2015年12月24日

【クリスマススピンオフ】アラサー賢者と魔王の呪い

アラサー賢者と魔王の呪いのスピンオフです





もうすぐ聖夜祭。初めて都会で迎える聖夜祭はどんなものか…と魔法戦士は思っていたが。

王「聖夜祭の日は里帰りするが良い、魔法戦士よ」

魔法戦士「えっ!? 街が人々で賑わうから、我々騎士団による警備が必要なのでは!?」

王「賢者の魔法教室でパーティーが行われるらしいぞ」

魔法戦士「そ、そうなんですか…」

王「参加したいだろ? ん? ん?」

魔法戦士「あ、はい…ま、まぁ」

王「同級生とパーティーできる機会なぞ、これから先そうそうあるまい。楽しんでこい、魔法戦士よ!」

魔法戦士「……」


こうして寛容な王のはからいにより、魔法戦士は里帰りすることになった。





魔法戦士(田舎は雪がザックザクだなぁ…あぁ歩きにくい)

聖夜祭の日、実家に帰った魔法戦士は、聖夜にはさほど浮かれてもいなかった。
それよりも、1日も早く一人前の騎士になることの方が重要なのだが…。

魔法戦士(そんでも王様の言う通り、来年にゃ皆卒業してバラバラになるし…いい思い出になるかもな)

魔法戦士(それに……)


賢者『5年経っても私への気持ちが変わらないようなら、また言いに来て。それまで、待ってるから』


魔法戦士(せっかく先生と過ごせるんだ、こりゃもう楽しまないとバチが当たるってもんだ!)

やる気に燃えて、魔法戦士は魔法教室までの道を駆けた。


<ワイワイ

魔法戦士(よし、教室が見えてきたぞ。何か賑やかな声も聞こえるな)

魔法戦士「みんなー、久しぶ……」


生徒A「きゃーっ、先生可愛いーっ」

生徒B「本当、お持ち帰りしたーい」

賢者「こらっ、大人をからかっちゃいけません!」

生徒C「でも先生だってノリノリで着たじゃないですかーっ」

賢者「それは…可愛い教え子が用意してくれたのだから、無碍にできないもの」


魔法戦士「」アワアワ

生徒D「あ、魔法戦士じゃん」

生徒A「魔法戦士ぃ、どう? 先生可愛いっしょー」

魔法戦士「な、な、な……」


賢者は女子生徒達の手により、サンタドレスを身に纏っていた。


賢者「もぉー…恥ずかしいなぁ」モジモジ

魔法戦士「何やってんじゃーっ! 先生を着せ替え人形にするなーっ!」

生徒A「えーっ、可愛いじゃん」

そりゃ、子供が仮装してる姿は、ものっ…凄く可愛いけれど。

魔法戦士「あのなぁ、敬意を持て!! 先生は大人なんだからな!?」

賢者「そうよ~。子供の姿ではあるけど、おばさんなんだから…」シュン

生徒B「うわー。先生におばさんとか、魔法戦士サイテー」

魔法戦士「言ってなああぁぁい!!」

生徒C「まぁまぁ、聖夜の日くらい羽目を外してもいいじゃん」

生徒D「せっかくのパーティーなのに、先生ったら洒落っ気ないんだもん。ねー?」

賢者「着飾るのは苦手なのよ~…」

魔法戦士「……」

賢者は縮こまっているが、そんな恥じらっている姿も可愛らしい。
なかなか見られない賢者の姿を見れた…と思えばまぁ、得した気分にはなれる。

魔法戦士「先生、似合ってるよ」

賢者「あら本当?」

魔法戦士「うん。聖夜祭の主役は先生だ」

賢者「も~。皆の為に開くパーティーなんだから、先生が主役じゃダメじゃない」

魔法戦士「はは、そうか」

生徒A「もしもーし、魔法戦士ぃ?」

生徒B「私らもパーティードレス着てるんですけどー?」

生徒C「ま、仕方ないよ。魔法戦士は同級生に興味ないのよ」

生徒D「そうねぇ~。先生は小さくて可愛いもんね~」

魔法戦士「誤解を招くことを言うなああぁぁ!!」

賢者「ふふふ。E君達も来たらパーティーを始めましょうか」

一同「はーい」





やがて男子生徒たちも揃い、パーティーが始まった。
皆で持ち寄った料理を飲み食いし、ゲーム大会をやって…という、ごくごく質素なパーティーだ。

魔法戦士(まぁ、城のパーティーは豪華すぎて俺には合わんしなぁ…)

久々に素朴な故郷を感じ、魔法戦士は期待していたよりも楽しんでいた。

生徒A「はい、皆クジ引いて~!」

魔法戦士「えーと…中身は何だ」ゴソゴソ

プレゼント交換会、きっとやると思っていたので自分は財布を買っておいた。
果たして当たったプレゼントは……。

魔法戦士「…ん? 手編みのマフラーか…」

生徒E「あ、それ俺が編んだやつだ。大事にしろよな!」

魔法戦士「男の手編みかよ!?」

生徒F「俺に当たったのは…おぉっ、財布だ!」

魔法戦士「あぁ、それ俺が買った…」

生徒A「ハイカラだねー!」

生徒F「巾着袋と違って、ゼニ入れる所が一杯あるぞー! ウオオォォ!!」

ワーワー

魔法戦士「……」

魔法戦士(やべぇ…ハイカラだの巾着袋だの、こいつらが田舎モンに見える……)





そうして時間が経過し、パーティーはお開きとなった。
片付けは明日やることにして、今日は遅くなりすぎない内に解散することにした。

賢者「みんなー、気をつけて帰るのよ~」

魔法戦士「皆、相変わらず賑やかだね」

賢者「さ、魔法戦士君も帰りなさい」

魔法戦士「いや、俺は先生を送って行くよ。こんな時間に、女性1人で歩かせるわけにはいかないしな」

賢者「まぁ魔法戦士君たら。ふふ、お言葉に甘えちゃおうかしら」

魔法戦士「…ところで、その格好のまま帰るの?」

そりゃ今日は聖夜の日だから、サンタの格好をしていても変な目立ち方はしないだろうけど。

賢者「いちいち着替えるの面倒なのよね~。このまま帰ってパジャマに着替えた~い」

魔法戦士(相変わらずズボラだなぁ)

そんな所も、賢者らしいと思うが。

魔法戦士(できれば、あんま沢山の奴にこの姿見せたくないよな~…)

賢者「それじゃあ帰りましょうか」

魔法戦士「うん」





賢者「雪がベチャベチャで歩きにくいわね~」

魔法戦士「パーティーの間に降ったんだな。先生、転ぶなよ」

賢者「魔法戦士君も気をつけてね…あうっ!」ズボッ

魔法戦士「だ、大丈夫?」

賢者「えぇ、大丈夫よ。ちょっと足が埋もれただけ」

魔法戦士「危ないなぁ。…よっと」ヒョイ

賢者「あっ!?」

魔法戦士は軽々と賢者を抱え上げた。

魔法戦士「子供の足には歩きにくいだろ」

賢者「わ、私、最近雪のせいで出不精になってて~…前より重くなってるかもしれないわよ?」アセアセ

魔法戦士「大丈夫だって。今の先生は軽い軽い」

賢者「『今の先生は』って何よぅ」ムゥ

魔法戦士「あはは、ごめんごめん」

魔法戦士の力なら、元の賢者でもきっと軽く持ち上げられると思う。
…けど元の賢者なら恥ずかしがって、抱えさせてくれないだろうけど。

賢者「けど、こうしてると魔法戦士君、何か……」

魔法戦士「…んっ?」

賢者「トナカイさんみたいね♪」

魔法戦士「……はい?」

賢者「ほら、今の私はサンタだから。魔法戦士君はサンタを乗せるトナカイさん!」

魔法戦士「先生…サンタが乗ってるのはトナカイじゃなくて、ソリだからね……」

賢者「あぁ、そうだったわねぇ」フフ

魔法戦士(トナカイかよ……)

もうちょっとこう、王子様とまで言わなくていいけど、格好いい例えがあるんじゃないか…。
トナカイが悪いとは言わないけど、草食動物だし。

魔法戦士(つーか俺、完全に男として意識されてねーしっ!!)

賢者「くしゅん」

魔法戦士「あ、寒い? 先生」

賢者「そうねぇ~、ちょっと冷えてきたわね」

魔法戦士「なら…はい、これで暖まって」バサッ

先ほどプレゼント交換で当てたマフラーを賢者の首にかける。
長めのマフラーは、小さな賢者の体にはもふもふ感がある。

賢者「あら魔法戦士君、いつからそんな紳士になったのかなぁ? ふふ、王宮で開かれるパーティーで学んだのかしら?」

魔法戦士「からかうなよ…」

また賢者は、子供の成長を見守るような言い方をする。
自分は誰にでも紳士なわけじゃない。賢者が相手じゃなければ、こんなこと――

賢者「ほら、魔法戦士君も寒いでしょ」バサッ

魔法戦士「あ……」

賢者はマフラーの余っている丈を魔法戦士の首に回した。

魔法戦士(これ…恋人巻き…)

賢者「ふふ、これで魔法戦士君も風邪ひかないわねぇ~」

魔法戦士「……」

賢者「あ、家が見えてきたわ。降ろしてくれて大丈夫よ」

魔法戦士「あ、うん……」

賢者はマフラーを外して魔法戦士の手から降りた。

賢者「送ってくれてありがとう。少し暖まっていかない、魔法戦士君?」

魔法戦士「あ、いや……」

賢者「寒いでしょ。お茶くらいなら淹れるわよ」

魔法戦士「だ、だ大丈夫だから! それじゃあね、先生!」ダッ

賢者「あっ! 転ばないでね~」



魔法戦士「……」


賢者『ふふ、これで魔法戦士君も風邪ひかないわねぇ~』


賢者の様子に照れはなかった。魔法戦士1人で動揺して、意識してしまって。

魔法戦士(くっそ、何か悔しい~…)

魔法戦士は恥ずかしくてマフラーに顔を埋めた。
マフラーには、まだ賢者の温もりが残っている。

魔法戦士「……熱い」

魔法戦士(こんなザマじゃ、まだまだ胸を張って先生を迎えに行けないよな~…)

どうしようもない年齢差。
自分が「大人の余裕」を身につけられるようになるまで、まだまだ時間がかかりそうだ。

魔法戦士(…でも! 絶対に一人前の男になってやるからな!!)

魔法戦士「それまで待ってろよ、先生ーっ!!」



賢者「へくちっ」

賢者「うーん、風邪ひいたかしら? 今日は早く寝よう~っと…」

パジャマに着替えようとしたが、ふと思いついた。
せっかくサンタのコスプレをしているのだし、今日はクリスマスだし…。

賢者「上手くいくかしら…星空魔法っ!」



魔法戦士「……んっ」

魔法戦士「おぉ…すっげぇ、空がキラキラだ」

魔法戦士(先生と一緒に見たかったなぁ。先生も、この星空見てるかなぁ)



賢者「ふふ。上手くいったわ~」

クリスマスイヴを彩る星空魔法は上手くいった。
これが自分から皆に贈るクリスマスプレゼント…なんて、サンタを気取ってみる。


賢者「星空さん、どうぞ皆さんを照らして下さい…メリークリスマス♪」



Fin






あとがき

賢者サンタから皆さんへメリークリスマス♪
スピンオフより過去の話なので2人の距離感もこんな感じです。頑張れ魔法戦士。
posted by ぽんざれす at 18:38| Comment(2) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【クリスマススピンオフ】介護ヘルパーシリーズ

介護ヘルパーシリーズのスピンオフです。





今日はデイサービスでのクリスマスパーティー。

ヘルパー「皆さん、メリークリスマス!」

勇者「楽しみだなぁ」パチパチ

女騎士「性夜祭だと!? おのれオーク、一晩かけて女を蹂躙する気か…!」

魔王「あ、ああぁ~……」


新人ヘルパー(介護施設でのクリスマス…一体どんなことをやるのかなぁ)

新人ヘルパー(しかも集まったのは濃いメンツだし…何か心配だなぁ)





魔王「……」ボー

ヘルパー「魔王さーん! クリスマスだよ、ク・リ・ス・マ・ス!」

魔王「……」ニコ

ヘルパー「あらぁ魔王さん、いい笑顔ー! ほら見てー、クリスマスツリーもキラキラだー」

新人ヘルパー「介護職員皆で飾り付けしたんですよー」

勇者「ワシも飾り付けしたの」

ヘルパー「うんうん、そうだったねー。勇者さんありがとうねー」

勇者「ワシ若い頃はね、魔王討伐の旅しとったからクリスマスも関係なかったの」

ヘルパー「あらぁ苦労したんだねー。クリスマスでも休めなかったんだー!」

勇者「夜、宿についてね、簡単なパーティーをしようってことになったの。けどケーキ買うのに、えーとどれくらいだっけ…1時間かぁ、2時間くらい並んだかねぇ~」

ヘルパー「クリスマス当日だからねー!」

勇者「でね、寒いのを堪えてようやくケーキを買ってね、宿に戻ってパーティーしよう~ってなったんだけど、丁度そのタイミングで街にオークの襲撃があってね」

女騎士「何っ、オーク!?」

勇者「そうそう。オークがね、こう…大きなこん棒を振り回しとってー」

女騎士「おのれオーク…肥大化させたこん棒(意味深)を街中で振り回すとは、何たる破廉恥!」

勇者「それでね、ワシらケーキをほっぽりだしてオークを倒しに出たんだけど、その時にね、えーと…何だったっけ」

ヘルパー「うんうん、色々あったんだねー! それじゃあ今日は若い時の分まで楽しんじゃおうかぁ!」

魔王「ふがー!」

新人ヘルパー(話の続きが気になる……)





新人ヘルパー「今日は楽隊とか近所の幼稚園とかから人が来て、催し物をやって下さるんですよね」

ヘルパー「うん、お昼ご飯までは催し物だねー」

新人ヘルパー「その間は利用者さん達の見守りや、時間を見ながらのトイレ誘導をすればいいんですか?」

ヘルパー「大体そうだねー。あと、持病がある利用者さんもいるから気をつけてね」

新人ヘルパー「持病…女騎士さんが催し物をして下さる方々をオークと見間違えたり?」

ヘルパー「女騎士さんがオークに見えるのはヘルパーだけだよ。それよりも魔王さんを注意してて」

新人ヘルパー「魔王さん? …あ、手品ショーが始まります」


~♪


勇者「おぉー」パチパチ

女騎士「なっ…みかんがりんごに変わっただと!? バカな…何か魔法を使ったのか!」

新人ヘルパー「わぁ、皆楽しんでるなぁ」

魔王「ふっ…ふっ……」

ヘルパー「しまった、魔王さんが興奮し始めた! ”高血圧波”が発動してしまう!!」

新人ヘルパー「ええええぇぇ、皆逃げてえええぇぇ!!」

魔王「ふがあああぁぁ!!」

ぐぁんぐぁん

新人ヘルパー「うわあああぁぁぁぁ」



新人ヘルパー「」ピヨピヨ

女騎士「ふっ、この程度の振動魔法など、私にとって回避は容易い!」

勇者「魔力の流れを読むことが大事だねぇ」

新人ヘルパー(そうだった…この人たち、高レベルの猛者揃いだった)

ヘルパー「魔王さーん、深呼吸~。すー、はー」

魔王「すー、はー」

新人ヘルパー(何で先輩も無事なんだ)





その後これといった問題もなく催し物は進行し、やがて昼食時間となった。

ヘルパー「今日はご馳走だよー! どうぞ召し上がってくださーい!」

女騎士「ふん! オークの施しなど……」

勇者「ワシの好物だぁ」ニコニコ

女騎士「ど、どうせ媚薬でも入って……」

勇者「美味い美味い」ニコニコ

女騎士「……」グ-

勇者「食わんのかい?」

女騎士「くっ…本能を刺激するとは卑怯な……ッ!! あぁッ、手が止まらないっ!!」

新人ヘルパー「はい、魔王さん、あーん」

魔王「…」ブンブン

ヘルパー「あ、ごめんね。刻みにしておかないと食べにくいよね。今、切ってくるからねー」

魔王「…」コクリ


新人ヘルパー「せっかくのクリスマス料理も刻みにしたら見栄えが良くないですね」

ヘルパー「クリスマス仕様の紙皿に乗せるだけで大分違うよ」

新人ヘルパー「確かにクリスマス気分を多少は味わえますが…」

ヘルパー「要介護になると、あんまり自分から出歩けないからね。こういう行事の時に違う雰囲気だけでも感じてもらうのって、いいことなんだよ」

新人ヘルパー「なるほど」


ヘルパー「魔王さーん、お待たせしましたー」

魔王「…」ニコニコ

新人ヘルパー(この笑顔…もはや魔王ってのは名前だけだな)





勇者「ふぅ、食った食った」

女騎士「もう、らめ…ぇ」トローン

ヘルパー「3時のおやつにケーキ用意してるからね~。それまでの腹ごなしに、ゲームしよう!」

新人ヘルパー「風船バレーでーす。落ちないようにポンポンしましょう~」

ヘルパー「いくよー、勇者さん。はーい」ポーン

勇者「はいっ」ポーン

新人ヘルパー(ほのぼのしてるなぁ)

新人ヘルパー「女騎士さーん、そっち行ったよ~」

女騎士「覇っ!」シュッ、パァン

新人ヘルパー「」

ヘルパー「あら女騎士さん、見事な手刀だね~」

女騎士「勇者殿、貴殿の力はそんなものか? もっと本気で来るがいい!」

新人ヘルパー「いや本気って…勇者さん筋力も落ちてるし」

勇者「それっ」バチバチバリイイィィッ

女騎士「それが噂に名高い、雷鳴烈風波かッ!! だがッ!!」バッ

勇者「あー…割れた風船のゴムで雷を防いだんだねぇ」

女騎士「さぁ食後の腹ごなしだ…本気で来いッ、勇者殿ッ!!」バッ

勇者「仕方ないねぇ」バッ

シュバッシュバッドガガガガッ

ヘルパー「あらぁ、2人ともレクで興奮してるねぇ。血圧上がりすぎなければいいけど」

新人ヘルパー「レク!? あれがレク!? 血圧どころじゃないですよ!?」

魔王「すやすや」

ヘルパー「あらー魔王さん居眠りしちゃったねぇ」

新人ヘルパー「この状況で!?」

勇者「覇ぁっ」バリバリィッ

女騎士「なんのっ!」カキンカキィン

新人ヘルパー(女騎士さん、ついに箸で魔法を弾き出したよ…何なのこの高齢者)





>3時


女騎士「この、白くて口の中でとろけるぬるぬるが…っ、私の舌を犯していくううぅぅっ!」

新人ヘルパー「ケーキの感想とは思えない…」

勇者「美味しいねぇ」

魔王「ん~」コクッ

新人ヘルパー「皆さん食べ終わりましたね」

ヘルパー「そうだね。音楽を流して…っと」

♪じんぐるべーるじんぐるべーる

施設長「やぁ」

勇者「おや、サンタさんだ」

女騎士「真っ赤なオーク!? 新種かッ!!」

魔王「ん~」

施設長「今日は皆の為にプレゼントを持ってきたよ」


新人ヘルパー「中身はヘルパー皆で書いたメッセージカードと靴下ですよね」

ヘルパー「利用者さんごとに違ったプレゼントにしたら不公平だからね」

新人ヘルパー「メッセージカードなら心がこもっていて、いい記念品になりますよね」

ヘルパー「というか介護施設が増えすぎて施設同士で利用者さんの取り合いをしているせいで、うちの会社は年々利用者さんが減って赤字でね。だから経費節減の為にプレゼントもなるべく安く収めろという上からの指示で…」

新人ヘルパー「聞きたくない聞きたくない」


勇者「嬉しいねぇ」

女騎士「オークからのプレゼント…だと!? ま、まぁ今日は特別に休戦だ、受け取ってやろう!」

魔王「…」ニコニコ


ヘルパー「ほら見て、皆の顔を! 大事なのはお金をかけることじゃない、皆の笑顔だよ!」

新人ヘルパー「う、うーん? いいのかな、それで……」





こうして楽しいパーティーはお開きとなった。


勇者「ワシは風呂に入りたいのう」

女騎士「何っ…風呂!?」

魔王「ふ、ふろぉ」


ヘルパー「楽しかったなぁ。行事って利用者さんが喜ぶから、大事なことなんだよね~」

新人ヘルパー「イベントっていい刺激になるんですね」

ヘルパー「そう。さて、クリスマスの次はお正月だ、頑張ろう!」

新人ヘルパー「…利用者さんは楽しいと思うんですけどね」

ヘルパー「うん?」

新人ヘルパー「介護施設ってどこも人手不足だから、行事の時って基本的に職員全員出勤じゃないですか。利用者さんはイベントで楽しんでいるけど、介護職員はイベントの日に仕事だわ、行事は多忙なのに特別手当もないわ、大体基本的にブラックだから休みもろくに取れないですよね」

ヘルパー「うーん? まぁ、そういう考え方もあるけど…」

新人ヘルパー「私、今日でこの仕事辞めます」

ヘルパー「え?」

新人ヘルパー「やっぱり仕事内容が安月給に見合わないし、私この仕事合いません。それじゃあ」

ヘルパー「……」

ヘルパー「また人が辞めちゃったなぁ~」


介護業界の人手不足は、業界全体で深刻な問題となっている。
給料安い、汚い、きついの3Kと言われる仕事だが、労働力不足により現場は年々きつくなっている現状がある。
頑張れ介護ヘルパー、負けるな介護ヘルパー。お年寄りの老後の生活は、君たちにかかっているのだ!!


Fin




あとがき

何つーオチだ!
その介護施設によって待遇は全然違うので、新人の言うことは決して間に受けないように!
posted by ぽんざれす at 18:37| Comment(2) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月09日

【スピンオフ】魔女「不死者を拾いました」

魔女「不死者を拾いました」のスピンオフです




もしも、あの時こうしていれば――


過去を振り返ることがよくある。特に『後悔』というものは、長く生きれば生きる程積み重なっていくものだ。

私の心には、今でも消えない傷がある。

失ったものは取り戻せないから、余計に惜しくなる。


もしも、あの時こうしていれば――


私はまた振り返る。未練を抱いているものは、既に失ったものだと解りながらも。


魔女「…戻れたらいいのに」


彼と過ごせた尊い時間に。
例え、ハッピーエンドにならないとわかっていても。


魔女「もしも、あの時――」


私はまた、後悔を繰り返す。







魔女「…っ」


突如、目の前の景色が変わった。

理解が追いつかず頭がぽやっとする。
さっきまで部屋で研究をしていて、それで――



不死者「…っあぁ!!」

勇者「痛いかよ、でももうすぐ死ぬんだからギャーギャー騒ぐんじゃねぇ!!」


魔女「……えっ!?」


目の前では、両手を失った不死者さんが勇者さんに襲われていた。

魔女(…どういうこと!?)


不死者さんは死んだ。それは何年も前の出来事のはず。

なのに目の前にいる不死者さんは、生きて苦痛に顔を歪めていて――

魔女「…あっ!」


思い出した。確かこの後、不死者さんは勇者さんに――


勇者「次は…ほらあぁ!!」

不死者「ぐあああぁぁっ!!」


片足を吹っ飛ばされる。
勇者さんが次に狙うのはもう片方の足。

両手両足を切断し、最後には――



魔女(…させないっ!!)ダッ


――あの時と同じ結末は。


私は考えるよりも先に動いていた。

このままだと私はずっと後悔することになる。
もしも、あの時こうしていれば――そんな思いをずっと抱いて。

その「あの時」が今こうして、やってきたのだ。


魔女「やめて下さいっ!!」

私は不死者さんを庇うように、2人の間に入った。


不死者「お嬢…ちゃん?」


これは「あの時」にはなかった展開。
だけど――やり直したからには絶対に、


魔女「不死者さんを、殺さないでぇっ!!」


――後悔しない道を選ぶ。


勇者「どきな…! じゃないと、あんたも殺すぞ!!」

勇者さんは興奮して声を荒げている。
無理もない。不死者さんは勇者さんにとって、恋人の仇。その仇を討とうという時に、興奮するのは当然のことだ。

だけど。

魔女「…どきません」

足が震える程、怖いけど。

魔女「不死者さんを殺させない…!」

だけどここで退いたら、絶対後悔するから。

魔女「殺すなら、私を先に殺して下さい!!」


もう残されるのは、嫌だから。


だけど――

不死者「バカやってんじゃねぇよ」

魔女「不死者さん!?」

手を失った腕を体に回され、私を引き止めた。

不死者「勇者…標的を誤るなよ?」

勇者「…俺だってその魔女は殺したくない。お前が大人しく命を差し出せ」

不死者「そのつもりだ…」

そう言って不死者さんは、足を引きずりながら前に出ようとしたけれど。

魔女「駄目っ!」

私は、彼の服を掴んで止めた。

不死者「おい離せ!」

魔女「いや、いやですっ!」

不死者さんに引き離されそうになったけど、私は彼に抱きついた。

魔女「不死者さんが死ぬなんて、そんなの駄目! 嫌です!」

不死者「はっ?」

不死者さんは呆気にとられたような顔をしている。
理由はわかる。だって、不死者さんは――

不死者「何言ってんだよ、俺は元々死ぬつもりだったろ!?」

魔女「わかっています……でも、駄目なんですーっ!!」


そう、わかっている。それが、不死者さんが私の側にいてくれた理由だから。

魔女「大事なんです、不死者さんのことが! 不死者さんは私に、あったかい時間をくれた人だからぁ…っ、嫌です、不死者さんがいなくなるなんてイヤぁ!」


理屈なんかじゃない。これは私のワガママ。だけど私は子供のように泣き叫ぶ。
これだけは、譲れないから。

不死者「…っ、そんなこと、言うなよ……」

不死者さんは困ったようにそう言うと勇者さんを見る。

不死者「おい、早く俺の心臓を突け。…じゃねぇと、俺も揺らぎそうだ」

勇者「あぁ…」

魔女「あ…っ」

勇者さんは剣を構える。その瞳は、不死者さんを映している。

勇者「死ね――っ!!」

刃が不死者さんに迫る――


不死者「――っ」

魔女「だめえええぇぇっ!!」


勇者「っ!?」

不死者「は…っ!?」


飛び出したと同時、熱いものが胸を貫き、焼けるような痛みが走った。


魔女「う…っ」

不死者「お、おいお嬢ちゃん!」


強烈な痛みに目眩がして、私はその場に倒れてしまった。


勇者「チッ…狙いを外した」

不死者「しっかりしろ! おいっ!!」

魔女「コホッ…不死者さん……」


意識が遠くなる。だけど目の前に不死者さんがいることが、嬉しかった。

魔女「良かった…ぁ」

不死者「何が良かったんだよ!?」

魔女「だって私…もう、置いていかれること、ないんだもん……」

不死者「……っ!!」


こんなに痛いの初めてで、泣きそうになる。
だけど残される痛みよりは、遥かにマシ。


魔女「失うのは、いやなんです……」

私は不死者さんの首に手を回した。

魔女「不死者さん、私――」

そして少し強引に、彼の頭を引き寄せる。

魔女「ん――」

不死者「――っ」

魔女「…えへへ。キス……しちゃった」

不死者「お嬢ちゃん――」

幸せだった。例えこれから死ぬとしても――
だけど、これが自分達に許された、最高のハッピーエンドの形だと疑わなかった。

不死者「おい…目ぇ覚ませ、おいっ!!」


そして私の意識は、最高潮の幸せを感じたまま途絶えた。









覚えていますか? 私達の出会いを。


不死者『何回何十回何百回痛みを与えられても死ぬ事ができない!! あとどれ位死ぬような痛みを与えられながら生き地獄を味わわねばならんのだ、魔王オオォォ!! ふはっ、はははは…』

魔女『…ぃ、ぇぅ…』ブルブル

不死者『…ん?』

魔女『怖いよおぉ~』


第一印象は怖い人でした。
だって貴方は目つきは悪いし、狂気に憑りつかれていて…今思い出しても、とっても怖いです。


不死者『こんな体になって10年、俺はいい加減死にたくなってきた。魔女なら何とかできるんじゃないのか』


そんな貴方が気の毒で、私は協力を申し入れました。


魔女『グスッ実は私調合グスッ下手なんですシクシク』


失敗ばかりで、私は駄目な魔女なんです。


不死者『怒ってない、怒ってないから泣くな、な?』ポンポン


そんな私を慰めてくれる頭ポンポンが、大好きでした。


不死者『大丈夫だ。女の方がデリケートだからな』


貴方はいつでも優しくて、あったかくて。


不死者『でも、あんたでブスなら、あいつらもっと悲惨だと思うんだけどな』

不死者『じゃあ俺が側で見ているから、油断せずにやってみ』

不死者『もっと自信持て~』ポンポン


貴方との思い出は、全てが宝物なんです。

今度は――絶対に後悔しません。



――不死者さん、貴方に出会えて良かった。








魔女「……ん」

目を開けると見慣れた天井。
ちょっと肌寒くて、それに体がズキズキする。

この状況は――


不死者「…起きたか」

魔女「!」

側に不死者さんがいた。
2人とも生きてる――その事実に興奮して、起き上がろうとしたけど、

魔女「痛っ…」

不死者「無理すんな。傷は深いぞ」

魔女「あうぅ」

寝たままお話するのはちょっと恥ずかしい。
格好も、こんなパジャマだし――って、パジャマ!?

魔女「ふ、ふ、ふ、不死者さん、こ、この服っ」

不死者「あぁ…血まみれだったから着替えさせた」

魔女「…グスッ」

不死者「おぉい!? 悪かったごめん! でも女手がないし、血まみれの服のままにしておくわけにもいかないだろ!?」

魔女「違うんですぅ…こんなちんちくりんな体、恥ずかしくて」シクシク

不死者「…ばーか」

不死者さんは顔をプイッとそむけた。

魔女「…あれから、どうなったんですか? 勇者さんは…」

不死者「…あぁ」





>回想


不死者「お嬢ちゃん!? おい、目ぇ覚ませ!!」

勇者「…チッ」

勇者は剣を鞘に収めた。そしてあるものを拾い上げ…

勇者「おい、これ、くっつけられるんだろ?」

不死者「!」

勇者が投げ渡したのは、切り捨てた不死者の手足だった。

勇者「その魔女を死なせたくはない。…お前が治療しろ」

不死者「だが…」

勇者「お前を許したわけじゃない」

勇者はその場から去りながら、こちらを見ずに言った。

勇者「俺は魔王を討つ。そうすればお前も死ぬ。…それまでの猶予が、魔女に対する礼代わりだ」





不死者「そういうわけで。何とか、命拾いした」

魔女「良かった…」

不死者「良くねーよ」

不死者さんにコツンと頭を叩かれた。

不死者「無茶しすぎだ。危うく死ぬ所だったんだぞ」

魔女「言ったじゃないですか。…残されるのは、嫌なんですよ」

不死者「……魔王が討たれれば、俺も死ぬぞ」

魔女「えぇ…それでもです」

私は不死者さんの手をギュッと握る。

魔女「不死者さんを見殺しにするよりは、いいんです。少しでも長く、不死者さんと一緒にいたいんです」

不死者「……」

不死者さんは、釈然としないといった顔をしていた。


魔女「私ね、未来から戻ってきたんです」

不死者「未来から…?」

魔女「はい。あの時の私は何もできず、不死者さんを見殺しにしてしまいました」

思い出すだけで痛い。
不死者さんを失った辛さ。見殺しにしてしまった罪悪感。

魔女「勇者さんは魔王を倒し、私は勇者さんに協力した魔女として人々に受け入れられるようになった――でも、貴方のことを引きずっていました。…そんな日々を送っていて、ある時、猫さんに出会ったんです」

不死者「猫…?」

魔女「はい。不死者さんそっくりの猫さんです」

目つきが悪くて、全然甘えてこないけど。私が怪我をしたり泣いている時は、側にいてくれる子だった。

魔女「その猫さんのお陰で、寂しさを紛らわすことができました。…でもそれは、少しの間だけなんです」

不死者「少しの間…?」

魔女「私は不老不死の魔女で、猫さんは普通の猫さんですよ?」

猫さんはあっという間に歳を取った。
最近は病気がちで、元気も無くなってきた。

魔女「そんな猫さんの看病をしている時、あぁ、私はまた1人になるのかって思って…。それで、不死者さんのことをよく思い出すようになって……」

不死者「……」

魔女「ずっと…ずっと後悔していました……」

涙が溢れてきた。
私は泣き虫だ。こんなんじゃ駄目なのに、不死者さんといる時は笑っていたいのに。

不死者「…信じられねぇ話だが、その後悔は終わりだ」

不死者さんは頭をポンポン叩いてくれた。
大好きな感触。それで不死者さんが側にいるんだって実感できて。

不死者「俺は生き残った。…ありがとうな」

魔女「不死者さぁん…」

不死者「だーかーら、泣くなって。今のあんたには看病が必要だし、魔王が倒される日まで側にいてやるから」

…そうだ、不死者さんは生き残ったけれど、タイムリミットがある。
だから、今度は後悔のないようにしなきゃいけない。

魔女「…不死者さん」

不死者「ん、どうした?」

魔女「ぎゅっとしてくれますか?」

不死者「は……?」


不死者さんを失ってから、私はこの気持ちに気付いた。
いざ本人を目の前にすると、言うのはとても恥ずかしいけれど。


魔女「私――不死者さんのこと、大好きです」


言わないと、もっと後悔するだろうから。


魔女「不死者さんと過ごした時間が、私の宝物なんです」


不死者「……」

不死者さんはちょっと困っているようだった。
その困った顔のまま、口元はちょっと笑ってくれた。

不死者「……何て言ったらいいんだろうな。えーと…」

魔女「……?」

不死者「その…嬉しいよ」

不死者さんはそう言うと、それだけで顔を真っ赤にした。


不死者「俺もな…あんたが」

魔女「はい」

不死者「その…何て言うか」

魔女「……」

不死者「えーと、だな、そのー……」

なんだかタジタジしていて、不死者さんらしくない。
しばらくそうした後、不死者さんはゴクリとツバを飲み込んだ。


そして――


不死者「っ」

魔女「――っ!」


無言のまま、私を抱きしめてくれた。
傷んでいる体を気遣ってくれてか、あまり強くはなかったけれど――


不死者「…返事は、これでいいだろうか?」


不死者さんは耳元でボソボソと言った。
きっとこれが、不死者さんの精一杯。


魔女「…はいっ」


私も不死者さんの背中に手を回す。
ずっとこのままでいい、もう離したくない――傷口が痛むのを堪えて、私は強く強く抱きしめた。





私達に残された時間は決して長くはない。
だから『その時』が来るまで、私達はなるべく一緒にいることにした。

不死者「お粥できたぞ~」

魔女「あ、ありがとうございますぅ」

不死者さんは、怪我であまり動けない私のお世話をしてくれた。

魔女「いただきま…あつぅ!」

手に上手く力が入らなくて、スプーンにすくったお粥をこぼしてしまった。

不死者「あぁ、無理すんな、食わせてやるから。ほら口開けて」

魔女「はぁーい…」

不死者「…」フーッフーッ

魔女「あーん…」パクッ

不死者「どうよ」

魔女「むぐ…はい、丁度いい暖かさです」

不死者「そうか」

不死者さんはお粥を冷ましては私に食べさせてくれた。
そんなお食事を続けている内に、思うことがあった。

魔女「不死者さん」

不死者「何だ?」

魔女「まるでお母さんみたいですねぇ~」

不死者「」

魔女「ご飯作ってくれて、あーんって食べさせてくれるんですよねぇ? えへへ、お母さんってこんな感じなんですねぇ」

不死者「…今の俺が母さんなら、今のあんたは幼児だぞ」

魔女「えっ! あ、そうかぁ!」

不死者「あーもう、黙って食え」

魔女「はぁい」

不死者(読んできた恋愛小説にこういうシチュエーション無かったのかよ…)ガックリ





魔女「お風呂入りたいぃ…」

不死者「しばらくは我慢しろ」

魔女「クサくないですか!? 私、クサくないですか!?」

不死者「クサくねーから。ほら」

不死者さんはお湯を入れた洗面器とタオルをくれた。

不死者「俺は近くの部屋掃除してるから、体拭き終わったら呼びな」

魔女「は~い」

本当はあまり力が入らないから不死者さんに拭いて貰った方がいいのかもしれないけど、恥ずかくてそれは頼めなかった。
背中にもちゃんと手は届くし、自分でできなくもない。

魔女(体拭くだけじゃ寒いなぁ~…)ブルブル

魔女(あっ…)



不死者(清拭に手間取ってないか、大丈夫か)

どんがらがっしゃーん

不死者「!?」



不死者「だ、大丈夫か!? …って」

魔女「あうぅ~」ピヨピヨ

不死者(何で上半身裸でベッドから落ちてんだよ)

魔女「う、えうっ…不死者さぁん……そこのタンスから、し、し、下着、取って…グスッ」

不死者「あーハイハイ…」

魔女(すっごく恥ずかしいよおぉ~)グスッグスッ

不死者(何だ、この罪悪感は…)





魔女「…あ、不死者さん見て下さい、外」

不死者「んー?」

カーテンをめくって不死者さんに外を見せる。
星空がキラキラ輝いていて、夜だというのに明るかった。

不死者「あぁ、なかなかいい景色だな」

魔女「外に出たいなぁ」

不死者「まだ体、思うようには動かせないんだろ?」

魔女「はいぃ…」シュン

1日中ベッドにいる生活になって、もう何日目だろうか。こんなのはもうこりごりなんだけれど、不死者さんの言う通りだ。
だけど今日の星空が綺麗で、私は未練がましく星空を見ていた。

不死者「…たく、しょうがねぇな」

魔女「えっ?」

不死者「よいしょ、っと」

魔女「きゃっ!?」

不死者さんが私を抱え上げた。
これは…この状況は……。

魔女「ふっ、不死者さん、わわ私…その、重くないですかっ!?」

不死者「ちんちくりん抱え上げて重たがる程、やわじゃねーよ」

魔女(ううぅ、ちんちくりんだけどぉ…)

不死者「じゃ、出かけるか。俺につかまってろよ」

魔女「ふ、不死者さぁん…」


ドキドキする。吐息が頬を撫でるくらい、不死者さんの顔が近い。
不死者さんの腕は力強くて、素直に体を委ねられる。

不死者「どうよ、外の空気は」

外に出ると空一面に星。
キラキラ輝いていて、私達を照らしてくれる。

不死者「…寒くないか?」

魔女「あったかいです…」

むしろ熱い。薄地のパジャマごしに不死者さんが触れてくれている。それだけで心臓がドキドキ高鳴って、私の体の熱を上げていた。

魔女「流れ星…流れないかなぁ」

不死者「何だ、願い事でもあるのか?」

魔女「えぇ、まぁ…」

不死者「あんたニブいから、願い事言う前に流れちまうだろうなぁ」

魔女「むぅ~」

不死者「…つーか魔女なら、流れ星に頼らないで自分で叶えてみれ~」

魔女「それができたら苦労しませんよぅ」

不死者さんは意地悪っぽく笑った。彼も知っての通り、私は調合がとっても下手だ。
もし私が凄腕の魔女なら、この願いは叶えられただろうか。

魔女(不死者さん……)

不死者「どうかしたか?」

魔女「いえ…」

彼はどう思っているのだろう。


少なくとも、私は――

魔女(もっともっと、不死者さんと一緒にいたい)

今こうして一緒にいられるのだって恵まれているんだって、わかっている。
わかっているんだけど、もっともっとっていう欲求が自分の中で止まらなくて。

魔女(私達に残された時間は、あとわずか……)

このまま時間が止まればいい。そうすれば、終わりの時間はやってこない。
ずっとずっと、こうして不死者さんの腕の中にいられれば、どれだけ幸せか――

不死者「? どうした」

だけど、そんなのは無理な話。


だから――


魔女「…」グイ

不死者「――っ」


不意打ちで重ねる唇。
不死者さんは驚いて、目を見開いている。

魔女「…ふうっ」

不死者「…おい、急に何だ」

魔女「えへへ……」

無理に笑う。本当は泣きたい気分なのだけれど。

魔女「星空に照らされてのキス…って、憧れていたんです」

不死者「…そうか」

不死者さんの顔は真っ赤だ。相変わらず、こういうのは慣れないみたいで。

魔女「そろそろ戻りましょうか、不死者さん」

不死者「お…おう」

この腕への未練はまだ残っているけど、これ以上不死者さんに負担をかけるわけにはいかない。
未練は手放さなければいけないものだから――


不死者「もう遅いし、今日は寝ておきな」

私はベッドに戻ってきた。
暖かいお布団。だけど、その温もりは何だか物足りない。

不死者「じゃ、俺も寝るから…お休み」

不死者さんはそう言って部屋から出ようとしたけど。

魔女「待って下さい」

不死者「っ」

私は不死者さんの服を掴んで、引き止めた。

不死者「どうした?」


私は、貴方の温もりが欲しくて――


魔女「一緒に…寝てくれませんか?」

不死者「………はい?」

不死者さんはポカーンとしていた。
わかっている。私が頼んでいるのは変なこと。

魔女「一緒にいたいんです…不死者さんと」

そうとわかっていても、私は手を離せなかった。


不死者「…俺の体大きいから、ベッド狭くなるぞ」

魔女「いいんです」

不死者「寝相とイビキは…大丈夫だって保証しねーぞ」

魔女「いいんです」

寝心地の悪さも、一緒にいられるって証になるから。

魔女「お願いします、不死者さん…」

不死者「……」

不死者さんは一旦ふぅっとため息をついた。

不死者「…わかった。寝支度整えるから、一旦待ってろ」

魔女「はい…!」





魔女「…」ドキドキ

1つのベッドに2つの枕。
すぐ目の前には大好きな顔。

不死者「…」

不死者さんの鋭い目は、今は閉じてゆったりしている。
心配していたイビキは鳴らず、静かな寝息がすぅすぅ聞こえる。
穏やかな息が私の頬を撫でて、何だかちょっとくすぐったい。

魔女(不死者さんが隣で寝てるよおおぉぉ)

私はというと興奮しちゃって眠るどころじゃなかった。
布団が暑いのは、2人分の体温のせいか、それとも高陽しているせいか。

魔女(絶対後者だよおぉ)モジモジ

不死者「…おい、どーしたよ?」

魔女「!!」

不死者さんは目を瞑ったまま言葉を発した。
寝言…じゃないよね?

魔女「ご、ごめんなさい不死者さん…起こしちゃいました?」

不死者「いや、別に。寝れないのか?」

魔女「えぇと…」

不死者「やっぱ狭いベッドに2人は寝づらいんじゃねぇの?」

魔女「そ、そそそんなことありません」

寝れないのは不死者さんが隣にいるから、ってのは確かだけど。
不死者さんは目を開けた。

不死者「…顔、真っ赤だぞ。熱でもあるか?」

魔女「うぅぅ、熱も上がりますよぅ…」

不死者「それもそうか」フッ

意味に気付いたのか、不死者さんは笑った。天然なのか、わざとなのか、私にはわからない。

魔女「わ、私なんか気にせず寝て下さい! 不死者さん、働いて疲れているんですから…」

不死者「いや、寝れんわ」

魔女「えっ?」

不死者「ほら」グッ

魔女「っ!」

不死者さんは突然、私の顔に胸を押し付けた。
急なことで私の頭はパニクりかけたけど…。

魔女(あ…)

ドクン、ドクン。不死者さんの心臓は大きく早く鳴っている。

不死者「…わかるか?」

魔女「不死者さんも……」

ドクン、ドクン。私と同じ早さ。不死者さんも、緊張しているんだ。
脈打つ心臓の音が、今は心地よい。

心臓の音、温もり。不死者さんは今、間違いなく生きている――

魔女「…ずっと、こうしていたいですね」

不死者「そうだな」

魔女「…無理ですよね」

不死者「そうだな」

勇者さんはきっと近い内に魔王を討つ。
こうしている今も、いつ命を失うかわからないのに、不死者さんの返答は軽い。

魔女「不死者さんは…怖くないんですか?」

不死者「死ねない辛さを味わってきたからな」

愚問だった。不死者さんは元々、死を望んでいたのだ。
不老不死の私にとって死の恐怖は遠い存在だけど――でも、失う辛さはわかっている。
ハッピーエンドの物語みたいなご都合主義は存在しない。

魔女(もし、また過去に戻れたら――)

勇者さんからの依頼を私は断る。
私は不死者さんと出会う。
肉体浄化の薬の依頼を不死者さんから引き受ける。
それで、薬作りの失敗を続ければ――ずっと不死者さんと一緒にいられる。

魔女(…あぁ、でもそれは駄目だ)

そうなれば魔王は討てない。訪れるのは人間にとってのバッドエンド。
こんなこと考えるなんて、私は本当に人間たちの言う『有害な魔女』になってしまったのだろうか。

不死者「正直…恨んでるよ、あんたを」

魔女「えっ?」

不死者さんは唐突にそんなことを言った。

不死者「魔王の下にいる時は、早く死にたくて仕方なかった。死ぬような痛みをいくら味わっても死ねないのが苦しくて仕方なかった。俺はずっと死ねないんだと思っていた――もう、幼馴染もいないこの世界で」

幼馴染さん。不死者さんはかつて、理不尽なお別れを経験した。
不死者さんは既に、残される辛さを経験しているのだ。

不死者「…でも、あんたと過ごした時間…久しぶりに穏やかな時間だったよ」

魔女「私との時間が…?」

不死者「まぁ、よく爆発したりで慌ただしい時もあったけどな」

魔女「あうぅ」

不死者さんはちょっと意地悪に笑った。

不死者「…でも、楽しかった。だから恨んでいる。…俺に生きる充実感を思い出させて、死ぬ決心を鈍らせて」

魔女「…死ぬ決心なんて、本来はいらないものですよ」

不死者「そうかもしれないな。けど死は受け入れないといけないもんだ」

そう言って不死者さんは頭をポンポン叩いてきた。
まるで――私の心を見透かしたように。私を、宥めるように。

魔女「…受け入れたくないです」

不死者「駄目だ。俺がいなくなっても、生きていかなきゃならないんだから」

魔女「生きてはいけます。でも…辛いです」

気付けば目から涙が溢れていた。
駄目だ。こんな顔してたら、不死者さんも未練を残してしまう。それでも、涙を止める方法なんて無くて――

不死者「本当、泣き虫だな」

困ったように笑いながら、不死者さんは私の涙を袖で拭いてくれた。

不死者「大丈夫だ…。あんたは長生きだから、色んな出会いがあるだろう」

魔女「グスッ…その度に、こうやって辛い思いをするんですか?」

不死者「生まれ変わって、何度でも会える。あんたが覚えてくれるなら、また会える」

魔女「絶対に、忘れませんよぅ…」

不死者「約束だぞ。また会えたら教えてくれよ。生まれ変わる前の、俺とあんたの思い出を」

魔女「グスッ、はいっ…何度でも、ひっく、教えますから…っ」

不死者「それ聞いて安心した。あんたが覚えていてくれるなら『俺』は無くならない」

不死者さんはそう言って、私をぎゅっと抱きしめてくれた。


不死者「感じるか? 今、俺はあんたの側にいる――忘れないでくれよ、俺のこと」


まるで体に記憶を刻み付けるかのように、不死者さんは強く抱きしめてくれた。

体が密着して、ちょっと苦しくて痛いけど――それが『一緒なんだ』っていう安心感になって。


――私、絶対に忘れません


そう思うだけで心がぽかぽかになって――


気付けば私は不死者さんの腕の中で、深い眠りに落ちていた。


―――――――
――――
―――




魔女「ん…」


どれ位眠っていたのだろう。時計は9時ちょっと過ぎを指していて、ちょっとお寝坊。
朝方の空気は寒くて、お布団への未練を手放せない。

魔女「…あれ?」

気付いた。ベッドにいるのは私1人だった。

魔女「不死者さん…?」

モゾモゾ

魔女「えっ?」

布団が動いて、腰のあたりにちょっとくすぐったい感触があった。
そして、ひょっこり頭を出したのは…。

猫「にゃあ」

魔女「え、あっ、猫さん!?」

猫「にゃー……」グウゥ

魔女「あ、ご、ごめんね! お腹すいたよね!」

慌ててベッドから出て、ご飯を用意する。
エサ入れに魚を入れると、猫さんは喜んで飛んできた。

猫「にゃー♪」

魔女「……」

魔女(不死者さん…夢だったのね)

なんだかとってもリアルな夢だった。
今でも不死者さんの腕の感触が、体に残っているような…。

猫「にゃー?」

魔女「ふふ、何でもないわ。さーて、今日も調合がんばろ…」

と、言いかけた所で異臭に気付く。

魔女「…なに、この匂い!?」

私は調合部屋に急いで駆け込んだ。
すると調合のツボから変な煙が出ていた。

魔女「え、な、何で? ……あっ!!」

猫「にゃー?」

そうだ、大樹の根は10時間以上漬けておいたら駄目なんだった。
起きてから取り出そうと思ったのに、寝坊したもんだから…。

魔女「た、大変! 今すぐ取り出さなきゃ!!」ゴツン

慌てていたせいで、棚のビンを落としてしまい…。

チャポン

魔女「え、今何入っ――」

と、その時。


ドゴオオオォォォン


魔女「きゃあああぁぁぁああぁ!?」

猫「フギャアアアァァァ」


見事な爆発だった。


魔女「ゴホゴホ…えううぅ、またお掃除しなきゃあ」グスグス

部屋も体もススまみれになってしまって、泣けてきた。



「ったく…いつになったら調合の腕を上げるんだ?」


魔女「――え?」


と、聞きなれた声があった。

目の前にいたのは――


「ほんと、ずっと変わらねーよな」

頭に猫耳を生やした、見知らぬ男の人だった。
だけど、その目つきは…


魔女「不死者…さん?」

不死者?「…よう」

魔女「…擬人化、されました?」

不死者?「…みてーだな」


目の前で起こった現象こそ夢のようで、私はしばらくぽかーんとしていた。
だけど不死者さん?はちょっと不満そう。

不死者?「何だよ、喜ばねぇのかよ」

魔女「ほ、ほんとに?」

不死者?「あぁ。…約束しただろ、また会いに来てやるって」

魔女「あ――」



不死者『生まれ変わって、何度でも会える。あんたが覚えてくれるなら、また会える』


不死者さんのあの言葉は、夢であって、でも、夢じゃなくて――


不死者?「おい、何ボーッとしてんだ?」

魔女「あぅっ、えっ、はひっ! …えううぅぅ」グスッ

不死者?「…何で泣く?」

魔女「だ、だって、だってえええぇぇぇ…」

不死者?「…あー、まぁ、言いたいことはわかる」

不死者さんはポンポンと頭を叩いてくれた。

不死者?「話は後だ。さっさと風呂入って飯食ってこい」

魔女「グスッ、いなくならないで下さいね?」

不死者?「ならねーから。ほらほら、行った行った」

魔女「はい…。あ、そうだ、不死者さん」

不死者?「ん?」


会えたら言おうと思っていた。
不死者さんと沢山やっておきたかったこと――


魔女「今日から――いっぱい、デートして下さいねっ!」



Fin


あとがき

リクエスト内容は、不死者が生きていた場合のifということで。
いや、あのですね、このssは恋愛ジャンルに置いてませんけどね、不死者と魔女は作者的に公認カップルでしてね(黙
遂に念願のイチャイチャを書けたぞー!! ってことで、リクエスト下さったづっきーに様に感謝!!ヾ(*´∀`*)ノ

勇者を切り抜けても魔王を倒せば不死者死んでしまうし、かといって魔女は魔王を倒すのを邪魔する子でもないので、こういう話の流れになりました。

書きたいシーンが多すぎて取捨選択に迷いましたが、とりあえずやりたいこと大体やりました!☆-(ノ゚Д゚)八(゚Д゚ )ノイエーイ
posted by ぽんざれす at 16:24| Comment(4) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月06日

【スピンオフ】姫「王子の代わりに戦う使命を負った」

姫「王子の代わりに戦う使命を負った」1/2 2/2のスピンオフです



山賊ボス「グッ…よくも、やってくれたなぁ…!」

山賊のボスは追い詰められていた。
十数人いた下っ端達は皆やられ、残す所は彼1人。

しかも、その彼を追い詰められている者というのは――

「……」

女だった。年の頃は若く、中性的な顔立ちの美女。
剣を構える姿は凛々しく、まるで戦女神を彷彿とさせる立ち姿だ。

山賊ボス「うわあああぁぁ!!」

ボスは女に襲いかかる。
丸太のような腕で降る大剣はかなりの殺傷力を秘めており、細身の女など一瞬で真っ二つにできそうなものだ。

しかし――

シュッ

山賊ボス「ぐあっ!?」

刃が女をかすめたと同時、女の剣がボスの手を強く打った。
女はそのまま跳躍し――ボスの鼻を思い切り蹴飛ばす。

山賊ボス「ぐおッ!? こ、この…っ!?」

立て直そうとした、その時――

首筋に冷たい感触――刃だ。
女の持つ剣が、彼の命を奪うスレスレの所で止まっていた。

「投降するか死ぬか――選ばせてあげるわ」

山賊ボス「…っ!?」

ボスの顔が真っ青になる。
この女の目――本気だ。

山賊ボス「な、何者だ、お前……」

「私? 私は――」


姫「姫――魔王を討った者、と言えば、十分でしょう」









王子「や、ややややったなぁ」ガタガタ

姫「そうですね」

縄に繋がれ、護送車に詰め込まれる山賊たちを見送りながら、姫は涼しい顔で言った。
解決したというのに、王子はまだ怯えが抜けていないようだ。

姫「数が多いだけで大した相手ではなかったです」

王子「だ、だなぁ!? お、俺がボスの相手しても良かったかもしれないなあぁ!?」

姫「……じゃあ、次からは私は出なくていいですね」

王子「んなああああぁぁぁぁ!?」

ここ最近、王子はイメージアップの為、こうして悪者退治に繰り出しているのだ。
…なのだが根は箱入りのヘタレの為、姫を毎回同行させている始末。

王子「すまんかったあぁ!! じっ、次回も来てくれ、頼むこの通りだ!」

姫(…やれやれ)

呆れたけれど、こうして自分に頭を下げられるようになっただけ、王子は成長したのかもしれない。
…といっても、決して人前ではしないのだが。

姫(まぁ、いいでしょう)

それでも、それで許すことにした。
だって、そうでもしないと『彼』に――


飴売り「いよっす~♪ 山賊退治お疲れさーん! 糖分摂取に飴はいらんかねー」

丁度姫が少し離れていた時、その『彼』が来た。
飴売りは姫に気付いていない様子だ。

王子「飴売りぃ~! 10種類の飴、全部1個ずつくれ!」

飴売り「へい、毎度あり! 王子ぃ、今日の戦果はどーよ?」

王子「あぁ…順調だったが、結局ボスは姫が倒した。くそぅ…」

飴売り「いやまぁ、姫さんの強さは規格外だから仕方ねーって!」ハハハ

王子「それはそうなんだが…くそ、姫に頭が上がらん……」

飴売り「頭が上がらない? あははは、そりゃ俺もそうだってぇ! 姫さんの怖さは大魔神級だもんよぉ、逆らうなんてとても」

姫「へぇ~? それでそれで?」

飴売り「」

姫「続きを聞かせて頂きたいですね、飴売り?」ニコニコ

飴売り「姫サンハ…気高クテ素敵ナ方デス……」汗ダラダラ

王子(まるで蛇に睨まれた小動物……)





結局その後30分間、飴売りは正座で説教される羽目になった。

飴売り「足がビリビリぃ~…」フラフラ

姫「あら、大魔神級のお叱りの方が良かったかしら?」

飴売り「勘弁して下さいッ!!」

姫「愛想がいいのは貴方の長所ですけど、口が軽すぎるのはいいとは言えませんね」

飴売り「姫さんと正反対だよね~。だから、いいんじゃない?」

姫「…どういう意味です?」

飴売り「正反対の方が互いに補い合えていいんじゃないかなぁ…夫婦って!」ニヒッ

姫「……」

姫「切る」

飴売り「ストップ、ストオオオォップ!! あ、足が痺れて、逃げられねえぇ!!」

姫「言い残したことはありますか?」

飴売り「姫さんッッッ、揚げいも奢るから許してっ、なっ、なっ!?」

姫「いいでしょう」





姫「あぁ美味しい」

飴売り「だねぇ」

公園のベンチに座り、揚げいもを食べる王族2人だった。

飴売り「ふんふん♪」

姫「どうしたんですか」

飴売りは私の方を見てニコニコしていた。

飴売り「いやぁ…美味しそうに食べるから、可愛いなぁって」

姫「っう!?」

慌てて顔を引き締める。

飴売り「照れなくていいのに」

姫「…」プイッ

飴売り「何で怒るのー」

姫(わかってはいるのよ…)

飴売りは気持ちの伝え方がストレート。彼のこういう所も、気に入ってはいる。
飴売りの言う通り、私と彼はタイプが正反対だし、私はもっと素直になるべきだと思う。

わかっては、いるのだけど…。

飴売り「大丈夫だよ姫さん、俺は素直じゃない姫さんも好きだからね?」

姫「~っ! 嫌い!」ポカポカ

飴売り「あはは、痛い痛い」

姫(しかも見透かされているし…あぁ~っ、もうっ!!)

何だか負けた気分だった。…こう思うのも、私の悪い所なんだろうけど。


姫「…あら?」

と、気配が近づくのを感じて私は空を見上げた。

翼人「ご機嫌よう、魔王子様、姫様」

飴売り「おぉ~、翼!」

飴売りの側近の翼人だ。
今は魔王城で兄王子の下で働いており、時々こうやって飴売りの元に来ることがある。

飴売り「翼~、揚げいも食う? 城では食えないB級グルメだぞ~♪」

翼人「お気持ちは嬉しいのですが…魔王子様、少しややこしい事態になっていまして」

飴売り「あ? どしたよ」

飴売りはあまり深刻でない様子で答える。
彼は悪口を言う人ではないから直接聞いたことはないが、それでも兄を軽く見ている所は感じ取れる時がある。
今回も「どーせまた兄貴が~」程度に思っているようだ。

だが、対して翼人の顔は深刻で…。

翼人「その…あやかしの国の方が、魔王子様に直接お会いしたいと…」

飴売り「あ、姫さん、あやかしの国ってのは異世界にある国の1つだ。次元魔法によって、互いの国の交流をはかっている」

姫「なるほど」

異世界の存在は聞いたことがあるが、こちらに直接影響したことはないのでお伽話のようなものだと思っていた。
でも流石は魔王の一族、異世界とも交流があるとは。

飴売り「で、そのあやかしの国の者が俺に何の用だ?」

翼人「実は…あやかしの国の姫君、妖姫様が魔王子様を気に入ったらしく」

飴売り「……はい?」

姫「へーえ?」ギロリ

翼人「是非、あやかしの国に婿入りしてほしいと……」

飴売り「ちょ、ま、ま、待ーっ!?」

飴売りは、ものすっごく慌てていた。

飴売り「そもそも妖姫さんとか知らんし、何で向こうは俺を知ってるのかなぁ!?」

翼人「はい…実は魔王子様の肖像画を見られてですね」

飴売り「あー、俺イケメンだからなー…。じゃなくてぇ!! 断るに決まってんだろそんなん!」

翼人「それが…妖姫様は厄介な方でして」

飴売り「何? 厄介って…」

翼人「大変わがままな方らしく、欲しいものが手に入らないと癇癪を起こすようで…」

飴売り「俺の苦手なタイプじゃねーか……」

翼人「魔王子様と結婚できないのなら、我々の国に攻め入るとまで言っているとか……。それで、兄王子様が頭を抱えております」

飴売り「兄上、完全になめられているな…。どうしろってんだよ……」

姫「………」ジー

飴売り「も、勿論断るよ姫さん!? 俺は姫さんがいいって心に決めてるんだよ!!」

姫「なら、貴方が直接断ってくるべきですね」

飴売り「やっぱ、そうなりますよねー」

翼人「問題は、妖姫様を逆上させないかということですが……」

飴売り「そこだよなー……」

姫「狂戦士の仮面は、まだ使えるんですよね?」

飴売り「え? ま、まぁ」

姫「なら逆上されても大丈夫。返り討ちにしてきなさい、飴売り」

飴売り「…姫さーん? 発想が物騒すぎやしませんかねー?」

翼人(妖姫様よりこちらの姫様の方が恐ろしい…)


こうして飴売りは、一旦里帰りすることになった。





翼人「魔王子様がさらわれました」

翌日、そんな知らせがやってきた。

姫「…負けたの飴売り。何て無様な……!!」

王子「開口一番それかよ!?」

姫「狂戦士の仮面をつけた飴売りが負ける程だったの?」

翼人「妖姫様は、長い髪の毛を触手のように操る技を持っていまして。その技で仮面を剥がされました」

姫「仮面のない飴売りの実力は、たかが知れていますからね」

王子「おい…。一応お前の恋人……だよな?」

姫「飴売りは今、あやかしの国に?」

翼人「はい」

姫「なら…」ピィー

笛を吹くと、獣人が駆けつけてきた。

姫「獣人、あやかしの国に攻め入るわ。すぐに準備を」

獣人「ハッ」

翼人「あやかしの国には私が案内しましょう」

姫「支度は3分で済ませます」スタスタ


王子「………」

王子「迷いも心配する素振りもねーのかよ……どんだけ男前だよ」

翼人「頼もしいお方ですね」





>あやかしの国


空は暗い赤色、カラスに似た怪鳥が空で奇声を発している。
空気が濁っているのを肌で感じる。

これが、異世界か――

姫「不気味な場所ですね…」

翼人(おや。初めての異世界で、流石に恐怖を覚えているのだろうか?)

姫「飴売り、今頃怯えているでしょうね…。妖姫とやら、私を怒らせたらどうなるか…後悔させてあげる」ゴゴゴ

翼人(…そんなわけなかった)

獣人「姫様…周囲に、何者かが潜んでおります」

と、獣人が言ったと同時――

姫「!」

周囲から魔物(この世界では、あやかしと呼ぶそうだ)が出てきて私達を取り囲んだ。
相手は約20匹…とても面倒だ。

あやかし「招かれざる客人よ、あやかしの国に何の用だ」

姫「この国に、私達の世界の者がさらわれた。だから迎えに来た、それだけだ」

あやかし「今すぐ立ち去れ。あの男は妖姫様が見初めた婿殿…返すわけにはいかん」

姫「馬鹿言ってるんじゃありませんよ」

私はゆっくり剣を抜く。
穏便に済むならそうするつもりだけど、どうもそうはいかないらしい。

姫「妖姫に伝えておきなさい。彼は、私のものだとね」

あやかし「妖姫様の邪魔をするかッ!!」

あやかし達が一斉に襲いかかってきた。
なら――仕方あるまい。

姫「先に仕掛けてきたのは…そっちですからね!」

真正面のあやかしを一刺し。すぐに剣を抜き、横にいた2匹をひと振りで切る。
背後から一擊が襲ってきたが――跳躍し、これを回避。ついでにあやかしの脳天に蹴りを叩き込んでやった。

姫「はあぁ――っ!!」

1匹、また1匹と確実に仕留める。
こいつらは魔王城の魔物と大差ない。ということは――

姫「全員、倒せる…!」

獣人「姫様、あまり飛ばしすぎぬよう」

かく言う獣人も、既に5匹ものあやかしを叩き潰していた。

翼人「流石、魔王様を討たれた姫君――ですが」

姫「!」

気配を察知し後ろに跳ぶ。
すると地面から、わらわらと複数のあやかしが生えてきた。

姫「…まだいたわけ」

翼人「魔物もあやかしも、有象無象程数が多いものです」

獣人「まともに全員相手してられませんね」

姫「そうね」

襲いかかってきたあやかしを真っ二つにすると同時、私は獣人の背中に飛び乗った。

翼人「私についてきて下さい」

襲いかかってくるあやかしを跳ね飛ばし、獣人は真っ直ぐ駆けた。
向かうは飴売り、一直線。今頃ひどい目にあっていなければいいが…。





>あやかしの城


飴売り「……」

食卓に座らされた飴売りだが、用意された豪華な食事に手をつけようともしなかった。
この国に来てから提供された食事には手をつけず、持っていた飴だけで凌いでいた。

それは飴売りをここに連れてきた元凶――食卓を挟んだ向こう側にいる、彼女への抵抗だった。

妖姫「のう、少しは手をつけたらどうじゃ?」

飴売り「……」プイ

妖姫「つれないのう。そんなに嫌かえ?」

飴売り「あー、嫌だね!」

妖姫からかけられる言葉には、全て拒絶で返す。

飴売り「俺には心に決めた人がいるって言っただろ。好きでもねー女に好意向けられても、迷惑なんだけど?」

妖姫「おやまぁ」

妖姫は目を大きく見開いて、驚いたような顔をした。

妖姫「そう言われたのは初めてじゃ。あやかしの国の妖姫といえば、国中の男の憧れじゃぞ?」

飴売り「……」

妖姫は可愛らしい少女だ。実年齢は飴売りより上と聞いたが、容姿も声も幼く、背丈も小さい。
だが玉のような白い肌に施した薄化粧は、どこか妖艶な雰囲気を漂わせる。黒く流れる長い髪の毛はそれに対比し、清楚でもあった。

妖姫「のう、お主の想い人は、わらわより美しいのかえ?」

飴売り「あぁ、比べるまでもなくな」

飴売りは迷わず答えた。

姫は確かに中性的で、男装をしても違和感がない程だ。女らしさならば、確かに妖姫の方が上かもしれない。
だとしても――

飴売り「姫さん以上の人はいねーよ」

それだけは揺らがない。

飴売り(姫さんは――)

国の為に戦い続けてきた。彼女は強く、気高く、孤高な人間だ。男である自分より、ずっと男前な気質の持ち主でもある。
そんな内面の気高さがにじみ出ている姫は、美しい。
それだけではない。姫には可愛らしい一面も沢山ある。自分はそんな一面を知れば知る程、彼女に心を奪われていった。

飴売り「俺は姫さんが好きだ。軟禁されたとしても、俺の気持ちは変わらねーから」

妖姫「っ、わらわでは、入り込む隙間もないと申すのか」

飴売り「当たり前だろ。例え俺が独り身だったとしても、お前にはなびかねーよ」

妖姫「!!」

飴売り「俺、ガキっぽい女は趣味じゃねーんだよ」

妖姫「ガ、ガキ…!?」

飴売り「その上、ワガママで癇癪持ちとか、ゼッテー好きにならねータイプだわ」

妖姫「…っ」

飴売り「っつーわけだ諦めろヒステリー女。お前の顔見るだけで不愉快になってきたわ~」

妖姫「!!!」

妖姫はワナワナと震えていた。
逆上されるだろうか…だが、嫌われるには十分だろう。

飴売り(さー怒れ怒れ。それとも、もっと言ってやろうか)

…だが。

妖姫「…ぐすっ」

飴売り「……へ?」

妖姫「びえええええぇぇぇぇ!!」

飴売り「!!?!?」

唐突な奇声に飴売りはただただ驚いた。
妖姫の泣き様は子供…いやもう、幼児並だ。
顔は涙と鼻水に濡れ、可愛らしかった容姿はクッシャクシャになっている。

飴売り「お、おい!?」オロオロ

妖姫「うあああぁぁん、ひどいこと言ったぁ、びええええええぇぇ!!」

飴売り「あのぅ!? いや、先にひどいことしたのそっちじゃん!?」

妖姫「わらわは、魔王子のごどずぎなのにいいぃぃ、うああぁぁああぁん!!」

飴売り(ええぇ!?)

相手の言い分はただのワガママだが、こんなに泣かれては罪悪感が少し芽生える。
こういう時は頭でも撫でてやって宥めるべきかもしれないが…。

飴売り(駄目だ駄目だ駄目だ! 仏心出したら駄目だっ!)ブンブンッ

妖姫「うあああぁぁ、魔王子のばかあぁぁ、ごんなに、ごんなにずぎなのに、びええええええぇぇぇ」

飴売り(無視、無視!)

妖姫「グスッ…良いわ、こうなったら力ずくでものにしてやる!!」

飴売り「…へっ?」

その時、飴売りの体に何かが巻き付いた。
これは…妖姫の髪の毛だ。
振りほどこうとした時にはもう遅く、飴売りの体は拘束されていた。

飴売り「くっ!?」

妖姫「既成事実さえ作ってしまえば、お主はわらわのものじゃ」

飴売り「き、既成事実って……」

冷や汗が流れる。
既成事実というのは勿論、あれのことだろう…。

飴売り(いや、ちょっと待て…姫さんとも致したことないんだぞ!?)

というか、人生で1度も致したことがない。だというのに、こんな形で奪われるなど…。

飴売り「ちょちょちょっ、待て!? は、はは話し合おう!?」

妖姫「ほうれ、近う寄れ」ズルズル

飴売り「イヤアアァァ、ヤメテエエエエェェェ!!」

妖姫「そう甲高い声をあげるでない。男前が台無しじゃぞ? まずは接吻から…」

飴売り「ヤダアアアァァ!! ダメ、ダメ、キャアアアアァァァ!!」

じたばた暴れて抵抗する。飴売りはほとんど錯乱状態だ。
だが抵抗虚しく、妖姫の顔はどんどん近づいてきて…。

妖姫「さぁ…!!」

飴売り(姫さあああぁぁぁん!!)



――シュバッ


妖姫「――っ!」

飴売り「あ…あわわ」


妖姫はバッサリ切られた髪を見ながら呆然としていた。
そして、彼女の蜜事を邪魔したのは――


姫「全く…どこの乙女の悲鳴かと思いましたよ」

飴売り「ひ、ひめひゃぁん」

姫はその腕に、しっかりと飴売りを抱えていた。
一方で気が抜けた飴売りは、呂律も上手く回っていなかった。

姫「よしよし飴売り。あとは私に任せて下さい」

翼人「魔王子様、ご無事で何より」

飴売り「怖かったよ~…」


妖姫「お主が魔王子の想い人かえ…!」

姫「えぇ、そうですよ」フフン

妖姫「よくもわらわの髪を……」ワナワナ

姫「あら、髪の毛だったんですか? お行儀の悪い触手かと思いましたわ」

女2人は早速睨み合っていた。
片や憎々しいと言わんばかりに、片や余裕を浮かべながら。

妖姫「美しいと言うからどんな女かと思ったが、男前な出で立ちじゃのう。色気がない」フン

姫「でも、彼に愛されていますし」

妖姫「ぐっ! ま、魔王子は見る目がない男じゃのう!」

姫「負け惜しみとは見苦しいですわ、妖姫さん?」フフ

妖姫「キエエエエェェイ!!」


翼人「姫君の方が一枚上手のようだな…」

飴売り「あぁ姫さん…相手を蔑むような態度の姫さんも素敵だ」ウットリ

獣人「どっちが姫なのだか、わかったものではないな…」


妖姫「この色気なし女があぁ! わらわを侮辱しおって、許さぬぞおおぉ!!」

妖姫は髪の毛を伸ばし、姫に襲いかかった。

姫「ハアァッ!」

一擊で髪を弾く。

妖姫「なかなかやるのう…では、これはどうじゃ!!」

今度は四方八方から襲いかかってきた。
姫は跳躍してこれを回避、この程度の攻撃なら見切るのは容易い。

姫(飴売りの狂戦士の仮面は思考能力が落ちるから、こんな攻撃に対処できなかったわけね)

妖姫「クッ、おなごの癖にやるのう…!」

妖姫は悔しさからかブルブル震えた。そして…

妖姫「この、雌ゴリラが!」

獣人「あ」

飴売り「え?」

姫「……」

禁句だった。


姫「……誰がゴリラだって?」ゴゴゴ


獣人「…やってしまったな」

飴売り「ひ、姫さんコワ~イ…」

獣人「もう俺は知らんぞ」

翼人「な、何だ…!?」


妖姫「ゴリラ女にゴリラと言って何が悪い! 喰らうがいい!!」

妖姫は再び、四方八方から髪の毛の束で襲いかかったが…。

姫「だあああああぁぁっ!!」ザシュザシュッ

妖姫「」

姫は全て、切り払った。
そして姫は――ギロリと妖姫を睨みつけた。

妖姫「ひぃっ!?」

姫「知ってます? ゴリラってあれで温厚な動物なんですよ」

一歩一歩、詰め寄っていく。

妖姫「え…えっ!?」ブルブル

姫「ですから…」

姫はそう言ってニッコリ笑い……

姫「私はゴリラのように優しくありませんよ?」

妖姫の髪の毛を根元からガッシリ掴んだ。

妖姫「な、何をするっ!? や、やめっ…ひゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ」


<イヤアアァァァ

獣人「俺は何も見ていない」

飴売り「オ、オレモデース」ガタガタ

翼人(……妖姫様、相手が悪かった)





妖姫「うえっ、ひっく…」

姫「まぁ~、お似合いです」

泣きべそをかいている妖姫と対照的に、姫は上機嫌だった。
妖姫の髪の毛はバッサリ切られ、おかっぱ頭になっていた。

妖姫「何てひどいことを……」

姫「妖姫さん、貴方がこの国でどんな横暴を働こうと私の知ったことではないわ。でもね」

そう言って姫は妖姫の耳を引っ張り、耳元で囁いた。

姫「今度、飴売りに手を出してみなさい…今度は丸坊主ですよ」

妖姫「ヒイィ」


姫「帰りますよ。妖姫さんもわかって頂けたようです」

飴売り「ハーイ」

獣人「はい」

翼人(言いたいことは山ほどあるが…何も言うまい)





>中央国


飴売り「ふぅ~…平穏はいいもんですなぁ」

姫「飴売り、もっと鍛えなさい。またこんなことがあったら困りますよ」

飴売り「いや、またこんなことはないと思うけど…。でも、そうだな」

そう言うと飴売りは両手を手をぐっと握って構えた。

飴売り「今回の俺、めっちゃカッコ悪かったもんな。もう2度とあんな無様な姿晒さないように、頑張るか!」

姫「あ、見てあれ」

飴売り「ん?」クルッ

姫「てやっ」チョップ

飴売り「ウッ」

姫「まだまだですね」

飴売り「のわああぁぁん、姫さんがいじめるうううぅぅ!!」

姫(面白い)

飴売り「うー、どうせ俺なんて」イジイジ

姫「ふふ。でもまぁ」

飴売り「っ!」

私が手を握ると、飴売りはびくっと肩を鳴らした。

姫「あんなに可愛らしい女性に迫られてもなびかなかったことは、褒めておきましょう」

飴売り「なーに当たり前のこと言ってんだよ。…あ、もしかして姫さん、不安だった?」

姫「まさか。貴方が私に惚れ込んでいるのは知っていますから」

飴売り「はいはい、姫さんも素直じゃないな~。両思いじゃん、俺ら?」

姫「知りません」プイ

飴売り「つれないな~。そんな姫さんも好きだけどさぁ」

姫「ふん」

正直、返答に困っていた。
妖姫さんになびかれる不安はなかったけど、それでも嬉しい気持ちはあった。

姫(…けどそれを口にするのは癪ですね)

こんな時でも素直になれない自分がもどかしい。

と、その時、上空に気配があった。

姫「あら翼人」

翼人「ご機嫌よう」

飴売り「お、翼。今日はどうした~?」

翼人「実は…妖姫様がまた、こちらの世界へ来られました」

飴売り「は」

姫「あら」

翼人「そして姫様についてお調べになっていらっしゃいました」

姫「ほう? 再戦をご所望かしら?」

飴売り「わー、姫さん好戦的ぃー」ボウヨミ

翼人「そして中央国へ向かったように思ったのですが…」

姫「こちらに来た様子は……」

と、その時。

獣人「姫様ーっ!」ダダッ

姫「あらどうしたの、獣人」

獣人「はい…妖姫が来てですね……」

姫「!」

飴売り「!」

翼人「!」




>城


王子「来るなーっ!!」ダーッ

妖姫「ホホ、男前じゃのう。可愛がってやるぞい?」ダーッ

王子「うわああぁぁぁ」ダーッ


姫「…何やってるんですか?」

獣人「はっ…いきなり城に来て、王子に嫁入りしたいと」

姫「何で?」

妖姫「おぉ、姫ではないか! 先日は失礼したのう」

姫「あ、いえ。それよりも何故、王子を追い回しているのですか?」

妖姫「なぁに。お主について調べておったら、双子の兄の存在を知ってのう。お主の双子の兄なら男前じゃろうて、嫁入りに来たわけじゃ」

姫「なるほど」

飴売り「俺には意味がわかりません」

翼人「妖姫様は確かあやかしの国の王位継承者では…」

妖姫「そんなもの兄弟に継がせればええ。わらわは顔のいい男と添い遂げたいのじゃ!」

姫「そうですか」

飴売り「全く意味がわかりません」


妖姫「というわけじゃ! 照れるでない、わらわの婿にしてやるぞ!」ダーッ

王子「俺は人間の子と結婚したいんだあああぁぁぁ!!」ダーッ


飴売り「…いいの、姫さん?」

姫「何も問題はありません」

王子「あるわああぁぁ!!」

姫「王子、自力で振り切って下さい。これも修行です」

王子「えええええぇぇぇ!?」

姫「では私はこれで。行きますよ、飴売り」グイッ

飴売り「えっ、でもっ……」

王子「待てえええぇぇ!?」

妖姫「待てえええぇぇ」




飴売り「い、いいの姫さん?」

姫「自力でどうにかできないのなら、この国の王の器ではありません」

飴売り「手厳しいなぁ。助けてやりゃいいのに」

姫「いいんです」クルッ

飴売り「…?」

私は飴売りの顔をじっと見つめる。

姫「私は貴方の王子だから――今は、私のお姫様だけを守っていたいんです」

飴売り「…姫さん」

と、ワンテンポ置いて。

飴売り「って、ちょっと待ておかしいだろおぉ!? 俺が王子で姫さんがお姫様だってば!!」

姫「フン」

飴売り「え、ちょ!? 何で怒ってるの!?」

姫(「私の」姫って言ったでしょうに)


せっかく素直に言ってあげたのに気付かないなんて、鈍い人。


姫「まぁいいです。揚げいもで許してあげましょう」

飴売り「な、何かよくわかんねーけど、食いに行こうか! 揚げいもデ~ト~♪」

姫「…単純なんだから」


飴売りは鼻歌を歌い始め、とてもご機嫌だ。
この明るさは彼の最大の魅力で、私はこういう所が――


姫「――…ですよ」

飴売り「ん? 何か言った?」


言葉は鼻歌にかき消されていた。


姫「…何でもありません。それより早く行きましょう」

飴売り「はいよ~」

まだ素直に言えないけれど。
いつか素直に言える自分になりたい。



――大好きですよ、飴売り



Fin


あとがき

リエルト様よりリクエスト 姫「王子の代わりに戦う使命を追った」のその後です(´∀`)

当初はもっと戦闘を長引かせる予定でしたが、姫様の男前さを際立たせたらこうなってしまいました。
そして飴売り姫…君は立派なヒロインだ!(つーか女々しすぎた)

このカップル、何気に私のssでは珍しい男女逆転カップルなんですよ。だから今回そこが際立ってしまったというか…あれ、作者のイメージと読者さんのイメージって一致してるか??(オイ

後日談を書く場合、主人公達に訪れるであろう悩み等に焦点を絞って書くことが多いのですが、この男前な姫様と前向きな飴売りのカップルはそんなに悩みとかないだろうなぁとか思い(酷)、新規で強烈なキャラを生み出してしまいました。
新しいssを書く時に、出してみたい子です妖姫ちゃん。
posted by ぽんざれす at 19:40| Comment(2) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月02日

【スピンオフ】魔術師「勇者一行をクビになりました」

魔術師「勇者一行をクビになりました」のスピンオフです



悪魔さんが魔王さんを倒し、悪魔王として君臨して半年。


暗黒騎士「悪魔、貴様あああぁぁぁ!!」

悪魔「いっけね、バレたっ☆ よし、レッツ逃避行!!」バッサバッサ

魔王「邪神の咆哮よ鳴り響け…"審判の檻”」ガシャーン

悪魔「イヤーン、ケダモノオオォォォ!! アタシをこんな檻に閉じ込めて、いかがわしいことでもするつもり!?」

暗黒騎士「誤解を招くことを言うな!! 悪魔王に君臨してから、毎日のように貴様はぁ…」ガミガミガミガミ

悪魔「そんなに言葉責めされると、アンッ、ハァッ…」ビクンビクン

暗黒騎士「は・な・し・を、聞けええええぇぇぇ!!!」


魔術師(あぁ…今日もやってる)


悪魔さんはしょっちゅう問題を起こしていた。


暗黒騎士「どういうつもりだ!! 雨の代わりに飴を降らせるなどと、正気か貴様ぁ!!」

悪魔「それだけじゃねぇ、なな何と!! 雨雲はわたあめなんだゼエェ!! これがホントの飴雲、なんつって~♪ イャハハハハ!!」

暗黒騎士「下らないなぁ、ああ下らない!!」

悪魔「マジかよ~。これがギャグセンスのジェネレーションギャップってやつか!!」

暗黒騎士「ギャグとかどうでもいい、本当に天気の神と交渉してきたのか!?」

悪魔「イャハハハハ!! アイツもノリノリだったぜ!!」

暗黒騎士「天気の神もグルかあああぁぁ!!」


魔術師(悪魔さん、反省してない……)

各地で飴が1メートルくらい降り積もったらしく、しかも気温が上がって飴が溶け始めた影響で、あっちこっちベタベタだとか。
ここ数日大雨が続いていて、災害一歩手前という所でこんな事態になった。大雨災害の心配は去ったけれど、こんな事態は前例がなく、学者さん達が頭を抱えていた。

悪魔「わかったわかった。反省文書くから、な?」

暗黒騎士「そういう次元の話じゃねえええぇぇ!!」

悪魔「暗黒騎士ぃ、あんまうるさく言うと…オーク☆ミ」

暗黒騎士「と、とにかく、何とかしろ……」


本当にどうするつもりなのか…。


魔王「邪神よ、魔境への道を開け…"虚無への扉”」

悪魔「飴が吸い込まれていくゼエェ~。邪神が糖尿になるんじゃねぇの、イャハハハ」

暗黒騎士「元凶は貴様だ!」

魔王「悪魔王様、戯れるなとは申しません。ですが魔物の王が戯ればかりでは、魔物達に示しがつきません」

悪魔「アァン? 逆だよ逆、魔物の王だから戯れが許されンだよ」

暗黒騎士「どういうことだ」

悪魔「イャハハハ、た~んじゅんなおハナスィ~」

悪魔さんはニヤッと笑った。

悪魔「どうせなら短い人生、目一杯楽しみてェだろォ。俺様みてェに好き勝手やりたきゃ、強くなりやがれ雑魚共が!! っつーことだよ」

呆れたのか、魔王さんも暗黒騎士さんも何も言えずにいるようだった。
だけど…

悪魔「魔術師ちゃーん、怒られちった~。えーんえーん、慰めて~」

魔術師「ぁはい…。ヨシヨシ…」ナデナデ

悪魔「えへへ、俺様立ち直ったヨ♪ ついでにアソコも勃っ」

魔術師「人生を楽しめ、かぁ…」

それが悪魔さんの行動の根本にあるものだと、私は感じていた。

魔術師(短い人生……)

悪魔さんからそんな言葉を聞くと――時々ふと、不安になる。

悪魔「スルーしないでよォ魔術師ちゃァん」クネクネ





>ある日


王国の使い「というわけで、我が国で保管している呪いの杖を引き取って頂きたく…」

悪魔「いいぜ」

人間の国の使いが来て、悪魔さんにそんな依頼をしていった。

魔王「いいのですか悪魔王様。話を聞けば、歴代の所持者に様々な厄がふりかかるという杖だとか…」

悪魔「はァ~ん? 俺様が呪いなんかにヤられるわけねーだろ」

王国の使い「それでは、頼みましたよ」ニヤリ



魔王「気に入らんな。魔物の王に直接依頼するなど、何と無礼な」

悪魔「人間の手に余る品物なンだろ、これだから下賎な人間ちゃんはァ。仕方ねぇなァ~」

魔王「向こうは自分達のリスクをゼロにしたいだけです。もしかすると、あわよくば悪魔王様に厄がふりかかることを狙って…!!」

悪魔「カタいこと言うなって魔王~、そんならそれでいいジャン!」

魔王「何と懐の深い」

魔術師「悪魔さん、人間が好きって言ってましたものね」

悪魔「あまりにも目に余ること仕掛けてくるようなら、食ってやりゃいいんだしな!」ケラケラ

魔術師「好きって、食べ物としてですか!?」

悪魔「LOVEもあるぜェ~♪」ギュッ

魔術師「きゃっ」

悪魔さんは私を後ろから抱きしめて、腕全体に包み込んできた。

悪魔「人間を嫌ってたら、魔術師ちゃんとラブラブになれなかったンだしィ。そんな恐ろしいことねーよ、なァ~?」

魔術師「あ、悪魔さぁん…。魔王さんの前で…」

悪魔「イャハハハ、見せつけてやってンだよ!!」

魔術師「えううぅぅ」

悪魔さんは人目を気にしなさすぎる。私はとっても恥ずかしかった。
魔王さんは「ふぅ」とため息をついて、視線をそらしてくれていたけど。

暗黒騎士「悪魔、人目をはばかれよ。ほら、呪いの杖を預かってきたぞ」

悪魔「おぉ~、これがッ!」

布に包まれた杖を受け取って、悪魔さんは目を輝かせている。
一体、その杖の何が悪魔さんの心をくすぐっているのか。

悪魔「ヨッシャアァ! 今から全世界のイケメンの家を襲撃するぞォ!!」バサッ

魔術師「何する気ですか!?」

暗黒騎士「やはり悪戯に使うつもりかァ!!」

悪魔「ジョーダンデース」チッ

魔術師(本気だ!!)

悪魔「呪いの杖かァ、どォんな形してンのかねェ? その姿を見せやがれッッッ!!」

そう言って悪魔さんは、杖を包んでいた布を派手に剥いだ。
すると――

悪魔「――っ!」

魔術師「どうしました…?」

布にくるまれていた杖は、少し特徴的な形をしていた。
だけどそれを見て、悪魔さんの顔から笑みが消えた。

悪魔「……呪術師」

魔術師「え?」

悪魔さんが小さく呟いたその声を、私は聞き逃さなかった。


魔王「これは、呪術を扱っていた者が使用していた杖だな。使用者の魔力が纏わりついている」

杖を見るなり、魔王さんがそう言った。

魔王「元々呪力のある杖が、使用者の死後、更にその力を強めたものだろう。悪魔王様、下手に解呪しても危険と思いますが」

悪魔「…問題ねェよ」

魔王「何と」

悪魔「これは俺様が持ってる。…こんなモンに呪われる程、俺様は甘くねぇ」

魔術師(悪魔さん…?)

珍しく真剣な悪魔さんの様子に、私は戸惑っていた。

悪魔「ちょい、この杖の観察してみるわ。部屋入ってくンなよ、危ねーから」

そう言って悪魔さんは部屋に戻っていった。

魔術師(悪魔さん…どうしたんだろう)

暗黒騎士「あの杖…」

魔術師「?」

暗黒騎士「どこかで見たことがあるような気がするな……」





>図書室


暗黒騎士「すまんな、手伝わせて」

魔術師「いいえ~」

私は暗黒騎士さんについてきて、図書室の文献を漁っていた。
暗黒騎士さんはあの杖を、本で見たのかもしれないと言ったのだ。

暗黒騎士「俺はあまり本を読まないから、すぐ見つかるとは思うのだが…」

暗黒騎士さんが読んだことのあるという本が机に積まれ、その一冊一冊に目を通す。
歴史や文化の文献がほとんどで、わかりやすく挿絵も沢山入っている。

魔術師(結構特徴的な形してたよね~…)

そう思いながら本をパラパラめくる。すると…

魔術師「あれ…? あ、あった!」

暗黒騎士「お」

その本の挿絵に目が行った。一瞬、見逃しそうになっていた。
その絵は、ローブを着た人間の女の子が杖を持っている姿を描いたもので、杖も小さく描かれていた。

暗黒騎士「あぁ…そうだった。何度も読んだ本だから杖の形も記憶にあったのか。その本で見たということは忘れていたが…」

魔術師「何の本ですか」

と、何気なく本のタイトルを確認して、私は驚いた。

魔術師「あ、悪魔王の資料!?」

暗黒騎士「あぁ。あいつのことを綴った本だな」

悪魔さんは歴代最強の魔王と言われている存在だから、こういう本があるのは当たり前のことだった。
だとしても、私は普段それを全然意識していないものだから、こう改めて悪魔さんの本があると驚いてしまうのだけど。

魔術師「それで、この杖の持ち主は…」

私は挿絵の説明文を読んだ。

魔術師「悪魔王の…相棒? 名は、呪術師……」

暗黒騎士「…そうか。悪魔の奴、だから杖に見覚えがあったんだな」

魔術師「悪魔さんの相棒ってのは……」

暗黒騎士「本の内容を要約すると、確か…悪魔は悪魔王になる前、ただのチンピラだったそうだ。呪術師は、その頃のあいつと組んでいた奴らしい」

魔術師(……この子と?)

絵ではフードをかぶっていたので顔の全体像は見えなかったが、どう見ても10代前半くらいの女の子である。





>夜


魔術師「うぅ~ん」

私は図書室からその本を借りて読んだけれど、呪術師さんについての記述は少ない。
暗黒騎士さんから聞いた以外の情報だと、呪術を使っていたけど腕前は三流だった、悪魔さんが悪魔王になってからも親交があった、そして30代前半で病死した――それ位である。

あと本に書かれているのは、悪魔さんの武勇伝がほとんどだ。

魔術師「むむぅ~…」

悪魔「魔術師ちゃあぁん! 開けて開けて、開けてええぇぇ!!」ドンドン

魔術師「きゃっ、悪魔さん!?」

私が部屋のドアを開けると、悪魔さんが飛び込むように入ってきた。

悪魔「魔術師ちゃぁ~ん、ちゅっちゅして、ちゅっちゅ~!!」

魔術師「唐突ですね!?」

悪魔「日中ほったらかしてゴメェン。愛してるから、ねっ、ねっ?」

魔術師「もぅ…悪魔さんったら」

悪魔さんの気分がコロコロ変わるのはいつもの事なので、それに関しては慣れてきた。

魔術師(それに…悪魔さんのこういう所、可愛いかも、って)

だから――断れないのだけど、いつもは。

魔術師「あれ…? 悪魔さん、魔力を大分消耗していますね?」

悪魔「あ? うん、まぁ」

今日は、そんな些細なことが気になってしまって。

魔術師「まさか悪魔さん…魔力が欲しくて?」グスッ

悪魔「違う違う違う!! 魔術師ちゃんへの下心以外でちゅーを求めたことは一切ねーから!!」

魔術師「グスッ…。ところで、魔力どうしたんですか?」

悪魔「杖の解呪で使ったんだよ~ン」

魔術師「良かった…悪魔さん、呪いにかからなかったんですね」

悪魔「そっ! そりゃー俺様最強だしィ、呪いなんて怖かねーけどォ? 城にいる奴らに呪いがふりかかったら大変ジャーン、俺様ったら下僕想い~」

魔術師「凄いなぁ…流石、若くして邪神の力を授かった悪魔王さんですね」

悪魔「イャハハ、惚れ直したァ? …って、ン? その文献は…」

私が机の上に置いていた文献が目に入ったようだった。

悪魔「おやおやおやァ? 魔術師ちゃん、俺様のことが気になっちゃったわけェ? 魔術師ちゃんにならぁ、年中24時間いつでもどこでも好きな時に俺様の丸裸の姿を見せるのにィ」クネクネ

魔術師「ぁ、いえ…調べてるのは悪魔さんのことじゃなくてぇ…」

悪魔「ぬゎにいいぃぃぃ!! 俺様以外に魔術師ちゃんが興味持ってることってなにィ!! やだやだ、魔術師ちゃんの中の1番は俺様じゃなきゃヤダー!!」ジタバタ

魔術師「ぁ、あのぅ…さっきの杖の持ち主さんなんですけど…」

悪魔「うにゃりん?」

魔術師「呪術師さん…って方ですよね」

私なりに勇気を出して言ったのだけれど。

悪魔「そうよん。いやー、なっつい名前だわぁ」

悪魔さんは事も無げに、あっさりそう答えた。


魔術師「……」

魔術師(呪術師さんって私と同じく人間で、魔法の使い手で、でも魔法得意じゃなくて、小柄で……)

魔術師(もしかして悪魔さんの昔の恋人だったりして……)

魔術師(それで、私は呪術師さんと被るところがあるから悪魔さんは……)グスッ

悪魔「何で泣くのォ!? よしよ~し魔術師ちゃん、悪魔王はチミを愛してるよォ」ギュッ

魔術師「グスッ…悪魔さん、グスッ、呪術師さんってどんな方ですかぁ…」

悪魔「呪術師…? どんな奴も何も……」

悪魔さんは次の瞬間、とんでもなく凶悪な顔になった。

悪魔「アイツはとんでもねぇヤローだ! 生きてたらブン殴りてぇ位だ、ファック!!」

魔術師「ひえええええぇぇぇ」ビクウウゥゥッ

悪魔「あ、わり」コロッ





俺様は悪魔王になる前、ただのチンピラだった。


悪魔「イャハハハ!! 群れて喧嘩して、たった1人に負けるなんてカッコ悪ぃの!」

ボス「く…」

三下A「ま、まさか…ボスさんが、やられるなんて……!!」

三下B「アイツ…まさか、隣町で噂の!?」




魔術師「悪魔さん、その頃から強かったんですねぇ。文献にも書いてありました」

悪魔「イャハハ、まぁな~」




ボス「何だ!? あいつに聞き覚えがあるのか!?」

三下B「はい…あいつは通称『切り裂きの悪魔』。疾風の如く、喧嘩相手の懐に潜り込み…」




魔術師(うんうん)




三下B「爪を勃起させ、パンツを切り裂くという!!」




魔術師「何で!?」

悪魔「あぁ、あの頃は複数の奴を相手にすることが多かったからな。律儀に全員ボコるのはめんどかったんで、代わりにパンツを切り裂いていた」

魔術師「だから何で!?」

悪魔「ちなみに上の回想、喧嘩相手みんなフルチンだから」

魔術師「言わなくていいですーっ!!」




とにかくまぁ、俺様は『切り裂きの悪魔』として名をあげていたんだが…。


呪術師「喰らえぇ、呪いだぁ!」バッ

ボス「うわあああぁぁぁぁ」

呪術師「は、はははーっ、ま、ま、ま、参ったかぁーっ」

悪魔「…おい、何やってンだ」

呪術師「ふ、ふふふっ…悪魔ぁ、やったね! 『うちらの力で』また、この町でも名を挙げられたよぉ~」

悪魔「なーにが『うちらの力』だよ。俺様の喧嘩中は隠れてコソコソしてた奴が」

呪術師「ふ、ふふふふふ…だけどうちらが有名になったのは、うちの力のおかげだよ……」





魔術師「何というか…」

悪魔「卑怯だろ?」

魔術師「……ちなみに、どんな呪術を?」

悪魔「アソコにモロにかけたらな…」ブルブル

魔術師「すみません、言わなくていいですっ!!

悪魔「文献じゃ脚色されて相棒ってことになってるがよォ、ただの犬のフンだっつーの! アイツがボコられてたのを助けてから、ずっと俺様にひっついて来てたんだよ!」

魔術師「そ、そうなんですか……」

…でも、呪術師さんの方は悪魔さんを好きだったのでは…。
それに悪魔さんも本気で鬱陶しかったら、呪術師さんから逃げることだってできた…。

魔術師(ってことはやっぱり…悪魔さんも実は心の底では……)

悪魔「そんなことより魔術師ちゃん、イチャイチャしようぜェ~!! 膝枕して膝枕ぁ!」

魔術師「ぁ、悪魔さん…その……」

悪魔「おねがいー、あくまたん、魔術師ちゃんのことだいちゅきー! ちゅっちゅちて、ンー、ンー!」

暗黒騎士「馬鹿か貴様は」

悪魔「どわぁ!?」

悪魔さんはドアを背中にしてて見えていなかったようだけど、部屋の入口付近に暗黒騎士さんが立っていた。

悪魔「暗黒騎士テメェ!! このノゾキ! 変態! スケベ!」

暗黒騎士「貴様がドアを開けっ放しにしていたのだろう。廊下中に貴様の恥ずかしい声が響き渡っていたぞ」

<クスクス、悪魔王様ったら、やだー、ウフフフ

悪魔「イヤァ~ン」クネクネ

魔術師「全っ然、恥ずかしがってませんね」シクシク

暗黒騎士「貴様、悪魔王としての自覚はあるのか」

悪魔「平和だからいいジャーン」プー

暗黒騎士「悪魔王としての威厳を持て! そんなでは、反乱が起こるぞ!」

悪魔「反乱ねぇ…」鼻ホジホジ

暗黒騎士「貴様が君臨してから城全体の雰囲気がたるんでいるのだ、もう少しなぁ」

悪魔「はいはいオークオーク」鼻クソペトッ

暗黒騎士「やめろーっ!!」ゴシゴシ

悪魔「じゃあ聞くけどよ、具体的にどうしろってんだよ?」

暗黒騎士「そうだな…魔王様の時は定期的に演説を行っていた」

悪魔「演説ゥ~?」

暗黒騎士「そうだ。魔王様の演説は、魔物全体に威厳を見せ、また畏怖の感情を与えていた。そうすることにより、魔物全体をまとめあげていた」

悪魔「わかった、じゃあ俺様も演説する!」

魔術師「できるんですか!?」

悪魔「伝令を出せ! 明日な!」

魔術師「もっと準備期間が必要なんじゃありませんか!?」

悪魔「任せろ魔術師ちゃん! 悪魔王のカリスマ性を見せてやるぜッ!! イャーハッハッハッハ、ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

暗黒騎士「嫌な予感しかしない……」

魔術師「同感です……」

悪魔「ギシャシャシャシャ、イヒャ、イヒャ、まっ魔術師ちゃん、3秒数えぶゎはははは!!」

魔術師「3、2、1…」

悪魔「ハァ…」ズーン

魔術師「笑う力を使い果たすタイミングが掴めている!?」

暗黒騎士「何てどうでもいい…」





>翌日


ワーワー


魔王「流石、歴代最強の悪魔王様。急な知らせにも関わらず、悪魔王様の演説を聞くべく、沢山の魔物が集まったな」

暗黒騎士「…認めたくはないが、奴のカリスマ性は本物ですね」

魔王「あぁ。ところで悪魔王様は…」

暗黒騎士「あ、出てきました」


悪魔「はいはいどーも皆さん、お待たせしましたァ~!!」

<ワアアアァァァァ


魔術師(大丈夫かなぁ…)

バルコニーの、悪魔さんが立っている後ろの方で私は見守っていた。


悪魔「俺様が悪魔王に再び君臨してから半年。人間と揉め事も起こらず、俺様はひじょ~~に嬉しい!」

<悪魔王様ああぁぁ!!
<平和バンザアアアァァイ!!
<キャー、悪魔王様素敵いいぃぃ!!


魔術師(凄い人気だなぁ)


<ワアアアアアアアァァァァァ

悪魔「……」

悪魔「うゥるせええええぇぇぇぇッ!!!」

<シーン

魔術師(ええええぇぇぇぇ)


悪魔「本題はこっからだ。魔物っつーのは本来、血の気が多い生物…。現状に不満を持ってる奴も沢山いるだろ?」


魔王「お?」

暗黒騎士「ん?」

魔術師「え?」


悪魔「今日はそんなテメェらをスッキリさせるイベントを用意してやったぜ…」

<ワアアアアアァァァァ


魔術師「え、えっ!?」

暗黒騎士「スッキリさせる…だと!?」


悪魔「喜べ…思いっきり暴れられぞおおおぉぉぉ!! イャーッハッハッハ!!」


魔王「まさか戦争でも仕掛けようという宣言か…!?」

魔術師「悪魔さんに限って、それはないはず…」

暗黒騎士「では……?」


悪魔「題して……」

悪魔「第1回、魔王争奪喧嘩祭りじゃああああぁぁ!!」

<ざわざわ


悪魔「ルールは至ってシンプル!! ここで1番強い奴が魔王になれる、ただそれだけだ!!」

暗黒騎士「な…!? おい、待……」

悪魔「行くぞ野郎どもおおおぉぉ!! 俺様から魔王の座を奪ってみろやアアアァァ!!」バサッ

<ワアアアアアァァァァァ


魔術師「ひえええぇ……」

悪魔さんは観衆の中に飛び込んでいき、演説会は一瞬にして喧嘩祭りの会場となった。
沢山の魔物達が暴れる光景はそれだけで心臓に悪く、とても見ていられない。

暗黒騎士「馬鹿共が…収集がつかんぞ!!」

魔王「まぁ、良いではないか暗黒騎士」

暗黒騎士「しかし…!」

魔王「これが悪魔王様のやり方だ。見ろ、悪魔王様の様子を」


悪魔「イャーッハッハッハ!! 雑魚共がァ、ぬるいんだよおおぉぉ!!」


暗黒騎士「…余裕ですね」

魔王「うむ。力を誇示するには、最もわかりやすい方法だ。魔物達も悪魔王様に直接殴られれば、反抗心を持てぬだろう」

暗黒騎士「何て奴だ……」


悪魔「雑魚一掃、鳴神ィ!!」バチバチバリイイィィッ


<ぎゃああぁ
<アアアァァン


悪魔「俺様の優勝ォ~♪」バッサバッサ

魔王「お見事です、悪魔王様」

悪魔「魔術師ちゃぁん、お祝いのちゅっちゅ~、ンー、ンー!」

魔術師「人前ですよぉ!?」

悪魔「そいじゃデートしようぜェ!」ヒョイッ

魔術師「きゃっ!?」

悪魔「イャハハ、出発進行ォ~」バッサバッサ

魔術師「ちょっ、悪魔さあああぁぁん!?」


魔王「…自由なお方だな」フッ

暗黒騎士「魔王様…少しは否定の念を抱いて下さい……」





>花畑


悪魔「着いた着いたァ~♪」

魔術師「悪魔さんたら…強引なんだから」

悪魔「ゴメンゴメェン魔術師ちゃん、許して、ね、ね?」

魔術師「もう……」

きっと反省なんかしていない。だけど両手を合わせてスリスリされては、怒る気も無くなっちゃう。

魔術師「悪魔王ともあろうお方が、こんなに自由でいいんですか?」

悪魔「俺様はずっとこうだぜェ~。悪魔王になったからって変わらねーよイャハハハハ」

魔術師「…」

私は昔の悪魔さんを知らない。人間は、そんなに長い期間生きることはできない。

魔術師「悪魔さん言っていましたよね…人生は楽しめ、って」

悪魔「そうだなぁ。限りある時間、楽しまなくてどーすンよ?」

魔術師「…えぅっ」

悪魔「………へ?」

魔術師「うええぇぇ、グスッ」

悪魔「ちょおおぉぉぉ!? な、何で泣くウウゥゥ!?」

魔術師「グスッ…悪魔さんにとっては、私といる期間なんて、一生の内ほんの少しですよね」

悪魔「んあ?」

悪魔さんは首を傾げた。

魔術師「人間の寿命なんて…悪魔さんに比べたら、遥かに短いんですよ……」

悪魔「…あぁ~、そうだな」

魔術師「悪魔さんは…悪魔さんは……」


わかっている。こんなことを言うのは性格が悪いんだって。
それに、既に人間との「お別れ」を果たしている悪魔さんにこんなこと言うなんて――

魔術師「悪魔さんは…私が――」

なのに、言葉を止めることができなくて。

魔術師「私がおばあちゃんになったら――他の女の子に行くんですか……」

悪魔「いかねーよ」

魔術師「………えっ」

そして返答はあまりにもあっさり返ってきた。

悪魔「よくわかンねぇなぁ? ンなこと言ったら、俺様なんて今現在ジーチャンよジーチャン?」

魔術師「で、でも体はいつまでも若いですし……」

悪魔「俺様の愛を疑うのか魔術師ちゃ~ん!!」ギュウッ

魔術師「きゃっ!?」

悪魔さんは力強く抱きしめてきた。
逃れようにも腕はがっちりしていて、逃がしてくれそうにもない。

悪魔「俺様はこんなに、こォんなに魔術師ちゃんのこと好きなのにさぁ~」

魔術師「だって、だってぇ……」

悪魔さんのことを疑っているわけじゃない。
だけど時々不安に思うこともある。

魔術師「私、悪魔さんより早く死んじゃいますよ…?」

悪魔「そん時ゃ俺様も死ぬよ」

魔術師「何言ってるんですかぁ……」

悪魔「本気。邪神に残り生命力を捧げるンだ」

魔術師「そこまでしなくたっていいですよぅ…グスッ」

悪魔「いーや。でもそん代わりとして、邪神に頼むンだよ」

魔術師「何を…ですか?」

悪魔「決まってンじゃん」

悪魔さんはニヤッと笑った。

悪魔「何度生まれ変わっても、魔術師ちゃんの側にいられますように――って」

魔術師「――っ」

想像もしていなかった言葉だった。というか、信じられるわけがない。

悪魔「だから生まれ変わって魔術師ちゃんが人間になっても、魔物になっても。絶対に俺様と巡り合う――そういうの、どうよ」

魔術師「それだけじゃ…不安です」

悪魔「心配ねーよ」

悪魔さんは私を抱きしめる手を頭に回して、優しく撫でてくれた。

悪魔「例え何に生まれ変わったとしても――俺様と魔術師ちゃんが恋に落ないわけ、ねーだろ。『ずっと一緒』って、約束しただろ?」

魔術師「悪魔さん……」

未来は不確定だからわからない。
だけど、悪魔さんがそう言ってくれることがただ、嬉しくて、心強くて――

悪魔「とーこーろーで、魔術師ちゃん?」

魔術師「はい……?」

悪魔「ずっと、ちゅっちゅがお預けなんだけどォ?」

魔術師「…くすっ、もう悪魔さんったら」

私は悪魔さんの首に手を回して背を伸ばす。

魔術師「んっ――」

悪魔「――っ」

私は強く強く、唇を押し付けた。



悪魔「ところでさァ」

魔術師「はい…?」

お花畑でまったりしていた時、悪魔さんが話を切り出した。

悪魔「昨日の呪術師の話には続きがあってよォ。その~…あんま言いたくねェンだけど」

魔術師「っ!」ピクッ

やっぱり悪魔さんと呪術師さんの関係は――と思っていた時だった。

悪魔「俺様、102年眠ってたジャン?」

魔術師「は、はぃ……」

悪魔「それ…あのヤローのせいなんだよおおおぉぉぉ!!」

魔術師「………え?」

悪魔「あのヤロー『悪魔王ならどんな呪いも大丈夫でしょ』って俺様を呪いの実験台にしやがってよォ! バッチリ効いた挙句、どこぞの誰かに封印されたじゃねーかよッ!!」

魔術師「そ、それは…お気の毒に」

悪魔「クッソー。せめて奴の子孫がわかれば…あ、無理か。あのヤローが結婚できるわけねぇ」

魔術師「…本当に散々でしたね。眠っていたせいで、呪術師さんにお別れも言えなかったんですものね」

悪魔「…まぁな」

悪魔さんは否定をしなかった。

魔術師「…やっぱり何だかんだで、呪術師さんのこと……えっと」

悪魔「あぁ、好きだったのかもな」

魔術師「!」

悪魔「…悪魔ってのは人間に嫌われるモンでよォ。俺様、人間から散々な目に遭ってきたんだぜ。けど…アイツは悪魔である俺様に懐いて、ついてきた」


呪術師『うち、絶対いつか恩を返すから…! それまで、悪魔から離れない!』


悪魔「…正直鬱陶しかったけど、まぁ…人間が嫌いじゃなくなったのは、アイツのお陰かもな。杖を通してアイツの魔力に再会できて…何だかんだで、懐かしかったなァ~」

魔術師「……」

もしかして呪術師さんの悪魔さんへの想いが――あの杖を、悪魔さんの元へたどり着かせたのかもしれない。

魔術師「…私だって、悪魔さんのこと好きですよ」ムゥ

悪魔「お~? どったの珍しい~♪」ヒヒッ

魔術師「別に……」

こんなこと思っても仕方ないのだけれど。

魔術師「可愛い人ですもんね……呪術師さん」

悪魔「………あ?」

悪魔さんはポカンとした。
だけど……

悪魔「か、かわっ…イャハハハハ、げひゃひゃ、アイツが、アイツが…っ、ぶゎーっはっはっはっは!!!」

魔術師「あ、悪魔さぁん!? な、何で笑うんですか!?」

悪魔「だ、だって…ヒィ、ヒィ」

悪魔さんは笑う力を使い果たす前に一旦深呼吸をした。

悪魔「アイツ…男よ?」

魔術師「……………」

魔術師「えええええぇぇぇぇ!?」

悪魔「…ハハーン、魔術師ちゃん? さては、アイツが女の子だと思って嫉妬したなァ~?」

魔術師「そ、そそそんなことっ!?」

悪魔「いやぁ、嬉しいぜェ♪ そうかぁ、魔術師ちゃん俺様のことそんなに…」

魔術師「も、もーっ!」

だけど、ホッとしたのは確かだった。

悪魔「…でも、まぁ。アイツの呪いのお陰で魔術師ちゃんに会えたんだよな」

魔術師「…そうですね!」

それは呪術師さんに感謝しなくちゃ。本当に、ありがとうございますって。

魔術師「悪魔さん…」

悪魔「ン? 何だ?」

また1つ悪魔さんを知ることができた。
それでもまだ足りない。大好きな気持ちが止まらないから、もっともっと悪魔さんのことが知りたい。

魔術師「悪魔さんのこと…もっと教えてもらってもいいですか?」

悪魔「…いいゼッ♪」


悪魔さんは私の手を握りしめて、満面の笑顔を見せた。


悪魔「俺様の全てを知ってくれよ――これからもずっと、ずっと一緒なんだからさ」


Fin


リクエスト内容は悪魔さんを掘り下げる話…とのことで。何か普通に続編っぽくなってしまったが、これでいいのか←
リクエスト下さったリエルト様、ありがとうございました(´∀`*)ウフフ

今作を書くにあたって本編を読み返したのですが…悪魔さんって本っ当~…にウザいですね!!w
あのウザさをまた書けるか心配でしたが、やっぱり悪魔さんはウザいままだった!!m9(^Д^)9m

掘り下げれば掘り下げる程アレな部分ばっかだけど、そうじゃない悪魔さんは魅力半減ですよね。
posted by ぽんざれす at 22:13| Comment(4) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月24日

【スピンオフ】魔道士「僕のお嫁さんを召喚するよ☆」【その後】

魔道士「僕のお嫁さんを召喚するよ☆」のスピンオフです。



町娘「魔道士さんーっ!?」

魔道士「アハーン、どうしたのかな町娘ちゃん?」

町娘「どうしたのかなじゃありませんよ、あんなに部屋を散らかしてっ!!」

魔道士「散らかしただなんて。過ごしやすいようにしたら、ああなっただけさ☆」

町娘「だから物を失くすんですよ! こないだも~…」

魔道士「アイタタタ、耳が、耳がアイタタだよ」

町娘「仮病は通じませんからねーっ!!」

ワーワー

弟「……」

弟(まーたやってる)

僕は今日はお姉ちゃんに会いに、魔道士兄ちゃんの所に遊びに来ていた。

魔道士「弟君~、町娘ちゃんは厳しいねぇ」シュン

弟「お姉ちゃんはキッチリしてるからね~」

町娘「あーっ、魔道士さん! また夜中にこんな体に悪いもの食べましたねーっ…」

魔道士「ヤバッ★ 僕はちょっと仕事に出てくるね~♪」

町娘「待ちなさーいっ!!」

弟(賑やかだなぁ)

きっとこれがいつもの2人なのだと思う。
これでも魔道士兄ちゃんはお姉ちゃんを好きなのだから、悪い関係ではないと思うけど…。

弟(うーん、もうちょっと進展があればなぁ)





そしてまた、魔道士兄ちゃんの所に遊びに来た日…


魔道士「チャオ☆ 弟君、いい所に来たねぇ」

弟「ちゃお~♪ どうしたの、兄ちゃん」

魔道士「弟君、パーティーは好きかい?」

弟「パーティー? うん、好きっ!」

魔道士「それじゃあ、君もおいでよ。これなんだけど…」

そう言って兄ちゃんは招待状を見せてきた。
どれどれ…


――私の誕生日パーティーを開きます。お友達も連れておいで。 父より


魔道士「うちの一族や、他の魔導一族も集まって、毎年盛大にやるんだ。パパは顔が広いからねぇ」

弟「ってことは魔法使いさんが一杯来るの!? 行きたい、行きたい!!」キラキラ

魔道士「ハイ決定~♪ 弟君が行くなら君も行くよね、町娘ちゃん」

町娘「ぐぬぬ」

弟「毎年お友達を連れて行ってるの?」

魔道士「……いなかったんだ、友達」ズーン

町娘&弟(あちゃー…)

弟「僕と兄ちゃんは友達だよ! 兄ちゃん、胸張っていいよ!」グッ

魔道士「そうだね、マイベストフレンド!」ガシッ

町娘「パーティーは一週間後か…着ていく服とかプレゼントとか色々用意したいですね」

魔道士「オーケー、町まで送るよ★ ちなみにパパは甘いものが好きだから、町娘ちゃん手作りのお菓子とか喜ぶと思うよ!」

町娘「わかりました、それじゃあ材料を買っておきます」

弟「僕も手伝うよ、お姉ちゃん!」




>町、商店街


町娘「ハァ…気が重いわ」

弟「どうして? 楽しそうじゃない、パーティー」

町娘「色々と気を遣うのよ。…魔道士さんのご両親とお会いするのも初めてだし」

弟「前に写真を見たことあるけど、優しそうな人たちだよね」

小太りなお父さんは絵描きだった頃の兄ちゃんにそっくりで、綺麗なお母さんは今の兄ちゃんに似ている。
写真に写っていた3人は仲が良さそうだった。それにあの兄ちゃんの両親なら、きっと優しい人に決まっている。

町娘「うん…優しい人だとは思うんだけどね」

弟「だったら何の不安もないじゃん。それよりもお菓子の材料選ぼうよ~」

町娘「う、うん」

町娘「………」



~町娘の想像~

父「チャオ☆ おぉ魔道士君、彼女が君の言っていたお嫁さんか~い?」

母「うちの魔道士ちゃんはパパそっくりの立派な男の子になるわよ★」

父「ハハッ、ママの育て方が良かったんだよ、アハ~ン♪ 僕もママの手料理で、お腹がこんなに立派に育っちゃってね☆」

母「あらやだもうパパったら~♪ 町娘ちゃん、魔道士ちゃんのことを宜しくねっ♪」

父「アハハハハハッ☆」

母「ウフフフフフッ★」

~想像終了~


町娘「…駄目だ、まともな想像ができないっ!!」

弟「うん、何せ魔導一族の人だもんね! きっと凄い人たちだよね!」

町娘「弟君の純粋さを見てたら、私の心が汚れているみたいだわ…」

弟「ところでお姉ちゃん、パーティーに着ていく服あるの?」

町娘「あるわよ。ほら、御曹司さんの家のパーティーにも着ていったやつ…」

弟「あんなの駄目だよ、もう流行遅れの服じゃん!」

町娘「でもパーティーに着ていける服はあれしか持ってないのよねー…。新しく買う余裕もないし」

弟「あ、じゃあ仕立て屋の兄ちゃんに安く借りられないか頼んでみるね!」ダッ

町娘「えっ、ちょっと…こらーっ、待ちなさい!」

弟(だって、こういう時くらい…)

少しでも綺麗なお姉ちゃんを見てもらいたかったから。
魔道士の兄ちゃんにも、兄ちゃんの一族の皆にも…。





>当日


町娘「もー…ほんとにこれ借りて大丈夫なの?」

弟「大丈夫、大丈夫。仕立て屋の兄ちゃんも、美人さんに着てもらえると嬉しいって言ってたよ」

町娘「お世辞だからねそれ」

肩を出すのも、膝丈くらいのスカートも、少し派手めなピンク色も、普段お姉ちゃんが着慣れないデザインだ。
お姉ちゃんは恥ずかしがっているけど、弟である僕から見ても、普段と違った雰囲気で綺麗だと思う。

魔道士「チャオ~、迎えに来……っ、町娘ちゃん!?」

町娘「ま、魔道士さん!」

向かい合って2人は固まる。
2人とも、顔が真っ赤だ。

魔道士「え、えーとね…き、ききき、きれ…アハァ~ン」

弟(うわーあ)

素になった兄ちゃんはとてもシャイだ。
見ていてわかりやすい。

町娘「い、いい行きましょう、魔道士さん、ねっ!?」

魔道士「オ、オーケー!」

弟(目ぇ合わせて喋りなよ2人とも…)

何だか、2人の仲に進展がないのも納得な状態だった。





>会場


町娘「わぁ、立派なお屋敷」

魔道士兄ちゃんの案内でやってきたのは、セレブな住宅地にある洋館だった。
外観は物語に出てきそうな古い造りをしているけど、モダンな感じがお洒落だ。

魔道士「パパとママは魔導商売を引退して、ここでのんびり生活しているのさ。ごめんくださーい」カランカラン

メイド「あら、お坊ちゃま。ようこそおいで下さいました」

町娘(ぼ、坊ちゃま……)

魔道士「こちらは僕の友人だよ。会場に通してくれるかな?」

メイド「かしこまりました、どうぞこちらへ」

町娘「え……えっ!?」

弟「どうしたのお姉ちゃん」

町娘「魔道士さんが『チャオ』って言わなかった…!!」

弟「え、そこ?」

メイドさんの案内で廊下を歩く。
建物自体のデザインは古いけど中は綺麗なので、古い造りは家主の趣味なのだと思う。

メイド「どうぞこちらです」

魔道士「パパ、ママ!」

町娘「……!!」(どんな人!?)

弟「……?」



父「おぉよく来た魔道士」

母「こちらの方はお友達? ふふ、ようこそ来て下さいました」

魔道士「町娘ちゃんと、その弟の弟君だよ」

父「来てくれてありがとう。今日は楽しんでいってくれたまえ」

町娘「は、はい、ご招待ありがとうございます…」

弟「お誕生日おめでとうございます!」


町娘「………どうしよう。普通だ」

弟「何を言ってるの、お姉ちゃん?」

町娘「……ってか」


親戚A「よぉ魔道士、久しぶりだな!」

魔道士「やぁ、久しぶり! 元気そうだね」

親戚B「お前の活躍聞いてるぞー、凄いじゃん魔道士!」

魔道士「ありがとう。でも、パパにはかなわないけどね」

親戚C「お前は本当ファザコンで、ついでにマザコンだよな~」

魔道士「やめてくれよ~」


町娘「どうしよう!! 魔道士さんがマトモで、いつもの魔道士さんじゃない!!」

弟「だから何を言ってるの、お姉ちゃん?」

親戚A「あ、こちらもしかして、魔道士が求婚したっていう町娘さん?」

魔道士「」ブハッ

町娘「え、あ、あぁ、初めまして…町娘と申します」

親戚B「おい噂は聞いてるぞ魔道士~、お前にしては大胆だなぁオイ」

魔道士「えー…と、それはだねー……」汗ダラダラ

親戚C「あ、あと噂によるとお前『チャオ』とか『アハーン』とか言ってるって…」

町娘「え? むしろそれが通常運転じゃ…」

魔道士「ストオオオォォォップ!!」

弟(…大変だなぁ、イメチェンした人は)


兄ちゃんには「魔道士」と「絵描き」、2つの顔がある。
「絵描き」の部分にコンプレックスがある兄ちゃんは、最初はそれを隠してお姉ちゃんに求婚した。
でもそれがバレた今は、隠しても仕方ないのだけれど…。

魔道士「アハーン町娘ちゃん…本当申し訳ないんだけど、僕に話を合わせてくれるかなぁ?」汗ダラダラ

町娘「わ、わかりました…」

兄ちゃんはお姉ちゃんの前では「絵描き」の部分を隠していることが多い。

弟(…だからかなぁ、2人の距離が縮まないのは)


?「ねぇ。君、魔道士お兄ちゃんのお知り合い?」

弟「うん?」

ふと、僕と同い年位の女の子が話しかけてきた。

従妹「私、魔道士お兄ちゃんの従妹なの。初めまして」ペコッ

弟「あ、僕は弟。魔道士兄ちゃんの友達なんだ」

従妹「あ、そうなの。じゃあ仲良くしましょう」

弟「うん!」

町娘「あら、友達できたの。せっかくだし、2人で遊んでいるといいわ。但し、騒がないようにね」

弟「わかったー」

従妹「ねぇねぇ、食べ物とってこよう。私もうお腹ペコペコなのー」

弟「そうだね。ねぇ君は何が好き? 僕はねー…」





従妹「へぇ、弟君は魔法使いに憧れているの」

弟「うん! 小さい頃は魔法使いになるのが夢だったんだ」

従妹「今は違うの?」

弟「僕には無理だよ、魔法なんて使えないし」

従妹「そうねぇ…。あ、そうだ。だったら一緒に作ってみない、魔法道具?」

弟「いいねー、魔法使いっぽい! どんなものが作れるの?」

従妹「運気を上げるお守りくらいだったら、すぐに作れると思うわ」

弟「あ、じゃあ…恋愛運のお守りは作れる?」

従妹「うん。弟君、好きな人がいるの?」

弟「いや僕じゃなくてね。お守りをあげたい人がいるんだ」

従妹「わかった。じゃあ、一緒に作ってみよう!」

従妹ちゃんに手を引かれ、庭の方に出た。
庭には花が沢山咲いている。

従妹「おじ様ごめんなさいっ、1枚頂きます」

そう言いながら従妹ちゃんは、何かの花から花びらを1枚抜いた。

弟「もしかして、それが材料?」

従妹「そう。花言葉って知ってる? それと同じように花にはそれぞれ、運気を上げる力があるの。この花が恋愛運にはいいわ」

弟「へぇ~、そうなんだ」

従妹「この花びらをこうして小瓶に入れてね…」

僕は従妹ちゃんに聞きながら、お守り作りにとりかかっていた。
なんだか工作みたいで、面白い。

弟(魔道士兄ちゃんが報われますように……)

そんな願いを込めていた。





僕は体が弱くて、小さい頃は病気ばかりしていた。
だから他の子みたく外で遊べなかったし、友達もあまり作れなかった。

それでも僕は、寂しくなんかなかった。

弟『~♪』

1人で本の世界に浸ることで、ドキドキもワクワクもできたから。
本だけが僕の友達だった。


ある日僕は、溜めたお小遣いを持って古本屋に出かけた。

弟『何かいい本が見つかるといいな…うん?』

商店街にあるベンチでスケッチブックを広げている兄ちゃんがいた。
とても真剣に手を動かしているのが、見ていてわかる。

弟(どんな絵を描いているのかなぁ)

僕はそっと兄ちゃんの後ろに回り込んだ。すると…

弟『わぁ~!』

絵描き『!?』ビクッ

スケッチブックの中には『世界』が広がっていた。

弟『凄い、凄い! 世界を作り出せるなんて、天才だよ!』

絵描き『え、えーと…』

兄ちゃんは気弱な目で僕を見ていた。
しまった、驚かせちゃったか。

弟『あ、ごめんね。僕、絵とか好きだから気になって…』

絵描き『そ、そう』

弟『ねぇねぇ、他にも絵ある?』

絵描き『あ、あるけど…』

弟『本当! ねぇ見せて見せて!』

絵描きの兄ちゃんは戸惑いながらも、僕にスケッチブックを見せてくれた。
動物、植物、町並み…色んなものを描いていて、そこにも『世界』がある。

弟『絵本みたーい』

それは僕にとって精一杯の褒め言葉だった。

絵描き『その…絵、いる?』

弟『くれるの! 欲しい!』

少ないお小遣いをやりくりして本を買っている僕にとって、嬉しい話だった。
その時の僕の目はキラキラしてたんだと思う。僕のそんな様子を見て、兄ちゃんもちょっと笑ってくれて。

弟『兄ちゃん、いつもここにいるの?』

絵描き『えーと…しばらくは、この町のどこかにいる予定』

弟『じゃあ、また来てもいいかな?』

絵描き『う、うん、いいよ』

弟『やったぁ! じゃあ兄ちゃんと僕は友達だね!』

絵描き『と、友達…』

その時の兄ちゃんは戸惑いながらも、どこか、嬉しそうだった。



それからの僕は、体の調子がいい時に、兄ちゃんの所に遊びに行っていた。

弟『兄ちゃん兄ちゃん』

その時の僕は人との距離感なんてよくわかっていなかったから、

弟『ねぇ兄ちゃん、この本面白いけど挿絵がないんだ。兄ちゃんのイメージで絵を描いてみてよ』

こういうお願いを平然としていた。
だけど兄ちゃんは優しいものだから、

絵描き『いいよ。本、借りてもいい?』

僕が頼んだことは、笑顔で叶えてくれた。

弟『まるで魔法だよね』

絵描き『ま、魔法?』

弟『うん。真っ白なスケッチブックに『世界』を作り出していく…それって魔法みたいだなって』

絵描き『…そう言ってくれるのなら』

兄ちゃんは、褒めると照れる人だった。





弟『遊びに行ってきまーす』

町娘『弟君、最近よく出かけるわね。何か面白いことでも見つけた?』

弟『うん! あのね、絵描きの兄ちゃんと友達になったの』

町娘『絵描き?』

弟『そう。見てこれ、全部兄ちゃんに描いてもらったの』

町娘『まぁ…こんなに沢山』

弟『兄ちゃん、優しいんだよ。僕のお話も聞いてくれるし』

町娘『1度お礼に伺わないと。お姉ちゃんも行っていい?』

弟『うん、いいよ!』



弟『絵描き兄ちゃーん』

絵描き『あ、弟く…』

いつものように兄ちゃんは出迎えようとしてくれていたけど。

絵描き『――っ!?』

弟『?』

町娘『こんにちは、弟君の姉の、町娘です』

その時の僕はわからなかった。
兄ちゃんは、女の人が苦手だってことを。

町娘『いつも弟がお世話になっています』

絵描き『い、いえ…こちらこそ…』オドオド

町娘『…素敵ですね』

絵描き『えっ!?』

町娘『その絵。芸術には詳しくないんですけど、とても素敵だと思います』

絵描き『ど、どうも』

町娘『弟君、あまり友達がいないんです。これからも宜しくしてあげて下さい』ペコッ

絵描き『は、はいっ!』





絵描き『ご、ご馳走になって…あ、ありがとうございます』

町娘『いいえ、また来て下さいね。弟君の大事なお友達ですから』

絵描き『は、はい』

弟(兄ちゃんってお姉ちゃんの前では、いっつもオドオドするなー)

思い返せば、あの頃からだったのかもしれない。

弟『ねぇ兄ちゃん、お姉ちゃんのこと苦手?』

絵描き『!? い、いや、そんなことないよ!』

弟『ふぅん』

兄ちゃんは、あの頃からお姉ちゃんが好きだったんだ。

絵描き『綺麗で…優しい人だと思ってる』

弟『本当? へへ、自慢のお姉ちゃんだよ』

絵描き『うん…あ、お姉さんには言わないでね』

弟『わかった。言わないね!』





ある日…

弟『あれー、今日は兄ちゃんいないなぁ』キョロキョロ

弟『どこ行っちゃったのかなー』

その日僕は、兄ちゃんを探して歩き回っていた。

ポツ

弟『あ、雨…』

その時は傘も持っていなくて、町から少し離れていた為雨宿りする場所もなかった。
僕は急いで家に戻ろうと走った。

弟『ゼェゼェ』

さっきまで歩き回っていて疲れていた。
ただでさえ体力のない僕は、少し走っただけで息切れしてしまう。

弟『もうちょっと歩けば…』

絵描き『弟君!』

弟『あ…』

バッタリ、絵描き兄ちゃんと遭遇した。
その時の僕は、兄ちゃんに会えた安心感で一杯だった。

絵描き『弟君、顔色悪いよ! た、大変だ』

兄ちゃんは僕を背負って走り出した。
雨に濡れた僕を背負って走って、兄ちゃんもかなり息切れしてたけど、それでもスピードを落とさず走ってくれた。


絵描き『お、弟君がっ』

叔父『びしょ濡れじゃないか、早く着替えさせないと!』

絵描き『す、すみません…僕を探して遠くまで行ってしまったようで…』

叔父『いや、送ってくれてありがとな。あんたも服乾かしていきな』

弟『うぅーん…』


それから僕は風邪を引いてしまい、何日か寝込んでいたらしい。
その間は熱にうなされていたので、記憶が定かじゃない。

だけど、1つ覚えているのは――



『弟君、ごめんね』

――誰?

うっすらと聞こえる声に、僕は反応も返せずにいた。
だけど暖かい手が、僕の手を握ってくれて。

『家の都合で――僕はもう行かないといけない』

『お守りを置いていくよ…。君が少しでも丈夫になれるように、願いを込めておいた』

『君のお陰で楽しかった。君が僕の初めての友達になってくれたんだ』

『次に会う時までに、もっともっと立派になるから――』

『その時は、また僕と遊んでね』


弟『絵描き…兄ちゃん……?』


何日かして僕は動けるようになったけど、その時にはもう、絵描き兄ちゃんは町を去った後だった。僕の枕元に、お守りを残して――





従妹「ねぇ」

お守り作りも仕上げという所で、従妹ちゃんがふとこんな話をしてきた。

従妹「お守りをあげたい人って、弟君にとって大事な人?」

弟「うん! 魔道士兄ちゃんなんだけどね、僕のお姉ちゃんのことが好きなんだ」

従妹「じゃあ2人が結婚したら、魔道士お兄ちゃんと親戚になるのね」

弟「そうだね」

魔道士兄ちゃんとは今でも仲の良い友達。
だけど僕の本当の兄ちゃんになってくれたら、どんなに嬉しいことか。

弟「それに魔道士兄ちゃんなら、お姉ちゃんを幸せにしてくれると思うんだ」

従妹「優しいもんね、魔道士お兄ちゃん」

弟「うん!」

兄ちゃんは明るくてかっこよくなっても、昔と変わらず優しいままだ。
僕はお姉ちゃんも魔道士兄ちゃんも大好きだから、2人には幸せになってもらいたい。

従妹「叶うといいね、恋愛成就」

弟「うん!」


魔道士兄ちゃんはちょっとだらしない所があって、お姉ちゃんに怒られてばかりいる。
でもお姉ちゃんだって、魔道士兄ちゃんのいい所は沢山知っているはずだ。

魔法の腕が凄い所。
絵が上手な所。
いつでも穏やかで優しい所。
ピンチな時には助けてくれる所。

そんな兄ちゃんの想いが報われるように――

従妹「よし、お守りはこれで完成よ」

弟「ありがとう! 早速、兄ちゃんに渡してくる!」

僕はちょっとでも、兄ちゃんの力になりたかった。



弟「兄ちゃーん…?」

パーティー会場に戻って兄ちゃんの姿を探すけど、いない。
お姉ちゃんもいないし、どこに行ったのだろう。

従妹「あっちの方から魔道士お兄ちゃんの魔力を感じるわよ」

弟「そっか。ありがとう!」

早くお守りを渡したくて僕は急いだ。
そして、兄ちゃんの姿を見つけたけれど――


町娘「しっかりして下さい魔道士さん」

魔道士「アハーン……」

弟(あ、お姉ちゃんも一緒だ)

お守りはお姉ちゃんのいない時に渡したい。
そう思ってタイミングを見計らっていたけれど。

魔道士「本当に大丈夫かなぁ…」

魔道士兄ちゃんは、何やら浮かない様子だった。

魔道士「皆、絵描きだった頃の僕を知っているから…昔のように、馬鹿にされるんじゃないかって思って…」

弟(何があったのかな?)

魔道士兄ちゃんの顔は弱気で、昔の面影が強く出ていた。
僕は兄ちゃんが痩せてから、兄ちゃんのあんな顔を見たことがない。だから余計に心配で。

魔道士「やっぱり、あんまり目立ったことはしたくないなぁ…」

何だかよくわからないけど、弱気になっている兄ちゃんを励ましたいと思った。
だけど――

町娘「大丈夫ですよ魔道士さん」

僕が出て行く前に、お姉ちゃんはそう言った。

町娘「今の魔道士さんは魔導名家の当主を立派に務めているじゃありませんか。魔道士さんを馬鹿にできる人なんて、いませんよ」

魔道士「でも僕が誇れるのは、魔法の腕だけで…」

町娘「もっともっと、魔道士さんは自分を誇っていいと私は思います」

僕は、こんな光景を初めて見る。

町娘「昔の魔道士さんを知ってるからこそ、今の魔道士さんは輝いて見えますよ。魔道士さんは一生懸命努力され、それだけの力を手に入れたんですから」

お姉ちゃんが、魔道士兄ちゃんを励ますなんて。

町娘「それに私――魔道士さんが描く絵は素敵だと思います」

魔道士「町娘ちゃん…」

その言葉で、兄ちゃんは笑顔を取り戻して。

魔道士「アハハ~ン、町娘ちゃんたら大胆告白ぅ☆ そうだね、卑屈になるなんて僕らしくなかったね! 輝いて目立って、君のハートを射止めちゃうぞっ」バァン

町娘「真面目に」

魔道士「………」モジモジ

町娘「だから何で真面目だとそうなるんですか!? 中間はないんですか!?」


弟「……」


元気になった魔道士兄ちゃんとお姉ちゃんはパーティー会場に戻っていく。
僕も2人に気づかれないように、その後を追った。


魔道士「パパ、遅くなったけどプレゼントを渡したいんだ」

魔道士兄ちゃんがお父さんに声をかけた所で、皆の視線が兄ちゃんに向いた。
兄ちゃんが弱気になっていたのは、プレゼントのせいだろうか…? 僕は黙って見ていることにした。

父「ほう、何をくれるのかな魔道士」

魔道士「これだよ」

魔道士兄ちゃんが上空に魔法を放つと、何もなかった所に何かが出てきた。
あれは――

魔道士「パパの故郷の絵だよ。1ヶ月かけて描いてたんだ」

弟(わぁ)


魔道士『皆、絵描きだった頃の僕を知っているから…昔のように、馬鹿にされるんじゃないかって思って…』


さっき兄ちゃんの言っていた言葉の意味がわかった。
絵を見せることで「絵描き」だった頃の自分を馬鹿にされるのではないか――兄ちゃんは、それが怖かったんだ。

弟(でも大丈夫だよ、兄ちゃん)


父「これは嬉しいな!」


おじさんは大きな声で言った。

父「これは魔法では作り出せない、世界でたった1つの絵だ。故郷での懐かしい思い出が、キャンパスに浮かんでいるようだ」

母「そうねぇ、とても素敵なプレゼントだわ」

父「ありがとう魔道士。私室に大事に飾らせてもらう」

魔道士「パパ…」

それを聞いた時の魔道士兄ちゃんは恥ずかしそうだけど、嬉しそうに見えた。


親戚A「お前、まだ絵描いてたのかよーっ」ポンッ

魔道士「あ、ま、まぁね」

親戚B「そうだったなー、昔から絵ばっか描いてたよな」

親戚C「もうやめちまったのかと思ってたよ」

魔道士「ハハ…まぁ、最近はスケッチ程度しか描かなくなっていたけどね」

親戚A「何でー? もったいない!」

魔道士「…えっ?」

その言葉に、兄ちゃんは驚いていた。

親戚B「魔法商売の他にも、絵を売ってみたらどうよ?」

親戚C「それいいな。俺が買うぞ」

魔道士「……」

町娘「…ね、言ったでしょ?」

魔道士「うん…そうだね!」

兄ちゃんは満面の笑みを浮かべた。
きっと絵を認められたことで、コンプレックスが1つ解消したのだろう。
兄ちゃんは凄い人だけど、それだけのことが、すっごくすっごく嬉しいのだ。


従妹「弟君、お守り渡せた?」

弟「ううん」

従妹「どうして?」

弟「だって…」


さっきの2人の様子を見て思った。
兄ちゃんの魅力は、ちゃんとお姉ちゃんに伝わっている。


弟「兄ちゃんなら大丈夫! 僕、もっと兄ちゃんの力を信じてみるよ!」

従妹「そっか。…うん、それがいいね!」


2人が僕が望む関係になるのは、いつになるかはわからないけど。


弟「おじさん、これプレゼント!」

父「おっ、これは?」

弟「あのね、いつまでも奥さんと仲良く、っていうお願いを込めたお守り!」

父「おやおや、ありがとう。これは夫婦喧嘩もできんなぁ」ハハハ

母「ふふ、そうですねぇ」


いつかはきっと、そうなれると信じて。


町娘「弟君、迷子にならなかった?」

弟「うん! お姉ちゃん、僕はもう一人前だから、僕のこと気にかけなくても大丈夫だよ!」

町娘「あらあら、言うようになったわねぇ」


2人が自分の幸せに向かえるように、僕のことを気にかけなくても大丈夫なように、僕はもっと強くなろうと思う。

そうと決まれば――


弟「よーし…頑張ろうっ!」



Fin


あとがき

リクエスト下さったシヅキ様、ありがとうございます(´▽`)ノ
魔道士「僕のお嫁さんを召喚するよ☆」 のチャオさん一族との会食や弟視点のメイン2人との事でした。

チャオさんの一族もチャオな人らかなと当初思っていたんですが、チャオな一族の中で絵描きさんみたいな人が育つわけないなと思い直し、普通の人になりました。
チャオさん一族でおかしいのはチャオさんただ1人だ!!クワッ

ってか今作のチャオさんわりかしマトモな人でしたね。私は頭のおかしなチャオさんが好きですが、頭おかしいだけだと町娘と絶対添い遂げませんなwww
posted by ぽんざれす at 15:37| Comment(2) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月21日

【スピンオフ】勇者の娘「お父様の仇を討ちます」【その後】

勇者の娘「お父様の仇を討ちます」(1/2 2/2)のスピンオフです



令嬢「あら、もうこんな時間」

時刻は既に夜の8時。
今日の仕事は早番なので、彼は1時間前には帰宅している筈なのだが…。

令嬢(残業かしらね。騎士団も大変だわ)

令嬢は大して気に留めず、新聞を読んでいた。大きな事件もなく、今日も世界は平和。
勇者一族の当主である彼女にとって、これ以上喜ばしいこともない。

使用人「旦那様が帰られました」

令嬢「わかったわ」



令嬢「お帰りなさい、あなた」

令嬢は玄関まで夫を出迎えに来ていた。
これ位はいつも通りだが――

暗黒騎士「あ、あぁ」

令嬢「?」

何やら夫――暗黒騎士は若干、挙動不審だ。

令嬢「何かありました?」

暗黒騎士「え!? あ、いや…何でも」

令嬢「……そうですか」

怪しい。

令嬢「まぁ、隠し事の1つや2つ、構いませんよ。…でも、やましいことはいつかバレるってことだけは覚えておいて下さいね」

令嬢のストレートな物言いに、暗黒騎士の表情が強ばった。
オブラートに包んだ物言いだとか、泳がせておくだとか、そういうのは令嬢のやり方ではない。

暗黒騎士「…お前にはかなわんな」

令嬢「えぇ。主導権を渡すつもりはありませんよ」

暗黒騎士「参った参った。どうせ近々わかることだ。ところで、腹が減ったのだが」

令嬢「はい、すぐ温め直して出しますね」

令嬢はそう言って足早にキッチンへ向かう。
暗黒騎士はそんな令嬢の背中を見送りながら、思う。

暗黒騎士(きっと、俺が帰るまで自分も食べずに待っててくれていたんだろうな)

暗黒騎士(主導権は渡さないと言いながらも、当たり前のように俺に尽くしてくれる。……本当にかなわんな)フッ





2人は食卓について、少し遅めの夕飯をとっていた。

暗黒騎士「今日はお前の嫌いな魚料理なのだな」

令嬢「…栄養バランスを考慮して作られた食事です、文句など言いません」

暗黒騎士(とか言いながら、口に入れた時の顔がかなり嫌そうなんだよなぁ)クク

令嬢「……何ですか、その顔は」

令嬢はムスッとする。
こういう、見栄っ張りなのに、完璧に外面を繕えないところが令嬢らしい、と暗黒騎士は思う。
勿論、そういう所が可愛いと思ってはいるが。

暗黒騎士「そういえば今日の調理番は、今日で辞めるんだったか。…使用人が辞めるの、これで何人目だ」

令嬢「今年で5人目ですね…。私は使用人に文句をつけたこともないんですけど…」

暗黒騎士「あぁ、わかっている」

令嬢は人間関係の構築が下手だ。
基本的に表情が乏しく、それでかなりストイックな性格だ。そんな所が、周囲の人間にも重圧を与えているのだ、と暗黒騎士は思っている。
深く関われば抜けている所もある奴だとわかるのだが、そこまで深い関係にならない使用人にとっては、令嬢の下で働くのは息苦しいものがあるのかもしれない。

暗黒騎士(それでも上手く仕えていたな――『あいつ』は)

そう思ったが、令嬢との間で何となく『あいつ』の話題は禁句になっている。

暗黒騎士「…たまには、お前の手料理も食べてみたいな」

話題を変えて、暗黒騎士はそんなことを言った。

令嬢「下手ですよ?」

暗黒騎士「あぁ知ってる」

令嬢「わざわざ、まずいものを食べたいのですか?」

暗黒騎士「それも良い」

令嬢「…何を企んでいるんですか」

暗黒騎士「やましいことだ」

令嬢「暴いてみたくなってきましたね」

暗黒騎士は「しまった」と思ったが、もう遅い。
基本的に令嬢は負けず嫌いだ。その好戦的な性格が現れるのに、何がスイッチになるかわからない。

何か別の話題を――と思ったその時、救いはやってきた。

使用人「令嬢様、旦那様。お客様が来られました」

令嬢「こんな時間に? 誰かしら」

使用人「はい…魔姫様の使いでやってこられた、魔物の方ですね」

令嬢「魔姫さんの」

令嬢はその名前を聞いて立ち上がった。
令嬢にとって唯一の友人である魔姫。最近ほとんど交流がなかった為か、その名への反応は大きかった。




猫男爵「よぉ」

令嬢&暗黒騎士「お前か」

来たのは旧魔王軍幹部の猫男爵。
令嬢も暗黒騎士も、こいつに冷遇されたことがあるので、良い印象は抱いていない。

猫男爵「あからさまにガッカリしないでくれるか…」

しかし魔王軍が大人しくなった影響か、猫男爵の態度にも、かつての尊大さはない。

令嬢「魔姫さんからの使いと言っていましたね。何の御用ですか?」

雑談をする間柄でもないので、さっさと用件を聞く。
猫男爵も「あぁ」と、気を悪くした様子はない。

猫男爵「魔姫様だが――正式に魔王になられた」

令嬢「まぁ!」

令嬢はその報せに喜びを表す。

魔王――魔姫の父を討ってから1年。
それから魔姫は魔王軍の魔物達を率いるべく修行したり、平和を脅かそうとする魔物達を屈服させたりと、魔王になる努力を重ねてきたのは知っている。

令嬢「遂に夢が叶ったんですね…良かった」

暗黒騎士「そうだな。魔姫なら人間に害を及ぼそうなどとは考えまい」

猫男爵「それでだ。魔姫様より食事会の誘いだ。2日後、魔王城に来れるか?」

令嬢「2日後とは急ですね」

暗黒騎士「あの人はそういう性格だからな。先に延ばすか?」

令嬢「いえ大丈夫です。王子に頼んで、私と暗黒騎士の予定を空けてもらいます」

新魔王と勇者の親睦の為という理由があれば、休みは簡単に取れるだろう。
それに世界が平和なおかげで、勇者としても、騎士団に所属する暗黒騎士も、仕事はほとんどない。

猫男爵「では出席ということで伝えておく。…他にも何名か同行しても大丈夫とおっしゃっていたから、使用人でも連れてくるといい」

猫男爵は用件を伝えると帰っていく。
その後ろ姿を見送りながら、暗黒騎士はため息をついた。

暗黒騎士「魔王城か…まさか再びあそこに行く羽目になるとはな」

令嬢「かつて、いじめられていた場所ですものね」

暗黒騎士「いじめられてはいない!!」

だが少なくとも、いい思い出のある場所ではあるまい。
令嬢にとっても――

令嬢(お父様が殺されてから数日間だけだけど――あそこにいる間、色々とあったわ)





>2日後


王子「いやぁ、本当にめでたいね! 魔姫様も努力されたんだろうなぁ」

令嬢「……」

暗黒騎士「……」

魔王城までの送迎という名目で、何故か王子も同行してきた。

王子「魔姫様は何たって、誇り高くて気丈で優しい方だからね。なるべくして魔王になったというべきか…」

馬車に揺られて1時間、王子のテンションが下がる様子はない。

令嬢(そう言えば、聞いたことがあったわ…)

王子は自分との婚約が解消されてから、何故か魔姫を口説きにかかっているそうだ。
政治的なことを考えるとメリットのある縁談だとは思うが、王子がそこまで考えて行動しているのかはわからない。

暗黒騎士「王子…あまり恥ずかしいことはするなよ」

王子「僕が恥ずかしいことをすると思っているのかい? 僕は王子、皆の憧れの存在だよ」

暗黒騎士「そう堂々と言える所が既に恥ずかしいぞ」

王子「自信満々で何が悪いのかな? それに、事実だしね!」ハハハ

今は騎士団に所属し、王子の部下である暗黒騎士であるが、仕事外では上下関係を気にせず話している。
王子もそれは気にしていないようで、2人はそれなりに仲が良いように見える。

令嬢「あ、見えてきましたね」

暗黒騎士「あぁ…」

1年ぶりに訪れるが、外観は変わっていない。
魔王城――今は敵はいないとわかっていても、見るだけで緊張し、身が引き締まる。そんな場所だった。




魔姫「令嬢~っ!!」

令嬢「魔姫さん」

令嬢を出迎えるなり、魔姫は抱きついてきた。
その過剰なスキンシップに令嬢は若干戸惑う――と同時に、

暗黒騎士「格差」ボソッ

令嬢「何の?」ゴゴゴ

魔姫「どうしたのよ令嬢、久しぶりに会ったんだからもっと笑ってよぉ」ムニッ

令嬢(……格差)ズーン

抱きしめられる度に感じる柔らかさが、令嬢のメンタルを削っていた。

王子「この度はおめでとうございます、魔姫様。相変わらずお美しい魔姫様を見て、僕の心臓は高鳴りを抑えきれず…」ペラペラ

暗黒騎士「王子、気持ち悪いことほざいてる所悪いが、誰も聞いてないぞ」

王子「魔姫様、落ち着いたら是非、ゆっくり話したいことが…」

魔姫「ゆっくり話……。そうだ令嬢! あんたに重要な話があったの!」

令嬢「重要な話?」

魔姫「えぇ。…食事でもしながら、ゆっくり話すけど――」

暗黒騎士「流されたな王子」

王子「ハハッ、僕はめげないよ」





令嬢「幽霊騒ぎ?」

食事の席につくと魔姫からそんな話を聞かされた。
ここ最近、魔王城で幽霊の目撃談がちょくちょく出ているらしい。

呪術師「ヒヒヒ…それには理由があるのだよ」ヌッ

暗黒騎士「その顔で急に出てくるな、飯がまずくなる」

呪術師「魔姫様が魔物の王となることで、魔王城の『空気』そのものが変わろうとしている…『空気』の変化があると奇怪なことも起こるものだ、ヒヒヒ」

令嬢「実害がないならいいんじゃないですか? 放っておいても…」

魔姫「実害!? あるわよ!!」クワッ

令嬢「」ビクッ

呪術師「ふとした瞬間に急に出て驚かしてくるんだぞっ!!」クワッ

猫男爵「気配を感じるのに誰もいないのだぞ、気になってたまらん!!」クワッ


令嬢「…えーと」

王子「…怖いのかな?」

暗黒騎士「…怖いんだろうな」

猫男爵「こ、ここ怖いだと!? そんなことはない、ただ単に魔王城の被害状況を考慮してだなぁ」ガタガタ

令嬢「はいはい」

暗黒騎士「でも幽霊相手にどうする気だ? 正直、幽霊など対処法も思いつかんが…」

王子「…令嬢様の、光の剣の出番かな?」

令嬢「…光の剣の?」

光の剣――勇者一族に伝わる、切れぬ者は存在しないという必殺技。だが――

令嬢「幽霊に効くのかしら…」

魔姫「ダメ元でやってみましょうよ、ね!? お願いよぉ、他に対処法が思いつかないのおぉぉ!!」

令嬢「ダメ元でいいのなら…」

魔姫「ありがとう令嬢!」ギュッ

猫男爵「良かったああぁぁ!!」

呪術師「是非頼んだぞ、ヒヒヒヒヒ!!」

暗黒騎士「お前達は寄るな、気持ちの悪い!!」ゲシッ





令嬢「でも、元気そうで良かったです魔姫さん」

食事を終えた後、魔姫に誘われて庭園を散歩することになった。
昔と違い庭園には、色とりどりの花が沢山咲いている。きっと魔姫の趣味だろう。
呪術師の言葉ではないが、確かにこの魔王城の空気は変わろうとしているのかもしれない。

魔姫「令嬢こそ~。勇者一族当主としての仕事、結構大変なんでしょ?」

令嬢「最初の頃こそは大変でしたけど、周囲の人の助けもあってやってこられましたね」

魔姫「私も同じよ。幹部達には沢山助けてもらったわ。…性格はねじれている奴らだけど、忠誠心はあるのよね」

幹部…そこにはかつて暗黒騎士も属していた。
令嬢は色々と嫌な目に遭わされてはきたが、魔姫の力になったのは素直に評価する。

魔姫「けど魔王になって早々に、こんな幽霊騒動につまずいてるんだもの。何か、自信失くすわ…」ハァ

令嬢「幽霊相手なら仕方ないですよ。手も足も出せませんからね」

魔姫「そうなんだけどねー…威厳を損なわないかしらねぇ」

令嬢「威厳ですか……」

それは確かにそうかもしれない…と思ったが、それをそのまま伝えていいものか。
令嬢は魔姫に威厳など求めていないが、それは友人同士だからの話。魔王としての魔姫には、威厳が必要なのは確かだろう。

そう思いながら返答に困っていると…。

王子「心配ありませんよ、魔姫様」

魔姫「!」

令嬢「あら、王子」

王子「魔姫様は幽霊騒動を解決する為、令嬢様に協力を要請するという的確な手段を取った…これは評価される点だと思いますよ」

魔姫「そ、そうかしら」

王子「えぇ。それに幽霊騒動の調査も兼ねて、城の魔物達に色々話を聞いていましたが――」

令嬢(真面目だなぁ)

王子「魔姫様の、魔王になる為の努力を貶す者はいませんでした。…魔姫様は威厳ではなく、慕われることで支持されるタイプなのでしょう」

令嬢「何となくわかりますね」

幹部達が魔姫についてきたのも、彼女自身が好かれていたからだろう。
魔姫の友人である令嬢は、魔姫の魅力をよくわかっている。

令嬢「上手く言葉にはできないですけど…私も、魔姫さんは立派な魔王になれると思いますよ」

魔姫「令嬢…王子…」

王子「あぁそうだ、魔姫様。落ち着いたらで構いませんので…」

魔姫「え?」

王子「僕からの恋文への返事、そろそろ出して下さいよ?」ハハッ

魔姫「っ!!」

令嬢「まぁ」

王子は魔姫の返答を聞く前に、さわやかに立ち去っていった。
取り残された魔姫は…あぁ、耳まで真っ赤だ。

令嬢(…王子があそこまで積極的だったとは)

魔姫「そ、そうよね…返事くらいはしないと失礼よね……」

令嬢「王子は心の強い方だから、嫌ならはっきり断って大丈夫ですよ」

魔姫「嫌…ってわけじゃないけど……」

令嬢「……」

令嬢も理解していた。
あれから1年――『彼』を失った心が完全に癒えるには、まだ早いのかもしれない。

令嬢(だって私にも――忘れられない人はいるから)





暗黒騎士「…そう言えば、悪魔はどうした?」

王子と同じく、幽霊騒動について聞き込みをしていた暗黒騎士は、ふとそんなことを口にした。
呪術師、猫男爵、悪魔――全員好かない奴だが、こいつらが揃わないと何だかしっくりこない。

猫男爵「悪魔は今、体調を崩して寝ている」

暗黒騎士「何かあったのか」

呪術師「ヒヒ、原因はわからん。けど幽霊騒動が始まった頃からだな、体調を崩したのは」

暗黒騎士「そうか…」

もし幽霊騒動と関係があるのなら、実害は出ているということだ。
悪魔を心配する気持ちはこれっぽっちもないが、このままにはしておけまい。

暗黒騎士「とにかく、夜にならんと動きようがないな」

猫男爵「そうだな」

呪術師「ヒヒ、吉報を期待する」

暗黒騎士「…お前達も動くんだよ」

猫男爵&呪術師「ファッ!?」





>夜、食堂


令嬢「さてやって参りました、恐怖のお時間です」

王子「待ってましたっ」ピューッ

暗黒騎士「幽霊か…まさかお会いできる日がやってくるとはな」フッ

魔姫「ちょっと何で3人とも楽しんでるのよ!?」

猫男爵「理解しがたいものだな…人間というものは」

呪術師「ヒヒ…全くだ」

暗黒騎士「ただのビビリが格好つけるな」

王子「まぁまぁ。これだけ人数がいれば怖くないでしょ魔姫様」

魔姫「そ、そうね…! いや、別にぃ私魔王だから平気だけどねっ!?」

令嬢「じゃあ電気消して怖い話大会から…」

魔姫「令嬢おおぉぉ!!」

令嬢(面白い)

王子(可愛い)

暗黒騎士「城中の幽霊をここに集め、一気に叩くぞ…おい呪術師、幽霊を呼び出せないか」

呪術師「幽霊が好みそうなジメッとした空気を集めることならできるぞ」

呪術師はそう言うと呪文を唱え始めた。
心なしか、空気が冷えてきたような気がする。

魔姫「何か…それっぽい空気になってきたわね……」

ゴトンッ

魔姫「きゃああぁ!?」

王子「はは魔姫様、絵が落ちただけですよ」

暗黒騎士「……天井にな」

猫男爵「うおぉ!?」

食堂の花瓶やランプが宙に浮かび、ぐるんぐるん回り始めた。
これは間違いない。ポルターガイストだ。

令嬢「魔法みたいですね」

魔姫「いやあああぁぁぁ、幽霊、幽霊の仕業よおおぉぉ!!」

暗黒騎士「怯えている暇はないぞ」

飛んでくるものを邪魔臭そうに弾き落としながら暗黒騎士は言った。
どうする…と令嬢に目配せする。

令嬢「どうするもこうするも」

冷静に返した令嬢は、凛とした態度で言った。

令嬢「いるんでしょ幽霊! 姿を現しなさい!」


令嬢がそう叫ぶと、ポルターガイストはピタッと止んだ。
そして――

幽霊「ふん…人間めが偉そうに」

半透明に透けた魔物達が、次々にボウッと姿を現した。

魔姫「きゃあああぁぁぁ!!!」

王子「魔姫様、僕の後ろにどうぞ」

暗黒騎士「おい幽霊。何故、我々を攻撃した?」

幽霊「気に入らんのだよ…魔物と人間が仲良さそうに集まりおって」

王子「おやおや、嫉妬かな?」

幽霊「新たな魔王よ――」

幽霊はそう言って魔姫を睨む。
魔姫はというと、強気に睨み返す――かなり、足が震えているけど。

幽霊「我々は気に入らんのだ…歴代の魔王様達は人間達に恐怖心を植えつけ、勇敢に戦い死んでいった…それが平和主義の魔王だと! そんなもの、認められん!」

魔姫「まーっ、流石死人は時代錯誤も甚だしいわね!」

魔姫は、今度は怯むことなく怒鳴りつけた。

魔姫「私は私なりのやり方でやっていくわ! 歴代の魔王を引き合いに出されて、あぁそうですねって納得するわけないでしょ!」

暗黒騎士「死人は現世のことに口出しするべきではないな」

王子「とんだ老害だね、新しいものを受け入れられないなんて」

魔姫の反論と、援護射撃。
幽霊の様子は段々不穏になっていく。

幽霊「我々は…魔物の繁栄する世界を目指す為、魔王様と共に戦ってきた…だから……」

気付けば食堂には幽霊達が集まり、6人は囲まれていた。
ピリついた空気…だが、怯えている暇はない。

幽霊「お前が魔王だと、認めるわけにはいかんのだあぁ!!」

そう言って幽霊達は一斉に襲いかかってきた。

令嬢「好都合――」


1匹の幽霊が令嬢に襲いかかる。
だが令嬢はそこから一歩も動かずに――

シュバァッ

幽霊「!?」

幽霊は、唐突に姿を消した。

令嬢「効くんですね…光の剣」


幽霊達がざわつき始める。
令嬢の手から発せられる光に、見覚えがあるのだ。

幽霊「光の剣…貴様、勇者か!」

令嬢「流石に知ってたの。まぁいいわ、次は誰が消されたい?」

幽霊「おのれっ!!」


幽霊達の狙いは、令嬢に一点集中された。
魔物にとって勇者は忌むべき敵――ならば、最優先で討たねばならない。

令嬢「嬉しいわね。私に無双させてくれるの」

1匹、2匹――令嬢は軽やかな動きで幽霊を切る。
幽霊といっても、所詮は雑魚の魔物。そんな相手に自分が苦戦するわけがない。

王子「おや」

周囲の気配が変化する。
部屋の物品が宙に浮かび始めたのだ。

暗黒騎士「幽霊といっても、大したことはできんようだな」

暗黒騎士は剣を構える。
彼の視線の先――ナイフやフォーク、鋭利なものが令嬢に向かって飛んでいた。

暗黒騎士「はあぁっ!」カキィン

暗黒騎士は剣ひと振りでそれを弾き落とした。


令嬢「あら、ありがとうございます」

暗黒騎士「構わん。お前は幽霊を切ることに集中していろ」

令嬢「えぇ。…ふふふ」

守られていると実感する。力強い彼には素直に頼ることができる。
令嬢は安心して暗黒騎士に背中を預け、幽霊に向き直った。


それでも油断はならず、色んなものが飛んできたが…

王子「甘いね」ガキンッ

猫男爵「くっ、何なんだ!」シュッ

魔姫「あーもうっ、邪魔くさいわねぇ!!」バリバリッ

その程度の攻撃、このメンバーが揃えば何てことなかった。
所詮は稚拙な物理攻撃である。



呪術師「ヒヒッ…魔法陣完了!」

暗黒騎士「いつの間に」

呪術師「発動~っ! イヒヒヒヒヒヒッ!!」

幽霊達「うぎゃああああぁぁぁ」

暗黒騎士「おぉ、幽霊にも呪いが効くのか」

呪術師「イヒッ、イヒャヒャヒャヒャ、アヒアヒアヒアヒ!!」

猫男爵「喜んでいるな、気持ちよく技が決まって」

暗黒騎士「あぁ。そんな様子は気持ち悪いがな」



令嬢「最後の一匹っ!」シュバッ

幽霊「うわあああぁぁ」

最後の一匹を消し去り、ポルターガイストは収まった。
魔姫らはほっとため息をつく。

魔姫「あぁ、どうなることかと思ったわ…。でも、何とかなったわね」

猫男爵「これで幽霊騒ぎも一件落着か…」


と、その時。

ガチャッ


悪魔「………」

今回病欠していた悪魔が入ってきた。

猫男爵「おぉ悪魔。体調が回復したか?」

と、猫男爵が悪魔に近づこうとしたが。

暗黒騎士「待て。…おかしいぞ」

猫男爵を止めた。

おかしい…確かに悪魔の様子はおかしい。
まず、一言も喋らない。その目は虚ろで、心ここにあらずといった様子だ。

悪魔「グ……」

呪術師「あ、ああぁ……」ガタガタ

その悪魔の異変の正体に気付いたのか、呪術師の顔は真っ青になる。

魔姫「な、何!? 何があったの呪術師!?」

呪術師「悪魔の奴…憑かれている!!」

魔姫「な!?」


悪魔「アアアアァァァアァァァアアアァァ!!」

猫男爵「おい悪魔! 大丈夫かっ!」ダッ

暗黒騎士「待て猫男爵! 今のそいつに近寄るなっ……」

だが、制止は間に合わず――

悪魔「グアアァァァアアァァ!!」シュバッ

猫男爵「うわあぁぁ!!」

悪魔の爪に切り裂かれた。
倒れた猫男爵に更にもう一擊――という所で、暗黒騎士がその爪を受け止めた。

暗黒騎士「おい生きてるか猫男爵」

猫男爵「平気だ…」ペロペロ

令嬢(そういえばコイツ猫だったわ…)


悪魔「アアァァアアアアァァァアァァ!!」ガキンガキン

暗黒騎士「くっ、理性を失ってやがる!」

令嬢「加勢したいけど…」

光の剣だと悪魔ごと殺してしまう。
取り付いている幽霊が悪魔から出てこないことには、令嬢は手を出せない。

魔姫「この魔力…さっきまでの雑魚とは比べ物にならないわ! きっと高位の魔物よ!」

魔姫が攻撃魔法を放っていたが、悪魔にダメージを与えることができずにいる。
霊は、暗黒騎士と攻防を繰り返しながら、魔力によるガードをしているのだ。

暗黒騎士は防戦一方。攻撃を受け止めるが、攻撃に繋げることができずにいる。
大きな一擊が放たれ、防御は不可能――ならば回避する。

悪魔「グアアァァァアアァアアァ」

暗黒騎士「あっ!」

回避した隙に、悪魔は暗黒騎士を無視して突っ込んでいく。その先にいるのは――

魔姫「ひっ――」

悪魔「マ、マオオォオォォオオォォ!!」

令嬢「魔姫さん!」

令嬢が気付いた時には遅かった。
悪魔と魔姫の距離はかなり縮まっており、駆けつけるには遅い。


間に合わない――



王子「――わけがないよね」


悪魔「ガハアアァァ!!」

王子の剣が容赦なく悪魔を切った。
悪魔の腕が1本吹っ飛び、噴き出した血が魔姫にかからぬよう、王子は魔姫の前に立つ。

王子「あれ、確かその悪魔君は回復能力があるんだったよね? 違ったかな?」

暗黒騎士「いや合ってるが…お前、自信ないのに切ったのか」

王子「いやぁ」アハハ

王子は笑って誤魔化す。
まぁ、暗黒騎士が悪魔の腕を切ってみせたのは1年前のことなので、王子も本当に忘れてはいないと思うが。…多分。

王子「でも、剣の効く相手なら大歓迎。幽霊なんか相手にするより、大分やりやすいよね」

暗黒騎士「あぁ、そうだな…」

王子「おや暗黒騎士、君は下がってていいよ。ここは僕が優雅に決着をつけるから」

暗黒騎士「馬鹿言うな。仮にも主君に任せておけるか」

王子「いやぁ、だって…僕の方が強いし?」ニコッ

暗黒騎士「何だと貴様ぁ! 聞き捨てならんぞ!!」

王子「ムキになるのは本当のことだからかな?」

暗黒騎士「…許さん」ゴゴゴ


悪魔「アアァァアアアァァァアァァ」

2人に悪魔が突っ込んでいく。それでも2人は言い争いをやめない。

王子「よし、じゃあ勝負でもする? 僕の方が強いって証明してあげるよ」

暗黒騎士「言ったな。恥をかかせてやるぞ」

令嬢「……馬鹿2人」

令嬢は呆れた。だが、呆れるだけだった。
だって油断をしていても、相手は暗黒騎士と王子であり――

王子「じゃあ――」クルッ

暗黒騎士「だな――」クルッ


この2人が敗れるなんて、ありえないのだから。


暗黒騎士&王子「こいつを倒した方が勝ちだ!!」


ズバッ ズシュッ ババッ バキィ


魔姫「……何あれいじめ?」

令嬢「あれじゃあどっちの勝ちかなんてわからないでしょうに…。本当、2人とも馬鹿」

猫男爵&呪術師「悪魔ああああぁぁぁぁ!!」





悪魔「」

令嬢「倒したはいいですが、霊体が出てきませんね」

猫男爵「悪魔はこのまま取り憑かれたままなのか…」

魔姫「悪魔……どうすればいいの」

令嬢「聖職者の支援を要請してみるのはどうでしょう」

暗黒騎士「それはいかん。悪魔自身も聖職者の技には弱い、下手すれば道連れで悪魔も死ぬ」

呪術師「打つ手なしか…」

魔姫「そんなのイヤァっ!」

魔姫は悪魔の体にすがりつく。
その顔は悲痛に歪んでいて…見ている方も心が痛められる。
悪魔を必要以上に痛めつけた馬鹿2人は、後で説教するとして。

魔姫「私が魔王になれたのは、皆のお陰なの! なのに悪魔を救えないなんて嫌!! 私はもう、誰一人失いたくないのよ!!」

猫男爵「魔姫様…」

呪術師「クッ…悪魔」

令嬢はかける言葉が見つからずにいた。
自分にとっては嫌味幹部3人組の1人程度だったが、それでも魔姫にとっては大事な仲間だ。
その悪魔を救う手段が見つからないのに、安易に大丈夫なんて言葉はかけられない。


暗黒騎士(よりによって幽霊と弱点が被っている悪魔が憑かれるとはな…あぁ、だから憑かれたのか)

暗黒騎士「…ん?」

その時、暗黒騎士が気付いた。

暗黒騎士「おい、あれは何だ?」

令嬢「え?」

全員、暗黒騎士の視線の先に集中する。
すると――上から光るものが、悪魔に向かって降りてきていた。

令嬢「何…また新たな敵!?」

魔姫「違う……」

令嬢「え?」

呆然と呟く魔姫に令嬢は聞き返す。
魔姫は断言した、「違う」と。

魔姫「この魔力……」

魔姫の視線は――光に囚われていた。
令嬢は再度、光を見る。すると……

令嬢「!?」

光は形を作り、その姿に令嬢も驚きを隠せない。


暗黒騎士「翼……」

その名を暗黒騎士が呟く。

その光が形作ったのは、紛れもなく、翼人だった。


光――翼人は悪魔の首筋に触れる。
そして翼人は、悪魔から何かを引っ張り出した――それは、魔物の霊体だった。

暗黒騎士「悪魔から、霊体が抜かれたのか…?」

翼人は霊体を抱えると立ち上がり、上方を見た。
その姿はまるで、今すぐ飛び立って行こうという姿に見えて――


魔姫「待って、翼!!」

魔姫は翼人に駆け寄った。

魔姫「行かないで、翼! わ、私ね、あんたに言いたいことが沢山…!!」

翼人「…魔姫様」

魔姫「!!」

翼人は魔姫に微笑みを向ける。
昔と変わらず優しいその瞳。光に包まれたその姿は慈愛に満ちて見えて――まるで天使のようで。

魔姫「翼ぁ…」

魔姫はすがるように翼人に歩み寄ったが。

翼人「いけませんよ、魔姫様」

翼人は温和にそれを咎めた。

翼人「私は死人――本来なら、貴方とお会いしてはならぬ存在。いつまでも死人に引きずられていてはなりません」

魔姫「でも、翼……」

翼人「魔姫様」

魔姫の言葉を強く遮る。
きっとその先は、翼人がずっと欲しかった言葉。だけど今は、最も聞いてはいけない言葉。


未練を断ち切る為に。前に進む為に。


翼人「私は――魔姫様のお幸せを願っております」

そう言い残すと、翼人は。

魔姫「翼ぁ!」

闇に溶け込むように、その姿を消した。


魔姫「翼…やっと会えたのに……! 私に、貴方を忘れて前に進めと言うの…!?」

令嬢「魔姫さん…」

魔姫だってわかっているだろう。翼人への未練はいつか断ち切らねばならないものだということは。
その気持ちは、自分だって痛い程にわかる――

上手く言葉をかけられない。忘れろなんて安易に言えない。


だけど――


王子「忘れる必要はありませんよ、魔姫様」

王子は迷わずにそう言った。

王子「彼は貴方にとって大事な存在だったのでしょう。ならば忘れる必要はない…忘れずに、前に進めばいい」

魔姫「そんなこと、私には……」

王子「できますよ」

そう、断言した。

王子「魔姫様は皆のお陰で魔王になれたと言われていました。それは魔姫様が1人ではない証拠です。魔姫様のお仲間達も、令嬢様も、暗黒騎士も――勿論僕も、魔姫様の助けになります。ね?」

王子はこちらに振り返った。
「ね?」と聞かれても…返答は決まりきっている。

令嬢「当然です。両種族の和平の為、友人の為…協力は惜しみませんよ」

暗黒騎士「ま、俺にできることならな」

猫男爵「この猫男爵、魔姫様のお力になります」

呪術師「ヒヒッ、私もです、翼人の分まで」


王子「ほら、魔姫様はこれだけの者に支えられているのです。皆に支えられながら少しずつ進めば…魔姫様なら、いつの間にか1人で歩き出していると思いますよ」

魔姫「皆……」

魔姫は鼻をすする。
王子の言葉は気休めなのかもしれない。

令嬢「私も…王子の言う通りだと思いますよ」

不器用な自分には、王子に同調するくらいしかできないけれど。

魔姫「皆、ありがとう」

魔姫が笑顔を取り戻した。それならこの件は、この結末がハッピーエンドなのだろうと令嬢は思った。


令嬢(忘れずに前に進め、か――)





>帰り道


令嬢「ふわ~ぁ…」

暗黒騎士「……眠いな」


幽霊騒動の後、目が冴えてしまい、昨晩は寝ることができなかった。
お陰で寝不足で、帰りの馬車の中は雰囲気が暗い。

王子「すやーすやー」

暗黒騎士「無防備に寝姿を晒しやがって…。この野郎の寝顔が憎らしい」

令嬢「まぁまぁ」

暗黒騎士と王子は、どちらが勝負を制したのかと昨晩から言い争っていた。
令嬢からしたら馬鹿らしい話だが、真剣なのだ、2人とも。

令嬢(魔姫さん…翼人のこと、少しは吹っ切れるかしら)

令嬢(忘れずに前に進め……)

王子の言葉を頭の中で繰り返す。
自分は、進めているだろうか。好きな人と結ばれたはずなのに、頭の中でいつも引っかかるものがあった。
後悔はしていない、絶対に。

だが魔姫のように、また彼に会えたら――


その時である。


令嬢「!! 馬車を停めて下さい!」

暗黒騎士「んっ!?」


馬車が停止すると、令嬢は一目散に外へ駆け出した。
暗黒騎士はその後を追う。一体、何があったのか。

暗黒騎士(んっ…ここは…)

馬車から降りて暗黒騎士は気付いた。
ここは森。確かここは、あの時――

暗黒騎士「!」

暗黒騎士は目を疑った。
だって、そこにいたのは――この場所で死んだ、従者だったから。

翼人を殺し、自分達を引き裂こうとした従者。その事実は消えることはない。

だけど令嬢にとっては、大事な存在だった。

令嬢「従者!!」

話したいことが沢山あった。
伝えたいことが沢山あった。

また会いたいと思っていて、でももう会えないはずだったから――

令嬢「従者、私――っ」

すがるように、手を伸ばしたけれど。

従者は温和な笑みを浮かべ、そして。


――お幸せに、お嬢様――


たった一言そう言い残し、従者は消えた。


令嬢「……従者」

令嬢はそこに呆然と立ち尽くしていた。
暗黒騎士もその横に並ぶ。

暗黒騎士「…あいつ、それだけを伝える為に……」

令嬢「お幸せに…そう言っていましたね」

暗黒騎士「あぁ」

令嬢「従者…私達の仲を認めてくれたんだわ」

暗黒騎士「…そうだな」


ずっと引っかかっていたのは、これだ。
従者は自分達を引き裂こうとして、和解できないまま死んだ。
令嬢にとって幼い頃からの仲である従者に認められなかったことが、引っかかることだったのだ。

令嬢「…でも、何だか…胸につっかえていたものが取れたようです」

ようやく自分も、前に進めそうだと思った。



暗黒騎士「…そうだ」

馬車に戻った時、暗黒騎士が話を切り出した。
そして懐から小さな箱を出すと、令嬢に手渡す。

暗黒騎士「ま、まぁ、あ開けてみろ」

震える声に不信感を覚えながらも、箱を開けてみると…。

令嬢「…これは……」

中には指輪が入っていた。
令嬢の趣味に合う、シンプルな金色の指輪だ。

暗黒騎士「き、今日は結婚記念日だったろ」

令嬢「……あ」

言われて初めて令嬢は気付いた。

令嬢「…なるほど、あの日遅く帰ってきて挙動不審だったのは、これを買ったからなんですね」

暗黒騎士「そのー…お前に合いそうなのが沢山あって、だな」

令嬢「ふふ、ありがとうございます。綺麗ですね」

令嬢は早速指輪をはめた。
隣で暗黒騎士も微笑む。指輪を気に入ってくれたことが嬉しいのだと、わかりやすかった。

暗黒騎士「今日くらいはお前の手料理を食べたいものだな」

令嬢「下手ですけど、いいんですか」

暗黒騎士「構わん。お前が俺の為に作ってくれるものならな」

令嬢「えぇ。帰ったら早速、取り掛かってみますね」


永遠を誓って1年目のこの日、私達はまた前に進むことができた。
皆が幸せでいられるよう、この平和を守っていくと、私は強く心に決めたのだった。


Fin


あとがき

このss書いてから1年経ってたんですね~、作者は何度も読み返してるので実感が無かったですよアッハッハ。

みずの様より、勇者の娘「お父様の仇を討ちます」 のその後とリクエスト頂きました~。ありがとうございます(´∀`)
このssの登場人物全員好きなので、皆で仲良くしている所という要望が嬉しくて嬉しくて…(感涙
それなら翼人や従者も出したいよね!ってとこで、皆仲良くオバケ騒動です。キャラ同士の絡みを沢山入れることを意識してみましたが如何でしょうかgkbr

しかしまぁ…本編と違って何て緊張感がないんだ!!まぁ令嬢側のパーティーがチートみたいなもんだったしな…。
posted by ぽんざれす at 16:51| Comment(2) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月14日

【スピンオフ】女勇者「勇者よりも、お姫様になりたかった」【その後】

女勇者「勇者よりも、お姫様になりたかった」のスピンオフです。



女の子は、誰だってお姫様になれる。

フリフリのドレス、キラキラのアクセサリー、ガラスの靴を身につけて。
お風呂に入って香水をつけて、髪を綺麗に結って…。

今の私は、お姫様。

この一面の花畑の中に溶け込むように、貴方から隠れるの。


この花達の中から、どうか。


「……」


私を見つけて、王子様――


「見つけた」ポン


見つけてくれた!


王子様――私はそう呟く。


そう、目の前にいるのは私の――



「さぁ勇者! 一緒に魔王を倒しに行こうか!」



勇者「――は?」






チュンチュン


勇者「…夢か………」

精霊「夢か、じゃないよ全くもう」

目の前の王子様――もとい精霊は、呆れたように言った。

精霊「呼んでも揺すっても起きないんだもん」

勇者「それで魔王を倒しに行こう、ってか」

魔王と聞くと体が反応して起きてしまうのは、もはや職業病だろう。
勇者は自分の習性に呆れつつ、体を起こした。

精霊「ところで勇者、どんな夢見てたの? 王子様、って」

勇者「ブフッ」

聞かれていた。

精霊「夢の中の話でも、浮気しないでよ~。俺、妬いちゃうよ?」

勇者「ち、ちがっ」

が、勇者はここで発言を止める。
浮気はしていない。だって自分の目の前に現れた王子とは、精霊のことだったのだから。
だが、だからと言って…。

勇者(夢の中で精霊のこと『王子様』って呼んでたなんて言えるか――っ!!)

精霊「ほらほら、ご飯食べて支度する。仕事に遅れるよ」

勇者「うん」


まだ眠気は残っていたものの、服を着替えた頃には目が覚めてきた。
服というのは不思議だ。着る服に合わせ、気分も大きく変わるのだから。

例えばフリフリなドレスを着れば乙女チックな気分になれるし、鎧を着れば気が引き締まるし――


勇者「でりゃあああぁぁぁ」ビシイイィィッ

弟子A「うわあああぁぁ」


道着を着れば、男気に満ちた気分になるし。


勇者「その程度かぁ!! 相手にならん、全員でかかってこい!!」

弟子B「流石、勇者殿…!!」

弟子C「男が束になっても勝てる気がしない…!!」

勇者(何で私はこんなことやってるんだろう…)ズーン


今現在、勇者は剣の指南所で講師をやっていた。
魔王を討伐した後も剣を振る運命から逃れられないのが、勇者というものなのだ。

勇者「いいか、よく見てろ! こうだ! だあああぁぁぁっ!!」

そんなこんなで、今日も勇者は勇ましく剣を振るう。





>夕方


弟子達「ありがとうございましたっ!」

勇者「うん、訓練の後はゆっくり体を休めるように」


今日の指南を終えた勇者は更衣室で汗を拭く。

勇者(そういえば、今日は精霊が着替えを用意してくれたんだっけ…)ゴソゴソ

精霊のことだからフリフリ衣装を入れていないだろうか…という心配が頭をよぎっていたのは、つい先日までの話である。
従者として勇者に仕えるようになって、少しは自重という言葉を覚えたようで…。

勇者(大人しめのブラウスに、ロングスカートだ…よくやった精霊!)

フリフリを着る前に、まずは女物の服に慣れていく必要がある。そんな勇者には、丁度いい。
違和感なく着こなせる、かつ女性らしい服だ。さり気なく花模様が刺繍されている所もポイントが高い。

勇者(これで少しは女性らしく見えるかな~)フンフン♪

勇者「………」

勇者「肩幅、広っ」

更衣室の鏡を見て、勇者は崩れ落ちた。



勇者(今まで男装だったから違和感なかったけど、女物の服着たら、やっぱり体格が目立つなぁ~…)

ゴリラ体型…とまではいかないが、少なくとも自分は可愛らしい体格ではない。
いつぞや精霊が買ってきてくれたワンピース…あれを着た時も、もしかしてガッチリしてたのが目立ってたんじゃあ…。

勇者(筋肉落とさないと『フリフリの似合う女』にはなれない…!)

勇者(でも筋肉落とすには指南所辞めないと…いや無理、一族総出で怒られる)

勇者(どうしろってんだ………)ズーン

正に、八方塞がりな状況である。


勇者(『フリフリの似合う女になる』って言ったのに……)


早くも、前途多難であった。






精霊「~♪」

屋敷では精霊が蔵の掃除をしていた。

精霊「おーわりっと」

蔵から出てエプロンを外し一息ついていると、向こうから重騎士がやってきた。

重騎士「よ、精霊。ちゃんと掃除したかー?」

精霊「やったよ。ほーら」

蔵の扉を開けると、中はピッカピカであった。

精霊「俺には物を動かす能力があるんだもんね~。掃除なんて楽チンだよ」

重騎士「便利な能力だなー」

精霊はフフンと得意げに鼻を鳴らした。

重騎士「しかしこの蔵、懐かしいな。まだ子供の頃、ここで遊んだこともある」

精霊「ふぅん。そういえば、古いオモチャとかもあったね」

重騎士「おぉっ、懐かしい。名剣エクスカリバーだ!」

精霊「オモチャの剣じゃん」

重騎士「命名は勇者だぞ」

精霊「ブッ」

剣に封印されてた頃、子供時代の勇者は何度か目にしたことはあるが、しっかりした子供に見えた。
それでもこういう、子供らしい場面もあったらしい。

精霊「他にも何かある? 勇者が使ってたモノ」

重騎士「どうだろうなぁ、勇者ってあまりオモチャで遊ばなかったし…」

そう言いながら重騎士は蔵にあった箱を開けていった。
箱の中は木材だとか布だとか、使えそうなものも色々入っている。
次の箱を開けた時、重騎士の口から「おっ」と声が出た。

精霊「何? …わぁ、可愛い!」

重騎士「やっぱお前、こういうの好きなんだな」

その箱の中には、木造りの小人人形がいくつか入っていた。

重騎士「これは賢者が子供の頃遊んでた人形だ」

精霊「賢者の? 何でこの家にあるのかな?」

重騎士「賢者が人形遊び卒業したから、この家に譲られたんでねーかな」

精霊「あぁ、じゃあ勇者もこのお人形さんで遊んだんだね」

重騎士「いや、多分遊んでない」

精霊「え?」

重騎士「何か、一族の奴らは勇者を男らしく育てる為、女らしい格好どころか、遊びまで制限かけてたからなぁ。こういう人形遊びは、勇者もやってないんでないか」

精霊「えー…」

勇者の育ちについて話は聞いていたが、改めて、窮屈な育ち方をしたなと思った。
男の自分も人形は好きだし、そこまで制限をかけなくてもいいと思うが。

精霊「こんな蔵の中に閉じ込められて、お人形さん達が可哀想」

重騎士「じゃあお前が引き取れよ。その方が人形も喜ぶだろ」

精霊「いいの?」

重騎士「俺からご主人に言っておいてやるよ。この蔵にあるのは不用品だから、いいと思うぜ」

精霊「それなら…へへ、友達が増えた」

精霊は小人人形ひとつひとつに、よろしくねと声をかけた。
普通の人間にとってはただの人形だが、精霊にとっては違う。





小人人形A「精霊君って言うんだー」

小人人形B「長いこと暗いとこで寂しかったよー」

精霊「うんうん、俺も寂しいのは苦手だよー」

部屋に戻った精霊は、人形との会話を楽しんでいた。
新しい友達ができるのは、嬉しいことなのだ。

精霊「ところで君らって、どんな人をモチーフにして作られた人形さんなの?」

小人人形C「僕らは、職人さんなんだ」

精霊「職人さん? それは何の――」

と、会話の途中で。


勇者「ただいまー」


精霊「あっ、勇者が帰ってきた!!」

小人人形A「勇者? あぁ、この家のお嬢さんだよね?」

精霊「そう。それで、俺の大事な人っ!」

小人人形B「そうか。じゃあお出迎えしてあげて」

精霊「うん! また後でねっ!」





精霊「勇者、おかえりぃ♪」

精霊は満面のスマイルで勇者を出迎えた。

勇者「精霊、蔵の掃除してくれたんだって? ありがとう」

精霊「えへへ~、勇者ぁ、ヨシヨシしてぇ」

勇者「おーヨシヨシ」グシャグシャ

精霊「ちょっ、荒い! 勇者、手つき荒い!」

精霊は髪を整え直す。
と、その時、勇者の格好を見て気づく。

精霊「勇者ぁ、どうして上着着てるの? せっかくのお洒落なブラウスが、隠れちゃってるじゃん」

勇者「えー…と、寒い…から」

精霊「寒い? 半袖でも十分だよね今時期」

勇者「………」

精霊「勇者?」

勇者(言えない…肩幅広いからなんて恥ずかしくて言えない…!!)ズーン



僧侶「お邪魔しまーす」ヒョコ

精霊「うげ。猥褻僧侶」

僧侶「露骨にイヤ~な顔をしないでくれるかなぁ? 王様に頼まれて招待状を届けに来たよ」

勇者「招待状?」

僧侶「是非、2人で参加したまえ。それじゃあね~」

僧侶は用件を済ませると、忙しそうに走っていった。

精霊「なになに、何の招待状?」

勇者「えーと……うっ」

精霊「?」

勇者の持ってる招待状を覗き込むと…。

精霊「ダンスパーティー!!」

精霊は目を輝かせた。

精霊「いいね、いいね! 俺、ダンス大好きだよ! ねぇねぇ行こうよ勇者!」

勇者「ごめん…私行かない」

精霊「えっ?」

精霊は首を傾げた。

精霊「どうしてー? 勇者、ダンスパーティー嫌い?」

勇者「…うん。嫌い」

精霊「え、そうなの?」

お姫様に憧れる勇者にしては意外だと思いながら、精霊は考えを巡らせる。
何とか勇者を誘い出す文句はないものか…そこで、閃いた。

精霊「キラキラのドレス着ようよ、せっかくのパーティーなんだし。それで俺と踊ろう!」

勇者「…っ!!」

だが、その言葉を聞いた途端勇者の表情が変わり――

勇者「いやっ、出ない! 私は参加しないっ!」

精霊「あ、勇者――」

呼び止める間もなく、勇者は行ってしまった。



精霊「………」







精霊「ああぁ~っ、もうダメだぁ!!」

部屋に戻った精霊はベッドに伏せて悶えていた。
そんな精霊を、ぬいぐるみ達が気遣う。

テディベア「どうしたのさ。君らしくもない」

精霊「だって…だって、勇者…」



精霊『キラキラのドレス着ようよ、せっかくのパーティーなんだし。それで俺と踊ろう!』

勇者『いやっ、出ない! 私は参加しないっ!』



精霊「俺の言葉に勇者は拒絶を示したんだ…」

だとしたら、間違いない――


精霊「勇者は、人前で俺と踊るのが嫌なんだああぁぁ!!」ジタバタ

テディベア「何でそう言えるのさ」

精霊「だって……」


かつて勇者に言われた言葉を思い出す。



勇者『頑張って鍛えて、身長を伸ばそう! 私も協力するよ!』

勇者『…だって、精霊には私より大きくなってもらいたいんだもん』



精霊「なのに…なのに…」

テディベア「あー…」

精霊の身長は、相変わらずチビのままだった。

精霊「俺だって身長伸ばす方法調べて実施してるんだよ!! でも、伸びないんだよ~…」

テディベア「うーん。それは辛い」

精霊「ううぅー…」

勇者自身が精霊を好きでいてくれても、勇者は人々の英雄なのだ。
そんな勇者だから、自分より背の低い男を、パートナーとして人に紹介できないのだろう。

精霊「俺…これじゃあ、ダメじゃん……」

身長を伸ばすと勇者に約束したのに。

精霊「こんなんじゃ、勇者の王子様になれない……」



小人人形A「ねぇ精霊君、勇者ちゃんと踊りたいの?」

精霊「踊りたいのも当然あるけど…勇者にドレスを着せてあげたい」

小人人形B「勇者ちゃんはドレスを着たがってるの?」

精霊「勇者はお姫様に憧れてる女の子だもん、ドレス着たいに決まってるよ!」

小人人形C「じゃあ、勇者ちゃんはパーティーっていうのが嫌なのかな?」

精霊「そうだと思う。俺と人前に出るのが嫌なんだよ~…」

小人人形D「じゃあ、人前でなければ問題ないんじゃない?」

精霊「――え?」


そう言えば勇者と初めて踊った時、あの場には誰もいなかった。
あれと同じようなシチュエーションなら、勇者は――


精霊「…あ、でもダメだ」ガクッ

小人人形A「何がダメなの?」

精霊「勇者、ドレス持ってないんだ」

パーティーに出ないのに、わざわざドレスの新調などしないだろう。
ドレスを新調するとなると、デザイナーを呼ぶ必要があるわ、出費もかさむわで、話が大きくなるのだから。

精霊「ダメだ~、勇者をお姫様にしてあげられない」

小人人形B「…ねぇ。確か蔵に、使っていない布がなかった?」

精霊「うん?」

言われてみれば、あったような気がする。
それがどうしたというのか。

小人人形C「精霊君、任せて! あのね~…」ゴニョゴニョ

精霊「うん、うん……んっ!?」


小人人形の計画を聞いて、精霊は目を大きく見開いた。







勇者(精霊に悪いことしたかな~…)

精霊がダンスが好きなのは、初めて会った時から知っている。
きっとパーティーにも出たいだろう。

勇者(精霊は…私以外の子と踊らないだろうし)

勇者「…って何思い上がってるの」ボッ

顔が真っ赤になり、慌てて自分の思考を打ち消す。

勇者(私だって出たいよ。精霊とダンスしたいし……)

勇者(ドレス、着たい。でも……)

鏡で自分の姿を見る。
こんな筋肉質な体にドレスは似合わないだろうし、人前に出るのも恥ずかしい。

勇者(せめて、小柄だったらなぁ…)


それなら、精霊と並んでも「女の子」でいられるのに。

精霊の言ってくれた言葉を思い返す。


精霊『お姫様が羨ましいなら、俺だけのお姫様になればいいのに~』


勇者「………」

勇者(こんなんじゃ、お姫様になれないよ……)






それから日にちは経っていく。


勇者「でりゃあああぁぁっ!!」

弟子A「うわあぁーっ!!」


勇者はますます剣にのめり込んでいた。


勇者「ただいま」

精霊「お帰り…あっ」

勇者の服装は、精霊が選んだ大人しめのワンピースではなかった。
あれから勇者は、精霊の選んだ服を着ていない。

精霊「……」

勇者「じゃ…お風呂入ってくる」ソソクサ

勇者も何だか申し訳なくて、精霊を避けてしまう。
一方で精霊も、必要以上に勇者に擦り寄ってこない。
以前の精霊なら、勇者が避けようと何しようと構わずひっついてきただろうが…。

勇者(精霊に気を使わせてる…ああぁ、どうしよう)

そう思いながらも、どうすればいいかわからない。



一方の精霊は。

精霊「むぅー…」

そう簡単に引き下がる性格ではなかった。

精霊「ダンスパーティーまであと3日! 勝負はそこだ!」

テディベア「おー」



>そして、ダンスパーティー当日…


勇者「はぁ…」

今日の剣の稽古を終えた勇者は、風呂に入りベッドに伏せていた。
頭の中は、ダンスパーティーのことで一杯だ。

勇者(皆、綺麗なドレスを着て来るんだろうなぁ…)

勇者(いいなぁいいなぁ、いいなぁ~!! ドレス、着たいっ!!)

勇者(でも、いい笑いものだよ…)

そんな風に悶えては落胆する、それを繰り返す。


勇者「あー…うー…」

精霊「勇者ぁ、入っていい?」トントン

勇者「精霊? いいけど…」

ダンスパーティーの誘いだろうか。
だとしたらどう断ろうかと、頭を巡らせる。

精霊「勇者、出かけなーい?」ニヘヘッ

勇者「…どこへ?」

精霊「ちょっと、湖畔まで」

勇者「湖畔?」

ダンスパーティーではないのか。
それにはホッとしたが、理由がわからない。

精霊「お散歩デートしようよ。勇者に見せたいものがあるんだ」

勇者「見せたいもの? なに?」

精霊「それは行くまでのお楽しみってことで。ねぇねぇ勇者」

勇者「うーん…」

考える。
きっと精霊は、本当はダンスパーティーに行きたかったのだろう。
だけど譲歩して、散歩デートでいいと言ってくれているのだ。これを断るのは、申し訳ない。

勇者「わかった。行こうか」

精霊「うん、じゃあ支度しておいてね!」バタン

勇者「支度…」

そうだ。せっかくのデートだから、こんな適当な服じゃ駄目だ。
だけど…

勇者(可愛い服…似合わないし…)

臆病になっていた。
今の自分に、可愛い服を着る勇気はない。

勇者(…これとこれだな)

地味めで体の線があまり出ない服を選び、せめてものお洒落として花の髪飾りをつけた。



精霊「早かったね~勇者。あれ、それ」

リビングのソファーで待っていた精霊は、勇者を見るなり反応した。

精霊「俺があげた髪飾りだ~。嬉しいなぁ」

勇者「あはは…うん」

勇者(本当は、もっと可愛い服に合うんだろうけどね…)

精霊「じゃあ行こう勇者、ねっ!」

精霊は勇者の手を握り、無邪気な笑顔を見せる。
精霊の顔は本当に嬉しそうで、こんな気持ちでいることに申し訳なくなってくる。

精霊「行ってきま~す♪ デート、デート♪」

勇者「大声でデートって言うなっ!」






>湖畔


勇者「静かだねー…」

水面は静かに揺れ、穏やかなものだ。

精霊「今日は月が雲で隠れてて、暗いからね。わざわざ湖畔に来る人もいないだろうね」

勇者「それで精霊、見せたいものって何?」

精霊「ふふふっ…これのことっ!」

精霊はそう言って上空に手をかざし――魔法を放つ。
魔法は天高く上っていき、そして――

精霊「どーん☆」

勇者「うあっ!?」

空の上で魔法が弾け、一瞬、流れ星が流れたかのように錯覚した。
そしてその衝撃で、月にかかっていた雲が晴れた。

精霊「あ、見て見て」

精霊は湖の方を指差した。
水面には月の光が反射し、一瞬にして美しい光景が作り出された。

勇者「綺麗だねー…やることムチャクチャだけど」

精霊「これで終わりじゃないよ。せーのっ」

精霊の合図と同時――2人の周辺で淡い光が発生した。

勇者(これは――)

色とりどりの光。
よく見るとそれは――

勇者(てっ、天使!?)

天使達がランプを持って浮かんでいた。…って、そんなわけない。

勇者「天使の人形か…」

精霊「ふふふふっ」

精霊は得意気に笑う。
見せたかったものとは、これか。

精霊「勇者、結婚式の時に言ってたじゃない、『天使の楽園』って。俺なりに天使の楽園を作り出してみたんだけど、どうかな?」

勇者「…うん」

人工的に作り出された楽園とはいえ、暗闇を照らす月光も、色とりどりの光も幻想的で。
精霊に命を与えられた天使たちの微笑みは優しく、まるで本物の天使だ。

上手く言葉にできないけど、この光景が美しいと思える気持ちは本物。

勇者「精霊、ありがとう。私、こういうの大好き」


そう感謝を述べたのだけれど――精霊の表情は少し曇っていて、そして意外な言葉が彼の口から出た。


精霊「勇者、ごめんね」

勇者「えっ!?」

精霊「俺、身長伸ばす約束したのに…」

勇者「え? あ、いや…」

その約束を忘れたわけではなかったが、かといって勇者は気にしてもいなかった。

勇者(私が大きいんだってのもあるしね…)ズーン

精霊「ねぇ勇者…ひとつ、聞きたいことがあったんだ」

勇者「聞きたいこと? なに?」

精霊「勇者は――」


精霊は真っ直ぐ勇者を見つめていたが、その瞳はちょっと弱気で――


精霊「俺のこと、今でも王子様って思ってくれている?」

勇者「――っ!?」


想像もしなかった質問だ。
だって、自分は――


勇者「……思ってるよ」

言うのは恥ずかしいけど。

いつも明るい笑顔を見せてくれて。
いつも気遣ってくれて。
いつも「好き」って気持ちを精一杯表現してくれて。

勇者「精霊は――私の王子様だよ」

精霊「そうか…」

精霊はほっとため息をつく。
きっと、不安だったのだろう――だって、自分も不安だ。


私は、精霊のお姫様でいれているかな――?


だけど、それを口にする前に、勇者の不安をかき消すように――精霊は勇者の手を優しく握って言った。

精霊「俺の、お姫様」

勇者「――っ!」

精霊は、欲しかった言葉をくれた。
今でも自分をお姫様として見てくれている。王子様でいてくれる――


精霊「ねぇ勇者…俺と踊ってくれないかな?」

勇者「えっ!? で、でもっ、こんな格好じゃ…」

精霊「大丈夫。勇者に贈り物があるんだ」

勇者「贈り物…?」

精霊「そう。せーのっ」

精霊は指をパチンと鳴らした。
すると――

勇者「わわっ!?」

色は薄いピンク。裾は三段重ねのフリルであしらっていて、薔薇模様が上品な――勇者の服は、一瞬でドレスに姿を変えた。
服だけではない。ぺったんこの革靴は花のついたパーティーシューズに変わり、金のネックレスやイヤリングまで勇者を装飾している。

変わらないのは、頭を飾る花の髪飾りだけ。

勇者「こ、これはっ!?」

精霊「えへへ。最近友達になった小人さんが服飾の職人さんでね~」

精霊の部屋でこっそりドレスを作っていたのだが、ここ数日勇者が素っ気無かったのもあって、気づかれずに作業を進めることができた。

精霊「これで一緒に踊れるよね、勇者」

勇者「で、でも…」

勇者は身を縮めるように肩を抱く。
こんなドレスでは、ガッチリした体が目立ってしまうのでは…そんな不安に苛まれて。

だけど――

精霊「恥ずかしいの~? 可愛いなぁ、もう」

勇者「――っ」

精霊は宙に浮かび、勇者の頬にキスをした。
不意打ちのキスに一瞬呆然としたけど、精霊はスッと手を出してきて。


精霊「踊ろう――俺のお姫様」

勇者「精霊…っ」


勇者はその手を取った――彼と、踊りたかった。

精霊に体を引き寄せられ、勇者は身を委ねる。


精霊「そう、俺がリードするから…」

そう精霊が言うと、音楽が聞こえ始めた。
これは――城のダンスパーティーの音がここまで届いたのだ。
まるで見計らったかのようなタイミングで流れた音楽に合わせ、精霊はステップを踏む。

精霊「初めて会った時みたいだね」

そう――あの時と同じく、精霊は勇者を力強くリードする。
軽やかに踊る精霊は本当に楽しそうで、心から踊りを楽しんでいる。



精霊「勇者、ごめんね――飛ぶよ」

勇者「え――えっ!?」


急に、ふわっと体が浮いた。
精霊は勇者を抱きかかえたまま。宙に浮いたのだ。

精霊「大丈夫、絶対落とさないから」

精霊はそう言ったが、勇者はそんな心配は抱えていない。

それよりも、精霊ががっちりと自分を支えてくれていることが――

勇者(女の子扱いされてる――)

それが勇者にとって何よりも嬉しいことで。
力強い精霊に、安心して身を委ねることができた。


2人が舞うのは湖の上。
月光に照らされた湖は、2人だけのダンスフロア。


勇者(あぁ――)


幻想的な雰囲気に酔いしれる。

まるで、今の自分達は――


精霊「俺たち、王子様とお姫様だね――」

勇者「――うん」


その言葉を合図に、唇と唇が重なる。

その口づけは、初めてのキスとも、不意打ちで奪われた時とも、違う。


今は、両思いになったから。


『好きな人』とのキスは、特別なものだった。


2人は月の下で踊り続けた。
そして音楽が聞こえなくなってからも、互いの手を放すことはなかった。





精霊「楽しかったねー!」

勇者「うん」

2人で湖のほとりに腰を下ろしていた。
月はまだ輝いていて、それがダンスの余韻に浸らせてくれた。


精霊「ごめんね勇者…パーティー会場で踊らせてあげたかったんだけど」

勇者「何で謝るの? 謝らなきゃいけないのは私の方だよ…精霊、行きたかったんでしょ」

精霊「俺は勇者と踊れれば、それで良かったんだけど…ほら、やっぱね」

勇者「え、何?」

勇者はわけがわからず追及する。
精霊は恥ずかしそうに俯いて、ボソボソッと言った。

精霊「だって…俺をパートナーとして人前に出せないでしょ?」

勇者「…………はい?」

何を言ってるのだろう。

勇者「あの、何のこと?」

精霊「だって俺、全然かっこよくないし!」

勇者(…あー、そう言えば)


精霊『勇者、ごめんね。俺、身長伸ばす約束したのに…』


踊る前の精霊の発言を思い出し、ようやく理解した。
精霊は身長にコンプレックスがあって、それで勘違いをしたのか。


勇者「精霊、違う違う」

精霊「えっ?」

勇者「私がパーティー参加を断ったのはね――」


それから勇者は全部説明した。
自分の体格がコンプレックスになり、ドレスを着る勇気がなかったこと――


説明した後、精霊は顔を真っ赤にして興奮していた。

精霊「何言ってんだよ! 気にする程、ガッチリしてないよ!!」

勇者「そ、そんなこと…」

精霊「もー、そんなことなら早めに言ってよ。勇者は可愛いってば~」

勇者「わっ」

精霊は勇者に抱きつき、頭を撫でる。
…何だか、くすぐったい。

精霊「あぁ、でも良かった。俺の背丈のせいだと思ってたから」

勇者「そんなわけないじゃない」

精霊「だって勇者、身長を伸ばせって言ったじゃん」

勇者「それは……」

確かに言った。だけど…。

勇者「…確かに、私より背が高いのが理想ではあるよ。でも、そこまで気にしなくていい」

精霊「ほんと?」

勇者「うん、だって精霊は精霊だもん」

精霊「そっかー…」

精霊はほっとため息をついて、それからニカッと笑った。

精霊「わかった! でも勇者の理想に近づきたいから、頑張るよ!」

勇者「そう」

その返事を聞いて勇者もほっとした。
そんなことで精霊が気を病むのは、勇者としても本意ではない。


精霊「…そーだ」

精霊は思い出したように言う。

精霊「あのねー…」モジモジ

勇者「なに? どうしたの?」

精霊がモジモジするなんて珍しい。

精霊「小人さん達、もう一着作ってくれたんだよねー…」

勇者「へぇ~。どんな服?」

精霊「えぇと…」

精霊は勇者に顔を寄せ、そっと耳打ちした。


精霊「――」

勇者「……」ボッ

勇者はそれを聞いて沸騰した。


勇者「な、なな何で!?」

精霊「あはは…何か、張り切っちゃったみたい」

勇者「…張り切りすぎ」

精霊「勇者、どうする…着る?」

勇者「………」


長考の末、勇者はようやく答えを出す。


勇者「精霊…どうしてほしい?」

精霊「俺? 俺は……」

精霊は少し戸惑っていたが。

精霊「見たいなぁ…勇者が着た所」

勇者「そう……」

その返事を聞いて、勇者は決断する。

勇者「わかった精霊…それに正直、私も着てみたいんだ」

精霊「うん、それじゃあ」


精霊は先ほどと同じように、指をパチンと鳴らした。
すると勇者のドレスはまた変化を遂げ――

精霊「…わぁ」

精霊は感嘆の声を漏らす。


それは純白のドレス。
夜闇の中において輝きが栄える白は、無垢の象徴。
何段にも重なったフリルが可愛らしく、それでいて勇者の頭を覆うベールが神秘的な――

世界にたった1つの、ウエディングドレスだった。


勇者「…どう、かな」

少し恥ずかしい。
正直、今でも自分にドレスは似合わないのではないかという気持ちがある。

だが一方で、期待もしていた。
きっと目の前の彼は、欲しい言葉をくれて――

精霊「…綺麗だよ、勇者」


こんな自分を、お姫様として扱ってくれるのだから。


勇者「…小人さんに、もう一着作ってもらわないとね」

精霊「もう一着? どんなの?」

勇者「決まってるじゃない」

勇者はニコッと笑った。

勇者「精霊の――」











勇者(……あんなこともあったなぁ)


勇者は少し前のことを思い出していた。
服というのは不思議なもので、着るものによって気分も変わる。

勇者(これを着ると、あの時のことを思い出すなぁ)

これを着るのは2度目になる。
あの時も幸せな気持ちだったが、今日はもっと幸せだ。

賢者「勇者さん、精霊君も準備ができましたよ!」

勇者「っ!」


重騎士と僧侶にせっつかれ、精霊が入ってきた。

精霊「あうぅ」

精霊はモジモジしていた。
今日初めて着たその服に、着心地の悪さでも感じているのだろうか。

精霊「…勇者、綺麗」

勇者「見るの、2度目でしょ」

精霊「うん…それでも綺麗だよ」

勇者「ありがとう。精霊も、素敵だよ」

精霊「ほんと? …俺チビだし、不釣り合いじゃない?」

勇者「全然。私の王子様なんだから、ビシッとしなよ!」

精霊「う…うん!」


重騎士「あーあー、あっちぃなぁオイ」

僧侶「うん、妬けてくるね」

賢者「くやしー…勇者さんに先越されるなんてぇ」

勇者「うっさい! とっとと会場行け!」

精霊「勇者! お姫様、お姫様!」



女の子は、誰だってお姫様になれる。


司会「それでは、新郎新婦のご入場です」


沢山の観衆が私達を祝福してくれた。
これから先、何があっても怖くない。

精霊「勇者――」

だって彼は、私という存在を見つけてくれた。選んでくれた。愛してくれた。


神父「それでは、誓いのキスを――」

精霊の瞳は真っ直ぐ勇者を捉え、そして――


精霊「ん――っ」

勇者「――」


唇が重なり合う。
情熱的で、それでいて無垢。そんなキスは勇者を夢心地へと誘った。

観客達の歓声が響く。
それでも――


勇者「…精霊」

精霊「うん?」

その小さな声を、互いに聞き逃しはしなかった。

今日は人生最良の日。
願わくば、その幸せが永遠に続くように――


勇者「これからも――私の王子様でいてね!」


Fin



あとがき

リクエスト内容:女勇者「勇者よりも、お姫様になりたかった」の続編
更に勇者に白いドレスをという素敵なご注文を頂きました!何てときめくシチュエーションなんだ!
勇者にドレスを着せてあげる機会を下さったもえ様、ありがとうございます!

勇者と精霊、どちらも体型コンプレックスを抱えそうなキャラですね。体型はそう簡単に変わらないので、解消は難しいんです。
でも好きな人にお姫様扱いされたらコンプレックスも吹っ飛ばせるのが勇者だったり。

このssを書く上でのスローガンは「全力でスイーツ(笑)」
posted by ぽんざれす at 21:27| Comment(2) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月12日

【スピンオフ】アラサー賢者と魔王の呪い【その後】

アラサー賢者と魔王の呪いのスピンオフ作品です。



魔王との激戦から5年が経過した。

世界はこれといった大事件も起こらず、そこそこ平和を保っていた。

そんな世界で、魔王や大魔王と戦った英雄はというと…。


貴族「結婚して下さい!」

伯爵「いや、私の息子と是非!」

御曹司「貴方に一目惚れしました!!」


賢者「あぁ~っ、そんなにいっぺんに来られたら、困っちゃうな~」


只今の外見年齢は約15、6歳(実年齢は30と少し)
人生2度目の10代を迎えてお洒落心が芽生えたお陰か、賢者にはモテ期が到来していた。





賢者「ふぅ~、今日は凄い人が沢山来たなぁ」

賢者は料理をしながら、今日一日のことを思い返す。

今日は魔法教室の一般公開日だった…のだが、どうも魔法教室以外を目的としているお客人も沢山いたようで。

まあ、理由はわからなくもない。
本当に10代半ばだった頃、魔法に没頭していた賢者には縁のない話だったが、女性の平均初婚年齢が20代前半のこの国では、女性のモテ期は大体10代半ばから到来する。
それに、賢者は一応は高名な魔法使いの1人である。身分の高い男性陣から求婚されるのも無理はない。

しかし、だ。

賢者(う~ん、何かそういう対象に見れないのよね~。あの方達、実年齢は下だし、それに…私の方が強いだろうし)

幼女化した時はほぼ無力化してた賢者だったが、5年経過した今、魔力はそれなりに取り戻していた。
元々、魔法に関して「だけ」は天才な賢者なので、今程度の魔力でもかなり強いのである。



賢者(さてと、で~きたっ。うっ、でも…)

料理ができたので火を止める。
今日のメニューはハンバーグ……なのだが、型崩れがひどい。

賢者「やっぱり料理本見ただけじゃ上手くいかないかー…」ズーン

自分が食べるものなら、いつも適当だ。
だが、今日は…そういうわけにはいかない。

賢者「ああぁん、でも作り直してる時間なーい! ど、どうしよう…そうだ! 今日は外食に」

魔法戦士「先生、何騒いでるのー?」

賢者「きゃあぁ!?」ビクッ

魔法戦士「ごめん。何か声がしたから」

全開にしていた窓から、魔法戦士が顔を出していた。

賢者「ひ、久しぶりね魔法戦士君…」

今日は騎士団に入った魔法戦士が里帰りしてくる日だった。
夕飯を一緒に食べたいと手紙に書かれていたので、彼の好物のハンバーグを作っていたのだが。

賢者「い、今出かける支度するわね~。今日は先生が何でも奢ってあげるわ」

魔法戦士「あれ、先生の手料理じゃないの? それ期待してきたんだけど」

賢者「えーと」

魔法戦士「それにこの匂い、肉料理作ったんだよね? お邪魔しまーす」

魔法戦士は出入り口に回ってきて、家の中に入ってきた。
彼はこうやってよく賢者の家に出入りしていたので、今更遠慮はしない。

賢者「えーとね、失敗しちゃったから…」

賢者はそう言ってフライパンの上の崩れたハンバーグを見せる。
魔法戦士はそれを見て、一瞬目を見開いた後、苦笑した。

魔法戦士「先生、相変わらず不器用だなぁ」

賢者「う~…」

何も言い返せない。
魔法以外のことに関してはダメダメなままだ。

魔法戦士「でも匂いはいいし、味はどうかな」パクッ

賢者「あっ!?」

魔法戦士「うん…美味しいよ。今日の晩飯はこれにしよう」

味がいいのなら料理としては失敗でないが、それでも人に出すのは失礼ではないか。
だがまぁ、魔法戦士がそう言うのなら。

賢者「わかった…。今お皿に盛るわね」

魔法戦士「あ、先生。俺、グリルサラダ作ってきたんだ。これも食べよう」

賢者「……」

サラダは彩りも良く、綺麗に盛り付けられている。
きっと、味も良いのだろう。

賢者(並べたらハンバーグのひどさが際立つ…)ズーン

魔法戦士「どうしたの? 食べよう」





魔法戦士「あー美味かった」

魔法戦士はおかわりまでして、いい食べっぷりだった。
騎士団に入ってから体も大きくなったような気がする。きっと毎日沢山訓練をして、沢山食べているのだろう。

魔法戦士「しっかし、これで同級生の女子は皆結婚かぁ…」

賢者「ふふ、そうね」

魔法戦士が今回里帰りしてきたのは、同級生の結婚式の為である。

賢者「一期生の女の子達は皆、優秀だったからねぇ。魔法に没頭して嫁き遅れになる子がいなくて良かったわ~」

勿論、自虐である。

魔法戦士「…俺、明日結婚式が終わったら、すぐ戻らなきゃいけない」

賢者「まぁ、忙しいのねぇ」

魔法戦士「うん。…近々、大きな仕事を抱えていて」

平和になった世界といえど、悪い人間も、悪い魔物もいなくはならない。
大きな仕事…魔王討伐レベルとまではいかないだろうが、危険を伴う仕事なのだろう。

賢者「気をつけてね。先生、魔法戦士君の力を信じているわよ」

魔法戦士「……うん」





>後日……


賢者(あらー、盛大ねぇ)

賢者は正装し首都に来ていた。
街の人々は既に、城の前で賑わっている。

「来たぞ!」

誰かがそう言い、皆ある方向を向く。
花道の向こうから集団がやってくる。ラッパの音が彼らの帰還を祝福し、人々は歓声で出迎える。

「お帰りなさい!」「よくやった!」「お疲れ様ー!」

帰還したのは騎士団だった。
今日は彼らの為に、凱旋式が執り行われているのだ。

賢者(山で暴れていたドラゴンを討伐か…騎士団も力をつけてきたわねぇ)

そんなことを思いながら、賢者も拍手で騎士団を出迎える。
総勢20名程の集団の中に、見知った顔もいた。

賢者(いた。魔法戦士君)

賢者「凄いわよー、もう最高!」

観衆に手を振る魔法戦士が、こちらに気付いたかどうかはわからない。
だけど賢者は嬉しかった。自分の教え子だった魔法戦士が実績をあげ、こうして皆の歓声を受けているのは。

よく考えると「騎士団の一員」でいる魔法戦士を見たのは初めてかもしれない。
逞しい騎士団の人たちの中にいても浮かない位、今の魔法戦士は凛々しく「一人前の男」に見える。


賢者(こうして見ると…何か、嘘みたいだなぁ)


5年前、魔法戦士に言われた言葉。

その言葉は、あれ以来言われていないが、賢者は忘れていない。



魔法戦士『俺、ずっと先生のこと――』







賢者(ふぅ~流石に疲れたわぁ)

式が終わり、賢者は城の近くのベンチに腰掛けていた。
せっかく都会に来たのだから、少し体力を回復させてから街をぶらつこうという計画だ。

公爵「おや賢者殿。来ていらしたのですか」

賢者「あら、ご機嫌よう。はい、凱旋式に私の元教え子が参加していたもので」

公爵「あぁ、魔法戦士君ですね。それなら特別席で参加すればよろしかったのに」

賢者「いえ~分不相応ですわ~」

というのは建前で、本音はというと……

公爵「ところで私の甥っ子が今年成人しましてね、賢者殿のお見合い相手にどうかと……」

賢者(来たー)

特別席など行けば、こういう話をわんさか持ってこられるに決まっている。それで誰にも言わず、一般参加したというのに。

賢者「お、おほほ、その話は後日ということで…」

公爵「是非、ご検討下さい! 甥っ子は有名大学を主席で卒業し、留学経験もですね…」ペラペラ

賢者(勘弁してぇ~。でもあまり無碍にもできないし、どうしよう……)

終わりそうのない話に困惑していた所だった。

「先生!」

賢者「……え?」

振り返ると、そこには……。

魔法戦士「来てくれてたんだ、先生!」

賢者「魔法戦士君」

凱旋式が終わり自由時間になったのか、鎧を脱いで普段着の魔法戦士が声をかけてきた。
魔法戦士はそのまま無遠慮に近づいてきて…。

魔法戦士「俺、丁度先生に話があったんだ! ここじゃ言いづらいから、あっちで!」グイッ

賢者「え、あっ」

強引に手を引かれ、その場から連れ出された。
唐突な流れに、賢者も公爵もポカンとしていた。





魔法戦士「…はぁ。そろそろいいか」

少し歩いた頃、魔法戦士がようやく手を離した。

賢者「どうしたの魔法戦士君、慌てた様子だったけど」

魔法戦士「どうしたの、じゃないよ全く!」

魔法戦士が大きな声をあげる。
賢者は理由がわからず首を傾げた。

魔法戦士「断るならキッパリ断る! 先生はおっとりしてるから、しつこい奴につかまるんだよ!」

賢者「…あぁ~。そっか」

助けてくれたのだと、ようやく理解した。

賢者「ありがとう魔法戦士君。でもあんなやり方じゃ、公爵様に睨まれるわよ?」

魔法戦士「いいんだよ、先生が悪者になるよりは俺が悪者になった方が」

賢者「まぁ」

よくもまぁ、さらりとこんな台詞が言えるものだ。

賢者(でも、魔法戦士君らしいなぁ)

魔法戦士はこういうことが自然にできる男子だ。
自分が無力化した時も、精一杯守ってくれた。それこそ体を張って、命を賭けて。

賢者(何だか「守られてる」って感じがする。嬉しいなぁ)フフッ

魔法戦士「どうしたの、先生?」

賢者「ううん、何でも」

あの頃は10代の男子など子供のようにしか見えなかったが、20代になり大人になった彼は、立派な「男」だ。

賢者(魔法戦士君――今は私のこと、どう思ってくれているのかな)

そんなこと、口に出せないけど。



「魔法戦士さん」

魔法戦士「ん」

ふと、名前を呼ばれた。
振り返ると――

賢者「あら、お姫様」

姫「賢者さんも、ご機嫌よう」

この国の姫君だった。ここ数年で美しく成長し、淑やかで優しく、賢者も好感を抱いている。

魔法戦士「どうされました、姫様」

姫「あの――少し話があるんですけれど、良いかしら?」

魔法戦士「俺は構いませんが……」

姫「そのぅ……」

姫はチラッと賢者の方を見た。
賢者はそれで察する。自分がいると話しにくいのだろう。

賢者「あぁ、私そろそろ帰るわね。それじゃあ魔法戦士君、元気でね」

魔法戦士「あ、うん。またな先生」

賢者は手を振りその場から立ち去る。
途中、振り返って2人の様子を見た。2人とも笑顔で、楽しそうに何かを話している。

賢者(……あらー、もしかして)

賢者はすぐに目をそらし、その場から立ち去った。





>森


賢者(魔法戦士君もモテ期到来かしらね~)

魔法教室にいた頃から、魔法戦士は女子とも比較的上手くやっていた。
だからまぁ、女性にとって馴染みやすい男性なのだと思う。

賢者(実績も積んでるし、立派に成長しているし…うん、モテるわよね)

賢者(…モテるようになったら、選び放題よね~)

賢者(……)

賢者「って、何考えてるのかしら私? 変ねぇ」

時の精霊「お、賢者かー。よく来たなー」

賢者「あ、時の精霊様。お久しぶりです」

賢者は千年樹を訪れていた。
5年前大魔王の瘴気に犯され、今なお修復に追われている千年樹の様子を、定期的に見に来るのだ。

賢者「あら、大分瘴気が晴れましたね」

時の精霊「うん、でもまだまだかかりそうだ。あぁ、腰痛い」

賢者「はい、腰痛のお薬。差し入れです」

時の精霊「おぉありがとう。賢者の作った魔法道具はやっぱり一級品だな~」

賢者「ふふふ、大分魔法力も取り戻しましたから」

時の精霊「そうだな。いや驚いた、その分なら千年樹を完全に修復した時には、すっかり元の魔力に戻っているかもしれんな」

賢者「うーん、どうでしょうね」

時の精霊「今すぐ、元の魔力を取り戻したいか?」

賢者「まぁ、できることなら」

大分魔力を取り戻したとはいえ、全盛期には遠く及ばない。
元の魔力を取り戻せれば、もっともっと色んなことができるのに…と思わなくもない。

時の精霊「もしかしたらだけど…今の賢者の魔力なら、千年樹の修復を待たずとも、自力で元の姿に戻れるかもしれんよ」

賢者「えっ」

寝耳に水な話だった。

時の精霊「ただし当然、30ウン歳の姿になるわけだけどね。それでいいなら」

賢者「う~~~~~~~ん」


若さと魔力、未だにどちらを取るべきか選びかねていた。

とりあえずこの話は保留にすることにした。





>城・兵詰所


魔法戦士「団長!」

騎士団長「魔法戦士、どうした」

魔法戦士「何ですか、この新聞記事は。インタビュー受けたのは団長ですよね」

騎士団長「あぁ」

魔法戦士が指したのは、ドラゴン討伐の記事だ。そこには、魔法戦士の絵がでかでかと載っていた。
絵だけでない、記事の内容も魔法戦士の活躍についてピックアップされている。

騎士団長「不満だったか? 次回からはもっとページ数を使うように指定しておくか」ハハハ

魔法戦士「そっちの意味じゃありません! 俺だけが持ち上げられすぎです、騎士団の皆で掴んだ勝利なのに!」

騎士団長「謙虚だなぁ。栄誉は有り難く頂いておけ」

魔法戦士「この記事だけじゃありませんよ。ここ最近の俺に与えられる任務、俺には不釣り合いな程、大きな仕事ばかりじゃないですか」

騎士団に入ってまだ5年目。もう新人ではないとはいえ魔法戦士は、自分より強い先輩方よりも大きな仕事をこなした。

騎士団長「期待されているということだ。お前は騎士団の中でも比較的若いのだしな」

魔法戦士「おかしいです…。俺なんか、まだまだ……」

騎士団長「…なぁ魔法戦士。勇者、って知ってるよな」

魔法戦士「勇者…ですか?」

魔法戦士も冒険モノの物語が好きなので、よく知っている。
世界に平和をもたらす存在であったり、勇気に溢れる者だったり…とにかく英雄をテーマにした物語では、定番の存在である。

魔法戦士「勿論知っています」

騎士団長「勇者という存在は、国にとっても都合がいい。何故なら英雄というのは存在が人々のカリスマであり、強い信仰力を持つ…平和維持にはもってこいの存在だろう」

魔法戦士「そうですね…それがどうかしましたか?」

騎士団長「あぁ。…王は、お前にそういう存在になってもらいたいんだよ」

魔法戦士「はっ?」

あまりにも突拍子のない話で、魔法戦士は間抜けな声を出してしまった。
勇者? 英雄? ……自分が?

魔法戦士「はは…何ですかその冗談、笑えますね」

騎士団長「本気だ。お前は事実、大魔王を討った功績があるしな」

魔法戦士「あれは9割方、先生の力ですよ!」

賢者の力があってこそ収めた勝利だ。
たまたまその場にいたのが自分だから、大魔王にトドメを刺すことになっただけだ。

魔法戦士「知っての通り、俺の力はまだ未熟です。そんな、英雄なんて…将来的な話ならともかく、今そういう扱いをされるには不釣り合いすぎる」

騎士団長「実力の問題じゃないんだよ…。大魔王を討った若き英雄、その肩書きだけで人々の支持は得られる」

魔法戦士「そんな……」

魔法戦士の動揺は大きい。

自分は大魔王を討った直後、騎士団にスカウトされた。


魔法戦士『大魔王を討てたのは、9割方先生のお陰だ。それに俺、剣も魔法も正直中途半端だし、このまま勧誘を受けていいのか…』


そんな不安は抱いていた。
だけど――


賢者『王様だってそれは承知の上よ。騎士団に入ればビシバシ鍛えられるわよ』


伸び代を期待してもらえたのだと喜んだ。
その期待に応え、強くなろうと決意した。

それなのに――


魔法戦士(俺が求められた理由は実力じゃなくて――肩書きのおかげなのか)








>魔法教室


大魔道士「ほら賢者、魔法学会のお偉いさんから預かった、お見合い相手の資料だぞ」

賢者「こんなに~…」

授業後に訪れた大魔道士に、これまた困る話を持ってこられた。
放課後残ってた生徒達が興味本位で資料を見ている。

「うわー、この人ハゲてんじゃん!」「あれっ、この人って有名人じゃね?」「先生はモテていいなー」

賢者「困ったなー…」

大魔道士「魔王の呪いのおかげでモテ期が来たじゃないか、嫁き遅れていたくせにな」フフン

ゴーン

大魔道士「あだーっ! くっ、何故隕石が…」

賢者「うーん…」

大魔道士「何だ、何が不満だ。条件的には申し分ない相手ばかりじゃないか」

賢者「どうして私なのかなー…」

大魔道士「そりゃ認めたくないがお前は実績のある魔法使いだし、まぁ容姿も悪くはない。それに男を誘惑するそのいやらしい体…」

ゴーン

大魔道士「グハッ!!」

賢者(やっぱり、肩書きかー…私自身を見て、いいって言ってくれる人はいないのかなぁ……)

大魔道士「…そうだ。そういえばこの国の姫君も、結婚適齢期が近づいているそうだな」

賢者「えぇ。そうですね」

大魔道士「その婿候補に、ほら…お前の生徒だった男が浮上しているそうだぞ」

賢者「えぇ!? 魔法戦士君が…!?」

大魔道士「あぁ。最近、騎士団での活躍も目覚しいし、何といっても大魔王を討った奴だからな。…チッ」

賢者「……」

大魔道士「どうかしたか?」

賢者「え、あ、いえっ。そうですかー…私としても鼻が高いですね」

大魔道士「あぁー、お前の生徒ってだけで気に入ら」

ゴーン

大魔道士「いでーっ!」





>家


賢者「…」フー

賢者は料理をしながらも、どこか気が抜けた状態だった。

賢者「あ、いけない。…あー、煮崩れしちゃった」

賢者「まぁ味は悪くないけど…魔法戦士君みたく綺麗に作りたいわねぇ」

賢者「魔法戦士君…」



大魔道士『その婿候補に、ほら…お前の生徒だった男が浮上しているそうだぞ』

大魔道士『最近、騎士団での活躍も目覚しいし、何といっても大魔王を討った奴だからな』



賢者(お姫様のお婿さん候補なんて、凄いなぁ~…)

賢者(魔法戦士君…私の知らない所で、どんどん大きくなっているのねぇ)


魔法戦士は、覚えているだろうか。


魔法戦士『5年経ったら――先生に相応しい男になってみせる』


もう5年――彼の約束した歳月は経っている。


賢者「………魔法戦士君…」

魔法戦士「呼んだ?」

賢者「きゃあぁ!?」ビクウウゥゥッ

声に反応し賢者が振り返ると――全開になった窓の外に、魔法戦士が立っていた。

魔法戦士「よ、先生」

賢者「ど、どうしたの魔法戦士君!?」

魔法戦士「ほら、大きな仕事の後だから、長期の休みを貰えたんだ。それで里帰りしてきたわけ」

賢者「そ、そう」ドキドキ

魔法戦士「?」

挙動不審な様子に魔法戦士が首を傾げている。
まずい…今はどうも、彼と顔を合わせていられない。

賢者「あ、あ~っと、ごめんね魔法戦士君! 今からちょっと出かけるの!」

魔法戦士「出かける? …料理もできたばかりなのに?」

賢者「えーとね…明日の教材を切らしていることを思い出して! それじゃあ行くから…」

魔法戦士「待って先生。俺も行くよ」

賢者「えっ!?」

魔法戦士「少し暗くなってきたし、荷物も重いだろ。一緒に行く」

賢者「…」

魔法戦士は屈託のない笑顔を見せている。
そう、彼はそういう気遣いが、ごく自然にできる人なのだ。

賢者「それじゃあ…お願いするわね」

彼の好意を断れなくて、賢者はそれを了承してしまった。





魔法戦士「いやー教材を見たら思い出すね、教室に通ってた頃のこと」

魔法戦士は買い溜めた教材を全部持ってくれていた。
賢者からすると相当重そうな荷物なのだが、魔法戦士は汗ひとつかいていない。

賢者(本当、逞しいわね)

魔法戦士「ドジなの変わらないなぁ先生は。こんなに沢山の教材、どうやって運ぼうとしてたの」

賢者「魔法でちょちょいとね」

魔法戦士「あ、その手があったか! くっ、何て万能なんだ」

喋りながらコロコロ変わる表情には、生徒だった頃の面影が残っている。
立派に成長しても、魔法戦士はやはり魔法戦士なのだ。

賢者(でも、どっちの魔法戦士君も知っているから、この子の成長がわかるわ)

それがちょっと優越感だったりして。


魔法戦士「先生…さっきから何か俺の顔チラチラ見て、どうしたの?」

賢者「えっ、あっ」

慌てる。気付かれてしまった。

魔法戦士「何かあったの、先生?」

賢者「……」

何もない。そう誤魔化すのは簡単だ。

賢者(だけど――)


もやもやしたものを、吐き出したい気持ちもあって。


賢者「…魔法戦士君、お姫様のお婿さん候補になったんだって?」

魔法戦士「っ!?」

賢者「大魔道士さんに聞いたの。凄い出世したわね」

魔法戦士「……うん」

魔法戦士の返事が重い。
何だか気まずい空気だ…。

賢者「……ま、魔法戦士君の実力が認められたのよね」

魔法戦士「……っ」

魔法戦士(俺が認められたのは、実力じゃない……)

賢者「先生も鼻が高いわぁ」

魔法戦士の心を突き刺してるとは気付かず、賢者は魔法戦士を褒める。


賢者「最近、順調に実績をあげているんだって?」

魔法戦士(それは…俺を持ち上げようと、分不相応な任務を任せられているから)

賢者「教室にいた頃より、大分成長したのねぇ」

魔法戦士(そんなことない…俺の実力なんて、まだまだ…)

賢者「5年…」

そう、5年。魔法戦士と約束した5年だ。



魔法戦士『今の俺のままじゃ、自信を持って先生を迎えられない。だから俺は騎士団で自分を鍛えてくる』


賢者(そう言って、魔法戦士君は私の側を離れて)


魔法戦士『俺は先生からすればまだガキだし未熟者だし、そんな対象じゃないこともわかってる。だから――』


賢者(そう、そういう対象じゃなかった――あの頃は)


魔法戦士『5年後には立派な男になるから…』


賢者「約束通り、立派な男の人になったわね、魔法戦士君」

魔法戦士「――っ」

賢者「何だか――」

寂しい――そんな気持ちを抑えて、笑顔を浮かべる。


賢者「私じゃ手の届かない位――凄い大きな存在になっちゃったわね」

魔法戦士「……っ!!」





賢者「あ、家に着いたわ」

家の鍵を開け、魔法戦士から荷物を受け取る。

賢者「ありがとう魔法戦士君。助かったわ」

魔法戦士「うん……」

賢者「流石、魔法戦士君は頼りになるわね」

魔法戦士「――っ」


そんなはずない。
大魔王を倒した時だって、賢者が助けてくれたから――


魔法戦士(けど――)


魔法戦士『5年経ったら――先生に相応しい男になってみせる』


自分は、まだ相応しくなくて。


騎士団長『英雄というのは存在が人々のカリスマであり、強い信仰力を持つ…平和維持にはもってこいの存在だろう。…王は、お前にそういう存在になってもらいたいんだよ』


魔法戦士(英雄――英雄になれば、先生に相応しくなれるかもしれない)

魔法戦士(でも、そんなのは――)



賢者「それじゃあ今度、改めてお礼するわね。今日はちょっとお礼できるものがなくて――」

そう言って、賢者は家の中に入ろうとしていた。


魔法戦士「…なってない」

賢者「…え??」


賢者『私じゃ手の届かない位――凄い大きな存在になっちゃったわね』


魔法戦士「なってないよ、先生! 俺、大きくなんかない!!」

賢者「っ!?」


魔法戦士は拳を握りしめて震えていた。

大きな存在――そんなのは作られた偶像だ。

魔法戦士「先生がいなければ――俺は今、こんな栄誉を手にしていないよ!」

本当に凄いのは自分じゃない。
そして本当に凄いその人に、自分は今でも追いつけていなくて――

魔法戦士「俺…約束果たせていないよ」

賢者「約束……」

あれから5年経った。
体ばかり大きくなったが、気持ちはあの時と変われていない。

魔法戦士「俺は今でも、先生に相応しくない。先生、俺は――」


あの頃と変わらずに――


魔法戦士「今でも、先生のことだけが好きだ」

賢者「…っ」







賢者(どうして…――)




魔法戦士『先生のこと、ずっとずっと好きだったんだよ!!』


言われた言葉は、5年前と変わっていない。

賢者(それなのに…)

それなのに、どうして。

賢者(どうして私、こんなに――)


賢者の頭の中に、魔法戦士との思い出が流れた。


魔法戦士『俺は先生からすればまだガキだし未熟者だし、そんな対象じゃないこともわかってる』


そうだった。あの頃は魔法戦士のことを子供のように思っていた。


賢者『魔法戦士君、私なんて魔法以外何もできないオバサンよ。世の中には、もっと素敵な女性が沢山――』

魔法戦士『それでも俺、先生がいい』


彼の告白を、世間知らずの若者の言葉と真剣に受け取っていなかった。

だけど――


魔法戦士『いいんだよ、先生が悪者になるよりは俺が悪者になった方が』


5年が経ち、魔法戦士は大人になった。


魔法戦士『今でも、先生のことだけが好きだ』


それでも、自分を想ってくれていた。


魔法戦士『先生、相変わらず不器用だなぁ』

魔法戦士『ドジなの変わらないなぁ先生は』


相変わらず魔法以外はダメな――「賢者自身」を見てくれていた。



賢者(そうか、私、魔法戦士君のこと――)ポロッ

魔法戦士「…先生?」

賢者(一人前の男性として見てたんだ…!!)ポロポロ



魔法戦士「先生、どうしたの、先生!?」

突然涙を流し始めた賢者に、魔法戦士は慌てる。
流石の魔法戦士も、女性の涙には弱いようで。

魔法戦士「どこか痛いの!? びょ、病院まで行く!?」

賢者「もう…肝心な所で鈍感なのね」グスッ

魔法戦士「えっ?」

賢者「魔法戦士君の前で大人ぶるのはやめたかったのに…これじゃあ、まだまだ私は『先生』でいなければならないじゃない」

賢者は袖で涙を拭うと、笑った。

賢者「先生はね、嬉しくて泣いたのよ。…ふふっ、やるようになったじゃない魔法戦士君」

魔法戦士「せ、先生……」

魔法戦士は少しアタフタしている。
こういう場面には慣れていないのだろう…だけど、それが少し嬉しい。

魔法戦士「…せっ、先生! その…先生の料理食べさせて! …今日はまだ、帰りたくないから」

賢者「…えぇ、いいわよ」





魔法戦士「うわ~あ、見事な煮崩れ。先生は本当に不器用だなぁ」

賢者「むぅ」

提供された煮物を見るなり、魔法戦士は苦笑した。

賢者「どうせ、魔法以外はダメですよ~」

魔法戦士「そんなことないって、味は…うまいよ、これ」

賢者「魔法戦士君の方がお料理上手じゃない」

魔法戦士「そんなことないよ。俺は先生の作る飯の方が好きだ」

賢者「…ふふ、ありがとう」

魔法戦士「…先生、俺、明日王様に会ってくるよ。結構、勇気がいるんだけど…王様に言わなきゃいけないことがあって」

賢者「そう」

それ以上のことは彼自身が語らなかったから、あえて追及しなかった。
だけど、彼にとって重要な何かがあるのだろうから――。

賢者「頑張るのよ、魔法戦士君」

魔法戦士「…うん!」

彼を信じて、後押しすることにしよう。





魔法戦士「…というわけで王様、やはり英雄の座は辞退したいと思います」

王に全部告げた。
英雄の座は今の自分には不釣り合いなことも、納得していないことも。

王は魔法戦士の言葉を、遮ることなく聞いていた。

王「ふむ…やはり重荷であったか」

魔法戦士「王様…」

王「本人がそう言うのなら無理強いはできんな。すまんな魔法戦士、こちらに都合よく、お主を利用しようとしていた」

魔法戦士「い、いえっ。こちらこそ、ご期待に沿えず――」

思いがけず王に頭を下げさせてしまい、魔法戦士は慌てる。

王「期待に沿えない? 何を申しておる、お主はまだまだこれからだろう。今後も、期待しているぞ」

魔法戦士「…!!」

英雄でない自分に期待してくれた――それだけで、魔法戦士の心は晴れた。

魔法戦士「…はいっ!!」





時の精霊「よ、賢者。どうした」

賢者「この間の返答に来ました」

時の精霊「ふぅん。答えは決まったのか。

賢者「えぇ。私、やっぱり――」

この呪いのお陰で色んなことがあった。
思ったように魔法が使えずにもどかしい思いを何度もしたが――それでも、良いことも沢山あった。

賢者「呪い、解きません。このままの私でいます」

時の精霊「ふーん、そっか」

時の精霊は別段驚かずに答えた。

時の精霊「やっぱ若返りの方がメリット大きいか? 人間は短命だしな」

賢者「ふふ、そうですね」

否定する気はない。だって、それが事実だから。

賢者「呪われる前の私は魔法にばかり没頭していましたが――若返って、人生やり直して、魔法以外にも色んな楽しいことがあるんだって知ることができたんです」

時の精霊「なるほど。若返って、新しくやりたいことが見つかったか?」

賢者「――はい!」

賢者はもう、迷わなかった。





魔法戦士「先生ーっ」

賢者「あら魔法戦士君、お帰りなさい」

あれから魔法戦士は激務が減ったのか、ちょくちょく里帰りしてくるようになった。
その度に、賢者の家に晩飯を食べに来るのである。

魔法戦士「あれ先生。このポテトサラダ、ポテト以外に何も入ってないの」

賢者「コロッケ…なんだけど……」

魔法戦士「えっ」

型崩れのせいか、揚げ方が足りないのか、言われてもコロッケには見えない。

賢者「ご、ごめんね! やっぱりコロッケは冷凍食品の方がいいわよねぇ!」

魔法戦士「いやうまいよ、これ」モグモグ

賢者「ほ、本当!?」パアァ

魔法戦士「うん。味はフライドポテトだけど」

賢者「うぅー」ズーン

賢者は頭を抱える。
どうしてこう、料理本の通りやっても失敗するのだろう。

魔法戦士「いや俺は好きだよ…ぷぷっ、ははははっ!!」

賢者「え、な、何!? どうしたの!?」

唐突に大笑いを始めた魔法戦士に、賢者はアタフタする。

魔法戦士「だってさー…先生のこと、可愛く見えてきたから」

賢者「………」

魔法戦士「あーうまい」

賢者「…こらこら魔法戦士君、年上の女性に向かって「可愛い」とはなーに?」

魔法戦士「うーん、先生って年上って感じしないんだよな~」

賢者「ちょっとー!?」

賢者(そりゃ魔法戦士君のこと大人の男性として認めたけど、だからって大人の余裕を見せ付けられると悔しいというか…)

魔法戦士「ははは。あ、おかわりいただきまーす」

賢者「もう、笑うなら食べなくていいですーっ」

魔法戦士「やだ、食べたいもん」

そう言いながら、既に魔法戦士はコロッケ?を皿に盛っていた。

魔法戦士「俺、先生の料理なら――毎日食べたいよ」

賢者「…もう」

そんなこと言われては、許すしかなくなる。
本当にずるい。彼の言葉は、賢者の心をいちいちくすぐるのだから。


魔法戦士「あ、先生。久々に魔法のこと教えてくれないかな~。どうも最近、上手くいかなくて」

賢者「久しぶりの授業? ふふ、いいわよ」


自分達の関係は、まだまだ変わらない部分が沢山あるけど。


賢者「それじゃ、基本中の基本。五属性魔法の同時放出はできる?」

魔法戦士「…………」タラー

賢者「そこからかぁ。これはしごきがいがあるなぁ~」

魔法戦士「お手柔らかにお願いします……」


それでも、これから一緒に成長していけるから。


賢者「魔法戦士君」

魔法戦士「はい?」


だから、少しずつ進んでいけばいい。


賢者「よーし…一緒に頑張りますか!」



Fin



あとがき

リクエスト内容「賢者と魔法戦士のその後」
リクエスト下さったづっきーに様、ありがとうございました。

今作を書く上で1番頭を悩ませたのは「どうすれば賢者が魔法戦士を恋愛対象として見るようになるのか」って所です。
その辺の説得力が出ただろうか、ってのが今でも不安だ!!(`・ω・´)キリッ

まぁ本編自体、アラサー女性が若い男子に好意を寄せられる時点で無理あるっちゃ無理ある話ですが、創作物ってことで勘弁で…。
posted by ぽんざれす at 19:13| Comment(4) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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