2015年09月05日

姫「魔王子との政略結婚」(3/3)

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161 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:35:35.31 ID:1mfqxhrH0



魔王子「だああぁぁ、クソッ!!」

魔王子の方も良くない状況にいた。
いつもの彼ならとっくに姫の国まで馬を飛ばしている所だが、姫と引き離される際に大暴れしたせいで監視付きの軟禁生活を強いられ、それも叶わなかった。

それに辛いのは、それだけじゃない。

「恐ろしい女でしたね、あの姫君は」
「やはり人間の女など迎えたのは間違いでしたな」
「姫君の母国では、まるで我々が姫君をいびったかのように噂されているとか…全く、腹立たしい」

魔王子「うるせえええぇぇ、ぶん殴られたいのかお前らは!!」

魔王子の剣幕に、姫の悪口を言う者達が散る。姫がいなくなってから、何度こうやって怒鳴り散らしたことか。

妖姫「全く、盲目的な恋ってのは恐ろしいわねぇ」フゥ

魔王子「恋じゃない、愛だ。俺と姫様は夫婦なんだ」

妖姫「でも、婚姻解消の話が進んでいるそうじゃない?」クスクス

魔王子「当事者同士が納得していない。そんなの無効だ、無効!」

魔王子は強気で言い切る。例え婚姻が正式に解消されたとしても、そんなのは形式的な話は無視していつでも姫を迎えに行く気は満々だった。
彼のそんな決意を悟ってか、妖姫はフゥとため息をつく。

妖姫「ねぇ知ってる?噂なんだけど――」

魔王子「軟禁生活で噂も耳に入ってこねーよ。何だ?」

怪訝な顔をする魔王子に、妖姫はにやりと笑う。

妖姫「姫様、勇者と再婚するそうよ?」

魔王子「あ…!?」

163 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:36:17.48 ID:1mfqxhrH0
まだ噂段階の話だが、まるでそう決まったかのように魔王子に教えてやった。
どうせいずれ本当になるのだろうし、早い内に諦めさせてやりたくて。

魔王子「勝手に話進めやがって…!絶対に阻止する!!」

妖姫「どうやって?」

魔王子は答えない。いや、答えられないのだ。
今この状況で、勇者と姫の婚姻を邪魔する方法なんて思い浮かぶはずもない。

妖姫「それにアンタね、次期魔王としての自覚が足りないんじゃないの?」

魔王子「何…?」

妖姫は畳み掛ける。

妖姫「今の姫様を魔王の妻として、誰が支持するの?」

魔王子「…」

妖姫「次期魔王に相応しいのは、魔物の全てに認められる女――」

それは例えば、目の前にいるような。

妖姫「容疑が晴れていない姫様を、このまま次期魔王の妻として置いておけると思っているの?」

こう言われてはぐうの音も出まい。

164 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:36:52.52 ID:1mfqxhrH0
…と妖姫は思ったが。

魔王子「問題はない」

妖姫「は…?」

魔王子は全く動揺せずに答えた。

魔王子「例え命を狙われても、姫様は俺の妻――そう主張すればいいだろう」

妖姫「なっ――」

そのぶっとんだ返答に、妖姫は何も言えなかった。

魔王子「俺の命を狙ってきてる奴が姫様に疑いを向けさせようとしているのはわかった。けど、それを証明する方法はない。だからそう主張する。それでも文句言う奴は、俺がぶっとばす」

妖姫「ば、馬鹿じゃないの!」

妖姫は引きながらも、ようやく抗議の声を出すことができた。

妖姫「そんな疑われたままの状況、姫様にとっても肩身が狭いだけでしょ!?それなのにアンタの所に戻ってくると思うの!?」

魔王子「俺はまだ、姫様自身から答えを聞いていない」

妖姫「っ」

魔王子「姫様がそう言ったなら考える――だけど俺は、最後の最後まで、絶対に諦めない」

言っていることはふざけているが、彼の目は真剣だ。
まただ。姫のことになると魔王子は真剣になる。

彼は真剣に、あの姫を愛している――

妖姫「…っ」

妖姫は唇を噛み締める。この一途な馬鹿の心を揺らがす、それだけのことがこんなにも難しいなんて。

妖姫(魔王子――)

それが彼女にとって、悔しくてたまらなかった。

165 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:37:20.96 ID:1mfqxhrH0



姫「…っ」

固いものに触れた頭に、刺すような激痛が走る。
だけど私は構わず暴れ続けた。

勇者「~っ…」

暴れた際に、彼の歯に頭が思い切り当たったのだ。
これには勇者も流石に怯み、血の出ている口元を抑える。

姫「…最低!」バチーン

勇者「っ!!」

そして私は自由になった片手で、続けざまに彼の頬を平手打ちした。
人にこんな暴力を振るうのは初めてだ。だけど後悔していない、それくらい私は興奮していた。

姫「離れて!早く!!」

勇者「…姫様」

切ない顔で勇者は私のもう片方の手を離した。
それと同時私は部屋の隅っこまで駆け出し、花瓶を手に取った。
近づけばこれで攻撃する、そういう姿勢を見せて。

勇者「…そんなに、俺が嫌ですか」

姫「嫌です――」

あの日から彼に抱いていた気持ちは今、嫌悪感となって膨れ上がっていた。


勇者『あの男――殺されてしまえば良かったのに』


姫「彼の人の死を望む貴方なんて!嫌いです!!顔も見たくありません!!」

勇者「――っ!?」

166 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:37:59.10 ID:1mfqxhrH0
勇者「何故、それを…!?」

一瞬心を読まれたかと、勇者の体に冷たいものが走った。

姫「貴方が従者に話しているのを聞きました!!」

勇者(まさか聞かれていたとは…)


あの日従者と会い、姫の近況を聞いていた。姫と顔を合わせるのは、まだ辛くて。
2人は大変仲睦まじい夫婦であり、魔王子は姫にとって良き夫であると。

だがその話を聞けば聞く程、嫉妬心やらが自分の中で大きくなっていき…

勇者『あの男――殺されてしまえば良かったのに』

その気持ちが、言葉となって表れた。
自分の姫への気持ちを知っている従者にだからこそ言えた、軽い気持ちで言った、しかし悪意に包まれた言葉。


姫「貴方が――」

勇者「――っ」

姫「貴方がお兄様や従者と共謀して、魔王子様の命を狙ったんですか!?」

勇者「!!!」


そして軽い気持ちで放った言葉は、想い人からの信頼を奪い去ってしまっていた。

167 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:38:53.01 ID:1mfqxhrH0
勇者「――それは誤解です!!」

勇者は動揺した顔で叫んだ。
その迫力に、私は若干怯む。

勇者「俺は確かに魔王子に悪意を抱いていました。それは陛下もです――だけど、魔王子暗殺の件に我々は一切関わっていない!それだけは信じて下さい!!」

姫「…そう簡単に、信用できません!」

彼を疑う根拠も無かったが、一旦膨れ上がった嫌悪感は収まりがつかず、私は感情のまま彼をなじる。

勇者「…俺には、その疑いを晴らす手立てはありません。ならせめて聞いて頂けますか、姫様」

姫「何ですか…」

勇者「俺は…従者が魔王子の命を狙ったことも、何かの間違いだと思っている」

姫「従者が…!?」

だって彼はあの覆面をつけていて、不審者として殺害されたわけで――

勇者「状況からして従者が疑われるのは仕方ありません。ですが従者は――魔王子を慕っておりました」

姫「…!!」

勇者「従者から直接魔王子の話を聞いた俺の、ただの推測です。ですが従者は確かに魔王子を…」

姫「…貴方の言いたいことはわかりました。ですが、もう出て行って下さい」

勇者「姫様…」

姫「今は貴方の顔も声も、受け付けられません!早く!」

勇者「…」

勇者は何かを言おうとして、途中でやめた。
それから諦めたように私に背を向ける。

勇者「…失礼します、姫様」

そして彼らしからぬか細い声でそう言うと、彼は部屋を後にした。

168 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:39:46.47 ID:1mfqxhrH0
姫(従者が…)

勇者が出て行ってから少しだけ興奮が冷め、彼の言っていたことを思い返す。


勇者『状況からして従者が疑われるのは仕方ありません。ですが従者は――魔王子を慕っておりました』


確かに魔王子と従者は何度も訓練で手を合わせていたと聞いた。
2人は性格も似ていて、気が合うようには見えた。

だけどそう油断させて魔王子を討とうというのが、従者の目的ではなかったのか。

姫(だけど…)


魔王子『俺の寝込みを襲撃してきたのは、従者じゃない』

魔王子『従者とは何度か訓練で手を合わせているけど、従者と襲撃者の動きは全然違った』


少なくとも、あの晩に彼を襲った襲撃者は従者ではなかった。
証拠としては弱いけど、従者の動きを知っている魔王子が言うなら信じてみようと思う。

姫(でも、だったら――)


従者『アッハハハ、そんな大した怪我じゃないから…』


従者のあの、頭の怪我は何だったのだろう?
従者の言う通り襲撃者にやられたのなら、何故仲間が従者を攻撃したのだろうか?襲撃者にやられたというのも嘘なら、あの怪我は――

169 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:40:26.79 ID:1mfqxhrH0
>魔王城

魔王子「…ん」

気晴らしに庭に出た魔王子は、目に入ったものが早速気になった。

魔王子「何やってんの?」

メイド「あ…魔王子様」

メイドは束ねた花を庭に置いて、何か祈りを捧げているように見えた。
魔王子に声をかけられたメイドは、気まずそうな顔をする。

あぁ、そういえばここは――

魔王子「従者に祈りを捧げてるのか?」

メイド「…っ!!」

メイドはびくっと硬直する。
ここは確か、従者が死んだ場所だ。

魔王子「従者のこと好きだったんだもんなー、メイド。辛いよなー…」

メイド「すっ、すみまっ…」

魔王子「ん?何で謝るの?」

メイド「だって…従者は、魔王子様のことを…」

魔王子「あぁ、そうか」

命を狙われた当事者だというのに、すっかり忘れていた。
直接暗殺者に扮した従者と対峙したことがないせいか、今だに信じられない。


従者『えぇ、魔王子様相手とはいえ手加減はしませんよー』ニヤリ

従者『くそー!何なんだよあんたは、顔よし、スタイルよしの上に強いって!!完璧超人ですか!!』


魔王子(俺、結構従者のこと気に入ってたしなぁ…現実、受け入れられんわ)

170 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:41:40.78 ID:1mfqxhrH0
メイド「私…今だに信じられなくて」

魔王子「俺もだよ。襲撃者に扮した従者と最初遭遇したの、メイドと姫様だったっけ?」

メイド「えぇ…」

魔王子(そん時は従者だって気付かなかっただろうなぁ)

メイド「でも…どうして従者はあんな覆面で城内を歩いていたんでしょうね」

魔王子「…?俺を殺す為じゃ」

メイド「けど、従者なら堂々と城を歩き回れますよね。変装なんてしなくても――」

魔王子「――っ!!」

メイドが何気なく言った一言は、魔王子の中で大きな衝撃となった。

魔王子「それだ!!」

メイド「え?」

魔王子(そういうことか…)

魔王子「メイド…よくそこに気付いた!」

メイド「えっ、あのっ?」

キョトンとするメイドをそこに残し、彼はある場所に駆け出した。

171 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:42:11.05 ID:1mfqxhrH0
魔王子(従者が頭を怪我していた理由もわかった――)

これはまだ推測段階の話。
だが、これが正しいとすれば――

兵士「魔王子様、どちらへ!!」

馬の厩舎に足を向けた魔王子に不審感を抱いてか、複数の魔物達が彼を囲んだ。
だが――

魔王子「邪魔だお前達」

兵士「何ですと!?」

魔王子「今の俺は止められん」

魔王子はそう言って、1番近くにいた魔物を正面から殴り飛ばす。
そしてその魔物が持っていた剣を奪い、構える。

魔王子「どうしても邪魔しようってんなら――止めてみな!!」

172 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/07(土) 16:46:08.04 ID:1mfqxhrH0
今日はここまで。
魔王子に黄色い声援がつくと嬉しいなーとか(妄想

173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/03/07(土) 18:52:53.82 ID:KPBcWN4C0

キャー魔王子ー(重低音

174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/07(土) 18:59:11.21 ID:DeiPgVDIO
乙です
魔王子様、ステキー(脛毛がもっさもさ)

176 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:47:16.61 ID:8ET0rAO30
兵士「申し訳ございません!魔王子様に逃げられました!」

魔王「あの馬鹿息子…。国中の兵に魔王子を確保するよう指示しろ」

城内が喧騒に包まれる。
しかし魔王に動揺はない。今の魔王子の状態なら、こうなることは十分に予測できていた。

魔王「行き先は姫君の国だろう。なら緊急事態を理由に国境を封鎖すれば良い」

悪魔「しかし並の兵では奴を止められないのでは?」

魔王「国境に結界を張らせる。あの脳筋の馬鹿息子に、それを打ち破る能力はあるまい」

自分の息子に何て言い様だと、悪魔は苦笑する。

悪魔(確かに奴は脳筋だが――)

魔王「どこへ行くのだ悪魔」

悪魔「俺も奴の捜索を手伝おう」

そう言って広間を後にする。

悪魔(脳筋の恋愛脳だが、万が一ということもある。それに…)


妖姫「鼻いいんでしょアンタ!!魔王子を探しに行きなさいよ!!」

メイド「あの、でも…」

悪魔(ん…?妖姫?)

廊下の途中で、メイドを怒鳴りつけている娘を見つけた。

177 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:47:43.78 ID:8ET0rAO30
メイド「他にも鼻のいい兵士達が捜索にあたっていますし…」

妖姫「アンタ、姫様と仲良かったものねぇ」

メイド「い、いえ、そういうわけではなく!!」

誰がどう見ても言いがかりだ。
だけど混血種嫌いの妖姫とはいえ、こうあからさまに辛く当たるのは珍しい。

メイド「そ、それに私がどうしようと…魔王子様のお気持ちは姫様に…」

妖姫「っ!」ダンッ

メイド「」ビクッ

妖姫はメイドの背後の壁を殴った。
これはもう、やりすぎだ。

悪魔「やめておけ、妖姫」

妖姫「お父様…!!」

悪魔「すまんなメイド」

メイド「い、いえっ…」

悪魔が顎で「行け」と合図し、メイドはそこから逃げるように立ち去った。
残されたのは怒りが収まらない妖姫と、それを宥めようとする悪魔。

妖姫「…何でよ」

悪魔「?」

妖姫「何であんな人間の女に、魔王子…!!」

悪魔「…」

悪魔は妖姫の想いを知っている。半分は次期魔王の妻の座を狙う気持ち。もう半分は、純粋に魔王子を想う気持ち。
だが妖姫は相当にひねくれている。そこが、あの姫とは大きく違う。だから魔王子の気持ちを奪うことができない。

妖姫「このままあの女を想い続けるなら、いっそ…」

妖姫はその先を言わない。だがその顔は憎々しげに歪んでいた。
その先の言葉――それは容易に察することができる。

悪魔「…」

悪魔は追及せずに、娘が落ち着くのをただ待っていた。

178 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:48:11.25 ID:8ET0rAO30
魔王子「~っ…」

一方、逃げ出した魔王子の方も困っていた。
一目散に国境付近に来たが結界に阻まれ、その内自分を探す兵士達の姿をあちらこちらで見かけるようになった。

兵士「魔王子様はどこに…」

魔王子(早く向こう行けっ!)

兵士「うーん…」スタスタ

魔王子(あぁ…生きた心地しねぇ)フゥ

魔王子は潜んでいた物陰から出た。
あの程度の兵士、気絶させることは容易い。だが無闇な暴力は避けるべき、その程度の分別ならついた。

魔王子(さてどうするか)

結界に阻まれて国から出られないとしても、城には戻りたくない。
とりあえず今は1人で落ち着ける場所に行きたい。

魔王子(…つったら、やっぱあそこしかないよな)

179 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:48:39.47 ID:8ET0rAO30
馬を走らせること10分――近場の木に馬をくくりつけ、魔王子は周囲を警戒しながら、崖の割れ目に入って行った。

魔王子(やっぱここだよなー)

魔王子が着いた先は秘密基地。暗がりの中で光る花は、いつ来ても幻想的だ。
だけど今はその光景に浸っている気分でもなく、とりあえず体を休ませる為にそこに腰を下ろす。

魔王子(姫様…)

前に来た時は姫の膝枕で、最高の気分を味わえた。
今度来る時も姫と一緒に来よう、そう思っていたのに。

魔王子(挫けるなよ俺…!遠回りしてでも姫様に会いに行くんだ)


魔王子『奥さんを守れない男は夫失格。そうだろ?』


魔王子(そやって姫様と約束したじゃんよ!破ってんじゃねぇよ、俺!!)ベシベシ

魔王子(よし、休んでる暇はないぞ…また、姫様とここに来るんだ!)

そう決意して立ち上がろうとした――が。

魔王子「…っ!?」クラッ

突然、頭がくらついた。

魔王子(何だ…!?そういや今日は)

魔王子(花の香りが…強いような…)

魔王子(くっ、意識…が…)

魔王子「…ぐぅ」

180 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:49:13.48 ID:8ET0rAO30
>姫の母国、書斎

姫(確かこの辺に…)

私が探しているのは魔道書。
現代人は昔に比べると魔法の適正が低くなっており、私も例に漏れず才能には恵まれていないのだけれど、何とか拙い回復魔法は習得できた。
今からすぐに新しい魔法を覚えるのは難しいかもしれないけど、何か現状を覆すことができる魔法は…そんな藁にもすがる気持ちで魔道書を探していた。

姫(あ、あった。でも…)

目当ての書は高い所にある。
うんと背伸びして、ようやく本に触れることができた。

姫「うーん…」

指先で少しずつ引っ張る。
もう少し、もう少し…。

姫「取れ…」

バサバサッ

姫「あーん」

隣に並んでいた本を落としてしまった。
これなら初めから踏み台を持ってくれば良かったと、横着したことを後悔する。

姫(これ片付けないと…)

と、散乱している本を何気なく手に取った。
すると。

姫(…あら?)

本と本の間にしおりが落ちていた。
きっとどれかの本に挟まっていたが、今の拍子に落ちたのだろう。
別段気にしないで、何気なくそれを手に取った。

だが――

姫「…!?」


そのしおりを手に取った瞬間、頭の中に記憶が流れ込んだ。

181 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:49:49.13 ID:8ET0rAO30
『絶対に、忘れないでよ』

それは遠い昔の、既に色あせていた記憶。

『これ、約束の証ね』


私の初恋。家族と行った小旅行で出会った男の子。
その男の子は私に花をくれた。その花を、私は押し花のしおりにした。

私は長い間それを忘れていた。

だけど――

『俺、いつでも待っているからさ――』

十数年振りに思い出した男の子の顔は――



魔王子『だから、また遊びに来てよ!』



姫「魔王子…様…?」


思い出すのは幼い顔。だけど確かに彼には、魔王子の面影があった。


あぁ――そういうことか。

182 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:50:25.22 ID:8ET0rAO30
私はしおりの花を見た。
この花を私は最近見たことがある。


魔王子『どう?俺の秘密の場所』

姫『綺麗です…』


光こそ失っているが、あの場所の花だ。

そうだったんだ。あの時貰ったのは、あの花で――

姫(私の初恋…魔王子様だったんだ)

忘れてかけていた思い出だった。
だけど思い出せて、途端に胸が痛くなって――

姫(魔王子様――)

彼に触れて欲しい。そうしなければ痛みが収まらない。
痛みで張り裂けそうで、私は身を縮めた。

その時だった。

ピュッ

姫「あっ!?」

しおりが風で飛んだ。
とっさに手を伸ばすが、しおりは私の手をすり抜けていく。

姫「ちょっ、待ってぇ!!」

しかししおりは窓の外に飛んで行った。私はすぐに図書室を飛び出す。

一方頭の片隅に、疑問があった。
風が吹いたのは窓とは反対方向から――どこから吹いた風なの?

183 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:50:58.87 ID:8ET0rAO30
姫「あった…」

しおりはすぐに見つかった。図書室の窓の外の地面に落ちていた。
もう手放すまいと、それを拾い上げる。さぁ、図書室の片付けをしないと…。

その時、気がついた。

姫(…あら?)

城の裏口の様子が目に入る。
いつもは見張りを立てているのに、今は誰もいなかった。

姫(今なら抜け出せる…)

良からぬ気持ちが沸く。
抜け出してどこへ行こうというのか。

姫(だけど…)


王『婚姻解消が決まったら、お前は勇者と結婚しろ』

勇者『姫様…陛下のご命令です』


現状は最悪。状況が良くなる気はしないが、今より悪くなる気は何故だかしなかった。

姫(…よし!)

ベンチに置いてあった、庭師の上着を拝借し少しでも目立たないようにする。
こうして私は無計画のまま城を飛び出した。

184 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:51:30.62 ID:8ET0rAO30
姫は気付いていなかった。

勇者「…姫様?」

その様子をたまたま、勇者が目撃していたことを。

勇者は、今すぐ連れ戻さねば――と思ったが、同時に。


姫『…最低!』バチーン

勇者『っ!!』

姫『離れて!早く!!』


姫に拒絶された時のことを思い出し、体が強ばる。

勇者(もし、また拒絶されたら――)

城を抜け出した姫を連れ戻すというのは、勇者としては真っ当な業務。
だけど怖くて、それができない。きっと自分はまた傷つくのだろうと思ってしまって。

勇者(…だが放っておくわけには)

勇者「…」

185 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:52:14.20 ID:8ET0rAO30
>一方魔王子

ここは――

彼は秘密基地の中心に立っていた。だが視界はいつもより低い位置を映していて、地面の花がいつもより近い。
それもそうだ。魔王子の体は幼少期に戻っていた。
夢の中にいる彼は、その状態に疑問を持たない。

そんな彼の目の前には――

魔王子「君は――」

少女の後ろ姿があった。艷やかな髪を長く伸ばした、自分より小さな少女だった。
その顔は見えない。だけど彼女の姿を認めた途端、何だか懐かしい気持ちがこみ上げてきた。

魔王子(この子は確か…)

幼少期のわずかな期間を共に過ごした少女。
自分に初めて、恋でときめく気持ちを教えてくれた少女。
人間に拒絶される痛みを知るきっかけになった少女――

「…」タタッ

魔王子「あっ!」

少女は振り返ることなく、そこから駆けていく。
魔王子はとっさに少女を追いかけた。

魔王子「ま、待って!」

「…」

それでも少女は魔王子が見えていないかのように、彼を無視して駆けていく。
彼女が駆けるのは、魔王子が見知った道。
少女に追いつくことができない。それでも見失わないように、ひたすら彼女を追いかける。疲れがないのは、夢の中だから。

魔王子「あっ…?」

少女が立ち止まった。
彼女の目の前には結界が張ってあった。魔王子を国の外に出さない為に張ってあるそれは、彼女の行く手をも阻む。

魔王子「あの…」

結界に触れている少女に近づく。この子は、何をしているのだろう?
と、その時だった。

「…」

魔王子「!?」

少女が触れていた結界が消えた。
これは、一体…?

呆気に取られいると、少女はゆっくり振り返り――


魔王子「…姫様?」


夢は、そこで途切れた。

186 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:52:52.20 ID:8ET0rAO30
魔王子「はっ!?」

目を覚ました魔王子は、ぼーっとした頭を覚醒させながら状況確認する。
そうだ。どうしてか急に意識が遠くなって、倒れてしまったんだ。体調管理は万全だったはずなのに、おかしい。

それに――

魔王子(今の夢…)

はっきり覚えていた。
最後に見た顔――姫の面影を残す少女。あれはこの場所が見せたのか、それとも姫を恋しく思う気持ちが見せた夢なのか。

魔王子(あの子が行った場所は…)

魔王子も知っている場所だ。山道にある国境で、あそこを通る者はいないので警備もいない。
だけど結界はしっかり張っているはずだ。ここから馬を走らせれば、そう遠くないが…。

魔王子(…ん?)

ふと、服に引っかかっていたそれを手に取る。
この秘密基地に咲く花だ。倒れた拍子に、引っかかってしまったのだろう。

魔王子(この花は魔力の宿る花…こいつが見せてくれた夢だとしたら…)

光る花を見つめながら、魔王子は考えていた。
そして考えるというのは、彼の性には合わず。

魔王子(とりあえず行ってみるか!)

次の瞬間には行動する為、足を動かしていた。

187 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:53:28.53 ID:8ET0rAO30
魔王子(ここだな)

道中、誰かと鉢合わせることなく国境に着いた。
けど夢で見た光景とは違い、結界は張ってあるままだ。

魔王子(ま、そりゃそんな上手くはいかんわな)

期待が小さかった分、そんなに落胆もしなかった。
だけどあそこであの夢を見たことに、何か意味を見出したくてたまらなかった。

魔王子(結界無理矢理突き破ったらどうなるかなぁ?)

全身大火傷で済めばいい方だろう。
そんな怪我を負えば、姫に会いに行く前に力尽きてしまう。

魔王子(こんなことなら魔法についてもっと勉強しておくべきだったかなー…)

とはいっても、魔法適正の低い自分じゃ勉強した所で大して実にはならなかったろうが。

その時、ビュンと風が吹いた。

魔王子「あ」

その拍子に胸ポケットに入れていた花が飛ぶ。
花は真っ直ぐ結界に向かっていき…

バチバチバチィ

魔王子「うわぁ!?」

魔力と魔力がぶつかったせいか、物凄い衝撃が響いた。
魔王子はとっさに耳を塞ぐ。

魔王子「~っ…ん?」

キーンとする耳にクラクラしながらも、目の前の光景にはすぐ気がついた。

魔王子(…は?結界が部分的に消えている?)

魔王子は地面に落ちた、焼け焦げてしまった花を拾い上げる。
その花は光を失い、魔力もほとんど残っていない。

魔王子(まさか、この花が…?)

こんな小さな花に、それだけの魔力が…どうにも信じられない事態だったが。

魔王子「さんきゅ。後は姫様の所まで、俺の力でたどり着いてみせるよ」

奇跡を信じることにして、花に感謝を述べた。
花の墓…というのは間抜けだが、他に弔う方法も思い浮かばずに花を土に返し、魔王子は馬を走らせた。

188 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:54:09.63 ID:8ET0rAO30
国境を越えた後はスムーズだった。今は自然の多い緩やかな山道を走っている。
まさか誰も自分が結界を突破したなんて思っていないだろうから、追っ手の心配はない。
姫の母国に入ったことは数える程度しかないが、地図は頭に入っている。馬を走らせれば、今日の夜には城に着く。

魔王子(その後は――)

気難しいと聞く姫の兄王を説得するのは難しい。
けど姫をさらって駆け落ちするなんて、犯罪者のような真似はできない。

それでも今は、姫の声を聞きたい。彼女の気持ちを知りたい。
弱ってなんていられない。彼女への気持ちは、そんなに脆いものじゃない。

魔王子(気合い入れていきますかー!!)

そう、気持ちを燃え上がらせていた、その時だった。

魔王子「…っ!?」

戦慄。直感が魔王子を振り返らせた。
そしてその判断は、間違っていなかった。

魔王子「く…っ!!」

魔王子はとっさに馬から飛び降りる。勢いよく地面に落下したが、受け身を取ってダメージを軽減する。
そして自分がいた位置には…

ビュンッ

魔王子「…っ!!」

火の玉がそこを通り過ぎた。
馬から飛び降りなければ、あれに直撃していた――

「流石魔王子、いい反応だ」

魔王子「お前っ――」

そして魔王子は振り返り、そこにいた人物を睨みつけた。

189 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:54:37.78 ID:8ET0rAO30
この考えに至るきっかけは、メイドのあの言葉だった。


メイド『けど、従者なら堂々と城を歩き回れますよね。変装なんてしなくても――』


変装は自分の正体を隠す為のもの。だが、あの変装で城内を歩き回ればかえって目立つ。
俺を殺すつもりなら、俺を襲う直前に覆面を被る方がリスクは少ない。だが不審者として目撃された時、俺は全く違う場所にいた。

なら何故従者は変装していたか?考えられる可能性といえば――2人に見つかった不審者、あいつは従者ではないということだ。

だが本当に俺を狙っている奴は、従者に罪をなすりつけようとしていた。
だから従者に、俺の寝込みを襲った奴と同じ怪我をさせた。

そしてあの日――2人に見つかった不審者は城内を騒がせた後、誰もいない所で覆面を脱いだ。
それから従者を捕らえて、覆面を被せて――

190 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/08(日) 17:55:13.52 ID:8ET0rAO30
悪魔「叔父に対してお前、はないんじゃないか。魔王子」

魔王子「…」

翼を広げ地面に降り立つ悪魔の温和な笑みの前にも、魔王子は警戒をとかない。

魔王子「…奇襲とは趣味の悪い。下手すりゃ…」

悪魔「ああでもしないと止まらないだろう、お前。それにお前があの程度で…」

魔王子「死ねば、都合が良かったんでしょうけどね」

悪魔「!?」

魔王子は敵意剥き出しで剣を構えた。
悪魔は理解できない、といった顔をした。だが魔王子に、悪魔の芝居に付き合う気はない。

魔王子「俺の命を狙い、従者に罪を被せようとしたのは――叔父上、貴方でしょう」

悪魔「…」

沈黙。しかし悪魔は不敵な笑みを返した。
魔王子はそれを肯定と受け取る。瞬時、敵と判断し悪魔に向かっていった。

197 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:47:24.14 ID:6xtssEe/0
悪魔「驚いたな、お前にも考える頭があったとは」

悪魔は片手で魔王子の剣を受け止める。

魔王「俺が死ねば王位継承の権利はアンタに移る。それを狙ってんのか?」

悪魔「まぁ、それもある」ブンッ

悪魔が振り放った腕を、魔王子は即座に回避。
だがすぐに攻撃を続けた。

魔王子「やり方が回りくどいな…何で姫様や従者になすりつけようとした?」

素早い剣撃を何発も繰り出す。
だが悪魔は怯むことなく、それを的確に受け止めていた。

悪魔「むしろお前を消すことそのものよりも、そちらの方が重要だ」

魔王子「どういう意味だ」

悪魔「わからんか」

悪魔は数発の火の玉を放つ。

魔王子「わかんねぇよ!」

魔王子はそれを軽くかわした。

悪魔「ならもう少しヒントをやろうか。姫君や従者への疑いは、向こうの国王にも向く…」

魔王子「…まさかとは思うが」

あまりにも馬鹿馬鹿しい予想に、魔王子は苦笑いを浮かべた。

魔王子「両国の間に亀裂を入れることが目的だったのか?」

悪魔はその返答を、不敵な笑みでもって返した。

198 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:47:56.12 ID:6xtssEe/0
魔王子「アンタがあの国に恨みを持っていることは知っていたけどよ…」

悪魔は昔、姫の母に騙され、国に殺されかけた。

魔王子「けど両種族が争っている時代に、人間の国で遊び歩いていたアンタにも非はあるんじゃないか」

悪魔「耳が痛い…」フッ

魔王子「昔の恨みで両国巻き込んで和平にヒビ入れようとは、見逃せねぇな。ブッ倒して全部親父にチクってやる」

悪魔「俺の気持ちを理解しろとは言わん…だが魔王子、お前も姫君が関わると冷静ではいられまい?」

魔王子「あ?」

悪魔「このまま離縁され、姫君が勇者の妻になれば――お前もあの国を憎むだろう」

魔王子「一緒にするんじゃねーよ」

魔王子はためらうことなく答えると、大きく跳躍した。

魔王子「…っつーかそうなったらアンタのせいだろ!!」ビュンッ

悪魔「っ!」

大振りの一擊を寸前回避…されたが魔王子は手首をひねらせ、剣先を悪魔の喉元に当てる。

魔王子「アンタのしていることは、ただの八つ当たりだ!」

悪魔「フッ…そうだな」

悪魔は少しも抵抗の素振りを見せない。魔力を手に溜めている様子もない。

悪魔「あぁ八つ当たりだ――だが俺1人が望んでいることではない」

魔王子「何だと」

悪魔「忘れたか?俺には――」

魔王子「――」

途端、腹が熱くなり、急激な痛みが走った。

199 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:48:30.33 ID:6xtssEe/0
魔王子「グ…」

魔王子は膝をつく。腹には貫通した穴。
やられた――腹を貫通した魔法弾が飛んできた方向を睨む。
睨んだ先の木の陰で、何者かが魔力を放出したての手をこちらに掲げていた。

悪魔「俺には協力者がいただろう」

魔王子「俺を襲ってきた暗殺者どもか…!!」

完全に悪魔以外に注意を払っていなかった。これは自分の落ち度。
血が溢れる腹を抑え、悪魔と距離を取る。

魔王子「そいつらも争いを望んでいるってのか…!?何の為に!!」

悪魔「お前にはわかるまい」

悪魔はそう言って、手の中で火の玉を作り出す。

悪魔「魔物は古き時代、邪神が神々の国を侵略する為に生み出した戦闘民族…争いを望むのは本能。それが人間と和平を結び平和ボケしろだと?馬鹿げている…」

魔王子「馬鹿はそっちだろ」

魔王子は即座に反論した。

魔王子「争いを望むのは本能だ?本能のままにしか行動できない、理性のない馬鹿だって自分で言ってるぜ」

悪魔「だが、そんな馬鹿が多いのも事実。お前はそれでも魔王になった時、和平を持続できるか?」

魔王子「してみせる」

悪魔「フ…」

こんな状況にも関わらず強がりで堂々としている魔王子に、悪魔は苦笑する。

200 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:49:09.78 ID:6xtssEe/0
悪魔(流石兄上の息子か――だが、その態度が命を縮めるのだ)

悪魔は手の中にあった火の玉を、魔王子に向けて放った。
魔王子は腹のダメージのせいか、膝をついたまま、そこから動く様子はない。

魔王子「争いを望むのが本能ってんなら…」

魔王子は膝をついたままの姿勢で剣を振った。そして…

「ぐああぁぁ!!」

火の玉を剣で打ち返し、その火の玉は先ほど魔王子を襲撃した術者に直撃した。

悪魔「!!」

魔王子「魔物ん中で1番強くなりゃ、誰も文句は言えなくなるだろ…」

悪魔(あの姿勢からそんな技を繰り出すとは…)

悪魔も流石に、これには驚きを隠せない。

悪魔「だが所詮は手負い…!!」ドガッ

魔王子「っ!?」

悪魔は思い切り、魔王子の腹を蹴り上げた。
そして続けざまに、衝撃波を繰り出す。

魔王子「うわあああぁぁっ!?」

魔王子は衝撃に耐えられず吹っ飛ぶ。
今ので悪魔は力を大分消費したが、魔王子には致命的なダメージを与えたはず…疲れと安堵から、悪魔はふうとため息をつく。

魔王子は思ったより飛び、段差に落ちてその姿を草の中に隠した。
だがあの怪我ではろくに動けまいと、悪魔はゆっくり呼吸を整えていた。

201 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:50:34.16 ID:6xtssEe/0
魔王子(くっ…)

魔王子は傷口を抑えながら、痛みを堪え、這いつくばっていた。
この怪我では悪魔に勝てない。そう判断し、ここから逃げることを選択した。

悪魔「どこへ行った、魔王子?」

魔王子「…っ!!」

悪魔の声はまだ遠い。

悪魔「まぁ、その体ではそう遠くまで逃げられまい?」

魔王子(くそ…!!)

今更ながら、慢心していた自分に腹が立つ。
背の高い草の陰に身を隠し、息を殺していた。心臓はバクバクいって、頭はどうしても冷静になれない。

魔王子(死ぬわけにはいかない…)

もしこの国で死ねば、魔物達に更なる誤解を与え、両国間に決定的な亀裂を与えかねない。
それに自分が死んで王位継承の権利が悪魔に移れば、確実に争いを起こす。

魔王子(それに…)

死ねるわけがない。最愛の人と、あんな別れ方をしたままじゃ。

魔王子(姫様…)

202 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:51:09.24 ID:6xtssEe/0
魔王『お前…今日は姫君との顔合わせの日だと伝えておいたが?』

魔王子『わりわり。忘れてた』


自分は最初、結婚話に乗り気ではなかった。
まだ精神的に小僧な自分に、妻なんて持てるわけがないと思っていた。


魔王子『宜しくなぁ、お姫様~』

姫『え、えぇ…』


初めて見た時の姫も何だか不安そうで、自分より小さな存在に見えて。


魔王子『こんなバカ王子と結婚するなんてー、って思わなかった?』

姫『え、あ、いえっ!』アワワ


一挙一動が可愛くて。


姫『種族なんて関係ありません』


優しそうな女の子で。


魔王子『夫として精一杯努めますので…宜しくお願いします』

姫『――こちらこそ』


この子を守ってみたい。この子となら結婚してもいい――そう思えた。

203 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:51:58.61 ID:6xtssEe/0
魔王子(その後も色々あったなぁ)


姫様を守っていくと俺は決意していた。
だけど勇気が出なくて逃げていた俺に、姫様は夫婦としての段階をゆっくり踏んで行こうと言ってくれた。
俺のつまらない嫉妬に嫌な顔一つせずに、そんな俺も嫌いではないと言ってくれた。
ガキっぽさの抜けない俺に、いつでも優しい笑顔を向けてくれた。

いつしか、姫様は俺にとって守るだけの存在ではなくなって――

姫様が支えてくれるから俺は真っ直ぐ立っていられる――そんな存在だった。


魔王子(って、何で過去形なんだよ…)


気持ちでは「これから先の結末」を受け入れていない。
だがそれは感情的な方の自分で。

悪魔「いい加減観念しろ魔王子。それとも――」


もう一方の冷静な自分は、頭の片隅で


悪魔「今頃走馬灯でも見ているのか?」


このまま死ぬのだろう、って思っていて――


悪魔「ここか――っ!?」ガサッ


魔王子(姫様…っ!!)

204 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:52:33.67 ID:6xtssEe/0
悪魔「…いないか」

魔王子「~っ…」

間一髪、見つかるのを回避し、悪魔はそこから離れていく。

口を塞ぐ手の指の隙間から息が漏れる。冷や汗と吐息がその手を濡らしていた。

だけど悪魔のことは頭の片隅に追いやられ、今は目の前にある驚きがそれを上回っていた。
危うく見つかる寸前、ろくに動けない自分を引っ張って悪魔から姿を隠してくれたのは――


魔王子「姫…様…?」


その手の隙間から、掻き消えそうな声で魔王子はその名を呼んだ。

死ぬ前に幻が見えたのかと思った。
だけど幻にしては、自分を抱きしめる彼女の感触は柔らかくて、暖かくて。


姫「魔王子様…」


その澄んだ目も、不安に歪んだ繊細な表情も、か細い声も全て――


魔王子「姫様…本当に、姫様なんだね――」


これは現実なんだと、ようやく理解が追いついた。
魔王子の中には、やっと姫と会えた喜びが広がっていた。
欲を言えばこんな状況でじゃない方が良かったけれど。

205 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:53:38.98 ID:6xtssEe/0
魔王子「姫様…何でここに?」ヒソヒソ

姫「これです…」

姫が取り出したのは押し花のしおり。光こそ失っているが、秘密基地の花に違いない。

姫「城を抜け出したら、これの強い香りがして…香りを追ってきたら、ここに…」

魔王子「…そうか」

魔王子はすぐにその話を受け入れた。その花には、先ほど自分も世話になったばかりだ。
花が自分と姫を引き合わせてくれた――自然とそんな考えに行き着く。

姫「ところで何故悪魔様が――魔王子様、今傷を治癒します」

魔王子「…っ、それは待…」

止める前に姫は魔王子の腹に手をあて、魔法を繰り出す。
もう手遅れか――魔王子は手を伸ばし、剣を手に取る。


悪魔「そこか!」

姫「ひぃ!?」ビクッ

姫は急に見つかったことを驚いている様子だ。
そりゃあ、急に回復魔法で魔力を使えばそれを察知されるだろう…と思ったが、口には出さない。

魔王子「姫様、さんきゅ。下がってな…」

姫「だ、駄目です!まだ中途半端にしか塞がってません…」

悪魔「おやおや、何故こんな所に姫君が…?」

魔王子は姫を庇うように、彼女の前に立つ。このままなら悪魔は、口封じに姫も殺すだろう。
傷口はまだ痛むが、さっきよりは全然動ける。だから何としても姫を守らないといけない。

206 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:54:28.20 ID:6xtssEe/0
姫「あ、悪魔様だったんですか…!?魔王子様の命を狙っていたのは…」

悪魔「知ったからには生かしてはおけんな」

姫「ひっ!?」

魔王子「させるかよ!」

魔王子はすぐさま悪魔に飛びかかる。だけど痛みでいつもの動きができない。
その分手数を増やし、悪魔に反撃の隙を与えなかった。

悪魔「チッ…半端に強いから面倒だ」

悪魔は後ろに大きく跳躍した。

悪魔「仕方ない。大分力を消費するから、これはやりたくなかったが…」

魔王子「!?」

悪魔の手に膨大な魔力が集中する。
そしてそれは巨大な、5メートルくらいある炎の剣に形を作った。

悪魔「今のお前にこれをどうにかはできない」

魔王子「これは…」

本格的にまずいと、魔王子は冷や汗をたらした。

207 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/09(月) 18:55:11.82 ID:6xtssEe/0
悪魔「姫君を連れ出した魔王子による無理心中…そういうシナリオでいいかな」

悪魔は不敵に微笑みながら、近寄ってくる。
まずい、このままじゃ…。

魔王子「姫様、逃げな…あの坂を登れば俺の馬がいるから」

姫「で、でもっ!」

わかっている。姫が自分を置いて逃げられる性格じゃないと。

魔王子「まだ俺、全然戦えるから。姫様がいると集中して戦えないよ」

だから嘘をつく。

魔王子「それより、会えたら言いたかったことあるんだけど――」

でもそれを言えば、姫は逃げられなくなるだろうから。

魔王子「後で言うわ」

できない約束をした。

悪魔「さぁ行くぞ、魔王子…!!」

魔王子「あぁ…!!」

せめて姫が安心して逃げられるよう、それまで全力で戦う。ダメージのせいで、長時間は戦えないだろうけど。
悪魔と対峙しながら姫の様子を伺う。不安そうな様子ながらもゆっくり立ち上がり、自分の指した坂を見ている。

それでいい。そのまま逃げてくれれば――だけど、

悪魔「逃がさん!」

魔王子「!?」

悪魔は翼を広げ魔王子を乗り越え――向かう先には、姫。

魔王子「やめろ――っ!!」

魔王子はすぐさまダッシュする。

それだけはさせない。そんなこと、あっちゃいけない。

悪魔に剣を向けられ、怯んでいる姫を庇うように、魔王子は両手を広げて立ちふさがった。

姫「魔王子様!?」


姫様、俺――


魔王子「大丈夫だから…」

その微笑みは最後の嘘。


俺は姫様のこと――


悪魔「死ねえええぇっ!!」

魔王子「―――っ!!」


――心の底から、愛しているよ

212 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:03:36.95 ID:MBhieQVp0
シュッという風を切る音が静かに鳴った。
その音は自分の命を奪う音――魔王子は一瞬、そう錯覚した。

悪魔「何…!?」

魔王子「…!?」

だが、それは違った。

悪魔の手にあった炎の剣は掻き消えていて、自分もダメージは負っていない。

姫「ど、どうして…!?」

魔王子の代わりに、姫がその言葉を口にする。
だがそいつは、事も無げに言い放った。


勇者「姫様の身が危険に晒されている――なら当然の事」

213 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:04:03.12 ID:MBhieQVp0
魔王子「姫様…勇者と一緒に来たの?」

姫「い、いえっ!?」

勇者に尾行されていたとは知らない姫は即座に否定した。
だが勇者はそれを言わず、ただ悪魔に向き合う。

悪魔「王国一の剣の使い手である勇者か…面白い」

勇者「笑っている余裕があるのか?見た所かなり疲れているように見えるが」

悪魔は図星をつかれていた。魔王子と姫を葬る為に作り出した剣は、彼のスタミナを相当消耗していた。
万全な時に戦っても手強いであろう勇者に今は勝ち目がないだろう――正々堂々と戦えば。

悪魔「全く、仕方ないな…出てこい!」

魔王子「!!」

姫「あっ!?」

悪魔の呼びかけにぞろぞろと、隠れていた魔物達が姿を現す。
その数、約10人程度。

魔王子「まだ潜んでやがったのかよ…!!」

勇者「だからどうした?」

魔王子「あ?」

勇者はフンと鼻を鳴らし、剣を構える。

勇者「この程度の数で俺が苦戦すると思われるのは心外だな…まぁ、お前には荷が重いかもしれんがな」

魔王子「何だと~…俺だって怪我さえしてなけりゃこの程度なー!!」

勇者「わかったから黙っていろ。声が邪魔だ」

魔王子「」ムカ

214 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:04:28.30 ID:MBhieQVp0
姫「ま、魔王子様!今のうちに治癒を!」

魔王子「お、おう…」

勇者は前の方に躍り出て、襲いかかる魔物の攻撃をかわし見事な剣技を繰り出す。
不利な状況だと思わせない程見事な戦いぶりに、魔王子は目を奪われる。

魔王子(こりゃ…俺より強ぇかもな…)

姫「もう少しかかります、ごめんなさい…!」

魔王子(姫様、勇者と…)

姫「…?どうしました魔王子様?」

ここに来る前は自分と姫は相思相愛だと強気でいられた。
だけど実際姫の顔を見て、勇者の活躍を見ると気持ちが弱ってしまって。

魔王子「すげぇ奴だな…勇者って…」

姫はキョトンとした顔をしていた。だけどすぐに、ニッコリと優しい微笑みを浮かべた。

姫「そうですね…でも――」

魔王子「――っ」

額への不意打ちの口づけ。一瞬だったけど、頭が真っ白になった。

姫「私は貴方一筋、ですから…」

魔王子「…」

真っ直ぐな瞳。
当たり前のことだった。姫が他の男に心移りするわけない。それなのに自分はまたつまらない嫉妬をして…。

魔王子「姫様ありがとう…もう大丈夫だから、下がってな!」

恥ずかしい気持ちを誤魔化すかのように立ち上がり、勇ましく言った。

215 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:05:01.62 ID:MBhieQVp0
悪魔(馬鹿な…)

大勢とはいえ、勇者を討てるとは思っていなかった。
ただ自分が体力を回復させるまでの時間稼ぎでもできれば――その程度に思っていたが。

悪魔(まだ1分も経っていないというのに…!)

勇者「増援はこれで終わりか?」

勇者の足元には、戦闘不能になった全ての手駒が倒れていた。

魔王子「後は叔父貴だけか…」

勇者「ん」

怪我を回復させた魔王子は、勇者の横に並ぶ。

魔王子「助かったぜ勇者…後は俺がやるから」

勇者「当然だ」

魔王子「は!?」

思ってもいなかった返答に、魔王子は呆気に取られる。

勇者「お前が我が国に呼び込んだ災厄だ。責任持って何とかして貰うのは当然」

魔王子「…」

正論なんだが腑に落ちない。

魔王子「まぁいい…終わらせるか、叔父上」

悪魔「…っ」

今の悪魔に、勝ち目はなかった。

216 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:05:30.81 ID:MBhieQVp0
悪魔(何故、こいつらは――)


『助けてくれてありがと。お兄さん、最高にかっこいい!』

悪魔は、昔を思い出していた。

『賭博も程々にしなよー?遊び人なんて、若い内しか許されないよ!』

顔は姫と似ている女。だけど性格は正反対で。

『あっはっは、悪魔がいいとこの坊ちゃんだってー?冗談きっついよ、それー』

気さくで、大きな口を開けて笑う女だった。

だけどその女と知り合ってから、自分の命を狙う奴が現れるようになって。

『悪魔、こっち!!隠れて、早く!!』

その女にはよく助けられた。
自分といたら危険――そう思って、その女とは縁を切ろうと思ったが。

『馬鹿言わないでよ!』

別れを告げた日、女は激昴した。

『命を狙われてるから危険!?わかってるよそんなの…でも、私に守らせてよ、貴方を…!!』

その女にとっての精一杯の力で、服をぎゅっと掴まれた。
振り払おうと思えば容易かった。だけど自分は、それができなくて――

『一緒にいたいんだよ、悪魔ぁ…』


その言葉を信じてしまう程、盲目になっていた。


悪魔「が…っ」

正面から切られて倒れるまでの間、悪魔は回想に浸っていた。


魔王子「…殺しはしない。生きたまま国に帰って、親父に全部吐いてもらうぜ」

217 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:05:58.92 ID:MBhieQVp0
姫「魔王子様…お怪我はっ」

魔王子「こら」コツン

姫「きゃっ」

すぐに駆け寄ってきた姫を、魔王子は軽ーく小突いた。

魔王子「俺の活躍見てなかったの?怪我するどころか、攻撃ちっとも当たってねーよ」

姫「え、うぅ…」

魔王子「うお!?ご、ごめん、怒ってないよ!!」アセアセ

姫「違うんですー…ご無事で、良かったと…」グスッ

魔王子「泣くなーって。大丈夫って言ったろ、な、な?」ヨシヨシ


悪魔「何故だ…」

魔王子「あ?」

地面に仰向けに倒れた悪魔は、心底理解できないといった風に呟いた。

悪魔「何故お前達はそれ程信じ合い、愛し合うことができる…魔物にとって人間は戦うべき相手であり、人間にとって魔物は脅威の存在のはず…」

だから、自分は彼女に裏切られた。

悪魔「あの女は、その姫君のように――まるで悪意を感じさせない、全く同じ顔で、俺を裏切った…!」

自分は信じていた。想っていたから、信じられた――

悪魔「魔物と人間は通じ合えん!お前達も、いずれ…」

姫「…悪魔様」

姫は悪魔に、静かに声をかけた。

218 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:06:30.70 ID:MBhieQVp0
姫「私、貴方から母の話を聞いてから考えたんですけれど――」

記憶にはない母。肖像画でしか見たことはないが、私と似た顔をした母。
悪魔はきっと私に母を投影し、憎んでいたのだと思う。
だからこそ、これだけは言いたかった。

姫「おっしゃっていましたね。母は貴方を何度か助けた、悪意のない顔を向けていたと」

悪魔「俺を信じさせる為にな…恐ろしい女だ」

姫「私は、そうとは思えません…」

悪魔「何だと」

私が生まれる前に死んでしまったから、本当のことはわからない。だけど――

姫「母は貴方を――本当に想っていたのではありませんか」

悪魔「!?」

自分の嫁ぎ先の国が悪魔を狙っていたから、彼を守りたかった。
悪魔にだから、素直な笑顔を向けることができた。

だけど母が父のもとに嫁いだことで、悪魔は母の正体を知り、誤解した。

悪魔「俺の誤解だと…!?そんなのは推測に過ぎんな!」

姫「貴方のおっしゃる「悪意」も、推測に過ぎません」

悪魔「…っ」

その推測は、都合よく組み立てられた妄想かもしれない。
だけど母なら。私と同じ血が流れる母なら――

姫「そんなに器用に人を騙せる人じゃない――私はそう思います」

悪魔「…!」

219 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:06:58.49 ID:MBhieQVp0
悪魔(あいつは…俺を騙していなかった?)

長年、騙されたと思ってきた。

だが少なくとも、自分の記憶の中にいるあいつは――


『もー悪魔ったら意地悪だなー』プンプン

『うわぁ、すっごぉーい!!カード遊び極めてるんだねー悪魔!』

『良かった…悪魔、無事で良かったぁ…』


感情豊かで、ストレートな物言いをする、裏表が無い女だった。

その顔、言葉、全て本当だったとしたら――

悪魔(あいつと過ごした時間…それは嘘でなくて…)

今となっては確かめる手立てがない。
彼女は他の男の妻となり、もうこの世にはいない。

だけど、そう考えてもいいのなら。あの時間の全てが本当だという可能性があるのなら――

悪魔(信じても――いいのか?)

それは悪魔の中で、小さな希望を生みつつあった。

220 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:07:28.37 ID:MBhieQVp0
姫(悪魔様…気持ちが楽になったかしら)

魔王子「姫様ー!」ギュッ

姫「きゃっ!?」

魔王子「やっとイチャコラできるわ~、姫様~ぁ」ナデナデナデナデ

姫「あっ、あの、魔王子様ぁ!?」

魔王子は私を抱きしめ、もみくちゃにする。
そりゃあ嬉しい。嬉しいけど、今は――

勇者「おい」ゴン

魔王子「いでぇ!?」

勇者「今はそれ所じゃないだろう馬鹿王子。後始末があるんだろう」

魔王子「だっ誰が馬鹿王子だ!」

勇者「お前以外誰がいる」

魔王子「ほー…?喧嘩売ってるんですねー?」

姫「ま、まぁまぁ」

221 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/10(火) 17:07:59.44 ID:MBhieQVp0
勇者「…まぁいい。そいつらはそちらの国で裁くべきだろう。今、護送用の馬車を手配してやる」

魔王子「そりゃどうも…」

それから魔王子は私の方を振り返った。

魔王子「姫様、俺はこいつらを国に護送しなきゃならねぇ。けど近い内に、また会いに来るから」

姫「…えぇ」

口ではそう返事したけれど、本当はちょっと不満。
せっかく会えたのだから、まだ一緒にいたい――けど、彼を困らせてはいけない。

姫「待っていますね、魔王子様」

魔王子「うん。それまで――」

姫「あ――」

不意に唇を奪われる。それは濃厚に吸い付いてきて、荒くなる息使いが彼の興奮を教えた。
このまま全てを奪われてもいい――そう思ってしまって、離れることができなくて。

魔王子「…ぷはっ」

先に唇を引き離したのは彼の方だった。
私はそれに未練を抱いたけれど。

魔王子「少しの間、お互いに我慢――な?」

姫「…はい!」

224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/10(火) 17:22:50.52 ID:zf0gR/gcO
よかった...ホッ

225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/10(火) 17:29:50.26 ID:yNjbqApDO
イチャイチャ…w

226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/10(火) 22:59:13.43 ID:Xmf6FIluO


227 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 09:56:24.15 ID:gnffr16D0
魔王子と別れて2日経過した。

魔王からは、事の顛末が詳細に記された手紙が届いた。
悪魔が自分の犯した罪を認めた為、彼は魔物の国の法に則った罰を与えられる。
私や従者の容疑は晴れ、私達の名誉は回復したそうだ。
悪魔の娘である妖姫は父の件で居づらくなったのか、城を出て行ったらしい。

これで問題は解決された。そう思っていたが――

王「魔物達の内部争いか…やはり魔物はどうしようもないな」

どうにも兄の気持ちは動かないようだった。

王「今回は首謀者を捕らえることができたが、まだ人間との争いを望む魔物はいるかもしれない。これから先も、こういったトラブルが起きる気がするな」

姫「魔物に限った話ではありませんよお兄様。人間にだって、争いを望む者がいるかもしれないです」

王「あぁ、いるだろうな。やはり和平など不可能ではないか」

姫「それは…」

人間同士にだって争いがある。人間と魔物は、互いの溝がそれより少し深いだけ。
だけど魔物への差別意識が根付いている兄を納得させる言葉は見つからなくて。

姫(どうすればいいんだろう…)

言葉を選びながら、困り果てていた。
その時だった。

228 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 09:56:54.02 ID:gnffr16D0
文官「陛下ーっ!!」

王「ん…?どうした」

文官「魔王子殿がいらっしゃっています…」

姫「魔王子様が!?」

王「む、来るとは連絡が無かったが。まぁいい、通せ」

文官「それがですね…困ったことが」

王「?」

姫「?」

229 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 09:57:49.47 ID:gnffr16D0
>城門前

ザワザワ

門番「あのー…人目が気になるんで、入って頂けないでしょうか…」

「なぁ、あれって…」
「間違いない、魔王子だ…」

王「何だ何だ…」

姫「あれ…?」

城門前には人だかりができていた。
その人だかりの視線が集中している所を見ると…。

姫「魔王子様…?」

魔王子が、城門前で正座していた。
何名かの門番がそこから離れるよう彼に説得を試みているが、彼は頑として動かない。

と、その時。魔王子はこちらに気付いたようで「あっ」と声をあげた。

姫「あのぅ…何をされているんですか?」

魔王子「…国王陛下、姫様!!」

彼はそう叫ぶと――

魔王子「大変、申し訳ございませんでしたああぁぁっ!!」

姫「!?」

王「!?」

物凄い勢いで、地面に頭をこすりつけるように土下座をした。

230 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 09:58:29.06 ID:gnffr16D0
魔王子「今回の件は俺の不足が招いた事態!!姫様を守ることもできず、そちらの国の方々には多大なる心労をおかけしました!!」

王「お、おい…」

場が更にざわめき始めた。流石の兄もこれには戸惑いを隠せない。

姫「あ、頭を上げて下さい魔王子様」オロオロ

魔王子「そうはいかない!!今日はこの魔王子、姫様を敬愛する者達に石を投げられる覚悟で来ました!」

私を敬愛する者達というのは、恐らく国の民のことだろう。
民達も互いに顔を見合わせ、困惑する。

国民達は事の顛末を知らない。だから魔王子にどの程度の非があるのかも知らない。
だというのに、わざわざこんなことをするなんて――

姫(どうしよう…魔王子様、頑として動かないつもりだわ)

魔王子「ですが!!」

と、魔王子の手が震え出した。

魔王子「この魔王子、姫様を愛する気持ちは揺らいでいません!!」

姫「!?」

王「な…」

公衆の面前での大胆な告白に、私は頭が爆発しかけた。
誰もかもが呆気に取られている。

それでも魔王子が上げた顔は――その目は、真っ直ぐで。

魔王子「お願いします…もう1度、俺に姫様の夫となるチャンスを下さい!!」

姫「魔王子…様…」

231 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 09:59:16.14 ID:gnffr16D0
と、その時。

勇者「おらーっ!!」ドガッ

魔王子「ぶべっ!?」

姫「勇者様!?」

そこに急遽乱入した勇者が魔王子を思い切り蹴り飛ばし、魔王子は思い切り吹っ飛ばされる。
私はすぐに勇者に抗議する。が。

勇者「石を投げられる覚悟で来たと言っていたでしょう」

勇者はさらりと一蹴した。

そして、呆気に取られている兄に振り返った。

勇者「陛下、チャンスを与えてやってはどうです」

王「勇者!?」

兄は勇者の言葉に驚く。

勇者「この者、自分の命を省みず、身を挺して姫様を守ろうとした程です。その気持ちは真剣でしょう」

姫「勇者様…」

勇者「それに…」


「おい、もう姫様を泣かせるんじゃねーぞ!!」ドガッ
「姫様は俺たちの女神だからな!」ドゴッ
「しっかりやれよ!」ボカッ

魔王子「いでっ、いでっ!!」

姫「きゃああぁ、皆さん勘弁してあげて下さい~」オロオロ


勇者「あの者は民の心を掴んだようです」

王「…」

232 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 09:59:53.10 ID:gnffr16D0
王「おい」

魔王子「ん…?」

魔王子をボコボコにしていた民は、国王が近づいてきたことで一旦引き下がった。
それから、兄と魔王子は向き合った。

王「その言葉に、偽りはないな…?」

魔王子「はい」

王「…もしもまたこのような事態に陥り、和平にヒビが入るような事があれば…!」

兄は腰の剣を抜き、魔王子に突き付ける。
威厳に満ちた兄の姿に、周囲はしんと静まり返る。

魔王子「その時は是非、俺を罰して下さい」

だが魔王子は、怯むことなく答えた。

魔王子「誓います…俺は姫様を、いかなる時も愛し、守りましょう」

王「…」

兄は黙って剣を納めた。
その眼差しは強いままだったが、やがて沈黙の中、一言。

王「その言葉、忘れるなよ…」

兄はそう言って振り返り、城まで戻っていく。
場はまだ静まったままだ。状況の理解が、追いついていない。

姫(でも、これって、つまり…)

魔王子「…っしゃあ」

姫「え…?」

魔王子の顔は――最高の笑みを浮かべていた。

233 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 10:00:37.74 ID:gnffr16D0
魔王子「よっしゃ、姫様ああぁぁっ!!」

姫「あっ、魔王子様!?」

魔王子は私を持ち上げ、踊るようにくるくる回った。
と、思ったら。

魔王子「姫様…俺、不安だった…!」ギュウ

今度は、引き寄せるように抱きしめる。

姫「な、何が不安だったんですか…?」

魔王子「んー、まぁ色々だ、色々!」

姫「何ですかそれは!」

魔王子「ま、いいじゃん!俺たちまた夫婦に戻れるよ…!」

魔王子は顔は明るいけど、体は今にでも泣き出しそうな程震えていた。
そんな彼の体を、私も強く抱きしめる。

姫「私は、ずっと貴方の妻でしたよ」

魔王子「ありがとう…姫様、ありがとう」

姫「もう、何で…」

だけど、私の言葉は周囲の声にかき消された。声は私達を祝福し、暖かい空気で包んでくれた。

また、彼と一緒にいられる――幸せで胸がきゅんとなって、頭の中は彼一色に染まった。


勇者「おめでとうございます、お二方――」

姫「あ、勇者様…」

私が勇者の声に気付いて反応した時には、彼は既にこちらに背を向けていて。

勇者「お幸せに」

そう言い残し、勇者も城に戻っていった。


姫「あ…」

魔王子「どうかした、姫様?」

姫「…いえ」

私はすぐに魔王子に視線を戻し、彼に微笑んだ。


姫「帰りましょうか――魔王城へ」

234 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 10:01:13.35 ID:gnffr16D0
激動の時は過去のものとなり、平穏な時が過ぎていく。

魔王「この馬鹿息子が」グリグリ

魔王子「いでああああぁぁぁ」

姫「お、お義父様、その辺でご勘弁を…」オロオロ

メイド「今度は何をやらかしたんですか魔王子様。この間は式典を忘れて酔いつぶれ、その前は王家の家宝にチョコをつけたりしましたよね」

魔王子「いやー…羽目外しちゃって、中庭の小屋壊しちゃったんだよね~…」

魔王「責任持って直してこい、今すぐ!!」グリグリ

魔王子「わかりましたからあああぁぁ!!やめでえええええぇぇ!!」

姫「私もお手伝いします魔王子様」

魔王子「い、いや女性にさせる仕事じゃないし!姫様は待ってて」

姫「いいえ、私にもお役に立てることがあるはずです…一緒に行かせて下さい」

姫「それに夫婦連帯責任なら、魔王子様もちゃんと行動をお考えになるでしょう?」ニッコリ

魔王子「…はい」

魔王(姫君の圧力が…)

メイド(笑顔が怖い…)

235 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 10:02:15.40 ID:gnffr16D0
魔王子「ふー…作業も大分進んだなー」ゴロン

姫「お疲れ様です、お茶どうぞ」

魔王子「さんきゅ。おっ、茶菓子もある!これ手作り?」

姫「はい。頑張ったので、グレードアップです」

魔王子「そいや結婚したての頃、そんな約束もしてたなぁ。…甘くて美味~♪」

姫「結婚前の約束、覚えています?」

魔王子「ん…何だっけ?」

姫「色々苦労かけると思うけど、夫として精一杯努める…ふふ、その通りになっていますね」

魔王子「いやホントすみません」

萎縮する姿はまるで子供。

姫「でも、私も納得して来ましたから」

そんな彼と寄り添っていくと決めた。

姫「落ち着いてしまったら、魔王子様じゃなくなりますものね」

魔王子「フッ、よくわかってんね」

姫「うふふ?」ニコニコ

魔王子「すみませんっした」ドゲザ

ちょっとだけ、彼の操縦方法もわかってきたことだし。

236 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 10:03:19.38 ID:gnffr16D0
兵士「魔王子様、大変です!」

魔王子「ん?どうした?」

兵士「すぐ近くの街で人間達による暴動が起こっているそうです!!」

魔王子「はーん…」

魔王子の顔が不敵に歪む。あ、これは悪いことを考えている。

魔王子「しゃーねぇ。いっちょ行ってきて、俺の強さを見せつけてやりますか」

姫「動機が不純です」

魔王子「強くなけりゃ魔王とは認められん。これも立派な社会活動!」

姫(何か違うと思う)

彼の望む和平はまだまだ不完全。
だけど、彼はそれを諦めたりしないだろう。

姫「お気をつけて、魔王子様」

和平の架け橋である私達が、諦めたりしてはいけない。

魔王子「俺がいない間、泣かないでな~?」

彼をずっと支えていくと決めたから。
だから私は、彼を笑顔で送り出す。


姫「行ってらっしゃい…あなた!」


Fin
237 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 10:04:01.55 ID:gnffr16D0
本編終了です。ご読了&乙ありがとうございました。
魔王子と姫が引き離されたあたりで一旦テンションが下がりましたが、ハッピーエンドにする為頑張りました。

作者都合により夕方以降になりますが、この後おまけを投下予定です。
内容は短めのいちゃラブです。胸焼けしても構わん!という方のみお付き合い下さいませ。では後ほど。

238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 10:36:33.07 ID:AEf66sH5O
おつおつー!

胸焼けさせてみろよオラァ(楽しみにしてるぜ!)

239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 12:14:17.65 ID:LFsvSICto

待ってる

240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 12:28:28.01 ID:QWk2rkDQO
乙です
お子さんとかまだですかね?(初夜とかはよ!!)

241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 12:49:21.66 ID:I+eY7c/DO
楽しみw

242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 13:58:29.45 ID:5SndoF1Z0

アイスコーヒーにガムシロ4つ入れて自分鍛えて待ってる

243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 17:15:22.63 ID:Ay1H9iKuO


244 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 18:19:23.74 ID:gnffr16D0
姫(久しぶりだなぁ、ここで寝るのは)

寝室の造り、暖かさ、香り――どれもこれも懐かしい。数日間母国で過ごしただけで、ここがこんなにも懐かしくなるなんて。
母国に連れて戻されている間は勿論1人寝だった。
その間も毎晩、隣にいない彼を恋しく思っていた。

姫(魔王子様もその間、ずっとこのベッドで…)

メイドがきちんとベッドメイクしてくれたシーツに顔を埋める。
染み付いた魔王子の匂いに何だか胸がぽやっとなって、とろけそう…。

トントン

姫「きゃっ!?」ビクッ

魔王子「姫様ー、入ってもいいー?」

姫「え、あ、どうぞ!!」

私は慌ててベッドから離れる。寝室に入ってきた魔王子は顔を合わせるなり、首を傾げる。

魔王子「どうしたの姫様?真っ赤だよ」

姫「い、いえっ!何でも!」

シーツに染み付いた貴方の香りを嗅いでいました…なんて言えるわけがない。っていうか改めて言葉にすると、私は何をやっていたんだって思う。

魔王子「でも嬉しいなー」

姫「え?」

魔王子「2人で寝るの久しぶりじゃん」

魔王子は素直だ。嬉しいという気持ちをストレートに言葉に、表情に出してくれる。

姫「私も、嬉しいです」

だから私も素直にそう言えた。
素直な言葉を口に出すっていうのは、照れくさいけど気持ちがいいものだと思う。

245 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 18:20:05.41 ID:gnffr16D0
魔王子「…にしても、まさか互いが初恋の相手だったなんてなー」

横になった魔王子は、早速その話題を出した。
あの花の力で、私達2人とも同じような光景を目にしたのだ。これはもう、確定だろう。

魔王子「何か…運命ってやつだな!」

姫「えぇ…最近まで忘れかけていたのが、申し訳ないです」

魔王子「いやー子供時代の事だし仕方ないよ。大事なのは今、一緒にいられることだろ?」

魔王子は真っ直ぐな瞳をして言った。
ちょっと恥ずかしいけど、それは私がずっと恋しいと思っていた彼で。

姫「…手を握っていて下さいませんか?」

魔王子「?いいけど…」ギュ

姫「この感触…本当に魔王子様なのですね」

魔王子「そりゃそうだよ。何?夢だと思った?」

姫「半分くらいは」

離れていた間は彼が恋しくて、彼の夢を見たこともあった。
今またこうして一緒にいられるなんて、幸せ過ぎて、夢のようで。

姫「目が覚めたら貴方がいない――なんてことは、ありませんよね?」

魔王子「…やっぱ俺と姫様って運命の相手だね」

姫「え?」

魔王子「同じこと、俺も思っていた」

彼はちょっとだけ弱った笑顔を浮かべた。

246 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 18:20:39.93 ID:gnffr16D0
魔王子「明日は先に目が覚めても、姫様が起きるの待ってるよ」

姫「えぇ…でも、いつも私の方が早いでしょう」

魔王子「明日は俺の方が先。姫様の寝顔じっくり見たいから」

姫「やだ恥ずかしい。絶対、貴方より先に起きます」

そんなちょっとした言い合いをしながらも、繋いだ手の指と指は絡み合う。
彼と触れ合っている――それだけで安心できる。

だけど。

魔王子「ん?」

私は彼の手を掴むと、その手を私の頬に触れさせた。
魔王子は抵抗しないが、キョトンとしている。

姫「好きな所に触れて下さい――魔王子様」

安心感だけじゃ、物足りなくて。

魔王子「あ、うん――」

彼は戸惑いながらも、私の頬を柔らかく撫でる。
その指に私の長い髪が絡まって、彼は手を髪に這わせた。

魔王子「ほんとサラサラしてて、気持ちいいよね」

姫「ふふ。なら、もっと…」

魔王子「っ」

彼と距離を詰める。彼の手は私の後頭部。何だか抱きしめられているような感じがする位、2人の距離は近い。
彼の吐息が私の肌を撫でる。それが体の熱を更に高めて。

姫「魔王子様…」

遂に私は彼の胸に密着した。
彼の心音が伝わる。鼓動は高く脈打っている。

魔王子「どうした姫様…。今日はやけに積極的だね…?」

戸惑う彼の声はかすかに震えていた。

彼は、意識している――それなら

姫「女の口から、言わせるつもりですか…?」

魔王子「…っ」

247 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 18:21:15.54 ID:gnffr16D0
姫『少しずつ、段階を踏んでいきませんか…?』


私達は順調に段階を踏んできた。
手と手を繋いだ。抱き合った。唇で触れ合った。

だけど日に日に大きくなっていく気持ちは貪欲になって、それだけじゃ足りなくなって。

姫「魔王子様…」

上目遣いで、彼の薄い寝間着をぎゅっと掴む。それが私にできる、精一杯のおねだり。
はしたないと思われないだろうか。拒絶されないだろうか――そんな気持ちが胸を締めた。

魔王子「姫様」

姫「っ」

だけど魔王子は、そんな私を優しく包み込んでくれて。
頬と頬が、優しく触れ合う。

魔王子「そんなこと言われたら、俺――止まれないよ」

私を気遣うような声が彼の本能を閉じ込めている。

あぁ――彼も私と同じなんだ。

姫「止まれないのは、私も同じです」

彼と同じ歩幅で、進んでいきたい。

魔王子「…灯り、消すよ」

姫「はい…」

248 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 18:21:45.77 ID:gnffr16D0
2人を包み込んだ闇の中で、私は彼だけを感じていた。
彼の吐息も、香りも、声も、肌の感触も、全て逃すまいと私は貪欲に彼を求める。

誰も知らない私を曝け出せるのは、彼にだから。
そして私は、誰も知らない彼を知る。

愛しい気持ちが膨れて、苦痛すらも夢心地の中に溶かされる。
ぎこちなさも、共に歩んでいるからこそと喜びになる。

私が流した涙の意味を誤解し、彼は私の髪を優しく撫でる。

違うんです、涙の意味は――

それは言葉にすることができず、抱きしめる強さで気持ちを伝えた。

249 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/11(水) 18:22:14.71 ID:gnffr16D0



姫「ん…」

日差しが眩しい――あぁ、朝が来たのか。
起き上がろうとした時、ふと感触に気付いて躊躇した。

姫(手――)

魔王子「すやーすやー」

先に起きると宣言していた彼はまだ眠っている。けどその手はしっかりと、私の手を握りしめていて。

姫(ずっと、握っていてくれたんだ…)

姫「…」

彼の無防備な寝顔を見つめ、愛しいという気持ちは増す。

姫「ん――っ」

魔王子「…ん?」

頬に触れた感触に気付いたのか、彼は目を覚ました。

魔王子「あ、姫様…おはよう」

何事も無かったかのような鈍い反応に、少しだけやきもきする。
だから私は、ちょっとだけ意地悪に笑った。

姫「おはようございます…やっぱり私の方が早起きでしたね」

魔王子「いや、一旦先に起きたよ。二度寝しただけだし」

姫「ふふ、そういうことにしておきましょう」

魔王子「本当だってば」

こんな事でムキになる彼が可愛かった。

姫「起きましょうか」

だけど繋いだ手を、彼は離そうとしない。

姫「どうされたんですか、魔王子様?」

魔王子「もうちょっと、こうしていたい。…駄目?」

きゅんとした。そんなこと言われてしまったら…

姫「えぇ…いいですよ」

手に戻ってきた幸せに今は浸っていたくて、私はその手を手放すまいとぎゅっと握り締めた。

これからも共に歩んで行きましょう――ずっと、ずっと。


fin


252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 18:26:25.01 ID:nMGRRjAlo
甘いのを摂取しすぎて今年の健康診断が怖くなったぞどうしてくれる(執筆乙でした!!)

256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 18:53:22.55 ID:e21jO8Hro
おつですのよー

最後砂糖が足りなくないですか?(ブラックコーヒー20杯目

258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 21:59:33.57 ID:I+eY7c/DO
甘い話でにやにやしますね(笑)

259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 22:30:01.79 ID:Ay1H9iKuO


260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 23:31:05.06 ID:bLelXYlsO
乙です
子供ができた後の話を書けばいいんじゃないかなかな?

261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/12(木) 02:34:44.45 ID:hri1P3GW0
孫には甘々な魔王とか見てみたい

262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/12(木) 03:50:54.05 ID:0ZTCCK8k0
大変萌えさせていただきました。

褥シーンも見たかったです
posted by ぽんざれす at 10:05| Comment(2) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

姫「魔王子との政略結婚」(2/3)

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1424589293/

前回


131 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:54:58.65 ID:ANNa1cPO0
姫「私は何も知りません…」

広間にて魔王や悪魔、その他大勢の魔物達に囲まれながら、私は弁解の言葉を発する。
嫌疑、不信感、敵意――彼らの目は様々な感情を表している。正直、怖い。だけどここで堂々としていないと、そこをつけ込まれるだけなので――

姫「従者が何をしようとしていたかなんて、私にはわかりません」

「嘘をついてもわかるのだぞ!」

姫「それなら有難いです。私が嘘をついていない証明になるでしょうから…」

彼らの厳しい追及にも、物怖じせずに答える。
だけど頭の中は混乱していて――

姫(本当に従者が裏切っていたなんて――どうして?お兄様からの命令?)

信頼を裏切られた事、死なれた事、2つのショックはあまりにも大きかった。

魔王子「…俺も姫様を信用している」

彼は私の側について、家臣達への弁解を助けてくれた。

魔王子「姫様も共謀しているなら、もっと確実に俺の命を取れる場面はいくつもあった。姫様は本当に知らなかったんだろう」

悪魔「そこも策略の内だとしたら?」

魔王子「邪推が過ぎますよ叔父上」

いつもの通り、2人の間に火花が散る。
だけどいつもと違うのは、そこで止めるはずの魔王がずっと黙っていることだ。

悪魔「俺も昔、似たような方法で騙された――これは経験談だ」

魔王子「一緒にするなと言ったでしょう。叔父上の目には、人間の女が全部同じに見えるんですか?」

悪魔「…折角だし昔話をしてもいいか?俺を騙したその性悪女の話だ」

魔王子「話したきゃご勝手に」

悪魔「では――」

132 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:55:38.99 ID:ANNa1cPO0
まだ魔物と人間が争っていた頃の話。勤勉な兄(魔王)と違って当時は遊び人だった悪魔は、魔物の身体的特徴を隠してちょくちょく人間の国に遊びに行っていた。
ある日いつものように夜遊びをしていると、女性が複数の酔っ払いに絡まれているのと鉢合わせした。彼はそれを、気まぐれで助けた。
それからそこに遊びに行く度に、その女性と顔を合わせるようになった。何度も顔を合わせれば自然と親しくなっていくものだ、と悪魔は語る。

悪魔「――だがそれとほぼ同時期だったな、俺の命を狙う者が現れ出したのは」

魔王子「…今の俺と同じですか」

悪魔は魔物の身体的特徴は隠していた――が、魔王の一族の者として、国の一部の者に顔は割れていたのだ。

悪魔「その女には何度か窮地を助けられたが、今思えば演技だったのだな。俺を確実に仕留める為、信頼を得る為の――」

魔王子「で、俺の妻がその女と同じだと?馬鹿げている」

悪魔「その女も俺同様、身分を隠していてな――人間の国の、姫君だった。だから俺の顔を知っていたのだろう」

魔王子「…だから、それが何だと」

イライラを顔に表して文句を言おうとする魔王子を、悪魔が手で制す。

悪魔「俺に刺客を送った国――そしてその女が嫁いだ先が――」

姫「…!!」

悪魔は私の方に目を向ける。

魔王子「まさか――」

悪魔「そう…姫君の母国なのだよ」

姫「……!?」

ちょっと待って。
時期的なことを考えると、そのお姫様というのは――

姫「まさか…お母様?」

133 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:56:18.58 ID:ANNa1cPO0
魔王子「…だから、それが何だって言うんですか!!」

魔王子はイライラが爆発したように、悪魔に詰め寄った。

魔王子「姫様の母上が叔父上を騙した!?だから姫様も一緒!?そう言いたいんですか、叔父上!!」

悪魔「…姫君の母国は、そういうことをする国だ。和平を結んだからといって、それが簡単に変わると思えん」

魔王子「今は姫様の兄上が国王に代わったのですよ!」

悪魔「…姫君にお聞きしたいのだが」

悪魔は魔王子を無視した。

悪魔「母上が殺された頃、乳幼児だった貴方は母上の記憶すら無い――だが兄上…いや、国王陛下はどうだ?」

姫「…っ」

兄は私より6つ上。母を覚えていないわけがない。
それに、それが原因で――

悪魔「国王陛下は、魔物を憎んでいないのか?」

姫「それは――」

表に出さないだけで、兄は魔物を嫌っている。
兄が感情だけで動く人だったら、和平などに尽力せずに魔物と戦を続けたかもしれない。

それはやはり、母のことが原因している。

悪魔「もし姫君の兄である国王陛下が絡んでいるのなら…これは和平を揺るがす大問題になる」

姫「――っ!!」

それは考えられる、最悪のパターンだった。
悪魔の憶測を聞き、他の家臣達もざわつき始めた。

134 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:56:45.73 ID:ANNa1cPO0
魔王「…全員落ち着け」

しかし魔王の一言が、ざわつきを沈めた。

魔王子「親父!憶測で物を決め付けるにはまだ早い、だから――」

魔王「落ち着けと言っている、魔王子」

一蹴され、魔王子は納得いっていない様子で引き下がる。
魔王は落ち着いた様子で、全員に向かって声をかけた。

魔王「魔王子の言う通り、憶測で物を決めるにはまだ早い。それに悪魔の言う通りだったとしても――我はこれを大事にしたくはない」

悪魔「…兄上、理由を」

魔王「この程度の事件で和平が崩れ、陰惨な争いの時代を再び繰り返す等――あってはならぬ」

悪魔「この程度ねぇ…狙われているのは貴方の一人息子ですが」

魔王「だからこそだ。我の一人息子がこの程度で死ぬわけない」

魔王はそう言って魔王子に顔を向けると、魔王子も無言で頷いた。
そのやりとりだけで、この親子には信頼関係があるのだと伝わってくる。

悪魔「ふ…そうか、このまま静観か…」

魔王子「それでいい。命を狙われているのは俺だけだ、何の問題もない」

魔王「だが」

魔王の一言が、また場を静寂に変える。

魔王「姫君の処遇をこのままには――というわけにはいかない」

魔王子「なっ――!?」


魔王子が抗議の声を上げかかった、その時だった。

「失礼する」

姫「――っ!!」

135 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:57:12.66 ID:ANNa1cPO0
広間の扉を開けて入ってきたのは――

姫「勇者様…!?」

勇者「お久しぶりです、姫様」

勇者の登場に、場はざわついた。
それでも彼は動じずに、私の方だけを見ている。

魔王子「は…何で勇者がここに?」

魔王「我が呼んだ」

魔王子「は…?」

魔王「姫君を母国に送り届けてくれとな――」

姫「!?」

魔王子「はあぁ!?」

魔王子は魔王に掴みかからんとする勢いで迫る。

魔王子「おい、どういうことだよ!?親父まで姫様を疑ってるのか!?」

魔王「そうではない。だが、今回の件で姫君を疑う者が増えただろう」

勇者「そんな環境に姫様を置いておくわけにはいかない」

魔王子「――っ!」

136 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:57:54.91 ID:ANNa1cPO0
姫「わ、私は平気です」

魔王「姫君が平気でも、疑心暗鬼になられては家臣達の統率力が乱れる…」

悪魔「もし姫君の兄である国王陛下が裏で糸を引いているとしたらだ――統率力の乱れた我々に攻め入る、絶好のチャンスになるじゃないか」

勇者「…馬鹿げたことを」

勇者はフンと鼻を鳴らした。

勇者「陛下や姫様にあらぬ疑いをかけるな。これが公の場だったら、戦争に発展しかねんぞ」

魔王「そうなることを避けてお主を呼んだのだ。穏便に、姫君を連れ帰ってくれ」

魔王子「ちょっと、待てよ…!!それっていつまでだよ!?母国に戻されて、俺と姫様の関係はどうなる!?」

魔王「それは…追々、向こうの国王と話し合うつもりだ」

魔王子「ふざけんなよ!俺と姫様の関係を、どうして他の奴に決められなきゃいけないんだ!」

勇者「それが政略結婚というものだろう」

魔王子「何だと!」

勇者「姫様と貴方は、国王陛下と魔王陛下が決めて婚姻を結んだ…違うか?」

魔王子「…っ」

魔王「ともかく」

魔王子の勢いが弱まった一瞬を見逃さず、魔王は話を切った。

魔王「姫君には一旦母国へ戻って貰おう。それが最も穏便に済む手段だ」

姫「…」

何も言えなかった。
いや、理屈ではわかっている。自分の存在が魔物達の不安を煽っている。なら、このまま魔王の言う通りにするのがいいのだろう。
だけれど、気持ちは――

137 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:58:28.96 ID:ANNa1cPO0
勇者「行きましょう姫様。馬車を待たせています」

姫「あっ――」

遂に勇者に手を引かれた。

姫(もう、このまま彼と――)

そう思った途端背筋が寒くなって、私は後ろを振り返った。
魔王子は家臣達に引き止められながらも、私に向かって必死に手を伸ばしていた。

魔王子「待てよ…!」

魔王「見苦しい真似はよせ魔王子」

魔王子「離せよ親父、こんなのは…!!」

彼の気持ちも私と同じ。
彼のその手を掴みたくなって、1歩彼に向かって踏み出したけれど――

姫「魔王子様――」

勇者「…姫様!」グイ

姫「あっ」

彼が遠くなる。強引な手が、彼の温もりも、彼の声も、彼の香りも届かない所へ、私を連れ去ろうとする。

勇者「姫様、受け入れて下さい…おわかりでしょう?」

わかっている、これが最善策だと。わかってはいるけど…!!

姫「――嫌です」

勇者「はい?」

気持ちは、最善策を受け入れない。

姫「…魔王子様ぁ!!」

気付いた時には私は勇者の手を振り払い、魔王子の元へと駆け出そうとしていた。

138 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:59:02.89 ID:ANNa1cPO0
勇者「姫様っ!」

姫「っ!」

だがあっさり勇者に腕を掴まれ、魔王子との距離を詰めることは叶わなかった。

勇者「失礼!」

姫「あっ!?」

そしてそのまま勇者は私を抱え、そこから駆け出した。
無駄な抵抗とわかっていながらも私は必死に足掻き、魔王子に必死に手を伸ばした。

魔王子「姫様、俺!!」

互いに伸ばした手は遠い。
だけど目と目はしっかり互いを見つめていた。

魔王子「姫様のこと、あい――」

それでも無慈悲に、扉は2人の間を遮断した。
彼の姿も、声も、まだ扉の向こうにある。私はそれに未練を抱き、必死に手を伸ばした。

勇者「姫様…っ!」

勇者の複雑に歪んだ顔も、今の私の目には入らない。
それだけ強く思っても、私はもう魔王子の姿を見ることすらできない。


こうして私は強引に、母国へ連れ戻されることとなった。

140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/04(水) 18:02:21.75 ID:l1V3y4Vgo
つらぁ...

142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/04(水) 23:11:01.75 ID:QELGcWJ4O


143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/05(木) 16:43:51.21 ID:oFvwXvIDO
くそ勇者ぁぁ!

144 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:31:56.96 ID:3sj+YNHb0
>母国、謁見の間

王「久しぶりだな姫――思ったよりは元気そうだな」

姫「お兄様…!!」

馬車に押し込まれてからは抵抗する気力もなくなり憔悴していた。
けれど尊大な態度で私を出迎えた兄の顔を見るなり、私の感情に火がつく。

姫「どういうことなのか!説明して下さい!!」

王「何がだ?」

姫「どうして従者があんなことを!!お兄様は何を命令したのですか!!」

王「わけがわからんな」

私が怒りをぶつけても、兄は平然としていた。

王「従者のことは、俺が知りたい位だ。全く、お前まで俺を疑うのか」

姫「従者が自分の意思で魔王子様の命を狙ったと…!?」

王「状況からして、そういうことになるな」

兄はふうとため息をつく。

王「従者もお前の従者であるが、意思を持った個人だ。奴が何を思い何故そんな行動に至ったかはわからんが、そういうこともあるだろう。それにしても…」

兄は懐から手紙を取り出した。
さらりとそれに目を通すと、苦々しい顔をした。

王「わずか短期間の間にこれだけの事が起こっているとは…やはり魔物は民度が低いな」

兄は躊躇なく、魔物への嫌悪感を口に出す。
周囲に家臣がいないからこそ言える、彼の本音だった。

王「元々和平の為に仕方なく結んだ婚姻だったが――こんな事なら、離縁されて良かったな」

姫「私と魔王子様は、夫婦です!離縁などしていません!」

王「そうだな――今はな」

兄の冷笑に私の背筋は凍る。

私と魔王子の婚姻を決めたのは彼。だから、それの解消を決めるのも――

姫(このまま…お兄様の思い通りになってしまうの…!?

145 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:32:44.66 ID:3sj+YNHb0
久しぶりに戻った母国の城の廊下を歩きながら、私は色んな思いを巡らせていた。


魔王子『ちょっと、待てよ…!!それっていつまでだよ!?母国に戻されて、俺と姫様の関係はどうなる!?』

魔王『それは…追々、向こうの国王と話し合うつもりだ』


兄と、魔王で話し合い。それは私の意思も、魔王子の意思も関係ないという意味だ。
そしてこのままじゃ、兄は私と魔王子を離婚させる方向に持っていくだろう。

姫(お兄様の話…どこまでが本当なの)

従者の行動について、兄は何も知らないと言っていた。
それでも従者に裏切られた今は、何を信じていいかわからない。

そう、誰かが命を狙われる事態というのは、何も信じられなくなってもおかしくはない。
悪魔が昔、母にされたように、裏切る人は平気で信頼を裏切る。

姫(それでも魔王子様は――)

私を信用してくれた。それだけは間違いなかった。


魔王子『ふざけんなよ!俺と姫様の関係を、どうして他の奴に決められなきゃいけないんだ!』


姫(そうよ)

この状況を良くする方法なんて思いつきはしなかったけど、このままじゃ絶対に良くない。
私達の意思を無視されたまま、彼と別れさせられてたまるものか。

姫(私が何でもお兄様の思い通りになると思ったら、大間違いよ…!!)

そう思って私の取った行動は、感情的で、無計画なものだった。

146 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:33:27.57 ID:3sj+YNHb0
姫「…」キョロキョロ

人目につかずに庭にまで出てきた。
今の時間、庭は人が少ない。

姫(今の内――)

勇者「姫様、どちらへ?」

姫「!?」

いつの間に…だけど動揺を悟られないように、私は愛想笑いを返す。

姫「散歩です。久しぶりに戻ってきましたからね」

勇者「…不自然ですね」

姫「…」

それもそうだ。あれ程魔王子と離れることに抵抗したというのに、日も変わらぬ内に城内を散歩など不自然すぎる。
ここで勇者から逃げられるわけがないし、下手なことをすればもっと監視が強くなる――そう思い、その場はあっさり引き下がった。

姫「部屋に戻ります」

勇者「…姫様」

背を向けた私を勇者が呼び止める。

勇者「俺は、魔王子――あの男が憎い」

姫「…」

その言葉と同時に、勇者が以前言っていた言葉を思い出した。


勇者『あの男――殺されてしまえば良かったのに』


姫「…失礼します」

途端に気分が悪くなって、私は振り返らずにその場を去った。


勇者「………姫様」

147 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:34:12.22 ID:3sj+YNHb0
姫が魔物の国より戻ってきたことにより、母国では様々な噂がたった。
魔王子の暗殺未遂という事件は伝わっていなかったが、新婚早々1人で帰ってきたことを好意的に思っている者はいない。

「もう喧嘩別れしたのかな?」
「やっぱ人間と魔物じゃ合わなかったんじゃ…」

勇者「…」カランカラン

「いらっしゃいませー…あ、勇者様」

馴染みの店の席につく。
常連客達はやはり、姫のことを噂していた。

「姫様と魔王子は別れそうですか、勇者様?」

勇者「さあな…俺にはわからん」

「初めから俺は結婚には反対だったんですよ。姫様には勇者様がいるのに」
「確かに人間と魔物の和平は大事だが、政略結婚なんて当人達が可哀想だよな」

勇者「…」

自分と姫ははっきり婚約したわけでもなく、恋仲だったわけでもなく、ただ何となく周囲に将来結婚するだろうと言われていた――
姫の気持ちが自分に向いていないことはわかっていた。

だが、それでも。

姫『貴方が一緒だと心強いです、勇者様』

心優しく、華憐な姫が。

勇者『姫様…魔物の国へ嫁ぐなど、危険です』

姫『いいえ勇者様。これもこの国の姫として生まれた者の使命です』

国を愛していた、気丈な姫が――

姫『私が和平への架け橋となれるのなら、是非見てみたいのです――人間と魔物が手を取り合うことのできる世界を』

勇者『姫様…!』



勇者(どうして俺は、もっと必死になって止めなかったのだろう)

148 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:35:16.92 ID:3sj+YNHb0
政略結婚は心の通わぬ婚姻。当人達は駒。姫の結婚が決まった当初は、自分もそう思っていた。

勇者(しかし…)

姫『とにかく心配は不要ですわ。私は今、幸せで一杯ですから』

あの時の姫の笑顔は、偽りではなかった。

従者から聞いていた。姫と魔王子は、仲の良い夫婦であると。
それは従者からの知らせだけでなく――
魔王城での姫の様子を思い返す。あんなに取り乱した姫を見るのは初めてだった。
あんなに気丈だった姫が、魔王子と引き離されそうになって取り乱すなど――それはもう、完全に姫の心が魔王子のものになってしまったという事。

勇者(姫様はあの男に、俺の知らない顔を見せている…)

グラスを持つ手に力が入る。

どうして姫は、自分に気持ちを向けてくれなかったのか。
それどころかきっと、こちらの気持ちにも気付いていない。そんな姫が、少し憎たらしくて。

国王に逆らって、この気持ちを伝えていれば良かったのだろうか。
そうすれば今頃、姫の気持ちを独占しているのは――

勇者(…なんて、都合のいい妄想か)

自分はもう完全に負けた。それどころか、2人を引き離した自分は姫にとって敵だろう。
今頃姫も、魔王子も、互いのことを想い合っている。それを思うと、また胸の炎が燃え上がる。

勇者(あの男――殺されてしまえば良かったのに)

そして恋に敗れた男が、みっともない想いを心の中に潜めた。

149 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:35:46.75 ID:3sj+YNHb0
>王の部屋

勇者「失礼します――お呼びでしょうか、陛下」

王「あぁ。魔王から手紙が届いた」

勇者「!!」

内心待ち望んでいた知らせに、勇者の気持ちが高揚する。
そして手紙の内容というのは――

王「直接顔を合わせて話し合いをしようとな。その日程の打ち合わせが必要になる」

まだ離縁は確定していない――だがこのままなら確実だろう。

王「話し合いの際はお前も護衛として同行してくれ」

勇者「かしこまりました」

王「あと、これはどういう事なんだか――」

勇者「はい?」

王「…姫がこちらに帰ってから、魔王子への刺客が途絶えたと書いてある」

勇者「!!」

王は苦笑を顔に浮かべていた。

150 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:36:29.71 ID:3sj+YNHb0
姫「…」

知らせが来てから何度も兄に説得を試みているが、今日も叶わなかった。

兄が婚姻継続に乗り気でない理由は、魔物への嫌悪感からだけではない。

まず1つ。和平の為に結んだ婚姻だったが、国内での両種族間のトラブルは別段増えても減ってもいない。
これには抗議した。新婚期間だというのに、和平に即効性を求めるのは間違っていると。
兄もそれなりに納得した。

そしてもう1つ。それは、私達の無実を晴らすのが難しいということだ。
魔王子への刺客を生け捕りにすれば彼らの正体が掴めたかもしれないが、刺客が途絶えた今、それも叶わない。
しかも実際に従者がやらかしているというのは、もう打ち消しようのない事実。
そんな状況で私を魔物の国に戻すというのは、火に油を注ぐことになること間違いなしということだ。

兄の言うことは間違ってはいない。国を背負っている兄の主張を覆すだけの頭は、私にはない。

婚姻継続を望む1番の理由は、魔王子への未練。
だけど彼の望むもの――つまり和平にも心配はあった。

あのまま私が向こうにいても亀裂が入っていたかもしれないが、こんなに早く離縁されたとなってもいい印象は抱かれないだろう。
それが両種族の互いへの差別意識に繋がりかねない。つまり今のままじゃどちらにしてもマイナスだということだ。

姫(どうすれば…)

窓から魔物の国の方角を見る。ここからでは何も見えない。
だけど私が見ている方角に魔王子はいるのだ。

会いたい――

この城は私にとって檻。2人の間にある障害は、あまりにも大きい。

だけどそんな悲劇的な気持ちに浸っていて、事態が良くなるわけではない。

姫(何とか、いい方法を考えないと!)

しかし「いい考え」は浮かばず、ただただ時が過ぎるだけであった。

151 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:37:04.50 ID:3sj+YNHb0
そんな折、王が姫の部屋を訪れた。

王「わかっていると思うが…後日の話し合いで、俺は離縁の方向で話を進めるつもりだ」

姫「…」

わかっていたことなので、それを聞いても別段衝撃は受けない。
むしろどうしてわざわざ自分にそれを告げに来たのかの方がわからない。

姫「私は納得していませんよ」

王「俺もお前も濡れ衣を着せられたままだしな…まぁ魔王がこちらに戦争を仕掛けるつもりがないのが幸いか」

姫「…お兄様は本当に、何も手を出していないのですか?」

王「何度も言っている。魔王子を殺すつもりなら、お前をわざわざ嫁がせたりなどしない」

姫「…」

そこは確かに腑に落ちなかった所だ。
従者を魔王城内部に潜ませて魔王子を殺すことがが目的――ならば、確実性はあまりにも薄い。潜ませるならもっと戦闘力の高い者を潜ませる。護衛向きの従者では、暗殺は不適任。

王「それにその計画は成功しても、お前が国に戻ってくることを想定しなければならない」

兄の目が、私を蔑むようなものに変わる。

王「魔物によって穢された姫というのは――戻ってきても扱いに困る」

姫「けがっ――」

そして兄はあまりにも安易に、禁句に触れた。


魔王子『俺と結婚することで穢れたら――』

魔王子『姫様がそういう風に思われていると思うと、俺…』


あの魔王子が唯一私に弱みを見せた、痛みの部分。
魔王子は聞いていないとか、そういう問題じゃない。

姫「穢されてなどいません!!」

私は感情のまま、強く叫んだ。

私の叫びに、兄は目を大きくする。
だけどそれは、私が怒ったからではなかった。

王「まさか――まだ初夜を済ませていなかったのか」

姫「…っ」

デリカシーのない質問に、私は何も答えられない。

王「お前、本当に魔王子に愛されていたのか?」

姫「彼は――」

152 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:37:46.27 ID:3sj+YNHb0
魔王子『姫様のこと大事にしなきゃって思えば思う程…勇気が無くなるっていうか…』


普段の言動に反して、そういうことには消極的な人だった。
だけど私も不安で、積極的にはなれなくて。


姫『少しずつ、段階を踏んでいきませんか…?』


手と手を繋いだ。抱き合った。唇で触れ合った。

それでもまだ、最後の段階には行き着いていなかった。


姫(だけど――)


『俺の妻を疑おうと言うのなら、叔父上でも許さない…!』

『嫉妬したの!君と勇者が喋ってる所見て!』

『俺はお姫様の、運命の王子様――ってわけだ』

『…なぁ姫様。弱音吐いていい?』

『心配してもらえりゃ、ゼッテー死なねーって思えるから。だから、ありがとうな姫様』

『君が関わっていなければそれでいい――心から、俺の奥さんでいてくれれば…』


姫「彼は――私を愛して下さいました」

それだけは揺るぎない。
彼と過ごした時を、私は覚えている。

もし、彼が私を想っていないというのなら――


『姫様がグルだったら、そのやりとり全部嘘になる――だから、俺は姫様を信じる』


それこそ彼の言う通り、全てが嘘だったことになる。

153 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:38:20.98 ID:3sj+YNHb0
王「…まぁいい」

私の返事に兄は愉快な顔をしなかった。
魔物と愛し合うなど、彼には理解できないのだろう。

王「だが、お前は我が国の姫だということを忘れるな――おい、入れ」

姫「…!?」

兄がそう言って部屋に招き入れたのは――

勇者「失礼致します」

姫「勇者様…?」

勇者はこちらに目を合わせようとしない。
その表情はどこか、後ろめたいものを感じる。

姫「どういうことですかお兄様?勇者様を招き入れるなど」

王「お前が魔王子と交わっていないのは、せめてもの救いだった」

姫「…はい?」

兄はそう言って背を向ける。
ちょっと待って、まだ話は終わっていない――と思った瞬間だった。

王「婚姻解消が決まったら、お前は勇者と結婚しろ」

姫「――っ!?」

あまりの衝撃に、何を言っているのか理解できなかった。
だけど兄は矢継ぎ早に言葉を続ける。

王「これから魔物の国と更に関係が悪化するに違いない。我が国民達もその心配をしている。だから我が王家と勇者一族の繋がりを強める為に、勇者と夫婦になれ」

姫「ちょっと待って下さいお兄様、私は――」

言うだけ言って部屋から去ろうとする兄を追おうとした時だった。

勇者「…姫様!」

姫「っ!?」

勇者が私の前に立ち、行く手をはばかる。
そうこうしている内に、兄は部屋のドアに手をかけ――

王「勇者…あとは好きにするといい」

姫「――っ!?」

その言葉に、全身が凍りついた。

154 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:38:53.39 ID:3sj+YNHb0
勇者「姫様っ!」

姫「あっ!?」

勇者に手を掴まれる。
そうしている内に、部屋の扉は閉じられた。

今、部屋には勇者と2人きり。
兄の言う「好きに」といいうのは、つまり――

姫「嫌です、離して下さ――」

勇者「姫様…陛下のご命令です」

勇者の眼差しは強い。

姫「やめて、お願い、誰かぁ!!」

勇者「呼んでも誰も来ませんよ」

怖い――その眼差しはまるで、獲物を捕らえようとする獣のようで。
私は食われまいと抵抗する獲物のように暴れ、叫ぶ。

だけど勇者への抵抗は無力でしかなく――

勇者「姫様――」

姫「――っ!!」

勇者の顔が近づいてくる。

姫(嫌ぁ…)


耐えられない。まだ私の唇は、魔王子の感触を覚えている。
彼以外の誰かにその記憶を上乗せされるなんて、彼以外の誰かに触れるなんて――


姫(絶対に、嫌――ッ!!)

155 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/06(金) 17:40:17.27 ID:3sj+YNHb0
今日はここまで。
いちゃラブ成分不足…(-ω-||)

156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/06(金) 17:43:44.03 ID:0lXsXJ+PO

こんな所できるなんてひでぇ

158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/06(金) 18:32:04.08 ID:I0vbvQzvo
おつ
魔王子はよ!はよ!!!

159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/06(金) 18:39:09.52 ID:xdLZZ2FDO
勇者に金的ぶちかませ姫!!


次回へ続く
posted by ぽんざれす at 10:02| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

姫「魔王子との政略結婚」(1/3)

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1424589293/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1424589293


2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:15:12.58 ID:vBpN6/wS0
その日、不安で一杯だった。
私は魔王の一人息子との結婚が決まり、夫となる人と初の顔合わせする為、魔王城に来ていた。

姫(うぅ)

ジロジロ見られている。緊張。
でもここで弱々しい振る舞いをしたら、後々困るのは自分。
そう思い胸を張ってはいたものの、今にも心臓が飛び出しそうだ。

従者「魔王子とやら、来ませんね」ボソボソ

姫「そうね…」

私が謁見の間に来てから随分経った(ように感じる)
しかし夫となるはずの魔王子はなかなか現れず、無言のまま魔王と向き合う羽目になっていた。

魔王「…」ゴゴゴ

姫(帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい)

私は早くも、義父となるであろう魔王を相手に圧倒されていた。

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:16:43.12 ID:vBpN6/wS0
魔王「遅い…」

姫「」ビクッ

魔王「魔王子め何をやっている…」ゴゴゴ

姫(こ、怖い…)

怒っているのか、元々こんな人なのかはわからないが、威圧感は本物だ。
このままでは押しつぶされてしまいそうで…。

メイド「ま、魔王子様が帰られました!」

姫「!!」

その報告に救われた気がした。
目先の問題なのだが、とにかくこの空気を何とかしてほしくて。

だけど、

魔王子「あー、風呂くらい入らせてくれってぇ」

姫「!」

初めて見る彼は、

魔王子「ひとっ走りして体がくせーの何の。脇汗ビッショリで気持ちわりー」

姿を現したと同時、また悪い方向に空気を変えてしまった。

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:17:33.33 ID:vBpN6/wS0
魔王「お前…今日は姫君との顔合わせの日だと伝えておいたが?」

魔王子「わりわり。忘れてた」

姫(わ、わす…)

魔王子は魔王の威圧感にまるで気付いていないかのように、飄々としていた。
顔は美形で間違いないんだけれど、服装は運動着のようにラフだし、髪も乱れている。どうにも、きっちりした人ではないらしい。

従者「し、失礼ではないですか!!」

姫「ま、まぁまぁ」

魔王子「お。もしかして俺の奥さんになるお姫様?」

魔王子はピリついた空気に動じず、私に寄ってきた。
あまりに物怖じしない様子に、人見知りの気がある私は引き気味になる。
だけど魔王子はそんなの気にせずにニカッと笑い、

魔王子「宜しくなぁ、お姫様~」

私に手を差し出してきた。

姫「え、えぇ…」

私もその手を取りそうになったけれど、

魔王「魔王子…無礼にも程がある。顔合わせにも形式というものがあるのだ、奔放では困る」

魔王の威圧的な声に、私は出しそうになった手を思わず引っ込めた。
魔王子は機嫌の悪い顔になって、魔王に顔を向ける。

魔王子「あのさー、俺、当事者なんだよ?何で形式に縛られなきゃならんのですかー」

魔王「馬鹿者。お前の結婚は魔物と人間の和平がかかっていてな…」

魔王子「形式に縛られる理由にはなってねーな」

そう言うと魔王子は、

魔王子「失礼っ」

姫「っ!?」

一旦引っ込めた私の手を取った。

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:18:09.07 ID:vBpN6/wS0
魔王子「はいはい立って立って~」

姫「あ、あのっ…」オロオロ

魔王「どこへ行くつもりだ魔王子」

魔王子「デート」ニッ

魔王「あ?」

魔王子「結婚前に相手のことを知っておきたいじゃん。顔合わせだけじゃわかんねーっつーの」

そう言って魔王子は強引に私の手を引っ張っていった。
私はどうしていいかわからず、引っ張られるまま彼の後を追う。

魔王「待たんか魔王子!」

魔王子「いやでーす」

そして魔王子は謁見の間にいた者の視線を集めたまま、あっという間にそこから立ち去ってしまったのだ。
6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:18:46.15 ID:vBpN6/wS0
姫「あ、あの…」

魔王子「ん、何?」

姫「いいんですか…?」

魔王子「あー、いいのいいの、気にすんな!」

彼はそう言ったが、廊下にいた魔物達も彼の姿を見かけてぎょっとする。
一緒にいた私はそれで余計萎縮してしまった。

魔王子「こっちな」

そう言って彼が扉を開けると裏庭に出た。
そこには厩舎が建っており、彼はそこにいた馬を連れてきた。

魔王子「どうぞ、乗って。足元気をつけてな」

姫「あの…どこへ?」

魔王子「だから、デート」

姫「いえ、でも…」

魔王子「心配すんなって、終わったらちゃんと帰ってくるから。ほら乗って乗って」

姫「…」

魔王子に促されるまま、私は馬に跨る。続いて彼も跨ってきた。

魔王子「じゃ、しっかり掴まってろよー」

そう言うと彼は馬を走らせた。
何て自由な人。周囲を気にせず、人を巻き込むマイペースさ。

私は、この人の妻になるのか…。

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:19:24.03 ID:vBpN6/wS0
魔王子「よっしゃ、ここだ」

馬を少し走らせると、見晴らしのいい高原に着いた。。
魔王子は馬を止め、飛び降りるように着地する。

魔王子「いい空気だなー、そう思わない?」

姫「え、えぇ、そうですね」

魔王子「俺はこの場所が好きでさー」ゴロン

姫(早速寝転がった)

魔王子「姫様もどう…って無理か、ドレスが汚れちまうよな」

姫「あのー…」

魔王子「呆れた?」

姫「え?」

魔王子は寝返りをうって私に振り向く。
唐突な質問を、私はすぐに理解できなかった。

魔王子「こんなバカ王子と結婚するなんてー、って思わなかった?」

姫「え、あ、いえっ!」アワワ

何か誤解を与えてしまったかと、私は慌てて否定する。
そんな様子を見て、魔王子は可笑しそうに笑みを浮かべた。

魔王子「姫様は可愛いなー」

姫「えっ!?」

魔王子「ほんと。俺にはもったいない」

美麗な顔立ちには不釣り合いな無邪気さで、魔王子は笑った。
彼の言葉には重みがない。本当か冗談かもわからない。

だけど――

姫「ふ、ふふっ」

さっきまで私の心をガチガチに固めていた緊張は、彼によって一気に溶かされた。

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:20:06.48 ID:vBpN6/wS0
姫「自由な方ですね、魔王子様は」

魔王子「でも安心して、浮気とかしないから俺」

姫「不自由させてしまいますね、結婚すると」

魔王子「いやいや、元々女性関係は奔放じゃないし。姫様の方はどうなの?」

姫「え?」

魔王子「何か、勇者と結婚するって噂もあったけど…いいの、俺のとこに来ちゃって」

姫「…」

勇者。平和な現代においては「魔王を倒す」という使命こそ無くなったものの、今は母国の兵を率いて、武力をもって世の中の秩序を守る存在。
彼とは幼馴染の関係にあり、何となく結婚するのだろうと言われてきたけれど…。

姫「えぇ、納得して来ました」

魔王子との結婚が決まった今では、それは過去の噂話。

魔王子「そうか」

彼はそれ以上追及してこなかった。

魔王子「ねぇ、この景色見てみて」

姫「?」

私は魔王子のすぐ側に腰を下ろし、彼が見ているのと同じ景色を見る。
広がる高原、一杯の自然――正直どこを注視すればいいのかわからない。

魔王子「あそことか、あそことかに、うちの国が統治してる村があるんだよ」

あぁ、そこを見ればいいのか。

魔王子「人間も結構移住してきてるよ」

姫「えぇ、和平を結んでから互いの国に移住者が増えましたね」

魔王子「けど、まだ人間と魔物は仲が良いとは言えないな」

魔王子は少しだけ、顔をしかめた。

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:20:47.69 ID:vBpN6/wS0
人間と魔物側の戦いが幕を下ろしたのは、私が小さい頃の話。
それからは互いに交流を持つようにし、和平の為に双方のトップは力を尽くしてきた。

それでも、両者の溝はそう簡単に埋まらないのが現実だ。

王「姫…決して相手に心を許すなよ」

兄である王にも、そう忠告された。
王にとって和平や平等というのは建前であり、本音では魔物への差別意識を抱いている。

人の気持ちはそう上手くコントロールできるものではない。が、内心どうあれ、とりあえず王が和平を持続する方針なら、それで問題は起こらない。

問題なのはその意識を表に出してしまう人達であり、互いへの差別意識から来るちょっとした争いは耐えることがない。
しかもここ数年はその件数も増えてきて、和平にヒビが入りかねない状況になってきていた。

そこで今回の政略結婚に至った、というわけだ。どれだけ効果があるかは、わからないけれど。

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:21:56.64 ID:vBpN6/wS0
魔王子「俺、子供の頃に人間にちょっとした嫌な目に遭わされてさ」

姫「…そうでしたか」

彼と私は同年代だろうから、子供の頃というと終戦間もなく、まだ両者ともギスギスしていた時代。
彼の言う「ちょっとした嫌な目」というのは、その時代には珍しくなかったものだ。

魔王子「だから俺はさ、種族のことで嫌な目に遭わない世の中になればいいと思っている…つーか、俺がそういう世の中にしなきゃいけないんだけどね」

姫「ご立派です」

私がそう言うと彼は起き上がり、複雑な顔をした。

魔王子「…本当に納得してる?」

姫「何がです?」

魔王子「異種族に嫁入りすること」

姫「はい」

ここに来る前は、魔王の一人息子ということで不安はあった。
だけどそれは、厳格な人だったらどうしようという意味であり…

姫「種族なんて関係ありません」

魔王子「そう心から言える人、意外と少ないよ?」

姫「でも、これが本音ですから」

魔王子「そっか。この通りの俺だから色々苦労はかけると思うけど――」

魔王子は安心したように笑うと、照れくさそうに手を差し出した。

魔王子「夫として精一杯努めますので…宜しくお願いします」

姫「――こちらこそ」

私は彼の手を取った。
これが他の誰も知らない、私達の誓いとなった。

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/22(日) 16:23:32.87 ID:vBpN6/wS0
今日はここまで。
敵地への嫁入りシチュエーションが大好きです。今作敵地じゃないけど。

12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/22(日) 17:06:54.93 ID:5XIpg0kDO
乙!

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/22(日) 17:24:58.91 ID:8zdUk13YO
あなたのssの恋愛模様にはいつも悶えさせられる。

14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/22(日) 18:58:49.63 ID:Hs8r5uJpO
乙です
これは良い導入部
期待

15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/22(日) 20:13:45.81 ID:SroNdoYsO
マジで少女漫画臭がするw乙

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:27:54.93 ID:sNcAsDFK0
初恋、というものなら昔に経験した。それこそ子供の頃の話だ。
相手は、家族と行った小旅行で出会った男の子だった。その頃の自分は今程人見知りでもなく、その男の子とすぐ仲良くなったと思う。
確か、その男の子に花を貰った。それを押し花のしおりにして、使っていたと思う。

だけどその思い出は心残りではない。今ではその男の子の顔も思い出せないのだから。


神父「その健やかなるときも、病めるときも~…」


2人きりで誓いを立ててから数日後、結婚式は滞りなく行われた。
流石に結婚式の場となると両種族の間にギスギスした空気はなく、これなら問題なく終わりそうだ。

だけど私は、感じていた。

王「…」

勇者「…」

特別席で見ている2名の視線が、決して祝福するものではないことを。

それでも。

神父「誓いのキスを…」

私は、彼の妻になるのだ。

魔王子「い、いい?」

姫「えぇ…」

魔王子「それじゃ――」


姫「――」


目を瞑って視界が真っ暗な中、人々の歓声と、彼に触れた感触を感じた。

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:28:31.72 ID:sNcAsDFK0



魔王子「長かったー…」

式が終わり、正装から普段着に着替えた彼は早速ソファーでグッタリしていた。
こういう式典は好きではないのだろう、むしろ今までよくもっていた方だ。

姫「お疲れ様です。はい、お茶どうぞ」

魔王子「さんきゅ。かみさんが茶を淹れてくれたのは新婚の時だけだー…ってならなきゃいいなぁ」

姫「ふふ、あなた次第です」

魔王子「じゃ、頑張ったらグレードアップしてくれな」

そんな冗談のやりとりで気が安らぐ。
私は彼の横に腰を下ろし、おかわりのお茶をつぐタイミングを見計らっていた。

「新婚早々、仲が良いな」

魔王子「あ?」

姫「あ」

向こうから人がやってきた。
確か彼は…魔王子の叔父である悪魔様に、その娘の妖姫様だ。

悪魔「魔物の頂点となる自覚が足りんぞ魔王子。あまりだらしない姿を人に見せるな」

魔王子「うるせーです、叔父上」

魔王子はやる気のない笑みを浮かべたまま、さらりと答えた。
悪魔はその様子を見て、苦笑いを浮かべる。

悪魔「いつまでも子供気分だから困る…姫君、魔王子の尻を叩いてやってくれ」

姫「あ、はい!」

魔王子「やめてー。余計なこと言わないで帰って叔父上ー」

魔王子は仰向けになって、手だけでシッシッという動作をした。

悪魔「やれやれ…では失礼する」

姫「あ、お疲れ様です…」

と、彼らを見送ろうとした時だった。

妖姫「…」ギロ

姫「!?」

妖姫「…」スタスタ

今、物凄い目で妖姫に睨まれたような…気のせいだろうか?

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:29:24.67 ID:sNcAsDFK0
彼らの気配が無くなると、魔王子は姿勢を正した。

魔王子「俺は叔父貴は好かん」

姫「あ、そうなんですか…」

てっきり、親しさを込めての無礼かと。

魔王子「叔父貴は人間嫌いだからな。…そりゃ、そうなる事情もあったんだろうけど、度々人間と揉め事起こされちゃかなわんよ」

姫「揉め事ですか…」

紳士的な人に見えたが、そうだったのか。
それなら内心、私のことも良く思っていないかもしれない。だったら、去り際の妖姫の目つきも――

魔王子「俺、妖姫と結婚するかもしれなかったんだ」

姫「…っ!?」

内心思い浮かべていた人の名前を出され、どきりとした。

魔王子「でも俺、妖姫にそんな感情抱いたこと1回もないから。向こうもそうなんじゃないかな」

姫「それは…」

向こうは貴方を――だからこその、あの視線なのでは。
今日から魔王城で暮らすというのに、早速不安が生まれた。

魔王子「守るから」

姫「――え?」

だけど魔王子は、私の不安を先読みしていたかのようにそう言った。

魔王子「奥さんを守れない男は夫失格。そうだろ?」

彼の柔らかい表情と声に、私は安心する。
これからどうなるかはわからないけど――

姫「頼りにしていますね、魔王子様」

彼なら信用してもいい――そう思えた。

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:30:00.74 ID:sNcAsDFK0
>夜

従者「姫様、今日は早めにお休みになって下さい」

姫「えぇ、ありがとう従者」

従者は母国から一緒に来た、魔物と人間の混血種だ。彼は心配過剰な所があり、さっきから私の体調を気遣ってくれている。

従者「それではお休みなさい」

頭を深く下げると、従者は出て行った。
私は寝室に1人になる。

さて。

姫「………」

姫(ど、どどどどどどどどうしよう!?)

結婚して最初の夜。
ということはつまり………そういうことだろう。

姫(心の準備が…)ドキドキドキドキ

一応、本でそれなりに知識は身につけた。だがその時が近づくと、どうにも緊張してしまう。
今だって心臓がドキドキいって…

姫(あああああああああぁぁぁぁぁ、もうっ!!)ブンブン

あれこれ想像しては悶絶する。いけないいけない、はしたない。

姫(落ち着いて深呼吸、深呼吸…)スーハー

それにしても。

姫(魔王子様、どこに行ったんだろう…)

出来れば来るのを待ってほしいけど、あまりにも遅いと気になってくる。
さて、どうしたことか。

とりあえず私は、寝室を出ることにした。そして、そこにいた女性に声をかけた。

姫「あっ、あの」

メイド「あら奥様。どうされました?」

姫「魔王子様の居場所ご存知ありません?」

メイド「いいえー。おかしいですね、お探ししましょうか?」

姫「え、あ、いいんです」

まだ遠慮する気持ちがあるので、申し出を断って寝室に戻った。
一体どこで何をしているのか…彼が来るまで待つつもりだったが、思った以上に私は疲れていたみたいで、その日はすぐに眠りについてしまった。

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:30:45.45 ID:sNcAsDFK0
>翌日

メイド「クッキー焼けましたよー」キャイキャイ

姫「あら、可愛い!食べるのが勿体無いですねー」

朝食後暇を持て余している所をメイドに誘われ、厨房で女子会を開いていた。
まぁ1人だけ、女子でないのが混ざっているけど…。

従者「へっへー、もーらいっ」

メイド「これっ!」ペシッ

従者「いでっ」

姫「もう従者ったら、はしたないわ」

従者「だってぇ、クッキー好きなんだもん」イジイジ

メイド「あんたは残骸でも食べてなさーい」

従者「わーい、残骸でも美味ぇー♪」パリパリ

メイド「ちょっとちょっとぉ、冗談で言ったのに…もう」

姫「ふふふ、早速仲良くなったのね2人とも」

メイド「ちょっ…!そ、そんなんじゃ」

従者「あぁ、同じ混血種ですからね。親近感は沸きますね」

メイド「ぶっ」

姫「混血種、母国の城には多かったのだけれど。こちらでは見かけませんね」

従者「ですねー」

メイド「深い理由はありませんよ。でも良かったです、奥様が魔物にも混血種にも寛容な方で」

従者「えっへん!」

メイド「何であんたが威張ってんの!でも魔王子様も種族差別しない方ですし、お2人の結婚は和平に大きく貢献しそうですね~」

姫「えぇ、尽力します」

その魔王子なのだけれど、今朝は――

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:31:13.59 ID:sNcAsDFK0
>今朝

姫「おはようございます」

魔王子「や、やぁ、おはよう!」

姫「…?」

早朝1番に顔を合わせたが、何故か目を合わせてくれない。
それに何だか気まずそうな…。

姫「魔王子様」

魔王子「ん、んっ!?」

姫「昨晩はどちらに――」

魔王子「え、あ、いや、まぁ色々やることがあってなー」

姫「そうですか」

魔王子「それより朝食会に行こうか!今日の朝飯は何かなーっと」

姫「…?」

何だか、妙に挙動不審だった。

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:31:53.48 ID:sNcAsDFK0
その日は城に仕える女性方と親交を深めた。

そして迎える夜。

姫(今日こそ…)ドキドキドキドキ

昨日と同じ緊張感で私は魔王子を待っていた。
今日も彼は遅い。もしかして、まだやることがあるのだろうか?

姫(今日は待ってなきゃ…)

窓際の椅子に腰掛け、お茶を飲みながら彼を待つ。
だけど彼は来ない。彼を待つ時間が長ければ長い程緊張感は増していき、お茶を持つ手が震えるのだけれど。

姫(ああああぁぁぁ、もおおおぉぉぉぉ!!)ブンブンブンブン

いけない妄想が一瞬頭を過ぎり、熱くなった顔を両手で押さえた。
これは…何ていうか、本当にまずい。

姫(いけないいけない、こんな顔じゃ…)ブンブン

と、表情を直す為、鏡の代わりに窓ガラスを見た。

姫(あら?)

そして見つけた。

魔王子「…」

窓の向こう、少し遠くの方に佇む魔王子を。
彼は頭を掻いたり、その場を往復したり、見た所かなり挙動不審だ。

姫(どうしたんだろう…)

姫「…」

姫(行ってみよう)

私は上着を羽織り、寝室を出た。

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:32:23.68 ID:sNcAsDFK0
魔王子「あぁう…」

魔王子の顔は既に真っ赤だった。
昨晩は何とか誤魔化せた。しかし今晩は…。いや今晩を誤魔化せたとしても、ずっと続きはしないだろう。

どうしよう…本当に情けない。

魔王子「あー、もー…」

頭で木によしかかる。それはまるで猿の反省ポーズ。

魔王子「どうしろってんだよマジで…」ブツブツ

姫「魔王子様?」

魔王子「うわぁ!?」

そして、魔王子にとって今1番会いたくない人物が現れた。

姫「魔王子様…お悩みですか?」

魔王子「え、あ、いや…」

姫「…?」

駄目だ。彼女と顔を合わせると気まずい。今朝からずっとだ。
そう、魔王子が頭を悩ませているのは、姫が原因だった。

姫「まさか調子がよろしくないとか…?」

魔王子「あ、いやまぁ、よろしくないような、違うような…」

姫「…?」

魔王子「えーと、まぁ何だ…ちょっと夜風に当たってた」

姫「そうでしたか。なら付き合います」

魔王子「え!?」

姫「え?」

魔王子「あー、いや、いいんだ、うん」

あまりよろしくない申し出だったが、断る口実も思い浮かばず、魔王子はそれを受け入れた。

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:32:49.37 ID:sNcAsDFK0
気分転換に、魔王城の庭を散歩することになった。

姫「お花が沢山咲いているんですね…明日明るい時に来てみようかしら」

魔王子「う、うん!いいんじゃないかな!」

姫「…?」

しかし魔王子の様子はずっとおかしい。
それにさっきから、こっちを全然見てくれない。

姫「…あら」

その時、月にかかってきた暗雲が晴れた。

姫「見て下さい魔王子様」

魔王子「ん?」

姫「月が綺麗で――」

魔王子「ストオオオォォップ!!」

姫「!?」

魔王子「あ、あのさ、意味わかってる?」

姫「え、あの?」

魔王子「…いや悪い。つーか別におかしいことじゃないんだよな…夫婦なんだし。そう、夫婦、夫婦…」

姫「魔王子様…朝から変ですよ?」

魔王子「」ギクッ

姫「どうしたんですか?」

魔王子「えーと…」

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:33:18.84 ID:sNcAsDFK0
魔王子「…本当にごめん」

姫「え?」

いきなり頭を下げてきた魔王子に私は戸惑う。

魔王子「遠い国から嫁いできたお姫様を、俺が守らなきゃとか、支えなきゃとか、そういう決意はしたんだけど――」

魔王子は真っ赤な顔をしていた。それに段々声が小さくなっている。
あの、初対面の時から飄々としていた彼の面影は、そこにない。

魔王子「その…待ってくれないか!」

姫「…え?何をですか…?」

魔王子「あのー…だな…」

魔王子「夫婦の…儀式」

………

姫「」ボッ

魔王子「いや、姫様と夫婦になるのが嫌なんじゃないから!な、何てーかさー…えーと」ボソボソ

魔王子「姫様のこと大事にしなきゃって思えば思う程…勇気が無くなるっていうか…」

魔王子「あ、いや姫様が悪いんじゃなくてね!?俺も女性経験ないから何か色々不安だし」

魔王子「こう見えて俺キスも、結婚式のが初めてで…」

姫「よ、よくわかりましたから、もういいです~…」

魔王子「…」

姫「…」

互いに目を合わせられない。
もう何なんだろう、これ以上ないくらい顔が熱い。

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:34:50.58 ID:sNcAsDFK0
魔王子「…ごめん、俺、本当情けないよな!!」

姫「い、いえ!」

私はすぐに魔王子に迫った。

姫「不安な気持ちは私も一緒でしたし!ですからあの、全然気にしないで下さい!!」

魔王子「だけどさー…安心させてやるのが俺の役目じゃん」

姫「…あまり気張らないで下さい、魔王子様。貴方が私を大切に思って下さっているのは、わかりましたから」

魔王子「姫様…」

姫「あの、魔王子様」ソッ

魔王子「…っ」

私は彼の手を取る。彼の手はガチガチに緊張していた。
何だか可笑しい。初対面では、あんなにがっちりと手を握ってきた人が。

姫「少しずつ、段階を踏んでいきませんか…?」

魔王子「段階…?」

姫「えぇ、例えば――」

私は緊張をほぐすように、彼の手を両手でゆっくりさすった。
ちょっとだらしなく爪が伸びた、大きな手――なのに何だか今は小さく感じて、愛おしい。

姫「こうやって、触れ合う所から」

魔王子「…」

魔王子は無言のまま、ぎゅっと私の手を握り返す。
すると包み込まれるような安心感が、私の心を暖かくした。

魔王子「姫様が、嫌じゃないなら」

姫「嫌じゃ、ないです」

魔王子「そっ、か…」

手を握り合ったまま向き合い、彼はちょっとだけ視線をそらす。

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:35:21.29 ID:sNcAsDFK0
姫「ふ、ふふふ…」

魔王子「!?笑われてる、俺!?」

姫「いえ違うんです――嬉しくて」

魔王子「嬉しい?」

姫「えぇ…新しい貴方を知ることができて」

魔王子「あー…あまり知られたくはなかったけどな…」

姫「それに、こういう一面を知っているのはきっと私だけかなって」

魔王子「うん、そりゃそうだ」

姫「私達まだ、お互いのこと全然知らないですし」

魔王子「そうだな…うん、互いのことを知るのが先だよな」

姫「そうですね、ふ、ふふ…」

魔王子「そんなに嬉しいの?」

姫「だって魔王子様、可愛いんですもの」

魔王子「やっぱ笑われてんじゃん!」

姫「ご、ごめ…あはははは!」

魔王子「あーもー」

魔王子は困ったように眉を下げながらも、口元には笑みを浮かべた。

魔王子「それ以上笑うようなら…お仕置きだ!」頭グシャグシャ

姫「きゃっ、ふふふっ」

魔王子「まだ笑うか、こいつめー…」


と、その時――

魔王子「――っ!!」


姫「――え?」

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:36:00.90 ID:sNcAsDFK0
一瞬――

理解が遅れた。
だけど気付いた時には、私は魔王子の腕の中にいて…。

姫「ちょっ――魔王子様!?」

抱き合うような姿勢に私の頭が沸騰する。
けど、彼の腕を見て、それは誤解だと気付いた。

姫(…血!?)

魔王子「…クッ」

魔王子の腕には、先ほどまで無かった傷がざっくりと開いていた。

魔王子「姫様、ここから動くなよ!」ダッ

姫「あっ!?」

魔王子はそう言うと駆けた。
その先――闇の中を舞う何者かがいた。

その何者かは、魔王子に向かって光るものを振り下ろした。

魔王子「っ!!」

魔王子はそれをギリギリでかわす。
そのやりとりを見て、私はようやく現状を理解した。

姫(ま、まさか暗殺者が!?)

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/23(月) 16:36:57.07 ID:sNcAsDFK0
今日はここまで。

>>24のくだりで「何だ?」と思った方へ
「月が綺麗ですね」は遠まわしな「愛しています」の意味だそうです。

30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/23(月) 18:09:19.32 ID:YlaoM2VWO
乙です
姫様可愛い
魔王子はなかなかのイケメンだが、ソコはヘタれるんですね
「月が綺麗ですね」の件は有名なので知ってる人も多いかと
続きに期待

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:30:44.48 ID:twoSxGnW0
暗殺者(仮)の動きを注視する。
身のこなしは軽く、木と木を飛び移って魔王子を翻弄している。
魔王子とすれ違いざまに彼に刃を振るが、それは全て魔王子が間一髪で避けている。

暗殺者「…」シュッ

魔王子「くっ!!」

魔王子は大きく跳ね、近くの木の側へ着地。
そしてその木に生えていた枝をもぎ取り、暗殺者に対峙する。

暗殺者「…」バッ

魔王子「…っ!!」

暗殺者は構わず魔王子に刃を振り下ろした。魔王子はそれを枝で受け止める――が、枝は刃に粉砕された。
やはり、木の枝では刃相手には頼りない。

だが、

魔王子「大成功だよ…!!」ガシッ

暗殺者「!?」

魔王子は暗殺者の、刃を持った方の手を掴んだ。

魔王子「木の枝で戦うことはできないが、刃の勢いを弱めることはできる!!」

暗殺者「くっ!!」

暗殺者は魔王子の腕を引き離そうともがくが、魔王子も離すまいと掴みかかる。
暗殺者の手にある刃は、互いの喉元をかすめて危険な状態。

そして――

ドサアアァァッ

双方は勢いのまま、その場に倒れ込んだ。

姫「魔王子様!!」

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:31:11.46 ID:twoSxGnW0
魔王子「ハァハァ…大丈夫だ、だが」

姫「…っ」

立ち上がった魔王子の足元には暗殺者…その首には、刃が突き刺さっていた。
これは…間違いなく絶命している。

魔王子「見るな」

魔王子は私の視界を遮るように、目の前に立って体でその光景を隠した。

魔王子「生け捕りにして話を聞き出したかったが…こっちも必死で、やっちまった」

姫「ま、魔王子様…貴方、命を狙われ…」

魔王子「こんなん今日が初めてだよ…この時間この場所、狙いやすい時を狙われたな」

魔王子は苦々しいといった表情で暗殺者の死体を睨みつける。

姫「魔王子様…賊はまだ潜んでいるかもしれません」

魔王子「そうだな…早く城に戻って報告した方がいいな」

そう言って魔王子は私の手を引いて戻ろうとした。

姫「あ、待って下さい」

魔王子「ん?どうした?」

姫「その腕…」

私は傷口に触れぬように彼の腕を手に取り、集中した。
すると――

魔王子「これ…回復魔法?」

姫「こんな魔法しか使えませんが…」

魔王子「いや、元気になった。ありがとう姫様」

そう言うと魔王子は満面の笑みを見せてくれた。
命を狙われたばかりで不安だろうに、その笑みは私を気遣ってくれているように感じて――

姫(どうして、彼が――)

それだけ、私の胸が痛んだ。

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:31:45.86 ID:twoSxGnW0
彼は真っ先に寝室まで私を送ってくれた。

魔王子「1人で大丈夫か?」

姫「えぇ、するべき事をなさって下さい」

魔王子「何かあったらすぐ叫ぶようにな。兵士が駆けつけるから」

姫「えぇ」

心配過剰な気はするけど、その気持ちが嬉しい。私は報告に行く彼の背中を見送った。
少しして窓の外はバタバタし始めた。他に潜んでいる賊を探したり、賊の死体を回収したりと忙しいのだろう。

魔王の一人息子が命を狙われるなんて――この国で何が起こっているのか、私ではわからない。

だけど――

魔王子『だから俺はさ、種族のことで嫌な目に遭わない世の中になればいいと思っている…つーか、俺がそういう世の中にしなきゃいけないんだけどね』

魔王子は悪党ではない。自由な人ではあるけど、恨みを買うような人には見えない。
ならば政治絡みか。彼が死ねば都合がいいという連中がいるのか――

姫(そんなのは許せない)

頭に魔王子の笑顔を浮かべ、彼の為に祈った。
どうか彼の命が、誰かの手で絶たれることのないように。

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:32:44.36 ID:twoSxGnW0
翌日、朝から城中が不穏な空気で、どうにも居心地が悪かった。
朝食後、私は魔王子と共に会議室に呼ばれた。

魔王子「ま、何となく聞いてりゃいいよ。途中で席立つ場合は俺に言ってくれ」

私は魔王子の隣の席。そこは会議室の上座に位置する席で、何だか恐縮してしまう。
会議には他20名位の魔物達が参加した。勿論、魔王子の叔父上にあたる悪魔も。

「これは国家への反逆か…」
「何か大きな組織が…」
「魔王子様が狙われたのは偶然か…」

会議は重い空気の中、淡々と進む。
会議の中で、城内の警備の強化についての話が出て、私はあくびを噛み殺していた。

「まぁ、こんな所か」
「相手の正体もまだ掴めていないしな」

悪魔「ちょっといいか」

話題が尽きそうになった所で、それまでほとんど発言の無かった悪魔が言葉を発した。

魔王「どうした悪魔」

悪魔「少し気がかりなことがあってな」

魔王「気がかりとは?」

悪魔「誰も気にしていなかったようだが…昨日魔王子を襲った賊は、人と魔物の混血種だったようだな」

魔王「あぁそうだ。だがそれがどうかしたか?」

悪魔「混血種は我が国では希少――」

悪魔はそう言うと、私の方を見た。

悪魔「昨日の者は、姫君の母国の者ではないのか?」

姫「え――」

急にその場の視線が集中し、私は一気に目が覚めた。

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:33:20.50 ID:twoSxGnW0
魔王子「…だったら、何だと言うんですか?」

魔王子は低い声を発する。視線の先は悪魔――その目つきはどこか、敵意を含んでいる。
そんな視線を受けて、悪魔は肩をすくめた。

悪魔「俺は、姫君の母国の者ではないかと言っただけだが?」

魔王子「だから、それが何だと言うんですか」

魔王「悪魔…お前は、姫君が絡んでいると言いたいのか?」

悪魔「あくまで、可能性の1つだがね」

魔王子「そんな可能性はわずかにも無い!」

間髪いれず魔王子は机を叩いて大声をあげた。
そんな様子に、私の方が恐縮してしまう。

悪魔「視野が狭いな。例えばだ、姫君が暗殺者と打ち合わせし、お前を特定の場所に連れ出して――」

魔王子「あの場所に行ったのは俺の意思であり、彼女の思惑など絡んでいない!」

悪魔「姫君のいた城には、手練の混血種が大勢雇われていたようだが…」

魔王子「彼女が嫁いできて日も空けずに襲ってくるのはあからさますぎる!」

悪魔「だが」

魔王子「とにかくっ!」

魔王子は大声を張り上げ、悪魔の声をかき消した。

魔王子「俺の妻を疑おうと言うのなら、叔父上でも許さない…!」

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:33:56.24 ID:twoSxGnW0
会議室はしんと静まり返る。
普段温厚で不真面目な魔王子が珍しく、真剣に怒りを表した為か。

魔王「…落ち着け、魔王子」

その空気の中、魔王は動揺することなく言葉を発した。

魔王子「悪魔も。お前が人間嫌いなのはわかるが、確実なこともわからぬ内に安易な発言はよせ。和平の証である姫君に懐疑の目が向かっては困る」

悪魔「はい、兄上様」

悪魔はおどけた様子で素直に返事した。

こうして微妙な空気のまま、会議は終わった。

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:35:21.47 ID:twoSxGnW0
魔物達がぞろぞろと会議室を出て行く。
私は動かない魔王子の側にいて、彼の不機嫌そうな表情を伺っていた。

姫「…」

魔王子「…」

どうしよう。何て声をかければ…。

魔王子「わり」

姫「え?」

魔王子「もっと冷静に返せたよな。あれじゃ君をフォローできてない」

姫「い、いえっ」

苦々しい顔をする彼に、私はすぐにフォローに入る。

姫「私の為に怒って下さって…その、申し訳ないです」

魔王子「何で申し訳ないと思うんだよ。悪いのは叔父貴だろ」

姫「あの、でも…悪魔様のおっしゃることも、一利ありますし…」

魔王子「一利?ないない。だって違うんだろ?」

姫「そ、それは確かに事実とは違いますけど、でも彼らからしてみれば…」

魔王子「俺からしてみれば100%ないから、反論した。それだけだ」

姫「100%なんて…言い切れるんですか?」

魔王子「あのさ」

魔王子は私の手を握り、自分の胸の所に持っていった。

魔王子「昨日暗殺者が乱入してくるまで、俺ら何やってたか覚えてる?」

姫「――え?」

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:36:03.80 ID:twoSxGnW0
魔王子「俺たちはこうやって、強く手を握り合っていた」

夫婦として、少しずつ段階を踏んでいく為に。
恋愛事に奥手な2人の、第一歩だった。

魔王子「姫様は新しい俺を知れたって、笑っていた」

私が抱いた第一印象を覆すような彼の奥手ぶりが、何だか可愛らしくて。
恥じる彼の表情一つ一つ、思い出しては胸がきゅんとする。

魔王子「で…俺はこうした」

姫「きゃっ!?」

彼は手を私の頭に乗せ、ぐしゃぐしゃと撫で回した。
何だかくすぐった。だけど、その手は柔らかくて――

魔王子「それで笑い合ったよね、俺たち」

姫「はい…」

魔王子「だから言えるんだよ、100%ないって」

姫「え…えっ?」

彼は私の頭から手を滑りおろし、両手で私の頬に触れた。
正面で向かい合う形となり、彼は優しく微笑む。

魔王子「姫様がグルだったら、そのやりとり全部嘘になる――だから、俺は姫様を信じる」

姫「魔王子様――」

不確かな根拠。だからこそ感じる。私は彼に信頼されている、守ってもらえていると。
本当なら呆れるべきなのかもしれないけど、何だかたまらなく嬉しくて――

姫「ありがとう、ございます…」

魔王子「礼なんていらないよ、夫婦なんだから」

姫(もう、何で…)

彼の言葉はどうしてこう一々、私の心をときめかせるのだろう。
そんなにときめかされたら――全てを委ねてもいい、そんな気持ちになってしまう――

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:36:44.60 ID:twoSxGnW0
魔王「おい」

姫「!?」ビクッ

魔王子「!?」ビクッ

誰もいなくなったと思ったけど、魔王が戻ってきた。
私達はとっさに離れる。

魔王「会議室の鍵を閉めるから、早く出ろ」

魔王子「お、おーう」

私達はそそくさと会議室を出る。
けど魔王はすれ違いざまに、

魔王「スキンシップはいいが、自室でやれ」

姫「」

魔王子「うっせーな!見てねーフリしろよ!」

魔王「なら人目をはばかれ馬鹿息子が」グリグリ

魔王子「いでぁあああぁぁぁ」

姫「お、お義父様、その辺でご勘弁を」オロオロ

魔王の頭ぐりぐりは、頭蓋骨を破壊せんばかりの破壊力であった(ように見えた)。

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/24(火) 17:37:37.60 ID:twoSxGnW0
今日はここまで。
早くもきゅんきゅんして仕方ないです。

41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/24(火) 18:10:50.32 ID:5GDtnDqMO
魔王子イケメン過ぎる惚れるわこんなん

42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/24(火) 19:54:23.52 ID:msO/tK2DO
乙です
魔王子がイケメン過ぎて生きてるのが辛い
姫様が可愛すぎて生きる希望を持てました

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:37:03.91 ID:lTIDVNiE0
魔王子「くっそー、あのクソ親父…」ズキズキ

姫「まぁまぁ…」

並んで歩きながら、魔王子は頭をさすっていた。
撫でてあげたい気持ちはあるが、人目をはばかれと言われたばかりだ。

そんな時、背後から声をかけられた。

妖姫「ねぇ」

姫「!!妖姫様…」

妖姫は腕組をし、やや高圧的な雰囲気で声をかけてきた。

魔王子「なになに、どうした」

妖姫「あんたじゃないわ。お姫様にお客様よ」

姫「私に…?」

妖姫「えぇ。勇者、と名乗っていたわ」

姫「!?」

どうして勇者が――

妖姫「昔の女を追って来るなんて、ふてぶてしい間男ねぇ」

姫「彼はそういうのでは…」

妖姫「いいからさっさと行きなさいよ。城の前で待っているわよ」

そう言って妖姫は去って行った。取り付く島もない。

姫「あ、じゃあ魔王子様…行ってきますので」

魔王子「…おう」

47 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:37:32.67 ID:lTIDVNiE0
勇者「姫様、魔王城での生活は如何ですか?」

姫「えぇ、皆さんよくして下さいます」

代々勇者の一族に生まれた勇者とは同年代で、幼馴染。はっきり婚約していたわけではないけど、周囲からは何となく結婚するだろうと思われていた。
私はどちらかというと、彼に兄に近い感情を抱いていた。

勇者「王様は貴方を心配しておいでです。様子を見て来いと命じられましてね」

姫「まぁお兄様ったら。まだ結婚してから日が経っていませんのに」

勇者「…俺も、心配してします」

姫「ありがとうございます勇者様。でも見ての通り、私は元気です」

勇者「…貴方は見ての通り、の人ではありません」

姫「え?」

勇者「辛いことがあってもそれを表に出さず、明るく振舞うような方だ――俺はそれをよく知っている」

姫「…」

辛い――というわけではないが、確かに魔王子が命を狙われた件で不安は残っている。
けれど無関係の勇者にそれを話す気にはなれなくて。

姫「本当に、元気でやっていますから」

勇者「そうですか――」

勇者は寂しそうな笑みを浮かべた。一体、どうしたというのか。

48 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:38:13.24 ID:lTIDVNiE0
勇者「結婚式の日、俺は貴方の運命を嘆いていましてね」

姫「え?」

勇者「和平の為の政略結婚…政治的手段で、婚姻を結ばされる方は駒だ。俺は貴方が駒になってしまったことが悔しく、しかし王を説得する力も無かった」

姫「考えすぎですよ勇者様」

政略結婚と言えば、冷たいイメージのする言葉だ。
だけど私の夫である魔王子は暖かい人で、優しくて――

姫「私は納得しています」

勇者「そう…ですか」

姫「えぇ。あの方に一生寄り添っていくつもりです」

勇者「もし」

姫「?」

勇者「もし王の決めたお相手があの魔王子でなければ――それでも貴方は、納得したでしょうか」

姫「…」

私は答えられなかった。
だってそれはもしかしての話であって、そんな経験は1度も無かったし、これからも有り得ないのだから。

姫「とにかく心配は不要ですわ。私は今、幸せで一杯ですから」

勇者を心配させないよう、私は満面の笑顔を見せた。

勇者「姫様――」

姫「はい?」

勇者「俺は…貴方が…」

姫「?」

勇者「…いえ」

言葉を止めると、勇者はくるっと振り返り私に背を向けた。

勇者「お時間を取らせてしまって申し訳ない…どうか、お幸せに」

姫「えぇ…お体に気をつけて」




魔王子「…」ジロー

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:38:47.28 ID:lTIDVNiE0
姫「只今戻り…あら?」

部屋に戻って早々、私は魔王子の顔に違和感を覚えた。

魔王子「おかえりー」ムスーッ

姫「…」

何だろう、機嫌が悪い。
この数分の間に何があったのか。

姫「あの…魔王子様?」

ソファーの、彼の横に腰掛ける。
機嫌が悪くても、彼に近寄りがたい空気はない。

姫「どうなさったんですか?」

魔王子「何がー?」

姫「何か嫌なことでもありました?」

魔王子「…」

魔王子は視線をそらして黙ってしまったが、何だかその表情はどこか照れくさそうだ。

魔王子「上から見てた」

姫「え?」

魔王子「…勇者って、いい男だね」

姫「そう言われていますね」

魔王子「嫉妬」

姫「…え。えっ?」

魔王子「だーかーらー」

魔王子は顔を真っ赤にし、こちらに振り返る。

魔王子「嫉妬したの!君と勇者が喋ってる所見て!」

姫「…」

姫「くすっ」

魔王子「いや確かに器小さいけどさ…笑わなくたっていいじゃん」ズーン

姫「いえ、そうでなくて」クスクス

50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:39:47.53 ID:lTIDVNiE0
姫「魔王子様って素直だなって…はっきり、嫉妬っておっしゃる方そうそういませんよ」

魔王子「はいはい、思ったことすぐ口にしちゃうガキですよー」

姫「そんな、すねないで。ね、魔王子様」ソッ

魔王子「っ!」

私は彼の肩に頭を預ける。彼の肩は一瞬ぴくっと強ばったものの、私から逃げようとはしない。

姫「そんな貴方も、嫌いではありませんよ」

魔王子「…こんなガキっぽい男でも?」

姫「むしろ貴方に嫉妬されるのは、何だか気持ちがいいです」

魔王子「……そうか?」

姫「えぇ。貴方が私を妻だと思って下さっている証拠ではありませんか」

魔王子「…」

魔王子は寄り添う私の頭に、そっと手を添える。
彼の顔は見えない。だけどその手から、彼の感情がダイレクトに伝わってくる。

魔王子「なぁ」

姫「はい?」

魔王子「しばらく、こうしていてもいい?」

姫「えぇ」

魔王子「姫様って…」

姫「はい?」

魔王子「いや…何でもない」

そうやって寄り添いながら、時間はゆっくり流れていった。
こうやって2人寄り添って、他愛なく過ごす――きっとこれから先の人生もそうなんだろう。

それって何だか幸せだな――

静寂すら心地よく思いながら、私はこの気持ちに浸っていた。

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:40:24.14 ID:lTIDVNiE0
それから城の警備は強化され、次の刺客が来ることはなかった。
だけれども。

魔王子「あー、うー…」ユサユサ

姫「魔王子様、貧乏ゆすりはいけませんよ」

魔王子「こんな生活してたら頭おかしくなるわああぁぁっ!!」

命を狙われた身である魔王子は外出を制限され、不満がかなり溜まっているようだった。

魔王子「外出は護衛つきなんて、息抜きになんねーし!!」

姫「仕方ありませんよ、魔王子様は国にとって大事な方です」

魔王子「ちきしょおおぉぉ、これじゃあどんどん先延ばしじゃねぇかあああぁぁ!!」バンバンッ

姫「何がですか?」

魔王子「新婚旅行!」

姫「あらら」

まさか私の為だとは…察してあげられず、申し訳ない。

姫「私は落ち着いてからで構いませんよ。それに、旅行のプランをじっくり考える時間ができたじゃありませんか」

魔王子「うーん…それもそうだな!よし、図書室から資料持ってくるから、旅行プラン考えようぜ姫様~」タタタッ

姫(元気になりましたねぇ…)

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:40:58.42 ID:lTIDVNiE0
魔王子「うらららっ!!」バシュバシュ

兵士「どひゃああぁぁ」

剣の稽古の時間、魔王子は鬱憤を晴らすかのように大暴れしていた。
八つ当たりの標的にされた訓練相手が、何だか気の毒に思えてくる。

魔王子「あ、姫様ー!どうどう俺の剣さばき、惚れたー!?」

姫「え、えぇ。手加減してあげて下さいね」

10人斬りを果たしても元気が有り余っている魔王子に、若干の苦笑いを禁じえない。

魔王子「次は誰が相手だ~?来いよホラ~」

兵士達「ヒイィ」

兵士達もすっかり引いているではないか。

「じゃ、俺が相手してもらっちゃおっかなー」バッ

魔王子「ん?」

そう言って魔王子の前にスタッと着地したのは…。

従者「どもども、魔王子様~♪」

魔王子「おーお前か。その実力確かめさせてもらうぞー」ニヤリ

従者「えぇ、魔王子様相手とはいえ手加減はしませんよー」ニヤリ

性格が似ている2人は、戦う前から楽しそうだ。
こういう、男の世界は、正直私には理解不能。

魔王子「行くぞっ!!」

従者「はいっ!!」

53 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:41:26.75 ID:lTIDVNiE0



従者「あだだ~」

結論から言うと、瞬殺だった。

魔王子「はっはっは、従者!まだまだ俺に挑むのは早かったな!」

姫(従者は護衛向きだから、真っ向勝負で負けるのも仕方ないんだけれど)

従者「くそー!何なんだよあんたは、顔よし、スタイルよしの上に強いって!!完璧超人ですか!!」

姫「従者、口のきき方に気をつけなさい」

魔王子「無礼講、無礼講。完璧超人か、なかなかいい響きだ」

従者「うおぉ、完璧超人を受け入れた!流石魔王子様!」

魔王子「ふっ…今の俺を倒せる者はいない!!」

魔王「本当だな?」

魔王子「」

姫「あら、お義父様」

魔王「通りがかったので様子を見に来た…そうか魔王子、今のお前は我にも勝てるのだな?」ゴゴゴ

魔王子「え、あ、いやー…」汗タラー

魔王「よし、久々に我が相手になってやろう!来い、魔王子いいぃぃ!!」ゴオオォォォッ

魔王子「どわああああぁぁぁ!?」

姫(あらー)

従者(うわー)

兵士(あーあ)

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/25(水) 17:44:07.52 ID:lTIDVNiE0
今日はここまで。
更新の度にイチャイチャしてやがりますね。えぇ、いいことです。

55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/25(水) 17:44:49.63 ID:nYoxdcmMO
おつ!
平和なのは良いことですねぇ

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:04:38.41 ID:phlsbgjy0
そんなインドアな生活を過ごしてきたが、やはり数日経てば…。

魔王子「やっぱもう無理いいぃぃ!!外出してえええぇぇ!!」

遂に我慢の限界が来た。

魔王子「いいだろ親父!遊びに行かせてくれ!!」

魔王「…また暗殺者に狙われたらどうするんだ馬鹿息子」

魔王子「返り討ちにすりゃいいだけだろ。そう簡単にやられるようじゃ、次期魔王はつとまらねーよ」

魔王「全く…」

魔王は呆れたようにため息をついた。

魔王「まぁ、お前のことだから駄目だと言っても隙を見て城を抜け出すのだろう。もう止めはせん」

魔王子「よっしゃー、ありがと親父ー♪」

魔王「さて、葬式の準備をせねばな」

魔王子「おい…笑えない冗談はよせ」

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:05:11.19 ID:phlsbgjy0
魔王子「姫様ー、外出許可出たからデートしようぜデート」

姫(何かすんなりオーケーもらえた訳では無さそうな気がするけど)「どちらまで?」

魔王子「街の方に行こう、あそこは人間も沢山いるぜ!」

姫「えぇ、では行きましょう」

魔王子「ちょっと待ったぁ!」バサァ

姫「あら」

魔王子は手早く、私に頭からマントを被せた。

魔王子「忍んで行かなきゃ危ないぜ、俺のお姫様♪」

姫「…ふっ、ふふふふっ」

魔王子「笑うとこじゃない、ときめくとこ!!」

姫「ご、ごめんなさ…あははっ、ふふふふっ」

魔王子「ああぁ恥ずかしくなってきた!!もう、行くぞっ!!」

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:06:21.12 ID:phlsbgjy0
魔王子が走らせる馬に一緒に乗り、私達は街にやってきた。
初めて来たけれど、街は賑やかで楽しそうだ。

魔王子「どこから行こうかな~♪甘味屋にー、衣装屋にー、噴水広場にー」

だけどそれ以上に、魔王子が浮かれていた。

魔王子「ずっとさぁ、お姫様連れてきて、したかったことあるんだよ」

姫「何ですか?」

魔王子「手ぇ繋いで歩こうぜ!!」

姫「ふふ。えぇ、歩きましょう」

私は手を差し出す。
夫婦としての段階を踏んでいくと約束したが、手を繋ぐことにお互い抵抗はない。

魔王子「俺の側から離れんなよ~、なんてね~」

姫「どこまでも着いて参ります」

魔王子の足取りは軽く、表情も声も明るい。それだけ私と歩くのが嬉しいと思ってくれているということだ。
何だか嬉しい。こうやって一緒に街歩きすることも、姫に生まれた自分には難しいことだと思っていたけれど。

魔王子「この街は甘いもんの激戦区なんだよなー。ずっとお姫様に食わせてやりたかったの!」

彼なら身分に関係なく、色んな楽しいことを教えてくれそうだと思った。

魔王子「ねぇどれ食いたい?あ、食えるなら全部食ってもいいよ~」

姫「流石に太っちゃいますよ~」

魔王子「姫様痩せてるから多少大丈夫だよ。それに俺、ぽっちゃり体型もいいと思うよ」

姫「駄目ですよ…将来この国を背負って立つ方の妻がだらしない体型なんてしていたら…」

魔王子「やべ、可愛い…」

姫「え…?」

魔王子「健気で可愛いな~俺の奥さんは~」ナデナデ

姫「きゃっ、もう魔王子様ったら」


店主(何だこのバカップル)

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:07:25.97 ID:phlsbgjy0
手を繋ぎ、もう片方の手でクレープを持って移動する。
食べながら歩くなんて、母国の者に知れたらはしたないと叱られるだろう。

魔王子「民を治めるなら、民の生活に触れるのが1番だよやっぱ」

姫「お義父様はそのような方に見えませんでしたが…」

魔王子「あ、俺の持論だからね」

まぁそうだろう。
人間と魔物が和平を結ぶ前は、魔物達の王として勇者達と戦ってきた王だ。
幼少時代から平和に過ごしてきた、魔王子のような庶民的思考ではないだろう。

「んだとコラアァ!」
「あぁん、やんのかぁ!?」

姫「ひえっ!?」ビクッ

魔王子「何だ喧嘩か?ちょっと俺のクレープ持ってて」

そう言うと魔王子は、騒ぎのする方に駆け出していった。
私は慌てて彼の後を追う。

騒ぎは、そこからそう離れていない表街道で起こっていた。

「人間の分際でなめた口きいてんじゃねぇぞオイ!!」
「叫ぶんじゃねーよ、魔物の息はくせぇんだよ!!」

姫(あぁ…)

人間と魔物の喧嘩だった。これは母国でもよく起こっていた事態。
恐らくきっかけは些細なことだろうけれど、互いへの差別意識から大きな喧嘩に発展する。それは、よくあることだった。

幸い、この街は両種族が共存できている方であり、喧嘩を遠巻きに見る者はいても、便乗する者はいなかった。

魔王子「おい、白昼堂々こんな所で喧嘩してんじゃねーよ」

「何だと、お前も魔物か!」
「元はと言えばこの人間が!」

マントで顔をほとんど隠している為か、彼が魔王子だと気づく者はいないようだった。
だから彼の乱入は、抑止効果にはならなかった。

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:08:39.70 ID:phlsbgjy0
魔王子「何で喧嘩してるんだ」

「この魔物が~」
「この人間が~」

互いに興奮して叫んでいるので詳細はよくわからなかったが、要するにぶつかったとか、謝罪の仕方が気に食わなかったとか、そういう話のようだ。
魔王子はそれを聞いて、ハァとため息をつく。

魔王子「喧嘩が悪いこととは言わないけどさ。この魔物がー、とか人間がー、とか。今時種族差別は格好悪いぞオッサン達」

「何だと若造がぁ!!」

きっと彼らは、互いの種族が争ってきた時代を知っている者達。
だから互いへの差別意識を捨てきれずにいて、自分より若い魔王子からの上から目線が気に入らないのだろう。
だけど確かに、魔王子の言う通り、これが同種族同士なら喧嘩には発展しなかったのではないかと思う。

魔王子「オッサン達、家庭も仕事もあるんだろ?こんな所で喧嘩して捕まったら、支障があるぞ」

「うるさい!お前には関係ない!!」

魔王子「…しゃーねぇな」ポリポリ

魔王子は面倒くさそうに頭を掻いた。

魔王子「あんたら2人が加害者にならなけりゃ、問題はないわけだ」

「あぁ!?どういう意味だ!」

魔王子「簡単だ…!!」

そう言うと魔王子は、一気に駆け出した。そして――

ドガバキッ

魔王子「俺が加害者でお前達は被害者――これが平和的解決だろ」

魔王子に一擊ずつ喰らい、両者は吹っ飛んだ。
その一擊はもろ急所にヒットしたようで、2人とも起き上がれずにいる。

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:09:11.42 ID:phlsbgjy0
魔王子「さてと」

魔王子はそんな2人の様子を見ないで、人ごみをかき分けてこちらに走ってきた。
そして、私の手をがしっと掴む。

魔王子「逃げるぞ姫様!」

姫「え…えっ!?」

魔王子「今のは俺による暴行・傷害罪だ。親父にバレたらケツ叩き100発は喰らう!」

そう言う彼の顔はやや青みがかかっていた。
そんなに恐ろしいなら、やらなければ良かったのに…と思うが口には出さない。

兵士「こらー、何をやっているーっ!」

魔王子「ヤッベ、もう来たーっ!!」

姫「あ、あわわわ」

私は彼に手を引かれるまま疾走する。
後ろから兵士の怒鳴り声がしたが、振り向いている余裕はなかった。

やがて町外れで休ませていた馬の所に辿り着くと、急いで飛び乗り、私達は街から離れた。

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:10:51.53 ID:phlsbgjy0
姫「ハァ、ハァ…」

魔王子「ご、ごめんな?キツかったよな?」

姫「あ、いえ…それよりも、本当に良かったのかなって…」

魔王子「いや、全ッ然良くはない」

姫「もー…」

このドキドキは疲れというより、背徳感だ。品行方正に生きてきた自分には、少々辛い。

魔王子「田舎の方ならまだしも、街だとああいう事態はめったに無いんだけどなー…」

姫「…」

魔王子にとって久しぶりの外出が台無しになってしまった。気分を害するのも無理はない。

魔王子「本当ごめんな姫様。どうしても放っておけなくてさ」

姫「いえ…」

魔王子「あの2人、多分そんな悪い奴ではないと思うんだ。それが前科者になったら、ますます荒れると思って」

姫「…そうですね」

種族差別。それをするのは悪い者だけではない。
普段は差別意識を抑えている「善良な市民」でも、ちょっとしたことで差別意識が表に出て加害者になってしまうことがある。

私の兄だって、そういう人の1人で――

魔王子「お詫びと言っちゃ何だけどさ」

姫「はい?」

魔王子「気分転換に、他の場所連れて行くよ」

姫「他の場所…ですか?」

私が尋ねると、魔王子は無邪気に笑った。

魔王子「俺の、秘密基地!」

姫(秘密基地…)

男の子が大好きな、あれのことか。魔王子の年齢には幼いイメージがあるけれど、秘密基地と口にした時の魔王子は楽しそうだった。
それなら、きっといい場所なのだろう。

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:11:42.25 ID:phlsbgjy0
少し馬を走らせた後、崖の麓までやってきた。
やや荒れ気味な、難解な場所に見えるが…何度も来ている魔王子には、自分の庭のようなものなのだろう。

魔王子「ちょっと足場悪いけど、気をつけて」

木に馬を繋ぎ、足場の悪い道を、彼に手を引かれながら歩く。
ヒールの低い靴を履いてきたおかげで、足が痛くなることはなかった。

魔王子「ここ」

姫「ここ…ですか」

彼の案内で来たのは、崖の割れ目だった。割れ目は大きく広がっており、小さな洞窟のようになっている。

魔王子「さ、入って」

姫「え…えぇ」

一瞬躊躇したものの、魔王子に手を引かれて足を踏み入れた。
何だか怖くて、私は彼の手を強めに握っていた。

姫(…あら)

少し進むと、風を感じた。この空洞は、吹き抜けになっているようだ。
それに――

姫(明るくなってきた)

太陽の光が差し込む場所でもあるのだろうか。

魔王子「ほら、着いた」

辿りついた所にあった風景は――

姫「…わぁ~」

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:12:43.67 ID:phlsbgjy0
道の先には、広めの空間があった。
そしてその空間の壁中に、小さな光を発する花が咲き誇っていた。

薄暗い中で花が光を放つその幻想的な光景に、私は目を奪われてしまう。

魔王子「どう?俺の秘密の場所」

姫「綺麗です…」

単純すぎる感想だったけど、それ以外に言い様が無い。

魔王子「だろ?姫様、中心に立って」

姫「えぇと…こうですか?」

魔王子「うわー、いい!まるでお花の妖精!妖精の国のお姫様だよ!」

姫「も、も~、そんなぁ」

魔王子「で、俺は」

魔王子は私の側に来ると跪き、私に手を差し出す。
その動作に戸惑いながら、私は彼の手に触れた。

魔王子は私の手を取ると、その手にゆっくり唇を近づけて――

魔王子「俺はお姫様の、運命の王子様――ってわけだ」

姫「」

姫「」ボッ

一瞬、頭が沸いてクラッとした。
いつも不真面目だけど、やはり美麗な魔王子。こういう動作をすれば様になりすぎていて――

姫(もおおおおぉぉぉぉ、魔王子様っ、駄目、それ駄目ッ!!!)

魔王子「姫様ー?どうしたの?具合悪い?」

姫「貴方のせいですーっ!」

魔王子「そっか、なら良いや!」

姫「全っ然良くないです!!」

68 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:13:25.88 ID:phlsbgjy0
魔王子「この花には魔力が宿っているんだ。何か不思議な力がありそうじゃない?」

姫「そうですね…光っているのも、その為かもしれませんね」

魔王子「ま、とりあえず座ろうか」

姫「えぇ…」

私は草の上に腰を下ろした。
そして魔王子は――

魔王子「隙ありー」ガバッ

姫「えっ!?あっ!?」

滑り込むように、私の膝に頭を置いた。
それから、悪戯っぽい笑みを私に向ける。

魔王子「へっへへー」

姫「…もう、魔王子様ったら」

魔王子「ごめーん。でも中身入ってないから軽いだろ、俺の頭」

姫「何をおっしゃっているんですか」

口では彼を咎めながらも、思わず笑いがこぼれてしまう。
私に心を許し、甘えてくれる彼が、何だか可愛らしくて。

魔王子「しばらく、こうしていてもいい?」

姫「えぇ…構いませんよ」

魔王子「乙女チックな場所だけど、俺はここが好きでさ」

姫「私も、好きになりました」

魔王子「奥さんと一緒に来るのが夢だったんだ」

姫「何だか勿体無い気もしますね…こんなに綺麗な場所を、私と貴方しか知らないだなんて」

魔王子「…いや、ごめん」

姫「え…?」

魔王子「実はここを教えたのは、姫様が初めてじゃないんだ」

姫「まぁ、そうだったんですか」

口ではそう返事したものの――

69 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:14:13.85 ID:phlsbgjy0
魔王子にそれを聞いた瞬間、もやっとしたものが沸いた。
ここは魔王子の秘密の場所。それを知っているのは、私だけじゃない。
これは――

魔王子『嫉妬したの!君と勇者が喋ってる所見て!』

先日、彼の言っていた感情のことか。

魔王子「つっても、子供の頃の話な。教えた相手は、もうここに来ないよ」

姫「…というと?」

魔王子「相手はこっちに旅行に来てた女の子でね。旅行の間だけ、一緒に遊んでいたんだ。小さい子だったし、今じゃ忘れているかも」

姫「あらあら」

彼の言葉に、ほっとしてしまう自分がいた。
この場所が魔王子と自分だけの秘密の場所であるという事実が戻ってきた。ただそれだけのことが、本当に嬉しい。

魔王子「…なぁ姫様」

姫「はい、何でしょう?」

魔王子「弱音吐いていい?」

姫「どうされたんですか?」

魔王子「うん…ちょっと思い出しちゃってさ」

口調はいつも通りの朗らかな彼。だけどその瞳は何だか弱気になっている。
辛い過去は、思い出すだけで人の心を削る。いつも元気な彼にもそういう過去はあって、今の彼に辛い思いをさせている。

だけど口に出して共有することで和らぐ痛みだってあって――

姫「えぇ――おっしゃって下さい」

彼が望むなら、それを共有してあげたかった。

私は彼の頭をゆっくり撫でる。自分のできる限りの優しさで彼を包み込んであげられたら――そうしてあげたくて、仕方がなかった。

70 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/26(木) 19:15:12.96 ID:phlsbgjy0
魔王子「その女の子さ――人間だったんだよね」

彼は恐る恐る自分の痛みに触れようとしているようで、ゆっくり語り始める。

魔王子「仲良くなったきっかけは俺も覚えていないけど、その子といると楽しくて…でも、許されなかった」

姫「許されなかった…?」

魔王子「うん」

魔王子の表情は沈む。

魔王子「その子の家の召使かな…?とにかく大人が出てきて、もうその子と会うなって俺に言ったんだよ」

姫「…」

魔王子「その時に言われた言葉がさ。「薄汚い魔物」とか「お前といると穢れる」とか…本当、バカみてーな言い分だよな」

姫「えぇ…口にするのもおぞましい言葉です」

魔王子「だけど怖かったんだよ俺。人間は俺のことをそう思っている。姫様だって…」

魔王子は私の頬に触れる。

魔王子「俺と結婚することで穢れたら――」

姫「穢れてなんていませんよ、魔王子様」

魔王子「でも、そう思う人間もいる。姫様がそういう風に思われていると思うと、俺…」

姫「私は気にしませんよ」

弱気な彼を包み込んであげたくて、彼の頭を両腕で包み込む。
彼の耳にあてた胸の音で、私は嘘をついていないと彼に教えた。

姫「夫婦じゃありませんか、私達は」

魔王子「…姫様」

彼は体を起こし、しがみつくように私の体を抱く。
その手は私の体をゆっくり這い上がっていき、頭に添えられた。

そして――


魔王子「んっ――」

姫「――」


触れるような優しい唇。結婚式以来、初めてとなる触れ合い。
だけどあの時とは比べ物にならない位、それは私の胸を熱くして――

姫(魔王子様――)

心を、幸せで満たしてくれた。


72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/26(木) 19:45:30.53 ID:KMLAE6QuO
乙です(何だこのバカップル)

73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/26(木) 19:49:34.41 ID:YfdnRTQOO
リア充爆発しろよ(いいぞもっとやれ)

74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/26(木) 19:59:01.35 ID:1StwEKXpo
おつ!

75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/26(木) 21:36:29.35 ID:n61I1Zj2O


76 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:33:00.29 ID:Oxszq2730



魔王子「そろそろ戻ろうか。遅くなったら親父がマジで葬式あげかねないし」

姫「そうですね」

しばらく静かな時間を過ごした後、魔王子が口を開いた。
私は立ち上がる…が、その瞬間よろめいた。

魔王子「おっと」

すかさず魔王子が支えてくれた。

魔王子「ごめんごめん、足痺れたよね」

姫「すみません…少し時間を置いて…」

魔王子「じゃあ、こうしようか」ヒョイ

姫「きゃあ!?」

魔王子は軽々と私を持ち上げた。
これは俗に言う、お姫様抱っこというやつだ。

魔王子「本物のお姫様をお姫様抱っこできるなんて、俺は贅沢者だぁ」

姫「ま、魔王子様…ぁ、恥ずかし…っ」

魔王子「恥ずかしがる姫様も可愛いよ~?」

姫「も、もーっ!」

さっきまでの弱気はどこへやら、今はすっかりいじめっ子だ。
本当に困った人だ…でも相手が魔王子だから、嫌という感情はない。

魔王子「あ、そうだ」

姫「?どうしました」

魔王子「俺、昔その子に花をあげたんだよね。姫様も持って帰る?」

姫「いえ、ここで咲かせてあげて下さい。私はまた来れますし」

魔王子「そうだね。また来よう」

姫「ところで魔王子様、お花をあげたということは、その子は貴方の初恋でしょうか?」ニッコリ

魔王子「………さー帰ろうか!」

姫「魔王子様~?」

77 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:33:42.13 ID:Oxszq2730
外に出ると夕日が出ていた。
馬を走らせ、魔王城までの道を戻る。

姫(えへへ~)ギュウ

先ほどまでの余韻に浸り、魔王子に強めに抱きついていた。
彼も何も言わない。気付いていないのか、照れているのか。

とにかく余韻に浸れる内はどっぷり浸っていたい。今、私の心はトロットロだ。

姫(幸せぇ)スリスリ

と、その時。

魔王子「ごめん姫様」

姫「え?」

魔王子は突然、馬を止めた。
それから、馬から飛び降りて、腰の剣を抜く。

姫「魔王子様…?」

魔王子「そこから動くなよ姫様」

それから魔王子は、ある方向を剣で指した。

魔王子「潜んでいるのはわかっている!出てこい!!」

姫(えっ!?)

魔王子が叫んだ直後――

ババッ

姫(3人!?)

木陰から、覆面で顔を隠した3人の暗殺者が現れ、魔王子に襲いかかった。

78 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:34:13.10 ID:Oxszq2730
魔王子「ナメられたもんだな…3人に増やしゃ俺を殺れると思ったか!!」

魔王子はそう言うと、襲いかかる刃を弾いた。
3人は魔王子を取り囲むように位置取りし、慣れた動きでそれぞれの方向から魔王子に迫った。

だが――

魔王子「無駄だっつってんだろ!!」

魔王子は素早い動きで体をひねらせ、3つの攻撃をそれぞれ防ぐ。

魔王子「でりゃっ!」

暗殺者A「っ!」

それから続けざまの攻撃で1人の暗殺者の手を打ち、刃を落とす。
残りの2人はその動作の間に魔王子に刃を突き出したが――

魔王子「鬱陶しい…!!」

魔王子は体制を低くし、刃をかわす。
それからすぐに体制を立て直し、剣をおお振りした。

暗殺者B&C「!!」

そして彼の放った剣はひと振りで、2人のそれぞれ腕と脇腹を切りつけた。

79 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:34:54.96 ID:Oxszq2730
姫(凄い、圧倒的…!!)

丸腰でこの間の暗殺者を撃退した時といい、訓練の時といい、彼が強いのはわかっていた。
だけど3人相手に圧倒する程とは、思ってもいなかった。

魔王子「さーてと…!!」

魔王子は攻めに転じる。次から次へと放たれる斬撃に、暗殺者達は3人がかりでも防ぐのに精一杯。

暗殺者A「…っ!!」

暗殺者B「ぐっ」

そして防ぎきることもできず、剣の刃が彼らの体に傷をつける。
このまま、魔王子が押し切れる――そう思っていた、その時。

暗殺者B&C「…!!」ダッ

魔王子「あっ!?」

暗殺者の内2人が、まるで打ち合わせていたかのようなタイミングで逃亡した。
これでは残された1人が圧倒的に不利だ。

魔王子「…何だか知らんけど、都合がいい」ドカッ

暗殺者A「!!」

魔王子は残された1人を蹴っ飛ばし、続けざまに地面に組み伏せる。

魔王子「3人いっぺんに運べねぇからな。1人残ってりゃ、十分だ」

暗殺者A「…!!」

魔王子「俺はデート邪魔されて機嫌が悪ぃ…覚悟しやがれ」

と、魔王子が彼をひねりあげようとした時だった。

暗殺者A「…っ!」ドガッ

魔王子「っ!」

暗殺者の蹴りで、魔王子がわずかに吹っ飛ぶ。だけど、本当にわずかな距離だ。
ここから反撃や逃亡に転じることは不可能そうだが――

暗殺者A「――」ズバッ

魔王子「―――っ!?」

姫「あぁっ!?」

暗殺者は躊躇なく、自分の首をかっ切った。

80 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:35:25.45 ID:Oxszq2730
姫「ひ…っ」

魔王子「姫様、向こう向いてろ」

私は首から大量の血を流す暗殺者を直視できず、横目で魔王子の動きを見た。
魔王子は暗殺者の側に寄り、脈を確かめている。

魔王子「…駄目だ、死なれた」

姫「わ…私がすぐに魔法を使っていれば…」

魔王子「いや、どっちみち駄目だったよ」

魔王子は私の側に寄り、気遣うように背中をさすってくれた。

魔王子「けどこれでわかったな。暗殺者は複数いる。こないだの奴が単独犯なのか、同じ組織の奴かはわからないけど…」

姫「魔王子様…」

魔王子「とにかく早く帰るか」

魔王子は馬に飛び乗ると、すぐに馬を走らせた。

姫(何だか…怖い)

魔王子は強い。警戒を強めた今、彼はそう簡単に殺されないだろう。
だけどたまらなく不安だ。どうして彼は、命を狙われる程の悪意に晒されているのか。

何もわからない。だから不安で、怖い。

先ほどとは違った意味で彼に強く抱きついた私に、彼は一言「大丈夫だよ」とだけ呟いた。

81 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:36:44.09 ID:Oxszq2730
城に戻ってすぐに、暗殺者が現れたことを魔王に報告する。
緊急で城の重役達が集められ、また会議を開くことになった。

「やはり狙いは魔王子様か…」
「しかし何故…」
「反逆者の仕業か…」

悪魔「ちょっといいかね」

悪魔が声を発したと同時、私の横にいた魔王子の目つきが険しくなった。
魔王子は彼の発言を快く思っていない――そして案の定、悪魔はその心配を裏切らなかった。

悪魔「また、姫君と2人でいる時を狙われたな」

魔王子「だから何だと言うんですか?」

魔王「落ち着け魔王子。で、悪魔。お前は相変わらず姫君を疑っているのか?」

悪魔「この間も言ったが可能性の1つだ。今回の外出はお忍びだったな、魔王子?」

魔王子「んなもん、城を張ってりゃ簡単にバレると思いますけど?」

魔王子は悪魔への敵意を隠そうともしない。
だが悪魔はそれに動じず、口元に笑みを浮かべた。

悪魔「魔王子から聞いた賊の行動、少々不自然ではないか?」

魔王「不自然、とは?」

悪魔「あぁ。賊の内2名は魔王子に勝てないとわかると一目散に逃げたとのことだが――」

それから悪魔は、私に冷たい目を向けた。

悪魔「俺が賊なら、姫君を人質に取るがね」

魔王子「何が言いたい?」

悪魔は「別に」と言って話を切る。だけど彼の言った意味はわかる。
つまり、彼らは私と手を組んでいるから、私に手を出さなかったのではないかと――

魔王子「…俺から弁解させて頂くと」

姫「?」

魔王子「姫様が連中と手を組んでいるとして、俺を狙うなら、もっといいタイミングはいくらでもあった。今日は散々隙だらけで甘えさせてもらったしな」

姫(なっ…)

こんな大勢の前で何を…恥ずかしくて、この場から消えたかった。
皆にドヤ顔を披露する魔王子とは対照的に、私は隣で縮こまっていた。
あぁ、他の皆も苦笑いしている。魔王なんて顔をしかめて、物凄い威圧感を醸し出しているではないか。

悪魔「…仲睦まじいことは結構だが、俺が姫君を信用しきれないのには理由があってね」

姫(え…?)

魔王「何だ悪魔。言ってみろ」

悪魔「はい…姫君の母上は、魔物に殺されたそうだな?」

姫「!!」

82 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:37:39.99 ID:Oxszq2730
それは私が物心つく前の出来事。
争いの終期に起こった事件であり、兄が魔物を憎むようになった大きなきっかけ。

当時の王であった父は妻を殺されて、魔物を憎む以上に、意気消沈していたそうだ。
魔物と人間の和平は、互いの平和を望む気持ちではなく、双方の憔悴によって築かれたものだと言われている。

だけれど――

姫「私は、魔物を憎んでなどいません」

これだけは、この場で言わねばならない。

姫「確かに母を殺した者を許してはいません。だけど魔物全体を憎んだり、無関係な魔王子様の命を狙うなど、その様なことは有り得ません」

悪魔「それが本当なら、姫君はお心の美しい方だ」

魔王子「お褒め頂き光栄です叔父上。俺の妻は美しい心の持ち主です」

魔王「やめんか2人とも」

また微妙な空気になった所を、魔王の言葉が遮った。

魔王「敵の狙いが魔王子だとはっきりわかったなら、警戒しておけばいいだけのこと。そう簡単には殺されんな、魔王子」

魔王子「当然」

魔王「それでこそ次期魔王だ。これからもお前の行動は制限せん。但し一緒にいると姫君にも危険に晒される可能性はあるから、そこだけは注意しておけ」

魔王子「はい」

魔王「うむ。では各自、警戒を強めておけ。では今日は解散だ」

こうして会議は終了となり、魔物達はぞろぞろと会議室を出て行った。

83 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:38:20.68 ID:Oxszq2730
姫「…」

今日は色々あった。
楽しいことも、ドキドキすることも、怖いことも、辛いことも。

魔王子「姫様?」

ベッドに端座位になって思いを巡らせていると、隣のベッドで臥床していた魔王子が気にかけて声をかけてきた。

魔王子「…叔父貴に言われたこと気にしてる?姫様に難癖つけたがってるだけだから、あいつは。他の皆だってわかってるよ」

姫「え、あ…」

魔王子「姫様もう会議に参加しなくてもいいよ。皆の前で色々言われるの嫌だろ」

姫「そ、それよりも」

魔王子「ん?」

姫「貴方の命を狙っている者がまだいるのだと思うと…私…」

魔王子「姫様は繊細だなぁ」

姫「え?」

魔王子は体を起こした。

魔王子「俺は次期魔王である以上、色んな奴の悪意に晒されるのは仕方ないと思っているよ。俺が死んで得する奴だって、当然いるだろう」

姫「そんな…」

魔王子「だから、それに負けないように強くなればいい。剣も、心も」

姫「魔王子様…」

意思のこもった瞳が私には眩しい。
彼はこの事態に少しも動じてはいない。それは彼がいい加減だからでなくて、強いからだ。私は彼に比べてあまりにも小さく、弱い。

何だか彼が一瞬、手の届かない存在のように見えて――

84 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:38:47.78 ID:Oxszq2730
魔王子「…つっても、姫様に心配してもらえるのも嬉しいんだけどね~」ニーッ

姫「…」

いつもの彼に戻った。

魔王子「新婚の内だけかもしれねぇなぁ、心配してもらえるの。俺が無敵だとわかったら心配もクソもねーし」

姫「そ、そんな、私は本当に…」

魔王子「うん、姫様はそれでいいよ」

姫「え…っ?」

魔王子「心配してもらえりゃ、ゼッテー死なねーって思えるから。だから、ありがとうな姫様」

姫「お礼を言われるようなことじゃ…」

魔王子「言いたくなるんだよ、こっちは。ありがとう」

姫「…ふふっ」

彼の満面の笑顔に、ついつられて笑ってしまった。

姫「今日はお疲れでしょう魔王子様。どうぞ、先にお休みになって下さい」

魔王子「じゃ、お先。おやすみー」

そう言ってから少しすると、彼は寝息をたて始めた。
この無防備な寝姿は、私を信用してくれている証拠だ。

彼は私を妻と認め、信用して、気遣って、守って――そして、想ってくれている。

彼と一緒にいると、幸せだった。
だからこそ失うのが怖い――そんな不安と恐怖も生まれた。

姫(私は彼に、何ができるんだろう…)

85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/02/28(土) 18:40:28.53 ID:Oxszq2730
今日はここまで。
延々とイチャイチャを書いていたい気持ちはありますが話進めませんとね。

86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/28(土) 19:47:40.29 ID:OBRNPWtOo
おつー
ところどころラブラブでニヨニヨするwwww

87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/28(土) 21:43:55.86 ID:oeR2L0crO
乙です

88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/01(日) 08:00:46.29 ID:2nFgM9NuO


89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/01(日) 16:59:02.94 ID:2FNzqnXDO
乙! 魔王がいい人だ…!

90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:16:47.37 ID:UNrR2KEi0
翌日、魔王子は朝から剣の稽古と言って訓練場に入り浸っている。
なので私はまた、女性同士で交流を深めようと厨房のメイドを訪れた。

姫「ううぅ、腕が痛くなってきたわ~」

メイド「あはは。貸して下さい、お菓子作りは体力勝負ですからね~」

ボウルに入れた材料を混ぜるだけで一苦労。
お菓子作りの道は険しい…。

メイド「魔王子様は甘いもの大好きですからね~。奥様の手作りならお喜びになるでしょう」

魔王子が…。
頭に、甘いものを大きな口で貪りながら「ありがとう姫様♪」と言う魔王子の笑顔が浮かんだ。

姫「頑張りますっ!!」

メイド「その意気です!」

姫「…そう言えば、今日は他の皆さんは参加しないの?」

メイド「それがですねー…」

メイドは苦笑いを浮かべた。

メイド「ほら、魔王子様の件で…混血種への当たりが強くなってましてねー…」

姫「メイドがやったわけじゃないのに!?」

メイド「あ、いやいや、仕方ないんですよ。私と仲良くしていると、その人も嫌な目に遭ったりしちゃいますんで…」

姫「誰にそんなことを」

メイド「…まぁぶっちゃけ、妖姫様です」

姫「まぁ…」

この城内においてはかなりの権力を持つ女性だから、彼女より権力の弱い者達に恐れられているのだろう。
まさか女性達の間でそんなことになっているなんて…恥ずかしながら、全然気が付かなかった。

91 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:17:21.66 ID:UNrR2KEi0
結婚初日に睨まれて以来、妖姫のことは苦手に思っていたが、あれ以降これといったいざこざは無かった。
顔を合わせれば挨拶くらいはするけど、態度で彼女が私を嫌っているのは察している。
けど嫌がらせをされるわけでもなく、どうしても顔を合わせねばならない場面もなく、互いに上手く避けて何とかやり過ごしてきた。

姫「妖姫様にいじめられていない?」

メイド「いえー…まぁ嫌な顔をされる位ですね」

姫「そう。でも、あまり辛い目に遭うようなら私のお付きになるといいわ」

従者「それいいっすねー!」

メイド「うわ従者!あんたいつの間に!?」

従者「甘い香りに誘われて♪今日は何作ってんの~?」

姫「ケーキを作るそうよ」

従者「おおぉ!俺はねバナナのが好きで…」

メイド「あんたの好みは聞いてない!」

姫(…うん?)

確かメイドが用意した材料の中にバナナが…。

従者「今日も余ったやつくれるの?」

メイド「余るとは限らないでしょ!」

従者「でも結構毎回余らせてるよね?」

メイド「うっさいわね、毎回じゃないわよ!」

姫「…」

これは、私が知ってる言葉で例えるとしたら…。
鈍感男とツンデレ娘か。実に前途多難なカップルだと思う。

92 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:18:56.75 ID:UNrR2KEi0
その後はお菓子作りに従者も混じり、3人で色んな話をしながらケーキを作った。

従者「でな、混血種は魔物と人間のいいとこ取りだから、母国じゃエリートってわけ」エッヘン

メイド「悪いとこ取りの奴もいると思うけど?」ジー

従者「俺はエリートなの!」

メイド「…そうなんですか姫様?」

姫「えぇ、本当よ」

母国の城に仕えていた混血種は、従者の言うエリートが多かった。
両種族が争っていた時代、混血種は、魔物より戦力が劣る人間側に重宝されており、その名残だろう。

混血種への偏見は人間の方が薄いかもしれない。

姫(けどお兄様は…)

思い出す。
混血種の料理番が作った料理を、体調が悪いと言って手をつけようとしなかった。
混血種の侍女が整えたベッドは自分で整え直していた。
混血種の貴族に贈られた贈答品は、使わず倉庫で眠らせていた。

魔物を嫌っている兄は、混血種のことも快くは思っていなかった。
かといって父から王位を譲られた途端、雇っている混血種の首を切っては、兄自身の評判が落ちる。
その為、兄は特に何もしなかった。何となく嫌いながらも、表立って差別はしなかった。

だから私も、兄の魔物嫌いは大したものではないと思っていた。

けれど私と魔王子の結婚が決まった時――


王『姫…決して相手に心を許すなよ』


兄の心の闇は、私が思っていた以上に深いものだと、悟ってしまった。

93 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:19:26.20 ID:UNrR2KEi0
メイド「さて、あとは焼きあがるのを待つだけですね!」

姫「ここからが長いのよね~」

メイド「そうですねー、今の時間はっと…」

メイドにつられ時計を見る。
とその時、従者が「あっ」と声を出した。

姫「どうしたの、従者?」

従者「いえっ。ちょっと用事思い出しましたんで…」

メイド「そうなの。ケーキはとっておいてあげるから、行ってきなさい」

従者「おうっ!ありがとなーメイド、今度お礼に飯行こうぜーー」ダッ

メイド「そ、それって…デー…ト?ってこらーっ、聞きなさい!!」

姫「ふふっ」

メイド「ったく…。あいつ本当無頓着なんだから」

姫「あれでも、普段はとても真面目なのよ」

メイド「あー確かに第一印象とは変わってきてるかも…」

姫「貴方の前では、違う自分を出せるみたいね。それって従者の中で、貴方が特別な存在になっているってことに…」

メイド「な、なななっ!!」

メイドが赤面している。
私も魔王子の影響で、結構大胆になってしまったようだ。

姫「ふふ、ごめんなさい。焼きあがるのを待ちましょう」

メイド「は、はい…」

94 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:20:04.58 ID:UNrR2KEi0
メイド「ところでところで奥様ぁ、魔王子様とはどんな事を?」

姫「え…えっ!?」

メイド「傍から見てもわかりますよー、大変仲睦まじいようで。昨日のデートでも高原で添い寝したとか何とか」

姫「だ、誰がそんなことを!?そんなことしていませんよ!?」アセアセ

メイド「あれぇ。会議の中で魔王子様がそんなこと言ったって噂が」

姫「噂に尾ひれがついてますっ!!!」

メイド「へぇ~、じゃあ正確には何やったんです~?」

姫「そ、それはぁ…手を繋いで街中を歩いたり…」

メイド「それで終わりですか~?」

姫「え、えーと…」

魔王子が跪いて私の手に口づけたとか…
花畑で膝枕したとか…
お姫様抱っこしてもらえたとか…

姫「い、いいい言えませんっ!!」ブンブン

メイド「じゃあこれだけ!キスは!?キスはしました!?」

姫「いやああああぁぁ勘弁してえええぇぇ!!!」

メイド(この反応…したな)


妖姫「うっさいわね、大声でノロケ話?」

姫「あ」

メイド「あ」

95 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:20:57.90 ID:UNrR2KEi0
厨房の入り口には、いつの間にか妖姫が立っていた。

妖姫「そうやって魔王子との仲を大声で言いふらして、見せつけてくれるんだ…はーぁ、見かけによらず魔性の女ねー」

姫「別に、そういうわけでは…」

妖姫「っていうか何作ってるの?」

姫「ケーキですけど…」

妖姫「ふーん、まさか魔王子に?」

姫「えぇ…」

そう答えると、妖姫はニヤッと笑った。

妖姫「あらそう。じゃあ魔王子が毒にでもやられたら、これで証言が1つ取れるわね」

姫「ど、毒っ!?」

妖姫「ありえない話じゃないでしょ~?ってか魔王子が食べる前に毒見する必要あるわよね」

姫「…」

私やメイドを疑っているというより、これはただの嫌味に感じる。
けれど相手が同性なせいか、それとも悪意でしかないからか、悪魔に難癖をつけられた時よりも気分が悪い。

メイド「毒なんて盛っていません!何なら、私が毒見をしますよ!」

妖姫「卑しい出のあんたなら変なもの食べ慣れてるでしょ。毒にも耐性あるんでないの?」

メイド「なっ…」

姫「毒見なら私がします」

まともに相手をしていたら疲弊する。ここは堂々として、それで適当に流しておけばいい。

妖姫「例えばだけど、毒のない部分だけ食べて誤魔化したり…」

姫「それでしたら魔王子様に食べさせてもらっ…」

ん?


~妄想~

魔王子『はい姫様、あーんして♪』

姫『あ、あー…』

魔王子『やっぱ俺が姫様の唇を頂く!』ガバッ

姫『きゃっ、魔王子様ぁ』

~妄想終了~


姫(…って、サラッと何言ってんの私いいいぃぃぃ!?)ブンブン

メイド(奥様…何か妄想してるな)

妖姫「…」イラッ

96 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:21:26.58 ID:UNrR2KEi0
妖姫「フン、まぁいいわ。せっかくだし間男にでも食べさせてあげたら?」

姫「間男…?私、魔王子様と従者以外の男性とはほとんど話していませんが…」

妖姫「あら、そー」

妖姫はまたニヤッと笑った。

妖姫「さっき見かけたあの男、貴方の昔の恋人に似てたけど…見間違いだったかしら?」

…!?

彼女が言うのは勇者のことだと思うが…。
彼が来るなんて、一切聞いていない。

姫「ど、どこに!?」

妖姫「あら、密会する為にあんな所にいるんだと思ったけど…」

姫「違います、どこにいらっしゃるんですか!?」

妖姫「城の西側で見かけたわ~。姫様を待っているんじゃない?」

姫「…」

どうしよう。魔王子に教えるべきだろうけど、彼は今忙しいし…。
それに他の誰かに知られたら、勇者と良からぬ関係になっているという噂がたちかねない。

散々悩んだけど、本当に勇者が来ているのか、自分の目で確かめてみることにした。

97 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:22:33.32 ID:UNrR2KEi0
城の外に1人で出るのは初めてかも知れない。
兵士の守りがない城外は少しだけ怖いけど、そんなに離れなければ大丈夫だろう。

姫(…本当に勇者様が?)

正直、妖姫の言うことなので信用はできない。
けど勇者はこの間も事前連絡なく突然来たので、今回もその可能性はある。

姫(お城で待っていたら、その内来るかしら)

あまり城外をウロウロするのも嫌なので、すぐに引き返そうかと思い立った。

だが。

「~…」

姫(あら?)

わずかに声が聞こえた。
結構近くにいる?

あまり深く考えず、声のする方をそっと覗いてみた。

すると…

姫「…!?」

そこにいた人物に驚く。

1人は、妖姫の言っていた通り、勇者。
だけどその話し相手は――

姫(…従者?)

さっきまで一緒にお菓子作りをしていた従者が、勇者と一緒にいた。

98 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:23:03.04 ID:UNrR2KEi0
姫(従者の急用ってまさか…)

勇者と会う約束をしていたのか。
だけど、自分は何も聞いていない。会うなら密会などせず、城内で堂々と会えばいいものを。

姫(どうしよう、挨拶しようかしら?)

そう呑気なことを思っていると、自然と2人の会話は耳に入ってきて――

勇者「では魔王子は……なんだな?」

従者「はい、……で、……であり…」

姫(魔王子様の話…?)

わざわざ会って魔王子の話などするものなのか。そんな雑談をする程、2人は仲が良かっただろうか。
2人の顔も楽しそうなものではないが――

勇者「本当に、魔王子の奴――」

そう言って、勇者は顔を落とした。



勇者「あの男――殺されてしまえば良かったのに」


姫「…!?」

99 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:24:01.23 ID:UNrR2KEi0
従者「ですが彼は……で、……」

彼らの会話は聞き取れない。だけど、気持ちのいい話をしているわけではなさそうだ。
私はその場から離れながら、色んな思いを巡らせていた。

殺されてしまえば良かった?何を言っているの、あの人は?

私の中に沸き上がっている感情、これは怒りだろうか。魔王子にそんな悪意を向ける相手に、良い感情を持てるはずがない。

姫(どうして勇者様が――)

私は勇者を信頼していた。
母国にいた頃は、私の護衛として様々な所に同行し、私を危険から守ってくれた。
その武力をもって国中の信頼を集め、それでも驕らずにひたすら剣の道を極める、実直な人だった。

それなのに――


勇者『あの男――殺されてしまえば良かったのに』


姫「――っ」

信じたくない。嘘だと思いたい。
勇者は私の夫に、そんなひどいことを言う人じゃなかった。

姫(勇者様、どうして…?それに、従者も…)

ぐるぐると、嫌な考えばかりが頭を巡る。
それでも答えは出せない。彼らは、何を考えているのか。

100 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/01(日) 18:24:42.02 ID:UNrR2KEi0
魔王子「あ、帰ってきた姫様!!」

姫「!!魔王子様…」

私が城に戻ると、すぐに魔王子が駆け寄ってきた。
彼は私の側に来ると、ほっとしたように大きなため息をついた。

魔王子「あー良かった帰ってきて。訓練終わって姫様探したのに、いねーんだもん」

姫「あ…ちょっと散歩に」

魔王子「駄目だろ」

魔王子は私の目をじっと見る。その目はつり上がっていて、口は「へ」の形。
これは…怒っている?

魔王子「今こんな状況なのに、護衛もつけず1人で外に出ちゃ駄目じゃないか」

姫「すみません…」

魔王子「あ、いや俺はただ怒ってるわけじゃなくてね!?」

私が沈んだ声で謝ると魔王子は勘違いしたのか、慌て始めた。

魔王子「君に何かあったらって思うと…本当、考えるだけで辛いから」

姫「魔王子様…」

顔を曇らせる魔王子。
彼は本当に私を心配し、大事にしてくれている。こんなに、優しい人なのに――

姫「――ぅっ」

魔王子「!?」

どうして彼に、あんなひどいことを――

魔王子「わ、悪かったって!泣かせるつもりは無かったんだ、本当に!!そこまで怒ってないから、な、な!?」

姫「グスッ…ちが…」


――違うんです。


勇者『辛いことがあってもそれを表に出さず、明るく振舞うような方だ――俺はそれをよく知っている』


――それは違います。
自分に対してなら、何を言われても平気でした。だけど――


魔王子「心配してただけだから――な?」ポンポン


――貴方への悪意の言葉は、どうしようもない位胸が痛くなるんです。


104 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/02(月) 19:42:51.19 ID:1OXgCFaS0
魔王子(ふーヤレヤレ)

泣き止まぬ姫を部屋まで送り届けている間、すれ違った奴にはジロジロ見られるわで心労が半端なかった。

魔王子(まぁ泣かせちまった俺も悪いんだけどな…)

最近、姫との距離は順調に詰めてこられたと思ったけれど、やはり女性への気遣いは難しい。

魔王子(さーて、どう巻き返すかな…)

妖姫「魔王子ぃ、姫様を泣かせたんだって?」

魔王子「うぐ…。最低男って罵りに来たのか?」

妖姫「逆。アンタは女をよくわかってないから教えてあげようとね」

魔王子「はい?どういう意味?」

妖姫「女って自分に非がある時でも、泣いて誤魔化すことあるから。被害者ぶってるだけかもよ」

魔王子「確かに黙って外出した姫様も良くないしなぁ。ま、落ち着いたらもう1回話し合ってみる」

妖姫「黙って外出した?姫様の非はそれだけかしら?」

魔王子「ん?どういう意味?」

妖姫「私、姫様に教えてあげたのよねぇ…」

妖姫はニヤッと笑った。

妖姫「城外に勇者が来てるってこと」

魔王子「勇者が?」

昔、姫と婚約しているという噂のあった男。魔王子にとっては1番の嫉妬の相手。
姫は勇者のことは何も言わなかった。
まさか自分に秘密で会いに行ったのか?まさか…だがそう言われれば、他に姫が外出する用事など考えられない。

妖姫「後ろめたいことでもあるんじゃないのかしらぁ?」

魔王子「…」

105 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/02(月) 19:43:22.14 ID:1OXgCFaS0
魔王子「ないよ」

妖姫「え!?」

魔王子はきっぱりと答えた。

魔王子「確かに姫様は勇者と会ってたのかもしれない。でもそれを言ったら俺が嫉妬するから、姫様は黙ってるんだ」

妖姫「…それが後ろめたいことでしょ」

魔王子「あぁ。姫様は後ろめたく思っているだろうけど、後ろめたいことはしていない」

現場を見たわけでもなくはっきりそう言う魔王子に、妖姫は若干戸惑う。

妖姫「どうしてそんなことがわかるのよ?」

魔王子「だって姫様は、俺のこと好きだから」

妖姫「!?」

きっぱり言った単純すぎる回答に、妖姫は若干引いてしまった。

妖姫「じゃ…勇者と秘密で会ってたこと許すの!?」

魔王子「いや」

妖姫「え…?」

魔王子「知ったからには黙っていられないだろ。ま、とりあえず時間を置くよ。じゃあな妖姫、教えてくれてありがと~」

妖姫「ちょっ待ちなさいよ!ど、どうするの!?」

魔王子「そこは俺たち夫婦の問題なんで」

妖姫「!?」

魔王子はいつも通りの飄々とした様子で、そこから立ち去っていった。
だけどそれは表向きの顔。内心どう思っているのかは、それは誰にも見せようとしない。

だけど魔王子はあの姫のことになると真剣になる――それは十数年の付き合いの自分ですら知らなかった、魔王子の一面。

妖姫「…」

妖姫は複雑な心情を抱きながら、そこに取り残された。

106 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/02(月) 19:43:59.50 ID:1OXgCFaS0
姫「…」

魔王子「…」

しかしそれから時間を置いても、姫の機嫌が直ることはなかった。

魔王子「今日の訓練では5人同時に相手にしてさー…」

姫「あっはい…」

魔王子「…」

終始この様子で、会話が続かない。

魔王子(困ったな…)

このまま機嫌が直るのを待つべきか、例の話題を持ちかけてみるか。
だが持ちかけてみて、姫がもっと落ち込むかと思うと…。

そうやって話を切り出せないまま、1日が終わろうとしていた。

魔王子(ヘタレだな俺は)グヌヌ

とりあえず一晩たてば姫も元気になるかもしれないと、寝支度を始めた。
今日は剣の訓練で疲れた…。

魔王子「先に寝るよー。おやすみー」

姫「おやすみなさい」

107 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/02(月) 19:44:35.29 ID:1OXgCFaS0
姫「はぁ…」

どうしよう。魔王子にかなり気を使われているのがわかる。
泣いてしまうなんて、何て情けないんだろう。


魔王子『だから、それに負けないように強くなればいい。剣も、心も』


彼は命を狙われている当人だというのに心を強く持っている。
なのに妻である私が挫けてどうするというのか。

姫(明日、魔王子様に謝ろう…あと勇者様のことも言わないと)

既に無防備な寝顔を晒している魔王子を見て、うんと決意した。
気分がもやもやして眠れなかったけど、明日は彼より早く起きないと。

姫(私も寝よう)

ガチャ

姫「…え?」

物音に、私は振り返った。

108 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/02(月) 19:45:31.94 ID:1OXgCFaS0
ゆっさゆっさ

姫「…きて、魔王子様ぁ!!起きてえええぇ!!」

魔王子「…んぁ?」

もう朝か――?

ヒュンッ

魔王子「――っ!?」

本能的に危険を察知して体をひねらせた。
次の瞬間、彼の体があった所には刃が突き刺さり――

暗殺者「――チッ」

魔王子「…!!また暗殺者かよ!?」

一気に目が覚めて、構える。
先日の奴同様、襲撃者は覆面を被っている。この間逃げた奴と同一人物かは、不明。

魔王子(姫様は――)

ベッドの側で震えていた。
避難しろ、と言いたいが、それで暗殺者の注意が彼女に向かったらまずい。

魔王子(俺だけに意識を集中させて――)ジリ

ベッドサイドテーブルから武器替わりに燭台を手に取り、さり気なく姫と暗殺者の間に移動する。
暗殺者はこちらの様子を伺っているようだが――

魔王子「来ねぇならこっちから行くぞ!!」

と、攻めようとした時だった。

暗殺者「…」ダッ

魔王子「って、また逃げんのかよ!?」

奴の作戦は寝込みを襲うことだったのだ。それが失敗したなら、騒ぎになる前に逃げる方がいい――のだろうけど、そうはさせない。

魔王子「でりゃっ!!」

魔王子は燭台を思い切り、暗殺者めがけて放り投げた。

暗殺者「!?」ガシャーン

そしてそれは、見事暗殺者の頭に直撃した。

109 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/02(月) 19:46:29.80 ID:1OXgCFaS0
暗殺者「…くっ!!」

だが暗殺者は動きを落とさず、そのまま窓の外に飛び降りた。

魔王子「くっそ、また逃がしたか…。姫様、大丈夫か」

姫「え…えぇ…」

魔王子「なぁ、何があった?」

姫「わ…私が寝ようとした時、窓が開いて…」

魔王子「窓が?」

窓の方を見たら、全開になっていた。ガラスが割れた形跡はない。

魔王子「…鍵を締め忘れたかな?でもおかしいな、俺は窓の開け閉めはしてないし…」

姫「私も、していません…」

魔王子「てことは使用人か従者あたりか…?城内だから油断したなー…ありがとうな姫様」

姫「ぇうっ、魔王子様ぁ…」ギュッ

魔王子「わっ!?」

体にしがみついてすすり泣く姫に、魔王子は戸惑う。

魔王子(…本当に、繊細なんだなぁ)

魔王子「大丈夫だから、姫様」ギュッ

姫「うぅ、でも、でも…」

魔王子「言ったろ、姫様が心配してくれているなら死ねないって…大丈夫、大丈夫だから」ナデナデ

姫「は、はいっ…」グスッ

魔王子「さて…この事を報告してこなくちゃいけないんだけど…部屋に姫様だけ残すのは不安だな」

姫「…一緒にいて下さい」

魔王子「ん。一緒に行こうか」

まるでお化けを怖がる子供のように萎縮している姫の手を引き、たまに頭を撫でてあげた。
そうすると姫はわずかにはにかむ。だけど無理をしているんだと、自分にはわかる。

魔王子(あー可愛い)

こんな時だというのに癒されてしまう、自分は馬鹿だろうか。

110 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/02(月) 19:47:14.47 ID:1OXgCFaS0
城内の警備兵に今あったことを報告すると、すぐに城中に話は広まった。
もう深夜近いというのに城内はざわつき、逃げた暗殺者を探す為何名もの兵が派遣された。

魔王「完全に警備の隙をつかれたな」

魔王子「はぁー、目ぇさえちまった」

姫「…」

広間に来てからも、姫はずっと自分にしがみついている。
今は大勢の家臣の目があるので頭を撫でてはやれないけど、その分強く手を握ってやった。

メイド「別の寝室をご用意致しました」

魔王子「そっか。じゃ行こうか姫様」

と、姫の手を引いて行こうとした時だった。

悪魔「大変だったな魔王子」

魔王子(わ。やな奴来た)

悪魔「どうやら窓の鍵を締め忘れていたようだな?それは――」

魔王子「ちょっと待って。ごめん姫様、先に寝室に行っててくれるか?」

姫「はい…」

魔王子(そんな捨てられた子犬のような目するなっての!!)

魔王子「すぐ行くから、な?」

姫「わかりました」

そして姫が広間を出たことを確認する。
さて、と…。

111 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/02(月) 19:49:13.73 ID:1OXgCFaS0
魔王子「また難癖ですか叔父上?」

悪魔「人聞きの悪い…俺は可能性のある話をしたいだけだが」

魔王子「叔父上の言いたいことはわかりますよ。姫様が鍵を開けていたんじゃないか、って言いたいんでしょう」

悪魔は「む」といった顔で唇を結ぶ。
やはり図星か。だが、今回はちゃんとした反論がある。

魔王子「姫様がグルなら、俺を起こさないでしょう。俺を助けてくれたのは姫様で――」

悪魔「ク、ククッ」

魔王子「…何がおかしい?」

悪魔「いやぁ。手口が似ていると思ってな」

魔王子「は――?」

悪魔「俺も昔すっかり騙されて、命を取られそうになったよ――人間の女にな」

魔王子「…っ!?」

悪魔「まぁ昔の話だ」クク

魔王子「…その女と姫様と、何の関係があるんですか?」

悪魔「あの女もそうやって時折、俺を助けるような素振りを見せた。今思えばそれも演技だったのだな。俺を信用させ、命を取りやすくする為の――」

魔王子「あの女「も」じゃない!!」

カッとなり叫び声をあげると、広間にいた奴らが一斉にこっちを見た。
いけない、冷静にならなくては…。

魔王子「…姫様はそんな事はしない。自分が騙されたからと、一緒にしないで頂きたい」

悪魔「話はこれで終わらないんだが…」

魔王子「結構!もう聞きたくありません!」

魔王子は悪魔の声を振り切るように、広間から去って行った。
その背中を見送り、悪魔は皮肉めいた笑みを浮かべる。

悪魔「反発して燃え上がる…か。だが燃えれば燃える程、後のダメージが大きいだろうな…」

116 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/03(火) 20:28:33.20 ID:Vs1+gKSy0



メイド「客室なので姫様達の寝室より質素なんですが、ベッドの寝心地は良いはずですから!」

姫「えぇ、ありがとうメイド」

ざわざわ

メイド「ん…?何か騒がしいですね」

姫「どうしたのかしら…?」

野次馬する気は無かったが、寝室に行くまでにざわついている場所を通る必要があり、自然とそちらの方に足を向けた。

メイド「ちょいとぉ、何があったの?」

兵士「それが…こいつが襲撃者に襲われたみたいで」

メイド「えぇ!?…って、従者じゃない!!」

姫「えっ!?」

後方にいた私はメイドの声に反応し、人だかりを割って入っていった。
すると…

従者「アッハハハ、そんな大した怪我じゃないから…」

姫「従者!!」

従者「あっ姫様」

姫「…っ!?」

こちらを振り向いた従者は頭に包帯を巻いていた。
血が滲んでいるのは後頭部――そこは確か…



魔王子『でりゃっ!!』

暗殺者『!?』ガシャーン



どうしてか、先ほどの光景が再生された。

117 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/03(火) 20:29:07.50 ID:Vs1+gKSy0
兵士「魔王子様が命を狙われているはずなのに、何でお前が襲われたんだろうな?」

従者「知らんよ、涼んでたらガーンとやられたんだよ」

兵士「まさかお前と魔王子様を見間違えて…って、そんなわけないよなー足の長さが全然違うし!!」

従者「うるせーわい!!野次馬はもう散れぃ!」

従者が叫ぶと、野次馬達は半笑いで散り散りになっていった。
その場には私と、従者と、メイドだけが残された。

メイド「従者、本当に大丈夫なの?」オロオロ

従者「大丈夫だって、俺はエリートなんだから。姫様も、もう夜遅いんでお休み下さい」

姫「…ねぇ従者」

従者「はい?」


冷静な振る舞いとは裏腹に、心臓はドキドキいっている。

――そんなわけない。

そう、これはただの確認で――


姫「貴方…私達の寝室の窓、開けた?」


彼を疑いたくはない。

だけど――

118 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/03(火) 20:29:38.62 ID:Vs1+gKSy0
従者「いえ?俺は開けてませんよ」

姫「…そう」

動じることなく答える従者。
だけど私はそれでほっとできない。

姫(私は――)

心の奥底で、従者を信用できずにいる。
それは何も、窓を開けることが可能だったとか、後頭部の傷だけが原因ではない。


勇者『あの男――殺されてしまえば良かったのに』

従者といた時の、勇者のあの言葉。


魔王『完全に警備の隙をつかれたな』

外部の人間ではそう簡単に隙をつけない警備状況。


従者1人でそんなことできるはずがない。
だけど協力者――それも"混血種”の刺客を用意することができる、従者に近しい協力者といえば――


王『姫…決して相手に心を許すなよ』


姫(…っ、そんなわけないじゃない!!何考えているの!!)

119 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/03(火) 20:30:21.11 ID:Vs1+gKSy0



魔王子「…あれっ」

寝室で帰りを待っていた私の顔を見て、魔王子は目を丸くする。

魔王子「…そっか、待っててくれたんだ。ごめん、遅くなって」

姫「いえ…」

魔王子「警備は強化しておいたから、安心して眠れるって…」

魔王子はそう言うと隣のベッドに入った。

姫「魔王子様…」

魔王子「ん?どうした?」

姫「…手を、握っていてくれませんか?」

魔王子「いいけど…やっぱ、怖い?」

魔王子は気遣うように優しい声で、私の手をそっと握ってくれた。

魔王子「はは、ガチガチだ姫様」

姫「だって…私、貴方が…」

魔王子「大丈夫大丈夫、新婚の奥さん残して死ぬわけないだろ」

姫「…」

心が痛い。
彼はそう言っているけど、さっきのだって私がもう少し早く寝ていたら危なかったわけで…。

魔王子「そうだ。姫様、今眠い?」

姫「いえ…目が冴えちゃって」

魔王子「俺も。せっかくだし、今聞いちゃうかな」

姫「何ですか…?」

魔王子「あのさ、昼間勇者と会った?」

姫「!!?」

何でそれを――と思ったが、すぐに妖姫の顔が頭に浮かんだ。きっと彼女が教えたのだろう。
私が勇者に会いに行ったのは本当だけど、無いことまで吹き込んでいないだろうか…。

120 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/03(火) 20:31:11.26 ID:Vs1+gKSy0
姫「…妖姫様に勇者様が来ていると聞きまして、遠目で姿を見かけましたが…直接会話はしていません」

魔王子「何で会話しなかったの?」

姫「…」

何と言えばいいのか。勇者があんなことを言っていたから立ち去った――なんて言えない。
だけど適当な嘘も思いつかず、私は言葉を詰まらせる。

魔王子「まぁ理由なんて無くてもいいんだ…後ろめたいことさえしてなけりゃ」

姫「う、後ろめたいことなんて!!」

私はすぐさま首を大きく振って否定した。

姫「もしわずかにでもお疑いでしたら、私に監視をつけて下さっても構いません!少しの外出や来客と会うのにも制限を設けるなら、それに従います!!」

魔王子「しねーよそんなん…束縛って最悪じゃん」

魔王子は苦笑した。

魔王子「夫婦の間でも隠し事はありだと思うよ。ただ今回の場合は知っちまったから、言わずにはいられなかった。別に姫様を疑ってはいないから、な?」

姫「…すみません、黙っていて」

魔王子「別に大したことはないけど、俺が嫉妬するから黙ってたんだろ?」

姫「えっ、嫉妬…」

魔王子「気ぃ使わせちゃったね~。俺も器でっかい男になれるよう頑張るよ、うん」

魔王子は、私に都合がいいように解釈してくれたようだ。このまま彼の嫉妬を恐れて、ということで誤魔化し切ることはできる。

だけど――

姫「…魔王子様」

魔王子「ん?」

姫「違うんです…」

嘘をついて彼のせいにするのは、絶対に嫌だった。

121 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/03(火) 20:31:55.02 ID:Vs1+gKSy0
姫「実は…」

私は彼に打ち明けることにした。
勇者と従者が密会していたこと、従者が後頭部を怪我したこと――

勇者が言っていた陰口のことは、流石に言えなかったけれど。

魔王子「つまり君は、従者を疑っているのか」

姫「それは…」

魔王子「…半信半疑ってとこか」

姫「兄は魔物を憎んでいます…もし、裏で兄が手を引いていたら…」

魔王子「うーん…それだけの情報だと何とも言えないけど…ただ、1つ確かなことはある」

姫「確かなこと?」

魔王子「あぁ。俺の寝込みを襲撃してきたのは、従者じゃない」

姫「え…!?」

魔王子「従者とは何度か訓練で手を合わせているけど、従者と襲撃者の動きは全然違った」

姫「本当ですか…!!」

これで1つ、不安が解消された。

姫「あ…でも、兄が関わっていないとはまだ言い切れないですよね…」

魔王子「どうだかねー…でも1番重要なのはそこじゃない」

姫「えっ…って、きゃっ!?」

魔王子は突然、私の体を抱き寄せた。そして耳元で優しく囁く。

魔王子「君が関わっていなければそれでいい――心から、俺の奥さんでいてくれれば…」

姫「ま、魔王子様…ぁ」

彼の胸に顔を埋める格好になり、彼が声を発すると耳に息が触れ、私の熱は上がる。
体が密着して、ドキドキがばれてしまわないだろうか。私を包む彼の腕は力強く、逃げられそうにない。

だけどそこから抜け出したいと思う反面、密着した部分が気持ちよくて――上がった熱の解放を、今なら彼に委ねてもいいと――

魔王子「あ、ごめん、苦しかったよな」パッ

姫「…」

魔王子「さーて、もういい加減寝るかー」

この時ばかりは、彼の鈍さをちょっとだけ恨んだ。


126 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:51:49.52 ID:ANNa1cPO0
>翌日

姫「おはようメイド」

メイド「おはようございます奥様!どうされたんですか、厨房までわざわざ」

姫「昨日、ケーキを魔王子様に持っていくの忘れちゃってて…」

メイド「そうでしたねー。取っておいてあるので、今出しますね!」

姫「従者にはもう食べさせたの?」

メイド「えぇ。美味しいって喜んでくれましたよ~♪」

姫「そう。良かったらまた作ってあげてね」

メイド「はい…じゃなくて、余ったらですよ、余ったら!あいつの為にわざわざ作りませんから!」

姫「はいはい」フフフ

メイド「んーと…あれ?昨日ここにしまっておいたのに無くなってる、ケーキ…」

姫「え?誰か持っていったかしら?」

メイド「どうでしょうね~。ちょっと今匂いを辿ってみますね~」

メイドはクンクンと鼻を鳴らす。

メイド「こっちですね」

姫「私も行きます」

そして厨房から廊下に出て、メイドに着いて行くと――

127 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:52:25.06 ID:ANNa1cPO0
姫「あっ…!!」

メイド「あぁっ…」

信じられないことに、廊下の真ん中でケーキがぐちゃぐちゃになっていた。

姫「ひどい…誰がこんなことを…」

メイド「朝、廊下は掃除したはずですから…1番新しい匂いは妖姫様のものですね…」

姫「妖姫様が…」

ケーキを床に叩きつける妖姫の嫌な顔が頭に浮かぶ。
あまり妖姫のことは意識しないようにしてきたが、やっぱり私も彼女のことが嫌いなようだ。
こんなことをされて、怒らないわけがない。

メイド「今回は残念ですが、また作りましょう…」

姫「そうね…」

メイド「じゃあ私はここ掃除しちゃいますので…」

と、その時曲がり角から大きな足音が聞こえた。誰かが走っているようだ。
そんなに急いでどうしたのだろう…ちょっと気になって曲がり角を見た。

すると――

メイド「ひっ!?」

姫「!?」

暗殺者「…」

廊下の曲がり角から出てきたのは覆面を被った者――(恐らく)魔王子に向けられた襲撃者だった。

128 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:53:06.44 ID:ANNa1cPO0
メイド「だっ誰かあああぁぁ!!」

メイドが廊下中に響く声で叫ぶ。
襲撃者はすぐに方向転換し逃亡。
ほんの数秒差で、兵士達が駆けつけた。

メイド「ふ、覆面を被った不審者が!あっちに行ったわ!!」

兵士「何だと…わかった!」

兵士達は叫びながら襲撃者を追った。


メイド「奥様も危険ですので、お部屋に退避されて下さい」

姫「え、えぇ!」

私はメイドに手を引かれ、すぐ近くにあった図書室に逃げ込む。
部屋に入った後メイドは扉に鍵をかけ、モップ片手に扉前に立っていた。

部屋の外は喧騒に包まれている。
魔王子は、大丈夫だろうか――

その時だった。
ふと見た窓の外で、何かが落下した。


べしゃっ


姫「――ひっ!?」

129 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:53:49.45 ID:ANNa1cPO0
赤い液体を撒き散らす、潰れたトマトのようなそれを見て、私は卒倒しかけていた。

メイド「奥様、しっかり!!」

姫「え、えぇ…」

私を支えるメイドの声も、外の喧騒も頭に入らない。
潰れたそれを視界の外に置きながら、私はぼうっと窓の外を見ていた。


悪魔「――やったぞ」

姫(…悪魔様?)


悪魔が翼を広げ、潰れたそれのすぐ側に降り立つ。
と同時に、図書室のドアをどんどんと叩く音が響いた。

兵士「姫様!ご無事ですか!」

メイド「奥様は無事よ!それより外のは…」

兵士「もう出てきても大丈夫です、悪魔様が侵入者を仕留めましたから!!」


ということは――あそこで潰れているのは襲撃者だったのか。

130 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/04(水) 17:54:24.10 ID:ANNa1cPO0
メイド「襲撃者は死んだみたいですね…」

メイドが窓を開け、外の様子を見ている。
私はどうしてもそれを直視できず、耳で声だけを拾った。

兵士「やりましたね悪魔様」

悪魔「全く、手応えのない奴だった…」

メイド「そりゃそうよ。悪魔様相手だもの」

悪魔「しかし妙な覆面だな…こいつの素顔はどうなっているんだろうな」

兵士「今剥がします」

悪魔「あぁ、そっとだぞ…」

メイド「――えっ!?」

メイドのぎょっとする声に続き、外の声はざわつき始めた。

兵士「こいつは…!!」

悪魔「おやおや…」


メイド「奥様!!あ、あれ、あれは…」

姫「…?どうしたの?」

メイド「覆面の下…従者です…」

姫「!?」


悪魔「これはどういうことですかねぇ…姫君?」


悪魔は窓の外から私の方を見て、不敵な笑みを浮かべた。


次回に続く
posted by ぽんざれす at 10:00| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

魔道士「僕のお嫁さんを召喚するよ☆」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1426914798/

1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/21(土) 14:13:18.99 ID:oopiWhSr0
町娘「…あれ?」

魔道士「チャオ~♪やったね召喚大成功ッ!」

町娘「えぇと、ここはどこ…?貴方は…」

魔道士「あぁ、びっくりさせてゴメンね!僕は魔道士、君を召喚したのは僕さ!」

町娘「召喚…?えと、一体何の目的で…」

魔道士「お嬢さん」スッ

町娘「え、これ…指輪?」

魔道士「僕のお嫁さんになって貰おうかと☆」キラリン

町娘「…」

町娘「はいいいいぃぃぃぃ!?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1426914798


2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/21(土) 14:13:43.07 ID:oopiWhSr0
>先刻…

御曹司「ウヒヒヒヒ。いいんだね?本当にいいんだね?」

町娘「はい…」

私は町娘。両親は亡く、弟と共に叔父叔母の下で暮らしている。
生活は貧しく、2人の経営する食堂は借金を抱えている。

御曹司「いやぁこんなに若くて綺麗な町娘ちゃんがボクのお嫁さんになってくれるなんて、夢のようだぁ」ヌフフ

町娘「あの…その代わりに…」

御曹司「わかってるってぇ、借金は全部チャラにしてあげるからぁ。だからもっと喜んで、ね?」フヒッ

町娘(ウエッ)

叔父(クッ…すまん、町娘)

叔母(私達が不甲斐ないばかりに、こんな男に…!!)

御曹司は町の大銀行の次男坊なのだけれど、それだけの家柄と財産がありながら30手前になる現在まで独身だったのは、容姿と人間性のせいだろう。
長年の贅沢三昧のせいで体は脂肪で肥え、ちょっと歩けばハァハァ息切れする。肌はいつもギトギト光っていて、よく見たらブツブツもできている。
おまけに性格も典型的な「嫌なボンボン」そのもので、金目当ての女ですら彼には近寄りたくないのだ。

町娘(でも…)

お世話になった叔父さんと叔母さんに、恩を返さないといけない。
それに…弟は体が弱くて、このまま貧しい生活を続けていたら長生きできないだろう。

御曹司「じゃあ、じゃあボクのお嫁さんになる証としてぇ…」サワッ

町娘「…っ」ゾワァ

御曹司は私の手を取り、ゴテゴテしたデザインの指輪をはめてきた。
そのまま顔はこちらに迫り…

御曹司「チュウしてよ、ね、ね?」

町娘(嫌あ゛ああぁぁぁ…)ゾゾー

その時だった。

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/21(土) 14:14:10.40 ID:oopiWhSr0
町娘「…あれ?」

唐突に場面は切り替わり、私は知らない場所にいた。
木造の狭い部屋。床や机には書類が散乱している。

魔道士「チャオ~♪やったね召喚大成功ッ!」

目の前にいるのは知らない男の人。彼は私を見るなり、明るくそう言った。

町娘「えぇと、ここはどこ…?貴方は…」

魔道士「あぁ、びっくりさせてゴメンね!僕は魔道士、君を召喚したのは僕さ!」

彼は物語に出てくる魔道士が着ているようなマントと三角帽子を着用していて、胡散臭い雰囲気を全身に纏う。
見ての通り怪しいんだけれど、その妙な格好も彼自身が美形な為か、奇妙な魅力を醸し出していた。

町娘「召喚…?えと、一体何の目的で…」

私は当然の疑問を口にする…と同時、魔道士は私の目の前に跪く。

魔道士「お嬢さん」スッ

そして魔道士が差し出したのは…

町娘「え、これ…指輪?」

それを確認すると、彼はニッコリと笑顔になる。

魔道士「僕のお嫁さんになって貰おうかと☆」キラリン

町娘「…」

町娘「はいいいいぃぃぃぃ!?」

わけがわからなかった。

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/21(土) 14:14:43.89 ID:oopiWhSr0
ひとまず私と魔道士さんはテーブルを挟んで席についた。ちなみに提供された紅茶は、何か怖くて飲めなかった。
魔道士さんによると、彼は1000年近く続く魔導名家の若き当主らしい。

魔道士「当主になる為に頑張ってたら、気付けば結婚適齢期になっていてね~」

町娘「はぁ…」

魔道士「それで今回、僕のお嫁さんを召喚したってわけさ♪」

町娘「いや、あの何で私なんですか…?」

魔道士「運命ってやつじゃないかな?」

町娘「運命って言われても…」

魔道士「僕は僕のお嫁さんになる人来て~って召喚したんだから、君は僕のお嫁さんになる人なんだよ」

町娘「私の意思は!?」

魔道士「後から追いついてくるんじゃない?何せ運命なんだし~」

町娘「運命だからで片付く問題じゃありませんよ!?」

魔道士「運命に逆らうのかい?ハハッ、なかなかお転婆な娘さんだね♪」

町娘「貴方は運命だからで全て受け入れるんですか!?」

魔道士「だって僕は僕のお嫁さんになる人を召喚したんだから、君をお嫁さんにするつもりだし☆」キラリン

町娘(どうしようこの人…話が噛み合わない)ズーン

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/21(土) 14:15:14.20 ID:oopiWhSr0
そんな感じで困惑していた時だった。

ドタドタ

町娘「ん?何か外が騒がしいですね…」

魔道士「お客さんかな?」

「オラァ出てこいこのインチキ魔道士がああぁ!!」ドンドン

町娘「え、何」

魔道士「オーケー、今開けるよ」

魔道士さんはドアの鍵を開けた。すると…

黒服A「オイコラァ、この人さらいが!!」

黒服B「ナメとんのかコラァ!!」

町娘(ひえええええぇぇ)

ガラの悪い男の人たちが、なだれ込むように入ってきた。

魔道士「チャオ☆僕に何か御用かな?」

黒服A「しらばっくれるな!!御曹司様の婚約者様をさらったのはお前だろう!!」

町娘「…え?」

御曹司の名が出てきた所で、ようやく彼らが御曹司の手先だと気付く。
黒服達が魔道士さんに凄んでいたその時、遅れて3名が入り口から中に入ってきた。

叔父「良かった町娘…無事だったんだな」

叔母「どうしてこんな所に…」

御曹司「全く、ボクのお嫁さんをさらうなんてふてぶてしい男だな」ブヒー

町娘「叔父さん叔母さん…どうしてここがわかったの?」

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/21(土) 14:15:51.73 ID:oopiWhSr0
魔道士「その指輪のせいだね」

魔道士さんは先ほど御曹司に贈られた、あのゴテゴテしたデザインの指輪を指差した。

魔道士「その指輪から、探知型の魔力を感じるよ。束縛するタイプの人が恋人に送る定番アイテムさ♪」

御曹司「うるさぁい!ボクと町娘ちゃんがイイ所だったっていうのに、邪魔しやがって!」フンガー

魔道士「それを言うなら、僕と彼女もいい所だったのに君たちに乱入されたしなぁ…そうだ、おあいこってのはどうだい?」

御曹司「あいこなわけあるかあああぁぁ!!人さらいの罪で通報してやる!!」

魔道士「ノー。この家は無国籍の地に建っているから、君たちの国の法で僕は裁けないんだなぁ☆」

御曹司「ふがああああぁぁぁ」


町娘(うわー…どうしよう)

叔父「大丈夫だったか、町娘」

町娘「えぇ…でも来るのが早かったですね、皆さん」

叔父「そうかお前は知らなかったか…我々の住む町のはずれにある森に、代々魔導の商売で食っている一族が住んでいてな」

叔母「数年前、一族は別の土地に移って行ったのだけど…ここ数日の間に、現当主だけがここに帰ってきたそうなの」

町娘「その現当主が…」


魔道士「ま、せっかくだしお茶でも飲んでいってよ☆ いい感じにブレンドした、自慢の一品なんだ★」キラリン

このいかにも胡散臭くて、さわやかな態度で本心を隠している彼、魔道士ということか。

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/21(土) 14:16:30.59 ID:oopiWhSr0
御曹司「フーッ、フーッ」ゼェゼェ

叔父「ところで魔道士殿、町娘に何か御用でもありましたか?先刻は町娘と御曹司殿の縁談を進めている最中でしてね…」

魔道士「ノンノン、その縁談はストップだよ」

叔父「何?」

魔道士「僕も彼女にプロポーズしていた所なのさ。いくらここが無国籍でも、重婚はいただけないなぁ」

叔父「な」

叔母「え」

御曹司「何だとおおおぉぉぉゥ!?」フガーッ

町娘「わ、私まだ何の返事もしていませんし」

御曹司「そ、そうだよねぇ~町娘ちゃん。ボクと結婚するのに、こんな胡散臭い男からのプロポーズ受け入れるわけないよねぇ~?」ニィーッ

町娘「」ゾワワァ

魔道士「ワオ。もしかして脅迫でもされてるのかな?」

御曹司「何をおおぉぉ」フンガー

町娘「い、いえ…ま、まぁうちは確かに御曹司さんのお家に借金をしていますが…」

御曹司「町娘ちゃんは自分の意思でボクのお嫁さんになるって言ったんだ!だから借金をチャラにする、何もおかしなことはないだろぉ?」ニーッ

魔道士「あ、ナルホド。脅迫じゃなくて借金のカタね!」

御曹司「人聞きの悪いことを言うなああぁぁ」フガーッ

町娘(事実だもん)

じゃないと、誰が好き好んでこんな男に嫁入りするものか。そんなこと、口には出せないけれど。

魔道士「じゃあさ、僕が肩代わりしてあげるよ」

町娘「――え?」

御曹司「は…?」

魔道士「だからさ」

魔道士さんは相変わらずの本心が見えない笑顔で、明るく言った。

魔道士「借金は僕が肩代わりするから、その結婚は待った…ってことで♪」

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/21(土) 14:17:10.90 ID:oopiWhSr0
御曹司「待てコラアアアァァ」ブヒイイィィ

即座に反応したのは、御曹司だった。

御曹司「か、か金の力で町娘ちゃんを手に入れようってのかあぁ!!」

魔道士「あれ?それは君のやり方じゃないかな?」

御曹司「う、う、うるさぁい!」

図星をつかれた御曹司は顔を真っ赤にして、今度は私の方に向いた。

御曹司「やめた方がいいぞ町娘ちゃん!こんな胡散臭い一族の男、何か企んでいるに決まっている!」

魔道士「僕は彼女をお嫁さんにしたいだけなんだけど…」

御曹司「ま町娘ちゃんはボボボクのお嫁さんになるんだもんね!?ね、ね!?」フーッフーッ

町娘(ぎゃああああぁぁぁ)

不潔感ある顔を近づけられ、私は思わずのけぞった。
中身はともかく、外見だけなら魔道士の圧勝なのだが…。

魔道士「まぁまぁ、僕は結婚を条件に借金を肩代わりしようって言ってるんじゃないよ」

町娘「…え?」

魔道士「丁度、僕の身の回りのことをやってくれる人が欲しかったんだ。もしやってくれるなら、給料先払いで借金を肩代わりしてもいいよ?」

叔父「ほ、本当ですか…」

御曹司「ま、待てえぇ!!」

御曹司は懐から借用書を取り出した。

御曹司「わかっているのか、利子を含めてこれだけの金額だぞ!!フヒッ、お前のような胡散臭い魔道士に支払えるわけが…」

魔道士「フム…オーケー、一括払いで♪」

御曹司「フヒッ!?」

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/21(土) 14:17:47.02 ID:oopiWhSr0
御曹司「ゼハッゼハッ…」

黒服A「御曹司様!クッ、興奮のあまり息切れされている…!!」

魔道士「ねぇどうする?僕の所で働いてみない?」

町娘「うぅ…」

どちらにせよいい話ではない。この魔道士という人、いきなり人を召喚してプロポーズするような変人だし、魔導一族なんて聞いただけで不気味だし、何より彼自身胡散臭いし…。
身の回りのことをするだけと言われても、何をされるかわかったもんじゃ…。

御曹司「ももも勿論断るよねっ!?」ブヒッ

町娘「」ギョッ

御曹司「ボボボクのお嫁さんになるもんね、フヒッ、こぉんな胡散臭い男の所になんかぁ」ブヒーブヒー

町娘「…」

町娘「お受け致します、魔道士さん」

御曹司「ぶひゃああああぁぁっ!?」

魔道士「オーケー♪やったね☆」イケメンスマイルキラーン

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/21(土) 14:18:22.96 ID:oopiWhSr0
その後ショックの為か魂の抜けた御曹司は、黒服に抱えられるようにして帰っていった。

叔母「見ず知らずの方に助けて頂けるなんて…何とお礼を申し上げればいいのか」

魔道士「ハハッ、将来のお嫁さんの為ならこれくらい」

町娘「違いますってば」

叔父「な、なぁ、助けて貰って何だが…町娘に変なことしたりしないよな?」

魔道士「変なことって?」

叔父「その…体を触ったり…」

魔道士「ノ~ン。バージンロードは純潔で歩くものだし、そんなことしないさ」

町娘(どうして結婚前提で話をするんだろう)

魔道士「料理と掃除さえしてくれれば大体オーケーさ。そうだ、ハイこれ君の部屋の鍵」

町娘「す、住み込みですか!?」

魔道士「身の回りのことしてもらうんだもの、住み込みの方がいいじゃない」

叔父「それに御曹司の奴、何をしでかすかわかったもんじゃない。町に戻るより、ここにいた方が安全だろう」

町娘「…」

そうだ。町では決して好かれていない御曹司だけど、それでも大きな権力を持っている。
正直魔道士さんの所にいるのも怖いけれど、町に戻れば何をされるか…。

町娘「…わかりました」

叔母「町娘…貴方にこれを預けておくわ」スッ

町娘「!!これは、叔母さんの大事な…」

叔母「メリケンサックよ。何かされそうになったらこれで身を守りなさい」

町娘「ありがとう、叔母さん!!」ギュウ

魔道士「アハッ、信用ゼロ☆」

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/21(土) 14:19:04.02 ID:oopiWhSr0
町娘「あ…でも荷物を取りに、一旦町に戻りたいです。それに、弟にも挨拶したいし…」

歳の離れた弟のことを思い出す。
体が弱く大人しい性格のせいか友達もなく、かなりのお姉ちゃん子なのだ。
私と離れて暮らすと聞いたら、寂しがるんじゃないのか…。

魔道士「じゃ、魔法で町まで転送するよ。夕方頃また召喚してもいいかな?」

町娘「えぇ、それで大丈夫です」

こうして私達3人は魔道士さんによる魔法で、家に戻ってきた。
ちなみに御曹司は道中を馬車で帰っている最中なのか、まだ町には戻ってきていない様子だ。

弟「お姉ちゃん!」

家に戻ると早速、弟が私に駆け寄ってきた。

町娘「ただいま弟君。どうしたの、そんなに怖い顔して」

弟「お姉ちゃん、ちゃんと断ってきたよね!?あんな奴と結婚なんかしないよね!?」

町娘「…」

弟には、御曹司にプロポーズの返事をしに行くと言って出て行ったのだ。受けると言ったら、絶対に引き止めてきただろうから。

町娘「えぇ、断ってきたわ」

弟「良かったぁ」

弟はホッとした顔でようやく笑った。

弟「僕も一生懸命働いて借金返すから!お姉ちゃんに辛い思いさせないからね!」

町娘「それなんだけど…」

弟「?」

私は、魔道士のことを弟に伝えた。

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/21(土) 14:19:50.38 ID:oopiWhSr0
そんな胡散臭い奴、と反対されるかと思ったが、反応は違った。

弟「魔導一族の当主!?かっこいいねー!!」キラキラ

家にこもりがちで本が大好きな弟には、魔道士という職業はかっこいいものらしい。

弟「僕も会ってみたいなぁ。魔法道具は売っているけど、魔法使いって見たことないから」

町娘「まぁ、今度ね」

弟「でもお姉ちゃんて色んな人からモテるよね」

町娘「そんなことないわよ」

流行遅れの古着を着て、装飾品の一つもつけていない私に、同年代の女の子のような華やかさはない。
それに毎日家の手伝いで忙しく、恋愛が生まれそうな場とも無縁なのだ。

弟「御曹司の奴が邪魔してるだけだよ。お姉ちゃん綺麗だねって、よく言われるよ」

町娘「だっ、誰に?」

弟「パン屋の兄ちゃんでしょ、あと傘屋の兄ちゃんに…」

弟に言われた名前を聞いて顔を思い浮かべる。
弟は「兄ちゃん」と呼んでいるが私より結構年上で、しかもどちらも妻帯者だ。

弟「そうだ、絵描きの兄ちゃんにも!」

町娘「絵描き?」

ワンテンポ遅れて、太めな外見をを思い出す。
そういえばちょっと昔にそんな知り合いもいた。気弱だけど温厚な青年だった。
私よりも、弟と親しかったと思うが…。

町娘「そういえば全然見かけなくなったわね、彼」

弟「うん、元々この町の人じゃなかったからね。でもお姉ちゃん、それだけモテるんだよ」

町娘「あはは、ありがとう」

それは社交辞令の範疇だろうけど、弟はまだそれがわかる年齢じゃない。
とにかくまぁ、弟のことは心配なさそうで安心した。あとはあの魔道士、本当に悪い人じゃなければいいんだけれど…。

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/21(土) 14:20:20.63 ID:oopiWhSr0
魔道士「美味しいね~♪正に家庭料理だね!」

魔道士さんは夕飯に提供した煮物と魚のフライを満足気に完食した。

魔道士「とっても満足だけれど、明日からはもうちょっと量減らしてもいいよ」

町娘「あっ、多かったですか?」

魔道士「いやぁ、ダイエット中なんだ☆」キラリン

町娘(十分スタイルいいのに…)

魔道士「こんなに美味しいものが毎日食べられるなんて、満足度は報酬以上★」

町娘「今まで何を食べていらしたんですか?」

魔道士「これ。お湯を入れて3分で食べられるようになる、魔法非常食♪」

町娘「どんな味なんですか?」

魔道士「激マズさ!」

町娘「どうしてそんなの毎日食べていたんですか!?」

魔道士「他に食べるものないんだもん」

町娘「移動魔法で町に行って食べたりとか…」

魔道士「…」ハッ

魔道士「天才ッ☆」ビシィッ

町娘(いや真っ先に思い浮かぶ事じゃない?)

魔道士「でもどうせならやっぱり、お嫁さんの手料理を食べていたいよ」

町娘「違いますって」

魔道士「難易度高いなぁ…もう、コレを使うしかなさそうだ」ゴソッ

町娘「!?」(まさか惚れ薬とか!?)

魔道士「ハイ★」

町娘「…ぬいぐるみ?」

魔道士「女の子はぬいぐるみ好きかなって…いらない?」

町娘(どうしよう。発言に反してやり方は結構真っ当)

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/21(土) 14:20:46.94 ID:oopiWhSr0
>夜

あの後後片付けをしてベッドメイクをした後お風呂を借りて、その後お風呂掃除をして私の仕事は終わった。

町娘(ふぅ。今日は無事仕事を終えたぞぉ)

町娘(何か色々あって疲れたなぁ)

町娘(でも御曹司との結婚が白紙になって良かった…)

町娘(…けど魔道士さんも変な人だし、油断はできないな)

町娘(明日からどうなるかなぁ…)

町娘「すやすや」

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/22(日) 19:22:32.54 ID:fl//vU5S0
>翌朝

町娘「うーん」

朝食のサラダとスープはできていて、あとはパンを焼くだけなんだけれど、なかなか魔道士さんが起きてこない。
スープは温め直せばいいのだけど、パンは時間がたてば固くなってしまうし、起きてから焼いた方がいい。

町娘(結構遅い時間だし…起こした方がいいかしら。でも、元々遅起きの人なのかも…)

と、悩んでいたその時。

どんがらがっしゃーん

町娘「!?」

魔道士「チャオ☆…アイタタタ」

町娘「魔道士さん…その格好」

魔道士「ん?」

昨日と同じ服…なのはいいけど、服はシワだらけで髪の毛もぐしゃぐしゃ。おまけに頬には何かを圧迫したような跡がくっきりついている。

魔道士「いやぁ、昨晩机で読書してたらそのまま寝ちゃって♪さっき、椅子から転げ落ちちゃったんだ~」

町娘「…」

魔道士「まぁ、よくあることだから★」

町娘「…さい」

魔道士「え?」

町娘「着替えて、髪整えて、顔洗ってきなさあああぁぁい!!」

魔道士「うひゃあ!?」

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/22(日) 19:23:04.50 ID:fl//vU5S0
魔道士「まさか怒られるなんて思わなかったなぁ~」

魔道士さんは「しゅん」とした顔で朝食を取っていた。
本当に今まで、一人暮らしでだらけていたのだろう。

町娘「昨日ベッドメイクしておいたのにベッドで寝てないだなんて!今晩はベッドで寝て下さいよ!」

魔道士「わかったよぅ…そんなに怒らなくたってぇ」イジイジ

町娘「大の男がいじけないで下さい」

魔道士「町娘ちゃん意外と尻に敷くタイプ?」

町娘「何かおっしゃいました?」ゴゴゴ

魔道士「ごめん☆」

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/22(日) 19:23:57.39 ID:fl//vU5S0
朝食後魔道士さんは部屋に戻り(その前にちゃんと歯を磨かせた)、こもってしまった。
あの部屋は仕事部屋と聞いていたので、きっと魔法道具を作ったりしているのだろう。

町娘(今日は掃除をしよう)

仕事部屋だけはいじらないでほしいと言われた為、まずは来客が最初に目にする、玄関から掃除することにした。

町娘(うわぁ)

床は砂だらけで、靴入れの靴は並べられているというより「放り込まれている」状態。
せっかく飾ってある絵画やツボにはホコリがかぶっていて、高価そうな品々なのに色々台無しだ。

町娘(これは掃除のしがいがあるなぁ…)

掃除は高い所からするのが基本、ということでとりあえず高い場所のホコリを落とす作業から入る。
空中に舞うホコリがはっきり見えた。

町娘(他の部屋も汚れているんだろうな…)

私が使わせてもらっている部屋は物が少ないので、対して汚れてはいなかった。
台所も一応食べ物を扱う所ということで最低限の掃除はされていた。…まぁ、調理道具がごちゃごちゃになっていたけど。

町娘(魔道士さん、本当にだらしない人っぽい)

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/22(日) 19:25:04.17 ID:fl//vU5S0
そんな魔道士さんの家だったけれど、お客さんが来ることもあった。

魔道士「町娘ちゃん、紅茶2人分淹れてくれるかな」

町娘「はい」

お客さんに紅茶を出す時に、2人の会話が耳に入ってきた。

客「というわけで、この間のランプを10個ばかり作ってもらえませんかね」

魔道士「材料代と手間賃を考えたら…料金はこれ位になるね」カリカリ

町娘(た、高っ!?ゼロ1つ多くない!?)

客「相変わらずいいお値段しますね…」

魔道士「でも出来上がる品は一級品、決して不相応な値段じゃないよ」

客「そうですね。じゃあ、それで…」

魔道士さんに聞いたけれど、彼は自分で魔法道具の材料を目利きして集めているので、その分の費用もあって商品の値段が高上がりになるらしい。
ちなみに彼の言う手間賃とは「それを手に入れる為」「それを作る為」どれだけの魔力を消費したか、が基準になるそうだ。

町娘「魔力とか魔法、って聞くと何でもできそうなイメージですけれど」

魔道士「それは物語の中の話だね~。例えば掃除も魔法でできなくはないんだけれど、割に合わないくらい魔力を消耗するんだよね~」

町娘「だからって自力でもやらないって駄目じゃないですか」

魔道士「できないんだもん☆」

町娘「みっちり叩き込みましょうか?」ニッコリ

魔道士「あっ★仕事があるから部屋にこもるね~」ソソクサ

町娘(逃げた)

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/22(日) 19:26:16.17 ID:fl//vU5S0
とまぁ、生活に関することはまるで駄目な魔道士さんだったけれど、魔法に関しては本当に一級のようで。

「素晴らしい出来でした!また宜しくお願いします!」
「本当に助かりました、これお礼に受け取って下さい!」
「お値段以上の仕事ぶり、流石です」

魔道士「町娘ちゃん、お菓子頂いたから食べない?」

町娘「あ、頂きます。魔道士さん、大人気ですね」

魔道士「ん~、魔法の使い手は年々減ってきているからね~」

町娘「ところで、いつもどんなものを作っているんですか?」

魔道士「実用的なものだと風邪薬とか、伸びる剣とか、単純作業を手伝ってくれるお人形さんとか」

町娘「実用的じゃないものだと?」

魔道士「びっくり箱とか、吹っ飛ぶ布団とか、増えるワカメとか」

町娘「あー、本当にピンからキリまでなんですねー」

魔道士「町娘ちゃんにあげた指輪も実は魔法道具なんだ☆」

町娘「どんな?」

魔道士「はめたまま眠ると僕の夢を見るんだ★どうかな、毎晩夢に出てくる僕は」

町娘「指輪はめたまま寝ませんよ。そもそも家事に支障出るので普段もつけてませんし」

魔道士「オーノー」

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/22(日) 19:27:10.76 ID:fl//vU5S0
魔道士「町娘ちゃんゴメーン☆森に生えているタンポポをカゴ一杯に摘んできてくれないかな?」

ある日そうお願いされ、私は森にタンポポを集めに行った。
この森は危険な魔物もおらず、子供の遊び場になる程なので、特に問題なく集めることができた。

町娘(そろそろ戻ろう)

町娘「只今戻りましたー…って、あれ?」

弟「あ、お姉ちゃん」

町娘「弟君!?何でここに!?」

魔道士さんの家に戻ると、弟が出迎えてくれた。

弟「お姉ちゃんに会いに来たの」

町娘「そう…偉いねぇ弟君、1人で来れたんだ~」

弟「えへへ」

と、弟の頭をナデナデしていたその時。

魔道士「フハハハハ!!ここにいたか勇者よ!!我の技からは逃げられんぞおおぉぉ!!」バッ

ダミ声の魔道士さんが唐突に姿を現した。このテンション、何やら異様だ。

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/22(日) 19:28:02.46 ID:fl//vU5S0
町娘「………何ですか?」

魔道士「あ、おかえり☆」キラリン

弟「あのね、勇者ゴッコしてたの。魔道士兄ちゃんは魔王の役ね」

魔道士「ゴメンね~町娘ちゃんにタンポポ摘みに行かせてる時に遊んじゃって」

町娘「あ、いえ。どうぞ続けて下さい」

弟「喰らえー、雷鳴烈風波~」ビシッ

魔道士「ぐああああぁぁぁ、やられ…グハッ」パタッ

弟「やったー、魔王を倒したぞー!」

魔道士「こうして勇者によって世界に平和は戻ったのであった(裏声)」

町娘(ものっすごく打ち解けてる…)

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/22(日) 19:28:49.48 ID:fl//vU5S0
魔道士「あー楽しかった。町娘ちゃん、紅茶淹れてくれるかな?あ、弟君はジュースの方がいい?」

弟「うん!」

町娘「今用意致しますねー。あ、これタンポポ置いておきますね」

魔道士「ありがと~♪これで発注品が完成するよ」

弟「なになに、何を作るの!?見せて見せて!」

町娘「こら、邪魔しちゃ駄目よ」

魔道士「いいんだよ、あとはもう仕上げ段階だしね。ちょっと待ってて~♪」

そう言って魔道士さんは一旦部屋に戻り、何かを持って戻ってきた。
何やら、可愛らしい木彫りの熊に見えるけれど。

魔道士「これは厄除けの人形なんだ~。娘さんの誕生日にって、パパさんから注文されたんだよ」

弟「へぇ~、この熊さんが厄をよけてくれるんだ」

魔道士「そ☆でも女の子にプレゼントするには、このままじゃ味気ないでしょ?だから…」

魔道士さんはタンポポを手に取って、何かをしている。

魔道士「こうやって花を枯れないようにする魔法をこめて…」

町娘「…」

弟「…」

魔法を使ったかと思いきや、今度は手作業で、熊にタンポポで装飾を始めた。
そしてその出来栄えは…

魔道士「完成~♪どうかなこれ?」

弟「す、凄い!熊さんが華やかになったよ!」

魔道士「ア、ハーン★」

装飾は見事で、熊はとても可愛らしくなった。
手先の器用さとセンスの良さが意外で、少し彼の見方が変わった。

町娘(…ていうかこれだけ器用なら料理とかもできるんじゃ)

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/24(火) 17:14:22.71 ID:VkKpCuI80
その後すっかり仲良くなった2人は夕方まで遊び通した。

魔道士「さて、もう薄暗いし帰りは魔法で転送するよ」

町娘「あ、すみません…」

この間は普通に町まで転送して貰ったけれど、魔道士さんの商売は「どれだけ魔力を消費したか」で報酬を得ている。
町への転送だって、魔力を消費するわけで…。

町娘「この分はお給料から差し引いて…」

魔道士「今日の晩御飯、一緒に食べてくれればそれでいいよ♪」

町娘「えっ」

弟「えー、お姉ちゃんと魔道士の兄ちゃん、一緒にご飯食べてないの?」

魔道士「いつも断られちゃってさ☆」

町娘「私は使用人なので、食卓を共にするわけにはいきません」

魔道士「そんなカタいこと言わないでさ~、僕の寂しさを埋めてよ~」

町娘「はいはい、それなら早く身を固めて下さい」

弟「ねぇ魔道士の兄ちゃん」

魔道士「ん?何だい?」

弟「魔道士の兄ちゃんは、お姉ちゃんのこと好きなの?」

魔道士「!?」

町娘「!?」

突然何を…っていうか、珍しく魔道士さんが目を見開いた。

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/24(火) 17:14:53.58 ID:VkKpCuI80
弟「結婚してって言う位だから好きなんだよね?」

魔道士「…アハハ~★それは運命だから~」

弟「運命とかじゃなくて、気持ちの問題だよ!ねぇどうなの!?」

魔道士「それは~…だね~♪」

町娘「ちょっ、返事しなくていいです!弟君、変なこと聞かないの!」

弟「僕は魔道士の兄ちゃんが兄ちゃんになってくれたらいいなーって思うよ」

町娘「んなぁ!?」

魔道士「安心して、将来そうなるから☆」

町娘「な・り・ま・せ・ん!弟君も、もう早く帰りなさい」

弟「はーい。また来るねー」

魔道士「バーイ★」

そうして弟は魔道士さんの魔法で転送されて行った。

魔道士「さて…これで晩御飯はご一緒してくれるね?」

町娘「うぐ」(忘れてなかった…)

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/24(火) 17:15:33.83 ID:VkKpCuI80
町娘「でも、驚きました」

魔道士「何が?」

夕飯のカレーを食べながら、私は話を振った。

町娘「弟君、あれで結構人見知りする方なんです。なのに初対面で打ち解けるなんて」

魔道士「アハハ、彼とは気が合うねぇ」

町娘「どうやって仲良くなったんですか?」

魔道士「やっぱり最初は人見知りしてたから、魔法人形で話しかけてみたり、本の話を振ってみたりしたら凄く食いついてきてね」

町娘「弟君、魔法も本も大好きですから」

魔道士「ツボだったってわけだ♪」

町娘「…知ってたんですか、弟君の趣味」ジー

魔道士「まさか☆君の弟のことまで調べないよ」

町娘「ですよねー」

魔道士「でも、いい弟さんだね♪心配かけちゃいけないよ」

町娘「えっ」

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/24(火) 17:16:02.41 ID:VkKpCuI80
弟『僕は魔道士の兄ちゃんが兄ちゃんになってくれたらいいなーって思うよ』


町娘「お、弟をダシにしようったってそうは…」

魔道士「じゃなくて★」

町娘「え…え?」

魔道士「弟君は君を心配して来たんだよ。僕が君に嫌なことしていないか…とかね♪」

町娘「…そりゃあ離れて暮らせば心配は沸くものでしょう。実際は心配するようなことしていませんし」

魔道士「けど君は心配な子だ」

町娘「え?」

魔道士「例えば借金のカタに嫌な男と結婚しようとしたり、ね」

町娘「それは…」

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/24(火) 17:16:33.28 ID:VkKpCuI80
貧しいのに、私と弟を引き取ってくれた叔父さんと叔母さん。
2人とも私のことを思いやってくれていた。だから御曹司との結婚だって反対されたけれど――

町娘『私は大丈夫だから』

それ以外、解決策が思いつかなかったから。


魔道士「僕は君と同じ状況に立っていないからあれこれ言うことはできないけど、君は大事なものの為なら自分を犠牲にしてしまう。そういう所が心配なんだろうね」

町娘「…」

魔道士「自分を大事にしなよ。じゃないと――」

魔道士「…」

町娘(な、何?)

魔道士さんは黙ると同時、真剣な表情に変わる。
続きの言葉が聞きたいわけじゃない。ただ、いつもと違う様子が気になって――

町娘「何…ですか?」

魔道士「いやぁ」

そしてその顔はいつもの笑みを取り戻し。

魔道士「僕のお嫁さんにして、守ってあげなきゃなーって思っちゃうじゃない☆」

町娘「…」

やっぱり、真面目な返答は期待できなかった。

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/24(火) 17:17:30.73 ID:VkKpCuI80
町娘(あーもー)

魔道士との会話は何だか疲れる。
そりゃ、借金を肩代わりしてくれたり、弟とすぐ打ち解けた様子を見ると、いい人なのだが――

町娘(やっぱり胡散臭いのよね…)

作ったような笑顔。建前を並べた言葉。
そんな作り物で隠した本音が見えなさすぎて、もどかしい。

彼は私を「お嫁さんにする」と言うばかり。
下心が露出した発言なのに、その胡散臭さのせいでまるで下心は感じられない。

町娘(あーホント、何考えてるのか…)

町娘(…って、魔道士さんのこと気になってるわけじゃないし!?)

町娘(これも魔道士さんが胡散臭いのが悪い!もう今日は寝よう!)

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/26(木) 14:50:34.86 ID:VsJcUe100
>翌日

今日もお客さんが訪れて、私は魔道士さんブレンドの紅茶を差し出す。

魔道士「ありがと☆」

客「で、魔物退治の依頼ですが…」

町娘(え、魔道士さん魔物対峙まで引き受けてるの!?)

魔道士「あんまり好きな仕事じゃないんだよねぇ…傭兵さんとかに依頼した方が安上がりだと思うけど」

客「近頃の傭兵はどうもガラが悪く、その…どうも頼みにくいので」

魔道士「うーん、どれ位の魔力を消費するかは魔物次第だから正確な値段は出せないけど、前払いで最低これ位はいるね」カキカキ

町娘(前払いでこの値段!?物作りと比べ物にならない…)

客「わかりました。値段に見合う仕事をすると評判の魔道士様です、期待しています」

魔道士「あらら、断られるかと思ったのに。ま、引き受けたからには頑張るよ♪」

町娘(何か…ここで生活していると、金銭感覚がおかしくなりそう…)

41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/26(木) 14:51:05.08 ID:VsJcUe100
町娘「お弁当できました」

魔道士「ありがと☆じゃ、行ってくるね~」

町娘「でも魔道士さんって戦うイメージありませんよね」

魔道士「好きじゃないからね~♪でも材料採取で魔物と戦うことはあるよ」

町娘「へぇ意外」

魔道士「フフ~ン、見直してくれた?」

町娘「いえ、外出するんだなぁって」

魔道士「ノ~ン。引きこもりじゃダイエットはできなかったさ」

町娘「じゃあ前は太っていらしたんですか?」

魔道士「黒歴史に触れるのはノンノノン★じゃ、行ってくるね~」

町娘「あ、はい」

町娘(今日もお掃除しようっと)

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/26(木) 14:51:41.83 ID:VsJcUe100
毎日掃除をしているお陰で、来たばかりの頃よりは大分この家も綺麗になった。

町娘(…でも、この部屋は)

仕事部屋の前で立ち止まる。ここだけはいじらないでほしいと言われたので入ったことはない。
けどあの魔道士さんのことだから、物凄く散らかしている気がする。

町娘(あぁー掃除したい)

魔道士さんは1日の大半を仕事部屋で過ごしているので、この部屋が1番汚れていると思う。
元々この家は部屋数が多くないし、ほとんど使っていない部屋を掃除するのに大して時間はかからなかった。

町娘(まぁでも、下手にいじって物を壊したりしたら大変だし)

仕事部屋の掃除は諦めて、今日は洗濯に力を入れることにした。
ちなみにここに来てから何度か彼の衣類を洗ったことはあるが、下着だけはいつも洗濯カゴに入っていない。

町娘(自分で洗ってるのかな…?)

まぁ、男性の下着を見るのは何だか気まずいので、彼がそれで構わないならいいけれど。

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/26(木) 14:52:42.22 ID:VsJcUe100
魔道士「只今~♪」

夕方頃、魔道士さんは転送魔法で戻ってきた。

町娘「お帰りなさい。お怪我はありませんか?」

魔道士「薬草持っていったから、もう平気さ☆」

町娘「そうですか。あ、ローブの脇が破れてます。縫いますので、脱いで下さい」

魔道士「ここで?」

町娘「…いえ、お部屋で脱いできて下さい」

魔道士「ハ~イ★」

この、下着すら見せない人に「ここで脱げ」と言えばどんな反応をしたのか。いや、別に試してみたいとも思わないけど。

魔道士「はい、お願いね~」

魔道士さんは白いワイシャツに着替えて、ローブを持ってきた。
普段の「いかにもって感じの魔法使い」な格好でなく、こういう格好をしていれば胡散臭さを感じない美男子なのだが…。

魔道士「そんなに熱い視線で見つめちゃダ~メ♪」

町娘「見つめてません!」

こういう所がとても残念としか。

魔道士「~♪あれ、手紙来てるね?」

町娘「えっ」

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/26(木) 14:53:31.00 ID:VsJcUe100
魔道士さんが指差した郵便受けには、確かに手紙が挟まっていた。

町娘「す、すみません!気付きませんで…」

魔道士「ううん、僕の所に郵便が来るなんて珍しいしね。えーと…おや、君にだよ」

町娘「私に…?」

魔道士さんに手紙を受け取り、すぐに差出人の名を確認する…と、嫌な名が。

町娘「げ。御曹司から…」

魔道士「おやおや、何だろねぇ」

町娘「えーと…あっ、これ終戦記念日のパーティーの招待状だわ」

魔道士「いいなぁ」

町娘「行きたくありませんよ…」

主催が御曹司というだけで、嫌な予感しかしない。
勿論、返事は欠席…と思ったが、手紙に書いてある追伸に目が行った。

町娘「叔父さん達も招待してる…ですって」

それだけの一文に、脅迫めいたものを感じる。
嫌われ者ではあるが。それでも町では多大な権力を持つ御曹司。もし欠席すれば、(半強制的に)招待された叔父達はどんな目に遭うか…。

町娘「すみません、この日は休みを頂いてもよろしいでしょうか」

魔道士「オーケー。久々にお家に帰ってゆっくりするといいよ」

町娘(ゆっくりどころじゃないなぁ…)

今から、物凄く憂鬱だった。

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/26(木) 14:54:10.63 ID:VsJcUe100
>そして当日…

町娘(うー…)

町へは魔道士さんが魔法で転送してくれた(また夕飯を一緒に取るという条件で)
パーティーは町の人達も招待されている、格式の高くないもので、ちょっとお洒落な普段着で浮くことはなかった。(それでも流行遅れなのしか持ってないのだけれど)

しかし…

町娘「な、何か…視線が気になるなぁ」

久しぶりに会った人達は私のことを遠目で見ている。
どうも、どう声をかけていいのかわからないと思われているというか、敬遠されている感じがする。

叔父「お前が御曹司を振ったことが知れ渡っているからなー…」

町娘「叔父さん達、私がいない間に御曹司に嫌がらせはされなかった?」

叔母「それは大丈夫だったわ」

叔父「あの魔道士殿が借金を返済して下さったおかげで、御曹司と関わりが無くなったしな」

借金があった頃は大変だった。御曹司からの求愛が毎日のように…あぁ思い出しただけで肌寒い。

弟「ね、ねぇお姉ちゃん。あの料理、食べていいの…?」ゴクリ

パーティー会場にある豪勢な料理に、さっきから弟が目を奪われている。
御曹司からの施しなど受けたくないのが本音だろうが、それでも欲求は嘘をつき通せないようで。

町娘「えぇ、いいわよ」

弟「うん…それじゃあ」

御曹司もまさか「パーティーの食べ物を食べたんだから結婚しろ」なんて無茶苦茶な要求はしてくるまい。
私は警戒しつつも、弟達と一緒にパーティーの料理を皿に盛った。

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/26(木) 14:54:52.22 ID:VsJcUe100
その時。

御曹司「やぁやぁ皆、よく集まってくれたねぇ」

パーティー会場の壇上に御曹司が現れた。
会場に集まった皆の緊張感が一気に高まるのを感じた。

御曹司「今日はめでたい終戦記念日だ、この平和に感謝しながら楽しんでいってくれたまえ」

弟「毎年こんなことやってなかったのに、何で急に…」

町娘「…」

私は警戒する。御曹司は会場の全員に呼びかけているようだけれど、視線は私の方を向いているのだ。
やはり、何か企んでいるとしか思えない。

御曹司「そもそも終戦記念日とは、遠い昔起こった世界大戦が終焉した日であり~…」

町娘(もう戦争を起こさないようにと、全ての国の王が交わした平和条約は現代まで生きている…)

無学な私でもそれは知っていた。

御曹司「ところで戦争は悪だが、戦争によって発達した技術もあるのは知っているだろうか?」フヒッ

御曹司が嫌な笑みを浮かべながら、壇上の近くにいた人達に尋ねる。彼らは戦闘技術、爆薬、といった答えを口にする。

御曹司「勿論それらは正解だ…だけどフヒッ、最も発展したものがフヒッ」

そう言って御曹司は、不敵な笑みで私の方を見た。

御曹司「魔法技術…ってわけだ」

町娘「…!」

47 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/26(木) 14:55:52.52 ID:VsJcUe100
魔法については全く詳しくない。
町を歩けば魔法道具を見かけ、魔法を題材にした物語が溢れている。だけどその使い手は年々減っている、ということを知っている位。
この町に魔法使いはいなかったので、魔道士さんは初めて会った魔法使い、ということになる。

御曹司「魔法そのものは遠い昔から存在していたが、その力は脆弱だった。だが戦争により魔法使い達は自分達の力を認めさせる方法を編み出したんだ」

御曹司「戦争での人殺しでなぁ…」フヒヒッ

魔法を題材にした物語で、魔法使いによる戦闘物はそれなりに人気のあるジャンルだ。
だけどあくまでフィクションだから楽しめるものであり、それが事実だったりすると…。

御曹司「戦争に魔法が取り入れられてから、戦争による死者の数は急激に増えたようだフヒ、それこそ年間万単位で…」

叔母「な、何か嫌な話ね」

叔母さんがそっと耳打ちする。叔母さんだけじゃない、御曹司の話を聞いて顔色を悪くしている人達もいる。

町娘(何のつもりよ…?)

しかし会場の空気が重くなっても、御曹司は構わず話を続けた。

御曹司「ところで、元々脆弱なものだった魔法の力を強めたのは、何だったと思う?」

急な話題の転換に、私は考えが追いつかなかった。

48 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/26(木) 14:57:21.60 ID:VsJcUe100
御曹司「最も魔力を有する生き物は何だと思う?フヒヒッ…答えは蛇だよ」フヒッ

子供の頃、蛇にイタズラすると祟られるとか聞かされたことはある。
まぁ、そもそも蛇が苦手なのでイタズラなんてできないんだけれど。

御曹司「魔法使い達は蛇の生き血を搾り取って魔力を抽出し、自分の力にする方法を編み出した…フヒヒヒ」

叔母「嫌ね、気持ち悪い」

御曹司「こうして蛇の魔力を取り入れた魔法使い達は力を上げた…だけれどね」ニヤーッ

町娘「…?」

御曹司「魔法使いの中でも古い歴史を持つ、魔導名家のやることはまた違った…」ニヤニヤ

町娘(魔道士さんの家だわ…)

会場の何人かが私の方をチラッと見た。魔導名家は、私より上の世代の人達なら誰でも知っている存在らしい。

御曹司「魔導名家はその方法で代々、他の魔法使いの追随を許さない力を保ち続けてきたという…フヒヒヒヒ」

誰かが「その方法とは?」と尋ねる。会場の人達は互いに顔を合わせるが、誰もその方法は知らないようだ。

御曹司「一族の秘技らしいけどなァ…それを知った時はボクもゾッとしたよぉ」ニタニタ

町娘(ゾッとする方法…?)

御曹司「ほら、蛇から魔力を抽出する方法があると言っていただろ…?」


御曹司「それなら、人間からも魔力を抽出できるだろォ?」

町娘「…!?」

会場がざわつき始めた。

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/26(木) 14:58:01.94 ID:VsJcUe100
御曹司「そう、魔導名家の奴らは人体実験を繰り返し――」

弟「それって…」ブルッ

御曹司「同属である魔法使いの生き血から魔力を抽出した…」

叔母「ひっ」

御曹司「戦争に積極的な魔導名家の力が上がるのは国にとっても都合がいいから、国はそれを黙認していたそうだよォ~」

御曹司「けど戦争が終わった今でも、魔導名家の者は力を維持する為に――」

叔父「まさか…」

御曹司「魔導名家では代々、死期が近くなった親の魔力をその子が吸収して力を保っているそうなんだァ~」

町娘「…っ!!」

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/28(土) 11:36:31.49 ID:m48zLobU0
魔道士『当主になる為に頑張ってたら、気付けば結婚適齢期になっていてね~』


魔道士さんは魔導名家の現当主。
家族の話は聞いていないけれど――


客『相変わらずいいお値段しますね…』

魔道士『でも出来上がる品は一級品、決して不相応な値段じゃないよ』


あれだけ高値で売り込んでも客足が絶えない位、魔道士さんの実力は確かだ。

だけど、その力が――


御曹司『魔導名家では代々、死期が近くなった親の魔力をその子が吸収して力を保っているそうなんだァ~』


魔導名家に代々伝わる方法――親の生き血で得たものだとしたら――


魔道士『運命に逆らうのかい?ハハッ、なかなかお転婆な娘さんだね♪』

魔道士『フム…オーケー、一括払いで♪』

魔道士『…アハハ~★それは運命だから~』


あの胡散臭い笑顔の裏で、そんなことをしていたのなら――

55 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/28(土) 11:37:00.16 ID:m48zLobU0
気付けばパーティー会場は静まり返っていた。

弟「お、お姉ちゃん…」

弟は真っ青な顔をして私の袖を掴んでいた。
弟だけじゃない、何人かは気分を悪くしたようで、会場から外に出て行った。

それから周囲から聞こえてきたのは…

「あの魔道士、そんなことを…」
「そんな人が近くに住んでいるなんて嫌ねぇ…他にも何か変なことやってるんじゃないの」
「あぁ、おぞましい」

魔道士さんを軽蔑する声。

弟「ねぇ…お姉ちゃん、魔道士兄ちゃんも、そんなことしたの…?」

町娘「それは…」

御曹司「してただろうさ~。だってあの一族の末裔だもの~」

町娘「!」

御曹司がニタニタ、嫌な笑みを浮かべながら寄ってくる。
人々の注目は当然、こちらに集まった。

御曹司「町娘ちゃん、愛しい君の為にここまで調べたんだよフヒッ。あんな男に奉公することはないよォ~」

町娘「私は…」

御曹司「町に帰っておいでェ。あんな男と関わって良いことは無いよォ」フヒィ

町娘「…」

56 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/28(土) 11:37:37.44 ID:m48zLobU0
町娘「それはできません」

御曹司「フヒッ!?」

魔道士さんのことはよくわからない。
こちらが知ろうとしても、いつも作り物の笑顔で誤魔化されるから。

だけど、彼を信じているとか信じていないとか、そういう話じゃなく――

町娘「彼に恩があるのは事実です。なので借金分を返済するまでは、彼の所にいます」

御曹司「何なら、あの魔道士から払われた金を突っ返してやってもいいんだよ!?あいつ、君をお嫁さんにしたいとか言ってるし、何されるかわかんないよ!!」

町娘「少なくとも、私に手を出そうとする様子はありませんよ」

御曹司「けど、君をそんな奴の所にやった叔父達が白い目で見られるよ!」

町娘「…っ」

はっきりと、これは脅しだとわかった。
わざわざ大勢の前であんなことをばらしたのは、私を魔道士さんの所にいられなくする為だ。

叔父さん達の顔を見ると、複雑な表情で黙り込んでいた。
どちらにしろ状況は悪いのだ。魔道士さんの所にいるのも、帰ってきて御曹司の所に嫁入りするのも。

どちらにしろ悪い、なのだとしたら――

町娘「私は魔道士さんの所にいます」

そっちの方が、遥かにマシに思えた。

57 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/28(土) 11:38:05.30 ID:m48zLobU0
御曹司「どうしてそうなるかなぁ!?」フヒーッ

御曹司は顔を真っ赤にして叫んだ。

御曹司「そんなにまで非人道的な奴といる必要がどこにあるんだよォ!?ボクの所に来た方が絶対いいだろォ!?」

町娘「だって、まだわからないですから…」

御曹司「何がァ!?」フーッフーッ

町娘「その話が本当かどうか」

御曹司「本当だよ、本当!!歴史や戦争の研究者に聞いた紛れもない事実なんだよ!」フーッ

町娘「だとしても、魔道士さんがそれをやったかどうかはわかりません」

半分、私は意地になっていた。
頭の悪い選択かもしれない。だけどこの御曹司から逃げられるならと思うと、目先しか見えてなくてもそちらを選んでしまう。

御曹司「やったに決まってるだろォ!!あいつら魔導名家はそういう、薄汚いことをやっている一族なんだよおオォォ!!」


「ア、ハーン☆ちょ~っと情報収集が中途半端だねぇ」


町娘「!?」

御曹司「!?」


その声が聞こえたと同時――

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/28(土) 11:38:34.92 ID:m48zLobU0
魔道士「チャオ~★」

煙と共に魔道士さんが何もない空間から現れた。
会場はざわつきだす。

御曹司「な、何だお前はぁ!?フヒッ、招待状を送ってない奴は入ってくるなよォ!!」

魔道士「カタいこと言わずに♪それよりも、よくうちの一族について調べたねぇ。感心感心」パチパチ

御曹司「うるさい、薄汚い一族の当主がアアァ!!」フヒイイイィィ

魔道士「うーん、僕の名誉回復の為に言いたいことがあるんだけどねぇ」

魔道士さんは手を掲げ、何もない空間から紙を出した。
あれは確か、魔法道具で撮れる「写真」というものだ。

魔道士「ここに写っているのは僕のパパとママなんだけど~」

そう言いながら、魔道士さんは写真を拡大させパーティー会場の全員に見せる。
そこにはやや小太りな中年男性と、控えめな感じのする綺麗な女性と、真ん中に魔道士さんが写っていた。

魔道士「これ結構最近の写真で、パパもママも生きているんだよね~。今は魔法商売を引退して、外国で隠居生活送っているけど☆」

御曹司「フヒッ!?」

確かに写真の魔道士さんは、今の姿と変わりがない。

魔道士「っていうわけで僕の魔力は純正なんだよね~。嘘だと思うならパパとママを呼ぼうか?」

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/28(土) 11:39:14.86 ID:m48zLobU0
御曹司「だ、だだだとしても!!」

魔道士「何だい?」

御曹司「お前の一族が長いこと、代々それをやってきたのは事実だろォ!?」

魔道士「うん、事実だね」

御曹司「」

あっさり認める魔道士さんに、御曹司はかえって何も言えなくなったようだ。

魔道士「でも、僕自身がクリーンなら問題ないじゃない」

御曹司「お、お前が薄汚い、血塗られた一族であるという事実はあぁ…」

魔道士「その発言は自分の首を絞めるよミスター御曹司」

御曹司「何ッ!?」

魔道士「君のご先祖様は戦争時代、国のお金持ちに詐欺を働いて大金を得て…」

御曹司「わあああぁぁ、うわあああああぁぁぁ」

御曹司は魔道士さんの声をかき消そうと、必死になって叫び始めた。
だけど今更手遅れだ。…っていうかその事実は有名だから、誤魔化しても意味ないのだけれど。

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/28(土) 11:40:00.87 ID:m48zLobU0
魔道士「それにねぇ」

御曹司の叫び声が枯れた頃、魔道士さんは声を挟んだ。

魔道士「確かに代々その手法は行われているけど、僕はそれをやらないつもりだよ」

御曹司「口だけなら何とでも言えるがなぁ!!」

魔道士「ハハッ、一族でも屈指のマザコンかつファザコンな僕が、そんなグロテスクな事できるわけないじゃな~い♪」

冗談めかして言う魔道士さんに空気は和らぎ、笑い声を漏らす人もいた。

御曹司「だが魔法使いにとって、膨大な魔力は魅力的なはずだろう!?」フンガー

魔道士「パパとママの生き血を搾り取ってまで手に入れたいものじゃないねぇ」

魔道士さんは躊躇せず答える。

魔道士「それに僕に、身の丈以上の魔力は必要ないよ」

そう言うと魔道士さんは指をパチンと鳴らし…

「うわっ」
「あっ!?」

町娘「えっ!?」

景色が一瞬で変わった。
パーティーの招待客の衣装が一瞬にして、豪華なドレスとタキシードに変わったのだ。

魔道士「魔法は12時で解ける。けど、夢を見るには十分な時間」

魔道士さんの笑みは自信満々だ。
こんなことを一瞬でやってのける実力を見せつけて、彼は言葉を続ける。

魔道士「僕に、これ以上の魔力は必要ない」

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/28(土) 11:40:35.08 ID:m48zLobU0
魔道士「それじゃあ皆さん、引き続きパーティーを楽しんでね。バーイ★」

魔道士さんはそう言うと、その場を颯爽と後にする。

「あいつの言ったこと本当かなぁ…?」
「本当なんじゃない?あー心配して損した」

周囲の声を聞く感じ、魔道士さんの弁解は上手くいったようだ。
中には魔道士さんを「かっこいい」と言う女性の声も…。

弟「良かったね、お姉ちゃん」

町娘「そうね」

正直魔道士さんが現れるまで半信半疑ではあったが、彼からの弁解を聞いてほっとした。
これで私が彼の元にいても、叔父さんや叔母さんが白い目で見られることはなくなっただろう。

弟「そんなことする兄ちゃんの所に、お姉ちゃんをお嫁に行かせるわけにはいかないもんねぇ」

町娘「!?こ、こらっ」

弟「へへへっ」

私が叱ろうとすると、弟は人々の間を縫って逃げてしまった。
全く、弟の中では私と魔道士さんはどんな仲だと思っているのか…。

町娘「…もう」

とりあえず、そこで目論見が外れて意気消沈している御曹司を放っておいて、私は魔道士さんを追いかけた。

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/28(土) 11:41:05.37 ID:m48zLobU0
町娘「魔道士さん!」

魔道士「おや町娘ちゃん。どうしたの?」

まだ廊下にいた魔道士さんを呼び止めた。

町娘「どうしてここに?」

魔道士「だって、ミスター御曹司が良からぬことを考えているのは明らかだったし☆」

町娘(ま…そりゃそうよね)

魔道士「でも、君に良からぬことをするかもって予想してたけど、僕の悪評をふりまく程度だったから安心したよ」

町娘「良かったんですか、バラされちゃって…」

魔道士「どうだろうねぇ」

町娘「え?」

魔道士さんは滅多に見せない苦笑いを見せた。

魔道士「君は軽蔑した?僕が薄汚い一族の末裔だなんて」

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/28(土) 11:41:32.99 ID:m48zLobU0
町娘「いいえ」

私は即答する。

町娘「貴方の一族の風習については正直理解できませんけど、それをやっていないのなら貴方に悪い感情を抱く理由はありません」

魔道士「そっかー、良かった☆」

魔道士さんは満面の笑みになる。何だか、ほっとしたように見える。

町娘「…」ジー

魔道士「ん、どうかした?」

町娘「いえ。何だかようやく魔道士さんの本音が見えたかなって」

魔道士「~?」

魔道士さんはよくわからないといった風に顎に手を当てる。
だけど「まぁいいか」とすぐに止めた。

魔道士「それよりも」

町娘「はい?」

魔道士「ドレス、よく似合っているよ♪」

町娘「あ…はい」

魔法で造られた、豪華なドレス。私のような貧相な娘には不釣り合いに思えていただけに、ちょっと恥ずかしい。

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/28(土) 11:42:13.41 ID:m48zLobU0
魔道士「本当は、この魔法使いたくなかったんだ」

町娘「え…?」

魔道士「だって――」

魔道士さんは私の前に膝をつき、私の手を取った。

魔道士「君は、僕だけのお姫様でいてほしいから――」

町娘「………っ!?」

その言葉に、頭が沸騰しかけた。

町娘(待っておかしい)

魔道士さんは「運命の相手」という条件で召喚魔法を使い、それで私が引っかかったから私と結婚したいと思っているだけだ。
その結婚したいと思う経緯に、恋愛感情だとかそういったものは一切ないはず。

なのに、これじゃあまるで――

町娘(お、おおお姫様って…)

まるで、私のことを――

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/28(土) 11:42:39.88 ID:m48zLobU0
町娘(…ってえええぇ、そんなわけないじゃなあああぁぁいっ!!!)

魔道士「町娘ちゃん?」

町娘「ああぁもう、魔道士さんもう帰って下さい!!」

魔道士「え、うん」

魔道士さんはキョトンとしている。
あれだけ凄いことを言っておいて、何て鈍いんだろう。

魔道士「じゃあ明日迎えにくるね~。バーイ★」

魔道士さんはそう言い残すとそこから去って行った。
私もこのまま帰ってもいいのだけれど…今日は叔父さんの家に泊まることになっているので、パーティーが終わるまで適当に過ごすことにした。

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/30(月) 14:38:14.51 ID:eb310BsH0
御曹司「くそおぉ…」

一方目論見が外れた御曹司は、庭で貧乏ゆすりをしていた。
魔道士の評判を落とす為に手を尽くして調べたことなのに、魔道士自身にまるでダメージを与えることができなかったのは想定外。

御曹司(ああぁ、これじゃあ町娘ちゃんをあいつに取られちゃうじゃないかああぁ!嫌なタイミングで現れやがって、あの色男が!)フガー

嫌われ者という自覚のない御曹司は、自分自身が避けられているとは思ってもいなかった。

御曹司(どうにか町娘ちゃんをあいつと引き離せないか…)

御曹司(家族からの説得があればボクの所に来るだろうが…クソ、叔父達もボクに協力的じゃないし)

思うようにいかない鬱憤は、八つ当たりのように町娘の家族たちに溜まっていく。
そして妄想は、町娘の家族が邪魔をしているのではないかという所まで膨らむ。

御曹司「…ん?」

その時だった。

弟「えっとー」キョロキョロ

迷子になっている弟を見つけたのは。

68 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/30(月) 14:38:59.71 ID:eb310BsH0
御曹司(あのガキ、ボクと顔を合わせる度に嫌な顔しやがって)

勿論、弟だけが特別御曹司を嫌っているわけではなく、子供である分感情を隠すのが下手なだけである。

御曹司(あ。もしかしてあいつが町娘ちゃんに、ボクとの結婚を反対しているんじゃないのか?)

叔父や叔母は自分との結婚を認めていた。(正確には、諦めていた)
なら町娘が自分との結婚を躊躇する理由は…御曹司はそれに疑いを持たなかった。

弟(うわー大きな池)

御曹司「…」

池の魚に夢中になっている弟は、御曹司の接近に気がつかない。
御曹司にとっては、軽い気持ちの悪意だった。

――どん

弟「――っ!?」

69 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/30(月) 14:39:40.45 ID:eb310BsH0
叔父「そろそろ帰るか」

叔母「そうね」

いい時間になってきて、帰り始める人も出てきた。
それにもう、子供は寝る時間だ。

町娘「弟君がさっきから見当たらないのよ」

叔父「この屋敷は広いし、迷っているのかもしれんな」

叔母「それは大変だわ。使用人さんに言わないと」

町娘「もうあの子ったら…」

やんちゃな性格ではないので、どこかの部屋に入ってイラズラとかはしていないと思うが。

そう思っていた時、丁度いいタイミングで屋敷の使用人らしき人がこちらに寄ってきた。

叔母「あ、丁度良かった。あの、これ位の男の子見ませんでしたか?」

使用人「それが…」

使用人は慌てた様子だった。

叔父「どうされました?」

使用人「町娘さんの弟さんらしき男の子が、池に落ちたようで」

町娘「…えっ」

70 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/30(月) 14:40:22.60 ID:eb310BsH0
あの後すぐに弟を引き取って家に戻った。
お風呂に入れて着替えさせ、暖かいベッドに入れてやった。

弟「ゴホゴホ」

町娘「ひどい熱だわ!」

どうやら体が冷えて風邪を引いたらしい。
元々弟は体が弱い。一旦体調を崩すと、しばらくは長引く。

医者からは風邪薬が出され、一晩様子を見るよう言われた。

町娘「…それにしても弟君が池に落ちるなんて、変ね」

叔母「そうねぇ…」

庭はまだ、池が見えなくなる程暗くはなっていなかった。
はしゃぎすぎて池に落ちる程、やんちゃな弟だとも思えない。

弟「うーん…」

けど弟は熱にうなされていて、とても話を聞ける状況じゃない。
それに何にせよ、池に落ちたのは事実なのだ。

町娘「今晩は私が弟君を看病するわ」

叔母「ごめんね町娘、今日はゆっくり休んでもらおうと思ったのに」

町娘「ううん、気にしないで。叔母さんだって普段から働き詰めじゃない」

それに、私の弟なんだし。
とにかく明日まで、様子を見よう。薬も出たし、明日には少しは良くなっているだろう。

71 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/30(月) 14:40:49.53 ID:eb310BsH0
そう思ったが。

弟「うぅーん…」

翌朝になっても弟の熱は下がらなかった。
それどころか、顔色も悪くなったような…。

町娘「ああぁ、どうしよう…」

叔母「落ち着いて、お医者さんを呼んだわ!」

医者は弟の様子を難しそうな顔をして見ていた。
私はその様子に、嫌なものを感じる。

町娘「あの、弟の病状は…」

医者「風邪で抵抗力が落ちた所で、別のウイルスに感染した様子だ」

町娘「別のウイルス!?」

叔父「落ち着きなさい町娘」

医者に詰め寄る私を、叔父さんがたしなめる。

医者「発熱、嘔吐、耳鳴り、幻覚…時間が経てば経つ程症状は重くなり、最悪の場合…」

町娘「な、治せないんですか!?」

医者「この病気に効く薬なら作れる。だが――」

町娘「だが?」

医者「薬の材料が、狼の森という危険な場所に生えていてね。それの採取を依頼すれば、かなりの高額になる」

町娘「――っ!」

72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/30(月) 14:41:18.95 ID:eb310BsH0
叔父「そ、それはどの位の…」

医者「大体相場は…」

叔父「うっ」

その額を聞いて叔父はたじろぐ。
貧しいうちには、とても払えそうにない額だ。

叔父「だ、だが弟の為だ…借金してでも薬を手に入れないと…」

叔母「また御曹司の家にお金を借りるの…?」

叔父「仕方あるまい…!!」

叔父さんの顔が歪む。借金を抱えるとどれだけ肩身の狭い思いをするか、よくわかっているのだ。
それに、自分たちは1度御曹司を怒らせている。それなのにまたお金を借りれば、どんな嫌な思いをするか…。

勿論、それを我慢すれば弟は助かるのだから、私なら耐えられる。
だけど自分と弟は厄介になっている身で、叔父さんと叔母さんにあまり迷惑をかけたくはない。

叔母「そうだわ町娘」

と、思いついたように叔母さんが言った。

叔母「魔道士さんに材料収集を頼めないかしら?」

町娘「それは――」

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/30(月) 14:41:52.32 ID:eb310BsH0
魔道士さんは「どれだけ魔力を使ったか」で商売をやっている。
材料収集など頼めば、勿論魔力を使うだろう。相場より高い料金を取る魔道士さんに頼めば、かえって高上がりになること間違いなし。

でも、魔道士さんなら――

魔道士『今日の晩御飯、一緒に食べてくれればそれでいいよ♪』

正規料金を取らず、頼まれてくれるかもしれない。

だけど。

魔道士『例えば掃除も魔法でできなくはないんだけれど、割に合わないくらい魔力を消耗するんだよね~』

魔力とはどんなものかわからないけど、消耗すれば疲れを伴うものなのかもしれない。
それでなくとも、魔道士さんが仕事をする上で大事な力だ。

働いて返す、そういう手段もある。だけどこれ以上魔道士さんの好意に甘えるのも申し訳なくて。


町娘「頼んでみるから、任せて叔母さん」

私は嘘をついた。

町娘「あの、どんな材料なのか教えて頂けません?」

医者「あぁ、この本に載ってる…これだね」

町娘「ありがとうございます」

町娘「じゃ、魔道士さんの所に行ってくるね」

74 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/30(月) 14:42:30.20 ID:eb310BsH0
魔道士「チャオ~☆」

待ち合わせをしていた魔道士さんと会う。

町娘「すみません魔道士さん、もう少しお休みを頂けませんか?」

魔道士「うん?いいけど、どうしたの?」

町娘「弟が熱を出してしまったので、看病をしたいと思いまして」

魔道士「それはいけないね~。いいよ、熱が下がるまでついていてあげて」

町娘「ありがとうございます」

魔道士「じゃあ、弟君の熱が下がったらまた一緒に遊ぼうって言っておいて♪バーイ★」ドロン

魔道士さんは煙と共に姿を消す。
私はポケットに入れているメリケンサックを取り出す。

町娘(ごめんなさい、嘘ついて…)

私は一直線に町を出た。

75 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/30(月) 14:43:04.03 ID:eb310BsH0
狼の森。ウルフの生息場所だというが、狩りによってウルフの数は年々減少していると聞いた。
事実、森に足を踏み入れて1時間程経ったが、それらしき姿は見かけていない。

町娘(このまま現れないでよ~…)

でも怖気づいている場合ではない。弟の命がかかっているのだ。

町娘(どこかしら)

歩き続けて、流石に足が痛くなってきた、
まさかここまで見つからないとは思っていなかった。

町娘(まぁ、簡単に見つけられたらそんな高額にはならないはずだしね…)

やっぱり誰かに依頼すべきだったか。
だけど、誰にも迷惑はかけたくない。

その時だった。

町娘「あっ」

ふと視線を移した所に、目立つ色の草が生えていた。
あれは――間違いない。

町娘「あった…!」

目的のものを見つけた興奮で私は走り出す。

と、同時。

76 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/30(月) 14:43:32.46 ID:eb310BsH0
グルルル…

町娘「!?」

唸り声が聞こえ、ガサガサという音が寄ってきた。
私はビクッと肩を鳴らす。

町娘(ウ、ウルフだ…)

姿を現したのは1匹のウルフ。さほど体は大きくない。
だけどその目は殺気がこもっていて…。

町娘(う、ううぅ)

いや、ウルフがいるのは覚悟して来た。
だから大丈夫、大丈夫…だけどメリケンをはめた手は震えている。

町娘(きゅ、急所を叩けば怯んで逃げるはず…!!)

だけど、急所ってどこ?

そんな感じで頭が混乱している時に。

ガアアァッ!!

町娘「きゃあーっ!?」

77 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/30(月) 14:44:26.64 ID:eb310BsH0
ゴッ

そんな音が聞こえた。

町娘「…え?」

大きめの石が地面に転がる。
その石が飛んできた方向を、ウルフが睨んでいた。

町娘「あ…!!」

そして、その先にいたのは。

魔道士「もう町娘ちゃん、君って本当にじゃじゃ馬だね☆」キラリン

町娘「魔道士さん!?どうしてここに!?」

そんな疑問が口から出たが、会話を交わしている余裕はなかった。
魔道士さんの投石に怒ったウルフは、今度は魔道士さんに飛びかかる。

町娘「きゃああぁっ!」

魔道士「もう~」

だけど魔道士さんは、余裕の顔で見慣れない杖を掲げていた。
そして――

魔道士「てやっ!」ドゴッ

町娘(物理攻撃!?)

飛びかかってきたウルフの鼻を、杖で思い切り殴った。

78 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/30(月) 14:45:48.82 ID:eb310BsH0
魔道士「…っ」

だけど魔道士さんも無事ではなかった。
殴るのと同時、ウルフの爪が魔道士さんの左腕から胸を引き裂いたのだ。

魔道士「エレガントじゃないな~」

それでも余裕を崩さない魔道士さんとは対照的に、攻撃に怯んだウルフはそこから脱兎のごとく逃げ出す。
おかげで、危険は脱したけど…。

町娘「ま、魔道士さん!大丈夫ですか!?」

魔道士「平気平気、念のため薬草持ってきたから☆」

町娘「どうしてここに…」

魔道士「いやぁ、お見舞いの品を持って弟君の所に行ったら、君がいないじゃない?それで事の経緯を聞いたわけさ~」

叔母さんは私が魔道士さんに材料の採取を依頼したと思っているだろうから、最初は話が噛み合わなかっただろう。
だけど、それよりも。

町娘「どうして私がここにいるとわかったんですか?」

魔道士「運命ってやつ?」

町娘「ふざけないで」

魔道士「むしろ、他のパターンは考えつかなかったよ★」

私の行動は、予想できる範疇にあるということか。

79 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/30(月) 14:46:21.18 ID:eb310BsH0
町娘「…魔道士さん、ご迷惑おかけしました」

魔道士「気にしないで~、僕が勝手に来たんだし~♪」

町娘「いえ、あの、でも、この分はちゃんと働いてお返ししますので…」

魔道士「いいのいいの☆だって僕、魔法使ってないよ」

町娘「あ…」

確かに投石といい、杖での物理攻撃といい、魔法ではなかった。
…まさか私の心配まで読んで、それで魔法を使わなかったのか。

町娘「本当に――」

魔道士「それよりも材料取って帰ろ~♪」

魔道士さんは薬草を摘み取る。
私に気を使わせまいとしてくれているのが、見て取れた。

魔道士「帰りの転移魔法の分は、また一緒に御飯食べてくれればいいよ。弟君が治ったら3人で★」

何て、いい人なんだろう。

町娘「…はい!」

83 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/31(火) 20:05:07.42 ID:zq3KKQit0
その後薬草を持って帰り、薬を調合して弟に飲ませた。(ついでに、叔父さんと叔母さんからこってり絞られた)

町娘「弟君おはよう、お粥食べれる?」

弟「うん、食べられるよ」

薬のおかげか、数日で弟の容態は大分回復した。
前はずっと意識が朦朧としていたのに、今では上半身を起こせるようになった。

これで心配はいらない。――弟は。


>病院

魔道士「アイタター☆」

医者「この馬鹿モンが。薬草の力を過信するからだ!」

町娘「こんにちは。魔道士さんの傷、やっぱりひどいんですか?」

魔道士「チャオ★ハッハハ、町娘ちゃんが痛いの痛いのとんでけ☆ってしてくれたら治るよ★」キラリーンキラキラ

医者「消毒液を喰らえ」チョンチョン

魔道士「アハアアァァァンッ!!」

町娘(ものっすごい苦痛に歪んだ笑顔)

どうやら魔道士さんはろくな手当をしなかったせいで、傷が悪くなっていたらしい。
それで医者通いになってしまい、私が弟の看病の為戻っている間でも顔をよく合わせた。

84 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/31(火) 20:05:37.52 ID:zq3KKQit0
魔道士「ハイこれ~♪飲むといい夢が見れるジュースだよ」

弟「ありがとう魔道士の兄ちゃん」

町娘「お見舞いに来て下さるのは嬉しいんですけれど、魔道士さんもお体休めて下さいね」

魔道士「町娘ちゃんに心配してもらえるなら、怪我した甲斐があったよ☆」

町娘「傷口にこれ塗りましょうか」←塩

魔道士「ナイスブラックジョーク★実際やるのはやめてね?♪」

叔母「町娘ごめんねー、ちょっとこっち手伝ってくれるー?」

町娘「はーい。じゃあ弟君、静かにしてるのよ?」

弟「うん、わかったー」

魔道士「お手伝い頑張って☆」

85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/31(火) 20:06:06.49 ID:zq3KKQit0
町娘「ふー」

昼食の時間帯は食堂に来るお客さんが増え、結構忙しい。
子供の頃から食堂の手伝いで鍛えられたお陰で、家事の手際が大分良くなったのだけれど。

叔母「そろそろ一息つけそうね。町娘、ありがとう」

町娘「ううん」

ちょっとだけ横になろうかと、部屋まで戻る。
その途中、弟の部屋の前を通った。

弟「~なんだね」

魔道士「そうそう、だから~」

町娘(魔道士さんまだ帰ってなかったんだ。盛り上がってるなぁ)

立ち聞きするつもりはないので、そのまま通り過ぎよう――と思ったが。

弟「ねぇ、魔道士の兄ちゃんは、お姉ちゃんのこと好きなの?」

町娘「――っ!?」

86 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/31(火) 20:06:38.64 ID:zq3KKQit0
弟は以前にもそんなことを聞いていた。
その時魔道士さんは「運命だから」と曖昧な返事をし、話はそのまま有耶無耶になった。

魔道士「何で?」

弟「そりゃ気になるもん、弟として」

弟の口調はやや強い。

弟「大事にしてくれる人にじゃないと、お姉ちゃんはお嫁に行かせられないよ」

魔道士「ハハ参ったねぇ」

弟「魔道士の兄ちゃんは、お姉ちゃんに嫌なことしない人だとはわかってるけど」

町娘(な、なな何言っちゃってるのよ弟君たら!!)

今にでも割って入って止めたかったが、それもできない。
なのに、会話を無視してそこから立ち去ることもできなくて。

魔道士「大事にするよ、僕は」

そして――

魔道士「好きさ、町娘ちゃんの事が」

町娘「――!!」

87 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/31(火) 20:07:07.85 ID:zq3KKQit0
顔の熱が急上昇して、頭が沸騰する。

魔道士『好きさ、町娘ちゃんの事が』
魔道士『好きさ、町娘ちゃんの事が』
魔道士『好きさ、町娘ちゃんの事が』
魔道士『好きさ、町娘ちゃんの事が』
魔道士『好きさ、町娘ちゃんの事が』

頭の中で言葉がぐるぐる回る。

魔道士さんは私の名前を言った?
好きの意味、間違ってない?

魔道士『好きさ、町娘ちゃんの事が』
魔道士『好きさ、町娘ちゃんの事が』
魔道士『好きさ、町娘ちゃんの…』

ぐるぐるぐるぐる…


町娘(いやあああぁぁ、もおおおぉぉ!!)


それ以上魔道士さんの声を聞けなくて、私は部屋まで駆けた。

88 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/31(火) 20:07:47.47 ID:zq3KKQit0
町娘(どうして…)

枕に顔を埋めながら、私はあれこれ考える。

好き。好感を持っていること。愛情を持っていること。

わからない。いつの間に魔道士さんは、そう思うようになったの?

町娘(運命――だから?)

魔道士さんは最初から、その理由で私に求婚していた。
だけど、感情は追いついてくるものなの?
私のどこを好きになったの?

町娘(私なんて貧相だしひねくれてるし…)

わからない。
だけど聞けない。「私のどこが好きですか?」だなんて。

町娘(ああああぁぁ、もうっ!!)

もう、それしか考えられない。これも全部魔道士さんのせいだ。

町娘(魔道士さんの顔…まともに見られなくなるよ…)

89 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/31(火) 20:08:31.63 ID:zq3KKQit0
それからまた数日経ち。

弟「復活したー!ででーん!」ピョンピョン

叔父「おぉ、良かった良かった」

弟「今までごめんね、僕もお手伝いに復帰するね叔父さん叔母さん」

看病の甲斐あって、弟はすっかり元気になった。

弟「お姉ちゃん、僕もう大丈夫だから、魔道士さんの所行ってあげて」

叔母「そうねぇ…怪我がなかなか治らない様子だし、看病が必要かもね」

町娘「そ、そそそうよね」

弟「?」

あの日以来、魔道士さんは何度か家に来たが、まともに顔を合わせられなかった。
だって、あんなこと言ってるのを聞いてしまったら――

魔道士「チャオ~★お見舞いに来たよ~♪」

町娘「うわぁ!?」

弟「あ、魔道士の兄ちゃん!こんにちは!」

魔道士「おや弟く~ん、もうベッドから出ても大丈夫なのかい?」

弟「うん!心配してくれてありがとうね兄ちゃん!」

魔道士「イエイエ☆町娘ちゃんも毎日看病お疲れ様♪」

町娘「い、いえいえいえいえいえ、ま、まぁ」

魔道士「~?」

90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/31(火) 20:09:12.35 ID:zq3KKQit0
弟「魔道士の兄ちゃん、お姉ちゃんを連れ帰っても大丈夫だよもう」

町娘「!!!」

魔道士「そう~?もうちょっとこっちでゆっくりしていかなくて大丈夫かい町娘ちゃん」

町娘「え、あ、はい!それは全然大丈夫ですけど」アワワ

魔道士「~?」

魔道士さんの好意に甘えていたけど、肩代わりしてもらった借金分はまだ返していない。
だから早く魔道士さんの所での仕事に復帰しないと。…わかっては、いるんだけれど。

魔道士「じゃあ準備できたら教えてね~、ここで待ってるから★」

町娘「は、はい」

大した荷物はない。
だけどここは一旦、魔道士さんと距離を取る。

町娘(平常心平常心…)スーハー

91 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/03/31(火) 20:09:50.55 ID:zq3KKQit0
そして久々に戻る魔道士さんの家。

町娘「…」

魔道士「アッハハ~☆生活感が出ちゃったかな~」

ゴミ箱一杯の、市販弁当の容器。
シンクに溜まった食器類。
床に散らかっているホコリや食べカス。

魔道士「でも町娘ちゃんの仕事増やさないように、汚さないようにしたよ★」

町娘「魔道士さん…仕事部屋」

魔道士「え?」

町娘「大掃除するから、仕事部屋にこもってなさあああぁぁい!!」

魔道士「Oh!?」ビクゥ

96 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/01(水) 14:52:39.23 ID:kAJlC3jc0
町娘「もう魔道士さんたら、ちょっといない間にこんなに汚して…」

仕事部屋以外の活動拠点である食堂と寝室の散らかりっぷりが特にひどかった。
シーツはぐちゃぐちゃ、本は床に積み重なっているし、服も脱いだら脱ぎっぱなし。

町娘(これで汚さないようにしてたって言うんだから…)

やっぱりズボラな人は、綺麗とか汚いとかいう感覚に大雑把なのだろう。

町娘(さてと、次は私室ね)

寝室に積み重なっていた本を持って行く。この本は元々、私室の本棚にあったものだ。
この私室はほとんど私物置き場と化していたので、ほとんど汚れていない…と思いたい。

町娘(あー)

出したものが出しっぱなしになっていて、やはり綺麗ではなかった。
まぁ、物を片付けるだけなので他の部屋に比べれば綺麗かもしれないが。

とりあえず寝室から持ってきた本を並べることにした。

町娘(ん?)

と、机の上に散らかっている紙類が目に入った。

町娘(大事な書類かな?触ってもいいのかな…)

そう思いながら紙類を見ると。

町娘(あ、これ…絵だ)

97 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/01(水) 14:53:08.70 ID:kAJlC3jc0
ぱっと目に入ったのは、鉛筆で描かれたようなウサギの絵だった。
散乱させておいては見栄えが悪いので、整えることにした。

町娘(丁寧に描かれてるなぁ)

つい、興味本位で1枚1枚ぺらぺらと見てしまう。
動物の他にも、花だったり街の風景画だったりがあって、白黒なものも色付きのものもある。

町娘(誰かから貰ったのかな?)

と。

町娘「…っ!?」

何気なく見てたら、目に入った絵に驚いた。

町娘「これ…」

他の絵よりも丁寧に着色された、女性の絵だった。
そこに描かれている女性は間違いなく…。

町娘「私…よね?」

98 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/01(水) 14:53:36.55 ID:kAJlC3jc0
魔道士「町娘ちゃーん、どこかなー?」

廊下から魔道士さんの声がした。

町娘「あ、はーい。私室でーす」

魔道士「今来たお客さんから野菜沢山貰ったから…うわわぁ!?」

町娘「」ビクゥ

私室に入ってくるなり、魔道士さんはらしくない大声をあげた。

町娘「ど、どうしました?」ドキドキ

魔道士「み、見ちゃった!?その、絵!」

町娘「え、あ、いいえっ!?」

しまった。つい咄嗟に嘘が。

魔道士「ならいいんだ、アハン…あ、その絵は僕が整理しておくよ…」

町娘「あ、はい…」

この魔道士さんが動揺するなんて、よほど見られたくないものだったのか。

99 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/01(水) 14:54:25.42 ID:kAJlC3jc0
町娘「でも、可愛い絵ですね」

私は1番上に乗っている、ウサギの絵を指して言った。

町娘「貰ったんですか?」

魔道士「まぁ…そうそう、貰ったんだよ~♪」

町娘「せっかくですし、どこかに飾らないんですか?」

魔道士「いやぁ恥ずか…じゃなくて、飾る場所がないしね~」

町娘(ないかなぁ?)

魔道士「もしかして気に入った?」

町娘「えぇ」

魔道士「それじゃ、何枚かあげるよ」

町娘「いいんですか?」

魔道士「オーケーオーケー。それよりも野菜沢山貰ったんだけど、うちで処理し切れない分君の実家で使ってくれないかな?」

町娘「それは助かります」

魔道士「じゃあ絵は僕が整理しておくから、野菜の整理お願いね~」

町娘「…」

そう言って魔道士さんは私の手から絵の束を取った。
何だか不審な様子だった。

100 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/01(水) 14:54:57.67 ID:kAJlC3jc0
>翌日

町娘(やっぱり、私の絵は抜かれている…)

魔道士さんから貰った絵をペラペラ見たが、何度確認しても無かった。

町娘「ただいまー」

叔母「あら町娘、どうしたの?」

町娘「野菜貰ったから、おすそわけ」

叔母「あらありがたいわね」

弟「あ、お姉ちゃん。魔道士の兄ちゃんは?」

町娘「今、病院よ。そうだ弟君、この絵お部屋に飾らない?」

弟「見せて」

弟の殺風景な部屋が少しは賑やかになるかと思い、弟に絵を手渡す。
弟は絵を両手で持って、じっくり見ていた。…何やら、難しい顔をしているけど。

町娘「どうしたの?気に入らなかった?」

弟「ううん。動物とか花とか綺麗だけど…」

弟は絵を何枚かパラパラと見ていた。

弟「絵描き兄ちゃんの絵に似てるなって」

町娘「絵描きさん?」

101 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/01(水) 14:55:26.89 ID:kAJlC3jc0
その名は古い知り合い。
元々別の所から来たらしいけれど、昔少しの期間この町で絵描きをやっていた。


絵描き『あのー…』

町娘『こんにちは絵描きさん。あら、背中にいるのは…』

弟『すやすや』

町娘『もう弟君たら。すみません、背負わせちゃって』

絵描き『いいえ…一緒に遊べて楽しかったです…』

絵描きさんの笑顔はいつも控えめだけど、優しい。
その優しい雰囲気に、弟は心を許しているのだ。

町娘『絵描きさん、良かったらうちで晩ご飯食べていきません?』

絵描き『え、ご、ごはん!?』ドキッ

町娘『いつもお世話になっているお礼です。それに、弟君も喜びますし』

絵描き『あの、でも僕…』モジモジ

町娘『ね、さぁ入って入って』

絵描き『は、はい!』


気弱だけど温厚な絵描きさん。友達の少ない弟と仲良くしてくれて、思い出は少ないけど、悪い印象の無かった人だ。

102 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/01(水) 14:56:01.18 ID:kAJlC3jc0
弟「ほら、これ。絵描き兄ちゃんに貰ったスケッチブック」

ページをめくると動物や花や風景画やら、とにかく色々な絵があった。
確かに魔道士さんに貰った絵に似てるけど…。

町娘「絵柄が似てる絵描きさんなんてよくいるものじゃないの?」

弟「似てるってもんじゃないよ、この癖や色の付け方が同じじゃない、ほらほら」

町娘「???」

恥ずかしい話だけれど、芸術センスのない私にはさっぱりだ。

弟「魔道士兄ちゃん、絵描き兄ちゃんに絵を貰ったんじゃないかな」

叔父「絵描きって、あの太った兄ちゃんか」

弟の声が聞こえたのか、厨房にいた叔父さんが声をかけてきた。

叔父「確かあの絵描き、魔導名家の出身だぞ」

弟「何それ初耳」

町娘「ってことは、魔道士さんと親戚かしら」

103 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/01(水) 14:56:43.44 ID:kAJlC3jc0
魔道士「チャオ~★ゆっくりできたかな~?」

丁度いいタイミングで魔道士さんが店に入ってきた。
魔道士さんはにこやかに叔父さん達と挨拶を交わす。

町娘「あの魔道士さん」

魔道士「何だい?」

絵描きさんって知っていますか――そう尋ねようとした時だった。

弟「あ、わかった!」

弟が急に声をあげた。

町娘「ど、どうしたの弟君?」

弟「魔道士の兄ちゃんて僕の好みを把握してるし、それにどっかで会ったことあるような気がしてたんだよね」

魔道士「…っ」ギクッ

弟「あぁ、もう気付かなかったよ~」

そう言って弟は魔道士さんの手を取った。

弟「魔道士兄ちゃんは、絵描き兄ちゃんだったんだね!」

魔道士「~っ…」

町娘「………え?」

104 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/01(水) 14:57:11.70 ID:kAJlC3jc0
絵描きさん。体型は太め。顔つきは癒し系。全体的な雰囲気は地味というか大人しくて…。

町娘「全然違うじゃない!?」

弟「体型と顔つきと髪型と性格と名前を変えれば魔道士兄ちゃんだよ」

町娘「それほぼ全部変わってない?」

弟「あの頃の兄ちゃんも優しくて好きだったけど、痩せてかっこよくなって明るくなったんでしょ、ねぇ兄ちゃん」

魔道士「それは…だねェ」

魔道士さんは苦笑いを浮かべ、弟と目を合わせない。
だがその様子を見て、弟は確信を持ったように頷いた。

弟「あ、その表情、絵描き兄ちゃんと一緒だ!やっぱそうだ、ねぇねぇそうでしょ!」

魔道士「~っ」

町娘「こ、こら、困っているからやめなさい」

弟「はーい」

町娘「魔道士さんすみませんね、弟が…」

と言ったが、魔道士さんは相変わらずこちらに目を合わせてくれなかった。

105 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/01(水) 14:57:49.49 ID:kAJlC3jc0
町娘「魔道士さん?」

魔道士「そ、そのォー…」

魔道士さんの顔に汗が浮かんでいる。
もしかして本当にまずいことをしたのではないか…。

魔道士「そ、う、だッ!」

魔道士さんの声は上ずっていた。

魔道士「アハハ~ン、急用を思い出したから急いで帰るねッ!!後で迎えに来るからッ!!」ドロン

町娘「あ」

何か言う前に魔道士さんは煙と共に消えてしまった。

弟「あれー、どうしたんだろうね兄ちゃん」

町娘「さぁ…?」

とりあえず置いてけぼりを喰らってしまったので、迎えに来るまでここに残ることにした。

106 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/01(水) 14:58:45.71 ID:kAJlC3jc0
町娘(本当に魔道士さんは絵描きさんなの…?)

店の掃除をしながら考える。
私は絵描きさんのことをよく覚えていないから、2人の共通点なんて見つけられない。

だけど魔道士さんの挙動不審な様子は、「そうです」と答えているようなものではないか…。

町娘(けど、そうだとしたら…)


魔道士『僕は僕のお嫁さんになる人来て~って召喚したんだから、君は僕のお嫁さんになる人なんだよ』


絵描きさんなら私を知っていたはず。
なのにどうして、まるで初対面かのように振舞ってプロポーズしてきたのか。

魔道士さんが抜いた私の絵。あれは私がいない間、魔道士さんが描いたものなのか。

それに――


魔道士『好きさ、町娘ちゃんの事が』


町娘「」ボッ

町娘「あーもうわけわかんなああぁぁいっ!!」

107 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/01(水) 14:59:34.27 ID:kAJlC3jc0
魔道士「…」

魔道士は昔を思い返していた。
それはまだ自分が絵描きを名乗っていた頃。

あの頃の自分は内向的だった。太っているせいで人の目が気になって、いつも人に怯えていた。
実際、人と関わって嫌な目にも遭ってきた。だから人を避けて、絵ばかり描いていた。

町娘『素敵ですね』

だから普通に声をかけてくれる女の子は初めてで。

町娘『絵描きさん、ご飯食べて行きませんか?』

町娘は、いつもオドオドしている自分に優しくしてくれた。
別に自分に好意があったとは思っていない。彼女は誰にでも優しいのかもしれない。

だとしても。

魔道士(僕は、町娘ちゃんをずっと――)

それは、運命なんかじゃない。

魔道士「――駄目だな、これじゃあ」

ダイエットして、理想の体型を手に入れても。
必死に勉強して、魔導名家の当主に相応しい力を手に入れても。

中身は臆病な昔のまま。
まるで道化師のように振舞わないと、町娘とまともに話すこともできない。

魔道士(本当の気持ちを伝えなきゃいけないのにね…)

111 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/02(木) 18:34:26.79 ID:C1qpw9g90
>一方その頃

御曹司「フ、フヒヒッ、手に入れたぞぅ…」

わざわざ他国の魔法使いに依頼し、ある物を入手した。
これで計画は上手くいく――

御曹司「あのキザ魔道士めぇ…ギャフンと言わせてやる!」フヒィー

御曹司は興奮を抑えきれず、急いで箱を開ける。
そこに入っていたのは、香料のビンだった。ラベルにはしっかりと、香料の効力を抑える魔法陣が描かれている。

御曹司「フヒッ、フヒヒ…これが、魔物を引き寄せる香料かぁ…」

本当ならこれを使って、魔道士を魔物に惨殺させたい所だが、あの魔道士はそう簡単にやられない実力者だと聞く。
それに魔道士は確かに忌々しい奴だが、自分としては町娘が戻ってくればいいのだ。
その為に、この間失敗した、魔道士の評判を下げることに再挑戦してみようと思う。

御曹司(作戦は至ってシンプル)ヌフフ

御曹司は香料のビンを持って町の外に出た。
そして周囲を見回し、誰もいないことを確認する。

御曹司「よし!」

そしてビンのフタを開けると、中身を全てそこに撒き散らした。
空になったビンは、見つかりやすいようその辺に捨てておく。

御曹司(さてと、ボクはここから逃亡~)

112 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/02(木) 18:34:54.85 ID:C1qpw9g90
衛兵A「…ん?」

町の周辺を警備していた衛兵が、異変に真っ先に気付いた。

衛兵A「おい、魔物の気配が近付いてきてないか?」

衛兵B「確かに。それにこの数…多くないか?」

衛兵C「チッ…ずっと平和ボケしてたツケがきやがったか」


御曹司「ヌフフフフ~」

御曹司は物陰から、衛兵達の様子を伺っていた。
これから魔物が町にやってくる。衛兵達はそれを撃退した後、原因を探るだろう。

御曹司(そして、あの魔法陣が描かれたビンを見つけるってわけさ~)

魔道士が香料を撒き散らした犯人だ、とまでいかなくていい。
ただ、原因となった香料を作ったという嫌疑がかかるだけで、魔道士の評判は大分悪くなるだろう。


御曹司(さー、さっさと魔物の群れを蹴散らしてビンを見つけるんだ!)

御曹司(いいぞー、やれやれー)ヒヒヒ

御曹司(でも流石に数が多いか、ちょっと苦戦してるな)

御曹司(…あれ、ちょっとどころじゃない?)

御曹司(…)

御曹司(………まずい)

113 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/02(木) 18:35:24.90 ID:C1qpw9g90
衛兵A「ハァ、ハァ…キリがないぞ…!!」

衛兵B「何なんだ、この魔物の急襲は!?」

衛兵C「このままでは町に侵入される!おい、警報を出せ!」

御曹司(これ…やばくね?)

御曹司はラベルの注意書きを読んでいなかった。
そのせいで、適量の何倍もの香料を撒き散らしたことにまるで気付いておらず…

御曹司(効き目が強すぎないか、次から次へと…)

衛兵A「しまった!1匹通してしまった!」

御曹司「!?」

魔物「ガアァァ――ッ!!」

御曹司「うわああぁぁ!?」

衛兵A「あっ、御曹司さんが!!今助けます!」

御曹司「ひいいいぃぃん」

御曹司は魔物に襲われた恐怖に耐えられず、涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら一目散に逃げ出した。

114 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/02(木) 18:36:23.38 ID:C1qpw9g90
「警報警報~!!」カンカァン

町娘「珍しいわね」

叔父「そうだな」

店で掃除をしていた私は、珍しい鐘の声にすぐに耳を向けた。

「町の入り口に大量の魔物が流れ込んできている!町に侵入される恐れがあるので、室内に避難するように!!」

弟「魔物…っ!?」

町娘「ええぇ…入り口にバリケード張っておく?」

叔母「そうね、魔物が入ってきたら大変だものね…」

と、その時。

がらがらがっしゃーん

町娘「!?」

なだれ込むように入ってきた何かが私に飛びついてきた。

御曹司「ゼハッゼハッ、まま町娘ちゃああぁぁん」ヒーハーヒーハー

町娘「ぎゃあああぁぁ!?」バキィ

御曹司「ガハッ」

町娘「あ、御曹司さん!?しまった、怪物かと思ってつい…」

弟「のびてるよ」

御曹司「」ピヨピヨ

叔父「たまたま外にいたのを、うちに避難してきたのかもしれねぇな…仕方ない、匿うか」

弟「仕方ないね」

相当に不本意だけど仕方ない。
とりあえず御曹司が開けっ放しにした入り口を閉めようと、私は戸に近づいていった。

その時。

叔母「危ない町娘!」

町娘「――えっ!?」

115 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/02(木) 18:37:10.96 ID:C1qpw9g90
叔母さんが飛び出してきて、何かを思い切り殴ったのが目に入った。
叔母さんの一擊で吹っ飛んだのは…魔物だ!

叔母「怪我はない、町娘?」

町娘「え、えぇ…あっ!?」

安心したのも束の間、外を見て呆然とする。
そこには既に5匹位の魔物がいて、しかもこちらに向かってきていた。

叔母「もうこんなに入り込んできたのね!」

叔母さんは愛用のメリケンサックを装備して構える。
魔物達は突っ込んでくるが――私は気付いた。

町娘(あの魔物達…私を見てない!?)



御曹司の服に着いた香料が、御曹司が町娘に飛びついたのと同時に付着したことに、町娘が気付くわけがなかった。

116 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/02(木) 18:37:45.55 ID:C1qpw9g90
叔母「くっ…!」

5匹もの魔物を叔母さん1人で食い止められるわけもなく、魔物達はこちらに突っ込んでくる。

町娘「きゃあぁ!?」

私は逃げた。やはり全員、こちらを狙っている。
(香料は御曹司にも付着しているが、魔物は本能的に動く獲物である町娘を狙っていた)

町娘(私を狙う理由はわからないけど…)

ここは店の中。それに、弟もいる。
こんな所で魔物とドンパチやるわけにはいかない。

町娘「…っ、こっちよ!」

叔母「あっ、町娘!?」

叔母さんの静止の声も聞かず、私は店を飛び出した。
案の定、魔物達は全員私を追いかけてきた。

町娘(これで皆に危険はない――)

だが安心していられなかった。
魔物達を振り切らねば、自分が魔物にやられるだけだ。

町娘(衛兵さんの所に逃げよう!!)

私は一目散に衛兵のいる、街の入り口付近に駆ける。
入り口はそんなに遠くないから、全速力を維持できる。そこにさえ行けば――


衛兵A「下がれ下がれーっ!!」

町娘「!?」

私は目を疑った。

117 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/02(木) 18:38:13.48 ID:C1qpw9g90
目に入ったのは大きな建造物――いや、違う。
実物で見たこともないような、巨大な魔物だ。本で見たことがあるけど、確か名前は――ゴーレム。

衛兵B「くっそ、何でこんな魔物まで!?」

衛兵C「怯むな!!応援が駆けつけるまで絶対に町の中に入れるなぁ!!」

町娘(な、ななな…)

私はただただ圧倒されていた。
だが、それで足を止めたのがまずかった。

ドカッ

町娘「きゃあっ!?」

私は魔物に体当たりされて吹っ飛ぶ。
その音に衛兵達が気がついてくれた。

衛兵A「町民が襲われているぞーっ!」

衛兵B「早く救助に向かえーっ!!」

町娘(ううぅ…)

今ので思い切りすりむいてしまい、激痛で動けない。
だけど私を追いかけていた魔物達はどんどん迫ってくる。

町娘(死ぬ…)

膝からドクドク流れる血を見て、そんなことを思った。

118 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/02(木) 18:39:24.62 ID:C1qpw9g90
町娘(何か、あっけない人生だったなぁ…)

小さい頃に両親を亡くして、叔父さんと叔母さんに引き取られてからは、家の手伝いや弟の世話ばかりだった。
勿論、それは強要されたわけじゃなくて自分で選んだことだったけど、もしかして自分は無理していたかもしれない。

町娘(せめて人並みに恋愛はしたかったな…)

御曹司みたいな嫌な奴に目をつけられたり、魔道士さんみたいな変な人に求婚されたり。

だけど――


魔道士『好きさ、町娘ちゃんの事が』


せめて死ぬ前に――

町娘「魔道士さんに、聞いておきたかったなぁ…」


魔物が目の前に迫っているというのに、悠長な言葉しか出てこなかった。

もう私、駄目だ。

魔物が開けた大きな口が、今私の頭にかぶりつこうとしていた。

119 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/02(木) 18:39:55.15 ID:C1qpw9g90
「…あああぁぁっ!!」

町娘「!?」

誰かの雄叫びと同時、ドゴォという衝撃音が鳴り響いた。
同時、私を襲った魔物は吹っ飛ばされる。

私は顔を上げ、目を疑った。

町娘「魔道士…さん?」

魔道士「…」ゼェゼェ

息を切らした魔道士さんが私を見下ろしていた。
その目線の先は――血が溢れている私の膝。
魔道士さんは私が見たことないような、悲痛な顔をしていた。

魔道士「町娘ちゃん、それ――」

と、言いかけた時。

魔道士「っ!」ドサァッ

町娘「あっ!?」

私と魔物の間に立っていた魔道士さんが、魔物の体当たりを受けて転倒した。

120 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/02(木) 18:40:21.43 ID:C1qpw9g90
だけど。

魔道士「それだけは…」

魔道士さんは転倒したまま、拳をぎゅっと握り締める。
そして叫ぶ。

魔道士「それだけは、許せないだろ――ッ!!」

魔道士さんの体が発光する。
閃光は辺りを包み込み、私はあまりのまぶしさに目をつぶった。

そして再び目を開けると――

町娘「…っ!」

衛兵A「お、おぉ…!!」

魔物達が、そこらに倒れていた。

121 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/02(木) 18:41:24.92 ID:C1qpw9g90
今日はここまで。
覚醒イケメン状態な魔道士より、ウザ寒いチャオさんの方が好きだったりします(ボソッ

122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/02(木) 18:58:26.06 ID:/WmRVvthO
乙!
同感です

123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/02(木) 19:24:20.72 ID:nkQgyh2Vo
乙です。さりげなく叔母さんつええww

124 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/03(金) 17:02:27.72 ID:6KjP3cA30
ゴーレム「」ゴゴゴ…

だがゴーレムだけはダメージが無かったかのように、動いていた。

衛兵A「ここを通すなっ!!」

衛兵B「くっ駄目だ、食い止められん!」

町娘「~っ…」

ゴーレムの視線は私に向いていた。
あいつも私に向かってくるつもりだ…でも私は腰が抜けて、立ち上がることができなかった。

魔道士「この香り…そうか、香料のせいか」

町娘「え?」

魔道士さんの呟きを、私は理解できなかった。

そしてゴーレムは足を振り上げ――

町娘「ひっ!?」

魔道士「大丈夫、町娘ちゃん」

魔道士さんが、私を庇うように目の前に立った。

魔道士「これ以上、君を傷つけさせやしない」

町娘「魔道士さっ――」

呼びかけたと同時だった。

125 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/03(金) 17:04:14.19 ID:6KjP3cA30
ゴーレム「…」ゴオォッ

魔道士「くっ!!」ガコン

ゴーレムが振り下ろした足を、魔道士さんは発光した手で受け止めた。
どんな魔法かはわからない。だけど魔道士さんはかなり辛そうで…

魔道士「…っう」

汗を流しながら、ゴーレムと押し合っていた。
だけど気を抜けば、このままゴーレムに押しつぶされてしまいそうで…

町娘「ま、魔道士さん…」

よく見ると、魔道士さんの足元に血が滴っていた。
さっきやられた時に怪我したのか、それとも治療中の傷が開いてしまったか。

町娘「魔道士さん、無理しないで下さい!ゴーレムの狙いは私なんですから!」

私の為に誰かが傷つくなんて、耐えられない。
ましてや、命に関わることになるなんて――

魔道士「それだけはできないよ」

だけど魔道士さんは、即答した。

魔道士「君がいなくなったら――僕の人生、意味が無い」

町娘「魔道士さん…!」

そう言ったと同時だった。

ゴーレム「…」ゴガッ

魔道士「っ!!」

町娘「あっ!?」

遂に耐えられなくなったのか、魔道士さんはゴーレムに蹴り飛ばされた。

126 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/03(金) 17:05:05.30 ID:6KjP3cA30
町娘(もう…)

駄目だ、そう思った。

思った、けれど――

魔道士「アハハ~ン♪」

急に魔道士さんは、いつも通りの気の抜けた声を発した。

魔道士「これだからゴーレム君は単純思考で可愛いよ」

町娘「魔道士さん…!?」

魔道士「簡単な話」

魔道士さんは倒れたままゴーレムに向かい、手を掲げた。

魔道士「片方の手でゴーレム君の攻撃を受け止めて、もう片方の手に魔力を貯める」

魔道士「そして――」

呟いたと同時、魔道士さんの手から――

ドゴオオオォォン

町娘「きゃっ!?」

魔道士「飛んでけー♪」

ゴーレムは空の方に吹っ飛んでいく。そして。

ゴーレム「」ドロン

町娘「消えた…!?」

魔道士「流石にあの巨体を遠くに吹っ飛ばすのは無理だしねー。別の所に転移してもらったよ☆」キラリン

町娘「…かっこつきませんよ、倒れたまま言っても」

魔道士「しゅーん…」

127 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/03(金) 17:05:55.15 ID:6KjP3cA30
衛兵A「大丈夫ですか!今、手当を!!」

衛兵達が駆け寄ってくる。私と魔道士さんは急遽、応急手当を受ける。
私は擦り傷だけで済んだけれど、魔道士さんは――

衛兵B「しっかりしろー!!まずい、意識が遠くなっている!!」

町娘「ま、魔道士さん…」

魔道士「心配、しないで…」

魔道士さんはかき消えそうな声で呟いた。

魔道士「魔力使い果たして、ねむ~~~~~~くなってるだけだから…」

町娘「本当…ですか?」

魔道士「うん、本当…フワァ目、覚めたら…いつものお調子者に戻るからさ…」フワーア

町娘「…それもいいですけど、魔道士さん」

魔道士「?」

町娘「魔道士さんの本音の方が聞きたいです」

魔道士「…」

魔道士さんは一瞬、困ったような顔をした。
だけど次の瞬間には苦笑を浮かべて、

魔道士「うん、それまで、待っ…」

魔道士「すやーすやー」

約束を交わし、彼は眠りについた。

128 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/03(金) 17:06:45.68 ID:6KjP3cA30
衛兵A「はぁ…これがですか」

御曹司「そそそうだよ!これが魔物を呼び寄せたんだ!!」

御曹司は衛兵達に香料のビンを見せるが、衛兵達はなかなか信用しない。

衛兵B「ただのビンにしか見えませんが…」

御曹司「怪しいだろ!どう考えても!ほら魔法陣とか描いてあるし!!」

衛兵C「魔道士殿にどんなものか見てもらわないと何とも…」

御曹司「その魔道士が犯人に決まってる!あんな奴を信用するなーっ!」フンガー

「ほう…そのビンが騒動の元凶だと?」

御曹司「そうだ!このビンの中には魔物を呼び寄せるものが入っていて…」

富豪「何故お前がそれを知っている?」

御曹司「パ、パパ!?」

衛兵A「富豪殿!」

129 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/03(金) 17:07:29.77 ID:6KjP3cA30
富豪「何故お前がそれを知っているのかと聞いたんだ」

御曹司「そ、それはー…だ、だって他に怪しいものはないし、それしか考えられないし…」タジタジ

富豪「そうか」

御曹司「そ、そうそう」

富豪「ところでお前の部屋に、こんな箱があったんだが?」

御曹司「ブーッ!!」(香料が入ってた箱!?)

富豪「そのビンがピッタリ入りそうなサイズだな?」

御曹司「た、たまたまだよ、たまたま!!」

富豪「少し調べればわかるのだぞ?」

御曹司「ち、ち、違うってば!!」

富豪「フン…まぁいい。我が家から犯罪者を出すわけにはいかん」

御曹司「そ、そう」ホッ

富豪「だが今回ばかりはお前に愛想が尽きた」

御曹司「………え?」

富豪「もう少しお前には苦労させた方が良いな。明日からうちで所持してる炭鉱へ行け、俺がいいと言うまで帰ってくることは許さん」

御曹司「フヒイイイイィィィ!?」

130 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/03(金) 17:08:10.11 ID:6KjP3cA30
幸い町の被害は大したことが無くて、怪我人も衛兵を除けば私と魔道士さんだけだった。
魔力を使い果たした魔道士さんは丸一日、死んだように眠っていたが――

魔道士「チャオ~☆」

爆睡後は、とても元気になった。

魔道士「君と新婚生活を送る夢を見たよ町娘ちゃん…だけど僕は思うんだ、それはただの夢なんかじゃない、未来予知だって…」

町娘「真面目に」

魔道士「ア、ハーン…」

私が睨むと、魔道士さんは弱ったように目をそらした。

町娘「魔道士さんは、絵描きさんだったんですか?」

魔道士「うん…そうだよ」

町娘「それじゃあ私のことも、知っていましたよね?」

魔道士「…うん、知っていた」

131 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/03(金) 17:09:12.42 ID:6KjP3cA30
魔道士「あの頃の僕は――太っていて、気が弱くて、人を恐れていて」

魔道士「でもこのままじゃ駄目だって思って。それで自信をつけたくて頑張ってダイエットして、魔法の腕を上げたんだ」

魔道士「だけど――」

魔道士さんは一瞬、私と目を合わせた。けれどすぐに目をそらす。
次の言葉は、なかなか出てこない。

町娘「…らしくないですね、魔道士さん」

いや、違うか。

町娘「絵描きさんの頃から変わっていない所もあるんですね」

魔道士「…」

気弱ではっきり物が言えなかった絵描きさん。
魔道士さんが常時ふざけていたのは、そんな自分を偽ってのことかもしれない。

魔道士「僕は、君が――」

魔道士さんはゴクリと喉を鳴らした後、私の方を真っ直ぐ見つめて言った。

魔道士「あの頃からずっと――好きでした!」

言った後すぐに真っ赤になって、顔を伏せてしまったけれど。

132 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/03(金) 17:09:44.03 ID:6KjP3cA30
町娘「…そっちの方がいいですよ」

魔道士「え?」

私は魔道士さんに召喚された時のことを思い返す。

町娘「いきなり「お嫁さんになる人を召喚した」なんて言われるより、そっちの方がずっといいですよ」

魔道士「ア、ハ~ン…」

魔道士さんはゆっくり顔を上げる。

魔道士「でも、そういう言い方じゃないと君に告白できなかったんだよ…」

町娘「気持ちはわかりますけど…でも、そうしたら胡散臭いだけじゃないですか」

魔道士「だと思ってた★ でも、胡散臭い僕は全くの偽りじゃなくて、それも僕なんだよね☆ どっちのパターンも楽しんでほしいな★」キラリン

町娘「わけのわからない人ですね貴方は」

魔道士「アハハ~☆」

この笑顔はきっと照れ隠し。
きっと人一倍気弱な性格をカバーするために身につけた明るさなのだろう。
…ちょっと、いや、かなり行き過ぎな気がしないでもないけど。

133 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/03(金) 17:10:19.37 ID:6KjP3cA30
町娘「でも――」


魔道士『あの頃からずっと――好きでした!』


魔道士さんはそれでも、誠実な言葉をくれた。
だったら私も、それに応えなきゃ。

町娘「私は――もうちょっと貴方を理解しようと頑張ってみます」

魔道士「ウン?」

町娘「ですから…」

答えるのはちょっと恥ずかしいけれど。

町娘「プロポーズの返事は、貴方をもう少し理解してからします。…それまで、貴方の側にいますから」

魔道士「…本当?」

町娘「嘘ついてどうするんですか」

134 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/03(金) 17:11:10.33 ID:6KjP3cA30
魔道士「アッハァ~ン★」

魔道士さんはお腹から一杯に、ふざけた声を出した。
しかも何だか、妙に嬉しそうに。

魔道士「一歩前進、ってとこかなッ♪でもいつか絶☆対、君をお嫁さんにしてみせるよ★」

町娘「真面目に」

魔道士「真面目にだと顔が見れない…」テレテレ

町娘「中間は無いんですか、中間は!?」

最初から前途多難すぎて、頭がクラクラしてきた。

弟「でもこれにて一件落着、だね」

町娘「お、お弟君、叔父さん達も!?聞いてたの!?」

叔父「さっきからどこで会話してると思うんだ。うちだぞ、うち。大声で話せば筒抜けなボロの」

叔母「町娘もようやくいい貰い手が見つかったみたいで…」ホロリ

町娘「違うってば!!」

弟「魔道士兄ちゃん、絶対にお姉ちゃんを振り向かせてみせてよ!」

魔道士「オーケー☆」

町娘「もう、やだっ、皆出てって!!」グイグイ

弟「はーい」(やりとりは聞こえるけどね)

町娘「あと魔道士さん、人一倍照れ屋な人が何安請け合いしてるんですか!?」

魔道士「安請け合い?アハハ、僕は本気さぁ!」

町娘「あぁ、もう…」

何だかもうわけがわからなくなってきた。

135 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/03(金) 17:11:52.37 ID:6KjP3cA30
魔道士「でも」

魔道士さんは急に真面目な顔になった。

魔道士「僕の方も頑張るから――真剣な自分で、君を好きだと表現できるように」

町娘「」

町娘「」ボッ

沸騰した。

町娘(な、なななななな何で!?)

今の顔はかっこよすぎた。

町娘(や、やだ、見慣れた顔なのに…急に真剣になるから…)

魔道士「あぁ…やっぱりまだ恥ずかしいな、君への気持ちを伝えるのは」

町娘「あ、慌てなくていいですからね!?」

魔道士「?」

じゃないと、私の頭の方がおかしくなる。

136 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/04/03(金) 17:12:25.38 ID:6KjP3cA30
魔道士「それじゃ、そろそろ帰ろうか」

またいつもの日々に戻る。
魔道士さんが魔法に没頭して、私は魔道士さんの世話を焼いて。

町娘(ただ、これからはいつもと違う…)

魔道士さんの気持ちを知ったから。
それだけでいつもの日々は、いつもとガラッと変わる。

町娘「ふふ…」

これから変わっていく毎日が不安でもあり、楽しみでもあった。

町娘「魔道士さん」

魔道士「何だい?」

私を好きでいてくれる人。
彼はきっとまた、私をドキドキさせてくれるだろうから――

町娘「これからも、よろしくお願いしますね!」


fin

138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/03(金) 17:25:26.13 ID:KxJjVIN8O
おつかれさまでした!

139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/03(金) 18:32:06.87 ID:qsUraOLDO
お疲れさま 楽しませてもらったよ

ありがとう

140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/03(金) 20:06:00.97 ID:C3cJJ1aG0
お疲れ様。魔道士は白髪で衣服は濃いめな青系のイメージだったよ。

141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/04/04(土) 01:11:55.52 ID:lzE/2V9y0
乙ー!! 最終的には町娘さんがウザいのに順応するのか、魔道士が真面目になるのかwwww

142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/04(土) 04:18:19.94 ID:GbZSdNhy0
乙です

この高クオリティにお腹一杯です♪
次回作も楽しみに待ってます!

143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/04(土) 10:24:54.68 ID:ydQrQDryo

シンプルな内容だが面白かった

144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/04/04(土) 14:05:17.83 ID:wVFznY0eO
刃物じゃなくて何故かメリケンサックを選んだ、おばさんと町娘…
posted by ぽんざれす at 09:57| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

姫「王子の代わりに戦う使命を負った」(2/2)

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1421738533/

前回


75 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 17:40:57.74 ID:DwvQyPQ90



国境を越え、首都に辿り着く頃には夜になっていた。
街の通りの真ん中を堂々と歩いても、流石に隣国の姫の顔は誰も覚えていないのか、気付かれる様子はない。
母国では英雄である王子(とその妹)も、国境を越えればただの人、というわけか。

姫(まぁ都合はいいけど)

思えば女の格好のまま、堂々と人通りの多い場所を歩くのは数年振りか。
まだ大通りの店は空いている。何か見てみようか…と思ったが、足が止まる。

姫(お店…見たい店がない…)

服、装飾品、小物…色んな店が並んでいるが、自分には必要ないものばかりだ。
国民から払われた税金で無駄遣いするのは良くない。

姫(店を見てもつまらないかな…宿屋取って早く休もう)

「飴いらんかねー」

姫「…え?」

飴売り「ん?」

76 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 17:41:29.48 ID:DwvQyPQ90
飴売り「あれ…姫さん」

ばったり出会ったのは偶然だった。
飴売りは目が合った瞬間、ぽかんと口を開けた。そして、

飴売り「し、失礼しゃーしたー!」

と慌ててそこから逃げ去ろうとしたが、

姫「ま、待って!」

飴売り「うわっち!?」

私は飴売りの襟首を掴む。彼は慌てていて、声だけじゃ呼び止められないような気がして、咄嗟に。
飴売りは即振り返ると、物凄い勢いで頭を下げてきた。

飴売り「すんません、つい…逃げるなんて卑怯だった、本当俺最低だ!」

姫「ち、ち違うの!そうじゃなくて…」

飴売り「言い訳はしない!いくらでも俺を殴れ!」

姫「だ、だだからそうじゃなくて!」

彼の焦りが私に伝染し、互いに口が上手く回らない状態になった。

「ねぇ何あれ?」
「痴話喧嘩?」

姫「ハッ!!」

この妙なやりとりに周囲の視線が集まる。まずい――

姫「と、とりあえず場所を変えましょう!ね!」

飴売り「え、あ、うん!」

私は飴売りの手を引いて駆け出した。
何でこんなに焦っているんだか…恥ずかしくて顔が熱くなった。

77 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 17:42:00.76 ID:DwvQyPQ90
飴売り「それで…」

裏街道にやってきた。大通りとは違って静かで薄暗い。
場所を変えて少し落ち着いたが、若干気まずい。

飴売り「…悪かった、本当」

姫「いえ…悪いことをしたのは私の方です」

あの時の飴売りの去っていく背中を思い出す。彼は王子に騙され、それでぬか喜びさせられ、傷ついた。
彼の私への気持ちは本物だと思うから――だから尚更、心が痛んだ。

姫「誤解させてしまって…」

飴売り「誤解…やっぱり、誤解だよなぁ」

飴売りは苦笑いを浮かべる。しまった、私の言葉選びが悪かった。

姫「いえ、あの…」

飴売り「いや、わかってたんだ。俺みたいな男、嫌だよな」

姫「そんなことありません!」

強めに言うと飴売りが驚いた顔をする。
そう…決して、迷惑ではない。

姫「…嬉しかったですよ」

それが素直な気持ち。
両親の愛情は兄に向いていた。姫としての評判は悪く、人々から敬遠されてきた。
だから彼が向けてくれた気持ちは何だか暖かくて、甘酸っぱくて――

姫「私…貴方に嫌な感情を抱いていませんから」

初めて、私自身を見てもらえた気がした。

78 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 17:42:26.92 ID:DwvQyPQ90
飴売り「…本当に?」

飴売りはまだ不安そうな顔を浮かべている。

姫「えぇ」

飴売り「嫌いじゃない?…無関心でもない?」

姫「えぇ」

飴売り「…そっか」

飴売りは笑みを浮かべる。そして口は少しずつ吊り上がっていき…

飴売り「そっか、そっか!すっげー嬉しい!」

満面の笑み。いつもの朗らかな彼。
彼は騙された方なのに、その不満を微塵も顔に出さない。

姫「全く…単純ですね貴方は」

飴売り「泣いたんだよ~俺、姫さんに嫌われたかと思って一晩中」

姫「…ふふっ」

彼の冗談に私の口も歪む。そう簡単に誰かに心を許すわけにはいかないのに、彼には私の緊張をとかすものがある。

飴売り「嘘じゃないぞー」

姫「えぇ、ごめんなさい…ふふっ」

飴売り「あぁもう」

気付けば私も飴売りも、自然に笑みを浮かべていた。
私達の間にあった気まずい空気は、あっという間に消えていた。

79 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 17:42:53.47 ID:DwvQyPQ90
飴売り「そいや姫さん、こっちの国で何してんの?」

姫「………え」

私は一瞬で固まった。
何をしている――本当のことは勿論言えない。

姫「ちょ、ちょっとした道楽よ」

飴売り「家臣もつけずに?」

姫「じ、自由に行動したかったので…」

飴売り「ふーん、でも何も買ってないようだね」

う。

姫「こ、これから見ようと思ってたんです!」

飴売り「…へぇ?」

姫「本当ですよ!それじゃあ、街に戻りますから…また!」

飴売り「あ、うん。じゃあねー」

飴売り「…」

飴売り「姫さん…嘘つくの、下手だなぁ」

83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/25(日) 08:49:53.73 ID:9ykSj+WAO
乙乙
ハッピーエンドに成って欲しいなぁ。

84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/25(日) 15:12:54.25 ID:WSnf30FDO
姫かわいいな…

85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 11:57:14.24 ID:PTdWToSs0
>翌日

姫「さて…」

朝早く宿を出て馬を走らせる。
休憩を挟みながらも真っ直ぐ行けば、今日も国境を越えることができるかもしれない。
魔王城までは、馬でなら明日か明後日には到着できると思う。

姫(魔王城に近づく程魔物達も強くなっているって話だし…なるべく戦いは避けていきたいわ)

そう思った矢先だった。

姫(…あっ)

さっと物陰に姿を隠す。丁度滝の音が鳴り響く所だったので、向こうに自分は気づかれなかったようだ。
物陰からそっと覗くと、魔物の群れがいた。ここは人通りの少ない場所だというし、魔王軍の者が張っていてもおかしくはない。

姫(ここを黙って通してくれるかしら…?)

望みは薄い。戦闘になれば負けない自信はあるが、必ず魔王に報告がいく。
そうなれば魔王城への侵攻は更に難しくなるだけで、つまり何のメリットもない。

姫(でもここを避けたら、大分回り道しなきゃいけないし…)

チョンチョン

姫「…え?」

飴売り「よ、何してんの?」

姫「うわぁ!?」ビクゥ

飴売り「わわ、大声出すなって」

86 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 11:57:45.42 ID:PTdWToSs0
姫「あ、飴売り!?何でここに!?」

飴売り「いやぁ~偶然だね~」

飴売りは露骨に視線をそらす。
…こいつめ。

姫「つけてきましたね?」ジー

飴売り「俺は放浪の飴売り商人だぜ~?」

姫「このストーカー」

飴売り「まーまー、場所変えよう。ここは危ないしな」

姫「…」

釈然としなかったが、確かにこんな場所で言い争いするのは危険だ。
飴売りに先導され、その場から離れた。

87 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 11:58:14.60 ID:PTdWToSs0
姫「で…何でつけてきたんですか?」

飴売り「好きな女の様子がおかしいから気にかける…それって恋に生きる男なら普通のことじゃない?」フッ

姫「切る」チャキ

飴売り「すんません」

飴売りは速攻土下座する。
でもまぁふざけた理由だが、本当にそれが彼の動機なのだろう。

飴売り「そしたら案の定、1人でどんどん国から遠ざかっていくしさ。何かあったかと思うじゃん」

姫「…国家秘密です、詮索しないで」

飴売り「いやぁでも姫さん危なっかしいから気になるよ」

姫「…」

この飴売り、この様子ならいくら迷惑だと伝えてもついてくるだろう。
全く、厄介な男に好かれてしまったものだ…。

姫「国王命令で、ある場所を目指しているんですよ」

飴売り「へぇ、どこ?」

姫「魔王城」

飴売り「!?」

88 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 11:59:01.93 ID:PTdWToSs0
姫「王子がいつか魔王城に攻め入るかもしれないので、様子を伺って来いというのが命令です」

飴売り「ちょっ待てよ、何でそれを姫さんが!?そりゃ王子の…いや兵士の仕事でもいいじゃん!」

姫「私なら目立たないでしょう。女1人なら、魔物もあまり警戒しないでしょうし」

飴売り「けどよ」

飴売りの眉が釣り上がる。

飴売り「フツー、護衛もつけず姫さん1人にそんなことさせるか!?お姫様は国の宝だぜ、何考えてんだよアホか国王!」

姫「…私の父なんですが」

飴売り「わり。でも、むかむかすんな」

飴売りはむかむかを顔にそのまま表す。
しかし何故か、彼が怒っても全然迫力がない。

姫「私は剣を兵士以上に扱えます。王子同様、私も国の為に働かなければなりません」

飴売り「変だよそれ。姫さんの国って男性優位じゃん。男性優位ってのは男が男らしく女を守ってこそ成立するもんだろ」

姫「そう…ですか?」

飴売り「そうそう。女に危険な真似をさせておいてふんぞり返ってる男なんて、みっともないって」

それは、私の父や兄のことか…。しかし、飴売りの意見は中々斬新だ。
男性優位だから私は兄と差をつけられてきて、兄の身の安全の為と、名誉の為に私が戦ってきた。

飴売り「姫さんは変に思わないのか」

姫「え…何が?」

飴売り「姫さんだってこうやって国の為に働いているのに、ちやほやされるのは王子ばかり。俺はおかしいと思うよ絶対」

姫「…」

そうか、変なのか…。

89 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 11:59:38.75 ID:PTdWToSs0
王子と私の格差は、生まれて性別が判った瞬間からもう開いていた。

王妃『王子や――貴方は将来、この国の未来を背負うのですよ』

実母である王妃の愛情を一身に受けて育てられた王子。
片や乳母に世話を丸投げされ、王子より一歩下がっていろと教えられて育った私。

王子『女は種として男より劣っているんだってよ。だから俺が国を継ぐのは当然なんだ』

女である私は、王子の為に危険を背負い、王子の為に名誉を得る。それが卑しい女である私が国にできる貢献だと父は言っていた。

王子『俺はこの国の世継ぎ。次期国王。お前は俺のオマケで生まれてきた卑しい片割れ』

王子のことは嫌っていた。
だけどそんな私の感情とは関係なく、

王子『俺がお前をどうしようと、勝手だろ』

王子の為に――それが私の奥底に植えつけられた教えだった。

90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 12:00:18.38 ID:PTdWToSs0
姫「変だとは思いませんよ」

飴売りは驚いた顔をする。
私からすれば、十数年築いてきた私の生き方に疑問を投げかける飴売りの方が奇異なのだけれど――

姫「私は、それを不幸と思ったこともありません」

そう、私は不幸ではない。姫という地位に生まれて不幸を嘆いては、貧しさに苦しむ者達に失礼だ。

姫「私には私の役割があるので――行きます」

王子に対して不満は色々あるが、それは今は忘れよう。
迷いは心に隙を生む。だから今は迷っている場合じゃない。

今はただ、前に進むのみだ。

飴売り「…最短ルートは危ないぞ」

飴売りは私の背中に忠告する。

姫「…え?」

飴売り「ついてきな、こっちだ」

姫「え、あ…」

素直に飴売りについて行くつもりは無かったが、飴売りは私の荷物を手に取って行ってしまった。
私は慌てて、その背中を追いかけた。

91 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 12:01:59.50 ID:PTdWToSs0
それからしばらく飴売りの走らせる馬の後をついていったが、魔物と出くわすことはなかった。
しかし飴売りの行くルートは、当初通ろうと思っていたルートから大分それようとしていた。

姫「どこまで行くんですか?」

飴売り「1番安全なルート」

姫「安全なルート…?」

飴売り「姫さんは自分の国のことしか知らんと思うけど、魔王城までほとんど魔物のいない安全なルートが存在するんだ。そこを案内するよ」

姫「あの、本当に安全なんですか?」

飴売り「あぁ、飴売りの行商で全国飛び回ってる俺が言うんだ。信じろって」

飴売り(翼が調べたルートなんだよね…俺はいつも翼の背中に乗って移動してっけど)

姫「…」

多分、彼が私に嘘をつくことはない。それだけは確信できる。
彼を巻き込むのは釈然としないけど…。

姫「…案内、ありがとうございます」

ここは素直に礼を言うことにした。

飴売り「魔王城付近まで姫さんと一緒にいられるなんて、俺にも得はあるしさ」

姫「…もう」

嘘をつかない人だとわかっているから性質が悪い。
迷惑だと思う反面、彼の言葉は私に、素直な暖かさをくれた。

92 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 12:02:27.71 ID:PTdWToSs0
そして夕方頃、街に着いた。今日はここに宿泊するのだと飴売りは言った。

姫「それじゃ宿に行きましょうか」

飴売り「まだこんな時間だぞ、街を見ないのか?」

姫「えぇ…」

昨日も街を歩いたが、特に見たいものがない。
それは街の場所を変えた所で同じだろう。

姫「無駄遣いするわけにはいきません」

飴売り「へぇ、買い物好きって聞いてたけど」

姫(それは王子なんだけど)

姫「今回は仕事で来ているので…」

飴売り「息抜きくらい許されるって。俺に付き合ってくれよ、道案内のお礼に!」

姫「むぅ…」

そう言われると断れず、渋々付き合うことにした。
どうせ少し街歩きするくらいだろう。

そう思っていたが…。

飴売り「飴いらんかね~」

姫「…」

何故私は、飴を持って佇んでいるんだろう?

93 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 12:02:55.36 ID:PTdWToSs0
姫「……ねぇ飴売り」

飴売り「はい飴3個ね、まいど~。お客さんに渡してやって」

姫「あ、は、はい」

飴売り「お、そこのお姉さん!飴いりませんか飴、丹精込めて作った飴ですよ!」

「お兄さんイケメンだから買っちゃおうかな~♪握手してくれる?」

飴売り「はいっ!まいどありっ」ニッ

姫「…」

「ねぇお兄さんどこから来たの?」
「お兄さんが作ったのー!?じゃあ5個買っちゃう!」
「やばっ、マジかっこいいんだけどあの飴売りさん」

飴売り「ありがとねー、お客さん」ニコニコ

姫(八方美人…)ジー

「ねぇお兄さん、そこの綺麗な人、お兄さんの恋人?」

姫「!?」

飴売り「いや、俺の片思い!俺、恋人いない歴イコール年齢だから!」

「へぇ、お兄さんモテそうなのに一途なのね~」

飴売り「モテないから恋人いないの!痛いとこ突くなー、もう」

姫(…モテてるじゃない、さっきから)イラッ

飴売り「姫さん飴渡してあげてー」

姫「あ、はい」

「お姉さんありがとうー、お兄さんに優しくしてあげてねー」

姫「…」

飴売り「客商売は笑顔が大事だぜ!さぁ頑張っていこー!」

姫「えっ、あっ、はい」

姫(……何で私が?)

94 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 12:03:32.42 ID:PTdWToSs0
飴売り「さーてそろそろ客足も落ち着いてきたし、店閉めるか。お疲れさーん」

姫「あぁ…疲れた」

飴売り「そう~?まぁ付き合ってくれて助かったよ、ありがとう」

姫「飴売りの手伝いさせられるとわかっていたら初めから…」

飴売り「はい、これ姫さんの分」

姫「…え?」

飴売り「働いた分の給料だよ、ほれ」

姫「あ、ありがとう…」

働いて報酬を得る…そういう仕組みは知っていたが…

姫「…何か、変な気分ですね」

飴売り「そう?」

姫「そっか…働いてお金を貰うって、こういうものなんだ」

飴売り「はは、一国の姫さんにゃ初めてだろ。俺も働いた分が金になるってのが楽しくて飴売りやってるんだ」

姫「楽しそうに働いていたものね」

いつも明るい飴売りには向いている商売だろう。
特に女性客のウケが良く…と、さっきの光景を思いだし、何故かイラッとする。

飴売り「その金は気兼ねなく使えるだろ、好きなもん買いな!」

姫「あ…」

自分はさっき、無駄遣いするわけにはいかないと言った。

飴売り「まだ店は開いてるし、一緒に見て回ろうぜ!」

姫「あ…」

飴売りは強引に手を引っ張って、私を連れ出した。
彼は彼なりに、私を気遣ってくれているのだ…。

95 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 12:04:00.82 ID:PTdWToSs0
とはいえ。

飴売り「服は?」

姫「いりません」

飴売り「靴は?」

姫「いりません」

飴売り「装飾品は?」

姫「いりません」

お金が自由に使えるとはいえ、自分には必要ないものばかりだった。
一緒に歩いている飴売りも少し困ったような顔をする。

飴売り「んー…姫さん欲しいものないの?」

姫「…思いつきません」

飴売り「そっかー…」

何だかせっかく気を使ってくれたのに、申し訳ない。

飴売り「ま、でも姫さん一杯持ってるし、いつでも欲しいもの手に入るなら急いで欲しいものもないか」

姫「…そうでもないですよ」

飴売り「へ?」

姫「欲しくて手に入れたものなんて、私にはありません」

私は今まで、自分の持ち物を選ぶこともできなかった。

96 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 12:04:29.76 ID:PTdWToSs0
飴売り「えー、そうなの…?姫さん買い物好きだって聞いてたけど」

姫「買ったものは、欲しくて買ったものじゃありません」

買い物をしたのは王子だが、王子も女物の衣装など欲しくて買ったわけではないだろう。

姫「見栄です」

飴売り「見栄?」

姫「えぇ、いいものを身につけると見栄えが良くなるでしょう。だから欲しいものではなく、見栄で買うんです」

飴売り「見栄ねー…何かわかるかも」

飴売り(俺もこんな飴売りの格好で魔王城歩けねーしなぁ)ハハ…

姫「私、自分で欲しいものを選ぶのは苦手です」

飴売り「ふーん…」

と、飴売りは横目で何かを見た。その視線の先にあるのは、装飾品屋の屋台だ。

飴売り「姫さん、来て来て」

姫「?」

97 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 12:05:10.77 ID:PTdWToSs0
飴売りは私の手を引いて、屋台の側まで行った。
それから何やら、装飾品をじーっと見ている。そしておもむろに、クローバーのネックレスを手に取った。

飴売り「そうだなぁ…これいいんじゃない?」

姫「えっ」

飴売り「うん、やっぱこれがいいわ!姫さんには似合うよ!」

ネックレスを私にあてて、飴売りは自信満々に言った。

飴売り「すみませーん、これくださーい」

姫「えっ、あのっ!?」

飴売り「はい姫さん」

姫「えっ」

飴売りは片手間に会計を済ませると、手早く私の首に手を回しネックレスの留め金を留める。
そのあまりにもスムーズな流れに私はフリーズ。一方飴売りは、満足そうにしているけど。

飴売り「うんうん、装飾品をつけることで女性は更に輝くねぇ」

姫「あ、ちょっと…あ、あの、お金っ、私が…」

飴売り「いや俺が姫さんにつけて欲しくて買ったんだからいいって。それに恥ずかしいけど安物だし~」

飴売りは苦笑いした。

姫「あ、ありがとう…嬉しいです」

飴売り「そ?良かったぁ、こんな安物!って怒られたらどうしようかと」

姫「そんっ…」

そんなことするわけないと言おうとして止めた。
王子扮する姫ならそうしていたかもしれない。だから否定するわけにはいかなかった。
そう、ギャップを作らないようにするのはいつも心得ていること。だというのに…。

姫(つい…)

何故か自分は、それを忘れそうになっていた。

98 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 12:05:47.63 ID:PTdWToSs0
飴売り「俺と姫さんって、結構相性いいんじゃない?」

姫「はい!?」

唐突に何を。

飴売り「姫さんは傲慢で高圧的って聞いてたけど、俺そんな姫さん見たことないし。姫さん俺といる時は機嫌いいからだろ?」

姫「あのね…」

何て自信満々な…。
自分は元々こういう人間だと、説明してやりたい。

姫「…貴方は鈍感そうですから、怒った所で無駄だと思うだけです」

飴売り「そう?俺、こう見えて結構敏感だけどね~」

姫「そうは見えませんけど…」

飴売り「…姫さんは自分で思っている程、クールな人じゃないよ」

姫「…え!?」

どきっとした。

飴売り「うん。さっきのネックレスあげた時の顔なんて可愛かったよ。俺ドキッとしちゃったもん。あと~…」

姫「…何ですか?」

飴売り「飴売ってる時の姫さんの視線たら…ヒヒヒヒ」

姫「…」

確か女性客に愛想良くしている様子に冷ややかな視線を送ったと思うが…何故にやつく?

姫「何ですか」

飴売り「姫さん…妬いてたでしょ」ヒヒッ

姫「…」

姫「切る!」

飴売り「ちょ、ま、ストーップ!!」

99 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 12:06:22.71 ID:PTdWToSs0
飴売り「ゼェゼェ…まさかマジに追い回されるとは思わんかったわ…」

姫「変なこと言うからです」

飴売り「姫さ~ん、素直になった方がいいよ~?」

姫「私は素直です!」

寝そべる飴売りに背中を向けて腰を下ろす。
妬いてた?私が飴売りに?…冗談じゃない!

飴売り「ま、そんな姫さんも好きなんだけど」

姫「怖いものなしですか、貴方は」

飴売り「あのさ…俺飴売りなんてやってるけど、それは道楽でさ…」

姫「はい…?」

飴売り「俺、実は王子様なんだよね」

………

は?

飴売り「ロマンある話だろ~、だから身分的には姫さんと釣り合っていると思うし」

姫「………ふふっ」

飴売り「ん~?」

姫「王子様~?まさか…あはは、ふふふふ」

飴売り「いやマジだから!今はちょっと家出中だけど帰れば皆に王子様、王子様~って」

姫「はいはい、飴売り王子ね、ふふっ」

飴売り「信じてよー」プー

100 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 12:06:50.05 ID:PTdWToSs0
姫「で…何で飴売り王子は家出を?」

飴売り「まぁ…」

飴売り(俺が魔王の息子ってことは伏せておくか…)

飴売り「世継ぎ問題とかでゴタゴタしててね、嫌になって家出した」

姫「そういえばお兄さんがいるとか」

飴売り「そ。俺は兄貴が家を継いでくれりゃいいと思うんだけど、何せうちの兄貴は頭が悪くてね。俺を推す奴と兄貴を推す奴が喧嘩して、俺にまで飛び火してきてんだよね」

姫「お父様が決定されるのではないの?」

飴売り「親父は駄目。自分たちで解決しろって丸投げ」

姫「じゃあ兄弟喧嘩の真っ最中」

飴売り(兄弟喧嘩ってレベルじゃねーよ…こっちは命狙われてんだよ…)

姫「うちは何でも王子優先だから、そういう揉め事はないかも」

飴売り「…それも何かな」

姫「喧嘩はありませんよ」

飴売り「いやいや、何でも王子優先てやだよそりゃ」

姫「わがままですね」

飴売り「わがままで結構。俺はもう王子様やめて飴売りに転身したいよ、もう」

飴売りはハアーと長いため息をつく。
王子様というのは流石に冗談だと思うけど、確かに彼は世継ぎ問題があるような身分よりも、飴売りが天職に見える。

飴売り「なぁ姫さん…」

姫「何ですか?」

飴売り「俺と駆け落ちしちゃわない?」

姫「!」

101 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 12:07:36.45 ID:PTdWToSs0
駆け落ち…それはつまり、国を捨ててしまえということか。

飴売り「俺、こう見えて尽くすタイプだよ。頼りないかもしれねーけど」

姫「…できませんよ」

国の皆が「王子」に希望を抱いている。
私がいなければ「王子」は成立しない。今まで築き上げた王子の名声を、今更崩す勇気なんてない。

姫「皆、待っているんです」

飴売り「…姫さんを冷遇していても、母国は母国か」

姫「えぇ」

確かに国は王子を贔屓しているけれど、私は国にひどい仕打ちを受けているわけじゃない。
それに国を捨てて別の行き方をするなんて、私には考えられなかった。

飴売り「うん、姫さんが言うなら強要はしない」

飴売りはあっさり諦めた。

飴売り「でも俺、姫さんとの結婚は諦めないよ」

姫「また、もう…」

飴売り「俺は姫さんが今まで出会ってきたどんな男よりも、姫さんを大切にするから」

姫(どんな男よりも…か)

飴売りは知らない。彼はもう、私が今まで出会ってきたどんな男性よりも私に優しくて、私を思いやってくれている。
花婿候補となれる身分の方々は私の悪評を間に受けて、私そのものを見てくれようともしなかった。
私自身を見てくれて、私自身に好意を持ってくれた男性は、彼が初めてだ。

飴売り「俺は、真剣だから――」

姫「…えぇ」

わかっている。彼は本気でいてくれる。
だけれど私は――

姫「私は――自分で選べませんから」

そういう風に、生きてきた。

102 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 12:08:02.99 ID:PTdWToSs0
飴売り「――それは」

姫「…」

墓穴を掘った、そう思った。
だって私自身の気持ちは――

飴売り「姫さんは、俺のこと――」

姫「…」

私は押し黙る。
言えるわけがない。国を背負っている私が、答えられるわけがない。


私は彼に、好意を抱いている。


それが恋愛感情なのかどうかは、わからないけど。

一緒にいると自然に笑えて、温かい気持ちになれる――そんな人は、彼が初めてだった。

103 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 12:08:29.96 ID:PTdWToSs0
姫「…」

姫「わ、私、先に宿に戻っています」

飴売り「あっ」

私は飴売りが何か言う前に駆けた。
駄目だ、今は頭が沸いている。これ以上彼といると、気まずい。

飴売り「行っちゃったか」

飴売り「…でも脈アリかな!ヨッシャ!」ガッツポーズ

翼人「浮かれていますね」

飴売り「うわっ翼!?」

翼人「安全ルートのどこかにいらっしゃると思いました。まさかあの姫君といるとは思いませんでしたが…」

飴売り「いいだろ、恋愛は自由!ところでどうした翼」

翼人「魔王子様にお伝えせねばならないことが…」

飴売り「ん?どうした」

翼人「はい…魔王様が体を壊されました」

飴売り「…!!父上が…」

104 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/26(月) 12:08:56.24 ID:PTdWToSs0
姫「あうー…」

宿屋の部屋で1人、抱いた枕に顔を埋める。
自分の言葉に後悔してもしきれなかった。

姫(言うんじゃなかった言うんじゃなかった言うんじゃなかったああぁぁ!!)

顔から発火しそう。もうイヤ。

カサッ

姫「…ん?」

何かがこすれるような音がして振り返る。するとドアの下の隙間に紙が挟まっていた。

姫(何だろう…ん、飴売りの名前?)

手紙の内容はというと――

姫さんへ、突然ごめん!
親父が倒れたと連絡が入った。俺は急いで帰らなきゃいけない。
魔王城までの安全ルートは地図に書いておくから、どうか気をつけて…。

姫(飴売りのお父様が…)

急いで書きなぐったような字に、彼の心境を察して胸が締め付けられた。

姫(飴売り…)

姫(……あれ?もう1枚ある。えーと…?)ピラ

追伸、俺以外の男に心移りしちゃ駄目だよ!

姫「…」

前言撤回。

姫(字は元々汚いわけね…)

109 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/27(火) 15:50:09.28 ID:myb3K2LP0
>魔王城

魔王子「父上ーっ!!」バァン

魔王「何だ騒々しい…翼人、お前余計なことを言ったな?」

自室ベッドに腰掛けていた魔王は、うるさそうに息子を出迎えた。

魔王子「父上、お体の調子は!?」

魔王「少し調子を崩しただけだ。こんな事で動じてどうする」

魔王子「いくら父上は最強の魔王といえど、体の不調には勝てません。どうか無理なさらず…」

魔王「ふん、不調に怯えながら永らえろと?我はそのような臆病者ではない」

魔王子「俺は父上が心配で…」

魔王「お前に心配される程落ちぶれておらぬ。下がれ、臆病者との会話の方が我に心労をかけるわ」

翼人「下がりましょう、魔王子様」

魔王子「…失礼致します」

110 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/27(火) 15:50:36.19 ID:myb3K2LP0
翼人「魔王子様、世代交代の時が近づいております――」

魔王子「そんなこと考えたくない…」

翼人「逃げていても仕方ありませんよ。近い内に考えねばならない事です」

魔王子「俺は魔王の座は継がない、それでいいだろう!」

翼人「貴方の意思だけの問題ではないのですよ、魔王子様」

魔王子「…っ」

わかってはいる――しかし面と向かって言われては、言葉を返せなかった。
以前自分の命を狙ってきた呪術師も言っていた。「貴方の意思が問題なのではなく、貴方が生きていることが問題なのだ」と。

翼人「兄王子様は知性に欠け、よく揉め事を起こすお方。彼が魔王で問題ないのなら、貴方の意思を無視してまで貴方を推す者はいませんよ」

魔王子「仮面なしなら貧弱で、臆病な俺が魔王に相応しい?見る目がないな、俺を推している奴らは」

翼人「貴方が命を狙われる理由は、それでもあります」

魔王子「ん?」

翼人「舐められているのですよ」

魔王子「ぐっ」

戦いが嫌いとはいえ、ズバッと言われていは心に刺さる。

翼人「もしこのまま兄王子様が魔王になったら…」

魔王子「…何か問題があるのか?」

翼人「粗暴な兄王子様の事です、人間との争いが激化する…そうなれば――」

魔王子「…!」

魔王子は真っ先に、想い人の顔を浮かべた。

魔王子「姫さんの国を蹂躙する…!」

翼人「その通り」

111 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/27(火) 15:51:08.42 ID:myb3K2LP0
ここで姫のことを連想させるとは卑怯だ、と思った。
だが翼人の言うことには、確かに説得力がある。

しかし、だから自分が魔王になるというのは短絡的な考えだ。

魔王子「兄上が即位されたら俺は補佐役になる。それなら国に攻め入ることを説得して止められる」

翼人「えぇ、そういう手段もあります…ですがこのままなら、貴方は補佐役としても認められないでしょうね」

魔王子「あ?」

翼人「先ほども申した通り、貴方は舐められています。兄王子様が即位されたら、貴方に発言力はほぼ無くなると考えていい」

魔王子「…」

魔王子「なぁ、俺が兄上派の奴らに実力を認められりゃ、補佐としては認められるか?」

翼人「えぇ…ですがどうする気で?」

魔王子「これしか無い…」

頭に浮かべるのは魔王軍にとって驚異の存在。
想い人を踏み台にし、自分だけ名声を得て輝いている憎い男。

魔王子「俺は王子を倒す」

翼人「…!!」

そうすれば魔物達は自分を認めるだろう。
そして…

魔王子「で、俺が姫さんを嫁さんにすれば、その国とは争わなくて良くなるだろ」

翼人「呆れる程の恋愛脳です魔王子様」

魔王子「恋愛が絡めば俺の力は100倍アップするんだよ!」

翼人「思考能力は格段に落ちるようですがね」

魔王子「そうと決まれば俺の部下に王子を張らせろ!俺は修行にいそしむぞ!」

現在魔王城は敵だらけ…そいつらを修行に利用してやろう。
頭に姫のことを思い浮かべている王子は、やる気に燃えていた。

112 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/27(火) 15:51:42.59 ID:myb3K2LP0



姫(大丈夫かな、飴売り…)

飴売りと別れて2日経った。彼のお陰で魔物との戦闘は避けてこられているが、どうも彼のことが気にかかって仕方ない。

姫(気を病んでいなければいいけれど…)

姫(心配で心配で…)

姫(…)

姫(って駄目じゃない、魔王との戦いのこと考えないと!!飴売りのことは一旦忘れなさい!」

姫(そ、そうだ、獣人は…)

獣人に渡された笛を吹く。
人間の耳には音が聞こえないが…少し経ってから、

獣人「お待たせ致しました」

姫「あぁ獣人、どう?そっちは変わりない?」

獣人「えぇ。姫様は順調に魔物を避けていらっしゃいますね」

姫「まぁ、ね」

飴売りのことは…余計なことまで言ってしまいかねないから黙っていよう、うん。

獣人「明日には魔王城に着けそうでしょうか」

姫「…えぇ」

そうだ。飴売りと一緒にいて浮かれていたが、明日は私が死ぬかもしれない日。
私の勝敗によって国の運命は大きく左右される。そんな大事な日…。

獣人「姫様…覚悟はできておりますか?」

姫「…」

それは戦う覚悟?それとも――死ぬ覚悟?

姫「戦う覚悟なら、大丈夫」

113 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/27(火) 15:52:10.08 ID:myb3K2LP0
そしてその日も変わった様子はなく、魔王城に最も近い街に宿をとった。
不思議と緊張はしていない。明日の為、男装用装備を壁にかけておく。

姫(魔王を討てば、王子は全世界の英雄…)

私は変わらず陰の人。それでいい。自分が英雄になりたいなんて欲はない。
欲――今の私には、少しだけ欲がある。

飴売り『俺は姫さんが今まで出会ってきたどんな男よりも、姫さんを大切にするから』

ほんの少しでいい。
生身の私を見てくれる人に、もっと私を知ってもらいたい。

飴売り『俺はもう王子様やめて飴売りに転身したいよ、もう』

彼も彼で悩みを抱えている。
私はまだ彼のことをほとんど知らない。だけど戦いが終わったら知りたい。
彼の家族のこと、家のこと、夢のこと――

姫(一杯語り合いたい、飴売りと)

それだけが今の私の願い。願いは、叶えないと意味がない。

姫(だから明日は、負けない…!!」

旅立つ前にはあった死ぬ覚悟は、今は頭から消えている。
私は、戦う決意を固めた。

114 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/27(火) 15:52:36.00 ID:myb3K2LP0
翼人「魔王子様、最近王子の目撃情報が途絶えた様子です。恐らく城にこもっているのかと…」

魔王子「ふーん…体を壊したか?」

魔王子はあまり気に留めず、訓練場の木人に向かって剣を振っていた。
日中は魔王軍の実力者を相手に剣の稽古をした。中には自己を装って自分を殺そうとしたのか、本気の殺意を向けてくる者もいたが、返り討ちにした。
勿論訓練で死者を出すわけにはいかないので、殺しはしなかったが。

魔王子「けど姫さんが魔王城のことを探ると言っていた。だから近々動きがあると思っていいだろう」

翼人「姫君の動向を魔王様にお伝えしなくてよろしいのですか?」

魔王子「ばか。それで姫さんに危害加えられたらどうするんだよ!」

翼人(言った私が馬鹿だった)

魔王子「王子を討つのは俺だ。だからその情報を知るのは俺とお前だけでいい」

翼人(しかし、魔王子様が自ら戦う決意をするなど――)

魔王子をよく知っている翼人は、彼のいきなりの心境の変化に驚いていた。
恋愛感情は人をこうも変える…恐るべし恋愛脳、と皮肉も言えない程に。

魔王子「絶対に俺は、王子を――」

魔王子は仮面を握り、決意を固めていた。

115 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/27(火) 15:53:03.08 ID:myb3K2LP0
>そして翌日――

姫「…行くか!」

獣人「はい」

男装に身を包んだ私は表情と声を男に近づけ、決意を胸に街を出た。
目指すは魔王城――いつ魔物が襲ってきてもいいように、心まで完全武装して道を行く。





翼人「魔王子様、王子が城に近づいてきているそうです」

魔王子「は!?王子は城に引きこもってるんじゃなかったのか!?」

翼人「我々の情報網をくぐり抜け、魔王城に近付いてきていたようです…」

魔王子「くっ、何て油断ならないんだ王子!」

魔王子が城に戻ると、案の定唐突な報せに魔物達がざわついている。
もう既に何名か王子を討つ為に城を出たそうだが、城を出てから時間が経ちすぎている。つまり苦戦しているか、返り討ちにあったと思われた。

魔王子「えぇい静かにしろ!!」

魔王子が叫ぶと、魔物達は一斉に彼を見た。

魔王子「俺が王子と戦う!お前達は魔王城の守備を固めていろ!」

翼人「お供します、魔王子様」

魔王子が魔物達の群れを突っ切るように歩くと、魔物達は彼に道を空けた。
その時にひそひそ話も耳に入った。

「無謀だ」「本当に大丈夫なのか?」「しかし魔王様が体調を崩されている今は…」

舐められている。
だがそれでいい。中には自分が死ぬことを望んでいる輩もいる。そういう奴らを見返すには今がいい機会だ。

魔王子(今はこれを頼りにしないとな――)

魔王子は決心して、仮面を装着した。

116 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/27(火) 15:53:29.41 ID:myb3K2LP0
獣人「姫様、あれは――」

姫「!」

何名かの魔物を返り討ちにし、魔王城が見えてきた頃、自分を出迎えるように佇んでいる人物がいた。
あの異様な仮面をつけ、殺気を抑えることを知らない人物――ひと目見て、誰だかわかる。

姫「魔王子…!!」

魔王子「…」

私と対峙したと同時、魔王子は躊躇せずに剣を構えた。
来る――!私は遅れをとることなく、戦闘態勢に入った。

118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/27(火) 19:11:10.02 ID:ilJtg3PAO

フラグ立ち杉やん。

119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/27(火) 21:39:46.26 ID:KkWctrAIO


120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/27(火) 22:22:13.83 ID:4TNavJjj0
最初の設定がこんな形で活きてくるとは!
続きめっちゃ気になる!

121 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/28(水) 15:55:09.81 ID:dY/mAPc40
不仲な様子とはいえ、想い人の兄である王子を殺してはいけない――そう思っていた。
だから翼人にも事前に言った。
「もし俺の理性が吸い込まれて王子を殺しそうになったら、その時は俺から仮面を奪ってくれ」と。

そう、理性はあった――戦う前までは。

だが、王子の姿を視認したと同時――

魔王子「…」カンカンカァン

姫「ぐっ…」

殺意が抑えられなくなった。

――何かがおかしい――

一方で、わずかにだが理性も働いていた。
違和感。それは自分に対してではなく、目の前の王子相手に。
その違和感を何と言い表していいのかわからない。だが言葉にするとすれば――

――こいつは、本当に王子なのか?――

馬鹿げた疑問。わかりきった答え。
こいつとは何度か剣を合わせている。王子でないなら、何だというのか。
だが疑問は消えない。確か以前剣を合わせた時も、そんな違和感を抱いたような気がする。

魔王子「…ッハァ!!」

だがその疑問は、段々膨らんでいく殺意には微塵も影響を及ぼさなかった。

122 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/28(水) 15:55:37.89 ID:dY/mAPc40
姫「でりゃあぁっ!!」

魔王子に切りかかるが、それを回避される。

前回の戦いでわかったことがある。それは魔王子は、戦いながら少しずつ強くなっていっているということ。

姫(前回強くなった分はリセットされたようだけど…)

それでも彼が厄介な相手だということには変わりがない。
戦い始めてから数分経った。こちらは初めから全力だというのに、魔王子にダメージらしいダメージを与えていない。

姫(できれば一撃で無力化させたい所だけど…)

恐らく魔王子の体の構造は人間と同じ。その体の急所となる所はさっきから、ガードが硬く突くのは難しそうだ。

魔王子「…」ビュンッ

姫「くっ…」カキィン

一撃は段々重くなる。焦りが思考を鈍らせた。

魔王子「…」

仮面の向こうでは余裕の笑みを浮かべているのか、それとも真剣に私の命を狙っているのか――
改めて、表情の見えない仮面が不気味に思えた。

123 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/28(水) 15:56:06.64 ID:dY/mAPc40
一方魔王子は――

魔王子「…」ビュンッ

姫「っ!」カキィン

こちらが優勢だと理解はしている。だが、いくら容赦のない一撃を放っても食らいついてくる相手に、ますます殺意が大きくなっていた。

――やはり、こいつは強い――

仮面に思考能力を奪われた魔王子は、もう王子を倒すことしか頭にない。
殺さぬよう加減することなど、もうとっくに頭から消し飛んでいた。

姫「であぁっ!」

魔王子「!」カァン

相手には、仮面で戦闘力を高めた魔王子にも適わないものがあった。
それは経験。いくら攻められても、相手の方が戦い慣れている。その経験の差のせいで、こちらが攻めきれずにいる。

だがそれも、時間が解決する。

姫「…ぐっ!!」

経験の差で実力が拮抗しているなら、その経験の差を埋める程こちらが強くなればいい。
戦闘開始から10分、魔王子の戦闘能力はぐんと上がっていた。

――勝てる!――

姫「!」

魔王子は思い切り剣を振り上げた。相手は剣を受ける構えを取る――が、無駄だ。
ガキィンと大きな音が響く。魔王子の一撃で、相手は吹っ飛ばされた。

これで終わりじゃない、体勢を崩した所でトドメを――

だがそこで、

姫「っあぁっ!」

――!?――

相手の悲鳴を聞いたと同時、魔王子の動きが止まった。

124 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/28(水) 15:56:33.01 ID:dY/mAPc40
姫「く…」

思い切り体を地面に打ち付けた。
その拍子に甲高い声をあげてしまった…全く、情けない。

それにしても…

魔王子「…」

姫「…?」

今は自分を討つ好機だったはずだ。にも関わらず何故か魔王子は動きを止めた。

魔王子「ウ…ウゥ…」

姫(苦しんでいる…?)

前回の戦いの時も苦しみ出した。だけどあの時とは何か違う。
何が、とは上手く言えないけれど…

姫(…何にせよ、今だ!)ダッ

翼人「魔王子様…っ!!」

獣人「おっと」バッ

私に向かってきた翼人を、獣人が食い止める。
私は魔王子に向かって一直線。

魔王子「グ…ウ…」

姫「でりゃああぁぁ!!」

魔王子「――!!」



魔王子「………さん?」

姫「―――えっ?」

125 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/28(水) 15:57:10.09 ID:dY/mAPc40
魔王子の中に少しだけあった違和感は、相手の悲鳴を聞いたと同時に一気に膨らんだ。
そしてその違和感が自分の中で混乱を招いた。

これ以上戦ってはいけないという気持ち。
相手を殺さなければいけないという気持ち。

相反する気持ちがぶつかり合い、そして――


姫「でりゃああぁぁ!!」

魔王子「――!!」


結果、大きな隙を生んだ。
とっさの防御は甘く、相手の太刀の前に破られる。


それと同時、相手の剣が仮面を吹き飛ばした。


その瞬間――目が合った。




魔王子「……姫さん?」

姫「―――えっ?」

126 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/28(水) 15:57:40.63 ID:dY/mAPc40
どうして―――!?

そんな訳がない。理解が追いつかない。
しかし、私が今切ったのは確かに…

姫「…飴売り!?」

魔王子の鎧を着て、血に塗れているとはいえ、見間違えるわけがなかった。

姫「飴売り!飴売り、どうして…!?」

飴売りは切られた頭と胸から大量の血を放出し、倒れた。
彼の下には、大きな血だまりができた。

それでも飴売りはゆっくりこちらを見て、ふっと笑った。

魔王子「姫さん…何で王子の格好してるの?」

いつもの憎めない笑顔。少しだけ困ったように眉が下がっている。
混乱している…私も、彼も。

姫「飴売り、貴方…」

彼を目の前にしても信じられないが――疑問を聞いて確かめるしかなかった。

姫「貴方が――魔王子だったの?」

魔王子「うん…ごめんな、騙して」

姫「―――じゃあ」

127 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/28(水) 15:58:10.94 ID:dY/mAPc40
飴売り『俺、実は王子様なんだよね』

飴売り『今はちょっと家出中だけど帰れば皆に王子様、王子様~って』

あの言葉は嘘ではなかった…彼は魔王の息子、魔王子。

でも、だけど、だとすると…


飴売り『好きな女の様子がおかしいから気にかける…それって恋に生きる男なら普通のことじゃない?』

あの時の言葉も、

飴売り『なぁ姫さん…俺と駆け落ちしちゃわない?』

あの笑顔も、

飴売り『俺は姫さんが今まで出会ってきたどんな男よりも、姫さんを大切にするから』

私を思いやる彼も――


魔王子「…嘘じゃないよ」

姫「…え?」

彼はゆっくり手を上げ、その手を私の手に重ねた。

魔王子「俺の姫さんへの気持ち…嘘じゃないよ」

姫「…っ!!」

128 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/28(水) 15:58:43.38 ID:dY/mAPc40
魔王子「仮面のせいで馬鹿になってた…じゃなけりゃ、姫さんだって気付いたし、剣なんて向けなかった」

飴売りは後悔に満ちた声で言った。

そうだ…彼はこんな嘘をつかない。彼と過ごした時間は本物だった――何故だかそれは、無条件に信じられた。
お互いに正体がわかっていれば、こんな事にはならなかった。

魔王子「なぁ…もしかしてだけどさ」

段々か細くなっていく声で、飴売りは呟いた。

魔王子「今まで国の為に戦ってきたのって…姫さん?」

姫「…えぇ」

その答えを聞いて飴売りは満面の笑みを見せた。

魔王子「そうなんだ…やっぱ姫さんスゲーや、ますます惚れた…」

姫「飴売り…」

魔王子「なぁ姫さん…忘れんなよ」

飴売りは私の手をギュッと握る。
その力はか弱く、だけど彼の精一杯の気持ちが温かい。

魔王子「姫さんが人知れず戦ってきたこと、俺絶対忘れないから――誰よりも、俺、姫さんを尊敬しているから――」

手が滑り落ちる。
彼のまぶたは閉じて、その顔にはもう、いつもの笑顔が浮かんでいない。

姫「………飴売り?」

129 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/28(水) 15:59:10.16 ID:dY/mAPc40
恐る恐る心臓のあたりに耳を当てる。
心臓は――動いている。かなり弱々しく、だけど。

だけど傷が深く、このままじゃ…
死ぬ?彼が?…駄目だ、認めない!

姫「…そこの翼人!」

翼人「何だ」

姫「飴売りを魔王城に運んで!早く!」

獣人「姫様、それは…」

翼人「いいのか?魔王子様はお前の命を何度も狙った…」

姫「早くして、飴売りを死なせないで!!」

翼人「…」

翼人は黙って飴売りを抱えると、そのまま魔王城に向かい飛び立っていった。

獣人「姫様…本当に正しい判断だったのでしょうか?」

姫「知らないわ、そんなの!」

珍しく感情的になった私に、獣人は目を丸くする。
正しいか正しくないかなんて――そんな基準で私は判断を下していない。

姫「私は飴売りに死んでほしくない…それだけよ」

獣人「…」

獣人は何も言わなかった。
私を馬鹿な女と内心思っているのか――なら、それはそれでいい。どうせ私は女。感情で動く、男より劣った存在。

姫「行きましょう獣人」

獣人「…はい」

130 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/28(水) 16:01:27.83 ID:dY/mAPc40
今日はここまで。
飴売りと魔王子の呼称がごっちゃになってますが大丈夫でしょうか…。

131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/28(水) 18:39:02.73 ID:8FLNdTPWO


132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/28(水) 20:21:58.70 ID:FI2z8NiAO


133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/29(木) 10:17:17.90 ID:cRNzpdfDO
飴売りに泣きそう

134 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/29(木) 18:00:17.57 ID:z37KP4GX0
姫「…」

私は獣化した獣人の背中に乗っていた。
獣人曰く「魔王城に近づくにつれ魔物の匂いが濃くなっている」との事だ。
強敵だった魔王子との戦闘後にまた、いちいち魔物の相手なんてしていられない。
私を乗せた獣人は猛スピードで魔王城に向かい、待ち受けていた魔物達を置き去りにした。

獣人「姫様…もうじき城に着きます」

姫「えぇ」

落ち込んでいた気分を奮い立たせ、顔を上げる。
飴売りのことは心配でたまらなかったが、今は忘れないといけない。この戦いが終わったら、一杯思い出して、一緒に沢山過ごせばいい。

獣人「このまま突っ込んでいきますよ…振り落とされぬよう!」

姫「…えぇ!」

返事の後、獣人は勢いのまま魔王城の扉を破壊して中に突入した。
中にはやはり魔物達が待ち受けていたが、獣人は彼らを踏み潰し、蹴散らしていった。

姫「魔王はどこにいるかわかる獣人!?」

獣人「えぇ、魔王子と似た匂い…これがきっと魔王です」

と、その時。

姫「…っ!!」

135 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/29(木) 18:00:52.24 ID:z37KP4GX0
ビュンと風を切り、弓矢が頭をかすめた。
それから次々と周囲に鳴り響く魔法音。獣人が置き去りにした者達が後方から追いかけてきて、遠距離攻撃を仕掛けてきた。

獣人「このまま真っ直ぐ行けば魔王がおります」

姫「無事たどり着けるかしら…」

獣人「姫様、魔王の元へ向かって下さい」

姫「…まさかこの魔物全部、貴方が相手する気?」

獣人「奴らをひきつけるだけです。まともに相手はしませんよ。ご心配なく」

姫「そう…気をつけてね」

私は獣人の背中を飛び降りると、魔王のいる所まで真っ直ぐ駆けた。
後方では――獣人の咆哮が鳴り響いている。

振り返らずに駆ける。長く感じる廊下。向こうに扉が見える。
あそこに行けば、ようやく魔王に――長い、長い道のりだった。
だけれど――

姫「魔王――っ!!」

私は低い声をあげながら、勢いよく扉を開けた。

136 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/29(木) 18:01:20.00 ID:z37KP4GX0
そこにいたのは――

魔王「――来たか、王子よ」

姫「…魔王?」

疑問が口から漏れた。彼の容貌に、勢いを奪われたと言ってもいい。
そこにいた魔族は鋭い眼光でこちらを睨みつけていた。佇まいは堂々としていて、魔王らしい威厳はある。

だが――どこか頼りない。

何と言えばいいのか。生命力…そう、生命力が弱々しく感じる。

姫(そういえば…飴売り、父親が倒れたって――)

魔王「何を呆けている」

姫「…お前が魔王か」

魔王「そうだ」

魔王は好戦的に答えた。仮面をつけていた時の飴売りと同じだ。こちらへの殺気を隠す気がない。
飴売りの話から考えると、魔王は病み上がりだ。にも関わらず戦おうという姿勢を崩さないのは、魔王としてのプライドか、性格によるものなのか――

魔王「弱小国の王子の分際で我に逆らおうとは、いい度胸をしている」

だが、魔王は魔王だ。こいつを何とかしないと、争いは終わらない。

姫「争いを、終わらせにきた」

魔王「面白い…」

魔王は牙を剥き出しにして笑う。それと同時、魔王周辺の空気が変化した。
来る――私も戦闘態勢を取り、最初の攻撃に構えた。

137 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/29(木) 18:01:46.30 ID:z37KP4GX0
魔王の攻撃をひたすら回避する。
魔王自身から放たれる魔力は一撃でも当たれば致命傷になり得る程の威力で、回避したそれは城の壁を大きくえぐった。

魔王「フッ…逃げるばかりでは我は倒せんぞ」

姫(わかっているけど…)

容赦なく放たれ続ける攻撃に、攻め入る隙がない。

姫(けど、勝機はゼロじゃない!)

回避しながらも、徐々にだが魔王との距離を詰めていた。
見逃すな、攻め入る隙を――回避しながらも、魔王の様子を注視する。

そして、その時はやってきた。

姫(――今だ!)

魔王の連撃と連撃の隙間にわずかにできた隙。
その場から飛び出すように、魔王との距離を一気に詰めた。

姫「でりゃああぁ――っ!!」

魔王「――フッ」

魔王の爪が剣を受け止める。
だがここで再び魔王との距離を空けてはいけない。怯まずに攻撃を放ち続ける。
魔王は私の連続攻撃を的確に受け止める。それもわずかな時間に私の攻撃のペースに慣れ、合間に爪で攻撃を仕掛けてきた。
だが私もこれを受け止め、結果攻防は互角。
それでも相手は魔王、どんな秘策を持っているかわからない。

魔王「覇あぁ!」

やはり、来た――!

剣と爪の攻防から不意打ちのように放たれた魔力を、私は軽くかわす。これは想定内の攻撃。
だがその間に魔王は後ろへ跳び、私との距離を空けた。近距離でしか攻撃できない私と戦うのには、的確な位置取りだ。

と思ったが――

姫「…?」

魔王の額に脂汗が浮かんでいる。よく見れば魔王はわずかに息を乱していた。
確かに魔法攻撃に比べれば直接攻撃は体力を消耗しやすい…だが、こんなわずかな攻防で?

138 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/29(木) 18:02:13.53 ID:z37KP4GX0
そしてやはり、違和感はまだあった。

魔王「覇っ!」

再び放たれた魔法攻撃だが、先ほどよりは回避が容易くなった。
私の動きがさっきより上がった…わけがない。

姫(魔王の動きが落ちている…?)

疑問を浮かべながら、再び魔王との距離を詰める。
魔王は私の攻撃に食らいついてくる。だが、さっきより手応えがない…?
それからまたさっきと同じく、魔法攻撃が放たれた。これも回避。

私は魔王の顔色を注視する。

魔王「ハァ、ハァ…」

姫(…そういうことか)

139 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/29(木) 18:03:25.35 ID:z37KP4GX0
魔王は病み上がりで、やはりまだ本調子ではないのだろう。
それに飴売りの話では世継ぎ問題が起こっているとのこと…つまり、魔王もそれだけ高齢ということだ。

姫(つまり…)ダッ

さっきと同じ流れで魔王に接近する。
魔王はまだ私の攻撃に食らいついてくる。だが、それも時間の問題。

そして私は、その隙を見逃さなかった。

姫「はぁっ!」

魔王「…っ!!」

一瞬の隙。

魔王「グ…」

魔王の喉元ギリギリで止まる剣先。
私は一瞬の隙で、魔王との形勢逆転に成功した。

姫「戦闘を長引かせるって手段もあったけれど――」

この魔王は長時間戦えない。段々落ちていく動きを見て確信した。
戦闘を長引かせれば、魔王に勝ち目はほぼ無くなる。
だが、あえてその手段は取らなかった。

姫「決着方法がスタミナ切れだなんて、情けないだろう」

魔王「まさか貴様に配慮されるとはな…!」

喉元に剣を当てられながらも、魔王は堂々とした態度を崩さなかった。

140 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/29(木) 18:04:00.46 ID:z37KP4GX0
姫「制圧していた国を解放し、もう人間達に危害を加えないと誓うんだ――そうすれば命は奪わない」

この魔王は人間達の国を制圧してきたとはいえ、無闇な殺戮も行わなかったし、一般の弱い人々に手は出さなかった。
戦争と考えれば、その手法はそれなりに真っ当だったと思う。

それに魔王は、飴売りの父親だ。

だが。

魔王「我に命乞いしろと?馬鹿を言うな」

魔王は私の提案を一蹴した。

魔王「命を惜しみ平和な世に身を委ねるのは、我にとって生き地獄でしかない」

姫「…後悔はないな?」

魔王「命のやり取りに質問を挟むな。興が冷める」

姫「そうか…」

敵ながら、私の中に彼への敬意が芽生える。
魔王はきっと全盛期の力を失っていた。戦闘の相手としては、仮面をつけた飴売りの放が手強かった位だ。

だがそれでも――魔王は、魔王だった。

姫「…っ」

ズバッという音が、戦いの終わりを告げた。

最後の最後まで、魔王は威厳を崩すことはなかった。

141 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/29(木) 18:04:35.45 ID:z37KP4GX0
>城外

姫「さて…」

私は魔王を倒した証として、彼の角を手に魔王城から脱していた。
周囲に誰もいないことを確認し、笛を鳴らす。

獣人「お待たせ致しました」

少しして、獣人が現れた。
わずかに傷を負ってはいるが、大丈夫そうでほっとした。
私は獣人に魔王の角を見せる。

獣人「魔王を討ちましたか…」

姫「でもまだ魔王軍の残党は大分残っているでしょう」

獣人「そうですね。残党刈りといきたい所ですが、今日の所は引き返しましょう」

姫「そうね」

もう私にも獣人にも、戦う余力は残されていない。
まずは城に帰り、魔王討伐を報告せねば。

姫「…飴売りは大丈夫かしら」

重傷を負った飴売りが心残りだったが、まさか城に戻って彼の容態を確認するわけにもいかない。

獣人「魔王には魔王子と、その兄の兄王子、2人の息子がいます。世継ぎの問題もありますし、いずれ情報は入ってくるかと」

姫「そうね…」

遠く離れた自国で報せを待つしかないなんて…それが口惜しかったが、他に方法も見つからなかった。

獣人「さぁ、戻りましょう」

姫「えぇ」

こうして私達は、自国への帰路を歩むことにした。

142 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/29(木) 18:05:05.15 ID:z37KP4GX0
そして、その帰路の途中だった。

翼人「失礼」

飴売りの側近だった翼人が、私達の元を訪れたのは。

143 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/29(木) 18:06:10.39 ID:z37KP4GX0
>魔王城

魔王子「…」

姫にやられてからどれくらい時間が経っただろうか――ずっとベッドに伏せている魔王子には、時間の感覚がわからない。
幸いにも一命をとりとめた彼は目覚めて早々、父が討たれたことを知った。
体を壊して弱っていた父だったが、あれは命乞いするような性格じゃない――だから戦いで死んだと聞いても、父らしいと思えた。

魔王子にとっての心労は、その後だった。

兄王子「魔王子、無様にやられた上、敵に情けをかけられたようだな」

病室を訪れた兄王子は皮肉たっぷりに魔王子に言い放った。
言われても仕方ない。想い人第一優先に単独で突っ走った結果敗北し、父を討たれてしまった。魔王子にとって、これ以上ない失態だ。

だが兄王子は魔王子を責める代わりに、にやにやしながら彼の仮面を奪うように手に取った。

兄王子「父上がやられたことが早くも各地に広まり、今色々ゴタついている。次の魔王だが――」

魔王子「兄上が相応しいでしょう」

兄王子はその返答に、満足そうな笑みを浮かべた。
魔王子の仮面が彼の手元にある今、魔王子が彼に逆らうことなどできない――元々魔王になる気もなかったが。

兄王子「まぁ今は余計なことは考えず、お前はゆっくり療養しろ」

魔王子「はい…」

嫌な予感を抱きつつ、黙って兄を見送るしかできなかった。
そしてその日の内に、魔王子は療養部屋の移動を命じられた。

そこは魔王城の地下にある、囚人の軟禁場所だった。

144 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/29(木) 18:06:41.46 ID:z37KP4GX0
暗く、肌寒く、不潔なその部屋の居心地は最悪だった。

魔王子(まぁ、殺されるよりはマシか…)

どうせ怪我でろくに動けない自分には関係ない。
部屋の外には見張りを建てられ、囚人に食わせるような粗末な飯を与えられても、憤りを感じる気力すらなかった。

自分はどこまでも無力だ。
得たいと思ったものは何一つ得られず、守りたいものは守れなかった。
そして現状がこれ。もはや兄の手先となって動くことすら期待されていない。
いや、むしろ自分は邪魔者なのだ。殺されないでいてくれるのは、兄に兄弟の情がわずかにあるからか。

魔王子(もう…何か疲れた)

無力感で脱力する。時間の感覚を忘れる程、長くベッドに臥床していた。
それでも色んな欲求は消えないようで、やりたいことは自然と頭に浮かぶ。

飴売りの行商に行きたい。商売を通じて出会う人々の笑顔に触れたかった。
他の商売をするのもいい。飲み屋なんて、笑顔が溢れていて楽しいかもしれない。自分は酒は飲めないけど。

魔王子(それに…)

魔王子がこの世で1番尊敬している、想い人のことは、頭を片時も離れなかった。

魔王子(会いたいなぁ…姫さんに)

自分は地位を失った王子で、相手は国にこき使われている姫。
もう、会うことはできないかもしれない。

魔王子(せめて幸せになって欲しいな、姫さんには…)

命懸けで戦ったのに王子に名声を奪われる哀れな姫に、心の底から幸せを願った。
例え将来を共にする相手が、自分でないとしても――

魔王子(…でも、すげー悲しいや)

146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/29(木) 18:26:03.16 ID:LltjezIH0
魔王子って格好いい名前よりも、むしろ『飴売り』が似合いすぎて困る

147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/29(木) 18:36:33.23 ID:DquzU76d0
飴売りさん………

148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/29(木) 22:12:35.27 ID:y4AzBc19O


149 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/30(金) 16:35:12.92 ID:Fl0Abt9F0
最悪な環境に身を置いているせいか、魔王子は弱っていった。
ベッド上で寝て起きてを繰り返し、いつの間にか部屋の入り口に置かれている冷めた食事も、食欲がわかずろくに摂っていない。
体感では、もう軟禁されてから何ヶ月も経ったような気もする。

夢は見た。楽しい夢もあったが、ここで過ごしている夢も見た。
それで記憶の混合が起こる。さっきの記憶は夢だったのか、現実だったのか。

刺激もなく変化のない陰気臭い部屋にずっと孤独でいる…そりゃあ狂うな、と納得する。

自分が狂っていく感覚、それは仮面をつけた時にいつも感じていた。
もっとも狂っている最中は狂っているので、いつも後で恐怖心を覚えたのだが。
今もきっと自分は狂っているのだろうが、いまいち実感が沸かない。もしかしてここで狂ったまま、死ぬのかもしれない。

けど現状を覆す気力もわかない。そして衰弱していく。その悪循環は止まらない。

魔王子(殺された方が、楽だったかな…)


その時、コツ、コツと音がした。これは――部屋の外、誰かの足音だ。
刺激のないこの空間では、ちょっとした物音がよく通る。

誰かが食事を持ってきたかな…その程度に思った。
食事を持ってくる者はいつも自分を無視していくので、何の刺激にもならなかったが。

魔王子(…でも食べたくねーや)

給仕係と顔を合わせれば気まずい。そう思い、布団を被って寝たふりを決め込んだ。

「…」「…」

話し声がする。布団を被っているので内容までは聞こえないが…まぁ、自分には関係ないだろう。

声が止むと、扉がガチャと開いた。



「――」

魔王子「………え?」

遂に幻聴まで聞こえるようになったか――そう思った。

150 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/30(金) 16:35:40.47 ID:Fl0Abt9F0
話は日を遡る――

私は帰路で宿泊を挟みながらも、魔王討伐2日後に自国の領地に足を踏み入れた。
目立たないように行動しているが、各地で魔王討伐の話は既に広まっていた。

耳に入るのは「王子」を讃える声ばかり。きっと城下町では人々が王子を出迎える為、集っているのだろう。

獣人には一足先に城へ戻らせた。
彼といると目立つのも理由だが、今は1人の方が都合がいい。

姫「…見えてきた」

城下町は遠目で見ても賑わっていた。
皆王子の勇姿を讃え、騒ぎ、平和を喜んでいるのだろう。

「あっ、王子様だ!」

誰かが叫ぶと、場の視線が私に集中した。
皆は私が行く先、城までの道をさっと空ける。それでも歓声を届けようと大声が響いた。

「おめでとうございます王子様!」
「貴方は全世界の英雄です!」
「王子様、ありがとうございました!」

人々の歓声を浴びる私を、城のベランダから王子が見ている。
この歓声はすぐに彼へのものに変わる――彼はそれを、待ちわびている。

私は国の皆に手を振りながら城に戻り、王に魔王討伐の報告をする。
そして王子と入れ替わり、王子は英雄として君臨することになる。
私は王子の陰の存在に戻り、再び王子の為尽くすこととなる。

それが私と王子の役割だった――




今までは。

151 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/30(金) 16:36:06.89 ID:Fl0Abt9F0
私は人々の中心まで行くと、ぴたりと足を止めた。
城のベランダから私の帰還を見ていた王子は訝しげな顔をする。

姫「…皆さん!」

私が声をあげると、人々の声が静まった。
皆私の言葉を待っている。一気に上がった場の緊張感に、私の足は震えそうになる。

こんなことをしてはいけない…そういう思いがありながら、止めることはできない。そんな妙な罪悪感に興奮し、私の体は熱くなる。

視線の先にいる王子――彼も何をするのか、理解できていないだろう。
私は心の中で、彼に言葉をかけた。


ごめんなさい――


姫「私は――」


私は束ねていた髪をほどき、高らかに言った。


姫「私は――姫です!!」


場の空気は、一気にざわついた。

152 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/30(金) 16:36:50.16 ID:Fl0Abt9F0
周囲は混乱している。
私と、ベランダにいる王子を交互に見ている人達もいる。

王子は――信じられないといった表情で、光景を見ていた。

姫「私と王子は、たまに入れ替わりをしていました」

声を姫のものに戻し、私は早口で説明をする。

姫「私は世継ぎである王子の代わりに危険を背負い、王子が英雄となる為に戦ってきました…魔王を討ち取ったのも、私です!」

私は魔王の角を高く掲げた。
ざわめきは大きくなるばかり。人々はまだ信じられないといった様子だ。それは仕方ない、今まで希望を寄せていた王子への信頼は、そう簡単には崩れないだろう。
そう、皆に信じさせるのは簡単なことではない――

現状のままなら。

王子「で、でたらめを!」

来た。

王子は慌てて着替えてきたのか、王子の格好でやってきた。
黙っていられなくなったのだろう――予想通り。

王子「皆!これは違うんだ!これには複雑な理由があって…」

姫「では王子」

私は王子の言葉を強引に遮った。

姫「魔王を討ったのは、貴方ですか?」

王子「そうだ!」

姫「貴方の戦歴は全て、貴方のものですか?」

王子「そうだ!」

姫「なら――貴方は私より、強いんですね?」

王子「――っ!?」

王子の顔が一気に歪んだ。

153 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/30(金) 16:37:17.09 ID:Fl0Abt9F0
姫「なら、証明してみて下さい」

私は兵士の方に目をやった、事情を知らぬ兵士も、民衆達同様目を丸くしている。

姫「そこの貴方、王子に剣を貸して差し上げて」

兵「え…っ!?」

姫「私と王子が決闘してみます…王子が英雄だというなら、私に勝てるはずですね?」

王子「な、なななな…」

王子の顔がどんどん青ざめていった。そのわかりやすい様子に、人々もようやく王子に懐疑の目を向けた。

爽快だ――何だかそう思えた。今だ、やってしまったという興奮が私の心臓を高鳴らせている。
しかしもう、1度私についた火が止まらなかった。

姫「さぁ王子!戦いましょう!皆の前で!証明なさい!!」

王子「あ…ああぁ…」

王「そこまでだ」

お父様――国王がその場を諌めるように姿を現した。
人々は国王の登場に静まり返った。

王「…ご苦労だった。まずは城へ戻れ」

それだけ言うと、お父様は先に城へと戻っていった。その後を、王子が追いかける。

「何の説明もなしかよ…」
「でも、あの様子…まさか本当に…」

姫「…」

人々の間で色んな噂が飛び交っていた。私はそれで満足する。

そして私も、城へと戻っていった。

154 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/30(金) 16:37:47.60 ID:Fl0Abt9F0
王子「お前っ!!どういうことだ!?」

国王の間に戻った途端、王子が感情剥き出しで怒鳴ってきた。
王子だけではない。お父様もお母様も、私を鋭い眼光で睨みつけている。

王妃「…貴方は名声が欲しくなったと言うの?」

姫「そんな所です」

王子「お前…!!」

しれっと答えると、王子は私に掴みかかってきた。

姫「離して」

だが私は王子を冷たく突き放した。

王「…この国の世継ぎである王子を英雄にすることで、国民は王子を支持する…。指導者が支持されてこそ、国は安泰になるのだ。お前はそれをわかっているだろう?」

姫「勿論」

王妃「では何故」

姫「簡単な話です」

王子、お父様、お母様――その場にいた全員を見渡してから、私は言った。

姫「私にも、欲しいものができました」

王子「欲しいものだと…!?」

姫「はい」

元々欲しいと思うどころか、知らなかったもの――
だが1度それを知ってから、私はどうしても、それが欲しくなってしまった。

姫「欲しいものを手に入れる為に、名声が必要なのです」

155 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/30(金) 16:38:17.57 ID:Fl0Abt9F0
>魔王城

兄王子「ほぉ…父上を討ったのは王子ではなく姫だと?」

側近「人間達の間で、そのような話が広まっております」

兄王子「そうか…まぁいい、王子だろうが姫だろうが、人間どもの希望を討たないとな」

魔王が討たれたという報せは人間達を決起させ、制圧した国々で反乱が起こった。
その鎮圧に手間取り、王子のいる弱小国へ攻め入るのが遅れてしまった。

兄王子「だが奴を放置していては人間がますますつけあがるな…!!奴の国へ攻め入るぞ!!」

「その必要はないわ」

兄王子「――!?」

156 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/30(金) 16:39:16.31 ID:Fl0Abt9F0
>そして…

「――」

魔王子「………え?」

遂に幻聴まで聞こえるようになったか――そう思った。
そう思った魔王子は幻聴を無視し、再び寝入ろうとしたが…。

「寝てるんじゃありません!」

魔王子「!?」

ガバッと布団を剥ぎ取られた。
そして目を疑った…幻覚か、それとも夢か。

魔王子「姫…さん?」

姫「他に、誰だというんですか」

懐かしい想い人がそこに立っていた。
これは幻か――確かめようとして起き上がると、頭がフラッとした。

魔王子「…っ」

姫「…大分、弱っているようですね」

魔王子「…姫さん」

倒れそうになった魔王子を姫が支える。
この感触は幻覚ではない、本物だ――そう思うと涙が出そうになった。

魔王子「姫さ~ん…」

姫「よしよし、もう大丈夫ですよ。さてと」

魔王子「…うわ!?」

姫は魔王子の体を抱え上げた。
これは…俗に言う、お姫様だっこ?

魔王子「ひ、ひ、姫さん…」

姫「もう安心して下さい…私が助けに来ましたから」

魔王子「は、はい…?」

157 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/30(金) 16:39:45.46 ID:Fl0Abt9F0
姫「魔王城からの帰り道、翼人に聞いたんです」



翼人『魔王子様の兄である兄王子様が、弱っている魔王子様を軟禁されました。このままでは魔王子様が――』



姫「だから私、再び魔王城に攻め入りました」

姫「今度は数多くの魔物を相手しなければならないので、私と獣人だけではなく、各国の兵力も借りて攻め入ったんです」

姫「それには私自身に、各国に助力を要請できるだけの名声が必要…」

姫「飴売り、貴方を助ける為に私、大変なことをしたんですよ」

魔王子「えーと…?」

駄目だ。栄養の回っていない頭では理解が追いつかない。
だがさっきから思っていた。
俺を助けに来ただの、このお姫様だっこだの…

魔王子「ちょい、姫さん、逆、逆っ!」

姫「何がです?」

キョトンとする姫を前に、今までのことを一気に思い出した。

158 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/30(金) 16:40:11.63 ID:Fl0Abt9F0
魔王子「お、俺が王子を倒して、皆に認められて!そ、それで、姫さんを嫁さんにしようとしてたのに!!」

姫「あら、そんな計画が」

魔王子「これじゃ、逆、逆!」

姫「…あぁ!」

迎えられるはずの姫が魔王を倒し、名声を得て、自分は助けてもらう…これじゃあまるで。

魔王子「俺がお姫様役じゃんよ!?」

姫「まぁ、いいんじゃないですか」

姫はあっけらかんと言った。

姫「私、王子でもありましたし」

魔王子「…」

魔王子「いやいやいや良くない良くない!」

一瞬納得しかけてしまった。危ない危ない。

魔王子「自分で歩くから!下ろして、な、な!?」

姫「大丈夫なんですか?」

魔王子「へーきへーき!だってさ!」

魔王子は地面に降りると、満面の笑みを浮かべた。

魔王子「姫さんといるんだから、元気に決まってんじゃん!」

姫「…ふふっ、そうですか」

159 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/30(金) 16:40:37.44 ID:Fl0Abt9F0
兄王子は姫に殺されそうになった際あっさり命乞いをし、

姫「もう人間には手を出さないで」

兄王子「は、はい…」

制圧国は解放され、魔物達との戦いは終わりを告げた。


獣人「…本当に魔王城に戻るのか」

翼人「あぁ…私は魔王軍の者、お前のように人間達にとけ込めないさ」

獣人「…1つ聞かせてくれ。何であの時、魔王子の解放を姫様に頼んだ?」

翼人「姫君なら魔王子様を救い、守って下さる…そう思ったからだ」

獣人「なるほど…自分の主人を第一に考えてのことか」

翼人「こちらからも聞いていいか。姫の従者として、お前は現状をどう思う」

獣人「…俺は頭の悪い獣。国のことを考えろと言われてもわからん。だが…」

翼人「だが?」

獣人「姫様が笑顔でいらっしゃるなら…それでいい」

翼人「…そうだな」フッ

160 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/30(金) 16:41:07.20 ID:Fl0Abt9F0
>城下町

飴売り「らっしゃーい」

「あ、噂のイケメン飴屋さんてお兄さんでしょ?女子の間じゃ評判よ~」

飴売り「おっ、マジでー?そいつぁー嬉しいねぇ」

「お兄さんってお姫様と仲良いのよね~」
「ねぇねぇ、もしかして恋人とかぁ?」

飴売り「そうそう、もうラブラブのアツアツのイチャイチャの…」

姫「だ・れ・が!」ギュウゥゥ

飴売り「あだだだだだだ。い、いたのー姫さん…」

姫「全く、デタラメばっかり言って…フン」

飴売り「全くもう…照れちゃって♪」

姫「…切る」ダッ

飴売り「うわー!タイムタイム!」ダッ

「まーたやってるよ、あの夫婦漫才は」
「白昼堂々イチャイチャして~全く」

161 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/30(金) 16:41:49.08 ID:Fl0Abt9F0
飴売り「ゼェーゼェー…。あぁ、久々の全力疾走はバテる…」

姫「か弱いですからねぇ、飴売り姫様は」

飴売り「ぐぎぎ…その呼び名やめーや」

姫「ふふふ。あ、飴売ってもらえる?王子への差し入れに」

飴売り「ハイヨ。頑張ってるの王子は?」

姫「えぇ。私には負けたくないんですって」

英雄ではなくなった王子は、国民からの支持を回復させる為に勉強と剣に精を出している。
あれで王子は元々どちらの筋も悪くない。これで人間性さえ矯正できれば…。

飴売り「王子が将来の王になれる可能性は、まだゼロじゃないわけだ」

姫「魔王との争いがない時代なら、武力だけが王になる決め手になり得ないでしょうし。私は王になりたくないので、頑張って頂きたい所です」

飴売り「…何か悪いな王子に。俺を助ける為に突き落とされたようなもんじゃん」

姫「でも、あのまま王子が王に即位していれば、きっと王子は暴君になっていたと思います。だから良かったんですよ、あれで」

飴売り「そっか…ま、姫さんも王子として頑張ってたわけだし、王子も姫さんに追いつかないとな」

姫「父はまだまだ現役ですから、将来がどうなるかはわかりませんね」

飴売り「だよなぁ…。なぁ姫さん」

姫「何です?」

飴売り「俺は嬉しいよ、姫さんが皆に認められるようになってさ」

飴売りは屈託のない笑顔を浮かべる。
その笑顔に、私も自然と笑顔を返した。

姫「…ありがとう」

162 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/30(金) 16:42:14.28 ID:Fl0Abt9F0
飴売り「姫さんて最初の頃より素直になったよなぁ」

姫「そ、そう?」

指摘されて私は顔を引き締める。
その様子を見て飴売りは笑った。

飴売り「あーあ笑えば可愛いのにー。でも引き締まれば美人なんだよねー」ウンウン

姫「適当ですね」

飴売り「俺はどっちの姫さんも好き」

姫「…もう」

飴売り「なぁなぁ、姫さんはどっちの俺が好き?」

姫「どっちって、何と何を比べてですか」

飴売り「飴売りと、魔王子」

姫「私は飴売り姫様が1番かしらねー」

飴売り「くそおぉ、姫さんの方が強くて男前で俺、男としていいとこないじゃん」ブツブツ

姫「あら…知らないんですか?自分のいい所」

飴売り「あるの?教えて教え…」クルッ



姫「んっ―――」




飴売り「………へ?」

163 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/30(金) 16:42:49.12 ID:Fl0Abt9F0
飴売り「…今……ほっぺに……」

姫「そこ」

飴売り「…はい?」

姫「顔が面白い所」

飴売り「……」

飴売り「何じゃそりゃあああぁぁ!?」

姫「ふ、ふふ…」

飴売り「あーもう、姫さんに1本取られたあああぁぁ、悔しいぃーっ!!」

姫「ふふ、ふふふふ…ほんとだって…」


姫(だって私は、貴方の素直な所が――)


飴売り「もー、俺も剣の修行再開するわー!姫さんにゼッテー負けねー!!」

姫「じゃあ私に勝つまでお付き合いはお預けね」

飴売り「げ。か、勘弁願えませんかそれは~…」

姫「ふ、ふふふっ」

飴売り「うおっ、からかわれた!?」


貴方が本当の私をずっと見ていてくれたから、私は「姫」として素直に笑える――


姫「いいんですよ貴方は、そのままで」


私を変えてくれた彼。彼に望むことは、ただ1つ。


姫「ずっと笑っていて下さい――私の側で」

164 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/30(金) 16:44:15.44 ID:Fl0Abt9F0
終わりって入れ忘れた!!Σ(゚д゚lll)

読んで下さりありがとうございました。
今作は姫と王子の入れ替わりや、飴売りと魔王子の入れ替わりがややこしくて苦労しました。
自分は強い男キャラと守られヒロインて関係が好きなんですが、今作は強さが姫>飴売りで、飴売りがヒロインみたくry

165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/30(金) 17:10:57.10 ID:AJ2rwf7a0

こういうの大好きだわ

166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/30(金) 18:59:19.97 ID:pFaKddZAO

姫と飴売りのハッピーエンドもだけど、他のキャラも意外に救われてた気がする。
面白かった。

167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/30(金) 21:32:37.89 ID:5lCbcqxDO
面白かった! 2人仲良くしていってほしいなぁ!

168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/30(金) 22:43:27.93 ID:qNeV6rLrO


169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/30(金) 22:45:03.26 ID:z/WTqPUq0
乙!
すげー面白かった!

171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/31(土) 11:28:06.00 ID:PgMN6vyHO
乙!
翼人と獣人が良いコンビに見えてきた
posted by ぽんざれす at 09:54| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

姫「王子の代わりに戦う使命を負った」(1/2)

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1421738533/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1421738533


2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:22:29.09 ID:v18eES5U0
私は姫であり、王子である――


氷河魔人「貴様が人間達の希望、王子か」

姫「そうだ」

男装に身を包んだ私は嘘をつく。
声を太くし、不安な気持ちを顔から消し去って――

姫「魔王軍、氷河魔人。我が国の平和の為、切らせてもらう!!」

氷河魔人「面白い!」

相手から繰り出される氷のつぶてを剣でなぎ払う。
女の身であっても、剣では男と対等に戦えると私は自信を持っている。
つぶてが顔をかすったが、私は痛みを無視し氷河魔人に接近していく。

氷河魔人「捉えた!!」

氷河魔人の手から大きなつららが生え、その先端がこちらに迫ってきた。

刺さる――

姫「てやあぁ――っ!!」

それを、私は正面から叩き落とした。
つららの氷が弾け、それは氷河魔人の視界から私を一瞬だけ消した。

その一瞬。

氷河魔人「がっ――」

急所は外さない。

姫「終わりだ――氷河魔人」

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:23:08.77 ID:v18eES5U0



王「ご苦労だったな。ほとんどの国が魔王に屈服する中、お前の活躍は我が国の誇りだ」

姫「…はい」

氷河魔人を倒した報告をし、父である王は事務的に言った。
「王子」を讃える兵士達の声があたりから聞こえる。だけど兵士達は私が私であると知らない。
今この空間で私を知っているのは、たった3人――

王妃「これからも頼みますよ、王子」

姫よりも王子を愛する母。

獣人「…」

無愛想な私の側近。

王「では下がれ」

そして、私に王子であれと命じた父――


私を知る人達の温かみのない態度にはもう慣れた。
私は廊下に出て、部屋まで戻ろうとしたが…


王子「よぉ帰ったのか」

女装に身を包んだ王子――私の双子の兄に出くわした。
周囲に人がいない所では、彼は男口調で話す。

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:23:49.87 ID:v18eES5U0
王子「氷河魔人倒したってマジ?いやぁ、流石だねぇ「王子」は」

姫「…いえ」

王子「うっわ!顔に傷ついてんじゃん!顔は国民へのアピールポイントなんだから大事にしてくれよ~?」

姫「すみません」

王子「あ、そだ。ついでに飴買ってきてくれた?」

姫「いえ、言われなかったので」

王子「うわぁ気がきかねー。女は気遣いが大事だぞ…って、常時男装してるガサツ女にそんなん期待しても駄目かぁ」ハァ

姫「すみません」

王子「ま、いいや。あ、明日は俺王子として街で皆から賞賛を頂いてくるから、お前は女の格好してろよ」

王子「それじゃーこれからも頼むよ、俺の代わりとして~」ハハハ

姫「…」

この兄に好き勝手言われるのは慣れている。反論すれば火がついて喧嘩になり、そうなったら周囲は兄の肩を持つ。
小さい時からそうだ。だから兄はワガママになったし、私は今更腹が立ったり傷ついたりしない。

思うのはただ、この兄の相手は面倒だということだけ。

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:24:17.94 ID:v18eES5U0
私と王子はたまに入れ替わる。
私の役目は王子として魔物達と戦い、国の人々に希望を与えること。
本物の王子は剣の心得がないわけではない。しかし世継ぎとして大事にされ、私の振りをしながら安全に暮らしている。それでいて、私の戦歴だけを盗っていく。
それを知る者は国の重役でもごくわずか。知っていて、皆黙認している。
私は王子の為に存在していて、王子の代わりに危険を背負う。それしか価値しかない人間。

姫(あぁ疲れた…)

ここの所魔物達との戦いが激化している。
連日の戦いで私は疲弊しているが、貧しさにより兵力の弱い国からのバックアップはまるで期待できない。
英雄に仕立て上げられた私がたまたま剣の才能に恵まれていたのは、この国にとってそれなりに大きな利益だったに違いない。

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:25:12.08 ID:v18eES5U0
獣人「王子!」

姫「どうした!?」

部屋のドアが乱暴に叩かれ、獣人が入ってくる。
まだ男装をといていない私は、王子として獣人に返事をする。

獣人「西の森に、魔族と思われる群れが現れたそうです」

姫「そうか…今行く」

私は剣を手に取り、部屋を出る。
幸い氷河魔人との戦いで大した怪我は負っていない。だからまだ戦える。
疲れは顔に出さない…だって私は、皆の希望である王子なのだから。

「王子様、流石頼りになる」
「頑張って下さい王子!」
「王子、ご無事を祈っています」

誰も私を見ていない。皆が期待をかけているのは王子。

例えそうでも――

姫「ありがとう、行ってくる」

私は、王子として人々を守る。それだけが、私の必要とされる理由だから。

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:25:43.37 ID:v18eES5U0
>西の森

姫「魔族はどこに…?」

獣人「あちらから匂いがします」

気配を殺して獣人の後を着いて行く。
すると…

姫(あっ)

遠くてよくは見えないが、魔族と思われる者達が5人程集まって何やら話をしている。

姫「話の内容…聞こえる?」

獣人「…どうやら街への侵入方法を話し合っているようですね」

姫「そうか…」

今まで魔物達が国に攻め入ってきたことはないが、最近は争いが激化している。
彼らが国に襲撃を仕掛けようと企てていても、何ら不思議ではない。

姫「奴らの作戦を知っておけば、対策がとれるかもしれない」

獣人「そうですね」

私達はここでの戦いは避け、このまま聞き耳をたてようと企てた。
しかし…

翼人「コソコソ何をやっている?」

姫「!」

獣人「!」

上空に翼の生えた魔族――しまった、見つかった。
翼人の大声に、集まっていた魔族たちもこちらに気がついた。

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:27:31.98 ID:v18eES5U0
翼人「王家の紋章…お前が王子だな」

翼人は私の胸にあった紋章を見て言った。
魔族たちはざわつき始める。

姫「そうだ。我が国に攻め入ろうというのなら、切らせてもらう」

私は剣を構える。相手は6人――少々つらいが、獣人と協力すれば戦えない人数ではない。

?「今日はやり合うつもりは無かったが…仕方ないな」

翼人「魔王子様」

リーダー格と思わしき魔族が前に出た。
さっきから気になってはいた。仮面のせいで表情は伺えないが、こいつだけさっきから闘気がだだ漏れだった。
魔王子と呼ばれた男は無言のまま、大きな剣を抜いた。そして…

魔王子「…」

そのまま躊躇なく私に飛びかかってくる。私は瞬時に反応して剣を受け止める。
力強い――だが、乱暴な振りだ。

姫「はぁ!」

今度はこちらの攻撃。魔王子はこれを回避し、すぐに攻撃に転換する。
だだ漏れの闘気からもわかる通り、彼の戦い方はかなり攻撃的だ。
次々放たれる連続攻撃に回避と防御を交え、私はダメージを避ける。

姫(守っているばかりでは勝てない)

そう思い、次の首を狙った攻撃を避け――

姫「てやーっ!!」

魔王子「…!」

魔王子の足を払い、彼の体勢を崩す。

姫(今だ…!!)

私は彼の胸に突きを放った。

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:28:00.03 ID:v18eES5U0
魔王子「…っ」バッ

姫「!」

魔王子の姿が消えた。否。後方に大きく跳んだのだ。
魔族というのは人間と身体能力が変わらない種族だと聞いていたが、今の跳躍は大きく人間離れしている。

姫(今まで本気じゃなかったってこと…!?)

私は一層緊張する。
今までのが小手調べだとしたら、今度はどんな攻撃を仕掛けてくるというのか。

しかし。

翼人「魔王子様、そこまでです――まだ決着をつける時ではありません」

魔王子「…」

翼人の声で魔王子は剣をしまう。それでもまだ、闘気は消えていないが。

翼人「王子よ、今日は退散させて貰う――しかし次会った時は、その命を頂こう」

姫「…」

私は剣を収める。向こうが退散すると言うなら、無闇に戦うのはこちらも避けたい。
彼らが去っていく様子を、私はただ黙って見ていた。

獣人「魔王子…名前は聞いたことがあります。奴は魔王の息子です」

姫「そうか…」

魔王の息子…そう言われると納得の強さだった。
いずれ、彼と決着をつける時が来る。それまでに、もっと剣の腕を上げておかないと――

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:28:27.02 ID:v18eES5U0
>翌日

姫「ふぅ~…」

久々の女の格好に落ち着く。
ここの所王子に代わる日が続いていたので、ようやく自分に戻れたような気がして緊張が解けた。

王子は今頃、氷河魔人を倒した功績を自慢し街の人達にちやほやされているのだろう。
なら私も、今日は休みを取らせてもらおう。

姫「少し出掛けてきます」

獣人「あまり遠くへ行かれぬよう」

姫「わかっています」

お忍びの格好で外へ出る。服装を質素にすれば、案外気づかれないものだ。
しかし、人の多い所へ行くつもりはない。気分転換に城の周囲を散歩するだけだ。
自然の多い場所で花を見たり、小鳥のさえずりを聞いたりするのが私の趣味だ。

姫(空気が気持ちいい)

日頃の疲れが癒されていくようだった。

姫「…ん?」

気になる人物を発見した。

姫(……不審者?)

若い男が何やら険しい顔で城の方をじーっと見ていた。
何やら大きな包みを抱えているが…泥棒?

姫「ねぇ」

「うわぁ!?」

その男は私の接近に気づいていなかったのか、声をかけたらとても驚いていた。

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:29:08.96 ID:v18eES5U0
姫「何をしているんですか…侵入経路の確認?」

飴売り「違う違う、俺はただの飴売り」

飴売りはさわやかに返答する。第一印象は気さくな人だ。

飴売り「城に行商に行こうかと思ってたんだけど、いざ城を目の前にすると緊張してなぁ」

姫「…本当かしら」

飴売り「本当本当!…って、あれ?」

と、飴売りは訝しげに私の顔をじーっと見つめてきた。

飴売り「もしかして…お姫さん?」

姫「そ、そうですけど…」

まずい。この飴売りもしかして、王子の知り合いだろうか?
王子は飴が大好きだし、飴売り商人と知り合いでも何らおかしくはない。

飴売り「やっぱね、王子とそっくりだからそうだと思った。ご無礼すみませんね」ペコリ

姫「あ、いえ」

王子でいる時の私を見たことがあるのだろうか…?
とりあえず「姫」とは初対面らしいので、私はスカートの裾をつまんでぺこりと頭を下げた。

飴売り「へー…」

姫「?どうなさいました」

飴売り「いや、ここの国の姫様は傲慢で高圧的で男勝りって聞いていたんだが、そんな感じしないもんでね」

姫「…」

それはきっと、私の振りをしている王子のせいだ。

姫「貴方は物言いのはっきりした方みたいですね」

飴売り「悪いね、俺は育ちが悪いもんで」

飴売りは悪びれていない笑顔で頷く。まぁ、別に不快ではない。
それでも――私は兄が演じる「姫」とのギャップを無くしておかなければならない。

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:29:54.26 ID:v18eES5U0
姫「今日は機嫌がいいから許したけれど、そうでなければ貴方を怒鳴り散らしていたかもしれませんよ」

少なくとも、王子演じる姫ならそうしていただろう。
今度「姫」に会った時は気をつけろ――そういう忠告を込めて言ったつもりだが、

飴売り「こんな品のあるお姫様が怒鳴る様子、想像つかなくて逆に見てみたいね」

飴売りは物怖じする様子なく笑って言った。

姫「…貴方と話すと疲れますね」

飴売り「顔に似合わずひねくれているんだなぁ、美人が台無し」

姫「放っておいて下さい」

愛想良くすると、王子演じる姫とのギャップが生まれてしまう。
王子のように威張るのは好きではないので、姫でいる時はいつも無愛想にしている。
それでも、この飴売りは人の感情に鈍いのか、様子が変わらなかった。

飴売り「まぁ、この国って男性優位だもんな。何かといや王子、王子じゃひねくれますわな」

姫「別に、そういうわけじゃ…」

飴売り「俺にも兄がいてねー…仲が上手くいかなくて、参ってる」

姫「…私も兄と仲が良いわけではありませんよ」

飴売り「やっぱ色々あるよねー、兄弟って難しいね本当」

飴売りは急に真面目な顔になる。

姫「…」

わざわざこんな話をしたということは、私もそうだと思ったからだろう。
彼の邪推は間違っていない。私と兄はずっと差をつけられてきたし、仲もはっきり言って悪い。
だけれど英雄である王子と、傲慢な姫。それなら非があるのは姫の方。そう思われるのが普通。

だというのに。

飴売り「姫さんも苦労してるよねー」

この飴売りの態度、私の気持ちもわかると言いたげだ。

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:30:21.24 ID:v18eES5U0
姫「別に…」

ただ、わかってくれる人がいるからと言って喜ぶ気持ちにもなれなかった。
私が王子として人々の支持を集めている間、兄は姫として好き勝手に振舞う。それを父である王は認めていた。
私は兄の為に存在していて、引き立て役も私の役割――そう教え込まれていたからには、そう振舞わないといけない。

姫「貴方とわかりあうつもりはありません」

彼を突き放し、私はその場を離れようとした。
だけど。

飴売り「あー、待ってお姫さん」

姫「何ですか?」

飴売り「飴、好きだって聞いてるよ。はいプレゼント」

飴売りが差し出したのは、包み紙に入った飴3つ。

姫「…変な人」

無表情で受け取るが、内心少し可笑しく思う。評判の悪い私の顔色を伺うことなく、物怖じせず飴を渡してくる人なんて、少なくとも今まで出会ったことがない。

姫「ありがとうございます」

飴売り「あ、やっと笑った」

姫「え?」

しまった、表情が緩んでしまったか。

飴売り「いやー、どんな姫様かと思ってヒヤヒヤしてたけど、こう実際会ってみると…」

姫「何です?」

飴売り「人に媚びない雰囲気がいいね、孤高って感じで。俺、ファンになったよ」

飴売りは口を釣り上げて笑った。
つくづく、変な人。

姫「さようなら」

また会えるかはわからない。今度は王子演じる姫に会って、彼は姫を嫌いになるかもしれない。
それでも、それなりに面白い話し相手だった。今日会った変わり者のことは、きっとしばらく忘れられないだろう。

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/20(火) 16:30:47.71 ID:v18eES5U0
姫が去った後、飴売りは美麗な姫と会話した余韻に浸っていた。

飴売り「はぁー、いい息抜きになったわー」

「こんな所にいましたか」

飴売り「お。お帰りー」

「何ですかその格好は…敵襲にあったらどうするのです」

飴売り「この格好なら敵襲にあわねーって。お姫様も俺を警戒してなかったぜ」

「だからといって、武器も防具も置いていくのはどうかと思いますが」

飴売り「俺、あれ嫌い。確かに装備すると強くなれるけど、何かイライラしてくるし」

「貴方に必要なものなのですから。今すぐ装備して下さい」

飴売り「はいはい…」

飴売りは手渡された仮面をつける。
その姿は――

魔王子(飴売り)「全く、口うるさいな翼は」

翼人「貴方の為を思ってのことですよ――魔王子様」


16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/20(火) 16:53:43.15 ID:n3lcMWZRo
超期待

17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/20(火) 17:25:42.61 ID:+sX/qLhDO
乙! 期待

18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/20(火) 17:51:41.17 ID:e4UwrtnTo
乙乙

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:42:52.87 ID:GKiPRO/F0
>翌日


王子「や、姫」

廊下を通りがかると王子が声をかけてきた。
王子に群がっていた人達は一斉にこちらを向く。あぁ、このまま通り過ぎようと思っていたのに。

姫「ごきげんよう」

私が声をかけると皆は頭を下げる。
でもさっき見逃さなかった。私を見た瞬間、彼らが引きつった顔になったのを。
これも嫌われ者の宿命か。

姫「私は部屋に戻りますので」

普段王子扮する傲慢な姫と接している城の者と話すと、私とのギャップが生まれて入れ替わりがばれてしまいかねない。
だから私は王子がいる時は大抵部屋にこもっている。それを城の者は「王子の目があると姫は大人しい」と都合良く解釈してくれるようだけど。

王子「そうか。こもってばかりも良くないぞ」

王子でいる時の王子は、人前では優しい。つまりは外面がいい。
傲慢でワガママな本性が表れるのは私の振りをしている時。自分でいる時に自分を出せないとは、彼も窮屈な身だろう。

メイド「王子様、もっと王子様の武勇伝を聞かせて下さい」

王子「あぁいいだろう。それでな…」

一体どんな作り話で人々の気を引いているのやら。
耳に入れば吹き出してしまいそうで、そのまま無視して行こうとした。
その時。

獣人「王子」

王子「ん」

獣人が姿を現した。
その視線は王子に向いているが、私も立ち止まる。

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:43:20.08 ID:GKiPRO/F0
王子「どうした…?」

獣人「北の山に魔物の群れが潜伏しているとのことです」

姫「…」

私は無関心な振りをする。判断を下すのは王子。まぁ、王子がどんな判断を下すかはわかっているけど――

王子「わかった、早い内に殲滅しよう」

やっぱり。

王子「準備を整えたら行こう」

獣人「かしこまりました」

姫「…」

私は黙って部屋に向かう。
王子が決めたのだから。

「王子、どうぞご無事で!」
「ご武運を祈っています!」

王子「…」

人々の応援の声に応えながら、王子は私に目で訴える。

姫(わかってる)

私に行けと言いたいことくらい、わかっている。
貴方は安全にお姫様をやっていればいい。

部屋に戻り、私と王子は入れ替わった。

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:43:46.16 ID:GKiPRO/F0



結論から言うと、北の山の魔物達は大した相手ではなかった。
せっかく馬を走らせてはるばる来たというのに、全滅させるのに10分もかからなかった。

姫「わざわざ私が来た意味あったの?」

獣人「申し訳ありません。何せ、急な情報だったもので敵の戦力を測れておらず」

姫「ま…いいけど」

大した戦力にならない兵士達じゃあ、この程度の相手でも手こずったかもしれない。
それに、近隣の村が騒ぎになる前に殲滅できて良かったのではないか。

姫「でも、すっかり日も暮れてきたね…」

来たばかりで、またすぐ城に戻るのも面倒だ。何せここは、移動に時間がかかる。

獣人「今日は近隣の村に宿泊し、明日城に戻りましょう」

姫「そうだね」

よくあることなので、私は拒否しなかった。

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:44:19.59 ID:GKiPRO/F0
姫「ふぅ~」

村の露天風呂で疲れを癒す。
ちなみに共同浴場を使う必要があるので、男装はといて宿をとっている。勿論、姫という素性は隠しているけど。

姫(あぁいい気持ち…)

~♪

姫「…ん?」

岩陰から何か…

「~♪」

姫(…鼻歌?)

他に人がいたのか。気がつかなかった。
それにしてもこの鼻歌…何か違和感が。

姫「…」

私は違和感の正体を確かめる為、鼻歌が聞こえる方に近づいていく。
違和感の正体、それは…

飴売り「フンフンフ~ン♪」

姫「…」

飴売り「フンフ~…あれ?」

姫「…」




違和感の正体。それは、声が女性のものにしては野太いというものだった。

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:44:48.81 ID:GKiPRO/F0
飴売り「どぉいうこったああぁぁ!?」

宿屋「わりーわりー、露天風呂には男性時間と女性時間あるんだけど、説明すんの忘れてたよ!」

姫「…忘れますか普通」

宿屋「普段客のこねー宿屋だからさぁ、まぁ許してくれ」ハハハ



姫「冗談じゃありませんね」

飴売り「こっちの台詞…あーいでで、まだ口ん中血の味する」

姫「本当にすみません」

痴漢かと思って、つい殴ってしまったのだ。
これは本当に悪いことをした。

飴売り「でも姫様と混浴かぁ、こりゃいい思い出になったぜヒヒヒヒヒ」

前言撤回。

姫「記憶を消しましょうか?」

飴売り「わー、ストップストップ!!バスタオルと湯けむりのせいでほとんど何も見えなかったし!」

姫「本当ですか?」

飴売り「本当だって~」

何か胡散臭い笑いだけど…まぁ彼に非はないから、これ以上追求するのはやめよう。

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:45:19.85 ID:GKiPRO/F0
飴売り「にしても驚いたねー、姫さんがこんなへんぴな村に来てるなんて」

姫「…お忍びで来ているので、絶対ばらさないで下さいね」

飴売り「別にばらして得もないし、ばらさないけどよ」

こんな所で彼に会ったのは本当にまずいことだったりする。
城に王子扮する姫がいる以上、私は姫として誰かに会うわけにはいかなかったのだ。

飴売り「あ、そだ。昨日あげた飴どうだった?」

姫「えぇ、美味しかったですよ」

飴売り「そっかー。じゃ、またあげるわ。はい!」

姫「いいんですか…?売り物をそんなに簡単に人にあげて」

飴売り「まぁ…利益を得る為に飴売りやってるわけじゃないしなぁ」

姫「じゃあ何の為に…?」

飴売り「んー…楽しいからかな」

姫「……?」

やっぱりおかしな人だ。

姫(ま…色んな事情があるしね)

飴売り「ところでー…」

姫「?」

飴売り「王子もこの辺に来たんだって?」

姫「!?」

人目につかないように来たつもりだし、村に入る時は男装をといていた。
なのに何故…?

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:45:45.67 ID:GKiPRO/F0
姫「ど、どこでその情報を…!?」

飴売り「あ、いや…客に」

飴売り(まさか魔物達からの報告なんて言えねぇよな)

姫「多分、そのお客さんの見間違いですね」

飴売り「え、いやそんなはず…」

飴売り(いや、王子が魔物達を倒したって報告が…)

姫「いえ、見間違いです」

飴売り「でも」

姫「見間違いです」

飴売り「………わかりました」

何か釈然としていないようだけど、誤魔化すことはできたようだ。

飴売り(極秘情報かな…この姫さんは知らないか、口が固いかのどっちかだな)

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:46:12.56 ID:GKiPRO/F0
姫「それじゃあ、私はこれで」

飴売り「あー、待ってよ姫さん」

姫「…何ですか」

飴売り「もちょっと話さない?田舎は娯楽がなくて暇で暇で」

姫「結構です」スタスタ

飴売り「あぁー」

飴売り(あーあ、つれねーの…ま、でも流石姫さんガードが固い)

こちらとてそこまで拒絶したいわけじゃないけれど、話せば話す程ボロが出る危険がある。

姫(今日は早く休もう…)

姫「…っ!」

飴売り「ふあぁ~、もう寝るか…」

姫「危ない!!」

飴売り「――へっ?」

私はとっさに飴売りをその場に押し倒す。
飴売りは呆気に取られた顔で私を見上げていた。

飴売り「え、なになに…姫さん、まさか…」

と、その時。

ドガシャアアアァァ

飴売り「!?」

姫「…っ」

宿屋の壁が、大きな音をたててぶち破られた。

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:46:42.17 ID:GKiPRO/F0
飴売り「へっ…」

茫然としている飴売りは放っておいて、私は立ち上がり構える。
するとぶち破られた壁の向こうからは――

呪術師「おやおやぁ…外しましたか」

ローブに身を包んだ魔物が姿を現す。
体中に彫ったあの刺青は呪術師の証。

飴売り「な…」

姫「…」

姫(私を狙ってきたの?)

飴売り「…」

飴売り(狙いは姫さん…?いや…俺だよな)

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:47:26.68 ID:GKiPRO/F0
~飴売りの回想~

俺には、母親違いの兄がいる。

魔王子「あ、兄上…」

兄王子「よう」

廊下で兄上とばったり出会った。彼の体に香水の匂いが染み付いている。
魔王の息子というだけで寄ってくる頭も尻も軽い女たちを、兄上は拒まない。

兄王子「最近姿を見ないな。また部屋にこもって勉強でもしていたのか?」

魔王子「はい…」

兄王子「熱心だな。お前も人間の基準なら美形らしいから、人間の女で遊んできたらどうだ?」

魔王子「いえ、俺は…将来、兄上を支える刃とならなければなりませんから」

本音ではない。しかしこの兄に、俺の建前を見抜く力などなく。

兄王子「そうかそうか!お前のような従順な弟を持って、俺は幸せだワッハッハ」

魔王子「…」

俺は、享楽的で怠惰な兄を嫌っていた。

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:47:52.35 ID:GKiPRO/F0
翼人「魔王子様…私は納得がいきません」

魔王子「何がだ…?」

翼人「兄王子様はとても魔王の器とは思えない…次期魔王に相応しいのは、魔王子様の方です」

翼人「魔王子様が人間との混血というだけで候補から外れるのは、納得がいかない…!」

魔王子「…やめろ、翼人。俺は魔王になる気はない」

翼人「しかし…」

魔王子「そうやって一部の家臣が俺を推すことで、兄上派の家臣と対立するだろ」

俺は兄以上に、面倒事と、物騒な事を嫌った。

魔王子「父上も最近体の調子が悪い、こんなことで心労をかけさせるな」

翼人「魔王子様…お聞き下さい」

魔王子「何だ…?」

翼人「対立は、既に始まっています」

魔王子「!」

翼人「最近、兄王子様派の動きが不穏になっております」

翼人「いつ命を狙われても不思議ではありません…くれぐれも、油断せぬよう」

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/21(水) 14:49:37.74 ID:GKiPRO/F0
今日はここまで。
仮面を被っている時と魔王城にいる時は「魔王子」で、普段は「飴売り」って感じで使い分けていますが同一人物だということだけ覚えていて下さればおkです。

31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/21(水) 17:55:42.92 ID:jZ8uopZcO
乙、続き期待

32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/21(水) 18:34:16.10 ID:1zXnAiJuo
これは期待

33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/21(水) 18:43:03.16 ID:QVBm2jEAO
乙良いな

34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/21(水) 19:19:24.71 ID:vnDLdE8DO
楽しみに続きまってるー

35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/22(木) 00:12:32.06 ID:BejNtXwXO


36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:03:44.72 ID:d+YTB6p10
飴売り(あの呪術師…多分兄上派の刺客だな)

飴売り「逃げな姫さん」

姫「え、でも…」

飴売りは呪術師と対峙し、剣を抜いていた。
私を狙ってきたのなら、彼に任せて逃げるなんてできるわけがない。

飴売り「であぁ!!」

真っ直ぐ呪術師に突っ込む。勢いは悪くない。
だが呪術師はそれより素早く、宙に魔法陣を描いていた。

呪術師「覇ぁ!」

飴売り「…っ!」

魔法陣から光線が発せられるが、飴売りはそれを横に避ける。
そして不規則なステップを踏んで呪術師に接近し――

飴売り「おらぁ!」

呪術師「ふん!」

飴売りの太刀を呪術師は腕を硬化させたのか、受け止めた。
だが――

飴売り「そこだっ!!」

呪術師「――っ!!」

呪術師の脇腹を蹴り、呪術師を宿の外に放り出す。
これで、これ以上の建物への損害は免れるが――

姫(飴売りは弱くはない、けど…)

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:04:19.77 ID:d+YTB6p10
駆ける飴売りを呪術師が追う。
飴売りが向かうのは気兼ねなく力を発揮できる場所――村の外。

飴売り(村ん中でこれを使ったら、色んなものを巻き込んじまう…!!)

呪術師「逃しませんよ!」

飴売り「…っ!!」

呪術師の魔法に足元を撃たれ、飴売りは吹っ飛ぶ。
何とか着地したが、呪術師の二擊目三擊目は容赦なく襲ってくる。

飴売り「ぐ…」

呪術師「貴方の考えることはわかっているのですよ…貴方は甘い方ですからねぇ」

こいつは、自分が性格上、ここで「あれ」を使わないことを理解している。
だから村の外に出す前に仕留めよう…そういうことだ。

飴売りは懐にあったもの――仮面に手をあてる。

飴売り(狂戦士の仮面…使用者の潜在能力を引き出すが、その効果は手加減を知らない)

これをつけた時はひどく好戦的な気分になり、思考力がどんと落ちる。
きっとここで使えば自分は、村が破壊されるのもおかまいなしに暴れることだろう。

飴売り(それはできないな…)

仮面から手を放し、再び剣を構えて呪術師に対峙する。

飴売り「おい、俺は魔王になる気はない…無駄な争いだと思わないか」

呪術師「貴方の意思が問題なのではない…貴方が生きていることが問題なのですよ」

交渉の余地もない。
飴売りは苦笑する。自分の命がかかっているのに、こんな人間の村の被害を気にして力を発揮できないでいる自分は魔王に相応しくない。だというのに、対抗勢力の過激派はそんなことも考慮しないのか。

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:04:56.46 ID:d+YTB6p10
飴売り(仮面を使わなきゃ俺の実力は魔物達の中じゃ中級レベル…)

自分を殺す為に派遣された相手が、仮面を使わずに勝てるとは思わないが。

飴売り(それでも、やらなきゃな!!)

飴売りは呪術師に突っ込んでいく。
硬質化された腕による防御を取られるが、攻め続ける。
と、呪術師は大きく息を吸い始めた。

呪術師「覇!」

飴売り「…っ!?」

呪術師の口から火が吹かれる。後ろに跳んだが、少し火傷した。
この程度の怪我なら問題ない…だが、この多彩な技を持つ相手に、次はどう攻めればいい?

飴売り「く…っ」

呪術師「貴方程度では攻略不可能ですよ」

飴売り「…っ」

思考は再び逃げることに切り替える。
その隙はあるのか…だが、とにかく諦めてはいけない。

呪術師「そろそろ…ひと思いに死にますかっ!!」

飴売り「…!!」

呪術師から大きな閃光が発せられ、それは――熱をもって、飴売りへと襲いかかる。
逃げられない――

「でりゃあああぁぁ」

飴売り「!?」

その声と同時――

呪術師「!?」



姫「飴売り…大丈夫?」

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:05:28.50 ID:d+YTB6p10
飴売り(は、姫さん…?てか、今…この姫さん、閃光切ったよなぁ!?)

姫「好き勝手暴れてくれたみたいね」

私は飴売りの前に出て呪術師に剣先を向ける。
これ以上、この飴売りに怪我をさせるわけにはいかない。

呪術師「邪魔が入ったか…まぁいい、まとめて殺してやりましょう!!」

呪術師の手から次々、閃光が飛ばされる――私はこれを切る。
下手に避けて、村に被害を出してはいけない。

飴売り(す、すげぇ…魔法を斬るなんて、普通にできる芸当じゃねぇよ…)

呪術師「少しはやるようですね…ですが!!」

姫「!」

大きな炎が襲いかかってくる…しかも、私を挟むように両側から。
これは私の剣速じゃ斬れない――ならば回避。私は炎を避けるように、一気に前に駆ける。

呪術師「かかりましたね!」

おや、罠だったか――呪術師は目論見が通ったと満足そうに笑っている。と思ったと同時、私の額目掛けて高速で閃光が飛んできた。
これを切る余裕はなく、剣を盾にして防御する――が、思った以上に威力が強かった。
私は後ろに吹っ飛ばされる。このままいけば――炎に突っ込む。

姫「…っ」

飴売り「おっとぉ!」

姫「!」

と、飴売りが炎の前に立って私の背中を受け止めた。

飴売り「大丈夫か姫さん」

姫「えぇ…貴方こそ大丈夫?」

飴売り「俺は男だから!」

姫「…どういう理屈?」

口から出た疑問に、飴売りはへへっと笑いで返した。答えになっていない。

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:05:59.95 ID:d+YTB6p10
飴売り「奴の技は多彩で威力がでかい…しかも奴は村に被害を出しても構わない、厄介な相手だ」

姫「みたいですね」

飴売り「ここは協力しないか」

姫「…貴方と?」

この飴売りの実力はわからないし、昨日今日会った相手と息を合わせるなどできる気がしない。

姫「どうやって…?」

飴売り「こうやって!」バッ

姫「あ!?」

飴売りは呪術師に突っ込んでいく。
これは――飴売りが捨て身の攻撃を仕掛けるから、隙を伺って倒せということだろうか?

姫(リスクが高すぎる…!!)

それでも飴売りは呪術師に攻撃を仕掛けていた。

飴売り「おらおらぁ!!」

呪術師「雑な攻撃ですねぇ」

姫(早々に勝負をつけないと…飴売りが危ない!!)

呪術師の視界の外に回り込む。飴売りが猛攻撃を仕掛けてくれているから、一応やりやすくはなった。
だが、飴売りもいつまでももたないだろう。

姫(全く…!!死んだらどうする気!?)

41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:06:30.79 ID:d+YTB6p10
姫(もう少し…!)

飴売りとの戦闘に集中している呪術師に、背後から距離を詰めていく。
飴売りは…案の定無理をしているのか、ダメージが蓄積している。

姫(今助けるから…!)

飴売りの人懐っこい笑顔を思い出す。私は、ああいう笑顔を守る為に戦っている。
それが私のせいで失われるなんて――

姫(冗談じゃない!!)

あと3歩――

呪術師「私が――貴方を気にしていないとお思いでしょうか?」

姫「!」

途端、激しい熱。呪術師の体が発火した。
飴売りは…良かった、1歩下がってダメージを回避している。

呪術師「人間にしてはやりますねぇ、しかし!!数々の勇者を名乗る者を葬ってきた私を殺すことなど、人間には――」

ぐさり

呪術師「…え?」

姫「うるさい、ごちゃごちゃと」

呪術師は恐る恐る、信じられないといった様子で視線を下に向ける。
呪術師の首には剣――私が狙って投げた刃が、彼を貫いていた。

姫「貴方が葬ってきた人達より私の方が強い…そう考えられなかったの」

答えを言う前に、呪術師はどさりと倒れる。
そもそも呪術師の耳に私の声は届いていなかったかもしれない。
私は倒れた呪術師から剣を引っこ抜き、絶命を確認してから警戒をといた。

姫「手間がかかったわ…」

飴売り「…」

飴売りはポカンと私を見ていた。

姫「迷惑をかけましたね…治療代はこちらで」

飴売り「…れた」

姫「え?」

飴売り「惚れた!!」

姫「!?」

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:07:03.82 ID:d+YTB6p10
飴売り「姫さん強かったのかよ、全然知らんかったわ!!美人で気位が高くておまけに強いって、最高じゃん!!」

姫「え、あの…」

飴売り「姫さん、俺と付き合わない!?」

姫「は…?」

目をキラキラ輝かせて、何を言っているのだろうこの男は。

飴売り「今まで出会ったどんな女より…いや、これから先も姫さん以上の人と出会える気がしないッ!俺は直感を信じる!」

姫「ば、ばか言わないで。身分の差をわきまえなさい」

飴売り「あー、俺飴売りなんてやってるけどこれはボンボンの道楽みたいなもんで、実際結構いい家の…」

と、その時。

ズシーンズシーン

飴売り「…へ?」

姫「あら」

「…」

飴売り「おわあああぁぁぁぁ!?」

飴売りが腰を抜かす。
そこに現れたのは両手を鮮血で染めた、3メートル程ある獣だったのだ。

飴売り「ま、まままだいたのかよぉ!?」

姫「いえ、違うわ」

私が言ったと同時…

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:07:46.52 ID:d+YTB6p10
獣人「姫様、助けが遅れました…ですがご無事のようで何より」

獣は体を縮め、獣人に変化した。

姫「今まで何をやっていたの獣人?」

獣人「村に魔物が潜んでいたので、狩っておりました」

姫「なるほど…刺客は呪術師だけじゃなかったの」

飴売り「」アワアワ

獣人「…姫様、彼は?」

姫「あぁ…戦いに巻き込んでしまったの。獣人、治療費を渡して差し上げて。それから宿屋にも、修繕費用を」

獣人「はい」

飴売り(本当は巻き込んじまったの俺なんだけど…何か上手く勘違いしてくれてるみたいだな)

姫「それじゃあ、これで…もう、危険に首は突っ込まないように」

飴売り「あ、は、はい」

飴売り「…」

飴売り「姫さーん」

姫「はい?」

少し距離が空いた頃、飴売りが私を呼び止めた。

飴売り「俺、結構本気だからー。俺のお嫁さんになりたかったら、いつでも言ってくれー」

姫「…」

本気で頭がおかしくなったのか。
そう思う反面…

姫「ふ、ふふ…」

彼を面白いと思う自分がいた。
初めて貰う男性からの求愛の言葉は、不思議と嫌な気持ちにはならない。

姫「一生待ってなさーい」

飴売り「おう、俺は辛抱強いぞ!」

決して受け入れたわけではない。それでも、冗談のやりとりという一歩踏み込んだコミュニケーションくらいは、いいかと思った。

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/22(木) 18:08:18.25 ID:d+YTB6p10
獣人「姫様、彼は…」

姫「変な人なのよね」

獣人「前々からの知り合いですか?」

姫「たまたま昨日知り合った飴売りよ」

獣人「飴売り…ですか」

姫「どうかした?」

獣人「…いえ、何でも」





飴売り「くっそー、とんだ邪魔が入ったぜ」

翼人「災難でしたね王子…」バサッ

飴売り「いたのかよ翼。いたなら助けてくれてもいいじゃん」

翼人「いえ、いつ仮面をお使いになるのかと思いましてね」

飴売り「こんな所じゃ使わないって」

翼人「その格好なら襲撃されないとおっしゃって、油断していたのはどなたでしたかね?」

飴売り「うぎぎ…悪かったって。まさか、本当に俺を殺しに来るとは思わなかったんだよ」

翼人「魔王子様は危機感が足りていませんね…それに何ですか、姫君に告白なさるとは」

飴売り「惚れたもんは仕方ないだろ?初めてなんだよ、女に惚れたのは」

翼人「貴方の宿敵の妹君ですよ?」

飴売り「別に俺は王子を宿敵とは思ってねーよ、それにさぁ」

翼人「…何です?」

飴売り「俺と姫さんが結婚すれば争いは収まって和平ハッピーエンドじゃね?」ハハハ

翼人「馬鹿ですか」ボソッ

飴売り「はいはい俺は馬鹿ですよー、馬鹿は魔王になれませーん」

翼人「開き直らないで下さい」

飴売り「まぁまずは魔王城に帰るぞ。父上に報告しないと」

翼人「はい」



46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/22(木) 18:20:11.19 ID:VSnRvXju0


47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/22(木) 19:17:03.33 ID:i7GTHqYAO

ロミオとジュリエットになるか、最後に愛は勝つになるか、はたまた別ルートがあるのか。
期待してるわ。

48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/22(木) 21:06:53.93 ID:AujOFVJDO
飴売りの一直線っぷり、好きだw

49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/22(木) 22:12:55.79 ID:Rk4bfO5yO


50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:23:53.35 ID:MbiRcDMj0
>翌日

王子「よぉ、相手大したことなかったんだって?」

城に戻ると、人のいない所で王子が声をかけてきた。
あぁ、また面倒臭い。

王子「大したことないなら俺が行っても良かったかもな~。あ、でも田舎の汚い宿屋に泊まるのか勘弁だな、体が汚れちまう」

姫「行かなくて正解でしたよお兄様」

王子の剣の腕も悪くはないけれど、実戦経験の少ない彼なら呪術師の襲撃に対処できなかっただろう。

姫「そうだお兄様…姫でいる時に、飴売りと知り合いになりました」

王子「飴売り?」

姫「20代前半くらいの若い男性で…かなり馴れ馴れしい方です。遭遇した時は適当にあしらっておいて下さい」

彼を悪く言うのは嫌だったが、あまり王子と話してほしくない。
そういう意図があるとは知らずに、王子はハイハイと適当に返事を返した。

姫「あ、彼から貰った飴です。良ければ…」

王子「お、さんきゅー♪」

王子は飴をあげれば機嫌が良くなる。本当、子供っぽい。

姫(将来結婚できるかはわからないけど、王子以下の男性はそうそういないわね…)ハァ


>城下町

飴売り「らっしゃーい」

飴売りは不機嫌さを押し隠すように行商に没頭していた。

飴売り(くっそ…)

魔王城であったことを思い前す。

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:24:36.26 ID:MbiRcDMj0
父は最近体の調子が悪く、顔色が悪い。
それでも魔王としての責任からか、それとも人に弱みを見せるのを嫌う性格からか、自分が城に戻った時も威厳たっぷりに出迎えた。

魔王子「父上、謀反人が現れました」

魔王「ほう…?」

魔王子「俺が宿泊していた宿が襲撃され、呪術師と名乗る魔物に命を狙われました」

呪術師が兄王子派の者かもしれないというのは伏せておく。
証拠のない不確かな情報だし、父に心労をかけさせたくなかった。のだが…

魔王「ふん…我はまだまだ現役だ、早まった馬鹿が…」

魔王子「父上…」

魔王は次期魔王候補の派閥争いだと、気がついたようだ。

魔王子「父上、俺は争いを好みません。兄上が次期魔王であると父上の口から…」

魔王「甘えるな阿呆」

魔王子「!?」

魔王「お前は命を狙われたくないだけであろう?自分の身は自分で守れ、我が息子ならな」

魔王子「いやしかし…無益な内部争いなど…」

魔王「有益かも知れんぞ…争いでしか得られぬものもある」

魔王子「…」

父も争いの末に様々なものを手にれたと言われている。
魔王の座も、名声も、人間達に女神のようだと讃えられていた母も――
そんな豪傑な父は自分に、我が息子なら戦え、腑抜けるようなら死ねと言っている。実の親子でも、彼はそういう性格だ。

魔王子(それでも俺は――)

沢山の命を散らしてまで何かを手に入れたいとは思わなかった。

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:25:10.11 ID:MbiRcDMj0
飴売り「まいどありー」

行商は好きだ。何ていうか自分も「社会の一部」になったような気がして、働いた充実感が得られる。人と直接触れ合う仕事は、自分に向いていると思う。

流石都会、今日は飴の売れ行きがいい。特に女性客が多く、遠巻きにこっちを見ている女性もいる。
まぁ姫さんも飴好きと有名だし、この国の女性は飴が好きなのかもしれない。

王子「飴下さる?」

飴売り「へい、まいど…ってあれ、姫さん?」

王子「え…?」

飴売りの顔がぱっと明るくなる。
今日首都に来たのは、姫に会えるかもしれないという下心が多少あったのは否めない。

飴売り(姫さんのこと考えた途端姫さんが来るとは…もしかしてこれって運命?)

そんなことを考えると自然ににやついてしまい、姫に扮する王子は頭を傾げた。

王子(何だ…このアホ面は)

53 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:25:38.51 ID:MbiRcDMj0
飴売り「いつもと雰囲気違うね、一瞬気付かなかったよ。よし知り合いのよしみで1個おまけするよ!」

王子「…」

王子(こいつが姫の言ってた飴売りか?本当に馴れ馴れしい奴だな)

飴売り「ところで姫さん、昨日の件、ちょっとは考えてくれた?」

王子「は?昨日の件…?」

飴売り「冷てーな相変わらず!俺と付き合ってくれってことだよ」

王子「………は?」

人懐っこい笑顔を浮かべて言う飴売りに、王子は眉をひそめる。

王子(何だこいつ下賤な飴売りの分際で、一国の姫に告白したのか?何て身の程知らずな)

王子(何かムカつくし、蹴り上げてやろうか…待てよ)ニヤ

飴売り(…にしても姫さん、やっぱいつもと何か違うよなぁ?)

王子「飴売り様、あの…」

飴売り「ん?」

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:26:14.19 ID:MbiRcDMj0
姫(何だろう…用事って)

王子は帰ってくるなり、入れ替わりを一旦元に戻すと言い出した。
それで飴売りと会う約束をしたから、城の裏の庭園に行けとのことだ。

王子『飴売りがお前と話したいことあるみたいなんだけど、俺じゃよくわからないから行ってきてくれ』

姫(また告白の件かな?)

王子が行けと言うから行くしかあるまい。
私は先ほどまで王子が着ていた服を着て、庭園に足を運んだ。

姫(飴売りは…いた)

飴売り「あ、姫さん…」

飴売りは何やらソワソワしている。
何だろう?愛の告白すら全く恥じらわずに行った彼らしくない。

姫「お待たせ致しました」

飴売り「来てくれたんだ…嬉しいよ」

姫「えぇまぁ、約束ですから」

王子はそう言っていた。

飴売り「まさか、本当に来てくれるとは思わなくて」

姫「え?」

飴売り「俺こんなおちゃらけた奴だけど、こういう事には真剣なつもりだから…」

姫「あの、何――」

―――

唐突のことに頭が真っ白になる。
飛びつくように、飴売りは私を抱きしめてきた。

そして――

55 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:26:47.80 ID:MbiRcDMj0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

王子『飴売り様…まだ少し返事を迷っていまして、それで…後ほど、城の裏庭に来て頂けませんか?』

飴売り『裏庭に?』

王子『その時までに絶対に答えを見つけてきますから…』

王子『もし私が来たらその時は――』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



姫「――!?」

飴売り「…っ」

声を塞がれるように、触れるように――唇を、奪われた。

姫「…っ、無礼者っ!」

混乱しつつも、私は飴売りを引き離し頬を引っぱたく。

飴売り「っ…!」

しばらく、飴売りは茫然とした顔で私を見ていた。だが――

飴売り「…ごめん」

姫「…え?」

飴売り「浮かれていた…間に受けるもんじゃないよな」

姫(な、何――?)

飴売りの言葉も態度もわけがわからない――と、その時。

クスクス…

姫「――っ!?」

私の正面、飴売りの後方にある木の陰――そこにいた人物とその顔を見て、何があったのかわかった。

姫(王子…っ!!)

56 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:27:31.80 ID:MbiRcDMj0
王子は声を押し殺して笑っていた。その目にこもっているのは、私への嘲り。
これは悪戯だ。それも、相当に性質の悪い。下賤な身分の者に唇を奪われた私を嘲笑したい、ただそれだけの目的。

飴売り「無礼を償いたい…これを」

そんなことに気付かない飴売りが私に差し出したのは、剣。

飴売り「お姫様への猥褻行為をしたのだから切り殺されても文句は言えない。どうぞ――」

姫「ちがっ――」

私は慌てる。きっと彼は王子に騙されただけで、何も悪くない。だが何と説明すればいい?

王子は私を見て腹を抱えていた。私の慌てる様子を見て楽しんでいる。
ここ数年、どんなことを言われても私は動じなかった。それがつまらなくなっていたのだろう。

姫「…怒っていません」

そんな言葉しか出てこなかった。

姫「少し、驚いただけです」

飴売り「姫さん…」

できるだけ彼の罪悪感を取り除くように言葉を選ぶ。

姫「今日はお帰り下さい…暴力を振るって、申し訳ありませんでした」

飴売り「あぁ」

去っていく飴売りの背中は哀愁を醸し出す。
あのいつも朗らかな彼を傷つけてしまった――そんな罪悪感が私の胸を締め付ける。

そして怒りの矛先は勿論…

姫「王子…!!」

57 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:28:35.47 ID:MbiRcDMj0
王子「くくく…お前初めてだよなぁ?良かったじゃん、下賤だけど顔はいい相手でさぁ。お前どうせ評判悪くて言い寄ってくる男いないんだし、あいつと結婚しちゃえば良いじゃないか」

姫「…ふざけないで下さい」

数年ぶりだ、彼に怒りを表すのは。
そんな様子を見て、王子はますます可笑しそうに笑う。

王子「何?「姫」があいつを誘い込んだんだろ?何で俺にキレてんの?」

姫「誘い込んだのは貴方です…!」

王子「おーコワ。じゃ何?俺を殴る?いいよ殴れ、ほらほら」

姫「…っ!」

そんなことしたら私が責められる。事の経緯を説明したとしても、結局悪いことになるのは私。
王子はそれをよくわかっている。わかっているから、ここまで私を馬鹿にできるのだ。
それでも――

姫「私は貴方の代わりではあるけど、貴方を楽しませる玩具じゃありません!!」

私は真剣な怒りをぶつける。
唇を、しかも初めてをこんな形で奪われるなんて、顔を思い切り殴られる程ショックな出来事だ。
それも王子の為に恋愛事を避けてきた私に、こんな仕打ちを――

王子「お前さぁ、誰に向かって口きいてるかわかってんの?」

姫「はぁ…!?」

王子「俺はこの国の世継ぎ。次期国王。お前は俺のオマケで生まれてきた卑しい片割れ。わかってる?この差…」

姫「…!」

王子の言葉は私達双子の今まで歩んできた人生。
私は女で、王子より卑しい存在であり、王子の為に存在していて――

王子「俺がお前をどうしようと、勝手だろ」

姫「そんっ――」

抗議しかけた、その時だった。

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/23(金) 15:29:16.59 ID:MbiRcDMj0
獣人「王子――」

王子「っ!?」

姫「…どうしたの獣人」

こんな時に…と八つ当たりに近い苛立ちを感じながら、獣人に返事する。

獣人「街に魔物が接近しているとの事ですが――」

王子「よーしわかった。お前、ちゃんと行けよ!」

姫「…」

私は返事をしない。けれど私に拒否する権利はない。
どんな目に遭わされても、私は王子に逆らうことを許されていない。

私は黙って、王子の振りをする為に城に足を向けた。


62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 10:27:40.31 ID:DwvQyPQ90
魔物の接近を知らされ、街の人々は避難を始めていた。

飴売り(まさか街への襲撃命令が…!?いや、また俺…!?)

飴売りは混乱の中を縫い、街の外へと出る。
魔物の気配は――こっちからだ。

飴売り「止まれっ!!」

飴売りが大声を出すと、街に向かっていた魔物達が立ち止まった。
何匹かのウルフを率いていたのは、大型のウルフに乗った猛獣使いだ。

飴売り「お前には見覚えがあるな」

確か兄王子の側近の1人――

飴売り「これは兄上の命令か?それともお前の独断か?」

猛獣使い「――どうでしょうね」ピュー

飴売り「――っ」

猛獣使いが口笛を鳴らすと、ウルフ達が一斉に飛びかかってきた。

飴売り(やっぱ俺が標的か…だったら気兼ねはいらないな!)

ウルフの爪と牙を何とかかわし、剣を振り回して追い払う。
そうしてウルフの攻撃を避けながら、懐に手を入れようとするが――

ビュン

飴売り「ぐっ…」

猛獣使い「仮面は、使わせませんよ…」

やはり仮面を警戒していたか――
剣でウルフを牽制しながら、何とか仮面を取り出せる機会がないかと伺う。
しかし…

ビュンッビュン

飴売り(チッ、この連携プレー…厄介だな…!!)

飴売り「――っ!!」

と、ウルフが飴売りの喉目掛けて飛びかかってきた。

防御が間に合わない――!!

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 10:28:10.71 ID:DwvQyPQ90
翼人「魔王子様!」

猛獣使い「――!」

大きな風を巻き起こしながら、翼人が地面に降り立った。
風に吹き飛ばされてウルフは、飴売りに攻撃をしかけることなく地面に着地。

翼人「まさか貴方が魔王子様に牙を剥くとは…」

猛獣使い「…ふん」

猛獣使いは動じず、ウルフを飴売りと翼人にけしかける。
両者、これを回避。

飴売り「翼!お前に任せた!」

翼人「はい」

飴売りは後退し、翼人がウルフの群れに突っ込んでいく。
翼人はウルフが飴売りを襲わないよう、全体を見渡しながら風を起こす。

飴売り「助かったよ翼…これで」

飴売りは懐から狂戦士の仮面を取り出し――

魔王子「思い切り、暴れられる――!!」

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 10:28:37.44 ID:DwvQyPQ90
姫「…っ!?」

私が来た時には既に終わっていた。
と、いうより…何があった?

翼人「おや…王子」

魔王子「…」

魔王子の全身が血まみれだ。だが、それはきっと彼のものではない。
周囲に散らばっている肉片――魔王子の仕業だ。
だが、何故?肉片は魔物のものに見えるが、どうして魔王の息子である彼が魔物に?

だが、そんな疑問を浮かべている間もなく――

魔王子「…」

姫「…っ」

魔王子が剣先をこちらに向けてきた。これは…戦いの合図か。

姫「…相手する!」

私は魔王子と対峙した。

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 10:29:19.45 ID:DwvQyPQ90
――全然、暴れ足りない――

魔王子「…」ビュン

姫「はッ!!」カキィン

――剣に十分な手応えを感じる。
こいつは、強い――

姫「でりゃ、たあぁっ!」カンカァン

――こいつとの戦いは、胸躍る――

魔王子「…」

――だが、何故だ――

姫「はぁーッ!!」カァン

――こいつには何か、違和感が――

魔王子「――っ」ビュン

――まぁ――

姫「くっ」カァン

――切り刻んでしまえば、どうでも良くなる――

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 10:29:45.54 ID:DwvQyPQ90
姫「…っ」

一撃一撃が重い。この魔王子、やはり強い。
何とかダメージは避けてきたが、いつまで避けていられるかわからない。

魔王子「…」ビュンッ

姫「…うっ!?」

今の一撃を受け止めたと同時、腕全体に痺れが行き渡った。
何となくそんな感じはしていたが、確信をもつ――

姫(魔王子…戦闘中に少しずつ強くなっている!?)

魔王子「…」ビュンッ

姫「くっ」

今度は回避。ギリギリだった。

姫(このままじゃ…)

こちらが押し切られる――そんな危機感を持った。

魔王子「…っ」ガキィン

姫「…っう!!」

受け止めたと同時、足元がふらつく。
何て威力…!!

魔王子「…ッハァ!!」

姫「!!」

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 10:30:14.19 ID:DwvQyPQ90
姫「…っつぅ…」

咄嗟に一撃を受け止めたが、私は思い切り吹っ飛ばされた。
体が地面をこすり、鈍い痛みが体を伝う。

魔王子「…」

姫「くっ…」

しかし魔王子はじりじり近づいてくる。痛みを気にしている場合じゃない。
急いで立ち上がり、魔王子に向き直ろうとした。

だが、その時。

魔王子「…ッアァ」

姫「…?」

魔王子の動きが止まった…震えている?
そして頭を抑え…

魔王子「…ガアアアァァァァーッ!!」

姫「!?」

翼人「いけない!」

獣人と戦っていた翼人が急に戦闘をやめ、魔王子に向かっていった。
そして魔王子の体を抱えて、宙に飛ぶ。

翼人「退散させてもらおう…王子よ、また会おう」

姫「あっ!」

翼人はそう言うと慌てた様子で、魔王子を連れ去っていった。
その姿は、あっという間に見えなくなる。

姫「…助かった」

獣人「そうですね…」

68 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 10:31:39.13 ID:DwvQyPQ90



飴売り「ハァ、ハァ…」

全身から汗が吹き出す。体が妙に熱い。
それに――さっきまでの自分は、明らかに正気を失っていた。

翼人「仮面を長時間つけていたせいか…」

飴売り「くそ…!!」

危うく意識が飲み込まれる所だった。あれ以上戦っていたら、自分は…。

翼人「猛獣使いからの連戦でしたからね…そうでなければ王子を討てたかも」

飴売り「そんなこと気にしてねぇ…」

猛獣使いはいい。自分に殺意をもって向かってきた相手だ、こちらも全力で対処する。
だけど王子は違う。自分と遭遇した時はまだ戦う素振りも見せていなかった。なのに自分は王子を殺しにかかった…それはただ単純に、暴れたかっただけだ。

自分が段々仮面の狂気に染まっていき、自分が自分でなくなっていく感覚――思い返せばゾッとする。

飴売り「おっかねぇ…」

翼人「…仮面がですか?」

飴売り「違う…」

飴売りは体をギュッと締めてガタガタ震えだす。

飴売り「俺はもう、こんな…戦いなんて、うんざりだ…!!」

69 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 10:32:31.62 ID:DwvQyPQ90
夜の更新は未定。
飴売り→魔王子になる際仮面を被っただけで服装は一緒ですが、全身血塗れなので姫は気づいていません。

70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/24(土) 10:43:09.34 ID:8bgtyjSWo
乙乙

71 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 17:38:15.49 ID:DwvQyPQ90
王「ご苦労だったな王子よ」

報告をすると父はお決まりのように言った。
心のこもっていない事務的な言葉。その言葉では、私の達成感は満たされない。

王妃「しかし魔物達もいよいよ、我が国の城下町を狙うようになりましたか…」

王「あぁ…これは由々しき事態だな」

姫「…」

兵力の強化を怠っている張本人達が何を言っているのか――そう思ったが、言葉をぐっと堪える。

王子「いっそ他国みたく魔王に下っちゃえば~?」

王「それはできん。我が国の株が下がる。それに王子の今まで積み上げてきた名声も崩れるぞ」

王子「あぁ、それはいかんね」

名声だけを得ている王子は、現状をわかっていない。
けど、いっそ魔王に下ってしまえば――私もそう思うことはある。魔王に下った国の王達は権力を失い、自分の国のことも自分達で決められなくなる。
だけど、人々を守ることはできる。誇りを失っても、命は守れる。
我が国は弱小国の分際で、最後まで戦い抜くという誇りを捨てきれない。それは全て、私の重圧となるというのに。

王子「じゃ、もう魔王城攻めちゃえば?」

姫「…!!それはできない!」

私は即抗議する。
魔王城やその近辺には、主力となる魔物達がうじゃうじゃいるということだ。
今までは魔王のプライドが許さなかったのか、主力である魔物達が国に侵入してきたことはほとんどない。だから私が主力の魔物と戦う時はいつも、少数相手だった。
しかし魔王城近辺に行くということは主力である魔物との連戦――そんなことしたら、私がもたない。

それを王子でもわかるよう、わかりやすく述べたが、

王子「でも今の内に行っておかないと、国にもっと強い魔物達が攻めてくるんでねぇの」

王子はあっけらかんと答えた。

王子「魔王を討ったとなりゃ、王子は国だけじゃなくて全世界の英雄だぞ。国の為に動けよ」

そう言う王子の顔は強欲に満ち、下卑て見えた。

72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 17:38:44.75 ID:DwvQyPQ90
私の発言はどこまでも無力だ。

王「そうだな、魔王を叩くなら今かもしれん。まだ我が国にダメージがない内がいい」
王妃「それも国を守るということ…」
王子「城に潜入して魔王だけ討てばいいんだよ、後の魔物は逃げろ逃げろ」

戦わない人達は理想を掲げ、私に責務だけ押し付ける。反論しても、それがお前の義務だと聞き入れもしない。
そして、出来なかったら私を責めるのだろう――もっとも今回の場合は、責められる以前に死ぬかもしれないが。

姫(もし私が死んだら――)

あの人達は戦えない。だから魔王に下るしかなくなる。
この国の人々の為ならそれもいいじゃないか。だけど、私が無駄死にだ。

無駄死に――そうか。私は無駄死にさせてもいい程度の存在だった。

王「明日出発するように」

いいでしょう、どうせ私は王子の手先でしかない。
戦い抜いた末無駄死にしても、貴方達の失望の声は私に届かない。

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 17:39:11.48 ID:DwvQyPQ90
姫「行きましょうか、獣人」

獣人「お待ち下さい。提案が」

姫「何?」

獣人「王子の格好で出征すれば噂は広まるでしょうし、敵に狙われやすくなります。魔王城付近までは、王子でない格好に変装して行かれた方がよろしいかと」

姫「…それもそうね。でも獣人はどうするの?貴方も顔を知られているから私と居れば目立つでしょ」

獣人「私は別行動します…何かあれば、この笛で」

姫「わかった」

私に笛を渡すと獣人は姿を消した。
さて、どんな格好で行こうか…と考えた末私は、

姫「ま、いいか、こんなんで」

普通に女の格好で行くことにした。

姫(今日は一気に国境越えちゃって、隣国の首都に行こうかな…田舎より街の方が、旅人は目立たないし)

74 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/24(土) 17:40:12.90 ID:DwvQyPQ90
翼人「…では魔王城には戻られないと?」

飴売り「魔王城は敵だらけだろ…戻りたくない」

翼人「では、どうなさるんですか?」

飴売り「人間の国に留まっていたい」

翼人「…そうやって、また逃げるつもりですか」

飴売り「わかってるだろ…俺は争いも面倒事も嫌いなんだ。逃げないとそれを避けることはできないんだ。逃げて何が悪い?」

翼人は呆れたのか諦めたのか、ふぅとため息をつく。

翼人「わかりました…ですが留まるにしても場所を選んだ方が良いですよ」

飴売り「あぁ、あまり魔物達が攻め入ってこれない場所だろ?」

翼人「はい。この国は兵力が弱いので魔物の侵入も容易いですが…」

飴売り「隣国は防衛力の強い国だし、そこなら問題はないな」

翼人「えぇ、ですが魔物の侵入も容易くはない。なので私は魔王子様の側にいられませんが…」

飴売り「そこまで翼に面倒かけられない。危なくなったら仮面で自分の命くらい守るよ」

翼人「そうですか…しかし残念です」

飴売り「何が?」

翼人「それは…いえ、私などが言うのはおこがましいですね」

そして、飴売りは1人になった。


後半へ続く
posted by ぽんざれす at 09:53| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月04日

【介護ヘルパーシリーズ】介護ヘルパー「よくぞ来たな、勇者よ!」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420372453/

1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/04(日) 20:54:13.45 ID:Pouf6ANx0
ヘルパー「…って言いたいんだよね、魔王さん?」

魔王「…」コクリ

勇者「…念の為聞く、その魔王何歳だ?」

ヘルパー「四捨五入して200歳くらいだっけ?」

魔王「…」←指を折り曲げている

ヘルパー「ひゃく、きゅうじゅう…なな!」

魔王「…」コクリ

ヘルパー「そっかー、凄いね魔王さん、私が見ているお客さんで最年長だよ!」

勇者「だろうな!!」

2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/04(日) 20:54:31.35 ID:Pouf6ANx0
拝啓母上様。
私は幾多の戦いを乗り越え、遂に魔王城に辿り付きました。
数万の魔物を束ねる魔王とはどんな恐ろしい存在か、私は緊張しながら魔王の間に足を踏み入れました。
するとそこに待ち受けていた魔王は、ある意味何よりも恐ろしい佇まいをしていました。

魔王「…」ポー

勇者「あの、ヘルパーさん」

ヘルパー「はい、何でしょう」

勇者「その老人が本当に現役の魔王なんですか」

ヘルパー「はい、間違いないですよ」

勇者「おい魔王!」

魔王「…」ポー

勇者「…もしかして耳が遠いのか?近くに行くぞ!」

ヘルパー「あ、こちらから行きますよ」カラカラ

勇者「魔王が座ってたそれ、玉座じゃなくて車椅子だったんかい!」

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/04(日) 20:55:11.33 ID:Pouf6ANx0
勇者「おい魔王!」

魔王「…」ポー

勇者「まーおーうー!!」

魔王「…はぇ?」

勇者「ボケ老人かよ!!」

ヘルパー「こら!お年寄りに暴言を吐くなんて、貴方本当に勇者ですか!」

勇者「勇者と福祉は何の関係もない!」

魔王「は、はえぇ」ブルブル

ヘルパー「あー魔王さん、悲しいんだねー。大丈夫大丈夫、怒ってないよー」

魔王「…」コクリ

ヘルパー「感情コントロールがきかなくなるのも認知症の特徴なんです、気をつけて下さい」

勇者「はい…っておかしい、絶対おかしい」

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/04(日) 20:55:39.48 ID:Pouf6ANx0
勇者「あの、俺は勇者でその方は魔王ですよね」

ヘルパー「はい」

勇者「でしたら勇者として、魔王を討たないといけないんですが!?」

魔王「ふがー!」

ヘルパー「魔王さん落ち着いてー。はーい深呼吸~」

魔王「すぅー、はぁー」

ヘルパー「興奮させないで下さい、血圧上がったらどうするんですか」

勇者「俺は魔王を倒す為にレベルを80まで上げたんですよ!」

ヘルパー「レベルのことを言うなら、魔王さんの介護度は5ですよ、5!」

勇者「介護度とか言われてもわけわかんないから!」

ヘルパー「それなら貴方の言うレベルもわけわかりませんよ!」

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/04(日) 20:56:07.43 ID:Pouf6ANx0
勇者「あの、魔王が魔物を操って人間達と戦争しようとしているのはわかってます?」

ヘルパー「いくら介護職が掃き溜めと言われていても、それくらいは流石に知っています」

勇者「じゃあ、その魔王が魔物を操っている元凶で間違いないですよね?」

魔王「…」ブンブン

勇者「え、違う?」

ヘルパー「魔王さーん!魔王さんは世界征服するんだよねー?」

魔王「…あぁ~!」

ヘルパー「良かった、思い出したみたいです」

勇者「…忘れてたままの方が良かったな」

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/04(日) 20:56:33.54 ID:Pouf6ANx0
勇者「とにかく!俺は勇者として魔王を倒す!」

魔王「ふぬぬぅ…」ゴゴゴ

ヘルパー「あ、駄目、魔王さん!」

勇者「来い!魔王…」

魔王「ふぬああああああぁぁぁぁ」


ズゴガガガガガアアアァァァァァン


勇者「」

ヘルパー「あぁ何てこと…発動してしまった、魔王さんの「高血圧波」が」

勇者「え、この魔法高血圧からきてるの!?」

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/04(日) 20:57:00.57 ID:Pouf6ANx0
魔王「ふがあああぁぁぁ…」

ぐぁんぐぁんぐぁんぐぁん

勇者「くっマトモに立っていられねぇ…!!」

ヘルパー「156,157…まずい、魔王さんの血圧がどんどん上昇している!!このままじゃ動脈硬化による合併症を引き起こしてしまう!!」

勇者「いやいや、それどころじゃないんですが!?」

魔王「うがあああああああぁぁぁぁぁ!!!」

勇者「!!?」

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/04(日) 20:57:26.99 ID:Pouf6ANx0
ヘルパー「魔王さん、はい、お薬あーん」

魔王「」ゴクッ

ヘルパー「あー、血圧上がっちゃったから今日はお風呂入れないねー」

魔王「…」ションボリ

ヘルパー「明日はお風呂入ってあったまろうねー」

魔王「へへぇ」

ヘルパー「それじゃ、今日はゆっくり休もうねー」

魔王「…」コクリ

勇者「」ピクピク

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/04(日) 20:57:54.61 ID:Pouf6ANx0
こうしてまた1人、若者が高齢化社会の厳しさに潰れたのであった。
高齢者はかつてこの社会を支えてきた。しかし時として、未来ある若者を食い潰すこともある。
若者と高齢者が手を取り合い、共に支え合う社会は実現できるのか。それが高齢化社会の進む、この国への課題である。


王「魔王の要求通り介護保険制度の見直しと介護職員の待遇改善したら魔物との抗争が収まったぞ」

勇者「初めっからそうして下さいよ!!」


終わり



12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/04(日) 21:06:50.30 ID:jHEaay9s0


15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/05(月) 22:44:29.81 ID:dIjUJsSAO
前回といいヘルパーさんは何者なんや
人類側でも魔王側でもないとは……

16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/06(火) 08:53:24.73 ID:YKx94wuwo
ヘルパーさんは年老いた者の味方さ
posted by ぽんざれす at 21:44| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【介護ヘルパーシリーズ】介護ヘルパー「魔王討伐に来ました」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1418189330/

1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/10(水) 14:29:00.80 ID:2KyXm9aX0
高齢者問題は我が県のみならず、この剣と魔法の世界でも若者の戦闘職離れが問題となっていた。



魔王「…で」



ヘルパー「勇者さーん!ここ、どこかわかるー?」

勇者(88)「はいぃ?」

魔王「…なぁ、何でわざわざ年寄りをよこした?」

勇者「?」

ヘルパー「あぁすみません、勇者さん耳が遠いんです」

2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/10(水) 14:29:25.61 ID:2KyXm9aX0
ヘルパー「あのねー!どうして、わざわざお年寄りを来させたんだってー!」

勇者「あぁ」

勇者「確かワシが20代の頃ね~…あの、えーと、何て言うんだっけ、武器とか薬草とか、こう色々売ってる…」

ヘルパー「万事屋さんかなー?」

勇者「そうそう万事屋。あそこで、剣を買ったのね。あの頃の剣は今みたく立派じゃなくて、ちょっと使ったら手入れが必要になるね」

ヘルパー「あぁー!まだ技術が発展してなかったもんねー!」

勇者「そう。それをね、ワシ父親が戦士だったから真似して振ってみたら、手からすっぽ抜けちゃって」

ヘルパー「勇者さんも元々剣を使えたんじゃないんだねー!」

勇者「そうなの。でね、その頃隣に住んでおった友達にワシ馬鹿にされて、それから毎日毎日…」

魔王「おい、その話どれ位続くんだ」

ヘルパー「勇者さん一度話し出すと止まらないんですよ」

勇者「ん?今何て言ったの?」

ヘルパー「勇者さんは今でも強くていい男だって言ったんだよー!」

勇者「えへへへ」

魔王「明らかなお世辞を間に受けるな!」

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/10(水) 14:30:03.37 ID:2KyXm9aX0
魔王「とにかくそのジジイが我を倒そうって言うんだな!?」

ヘルパー「こら!人生の先輩に向かってジジイとは何ですか!」

魔王「我はこう見えても100年生きている!」

ヘルパー「じゃあ勇者さんは貴方より若いじゃありませんか!」

魔王「魔王と人間の体は違う!!」

勇者「~?」

ヘルパー「あのねー!勇者さんがあの魔王を討つんだよねー!」

勇者「そうそう」

魔王「かかってくるのなら年寄りとはいえ容赦はせんぞ」

ヘルパー「やる気満々だってさ!戦えるー?」

勇者「ちょっと調子悪いねぇ」

ヘルパー「ちょっと待ってねー!体調チェックするから!」


勇者 Lv100
攻撃:62 防御:54 素早さ:57 魔力:未知数 血圧:125/65 脈拍:63 体温:35.5
状態:腰痛


ヘルパー「体調は大丈夫だよー!腰は湿布貼ってるー?」

勇者「あれ、どうだったかな?ちょっと見てみて」

ヘルパー「はいはい、ちょっとズボンめくるよ、失礼しまーす!」

魔王(グダグダじゃねぇか…)

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/10(水) 14:30:41.92 ID:2KyXm9aX0
ヘルパー「はい!湿布貼ったから大丈夫!さー戦おう!」

勇者「はいはい」

魔王「無理だろ」

ヘルパー「勇者さーん!あれやって、雷鳴烈風派!」

勇者「~?」

ヘルパー「ら、い、め、い、れっ、ぷ、う、は!」

勇者「~?」

ヘルパー「雷のやつ!」

勇者「あ~」



魔王(話にならんな、こんなジジイでは)鼻ホジホジ



バチバチバリバリイイィィィッ


魔王「」


ヘルパー「惜しいねー!外しちゃったねー!」

勇者「あらら」

魔王「ちょっ、何だ今のは!?」

ヘルパー「勇者さんは魔法も仕えるんですよ。ねー!」

勇者「ねー」

魔王(それにしても半端な威力じゃなかったぞ)

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/10(水) 14:31:13.82 ID:2KyXm9aX0
魔王(加齢で肉体は年寄りだが、魔法能力はそう簡単には衰えない…)

勇者「フガフガ」

ヘルパー「あら、入れ歯ずれちゃったねー!直そうかー!」

魔王(しかし魔法を警戒して…)

魔王「心臓を貫く!」ダッ

ヘルパー「来たよー!」

勇者「むぅ?」

魔王(相手は腰痛のジジイ…我の攻撃をよけることはできまい!!)

魔王「喰らえええぇぇっ!」

ヒョイ

魔王「…何!?」

勇者「ふー」

魔王「ぐ、偶然だ!今度こそ!」

ヒョイヒョイ

魔王「あ、当たらん!?」

勇者「~?」

ヘルパー「あのねー!当たらないって驚いてるー!」

勇者「あー」

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/10(水) 14:31:51.39 ID:2KyXm9aX0
勇者「経験かねぇ」

魔王「経験!?」

勇者「お兄ちゃんの動き見たら、どこを狙ってるかわかるの」

魔王(な…)

魔王「そうか…年齢と共に肉体は衰えても経験による勘は研ぎ澄まされる…」

魔王「面白い、面白いぞ勇者!貴様の力をもっと見せよ!!」

勇者「~?」

ヘルパー「あのねー!もっと戦いたいんだってー!」

勇者「ワシは戦いとうない」

魔王「じゃあ何で来たんだよ!?」

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/10(水) 14:32:28.60 ID:2KyXm9aX0
勇者「ワシは風呂が1番好きでね」

魔王「聞いとらん!」

勇者「美人さんに入れてもらう風呂は最高なんだぁ」

ヘルパー「もー勇者さんたら、お世辞がお上手ー!」

勇者「えへへ」

魔王「そんなことはどうでもいい!」

勇者「ワシお気に入りの温泉の素があってね」

魔王「それもどうでもいいわ!」

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/10(水) 14:33:07.15 ID:2KyXm9aX0
魔王「直接攻撃が避けられるなら…我の魔法はどうだ!!」

ゴゴオオォォォ

勇者「おや、地震かのう」

ヘルパー「勇者さん、魔法だよまほー!」

魔王「喰らえええぇぇ!」


ドゴオオォォォォン


魔王「フッ…直撃したな。これでは跡形も残るま…」

バッ

魔王(殺気…ッ!?)

勇者「破ああぁぁぁ!!」

魔王「なぬっ!?」


ズシュッ

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/10(水) 14:33:34.56 ID:2KyXm9aX0
魔王「く、不意打ちか…しかし我にダメージは無いぞ」

勇者「~?」

ヘルパー「痛くないって言ってるよ!」

魔王「そんなことより何故我の魔法を喰らって生きているんだ!?」

勇者「生きてる理由?」

勇者「ワシは風呂が1番好きでね」

魔王「もうその話はいい!」

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/10(水) 14:34:00.03 ID:2KyXm9aX0
ヘルパー「今折角話してるんですから遮らないで下さい!」

魔王「何で我が怒られるんだ!?」

勇者「ワシお気に入りの温泉の素があってね」

魔王(すげーどうでもいい)

勇者「それの効能が魔法耐性でね」

魔王(…ん?)

勇者「それのお陰で、魔法が効かない体になったの」

魔王「」

ヘルパー「ねー!あれお医者さんに勧められたけど、すっごくいいよねー!」

魔王(何でこのヘルパーも生きてるんだ)

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/10(水) 14:34:27.87 ID:2KyXm9aX0
魔王「直接攻撃は当たらない、魔法は効かない…だがそちらの攻撃も我には効かないようだな」

ヘルパー「そうですか?」

勇者「丈夫だねぇ」

魔王「ハッハッハ!所詮年寄りの攻撃など…」

ガクッ

魔王「…え?」

ヘルパー「効いてきたね」

勇者「ねぇ」

魔王「か、体がしびれて…こ、これは…」

勇者「ワシの最強魔法」

魔王「な…に…!?」

勇者「えーとね…どんな魔法だっけ?」

ヘルパー「喰らった者の血糖値を上げ、動脈硬化を促進させる魔法です」

魔王「」

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/10(水) 14:34:54.88 ID:2KyXm9aX0
その後魔王は動脈硬化による脳梗塞を起こし、体には麻痺が残ったのであった。

魔王「」

ヘルパー「魔王さーん!いい朝ですねー!」

魔王「はぁ…」

脳梗塞により言語障害と気分障害を併発させた魔王は、あれからすっかり大人しくなってしまった。

勇者「魔王さんや」

魔王「んー?」

勇者「将棋やらんか?」

魔王「んん~」

勇者「~?」

ヘルパー「やりたいってー!」

勇者「そうかいそうかい」


こうして勇者と魔王の戦いは平和的解決を見せた。
しかし高齢者問題はまだ解決の糸口を見せていない。牙を失った現代の若者がこれからどう世界を守っていくのか、それはまた別の話である。


終わり

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/10(水) 14:36:03.78 ID:2KyXm9aX0
読んで下さりありがとうございました。
勇者のモデルとなったのは作者の知り合いにいる、90代のジロウさんです。

16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/12/10(水) 14:46:17.13 ID:YjSQGFl90
クッソいとおかし

17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/10(水) 14:47:17.54 ID:tDn58jIy0
魔王も生活習慣病には勝てなかったよ…

18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/10(水) 15:06:08.84 ID:UGn10sdmO
高齢者問題でそれっぽく〆るなwww

19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/10(水) 16:15:33.69 ID:84QQlfYmo
笑った

20 :sage :2014/12/10(水) 17:56:32.76 ID:lyZ0AXpPO
うちのヘルパーさんは気のいいおばあちゃんでねぇ。
もう十年以上家でばあ様の世話してくれてるんだよ。

21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/13(土) 02:54:45.26 ID:ISDBXZvj0
>平和的解決
うーん……
posted by ぽんざれす at 21:42| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

魔術師「勇者一行をクビになりました」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1421061304/



1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:15:04.99 ID:wCq+TMkr0
勇者「今回中ボス討伐に協力してくれた魔法使いが、正式に仲間に加わってくれることになった」

魔術師「はぃ」

勇者「こう言っちゃ申し訳ないけど、魔法使いの能力は君の上位互換なんだ」

魔術師「…はぃ」

勇者「君は皆と上手くやろうともしないしね」

魔術師「………」

勇者「俺たちはパーティーなんだ。君と一緒だと戦いにくいって声もあがっている」

魔術師「……はぃ」

勇者「だから悪いけど…」



今日、私は勇者様の一行をクビになった。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1421061304

2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:15:27.96 ID:wCq+TMkr0
魔術師「…」トボトボ

故郷への帰路を1人歩く。気持ち?とっても惨め。
帰ったら皆にバカにされる…。だからと言って、私を迎え入れてくれるパーティーがあるとは思えない。
昔から暗くていじめられっこで、私は集団の中ではよく浮く。

魔術師(頑張ってたもん)

ただ私に才能が無かっただけで。

魔術師(上手くやろうとしなかったわけじゃないもん…)

私なりに頑張った。

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:15:56.27 ID:wCq+TMkr0
戦士『ねぇその目、何か不満でもあるの?』

魔術師『ぃ、いえっ』

雰囲気が暗くてよく誤解されていた。


僧侶『魔術師さん、魔法を繰り出すのはもう少しタイミングを見てくれません?』

魔術師『す、すみません…』

皆との連携がわからなかった。


勇者『全員分の装飾品装備買ってきたぞー』

戦士『やったー、ありがとう!』

魔術師(お礼言わなきゃ)『ぁ、あり…』

踊り子『ちょっと勇者ー、これセンスなーい』アハハ

勇者『何だよー笑わなくたっていいだろー』

僧侶『私は好きですよこういうの』

戦士『僧侶、勇者はお世辞間に受けるから正直に言いなー』

勇者『戦士までひどいなぁ~』


魔術師『…』ポツン


勇者さん、戦士さん、僧侶さん、踊り子さん…皆は仲良くやっていたけど、私はいつもその輪の外にいた。

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:16:23.22 ID:wCq+TMkr0
魔術師(頑張ってたもん…)

魔術師「う、えうぅ」

泣けてくる。
私はいらないと宣告された。
私を否定するような勇者さんの発言が、頭の中で何度も繰り返し私を責める。

魔術師「もうやだぁ…」グスグス

こんな私、どこに行ってもいらないと言われる。
またいらないと言われるのは嫌だ。誰かと関わればまた傷つく。だけど1人じゃ生きられない。

この世界は、何て苦しいんだろう。

魔術師「うえぇ」


「たーすけてくれー」


魔術師「…え?」

遠くから声が聞こえたような気がした。

「助けてマジで!!ヘールプ!!」

今度ははっきり聞き取った。
もしかして、誰かのピンチ…!?

魔術師「ぃ、今行きますぅ!」

私は声のする方に駆けた。助けられるか自信はない。

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:16:48.35 ID:wCq+TMkr0
魔術師(これは…?)

声を追って来ると、魔法陣の描かれた岩を見つけた。
周囲に人の気配はないが…。

「あーチキショウ、出せってんだよコラアアァァ!!」

魔術師「ひぃ」ビクッ

と、岩の中から声が聞こえた。

「あ、誰かいんの!?出して、だーしてー!!」

魔術師「ぇと…どうやって…?」ビクビク

「魔法職の奴を引っ張ってきて、この魔法陣の効果を打ち消すんだよ!」

魔術師「ぁ、私も魔法職…」

「マジで!?すみませんお願いしますマジでプリーズ!助けて助けてたーすけてー!!」

魔術師「ち、ちょっとだけお時間頂けますかぁ…?」ビクビク

「おう、1時間でも1週間でも1年間でも!ゆっくり焦らず落ち着いてー♪」ヘイヘイ

魔術師(落ち着いてできないよぅ…)ブルブル

とりあえず声に従って、魔法陣の効果を打ち消すことにした。
これは…難解だが、時間をかければ解除できそうな気がする。

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:17:16.18 ID:wCq+TMkr0
>3時間後

魔術師「ぉ、お待たせしましたぁ…何とかなりそうです…」

「…」

魔術師「ぁのぅ…?」

「んー…ハッ!寝てた!何だってぇ~?」

魔術師「ぁ、いぇ…」

魔法陣解除の準備を終わらせた私は呪文を唱えた。

魔術師「…解除!」

「イヤッハー!!」

魔術師「!!」

物凄い魔力が岩から溢れ出す。この魔力は…人のものではない。
そう思いながら私は、とても重大なことに気がついた。

魔術師(誰が何で封印されてるのか聞くの忘れてたああぁぁ!!)

もしかして封印されていたのはとんでもない存在だったかもしれない。
しかし時既に遅し。封印されていたものは、その姿を現した。



悪魔「ありがとありがと、マジさんきゅー!」

黒い翼をはやした若い男が現れた。顔は整っているが派手なアクセサリーをジャラジャラつけて、とてもガラが悪い。

悪魔「お礼は何がいい?金?力?それともア・タ・シ?なーんつってイャハハハハ」

魔術師「」ブルブル

悪魔「あン?」

魔術師「怖いよぉ~」

腰が抜けて立てなくなった。

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:17:41.56 ID:wCq+TMkr0
悪魔「こりゃまた可愛い魔術師さんだなー、食べちゃいたいくらい」

魔術師「ひっ」

悪魔「ウソウソ!俺様可愛い女の子は大好きだけど、こう見えて義理堅いから食ったりしねーから!」

魔術師「ほ、ほんとですか…?」

悪魔「う・そ♪」

魔術師「ひゃああああぁぁ」

悪魔「うそうそ、ほんとだから!あ、どっちが嘘でどっちが本当かこんがらがってきたなイャハハハハ」

魔術師(笑えない)ビクビク

悪魔「で、礼は何がいい?」

魔術師「えっ!?」

悪魔「助けてくれたんだからお礼してやるよ。何でも言ってくれ!」

魔術師「え、えと、えーと…」

悪魔「あ、もしかして思いつかない系?何でもいいよー、何でも」

魔術師「ぃ、いぃです、お礼なんて」アセアセ

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:18:13.64 ID:wCq+TMkr0
悪魔「ところでさー、チミのような食べやすそうなお嬢ちゃんが、何でこんな森を1人で歩いていたの?」

魔術師(食べやすそう?)「帰る途中で…」

悪魔「へー里帰り。どっかのパーチーに入ってねェの?」

魔術師「ぁ、今日クビになりまして…」

悪魔「はアァん、そっかー。じゃクビにした上司が憎いだろ~。俺様が呪い殺してやんよォ」ウケケケケ

魔術師「いや、いいです、殺さなくていいです!」

悪魔「あそー。でも何でクビになったァ?男女関係のもつれ?」

魔術師「いえ…私の力量不足です」

悪魔「力量不足でクビになンのかよ、無慈悲な上司だなー」

魔術師「仕方ないんです…勇者さんは1日も早く魔王を倒さないといけないから」

悪魔「ンはっ!?勇者!?魔王オォ!?」

魔術師「」ビクッ

悪魔「…なぁ、今って何年?」

魔術師「今ですか…?暦上では645年ですが…」

悪魔「ヤベェ~ッ!!寝っすぎたァ~…」ズーン

魔術師「あのぅ…」

悪魔「ま、過ぎたことは気にしても仕方ねェな!前向きに生きまーす☆彡」キラリン

魔術師(元気だなぁ)

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:18:40.09 ID:wCq+TMkr0
悪魔「ンで、勇者は魔王を倒しに旅をしていて、チミは勇者一行をクビになった。そしてチミは勇者を憎んでいる!間違いねェな!」

魔術師「いえいえ、憎んでいませんよ!」

悪魔「でも、悔しいだろ?」

魔術師「っ!」

悔しいかって?そりゃあ悔しいに決まっている。
頑張ったのに認められなくて、いらないって言われて。

魔術師「でも…」

悪魔「「でも」禁止ィ!!」

魔術師「」ビクッ

悪魔「むぅ」ジロジロ

魔術師「…?あ、あの?」

悪魔「アンタ…結構いいな」

魔術師「え?」

悪魔「よし決めた!俺様、チミの使い魔になっちゃるよ!」

魔術師「え…ええええぇぇ!?」

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:19:11.65 ID:wCq+TMkr0
悪魔を連れて人のいる所に行ったらどんな目で見られるか…。
魔術師と悪魔…まるで自分が悪魔召喚の儀式を行ったかのような誤解を生む組み合わせだ。

魔術師「ぃ、いいです!ほんと!」

悪魔「世間体気にしてんなら大丈夫だよォ?翼をしまえばホラ…ハーイ、下賤な人間と変わりませーん」ジャーン

魔術師「ぁの、私の使い魔になってどうするんですか?」アセアセ

悪魔「復讐よ」ニヤリ

魔術師「…え?」

悪魔「一緒に魔王をブッ倒そうぜ!!そして勇者に恥をかかせて、俺様たちは愛の終着駅へ一直線って計画よオォォ!!」

魔術師「どこから突っ込めばいいんですか!?」

悪魔「ツッコミは不要だぜェ!心配すんなって、俺様がいれば何とでもなるってェ~!!」

魔術師「あうぅ」

悪魔さんは私の頬を両手でギュッと締めて大笑いしている。
何かもう、理解が追いつかない。

悪魔「そいじゃ早速契約しようゼエェ!!」

魔術師「け、契約…ですか?」

悪魔「おう!この紙にサインしろ!」バッ

魔術師(使い魔との契約ってそうやってやるの?)「えーと…」

>婚姻届

魔術師「…」

魔術師「ところで悪魔さん」

悪魔「ノオオォォ!!見事なスルー、こりゃ参ったねッ☆彡」

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:19:38.52 ID:wCq+TMkr0
魔術師「魔王を倒すって…どうやってやるんですか?」

悪魔「あー、俺様の全盛期の力を出せりゃ何とかなると思うンだけど、何せ寝すぎて調子が悪ィ」

悪魔「そォこォでェ、チミの魔力を貸ちてくだちゃい♪」

魔術師「私のですか…?」

悪魔「よォし早速魔王城を攻めるぞオォ!」バサッ

魔術師「いきなりですか!?」

悪魔「俺様の背中に乗れ!出来れば俺の背中に胸を押し付けろ!」

魔術師「嫌です~…」

悪魔「嫌とか言ってらんねェンだよ!オラァ強制連行じゃい!!」ヒョイッ

魔術師「きゃあ!?」

悪魔「スピード出して行くぜえぇ、振り落とされたくなければ俺様をギュッと抱きしめなァ!胸押し付けてな!!イャハハハハハ!!」ビュウウゥゥン

魔術師「いやああああぁぁぁぁ」

こうして私は押し切られるまま、悪魔さんと魔王城へ飛び立っていったのだった。
…ていうか、本当にどうしてこうなったんだろう。

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:20:07.84 ID:wCq+TMkr0
>魔王城付近

悪魔「おー見えてきたな~」

魔術師「あっという間ですね…」

悪魔「人間って不便だよなァ、翼がねェと魔物とエンカウントしまくりフィーバーじゃ~ん」

魔術師「そういうものですよ…」

悪魔「…っと、これ以上近づいたら危ねェな」

魔術師「?」

悪魔さんはそう言って着地する。
魔王城はまだ、遥か遠くに見えている。

魔術師「どうしたんですか?」

悪魔「相手さん、魔法で網を張ってやがる。そン中入ったら、魔王城に近づく者がいるって一発でバレちまう」

魔術師「へえぇ…そんな魔法があるんだ…」

悪魔「ま、でもお陰さんで相手さんの実力がわかった。この程度の範囲にしか張れないなんて、甘ちゃんだなコリャ」

魔術師「え、結構広い範囲じゃないですか?」

悪魔「そら、まー魔王を名乗る分には申し分ねーけど、オレ様の全盛期に比べりゃハナタレ小僧、余裕のよっちゃんよイャハハハハハ!!」

魔術師(物凄く胡散臭いよぉ…)

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:20:33.31 ID:wCq+TMkr0
魔術師「でも、魔王城を攻めるんじゃないんですか?」

悪魔「ノリで言ったンだよォ~ん」

魔術師「ぇ、あ、そうですか」

悪魔「今日の所は敵情視察よ!俺様たちにはまだ目的があったろ?」

魔術師「えと…勇者さんに恥をかかせる?」

魔術師(俺様「たち」じゃないけど…)

悪魔「そーれーもーあーるーけーどおぉ?」

魔術師「?」

悪魔「やっぱラスボス倒すのはァ…チミが俺様に惚れてから?キャッ」

魔術師「…」

魔術師「敵情視察ってどうするんですか?」

悪魔「はいスルウウウゥゥゥ!!俺様恥ずかし損!!もう…傷ついちゃうゾッ♪」

魔術師(もうやだこの人)

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:21:01.63 ID:wCq+TMkr0
悪魔「俺様が体のサイズと魔力を最小限に縮めて、潜入捜査してきてやんよ!」

魔術師「え、そんなことができるんですか」

悪魔「悪魔なめちゃいかんよチミ~。あ、それにはチミの協力が必要なンだけどな!」

魔術師「ぁはい、何をすれば…」

悪魔「俺を可愛がるンだ!」

魔術師「………はい?」

悪魔「ばぶばぶ~」ゴロン

魔術師「…」

悪魔「おぎゃー」

魔術師「………」

悪魔「この魔法は、か弱き頃の自分に意識を戻すのがコツなンだ!さぁ早く可愛がれ!」クワッ

魔術師「は、はい!」

悪魔「だぁだぁ」

魔術師「よしよし…」

悪魔「キャッキャ」

魔術師「いい子いい子…」

魔術師(大きな男の人相手に何やってるんだろう私)シクシク

悪魔「キタキタキタァ!!」ゴオオォォォ

魔術師「え!?」

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:21:28.13 ID:wCq+TMkr0
「ちゅー」

魔術師「…ネズミ?」

ネズミさんは走り回って地面に字を書いた。
曰く「俺様だよ俺様、悪魔だよ」と。

魔術師「赤ちゃんゴッコと何の関係が…」

悪魔「ちゅう(訳:ノリだ)」

悪魔さんは地面に「ここで待ってろ」と書き、魔王城へと駆けて行った。
魔王城周辺なので、私も透明化魔法で姿を消して待つことにした。

魔術師(大丈夫かなぁ悪魔さん…)

悪魔さんのことは本っ当に苦手だけれど、何だか心配だった。

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:22:07.40 ID:wCq+TMkr0
けれど心配は杞憂に終わり、1時間位して悪魔さんが戻ってきた。
私が透明化魔法を解除すると同時、悪魔さんも元の姿に戻る。

悪魔「いよっ、待ったァ?俺様のこと恋しくて仕方なかったァ~?」

魔術師「成果はありましたか?」

悪魔「はいまたスル~。情報ゲッチューしたぜェ、褒めて褒めてェ頭撫でてェん」

魔術師「ぁはい、凄いですねぇ…」ナデナデ

悪魔「えへへ、僕ちゃん頑張ったヨ♪」

魔術師「そ、それで情報っていうのは…」

悪魔「魔王軍幹部、暗黒騎士っつー奴のことだ!」

魔術師「暗黒騎士…どんな方ですか?」

悪魔「俺様以外の男に興味持つなよォ!」クワッ

魔術師「ええぇーっ!?」

悪魔「もう今日は寝る!!近くの街まで飛んでいくぞ!!」プンプン

魔術師「あうぅ、ごめんなさぁい…」

魔術師(つい謝っちゃったけど、何で怒ってるのこの人ォ…)シクシク

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:22:47.29 ID:wCq+TMkr0
>宿

悪魔「一緒に寝てもいーい?」チラッチラッ

魔術師「ふた部屋お願いします」

悪魔「スルーやめてええぇぇ、せめて罵ってええぇぇ」

魔術師「おやすみなさい」パタン



魔術師(何か強引に押し切られちゃったけど、明日からどうしよう…)

魔術師(2人で魔王を倒すなんて、あの悪魔さん信じても大丈夫なのかなぁ)

魔術師(新しくパーティーに入った魔法使いさん、勇者さん達と上手くいってるかなぁ)

魔術師(…私よりは上手くやってるよね)

魔術師「ぐすん」

18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/12(月) 20:22:55.47 ID:ownEzSxbO
悪魔が西遊記の孫悟空とデッドプールを足して2で割ったみたいだなwww

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/12(月) 20:24:25.56 ID:wCq+TMkr0
今日はここまで。
オチは考えてますがあとは勢いとノリで書き進めてます。早くも進行が不安であります。
悪魔まじウザ可愛い。

20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/12(月) 20:27:15.31 ID:VkQZppG+0
やはり暗黒騎士は出てくるのかww


21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/12(月) 20:59:03.26 ID:8FiS+sXm0

暗黒騎士は強くてイケメンなんですねわかります

22 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2015/01/12(月) 21:05:27.99 ID:wCq+TMkr0
だって暗黒騎士中毒だ~か~ら~(´・ω・`)
暗黒騎士今回は脇役だけどイケメンすぎて悪魔のキャラを食わないか心配であります。

23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/12(月) 21:08:52.48 ID:agEXBvfd0
多分この使い魔は蜘蛛っぽいモンスターと(一方的に)仲良さそう

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/12(月) 23:48:35.75 ID:cTceNWdDO
こいついつも暗黒騎士ってんな

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 18:34:08.97 ID:sDskvNdP0
>翌日

悪魔「おはようございます悪魔です、今日は暗黒騎士を倒したいと思います」キリッ

魔術師「いきなり!?」

悪魔「暗黒騎士は今魔王城を離れて砦を守ってるそうだ!砦を攻めて、攻めて、突いて、あンッ、はァッ…」ビクンビクン

魔術師(ツッコめない…)「そ…その砦にはどれ位の魔物が…」

悪魔「知らん」

魔術師「知らないんですか!?」

悪魔「俺様が狙うのは暗黒騎士のみ!だからその他の情報とかどうでもいいンだ!」

魔術師「あのぅ暗黒騎士を討つ為に情報集めが必要なのでは…」

悪魔「いやだいやだいやだいやだアアァァ!!」ジタバタ

魔術師(そんなに嫌がらなくても…)「わかりましたよぅ、悪魔さんにお任せします…」

悪魔「魔術師ちゃんは従順ないい奥さんになるぜェ。そして俺様は亭主関・白ッ!!」

魔術師「それじゃあ行きましょうか」

悪魔「レエエェッツ、ゴートゥヘブウウゥゥン」

魔術師(ヘブン?悪魔なのに?てか死ぬの?)

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 18:34:40.58 ID:sDskvNdP0
>砦

悪魔「あれが砦かアァ…イャハハ、血がたぎるぜェ」

魔術師「大丈夫なんですか…?悪魔さん私の力の程度も知らないですよね…?」

悪魔「ハンッ、女の子の力をアテにするようなメンズはダサくてキモいだろォ!そんなに落ちぶれる位なら、アソコチョン切るね!!」

魔術師(勇者さんパーティー勇者さん以外女性なんですが)

悪魔「でもやっぱ本調子じゃないから、チミの魔力貸ちて♪」テヘペロ

魔術師「いきなり発言に矛盾が」

悪魔「わりッ、アソコチョン切るから許してチョ♪」

魔術師「いいですやめてくださいごめんなさいいぃぃ!!」ガタガタ


「騒がしいな…」


魔術師「あっ!?」

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 18:35:27.65 ID:sDskvNdP0
砦の門が開き、誰かが出てきた。
魔物達の先頭に立つ漆黒の鎧は威圧感を醸しだしている。彼こそがきっと――

悪魔「テメェが暗黒騎士だな?」

暗黒騎士「そうだ」

魔術師(ま…魔王軍幹部…)フルフル

暗黒騎士「お前、魔王軍の魔物ではないな?」

悪魔「おぅ…俺様はアァ!!」

悪魔さんは翼をばさっと広げ、空中に舞った。

悪魔「俺様こそが混沌と破滅を呼ぶ者! †悪魔†と呼ぶがいイャハハハハハ!!」

魔術師(仲間だと思われたくないよぅ)シクシク

暗黒騎士「で…混沌と破滅を呼ぶ者が何の用だ?」

悪魔「オマエを…ブッ!倒しに来たンだよおおおぉぉぉ!!」ビュウゥゥン

暗黒騎士「っ!!」

悪魔さんは暗黒騎士に向かい急降下する。


そして――



暗黒騎士「ふん」バキッ

悪魔「ゴハァ!!」

魔術師(あっさりやられたー!!)

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 18:36:04.51 ID:sDskvNdP0
悪魔「タイムタ~イム!」タッタッ

悪魔「魔術師ちゃん、たちけて~」」

魔術師「ぁのぅ、敵に思い切り背を見せてますが…」

暗黒騎士「無防備な敵を背中から切るような恥知らずな真似はしない」

魔術師(あれ。敵の方が真っ当)

悪魔「助けて下さい!お願いします!愛してますからっ!!」

魔術師「いや愛してなくても…助けるってどうやって?」

悪魔「魔力魔力!魔力貸して!」

魔術師「いぃですけど…」

悪魔「ンー」

魔術師「…?」

悪魔「魔力の譲渡方法だよ。ちゅーして、ちゅー」

魔術師「え…ええええぇぇ!?」

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 18:36:58.05 ID:sDskvNdP0
悪魔「早く早く!」

魔術師「でででできませんよそんなのぉ!」

悪魔「ちゅっちゅ、ちゅっちゅー!」

魔物達「何やってんだあいつら」「さぁ」「恥ずかしい奴らだ」

魔術師(冷ややか…笑われた方がマシだぁ)シクシク

悪魔「しゃーねぇ、じゃ手つなぎでいいぜ!」

魔術師「初めからそうして下さいよぉ!」

悪魔「で、でも」モジモジ

魔術師「?」

悪魔「初めての手つなぎってホラ…友達以上恋人未満みたいな、ようやく2人の関係が前進したみたいで…ドキドキしない?」チラッ

魔術師「」

暗黒騎士「おい、女を困らせるものではないぞ」

魔術師(やっぱり敵の方が真っ当)

悪魔「イャハハ、俺様がリードするぜェ…だって俺様、肉食系男子だからなあアァァ!!」ガシッ

魔術師「!!」

悪魔「キタキタキタアァ…」

魔術師(魔力が…悪魔さんに吸われていく…)

悪魔「ああぁいいよいいよ、女の子の魔力ウウゥゥ…!!もう興奮して俺様のアソコがビンビンに」

魔術師「離して下さい」ブンッ

悪魔「イヤン」

暗黒騎士「最低な男だな」

魔術師「本当です」シクシク

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 18:37:56.99 ID:sDskvNdP0
悪魔「魔力アーンド精力…注・入ッ!」

魔術師「いらないもの注入してる!?」

悪魔「イャハハハ性欲は男の力の源なンだゼェ、俺様が暗黒騎士を倒す姿を見て惚れちゃってくれィエイ♪」

魔術師(どうしよう…私は暗黒騎士を倒さなくても別にいいんだけど)

悪魔「まずは準備運動だ…さぁギンギンさせるぜェ!!」

悪魔さんの赤い爪が伸びていく。
その一本一本に、何か不思議な力が纏っている。

魔術師「その爪は魔力で…?」

悪魔「いや精力で爪を勃起させ」

魔術師「もう悪魔さんイヤ!!」

悪魔「イャハハハハ!!下ネタで赤面する女の子の姿は興奮すンねぇ!!ヨッシャ暗黒騎士…今度こそっ!!」ビュンッ

暗黒騎士「くっ」

悪魔さんの爪と暗黒騎士の剣がぶつかり、カキンという音が響く。

暗黒騎士(素早さが格段に上がった…!!)

悪魔「今のを反応できるたぁ流石魔王軍幹部ぅ♪」

暗黒騎士「この程度で調子に乗るな!」ブン

悪魔「お~~っと!!」

暗黒騎士の放った剣のひと振りを回避し、上空に飛び立つ。

悪魔「勘違いすンなよクソガキ」

暗黒騎士「何…!?」

悪魔「俺様が調子こいてンのは、この程度で終わンねぇからだよ…!!」ニヤッ

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 18:38:32.04 ID:sDskvNdP0
悪魔「邪神よォ、俺様の呼び出しに応えやがれェアアァァッ!」

暗黒騎士「…!!」

魔術師「な…」

悪魔さんの声に応えるように、空が黒雲で覆われていく。
まだ昼前だというのに周囲は夜のように暗くなった。

バリバリッ

魔術師「きゃっ!?」

悪魔「イャハハ、久々の呼び出しを喜んでいるような雷だぜェ…ヨッシャ、やる気に応えてド派手にやっちゃるよ!!」

雷が悪魔さんの姿を照らす。その姿は正に凶悪…間違いない、彼はお調子者だが、本物の悪魔だ。

悪魔「降り注ぎな…白銀の豪雨!!」

暗黒騎士「!!」

黒雲から何かが降ってくる、あれは雨――いや、槍だ。
無数の槍は暗黒騎士に狙いを定め、彼に向かって一直線に降り注いだ。

暗黒騎士「くっ…!!」

逃げられないと悟ったのか、暗黒騎士は槍に向かって剣を構える。
まさか全て弾き落とそうというのだろうか…!?

悪魔「おっ始めな、命懸けの千本ノックをよおォ!!」

暗黒騎士「…っ!!」

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 18:39:06.37 ID:sDskvNdP0
ガキンガキンという金属音が鳴り響く。
槍は暗黒騎士の周辺に散らばる。彼は剣を振るのは止まらない。
全て弾いている…?いや違う。
槍の内何本かは、暗黒騎士の鎧や兜に当たって弾かれているのだ。

魔術師(つまり当たればダメージになる分の槍だけ弾き落としているの…?)

現に暗黒騎士がダメージを受けている様子はない。
槍が次から次へと降り注ぐ中、何という判断力。

悪魔「優秀優秀♪」

そして最後の1本――

暗黒騎士「…っ」ガキィン

悪魔「うわっち!?」

暗黒騎士が弾いた最後の槍が、一直線に悪魔さんへと飛んでいく。
油断しきっていた様子の悪魔さんはそれを慌てて回避…するが、槍は頬をかすめた。

悪魔「ぬわあああぁぁ!?俺様の美しい顔があああぁぁ!?」

暗黒騎士「顔が大事ならしっかり守っておけ」

悪魔「だー、クソが許さねェ!!その兜ブッ壊して、テメェが必死こいて隠しているブサイク面をプギャーしてやっからなあぁ!!」

暗黒騎士「俺の兜の頑丈さは今見せた通りだが…見た目の通り頭が悪いようだな」

悪魔「ウルセェ、男は顔じゃい!!」

悪魔さんが手を掲げると、その手には雷が集まっていく。

悪魔「物理ダメージには強いようだが…これはどうかナアァ?」

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 18:39:54.09 ID:sDskvNdP0
バチバチイイィッ

暗黒騎士「…っ!」

悪魔「ほう…頑丈だねェ~」

雷は鎧に弾かれた。
それでも鎧の隙間に電気が流れる恐れがあるのか、暗黒騎士は防御姿勢を取っている。

悪魔「次から次へと行くぜ、イャハハハハ!!」

それでも悪魔さんは次から次へと雷を放つ。
暗黒騎士は防御姿勢を崩さない。

魔術師(凄く眩しい…!!)

暗黒騎士「くっ…だが無駄だ…!」

悪魔「わかってマース♪」

暗黒騎士「!!」

魔術師「あっ!?」

いつの間にか、悪魔さんは暗黒騎士の背後に回っていた。

悪魔「雷は目くらまし…どーよ、結構賢いだろォ?」

暗黒騎士「くっ…!!」ビュンッ

悪魔「おっとォ!」ガキィン

暗黒騎士の一撃を防ぎ、悪魔さんは――

悪魔「ごめんねダーリン♪」

暗黒騎士「!?」

暗黒騎士にしがみついた。

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 18:40:30.81 ID:sDskvNdP0
暗黒騎士「くっ離れろ!!」ビュンッ

暗黒騎士は一撃を放つが、腕ごとしがみつかれて勢いを鈍らせた一撃は軽くかわされる。
悪魔さんを引き剥がそうとしている様子は見受けられるが、悪魔さんはビクともしない。

悪魔「鎧を剥ぐのが1番いいンだけど、男脱がしてもつまンねェしなぁ…」

そう言って悪魔さんは、

暗黒騎士「!?」

悪魔「これでどうよ」ウケケケケ

暗黒騎士の鎧の隙間に手を入れた。

暗黒騎士「き、貴様…!!」

悪魔「安心しなァ~」

バリバリバリバリッ

暗黒騎士「!!!!」

悪魔さんは手を離す。
素肌に直接雷を浴びた暗黒騎士は、その場に崩れる。

悪魔「死なない程度に加減したつもり…あ、でも加減間違えてたらゴメンね~♪」

そう凶悪な笑みを浮かべた悪魔さんの顔は、目だけが笑っていなかった。

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 18:41:14.72 ID:sDskvNdP0
魔物達「あ、暗黒騎士様がやられた…!?」「まさか…」

悪魔「おい、ビビってんのかァ?」

魔物達は悪魔さんに睨まれて、びくりと体を強ばらせる。

悪魔「おいテメェら全員砦に引っ込みな…俺様はこいつと話がしてェ」

悪魔「引っ込まねぇ奴は耳の神経ひっこ抜くかンなァ!」

悪魔さんが無邪気な笑みで脅しをかけると、魔物達は砦へと駆けて行った。
やはり野性的本能に優れた魔物達。悪魔さんが只者でないのは、十分感じているのだろう。

暗黒騎士「く、くぅ…」

悪魔「おぉ~、うっすら意識あるのね~。まいいや、とりあえず…捕縛っ!」

暗黒騎士「!?」

悪魔さんの合図で、地面から黒い金属棒が生えてくる。
金属棒はそのまま暗黒騎士の体に巻き付き、彼を捕縛した。

暗黒騎士「く…っ」

悪魔「あー別に拷問する気はねェから。リラックス、リラックス♪」

暗黒騎士「貴様…何が目的だ?」

悪魔「その前に、これでも見て和めよ」

悪魔さんの手に鏡が召喚された。
あの鏡は…よく見たら、ここにはない映像を映し出している。

暗黒騎士「これは…?」

悪魔「俺様が昨日魔王城に忍び込んだ時に拾った映像だ。まぁ見れ」

暗黒騎士「…!?」

そして、鏡から流れる映像には…

41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 18:41:41.18 ID:sDskvNdP0
>魔王城のサウナ

オークA「な、なぁ…こないだのさぁ」

オークB「あぁ…暗黒騎士様だろ?」

オークC「確かお前達、サウナで暗黒騎士様と鉢合わせたんだっけか…?」

オークA「あぁ…」

オークC「…どうだった?」ゴクリ

オークA「正直…興奮した」




暗黒騎士「」

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 18:42:14.53 ID:sDskvNdP0
悪魔「イャハハハハ!!こいつらの暗黒騎士視姦トークまじエグかったゼエェ!!ほらほら、耳糞かっぽじって聞け聞け聞けエェ!!」

暗黒騎士「やめろ聞きたくない!!」

オークA「あの胸筋、引き締まった尻…」

暗黒騎士「やめろーっ!!」

魔術師(ひどい拷問…)

悪魔「おい暗黒騎士ィ、テメェをこのままオークに差し出してもいいンだぜェ!?」

暗黒騎士「くっ、殺せ!!」

魔術師「やめてあげて下さいぃ~!」

悪魔「イャハハハ、俺様もオーク×暗黒騎士の陵辱なンて見たくねェよ!!ただし暗黒騎士ィ…てめぇ次第だけどな」ニッ

暗黒騎士「何が望みだ…!?」

悪魔「それはだなァ…」

悪魔さんは暗黒騎士に顔を近づける。

悪魔「お友達になろうぜェ…暗黒騎士ィ」

暗黒騎士「何だと…!?」

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 18:43:42.94 ID:sDskvNdP0
悪魔「その内勇者が魔王城に乗り込む…そン時、お前も魔王城に召集されるよなァ?」

暗黒騎士「あぁ…」

悪魔「そン時、俺様たちも同じタイミングで城に乗り込むからよォ。俺様たちのことは見逃してくれねェ?」

暗黒騎士「何だと…!?」

悪魔「そンでお前は勇者を足止めしてくれりゃいい…な、協力してくれよォ」

暗黒騎士「しかし…」

悪魔「考えるまでもねェだろ。俺様たちと勇者一行じゃ、勇者一行のが優先されるべき敵だろォ」

暗黒騎士「だが…侵入者を見逃すことはできん」

悪魔「オイオイ暗黒騎士ィ、魔王が泣くぜェ?お前が従っている魔王様が、俺様に負けると思ってんのォ?」

暗黒騎士「それは…ありえん」

悪魔「だろォ?お前は勇者一行を足止めする…俺様たちは魔王の元へたどり着き、魔王が俺様たちを迎え撃つ」

悪魔「なァんの問題も無いと思いますけどねェ~」

暗黒騎士「…」

悪魔「オーク」

暗黒騎士「わかった」

魔術師(オークは卑怯ですよ悪魔さん!)

悪魔「今、約束したな?よっしゃ、契約の儀式だ!」

悪魔さんはそう言うと暗黒騎士の額に指を当てる。
そして指から放たれた光が、暗黒騎士に吸い込まれていった。

暗黒騎士「今のは…!?」

悪魔「俺様とお前の契約だ。もしお前が約束を破れば…」ニヤリ

暗黒騎士「…!?」ゴクリ

悪魔「お前のケツにオークのこん棒が吸い込まれていく!!」

暗黒騎士「お、おおぉ…」

魔術師(お…恐ろしい)ガタガタ

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 18:44:10.04 ID:sDskvNdP0
悪魔「それとこっちのテレパシーがいつでもお前に聞こえるようにしといたゼ。じゃ、当日は協力頼んだぜェ暗黒騎士」

暗黒騎士「!」

悪魔がくるっと振り返ると同時、暗黒騎士の拘束は解かれた。

悪魔「じゃ帰ろうぜ魔術師ちゃん。ふぁ~…久々に戦ったから疲れたぜぇ…」

魔術師「は、はぃ…」(暗黒騎士の兜壊すって言ってなかったっけ…?)



暗黒騎士(本当に、それだけの為に…?)

暗黒騎士(あの男何を企んでいる…いや、それ以前に)

暗黒騎士(あの男…何者だ?)

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 18:44:39.03 ID:sDskvNdP0
>宿屋

悪魔「僕ちゃんおねむなのォ~!!」

魔術師「ね、寝てもいぃんですよ…?ベッドもあるし…」

悪魔「やだやだ、魔術師ちゃんのお膝枕じゃないとヤダー!!」ジタバタジタバタ

魔術師「嫌ですよぅ…」

悪魔「嫌い!?僕ちゃんのこと嫌い!?」

魔術師「そうじゃなくて、恥ずかしいですし…」(まぁ苦手だけど)

悪魔「じゃあ手ぇギュッとして」

魔術師「悪魔さん手つなぎていかがわしいこと想像するじゃないですか…」

悪魔「しーなーいー。しないから、ね、ね?」

魔術師「仕方ないですね…」ギュ

悪魔「ぐごおおぉぉぉ」

魔術師(寝るの早!?)



悪魔「ぐおーぐおー」

魔術師(普段の悪魔さんからは危険な感じはしないんだけど)

魔術師(でも、戦闘中の様子…何か、普通じゃなかった)

魔術師(悪魔さん…何者なんだろう)

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 18:45:16.28 ID:sDskvNdP0
今日はここまで。
暗黒騎士でくっ殺できる日が来るとは思いませんでした。

47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/13(火) 18:46:25.03 ID:g2TTPUGeO
乙。
外伝でオーク×暗黒騎士を書いたっていいのよ

48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/13(火) 18:54:24.17 ID:VwaowEiw0
この暗黒騎士って♂…だよな?

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 19:00:21.23 ID:sDskvNdP0
>>47
大好きな暗黒騎士が汚らしいオークに汚される場面、想像するだけで泣けますな。何かに目覚めたら危険だ。

>>48
男です。オークがホモです。

50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/13(火) 19:02:43.08 ID:Fswr/WLt0
乙です。
さしもの暗黒騎士も、自分の貞操がかかれば仕方ないか、しかも相手がホモオークじゃなぁ。

51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/13(火) 19:03:04.52 ID:IQIo3NB70

じゃあ大好きな暗黒騎士をかばって>>1が汚される展開はあり?

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/13(火) 19:06:17.68 ID:sDskvNdP0
>>50
やはり騎士職にとってオークは天敵ですね、男女関係なく。

>>51
誰得www
流石に自分が汚されるくらいなら暗黒騎士を差し出します(ゲス顔

53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/13(火) 21:37:26.52 ID:V5pFSfx/O
悪魔くそウゼェwwwだがそれがいいwww

54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/13(火) 22:54:05.59 ID:n4i+3bvOO


55 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 16:59:05.64 ID:jvhyeX8K0
>夕方

悪魔「あーよく寝た」スッキリ

悪魔「…ん?」

シーン

悪魔「あれー魔術師ちゃんどこ行ったのかなー?」

悪魔「魔術師ちゃんの魔力を探知ー。うぃーんうぃーん」

悪魔「お…良かったぁ街にいるみてぇだ。よし今行くよマイハニー!」

悪魔「って俺ストーカーかっつーの!イャッハッハ!!」

56 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 16:59:41.42 ID:jvhyeX8K0
>図書館

魔術師「むむぅ」


悪魔とは
・特定の宗教文化に根ざした悪しき超自然的存在や、悪を象徴する超越的存在
・神を誹謗中傷し、人間を誘惑する存在、神に敵対するもの


魔術師「わかんないなぁ…」

悪魔「何がわかんないのォ~?」

魔術師「うわぁ!?」

悪魔「しーっ、図書館では、お・し・ず・か・に♪」ウインク

魔術師「あ、悪魔さん…起きたんですか…」

悪魔「何読んでンの?」ヒョイ

魔術師「あっ」

>悪魔辞典(デビル・ウィキペディア)

悪魔「ほほーう、俺様のことが気になって気になって仕方ないワケェ」

魔術師「こ、これは」

悪魔「イイぜ…魔術師ちゃんになら俺様の丸裸の姿を見せたって」ポ

魔術師「人間を誘惑する存在…本当だ」

悪魔「んモウ、魔術師ちゃんだけ特別なのにィん」クネクネ

57 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 17:00:10.92 ID:jvhyeX8K0
魔術師「悪魔って伝承で聞いたことはあるんですが、実物を見たのは初めてでして」

悪魔「レアだからなァ。ま、でも見ての通りイケメンな事以外は魔物とそんな変わらねェよ」

魔術師「そうみたいですね…魔物にも色々いますし」

悪魔「俺様のことは2人きりの密室でじっくり教えてあげっからさァ、それより魔王のこと調べた方が建設的だぜェ?」

魔術師「わ私まだ魔王を倒すと決めたわけじゃ…」

悪魔「ほぇ~?魔術師ちゃん、魔王倒す為に勇者と旅してたんでしょ~?」

魔術師「そ、それはそうですが…」

悪魔「勇者一行クビになったら魔王を倒すのもやめちゃうの?」

魔術師「…」

悪魔さんの言うことは正論だ。
だけど勇者さんからクビを言い渡されて、魔王を倒すという目標を私は失った。

悪魔「自信無くなっちゃった?」

魔術師「…かもしれませんね」

悪魔「なら心配すンなよ、俺様の力を貸してやる。全盛期の俺様は、勇者なんかより強いからな」

魔術師「ぁはい…」

自信…確かに自分の力に自信はない。けど、本当の理由はそうじゃない。
本当は――

悪魔「俺が、チミの居場所になってやるから」

―――え?

悪魔「それより図書館出ようぜェ~大声出せない場所ってチョー苦手ェ~」

魔術師「ぇ、あ、はい」

魔術師(私の、居場所…)

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 17:00:40.67 ID:jvhyeX8K0
悪魔「そおオォォォ…だッッ!!」

魔術師「大声出しすぎですよ~…皆驚いてこっち見てます…」

悪魔「イャハハハハハわりわり、陰気臭ェ図書館出た開放感でぶひゃひゃひゃひゃ」

魔術師(壊れた!?)

悪魔「あー腹いてェ!!でさァ!勇者一行って今、どこにいんのオゥッハッハー!?」

魔術師「えぇと、私と悪魔さんが出会った森の近く辺りかと」

悪魔「マージーかーよッ!!ペース遅っせ、勇者ってもしかして短足ゥイャハハハハ!!」

魔術師「人間の足でなら順調なペースですよ…」

悪魔「イャハハハハ!!ぐひゃ、ぐひゃ、ゲァヒャヒャヒャヒャヒャ」

魔術師(どうしよう…元に戻らなくなった)グスン

悪魔「ハイ、じゃあ明日は勇者一行の様子を観察したいと思います」キリッ

魔術師「戻った!?」

悪魔「もう笑えませんわ…」ズーン

魔術師「ぇ、いや笑ってもいいんですよ」

悪魔「もう…私に笑う力は残されていません…先に宿に戻っていますね…」トボトボ

魔術師(笑う力って消耗するんだ…)

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 17:01:07.30 ID:jvhyeX8K0
>翌日

悪魔「イャハハハハ!!」

魔術師「もう笑う力戻ってる!?」

悪魔「おう、宿屋で一晩寝たら全回復ゥみー↑たー↑いー↑なァー↑↑↑」

魔術師「ぁ、あぁ良かったです…それで今日は…その…」

悪魔「はい、魔術師ちゃんをクビにした、にっくき勇者の偵察でーす」

魔術師「憎くありませんって!勇者さん達の様子を見る必要があるんですか?」

悪魔「おう、情報は多いにこしたことはない」

魔術師「昨日は情報とかどうでもいいって…」

悪魔「覚えておきな!俺様の言うことは二転三転する!」

魔術師「開き直られると清々しいですね」

悪魔「でもぁたし、魔術師チャンに対してゎ一途だょ?」

魔術師「うぅー、勇者さん達と顔合わせるの気が重いなぁ」

悪魔「まー、ヤなら顔合わせなきゃいいじゃーん、遠くから視姦するだけでさァ!」

魔術師「そんな趣味はありませんけど…まぁ悪魔さんのお好きなように」

悪魔「じゃ醤油かけて食べるわ」

魔術師「駄目です」

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 17:01:34.08 ID:jvhyeX8K0
>ドッカの街

魔術師「多分この街だと思いますねぇ…」

悪魔「ちょーっと聞き込みしてくる。すんまそーん、そこのお人ォ」

魔術師「あ…」

魔術師(凄いなぁ悪魔さん、知らない人に物怖じしないで声かけられて)

悪魔「サンキューベイベー。魔術師ちゃん、勇者一行は昨日近くの塔で魔物退治して、夜この街に来たんだってさァ」

魔術師「あぁ、やっぱり…じゃあこの街で一泊したんでしょうね」

悪魔「まずぁ飯食おう!移動だけで腹減った!」

魔術師「ぁハイ」

悪魔「肉、肉肉にくにくニクニクウウゥゥゥ!!!」

魔術師「わかりましたから…肉料理のお店ですね」

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 17:02:17.36 ID:jvhyeX8K0
悪魔「おやっさん、生肉1人分!」

おやっさん「ハイヨ!」

魔術師「あるんだ、生肉…」

悪魔「魔術師ちゃんは?ハンバーグ?ステーキ?それともア・タ・シ?イャハハハハ!!」

魔術師「ぁ、ハンバーグを…。悪魔さんどうしていつもそんなに元気なんですかぁ…」

悪魔「そりゃメソメソしたりプンプンしてるよりゃー笑っていきたいジャン?」

魔術師「悪魔さんは限度を越えてると思いますが…」

悪魔「魔術師ちゃんは大人しいからそう思うんだよォ!!笑っていこうぜ笑って!」

魔術師「私に悪魔さんのようになれってことですか…」

悪魔「それはウザい」

魔術師「認めちゃった!?自分のことウザいって認めちゃった!?」

おやっさん「ハイヨ、生肉とハンバーグお待ちィ!!」

魔術師「早っ」

悪魔「ウッヒョオォ、生肉ウゥゥ!!いっただきまーす!!」ガツガツ

魔術師(野性的な食べ方だなぁ)モグモグ

悪魔「あー美味かっ…ウッ」

魔術師「どうしました…?」

悪魔「ちょ、ちょっとお花摘んできますぅ…」モジモジ

魔術師「ぁハイ…」(おトイレね…そこは恥ずかしいんだ)

魔術師(この店他にどんなメニューが…。あれ、生肉載ってないよ)モグモグ

ワヤワヤ

おやっさん「らっしゃい」

勇者「5人ね」

魔術師(この声…あっ、勇者さん!?)

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 17:02:45.78 ID:jvhyeX8K0
戦士「あー肉のいい匂いがするわ~」

踊り子「昨日は戦いで大分カロリー消費したから、沢山摂取しないと」

魔法使い「聖職者ってお肉食べてもいいの…?」

僧侶「うちの宗派その辺は緩いので」

店の構造的に向こうの席から私は見えないみたいで、こちらには気づいていない。

戦士「あー筋肉痛がひでーや」

魔法使い「戦士さん最前線で頑張ったもんね」

踊り子「魔法使いちゃんのナイスアシストのおかげで助かったわよォ」

魔法使い「そ…そう?」

僧侶「えぇ、魔法使いさんが入って下さったおかげで、うちのパーティーの総合的な戦闘力が上がりましたよ」


魔術師(そっかぁ…上手くやっているんだな、魔法使いさん)


勇者「これで旅も順調にいきそうだ」

魔法使い「そんな、褒めすぎよ。今までだって順調にきてたんでしょ?」

踊り子「あー…何ていうか」

戦士「ちょっとなァ…」

僧侶「はい…」

魔法使い「?」

勇者「魔法使いと入れ違いで抜けた奴がさ…連携乱してたんだよね」


魔術師「っ!!」

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 17:03:11.64 ID:jvhyeX8K0
僧侶「いやまぁ、能力が悪かったわけではないんですけど…」

戦士「ちょっと戦闘中は空気読めないっつーか、やってほしいこと言わないとわかってくれなかったよな」


皆との連携がわからなかった。


踊り子「まぁ自分から意見言わないから、言ったことは全部やってくれるんだけど」

僧侶「でも…快くやってくれている感じではなかったですけどね」


雰囲気が暗くてよく誤解されていた。


勇者「つーか俺、暗い奴苦手!」

魔術師「…っ」

勇者「そりゃ俺らの1番の目的は魔王を倒すことだけど、パーティーって仲良くやってないと旅が円滑にいかないじゃん?それに楽しくないと気が滅入るしさぁ」

踊り子「あの子問題は起こさなかったけどねー…でも確かにやりづらかったかなぁ」

戦士「あー、だから戦闘の連携も上手くいかなかったんじゃね?」

僧侶「彼女を仲間はずれにしているつもりはなかったんですけど、傍からはそう見えていそうで、気は使いましたね…」



勇者さん、戦士さん、僧侶さん、踊り子さん…皆は仲良くやっていたけど、私はいつもその輪の外にいた。


勇者「本当は魔法使い加えた時に外す必要まではなかったけどさー、ぶっちゃけもういいかなーって思ったんだよねー」

魔術師「…っ!!」

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 17:03:38.40 ID:jvhyeX8K0
私は邪魔者。いらない存在。嫌われ者。
他の皆も同調はしていないけど、誰も私を留めるよう勇者さんに言わなかった。
私なんていない方が、皆楽しくやっていられるんだ。

魔術師「えうぅ…」グスッ

悪魔「…なぁ」

魔術師「え、あっ!?戻ってたんですか悪魔さん…」

悪魔「泣いてんの?」

魔術師「え、あ、これは…コショウが目に入っちゃって」グスッ

私は精一杯笑う。こんな惨めな私を、誰かに知られたくない。

悪魔「そっかコショウが」

悪魔さんは気付いていないのか、ニカッと笑いを浮かべ――

悪魔「魔術師ちゃんたらドジッ娘ォー!!マジ萌えるんですけどォ、もう結婚してクダサーイ!!」

魔術師「!?」(声が大きっ…)


踊り子「は!?」

戦士「え、魔術師?」

僧侶「あっ…」

勇者「…」

魔術師「…」


気付かれた。

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 17:04:10.41 ID:jvhyeX8K0
僧侶「魔術師さん…」

魔術師「ぉ、お久しぶり…です…」

踊り子「いや久々って程じゃないけど…故郷に戻ったんじゃないの?」

魔術師「ぃえ、その…」

悪魔「あーあのね、俺様が魔術師ちゃんに一目惚れして、今一緒にパーチー組んでもらってるの!!ねー魔術師ちゅあぁ~ん」

魔術師「ひえぇ」

戦士「へ…へー…こんなド派手な男がなぁ…」

勇者「ふーん…」

悪魔「あっあっ、貴方様が人類の希望を背負いし勇者様でございましょうかァ!?ハハァ~」

勇者「あ、いやそんな頭下げなくても…」

悪魔「いやあァ、それにしても見ただけで只者じゃないのがわかりますねえぇ~、剣の申し子っていう評判はその通りだァ」

悪魔「俺様が勝ってるのは顔と背とスタイルくらいジャン?イャハハハハ!!」

勇者「」イラッ

魔術師「あわわ…も、もういいじゃないですかぁ」

勇者「魔術師…大人しすぎる君には、丁度いい男かもな」

悪魔「でしょでしょォ~?俺様たちお似合いだろォ?俺様ゼッテー魔術師ちゃん幸せにすっからァ」

悪魔「女を囲って、人の陰口叩くような男といるよりはそっちのがイイだろォ?」

勇者「…っ」イライラ

魔術師(ああぁ…さっきの聞いてたんだ)

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 17:04:51.02 ID:jvhyeX8K0
悪魔「イャハハハハ、ヒー、ヒー…はりゃっ?俺様大注目されてるウゥー!!」

戦士「いや…オメーじゃなくてよ…」

悪魔「イャハハハハ、非モテが女囲ってリア充気分味わえば勘違いもするよなァーッハッハ!!」

勇者「おい喧嘩売ってるのか?」

魔法使い「や、やめてよ勇者」

魔術師「悪魔さんもやめて下さい~…」

悪魔「アラァ勇者様ったら沸点ひっくーい。まぁしゃーないねェ」

悪魔「自分がオトせそうにない子のクビをばっさり切っちゃうような、心の狭いお方ですからねェ~」

勇者「お前っ!」ガシッ

悪魔「何?やンの?」

魔術師(ああぁ…こんな所で喧嘩されたら…)

悪魔「殴れよ、抵抗しねェから。ホラホラホラァ?」

勇者「ぐ…」

悪魔「あれれ~?もしかして女の手前、かっこつけたくて凄んだだけですかァ?勇者様ってカッコ悪いんですねェ~」

勇者「うるせーっ!」バキィ

悪魔「ぶべっ」ガシャーン

魔術師「ぁあっ!」

戦士「おい勇者落ち着け!」

4人は勇者さんをなだめる。
私は殴り飛ばされた悪魔さんに駆け寄った。悪魔さんは口を切ったのか、血が出ている。

魔術師「ぁ、悪魔さん…」

悪魔「…」

悪魔さんの顔は一瞬、無表情だったけど――

悪魔「血ぃ美味エェ~♪」

魔術師「悪魔…さん?」

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 17:05:27.17 ID:jvhyeX8K0
悪魔「いやぁ、流石勇者様~ナイスパンチっすわぁ、さっき便所行ってなかったら確実にもらしてたわ~」

勇者「喧嘩売ってきたかと思ったら、今度は怖気づいたのか?」

悪魔「イヤーン」

勇者「…まぁいい。無闇に人を挑発しない方がいいぞ」

悪魔「ハイッ!肝に銘じておきマッス!」

魔術師(悪魔さん…喧嘩、しないの?)

悪魔「あ、魔術師ちゃん食い終わってたんだァ~。それじゃ行こ行こ、この人達の食事の邪魔しちゃ悪いしィ」

魔術師「ぇ…ぁはい…」

勇者「ふん…」

悪魔さんは私の手を引いて店を出る。
その表情は、いつも通りで…。

魔術師「あの、悪魔さん…」

悪魔「ん、なーにィ?」

魔術師「怒らないんですか…?」

悪魔「ハァ?怒ってんよ?」

魔術師「え?」

悪魔さんは八重歯を剥き出しにして、凶悪な顔になる。

悪魔「魔術師ちゃんのことあァんな風に言われて、ムカつかねーわけねーだろがよォ!ファック!」

魔術師「ひええええぇぇ」ビクビク

悪魔「あ、わり」コロッ

68 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 17:06:08.09 ID:jvhyeX8K0
魔術師「ぁ悪魔さん…ごめんなさい」

悪魔「え何が?」キョトーン

魔術師「私の為に…その、痛い思いして…」

悪魔「なーに言ってんの、あンなヘナチョコパンチ痛いわけねージャン!血もうめぇし何も問題ナッシ~ング♪」

魔術師「けど…悪魔さん、やられっ放しで」

悪魔「イャハハハ!言ったろォ、あいつに恥かかすってさァ!そん時プギャーしてやりゃいいだけの話ィ~」

魔術師「でも」

悪魔「「でも」禁止ィ!!」

魔術師「!」

悪魔「俺様魔術師ちゃんには笑っていてもらいたいナー♪ハイ、ニコーッとしてニコーッと!」

魔術師「…ぐすっ」

悪魔「うわわぁ、どしたのォ!?」

魔術師「悪魔さん…どうして私に優しくしてくれるんですかぁ?」グスグス

悪魔「んぇ?」

69 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 17:06:45.27 ID:jvhyeX8K0
魔術師「確かに私は悪魔さんの封印を解きましたけど…」

魔術師「それでも悪魔さん…私のこと嫌わないでいてくれるじゃないですかぁ…」

悪魔「うん、だって好きだから」

魔術師「どうしてですか…?」

悪魔「どちてって?」

魔術師「私暗いし口下手だし何の魅力もないし…誰かに好かれない存在だって、自分が1番わかってます」

悪魔「ほー…?」

魔術師「なのにどうして、好きって言ってくれるんですかぁ…?」

とても恥ずかしい質問をしているとわかっている。それでも聞かないと気がすまない。
だってそうじゃないと、悪魔さんのことがいつまでもわからないような気がして。

悪魔「あーもうっ!!人間って物事を複雑に考えすぎィ!!」

魔術師「」ビクッ

悪魔「俺様が魔術師ちゃんを好きな理由?んなもん至ってシンプルだし!シンプルイズベストだしィ!!」

魔術師「シンプルな理由…?」

悪魔「顔と声」

魔術師「え」

70 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 17:07:35.57 ID:jvhyeX8K0
悪魔「内面なんて気にシナーイ!!俺様、見た目で人を判断しまァす、イャハハハ!!」

魔術師「逆じゃあ…」

悪魔「どんなに性格が綺麗でもブスは嫌いです」キッパリ

魔術師「あ、そこまで言い切ると清々しいですね…」

悪魔「だからアァ、魔術師ちゃんは俺様の好みど真ん中なワケェ!!チミは俺様のお姫様なのッ!!」

魔術師「お姫…さま?」

悪魔「そうそうッ!!もう俺様チミにゾッコンだから!!愛してるよォン魔術師ちゃん♪」

魔術師「ぇ、あ、でも…」

悪魔「「でも」禁止だって。なになに、どしたー?」

魔術師「ぁ悪魔さん私の為に色々してくれるのに…私、ほとんど悪魔さんの役に立てないし…」

悪魔「役?」

魔術師「魔王討伐だって…私も魔力を貸すけど、戦うのは悪魔さんだし…」

悪魔「魔術師ちゃんに戦いなんて危ねぇことさせるわけねぇだろォ!」

魔術師「だけど」

悪魔「「だけど」も禁止!いーい、チミにかっこいい所見せたくて俺様は頑張ってンの!それが俺様の活力なの!」

悪魔「俺様に「好かれたい」って思わせておくことが、魔術師ちゃんができる1番のことなンだぜ!!」

魔術師「悪魔…さん…」

71 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 17:08:02.22 ID:jvhyeX8K0
悪魔「それよりそれよりィ!今日もう暇じゃん、な、な!?」

魔術師「ぁはい…そうですね」

悪魔「デエェェ~ェトしようぜェ!!」

魔術師「デート…ですか?」

悪魔「魔術師ちゃんと思い出作りたいの~でぇとでぇと~」ジタバタジタバタ

魔術師「ちょっ道の真ん中で…皆見てますよ!?」

悪魔「ヘッ、見せつけてやってンだよッ!!」

魔術師「余計駄目ですよ!」

悪魔「いいから行こうぜ!そうすりゃ元気になれっかもよ!」ガシッ

魔術師「あっ…」

元気になれる…?

悪魔「魔術師ちゃんとので・え・と~♪」ルンルン

魔術師「…」

平気なふりしていたけど、やっぱりさっきの事が――
悪魔さんはそれに気がついてくれているのかな…?

悪魔「まずどこ行く!?俺様はね~、甘いもん食いたい!」

魔術師「…いいですね!」

72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 17:08:33.03 ID:jvhyeX8K0
勇者さん達にとって、いらない私でも



悪魔「ブルーベリー味超ウメェから食ってみ♪あ、回し食いは嫌いカイ?」

魔術師「ぁ、いえ!ありがとうございます」



悪魔さんは、私の事を見てくれている。



悪魔「どっちのピアスつけた方がイケメンに見えるゥ?」

魔術師「ぇと…悪魔さんこれ以上金属つけない方がいいと思います」



私の事を、好きでいてくれる。



悪魔「イヤッフゥ~、魔術師ちゃんに似合いそうな服みっけたー!!」

魔術師「えっ」(いやらしいやつとか!?)

悪魔「ホラこれ猫耳ローブ、にゃーんつって、にゃーんて」

魔術師「ぇ、あぁ…普通に可愛いですねぇ」

悪魔「コレ結構安いジャン、ペアルック用に2着買うかァ!」

魔術師「え!?悪魔さん着るんですか!?」

悪魔「着てみた。どおー?にゃーんにゃーん」チラッチラッ

魔術師「ふ、ふふふっ…」



それだけで、少し自信が持てた。



魔術師「悪魔さんたら、もぉ~…ふふふふ」

悪魔「イャハハハハハ!!」



私も悪魔さんに何かしてあげたい――そう思えた。

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/14(水) 17:10:07.35 ID:jvhyeX8K0
今日はここまで。
悪魔の台詞は一旦朗読して調整してます。楽しいです。傍から見ると異常者です。

74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/14(水) 17:23:48.74 ID:KdSdvD5Vo
ただの偏執狂だと思ったら至極真っ当なタイプの変態だった


79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/15(木) 00:43:08.73 ID:fN11po/xo
不器用な悪魔ですな


80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/15(木) 01:48:19.11 ID:jnc+uFhSO
何か悪魔のビジュアルが七つの大罪のバンで再生される

81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/15(木) 06:52:20.21 ID:eZlMzpBhO
この悪魔の姿は地獄に戻った時のアザゼルさんやな

82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/15(木) 07:35:45.52 ID:BOAjqLj4o
デスノートのリュークで再生してたわ

83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/15(木) 08:15:47.37 ID:jE7c8qEEO
俺、悪魔さんみたいな漢になりたいです

84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/15(木) 16:21:19.77 ID:C569Kz+DO
悪魔かっこいいな


85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/15(木) 18:27:35.70 ID:Wc/3qF370
>魔王城

暗黒騎士「お呼びでしょうか魔王様」

魔王「うむ…ドッカ塔に配属していた猫男爵が勇者どもにやられた」

暗黒騎士「はい…最近ますます力をつけてきているようですね」

魔王「このまま幹部たちをばらけさせていても、各個撃破されるだけだろう」

暗黒騎士「はい…」

魔王「そこでだ…勇者の襲撃に備え、幹部達を魔王城に集めようと思う」

魔王「勇者の襲撃の際は、お前が幹部達を率いてくれ」

暗黒騎士「かしこまりました」

86 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/15(木) 18:28:02.36 ID:Wc/3qF370
悪魔「イャハハハハ、そっかそっか、そりゃ都合がイイわあァ!!」

魔術師「悪魔さん、さっきから大きな独り言ですね…」

悪魔「あ?あぁ、暗黒騎士とテレパシー会話してンのよォ!」

魔術師「あぁ、そうだったんですか」

悪魔「ところでよォ、魔王からこんな(上での会話内容)って命令が出たそうだぜェ!!」

魔術師「ってことは…」

悪魔「そおォ!!勇者一行の行く手を阻むモノは魔王城に一挙集結、勇者どもの旅がスムーズになるっちゅーワケよ!!」

悪魔「俺様の見立てでは、あと一週間かかるかかかンねぇかってとこだな」

魔術師「ひええぇ、私全然心の準備がぁ」

悪魔「戦うのはオ・レ・サ・マ♪魔術師ちゃんは俺様を応援してくれてりゃいーのッ!!」

魔術師「悪魔さん修行とかしなくていいんですか…?」

悪魔「修行?ンなもんは能力のない奴がすることデース、俺様生まれた瞬間からレベルカンストしてっから!!」

魔術師「はぁ…そうですか」

悪魔「そだそだ、忘れてた!もしもーし暗黒騎士、勇者って今どの辺にいる?アッチの森らへん?あいわかったー、じゃあねー」

悪魔「ヨッシャアァ、ちょっくら行ってくるから肉じゃが作って待っててェ~ん」バサッ

魔術師「あ、悪魔さーん!…行っちゃった」

87 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/15(木) 18:28:31.68 ID:Wc/3qF370
>アッチの森

勇者「ふっふっふ、今日は野宿だな!」

魔法使い「あ、私木の枝拾い集めてくるね」

僧侶「すみません、よろしくお願いします」




魔法使い「ふぅー」

魔法使い(やだなぁ。野宿の時、勇者寝袋近づけてくるんだもん)

悪魔「コンバンハ~♪」

魔法使い「わっ!?…あ、貴方は確か…」

悪魔「ねぇねぇ奥さん、いい魔法あるのよォ」

魔法使い(奥さん?)「えっと、いい魔法?」

悪魔「これこれ、アタシ特性の映像魔法!」

魔法使い「映像魔法…?」

悪魔「そうそう。まずはアタシと鏡に魔法をかけるでしょォ、それから鏡を見て!」

魔法使い「あれ…?鏡に映っているの私の顔だけど…私と目が合ってない?」

悪魔「そうなのよォ、その鏡はアタシが目で映しているものを映しているのよォ」

魔法使い「へぇ凄い!それは情報の伝達がスムーズになりますね」

悪魔「しかも消費MPはたったの2P!」

魔法使い「えぇー、すごーい!?」

悪魔「奥さん、この魔法…タダで教えてあげるワ」

魔法使い「えええぇぇ、タダーッ!?」

悪魔(こいつぁーノリがいいぜ)

88 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/15(木) 18:29:06.99 ID:Wc/3qF370
魔法使い「でも…どうして?」

悪魔「あぁ、近々勇者一行魔王城に乗り込むジャン?」

魔法使い「そうですね」(口調が戻った…)

悪魔「この魔法があれば、勇者と魔王の戦いの様子を全世界の皆様にお届けできるっちゅーワケよ!」

魔法使い「あぁ確かに…皆、勇者の勇姿を見たいだろうし」

悪魔「だろォ?だーかーら、全世界の為にこの魔法を提供しようじゃあ~りませんかァ!」

魔法使い「うわぁありがとうございます。移動魔法で色んな街に行って、広めてきます!」

悪魔「ウンウン、あ、勇者には俺様からの提供だって言わないでくれよ?」

魔法使い「どうしてですか?」

悪魔「ホラ、こないだ俺様勇者と揉め事起こしてるし…俺様からの提供って知ったら勇者が嫌がるかもしれないジャン」

魔法使い「そうですね…でも仲直りのチャンスになるかも」

悪魔「いーからいーから!とにかく言わないで!な!」

魔法使い「あ、はい。ありがとうございました」

悪魔「おう。じゃあね~」



悪魔「プ…ククク…」

悪魔「イャーッハッハッハ!!うひゃ、うひゃ、げひゃひゃひゃひゃ」バンバン

悪魔「どヮハハハハハハ!!ぶゎっ、ぶひゃひゃひゃ、ヒィヒィ、うぇへへへへへへギシャシャシャ」ゴロゴロ

悪魔(笑う力使い果たした…)ズーン

89 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/15(木) 18:29:34.52 ID:Wc/3qF370
悪魔「ただいまー…魔術師ちゃん」ズーン

魔術師「あ、お帰りなさい…元気ないですね」

悪魔「あぁウンちょっと…ん、いい匂い」クンクン

魔術師「ぁ…肉じゃが作ってって言われたので…」

悪魔「…あ。肉じゃがだ」

魔術師「は、初めて作ってみたんですけど…」

悪魔「…」モグモグ

魔術師「…」ドキドキ

悪魔「うめぇ」

魔術師「えっ」

悪魔「超うめぇよ…こんなおいしい肉じゃが初めてだ」

魔術師「ほ、褒めすぎですよ…」

悪魔「おかわり…もらっていい?」

魔術師「ぁはい!今すぐ」

悪魔「…うめぇ~」

魔術師(すっごく味わってくれてる…!!)

悪魔「魔術師ちゃん」

魔術師「ハ、ハイッ!」

悪魔「好きだわ」

魔術師「っ!」ドキッ

90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/15(木) 18:30:02.05 ID:Wc/3qF370
その後悪魔さんは肉じゃがを完食して、後片付けすると寝てしまった。

悪魔「ぐぅぐぅ」

魔術師「…」ドキドキ

魔術師(あぁもう…悪魔さん、あんな真面目な顔で好きって…)

魔術師(いつもの悪魔さんじゃないーッ)キャー

悪魔「むにゃむにゃ…魔術師ちゃぁん…」

魔術師「…」

魔術師(悪魔さんの目的はまだわからない事だらけだけど…)

魔術師(私は…悪魔さんのサポート頑張ろう)

魔術師(…新しい料理覚えよう、うん!)グッ

91 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/15(木) 18:30:31.22 ID:Wc/3qF370
>そして

悪魔「勇者が魔王城に近付いているみたいだァね~」

魔術師「本当に1週間くらいでしたね」


暗黒騎士『魔王軍幹部が集結した。勇者との戦闘に集中するから、その間に魔王様の所へ行け』

悪魔「あぁ暗黒騎士ィ、俺様が合図したら…ごにょごにょ」

暗黒騎士『何だと!それは』

悪魔「オーク」

暗黒騎士『…わかった』


魔術師「な、何かまた恐ろしい会話してませんでした…?」

悪魔「何でもない、何でもイャハハハハ。それよりも勇者一行は…あ、来た来た、隠れろ」

魔術師「ぁはい」

92 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/15(木) 18:30:59.15 ID:Wc/3qF370
勇者「遂に来たな…魔王城!」

戦士「あぁ…へへ、血が燃え滾ってるぜ」

僧侶「魔王を倒し、世界を平和に…!」

踊り子「うふふ、勇者と対立したこと、後悔させてあげるわよ」

魔法使い「…行きましょう!」


悪魔「ぷ…ぷぷ…」

魔術師「何で笑ってるんですか悪魔さん」ヒソヒソ

悪魔「い、いや…は、はらいて…」

悪魔(全国放送されてるから顔作ってやがんのォ~、ブサイクのくせにマジウケるぅ)ククク

魔術師「あ、勇者さん達魔王城に乗り込みましたよ」

悪魔「おうっ!俺様たちも突撃ィ!」

93 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/15(木) 18:31:40.17 ID:Wc/3qF370
暗黒騎士「勇者一行…よくぞここまでたどり着いたな」

勇者「お前達に用はない!邪魔をするならお前達を倒して行くぞ!」

暗黒騎士「愚かな…お前は魔王様の元へ辿り着く前に、ここで死ぬのだ!!」

悪魔『わかってるよね?オーク』

暗黒騎士「わかっている…念を押すな」ズーン

勇者「何か言った?」

暗黒騎士「何でもない!行くぞ勇者!」



一方私と悪魔さんは魔法で透明化し、勇者さん達が戦闘している横を通り抜けて走る。
悪魔さんが事前に潜入調査したお陰で、魔王の場所までのルートはわかっている。

悪魔「敏感な奴なら透明化してても魔力や気配で察知できっからなァ。主力が全員戦闘に集中してくれてるお陰で楽チンにいけるぜェ」

魔術師「でも、魔王には察知されているんですよね?」

悪魔「あァ。ま、魔王も勇者じゃない侵入者は甘く見てンだろーよ」

魔術師「あううぅ、怖くなってきました~」ブルブル

悪魔「魔術師ちゃん、そこの壁の前に立って」

魔術師「ぇ、あハイ…」

悪魔「俺様が…守ってやんよ」壁ドンッ

魔術師「…くすっ」

魔術師「さぁ行きましょう!」

悪魔「緊張が解けたならオーケーイエェ」

94 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/15(木) 18:32:15.93 ID:Wc/3qF370
>魔王の間

魔王「ククク…勇者一行の他にネズミが2匹紛れ込んでいるようだが、いいだろう…我が迎え撃ってやろう」

魔王「近くまで来ている…!!わかる…わかるぞ…!!」

魔王「さぁ、その姿を現すがいい!!」

バァン

魔王「来たか…!!」

悪魔「ハイ、どーもおぉ」パチパチ

魔王「!?」

悪魔「いやー遂に来ましたねぇ魔王戦!流石ですよこの空気、ピリピリっとしちゃって、ねぇ~」

魔術師「えぇ、緊張しますねぇ…」

悪魔「緊張!そう緊張して思わず失敗しちゃう、そんなシーンありませんか?」

魔術師「まぁありますけど…例えば?」

悪魔「敵に間違って「お母さん」って言っちゃったり」

魔術師「いやいや敵とお母さんは間違えないでしょう!」

悪魔「貴方は幸せな家庭に育ったんですね…」ズーン

魔術師「むしろそっちはどんな家庭で育ったんですか!?」

悪魔「あ、ほらあそこにお母さんが!」

魔王「…」

魔王「何だ貴様らは」


魔術師(そりゃそういう反応ですよねー!!だからやだったんですよー!!)

95 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/15(木) 18:32:51.83 ID:Wc/3qF370
悪魔「お母さーん俺様俺様ー!」

魔王「ふざけているのか」

悪魔「ハァン?小物とのバトルなんて真面目にやってられっかよォ、ふざけねーとやってらんねェぜ」

魔王「ほう…我が小物と?」

悪魔「まァ~だ身の程がわかってねェみてェだ、しゃーねぇ、俺様がチョメチョメしてやンよォ」

魔王「ふっ…いいだろう、丁度退屈していた所だ、相手してやろう」

悪魔「ヘッ、一生忘れられない思い出にしてやンよ」

悪魔「魔術師ちゃん」スッ

魔術師「はい!」ギュ

手を握る。魔力が悪魔さんに吸い取られていく。
これが悪魔さんの力の源となる…応援を込めて、私は強く強く握った。

悪魔「イャハハハハハハ!!キタキタキタァ、射精しそうな程にギンギンだゼエェェ!!」

魔術師(やっぱり最低)シクシク

魔王「ほう…先ほどまでとは段違いだな」

悪魔「オゥ!!イクぜ魔王ォ!」

悪魔さんは翼を広げ、天井ギリギリまで飛び立った。

96 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/15(木) 18:33:23.99 ID:Wc/3qF370
悪魔「まずは伝統芸能…白銀の豪雨!!」

魔王「!!」

天井を突き破り、無数の槍が魔王に向かう。暗黒騎士と戦った時と同じ技だ。

魔王「ふん!」

悪魔「ヒョォ~♪」

魔王は魔法で壁を作り、槍を全て溶かした。

魔王「脆弱だな」

悪魔「お前の防御手段を探る為の小手調べだよ、言わせンなよ恥ずかしい」

魔王「ほう…?では次はどうする気だ」

悪魔「こうだね!」

次は雷。これも暗黒騎士と戦った時の手段。

魔王「覇っ!」ブォン

魔王から魔力の塊が放たれ、雷とぶつかり相殺された。

悪魔「遊べるジャン魔王、こうでねェとつまンねぇな」

魔術師(悪魔さんにはまだ私の知らない技がある…どうするつもり?)

悪魔「ヨッシャ、爪勃起ィ!」ジャキーン

魔術師「その技名やめて下さい!!」

97 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/15(木) 18:33:50.22 ID:Wc/3qF370
悪魔「遠距離じゃもどかしいから、近距離でイクぜエェェ!!」ビューン

魔王「…」

悪魔さんは魔王めがけて急降下。
魔王はそれでも動じず、一瞬で剣を召喚し…。

魔王「ふん!」ガキィン

悪魔「イャーハッハッハ!!」

爪と剣の激しい打ち合いに、カキンカキンと音が鳴り響く。
悪魔さんは大笑い、魔王は真剣無表情――どちらも押されている感じはなく、ほとんど互角だろうか。

魔術師(でも…)

2人の動きをじっくり見ると、悪魔さんが回避している回数が多いように見える。
やはり爪と剣では、長い分剣の方が有利なのか。

魔王「覇ぁ!」ビュッ

悪魔「おうっと」

首に放たれた魔王の一撃を、後方に飛んでかわす。
そのまま悪魔さんは空中へと逃げた。

魔王「逃げるつもりか?」

悪魔「ちっげぇし!作戦タイムだしィ!」

魔王「そうかそうか…だが、そんな暇はないぞ」

悪魔「あァん?」

魔術師「…あっ!?悪魔さん、周りの空気!」

悪魔「…うおぉ!?」

悪魔さんの周囲には、いつの間にか黒い霧がまとわりついていた。

98 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/15(木) 18:34:15.95 ID:Wc/3qF370
悪魔「何じゃこりゃっ」

悪魔さんはその辺を飛び回るが、黒い霧は悪魔さんにまとわりついて離れない。

魔王「邪神よ…我に力を」

魔術師(え、邪神!?)

邪神の力といえば…

魔王「邪神の咆哮よ鳴り響け…審判の檻!!」

悪魔「うおぉ!?」

魔術師「!!」

悪魔さんにまとわりついていた黒い霧は球体となって、悪魔さんを中に閉じ込めた。
悪魔さんは中から球体を叩いたり攻撃しているが、球体はびくともしない。

魔王「審判の檻は、処刑場の役目を果たす」

悪魔「処刑場だァ…?」

と、その時。

悪魔「ひぎゃあああぁぁ!?」

魔術師「きゃっ!?」

球体の中で雷や炎が渦巻き、悪魔さんを焼いていた。

魔王「そこからは出られまい…そのまま死ね!」

99 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/15(木) 18:34:51.34 ID:Wc/3qF370
魔術師「あ、悪魔さあぁぁん!!」

悪魔「ひぎぎィ…じゃ、邪神よ…!!白銀の豪雨アーンド鳴神ィ!」

悪魔さんが手を挙げる。
先ほど同様無数の槍と雷が、今度は悪魔さんの球体に向かっていった。
球体に当たった槍は弾かれる。それでも2本、3本と次々に球体を突いた。

そして…

悪魔「ぎゃほっ!!」

球体を突いていた槍と雷が少しずつひずみを与えたのか、球体は弾けた。

悪魔「ぜェ…ぜェ」

魔王「ほう…思ったよりは頑丈なのだな」

魔術師「あ、悪魔さぁん…!!」

悪魔「大丈夫だゼ魔術師ちゃん…褐色のイイ男になっちまっただけさァ…!!」

悪魔さんはニカッと笑ったが、肌はどう見ても大火傷を負っている。

魔王「だが次は…」

そして魔王が空に手を掲げたと同時――

悪魔「――っ」

次々と降ってきたものが悪魔さんの姿をかき消した。
降ってきたもの――それは、無数の槍。

悪魔さんと、同じ技だ。

魔術師「悪魔さああぁぁん!!」

先ほどまで悪魔さんがいた、無数の槍の刺さっている位置に向かい、私は叫んだ。

100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/15(木) 18:35:22.75 ID:IRI6O7XDO
ああ…もう助からないのか(棒)

101 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/15(木) 18:36:35.14 ID:Wc/3qF370
半端ですがここまで。
悪魔の容姿は話題になる前にイメージを落書きしたら、中途半端なV系のチャラ男になりました。
悪魔への好意的なコメントは、作者も嬉しいです~。

102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/15(木) 18:37:59.13 ID:IRI6O7XDO
乙!

103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/15(木) 18:45:37.45 ID:Jn2t2AvEo
悪魔たん最高

104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/15(木) 19:16:59.70 ID:JlmQvvskO
(悪魔の方が邪神と仲良さそうだよね)

105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/16(金) 06:54:38.40 ID:R41vkMdGO
一途なアザゼルさんやないですかー

106 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 09:53:56.36 ID:KjdnCb8X0
魔王「さて…」

魔術師「!」

魔王がこちらに振り返る。

魔術師「あ…ぅ…」ガタガタ

私は…情けないことに、魔王に睨まれただけで少しも動けない。
何とかしないと――だけど頭が真っ白だ。

魔王「魔王に逆らう愚か者共が…」

魔術師「う、うぅ…」


私は――

107 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 09:54:25.15 ID:KjdnCb8X0
悪魔『一緒に魔王をブッ倒そうぜ!!そして勇者に恥をかかせて、俺様たちは愛の終着駅へ一直線って計画よオォォ!!』

魔術師『どこから突っ込めばいいんですか!?』


ここにいるのは、私の意志じゃない。


魔術師『わ私まだ魔王を倒すと決めたわけじゃ…』

悪魔『ほぇ~?魔術師ちゃん、魔王倒す為に勇者と旅してたんでしょ~?』


悪魔さんはお節介で私をここへ連れてきた。


悪魔『俺様の力を貸してやる。全盛期の俺様は、勇者なんかより強いからな』


それでも悪魔さんは、


悪魔『チミにかっこいい所見せたくて俺様は頑張ってンの!それが俺様の活力なの!』

悪魔『俺様に「好かれたい」って思わせておくことが、魔術師ちゃんができる1番のことなンだぜ!!』


いつも私の為を思ってくれていた。

108 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 09:54:52.86 ID:KjdnCb8X0
魔術師「く…ぅ…」

私は立ち上がる。

魔王「覇ぁ!!」

魔術師「…っ!!」

とても怖いけれど――

魔術師「シールド…!!」バチバチッ

魔王「…ほう」

私も、立ち向かわなければならない。

魔術師「火炎魔法っ!!」

ゴオオォォッ

魔王「ふん!」ブンッ

魔術師「…です」

魔王「…ん?」

守られているだけの自分は、もう嫌だ。

魔術師「私が…相手ですっ!!」

109 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 09:55:33.29 ID:KjdnCb8X0
魔術師「火炎魔法、樹氷魔法っ!!」

魔王「…」ブンッ

私の魔法は魔王の腕に容易に振り払われる。
それでも私は、攻撃の手を緩めなかった。

魔術師「諦めません…!!」


悪魔『俺が、チミの居場所になってやるから』


今の私には、居場所がある。

魔術師「だから私、絶対諦めない!!」





魔王「――ふっ」

魔術師「…っ!!」

110 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 09:56:19.88 ID:KjdnCb8X0
一瞬だった。
一瞬で魔王は、私の背後に回り込んでいた。
その一瞬で私を殺せただろう。だけど、魔王はそれをしなかった。

魔王「雑魚が足掻く様は滑稽だな」

それが魔王の余裕。私と魔王の差。

魔術師「…っ」

魔王「すぐに奴の後を追わせてやる」

魔王が手を振り上げる。
私は――逃げられない。

魔術師(それでも…)

私は戦った。立ち向かうことができた。

魔術師(悪魔さん――私、)

強く、なれたかな――?

魔王「死ね…!!」





悪魔「それだけはさせらンねェなァ」

魔術師「っ!?」

111 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 09:56:50.79 ID:KjdnCb8X0
魔王「貴様…!!」

悪魔さんが魔王の腕を掴む。

悪魔「言ったろ、俺様が戦うって…でもォ!!」

魔王「っ!?」

悪魔さんが魔王の腕をひねり上げたと同時、ベキィと嫌な音がした。
魔王の腕は、変な方向に曲がっている。

悪魔「よく頑張ったなァ、魔術師ちゃん」

魔術師「…悪魔さぁん」

涙。こんな時に。
それは悪魔さんが目の前にいる安心の為なのか、緊張が解けた為なのか――

だけど、それと同時だった。


魔王「貴様…っ!!」

悪魔「…ぅ!?」

魔術師「――っ!!」


魔王の腕が、悪魔さんの胸を貫いたのは。

112 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 09:57:17.95 ID:KjdnCb8X0
悪魔「が…っ!!」

悪魔さんが口から血を大量に血を吐き、そこに倒れた。

悪魔「ハァ、ハァ…」

魔術師「悪魔さぁん!!」

悪魔さんの容態は――全身火傷に、槍に刺されたような傷、それに今の攻撃。
どれもダメージが大きく、回復させる手段もない。

魔王「ク…悪魔風情が、目障りな真似をしおって…」

魔術師「悪魔さん、悪魔さあぁぁん!!」

叫び声に反応はない。
悪魔さんから溢れ出る血は止まらず、その顔はどんどん血の気を失っていく。

魔術師(このままじゃ…)

113 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 09:57:44.62 ID:KjdnCb8X0
悪魔『よし決めた!俺様、チミの使い魔になっちゃるよ!』

悪魔『あー、俺様の全盛期の力を出せりゃ何とかなると思うンだけど、何せ寝すぎて調子が悪ィ』

悪魔『そォこォでェ、チミの魔力を貸ちてくだちゃい♪』


何で?何で今、悪魔さんとの思い出が浮かぶの?走馬灯?冗談じゃない――!!
何とかしないと――


悪魔『魔力魔力!魔力貸して!』


魔力…そうだ魔力!!


悪魔『ンー』

魔術師『…?』



――――!!


そうだ、この方法がまだ――

114 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 09:58:25.72 ID:KjdnCb8X0
魔王「お別れは済んだか…?」スゥ

魔術師「悪魔さん…」



悪魔『俺様魔術師ちゃんには笑っていてもらいたいナー♪ハイ、ニコーッとしてニコーッと!』

悪魔『もう俺様チミにゾッコンだから!!愛してるよォン魔術師ちゃん♪』

悪魔『魔術師ちゃん、好きだわ』



魔術師(貴方は私なんかを好きと言ってくれた)

魔術師(私も――)

魔王「…!?」



魔術師「んっ――」



悪魔『魔力の譲渡方法だよ。ちゅーして、ちゅー』

魔術師『でででできませんよそんなのぉ!』



今なら、貴方の為に――


悪魔「……キタキタぁ…」

115 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 09:59:47.23 ID:KjdnCb8X0
悪魔「うしゃああアアアァァッ!!」

魔王「な…!?」

魔術師「悪魔さん…!!」

悪魔「完・全☆ふっっっかあぁつ!!」

魔王「お、お前…今まで喰らった傷は…!?」

悪魔「ハァ?おみゃーさん馬鹿かね、傷なんてェのは治るモンです」

魔王「馬鹿な!?一瞬で完治など」

悪魔「ハァー…雑魚の常識に当てはめてンじゃねェよ!!」ビュン

魔王「!?」



悪魔「魔術師ちゃんはここで見てなー♪」

魔術師「ぁはい…」

悪魔さんは私を、魔王から離れた位置に下ろす。

魔王「何だ…今のす早さは!?」

悪魔「無駄口叩いてンじゃねエエェェ!!」バキィ

魔王「…っ!?」

魔王は悪魔さんの一撃に吹っ飛ばされた。

116 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 10:00:41.51 ID:KjdnCb8X0
悪魔「ホントはもっと色んな技あったが…完全体になったことだし、雑魚ごときお決まりの技でいいや」

魔王「何だと…!?」

悪魔「俺様お気に入りの、白銀の豪雨ゥ!」

先ほどと同様、天井を破る音が聞こえる――しかし

魔王「!?」

その槍1本1本が、先ほどのよりも大きくなっていた。

悪魔「しかも1本1本に纏っている魔力もケタ違いでェす…♪行けやアアァァ!!」

魔王「ぐ…っ!!」

槍は魔王へと襲いかかる。
魔王は壁を作るが――槍は、壁をぶち破る!

魔王「クッ」

防ぎきれないと判断したのか、魔王は槍を回避する。

悪魔「唸れ、鳴神イィィ!!」

魔王「が…っ!!」バチバチィ

悪魔「どったのォ~?雷気にする余裕無かったァ?」ケケケ

魔王「く…この程度では倒れん!」

悪魔「…ったりめーだろ、倒れねェように加減したンだからよ」

魔王「!!」

瞬時――悪魔さんは魔王の目の前に移動する。

悪魔「殺さねェが…死にかけろやアアァァァッ!!」

バリバリバリバリッ

魔王「が…っ!!」

そして悪魔さんは暗黒騎士を倒した時と同じ方法――だけどその時とは比べ物にならない威力の雷を、魔王に浴びせた。

117 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 10:01:22.30 ID:KjdnCb8X0
魔王「が…」バタッ

悪魔「オイコラ、加減してやったンだから気絶すンなよ?仮にも魔王なら気張れや」ガッ

魔王「く…」

悪魔さんは倒れた魔王の頭を踏みつける。

魔王「貴様、何者だ…!?」

悪魔「あぁ?」

魔王「我と同じ邪神の力を使い…しかし我より上を行く…」

魔王「邪神の加護を受けし者は、魔王が最高位のはず…!!」

悪魔「あぁ~」

魔術師(それそれ…私も気になっていたの!!)

悪魔「…魔術師ちゃん、暦上じゃ今何年だっけ?」

魔術師「え…?645年ですが」

悪魔「そだそだ。それじゃエート…俺様は102年間眠ってたワケだな」

魔王「102年…!?」

魔術師(え、何…!?)

魔王「102年前といえば…歴代最強の…」

悪魔「その頃俺様はこう呼ばれていたなァ…」

悪魔「「悪魔王」と」

魔術師「え」

118 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 10:01:48.41 ID:KjdnCb8X0



勇者「どうしたんだろうな、魔王軍幹部達いきなり引っ込んで」

僧侶「さぁ…?まぁ、何にせよ好都合じゃないですか」

戦士「よっしゃー!魔王まで一直線だぜ!!」

踊り子「魔法使いちゃん、バッチリ撮影できてる~?」

魔法使い「えぇ!バッチリよ!」

勇者「魔法使い、あまり正面から俺を見ないで…そうそう、その角度その角度」

魔法使い「あ、うん」

戦士「大して変わんねーって」ボソッ

僧侶「あ、あの扉じゃないですか!」

踊り子「よしっ…突入ねっ♪」

勇者「行くぞーッ!!」

一同「「オーッ」」



バァン

120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/16(金) 10:04:39.57 ID:eqlCKSy2o
乙乙
これは悪魔はわざとですわ
チュ~してもらうためにですわ

121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/16(金) 10:19:55.21 ID:UbHO2YV5O
悪魔様策士すぎぃ!
掘られてもいい

122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/16(金) 11:34:42.01 ID:SxrpFT++O
遅めの乙。
今のところこのまま悪魔と魔術師ちゃん幸せ結婚ENDと
事を終えたらあっさり乗り換えで魔術師ぼっちENDは想像つくな

123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/16(金) 12:28:17.07 ID:DM3YZccbo
>>121
オーク俺「その気持ちわかるわー」

131 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 16:27:59.63 ID:KjdnCb8X0
悪魔「じゃ、俺様に従うのね?いいのね?」

魔王「ハハァ!歴代最強の悪魔王様であれば何ら問題はございません!」

悪魔「じゃあ今日から魔物の支配者は?」

魔王「貴方様で御座います!!」


戦士「…えーと」

勇者「何…やってんのかな?」

魔術師「あ、勇者さん」

悪魔「いよォ、そのショボ面は勇者様かぁ!!」

勇者「だっ誰がショボ面だ!何でお前がここにいるんだ!?」

悪魔「あ、魔王は俺様が倒したから」

勇者「は」

悪魔「で、今日から俺様が魔王だから」

勇者「へ」

悪魔「そいで、人間と和平結ぶから」

勇者「な」

悪魔「じゃ、帰れ。チミ用済み」

勇者「」

132 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 16:28:28.14 ID:KjdnCb8X0
勇者「ふ、ふふふふざけるなあああぁぁ!!」

戦士「えーと…アンタが従えてるそいつが魔王だよな?」

魔王「それは先ほどまでの話だ。我はこの方に負け、この方に従うことにした」

悪魔「そゆこと~♪」

勇者「ま、まままま待てえええぇ!!納得せんぞおぉぉ!?」

悪魔「どちてよー。平和になったンだし、いいジャン」プー

勇者「そ、そいつが人間達に攻撃を仕掛けてた元凶だろぅおぅ!?」

僧侶「そうですよね…元凶がお咎めなしってのは人間達から見れば納得はできないかも…」

悪魔「あ、そう」

悪魔「駄目でしょ!め!」ペシ

魔王「あだ」

悪魔「じゃ、帰れ。チミ用済み」

勇者「」

勇者「ふ、ふふふふざけるなよおおぉぉぉ…」

魔法使い(ああぁ…どうしよう、この映像流し続けて大丈夫なのかな…)

133 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 16:28:56.58 ID:KjdnCb8X0
勇者「俺達は今まで魔王を倒す為に苦労して…」

悪魔「知らんよ」

勇者「激闘の末ここまでたどり着き…」

悪魔「知らんて」

勇者「全部!無駄だったってことかあああぁぁ!?」

悪魔「ま、そういうこともあるよ」

勇者「戦わせろ…」

悪魔「はい?」

勇者「そいつ!魔王と戦わせろおおぉぉ!!」

悪魔「まぁいいけど」

悪魔「行ってこい、元魔王」ポン

魔王「はい」

魔術師(あ。今魔王に魔力注入した)



勇者「覚悟!!魔王オオォォォ!!」

ドガッバキッベキッ

魔術師(魔王パワーアップしてる…)

戦士「見事なやられっぷりだなぁ…勇者」

踊り子「どうする?加勢する?」

僧侶「でももう戦う必要はありませんし…」

魔法使い「うん、いいや」

134 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 16:29:44.67 ID:KjdnCb8X0
勇者「き、貴様…ぁ」ボロボロ

悪魔「プ…ククク…」

勇者「?」

悪魔「ダッセ、ダッセエエェェ!!「おれはいままでがんばったんだどー」つって魔王に挑んで、そいでボロ負けして!!かっこ悪ぃ、イャハハハハハハ!!アヒャ、アヒャ、げひゃひゃひゃ、ぶゎーっはっはっは!!」

勇者「」

勇者「お、お前…」プルプル

悪魔「あー?やンのォ?」

勇者「許さああぁん!!」バッ

悪魔「へっ」ヒュン

勇者「!?消え…」


ズルッ


勇者「」

魔術師「」

戦士「」

踊り子「」

僧侶「」

魔法使い「」

悪魔「チン丸出しィ~♪」

勇者「いぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ!?」

悪魔「イャハハハハ、アソコのサイズも、ヒィヒィ、お粗末でグォッハッハッハッハ」

勇者「ぃやめてえええぇぇぇぇ!!!」

魔法使い(全国に映しちゃった…)

135 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 16:30:40.63 ID:KjdnCb8X0
こうして世界は平和を取り戻し、

子供「あ、丸出しの兄ちゃんだ」

母親「シッ!」

勇者「」

人々は魔物に怯えることのない生活を送るようになった。


暗黒騎士「まさか貴方が歴代最強の魔王、悪魔王様でいらしたとは…」

悪魔「敬語やめろよ、友達だろォ?俺様はオメーらが人間を襲わなきゃそれでいいンだよ」

暗黒騎士「しかし…」

悪魔「オーク」

暗黒騎士「グッ…だが、何故102年もの間…」

悪魔「寝てたらいつの間にか封印されてた」

暗黒騎士「…それで最近になって目が覚めたと?」

悪魔「寝すぎた」テヘ

暗黒騎士「そして目覚めたお前は魔王の座を奪い返し、野望を…」

悪魔「あー、やめてくれ。歴代最強とか悪魔王とか色々言われてるけどよ」

悪魔「俺様は人間も平和も、大好きなンだよ」バサッ

136 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 16:31:09.14 ID:KjdnCb8X0
悪魔さんが悪魔王として君臨してから、城には人間の働き手が出入りするようになった。

悪魔「魔術師ちゃ~ん♪」

魔術師「あ、悪魔さん。今お昼作ってる最中です」

私も住み込みで働いている。
悪魔さんの希望で、彼の食事を作っている。

悪魔「いーのいーの、お料理してる魔術師ちゃんを見に来たンだから、ゆっくりやってェン♪」

魔術師「いいんですかぁ、お仕事あるんじゃ」

悪魔「大体のことは魔王に任せておきゃいーの!俺様生粋の怠け者で、チミに心奪われた下賤な使い魔でーす☆彡」

魔術師「もぉ、私に使い魔は必要ありませんよ」

悪魔「ガガーン、魔術師ちゃんに見捨てられちったー」イジイジ

魔術師「そうじゃないですって~」

悪魔「わかってる」ニィ

悪魔王になっても、悪魔さんは悪魔さんだ。
相変わらず私を大切にしてくれるし、何も変わらない。

悪魔「魔術師ちゃん魔術師ちゃん」

魔術師「何ですかぁ?」

悪魔「ちゅっちゅして、ちゅっちゅー!」

魔術師「もぉ、甘えん坊ですねぇ悪魔王ともあろう方が」

悪魔「チミのちゅっちゅは、あくまおーの活力なのォ!ンー、ンー!!」

魔術師「もぉ~…」



魔術師「んっ――」

悪魔「――」

137 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 16:31:39.28 ID:KjdnCb8X0
悪魔「イャハハハハ、俺様今日も元気いっぷあぁぁぁい!!魔術師ちゃん、飯食ったらデートしよ、デート!」

魔術師「えぇー、流石に魔王さんや暗黒騎士さんに怒られるんじゃ」

悪魔「俺様以外の男の名前を呼ぶなよォ!!」

魔術師「なーに言ってるんですかぁ」ツンッ

悪魔「あんっ」


平凡ではない彼。だけど手に入れたのは平凡な幸せ。


魔術師「私が思っているのは――わかっているでしょう?」

悪魔「オウッ!」ニカッ

魔術師「それじゃあ御飯作っちゃいますね。いい子だから待ってて下さいね?」ナデナデ

悪魔「ウン、待ってるゥ!!わんわん!!」

魔術師「うふふ」


私を傷つけることなく、満たしてくれる彼。彼のお陰で少しだけ強くなれた。


魔術師「お待たせしました、今日はビーフシチューですよ」

悪魔「うまそォ~!!ってかうめェ!!隠し味は愛情?愛情適量!?」


これから何があっても、彼となら歩いていける――


悪魔「ふえぇ、愛情飯全部食っちゃうの勿体無いよぅ」

魔術師「ふふ、そんな心配しないで下さい――」


彼が、今の私の居場所だから。


魔術師「私の愛情は、いくら食べても無くなりませんから」

悪魔「魔術師ちゃん」

魔術師「はい…?」




悪魔「俺様と魔術師ちゃんは、ずー…っと、一緒だかんな!」



Fin

138 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 16:32:06.20 ID:KjdnCb8X0
読んで下さった皆様ありがとうございました。
今作の悪魔には作者が萌えていたので、好意的な意見頂けてテンション上がりました。
かませな暗黒騎士も好きです。

139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/16(金) 16:33:52.60 ID:FIJOsTkCO
ハッピーエンドやったー!
おつかれさま!

後日談とかはないのかなぁ?(チラッチラッ

140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/16(金) 16:36:05.18 ID:QPW3y4OjO
乙!
悪魔王様マジイケメン

141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/16(金) 16:40:57.39 ID:aL2wh60o0

…オーク×暗黒騎士はまだですかね(ゲス顔)

142 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 16:43:21.75 ID:KjdnCb8X0
>>139
即興で考えてみます、しばしお待ちを

>>141
即興で考えてみま…いやいやいやいやいや

143 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 16:50:33.19 ID:KjdnCb8X0
即興ネタ~悪魔と魔術師のデート~


悪魔「ピィクニイイィィック、イヤッフォオオォォォ!!」

魔術師「いい景色ですねぇ」

悪魔「ホント、いい景色だぜ…あっ!」

魔術師「え?何かありました?」

悪魔「こォんな所に可愛いお嬢ちゃんが…って、魔術師ちゃんだったアアアァァ!!」

魔術師「も、もう悪魔さんたらぁ」テレテレ

悪魔「ウゥン、でもすっげーイイ空気だぜ、昼寝にゃ丁度いいな」チラッチラッ

魔術師「そうですねぇ…」ポカポカ

悪魔「魔術師ちゃん魔術師ちゃん、膝枕膝枕膝枕~!!」ジタバタジタバタ

魔術師「ええぇ、いきなりお昼寝ですかぁ!?」

悪魔「今日は誰も邪魔者もいねェし静かだし…お・ね・が・い♪」

魔術師「え、えぇと」テレテレ

ザザー

魔術師「あ、急な雨が」

悪魔「…」

悪魔「ちょっくらお天気の神様ブン殴ってくるわ」バッサバッサ

魔術師「え、えええぇぇ!?どこ行くんですか悪魔さああぁぁん!?」


悪魔王の交友関係は凄いなぁと思ったby魔術師

144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/16(金) 16:56:41.51 ID:Ur6zk1EZo
暗黒騎士さんの風呂シーンはまだでガスか

145 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/16(金) 17:00:45.36 ID:KjdnCb8X0
即興ネタ~暗黒騎士の風呂~

>魔王城大浴場

魔王「ふぅ、気持ちいいな」

暗黒騎士「…」ガラガラ

魔王「暗黒騎士!?」

暗黒騎士「あ、魔王様。…どうも」ペコリ

魔王「…」

暗黒騎士「…」

魔王「なぁ暗黒騎士」

暗黒騎士「何か」

魔王「何で…鎧脱がないの?」

暗黒騎士「…」

暗黒騎士(オークを気にしているなんて言えない…)

146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/16(金) 17:37:10.31 ID:eoFL79I2O
www

おつかれさまでした!

147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/16(金) 19:18:03.73 ID:yffpfzTQo
おつ

>>123
お前は掘られるのが好きなだけだろ

封印される前は魔術師みたいな相手居なかったのかな

148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/16(金) 19:21:03.72 ID:Tuux3kz5O

楽しかった

149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/16(金) 19:57:54.42 ID:a/WoByz40

また明日、新スレでな

150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/16(金) 22:24:02.19 ID:ZYAg6NYDO
お疲れさま!
楽しかったよ、悪魔さんもいいけど、やっぱ魔術師ちゃんも可愛いwww

151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/17(土) 00:05:48.77 ID:16BIcjQEO
上げて落とす本当の悪魔じゃなくてホッとした乙

人知れず笑う力を使い果たしたのに腹抱えて笑った

152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/23(金) 14:51:25.99 ID:CUpWpkmD0
面白かった!乙!遅れてるけど乙!

153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/24(土) 10:20:04.34 ID:gQm6DeZ/O
初めて見たけどすごく面白かったです
乙でした!
posted by ぽんざれす at 21:41| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

姫「勇者に魅力を感じない」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420079064/

1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 11:24:24.32 ID:n7nYUxI60
王「よくぞ来た勇者よ!久しぶりだな!」

勇者「最近は魔王軍の動きも活発になり活動報告もろくにできず、申し訳ありません」

王「お主の活躍は報告など待たずとも、自然とワシの耳に入ってくる!のう、姫や」

姫「えぇ」

勇者「姫様…」

姫「…」


姫(この特徴のない顔)

姫(戦いの連続で泥臭い格好)

姫(剣以外取り柄はなく)

姫(性格は飾り気がないっていうか純朴そのもの)

姫(悪いってわけじゃないけど…)


姫「勇者様、いつもご苦労さまです」ニッコリ

勇者「姫様!」パアァ

姫(これ位で喜ぶなんてモテない証拠だわー。まぁ男としての魅力感じないしねー)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420079064

2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 11:24:39.04 ID:n7nYUxI60
私は姫。勇者の生まれた中央国王家の一人娘。
お母様から受け継がれた美しい容姿と声で、人々から愛される正にプリンセス。

なのだけれど…。


メイド「勇者様の活躍、凄いですね姫様!」

兵士「勇者様のお陰で我々の士気も上がりますよ姫様!」

大臣「勇者殿がいればこの国は安泰ですね姫様!」

姫様(何で私にふる!?)

そう皆の魂胆はわかっている。
「魔王を倒した勇者は姫様と結ばれ、未来永劫国を守っていくのでした」というよくある展開を予想してるわけ。


手紙『姫様…毎日激しい戦いですが、貴方の笑顔を思い出して俺は頑張っています 勇者』

勇者も私が好きだ。


王「時代は逞しい指導者を求めているのかもしれんな」

お父様もすっかりその気だ。

だけれども…。


姫「無理無理無理!やっぱ勇者とは無理!!」

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 11:25:04.83 ID:n7nYUxI60
あぁ、何て断ればいいんだろう。下手な断り方をしたら勇者を傷つけてしまう。いや別に勇者が傷つくのはいいんだけれど、私の評判が下がるのは困るわ…。
何せ私は皆に愛されるプリンセス。いつでも美しく、優雅に、愛されていなければならないの。
国全体で勇者の人気が上がっている今、評判を気にせずに振る方法は無さそうだわ。

姫「あぁ、この姫にどうか好都合な展開を…」

毎晩お月様にそう祈るの。
だけれど願いは適わない…。白馬に乗った王子様(二枚目で高身長で強くて紳士的が最低条件)はやってこない…。
私って何て可哀想なプリンセス。
せめて夢で白馬の王子様に逢えればと願いながら、私は眠りに入る…。


ゴソ…

姫「…ん?」

とその時、人の気配がした。

姫「誰…?メイド?」

?「…静かに」

姫「!?」


暗くてよく見えないけれど、それは男性の声だった。

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 11:25:32.99 ID:n7nYUxI60
姫「だ、誰!?」

私はすぐに灯りをつけた。
だけどそれと同時…。

姫「!?」

私は目の前に立っていた誰かに口を塞がれる。

暗黒騎士「失礼…」

その男(声で判断)は黒くて物々しい全身鎧に包まれた姿で、私のすぐ目の前に立っていた。

姫(誰――!?なに、何なの!?)

暗黒騎士「姫様ですね」

私は首を縦に振る。

暗黒騎士「不躾で悪いが――俺と来て頂く」

姫「!?」

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 11:25:58.87 ID:n7nYUxI60
姫(これはもしかして…)

ある所に悪い騎士がいました。悪い騎士はお姫様をさらっていきました。
だけど勇者様は幾多の困難を脱し、悪い騎士を退治しました。
そして勇者様とお姫様はめでたく――

姫(冗談じゃない!!さらわれて助けられたら結婚コース一直線じゃない!!)ジタバタ

暗黒騎士「くっ」

私は精一杯暴れた。
この男に腕力では敵わないけれど、騒げば誰かが異変を察するかもしれない。

暗黒騎士「あっ!」

と、不意に私の手が暗黒騎士の兜に当たり、兜がずれた。
一体この不躾な男は、どんな顔をしているのか――




姫「………あら」

暗黒騎士「…っ」

姫「………」

暗黒騎士「………?」





姫(か、かかかかかかかっこいいいいぃぃぃ!!)

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 11:26:26.09 ID:n7nYUxI60
彼はとてもかっこよかった。
今まで沢山美しい王子や貴族の男性を見てきたけれど、彼らにはない野性的な逞しさも兼ね揃えていた。
私の口を塞いでいた手も大きくて逞しかったし、よく聞けば声も低い美声だ。

暗黒騎士「姫様」

姫「は、はい!?」

暗黒騎士「手にお怪我はありませんか…?この兜は特殊な金属でできていますから」

姫(しかも超紳士的いいいぃぃぃ!!)

姫「え、えぇ大丈夫です…!わ、私もごめんなさい、いえね、暴力を振るうつもりは無かったんですよ、本当に!」

暗黒騎士「いえ…こちらこそ怖がらせてしまって申し訳ない」

姫「そ、そそそれより貴方のことを教えて下さいません?」

暗黒騎士「俺は――」

暗黒騎士「魔王軍の1人、暗黒騎士」

姫「…!?」

ということは私をさらおうとしているのは、魔王――!?

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 11:26:55.21 ID:n7nYUxI60
姫(これはもしかして…)


~以下、妄想~

魔王「中央国の姫君は美しく聡明で品のある正に完璧な女だな!」

暗黒騎士「えぇ…あの美しさには魔王軍の者達ですら魅了されます」

魔王「そうだ!あの美しい姫を我の妻にしてしまおう、さらってこい!」

~妄想終了~


姫(いやあああぁぁぁ、さらわれればきっとあんな目やこんな目に)

暗黒騎士「手荒な真似はしません」

姫「!」

暗黒騎士「鏡が予言したのです…中央国の姫君が、魔王と勇者の戦いの鍵を握ると」

姫(勇者と魔王が私を取り合いするのね!?)

姫(あぁ、でも彼なら…)

暗黒騎士「ですから不本意でしょうが、一緒に来て頂」

姫「はい!是非一緒に!」

暗黒騎士「!?」

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 11:27:22.44 IDn7nYUxI60
姫「連れて行って下さい…あぁでも、私長い距離は歩けませんわ」

姫(お姫様だっこ!お姫様だっこ!)

暗黒騎士「…」

暗黒騎士(勇者を信頼している故の余裕か…肝の座った姫だ)

暗黒騎士「それなら…来い、飛龍」

バサッ

暗黒騎士「これに乗って頂く」

姫(お姫様だっこじゃないんだ)チッ

姫「そうだわ、待って」

暗黒騎士「どうなさいました」

姫「どれ位そちらにいるかわからないので、衣装やアクセサリーを持って行きたいんです」

姫「これとこれと~♪」

暗黒騎士(肝が座りすぎだろう)

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 11:27:48.93 ID:n7nYUxI60
姫「持ちました、さぁ行きましょう」

飛龍「グ、グリュリュ~…(通訳:重っ)」

暗黒騎士「では飛び立つ」

バサバサッ

姫「…」

暗黒騎士(悲哀に満ちた顔だ…)

姫(もし勇者が魔王に勝ったら私は勇者の嫁コースか…)

姫(かといって魔王が勝ったら人々は蹂躙される)

姫(てか魔王の嫁にされるかもしれないし)

姫(詰んだわ)シクシク

暗黒騎士(やはり本音では、敵にさらわれるのは恐ろしいか)

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 11:28:17.02 ID:n7nYUxI60
魔王「ほほう、評判通り美しい姫君だな…この姫君が我と勇者の戦いの鍵を握るか」

姫(ないわー、おじさんだわー)

魔王「暗黒騎士、部屋に案内してやれ」

暗黒騎士「はっ」





姫「私、これからどうなるのでしょう…」

暗黒騎士「多少不自由でしょうが、悪いようにはしません。」

姫「だけど怖い…あの魔王、私を襲ったりしないでしょうか」

暗黒騎士「約束します。誰一人として貴方に手を出させません」

姫「貴方になら…」

暗黒騎士「え?」

姫「い、いえ何でもありません」

姫(軽い女だと思われたらマイナスだわ…落ち着いて。私はプリンセス、プリンセス)

暗黒騎士「では、何かあれば城の者におっしゃって下さい」

姫「あのぅ」

暗黒騎士「何でしょう」

姫「怖くて眠れないのです…少しだけ、側にいて下さいませんか?」

暗黒騎士「…えぇ、いいでしょう」



>10分後

姫「すやすや、うふふふふ」

暗黒騎士(熟睡した)


12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/01(木) 11:30:35.88 ID:4NGQurtno
支援
いい雰囲気

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/01(木) 12:05:36.36 ID:/Ko5IuyAO
姫 大概にせんと婚期逃がすコース

14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/01(木) 12:06:06.83 ID:HQnlumOeO


15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/01(木) 12:44:21.98 ID:yV0YfAJDO
これは…姫、絶望にしてもらうかざまぁwwwして欲しいだな

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 13:45:56.60 ID:n7nYUxI60
>翌日

姫「さて…」

いまいちな朝食を平らげ、今後のことを考える。
勇者と魔王のことはさておき、しばらく暇だ。
かといって魔物の徘徊する城内を歩き回るのも気が引ける。

窓の外を見る。外には魔王軍の者達が集結している。朝の訓練だろうか、これは自国の兵たちもやっていた。

姫(あ、暗黒騎士)

暗黒騎士が兵の群れから前に出てきた。
もう1匹、大柄の獣のような魔物が前に出てくる。
2人は前に出ると、向かい合って構えた。

姫(手合わせかしら…でも体格差がかなりあって、暗黒騎士が不利じゃあ)

魔物A「始めっ!」

獣「グルアアアアアァァァ!!」

暗黒騎士「…遅い」

獣「!?」

姫「!!」

暗黒騎士は一瞬で獣の後ろに回り込み――

獣「グハッ」

暗黒騎士「峰打ちだ」



姫「………」

姫「やっぱりかっこいいいいぃぃぃぃ!!」

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 13:46:24.82 ID:n7nYUxI60
>それからしばらく

暗黒騎士「ふぅ、今日もいい汗かいたな」

姫(よし訓練終了!暗黒騎士がここを通るわ)

~♪

暗黒騎士「…ん?」

暗黒騎士「姫か」

姫「~♪」

暗黒騎士「歌声についての評判は聞いていたが、本当に素晴らしいな」

魔物A「ですねぇ」ウットリ

姫(さぁ聞きなさい!そして私に惚れなさい!)

魔物B「暗黒騎士様、魔王様がお呼びです」

暗黒騎士「そうか、すぐ行く」

姫「………」

姫(魔王め余計な邪魔を)チッ

魔物A「あ、あれぇ?歌もう終わっちゃったの?」

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 13:46:51.19 ID:n7nYUxI60
姫(あーあ、何の楽しみもないしかったるいわー)

?「ちょっと!」ドンドン

姫「え?」

ドアが乱暴に叩かれる。何者かと、私は身構える。

?「失礼するわ!」バーン

と言って、女の魔族が入ってきた。

姫「ど、どなた?」

?「あぁ、ごめんなさいいきなり」

?「私は魔王の娘の魔姫!中央国のお姫様って貴方のことよね!?」

姫「えぇ、まぁ」

魔姫「やっぱりね!たまたま近くを通りかかったんだけれど、素敵な歌に誘われて来ちゃったの」

姫「まぁそうですか」

魔姫「ねぇ、もっと聞かせてよ!」

姫「…」

魔姫は目をキラキラ輝かせている。この魔姫、なりは派手だけれど純粋そうだ。
見た所私と同年代だろうし、姫同士話が合うかもしれない。

姫「まぁ、いいですよ」

魔姫「やったぁ!」

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 13:47:17.85 ID:n7nYUxI60



魔姫「あぁ~、姫の声本当素敵~。私も歌やっていれば良かったわぁ」

姫「今からでも遅くはありませんよ」

姫(私には敵わないでしょうけどね)

魔姫「そっちの国はどんな感じ?やっぱりお姫様はあんまり自由無い感じ?」

姫「私は不自由さは感じていませんよ…まぁ、結婚相手は自由に選べないかもしれませんが」

魔姫「姫って勇者と結婚する予定じゃないの?」

姫(それが不自由ってことだよ!!)

魔姫「こっちも私一人娘だから、自由に選べないかもしれないわ…」

姫「ん」

いやな予感がピーンときた。

姫「魔姫さんももしかして決まった相手が…」

魔姫「決まったっていうか、お父様が見初めている相手はね…」

姫「…それってもしかして」

魔姫「昨日貴方をさらってきた、暗黒騎士よ」

姫(何てこったあああぁぁぁぁぁ)

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 13:47:45.20 ID:n7nYUxI60
姫(いい男にはいい縁談かあああぁぁ!!)

魔姫「けれど…私はその気になれなくて」

姫「抵抗しましょう!自分を主張しましょう!」

魔姫「や、やっぱりそうした方がいいかしら?」

姫(あんないい男を逃がすなんて、フフフ…愚かね)

姫(…待ってよ、少なくとも私より暗黒騎士を知ってる魔姫さんが嫌がるってことは、暗黒騎士に何か重大な欠点が?)

姫「ところで、彼のどこが嫌なんですか?」

魔姫「いえ…顔は整っているし強いし、男性としては素晴らしいことはわかっているんだけれど」

姫(そうよね、そうよね!!)

魔姫「何ていうか、その…」

魔姫「もっと、親しみやすい人がいいなって」

姫「………」

姫(全ッ然欠点じゃないわ!!)

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 13:48:12.11 ID:n7nYUxI60
姫「では、魔姫さんはもっと親しみやすい人がいいんですね?」

魔姫「そうね…それに私、貴方みたく綺麗でもないし秀でていることもないし」

姫「魔姫さんとても綺麗な方ですよ」

姫(私程じゃないけれど)

魔姫「ありがとう。…私自信ないから、暗黒騎士みたいな美形は気が引けるの」

姫「つまり平凡な顔立ちがいいと」

魔姫「あと暗黒騎士の鎧も威圧感あって苦手で」

姫「あぁ、もう少しフランクな格好の」

魔姫「でも強いのは大事よね」

姫「そうですねぇ」

魔姫「それで性格は話しやすくて、素朴な人だといいなぁ」

姫「親しみやすいですね」

魔姫「でもいないわよね、そんな人…」

姫「…」

姫「います」

魔姫「えっ!?」

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 13:48:42.45 ID:n7nYUxI60
魔姫「貴方の知り合いにいるの…?」

姫「えぇ!」

姫(その辺にウジャウジャいるタイプだけれどね)

姫(けど、ピンポイントで当てはまる人がいたわ…!!)キラーン

姫「そうだ魔姫さん、私の話も聞いて頂けないかしら?」

魔姫「え、えぇ」

姫「実は私…」

姫「昨晩…暗黒騎士にいかがわしいことを!」

魔姫「!?」

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 13:49:09.43 ID:n7nYUxI60
魔姫「な、な、何てことを…!!姫に手を出すなと言っておいて自分は…許せないわ!!」

姫「待って、誰にも言わないで下さい…それが他の人に知られたら私、私…」

魔姫「けれど」

姫「ですがどういう形であれ、初めて夜を共にした男性には寄り添っていかねばなりませんわ」

魔姫「そ、そんなしきたりが…」

姫「…」

姫(いかがわしいこと=人の寝室に入ってきたこと)

姫(夜を共にした=夜、一緒に飛龍に乗ってきた)

姫(嘘はついてませ~ん)

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 13:49:35.46 ID:n7nYUxI60
姫「それに私…彼のこと、悪い方だと思いませんわ」

魔姫「ま、まぁ…確かに無駄な殺生を嫌うし、魔王軍全体から信頼を寄せられている男よ…。姫にそんなことしたとは信じられない位ね」

姫「あとは彼の気持ちさえ私に向いて下されば、私、彼と生涯を共にしても構いません…」

魔姫「姫…」

姫「ですので魔姫さん…協力頂けないでしょうか」

魔姫「…私って最低ね」

姫「え?」

魔姫「本当なら貴方を止めないといけないのかもしれないけれど…」

魔姫「暗黒騎士が貴方に惚れてくれれば、私は暗黒騎士との縁談を断れるかもしれない…」

魔姫「そんな風に考えてしまうの…最低よね」

姫「そんなことありませんよ」

魔姫「え…?」

姫「初対面の魔姫さんにこんなお願いできたのも、貴方が純粋ないい方だとわかったからです…。それに自分の気持ちに素直でいることが、悪いことだとは思えません」

魔姫「姫…」

魔姫「…うふふ、ありがとう。そう言われたら姫の為に頑張っちゃいそう」

姫(本っ当に純粋ですねええええぇぇ!!)

姫(私の方が打算的なのよね~)

姫(まぁ自分の気持ちに素直でいることは悪いことじゃないし~)

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 13:50:02.18 ID:n7nYUxI60
>そんなんで城外

魔姫「ねぇ姫、城外を案内してほしいってどういうこと?」

姫「まぁ、気分転換ですね」

魔姫「そう。…あ、そこの土の色変わっている所踏んだら駄目よ」

姫「え?」

魔姫「落とし穴があるのよ、城への侵入者って大体ここの道通ってくるから」

魔姫「でも魔王軍の者も落ちないように土の色が微妙に違うから、ひっかかる人はめったにいないんだけれどね」

姫「あら、うっかり踏まなくて良かったわ」

姫「…」ソッ

姫「さぁさぁ城に戻りましょう」

魔姫「あら、もういいの?」

姫「えぇ、私体力なくて」

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 13:50:30.08 ID:n7nYUxI60
>それでもって

魔姫「ねぇ暗黒騎士」

暗黒騎士「如何致しました」

魔姫「姫を見なかった?」

暗黒騎士「見ていませんね」

魔姫「そう…どこ行っちゃったのかしら」

暗黒騎士(逃げたか…?いやまさかな、城の周囲は警備が固い)

暗黒騎士(だがどこに行ったのか…)

暗黒騎士(…部屋に戻っているかもしれない。先に部屋を訪ねてみよう)スタスタ


姫「きゃあああぁぁ」ガシャーン

暗黒騎士「!?」

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 13:51:09.80 ID:n7nYUxI60
姫「あ、ああぁ」

暗黒騎士「どうされた!」ダッ

姫「い、今戻ったんだけれど、誰かが私の部屋の中に…」

暗黒騎士「不審者か…そいつはどこに!?」

姫「大声をあげたら窓から逃げて行きました…あぁ、でも…」ガタガタ

暗黒騎士「くっ」

暗黒騎士(魔王軍の誰かが俺の命令を無視して部屋に潜んでいたか…!?)

姫「私、もう安心して眠れませんわ…」ブルブル

暗黒騎士(誰だ…!?見当もつかん!!)

暗黒騎士「申し訳ありません…姫様周りの警備を強化致します」

姫「嫌です!その警備の方も信用できません!」

暗黒騎士(それもそうだな…)

暗黒騎士(何かが起こってからでは遅い)

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 13:51:38.41 ID:n7nYUxI60
姫「暗黒騎士様…」

暗黒騎士「はい」

姫「貴方は私の悲鳴を聞いて、すぐに駆けつけて下さいました…貴方だけは信用できます」

暗黒騎士「左様ですか…」

姫「…そうだわ」

姫「暗黒騎士様、貴方が私の側についていて下さると心強いですわ!」

暗黒騎士「俺が…ですか」

暗黒騎士「しかし俺は魔王様の命令で動かねば…」

姫「ううぅ、安心して眠ることもできない環境なんて…このままでは私気がおかしくなって、自害してしまうかも…」

暗黒騎士「ま、待って下さい!」

暗黒騎士「わかりました…魔王様に頼みます」

姫「あぁ…私のわがままを、ありがとうございます…」ギュッ

暗黒騎士「ひ、姫様…」

暗黒騎士「では…1人でいては危険なので、共に魔王様の所へ参りましょう」

姫「えぇ…」

姫(魔姫様ありがとう!)グッ

魔姫(上手くやってね!)物陰からグッ

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 13:52:23.21 ID:n7nYUxI60
魔王「そうか、そのような不届き者が…。それはいかんな。暗黒騎士、お前が姫君を守ってやれ」




姫「意外と話のわかる方なんですね」

暗黒騎士「姫様位の年頃の娘を持つ父親ですからね」

姫「でも本当にいいんですか?…暗黒騎士様、魔姫様と婚約されているとか」

暗黒騎士「あぁ」

暗黒騎士「その話は俺から何度か断っています。魔姫様にもその気は無いようですし」

姫「マーソウナンデスカー」ボウヨミ

姫「…でも暗黒騎士様のお気持ちは?」チラッ

暗黒騎士「俺も…そうですね、同じです」

姫「魔姫様は好みではないんですか?」

暗黒騎士「俺の好みは…」

暗黒騎士「おっと、この話はやめにしましょう」

姫(そこから先が知りたいんですけれどおおぉぉぉ)

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 13:52:48.69 ID:n7nYUxI60
姫(まぁいいわ、暗黒騎士の好みがわからなくても私の魅力で)

暗黒騎士「所で姫様、姫様の歌が魔物達の間で評判が良く」

姫「まぁ、聞かれていたんですか!」

暗黒騎士(結構大声で歌っていた気が)

姫「あのぅ…ご迷惑でなければ、私の歌を聴いていて下さいませんか?」

暗黒騎士「俺がですか?」

姫「えぇ…。聴いて下さる方がいた方が、身が入りますの」

暗黒騎士「それなら是非…お聴かせ願えますか」

姫「はい」

姫「~♪」

暗黒騎士(おぉ…)

姫(はい魅了されちゃって下さーい)

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 13:53:55.49 ID:n7nYUxI60
中断。
ノッてるので今日中に完結できる…といいな。

32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/01(木) 14:19:39.41 ID:VqjUtY8uO
また、あんたかw

でも、勇者が主人公じゃないのか、珍しい

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:04:57.29 ID:n7nYUxI60
>夜

姫「こんな夜までお相手ありがとうございます…。お仕事もあるでしょうに」

暗黒騎士「いえ、姫をお守りするのも仕事ですから」

姫「では、そろそろ寝床に入ろうと思いますが…」

暗黒騎士「部屋の外で張っています。慣れているので、俺は仮眠を取りながらでも異変が起こればすぐにわかります」

姫「まぁ頼もしいです。それでは…」

姫「すやすや」

暗黒騎士(相変わらず寝つきが良い)

姫「…」

姫(美しい姫が無防備に寝姿を見せているわよ!今ならコッソリあんなことやこんなこともできるわ!)

姫「あ、あぁん」

暗黒騎士「ウッ…」

暗黒騎士「くっ、いかんいかん…」スタスタ

姫(あら何もせず行っちゃった…でも)

姫(硬派で紳士的な証拠ねぇ)

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:05:24.88 ID:n7nYUxI60
魔物A「暗黒騎士様」

暗黒騎士「どうした」

姫「…うん?」

部屋の外で話し声が聞こえた。

魔物A「実は…勇者一行が魔王城に向かっているとの事です」

暗黒騎士「姫を救いに来たのだな」

姫(えー、来なくていいって)

魔物A「今日は1番近くの街に宿泊しているようですが、このままなら明日の昼頃には魔王城に到達するかと」

暗黒騎士「そうか…」

姫(だが勇者の思惑は阻止する!)

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:05:52.18 ID:n7nYUxI60
>翌日

姫「おはようございます暗黒騎士様」

暗黒騎士「おはようございます、よく眠れましたか」

姫「えぇ、お陰様で」

姫「でも暗黒騎士様、気を張っていてお疲れでは…」

暗黒騎士「気にせずに。姫様の元を離れるわけには参りません」

姫「あ、なら私は魔姫さんと一緒にいますわ。なので暗黒騎士様はお休み下さい」

暗黒騎士「魔姫様と?」

姫「えぇ、彼女と一緒にいれば妙な事をする方はいないでしょう」

暗黒騎士「それもそうですね…」

暗黒騎士「では、2時間程度離れますが、あまり動き回らぬよう」

姫「えぇ、わかりました」ニッコリ

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:06:17.65 ID:n7nYUxI60
>そして城外

魔姫「本当に昨日、この辺で髪飾りを無くしたの?」

姫「えぇ、もうこの辺りしか心当たりが…でもすみません、探すの手伝わせてしまって」

魔姫「気にしないで。貴方の大事な髪飾りだものね」

姫「えぇ」

姫(勇者から贈られたもので1回もつけたことないけどね)

魔姫「あら、あれじゃない?」

姫「え、どこですか?」

魔姫「ほら、あそこの」

姫「よく見えません」

魔姫「じゃあ近くに行ってみましょう」

姫「はい」

トコトコ

魔姫「ほら、これ…」

姫「あぁっ足が滑ったぁー!」ドンッ

魔姫「!?」

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:06:43.75 ID:n7nYUxI60
魔姫「痛た…」

姫「きゃあああぁぁ魔姫さんごめんなさい、まさか落とし穴にはまってしまうなんてええぇぇ」

魔姫「気にしないで、怪我もないし」

姫「でもそこからじゃ出てこれませんよね魔姫さん」

魔姫「そうね…姫、悪いんだけれど助けを呼んできてくれない?」

姫「はい!今すぐに!」ダッ

姫「…」

姫(まずは成功!)

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:07:11.37 ID:n7nYUxI60



勇者「見えてきたな、魔王城が」

戦士「うむ」

魔法使い「早くお姫様を助け出さないとね!」

僧侶「頑張りましょう!」

姫(来た来た…何も知らずノコノコと、バカどもめ)ククク

魔法使い「姫様を助け出したらプロポーズするんでしょ勇者?」

勇者「お、俺にそんな勇気は」テレテレ

戦士「ハッハッハ!勇者は奥手だなぁ!」

僧侶「まぁ姫様を前に緊張するのはわかりますよ」

勇者「そうなんだよね…俺、女性をあまり知らないものだから、あんなに綺麗なお姫様の前だと一層緊張しちゃって…」

勇者「でも姫様の笑顔は俺に力を与えてくれるというか、俺の癒やしというか…」

勇者「俺…剣以外取り柄のない男だけど、姫様の為なら何だって頑張れるんだよ」

戦士「勇者…」

姫(月並みな感想である)

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:07:39.43 ID:n7nYUxI60
勇者「んっ…?あれは俺が姫様に贈った髪飾り!」

姫(気付くの早っ!まぁいいわ)

姫(私のこと大好きすぎる貴方に送るハニートラップ――)

姫「きゃああああぁぁ!!」

勇者「!?姫の声だ」ダッ

魔法使い「あっ勇者!」





勇者「うわああああぁぁぁぁ…」

僧侶「きゃああぁ、勇者さんが落とし穴にーっ!」


姫(注意力散漫ジャストフィイイイィィィット!!)

41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:08:08.33 ID:n7nYUxI60
勇者「いてて…」

魔姫「…あのぅ」

勇者「…ん?」

魔姫「その…手、胸…」

勇者「!!!わわっ、スミマセン!!」バッ




戦士「おーい勇者大丈夫かー」

勇者「あ、うん、大丈夫!でも穴が深くて出られそうにない…」

魔法使い「仕方ない、急いで戻ってロープを持ってきましょう」

僧侶「待ってて下さいねー」


勇者「ごめんな皆ー」

魔姫「…勇者?」

勇者「え?」

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:08:35.47 ID:n7nYUxI60
魔姫「貴方がお父様と敵対している勇者?」

勇者「えっと…君はもしかして魔王の…?」

魔姫「ハッ!しまった」バッ

勇者「あ、いや、別に君に危害加えるつもりはないから!」アワアワ

魔姫「…え?」

勇者「俺は自分に危害を加える魔物しか斬りたくないし…」

勇者「き、君みたいに綺麗な人は斬れない…」ボソボソ

魔姫「…」

勇者「…って、何言っちゃってるんだよ俺!!とにかく君には何もしないから!」

魔姫「え、えぇ」

魔姫(これが勇者…想像より、普通の男の子って感じね)

勇者(くぅ~参ったなぁ、こんなに綺麗な人と狭い所で2人きりなんて…)

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:09:11.36 ID:n7nYUxI60
勇者「あ、あの、君も穴に落ちちゃったの?」

魔姫「えぇ…。姫が髪飾りを落としたと言うから、一緒に探してたらうっかり…」

勇者「姫様!?姫様と一緒に!?」

魔姫「そうなの、姫とは同年代だから仲良くなって」

勇者「そうか…姫様のお友達なら、君はいい人だね」

魔姫「私は魔王の娘よ」

勇者「それでも、心細くしている姫様と仲良くしてくれたんだから、俺にとってはいい人だよ」

魔姫「そ、そんな」

勇者「…なんて、俺ごときが図々しいか。俺と姫様じゃ不釣り合いだ」

魔姫「そ、そう?」

魔姫(まぁ華やかな姫に比べれば勇者は純朴そうでちょっと合わないかもしれないけど)

魔姫(でもこの勇者、話していると結構安心する…)

魔姫「ねぇ、助けが来るまでお話し相手になってくれない?」

勇者「え、えぇ、俺で良ければ!!」



姫「…」

姫(よし!)ガッツポーズ

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:09:39.35 ID:n7nYUxI60
姫「暗黒騎士様!」

暗黒騎士「どうされました姫様」

姫「魔姫さんが落とし穴に落ちてしまって…」

暗黒騎士「何だって!今すぐ魔王軍の者達に救出命令を出します」

姫「あぁすみません、こんな騒ぎにしてしまって…」ウゥ

暗黒騎士「いえ。やはり俺が貴方についているべきでした」

姫「えぇ、私もう貴方の側を離れませんわ」ピッタリ

暗黒騎士「あの姫様…それはくっつぎすぎかと」

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:10:31.27 ID:n7nYUxI60
>それで少しして

魔物A「暗黒騎士様」

暗黒騎士「どうした」

魔物A「落とし穴に勇者もいたそうで、魔物達に袋叩きにあったそうです」

姫(うわー)

暗黒騎士「勇者が!?それで、殺したのか」

魔物A「いえ、捕らえて魔王様の前に引きずっていかれました」

暗黒騎士「そうか、俺も行く」

姫「私も行きます」

姫(さーてトドメ…じゃなくて最後の仕上げ)

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:11:05.44 ID:n7nYUxI60
魔王「フハハ間抜けな勇者だ!どうだ今の気分は!」

勇者「くぅ…無念」

魔姫「お父様…」ハラハラ

暗黒騎士「只今参りました。…そいつが勇者ですか」

姫「勇者様…」

勇者「あっ、姫!」

姫「…」

この時私を見ていたのは勇者だけだった。今が好機!そう思った私は作戦を実行した。それは――

勇者(姫様が冷たい目で俺を見てる…) )

勇者(うわあああぁぁぁぁ失望されたああああぁぁぁぁ)

姫(初めっから何一つ期待してなかったけどね)

暗黒騎士(どうしたんだ勇者、急に苦しみだしたぞ)

47 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:11:34.22 ID:n7nYUxI60
魔王「まぁ勇者は公開処刑だな」

魔姫「ま、待って下さいお父様!」

魔王「どうした魔姫よ」

魔姫「彼はお父様の宿敵である勇者――ならせめて、一騎打ちで勝負をつけるべきです!」

魔姫「戦わずして勝利を収めるなんて、魔王の名折れです!」

魔王「ふむ、それもそうだな…」

魔王「いいだろう…勇者の縄をとけ、我が相手してやる」

姫「いいんですか魔姫さん、勇者様が勝ったら貴方のお父様が…」

魔姫「で、でも…だけど…」

姫(魔姫さん、勇者のことそれなりに気に入ったようね)

姫(それなら私が何とかしてあげましょうか!)

48 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:12:03.38 ID:n7nYUxI60
勇者「ダハッ」

魔王「ふん、仲間がいなければお前の力などそんなものか」

勇者「まだまだ…俺は人々の希望を背負っているんだ…!!」

姫(但し私を除く)


姫「あぁ、このままじゃ勇者様が負けてしまいますね」チラッチラッ

魔姫「…えぇ、そうね」

姫「魔姫さん、もしかして勇者様のことが…」

魔姫「な、ななな何のこと!?」

姫「あら私の勘違いでしたか…いえね、魔姫さんの勇者様を見る目が違ったもので」

魔姫「!?」

魔姫(わ、私ったらそんなに態度に出ていたの!?まさか、自分でも気付かない内に勇者を…)

姫(ほんっ……と~に素直で純粋な人ですね)ニヤリ

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:12:30.17 ID:n7nYUxI60
姫「ねぇ知ってます?もし勇者様を倒しても、神は次の勇者を選ぶそうですよ」

魔姫「まぁ…そう言われているわね」

姫「つまり勇者様を倒した所で戦いは終わらないんです」

魔姫「そう…ね」

姫「魔王軍は終わらない戦いをお望みですか?」

魔姫「いいえ…今の勇者より強い勇者はもう現れないだろうと言われているし、それなら今の勇者を倒して世界を手に入れてしまおうという魂胆なはずよ」

姫「それでも人々の希望である勇者はまた生まれる」

姫「そうなれば戦いは終わらない」

魔姫「…」

魔姫「もしかして、これは不毛な戦いなのかしら…」

姫「えぇ…私はそう思いますよ」

姫(いやー魔王軍頭いいわー。それ実行されたらたまんないわー)

50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:13:12.41 ID:n7nYUxI60
魔姫(終わりのない不毛な戦いが続くなんて、辛すぎる…!!)

魔姫(私は…そんなもの望まない!)

魔姫「お父様!」バッ

魔王「どうした魔姫。そこに立っては危ないぞ」

魔姫「この勇者を倒しても、また新しい勇者が生まれ、戦いは終わりません!」

魔王「しかし今の勇者より」

~以下、姫と魔姫が交わした会話の再現~

魔王「ふむ…つまりこれは不毛な戦いと…確かにな」

魔姫「争いを続ければ両者共ボロボロになっていくばかり…私はそんなもの望みません」

魔姫「私がお父様から継ぎたいものは魔王軍の武力ではなく…魔物達が笑顔で過ごせる国です」

魔王「魔姫…」

勇者(魔姫様…何て心の美しい人なんだ)

魔王「しかし我の先代より続いた勇者との争いを今更止めることはできん。急に争いをやめた所で誰も納得は…」

姫「そんなことありませんわ!」

魔王「!?」

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:13:39.22 ID:n7nYUxI60
姫「ありますよ、穏便に争いを止める方法が」

魔姫「本当、姫!?」

暗黒騎士「ほう…」

魔王「問おう…その方法とはいかなるものか?」

姫「それは…」




姫「勇者様と魔姫様が結婚することです!!」

勇者「!?」

魔姫「!?」

魔王「!?」

暗黒騎士「!?」

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:14:06.78 ID:n7nYUxI60
姫「いいですか、勇者様は人々の英雄…その英雄が魔王軍に囚われ殺されそうになった」

姫「それを止めるよう嘆願した魔姫さんはこう言われることでしょう。何て慈悲深い方なんだ、彼女が勇者様を救ってくれた女神か、と!」

姫「なので勇者様の結婚相手として、魔姫さんは受け入れられることと思います」

勇者「だけど魔物達が俺を認めないんじゃ」

姫「大丈夫ですよ、カリスマ性のある勇者様なら魔物達にもすぐ受け入れられるでしょう」

勇者「そ、そうですか?」

姫(いや別に魔物達が勇者を認めようが認めまいが私は知らないし)

魔王「1番大事なことを忘れているな」

姫「あら何でしょう」

魔王「魔姫の気持ちだ…魔姫には納得のいく相手を」

魔姫「私は構いませんわ…お父様」

魔王「!?」

53 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:14:34.01 ID:n7nYUxI60
魔姫「勇者とはさっき少し会話しただけなのですが…」

魔姫「勇者には惹かれるものがありました…それが彼のカリスマ性なのか、それとも男性としての魅力かはわかりませんが」

勇者「!?」カァーッ

魔姫「和平の為彼と結ばれること…私は少しも嫌じゃありませんわ」

勇者「で、でも…うわああぁどうしよう」

勇者(俺は姫様がっ…)チラッ

姫「」ギロ

勇者(目が冷てえええぇぇぇ!!)

勇者(そうだよな…こんな情けない俺、幻滅するよな)ガックシ

勇者(それに魔姫さんも俺には勿体無いくらい綺麗で心の美しい人だし…)

魔王「むぅ…しかしだな」

暗黒騎士「…俺も賛成です」

魔王「暗黒騎士!?」

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:15:02.42 ID:n7nYUxI60
暗黒騎士「魔王様もご高齢で、後を継ぐ魔姫様は魔王軍を率いるには優しすぎるお方です」

暗黒騎士「ですので、ここで和平を結ばれるのが魔姫様の為かと」

魔王「魔姫の為…か」

魔王「勇者よ」

勇者「はい!?」

姫(魔王相手に敬語になる勇者がいるか)

魔王「お前の気持ちはどうだ?」

勇者「お、俺は…魔姫さんは俺に勿体無い位の方だと思いますが…」

勇者「でも俺も平和を望みます…魔姫さんが俺なんかでもいいと言うのなら…」

魔姫「勇者…」

勇者「魔姫さん…」

魔王「むうぅ…」

姫「魔王様!どうか貴方の愛する娘の言葉を聞き届けて下さい!」

姫(はよ決断しろ!)

魔王「勇者よ…魔姫は我の大事な一人娘」

魔王「魔姫を泣かせるようなことがあれば…」

魔王「その時こそ、貴様を人間達の見せしめとして葬ってくれるぞ」ギロリ

勇者「は、はいお義父様!」

姫(よっしゃああああぁぁぁ!!)ガッツポーズ

55 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:15:38.46 ID:n7nYUxI60
魔姫「ありがとう!これも姫のお陰よ!」

姫「あらあらそんな」

姫(最初から最後まで計画通りだったわ)

魔姫「でも…鏡の予言は当たりだったわね」

姫「鏡の予言?…あぁ、そういえば」

魔姫「魔王と勇者の戦いの鍵は、貴方が握っている…」

暗黒騎士「そうか…姫様の存在が、この戦いに終止符を打つということだったのか」

勇者「そうだったのか!!姫様、やりましたね!」

姫「そ、そうですね」

姫(意図せず…私すごー)

魔王「そうと決まれば…国王に書を送れ!一人娘の結婚式は盛大にやるぞ!!」

魔姫「もうお父様ったら」

姫(フフ…まぁいいわ、そんなことよりも)

56 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:16:05.46 ID:n7nYUxI60
暗黒騎士「姫様…お礼を申し上げます」

姫「はい!暗黒騎士様ぁ」

姫(これで暗黒騎士はフリー!!後はじっくりジワジワ魅了していけば…)

暗黒騎士「これで俺も肩の荷が降ります」

姫「えぇ、これからは自由ですわぁ」

暗黒騎士「はい…これからは自分の気持ちに素直に生きることができる」

暗黒騎士「愛する人に、自分の気持ちを伝えることができます」

姫「愛する人ぉ!?あらやだ暗黒騎士様、私達まだそんな…」

暗黒騎士「ありがとうございました姫様!」ダッ

姫「えっ」

57 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:16:31.57 ID:n7nYUxI60
暗黒騎士「…魔物A!」

魔物A「暗黒騎士様?どうされ…」

暗黒騎士「好きだ!」

魔物A「!!」

暗黒騎士「もう俺は自分の気持ちを偽らない…俺はずっとお前を想っていた…!!」

魔物A「暗黒騎士、様…」ブルブル

魔物A「嬉しいです…!私も、貴方のことが…!!」

暗黒騎士「魔物A!」ギュッ




姫「」

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:16:59.75 ID:n7nYUxI60
その後勇者は魔姫の元に婿入りし、人間と魔物は和平条約を結んだ。
まだ人間と魔物の間にある溝が完全に埋まったとは言えないが、今の所目立った問題は起こっていない。


魔姫「勇者…愛しているわ」

勇者「俺も…今は君だけを愛している」

魔王「まぁ色々あったが、魔姫が幸せならそれでいいだろう」

王「平和が1番だな」


長く続いた争いは1人の姫によって終焉を迎えた。
その平和が永遠に続くかどうかはわからない。だからこそ、彼らはこの平和を保とうと努力するのだ。

これからどんなことがあっても、2人は乗り越えていくだろう。

2人が愛し合っている限り、永遠に―――





fin








おまけ

姫「私は妥協して見合いでもしよう」

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/01/01(木) 15:18:00.76 ID:n7nYUxI60
お付き合いありがとうございました。
姫様は書いてて楽しいキャラでした。

60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/01(木) 15:18:41.62 ID:VqjUtY8uO
まさかモブとくっつくとはw

61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/01/01(木) 16:07:15.65 ID:HOro5vj8o
乙です
話もオチも面白かった

62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/01(木) 16:15:05.28 ID:QacRs9eao

妥協出来るのは良いことだ

64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/01(木) 19:06:58.64 ID:2XKBAA0EO
乙です
姫様はお見合いしても結婚できなさそう…

65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/01(木) 20:36:53.09 ID:w4mcOKOoO


暗黒騎手×女勇者の長編を是非是非お願いしたい
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/01(木) 20:40:35.35 ID:QacRs9eao
闇の競馬か

68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sageteyon]:2015/01/01(木) 21:12:11.99 ID:4GbH2zMvO
初笑い乙

69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/03(土) 12:39:16.81 ID:LaDYPhrYo
暗黒騎士×勇者のホモENDだと思ってたは
posted by ぽんざれす at 21:40| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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