2016年09月18日

魔姫「捕まえてごらんなさい、色男」/勇者ルート

本編はこちら


その少年が神童と呼ばれたのは、いつ頃からか――

魔物『ガアァッ!』

王子『ひっ!』

ダダダッ

『王子、伏せろ――ッ!!』

王子『!!』

出生、血筋――どれを取っても、彼に『特別』なものなど無かった。

『でりゃあぁ――ッ!!』ザシュッ

魔物『グアアアァァ』

だが平凡な少年は、やがてこう呼ばれるようになった。


勇者『討伐完了……立てるか?』


世界を救う英雄――『勇者』と。





魔姫「裏社会ギルド?」

ハンター「あぁ」

ハンターは朝早くこちらを訪れるなり、聞きなれない名前を口にした。

ハンター「俺たちは今、ギルドで残党狩りの依頼を行っているが……裏社会にも同様に、裏社会の人間に仕事を斡旋するギルドが存在する」

猫耳「あぁ聞いたことある。そのギルドを介して、魔物と手を組む人間もいるんだよね」

ハンター「で、だ……その裏社会ギルドの依頼書を入手したのだが……」ピラ

・討伐依頼
標的:魔姫一行
報酬:狩った獲物により変化、詳細は下記

魔姫「で、討伐報酬は……ちょっと嘘でしょ! 勇者が私より高いのはわかるけど、3倍はないでしょ3倍は!」

ハンター「俺なんてお前より3割少ないんだからな……」

猫耳「皆はマトモな額だからいいよ…。僕なんかワンコインだよ……」

魔姫「この値付けは正直納得できないけど……この値段なら、ギルドの依頼を見た連中がこぞって勇者を襲うんじゃない?」

ハンター「……それだが、既にその事態は起こっているかもしれん」

魔姫「……どういうこと?」

ハンター「今朝、勇者の家を訪れたのだが、応答がなかった。しかし扉に鍵がかかっておらず、不審に思い開けると……入口に、この依頼書が落ちていた」

魔姫「!! じゃあ、まさか……」

猫耳「勇者はギルドの依頼を受けた奴から襲撃を受けて……」

ハンター「この依頼書は、恐らくそいつが落としたものだろうな」

魔姫「大変じゃない! こんなとこでお喋りしてる場合じゃないわ!!」

ハンター「だが、勇者がどこにいるかわからん。すぐに通報したから、今頃兵士たちが勇者を探しているだろうが……」

猫耳「うにゃあ……魔姫も討伐依頼されてる身だよ。今は下手に動かない方がいいかも」

魔姫「でも……」

ハンター「勇者は強い。あいつが自力で何ともできない状況というのは……俺たちでは微力にすらならん」

魔姫「……」

魔姫(勇者……)


助手「失礼します!! ハンター様っ!!」バァン

魔姫「!!」

ハンター「助手、どうした!」

助手「勇者様が……勇者様が……ッ!!」

魔姫「……!!」





ワーワー

<まさか勇者様が……
<裏社会ギルドだって?
<物騒ねぇ……

魔姫「……」

ハンター「魔姫。気落ちするな」

魔姫「だって…だって……ッ!! 勇者が!!」

ワーワー


<キャー勇者様ー! 素敵ー!

勇者「はっはっは、ありがとう!」

<でも流石ですね勇者様!
<まさか、たった1人で裏社会ギルドを潰すなんて!


魔姫「悔しいいぃぃ!! 私達が情報を知った時には、勇者はまた1つ武勇伝を増やしていたなんて!!」

ハンター「言うな……。惨めになる」

猫耳「にゃー……ドアの鍵は締め忘れてただけなんだねぇ」


勇者「あ、魔姫さんとオマケ2人! おはようさんです!」

魔姫「勇者、あんたねえぇ!! 何か言ってから行きなさいよ、心配したでしょ!!」

勇者「えっ!! ま、魔姫さんが、俺の心配を……感激だああぁぁ!!」

魔姫「感激してないで、何で黙って行ったのか説明しなさい!!」

勇者「はい、魔姫さん! こんなタダ働きは、俺1人でチャッチャと済ませようと思ったからです!!」ビシッ

魔姫「私はお金目当てで残党狩りしてるわけじゃないのよ!! 名声独り占めなんてズルイじゃないの!」

勇者「あはは、魔姫さん何をおっしゃっているんですか。魔姫さんは世界で最も尊い女性じゃありませんか!」

魔姫「誤魔化すなあぁ――ッ!!」


ハンター「いや……誤魔化しじゃなくて本気だな」

猫耳「激怒状態の魔姫に動じないのは勇者だけだにゃー……」


魔姫「ぜぇっぜぇっ」

ハンター「勇者、裏社会ギルドの情報はどこで入手した?」

勇者「友達に聞いたんだよ。ほら俺って交友関係広いからさ」

ハンター「そうか。だが俺たちはパーティーだ、危険なことをする時は一言伝えて行け」

勇者「危険なこと……? うーん、俺にとって危険なことってそうそうないしなぁ」

ハンター「あのな……」

魔姫「よぉー…く、わかったわ」

勇者「はい?」

魔姫「勇者にとって、私達は頼りない仲間なのね! フン!!」スタスタ

勇者「あぁっ、魔姫さん! 誤解です、貴方は誰よりも強く美しく気高い!!」

ハンター「どうでもいいが、周囲に人がいるんだぞ」

<クスクス、もう勇者様ったらー



猫耳「ま、魔姫、待ってよぉ。勇者だって多分そんなつもりじゃ……」

魔姫「えぇ、そうでしょうね」

猫耳「うにゃー……そりゃまぁ名声独り占めかもしれないけど……」

魔姫「それは本気で言ったわけじゃないわ」

猫耳「だと思った。魔姫、何でそんなに怒っているの?」

魔姫「だって……」


キャーキャー

勇者「サイン? 俺にジャンケンで勝った人だけねー」

<うわー勇者様、字きたねー

勇者「うっせぇよ! 英雄様のサインだからな、プレミアつくぞ!」ハハハ


魔姫「……」

届かない。あまりにも遠すぎる。
だからこそ勇者にイライラしてしまう。これは私の身勝手――





>翌日・城前広場


猫耳「チラシ配ってた。音楽の国で祭典があるんだって」

魔姫「どんなことをするのかしら」

ハンター「昔、参加したことがあるな…。まぁ簡単に言うと音楽祭だ。その日は国中が音楽に包まれる」

魔姫「あら面白そうじゃない。人間の作る音楽は好きよ」

猫耳「オルゴールとか売ってるといいね~」

ハンター「露店が出ているはず……あ、勇者が戻ってきたぞ」


勇者「ちぃーす、お待たせ~」

ハンター「勇者。陛下からの呼び出しとは何だったのだ?」

勇者「あー。なんか、これ押し付けられた」パカ

猫耳「これは……」

勇者が開いた箱の中では、緑色の宝石がきらきら光っていた。

魔姫「み、見事なエメラルドだわ……!」

ハンター「大きさからして、俺の給料3ヶ月分くらいだな」

猫耳「勇者凄いね、良かったじゃない!」

勇者「はは……俺、宝石とかよくわからないし」

魔姫「ねぇ、これ……もしかして、ギルドを潰したご褒美じゃない?」

勇者「………え?」

猫耳「きっとそうだよ。だってあれだけ大きなことをしておいて、報酬ナシは割に合わないもん」

ハンター「褒美だと言えばお前は拒否するだろうから、押し付けたんだろうな」

勇者「………」

魔姫「素直に受け取っておきなさい。褒美を突き返されちゃ、王様の面目丸つぶれよ」

勇者「そういうことなら……魔姫さん、受け取って下さい」

魔姫「……え?」

猫耳&ハンター「!?」

勇者「この宝石が相応しいのは、俺ではなく、貴方だ。魔姫さんならこの宝石を、より輝かせられると思うんだ」

魔姫「う、受け取れないわ! だってギルドを潰したのは貴方であって……」

勇者「魔姫さんが狙われているんじゃなかったら、俺は裏社会ギルドまでたどり着けなかった。だから…魔姫さん、受け取って下さい」

魔姫「~っ……」

ハンター「くっ。宝石プラス口説き文句……見事に女のツボを突いてやがる!」

猫耳「うにゃあ……! 魔姫が陥落する……ッ!!」

勇者「はい、魔姫さん。俺が持ってても、引き出しの奥底で眠らせるだけなんで」グイ

魔姫「あ……ありが、とう……」

勇者「どういたしまして」ニコ

ハンター「……勝てる気がしない」ガクッ

猫耳「実力で得られるものは大きい……ッ!」ガクッ

勇者「あ、猫耳! それ、音楽の国の祭典のチラシじゃん! 俺、あの祭典好きなんよ~!!」

猫耳「あ、うん。面白そうだな~って皆で話してたの」

勇者「面白いぜぇ~。夜のダンスパーティーなんか、最っ高にムードあって!」

魔姫(ダンスパーティー……)


~魔姫の頭の中~

魔姫「私、ダンスは得意なのよ。一緒に踊ってくれる殿方がいれば、喜んで参加するのだけれど……」

勇者「魔姫さん……俺は立候補できない。貴方のような美しくて完璧な女性と踊るなんて、俺には……!」

魔姫「構わないわ、勇者」

勇者「えっ!」

魔姫「素敵なエメラルドを頂いたんですもの。そのお礼だと思いなさい」

勇者「お、おおぉ……! 感激だあぁ、美しくて完璧な魔姫さんとダンスができるなんて!!」

~終了~


魔姫(……な~んてね! た、ただのお礼だし!)

魔姫「ねぇ、勇」

勇者「よし! じゃあ行こうぜ、全員で!!」

魔姫「………」

勇者「俺、こう見えてダンスは得意なんだよな~。阿波踊りってやつ! あ ホイサホイサ~ってね」

ハンター「……おい勇者、後ろ見ろ」

勇者「へ?」クルッ

魔姫「おほほ、当日楽しみにしてるわね~」ゴゴゴゴ

勇者「あ、はい! 俺も楽しみにしてます、魔姫さん!」

ハンター(と、鳥肌が……!)

魔姫「じゃあね。帰るわよ猫」ゴゴゴゴ

猫耳「う、うん……」


勇者「魔姫さん、お腹空いたのかねー?」

ハンター「……お前がモテない理由がよくわかった」





>屋敷


魔姫「もーっ、やっぱり勇者腹立つーっ!!」ジタバタ

猫耳「喧嘩はハンターとの方が多いのにね。どこが腹立つの?」

魔姫「何か……悔しいの~っ! 強いくせに天然で心広くて無欲で、何なのよっ!!」

猫耳「あー……それは嫉妬だねぇ。劣等感だよ」

魔姫「あぁもう、何で私が嫉妬しないといけないのよっ! 勇者めっ!」

猫耳「可哀想な勇者……。好きな女の子に張り合われるなんて……」

魔姫「好きな女の子ぉ~?」

猫耳(あっ!! ヤバッ!!)

魔姫「だったらねぇ、ちゃんと口説きなさいよね! あいつがやってる賞賛は、ただのミーハーよ! 肝心な時にチャンス逃すんじゃないわよ!!」

猫耳「……え?」

魔姫「何なのよぉ~……あれが草食系ってやつなの~……?」ウーン

猫耳「……ねぇ、魔姫」

魔姫「何よ」

猫耳「もしかして……気付いてる? 勇者の気持ち……」

魔姫「あんなに露骨なの、気付かない方がどうかしてるわよ」

猫耳(だよねー)

魔姫「だけど気持ちがあるだけじゃ、駄目なのよ……」

猫耳「勇者は行動もしてるよ。魔姫を守る為にギルドを潰したり、宝石をくれたり……僕やハンターじゃ、できないよ」

魔姫「……そうなんだけどね」

素直に喜ぶことができない。
そればかりか、悔しいという気持ちが一杯で。

こんなにして貰って素直に喜べないなんて――そんな自分がワガママでイヤになる。


猫耳「魔姫はワガママだにゃ~」

魔姫「~っ…自覚してても、言われるのは腹立つわねぇ……」

猫耳「僕は魔姫のワガママに慣れてるけどさぁ…勇者はいつまで辛抱できるかにゃ~?」

魔姫「……どういうことよ」

猫耳「勇者の周りには、優しくて素直で勇者を好きな女の子が沢山いるよ。好きな子がいつまでもつれなかったら、誘惑に乗るかも……」

魔姫「初耳なんだけど! 勇者を好きな女の子が沢山!?」

猫耳「そりゃ世界的な英雄で、交友関係も広い勇者だからにゃ~」

魔姫「~っ……」

猫耳「本人は激ニブだから気付いてないかもしれないけど、それなら女の子達だってアピール方法変えてくるだろうし……」

魔姫「……何が言いたいの」

猫耳「さぁ?」ニコ

魔姫「わかったわよ! ちょっと出かけてくるわ!」

猫耳「行ってらっしゃ~い♪」





>勇者の家の前


魔姫(とはいえ、行って何を言うべきか……)

魔姫(あら無用心ね、カーテン開きっぱなし……って、勇者?)


勇者「………」

兵士「………」


魔姫(兵士と何か話してるわ。後にした方がいいかしら)


勇者「………!!」


魔姫(……? 何か深刻そうね……?)


勇者「じゃあ……悪魔王は生きてるのか!?」


魔姫「……っ!?」


兵士「それは何とも……ですが城の司祭が、奴の気配を強く感じると言っており……」

勇者「わかった、俺が行く。杞憂でないなら、何か起こる前に叩かないとな」

兵士「お仲間に知らせなくてよろしいのですか?」

勇者「あぁ、俺1人でちゃっちゃと済ますよ」ガチャ

タッタッ……


魔姫「……」

魔姫「何よ、それ……。冗談じゃないわ、また置いてけぼりにされてたまるもんですか!」





>城


勇者「敵の気配はないな」

兵士「はい、侵入の形跡もありません。しかし相手が悪魔王ともあれば、もしかしたら……」

勇者「悪魔王を倒したバルコニーに行ってみる。他の奴らは避難していてほしい」

兵士「ですが、援護は……」

勇者「援護はいいや。俺は協力して戦うってのが苦手なもんで、任せてほしい」

兵士「かしこまりました。健闘を祈ります」



勇者「さーて……確かここだったな、悪魔王をブッ殺したのは」

"ククク……"

勇者「!!」バッ

勇者(黒いもや……これは悪魔王の……!)

勇者「悪魔王!! お前なのか!」

"………"

勇者「……?」

"………!!"バッ

勇者「わっ!」ヒョイ

シュバババッ

勇者(くっ、俺に明確な殺意を持ってやがる……あの時仕留め損なってたのか!)

勇者「だとしたら俺の責任だな……今度こそ、仕留めてやるよ!!」バッ


ばさばさっ

魔姫(勇者が戦ってる…! あのもや、悪魔王の力を感じるわ)

魔姫(そういえば、死後に"呪い"を産む魔物が稀にいるけど……悪魔王も、そうだったのね)


勇者「でりゃあぁ――っ!」ズバッ

勇者「はんっ! 悪魔王ごときが俺に一矢報いようなんぞ、百万年早――」

ビュンッ

勇者「うわっ!!」

勇者「はー……流石に数が多いな。切るだけの単純作業じゃ飽きるんですけどー!」


魔姫「なら、手伝いましょうか?」

勇者「わわっ!? 魔姫さん!?」

魔姫「また1人で動いたわね。後でお説教よ」

勇者「魔姫さん、危険です! 早く避難を――」

ビュンッ

魔姫「お断りよっ!!」バチバチイイィィッ

勇者「……っ!」

魔姫「貴方、やっぱり私達を信頼していないの? こういう時はね――」

勇者「魔姫さん、伏せてっ!!」

魔姫「……えっ?」

ビュンッ

魔姫「!!」

魔姫(嘘……私の魔法攻撃じゃ、倒せてなかっ……)

勇者「このーっ!」バッ

魔姫「!!」

ブォンッ

勇者「……っう!!」

魔姫「勇者、大丈夫!?」

勇者「だ、大丈夫……! それより敵は全滅していない。魔姫さん、上に避難していてくれないっすか」

魔姫「けど……」

勇者「頼みます! 後で、いくらでも説教は聞くんで!」

魔姫「……わかった」


勇者「おらあああぁぁぁ!!」


魔姫(……情けないけど、私では勇者の足を引っ張るだけだわ)


勇者「ハァ、ハァ……これで最後だ……。でりゃあぁっ!!」

ズバッ――

勇者「はぁ…終わった……」

魔姫「勇者、お疲れ様。ごめんなさい、邪魔をして……」

勇者「はは、いいんすよ。ふぅ…数が多くて気が滅入ってたけど、魔姫さんのお顔を見れたお陰…で……」ガクッ

魔姫「勇者!?」

勇者「だ、大丈夫、です……。疲れているだけだから……。ハァ、ハァ」

魔姫「ゆ、勇者。その腕……」

勇者「ん……っう!?」


魔姫(勇者の左腕は、黒いもやに覆われていた――そこは勇者が攻撃を喰らった部位。嫌な予感がした)





>勇者の家


勇者「ハァ、ハァ……」

猫耳「うにゃー……勇者の顔色がどんどん青白くなっているよ……」

助手「……」

魔姫「ど、どう、助手……」

助手「……まずいことになりましたね」

ハンター「どうまずいのだ?」

助手「今回発生したもやは、悪魔王の死後に発生した呪いです。呪いそのものに意思はないものの、本能的に勇者様に襲いかかったのでしょう」

魔姫「単刀直入に聞くけど、勇者の腕はどうなってしまうの?」

助手「……悪魔王の特性を覚えていらっしゃいますか?」

魔姫「悪魔王の……?」

助手「奴は王子様に憑依し、身柄を乗っ取った。そして勇者様の腕も……悪魔王に侵食されています」

魔姫「!!」

ハンター「では…侵食が進めば、勇者が悪魔王に身柄を乗っ取られるのか!?」

助手「今は勇者様の強靭な精神力で、それを食い止めていますが……。それが限界に来れば、恐らく……」

猫耳「そんな……」

魔姫「……っ」

魔姫(わ、私のせいだわ……私が出しゃばらなければ、勇者は……)


勇者「はは。皆、何そんな悲壮感醸し出してるんだよ。心配ないって!」

魔姫「……!」

ハンター「勇者、お前は話を理解して……」

勇者「理解した。このままだと俺、王子の二の舞になるわけだろ?」

ハンター「わかっているなら、何故そんなにお気楽なんだ……!」

勇者「まだ、全身乗っ取られてねーもん。でも、駄目そうだったらさ……」チャキ

猫耳「!! 勇者、剣で何を……」

魔姫「――っ!! やめて勇者! それだけは!!」ガシッ

勇者「……魔姫さん」

ハンター「お前……今、自害しようとしていたのか……?」

勇者「ちげーし。腕を切り落とそうかとね」

ハンター「……っ! 俺たちの見ている前でやるとは、悪趣味な奴だな!」

猫耳「か、関係ないよぅ……。僕たちがいようがいまいが、そんなことやめてよ……」グスグス

勇者「わり。まぁ、そこまで気を落とすなよ」ハハハ

魔姫「……ごめんなさい、勇者………」

勇者「ん?」

魔姫「私のせいで、こんなことに……! どんな形になってもいいから、絶対に償うから!!」

勇者「……頭上げて下さい、魔姫さん」

魔姫「……勇者?」

勇者「償いなんて、必要ない。俺は勇者として生きると決めた時から、どんな命運も受け入れるって決めていました。魔姫さんにそんな顔をさせてしまうことの方が、遥かに俺の心が痛みます」

魔姫「勇者……」

勇者「心配しなくても、俺はそう簡単に侵食されませんから。むしろ根気で勝負して、呪いを追い出してやりますよ!」アハハ

ハンター「根気も何も、呪いに根性などないのだが……」

魔姫「……」クルッ

勇者「……ん、魔姫さん?」

魔姫「………」スタスタ

勇者「あちゃー……魔姫さん泣かせちゃった? 俺、何かまずいことでも言ったかなぁ……」

ハンター「あいつ……」タタッ

猫耳「魔姫……」



ハンター「おい待て!」

魔姫「……何」

ハンター「いや、確かにお前に非はあるが……。お前が自分を責めるのは勇者にとって本位ではない。だから……」

魔姫「慰めなんかいらないわ。それに私……別に泣いてないわよ」

ハンター「そうか……」

魔姫「私は、怒ってるのよ」

ハンター「……は?」

魔姫「ちょっと行ってくるわ! くれぐれも、勇者が変な気起こさないように見張ってて!」バサッ

ハンター「あっ、おい!? どこへ行く!?」


魔姫(呪いの進行を食い止めるには……あれしかないわ!)



ハンター「全く、あいつは何を……なぁ、勇――」

勇者「ハァ、ハァ……」

ハンター「……!? おい、俺が部屋を出てる少しの間に、何があった!?」

勇者「何でもねぇ……ちょっと気が抜けたんだよな……。ハハ……」

猫耳「魔姫の前では、無理していたみたいで……」

ハンター「勇者……何故、そこまで……」

勇者「うーん、何でだろうなぁ。でも理由を言うとしたら――」

こんな気の使い方、魔姫さんは気に入らなくて――きっと俺は、ますます嫌われるだろうけど――


勇者「魔姫さんのこと――好きだから」





>魔王城


魔姫「……ここへ来るのは久しぶりね」

父が倒されるまで、ずっと住んでいた城――懐かしくもあるが、今は思い出に浸っている場合ではない。
迷わずに真っ直ぐ大広間に向かい、立ち止まった。

魔姫「城に眠る亡者の魂よ、私の声を受け入れよ――"開け"」

ゴゴゴ……

魔姫(魔王城の隠し扉。お父様亡き後、この城を探索した人間には見つけられていないようね)

魔姫(この先にある空間は――異世界。お父様には絶対に入ってはいけないと言われていたけど――)

魔姫(ここまで来たら、行くしかないわ!)ダッ

ブオオオォォン

魔姫「うぅん……異世界トリップ、話には聞いてたけど酔うわね……こう、空間がぐにゃっとねじれるような感じが……」

魔姫「……って」


<グオオオォォォ
<ピギャーピギャー
<フワアァンフワアァン


魔姫「う……」タジッ

魔姫(ここに潜むのは魔物ではなく、"異形"……異形の世界なら、私でもアウェイ……)

魔姫(けどひるんでいられないわね……『あれ』がここにあるのは知っているのよ)

<キョエエエェェ

魔姫「っ!」バッ

<ヒョヒョヒョヒョ
<プギャープギャー

魔姫「やっぱりねぇ……探し物ひとつ、そう簡単にできないと思っていたわ。ま、確かに異物を排除するのは生物の本能でしょうね」

<ピュルピュルルルル

魔姫「何言ってるかわかんないわよ。この世界を探索させてもらうわ」バサバサッ

<ヒョゲアアアァァァ!! バッ

魔姫「せりゃああぁぁぁ!!」バチバチバリイイィィッ

<ゴアアアァァァァァ!! バタバタッ

魔姫(数は多いけれど、1匹1匹は大したことないわね。これなら……)

魔姫「悪いけど、侵略させてもらうわ! 私は魔王の末裔だからねっ!!」バチバチッ

<グパアァッ バッ

魔姫「遅いの……よっ!!」バキィ

<ゴフッ

――ゴオオオォォッ

魔姫「――っう!」

<ヒョゴォ! ボコッ

魔姫「痛っ……!!」

魔姫(こんな、モロに物理攻撃喰らったの久しぶりだわ……! けど……)

<グオオオォォォ
<ピギャーピギャー
<フワアァンフワアァン

魔姫(ひるんでる場合じゃないわね……!!)ヨロッ

魔姫「上等……! これくらいの痛みは喰らっておかないと、償いにはならないわね!!」





魔姫「せやあぁ――っ!!」バチバチィッ

<グアアアァァ バタッ

<ギュルルル
<ゴルルルル

魔姫(全く、次から次へと……! 早く目的のものを……!)

ヒュー……サラサラ

魔姫「……! あの木は……」タッタッ ブチッ

魔姫(この手触り……間違いないわ。これが『呪詛の実』ね)

<グオアアァァァ!! バキィ

魔姫「きゃああぁっ!!」ドサッ、ズザザー

魔姫「いったた……」ヨロ…

<ゲギャアアァァ

魔姫「悪いけど、もうこの世界は用済みなのよ! バイバイ!!」バサバサゥ

ヒュンヒュンッ

魔姫(って言って、わかりましたバイバイって言ってくれる相手じゃないわね……まぁいいわ、ひたすら逃げるだけよ)ササッ

魔姫(あとは、この実を勇者の元に――)

バッ

魔姫「!! 追いつかれ――」

バキイイイィィッ

魔姫「――っう!!」

ドサアアァァッ

魔姫「いった……あ、でも。殴り飛ばされた衝撃で、元の世界への出口まで飛ばされたわ」

魔姫「とにかく今は、この世界を出なきゃ……」ズルズル





勇者「うぅん……」

ハンター「苦しそうだな……助手、経過はどうだ?」

助手「侵食が広がってきましたね……。流石の勇者様でも、精神力に歪みが出ているようで……」

猫耳「勇者、負けたら駄目だよ! 勇者は、悪魔王なんかに負けないんだ!」

ハンター「俺たちはお前を信じているんだ。……勿論、魔姫もな」

勇者「う、うぅ……魔姫、さん……」

猫耳「そうだよ、魔姫のこと好きなんだろ!? だったら諦めないで!」

ハンター「これを乗り切ったら……癪だが、お前の恋を応援してやるよ」

勇者「う、うぐぐ……ハァ、ハァ……」

猫耳「うにゃあ……魔姫がここにいれば……」


バァン


魔姫「ただい……ま……」

猫耳「あっ、魔姫!? どこに行――」

ハンター「お、お前!? 何だ、そのボロボロの姿は!?」

魔姫「何てことないわよ……それより、これ……」

猫耳「この実は……」

助手「……呪詛の実」

ハンター「な、何だ。その呪詛の実というのは」

助手「食べれば、一定時間だけ"呪い"の力を得ることができる実ですよ。魔姫様、それをどうなさるおつもりで……」

魔姫「こうするのっ!」

パクッ ゴクリ

猫耳「っ!?」

ハンター「飲んだ!?」

助手「まさか、魔姫様……」

魔姫「毒には毒! 私の呪いの力で、悪魔王の呪いを追い出してやるのよ!」

ハンター「何て無茶苦茶な……。だが、何もやらないよりはマシか」

猫耳「魔姫! 勇者を救ってね!」

魔姫「えぇ!」


魔姫「勇者、ちょっと苦しいかもしれないけど…ごめんねっ!」

勇者「うぅっ!! んぎゃあぁっ!」

助手「勇者様の体内で、呪いの力がぶつかり合っている……これは……」

勇者「がひゃああぁ――ッ!!」ジタバタジタバタ

魔姫「くっ、悪魔王の呪いはやっぱり根強いわ……!!」ブルブル

ハンター「おい、お前も勇者もヤバいじゃないか! やめろ!」

勇者「ぐぎぎ……だっ、大丈夫だから……!!」

ハンター「勇者!?」

勇者「それよりハンター……俺のこと、抑えててくれ……!! 多少、殴ってもいい!!」

ハンター「勇者……くっ、わかった!」

勇者「ありが……んぎゃああぁぁ、あっ、ああぁ――ッ!!」

魔姫「……っ!!」ブルブル

猫耳「魔姫……」


魔姫(付け焼刃の力で、悪魔王を追い払うのは難解……)

勇者「んっ、んんっ……はぁっ、はぁっ」

魔姫(くっ。やっぱり……私じゃ、駄目なの!?)


"俺は、魔姫さんを信じる……"


魔姫「……え?」


"魔姫さんの努力を無駄にしない……俺は絶対に、悪魔王を追い払う!"


魔姫「……」

魔姫(勇者の、声?)

勇者「ぐぎぎ、あああぁ……!!」

魔姫(勇者は私を信じて、意思の力で悪魔王を拒絶してくれている……)

勇者「あああぁ、んああぁ、お、おぉ……んっ!!」

魔姫(だったら、私が諦めるわけにはいかない!!)


"悪魔王、テメェ……"


魔姫(勇者の、心の声が聞こえる)


"王子の体を弄んだ上、テメェは……!"
"魔姫さんのことまで苦しめやがって! 絶対に許さねぇからな!!"
"今度こそ、お前を滅ぼしてやる! お前はもう1度、俺に殺されるんだ!"


魔姫(こんな時にまで、自分のことは後回し……バカね、本当に)

魔姫(私、貴方のそういうところ大嫌い。何だか腹が立つのよ)

魔姫(だけどね――)


勇者「ぐぐ……負ける、もんか……ッ!!」

魔姫(そうやって溢れ出る、貴方の男気が、私――)


猫耳「い、今、どんな状態なの!?」

助手「少しずつですが、悪魔王の呪いが弱まっています。……しかし」

猫耳「しかし?」

助手「勇者様の精神力が限界に近い……勇者様が気を失っては、形勢逆転に――」


勇者「ハァ、ハァ――」

魔姫「あと少し……あと少しなのに……ッ!!」


"俺――絶、対に、諦め――"


魔姫「そうよ! 諦めるんじゃないわよ……ッ!!」

勇者「んっ、ハァ……」


"悪魔王の、好きには――魔姫、さん――……"


魔姫「……っ!」


"――俺、魔姫さんの……こと――……"


魔姫(そんな、最後の言葉みたな――)

勇者「…はぁっ」カクン


"魔、姫さんの、こと――……好――"


魔姫「――勇者っ!!」

勇者「え――っ!?」


ハンター「……!」

助手「魔姫、様……」

猫耳「え、嘘……き、き……」


魔姫「――」

勇者「………」

勇者(魔姫さんの、唇が………)

魔姫「……ハァッ。勇者」

勇者「ま、魔姫、さん……」ブルブル

魔姫「そう簡単に、諦めるんじゃ……」

勇者「んがあああぁぁ――ッ!!」ゴオオォォォ

魔姫「!?」

猫耳「!?」

ハンター「!?」


勇者「……フゥッ」

助手「………悪魔王の呪いが、消え去りました」

勇者「はー……スッキリ!」

ハンター「は? ……そんなに簡単な話だったのか?」

猫耳「……う、うん、良かったね! おめでとう!」

勇者「ありがとう!」

魔姫「ちょっ……何よ、このドラマ性のない終わり方は!? せっかく人前で……ちょっと勇者ぁ!」

勇者「魔姫さん、ありがとうございます! 魔姫さんの祝福を受けたなら、俺は神をも越えられますよ!」

魔姫「あっさりしすぎなのよ! もうちょっとねぇ……」

勇者「あ……すみません、魔姫さん。フワァ……」

魔姫「え?」

勇者「急激に眠気が……。ちょっと寝かせて下さい」

魔姫「え、ちょっ、待ちなさい、話はまだ……」

勇者「グガー」

猫耳「寝つきがいいねぇ。そういえば昨晩から寝てなかったもんね」

ハンター「……モテないわけだ」ハァ

魔姫「~っ……」

魔姫「やっぱり、勇者なんか嫌いーっ!!」





魔姫「……はぁ」

魔姫(良かったけど……何か、もやもやする)

魔姫(勇者って本当に何なのよ……わけ、わかんない)


勇者「ご心配おかけしました、魔姫さん!」

魔姫「!」

勇者「お陰で気分爽快、スッキリです! 魔姫さんは俺の命の恩人だぁ!」

魔姫「……そう、良かったわ」

勇者「それより、魔姫さんお怪我は大丈夫ですか!? さっきは朦朧としてたけど、ボロボロだったじゃないですか!」

魔姫「大したことないわ……。助手の回復魔法で何とかなる程度」

勇者「そうですか、良かったー……。魔姫さんの体に傷でも残ったらどうしようかと」

魔姫「……元々は、私のせいなのよ! バカなんじゃないの!」

勇者「へ?」

魔姫「私が怪我をしたのは自業自得! 貴方は私のせいで呪われた被害者! わかってるの!?」

勇者「えー、と……。呪われたのは悪魔王のせいであって……」

魔姫「ずっとそうよね、貴方は私を少しも責めない! 貴方の好意は好意じゃなくて、盲目的信仰なのよ! 嬉しくないわ!」

勇者「……魔姫さん、怒ってます?」

魔姫「怒ってるわよ、ずーっとね!」

勇者「そっかー……無自覚で怒らせるなんて、駄目だなぁ」ハハ

魔姫「何で笑うのよ!」

勇者「だって……俺は"勇者"だから」

魔姫「!」

勇者「誰かの為に戦って、誰かを守って、誰かの為に傷ついて……俺はそれが嫌だと思ったことないから。でも、魔姫さんはそんな俺が嫌なんですね」

魔姫「嫌……っていうか、理解できない。どうして、そういう風に思えるの」

勇者「どうして……。うーん。その答えは俺にもわからないけど、これだけは言えます」


勇者は自信満々の顔で言った。


勇者「俺は特別な出生も血筋もない、平凡な人間でした。そんな俺が"勇者"になれたのは――その価値観のお陰だと思っています」

魔姫「……やっぱり天才って変な人が多いわね。貴方は大の変人よ」グスグス

勇者「……魔姫さん、泣いてます?」

魔姫「何で、貴方なんかの為に泣かないといけないのよ……。私は、自分が許せないのよ……。貴方が、私を責めてくれないから……」グスッ

勇者「うーん……どうしたことか。魔姫さんを責めるわけにはいかないし……」

魔姫「私に聞いてどうするのよ! バカッ!」

勇者「う、うーん……」


勇者はバカ。
比べたくないけど――猫やハンターなら、もっと上手く対処してくると思う。

こうやって、鈍感で、裏表がなくて――そういう勇者だから、私はきっと――


勇者「……魔姫さん! 約束します!」

魔姫「――え?」

勇者「俺はもっと強くなります! で、魔姫さんを守れて、俺自身も傷つかないような! そんな男になります!」

魔姫「………」


わかってない。根本的に、わかってない。もう本当に、バカ。


魔姫「ふ、ふふ……」

勇者「……魔姫さん? 何か可笑し――」

魔姫「ふざけんじゃないわよーっ!! 私は守られヒロインじゃないのよっ!!」

勇者「うわあぁ!?」

魔姫「……でも、そうね」


行儀が悪いと思いつつ、私はビシッと勇者を指差した。


魔姫「……負けないから、勇者。私――貴方に並べるようになってみせるわ」

勇者「……はい?」ポカン

魔姫「でも、そう簡単に追い越されるんじゃないわよ! じゃないと、惚れ甲斐がないからね」

勇者「えーと、むしろ俺が魔姫さんに並べる男になる方が……って、ん? 惚れ、甲斐……?」

魔姫「ぐだぐだうるさい!」グイッ

勇者「――えっ」


チュッ


勇者「」

魔姫「……まずは一勝、ね」ニヤリ

勇者「ま、ま、魔姫さん……」ブルブル

魔姫「何よ」

勇者「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ」ゴオオォォォ

魔姫「!?」

勇者「落ち着いていられねええぇぇ!! 恥ずかしいいいいぃぃ!!」ダーッ

魔姫「あっ、ちょっ!? 待ちなさい!」


とことんバカ。……こっちが追いかけられているんだか、追っているんだか、わかりやしない。
だけど――


勇者「俺は……魔姫さんのこと、好きだぁ――っ!!」

魔姫「知ってるわよ、バカーっ!」


こんなバカに惚れた私も、ウルトラ級のバカ女。
これから前途多難だとは思うけれど……。


魔姫「絶対に捕まえてやるんだから! 覚悟しなさいよっ!!」


Fin



あとがき

本編で最も魔姫とフラグ立ってない男だったので、苦労しました~…。
ステータスが強さに全振りで他はアレですが、基本的には善意の人です。

乙女ゲーssでも言ってましたね、「勇者はどのルートでもいい人」と。……いい人止まりとか言ってはいけない。

男3人の中で唯一魔姫より強いんですが、魔姫は素直に守られてくれる子じゃないから難儀ですね!
posted by ぽんざれす at 13:10
"魔姫「捕まえてごらんなさい、色男」/勇者ルート"へのコメント
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