあった薬で試験薬を調合し、栄養ドリンクに混ぜ、観察する。

賢者「ふむふむ、なるほどなるほど…」

魔法戦士「先生、ご飯できたよ」

賢者「はい魔法戦士君に問題です。試験薬がこの色になりました、この栄養ドリンクは何属性でしょ~?」

魔法戦士「え、えっと…青だから、水?」

賢者「惜しい。緑の泡が発生してるから、水属性メインで草属性が混じってるわ」

魔法戦士「あ、ああぁ…そうだったねー(棒」

賢者「属性がわかったから、もう少し緻密な分析を…」

魔法戦士「まず飯食おうな」

賢者「あと少し、あと少しだけ~…」

魔法戦士「人生、回り道も必要だよ先生」

賢者「うー。わかりましたー」

魔法戦士(何か普通に子供だ)

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/13(土) 18:58:33.85 ID:3MKFmPnr0
>翌日

賢者「うーん」

作業は難航していた。

賢者(魔法があればパパッとわかるのにな~。これが縛りってやつねぇ、うーん試練)

その時、家の入り口のドアが叩かれた。

魔法戦士「入るよ先生」

生徒A「先生、おはよ~」

賢者「あら、皆?」

入ってきたのは教え子達だった。

賢者「どうしたの皆、今日は教室はお休みの日よ」

生徒B「魔法戦士に聞いたけど、先生、何か難しいことやってるんだってね」

生徒C「私達にできることがあれば協力させてもらおうかと思って。今の私達、魔力だけなら先生よりあるし」

賢者「あらあら。悪いわそんなの」

生徒D「いいんだって。これも実技のうちだと思えば」

生徒A「そうそう、先生みたいな魔法使いになりたいし!」

賢者「皆…」ジーン

魔法戦士「さて先生、まず何からすればいい?」

生徒A「魔法戦士の実力じゃ無理よ、どいてなさい」

魔法戦士「何ぃーっ」

ワイワイ

賢者(賑やかで楽しくなりそうね)

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/13(土) 18:59:07.17 ID:3MKFmPnr0



生徒A「えーと、光魔法に対する反応から見るに…」

生徒B「あ、わかった!ピロピロの森のピロピロが含まれているんだ」

生徒C「大分、原材料の分析もできてきたね~」

生徒D「うんうん、皆で力を合わせたらあっという間だね」

魔法戦士「あっという間じゃねーよ。夕飯冷めちまうぞー」

生徒A「おー、悪いね食事係ィ♪」

魔法戦士「くっ」

賢者「一旦休憩して皆で食べましょう」

夕飯を食べながら、生徒達の書き出した原材料のメモを見る。
どれも、そんなに遠くない場所で採れるものばかりだが、種類が多い。

生徒A「20ヶ所位行かないと駄目かな?」

生徒B「手分けしてやれば大変じゃないよ」

賢者「皆には苦労かけるわね…」

生徒C「一流の魔法使いは材料収集からやるんでしょ?これも実技のうちだよ」

生徒D「とりあえず危険そうなのは男子にお願ーい♪」

魔法戦士「男子って俺だけだなぁ?」

生徒A「やなの?」

魔法戦士「余裕だ」

生徒B「きゃー、かっこいいぞ魔法戦士~」

賢者「無理しないでね?」

魔法戦士「うん、わかってる」

72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/14(日) 17:43:33.22 ID:YFjO2f850
それから数日、材料収集は行われていた。
賢者も危険がない場所には自分の足でおもむき、材料を集めていた。

魔法戦士「ほれ、とってきたぞ~」

賢者「魔法戦士君、その顔の怪我…」

魔法戦士「あー?まぁ、大したことない」

賢者「無理しないでって言ったでしょ~。待ってて、今薬持ってくるわね。先生、今回復魔法使えないんだからね」

魔法戦士(回復魔法よりこっちの方がいいな…)

賢者(無茶する子ねぇ…心配だわぁ)

そんな心配もあったが。

生徒A「よし、材料残り5つだね!」

収集は順調に行われていた。

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/14(日) 17:44:13.37 ID:YFjO2f850
こんな出来事もあった。

魔法戦士「今日行く所ちょっと危険だし、パーティー組んで採集しに行くか?」

生徒B「そうね~」

生徒E「お邪魔しま~す…」

賢者「あらE君、F君、G君」

賢者が子供になってから教室に来なくなっていた男子生徒達だった。

魔法戦士「…何しに来たんだ?」

生徒F「これ…」

魔法戦士「あ!今日取りに行こうと思ってた材料じゃないか」

賢者「まぁ。取ってきてくれたの?」

生徒E「う、うん」

生徒F「男3人でならそんな大して苦労しなかったしな」

生徒G「まぁ、ついでだよ」

黙って教室をやめた後ろめたさがあるのか、3人は目を合わせようとしてこない。
それでも自分の為に動いてくれたことが、賢者には純粋に嬉しかった。

賢者「ありがとうね…皆」

74 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/14(日) 17:44:52.74 ID:YFjO2f850
そんなこんなで。

魔法戦士「材料全部集まったな」

賢者「皆お疲れ様。あとは調合だけね~」

生徒A「調合は調合で難しいんだよね~」

生徒B「これも勉強だと思ってやろう」

賢者「慌てる必要はないわ、先生この体結構気に入ってるしね♪」

生徒C「そうだね、ゆっくり確実にやろう」

生徒D「魔法戦士、ご飯作りよろしく!」

魔法戦士「どうせ実技は期待されてませんよ~」

賢者「まぁまぁ。魔法戦士君にも後でじっくり教えてあげるからね?」

魔法戦士(2人だけの補習…)

生徒A「先生ー、魔法戦士がいけない想像してまーす」

魔法戦士「し、してねーし!健全だし!!」

75 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/14(日) 17:45:42.99 ID:YFjO2f850
その頃、王都では――

王「もうすぐ魔法の学会があるそうだな」

大臣「賢者殿はあの姿ですから、参加できないでしょうな」

王「ウム…となると大魔道士に注目が集まる所かな」

大臣「でしょうね。色々と良からぬ噂がある輩なので、いい気はしませんが…」

王「魔法使い同士の足の引っ張り合い、何とかならんものか…」


兵士「大変です、王様!」

王「何事だ!」

76 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/14(日) 17:46:52.62 ID:YFjO2f850
賢者「ふわーあ…寝坊しちゃった」

魔法戦士「先生、先生!大変だ!」ドタバタ

賢者「おはよう魔法戦士君。どうしたの?」

魔法戦士「悪いニュースだ。魔王城に大魔王が現れたらしい!!」

賢者「大魔王…?」

魔法戦士「先生が倒した魔王の先祖で、何百年か前に魔王城に封印されてたみたいだけど…」

賢者「あぁ…大昔そんなこともあったわね。その封印が解けたのかしらね?」

魔法戦士「そうだと思う…」

賢者(魔王…まさかこれを見越していたのかしら?)

魔法戦士「一応、大魔王討伐に大魔道士って人らが派遣されたみたいだけど」

賢者「うーん…」

大魔王を直接見たことがないので、力の程度はわからない。
だけどわかった所で、今の自分にはどうしようもない。

賢者「大魔道士さんなら実力は確かよ。信じて待ちましょう」

魔法戦士「うん…」

77 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/14(日) 17:47:22.30 ID:YFjO2f850
生徒A「えーと、これとこれ調合して…分量合ってるかな?」

生徒B「少しずーつ緑属性の魔力を混ぜて、と…」

その日も生徒達が集まり、調合を行っていた。
賢者よりは魔法力がある生徒達と、調合の知識のある賢者で協力して、まぁまぁ順調にいっていた。

賢者「そうそう、そこでピロピロを少しずつ混ぜて…」

生徒C「少しずつ、少しずつ…」

そして…

生徒A「出来たーっ!これ完成じゃない!?」

生徒B「でも量少なくない?」

生徒C「まぁお試しだからね。でも同じように作れば量産できるはずよ」

生徒D「そうだね、もうひと頑張り!」

賢者「今日は皆、魔力と集中力を使ったから一旦やめにしましょう。体を休めるのも大事よ」

魔法戦士(俺は力が有り余っていて、肩身が狭い)

78 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/14(日) 17:48:00.73 ID:YFjO2f850
賢者「悪いわね魔法戦士君」

魔法戦士「いや俺、力有り余ってるんで」

解散後買い物をし、重い荷物を魔法戦士が持っていた。

賢者「皆優しい子よねぇ、私の為に動いてくれて」

魔法戦士「なぁ先生…先生は今の姿の方がいいのか?」

賢者「え?」

魔法戦士「元に戻ることに消極的っていうか…俺たちの好意を無碍にできないから、無理してない?」

賢者「そういうのじゃないわよ。今の姿に不満がないのと、あまり皆に苦労かけさせたくないだけ」

魔法戦士「それならいいんだけど…」

賢者「魔法戦士君は心配しすぎよ。それに時間停止の呪いとは違うんだし、時間がたてば私も成長するのよ」

魔法戦士「そうなった時は…先生、人生やり直したりするつもりだった?」

賢者「えっ」

79 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/14(日) 17:48:40.48 ID:YFjO2f850
賢者は子供の頃から魔法に没頭し、今では世界でも高名な賢者となれた。
だけど私生活はというと、友達と呼べる人はおらず、恋愛も未経験で、魔法以外のことに関しては年齢不相応に未熟だ。
それで寂しさや焦りを覚えなかったわけでもない。

だけど。

賢者「いいえ。また同じく魔法に没頭するわ」

それ以外の生き方など考えられなかった。

賢者「この体への未練はね、単純な若さへの執着よ。皆は若いからわからないと思うけど、20過ぎると歳取るのが早くて早くて…」

魔法戦士「先生は、魔法以外のことに興味ない…?」

賢者「あるわよ。あるけど、魔法程積極的になれないだけかな~」

魔法戦士「…それも勿体無いと思う。だって先生は魅力あるし…」

賢者「ふふ、ありがとう。でもね魔法戦士君、君は若いから見る目が肥えてないわ。大人になって色んな人と接すれば、もっともっと魅力的な人が…」

魔法戦士「子供扱いするなって言ってるじゃん!」

強めに言葉を遮られ、賢者は少し驚く。

魔法戦士「俺、家の手伝いで色んな人と関わってきたし、色んな人を見てる!だけど、その中でもやっぱり先生は――」

賢者「――あ」

80 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/14(日) 17:49:16.50 ID:YFjO2f850
バッサバッサ

魔法戦士「うわぁ!?」

賢者「あら、千年樹の鳥だわ」

魔法戦士「な、何か焦ってるように見えるけど…」

バッサバッサ

賢者「…乗れって言ってるのかしら?」

魔法戦士「嫌な予感がするな…俺行くよ!」

賢者「私も行くわ」

賢者(もしかして、大魔王の影響で千年樹に何かあったのかも…)

83 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/15(月) 19:25:31.30 ID:oMn7pOJg0
>千年樹

時の精霊「来てくれた。やっべーよ、マジやっべーよ」

賢者「どうしたんです?」

時の精霊「ついさっき、大魔王討伐に派遣された大魔道士って奴が負けたみたいでさ」

賢者「まぁ…何てこと!」

時の精霊「そんで大魔王は、魔王を倒したあんたを危険視してる。そのことを伝えたかったんだけど、僕はここを離れられないから」

賢者「そうですか…ご忠告ありがとうございます」

大魔王、危険な存在だとは思っていたが、もしかしたら魔王よりも強いかもしれない。
あの大魔道士が負けるなど、事態は思ったよりも深刻だ。

魔法戦士「急いで栄養ドリンクを量産して先生を元に戻さないといけないな」

時の精霊「栄養ドリンク作りは順調なの?」

魔法戦士「あぁ、それなら――」

魔法戦士が言いかけた時だった。

時の精霊「――っ!?」ゾワワァ

魔法戦士「どうした?」

時の精霊「こっちに来てる…邪悪な魔力を纏った奴が!」

賢者「!」

84 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/15(月) 19:26:00.59 ID:oMn7pOJg0
「千年樹――俺が封印された時と変わりがないな」

時の精霊「この魔力は――」

上空を見上げる。
この邪悪な魔力、近くで感じると体に刺さりそうだ。

大魔王「我は大魔王――千年樹を滅ぼしに来た」

魔法戦士「あいつが大魔王!?な、何でここに…」

賢者「いえ、当然と言えば当然だわ…」

賢者(私を危険視してるなら、私の呪いを解く可能性のある千年樹に目をつけるのは自然な考えだものね)

時の精霊「や、やめろー。千年樹に手を出すなー」

大魔王「邪魔だ」ドオオォォン

時の精霊「うわっ!!」

賢者「精霊様!」

爆風に時の精霊が吹っ飛ばされた。
幸い軽傷で済んだ様子だが、力の差は圧倒的に見えた。

85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/15(月) 19:27:09.25 ID:oMn7pOJg0
大魔王「覇っ」

大魔王の手から魔法が放たれる。それは千年樹に向かっていき――

賢者「あっ」

時の精霊「ああぁ…千年樹が…」

千年樹が瘴気に侵されていく。

時の精霊「こりゃいかん。侵食を止める為に、千年樹の時の流れを変えなきゃ」

大魔王「させんぞ」ドォン

時の精霊「――っ!」

大魔王の手から放たれた魔力の球が、時の精霊に向かっていき――

魔法戦士「させっかよおぉ!!」ズバッ

大魔王「ほう」

間に入った魔法戦士によって、魔力の球は真っ二つに切られた。

86 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/15(月) 19:29:13.39 ID:oMn7pOJg0
魔法戦士「時の精霊、千年樹を何とかしな!」

時の精霊「でも大魔王が…」

魔法戦士「俺が相手してやるから!」

賢者「駄目よ魔法戦士君、君がかなう相手じゃないわ!」

大魔王「そちらの子供の方が状況をわかって――ん?お前、魔王の呪いがかけられているな」

賢者「――っ!」

大魔王「そうか――お前が魔王を倒した賢者か」

大魔王の殺気がもろに賢者に向かう。
以前なら余裕の微笑みをもって返せた殺気。だが今は無力で、何の抵抗の術も持たない。

大魔王「我の脅威となる者よ、この世から消滅するが良い!!」

魔法戦士「危ない先生!!」

ドゴオオォォン

爆発音を背後に聞く。
魔法戦士が体を抱え、回避してくれた。

大魔王「チッ、邪魔な」

大魔王は攻撃の手を緩めず、ドゴンドゴンと攻撃音が鳴り響く。
魔法戦士は賢者を抱えながら、必死に逃げ回っていた。

大魔王「逃げるだけでは勝てんぞ」

魔法戦士(ったりめーだろ、逃げるので精一杯なんだよ!!)ゼーハーゼーハー

87 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/15(月) 19:29:53.09 ID:oMn7pOJg0
賢者「魔法戦士君、逃げるのも限界があるわ。私を置いて逃げなさい」

魔法戦士「先生を見殺しにできるわけないだろ!」

賢者「だけどこのままじゃ」

魔法戦士「うわぁ!?」

大魔王からの攻撃で会話は遮られる。

魔法戦士「チッ、こうなったら…」

賢者「魔法戦士君!?」

魔法戦士は千年樹の陰に賢者を下ろす。

魔法戦士「俺もすぐ追いかけるから、先に逃げてて!」

賢者「そんっ…」

咎める声を聞かず、魔法戦士は大魔王に向かっていく。
自分が逃げるまでの時間を稼いで大魔王から逃げるなんて――魔法戦士がそんなことできるとは思えない。

賢者(それに…)

時の精霊「くうぅ、侵食が進んでいく~」

賢者(このままじゃ、千年樹が――)

賢者「精霊様!」

時の精霊「な、何ぃ~?くううぅぅ…侵食を遅らせるので精一杯だあぁ…」

賢者「これを!」

時の精霊「これは…」

88 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/15(月) 19:30:22.88 ID:oMn7pOJg0
魔法戦士「うぎっ」

体が地面に叩きつけられる。
一擊も大魔王に当てることができないまま、ダメージが蓄積していた。
やはり相手は大魔王。マトモに相手できるわけがない。

大魔王「弱いな」

魔法戦士「あぁ…弱いよ」

魔法戦士は膝をつきながらも立ち上がる。

魔法戦士「けど勝てなくても、できることはあるんだよ!」

大魔王「無駄にタフだな。面倒な奴だ」

魔法戦士「嬉しいね、大魔王様に褒められるたぁ」

今は自分のタフさに感謝する。
少しでも長く時間を稼げる。賢者が逃げるだけの時間を確保できる。

魔法戦士(俺は先生を守れる程の男じゃないけど――)

それでも、戦わなければならない。
ここで戦わないのなら、男に生まれた意味がない。

大魔王「だが、お前の相手はもう終わりだ」

魔法戦士「――っ」

耳が壊れそうな程の爆撃音に一瞬、気が遠くなる。
だけど精一杯戦ったことに、後悔はなかった。

魔法戦士(先生――っ!!)

89 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/15(月) 19:31:08.25 ID:oMn7pOJg0
魔法戦士「…っ!?」

賢者「危なかったわね」

一瞬死を覚悟したものだが、ダメージは無かった。
魔法戦士を守るように、光の壁が彼を包み込んでいた。

だが、それ以上に――

賢者「ごめんね魔法戦士君、遅れたわ」

魔法戦士「先生――」

その姿は、紛れもなく。

大魔王「チッ!!呪いが解けたのか!!」

魔法戦士がよく知った、賢者の本当の姿だった。
大魔王と対峙する賢者の表情は、いつもと同じ温和なものだったが、いつもとは違っていて――

賢者「あら――私が怖い?」

大魔王「!!」

魔法戦士(シビれるー…)ポー

敵に向ける挑戦的な瞳に、魔法戦士はすっかり虜になっていた。

賢者「1分で何とかするわ」

94 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/16(火) 20:33:50.02 ID:WOaQTMD/0
大魔王「覇っ!!」

大魔王の手から次々爆撃が放たれる。
だが賢者は慌てることなく手をかざし――

ドガアアァァン

大魔王「――っ!?」

賢者が放った爆撃は大魔王の爆撃を打ち消し、更に突き抜けて大魔王の体を焦がした。
ダメージそのものは大したことないが、大魔王を上回る魔力を見せつける。

賢者「これはどう?」

大魔王「!!」

大魔王の周囲は光に囲まれていた。
光は閃光となり、四方八方から容赦なく大魔王を狙う。

大魔王「くっ」

大魔王は防御と回避を使い分け、直撃を避けていた。
だが1本の閃光が、大魔王の腕をかすめ――

大魔王「――っ!!!」

腕から血が噴射する。
もしこれが直撃していたら――

賢者「これで済ませるわけないじゃない」ドスッ

大魔王「!!!」

不意打ちの魔法で、大魔王の左肩に大きな穴が空いた。

95 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/16(火) 20:34:19.59 ID:WOaQTMD/0
魔法戦士「すっげ…」

賢者の圧倒的な戦いぶりに、魔法戦士は見惚れていた。

時の精霊「大丈夫だろうか…」

魔法戦士「どう見ても大丈夫だろ、先生が勝つよ」

時の精霊「あぁ…時間制限が無ければそうだと思うが」

魔法戦士「時間制限?」

時の精霊「賢者があの姿を保っていられるのは、あと40秒位だ」

魔法戦士「えっ!?」

96 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/16(火) 20:34:50.63 ID:WOaQTMD/0
>先刻

賢者「精霊様!」

時の精霊「な、何ぃ~?くううぅぅ…侵食を遅らせるので精一杯だあぁ…」

賢者「これを!」

時の精霊「これは…」

賢者「少しだけだけど作ってきたんです、栄養ドリンク!これで私の姿を元に戻せませんか!?」

時の精霊「これは…本物だな!だが…」

賢者「どうしました?」

時の精霊「これじゃ量が少ない。元に戻せても1分その姿を保っていられるかどうか…」

賢者「1分で大魔王を討てばいいんですね?」

時の精霊「いくら何でも無茶な」

賢者「無茶でもやります」

97 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/16(火) 20:35:25.84 ID:WOaQTMD/0
時の精霊「やるとは言ったけど、1分で大魔王を仕留められるとは思えない…」

魔法戦士「…っ」

確かに戦いは賢者の方がリードしていたが、大魔王の防御も大したもので、致命傷になる程のダメージは与えられていない。

時の精霊「あと30秒」

魔法戦士(先生…)


大魔王「貴様…っ!!」ドゴオォン

賢者「甘いわ」ヒュンッ

大魔王の攻撃を指一本で消してみせ、余裕の笑みを向ける。

賢者「貴方の力はこんなもの?」

大魔王「…っ!!」

その口ぶりは挑発的で、瞳は上から目線。
大魔王は明らかに激昂していた。


時の精霊「あと20秒。あんな怒らせて、まずいんじゃないかね」

魔法戦士「俺は、先生を信じるよ…!!」

賢者は誰よりも強く、頭が切れる。魔法戦士はそう信じて疑わなかった。

魔法戦士「先生、頼みます…っ!!」

98 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/16(火) 20:36:36.09 ID:WOaQTMD/0
大魔王「どうやら、全力を出さねば潰せないようだな」

賢者「あら、やっとおわかり?」

大魔王「褒めてやろう。ここまで本気の力を出すのは、数百年ぶりだ…!!」

賢者「!」

大魔王の筋力が肥大化する。体には膨大な魔力を纏い、明らかにパワーアップしていた。

賢者「そうなるのが遅いんじゃなくて?」

それでも賢者は、余裕の笑みを崩さない。

大魔王「貴様の余裕も、ここまでだ…!!」

大魔王は賢者に狙いを定め――急降下した。

大魔王「覇あああぁぁ!!」

賢者「――っ」

時の精霊「あと10秒…っ!!」

魔法戦士「――」


先生――魔法戦士の叫びは、爆発音にかき消される。
莫大な力同士がぶつかり合った衝撃で、魔法戦士は吹っ飛んだ。

99 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/16(火) 20:37:19.33 ID:WOaQTMD/0
時の精霊「おい大丈夫か人間」

魔法戦士「先生は…っ!?」

すぐに体を起こし、煙の中を注視する。


大魔王「ハァ、ハァ…」

満身創痍な様子ながら、大魔王は生きていた。

大魔王「まさか我の力を反射するとは…本当に小賢しい人間よ」

大魔王「だが…」

時の精霊「あ…っ」

賢者「…っ」

賢者の姿は、再び子供のものになっていた。

大魔王「その姿では、弱っていても我は倒せまい!!」

時の精霊「うああぁ…絶望的な状況」

大魔王はゆっくり立ち上がり、足を引きずりながら賢者に近寄っていく。
絶体絶命――そう思えた。

100 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/16(火) 20:37:55.69 ID:WOaQTMD/0
賢者「ふふ…っ」

大魔王「何がおかしい」

賢者「まさか、これだけが私の力だと思っていた?」

大魔王「どういう意味だ」

賢者「私の力は、私が持つものだけじゃない」

失った力は、確かに大きいけれど。

賢者「私は力の種を蒔いて、それを大事に育ててきた…」

時の精霊「力の種…?」

賢者「そう。種は芽となり、すくすく育って…」

ズバッ

大魔王「カハ…ッ!!」

賢者「君は遅咲きだったけど――それでも立派に、育ってくれた」

魔法戦士「先生のお陰でね」

魔法戦士の剣が、大魔王の体を貫通していた。

賢者「後は任せてもいいかしら…魔法戦士君」

魔法戦士「当然」

その返答を聞いて、賢者は後ろに下がった。

101 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/16(火) 20:38:27.73 ID:WOaQTMD/0
大魔王「貴様…っ」

魔法戦士「おっとぉ!!」カキン

賢者に襲いかかろうとする大魔王の爪を、魔法戦士は剣で受け止める。



時の精霊「始めから、これを想定していたのか」

賢者「えぇ」



魔法戦士「さっきより動きが鈍ってんぜ!じいちゃんは無理すんなよ!」

大魔王「チッ、邪魔な」ブンッ

魔法戦士「おっと!」カキィン



賢者「1分じゃ大魔王の力のほとんどを消費させ、ある程度のダメージを与えるので精一杯…だけど、勝機を見出したからそうした」

時の精霊「随分信頼しているんだな、あいつを」

賢者「この姿になってから、魔法戦士君に頼ってきた」

以前この森を訪れた時の戦いの時、大魔王の攻撃から守ってくれた時。

賢者「だから私、彼の強さはよく知っている」



魔法戦士「あああぁぁ――っ!!」


ザシュッ

102 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/16(火) 20:39:02.38 ID:WOaQTMD/0
大魔王「グ…」

魔法戦士の剣は大魔王の胸を刺していた。
だが心臓まであとわずかという所で、大魔王は筋肉で刃を止めていた。

大魔王「惜しかったな…!!」

そう呟き、大魔王は手を振り上げたが――

魔法戦士「いや――」

魔法戦士(確かに剣だけで勝負してたら、俺の負けだった)

魔法戦士(けど俺は、剣だけじゃない…!)

賢者の戦いを思い出す。
自分には、あれ程の力は出せないけど――

ドゴオオォォン

大魔王「――」

剣先が爆発する。
大魔王は大量の血を口から吐き、白目を剥き――

魔法戦士「これ位できねーと、先生の教え子は名乗れねーよ」

言い終わったと同時、大魔王は地面に倒れた。

107 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/17(水) 09:51:55.06 ID:Lo4FEZZu0
賢者「魔法戦士君!」

魔法戦士「わっ!?」

賢者は魔法戦士に飛びつくと、精一杯手を伸ばして頭を撫でた。

賢者「ごめんね危険な目に遭わせちゃって~、流石魔法戦士君ね、先生信じてた!君は先生の誇りよ!」ナデナデ

魔法戦士「だから、子供扱いすんなって!!」

賢者「あら、ごめんなさい。一人前の戦士さんには何をすればいいのかしら?」

魔法戦士「そ、そりゃ…き、キ、キキキキ…」

賢者「キ?」

魔法戦士「い、いや、何もしなくていい!とにかく離れて!!」

賢者「はーい」

108 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/17(水) 09:52:27.34 ID:Lo4FEZZu0
賢者「さて、帰ったら栄養ドリンクの大量生産をしないとね」

魔法戦士「そうだな、大量にあれば先生も元に戻るよな」

賢者「いえ、それよりも」

賢者は千年樹を見上げた。

賢者「瘴気の侵食が進んでいる。まずはこれを何とかしないと」

魔法戦士「そうか…それにはどうすりゃいい?」

賢者「その為の栄養ドリンクよ。この瘴気を何とかするには精霊様の力が必要だものね」

時の精霊「すまねぇなぁ、大分時間がかかりそうだ。千年樹を戻さないと、あんたの呪いをとけそうにもない」

魔法戦士「…それにはどれ位になる?」

時の精霊「早くて10年くらいかかるな」

魔法戦士「意味ねー!!」

賢者「10年経ってもまだ20歳くらいかぁ…うふふ、いいかも~」

魔法戦士「先生~…」

賢者「あら不満?それなら先生、魔法戦士君を大人として見れないな~」

魔法戦士「うぐぐ…わかった、わかりました!千年樹を元に戻すことに尽力しますよ!」

賢者「流石魔法戦士君!」

時の精霊「絶対、何らかの形でお返しするから。すまねぇな」

109 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/17(水) 09:53:13.96 ID:Lo4FEZZu0
賢者は帰還すると、まず王にあったことを報告した。
そして王の命令により、魔法学会に栄養ドリンクの生産が命じられた。

賢者「あらー元気そうで良かったです」

大魔道士「全然元気じゃない…全治3ヶ月だ、いてて」

賢者「大魔道士さんの技量があったからそれで済んだんですよね」

大魔道士「ま、まぁな」タラー

大魔道士(つーか大魔王に「どうでもいい奴」って見られてた気が…)

大魔道士(こんな事になるならギルドに圧力なんかかけないで、始めから大魔王を賢者に任せておけば良かったんじゃ…)

賢者「どうかしましたか?」

大魔道士「い、いや別に…」

賢者「そうですか。それでは失礼します」

大魔道士(これはギルドに圧力をかけた報い…?いやでも、それなら全治3ヶ月で済んだなら…)

ゴーン

大魔道士「あだだぁ!?な、何だ!?突然隕石が頭の上に!?」


時の精霊「よくやってくれた」

星の精霊「いやいや」


しばらく大魔道士は隕石による報いに苦しむことになるが、それはまた別の話である。

110 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/17(水) 09:53:44.25 ID:Lo4FEZZu0
賢者「よーし、大分勘がつかめてきたわ」

魔法戦士「先生、修行は順調?」

賢者「お陰様で。見てほら、炎を出せるようになったわ」ボッ

魔法戦士「流石先生…すぐに元の力を取り戻すかもね」

賢者「えぇ、1年後には教室に復帰できるよう頑張るつもりよ」

魔法戦士「皆待ってるからな、先生」

賢者の魔法教室は、魔法学会より臨時の魔法使いが派遣されることとなり、賢者はしばらく休職することとなった。
それでも生徒達は皆、真面目に通っているそうだ。

賢者「そういえば魔法戦士君、あの話は受けるの?」

魔法戦士「あー…先生も知ってたか」

魔法戦士は大魔王を討った功績が認められ、国から騎士団への勧誘を受けていた。

魔法戦士「実は先生に進路相談したくて来たんだよな」

賢者「あら、そうだったの。相談ならいくらでも乗るわよ」

魔法戦士「じゃあ先生…ちょっと外歩きながら話さない?」

賢者「えぇ、いいわよ」

111 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/17(水) 09:56:02.73 ID:Lo4FEZZu0
魔法戦士「迷ってるんだ、俺」

並木道を歩きながら、魔法戦士はそう切り出した。

魔法戦士「大魔王を討てたのは、9割方先生のお陰だ。それに俺、剣も魔法も正直中途半端だし、このまま勧誘を受けていいのか…」

賢者「王様だってそれは承知の上よ。騎士団に入ればビシバシ鍛えられるわよ。あ、もしかしてそれがイヤ?」

魔法戦士「いや、そんなことはないけど…王様の期待を裏切るんじゃないかとかね」

賢者「心配いらないわ、魔法戦士君の戦闘センスは本物だもの。先生が保証する」

魔法戦士「先生にそう言ってもらえるのが、1番自信につながる」

魔法戦士は嬉しそうにはにかむ。こういう顔は、まだ子供っぽさを残していると思う。

魔法戦士「1つ心残りなのは――」

賢者「うん?」

魔法戦士「騎士団に入れば先生とほとんど会えなくなるだろ。…先生、俺のこと忘れたりしない?」

賢者「忘れるものですか。君は先生の誇りで、大事な生徒だもの」

魔法戦士「5年――」

魔法戦士は一瞬躊躇し、言った。

魔法戦士「5年経ったら――先生に相応しい男になってみせる」

賢者「――え?」

112 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/17(水) 09:57:04.80 ID:Lo4FEZZu0
魔法戦士「今の俺のままじゃ、自信を持って先生を迎えられない。だから俺は騎士団で自分を鍛えてくる」

賢者「あのー…魔法戦士君?」

魔法戦士「5年、俺を待っててくれないか先生」

賢者「魔法戦士君…?話が見えないんだけれど…?」

魔法戦士「俺、ずっと――」

魔法戦士は賢者の正面に立ち、そして――

魔法戦士「先生のこと、ずっとずっと好きだったんだよ!!」

賢者「…」

賢者「……え」

賢者「えええええぇぇぇ!?」

113 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/17(水) 09:59:04.45 ID:Lo4FEZZu0
魔法戦士「先生が子供になった時はショックだったけど!!5年すりゃ先生も成長する、俺ならそれまで待てるよ!」

賢者「ま、待って魔法戦士君!?急に言われてもどうしていいか…」

魔法戦士「俺は先生からすればまだガキだし未熟者だし、そんな対象じゃないこともわかってる。だから5年後には立派な男になるから…」

賢者「待ってってば~」

これは何?夢?
何と返答すればいいのかわからない。
魔法戦士の言うとおり、自分は彼のことを恋愛対象として見たことはない。自分達は先生と生徒であって、30手前のオバサンと若い男の子であって…。

賢者「魔法戦士君、私なんて魔法以外何もできないオバサンよ。世の中には、もっと素敵な女性が沢山――」

魔法戦士「それでも俺、先生がいい」

魔法戦士の瞳は真剣だった。

魔法戦士「そりゃ先生は天然だしズボラだし、その辺の幼児のがしっかりしてる位だけど」

賢者「それは言いすぎよぅ」

魔法戦士「そういう所も全部ひっくるめて、俺は先生が好きだ」

賢者「魔法戦士君…」

彼は真剣なんだ――その気持ちを子供扱いしちゃいけない。
賢者は少し間を置いて、返答を用意した。

114 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/17(水) 09:59:39.25 ID:Lo4FEZZu0
賢者「ごめんね魔法戦士君…今はまだ、返事できない」

自分自身、恋愛に関しては未熟すぎて。

賢者「やっぱり私、君のことどこか子供扱いしているんだと思う」

魔法戦士「う…」

賢者「でも、5年経ったら流石に子供扱いできないわよね」

魔法戦士「!」

賢者「だから――」

上手い返答が思い浮かばない。だから自分は、恋愛もできなかったのかもしれない。
それでも、魔法戦士にも、自分の気持ちにも、誠実でいたい。そう思って答えた。

賢者「5年経っても私への気持ちが変わらないようなら、また言いに来て。それまで、待ってるから」

魔法戦士「先生…」

魔法戦士はうつむいてブルブル震える。
どうしたんだろう…そう思った途端顔を上げた。

魔法戦士「チャンスはゼロじゃないんだな!?いいんだな期待して!?」

賢者「えぇ…」

魔法戦士「よっしゃああぁぁ!!」

そしてガッツポーズのまま、たかーくジャンプした。

115 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/17(水) 10:00:13.60 ID:Lo4FEZZu0
魔法戦士「そうとわかりゃ1日だって無駄にできねぇ!!すぐに騎士団入ってくる!!」

賢者「魔法戦士君!?」

魔法戦士は駆け出す。王都への方向だ。

魔法戦士「先生ーっ、約束だからな!」

結構距離が離れた頃、魔法戦士はこちらに振り返る。

魔法戦士「俺絶対、先生に相応しい男になってくるから!先生も修行、頑張ってな!」

賢者「…えぇ!」

約束した。魔法戦士はきっともっと強くなって戻ってくる。だから自分も力を取り戻せるよう、頑張らなきゃ。

賢者の返答を確認した魔法戦士はまた駆けていき、やがてその姿は見えなくなった。

賢者(5年後、か――)

30年近く生きてきた自分には、あっという間の年月。
期待しよう――自分の生徒として、1人の男としての、魔法戦士の成長に。

116 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/17(水) 10:00:43.67 ID:Lo4FEZZu0
賢者「さてと…」

賢者も日常に戻ることにした。

賢者(魔法の修行に、魔道書の執筆に…あ、その前に今日の晩御飯どうしよう。そっかー、もう魔法戦士君がいないんだもんね~)

ちゃんとした大人になった魔法戦士に、生活習慣について叱られる…そんな未来が一瞬見えた。

賢者(ああぁダメダメ、魔法以外にもちゃんとしなきゃいけないことが沢山あるわ)ズーン

賢者(それでも、まぁ)

前向きに考えよう。自分はやり直しのチャンスを与えられた。
以前の自分より、もっと素敵な自分になれるかもしれない。

賢者(やり直すからには、もっともっと凄い魔法使いを目指さなきゃ)

賢者(そして今度は、ちゃんとした大人になろう!私の歳からでも成長はできるもんね!)

そうと決めたからには、やることは沢山ある。
せっかく与えられたチャンス、無駄にはできない。

賢者は決意を胸に、いつか来る未来に向かって走り出した。

賢者「よーし、頑張りますか!!」


Fin
117 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/06/17(水) 10:01:11.27 ID:Lo4FEZZu0
ご読了ありがとうございました。
久々に恋愛メインでないssを書いたような気がします。

5年後どうなるかはご想像にお任せします。自分はハッピーエンドが好きなので、双方が幸せになれるといいなぁと思います。

118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/17(水) 10:29:21.60 ID:kNOwDmZAO
乙!!

119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/17(水) 12:35:58.17 ID:J9mLgi/SO
おつおつ
好き勝手にハッピーエンド妄想させていただきまっさ

120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/19(金) 06:47:21.31 ID:EItLQILDO


121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/08(水) 16:35:01.40 ID:HpgguPvWo
おつおつ
posted by ぽんざれす at 10:12| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

王子「囚われの姫君に恋をした」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1431331213/


1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/11(月) 17:00:23.82 ID:+o0lHeNe0
つい最近世界は生まれ変わった。
王子が訪れたのは無人の城。

王子の胸は、冒険心でウズウズ落ち着きがなかった。

王子「おおぉ~、これが魔王の玉座かぁ~!」

主を失った玉座に腰掛け、威張ったポーズを取ってみる。

つい先日まで、人間と争っていた魔王。
今は亡き魔物達の王は、毎日ここで、この光景を見ていたのか。

王子「さーてさて」

そんなちょっとした魔王ごっこもすぐに飽き、彼は城内を駆ける。何か他に面白いものはないか――そんな期待を抱きながら。

王子「…ん?」

ふと、窓の外を見た。
少し離れた所に、塔がそびえ立っている。

王子「何だ…あの塔?」

2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/11(月) 17:01:05.89 ID:+o0lHeNe0
王子「うーん、鍵かかってるな」

塔の前まで来たが、その扉は開かなかった。
塔の周辺をぐるぐる回ってみる。他に入り口はない。

ここの探索は諦めるのが賢明か。

だが。

王子(生憎、俺は賢明じゃないんだよな~)

せっかくここまで来たというのに、このワクワクを我慢してたまるものか。

王子(この硬いドア、ぶち破れそうにはないな。とすると…)

王子は塔を高く見上げた。

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/11(月) 17:01:38.95 ID:+o0lHeNe0
王子「よいしょ、よいしょっと」

王子は外壁の凹凸を上手く利用して、塔をよじ上っていた。
目指すはてっぺん。そこには小窓があったのだ。

王子(固く封じられた塔の中に待ち受けるもの…きっと何かあるに違いない!)

王子の頭の中は既に、お宝の山だとか、ドラゴンの卵だとか、そんなファンタジックな妄想に包まれていた。

王子「ん~っ」

小窓との距離もあとわずか。
手を伸ばして、もう少し、もう少し…。

王子「よっしゃ!」ガシッ

小窓に手が届くと、王子は軽快に窓に飛び移る。

王子「さあっ!その姿を見せよっ!」バッ

姫「…え?」

王子「え?」

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/11(月) 17:02:25.71 ID:+o0lHeNe0
姫「…どなた?」

王子「…」ポカン

質素な部屋の片隅には、王子と同い年位の少女がいた。
着ていたドレスは色もデザインも控えめで、目立った装飾品は身につけていない。しかし白く滑らかな肌、美しく輝く金色の髪、澄んだ青い目、何よりも――

王子(何て綺麗な人なんだ…!!)

彼女自身が、どんな宝石にも劣らぬ美しさを誇っていた。

王子「あ、あのっ、俺っ、王子って言いますっ!」

姫「王子…様?」

王子「あ、貴方の名は!?」

姫「姫……」

姫は一言だけ名を呟くと、こちらを不思議そうに見つめた。
王子はその瞳から目をそらせなかった。まるで魔法にかかったかのように。
ドクンドクン。心臓は高鳴りを抑えきれない。

王子と姫。2人だけがいるその空間に心地よさを覚えながらも、王子は願望を頭に浮かべていた。

王子(この出会いは正に、運命の――)

グウウゥゥ~

王子「え?」

姫「…」

姫「お腹…空いた」パタッ

王子「姫様あああぁぁ!?」

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/11(月) 17:03:25.48 ID:+o0lHeNe0
姫「美味しい…グスッ、今まで生きてきた中で1番美味しい」パクパク

王子「いやぁ…ただの即席おにぎりっすよ?」

姫「ありがとう、ありがとう…3日も食べてなくて」グスグス

姫は泣きながら、王子に貰った非常食を食べていた。
その表情は、姫の外見年齢にしてはかなり子供っぽい。

王子「3日前…つーと、勇者が魔王を倒した日だな」

姫「えっ!?…倒されたんですか、魔王が…」

王子「そう。魔王軍の残党は残党狩りを恐れて、魔王城から逃亡したと聞く。今じゃこの魔王城、魔物の姿も見当たらないっすよ」

姫「そう…なんですか…」

王子「ところで姫様はどうしてここに?」

姫「私は…」

姫は一瞬躊躇した後、答えた。

姫「私は長い間、ここに囚われていました…ですので、外の事情に疎くて」

王子「そうだったのか」

と、王子の頭に妄想が浮かぶ。
囚われの姫と、姫を救い出す王子。まるで童話のような話の流れ。そして童話ではお決まりのように、ラストで王子と姫は――

王子(ハッピーエ~ンドッ)グッ

姫「あの?」

王子「姫様っ!」

姫「は、はい」

王子「今すぐ貴方を連れ出してみせましょう!この私にお任せあれ!」

使い慣れぬ一人称を使い、王子は精一杯かっこつけた。
だがしかし。

姫「それは無理なんです」

王子「ぬあぁ!?」

撃沈した。

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/11(月) 17:04:23.96 ID:+o0lHeNe0
姫「私は呪われているのです」

姫はそう言うと、全開の小窓に向けて手を差し出す。
だがそこには見えない壁があるかのように、姫の手は途中で止まった。

姫「この通り…私は塔から出られないのです」

王子(何てこった)

姫に呪いをかけた者は、呪いをとかないまま魔王城から逃げ出したのか。
その身勝手さに、王子は怒りを覚えた。

王子「魔法使いを連れてきましょう!それで貴方の呪いを解いてみせる!」

姫「無理だと思います…私に呪いをかけたのは、魔王軍でも随一の魔法の使い手で…」

王子「なら我が国イチの魔法使いを連れてくる。それで姫様は自由の身だ!」

王子は姫の手を握る。

王子「俺にお任せあれ!」

姫「え、えぇ」

困惑した様子の姫の様子に気づかずに、王子は瞳をキラキラ輝かせていた。

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/11(月) 17:05:51.53 ID:+o0lHeNe0
初回はここまで(´・ω・`)
男主人公で書くのめっさ久々なので、女々しくならんよう気をつけます。

8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/11(月) 17:11:14.07 ID:4TqAiPgyO
おつおつ、期待

9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/11(月) 18:33:00.79 ID:vif3eIO+o
お、貴方か

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/12(火) 16:40:44.26 ID:tcuIPDrV0
が。

魔法使い「何じゃこりゃ。わけわからんですわ」

王子「何ィ!?」

勇者の仲間であり、今や世界トップクラスの魔法の使い手は、早々に音をあげた。

魔法使い「こんな仕組みも何もわからん呪い、どうしようもないっすわ」

王子「で、でも…色々やってみれば何とかなるんじゃないのか!?」

魔法使い「それは素人の意見ですよ王子~。よくわからん呪いを下手にいじったら、姫様が爆発する危険だってあるんですよ?」

王子「ええぇ…」

せっかく姫を助けられると思ったのに。王子はがっくりと肩を落とした。

姫「いいんです、そんな気はしていましたから」

王子「いやいや良くない良くない!」

姫「ありがとうございます王子様…でも私、これ以上貴方に迷惑はかけられませんわ」

王子「迷惑だなんて!むしろ本望というか、貴方を救いたい!!」

魔法使い(あーこりゃ完全にホの字だな)アチャー

王子「魔法使い、先に帰って父上に伝えるんだ!姫様の呪いを解ける者を、世界中から探し出すようにと!」

魔法使い「ハイハイ。そいじゃお先~」

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/12(火) 16:41:28.19 ID:tcuIPDrV0
姫「王子様は優しいのですね…素性もわからぬ私を助けようとして下さるなんて」

王子「何をおっしゃる。困っている人がいたら助けるのは当然でしょう」

王子は自信満々に答える。
そう、仮にここに囚われていたのが男だったり醜女だったとしても、王子は同じ行動を取っていただろう。
王族としての責任感にはやや欠ける王子だが、1人の人間としての正義感は強かった。

姫「いいえ。本当にお優しいです」

王子「?」

だから、何故そんな風に言われたのか理解はできなかった。

王子「そうだっ!」

だが王子には正義感の他に、勿論、下心も存在していた。

王子「姫様、毎日ここに来ても良いでしょうか?」

姫「はい?」

王子「ほら呪いが解けるまで姫様はここから出られないし、食事が必要でしょう?それに…」

姫「それに…?」

王子「…俺と、友達になって欲しいんです!」

姫「友達…ですか?」

姫は不思議そうに首を傾げた。

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/12(火) 16:42:01.84 ID:tcuIPDrV0
姫「すみません…私、友達ってよくわからなくて」

王子「あっ、俺と会ってくれるだけでいいんです。それで色々お話できれば」

姫「会ってお話する…それが友達?」

王子「まぁそんな所です…駄目ですか?」

姫「そんな、駄目だなんて」

王子(よっしゃ!)ガッツポーズ

王子はその返答だけで浮かれていた。

王子「それじゃあ今日はもう遅いので、明日から来ますね!待っていて下さい姫様!」

姫「えぇ…お気を付けて」

王子「おやすみなさい姫様!」

王子はビシッとポーズを取ると、窓から飛び降りた。

王子「うわあああぁぁぁぁ」ドーン

姫「お、王子様ぁ!?」アワワ

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/12(火) 16:42:53.47 ID:tcuIPDrV0
>翌日

王子「~♪」

数日分の食料を背負った王子は、鼻歌を歌いながら外壁をよじ上っていた。
体が軽い。これも、あの窓の先で美しい姫が待っているおかげか。

王子「姫様ぁ~!おはようございまーす!」

姫「あら王子様、おはようございます」

王子「食料を…おや」

ふと変化に気付いた。
姫の耳には、昨日つけていなかったイヤリングが光っていた。

王子「そのイヤリング、お似合いですよ姫様」

姫「あ…お気づきですか王子様」

王子「そりゃ勿論」

昨日姫が着ていたドレスのことだって、王子には思い出せる。
昨日見た印象では格好が控えめな姫だったが、今日は昨日より少し華やかになっている。

姫「お友達が来るということで、少し格好に気を使ってみたのですけれど…」

王子「良いです」グッ

姫「そ、そうですか?」

王子「姫様自身勿論お美しいのですが、人が来るからちょっとアクセサリーをつけてみる…そのお洒落心が女性を可愛くするんですね」グッ

姫「や、やだ恥ずかしい…」

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/12(火) 16:43:28.52 ID:tcuIPDrV0
姫「それで王子様…お友達って、お話をするんでしたっけ…?」

王子「そうでしたね」

王子(いかん、自分が言ったことを忘れていた。でも「姫様をじっと見ていられるだけでいいんです」なんて、口が裂けても言えるか)

王子「姫様のことを聞いても良いでしょうか」

姫「私のこと…ですか?」

王子「はい。姫様はどちらの国から来られたのですか?」

姫「私は…」

姫はうつむいた。心なしか表情も声も重くなった。

王子(…もしかして俺、禁句言っちゃった?)

魔王との争いで滅びた国もいくつかは存在する。
もし彼女が、そんな亡国の姫だったとしたら…。

王子「わー!いいですいいです、今の質問ナシで!じゃあ、姫様はー…えーと、えーと」

姫「王子様のことが聞きたいです」

王子「…俺の?」

姫「えぇ…駄目ですか?」

姫は不安そうな目で見つめてきた。
そんな目で見つめられたら…。

王子(うひょぉ!俺に興味持ってくれてるーっ!!)

王子の心は打ち抜かれていた。

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/12(火) 16:44:17.22 ID:tcuIPDrV0
王子「俺の国は小国だけれど、勇者を生んだ国ってことで今大注目で~」

姫「勇者…魔王を討った方ですね」

王子「そうそう。一応俺は勇者と幼馴染でもあるんです。で、勇者は俺の姉様と恋仲でもあり、近々結婚すると思う」

姫「それは…大変ですね。世界的な英雄と親戚関係になるなんて」

王子「あ、まぁそうだね」

羨ましいとか、誇らしいことですねとか、そう言われることが多いのだが、姫の反応は変わっていた。
やはり姫も王族の者、感性が自分と近い。

王子(勇者が義兄、かぁ…)

姫「王子様と勇者様はお友達でしたの?」

王子「そうだねー…まぁ、昔は2人で冒険ごっことかして遊んでたよ」

姫「冒険ごっこ?」

王子「城の近くにある洞窟やら森やらに遊びに行って、秘密基地作りや宝探しをするんだ。つってもまぁ、所詮ごっこ遊びだけど」

姫「まぁ楽しそう!いいなぁ、冒険ごっこ」

姫は目を輝かせていた。
王子にとっては、ちょっと恥ずかしい子供時代の思い出だったのだが。

王子(姫様は箱入り娘だったのかな?)

姫「秘密基地ってどんなものなんですか?」

王子「あぁ、秘密基地ってのは~…」

その日は姫の質問攻めで、自分の話を沢山した。

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/12(火) 16:44:58.81 ID:tcuIPDrV0
姫「う、ふふふっ」

しばらく話すと姫の緊張感も大分溶けたようで、姫は口元を抑えて大笑いする様子も見せた。

姫「王子様って、とても好奇心旺盛で、色んなことを知っていらっしゃるのね」

王子「いやー…肝心な勉学はさっぱりなんですがね」

姫「いいなぁ。私も色んなことやってみたい」

王子「それなら…」

俺と一緒にやりましょう…そう言いかけて、口をつぐむ。
この姫君は、呪いをとかない限り、ここから出ることすらできないのだ。
だが、すぐに思い直した。それなら呪いをとけばいいだけの事。自分は何を躊躇したというのか。

王子「呪いがとけたら、沢山のことをしましょう」

姫「…」

王子(ありゃ)

姫の表情は暗い。しまった、また言ってはいけないことを言ったか。

王子「だ、大丈夫ですよ!呪いは絶対にときます、いつかここから出られますって!」

姫「えぇ…」

そう言うものの、表情は相変わらずだ。
やはり不安なのだろう。無理もない、実際囚われている本人なのだし、しかもこんな繊細そうな女の子だ。
王子は自分のデリカシーのなさを呪いながら、どうしたものかと考えた。

王子(そうだ)

王子「姫様、明日は面白いものを持ってきます!楽しみにしてて下さい!」ダッ

姫「あっ、王子様…」

王子「うわああああぁぁぁ」ドーン

姫「足元気をつけて…って遅かった…」

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/12(火) 16:45:40.78 ID:tcuIPDrV0
>翌日

姫(面白いものって何だろう)

姫は王子が来るまでの間、身支度を整えていた。

姫(このイヤリングは昨日つけたし…うーん、でもこのドレスにこれは似合わないかなぁ)

姫(ちょっと髪型もアレンジしてみようかなぁ)サラサラ

姫(う。髪飾りどうしよう)ワタワタ

姫(これがいい?それともこれ?)

姫「あぁもうわかんないーっ!」

王子「何がわからないんですか?」

姫「きゃーっ!?」

装飾品選びに夢中になっていた姫は、声をかけてくるまで王子が来ていたことに気がつかなかった。

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/12(火) 16:46:28.89 ID:tcuIPDrV0
王子「髪型変えたんですね。涼しげでいいですね」

姫(気付いてくれたっ!)

王子「あれ、もしかして髪飾りを選んでいた所ですか?」

姫「そ、そうなんです~…あ、選んで頂けませんか!?」

王子「そうだなぁ…」

王子(やっべ女の子のファッションなんて全然わかんねー)

姫「…」ジー

王子「これとか?」

姫「ありがとうございます、これにします!」

姫は王子が選んだ音符モチーフの髪飾りを頭につけた。

王子「お似合いですよ」

姫「本当ですか!」

王子「嘘なんて言いませんよ」

姫(良かったぁ、選んでもらって…)

顔をほころばせて喜ぶ姫を見て、王子はご満悦だった。

王子(多分、どれをつけても姫様には似合うんだろうけど)

それは口に出さないことにした。喜ぶ姫が可愛ければ、それでいい。

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/12(火) 16:47:00.36 ID:tcuIPDrV0
王子「そうだ。それで今日はこれを持ってきたんです」

姫「カードですか…?」

王子「はい!これなら屋内でも十分遊べます!」

姫「でも私…遊び方わかりません」

王子「教えますよ~。本当簡単なんですぐに遊べるようになりますって!」

姫「は、はい!」

姫は拳をぐっと握り、力いっぱい頷いた。
たかがカードゲームなのに、気合十分な姫を見て王子は思わず噴いた。

姫「え、あのっ、何か可笑しかったですか!?」アワアワ

王子「い、いえ…思い出し笑いです…」

王子(今の仕草可愛かった~)

王子「それじゃあ、神経衰弱から説明を…」

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/12(火) 16:47:34.76 ID:tcuIPDrV0




姫「ああぁ~、わからなくなりましたーっ」

王子「ま、そういうゲームなんで」

姫「また外れたぁ…」

王子「こことここで…よっし合ってた~♪」

姫「また取られたぁ~っ、王子様強すぎますっ!」

王子「ま、コツを掴んでますからね」

姫「王子様は意地悪ですー、手加減して下さいーっ!」

王子(結構わざと間違えたりもしてるんだけどなぁ…)

姫「また負けちゃいました~…」

王子「別のゲームやりますか…?」

姫「王子様に勝つまでやりますっ」

王子「よ~し」

王子(意外と負けず嫌いだな)


22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/12(火) 16:49:06.89 ID:tcuIPDrV0

姫「やっと勝てましたーっ!」

王子「そうですね…」ズキズキ

王子(マジで神経が衰弱した…)ズヨーン

姫「あ、もう暗くなってました!すみません王子様、こんなに長時間付き合わせてしまって!」

王子「いえいえ、姫様に楽しんでもらえて良かったです」

姫「また明日も…あっいえ」

王子「ん?どうかしました?」

姫「いえすみません…明日もだなんて、来るのが当然みたいに」

王子「いやいや、俺は言いましたよね、毎日ここに来るって」

姫「いえ、そんな無理せずに…」

王子「いや無理とかじゃなくて、俺がここに来たいんです」

姫「王子様…」

姫はまだ申し訳なさそうな表情を崩さなかったが、反面少し嬉しそうだ。

王子「明日は別のゲームをしましょう」

姫「…はい!」

王子(喜んでくれてる…)

そんな姫の様子を見て、王子はますます幸せを感じるのだった。

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/12(火) 16:50:27.71 ID:tcuIPDrV0
今日はここまで。
王子による姫様攻略パートでした。
王子に外見について言及はしないだろうけど、最低でもフツメン以上と想像してます。

24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/12(火) 22:17:32.25 ID:KHZDwLJxO


25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/13(水) 17:49:39.40 ID:KZKKvfE00
楽しかった時間が終わった。逢瀬の時間は王子にとって、至福のひと時。
王城に帰る足取りはやや重い。姫との別れの寂しさを引きずり、そして――

姉姫「遅かったわね王子」

王子「すみません…」

憂鬱でしかない時間を遠ざけるかのように。

王「勇者を生んだ我が国に世界中から注目が集まっているというのに、その国の第一王子が遊び歩いてばかりでは外聞が悪い」

姉姫「ご安心を父上。建前上は、無人の魔王城の調査ということで噂を流しておりますわ」

王「そうか、流石姉姫だ」

姉姫「だけど噂にも限界はあるの。王子という自覚をしっかり持って頂きたいわ、王子」

王子「はい…姉上」

王子はそんな姉姫が苦手だった。

姉姫「王子、貴方がそれなりに勉学も剣も努力を重ねてきたことは知っているけど」

優秀さから来る隙のなさ、それに――

姉姫「人並み以上に努力しても人並みにしかなれないのなら、せめて人並みを維持して下さらない」

王子「…っ」

不出来な弟に対しての、容赦ない程の辛辣さが。

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/13(水) 17:50:28.09 ID:KZKKvfE00
王子(あー…いい気分が台無し)

自室に戻ってももやもやしていた。
姉姫の発言は、相変わらず容赦なく王子の心を蝕んでくる。

王子(人並み以上に努力しても――)

数年前までの自分には、将来この国を背負って立つという自覚があった。
幼少より姉姫よりも多くの教育係をつけられ、この国の王になる為の教育を受けてきた。
そう、教育に問題は無かった。

ただ単に、自分が不出来すぎただけで。

王子(あぁ~、もう)

毎晩日課で呼んでいる議事録の内容も頭に入ってこない。
メンタルの部分も、数年前に比べるとずっと脆くなったような気がする。

王子(駄目だ…今日は寝よう)

寝ればきっともやもやも晴れる。
明日も姫に会うことができる。
それを思えば、明日が来るのも怖くない気がした。

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/13(水) 17:51:13.32 ID:KZKKvfE00
「うーん、駄目ですね」

国で探してきた魔法使いに姫の呪いを見てもらったが、やはり駄目だった。
今回の魔法使いもかなり優秀という事だったが、期待していた分王子の落胆は大きかった。

姫「そんなに気を落とさないで下さい王子様。貴方は私の為によく動いて下さっています」

王子「それでもー…」

姫「ふふ、気長に考えます。落ち込むなんて王子様らしくありませんよ?」

王子「そっかな…」

姫「えぇ。笑って下さい、王子様」

王子を励ますような姫の微笑み。
やっぱり可愛くて、心臓がバクバク言って…。

王子「そうですね~」

顔がにやけるのは抑えられなかった。

姫「それよりも、カードゲームを教えて下さいませんか?」

王子「よしきた!」

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/13(水) 17:52:00.31 ID:KZKKvfE00
姫「はい、上がりっ!」

王子「くうぅ、こっちのゲームは姫様の完勝だ~」

姫「ふふふ、ごめんなさい、こちらばかり気持ちのいい思いして」

王子「ははは、次は負けませんよ」

正直負けて悔しい気持ちはあったが、勝ちの続いている姫の機嫌はとてもいいので、このまま負け続ける価値は十分にあった。

姫「ふぅ、少し休みませんか?頭を使って少し疲れました」

王子「そうですね。飲み物をどうぞ」

姫「ありがとうございます」

一息ついて、ふと部屋の景色を見渡した。
簡素で殺風景な部屋。最低限の家具はあるので暮らすには不便しないだろうが、華やかさがない。
高価な品で装飾された姉姫の部屋とは大分違う。同じ姫だというのに、こうも違うというのか。

姫「そ、掃除はしているんですが」

何か誤解したのか、姫は慌てて言った。

王子「姫様がご自分で…?ってそうですよね、誰も立ち入りしませんからね」

姫「えぇ、昔から」

王子「昔…?姫様はどれ位、ここにいらっしゃるんですか?」

姫「もう、こんな小さな頃から」

王子「子供の背丈じゃありませんか」

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/13(水) 17:52:39.26 ID:KZKKvfE00
物語で知る限り、姫がさらわれる理由というのは、さらった者が姫を后にしようというものが多い。
だが魔王も小さな姫をさらって后にしようとは、まさか考えないだろう。…いや、ありえるのが怖い所か。
それでも后にしようというのならこんな所に監禁するはずはない。とすれば、もっと別の目的があったのか。

王子(聞いてみたいけど…)

姫「…」

昨日もそうだったが、姫は自分のことを語りたがらなかった。
昨日の今日でそれが変わるとは思わない。

王子「それじゃ、友達は作れませんよね」

だから、聞かなかった。

王子「でも俺が友達になったからにはご安心を!放蕩王子として有名ですから、遊びなら何でも!」

王子(って自慢できることじゃねーって)

姫「王子様は楽しい方ですから、お友達が沢山いらっしゃるんでしょうね」

王子「え…っ」

姫「勇者様も、お友達なのでしょう?」

王子「…」

すぐに言葉が出なかった。

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/13(水) 17:53:21.60 ID:KZKKvfE00
確かに勇者とは、幼い頃は共に遊び、同じ師の下で剣の修行をした仲だった。

『勇者は才能あるな!もしかしたら将来、魔王を倒すかもしれんな!』
『今度、兵団の魔物退治に同行してみたらどうだ勇者』

だけど彼と才能の差が開くのと比例し、自然と疎遠になっていった。

『悪いけど王子と遊ぶと怒られるんだよ、お前のせいで王子が馬鹿になったー、って』

小さい頃仲の良かった相手は、どんどん自分から離れていった。

『付き合う相手は選べと父上に言われている、悪いな』
『姉姫様はあんなに優秀だというのに、どうして弟王子の方は…』

他国の王族にも、何の才能も持たぬ自分と親しくなろうという者はいなかった。

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/13(水) 17:54:07.23 ID:KZKKvfE00
王子(俺に、友達なんて――)

姫「王子様?」

王子「え、あ、いやっ」アワワ

姫「ふふ、どうしたんですか王子様。おかしい」

王子「笑わんで下さいよー」

姫「ふふふふ。でも王子様には才能がありますね」

王子「才能?」

姫「えぇ。人を笑顔にする才能です」

王子「…」

姫の言ったことは的外れだった。
自分は不出来すぎて、父や姉に怪訝な顔をさせたり、中には哀れみを向けてくる者もいた。
笑いものにすらなれなくて、人にいい気持ちを与えることなんてできない。

王子(むしろ――)

俺なんていない方がいいんだ――そう思ったことは、数え切れない程あった。

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/13(水) 17:55:02.00 ID:KZKKvfE00
姫「王子様が来て下さって良かったです」

王子「えっ!?」

心を見透かされたか―― 一瞬、そう思った。

姫「こんなに楽しい気持ちになれたのは、初めてかもしれません。私、王子様とお友達になれて良かった」

王子「…」

姫は世間を知らない。だから、そんなことが言える。

王子(もし姫様が外に出たら――)

姫「もしここから出られたら、もっと沢山、ワクワクすることを教えて下さるんでしょうね」

世間を知る。もっともっと魅力的な人を知る。王子が何の才能も魅力もない人間だと知ってしまう――

王子(嫌だ…)

姫の心が自分から離れる。そして姫は、自分の周囲の人間が自分を見るのと同じ目で自分を見る。
想像するだけで耐えられなかった。

王子(そんなことになる位なら――)

姫「?」

何も知らない姫でいてほしい。

いっそずっと、ここに囚われていてくれたら――

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/13(水) 17:55:30.55 ID:KZKKvfE00
王子(…って何考えているんだ俺は!?)

姫「王子様?」

王子「あ、いえっ!」

心を見透かされていないかという心配からか、王子は急に立ち上がった。

王子「すみません…急用を思い出しましたので、今日は帰ります」

姫「あら、そうですか。…明日も来られますか?」

王子「えぇ、勿論」

姫「良かった」

姫はニコッと微笑む。本当に純粋で、清らかな笑顔だった。
それは愛おしくもあり、同時に王子の胸を締め付けた。

王子「では…」



帰りの道中も、締め付けられた胸が楽になることはなかった。
自己嫌悪が消えない。さっきあの瞬間、とんでもないことを思ったから、というだけの理由ではない。

王子(俺の本音なんだよな…これ)

いくら心の中で否定しても湧き上がってくる、姫を手放したくないという気持ち。

王子(最低じゃねーか、俺…)

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/14(木) 20:24:01.24 ID:X87xais80
>翌日

姉姫「あら、今日も出かけるの王子」

王子「えぇ、まぁ…」

城を出ようとした所で声をかけられた。
まずい…ただ呼びかけてそのまま去るだけの姉姫ではない。

姉姫「囚われのお姫様に会っているそうね」

それについて説教されるというのは、十分予想できていた。

姉姫「魔王に姫様がさらわれた国なんて聞いたことないけれど。どちらの国の方なのかしら」

王子「どうやら囚われたのは姫様が子供の頃のようで…それについては、まだ」

姉姫「亡国の姫なら何の糧にもならないわ。いくら花嫁候補に苦慮しているからって、お付き合いする相手はもう少し考えてほしいわね」

王子「…っ、そんな事は姉上には」

姉姫「関係ないとは言わせないわ」

姉姫はピシャリと王子の言葉を遮断した。

姉姫「貴方に王位を継ぐ裁量があると思って?いえ、王位どころか、王の補佐すら務まらないわ」

王子「…」グッ

姉姫「それならせめて、我が国の為になる婚姻を結んで頂かないと。放蕩王子が亡国の姫と結婚だなんて、国の恥を晒す話でしかないのよ」

王子「…っ」

王子は、何も言い返せなかった。

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/14(木) 20:24:46.53 ID:X87xais80
王子(くっそ…)

もやもやが晴れない。
自分を否定されることは、いつまで経っても慣れることができない。

王子(いずれ姉上は勇者と結婚し、王位を継ぐ)

優秀な姉に、世界を救った勇者。2人は周囲から認められ、祝福される夫婦となるだろう。
だけど2人が輝けば輝く程、不出来な自分に向けられる目は冷たくなるはずで。

王子(遊んでる場合じゃないのに)

頭ではわかっていたが、行動に移せなかった。
人並み以上に頑張ってようやく人並み、そう評されて自分が情けなくなって。

かつての自分は、不出来だという周囲の言葉も耳に入らないくらい頑張れた。頑張ればいつかは報われる、そう信じて。

王子(けど報われることはなかった)

勉強したこともすぐに忘れる頭、雑魚モンスター1匹狩るのがやっとな剣の腕。
努力だけじゃどうにもできない無能ぶりだと、結果が王子を嘲笑った。

自分は物語に出てくるような王子様には程遠い。誰かに憧れて貰えるような部分、1つも持ち合わせていない。

王子(~っ、駄目だこんな気分のままじゃ!)

頬をパチンと叩く。

王子(これから姫様と会うんだから…!)

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/14(木) 20:25:26.52 ID:X87xais80
姫「王子様~っ」

王子「あ、姫様!」

魔王城に着くと、姫は窓から手を振っていた。

王子(俺と会うの楽しみにしてくれているんだなー)ジーン

王子は塔の外壁に飛びつき、いそいそとよじ上っていった。
急ぎすぎて、途中何度か足を滑らせたが、そこから落ちることはなかった。

王子「ご機嫌よう姫様!」

姫「もう王子様、見てて危なかったですよ!」

王子「ははは、俺ってそそっかしいから」

1秒でも早く姫と話がしたかった。
姫といる時間だけが、至福の時だから。

姫「王子様…何かありました?」

王子「えっ」

姫「何だか顔つきがいつもと違うような…」

王子「え、いや…そんなことはないですよ」

まずい、察されてしまったか。

王子「それよりも今日は何のゲームで遊びましょうか」

姫「今日は…お話がしたいです」

王子「じゃあ、そうしますか」

王子は姫の正面にあった椅子に腰掛けた。

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/14(木) 20:26:35.63 ID:X87xais80
王子(…つっても何を話せばいいのか)

楽しい話は前にした。最近、姫といる時以外はろくなことがない。
どうしたものか…そう困っていると。

姫「王子様…私の話を聞いて下さいますか?」

王子「姫様の?勿論」

王子は即答した。そろそろ、姫自身のことを聞きたかった。

姫「あのう…その…」

姫は少し話しづらそうに切り出した。

姫「変な話なんですが、私…何も思い出せないんです」

王子「思い出せない…ってのは?」

姫「ここに来る前のことです…」

王子「つまり、囚われる前の…」

合点がいった。それで、姫のことを聞いても答えてくれなかったわけか。

姫「自分が何者なのかわからないんです…それが不安で不安で…」

王子「なるほど。でも姫様は姫様だし、そんなに不安がらなくても…」

姫「不安ですよ」

姫は少し強めに言葉を遮った

41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/14(木) 20:27:13.50 ID:X87xais80
姫「私は本当に姫なのか――それすらもわからないんです」

王子(そういや…)

姫がさらわれた国など聞いたことない、姉姫がそう言っていた。

姫「魔王に囚われていた姫…もしかしてそれも嘘なのかもしれません」

王子「それは――」

そんなことはない、なんて言えなかった。
もう魔王も、魔王の手下も、ここにはいないのだから。

姫「魔王が討たれた後、誰も私を迎えに来てくれませんでした」

姫が亡国の姫だったとしても、その国にいた者は他の国に移った。
国が滅びた時点で、姫は姫でなくなる。つまり姫に、帰る場所は存在しない。

姫「私はもう、必要のない存在――」

王子「――っ!」

姫の言葉は、王子の心にストレートに突き刺さって。

姫「人々から忘れ去られて、自分でも思い出せないってのは…こんなに苦しいことなのですね」

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/14(木) 20:27:56.89 ID:X87xais80
王子「忘れ去られたなんてとんでもない!」

姫「王子様…?」

だから、姫の言葉をすぐに否定した。

王子「姫様はこうやって俺の目の前にいるじゃありませんか。物忘れが激しい俺でも、姫様のこと絶対に忘れない!」

それだけは疑いようのない事実。これだけは、絶対に否定させない。

王子「姫様が必要ないわけがない――外に出れば、いくらでも可能性はあるのに」

姫「王子様…」

例え国を失っていたとしても、姫ならきっと居場所を作れる。

王子「俺の方ですよ――」

姫「…え?」

どうしてか言葉が溢れてくる。

王子「努力を実らせることができない、もう努力する気力もない」

そんな自分、姫には知られたくなかったのに。

王子「必要とされていないのは、俺の方です」

全て吐き出したい気持ちも同時にあって。

王子「俺は多くの人に知られる存在で――その多くの人は、俺を無能と言います。必要とされていないのは、俺の方です」

言い切った後、後悔と、清々しい気持ちが、同時にあった。

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/14(木) 20:28:32.94 ID:X87xais80
姫「そんなこと、ありません…」

姫は弱々しくだが、王子の言葉を否定した。

姫「王子様が必要とされてないなんて…そんなはず、ありません」

王子「でも俺は――」

姫「だって!」

今度は強い口調で遮る。
その勢いに、王子は驚き言葉を止めた。

姫「私は外のことはわかりませんし、王子様の周辺のことはわかりません。それでも――」

姫は王子に一歩近づき、彼の瞳を見つめた。

姫「私が貴方を必要としていますから…」

王子「姫様…」

嬉しいはずの言葉なのに、衝撃が大きすぎて、頭にすんなり入ってこなかった。
それよりも、信じられないという気持ちの方が大きくて。

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/14(木) 20:29:03.87 ID:X87xais80
姫「私は本当に姫なのか――そんな不安、今まで1度も抱いたことありませんでした」

姫は胸の前で手を組み、ゆっくり語り始めた。

姫「けれど私が貴方を知り、貴方が私を知り…それからです、不安になったのは」

王子「俺と知り合ってから…?」

姫「だって、貴方は――」

姫は言いかけて、顔を真っ赤にしてうつむく。
その恥ずかしそうな表情に、追及することはできなかったが、王子は聞きたくて仕方なかった。

王子(俺は――?)

やがて姫は目だけこちらに向けて、小さな声で、呟いた。

姫「貴方は私を救おうとして下さる王子様で…」

姫「王子様の相手は――お姫様でしょう?」

王子「」

王子(え、えええええええぇぇぇぇぇぇ)

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/14(木) 20:29:45.05 ID:X87xais80
頭が一気にパンクしかけた。

王子(何?何だって?王子様の相手は――えっ?)

姫「…」バッ

姫は両手で顔を覆ってしまった。
つまりやはりこれは、姫にとって恥ずかしい告白であり…告白!?

王子(マジかよおおぉぉぉ!?…な、なな何て返せばいいんだ!?)

せっかくのチャンスだというのに言葉を返せない。やはり王子は、残念な王子であった。

王子「お、おおおお俺だって」

王子(ああぁ震えるな、俺!冷静になれ、俺!かっこつかねぇだろがッ!!)

姫「…?」チラ

王子(~っ!!)

指の隙間から覗く姫の瞳に催促され、王子は覚悟せざるをえなかった。

王子「俺だって!姫様を必要としています!」

ガシッと強く姫の手を握る。
露わになった姫の顔は相変わらず真っ赤で、恥じらいで今も泣き出しそうだ。

姫「王子様…」

王子「俺は…貴方の王子になりたい」

王子の特権とも言える言葉。正直自分には、姫の王子となる自信はない。
それでも、姫に対する気持ちは本物だから。

王子「…俺のお姫様に、なって下さいませんか…?」

姫「はい…!」

だからその気持ちを込めて、姫を、強く強く抱きしめた。

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/14(木) 20:30:27.59 ID:X87xais80
今日はここまで。
男視点慣れないので苦労(´・ω・`)

47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/14(木) 21:16:01.45 ID:0ywDGdbW0

今夜はコーヒーが甘いな

48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/15(金) 00:33:46.08 ID:ID1+HpK6O


49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/15(金) 10:56:46.32 ID:fgpbCC/2O
乙 二人に祝福あれ

50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/15(金) 17:01:18.86 ID:E1SRi3BxO
おつおつ、さあこっからだ
楽しみにしてるぞ

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/15(金) 18:49:06.49 ID:VzZsHgJ60
一方、時間は遡り、城。

姉姫(あれだけ言っても、王子は行くのを止めなかった)

廊下の窓から魔王城の方を見つめ、姉姫は嫌な予感がしていた。

姉姫(囚われの姫君とやらと、深い仲にならなければいいけれど…)

勇者「姉姫様、どうされました」

姉姫「あらお帰りなさい。遠征は大変だった?」

勇者「いや大したことは。貴方が事前に情報を集めてくれたお陰で、大分楽できました」

姉姫「そう、それは良かったわ」フフ

勇者「それと1つ報告が」

姉姫「何かしら」

勇者「元魔王軍の幹部と思わしき残党を生け捕りにしました」

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/15(金) 18:49:40.31 ID:VzZsHgJ60
姉姫は勇者と並んで、城内の牢獄へ向かった。
普段足を踏み入れぬ陰鬱な雰囲気の場所だが、姉姫は特に居心地の悪さを感じていない。

勇者「こいつです」

姉姫が見せられたのは、檻の中で鎖に繋がれている人型の魔族だった。
魔族は姉姫に気がつくと、ニタッと笑った。

魔族「これはこれは、才女と名高い将来の女王様じゃなーい。アタシに何か用かしら?」

姉姫(男…よね、この魔族)

姉姫「口を慎みなさい。自分の立場がおわかり?」

魔族「あらやだ怖い。アナタそんなに可愛げない顔ばかりしていると、年取った時どギツい顔のオバサンになっちゃうわよォ」

姉姫「余計なお世話ね。それよりも、質問に答えなさい」

魔族「あら、何かしら?」

姉姫「魔王城に、囚われのお姫様がいたわね」

魔族「あぁ――あのコね」

姉姫「彼女は何者?どうして魔王は、彼女をさらったのかしら?」

魔族「そうねぇ…もう魔王様はいないことだし、別にいいかバラしても」

53 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/15(金) 18:50:48.10 ID:VzZsHgJ60
王子「~っ…」

姫「…」

抱きしめ合ったまま時間が止まっていた。
このままでも十分に至福の時間。だけどもっとその先のことを、心の中で貪欲に求めてしまう。

王子(キス…してもいいのかな?)

視線を落とし、姫の顔を覗く。
姫は相変わらず恥じらいの為か顔を赤くし、瞼を閉じていた。
その様子はあまりにも愛しくて、そして純粋で…。

王子(駄目駄目駄目、抑えろ俺っ!)

下心全開の気持ちを抑えるのに必死だった。

姫「うふふ、王子様。ドキドキいってますよ」

王子(そりゃそうでしょうね…)

姫「何だか私…幸せです」

王子「~っ…」

その言葉に王子は一瞬、獣になりかけたが自分を抑え、上を見上げた。

王子(生きてて良かった…!!)ジーン

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/15(金) 18:51:23.66 ID:VzZsHgJ60
その時だった。

姫「…あら?」

王子「ん、どうしました?」

姫「外が騒がしいですね…」

王子「そういえば…」

姫のことで頭が一杯になっていたが、外から声がする。
王子は姫から離れると、窓の外を見た。

王子「あれ…うちの国の兵団じゃないか」

姫「え?」

王子(それに先頭に立っているのは…)

間違いない。あれは勇者だ。

王子「…何だろう。ちょっと行ってくる」

王子は窓の外に飛び出すと、外壁を伝って下に降りていった。

55 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/15(金) 18:52:57.69 ID:VzZsHgJ60
勇者「あ、王子様」

王子「よ、どうした。魔王城の調査か?」

王子は内心やや不機嫌だった。来るならもっと、違う時に来てほしかったのだが。

勇者「姫君が囚われている塔というのは、ここですか?」

王子「そうだけど…まさか姫様を救う手段がわかったか?」

勇者「いえ、そういうわけではありません」

王子(何だよー…)

王子はガックリ肩を落とした。

勇者「だが、姫君の素性がわかりました」

王子「本当か!?」ガシッ

勇者「はい、だから――」

勇者は塔を見上げる。
窓から姫がこちらを伺っていた。その姫の姿を視認し、勇者は目つきを鋭くする。

王子「勇者?」

どうした――と聞こうとしたと同時だった。

兵士「王子、ご無礼を!」

王子「あっ!?」

兵士達が唐突に、王子の体を取り押さえた。

王子「なっ、何だよ!?」

勇者「陛下と姉姫からのご命令です。あの姫君を狩らせてもらう」

王子「………は?」

56 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/15(金) 18:53:28.50 ID:VzZsHgJ60
王子「ちょっ狩るって…どういうことだよ!?」

王子は振り返り姫の方を見る。
姫も王子同様驚いた様子で、戸惑いの表情を浮かべていた。

勇者「あの姫君は人間にとって害悪な存在となるかもしれないのです」

王子「害悪って何だよ!?説明しろよ!!」

勇者「つまりです」

取り押さえていなければ、今にでも勇者に殴りかかって行きそうな王子とは対照的に、勇者は冷静に返した。

勇者「あの姫君は、俺が倒した魔王の妹にあたるのです」

王子「――え?」

姫「!?」

57 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/15(金) 18:54:02.73 ID:VzZsHgJ60
王子(姫様が魔王の妹?姫様は人間じゃない?)

勇者「生け捕りにした魔族が言うには――」



魔族『あのコは先代の魔王様が人間との間に作った、忌み子なのよねぇ』

魔族『一応先代魔王様の血を受け継いでいるわけだから、扱いに困ってねぇ』

魔族『それで記憶を封じて、塔に閉じ込めることにしたのよ』

魔族『殺さなかった理由?さぁねぇ、一応血の繋がった妹っていう情はあったんじゃない?』



勇者「――と、いうわけです」

王子「ちょっと待て!何でそれで姫様を殺すことになるんだ!?」

勇者「魔王の血縁者だから。ようやく訪れた平和をまた乱す危険性があるそうです」

王子「ねーよ!」

だって魔物達は魔王が倒された際、姫を見捨てて逃げていった。
魔物達にとって姫は、取るに足らない存在だったのは明らかだ。

勇者「申し訳ないが、陛下と姉姫の決断です。俺はそれに従うのみ」

王子「英雄が無力な女の子を殺すのかよ!?」

勇者「俺が英雄になったのは、陛下と姉姫が俺を見初めて下さったお陰です」

王子「~っ…」

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/15(金) 18:54:42.22 ID:VzZsHgJ60
勇者「無駄話している時間が惜しい。撃て」

王子「やめ…」

勇者の命令で、兵団が弓矢と魔法を姫に向けて放った。
姫はとっさに体を低くし、身を隠す。

放たれた弓矢と魔法は、途中で何かに弾かれた。

勇者「防護壁が張ってあるのか…面倒だな」

そう言うと勇者は塔に向かって一歩踏み出した。

王子「おい、待…」

勇者を止めようとしたが、兵士達に取り押さえられてそれすら出来なかった。
多勢に無勢。王子はそこから動くことすらできない。

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/15(金) 18:55:53.89 ID:VzZsHgJ60
王子「おい、くそ勇者ぁ!お前命令だ命令だって、自分の意思がねーのかよ!頭空っぽの馬鹿野郎か!」

勇者「貴方こそ、惚れた女だから必死になっているのでしょう」

勇者の冷静な返しに、兵士達からも笑い声が漏れる。
屈辱で力が緩んだが、その分言葉に怒りがこもる。

王子「少なくともお前や馬鹿親父達よりは善悪の判断はついてるわ!悪意のない者を殺すなんて、相手が例え男だったとしてもいいわけねーだろ!」

勇者「…恨み言は後でいくらでも聞きます」

勇者は躊躇なく、塔の外壁に足をかけた。

王子「やめろっつってんだろ!」

兵が「あっ」と声を漏らす。一瞬抵抗の力が弱まった王子に油断していたのか、王子は兵士達の手を振りほどき、真っ直ぐ勇者の所に駆けた。
そして外壁を1メートル程度上っていた勇者の服を掴む。

勇者「…っ」ドサッ

急に服を掴まれバランスを崩した勇者は、地面に体を叩きつける。
王子はそのまま、勇者を上から押さえつけた。

勇者「~離して下さい」

王子「嫌だね」

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/15(金) 18:57:24.26 ID:VzZsHgJ60
勇者「…くっ」

勇者は抵抗してきた。だが王子は必死に勇者を押さえつける。
離すわけにはいかない。手を離せば、姫が――

姫「王子様…っ」

窓を見上げ、愛しい人の顔を見る。
彼女は逃げることができない。だから守らなくてはいけない。絶対に、守りたい。

兵士「おやめ下さい、王子さっ――」

と、王子の背後に兵士が近づいてきた。
だが王子は、無策ではない。

王子「おらっ!」ガッ

兵士「っ!」

王子は振り向かぬまま肘を振り、それが兵士の鼻に直撃した。
そして兵士が怯んだと同時、兵士の腰の剣を奪った。

王子(無能なりに、戦闘訓練は散々やってきたんだよ…!)

王子「でりゃあぁっ!」

兵士「…っ」

王子を取り押さえようとした兵士達だったが、王子が振り回す剣に怯んで近づくことができなかった。
それだけ、今の王子には気迫があった。

王子(守らないと――俺が、姫様をっ!)

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/15(金) 18:57:56.30 ID:VzZsHgJ60
今日はここまで。
キリが悪くて申し訳ないです(´・ω・`)

62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/15(金) 18:58:28.71 ID:+91FOIa6O
おつおつ
ハラハラしてるよ

63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/15(金) 22:55:40.05 ID:qIyplLlcO


64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/16(土) 01:18:48.07 ID:2E/km5Fm0
乙v がんばれー(^^

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/16(土) 18:52:59.79 ID:gEjvLFLL0
しかし。

勇者「…っ、失礼っ!」

王子「っ!!」

勇者に後頭部を蹴られ、王子の脳みそが一瞬ぐらつく。
だが勇者は立て続けに、王子に足払いをかけた。

王子「あっ!!」ドサッ

勇者「今だ取り押さえろ!!」

勇者の命令で、なだれ込むように兵士達が王子に覆いかぶさってくる。
先ほどよりもずっと乱暴だった。

王子「お、お前ら…っ、俺に手ぇ出しやがったな…」

勇者「この状況では致し方ない」

自分が仕える国の王子を痛めつけたというのに、勇者はまるで悪びれていない。
いや、それは勇者だけでなく、今自分を取り押さえている兵士達もだ。

「全く手間かけさせて…」
「せめて邪魔だけはしないで貰いたいものだ」
「本当、困った方だ」

喧騒に包まれていても、陰口はしっかり聞こえてきた。

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/16(土) 18:53:36.48 ID:gEjvLFLL0
姫「あ、あぁ…王子様…」

怯える姫の顔を見て、王子は唇を噛み締める。

王子(くそ…)

怒りと悔しさが半々にあった。
誰も自分に敬意を抱いていないのは前々からわかってはいた。だが実際耳にすると、冷静ではいられない。

だが怒りに震えている場合でもなかった。勇者は再び、塔の外壁に足をかけた。

王子「待っ――」

と、手を伸ばしたが。

兵士「いけません!」

王子「――っ!!」

その手を乱暴にねじり上げられ、背中に押し付けられる。
まるで罪人のような扱い。いや既に、姫は罪人同様の認識をされているのだ。

王子(何でだよ…!!)

あの心優しい姫が、自分に幸せな時間をくれた姫が、人間にとって害悪な存在になるわけがない。

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/16(土) 18:54:09.06 ID:gEjvLFLL0
王子(姫様を失ったら…)

王子がこの世界で最も愛している者が失われる。
王子を必要としてくれている唯一の人がいなくなる。

そうなるのは、王子にとってこの上ない位絶望的なことで。

王子「許さねーからな…お前も、親父達も!!」

心の底から出た、憎しみの言葉だった。

自分は所詮無能。
姫を助ける王子様になんて、なれやしない。

それだとしても――

王子(諦めきれるか!!)

どこまでも泥臭く、みっともない位に足掻くのだけは止められない。
例え無様だと嘲笑されても、1人の男として愛する人の存在は譲れない。

兵士「えぇい諦めの悪い!」グイッ

王子「あ゛…っ!!」

68 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/16(土) 18:54:43.34 ID:gEjvLFLL0
姫「あ、お…王子様…」

王子がねじ伏せられる様子を見ながら、姫はただ震えていた。
王子の表情が苦痛に歪んでいる。自分のせいで、痛めつけられている。その状況が辛くて、でも何もできなくて。

勇者「人の心配をしている場合ではないぞ」

姫「ひっ」

外壁を伝い、勇者が上ってきた。
勇者は剣を抜く。自分を殺す為に。

勇者「お前自身に罪はないが――魔王の血縁者を生かしておくわけにはいかないんだ」

姫「あ、ああぁ…」

69 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/16(土) 18:55:21.66 ID:gEjvLFLL0
姫は恐怖に震えた。

少し前までの自分なら、ここまで死を恐れなかった。
誰からも必要とされていない、忘れられた姫君が、どうしてこの世に未練を抱けようか。

今は違う。死ぬのが怖い。

姫(せっかく、生き甲斐が出来たのに…)

王子は自分を救おうとしてくれた。
楽しい時間や、ドキドキする気持ちを教えてくれた。

必要だと、言ってくれた――

姫(そんな1番嬉しかった日に、私は死ぬの…?)

嫌。

勇者「諦めるんだな、あの世で父や兄に再会するがいい」

嫌だ。

王子「やめろ…勇者ぁ――っ!!」

姫(そうよ…)

死にたくない。王子ともっと沢山の時間を過ごしていきたい。
死ぬわけにはいかない。自分が死ねば、王子が傷つく。

勇者「覚悟し――」

姫「嫌ああぁ――っ!!」

勇者「!?」

70 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/16(土) 18:56:09.26 ID:gEjvLFLL0
勇者はすぐに危険を察知し、後ろに跳んだ。
それと同時だった。勇者の立っていた場所で何かが弾けたのは。

勇者「これは…!!」

目を凝らさなくても、姫の周辺で異変が起こっているのは確かだった。
室内の家具は揺れ、何よりも空気が乱れている。

姫「これ以上――」

勇者「…!?」

揺れはどんどん大きくなる。
立っているのがやっとだが、勇者は思った。危険だ、と。

勇者「早くこいつを狩らねば――」ダッ

勇者は駆けた。

しかし、遅かった。

姫「これ以上…私達に関わらないでッ!!」

王子「――っ!?」


爆発音と共に、王子の目の前で塔が爆発した。

71 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/16(土) 18:56:51.85 ID:gEjvLFLL0
ドサッ

勇者「が…っ」

兵士「勇者様!?」

塔から落ちてきた勇者は怪我を負っていた。
勇者なら死にはしないだろうが、それでもかなりのダメージだ。

だが王子の心配はそちらではない。

王子「姫様は…!!」ダッ

驚いている兵士達からの手を振りほどき、王子は塔の方へ駆けた。
土埃の中から姫の姿を探す。
まさか瓦礫の下敷きに――そんな嫌な予感が頭から離れなかった。

姫「王子様――」

王子「姫様っ!!」

姫の声に、王子はガバッと振り返った。

王子「!?」

そして、驚愕した。

姫「…」

姫の体には怪我どころか、土埃による汚れすら無かった。

72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/16(土) 18:57:22.50 ID:gEjvLFLL0
王子「姫様…!良かったご無事で…」

だが、そんなことすぐにどうでも良くなった。
何があったのかはわからないが、わからなくてもいい。姫が無事なら、それでいい。

姫「王子様、私――」

王子「姫様…?」

しかし王子は姫の浮かない顔に、一瞬、嫌な予感がした。

王子「どうしました姫様…?」

予感なんて外れる。それに、多少の嫌なことは飲み込める。

だって――

姫「私は――」

だって自分は――

姫「もう――貴方といることはできません」

王子「!?」


――姫と一緒に居られれば、それでいいのだから。

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/16(土) 18:58:19.60 ID:gEjvLFLL0
王子「どうしてそんなこと言うんですか!?」

王子は姫に向かって1歩踏み出す。

王子「うわっ!?」

だが王子の足元の瓦礫がボコッと盛り上がって、それを阻止した。

姫「たった今、思い出しました…」

王子「思い出した…って何が?」

姫「先代魔王の娘としての記憶――それに、力の使い方も」

そう言うと姫はフワッと宙に浮いた。
信じられない光景だった。だがそれすらも、今はどうでも良かった。

王子「俺と居られないって、何で!?」

王子は宙に手を伸ばす。
今にでもここから居なくなってしまいそうな姫の姿を、捕まえたくて。それでも手は届かなくて、せめて目に嘆願を込めて。

姫「私は魔物の姫で、貴方は人間の王子――」

王子「関係ない!!」

王子は躊躇なく言い切った。

王子「だって俺は――」

姫「ごめんなさい、王子様」

王子の言葉を遮った。全て聞いてしまえば、決意が鈍ってしまう。

姫「さようなら」

王子「姫さ――」

振り返ることなく、姫は飛び去っていった。
それでも王子は、声の限り叫んだ。

王子「俺は――貴方の王子だから!!」

声が届いたのかすらわからぬまま、やがて姫はその姿を遠くへ消した。

74 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/16(土) 18:59:13.75 ID:gEjvLFLL0
姫「ごめんなさい、王子様…」

王子には届き得ない小声で、姫は呟いた。

姫(私も、もっと貴方と居たかったです)

仕方なかった。自分は勇者に命を狙われるような存在。
そんな自分が、王子の姫になるわけにはいかない。

姫(貴方といる間、幸せでした)

誰かと過ごす暖かさを知った。
誰かに必要とされる嬉しさを知った。
誰かと愛し合うときめきを知った。

もしも来世で出会えたら――

姫(今度は、障害のない恋愛をしたいですね)

78 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/17(日) 18:48:10.59 ID:FPT0xFOF0
暖かい時期が過ぎ、少しずつ涼しくなり始め、あっという間に寒風吹きすさぶ季節が訪れた。
時の流れと共に過去の出来事は新しい出来事に上塗りされ、人々の中では魔王は過去の存在となっていた。

姫「うううぅぅ寒い寒い寒い」ブルブル

厚着した姫は、ようやくの決心をして外に出た。
彼女が住む小屋の中も十分に寒かったが、それでも外の空気よりは随分マシだ。

姫(でも食べるものももうないし、探してこないと…)

姫は今、人里離れた山小屋で生活していた。
勇者はきっとまだ諦めていないだろうし、魔物達も新たな王を立てようと計略していると噂に聞いた。

正直、どちらにも関わりたくはない。それで人とも魔物とも関わりを避けて、こんな山奥にやって来た。
生活は楽ではない。稼ぐ手段もない姫は、自分で食料を探さなければならなかった。しかも自分の手料理は、美味しいとはとても言えない。

姫(それでも、気持ちは楽よね)

何のしがらみもない、自由気ままな生活にそれなりに満足していた。
一方で、寂しいという気持ちもあったけれど。

79 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/17(日) 18:48:57.48 ID:FPT0xFOF0
姫(お腹すいたぁ~…)グウゥ

木も、冬なので実がならずにいる。
となると、川まで行って魚を獲るしかないか。

姫(さーて頑張りますか)

この時期に川に入って魚を手で獲るわけではない。
魔法を使って、魚を宙に浮かせるのだ。

姫(うーん)

と言っても、簡単なものではなかった。
魚を目を追い、そこに力を集中させた時には、魚は別の所に行ってしまう。
狙いを定めるのが、なかなか難しい。

姫(今度こそ…えい、えいっ)

それでも魚には逃げられる。
姫の空腹も、そろそろ限界に近づいてきた。

姫(もう…駄目)グウウゥゥ

なかなか捕まってくれない魚を恨めしく思いながら、姫は力尽き――

「全く、見ていられないな」

姫「!?」ガバッ

80 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/17(日) 18:49:26.92 ID:FPT0xFOF0
姫は目を疑った。

姫の目の前にあったのは――とても大きなおにぎりだった。

姫「あ、ああぁ…」

これは夢?幻?だってそんな、こんな所に…。

姫「お、王子様…!?」

王子「お久しぶり、姫様」

姫「どうして…」

おにぎりを持ってこちらに微笑んでいるのは間違いなく、王子だった。
だが姫の記憶にいる王子よりも、顔や体に傷が増えていた。

姫「王子様、本当に――」

グウウウウウウゥゥゥゥゥ

姫「…」

王子「…まず、食べましょうか」

81 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/17(日) 18:50:00.32 ID:FPT0xFOF0
姫「グス、王子様のおにぎりに命を救われたのはグスッ2度目ですね」スンスン

王子「いやー…まさかまた飢えてるとは思いませんで」

姫は泣きながらおにぎりを頬張る。
久々に食べた米の味は、何とも言い難い程味わい深かった。

王子「感動の再会のはずなのに、かっこつかないなぁ」ボソ

姫「モグモグ…何かおっしゃいました?」

王子「いえ」

姫「ところで王子様…どうしてここがわかったんですか?」

王子「そりゃ苦労しましたよ」

王子は苦笑した。

王子「姫様なら人とも魔物とも遮断された場所に行くかなって…それで、そんな場所をしらみつぶしに探しました」

姫「まぁ…」

本当なら咎めなければならない。自分は既に王子に別れを告げたのだ。
それでも王子が自分を探しに来てくれた嬉しさで、素直な笑みが顔に表れた。

82 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/17(日) 18:50:47.26 ID:FPT0xFOF0
王子「姫様」

姫「っ」

王子が真剣な表情で姫を見つめる。
その目力に、姫の緊張は高まった。

王子「姫様は、俺のことを――」

姫「ま、まま待って下さい!」

その先の言葉を聞けない。聞きたいけど、聞いてはいけない。

姫「駄目ですよ、王子様…」

だから、突き放さないといけない。

姫「私達の仲は――許されません」

自分は人間に受け入れられない。そんな自分が、一国の王子の姫になってはいけない。

だけど、王子の反応は予想と違って。

王子「俺は構いませんよ、姫様」

優しい微笑みを浮かべていた。

王子「全部捨ててきました――地位も、しがらみも、故郷も」

姫「…えっ?」

83 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/17(日) 18:52:49.88 ID:FPT0xFOF0
王子「俺は、もう王子ではありません」

姫「え、その…えっ!?」

王子「姫様が飛び去った後、俺は1度も城に帰らず、そのまますぐに姫様を探す旅に出ました。まぁ、家出というやつです」

姫「あの、でも…貴方のご家族は、王子様を探しているのでは」

王子「王子の家出は外聞が悪いですからね。旅の最中、何度か国の追手に連れ戻されそうにはなりました」

王子は苦笑を浮かべたが、すぐに真面目な顔になり――

王子「あの時、姫様を守れなかったことを、俺はずっと後悔していました。だから今度は姫様を守れるようにと、がむしゃらに戦い続けてきました」

姫「まさかその顔や体の傷は…」

王子「追手や、盗賊との戦闘でついた傷です」

王子は姫に手を差し出す。

王子「本当は俺にこんなこと言う資格はないのかもしれない――だけど、この言葉を伝えたかった」

王子「この世界で貴方が1番大切なんです。今度こそ俺に、貴方を守らせて下さい!」

84 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/17(日) 18:53:24.83 ID:FPT0xFOF0
王子『さあっ!その姿を見せよっ!』バッ

姫『…え?』


どうしてだか、初めて出会った時のことが頭に浮かんだ。
あの時の自分も、飢えていて、寂しくて、誰かに救い出して欲しくて。


王子『今すぐ貴方を連れ出してみせましょう!この私にお任せあれ!』


王子の言葉が、ただ純粋に嬉しかった。

まるで――


王子『迷惑だなんて!むしろ本望というか、貴方を救いたい!!』

王子『姫様、毎日ここに来ても良いでしょうか?』


まるで彼は――


王子『…俺のお姫様に、なって下さいませんか…?』


運命の王子様みたいで。

85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/17(日) 18:54:25.53 ID:FPT0xFOF0
姫「私は――守りは必要としていません」

今の自分はあの頃と違う。
もう誰かの助けをただ待つだけの、か弱い姫ではない。

姫「だから――」

王子「それなら俺を――」

自分はもう、守りは必要としていない。
必要としているのは――

王子「俺を、支えて下さいませんか?」

姫「――っ」

86 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/17(日) 18:55:10.31 ID:FPT0xFOF0
姫「それは私の台詞です…」

1人で生きていこうと決心した。
だけどいざ王子に会うと、その決心が揺らいでしまって。

姫「支えてほしいのは、私の方です――」

王子「困りましたね」

王子は苦笑する。
王子も同じだった。1人じゃ心が卑屈になっていて、姫がいないと真っ直ぐ立っていられない。

王子「なら言い換えましょう…俺を支えて下さい。俺が姫様を支えますから」

姫「…はい」

姫の返事に、迷いはなかった。

87 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/17(日) 18:55:50.09 ID:FPT0xFOF0
王子「姫様っ!」

姫「!」

不意に王子に抱きしめられた。
季節は冬。寒風の中で触れ合う温もりに、姫は体を委ねた。

姫「本当に後悔はありませんか…?全てを捨てて来たことに」

王子「いいんです…姫様がいれば、それで」

私も、貴方だけが欲しかったんです――だけど言葉にできなかった。泣きそうな顔を見られたくなくて、王子の胸に顔を埋める。
今は言葉はいらない。愛しい人が目の前にいてくれるのなら、それでいい。

王子(俺はもう、手放さない――)

心の中で、強く誓いを立てた。

川のせせらぎだけが聞こえるその場所で、互いにその瞬間を惜しむかのように、時間はしばらく止まっていた。



Fin

88 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/05/17(日) 18:56:27.24 ID:FPT0xFOF0
ご読了ありがとうございました。
序盤で王子が姫様にタメ口を使っているというミスに今頃気付き、反省しております。
男主人公だとなかなかタイピングが進まず苦労しましたが、脱線せずに書きたいものが書けたと思います。多分。

89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/17(日) 21:29:22.54 ID:mxYvMcv+o
乙乙

90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/05/17(日) 21:53:27.14 ID:LsKOX3I7O
ハッピーエンドで良かった、

91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/17(日) 22:11:54.88 ID:tVk1Umjc0
乙!
王子と姫が、幸せに生きていけるといいなぁ

92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/19(火) 01:10:24.22 ID:UIPqrICEO
posted by ぽんざれす at 10:11| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

腐女子魔王「勇者マジ邪魔」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430282807/


1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/29(水) 13:46:57.49 ID:8Q1QErHF0
魔王「ぐあああああぁぁぁ」ダンダンッ

魔王「あのアバズレ!クソビッチ!死ね!」ダンダンッ

側近「どうしたんですか魔王様、そんなに魔力を滾らせて」

魔王「これを見ろ!」

側近「魔法の鏡…ですか」



悪魔『クッソォ、覚えてろよぉ~!!』バッサバッサ


側近「おや、悪魔が敗走ですか。これは由々しき事態…」

魔王「そっちじゃねぇ!!」

側近「?」

2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/29(水) 13:47:42.73 ID:8Q1QErHF0
賢者「戦士、大丈夫かい?今、回復魔法をかけるね」

戦士「あぁ、すまねぇ。お前の魔法には世話になりっぱなしだな」

賢者「とんでもない。君に最前線で戦わせて、こっちは守られてばかりで申し訳ないよ」

戦士「ははは、俺みてぇな脳筋にできるのは、こんなことだけだからな」

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/29(水) 13:48:23.26 ID:8Q1QErHF0
側近「これは…勇者一味の戦士と賢者ですね」

魔王「ぐおおおおぉぉぉ」

側近「どうしました」

魔王「体は大きいけどちょっと子供っぽい戦士に、知性派メガネの賢者、2人とも素敵すぎんだろ!!ふざけんな!!」ハァーハァー

側近「あぁ、両者とも顔は整っている方ですね」

魔王「そんな素敵な2人が絡むことによって、無限大の萌えが生み出されるんだよ!見ろよこの絡み、流石に女でも勃起するだろ~」ハァハァ

側近「はぁ…」

魔王「ところがだっ!!」ダンッ

側近「はい」

魔王「このアバズレクソビッチがよおおぉぉ!!」

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/29(水) 13:49:04.70 ID:8Q1QErHF0
勇者「ううぅ…」

戦士「勇者どうした?」

勇者「さっき遭遇した魔物、強かったよねぇ…」

賢者「うん、そうだね。この辺に来て魔物のレベルが一気に上がったね」

勇者「うん…」

戦士「怖いのか?」

勇者「………」コクリ

戦士「ハッハッハ、勇者も女の子だなぁ」ポンポン

賢者「大丈夫だよ、僕達で君をサポートするから」

勇者「ごめんね…皆にはいつも助けてもらっちゃって」モジモジ

賢者「何を言っているんだい、僕たちは仲間じゃないか」

戦士「そうだそうだ、じゃあ行こうぜ」

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/29(水) 13:49:36.86 ID:8Q1QErHF0
側近「ふむ…どうやら勇者はパーティーで1番レベルが低いようですね」

魔王「…んの、クソビッチがあぁ!!」ダンダンッ

側近「どこがですか?見る限り、セックスアピールの少ない地味系に見えますが…」

魔王「そういうのが男ウケするって計算の内に決まってんだろがァ!!」

側近「そうなんですか?」

魔王「おう、見ろやこの目!!どう見ても男に媚び売ってる目だろ!!」

側近「うーん…気が弱いだけに見えますが」

魔王「こうやって戦士と賢者の気を引いて、2人の絡みの間に入りやがって!この女マジ邪魔!!」

側近「はぁ…。ところで、彼女についてはどう思うんですか?」

魔王「ん?」

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/29(水) 13:50:11.53 ID:8Q1QErHF0
盗賊「クンクン…おい、あっちからお宝の匂いがすんぜ」

戦士「お、流石盗賊」

賢者「うーん、お宝よりも先に進みたいなぁ」

盗賊「何言ってんだ、このガリ勉!あたしらは平和の為に日々戦ってんだ、これ位の息抜き許されていいだろ」

戦士「仕方ねぇなぁ」

賢者「どうする勇者?」

勇者「うん、じゃあ行こう」

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/29(水) 13:50:58.38 ID:8Q1QErHF0
魔王「あー、盗賊ね」

側近「彼女こそ結構肌を露出しているし強欲だし、どうかと思うのですが…」

魔王「いや、ああいうサバサバ系は結構好きだわ」

側近「そうなんですか?」

魔王「そうそう、露出はしてるけど媚びてないし、男前だし結構いい女じゃん」

側近「うーん、勇者のように多少は女性らしい方が…」

魔王「勇者は駄目!勇者って役割を背負ってる割に役立たずだしイライラする!」

側近「まぁ敵として張り合いはないですね」

魔王「敵…そう勇者は敵!女の敵!!」

側近(自分を女性代表のように言っている…)

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/29(水) 13:51:40.93 ID:8Q1QErHF0
悪魔「たっだいま~。わっり、やられちまった~」

側近「ここ最近お前はヘマばっかりしているな」

悪魔「イャハハハ怒らないで側近~。あれ、どしたん魔王、鏡なんて見て?ん、これ勇者一行?」

魔王「マジ勇者邪魔!!」

悪魔「ん?あ、そだね~」

魔王「男同士の桃源郷に土足で踏み入るクソビッチは排除してやらなきゃなぁ…!!」ゴゴゴ

側近「え、あ、魔王様?」

魔王「ちょっと勇者殺しに行ってくる!!」ダッ

側近「えぇー…」

悪魔「行ってらっしゃーい♪」

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/29(水) 13:52:15.29 ID:8Q1QErHF0
魔王「さて確か奴らはこの辺に…あ、いた」


賢者「少し疲れてきたねぇ…」

戦士「ははは、もやしめ。さっき休んだばっかだろ」

賢者「う。わ、悪かったね」

戦士「しゃーない、ほら。荷物貸せよ、持ってやるから」

賢者「あっ。その…ありがとう」


魔王(うほおおおぉぉぉ、こりゃ勃起するわ)ハァハァ

勇者「あ、あのぅ…」モジモジ

魔王(間に入るんじゃねぇよクソビッチ)チッ

戦士「どうした勇者」

勇者「ちょっと…おトイレ行きたい」

賢者「わかった。待ってる」

戦士「行ってこい」

魔王(ハッ、ぶりっ子してても出すもんは出すんじゃねーか。お前なんか堂々とそこでもらして、おもらし女と呼ばれりゃいいんだよ!)

魔王「ちょっと待てよ…これってチャンスじゃん」

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/29(水) 13:52:59.75 ID:8Q1QErHF0
勇者「ふぅ~、良かった丁度良く公衆トイレがあって」

魔王「クソビッチはクソらしく野グソでもしろよ!!」

勇者「きゃあ!?」ビクッ

魔王「お前マジ許さねーかんなぁ!!お前を消して桃源郷を死守する!!」

勇者「あ、貴方は!?」

魔王「私か?私は魔王、お前を滅ぼす者だ!!」

勇者「魔王…!!」キッ

魔王「あァん、睨みきかせてどうしようってんだテメー?」

勇者「どうするも何も、私は勇者…貴方を討つ者」

勇者「今こそ、力を解放するっ!!」ゴオオォッ

魔王(…!!この力は…)

勇者「いざという時の切り札、創造神の守護の力…!!」

魔王「お前、やはり…」フルフル

勇者「え?」

魔王「そんな力がありながら、男の前ではブリッコしやがってたなああああぁぁ!!!」ゴオオオォォッ

勇者(す、凄い魔力…!!)

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/29(水) 13:53:34.23 ID:8Q1QErHF0
魔王「大体、創造神てあのヤリチン野郎か!そんな奴の守護を受けるとは体でも使ったのかクソビッチ!!」

勇者「ななっ!創造神の侮辱は許さない!!お前を討つ、魔王!!」

魔王「オラァ来やがれ!!」

勇者「でやーっ!!」


ゴオオォォ、カキンカキィン


勇者(うっ…あ、あまり効いてない…!!)

魔王「股のゆるい女は攻撃までゆるいなぁ、オイ。創造神もお前をただの肉便器としか見てないわけだな」

勇者「だから創造神はそんなんじゃ…」

魔王「ブリッコすんなつってんだよクソビッチがあぁ!!醜く死ね!!」ゴオオォ

勇者「…っ!!」

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/29(水) 13:54:16.61 ID:8Q1QErHF0
シュバ――ッ

魔王(…っ、相殺された!?)

賢者「危ない所だったね勇者」

戦士「全く、1人でいる所を狙うたぁ、とんでもない女だな」

盗賊「けど、ここからはそうはいかないよ」

勇者「来てくれたんだ、皆…!!」

魔王「チッ…気付かれたか」

賢者「この魔力…間違いない、魔王のものだ。ここは命を捨てる覚悟で全力でいかせてもらおう」

戦士「待てよ賢者、最前線で戦うのは俺の役目だ。お前は俺の後ろにいな」

賢者「今日ばかりはそうは言ってられないね」

戦士「おいおい、慣れないことはするもんじゃないぜ?」

魔王(ふぬおおおぉぉ、生で見る絡みは目の毒ですぜ)ハァーハァー

勇者「戦士、賢者、今は言い争っている時じゃないよ」

魔王「今は言い争ってる時なんだよ空気読めよクソ女!!」

盗賊「何言ってんだ?」

勇者「さ、さぁ」

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/29(水) 13:54:53.93 ID:8Q1QErHF0
戦士「一旦下がってろ勇者!魔王の奴、お前を狙ってるぞ!」

魔王「」ビキッ

賢者「僕たちで勇者を守る!」

魔王「」ビキビキ

勇者「戦士、賢者…で、でもぉ…」

魔王「」ブチブチィッ

魔王「こんなの…」ゴオオオオォォォォ

盗賊「な…何だこの魔力は…!?まだ上昇を続けてやがる!?」

賢者「まずい、ガードし…」

魔王「こんなの、私の求めていた桃源郷じゃねえええぇぇっ!!」

ズドガアアアアアァァァン

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/29(水) 13:55:37.75 ID:8Q1QErHF0
盗賊「…」

戦士「」ピクピク

賢者「う…」パタッ

勇者「み、皆…痛っ」

魔王「やはり私の相手をするには早すぎたか…まぁいい、こんな腐った桃源郷なら消えた方がマシだ。今、トドメを刺してやるよ」ツカツカ

勇者「ま、待って…」

魔王「命乞いかクソビッチ?私にレズ趣味はないから、お前が体を開いた所で効き目はねーぞ?」

勇者「これも魔王に敗れた勇者の宿命…でも、でも、せめて死ぬ前に…!!」

魔王「何を言う気か知らんが、お前の言うことなど…」ゴゴゴ

勇者「戦士と賢者を陵辱して下さい!!」

魔王「…は?」

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/29(水) 13:56:40.04 ID:8Q1QErHF0
勇者「さっきの悪魔なんていいですね…あ、でもオークに汚される2人ってのもなかなか…」

魔王「…何を言っている?」

勇者「どうせ死ぬんだし、白状しちゃいますけど…」

勇者「私、男同士が大好物なの!!」

魔王「」

勇者「私の大事な仲間2人が魔物に汚されるなんて…!!そんなのいけない、いけないけど…でもそれが見られるなら死んでもいい~っ!!」

魔王「…勇者よ」

勇者「はい?」

魔王「仲間!」ガシッ

勇者「えっ」

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/29(水) 13:57:35.48 ID:8Q1QErHF0
>魔王城

オーク「ブヒイイイイィィィ」

戦士「うわああぁぁ、来るな、来るなあああぁぁ!!」ダッ

賢者「ひいいいぃぃぃ!」ダッ


勇者「しっかり逃げてねー、捕まったら犯されるよー」

魔王「オークから逃げる為に手を取り合う2人…これもイイ」ジュルリ

勇者「でも魔王がまさか同類だったなんて…フフッ、カミングアウトしてみるものだね」

魔王「全くだ、ブリッコしやがって。これからはオープンにいこうオープンに!」

勇者「実は私…そちらの側近と悪魔の組み合わせもいいなって思ってたの。だから間にいる魔王が邪魔だな~ってずっと思ってたの」

魔王「おぉ…身近だから思いつかなかったが、確かに悪くない組み合わせだな」

勇者「あと創造神も男がイケるクチなんですよ」

魔王「おおぉ!その話詳しく!!」フンガー

勇者「えぇいいですよ。やっぱり創造神に相応しいのは女よりも美少年ですよ!」



こうして勇者と魔王は手を取り合い、世界に平和が訪れた。
ホモは世界を救い、ホモのない世界に愛はありえないのである。

願わくばこの平和が、永遠に続くように…。



Fin



魔王「どう考えても守られている側の賢者が受けだろ!」

勇者「何言ってるんですか、筋肉質な戦士がベッド上では受けになるからいいんじゃないですか!!」

ゴゴゴゴ

側近(この平和、長くは続かんな)

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/29(水) 13:59:46.48 ID:8Q1QErHF0
読んで頂きありがとうございました。
腐女子同士でも派閥ってあるので大変みたいですね。

18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/29(水) 14:00:51.93 ID:qwryOy/zo


最近の流行は石膏らしいぞ

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/29(水) 14:11:21.37 ID:18Yr8oys0


20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/29(水) 14:31:47.35 ID:qu3Bv2hAO
軽薄ショタめっぽい悪魔と切れ長眼鏡感溢れる側近の間にいる時点でブーメランだろ

とか思ってたらホントに勇者も腐っててワロタ
posted by ぽんざれす at 10:09| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

魔女「流れ星に願うこと」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428916904/



1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/13(月) 18:21:44.83 ID:kueoVPxH0
>魔王城

魔王「よくぞ来たな、勇者よ!!」

勇者「魔王…!お前を倒さないことには、人間達に平和はやってこない!!」

魔王「フ…できるのか、お前に?」

勇者「やってやる…!!覚悟、魔王ォ!」

ガキンガキン

ドゴオオォォォン

魔王(くっ…この剣技)

勇者(魔王…流石の魔力だ)

勇者・魔王((油断したら、やられる!!))


「うるさい」


勇者・魔王「!?」

2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/13(月) 18:22:34.34 ID:kueoVPxH0
最終決戦を繰り広げる両者の間に割って入ったのは、女の声。
2人はその声に驚き、戦いを止め振り返る。

「そうだ、そのまま両者争いをやめろ。ろくなことにならんぞ」

するといつの間にか、すぐ側に妖艶な女が立っていた。

勇者と魔王が驚くのも無理はない。
この実力者2人をもってしても、この女が部屋に足を踏み入れたことに、声をかけられるまで気がつかなかったのだから。

魔王「何者だ、貴様は」

魔女「魔女――と呼ばれている」

魔王「魔女だと!?」

魔王の威圧的な声にも、魔女はその芸術品のように整った顔を歪ませることはなかった。
グラマラスな肉体を惜しみなく露出させた衣装は一見娼婦を連想させるが、彼女自身から溢れる強気と自信が妖艶さを上回っていた。

勇者「今は最終決戦の時なんだ、邪魔しないでくれ」

魔女「先に私の邪魔をしたのはお前達だ」フゥ

魔王「何…?」

魔女「お前達のように力の大きな者同士が争うと、世界に流れる「気」が乱れるんだよ。そうするとだな――」

そして女は予告なく、いつの間にかその手に貯めていた力を放った――

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/13(月) 18:23:00.41 ID:kueoVPxH0
ズドグォオオォォォォン

見習い「うわぁ…魔王城が崩壊した…」

魔法の鏡に映し出された映像を見て、私は思った。やりすぎだ、と。

魔女「ただいま、戻ったぞ」

見習い「お、お帰りなさい師匠。どうでした?」

魔女「ん?あぁ、両成敗してきた。全く、うるさいったらありゃしない」

見習い「でもいいんですか?勇者と魔王の最終決戦を邪魔してきて…」

魔女「私の知ったことじゃないな。そんなことより、あいつらのせいで気が散って仕方なかった。だがこれでようやく昼寝に集中できる…」フワァ

見習い(ひっどい理由…)

誰の目から見ても美しい容姿を持つ師匠だけど、残念ながら性格は破綻している。

だが師匠が常識に囚われないのも、その実力からしてみれば当然なのかもしれない。

何故なら師匠が本当に誇っているのはその美しさよりも、「世界一の魔法の使い手」と言われる程の実力なのだから。
魔王と勇者の戦いも師匠にとっては、頭上で蚊が飛び回っている程度の煩わしさでしかない。

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/13(月) 18:23:35.41 ID:kueoVPxH0
魔女「ふわぁ…おはよう」

見習い「おはようの時間じゃありませんよ師匠。はい、目覚ましのコーヒーです」

魔女「ありがとう。お前はよく気がつく、いい奥さんになれるぞ」

見習い「そ、そんなことありませんよ」アワワ

魔女「よく買い出しで街に行っているだろう。誰かいい男はいないのか?」

見習い「…いえ」

この綺麗な師匠の側にいるのが恥ずかしい位、私なんて地味で冴えない女の子だし…。

見習い「男の人、苦手で…」

魔女「そうか」

見習い「師匠は恋愛をしたことがあるんですか?」

魔女「…」

愚問だったかもしれない。どんな男から見ても高嶺の花である師匠。それに私の知る限り師匠には、恋にうつつを抜かすような乙女心は存在していない。

魔女「忘れたな」

見習い「忘れた…んですか」

魔女「駄目だな、もうろくした。年齢が年齢だからな」

恋愛の思い出を忘れることなんてあるんだろうか。
だけど師匠は見た目こそ若いけれど、魔法の効力で既に500年以上生きているのだ。

見習い(女性に年齢の話は厳禁だけどね…)

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/13(月) 18:24:15.96 ID:kueoVPxH0
魔女「あぁ、いい風呂だった」

見習い「師匠、裸でうろつかないで下さい…」

魔女「どうせ女2人暮らしだ、これ位気にするな。熱魔法のお陰で体も冷えん」

見習い「気にしますよ…。はいバスローブです」バサァ

魔女「ありがとう」

見習い「いえ…」

倫理的な問題もあったけれど、自分が卑屈になってしまうのもあった。
きめ細かい滑らかな肌、整ったスタイル…同じ女として、どうしても差を感じてしまう。

けれど師匠は別に自分の体を見せつけたくてそうしているわけじゃない。
単純に、服を着るのが面倒なのだ。この人は、そういう人だ。

魔女「それにしても…おい見ろ」

けれど、そんな良くも悪くも女らしくない師匠には1つだけ、ロマンチックな趣向があった。

魔女「今日の夜空は美しいな。星の輝きが夜を明るくしている」

見習い「えぇ…」

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/13(月) 18:24:57.09 ID:kueoVPxH0
師匠は夜になると、星空の鑑賞をする。
いい加減な性格の師匠だけれど、これだけは毎晩の日課になっていて、500年間1度も欠かしたことはないという。


魔女『流れ星を見たことはあるか?』


以前、師匠がそう言ったことがあった。
いいえ、見たことはありません。私がそう答えると、師匠は「そうか」と一言呟いた。
師匠は勿論ありますよね――そう言うと師匠はふっと笑みをもらした。

魔女『あぁ、何十回も見てきた。だが――』

師匠は星空を見上げる。光に照らされた師匠の顔は、その時何だか寂しく見えた。

魔女『流れるのはいつも一瞬。願い事を言う前に消えてしまう――私はまだ、願いを聞き届けてくれる流れ星に出会ったことがない』

何だか可笑しな発言に思えて、私はすぐ返した。
師匠程の力があれば流れ星にお願いしなくても、自分で叶えられるじゃありませんか、と。

だけど師匠は首を横に振った。

魔女『自分じゃ叶えられないからこそ、願い事になるんだよ』

願い事――師匠でも叶えられない願い…私には想像がつかなかった。

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/13(月) 18:25:26.14 ID:kueoVPxH0
そんなことを思い返している時だった。

キラッ

見習い「あら?」

視界の端で光るものが動いた。
あれはまさか――流れ星?

見習い「師匠、今の流れ星じゃ――」

魔女「いや」

師匠は一歩前に出る。
それでようやく私も気付いた。光るものは猛スピードでこちらに接近してきている。あれは流れ星じゃない。だけど、何?

魔女「赤と、黒――」

見習い「え?」

かき消えそうな位小さな声で師匠は言った。
だけど師匠は接近してくる光に目を奪われたかのように、そこから視線を動かさない。

そして接近してきたそれは、

「コンバンハァ、そしてサヨウナラアアアァァ!!!」

私が赤と黒を認識したと同時、光る鎌を持って師匠に飛び込んでいった。

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/13(月) 18:26:08.51 ID:kueoVPxH0
魔女「全く…何だ?」

だけどそんな急襲に動じず、師匠はそこから動かなかった。
師匠は魔法で壁を作っていて、襲いかかってきた鎌を弾いたのだ。

「流石、世界一の魔法の使い手…人間から恐れられているだけあるな、魔女さんよ」

鎌を持った彼は、後ろに跳んで距離を取る。
赤と黒の衣装をラフに着こなした若い男。ボサボサな前髪から覗く目は鋭く、口は尖った歯を見せている。

魔女「一応私も人間なんだが…」フゥ

「それだけの力を持って500年以上も生きりゃ、もう人間辞めてるも同然だろォ?」

魔女「ま、それもそうだな。所でお前は何者だ?」

死神「死神」

死神は名を名乗り、得意げに笑った。

死神「地獄の主の命令により、お前の命を奪いに来た」

魔女「ほう?」

師匠は動じずに笑いを浮かべた。

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/13(月) 18:26:38.36 ID:kueoVPxH0
死神「テメェみてぇに、人間を超越したヤローは世界のバランスを崩してんだよ。勇者と魔王のバトルだって、ありゃこの世界にとって必要なイベントだったわけよ。テメーはこのウン百年間、そういうイベントをことごとく握りつぶしてくれたなオイ?」

魔女「ほう、それは知らなかったな。今度から考えて行動するから、見逃してはくれんか」

死神「駄目だ。テメェは人間や魔物にとって、存在するだけで影響を与える伝説のような存在になってる。力を使うな目立つなつっても、今更無理だろそりゃあ」

魔女「十分、潜んでいたつもりだったが」

死神「とにかく神々もテメェを疎ましく思っているんだよ。だから大人しく、この世界から排除されろや」

魔女「ふむ…理不尽だと思うのは私だけか?」

死神「さぁな!!」

気付けば死神の鎌に膨大な魔力が集中していた。

魔女「あれは鎌自身が放つ魔力か…死神の鎌だけあって凶々しいな」

見習い(あわわ…)

私はというとただオロオロするばかりで、動くどころか、言葉を発することすらできずにいた。

死神「その首貰ったああああぁぁッ!!」

見習い「あぁっ!?」

死神の鎌は一瞬で師匠の首に食い込み――

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/13(月) 18:27:15.94 ID:kueoVPxH0
死神「ぼぶっッファアアアァァ!?」

そして死神は、そこから吹っ飛ばされた。
地面に倒れ込んだ死神は、わけがわからないといった顔で師匠を見上げていた。

魔女「で?どうやって私の首を取るんだ?」

死神「馬鹿な…確かに今、鎌が首に…ってえぇ!?」

鎌で切られたはずの師匠の首には、かすり傷1つ出来ていなかった。

死神「どういうことだよ!?そ、それに…人間の攻撃が死神に効くはずも…」

魔女「どういうこと、か…まぁ、説明するとだな」

師匠は少し考えた後、頷いて死神に向き直った。

魔女「そういう魔法だ」

死神「…」

死神「どういう魔法だあああぁぁ!?」

見習い「師匠は常識外れですから」

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/13(月) 18:27:46.69 ID:kueoVPxH0
死神「チキショウ話が違うじゃねーかよォ!地獄の主が「お前にしかあの魔女の命は奪えん」って言うから来たのにっ!あの嘘つき薄毛野郎!」

魔女「お前、下っ端か?」

死神「あー?死神ん中じゃ100歳ちょいの若造だが、超がつくイケメンスーパールーキーだぜ」

魔女「よし、死ね」

死神「フヌァ!?」

死神は咄嗟に立ち上がってのけぞった。
けれど師匠はゆっくり、死神との距離を詰める。

魔女「理屈はわからんが、地獄の主がお前なら私の命を奪えると判断したのだろう。なら奪われる前に奪ってやろう」

死神「ちょ、タンマ、タンマ!!ちったぁ慈悲を!」ササササッ

魔女「安心しろ。お前は見目がいいから、快感になる死に方を与えてやる」

死神「わーい嬉しいなー…ってなるか!!命だけはああぁぁ」ガタガタブルブル

見習い(この手のひら返し…)

あまりに見事な手のひら返しに、何だかこの死神が哀れに思えてきた。

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/14(火) 18:55:45.93 ID:Vf4XnbXD0
見習い「師匠、見逃してあげませんか…?」

魔女「何だ見習い。この滑稽な男に仏心でも芽生えたか?」

見習い「いえ、そういうわけでは…師匠が彼に遅れを取るなんて今後もありえないと思いますし…」

魔女「お前もなかなか失礼な奴だな」

見習い「あっ」

しまった、そんなつもりはなかったのだが…。
私はそんなつもりはない、と言うつもりで死神の方を振り返ったが…。

死神「そうそうそう♪俺のような下っ端じゃー無理無理無理ィ♪」

見習い「…」

魔女「殺そう。見苦しい」

死神「ぎゃああぁ!?」

確かに、見苦しいのは間違いなかった。失礼だけど。

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/14(火) 18:56:31.90 ID:Vf4XnbXD0
死神「クッソォ…殺されるなら仕方ねぇ…!!」ゴオォ

見習い「!?」

死神は全身から魔力を放出する。
さっきの鎌の魔力よりは小さいが…何だろう、危険な感じがする。

死神「こうなりゃやるっきゃねぇな…自爆技をよォ!!」

見習い「ええぇ!?」

まずい、殺すという言葉が彼を追い詰めてしまった。
私は慌てて師匠を見るが――

魔女「この魔力は――」

見習い「えっ?」

魔女「…そうか」

師匠は少し呆然としていたけれど、やがて納得したように微笑んだ。
それから小声で呟く――


魔女「お前を待っていたぞ――ずっとな」


それはどういうことですか――尋ねようとした瞬間だった。

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/14(火) 18:56:57.63 ID:Vf4XnbXD0
魔女「覇ッ」

師匠が手をかざしたと同時、

死神「!?」

死神の魔力が一瞬にしてかき消えた。
自分の意思に反して魔力が消えたことに驚いたのか、死神は挙動不審になっている。

死神「お、お前、俺に何をした!?」

魔女「そういう魔法だ」

死神「何でもそれで済まそうとしてねぇ!?」

その後死神は何とか魔力を放出しようとしているのか「うぎぎ」と唸っていたけれど、師匠の力の前に徒労に終わったようだった。

死神「何なんだよテメーは…」グッタリ

魔女「まぁそう死に急ぐな」

死神「殺すとか言ったのは誰だよ!?」

魔女「私だが?」

言い争いでも完全劣勢のようで、喚く死神さんは師匠にからかわれる。
まぁ100歳位の「若造」では、師匠にとってはお子様同然だろう。

魔女「前言撤回だ、殺すのはやめておこう」

死神「マジすか!?」

手放しで喜ぶ死神に師匠は「だが」と加えた。

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/14(火) 18:58:14.05 ID:Vf4XnbXD0
魔女「薄毛な地獄の主とやらの命令で、お前はまた私の命を奪いに来るのだろう」

死神「ナ、ナナナ何ノ話デスカネー」汗ダラダラ

見習い(図星だって丸分かり…)

もう2度と自分の命を奪いに来れないよう、師匠が死神にそれなりの対処をする…そういうことだと思った。
それを死神も恐れているのだ。師匠の力なら、死神の肉体をどうとでもできるだろうから。

魔女「一々来るのは大変だろう」

死神「は?」

見習い「え?」

だから師匠の口から出た言葉は予想外で。

魔女「うちに住んだらどうだ?命を奪う隙くらいはあるかもしれんぞ?」

そのとんでもない発想に、勿論理解は追いつかなかった。

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/14(火) 18:59:13.75 ID:Vf4XnbXD0
見習い「な、なな何考えているんですか師匠!?」

魔女「死神との同居生活だ、そういう経験をするのも悪くはない」

見習い「いやいやいや!?」

良いか悪いかで言ったら悪いに決まっている。
そりゃあこの死神さんは色々抜けている感じはするけれど、一応師匠の命を狙う敵なのだ。

死神「急に思いついたのか?」

魔女「うん?」

だけど死神はさっきまでとうって変わって、案外冷静だった。

死神「さっきまで殺そうとか言ってたのに、どういう心境の変化だァ?」

死神の目は猜疑心一杯だった。師匠の突飛な提案が、かえって彼の警戒心を強めたようで。

魔女「別に」

だけど師匠は意に介さずに言った。

魔女「どうやらお前は、私が待ち続けた者らしい」

死神「あ…?」

見習い「え…?」

師匠はまた、理解できない言葉を口にした。

魔女「それよりも私はもう眠いんだ。見習い、死神に空き室を案内してやってくれ」スタスタ

見習い「えっ、師匠!?」

こうして理解が追いつかないまま、師匠は私達を置き去りにした。

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/14(火) 19:00:16.75 ID:Vf4XnbXD0
取り残された私も死神も、少しの間呆然としていた。

死神「…案内してくれよ、空き室」

見習い「えっ!?あ、は、はい!」

私は勿論納得はしていないけれど、師匠が言ったのだからそれに従うしかない。
なので早い所案内してしまおうと思ったけど。

死神「さっきはありがとうな」

見習い「え、えっ!?」

死神は私の前に回ってくる。

死神「ほら、さっき俺を庇ってくれたろ。ありがとな~?」

見習い「え、あ、そ、そのっ」アワワ

距離が近い。男の人は苦手なのに…

死神「どうかした?」

見習い「」ビクッ

死神「~?」

見習い「ご、ごめんなさい…い、今案内しますからっ!」スタタタ

死神「…」

死神(魔女と正反対じゃん。可愛い)

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/15(水) 17:53:40.14 ID:AZadxHiw0
部屋に戻った魔女は空を眺めていた。
ぐるぐる回る世界で、自分は何度今日の空と対面してきただろうか。

魔女「500年、か――」

今夜も星は流れない。

魔女「だが、ようやく…」

感慨深い気持ちで見つめる空。
見上げながら思い返すのは、懐かしい声。


『いつかまた、お前に会いに来るから――』


魔女「…遅すぎだ、全く」

口では文句を言いつつ、顔には笑みが浮かんでいた。

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/15(水) 17:54:10.19 ID:AZadxHiw0
>翌日

見習い「ふわぁ」

眠い目をこすってエプロンを着る。
この家での家事はほぼ全て、私の仕事である。

見習い(そうだ、今日から死神さんもいるからご飯は3人分だ)

いつも師匠に合わせてメニューを組み立てていて、この家では毎朝パンである。
理由は「フォークを使うのが面倒臭い」という、ひどくだらけたものである。
ちなみに手を使うのすら面倒臭い事もあり、そういう時は魔法でパンを浮かせて食べたりしている。

見習い(でも男の人はパンだけじゃ物足りないかなぁ。保存庫にあるもので、適当に…)

ジュウゥ

見習い「ん?」

台所の方から人の気配が…。

見習い「だ、誰ですか…?」ソー

魔女「よぉ、おはよう見習い」

見習い「し、師匠ォ!?」

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/15(水) 17:54:49.67 ID:AZadxHiw0
魔女「今日は早起きしてみたぞ」

見習い「そ、それより、その格好…」

魔女「あぁ…似合うか?」

師匠は薄着にエプロンという刺激的な格好で台所に立っていた。
私はその姿だけで頭がぶっとびそうになった。格好がどうとかの問題じゃなくて。

見習い「どうして師匠が台所に!?」

このだらけた師匠が早起きという事自体驚きなのに、エプロン姿で台所に立つなんて頭でも打ったのだろうか…。

魔女「それよりもどうだ、朝食を作ってみたぞ」

見習い「これは…」

香ばしいフレンチトースト。形の整った卵焼き。綺麗に盛り付けられたサラダ。いい感じに焼けたソーセージ。

見習い「師匠…魔法を使われました?」

魔女「いや、私の手料理だが」

見習い「師匠…料理できたんですか」

魔女「ん?どうした沈んだ声を出して」

見習い(知らなかった…有能すぎるでしょ師匠…)ズーン

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/15(水) 17:55:38.19 ID:AZadxHiw0
少なくとも私の知る師匠は怠惰でマイペースでだらしなくて、美麗な外見を台無しにする性格の持ち主だ。

それが…

魔女「どうだ、美味いか」

死神「おう、美味い」

魔女「そうか、作った甲斐があったな」フフッ

見習い(師匠が料理を褒められて喜んでいる!?)

魔女「死神、お前の好きなものは何だ?」

死神「俺か…俺は甘いもんが好きだな、ケーキとか」

魔女「果物やクリームたっぷりのか」

死神「お。何でわかるんだ?」

魔女「そういう魔法だ。その内食わせてやるよ」フフ

見習い(ま、まさか作るの師匠!?)

死神「見習いちゃんはお菓子作りとか上手そうだよな」

魔女「む。菓子作り位私でもできるぞ。確かに見習いは家庭的な奴だが、やれば私も負けん」

見習い(しかも張り合ってきた!?)

初めて見る師匠の色んな一面に、私は食事をとる手が止まっていた。

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/15(水) 17:57:03.37 ID:AZadxHiw0
魔女「さぁ今日1日私に張り付いて隙を伺うがいい。いつでも相手してやるぞ?」

死神「チッ、やりにくいこと言ってくれるぜ」

見習い(師匠…何か楽しそうなんだけど)

心なしか声色も表情も明るい。
いつも私といる時は、こんな一面見せなかったのに。

見習い(そりゃそうよねー…師匠だって男の人といれば気分が若返るわよね)

見習い(私みたいな地味なのといてもつまらないだろうしねー…)

見習い(死神さんといる方が楽しいんだ)イジイジ

考えれば考える程卑屈になってしまいそうなので、掃除に集中することにした。
そういえば棚の上はしばらく掃除していないので、ホコリがたまっているだろう。

見習い「よいしょっと」

私は台座に椅子を引っ張ってきて、棚の上を拭く。
棚は案外範囲が広くて、手を伸ばさないと全体を拭けない。

見習い「うー…んっ」

と、苦しみながら手を伸ばした、その時。

グラッ

見習い「えっ」

私はバランスを崩し、椅子ごと傾いた。
落ちる――!

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/15(水) 17:57:46.99 ID:AZadxHiw0
死神「…っぶねええぇぇっ!!」ドサッ

見習い「きゃっ!?」

床に転げ落ちるかと思いきや、そうなる前に受け止められた。
椅子だけが転び、ガランという音が鳴る。

死神「横着しねーで一旦椅子動かしてから掃除しろって…あぁ良かった」

見習い「」アワワ

死神「あ?」

死神さんと体が密着して――

見習い「あ、あぅ、あ、あぅあぁぁぁ」

死神「???」

頭が真っ白になった後――

見習い「ご、ごめんにゃさあぁいっ!」バッ

死神「!?」

私は慌てて死神さんから離れ、後ろに跳んだ。

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/15(水) 17:58:21.81 ID:AZadxHiw0
見習い「す、すびばせっ、ありがとござっ」ワタワタ

死神「おい?どうし…」

見習い「――っ!」

死神さんが一歩、私に近づく。

見習い「…ぃ、えぅ…」ポロポロ

死神「!?」

見習い「ご、ごべんなさ…ち、違うんですぅ…」ポロポロポロ

死神「どしたー?」

見習い「うぇぅ…」グスッ

ちゃんと言わなきゃ。
私は涙を拭って、鼻をすすった。

見習い「男の人が苦手で…死神さんのせいじゃないんです…」

死神「そうか」

死神さんはあっさり答えた。

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/15(水) 17:59:17.22 ID:AZadxHiw0
死神「まぁ、何となくそんな気はしてたけどなァ。ずっと俺の方見ようともしないし」

見習い「し、失礼しましたっ!自分ではそんなつもりは…」

死神「…でもそういう子ほどいじめたくなっちゃうよな~イッヒッヒ」ジリジリ

見習い「」ビクゥ

死神「はっはっは、わりわり。あ、でも落ちたの受け止めたのはセクハラじゃねーから許せよ」

見習い「ゆ、許すなんて!とんでもないです、ありがとうございました!」

死神「見習いちゃん背ぇちっちゃいんだし、高い所の掃除苦手だろ。俺が代わりにやってやるよ」

見習い「い、いえ、そんな悪いです!」

死神「居候なんだからこれ位やるって。それに俺、浮けるし」フワッ

見習い「おぉー」

死神「ほら貸しな」

見習い「あっ」

死神さんは私の手から雑巾を取ると、高い所を拭き始めた。
手つきは掃除し慣れていない感じがするけれど、それでも十分にありがたい。

死神「他の部屋もあるんじゃねーのか?」

見習い「あ、まぁ…」

死神「だーいじょうぶ、俺見習いちゃんに指一本触れねーから。じゃあ他の部屋も案内してくれ」

見習い「は、はい」

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/15(水) 17:59:44.58 ID:AZadxHiw0
見習い「と、ところで死神さん」

死神「ん?」

掃除をして、一緒にいることに少し慣れた頃、私は疑問があって声をかけた。

見習い「師匠の命を狙うんじゃありませんか?」

死神「いや、あのヤロー隙がねぇ。このまま張り付いていても隙なんて見せないだろ」

見習い「そうでしょうねぇ…」

死神「それに見習いちゃん危なっかしいから、今日は掃除だ掃除」

見習い「ふ、普段はあんなことありませんから~」

死神「それにしてもこの家の家具は背が高いなぁ」

見習い「えぇ、師匠の好みで」

死神「あれ、でも魔女も見習いちゃんと身長同じくらいじゃん?高い所の物取るの大変じゃねーのか」

見習い「師匠は高い所の物は魔法で浮かせて取るので」

死神「なるほどね」

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/15(水) 18:00:51.43 ID:AZadxHiw0
死神「見習いちゃんも魔法使えるなら、魔法で掃除すりゃ楽なんじゃねぇ?」

見習い「わ、私は…」

死神「?」

言葉で説明するのも難しいので、実演することにした。
雑巾を床に置く。魔法をかける。
すると雑巾はイモムシのようにのろのろと床を這い始めた。

見習い「この通り…魔法、苦手なんです」

死神「へー。でも魔法で掃除するのを続けていれば、苦手なの克服できんじゃね」

見習い「わ、私はいいんです…。魔法の腕が上がらなくても、師匠のお側に居られれば…」

死神「そうか。でも何であれ、苦手なもん克服するのっていい事だぞ」

見習い「そう…ですか」

苦手なもの。男の人、魔法、お酒の匂い、人が沢山いる場所、大きい生き物…

見習い「私には無理です…」

死神「やる前から諦めんなよ」

見習い「師匠みたく、苦手なものが無くなればいいんですけれど…」

死神「あれは特殊、人間の限界を超えてるんだから。ああなれる奴まずいねーから」

見習い「死神さんは…苦手なものあるんですか?」

死神「あるわ、沢山あるわ!」

死神さんはそう言ってから、軽く頷いた。

死神「じゃ、今からそれを克服してみせる」

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/15(水) 18:01:27.26 ID:AZadxHiw0
見習い「本当に大丈夫ですか…?」

死神「お、おう」

死神さんに言われて、庭に生えている1本の木に案内した。
この木には毛虫が沢山住んでいて、払うのが毎回大変なのだ。

見習い「もうちょっと難易度低い所から行きませんか…?」

死神「だ、だだだ大丈夫だ、む、む、む、虫なんてよおぉ」ガタガタ

見習い(大丈夫じゃなさそう…)

死神さんは虫が苦手なそうだ。
私も得意じゃないから馬鹿にする気は無いけど、こういう所は人間らしいというか。

死神「じゃ、行くぞー…」

ポトッ

死神「のわああああぁぁっ!?」

目の前に毛虫が落ちてきて、死神さんは持っていたホウキをぶん投げてのけぞった。

見習い「やっぱり無理はいけないかと」

死神「い、いや、言いだしっぺだし!克服~克服~」スーハー

ポトッ

死神「いぎゃあああぁぁ!?」

見習い(そこまで苦手なら克服しなくても…)

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/15(水) 18:02:03.90 ID:AZadxHiw0
死神「じゃ、いくぞー」ブルブル

死神さんはガチガチになりながら、ホウキで木の枝を払い始めた。
ポトポトと毛虫は落ちてくる。

死神「ほ、ほらー 克服はできるんだぞー(棒」

見習い「え、えぇ」

かな~…り無理しているのがわかるので、見ている方も辛い。
それでも死神さんは頑張っていると思う。

死神「虫なんて コワクナーイ コワクナーイ…」

ポトッ

見習い「あ」

死神「へ?」

死神さんの頭上。丁度そこにいた毛虫が、死神さんめがけて落ちてくる。
このままでは――

見習い「死神さん、避けてええぇ――っ!」

死神「――っ!?」

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/15(水) 18:02:51.52 ID:AZadxHiw0
死神「あ、ひいぃ…」

自分に迫ってきた毛虫を認識すると同時、死神さんは腰を抜かしてそこに座り込んでいた。
だけど毛虫は死神さんに直撃することなく、宙にふわふわ浮いていた。

魔女「――ったく、やれやれ」

見習い「師匠!」

庭に出てきた師匠による魔法だとすぐわかった。
師匠は死神さんを見て、仕方ないな、といった笑みを浮かべた。

魔女「おい立て。全く、苦手なら無理する必要はないのだぞ?」

死神「い、いや…苦手を克服しなきゃよぅ…」

魔女「お前の虫嫌いは根強いものだ、そう簡単に克服はできん」

死神「何でお前にそんなことがわかるんだよ」

魔女「そういう魔法だ」

そう言って師匠が手をかざすと、木の枝に乗っていた毛虫たちが宙に浮き、遠くの地面に降り立った。
その毛虫が集まった光景を見て、死神さんはブルッと震え上がる。

魔女「ほら、これで解決だ。この敷地内に虫を立ち入らせないようにする、それでいいだろう?」

師匠はそう言うと家の中に入っていった。
死神さんはまだ、震えていた。

見習い「し、死神さん?」

死神「…たつ」

見習い「え?」

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/15(水) 18:03:23.91 ID:AZadxHiw0
死神「あぁもう腹たつー!!克服できねぇだと、ナメやがってええぇ!!」

見習い「ひぃ!?」ビクッ

死神「あ、ごめん」

死神さんは手を合わせて私にペコリと頭を下げる。

死神「でもさ、あそこまで言う必要無くねぇ?俺、結構いい所まで行ってたよな?」

見習い「えぇ…とても頑張っていたと思います」

死神「だろ?よーし見返してやる、絶対克服してやるぞ!!」

見習い「そこまで頑張らなくても…」

死神「いや、やると決めたから。今日は遅くなってきたし、明日から始めようぜ見習いちゃん」

見習い「え?何をですか…?」

死神「周辺の森で虫を探すんだよ。で、俺が虫嫌い克服するから、見習いちゃんも魔法苦手なのを克服するぞ!!」

見習い「え、ええぇ!?」

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/15(水) 18:03:53.64 ID:AZadxHiw0
魔女「ほう、苦手を克服するか」

死神「おう、絶対見返してやっからな!」

夕食の席で早速その話になった。
同居生活1日目だというのに、師匠と死神さんは既に物凄く打ち解けている。

魔女「確かに見習いは苦手なものが多いからな。死神の姿を見て克服する気になるかもしれんな」

見習い「わ、私は…」

魔女「羨ましいぞ見習い、美男子に世話を焼いてもらえるとはな」

死神「そりゃお前は苦手なもの無いだろ」

魔女「我慢が苦手だ~。誰か何とかしてくれ~」

死神「知るか」

魔女「あぁ脱ぎたい…我慢できん」ペロッ

死神「!?」ブーッ

見習い「師匠ォ!?」

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/16(木) 19:05:26.51 ID:PLzuue4k0
それから次の日も

死神「いぎゃあああぁぁ!!」

見習い「蜘蛛は私も苦手です~…」ブルブル


また次の日も

死神「う、おぅおぉっ」

見習い(ちょうちょは…大丈夫だけど)


そのまた次の日も

死神「どぅわああぁぁ!?」

見習い(…クワガタ?)


死神さんは毎日森に出かけ、虫に近付いていこうと頑張っていた。
私はそれに付き合って、死神さんの修行を見届ける。


死神「見習いちゃん見た!?昨日より虫との距離が5センチ縮まったぜ、5センチ!!」

見習い「凄い…ですねぇ?」(よくわからない…)

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/16(木) 19:06:02.39 ID:PLzuue4k0
魔女「毎日ご苦労だな」

死神「ケーキ美味ええぇぇ!!俺の好みピンポイントだ!!」ガツガツ

魔女「そういう魔法だ」

死神「魔法スゲエェ!!ところでゴフっ!?」ゲホゲホッ

急いで食べていた死神さんはむせた後、水を飲む。

死神「フゥ。で、見習いちゃんの魔法修行はどんな感じ?」

魔女「雑巾を操ったら、水を絞りきれずに床がビショビショだ」

見習い「うぅ~…」

死神「気にすんな~、魔法使えるってだけで一般人からすりゃ凄いんだし」

魔女「お前、見習いにばかり優しいな?妬くぞ」

死神「俺はオッサンには優しくしねー主義なの」

魔女「善良なオッサンには思いやりを持て」

見習い「まずオッサンを否定して下さい師匠…」


そんな感じであっという間に一週間経ち…

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/16(木) 19:06:35.62 ID:PLzuue4k0
死神「お、お…」ブルブル

ソォ~…

死神「や、やややややや」

見習い「おぉぉ…やりましたね」

死神さんが遂に虫に触れた。
アリだけど。

死神「」ブルブル

見習い「死神さん?」

歓喜で震えているのかと思ったら。

死神「」ガタガタ

見習い(あ、鳥肌立ってる)

あまりのおぞましさに震えているのだった。

死神「や、やり、やりまひたよ…」ガクブル

見習い「え、えぇ」

ようやく達成したことだというのに、その瞬間の死神さんは格好がついていなかった。

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/16(木) 19:07:14.27 ID:PLzuue4k0
見習い「だけど最初と全然違いますね。素晴らしいです、死神さん」

死神「だから言ったろー、苦手は克服できるッ!!」ビシッ

見習い「…苦手は苦手ですよね?」

死神「ヤメテエエェェ!!虫一杯の部屋でワーイワーイと戯れる蟲使いになるのは勘弁してええぇぇ!!」

見習い「そんなこと言ってませんよ!?」

死神「まぁ、苦手は苦手だけどもマシにすることはできるわけだ。苦手だからって簡単に諦めるなってこと言いたいわけ」

見習い「はい…」ションボリ

死神「どうした、ションボリして」

見習い「死神さんは凄いなぁって…。私あれから魔法の腕、全然上がってなくて…」

死神「ほう」

何だか差を感じる。
駄目な奴は努力しても駄目なままだ、それを思い知らされて。

死神「でも俺、見習いちゃんも大分苦手を克服できてると思うぞ」

見習い「全然ですよ~…」

死神「だって男と普通に話せるようになったじゃん」

見習い「………あ」

47 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/16(木) 19:07:43.86 ID:PLzuue4k0
そう言えば最初は目を合わせることもできなかったけど、今では言葉を詰まらせることなく話すことができている。

見習い「で、でも話せるのは死神さんだけで~…男の人が苦手なのを克服したわけじゃあ」

死神「俺と話せるようになっただけで十分な進歩じゃん?」

見習い「…ありがとうございます」

死神「いや俺は何もしてねーし」

見習い「いえ。死神さんが優しく接して下さったので」

死神「俺が特別優しいわけじゃないぞ~。何?男に嫌な思い出でもある?」

見習い「…何も無いんです」

死神「え?」

見習い「過去の記憶が、無いんです」

死神「……記憶が?」

見習い「あ、私記憶喪失で…」

私の1古い記憶は、この家で目を覚まして師匠と顔を合わせた所から。
師匠曰く「倒れていた所を拾った」そうだ。拾われた私は、自分の名前も素性も、何も思い出せなかった。

見習い「それで、思い出せるまで師匠の元に厄介になることになって…もう3年になります。ですから、魔法使いになりたくて弟子入りしたわけではないんです」

死神「なるほどー…でもあの魔女なら見習いちゃんの素性調べられるんじゃないのか?魔法で」

見習い「それはできないと言っていました」

死神「へぇー…あいつにもできないことあるのか。意外」

48 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/16(木) 19:08:12.00 ID:PLzuue4k0
見習い「こんなこと言うのも何ですが死神さん」

死神「ん?」

見習い「師匠の命を狙うのは、勘弁して頂けませんか?」

死神さんの返答はわかりきっている。

死神「そりゃできねぇな」

やっぱり。

死神「あの魔女はもう世界のバランスを崩しちまってる。自然の摂理に反する存在ってーの…?本人が悪人でなくても、生かしておいたら危険な存在なんだ」

見習い「死神さん、真面目だったんですね」

死神「おりゃ死神だぞ!?」

私は思わず笑いを漏らす。
そうだ、この人は死神なんだ。虫を怖がってる部分ばかり見てたせいで、その意識が薄くなっていた。

見習い「…でも、それなら違う死神に来てほしいです」

死神「あ?何で?」

見習い「貴方を憎みたくありませんから」

死神さんはもう、私にとって心許せる人になっていた。

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/16(木) 19:08:37.98 ID:PLzuue4k0
死神「俺ももうあんなスゲェ奴と戦うのは勘弁してーけど、地獄の主の命令にゃ逆らえねーよ。それに何故だか俺にしかできねーことだって言うしよー」

見習い「死神さんも、流れ星にお願いする必要がありそうですね」

死神「流れ星?」

見習い「あ、ほら。師匠って毎晩星空を鑑賞しているでしょう」

死神「知らん」

この無関心ぶり…本当に命を取る気があるのだろうか。

見習い「師匠には願い事があって、毎晩流れ星を待っているんです」

死神「あの魔女が願うことって何だァ?」

見習い「さぁ…」

死神「聞いたりしねーの?」

見習い「多分聞いてもはぐらかされますから。師匠はそういう人です」

死神「俺は気になってきたー…!!1回聞いてみてくれよ」

見習い「聞けませんよー…」

死神「何で?」

見習い「嫌われるの嫌ですし」

死神「あ?嫌われる?」

50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/16(木) 19:09:03.64 ID:PLzuue4k0
見習い「師匠って気さくに見えて、結構本音を隠しているじゃないですか」

死神「そうか?」

見習い「私には…冗談めかした態度で本音を隠しているように見えます」

死神「まぁ、そう言われりゃそうかもな。で、嫌われるって何で?」

見習い「本音を隠してる人は本音を探られるの、嫌じゃないかなって…」

死神「………考えすぎだろ」

死神さんは呆れたように言った。

死神「つーか、それ聞いただけで嫌われるような関係じゃねーだろ?3年間も、ずっと2人で暮らしてきたんだから」

見習い「でも私、師匠のこと全然わかっていませんよ」

死神「そりゃ家族のことだって理解するのは難しいんだし、ましてや他人なんて…」

見習い「そういうことじゃないんです」

理解できないんじゃない――

見習い「理解しようとしてこなかったんです。…踏み込んで、嫌われるのが怖かったから」

死神「…」

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/16(木) 19:09:33.26 ID:PLzuue4k0
死神「だあああああぁぁぁっ!!」

見習い「!?」ビクゥ

死神「見習いちゃんてウジウジしてるよなー。見習いちゃんのそういうとこ嫌いだわー」アハハハ

見習い「そんな面と向かって言わなくても」シクシク

死神「でも今の話で、ヒントが得られたかもしれん」

見習い「え?」

死神「魔女を討つ方法だよ」

死神さんはくるっと振り返る。

死神「多分、面と向かって挑んでもあいつは殺せねー。けどその願い事さえ叶えば、もしかしてこの世への未練が少しは吹っ切れるかもしれねぇ」

見習い「あ…」

思ってもみなかった。

死神「そうと決まれば探ってみるに越したことはねーな。わりーけど先に帰るぞ!」

師匠が500年も流れ星に託そうとしてきた願い事、それが叶えば師匠は――

見習い(だけど…)

私はどっちを望めばいいのだろう。
師匠の願い事が叶ってこの世への未練が吹っ切れることか。
師匠はこれから先も願い事を抱えて生きていくことか。

54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/17(金) 09:05:48.72 ID:4zWiVjL30
魔女さん可愛いです…!

55 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/17(金) 19:10:32.15 ID:14Sbjc3O0
魔女「フーッ」

今日の星も流れない。
片手にはワイン…のグラスに入った蒲萄ジュース。酒はあまり好きではない。

死神「毎晩、星空観察ご苦労さんだな」

魔女「おや死神。珍しいな、お前から私を訪ねてくるなど」

死神「流れ星を待ってるんだってな」

魔女「見習いから聞いたのか?あの人見知りから話を聞き出すとは、なかなかやるな色男」

死神「口説いちゃいねーよ。それよりキャラに似合わずロマンチックな趣味じゃねーか」

魔女「お前はどうだ。星空は好きか?」

死神「俺か…じっくり見る趣味はないが、嫌いではないな」

魔女「そうか、予想が外れた」フッ

死神「で?世界一の魔法使いであるテメーが流れ星に頼るのは、どんな願いよ?」

魔女「単刀直入な尋ね方だな。もっと上手く探りを入れられないのか」

死神「そういうのは苦手なんだよ」

魔女「まぁ、だろうな」フフッ

死神「で、教える気はねーのかよ?」

魔女「そうだなぁ…」

何と言えばいいものか。
だけど考えるのはやめた。自分も死神同様、遠まわしな物言いは苦手だ。

魔女「教える気はないな、諦めろ」

56 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/17(金) 19:11:03.66 ID:14Sbjc3O0
死神「バッサリだな」

魔女「お前、それが叶えば私が命をくれてやるとでも思っているのか」

死神「何でわかった。…そういう魔法か?」

魔女「いや、ただの勘だ。それとお前の企み、間違ってはいないぞ」

死神「そうかよ。なら俺、願い事に協力できるかもしんねーぞ」

魔女「言ってどうにかなる話ではない、もう1度言うが、教える気はない」

死神「くっそ」

死神は困ったように頭を掻く。

死神「活路が見えたと思ったんだけどなー…このまま手ぶらでは帰れねーし」

魔女「ならここで暮らせばどうだ」

死神「冗談じゃねぇ」

魔女「バッサリだな」

死神「このままお前が生き続けたら、世界のバランスが崩壊して色んなイレギュラーが発生する。イレギュラーが続けば神はこの世界を見捨てる。神に見捨てられた世界を想像してみろ」

魔女「怖いな」

死神「だろ。だから受け入れて死にやがれ」

魔女「お前、案外真面目だよな」

死神「見習いちゃんにも同じこと言われたぞ」

魔女「あいつと同じか…ふふ、そうか」

何が可笑しいのか、死神には理解できなかった。

57 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/17(金) 19:11:36.07 ID:14Sbjc3O0
魔女「まぁ、神に見捨てられるまでこの世界に居座り続けるつもりはない」

死神「あ?」

魔女「それに」

魔女は死神をじっと見る。
じっと見つめられると、どんな顔をしていいのかわからない。

魔女「願いはもう半分叶ったようなものだ」

死神「あ…?」

魔女「完全に叶わなくても、ある程度満足すれば命を差し出してやるよ」

魔女はグラスに入ったジュースを一気に飲み干した。

魔女「ある程度満足すれば、私はこの世に一切の未練はない」

魔女は真っ直ぐな目をしてそう言った。

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/17(金) 19:12:12.34 ID:14Sbjc3O0
死神「…一切の未練は、ねぇ」ハァー

魔女「どうした、不満そうだな」

死神「いや死神としちゃ満足な回答だけどよ」

どうもスッキリはしなかった。

死神「死ぬ前に、残される方にもフォローはしとけよ」

魔女「残される方?」

死神「見習いちゃんだよ」

魔女「ああ、あいつか」

死神「見習いちゃんはお前のこと慕ってんだから。あんま秘密を作ってやるな」

魔女「お前、やけにあいつに優しいな?私にも分けてほしいぞ、その優しさ」

死神「アホか」

死神は呆れてため息をついた。

魔女「見習いは放っておけないタイプか?ふふ、そうかそうか」

死神「何でお前が嬉しそうなんだよ…見習いちゃんも勘違いしてるけど、俺は決していい奴じゃねーからな」

死神は標的を殺す使命を負った者。生きている者にとっては厄でしかない存在。
人間のような善の心を持てば死神なんて続けられない。自分が見習いに構うのは、決して善だからではなく――

死神「…可愛い女の子には構いたくなるんだよ」

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/17(金) 19:13:26.20 ID:14Sbjc3O0
苦し紛れに出た言葉だった。
だけど。

魔女「可愛い――見習いがか?」

魔女の顔は呆気に取られていて。

死神「お、おう?」

魔女「なぁ…どこが可愛い?」

予想外な質問を投げかけてきた。

死神「えーと、内気でモジモジしてる所だろ。あと人畜無害そうな所に、一生懸命働く所と…あぁ、顔も地味系だけど可愛いと思うな」

魔女「そうか。ふ、ふふふっ」

魔女はそれを聞くと――

魔女「そうかそうか!見習いを可愛いと言ってくれるか、ふふっ、はははっ」

その笑いは、心底嬉しそうだった。…意味がわからない。

魔女「まぁ、お前の言い分はわかった。そうだな…あいつも遠慮してるから、私の方からあいつとの距離を詰めてやらんとな」

死神「それを聞いて安心した。いつ死んでも後悔の残らないようにしろよ」

魔女「そうだな…その代わりと言っては何だが」

死神「ん?」

魔女「見習いを、宜しく頼んだぞ」

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/17(金) 19:14:06.35 ID:14Sbjc3O0
見習い「あの…お呼びでしょうか?」

その日の内に私は師匠に呼ばれた。
死神さんが師匠に何かを言ったのだろうか。

魔女「まぁそう固くなるな。とりあえず適当に何か飲め」

見習い「あ、それじゃあジュースを」

魔女「ふふ、お前とは好みが合うな」

師匠にグラスを差し出され、ひとまず乾杯をする。

魔女「お前には色々と秘密を作ったなぁ…すまなかった」

見習い「い、いえっ!?気にしないで下さい、誰しも秘密はあると思いますしっ!」

魔女「こちらはお前の秘密を全て把握しているのにか?」

見習い「え…ええええぇっ!!?」

頭がパニクった。秘密にしてきたつもりのあんなことやこんなことも、まさか師匠は…。

魔女「死ぬ前に、お前に言い残しておくことがあってな」

見習い「え…死ぬ前にって、師匠…!?」

パニクった頭が今度は急激に冷えていく感覚がした。

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/17(金) 19:14:39.72 ID:14Sbjc3O0
魔女「そう遠くない未来だ、覚悟はしておけ」

師匠はまるで恐れていないといった様子でそう言った。
少し前まで死ぬことに抵抗していたのに、死神さんとの間に何があったのか…。

魔女「だが、今すぐ死ぬわけではない。とりあえずフランクな話でもしよう」

見習い「フランクな話…ですか?」

魔女「あぁ。私の初恋話なんてどうだ?」

見習い「」ブッ

あまりにもフランクすぎる。
というか…師匠に初恋!?

魔女「何だ、聞きたくないか?」

見習い「いえいえ、聞きたいです、とても!」(色んな意味で!)

魔女「あぁ、そうだなぁ…あれは私は10代後半の頃か」

フランクな話をフランクに始めた師匠から、次の瞬間、予想外の言葉が飛び出した。

魔女「私はな…とっても地味で冴えない少女だったんだよ」

見習い「師匠がぁ!?」

魔女「あぁ。身寄りもなく、故郷では邪険にされていた」

見習い(師匠が…)

にわかには信じられなかった。だけどわざわざ嘘をつく必要もないと思うので、本当なのだろう。

魔女「ある日、森の方に木の実拾いに行ってなぁ…」

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/17(金) 19:15:12.65 ID:14Sbjc3O0
普段、人があまり足を踏み入れない森だった。遭難者が多い為、近隣の者に危険視されていたからだ。
だけど身寄りのない私には、森に足を踏み入れた所で咎める者もいなかった。だから私は、その森を恐れていなかった。

村娘(昔の魔女)「今日はあまり集まらないなぁ…」

村娘(この森穴場なんだけどな~。うーん、鳥に食べられたかな?)キョロキョロ

村娘「…あ!」

その時私は遠くに、実が沢山なっている木を発見した。
私は急いでその木に駆け寄って行った。

だが――

ゴオォ

村娘「…え?」

ドガアアァァァン

村娘「―――っ!?」

全身に激しい痛みを感じた。その次の瞬間には、私は気を失っていた。

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/17(金) 19:15:41.75 ID:14Sbjc3O0
村娘「う…」

「あっ!」

最初に目に入った光景は、殺風景な木造りの天井だった。

「お、おい、大丈夫か!?俺の声聞こえるか!?」

村娘「え…?」

そして私に懸命に声をかけているのは…。

「良かった、良かった…!本当に悪かった!全力で償わせてもらうから!!」

村娘「貴方は…?」

魔道士「俺は魔道士…君は俺の魔法実験の巻き添えを喰らったんだ」

そう言われて思い出した。さっき受けた激しい痛み。
それから気がついた。私は頭から足のつま先まで、全身にぐるぐる包帯を巻いていた。

血の気が引いた。私の体は全身がボロボロになってしまって――

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/17(金) 19:16:25.43 ID:14Sbjc3O0
魔道士「痛みを感じなくする処置は施したし、治す方法もある――ただ」

村娘「ただ…?」

魔道士「俺は、君の元の顔を知らない」

それから魔道士は本を開いて私に見せた。

魔道士「一応容姿を変化させる魔法ってのは存在するんだ。それを君に教えるから」

村娘「魔法を…?」

魔道士「うん…習得するまで時間はかかると思うけど、他に方法がない」

魔道士は心底申し訳なさそうに言うと、私に頭を下げた。

魔道士「そういう形でしか俺に償う方法はないんだ!だからお願い、償わせて!」

村娘「…」

正直、急な話で理解が追いつかなかった。
だけどこの魔道士の誠実な態度に私は――

村娘「…はい」

彼にボロボロにされたというのに、全く悪い感情を抱けなかった。

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/17(金) 19:16:58.18 ID:14Sbjc3O0
魔女「魔道士は少々ガサツな所はあったが、優しくてな」

~~~~~~~~~~~~~
魔道士「村娘ちゃん、こんな綺麗な花が咲いてたぞ」

村娘「まぁ」

毎日屋内にこもっている私を、退屈させないようにしてくれたり。


魔道士「魔力ってのはな、こう息をするのと同じ感覚で外に出すんだよ」

村娘「…うぅ~、難しいです」

魔道士「そう、難しいんだ。だから焦りは禁物だ」

覚えが悪い私に根気よく魔法を教えてくれたり。


魔道士「うっま!ひっさびさにマトモなもん食ったよ、村娘ちゃんの料理俺好き!」

私が何かすると、大きな反応で褒めてくれたり。
~~~~~~~~~~~~~


魔女「今思えば私に優しくしてくれる男は魔道士が初めてでな」

見習い「それで…恋に落ちたと?」

魔女「そういう事だ」

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/17(金) 19:17:39.89 ID:14Sbjc3O0
魔女「物覚えの悪い私だったが、根気よく教わっている内に魔法のコツも掴めてきてな」

~~~~~~~~~~~~~

村娘(なるほど…で、こうすればこの魔法は成功するのね)

魔道士「どうだ村娘ちゃん、わかってきたか?」

村娘「えぇ、成功が見えてきました」

魔道士「あぁ良かった~…女の子の顔と体を傷つけるなんて万死に値するからな。でも、元に戻るなら良かった!」

村娘「…」

元の私。地味で冴えなくて、男の人から優しくしてもらったことなんてなかった。
鏡を見ながら何度も思った。私が可愛らしい容姿をしていれば、もっと誰かに優しくしてもらえたのではないか。

村娘(そんな元の姿をこの人に見せるなんて…)

そう思うともはや、ろくなことは考えない。

村娘(…魔道士さんは、私の元の姿を知らないんだから――)
~~~~~~~~~~~~~~

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/17(金) 19:18:07.36 ID:14Sbjc3O0
魔女「つまり私のこの容姿は作り物だ」

見習い「そ、そうだったんですか…」

魔女「魔道士は元の私の容姿を知らんからな。美しくなった私を見て、元に戻って良かったなと泣いていたぞ」

見習い「そ、それでその後その魔道士さんとは…」

魔女「弟子入りした。どうせ身寄りも無かったし、魔法にも興味が沸いてな」

見習い「積極的ですねぇ」

68 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/17(金) 19:18:44.10 ID:14Sbjc3O0
~~~~~~~~~~~~~~
村娘「魔道士さん、夕飯冷めますよ」

魔道士「ん?あぁごめん…村娘のせっかくの料理を冷ましたら罰当たりだよな」

村娘「毎晩見てらっしゃるんですね…星空」

魔道士「うん。お前はどうだ?」

村娘「私ですか…?うーん、考えたことないですね」

魔道士「もったいない。こういうロマンチックな趣味は俺よりも、女の子に似合うのにな」

村娘「私なんか…」

容姿が美しくなっても、中身はまだ冴えない少女のままだった。
だからそういうロマンチックな趣味は自分に不釣り合いに思えていた。

村娘「でも魔道士さんも、随分ロマンチックなんですね」

魔道士「俺はずっと、流れ星を待ってるんだ」

魔道士は無邪気に笑う。

魔道士「ワクワクするじゃん、願いを叶えてくれる流れ星ってのはさぁ」

69 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/17(金) 19:19:14.60 ID:14Sbjc3O0
村娘「何かお願い事でも?」

魔道士「願い事…思いつかんな」

村娘「えー」

魔道士「願いとかじゃないんだよもう。ロマン、ロマン」

村娘「へぇ~」

ちょっと変わった趣味だなと思ったけれど、流れ星のことを語る魔道士はとても楽しそうで。

村娘「なら私も魔道士さんと一緒に鑑賞をしたいです」

魔道士「おう、大歓迎!趣味を共有できる相手がいるともっと楽しくなりそうだな」

村娘「でもどうして室内で鑑賞しているんですか?外の方がよく見えるのでは」

魔道士「星空の光に虫が集まるんだよ…」ブルッ

村娘「あらら。まぁ、とりあえず夕飯食べながら鑑賞しましょう。あと、おやつにケーキも作ってありますよ」

魔道士「俺の好きなやつ!?」

村娘「えぇ、果物とクリームたっぷりのです」

魔道士「ヨッシャア!そりゃがっつくしかないじゃん!!」
~~~~~~~~~~~~~~

70 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/17(金) 19:19:41.72 ID:14Sbjc3O0
魔女「これといって進展のない仲だったが…あの時が1番幸せだったな」

見習い「…」

師匠の顔は何というか、素直なものだった。
今まで師匠に感じていた、おふざけ感とか、胡散臭さとかは、一切伺えない。

見習い(本当に好きだったんだなぁ…魔道士さんのこと)

魔女「だが――そんな日々も長くは続かなかった」

見習い「え?」

魔女「魔道士は罪人にされた――奴が作った魔道具で、戦争で大量の死人を出したということで」

見習い「えっ…」

71 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/17(金) 19:20:21.97 ID:14Sbjc3O0
~~~~~~~~~~~~~
村娘「納得いきません!魔道士さんは魔物退治の為と国王に依頼されただけなのに!」

魔道士「だが国王は大量の死人を出した挙句、敗北した…戦争の敗者側についた者は悪者扱いされるもんだ」

村娘「逃げましょう魔道士さん…魔法で容姿を変えて、遠くで暮らすんです!」

魔道士「できねーよ、そんなこと。俺は出頭するぜ」

村娘「どうして…!」

魔道士「俺のせいで大量の死人が出たことは事実だ。なら償わないと、夢見が悪そうでよ」

村娘「でも…」

魔道士「償うのに何年かかるかわかんねーけど…」

村娘「あっ…」

魔道士はそう言うと、私の体を柔らかく抱いた。
知り合ってからこの時、初めて触れ合うことができた。

魔道士「いつかまた――」



いつかまた、お前に会いに来るから――


そう言い残して、魔道士は私の元からいなくなった。









その3日後、私は魔道士が処刑されたことを知った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

76 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/18(土) 11:04:39.90 ID:tyHAVLhO0
見習い「そんなの、ひどすぎますっ!!」

師匠の話を聞いた私は涙を堪えるのに必死だった。
どうしてだか、自分が体験したかのように感情移入してしまって、心に刺さって。

魔女「歴史は苦手か?魔道士の名はばっちり、500年前の極悪人として名が残されているぞ」

見習い「あまりにも理不尽です…」グスッ

魔女「そうだな――私もそう思ったな」フッ

師匠は皮肉な笑みを浮かべる。

魔女「それをバネに、私も理不尽な力を得てやった。だがその頃には、魔道士を死に追いやった奴らには寿命がきてたしな。復讐もできなかった」

魔女「理不尽な力を得ても、死んだ者を蘇らせることもできん。死んだ者の魂は死の世界へ行ってしまうからな」

魔女「なら私ができることは1つ――長く生きることだ」

見習い「つまり…」

魔女「転生した魔道士に会うこと――それが私の生きる目的であり、願いだった」

師匠はそう言って星空を見上げた。

魔女「まぁ、その願い自体は叶ってしまったのだがな」

見習い「!?」

一瞬何のことだかわからなかった。
だけど――ここ数日の師匠の様子を見て、すぐに何のことだかわかった。

見習い「もしかして…死神さんが?」

魔女「正解。優秀だな」パチパチ

77 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/18(土) 11:05:06.73 ID:tyHAVLhO0
見習い「死神さんには言いました!?」

魔女「何故だ?」

見習い「何故って…だって死神さんは師匠の気持ちに気付いていないんじゃ」

魔女「私が一方的に、あいつの中にある魔道士の面影を追いかけているだけだ。それを死神に押し付けることはできん」

師匠はすっぱり言い切った。

魔女「だからあいつが自然と私を好きになってくれれば理想的だったんだが、そう上手くはいかんなぁ」フフ

師匠はここ数日、死神さんにちょっかいをかけたり、手料理を振舞っていた。
それが魔道士さんへの想いから来る行動だったのなら――

見習い「そうとわかれば協力します!時間はたっぷりあるんです、2人が添い遂げることだって…」

魔女「いや、それはもういいんだ」

見習い「どうして…」

魔女「私と死神が添い遂げるよりも、私にとって嬉しいことが起こりそうだからな」

見習い「え…?」

78 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/18(土) 11:05:34.47 ID:tyHAVLhO0
魔女「さて、話はここまでだ」

師匠はすっと立ち上がった。
その動作はあまりにもいつも通りで、堂々としていて――

見習い「師匠、どちらに…」

魔女「死神に命を渡してくる」

見習い「!?」

とても、これから死のうとしている姿には見えなかった。

見習い「師匠、う、嘘でしょう…」

魔女「私がお前に嘘をついたことがあったか?…あぁ、2、3回あったかなぁ」

見習い「嫌です、師匠…」

魔女「何故だ?お前は魔法を取得したいわけでもあるまい、私がいなくても大丈夫だろう?」

見習い「それは…」

答えられない。
記憶がないから?身寄りがないから?
師匠しか頼れる人がいないから?

――違う。

見習い「必要なんです――私、師匠のこと大好きなんです!」

ただそれだけの、簡単な理由。

79 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/18(土) 11:06:09.34 ID:tyHAVLhO0
魔女「――ふっ」

師匠は困ったように肩をすくめた。

魔女「お前に好かれているとは思わなかったよ。こんな秘密ばかり作る師匠で、すまなかったな」

見習い「それは…私が師匠に歩み寄らなかったせいです。私は本当に、師匠に幸せになってほしいんです!」

魔女「幸せだよ、私は」

師匠は優しく微笑むと、私の頭に手を乗せた。

魔女「お前に好きと言ってもらえたことが。魔道士がいなくなってからこの500年の中で、1番幸せだよ」

見習い「う、えうっ、師匠…っ」

魔女「お前なら大丈夫だから」

師匠は手を放して、私に背を向ける。

魔女「星空を見ているんだ、見習い」

見習い「星空を…?」グスッ

魔女「今の星空は綺麗だな。披露するのはこんな空の時に限る」

師匠は足早にそこから立ち去り、言った。

魔女「今日は全世界にとっての記念日になる」

80 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/18(土) 11:06:39.19 ID:tyHAVLhO0
死神「…本当にいいのか」

魔女「構わん。早くやれ」

魔女は表で待たせていた死神に、無防備な立ち姿で一言、殺せと言った。
死神は正直、戸惑いを隠せない。

死神「何で急に死ぬ気になった?マジで意味わかんねぇ…俺を殺す殺さないの選択の時もそうだった」

魔女「深く考えるな、誰にも私は理解できんよ」

死神「…もう未練はないのか」

魔女「あぁ。見習いにも言いたいことは言い残してきた。あとは私が死んだら発動するように、仕掛けをしておいた」

死神「仕掛けだと…!?」

魔女「そう焦るな、お前に危害を加えるものではない」

しかし教える気はない――この意地悪な笑みは、そういう笑みだ。

魔女「躊躇するな、お前の役割だろう」

死神「あぁ」

死神は鎌を構える。それを見ても魔女は、全く顔色を変えない。

死神「個人的には悪くなかったぜ、テメーと過ごした数日間」

魔女「私もだ」

死神「…来世で会えりゃいいな――」

そして死神は、躊躇なく鎌を振り下ろした――

81 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/18(土) 11:07:09.10 ID:tyHAVLhO0
見習い「うぅっ、えうっ」

私は星空の下、溢れ出る涙を止めることができなかった。
師匠は受け入れようとしている。なのに感情は割り切ることができない。

3年。とても短かった。もっと早く師匠と打ち解けるべきだった。もっと師匠と一緒に過ごしたかった。

見習い「うぅっ、師匠…」

その時だった。

見習い「…っ!?」

地面が照らされ、すぐに異変に気付く。
私はぱっと空を見上げた。

見習い「これは――」

空を明るくしているのは、空一杯の流れ星だった。
師匠が待ち続けていた星の群れは、まるで人々の願いを運ぶかのように流れていた。

その、あまりにも幻想的な輝きに、私は目を奪われる。

見習い「師匠…」

呟くのは大事な人の名前。

だけれど、何故か急に苦しくなって。

見習い「死神…さん…」

どうしてか、死神さんの顔が頭に浮かび、胸を締め付けた。

82 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/18(土) 11:07:35.32 ID:tyHAVLhO0
それと似たようなことが、死神にも起こっていた。

死神「何だよ、これは…」

流れ星が流れたのは、自分の仕事が終わったと同時の事。
魔女が言っていた仕掛けとは、この事か――

だけど流れ星を見て、頭の中を色んな言葉が巡る。



『そういう形でしか俺に償う方法はないんだ!だからお願い、償わせて!』

『ワクワクするじゃん、願いを叶えてくれる流れ星ってのはさぁ』

『いつかまた、お前に会いに来るから――』



死神「何で…」

昂った感情に体が震える。
あいつ、どんな魔法をかけたんだ――だけど頭からそれを振り払おうとすればする程、鼻の奥がツンとして。

死神(何だよこの気持ち…!?)

83 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/18(土) 11:08:12.40 ID:tyHAVLhO0
一方、その頃――

魔女「…ん?」

気付けば知らない場所にいた。

地獄の主「ようやく来たか」

魔女「…おぉ、その薄毛。お前が地獄の主とやらか。ということは、ここは地獄だな」

地獄の主「薄毛は余計だ。しかし、あいつを送ったのは正解だったようだな」

魔女「あぁ、確かにあいつでないと命を差し出してやろうという気にはなれなかっただろうな。全く、お前の策士ぶりには感心する」

地獄の主「お前こそ。最後の最後で策士ぶりを発揮したな」

魔女「何のことだ?」

地獄の主「とぼけるな。あの流れ星は、お前の中にあった魔道士の記憶を運んだ。それを見たら死神は、断片的にだが前世の記憶が引き出されるだろう」

魔女「そんなことをして何になる?あいつが思い出したところで、私が死んでは何の意味もあるまい」

地獄の主「俺が知らないと思うのか、お前の弟子の娘のことを」

魔女「…」

地獄の主「記憶を引き出されたのは死神だけではない。村娘時代のお前をモデルに造られた、お前の弟子もだ」

84 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/18(土) 11:08:47.21 ID:tyHAVLhO0
魔女「ふ、ふふふ…」

見習いは村娘時代の自分。
ほんの気まぐれで造ったクローンだった。だというのに。

魔女「死神の奴、冴えない頃の私を「可愛い」と言ったのだぞ。これはもう、後押ししてやらねばなぁ?」

地獄の主「…その言葉が、お前に命を捨てさせる決心をさせたのか。わからないものだな」

魔女「私は過去の自分に負けた。理想通りの容姿と力を手に入れて、自信もついたというのに」

500年の年月で、性格の方はすっかり変わってしまった。
もし死神が魔道士のままだったとしても、変わってしまった自分よりも見習いを選んだかもしれない。

魔女「それに私ももう、恋愛という年齢でもないしなぁ」

死神の魔力を感じるまで魔道士の生まれ変わりだと全くわからなかったのが、もうろくした証拠だ。
500年前の自分ならもっと早くに察知した――魔道士の好みと同じ、赤と黒の衣装を見た時から。

魔女「まぁ、私は双方の記憶をほんの少し刺激しただけだ。あとどうなるかは、見守っていきたい所だが…」

地獄の主「見守れると思うな。お前は散々イレギュラーを起こしてきた罪人。これから地獄での洗礼が待っている」

魔女「あの世もこの世も、理不尽なことは変わらんなぁ」

魔女はやれやれと、皮肉めいた笑みでため息をもらした。

魔女「いいだろう、受けてやるよ――地獄というからには、私を退屈はさせまいな?」

85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/18(土) 11:09:19.11 ID:tyHAVLhO0
死神が地獄に戻ってきたのは、それから少し経ってからだった。

地獄の主「ご苦労だったな」

死神「いや別に。これが仕事だからよ」

死神の顔には達成感というものが浮かんでいない。
むしろ――

地獄の主「…何か不満そうだな?」

死神「別に…」

しかし死神の顔は明らかに複雑だった。

地獄の主「…まぁいい」

きっと前世の記憶を少しだけ引き出されたせいで混乱しているのだろう。
だがそれを説明してやる必要もないので、それ以上追及するのはやめておいた。

地獄の主「ところでお前に褒美をとらせよう」

死神「褒美?」

地獄の主「あぁ。神ですら疎ましく思っていたあの魔女を討ったのだからな。褒美に、お前の願いを叶えよう」

死神「願い…」

願いという言葉で魔女の願い事やらを思い出す。
最後まで聞き出せなかったけど、あの魔女は満足したのだろうか。

地獄「どうした、今すぐは思いつかんか」

死神「いや――」

86 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/18(土) 11:09:59.06 ID:tyHAVLhO0



見習い「…ふぅ」

そろそろ寒くなってきた時期、洗濯する手が冷えて仕方がない。
とはいっても、自分1人分だけの洗濯はそんなに大変ではないのだけれど。

見習い(すぐ終わっちゃったなぁ)

師匠がいなくなってからも、身寄りのない私はこの家に住み続けていた。
あの流れ星が流れ終わった後、私は懸命に師匠を探した。だけど見つからなかった。どこかにあるはずの、亡骸自体も。

見習い(頭ではわかってるんだけどね…待っていても無駄だって)

だけど待っていたかった。
ここを離れてしまえば、もう会うことができないような気がして。

待つ――誰を?

見習い(帰ってこないかなぁ、何事も無かったかのように。なんて無理な話か…)




「ただいま」



見習い「!?」

87 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/18(土) 11:10:30.03 ID:tyHAVLhO0
「よっ」


見習い「あ――」

振り返るとそこに、見慣れた人物が立っていた。
だけどその出で立ちには、どこか違和感があって――。

見習い「死神――さん?」

死神?「そうだけど…」

ラフに着こなした赤黒の衣装も、ボサボサの髪型も、鋭い目つきも、死神さんのものに違いはない。
なのに、雰囲気が違うというか…。

死神?「死神をやめてきた」

見習い「はい…?」

死神?「だから――」




死神『魔女を討った褒美として俺を――』




青年(元死神)「地獄の主に頼んで、人間にしてもらった」

88 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/18(土) 11:10:58.69 ID:tyHAVLhO0
見習い「本気…ですか?」

青年「本気だよ」

見習い「何でですか…?」

青年「何でだろうな」ポリポリ

理由ならあった。
あの流れ星を見た後、記憶にはない少女のことが頭の中に何度も浮かんでは消えた。
その少女は何だか、見習いに似ているような気がした。
そのせいか。見習いをこのまま1人にしておくのは、心が痛んでしまって。

青年(自分でもわけわからねー…言えるか、こんなわけわかんねぇ理由)

見習い「…でも」

青年「ん?」

見習い「会いたかったです…死神さん」

青年「…そっか」

89 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/18(土) 11:11:48.04 ID:tyHAVLhO0
師匠のことは聞かない。きっと帰ってこないことは変わりないだろうから。
だけど死神さん――もう1人、私が待っていた人は来てくれた。

青年「何か腹減ったなー。なぁ、何か作ってくれない?」

見習い「えぇ、構いませんよ」

私は急いで台所に向かう。
その時気付いた。死神さんに私の料理を振舞うのは、これが初めてかもしれない。

見習い「師匠の料理より味が落ちるかもしれませんが」

青年「そんなことないって」

死神さんはすぐに首を横に振った。

青年「俺、見習いちゃんの料理好きだよ…何か、そんな気がする」

見習い「…何だか私も、そんな気がします」

青年「人間になりたてで行く所もないし、しばらく世話になっていいか?」

見習い「えぇ、いいですよ」


どうしてだろう。私はとても長いこと、こうなる日を待っていたような気がする。
どうして――でもいいか、これからも死神さんが一緒にいてくれるなら。

見習い「何がいいですか?」

青年「そうだなー…」


空に流れた星は、昼間のせいか誰の目にもとまらなかった。
だけど500年前に交わした約束を見守るように、ひっそりと輝きを放っていた。



『いつかまた、お前に会いに来るから――』


Fin

90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/18(土) 11:13:35.93 ID:tyHAVLhO0
読んで下さりありがとうございました。
自分のssは恋愛描写に力が入りがちなんですが、死神見習いカップルよりも魔道士魔女カップルの方に思い入れがあったりします。
複雑めな話だったので、わからなかったことや質問あればどうぞです(´∀`)

92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/18(土) 11:18:46.18 ID:khzCyWRPO
おつですー!(´;ω;)

93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/18(土) 11:24:03.52 ID:CRTrOVFsO
よかった!
乙!

94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/18(土) 13:31:30.07 ID:adA7IVql0
乙!
魔女は地獄でもうまいことやりそうで主が不憫ww

95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/18(土) 15:26:28.91 ID:9apnbR/OO
ええじゃん

98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/27(月) 01:35:44.61 ID:sfYrAstVO
乙乙見習いかわいい
posted by ぽんざれす at 10:09| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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