2015年09月04日

魔女「不死者を拾いました」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1418455154/

2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/13(土) 16:19:58.01 ID:iUTgApp50
森の奥深くに入ってはいけません。
何故なら、森の奥には魔女がいるからです。
魔女は人を惑わし、人の心臓を食べてしまうのです。


子供「どうして魔女はそんな事をするの?」


牛が草を食べ、鳥が虫を食べるのと同じ事――魔女にとっては、それが当たり前の事だから。
人と似ていても、魔女は人とは違うのです。


子供「そうなんだ…」

子供「だけど、人にも色んな人がいるように」

子供「魔女にも、怖くない魔女がいるんじゃないのかな」

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/13(土) 16:20:32.60 ID:iUTgApp50
狩人「ヒッ」

魔女「…」


森で薬草を摘んでいると、たまたま人に遭遇した。
だけれどその人は私を見た途端、恐ろしいものに遭遇したかのように逃げ出していった。

魔女(あの格好は狩人さんかな…猛獣や魔物を狩るのが仕事なんだよね)

それなら私は、猛獣や魔物より恐ろしい存在ということか。

魔女(私、何か悪い事したっけ…)

思い返す。
人に危害を加えた事はないし、勿論心臓を食べた事なんて無い。
とはいえ、魔女が人を惑わし、人に危害を加えてきた歴史があるのも事実。

魔女(結局の所)


魔女だから――それが唯一で、絶対に崩す事ができない人間との壁。

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/13(土) 16:20:59.12 ID:iUTgApp50
不老不死である魔女は「気が向けば」別の物に転生できる。
最後の知り合いが転生してから何年、いや何十年間、ずっと私は孤独。人々から嫌われ、森の奥で隠れるように魔術の研究に没頭する日々を送る。
いっそ私も――そう思う事もあるが、私はまだこの世に未練を残している。

森にはよく落し物が落ちている。その落し物の中にある、本を読むのが私の楽しみでもあった。
その中でも私は、特に恋愛小説を好んだ。
王子と姫、幼馴染の男女、身分違いの恋、波乱万丈な恋――空想の人物の恋愛模様に、胸を躍らせていた。
そして思う。私を嫌う人間達はこうも感情豊かで、様々な生き方をしているのだと。

勿論それは人間の御伽噺。魔女である私が体験できるものではない。

だけれど物語に憧れを抱きながら、変わらない毎日を過ごすのも、悪くはなかった。



魔女「あぁ、そう言えば」

そろそろ研究に必要な花が咲いている頃だろうか。
私は支度をし、花の咲く滝の麓へと向かうことにした。

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/13(土) 16:21:37.10 ID:iUTgApp50
道中には魔物がいる。魔物は人を襲うが、魔女は襲わない。

魔女(今日はいい天気だなぁ)

人間では恐ろしくて歩けないであろう、魔物の徘徊する道を散歩気分で歩く。
こういう道ではたまに、魔物に襲われたであろう人間の死体が落ちている事もある。人間の死体の一部も、使おうと思えば研究素材になる。
だけど人間の体の一部で開発される魔術とは人を呪う物だったり、不幸を呼び起こすような物騒なものばかりで、私とは縁が無いものなのだ。
よって、死体が落ちていた時は大人しく手を合わせるだけにしておく。もっとも、魔女に手を合わされても迷惑なだけかもしれないが。

しかし今日は、そうではなく…


ガラガラッ

魔女「ん?」

ドザザーッ

魔女「…!?」

男「つっ…」


崖から瀕死の人間が落ちてくるなんてレアな体験だ。前例が無いせいで、どうすればいいのか本当に困った。

魔女(放っておいたら死んじゃうよね…)

魔女は人間に嫌われている。だからと言って見捨てるのは良心が痛む。
私はボロボロの彼に駆け寄った。

魔女「大丈――えっ!?」

そして、ありえないものを見た。

男「…」

彼の首は喉元をすっぱりと切られていた。
それは人間なら即死する筈の傷で、にも関わらず彼は脂汗を滲ませて苦しそうに喘いでいる。つまり――


魔女「貴方はもしかして――不死者?」

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/13(土) 16:22:07.82 ID:iUTgApp50
>つい先刻…

勇者「遂に追い詰めたぞ…!」

不死者「…ふん」

不死者「昔俺と戦った時と違い、お前はもう魔王と戦えるレベルになったんだろう?」

不死者「そんな勇者様が俺ごときにご執心とは、どうかしてるな」

勇者「黙れ!お前に敗北の屈辱を味わわせてやる!」

不死者「そんな事して何になる?それにわかっているだろう、俺に剣を突き刺した所で――」

勇者「黙れって言ってんだよ――ッ!!」

不死者「…ッ!!」

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/13(土) 16:22:35.29 ID:iUTgApp50
不死者「ふぅ、ふぅ…」

魔女(首の傷口が塞がっていく…)

喉が塞がってようやく呼吸できるようになったのか、彼は思い切り酸素を吸っていた。
人間から不死者になった者の特徴は外見的にはわからない。傷が塞がれば、只の人間の戦士に見える。

魔女(で、でももう大丈夫って事よね…私がやる事は特に)

不死者「ふ、ふふふ…ははははは!はーっはっはっは!!」

魔女「!?」ビクゥ

不死者「何回何十回何百回痛みを与えられても死ぬ事ができない!!あとどれ位死ぬような痛みを与えられながら生き地獄を味わわねばならんのだ、魔王オオォォ!!」

彼は盛大に笑いながら、憎しみの言葉を発していた。
その形相は狂気に満ちており…。

不死者「ふはっ、はははは…」

魔女「…ぃ、ぇぅ…」ブルブル

不死者「…ん?」

魔女「怖いよおぉ~」

もう泣くしかなかった。

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/14(日) 13:56:15.10 ID:cjPj2bha0
私は長年1人でいたせいで人間慣れしていないけれど、特に男性慣れしていなかった。
その上この不死者さん、ちょっと目つきが怖い。

不死者「怖がらせて悪かったって…だからもう泣くな、な?」

しばらくなだめられた後、不死者さんは私の頭をポンポンと叩く。
それで私は少し落ち着いた。

不死者「そりゃ仕方ないよな…不死者なんて怖いよな」

そう言いながらも、不死者さんはとても気にしている様子。

魔女「い、いえ、不死者自体は初見でもないし、怖くないんですけれど…」

不死者「は?そりゃ変わったお嬢ちゃんだな」

魔女「えぇ、魔女ですから…」

不死者「魔女ォ!?」

魔女「」ビクッ

不死者「そうか…その額の刻印、魔女の刻印だったのか…!魔女の力なら…これでようやく…フ、フフフフ…!!」

不死者さんは私の刻印を見ながらニヤニヤ笑いを浮かべている。

不死者「頼みがある!!」ガシッ

魔女「!?」ビクッ

不死者「俺を殺してくれッ!!」カッ

魔女「怖いよ~」

またもや泣くしかなかった。

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/14(日) 13:56:59.50 ID:cjPj2bha0
不死者「悪い…つい興奮しちまって」

魔女「いえ…こっちも不慣れなので」グスッ

不死者「こんな体になって10年、俺はいい加減死にたくなってきた。魔女なら何とかできるんじゃないのか」

魔女「えぇ~と…方法が無いわけじゃあありませんが…貴方を蘇らせた方に言う方が確実かと…」

不死者「…絶対死なせてくれん。あいつは俺の痛覚を残し、言うことを聞かなければ拷問にかける程性格が悪いんだ」

魔女「それ、性格が悪いって範疇を超えてますよ~…」

でも気の毒だ。そりゃあ、さっきのような凄い顔(思い出すだけで怖い)になるのも無理はない。

不死者「頼む。もううんざりだ」

不死者さんはそう言うと頭を深々下げてきた。
そんな事されるのは初めてなので、私は慌てる。

魔女「殺すと言うか…肉体を浄化させる方法は存在しますが」

不死者「本当か!」ガバッ

魔女「」ビクッ

魔女「で、でもそれは薬を調合する必要があるんです…。その材料を集めないと」

不死者「材料集めくらいなら手伝うから」

魔女(この人と材料集めするの…?)

正直この人は苦手だ。だけど私に救いを求めているなら、助けてあげたい。

魔女「そ、それじゃあ…今から行きましょうか」

不死者「あぁ…どこまで?」

魔女「すぐ近くの滝の麓です」

丁度いい所だった。

魔女「そこに咲いている花が、材料の1つです」

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/14(日) 13:57:31.91 ID:cjPj2bha0
その後不死者さんと一緒に花を摘んで帰った。
この花は地面に強く根付き、摘むのに力がいるので、男の人の手があって助かった。

不死者「早くも材料1つ手に入れたな」

魔女「まだまだ集める物は沢山ありますよ~。でも、これで浄化の薬に必要な保存液が作れます」

不死者「その壺でやるのか?魔女、って感じだな」

魔女「えーと保存液の作り方は何ページだったかな…あった!」

不死者「難易度『低』か…」

魔女「あのぅ…恥ずかしいので、調合中はお隣のお部屋で待ってて頂けますか…」

不死者「あぁ」



不死者(調合ってどんな風にやるんだろうな…見てみたいが恥ずかしいんじゃ仕方ないな)

不死者(しかし、低難易度のものを作るのにわざわざ本を開くのか…)

不死者(まぁ真面目そうなお嬢ちゃんだし、きっと基本に忠実に…)

ズドゴオオォォォン

不死者「!?」

不死者(調合部屋から煙が…)

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/14(日) 13:58:06.41 ID:cjPj2bha0
魔女「コホコホ」

不死者「おい、大丈夫か!?うわ、何だこの匂い!?」

魔女「あ、不死者さん」

不死者「まさか失敗したか…」

魔女「いえ、成功ですよ!」

不死者「…なぁ、それは」

魔女「え、保存液ですよ」

保存液「ヌメヌメ~」

不死者「…」

不死者「そんな新種のアメーバみたいな保存液があるかああああぁぁ!!」

魔女「ひゃあああぁぁぁ」ビクウウゥゥッ

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/14(日) 13:58:37.44 ID:cjPj2bha0
魔女「グスッ実は私調合グスッ下手なんですシクシク」

不死者「怒ってない、怒ってないから泣くな、な?」

不死者さんは私の頭をポンポン叩く。

不死者「でも保存液作り直し必要なんじゃないのか?」

魔女「あ、汁だけを抽出すれば保存液として問題なく使えますよ」

保存液「ヌメヌメ~」

不死者「…何かいい気分じゃないな」

魔女「あ、こう見えてこの保存液は魂が宿っていないので、命を奪ってしまう心配はいりませんよ」

不死者「そうじゃなくて気持ち悪いってことでな…あぁ、まぁいいや、もう」

魔女「次の材料も近い所にあるので、今から…」

不死者「…風呂入ってこい」

魔女「え?」

不死者「爆発で汚れてる。その姿で外出できないだろ」

魔女「あ、はい」



魔女(確かに派手な爆発だったけど、私汚れてるかなぁ?)ジー

魔女(…)クンクン

魔女(…クサい)

魔女(いやあああぁぁ!!汚れてるなんて言ってたけど、私がクサいからだ!!もうイヤアアアァァァ!!)

お風呂場にはしばらく、私のすすり泣く声が響いた。

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/14(日) 13:59:41.10 ID:cjPj2bha0
魔女「すみません長引いちゃっ…あら?」

不死者「おうお帰り」

調合部屋はさっきより片付いていた。
今度は不死者さんが汚れている。

魔女「お、お掃除して頂いちゃって!すみません、すみません!」ペコペコ

不死者「まぁ掃除は趣味みたいなもんだから。それより俺も汚れたんで風呂借りていいか」

魔女「えぇどうぞ!こちらです、ごゆっくり!」

彼をお風呂場へ案内し、調合部屋へと戻る。
本当に綺麗になった。爆発前も汚くはなかったけれど、もっと綺麗になった。
適当に置いていた置物の類も、綺麗に並び直っている。

魔女(こう並べるとセンス良く見える…不死者さん、結構オシャレなんだなぁ)

掃除が趣味と言っていたか。それなら部屋はいつも綺麗にしているのだろう。そう言えば、彼は身だしなみもきちんとしている。
飾り気が無いながらもシュッとした格好をしている彼の事だ、きっと部屋もさり気なくお洒落なのだろう。

魔女(こんな部屋かなぁ、それとも…)

物語の挿絵にあった王子の部屋を頭に浮かべる。そこで過ごす不死者、想像すると割と様になっている。

魔女(お風呂上がりにワインとか飲んじゃったりして…うわぁ~不死者さんカッコいいかも…)

魔女「ハッ!!」

そうだ、風呂上りにおもてなしの1つも無いのは気が利かない。
私は慌てておもてなしの用意をするのだった。

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/14(日) 14:00:14.21 ID:cjPj2bha0
不死者「………なぁこれ」

魔女「お似合いですよ~。あ、お風呂上がりのお酒もありますから」

不死者さんは私が用意した着替えを着てきた。

魔女「不死者さんの着てた服は洗いましたから。明日になれば乾くと思います」

不死者「それはいいが、これ、あんたの服じゃないよな?サイズ違うしデザイン男物だし…」

魔女「私、裁縫は得意なんですよ~。いつかお客様が来た時用に、作っておいたんです!」

不死者「あぁ、そういう事」

魔女「…まぁ結局、作ってから30年位、誰も袖を通していないんですけどね」ズーン

不死者「お、おう…心して着させてもらう」

不死者さんはそう言うと用意していたお酒を飲んでくれた。
よし、ここまでは気遣い完璧。これも拾い読みした本のお陰だ。

魔女「所で、今日はもういい時間ですし材料採りは明日にしましょうか。明日また来て下さい、その時服もお返ししますから」

不死者「……あぁ」

魔女「?どうしました」

不死者「あ、いや…まぁいいんだ、野宿は慣れてるから」

魔女「野宿!?」

不死者「………帰るわけにはいかないしな」

魔女「…!!」

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/14(日) 14:00:40.93 ID:cjPj2bha0
そうだ。多くの不死者は主人を持っている。それも彼の主人は話を聞く限り、難しそうな人物だ。しかも彼が死ぬことを絶対許さないと言うのだから、目的がバレれば2度と来れなくなるだろう。

魔女「すみません気がつかないで!!あ、是非泊まっていって下さい!!」

不死者「そりゃ悪いって。急な来客用の部屋も無いだろ?」

魔女「大丈夫ですから!私ソファーでも眠れます!」

不死者「や、じゃあ俺がソファーで寝るから」

魔女「いえいえ、お客様にそんな所で寝て頂く訳には…」

不死者「大丈夫だ」

不死者「女の方がデリケートだからな」

魔女「…っ!!」

不死者「…どうした」

魔女「え、あ、わわ、えぇっと…すみませんごめんなさい、お言葉に甘えさせて頂きますっ!」ペコペコ

不死者「いや、そんな頭下げなくても…」

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/14(日) 14:01:19.70 ID:cjPj2bha0
魔女(あービックリした…不死者さん、あんな台詞言うんだもん)

探せば今まで読んだ小説の中に見つかりそうな台詞だ。
あの台詞は、女性を守ってくれる騎士のようなキャラが言いそうな台詞だ。

魔女(不死者さんが騎士かぁ…)

魔女(でも不死者さんちょっと顔が怖いから、盗賊の首領とか…)

魔女(盗賊の首領なのに掃除が趣味…あ、意外といい設定)

魔女(そんな不死者さんが活躍する舞台は~…)

魔女「………すやすや」





不死者(あー、何か気を使いそうな魔女だな)

不死者(難易度『低』を作るだけでああだから、簡単にはいかなさそうだが…)

不死者(魔女って他にどんなもん調合するんだ…ん、これは調合本じゃなくて小説か)

不死者(これも、これも小説だ…何だこりゃ、全部恋愛小説か)

不死者(魔女が恋愛小説…ね)

不死者「…ぐぅ」

27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/15(月) 13:56:09.12 ID:VJ/B72IQo
俺はこういうの好きだから続けてほしいわ

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/15(月) 14:39:45.98 ID:3DTskNWn0
>翌朝

魔女「」ジー

不死者「…どうした」

魔女「いえ、朝食お口に合うかな~って」

不死者「あぁ美味いぞ。料理も得意なんだな」

魔女「えへへ、何十年も生きてますからね~」

不死者「…それで調合の腕は何でああなんだ」

魔女「」ズーン

不死者「あ、いや悪い」

魔女「次に必要な材料は陽炎の木の根っこです。これは私一人でも採りに行けるので…」

不死者「失敗した時の為に多めに採取するんだろ。重いだろ、俺も行くよ」

魔女「え、でも…」

不死者「俺の依頼で動いて貰ってるんだから、俺にも働かせて…」

魔女「き、今日はいいですからぁ!明日からお願いします!それじゃあもう行きますね!」ダッ

不死者「…?」

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/15(月) 14:40:17.69 ID:3DTskNWn0
不死者(ああは言われたが、結局後をつけてきてしまった…)

不死者(お嬢ちゃんが向かう先…あれは人間の村か)

「ま、魔女だ!」
「家の中に入りなさい、早く!」
「ああぁ、しばらく見ないと思ったのに…」

不死者「…ん?」

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/15(月) 14:40:44.21 ID:3DTskNWn0
陽炎の木は人間の村を通らないと行くことができない所に生えている。
皆私を避ける。その目にあるのは恐怖心だったり敵意だったり、人によって様々。
これでも、この村は全然マシな方だ。場所によっては、私の姿を見ただけで石を投げつけてくる所もある。
危害を加えられる位なら、避けられる方がずっとマシ。ヒソヒソ聞こえる言葉が、胸に刺さったけど。

魔女(やっぱり1人で来て良かった…)

不死者さんも一緒だと、一緒にいる彼まで奇異な目で見られてしまう。

「あの魔女、どこに行くのかしら?」
「この先陽炎の木があるから、材料でも採りに来たんじゃない?」
「私達を呪ったりしなきゃいいけど」
「やだ、こわーい」

肉体を浄化させる薬の材料採り…なんて人殺しの薬と変わりない。
彼女らにとって、そんな薬を作る私が異質な存在であるのも間違いはないだろう。

魔女(早く行こう)

「待ちな」

魔女 ビクッ「は、はい!!…あら!?」

不死者「…悪い、ついて来ちまった」

魔女「不死者さん!?」

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/15(月) 14:41:22.44 ID:3DTskNWn0
魔女「…不死者さん、どうして」

不死者「いいから手伝わせろ、ほら」

魔女「あっ」

不死者さんが私の手からカゴをひったくる。
その様子を見て、遠巻きに私を見ていた村娘たちが騒ぎ出す。

「なになに、あの人結構かっこよくない!?」
「この辺じゃ見かけないけど…」
「あの魔女の知り合い?」
「魔女に惑わされているんじゃない」
「えぇー、あんないい男なのに勿体無いー」

魔女「不死者さん…貴方まで奇異な目で見られますから」

不死者「俺は気にしちゃいないが…つか悪い、迷惑だったみたいだな」

魔女「い、いえ…私は慣れているのでいいですが」

不死者「じゃ、気にしないでとっとと行こうぜ」

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/15(月) 14:42:00.31 ID:3DTskNWn0
不死者「元々人間の文化には疎いんだが…」

木の根を採りながら不死者さんが言った。

不死者「魔女って人間と魔物の中立だろ?あんなに避けられるもんなのか?」

魔女「まぁ…魔女が人間に危害を加えてきた歴史があるので」

不死者「へー、そうなのか」

不死者さんは大して気にしてなさそうだ。

不死者「そいや魔女は男を誘惑するんだっけ?そりゃ、女に嫌われるよなー…」

魔女「そ、そんなんじゃないです!単純に私が魔女だからですよ…私なんてちんちくりんだしブスだし…」

不死者「へー、そうか」

魔女「そうですよ…」

不死者「でも、あんたでブスなら、あいつらもっと悲惨だと思うんだけどな」

魔女「!?」ガバッ

不死者「根っこ、これくらいでいいか?」

魔女「え、あ、は、はい!十分です、ありがとうございました!」

不死者さん、何か凄いこと言ったような気がするんだけど…。
考えすぎ…かな?

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/15(月) 14:42:33.83 ID:3DTskNWn0
>帰り道

魔女「すみませんね、重い物持って頂いて」

不死者「俺は力くらいしか取り柄がないからな。それよりも今日は爆発させないでくれよ」

魔女「あ、いつもは爆発じゃないんですよ。何かガスが発生したり怪奇現象が起こったり、その時その時違うんです!」

不死者「何事もないようにやれ!」

魔女「ひえっ」

不死者「あ、いや怒ってないから!だから泣くなよ、な!?」ポンポン

魔女「はいぃ」グスッ

不死者(ふーヤレヤレ…ん?)

魔女「あら?」

家が見えてきた時、家の前に人がいるのに気がついた。その人を見て、

不死者「悪い!俺隠れるから!」ダッ

魔女「え、あ、あの!?」

「あ、帰ったか。待っていた」




勇者「例の物の出来具合を聞きに来た」

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/15(月) 14:43:00.21 ID:3DTskNWn0
不死者(な、何で勇者がここに!?)

魔女「あ、少しずつですけど順調に出来上がってますよ」

勇者「そうか。…もしまだ必要なものがあれば言ってくれ」

魔女「は、はい。今の所大丈夫ですから…」

勇者「協力は惜しまない…何せあれは魔王を討つのに必要だからな」

勇者「肉体を浄化させる薬、というものは」

不死者「…!?」

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/15(月) 14:43:26.59 ID:3DTskNWn0
勇者さんはそれだけ言うと帰っていった。

不死者「勇者からも同じ薬の依頼を受けていたのか」

魔女「えぇ、まぁ」

不死者「魔王も己に不老不死の呪文をかけているからな…。魔王を討つには確かに必要だな」

依頼が来たのは丁度1週間位前だった。不死者さんが言ったのと同じ理由で、勇者さんから依頼された。

不死者「魔女は魔物と人間の中立だと聞いたが、あんたは人間に味方するのか」

魔女「それは…」

不死者「あ、別に責めているわけじゃない。魔王側に協力する魔女もいたからな」

魔女「えぇ…」

中立というのは魔女という種族としての話。そこから中立を保つか、どちらかに味方するかは、魔女それぞれ。
まぁ自分の場合は、人間に味方するという意思があるわけじゃないけれど…。

魔女「ところで不死者さん、どうして隠れたんですか?」

不死者「あー…そういや言ってなかったな」

不死者さんは少し気まずそうに言った。

不死者「俺は、勇者にとって敵なんだよ」

魔女「え…?」

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/15(月) 14:44:05.19 ID:3DTskNWn0
不死者「俺を不死者にしたのは魔王だ」

魔女「!」

これだけ人間と差異のない不死者を作れるのだから、かなりの腕前の術者だとは思っていたが、まさか魔王とは…。

不死者「元々俺は魔王を討とうとする側だったんだが、魔王に負けて不死者にされちまった。逆らえば死ぬよりヤベェ拷問が待ってるから、魔王に従わざるをえなかったんだよ」

魔女「そうだったんですか…」

不死者「だから勇者が魔王を討ってくれりゃ俺も死ねるんだろうが、どっちにしろあんたの作る薬が必要になるな」

確かに不死者は、術者が力を失えば命を失う。死にたい彼にとって、死とは無関係の魔王が術者なのは本当に厄介な問題だろう。

魔女「とりあえず、この根っこで粉末材を作れます。勇者さんも急いでいるし、早くしませんとね」

不死者「戻ってきたばっかだろ?休んだ方がいいんじゃないか?」

魔女「いえ大丈夫です、やります!」







ドゴオオォォォン


不死者「今日も爆発かあぁ!!」

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/15(月) 14:46:40.70 ID:3DTskNWn0
一旦ここまで。
不死者や魔女の生態調べたらややこしくなってきたので、このssは調べた情報取り入れつつオリジナル設定でやってます。

41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 13:32:12.83 ID:vS3sFlv70
魔女「うーゲホゲホ、粉が喉にゲホゲホ」

不死者「ほら水飲め水!」

魔女「ゴホ、ありがとうござ…ああぁ!!」

不死者「今度はどうした!」

魔女「今の爆発で、昨日作った保存液が腐っちゃいましたぁ…」

保存液「ヌメェ~…」

不死者「爆発で腐るって何だよ!?つか腐る保存液ってそれどっちみち失敗だったろ!」

魔女「おっしゃる通りです~」グスグス

不死者「わー、泣くなって!悪い悪い、俺が悪かったから、な!?」ポンポン

魔女「うえっ、ひっく…」

魔女「保存液の材料また採ってこないとぉ…花と、虹色の雫と、針葉樹の葉と…」

不死者「雫と葉はどこで採取できる?」

魔女「えーと、そこの地図に印が…」

不死者「よし、これ位なら…待ってろ!」

魔女「えっ、あの!?」

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 13:32:38.85 ID:vS3sFlv70
手持ち無沙汰なので、爆発で散らかってしまった部屋を片付ける。
昨日不死者さんがやってくれたのと同じように置物を並べ直した。彼の並べ方で置いておきたかった。

不死者「お待たせ…」

魔女「お帰りなさい…あっ!」

不死者さんは手に一杯、保存液に必要な材料を持っていた。

不死者「これだけありゃ、何回でも失敗できるだろ」ゼェゼェ

魔女「こんなに沢山、大変だったでしょう!?」

不死者「気にすんなって…これは俺の為なんだしな…フゥ」

魔女「い、今飲み物もってきます~!」

魔女(不死者さんたら凄いなぁ…)

魔女(それに、結構優しい…?)

魔女(……)

魔女(って、ボーっとしてちゃ駄目よ私!)

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 13:33:06.88 ID:vS3sFlv70
不死者「けど、毎回何らかのドジやるようじゃいくら材料があっても足りんかもしれないな」

魔女「うぅ~…そうですねぇ…」

不死者「調合が下手な理由って何だと思う?」

魔女「基本に忠実にやっているつもりなんですが、魔力を混ぜる段階で魔力量の調節が上手くいかないんだと思います…」

不死者「どうすりゃ上手くいくんだ?」

魔女「多分、魔力を混ぜる段階まで順調にいったら気が抜けちゃうんですよ…それまでずっと緊張してますから…」

不死者「じゃあ俺が側で見ているから、油断せずにやってみ」

魔女「み、見られるのは緊張します…」

不死者「緊張してろ。それなら失敗しないだろ」

魔女「うぅ、でも…」

不死者「それでも失敗するようなら、違う手を考えるだけだ。ま、俺はこの通りの体だから、爆発やガスなんかに巻き込まれても平気だしな」

魔女(不死者さん…)

魔女(そうね。私を頼ってくれている勇者さんや不死者さんをガッカリさせたくない…)

魔女(不死者さんはこんなに優しく身守ってくれているんだもの)

魔女(大丈夫、落ち着いてやれば…)

魔女(自分を信じて…)








ズドゴオオォォォン


不死者「自分を信じちゃ駄目だな…」ゴホッ

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 13:33:43.93 ID:vS3sFlv70
保存液「ヌメヌメ~」

不死者「昨日と同じ結果か…」ゲホッゴホッ

魔女(うわああぁぁ、また体がクサくなったあああぁぁ!!しかも今度は不死者さんまで!!)

魔女「どうして私ってこうなの…」グスグス

不死者「わー!泣くなー!!」

魔女「でもでもぉ」シクシク

不死者(本当気にしいだな…あぁ、俺の言い方も悪いのか)

不死者(安心させるように、優しく、温和に…)

不死者「大丈夫だぞぉ?」ニィーッ

魔女「…」

魔女「怖いよおぉ~」

不死者(どうしろって言うんだ…)ズーン

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 13:34:10.58 ID:vS3sFlv70
とりあえず昨日と同じように掃除をしてお風呂に入って匂いを取った。

魔女「その服もお似合いですよ不死者さん」

不死者「あぁ。…また着替えを用意してくれたのはいいが、俺の服はどうした」

魔女「あ、せっかくなので、作った服に袖を通して頂きたくて…ご迷惑でしょうか?」

不死者「いや別に…あんたの作る服、俺の趣味に合わなくもない」

魔女「本当ですか!じゃあ毎日着替え用意しますね!」

不死者「…何着あるんだ?」

魔女「うーんと、不死者さんのサイズの服だと30着くらいは!」

不死者(…そんなに作ってる暇あったら調合の腕上げろ)

魔女「今日はもう遅いので、休みましょうか」

不死者「あぁ」

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 13:34:41.18 ID:vS3sFlv70
魔女(えーと…あった、この本だ)

魔女(あの服、この本に出てくるキャライメージして作ったのよね~)

魔女(あ~でもこの本、キャラは好きだったけどストーリーあまり覚えてないなぁ…寝る前に読もう)

魔女(…)ペラ…

魔女(うわあぁ、さり気ない優しさがいいなぁ…こういう所不死者さんに似てるなぁ)

魔女(こんな台詞言われたらドキドキするなぁ…)

魔女(どっちも奥手だからなかなか進展しないなぁ…ちょっともどかしいかなぁ)

魔女(この2人がくっついたら、きっとあれをやったりこれをやったり…)

魔女「…すやすや」

47 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 13:35:11.81 ID:vS3sFlv70
>朝

魔女「ふわぁ…朝ごはん作らないと」

魔女「あれ?この匂い…」

不死者「よ、おはよ」

魔女「あれ~、不死者さん!どうしたんですかこの朝食!」

不死者「あー、あんた程の腕前はないが、先に起きたしな…」

魔女「まぁ…!!」

不死者「ま、お粗末だが食おうぜ」

魔女(朝起きたらもう朝ごはんが出来上がっていて)

不死者「うん…悪くないな」モグモグ

魔女(朝食を一緒にとる相手がいて)

不死者「卵は綺麗に割れなかったが、スクランブルエッグにすりゃ問題ないしな」

魔女(というか人の作ったもの食べるのも何十年ぶりだろう)

不死者「ま、食えるもんが作れただけいいか」

魔女「」ウルウル

不死者「!?どうした、まずかったか!?」

魔女「違うんです…私、嬉しくて嬉しくて…」

不死者「そ、そうか…何か知らんが良かったな…」

魔女「また食べさせて下さいね不死者さん」

不死者「あぁ、こんなんで良ければ…」

48 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 13:35:52.50 ID:vS3sFlv70
夜の更新は未定。
魔女の「魔」を「喪」にしても違和感ないから困る。

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 16:12:34.23 ID:vS3sFlv70
今日も材料集めを行った。

不死者「おい、疲れてないか?」

魔女「い、いえ…」フゥフゥ

不死者「…じゃあ俺が疲れてるから、休んでいいか?」

魔女「え!?あ、はい!」

魔女(不死者さん全然息乱してないし…私に気を使ってくれたんだなぁ)

不死者「材料ってあとどれ位で集まるんだ?」

魔女「あ、あとちょっとですよ。あとは調合が上手くいけばいいんですが…」ズーン

不死者「ま、時間だけはたっぷりあるからな。慎重にやるか」

魔女「…でも、勇者さんはお急ぎだと思います」

不死者「あぁ…まぁ最近は魔王の活動も穏便になってきてるし、遅れる事で人間達への被害が大きくなることはないだろ」

魔女「そうなんですけど…お待たせするのは心苦しいので」

不死者「もっと気楽に考えな。こりゃ義務じゃないんだから、出来なくても誰にも責める権利はない」

魔女「…駄目なんです、それじゃあ」

不死者「ん…?」

魔女「私には、これしかないんです…」

魔女「あ…世界の命運がかかってるのに、こんなこと…」

不死者「いいよ聞かせてくれ。どうせ俺は死のうとしてる奴だ、世界の命運がどうとか知らねーし」

魔女「は、はい…それじゃあ」

50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 16:13:32.11 ID:vS3sFlv70
魔女「私は人には嫌われて、魔女としてもダメダメで…小さい頃からダメな子扱いされてきました」

魔女「自信が無いから逃げ隠れして、自分の殻にこもって…」

魔女「だけど、そんな私を勇者さんが頼ってくれたんです」

魔女「人々の希望である勇者さんの力になれたら、私も少しは自信を持てるようになるかなって…」

魔女「そういう考えで、私は勇者さんに協力しているんです…」

不死者「…成程な」

魔女「…やっぱり、よこしまですよね」

不死者「別にいいんじゃないのか。何か悪いのか?」

魔女「いえ…こんな不純な動機じゃあ」

不死者「俺は立派だと思うぞ。動機が何であれ、勇者の力になろうってのは」

魔女「そ、そう言って頂けると…嬉しいです」

不死者「もっと自信持て~」ポンポン

魔女「あうぅ、不死者さんすぐ頭触るんだから~」

不死者「あ、悪い。あんたが幼馴染に似てるもんで、つい…」

魔女「不死者さんの幼馴染?」

不死者「まぁどうでもいいか。それよりそろそろ材料採り再開しようぜ」

魔女「あ、はい」

魔女(幼馴染かぁ)

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 16:14:01.17 ID:vS3sFlv70
今日は材料採りが長引き、帰るのが遅くなった為調合は明日にすることにした。

魔女「ふわぁ~…疲れたなぁ」

魔女(今日は寝る前にどの本を読もうかなぁ)

不死者「あ、この本のシリーズ、幼馴染も好きだったな」

魔女「あぁ!それ私もいいなって思ってたんです!最後の巻が無いので、続きがわからないんですけどね…」

不死者「大まかにだったら覚えてるぞ」

魔女「本当ですか!教えて下さい不死者さん!」

不死者「いいけど、俺説明するの下手だからなぁ…」

魔女「構いません!主人公の2人がどうなるのか、ずっと気になっていたんです!」

不死者「あぁ、それなら…」

不死者さんが話し始める。それはひょんなことから同居生活を送ることになった男女2人の物語。
2人共最初はぎこちなかったけど、毎日一緒に過ごす内に打ち解けていき、互いに大切な存在となっていく。
だけれど男の人が病にかかり、別れの時が少しずつ迫ってくるのだった。

不死者「最後は…女の方が魔女の3つの願いを叶え、男の病は治るんだ」

魔女「良かったです…。やっぱり私、悲恋よりハッピーエンドが好きですね」

不死者「だけどその魔女のかけた魔法ってのが、女の残り寿命の半分を男に分けるってもんでな。元々女の方が病弱なキャラだったし、多分2人はあとほんの数年で死ぬ」

魔女「…」

不死者「けど死ぬ時は一緒だからな。それが幸せなのかどうかは人それぞれだろうな」

魔女「…私は、幸せだと思いますよ。残される方が辛いですし」

不死者「そうか」

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 16:14:28.82 ID:vS3sFlv70
不死者「…にしても都合がいいよな。普段は魔女を避けてるくせに、物語には善良な魔女を登場させて救いを求めるんだから」

魔女「フィクションですからねぇ。そんな、残り寿命の半分を人に分ける魔法なんて存在しませんよ」

不死者「存在しないもん出すとは、人間が魔女について色々勘違いしてる証拠だな」

魔女「不死者さんは元々人間ですよね?どうして魔女に対して偏見が無いんですか?」

不死者「あー、何でかな…。幼馴染のおかげかな…」

魔女「不死者さんの幼馴染が」

不死者「…あいつは獣人だったんだよ」

魔女「獣人…」

魔物と人間のハーフ。魔女同様、中立の立場。
しかし獣人は禁忌により生まれた存在であり、魔女よりも冷遇されていると聞く。

不死者「獣人と仲良くやってた奴が魔女に偏見持つわけないだろ」

魔女「確かにそうですね」

幼馴染というと、恋愛小説では定番だ。
現実でもそういうものなのだろうか…。

53 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 16:15:01.76 ID:vS3sFlv70
魔女「どんな方だったんですか?その幼馴染の方は」

不死者「あんたそっくり、そそっかしくてすぐ泣く奴だったよ…まぁあっちはガキだったから仕方ないけどな」

魔女「むぅ」



―――――
―――

幼馴染『おにぃ、頭ぽんぽんして』グスッ


幼馴染『えへへ…ぽんぽんしてもらったからもう平気』


幼馴染『おにぃ大好き!』

―――
―――――

不死者「歳近いのに、おにぃおにぃって、よくくっついて来てたなー…」

不死者「俺結構目つき悪かったから、女からは好かれてなかったんだけどな」

魔女「あぁ~」

不死者「なにが「あぁ」なんだ?」

魔女「あ、いや何でも」アワアワ

不死者「そんな感じで、手のかかる奴だったなー…」

魔女「今はどうなんですか?」

不死者「…いない」

魔女「え…?」

不死者「獣人族の村ごと滅ぼされて、今はもういないんだ」

魔女「!!」

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 16:15:34.63 ID:vS3sFlv70
魔女「ごめんなさい…何も知らずに聞き出してしまって」

不死者「ま、気にすんな。何年も前のことだ、流石に俺ももう立ち直っている」

魔女「だけど」

不死者「あーいいのいいの。それより話が長引いちまったな、もう寝ようぜ」

魔女「…」



立ち直っている。不死者さんはそう言ったけど、本当だろうか。
幼馴染さんは…どんな人だったかは知らないけれど、不死者さんにとって大事な人だったのではないか。
もし大事な人の命が理不尽に奪われたら――

魔女(嫌だな、そんなの)

そんなシチュエーション、小説でしか知らない。
だけど強制的で理不尽な別れなんてのは、私の嫌いなバッドエンドだ。
それももうすぐこの世を去る不死者さんには、もうどうでもいいことなのか。

魔女(もうすぐ不死者さんが…)

それを改めて思って、切なくなった。
数年というのは魔女にとってはあっという間の期間だ。だけど人間の体感としては、大事な人を失った悲しみも辛さから立ち直れる程長い期間なのか。
そう言えば彼は、出会った当初よりも明るくなった気がする。それは打ち解けてきた為だと思っていたけれど、死が近付いて気持ちが楽になっているからだろうか?
つまりそれは、別れが近づいてきているということ。

魔女(不死者さんがいなくなる…)

55 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 16:16:00.39 ID:vS3sFlv70
不死者「はい今朝も俺の下手くそ料理で~す」

魔女「ありがとうございます、不死者さん」


彼と過ごした時間は私が生きてきた年月、これから生きるであろう年月に比べるとほんのわずかな期間。


不死者「洗い物無駄に増やしちまったわ…手際良くはいかねぇな」

魔女「片付けと並行してやるのが理想的ではありますねぇ」


彼がいなくなれば前と同じになるだけ。


不死者「今度料理してる所見せてくれよ」


けれど私は――


魔女「えぇ…いいですよ」


誰かと一緒に過ごす暖かさを知ってしまった。

何年も経てば、それを忘れることができるのだろうか。


不死者さんに頼られ、彼の為に研究を進めている。
だけれどそれは、私が再び孤独になる為の研究でもある。

――その時になったら、私は泣くのかな。

56 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 16:16:39.24 ID:vS3sFlv70



不死者「ふぅ、必要な材料は全部集めたから、後は調合しまくるだけだな」

魔女「そうですね…」

ここ数日、不死者さんが頑張ったので材料集めがはかどった。

不死者「ま、調合もぶっ続けでやると疲れるだろうから、焦らずにやってくれ」

魔女「えぇ」

本当は、完成させたくないけれど――
でも、不死の苦しみからの解放を願っている彼を、失望させる訳にはいかない。

不死者「でも魔王の配下に俺の居場所がバレずにきたのは奇跡だよな。バレたら無理矢理連れ戻されて拷問だ」

彼に残された猶予も、無限ではない。

魔女「失敗しないように、頑張りますね」

そうやって作り笑いを浮かべる。


これからも私と一緒にいてくれませんか――?


本音を言えない自分が嫌だった。

58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/16(火) 17:50:43.36 ID:/soHtjNw0
喪……魔女ちゃんかわいい

59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/16(火) 20:25:28.13 ID:/+fOaNzlO
期待

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 20:36:14.87 ID:vS3sFlv70
勇者(あの魔女の所に顔を出してから結構経ったな…)

勇者(そろそろ、薬は出来ているだろうか…?)

勇者(重圧に弱そうな魔女だから、あまり頻繁に行かないようにしていたが)

勇者(俺は今、力をもて余している…早く魔王と戦いたい)

勇者(…魔女の所に行ってみるか)

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 20:36:46.35 ID:vS3sFlv70
魔女「これを、こうして…」

薬に必要な素材を調合する所まではできた。決して出来がいいとは言えないが、ここまでは失敗せずに来た。

不死者「…ぐぅ」

調合を見守ってくれていた不死者さんだったけれど、夜遅くなり、流石に疲れたようだった。

魔女(これで失敗すれば…)

また数日かけて材料集めをしないといけない。
けれどそれは、また彼と過ごせるということ。

魔女「…」

不死者「」スヤスヤ

魔女「…ダメだな、やっぱり」

不死者さんがいなくなるなんて嫌だ。
それでも今までの不死者さんの頑張りを無駄にするのはダメだ。

魔女「頑張ろう…」

頑張って薬を完成させよう。
完成させたら私は1人になる。
その後も頑張ればいい。寂しさを忘れるように、頑張ればいい。

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 20:37:34.11 ID:vS3sFlv70
魔女「むにゃむにゃ…」

「おーい…」トントン

魔女「ん~?」

「いるか~?」トントン

魔女「お客様?はぁ~い…」

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 20:38:11.56 ID:vS3sFlv70
勇者「朝早くにすまない」

魔女(あ…いつの間にか寝ちゃってて、朝になってたんだ)フワァ

勇者「薬調合の進行具合が気になってな」

魔女「あぁ、それでしたら…昨日完成したんですが」

勇者「本当か!?」

魔女「でも…成功したかどうか、まだわからないんです…」

勇者「とりあえず実物を見せてくれ!」

魔女「あっ」

そう言って勇者さんは強引に家に入ってきた。

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 20:39:05.87 ID:vS3sFlv70
勇者「これが浄化の薬か…」

勇者さんは小瓶を手に持って、感慨深そうに言った。

魔女「でも、本当に失敗してないかまだわからないので、いきなり使うのは危険ですよ」

勇者「どうやって成功か失敗か見分けるんだ?」

魔女「数滴取って試験薬と混ぜてみたり、加熱実験してみたりですね…」

勇者「気の長い話だな」

魔女「すみません、今日の昼までには終わりますので…」

勇者「なぁ、実際使ってみるのが1番早いんじゃないのか?」

魔女「え、ええぇ!!」

勇者「魔物相手ならいいだろ」

魔女「あ、あのですね…その薬は剣に塗って切った相手を浄化するので、実験した所で、切られた魔物は薬が失敗してても普通に死んじゃうだけだと…」

勇者「成程な…実験するにしても、不死の生物相手じゃないと成功したかどうかわからないってことか」

魔女「そうです」

「なら、俺で実験すればいい」

魔女「!?」

調合部屋のドアがゆっくり開く。

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 20:39:48.68 ID:vS3sFlv70
不死者「おはよう」

勇者「な…お前、何でここに!?まさか、魔女と手を組んで…」

不死者「いや違う。俺も死にたくなったんで、その魔女に浄化の薬を依頼してたんだよ。丁度いいじゃねぇか、俺で実験しな」

魔女「ふ、不死者さん…」

不死者さんは軽い調子で言っているが、勇者さんは敵意剥き出しで不死者さんを睨んでいた。

勇者「信用できるか」

不死者「何がだ?」

勇者「死にたくなったって言葉だ。そんな事言って、俺を油断させようって手じゃないのか」

不死者「まさか。そう思うんだったら油断しなければいいだけだろ」

勇者「…だが、お前は実験台に丁度いいかもしれないな」

勇者さんはそう言うと小瓶に入った薬を手に取った。

勇者「表に出ろ。ここでやる訳にはいかないからな」

不死者「そうだな」

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 20:41:11.76 ID:vS3sFlv70
どうしよう、話がどんどん進んでいるけれど…。
だけど双方合意の上なら、私が止める余地なんてない。

不死者「とりあえず、ひと思いに心臓でも狙って…」

勇者「誰がそんな甘っちょろいことをすると思う」

不死者「何?」

勇者「さっきも言ったように俺はお前の言葉を信用していない。まずは両手足をもぎ取ってから、最後に心臓を突かせてもらう」

不死者「慎重だなオイ…」

不死者さんは想像したのか、冷や汗を垂らして苦笑した。

勇者「それにな…」

不死者「ん?」

勇者「お前は楽には殺さん!!」

不死者「うわぁ!」

襲いかかる剣を、不死者さんは回避した。

勇者「ほら見ろ、やはり死ぬ気なんてないだろ!」

不死者「そうじゃない、痛いのは勘弁して貰いたいんだよ…」

勇者「いいさ、せいぜい逃げ続けろ!俺はお前を許さないからな!!」

魔女「許さない…?」

2人は敵同士。だけれどそれだけじゃない憎しみが勇者さんの言葉にこもっていた。

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 20:48:38.11 ID:vS3sFlv70
魔女(どうしてこんな事になっちゃったの…)

私の予定と大分ずれてしまった。
薬が成功していたら、勇者さんに渡すつもりだった。
それで勇者さんが魔王を討てば、不死者さんも死ぬことができる。

勇者「殺しても殺しても、何事も無かったかのように蘇りやがって!!」

不死者「…っ!」

不死者さんの左腕が吹っ飛ばされた。その痛みに、不死者さんの顔が歪む。
術者を失う事による死なら、不死者さんは苦しまずに死ぬことができた。

――最後の時を、一緒に過ごすことだって。

魔女「や、やめて下さい勇者さん!」

私は、血を大量に吹き出して悶絶している不死者さんの前に立った。

勇者「何だ?やっぱりあんたもそいつの味方だったのか?」

魔女「ち、違います!違いますけど!」

勇者さんに睨まれて怖かったけれど、私は退かなかった。

魔女「勇者さん、不死者さんより強いでしょう!?だったら、心臓をひと突きだってできるでしょう!?」

――違う、本当に言いたいことは。

勇者「さっきも言ったろ。俺はそいつを楽に殺す気はない」

魔女「どうして苦しめる必要があるんですか!?」

勇者「知らないなら教えてやるよ…」

勇者「そいつは俺の恋人を殺したんだよ!」

魔女「!?」

不死者「…」

68 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 20:49:09.77 ID:vS3sFlv70
勇者「恋人は魔王討伐の為、一緒に旅していた仲間でもあった。あの頃、今よりずっと弱かった俺はそいつに負け、あいつは殺されちまった!」

魔女「そんな…」

魔王と討伐する者と、魔王に従う者。敵対する者同士、殺し合うのは必然。
だけど、だからと言って、感情は割り切れるものではない。

勇者「俺は死に物狂いで腕を上げた!だが不死者のそいつは、殺しても殺しても蘇りやがる!」

勇者「あいつはもう、俺の元に帰ってこないのに…!!」

勇者「だからそいつを殺す度…俺の中の憎しみがどんどん大きくなっていったんだあぁ!!」

魔女「!?」

勇者さんが駆け、あっという間に私を抜く。
そして不死者さんの、もう片方の腕を切った。

不死者「…っあぁ!!」

勇者「痛いかよ、でももうすぐ死ぬんだからギャーギャー騒ぐんじゃねぇ!!」

そう言いながらも勇者さんは攻撃の手を緩めない。
私から見ても、殺さないように手を抜いているのは明らかだった。
不死者さんは攻撃を受ける度、顔を苦痛に歪ませた。

69 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 20:49:41.99 ID:vS3sFlv70
こういうシチュエーション、本ではどういう結末になったっけ――?

何を考えているのか。
だけど混乱した思考の中、私はそんな事を考えていた。

もし、愛する人を誰かに殺されたら――
その憎しみが抑えきれなくなったら――

ハッピーエンドの物語はあった。それは、死んだ恋人が蘇るとか、恋人の幽霊が残された人を説得するとか、そんなご都合主義な展開だった。
だけど、そんな事は現実に起こらない。

勇者「次は…ほらあぁ!!」

不死者「ぐあああぁぁっ!!」

不死者さんの片足が吹っ飛ばされる。これで逃げることはできなくなった。
それでも勇者さんは、不死者さんのもう片方の足に狙いを定めていた。

魔女「やめて…やめて下さいっ!!」

憎しみを止める言葉なんて存在しない。
ご都合主義なんて本の中だけの話。


不死者「が―――ッ」



そして、不死者さんの残った足も吹っ飛ばされた。

70 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 20:50:32.45 ID:vS3sFlv70
不死者さんは両手両足を失い、血を大量に吹き出しながらも生きていた。

魔女「も、もう――」


――もうこれ以上苦しめないであげて。


魔女「不死者さんを――」


――不死者さんを楽に殺してあげて。


勇者「ハァ、ハァ…そろそろいいか…」

魔女「!?」

勇者さんが小瓶の薬を剣に振りかける。


――早く殺してあげて。


魔女「…違う」


魔女「不死者さんを、殺さないでよ―――ッ!!」

71 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 20:51:49.31 ID:vS3sFlv70
――――
――

「おにぃ」

ん?

「寂しいな」

安心しろ、俺も今すぐ行くから。


獣人族の村が滅ぼされたのは、もう何年前かな――
魔物と人間の中立を保っていた村に、人間側に立つよう国から要請があったんだったな。
だけどそれを受け入れたら、魔物を親に持つ者は親と縁を切らなければならなくなる。他にも理由は色々あったけど、村は要請を断ったんだ。

だから、国に滅ぼされた。

不死者になってからお前と会うのをやめたから、俺は後からそれを知ったんだ。
魔王側の者となっていた俺は、躊躇なく国を襲撃できた。
その時だったな、勇者と初めて戦ったのは――


「寂しい」

まだ言ってんのか?


「私はまた、1人になる」

――え?



「もっと一緒にいたかった」


――――あぁ、あんたか。


そういえばあんた、残されるのは辛いって前言ってたな。
あんたと過ごした日々――思い返せば、俺が人間らしく過ごせた最後の時だった。

死にたいのは確かだったけれど――



俺ももっと、あんな日々を過ごしていきたかったよ。

72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 20:52:29.87 ID:vS3sFlv70



子供「魔女さん、こんにちはーっ」

村人「やぁ、散歩ですか?」

魔女「こんにちは、今日はいい天気ですね」

薬草を摘みにきたら、そこにいた人達が私に声をかけてきた。
今日はどんな薬と調合するのとか、最近村に遊びに来ませんねとか、皆私に興味があるみたい。

魔女「ふふ、今作っているものを作り終えたらまたお邪魔させて頂きます」

勇者の魔王討伐に貢献した魔女――いつの間にかそう呼ばれるようになり、私の評判が上昇した。
勿論完全に偏見が無くなったわけじゃないと思うけれど、人々の私への態度は前よりもずっと柔らかくなった。

子供「あ、魔女さん」

魔女「なぁに?」

子供「これ、魔女さんが読んでた本の最終巻!貸してあげるね!」

魔女「まぁ」

結末は知っている。
死によって残される者はいない、ご都合主義が生んだハッピーエンド。

魔女「ありがとう」

私は、そんなハッピーエンドが好きだった。

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 20:53:12.36 ID:vS3sFlv70
本を読み進めながら、思い出す。彼が教えてくれた物語を。

魔女(残されなければ幸せだったのかな――)

あの頃と違い、今は孤独じゃない。
それでも、私は寂しかった。

魔王の手先になり、勇者さんに憎まれ、人間の敵として死んだ彼。
彼を許してあげたいと思うのは、きっと私だけだ。

魔女「…はぁ」

ほんの数日の日々の中で知ってしまった温もり。その温もりに未練を抱き、今だに夢にまで見る。
立ち直るのに、人間では何年かかかる。勿論、勇者さんのように何年も引きずっていく人もいる。
なら魔女な上、落ち込みやすい自分が立ち直るには何十年かかるのだろう――何十年も経てば、彼を忘れてしまうのだろうか。

魔女(忘れたくはないなー…)


トントン


魔女「あ、はーい…」ガチャ

魔女「…あら?誰もいない」

にゃー…

魔女「…ん?」

74 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 20:59:52.41 ID:vS3sFlv70
猫「にゃー」

魔女「あら猫さん?」

私は小さな訪問者を抱き上げた。

猫「にゃーにゃー」

魔女「うふふ、可愛い。小さいし仔猫かなぁ」

猫「にゃあ」スリスリ

魔女「でも、よく見たらちょっと目つき悪いなぁ」

猫「にゃー!」

魔女「きゃっ、ごめんなさ~い!!」

猫「にゃあ」ポンポン

魔女(私が困ったら頭ポンポンって…)

魔女(この目つきといい…)

猫「にゃあ」スリスリ

魔女「…」

75 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/16(火) 21:00:54.21 ID:vS3sFlv70
魔女に輪廻転生はあるけれど、人間はどうなのか――

魔女「…ねぇ、覚えてる?」

猫「にゃー?」

魔女「…そうだよね」

ご都合主義なんてのは物語だけの話。

魔女「うちに来る?」

猫「にゃー」スリスリ

魔女「…来たい、ってこと?」

残されるのは辛い。1度知った温もりを手放すのは寂しい。
それでも。

魔女「あげるの、ミルクでいいのかなぁ」

猫「にゃー」

魔女「今度村に行って聞いてみなきゃ」


これから過ごす長い年月の中で、新しい出会いはきっとまたある。


魔女「そうだ。今度は猫さんを擬人化する魔法を研究しよっかな」

猫「にゃ?」


1度知った温もりも、寂しさも、これからもっともっと増えていくのだろう。
それでも私の物語は終わらない。まだまだ長い年月を過ごすのだから――


魔女「ハッピーエンド、目指していかないとね!」





posted by ぽんざれす at 21:39| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

勇者の娘「お父様の仇を討ちます」(2/2)

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1416486250/

前回はこちら


90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/29(土) 18:17:53.23 ID:bgv+9Y2M0
魔姫「…」

普段は休ませている両翼を広げ、私は森の上空を飛んでいた。
泣きたい気持ちは存分にある。だけれどそれは一旦どこかに置いておく。
失ってから彼の大切さに気付いた愚かな私に、ずっと沈んでいる資格なんてない。

――見つけた

上空から見覚えのある顔を見つけ、私はそこに舞い降りた。

91 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/29(土) 18:18:20.66 ID:bgv+9Y2M0
王子「――!」

翼を広げたお嬢さんが僕の前に降り立った。魔物――ということは、味方ではない。
兵達の緊張感が増す。相手はお嬢さんとはいえ、どんな力を持っているかはわからない。

魔姫「中央国王子、よね」

王子「えぇ」

魔姫「昨夜、城に侵入し幹部を討ったのは貴方?」

王子「おやおや」

知らぬ間に敵側では物騒なことが起こっていたものだ。しかも犯人は判明していないのだろう、だから魔王の敵である自分に疑いがかかったのだ。

王子「心当たりがないなぁ。証明する手段はないけど、とにかく僕じゃない」

魔姫「…そう」

それにしても魔王軍幹部の暗殺か。それで「城に侵入し」ということは城内で起こったことだ。誰にも気づかれずにそれをやれるのは外部の者ではなく、内部の者ではないだろうか。
魔王軍幹部が全員あの猫ちゃん位強いのだとすれば、それをできる者も限られてくる。その上、動機のある人物といえば――

王子(犯人は従者君かな)

感情のまま突っ走る傾向のある彼を思い浮かべた。令嬢様の仕業、もしくは共犯なら、光の剣で死体を消滅させるはず。

魔姫「だけど貴方が私達の敵であることは確かよね」

彼女は僕を信じていないようで、手に魔力を貯めている。
兵士が小声で、弓を射るかと尋ねる。だが僕はそれを制した。

王子「まぁ待ってよ」

僕は彼女になるべく、温和に、柔らかく、微笑んだ。

王子「令嬢様のご友人とは、戦えないな」

魔姫「―――え?」

王子「その髪飾り、貴方が身につけている他の装飾に比べて控えめだ。少なくとも貴方が選んで購入したものではない…令嬢様は装飾品には無頓着な方だったが、選ぶならそういう物を選ぶ」

魔姫「…」

王子「間違っているかな?」

魔姫「いいえ。私とあの子は友達で、これはあの子に貰った物。…貴方がそう言うなら、こちらも戦えないわね」

王子「良かった」

もし彼女を斬れば、きっと令嬢様は悲しんだだろう。

92 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/29(土) 18:18:59.93 ID:bgv+9Y2M0
暗黒騎士「魔姫様…何でここに!?」

魔姫「暗黒騎士!」

あぁ、タイミング悪く来たものだ。僕が彼女と戦おうとしているように見えたのだろうか。

王子「…魔王軍幹部だね?」

暗黒騎士「あぁ…中央国王子よ、討伐命令により貴様を討つ」

何て面倒な三文芝居。だけれど第三者の目があるから、一応は演技をしないと。
それに彼は魔王を討つつもりだと言ってはいたが、こちらも100%信用しているわけではない。

王子「御託はいいや。行くよ!」

暗黒騎士「…!!」

剣を打ち合わせる。この手応え、彼は相当な実力者だとわかる。流石、魔王を討とうと決意しただけある。

暗黒騎士「…少し打ち合ったら撤退しろ。俺はお前を討つ気はない」

王子「うーん、兵たちの手前、すぐに逃げるわけにはいかないんだよねぇ。君が撤退してよ」

暗黒騎士「こちらにも魔姫様の目がある。そう簡単に撤退しては面子が潰れるんだよ」

王子「おやおや困ったねぇ」

小声で会話しながらも、鋭い剣を打ち合う。殺し合う気は無かったが、互いに一歩も譲らない。双方共プライドが高くて困ったものだ。
やれやれ仕方ない、ここは僕が譲ってあげよう。

打ち合いの最中、僕は後方へ跳んだ。

王子「全員撤退。幹部が殺された後だ、殺気立った魔物達が集まってくる予感がする」

兵士達は僕の言葉に従い撤退を始める。我ながら、いい口実を思いついたものだ。
全員撤退するまで、僕は暗黒騎士と睨み合う必要がある。僕は最後に馬に飛び乗って逃げればいい。
少人数で来て良かった。撤退はすぐにでも終わりそう…

「王子ぃ!」

王子「!?」

遠くから声がした。
そこにいたのは――

93 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/29(土) 18:19:34.44 ID:bgv+9Y2M0
私は2人の睨み合いの緊張で、声への反応が遅れていた。

王子「…従者君?」

魔姫「え…!?」

最近、暗黒騎士の部下になった従者だ。暗黒騎士の部下なのだから、ここにいるのはおかしいことではない。だけれど、従者が抱えているそれが問題だった。

魔姫「令嬢…!?」

従者が抱えていたのは令嬢だった。見た所、気を失っている様子だ。これは一体…!?

暗黒騎士「おい猿、どういう事だ…!?」

従者「王子…」

従者は暗黒騎士を無視し、王子に向かって言った。

従者「お嬢様を連れて帰って下さい!お願いします!」

王子「!」

暗黒騎士「何だと!?」

従者「魔王城に潜伏していなくても、魔王を討つ手段はあります!!これ以上お嬢様を魔王城に置いてはおけない!!」

魔姫(どういう事…!?)

従者が裏切った…!?いや、彼は元々侵入者として入り込んだ者。ということは元々王子側の者だったと?
だけれど魔王城に潜伏とは…?それに王子も、従者の行動に驚いているようにも見えるが…。

王子「…令嬢様はそれを望んでいないよ」

従者「しかし王子、このままではお嬢様の心は暗黒騎士のものになってしまいます!!」

王子「何だって…!」

暗黒騎士「おい猿、何を言っている!」

暗黒騎士が従者に詰め寄るが、従者は令嬢を地面に下ろすと、素早く小刀を取り出して暗黒騎士に飛びかかった。

従者「王子、今の内に早く!!」

従者は焦っている。王子はそんな彼を見て、戸惑いを隠せていなかった。
そんな時だった。

猫男爵「…これはどういう状況だ?」

呪術師「わからんなぁ」

悪魔「猿が、暴れている…?」

暗黒騎士「クソ、こんな時に…!!」

本当にそうだ。現状でも説明不足だというのに、彼らが来ては更なる混乱が予想された。

94 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/29(土) 18:20:04.60 ID:bgv+9Y2M0
悪魔「何だ…猿の裏切りか暗黒騎士?」

暗黒騎士「………そうだ」

何か後ろめたいことがあるのだろうか、暗黒騎士は即答はしなかった。

呪術師「ヒヒヒ、それなら加勢しようか」

従者「…っ、逃げて下さい王子、早く!お嬢様を連れて!」

王子「く…っ」

流石にこの人数の幹部相手に戦うのは分が悪いと思ったのか、王子は令嬢を抱えた。しかし。

呪術師「逃がさんぞおぉ!」

王子「っ!」

呪術師の魔法が、令嬢を巻き込もうが関係あるまいと王子を狙う。王子は間一髪避けたが、このまま逃げるのは大変そうだ。

魔姫「ちょっと」

私は他の全員には聞こえないように、小声で王子に声をかける。

魔姫「私を人質にすれば彼ら、手は出せないわ」

王子「!?そ、そんな事」

魔姫「このままじゃその子も殺されるでしょ!決断なさい!」

王子「…くっ、失礼します!」

王子は言われるまま、背後から私を捕らえる。やはり、それで幹部達の動きは止まった。

95 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/29(土) 18:25:17.43 ID:bgv+9Y2M0
暗黒騎士「くそ、待て!」

王子が令嬢と私を馬に乗せ、走る。途端、暗黒騎士が馬を追おうとした。
しかし彼の前に従者が立ちはだかる。

暗黒騎士「どけ猿!」

従者「暗黒騎士さん、全部バラしてもいいんですか?」

暗黒騎士「くっ、お前…!!」

その様子が遠ざかり、何の会話をしているのかは聞こえない。辛うじてわかるのは、従者が暗黒騎士の動揺を誘った事くらい。
だけど私は、その瞬間を見逃さなかった。


魔姫「あ――」


呟いたのとほぼ同時だった。




従者「――――っ!?」

悪魔「バカが…!」



悪魔の腕が、従者の胸を貫いたのは――



令嬢「あ…あ…」

魔姫「!?」

いつの間にか令嬢は目を覚ましていた。そして私が見たのと同じ光景を、直視していた。




令嬢「従者…従者、従者ああぁぁ―――ッ!!」


地面に倒れる従者を見ながら、令嬢は叫んだ。それは私が初めて見る、彼女の取り乱した姿。
だけれど馬はただ無慈悲に彼女から、それらの光景を遠ざけていくばかりだった。

96 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/29(土) 18:25:44.06 ID:bgv+9Y2M0
従者「…」

幹部達が俺を見下ろしている。
トドメを刺すのだろうか?――どうせ、放っておいても俺は死ぬだろうけど。

暗黒騎士「猿、お前…」

他の幹部達が俺に嘲りの目を向ける中、暗黒騎士さんだけが憐れむような目をしていた。

あんたはお嬢様の恩人だし、あんたの事嫌いじゃなかった。だけれど、あんたがお嬢様の心を奪ったのは許せなかった。




暗黒騎士『お前は俺の妻だ』

令嬢『――』



あんなお嬢様の顔、俺は初めて見たんだ。
小さい頃から俺とお嬢様はずっと一緒だった。それなのに、俺はあんなお嬢様を知らなかった。

お嬢様にあんな顔をさせることができるあんたが、羨ましくて、憎かった――



――あぁ、そうか。相手が王子なら諦めがついていたんだ。あの人はお嬢様の心まで奪わないから。

俺は王子よりもお嬢様を知っていると、安心できていたんだ。


ずっと、この気持ちは秘めていた。


俺は、お嬢様のことがずっと―――――

97 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/29(土) 18:29:29.71 ID:bgv+9Y2M0
今日はここまで。
きっと嘆く人がいないような気がするので、作者が嘆きます。

従者あああぁぁ!!!・゜・(ノД`)・゜・

98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/29(土) 18:32:36.51 ID:SFNiYhQKo
悪魔よくやった!

99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/29(土) 21:36:24.78 ID:42OubUzgO
でも俺は従者の気持ち分かるぞ

100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/30(日) 03:43:03.49 ID:ukf8jTYpo
従者の動機はやっぱりそういう事だったか
ならなおのこと翼人はターゲットから外した方が安全だったろうに


103 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/30(日) 15:41:15.44 ID:wf+uCNAm0
令嬢「…」

魔王城から連れ出されて丸一日経った。
とりあえず私は、中央国の王城で保護されている。
我が家が襲撃されて以来人間達はかなり動揺していたようで、私の帰還は国総出で祝われた。
昨日から色んなお偉方が私に挨拶に来られ、もうくたくただ。

魔姫「元気出しなさいよ、暗いわよ」

令嬢「…敵の捕虜になったというのに、魔姫さんはいつもと変わりありませんね」

魔姫さんは私や王子の願いで、捕虜とはいえ特に拘束されずにいる。とはいえここは敵地だ。

魔姫「貴方だってそうだったでしょ」

あぁ、彼女も私同様、かなりの強情っぱりですものね。そう思うと、思わず笑ってしまった。

魔姫「そうそう、そうやって笑っていなさいよ。貴方の笑った顔、とっても好きよ」

令嬢「魔姫さん…」

彼女には全て話した。従者が翼人を殺したことや、その理由。そして私が魔王を討つ為、暗黒騎士の妻になったことも。
昨日それを話した時の魔姫さんは複雑そうな顔をしていた。きっと翼人の死を引きずり、私や従者を恨むだろうと思った。だけど今日再会した彼女は、そんなこと顔にも出さず、相変わらず私と友好的にしてくれた。

従者のこと、許せないわよ――魔姫さんははっきりそう言った。その後で続けて、

魔姫「でも貴方は関係ない。それにもう従者は殺されてしまった。だからこの気持ちをどう消化するかは、私次第よ」

そう言った彼女の目には、前に進もうという決意が表れていた。

私はというと――従者の件が頭から離れない。目が覚めた時最初に見たのは、従者が殺される光景だった。
小さい頃からずっと一緒で、私の1番の味方だった従者。それがどうしてあんな事を――わからない。翼人を殺した辺りから、従者の行動がわからなくなっていた。

それに、頭から離れないのは従者の事だけではなかった。




暗黒騎士『お前は俺の妻だ』



もうここは魔王城ではない。だから私達は夫婦ではない。
私達の関係は今、何なのだろう――もう、ああやって、彼と過ごすことはないのだろうか。

104 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/30(日) 15:41:42.88 ID:wf+uCNAm0
令嬢(これじゃあいけない…私はまだ魔王を討ち取っていない)

魔姫さんと別れた後、訓練場へ足を伸ばした。今は丁度、誰もいない。
訓練場にあった剣を振る。駄目だ、こんな腕前じゃ魔王はおろか、幹部達とも戦えない。

令嬢(だけど光の剣なら――)

私にとって唯一の希望と言っていい技だった。
魔王城では暗黒騎士不在の時に、持続時間の維持を試みていた。あれなら――

令嬢「――――え」

王子「令嬢様…?」

令嬢「!」

それは王子に見られていた。何て悪いタイミングだ。

王子「令嬢様…今、光の剣が」

令嬢「…」

言い訳のしようがなく、私は茫然としながら、答えた。

令嬢「私の光の剣…小さくなった。前よりもずっと。どうして…?」

王子「…」

王子も答えられるわけがなく、ただ気まずいまま2人、しばらく何も言えなかった。

105 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/30(日) 15:42:10.03 ID:wf+uCNAm0
王子「父上――」

令嬢様の光の剣の件を父に伝える。
光の件の存在は勇者一族と、それに仕える一部の者しか知らなかったが、僕が令嬢様と婚約した時点で国王と僕も知る存在になっていた。

王「光の剣は本人の精神で強くも弱くもなるものだったな?」

王子「はい、では令嬢様は今弱っていると」

王「うむ…敵地から戻ったばかりだ、疲弊していてもおかしくはない」

本当にそうだろうか?以前再会した時の彼女は元気そうだったが――それともそれは気丈に振舞っていただけであって、本当はとても疲弊していたのか?それに昨日、従者君の事があったばかりだ。

王「魔王はいつ攻めてくるかわからんな。彼女の精神を安定させることが最優先か――王子よ」

王子「はい」

王「明日にでも、お前と勇者殿の婚儀を執り行おう」

王子「―――!?」

106 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/30(日) 15:42:49.88 ID:wf+uCNAm0
令嬢「え―――」

結婚の件を王子から聞かされた時、思考停止した。

王子「予定より早くなりましたが、こんな状態ですから…」

私も王子もどこか他人事。自分達の意思が関係ないのは、昔から同じ事。
これは元々決まっていた事だ。それが嫌だと思った事は無かった。それが人々の期待であり、家同士が決めたものだったのだから。

だけれど――

令嬢「もう少し…時間が欲しいです」

つい、そんな言葉が口から出た。

王子「そうですよね」

王子は追及しない。彼も、突然だと思っているのだろう。

王子「ですが父はもうその気になって、もう話を進めております。すみません、父も焦っているのです」

令嬢「で、ですが…」

王子「どうしても心の準備ができないようであれば、父に強く言っておきます。ですが令嬢様――」

王子はそう言うと私の手を握る。

王子「いつかは、その覚悟ができますでしょうか――?」

令嬢「…っ!」

私は王子の手を振り払った。つい咄嗟の行動で、自分でもどうしてそんな事をしたかわからない。
目の前の王子は驚く様子もなく、私の様子をじっと見つめていた。

令嬢「す、すみません…」

王子「いいえ」

令嬢「…すみません、王子。今日は休ませて下さい。お返事は…必ずしますから」

そう言うと私は逃げるようにその場から立ち去った。

どうしてか――王子に触れられた途端、嫌だと思った。前は、抱きしめられても嫌だとは思わなかったのに。

107 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/30(日) 15:43:19.08 ID:wf+uCNAm0
王子「…やっぱり」


従者『このままではお嬢様の心は暗黒騎士のものになってしまいます!!』


従者君が言っていたのはこの事か――
それにしてもこうはっきり拒絶されては、流石に傷ついてしまう。

魔姫「ちょっと」

王子「おや、魔姫様。…見ていらっしゃったんですか」

魔姫「バッチリ見てたわよ。あんた軽い男ね!レディーに軽々しく触れるものじゃないわ!」

王子「一応、僕と令嬢様は婚約しているのですが…」

魔姫「一応、ね…。ねぇ、聞いてもいい?」

王子「何でしょう」

魔姫「あんた、令嬢のこと愛してる?」

何てストレートな質問を…硬直していると、魔姫様は続けて言われた。

魔姫「愛しているわけじゃないのね」

王子「…わかりません」

僕は正直に答える。

令嬢様が生まれた時、僕は2歳。その時から決められていたのだ。兄が国を継ぎ、次男の僕は勇者一族の者と結ばれることを。
勇者の夫に相応しい武力を――それが僕に期待されたもの。僕はずっと、勇者の夫となる為の教育を受けてきた。王子とはいえ、僕も王族と勇者一族の婚儀という目的の為の駒に過ぎない。僕は、それに疑問を持たずに生きてきた。

令嬢様は素晴らしいお方だと思っている。だけれど…

王子「流されているだけなのかもしれないですね――僕も、彼女も」

108 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/30(日) 15:44:05.20 ID:wf+uCNAm0
令嬢「…」

何もする気が起きない。
自分で自分の事がわからない。どうして今まで受け入れていた事が、急に無理になったのか――

私は、弱くなった。



暗黒騎士『いつもいつも強がっていたお前が弱っていれば、俺にはすぐわかるんだよ』


どうして、彼の顔が浮かぶのだろう。


暗黒騎士『それを身につけたお前を、見たい…』


いつから、こんな気持ちになったのだろう。


何もわからない。ただ胸が痛い。
誰にも頼らないと決めたのに、1人で戦うと決めたのに、彼を思う気持ちが止まらなかった。

その時、部屋の扉がドンドンと乱暴に叩かれた。

兵士「勇者様!」

令嬢「はい!」

私は扉の向こうに返事をする。切羽詰っている様子に、何事かと私も緊張感を持つ。

兵士「魔物達が、攻めてきました!!」

令嬢「!」

111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/30(日) 17:47:22.21 ID:+0p9KF7XO
おのれ国王!!
令嬢は暗黒騎士のもんだ!!

112 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/01(月) 14:37:32.47 ID:WIUjoUbb0
人々は屋内に避難させ、兵士達を街の外に出動させる。
魔物達の群れだ――それは見たこともない程の軍勢だった。

魔姫「お父様の指示かしら…」

王子「…」

魔姫様を取り戻しに来たのであれば向こうに返すつもりで連れてきた。彼女を人質にする気は一切ない。

魔姫「あっ!」

魔姫様が声をあげる。その視線の先には――

王子「魔王!!」

魔王「…」

僕が遠目で魔王の姿を視認したと同時だった。魔王が手を高く掲げる。そして。

王子「――――!?」

ズドオォンと大きな轟音。魔王は躊躇なく、魔法を放ってきた。
咄嗟だったが僕は前に出て、魔法を切った。だが同時に、僕は信じられなかった。

魔姫「ど、どうして…!?」

魔姫様が狼狽えるのも無理はない。

魔姫様がいるのに、撃ってきた―――?

魔姫「どうして、お父様…!?」

魔王「―――今は人間達の希望を刈り取る好機」

そして魔王は、魔姫様に残酷な言葉を口にした。

魔王「その足手纏いとなるなら、我が娘でも切り捨てよう!!」

魔姫「え――――」

王子「何てことを…!!」

他人事ながら怒りが湧いてくる。そもそも魔王は、彼女がこちらの捕虜になっていたのに、構わず攻めてきた。その時点で、気付くべきだった。

113 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/01(月) 14:38:02.21 ID:WIUjoUbb0
駆けつけるのが遅れたが、私は魔王のその無慈悲な台詞を聞き逃しはしなかった。

令嬢「魔姫さん。私、魔王を討ちます」

魔姫「令嬢…」

魔姫さんの顔が悲痛に歪んでいる。彼女は魔王が討たれても悲しまない性格だと以前翼人が言っていた。それでも彼女は翼人の死で死への価値観が変わり、彼女なりに父親を愛していたのだ。
父親への愛情は、例え見捨てられたとしてもそう簡単に捨てられるものではない――だから、先に魔姫に言った。

魔王「よくぞノコノコ出てこれたな勇者よ」

令嬢「勇者だからよ」

それに――

令嬢「暗黒騎士はどこ!」

私は軍勢の中に彼の姿を探す。
猫男爵、呪術師、悪魔――幹部はすぐに見つかった。だけれど暗黒騎士がいない。彼ならまだ魔王側にいるはずだ。

魔王「魔王城にいた頃の夫のことは気になるか」

魔王は皮肉の笑みを浮かべる。
笑っていられるのは今の内だ。幹部最強の彼が裏切る事を、魔王はまだ予測できていない――

魔王「奴なら来ていない」

令嬢「え――!?」

そう言って魔王は私の足元に投げ捨てた――暗黒騎士の、壊れた兜を。

令嬢「こ、これは…」

114 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/01(月) 14:38:33.21 ID:WIUjoUbb0
魔王「殺してはいない」

想像することすら拒絶したその言葉を、魔王はすぐに否定した。

魔王「仕置きをしただけだ。暗黒騎士はお前を殺す事に対し、抗議してきたからな」

令嬢「仕置き…って…」

悪魔「仕置きは仕置きだ!」

3人の幹部達が一斉に飛びかかってきた。

王子「おっと!」

すかさず王子が間に入る。そして相変わらずの優雅な剣さばきで、3人を牽制した。
それと同時、兵士達が魔物の群れに押し寄せていく。頭数ではほぼ兵士側が勝っている。後は――

魔王「やはり、勇者と魔王の戦いになるか」

令嬢「…!」

暗黒騎士はいない。暗黒騎士に会えない――そんな事を、こんな状況でも思う。

令嬢「それなら、1人でも戦う…!」

ここで勝てば、また暗黒騎士に会うことが出来る。
だから私は、勝つ。

魔王「――!?」

光の剣を出した。それは今までにない位に大きくなっていた。
これなら、魔王を討てる――私は確信する。

魔王「流石勇者…妙な技を隠し持っていたのだな」

115 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/01(月) 14:39:03.40 ID:WIUjoUbb0
私は剣を構え、魔王に飛びかかる。
魔王は余裕の表情で、爪で剣を弾く。

魔王「!!」

光の剣に触れた爪はその場で溶けるように消滅した。
爪程度、魔王なら再生は可能だろう。しかし魔王の表情は歪む。

魔王「その剣は触れると危険なようだな」

そう言った魔王は魔力を纏う。そして貯めた魔力を、こちらに向かって放ってきた。
剣に触れぬよう警戒して私を討つつもりか――それは甘い考えだ。

令嬢「はっ!」

襲いかかる魔法を光の剣で斬る。光の剣が消すことができるのは、敵の体だけではない。

魔王「ほう…」

光の剣で消滅した魔法を見て、その手段も無駄だと悟ったようだ。
魔王は筋肉を肥大化させ始める。

魔王「強力な技を持っているようだが、当たらなければいいだけの事だ」

先ほど打ち消した爪はもう再生していた。
それ所か先ほどより肥大化し始め――

令嬢「…っ!」

容赦なく私に襲いかかった。今のは避けられた――だが、連続攻撃が次々と来る。
何とか避けながら、光の剣でその爪を打ち消す。そうしても今度はその拳が、攻撃を止めない。

116 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/01(月) 14:39:43.38 ID:WIUjoUbb0
令嬢「…っ!!」

魔王の拳が私の肩を打ち、私は後ろに吹っ飛んだ――が、すぐ着地し体勢を立て直す。

魔王「ははは、小娘にしてはやるじゃないか!」

令嬢「私は勇者よ」

挑発には乗らない。純粋な強さでは魔王の方が遥か上。だからせめて、気持ちでは負けない。

痛みは感じる。けれど私を鈍らせる程ではない。
この程度、あの時の心の痛みに比べれば何ともない。



暗黒騎士『お前は俺の妻だ』

令嬢『――』



私は彼を傷つけたままだ。ずっと私を見てくれた彼は、今はいない。彼に会いたい。その気持ちが私に力を与える。

令嬢「負けない…!!」

目の前の敵からの攻撃を的確にかわし、剣を振る。魔王も光の剣を警戒している様子が伺える。
私は立ち向かえる。魔王と戦う事ができる。そう確信する。

だけどそれは、1対1ならばの話で――


令嬢「…っあ!」

呪術師「ヒヒヒ、周囲が見えていなかったな…!!」

不意打ちの魔法に、私は吹っ飛ばされた。

117 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/01(月) 14:40:10.32 ID:WIUjoUbb0
王子「く…!」

幹部3人を相手にしている王子に、呪術師を止めることはできなかった。

今のは私の油断――結構ダメージを受けたけれど、まだ戦える。

魔王「相変わらず表情一つ変えんで、本当に強情な小娘だな」

令嬢「平気だから」

この程度の痛みに負けちゃいけない。
誰にも頼れない。
私は自分の力で戦う。

令嬢「勇者は、魔王を討つものだから」

魔王「その余裕ぶった態度をやめろおぉ!!」

いつの間にかまた再生していた爪が私に襲いかかる。
体は痛い、けれど戦う――私は構えていた。





「また、強がっているのか」



――――!?

118 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/01(月) 14:40:36.80 ID:WIUjoUbb0
「言っただろう?逃げるなり叫ぶなりしろ、と」


一閃、爪は弾け飛ぶ。それよりも――


「俺が守るから」



歓喜、興奮、感動――私の頭はそれで一杯だった。何故なら目の前に現れた彼は――


暗黒騎士「お前は俺の妻なんだから――な?」

令嬢「…はい!」


ボロボロの姿になりながらも、相変わらずその目で、私を見てくれていたのだから。

119 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/01(月) 14:45:05.01 ID:WIUjoUbb0
今日はここまで。
作者が1番興奮しています。

待ってたぜ暗黒騎士いいぃぃぃ!!

120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/01(月) 17:46:39.74 ID:04nAot6AO
男前が来たー

121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/01(月) 19:13:10.87 ID:2Q6kx1JBO
かっこいいー
きゅんきゅんするー

122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/01(月) 20:23:42.63 ID:6ZjY196AO
乙!
コブラなみの男前だぜ!!

123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/01(月) 21:56:44.64 ID:p9PZ0aJfO
今なら暗黒騎士に掘られてもいい

124 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:00:47.58 ID:4wPycDZ60
魔王「暗黒騎士…お前どういうつもりだ」

魔王も幹部達も、突然現れた彼の姿に驚きを見せる。
しかし彼は、ふてぶてしい態度を取った。

暗黒騎士「こいつに手ぇ出すなと言っただろ」

猫男爵「暗黒騎士!それは魔王様に対する背信行為…」

暗黒騎士「だとしたら!?」

そう言うと暗黒騎士は魔王に飛びかかる。魔王は爪を失った拳で剣を弾いた。それでも防ぎきれず、その拳は変な方向に曲がる。

悪魔「暗黒騎士、貴様…!魔王様、加勢しま…」

王子「君らの相手は僕だよ」

暗黒騎士に襲いかかろうとする幹部の前に王子が立ちはだかる。
魔王と暗黒騎士の攻防は1対1。仕置きのダメージが体に残っている暗黒騎士の方が不利か。

魔王「そうか裏切るか!その体でよく我に逆らうことができたな!!」

暗黒騎士「俺はもう昔の俺じゃない」

暗黒騎士はボロボロの姿でも、一歩も退かなかった。

暗黒騎士「殺されかけた相手に忠誠誓うような情けない俺は今日で終わりだ。俺は自分の意思に正直に、お前を倒す」

魔王「そうか暗黒騎士…ずっと我に復讐心を抱いていたのだな!だが思い上がるな!」

暗黒騎士「復讐心か…今は少し違うな」

魔王「まぁ何でもいい!我に逆らったことを後悔させてやろう!」

魔王は無傷の方の手で暗黒騎士に襲いかかるが――

令嬢「てりゃっ」

魔王「…っ!?」

乱入し、その腕を光の剣で斬った。斬られた腕は消滅し、これで両腕とも重傷。

125 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:01:13.87 ID:4wPycDZ60
魔王「くっ、この小娘が!」

魔王はすかさず魔法を私に向けて撃とうとした。

暗黒騎士「おっとぉ!」

令嬢「!」

だが、暗黒騎士がすぐに私を抱え、魔法をかわす。
遠目で見てもボロボロだった暗黒騎士は近くで見ると更に痛々しさが目立ち、よくこれで戦えるものだと感心する。

令嬢「もう大丈夫ですよ。下ろして下さい」

暗黒騎士「いや…ちょっと待て」

令嬢「…?どうしました」

暗黒騎士「あと5秒…今の俺には癒やしも必要でな」

令嬢「…馬鹿ですか」

彼も、それにときめく私も。

5秒経過し、暗黒騎士は私を下ろすと再び魔王に飛びかかっていった。心なしか、さっきより大分元気になった。
暗黒騎士は魔王の両腕を重点的に攻めている。これでは、再生の隙もない。

呪術師「くっ魔王様!」

令嬢「!」

さっきと同じく、呪術師が王子の隙をついてこちらを狙ってきていた。
しかし次の瞬間、呪術師の体は雷に討たれて吹っ飛んだ。雷を発したのは――

魔姫「…邪魔はさせないわよ」

令嬢「魔姫さん…」

魔姫さんは私と目が合うと、勝ち気に微笑んでみせた。

126 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:01:40.08 ID:4wPycDZ60
令嬢「加勢します!」

私は光の剣を構えて魔王の背後に回る。魔王は光の剣を恐れてか、翼を広げ高く跳躍――しようとして、暗黒騎士に片翼を切られる。
連続で光の剣が魔王の首を狙うが魔王は私の脇をすり抜け、即攻撃に転じ、私に魔法を撃つ。
やられる――そう思ったが、暗黒騎士にぐいっと肩を引っ張られ回避した。

暗黒騎士「お前はあまり前に出るな」

令嬢「そうはいきませんよ」

あぁこれは言い争いになりそうだ…と思ったが、魔王が両翼で攻撃してきた。
私はこれを回避――暗黒騎士はすぐに攻めに転じていた。

魔王「この為だったのか、暗黒騎士…!!あの日勇者の娘を欲しいと言ったのは、我を討つ為だったのか!!」

魔王は憎々しいといった口ぶりで言った。

暗黒騎士「そうだな」

打ち込む手をゆるめず、暗黒騎士は平然と答える。

暗黒騎士「勇者なら不死の魔王を倒せる――俺はそんな御伽噺を信じて、あいつを利用しようと考えた」

魔王「まさかお前に、そこまでの計算ができたとはな!!」

暗黒騎士「いや、計算はできなかった」

襲いかかってきた両翼を弾き、暗黒騎士は言った。

暗黒騎士「利用しようとしてできなくなった。今は、あいつを守る為に死んでもいい」

令嬢「本当に馬鹿ですね」

私は暗黒騎士に並ぶ。

令嬢「生きましょう、一緒に戦って」

暗黒騎士は一瞬私を咎めようとしたが、すぐにやめた。多分、押し問答で私に勝てないと判断したのだろう。
それでも彼の顔に不安は浮かんでいない。きっと、私を守ると決めているから。

127 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:02:09.07 ID:4wPycDZ60
魔王「くっ…暗黒騎士っ!!」

両腕も翼もボロボロになり、再生が追いつかない。
魔王の表情は苦渋に歪んでいた。

暗黒騎士「見苦しいぞ魔王!」

魔王「が…っ!!」

暗黒騎士の剣が、魔王の胸を切りつける。

暗黒騎士「お前は不死の肉体に慢心していた」

そう――だからかつて倒した相手である暗黒騎士に追い越された。
そして、死をもたらす光の剣を相当恐れていた。

魔王「く…!!我はこんな所で敗れん!!」

魔王の体中から、魔力が溢れる。

魔王「全力を賭けて、貴様らを殺す!!」

そして溢れ出した魔力は波のように、私達に迫ってきた。
これは逃げられない――暗黒騎士は私を庇うように前に出る。

令嬢「大丈夫」

だけど私は、暗黒騎士の更に前に出た。
そして光の剣を出し、迫ってくる魔力に対峙する。

令嬢「私が道を作りますから、貴方は魔王に――」

暗黒騎士「あぁ」

私を信じてくれている。この大役、失敗するわけにはいかない。

128 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:02:35.44 ID:4wPycDZ60
暗黒騎士「守るなんて言ったが、お前は俺なんかより凄いな」

令嬢「いいえ、違います」

光の剣は心で強くなる剣。ならば今の、この光の剣は――

令嬢「貴方のお陰で、強くなれましたから」

暗黒騎士に声が届いたかどうか――反応を確かめる暇はない。私は迫ってきた魔力を一刀両断に斬った。
それと同時、暗黒騎士が魔王に向かって駆けていく。

そして暗黒騎士の剣は、吸い込まれるように――

魔王「ガハァ…ッ!!」

魔王の胸に、深く突き刺さったのだった。

129 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:03:02.60 ID:4wPycDZ60
魔王が崩れる。胸の一撃は致命傷――普通の体なら。

魔王「おのれ…!!」

魔王は目の前の暗黒騎士に手を伸ばす。と同時に、一気に手が再生を始めた。他の部分の再生を諦め、手に集中したのだろう。

魔王「貴様だけでも道連れにしてくれる…!!」

肥大化した爪が暗黒騎士に迫り――

令嬢「本当に見苦しい」

そしてそれは、光の剣により消滅した。
魔王が悪あがきするだろうということは予測済み。だから暗黒騎士が駆けたと同時、私も魔王に迫っていた。

令嬢「終わりですよ」

魔王――私の誇りであった父の仇。人々に災厄をもたらそうとした、勇者の敵。
私は確かに貴方を恐れていた。心を厳重に武装して、恐怖心を誤魔化していた。私1人なら、絶対に勝てなかった。

――貴方がいたから、私は魔王を討てる。

暗黒騎士「行けーッ!」

共に戦ってくれた彼の声が私を後押しし――


光の剣は、魔王の首を断ち切った。

130 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:03:29.86 ID:4wPycDZ60
令嬢「…やっ…た…」

光の剣に命を断たれた魔王の肉体は消えていく。

悪魔「う、嘘だろ…魔王様が」

猫男爵「あの不死身の魔王様が…」

呪術師「ど、どどどうすればいいんだーッ!?」

魔物達は動揺するばかり。魔王が討たれた瞬間敵には敗北ムードが漂い、戦いが一斉に止まった。中にはそこから逃げ出す魔物もいた。

魔姫「…負けたのよ、魔王は」

動揺する魔物達に、魔姫さんが毅然とした態度で言った。

魔姫「魔王なき魔王軍には野望も目的も存在しない。敗軍は徹しなさい」

悪魔「は…はっ!」

彼女の言葉で魔物達が退散を始めた。それを追う者はいない。
魔物達は元々各々好き好きに活動していた者達。将を失った今は軍から個に戻り、敵ではなかった。

魔姫「…お父様は勇者との戦で敗れた。魔王の娘だもの…いつか、こうなる日が来ると思っていたわ」

そう言う魔姫さんの顔には、かつて翼人を失った時のような悲壮感は浮かんでいなかった。
あるのは相変わらずの、前に進もうという意思だった。

131 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:03:57.51 ID:4wPycDZ60
これで終わった。魔王との決戦も、父の仇討ちも――

そう思った瞬間、これまでの疲れがどっと押し寄せ、私の足はふらっとよろめく。

暗黒騎士「しっかりしろ、勇者」

よろめいた私を、暗黒騎士がすぐに支えてくれた。
私を支える暗黒騎士は――あぁ、私を心配してくれている顔だ。

令嬢「大丈夫よ…ちょっと疲れただけで」

暗黒騎士「あぁ…よくやったな」

彼は安心したように笑う。その笑顔を見た瞬間、私はある衝動に駆られた。

暗黒騎士「お、おい!?」

そしてその衝動のまま、暗黒騎士に飛びつく。突然のことに彼は慌てふためいていた。

魔姫「…ちょっと。人目を気にしなさいよ」

王子「ははは…」

周囲の兵たちの歓声も、その時の私の耳には入っていなかった。

132 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:04:29.60 ID:4wPycDZ60
王「勇者よ――」

令嬢「!」

兵士達が道を開け、国王がやってきた。
私はすぐに暗黒騎士から離れた。

王「よくぞやってくれた。お主は魔王を討った、人々の希望――正に勇者だ」

令嬢「…はい」

王「しかし…」

王は視線を、私の側にいる暗黒騎士に移す。一部始終見ていたのだろう、訝しげな目で彼を見た。

王「勇者よ、その男は一体…。人間から魔族に転生した者の特徴があるが…」

令嬢「…」

何と言えばいいのだろう。元魔王軍の幹部?魔王軍の裏切り者?魔王城での夫?――どうしよう、説明するとややこしい。

暗黒騎士「おい…俺から説明しても信用されないだろうから、何とか言ってくれ」

暗黒騎士が困ったように私をせっつくが、私は言葉を詰まらせる。
そんな様子を見て、王はますます訝しげな顔になった。

王「まぁ、いい」

いいのか。

王「ところで、王子との婚姻だが――」

令嬢「―――!!」

王「良ければ明日にでもだな…」

令嬢「…申し訳ありません、王様」

王「何?」

私は王に一礼すると、暗黒騎士にくるっと向き直った。そして。

令嬢「暗黒騎士…逃げますよ!」

暗黒騎士「え…はっ!?」

私は困惑する暗黒騎士の手を取り、そこから走り去る。
王は勿論、兵士達もざわついた。

133 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:05:07.61 ID:4wPycDZ60
王「な、何だ!?」

兵士「馬で追いますか!?」

王子「―――いや」

走り去る2人をその場で、僕達2人だけが冷静に見ていた。

王子「大丈夫ですよ、令嬢様なら待っていれば戻ってこられるでしょう」

魔姫「今は邪魔しちゃいけないわね」

王「ど、どういう事だ…!?」

王子「あれが、婚姻に対する返事ですよ」

僕の完敗だ。だけど悔しくない。

魔姫「ちゃんとキス位してから戻ってくるでしょうね」

王子「どうでしょうね、2人とも奥手そうですから」

魔姫様と顔を合わせてそんな話をした。
今はただ、魔王を倒したという達成感と、2人を祝福する気持ちで笑っていたかった。

134 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:05:40.42 ID:4wPycDZ60
しばらく走った。やがて人里離れた湖畔に辿りついた。
もう体力の限界だったのか、暗黒騎士はその場にへたり込んだ。

暗黒騎士「ゼェゼェ…お前な、怪我人に無理させるなよ」

令嬢「ふー、ふー…ふ、ふふふふっ」

暗黒騎士「ど、どうした」

令嬢「初めてなんです、ああやって問題行動起こしたの。今頃きっと皆あたふたしているわ」

暗黒騎士「あのな…いいのか、それで」

令嬢「貴方はどうしたいですか?」

暗黒騎士が硬直する。
何てわかりやすい人だ。こんなにわかりやすい人なのに、私は全然気付かなかったなんてね。

暗黒騎士「…しばらく、ここにいたい」

令嬢「えぇ、そうしましょう」

私は暗黒騎士の隣に腰を下ろした。
戻ればやる事は沢山ある。他国への挨拶回りや催事への参加、自分が当主となった家でのあれこれ…多分しばらくは忙しい日が続く。その日々に、いつも一緒にいた従者はもう着いてきてくれない。

令嬢「…今だけは忘れていたい、全部」

暗黒騎士「あぁ…そうしろ」

暗黒騎士は何も聞かず、頷いてくれた。
彼が許してくれるというなら忘れよう、今ここにいる、彼以外のことを。

135 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/02(火) 17:06:34.67 ID:4wPycDZ60
令嬢「暗黒騎士」

暗黒騎士「!」

体を彼に寄せる。暗黒騎士はビクッと跳ねたが、抵抗しなかった。
言葉はなく、時が静かに流れる。

暗黒騎士「―――なぁ」

先に沈黙を破ったのは暗黒騎士だった。

暗黒騎士「王が言っていただろう…王子との婚姻は」

令嬢「…私はもう、貴方の妻ですよ」

暗黒騎士「そ、それは…」

それは魔王城での話だ――言葉はそう続くのだろう。
だけど私にはわかる。暗黒騎士はその先の言葉を、言いたくはないのだ。

令嬢「私は、貴方の妻ですよ」

今度は彼の目を見つめて言った。
彼は唇をぎゅっと結び、私から目を離さなかった。

暗黒騎士「…本当なんだな?」

その声色は掻き消えそうなくらい不安で一杯で、彼にしては弱々しい。

暗黒騎士「お前はずっと…俺の側にいてくれるんだな?」

あの時の目だ。彼の私への気持ちが全て込められた、あの時と同じ目。
だけどその目はあの時のように私を突き刺すことはなく――

令嬢「――はい」

初めて彼に満面の笑顔を向けた。今はその目も、紅潮する顔も、愛しく思える。

ゆっくり時間が流れる湖畔。私と彼は互いの存在を確かめ合うように、触れ合った。

141 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/03(水) 17:01:31.93 ID:VzcDf6bM0
魔姫「…それじゃあ私は帰るわ」

兵たちの混乱が収まり、とりあえず現在国は令嬢の帰還待ち。
私はこれといってやることもないので、王子に挨拶し翼を広げた。

王子「魔姫様はこれからどうなさるのですか?」

魔姫「決まっているわ」

そう、決まっている。お父様の背中を見ながら抱いていた夢――

魔姫「私が次の魔王になるわ」

王子「お、おぉ」

王子はリアクションに困った様子で、地味に驚いていた。

魔姫「でも勇者と戦う気はないわよ。あの子は私の唯一の友達なんだからね」

王子「ですよね~」

魔姫「そうねぇ。私が魔王になった暁には人間達と和平条約でも結ばせてもらおうかしら。その時には是非宜しく頼むわよ」

王子「えぇ勿論」

きっと和平条約に、人間達はそう簡単に納得はしないだろう。
だけどこの王子が力になってくれれば、とても心強い。

魔姫「その前に魔物達に私が魔王と認めさせる必要があるわ。何年かかかりそう」

王子「はは。魔姫様、それまで僕は独身でお待ちしていますよ」

――――はい?

王子「魔王と王子の婚姻…和平を結ぶには効果的と思いませんか」

魔姫「え、ちょ…あ、あんたやっぱり軽い男ね!」

王子「いいえ。確かに僕はまだ愛を知りませんけれど…貴方のようにはっきりとしている女性、好きですよ」

魔姫「~っ…」

よくもこんな、下心なんてありませんという風なさわやかな笑顔でそんな事が言えるものだ。

魔姫「…まぁ考えておいてあげるわ。今は魔王になる事で頭が一杯なの」

――それに私には、まだ忘れられない人がいる。

魔姫「それじゃあ…またいつかお会いしましょう」

王子「はい――お元気で」

142 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/03(水) 17:02:10.77 ID:VzcDf6bM0
国に戻ってからしばらくは、案の定激動の日々が続いた。
勇者と懇意にしようというコミュニティが国内外問わず現れ、その対応に追われていた。面倒臭いから適当にしておきたがったが、家の対面を考えて接しなければならないので不本意でも愛想笑い位はしておかなければならない。
お父様、貴方もこんなに大変だったのですね――亡き父への想いは悲しみから同情に変わる。

しかし1番厄介だと思っていた問題は――

王子「婚約の取り消しが正式に決まりましたよ」

令嬢「思ったよりあっさりでしたね」

王子「いえいえ…皆を説得するのにとても苦労しましたよ」

令嬢「あらすみません」

いつも優雅な王子の笑顔が一瞬引きつったので、苦労したのだろう本当に。

王子「認められなくて駆け落ちされる方が国にとって打撃でしょうから」

令嬢「あら、読まれていましたか」

王子「…王家に勇者の血を――これは中央国の欲です」

王子は真面目な顔で言った。

王子「勇者は人々の希望となる絶対的な存在。その勇者の血が中央国王家に混じれば、人々も周辺国も中央国にますます頭が上がらなくなる。だから周辺国は、本音では僕達の婚約を苦々しく思っていたはずですよ」

令嬢「…難しい話はあまりしたくありませんわ」

王子「失礼」

難しい話――思えば自分の事なのにほとんど考えた事が無かった。以前の自分はそんなに意思が無かったのかと、今になっては恥ずかしい。

王子「これからは、どうぞご自分の幸せを考えて」

令嬢「えぇ。王子様もね」

そう言うと王子は苦笑した。互いに同じだったのだ――だけどその時の王子の笑顔は肩の荷が降りたような、そんな安心感に溢れていた。

143 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/03(水) 17:02:43.98 ID:VzcDf6bM0
魔王討伐の興奮も冷めた頃、また人々は平和な暮らしに浸かり始めた。


令嬢「…っ、も、もう、いいですって!」

魔姫「な~に言っているの。今日はうんと綺麗にならなくちゃ」


魔姫さんは魔王城に残った魔物達を束ね、人間との和平の為、魔王を目指している。
嫌味幹部3人組は相変わらずのようだが、魔姫さんの尻に敷かれっぱなしらしい。


令嬢「お化粧嫌い…」

魔姫「特別な日なんだから、我慢なさい」

令嬢「う~…」


人間と魔物の和平と共存――それは本当に実現可能なのか。


魔姫「あら?貴方のそのペンダント…」


今はまだ、わからない。


令嬢「…衣装と合わないかもしれませんが、これは絶対外せないんです。1番大事な物なので…」

魔姫「~っ…令嬢ったら可愛いんだから!早くその姿暗黒騎士に見せてあげなさい!!」

令嬢「ちょっ、押さないで下さい魔姫さん!」


だけれど今は


暗黒騎士「お、おぉ」

令嬢「…」

魔姫「…ちょっと、何とか言いなさいよ」

暗黒騎士「あ、その…えーとだな、お前、その…き、きれ、い…」

令嬢「…言わないで下さい」


この平和に浸ってよう。

144 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/03(水) 17:03:38.69 ID:VzcDf6bM0
王子「来賓の方々お待ちですよ。ささ、早く出て出て」

令嬢「ううぅ~…恥ずかしい、こんな格好で人前に出るなんて」

暗黒騎士「お、お俺だってなぁ~…」

魔姫「いいから出なさい」


魔姫さんに押されるように人前に出る。
そこには身分は関係なく、私達を祝福してくれる人達の笑顔が溢れていた。


「結婚おめでとうございます勇者様!」「勇者様お綺麗ですよ!」「勇者様万歳!」


2人ともこういう場は苦手だったが、周囲からの強い圧力により、こうして式を挙げることとなった。
恥ずかしさのあまり顔が熱い。心を強固に武装するしか…駄目だ、祝いの場でそれは。

神父の言葉通りに指輪交換。ガッチガチでちゃんとできているか不安。
落ち着いて、落ち着いて。よし、大丈夫――

神父「それでは誓いのキスを――」



これがあった―――――!!



暗黒騎士「…目瞑れ」

令嬢「え、あ―――」




―――――



歓声が上がる。拍手が送られる。私の熱は最高潮。

暗黒騎士「…今のが永遠の誓いだ」

発熱しそうな顔で暗黒騎士が言った。あぁ、多分気持ちは私と一緒。

令嬢「―――はい」



祝福の中、私達は本当の夫婦になった。
永遠を誓ったその日、これからの幸せを一緒に守っていこうと心に決めた。


fin

145 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/12/03(水) 17:04:07.47 ID:VzcDf6bM0
最後までお付き合い下さいありがとうございました。
今回の作品もコメントで元気を頂きながら楽しんで書き上げることができました。

まだHTML依頼出さないので、質問等ありましたらお気軽にどうぞ(´∀`)ノ


しばらく連作していましたが、今回ので色んなもん出し切ったので休みます。

146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/03(水) 17:15:07.35 ID:9leqKmjFO
おつ!よかったよ!

147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/03(水) 17:32:31.68 ID:hANB7p8qO
素敵!

148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/03(水) 19:26:53.12 ID:thYmmSYrO
乙!
もっと見たかった!

149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/03(水) 20:13:21.28 ID:zYR1oTx40


150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/03(水) 21:58:25.17 ID:0yoNU4ouO
前の暗黒騎士モノも良かったけど、今作もドキドキして面白かったよ!

151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/04(木) 07:09:14.73 ID:LJOzLaX8o
乙!
posted by ぽんざれす at 21:31| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

勇者の娘「お父様の仇を討ちます」(1/2)

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1416486250/


1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/20(木) 21:24:20.53 ID:cSJEM5KH0
自分の運命を自分で決める余地は無かった。
勇者一族の末裔なら勇者に。誰もがそれに疑いを持たない。
人々が自分にそれを期待しているというのに、どうして反発できようか。
こうして私は流されるまま、勇者となる運命をごく自然に受け入れていた。

しかし――

「貧相な人間の小娘だな。こんなのが勇者だと?」
「その一族に生まれただけの小娘に過ぎん」
「その血筋だというだけの者に希望を抱くとは、だから人間は頭が悪くて嫌いなのだ」

敵から浴びせられた嘲笑が私の頭の中で渦巻いていた。
彼らの言うことこそが正論。私は一族に生まれただけの小娘。
しかし、その心無い言葉と現状に、初めて私は決意した。


本当の勇者になってやろう、と――



2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/20(木) 21:24:56.21 ID:cSJEM5KH0
つい先ほどのことだった。私の家が魔物達からの襲撃に遭ったのは。
20年前に魔王が破られ、それなりに平和になった現代において、その襲撃は晴天の霹靂だった。
稼業である魔物退治を済ませ家に戻る道中、家から火の手が上がっていたのを遠目から発見したことを覚えている。

令嬢「まさか魔物の襲来…!?お父様っ!」

従者「お待ち下さいお嬢様!」

私は従者の言葉を耳に入れず、一目散に家に駆けていった。今思えば、これが浅はかだった。
既に戦闘の跡でボロボロになった屋内では、警備兵達が倒れていた。

お父様は――とその時、大広間の方から戦闘音が聞こえてきた。
お父様に違いない、そう思って迷わず大広間へ駆けた。20年前魔王を倒した英雄であるあの豪快な父ならば、どんな敵にでも負けないだろう。そう、思っていた。

だが。

令嬢「…っ!」

大広間の扉を開けた瞬間私が目にしたのは、信じられない光景だった。

父「が…っ」

?「…ふっ」




私が見たのは、魔族の爪に胸を貫かれた父だった。



令嬢「あ、あ…」

?「…勇者の娘か?」

そう言ったと同時、魔族は父を床に投げ捨てた。
魔族と、魔族を囲んでいた4名の魔物は一斉にこちらを向く。

とても勝てる相手じゃない――本能的にそう思った。だが同時に思った。きっと逃げ切ることもできない。
ならばどうするか。勇者らしくあれ、そう教育を受けてきた私に迷いはなかった。

令嬢「許さなっ――」

駆け出したと同時、上から衝撃があり、私は地面に組み伏せられる。
何事かと振り返ると、黒い鎧を纏った何者かが私を組み敷いていた。

?「余計な手出しを、暗黒騎士」

暗黒騎士「このような小娘、貴方の手を煩わせる必要もない」

令嬢「…貴方達、何者?」

勇者たるもの、常に堂々とあれ。そう教わってきた私は今の状況にも関わらず、なるべく冷静を装って言った。
そんな様子が滑稽なのか、魔族は私の問いに鼻で笑って答えた。

?「まぁいい、答えてやろう――



我は魔王。20年前討ち滅ぼされた魔王に代わり、魔物を統べる者だ」



しばらく理解ができなかった。

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/20(木) 21:25:42.11 ID:cSJEM5KH0



魔王「出だしは順調だ。英雄たる勇者を討たれ、人間達は絶望しただろう」

呪術師「でしょうねぇ…ヒヒヒ、人間達が我らに降伏するのも時間の問題…」

悪魔「しかし中央国の王子も勇者に劣らぬ剣の使い手と聞く。くれぐれも油断せぬよう」

翼人「誰にものを言っている。魔王様が油断なさるはずがない」

猫男爵「ともあれ今日の作戦は大成功だな」


令嬢「…」

私は捕まり、魔王城へ連れてこられた。我が家を襲撃した魔物達が、私の目の前で父の敗北を嬉々として語っている。
屈辱だ。けれど自分を落ち着かせ、表情を固くする。どんなに悔しくても、それを表には出したくない。

暗黒騎士「失礼します」

と、先ほど私を組み伏せた暗黒騎士が遅れてやってきた。

猫男爵「ご苦労暗黒騎士。さて、幹部が揃ったな」

呪術師「ヒヒ魔王様、例の件ですが…」

魔王「あぁ褒美の件だろう、忘れてはいない。勇者の邸宅から持ち帰ったものを好きに山分けするといい」

魔王がそう言ったタイミングで、下級の魔物が我が家から持ち帰った財産の数々を持ち込んできた。
怒りが収まらない。財産を山分けしている魔物達を見て、大事な思い出を汚された気分になった。

翼人「ところで魔王様」

翼を生やした人型の魔物は、ふと、私の方を見た。

翼人「勇者の一族に生まれた者は、勇者となるようですが――」

その言葉と同時に視線が私に集中した。


悪魔「貧相な人間の小娘だな。こんなのが勇者だと?」

呪術師「その一族に生まれただけの小娘に過ぎん」

猫男爵「その血筋だというだけの者に希望を抱くとは、だから人間は頭が悪くて嫌いなのだ」

次々に侮蔑の言葉を浴びせられる。
屈辱と恐怖で気が狂いそうだ。表面的に装っている平静はいつ崩れるか、時間の問題だ。
そして私の恐怖は、次の瞬間頂点に達した。

呪術師「だが、見た目は上玉な娘だ」

ぞわりと悪寒が走る。
わざわざ生かしておいたということは、やはりそういうことか――私は表情が歪むのを必死に堪える。

呪術師「ヒヒヒ…」

その目つきがおぞましい。
もしそいつが少しでも私に触れようものなら自害してやろう。きっと抵抗も、逃げることもできない。私は決意し、懐の小刀を見えないように握り締めた。

暗黒騎士「待て」

だが私に近寄ろうとする呪術師の肩を、暗黒騎士が止めた。

呪術師「何だ暗黒騎士?お前も混ざるか?」

暗黒騎士「褒美の件だが――俺はその娘を貰う」




令嬢「…………え?」

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/20(木) 21:26:15.03 ID:cSJEM5KH0
悪魔「ハハハ!本気か暗黒騎士!」

呪術師「暗黒騎士、あの小娘を独り占めしたいのか?」

猫男爵「まぁ暗黒騎士は今回ほとんど貢献していないから、それで十分かもしれんな」

暗黒騎士「あぁ。そいつを貰えれば後は何もいらん」

翼人「相当な入れ込みようだな。一目惚れでもしたのか」

魔王「堅物の暗黒騎士が女を欲しがるとはな!勇者一族の生き残りが魔王軍幹部の側室になるとは、面白い状況ではないか…!」

魔物達は大笑いしたり、怪訝そうにしたりと各々違う反応を見せた。
私はというと、状況が飲み込めないでいる。

悪魔「確かに面白い…」

悪魔は私ではなく、暗黒騎士を嘲笑するように見た。

悪魔「卑しい元人間のお前には、貧相な小娘がお似合いだ」

暗黒騎士「…」

令嬢「…?」

私はというと暗黒騎士が元人間という事実より、暗黒騎士を見る魔物達の、蔑むような視線が気になっていた。

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/20(木) 21:26:44.20 ID:cSJEM5KH0
令嬢「…」

あれから無言のまま暗黒騎士の部屋に案内された。最奥の小ぢんまりとした一室に通され、逃げることは不可能そうだ。
さて、どうするか。先ほど暗黒騎士が兜を脱いだが、人間と言われても違和感ない、少なくとも他の幹部に比べるとずっと生理的に受け付けられる(むしろ人によっては美形にも見えそうな)顔立ちをしていた。だからといってこのまま彼の側室になるのは嫌だし、かといって簡単に自害するのも躊躇われた。

とすると、もうこれしかない――

暗黒騎士「おい――」

暗黒騎士が部屋のドアを開けた。と同時。

暗黒騎士「…何のつもりだ?」

令嬢「動かないで」

ドアのすぐ側で構えていた私はすぐに暗黒騎士の背後に回り、その首に小刀を突きつけた。

令嬢「剣を捨てて。早く」

暗黒騎士「…」

暗黒騎士は言われるまま、剣を床に落とした。
よし――しかし、油断したのが良くなかった。

暗黒騎士「…」ビュン

令嬢「あっ!?」

唐突な手刀が私の手首を打つ。そして私は、小刀を落としてしまった。

令嬢「…」

暗黒騎士「何か言うことは?」

令嬢「許して頂けないかしら?」

ふてぶてしく言ってみせると、暗黒騎士はふっと静かに笑った。

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/20(木) 21:27:12.83 ID:cSJEM5KH0
暗黒騎士「面白い奴だな。何を許せって?」

令嬢「お忘れなら、忘れたままでいて下さい」

暗黒騎士はまた可笑しそうに吹き出す。しかし冷静を装う反面、私は焦っていた。これで自害もできなくなった。しかしこのまま彼に組み敷かれるというのは、どうしても受け入れがたい。

暗黒騎士「おい」

令嬢「!」

暗黒騎士が振り返り、私は壁に追い詰められた。逃げ場はない。

令嬢「デリカシーの欠片も感じませんね」

暗黒騎士「残念ながら俺は育ちが悪くてな」

令嬢「それで?これからどうする気…?」

高圧的な態度は精一杯の抵抗。それで状況が覆せるわけじゃないが、怯えを見せるよりはずっとマシ。

暗黒騎士「肝が座っているな。流石は勇者の末裔か」

暗黒騎士は顔をゆっくり近づけてきた。
あぁ駄目だ。やはり決心がつかない。せめて最後の抵抗で、思い切り蹴り上げてやろうか。
恐怖でガッチガチの私に気づいているのかどうか、暗黒騎士は小さく呟いた。



暗黒騎士「協力しろ――魔王を討つ」



令嬢「―――――!?」


予想外の言葉に、私は何も反応できずにいた。


11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/21(金) 22:08:30.93 ID:kJl2AN3m0
翌日の朝食会。他の幹部方が食卓を囲む中、私も暗黒騎士と共に席についた。

翼人「2人共、並ぶと見栄えはいいじゃないか」

暗黒騎士「どうも」

朝食会と聞き、それ相応に身なりを整えてきた。こういう場でみすぼらしい格好で来れば、ますます馬鹿にされるだけ。
常に好奇の視線が寄せられていると意識しながらも、私は食事を進めていた。

猫男爵「私には人型の美的感覚はわからんな」

呪術師「愛玩するにはなかなかの逸材ってとこだ、ヒヒヒ」

悪魔「フン、だが態度がふてぶてしくて可愛げがないな」

皆好き勝手に物を言う。好きにすればいい、私はここでは弱い立場だ。何を言われても仕方ない。
だけれども。

悪魔「本当にこんな小娘で良かったのか、暗黒騎士」

暗黒騎士「あぁ、後悔はしていない」

猫男爵「どういう所が気に入ったのだ?」

暗黒騎士「言葉では説明できんな」

冷やかし混じりに質問されているというのに、暗黒騎士は談笑するように愛想よく答える。
いちいちカッとなるよりは余裕があるけども、ただの八方美人にも見える。

勇者(これで、本心では魔王や幹部達を殺そうと考えているというのだから…)


私は、昨夜のことを思い出していた。

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/21(金) 22:09:02.55 ID:kJl2AN3m0
暗黒騎士「協力しろ――魔王を討つ」


―――何を言っているの?

魔王を討つ?それは上等。
協力しろ?勇者一族として当然。
だけど何故貴方がそんなことを言うのか。さっきまで魔王に頭を下げていた男が。

令嬢「理解ができないのですけれど?」

暗黒騎士「だろうな」

私の反応を予想できていたというのに、理解できない言葉を発したと言うのか。ますます訳のわからない男だと思う。

暗黒騎士「説明するには、俺の過去から話す必要があるのだが――」

令嬢「長い話なら、聞きませんよ」

暗黒騎士「なら短くまとめよう。さっき誰かが言ってたように俺は元人間だ。人間の頃魔王に殺されかけ、奴に忠誠を誓う代わりに命拾いをした。だが心の中では、まだ奴への復讐心が残っている」

令嬢「殺されかけた理由は?」

暗黒騎士「当時俺は魔物退治を生業としていた。仕事上の標的が魔王だったのが運の尽きだったわけだ」

令嬢「意外性が無くて平凡な話ですね」

暗黒騎士「同情してくれないのか?俺は被害者だ」

令嬢「無力化した女を壁際に追い詰めるような殿方に持ち合わせる同情心はありません」

そう言うと暗黒騎士はふっと笑いながら私から離れる。彼にとってはおふざけだったのだろう。こっちからすれば冗談ではないが。

暗黒騎士「俺に魔王は討てない」

暗黒騎士は自嘲気味に言った。

令嬢「貴方、自分の不甲斐なさを暴露するつもり?」

暗黒騎士「勇者でないと討てないんだ」

令嬢「どういう事かしら?」

暗黒騎士「魔王は、不死の肉体を持っている」

令嬢「―――!」


それだけで、彼の意図が私にはわかった。

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/21(金) 22:09:37.20 ID:kJl2AN3m0
意識を朝食会に戻す。暗黒騎士は相変わらず皮肉をおどけた笑顔で返している。それにしてもまあ、皮肉を言う方も、よくも飽きないものだ。

魔王「しかし、人間達の間では大騒動になっているようだぞ」

何の話の脈絡か、魔王が突然そう言い出した。

呪術師「そうでしょうね、先代魔王を倒した勇者が討たれ、その一人娘も我らの手に落ちたとなれば」

翼人「人間達は希望を奪われたも同然か…」

令嬢「…」

抗議したい気持ちをぐっと抑え込む。
手に落ちた?何、勝手なことを。私はまだ、諦めてはいない。

それと、人間達の大騒動の詳細が気になった。頼れる勇者がいなくなったことで奮起するか、それとも絶望するか――どうなるのかは読めない。

悪魔「暗黒騎士、その小娘をしっかり飼い慣らしておけよ」

えぇいうるさい。

暗黒騎士「難しいことを言うんだな」

同調しなかったことは評価してあげましょう。

猫男爵「卑しい元人間には相応しい任務じゃないか」

猫の分際で何を言う。

呪術師「女は何だかんだで、見た目のいい男に弱いしな」

貴方の見た目が1番きついのだけれど。

魔王「まぁ暗黒騎士にとっては初めての女だ!皆暖かく見守ってやれ、こいつが女を扱うのは赤子が猛獣を扱うようなもの…」


ダンッ!!


幹部達「!?」


あぁもう我慢の限界。
私は飲み物の入ったグラスを思い切りテーブルに叩きつけた。
その場の視線が私に集中したのを確認し、私は静寂の中言った。

令嬢「いい加減にして下さい。これ以上私の夫を侮辱するのは、許しませんよ」

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/21(金) 22:10:06.35 ID:kJl2AN3m0
しばらくの沈黙。
その後、誰かがふっと噴き出した。

悪魔「これはこれは!もう勇者を惚れさせたのか、やるな暗黒騎士!」

令嬢「見当違いですね」

高飛車に鼻で笑ってみせる。

令嬢「仮にも勇者の夫を侮辱するなど、魔物には常識を1から教える必要があるようですね」

翼人「ほほう」

猫男爵「…頭の悪い娘だ。我々の敵である勇者に敬意など持ち合わせるわけがない」

令嬢「私は魔王に敬意を持ち合わせていますわ――敵として」

場の空気が緊張する。
特に魔王、口元は笑みを浮かべているが警戒心が一気に強まった。この切り替わりの早さは流石だ。
周囲から感じる敵意に、私は危険を感じ取っていた。

だけれど私は、あくまで温和に、魔王に微笑んでみせた。

令嬢「ご馳走様でした、大変良いお食事でした」

そして私は緊張感漂う食堂で空気を読まずに堂々とした振る舞いのまま、その場から立ち去った。



翼人「…面白いな暗黒騎士、お前の妻は」

暗黒騎士(まさか、そうくるとは――)

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/21(金) 22:10:37.51 ID:kJl2AN3m0
囚われの身の現状、あの侮蔑の視線と言葉が今の私に対する正当な扱いだ。
しかし心まで折れたら負け。あんなものに押しつぶされないよう、心を厳重に武装する。

私は今まで、勇者となる運命を何となく受け入れていた。
だけれど今は今までとは違う。もう私しかいない。私が折れたら代わりはいない。


強く決意する。私は勇者となり、必ず魔王を討ち取ってみせる――


暗黒騎士「…意外と大胆なのだな」

令嬢「ちょっとこちらへ来て」

暗黒騎士「?」

無防備に近づいてきた暗黒騎士に、手を張り上げ…

――バチイイィィン

暗黒騎士「!?」

令嬢「仮にも勇者の夫が侮辱されてへらへら笑いなんて、私は許しませんよ」

私はそう言うと踵を返し、彼を置いて行った。

暗黒騎士「…あまり下手なことはするなよ」

置き去りにされた彼は動揺することなく、そう呟いた。
魔王を討つまで下手なことをするな、そう言いたいのだろう。わざわざ彼に忠告されなくても、わかっている。だけど彼が味方面をして忠告してきたことに反発を覚える。


私は、貴方のことも信用していない。


私は無視して突き進む。
言葉ではなく、態度で示したつもりだ。それが彼に伝わったかは、不明。


23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/22(土) 19:53:25.71 ID:lSunmYm30
令嬢「さて…」

時間ができたので城内を回ってみることにした。
城内を徘徊する魔物達の好奇の視線を感じるが、その内慣れてくるだろう。
魔物達は私を訝しげに見るものの、拘束しようという様子は見られない。ここから逃げ出そうとすれば捕まるかもしれないが、そうしないならある程度自由に動き回れるようだ。

令嬢(あそこ、夜なら身を潜められそうね)

幹部達の行動パターンを把握し、夜あそこから急襲すれば1人仕留められないか…とか、そういうことを考えながら色んな所を見回る。
あとは武器の調達だけど、どうしようか。
素手でも戦えそうな下級魔物から奪い、口封じして死体をどこかに埋めれば…その魔物がいなくなったことで、どの程度の騒ぎになるかが問題だ。

令嬢(やっぱり暗黒騎士に頼るのが1番危険が少ないかしら?)

あの壁ドン男に頼るのは癪だけれど、現状ではそれが確実だ。ほんっ…と~に不本意だけれど。

令嬢(一応他にも手もちゃんと考えておきましょう)

?「ちょっとそこの貴方」

令嬢「?」

自分のこととは思わなかったが、はっきりした強い口調につい振り返った。
すると豪華なドレスに身を包んだ、私と同い年くらいの女の魔族が、私の方を強い眼差しで見ていた。

令嬢「私のことかしら?」

?「貴方が暗黒騎士に嫁いだっていう勇者?」

令嬢「えぇ」

好奇心の強いどこかのお嬢さんだろうか。その程度に思っていたら、その女魔族がぐっと顔を近づけてきた。

?「一夫一妻は人間の常識よね」

令嬢「そうですね」

?「私…負けないから!あんたみたいな貧乳娘に!」

彼女はそう言うとくるっと振り返り、向こうに駆けて行った。

令嬢「貧乳…」

私はというと、地味なダメージを受けていた。

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/22(土) 19:54:16.91 ID:lSunmYm30
令嬢「武器を下さい」

暗黒騎士「…は?」

城内を一通り回った後、自室でくつろいでいた暗黒騎士に声をかけた。

令嬢「武器が無ければ戦えません。あと他の幹部達の行動パターンも教えて下されば、不意打ちでやりますよ」

暗黒騎士「待て。…少し積極的すぎないか」

暗黒騎士は呆れたように言った。

暗黒騎士「幹部を倒せばその分魔王の警戒心が強まる。だから最初に倒すのは幹部でなく、魔王だ」

令嬢「やるなら人間への被害が少ない内がいいです。彼らの足止めに、貴方は頼りないですしね」

暗黒騎士「耳が痛い」

令嬢「とにかく私に魔王を討つ協力をしろと言うなら、貴方にも何かしらの協力をして頂きたいのですが」

暗黒騎士「…わかった。とりあえず城を案内する」

令嬢「さっき回ったばかりですが」

暗黒騎士「幹部達の行動パターンを説明しながらだ。奴らの目をくぐらなければ魔王は討てないからな」

令嬢「わかりました」

私達は部屋を出ることにした。

暗黒騎士「猫男爵は朝食後中庭で紅茶を飲んでいることが多いな…呪術師は大抵あの部屋にこもっている」

魔物「お、暗黒騎士と勇者の娘だぜ。新婚ホヤホヤで仲のよろしいことで」

令嬢「…」

今までで1番不快な野次だった。暗黒騎士の横に並んで歩いているが、この状態は居心地悪い。私が彼を見る目は自然に険しくなっていた。

暗黒騎士「…どうした?」

令嬢「…いえ、別に」

じっくり見ても、顔以外魅力が見つからなかった。

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/22(土) 19:54:46.69 ID:lSunmYm30
暗黒騎士「何か向こうが騒がしいな」

令嬢「あら」

確かに何やら騒がしい。暗黒騎士が剣を手に駆けて行き、自分も気になるので着いて行った。
そこを遠目で見ると、庭園で5匹の魔物達がざわついていた。

暗黒騎士「どうした」

魔物「おぉ暗黒騎士様!侵入者です!」

暗黒騎士「侵入者…?どこにいる」

魔物「すばしっこい奴なんです!…ゴハッ」バタッ

突然魔物が倒れた。今、何があった?
そう考えている内に、魔物達が次々と倒れていった。

暗黒騎士「…そこか!」

暗黒騎士が剣を振り、カキィンと金属音。
その瞬間侵入者の動きが停止し、その姿を視認した。

令嬢「…あっ!」

小刀で暗黒騎士と競り合っていたのは猿型の魔物と人間の混血種。私は、彼を知っている――

令嬢「従者…」

我が家に仕えていた従者だった。

従者「お前手強いな…あっ!」

と、従者もこちらに気付いたようだ。

従者「お嬢さ…」

令嬢「しーっ、しーっ!」

他にも野次馬がおり、彼らの目を気にして私は人差し指で「黙ってろ」とジェスチャーする。
従者はクエスチョンマークを頭の上に浮かべていたが、その拍子に動きが止まり――

暗黒騎士「捕らえたぞ猿」

従者「いてててて!」

あっさり、暗黒騎士にねじ伏せられた。

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/22(土) 19:55:52.80 ID:lSunmYm30
私はすぐに従者をねじ伏せている暗黒騎士に駆け寄った。

令嬢「暗黒騎士」

近くにいた者は倒れているので、小声で話せば野次馬の魔物達にも聞こえないだろう。

令嬢「彼は私の従者なの」

暗黒騎士「そうか…ばれたら打ち首だな」

従者「いたたたた、少しは加減しろ~」

暗黒騎士「来い、猿。今からお前を魔王様の前に連行する。…死にたくなければ、俺に話を合わせろ」

従者「な、何だと~!」

令嬢「彼に従って、従者」

従者「は、はいお嬢様」

こうして従者は暗黒騎士に引っ張られていった。
それにしても、まさか従者が魔王城に乗り込んでくるとは…。幼い頃から知っている年下の従者は、猿の魔物と人間の混血種だが、我が家によく尽くしてくれている。

令嬢(暗黒騎士、上手くやってくれるかしら)

彼に期待できなかったので心配でたまらなかったが、その心配は1時間後あっさり杞憂になった。

従者「お嬢様~」

令嬢「従者!」

部屋で暗黒騎士が戻るのを待っていると、暗黒騎士は従者を連れて戻ってきた。

暗黒騎士「浮かれて城に乗り込んだアホ猿ということにしておいたので、厳重注意で済んだ。その実力を見込んで、俺の部下にすることに…」

従者「お嬢様、ご無事で何よりです!この従者、お嬢様が心配で心配で食事も喉を通らず…」グウウゥゥゥゥゥ

令嬢「まぁ大変!何か食べさせないと!」

暗黒騎士「…」

令嬢「どうしたんですか暗黒騎士」

暗黒騎士「いや、別に…」

いきなり機嫌が悪くなったけれどどうしたのだろう。まぁ今はそんなことより従者が心配だ。

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/22(土) 19:56:22.44 ID:lSunmYm30
従者「…っ、ええええぇぇぇぇ、お嬢様がこの男に嫁入りしたあああぁぁぁ!?」

食事を摂らせながら現状を説明すると、従者は気が狂ったかのような叫び声をあげた。
誤解されないよう、心までは奪われていないことは強調し説明する。従者はそれでほっとしたようだけれど、暗黒騎士の顔つきは険しくなった。

従者「あ、でも感謝してるよ暗黒騎士さん。あんたのお陰でまたお嬢様に仕えることができる」

暗黒騎士「…一応俺に仕える形になるのだが」

令嬢「同じことよ。従者、貴方が側にいてくれると心強いわ」

従者「はい!この従者、お嬢様にどこまでも尽くします!魔王討伐やり遂げましょう、お嬢様!」

令嬢「えぇ、頼りにしているわ」

暗黒騎士「…ふん」

そうやって従者との再会を喜んでいると、暗黒騎士は不機嫌そうに立ち上がった。

暗黒騎士「俺は仕事に戻る。くれぐれも目立ったことはするなよ」

令嬢「えぇ、行ってらっしゃい」

不機嫌な背中を見送り、私は従者の方に向き直す。

従者「彼は只者じゃない。あんな男が味方にいてくれるなら、心強いですね」

令嬢「私はあの男のことは信用していないわ。我が家を襲撃した1人だもの」

従者「でも信用していないのを態度に出したらまずいでしょう…」

令嬢「いいのよ、私の力にすがってるのは向こうの方なのだから」

従者「まぁ、そうですが…お嬢様、彼は恩人でもありますよ」

令嬢「恩人?…ま、彼に貰われなければひどい目に遭っていたのは確かね」

従者「それ以前にお嬢様」

令嬢「何?」

従者「屋敷で奴がお嬢様を止めなければ、お嬢様は魔王に殺されていたでしょう」

令嬢「――――あ」

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/22(土) 19:57:01.42 ID:lSunmYm30
翼人「どうした暗黒騎士、機嫌が悪いな」

暗黒騎士「放っておけ」

翼人「奥方と何かあったのか」

暗黒騎士「別に何もない」

翼人「そうか」

暗黒騎士「………あいつと話す時は、ごく普通に笑うんだな」ブツブツ

翼人「え?」

暗黒騎士「いや…何でもない」

30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/22(土) 20:58:02.58 ID:/lWn/D8sO
猫男爵は内P時代の有吉か

31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/22(土) 21:34:44.39 ID:Cz5QHPoAO
ルネッサーンス!

32 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/11/23(日) 08:25:03.14 ID://NXj2vrO
>>30
やwめwてwww
忘れてたけど思い出してしまったww

>>31
男爵違いやないかーい

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/23(日) 11:54:07.87 ID:O3+Giyc+0
従者「ところでお嬢様、魔王は不死身なんでしたっけ?」

室内で適当に時間を潰している時、従者がそんなことを言ってきた。

令嬢「えぇ、そうらしいわ。不死身の肉体を持ちながら、最近まで只の魔族として潜んでいたようね」

従者「目立ったことをしたら旦那様にすぐ狩られていたでしょうしね!事前に不死身だとわかっていれば、旦那様も負けなかったでしょうに…!!」

令嬢「それはどうしようもないわ。私は魔王が不死身だと知れたし、魔王を討てる希望はあるわ」

従者「えぇ…勇者一族に伝わる必殺技、光の剣でですね!」

光の剣。一族最初の勇者と言われる勇者が光の女神と契約を交わし、代々引き継がれてきた技。
光の剣に斬られれば、どんなに生命力の強い者でも「消滅する」のだ。
だけどその必殺技の存在は門外不出、一族とそれに仕える一部の者しか知らない技だ。

従者「暗黒騎士さんはその存在を知っていたんですかねぇ?」

令嬢「いいえ。もしかしたらと思って探ってみたけれど、その素振りは無かったわ。彼は勇者なら魔王を討てるという御伽噺を信じているのよ」

従者「あぁ、成程…。けど御伽噺なんかじゃありません、お嬢様しか不死身の魔王を倒せないんですから」

令嬢「えぇ、そうね。…でも」

私は手をかざし、集中した。

出ろ――光の剣

すると私の手が光り、その光はそのまま伸びて剣の形になった。

従者「出たーっ、勇者一族秘蔵の光の剣!」

令嬢「…駄目よ」

光の剣は一瞬で消える。

令嬢「私の光の剣は未熟なの。持続力がないし、短いから魔王に届かないかもしれない」

従者「そこは修行ですよ!光の剣は精神的なもので強くなるって言うじゃないですか、お嬢様ならすぐに強くなります!」

令嬢「…そうね、頑張ってみるわ」

今まで平和ボケしていたせいで強くならなかったのかもしれない。精神を鍛えるには、今はいい機会だ。
その為には心の武装が必要不可欠――やはり暗黒騎士相手にも心を許すわけにはいかない。

だけれども。

従者「魔王との戦いサポートできるよう、俺も一緒に頑張りますよ!!」

令嬢「…えぇ」

従者といる時だけは自然体でいよう。従者がいなければ、私は気持ちがもたなかったかもしれない。

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/23(日) 11:54:56.05 ID:O3+Giyc+0
>翌日

令嬢「…で、あそこなんて潜むのに最適だと思わない?」

従者「おー、いいですね。俺ならあそこから10メートルは跳躍できますよ!」

昨日から暗黒騎士が戻らない為、自室で朝食を済ませた後、従者に城内を案内して回っていた。
魔物達は自分たちが主従関係と知らない為この組み合わせに不思議そうな顔をしていたが、暗黒騎士の妻と、暗黒騎士の部下という関係ならいくらでも言い訳のしようはある。

令嬢「まぁ暗黒騎士は魔王を真っ先に討つ方がいいと言っていたから、私の光の剣が使い物になるまで目立ったことはしない方がいいのだけれどね」

従者「了解です!俺はなるべくここの魔物達に溶け込んでおきます!」

令嬢「声が大きい」

従者「わ、す、すみません」

令嬢「全くもう…」

有能なのに少し抜けている。けれどまぁ、従者のそういう所が気に入っていたりもする。私は、つい頬を緩めてしまった。

?「夫以外の男と仲良くするのね、貴方は」

令嬢「あら」

と、声をかけられて振り向くと、昨日の娘がいた。
貧乳と言われたせいで意識してしまうが、よく見るとなかなかぼいんぼいんだ。

令嬢「ご機嫌ようぼいんさん」

?「変な呼び名をつけないで下さる」

令嬢「失礼。お名前は」

?「あら知らなかったの?全く、誰も私のことを教えていないなんてどういう事…私は魔姫、魔王の娘よ」フフン

令嬢「魔王のぼいん娘…」

魔姫「一言余計!」キーッ

魔姫はプンプン怒っている。これはからかったら面白そうだ。

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/23(日) 11:55:25.01 ID:O3+Giyc+0
翼人「姫様、こちらにいらしたのですか」

魔姫の大声につられてか、幹部の1人がやってきた。魔姫は彼を見て「げっ」という顔をする。うーん、実にわかりやすい。

翼人「人間達の活動が活発になっているようなので、城内であってもあまりうろつかないように。昨日も侵入者に入られたようですし…」

従者「あ、それ俺俺ー」

魔姫「貴方達の警備がザルだからでしょう!全くもう、しっかりしなさいよ!」

翼人「いや申し訳ない。ですがしばらくは我慢を…」

魔姫「じゃないとあんたがお父様に怒られるものねぇ。わかったわよ、顔を立ててお部屋に戻ってあげるから、さっさと仕事に戻りなさい」

翼人「はい、ありがとうございます」

魔姫「あー、あと貴方!覚えてなさいよ!」

魔姫は私に捨て台詞を吐くと、昨日のように駆けていった。私は何もした覚えがないというのに、何なのだろう。

翼人「気分を悪くしたか。魔姫様は暗黒騎士に惚れているのでな」

と、翼人は私に普通に声をかけてきた。

令嬢「それは…理解できませんね」

翼人「…ふふっ」

令嬢「何か?」

翼人「いや…暗黒騎士の機嫌が悪かった理由がわかったような気がしてな」

翼人は可笑しそうに言っていた。何がツボに入ったのか、これだから魔物はわからない。

翼人「もうちょっと暗黒騎士に優しくしてやれ。あいつはあれで、割と傷つきやすい性分だ」

令嬢「あれで、ですか…」

あの壁ドン男がねぇ…と思っていたが、ふと気がつく。この翼人、私と普通に話してくれている。
そういえば今までも他の幹部は私や暗黒騎士に蔑むような態度だったが、よく思い出せばこの翼人だけはそうでもなかった気も。

翼人「それじゃ…あぁ、暗黒騎士は今日は遅めに帰ってくるぞ」

そう言って翼人は立ち去っていった。

従者「あの匂い…あいつ、人間の血がわずかに混ざってますね」

令嬢「成程…だからそこまで当たりがきつくないわけね」

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/23(日) 11:55:55.31 ID:O3+Giyc+0
令嬢「昨日は悪うございましたね」

暗黒騎士「…ん?」

翼人の言う通り、暗黒騎士が帰ってきたので、とりあえず声をかけた。

令嬢「命の恩人に対して冷たすぎましたね」

暗黒騎士「…別に気にしてはいない」

令嬢「従者や翼人に言われて少しは反省しました」

暗黒騎士「あの猿か…チッ というか翼人と会話したのか」

令嬢「えぇ、彼とは仲が良いのですか」

暗黒騎士「まぁ他の奴よりはな」

令嬢「へぇ。あ、あと魔姫さんにも声をかけられましたね」

暗黒騎士「あー…なかなかキツい人だろ、何か言われたか」

令嬢「…」


翼人は、魔姫が暗黒騎士に惚れていると言っていたが。暗黒騎士はそれに気づいていないのだろうか?


令嬢「貧乳と」

暗黒騎士「事実だな」

よし、やはり暗黒騎士もいずれ討とう。

暗黒騎士「魔王は、幹部の中から誰か、1番見込みのある奴を魔姫の婿にするつもりでいる」

令嬢「貴方も幹部では?」

暗黒騎士「俺は最も候補から遠いだろう。それに、政略結婚は好かん」

令嬢(貴方が今しているのもある意味政略結婚じゃあ)

暗黒騎士「それに俺は…ああいう世間知らずの箱入り娘でなくて」

令嬢「えぇ」

暗黒騎士「その…お前みたいな」

従者「お嬢様ぁー!夜食くすねてきましたー!!」バァン

暗黒騎士「……」

令嬢「あら美味しそうねぇ。食べましょう」

暗黒騎士「…この猿がーっ!」

従者「あだだどゎーっ!?」

暗黒騎士が従者の頭をぐりぐりし始めた。つまみ食いくらいでこんな制裁を加えるとは、何て厳しい人だ。

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/23(日) 11:56:29.15 ID:O3+Giyc+0
翼人「暗黒騎士ぃ!」

と、翼人も続いて入ってきた。従者は慌ててくすねてきた夜食を隠す。

暗黒騎士「どうした」

翼人「敵襲だ!中央国の王子が軍隊を率いて攻め入ってきた!」

令嬢「…!中央国が…」

暗黒騎士「わかった、すぐに支度して行く。お前は先に行ってろ」

翼人「あぁ!」

よく聞くと部屋の外が騒がしい。急な敵襲でバタバタしているのだろう。

従者「大変なことになりましたねぇ…しかし中央国の王子ですか」

暗黒騎士「おい猿、お前も来るんだよ!」

従者「それはまずいんじゃないですかねぇ…中央国の方々、俺の顔知ってますよ」

暗黒騎士「ん?…あぁそうか、勇者の従者なら中央国の者と面識があってもおかしくはないか」

従者「まー…っていうか知らないんすか暗黒騎士さん」

暗黒騎士「ん?」

従者「中央国の王子…お嬢様の婚約者なんですよ」

暗黒騎士「!?」


41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/24(月) 18:59:32.74 ID:h/zKXpHe0
中央国第2王子。軍隊を率いる彼の剣は英雄たる勇者にも劣らないと評判が高い。
今も魔王城に攻め入り、軍隊の戦闘に立って既に何十もの魔物を斬り、今、幹部の1人、猫男爵と打ち合いをしている所だった。

王子「やるね猫ちゃん!僕は沢山動物を飼ってきたけれど、こんな芸達者な猫ちゃんは初めてさ!」

猫男爵「く…!」

周囲の魔物が猫男爵に加勢するが、王子は剣ひと振りで3匹の魔物を斬る。
それでいながら猫男爵への攻めはまるで緩まず、圧倒的実力を見せていた。

呪術師「ヒヒヒ加勢するぞ猫男爵!喰らえ、幻惑の霧!」

王子「惑わされないぞ!」ブンッ

呪術師「霧を払っただと!?」

王子「君の技は人の心につけ入り、精神的に揺さぶりをかけるものだろう…だが僕にはきかないのさ」

呪術師「馬鹿な…いくら性質がわかっていても、人間ごときが打ち破れるものじゃ…」

王子「わからないかな?」フッ

王子はそう言うと剣を空に掲げ、叫ぶ。

王子「僕は選ばれし王子だからね!君なんかに惑わされているようじゃ、希望になんかなれやしないよ!」

呪術師「く…何だか知らんが物凄く殺したくなってきたぞ!」

猫男爵「余裕ぶるなあああぁぁぁ!」

王子「甘いよ猫ちゃん!さぁおいで!」

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/24(月) 19:00:01.30 ID:h/zKXpHe0
令嬢「相変わらずキザねぇ…」

魔王城のベランダから戦いを眺める。王子はこちらに気付かない。けれど城内の魔物達の警戒心が強まっており、これ以上近づくことはできなさそうだ。

従者「幹部の1人でも倒して下されば有難いですが、複数相手では難しそうですね」

令嬢「あれだけ戦えるだけでも十分よ」

見目麗しい王子の剣さばきは優雅にも見え、国の女性たちが心を鷲掴みにされている理由も納得できる。

従者「流石お嬢様の旦那様となるお方です」

令嬢「そうね」

上の空で私は答える。
目を向けるのは王子の戦い。戦況は決して楽ではない。しかし彼の顔は歪まない。王子はいつでも力強くて美しい。だからこそ、私には遠い世界の住人に見える。

悪魔「勇者の伴侶となる、王子か…」

令嬢「!」

背後の声が私を現実に引き戻す。いつの間にか幹部の1人が私達の側に来ていた。

悪魔「勇者がいなくなった今、奴が1番の要注意人物…しかし、奴の弱点はわかっている」

悪魔は私を見てニヤリと笑った。
彼の考えていることが私にはすぐわかった。同じような立場になったら、恐らく私も同じことを考える。
そして次の瞬間、彼はそれを実行に移した。私の体は乱暴に引き寄せられる。

従者「お嬢様ぁーっ!」

従者の叫び声は既に遠く。悪魔は私を抱え、その翼で戦いが繰り広げられる地面へ降り立った。

王子「おや…」

王子の剣がピタリと止まった。相変わらず表情は余裕を崩していないが、その目はしっかり私の方を見ていた。

悪魔「それ以上暴れるようなら、こいつがどうなるかわからんぞ?」

令嬢「すみません、こういう事になってしまいました」

王子「おやおや困りましたね」

久しぶりに会話する婚約者は緊張感なく答えた。まぁ、緊張感がないは私もだけれど。

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/24(月) 19:00:30.97 ID:h/zKXpHe0
王子「それで?僕への要求は何だい悪魔君」

悪魔「剣を捨てろ!」

王子「それはできないな。捨てたら僕を殺すだろう。確かに彼女は大事だが、僕が彼女の為に死ぬと思うかい」

王子は余裕たっぷりに答える。何を思っているのか、私には全くわからない。

王子「でももし彼女を殺したら、真っ先に君から斬ってあげるよ」

悪魔「何!」

私に爪を突きつけている悪魔は明らかに動揺していた。
実力では勝てないと判断したから人質をとった。その人質がいなくなれば、彼の命が即絶たれる。

王子「彼女をこちらに引き渡してくれれば、君を見逃してあげるけれど」

悪魔「そ、そんなことできるか!」

王子「じゃあ」

王子は大きく跳躍した。悪魔の乱入により停止していた魔物達は反応が遅れる。王子はその一瞬で、呪術師の側に立った。

王子「彼女を引き渡さないと彼を殺すと言ったら、どうする?」

呪術師「な、何いいぃぃ!!悪魔!そんな小娘くらいくれてやれ!」

悪魔「しかし…この小娘を捕らえているのは魔王様の判断だぞ」

猫男爵「あっさりと捕まる貴様が悪いのだ、この恥さらしめ!」

呪術師「何だと!?」

王子が人質でどれだけの効果を狙っていたかはわからないが、幹部達は言い争いを始めた。
幹部達の力関係はわからないが、少なくともこの呪術師の命は、私と天秤にかけられる程度には軽いようだ。

呪術師「頼む!俺はこんな所で死にたくない!」

呪術師は嘆願を始めたが、それでも悪魔は決断できないようで、爪を私に突き付けたまま硬直していた。

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/24(月) 19:00:59.53 ID:h/zKXpHe0
呪術師「ヒ、ヒヒ…そうか貴様、俺を見捨てるつもりか…ヒヒヒヒ」

呪術師は醜い顔に歪な笑顔を浮かべた。その顔が生理的に受け付けられず、ぞわりと悪寒。
物凄く嫌な予感がした。そしてそれはすぐに当たった。

呪術師「どうせ死ぬのなら、道連れだああぁぁ!!」

令嬢「!?」

呪術師の体が発光する。魔力が一瞬にして昂ぶったのを私は感じ取った。
何かが物凄いスピードでこちらに向かってくる。駄目だ、当たる。

当たれば私は死ぬ。

令嬢「――」

王子の剣が呪術師に振り下ろされたのを視界に捉え、私の体は宙に浮いた。




令嬢「――――え?」

目の前の光景は、一瞬で変わった。

悪魔「アグウウゥゥゥ」

呪術師「ひいいぃぃ」

王子「…失敗」

まず私は生きている。
悪魔が大怪我をしている。腕も1本失っている。
呪術師は腰をぬかしている。外傷はない。
王子の剣は――魔王の腕に止められていた。

魔王「迷いのない見事な振りだな、王子よ」

王子「お前が魔王か――」

王子の表情は先ほどまでとは変わり、真剣なものに変わっていた。恐らく肌で、目の前の相手が只者ではないと感じ取ったのだろう。

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/24(月) 19:01:27.14 ID:h/zKXpHe0
暗黒騎士「…おい」

令嬢「え?」

振り返ると暗黒騎士の顔。やっと気付いた。私は暗黒騎士に抱えられていたのだ。

令嬢「あら、助けて下さったの」

暗黒騎士「…嫌に平然としているな」

悪魔「ググゥ暗黒騎士…貴様、俺の腕を…!!」

地面に伏している悪魔は、暗黒騎士を恨みがましい目で見つめる。成程、暗黒騎士が悪魔の腕を斬って私を奪い取ったのか。その上呪術師の魔法までモロに喰らったのだから、散々な目に遭ったものだ。
だけれど暗黒騎士は冷めた様子で答える。

暗黒騎士「魔王様の体の一部から作られたお前なら、腕の再生は可能だろう」フン

令嬢「…あっ王子が」ゴッ

暗黒騎士「でっ!」

体をぴんと伸ばした拍子に肩が暗黒騎士の顎にヒットしたけれど、私は気にせず王子の方を見る。
王子と魔王は早くも戦いを始めていた。両者初めから本気で飛ばしている。

王子「その首頂く…!そして令嬢様を必ず取り返す!」

令嬢「王子…どうか無理をなさらぬよう」

暗黒騎士「…フン」ヒリヒリ

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/24(月) 19:01:58.64 ID:h/zKXpHe0
魔王「貴様を殺し、人間に更なる絶望を与えてくれよう!」

王子「そいつは無理だね…!」

魔王「!!」

激しい打ち合いの中、王子はいきなり姿を消した。いや違う、目で追いきれなかった――上だ。
そして上空から剣を振り下ろし――

王子「喰らえ!」

魔王「――――」

魔王の首を、一刀両断ではねた。
駄目だ。まだ終わっていない。

令嬢「油断しないで王子。その魔王は不死身です」

王子「何!」

暗黒騎士「おまっ――」

暗黒騎士が私を咎めようとしたと同時。

魔王「その通り」

王子「!?」

はねられた魔王の首が喋った。そして。

王子「…くっ!」

首を失った魔王の体が王子に追撃をした。安心していた王子はそれでバランスを崩したが、すぐに立て直す。

猫男爵「ちっ…不意打ち失敗したか」

呪術師「ヒヒ、だが奴に勝ち目はあるまい…」

王子「そのようだね」

それでも王子は笑みを浮かべる。それは何の笑いなのか。私にはまるで読み取れない。
彼はまた剣を構えた。相手が不死の王だと知りながらまだ戦う気か。

兵士「王子!」

その時だった。兵士の1人が叫びながら駆けてきたのは。

兵士「魔王軍の飛行部隊が我々の後方からこちらへ向かっているとの事です!このままでは、我が軍は囲まれます!」

王子「それはまずいな。全員、すぐに撤退しろ!」

王子の号令で兵士達は撤退を始める。
王子は――真面目な様子で、私に向いた。

王子「…令嬢様、申し訳ない。今すぐには、貴方を救えないようです」

令嬢「いいえ。貴方が生きていることの方が大事です」

王子「いつか助けに参ります…必ず」

そう言って微笑むと、彼も撤退を始めた。
撤退した王子達の軍を追うことも猫将軍から提案されたが、これ以上犠牲を増やさない為、戦いは一旦これで終了ということになった。

50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 13:24:15.91 ID:PkbS/31b0
魔王軍は怪我をした者を運んだり警備を強めたりしてバタバタしていた。そうしている間に夜は明ける。

従者「中央国軍に飛行部隊の情報伝えたの俺なんですよ~、やるでしょ~?」

令嬢「えぇ、お手柄よ従者」

暗黒騎士「…いや~~~~~に、くつろいでいるなお前達は…」

令嬢「あらお帰りなさい。あの後大変だったんですか」

暗黒騎士「あぁ…一睡もしていない」

令嬢「寝ます?」

暗黒騎士「気分が悪くて眠れん。魔王や幹部達からネチネチ言われたからな」

令嬢「今度は何でいじめられたんですか」

暗黒騎士「いじめられてはいない!お前が魔王の不死身を知っていた件について、説教されたんだよ!」

令嬢「まぁお気の毒」

暗黒騎士「誰のせいだ誰の」

令嬢「でもどうせ王子様にばれていたでしょ。私が何も言わなくても、魔王の不意打ちでやられる方じゃありませんわ」

暗黒騎士「お前の婚約者はほんっ…と~~~に完璧だなぁ」ヒクヒク

従者「そうなんですよ、王子は強くて美しいだけじゃなく、勤勉で多趣味で優雅で社交的で」

暗黒騎士「黙れ猿」グリグリ

従者「おどゎああぁぁぁぁ」

令嬢「眠いからって従者に八つ当たりしないで下さい」

暗黒騎士「なら眠気を覚ます…おい、散歩に付き合え」

令嬢「私?…まぁ、いいですよ」

どうせ今日も暇だし。

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 13:24:43.70 ID:PkbS/31b0
城内は落ち着きを取り戻し、魔物達も各々の仕事に戻っていた。
昨日戦いを覗き見していたベランダまで行き、同じ眺めを見る。こんな所から(抱えられていたとはいえ)飛び降りたなんて、改めて見るとヒヤヒヤする。

令嬢「そういえば、まだお礼を言っていませんでしたね」

暗黒騎士「…うん?」

令嬢「昨晩は助けて頂いて、ありがとうございました」

暗黒騎士「あぁ…いや別に、大した事じゃ」フ

令嬢「まぁあれは悪魔の暴走を止める為だから、私を助けたという意識は無いでしょうけれど」

暗黒騎士「…」ヒク

あら引きつっている。一瞬口元が緩んだように見えたのは気のせいだったか。それとも仲間の腕を切り落とすなんて事までさせておいて、お礼だけじゃ不満だっただろうか?

令嬢「何か私に求めることはありませんか?」

暗黒騎士「は!?」

令嬢「あ、お礼に」

暗黒騎士「え、い、いや別に…」

言い出すのが急だったようだ。うーん、タイミングって難しい。

暗黒騎士「求めることというか…聞いてもいいか」

令嬢「はい?」

暗黒騎士「お前は…俺に心を開いてはいないな?」

令嬢「はい」

暗黒騎士「…はっきり言うな」

令嬢「そう簡単に心を開くような者は、魔王を討つのに向かないと思いませんか」

暗黒騎士「そうだが…」

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 13:25:11.40 ID:PkbS/31b0
令嬢(そう言えば…)



翼人『もうちょっと暗黒騎士に優しくしてやれ。あいつはあれで、割と傷つきやすい性分だ』


傷つけるようなことは今の所言ってないと思う。
けれどもう少し優しくしてみよう。

令嬢「…まぁ、何度も助けて頂いたので感謝していますし、ある程度信頼もしていますよ」

暗黒騎士「そうか…ある程度、な…」

優しくしてみた結果、彼は複雑そうな表情を浮かべていた。失敗しただろうか?

暗黒騎士「…お前の表情があまり変わらないのは、心を強硬に武装しているからだろう。そうだろうな…敵地にいればそれも仕方ない」

いきなり何を。

暗黒騎士「お前にしてみれば俺も、敵の一味の1人かもしれない…だから俺に心を開かんのかもしれんが」

彼の様子がおかしい。

暗黒騎士「だけど俺は――」

令嬢「あの、何を…」

と、その時だった。何やら視線を感じた。

令嬢(…うん?)

魔姫「」ブツブツ

令嬢(あら覗き見。っていうか何か独り言言ってる?)

魔姫「やっぱり昨晩抱き合っていたし…もう2人はラブの頂点なのかしら」ブツブツ

令嬢(抱き合…!?)

心当たりがない。思い出せ。昨晩?…あぁ!暗黒騎士に助けられた時に抱えられたことか。あれは別に抱き合っていたわけじゃ…待てよ。人から見てそう見えたってことは…っていうか、確かにあの時結構密着していたような…。

令嬢「……………」

暗黒騎士「俺は、お前のおっ――」

令嬢「」ドガッ

暗黒騎士「………えっ」

53 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 13:25:38.83 ID:PkbS/31b0
不幸な事故だった。というか、自分でもわけがわからなかった。
とにかく彼と抱き合ったかもしれないという発想に行き着いた途端、急に頭が沸いて、つい彼をベランダから蹴り落としてしまったのだ。
結構な高さがあるけれど、大丈夫だろうか。

魔姫「…何をやっているの、貴方は」

魔姫はドン引きしながら近づいてきた。まぁ、そうだろう。

令嬢「ついうっかり」

魔姫「うっかり!?…ま、まぁ暗黒騎士なら大丈夫でしょう」

令嬢「魔姫さん、目の下にくまができていますよ」

魔姫「あぁこれ?ふふ、昨晩の戦いを見て、興奮して寝れなかったの!暗黒騎士はやっぱり素敵ねぇ」ウットリ

令嬢「まぁ、結構強いようですね」

魔姫「結構?結構どころじゃないわ。幹部で1番強いのは暗黒騎士よ」

令嬢「えっ」

確かに悪魔の腕を切り落としたのだから、最弱ではないと思ってはいたが。

令嬢「でも彼、皆に馬鹿にされていません?」

魔姫「元人間だからよ。全くもう馬鹿馬鹿しい…。悔しければ実力で見返せばいいものをね」

令嬢「そうだったんですか」

暗黒騎士は自身のことを、最も魔姫の婿候補から遠い、つまり見込みのない幹部だと言っていた。それは彼が弱いからではなく、元人間だからか。納得した。

魔姫「そういえば、お父様の首をはねた彼、貴方の婚約者だったんですって!?」

令嬢「あ、そうですが」

魔姫の顔が険しい。あぁ、不死身とはいえ父親を傷つけられたから怒っているのか。全く、私に怒られても困る…

魔姫「いいわねぇ貴方、強くて見目麗しい男性と縁があるのねぇ」

令嬢「………はい?」

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 13:26:07.72 ID:PkbS/31b0
魔姫「お父様の首をはねた時の彼、とても輝いていた…あぁ今思い出しても素敵」

令嬢「…あのう、怒っていないのですか。魔王、不死身とはいえ痛めつけられたんですよ」

魔姫「え?だって戦えば痛いものでしょう?」

令嬢「…」

不死身の父を持つとこうなのかもしれない。あまり深く考えないでおこう。

魔姫「そんなことより彼のこともっと教えて!」

令嬢「まぁ、私もあまり沢山のことは知りませんが…」

彼女は暗黒騎士が好きだと聞いたが、ただの美形好きのミーハーのようだ。
私の知り得る王子のエピソードを教えている間、魔姫は情景を想像しているのか興奮したりウットリしていた。表情がコロコロ変わってまぁ面白い。

魔姫「ありがとう、また色々教えてね!」

令嬢「まぁ、こんな話で良ければいつでも」

魔姫「貴方っていい人ね~、ごめんなさいね初対面でひどいこと言っちゃって」

令嬢「まぁ貧乳は事実ですし」

暗黒騎士「そうだな事実だ…で、いい人ではないな」

令嬢「あ」

振り返るとボロボロの暗黒騎士が足を引きずり、翼人に肩を借りていた。あぁすっかり忘れていた。

令嬢「あらすみません、大丈夫でした?」

暗黒騎士「大丈夫なわけあるか!」

翼人「いや驚いたよ、上から暗黒騎士が降ってくるなんてなハハハ」

暗黒騎士「笑い事じゃない!」

魔姫「訓練だと思いなさいな。高所から敵に突き落とされることだってよくあるでしょう」

暗黒騎士「それで自分は鍛えられません」

55 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 13:26:37.80 ID:PkbS/31b0
呪術師「おやおやズタボロだねぇ暗黒騎士…ヒヒヒ」

令嬢「む」

嫌味幹部3人組がやってきた。あぁ、これは面倒臭い。

悪魔「そんな小娘の為に俺を痛めつけてくれたからな、いい気味だ」

猫将軍「仕方あるまい、暗黒騎士はその貧相な小娘に相当入れ込んでいるからな」

呪術師「ヒヒ、あんな麗しい婚約者がいながら敵に抱かれるとは、いい趣味をしているヒヒヒヒヒ」

令嬢「…」

昨日は呪術師が人質に取られた時言い争いまでしていたというのに、すっかり仲直りしたようで。
こいつらの誰か1人でも、王子に討たれてしまえば良かったのに。

魔姫「貴方達!」

令嬢「!」

魔姫が嫌味幹部3人組に向かって一歩踏み出す。すると彼らは驚いた顔をした。

魔姫「魔王軍幹部ともあろう者が、ネチネチ嫌味言ってるんじゃないわよ!何がしたいの貴方達、昨日みっともない所を見せた腹いせ?」

悪魔「あ、いえ…」

3人とも魔姫に怒鳴られ、たじろいでいる。流石に魔王の娘には弱いのか。

魔姫「それと、この子の悪口を言うのは禁止よ」グイッ

令嬢「えっ」

魔姫に引き寄せられ、豊満な胸が当たる…ってのはどうでもいいとして

魔姫「彼女は、私の友人なのだからね!」

令嬢「………はい?」

その言葉で、そこにいた魔王軍幹部は5人とも変顔を見せた。

57 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:49:27.38 ID:PkbS/31b0
それから今日1日は激動の日だった。


魔姫「令嬢~、お昼ご一緒して下さる?」

令嬢「いいですよ」



魔姫「ねぇ、このドレス着てみて!きっと似合うわ!」

令嬢「胸の所が余りますね」



魔姫「お風呂行くわよ!洗いっこしましょう!」

令嬢「また胸の格差を見せつけるつもりですか」





令嬢「…ずっと振り回されて疲れた」

暗黒騎士「魔姫様は人との距離感が掴めていないんだろうな」

翼人「ずっと友達がいなかったので、わからないんだろう」

令嬢「あ、そうですか。私も友達いなかったので、もしかしてあれが普通なのかと」

暗黒騎士「…」

令嬢「何ですかその哀れみの目は」

翼人「ははは、でもそれなら丁度いいじゃないか。女同士仲良くな」

魔姫「令嬢~、いる~?」バァン

令嬢「また来た」

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:49:54.19 ID:PkbS/31b0
翼人「魔姫様、もうそろそろ寝る時間ですよ。明日にしましょう」

魔姫「あら翼人も来てたの。寝る前にお酒の相手でもしてもらおうかと思っていたのよ」

令嬢「私、飲めないです」

魔姫「そうなの。一人酒も寂しいわねぇ」

翼人「それなら私が付き合いますよ」

魔姫「あんたと~?あぁいいわ、それじゃあ翼人族の面白い話でも聞かせてよ」

翼人「はい。それじゃあな暗黒騎士、奥方」

2人が出て行った。ほっとした。

暗黒騎士「翼人、酒弱いんだがな」

令嬢「あら。それなのにお酒の相手なんてできるんですか」

暗黒騎士「精一杯平気な素振りをするだろうな、魔姫と一緒なら」

令嬢「…?」

暗黒騎士「お前…本当にその手の話には疎いな」

令嬢「何がですか?」

暗黒騎士「いや、まぁいい…。それよりもう寝るからな」

令嬢「???」

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:50:28.24 ID:PkbS/31b0
>翌日

翼人「ちょっといいか」

令嬢「あら、いらっしゃい」

暗黒騎士を見送った後、翼人が訪ねてきた。部屋の掃除をしていた従者がぎょっとしていたが、構わず招き入れる。

翼人「魔姫様の件で話がある」

令嬢「魔姫さんの?」

翼人「あの方は…君とは大分価値観が違う。もし魔王様が討たれたとしても、その相手を恨まずに賞賛するような方だ。だから、何も気にしないで君と接することができるんだ」

令嬢「…」

魔姫の父は、私の父を討った。魔姫はそれを知らず私に寄ってきているのかと思ったが、そういう価値観なのか。

令嬢「魔姫さんを恨む感情はありませんよ。彼女は父の件と何も関係がありませんから」

翼人「それなら良かった。…昨晩、酒を飲みながら魔姫様に話したんだ。君は魔王様に恨みを抱いているだろうと」

令嬢「それで、反応は?」

翼人「とても気にされていた。俺としては慎重に言葉を選んだつもりだったが、どうも上手くいかなくてな」

翼人は気まずい顔をした。まぁ仕方ない、こういう話は難しいと思う。

翼人「それでも、君が気にしないというなら、魔姫様と――」

その時、ドアがトントンと控えめにノックされた。
どうぞ、と声をかけると、魔姫がゆっくり静かにドアを開けた。

魔姫「お、おはよう…」

令嬢「おはようございます。入っては如何ですか」

魔姫「えぇ、失礼するわ…」

縮こまっている魔姫に、居心地悪そうにしている翼人。これでは私が悪者みたいではないか、全く。

令嬢「…魔姫さん、今日時間ありますか?」

魔姫「えぇ。あるけれど」

令嬢「それじゃあ、今日はお茶を飲みながらお話しませんか?」

魔姫「!」

魔姫の顔が、途端にぱぁっと明るくなった。

魔姫「えぇ、じゃあお薦めのお茶とお菓子を用意しておくわ!また後でね!」スタタタ

令嬢「…わかりやすくて可愛い人ですね」

翼人「あぁ。…有難う」

令嬢「え?」

翼人「感謝する。魔姫様を受け入れてくれて」

何故、彼が感謝するのだろう。まぁいいか。

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:51:07.55 ID:PkbS/31b0
従者「お嬢様…」

翼人が出て行った後、ずっと様子を見ていた従者が心配そうな顔をして声をかけてきた。

令嬢「今日はお茶してくるわ。…ん?同年代の女の子ってどんな話が好きなのかしら」

従者「…お嬢様、あまり魔王の娘に心を許さぬように」

令嬢「え?」

従者「貴方は、彼女の父親を討つのですよ」

令嬢「…えぇ、そうね」

例え魔姫がそんなこと気にしない価値観の持ち主だとしても、私はそうじゃない。だから、ずっと友達のままではいられない。

令嬢「何も心配しないで従者、わかっているから」

そう答えたが、従者はずっと心配そうな顔をしていた。

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:51:36.06 ID:PkbS/31b0
翼人「お前の奥方は笑顔が魅力的な方だな」

暗黒騎士「!?見たのか、あいつの笑顔!」

翼人「あぁ、魔姫様と話している時少しだけ…」

暗黒騎士「…俺はまだあいつの笑顔を引き出せん」

翼人「そうか。まだ緊張しているのかな」

暗黒騎士「…どうだろうな」

翼人(あーあ暗黒騎士の奴かなり気にしているな。あの奥方を笑わせる方法か…そうだ)

翼人「暗黒騎士、ちょっと次の仕事俺と代わってくれないか」

暗黒騎士「ん?何だ」

翼人「中央国への視察だ。俺よりお前の方が人間達に紛れることができて、適任だ」

暗黒騎士「視察か…まぁいいだろう。たまには遠くへ足を伸ばすか」

翼人「ついでに奥方も連れて行ってやれ…気分転換が必要だろう」

暗黒騎士「そうだな…人間の住む所に連れてってやるか」

翼人「上手くやれよ」ニヤ

暗黒騎士「!!お、お前何を想像して…」

翼人「おっとー、急がないと。それじゃあなー」

暗黒騎士「くっ…!し、しかしあいつと2人で外出か…。あいつは、喜ぶのか…」

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:52:13.90 ID:PkbS/31b0
>それで中央国

令嬢「久しぶりの街歩きです」

暗黒騎士「俺から離れるなよ」

令嬢「ところで、これで視察になるんですか?ただの商店街ですよ、ここ」

暗黒騎士「まぁ…気にするな」

何を視察するのかはわからないが、きっと何かの情報が得られるのだろう。
人ごみは昔から苦手だけれど、せっかくなので紛れてみることにした。

暗黒騎士「…何か欲しいものはないか」

令嬢「欲しいもの…ですか」

周りを見ると衣装屋やアクセサリー屋やらが立ち並んでいる。確かに女性が好きそうな店だ。

令嬢「魔姫さんに何かお土産でも買いましょうかね」

暗黒騎士「…お前のは?」

令嬢「うーん…私、お洒落には疎くて」

暗黒騎士「それにしては普段いい身なりをしているが…」

令嬢「それは身だしなみです。身につけるものによって人から得られる印象は違いますから、だらしなくはできません」

暗黒騎士「そうなのか…だけど着たいものはあるんじゃないのか」

令嬢「よくわからないですね。自分に似合わないものを選んでしまうかもしれないし」

ずっと使用人が選んだものを身に付けてきた。高潔なイメージを持たれるように、という父の方針で。
人が選んだ動きやすいドレスや控えめなアクセサリーを身につけてはいるが、私自身は女らしいことに無頓着なズボラ人間だ。

令嬢「…少し、人に酔ってきました」

暗黒騎士「そうか。じゃあ商店街を外れるか」

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:52:44.91 ID:PkbS/31b0
暗黒騎士「…すまんな、楽しくなかったか」

令嬢「え?」

人の群れから出て一休みしている時に、暗黒騎士が急にそんなことを言い出した。

暗黒騎士「いや…魔王城で待っていた方が良かったかとな」

令嬢「いえ。いい気分転換になりましたよ」

暗黒騎士「そうか。…そうだろうな、魔王城は居心地が悪いだろう」

令嬢「最初よりは慣れてきましたよ。従者もいるし、魔姫さんや翼人も割と好意的でいて下さいますし」

暗黒騎士「…俺は?」

令嬢「え?」

暗黒騎士「いや、何でもない」

令嬢「それに居心地悪いなんて言っていられませんよ。魔王を討たなければならないんですから」

暗黒騎士「…あぁ」

もしかしたら今日、逃げるチャンスはあるかもしれない。それでも私は魔王城に戻るだろう。
父の仇を討つのには、現在の状態がベストだ。

暗黒騎士「…魔王を討てば、お前は」

令嬢「はい?」

暗黒騎士「お前は――元の生活に戻るのか」

令嬢「…どうでしょうね。父がいなくなったので、元通りにはならないでしょうけれど」

暗黒騎士「お…俺が聞きたいのは、そういう事じゃなくてな」

令嬢「え?」

何だろう。暗黒騎士から緊張感が伝わってくる。彼の心臓音まで聞こえてきそうだ。

暗黒騎士「お前は、俺の元から――」

その時。

?「令嬢様…?」

暗黒騎士「!」

令嬢「あ…」

名前を呼ばれて、振り返ると。

王子「やはり、令嬢様ですね…」

お忍びの格好をした、王子がそこにいた。

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:53:21.83 ID:PkbS/31b0
王子「…君は、この間見たね。令嬢様を連れて、今日は何をしているのかな?」

王子は温和な笑みを浮かべながらも、どこか緊張感を醸し出して暗黒騎士に尋ねた。
暗黒騎士も負けずに、無表情に王子を睨む。

暗黒騎士「暴れに来たわけではない…剣を合わせようというのなら、相手するがな」

王子「それなら場所を変える必要があるね。…令嬢様を返して頂こうか」

令嬢「待って」

2人の間を割って入る。殺し合いになる前に、王子に説明する必要がある。

令嬢「王子様。私はまだ魔王を討つ為に、戻るわけにはいかないのです」

王子「…?どういう事ですかね」

王子に今までの経緯と、これからの指針を話した。説明を聞いて王子は暗黒騎士のことを訝しげに見たが、さっきよりは雰囲気が温和になった。

王子「つまり、彼の助力を得て魔王を討つと…。確かに、彼の妻として潜んでいる方が確実ですね」

令嬢「でしょう」

王子は光の剣を知っている。だから魔王を討てるのは私しかいないことも分かっている。

王子「本当は貴方に危険な事はして欲しくありませんが、貴方は頑固ですからね」

令嬢「えぇ。私は勇者ですよ、私がやらずにどうするんですか」

王子「わかりました。…魔王城で、お辛い目に遭ってはいないでしょうか」

令嬢「特に何も。魔王の娘が私に好意的でいて下さるので、大分居心地も悪くなくなりました」

王子「そうですか」

王子は安心したように笑う。そして。

王子「令嬢様」

令嬢「!」

私を、力強く抱きしめた。

王子「僕は、無力な自分が恨めしい。ですが貴方の選んだ道だというなら、僕は貴方のご武運を祈っております――」

令嬢「…えぇ」

綺麗な言葉、私を思いやる腕。彼に心を打たれたわけではないが、私は将来の夫になる彼に身を委ねていた。側にいる暗黒騎士が、どんな目でその様子を見ていたかも考えずに――

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:53:49.95 ID:PkbS/31b0
王子が去った後、暗黒騎士は何も言わなかった。互いに無言のまま、並んで歩く。
私は気まずいと思ってはいないが、彼はどうなのだろう。さっきまでとは、様子が違って見えるけれど。

令嬢「貴方も思うところがあるのですか?」

暗黒騎士「は?」

暗黒騎士が驚く。質問がストレートすぎただろうか。言葉選びは本当に難しい。

令嬢「少なくとも貴方と王子様が戦うことは無いでしょうね」

暗黒騎士「…だが王子もただお前を待っているわけではないだろうな」

令嬢「でしょうね、魔王を討てないなりにも何かする方です」

暗黒騎士「将来の夫のことは理解しているか」

令嬢「そこまで理解していませんよ。そんなに深い仲ではありませんし」

暗黒騎士「え!?」

令嬢「どうしました?」

暗黒騎士「でもお前達…婚約しているんじゃ」

令嬢「家同士が決めたことですよ。王家に勇者一族の血が交わるようにと。長年勇者一族にも王家にも男児しか生まれなかったので、なかなか実現できませんでしたが」

暗黒騎士「でも、嫌じゃないんだろう」

令嬢「小さい頃から決められてた事ですからね。王子は誠実な方なので私を思いやって下さいますが、愛があるわけじゃ…」

暗黒騎士「!!そうか」

令嬢「何で笑うんですか。…どうせ私は男性に愛される女じゃありませんけど」

暗黒騎士「ち違う!で…お前から王子に対しては」

令嬢「…どうなんでしょうね」

今まで人々の期待を裏切ることなく、流されるまま生きてきた。それなのに自分の気持ちがどうだとか、そんなこと聞かれても。

令嬢「自分の意思なんて関係ないんですよ、私には」

暗黒騎士「…そうか」

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/25(火) 18:54:19.45 ID:PkbS/31b0
暗黒騎士「自分の意思も、身につけるものへのこだわりも無いか」

令嬢「そうですね」

暗黒騎士「…ちょっと待ってろ」

彼はそう言うと商店街の方へと歩いて行った。
この置き去り状態、私が逃げ出したらどうするのだろうか。…隠れて見てみたい気もするけど、悪質すぎるのでやめておくか。
少しすると、暗黒騎士が戻ってきた。何だろう、顔が赤いけれど。

令嬢「お帰りなさい」

暗黒騎士「…これ」

令嬢「え?」

暗黒騎士は無骨な態度で私に小さな箱を差し出した。

令嬢「何か買ったんですか?」

暗黒騎士「…いいから開けろ」

令嬢「はいはい。…あら」

箱を開けると、小さな宝石のペンダントが入っていた。どう見ても女物。…ということは?

令嬢「…私に、ですか」

暗黒騎士「あぁ」

暗黒騎士は視線を私から逸らす。そして、いつになく声を震わせながら言った。

暗黒騎士「お、お前が特に身につけるものにこだわりが無いなら…俺が選んだものをつけろ」

令嬢「…はい?」

暗黒騎士「お、お、俺は…」

暗黒騎士はゴクリと唾を飲み込み、やがて決心したように私の方を見た。

暗黒騎士「それを身につけたお前を、見たい…」

令嬢「…」

どうしよう。暗黒騎士の顔が今、物凄く面白いことになっている。
いや、でも笑えない。そんな台詞を言われて笑える人間がいるか。

いや――笑わないと、駄目なのか。

令嬢「ありがとう」

思えば彼に笑顔を向けたことはなかったかもしれない。彼も魔王の一味、油断してはならない相手。
それでも、今この時だけは――

令嬢「絶対に、大切にしますね」

心を許しても、いいと思った。

70 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/27(木) 13:16:14.83 ID:rE2yYOlV0
>魔王城

魔姫「~♪」

翼人「魔姫様。その髪飾り、初めて見ますね」

魔姫「あら気がついた?令嬢がお土産にくれたの。どう?」

翼人「いつもの装飾品に比べると控えめですが、雰囲気が変わっていいと思いますよ」

魔姫「そうそう、装飾品1つで雰囲気ガラッと変わるのよね。あの子も珍しく可愛らしいペンダントしてたわ~」

翼人「暗黒騎士の奥方が、ですか――」

魔姫「私の勘では、あれは暗黒騎士からのプレゼントね…ふふふ、やるじゃな~い」

翼人「おぉ~…やりましたね」

魔姫「私も今度人間の街に行ってお買い物したいわ。だから、連れていって頂戴」

翼人「…私が?」

魔姫「仕方ないでしょ!貴方しかいないの、わかった!?」

翼人「えぇ、喜んで」



翼人(暗黒騎士は上手くやったのかな…ふ、あいつ不器用だしなぁ)

翼人(俺も、頑張らないとな――)

その時だった。

翼人「――――ッ」

71 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/27(木) 13:16:40.36 ID:rE2yYOlV0
何だ?この血しぶき…俺のか?
痛みは遅れてやってくる。脇腹だ。
だけどどうして?奇襲?敵の姿は――

?「悪いが――」

翼人「!?」

声に反応し振り返る。
だけど、遅かった。

その場に思い切り転倒する。足をやられ、バランスを崩した。

足音はゆっくり近づいてくる。
そしてそいつは、翼人に刃を振り下ろす。


魔姫様――――



彼が最後に思ったのは、想いを寄せる相手の事だった。

72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/27(木) 13:17:09.25 ID:rE2yYOlV0
令嬢「――――え」

朝起きて最初に、それを聞かされた。

暗黒騎士「昨晩、翼人が廊下で殺されていたのが見つかった…」

昨晩は外出疲れで早めに寝ていた。だがその間に、そんな事があったなんて。
暗黒騎士は平静を装っているが、顔が少々青ざめている。私もショックでないといえば嘘になる。翼人は敵とはいえ数少ない、私に好意的な人だった。

令嬢「誰が、彼をやったんですか」

暗黒騎士「それがわかっていない。犯人の痕跡が残っていないそうだ」

魔王軍幹部である彼を殺し、痕跡を残さず立ち去る事ができる者とは――

暗黒騎士「他の幹部はお前を疑っている。あまり部屋の外には――」

令嬢「…少し出かけます。すぐ戻りますから」

暗黒騎士の静止を聞かず、私は部屋を飛び出る。
翼人が殺された場所は聞かなかったが、魔物達の騒ぎの声がする方向に――いや、直感で足を進めた。
案の定、そこでは捜査が始まっており、人だかりもできていた。彼らの噂話が耳に入る。翼人はここで殺されていたそうだ、と。

魔姫「どうして…」

令嬢「!」

聞きなれた声に、私はすぐに振り返った。
魔姫が泣いている。崩れ落ちそうになっている体を、配下の者に支えられながら。

魔姫は私に気付くと、フラフラしながら近づいてきた。

――動揺を、悟られないだろうか。

魔姫「ねぇ…令嬢」

令嬢「…魔姫さん」

魔姫「大事な人を失うのって、こんな気持ちだったのね――」

令嬢「――!」

彼女の痛々しい声が、私の心に突き刺さった。

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/27(木) 13:17:37.07 ID:rE2yYOlV0
魔姫「翼人は口うるさかったけれど、いつも私を気にかけてくれていた…。昨晩も一緒に会話したのに、どうして…」

令嬢「魔姫…さん…」

魔姫「貴方も、こんな気持ちだったのよね…ごめんなさい」

令嬢「違う…貴方のせいじゃ」

魔姫「翼人がいなくなって私、辛くて苦しいの!犯人が憎くてたまらない!貴方もそうだったのよね、私わからなかった!」

魔姫が私を抱きしめる。痛みに耐えながら、私の痛みを包み込むように。
痛い。苦しい。彼女の気持ちが、私を締め付ける。


その後は頭が真っ白で、どうやって彼女と別れたかも覚えていない。だけど私は確信を持って歩を進めていた。



令嬢「貴方が――」

彼を見つけた時、私の口から自然に言葉が出ていた。

令嬢「貴方が翼人を殺したのね――従者」

従者「…」


従者は無表情のまま、肯定も否定もしなかった。

74 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/27(木) 13:18:29.83 ID:rE2yYOlV0
令嬢『…で、あそこなんて潜むのに最適だと思わない?』

従者『おー、いいですね。俺ならあそこから10メートルは跳躍できますよ!』



令嬢「…以前、そんな会話をしたわね。翼人が殺されたのは、丁度その場所だった。答えなさい従者、貴方でしょう」

従者「…そうですよ」

従者は真っ直ぐ私を見て答えた。その様子に、後ろめたさは感じられない。

令嬢「どうして勝手なことを!」

私は感情を隠すことなく従者に詰め寄った。声は自然に怒り口調になる。

従者「お嬢様が――」

従者は震えていた。

令嬢「え…?」

従者「お嬢様が戻ってこなくなる気がして、怖かった」

怖かった?戻ってこなくなる?何を言っている?

従者「お嬢様は魔王を討つんです!俺が殺した幹部も、お嬢様の敵なんですよ!」

令嬢「そんなことはわかって…」

従者「いいえ、貴方は彼が死んだことに心を痛めている!」

令嬢「――」

何も言い返せなかった。
自分に好意的だった翼人への敵意はほとんど無くなっていた。むしろ、私自身好意的な感情を抱いていたかもしれない。
魔姫の悲しむ様子を見て、私は心を痛めた。これから彼女の父親を討とう、というのに。

従者「お嬢様が本当に暗黒騎士のものに…こっちに戻ってこなくなるんじゃないかって、不安で…」

令嬢「…」

自分の愚かさを痛感する。従者にこんな心配をかけてしまうとは――

私は甘えていた。敵だらけの状況の中、少しでも好意的にしてくれる者に対し、心を許しかけていた。
だけれど、それじゃあ駄目だ。心を厳重に武装すると決意したのは、私自身ではないか。

令嬢「…ごめんね従者。大丈夫だから」

私は従者の頭に手をやる。彼を安心させてやらねばならない。
ふと、昨日の暗黒騎士の顔が頭に浮かんだ。私が笑いかけた時の彼の戸惑った顔を思いだし、心が痛んだ。
だけど、それが甘え。甘えは許されない。心の痛みは無視し、暗黒騎士の事も頭から振り払った。

令嬢「もう、誰にも心は許さないから」

従者はまだ震えていた。それは何を思ってか。今は彼の気持ちがわからなかった。

76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/27(木) 15:26:01.59 ID:CzElUxm/O
うわあぁ翼のキャラ好きだったのにいぃぃ

77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/27(木) 15:33:46.82 ID:D4cexFe3o
従者うぜぇ…

78 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/28(金) 15:37:20.31 ID:JMJsGzxX0
暗黒騎士はまだ部屋にいるのか。あんな事が起こって、幹部の彼が自室待機でいるとは思えない。
だけれど戻る気になれなかった。あそこは暗黒騎士をよく思い出させる場所。今はそこを避けたかった。

令嬢(私は、何がしたいんだろう――)

行くあてもなく城内を彷徨う。私に何も思い出させない、落ち着ける場所を探して。

猫男爵「おい、止まれ。怪しいな」

だけれど、そんな場所存在しなかった。

呪術師「ヒヒヒ…1人で何をしているんだぁ?」

悪魔「泳がせておけば昨日の証拠隠滅でもしたんじゃないのか」

あぁ…そう言えば暗黒騎士が言っていた、他の幹部が私を疑っていると。
間違ってはいない。従者にあんな事をさせたのは、私だ。

令嬢「…何の用ですか」

悪魔「今日はいつも以上に仏頂面だな。何か後ろめたいことでもあったのか?」

猫男爵「翼人はお前に対し、油断していたしな」

令嬢「ご冗談を。魔王軍幹部ともあろう者が、私なんかにやられるわけないでしょう」

呪術師「あの王子を、この城に侵入させたんじゃないのか?」

令嬢(そうきたか…)

自然と3人が私を囲むような体勢になっていた。すり抜けて逃げることは簡単だ。だけどそれは、後ろめたい気持ちを認めるようで癪だ。この程度の事で、動じてはいけない。

令嬢「とにかく何も知りません。言いがかりなら根拠をもって……ッ!」

バランスを崩しよろける。悪魔が私の足を蹴飛ばしていた。

悪魔「調子に乗るな」

悪魔の顔は、明らかに苛ついていた。

79 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/28(金) 15:37:48.93 ID:JMJsGzxX0
悪魔「昨晩は俺も猫男爵も呪術師も城外にいた。外からの侵入者ならば、城内の翼人よりも俺達の方が狙いやすい。なのに翼人が狙われたのは、奴を殺したのが城内の者で、奴の油断を誘える相手だからだ」

令嬢「…私以外にも該当者は沢山いると思いますが」

猫男爵「1番怪しいのはお前だ」

呪術師「そうだ、この捕虜が!」

今度は呪術師が私の背中を押し、私はそこに膝をついた。
流石に身の危険を感じる。魔姫の後ろ盾がある私に手は出さないだろうと油断していたが――

呪術師「いい加減にしろよぉ…俺の技は拷問だってできるんだぞヒヒヒ」

令嬢「…!!」

呪術師が手に魔力を帯びて私に少しずつ寄ってくる。
拷問されたらまずい。従者のことを話してしまうかもしれない。そうすれば従者は間違いなく打ち首になる。
いや、そもそも彼の目的は本当に私から証言を取ることではなく、私をいたぶることなのかもしれない。彼らは私のことが気に入らない。もし私が死んだとしても、3人で口裏を合わせれば何とでも言える。

何にしても、この状況は打破しないと。

少しずつ迫ってくる呪術師の醜い顔に、私は唾を飲み込み決意する。
彼が間合いに入ったら、光の剣で斬る。光の剣の存在がばれないよう、悪魔と猫男爵からは見えない角度で。
それで2人が逆上した時は仕方ない、戦おう。光の剣で斬られた相手は消える。何も証拠は残らない。
ぐっと拳を握り締め、構える。

呪術師「ヒヒヒ、震えているぞ小娘?」

令嬢「!」

怯えを悟られるとは不覚。それほど私は、甘えた生活に慣れきっていた。
戦わなければならない。生き残る道は、自分で切り開かなければならない。それが――

暗黒騎士「おい、何をやっている!!」

令嬢「!!」

悪魔「チッ」

呪術師が私の間合いに入ろうとした時、暗黒騎士が駆けつけた。
何とか危機は脱した。だけど私は暗黒騎士を見た瞬間、ほっとしてしまった。そんな心の甘えを感じ、私は自分に腹が立った。

80 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/28(金) 15:38:24.73 ID:JMJsGzxX0
暗黒騎士「こんな時に何をやっているんだお前達!こいつに手を出したら許さんぞ!」

猫男爵「フン…お前がきちんとそいつの監視をしていないからだ」

そう言うと、3人はぞろぞろその場から去っていった。流石に幹部同士の争いという大事は避けたかったのか。
ただ3人の背中を見送っていると、暗黒騎士が私に寄ってきた。

暗黒騎士「だから忠告しただろう!ほら、すりむいているじゃないか!それにお前、戦おうとしていただろう!どうして逃げるなり叫ぶなりしなかった!?」

だって、私は誰にも頼れないから。

令嬢「…ありがとうございました。でも大丈夫ですから」

暗黒騎士「…は?」

貴方に頼らなくても、自分の力で戦うから。

令嬢「部屋に戻るので――放っておいて下さい」

暗黒騎士「ちょっ、待っ――」

貴方といると、辛いだけだから――

暗黒騎士「おい!」

令嬢「!」

先回りして、今度は壁に追い詰められる。この壁ドン、私は好きじゃない。

暗黒騎士「おい…部屋を出た後、何があった?」

令嬢「何もありません」

暗黒騎士「そんなわけあるか、変だぞお前!」

令嬢「いつもと同じじゃないですか」

暗黒騎士「同じじゃない!何でそんなによそよそしいんだ!」

令嬢「…私達、そんな関係ですよ」

暗黒騎士「は…?」

心を許せる関係じゃない。私達は――

令嬢「魔王を討つ為に、手を組んでいるだけですよ」

81 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/28(金) 15:39:19.13 ID:JMJsGzxX0
暗黒騎士「―――っ」

令嬢「…」

どうしてか彼の顔を見れない。後ろめたいことなんてない。何も間違ってはいない。
それなのに、彼と目を合わせたくなくて――

暗黒騎士「…俺は」

少しの沈黙の後、暗黒騎士が声を発する。だけどその後何も言わない。
だけど私からも何も言えない。続きの言葉を、ただ待つ。

暗黒騎士「俺はお前を――」

やがて暗黒騎士は静かに、言葉を発し始めた。

暗黒騎士「ずっと、見てきた」

令嬢「―――え?」

予想外の言葉に私は戸惑う。

暗黒騎士「いつもいつも強がっていたお前が弱っていれば、俺にはすぐわかるんだよ」

令嬢「!!」

悟られていた?どうして?私の心の甘えが原因?それとも――

暗黒騎士「お前の俺に対する気持ちがそうだとしても、少なくとも今は」

暗黒騎士は私の頬に触れ、自分に向かせる。
彼を見たくはなかった。けれど抵抗もできなくて、気付けばその顔は正面にあった。

そして――

暗黒騎士「お前は俺の妻だ」

令嬢「――」

その目には、彼自身の気持ち、私への気持ち全てが込められていた。

82 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/11/28(金) 15:40:17.81 ID:JMJsGzxX0
従者「暗黒騎士さん!」

暗黒騎士「…っ!?何だ猿、今それ所じゃ」

従者「付近の森に王子の軍が潜んでいるとの事で、出動命令が出ました!」

暗黒騎士「クソ、あのキザ王子めこんな時に…!わかった、今すぐ行く!」

暗黒騎士は私から離れた。それから一言、

暗黒騎士「…俺が帰ってきた時は、出迎えろよ」

私に向かって、そう言った。
返事をする前に彼は駆けていく。そしてそこには、私と従者だけが取り残された。従者は去っていく暗黒騎士の背中を見送りながら、ほっとしたように一息ついた。

従者「…お嬢様?」

令嬢「…っ」

あまりの痛みに、私は立っていられなくなった。

従者「お嬢様!?どうされたのです!?」

痛くて、辛くて、私は感情のまま涙を流していた。私は弱くなった。お父様が死んだ時にも耐えたのに。

令嬢「私、私…」


私は、暗黒騎士を傷つけた。


令嬢「どうしてぇ…」

彼の気持ちが私の心を締め付ける。心を許さないと決めた。なのにどうして、こんなに苦しいのだろう。

令嬢「耐えられない…もう私、どうしていいかわからないぃ…」

従者「お嬢様……」


87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/28(金) 20:47:30.18 ID:fnaUox+kO
いまのとこ従者はただただウザいな
どこに着地させるのかが楽しみだ

88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/28(金) 22:45:00.96 ID:kQqmGAkcO
なにこれ楽しい

89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/29(土) 08:27:00.34 ID:h7lCkBszO
まぁ従者からしてみれば、さらわれた主人に会いに敵地に乗り込んでみたら、主人が敵と仲良くやってるわけだから納得もできんわな。
だからって翼人殺したことは俺が許さん。


2/2へ続く
posted by ぽんざれす at 21:29| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

勇者「もう勇者なんてやめたい」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1412733320/


1 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/10/08(水) 10:55:30.42 ID:lpuJ/0to0
>勇者達は全滅した!

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1412733320

2 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/10/08(水) 10:56:10.01 ID:lpuJ/0to0
16歳の誕生日、私の体に勇者の証である紋章が浮かび上がってきた。それまで普通の村娘として生活をしていた私の生活は一変、私は勇者として魔王討伐を命じられたのだけど――


戦士「動きが遅いっ!そんなんじゃこの先やっていけないぞ!!」

魔法使い「いつまで休んでるわけ?こうしている間にも魔王軍は活動しているのよ?」

勇者「ご、ごめんなさい、今行きますから!」

僧侶「ふぅ…こんなお嬢さんのお世話を丸投げされるなんて、王様の命令とはいえいい迷惑です」

勇者「…」


半ば強制的に旅立たされた私が満足に剣など扱えるはずがなく、王様から派遣された強者が集まるパーティーで、私は肩身の狭い思いをしていた。

私が勇者だということが国中に広まるのは早いものであり――

「頑張って下さい勇者様!」
「魔王討伐の報せ、1日も早くお待ちしております!」
「勇者様だ!世界を平和に導いて下さる勇者様だぞ!」

行く先々で見知らぬ人達にこんな声をかけられ、その旅に義務感と重圧が私にのしかかった。

僧侶「ほんと、1日でも早くまともに戦えるようになってほしいですねぇ勇者様?」

勇者「…」

僧侶さんの皮肉にはいつまでたっても慣れることはできず、言われる度私の心に突き刺さった。

3 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/10/08(水) 10:56:52.43 ID:lpuJ/0to0
戦士「…!おい、空を見ろ!」

魔法使い「あれは…!魔王軍の飛行部隊じゃない!?」

勇者「ひえぇ…」


それは今まで私が見てきた魔物の群れとは違い、正に「軍勢」と呼べる程の集団だった。
腕のたつ仲間達も多勢に無勢と判断したのか、ただ怯えるだけの私をよそに逃走準備を始めたが――


暗黒騎士「逃がすな」


私がもたついていたせいで、逃亡は失敗し――

4 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/10/08(水) 10:57:31.78 ID:lpuJ/0to0




勇者「う、うーん」

ベッドで目を覚まし、まず最初にため息をついた。

また皆に怒られてしまう…。

これまでも私は何度も戦闘不能に陥った。それも、ほとんどが私の要領の悪さが原因している。
いくら私が勇者といえど、皆がパーティーのお荷物である私にいつまでも寛容でいてはくれなかった。

勇者(私なりに頑張っているつもりなんだけど…)

泣きそうになったけど、泣いたら僧侶さんに皮肉を言われてしまう。
勇者という生き方は私に合わない。そう思うけど、逃げることはできない。私に期待という重圧をかけてくる人達の中に、勇者を放棄することを許してくれる人が何人いるのだろうか。

勇者「もう、起きなきゃ…」

国の神官様がかけてくれた魔法のおかげで、私達は全滅しても、最後に祈りを捧げた教会まで戻ることができる。
かといって、今回の全滅で山1つ分は大戻りしたわけで、結局皆に責められることになるわけだが――

勇者「…あれ?」

だけど周りを見渡すと、違和感があった。

勇者「ここは――教会?」

上手く言えないけれど、そこは教会の一室とは思えない程雑多というか、雰囲気が暗いというか…

?「目を覚ましたか――」

勇者「ひっ!?」

ドアが開いたと同時、低く、威圧感のある声が聞こえ、私は思わず飛び上がった。
それから声のした方を見ると――

5 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/10/08(水) 10:58:13.51 ID:lpuJ/0to0
暗黒騎士「随分、長く眠っていたな――勇者よ」

勇者「あ、貴方は…」

先ほど自分達を襲った軍隊の先頭に立っていた暗黒騎士だった。。
あの時は恐怖で混乱していたが、その物々しい鎧はしっかりと記憶に残っている。

勇者「あのう、ここは…どこですか?」

まだ残っている恐怖心からか、それとも元々の気弱さからか、つい敵にも敬語で話してしまう。

暗黒騎士「ここは魔王城の一室…俺の部屋だ」

勇者「なっ!?」

勇者(ここが私達の目指していた魔王城…なら魔王もここに!?ということは遂に最終決戦…無理無理、絶対負けちゃうううぅぅ!!)

暗黒騎士「落ち着け。お前は感情がすぐ顔に出るようだな」

勇者「はい!?あ、ひゃあぁ」

勇者(は、恥ずかしい…。あれ?でも、今の状況って…)

勇者「私は…捕まったってことですか?」

暗黒騎士「…気付くのが遅い」

鎧兜で表情は見えなかったけれど、口調で呆れているのがわかった。

勇者(うぅ、敵に恥を晒してしまった、また皆に何か言われる…って、あれ?」

6 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/10/08(水) 10:59:01.70 ID:lpuJ/0to0
勇者「あのぅ、私の仲間の皆さんは?」

暗黒騎士「さぁな。死んではいないと思うが、置いてきたので何をしているかはわからん」

勇者「そうですか。でも、あれ?全滅したら私達教会に戻るはずじゃ…」

暗黒騎士「全滅などしていない」

勇者「そ、そうなんですか!?」

暗黒騎士「あぁ。お前は攻撃される前に気を失ったからな。そのままここに運んできた」

勇者「え、あ、そうなんですか…」

暗黒騎士「恥ずかしい奴だな」

勇者「うぅ」

自分が恥ずかしい奴だということに言われてから気付き、情けないやら悲しいやらで泣きそうになってしまった。

勇者「あら」

それから、遅く気付いたついでに、もう一つ気付いてしまった。

勇者「わ、わわ私これからしょしょ処刑とかされいやあああぁぁぁ」

暗黒騎士「しないから落ち着け」

勇者「しないんですね!?」

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/09(木) 10:01:57.29 ID:sthOuHbb0
トントン

暗黒騎士「来訪者か…おい、ベッド下に隠れろ」

勇者「あ、は、はい」モタモタ

命令されるまま隠れてからようやく疑問に思う。
隠れる?どうして?

私が隠れてから、暗黒騎士の「入れ」という言葉で、ドアは開いた。

竜騎士「只今戻りました暗黒騎士様」

暗黒騎士「…で、どうだった?」

竜騎士「はい。勇者は行方不明のままのようです」

勇者(!?)

いきなり自分の話題を出され、思わず声をあげそうになった。

暗黒騎士「勇者の件は急がなくて良いだろう。今日はもう休め」

竜騎士「はい」

客人が部屋を出てから「もういいぞ」と言われ、私はベッド下から出た。
無言の暗黒騎士に声をかけるのは緊張したが、それでも状況を知っておきたかった。

勇者「あのう…私がここにいること、あの方は…」

暗黒騎士「知らん。俺以外な」

勇者「!」

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/09(木) 10:02:42.57 ID:sthOuHbb0
彼の話によると、あの場は戦闘で大分混乱し、気絶していた私を見ている者はいなかったようで、それで皆の目を盗んで私をさらってこれたようだった。
聞けば聞く程自分が情けない。

勇者(だけど…)

勇者「どうして私を殺さなかったんですか?」

こちらとしては当然の疑問に、暗黒騎士のため息が聞こえた。

暗黒騎士「殺されたかったわけか?」

質問を質問で返され、答えをはぐらかされた気がした。だけど、その質問につい――

勇者「…そうかも」

本音がこぼれた。
暗黒騎士の表情は相変わらず見えないが、彼は言葉を詰まらせたのか、それとも言葉の続きを待っているのか、返事はなかった。

勇者「処刑とかは怖いですけど…気絶したまま死ねるのは、楽だし」

暗黒騎士「驚いたな、勇者の口からそんな言葉が出てくるとは」

勇者「だって――」

言いかけたが、呑み込んだ。
仲間達からの叱咤、人々からの期待、そんな重圧から逃げ出したいと思っていたなんて――
勿論、積極的に死にたい気持ちがあるわけではないけど、勇者としての生き方に希望を見いだせなくなっていたのも事実だった。

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/09(木) 10:03:28.69 ID:sthOuHbb0
暗黒騎士「お前は、どうしたい?」

勇者「…え?」

暗黒騎士「俺はお前をどうこうしようというわけじゃない。今ここで解放してやってもいいし、仲間の元へ帰してやってもいい。ただ――」

そう言って彼は私の、今だ手に馴染んでいない剣を差し出した。

暗黒騎士「再びこれを手に取る気はあるか?」

勇者「――っ!!」



「頑張って下さい勇者様!」
「魔王討伐の報せ、1日も早くお待ちしております!」
「勇者様だ!世界を平和に導いて下さる勇者様だぞ!」


勇者「あ、ああぁ…」


途端に人々にかけられた言葉が頭を巡り、胸を締め付けていた。
私は勇者なのだ。勇者が剣を取れば、やらねばならないことは一つ。



王『紋章に定められた運命に従い――魔王を討つのだ、勇者よ』

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/09(木) 10:04:16.72 ID:sthOuHbb0
勇者「…嫌です」

私は差し出された剣を拒み、後ずさった。

勇者「勇者なんて嫌…もう解放されたい…」

敵に弱音を吐くなんて許されるはずがない。
だけどこうして敵に捕まり、満足に戦えない一人の小娘に戻ったことで、私はもう限界を迎えていた。

暗黒騎士「それはつまり、戻りたくないということか?」

勇者「はい…」

返事に躊躇が無かったことに自分でも驚いた。だけど無遠慮な言葉を投げかけてくる仲間達の顔を頭に浮かべ、はっきりと思った。
戻りたくない、と。

暗黒騎士「もう1度聞く。お前は、どうしたい?」

勇者「解放されたいです…。戦いからも、勇者としての使命からも」

勇者(それには死ぬしかないじゃない…やっぱり殺されるのかな、私)

暗黒騎士「そうか」

相変わらず抑揚のない声を出しながら彼は懐から何かを取り出し、私は一瞬死を覚悟した。だが――

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/09(木) 10:05:01.53 ID:sthOuHbb0
暗黒騎士「それで勇者の紋章を隠しておけ」

勇者「え?」

彼が差し出したのは、ただの包帯だった。

暗黒騎士「今から部下を呼ぶ。余計なことは何も喋るな」

勇者「え、え?」

訳がわからなかったが、私は言われるまま、彼が部屋を出ている間に包帯で紋章を隠した。
それから程なくして、彼はメイド姿の魔物を引き連れてやってきた。

メイド「へぇ、この娘ですか」

そう言いながら、ジロジロと好奇心の混じった目で見つめられた。

メイド「他の幹部方が選ぶ女性とはタイプが違いますねぇ…。流石暗黒騎士様、お目のつけどころが違う!」

暗黒騎士「それは皮肉か?」

メイド「とんでもない!一見地味ですが器量よし、磨けば光る原石と見た!」

勇者(な、何の話をしているの?)

暗黒騎士「だが地味なままでは良くないだろう。…俺の妻にするには」

勇者「!?」

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/09(木) 20:17:16.94 ID:sthOuHbb0
その後着替えやらメイクやらのお世話になっている間、メイドは聞いてもいないのに次から次へと喋っていた。そしてメイドが言うには、自分は暗黒騎士に見初められて連れてこられた、ということになっているらしい。

勇者(つ、つまり、彼のお嫁さんに…)

メイド「はい鏡をご覧になって~。見違えたでしょう」

勇者「わぁ…」

鏡に映った自分の姿に思わず胸が踊った。
旅に出てからはお洒落から遠ざかっていた私にとって、久々に見る「女らしい」自分の姿だった。

勇者「あ、ありがとうございます~。メイドさん、センスいいですね!」

メイド「でしょ~?暗黒騎士様、もう入ってきていいですよ~!」

勇者「あ…」

暗黒騎士「…」

暗黒騎士と入れ替わるようにメイドさんが部屋から出ていき、今、部屋には彼と2人きり。
何だか胸がドキドキする。

暗黒騎士「…言っておくが妻というのはお前をここに置いておく口実だ。本気にしなくていい」

勇者「そ、そうですよね!わかってますとも、えぇ!で、でも!バレないんですか!?」

暗黒騎士「お前次第だ」

どうやら魔王軍の幹部が人間の妻を娶ることはそう珍しいことでもないらしく(しかも複数の妻を娶るのも当たり前)自然に振舞っていればほぼ怪しまれる危険はないそうだ。

勇者「だけど「ほぼ」っていうのは…」

暗黒騎士「俺は女に興味がないと思われている」

勇者「つまり、妻を娶ったこと自体が変に思われるかもしれないんですか…」

暗黒騎士「まぁ変わり者の俺が見初めた女という設定には合うかもしれん。お前は変な女だからな」

勇者「へ、変な女…」

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/09(木) 20:18:14.08 ID:sthOuHbb0
>それからというものの…

呪術師「お?あんたがあの暗黒騎士が娶ったっていう」

勇者「ひ、ひいいぃ」ブルブル

呪術師「…いや、とって食ったりしねーから」





暗黒騎士「他の幹部に「お前の妻は臆病で人見知りで変な女だな」と言われたぞ。他の奴らと変に交流を持たれてもボロが出かねないから、それでいいが」

勇者「うぅ、やっぱり変な女なんだ…」

臆病で人見知りという噂のおかげか、部屋からほとんど出なくても不審に思われている様子はなかった。
時々、他の幹部の妻やメイドなど、友好的な女性達が訪ねてくることもあった。

奥様A「でね、うちの旦那ったら大怪我して帰ってきたのよ~情けないったらありゃしない」

奥様B「まぁまぁ、旦那様がご無事で良かったじゃない」

メイド「Aさんの所完璧にカカア天下ですからね~」

奥様A「暗黒騎士様の奥様は羨ましいですわ。あの方は貴方一筋、しかも幹部の中でも筆頭の出世頭ですし」

勇者「そうなんですか?」

メイド「そうですよ~。魔王軍全体が信頼を寄せる実力者…その実力は魔王様に及ぶとも言われてるんですよ~」

勇者「へぇ~」

仮面夫婦とはいえ、夫である暗黒騎士を褒められ、何だか自分まで誇らしくなっていた。

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/09(木) 20:18:57.65 ID:sthOuHbb0
妻同士の会話は、人間達の井戸端会議と内容はそう変わらない。自分も村娘だった頃は、同年代の少女たちと色んな話をしたものだ。
1番戻りたかったあの頃に戻れたようで、私もつい気を緩めてしまう。

奥様B「ねぇねぇ、暗黒騎士様のお顔ってどんな感じ?やっぱり噂通りの美男子なの?」

勇者「えっ」

気を緩めていた所に予想外の質問がきた。
自分も暗黒騎士の顔は見たことがない。仮面夫婦である自分たちは、他の者が知らない素顔を見れるような関係にはなっていない。

勇者「わ、私好みの顔ですよ…」

奥様A「ますます羨ましいわ~。奥様だけに毎晩そのお顔を見せて下さるんでしょ~」

メイド「いやぁ、でも暗黒騎士様は遠征ばかりでろくに帰ってないじゃないですか」

奥様B「そういえば勇者討伐部隊の隊長に選ばれたそうね」

勇者「!」

奥様B「でも行方不明の勇者を探し出すこと自体大変よね」

奥様A「人間達側も必死に勇者を探しているんだものね」

勇者(それもそうよね…私が行方を眩ませて1週間、人間も魔王軍も動きがないわけがない…今、どういう状況なんだろう…)

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/09(木) 20:19:39.65 ID:sthOuHbb0
夜、1人になってから色んな想像が頭を過ぎった。

こうしている今でも、人間と魔王軍の戦いは進んでいる。
「勇者」に希望を抱いていた人達は今、きっと不安で一杯だろう。
仲間達は皆から責められているかもしれない。
故郷の家族たちだって、きっと心配している。

勇者(私1人のせいで、皆が…)

今まで関わってきた人達の顔が浮かび、その彼らの顔が不安に染まっていることを想像するだけで身震いする。
まさか勇者が使命から逃げただなんて、誰も想像していないだろう。

勇者(私は何てことをしてしまったんだろう…)

色んな感情がごちゃ混ぜになり、涙が出そうになる。

勇者(泣いたって仕方ないのに…)

暗黒騎士「ひどい顔だな」

勇者「――!」

彼が部屋に入ってくる気配すら気付かなかった。
どうしてここの所ろくに帰ってなかったのに、こういう時に限って帰ってくるのか。

暗黒騎士「何があったんだ」

勇者「暗黒騎士様…」

相変わらず素顔は見えないけど、その声が自分を気遣っているようにも感じられて、つい気を許してしまう。

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/09(木) 20:20:08.72 ID:sthOuHbb0
勇者「もう混乱して、わからないんです…」

暗黒騎士「何にだ?」

勇者「今の状況に、今更ながら自己嫌悪で一杯で…。だけど勇者に戻るのは絶対嫌…だからもう、どうしていいのかわからない」

どうすれば気負いすることなく勇者を放棄できるのか――身勝手な願いだと思いながら、また自己嫌悪する。

勇者「勇者の存在は大きすぎます!私じゃもう抱えきれない!こんな私に、どうしろっていうんですか…」

我慢していた涙が流れた。
暗黒騎士は大層呆れているだろう。身勝手なことを口にしながら泣くなんて、強い彼には理解できないことだ。

そう思っていたけど、暗黒騎士の口から出てきたのは思ってもいなかった言葉で――

暗黒騎士「何故自分を責める?」

勇者「――え?」

暗黒騎士「困難から逃げるのは悪いことか。立ち向かって、潰れるのが良いことなのか」

暗黒騎士の言葉は明らかに自分を指していた。
自分は潰れかけていた――勇者という使命と、重圧に。

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/09(木) 20:20:47.84 ID:sthOuHbb0
暗黒騎士「お前に重圧をかけてくるのは人間達の勝手だ。ならお前も勝手になればいい…今の居場所が嫌でなければな」

勇者「い、嫌じゃないです!ま、魔物が沢山いるのは怖いけど…」

暗黒騎士「それは慣れろ」

そう言った彼の口調は、笑いを含んでいるようにも聞こえた。

暗黒騎士「俺から言えるのはここまでだ…明日も早い、俺は休むぞ」

そう言って彼は自分の寝室(寝室は別々)に行こうとしたので…

勇者「ま、待って!」

暗黒騎士「!」

咄嗟にその手を掴んで、彼を呼び止めた。

勇者「あ、あの…ありがとうございます…」

暗黒騎士「…何がだ?」

勇者「や、優しくして下さって…嬉しかった、です…」

暗黒騎士「…フッ」

彼は私の顔を見て笑い、それから言った。

暗黒騎士「やはりお前は勇者ではないな…それに顔が面白い」

勇者「え、ええぇっ!?」

あたふたする私を尻目に、彼は寝室へと向かうのだった。

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/10(金) 17:24:13.63 ID:+Y9Q1rO80
それからまた暗黒騎士が帰ってこない日々が続いた。
勇者の捜索にかなり難航しているらしく、勇者討伐部隊の隊長である彼が帰って来れないのは当然のことだった。

勇者(今日も帰ってこないのかな…)

彼の優しい言葉が欲しかった。
1人だと考える時間が多くなり、同じ不安が何度も頭を巡った。この根強い不安は、1度慰めてもらった程度では解消されない。

勇者(あぁ駄目だ。こんなウジウジしてるのと居たらイライラするよね。気分転換しなきゃ…)

かといって魔物が徘徊する城内をうろつく勇気はなく、室内で何か気分転換できるものを探してみた。
すると、部屋の隅に立てかけられていた自分の剣が目に入った。

勇者(体を動かすとストレス解消にもなるって言うし…)

剣を手に持ってみた。戦うのは嫌いだけれど、適当に振り回す程度ならいい運動になるかもしれない。

勇者「てーい」シュッ

とても魔物を斬れそうもない太刀が空気を切った。
確信する。やはり自分に才能はないと。

勇者(でも、やっている内に上達するよね…)

戦士『そんな剣で魔王を倒せると思っているのかぁ!』
戦士『真剣にやれぇ!1日も早く上達する気持ちで!』
戦士『やっている内に上達すればいいなんて呑気なこと考えるなよ!』

勇者(き、厳しすぎるよ…)

思い出さなくてもいいことを思い出してしまい、かえって気分が沈むのだった。

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/10(金) 17:24:52.17 ID:+Y9Q1rO80
暗黒騎士「何をやっている?」

勇者「うひゃぁ!?」

知らない間に、背後に暗黒騎士が立っていた。

勇者「お、お帰りなさい!こ、これは運動の一環でして…」

暗黒騎士「なら今度木刀を持ってきてやる。その手つき、真剣を持つには危なすぎる」

勇者(こ、これでも真面目に剣の修行してた身なのに…)

暗黒騎士「ところで。お前、故郷や家族はあるか?」

勇者「え、えぇ」

尋ねられ、自分の故郷の場所や家族の存在を話した。
魔王を討伐するまで帰ってくるな、と村から送り出されたことも含めて。

勇者「それで、それがどうかしましたか?」

暗黒騎士「あぁ…状況が変わった」

どういうことか、次の言葉を待ったが、暗黒騎士は少しの間沈黙していた。そして

暗黒騎士「とりあえず…お前の故郷には害が及ばないよう、手を打っておく」

勇者「――!」

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/10(金) 17:25:24.68 ID:+Y9Q1rO80
暗黒騎士が帰ってこない日はまた続いた。

暗黒騎士『とりあえず…お前の故郷には害が及ばないよう、手を打っておく』

お前の故郷「には」。恐らく、彼の言葉の意味する事は――

勇者(そうだよね…彼は魔王軍の幹部だもの)

部屋から出れば嫌でも噂は耳に入った。

魔王軍は勇者を死んだものと判断したこと。
暗黒騎士は国への襲撃部隊の隊長に任命されたこと。
それから、暗黒騎士の武勇伝――彼がどれだけの人間を殺したか、ということも。

勇者(わかってたでしょ…それがわかってて、私は彼からの庇護を受け入れたんだ)

だけど、彼が人間を殺したという話が耳に入るだけで心は痛んだ。

勇者(聞きたくない…)

噂が耳に入らないよう、人と会うのをやめた。

救いは、彼が戦士や兵士以外の、無力な人達には手を出していないということだった。

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/10(金) 17:25:59.22 ID:+Y9Q1rO80
今は木刀を振る気にもなれず、無気力に横になっていた。

勇者の称号があるだけの無力な自分がいた所で、人間を守れるわけではない。
だから自分が戻っても、ここにいても、状況は変わらない。

勇者(だけど――)

自分がいるだけで、もしかしたら、皆は希望を抱けていたかもしれない。

勇者(ううん、だったらやっぱり、いない方がマシだよ…)

自分がいなくなったことで人々が緊張感を持ち、戦に備えるなら、そっちの方が人間達の為になる。
逃げていることへの言い訳だけど、そう信じることで救われた気分になった。

勇者(今日も帰らないのかな…)

暗黒騎士の噂を聞く度、彼に会いたい思いが増した。
噂で聞く彼は私にとって恐ろしいものだった。だから実際の、優しい彼に会いたかった。
よそで何をやっていようが、彼が自分に優しいのだけは変わらない事実だ。

勇者(身勝手だ…本当に)

41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/10(金) 17:26:30.42 ID:+Y9Q1rO80
メイド「暗黒騎士様の奥様~」ドンドン

ドアを叩く音より大きなメイドさんの声がした。

勇者「はーい?」

メイド「間もなく暗黒騎士様がお帰りになるそうですよ!」

勇者「!!わ、わかりました!ありがとうございます!」

慌てて飛び起きて、急いで乱れた髪と服を整えた。

勇者(な、何て言って出迎えればいいかな…)

会いたかったのに、もうすぐ会えるとなると、どうすればいいかわからない。

メイド「たまには奥様の方からお出迎えしてはどうですか?」

勇者「わ、私から…」

相変わらず城内を歩くのには抵抗があったが、断る口実が思い浮かばなかった。
それに、たまには驚かせるのもいいかもしれない。

勇者「わ、わかりました!今行きます!」

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/10(金) 17:27:04.45 ID:+Y9Q1rO80
臆病で人見知りの上引きこもりという噂の暗黒騎士の妻が出歩いていることで、好機の混ざった視線が向いたが、気にしないよう努めた。
メイドさんに教えてもらった道を早歩きで進み、入口まで来たら、物陰に潜んだ。

勇者(ど、どうして隠れるのかなぁ~私?)

こういう時でも堂々とできないのが自分らしい。

勇者(…あっ!)

遠くから魔王軍の部隊がぞろぞろとやってきた。
その先頭にいるのは…間違いない、暗黒騎士だ。

勇者(お、お出迎え…あぁっ、でも他にも沢山部下の人がいるのに恥ずかしい…)

と、あたふたしているその時だった。

勇者(…あら?)

暗黒騎士は部隊と別れ、道を逸れた。彼が向かったのは、城外の森だ。

勇者(どうしたのかなぁ…)

魔王軍の魔物達が城内に入っていくのを物陰から見送った後、彼の様子が気になり、私は森へと向かった。

48 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/11(土) 09:39:43.36 ID:2A0syDT30
勇者(どこに行ったのかな…)

森の中にいても、魔王城は見えるから迷子になることはないだろう。
それでも、森の中に1人は不安だ。

勇者(やっぱり、帰ってくるのを待っていれば良かったかなぁ…)

そもそも彼が森に来たのも理由があってのことかもしれない。だとしたら、自分がここに来たことで邪魔になるのではないか。
それにもっと早く気づけたのではないかと、自分の頭の悪さに辟易した。

勇者(引き返そう…)

ドスウゥゥン

勇者「…何?」

重い轟音が聞こえ、振り返った。その先には――

勇者「――!!」


音の原因がわかった。
それは、彼が兜を脱ぎ捨てた音だった。

勇者(暗黒騎士、様――)

その素顔は、以前自分がでたらめで言った「自分好み」のものだった。
若いながらも逞しさを伺える、非の打ち所の無い美男子。ただ、それよりも――

勇者(暗黒騎士様…人間、だったの…)

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/11(土) 09:40:21.39 ID:2A0syDT30
人間に似た魔物も存在するが、それでも彼らには色々と、人間とは違う特徴がある。
しかし彼の素顔は、その特徴がない、人間のものだった。

彼はこちらを見ていない。
だけど声はかけられなかった。何故なら兜の中は、彼にとって秘密なのである。

勇者(い、いけない!)

秘密を覗き見てしまった罪悪感から、私は全速力でそこから立ち去った。

だけど私はそそっかしいので、思いっきり足音をたてていたようで――


暗黒騎士「…せめてコソコソ逃げろ、阿呆娘」

50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/11(土) 09:40:50.94 ID:2A0syDT30
暗黒騎士「さっき見たことは別に気にしなくていい」

勇者「!?」

部屋に帰ってきた彼を素知らぬ振りで出迎えると、開口一番そんなことを言われた。
さっき見たこと…多分、兜の中身のことだ。しまった、バレていたとは…。

勇者「ご、ごめ…た、大変申し訳ございません…」

暗黒騎士「だから気にしなくていいと言っただろう」

そう言うと彼はあっさりと兜を脱いだ。先ほど遠目で見た、自分好みの美男子が目の前に…。
すぐ顔に出るタイプなので顔が赤くなっていないかが心配だったが、幸い彼は触れてこなかった。

暗黒騎士「俺が人間だということは魔王しか知らない。他の奴らに知られると馬鹿にされるか距離を置かれるか…とにかくいい影響は与えないから隠していた」

勇者「ぜ、絶対誰にも言いませんから!」

暗黒騎士「あぁ、お前は阿呆だが口は固そうだから、それは信用する」

勇者(あ、阿呆…)

暗黒騎士「お前には別に隠していたわけではないが…わざわざ教える必要もないかと思ってな」

勇者「そうですか…」

やっぱり自分達は仮面夫婦なんだな――心がちくりと痛んだ。

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/11(土) 09:41:22.64 ID:2A0syDT30
暗黒騎士「しかし陰気で陰険の上引きこもりのお前がわざわざ出迎えに来てたとはな」

勇者「い、陰気で陰険…」

確か自分に対する評判は臆病で人見知り、だったはずなんだけれど…。

暗黒騎士「他の幹部に、たまにはお前の為に何かしてやれと言われた。まぁ、ほとんど無理矢理帰ってこさせられた」

勇者「と、とんでもない!貴方には十分色々して頂きましたし!」

暗黒騎士「他の奴らからはそう見えんようだ。というか、俺がお前を無理矢理妻にしたのではという噂までたっている」

勇者「ええぇ…」

暗黒騎士「そういう奴もいるから噂になるのは構わんが、俺が陰気で陰険な女に惚れ込んだというのは少々癪だな」

勇者「うぅ、すみませんねぇ…」

暗黒騎士「そう思うなら笑いながら話してみろ」

勇者「は、はい!こう…ですか?」

暗黒騎士「いいぞ面白い」

勇者「面白いのは嫌ですーっ!」

その時気付いた。彼は、笑っていた。
今までは顔が見えなかったから声で感情を読み取っていて、抑揚のない喋りから、あまり喜怒哀楽を表さない人なのかと思っていた。
だけど今の彼は確かに、ちゃんと、笑っている。こうやって笑える人なんだと気付いて、新鮮な気持ちになった。

暗黒騎士「どうした面白い顔をして」

勇者「だから面白いはやめて下さいよぉ…」

56 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/10/11(土) 20:13:41.49 ID:2A0syDT30
>翌日

暗黒騎士「疲れてないか?」

勇者「はい、山歩きは慣れていますので」

私は彼に連れられ、魔王城付近の山を登っていた。ちゃんと道は整っているので、割と楽に歩ける所だった。
だけど彼のように重い鎧を着ていると話は別だ。まぁ、でも平気なのだろう。多分。

どうして山歩きをしているかというと、やはり今のままでは外聞が悪いと連れ出されたからだ。

勇者(こ、これってデートかなぁ)

山歩きというと仲間達にモタモタするなと怒られ、いい記憶は無かったが、彼との山歩きは違った。
ろくに会話は無かったが、一緒に歩いているだけで楽しい。

暗黒騎士「どうだ引きこもり。外の空気は久しぶりだろう」

勇者「一言多いですよ…」

たまに皮肉も言われたが、冗談だとわかっているので心も痛まなかった。




暗黒騎士「ほら頂上だ」

勇者「いい景色ですね~」

魔王城を見下ろす程の高さから見た景色は、自然たっぷりで風も気持ちよかった。

57 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/10/11(土) 20:14:34.09 ID:2A0syDT30
暗黒騎士「ここなら誰も来ないだろう」

そう言って彼は兜を脱ぐ。よく見ると少しだけ脂汗が滲んでいる。やはり、暑かったのか。
超人のような活躍を聞く彼でも、そんな所は人間らしい。

暗黒騎士「どうした笑って」

勇者「新鮮でいいですね、こういうのも」

暗黒騎士「そうか。まぁお前が嫌でないならそれでいい」

勇者「嫌だなんて。世間体の為とはいえ、わざわざありがとうございます」

暗黒騎士「わざわざという程でもない。俺にも気分転換が必要だしな」

勇者「そうですよね…毎日お疲れ様です」

お疲れ様、というのもおかしな表現だと思った。彼は人間と戦っているのだから。
だけど自分が無関係になってしまったせいか、それとも彼を贔屓しているせいか、彼が悪いことをしているという実感はない。

暗黒騎士「魔王軍に入ったばかりの頃は、ここでよく考え事をしていた。お前のようにな」

勇者「貴方でもそんなことがあったんですか」

暗黒騎士「お前程ではないが、俺も陰気な方だからな」

勇者「かもしれませんね。どんな考え事をしていたんですか?」

話してくれるとは思わなかったけど聞いてみた。だけど彼は、躊躇なく答えた。

暗黒騎士「人間を裏切ったことについて、な」

勇者「!」

58 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/10/11(土) 20:15:48.73 ID:2A0syDT30
そうだ、あまり気にしていなかったけれど、彼は人間の裏切り者なのだ。なら自分のように、さぞ罪悪感に――

暗黒騎士「お前のように罪悪感に苛まれていた、と思うなら、それは間違いだぞ」

間違いだったようだ。

暗黒騎士「俺は自分の選択に後悔したことは1度もない。ただ…人間を裏切ったのだから、それなりの過去も理由もある」

勇者「過去と、理由――」

それは一体どんなものなのか。聞きたかったけど、聞いていいのか躊躇った。
自分も辛くて人間を見捨てたからわかる。それも自分のように弱い人間じゃなく、彼のように強い人が耐え切れない程のものなら、尚更聞いてはいけない気がした。

暗黒騎士「…聞かないのか」

勇者「はい」

そう答えると、彼は驚いたような顔をして、少し沈黙して――

暗黒騎士「お前は優しいのだな」

そう言って、微笑んだ。

私に優しいと言ってくれた彼は、私に優しかった。
勇者という重荷に苦しみ、希望を失っていた私は、この優しさに救われてきた。
例え彼が人間の敵でも、私にとっては誰よりも優しい人だ。

勇者(暗黒騎士様は、何故私に――)








「「「勇者!!」」」

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/11(土) 20:16:29.06 ID:2A0syDT30

背筋が凍った。
呼ばれた瞬間、嫌なものが頭で一杯になった。
その理由は、数秒経ってから気付いた。その声が自分を勇者と呼んでいたからと、それと――

戦士「ここにいたか…」

見たくもない顔ぶれが並んでいた。

魔法使い「魔王城付近を張ってたら似てる奴が通ったから、まさかと思ったけど…」

声が出なかった。
どうして、今ここに、彼らがいるのだろう。自分に運のパラメーターが存在するなら、それは限りなく低いのだろう。

僧侶「敵に捕まっていたんですね勇者さん」

戦士「貴様!勇者は返してもらうぞ!」

かつての仲間達は、まさか自分が人間を裏切ったとは思っていないようだ。
自分はどうすればいいのか、咄嗟に何も考えられなかった。
そうしている内に、その場の私以外の人達は戦闘の構えをとっていた。

暗黒騎士「その装備、王国のエリート集団だな…こんな時に面倒な奴らが現れたものだ」

魔法使い「今までよくもやってくれたね暗黒騎士!だけどアンタ1人なら何とかなりそうだわ…覚悟しな!」

こうして、私は何もできないまま、戦いは始まってしまった。

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/11(土) 20:16:58.80 ID:2A0syDT30
片や魔王軍筆頭の戦士、片や王国のエリート集団、その戦いぶりは互いに見事なもので、私は目で追うことすらできなかった。
わかるのは互いに実力が拮抗しているということだけで、どちらが勝つのかも見当がつかない。
しかし3対1だからこそ拮抗しているようで、最前線で剣を振っている戦士さんの方が多く傷ついているようだった。勿論、僧侶さんの回復魔法ですぐに治るのだけれど。

魔法使い「溜めたよ!戦士、後ろに跳びなっ!!」

戦士「おう!」

いつの間にか魔法使いさんが魔力を溜めていたようで、それを放つ。
だけれど流石暗黒騎士様、きちんと警戒していたようだ。

暗黒騎士「ふん」ヒュッ

魔法使い「チッ!」

ギリギリだったがかわし、ダメージは受けなかったようだ。
だけど――

僧侶「あ、あれ…」

3人が目を見開いた。その視線の先は――今の魔法で暗黒騎士様の鎧が肩の所だけ壊れたようで、その部分だ。
だがよく見ると、その肩にあるのは…

勇者「紋章…?」

自分の勇者の紋章とは違う、見たことのない紋章だ。
あれは何なのか…すぐに答えは呟かれた。

僧侶「呪いの紋章…」

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/11(土) 20:17:34.74 ID:2A0syDT30
呪いの紋章。見たことはなかったが、聞いたことはある。
その紋章は邪神からの寵愛の証らしく、それを授かった者は人間に害をなす存在になるとか――

戦士「呪いの紋章の持ち主か、納得したぜ!だからお前は人間を裏切ったんだな!」

魔法使い「紋章の力って根強いんだねぇ。あーヤダヤダ」

僧侶「勇者さんの紋章も、それ位強い力を発揮してもらいたかったものですが…」

彼は呪いの紋章のせいで人間を裏切った?それは違うんじゃ――そう思った所で気付いた。
暗黒騎士の様子が、少し変だ。あの顔は、苦痛?

暗黒騎士「…違うな」

彼は抑揚のない声で言った。いつもと違いそれは、無理をして平静を装っているようにも聞こえた。

暗黒騎士「人間を裏切らせたのは紋章の力ではなく…お前達人間自身だ!」

「「「!!」」」

怒号と共に大地が切り裂かれた。
それだけ強い力、それに怒り。

かつての仲間達に直撃はしなかったものの、各々驚きの顔で切り裂かれた大地を見つめていた。


そして私はそんな力を目にして、かえって冷静さを取り戻していた。



勇者「やめて…もう帰って下さい!」

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/11(土) 20:18:57.26 ID:2A0syDT30
それまで私を意識の外に置いていたらしいかつての仲間達は、私の言葉が理解できなかったようで、ただ目を丸くしていた。

勇者「私が彼の元にいるのは自分の意思です!貴方達と戻る気はありません!」

僧侶「な、何を言っているんですか…?」

いつも冷静に人の心をえぐる僧侶さんが、今日は私の態度に圧倒されている。
思えば、彼らに逆らったのはこれが初めてだ。

魔法使い「何言ってんだよ!そんなの許されると思ってんの!?」

僧侶「目を覚ましなさい。貴方は人々の希望なんですよ」

戦士「暗黒騎士にたぶらかされたのか!?目を覚ませ、勇者!」


彼らの言葉は私に響かない。
何故、許しを請わなければならないのか?
何故、希望に応えなければならないのか?
目はもう覚めている。勇者だった頃が、重圧でおかしくなっていたんだ。


私は――



「私は――勇者の役目を放棄します」

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/11(土) 20:19:34.26 ID:2A0syDT30
勇者の放棄を宣言した瞬間、私は変に落ち着いていた。それとも、緊張しすぎて麻痺していたのか。

かつての仲間達は押し黙っていた。信じられない、受け入れられない、といった顔だ。

暗黒騎士「そういうことだ」

沈黙を破ったのは暗黒騎士。それから続けて彼らに言った。

暗黒騎士「諦めるのだな。こいつをそうさせたのはお前達だ」

魔法使い「何を…っ!」

魔法使いさんが戦闘を再開させようと、彼に攻撃しようとする――が、私は彼を庇うように立ちふさがった。

「彼を攻撃するなら私ごとお願いします」
そう言われ硬直する魔法使いさんにもう一言つけ加えた。「勇者殺しの罪を背負えるなら」と。
すると皆戦闘の構えを解いた。誰も私を攻撃できない。
勇者の放棄を宣言したばかりだというのに、我ながら卑怯だなと思った。

僧侶「本気なんですか…」

駄目元で尋ねる僧侶さんに、はっきりと「はい」と答えた。

戦士「呪われし者が…勇者をたぶらかしやがって」

魔法使い「気が重いけど…王様に報告しておくわ。絶対、目を覚まさしてやるからね勇者!」

彼らは最後まで、私が自分の意思で勇者を放棄したとは認めたくなかったようだ。
彼らには何を言っても無駄だ。きっと、私の気持ちは理解できない。

暗黒騎士「無茶したな」

彼らが立ち去った後、彼はいつも通りの様子で、事も無げに、涼しい顔で言った。
だけどその顔を見た瞬間、私は今更、興奮がどっと押し寄せてきて――

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/11(土) 20:20:07.66 ID:2A0syDT30
暗黒騎士「どうした阿呆娘」

その場にへたり込んだ私に、彼は不思議そうに声をかけた。
「怖かったです」と言うと、更に不思議そうな顔をした。

暗黒騎士「後悔しているか?」

その質問に、私ははっきりと否定した。今はむしろ清々しい気分だ。
それから気付いた。この興奮は、解放感だ。私はもう、勇者じゃないのだ。
そう思ったら心から笑えてきた。暗黒騎士様は更に不思議そう、というか遂には怪訝そうな顔になる。

暗黒騎士「やはりお前は変な女だな」

ひどいですよ。そう言うと彼も少し意地悪そうに笑った。それから私の腕を引っ張り上げ、立たせてくれた。
彼が私から手を放す瞬間、その手に未練を抱く。それを実感し、思った。私は彼にたぶらかされたんだな、と。勿論、勇者を放棄したのとは関係はなく。

66 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/10/11(土) 20:24:00.28 ID:2A0syDT30
今日の更新はここまで~。

勇者の台詞にキャラ名がつかなくなったのは、勇者が勇者をはっきりと放棄したからです。
勇者SSのキャラ名は記号のようなものなのでそんな演出しなくてもいいかな~でも勇者を放棄したのに勇者の名前使うのもな~でも代理の名前も考えつかないしな~とか、作者はポンコツなのでその程度の考えであります!(`・ω・´)

69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/11(土) 22:43:05.53 ID:5c5AHZsDO


放棄したら勇者の紋章消えるの?

残ってるなら放棄しても勇者でいいんじゃねとか変なこと言ってみる

でも、好きなように書けばいいと思うよ

70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/12(日) 00:22:36.98 ID:3Lee6ptgo
いい感じ、期待

71 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/10/12(日) 07:04:57.64 ID:UZnyGoyQO
コメントありがとうございます、テンションだだ上がりです(っ´▽`)っ

>>69
紋章は消えないけど、勇者の決意表明ですね。
今までは勇者の責務から逃げるだけでしたが、元の仲間達に勇者の放棄をはっきり宣言して勇者ではなくなったという感じでしょうか。
こう言えばよく考えているように見えますが、今は名前が無くなって文章にすっごく苦労してますがねww

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/12(日) 19:53:42.73 ID:TlbCtwci0
暗黒騎士「俺もお前と同じだった」

彼は私にそう語った。
彼は元々人間を守る側の戦士だった。
だけど、ある日突然体に浮かんできた呪いの紋章により、人々から差別を受け、人間に絶望し、魔王に寝返ったのだと。
紋章の謂れの通り、彼は人間に害をなす存在となったのだ。

人の人生を狂わせる、迷惑なものですね――私がそう言うと、彼は「そうだな」と呟いた。

以前彼に言われた言葉を思い出す。

『困難から逃げるのは悪いことか。立ち向かって、潰れるのが良いことなのか』
『お前に重圧をかけてくるのは人間達の勝手だ。ならお前も勝手になればいい…』

これは彼だから言えた言葉だったのだ。
彼は差別に負けず、自分を差別してくる人間達を守り続ければ良かったのか。差別と戦い、人間を守り、認められる日を待つべきだったのか。
だが、彼は差別から逃げることを選んだ。

「人間への復讐心があったのですか?」

彼は少し迷った後、頷いた。「あの頃よりは大分薄れたがな」と付け加えて。
きっと人間の敵に回ったことと、時間の流れがそうさせたのだろう。
だけど多分、まだ彼は完全には立ち直れていない。
先ほどの戦いで見せた苦痛の表情が、それを証明していた。

私と同じですね、本当に――

互いにいい思い出でないけれど、彼と通じ合えた。それが、今はただ嬉しく思えた。

74 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/12(日) 19:54:12.42 ID:TlbCtwci0
翌朝、少し無理して早起きした。
気持ちは清々しいものの、無理したので若干フラフラだ。
目覚ましの運動がてらにと、軽く木刀を振るう。ビュンと風を切る音が気持ちいい。

暗黒騎士「朝から元気がいいな…」

顔色悪く暗黒騎士が目を覚ました。
木刀の音で目覚めるとは、一体どんな気分なものなのか。

暗黒騎士「暗殺者でも来たのかと思ったぞ」

あぁ、だから咄嗟に起きてしまったのか!
ごめんなさいとペコペコ頭を下げると、彼は怒ってないとでも言うように、私の頭に軽く手を乗せた。

暗黒騎士「で…どうしてこんなに朝早い?」

彼は不思議そうな顔をしていた。それもそうだろう、いつもなら寝ぼけている時間だ。
でも、今日からはそうはいかないのだ。何故なら、

「妻は、夫より先に起きるものですから」









数秒の間の後、

暗黒騎士「寝ぼけるな阿呆」

今度はごつんと叩かれた。

75 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/12(日) 19:54:44.23 ID:TlbCtwci0
そんな緊張感のない朝を迎えた日の正午、私達は緊張感たっぷりに並んで歩いていた。

手には剣を持つ。必要ないかもしれないけど、持つことで今は多少安心できる。
平静な顔を作ろうとしたけど駄目だ。どうしても顔に不安が浮かぶ。
兜を被った彼の顔は見えない。一体今は、どんな顔をしているのか――

暗黒騎士「心配はいらん」

そう言って背中を叩いてくれたが、声でわかった。
彼も同じく緊張している。


2人やや重い足取りで歩いていく。
魔王の間への道を。

78 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/12(日) 19:57:08.43 ID:TlbCtwci0
魔王「何用だ?暗黒騎士、それに――暗黒騎士の妻だったな」

高齢の魔王は口調に威圧感を含めず私達を迎え入れた。
だが魔王を前にした重圧は計り知れない。自分のような凡人でも感じ取れる強い力が、魔王にはあるのだろう。

暗黒騎士「話がございます」

彼は緊張しているものの、堂々と魔王の元へ歩み寄る。
私はこれ以上近づくな、と事前に手で制しておいて。

魔王「話か。お前の活動報告なら聞いておるが…」

暗黒騎士「それついての話ではありません」

魔王「だろうな。でなければわざわざ奥方を連れてこないか」

そう言って魔王は私を一瞥する。睨まれたわけではないが、ついビクッとしてしまう。

魔王「ふ…噂通りの臆病者のようだな」

暗黒騎士「はい。…話は私の妻についてです」

魔王「ほう」




>昨日
暗黒騎士『あの3人にお前のことがバレた以上、こちらの勢力にバレるのも時間の問題だ。だから――』





暗黒騎士「魔王様。あちらをご覧下さい」


彼の声を合図に私は袖をめくり、紋章を見せた。

79 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/12(日) 20:00:39.94 ID:TlbCtwci0
すみませんあまり進んでないので今日はここまで。

なのでちょっとした雑記でも書いておきます。
勇者と暗黒騎士の寝室は別々だったはずが、>>74で(元)勇者は暗黒騎士の寝てた所にいたようだが…これ以上は言えない!

80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/12(日) 20:12:26.25 ID:kpUy1sjyO

面白いぜよ

81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/12(日) 21:10:37.61 ID:he5UnIe6O
暗黒騎士も元勇者かと思ったが違ったみたいだ。
面白い。期待。

82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/12(日) 22:26:50.42 ID:zRBhbC+CO

面白いね。人間て良い時も悪い時も身勝手なんだねえ。

書き方だけど、完全に女勇者の一人称で話が進んでいるし、心理描写も状況描写もしっかりしてるから
無理にSSっぽくセリフの前にキャラ名出さなくても良いんじゃね?
今まで以上に状況描写しっかりさせればフツーに一人称小説として読めるだろうし読んでみたいな。

83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/10/12(日) 23:26:51.34 ID:9RPQlwFr0


84 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/10/13(月) 07:27:39.56 ID:4lznASg/O
おはようござんす。コメントありがとうございます、朝から元気頂きましたヘ(゚∀゚ヘ)
今日は夕方か夜に更新予定であります。

>>81
暗黒騎士=元勇者も考えてたルートです( ´∀`)
勇者が複数存在できるのなら、主人公の勇者がわざわざ頑張らなくても他の勇者に真央討伐任せれば良くなるかなと思い設定をこうしました(=゚ω゚)ノ

>>82
この文体初挑戦なので結構苦労してま...でもこの文体にss形式まじったら読者さんは違和感あるのかもしれないですね。
アドバイス参考にさせて頂きます!*(\´∀`\)*:

85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/13(月) 07:30:56.06 ID:rTg0Nc2HO
>>1の好きにしてええんやで

86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/13(月) 14:58:50.81 ID:wwCH+GvnO
ラノベとか好きだからこういう形の方が好きだわ。
最近のは変に文字でかくしたりがあるし俺は>>1の方が好きだぜ

87 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/13(月) 17:01:48.78 ID:kCIBrDNz0
魔王は特別驚く様子もなく「ほう」と呟く。

暗黒騎士「あの紋章が何かは、おわかりですね」

魔王「勿論だ。だが暗黒騎士よ――何故わざわざ見せに来た?勇者を亡骸にして我の前に連れてくるのがお前の役目だろう。それともまさか、お前は本気で勇者に惚れたとでも?」

暗黒騎士「その事ですが――」

魔王の口調は相変わらず穏やかだったが、場の緊張感が増したのはわかった。
暗黒騎士も言葉を慎重に選んでいるのがわかる。

暗黒騎士「まずはお詫び申し上げます。私はあれが勇者であると知っていて妻として娶りました。しかし勇者といえど満足に戦えぬ小娘…私の妻となった経緯も、勇者としての使命から逃げた結果であります」

魔王「ほう、面白い話だな」

暗黒騎士「昨日もあれは人間側の者に、はっきりと勇者の放棄を宣言しました。この話はその内人間側に広がることでしょう」

魔王「フッ…人間共は絶望に包まれるだろうな」

魔王は初めて笑った。暗黒騎士の話を聞いて、さも嬉しそうに。

魔王「暗黒騎士よ。勝手なことをした罪は重いが、勇者を懐柔し人間共に絶望を与えたことは褒めてやる」

暗黒騎士「えぇ、それで――」

魔王「言いたいことはわかる。勇者をこのまま生かしておいてくれないか、だろう」

暗黒騎士「あれが人間側に再びつくことはありえません。多少、監視をつけても構いません。ですから命は――」

魔王「暗黒騎士、お前は…いや人間は、勇者の紋章について少々勘違いをしている」

魔王は暗黒騎士の言葉を遮り、話を始めた。

88 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/13(月) 17:03:10.01 ID:kCIBrDNz0
魔王「お前の呪いの紋章は邪神に寵愛を受け、人間に絶望を与える存在となった証」

魔王「それに対し、その女のは勇者の紋章と呼ばれているだけだが、説明を加えると――お前の紋章とは正反対。人間達の神からの寵愛の証であり、人間達に希望を与える存在である証」

魔王の説明を私はただ聞いていたが、ふと気付いた。暗黒騎士様は腰の剣に手を寄せていた。何故か?

魔王「つまり――その女の意思とは関係なく、勇者は生きているだけで人間達の希望となり得る」

魔王「人間の希望は――刈り取らねばなるまい!!」

暗黒騎士様が私の前に立ちふさがり、それから何かを切り裂くような音がした。
状況についていけなかったが、多分、彼は斬ったのだ。魔王から私に繰り出された一撃を。

暗黒騎士「そう簡単に説得できるとは思っていなかったが――絶対ここから動くなよ」

彼はそう言うと、剣を構えたまま魔王に突撃していった。

魔王「我に歯向かうか暗黒騎士!これも勇者の紋章の影響か…面白い、かかってこい!」

魔王は高笑いしながら暗黒騎士に立ち向かう。
こうして、魔王軍の2トップである2人の戦いが始まってしまった。

89 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/13(月) 17:03:41.99 ID:kCIBrDNz0
暗黒騎士の実力は魔王にも引けを取らない…そんな噂を以前聞いたが、まさか本当だったとは。
魔王が手加減しているのかはわからないが、見た所、戦いは拮抗している。
魔王は爪に黒いものを纏い、目にもとまらぬスピードで斬撃を繰り出す。あまりの素早さに、手が何十も増えたように見える程だ。
そんな魔王から繰り出される技全てを、暗黒騎士は剣一本で防いでいた。

凄い――私の命がかかっている戦いだというのに、見惚れてしまう。
念の為に剣を持ってきたが、やはり私の入る余地はない。

魔王「暗黒騎士よ、勇者に同情でもしたのか?」

魔王は余裕を見せるように笑いながら言った。

暗黒騎士「だとしたら?」

魔王「冷酷な暗黒騎士ともあろうものが、可笑しくてな」

暗黒騎士「俺もそう思います」

冷静に振舞う暗黒騎士とは対照的に、魔王は楽しそうだった。それが余裕の表れなのかはわからない。

魔王「暗黒騎士――人間達から迫害を受けていたお前を救ったのは、我だったな?」

暗黒騎士の感情を乱す為か、魔王は唐突にそんな話を始めた。

90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/13(月) 17:04:40.76 ID:kCIBrDNz0
魔王「人間達はお前にひどい言葉を浴びせ、中には肉体的に痛めつけてくる者もいたな?我が見つけた時のお前は、追い詰められ、死ぬ一歩手前のような姿をしていた」

私は魔王の言葉につい耳を傾ける。

魔王「紋章を授かる前のお前は、我らにとって恐ろしい敵…つまり人間達の希望と言ってもいいような存在だった。それを人間達は、紋章があるというだけの理由で迫害したのだ」

魔王「お前は悔しくないのか?人間の為に戦ってきたお前ではなく、あのように使命から逃げ出した小娘が希望の象徴となっていることを」

魔王「勇者を刈り取れば、人間達は絶望し、お前が真に満たされるとは思わんか?」

聞いているだけで私の心が乱される。
彼がどんな仕打ちを受けてきたのか、私は知らない。だけど自分が守ってきた人間に迫害されるなんて、想像しただけで恐ろしい体験を彼はしたのだ。
魔王の言葉に反論の言葉が浮かばない。過去は過去だなんて、私には言えない。

暗黒騎士「それが何だと言うんですか」

だけど彼は違った。

暗黒騎士「俺はあいつを守る…だから関係ない!」

彼はそう言って、魔王の放った魔法を真っ二つに斬った。

少なくとも見た感じ、彼の心が乱されている様子はない。
やはり彼は強い。ちょっとしたことで動揺して傷ついて駄目になってしまう自分とは違う。
私は自分自身より、彼の事を信じていた。

魔王「やはり乱されぬか、暗黒騎士よ」

魔王はさも残念そうな顔で言った。その表情のまま、次の攻撃の構えに入り――

魔王「残念だ。我の言葉に応じれば、この技を出さずに済んだものを――」

暗黒騎士「――」


魔王の肥大化した爪が暗黒騎士に直撃したのは、言葉を言い終えたのと同時だった。

91 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/13(月) 17:07:03.76 ID:kCIBrDNz0
暗黒騎士「く…っ」

壁に叩きつけられた彼に、私はすぐ駆け寄った。魔王が狙ってなのかどうかはわからないが、彼は丁度私のすぐ近くに吹っ飛ばされていた。
鎧の隙間から血が溢れている。やはり今の一撃で相当なダメージを喰らったようだ。
だが、それでも魔王は容赦なく――

暗黒騎士「が――」

体勢を崩していた彼に、魔法弾が3発も打ち込まれる。
今度は吹っ飛ばず、その場に倒れた。その拍子に兜が落ち、素顔が露わになる。
暗黒騎士様――彼の名を呼ぶ。呼吸はある。しかし起き上がれない程の痛みを受けてか、表情は苦痛に歪んでいた。

魔王「我にここまでの力を出させることができるのは、お前くらいか――だから重宝もしていたが、敵になれば恐ろしい存在だ」

まるで別れを惜しむかのように語りながら、魔王は一歩一歩近付いてくる。
確実に仕留めるつもりだ。だけど彼は起きることができない。
焦燥と恐怖で頭がおかしくなりそうだったが、必死に考える。どうすれば――
混乱の中、ある考えが頭をよぎった。



私の紋章は人間の希望の証――それが本物なら、もしかして奇跡が起こるのではないか?

92 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/13(月) 17:07:37.55 ID:kCIBrDNz0
私はまた自分に都合のいい考えを導き出した。これはもう私の特技と言ってもいいかもしれない。
勇者の使命を放棄したのに、またこの紋章に頼るとは。何のことはない、紋章が選ぶ人間を間違えたのが悪いのだ。
だけど私に都合良く事が運ぶんだったら、とことん都合良く話が進んでくれればいい。
私は持っていた剣を握る。今でも振り方はよくわかっていない。

だけど、戦うと決めた。

本当はとても怖いけど、恐怖心を抑え、私は立ち上がった――――







93 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/13(月) 17:09:51.93 ID:kCIBrDNz0
暗黒騎士「やめろ阿呆」

肩をグイッと抑えられ、私はその場にしゃがみこむ。
彼は起き上がっていた。相変わらず大怪我でフラフラしていたが。
私が立ち上がろうとすると、彼はそれより更に強い力で私を押さえつけた。これでは立てない。一体その怪我で、どこからこんな力が出てくるのか。

止めないで下さい。そう言っても彼の力は緩まない。
今はこんな事をやっている場合ではない。何て言えば自分の考えが伝わるか、焦る。
言葉を選んでいる時間はない。とにかく言わないと。

「私、ようやく戦う決心が――」

言いかけた所で口を塞がれた。
びっくりして抵抗しようとしたが――彼の顔は言っていた。「わかったもう黙れ」と。
さっきまで顔に浮かんでいた苦痛はどこへ行ったのやら、彼は落ち着いていた。

暗黒騎士「決心しなくていい」

そう言うと私の口から手を離し、私に背を向け剣を構える。

暗黒騎士「お前には戦わせない。もしそれで奇跡でも起こったら、お前は本当に勇者になってしまう」

彼は私の考えを読んでいた。

暗黒騎士「お前は大人しく見ていろ――俺が否定してやる、お前の紋章の力を」

そう言って、彼は魔王に向かって行った。

94 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/13(月) 17:11:02.88 ID:kCIBrDNz0
彼の動きは落ちていない。どれだけの無理をして戦っているのか、想像もできない。

私は動くこともできなかった。
どうして彼はこんなに優しいのだろう。凄い無理をして、私が勇者だと否定してくれている。こんな時にも役立たずの、無力な小娘でいろと体を張って言ってくれている。
その感動のあまり、目の前の戦いの様子すら頭に入って来なかった。

どうか彼だけは無事でいてほしい。
そう思っている私には、彼の考えていることなんて読めなかった。




暗黒騎士(まさか俺が、魔王相手にここまで戦えるとは――)

暗黒騎士(柄にもなく、絶対負けたくないと必死になっている。その気持ちのせいか…?)

暗黒騎士(そんな気持ちにさせたのはあいつだ。…もし、あいつの紋章の力が本物なら…)

暗黒騎士(俺に力を与えることで、魔王を追い詰めているのかもしれないな…)



暗黒騎士「…そんなわけないな」

彼が何か呟いたけど、私には聞き取れなかった。

魔王「面白い、面白いぞ暗黒騎士ぃ!お前がここまで食らいついてくるとはな!もっとお前の力を見せよ!!」

そう言いながら振り下ろした手は地面をえぐる。
それをギリギリでかわしながらも暗黒騎士の表情には動揺が伺えない。
暗黒騎士は後ろに大きく跳び、魔王と距離を取って、言った。

暗黒騎士「もう止めた方がいいのでは?」

彼はそう言うと急に剣を引っ込めた。

95 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/13(月) 17:11:40.56 ID:kCIBrDNz0
一体何を考えているのか?魔王もそんな感じの表情になる。

魔王「その口ぶり、降参の台詞ではないな」

暗黒騎士「あぁ、降参ではない」

大怪我をしているのはこちらだというのに、何故だか余裕が伺える。ますます訳がわからない。
彼はすぐに言葉を続けた。

暗黒騎士「動きが落ちていますよ魔王様」

何だって?私には気付かなかった。

暗黒騎士「貴方ももういい歳です。長時間は戦えない。だから早い内に俺を仕留めておきたくて大技を使ったが、俺は倒れなかった…今は大分お体が辛いはずですよ」

魔王「…」

魔王は否定もしない。表情は笑みを浮かべたままで、少なくとも疲労等は伺えない。

魔王は少ししてから、わははと大口を開けて笑い始めた。
魔王「流石我が忠臣だな…衰えを見せぬようにしたつもりであったが、見抜かれていたか」

暗黒騎士「戦い続ければ私が勝つでしょう」

彼は油断を見せなかった。その表情はいつもより固く見える。
魔王はそんな彼の様子を見て、またニヤッと笑った。

魔王「お前のやせ我慢も、相当なものだがな」

暗黒騎士「…」

それでも彼の顔は変わらなかった。あぁ、ようやくわかった。彼は痛みの余り、顔を強ばらせるしかないのだ。

98 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/13(月) 17:25:33.84 ID:kCIBrDNz0
魔王「全く、歳には勝てんな」

魔王はそう言うと、無防備にもこちらに背を向け玉座へと歩いて行った。それを見て暗黒騎士も剣をしまい、そこに座り込む。これが互いの、戦いが終わったという意思表示のようだ。

お怪我の手当を――私がそう言うと彼は相変わらず表情を固くしたまま「あぁ」としか言わなかった。無理も相当きている。

魔王「それで暗黒騎士よ――話を続けようか」

暗黒騎士「初めからそうして頂けたらありがたい」

こんな怪我までして、彼も相当不服なのだろう。冷静を装いつつもちょっとした反抗を口にする彼が何だか可笑しい。

魔王「で、何の話をしていたか?」

暗黒騎士「…」

彼の表情がちょっとだけ歪んだ時に、小さく聞こえた。
「ふざけるなよジジイ」と。彼の手当をしながらもそれを聞き逃さなかった私はつい噴き出した。
それからごつんと頭を叩かれた。痛い。

魔王「まぁ戦いでわかった。お前の意思は相当強い。ここまで強い意思を持って反抗されたのでは、老いぼれた我にはどうすることもできん」

暗黒騎士「本当にそう思っていますか」

疑念に満ちた目で言った彼に、魔王は大笑いで返した。
この魔王、思っていた以上に食えない翁のようだ。

105 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/14(火) 18:48:44.33 ID:TOPw8sWB0
魔王「そもそも何故魔物と人間は争っているのか、知っているか?」

魔王は唐突に話を切り出した。
何故か?生まれた時から争いはあったので、そういうものとしか捉えていない。私がそう言うと、彼も頷く。

暗黒騎士「魔王軍は人間の縄張りに攻撃をしかけ、人間達も魔物を排除しようとしている。双方がそれを止めないから争い続けるしかないでしょう」

魔王「まぁ、そうだな」

魔王は頷く。何故そんな当たり前の話を始めたのか。
そう思った時、魔王は続けた。

魔王「争いが始まった当初のことは、我でもわからん。もしかしたら邪神と、人間達の神の争いが魔物と人間に及んだのかもしれんし、その逆もありえる。とにかくそれだけ長いこと、魔物と人間は争ってきたわけだ」

暗黒騎士「調べてないだけでは魔王様」

しかし魔王は暗黒騎士の言葉を無視して続けた。

魔王「邪神に選ばれたお前と、人間の神に選ばれた勇者――両者がこのように和解したのは、長い歴史の中で恐らく初めてではないか?」

私と暗黒騎士様は目を見合わせる。
2人とも紋章が定めた運命から目をそらしていた人間だから気付かなかったが、もしかしてこれは奇跡なのではないか?

106 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/14(火) 18:49:24.67 ID:TOPw8sWB0
魔王「暗黒騎士よ――お前、勇者を愛しているのか?」

暗黒騎士「――は?」

暗黒騎士の顔が遂には能面のようになった。
魔王の言葉の意味がわからないわけではないと思う。今この流れでそんなことを聞く魔王の意図がわからないのだ。

魔王「愛しているのかと聞いている」

暗黒騎士「言わせてどうするんです」

魔王「さぁな?」

そう言って魔王はニヤリと笑った。あ、絶対楽しんでいる。

魔王「我にも愛する妻はいた――」

暗黒騎士「何の話ですか」

魔王「だが妻には先立たれてしまってな…」

暗黒騎士「だから何の話ですか」

魔王「妻とは長年連れ添ったがとうとう子供はできず」

一方的に苦労話を続ける魔王に、暗黒騎士は遂に突っ込むのをやめた。
しかしボソッと「遂に耳まで遠くなったか」と呟いたのは、しっかり聞き取った。

魔王「大事な話だぞ。何故なら、後継者がいないということだからな」

暗黒騎士は真面目な顔に変わって頷く。一応これは魔王軍にとっては由々しき問題なのだ。
年寄りの思い出話に辟易していた彼も魔王軍幹部。このように言われては、幹部の顔になるのだろう。

暗黒騎士「そうですね。ですが、何故突然その話を――」

魔王「聞いて驚くな暗黒騎士。実はな――」









魔王「我はお前を後継者に、と考えていた」

107 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/14(火) 18:49:56.19 ID:TOPw8sWB0
暗黒騎士「…」

暗黒騎士の顔がとうとう胡散臭いものを見る目になった。

暗黒騎士「何をほざい…おっしゃる」

魔王「我は本気だが?」

魔王はそう言うが、その表情は相変わらず人を食ったような笑顔で、本気を感じさせない。

魔王「我はこれからも衰えていく。後継者を育てる力も無くなる。ならば魔王軍で最も強く、若い者を後継者にするのは不自然な話ではあるまい?」

暗黒騎士様よりも先に私がうんうんと頷いた。本当にごもっともな話だと思う。
それを見て、彼は悩ましい顔をしながら「まぁ」と呟いた。

魔王「そして魔王軍で活躍するお前に任せてもいいと安心していた所に、お前が勇者を妻として娶っていたという話を聞かされては我も動揺する。わかるか、お前が怪我をしたのはお前も悪い」

暗黒騎士「まぁ、それは…申し訳ない」

渋々といった様子で彼は頭を下げた。

魔王「しかしあの戦いで、お前が勇者を本気で愛していることは伝わった」

暗黒騎士「その話はいいでしょう」

魔王「いや大事なことだぞ」

魔王の様子は一変し、表情も口調も真剣そのものとなった。

108 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/14(火) 18:50:29.31 ID:TOPw8sWB0
魔王「先ほども言ったように、邪神に選ばれたお前と、人間の神に選ばれた勇者が愛し合う――すると何が起こると思う?」

暗黒騎士「…何が起こるのです?」

魔王「さぁな。我にもわからん。が――」

魔王はそう言うと、私と彼を交互に見た。それから、言った。

魔王「紋章に躍らされる人間は、もう生まれなくなるかもしれないな――」

暗黒騎士「――!」

その時私は多分、彼と同じ顔をしていたと思う。魔王の言おうとしていることに気付いてしまったのだ。
紋章の力はこの際偽物でも構わない。だが彼が魔王になったとして考えて。彼が人間達の希望である私と、手を取り合えば――

暗黒騎士「長年に渡ってきた戦いを、止められるかもしれない」

何て壮大な話だろう。私は身震いした。まさかそんな事が…。


暗黒騎士「貴方はそれでいいのですか」

暗黒騎士が魔王に問う。

暗黒騎士「貴方は平和主義者ではない。魔王として人間達への攻撃を続けてきた。なのに、いいのですか、それで」

魔王「フ――」

魔王は笑った。今度の笑みは自嘲を含んでいるようだった。

魔王「我の代では人間を降伏させることが不可能かもしれん。だが世代交代した後のことに口出しをすべきではない。それに――」

暗黒騎士「――!」






魔王「我はもう、疲れてきたのでな」

魔王が袖をめくって見せたのは、暗黒騎士と同じ、呪いの紋章だった。

109 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/14(火) 18:51:14.85 ID:TOPw8sWB0
翌年、勇者を奪われ絶望に満ちていた人間の弱小国達は、次々と魔王軍への降伏を申し出た。
制圧国に対し魔王軍が暴利を働くことは無かったが、制圧国の人々は敗北感を根強く抱いていた。
大国は魔王に歯向かう意思を覆さず、軍隊による魔王軍への攻撃を行う。これを魔王軍は迎え撃ち、一進一退の攻防が続いた。
強い意思を持って魔王軍に立ち向かう者は多く、彼らは人間達の希望となることはなくとも、最後までその意思を貫いていった。

そういった時代が長く続いたが、その年歴史は一変する。

先代の魔王が旧没し、世代交代が行われたのである。

新魔王が最初にした事、それは魔王軍の引き上げ。そして、制圧国の解放。

それから各国への、和解交渉が始まった。

110 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/14(火) 18:52:01.41 ID:TOPw8sWB0
長年戦っていた為仕方ないが、まだ魔王軍に敵意を持つ人は多い。

争いを止めるというのは、なかなか難しいものですね――

私の言葉に彼が頷く。だがその後続けた。「まだまだこれからだ」と。
彼は強い。これから困難な道が続くとわかっていても、立ち向かう覚悟ができている。
あまりにも強い彼が、私には大きな存在に感じる時がある。それから思う。自分は共に立ち向かえるのか、と。

「お前は立ち向かう必要はない」

彼は即座にそう言った。どうやら、また思っていることが顔に出ていたようだ。

「立ち向かうのは俺の役目だ。お前は――」

貴方を支えれば宜しいでしょうか――そう尋ねたが、すぐに否定された。
何年連れ添っても彼の言いたいことが読めない…だけどそんな私に彼は優しく微笑んだ。

「守られていろ。それで俺は前に進むことができる」

本当にそれでいいんですか?尋ねると彼はああ、と頷いた。「今までと同じくな」とつけ加えて。
彼は弱い私をずっと、守り、支えてきてくれた。私はあれから変わらず弱いまま。いいのだろうか、それで。

「何故、無理に強くならなければならない?」

答えられない。理由はわからないけど、弱いままではいけないような気がして。

「弱くてもいい」

私の自己否定的な考え方を、彼はすぐに否定してくれた。

「それがお前だ」

彼はいつも、私に欲しい言葉をくれた。

111 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/10/14(火) 18:53:41.74 ID:TOPw8sWB0
魔王の世代交代から3年、新たな展開が訪れる。

魔王の妻が子をなした。

既に魔王と和解していた多くの国々はこれを祝い、そして希望の象徴が生んだその子を「奇跡の子」と呼ぶ。
奇跡の子はやがて世界に平和をもたらすと言われるようになり、その存在が争いの沈静化に大きく貢献した。

「昔よりは世界の状態が大分マシになったな」

そうですね。

「その子を生んでくれたお前のお陰だ。感謝する」

貴方の力あってのことです。

「お前が側に居てくれたから、俺はここまでできたんだ」

貴方が守って下さったから、私は幸せでいられるんです。

「ありがとう」

こちらこそ、いつもありがとうございます。


いつの間にか子は眠りについていた。寝た子を起こさぬよう、2人とも言葉を止める。
言葉が無くても気持ちを伝えることはできる。
私は昔の顔をして、彼に微笑んだ。




『貴方に出会えて良かったです――暗黒騎士様』




彼も昔の顔で応えてくれた。
それから共に子を見守る。

これから守っていくべき存在を胸に抱き、私はようやく強くなれた気がした。







Fin
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魔王「50年の眠りから覚めた」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405599606/

2 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/07/17(木) 21:20:54.91 ID:uaZw97gr0
>魔王は勇者との戦いの末、敗れた。
>邪神により不死の身を授かった魔王が施された処置、それは封印。
>魔王は魔王城にて封印され、眠り続けた。

>そして、50年後――


魔王「く…くく…」

側近「お目覚めですね、魔王様」

魔王「少し眠りすぎたようだな…だが、気分が良い!!」

魔王「人間どもよ、我に逆らったことを後悔するがいい――!」

魔王「人間どもに絶望を!世界に暗闇を!魔物達よ、我が許す!さぁ、思う存分暴れるが良い!!」

魔物達 ワーワー

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/17(木) 21:21:31.23 ID:uaZw97gr0
チュンチュン

魔法戦士「ハッ」ガバッ

魔法戦士「嫌な夢を見た…」

魔法戦士(50年前、じいちゃんが封印した魔王が…まさか、な)

母「魔法戦士、起きたの?」

魔法戦士「あ、あぁ。おはよう母さん」

母「朝早く悪いんだけど――王様からお呼び出しよ」

魔法戦士「!」

魔法戦士(この時俺は、嫌な予感がしていた。そして俺の予感は、現実のものとなる――)





王「各地で魔物が凶暴化した。占い師によると、魔王が復活したようだ」

魔法戦士「やはり…!」

王「魔法戦士。お主の祖父は50年前、勇者として魔王を封印したな」

魔法戦士「はい」

王「そしてお主は、祖父の名に恥じぬ戦士になるべく、修行を続けてきた。お主程の実力を持つ者は、我が臣下にもいない」

魔法戦士「…はい」

王「魔法戦士よ――」

魔法戦士「…はい!」

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/17(木) 21:22:06.96 ID:uaZw97gr0
=魔王城=

魔王「半世紀は、人間が老いるには十分な月日だな」

側近「はい。勇者はあの後、仲間の賢者と結婚したそうです」

魔王「50年も経てばあの美しかった姫も、見る陰もない老いぼれとなったのだろうな」

側近「それに引き換え魔王様は、人間ならば10代後半位の容姿のまま…そういえば、勇者にはその位の歳の孫ができたそうです」

魔王「ほう孫。詳しく」

側近「はっ。情報によると剣と魔法を使いこなす魔法戦士…勇者の孫の名に恥じぬ実力者との事」

魔王「そうかそうか…ではその孫とやらが我を討ちにくるかもしれんな!」

側近「他の勇者一行の孫達も、祖父母の技を受け継いだ戦士となっているようです」

魔王「勇者一行の技を受け継いだ、か…」


その者に切れぬ物は存在しない。剣の申し子――勇者

あらゆる魔法を習得し、人間を超越した魔法の使い手――賢者

己の肉体の限界を極めた肉体兵器――武闘家

身も心も神に捧げた信仰の民――僧侶

狙った獲物は逃さない、物欲と背信の権化――盗賊



魔王「面白い…!!我の元へ来るが良い!かつての勇者一行への見せしめとして、その首を貰おう!!」

ギギィ…

魔王「早速、我を討とうとする者が来たか…!」

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/17(木) 21:22:45.81 ID:uaZw97gr0
魔法戦士「魔王だな」

魔王「我が目覚めてから来るのが早かったな?」

魔法戦士「魔王城の場所はわかっていたからな」

魔王「お前は?」

魔法戦士「俺は魔法戦士。お前を封印した勇者の、孫だ」

魔王「勇者の――そうか、貴様か。1人で殺されに来たのか?」

魔法戦士「いや、1人じゃない。お前を封印する為、これ以上ない程のベストメンバーで来た」

魔王「面白い…」ニヤリ

魔王「良いだろう、相手してやろう。その前に…」

ドゴオオォォン

>魔王は魔法を放ち、扉を破壊した。
>魔力を感じる。扉の後ろに隠れている奴らをまるごと吹き飛ばすつもりだったが、魔王の魔法を防いだ者がいる――

>面白い――魔王の気持ちはますます高ぶる。

魔王「さぁ姿を現せ!」

>舞った煙が晴れていく。そして姿を現したのは――

魔王「…!!」

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/17(木) 21:23:21.26 ID:uaZw97gr0
>その男は、鋼のような上半身を晒け出し、魔王を威圧するようなポーズで身構えていた。

武闘家(73)「破壊力は相変わらずじゃな…長い眠りで寝ぼけてないようで、安心したわい」


>その女は、おどけた表情を浮かべながらも、刃物を握り締めながら軽い調子で言った。

盗賊(75)「やれやれ、姿を現す前にやるとは怖い怖い。やられる前にやれってのは基本だねェ」


>その女は、煙が晴れると同時に護りを解き、魔王を冷静に見つめていた。

賢者(67)「姿かたち、まるで変わりがない…思い出しますね、昔の戦いを」


>その男は、使い古した剣を堂々と掲げ、自信と高潔さを全身から溢れさせていた。

勇者(69)「久しぶりだな魔王…この勇者、貴様を封印しに再び参った!!」


魔王「え…勇者一行?」

勇者「フッ、やはり50年も経てばわからなくなるか。そう、俺たちは、お前を封印した勇者一行だ!」

魔王「ちょっと待てぃ、普通その子孫とかが来るだろ!!何で年老いたお前達が来るんだよ!」

賢者「貴方の言う「普通」がわかりませんが」

武闘家「こんな重要任務、若造には任せられんわい」

盗賊「ま、あの頃の私らも十分若造だったけどねェ」

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/17(木) 21:24:01.38 ID:uaZw97gr0
魔王「お、お前、年寄り連れ出して何とも思わんのかッ!!」ビシッ

魔法戦士「王の命令だからなー…」

魔法戦士(てっきり俺が勇者として旅に出ろって言われるのかと思いきや、じいちゃん達を集めろって命令だもんな。しかも俺の役目は皆のスタミナ節約の為の「道中の雑魚敵処理係」だもんな)

魔王「年寄り相手とかやる気失せるわ…そういえば勇者一行の僧侶はどうした?」

武闘家「奴は道中ぎっくり腰になって離脱したわい」

魔王「ほら見ろ、そういう歳なのだ!!無理せず元気な若者に戦わせろ!!」

盗賊「僧侶は万年座り仕事だったから、足腰が弱くなってたんだよ」

賢者「まぁ良かったのではありませんか。昔は我々のツッコミ役でしたが、近年では1番のボケ役でしたし…」

魔王「それは物忘れ始まってるのだ!!笑えないぞ!!」

勇者「魔王…お前優しいな」

魔王「我はおじいちゃん子だったのだ!!晩年のじいちゃん思い出して戦いにくい!!」

勇者「俺は生涯現役、手加減無用!!そちらがやらぬならこちらがやる!!」

魔王(やるしかないのか…)

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/17(木) 21:24:41.04 ID:uaZw97gr0
賢者「唸れ…雷の雨!!」

魔王「うわぁ!?」

バチバチィッ

賢者「防がれましたね…」

魔王(く、年月を経てあの頃より魔力が上がっている…一瞬でも遅れれば我は致命傷を負っていた)

魔王(少々気は進まんが…勇者一行の英雄譚に、終止符を打つ!!)

魔王「こちらの番だ、魔法弾10連発――ッ!!」ダンダンッ

武闘家「下がっていろ。すううぅぅ――――――」

>武闘家は前に出て、呼吸を思い切り吸い込んだ。

魔王(そこは賢者による魔法のガードだろう…何を考えている…!?)

武闘家「――――喝ああああぁぁぁッッッ!!」

ビュオアアアァァッ

>武闘家の声で辺りの空気は乱れ、魔法弾は掻き消えた!!

魔王「!?」

武闘家「覇あああぁぁ――ッ!」ダッ

魔王(筋肉が向かってくる…!!)

ゴオオォォ

>魔王を囲むように火柱が立った!

魔王「所詮貴様は近接型!近寄れねば手の打ちようはあるまい!!」

武闘家「覇あぁぁ…」

>武闘家は立ち止まり、気を沈めている――そして次の瞬間!!

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/17(木) 21:25:45.53 ID:uaZw97gr0
ビュンッ!

>武闘家から放たれた「弾」が火柱を突き抜く!!

魔王「何っ!?」バッ

>魔王は間一髪避けた!!

魔王「貴様魔法を習得したのか!?」

武闘家「ほっほっほ、発想が可愛いのう。これは魔法ではない…気功弾じゃよ」

魔王「き、気功弾!?」

武闘家「そう。お主を封印した後もワシは己を鍛え、遂に己の「気」を操ることに成功した…今のワシは、お主に近寄らんでも」

ビュンビュンッ

魔王「くっ!」バッ

武闘家「この程度の攻撃、何万発でも打てるぞい…ほっほっほ」

魔王(何て奴…!!――んっ)

>その時背後から嫌な気配がし、魔王は即座に首を右に傾げた!
>そして次の瞬間、魔王の首があった位置を、鋭いナイフが通り抜けた――

盗賊「あらま、失敗しちゃったねェ」

魔王「な…」

>ナイフはそのまま壁へ突き刺さった。もし、首を傾げなかったら今頃――

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/17(木) 21:26:23.47 ID:uaZw97gr0
魔王「い、いつの間に俺の後ろ側に…」

盗賊「アンタが武闘家と遊んでいる内にだよ。こっちはベテランの盗賊だ、アンタの目ェくぐり抜けるくらい動作ないね」

武闘家「ほれほれ、お喋りしている場合ではないぞい」ビュンッ

魔王「…!!」

>魔王を挟んで、武闘家の気功弾、盗賊の投げナイフが繰り出される。それは魔王の身体能力を持ってしても避けるのがギリギリの、抜群のコンビプレーだった。

盗賊「腕上げたんじゃないかい武闘家?昔よりいい男だよ」

武闘家「惚れてもいいんじゃぞ盗賊や?」

盗賊「私ゃおっ死んだ旦那一筋でね。口説くのが50年遅かったねぇ!」

武闘家「やれやれ、ワシも勿体無いことをしたわい。武道一筋で生きてきた結果が一人身の余生とはのう」

>私語を交わしながらも攻撃の手は緩まない。

魔王(だが――)

>魔王の体から魔力が溢れ、それは武闘家の気功弾、盗賊のナイフを一瞬で溶かした。

魔王「いつまでも同じことを繰り返すとは芸がないな!」

盗賊「やれやれ歳を取ったせいかねェ。僧侶も最近同じこと何回も繰り返して言うし」

魔王「忘れっぽくなってるだけだからそれ!!」

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/17(木) 21:27:13.22 ID:uaZw97gr0
勇者「ただ経験値を得るだけで強くはなれない…強くなるには、経験から何を学ぶか…」

魔王「むっ!?」

>勇者は剣を構えている…。

勇者「我らが重ねた人生経験…それは多くの学びを与えてくれた。魔王よ、俺は嬉しく思う…あの頃より多くの経験を身に付けて、再び貴様に挑めることに!!」

>勇者はそう言って魔王に向かってきた!!

魔王(こいつまで気功みたいな非常識な技使いはしないだろう…火柱を強める!)ゴォッ

>火柱はより大きな炎となり、部屋中を熱くした。
>しかしそれでも勇者は臆さず突っ走り――

勇者「でりゃあああぁぁ――ッ!!」

ビュアッ

魔王「な、何だと――ッ!?」

>勇者のによる一閃は、火柱をかき消したのである!

勇者「魔王、覚悟ぉ―――ッ!!」

魔王「!!」

ガキイイィィン

魔王「フン」

>魔王は瞬時に己の腕を硬質化し、勇者の剣を止めた。

勇者「昔は「切れぬ物は存在しない」とまで言われた俺だったが、歳には勝てねぇなぁ」

>勇者はそう言ったものの、その表情に悔しさは微塵も浮かんでいない。

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/17(木) 21:28:10.93 ID:uaZw97gr0
魔王「年寄りと侮るべからずか…貴様には特に容赦はせん!喰らえ――」

>炎、氷、雷、風――あらゆる魔法が勇者に襲いかかるが――

勇者「何のォーッ!!」

ビュン、ビュッ…

>勇者が剣を振ると、魔法はかき消されるのである。

勇者「この程度の魔法、うちのカカアだってできるぞ?」

賢者「お父さん、私はそれをできるようになるまで何年もかかったんですよ」

勇者「すまんカカア、決してカカアをバカにしたわけじゃないんだ」

魔王(う、嘘だろ…)

>封印されていた50年間、魔力を溜めていたからこそできる芸当。そう思っていたものを、人間に易易と攻略されるとは――
>魔王にとって50年とは、さほど長い年月ではない。

魔王「しかしその50年で、人間は恐ろしい程進化するのか…!?」

盗賊「でも僧侶はその50年で進化しすぎて」

魔王「僧侶の話はもうするな!!話聞く度悲しくなるだろう!!」

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/17(木) 21:29:00.70 ID:uaZw97gr0
賢者「さぁさぁ…何だかんだで皆さん歳なんですから、長丁場は良くありませんよ」

>賢者の口調は穏やかだった。しかし、そう言った次の瞬間――賢者を中心に大地が揺れた。

魔法戦士「うわああぁ――っ!!」ドタッ

>立っていられなくなったのだろう、魔法戦士は転げてしまった。
>人間という枠内であれば彼も十分な実力者。その彼が立っていられなくなる程、膨大な魔力なのだ。

>しかし、それだけの魔力を至近距離で浴びながら――

勇者「おーコエェコエェ、やっぱ本気を出したカカアにはかなわんなぁ」

武闘家「ふぅ、いい風じゃわい」

盗賊「年寄りには堪えるねぇ、こりゃ」

>魔王ですら圧倒される魔力の前に、3人の人間は、平然と立っていたのである。

>賢者を中心に地面に亀裂が入る。室内の空気が暴れだし、耐え切れなくなった壁がそこらを舞っていた。
>壁の破片が魔王の肌をかすめるが、大したダメージではない。それよりも、いつでも反撃できるように構える。

魔王(…!!何かが来る!)

>そう察知した魔王は、瞬時に全魔力を防御に切り替えた。そして自分に向かってくるものの正体を見た。炎、氷、雷、風――魔王がついさっきやった攻撃と同じだ。

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/17(木) 21:29:59.85 ID:uaZw97gr0
魔王「人間にしてはやるな…!」」

>魔王を覆うように魔法が炸裂していた。だがそれでダメージを喰らわない。

魔王「流石に、我のガードを突き破る程ではないようだな!!」

勇者「そりゃオメェ、人間だからな」ビュンッ

魔王「――!!」

>魔王を囲っていた魔法の数々を文字通り「斬った」。その先から見えてきたのは――

武闘家「ほっほ、魔法は目くらましじゃよ」

盗賊「手段は何重にも備えておけ、ってね」

勇者「覚悟ォ――ッ!!」

ドゴッザクッザザァーッ

>その一撃一撃が会心の一撃であった。

魔王「グハッ…な、何故だ…何故お前達には、加齢による衰えがないのだ…」

勇者「何でって…そりゃなぁ、俺は勇者、カカアは賢者、武闘家も盗賊も…平和になった所で己の道は変わんねー。ま、つまり」

勇者「人生の半分を費やした経験値による賜物ってとこよ」

魔王(か、勝てねぇ…)ガクッ

魔法戦士「す、すげぇ…じいちゃん、ばあちゃん…」



>こうして魔王は再び、封印されることとなった。

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/17(木) 21:30:54.70 ID:uaZw97gr0
>そしてまた、50年の月日が流れ――

魔王「復活したぞ…クク…」

側近「おはようございます」

魔王「一応確認を取っておく。勇者どもは流石に生きてはいないな!?」

側近「はい。僧侶が100歳超えの大往生でしたが、全員もうこの世にはいません」

魔王(長生きできたのか、僧侶…)

側近「今の人間どもは大分平和ボケしております。魔王様、人間界を制圧する好機です…!!」

魔王「そうだな、もう2度と強い奴と戦うのは御免だ。さーて…」

バァン

?「魔王ー!!勝負だ!!」

魔王「むっ!?侵入者か!?しかし平和ボケした人間よ、我が返り討ちに…」

魔法戦士(69)「あれから50年…俺は更に技を鍛えた」

魔法使い(66)「待ちに待った瞬間ねぇ兄さん」

暗殺者(71)「貴様が魔王か…祖母から受け継いだこの技、この大舞台で披露しよう…!」

武闘家2世(82)「師匠…見守っていて下さい。貴方に教わった全てを、ここで全て発揮します!」

神官(74)「皆さん、ここで一休みしたいんじゃがのう」

魔王「」

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/17(木) 21:31:40.63 ID:uaZw97gr0
魔王「ま…まさかお前達、あいつらの…」

魔法戦士「貴様が封印から目覚めるだろうというのは50年前に学習済み!我々は再び貴様を封印すべく、それぞれの祖父母から受け継いだ技を磨き上げた!」

魔法使い「長かったわねぇ」

魔王「し…しかし平和ボケしている時代に生きてきた貴様らなど…」

暗殺者「平和ボケ?とんでもない…あの祖母との生活は命懸けの修行だったぞ」

武闘家2世「師匠が建てた道場には既に100人近い門下生がいる!毎日が命懸けの修行だあぁ!!」

神官「はて、魔法ってどうやるんじゃったかのう~」

魔王(う、嘘ぉ…)

魔法戦士「…というわけで魔王よ」

魔法戦士「勝負だあああぁぁ――ッ!!」

魔王「うわあああぁぁぁ――ッ!?」


>勇者が死すとも、勇者の意思と技は受け継がれてゆく。
>こうして魔王は50年ごとに目覚めては、爺さん婆さんに封印されるというのを未来永劫繰り返していくことになったとさ。


めでたしめでたし

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/17(木) 21:33:18.97 ID:uaZw97gr0
お付き合いありがとうございました。

強い爺さん婆さんが戦うのは燃えます。
けどドラクエ7ではメルビンを外します。
posted by ぽんざれす at 21:22| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

魔王「もうじき勇者がやって来る」大魔王&邪神「頑張れ!」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405339077/

2 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/07/14(月) 20:58:10.52 ID:c63EzjjP0
~魔王城~

魔王「もうじき勇者がやって来る…!」

魔王(奴は我が忠臣、四天王を倒した実力者…)

魔王(その仲間もレベルカンスト済みの一流の者達らしいな)

魔王(人間界支配の弊害であり、我が盟友でもあった四天王の仇…)

魔王「勇者よ、貴様は我が手で葬ってくれる!ここは貴様の墓場となるだろう!」

3 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/07/14(月) 20:59:19.49 ID:c63EzjjP0
大魔王「おいおい魔王君、ここに墓場を作ったらパパ困るよ~」

邪神「そうよね~。勇者とあれば参拝者も沢山いるだろうし、ママも気を使っちゃうわ」

魔王「…出てくんなよ」

大魔王「ハッハッハ、最愛の息子の晴れ舞台だもんな、ママ」

邪神「そうそう。魔王も大きくなったのねぇ」ウルウル

大魔王「ママ、戦いはまだ始まっちゃいないぞ」

邪神「そうね…勇者が来てからが勝負よね。台詞を噛まないようにするのよ、魔王!」グッ

魔王「台詞とか言うな!」

大魔王「いいや、勇者VS魔王とかもう長い歴史の中で大体お決まりのパターンができちゃったしねぇ。ほらこれなんかパパのおじいちゃんから代々受け継がれているハウツー本」

邪神「パパ、今時の子は漫画で学ぶのよ。そういう台詞の出てくる漫画を小さい時から読ませておいたから、きっとアドリブでも大丈夫よ」

大魔王「おぉ、流石魔王君!パパも頭が下がる魔王っぷりだねぇ」

邪神「覚えてる、パパが現役の頃の話?一夜漬けで台詞を覚えたのに、台詞の途中で勇者が予想外の質問をしてきた時のこと」

大魔王「ははは、あの時はテンパったねぇ」

魔王「…ちょっと待て、勇者と戦っただと!?」

大魔王「あ、君に話していなかったか。パパがまだ現役魔王だった頃、今の勇者のパパと戦ったんだよ!」

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/14(月) 21:01:12.52 ID:c63EzjjP0
魔王「どうして両者生きてるんだよ!?」

大魔王「いや、パパは負けて一旦死んだんだがね」

魔王「!?」

~~~~~~~
大魔王「はっ、ここは地獄!?」

邪神「よくぞ来た、邪悪なる魂よ…」

大魔王「貴方はもしかして…邪神様!?」

邪神「そなたの魂は地獄の洗礼を受け、再び魔界にその命を…」

大魔王「美しい!」

邪神「…え?」

大魔王「絵画や邪神像の何倍もお美しい!貴方の側にいられるなら、私は一生地獄にいましょう!」
~~~~~~~

大魔王「ママに一目惚れしてから、毎日のようにママを口説いたわけさ、はっはっは」

邪神「それでママ、邪神の力を使ってパパを復活させちゃったの…惚れた弱みってやつね」ポッ

魔王(聞くんじゃなかった)

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/14(月) 21:04:12.76 ID:c63EzjjP0
大魔王「魔王君!今から来る勇者はパパを殺した勇者の、息子だ!絶対にパパの仇を討ってくれよ!」

魔王「生きてるからいいじゃねーか…」

邪神「あなたは歴代で唯一、邪神である私の血を受け継いだ魔王…負けてはいけないわ」

魔王「母さ…いえ邪神様。俺は必ずや、光の女神の加護を受けた勇者を討ってみせます」

大魔王「光の女神かぁ、彼女もなかなかの美人さ…」

邪神「パ~パ~?^^」

大魔王「いっけね☆勿論ママが1番さ!」

邪神「私もパパが1番よぉ」

魔王「いちゃついてんじゃねーよ緊張感が無くなる」

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/14(月) 21:06:29.43 ID:c63EzjjP0
邪神「…!この気配は」

魔王「勇者が来たのか!?」

邪神「えぇ、光の女神の力を感じるわ…魔王、負けるんじゃないわよ」

魔王「あぁ…!」

大魔王「じゃ、魔王君が負けた時の為にパパは裏でスタンバイしてるね~」

魔王「あんたの出番はない!」

邪神「ふふ、ママ特別に魔王の進化第12形態まで用意しといたからね♪」

魔王「多いわ!やめろよ人の体勝手に進化させるの!」

邪神「魔王の晴れ舞台に、つい張り切って作りすぎちゃったの~」

魔王「弁当のオカズと同じ扱いか俺の進化形態は!!」

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/14(月) 21:08:26.14 ID:c63EzjjP0
大魔王「じゃ、頑張るんだよ魔王~」

邪神「見守ってるわね~」

魔王「…ったく」

魔王(いい親なんだが、少しは子離れしてくれよ)

キキィ…

魔王(扉が開いた!)

魔王(貫禄を出して…と、勇者が近づいてくるまで黙っていなければ)ゴゴゴ

シーン

魔王(…?誰も入ってこないな)

?「ほら魔王だぞ!入れって!」

?「や、やだよ~」

?「大丈夫!勇者ならやれる!ファイト!」

魔王(…ん?)

?「突入~!」

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/14(月) 21:10:47.72 ID:c63EzjjP0
屈強な戦士(40)♂「魔王よ!我らは来たぞ!」

大魔道士(34)♀「人々の平和を脅かす悪の根源よ!」

見習い僧侶(14)♀「我らの正義の鉄槌を受けよ~」

魔王「…勇者は?」

屈強な戦士「ほら、勇者!お前が来なきゃどうしようもないだろう!」グイッ

勇者(16)「嫌だよ~怖いよ~」ブルブル

見習い僧侶「兄貴ー、頑張れー」

大魔道士「お父さんとお母さんもついてるわ!貴方なら大丈夫!」

魔王「…」

魔王(良かった…うちだけじゃないんだ過保護なの)ホッ

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/14(月) 21:13:36.49 ID:c63EzjjP0
大魔王「あーっ、先代勇者!」

魔王「わっ、出てくるなって!」

屈強な戦士「あ、先代魔王か!お前やはり生きていたのか!」

大魔道士「あら久しぶり。しばらく見ないうちにアンタも老けたわねぇ~」

大魔王「あー、あの時の勇者一行の魔道士か!大人の女になったなぁ、パーティーで1番小さかったのに」

大魔道士「あの頃は私も13歳だったからね~。旅が終わってからすぐ父さんに口説かれたのよ」

魔王「へ、へー…」

屈強な戦士「お、俺は大魔道士の頑張っている姿に惚れたんだ!決して幼女趣味ではない!」

大魔王「言い訳しなくていい!俺なんて自分より1000年近く年上の女性に惚れたんだからな!」

邪神「パパァ、歳がばれちゃうじゃないのよ!」

魔王「母さんまで出てくんな!」

勇者「うわああぁぁ、魔王だけかと思ったら強そうな人達一杯いるぅ」ブルブル

屈強な戦士「勇者ぁ、大丈夫だ怖がるなよー、お前は勇者なんだ負けるわけがない!」

見習い僧侶「いやぁ、もう緊張感もクソもありませんな」

魔王「本当だよ…」

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/14(月) 21:17:47.93 ID:c63EzjjP0
魔王「コホン…勇者よ、よくぞ来た!我が野望の弊害となる者よ、この俺の手で直々に葬っ」

勇者「許してくださあああぁぁい」ブルブル

魔王「あ?」

勇者「いいです、世界が闇に染まってもいいです!だから殺さないで下さい、お願いします!」

魔王(…俺の想定していた掛け合いじゃない)

屈強な戦士「こら!何てこと言うんだお前は!」

勇者「もう戦いたくないよ゛お゛ぉぉぉ、殺されるのや゛だよ゛お゛おぉぉぉ」涙鼻水グチャグチャ

大魔道士「泣くんじゃありません、男の子でしょ!」

見習い僧侶「情けねー。こんなのが兄だなんてマジ黒歴史なんすけどー」

魔王(どうすりゃいいんだよ)

大魔王「はっはっは、子育て方法を間違えたな先代勇者よ!」

邪神「ほほほ、光の女神は見る目が無かったのねぇ」

屈強な戦士「くっ…!ほら見なさい、父さん笑われたじゃないか!」

勇者「僕は初めからやだって言ったじゃないかあぁぁ。僕は遊び人になりたかったのに゛いぃ」

魔王「あ、こいつが1番のクズだった」

見習い僧侶「真っ当な親がそれを了承するわけねーだろボケ」

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/14(月) 21:20:00.81 ID:c63EzjjP0
邪神「魔王、あんなんでも光の女神の加護を受けた勇者よ。やれるわね?ねっ?」

魔王「あぁ…魔王の大魔法を喰らうがいい」バリバリバリ…

見習い僧侶「!あれは…」

魔王「喰らえ!黒き雷!」

大魔道士「何のっ!」ゴゴォッ

バリバリバリィッ

魔王「チィッ!相殺されたか!」

屈強な戦士「魔王!お命頂戴!」バッ

魔王「何のっ!」

カキーン

屈強な戦士「やるな…!」

魔王「お前こそ」フッ

大魔王「魔王くーん、その笑顔こっちにもちょうだーい!」

邪神「素敵よ魔王ー!」

魔王「運動会じゃないんだぞ!」

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/14(月) 21:22:04.51 ID:c63EzjjP0

大魔王「もう我慢ならん!」バッ

魔王「え!?」

大魔王「先代勇者、我を一度殺した者よ!今度はこちらから挑ませてもらおう、大魔王の名にかけて!!」

大魔王「…なーんてな、パパかっこいいだろぉ」ドヤァ

魔王「二言目で台無しだよ」

屈強な戦士「フッ…やはり現役を退いても、魔王の魂までは朽ちず、か…いいだろう、乗ってやる」

大魔道士「一度死んだ身で再挑戦しようという心意気は認めてやろうじゃないの!やっぱり邪神を滅ぼさない限り、この戦いは終わらないようね!」

邪神「ふふ…この私を滅ぼそうですって?いいでしょう、戯言に付き合ってあげるわ!」

ドガッカキーンドゴゴゴゴバーンバーン

魔王「…」

勇者「えううぅぅ、帰りたいよおおぉぉ」

見習い僧侶「これ以上醜態を晒すなら死ね!」

魔王(残った奴がショボい…)

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/14(月) 21:23:40.23 ID:c63EzjjP0
魔王(しかしこれはチャンスというやつか…)

魔王「勇者ぁ!」

勇者「」ビクッ

魔王「楽園へ送ってやる!喰らえ”地獄の業火”!!」ゴオオォォ

勇者「うわああああぁぁぁぁ!?」ダーッシュ

魔王「その炎は標的を焼き尽くすまで消えんぞ!」

見習い僧侶「走れ走れええええぇぇぇ!!」

ゴオオォォォ

勇者「もう駄目だーっ」

>その時、勇者の剣は光った!

魔王「む!?」

シュウゥ…

>剣の光は炎を吸収した!

魔王「この光…光の女神か!?」

光の女神「呼んだ?」

魔王「普通に出てくんな」

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/14(月) 21:26:34.43 ID:c63EzjjP0
見習い僧侶「女神おねーちゃん、おひさ~」

光の女神「おひさ、僧侶ちゃーん。くぉら勇者!アンタもビシッとせんかビシッと!」バチーン

勇者「ぎゃあぁ、光の女神!?」

光の女神「全くアンタは昔から泣き虫の弱虫の水虫で!アンタを加護してる私はいい笑い者よ、もうっ!しっかりしなさいよね!」

勇者「光の女神、僕はやっぱり、君の加護を受けられる程の男じゃない…」

光の女神「バカッ!バカバカバカッ!それじゃあアンタを信じている私は何なの!?これじゃあ私、本当にバカみたいじゃない!勇者は、やればできるんだよ…」ジワァ

勇者「光の女神…」

勇者「僕、頑張ってみるよ…光の女神が誇れるような男になる!」

勇者「さぁ魔王、改めて勝負し」

魔王「おう」ゴオオォォォ

>勇者は倒れた!

光の女神「きゃあああぁぁ、勇者あああぁぁ」

見習い僧侶「お前に慈悲はないのか」

魔王「ねーよ」

見習い僧侶「そうか」

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/14(月) 21:29:12.99 ID:c63EzjjP0
見習い僧侶「おいクズ兄貴起きろ。回復魔法」ポワーン

勇者「…」

見習い僧侶「死んだフリしてんじゃねーよ。あと回復料金、あとでよこせよ」

魔王「…やる気失せる程のクズだ」

見習い僧侶「正に身内の恥!」

魔王「俺は、魔王の宿敵である勇者と戦って死ぬなら、それも決着の形と受け入れていた!」

魔王「俺はこんな奴の為に、修行を続けてきたのかああぁぁ!!」

~~~~~~~~~
魔王「ゼェゼェハァハァ」

大魔王「魔王君が死んでしまうよ~」オロオロ

邪神「魔王、経験値あげるからもうやめなさい」

魔王「ありがたみが無ぇ!!」
~~~~~~~~~

魔王(思い出が生温かった)ガックリ

勇者「えーい隙ありー」シュッ

魔王「隙はない!」バキィッ

勇者「ぐああぁっ」

見習い僧侶「汚名挽回だな兄貴!」


19 :>>17の訂正 ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/14(月) 21:37:34.92 ID:c63EzjjP0
見習い僧侶「うちの兄貴はご覧の通りのクズだ…フォローのしようもねぇ。こんな兄持った私は不幸な妹だよ」

勇者「ひ、ひでぇ」シクシク


ワイワイ

魔王「え?」


大魔王「いやー、うちの息子は堅物でねー、伴侶を見つけられるか心配だよぉ」ハハハ

屈強な戦士「いい息子さんじゃないか!うちのは将来ヒモ確定だよ!」

邪神「光の女神の主夫ならそれなりにいい身分じゃないの~」

大魔道士「女神ちゃんはいい子だから、あの子とくっついてくれたら安心だわぁ」


魔王「おい!何意気投合している!」

大魔王「いやぁ共通の話題があると盛り上がっちゃってねぇ」

邪神「話してみるとなかなかいい人達じゃないの」

魔王「勇者の親がいい人でなかったら問題だろ。つか悪い人でいろよあんたら!」

大魔道士「ところで僧侶、あんた最近仲の良い男の子いるんだって?」

屈強な戦士「初耳だぞおおぉぉぉ、父さんは許さんぞ僧侶おおぉぉ!!」

見習い僧侶「うっせ」

光の女神「勇者、起きてよおぉぉぉ」

勇者「もうここでしぬー」ゴロゴロ

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/14(月) 21:39:41.38 ID:c63EzjjP0
魔王「うるせええええぇぇぇ!!」

シーン

魔王「ホームパーティーしに集まったんじゃねぇんだよ!これは勇者と魔王の最終決戦なんだよ!もう外野は黙っとれ!!」

外野一同「はい」

魔王「わかったならいい。なら改めて…」

魔王「勇者よ!死ねえええぇぇぇ!!」

勇者「うわあああぁぁぁ!?」


カキイイィィン


魔王「む!?」


老戦士「危うかったな…勇者よ!!」

魔王「誰!?」

勇者「あ、じいちゃん」

屈強な戦士「生きていたのか…父さん!」

魔王(ええええぇぇぇ)

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/14(月) 21:42:34.37 ID:c63EzjjP0
魔王「外野は黙っていろと言ったろうが!」

老戦士「黙れ若造!可愛い孫を見殺しにする爺がいると思うか!」

ガキイイィィン

魔王(くっ、こいつ強っ…!)

老戦士「果てるのは、貴様の方だったようだな?」ニッ

魔王「!!!」

老戦士「喰らええええぇ!!」

ガコオオォォォン

魔王「…!?」

大魔神「危なかったな…魔王よ!!」

魔王「誰だよ!」

大魔王「パパ!」

魔王「俺のじいちゃん!?」

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/07/14(月) 21:45:00.31 ID:c63EzjjP0
邪神「大魔神…貴方確か、先代勇者の更に先代の勇者に封印されたのでは…」

大魔神「我が宿敵が姿を現したとあらば…封印など、突き破るわ!!」

老戦士「死に損ないめが…いいだろう、50年の時を経て、今!!決着をつけてやろう!!」

ズゴオオォォォンドガアアアァァン

魔王「」

大魔王「おぉ凄いなぁ、桁違いだ」

邪神「伝説の戦いの決着がつくわよ!これは見ないと損ね!」

屈強な戦士「頑張れ父さん!」

大魔道士「これぞレベルカンストを更に超越した戦い…」

見習い僧侶「じじー、後で小遣いくれー」

魔王「」



>盛り上がる一同の中、1人冷めた魔王は思った。
>「何だよこれ、完全に俺引き立て役じゃねーか」と。

>この戦いの行方がどうあれ、彼のテンションは2度と上がらないであろう。

>そう、もう2度と。




fin

23 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/07/14(月) 21:46:47.10 ID:c63EzjjP0
お付き合いありがとうございました。

いつもはメモ帳に溜めて投下するスタイルなのですが、今回は勢いに任せてやってみました。
もう2度としません。

24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/07/14(月) 21:48:27.40 ID:AsU693/IO

親共ェ…

25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/07/14(月) 22:03:49.76 ID:FeuKTAMj0

魔王かわいそう

26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/07/14(月) 22:14:36.52 ID:jLCBq4lAO
くっそwwwwww

お腹いたいwwwww

27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/07/15(火) 00:32:02.08 ID:g2PrkjsB0
魔王と勇者のハウツー本の発行はいつですかね?
>>1乙
posted by ぽんざれす at 21:17| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【宿屋シリーズ3/3】勇者「これまでの冒険を振り返ってみたった」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403690147/

前作→宿屋「魔王城の近くに休憩所作ったった」
前々作→従者「魔王を度に連れ出したった」

2 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/25(水) 18:56:11.33 ID:+x8oQDtR0
?「ん?」

>彼の頭はボケーとしていた。一瞬、心と体が分離したような感覚を味わった後、気付いたらそこに立っていた。

?「えーと…」

>目の前には大きな城。今まで色んな国を回ってはきたが、この城は――

魔法使い「ちょっと勇者」

勇者「あ、魔法使い…」

勇者(あぁ、そうか。これは――)

>仲間に声をかけられて思い出した。自分は勇者。ある大国の王に命じられ、魔王討伐の旅をしていた。
>本当に、長い旅だった。この旅が終わる日は来るのだろうかと、何度も何度も思う程に。

魔法使い「…大丈夫?」

勇者「あーわり。ちょっと馬鹿になってる」

勇者「なぁ魔法使い」

魔法使い「何かしら?」

勇者「いや――」

>声をかけてみたが言葉につまる。ずっと長い間、この瞬間に言おうと何度も頭の中で練習もしていたというのに――

勇者(何つーか…本当、ここに来るまで長かったよなぁ)

3 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/25(水) 18:56:57.29 ID:+x8oQDtR0
>きっかけは些細なことだった

勇者「魔法使い、狩人、俺は死ぬかもしれん」

狩人「は?」

魔法使い「な、悩みなら聞くわよ?」

勇者「親父のおやつをケツで踏ん付けちまった」グッチャリ

魔法使い「ゆ、勇者…アンタ何てことを…」ブルブル

狩人(こいつの父さん怖いからなぁ…)

勇者「村中探し回ったが、同じおやつが売ってないんだよ。これ死んだわ」

狩人(同じの探す為に、尻におやつをつけたままにしてたのか…)

魔法使い「そのおやつ、確か南街で作ってるお饅頭よ!」

勇者「おおぉぅ!でかしたぞ魔法使い!早速行ってくるぜ、南街!」

魔法使い「待ちなさい、南街は確か魔物に制圧されたって噂よ!危ないわ!」

勇者「じゃあ南街を解放してくる!じゃあな!」ダッ

狩人「あいつ、魔物に殺される道を選んだな…」

魔法使い「ちょ、勇者あァーっ!」

>本っ当に些細なことだった




狩人「流石村で2番の戦士である勇者だな、南街を解放して生還するとは」 ※1番は父親

魔法使い「だけど制圧されたゴタゴタで饅頭は製造してなかったみたいね」

勇者「饅頭コワイ饅頭コワイ」ガタガタ

親父「おう、うちのせがれとその友達じゃねぇか!おい勇者、何で青ざめてんだ?」

勇者「」ビクッ

魔法使い「おじさん、勇者ったらおじさんのおやつを駄目にしちゃったのよ。でもそのおかげで南街を解放したんだから、許してあげて」

親父「ガッハッハ、そうかそうか、南街を解放したか!流石俺のせがれだな!」

魔法使い「そうよおじさん、南街の人たちは喜んでいたわ!だから…」

親父「わかってるよ魔法使いちゃん。特別にケツ叩き10発で勘弁してやるよ!」

ドゴァアアッ

勇者「」ピクピク

狩人「あのケツ叩きは岩をも砕くというからなぁ」

魔法使い「勇者、勇者ああぁぁ!おじさん、もうやめてええぇぇ!」

>この一田舎の青年は、後に世界の期待を背負う勇者となる。

4 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/25(水) 18:58:23.93 ID:+x8oQDtR0



勇者「南街の件について国王に呼ばれたと思ったら、他の制圧されてる街や村を解放してくれと頼まれたった」

狩人「凄いじゃないか、国王直々に依頼されるなんて。うちの村から英雄が出れば、皆鼻が高いよ」

勇者「俺の鼻の方が高いもんね~もう既に天狗だもんね~」

魔法使い「天狗になるの早いわ!勇者、危ないわよそんなの、国の騎士団に任せておきなさいよ…」

勇者「魔法使い、俺はやってみたいんだ…そして、魔物に支配されてる人たちを解放してやりたい」

魔法使い「勇者…」

狩人「勇者…」

勇者「そして英雄となり、皆にチヤホヤされたいんだッ!」グッ

魔法使い「あーそんなことだろうと思ったわよ」

勇者「…あ、もしかして妬いてますぅ~?俺が英雄になって~、チヤホヤされて~、モテモテになって~、そんでもってお姫様に求婚なんかされたら…フヒヒヒヒ」

魔法使い「アンタがモテるわけないから、そんな心配してないわよーだ」

勇者「何だとぉー、強くて英雄な美男子の、どこがモテないと言うんだ!」

魔法使い「女の子はバカな男が嫌いなんですー!全ての長所を打ち消す、稀に見るバカ男!」

勇者「それってレアだろ!」

魔法使い「バカを否定せんかー!」

狩人「…てかさっき魔法使い「そんな心配」て言ってなかった?」

魔法使い「!!!??」

勇者「ほほー?つまり魔法使いちゃん、俺がモテるのは心配なわけで…」

魔法使い「そんなんじゃないわよーっ、もういい、とっとと魔物を倒しに行きなさいよこのバカッ!」

勇者「明日から行くもんね~、それで俺のモテモテ人生が始まるんだもんね~、あっかんべ~」

狩人(素直じゃない2人だなぁ…)

5 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/25(水) 18:59:43.06 ID:+x8oQDtR0
翌日

親父「準備はできたか坊主」ゴゴゴ…

勇者「アノ、準備万端デスケドネ、オトータマ」

親父「あん?どうした?」

勇者「何故オトータマモ、準備万端ナンデスカ」

親父「俺は行商人だからなぁ、息子と同じ道を歩んでも問題あるまい?」ゴゴゴ…

勇者「あ、ありませんけどね~…英雄の旅が父親と2人ってのはどうかと」

親父「そうガタガタ言うと思って、他にも声をかけておいた」

勇者「ガタガタガタ!」←文句言いたいが怖くて言えない

親父「お、来たみたいだぜ」

魔法使い「お待たせ~。勇者、おじさん、行きましょう」

狩人「ちーっす」

勇者「ま、魔法使い!何で魔法使いが!?」

狩人「俺を無視すんな」

魔法使い「おじさんに頼まれたのよ。魔法の修行にもなるし、男所帯じゃろくに料理もできないでしょう?」

勇者「いやーそれはありがたいんですけどねぇ、お前には危ないって~」

親父「お前が守れよ」

勇者「は、はい?」ビクッ

親父「魔物との戦いで魔法使いちゃんが傷ついたらテメェどうなるかわかってんだろうなぁ?」ゴゴゴ…

魔法使い「ま、まぁまぁ。勇者…やっぱり私、心配なんだよ。もし私の知らない所で勇者に何かあったらと思うと、私…」

勇者「魔法使い…」

親父「例えばお前が浮気したりな」ニヤァ

勇者「!?」

親父「言っておくが、浮気できると思うなよ?もし浮気しようもんなら、お前のケツは3分割どころじゃなくなるぜ?」ゴゴゴ…

魔法使い「う、うう浮気って!おじさん、私と勇者は別に///」

勇者「ハイ、ボクチャン禁欲シマス。ダカラ威圧シナイデ、オトータマ」

親父「はっはっは、良かったな魔法使いちゃん!ま、こいつは何だかんだで魔法使いちゃんが1番好きだよ、だから安心しとけ!」

勇者「人生の墓場に入る準備はできてるぜ、魔法使い」

魔法使い「も、もー///」

勇者(ギャグなのに無視ですかそうですか)

狩人(俺の存在も無視ですかそうですか)


>こうして奇妙なパーティーの旅が始まった…

6 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/25(水) 19:00:17.13 ID:+x8oQDtR0
勇者「うおおおぉぉぉ!」ザシュッ

魔物「ぐああああぁぁぁ」

勇者「勇者様の、勝利ッ」フッ

狩人「余裕だったな勇者。流石に4つ目の街ともなると、勝手が掴めてきたじゃないか」

勇者「ばかたれー、これが俺の本来の実力だよ。ようやく足手纏いさん達が自分の身を守れる程度にはなってきましたからね~」

狩人「面目ない…」

魔法使い「ごめんね勇者…」

親父「おいこら、魔法使いちゃんに悲しい顔をさせんじゃねぇよ」ゴゴゴ…

勇者「大変失礼致しました魔法使いさん、貴方は素晴らしくやって下さっております」ペコペコ

魔法使い「そ、そこまで言わなくていいわよ」アセアセ

勇者「てかさ~、何でレベルカンストしてる親父は戦闘に参加しないわけ?」

親父「言ったろ、俺は行商で旅をしているだけだ。それに俺が参加したらお前の為にはならんだろ?」

勇者(じゃあ別行動しろよ)

親父「俺はお前のお目付け役だからな。お前が何か問題でも起こそうもんなら、天国のかーちゃんに合わせる顔がない」

勇者「少しは息子を信用して、おとーたま!」

魔法使い「そうですよおじさん、勇者はその、お調子者だけど真面目な所もあるんですから」

親父「ハッ、心配しなくても勇者が俺の目から見ても心配ないレベルになったら帰るよ。魔法使いちゃんとの2人旅に、あまり水を差すのもあれだしな」

魔法使い「も、も~おじさんたら、そういうことじゃなくてぇ///」

狩人(…俺は?)






勇者「オラオラ~!」ザシュッ

魔物A「ぐあぁっ」



勇者「はい、最後の一匹~」ドスッ

魔物B「ゴフッ」



勇者「喰らえ、必殺剣~!」ズシャッ

魔物C「ごはぁっ」



狩人「…なぁ」

魔法使い「何?」

狩人「勇者ってもしかして、マジで凄いんじゃね?」

魔法使い「そうね…」

7 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/25(水) 19:00:53.46 ID:+x8oQDtR0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
子供時代

勇者「あいででで」

魔法使い「勇者ぁ~、心配させてバカバカッ」

勇者「増援がなかったら勝てたもんねー、あの程度の魔物なんか」

魔法使い「あったから負けたんじゃない!おじさんが気づかなければ死んでたわよ!」

勇者「だろうな~。親父のお叱りの方がコエェ」

魔法使い「あんたはふざけてばっかで…」

勇者「ふざけないと死ぬんです。でもこれだけは真剣、俺は強くなるよ」

魔法使い「その前に死んじゃったらバカよ、本物のバカ!」

勇者「そうだな、気をつける。じゃあ約束しようぜ魔法使い」

――世界一強くなるまで、絶対に死なないから

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

魔法使い(あの時の約束、覚えてるかしら――勇者)

勇者「魔法使い、今日はナイスアシスト~。いえーい」パーン

魔法使い「い、いえーい///」パーン

狩人「はいはい俺は無視ね、慣れましたよ」

勇者「ところで最近名を挙げてるうちのパーティーに入りたいと言う人が来たんだが」

親父「女だったら駄目だぞ、浮気の危険が生まれる!」ヌッ

魔法使い「お、おじさん、いいからそういう心配しなくて…」アセアセ

親父「おっ、もう夫婦同然だから何の心配もないってか?ハッハッハ、こりゃ一本取られたなぁ!」

魔法使い「そういうんじゃありませんーっ!///」

勇者「俺はツンデレ好きじゃないぞ~。貴方の素直な気持ちを、サン、ハイッ!」

どごおおおぉぉ――ん

魔法使い「バカ」

親父「おっ、うちのせがれを吹っ飛ばすとはやるなぁ魔法使いちゃん!」

勇者「お、鬼嫁…」ピクピク

狩人「うん、いい夫婦だよ君ら」

8 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/25(水) 19:01:21.42 ID:+x8oQDtR0

魔物「勇者覚悟!でやああぁぁ」

勇者「オラーッ!」ザシュッ



勇者「パーティーも7人に増え、魔物からも刺客が来るようになったな。あぁ忙しい忙しい」

狩人「8人だよ…俺をカウントし忘れてるだろ」

魔法使い「有名になってきた証拠ね…」

勇者「おいおい魔法使い陰気臭いぞ~。笑え笑え~」ギュウゥ

魔法使い「いたた、ほっぺつまむな~!人が真面目に心配してるのにアンタはーっ!」

勇者「心配いりまセーン、何故なら俺は勇者デース」

魔法使い「一旦コテンパンにされちゃえバカーッ!」

狩人「はいはい今日もお熱いこって…お前ら見てたら平和な気持ちになってくるわ…」

タタタッ

軍師「大変です勇者殿!」

勇者「ん…どうした?」

軍師「勇者殿の故郷の村が制圧されたとの情報が!」

一同「!!?」





勇者の村

勇者「だらああぁぁーっ!」ズシュッ

親父「ふんっ」ゴギャッ

狩人「な、何かいつもより魔物が多くないか?」ゼーゼー

魔法使い「本当よ…嫌な予感は当たるものね。どうして、こんな小さな村に沢山の魔物が配置されてるのよ…!」

勇者「…俺の出身の村だってのがバレたか?」

狩人「まさか。誰が魔物に情報を漏らすってんだよ。それより勇者、気を抜くな!」

勇者「おう!」チャキッ

>魔物達に対し勇者一行は善戦するが、敵の数の暴力により体力は確実に削られていった――

9 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/25(水) 19:02:27.87 ID:+x8oQDtR0
勇者「これで…最後の一匹イィィッ!」ズバッ

魔物「ぐひィ…」ドタッ

勇者「あー疲れた…多すぎだろ、敵…」ドサッ

魔法使い「お疲れ、勇者…」

魔物「…ククク」

勇者「あ…?何だ、瀕死の有様で笑いやがって…」

魔物「魔王様に逆らう者は…故郷ごと滅ぼす。それが、人間達への見せしめ…!」

魔法使い「!?やっぱりバレていたの!」

狩人「じゃあ何で制圧した時に滅ぼさなかったんだ?」

魔物「わからんか…?これは罠なんだよ…我々は、お前達をおびき寄せただけ…だ…」ガクッ

勇者「おびき寄せただけ…!?まさかっ」ガバッ

魔法使い「あ…勇者、あれ…!」

勇者「!!」

>魔法使いが指差した方向からは、魔物の大群がこちらに押し寄せようとしていた――

勇者(っ、村人を逃がさないと…って)

>勇者が振り向いた方向、そちらからも魔物が押し寄せてくる。つまり…

勇者「逃げ場なしってことかい…!」

魔法使い「わ、私…もう魔力残ってないよ…」

狩人「弓矢もほとんど使った!皆満身創痍だというのに…!」

勇者「…くっ」

勇者(それでも、やるしかないだろ…!)

親父「気張ってんじゃねぇよバカ息子、このままヤケクソにやっても全滅するだけだ」

勇者「けどよ親父、どうしようも…」

親父「あるぜ、策は」

勇者「本当か!」

親父「ほら、あっちから来る群れは比較的数が少ない。だから俺が突っ込んで道を作るから、お前は村人を連れて避難しろ。」

勇者「な…親父が危ないじゃないか!」

親父「誰に言ってんだ?俺はレベルカンスト、テメーらひよっことはケタが違う、ケタが。ってわけだ、後で合流しようぜ!」ダッ

勇者「親父…!」

勇者(すまん親父…頼んだ…!)

親父「ボケーっとしてんじゃねーっ!…今だ、全員逃げろおぉーッ!」

魔法使い「おじさん…!」

勇者「…逃げるぞ、今は!」

>勇者達は親父が作り出した群れの隙間を縫って逃亡した。
>父親とすれ違う瞬間――勇者は「大丈夫だ」と確信していた。その時の父親の様子は、彼自身が恐れを抱く、いつもの父親と変わりなかったから――


>大丈夫だと、思いたかったのだ――

10 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/25(水) 19:02:55.62 ID:+x8oQDtR0
勇者「村人全員無事だな…ハァ、ハァ」

魔法使い「えぇ、大丈夫…あとはおじさんが何とか逃げてくれば…」

ゴオオオオォォッ

勇者「!?」

狩人「あ…」

魔法使い「そ、そんな…」

>轟音が鳴り響いた方向は彼らの村――そこは遠目からでもわかるほどの、大きな爆炎に包まれていた。

村人達「む、村がーっ」「キャアアァァッ」「ひとたまりもねぇぞ、あんなの…!」

勇者「お、親父…」

魔法使い(他の魔物ごと、使い手の魔力も消えた…これは、自爆魔法…)

魔法使い「おじさん…おじさああぁぁん!」

>魔法使いは燃え盛る村に駆け出そうとしたが――肩を掴まれ、止められた。誰よりも父親の身を案じているであろう、勇者に。

勇者「…駄目だ」

魔法使い「でも、でも…!」

勇者「生き残ってる魔物でもいたら危ないだろ…行くな、魔法使い」

魔法使い(勇者…?)

>魔法使いはその時気付いた。自分の肩を掴む勇者の手が、震えていることに。

勇者「頼むよ…お前を傷つけさせない、それが親父との約束なんだ…!」

魔法使い「勇者…」

>受け入れたくない現実を誰よりも早く受け入れたであろう勇者に、それ以上何も言えなかった――

11 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/25(水) 19:03:29.32 ID:+x8oQDtR0
村人「」ヒソヒソ

狩人「村人達はそれぞれ他の村や街に移るってよ…」

魔法使い「それがいいでしょうね…あの爆発じゃ、村の復興は無理よ」

村人「」ヒソヒソ

狩人「くそ、視線が痛いな…何なんだよ」

魔法使い「仕方ないわよ…私達のせいでもあるんだから」

狩人「だけど、俺らが旅立つ時は勇者を村の誇りとして送り出しただろう?こんな手の平返し悔しくないのかよ、勇者!」

勇者「いや、俺は――」

魔法使いの母「魔法使い!こっちに来なさい!」

魔法使い「母さん…」



魔法使いの母「もう旅なんてやめて、私達と一緒に来なさい。親戚のおじさんの家に厄介になるわよ」

魔法使い「そんな!母さん、旅に出ること歓迎してくれたじゃない!」

魔法使いの母「それは勇者君が一緒なら大丈夫だと思ったからよ…だけど逆だったわ、勇者君と一緒だと危ない目に遭うわよ!」

魔法使い「嫌よ…!」ダッ

魔法使いの母「待ちなさい、魔法使い!」



魔法使い「旅を続けましょう、勇者」

勇者「…いや、魔法使い、止めた方がいいかもしれない…おばさんの言う通り、俺といたら――」

魔法使い「それくらい、覚悟の上に決まってるじゃない!」

勇者「!」


魔法使い「勇者に守ってもらおうなんて思ってないわよ…勇者を助ける為に来たんだもん、だから逃げても追っかけるわよ!一緒にいさせてよ、勇者…」グス

勇者「魔法使い…」

狩人「俺らも同じ気持ちだぜ、勇者」

仲間一同「そうだ!」「ついていきますよ、勇者殿」「共に戦いましょう!」

勇者「みんな…」


>仲間達の強い申し出を断る口実もなく、勇者は彼らの意思を受け入れた。


勇者(国はこうなることを予測していたのかもな…だから一田舎の戦士である俺に、危険を全部押し付けた)


>その疑惑が事実かは不明だが、故郷から疎まれるようになった彼らは、逃げるように他国へと足を運んだ。
>他国も自国同様制圧されている街や村が多数あり、勇者達はそれらを次々解放へと導いていった。

>やがて勇者の噂が世界中に広まり、そして旅立ちから半年後――遂に彼らは、大国の王より魔王討伐の命令が下される。
>こうして勇者は全世界の期待を背負う勇者となったのである。



>その旅の中で沢山の仲間が加わり、そして散っていった――

12 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/25(水) 19:05:03.88 ID:+x8oQDtR0
僧侶「あ、あの、勇者、様…」オドオド

勇者「そぉんな緊張しなくて良いですって~、我が勇者パーティは可愛い仲間を歓迎しております!今日から宜しくな僧侶さん!」

魔法使い(初めて入った女の子だからってコイツは…)

僧侶「あ、は、はい」

勇者「ん、俺と同い年で「さん」はカタいかな。じゃあ…僧侶ちゃん?僧侶っち?僧侶たん?それともォ…」

僧侶「あ、あの///」

魔法使い「コラ、バカタレ勇者!」ゴッ

勇者「いでっ」

魔法使い「新入りの女の子にチョッカイ出すな~っ。ごめんね僧侶ちゃん、こいつ昔っからバカだから放っておいて」

僧侶「は、はぁ」

勇者「ふーんだ、そりゃ舞い上がるもんね~。ムッサい男パーティーでぇ、僧侶ちゃんみたいにぃ、綺麗でお淑やかで華のある女性が周囲にいないもんで~」

魔法使い「なっ///ア、アンタね、華ならここにいるでしょ!?」

勇者「食虫植物」ボソッ

魔法使い「ニャローッ、100回殴る!」

勇者「何のォ、100回ガード!」


現在パーティーの人数は6人。僧侶ちゃんは、累計17人目の仲間だ。
勇者は明るく、その気取らない性格もあって、行く先々で人に好かれる。勿論、パーティーのムードメーカーでもある。


魔法使い(だけど、深い仲の人は皆知ってるのよね。勇者、結構無理してるって)


今まで散った仲間たちの事、最初から旅をしている私もそうなのだから、勇者も絶対に忘れていないはずだ。
だけど皆の希望を背負う者として、暗い顔なんてできない――


魔法使い(あいつには荷が重い役割よね…「勇者」って)

13 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/25(水) 19:05:32.10 ID:+x8oQDtR0
勇者「僧侶ちゃん、いい子だよな。後方支援型で戦えないから、しっかり守らないとな」


>2人での買い出し中、勇者は急にそんなことを呟いた。
>新しい仲間についての話題を口にするのはそう珍しいことではないが…

魔法使い(ちょっと、いつもと違ってニヤついてない?)

>魔法使いとしては、若干面白くない気持ちもある。

魔法使い「可愛い女の子が入ったから、やる気が出るって~?」

勇者「そりゃ男として、なぁ?」

魔法使い「へー、そうなんだー。じゃあ可愛い女の子一杯仲間に入れようか~」

勇者「うーん、可愛くて戦える子ってなかなかいないしなぁ」

魔法使い(目の前にいる子は可愛くないって言いたいのかしら?)

勇者「初めて親父の言いつけを破って引き入れた女の子だし、仕事はきっちりやってもらうぞ勿論」

魔法使い「あらアンタ、まだおじさんの言いつけ守ってたわけ」

勇者「あぁ、親父を意識すると気が引き締まるんだよ」

魔法使い(萎縮するの間違いじゃ…)

勇者「今の俺なら、あの世で親父と喧嘩しても簡単には負けないと思うぞ」

魔法使い「やめてよ縁起でもないこと言うの。…私達の旅、本当にいつ死んじゃうかわからないんだから…」

勇者「あぁ、悪い」

魔法使い(そこは、茶化してほしかったかな…)

勇者「…俺には夢があるからな。魔王を倒すまでは死なねぇよ」

魔法使い「夢って…?」

勇者「…」ニヤッ

>勇者は意地悪く笑い、間を空けてから――

勇者「お前だけには教えない」

魔法使い「何よ、それーっ!」

14 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/25(水) 19:06:03.26 ID:+x8oQDtR0



本当に、長い旅だった――

魔王の所に辿り着くまでは、口にしないと決めた夢があった。
魔王を倒してから、叶えようと思った。

勇者「あぁ――」


>あれから長い時が経ち、今、勇者は城の前に立っていた。
>ここに来れることを何度も願い――そして、何度も諦めかけた。

勇者(だけど…)

魔法使い「勇者?」

>目の前に魔法使いがいた。まるで、夢のようだった。


勇者「魔法使い、俺――」

魔法使い「…うん」


>共に夢を叶えたいと思っていた相手に、ようやく言える――


勇者「…これからは、お前とずっと一緒にいたい。長いこと、待たせたな」

魔法使い「…勇者ぁ」

>魔法使いは勇者の顔を見ながら涙ぐみ、答えた。







魔法使い「何でアンタも死んだのよ…バカッ!」


>2人が再開するのは、実に10年ぶりであった。

15 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/25(水) 19:06:42.02 ID:+x8oQDtR0
~10年前~

勇者「…やったんだよな、俺たち…!」

魔法使い「遂に…」

僧侶「倒したんですね、魔王を…」


>旅を始めてから1年経った頃、魔王城の場所を突き止めた勇者は、遂に魔王を討つことに成功した。

>だが、それで平和が訪れたわけではなく…


勇者「…何だよ、こりゃあ」


>魔王討伐の報告をしに大国へ戻ってきた勇者の目にまず入ったのは、城を襲う大量の魔物だった――




魔法使い「…おかしいわ、魔王を討ったのに…。むしろ魔王がいた時より、魔物が凶暴化しているじゃない…」

勇者「どういうことだ。…魔王じゃない奴が、魔物を操っているのか…!?」

僧侶「…その逆かもしれません」ガタガタ

魔法使い「逆…?」

僧侶「私たちが討った魔王は、人間を滅ぼそうとはしていませんでした…人間達は、自分の支配下に置こうとしていただけでした…」

魔法使い「確かに、そんなこと言っていたわね魔王…それで、逆っていうのは…」

僧侶「今まで魔物達は魔王に従っていましたが…その魔王がいなくなったから、人間を襲うようになったのかも…」

勇者「…!」

魔法使い「そ、そんなわけ…」


>しかし僧侶の言葉を誰も否定できず、皆口を閉ざしていた。
>それに真相はともかく、勇者たちは各地で暴れまわる魔物を討伐する事に追われていった。

勇者(俺たちがもたらしたのか、この混乱を…!?)

>あの時の僧侶の言葉、肯定するのが恐ろしく、時々頭をよぎりつつ、考えることから逃げて戦い続けた。
>魔王存命時よりも激しくなった、激闘に続く激闘――次第に彼らは疲弊していき、1人、また1人――





>そして、勇者にとって最も大切な仲間が、散った。

16 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/25(水) 19:07:12.94 ID:+x8oQDtR0
魔法使い「バカでしょアンタ…何であんな死に方したのよ」グスグス

勇者「あちゃー。こっちから見てました、俺の様子?」

魔法使い「見てたわよ!あの後新しい魔王が即位して、アンタは僧侶ちゃんと一緒に魔王の監視を始めて、世界が前より平和になったわよね…。それで上手くやってたのに、どうして今更また魔王に喧嘩売ってこっちに来たのよ!」

勇者「そのー、隠居してたつもりが王様に見つかりましてー…それでこっちに逃げてきましてねー」

魔法使い「何でこっちなのよ!逃げる場所なんて世界中、どこにでもあったじゃない!」

勇者「や、まぁでも、キリがないかなって。それに限界だったしな、お前が恋しくて」

魔法使い「そういう台詞、さらっと言えるようになったのね…遅いのよ」

勇者「ははは、わりー」

彼の風貌は大分変わったけど、根っこの部分は変わっていない。こうして10年ぶりに会話して、よーくわかる。

魔法使い「残された人たちは、どうするのよ…」

勇者「大丈夫だろ。父ちゃん、あいつをヤワな子に育てた覚えはありません」

魔法使い「僧侶ちゃんは…」

勇者「レベルカンストの僧侶だぜ、新たな人生スタートしてもやっていける」

まさか気付いていないのだろうか、彼女が勇者に寄せていた想いに。
バカだこいつ、本当に激ニブのバカだ。

勇者「今の魔王、臆病だから、もう二度と人殺しできないだろうな。魔王にトラウマ植え付けてやったぜ、どうよ」

魔法使い「…悪趣味よ」

勇者「ま、これで世界は平和だろ、少なくとも今の魔王が生きている内は」

人にトラウマ植え付けておいて、よくもまぁサラリとそんなことが言える。

勇者「ところで、親父や他の皆はいるのか?久しぶりに会いたいな」

魔法使い「バカ。皆もうとっとと行っちゃったわよ」

勇者「えー、俺を待ってくれなかったのー。勇者ちゃんさみしー」

魔法使い「皆アンタのことばかりじゃないのよ、全く自意識過剰なんだから」

勇者「じゃあ魔法使いは俺のことばかりってことですかい」ニヤリ

魔法使い「…そうだって言ってほしいわけ?」

勇者「そりゃ、ま」





勇者「魔法使いは、俺の1番ですからね」

魔法使い「――――うん」



どうしてこっちに来たのか――そう責めた言葉は本音だ。勇者は自分のことなど気にかけず、もっと人生を謳歌すべきだった。

だけど本当はそれ以上に、嬉しかった。


勇者「…夢、ようやく叶うな」

魔法使い「そうね」


共に叶えたいと思った夢、それは互いに思っていたものだった。

これからは、この人と一緒にいたい――ずっと、ずっと。

17 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/25(水) 19:07:47.31 ID:+x8oQDtR0
~5年後~

僧侶「お久しぶりです商人さん…あら、その子は?」

商人「ハハ、姪っ子預かっちゃってさぁ。ま、いいじゃん、行儀良い子だしね」

僧侶「そうなんですか、初めまして、姪ちゃん」

姪「はじめましてぇ」

>勇者の仲間唯一の生き残りである僧侶は、この日久々に友人と会っていた。

商人「私もあんたも良い縁がないまま三十路超えちゃいましたな~。でもまだまだモテるんだろ僧侶、ん~?」

僧侶「そ、そんなことありませんよ…商人さんこそ、お若いままじゃありませんか」

商人「あら、ありがとね~♪…そういやアイツも長いこと会ってないけど、今は女盛りかぁ」

僧侶「ふふ、想像できないでしょう。あの子、とても綺麗になりましたよ。言葉遣いは少々荒いですが…」

商人「へぇ~、やっぱ男ができると変わるもんだねぇ」

僧侶「ふふ、そうですね…あら」

>ふと見た先にいた旅人3人の内1人は、僧侶と目が合うと大きく手を振った

「おーい」

僧侶「魔王さん、従者ちゃん!それに…」

>僧侶は見慣れた人物の名前を呼んだ。1人は人間との戦いを避けて旅立っていった魔王、もう1人はそれについていった従者。そしてもう1人は――

息子「やー」

従者「ちゃんと挨拶しろい。僧侶さん商人さん、久しぶりー」

商人「久しぶりー。やぁ従者、本当にべっぴんさんになったねぇ。5年前はおっさん女だったじゃん」

従者「ひでーのー。今じゃ肝っ玉母ちゃんだよ、なぁ魔王」

魔王「結局女らしかった時期が1回も無いな…」

僧侶「だけど、そんな従者ちゃんをずっと知っていて…」

商人「その従者に惚れたのが…」

魔王「えぇい、うるさいわ!!///」

18 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/25(水) 19:08:19.14 ID:+x8oQDtR0
商人「やー、でも息子君可愛いね~。初めまして、おばちゃんアンタの母ちゃんのお友達だよー」

息子「はじめー」

従者「悪い、ちょっと言葉遅れてるんだよね息子」

魔王「ある言葉だけは饒舌に話すんだがな…」

商人「ある言葉?…おや」

>息子は、ずっと大人しく座っていた姪に近付いていった。

息子「おれ、息子」

姪「はじめまして、わたし、姪っていうの」

僧侶「あらあら、子供同士だとすぐ仲良くなりますねぇ」

従者「そっかな?アイツ結構人見知りだもんなぁ魔王」

魔王「あぁ、珍しいな…」


姪「わたし、まほうつかいになるのが夢なの。あなたは?」

息子「おれ――」


魔王「あ」

商人「どったん?」

魔王「いや――あいつが唯一饒舌に話す言葉ってのが…」


息子「おれは、勇者と魔王になる!」


商人「…プッ」

従者「はっはっは、将来有望だな~うちの息子は」

魔王「頭痛くなってきた…」

僧侶「ふふ、〝あの方”に似てますよねぇ」

魔王「やめてくれ…俺もそう思っていたんだよ」




息子「おれが勇者と魔王になったらさ――」

姪「うん」






息子「いっしょにいよう――ずっと」



fin
posted by ぽんざれす at 21:02| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【宿屋シリーズ2/3】従者「魔王を旅に連れ出したった」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403328794/

前作→宿屋「魔王城の近くに休憩所作ったった」

2 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:33:38.33 ID:dN0pb2Wc0



?「………」

盗賊A「おいおいおォい、ここはガキが来ていい場所じゃねぇぞぉ~」

盗賊B「通行料渡すなら話は別だがなァ~」

盗賊C「そこそこいい身なりだ、お小遣い貰ってんだろ坊ちゃん達?へっへっへ」

?「…無い。お前達に渡すような金はな」

盗賊A「ハァ?状況わかってんのかこのガキ、いいからとっとと…」

?「わかっていないのはそっちだ」



?「"魔王”に喧嘩を売ったんだからな…」

3 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:34:11.09 ID:dN0pb2Wc0



従者「すっげーな魔王!3人いっぺんに相手にして勝っちゃうんだからな!」

魔王「あのな…俺は魔王だぞ。むしろ殺さないように加減する方が大変だった」

従者「木に縛り付けて半ケツにする程度で済ませるなんて、な~んて優しい魔王でしょう」

魔王「奴らのズボンをずり下ろしたのは俺じゃねえぇ!」

従者「けど止めなかったじゃん?はい、同罪~」

魔王「…お前、確か女だよな?」

従者「魔王ったら、幼馴染の性別忘れちゃった?」


>魔王と従者は旅をする。素性を隠しての終わりの見えない旅に、緊張感は存在しない。

従者「今日も平和だな~」

魔王「魔王の旅が平和でたまるか…」





村人「あんたら、若造2人で旅してんのかい?最近は魔物だけでなく盗人まで増えてきたっつーのに、物好きなもんだねぇ。あー、早く勇者が魔王を倒して平和な世の中にしてくれないかねぇ~」



従者「バッカで~、魔王が目の前にいるのに気付かないでやんの」ゲラゲラ

魔王「ま、見た目にはわからんだろうな…それにしても、盗人が出るのは俺のせいじゃないだろう…」

従者「ホントだよ。盗賊に襲われたり、悪徳商人にぼったくられそうになったり、偉そうな金持ちに馬鹿にされたり…何か俺ら、結構悪い人間とエンカウントしてねー?」

魔王「人間は魔王や魔物を悪としているが、悪い人間も沢山いるものだな」

従者「むしろ、無害な魔王よりよっぽど人間の方が性質悪いってのに~。皆視野狭すぎ~」

魔王「何だ。それをわかってて、この「人間との戦いを避ける旅」に誘ってきたんじゃないのか?」

従者「そうだけどォ~。人間の魔王への偏見てバカみてーだなーと思ってー」ブツブツ

魔王「お前が人間としては変わり者なんだよ」

従者「はーい、自覚してまーす」

4 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:34:40.42 ID:dN0pb2Wc0
「魔物がまた~」ザワザワ

従者「でも、悪さする魔物も当然いるんだな。何とかしてくれよ魔王」

魔王「そりゃ無理だ。お前達人間だって、言葉を理解できない知性のない獣を完全には制御できまい。まぁ、今人間相手に暴れているような奴は、人間の戦士でも何とかできるレベルの奴ばかりだ」

従者「というと?」

魔王「知性のない魔物は、知性のある魔物に狩られるかペットになる。強くて知性のない魔物は知性のある魔物にとっても害だし、そういう強い奴を飼うのも魔物達のステータスであるからな。野放しにされているのは、あまり害にならずペットにする価値もないような奴らだ」

ザワザワ

従者「うーん、じゃあ魔王がいなくなっても魔物の被害は減らないんだね~」

魔王「むしろ増える。今現在、知性のある魔物は俺に従って大人しくしているが、俺が死ねば奴らも暴れだすだろう」

従者「じゃあ何で人間は魔王を倒そうと頑張ってるんだよ」

ザワザワ

魔王「魔王が魔物を制御しているなんて考えもしないはずだ。それも仕方ない、俺の父が魔王だった頃は魔物を使って人間を襲っていたからな」

従者「うへぇ。じゃあお前が平和主義であっても、人間達はお前を目の敵にするわけだ」

ザワザワ

魔王「俺は平和主義者じゃない。得るものがない戦いは、面倒なだけだ…」

従者「魔王城にいた頃は「魔王に歯向かう愚かな人間を血祭りにあげてやる~」だの言ってたのに、外に出た途端大人しくなったなぁ。成長したんだなぁ」シミジミ

魔王「うるせー」

ザワザワザワワ

従者「そいやさー、旅に出始めた頃、山奥で迷った時あったじゃん?それで村の人に助けられて、飯までご馳走になって…」

魔王「そういえばあったな」

5 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:35:28.62 ID:dN0pb2Wc0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
山奥の村

従者「…置いていくのか、そのペンダント」

魔王「あぁ。この貧しい村の者達は、心までは貧しくないようだ。これは、村を豊かにする為に使えばいい」

従者「でもそれ、父親の形見だろ?」

魔王「俺にはもう、必要ないものだ…」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

従者「あの時か?父親の意思と完全に決別したのはさ」

魔王「…関係ないとは、言えなくもないな」

ザワザワワ

魔王「それにしてもさっきから騒がしいな」

従者「ん。あっちに人だかりができてんぞ」

ザワザワザワワザ

従者「すんませーん、何の騒ぎですかー」

村人「見ろよこの看板、さっき国の騎士が張っていったんだけど…」

魔王「どれ…」


『勇者、遂に魔王を討つ!!』

魔王&従者「!?」

6 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:35:58.34 ID:dN0pb2Wc0



従者「お前、討たれていたのか…知らなかったよ」

魔王「これからはボケても無視するぞ。看板には詳細が何も書かれていなかったな…フン、村人同士で色んな噂が飛び交うことだろうな」

従者「お前が魔王城から夜逃げして、そんな経ってないしなー…なぁもしかしてお前不在の間に城の魔物が討たれて、そいつが魔王だと勘違いされたんじゃね?」

魔王「可能性は十分にあるな…」

従者「今のはボケたんだよ無視しろよ」

魔王「ボケ要素の見つからないボケを言うな、このボケ」

従者「だって~、魔王城の魔物ってザ・魔物って位、魔物魔物した姿してるしぃ~」

魔王「人間は魔王の姿を知らんから、ありえなくはない。…だがしかし、詳細が気になる話ではあるな」

従者「だね~。都会の方に行けば、もうちょい詳しい情報聞けるんでねーの?」

魔王「…行ってみるか」



>こうして2人は首都へと足を運ぶこととなった

7 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:36:27.40 ID:dN0pb2Wc0
首都

ザワザワザワザワ

従者「ここも騒がしいねぇ」

魔王「新聞を買ってきた…勇者は単身魔王城へ乗り込み、魔王を討ったそうだ。そして魔王討伐を王に報告したのが昨夜の事。その勇者とやらは、きっとまだ首都にいるぞ」

従者「あの一人旅では無理ゲーな魔王城に単身乗り込んだってぇ!?嘘確定じゃーん、みんな騙されてるぅ」ゲラゲラ

魔王「お前は気楽でいいな…」

従者「だって困らないし~。むしろ人間達は魔王への恐怖心解放されっし、魔王は正体がバレる危険もなくなったし、いいことづくし~」

魔王「バカだバカだと思っていたが、ここまでバカだったとは」ハァ

従者「何だとこのやろ~、3回もバカって言ったなー!」

魔王「バカだからバカ呼ばわりされるんだよ、バカにいちいち説明させられる身にもなれ!」

従者「魔王の物の伝え方が悪いから理解できないんですぅ~、上手く伝えられない人もバカなんですぅ~」

魔王「何ぃーっ、お前にバカ呼ばわりされるのだけは我慢ならん!」

ゴゴゴゴゴ

美男子「ちょっといいかな?」

従者「あ、はいすみません!」(やっべ通行の邪魔してた…謝れよ魔王)

魔王「あ…すまん」(くっ、バカ相手に本気になってしまっていた)

美男子「お嬢さん、旅人かな?今時間ある?」

従者「あ、俺?うん、まぁあるっちゃあるけど」

魔王(ん?)

美男子「そうか、じゃあ…僕と食事しないかい?」

従者「………は?」

魔王「」

8 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:36:53.93 ID:dN0pb2Wc0
美男子「いやぁ、ひと目見かけた時に可愛いと思ってさ。どう?」

従者「か、可愛い!?////」

魔王「おい…」

美男子「あ、連れの君?女の子にバカはないよバカは。顔が良くてもデリカシーのない男は駄目だねぇ~」

魔王「何だと貴様…こいつはな」

従者「えーと喧嘩すんなよ、あのさ悪いけど」グイッ

魔王「んっ」

従者「俺、こいつのこと好きなの。だから他の男に全っ然興味ないの。ごめんね~」

魔王「!?」

美男子「ふぅん…見る目ないなぁ。そんな男のどこがいいんだ?」

従者「どこって…全部かな」

魔王「!!!!!」

美男子「ハハッ、僕が入り込む隙間はないってことだね、残念。それじゃあ潔く身を引くとしますか。バーイ」

従者「何がバーイだっての、失せろ失せろナンパ男」ケッ

魔王「……おい」

従者「ん?」

魔王「今の…」

従者「あ、勿論あいつを諦めさせる為の嘘だよ嘘」

魔王「そうじゃなくてな…今の男、何を企んでいたんだ…」

従者「へ?ナンパじゃないの?」

魔王「だとしたら相当なマニアだな…お前が可愛いわけがない」

従者「んだとーっ!?そ、そそそりゃ魔王の好みじゃないかもしれないけどさ、人には好みってもんがさーっ」

魔王「ん。ちょっと待て、騎士達がゾロゾロと出てきたぞ」


ゾロゾロ

騎士「これより、城にて王の演説が開かれる!聞きたい者は城に集合するが良い!」

魔王「…丁度いい。きっと魔王と勇者の件だろう。行くか」

従者「へいへ~い…」←すねている

9 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:37:31.01 ID:dN0pb2Wc0


「きっと勇者のことだよ」「詳しいことはわかってないもんな」「そうか、遂に魔王が倒されたか…」ザワザワ

騎士A「静粛に!これより王の演説が始まる!」

王「既に話は広まっているが、昨夜、遂に魔王が討たれた…魔王城の位置は前々から掴めてはいたが、魔王城に住む魔物は街の周辺にいる魔物と比べ物にならない程強く、引き返してくる冒険者がほとんどだったのは皆も知っているだろう」

従者「そうそう。臆病な魔王が、強い魔物みんな魔王城に配置して必要以上にガードを固めていましたからね~」

魔王「うるさい…」←事実なので小声

王「しかし難攻不落の魔王城へ単身乗り込んだ者が魔王を討った…我々は彼を、勇者と認めよう」

「いいぞー」「勇者様の誕生だー」「勇者様!勇者様!」ワーワー

王「そこで勇者を皆に披露しよう………彼だっ!」

カッカッ

魔王「…!?」

美男子「…やぁ」

「キャーかっこいいー」「ゆ、勇者に相応しき美貌…」「神々しくも見える…!」ワーワー

従者「あ。さっきのナンパ男。演説出なきゃいけないってのにナンパしてたんかい、自由なやっちゃな~」

魔王(魔王を討った勇者とやらが俺たちに接近してきただと…絶対、何かがおかしい…)

王「彼が魔王を討った後、魔王城の魔物は一斉に城から逃げ出したそうだ。我々が調査したが、確かに魔王城は今現在もぬけの殻だ!」

魔王「何っ!?」



ダダダ…

騎士B「王様!魔物が!」

王「何だ?魔物がどうした!」

騎士B「魔物の大群が首都に接近しているとの報せが!」

王「!?」

ザワザワザワザワ

王「皆取り乱すでない!首都の門を閉めよ、騎士団出動だ!」

魔王「チッ…仕方ない、騎士団より先に魔物の大群の所へ行く」ダッ

従者「え、あ、魔王――っ!行っちゃった……」


美男子「………」ニッ

美男子「王様、騎士団は首都の守りを。魔物の大群は僕が何とかしましょう」

王「しかし危険だぞ…いくら勇者といえど」

美男子「ふふ、僕を信じて下さい…どうしても助けが必要になったら、魔法で狼煙を上げますので」

王「う、うむ…では任せたぞ!」

美男子「えぇ…」

10 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:38:03.80 ID:dN0pb2Wc0
魔王(あの偽勇者め…魔王を討ったなどと偽ればこういう事態になるんだよ!)ダダダッ

魔王(よし、まだ騎士団は来ていないな。魔物の群れは…来た!)

ドドド…

魔物首領「ハッハッハ、人間め!1人で我々に立ち向かおうとは、いい度胸をしておる…」

魔王「馬鹿、俺だ」

魔物首領「ま、魔王さまああぁぁ!?」

ザワザワ

魔王「俺の命令なく人間達に攻め入るなと言ってあるだろう。それとも、俺が相手しようか?」

魔物首領「そ、それはご勘弁を…それにしても魔王様、討たれたというお噂でしたが…」

魔王「貴様、魔王城にいた奴だな?人間達の言う、「魔王が魔王城で討たれた」現場を見たとでも言うのか?」

魔物首領「そ、それが…その人間の間で広まっている話と、我々の間で広まっている話では、違いがありまして…」

魔王「違い?どういう違いだ、言ってみろ」

魔物首領「はっ。我々は、魔王様が旅先で討たれたと聞いておりまして…」

魔王「ほう。何の根拠もなくデマを信じたわけか?」

魔物首領「それが…」


ダダダッ

美男子「大丈夫かい!」

魔王「!」

魔王(チッ…タイミングの悪い奴だ)

美男子「良かった、戦い始める前だったんだね…これだけの大群だ、骨が折れそうだね」チャキン

魔王「…おい」ボソッ

魔物首領「はい」ボソッ

魔王「早急に他の魔物にも伝えておけ…噂はデマだから、人間を襲うのはやめろとな」ボソボソ

魔物首領「御意」

ドドド…

美男子「え、魔物の群れが立ち去って行く…!?」

魔王「ふん、勇者様のご登場に恐れをなしたんじゃないか?」

美男子「そうじゃないと思うよ…強いんだね、君」

魔王(………)

11 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:38:52.93 ID:dN0pb2Wc0
首都

「勇者様が魔物の群れを追い払ったぞー」「流石勇者様だー」「勇者様ー勇者様ー」ワーワー

美男子「お願いだから君も王様に会ってよ。これ、僕の手柄じゃないし…」

魔王「俺の手柄でもない。それに俺には、一国の王と対面できる程の礼儀は持ち合わせていないのでな」

従者「お~い、魔王~」

魔王「待たせたな。行くか」

従者「おう!」

美男子「…」

騎士「お疲れ様でした勇者殿!お怪我はございませんか?」

美男子「ないよ。…それよりも王様に伝えておいて。ちょっと出かけるってさ」

騎士「はぁ…」(相変わらず自由な人だ)





従者「ふーん、つまり魔物はデマを信じてあんな騒ぎを起こしたわけだ」

魔王「あぁ。だからこんなデマが広がるのはまずいんだ。このデマを信じてるのが人間だけなら、全く構わんのだが…」

従者「それにしても、デマが広がった途端暴れだすとは。魔物も暴れたくてウズウズしてんだねー」

魔王「別に魔物同士で喧嘩する分には禁止はしていない。が、やはり魔王の抑圧が無くなればこんなものだ」

従者「どうすんのこれから?放置はできないよな?」

魔王「あぁ、魔物達と直接会って噂はデマだと説明するしかない。幸い、魔物全体にデマが広がりきっているわけでもなさそうだしな。だが、面倒なことになった」

従者「ま、いいんじゃない。目的のない旅に目的ができたってことで」

魔王「お前は気楽だな…まぁ、こういう事態を予測できなかった俺も十分お気楽者か」

12 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:39:23.35 ID:dN0pb2Wc0



魔物A「ぎゃー、魔王様!」

魔王「今すぐ去れ」



魔物B「ま、ままま魔王さま!こ、これは」

魔王「人間を襲うのを止めないと、俺が相手になるぞ?」



魔物C「きゃー、魔王様が生きていたー」

魔王「あぁ、だから俺に従え」






魔王「ふぅ、事前に魔力を察知して何とか被害を出す前に食い止められているな。…しかし」

従者「グゴーグゴー」

魔王(このいびき…せめて寝てる時だけでも女らしくできないのか)

魔王(まぁ仕方ないか…人間にはかなりハードなペースで動いているからな)

魔王(こいつが寝ている間に、また行ってくるか)

13 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:40:18.29 ID:dN0pb2Wc0
魔物D「お久しぶりです魔王様!いやぁ、魔王様が討たれたのはデマだったそうで。あ、いや私はわかっていましたよ?」

魔王「何だ知っていたのか。それにしても、どうしてそんなデマが広まったんだ」

魔物D「まぁ、あんなもの見せられちゃねぇ…。あ、いや私はわかっていましたよ?」

魔王「あんなもの?お前も魔王城にいた魔物だったな、何を見たというんだ」

魔物D「ペンダントですよ」

魔王「ペンダント…?」



~~~~~~~~~~~~~~~
従者「でもそれ、父親の形見だろ?」

魔王「俺にはもう、必要ないものだ…」
~~~~~~~~~~~~~~~

魔王「親父の形見のペンダントのことか。それを見せられたのか?」

魔物D「はい、今勇者って呼ばれている男が魔王城に乗り込んだ際、あのペンダントを掲げて「魔王は討った」って言ったんですよ。魔王様が大事にしていたペンダントを見せられたせいで、皆デマを信じてしまって…あ、いや私はわかっていましたよ?」

魔王「なるほどな。何故かそいつの手にペンダントが渡ったというわけか…だが何故、奴がそれを魔王のペンダントだと知っているかがわからんな」

魔物D「不思議ですね~?」

魔王「…おいお前飛べるよな?ちょっと連れていってほしい所があるんだが」

魔物D「はい、どこでしょう」

魔王「ここから大分離れた山だ…お前の翼ならそう時間はかからん」

14 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:40:48.95 ID:dN0pb2Wc0
山奥の村

>村には、かつて村民だった者達の変わり果てた姿が散乱していた…

魔王「…!!」

魔物D「これはひどい。もしかしてデマを信じた魔物がやっちゃったんですかねぇ?」

魔王「…しかし建造物はほとんど破壊されていないな。それに死体も、皆原形をとどめている…」

魔物D「ですね。それがどうかしましたか?」

魔王「魔物の暴れ方というのは、もっと豪快なものだろう。これは魔物の仕業ではなく…」

魔物D「人間によるもの…ですかね」

魔王「…そっちの方が近い」






宿屋前

魔物D「それではご達者で~、従者さんと末永く~」バッサバッサ

魔王「一言余計だ!」

魔王(あの村の惨状…ペンダントと関係があるのか?)

魔王「偽勇者…奴が村を襲ってペンダントを奪ったのか…?だとしたら…!」

美男子(偽勇者)「だとしたら…何?」

魔王「!?」

15 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:41:32.46 ID:dN0pb2Wc0
偽勇者「流石じゃないか魔王…被害が出る前に魔物を鎮圧するなんて、ふふ、まるで勇者だ」

魔王「お前のやり方が甘いんだよ…やはりお前か、あの村を襲ってペンダントを奪ったのは」

偽勇者「そう。あんな山奥の村だから襲いやすかったよ~。村の番兵も雑魚ばっかで、手応えなかったよ」

魔王「お前、何者だ?」

偽勇者「何者だと思う?」ニコ

魔王(こういう返答する奴が1番嫌いだな…)ピキ

魔王「初対面の時は隠していたようだが、今のお前は魔力が溢れている。それに魔王のペンダントを知る人間はいないはずだ。ふん、俺に逆らうことのできる魔物が存在したのか」

偽勇者「半分正解で、半分不正解」

魔王「何だと?」

偽勇者「ハーフですよ、魔物と人間の」

魔王「…ほー」

偽勇者「驚かれないんですねぇ」

魔王「まぁ、滅多にいるものではないがな。それでお前の目的は、やはり魔物達への抑圧解放か?」

偽勇者「その通り」

16 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:41:58.23 ID:dN0pb2Wc0
偽勇者「知性ある魔物達は貴方に従って人間を襲わない。しかし貴方も見たはずだ。貴方がいなくなったと信じた魔物達は意気揚々と人間を襲おうとした。そうです、皆我慢してるんですよ…」

魔王「…我慢してない奴もいるだろう、お前みたいにな」

偽勇者「それは僕がハーフだからですよ。どうして魔物達は、争いを避けてコソコソしてる臆病な魔王なんかに従うんでしょう…わからないな」

魔王「それはお前がハーフだからだ。とにかく「そういうもの」なんだよ」

偽勇者「ふーん、知性ある魔物達の間ではそれが常識なんですか。魔王の言うことは絶対、そういうもの…」

魔王「お前は何故そんなことをする?人間に差別でも受けたか?」

偽勇者「…さぁ、どうでしょう」

魔王「まぁ、こちらもお前の動機などどうでもいい。それよりも魔物達の統制を乱そうとしたんだ、それなりの覚悟はしてもらう」

偽勇者「ふふ…腑抜けた魔王が何を言う」

魔王「何とでも言え」

偽勇者「はい、では…」

ジリ…

偽勇者「好きにさせてもらいますよっ!」

――ダダダッ

魔王「宿の中に…まずい!!」

17 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:42:27.73 ID:dN0pb2Wc0
従者「ん…ムニャムニャ魔王…かっ!?」

ガシッ

偽勇者「お嬢さん、すみませんねぇ」

従者「テ、テメェ!な、何だってんだ…!」

ダダダッ

魔王「貴様…!」

偽勇者「それ以上近づかないで下さい、従わなければ、このお嬢さんの命はありませんよ」

従者「ま、魔王、え、何これ?」

魔王「後で説明する黙れ。貴様、何のつもりだ?」

偽勇者「フフ…詳しい事情はわかりませんが、どうやら貴方が腑抜けているのは、このお嬢さんがいる為でもあるようだ。魔王さん、魔物達を抑圧から解放して下さい。じゃないと…」キラッ

従者「ひぃ…っ」

魔王「…俺がそんな馬鹿げた取引に乗るとでも思っているのか?」

偽勇者「さてね。まぁ乗らなかったならそれでもいいんです。魔王に即位してからずっと強い魔物を自分の護衛につかせ、今では争いから逃げ回っているような臆病な魔王に、負ける気はしませんしね」

魔王「俺を討って本当の勇者になるつもりか?今度は、俺の首を掲げて…!」

偽勇者「流石魔王、引きこもっていた割に頭の回転はいいようですね」

魔王「どっちでもいいなら、とりあえずそいつを放せ」

従者「そ、そうだ放せーっ!」ブルブル

偽勇者「おや、そんなにこのお嬢さんが大事ですか?貴方の魔王としての威厳を損なわせている原因かもしれないのに…」

従者「お、お前、魔王をバカにしやがったら…」

魔王「あぁ、大事だ」

従者「!?」

魔王「腑抜け相手に人質などいらないだろう…放せ」

偽勇者「フ…」

18 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:42:59.67 ID:dN0pb2Wc0
偽勇者「笑えてくるね!こんな腑抜け相手に、あんなに暴れたくてウズウズしている魔物達が「魔王だから」ってだけで従っているなんて…絶対におかしい!」

魔王「…おかしいか、そんなに?」

偽勇者「えぇ、おかしいですよ。大体魔物達もこんな臆病な魔王、見捨てるか謀反を起こすかして、好きにすればいいのに…だが「そういうもの」と貴方は言った、だからやはり貴方がいなくなれば魔物達は抑圧から…」



ヒュン

――ポタッ

偽勇者「―――え?」

従者「魔王…」

魔王「お前、大きな勘違いをしているな」


>魔王は一瞬の内に偽勇者の手から従者を奪い、その胸に引き寄せるように抱いていた

魔王「この世界は既に「魔王のもの」だ。人間達が自由にしているのは、俺がそれを許しているからだ。だが――」

偽勇者「――っ」ブシャアアァ

>偽勇者の腕があった所からは、血が大量に溢れていた


魔王「俺の許しがない自由は制裁する――「そういうもの」だ」ギロ

偽勇者「ひっ――」


>一応は実力者で、人間より本能の強い生物である偽勇者は、その瞬間悟っていた

>自分は、魔王には勝てないと――


魔王「死なれては困る。制裁はまだ終わっていない…」

19 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:43:27.21 ID:dN0pb2Wc0



従者「知らん間に魔王ったら世界征服してたんだね~、ハハー魔王様~」

魔王「」←思い出して真っ赤

従者「それにしても魔王、よく加減できたもんだね。結構マジに見えたから、殺しちゃうかと思ったよ」

魔王「殺しなんて気分が悪いものは御免だ…」

従者「けどいいのかよ、あれで」

魔王「あぁ、あいつも魔物のルールを理解しただろう。なら、死ぬまで制裁を受け続けてもらう」






騎士「勇者殿の腕を吹っ飛ばすとは…やはり魔王がいなくなっても魔物の脅威は収まらずか…!」

偽勇者「その通りですね…魔王がいなくなったからと力を抜かず、緊張感を持つことですね」




従者「偽勇者には人間達の英雄として居てもらい、裏で魔物をお前が制御する。何か、制裁がぬるくないか?」

魔王「暴れたくてウズウズしてる奴にとっては大層な苦行だ。それに生涯、俺のいいように動いてもらうんだ」

従者「そうだけど…」

魔王「…山奥の村の件は、俺にも責任がある…。今後こういうことがないよう、平和には気をかける…償いの為にもな」

従者「…そうだね」

20 : ◆WnJdwN8j0. [sage saga]:2014/06/21(土) 14:43:55.38 ID:dN0pb2Wc0




従者「ところで」

魔王「うん?」

従者「お前が偽勇者に言っていた、あの言葉だけど~…」

魔王「あの言葉?」

従者「そうそう、その~…俺を「大事だ」とか何とか」

魔王「…あー」

従者「冗談じゃないよね~?俺、魔王の幼馴染だもんね~?本気だもんね~?ね~?」

魔王「あぁ、本気だが?」

従者「ぶーっ!!」

魔王「何だその反応は。お前から聞いてきたんだろう」

従者「おっお前、いつもみたく「違うわ!」って否定とかしてくれないとこっちも予想外っつーか…」

魔王「…」フン



魔王「そんな嘘は、つけないな」

従者「魔王…」



魔王(この世界は既に魔王のもの――その中で俺は、こいつだけは手放さないと決めた)

魔王「立ち止まってないでさっさと来い。お前は俺を旅に誘った張本人だろう?」

スッ

従者「魔王…」


>従者は顔を赤らめながらも、魔王の差し出した手を握る。
>それから一度俯いた後顔を上げ、魔王に笑顔を見せた。

従者「へへ。一生ついていきまーす!」

魔王「あぁ」



>魔王と従者の旅は、まだまだ続く…






Fin

22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/21(土) 15:44:28.60 ID:8lshIs8r0
乙乙

23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/21(土) 18:45:01.49 ID:EH65q5lo0
おつん

次回作→勇者「これまでの冒険を振り返ってみたった」
posted by ぽんざれす at 21:01| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【宿屋シリーズ1/3】宿屋「魔王城の近くに休憩所作ったった」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403078888/


1 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:08:08.99 ID:xRD8RazP0
チュンチュン

旅人「う、う~ん…?」

僧侶「お目覚めですか…」

旅人「こ、ここは…途中で立ち寄った休憩所…?確か私は、魔王城へ乗り込んで…」

僧侶「貴方は魔王城で倒れられたのです。そこで運よく、同じく魔王城へ乗り込んでいた方がここへ運んで下さったのですよ…」

旅人「そうだったんですか…!そ、それでその方はどちらへ!?」

僧侶「貴方の所持金を半分懐に入れた後は、魔王城へ足を踏み入れておりません…。貴方も体験したでしょう…あそこは、未熟な人間が立ち入る場所ではありません」

旅人「…」


>ここは、魔王城近くの休憩所。今日もまた、勇者を目指す者がそこを訪れる。そんな者たちに一時の癒しを提供する為、24時間営業中。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1403078888

2 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:10:05.47 ID:xRD8RazP0
メモ帳に最後まで書き溜めたので一気に投下します。
予定では40レスちょっと?

3 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:10:36.81 ID:xRD8RazP0
宿屋「ヒャッホッホ~イ、臨時ボーナスゲェェ~ット!」

居候「浮かれてんなぁ、宿屋の野郎」

商人「大仕事と大量収入、宿屋の好きなものが同時に舞い込んできたからねェ」

居候「おいコラ宿屋、朝っぱらから酒盛り始めてんじゃねぇよ」

商人「酔っても人前で脱ぐんじゃないよ~。居候、こんなんでも年頃の女の子なんだから」

宿屋「こんなんでもな」

居候「こんなんで悪かったな!」

ガチャ

僧侶「昨日のお客様、レベルを上げてくると言って引き返されて行きましたよ」

商人「ありゃ。一人旅してくる根性あるんだから、あと2、3回は突撃かますと思ったんだけどねェ」

宿屋「ちぇー、そしたらまた臨時収入入ったのにー」

居候「お前は人の命と金、どっちが大事なんだよ!」

宿屋「人の命でェ~す、そんな質問するなんて、居候ちゃんったらぶ・す・い♪」

居候(超ウゼェ…)

僧侶「うふふ。まぁ良かったじゃありませんか、一人の命を救えたのですから」

居候「…だな!」

宿屋「リピーター、ゲ~ッツ」

>お調子者の宿屋、平和を愛する僧侶、マイペースな女商人、男勝りの居候。そんな4人の、いつもと同じ1日が始まる。


商人「今日も、平和だねェ…」

4 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:11:22.41 ID:xRD8RazP0
魔王「魔王城近くが平和でたまるかぁァ――ッ!」ガシャーン

僧侶「あらいらっしゃい」

居候「よぉ魔王、今日も元気そうだな」

魔王「貴様アアァ、まーた我が城で好き勝手やってくれたようだなあぁ!」ビシィ

宿屋「あ。俺が謎解きに必要な石像を部屋の角っこまで押してそのままにしてきたことか。すまん。」

魔王「元に戻すの大変だったが、そっちじゃねえぇ!魔王に歯向かおうという愚かな人間をあと一歩で殺せるという所で、貴様が連れ去っただろう!」

僧侶「あ、ご安心下さい。あの方はこちらで説得しましたので、しばらく歯向かいには来ないでしょう」

魔王「そういうことじゃねぇ!人間達への見せしめに、愚かな人間を血祭りにあげようと思ったんだぞ俺は!」

商人「そりゃ災難だったねェ」

魔王「許さん、今日という今日こそは…!」

宿屋「やれやれ。分かり合えないのなら…やりあおう」シャキーン

ドガッドガッ



居候(ここの休憩所は魔王城とスープの冷めない距離にあり、魔王は頻繁に殴り込みに来る))

魔王「いつもいつも、邪魔しやがってー!」ドゴーンバゴーン

居候(正確には、2、3日に1回かな)

宿屋「この休憩所が無かったら、皆HPとMP不足で引き返してますって~。だから魔王君と俺らは持ちつ持たれつじゃないですか~」

居候(まぁ宿屋の言動にイラッとくるのは、同居人だからよーくわかるけど)

魔王「そっちが俺を一方的に客寄せパンダに使ってるだけじゃないかーッ!」ドビューン

居候(こういうことがある度に来るコイツも、相当律儀だよな)

5 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:11:52.80 ID:xRD8RazP0
僧侶「朝イチの運動は体に良いことですねぇ…」茶ズズズ

商人「客寄せパンダか…作ろうかな、魔王の観光グッズ」

居候「魔王が余計怒るだけだって」



居候(魔王にとって都合の悪いこの施設だが、魔王に潰されない理由がある)

僧侶「魔王さーん、施設を神聖魔法でガードしてるので思い切りやっても大丈夫ですよー」

居候(この僧侶さんの神聖魔法により、建物には強硬なガードが張られている。しかしそれだけではなく――)




魔王「ゼェッ、ゼェッ…」

宿屋「もう終わりか魔王君?」

魔王「クッ…化け物が」

宿屋「だって俺もうレベルカンストしてますしィー♪」

居候「お茶淹れたから飲んでいけよ魔王」


居候(この宿屋、魔王よりずー…っと強いのである)

6 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:12:29.97 ID:xRD8RazP0
僧侶「今日も魔王さん元気一杯でしたねぇ」←ちなみにこいつもレベルカンスト

宿屋「魔王め腕を上げおったな、こりゃその内世界征服されるかもしれんな、あっはっは」

居候「おいおい冗談はやめてくれよ、あいつそんなに悪い奴じゃないよ」

商人「ほんっと、居候は世間知らずだねェ~」

居候「そりゃ育ての親が悪かったんだよ」

宿屋「教育失敗しました」シクシク

居候「何だとテメェ」

商人「いいかい、魔王はその気になれば、魔物集団を人間の住む所に放つことができる。人間達はそれに恐怖してるのさ」

居候「その気になれば、だろ…。実際の魔王を見もせずに恐怖するなんて、バカでねーの」

宿屋「けど、おかげで強くて小金持ちの、勇者を目指す冒険者がわんさか来るわけだよ。ひひ、笑いが止まらねぇや」

僧侶「でも、その内魔王さんが討たれてしまうかもしれませんねぇ…」

宿屋「討たれマセーン。魔王さんたら冒険者にレベル上げさせない為に、魔王城以外では強い魔物配置してない策士デース。ぬるい魔物相手にして鼻高々になってる冒険者は、魔王城で心がポッキリ折れる仕様デース」

居候「そんで、どうやってレベルカンストしたんだよ2人は」

僧侶「先代…今の魔王さんのお父様の時代は、もっと厳しい時代でしたから」

居候「へー、そうなん。じゃ、やっぱ優しいじゃん今の魔王は」



居候(世界は魔王を恐れているようだが、俺たちは魔王を恐れていない)

居候(俺はこの世界をよく知らないし、今更「普通の人たち」に溶け込める気もしない)

居候(全世界のほんの一部に過ぎない、この休憩所。それが、俺の世界だ)




居候(魔王への恐怖心は存在せず、魔王に最も近い、そんな場所――)

7 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:12:59.92 ID:xRD8RazP0
魔王城

居候「こんちゃーす、魔王。客から一杯お菓子貰ったから一緒に食おうぜ~」

魔王「おい魔物、何ですんなり通したんだよ…」

魔物「だって、ご近所さんじゃないですか」

魔王「俺は認めてないぞ!まぁどうせ、俺を倒しに来たわけじゃないだろうしな…でも早く帰れよ」

居候「冷たいなぁ魔王、俺ら幼馴染みたいなもんじゃん」

魔王「馴染んでいるのは確かだな…。不本意にも」

居候「俺も魔王に馴染んでるよ。不本意じゃないけどね」

魔王「ふん。…しかし、魔王城付近で捨てられていたお前を、あいつらが拾ってから10年は経ったか」

居候「昔は俺の方が大きかったのにな~」

魔王「そりゃ男女差も種族差も出てくるし、魔王に即位してからはあいつ(宿屋)と毎日のようにドンパチやってたからな。体も成長するわ…」

居候「ははは、そうだね~」(あの休憩所、いつからあるんだよ…)






宿屋「んーと、お前を拾ったのと休憩所を建てたのが同じ年だから、丁度10年だな」

僧侶「ふふ、魔王さんの世代交代とほぼ同時期でもありますしね。時が経つのは早いですねぇ」

商人「アタシが合流したのは結構後だね。それにしてもこの世界、10年前よりは随分平和になったもんさね」

宿屋「ま、先代の魔王殿は凄かったからなぁ。俺らも冒険者時代、それはそれは苦労したもんだ」ウンウン

居候「なぁ宿屋、何で冒険者をやめて宿屋になったんだ?」

宿屋「そりゃ…俺らも旅の中で、こういう休憩所が欲しいと思ったからだよ。なー」

僧侶「そうですねぇ。回復地点が無いと、MPを節約しなければなりませんしねぇ」

居候「宿屋って無茶しそうだしな、サポート大変だったしょ僧侶さん」

宿屋「お、聞きたいか俺の冒険譚?」ニヤァ

居候「ご勘弁願いたいです」

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2014/06/18(水) 17:13:30.51 ID:xRD8RazP0



魔王「まーた昨晩も邪魔しやがったなァ、いい加減にしろーッ!」

宿屋「いやー、まさか軍隊が攻めてくるとはねー。全員殺してたら、正に恐怖の大魔王になっていましたね魔王くーん」

魔王「全員生還したのは誰のせいだああぁぁっ!!今日こそ貴様を葬ってくれるわああぁぁッ!」ドゴーン、ガガガガ

宿屋「甘い甘いッ、当たんないよ~だ♪」



僧侶「魔王さん腕を上げてますねぇ…宿屋さん、その内負けちゃうかもしれませんねぇ」ズズズ…

商人「ハハ大丈夫、装備のグレードを上げれば宿屋も更にパワーアップすっから」

居候「ヤベー。更に調子こきそうでウゼー」



居候「魔王お疲れー。はい、冷たいお茶」

魔王「ゴクゴク悪いな…次は覚えてろよ…」トボトボ

居候「じゃあなー」

商人「魔王ったら居候の淹れたお茶は素直に飲むねェ~。流石幼馴染」ニヤニヤ

僧侶「そうですねぇウフフ、お2人ともお年頃の男女ですから…」

居候「?」

宿屋「こんガキにゃまだはえーよ。そうなったら父ちゃん悲しゅうて悲しゅうて…」ウウゥ

居候「誰が誰の父ちゃんだよ、アホ」



居候(ここはきっと、世界のどこよりも平和な休憩所)

居候(恐怖心はなく、のんびりとした日常と程よい刺激がある、そんな平和な――)

9 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:14:00.24 ID:xRD8RazP0



騎士A「フゥ…話には聞いていましたが、こんな所にこんな休憩所があるとはな」

騎士B「ふぅ、助かった…」

僧侶「ごゆっくりどうぞ。こんな団体さんはお久しぶりですわ」

騎士C「それにしても、こんな危険な場所に施設を置いたら、魔王に狙われませんか?」

宿屋「いやぁ、別にそうでもないですよ~。魔王とは持ちつ持たれつでウグッ」

僧侶「ふふ、魔王にとっては取るに足らない存在なのですわ」(宿屋さん、魔王さんと馴れ合っていることを知られてはいけませんよ)ギュウゥ…

騎士D「…不思議だ。貴方がたには、我々の持っている「恐怖心」が一切感じられない」

僧侶「恐怖していては人助けなんてできませんわ。ねぇ宿屋さん?」

宿屋「そ、そうそう」ゲホッゴホッ

騎士D「…10年程前か、「勇者」が姿を消したのは」

宿屋「…!」



騎士D「かつて、魔物により支配されていた街を次々と開放に導いていった戦士がいた…彼はいつしか「勇者」と呼ばれるようになった」

騎士D「人々は彼の姿に、自然と魔王討伐の期待を抱くようになった」

騎士D「そして勇者は我々の期待に応え、仲間を引き連れ魔王城を目指した」

騎士D「だが、それから勇者は帰ってこなかった――」



宿屋「……魔王城でおっ死んだんすかねぇ。その頃はまだ休憩所も無かったんで」

騎士D「実は――私は勇者を、何度か見かけたことがある…」

僧侶「…!」

騎士D「随分と風貌が変わったが――面影は残していますな?」

宿屋「――っ!」

10 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:14:29.28 ID:xRD8RazP0
魔王城

居候「何か豪勢な騎士集団が来たから、俺は遊びに行ってろだとよ。ちぇー、どうせ礼儀のなってねーガキですよーだ」

魔王「それで当たり前のように魔王城へ来るな…。まぁ、確かにお前からは品が感じられん。あのバカ(宿屋)に育てられたから仕方ないかもしれんが…」

居候「ふーんだ、魔王の知り合いには同族の、それはそれは可憐なお嬢様わんさかいるんでしょうね~」

魔王「いや、魔王というのは特別だから同種族がいないんだよ。血は濃いから、異種族と交わっても魔王の力を受け継いだ子孫はできるが…」

居候「え、そうなん?」

魔王「お前、本当何も知らないな…」

居候「ははは、必要ないことは知らないの」



居候「何でも、知ればいいってもんじゃないんだよ」

11 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:15:00.52 ID:xRD8RazP0
居候「ただいまー。あ、豪勢なお客さん達帰ったんだな」

僧侶「え、えぇ…」

居候「…あれ、宿屋どこ行った?」

僧侶「街の方へ降りて行かれました…少しの間、帰らないでしょう」

居候「あ、そなの。うるせーのが片付きましたなぁ~、商人さんも街に行商だし」

僧侶「………ねぇ、居候ちゃん」

居候「ん、何?」

僧侶「…宿屋さんには、秘密にしておいてほしいと言われたのですが…」

居候「じゃあ、秘密にしときなよ」

僧侶「え?」

居候「人の秘密話すのは良くないと思うぞ。そういう人、信用無くするよ?」

僧侶「…そう、ですね」

居候「そゆこと。じゃ、風呂入ってきま~す」

僧侶「…」





居候「ふー…」(それにしても、宿屋の秘密かー…そもそもあいつ、謎の多い奴だしなぁ)

居候(育ての親に対して関心なさすぎかなぁ。でもまぁ、宿屋は話したいことなら話す奴だしね)

居候(気にならないわけじゃないけど、あいつが秘密にしたいことを無理に知る必要もないし)

居候(いいんだよな、これで――)

12 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:15:34.46 ID:xRD8RazP0
>翌日、城――

王「久しいな――まさか魔王城の傍で商売をしているなど、思いもよらなかったぞ」

宿屋「…」

王「10年前――ワシが命じたことを、忘れたか?」

宿屋「…不可能だった、と言ったら?」

王「それが通用するとでも?」

宿屋「…」

王「今再び命じよう―――勇者よ」




魔王「んっ、寒気が…」

居候「風邪か魔王?」

魔王「そんなヤワではないぞ…馬鹿で風邪ひかないお前程ではないがな」

居候「馬鹿でも風邪はひきますぅー。じゃあ今日は帰るから早めに休んでおけよ、魔王」

魔王「あぁ、帰れ帰れ」

居候「おう、帰りまーす」トコトコ

魔王「…
あ、あのな」

居候「ん?どったん?」

魔王「お前が来るのは迷惑だが…お、俺に変な気は使うなよ、かえって気持ちが悪い」

居候「…というと?」

魔王「あ、あああぁぁうるさい!とっとと帰れ!///」

居候「へいへいへ~い」(熱でもあんのかなコイツ)




宿屋「…」

宿屋「…バックれるのは簡単だ、だが…」

宿屋「………」

宿屋「…………潮時、かな」

13 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:16:01.24 ID:xRD8RazP0




居候「ベッドメイクに掃除、調理の下ごしらえ…くそぅ宿屋がいないせいで、なかなか遊びにも行けねー」

居候(急な来客に備えておかないといけない…けど、ここんとこ客なんて全く来てないんだよなぁ)

居候(つか、僧侶さんもどっか行っちまったし…)

居候「…『ご自由にお使いください』っと。よし、看板完成~」

居候「今ゆくぞ、魔王!なーんつって、ハハハ」






魔王(ここ数日、侵入者が来ないな。それに来客も…)

魔物「魔王様、ご近所のお客様です」

魔王「!そうか…じゃなくて、すんなり通すな!ま、まぁいい通せ」

魔王(いつも帰れ帰れ言ってたから気にしてるのか…今日は言わないように…)


宿屋「…よぉ、魔王君」

魔王「ってお前かよ」チッ

宿屋「悪いねぇうちのお嬢ちゃんじゃなくて。君の嫌いな宿屋さんだよ」

魔王「あ、あいつに来てほしいわけじゃ…まぁ確かにお前の顔は見たくないが」

宿屋「…それ、叶うかもしれねぇぜ」

魔王「……は?」

宿屋「顔を合わせるのは、今日が最後になるかもしれない――」チャキン



宿屋「殺し合おうぜ、魔王」

魔王「――――!?」

14 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:16:36.70 ID:xRD8RazP0
宿屋「魔王がお前に世代交代してから魔物の影響は変わったが、それも魔王の気まぐれだと思われている――そもそも「一般の人間」達は、ここ10年の間に魔王の世代交代があったのは知らないんだよ」

宿屋「先代、お前の親父は魔物を使って人間の街を制圧したり殺したり、容赦なかった。」

宿屋「しかし――お前の代になってから強い魔物は魔王城に配置されるようになり、冒険者がなかなかレベルを上げられない事態が発生したわけだ」


宿屋「それもこれも全部――お前が、臆病だからだな」

魔王「…っ!」

宿屋「強い冒険者が攻めてくるのが怖い。人間が強くなるのが怖い。人間に憎まれるのが怖い――」

魔王「そ…れは…っ」

宿屋「けどな、まだまだ「一般の人間」達は「魔王」を憎んでいる――だから、「勇者」が必要とされる。勇者は討たなきゃいけないんだよ――魔王を」

魔王「まさか…お前が!?」

宿屋「…否定したいとこだが」ヒュン…


宿屋(勇者を作るのは、勇者自身の意思でなく――)ズバアアアァァァン


魔王「が…ッ!」

宿屋「…いい防御だ。魔王の名に恥じない。けど、俺相手には弱すぎる」

魔王「く…!」



魔王(こいつが俺より強いことなんて、散々やり合ったからわかってる…けど、今までこいつの攻撃を受けたことなんてない…!)

魔王(…こいつが攻撃に転じたら、俺――)

魔王(討たれる――のか?)


宿屋「…嫌な気分だ――なっ!」ヒュンッ…

魔王「―――ッ!」




居候「宿屋ァ―――――ッ!」

宿屋「!」ピタ

魔王「!」


15 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:17:05.52 ID:xRD8RazP0
居候「おいテメェ…何やってやがるんだ!?」

居候(冗談じゃないことくらいわかる…!魔王は怪我してるし…それに宿屋の野郎、魔王に襲いかかろうとしていた――今まで、見たことないような顔をして!)

宿屋「チッ」

宿屋(見られちまったな――1番見られたくない奴に)

居候「おい宿屋!何やってんだつってんだよ!」

宿屋「――義務を果たしに来た」

居候「……は?」

宿屋「魔王を討つ――義務だ、勇者の」

居候「………勇者?え、な、何ふざけて…」


?「本当のことですよ」


居候「!」




僧侶「…本当の、ことですよ」

居候「僧侶…さん…」

僧侶「宿屋さん…彼は10年前姿を消した勇者…人間達の希望」

魔王「お前が――」

16 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:17:39.37 ID:xRD8RazP0
魔王(10年前、魔王だった父上は勇者に討たれた――しかし息子である俺の存在を知らなかったのか、その後勇者は魔王城から立ち去った)

魔王(その勇者が――あんな間近な場所に休憩所を構えていただと……!?俺もまだ即位していない、わずかな「魔王不在の期間」に!)

魔王(では…何故こいつは今まで、俺を――)


宿屋「お前のことは嫌いじゃなかったな、魔王。むしろ…」

魔王「―――は?」


宿屋「…先代と違い、人間達に悪さをするわけでもなく――」

宿屋「魔物達の頂点に立てる力を持ってる癖に、強い魔物達を自分の周辺から手放さない程に臆病で――」

宿屋「それで、からかったら真っ赤になって反応してくる。そんなお前が――」チャキ

居候「宿屋、お前――!」

僧侶「………」


魔王(こいつ本気だ…殺される…!)

宿屋「…」ダッ

魔王(く、くそっ、殺されて、たまるか――っ!)バッ

宿屋「魔王ォ――――ッ!」

魔王「ああああぁぁ――――ッ!」





――――ザシュッ




居候「…!」

僧侶「……え?」

魔王「は……!?」


宿屋「―――っ」


>そこで血まみれになっていたのは、魔王ではなく、優勢であったはずの宿屋の方であった。
 宿屋は血が吹き出る傷口を防ごうともせず、魔王の目の前で立ち尽くすだけであった。

17 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:18:14.82 ID:xRD8RazP0
魔王「な、何でだ…お前――」

魔王(俺が本気を出した瞬間――こいつ、構えを解きやがった!)

宿屋「…へっ」

居候「――!?」

>その笑みは、居候が今まで飽きる程に見慣れた、いつもの宿屋の笑みだった。
 その笑みを浮かべたと同時、宿屋は――



宿屋「愛してるぜ、みんな♪」



ドサァッ…


>いつもと同じ声を発し、その場に倒れたのだった――
 そして、察したのは、僧侶だけであった





僧侶「い、いや―――勇者、様ぁ…」





>宿屋はもう、目を開けることはないと――

18 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:18:40.37 ID:xRD8RazP0
~~~~~~~~~~~~~~
僧侶「あ、あの、勇者、様…」オドオド

勇者「そぉんな緊張しなくて良いですって~、我が勇者パーティは可愛い仲間を歓迎しております!今日から宜しくな僧侶さん!」

僧侶「あ、は、はい」

勇者「ん、俺と同い年で「さん」はカタいかな。じゃあ…僧侶ちゃん?僧侶っち?僧侶たん?それともォ…」

僧侶「あ、あの///」(是非呼び捨てで…)

魔法使い「コラ、バカタレ勇者!」ゴッ

勇者「いでっ」

魔法使い「新入りの女の子にチョッカイ出すな~っ。ごめんね僧侶ちゃん、こいつ昔っからバカだから放っておいて」

僧侶「は、はぁ」

勇者「ふーんだ、そりゃ舞い上がるもんね~。ムッサい男パーティーでぇ、僧侶ちゃんみたいにぃ、綺麗でお淑やかで華のある女性が周囲にいないもんで~」

魔法使い「なっ///ア、アンタね、華ならここにいるでしょ!?」

勇者「食虫植物」ボソッ

魔法使い「ニャローッ、100回殴る!」

勇者「何のォ、100回ガード!」

僧侶「…」



僧侶(いいなぁ~魔法使いさん…)
~~~~~~~~~~~~~~~

19 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:19:07.99 ID:xRD8RazP0
~~~~~~~~~~~~~~~
勇者「はい、ボス撃破~。お疲れー、皆ゆっくり休んでね~ん」

僧侶「ゆ、勇者様…お、お茶ご一緒しません?」

勇者「お~、残念。ご一緒したい所だけど用事あってな。また今度な!」

僧侶「はい…」


僧侶「用事って何でしょう、勇者さん…」

魔法使い「あぁ…多分、お墓参り」

僧侶「お墓…ですか?」

魔法使い「そ。僧侶ちゃんが加入する前ね、敗れた仲間のお墓がこの村にあるのよ…」

僧侶「…!」

魔法使い「…そいつだけじゃないよ、今まで失った仲間は…。それなりに長く旅を続けてるから、いるんだ結構。最初から勇者と旅してたのは、私だけになっちゃった…」

僧侶「………そうだったんですか」

魔法使い「私達はまだ、魔王城の場所すら突き止められていない…」

僧侶「…まだ失うかもしれない、ということですね」

魔法使い「……うん」


魔法使い「覚悟しといてね、僧侶ちゃん――」
~~~~~~~~~~~~~~~~

20 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:19:38.76 ID:xRD8RazP0
~~~~~~~~~~~~~~~~
魔法使い「戦士…戦士ィっ!」

僧侶「そんな…戦士さんが…」

魔法使い「嘘でしょ…あんた、私らの中で一番丈夫だったじゃない…それなのに、それなのに…ッ!」

勇者「やめろ、魔法使い…」

魔法使い「だって…だってぇ!」

勇者「……散々経験してきただろ――戻らないんだよ、戦士は」

僧侶「――!」

勇者「…この気持ち忘れるな――魔王と戦う時までな」グッ

魔法使い「…勇者ぁ」

僧侶「…勇者様」




旅は1年ぐらい続いた。その間にも仲間の加入、そして離脱が繰り返された。
勇者様は明るく、強い。そんな勇者様は、皆に希望を与えてくれる存在だった――

だけど皆心の中ではわかっていただろう。それは、この旅の過酷さを誤魔化す為の微弱な清涼剤であり、表面的な姿だったことに――
~~~~~~~~~~~~~~~~

21 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:20:11.81 ID:xRD8RazP0
~~~~~~~~~~~~~~~~
仲間「遂に突き止めたな、魔王城!」

僧侶「…えぇ。長い、戦いでした―――」

勇者「…終わっちゃいない、まだ」

魔法使い「…うん」

僧侶「そうですね…」

勇者「行くぞ――」


勇者「もうこんな旅も、戦いも、終わらせてやるよ――!」
~~~~~~~~~~~~~~~~

22 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:20:38.10 ID:xRD8RazP0
居候「どうしてだよ…宿屋ぁ…」



僧侶(意識を回想から目の前の景色に戻すと、勇者さ――宿屋さんの遺体の傍らですすり泣く居候ちゃんがいた。
そんな姿を見て――魔王さんは悔やんでいるような、申し訳なさそうな、そんな顔をしていた。居候ちゃんの姿を見て、いたたまれなくなったのだろう。
だけど襲いかかってくる宿屋さんに全力で反撃した魔王さんを、誰が責められるものか――)

僧侶「…申し訳ありませんでした、魔王さん」

魔王「…」

僧侶「私が知っている全てのことは――後日、お話しします。今日は傷を癒して下さい。…帰りましょう、居候ちゃん」

居候「…どうして」

僧侶「…」

居候「どうしてだよォ!何なんだよこれはァ!さっぱりわかんねーよ、どうしてこうなったんだよぉ―――ッ!!」


僧侶(居候ちゃんの叫びはあまりにも悲痛で、そして後悔に満ちているようだった。
この子は今まで、人の秘密に踏み入ろうとしなかった。だから、宿屋さんの表面上の姿を本当のものとして捉えていたのだ――。
何もわからない――それは彼女自身のせいであると結論付けていいものか――)



僧侶(ともかく私達には立ち去る以外の選択肢は無く、宿屋さんの遺体は休憩所の前に埋葬することとなった)

23 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:21:06.16 ID:xRD8RazP0



商人「…薄々気付いてたよ、宿屋の正体はさ。まぁでも…魔王と仲良くドンパチやってるのを見たら「あぁこれでいいんだ」って思ってさ、追求はしなかったさ」

僧侶「えぇ…だけどそう考えるのは極一部でしょう。魔王さんが先代程の力がないことを知れば、人間達は一斉に攻めてくるでしょう…」

商人「今更だけどさ、王達に事情を言って何とかならなかったもんかねぇ。…まぁ無理か。人間全てが「魔王はほぼ無害」なんて信じるわけがない」


僧侶「魔物達は本能的に「魔王」という存在に従い、統制を取っていた。だけど――宿屋さんが先代の魔王を討ったその瞬間から、魔物達の統制は失われ、以前よりも人間を襲うようになりました。
先代の魔王は良くも悪くも、人間を生かさず殺さず、利用する方法を心得ていた。だから無意味な殺戮はほとんど無かった――だけど人間は魔物達の暴走を、魔王の指揮によるものだと思っていた」


商人「誰も信じないだろうね、「魔王は倒した」なんて言っても」

僧侶「そう。世界が最も魔物達の脅威に晒されていたのは「魔王不在の期間」だったのです。私達にとって、最も辛い期間でした――」

僧侶「そして休む間もなく私達は戦い、私以外の仲間は―――」

商人「…誰だって嫌になるわな」

僧侶「私も、彼も限界に近かった。……ですがある時から、魔物達は大人しくなりました。それが――」

商人「現魔王の即位――ってわけかい」





~~~~~~~~~~~~~~~~
勇者「……どうやら新しい魔王が誕生したようだぜ。つっても、まだ小さながきんちょだ。先代程の力は無い」

僧侶「でも、魔物達は本能的に従っているんですね…」

勇者「あいつ、臆病だ。だから強い魔物達を自分の周辺に護衛として置いてやがる。…並の人間なら、魔王に辿り着く前にやられるな」

僧侶「…だけど、勇者様なら」

勇者「……討てと言うのか?あいつを」

僧侶「………」

勇者「戻れってのか……魔王不在のあの日々に!」
~~~~~~~~~~~~~~~~

24 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:21:48.74 ID:xRD8RazP0
僧侶「それから私達は魔王を監視する為、魔王城の近くに休憩所を建てた――」

商人「魔王城に乗り込んだ人を助ける為にも、魔王を牽制する為にも役立ってたと思うよ」

僧侶「えぇ、良かった。宿屋さんは、そう思っているはずで」

商人「あぁ、あいつならそう思うだろうね――勇者失格だけど」

僧侶「えぇ――」

商人「1番の目的は多分――魔王を育てることだったんだろ。誰にも、討たれないように」







魔王城

魔王「…」

魔王(今まで俺は保護されていたんだ――元勇者だった、あの野郎に)

魔王(最後の、最後まで――)

魔王「――くそっ」

居候「よぉ魔王、怪我はどうだ?」

魔王「…お前か」

居候「おいおい久々に来てやったんだぜ、もっと愛想良く出迎えてくれよ」

魔王「ふん、まぁいい。気も紛れるだろう、鬱陶しいのがいれば」

居候「一言多いんだよ」

魔王「…お前も聞いたか、あいつ――お前の育ての親についての昔話を」

居候「うん…びっくりだわ、あの馬鹿野郎にそんな過去があったなんて」

魔王「腹の立つ男だ、この俺を上から目線で見守っていやがったんだからな」

居候「それに最後の言葉が「愛してる」だぜ。だ~、気持ち悪いんだよ…って本人に言えないのが悔しいわ」

魔王「そういう問題かよ」

居候「そういう問題だよ」

魔王「…流石、親子だな」

居候「へへっ」

25 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:23:03.22 ID:xRD8RazP0
居候「よく覚えてないけど、俺の本当の親ってな…宿屋が唯一、助けられなかった冒険者なんだってさ。休憩所に俺を預けて、魔王城でポックリと」

魔王「そんな奴がいたのか…俺も忙しくて、魔王城で死者が出たなんて把握していなかったな」

居候「変な親だよなー。休憩所の存在知らなかったはずだから、きっと子連れで魔王城乗り込むつもりだったんだぜ」

魔王「今となっては、理由を聞けないのがもどかしいな」

居候「僧侶さんが言うにはさ…宿屋がそれを秘密にしてきたのは、俺が魔王を恨まないようにする為なんだってさ。別に、魔王が殺したわけじゃないのにねー」

魔王「……だが俺は、お前の親を殺した魔物の親玉だしな」

居候「あぁ、別に気にすんな。それにそのおかげかもしれないぜ、俺と魔王が友達になれたのは」

魔王「―――っ」






商人「それにしても、もうすっかり人間達にはバレバレだろうねぇ魔王城の場所。今まで引き返した冒険者が沢山いるからね」

僧侶「それだけではありません――すぐにバレるでしょう、「勇者」がいないことに――」

商人「…死んだにせよ、また失踪したにせよ――」

僧侶「もう勇者には頼れない――そう思って人間達が攻めてくるかもしれない…」
                  
商人「…あーわかった。だから居候に、あんなこと言ってたんだ」






居候「いつまでも、いなくなった奴のこと考えてても仕方ないぜ魔王。もうお前を保護する奴はいないんだ」

魔王「あぁ。これから待っているんだな、人間達との戦いが――
…って、おい。どうした急に立ち上がって。それにさっきから気になっていたが、今日は荷物が多くないか?」

居候「おう。夜逃げ準備したからな。お前も支度しろ」

魔王「…は?」

居候「だ~か~ら~。ここから逃げるんだよ!さ、早く早く」

魔王「ふ…ふざけるな、何で逃げなきゃいけないんだ!」

居候「ふーん、行かないならいいよ」



居候「人間と戦って恐怖の大魔王になるお前なんて、嫌いになっちゃうもんね」

魔王「!!!」

26 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:24:21.54 ID:xRD8RazP0
魔王「お、俺が何でお前に嫌われることを恐れて…」

居候「あ、そうなんだ~魔王って俺のこと嫌いなんだ~」

魔王「い、いや決してそういうわけでは…」

居候「この無知でひ弱な俺が一人旅なんかしたら野垂れ死ぬのがオチだよね~…そうか魔王、俺のこと見捨てるのか」

魔王「…」クッ



魔王「ったく仕方ないな…それにお前の言う通り、人間と争っても仕方ないしな」

居候「魔王ッ!」



魔王「ば、馬鹿!抱きつくな///」

居候「だって嬉しいんだもん、魔王と一緒にいられるなんてさー!」

魔王「お、お前、一応女なんだから誤解を生むような発言はよせ…!」

居候「誤解?何をどう誤解?」

魔王「あーうるさい、とにかく旅支度するから待ってろ馬鹿女!」

居候「へいへ~い」







僧侶(勇者様…いえ、宿屋さん)

僧侶(私は僧侶失格ですね…貴方の側にいられたこの10年間、とても充実していました)

僧侶(…私達が共に過ごしてきた証であるあの子は、きっと平和へ大きく貢献するでしょう――)

僧侶(ですから宿屋さん――)

僧侶(これからは最愛の方と――ごゆっくり、お休み下さい――)

27 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:24:54.81 ID:xRD8RazP0
居候「待ってくれ~魔王~」

魔王「たく、持ちきれない程の荷物を持ってくるからだ。ほら貸せ!」ヒョイ

居候「流石魔王、力強いね~」

魔王「お前がひ弱なんだよ…」

居候「俺、男らしく成長した魔王のこと大好き!」

魔王「!!だ、だから誤解を生むようなことは…」

居候「だからぁ、誤解って何ぃ~?」

魔王「黙れ、おっさん女」

居候「ちぇー」

魔王「……街に着いたら」

居候「ん、何だ?」





魔王「女らしい服でも、買ってやるよ」






fin

28 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2014/06/18(水) 17:27:46.68 ID:xRD8RazP0
終わりです。40全然行ってねー!!(゚Д゚;)
加減が全然わからんですorz

見て下さった方いましたら、ありがとうございました!

29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2014/06/18(水) 17:33:45.90 ID:8Kr0XhUqo
よかった
乙!!

30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/18(水) 17:35:32.27 ID:IftY9G65O

面白かった

32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/18(水) 17:58:16.58 ID:ZRQoI4ESO
おつー

33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/18(水) 22:17:17.48 ID:2N/EuohF0
乙乙

34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/19(木) 01:33:13.13 ID:6vy8Tan50
面白かったよー

35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/19(木) 10:42:37.74 ID:RYeWIlvSO
サクッと読めた


36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/06/19(木) 13:29:38.76 ID:ahvnRL0xo
良かった


次回作→従者「魔王を旅に連れ出したった」
posted by ぽんざれす at 20:59| Comment(2) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする