2016年04月30日

新作スレ立てのお知らせ

SS速報VIPの方で盗賊娘「ハンターラビット」投下開始致しました。

ダンジョン探索を得意とする盗賊娘に、中央国よりトレジャーハントの依頼が来る。
意気揚々とダンジョンに乗り込む盗賊だったが…。

シリアスなシーンがあまり無いので、気を抜いて読めると思います。
一応ラブコメ…なんですが、いつものような甘々ロマンスはあまりないかもしれないですw

1週間~10日の間に投下完了しブログにまとめる予定です。
posted by ぽんざれす at 20:43| Comment(0) | スレ立てお知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月19日

魔女「世界から弾かれた私と彼」

勇者が魔王を討ったそうだ。
だけど『人間』からも『魔物』からも弾かれている私には関係ない話。

この世界を占めている2つの種族、どちらにも属せない私は――永遠に世界に受け入れられることなどないのだろう。


私は、世界に必要とされていない存在――





魔女「……ふあぁ」

目が覚めて時計を見ると、既に時刻は朝の9時。
これで寝坊10日目。夜型体質の魔女は、早起きするのが苦手だ。

魔女「お腹すいたぁ~…でも、作るのめんどくさぁい……」

そう言ってろくに顔も洗わないまま台所へ向かい、ツボを開ける。
作り置きしていた保存食をボソボソ食べ、これで朝食は終了だ。

魔法のお陰で生活周りの清潔は保たれているが、彼女は基本的にズボラである。

魔女(さぁ~て……そろそろ果物が熟してる頃かなぁ)

昨日脱ぎ捨てた服を身に纏い、魔女は外に出た。





魔女「ふぁ~…ねむ」

箒にまたがり空を行く。
人間などは魔女のこういう能力に憧れを抱くらしいが、箒への魔力供給やらで決して楽な能力ではない。

魔女(あった、桃の木)

目的地を見つけ、魔女は木の側に降りていった。
それから桃をもいで、カゴの中に入れていく。

魔女(これがあるから秋って魅力的な季節よね~。……美味しそう)ゴクリ

魔女「そうだ、1個食べちゃおう!」

魔女「いただきまー……」

ガサガサッ

魔女「………え?」

唐突に現れた"それ"を目にしたと同時、魔女の動きは止まった。


暗黒騎士「………」

魔女「ひぃ!?」

威圧感を覚える程に物々しい、黒い全身鎧。
その鎧に包まれた姿は人間か魔物かの判別もつかないが、こんな重々しい鎧を着用しているということはきっと只者ではない。

兜でその顔は隠れているが、突き刺すような視線を感じ――

魔女「みっ、見逃して下さい!!」

魔女はとっさに命乞いをしていた。

魔女(この森に足を踏み入れるヨソ者は……私達と"同類"もしくは――"狩る者")ブルブル

体がガチガチで動かない。無理もない。魔女にとっては、見知らぬ誰かに遭遇すること自体が修羅場に等しい。

暗黒騎士「……お前、"深緑の森の魔女"か?」

魔女「は、はい?」

鎧姿から聞こえたのは男の声。落ち着いた様子の、低い声。
その男は、魔女にとって聞き覚えのない名を口にした。

暗黒騎士「その魔物とは違う異質な魔力……間違いない、魔女なのだろう」

魔女「そ、そうです……」

暗黒騎士「…頼みがある」

魔女「え、は、はい?」

暗黒騎士「俺をかくまえ」

魔女「……!?」

思考が追いつかない。
かくまう? 何で? そもそも彼は誰? どうして自分に――

暗黒騎士「透明化の類の魔法はないか?」

魔女「あ、ありますっ!」

暗黒騎士「なら、それを頼む」

魔女「は、ははは、はい!!」

考えて行動する余裕のない魔女は、言われるまま透明化の魔法をかけた。…暗黒騎士だけでなく、何故か自分にも。
だが、とっさの行動は正しかったようだ。


追っ手A「あの鎧野郎、どこ行きやがった…?」

追っ手B「こっちに逃げたと思ったんだが……」

魔女(人間……あの鎧騎士を追っているの?)

追っ手A「まだ、そんなに遠くへは行っていないはずだ! 探せ!」

暗黒騎士「………」

魔女(もしかして…人間による魔王軍の残党狩り? ということは、あの鎧騎士は……魔物?)





魔女(……もういいかな?)

追っ手の人間たちが去ってからしばらくして、魔女は透明化魔法を解除した。

魔女「ひゃっ!?」

暗黒騎士「?」

わかっていたとはいえ、唐突に目の前にいかつい鎧姿が現れて、ついつい驚いてしまった。

魔女(怖すぎるよ、この鎧姿……)

暗黒騎士「礼を言う。お陰で難を逃れた」

魔女「そ、そうですか」

人間側でも魔物側でもない魔女は、別に暗黒騎士を助ける気などなかったので、お礼を言われてもピンとはこなかった。
それよりも、とにかくこの暗黒騎士の見た目が怖くて…。

魔女「それじゃ、私は行きますので……」

暗黒騎士「待て」

魔女「!!」ビクウウゥゥッ

暗黒騎士「……評判に反して臆病者だな」

魔女(どういう評判?)ビクビク

大体想像はつくが。
そもそも彼女が両種族から弾かれている理由は、魔女は人や魔物を惑わす存在とされているからだ。
勿論、彼女自身にそんな前科はなく、誰かを惑わすどころか目の前の暗黒騎士にビクビク怯えるしかない臆病者である。

暗黒騎士「……ふっ」

魔女(笑った!?)

暗黒騎士「いや……この鎧に怯えているのだとしたら、すまなかったな。だが……」

魔女「!!」

暗黒騎士は兜を脱いだ。
健康的な肌色、男前に整った顔立ち――いかつい鎧とギャップのある美しい顔立ちに目を奪われたのもあるが、それ以上に魔女は驚いていた。

魔女(に、人間!?)

人間に追われていたのだから、彼の中身は魔物だと思っていた。だがその外見的特徴は紛れもなく人間で…。

暗黒騎士「お前……」クイ

魔女「っ!!」

そして暗黒騎士は魔女に近寄ると、顎を指で持ち上げた。
先ほどまで怯えていた魔女だったが、至近距離で見る美形に脳みそがとろけそうになっていた。

だが、それだけでとろけそうになっていた頭は――

暗黒騎士「お前…可愛いな」フッ

魔女「」

魔女「きゅー」パタッ

暗黒騎士「おい?」

唐突な口説き文句で完全にノックアウトされた。





暗黒騎士「改めて礼を言う。俺は暗黒騎士、魔王軍の残党だ」

魔女「ま、魔女と申します」

暗黒騎士「あぁ、知っている。魔王を凌駕する程の力の持ち主だとかで、存在を危険視されていたからな」

魔女「お、大げさですよ!」アワアワ

魔物を統べる王を凌駕するなど、あまりにも尾ひれがついた評判に魔女は慌てて否定した。

魔女「ところで貴方は人間…ですよね?」

暗黒騎士「あぁ。赤ん坊の頃に魔王に拾われて、そのまま魔王の配下になった。なかなか珍しい境遇だろう」

魔女「なるほど…」

疑問がひとつ解決した。
彼が珍しいと言うのだから珍しい境遇なのだろう、多分。
ともかく魔王軍の残党である彼は、人間でありながら人間に追われていた。そこで、普段人も魔物も足を踏み入れないようなこの森に逃げてきたわけか。

魔女「では、私はこれで……」

暗黒騎士「待て」

魔女「はい?」

暗黒騎士「あー、その…なんだ」

暗黒騎士は、少し顔を赤らめて視線をそらした。

暗黒騎士「恥ずかしい話なんだが……俺は人間ということで、魔王軍の奴らに邪険にされていてな。他の奴らは徒党を組んで人間たちに立ち向かっているのだが、俺はそこから弾かれた」

魔女「はい」

暗黒騎士「だが今更、俺が人間たちに受け入れられるはずもない。つまり俺は行く所がない」

魔女「はい」

暗黒騎士「だから俺を引き取ってくれ」

魔女「……はい!?!!?」

魔女(異性と一緒に暮らすってこと…? えっ、私達初対面なのにいいぃぃ!!)アワワワワ

暗黒騎士「あー安心しろ」

魔女「えっ?」

暗黒騎士「俺は女の扱いなんてわからないし、恐れ多くて手も出せん。童貞だからな」

魔女「………」

ドヤ顔で何を語っているのかと思ったが、これはつまり『お前に手は出さない』ということか。
口約束をそう簡単に信じることはできないが、この暗黒騎士は本当に困っているのだろう。『恐ろしい魔女』である自分に助けを求めに来る程に。

魔女「余っている部屋、散らかってますけど……それで良いなら」

暗黒騎士「本当か! ありがたい」ガシッ

魔女「!!」

暗黒騎士は魔女の手を握ってきた。
大きくてゴツゴツしていて、なんだかあったかくて…。

魔女(顔がちかあああぁぁい!!)アタフタ

暗黒騎士のこの無頓着っぷり…確かに、女の扱いがわかっていない。





暗黒騎士「……ほおぉ~」

魔女(あううぅぅ)

家に着き、部屋に案内した…のだが、部屋は魔女の記憶以上に散らかっていた。
巻数がバラバラに置かれている本、出しっぱなしの道具、しわくちゃの布団……。

暗黒騎士「散らかっていると言っていたが……」

魔女(予想以上に散らかっていて引いてる!? ああぁもう、外で待っていてもらって片付ければ良かった!!)

と、ズボラ改善を心に誓おうとしたが。

暗黒騎士「ホコリも蜘蛛の巣もない。俺の部屋よりはずっと綺麗じゃないか」

魔女「……はい?」

暗黒騎士「俺は掃除が嫌いでな。俺の部屋は魔境と呼ばれていた」フフン

魔女「ま、魔境…」

暗黒騎士「あぁ…ここではきちんとするつもりだ。……掃除の仕方はよくわからないがな」

魔女「あ、私もわかっていないですよ~。ホコリとかは魔法で除去しているだけですし」

暗黒騎士「そうなのか」

魔女「でも片付けが苦手なので、ついつい部屋が散らかるんですよね~」フフフ

暗黒騎士「一緒だな。じゃあ物を片付けたら、どこにしまったかわからなくなるもの一緒か」

魔女「すっごくわかります! 片付けない方が生活しやすいんですよね!!」

暗黒騎士「そうだな。じゃあ……」

……と、しばらく汚部屋トークで盛り上がった。

魔女(結構話しやすい人だなぁ暗黒騎士さん。キチッとしてる人じゃないみたいだから、そんなに息苦しくないかも)フフッ

こうして魔女はズボラ改善するのをやめた。



ケモ耳「いや改善しろよ!!」

暗黒騎士「む?」

魔女「あらケモ君、いらっしゃい」

ケモ耳「おっす。珍しいね、魔女の家に客人がいるとは」

暗黒騎士「今日から居候させてもらうことになった暗黒騎士だ。魔女、この坊主は?」

魔女「この森に住んでいるケモ君です。料理上手で、よく食事を持ってきてくれるんですよ」

ケモ耳「色々世話になってる礼にな。それに、魔女はろくなもの食べてないから」

暗黒騎士(…それにしては発育がいいと思うが)ジロ

魔女「?」

ケモ耳「食事だけでなくて、生活改善しなよ。いくら魔女が長寿だからってそんな生活続けていると……」クドクド

魔女「ひーん」

暗黒騎士「坊主、採れたての桃があるぞ。いくつか持っていくか?」

ケモ耳「ほんと!? 貰う貰う~♪」


魔女「ありがとうございました、暗黒騎士さ~ん……」

暗黒騎士「しっかり者の坊主だな。見た所…半獣か?」

魔女「はい。半獣も、弾かれている存在ですから……」

暗黒騎士「なるほどな。……ところで」

魔女「はい?」

暗黒騎士「魔女は長寿らしいな。ということは……」

魔女「そ、そんなに歳いってないですよ~!」アワワ

暗黒騎士「そうか、失礼した」

魔女「まだ80ちょっとです」

暗黒騎士「………そうか、若いんだろうな。多分」

魔女「若いんですってばあぁ~!!」





魔女(この箱をここに積んで……)

先に暗黒騎士に風呂に入ってもらい、その間に生活スペースの片付けをしていた。
ズボラ改善をしていないとはいえ、見られたくないものも色々とあった。

魔女(ここに置けばいいかなー)

魔女(……何か、単に物を集めて重ねただけに見える。けど、気のせいよね、うん!)


暗黒騎士「おーい」


魔女「あ、はい、どうしましっ」クルッ ガッ

魔女「……あっ」

振り返った際に、積み上げた箱にぶつかってしまった。
箱はバランスを崩し、グラッと魔女の頭上に……。

魔女(危ない……っ!!)ビクッ

暗黒騎士「おっと」

魔女「!!」

箱が降ってくると思ったが、暗黒騎士が片手で押さえてくれた。

魔女「ありがとうござ……」

と、礼を言おうとした時。

魔女「きゃああぁぁ!?」

暗黒騎士「ん? どうした?」

魔女「ど、どどどどうして裸なんですかあぁ、きゃああぁぁ!!」

暗黒騎士「どうしてって、知らない間に俺の肌着が回収されてたからだ。それに、ちゃんとタオル巻いてるだろ」

魔女(そ、そうだった。洗濯物入れに入れたんだった)

それにしても……

魔女(暗黒騎士さん凄い体……あれだけの鎧を着こなせるくらいだもんね)ゴクリ

暗黒騎士「俺の体に発情するのは構わんが、このままでは風邪を引いてしまうぞ。……そうなったら、責任を取ってくれるのだろうな?」ニヤリ

魔女「し、失礼致しましたっ!! あの、これを!」

そう言って魔女が広げて見せたのは、服の絵が描いてある本だった。

魔女「せーのっ」ボンッ

暗黒騎士「おぉ、凄いな。本に描いてある服が召喚された」

魔女「どうぞ、これを着用して下さい!!」ダッ

これ以上は目の毒なので、服を渡すと魔女はその場から逃げ去った。





魔女(うぅ~、男の人の裸見ちゃった……)ドキドキ

暗黒騎士「おい」

魔女「ひゃいっ!」ビクッ

暗黒騎士「着替えてきたぞ。なかなかいいセンスじゃないか」

魔女「あ、気に入って頂けたようで…。暗黒騎士さんだから黒い服がいいかなぁ、って」

暗黒騎士「安直だが悪くはない。しかしひとつ、気になることがある」

魔女「何でしょう?」

暗黒騎士「胸元が開いているんだが。これはお前の趣味か?」

魔女「え、あ、いや…」アワワ

暗黒騎士「冗談だ。全く、本当にウブだな」ククク

魔女「ううぅ~」

暗黒騎士「それよりも風呂、冷めるぞ」

魔女「は、はい」



魔女(もぉー…暗黒騎士さん、見た目に反して意地悪だなぁ)ヌギッ

魔女(手は出さない、とは言ってたけど……)

どうにも落ち着かない。
暗黒騎士は覗いてたりしないだろうか。もしかしたら、部屋を漁ったり……。

魔女(疑ってるわけじゃないけど……)

魔女は浴室に入ると、鏡に魔法をかけた。
すると鏡には、暗黒騎士の姿が映し出された。

魔女(あ、お部屋でくつろいでる。良かった、変なことしてない)ホッ

魔女(……暗黒騎士さん1人だとクールに見えるなぁ。何か雰囲気違うなぁ)

魔女(あの鎧の下でも、こんな顔してたのかなぁ~…)





魔女「ふぅ~」ポカポカ

暗黒騎士「はい、湯上りに。桃を絞ってジュースを作ったぞ」

魔女「ありがとうございます」

暗黒騎士「ところで」

魔女「?」グビッ

暗黒騎士「覗きは楽しかったか?」

魔女「!!!」ブーッ

暗黒騎士「視線を感じたからまさか、と思ったが…ははーん、やっぱりお前だったか」

魔女(鋭すぎるよおおぉぉぉ!!)

暗黒騎士「まぁ、まだ信用を得ていないだろうから仕方ないけどな」

魔女(良かった、怒ってない……)

暗黒騎士「で? あの方法で風呂も覗いてたのか?」

魔女「覗いてませええぇん!!」ブンブンッ

魔女(ううぅ、すっかり暗黒騎士さんのペースだぁ)シクシク





それからというものの…


暗黒騎士「おい、朝だぞ」

魔女「むぅ~…まだ寝てたいですぅ……」

暗黒騎士「そうか。なら俺も一緒に布団に入らせてもらおうか?」

魔女「!!!」ガバッ


暗黒騎士との生活は、なかなか刺激的だった。


野良猫「にゃーん」

魔女「うふふ、可愛い~」

暗黒騎士「猫が集まってるな。餌付けしているのか?」

魔女「はい、日課なんですよ~。猫さん可愛いので」

暗黒騎士「そうだな。では俺も可愛がってみるかな」

魔女「いいですね~」

暗黒騎士「よしよし」ナデナデ

魔女「!!!」ビクゥッ

暗黒騎士「誰が『猫を』可愛がると言った?」フフッ

魔女「~っ……」


結構意地悪なのに、どこか憎めなくて。


魔女「ひーん、雨に当たっちゃいましたぁ~」ドタドタ

暗黒騎士「洗濯物取り込んでおいたぞ」

魔女「あ、ありがとうございます!!」

暗黒騎士「そのカゴに入ってるから。……それじゃ」ソソクサ

魔女(? どうしたのかしら。とりあえずたたんで……)

魔女「………」←いちごパンツ

魔女(何だろう…気を使われたら、逆につらい……)シクシク





>ある日の朝


魔女「ふわぁ~……」

魔女(ん~…? あぁ久々に寝坊だぁ。暗黒騎士さん起こしに来なかったなぁ)フワァ

そんなことを思いながら、ふと窓の外に目をやると…。


暗黒騎士「……」シュッ

魔女(あら暗黒騎士さん。……剣の練習かな?」

暗黒騎士は外で剣を降っていた。
戦いのことはよくわからない魔女だが、見た目で力強い印象を受けた。

魔女(筋肉凄いもんね。きっと強かったんだろうなぁ)

そんなことを思いながら、簡単に朝食を摂った。


魔女「暗黒騎士さん、私ちょっと出かけてきますね。朝食はテーブルの上にありますので」

暗黒騎士「そうか。汗を流したいから、風呂場使ってもいいだろうか?」

魔女「いいですよ。それでは、行ってきます」


箒にまたがり、空を飛ぶ。目的地はみかんの木。
ケモ耳に数日分の食事を貰ったので、そのお礼の果物を集めに行く予定である。

魔女(あった、あった。カゴに沢山入れようっと♪)

魔女(美味しそうだなぁ~)

魔女(……そうだ、ここでちょっと食べていこう)

そうやって採れたての果物を食べるのは、いつものことだ。
この日もいつもと変わらない――そう、思っていたが。


魔女(……んっ?)

ふと、魔力を感じた。これはこの森に住む者の魔力ではない。

魔女(それにこの魔法、探知型……? 何かを探している?)

魔女(……!! まさか!!)

先日も似たようなことがあった。確かあの時は――

魔女(暗黒騎士さんへの追っ手!?)

魔女(……っ、こっちに近づいてくる!)

と、その時。

ザッ

魔女「!!」

3人の男が姿を現した。
1人は魔術師といった格好をしており、あとの2人は剣を持っている。

追っ手A「………」

魔女(ど、どうしよう)

頭が回らなかったことを後悔した。本当なら、魔力を察知した時点で家に戻って暗黒騎士に知らせねばならなかった。
だが、その行動ができなかったことを今更悔いても仕方ない。

魔女(今すぐ逃げ帰ろう)

魔女は足元にある箒を手に取ろうとかがんだ。
だが――

ビュッ

魔女「!!」バッ

追っ手B「外したか……」

魔女(何、今の火の玉! わ、私を狙ったの!?)

追っ手C「間違いないんだな……こいつが"深緑の森の魔女"なのだな」

魔女「!!」


深緑の森の魔女――外の世界での魔女の通称、と暗黒騎士に聞いた。
その名を口にしたということは、彼らは自分を探していたらしい。しかも、攻撃してくるなんて……。

追っ手A「やるぞ!」

追っ手B「あぁ!」

魔女「!!」

状況が掴めぬまま、魔女は男たちに囲まれた。
男たちはためらう様子もなく襲いかかってくる。

魔女「きゃあぁ!!」ビュンッ

魔女はとっさに上空へと逃げた。

魔女(よくわからないけど、逃げないと………)

追っ手C「……重圧の魔法」

魔女「!!」グラッ

魔女の体に負担がかかる。浮遊する力を保てず、魔女は地面に落ちた。

魔女「~っ……」

追っ手A「これで逃げられまい…覚悟しろ」チャキ

魔女「!!!」

地面に叩きつけられた際に体を痛めて、立ち上がることができない。
初めて向けられる"殺意"に、魔女は血の気が引いた。

魔女(ど、どうして……?)ガタガタ

だけど彼らは答えをくれそうにもなく――

追っ手B「死ねぇ――っ!!」

魔女「――っ」

躊躇なく、魔女に刃を振り下ろした。


ゆっくり動く視界の映像――魔女の瞳には、黒い影が映った。





ガキィン


追っ手A「!!」

魔女「あ……」


黒い影の正体は、物々しい黒い鎧。


暗黒騎士「……」

刃を受け止めたのは、暗黒騎士だった。


追っ手B「この黒い鎧……魔王軍の暗黒騎士か!?」

追っ手C「奴も賞金首の1人だ、やるぞ!!」

追っ手達は怯む様子もなく構える。
対する暗黒騎士は――

暗黒騎士「……」

表情の見えない鎧、貫く無言。その感情は読めない。
だけどわかるのは――剣を構えるその姿は、決して3人の追っ手相手に怯んではいない。

追っ手C「はああぁぁ!!」

魔術師風の男が、手から炎を放った。
殺意の込められた炎は、人間を一瞬で焼き尽くしそうな程に激しい。


――相手が、常人だったなら。


暗黒騎士「……」ブンッ

追っ手C「な、何だと!?」


暗黒騎士は炎を、剣ひと振りでかき消した。
追っ手は初めて動揺を顔に浮かべた。

追っ手A「怯むな! 評判通りの実力者だが……」

追っ手B「3人がかりで攻めりゃ殺れるはずだ!」

そう勇ましく言った追っ手達は、宣言通り、暗黒騎士に襲いかかった。
刃が2つに、暗黒騎士を包もうという炎――防御の手が足りない。

魔女「暗黒き――」

名前を言い切る前だった。

風が起こった。
周囲を突き刺すような風だった。

とっさに目を瞑った魔女は、気付く。
その風は、暗黒騎士を中心にして巻き起こった風だった。

そして目を開けた時には――

魔女「あ――」


その場に倒れた追っ手達を、暗黒騎士は平然と見下ろしていた。



魔女「あ、暗黒騎士、さん……」

彼の表情は相変わらず見えない。
もしかして彼は、追っ手達にトドメを刺そうと考えているのかとも一瞬思ったが――

暗黒騎士「危険な目に遭ったな」

魔女「あ……」

魔女にかけられた声は、いつも通りだった。
そして暗黒騎士は、思い出したように兜を脱いだ。

その表情は――

暗黒騎士「立てるか?」

見慣れた、いつも通りの顔で。

魔女「う……」

その顔を見た瞬間、

魔女「暗黒騎士さあぁぁ~ん……」グスグス

暗黒騎士「あー、怖かったなー。もう大丈夫だぞー」

何だかホッとして泣けてきた。


暗黒騎士「獣人の坊主が、人間たちの動きが不穏になっていると知らせてきてな。嫌な予感がして来てみたんだが…正解だったみたいだな」

魔女「うぅ、えうっ」グスッ

暗黒騎士「とりあえず帰るか。森の住人達が集まっているぞ」

魔女「はい……いつっ!!」

暗黒騎士「…! 怪我をしているのか!!」

魔女「は、はい、全身を打ってしまって……あいたた」

暗黒騎士「無理はするな」ヒョイ

魔女「きゃあ!」

これは……お姫様抱っこ?

魔女「あぅあぅ…暗黒騎士さぁ~ん……」

暗黒騎士「何だ、惚れたか?」

魔女「い、いえいえいえいえいえいえ!!」ブンブン

魔女(私が動けないから、こうするのは当たり前じゃない……うぅ、自意識過剰で恥ずかしい)

暗黒騎士「お前を痛めつけたのはどいつだ?」

魔女「えーと……確か、そのローブの……」

暗黒騎士「……」ゲシッ

追っ手C「グエッ!!」

魔女「!?」

暗黒騎士「さぁ帰るか」

魔女「は、はい」

魔女(どうしよう、何考えているかわからない……)





ケモ耳「大変だ。人間達は、この森の住民を狩るつもりだよ」

集まっていた住民達がざわつく。
正に、寝耳に水の情報だった。

ケモ耳「権力者の演説があるっていうから、偵察に行ったんだけど……」

森の住民達の中では人間に近い個体であるケモ耳は、度々こうやって人間達の情報を持ち帰ってくる。
大抵のことは森の住民達にとって関係ないことなのだが、今回は大いに関係があるらしい。

ケモ耳「魔王が討たれ、残党は狩られていき…魔物はもう、人間達にとって脅威じゃない。だが残党狩りを続ける人間達は、その勢いに引っ込みがつかなくなってやがるんだ」

暗黒騎士「それで、森の住民狩りに以降したというわけか」

この森は魔女や半獣のケモ耳のような、『人間』にも『魔物』にも属せない者が集まっている。
住民の中には、人間や魔物に迫害されて森に来た者も多数いるのだ。

魔女(森の住民が人間に報復するかもしれないと考えると…確かに、今の魔物以上の脅威かもしれないわ。……勿論、そんなのは人間による邪推なんだけど)





それから数日、人間達は動きを見せていた。
森には軍隊や武装したパーティーが足を踏み入れるようになり、不穏な空気が流れ始めた。

これに対し森の住民は、幻惑の魔法が使える者は森の奥への道を隠し、移動魔法を使える者は無限ループの道を作り出した。
いくら人間達がこちらを狩る気満々とはいえ、それを撃退してはますます彼らを刺激するだけ。だから、彼らを避けることで自分たちを守った。

魔女「……でも、それで収まるかしら」

森の住民達も想像はできていた。こちらが罠を仕掛ければ、その内、人間達はその罠の上を行く手段を取る。
現状の対処法は一時的な対処法に過ぎず、かといって興奮している人間達を抑える方法も見つからない。

暗黒騎士「やれやれ……これでは、人間と魔物の争いの時代に逆戻りじゃないか」

魔女「知ってます? 種族という"壁"が争いの火種になる前は、国境という壁が争いの火種を作っていたんですよ」

暗黒騎士「あぁ、人間同士、魔物同士で争っていた過去もあるとか」

魔女「その人は寿命を迎えてしまったのですけれど、人間でありながら人間に迫害され、この森の住民になった人もいました。…何だか、いつの時代にも迫害は無くならないみたいですね」

暗黒騎士「それは生物の本質なのかもしれんな。それに巻き込まれた以上、自分を守る為に、戦うか逃げるかしかない」

魔女「この森は"逃げ場"だったのに……そこすら奪われようとしている」


既に、森から逃げ出した住民もいる。彼らは無事に逃げ延びたのか、それとも殺されたのか――それはわからない。
だけど、この森で生まれ育ち、この森以外を知らぬ魔女は、なかなかその決断ができずにいた。





長老「人間達と交渉してみるのはどうだろうか」

住民達で話し合いの場を設けた際、長老からそんな意見が出た。
住民達はざわめくと同時、興奮して声をあげた。

「無駄に決まっている!」
「話の通じる連中じゃない!」
「交渉で解決しないことは、歴史が証明している!」

長老「しかし、このままでは我々が狩り尽くされるだけじゃ。…そうなる前に、できる行動は取っておきたい」

魔女(そ、そうよね……)

確かに交渉は無駄かもしれない。
だけどやってみて、何か状況改善に繋がることはないか…。

そんな期待を抱いたが。

暗黒騎士「……無駄だろうな」

それは、あっさり否定された。

暗黒騎士「人間達の行動理由が、森の住民への"脅威"であるなら、住民が今後も人間を襲わないと証明しなければならない。…だが人間は、そんな段階は飛び越えてとうに行動を起こしている。聞く耳も持たないだろうな」

長老「こちらは我々を狩ろうとする人間を攻撃していない。これが証明にはならぬか?」

暗黒騎士「人間達の行動が止まっていない以上、証明としては弱い。もし、証明するとしたら――」

暗黒騎士の表情は険しくなった。

暗黒騎士「――降伏するしかない。それも生物としての尊厳も自由も、人間達に奪われる形でな」

魔女「そ、そこまで!?」

暗黒騎士「命があるだけマシかもしれんぞ。魔王軍の残党は殺されているからな」

魔女「………」

暗黒騎士「あくまで俺の予想だ。それでも交渉してみようというのなら、止めはしない」

しかし、住民達はそれで黙ってしまった。

平穏に暮らせる未来はないということか。
先の未来には絶望しかない。だというのに頭がそれを受け入れることができず、どうにも実感が沸かない。

魔女(ちゃんと…考えないといけないのに……)





魔女「うぅ……」

暗黒騎士「どうした? 話し合いの最中から、ずっと顔が青いが。体調が悪いなら、横になるか?」

魔女「青くもなりますよ…だって、怖いじゃないですか」

暗黒騎士「怯えていた所で状況が改善するわけじゃない。だったら、何があってもいいように堂々としていろ」

魔女「暗黒騎士さんみたく修羅場には慣れてないですよ……」

暗黒騎士「まぁとりあえず座れ、紅茶を淹れてやる。紅茶はリラックス効果があるそうだぞ」

そう言って暗黒騎士はお湯を沸かし始めた。
その動作は優雅でもあり、一切の動揺が見えない。

魔女「気休めじゃないですか……」

暗黒騎士「俺の紅茶が飲めないというのか? ん?」

魔女「いえいえっ、頂きますっ!」

暗黒騎士「素直でよろしい。ほら、甘くしておいたぞ」

魔女「はい……」

頭の中は不安で一杯で先のことはわからないけど、とりあえず今は差し出された紅茶を頂くことにした。
紅茶はぽかぽか暖かくて、体の中から温めてくれる。

暗黒騎士「どうだ、落ち着いたか?」

魔女「は、はい」

暗黒騎士「強がらなくていい。今でも不安で一杯なんだろ?」

魔女「……はい、ごめんなさい」

暗黒騎士「何を謝る」

魔女「せっかく、リラックスするようにって紅茶を淹れて下さったのに……」

暗黒騎士「お前、自分で言ってただろ。紅茶のリラックス効果なんて、所詮気休めだ」

魔女(じゃあどうして紅茶を……)

暗黒騎士「じゃあ、安心させてやる」

魔女「?」

暗黒騎士は自分の紅茶を飲み干すと、魔女の肩に手を置いた。

暗黒騎士「俺がお前を守る。どうだ? 何より安心できる言葉だろう?」

魔女「~っ……」

安心…魔女の知る安心感とは何か違う。頭がぐちゃぐちゃになって、何か変な感じ。
というか、彼が守るというのは……。

魔女「ど、どうして?」

暗黒騎士「そりゃ居候になった礼くらいしないとな」

魔女(あぁ……そういう理由)

今度は何かモヤモヤした。何のモヤモヤかは、わからないけど。

魔女「……それだけの理由で、暗黒騎士さんを危険に晒すのは…」

暗黒騎士「俺は危険だと思っていない。そんなに申し訳なく思うことではないぞ」

魔女「そ、それなら私だって……」

暗黒騎士「?」

暗黒騎士は居候のお礼、と言ってくれた。
だけど暗黒騎士を居候させることだって、魔女にとって負担ではなかった。

魔女「確かに暗黒騎士さん意地悪なところあるけど…だけど、私も楽しくて……」

暗黒騎士「楽しい?」

魔女「その…家族ができたみたいで……」

暗黒騎士「……その言葉は卑怯だろ」ハァー

魔女「え? え?」

暗黒騎士「ますます守ってやりたくなったじゃないか。どうしてくれる」コツン

魔女「え、ええぇ!? そ、そんな! 守って頂いても、私何も返せないですし……」アワアワ

暗黒騎士「ほう? 返してくれるのか?」

魔女「……え?」

暗黒騎士が微笑んでいる。その表情は艶っぽく、眼差しはこちらをしっかり捉えていた。
普段見せない暗黒騎士の表情に、魔女はただドギマギするばかり。

魔女(な、何?)

暗黒騎士「じゃあ、俺が――」クイッ

魔女「!!」

暗黒騎士「――お前をくれと言ったら、くれるのか?」

魔女「――っ!?!!?」

頭が一気に沸騰した。
だって、そんなこと言われるなんて思っていなくて――

魔女(わ、私をあげるっていうのは、その、つまり……)ドキドキ

胸がドキドキ。顔はきっと変な表情を浮かべている。
まるで誘惑の魔法にかかったみたいに、頭の中が暗黒騎士で一杯になって。

魔女(何よ、これーっ!?)ドキドキドキドキドキドキ

暗黒騎士「……なんてな」

魔女「……え?」

暗黒騎士の一言で、魔法が解けたみたいに熱が引いた。

暗黒騎士「冗談だから安心しろ」

魔女「え……冗談」

暗黒騎士「お前が俺に何か返したいなら、いつか返してくれればいい。代わりにお前をくれ、なんて要求はしないから」

魔女「あ、は、はい……」

嘘みたいに頭が冷えてきた。
そうだ、そんなの冗談に決まっている。少し考えればわかることではないか。
むしろ、冗談でなければ困る。

魔女(……でも)

熱が引いた後に、よくわからないモヤモヤが残った。

魔女(……変なの)

せっかく淹れて貰った紅茶の味も、よくわからなくなっていた。





ケモ耳「交渉に向かった長老がやられた」

暗黒騎士「交渉が決裂したか……」

次の集まりの時、住民達は顔を青くしていた。
交渉は期待できないとわかっていたつもりだったが、それでもどこかで期待する気持ちもあったのだろう。

「冗談じゃねぇ! 殺されるくらいなら、戦った方がマシだ!!」

誰かがそう声を荒げると、「そうだ」と同調する声が次々と上がった。
しかし、魔女は同調できなかった。

魔女「森の住民の総力をもって、人間に立ち向かえる? 皆殺しの未来しか私には見えないわ……」

ただ殺されるよりマシだという主張はわかる。
だけど、どうにも……

ケモ耳「あるんじゃない? 立ち向かう方法……」

視線が一斉にケモ耳に集まる。
特に殺気立っている連中は「どういうことだ」と彼を急かす。

ケモ耳「……魔王軍の残党を味方につけるんだよ」

暗黒騎士「!!」

ケモ耳「この森の住民は、戦力はないが特殊な力の持ち主が多い。魔王軍の残党どもと手を組めば、かなりの戦力になるはずだよ」

魔女「そんな……」

この森の住民には、魔物に虐げられていた者もいる。
そんな方法を採るのはどうかと思ったが…。

「それだ!!」

誰かが声を上げた。

「魔王軍の奴らの戦力なら期待できる!」
「今や奴らも迫害されている身、我々を虐げている余裕などないはずだ!」
「残党どもを探し出し、交渉するんだ!」

魔女「………」

具体的な話が出て、話が現実味を帯びてくる。

争いなんて遠い世界の話だった。
だけどそれが変わる。争いが起こる。ここは平穏じゃなくなる。明日を生きられるかもわからない毎日がやってくる。

その"現実"が頭に入ってきて――目の前の光景が歪んで、気が遠くなった。

暗黒騎士「……」

暗黒騎士はそんな魔女の様子に気付いてか、倒れる前に魔女を支えてくれた。
肌に伝わる彼の感触。それは今魔女が唯一受け入れられる現実。
守ってくれると約束してくれた彼。ずっと彼の腕の中で、この現実から守られていたかったけれど――

魔女(……駄目、なんだ)

完全に現実逃避できるほど弱くなかった自分の心を、今は恨めしく思った。





魔女の日課から散歩が無くなった。
外は危ないから。いや、それ以上に、外の光景を見たくなかったから。
森のどこで争いがあった、人間側の誰かを殺して、魔王軍の誰かが殺された……そんな話を聞くから、人との関わりを絶った。

ただ1人を除いて。

暗黒騎士「帰ったぞ」

魔女「……暗黒騎士さん!」ギュッ

暗黒騎士「!」

帰ってきた暗黒騎士に飛びつく。
今日も帰ってきてくれた。それを実感する為に、彼の感触を確かめる。

魔女「良かった…良かったぁ」グスグス

顔を合わせる度にメソメソする。きっと今の自分は重苦しい。

暗黒騎士「……だから大丈夫って言っただろ」

だけど彼は、そんな自分を突き放すこともなく。

暗黒騎士「ほら、果物持って帰ってきたぞ。最近、痩せただろ? その痩せ方は可愛くないぞ」

魔女「グスッ…はい、頂きます」


暗黒騎士は、森にとって大事な守り手となっていた。
本当は自分の世話を焼いている場合じゃないのだけれど。

魔女「美味しいです」

暗黒騎士「なら笑え、こうやって」ムニッ

魔女「んひゃっ! もぉ~、暗黒騎士さんったら」


彼といる時間は平穏で。


暗黒騎士「もう、いい時間だな。寝る準備できたか?」

魔女「はい、バッチリです」

暗黒騎士「じゃ寝付くまでナデナデしててやろう」

魔女「やめて下さいよぉ~」

暗黒騎士「顔と声がそう言ってないんだよ。ほらほら」ナデナデ

魔女「あうぅ~」


幸せだった。
だから手放すことができない――良くない依存だと、わかってはいるけれど。




暗黒騎士『――お前をくれと言ったら、くれるのか?』



魔女「はぁ~……」

いつかの彼の言葉を今でも覚えている。
何度もその言葉を、頭の中で繰り返す。

魔女(今日も、暗黒騎士さんの夢を見たいな)

寝る前に彼を想えば、彼の夢を見られる。
現実逃避できない頭だから、せめて夢に浸っていたい。だって夢の中でなら、心の底から笑っていられる。


彼が側にいて、何の心配もなくて、2人触れ合っていて――



ドオオォォン

魔女「!!」ビクッ


突如、大きな爆発音が魔女を現実に引き戻した。

魔女「な、何……?」ガタガタ

暗黒騎士「おい、大丈夫か!」

すぐに暗黒騎士も駆けつけてきてくれた。

暗黒騎士「夜襲があったが、夜番の奴が対処した。もう心配いらないぞ」

魔女「は…はい……」

そう、自分は危険から遠い場所にいる。
彼が言うのだから大丈夫、心配いらない……。

魔女「おやすみ…なさい……」

暗黒騎士「……」

だけど暗黒騎士は部屋を出て行ってくれなかった。
そして、ふぅとため息をついた。

魔女「ど、どうしたんですか……?」

暗黒騎士「全っ然、大丈夫じゃないな」

魔女「え……えっ!?」

そう言って、暗黒騎士は魔女の寝ているベッドに腰掛けた。
そして大きな手で、魔女の頬を撫でる。

暗黒騎士「なにが『大丈夫です』だ、怖がりめ」

魔女「わ、私、何も言ってませんよ!」

暗黒騎士「顔が言ってる。『大丈夫なのでお休みなさい。あ、でも本当は怖いなぁ~、っていうか一緒にいて下さいよウルウル』ってな」

魔女「言いがかりです~……」

暗黒騎士「言いがかりでも何でもいい。放っておきたくないんだ、俺が」

魔女「……」ギュ

暗黒騎士の腰に腕を回して、言葉の代わりに気持ちを伝える。
彼は強引だ。だけど本当はこっちを気遣ってくれる――要するに、優しい強引さなのだ。

暗黒騎士「立ち向かえる程強くもなく……現実から逃げられる程、弱くもないか」

頭を撫でながら、暗黒騎士はふと、そんなことを口にした。

暗黒騎士「俺に依存するのが1番楽なら、そうしていればいい。俺なしで生きられない女がいるというのは男冥利に尽きる」

魔女「…もしかして、不健全なこと言ってません?」

暗黒騎士「お互い様だ」

そう笑いながら、ほっぺをむにっとつままれた。

暗黒騎士「いいんでないか。こんな状況で正常な気持ち保っていられる奴の方が異常だ」

魔女「暗黒騎士さんは…正常じゃないんですか?」

暗黒騎士「どうしてそう思った?」

魔女「だって…暗黒騎士さんっていつも強引で、自信満々で……私には、眩しく見えるから」

暗黒騎士「見る目がないものだな」

今度は額に指を当て、軽くぐりぐりされた。

暗黒騎士「必死こいてこの森に逃げて、見知らぬお前に助けを求めた俺が、強いわけがない。心外だ」

魔女「…それも、救われたのは私の方です」

暗黒騎士「?」

魔女「……あの時初めて、私は必要としてもらえたから。貴方は、貴方を助けるという役目を私にくれた」

彼を助け、彼に助けられ、彼は大切な家族となった。
自分を必要としてくれる人ができて初めて、魔女は自分が『存在してもいいのだ』と思えるようになった。

魔女「貴方は世界から弾かれていた私を…初めて、必要としてくれました。必要としてもらえることって、こんなに嬉しいことなんだって…私、初めて知りました」

暗黒騎士「……そうか」

暗黒騎士の笑みは穏やかなものだった。

暗黒騎士「…もしかしたら、お前はそういう点では俺より強いかもしれないな」

魔女「え?」

暗黒騎士「俺なら世界から弾かれて、誰にも必要とされない状況など耐えられない。…今だって、お前がいるから自分を保っていられる」

魔女「……変なの。暗黒騎士さんは、森にとって必要な人となったのに」

暗黒騎士「そういう問題ではないんだよ、これは」

誤魔化すように額をぐりぐりされる。
そういう問題でないと言うのなら、そういう問題でないのだろう。

魔女(でも、そっか――)

暗黒騎士は魔女が思っていた以上に、魔女を必要としてくれている。
それがたまらなく、嬉しくて――

魔女(私――)


暗黒騎士と過ごした日々を思い出す。
ちょっと意地悪で、強引で、それで優しかった彼。
その思い出のひとつひとつが、魔女にとっては大切なもので――

魔女(私、暗黒騎士さんのこと――)


魔女「…ねぇ、暗黒騎士さん」

暗黒騎士「何だ?」

魔女「私――」



魔女「貴方に、私をあげたい」

暗黒騎士「――」




暗黒騎士『――お前をくれと言ったら、くれるのか?』


いつか彼が言った言葉。
冗談だ、と彼は言ったけれど、魔女にとっては心を打つ言葉だった。

魔女「私をあげます。…貰ってくれますか、暗黒騎士さん」

暗黒騎士「……」

暗黒騎士は黙る。
やっぱり唐突すぎて駄目だったか…と思ったが。

暗黒騎士「……困ったな」

魔女「え?」

暗黒騎士「こういう時、どうすればいいのかわからない。……女相手の経験値が全くないものでな」

魔女「他に経験があったら、なんかイヤ」

暗黒騎士「……そうか」

魔女「暗黒騎士さんの言葉で答えて下さい」

暗黒騎士「……」

暗黒騎士は何も言わなかった。何も言わず、魔女の頬に手を添える。
そして――


暗黒騎士「ん――」

魔女「――」


唇同士が重なる。
彼らしく、ちょっと強引で荒々しい唇は、魔女の全身に熱を走らせる。

暗黒騎士「……なぁ」

唇を離した暗黒騎士は、ちょっと困ったように言った。

暗黒騎士「…どこまで貰っていいんだ? お前の嫌がることは、したくないのだが……」

魔女「……くすっ」

彼らしくない言葉に思わず笑ってしまった。
勿論、今まで彼に嫌なことをされたことなんてないけど。

魔女「――全部。私も、貴方の全部が欲しい」

暗黒騎士「……そうか」

今度は額に軽いキスをされた。
本当はちょっと怖いけれど、それ以上に期待が大きい。

暗黒騎士「……こういうの初めてだから、よくわからないが…」

魔女「私もですから」

笑ってそう言うと、彼もはにかんだ。
その笑みが、触れる指先が、暖かい吐息が、全てが愛しくて――


暗黒騎士「――」

魔女「――」


互いの気持ちは混ざり合い、2人は互いの全てを貰い合った。


―――――――
――――
――


ケモ耳「居住区を移動する?」

ある時の集会でそんな意見が上がった。
意見を出したのは――

呪術師「はい…。森の中を散策していた所、古い時代の魔法陣を発見しましてね。その魔法陣周辺を戦地にし、居住区は更に奥に移した方が安全でしょう」

元魔王軍の呪術師。魔王軍でトップクラスの魔法の使い手だった者だ。

呪術師「恐らく、かつてこの森に追いやられた魔法の使い手が残したものでしょう」

暗黒騎士「それはどんな魔法陣だ?」

呪術師「近くにいる者の魔力を活性化させる魔法陣――それも、我々魔物にのみ効果があるものです」

暗黒騎士「ふむ……それが本当なら、こちら側にとって有利になるな。それで、森のどこにあるんだ?」

呪術師「森の、深淵の場所ですね」

魔女「深淵ですか……」

暗黒騎士「何か問題が?」

魔女「えぇ……魔力の密度が濃くて、あそこの空気は苦手なんです」

暗黒騎士「なるほど」

呪術師「しかし人間達は少しずつ、森の奥に進んできています。このままでは居住区にまで来られて、弱者は虐殺されかねません」

魔女「……」ブルッ

暗黒騎士「ここが危険になるのなら、お前には避難してほしい」

魔女「…わかりました」

ここで嫌だと抵抗するのはワガママだろう。魔女は了承した。
他に反対意見も出ず、住民達は居住区を森の奥に移動することにした。





しかし、ある程度予想できていた事態が魔女の身に降りかかった。

魔女「うーん……」

ケモ耳「参ったな。魔女、今日もあんまり食べてないよ」

居住区の空気が合わず、魔女は数日で体調を崩した。
居住区に作られた簡易な集合避難所で、魔女は寝込んでいた。

暗黒騎士「魔女…くっ、何故こんなことに」

呪術師「ここ一帯に流れている魔力が、魔女様の体質に合わないのでしょう」

暗黒騎士「他の場所に移るわけにはいかないのか」

呪術師「危険ですよ」

暗黒騎士「しかし……」

魔女「暗黒騎士さん、大丈夫です…。安全な場所にいるのが1番ですから」

暗黒騎士「魔女……」

自分だけ居住区を移せば、暗黒騎士は自分を守ろうと頑張ってくれるだろう。
だから、それはしたくなかった。頑張らせてしまえば、彼がやられる危険性だって高くなる。

呪術師「気休めですが、薬を煎じました。これで多少、楽にはなるでしょう」

暗黒騎士「…飲めるか?」

魔女「ふふ…飲めないって言ったら、口移しで飲ませてくれるんですか?」

暗黒騎士「……場所を考えろ。前の居住区と違って、他の奴らの目もあるのだからな」

魔女(知ってる。でも冗談を言えるくらいの元気はある、っていうのを見せれば、少しは安心してくれるかなって)ゴクッ

魔女「にがぁ~……」

呪術師「少し頭がボーッとするでしょうが、効いてくるはずです。ゆっくり体をお休め下さい」

魔女「はい……くうぅ~」

暗黒騎士「…早いな、寝るのが」


ここ数日は気持ちが悪くてろくに眠れなかったけれど、久々に安眠できた。
だけど呪術師の言う通り頭がボーッとしてきて、時間の感覚が無くなってきた。1日に何回寝て、何回起きたのかも記憶にない。

居住区を移してから何日経ったのだろう。昨日のことのようにも、1年も前のことのようにも思える。


暗黒騎士「……気分はどうだ」

魔女「えぇ…良くなってきました」

目を覚ました時に暗黒騎士がいない時もあった。今はいる。だから今回は『当たり』だ。
こちらが冗談を言った時には人目を気にしていた彼は、顔を合わせれば頭を撫でてくれた。その感触が気持ちよくて、夢ではないと認識できる。

暗黒騎士「…なぁ知ってるか。森をもっと奥に進めば、海があるんだ」

魔女「そうなんですか……私、海って本でしか見たことないです」

暗黒騎士「空気が澄んでいて、気持ちいいぞ。潮風は鎧に良くないから、非武装時に行きたいものだがな」

魔女「ふふ…そうですね。戦いが終わったら、行きたいですね……」

暗黒騎士「勿論、行くぞ。お前の行きたい所、どこにでも連れて行ってやる」

魔女「約束です…よ……」スヤァ

暗黒騎士「寝たか」


期待なんてしていなかった。
戦いが終わるのか――終わったとしても、自分と暗黒騎士はその時、生きているのか。
怖いから考えないし、期待しない。きっと、そんな未来は来ない。

だけど嬉しかった。彼はきっと、本心で言ってくれた。それだけでもう、過ぎた幸せだ。

魔女(海、かぁ……)

期待しない。現実では。
だからせめて、そんな夢を見られるように祈る。
最近ずっと寝てばかりなのだから、そういう夢を見れたっていいと思う。


ザザッと波の音が聞こえる。海を知らないのに、どうしてか『リアルな海』だと思った。

――あぁ、見れた。夢で見れた。

場所は海に面している断崖絶壁。できれば砂浜の方が良かった。
あとは約束の通り、ここで暗黒騎士とデートできれば良いのだけれど。

「暗黒騎士さん」

呼びかける。返答はない。
これじゃあ意味ない。一緒じゃないと意味がない。

走る。だけど夢の中じゃ上手く走れない。
暗黒騎士の姿を探す。ここにいて欲しい、一緒にいて欲しい――

ふと、黒い姿が目に入った。

――いた

潮風は鎧に良くないと言っていたのに、相変わらずの鎧姿。あぁ、夢にこんなこと言うのは無粋か。

「暗黒騎士さん」

呼びかける。だけどやっぱり返答はない。
ここに"彼"はいても"私"はいない。一緒じゃない。

寂しさを感じていると、足音が聞こえた。この足音は――?

?「見つけたぞ、暗黒騎士」

――誰?

知らない男。歳は暗黒騎士と同じくらいか。
何だか様子が穏やかじゃない。

暗黒騎士「――勇者だな」

――勇者? 彼が?

勇者「国王命令によりお前を討つ。覚悟するがいい」

暗黒騎士「…悪いな。殺されてやる気はない」

2人は剣を抜く。
互いににらみ合い、そして――




魔女「!!」ガバッ

ケモ耳「魔女?」

夢から覚めた。暗黒騎士の姿は――いない。

魔女「あ、暗黒騎士さんは!?」

ケモ耳「暗黒騎士? 今は警備に入ってるよ」

魔女「どこ! どこの!?」

ケモ耳「え? えーと……」

呪術師「……海の方ですね」

魔女「!!」

胸騒ぎがした。今の夢、まさか――

魔女「…っ!」ダッ

呪術師「あっ、魔女!」

魔女は飛び起きて、箒を手に取った。
海の場所はわからないけど、上空からならわかる。

ずっと寝ていたせいか体が思うように動かなかったが、それでも何とか必死に力を振り絞り、飛び立った。

ケモ耳「魔女、どうしたんだ……?」

呪術師「……私が後を追いましょう」



呪術師「ク、ククク……」

呪術師「遂に来たか……"覚醒"の時が」





魔女(暗黒騎士さんは……)

上空から景色を見て、海は見つけた。
できれば初めての海は暗黒騎士と一緒に見たかったけれど――そんなこと言っている場合ではなく、暗黒騎士の姿を探す。

魔女(やっぱりあれは、ただの夢だったのかしら……?)

――いや、そうではない。

根拠はないけど、何故かそう確信できる。
彼は勇者と戦っている。早く彼を見つけないと……。

その時だった。

魔女「あっ!!」





暗黒騎士「クッ……」

勇者「評判通り、剣の腕は良いな」

それはこちらの台詞だ。
仲間と一緒とはいえ、あの魔王を討った勇者だ。
普通に考えて、自分が勝てる相手ではない。

暗黒騎士(だが、無事に逃げ延びる――というのは、甘い考えなのだろうな)

それなら出来るだけ粘り、応援が来るのを期待するしかない。

だが――

勇者「ハアアァッ!!」

暗黒騎士「!!」

一擊一擊が重い。剣撃を受け止め続けた腕は、もう大分疲弊している。
体力的には限界に近く、あと数分も持つかどうか。

暗黒騎士(…だが、俺は死ねないんだ)

待っている人がいるから。
自分が死ねば、彼女は絶望するか、もしくは自分を忘れてしまうか。

暗黒騎士(どちらも嫌だ)

自分は欲張りだから、自分の力で全てをくれた彼女を幸せにしたい。
だから絶対に、死ぬことはできない。

勇者「――甘いんだよ」

暗黒騎士「――」

肩に熱い痛みが走った。
鎧のほんのわずかな隙間を、勇者の剣が貫いたのだ。

勇者「気持ちの強さで状況を好転できりゃな……」

勇者が剣を大きく振りかぶる。
その光景が、ゆっくり見えて――


暗黒騎士「―――」


勇者「死ぬ奴なんて、誰ひとりいないんだよ…!」

胸が切りつけられる痛みも、崖から落ちる感覚も――頭が理解する前に、暗黒騎士の姿は水の中に消えた。





魔女「あ、ああぁ……」

勇者「!」

間に合わなかった。
暗黒騎士が切りつけられたその瞬間から、見ていたのに……。

魔女(見ていることしか、できなかった……)

勇者「…深緑の森の魔女か」

魔女「暗黒騎士、さん……」

魔女は崖から身を乗り出し、暗黒騎士の姿を探す。
だけど、姿は見えなくて…。

勇者「無駄だ。あの傷を負った上、あんな重い鎧を着ていれば……傷口が開くか、海に沈んでか、何にせよ助からん」

魔女「……」

助からない? 死ぬ? ――そんなわけない。暗黒騎士さんが、死ぬわけがない。

勇者「死ぬんだよ」

魔女「――」

勇者の冷たい声、そしてこちらに向けられた刃――不思議と恐怖心を覚えず、頭が冷えていく。
そして冷えた頭は徐々に、現実を受け入れ始めていた。

勇者「お前もだ。存在が害悪とされる魔女よ…お前も暗黒騎士の元に送ってやる」

魔女「暗黒騎士さんの元に……?」

一瞬、甘美な響きにも聞こえた。
彼は暗黒騎士に再び会わせてくれる。

だけどそんな考えに騙される程弱くもない心は、別の感情を生み出していた。

――暗黒騎士さんを奪った。この男が、私から、この世界から。

理不尽。それを受け入れろというのか。
自分たちの平和を崩した侵略者の分際で。英雄だか何だか知らないが――



――ふざけるな!!



勇者「――!!」


その瞬間に起こったことは、魔女自身も他人事のようだった。
おびただしい魔力が溢れている。濁った風が周囲を撫で、動物たちが逃げ出した。

この魔力の発生源は――

勇者「…これが、深緑の森の魔女の力か……」

魔女(私の――?)

魔女は冷静に魔力を感じてみた。
間違いない。魔力の発生源は自分。どうして、こんな魔力が自分に……?

勇者「…危険だな!」

勇者は駆けた。
勇者は自分を殺そうとしている――抵抗する手段は、ない。



"今こそ、覚醒の時――"

魔女「!」


魔女の頭の中に声が響いた。
姿は見えない。だが、頭に声を送っている魔力の持ち主は――

魔女(…呪術師さん?)


呪術師"おめでとうございます、魔女様。貴方は潜在能力を引き出したのです。ですが技術面は未熟ゆえに、その魔力を持て余すでしょう。ですから――"

魔女「!!?」

魔女の体に違和感が起こった。
自分でない何かが体に入り込んでくるような、自分の体なのに自由がきかないような――そんな違和感。

そして、目前に迫っていた勇者は――


呪術師"私が――手助けしましょう"


勇者「――がっ」

魔女「……え?」


魔女の発している魔力が刃となり、勇者の腹を貫いた。


魔女「え……えっ!?」

魔女自身、わけがわからなかった。
自分はただそこにいただけで、魔力を操ることなんて一切していなくて……。


呪術師「……やりましたね、魔女様」

魔女「…呪術師さん」

呪術師が姿を現す。
魔女はすぐに察した。

魔女「……私の魔力に干渉して、勇者を倒したのは……呪術師さんですね」

呪術師「その通り。もうじき死にます」

横目で勇者を見ると、腹から大量の血を溢れさせて痙攣していた。
グロテスクなその姿に、魔女は目を背けた。

呪術師「やりましたねぇ魔女様…暗黒騎士の仇である勇者を討ったのです! 貴方の力で!」

魔女「……貴方の目的は、何?」

先ほどからの呪術師の口ぶりから、彼は"こうなること"を読んでいたように思える。
それは魔女の覚醒のことだけでなく――ここで起こった、全てのことを。

呪術師「深緑の森の魔女の力は、魔王様を凌駕する――」

魔女「そのデマ話、暗黒騎士さんから聞いたことはあります。けど私が聞きたいのは……」

呪術師「貴方がデマと呼ぶこの話には、きちんとした根拠があるのですよ」

魔女「……根拠?」

呪術師「貴方は知らないでしょうが――遠い昔の貴方の先祖は、魔王様を凌駕する…それこそ、神に近い力の持ち主でした」

魔女「……」

いつ頃の話だろうか。少なくとも、ここ100年ちょっとの話ではない。

呪術師「貴方の先祖は野望のない方でしたが、その力ゆえに世界中から恐れられ――そして、この森に引きこもった。それからこの森には、世界から弾かれた者が集まるようになっていった」

魔女はこの森で生まれ育った。
だけどそんな経緯知らないし、聞いたこともない。恐らく、他の住民も。

呪術師「貴方自身が知らなくても、貴方には確実に、その力が受け継がれているのですよ……」

呪術師はニヤリと笑う。
魔女は本能的に嫌なものを察知した。

呪術師「ここの魔力の密度が濃い理由は、恐らく、貴方のご先祖様の影響でしょうねぇ。貴方の体はその魔力に触れることにより覚醒の準備に入り、そして感情が大きく高ぶったことにより……」

聞いていられない。これ以上、呪術師といてはいけない――そう思い、この場から逃げ出そうとした。が。

魔女(体が、重い……!?)

呪術師「あぁ、言い忘れていました。貴方に飲ませていた薬には、ちょっとした作用がありましてねぇ」

魔女「……っ!!」

魔女はその場に膝をついた。

呪術師「体の自由がきかないでしょう? これは薬の作用…私によって操られるというものです」

魔女「なっ……」

抗議しようにも声が出てこない。完全に、呪術師に操られている。

暗黒騎士を失った上に、この仕打ち。
絶望的だ、あまりにも。この状況は呪術師が作り上げたものだ。その元凶に、何もできないない上、いいようにされるなんて……。

呪術師「もう、この世界に希望なんて無いでしょう? 平穏な場所はなく、愛しい男ももういない。ね? 死にたいでしょう?」

全くもってその通りだ。今体が自由になるのなら、暗黒騎士の落ちた海に飛び込んでしまいたい。

呪術師「いらないでしょう、自分など。なら――捨ててしまえばいいのですよ」


魔女の中に、再び"何か"が入り込んでくる感覚があった。

魔力が勝手に流れる。自分でも信じられない程に絶大な魔力は、あっとう間に森を包み込んだ。
地面が揺れる。この揺れは魔力の乱れが起こしている。

そして――

魔女「!!」

黒いもやが森から上がったと同時、もやは城へと姿を変えた。
この城は、自分の魔力が――正確には、呪術師が自分の魔力に干渉して造り上げられたのか。


魔女「……あっ!?」

城から発生するもやが魔女を包み込み、そのまま魔女は城に引きずり込まれた。
抵抗などできず、されるがまま――怖い。

魔女「!!」

魔女はそのまま、城の中にある玉座に腰を落とした。
物理的な拘束などされていないのに、体をくくりつけられたように、そこから動くことができない。

呪術師「この城を中心として、森は新たな魔界となる――」

呪術師が部屋に入ってきた。

魔女(森が…新たな魔界に……!?)

呪術師「そして貴方は、魔界の養分となるのです」

ゾクリとイヤな感じがした。
養分――この状況から、嫌でもわかってしまった。

呪術師「貴方の魔力が魔界を、魔物を活性化させる。貴方はただ、そこにいるだけでいいのです」

魔女「い…いや……」

精一杯声を振り絞って出た拒絶の言葉に、呪術師はフッと笑った。

呪術師「嫌ならば、現実逃避すれば良い。まぁ1人でこんな部屋に閉じ込められていれば、いつかは発狂するでしょうがね。あぁ、貴方は食事や排泄といった、生物らしいことをしなくても生命維持できるようにしておきました。動く必要もありません」

わかりたくないのに、わかってしまう。
呪術師は魔女の心を殺そうとしている。心だけ殺して、なのに死なせてくれなくて――

呪術師「では魔女様、私はこれで。……もう、人が訪れることはないでしょう」

残酷な言葉をさらりと残して、呪術師は去っていく。

待って――彼が扉を閉じれば、魔女の世界は完全に閉じられる。人生が終わる。ただの養分としてだけ命を繋ぐ未来しかない。
それは嫌だ。嫌なのに――

魔女「――」

声が出ない。
呪術師がそうしたのか、頭が現実を受け入れてしまったのかわからないが――



ぱたり。ドアは閉じられた。



―――――――
――――
――


魔女「……っ!」

ベッド上で目を覚ます。窓の外には月。
変な時間に目が覚めてしまったのは、心を悪夢から守る為。

魔女「は、はぁ……」

暗黒騎士「…どうした?」

隣で寝ていた暗黒騎士が声をかけてきた。
魔女のただならぬ様子に気付いたのだろう。

魔女「ご、ごめんなさい、起こしてしまって……」

暗黒騎士「いや、いい。何かあったか?」

魔女「あ、いえ……ちょっと、怖い夢を見てしまって」

暗黒騎士「……ほう?」

魔女「す、すみません! 子供でもないのにバカみたいですよね!」

暗黒騎士「いや。……泣く程怖いことは、誰にだってある」

魔女「……え?」

頬をこすってみると、知らずに涙を流していた。

魔女「やっ、恥ずかしい…夢なんかで」ゴシゴシ

暗黒騎士「どんな夢を見たんだ?」

魔女「そ、それは……夢の話ですし」

暗黒騎士「聞かせろ。起こされた身としては知る権利がある」

魔女「……暗黒騎士さんが、いなくなってしまうんです」

暗黒騎士「ほう?」

魔女「争いが起こって、平穏な場所は無くなって…。暗黒騎士さんが、争いで命を落としてしまう。そんな……」

暗黒騎士「なるほどな」

魔女「で、でも夢ですし、ね!」

暗黒騎士「むしろ泣け。…そんな夢を見て、平気でいられる方が心外だ」ギュウ

魔女「!」

暗黒騎士が魔女を抱きしめる。
厚い胸板は暖かい。逞しい腕は、魔女を安心させるように包み込んでくれた。

暗黒騎士「このまま寝るぞ」

魔女「あ、暗黒騎士さん……そ、それは……」ドキドキ

暗黒騎士「こうしていれば、俺を感じられる。そうすれば、もうそんな夢は見ない。……それに」

魔女「それに?」

暗黒騎士「俺も、お前を失う夢は見たくない」

魔女「……ふふっ」

暗黒騎士「どうして笑う?」

魔女「いえ。何だか幸せだなぁ、って思ったんです」

暗黒騎士「そうか」

魔女「そうか、って。暗黒騎士さんは思わないんですか?」

暗黒騎士「ばかだな」

暗黒騎士は魔女の頭をコツンと叩いた。

暗黒騎士「いつも思っている。……お前と過ごしている間じゅう、ずっとな」

魔女「……そうですね!」


一緒にいる時間はずっと幸せ。それは当たり前のものじゃなくて、かけがえのないもの。

だからどうか、この時間が永遠になりますように――


―――――――
――――
――





ケモ耳「魔女。なぁ、魔女!」

ケモ耳「森の住民と魔王軍…魔界側は魔女の力を養分にして、人間側は勇者を失い……形勢逆転した」

ケモ耳「おかしな話だよね。ちょっと前まで人間達に追われていた側が、今では人間の世界を侵略しようとしている」

ケモ耳「短期間で状況が大きく変わったせいで…魔女の状況に気付くのが遅れちまった。ごめん…本当に、ごめん」

ケモ耳「ねぇ魔女……魔女はもう、完全に心を閉ざしちゃったのかな?」

ケモ耳「……ずっと返事も、反応もないね。やっぱり、耐えられなかったんだね」

ケモ耳「それなら、わかった。俺に魔女を助け出す力はない」

ケモ耳「でも、これは伝えておくよ、魔女」

ケモ耳「人間側も不利とはいえ、無能ではない。どうやら気付いたみたいだよ…魔女を養分として、魔界が力を得ていることに」

ケモ耳「そして今、この城は攻め込まれている。人間の王子が率いている一隊にね。きっともうじき、王子はここにやってくる」

ケモ耳「それでも魔女は、ここでこうしているのかな?」

ケモ耳「……じゃあね、魔女。俺は逃げる。もう会うことはないかもしれないけど」

ケモ耳「――どうか、元の魔女に戻れるように祈ってる」





誰かの声が聞こえたような気がしたけれど、ノイズとなって消えた。
聞こえるわけがない。ここには誰も来るわけがない。

そんな余計な"現実"よりも、もっと夢に浸っていたい。

だって夢の中は平穏で、愛する人がいて――幸せだから。

もう世界は捨てた。現実は捨てた。自分は捨てた。だってそれらは全て、"私"を苦しめるものだから。


暗黒騎士『そんなもの見るな――お前は、俺の方だけ見ていろ』


そうですね。私に必要なのは、貴方だけでした。



それが例え、夢が見せる貴方であっても――






「この部屋が魔力の発生源のようですね」

連れていた従者が言った。
この城に乗り込んで異種族達と戦闘を繰り広げ、遂にここまでたどり着いた。

とはいえ、その程度の苦労。
王子は人間側で剣を振るようになってから日が浅い。長い間異種族たちと戦闘を続けてきた従者たちに比べると、屁でもない苦労だ。

「入るぞ」

ぶっきらぼうな王子の言葉で、従者たちはすぐさまドアに手をかける。
ドアが開けられる。少しの隙間から、おびただしい魔力が溢れてくる――

そしてドアが全開になった時、気の弱い者ならそれだけで気を失いそうな程の魔力を全身に浴びた。

「これは――」

視線の先にそれを見た。

玉座に女が座っている。間違いなく、この魔界全体を覆っている魔力の発生源だ。
女は侵入者である自分たちに一切の反応をしない。

「死んでいるのか……?」

従者の1人がそう言った。
そう思う程に、女の顔からは生気といったものを感じない。

(いや)

だが王子は確信していた。この女は生きている。
王子にはこの女がどうにも呑気に見えた。状況の元凶となっているのに本人だけがそれに気付いておらず、まるで別のことを考えていて、その別のことに夢中で――

「……美しい女だな」

こちらもつい、呑気な言葉が出てきてしまった。

「王子、あの女が"深緑の森の魔女"でしょう。あの女を狩れば、魔界側を弱体化させられます」

興ざめすることを言う従者だ。
だが言うことはもっともで、自分はその魔女を狩りに来たのだ。

とにかく今は任務に忠実に、剣を抜いて――


呪術師「そうはいきませんねぇ」

「!!」

王子たちの軍と魔女の間に入るように魔物が現れた。
こいつは確か、手配書にあった呪術師という奴だ。

呪術師「このような場所まで、ご苦労様です。さぞかしお疲れでしょう」

出来ればこれ以上の戦闘は避けたいのだが――無理そうだ。

呪術師「勘違いしないように。私は見に来ただけですよ」

見に来た?

呪術師「"これ"はもう自分の意思を持たぬただの養分ですが……身に危険が及べば自動的に身を守るようにしているのですよ」

どういうことだ。仕組みがまるでわからない。
ただ1つ確かなことは、ここからが本当の難関ということか。

呪術師「さぁ狩るのです…愚かな人間どもを!!」

「!!」

王子は本能的に避けた。
飛んできたのは拳程度の小さな魔力の塊――だが、避けた先に1人の従者がいて…。

「うわあぁ――っ!!」

「――!?」

その塊に触れた従者は倒れた。
そして――確かめるまでもなく、絶命していた。

呪術師「小さい分、殺傷力を凝縮した魔法です。どうかご堪能下さい」

「うああああぁぁ!!」
「ぐああぁぁ――っ!!」

四方八方に飛び散る球体に次々と犠牲者が出る。

残ったのは――

呪術師「おやおや、ここまで残るとは。流石ですね、王子殿」

「……」

王子は全ての球体を避けていた。
とはいえ避けるだけで精一杯で、反撃に転じる余裕などまるで無かったが。

「…不思議な女だな」

呪術師「不思議? …おかしなことを。恐ろしい、というのが正しいのでは?」

「いや」

この期に及んで、魔女にマイナスなイメージを抱いていない自分も不思議だ。
魔女を殺したいとも微塵も思わない。だけどここから逃げたいとも思わない。

「その女はどうにも魅力的で困る。それも魔女の魔力なのか?」

呪術師「……」

呪術師が訝しげな顔をした。
気持ちはわかる。自分で口にした言葉なのに、おかしいと思ったくらいだ。

呪術師「ひとつ質問よろしいでしょうか」

「何だ」

呪術師「貴方は――」



呪術師「いつから"王子"となったのでしょうか――暗黒騎士殿?」





なんだか向こうが騒がしい。
今日は色んな人が来る。


暗黒騎士『どうでもいいだろう、そんなこと』


そうですね。本当にどうでもいい。

だから、耳を閉ざしてしまおうと思ったけれど。


「――俺は、何も覚えていないんだ」

どうしてか、この人の声が耳に届く。

「俺は瀕死の傷を負って海を漂っていたところを助けられた。その時にはもう記憶を失っていたが――背中には王家の紋章が彫られていた」

貴方は誰?

「どうやら俺は幼少期に魔物に誘拐された王子らしくてな。まぁ人間側も勇者を失って余裕を失っていたのだろう、俺は王子として軍勢を率いる立場に祭り上げられた」


言っていることはよくわからないけれど、貴方の声は何だか懐かしい。


暗黒騎士『"そっち"の言葉は聞くな』

だけど。

暗黒騎士『お前には俺がいればいい――そうだろう?』


そうですね――




?『ダメだよ』


え?


?『ダメだよ、いつまでも逃げてちゃ』


貴方は……?


?『あなたが見ている世界はニセモノだよ』


――わかっている、そんなこと。
私に現実なんていらない、入り込んでこないで。


?『聞いて、外の声を』


そんなことできない――


?『ダメだよ――本物を手に入れないと』


……本物?


?『怖くないから――目を開けて!!』



魔女「――!!」



目を覚ましたのはいつぶりだろう。
長いこと、ここから逃げていた気がする。だけど戻ってきたのは、どうしてか。

だけど寝ぼけているはずの頭なのに、目の前の"現実"がすぐに入ってきて――


魔女「……!!」



呪術師「なるほど……人間は藁にもすがるつもりで貴方に頼ったのでしょうね」

そこには、魔女をこんな目に遭わせた呪術師と、


暗黒騎士「そういう経緯だ。状況を理解するより先に使命を与えられた」

死んだと思っていた暗黒騎士がいた。


魔女(暗黒騎士さん――!!)


叫びたかった。走り出して、抱きしめたかった。
だけど動くことができない。
そればかりか――

魔女「!!」

暗黒騎士「おっと」ヒョイ

魔女の意思とは関係なく、魔女から発せられた魔法が暗黒騎士を襲う。
完全に操られていた。心以外の全てに、自由がきかない。

魔女(暗黒騎士さん……逃げて……!!)

やっと会えたけど。このままでは自分は暗黒騎士を殺してしまう。
だから心の中で必死に叫んだ。どうか、この声が届くように――


暗黒騎士「……その女、起きたな。目が開いたぞ」

呪術師「む。……目が開いたとはいえ、心を失った養分ですよ。気にせず戦いを続けると良い」

魔女(違う……!!)

心では必死に抵抗しているのに、呪縛は解けない。
暗黒騎士は記憶を失っていて、今では自分と敵同士。

魔女(私と暗黒騎士さんが殺し合わないといけないなんて――)

せっかく戻ってきたのに状況は最悪。

暗黒騎士「心を失った養分、か……」


こんな現実に戻ってくるなら、本当にそうでいたかった――そう、思ったけれど。


暗黒騎士「……俺には、そうは見えないな」

魔女(……え?)

暗黒騎士「その女、俺に何かを必死で訴えてる。…心を失ってないし、俺に敵意も抱いていない」

魔女「――!!」


わかってくれた――彼は、気付いてくれた。
なのに自分は、現実から逃げることばかり考えて――


暗黒騎士「聞きたいな、その女の言葉」

そう、自分は伝えないといけない。
だからまだ――

魔女(……諦めたりしない!!)


呪術師「……頭のおかしなことを。もう良い、貴方も死になさい!!」

複数の球体が暗黒騎士に襲いかかった。
暗黒騎士はそれを回避し――魔女の方に距離を詰めてきた。

暗黒騎士「何でだろうな――」

喧騒の中、彼のつぶやきが聞こえた。

暗黒騎士「死ぬ気がしない。こんな状況でもな」

呪術師「……小賢しい!!」

暗黒騎士「!!」」


球体が集まり、大きな塊となり、そして――

呪術師「行けえぇ――ッ!!」

塊は波のように、暗黒騎士に迫ってきた。
逃げ場所は――ない!

呪術師「これで終わりです! さぁ、今度こそ死ぬがいい!!」


魔女「――っ!!」


暗黒騎士が波に飲み込まれる。
これでは、暗黒騎士の命は――


?『大丈夫だから』


その時、夢の中で聞こえた声が元気づけてくれた。

魔女(貴方は誰――?)

呼びかけに返事は返ってこなかった。
だけどその時、魔女のお腹がドクンと動いた。

魔女(あぁ、そうか。貴方は――)



そして――


呪術師「……っ!?」

暗黒騎士「ほらな。やっぱ死ななかった」

呪術師「何故だ……何故、生きている!」

狼狽える呪術師は想像もできなかったのだろう。

魔女(暗黒騎士さんを…殺させやしない!)

魔女が呪術師の呪縛に、意思の力で歯向かったなどということは。


暗黒騎士「あんたが何者なのか、俺にはわからない…いや、覚えてないだけなんだろうな」

暗黒騎士は魔女に一歩一歩、近づく。ゆっくり、ゆっくりと。

暗黒騎士「王子に祭り上げられてから、流されるまま戦ってきたが――」

そして暗黒騎士は、魔女の前に立った。

暗黒騎士「――思い出させてくれ、全てを」


そう言って暗黒騎士は――魔女に、口づけをした。
体全体が熱い。呪術師に操られた時のように、暗黒騎士の唇を伝わって"何か"が入り込んでくるような感覚があった。
だけどそれは決して嫌じゃなくて、心地よくて――そして。

魔女「……全てあげます、貴方に」

呪術師「バ、バカな……!!」

魔女は久しぶりに声を出し、そして自分の意思で、暗黒騎士を抱きしめた。
暗黒騎士は――それよりも強い力で、魔女を抱きしめる。


暗黒騎士「――あぁ。思い出したよ、全部」

魔女「お帰りなさい…暗黒騎士さん」







城は崩壊した。
その際に呪術師を含む何名かが行方不明になった。

強力な要塞を失った魔界の者は散り散りになり、人間への侵略が収まった。
対する人間も長い戦いで疲弊しており、弱体化した魔界に攻め込む力もなかった。

こうして争いは多大なる犠牲を払い、両者の疲弊という形で沈静化した。





暗黒騎士「あれだけ激しい戦いだったのに、あっけないものだな」

魔女「そうですね」

2人は状況を静観していた。
魔界も人間側も疲弊している中、2人を追おうという者はいない。

魔女「疲弊から立ち直れば、また争いが始まるのでしょうか」

暗黒騎士「そうかもな。双方は新たな魔王、新たな勇者を立てるだろう」

魔女「その時が来たら……」

暗黒騎士「逃げればいい」

暗黒騎士は魔女の手を握る。
そして弱気になっていた魔女に微笑みを投げかけた。

暗黒騎士「俺たちには関係ない。……世界を回ればきっとある、平穏に過ごせる場所が」

魔女「…そうですね!」

何てことはない。また、世界から弾かれるだけのことだ。


暗黒騎士「じゃあ魔女、逃げるか」

魔女「はい、逃げましょう」

暗黒騎士「しかし、本当に何も得るものがない戦いだったな。失うばかりで」

魔女「…そうでもありませんよ」

暗黒騎士「何かを得たのか?」

魔女「えぇ、かけがえのないものを」

魔女はそう言ってお腹を撫でた。

暗黒騎士「まさか――」

魔女「現実から逃げていた私を助けてくれたのは――この子なんです」

暗黒騎士「……!!」

暗黒騎士は魔女を抱え上げた。
突然のことに魔女は驚き、慌てる。

魔女「お、お、降ろして下さい暗黒騎士さん!」

暗黒騎士「聞け、魔女。俺は今、最高にお前が愛しい」

魔女「!!」

暗黒騎士「お前は俺へ向けるものよりも、大きな愛情で新しい命を想え。俺は全力で守る、お前たちを」

魔女「暗黒騎士さん……」


目の前に彼がいて、彼を愛し、愛されて。

魔女「私も、守ると誓います」

例え世界から弾かれようと、幸せはここにあるから。
もう2度と失うことのないように――


魔女「私達の幸せを守ると、誓います!」




Fin













あとがき

とても長かったですね。ご読了お疲れ様でした。そしてありがとうございました。
「暗黒騎士の人」と呼ばれるようになるほど暗黒騎士ssを連発していた時期が過ぎてからは、ずっと暗黒騎士を封印していましたが…やっぱり暗黒騎士、大好きだ!!

ちなみに自分の暗黒騎士ssは暗黒騎士×女勇者がほとんどですが、暗黒騎士ssを連発している時に書いていた 魔女「不死者を拾いました」 も元々は暗黒騎士を拾う話を想定していたので、暗黒騎士×魔女のカップリングも作者的にアリだったんですよ(どうでもいい)

当ssはブログ限定公開なので、スレやまとめブログ様で感想を頂けないので、こちらのブログに感想など頂けたら喜びます(´∀`)ノ
posted by ぽんざれす at 21:13| Comment(10) | ブログオリジナルss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月09日

僧侶「このパンツどうしよう」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1460169206/

1 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/04/09(土) 11:33:26.93 ID:G/xEmEe50
勇者「装備品買ってきたぞー。はい重騎士、新しい盾だ」

重騎士「サンキュ!」

勇者「で賢者に軽装鎧な。これなら装備できるだろ?」

賢者「ありがとう。性能もかなり良いわね」

勇者「で、僧侶には装飾品な」

僧侶「…ありがとうございます」


僧侶(それで、剣士君は……)チラ

勇者「重騎士、賢者、僧侶。今まで使っていた装備を剣士にあげてくれ」

剣士「よっしゃあ、装備品が一気に3つグレードアップしたぞ!!」

重騎士「良かったな剣士!」

僧侶(また、皆のお古なんだ…)



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1460169206
2 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/04/09(土) 11:33:53.31 ID:G/xEmEe50



勇者「旅をスムーズにする為、装備品や消耗品にかける費用は惜しみたくない。その代わり、節約できるところは節約していこうと思う」

僧侶(…というのが、旅を始めた当初に勇者様が言っていた方針)



剣士「自由時間だ~」フンフーン

僧侶「あ、あの、剣士君」

剣士「僧侶ちゃん? どうしたの?」

僧侶「あのぅ…。わ、私から勇者様に言う前に…剣士君と話しておかないと駄目かな、って」モジモジ

剣士「ん? 何を?」

僧侶「その…剣士君は新しい防具買って貰えてないから……」

剣士「………」

僧侶「勇者様が費用を惜しまないと言うなら、剣士君にも新しい防具を……」

剣士「あーあー、それこそ金の無駄だから」アハハ

僧侶「…っ」

3 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/04/09(土) 11:34:45.00 ID:G/xEmEe50
剣士「戦力の要である勇者、皆を守る重騎士、防御力の低い賢者、回復担当の僧侶ちゃん……この4人は防御をしっかり固めないといけないから、装備品に金を惜しまないのは当然だよ」

僧侶「でも剣士君だって」

剣士「俺は皆のお下がりで十分かな。小さい頃から兄貴や姉貴のお下がり着て育ってるから、慣れっこよ」

僧侶「だけど使い古した防具は、機能が落ちていますし……」

剣士「大丈夫、俺って防御よりもスピード重視だし。それに俺って4人に比べると、欠けても支障ないしね!」

僧侶「そんな欠けるなんて……剣士君だってパーティーに必要な方ですよ……」

剣士「そんな顔しないでよ僧侶ちゃ~ん、冗談だから! それに俺の防具を新品で買ってたら、その代わりに飯のグレードがダウンしちまう。そっちのが俺にとって致命的~」

僧侶「……」

剣士「ま、ありがとな僧侶ちゃん! こんなチビで目つき悪いバカ男に気を使ってくれるなんて、僧侶ちゃんは世界一、俺に優しい女の子だわ」

僧侶「そんなこと……」

剣士「そうだ僧侶ちゃん、結婚しよう!」

僧侶「!!!!」ボッ

剣士「うそうそ、喪男ジョーク! 忘れて! それじゃっ!」ダッ

僧侶(剣士君………)

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:35:10.10 ID:G/xEmEe50
僧侶(このパーティーは私以外は皆、幼馴染の仲。だから私は最初の頃、皆に溶け込めるか不安だった)

僧侶(だけど……)


剣士『僧侶ちゃんってお淑やかだよな! いて下さるだけで俺のメンタルポイントがグングン回復します!』グッ

僧侶『そ、そんなこと……』

剣士『メンタルポイントMAXになったから、道中ムーンウォークするわ!』カサカサ

勇者『無駄な動きしてんじゃねーよ』

賢者『しかも、できてないしー』

剣士『あー疲れた…僧侶ちゃん、膝枕しt』

重騎士『だからお前はモテないんだよ!』ゴンッ

剣士『あだーっ!!』

アハハハ…

僧侶『……くすっ』


僧侶(ムードメーカーの剣士君は私の緊張を取り払ってくれた。お陰で私は、皆に溶け込むことができた)

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:35:37.25 ID:G/xEmEe50
剣士『僧侶ちゃんは世界で1番、俺に優しくしてくれる女の子だよ。そうだ、結婚しよう!』


僧侶(剣士君……)ポー

僧侶(剣士君はムードメーカーなんだけど、道化を演じているせいか、何だか軽んじられている気がする)

僧侶(いつも皆を元気にしてくれる剣士君に、もっと元気になってもらえるお礼がしたいなぁ)

僧侶(だけど私なんて特技もないし性格も暗いし……)ハァ

僧侶(そうだ、賢者さんに相談してみよう。剣士君の幼馴染の1人だもんね)

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:36:07.11 ID:G/xEmEe50
>宿屋


僧侶「賢者さーん…」ガチャ

僧侶(あら、いない。お風呂かな?)

僧侶(隣の男性部屋に行ってみよう。勇者様と重騎士さん、いるかな?)

<おおおぉぉ~
<ヒヒヒヒ

僧侶(うん? 何か盛り上がってるなぁ)

僧侶「あのー」

と、ドアをノックしようとした時だった。

勇者「良かったなぁ重騎士! 本当に良かったなぁ!」

重騎士「あぁ! 忍び込んだ時はマジで生きた心地しなかったけど、遂に手に入れたぞ!」


僧侶(何かいいものが手に入ったのかな?)


重騎士「遂に手に入れたぞ……賢者のパンツを!!」


僧侶「」

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:36:34.50 ID:G/xEmEe50
重騎士「羨ましかったんです! 姫様のパンツをオカズにしている勇者が、ずっと羨ましかったんです!!」

勇者「フフフ。何せ、城の警備をかいくぐって手に入れたパンツだ。これは俺の勲章と言ってもいい!!」

重騎士「いくら頭を地面に擦りつけても貸してくれなかったもんなぁ~…。だが、そんな悔しい日々も今日で終わりです!」

勇者「そうだな、お前ずっと賢者のこと好きだったもんな! 惚れた女のパンツなんて、最高じゃないか!!」

重騎士「ありがとう、本当にありがとう! パンツは元気の源です!!」

勇者「さて重騎士…パンツを手に入れてすることと言えば…?」

重騎士「決まっている……!!」

勇者&重騎士「「シコるしかない!!」」


シコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコ


僧侶(う、うわぁ)

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:37:00.04 ID:G/xEmEe50
僧侶(見てない聞いてない、私は何も知らない)ソソクサ

<はぁ、ハァハァ姫様ぁ~姫様ぁ~
<賢者ぁ……好きだぁ、フヒッフヒッ

僧侶(隣の部屋にいても聞こえてくる…とてもここにいられないよぅ)シクシク

僧侶(そ、そうだ。この街の教会に行ってこよう!)ダッ


>教会

僧侶「神よ、我らを導きたまえ…」

僧侶(魔王討伐の旅も終盤。魔王を倒して、皆で生きて戻りたい)

僧侶(だからお願いします……貴方の加護を)


「いつも御苦労」

僧侶「えっ?」

ふと上の方を見ると…

天使「やぁ」

僧侶「そのお姿は……まさか、て、天使様!?」

天使「その通り」

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:37:32.15 ID:G/xEmEe50
天使「世界を平和に導く為に、日夜戦いを続ける信心深き僧侶よ」

僧侶「は、はい!」

天使「神様はいつでも君達を見守っている。恐れるな…君達は神に愛されている人間なのだから」

僧侶「あ、ありがとうございます! 私も信仰の民とは未熟ゆえに、そのようなお言葉は身に余る感激でして…」

天使「まぁ、そんなに固くならずとも良い。私が降りてきたのは、君に用があってだ」

僧侶「用…ですか? 私に?」

天使「そう。神の力を使う信仰深き者に、ささやかな贈り物を届けにきた」

僧侶「贈り物…とは?」

天使「我々天使の加護を受けた装備品だ。魔王との決戦で、きっと役に立つことだろう」

僧侶「まぁ…。感謝致します、天使様」

天使「良い。それよりも、どうか魔王との戦いで命を落とさぬようにな」

僧侶「天使様……」

天使「では、時間だ」

僧侶「あっ!」


そして光と共に天使は姿を消した。

僧侶(まさか天使様とお会いできるなんて…夢みたいだった……)

だが、それが夢でなかったと証明するように――

僧侶 パサッ「!」

僧侶の足元に落ちてきたそれは――

僧侶「………」


天使の羽が装飾された、純白のパンツだった。

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:37:59.62 ID:G/xEmEe50
僧侶(て、天使様の贈り物って、下着!?)

僧侶(ん…聖なる力を感じる。ということは…天使様のご加護を受けた下着?)

僧侶「………」


>宿屋

僧侶(装備したけど…うぅ、下半身にご加護の力を感じて何だかムズムズする)モゾモゾ

僧侶(とりあえず新しく、この下着を装備するとして……)

僧侶(前に使ってた下着も、防御力が高くて結構いいものなのなんだけど…装備品グレードアップしたら必要なくなるしなぁ)

僧侶(でも売るのも恥ずかしいし、捨てるしかないのかな……)

賢者「僧侶ぉー!」バァン

僧侶「きゃっ! け、賢者さん、どうしました?」

賢者「私の下着が1枚無くなったと思ってたら、重騎士の奴がオカズにしてたのよ! 勇者も一緒に誰かの下着で致してたから、2人ともきっちりシメてやったわ!」

僧侶「わ、わぁー」

賢者「全く……そんなことする位だったら、ちゃんと好きって言ってくれればいいのに。バカなんだから……」

僧侶「どうしてそんなことしたんでしょうねぇ……」

賢者「うちの男どもはバカ揃いだから。パンツを与えておけば24時間戦えるようなバカなのよ」

僧侶「そ、そうなんですか!?」

賢者「あー…そういえば子供の頃とか、3人で近所のお姉さんのパンツとか盗んでこっぴどく叱られてたわねー…。あの頃と変わってないわね」

僧侶「………」

僧侶(これだ!!)

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:38:27.32 ID:G/xEmEe50
>翌日

剣士「ふわ~ぁ……早起きしたから体操でもしよう。はー、どっこいどっこい」

僧侶「け、剣士君! おはようございます!」

剣士「あ、おはよう僧侶ちゃん。互いに起きるの早いなー」

僧侶「剣士君…そ、その……」

剣士「どうした?」

僧侶「これっ! 受け取って下さい!」

剣士「ん? 何が入ってるのかな?」

僧侶「そ、それは……」カアアァ

剣士「??」

僧侶「ひ、1人でいる時に見て下さいっ!!」ダッ

剣士「僧侶ちゃん?」


剣士(何だろう…)ガサガサ

剣士「………」

剣士(これは……パンツ?)

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:38:54.72 ID:G/xEmEe50
僧侶「んにゃああああぁぁぁ!!」ジタバタジタバタ

僧侶(あげちゃったー!! 剣士君、今中身見てるかなあぁ!! 喜んでくれてるかなあぁ!!)

僧侶(『あんな地味女のパンツじゃあなー…』ってガッカリされてるかなぁ……)

僧侶(でも剣士君もパンツが好きって言ってたし……)


~妄想~

剣士『はぁ、僧侶ちゃんのパンツ……この純白が女の子のお尻を守っていたのか……』ハァハァ

シコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコ

~妄想終了~


僧侶(きゃーっ、剣士君たらもーっ!! もっと元気になってぇ、遠慮しないでシコシコしてぇーっ!!)ジタバタ

賢者「ふわぁ~…僧侶どうしたのぉ~? 何か、せわしないわねぇ~?」

僧侶「な、なな何でもないんです!! おはようございます!!」

13 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:39:23.63 ID:G/xEmEe50



剣士「今倒したモンスターの真似しまーす。うぉーん、うぉーん」ピョンピョン

重騎士「ぎゃははは、めっちゃ似てるわ! 剣士、お前モンスターになれるわ!!」ベシベシ

勇者「よっ、魔物男!」

剣士「うぉーん、うぉーん」ピョンピョン


僧侶(剣士君はいつも通りか……)

賢者「どうしたの僧侶? そんな神妙な顔して」

僧侶「え、あ、別に」

重騎士「お前が寒いからだよ剣士!」ベシベシ

剣士「イヤァーン、尻はやめてー! 気持ちよくなっちゃう~!」

勇者「気持ち悪いっつーの!」ハハハ

賢者「パンツ泥棒が何を言う」

重騎士「ごめんなさい」

勇者「ごめんなさい」

僧侶「……」チラッ

剣士「あはは、2人ともバカだな~。僧侶ちゃんも気をつけなよ?」ニコ

僧侶(剣士君……えぇ、私の下着は剣士君だけのものだから)ポッ

14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:39:57.92 ID:G/xEmEe50
>数日後


勇者「明日は魔王城に乗り込もうと思う。皆、決戦前夜を悔いの残らないように過ごしてくれ!」


僧侶(と言われて教会でお祈りも捧げたし…。何かするより、体を休めていようかなぁ)

僧侶(……うん? あれは重騎士さんと賢者さん)


重騎士「賢者、その……」

賢者「…何よ。呼び出したんだから、さっさと言いなさいよ」

重騎士「俺…昔からずっと、賢者のこと……」

賢者「……」

重騎士「……賢者ぁ!」

賢者「な、何?」

重騎士「お前と一生一緒にいたい! だから絶対に、最終決戦生き残ろう!」

賢者「重騎士……うん」コクリ


僧侶(わぁー、ちゃんと進展していたんですね、あの2人)

僧侶(……いいなぁ)

僧侶(剣士君……どこにいるのかなぁ)

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:40:27.17 ID:G/xEmEe50
>池


剣士「ほれほれ、餌だぞ~」ポイポイッ

アヒル「がーがー」

僧侶「こちらにいらっしゃったんですね」

剣士「お、僧侶ちゃん! いやー、決戦前日って実感がなくてさぁ~」アハハ

僧侶「私は緊張しています。でも、剣士君といたらリラックスできるかな、って思って」

剣士「そう? じゃあ一緒にアヒルに餌やろうぜ! 可愛いぞ~アヒル」

アヒル「がーがー」

僧侶「ふふ、可愛い」

剣士「がーがー、餌くれー。がーがー」

僧侶「あははっ、もう、剣士君ったら」

剣士「お、僧侶ちゃん。その笑顔、緊張ほぐれてきたね!」

僧侶「ふふ、そうですね。剣士君のお陰です」

剣士「なーに。……俺も僧侶ちゃんに元気貰ったからさ」

僧侶「!!」キュン

僧侶(やっぱり剣士君…私の下着でシコシコと……)ドキドキ

剣士「明日、頑張ろうな!」ニッ

僧侶「はい!!」

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:40:55.63 ID:G/xEmEe50
>翌日、魔王城


剣士「でりゃああぁぁ」ザザザッ

魔物「グアアアァァッ」

勇者「絶好調だな剣士」

剣士「俺は素早い動きで複数を相手にするのが得意だからな。敵がウジャウジャいる魔王城だと、いい運動になるわ!」

僧侶(剣士君……素敵)ポッ

重騎士「やけに元気だな剣士」

剣士「まぁね~♪」

僧侶(剣士君……)


~妄想~

剣士『明日は最終決戦だ! 後悔のないように…出し切るぞおぉッ!!』

シコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコ

~妄想終了~


僧侶(あぁ剣士君っ、一杯出して気持ちよくなってぇっ!!)

賢者「ん…こっちから凄い魔力を感じるわ」

勇者「魔王か?」

賢者「わからない…けど、その可能性は大きいと思う」

勇者「よし、行ってみるか!」

僧侶(そうだった、真面目な局面だったわ…ヨダレ拭こう)キュッ

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:41:21.30 ID:G/xEmEe50
>そんでもって


魔王「よくぞここまでたどり着いたな、勇者一行よ。こうなれば我の手で直接、貴様らを葬ってやろう!」

勇者「お前を直接葬る為に来たんだ! 俺たちは負けやしない!」

重騎士「行くぞォーっ!!」


僧侶(基本戦略は男性陣3人が前衛。重騎士さんは防衛担当、剣士君と勇者様で攻撃を叩き込む)

僧侶(私と賢者さんは後衛で魔法によるサポート。魔王とは距離があり、なおかつシールドを張っているので、ポジションとしては安全)


賢者「3人とも…死なないでね、絶対に……!」ギュッ

僧侶(安全とはいえ、3人が戦っている様子を遠くから見ているのは心中穏やかじゃない)


剣士「ハァ~…おっさん、しぶといね!」

僧侶(小柄な剣士君は敵の攻撃を『受ける』よりも『避ける』ことに特化した素早さタイプで、ダメージを受けることが少ない)

僧侶(だけど……大きな一擊を喰らったら、それが致命傷に繋がる!!)


魔王「えぇい、チョロチョロと!」ブンッ

剣士「よっと! はい、俺はすばしっこいネズミで~す」ヒョイヒョイッ

僧侶(剣士君……!)

剣士「!! 僧侶ちゃん、後ろ!!」

僧侶「え……っ!?」

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:41:56.15 ID:G/xEmEe50
賢者「はあぁっ、炎魔法っ!!」ゴオオォ

僧侶「!!」

僧侶(魔物が接近していた…気付かなかった)ドキドキ

魔王「全力で貴様らを葬るつもりだ……我が魔王軍の総力をもってな!」

勇者「ちっ、敵はお前1人じゃないか」

重騎士「しかし挟まれるとはな…これはヤベェなオイ」


僧侶(そう、魔王と魔物達に挟まれることによって、後衛の安全は崩される)

勇者「……」

僧侶(戦局は、勇者様の判断にかかっている!)


勇者「…重騎士、剣士!」

重騎士「おう!」

剣士「どうした!」

勇者「俺が魔王をやる! お前達は賢者と僧侶を魔物達から守れ!」

重騎士&剣士「「了解!」」

僧侶「……!」

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:42:27.80 ID:G/xEmEe50
僧侶(陣形としては、男性陣が二手に分かれることで、後衛の安全を守る形になった)

僧侶(だけど分かれたことで、男性陣の負担は増えたと思うのだけれど……)


勇者「せやあぁっ!!」

僧侶(流石は勇者様。魔王相手にひけをとっていない)


重騎士「魔王に比べると手応えがねぇな。ハァ~、魔王を相手にしてる勇者がやっぱ1番のヒーローになるんだなぁ」

僧侶(守りの要である重騎士さんのおかげで、私達の安全は守られている)


剣士「ま、いいんじゃねぇのー! 1番頑張ってる勇者に華を持たせてやろーぜ!」ズバァッ

僧侶(剣士君…素早い動きで、敵の数を確実に減らしてくれている!)


賢者「この陣形が崩れないようにサポートするわよ、僧侶!」

僧侶「はい!!」

僧侶(皆を信じられる…これなら、魔王に勝てる!!)

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:42:55.67 ID:G/xEmEe50



魔王「…ハァ、ハァ……」

剣士「へへっ……魔物は全員倒したぜ」ゼーゼー

重騎士「あとはお前だけだ、魔王」ゼーゼー

勇者「…覚悟するんだな」

魔王「くっ…貴様ら……!!」


僧侶(私も大分魔力を消費してしまったけれど、こちらの戦力損失はゼロ…そして魔王は満身創痍。行ける!)


魔王「ク、ククク……」

勇者「何がおかしい」

魔王「褒めてやろう…我にこの技を使わせるのは、貴様らが初めてだ」

勇者「何っ」

魔王「ハアアァァ……」ゴゴゴ


賢者「!!」

僧侶「魔王の力がみなぎっている……?」

賢者「それだけじゃないわ……魔王の奴、生命力を削っている!」

勇者「何だって!」

賢者「皆、警戒して! 僧侶、シールドを強化するわよ!」

僧侶「は、はい!」


魔王「破壊神よ我に力を……"殺戮の旋風"」


僧侶「!!!」

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:43:21.73 ID:G/xEmEe50
旋風が巻き起こったと同時、"不吉"を感じた。
旋風は空気を切り刻み、シールドを突き抜け、まるで触れるものに"死"を与えるような――

僧侶「――」

僧侶は感じていた。
旋風が自分の肉体を切り刻もうと迫っている。

だけど防ぐことも、回避することもできない。

すなわち待つのは、"死"――



剣士「僧侶ちゃん、危ないっ!!」

僧侶「――えっ?」


ドサアァッ

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:43:52.70 ID:G/xEmEe50
勇者「な、何て凶悪な技だ……」ゴホッ

重騎士「賢者……大丈夫か?」

賢者「重騎士、アンタ私を庇うなんて無茶して!」

重騎士「俺のでかい図体はその為にあるんだよ。お前が無事で良かっ」

僧侶「剣士君が、剣士君があぁ!!」

勇者「えっ?」

剣士は僧侶を庇って、彼女に覆いかぶさる形で倒れていた。
全身は旋風に刻まれ、立ち上がる様子を見せない。

勇者「け、剣士! くっ魔王、許さないぞ!」バッ

魔王「フ…今ので貴様らも大きなダメージを喰らったはずだ。そんな体で我に勝てるのか?」

勇者「やってみせる……絶対にお前を倒す!」


僧侶「け、剣士君……!!」

先ほどから回復魔法をかけているのだが、剣士は目を覚まさない。

僧侶「剣士君……」ジワァ

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:44:18.86 ID:G/xEmEe50
魔王「覇ああぁっ!」ビュンッ

勇者「くっ!」

重騎士「がっ!!」

賢者「重騎士、勇者!!」

魔王「クク…形勢逆転だな。1人1人、確実に命を貰おうか!」


僧侶(皆もボロボロ…だけど私の魔力はもうわずか……)

僧侶(もう駄目……っ!!)


ここで皆死んでしまうのだ。
勇者は前夜、悔いのないようにと言っていた。だけど僧侶はひとつ、悔いを残していた。


僧侶(せめて死ぬ前に――)


――剣士君に、気持ちを伝えておけば良かったなぁ。



「絶望するにはまだ早いぞ」

僧侶「……えっ!?」

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:44:47.18 ID:G/xEmEe50
天使「僧侶よ…私の姿が見えるか」

僧侶「て、天使様! な、何故!」

天使「先日、贈り物をしただろう。それを通じて私は、君の想いを受け取ったのだ」

僧侶「天使様……どうか私達をお救い下さい!」

天使「私は君たちを救うことはできぬ……が、贈り物を通して、君の手助けならできる」

僧侶「どうすれば良いのでしょうか……?」

天使「ひたすら強く想うのだ。嘘偽りない気持ちを、強く念じるのだ」

僧侶「は、はい!」

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:45:17.99 ID:G/xEmEe50
僧侶(私の想い。世界平和、皆の無事、そして――)


魔王「な、何だ!?」

賢者「僧侶の"聖なる力"が、高まっている……?」


僧侶(剣士君……私は貴方のことが――)


天使「良いぞ…下半身に強い気持ちが集まっている! もっともっと、強く想うのだ!」

僧侶(剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君剣士君)

天使「今だ!! その高めた力を、一気に放出するぞ!!」

僧侶「はいっ!!」



カアアァァ――ッ


勇者「!!!」

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:45:44.45 ID:G/xEmEe50
勇者「傷がふさがった…それに体も軽い」

魔王「そ、そんな馬鹿な!?」

勇者「今なら魔王…お前を倒せる!」

魔王「クッ…ならばもう1度……」

勇者「させるかあぁ!!」ズバアァ

魔王「!!!」

勇者「今度は確実に仕留める……魔王、覚悟ォっ!」ダッ

魔王「う、うわああぁぁ――っ!!」

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:46:12.39 ID:G/xEmEe50
重騎士「やった! 魔王を倒したぞ!」

賢者「剣士は……」クルッ


剣士「フゥ、フゥ……」

僧侶「息を吹き返しました…! 良かった、良かったぁ……」グスグス

賢者「そう……」ホッ

重騎士「あぁヒヤヒヤしたぜ…剣士は俺や勇者と違って、筋肉が発達していないから」

僧侶「傷を見たのですが、頭への直撃は免れていたようで」

勇者「けど服がズタズタだな。内蔵がやられて即死でもおかしくなかったぞ」


剣士「う、うーん……?」

賢者「あっ! 目を覚ました!!」

僧侶「剣士君……大丈夫ですか?」

剣士「あぁ、皆生きてるんだな……安心した」

重騎士「1番心配かけた奴がよく言うぜ!」

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:46:39.75 ID:G/xEmEe50
勇者「剣士、立てるか? 肩貸すか?」

剣士「大丈夫、大丈夫! 全然立てますよっと」スッ

賢者「あっ、服の切れ端が……」

ボロボロッ


勇者「………」

重騎士「………」

賢者「………」

僧侶「………………………………………」

剣士「イヤン、はずかちー」

勇者「………なぁ剣士」

剣士「ん?」

勇者「何で…女物のパンツ履いてるの?」

僧侶「わ、わわわわ私があげた下着いいぃぃぃ!?」

賢者「………はぁ!?」

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:47:18.11 ID:G/xEmEe50
賢者「僧侶、あんた剣士にパンツあげ……はぁっ!?」

重騎士「何それ羨ま…じゃなくて剣士お前、僧侶からパンツなんて貰ってたのかあぁ!!」

勇者「それはいいとして、お前シコり会に1度も参加してないよな!? 1人でシコってたのか、あぁん!?」

賢者「いや論点そこじゃないでしょ。何で履いてるのよ」

剣士「えっ? これお下がりじゃないの?」

僧侶「えっ」

剣士「俺が履いてたパンツより防御力スゲェ高かったからさ。てっきりいつものお下がりかと……」

賢者「いやいやいやいやその発想はおかしい」

勇者「……あ、でも」

賢者「ん?」

勇者「そのパンツを履いていたから……剣士の急所が魔王の技から守られて、即死を免れたんじゃないか?」

重騎士「………」

賢者「………」

剣士「僧侶ちゃんは俺の女神だ! ありがとう僧侶ちゃん、ありがとう!」

僧侶「剣士君……」ウルッ

賢者「待て」

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:47:47.83 ID:G/xEmEe50
賢者「僧侶……あんた、そもそも何で剣士にパンツなんてあげたの?」

僧侶「そ、それは……」

勇者「剣士は小柄だから、僧侶のパンツも入ると思ったから?」

重騎士「シコってもらう為?」

賢者「黙ってろシコメン共。僧侶がそんなこと考えるわけ……」

僧侶「………そうです」

賢者「は?」

僧侶「オカズにして欲しかったんです………剣士君に」ポッ

剣士「僧侶ちゃん……」

賢者「………は?」

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:48:15.98 ID:G/xEmEe50
僧侶「私、ずっと剣士君のこと――」

剣士「……僧侶ちゃん!」ギュッ

僧侶「!!!」カアァッ

剣士「お願い、俺から言わせて! ……こういうのは、男の口から言うもんだからさ」

僧侶「……」コクリ

剣士「……好きだよ、僧侶ちゃん。いつも俺に優しくしてくれた君のこと、大好きだ」

僧侶「私も…いつも明るくて私に元気をくれる剣士君のこと、大好きです」

剣士「生きてて良かったあああぁぁ!!」

僧侶「ふふっ……私もです」


勇者「良かった、良かった」ウルウル

重騎士「本当だなぁ」グスグス

賢者「おい。ssだからわかりにくいけど、剣士は今パンモロ中だからね? しかも女物のパンツね?」

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:48:42.85 ID:G/xEmEe50
ワーワー


天使「……ふっ、一件落着だな」

天使「神様から僧侶に下着を贈れと命じられた時は『ハァ、何故下着なんだよ馬鹿じゃねぇのエロジジイ』と思ったものだが……」

天使「結果、勇者一行の命を救い、彼らを勝利に導く結果となった。やはり神様は侮れないお方だ」

天使「最後に天界の者として祝福を贈ろう……」

天使「どうか、神に愛されし、信心深き少女に、永遠の幸せを……」

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/09(土) 11:49:43.55 ID:G/xEmEe50
>そして


剣士「僧侶ちゃん、ごめんごめーん!」

僧侶「もう、遅いですーっ。初デートに遅刻なんて、御法度ですよ」プクー

剣士「ほんと、ごめんって! 今日は僧侶ちゃんの行きたい場所に行こう、ね!」

僧侶「それじゃあ服屋さんに行きましょう」

剣士「服屋? いいね、欲しいのプレゼントするから遠慮しないでね!」

僧侶「違います。メンズ服屋さんです」

剣士「メンズ?」

僧侶「今日は剣士君の服を見たいんです」

剣士「えっと……いいの?」

僧侶「はい。お古じゃない新しい服、買いましょうよ。ね?」ニコ

剣士「……うん。俺センスないから、僧侶ちゃんに見立ててほしいな~♪」

僧侶「わ、私がですか」アワワ

剣士「いいでしょ~、僧侶ちゃん好みの男になりた~い♪」ギュッ

僧侶「も、もー、剣士君ったら!」


旅が終わっても、私と彼は一緒です。これからも毎日、彼と一緒に幸せを感じていけることでしょう。


剣士「けどパンツは女物の方がいいかな~。何かあれからクセになっちゃって」

僧侶「!!?!?」


……ちょっと受難もありそうです。


Fin
posted by ぽんざれす at 11:53| Comment(0) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月01日

執事「魔王よりお嬢様の方が怖い」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1458986149/

1 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/03/26(土) 18:55:59.09 ID:Engg58SE0
執事「ここ…で、間違いないな」

場所は山奥にそびえる屋敷の前。

執事(5年前、魔王を倒した勇者一行。ここは、その一行にいた魔法使いの屋敷だ)

執事(その魔法使いが使用人を募集していると聞き応募したが…まさか書類選考だけで採用決定とは)

執事(まぁ、俺は運が良かったのだろう。とりあえずは…)

執事は呼び鈴を鳴らした。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458986149
2 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/03/26(土) 18:56:47.00 ID:Engg58SE0
少しして…

魔法使い「いらっしゃい。貴方が執事ね、書類で顔は覚えたわ」

執事「お初にお目にかかります。今日から宜しくお願いします、えっと…魔法使い様?」

魔法使い「貴方、確か19歳だったかしら?」

執事「はっ? はい、そうですが…」

魔法使い「なら"お嬢様"がいいわ。私、貴方の1つ下なのよ」

執事「お嬢様…ですか?」

魔法使い→お嬢「あら、いいわぁ~。憧れてたのよ、『お嬢様』呼び♪」

執事「では、お嬢様。先輩の使用人さん方にご挨拶をしたいのですが…」

お嬢「いないわよ」

執事「……はい?」

3 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/03/26(土) 18:57:35.11 ID:Engg58SE0
お嬢「あら説明を受けていなかった? 私は今まで使用人を雇ったことがないのよ」

執事「えっと…この大きな屋敷で、ずっとお1人で?」

お嬢「えぇ。まぁ行商人がたまに来るから、孤独死の心配はなかったけどね」

執事「掃除はお嬢様がされていたのですか…?」

お嬢「"ルンバ"って掃除魔法を編み出したのだけれど、綺麗になるのよねコレが」

執事「お食事は?」

お嬢「行商人が出入りしていると言ったでしょう」

執事「……」ジー

お嬢「? あ。栄養が体…特に胸に回っていないとか思ってる?」

執事 ギクッ「い、いえ!!」

お嬢「これは遺伝よ。貴方は大きい方が好みかしら?」

執事「お、俺は……」

お嬢「正直に言いなさい。使用人の胸の好みくらい把握しておきたいからねぇ」フフフ

執事「…胸ならどんな大きさでも好きですね」

お嬢「………ぅゎ」

執事「何で引くんですか!?」

4 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/03/26(土) 18:58:14.78 ID:Engg58SE0
お嬢「とりあえず仕事内容はマニュアル化しておいたわ。…何か不安そうね?」

執事「執事の仕事をするのはここが初めてなので…先輩がいないのは不安ですね」

お嬢「多少の失敗くらいは大目に見るわよ。給仕だの行商人への対応だの、そんなに重要な仕事でもないしね」

執事「そう…ですか?」

お嬢「それより応募書類に、特技は料理って書いてたわね。今日の夕飯は貴方の得意料理が食べたいわ」

執事「は、はい! では準備に取り掛かります!」

お嬢「楽しみにしてるわ。厨房はそこを真っ直ぐ行って右よ」


執事(色々と不安はあるが…まぁ、ひとまず印象を悪くすることはなかったようだ)

執事(最初の仕事は夕飯作りか…あれ、飯作りって執事の仕事だっけ? …まぁいいか、都合がいい)

5 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/03/26(土) 18:58:44.53 ID:Engg58SE0
執事「ビーフストロガノフと海鮮サラダで御座います」

お嬢「ビーフスト……? ハヤシライスみたいね」

執事「ハヤシライスとは違って、ビーフストロガノフはサワークリームをですね」

お嬢「蘊蓄はいいわ。食事は美味しければそれでいいのよ」

執事「はい、味には自信があります」

お嬢「もぐ…あら本当、美味しいわ」

執事「でしょう?」

お嬢「貴方を雇って良かったわ~。スプーンが止まらな、い……」カクッ

執事「どうぞ、どんどん召し上がって下さい」ククッ

お嬢「ん……何か、ねむ……」クター

執事「ふ……っ」

6 : ◆WnJdwN8j0. [sage]:2016/03/26(土) 18:59:10.00 ID:Engg58SE0
お嬢「すやーすやー」

執事「さて…と」

執事はお嬢を抱え上げると、ソファーに寝かせた。
そして、服のリボンに手をかける。

執事「どんなもんかねぇ」ゴソゴソ

執事「うわぁ、ガキっぽい下着。18とは思えねぇ」

執事「…胸は小さいが、悪くはない体だ」

お嬢を下着姿にした執事は、お嬢の体の上に跨った。

執事「悪ぃな…だが、これも復讐の為だ。頂くぜ、お前の体!!」

と、下着に手をかけようとしたその時――

お嬢「へぇ…それが目的」

執事「なっ!?」

馬鹿な、こんなに早く目を覚ますはずが――と思った瞬間。

執事「」パタッ

今度は執事が気を失った。

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/26(土) 18:59:47.47 ID:Engg58SE0



執事「う、うーん……?」

お嬢「おはよう、猥褻執事」クスクス

執事「!!!」

執事が目を覚ますと、そこは薄暗い部屋だった。
両手両足は拘束され、身動きが取れない。

お嬢「ふふ、若い男が拘束されてる姿…なかなかそそるじゃない」

執事「くっ…何故だ、料理には大量の薬を仕込んでいたはず…!!」

お嬢「私は自分の体に自動回復魔法をかけているのよ。薬による睡眠状態なんて、1ターンで完治よ」

執事「くそ…それで俺に不意打ちを喰らわせてきたのか…! 迂闊だった……!!」

お嬢「やることはゲスだけど、目の付け所はいいじゃない。そんなに魅力的だった、私?」

執事「…別に」プイ

お嬢「ところで『復讐の為』って言ってたわね。私、貴方に何かしたかしら?」

執事「………」

お嬢「神童だの天才だの呼ばれて妬まれてはきたけれど、人に恨みを買うようなことをした覚えはないのよねぇ」

執事「…………」

お嬢「あら、黙秘? 困ったわねぇ。だったら、それなりの手段を取るわよ?」

執事(拷問にでもかけるつもりか…?)ゴクリ

お嬢「カモーン、触手ちゃーん」

執事「しょ、触手!?」

ウネウネ

執事「なっ!?」

お嬢「"驚く間もなかった。触手に足を絡め取られた男は強引に足を開かされ、衣服はビリビリと引き裂かれた。粘着質な触手が体を這い、ゾクゾクと鳥肌が立つ。だが、触手が男の性感帯を刺激すると――"」

執事「いやいやいやいや、待て待て!? 男を触手責めして誰が喜ぶんだよ!?」

お嬢「私が喜ぶ」ジュルリ

ウネウネ

執事「うわああぁぁぁ!! わかった、わかった白状するから! それはやめてくれ!!」

お嬢「根性なしが」チッ

執事(くっそ、この変態女が…)

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/26(土) 19:00:47.10 ID:Engg58SE0
執事「俺は魔王の息子だ」

お嬢「あら」

執事「5年前、お前たち勇者一行に親父を倒されて以来…ずっと復讐の機会を伺っていたんだ」

お嬢「逆恨みねぇ。魔界から来た魔王が、私達の世界を侵略しようとしたのが悪いんじゃない」

執事「私怨だ…理解してもらおうとは思っていない」

お嬢「なるほど、私怨。てことは、そちらの政治的なアレコレじゃないわけね。通りで計画がずさんだと思ったわ」

執事「………」

お嬢「しかもやることが小さいわ。女で、パーティー最年少の私を狙う辺りもね」

執事「……人選にミスはない」

お嬢「まぁ、それもそうね」フッ

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/26(土) 19:01:32.33 ID:Engg58SE0
魔王討伐から5年、勇者一行の状況にも色々変化があった。

お嬢「勇者は姫様と結婚したけど、結婚3年目から浮気三昧。まぁ勇者は元々モテモテのタラシだからね~、姫様が可哀想」

お嬢「戦士は毎日、酒、酒、酒。今じゃただの飲んだくれおじさんだし」

お嬢「僧侶に至っては怪しい新興宗教を興す始末。魔王討伐報酬の倍以上も稼いでウハウハみたねぇ」

執事「勇者一行で落ちぶれていないのは、お前だけだ」

お嬢「そうね~。山奥の洋館にこもって魔道書の執筆活動中。正に品行方正そのものね」

執事「……知っていたのか?」

お嬢「え?」

執事「魔王の息子である俺が復讐の為に動いていることを知っていたのか…? だから5年間も1人でいたのに、わざわざ使用人募集という罠を……」

お嬢「だったら貴方の目的なんか聞かないわよ。たまたま執事モノのラノベを読んで、専属執事が欲しくなっただけよ」

執事「俺を選んだのは…」

お嬢「単純に好みで選んだわ」

執事(運がいいのか、悪いのか……)

執事「バレた以上、命乞いはしねぇよ…とっとと殺しな」

お嬢「触手ちゃー…」

執事「それはやめろ!!」

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/26(土) 19:02:21.05 ID:Engg58SE0
お嬢「殺す気なんてないわよ。私好みの顔してるのに、勿体無い」

執事「は…趣味悪ぃな」

お嬢「あら謙遜しないで。私、"受け"っぽい顔が好きなのよ~」

執事「その言葉、男の尊厳を踏みにじってるからな?」

お嬢「女の尊厳を踏みにじろうとした猥褻クソ男が何を言ってるのかしら?」

執事「くそ、反論できん…。で、俺を生かしておいて何する気だ?」

お嬢「私、執事も欲しかったけど…ペットも欲しかったのよね~♪」

執事「……は?」

お嬢「というわけで」カチャカチャ

執事「!?」

お嬢が執事の首にはめたのは、犬の首輪だった。

お嬢「今日から貴方は私の"わんこ執事"よ。ハイ決定」

執事「はあああぁぁぁ!?」

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/26(土) 19:03:05.10 ID:Engg58SE0
執事「ふざけんな、誰がそんなモンに…ぐっ!?」

お嬢は執事の体に覆いかぶさり、嗜虐的な目で執事を見下ろしていた。

お嬢「まずは"しつけ"が必要みたいねぇ~?」

執事「な、何するつもりだ!?」

お嬢「私こう見えても、えっちなものは創作物でしか知らないのよねぇ」

執事「こう見えても何も見たまんま…って、何してやがる!?」

お嬢「だーかーらー、実物を知りたくなって」ゴソゴソ

執事「うわああぁぁ、やめろ脱がすな!!」

お嬢「貴方は私の体見たのにぃ?」

執事「ぐぬぬ…。これ以上尊厳を踏みにじるくらいなら、殺せ……」

お嬢「あら~、やられっぱなしでいいの? 復讐するんじゃないの?」

執事「それに失敗したから言ってるんだろう…。ましてや、復讐対象に仕えるなんてできるか」

お嬢「あら~、わんこ執事をやればチャンスならいくらでもあるわよ。それなら、拘束も監視もする気はないし」

執事「……24時間、お前を狙い放題ってわけか…。確かにチャンスではあるな」

お嬢「そ。私は貴方をナメてるから、本気で反撃なんてしないわ」

執事「で…そのナメてる俺に出し抜かれたらどうするんだ」

お嬢「私の純潔なり命なり奪えば~?」

執事「……わかった。お前に仕えてやるよ」

お嬢「オーケー♪」

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/26(土) 19:05:44.08 ID:BoLnC1vhO
いいじゃないか


17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:46:48.15 ID:3sfXE9350
こうして執事の"わんこ執事"としての生活が始まった。

執事「…おはようございます、お嬢様」ムスー

お嬢「おはよう。気持ちのいい朝ね♪」ニコ

執事(お前だけな)

昨晩は寝込みを襲おうと寝室前を張っていたのだが、部屋の灯りが一晩中消えなかったので、お嬢がいつ寝たのかわからなかった。
その上、部屋からは魔力が溢れていた為、踏み入るのに怖気づいてしまった。

執事(寝ながら結界を維持してやがったな…天才と呼ばれただけあって実力は本物だな、クソ)

お嬢「あら、焼きたてパン。美味しそう~」

執事「ジャムを塗って召し上がれ」

お嬢「口を開けなさい」

執事「はん?」

お嬢「せやっ!」ガッ

執事「!!!」ボフッ

お嬢「うん、薬は入ってないようね。頂きま~す」

執事「……」フガフガ

お嬢「いつまでそうしてるの。そのフェラ顔をオカズに召し上がれ、とでも言いたいの?」

執事「…朝から下ネタは慎め」

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:47:51.53 ID:3sfXE9350
その後仕事をこなしながらお嬢の隙を伺っていたが、どうにも隙がなかった。

執事「紅茶だ…」カチャン

お嬢「ん。ありがとう」

執事(今度は毒見もさせないのか…俺が怖気づいたことを読んでやがるな)グヌヌ

お嬢「窓辺で読書をしながら執事に給仕させる…これって正に"お嬢様"って感じよね~」

執事「『お嬢様って感じ』って…。それっぽいだけじゃないか」

お嬢「それっぽければいいのよ。大事なのはリアルさじゃなくて、萌えよ萌え」

執事「こんな無愛想な執事に萌えるのか」

お嬢「そういう属性だと思えば。それに、これからデレさせるんだしね」

執事「誰がデレるか」

お嬢「お手」

執事「……わん」ポン

口で反抗的なことを言っても、わんこ執事の契約がある以上、逆らうことができない。

お嬢「あぁ、でも1つだけ残念。普通のカッコイイ執事となら、月光の湖畔でデートしたかったのに」

執事「悪かったな。何だ、そのメルヘンな名前のデートスポットは」

お嬢「月光が水面に反射する湖畔よ。満月の日なんて、夜なのに湖畔がキラキラして明るいの」

執事「ほー」

お嬢「そんなロマンチックな湖畔で、わんこ執事の散歩なんてとてもとても……」

執事「うるせぇわ」

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:48:30.14 ID:3sfXE9350
お嬢「私は部屋で仕事をしているから、書庫の本を並べ直しておいてちょうだい。著者ごとにね」


執事(本棚にしまわれてない本が山積みになってやがる。ガサツだなぁ)

執事(ま、これくらいなら1時間くらいでできるだろう)セッセ

執事「えーと、これは…ん」

"やさしい魔法入門~お姉さんが優しく教えてア・ゲ・ル♪~ 著者/魔法使い"
"乙女の為のドキドキ魔道書 キラキラらぶらぶ大作戦! 著者/魔法使い"
"これで貴方もガチムチに!? 魔力は最高のプロテイン 著者/魔法使い"

執事(…色々書いてるのは知ってたが、ギャグなタイトルばっかじゃねーか…)ペラッ

執事(ん…でも結構わかりやすいな。へぇ、魔力をこう応用する方法もあるのか)

執事(えっとこれは…『相手の魔力を封じる方法』?)

執事「……これだ!!」

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:48:55.90 ID:3sfXE9350
お嬢「ふぁー…」カリカリ


執事「……」ソロー

執事(よし、仕事に集中してるぞ。やるなら今…!!)

執事「覚悟オォ、変態お嬢!!」バッ

お嬢「!!」

執事「喰らえええぇ、魔力封じいいぃぃ!!」ゴオオオォォ

お嬢「きゃーっ!!」バリバリバリッ

執事「はははは、見たかああぁぁっ!!」

お嬢「…なんてね♪」ペロ

執事「…は?」

お嬢「せーのっ」ゴオオオォォォ

執事「んなぁ!? 封じたはずの魔力がみなぎってる!?」

お嬢「反撃」クイッ

執事「…っ!?」

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:49:50.94 ID:3sfXE9350
お嬢の魔法により、執事は部屋の上空をふわふわ浮かされていた。

お嬢「やっぱり、たまに反抗してくれた方が面白いわねぇ。私の編み出した魔法で私をやろう、っていう浅知恵が可愛いわ」オホホ

執事「くそ、何で効かねーんだよ!! インチキじゃねぇか!!」

お嬢「付け焼刃で身に付けた技術なんて、自分より遥かに上のレベルにいる相手に効かないわよ。貴方…」クイッ

執事「!!?」ボタンブチブチッ

お嬢「魔法は不得手な、肉体派でしょ。だからそんなにイイ体してるのねぇ~♪」ジュルリ

執事「胸元開ける必要あったか!? くそ、降ろせ!!」

お嬢「それが主人に物を頼む態度?」ニコ

執事「……ご無礼をどうかお許し下さい。降ろして頂ければ幸いです、お嬢様」

お嬢「まぁいいでしょう。はいっ」

執事「ふぅ…。やっぱり一筋縄じゃいかないな…」

お嬢「それにしても…」ジー

執事「?」

お嬢「ああぁ、開発したい! 至る所を開発してやりたいわ!!」

執事「ちょっ…もう俺を見るな! 気持ち悪いこと言ってんじゃねぇぞ変態女!」

お嬢「性的な意味じゃないわ。もし性的な意味だとしたら『気持ち悪い』じゃなくて『気持ち良い』よ」

執事「引くわ!!」

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:50:49.62 ID:3sfXE9350
お嬢「魔王の血筋ってことは、開発すればそれなりの魔法の使い手になるはずよ」

執事「そいつはないな…魔法に関しちゃダメダメなんでね」

お嬢「あら。どうしてそう決め付けるの?」

執事「魔王城イチの魔術師を師匠にしても駄目だったんでな」

お嬢「…」クイクイ

執事「ん? 何だ?」

お嬢「その師より優れている魔法使いがここにいるわよ?」ニコ

執事「………」


~妄想~

お嬢「これは淫魔が使うのと同じ魔法よ。ほーらほーら、ええのかー、ここがええのんかー」

執事「んああぁぁっ」ビクンビクン

お嬢「ほらほら、跳ね返さないと頭がどんどんバカになるわよ~?」

~妄想終了~


お嬢「『メチャクチャにしてえぇ、俺の感じるところ、全部バカにしてええぇ!』『オホホ、遂に本性を表したわね淫乱執事! お望み通り、いっぱいいじめてあげるわ』『んあー、いい、すごくいい!』」

執事「人の妄想に続きを入れるな!」

お嬢「開発したいわ。受けメンを開発するのが夢だったのよ」

執事「どっちの意味での開発だ。あと受けメンて何だよ」

お嬢「じゃあこれは命令よ。私に仕えるに相応しい魔法力を得なさい。特別に、この私がタダで教えてあげるわ。得したわね!」

執事「後で『体で払え』とか言わないだろうな」

お嬢「………まさか~」

執事「何だよ今の間は!!」

お嬢「ま、そうと決まれば修行しましょう。腕がなるわ~」

執事(マジかよ…まぁセクハラじみたことしてこなけりゃいいか)

執事(…それに、実際魔法の能力を得れば……)

執事("魔王の息子"として恥じることもなくなるかもしれない……)

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:51:28.47 ID:3sfXE9350
>で


執事「………」

お嬢「もうちょっと右ぃ~」

執事「………」ゴシゴシ

お嬢「あんあん、そこそこォ~♪」

執事「…ってオイ!!」

お嬢「ん? なによ?」

執事「『セクハラじみたことしてこなけりゃいい』と思った次のレスで早速セクハラしてきてんじゃねぇよ!!」

お嬢「なによぅ、背中を洗わせているだけでしょう?」

執事「若いんだから背中に手くらい届くだろ…。これのどこが修行だ」

お嬢「煩悩を鎮める精神修行よ」

執事「それっぽいこと言ってんじゃねぇ!!」

お嬢「いいからその逞しい手で私の柔肌を磨きなさいよ」

執事(くっそ…結局、下僕としてこき使われてるだけじゃねぇか。しかも…)

執事(お嬢の体…こうして見るとやっぱ肌が綺麗だしなめらかだし……)ゴクリ

執事(~っ、馬鹿、俺、こんな変態女に発情してんじゃねぇよ!!)ゴシゴシゴシゴシ

お嬢「さて、背中はもういいわ」

執事「じゃあ俺は外に出てるぞ」

お嬢「待ちなさい」

執事「何だ。まさか前を洗えとは言わないよな?」

お嬢「今度は私が貴方の背中を流す番よ」

執事「………は?」

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:52:59.52 ID:3sfXE9350
執事「………」

お嬢「うぅーん、逞しい男の背中♪ ゴツゴツしてる…♪」ウットリ

執事(説明しよう!! 俺は浴室から逃げようとしたが、お嬢の魔法に捕まって結局このザマである!!)

お嬢「何うつむいてるのよ、ウブねぇ~」

執事「そんなんじゃねぇし!! たかだか女の裸くらいで!!」

お嬢「ふぅん? だったら何で見ないのよ?」

執事(正直、下半身が反応しちまうからだよ……!!)

お嬢「さて、洗い終わり」

執事「じゃあ今度こそ俺は出るぞ」

お嬢「待って。一緒に湯船入りましょうよ」

執事「!! 冗談じゃねぇ、何でお前と一緒に入らないといけないんだよ!?」

お嬢「いいじゃない、湯船は広いんだし。ペットとお風呂入るだけだし」

執事「良くねぇよ! 大体俺は、そのペットってのも納得いってねーし!!」

お嬢「仕方ないわね。触手ちゃ…」

執事「わーっ!! わかったから触手はやめろ!!」

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/27(日) 19:53:45.20 ID:3sfXE9350
お嬢「ふぅ気持ちいいわねぇ」

執事(良かった…泡風呂だから体を見られない)

お嬢「ちゃんと煩悩は鎮められてる~? これは修行だって忘れてないわよねぇ?」クスクス

執事「ぼ、煩悩も何もねぇし! そっちこそ俺の体で発情してんじゃねぇだろうな!?」

お嬢「オカズになることは間違いないわ」グッ

執事「オカ……お前、本当イカレてんな」

お嬢「へぇ、どの辺が?」

執事「そりゃ…自分の貞操を狙った男を近くに置いて、性的な言葉を浴びせてくるとか…そんな女いねぇよ」

お嬢「私は天才だし? 普通の女じゃないし~」

執事「自分で言うな」

お嬢「可愛いわよ貴方は。絶対勝てない相手に反抗しちゃう所とか」

執事「ぐぬぬ…」

執事(この女、ぜってー悔し泣きさせてやるからな…)

お嬢「可愛いものよ。…貴方程度の悪意は」

執事「え?」

お嬢「さて、そろそろ上がるわ」ザパッ

執事「お、おう」プイ←見ないようにしてる

29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/27(日) 20:28:22.76 ID:ezBwTiRTO
良いではないか…乙

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:02:36.44 ID:VMcou+Gz0
>翌日


執事「炎魔法っ!」ゴオォッ

お嬢「ふむ……」

執事「これが精一杯だな。で、どうだ」

お嬢「魔力の質は悪くないわね…魔力放出の基本もできている、だけど威力が小さいのはどうしてか…」ブツブツ

執事(珍しく真剣だな…やっぱ本職のこととなるとスイッチ入るのか)

お嬢「わかったわ、威力不足の原因」

執事「ほう。教えてもらおうか」

お嬢「貴方、M気質なのよ」

執事「………少しでも『見直した』とか思った俺が馬鹿だった」

お嬢「真面目な話よ。魔法の適正と性癖は、実は密接な関係にあるのよ」

執事「…聞かせてみろ。信じないだろうけど」

お嬢「Mは魔法適正が低いのよ。それゆえMは己の肉体をいじめて鍛え上げ、戦いでは敵の攻撃をその肉体に味わい…」

執事「百歩譲って俺がMだとして。適正が低いのにどうやって魔法の腕を上げるんだよ」

お嬢「簡単よ」

執事「ほう?」

お嬢「魔法適正の高い性癖に目覚めるよう、肉体を開発すればいいのよ…ニヒヒヒヒ」

執事「断固拒否する!!」

お嬢「困ったわね。あとは地道に基礎能力を上げるしかないわ」

執事「そっちでいいだろ、そっちで…」

お嬢「オーケー。じゃあまずレッスン1…」

32 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:03:16.32 ID:VMcou+Gz0



執事「ゼェ、ゼェ…」

お嬢「はーい、お疲れ様~♪」

1時間程、執事はお嬢と魔力のぶつけ合いをしていた。勿論、お嬢の方は手加減していたが。
剣の打ち合いのようなものだと説明されたが、本当にこれで基礎能力が上がるのかは疑問である。

お嬢「1日目で劇的に上がることはないでしょうね。でも指導者が有能だから、実感のないままレベルアップするはずよ」

執事「そういうもんか…」

お嬢「沢山修行した後は、たっぷり休むことね。私は仕事をしてるから、好きに過ごすといいわ」

執事「おう……」

執事(この1時間…本当に真面目だったな、珍しく)

執事(あのお嬢、真剣になると貫禄があるというか…いつもとのギャップが……)

執事「……」

執事「あああぁぁ!! 変態が普通になっただけじゃねぇか、惑わされるな俺ええぇぇ!!」ブンブン

33 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:03:49.85 ID:VMcou+Gz0
お嬢「ふぅ~」カリカリ

トントン

お嬢「執事? どうぞ~」

執事「ケーキ作ってみた。一旦ティータイムどうだ」

お嬢「あら、気が利くわね~。でも、ひとつ不満」

執事「何だ?」

お嬢「台詞が執事っぽくない。やり直し」

執事「……お嬢様の為にケーキと紅茶をご用意致しました。どうぞ召し上がって下さい」

お嬢「よろしい。普段からその口調でいてくれれば萌えるのに」

執事「奉仕したくなるような可愛いお嬢様相手なら、喜んで執事やるんだけどな~」

お嬢「まぁいいわ、生意気な執事も可愛いし」

執事「男に対して可愛いは、全く褒め言葉になってないからな?」

お嬢「褒めてると思った?」

執事「………」

お嬢「なーんてね♪ いじめたくなるわよねー、貴方って」

執事「…うちの姉のようなことを言うな」

お嬢「あら、お姉さんいたの? わかった、お姉さんの尻に敷かれていたんでしょ~」

執事「あーもう、黙ってケーキ食え!」

お嬢「はいはい。あら、甘くて美味しい~」

執事(くっそ…図星突かれた)

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:04:59.72 ID:VMcou+Gz0
>午後


お嬢「執事、街に降りるわよ。支度しなさい」

執事「唐突だな。何か用事でもできたか?」

お嬢「お買い物がしたくなったのよ」

執事「はいはい。山道を下るならスーツじゃいかんよな…」

お嬢「移動魔法で行けるから、その心配はいらないわ。執事服で来なさい」

執事「りょーかい。じゃ特に支度するものはないな」

お嬢「日傘持って行くわよ! 執事が差す日傘に入るとか、萌えるじゃない」

執事「空、曇ってるけどな」

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:05:59.58 ID:VMcou+Gz0
>服屋


執事(何か、いかにも女の子な店だな…俺一人じゃ入れないわ)

お嬢「これとー、これとー」

執事(これ全部、俺が持つんだろうな。まぁそれくらいなら構わないけど)

お嬢「あら、このデザインいいわね。でも、色のバリエーションが多いわ」

執事「そうだな…5種類か」

お嬢「ねぇ、どれがいいと思う?」

執事「…その質問には答えんぞ」

お嬢「あら、どうして?」

執事「女のその質問に対する正解は『どれも似合ってるよ』だろ? そんなお世辞言いたかねぇ」

お嬢「ねぇ執事…貴方って童貞?」

執事「店の中でなんつー質問してんだよ」

お嬢「『女って~』ってレッテル貼る視野の狭さが童貞臭いのよ。少なくとも、私はそんな女じゃないもの。答えが決まってる質問なんて無意味だと思うわ」

執事「なら…ピンクかな」

お嬢「そう。1番ないわって思ってた色だわ」

執事「おい!!」

お嬢「でも、貴方が好きなのを欲しいわ」

執事「…へ?」

お嬢「ピンクを買うわ。選んでくれてありがとう」ニコ

執事「お、おう…」

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:06:40.51 ID:VMcou+Gz0
お嬢「重くない? 私も持ちましょうか?」

執事「重くない。そんな気を使うな」

お嬢「あらー優しい。私の執事としての自覚が芽生えてきたの?」

執事「執事としてじゃない。男だからな」

お嬢「悪くないわねー、女の子扱いされるのって♪」

執事「女の子…あぁ、そういや女の子だったな」

お嬢「何だと思ってた? 素敵なお姉様?」

執事「魔王より怖い凶悪お嬢」

お嬢「怖がりねぇ、私より怖いものなんて沢山あるでしょう」

執事「でも、お前自身は怖いものないだろ。オバケとかゾンビや虫、地震雷火事親父」

お嬢「魔法で何とかなるものばかりね。何が怖いのか理解できないわ」

執事「だろうな」

執事(羨ましいもんだ…魔王の息子である俺でさえ、怖いもんは沢山あるってのに)

?「ねー」

執事「ん?」クルッ

子供「これ、落としたよー」

執事「あ、ハンカチ。ありがとうな坊主」

子供「どういたしましてー」

執事「お嬢からもお礼言って…」

お嬢「…………」

執事「…お嬢?」

お嬢「あ、ありがとう、ね」

執事「…?」

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:07:18.71 ID:VMcou+Gz0
お嬢「……はぁ」

執事「なぁお嬢。まさか…」

お嬢「え?」

執事「子供が怖いとか?」

お嬢「っ! ち、違うわよ! 怖いんじゃなくて…子供嫌いなだけよ」

執事「へぇー? 何で?」

お嬢「理由なんてないわ。嫌いなものは嫌いなの」

執事「そうか。そいやー勇者が魔王を倒したのは、お嬢が13歳の時だっけ。パーティーの中じゃ1番ガキだったろー」

お嬢「年齢はそうだけど、『全然子供らしくなくて可愛げがない』って言われてたわよ」

執事「あぁ、なるほど。じゃー周囲の“子供らしい子供”とは気が合わなかっただろうな」

お嬢「…私と気の合う人なんて、いないわよ」

執事「え?」

お嬢「それより、早く帰りましょう。買った服と手持ちのアクセサリーを合わせてみたいわ」

執事「お、おう」

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:07:41.56 ID:VMcou+Gz0
執事(そして帰宅し、俺は晩飯の支度に取り掛かっている)

執事(あ、コンソメが足りない。食在庫まで取りに行かないとな)


執事(ランプつけて、っと)

執事「コンソメは…あ、あった」

お嬢「食在庫にいたのね。今日の夕飯は何かしら?」

執事「ミネストローネでも作ろうかとな。…お、着替えたんだな」

お嬢「えぇ。どうせなら社交辞令でも『可愛いな』とか何か言いなさいよ」

執事「なら、どうせなら俺が選んだのを着てみせろってーの。やっぱ色が気に入らなかったか?」

お嬢「室温に合った服を選んだだけよ。ごめんねぇ、男心を察してあげられなくて」

執事「いえいえー。生身の男をろくに知らんお嬢に、そこまでの配慮なんてとてもとても」

お嬢「さしずめ、清純派の天然お嬢様ってとこかしらね」

執事「突っ込みきれねぇぞおい」

執事(やっぱ、口でも勝てる気がしねぇ。こういうとこが姉貴と被るから可愛くな…)

フッ

お嬢「きゃっ」

執事(あ、ランプ消えちまった。…って、『きゃ』?)

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:08:23.76 ID:VMcou+Gz0
執事「炎魔法、っと」ボッ

お嬢「うっかり者」

執事「つか、ランプ消えた時に『きゃっ』て言ったよな?」

お嬢「!? い、言ってないわ!」

執事(お? 珍しくムキになってやがる…。ははーん、さては弱点なんだな)

執事「素直に言えよな~、暗いのが怖いんだって」

お嬢「ち、違うわよ! 怖くない!」

執事「そいやー寝る時も部屋の灯り消さないよな~。何で? 何で?」

お嬢「…っ!」

執事「いやいやいや。まさか英雄たるお嬢にそんな弱点があったとは…」

執事(今までの仕返しだ、ほれほれ。ムキになれよ)

お嬢「………」クイ

執事「へっ?」



ウネウネ

執事「お嬢様、大変失礼を致しました。なのでどうか解放して頂けないでしょうか」

お嬢「どうしよっかな~」ムスッ

執事「本当お願いします! 俺は貴方の犬です、わん、わんっ!」

お嬢「もう、仕方ないわね」クイ

執事(あぁ解放された……。触手に四肢を絡め取られて、流石にヤられると思ったぜ……)

お嬢「覚えておきなさい、私はヒスる女よ」

執事「はい……覚えておきます」

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/28(月) 20:08:49.24 ID:VMcou+Gz0
今日はここまで。
変態成分不足で申し訳ない。

41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/28(月) 20:25:21.07 ID:6dGYNY81O
その分イチャイチャ甘々要素が多くて僕満足

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:23:14.83 ID:DiBZ8pyD0
お嬢「やっぱり執事の作る料理は美味しいわね~。毎日の食事が楽しみだわ♪」

執事(いやー良かった、機嫌直してくれて)

お嬢「ところで執事。料理は魔王城にいた頃からやっていたの? 王族は料理をするイメージがないけど」

執事「あぁ。料理に興味あったんで、小さい頃から厨房に入り浸って習っていた」

お嬢「ふぅん。魔王はそれを了承していたの?」

執事「俺は魔王の後継者の器ではなかったしな。割と自由にさせてもらっていた」

お嬢「じゃあ、後継者はお姉さんの方だったの?」

執事「あぁ、そうだ。俺と違って、将来の魔王に相応しい人だ」

お嬢「どんな人?」

執事「お嬢の胸をでかくした感じだ」

お嬢「なるほど、それは確かに魔王の器だわ。お姉さんは、今は何をされているの?」

執事「さぁ。魔界に帰ったはずだけど、ここ5年はろくに顔も合わせていないしな」

お嬢「あら、寂しいわね。唯一の身内でしょう」

執事「別に。むしろ、せいせいしてる」

お嬢「よっぽどお姉さんが怖いのね~」フフフ

執事「い、いやいやいやいや怖くねぇし!?」

お嬢「ふーん?」ニヤニヤ

執事(このヤロ…。けど言われてみりゃ、今頃何やってんだろうな姉貴は)

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:24:12.32 ID:DiBZ8pyD0
>数日後……


執事「はああぁぁっ!」

お嬢「はい、そこまで~」

あれから毎日、魔法の打ち合い訓練をしていた。

お嬢「初日に比べると慣れてきたわね。その調子よ」

執事「相手にしてる相手が相手なだけに、順調だと実感できないな…」

お嬢「順調よ。戦略次第では実戦でも使えるんじゃないかしらね」

執事「戦略、ねぇ…。考えるのが苦手だな」

お嬢「戦略は大事よ。例えば私の場合、戦闘で消費する魔力は7割にとどめておくわ」

執事「じゃ、7割使ったらどうするんだ?」

お嬢「残り3割を逃亡に費やすわね」

執事「その3割で勝てるかもしれないのに?」

お嬢「こちらが全魔力を使い切った後に、相手が奥の手を使ってくる可能性もある。実際、そういう場面はいくつもあったわ」

執事「なるほどな。臆病に見えなくもないが、そのお陰で命を繋いでこれたのかもしれないな」

お嬢「そういうこと」

45 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:24:45.76 ID:DiBZ8pyD0
お嬢「実戦を積めば段々わかってくると思うけど…まぁ、その話はまた今度ね。とりあえず休憩しましょう」

執事「訓練前、プリン作って冷やしてたんだよ。食べるか?」

お嬢「あら、いいわね~。クリームとか乗せて食べたいわ」

執事「了解。すぐ用意する…」

<カラーン

お嬢「あら呼び鈴が」

執事「行商人だろうか。俺が対応するか?」

お嬢「すぐそこだし、私も行くわ」

執事「おう」


執事「はいはーい…」ガチャ

国の使い「魔法使い様! 大変です!」

執事(国の使いか。何か大分切羽詰った様子だな)

お嬢「あら。何があったの?」

国の使い「戦士様が…闇討ちされました!!」

お嬢「何ですって」

46 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:25:38.85 ID:DiBZ8pyD0
国の使いが言うには、戦士は飲み歩いていた昨晩、人通りの少ない路地裏で暴行されたらしい。
何とか一命は取り留めたものの、かなりの重症を負ったそうだ。

お嬢「そんな酔っ払いの喧嘩で『闇討ち』なんて大げさな」

国の使い「しかし英雄である戦士様を暴行するなど、まさか国に対する反逆者の仕業かも!!」

お嬢「ないない。それに、あの飲んだくれのどこに"英雄"たる威厳があるのよ」

国の使い「それは………」

お嬢「とにかく戦士のことなんて私は知ったことではないわ。それだけの用事なら帰って」

国の使い「……わかりました」


執事「ひでー言い草だな。かつての仲間だろ?」

お嬢「別に、心で繋がっていたわけじゃないから」

執事「そうか。本人がそう言うなら仕方ないわな」

お嬢「それよりもプリン、プリン!」

執事「はいはい…ったく、ガキかよ」


執事(それにしても、戦士って怪力を誇る実力者だよな…。いくら泥酔してたからって、そう簡単にやられるもんか?)

執事(…何だろう、胸騒ぎがする)

47 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:27:35.96 ID:DiBZ8pyD0
数日後、その不安は的中した。

お嬢「今度は僧侶がやられた~?」

国の使い「はい。瀕死の状態で見つかりました。やはり反逆者の仕業かもしれないと、陛下も警戒しております」

お嬢「怨恨じゃないの~? 僧侶が教祖やってる新興宗教、悪どいこともしてたんでしょ?」

国の使い「そ、それは………」

お嬢「戦士の時といい、なるべくしてなった事態じゃない。私は知らないわよ、もう」

国の使い「しかし、陛下は"英雄の保護"を考えております。ですから是非、城の方に…」

お嬢「やだわ~。城で軟禁生活なんてストレス溜まる~」

国の使い「うぅ……」トボトボ


執事「…国王には逆らわない方がいいんじゃないのか?」

お嬢「あら、どうしてよ?」

執事「そりゃ、お嬢の身の潔白を証明する為だよ」

お嬢「はい? 何で私が身の潔白を証明しなきゃいけないのよ?」

執事「落ちぶれたとはいえ英雄が2人もやられたんだ。国はあらゆる可能性を考える…お嬢が2人をやった、という可能性もな」

お嬢「どうしてそこに行き着くのよ」

執事「まず戦士や僧侶を倒せる奴、というだけで大分限られてくる。それにお嬢にもメリットがある…元仲間が全滅すりゃ、名声はお嬢が独り占めだろ」

お嬢「邪推ねぇ。…でも、本当に疑われたら面倒ね」


こうしてお嬢は、城に身を寄せることとなった。

48 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:29:43.62 ID:DiBZ8pyD0
>そんでもって


お嬢「城のスイーツは上品なばかりでイマイチだわ! 執事、毎日差し入れなさい!」


執事(っつー命令で俺は城の近くに部屋を借り、お嬢の所まで差し入れを届ける毎日だ)

執事(当たり前の話だが、素性の知れない俺は城に置いてはもらえない。お嬢と会う時間が1時間許されているくらいだ)

執事(ちなみにお嬢に『差し入れは脱ぎたてのパンツでもいいわよ』と言われたが、無視だ)


執事「お嬢様、ドーナッツをお持ちしました」←人前では敬語

お嬢「あぁ~、もう執事の差し入れが唯一の楽しみよ」

執事「大分、心労がたまっていらっしゃるご様子で」

お嬢「えぇ。保護の目的で常時監視付き! 気が休まらないったらありゃしないわ!」

執事「いやぁ、本当にお気の毒…ククク……」

お嬢「執事ぃ? 私が苦しんでる様子を見るのがそんなに楽しいのかしらぁ~?」

執事「いえいえ、まさか…」クク

お嬢「覚えてなさい、帰ったら可愛がってあげるから」

執事「いえいえ勿体無いお言葉で」


こうして他愛ない話をする。
そうやって今日も、1時間が過ぎる。

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:30:57.65 ID:DiBZ8pyD0
執事(帰宅~、っと)

執事(………そうだ。お嬢に『魔法の特訓に付き合えないから、本を読んで自主練しなさい』って言われてたんだっけ)ペラペラ

執事(1人でやる自主練って眠くなってくるよな~…でも他にすることもないんだよなぁ)フワァ

執事(自分が食う分だけだと思ったら、マトモに料理するのも面倒だし)

執事(明日の差し入れは何にするかな…一昨日はシュークリームで昨日はトリュフで……)

執事「………って」

執事(さっきから、あの変態お嬢に関することばっか考えてるじゃん。せっかく解放されたんだし、リフレッシュしねーと)

執事(…どうやればいいんだ? リフレッシュって)

執事(いかん、あの変態お嬢に大分毒されている。こうして考えてみると濃い毎日を送ってたな)

執事(攻撃を仕掛けても、打ち負かされて。いじめられるわ、セクハラされるわ、こき使われるわ)

執事(思えばあのお嬢との生活で心が休まったことなんて1度もねぇ)

執事(今はそういうのが無いんだよな……)

執事(…それって、なんて開放的で……)


執事「なんか、つまらないなぁ……」

50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/29(火) 18:32:20.82 ID:ct/LMQpzO
大分落とされてきてるな

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:37:08.87 ID:DiBZ8pyD0
>翌日


執事(今日のデザートはアイスケーキだ。溶けない内に行かないとな)タタッ

執事「……ん?」


勇者「……」コソコソ


執事(勇者じゃねーか…何やってんだ、1人でコソコソして)

執事(ははーん、あいつも監視生活に嫌気がさして、抜け出したんだな)

執事(ま、いいや。そんなことより差し入れ差し入れ)タタッ



お嬢「口の中でひんやりしたバニラが溶ける~。幸せぇ~」

執事「お喜び頂き光栄です、お嬢様。…あ、そういえば」

お嬢「ん、何かしら?」

執事「さっき、城の外で勇者を見かけたぞ」ヒソヒソ

お嬢「あー…そうね、今回の件で女遊びまでできなくなって溜まってるわ」ヒソヒソ

執事「愛人と密会でもするんだろうか」ヒソヒソ

お嬢「みたいね。どうやら戦士や僧侶の件辺りから仲を深めていた女がいるようでね」ヒソヒソ

執事「どうしようもねーな…。あんなに可愛らしくて品のある奥さんがいながら」ヒソヒソ

お嬢「そうそう、王室育ちで品のある奥さんを変態プレイに目覚めさせるのが面白いのにね」ヒソヒソ

執事「勇者までお前みたいな変態なのか」ヒソヒソ

お嬢「さぁね~。でもまぁ、アレは病的な女好きの浮気性ってことは間違いないわ」

執事(かつての仲間を『アレ』呼ばわりかい)

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:37:41.54 ID:DiBZ8pyD0
>帰路


執事(さーて、夕飯の買い物でもしながら帰るか)

執事(お、リンゴが安いじゃん。そうだなー、明日はアップルパイでも焼いてやるかな)

執事(明日は楽しみだ。城を抜け出した勇者がどうなったか聞けるんだもんな)ククク

――と、その時。

執事「……!!」

執事は"ある気配"を察知し、振り返った。

執事(この気配…まさか……)

執事(……いや、間違いない!!)ダッ

その気配は、知っている魔力だった。
それを感じる方向に向かって、執事は駆けた。

53 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:38:12.01 ID:DiBZ8pyD0
執事「宿屋……ここだ! ここに"アイツ"が……」


がしゃーん

執事「!!」

窓ガラスの破れる音が耳に痛い。
そして次の瞬間には、執事の目の前に何かが落ちてきた。

執事「…っ!? ゆ、勇者!!」

勇者「ううぅ……」

それは全身に大ダメージを受けた、瀕死の勇者だった。


?「あら~ん?」

執事「!!!」ビクウウゥゥッ


そしてその声を聞いたと同時、執事は反射的に跳ね上がった。

?「その顔は…久しぶりねぇ~」

執事「…っ」ガタガタ

執事の前に降り立ったのは――


姉姫「久しぶりねぇ、ボクちゃ~ん?」


執事がこの世で最も恐れる、姉だった。

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/29(火) 18:38:57.17 ID:DiBZ8pyD0
執事「あ、姉貴……」

姉姫「『姉貴』? んまぁ~、反抗期のなかったボクちゃんが生意気になっちゃって」

執事(反抗期なかったんじゃなくて、反抗させなかったんだろーが…。…って、ちょっと待てよ)

執事「姉上、その勇者は……」

姉姫「あぁ、ハニートラップ仕掛けてハメたのよ。どお~、お姉ちゃん強くなったでしょ。英雄相手に連戦連勝!」

執事「………は?」

姉姫「ねぇねぇ聞いてボクちゃん。お姉ちゃんね、パパの仇である英雄どもをサクサク倒してるのよ」

執事「………」

姉姫「こりゃあ人間も絶望するわよねえぇ! ざまあああぁぁぁ!!」ゲラゲラ

執事(こいつの仕業だったんかい……って、ちょっと待て!!)

姉姫「あは、あはは…ふぅー。さーて…」

執事(となると、次のターゲットは…!!)

姉姫「残す英雄はあと1人…魔法使いだけね」

執事「!!」

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 18:46:57.00 ID:iliJNy0E0
姉姫「こいつは厄介だわ~。他3人みたいな迂闊な行動を取らないし、城で保護されているし。さーて、どうするか……」

執事「あ、姉上!? 勇者を倒したのだから、それで十分では……」

執事(別に庇ってるわけじゃねぇぞ変態お嬢! お前に復讐するのは俺だから……)

姉姫「えぇそうね。…私怨ならね♪」ニコッ

執事「………え?」

姉姫「でも生憎、これは私怨じゃないの。戦争よ戦争」

執事「姉上…おっしゃってる意味が……」

姉姫「決まってるじゃない。パパが叶えられなかった夢…世界征服を私が叶えるのよ」

執事「!!」

姉姫「全面戦争になる前に英雄を各個撃破…どう、お姉ちゃん頭いいでしょ~」

執事「し、しかしですね…。勇者までやられては、より一層警戒するでしょうし……」

姉姫「わかってないわねぇ。より一層警戒されたとこを打ち破るから気持ちいいんじゃない」

執事「現実的ではないかと……」

姉姫「あらあらボクちゃん? どうして魔法使いを庇うのかなぁ? お姉ちゃん悲しいなぁ~」ウルウル

執事「そ、それは……」

姉姫「……魔法使いの執事をやってるから?」

執事「!!!」

姉姫「わかるんだぞォ、ボクちゃん。その執事服に染み付いてる魔力が誰のものか……」

執事「こ、これは……」

姉姫「まさかボクちゃん、魔法使いに心から屈しちゃったのかしら~?」

執事「ち、違います! 俺は…奴を討つ為に、近づいただけです!」

姉姫「そ、それなら安心♪ そうよね~、魔王の子息たる者がまさかねぇ」

執事(そうだ…俺は別に、奴に忠誠を誓ったわけじゃねぇ…!!)

姉姫「だったら、お姉ちゃんがやってあげる! 協力して、あの魔法使いを倒そうよ、ね!」

執事「……っ」

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 18:48:25.76 ID:iliJNy0E0
>翌日


執事(勇者がやられたとあって、街中の雰囲気が沈んでいるな…落ちぶれたとはいえ、勇者は勇者か)

執事(次にお嬢が狙われることも、予想されているだろう…)

執事「……」


お嬢「まぁ、今日はアップルパイ?」

執事「リンゴが安かったので。…嫌いでしたか?」

お嬢「パイは貴方の方が好きでしょ、大きいのも小さいのも」

執事「……人前では慎んで下さい」プルプル

お嬢「勿論、私も好きよ。紅茶と一緒に頂くわ」

執事(この現状でも、お嬢に動揺は見られない…)

お嬢「ただ、紅茶を淹れてくれるのがベテランのおじさん執事でね。別に悪いってわけじゃないんだけど、萌えないっていうか…」

執事「…少しは警戒しろよな、馬鹿お嬢」

お嬢「え?」


兵士「た、大変です!」バタバタ

お嬢「どうしたの?」

兵士「魔物の群れが、城に向かってきています!!」

お嬢「何ですって…」

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 18:49:33.36 ID:iliJNy0E0
兵士長「であえーッ!!」

オオオォォォ


姉姫「フフフ、この臨場感…やっぱり戦争っていいわね」ウットリ


お嬢「ここ数日の事件、魔物の仕業だったのかしらね?」

兵士長「魔法使い様、出てきてはなりません。奴らの狙いは、きっと貴方です」

お嬢「奴らの狙いが私だから来たのよ。私が戦えば、余計な犠牲は出ないでしょ?」

兵士長「しかし、危険です! 残った英雄である貴方がやられては、人々は希望を見失う…!!」

お嬢「『残った英雄』って、まるで3人が死んだみたいに…。自ら戦わないで守られて、何が英雄よ。守られヒロインなんて、私のキャラじゃないの」

お嬢は兵士長の制止を無視して、前に出て行った。


執事(やっぱりな……お嬢は、黙って隠れている性分じゃない)


お嬢「私が魔法使いよ! 私の命が欲しい奴は、どいつ!」


姉姫「あらぁ勇ましく出てきたわね~。好きよぉ、勇敢な女の子って。でも…殺すけどね♪」


兵士長「!! 魔物の群れが魔法使い様に……」

お嬢「上等…」バチバチッ

バリバリバリイイィィッ


姉姫「あらぁ…刺激的。惚れるわぁ」


お嬢「次にやられたいのは誰かしら? お相手するわよ」

10匹近くの魔物を撃ち落としたお嬢は、勝気に笑った。

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 18:50:40.12 ID:iliJNy0E0
魔物「あの魔法使い、攻撃範囲が広すぎます。数で押すのは無駄でしょう」

姉姫「なら私が行くわ~。被害は最小限でいきましょ」


姉姫「初めまして、英雄さん」スタッ

お嬢「人間…に見えるけど、魔力は人間のものではないわね」

姉姫「うふふ、近くで見ると可愛いお嬢さんねぇ~。殺すのが惜しいくらいだわ」

お嬢「殺す? 笑えないご冗談を。そもそも、お姉さんは何者かしら?」

姉姫「私は、貴方達が倒した魔王の娘よ。そうねぇ、現魔王…を名乗ってもいいのかしら」

お嬢「へぇ、貴方が。弟さんとは似ていないのねぇ」

姉姫「ボクちゃん…じゃなくて、弟がお世話になったわね。だから余計に貴方は許せないのよぉ」

お嬢「どういうこと?」

姉姫「それは――」


姉姫「あの子を尻に敷くのは、私だけの特権なのよ…!」ビュンッ

お嬢(素早い!!)

目で姉姫の動きは追えなかったものの、お嬢は咄嗟の判断で自分の周囲に魔力を纏った。
この魔力に触れればダメージを喰らう。近接攻撃を苦手とする彼女にとって、最大の防御手段だった。

姉姫「…ふぅ~、危ない魔法を使うのねぇ。綺麗な薔薇にはトゲがある、ってね?」

お嬢(魔力に触れる寸前の所で停止した…)

姉姫「どうやら肉弾戦は悪手みたいねぇ。なら…」スッ

お嬢「!!」

姉姫「私も貴方と同じ土俵…魔法攻撃で戦ってあげるわ♪」

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 18:51:29.85 ID:iliJNy0E0
姉姫「せやぁっ!」ゴゴゴゴゴ

お嬢(…っ!! 地面が割れっ……)ヒュウゥ

姉姫「安心してね、割った地面は直すから。…貴方が地の底に落ちた後で♪」

お嬢「単純な作戦ね」フヨフヨ

姉姫「あら、貴方浮けるのねぇ」

お嬢「今度はこっちの番よ!!」

お嬢の周囲に大量の水が現れる。その水は龍の形を作り、姉姫を睨みつけた。

お嬢「水圧に潰されてしまいなさい!」

姉姫「!!」

お嬢の指揮で水の龍は姉姫に襲いかかり、全身を飲み込んだ。

お嬢「どうよ、騎士の鎧をも押しつぶす水圧の威力は」

姉姫「あぁもう、お気に入りのドレスがビシャビシャだわ」

お嬢「…!」

姉姫にダメージを喰らった様子はなく、困ったようにビシャビシャのドレスの裾をしぼっていた。

姉姫「"圧力"には"圧力"で返す…基本的戦略よねぇ」

お嬢「なるほど、上から来る水圧に対して、下から圧力を放ったわけ…」

姉姫「うふふ、貴方って凄腕の魔法の使い手だけど、割と何とかなるのねぇ~」

お嬢「それはどうかしら」スッ

姉姫「……? 寒くなってきたわね……」

お嬢「濡れた体には辛いでしょう? "絶対零度"!!」

姉姫「……!!」

姉姫の体は、一瞬にして凍りついた。

お嬢「魔法の腕だけじゃなくて知恵も回るのよ…天才だからね」

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 18:54:54.40 ID:iliJNy0E0
執事(し、信じられねぇ……)

物陰から見ていた執事は目を疑った。
まさかあの最凶の姉が、1対1の戦いで氷漬けにされる日が来るとは…。


兵士長「やりましたね魔法使い様! 現魔王をお1人で倒すとは!!」

お嬢「……まだ倒していないわ。これ位で死ぬようなお姉さんに見えないもの」

執事(俺もそう思う)

兵士長「では、トドメを刺した方が……」

お嬢「………」

執事(お嬢?)

お嬢「…そこにいるんでしょ、執事」

執事「!!」ビクッ

お嬢「………」

執事(無言の圧力を感じる…出て行くしかねぇか……)

執事「……」スッ

執事(俺までやられるのか…!?)ビクビク

お嬢「……ねぇ、執事」


お嬢「お姉さんまでやられたら……貴方はつらい?」

執事「……えっ?」

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 18:55:53.02 ID:iliJNy0E0
お嬢「貴方はお姉さんのこと好きでない、というようなことを言っていたけれど…それでも、血の繋がったお姉さんなのよね」

執事(何を言っているんだ、こいつは?)

質問の答えを考えるよりも、その質問自体に驚いていた。
お嬢にとって、命を狙ってきた姉姫は敵だ。その敵にトドメを刺さずに、あろうことか同じく"敵"である自分にそんなことを聞いてくるなんて。

執事(何を企んでやがる…まさか、俺を試しているのか?)

お嬢「どうなのよ。さっさと答えなさい」

執事「お、俺は……」


「嘘よねぇ? ボクちゃんが、お姉ちゃんのこと好きじゃないなんて」


お嬢「!!!」ガバッ

執事(うおぉ……)

お嬢「……まさか、あの氷を溶かすなんてね」


執事にとっては、ある程度予測できていた事態だった。
とはいえ、やはりその最凶っぷりに圧倒はしたが。


姉姫「ボクちゃんとは後でゆっくりお話するとしてぇ…。お嬢さんは徹底的にやらないと駄目みたいねぇ」ニコニコ

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 18:58:17.81 ID:iliJNy0E0
姉姫「魔界への門よ開け…そして集え、亡者の魂!」ゴゴゴ

お嬢「何…この禍々しい気配は…」

姉姫「亡者の魂よ、その罪人の魂を喰らうがいい!!」ゴオオオォォ

お嬢「!!」


執事(いきなり最強クラスの技かよ!? 姉貴の奴、切れてやがる…!!)

そんな執事の心配をよそに、亡者の魂達はお嬢に襲いかかっていった。

執事(お嬢…!!)

圧倒的な姉姫の力を恐れると同時、執事は心のどこかで信じていた。

あのお嬢がやられるわけない。例え、あの最凶の姉の最強クラスの技を受けたとしても――


お嬢「……ハァッ」

執事「お嬢!!」

そして予想は的中していた。

姉姫「あら驚いたぁ…亡者の魂を全て消し去るなんて」

執事(やっぱり一筋縄じゃいかねぇな、お嬢!!)

お嬢「………」

執事(お嬢? 様子が変だな……)

お嬢「……くっ」ドロン

執事「あっ!!」

姉姫「まぁまぁ…逃げるなんて、残念」

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 19:00:58.44 ID:iliJNy0E0
魔物「如何致しましょう、姉姫様」

姉姫「私達の狙いは彼女だからねぇ…追うしかないでしょ」

魔物「しかし、追うと言っても行き先が……」

姉姫「彼女の残り魔力からして、逃げられる範囲はせいぜい国内ね。魔物達を総動員して探し出すわよ」


執事「………」

姉姫「どうボクちゃん、お姉ちゃんカッコイイでしょ~?」ニコニコ

執事「えぇ…流石は現魔王たるお力の持ち主です」

姉姫「でも困ったわねぇ、いくらこの狭い国内だからって、女の子1人探し出すなんて骨の折れる作業よ~。ボクちゃんも手伝ってくれる?」

執事「姉上…あの女の性格上、隠れる場所は大体想像できます」

姉姫「まぁボクちゃん、賢くなったのねぇ。それで? あの子はどんな場所にいるのかしら?」

執事「あの女が隠れるのは――」


執事「暗い場所、でしょうね」

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/30(水) 19:01:28.82 ID:iliJNy0E0
執事「……」キョロキョロ

執事は魔物とは別行動し、国中を歩き回っていた。
お嬢と過ごした屋敷やその周辺の森、一緒に歩いた街…。
どこを探しても、お嬢の姿は見当たらない。

執事(もう日も沈んできたな…長引く隠れんぼだな)

執事(どこにいるんだお嬢…これより暗くなったら、あいつの行ける場所なんて…)

執事(……待てよ。確か以前、お嬢の奴……)

執事「……」

執事「足を運ぶ価値は十分にあり、だな」

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:15:48.42 ID:lqYstiKL0
お嬢「……」

物陰に隠れながら、魔力を回復させる。
回復した魔力は、全体の5割といったところか。

お嬢(駄目…こんな魔力じゃまだ、あの女とは戦えないわ)

お嬢(あの女の狙いは私だから、他に被害は及ばないとは思うけど…私が見つからないままだと、どんな強硬手段に出るかもわからないわ)

お嬢(もどかしい…早く回復しなさいよ魔力!!)

既に逃亡から3時間は経過しただろうか。
沈んできた夕日が、時間の経過を思わせる。

お嬢(……暗く、なってきた………)

お嬢「………」



『出して、ここから出してよぉーっ!!』

『怖い…やだよ……誰か気付いてよ……』

『私のこと、助けてぇーっ!!』



お嬢「…っ!」ブンブン

お嬢(怖くない、暗闇なんて怖くない…!! だって今は、あの時とは違うもの!!)

お嬢(……でも)


1人って、やだな……――


「見つけた」

お嬢「!!」

74 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:16:35.24 ID:lqYstiKL0
執事「よぉ」

お嬢「あ、貴方……何で?」

執事(初めて見るな、お嬢の面食らった顔は)

けど今は、からかってやる気にはなれない。

執事「夜になっても明るい場所――以前、月光の湖畔について話していたろ」

お嬢「そう言えば、そうだったわね……それで私の居場所を特定できたの」

執事「あの時は『満月の夜には明るい』って言ってたが、今日の晩は新月だ。きっと暗くなるぞ」

お嬢「……そうね」

執事「怖いだろ」

お嬢「怖くない」

執事「暗いのが怖いから、ここに来たんだろ?」

お嬢「…怖くない!!」

お嬢は珍しく感情的に叫び、執事の服の裾を掴んだ。

執事「……何だ?」

お嬢「側に、いなさいよ」

執事「俺はお前の敵だぞ」

お嬢「知ってる。でも貴方は危険じゃないから」

執事「ナメてんのか」

お嬢「ナメてなければ私の執事にしてないわよ」

執事「そうかい」

執事はふぅとため息をついて、お嬢の隣に腰を下ろした。

75 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:17:23.83 ID:lqYstiKL0
お嬢「尻尾を巻いて逃げ出すなんて、私まで英雄の名に泥を塗ったわね」

執事「戦略的撤退だろ?」

お嬢「難癖つけてでも私を貶めようって奴は珍しくないわ。嫌われ者だからね、私」

執事「…本当、ひねくれてるよな。よっぽどひどい目に遭ってきたのか?」

お嬢「神童の苦悩なんて凡人にはわからないでしょうね」

執事「いじめられてきたんだろ」

お嬢「なっ」

執事「大人と違って子供って正直だし、容赦なく悪意を向けてくるからな。だから嫌いなんだろ、子供が」

お嬢「……」

執事「暗いのが苦手なのも、いじめの影響でか?」

お嬢「…そんな軽い感じで言わないで。何時間、閉じ込められたと思ってるのよ」

執事「暗い所にか?」

お嬢「えぇそうよ。それもご丁寧に、魔封じの結界まで用意してね。脱出手段を封じてくるなんて、悪質にも程があるわ」

執事「ガキって残酷…」

お嬢「だけど誤解しないで! 私は暗いのが怖いわけじゃない!」

執事「へいへい」

お嬢「…私が怖いのは――」ギュ

執事「――っ?」

お嬢「暗闇に1人――それが怖いのよ」

執事「…っ」ドキ

普段見せないお嬢の弱気な表情に、執事は動揺した。

76 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:17:52.39 ID:lqYstiKL0
お嬢「ところで執事、私の居場所を知らせなくていいの?」

執事「え、あ、えっ?」

お嬢「貴方、私の敵なんでしょ? だから私を探しに来たんでしょ?」

執事「えーと…俺を信じないなら信じないで構わないが、今後のことについて1つ、提案がある」

お嬢「提案? 何かしら。言ってみなさい」

執事「お嬢…この世界を捨てる気はないか?」

お嬢「捨てる? …この世界を?」

ピンときていないようで、お嬢はキョトンとしていた。
だけどこの話を持ちかけるのが、執事の目的だった。

執事「お前はきっと姉貴に勝てない。それにあの女は執念深いから、逃げても逃げても追ってくる。…だったらいっそ、異世界へ逃げた方がいい」

お嬢「異世界? 馴染みのない言葉ね」

執事「俺たち魔族がいた魔界の他にも、異世界はいくつも存在する。そして、俺はその異世界へ続く道をいくつか知っている」

お嬢「ふーん…そうなの」

執事「信じないなら信じないで構わないと言っただろう」

お嬢「…信じる信じない以前にわからないわ」

執事「何が?」

お嬢「貴方、私の敵じゃないの? どうして私を逃がそうとするの?」

執事「確かに敵だ。けど先に敵に対して情けをかけたのは、そっちだろ」

お嬢「え?」

執事「姉貴を氷漬けにした時、あのままトドメを刺せばお前の勝ちだった。なのにお前は、わざわざ俺を気遣った」

お嬢「………」

執事「お前が俺を気遣う必要はないわけで……けど、気遣われたからには見捨てられないっつーか……」

お嬢「………」

執事「……あー、もう何か言えよ!! とにかく、そういうことだ! わかったか!!」

お嬢「…全然わかんないけど、まぁわかったわ」クスッ

77 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:18:20.28 ID:lqYstiKL0
お嬢「…行くわ。この世界に未練なんてないし」

執事「あっさり決めたな」

お嬢「貴方の言う通り、私は貴方のお姉様に勝つことも、逃げ切ることもできない。だからそれを選ぶしかない。…それに」

執事「…それに?」

お嬢「さっきも言ったけど、私は貴方をナメているの。貴方が言ったのが嘘だとしても、私は貴方に出し抜かれたりなんてしないわよ」フフン

執事「……やっぱ可愛くねぇ女だな」

お嬢「あら、今更じゃない。それとも、可愛いって思えるシーンがあったのかしら?」

執事「ね、ねーよ!!」

お嬢「ふーん? まぁ行動は早い内がいいわ。案内してもらおうかしら、異世界への道を」

執事「あぁ。1番近い場所でここからあまり離れてないから……」


「何なにぃ、異世界がどうだってぇ?」

執事「!!」バッ

お嬢「……あら」


姉姫「ヤッホー♪ 見ぃ~つけた~♪」

執事(最悪だ……)

78 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:19:06.53 ID:lqYstiKL0
姉姫「ねぇねぇボクちゃん、異世界ってどういうことかなぁ?」

執事「そ、それは……」

姉姫「勿論、その子を騙す為の口実だよねぇ? ボクちゃんはお姉ちゃんを裏切らないよねぇ~?」

執事「う……」ブルッ

お嬢「ボクちゃんボクちゃんって、弟萌えなの? 全く、どうしようもない姉ね」

姉姫「ん~? 何か文句でもあるの~?」

お嬢「あら気付かない? 執事が執事服に身を包んだ姿は、弟属性という枠を超えて執事萌えを生み出しているのよ」

姉姫「わかっていないわね。ボクちゃんがどんな格好をしようと『可愛い弟』という枠は越えられない。それがブラコンにとっての弟という存在なの」

執事(………何の話をしてるんだ、何の)


姉姫「まぁ、どうせ相容れないことはわかっていたわ」バチバチッ

お嬢「ふん…逃がしてくれそうにないわね」

執事(まずい……!!)

執事「あ、姉上!」

姉姫「ん、どうしたのボクちゃん?」

執事「先ほどの勝負でこいつが逃げ出したことで、人間たちは"英雄"に対する希望をもう十分失ったはずです! ですから…」

姉姫「だからその子を見逃せ、ってことかしら?」

執事「姉上は1度勝利したのです、だからいいでしょう!」

姉姫「ボクちゃん、私は勝ってないわ」

執事「!!」

姉姫「ボクちゃんも言っていたじゃない。氷漬けにされている間にトドメを刺されれば、私は負けだった、って」

執事(き、聞かれていた……)

79 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:19:51.16 ID:lqYstiKL0
姉姫「負けっぱなしはプライドが許さないのよねぇ…今度こそ、完璧に勝つわ」

執事(姉貴の奴、引く気がねぇ……)

お嬢「……完璧に勝つ?こっちの台詞よ」

執事(お嬢はさっきの戦いで魔力を大分消費した……)

姉姫「強がりな子は嫌いじゃないわよ~。最後の最後に命乞いするのだけはやめてね」


執事(どうすりゃいいんだよ……)

執事(い、いや、俺がお嬢のことを気にかける必要はないんだ…だってあいつ、親父を殺した奴なんだぞ)

執事(そうだ……俺にできることなんてない……)

執事(何かを変える力もない、俺なんて……)


姉姫「さああぁぁて、早期決着といきましょうかねええぇ!!」バッ


――なのに


ガキィン


姉姫「!!」

お嬢「な――」

執事「あ、ははは……」


俺なんて、何もできないのに――


執事(何でお嬢の前に立って、姉貴の刃を受け止めちゃったりしてんの俺ええぇ――っ!!)

80 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:20:52.46 ID:lqYstiKL0
姉姫「あらボクちゃん? 何の冗談かしらぁ?」

執事「……――くない」

姉姫「え?」


こんなこと思うなんて、俺はおかしくなったのかもしれない。

こいつは、親父を殺した女で。


お嬢『私こう見えても、えっちなものは創作物でしか知らないのよねぇ。だーかーらー、実物を知りたくなって』ゴソゴソ

お嬢『私、執事も欲しかったけど…ペットも欲しかったのよね~♪ というわけで今日から貴方は私の"わんこ執事"よ。ハイ決定』

俺のこと、オカズとかペット扱いするような変態女で。
一緒に過ごした日々を思い返しても、正直ろくな思い出はない。


だとしても。


執事「俺は――お嬢を死なせたくない」

お嬢「――」


理屈なんて抜きで、その気持ちは本物だった。


執事「だから俺は、姉貴! お前と戦う!!」

81 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/31(木) 19:21:23.60 ID:lqYstiKL0
姉姫「……」ガーンガーンガーン

執事「あ、姉…上……?」

姉姫「ショック……ボクちゃんがこんな、こんな……」プルプル

執事「ほ、本気だからな!?」

姉姫「……ふぅん、本気。だったら……」

執事「……へ?」


姉姫「こっちも本気出さないと失礼よねええぇぇ!!!」ゴオオオォォォ


執事「うわっ!!」バッ

お嬢「危険よ執事、貴方が勝てる相手じゃ……」

執事「お嬢、この道を真っ直ぐ! 魚型の岩のところまで行け!」

お嬢「えっ?」

執事「そこに行けば空間の歪み…異世界の扉がある! これが空間を開ける鍵だ!」ヒュンッ

お嬢「!」パシッ

姉姫「行かせないわっ!!」バッ

執事「邪魔はさせねぇ!!」カンッ


執事「早く行け、お嬢! 俺が姉貴を食い止める!!」

お嬢「…っ!」ダッ

85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:43:22.24 ID:BWg893K70
姉姫「行かせちゃって良かったのかしら~? せめてあの子と2人がかりじゃないとツライでしょ~?」

執事「問題ない。あいつを逃がす為だ、一緒に戦うんじゃ意味がない」

姉姫「お姉ちゃん知ってるわよ…ボクちゃんの力の程度くらいはねぇ!!」

執事(魔法となると姉貴が遥かに上。だから姉貴が魔法を使えば俺は――)

姉姫「早い内に降参しちゃいなさいねぇっ!!」バチバチィッ

執事(間違いなく勝てない――)


執事「――って考えるのは、5年前のままで止まってるな」

姉姫「――えっ?」

執事「それが変わったんだあぁ!!」

カッ

姉姫「打ち消した…!? ボクちゃんの魔法で、私の魔法を!」


お嬢『1日目で劇的に上がることはないでしょうね。でも指導者が有能だから、実感のないままレベルアップするはずよ』


執事(マジだったな…日々の積み重ねで、着実にレベルアップしていた)

姉姫「だけどいつまでそれができるかしらね!!」バチバチィッ

執事(そう、俺と姉貴じゃ魔力の量に大差ある。防御を続けていりゃ、俺の方が先に魔力切れを起こす)

執事「だったら!!」ダッ

姉姫「!!」

執事("回避"と"防御"を使い分けながら――姉貴と距離を詰める。戦略が大事だってのも、あいつの教えだかんな!!)

執事「おらああぁぁ!!」バッ

姉姫「ふんっ!」カァン

執事が振り下ろした一擊を、姉姫は召喚した剣で受け止めた。

86 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:43:58.78 ID:BWg893K70
姉姫「距離を詰めれば何とかなると思ったの? でも残念ね、剣の腕もボクちゃんよりお姉ちゃんの方が…」

執事「その考えも、5年前で止まってんだよ!!」ガキィン

姉姫「――っ!! ち、力が強っ……」

執事「当時14歳、成長期真っ只中。そっから5年も鍛えてりゃ、力は劇的に上がってんだよ!」

姉姫「っ、追い風っ!!」ビュウゥッ

執事「……っ!」

姉姫「近接戦で不利なら、距離を開け――」

執事「――させねぇ」

姉姫「!!」

突風を全身に浴びながらも、執事はその場に踏みとどまっていた。

執事「俺の間合い以上は意地でも開けさせねぇ!! 何されようが、逃がさねぇからな!!」

姉姫「……!!!」

87 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:44:38.31 ID:BWg893K70
姉姫「……フフッ」

執事「…っ? な、何だ?」

姉姫「ねぇ気付いてるボクちゃん…お姉ちゃんね、さっきからずっと、左手使ってないのよ」

執事「はっ!?」

姉姫「ボクちゃんたら、視野が狭いわねぇ……フフ、感じるぅ~?」

執事(こ、これは……)

姉姫の左手には魔力が溜まっていた。
恐らく今までの攻防の間に、ずっと溜めていたのだろう。

姉姫「最後の忠告よ……降参しなさい」

執事「~っ…いやだ!!」

姉姫「そう……」

姉姫が左手をこちらに向けてきた。
回避、防御――恐らくどちらも不可能。それだけの魔力を溜めさせてしまった。


そうとわかっていても――

執事(なら、耐える!!)

執事は、全く諦めていなかった。


姉姫「いい顔になったわボクちゃん。でも精神論じゃ勝てないのよ……いい勉強になったわね」

執事「………っ!!」

88 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:45:16.09 ID:BWg893K70
ドォン

姉姫「――っ!?」ドサァッ

執事「……はっ?」

「視野が狭いのは姉弟揃ってよね……」

執事「お、お前……」


お嬢「私の存在に気付かなかったのは致命的だったわねぇ…お姉さん」

執事「お前、逃げなかったのかよ!?」

お嬢「負けそうになってたくせに、何を言ってるんだか…」フゥ

執事「~っ…だけど俺は、お前が異世界に逃げられるだけの時間は稼いでいたぞ」

お嬢「そうかもね」

執事「……」

執事(いや、わかってる……悪いのは俺だ)

執事「俺が足止めすらできない、頼りない男だと思うもんな……安心して逃げられるわけ、ないか」

お嬢「違うわ」

執事「……違う?」

執事はポカンとした。

お嬢「この場を貴方に託せば私は異世界に逃げ込むことができる……それは信じられた。だけど、それができなかった」

執事「意味わかんね……だったら何で逃げなかった」

お嬢「見知らぬ異世界なんて、暗闇のようなものよ。言ったじゃない、暗闇に1人は怖いって」

執事「お嬢……」

お嬢「異世界に逃げるにしても…貴方が一緒じゃないと、嫌」

89 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:45:42.25 ID:BWg893K70
執事「そ、その言葉はまさか……」

お嬢「……察しの悪い男ね」

執事「…いいんだな? お嬢も俺と同じ気持ちだって――そう思って、いいんだな?」

お嬢「……」コクリ

執事「…お嬢っ!」ギュッ

お嬢「――っ」

執事「……――っ」ドキドキ

執事(ここはやっぱり…男としては……)

お嬢「………」

執事(キス――するとこだよな!!)


執事「お嬢……」スッ

お嬢「……!!」




姉姫「ちょっと待ったあああぁぁ!!」ガバッ

執事「うわああああぁぁぁぁ!?」ビクウウウゥゥゥッ

90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:46:08.32 ID:BWg893K70
お嬢「あら…まさか起き上がるとはねぇ」

姉姫「あーイタタ、起きるのつらぁ…。でも!! ブラコンとしては見逃せないのよね!!」

執事「な、何だ!? まだやろうってのか!?」

姉姫「やってみなさい。まぁお姉ちゃん、それで死んでゾンビになっても邪魔してあげるけどね」フフン

執事「怖ぇよ!!」

お嬢「さっきのが致命傷となって、貴方はもう戦えないはずよ」

姉姫「えぇそうね…だけど――」

姉姫は空に向かって手を掲げた。

姉姫「私には、やらなくちゃいけないことがあるのよ!!」パンパンッ

執事「しまっ……」

お嬢「何の魔法…!?」バッ

執事「空からバラバラと何か落ちてき――」

ポンポンッ

お嬢「……花?」

執事「花……だな」

姉姫「ふ、ふふふふ……――」


姉姫「2人とも、おめでとーっ!!」

執事「……は?」

お嬢「え?」

91 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:47:03.66 ID:BWg893K70
姉姫「ううぅ…お姉ちゃん悲しいなぁ…。でも応援するからね!!」

執事「おい待て…何のことだよ」

姉姫「え、だって2人は両思いなんでしょ? だったら結婚するでしょ?」

お嬢「……はい?」

執事「け、けけ結婚!?」

姉姫「さっき邪魔したのは、お姉ちゃんは順序にうるさいからよ。キスは正式に婚約してからにしなさい」

お嬢「話がぶっ飛びすぎてて、理解できないんだけど……」

執事「さっきまで命狙ってた相手と弟の結婚を認めるとか!? あっ、もしかして今までのは茶番かよ!?」

姉姫「いいえ? 魔法使いちゃんのことは本気で殺す気だったし、ボクちゃんを倒す気もあったわよ」

執事「だったら何で!?」

姉姫「だって。ボクちゃんは魔法使いちゃんを逃がす為に諦めず戦った。そして魔法使いちゃんはボクちゃんを見捨てずに戻ってきた。それって、本物の愛じゃない?」

執事「……っ!」ボッ

姉姫「本物の愛を見せられたんじゃあ、認めるしかないわよ。…私にとって世界征服は大事だけど、ボクちゃんの幸せの方がもっと大事だもの」

お嬢「お義姉様……」

執事「おい、受け入れんなよ……ツッコミ所満載じゃねーか…」

姉姫「そうね。まぁ人間への報復は、別の形で行うことにするわ」

執事「いやそういうことじゃなく」

お嬢「人間への報復と言いましたね。別の形とは?」

姉姫「ふふ、そうねぇ……」


姉姫「英雄…魔法使いちゃんを、この世界から奪うことかしら」

お嬢「……え?」

執事「お嬢を…この世界から奪う?」

92 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:47:37.72 ID:BWg893K70
姉姫「ボクちゃん。パパがこの世界を征服しようとした理由を覚えている?」

執事「あぁ。魔界では勢力争いが激化していて、危険地帯と化していたからな。だから親父は魔界を脱し、異世界であるここを征服しようとした」

お嬢「あらそうだったの。…私達にとっては、とんだ迷惑な話ね」

執事「そうだな……。それは否定できない」

お嬢「あら、逆恨みで復讐しようとした頃から大分成長したじゃない」

執事「うるせーよ」

姉姫「パパが討たれてから5年…その間、私は魔界の荒くれ者と日夜戦闘を繰り返し、レベルアップを図っていたわ」

お嬢「随分アグレッシブなお姉様ね」

執事「うん、生まれながらの戦闘民族」

姉姫「これだけレベルアップしたのだから、パパの悲願を達成しようかと思ったけど……事情が変わったわ」

執事「ふーん…それで、どうすんの?」

姉姫「言ったでしょ、魔法使いちゃんをこの世界から奪うって」

姉姫はそう言うと、お嬢の手を両手で握った。

姉姫「一緒にやりましょう魔法使いちゃん……魔界の制覇を!!」

お嬢「……!!」

執事「………は?」

93 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:48:06.74 ID:BWg893K70
姉姫「魔法使いちゃんが味方になってくれれば、魔界制覇も夢じゃないわ。広がる夢は無限大!!」

執事「待てええぇぇい、荒くれ者が集う魔界を制覇なんて並大抵じゃねーぞ!?」

姉姫「ボクちゃんは魔界が怖くて逃げ出しちゃった子だもんねぇ~」

執事「言うな!!」

姉姫「並大抵じゃないから、やり甲斐があるのよ。魔界の王として見下ろす景色は……きっと最高よ」

お嬢「確かに見てみたいわね…その最高の景色」

執事「お嬢!?」

お嬢「正直、こっちの世界に退屈してたのよ~。天才ゆえに、やり甲斐のあることが見つからなくてね」

執事「けど……お前はこの世界に必要な英雄だろ」

お嬢「知ったことじゃないわ!!」

執事(えー)

姉姫「そうと決まれば善は急げ、ね」

お嬢「そうですね。あ、でも一旦家に戻って、荷物をまとめたいですね」

執事「本当に行くのかよ……。未練も何もないんだな」

お嬢「あ、執事。適当な言い訳の手紙書いて、王様に出しておいて」

執事「しかも面倒なことは俺に丸投げかい!?」

お嬢「えぇ。だって貴方は私の執事なんだから。当然でしょう?」

執事「……そうだけど、違うだろ」クイッ

お嬢「!」


執事「お前は俺の……可愛い奥さんになるんだろ?」

お嬢「……ふふっ。貴方の方が可愛いわよ?」

執事「だから、褒め言葉になってねーし」

お嬢「だから、褒めてないし」

姉姫(ううぅ……イチャイチャを間近で見ると、やっぱり妬いちゃうなぁ……)

94 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:48:36.25 ID:BWg893K70
>お嬢の屋敷


お嬢「この服と、この服と~……」

執事「もうカバン3つになったぞ。まだ持っていくのか?」

お嬢「当たり前よ! 魔界には私の趣味に合う衣装屋あるかわからないし、なるべく沢山持っていきたいわ!」

執事(ま、いいけど……ん、そういや)

執事「お嬢ってピンクの服、全然持ってないんだな」

お嬢「あら。女ならピンクだろ、って決めつけ~?」

執事「そうじゃねーよ。……お嬢に似合う色だと思ってるから」

お嬢「……初めて言われたわ」

執事「嘘じゃない。その…お嬢は可愛いのが似合うと思うし……」

お嬢「……」

執事(ああぁ、上手い言葉が見つからねえぇ!!)

お嬢「ねぇ執事……ちょっと、待っててくれる?」

執事「え? ……あ、うん」

95 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:49:03.60 ID:BWg893K70



お嬢「お待たせ」

執事「お……」

お嬢が着替えてきたのは、いつぞや執事が選んだピンクの服だった。

執事「初めて見たわ、それ着るの」

お嬢「……だって、着てなかったもの」

執事「わざわざ俺に選ばせたのに? 何で今まで着なかった?」

お嬢「だって……」モジモジ

執事「?」

お嬢「せっかく選んでくれたのに、いざ着てみて似合わなかったら……ガッカリするでしょ?」

執事「…………」

96 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:49:37.33 ID:BWg893K70
執事「お嬢っ!!」ギュー

お嬢「きゃっ!?」

執事「ガッカリするわけないだろ、可愛いよお嬢、すっげー可愛い!」

お嬢「~っ、連呼しないでよ!!」

執事「ほほ~、案外攻められると弱いんですねぇ~?」

お嬢「……Mな受けメンのくせに、生意気」ジトー

執事「そうやって強がってしまう所も可愛らしいですね、お嬢様」

お嬢「~っ……」

執事(よしよーし、ようやくお嬢のツボがわかってきたぜ……って、ん?)

フッ

執事「うわ、部屋の灯りが……ランプの火が消えちまったか?」

お嬢「………」

執事「暗いな……お嬢、大丈夫か?」

お嬢「言ったはずよ。暗いのが怖いんじゃない。……暗闇に1人が怖いんだ、って」

執事「そうだったな……今は俺がいるもんな」

お嬢「えぇ……そうねぇ~」

執事(……? 今、声が何か嬉しそうな……)

モゾモゾ

執事「……へ?」

97 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:50:15.47 ID:BWg893K70
執事「何も見えなくて手探りか? 俺の服を乱してるぞ?」

お嬢「見えてるわ。暗視の魔法を発動したから」

執事「あ、そうなんだ……って、じゃあわざとやってるの?」

お嬢「えぇ勿論」

執事「えーと……何でかな?」

お嬢「何でって。生意気なわんこに対するしつけよ、しつけ」

執事「しつ、け……?」

お嬢「あぁ、もどかしいわ!!」

ビリビリッ

執事「!!?!? 何で破るの俺の服!?」

お嬢「丸見えよ」

執事「ちょっ、見るな!! 何をする気で……」

お嬢「私ねぇ、貴方に主導権握らせる気はないのよねぇ~」

執事「え、えーと……?」汗ダラダラ

お嬢「だから……」

執事「……!!」

お嬢「……いただきますっ!!」ガバッ

執事「いやあああぁぁぁぁ!?」


その夜のことは、俺とお嬢だけの秘密である。

98 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:50:46.41 ID:BWg893K70
>魔界


姉姫「覇ああぁぁ――っ!!」

お嬢「喰らいなさい!!」

ドカアアァァン

お嬢「やりましたね、お義姉様! 敵の城が木っ端微塵だわ!」

姉姫「えぇ、守りを失った敵はこちらに降伏するでしょう」ニヤリ


執事「毎日毎日、楽しそうだな」

お嬢「えぇ楽しいわ。刺激的な毎日って最高」

執事「俺の思っていた以上にアブない奴だった……」

お嬢「そんなことはどうでもいいわ。執事、今日のおやつは?」

執事「クッキーを焼いた」

お嬢「やり直し」

執事「お嬢様、クッキーで御座います。紅茶と共にお召し上がり下さい」

お嬢「よろしい」

執事「なぁ…俺は永遠に執事プレイをしなきゃいけないのか?」

お嬢「そうねぇ……魔界に来てから、別の萌えも発見したわ」

執事「ほう?」

お嬢「騎士とかどうかしら。私をオークに見立てて『くっ殺せ』とかやるの」

執事「……執事のままで良いです」

99 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:51:17.00 ID:BWg893K70
お嬢「見なさい執事、この魔界の景色を」

執事「?」

お嬢「貴方がかつて恐れをなしたこの世界を…いつか必ず征服して、貴方に安らぎを与えてあげるわ」

執事「男前すぎて反応に困る」

お嬢「だけど、これから先は見えない暗闇に包まれているわ。だから……」ギュ

執事「っ」

お嬢「私が歩いていくには、貴方の支えが必要なのよ」

執事「……」グッ


時にいじめてきて、時に甘えてきて……


執事「任せな。いつでも、側で支えているから」

お嬢「えぇ!」


俺はすっかり、この"お嬢様"に心を支配されていた。
そんなところがやっぱり――


執事「魔王よりお嬢様の方が怖い」


Fin

100 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/04/01(金) 18:51:45.78 ID:BWg893K70
ご読了ありがとうございました。
プロット段階では重々しい話だったのですが軽くなりました。変態成分て素晴らしい。


過去作こちらになります
http://ponpon2323gongon.seesaa.net/

105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/01(金) 19:00:03.47 ID:zbEGQC5pO
posted by ぽんざれす at 19:17| Comment(2) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【ブログ限定連載】暗黒大陸学園すちゅーでんつ☆【第1話】

今日から何と、このブログで連載が始まります!
その名も暗黒大陸学園すちゅーでんつ☆

これは当ブログにあるssをクロスオーバーさせて学園パロをやるという、ゆる~いオムニバスであります!

さてさて、今日はその第一回をご覧下さい

・見方
キャラの台詞の後に、そのキャラが出ているssのリンクが貼ってあります。
キャラ名が同じ色のキャラ同士は、同じ作品に出ているキャラ同士です。




朝の挨拶

>校門前

魔道士「チャオ☆ チャオ☆ チャオ☆」(→魔道士「僕のお嫁さんを召喚するよ☆」

村娘「ちゃ、ちゃお?」(→勇者「俺はヒーローになれなかった」

魔道士「今週は生徒会による挨拶週間だからね。チャオ☆」

村娘「ちゃ、ちゃおだす! こりが都会の挨拶かぁ…」

勇者「いや信じないでね」




学園のマドンナ

猫耳「魔姫のお通りだにゃ~」(→魔姫「捕まえてごらんなさい、色男」

ハンター「…何で俺が荷物持ちなんかせねばならんのだ」

魔姫「悪いわね3人とも」

勇者「下僕として当然ですッッッ!!」

(くっ、男3人もはべらせて…見てなさい、私だって負けないわ!!)(→姫「勇者に魅力を感じない」

(…けど暗黒騎士、悪魔、魔王子……この学校のカッコイイ男子はほとんど恋人がいるわ…だ、誰かフリーの相手は…)



「さぁ、行きますよ」

勇者「…はぇ?」(→介護ヘルパーシリーズ

魔王「ふがー」

ヘルパー「姫ちゃん、お世話してくれてありがとうねー」ニコニコ

(違う…何か違う)シクシク



食堂

町娘(私は町娘。この学園の食堂で働いているの)(→魔道士「僕のお嫁さんを召喚するよ☆」

悪魔「イエエェイ、生肉ウウゥゥッ!!」ガツガツ(→魔術師「勇者一行をクビになりました」

町娘(流石、学生さんは食いっぷりがいいわねぇ…)

「ハフッ、ハフッ!!」(→奴隷少女「私を、守って下さい…」執事「それが貴方の願いならば」

町娘(…がっつきすぎ?)

「ううぅ…美味しい、久しぶりのごはん美味しい」グスグス(→王子「囚われの姫君に恋をした」

町娘(な、泣く程?)

魔道士「チャオ☆ 町娘ちゃん、日替わり定食あるかな?」

町娘「あ、完売です」

魔道士「Oh…」



食堂その2

町娘「……」(→魔道士「僕のお嫁さんを召喚するよ☆」

少女「困りました」(→神様「勇者も魔王もいなくなった世界で」

神様「えぇ、本当に困りました。まさか貴方が食券すら選べない方であったとは」

少女「わからないのです、私のお腹が欲しているものを」

神様「では値段で決めるというのは如何でしょうか? 財布と相談…それもまた選択方法の1つ」

少女「それが…今日はお財布にお金が沢山入っているので…」

神様「おやおや。富むということは選択肢が増えることであり、時として混乱を招く…実に興味深い」

町娘「……」


魔道士「チャオ☆ 町娘ちゃん、ここでの仕事はどうかな?」

町娘「この学校、変な人多すぎです」



イチャイチャ

暗黒騎士「おい。これ、お前が提出したんだろう」(→勇者「もう勇者なんてやめたい」

勇者「えっ? …あぁっ!! 暗黒騎士様との交換日記ぃ!? 理科のノートと間違えたあぁ!!」

暗黒騎士「どこをどう間違えた、阿呆」コツン

勇者「きゃうん」

魔王子(…いいなぁ、頭をコツン)(→姫「魔王子との政略結婚」



「魔王子様、お弁当作ってきました♪」

魔王子「姫様ぁ~、こんなにでっかいハートの弁当を教室で広げられるわけないだろ~」

「あっ…それもそうですね」

魔王子(頭をコツン、頭をコツン…)

魔王子「……」

魔王子「駄目だああぁぁ、姫様にそんなことできないっ!! そんなところも可愛いよ姫様ああぁぁ」ギュウゥゥゥ

「もぉ~魔王子様ったらぁ」

暗黒騎士「……本物の阿呆」ゴンッ

魔王子「あだぁ!!」



僧侶先生とヘルパー先生

僧侶「今日は科学実験をしたいと思いますー」(→僧侶「貴方を待ち続けて」

ヘルパー「私が僧侶先生の補助をするねー!」(→介護ヘルパーシリーズ

僧侶「えーと薬品の蓋を開けて…」ツルッパリーン

ヘルパー「あららー、こぼしちゃったねー! いいよー、私が拭くから気にしないでねー!」

僧侶「素早く混ぜてー…」モワモワモワモワモワ

ヘルパー「僧侶さーん、素早さが足りないぞー! よし、ここは私に任せて!」

僧侶「でー…あ、換気しとくの忘れてましたー」

ヘルパー「大丈夫! 私がやっておいた!」グッ

魔人(補助ってより介護…)



覗き

神界の騎士『次は体育だぜ、ほら早く着替えないと間に合わないぞ!』(→勇者「パーティーでのカーストが最下位でつらい」

勇者「あ、制服の下に体育着着てきたんですよ」

神界の騎士『カアアァァ~ッ、お兄さんが求めているのはそういうことじゃないんだ!』

勇者「えっ?」

神界の騎士『女子更衣室に突撃かまそうぜ! レッツゴー、女だらけの桃源郷!』

勇者「だ、だだ駄目ですってーっ! わあぁ、足が止まらないーっ!!」

キャーッキャーッ

神界の騎士『…? 何か騒がしいな』

勇者「フハハハハッ!! 女達の嬌声を受けて、俺のエクスカリバーは成長するッ!!」(→側近「女だらけの魔王城に全裸の勇者が突撃してきた」

勇者「キャアアアァァァァ!!!」

神界の騎士『………』

勇者「さぁ、喰らえ! 性剣エクスカリ…」

神界の騎士『…オラッ』ゲシッ

勇者「!!!」チーン パタッ

神界の騎士『ばーか』



覗き2

王子「この学校は可愛い女子が多いが、同時に腕の立つ女子も多い…故に覗き行為はバレ次第、即抹殺という危険を伴う。しかし俺には奥の手がある」(→姫「王子の代わりに戦う使命を負った」

王子「その名も…女装作戦ッ!!」バーン

王子「女装は済ませた! あとは女子更衣室へ向かうのみだ!!」タッタッ

オーク「待て。お前…男だろう?」(→魔術師「勇者一行をクビになりました」

王子「!?」

オーク「人間の目は誤魔化せても、性欲の権化たる俺の鼻は誤魔化せんぞ…フヒッ」

王子「性欲の権化…そうだ、協力しないか? お前も女の着替えが見たいだろう?」

オーク「勘違いするな…」

王子「え?」

オーク「俺が興味あるのは…男の肉体だっ!」ガバッ

王子「え、ちょ……」

<アッー

魔術師「? 何の声でしょうね」

「さぁ」



いじめ

先代(理科室でいじめが行われていると匿名の手紙が届いた…これは教師として見過ごすわけにはいかん)(→先代勇者「あの時のツケがやってきたか…」

先代(現場を押さえるぞ!)ガラガラッ

悪魔「イャハハハハ、人体実験イエエェイ!!」(→魔術師「勇者一行をクビになりました」

不死者「あぢ、あぢぃっ! やめろおおぉぉ!!」(→魔女「不死者を拾いました」

先代「……」

先代「何だ実験か。死なないから大丈夫だろう」

不死者「そういう問題じゃねぇ!!」



コンプレックス

勇者「この学校って小柄で可愛い子が多いよね…。ハァ、私なんてこんなに大柄だし…」(女勇者「勇者よりも、お姫様になりたかった」

「私だって男装しても違和感ない体格ですけど、コンプレックスに思っていませんよ」(→姫「王子の代わりに戦う使命を負った」

勇者「私、彼氏より大きいんだよねー…」

「でも精霊君はそんな勇者のことが好きになったのでしょう?」ポンポン

勇者「あ、あれ姫の彼氏」


飴売り「賢者先生は小さくて可愛いな~。飴でも食いますか~?」デレデレ

賢者「こーらっ、おばさんを可愛いとか言うんじゃありませんっ」(→アラサー賢者と魔王の呪い

「…ほう……?」ゴゴゴ

勇者(うわー…知らないっと)



コンプレックス2

>女子更衣室

令嬢「……ねぇ乙女さん」(→勇者の娘「お父様の仇を討ちます」

乙女「……何でしょう」(→乙女ゲープレイヤー「魔王を攻略しよう」

令嬢「女の価値は胸じゃありませんよね?」

乙女「逆に考えればいいのですよ、貧乳はステータスだと」

令嬢「そうですね! 巨乳が何だっていうんですか!」ガシッ

乙女「そうですよ! この歳までこの大きさを保てているのは、かえって凄いことなんですよ!」ガシッ

ガチャ

賢者「きゃあ大変、急いで着替えないと準備間に合わないわ~」バタバタ(→アラサー賢者と魔王の呪い

令嬢乙女「……」

賢者「じゃ、体育館で待ってるわねー」

令嬢乙女(負けた…子供に負けた)



貴公子

悪魔「いよぅ勇者アァ! オラッ!」ズリッ(→魔術師「勇者一行をクビになりました」

勇者「ギャアアァァ!!」

悪魔「イャハハハ、相変わらずの粗チンでえぇ!! げひゃひゃひゃひゃ」


勇者「ううぅ…もう露出は嫌だぁ…」

魔王子「おやおや、男の涙とは美しくないね」(→魔王子「僕が美しすぎて世界征服とかどうでもいい」

勇者「ハッ! 貴方は全裸の貴公子こと、魔王子!」

魔王子「生まれたままの姿を恥じる必要なんてない…パーフェクトビューティ魔王子フラーッシュ!!」

女戦士&魔法使い&僧侶「「「キャーッ、魔王子様ーっ」」」

勇者(何て神々しいんだ…よし、俺も!!)

勇者「皆ぁ、俺のありのままの姿を見てくれーっ!!」



悪魔「勇者が停学になったみてェだぞ」

魔術師「な、何があったんでしょうかねぇ…?」



介護実習

ヘルパー「今日は介護実習を行いますよー。皆ぁ、自分のおばあちゃんだと思って優しくしてあげてねー!」(→介護ヘルパーシリーズ

魔女「おばあちゃんじゃないもん…うぇっ、ひっく」(→魔女「不死者を拾いました」

ヘルパー「このように感情コントロールがきかなくなるのも認知症の特徴で…」

魔女「調合もよく失敗するけど、認知症でもありません~!!」ビエーン



文化祭・ステージ練習

僧侶「文化祭ではステージで歌を歌ってくれませんかー」(→僧侶「貴方を待ち続けて」

「まぁ先生、私なんかが…? ふふ、ご期待に沿えるように頑張りますね♪」(→姫「勇者に魅力を感じない」

(学校でもトップクラスの美人で美声の持ち主である私がステージの主役とは、まぁ意外性もないわね)

僧侶「楽器担当は…笛吹き君、お願いしていいですかー」

笛吹き「了解した」(→姫「ボクの名は姫! 誇り高き勇者の血を受け継ぐ者!」

ブッピョリポリョリ~ン♪

「…………」

僧侶「歌って下さい、姫さん」

「無理です」



文化祭・模擬店

乙女「隣のクラスはメイドや執事のコンセプトカフェをやっているそうですね」(→乙女ゲープレイヤー「魔王を攻略しよう」

執事「お嬢様がメイドをされるなど…心配でたまりません」(→奴隷少女「私を、守って下さい…」執事「それが貴方の願いならば」

乙女「見に行ってみませんか? 私の彼と媛さん、シフトの時間が一緒のはずです」



「お、お帰りなさいませぇ、ご主人様にお嬢様ぁ! ご、ご注文は何にいたしましょ」アワアワ

乙女(オドオドしてて可愛い。バイト先にスカウトしたい)

執事「お嬢様にご奉仕頂くなど、やはりできません…。貴方に仕えることが私の喜びなのですから…」

「きゅぅー」

乙女(いいなぁ、乙女ゲーのワンシーンみたい)フフ

魔王「微笑んでいないでさっさと選べ。それともこの俺の執事姿に発情でもしたのか? やれやれ、いけないお嬢様だ」クイッ

乙女「ちょっとは執事らしくしろ俺様系」



オタトーーク

乙女「逃走プリンセスのアニメ、クオリティ高いですよね」(→乙女ゲープレイヤー「魔王を攻略しよう」

魔王「個人的には勇者×王子が推しだな」(→腐女子魔王「勇者マジ邪魔」

乙女「うぅーん…乙女ゲー原作なのでBLはちょっと…」

魔王「けど主人公が特定の男とくっついたとしよう。そしたら、他の攻略対象キャラはいずれ他の女と添い遂げるのだろう」

乙女「まぁ…そうですね」

魔王「そうなるより、攻略対象キャラ同士でくっついてくれた方がいいと思わんか?」

乙女「……」

乙女「それもそうですね」

魔王「乙女、騙されているぞ。可愛い奴め」フフ

悪魔「いや可愛いで済まされるもんじゃねーぞ……」



いかがでしたでしょうか?
作者の青春時代とは程遠い楽しい学園ライフ、頑張って連載していこうと思います


まぁ嘘だけどな。

アイプリルフールってことで楽しませて頂きました~、イャハハ☆
ネタを出すより色分けの方が大変でした(´・ω・`)
posted by ぽんざれす at 08:00| Comment(0) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年03月26日

新作スレ立てのお知らせ

SS速報VIPにて執事「魔王よりもお嬢様の方が怖い投下開始致しました。

"ある目的"の為、若い英雄である魔法使いの屋敷に使えることとなった新人執事。
執事とお嬢様の、一変変わった生活が始まる。

まぁまぁ変態です。
勇者魔王モノなのですが勇者魔王っぽくないのはいつも通りだから気にしない。

これだけは先に言っておきますが、この執事は受けです。

一週間くらいで完結予定。まとめ読み派の方はお待ち下さい。
posted by ぽんざれす at 19:10| Comment(0) | スレ立てお知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年03月20日

女勇者「アイドルから勇者に転身しました♪」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1458467371/

1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:49:41.76 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師(王様のご命令で、勇者様御一行の様子を視察しに来たけれど…)


中ボス「ガーッ」

勇者「きゃーん!」


戦士「ゆうちゃん危ない!」バッ

賢者「僕がゆうちゃん周囲に防護壁を張る! 2人とも、魔物をやっつけて!」

弓師「よしきた! 今すぐ片付けるから心配すんなよ、ゆうちゃん!」


勇者「ゆう、応援ソング歌うよー! 皆ぁ、拍手お願ーい!」

楽師「よし出番だ!」ポロロン♪

追っかけ「「ウオオオオオォォォ」」

~♪


王宮魔術師(何だこれ?)



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458467371
2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:50:25.60 ID:ngPDwe0M0
楽師「戦闘終了…」ポロロ~ン♪

勇者「皆ぁ、戦闘お疲れ様♪」ニコニコ

戦士「ゆうちゃんこそ、歌お疲れ様! はい、水!」

賢者「いいコンサートでしたよ、ゆうちゃん。僕のMPも回復しました!」

弓師「皆、ゆうちゃんに拍手だ!」

追っかけ「ゆうちゃーん」「ウオオオォォ」「最高ーッ!」


王宮魔術師「もしもし?」

賢者「あ、王宮魔術師さん。ごきげんよう」

王宮魔術師「只今の戦闘を拝見させて頂きましたが…」

戦士「いい歌だったろ。それに間奏の時のダンスも可愛いよな~」

弓師「俺、振り付け覚えた!」

王宮魔術師「えっと。現在パーティーの人数は…40名ほどですか?」

戦士「いや? 4人だぜ?」

王宮魔術師「…では彼は?」

楽師「ただの楽曲担当です。メインはあくまでゆうちゃんですので、私のことは気にせずに…」ポロン♪

王宮魔術師「それで、彼らは…」

追っかけ「俺らはただの追っかけです。ゆうちゃんと同じステージに立つなど、そんなのはおこがましい!」

勇者「皆、いつもありがとー♪ ゆうと皆はパーティーは違っても、心で繋がってるよー♪」

追っかけ「「ウオオオオォォォ」」

王宮魔術師「と、とりあえずパーティーに属してないことはわかりました」

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:51:01.68 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師「次に、パーティーにおける各々の役割ですが…」

戦士「俺は前衛での戦いや、力仕事を担当している」

賢者「僕は魔法全般と、情報収集等ですかね」

弓師「俺は後衛で2人のバックアップと、あと家事担当」

王宮魔術師「それで、勇者様は?」

勇者「歌です」ニコ

王宮魔術師「……」

戦士「一言で歌と言っても、ゆうちゃんの持ち歌は20を越える!」

賢者「状況によって歌やダンスを使い分け、我々の士気を上げる…その判断力、侮れません」

弓師「しかも、本番で失敗しない為に毎日練習を怠らないんだ。その頑張りっぷりには頭が下がるぜ」

勇者「皆も、いつも戦ってくれてありがとう♪」

王宮魔術師「ちょっと待て」

勇者「どうしたんですか~?」

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:51:42.86 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師「勇者様、背中に剣を背負ってますよね?」

勇者「そうそう、これかっこいいでしょ~♪ ファンの方に頂いたんです!」

王宮魔術師「それ、使ったことはありますか?」

勇者「勿論、ありますよぅ」

戦士「ゆうちゃんの剣さばきは見事なんだぜ!」

王宮魔術師「ほう。見せて頂いてもよろしいでしょうか?」

勇者「オッケー! ミュージック、スタート!」

王宮魔術師「…ミュージック?」

楽師「奏でます…"戦乙女は愛ゆえに"」ポロロン♪


勇者「♪花よ蝶よと言うけれど~、乙女の道は甘くない~」

追っかけ「「ハイ、ハイ、ハイハイハイッ!」」

勇者「♪そうよ剣は箸より重いけど! 戦うの、この茨道~」チャキ

王宮魔術師(あ、剣を抜いた)

勇者「♪行くわ私、愛の為に! 辛くて泣いちゃう時もあるけど、それは許してね~」シュッシュッ

追っかけ「「辛けりゃいいんだ泣いたってー!」」

王宮魔術師「……」

王宮魔術師(音楽が始まった段階で、踊りのフリで使うことは予想できてました)ハァ

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:52:22.61 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師「で、その剣で魔物を斬ったことはないんですね?」

勇者「やーん、そんなの怖くてできなぁーい!」

戦士「いいんだよゆうちゃん、魔物なんてのは俺がやっちゃるから」グッ

賢者「ゆうちゃんの剣は魔物を斬る為ではなく、癒やしの為の剣ですからね」

王宮魔術師「あのー…。貴方がたの旅の目的は?」

弓師「魔王を倒すことだろ?」

王宮魔術師「…で、"勇者"とは何だかわかっています?」

弓師「人々の英雄だろ?」

王宮魔術師「それで…その為に勇者様は何をすべきですか?」

勇者「頑張って歌います!」

追っかけ「「頑張れゆうちゃーん!!」」ウオオオォォ

王宮魔術師(ちっげーだろが…)ビキビキビキビキ

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:53:10.14 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師「すみません、少し勇者様と2人きりでお話しをしたいのですが」

戦士「おう、いいぜ。でも妙なことすんなよ」

賢者「まぁ王宮魔術師さんは女性ですから、ゆうちゃんに変なことはしないと思いますけど」

勇者「皆ぁ、ちょっと待っててね~♪」


勇者「それで、お話って何ですかぁ?」

王宮魔術師「…そりゃ、貴方は気の毒だとは思いますよ」

勇者「はい?」キョトーン

王宮魔術師「全国を渡り歩いてアイドル活動していた所で、神託により勇者に選ばれ、魔王討伐の責務を背負わせてしまった境遇…同情はします」

勇者「そんなそんな! 全然、気にしてませんよぅ!」ブンブン

王宮魔術師「ですがね、もう少し勇者としての自覚を持って頂きたいのです」

勇者「勇者としての自覚…ですかぁ?」

王宮魔術師「例えば弱い魔物相手でいいので、修行するとか…」

勇者「やぁ~ん。ゆう、乱暴なことするのはイヤー。それに戦うのは戦士君達がやってくれるしぃ~…」

王宮魔術師「いい加減にしなさい」

勇者「っ!」ビクッ

王宮魔術師「魔王討伐の旅は道楽じゃないんです。人々を救う為、貴方にも本気になって頂かないと困るのですよ」

勇者「……」

勇者「…うふふっ」

王宮魔術師「? 何がおかしいのですか?」

勇者「だってねーぇ…」

勇者「おバカな男の人を手玉に取って利用することの何がいけないんですかぁ?」クスクス

王宮魔術師「」

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:53:53.35 ID:ngPDwe0M0
勇者「王宮魔術師さん、知ってますぅ? 戦士君も賢者君も弓師君も、最初はもっと弱かったんですよぉ」

王宮魔術師「ま、まぁ確かに…短期間でかなりのレベルアップをされているようですが」

勇者「それはね、ゆうが応援したから3人とも頑張ってくれたんですよぉ~」

王宮魔術師「そ、それなら貴方も頑張って…」

勇者「駄目ですよぉ。あの3人は、守るものがある方が燃えるタイプだもん。ゆうが強くなったら、萎えちゃうと思うなぁ~」

王宮魔術師「貴方は"勇者"なんですよ!?」

勇者「仲間の皆を強くして魔王を倒すのも十分アリだと思いますぅ」

王宮魔術師「仲間ばかり危ない目に遭わせて、罪悪感はないんですか!?」

勇者「そこは役割分担ですよぉ」

王宮魔術師「…仲間の方々に言いつけますよ」

勇者「女の嫉妬だと思われるのがオチですよ?」

王宮魔術師「……」

勇者「ふふっ」ニコッ

王宮魔術師「…よく、その本音を明かしましたね?」

勇者「女性相手にブリッコしても仕方ないじゃないですかぁ~」

王宮魔術師(この女…)

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:57:46.32 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師「しかし心配ですね。男性陣は皆、貴方を崇拝していて判断力が鈍っていないか…」

勇者「そうそう、皆おバカなんですよ~。あ、おバカってのは愛情表現であって、純粋という意味でぇ」

王宮魔術師「勇者様が大きな失敗をすれば、それが致命傷となりかねない…。それがひどく心配です」

勇者「んー、じゃあ~…王宮魔術師さんも旅に同行しますぅ?」

王宮魔術師「……え?」

勇者「知的で有能で若くして王宮付きになった王宮魔術師さんなら、心強いです~」ニコニコ

王宮魔術師(このブリッコが同性相手に媚びるとは…何を企んでいるの!?)ビクビク

勇者「それにぃ、同じ女の子のお友達も欲しかったしぃ」モジモジ

王宮魔術師(…見下し要員? 私のような冴えない女を側に置くことで自分の魅力を強調する気?)

勇者「ねぇ~? 皆おバカなんだもん、王宮魔術師さんも来て下さいよぉ~」ギュッ

王宮魔術師(そうですね…確かにこのままだと、パーティーの行く末が心配です)

王宮魔術師「わかりました、同行しましょう勇者様」

勇者「やったぁ♪ じゃあ、ゆうのことは"ゆうちゃん"って呼んで!」

王宮魔術師「ゆ、ゆうちゃん?」

勇者「それで私は王宮魔術師さんのこと…おねーさまって呼ばせて頂きますぅ~!」

王宮魔術師(おばさんって意味かしら…? まぁ、この子に比べればおばさんなんだけど…)

勇者「それじゃあ早速皆に挨拶しましょうねぇ、おねーさまぁ♪」グイッ

王宮魔術師「わわっ」

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:58:18.22 ID:ngPDwe0M0
>そして


魔物「ガルルル!」

勇者「きゃーん」

戦士「ゆうちゃんに手を出すんじゃねえええぇぇ!!」ズバアアァッ

魔物「ギャアアァァ」

勇者「怖かったぁ~。戦士君は頼りになるね!」

戦士「へへへへへ」

王宮魔術師(勇者様の叫び声ひとつで、ここまでやる気を出すとは…)


勇者「あ、弓師君。あの木になったリンゴが食べたいなぁ♪」

弓師「任せろ!」ビュンッ

勇者「わー、採れた! 弓師君、凄いすごぉい!」

楽師「腕を上げたな」ポロン♪

弓師「へへっ、ゆうちゃんの為よ!」

王宮魔術師(きっと本当に勇者様の為に頑張ったのでしょうねぇ)


賢者「ゆうちゃん! 今日は魔物を沢山倒したので、沢山ゴールドが貯まりましたよ!!」

勇者「わぁ、皆のお陰だねっ♪」

賢者「フフ…今日はスイートルームに泊まって下さい、ゆうちゃん!」

勇者「えぇ、いいのぉ!?」

賢者「勿論。あ、ゆうちゃんの大好きなショコラケーキを買う余裕もありますね」

勇者「やったぁ♪ ありがとう、ゆう嬉しいなぁ~」

賢者「何を言いますか。ゆうちゃんが1番頑張っていたじゃありませんか」フフン

王宮魔術師(勇者様の為に気持ちよく貢いでいる…)

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 18:59:00.15 ID:ngPDwe0M0
>風呂


王宮魔術師「身近で見ると、勇者様は本当に上手くパーティーの手綱を握っているのがわかります」

勇者「ゆうちゃんって呼んでって言ってるのにぃ~」プンプン

王宮魔術師「いえ…それは抵抗があると言いますか…」

勇者「おねーさまったら、奥ゆかしいんだからぁ」ウフフ

王宮魔術師「その『おねーさま』も、ガラじゃありませんし…」

勇者「でもでもぉ~。おねーさま、お胸おっきぃしぃ♪ いいなぁ、EかFくらいあるんじゃないですかぁ~?」

王宮魔術師「!!! ふ、太ってるからですよ…!」カアァ

勇者「そんなことなぁ~い。ぷにぷにしてもいいですかぁ~?」

王宮魔術師「や、やめて下さい! 私はもう上がりますよ!!」

勇者「おねーさまのいけずぅ~」

王宮魔術師「全く…」


王宮魔術師(意外となつっこくて…彼女をちやほやする男性陣の気持ちもわかってきてしまいます)

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:00:46.11 ID:ngPDwe0M0
>そして


勇者「みんなぁー、遂に来たよぉー。せーのっ」

追っかけ「「「魔王城オォォォ!!」」」

王宮魔術師(追っかけの数が最初の頃の倍以上になっている)

勇者「何だか雰囲気くらーい。ゆう、こわーい」

戦士「大丈夫だぜゆうちゃん、俺らが守る!」

賢者「そうです。ゆうちゃんはいつも通りに歌って踊ってくれればいいんですよ」

弓師「それにはゆうちゃん! 楽しもう!」

王宮魔術師「いや楽しんじゃ駄目だろ」

勇者「みんなぁー、ふぁいとー♪」

追っかけ「「「いっぱあああぁぁつ!!」」」

ウオオオォォォ

王宮魔術師(まぁ…皆やる気満々ならそれでいいか)

勇者「おねーさまも♪ ふぁーいとっ!」

王宮魔術師「え? は、はい。いっぱーつ…」

勇者「ふふっ、それじゃあ行きましょっ!」

王宮魔術師(明るいなぁ)

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:01:12.46 ID:ngPDwe0M0
>城内


幹部「貴様らが勇者一行か! 幹部の名にかけて、ここは通さ…」

追っかけ「引っ込めコラァ!!」「ゆうちゃんの邪魔すんのかコラァ!!」「踏み潰すぞオラァ!!」

幹部「!?」

王宮魔術師(これだけ数がいれば過激派も出てきますねぇ…)

勇者「皆ぁ、もっと心をピュアハートに染めて! それじゃ景気づけに一曲歌いまーす!」

楽師「"ファンタジックゆうちゃんパレード"」ポロローン♪

勇者「♪行け行け行け! ゴーゴーゴー! 進むぞ皆でレッツゴー!」

追っかけ「「「ウオオオオオォォォォ」」」ドドドドド

幹部「ぎゃあああぁぁぁ……」

~♪

幹部「」死ーん

王宮魔術師(狙って殺しにかかりましたね勇者様…恐ろしい方)


14 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:01:43.88 ID:ngPDwe0M0
勇者「♪この心のときめき止まらない~」

賢者「…! 向こうから強大な魔力を感じます」

戦士「ってことは魔王がいるのか!」

弓師「燃えてきたな…!」

王宮魔術師(追っかけの功績により、ここまで戦闘による消耗は避けてきた…これなら存分に力を出せますね)

勇者「皆ぁ、ここまでありがとー♪」

追っかけ「「「ゆうちゃあああぁぁん!!」」」

王宮魔術師(つーか追っかけ達が1番元気ってどういうこと)

勇者「それじゃあここでバラード行きます…"涙は未来への鍵"」

王宮魔術師「いや、はよ行け」

勇者「♪涙を堪える必要なんてない、明日はきっと笑えるよ~」

戦士「いい歌だよなぁ」ジワリ

王宮魔術師(仕方ない…曲が終わるのを待つか)


?「ほう、いい歌声だな」

王宮魔術師「――えっ?」

15 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:02:16.05 ID:ngPDwe0M0
ギギギ…

王宮魔術師「!! 扉が開いて…」

魔王「よくぞ来たな…俺に逆らう人間どもよ!!」

王宮魔術師「お前が魔王か…!! 人間に仇なす魔物の王よ、覚悟…」バチバチッ

魔王「まぁ待て。まだ勇者の歌が終わっていない」

王宮魔術師「え?」


勇者「♪涙は未来への鍵、希望の扉を開けるよ~」

賢者「ゆうちゃーん」ウルウル

弓師「希望の扉ぁーっ」涙ドバー


魔王「歌を邪魔するのは無粋であろう?」

王宮魔術師(な、何て大きな心の持ち主…)


勇者「皆ぁ、ありがとーっ」

追っかけ「「「ゆうちゃああぁぁん」」」ピューピュー

魔王「さて勇者よ」

勇者「さてバラードで泣いた後は…笑顔になれる曲、いっちゃおー!」

王宮魔術師「いい加減にしろ」

16 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:04:21.09 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師「ほら、魔王ですよ皆さん」

魔王「ふふ、我が魔王城で好き勝手してくれたな?」

戦士「い、いつの間に!!」

王宮魔術師「もし歌の最中に魔王に攻撃されてたら、全滅してましたからね?」


魔王「評判通り、可愛らしい勇者だ。それに男を虜にする歌声と舞…勇者にしておくには勿体無い」ニッ

勇者「…っ」

魔王「決めた…」

魔王はマントを広げ、戦闘態勢に入った。

魔王「勇者よ…お前をこの、魔王様のモノにしてやる!!」

戦士「あ?」

賢者「あ?」

弓師「あ?」

追っかけ「「「あ?」」」


王宮魔術師(全力で地雷を踏みましたね魔王…)

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:06:32.66 ID:ngPDwe0M0
戦士「すぉんなことさせるくぁwせdrftgyふじこlp;」

賢者「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」ブツブツ

弓師「へへへ…久々にクズ野郎の心臓を撃ち抜けるんですねぇ~ケケケケケケケ」

追っかけ「「「ウワアアアアアァァァァァァ」」」

王宮魔術師「いやちょっと皆さん錯乱しすぎでしょ」

楽師「恐らく相手が相手だからでしょう」ポロン♪

王宮魔術師「というと?」

楽師「見て下さい、魔王の顔を…どう思います?」ポロン♪

王宮魔術師「…まぁ美男子ですね。凛々しくて逞しい男の顔です」

楽師「対して、こちら陣営の男性陣の顔…どう思います?」ポロン♪

王宮魔術師「良く見積もってフツメンですね」

楽師「つまり…そういうことです」ポロロン♪

王宮魔術師「なるほど」

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:07:00.67 ID:ngPDwe0M0
戦士「ぶっ殺してやんよ魔王オオォォォ!!」ダッ

賢者「殺す殺す…"死の狂風"」ビュウッ

弓師「心臓ちょォだァ~い♪」ビュンッ

追っかけ「「「うおりゃああああぁぁぁぁ」」」ドドドドド

王宮魔術師「一気に行った…! これなら魔王も無事では済まない」


魔王「……フッ」バチバチッ

王宮魔術師「!! あの魔力は……!!」

魔王「喰らえ…"黒雷の旋風"!」

バチバチバリイイイィィィッ

王宮魔術師「くっ…勇者様、危ない!!」バッ

勇者「…っ!?」

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:07:29.87 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師「ハァ、ハァ…」


戦士「ううぅ…」

賢者「く……」

弓師「…ガハッ」

追っかけ「「「」」」ピクピク

楽師「あーこれ無理」パタッ


王宮魔術師「一擊で全員に致命傷を負わせるとは…カハッ」

勇者「お、おねーさま…そのダメージ…」

王宮魔術師「私は、大丈夫です…か弱い女の子にこんな魔法、喰らわせるわけにはいかないでしょう…?」

勇者「……!」

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:08:09.92 ID:ngPDwe0M0
魔王「ふふ…勇者よ。もう守ってくれる者はいないぞ?」

勇者「…っ」

王宮魔術師「お逃げ下さい、勇者様…!」

勇者「そ、そんな…そんなこと……」

魔王「怯えなくとも良い…俺はお前を傷つけん」ジワリジワリ

勇者「ひっ…」

王宮魔術師「おのれ魔王…! 勇者様に近寄るな……っ!!」バチバチッ

魔王「邪魔だ」ドォン

王宮魔術師「きゃあぁ!!」

勇者「おねーさま!!」

王宮魔術師「く…」


魔王「さぁ勇者よ――俺の手に抱かれるが良…――」



ざくり


魔王「……え?」

勇者「……」

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:08:36.92 ID:ngPDwe0M0
王宮魔術師「ゆ、勇者様…?」

王宮魔術師は目を疑った。
しかし目を凝らしても間違いなく、魔王の胸に剣を突き立てているのは勇者で――

魔王「はっ……? 馬鹿な、太刀筋が見え……」

勇者「身の程知らずとはこのことねぇ、魔王様ぁ?」ニコ

魔王「…は?」

王宮魔術師「へ?」

勇者「…だああぁれがテメェのモンになるかあああぁぁ!!」ズバアアアァァァッ

魔王「!!!!!」

勇者「この魔王様のモノにしてやる? あー気持ち悪い気持ち悪い、ふっざけんなああぁぁ!!」ズバババッ

勇者「多少顔が良くても、テメェはゲロ以下の汚い魔物なんだよ、ばあぁか、ぶわあああぁぁぁか!!」ズバッズバッ

勇者「って、顔をズタズタにしたら、なァんの価値も無くなりましたねええぇ!! ざまあああぁぁぁ!!!」ズシュウウウゥゥッ

魔王「」

王宮魔術師「ひいいいいぃぃぃ」ブルブル

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:09:05.24 ID:ngPDwe0M0
勇者「討伐完了、っと♪」フー

勇者「はい、おねーさま。これ、回復薬♪」

王宮魔術師「あ、あの」ガタガタ

勇者「ん? どうしたんですかぁ~?」

王宮魔術師「その豹変ぶりと腕前…何なんですか?」ブルブル

勇者「えぇ~っ? 何のことですかぁ~?」

王宮魔術師「いや、だから今の…」

勇者「…何のことですか?」マガオ

王宮魔術師「…何でもございません」

勇者「うっふふー♪ 皆にも回復薬ぅ~♪」

戦士「うーん…」

賢者「ハッ! ゆうちゃん、無事だったのですね!」

弓師「で魔王は…こ、この惨殺死体は……!!」

勇者「あのね、妖精さんが助けてくれたの~」

戦士「そうかそうか、妖精さんかぁ」

賢者「ゆうちゃんの歌声は妖精さんを呼びますからねぇ」

弓師「怖い思いさせてごめんな、ゆうちゃん」

勇者「えへへ。妖精さんに感謝だねっ!」

王宮魔術師(こんなスプラッタな妖精がいてたまるか…って言いたいけどやめとこう怖いし)

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:09:40.06 ID:ngPDwe0M0
こうして世界には平和が戻った。
今や世界の英雄となった勇者のコンサートは、チケットが即完売になる程の人気ぶりである。

勇者「♪皆の笑顔が見たいから~」

追っかけ「「「ゆうちゃーん!!」」」

王宮魔術師(VIP席のチケットを頂いて、来てみましたが…こうして見ると、勇者様の歌と踊りは惹かれるものがありますねぇ)


勇者「皆ぁ~! 実は今日は、ゆうからの大事なお話があるのー!!」

王宮魔術師「大事なお話?」

勇者「ゆう…アイドル活動を一旦、休止したいと思います!!」

ええええええぇぇぇ

戦士「何でだゆうちゃーん!」

賢者「せっかく平和が戻ったというのに!!」

弓師「どうしたの、体調不良!?」

勇者「実はね、ゆう…好きな人ができちゃったんだ」

えええええええぇぇぇぇぇ


王宮魔術師(恋をしながらのアイドル活動は、ある意味ファンへの裏切りですからねぇ…。ファンにとっては悲しいでしょうけれど)

勇者「そして実はぁ…今日、その好きな人を、会場に呼んじゃいましたー!!」

王宮魔術師(へぇ。あの勇者様の心を射止めるとは一体、どんな男性なのでしょうね)

勇者「私、貴方のことが大好きです…――」




勇者「王宮魔術師の、おねーさま」

王宮魔術師「…………は?」

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:10:08.20 ID:ngPDwe0M0
ウオオオオオオォォォォォ

勇者「おねーさまああぁ!!」ギュッ

王宮魔術師「え、ちょ!?」

勇者「あぁ、おねーさまぁ…ずっとこうしたかった…ハァハァ」ギュウウゥ

王宮魔術師「ちょ、どこ触って…! 勇者様!?」

勇者「おねーさまはずっと、ゆうのこと甘やかさないで厳しく叱ってくれたりして…それがゆう、嬉しかったの」スリスリ

王宮魔術師「あんっ、ちょっ…そこそんな風に触ったら…」

勇者「それにね、おねーさまは、ゆうのこと守ってくれた…その時からゆう、おねーさまのことが…」ペロペロ

王宮魔術師「ん、フゥ…っ」


戦士「そうか…ゆうちゃんに恋人ができるのはちょっと寂しいけど」

賢者「相手が女性なら、あまり嫌な気はしませんね」

弓師「応援すんよー! ゆうちゃああぁぁん!!」

追っかけ「「「うおおおおおぉぉぉ」」」


王宮魔術師(あぁ、もう何か…いいや)パタッ

勇者「ふふ、もう離さないわ。ゆうだけの、おねーさまぁ…♪」

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:10:58.12 ID:ngPDwe0M0
>そして


勇者「おねーさまぁ♪ 今日は肉じゃがを作って参りましたっ!」

王宮魔術師「あら、ありがとう。ここのところ魔術師研究で忙しくて、栄養が偏っていたのよ」

勇者「おねーさまったら、研究研究で、ゆう寂しい…」モミモミ

王宮魔術師「ちょっ、そこ揉まないで!」

勇者「栄養が偏っていても、おねーさまはスタイル抜群ね…」ウットリ

王宮魔術師「~っ……と、ところで貴方は最近、政治活動にも参加しているとか。ちゃんとやれている?」

勇者「えぇ。私のイエスマン…じゃなくて支持者は多いから、王様も私を無視できないみたいです」

王宮魔術師「そ、そう。ところで、どんな活動をしているのかしら?」

勇者「ふふ…勿論、同性婚を法律で許可してもらうんですよ」

王宮魔術師「ど、同性婚!? それって…」

勇者「この法案が通ったら、私とおねーさまは晴れて夫婦となれるのです…あぁ、素敵」

王宮魔術師「べ、別に法的な縛りにこだわる必要は…」

勇者「そして法案が通れば、王宮の魔術師チームには同性同士で子供を作る方法を研究して頂くつもりです」

王宮魔術師「!!?」ブッ

勇者「ゆう、おねーさまとの子供が欲しいんですぅ…2人で一緒に産みましょう?」ギュウ

王宮魔術師「ちょっ、離…」

勇者「ダ~メ。おねーさまがゆうのワガママを聞いてくれる方法、わかってるも~ん」ペロペロ

王宮魔術師「あん…っ」


アイドル活動を休止した勇者だが、後に彼女らは国で第一号の同性夫婦となり、国民的夫婦となる。だがそれは、また別のお話。


FIN

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/20(日) 19:11:37.77 ID:ngPDwe0M0
ご読了ありがとうございました。
可愛いは正義。

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/20(日) 19:19:33.64 ID:Sfnk6H0uo
妖精さんすげー
乙でした

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/20(日) 19:34:23.73 ID:xWeexI6JO
面白かった


29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/20(日) 19:48:21.64 ID:fcNkykVC0
ぅゎょぅせぃっょぃ

31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/20(日) 20:14:43.71 ID:8HQwfbRx0
妖精って強いんだなぁ

32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/20(日) 20:17:35.28 ID:jWvJRVAxo
ようせいさんならしょうがないな


33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/20(日) 20:25:16.71 ID:5Ef0H5oLO
斬新なチート勇者だった
そして意外といい子だった
posted by ぽんざれす at 19:40| Comment(2) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年03月14日

ホワイトデースピンオフss

ssのタイトル名をクリックすると、そのssのスピンオフまでとびます。

勇者「もう勇者なんてやめたい」

勇者の娘「お父様の仇を討ちます」

魔術師「勇者一行をクビになりました」

姫「王子の代わりに戦う使命を負った」

魔道士「僕のお嫁さんを召喚するよ☆」

姫「魔王子との政略結婚」

王子「囚われの姫君に恋をした」

女勇者「勇者よりも、お姫様になりたかった」

魔王子「僕が美しすぎて世界征服とかどうでもいい」

魔女「不死者を拾いました」

アラサー賢者と魔王の呪い

魔姫「捕まえてごらんなさい、色男」

奴隷少女「私を、守って下さい…」執事「それが貴方の願いならば」

乙女ゲープレイヤー「魔王を攻略しよう」

神様「勇者も魔王もいなくなった世界で」

勇者「パーティーでのカーストが最下位でつらい」






勇者「もう勇者なんてやめたい」

勇者「いいお天気~…ふわぁ」

暗黒騎士「おい」

勇者「ひゃいっ!?」ビクッ

暗黒騎士「今日は何の日か知っているな?」

勇者「え、えっ!? えぇと、えぇと…」アタフタ

暗黒騎士「…2月14日は何だった?」

勇者「………あ」

暗黒騎士「そういうわけだ。受け取れ」

勇者「わぁ、可愛い包装ですねぇ~」

暗黒騎士「あぁ、お前が好みそうなものを選んだ」

勇者「私の為にありがとうございます~。…ふふっ」

暗黒騎士「どうした?」

勇者「いえ。暗黒騎士様がこれを買う様子を想像したら…ふふふっ」

暗黒騎士「……阿呆」コツン

勇者「きゃんっ」

貰ったもの→プチセレブな香水




勇者の娘「お父様の仇を討ちます」(1/2) (2/2)

令嬢「…ホワイトデー、ですか?」

暗黒騎士「あ、あぁ」ドキドキ

令嬢「あ、ありがとうございます…」

暗黒騎士「じゃあ、俺は行くから!」

令嬢「…行ってしまった。さて中身は…あら髪飾り」



暗黒騎士(こういうイベントは馴れていないんだって…)壁ドンドンッ

令嬢「あなた」

暗黒騎士「!!!」

令嬢「…つけてみたんですが……どうですか?」

暗黒騎士「あ、あぁ。…いいぞ」

令嬢「でも…少し派手じゃないですかね?」

暗黒騎士「いいんだ。…お前につけてほしかった」

令嬢「…あ、あの!」

暗黒騎士「な、何だ?」

令嬢「せっかくですし…これをつけて一緒にお出かけしたいと思いまして」

暗黒騎士「えっ!?」

令嬢「……さぁ、行きますよ!!」グイッ

暗黒騎士(照れくさい……)

貰ったもの→金色の髪飾り(羽モチーフ)




魔術師「勇者一行をクビになりました」

悪魔「魔術師ちゃ~ん! 愛してるゥッ!!☆ミ」

魔術師「え!? ぁ、は、はい!?」

悪魔「ホワイトデーだからァ…俺様からの愛を受け取って魔術師ちゃ~ん!」

魔術師「ぇと、これは…わあぁ、可愛いドレス…!!」

悪魔「やっぱ魔術師ちゃんは俺様のお姫様だしィ~。ねぇねぇ、着てよォ」ジー

魔術師「も、もう悪魔さんたら…」テレテレ



魔術師「ぉ、お待たせしました…」

悪魔「」

魔術師「ぁ、悪魔さん?」

悪魔「もうダメだ…あまりのキュートさに、死ぬ……」ガクッ

魔術師「悪魔さん!? だだ誰か蘇生魔法をおおぉぉ!!」

暗黒騎士「また馬鹿やっているのか」

魔術師「うええぇ、悪魔さぁん」グスグス

暗黒騎士「落ち着け、そいつがそう簡単に死ぬわけない。というか珍しい格好だな」

魔術師「ぁ…これ、悪魔さんに頂いたんです……」

暗黒騎士「そうか。どうせなら見せて回ってきたらどうだ、皆の目の保養に…」

悪魔「ダメエエエエェェ!!」ガバッ

魔術師「生き返った!!!」

悪魔「魔術師ちゃんは俺様のー!! あまりに可愛くして皆の目を引いたらヤダヤダヤダー!!」ジタバタジタバタ

魔術師「もう…悪魔さんたら」ポッ

暗黒騎士(…どこに惚れる要素があるんだ?)

貰ったもの→ドレス(ピンクのロリータ系)



姫「王子の代わりに戦う使命を負った」(1/2) (2/2)

飴売り「なぁ姫さん知ってるか?」

姫「何でしょうか」

飴売り「ホワイトデーのお返しのお菓子には意味があってさ。マシュマロには「お断り」、クッキーには「お友達」って意味があるんだぜ」

姫「へぇ…知りませんでした」

飴売り「それで俺が姫様にお返しするのは…コレっ!!」

姫「まぁ、宝石のような飴ですね。手作りですか?」

飴売り「そーよ! 味付けも見た目も包装も頑張ったんだからな~!」フフン

姫「ありがとうございます、大事に頂きます」

飴売り「それでさっきの話の続きだけど、飴の意味は……」

姫「あら美味しい」

飴売り「でしょでしょ~! 飴作りに定評のある飴売りさんだからな!」ドンッ

姫「何か癪ですね」

飴売り「えええぇ何で!?」

姫「私よりお菓子作りが得意だなんて、飴売りのくせに生意気」

飴売り「ハハ、飴だけだって~。それで飴の意味は…」

姫「はい、味のおすそ分け」チュッ

飴売り「」

姫「貴方が私に送るメッセージなんてわかっていますよ。本命、でしょう?」

飴売り「は、はは…姫さんたら」

貰ったもの→手作りの飴




魔道士「僕のお嫁さんを召喚するよ☆」

魔道士「町娘ちゃん、お金が沢山あったら何に使う?」

町娘「貯金ですね」



魔道士「助けて~、弟君~」

弟「お姉ちゃんは欲がないからなぁ」

魔道士「僕としては絶品チョコレートケーキのお返しをしなければ気がすまないのだけれど…」

弟「うーんと…あ、そうだ」



魔道士「チャオ☆ 町娘ちゃん、今日は何の日かな?」

町娘「ホワイトデーですか?」

魔道士「Oh!? 一発正解とは予想外だよアハ~ン…」

町娘「そりゃ一般常識ですから。気を使って下さらなくても大丈夫でしたのに」

魔道士「そういうわけにはいかないよ。はい、これ」

町娘「これは…あっ」

魔道士「弟君から預かった、壊れたオルゴール。直しておいたよ★」

町娘「…ありがとうございます。これ、両親の形見で。本当に嬉しいです」

魔道士「それは良かった☆ あと、町娘ちゃん」

町娘「はい?」

魔道士「気を使わなくてもいい、なんて言わないで…。僕が町娘ちゃんにしてあげることは…全部、僕がやりたいことなんだから、さ…」

町娘「魔道士さん……」

魔道士「………」

町娘「だから、何で真面目になったら喋れなくなるんですか!? いや今日は頑張った方ですけど!」

貰ったもの→大切な思い出のオルゴール




姫「魔王子との政略結婚」(1/3) (2/3) (3/3)

魔王子「フッフッフ…今日はホワイトデー。この日の為に俺は…!!」

<コケコッコー

魔王子「昨晩から国1番の製菓店に徹夜で並んでいるッ!! 狙うは『先着10名様限定ホワイトデーギフトキャンディー』!!」

店主「ま、魔王子様!? おっしゃって下されば特別にご用意していたのに…」

魔王子「そういうわけにはいかん…。ホワイトデーの競争は王族も平民も平等だろ、なぁ?」

店主(何という…男前!!)



魔王子「ふわ~あ…城に戻ってきたはいいけど、姫様は外出中かぁ。眠くなってきた…」

魔王子「クカークカー」

姫「只今戻りまし…あら、魔王子様。戻られて眠っていらっしゃるのね」

姫「……」



魔王子「むにゃむにゃ…ふぁ~よく寝…」

姫「あら、お早いお目覚めで♪」

魔王子「!!! 姫様の…膝枕!?」

姫「いつもお疲れ様です魔王子様。ふふ、魔王子様の寝顔をゆっくり拝見できました」

魔王子「~っ!!」ガバッ

魔王子「ひ、姫様…これ、ホワイトデー!!」ドキドキ

姫「まぁキャンディー。まさかこれを買う為に昨晩から?」

魔王子「まぁね。毎年、開店と同時に売り切れる商品みたいだから…」

姫「とっても嬉しいですけど…でも、1人にしちゃイヤです」プクー

魔王子「ごめん、ごめん! 今日はホワイトデーだし、何でも姫様のお願い聞くよ!」

姫「それじゃあ魔王子様…今日は1日一緒にいて下さい♪」

魔王子「はいはい、っと。姫様は本当に可愛いなぁ~」ナデナデ

貰ったもの→有名店の限定キャンディー




王子「囚われの姫君に恋をした」

王子「バレンタインの約束通り、今日は一緒にお菓子を作りましょう」

姫「宜しくお願いします、先生!」

王子「チーズケーキなんかどうですか。俺、結構自信ありますよ!」

姫「チーズケーキいいですね! 是非、作りましょう!」

王子「まずは土台作りの為、クッキーを細かく砕き…」

姫「はいっ!」ドゴォ

王子「バターを溶かし…」

姫「はいっ!」ゴオオォ

王子「チーズを湯煎にしてクリーム状になるまで混ぜて…」

姫「はいっ!」グルングルン

王子(何かすげー力技だなぁ…バレンタインを思い出すや)

姫「王子様、次は次は!」

王子(まぁ、ワイルドな姫様も可愛いからいいか)ホンワカ



姫「できましたね! 早速切り分けて…」

王子「これにジャムをかけたりして…」

姫「こうですか?」ビチョビチョ

王子「つけすぎです姫様!」

姫「でも甘くて美味しそうですよ。はい、あーん♪」

王子「…あーん」パク

姫「どうですか王子様!」

王子「クッソ甘くて幸せです、姫様」

姫「どれどれ…んぐっ、味が濃い! ふえぇ~、また失敗してしまいました~」

王子「大丈夫です姫様! このビチョビチョのケーキは俺が食います!!」

姫(王子様…何て男らしいの!!)

王子(姫様と関節キッス…最高!!)

貰ったもの→一緒に作ったチーズケーキ




女勇者「勇者よりも、お姫様になりたかった」

重騎士「なぁ精霊、ホワイトデーって知ってるか?」

精霊「何それ? 大雪の日?」

重騎士「バレンタインのお返しをする日だよ。店に行けば特設コーナーがあるはずだぜ」

精霊「へぇ、教えてくれてありがとう! 勇者へのお返しのもの見てくるよ」


精霊「とは言ったものの…勇者には(俺の趣味で)色々あげてるから、改めて何をあげればいいか思いつかないなー」

<あ、勇者様の彼氏さんだーワイワイ

精霊(うーん。俺が世界の英雄である勇者の彼氏だってバレたからには、下手なものあげれないぞ)

精霊「…そーだっ」



精霊「勇者、ゆーしゃっ♪ これあげる! ホワイトデー!」

勇者「あらー、わざわざありがとう。開けてもいい?」

精霊「いいよー! あのね、手作りなんだ!」

勇者(何だろう。ハンドメイド品かな、それともお菓子かな…)

勇者「……」

勇者「ダイヤモンド?」

精霊「作ったの!」

勇者「…ダイヤモンドを?」

精霊「うん!! あのね、炭素原子を含んだ鉱物を高熱で溶かしてね!」キラキラ

勇者(えええええぇぇぇ)

勇者「動物チョコのお返しでダイヤモンドなんて申し訳ないわね…」

精霊「バレンタインは俺にとってはそれだけ嬉しいことがあったんだも~ん♪」

勇者「…そっか。そうだね。…そうだ精霊、デートしない?」

精霊「デート?」

勇者「そ。デートして、このダイヤモンドを皆に見せびらかすの。だって公認カップルなんだしね」

精霊「それはいいね~! じゃあ、じゃあ可愛い格好してよ勇者!」

勇者「ふふ…、うん、待っててね!」

貰ったもの→手作りダイヤモンド




魔王子「僕が美しすぎて世界征服とかどうでもいい」

魔王子「姫様! バレンタインのお返しを持ってきたよ!」

側近「ふぅ、ふぅ…重い」

姫「まぁ魔王子様。お返しなんて気にしなくて良かったのに」

魔王子「そうはいかないよ、貰いっぱなしなんて美しくない。美しくないのは僕のポリシーに反するからね!」

姫「ふふ、魔王子様ったら」

魔王子「今年は本命である姫様の為に特別なものを用意したよ…これだぁっ!」バッ

姫「!! これは…」

魔王子「フフ。美しいだろう、名づけて"パーフェクトビューティ魔王子ケーキ"さ!」

側近(この無駄にリアルな造形。おぉおぞましい)

魔王子「ちなみに義理のお返しでは毎年、僕型のクッキーを配っている」

女戦士「魔王子様のクッキー、素敵ぃ~」メロメロ

魔法使い「私、魔王子様を食べられな~い」メロメロ

僧侶「むしろ食べられた~い」メロメロ

姫「………」

魔王子「姫様?」

側近(あまりのアホさに呆れられているのだろう。フラれてしまえ)

姫「あの…」

魔王子「ウン?」

姫「こういうケーキってどこから食べようか迷いますよね。やっぱり唇かしら」ウフフ

魔王子「吸い付いてみるといいかもね!」

側近(やはりアホを好きになるのはアホなのか)

貰ったもの→パーフェクトビューティ魔王子ケーキ




魔女「不死者を拾いました」

魔女「お皿洗いも終わったし、調合でもしようかなぁ」

ぱさっ

魔女「きゃん! これは…」

不死者「おー、似合ってるな」

魔女「不死者さん! この帽子は…」

不死者「ホワイトデー。魔女っぽいとんがり帽子、どうよ?」

魔女「あ、可愛いですねぇ。ありがとうございます」

不死者「おう、これでちんちくりんを誤魔化せ」

魔女「むぅー」

不死者「洗いやすいから、調合で爆発してススまみれになっても大丈夫だぞ」

魔女「汚すの嫌ですよ~。脱ぎます」

不死者「待て。脱ぐな、俺の為に」

魔女「えっ!? でもそれだと調合が…」

不死者「今日は調合は休みだ。それより、せっかく帽子かぶったんだから外に行くぞ」

魔女「えと…あ、調合素材の採取ですか?」

不死者「ま…それでいいや、行くぞ」

魔女「はい、行きましょう」

不死者「…鈍い奴」

魔女「え?」

不死者「いや何でもない」

魔女(? 変な不死者さん)

不死者(言えねーよ…デート、なんて)

貰ったもの→装飾がファンシーなとんがり帽子




アラサー賢者と魔王の呪い

魔法戦士(ふむふむ。"ホワイトデーのお返し、お断りならマシュマロ、友達にはクッキー、本命には飴"ね…)←雑誌を読んでいる

魔法戦士(…待てよ。チョコに対して飴って、何かランクダウンしてないか)

魔法戦士(先生はあまりお菓子に込められたメッセージとか気にしなさそうだし…先生はケーキとかが好きだし…)

魔法戦士(…いや待てよ。こういうとこでアプローチしていかないと、ずっと男として意識してもらえないままじゃ……)

魔法戦士(……つーか飴をあげたら先生に「好きです」って言ってるも同然なんだよな…)

魔法戦士「」ウーンウーンウーン

>ホワイトデー当日

配達屋「お届けものでーす」

賢者「あら魔法戦士君から。さて中身は…」

手紙『バレンタインのお返しです。頑張って作りました』

賢者「まぁ手作りケーキ♪ 凝ってるわね~。あら、このデコレーションは何だろう」ペロ

賢者「あら飴だわ」


魔法戦士「飴デコレーションが精一杯だった…先生は気づいてくれたかな」ドキドキ

配達屋「お手紙でーす」

魔法戦士「先生からだ!」

手紙『ケーキご馳走様でした。とても美味しかったです。あと、あの飴…』

魔法戦士「そう、あの飴は俺の…」ドキドキ

手紙『飴でデコレーションするなんて、魔法戦士君たら女子力高いのね~♪』

魔法戦士「……」

魔法戦士「ますます男として見られなくなってんじゃねぇか、俺の馬鹿ああぁ!!」

貰ったもの→クリームケーキ(飴デコレーション)




魔姫「捕まえてごらんなさい、色男」

猫耳「男子会、いえ~い」パチパチ

勇者「うえぇ~い!!」パチパチ

ハンター「……何で俺まで」

勇者「そりゃバレンタインに3人同じモン貰ったんだし! 誰にも抜けがけさせねーぞ、っていう企画よ!」

猫耳「魔姫の大好きなシュークリームを作りましょ~♪」

ハンター「菓子作りなどしたことないのだが…」

猫耳「大丈夫、僕が教えるよ! お菓子作りって結構腕力を必要とするから、脳筋の2人とも頼りにしてるよ!」

勇者「任せろ!!」

ハンター「誰が脳筋だ誰が」

猫耳「文句言わないで始めるよ~」

勇者「うえぇ~い!!」

ハンター(面倒な…)



猫耳「さて、焼きあがったねー。2人とも、どう?」

勇者「見て見てー、巻きグソ型!」

ハンター「児童かお前は!! 食い物で遊ぶな!」

勇者「大丈夫、これハンター用だから! 中身は勿論、チョコレートクリームで!」

ハンター「食えるか!!」

猫耳「よし、ハンター用のはよけて、ラッピングしよう!」

ハンター「俺があれを食うのは決定なのか!?」



猫耳「魔姫~」

勇者「魔姫さーん」

魔姫「あらどうしたの」モグモグ←高級シュークリーム

ハンター「……」

猫耳「……」

勇者「……」

魔姫「?」

勇者「…一流階級御用達のいい店があるんです! そこで食事しましょう!」グッ

魔姫「あら、もしかしてホワイトデー? 嬉しいわね~」

ハンター(金は3人で折半な)

猫耳(なお、手作りシュークリームはスタッフが美味しく頂きました)

貰ったもの→高級レストランでお食事




奴隷少女「私を、守って下さい…」執事「それが貴方の願いならば」

執事「お嬢様、先日のバレンタインでは身に余る物を頂き、誠にありがとうございます。ささやかなお返しとして、チョコレートパイを焼きました」

媛「おっしゃれー…流石、執事さん!」

犬男(執事のヤロー、ホワイトデーも知らなかったくせにそつなくこなしやがって)

猿少年(材料費もきっちり"3倍返し"だウキー)

執事「貴方だけの為に作った特別なパイです。どうぞ召し上がれ」

媛「頂きますっ!」

サクッ、ボロボロボロボロ

媛「……」

雉娘(あるある。パイって綺麗に食べるの難しいのよねー)

媛(ど、どどどどうしよう!?)

執事「失礼、お嬢様」スッ

媛(!! て、手が……)

執事「こうしてパイを横にし、中央の層にナイフを入れ…さぁ、薄くなりました。どうぞ」

媛(どどど、どうしよう、緊張して…)ガチガチ

執事「?」

犬男(おっとお嬢様、緊張で上手く食べられない! さて有能執事はここでどうするか)

執事「あぁ、そうか」

猿少年「お?」

執事「はいお嬢様」ヒョイ

媛「むぐ!?」パク

執事「どうですか?」ニコ

媛「」

執事「お嬢様? どうされましたお嬢様?」

媛(執事さんに食べさせてもらった執事さんに食べさせてもらった執事さんに食べさせてもらった執事さんに食べさせてもらった)

雉娘「まーた天然でお嬢様を殺しにかかったわコイツ…」

貰ったもの→手作りチョコパイ




乙女ゲープレイヤー「魔王を攻略しよう」

魔王「乙女の世界で見た、チョコレートフォンデュというものをこちらの世界で作ってみた」

乙女「……」


悪魔「噴水全部チョコとは、面白いなぁ」バシャバシャ

守護精霊「そーれっ!」バシャーッ

側近「こちらにかけないで下さい」


乙女(何か違う…いや、思い切り違う!)

魔王「今日はホワイトデーらしいので、ホワイトチョコにしてみた。さぁ入れ、乙女!」

乙女「嫌です」

魔王「お前は本当に…反抗的な犬だ」フッ

乙女「いやそういう問題ではなく」

悪魔「隙あり、魔王覚悟ーっ!」グイッ

魔王「!!!」バシャーン

乙女(あーあ、全身チョコまみれ)

魔王「……」

魔王「乙女、命令だ。舐めとれ」

乙女「断る」

貰ったもの→その後普通にホワイトチョコトリュフを貰いました




神様「勇者も魔王もいなくなった世界で」

神様「貴方の為だと思うと、世の中の風潮に合わせるのも悪くはありませんね」

少女「今日はホワイトデーでしたね」

神様「どうぞ、私からのプレゼントです」

少女「ケーキとワイン…ですね」

神様「おや、お嫌いでしたか?」

少女「アルコールの類は飲んだことがなくて」

神様「人生において、未経験の出来事に遭遇することは多々あるでしょう」

少女「えぇ…。酔う、という感覚に対してどうも不安が」

神様「なるほど。酒に酔う…確かに品行方正な貴方にとっては、良い印象は持てぬものかもしれませんね」

少女「いえ、でもせっかく神様にご用意頂いたのですから…」

神様「いいえ。貴方に押し付けるような形になるのは私にとって不本意というもの。双方が納得する形を取りましょう」

少女「というと?」

神様「酒に酔わなければいいのですよ」

少女「…コントロールできるものでしょうか」

神様「えぇ。つまり――」クイッ

少女「――っ?」

神様「…」チュッ

少女「――」

神様「酒ではなく、先に雰囲気に酔ってしまえばいいのですよ」ニコ

少女「…でも神様」

神様「はい?」

少女「例えば先に雰囲気に酔ったとしても、私がアルコールに弱い体質だとしたら、お酒の酔いが上回ってしまうのでは」

神様「ふむ、盲点でした。というかそもそも貴方を雰囲気で酔わせるということ自体が無理というものでしたね」

貰ったもの→レモンパウンドケーキと度数低めのワイン
※少女は、この世界での倫理的にはお酒を飲める年齢です。飲酒については法律を守りましょう。




勇者「パーティーでのカーストが最下位でつらい」

神界の騎士「勇者、あーんしろ、あーん♪」

勇者「や、やですよぉ~」

神界の騎士「変なことしねーって。キャラメル食わせるだけだから」

勇者「自分で食べますよ~…」

神界の騎士「何言ってんだよ、あーん♪を経験しない奴は一生リア充になれねぇぞ!!」

勇者「そんな大げさな…」

神界の騎士「悲しいな。お兄さんはいつでも勇者の味方だっただろ? そんな俺が嘘をつくと思うか?」

勇者「う」

神界の騎士「そういうわけだ。さぁ口を開けろ勇者」

勇者「…あーん」

神界の騎士「よし!!!」パクッ

勇者「きゃああぁぁ!?」

神界の騎士「失敬だな、悲鳴あげることないだろ」

勇者「だってそれ、口移ししようとしてますよね!?」

神界の騎士「口移しも何も、同じ口を共有した仲じゃないか。今更だろ?」

勇者「いやらしいことするなら神界の騎士さんイヤッ!」

神界の騎士「悪い。お詫びにこれ、勇者の為に買ってきたやつだ」

勇者「…? 綺麗な包装ですね、何ですかこれ?」

神界の騎士「Dカップのブラ。勇者のサイズぴったし…いででっ!」

勇者「もぉー私だって我慢しませんからねーっ!」ポカポカ

貰ったもの→色んな味のキャラメルとDカップブラ(白の花模様)




あとがき
ネタ出すのに苦労しました(´・ω・`)
バレンタインの時よりアホさが際立ってるけど、皆が幸せならそれでいいさ!
posted by ぽんざれす at 11:21| Comment(2) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年03月08日

勇者「俺はヒーローになれなかった」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1456825309/

1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:41:49.39 ID:MRDQUi9u0
季節は冬の始まり。
木々の葉が枯れ落ち、森は景色すらも寒々しい。

勇者「……」

その森に1人の男が行き倒れていた。
彼は勇者。つい先日まで英雄として人間たちの希望を背負っていた男だが――

勇者(もう、いいや…)

今やその表情は希望を失い、まるで亡者のようだった。

勇者(このまま、死んでしまおう……)


勇者がこうなった原因は、つい先日の出来事にある…――


2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:42:17.76 ID:MRDQUi9u0



踊り子「勇者♪」チュッ

勇者「あぁ…踊り子か」

旅の途中の休憩中、勇者はイタズラで昼寝から目を覚ました。
勇者と知り合った当初からアピールしてきた踊り子だが、ここ最近は特にそのアピールに大胆さが増していた。

勇者「そう簡単に、男のほっぺにキスするもんじゃないぞ」

硬派を気取ってたしなめてみるが、

踊り子「勇者にだけだも~ん♪」

甘えるように反抗されてしまうだけだ。

勇者(全く、困ったもんだ)

心の中で呟いてみるも、勇者の心臓は高鳴っていた。
それもそうだ。両親と早い内に死に別れた勇者は、娯楽の少ない田舎に住む祖父に引き取られ、剣一筋で生きてきた。
そんな勇者だから、田舎娘にはない派手さを持った美女にちょっかいを出されては、ほだされるのも仕方なかった。

騎士「ケッ、見せつけやがってよ~。いいないいな~」

僧侶「それくらいの娯楽は大目に見ましょう。娯楽の少ない旅ですから」

勇者「はは…」

剣の腕を見初められ、魔王討伐の旅を命じられたのがつい3ヶ月前。
騎士団より騎士が旅の供として同行し、各地で名をあげていた僧侶を仲間にし、そして最後に仲間にしたのが…

踊り子「勇者、飲み物ちょっと貰うわね~♪」

自ら志願してパーティーに入ってきた、踊り子だった。
男所帯に女1人というのも申し訳なくて断ったのだが、それでも強引に押し切られて今に至る。

勇者「それ、俺の飲みかけ…」

踊り子「知ってるぅ♪」ペロ

勇者「うぐ」ドキドキ

そして勇者は、その踊り子を意識するようになってきた。

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:42:47.48 ID:MRDQUi9u0
騎士「おい見えてきたぜ、あれが魔王城だ」

勇者「あれが…――」

旅は終盤を迎えていた。
今まで制圧されてきた街を解放し、刺客として来た幹部達を倒し、旅は順調だった。
それだけに、最後の最後で何かあるんじゃないかと不安に思っていたが…。

僧侶「恐れていても仕方ありません。行きましょう」

勇者「そうだな」

意を決して、城に乗り込んだ。
しかし予想に反して、城内に魔物の気配はなかった。

騎士「どうなってやがる…?」

僧侶「魔王の周囲を固めているのでしょうかねぇ…?」

それでも緊張感は抜けず、慎重に足を進めていると…

踊り子「あ、あれは!」

勇者「ん? 何のことだ?」

踊り子「あれよあれ! ほら…」タタッ

踊り子がある方向に向けて走り出した。
追いかけようとした、その時…――

バッ

踊り子「きゃあっ!?」

勇者「!!」

黒い影が踊り子に襲いかかった。

そして…――

「よくぞ来たな勇者よ…クク、待ちわびたぞ」

勇者「何者だ!!」



魔王「我は魔王…――探していたのだろう、我を」

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:43:16.18 ID:MRDQUi9u0
踊り子「う、ううぅ…」

勇者「魔王…!! 踊り子を放せ!!」

踊り子は魔王の腕に抱かれ、恐怖の為か身動きが取れなくなっている。
勇者は怒気を含んで魔王に言い放った。

魔王「覇気は一人前だな、勇者よ。だが、このままお前を殺すのもつまらん」

勇者「何だと…!」

魔王「遊戯といこうか」

そう言って魔王は、踊り子を捕まえたまま宙に浮かんだ。

魔王「追ってくるがいい、勇者よ!」

勇者「待て…――っ!!」

即座に魔王の後を追う。
しかし、この判断の早さは直後、仇となった。

勇者「…――っ」


――落ちている?


騎士「勇者!!」

僧侶「勇者さん!」


唐突に床に穴が開き、勇者はそこから急降下した。

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:43:42.22 ID:MRDQUi9u0
ばしゃーん

勇者「ぶっ…!」

落ちた先は水場。濁った汚い水だが、床に叩きつけられるよりは大分マシか。
その汚い水場から出る――と同時、勇者は舌打ちした。

勇者「そういう罠か…」

周囲には魔物の気配。どいつもこいつも、殺気を隠そうともしていない。
これだけの数の魔物を、1人で相手しろということか。

勇者(脱いでいる時間は、くれそうにないな)

水を吸収した装備で戦うのは体が重いが、そう弱音も吐いていられない。
このまま戦うしかないなら、そうするだけだ。

勇者「さぁ来い!! 魔王の手先ども!!」

勇者が叫ぶと同時、魔物達は一斉に襲いかかってきた…――

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:44:20.14 ID:MRDQUi9u0
勇者「ハァ、ハァ…」

戦闘開始から約30分後、全ての魔物を倒した勇者は急いでその場を後にした。
とにかく今は行動しないと、また何があるかわからない――

そう思った直後だった。

ゴゴゴ…

勇者「…っ!?」

突然、トゲの壁が迫ってきた。しかも結構なスピードで。

勇者(くそ、全力疾走でスタミナ節約もさせないってことか!!)

勇者は急いで壁から逃げる。
逃げる先に、曲がり角があった。

あそこまで行けばとりあえず大丈夫だろう…と思ったが。

ボフッ

勇者「うわっ!?」

疾走に全力を注いでいた勇者はトラップに気付かず、霧をもろに浴びた。
霧には毒性が含まれているのか、目と鼻に刺激を感じる。

勇者「くそ…!!」

涙と鼻水を袖で拭いながらも、勇者は走るスピードを緩めずに曲がり角を曲がった。
迫りくる壁は正面の壁にぶつかると、そのまま動きを止めた。

勇者「ハァハァ……ん?」

ほっとしたのも束の間、今度は向こうから気配がした。

「ンオオォォ…」

勇者「げ…」

わらわらとやってきたのは、アンテッドの群れだった。

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:44:47.19 ID:MRDQUi9u0
勇者「ゼェ、ゼェ…」

狭い通路でアンテッドを切ったせいで腐った返り血をモロに浴び、心地が悪い。


しかも罠はそれで終わらなかった、


勇者「うわああぁぁ!?」

時には石像が吹く炎をギリギリでかわし、


勇者「ん…? ここ、さっきも……」

時には無限ループの道を歩かされ、


キイイィィン

勇者「うおおぉぉ……」

時には超音波の中を進まされた。

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:45:13.86 ID:MRDQUi9u0



勇者「ハァ、ハァ……」

もう既に勇者はボロボロだった。
それでも諦めない…――全ては、魔王を倒す為。

勇者(踊り子…無事でいてくれ)


踊り子『私、踊り子って言います! 勇者様のパーティーで戦わせて下さい、お願いします!!』

踊り子『勇者、って呼んでもいいかしら? いいの!? やったぁ~!』

踊り子『凄い、凄ぉい! 幹部を倒しちゃうなんて、勇者かっこいいー!』

踊り子『グスッ…私なんて、勇者の足を引っ張っちゃってるわよね…』


勇者(踊り子…君は既に、俺の大事な仲間…いや、)


踊り子『ねぇ勇者』


勇者(俺は、君が…――)


踊り子『…――守って、くれる……?』


勇者(君が、好きなんだ…!!)

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:45:53.66 ID:MRDQUi9u0
勇者「…!」

無意識に大きな扉を開けていた。
そしてそこにいたのは…――

魔王「よくぞここまでたどり着いたな…勇者よ」

勇者「魔王…!!」

魔王は尊大な態度で、玉座に座っていた。
そして、その側では…

踊り子「勇者ぁ!」

騎士「勇者…すまねぇ!」

僧侶「勇者さん!」

勇者「皆!」

仲間たちが囚われていた。
その姿を見て、勇者は憤怒する。

勇者「魔王、貴様!! 1対1の勝負なら受けてやる、正々堂々と戦え!!」

魔王「いいだろう…。かかってこい、勇者よ」

勇者「はあぁ――っ!!」

勇者は迷わずに駆けた。
まずは魔王を玉座から立たせる…――その勢いで斬りかかった。が…

魔王「喰らえ、暗黒魔法…――」

勇者「――っ!!」

回避できず、勇者は魔王の魔法をもろに喰らった。

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:46:21.05 ID:MRDQUi9u0
勇者「ぐ…っ」

魔王「おやおや勇者よ、簡単に吹っ飛ばされたものだな」

勇者「俺はまだ、やられていない…!!」ヨロ…

魔王「なら、これはどうだ?」ドォン

勇者「うわああぁ――っ!!」

今度はかなりのダメージを喰らい、勇者は地面に伏した。
起き上がらなければ…だが、体が言うことを聞かない。

魔王「たった2発で終わりか。何ともつまらない戦いだった」

そう言って魔王はようやく立ち上がった。そして仲間たちに近づいていき…――

魔王「お前」クイッ

踊り子「――っ!!」

勇者「!!!」

魔王が踊り子の顎を引いた。
踊り子は怯え切った顔で硬直している。

魔王「我に逆らった者がどうなるか…――身をもって知らせてやるのもいいな」

踊り子「ひ……っ」

勇者「やめろ……!!」

体中が痛む。それでも立ち上がる。
そんなこと、絶対にさせやしない…!

勇者「やめろ、魔王おぉ――っ!!」

踊り子「勇者ぁ――っ!!」

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/01(火) 18:46:50.80 ID:MRDQUi9u0
その時だった。
踊り子の体を拘束していた鎖が弾け飛んだ。

踊り子はすぐさま勇者に駆け寄る。

勇者(踊り子…っ!!)

今の勇者を動かしているのは、踊り子への気持ちだった。
その踊り子が両手を広げ、こちらへ駆け寄ってくる。

勇者(踊り子、俺は…――っ)

踊り子「勇者ぁ…っ!!」


そして、2人の距離が数センチという所にまで来た時…


バキィ

勇者「――っ」


勇者の顔面を衝撃が襲った。
その衝撃で、勇者はその場に大の字に倒れた。

だが、勇者を襲った衝撃は物理的なものよりもむしろ――…

勇者「なん……で……」

踊り子「フ、フフ……」

勇者を見下ろして、見たことないような笑いを浮かべる踊り子に対しての方が大きかった。


踊り子「フフ…あはは、あははははははっ!!」

勇者(…――?)

17 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:47:25.08 ID:ai59nQkK0
勇者は必死に考えた。

罠だ。これは罠だ。
踊り子に扮した魔物が、俺を騙し討ちしたに違いない――

そうだよな、踊り子…――?


魔王「ハハハ…面白いものを見せてもらったぞ!! なぁ、踊り子?」

踊り子「はい、魔王様」クスクス

勇者「やめろ…その姿と声で、魔王を呼ぶな……」

踊り子「え? あ、もしかして…私が偽物だとか思ってる? 勇者~?」

勇者「何…だと?」

踊り子「本当、勇者ったら頭の方はパーなんだからぁ。そんな勇者の為にわかりやすく教えてあげるとぉ~…」



踊り子「私ね、魔王様の側室なんだぁ~♪」


勇者「………は?」

18 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:47:56.77 ID:ai59nQkK0
――意味がわからない。


踊り子「パーティーに入ったのも、魔王様からの命令っていうかぁ~」


――初めから、騙していたのか…?


踊り子「何ヶ月も魔王様に会えなかったのは寂しかったぁ」

魔王「悪い悪い。その分、たっぷり可愛がってやるからな」ナデナデ


――じゃあ、俺といた時の言葉もあの顔も…


魔王「感謝するぞ勇者。道中、我に反抗的だった幹部どもを倒してくれたのだからな」

踊り子「ま、それで勇者も名をあげられたんだから、いいわよねぇ」


――全部…――


踊り子「それにしても勇者ったらおっかしい~!! 必死な顔して罠を突っ切って行くんだもん、笑い堪えるの大変だったぁ!!」

魔王「お陰で体も臭くなったな、勇者」


勇者「全部…嘘だったのか……?」

踊り子「は? そうに決まってるじゃない、バッカじゃないの?」

魔王「本当に頭の悪い勇者だな」グリグリ

勇者「……!」


その時、頭を踏みつけてくる魔王のピアスに映った自分の顔は――

勇者「――っ」


負け犬の顔だった。

19 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:48:24.04 ID:ai59nQkK0
勇者「……殺せよ」

勇者はもう起き上がる気力もなかった。
ただでさえ体がボロボロだというのに、心も折られてしまった。
戦う余力なんて残されていない。このまま惨めな敗北者となってしまおう。

しかし…

魔王「我はお前を殺さん」

魔王は堂々と言った。

勇者「…? 囚人か、それとも奴隷か…? これ以上、俺に何しようってんだ……」

魔王「何もせん。お前はお役御免になるだけだ」

勇者「は……?」

勇者は事態が飲み込めずにいた。
そんな勇者に、魔王は――

魔王「これを見ろ」

懐に入っていた書を、高らかに広げて見せた。
難しい文章が目に入ってきて理解に遅れたが、勇者はあるものが目に入った。

勇者「その紋章は…我が国の……」

魔王「そう、お前の国の王と交わした文書だ」

勇者「……どういうことだ」

魔王「お前がノロノロ旅をしている間、我は人間の国の王たちと書をやりとりしていた」

初耳だ。訪れた国の王たちは、そんなこと一切…

魔王「そしてお前の国の王が最後だ。…我々は、和平の為に手を結ぶことにした」

勇者「……は?」

20 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:48:52.33 ID:ai59nQkK0
手を結ぶ? 和平の為に?
だったら、戦う必要なんてこれっぽっちも…――

魔王「お前の国の王は、和平交渉が決裂した時の保険にお前を旅立たせた。お前は知らなかったようだがな」

勇者「じゃあ…」

踊り子「そ。"勇者"はお役御免♪」

勇者「……!! 嘘をつくな!! そんなの、信じないぞ!!」

踊り子「信じないって言われても事実だもの…ねぇ~、騎士?」

勇者「え……?」

騎士「……」

騎士は気まずそうに勇者から視線をそらしていた。
そうだ、国の騎士団から派遣された騎士なら…。

勇者「嘘だろ騎士! そんなこと…――」

騎士「…事実だ」

勇者「!!!」

打ちのめされたような衝撃が勇者を打った。
騎士はそんな素振りを見せたこともなかった…つまり、ずっと騙していた…!?

踊り子「そういうワケだから、とっとと勇者をこの城から連れ出してくれない? くっさいのよ、さっきから」

騎士「……」

僧侶「……」

2人は拘束をとかれ、勇者の側に寄ってきた。

21 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:49:21.92 ID:ai59nQkK0
動けない勇者は2人に抱えられるが…納得していない。

勇者「み、認めない! 2人とも離せ、こんなの…――」

僧侶「もういいじゃないですか勇者さん」

同じく事情を知らないはずの僧侶が冷たくそう言い放った。

僧侶「いい加減気付いたらどうですか勇者さん。…貴方、魔王に遊ばれていたんですよ」

勇者「…遊ばれて、いた……?」

僧侶「丁度このタイミングで和平が決まるなんて、狙ったとしか思えない。…そうですよね?」

踊り子「流石僧侶、頭いい~♪」

勇者「じゃあ……」

魔王「そう恨むな、勇者よ」

魔王はフンッと鼻で笑った。

魔王「国に利用されるのも、我に遊ばれるのも、滑稽さはそう変わらん」

勇者「………」


これは悪夢、そう思いたかった。それでもその事実に、勇者の心は刺されていた。
あまりにも衝撃的なことが続き、勇者の心は痛みすら覚えない。

勇者(俺は…何だったんだ……)


ただ、虚無へと向かっていた…――

22 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:49:50.25 ID:ai59nQkK0
そして…

勇者「……」

人間と魔物の和平が決まってから、国は勇者に手の平を返した。
事情をろくに知らぬ者は勇者の存在が和平交渉の妨げであったと非難し、事情を知る者は勇者を嘲笑した。
勇者は逃げるように国を離れ、各地を転々としていた。

勇者(じいちゃん…)

育ての親にして、剣の師でもあった、今は亡き祖父。
祖父は「正しき道を進め」と教えてくれた。その教え通り、自分は正しい道を歩んできたはずだ。
なのに、自分が受けた仕打ちはこうだ。

もう世界に絶望した。
正しい道しか知らない自分は、こんな世界で生きていけやしない。

勇者(じいちゃん…俺、そっち行くよ…。末代で恥を晒して、ごめんな…)

勇者(俺、もう……)

勇者「………」



村娘「うぅ~さみさみ…。早く帰んなきゃあ」

村娘「…うん? ありは……」

村娘「!!」

村娘「て、大変だ! 男の人が倒れんよ! 村の人さ呼ばんと!!」

23 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:50:22.24 ID:ai59nQkK0
勇者「う…?」

目を覚ました時、木の天井が目に映った。
何だか体が暖かい。ここは……?

村娘「あー良かったぁ! 目ぇ覚ましたぁ!」

勇者「……?」

視線を横に移すと、勇者より少し年下くらいの女の子がいた。
質素な麻の服を着て、顔は化粧っ気がないのに真っ赤なほっぺ。
言葉の訛った、いかにもな田舎娘だ。

村娘「大丈夫だすか…? お粥あっためましょか?」

勇者「ここは……?」

村娘「あぁ、ここは私ん家だす! お客さん、森で倒れてたんすよ!」

勇者「俺は……」

村娘「体が冷えてたんで、お布団であっためますた! お粥作ったんで、体の芯からあったまってくだせ…」

勇者「……死んでも、良かったのに」

村娘「はぇ……?」

村娘はその言葉を聞いて、ポカンとしていた。

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:51:00.43 ID:ai59nQkK0
勇者「俺は、死んでも良かったんだ……」

もう1度、吐き捨てるように言った。八つ当たりに近い感情もあったかもしれない。
中途半端に助けられて、この先どうしろと言うのか。また惨めに生きていけというのか、こんな世界で。

勇者「どうして助けた…!! 俺にはもう何もない、生きてたって……」

ポン

勇者「……え?」

頭に手が置かれた。
勿論、村娘の手だ。

村娘「よしよし」

勇者「!!」

村娘はその手で、優しく勇者の頭を撫でた。

村娘「よっぽど、つらい思いしたんねぇ」

勇者「つら、い……?」

村娘「あたし馬鹿だから、上手い言葉は見つからないす。そんでも、大丈夫!」

村娘はそう言って、元気に立ち上がった。

村娘「あったかいもんお腹一杯食べたら、きっと元気になるす! 今、お粥持ってくるから待っててくだせぇ!」

勇者「あ……」

村娘はパタパタと部屋から出て行き、すぐに戻ってきた。

村娘「はい! うちの村で採れた米で作ったお粥だすよ! たんまり食べて元気になるす!」

そう言って、湯気の出ているお粥を、満面の笑顔で差し出してきた。

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/02(水) 21:51:27.38 ID:ai59nQkK0
勇者「……」

正直、食欲はない。
だけど村娘の笑顔を見ると、断るのに罪悪感があって…。

勇者「…頂きます」

素直に食べることにした。
にこにこ笑顔の村娘に見守られながら、スプーンを口に運んだ。

勇者(…あったかい)

湯気があるから熱いのかと思ったが、食べやすいくらいの暖かさだ。
息で冷ますことなく、お粥を口に入れる。ちょっとだけ咀嚼して、飲み込んだ。

勇者(あ、美味い)

お粥は塩で薄く味付けされていた。
感動する程のものではないが、美味しい。
食欲の無かった胃袋は、そのお粥を拒まない。むしろ一口入れたことにより、もっともっとと欲して…。

勇者(俺、飢えてたんだな)

ふた口、三口と口に入れる。
食べるというのは命を繋ぐ行為であり、死にたいという願望と矛盾している。
だけど、手が止まらない。このお粥を、もっと食べたい。

勇者「…美味いよ」

村娘「良かったぁ…都会の人には物足りねぇかと思ったんだすけど…」

勇者「…美味い」

村娘「……お客さん?」

視界が濁った。湯気のせいかと思ったけど、違う。これは涙だ。自分は、泣いているのだ。

勇者「美味い…美味いよ……」

涙が止まらなかった。
体が内側から暖かくて、その温もりは自分を慰めてくれているようで…

村娘「よしよし」

頭を撫でてくれる手が、何よりも優しかった。

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/03(木) 00:12:01.39 ID:xEjOPcAxo
辛いな…

29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/03(木) 02:11:18.43 ID:uvFCjLwwO
僧侶と騎士の罪は重い

33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/03(木) 14:45:49.64 ID:4hBE3EeV0
乙乙
罪深いな…目が乾くよ…

34 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:27:16.85 ID:rCZJDAb40
勇者「ありがとう…美味しかった」

村娘「それは何よりだす」

途中の号泣など気にしていないように、村娘はニコニコしていた。
この笑顔に癒されるけれど…それに甘えてはいけない。

勇者「俺はもう行くよ。本当にありがとう」

村娘「待ってくだせぇ」

勇者「? なに?」

村娘「お客さん、何かワケありの様子だったす。このままほっとけないす」

勇者「大丈夫…ちょっと自暴自棄になってただけだから」

村娘「死んでもいい…なんて、ちょっとの自暴自棄で言える言葉でねぇ。心配すよ」

勇者「…それで、俺をほっとかないでどうする気?」

村娘「力になるだすよ! あたしなんて大したことできねけど…あ、でも村の人達の力も借りれば……」

勇者「……」

都会の人間にはないお節介さだと思った。
田舎育ちの自分には、何だか懐かしい感覚で、それでいて今は心地がいい。

勇者「…ありがとう。でも本当、大丈夫だから」

村娘「けども…」

勇者「…俺は、勇者だよ」

村娘「!!」

このお節介焼きを諦めさせるには、素性を明かすしかないと思った。

35 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:27:44.70 ID:rCZJDAb40
勇者「信じなくてもいいけどね。勇者の件については、知ってるだろ?」

村娘「勇者…お客さんが……」

勇者「どこに行っても後暗い目で見られる。そんな日々に嫌気が差したんだ」

村娘「……」

勇者「そういうわけだから。それじゃ…」

村娘「すげ…」

勇者「え?」

村娘「本物の勇者様だす!! お顔さ見れて、感動したす!!」

勇者「!?」

36 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:28:46.47 ID:rCZJDAb40
村娘「勇者様は人々の為に戦ってくれた英雄す! そんな方に、とんだご無礼を失礼致しますたぁ!!」ハハー

勇者「あの!? 知ってるよな、勇者は結局必要とされてなかったわけで――」

村娘「和平が決まるまでの間、あたしらの心を勇気づけてくだすったのは勇者様だす」

勇者「っ!」

村娘「必要とされてなかったなんて、とんでもね。勇者様がおらんかったら、それこそ希望を失って死を選んでた人がいたはずっす。…あたしだって、勇者様に心を助けられた1人だす」

勇者「君が…?」

村娘「はい。この村は魔物の襲撃さ受けて大打撃を受けたことがあるす。…あたしの家族も、それで殺されますた」

勇者「!!」

村娘「あたしもしばらくは立ち直れなかったし、正直死んでしまいたいと思ったす…。でも、勇者様が…」

勇者「俺が……?」

村娘「勇者様が人々の為に戦ってくれていると知って、あたし…心からあったかくなって、いつしか元気を取り戻せただす! 勇者様はあたしの恩人で、英雄なんす!」

勇者「……!」


勇者(そう、だったんだ…)

正しい道を歩んでも報われないと思っていた。
自分が正しいと思った道は正しくなかったのかと、悩みもした。

だけど――

村娘「へへへ」ニコニコ

勇者(少なくとも、俺は、この子を――この子の心を、守れたんだ……)

それだけで勇者は、報われたような気がしたのだった。

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:29:19.91 ID:rCZJDAb40
村娘「勇者様…どこさ行っても後暗い目で見られると言ってますたよね?」

勇者「う、うん……」

村娘「だったら、この村に住んだらどうでしょ?」

勇者「え…っ?」

村娘「この村の人が、勇者様を悪く言ってるの聞いたことねっす。もし心配なら、勇者様の正体は内緒にしとくす」

勇者「……」

村娘「…嫌、だすか? まぁ、勇者様にとってはつまらない田舎だしょうけど…」

勇者「……嫌じゃない」

村娘「ほんとだすか!!」

勇者「うん。…あ、でもひとつ、お願いがある」

村娘「なんだすか? なんだすか?」

勇者「それは……」

勇者は知らずの内に、自然な笑顔を取り戻していた。

勇者「勇者"様"って呼び方しないで。呼び捨てとか、"さん"とかがいいな」

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:29:46.09 ID:rCZJDAb40
こうして勇者は、この村で生活を始めた。

勇者「よいしょ、っと」

村人A「おっ、勇者さ力持ちだなぁ! こりゃ牛車いらずだべ!」ハハハ

勇者「伊達に鍛えてませんよ! 力仕事なら任せて下さい!」

勇者は正体を隠さなかったが、それでも元々許容されていたのか、すぐに村に馴染んだ。
田舎育ちのお陰か、村での暮らしにも抵抗はない。それに元々、勇者として持て囃されていた頃の派手な生活には違和感があったのだ。

勇者(あぁ疲れた…。戦うのとは体力配分が全然違うな)

まだ完全に立ち直ったわけではないが、この時期は毎日雪かきに薪割りと忙しく、落ち込んでいる暇なんてない。


村娘「みなさーん」

勇者「村娘ちゃん。あ、もうこんな時間か」

村娘「村人さんの奥さん達と豚汁さ作ったす! 皆で食べてくだせぇ!」

村人A「おぉ豚汁かぁ! 食うべ食うべ!」

村人B「ふぅ~…体の芯からあったまるな!」

村娘「たっぷり食べてくだせぇ! 力仕事、いつもお疲れ様す!」

勇者「村娘ちゃんも。この時期は水仕事、辛いだろ」

村娘「何てことねっす! 田舎育ち16年は伊達じゃねんすよ!」フフン

村人A「何言うべ。うちのカカアに比べりゃ村娘なんぞ、まだまだヒヨッコだべ!」ハハ

勇者「まぁ、事実若いですからね」

この村は人同士の距離が近い。だから寂しさを感じる日なんてない。
自分はこの輪に受け入れられている。それが嬉しくて、幸せなんだと思う。

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:31:36.51 ID:rCZJDAb40
村人A「そろそろ切り上げるべー」

勇者「お疲れ様でーす」

今日は雪が降らなかったので、早めに仕事を切り上げることができた。

村娘「勇者さーん、今終わったんだすかー?」

勇者「あ、村娘ちゃん。うん、今終わったとこ」

村娘「はい。勇者さんの為に、防寒服さ作ったす」

勇者「おぉ! ありがとう、嬉しいわ」

村娘「都会のモンに比べたら、あんまいい出来じゃないんだすけど…」

勇者「どうだ? 似合うか?」

村娘「!!」

勇者「? どうした?」

村娘「いえ。…勇者様は何を着ても、素敵だなって」モジモジ

勇者「服の出来がいいからだよ。ありがたく着させてもらうから!」ニコッ

村娘「~っ…」

勇者「…? 村娘ちゃん、顔赤いな?」

村娘「さ、寒いからだす!」

勇者「そうだなぁ…俺も家に戻って風呂にするかな」

村娘「あ、うちで入ってくだせぇ! 丁度、風呂釜に水を貯めてたとこだす」

勇者「そうだな…その方が井戸水の節約になるし、有り難く頂くかな」

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:32:10.30 ID:rCZJDAb40
勇者「悪いね村娘ちゃん。風呂、先に頂いちゃって」ホカホカ

村娘「かまわねぇだすよ。こういうこと、よくあるんす」

勇者「それじゃあ俺は帰るから、村娘ちゃんもゆっくり暖まって」

村娘「あ、待って勇者さん。勇者さんの分のお食事も用意してっす」

勇者「流石に悪いよ、それは」

村娘「えぇんすよ、あたしも勇者さんと一緒のが楽しいだす」

勇者「そう言われたらね。じゃあ待ってるから、冷めない内に風呂入ってきな」

村娘「はい!」スタタ

勇者(…ん。この状況……)



村娘「ふぅ、気持ち良かったぁ」ホカホカ

勇者「なぁ村娘ちゃん」

村娘「どうしますた?」

勇者「男を家に上げて風呂に入るってさ…」

村娘「へぇ」

勇者「かなー…り、無防備だぜ。村娘ちゃん若いんだし、気ぃつけろよー」

村娘「」

村娘「な、ななな何言ってんすか勇者さんはあぁ!!」

勇者「ごめん、ごめん! けどもし俺がやらしい奴だったら、変なことになってたわけで…」

村娘「別に、えぇのに…」ボソッ

勇者「え?」

村娘「何でもねっす! それに、勇者さんば信用してんすからね!」

勇者「それは何より。これからも信頼に値する男でいます」

村娘「~っ…それよりもご飯だすよ!」プンプン

勇者(…? 怒ってる?)ポカーン

41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:33:42.64 ID:rCZJDAb40
勇者(そして帰宅)

勇者(今日も村娘ちゃん、綺麗に布団敷いてくれてる)

勇者が外で仕事をしている間、村娘が勇者の家の家事をしてくれている。

勇者(まるで通い女房だなぁ)

そう思ってから、自分の考えに対して吹き出す。
村人皆で助けあっているこの村で、村娘が家事の世話をしてくれるのに特別な感情はない。
さっきも村娘は言っていたではないか、「こういうことはよくある」と。

勇者(思い上がりは良くないよな)

勇者として旅をしていた頃ならともかく、力しか取り柄のない今の自分に、女の子が惚れるわけがない。
村娘は優しくて親切で、なつっこいのだ。

勇者(…それに、結構可愛いよな)

どうにも都会の娘に比べると地味なせいで魅力に気付くのが遅れてしまったが、村娘の容姿は可愛らしい。
化粧をして綺麗な衣装を着れば、清楚な美少女になり得る要素は十分にある。

勇者(でも村娘ちゃんの場合、垢抜けない雰囲気もまた魅力なんだよな…)

勇者(って、駄目だ。女の子を好きになったら辛いだけだぞ)

勇者(それより、もう寝よう。布団ふかふかで気持ちいいな~)

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:34:20.87 ID:rCZJDAb40
>翌日


勇者(今日は暖かいから雪が溶けて氷が張ってるな…危ないから砂撒いたり割らないとな)

村娘「勇者さん、おはようさんです」

勇者「あ、おはよう。…あれ、雪で何か作ってるの?」

村娘「見てくんさい! あたしの好きな動物さ作りました!」

勇者「へぇ。可愛いネズミだね」

村娘「むうぅ~!」ポカポカ

勇者「え、なに、どうした?」

村娘「キツネだす!」

勇者「あ、あぁ。ごめんごめん…ククッ」

村娘「あーっ、勇者さん笑ったぁー!!」プンプン

勇者「ご、ごめ…あはは、あははははっ!!」

村娘「何なんだすかーっ!!」

勇者「い、いやぁ。ムキになる村娘ちゃん可愛いなって」クク…

村娘「!!!」ボッ

勇者「でも、ちょうどベタベタ雪で何か作りやすい感じになってるな。仕事終わったら、かまくらでも作るかな」

村娘「かまくら!! あたし、犬小屋くらいのなら作ったことあるけども…」

勇者「俺は力あるから、大きいの作れるよ。楽しみにしといて!」

村娘「楽しみだす! かまくら、かまくら♪」

勇者(怒ったと思ったら、こんなにハシャいじゃって…)

43 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:34:54.13 ID:rCZJDAb40
>そして


勇者「ふぅ、出来た」

夕方、勇者は大人が何人か入れそうなかまくらを作った。
休憩せずに集中して作ったせいか、体は汗だくだ。

村娘「勇者さーん、出来たんすねー!」

勇者「おう、我が雪の城へようこそ!」

村娘「七輪と炭を持ってきたす! 今日はここでご飯にしましょ!」

勇者「お、いいねー。村娘ちゃん張り切ってるね」

2人はかまくらの中に入ると、早速魚や餅を焼き始めた。
薄暗い中で明るい火に照らされた食べ物は美味しそうに見えて、お腹も鳴る。

村人A「お? かまくらで飯かー、美味そだな!」

村人B「匂いが漂ってくるなぁ。くぅ、腹減ってきたべ!」

村娘「良かったらご一緒にどうすかー?」

村人A「ほんなら、カカアと一緒にお邪魔させてもらうべ! 丁度、うちにホタテが一杯あるべ!」

村人B「おらも、うちから甘酒でも持ってくるだよ」

村娘「ほんなら、お待ちしてっすー!」

村人C「お、かまくらで食事会かぁ! ええなぁ!」

村人D「おし、うちから鍋持ってくるだ! 宴会だ宴会!」

勇者(何か、どんどん話が大きくなってるなぁ)

こうして村人のほとんどが集まり、かまくらの周囲で大宴会となったのだった。

44 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/03(木) 18:35:31.80 ID:rCZJDAb40
村人A「カカッ、勇者さも飲まねが~?」

勇者「み、未成年なので」

村人B「関係ねぇべ、おらは15から親父に飲まされてただ!」

奥方A「こら! 勇者さんを困らせるでねの! ほら、酔っ払いはここさ集まって飲む!」

村人A「へいへ~い。おー、うちのカカアはおっかね」

奥方A「ごめんなさいねぇ、うちのダンナが」

勇者「いえいえ」

正直少し困っていたが、妻の尻に敷かれている村人たちに同情しながら笑う。
でも、奥方達も物言いはきついが、普段は旦那を支えている。きっと彼らは、信頼を築いている夫婦なのだ。

勇者「…いいもんだな」

村娘「何がすか?」

勇者「あ、いや。ここの村はほんと、皆仲良くていいな~って」

村娘「そっすね。でも都会の人から見たら、田舎モンは馴れ馴れしくていけねと聞いたんすけど」

勇者「その馴れ馴れしさが心地よくてね。俺はこの村が好きだよ」

村娘「良かったす。勇者さんもすっかり、この村の一員だすね」

勇者「そうだね」

雪が溶けたら農作物を育て、冬には雪をかいて。
この村でそんな毎日を繰り返しながら、年をとって死ぬのだろう。
そんな素朴で平凡でありふれた人生を送れることが、何だか幸せに思える。

勇者(やっぱ俺、勇者には向いてなかったんだな)

でもそれは口にしない。

村娘「勇者さん、お茶だす~。飲みやすい熱さにしてんすよ」

勇者「ありがとう」

自分に救われたと言ってくれる人もいるのだから。
だから、それは心に秘めておくだけ。

49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:43:28.55 ID:Cem6vXyp0
>翌日


勇者「へくしっ。…うー」

風邪を引いた。
かまくらの中はあったかいからと、汗だくのまま過ごしたツケか。

勇者(あー、皆に申し訳ない)

外は昨日と変わって雪。村は雪かきの人手を必要としているだろう。
けど頭がボケーっとして、協力できそうにない。

勇者(体調管理がなってないなぁ…。あぁ、自己嫌悪)

ガラッ、パタパタ

勇者「…ん?」

村娘「勇者さん、おはようさんだすー。どしたんすか、家に閉じこもって」

勇者「風邪引いた…ぶぇっくし!! 今日は雪かきできない、って皆に伝えてくれないかな?」ズズッ

村娘「風邪!? あちゃー、そりは大変だす!」

勇者「本当に申し訳ない。助け合っていかないといけないのに、風邪なんて引いちまって…」

村娘「何言ってんすか、風邪なんて誰でも引くだす。そんなことで自分を責めるなんて、おかしな勇者さんだすな」

勇者「そ、そっかな…? …へくしっ!」

村娘「そいじゃ、あたしが伝えてくるだす。ゆっくりしててくだせぇ」パタパタ

勇者(おかしな…か。何で俺、自分を責めてるんだろうな?)

勇者(……あ)


僧侶『風邪ですか…自己管理がなってませんね』

騎士『早く治せよ~。その分、旅が停滞しちまうからな』


勇者(そっか…あの頃は風邪引いたら、そういう風に言われたからな…。まぁ、魔王討伐の使命を背負っていた以上、仕方ないよな)

勇者(……何か、思い出しちまったなぁ)ゴホゴホ

最近は、あの頃の記憶が薄れてきていたというのに。
だけど熱のせいか、色んなことを思い出した。

50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:43:57.23 ID:Cem6vXyp0
騎士『かあぁーっ、また負けたぁーっ! 勇者、頼む! もう1本手合わせしてくれ!!』

豪快で負けず嫌いの騎士。
共に剣のことで語り合い、切磋琢磨してきた仲だった。


僧侶『保存食を作りましたよ。栄養はたっぷり入っています、これで力をつけて下さい』

クールで知的な僧侶。
彼の頭脳や、冷静な判断力はいつでも頼りになった。


そして――


踊り子『勇者、新しい舞を覚えたの! ねぇねぇ、見て!』

勇者『俺は舞のことはよくわからないから…』

踊り子『それでもいいの! だって勇者に見てもらいたいんだもん♪』

勇者『…俺なんかでいいの?』

踊り子『うん! 勇者は運動神経いいから、いつか一緒に踊れるといいなぁ』

勇者『…そうだな。旅が終わったら、踊りを教えてくれよ』

踊り子『!! 勿論よ勇者!』



勇者(――好きだったなぁ)

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:44:23.64 ID:Cem6vXyp0
勇者「…ん……」

村娘「はぅ! す、すんません勇者さん、起こしちまいましたか!」

勇者「村娘…ちゃん……?」

いつの間にか寝てたらしい。
頭がひんやりする。これは…冷たいタオル?

勇者「看病…してくれたの……?」

村娘「勇者さん一人暮らしだもの、看病が必要だす。あ、勇者さんが寝てる間に、お医者様に見てもらったすよ!」

勇者「医者か…。全然気がつかなかったな」

村娘「はい、お水! お薬飲んで、もっかい寝るだす!」

勇者「ん……」ゴクリ

村娘「飲んだすね。あ、あたしはお粥作ってっすから。何かあれば呼んでくだせぇ」

勇者「…ずっと、この家にいてくれるの?」

村娘「えぇ。勇者さんば放っておけないだす!」

勇者「…そっか」

優しさがいつもより身にしみる。
風邪のせいで、心も弱っているみたいだ。

勇者「なら…。ずっと風邪引いてようかな……」

村娘「へっ?」

勇者「…すやー」

村娘「……?」

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:46:23.17 ID:Cem6vXyp0
最初は長引くかと思ったが、3日目には大分体調も良くなってきた。
その間ほとんど寝ていて記憶があまりないが、部屋には村の人たちからのお見舞い品が沢山置かれていた。

勇者(今日から仕事に復帰するかなぁ)

村娘「おはようさんだす、勇者さん。顔色が大分良くなってきたすね!」

勇者「うん。村娘ちゃんのお陰だよ、ありがとう」

村娘「とんでもねぇす」

勇者「皆にも心配かけちまったしなぁ。今までの倍働くからな!」

村娘「無理して風邪ぶり返さないように注意だすよ~」

そう言いながら2人一緒に家を出た。
久々の外は、何だか様子が違って見えて――

勇者(…何か騒がしくない?)

村人A「た、大変だぁ!」

勇者「どうしたんですか?」

村人A「村周辺に魔物が現れ始めたべ!!」

勇者「…!?」


奥方B「ひゃああぁ――っ!」

村人A「この声は、Bんとこのカカアの声だべ!」

勇者「行ってみます!」ダッ

53 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:46:51.21 ID:Cem6vXyp0
奥方B「ひ、ひいぃ…」

村人B「寄るな、この魔物め!」

村の中に侵入してきた魔物に、村人は怯えながらもクワを持って威嚇していた。

村人B「カカア、早く逃げるだ!」

奥方B「あんたを残して行けるかい!」

村人B「何言ってるだ、早くしねと…」

魔物「ガアァ――ッ!!」

村人B「!!!」


勇者「だああぁーっ!!」バキィ

魔物「ゴハッ!!」

村人B「!! ゆ、勇者さ!」

勇者「Bさん、クワを貸して!」

村人B「へ、へぇ!」

魔物「ガルル…ガアアァァッ!!」バッ

勇者「でりゃあぁ!!」ズシュッ

魔物「ガ……」パタッ

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:47:22.70 ID:Cem6vXyp0
村人B「勇者さ、助かったべ!」

勇者「何で魔物が……」

和平が成立してから、人間と魔物は住処を「住み分け」することになったはずだ。
だから人間の村に魔物が入ってくるなど、ありえないことなのだが…。

しかし、考えている間もなかった。

村人A「て、大変だぁ――っ!!」

勇者「どうしました!」

村人A「また魔物が村に入ってきたべ! 女子供は家ん中さ避難させといたが…」

勇者「わかりました、皆さんも避難して下さい!」ダッ

村人A「勇者さ!?」


勇者が駆けつけると、10匹近くの魔物が村に侵入していた。
魔物達は勇者の姿を見つけると、一斉に襲いかかってくる。

勇者(久々の感覚だな…――)

まさかまた魔物と戦う日がやってくるとは思わなかった。
剣に比べてクワは戦闘に向かないが――

勇者「お前たちには、これで十分だ!!」

勇者は威勢よく、魔物達に立ち向かっていった。

55 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:47:50.62 ID:Cem6vXyp0
勇者「…ふん」

あっという間に魔物を片付け、勇者は村中を見回った。
もう他に魔物が入ってきた様子はない。

村人A「た、助かった…べか?」

勇者「えぇ。ひとまずは、大丈夫の様です」

村人A「良かったべ~…勇者さがいなければ、どうなってたことか……」

村人達がぞろぞろと家の中から出てきた。
彼らは安堵の表情を浮かべ、勇者に駆け寄ってきた。

「ありがとう、勇者さん!」「勇者さんのお陰だす!」「勇者さは村の守り神だべ!」

勇者(あ、はは…参ったなこりゃ)

村娘「勇者さん!」ダッ

勇者「村娘ちゃん、無事で良かった」

村娘「怪我はないだすか! 病み上がりなのに…」アワワ

勇者「うん、大丈夫。雪かきよりも戦う方が楽なくらいだよ」アハハ

村娘「もー、勇者さんたら…」

村人A「んだけども、何で魔物が現れたんだべな?」

村人B「おっかねぇかったなぁ。これで済むと良いんだが……」

勇者「……」


そしてその日の正午、答えはやってきた。

56 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:48:23.61 ID:Cem6vXyp0
兵「邪神が現れた」

村人A「じゃ、邪神!?」

国からやってきた兵の報せにより、村人たちがざわついた。
邪神とは――勇者も初めて名を聞く。

兵「その邪神は、魔物の国に突如現れた、魔王の反対勢力らしい。魔王も今までその存在を知らず、あちら側も困惑している」

村人B「その影響で村に魔物が現れたってのか!」

兵「国中の町村に兵が派遣される予定だ。だが、突然のことで国も混乱していてな…」

村人A「どうすんだべ~…せっかく平和になったと思ったのに、また昔に後戻りだべ」

村人B「そんで、国から何人の兵が来るんだべ?」

兵「この村には、5人と…」

村人A「5人!? たった5人だべか!?」

兵「規模的に、どうしても都会部を優先することになり…」

村人B「村から切り捨てようってのかぁ!」

兵「そういうわけでは……」

勇者「…俺が村を守りますよ」

兵「!! 貴方は……」

勇者の顔を知っているのか、兵は勇者の顔を見て驚きの表情を見せた。

勇者「俺の分の剣を持ってきて下さい。俺1人で、その5人の兵以上の仕事をしてみせますよ」

57 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:49:14.26 ID:Cem6vXyp0
宣言通り、勇者は5人分以上の働きをした。

勇者「でりゃああぁぁ――っ!!」

魔物「ガハッ…」

たまに魔物が現れる村だったが、勇者の活躍により被害は出なかった。


勇者「…! 村娘ちゃん、家に隠れて」

村娘「どうしたんすか?」

勇者「魔物が近づいてきてる!」

村娘「!」

この小さな村の中、魔物の気配がすればすぐに察知できる程の勘を取り戻した。


勇者「よっこいしょ、っとおぉ!!」

村人A「お、おおぉ…そんな大岩を持ち上げるとは……」

勇者「よし…筋力アップ!」

村の守人となった勇者は、今までの仕事時間をトレーニングに費やせるようになった。


勇者「だあぁ!」バシッ

兵「くっ…流石勇者殿。5人がかりでも1本も取れないとは…」

勇者「もう1本行きますか。今度はちゃんと、俺の剣の動きを見て」

兵「はい!」

兵士たちに剣の稽古をつけながら、自身も剣を振る感覚を取り戻していた。

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:49:52.64 ID:Cem6vXyp0
>夜


兵「今日もお疲れ様です、勇者殿!」

勇者「ん。俺は家にいるんで、何かあったらすぐ知らせて下さい」


村娘「あ、勇者さん。お帰りなせぇ」

勇者「ただいま。いい匂いするなぁ…」

村娘「今日はお肉だす。一杯、力をつけてくだせぇ」

勇者「悪いね村娘ちゃん、すっかり毎晩の夕飯支度までさせちゃって…」

村娘「何言ってるんだすか! 勇者さんはこの村を守ってくれてんだもの、これ位は当然だす!」

勇者「…何か、既婚男の気持ちがわかるわ」

村娘「え?」

勇者「こうやって世話を焼いてくれる奥さんがいるから、仕事に集中できるんだよな~」

村娘「お、おおおおお奥さん!? そ、そそそそんなら、あ、あ、あたし、勇者さんの奥さ」ガチガチ

グウウウゥゥゥ

勇者「腹減ったんで、頂きます」

村娘「………」

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/04(金) 18:50:30.85 ID:Cem6vXyp0
>その頃――


悪魔「ウケケ。人間共め恐怖してやがるな…。恐怖は邪神様にとっていい糧になる、もっともっと恐怖しろ!!」

1匹の悪魔が翼を広げ、地上を見下ろしていた。

悪魔「あんな腑抜けの魔王なんざ、とっとと隠居させてやんよ。時代は邪神様だぜェ!!」

コウモリ「悪魔様」バッサバッサ

悪魔「おう、人間社会の侵略は順調か?」

コウモリ「はい。しかしこの国で1件、被害を与えられていない村がありまして…」

悪魔「ハァ? 村だろ村! 村相手だからって手ェ抜いてんじゃねぇだろなぁ!!」

コウモリ「いえ。その村には兵士もたった5名しか派遣されていないにも関わらず、50名以上の魔物が狩られています」

悪魔「そんなにか…。そりゃきっと何かあるんだろうな」

悪魔は凶悪に笑った。

悪魔「こうなりゃ、俺自ら行くしかねぇみてぇだな…!!」

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:38:37.56 ID:OlIPKK2z0
>深夜、村


勇者「Zzz…」

バタバタ

兵「勇者殿!」

勇者「ん…どうしたんですか」

安眠から起こされた勇者だったが、兵士の緊迫した様子に、すぐにスイッチを入れる。

兵「遠方の上空に魔物らしき影を確認! こちらの村に向かってきます!」

勇者「了解。急いで向かう」

勇者は急いで着替え、剣を持って家を飛び出した。

兵「あれです」

勇者「ん――」



悪魔「さぁ~て、挨拶に一発…」ゴオォ…

悪魔「爆炎ブッ放してやんよおおぉぉ!!」

ドゴォ――


勇者「はああぁ――っ!!」

悪魔「…へぇ~?」

高く跳躍した勇者は、悪魔の放った魔法を一刀両断した。
それを見た悪魔は面白そうに笑う。

悪魔「おいテメェ! 俺の魔法を斬るとは、只者じゃねぇなぁ~!?」

勇者「…」クイッ

悪魔「?」

勇者は「来い」と指で指示し、村の外へ出る。
悪魔は素直に、勇者の側に降りた。

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:39:07.49 ID:OlIPKK2z0
勇者「村の皆の睡眠を邪魔するな」

悪魔「随分と余裕じゃ~ん? けどご心配なく、村ごとテメェを葬ってやるからよォ」ケケケ

勇者「させねぇよ…!!」

勇者は悪魔へと一直線に駆け、迷わず剣を振り下ろした。

悪魔「おっとォ!」ヒョイ

勇者(素早い!)

悪魔「今までの雑魚と同じに考えんなよぉ…喰らえッ!!」

勇者「!!」

高速の爪攻撃が勇者に襲いかかる。

勇者(回避? いや――)

回避すれば体勢が崩れ、その隙を突かれる。
それよりも――

勇者「…――っ!」パシッ

悪魔「!!」

勇者は悪魔の手首を掴んで攻撃を止めた。

悪魔「…いでででっ!!!」

そして、一気にひねり上げた。

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:39:36.41 ID:OlIPKK2z0
悪魔「クッ!!」バッ

勇者「…ちっ」

上空に逃げられた。これだから翼のある相手は面倒くさい。

悪魔「やるじゃねぇかよ、力自慢さんよォ!! なら、これはどうよ!!」

勇者「…っ!」

何発もの爆炎が悪魔から放たれた。
だが、恐るるに足りない。次々と切り裂き、剣でかき消す。

勇者「そんな攻撃じゃ俺は殺せないぞ…」

悪魔「そうみたいねぇ~。それじゃ、これは?」

勇者「!?」

勇者の周辺で爆音が轟いた。
地面の砂が舞い上がり、視界を遮る。

勇者(視覚を封じて攻撃を叩き込もうっていう魂胆か…だが!)

爆炎1発目。気配を察知し切る。
反対方向から続けて2発目。これも難なく切る。
3発目、4発目は同時に放たれた。それも見極めて切る。

勇者(5発目――来る)

構える、と同時――

悪魔「バァ♪ 爆炎かと思ったァ――ッ!? ざあぁんねぇん!!」バキィ

勇者「――っ!!」ドンッ

鋭い蹴りを腹に喰らい、勇者は木に体を打ち付けた。

悪魔「爆炎と俺じゃスピードは全然違うんだよなぁ。思い込みって怖いね~♪」

勇者(こいつ…!!)

痛みを堪えて、勇者は再び構えた。

65 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:40:08.54 ID:OlIPKK2z0
悪魔「ヒャッハアァァ!!」バキィ

勇者「!!!」

悪魔「さっきより動きが鈍ってんぜえぇ!! 痛くて動けないのかな、ケケケケ!!」バキベキッ

勇者「――っ」

ドォン

勇者「…ッハァッ」

悪魔「おぉ~、神回避だねぇ。でもォ!!」ドゴォ

勇者「――っ!!!」

悪魔「回避した瞬間には隙が生まれますねー♪ その必死感がマジウケる~」

勇者(この野郎、意外と考えてやがる…!)

ダメージで余裕を失っているのは事実。
頭の中で落ち着けと自分に言い聞かせたところで、冷静な考えが浮かぶわけでもない。

勇者「…だったらぁ!!」ビュンッ

悪魔「おっ?」サッ

――捨て身でひたすら攻めるのみ!

悪魔「わ、ちょっ…」ササッ

スタミナ配分など気にしていないかのような剣の連続攻撃に、悪魔は回避するのが手一杯の様子だ。

悪魔「あークソ、これだからヤケクソになったバカはっ!!」バッ

勇者(よし――)


自分の隙が回避した瞬間に生まれるのなら――

勇者「おらぁ!!」ブンッ

悪魔「――」

この悪魔の隙は、空中に舞い上がっている最中に生まれる――

悪魔「――えっ?」


悪魔の腹には、勇者が投擲した剣がざっくりと刺さっていた。


勇者「翼を生やした魔物と戦うのは、お前が初めてじゃないんだよな…」

66 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:40:55.06 ID:OlIPKK2z0
悪魔「ガハ…ッ!!」

悪魔は地面に倒れた。
勇者が悪魔の腹から剣を抜くと、血がどぼどぼ溢れ出した。

悪魔「ヘ、ヘヘ…ッ、見事じゃねぇか…!」

顔は血の気を失いながらも、悪魔は笑った。

悪魔「最後に教えてくれよ…テメーの名は何ていうんだオイ?」

勇者「……勇者だ」

悪魔「勇者……って、あぁ。あの勇者ね……」

何を思ったのか、悪魔は納得したように言った。

悪魔「世界には馬鹿ばっかかよ、お前程の奴を冷遇するなんて…ゲホッ」

勇者「……」

悪魔「あー、ここでリタイアは惜しいけど仕方ねぇな…。邪神様、万歳…ッ!」

勇者「……」

悪魔はそのまま動かなくなった。
だがこの強敵に勝利したというのに、勇者の気持ちはどこか重い。
それはこの悪魔が、敵として勇者に敬意を抱いてくれた為かもしれない。

勇者(…そんなことで喜びを感じたなら、俺はちょろい奴だよな)

兵「勇者殿ー!」

勇者「あぁ。終わりましたよ」

兵「しかし怪我をされていますね…。家に戻って治療をしましょう!」

勇者「はい」

その場を後にしながら、勇者は心の中で悪魔に言った。

――お前も、スゲェ奴だったよ。いい相手と戦えた、って久しぶりに思えた。

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:41:21.54 ID:OlIPKK2z0
>翌朝


村娘「ほ、ほんなに強ぇ魔物が来たんだすか」

勇者「あー…お陰で寝不足」ボー

村娘「お怪我の具合はどうなんだすか!?」アワワ

勇者「大丈夫大丈夫。俺の体は叩いても切っても燃やしても壊れないから」

村娘「んなわけないだしょ」

勇者「それは冗談だけど大丈夫なのは本当。ありがとな、心配してくれて」

村娘「一杯栄養つけて、体ば休めてくだせぇ」

勇者「ん。あー、味噌汁うめぇ…」


<ガヤガヤ


勇者「…ん?」

村娘「外が騒がしいすね…」

勇者「もしかして魔物かも。行ってくる!」

村娘「お気をつけて!」

68 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:41:47.75 ID:OlIPKK2z0
勇者「…うっ?」

外に出た勇者はすぐに異変に気付いた。
早朝だというのに空が薄暗い。暗雲の間を雷が鳴り響いている。

勇者(…やな空気だな。単に天気が悪いわけじゃなさそうだ)

兵「あ、あれは!!」

勇者「!!」

暗雲の隙間から影が現れた。

それは、正しく"不吉"を象徴するような、異形の存在――

その異形は雷を背に、村の上空へと降りてきた。
感じるのは本能的な"危険"と"恐怖"――そしてその異形ははっきりと、勇者を見ていた。

この不吉――間違いない。

勇者「――お前が、邪神か」

邪神「いかにも」

囁くような口調だったが、その声は脳に響いた。
ただ声を出すだけで、ここまで不吉なものを感じさせる生物がいたとは…。

69 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:42:16.12 ID:OlIPKK2z0
邪神「我が腹心、悪魔を倒したそうだな」

勇者「…あぁ。先に仕掛けてきたのは向こうだ」

邪神「それは構わぬ。奴がお前より弱かっただけのこと――お前、名は何と言う」

勇者「勇者だ」

邪神「勇者――そうか、お前が勇者か。人間たちに翻弄され、魔王に弄ばれた哀れな者よ」

勇者「…同情はいらない」

邪神「勇者よ――私と手を組まぬか」

勇者「何を言ってやがる」

邪神「私は有能な者を側に置きたい。お前とて、お前を愚弄した者たちが憎いだろう?」

勇者「…そんなことはもう忘れた」

邪神「こんな寂れた村でお前は朽ちていくつもりか?」

勇者「…だったらどうする」

邪神「この村を滅ぼす…と言ったらどうする?」

勇者「………」

その言葉を聞いた村人たちの顔に絶望が浮かぶ。

70 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:42:43.58 ID:OlIPKK2z0
勇者は表面的には冷静を装っていたが、内心で焦っていた。
この邪神の威圧感――それに世界の現状から考えて、邪神は、魔王と同等かそれ以上の力を持っているだろう。
そんな力の持ち主が村を襲えば――

勇者は考える。

勇者(お前を愚弄した者が憎いだろう…ね。助けたい、って思わなくなったのは事実だ)


そして、先の悪魔の言葉を思い出す。

悪魔『ヘ、ヘヘ…ッ、見事じゃねぇか…!』

悪魔『世界には馬鹿ばっかかよ、お前程の奴を冷遇するなんて…』


勇者(こいつらは、俺を愚弄した人間達とは違う…)


村人A「ゆ、勇者さ……」

村人B「ううぅ……」

勇者「……」

村人たちは懇願するような目で勇者を見る。
彼らとて、勇者が最悪な選択を迫られていることくらいわかっているだろう。

勇者「…心配いりませんよ」

勇者はそう言って村人たちに笑いかけた。
そう――勇者にとって大事なのは世界よりも……

勇者「俺は、この村が1番大事だから――」

村娘「勇者さん、駄目だす!!」

勇者(村娘ちゃん)

家から飛び出してきた村娘が、勇者に向かって叫んだ。

71 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:43:10.14 ID:OlIPKK2z0
村娘「勇者さんは、人々の為に戦ってきたヒーローだす!!」

勇者(正確には、ヒーローになり損ねたんだけどな)

村娘「勇者さんの存在は希望なんす! 悪い奴の言葉に耳を傾けちゃ駄目だす!」

勇者(俺にはもう、何が希望で、何が悪いのかも判断はつかないよ)

村娘「勇者さんは…勇者さんは、ヒーローのままでいて――」

勇者「…村娘ちゃん、ごめん」

村娘「え――っ?」

72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/05(土) 17:43:52.09 ID:OlIPKK2z0
勇者「邪神、こちらの条件を聞いてもらっていいか?」

邪神「言ってみろ」

勇者「ひとつ、俺は人間は殺せない。もうひとつ――この村にだけは手を出さないこと」

村娘「――っ!!」


邪神「――いいだろう」

勇者「ん。それならお前の下に行くよ、邪神」

勇者は邪神に手を伸ばす。
叫ぶ村娘に背を向けて。

村娘「何で! どうして勇者さん、そんな――」

――本当にごめんな、村娘ちゃん。


勇者「大事なものを守る為なら、堕ちてもいい」

村娘「!!」

――君はそんな俺が嫌いだろうから。


邪神「共に行こう、勇者よ…」

勇者「あぁ…」

――俺はもう、ここに戻らない。


村娘「勇者さあぁぁ――ん!!」


――大好きだよ、村娘ちゃん。

80 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/06(日) 16:23:34.03 ID:HfPL457d0
勇者「そんで……」

神殿に招かれた勇者は、早速話を切り出した。

勇者「俺は何をすればいいんだ?」

邪神「気の早い。そんなに復讐したくてウズウズしているのか?」

勇者「そうじゃない。俺がお前と手を組んだ理由をもう忘れたか」

邪神「クク、すまない。こんな情報が入っていてな…」

勇者「どんな?」

邪神「魔王の国と人間の大国が手を組んで、近々私を倒しに来るそうだ」

勇者「へぇ」

邪神「そしてその連合軍を率いるのは…魔王だそうだ」

勇者「かつては城で敵を待つだけの身分だったのが、自分から敵を倒しに来る身分になったか」

邪神「我々は奴らが来るのを待つだけだ」

勇者「こちらからは仕掛けないのか?」

邪神「あぁ、正面から叩き潰してこそ、我々の力が本物であると証明される。…矮小な手を使うような小物と一緒にするな」

勇者「…」

魔王に聞かせてやりたくなるような皮肉。
邪神に比べると、あの魔王が小物に思えてくるのが不思議だ。

81 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/06(日) 16:24:02.59 ID:HfPL457d0
勇者「なぁ。この神殿に、悪魔並に強い奴はいるか?」

邪神「あぁ、いる。それがどうしたのだ?」

勇者「そいつら相手に修行したい。腕を上げるには実戦が1番だ」

邪神「ほう。向上心のあることだな。寂れた村で戦闘意欲が疼いていたのか?」

勇者「さてね。寝不足なんで、一眠りしてから修行させてもらう」

邪神「ふ。修行相手にはとびきりの実力者を用意しよう」

勇者「…そうだ邪神」

邪神「何だ」

勇者「お前の目的を聞くのを忘れていた。…お前は何の為に、世界に攻撃を仕掛けている?」

邪神「簡単な話だ。恐怖、絶望…その"感情"こそが、私の糧。だから世界を恐怖と絶望に包む、それだけだ」

勇者「わかった」

それだけ聞くと、勇者はそこを後にした。
心の中で邪神に「生きにくい体質だな」と声をかけて。

勇者(俺の糧は――さっき、捨てちまったけど)

82 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/06(日) 16:24:30.00 ID:HfPL457d0
それから勇者は、ひたすら修行にのめり込んだ。

勇者「ハァ、ハァ…おらあぁぁ――っ!!」

竜「やるな、人間よ…!」

考える時間があれば、考えてしまうから。
だから、そんな時間を作らないように。

勇者「ゼェッ…――Zzz」

竜「馬鹿みたく剣を振ってたと思ったら寝やがった」

自分の判断を後悔しているわけではない。

ただ…――


村娘『勇者さんは…勇者さんは、ヒーローのままでいて――』


勇者「!!!」ガバッ

竜「お、起きたか」

勇者「…もう1回やるぞ」

竜「またかよ」


裏切って開き直れる程、勇者の心は図太くなかった。

83 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/06(日) 16:25:15.97 ID:HfPL457d0
>数日後――


邪神「フフ…感じるぞ。強者の軍勢がこの神殿に、どんどん近づいてきている」

勇者「…魔王もいるか」

邪神「あぁ。軍勢で最も強い力の持ち主…あれが魔王だろう」

勇者「そうか……」

邪神「魔王と戦いたいか? 勇者よ…」

勇者「…どうでもいい」

邪神「そうか。だがどの道、お前は人間を斬ることはできない」

勇者「……」

邪神「魔王はお前がやれ、勇者。味わった屈辱を、倍にして返すのだ」

勇者「…わかった」

命令だから。そこに私的な感情は持ち込まない――

84 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/06(日) 16:25:45.20 ID:HfPL457d0
――はずだった。


ワアアァァ

勇者「――」

魔王「邪神についたという噂は、本当だったか…」

踊り子「……」

混戦の中、魔王を見つけた。側に踊り子を連れて。
その2人の姿を見た途端――


勇者「…――っ」



魔王『ハハハ…面白いものを見せてもらったぞ!! なぁ、踊り子?』

踊り子『はい、魔王様』クスクス


踊り子『それにしても勇者ったらおっかしい~!! 必死な顔して罠を突っ切って行くんだもん、笑い堪えるの大変だったぁ!!』

魔王『お陰で体も臭くなったな、勇者』


踊り子『そういうワケだから、とっとと勇者をこの城から連れ出してくれない? くっさいのよ、さっきから』


魔王『国に利用されるのも、我に遊ばれるのも、滑稽さはそう変わらん』



勇者「うわああぁ――っ!!」バッ

魔王「!!」

糸が切れたように、勇者は魔王に飛びかかった。

85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/06(日) 16:26:19.78 ID:HfPL457d0
勇者「あああぁ――…っ!!」


これは命令、これは命令、これは命令、これは命令…――


踊り子「魔王様…くっ!」

踊り子は周囲の激戦の波に飲まれていった。
戦いの現状は勇者と魔王、1対1。

魔王「はぁっ!!」

勇者「!!」

魔王の拳が勇者の腹を打つ――が、

勇者「この程度かよ、魔王」

そのダメージは、戦いに支障ない。勇者は勢いを失うことなく魔王を挑発した。

魔王「この…っ、暗黒魔法!!」

勇者「オラァ!!」ズバッ

魔王「!! 斬…っ!?」

勇者「どうした…? まさか今のが本気とは言わねぇよな…?」

魔王「ク…!」シュッ

勇者「遅ぇ!!」バキィ

魔王「が…っ」


――あれ?


勇者(魔王って、こんなに手応えなかったか…?)

86 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/06(日) 16:26:45.57 ID:HfPL457d0
――あぁ、そうか


勇者「そういやお前は…罠で嵌めねぇと俺と戦えもしない、臆病者だったよなぁ」

あの時どうして自分は疑問に思わなかったのか。
あれは1対1の対等な戦いなんかじゃなかった。数々の罠で、自分は疲弊していたではないか。

勇者「は、ははは……」

魔王「……っ!?」

勇者「はははははははははははは!!!」

心の底から笑えてきた。
自分をコケにしたのは、この程度の奴だった。

勇者「……はぁーっ…」

そして笑いが収まると、今度は頭が冷えてきた。

勇者「――…す」


こんな奴に、自分はコケにされた――


勇者「殺す…ぶっ殺してやるよ魔王オォ!!」

魔王「!!!」


自分の味わった屈辱を、忘れる為に――!!

87 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/06(日) 16:27:24.42 ID:HfPL457d0
勇者「――」


その時ふと、あるものが目に入った。

それは魔王のピアス。あの時、自分の"負け犬"の顔を映し出した、あの忌まわしいピアス。

勇者「あ――」

そこに映った顔を見て、勇者の勢いは衰えた。

勇者(何て…邪悪な顔だ……)

信じられなかった。自分がこんな顔をするなんて。
しかしそこに映っていたのは確かに、"殺し"を楽しんでいる自分の顔で――

勇者「あ、ああぁ……」


"人間"の顔ではなかった。

90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/07(月) 17:58:01.57 ID:l1GA4Hpk0
――別に、いいじゃないか。俺はそこまでのことをされたんだ。

勇者「あああぁ……」

――こいつらが、俺を"人間"でなくしたんだ。



勇者(――違う)

確かに自暴自棄になっていた時期はあった。
人間であるどころか、命すら放棄しようとしていた。

そんな自分が踏みとどまれたのは…――


村娘『あったかいもんお腹一杯食べたら、きっと元気になるす!』


勇者(…そうだ)

自分は今の今まで、生きてきた。
生きていこうと希望が沸いたのは、彼女のお陰で――


村娘『勇者様が人々の為に戦ってくれていると知って、あたし…心からあったかくなって、いつしか元気を取り戻せただす! 勇者様はあたしの恩人で、英雄なんす!』


勇者(…――駄目だよな、こんな俺じゃ)


その彼女は、自分に"人間"であることを望むはずだ。


勇者「…おい、魔王」

魔王「……っ?」

91 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/07(月) 17:58:43.30 ID:l1GA4Hpk0



邪神「ほう…私の元にたどり着いたか」

魔王「……我が地位を奪おうという不届き者め。我が手で制裁を加えてやろう」

邪神「来い、矮小なる王よ。貴様を葬り、新たな絶望を味わわせてもらおう」


両者が戦闘態勢に入ると同時、溢れ出る魔力が空間を揺らした。
互いに魔力を主張し、威嚇し合う。

魔王「喰らえ――っ!!」

先に仕掛けたのは魔王だった。
暗黒魔法を連続で10発――いずれも、1擊で城ひとつを破壊できる程の威力だ。

邪神「ふん」

邪神はそこから動かぬまま、魔力でもってそれを打ち消した。

邪神「連続魔法とは、これくらいでないとな――」

邪神の周囲に魔力の球体が浮かぶ。その数は有に100を越える。

邪神「どうだ」

魔王「覇ぁっ!!」カァン

邪神「…ほう」

魔王の爪が球体を弾き、そして球体は軌道を変え邪神へ――


ドカアアァァン


魔王「やはり爆発魔法の類だったか…自身の技の味はどうだ」

邪神「悪くはない」

魔王「!!」

巨大な爆発だったにも関わらず、直撃した邪神は無傷だった。

92 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/07(月) 17:59:09.59 ID:l1GA4Hpk0
魔王「くっ…暗黒魔法!!」

邪神「――」

また魔法が直撃した。しかし――

邪神「うむ。お前の魔法も悪くはない」

魔王「何だと…!!」

邪神がダメージを受けた様子は無かった。

魔王「この…っ!」

魔王は今度は爪を立て、邪神に向かっていった。
邪神が放つ魔法を回避し、打ち消し、邪神との距離を詰める。

魔王「ハアァッ!」

爪で空気を斬り、放つ真空斬。

邪神「――っ」

邪神は眉をひそめる。今度は、ダメージを与えたようだ。
手応えを感じた魔王は、一気に邪神の正面へと立った。

魔王「喰らえ!」

邪神「!!」

爪を胸に刺す。
このまま心臓を抉り取る――魔王はズブズブと深く爪を食い込ませた。

邪神「…っ」

魔王「痛みで声も出ないか?」

もうすぐ心臓に届く――勝ちを確信した魔王はニヤリと笑った。

邪神「――いや」

邪神は大きく口を開く。

邪神「痛みなど、感じない――」

魔王「っ!?」

突如、馬鹿でかい魔力を魔王は感じた。
当たってはまずい――本能的に察知はした。

だが、間に合わなかった。

魔王「――」

全身を焼き尽くすような魔力に、苦痛を感じたのは、ほんの一瞬だった。

邪神「お前が物理攻撃に転じたと同時、私は体内でお前に気付かれぬように魔力を貯めたのだよ」

邪神がそれを話し終わった時、既に魔王の肉体は消滅していた。

93 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/07(月) 17:59:42.18 ID:l1GA4Hpk0
邪神「ふぅ」

魔力を治癒に当てる。確実に魔王を討つ為とはいえ、肉体にかなり負担をかけた。
あと数秒技を出すのが遅れていたら、こちらの負けだった。

邪神「…よし」

傷は塞いだ。かなりの魔力を消費したが。
しかし、これで敵将は討った。あとはこの程度の魔力でも、十分な相手ばかり――


勇者「なるほど。お前の戦い方はそんな感じか」

邪神「勇者。魔王にやられたのかと思ったが、無事だったのだな」

勇者「まぁね。それより、今の戦い見てわかった」

邪神「何をだ?」

勇者「お前と魔王の実力差はそんなに無い。魔王に先の戦いの疲れとダメージが残っていなかったら、勝敗は逆転していたかもしれない」

邪神「そこは私との勝負を焦った魔王の判断ミスだろうな」

勇者「で…俺は万全の状態の魔王よりも強い」

邪神「ほう」

勇者「だから…」

勇者は剣を抜き、邪神に向けた。

勇者「俺は多分――お前より強い」

94 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/07(月) 18:00:19.18 ID:l1GA4Hpk0
時は少し前にさかのぼり…


勇者「…おい、魔王」

魔王「……っ?」

トドメを覚悟していたのか、急に動きを止めた勇者を、魔王は不思議そうに見た。

勇者「お前みたいな小物には興味も失せた。とっとと邪神の所まで行っちまえ」

魔王「…!? 馬鹿な、我を見逃すというのか?」

勇者「勘違いするな。お前を殺すのが、俺でなくて邪神になっただけだ」

魔王「……」

勇者「何だ」

魔王「何を企んでいる?」

勇者「知る必要はない。お前は、俺にいいように利用されてりゃいいんだよ」

魔王「…クッ」

屈辱的な様子ながら、魔王は勇者の言う通り邪神の居場所へと向かった。
魔王の"無様な負け犬"の姿を見ただけで、大分溜飲は下がった。

だが、見逃すだけでは意味がない。

勇者(邪神の力は未知――魔王との戦いを観察して力を測り、なおかつ力を消耗させられれば…)





95 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/07(月) 18:01:05.96 ID:l1GA4Hpk0
邪神「私に挑むと言うのか、勇者」

勇者「…驚かないんだな? 裏切りは想定内か?」

邪神「何があろうと驚きはしない。やはり人間への情が戻ったか? 勇者よ」

勇者「そんなんじゃねーよ」

人間とか魔物とか、邪神の目的なんてどうでもいい。
だけど――

勇者「俺にも大事なものがあってね」

大事な人達を守る為に、自分は人間であることを捨てようとした。
だけどそれは間違いだった。
その道を突き進めば、その人達の“心”を守れない。

勇者「大事なものを守る為に、別の大事なものを捨てるのは違うって気付いたんだ」

邪神たちは自分を認めてくれた。自分が味わった屈辱を理解してくれた。だけど――

勇者「感謝はしている。…だけどやっぱ俺、人であることは捨てられない」

自分が語っているのは理想もしくは夢と呼ばれるものかもしれない。
だけどそれでいいじゃないか。理想や夢を追いかけて何が悪い。

勇者「守りたいもの守って、手に入れたいもの全部手に入れてやるよ…お前を倒してな!」

邪神「…何があったか知らんが、面白い。いいだろう、来い」

96 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/07(月) 18:01:31.84 ID:l1GA4Hpk0
勇者(邪神は魔力を大分消耗している。倒すチャンスは今しかない)ダッ

邪神「喰らえ」

邪神は魔王に放ったものと同じ球体を勇者に向けて放つ。

勇者「だあぁっ!」

自分に向かってきた球体を1つ斬る――が、

ドカァン

勇者「!!」バッ

邪神「いい反応だ。よく回避したな」

勇者(斬ったら爆発するのか…だったら)

魔王のように球体を跳ね返すなんて芸当は自分にはできない。
だからひたすら回避――しながら、邪神に接近する!

勇者「おらあぁ――っ!!」

邪神「甘い」

勇者「!!」

切りかかろうとした時、球体が勇者に襲いかかった。
とっさにこれを回避する。少しかすって、軽く肌が焦げた。

邪神「お前は私に近づくことすらかなわん」

勇者(そう簡単に隙は与えてくれないか…なら俺の体力と邪神の魔力、どっちが先に尽きるかの持久戦だな)

97 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/07(月) 18:01:59.32 ID:l1GA4Hpk0



勇者「なかなかタフだな」

邪神「お前もな…」

しばらく、一進一退の攻防が続いた。
勇者はひたすら接近と回避を繰り返し、未だ互いにダメージはない。

勇者(よくここまで粘れるもんだな、俺…けど油断してたらヤベェぞ)

肉体と魔法で戦う魔王より、魔法主体で戦う邪神の方が、相手としてはやりづらい。
それに魔法の質――回避よりも斬ることで防ぐことを得意とする勇者には、厄介な魔法を使われる。

勇者(けどやるしかねぇからな!!)

勇者「はあぁ…っ」

邪神「…」スッ

勇者「――っ」

接近した時、邪神が勇者に手を延ばした。
回避できない――とっさに勇者は防御の構えをとった。

ドカァン

邪神「…仕留めそこなったな」

勇者「が…っ」

魔法を喰らった勇者は、壁に全身を叩きつけられた。
先の戦いでの邪神の魔力消費と、とっさの判断で取った防御のお陰で、何とか命拾いした。

115 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:22:35.75 ID:ZUDFeiaJ0
勇者「く…」

とはいえ全身にダメージを受けたことには変わりない。
このまま有利な状況に持ち込めるか――

ビュンッ

勇者「!!!」サッ

しかし考える時間など与えられず、邪神から放たれた攻撃魔法をギリギリで回避した。
体が痛くて、重い。

邪神「喰らうがいい」

勇者「く…っ!!」

それでも、勇者は回避を続けた。
勝つ方法が見つからないにせよ、今は命を繋ぐことが最優先だ。

勇者(見苦しいもんだな。でも…)

潔く死ぬなんて選択肢はない。死にたくない。
だって自分は、勝つことを今だって諦めていない。

邪神「…諦めの悪いことだな」

勇者「そりゃ、どうも……っ!!」

会話しながらも放たれる攻撃をかわす。
こうしている内に邪神の魔力が尽きてくれれば――と思うが、なかなかそうはいかないようだ。

邪神「だが動きが鈍ってきたな…魔法を変えるか」

勇者「…っ!」

そう言って邪神の手に、長いヤリのようなものが現れた。
そしてその先端は――真っ直ぐ勇者を捉えている。

邪神「終わりだ」

勇者(早い!)

避けられないなら、防ぐ――勇者は即座に剣を構えた。



「ナイスガッツ、勇者」

勇者「…えっ!?」

116 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:23:18.58 ID:ZUDFeiaJ0
勇者「!!!」ドサッ

勇者の体に何かが覆いかぶさってきた。
勢いよく乗っかってきたそいつのせいで、体は激しく地面に打ち付けられたが…。

騎士「よぉ!」

勇者「騎士…?」

自分の上に乗っているのは、紛れもなく、仲間だった騎士であった。
色々と思考が追いつかないが、事実なのは、騎士は自分を庇ってくれて――

僧侶「その体勢は色々とまずいんじゃないでしょうか、お2人さん」

騎士「変な誤解すんなや!」バッ

僧侶「まぁ何でもいいですけどね。勇者さん」パアァ

勇者「!」

傷が塞がり痛みが軽減される。これは、回復魔法だ。

僧侶「…図々しいことを願っているのは承知です。ですがもう、勇者さんしか頼れる方はいないのです」

騎士「頼む、勇者…邪神を倒してくれ!!」

勇者「……」

恐らく彼らも邪神を討つ為に来たのだ。
だけど魔王が敗れた今、他に希望がないのだろう。

勇者「言われなくてもやるよ」

無愛想にそう返事した。まだ彼らに愛想良くできる程、許せちゃいない。
それでも――

勇者「助かった、ありがとな」

これで、邪神に勝つ希望が見えた――!

117 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:23:46.11 ID:ZUDFeiaJ0
邪神「ダメージを回復させた所で万全ではなかろう。体力は消費したままだ」

勇者「それでいい。回復魔法がそこまで万能だと、俺が卑怯すぎる」

邪神「脆弱な人間は、群れて初めて魔物と対等になる。その程度のことで文句を言う程、私は小さくない」

勇者「寛大なお心をどうも」

邪神がそう言うのなら、気にしない。
だけどこれ以上、誰の助けも借りる気はない。

勇者「決着つけるぞ、邪神!」


勇者は邪神に向かって駆けた。
邪神と距離を詰める戦法は、先ほど通り。

邪神「同じ方法では勝てんぞ、勇者よ」

そう言いながら邪神はまた、あの爆発する球体を生み出す。
邪神の方も同じ方法を取る様子だ。

勇者(好都合。思いついた戦法があるんだよな…――)

勇者は気にせず、邪神へと突っ込んでいく。

邪神「変わらんか…ならば塵となれ」

邪神が操る球体が、勇者に襲いかかろ――

勇者「うおおぉぉっ!!」

邪神「――!」

118 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:24:13.38 ID:ZUDFeiaJ0
勇者は球体を斬ると同時、跳躍した。
宙に浮いた勇者はそのまま、爆風に飛ばされ――

邪神「――」

邪神との距離を一気に詰めた。
邪神はそのスピードに対応できず――

勇者「――終わりだ」

ずぶり。


邪神の喉に、深く剣を突き刺した。

119 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:24:45.57 ID:ZUDFeiaJ0
邪神「――」

邪神は呆然と、己の喉に突き刺さる剣を凝視していた。

勇者(魔王よりも魔法能力は優れていたが、身体能力は劣っていたみたいだな)

勇者が剣を引き抜くと、邪神はその場に倒れた。
しかし邪神には自己治癒の力がある、トドメを刺さねば――そう思い勇者は剣を構え直した。

邪神"…見事だ、勇者よ"

と、邪神の声が頭に響いてきた。

邪神"お前こそ真の勇者。よくぞ、この私を打ち破った"

勇者「……」

邪神"最後に1つ、尋ねたい。お前の手に入れたいものとは、何だ? 地位か、名誉か――それとも勇者としての誇りか"

勇者「全部違う」

邪神"では?"

勇者「"勇者"であることなんて、とっくの昔に捨てた。俺が望むのは――」

勇者は邪神の胸に剣を突きたて――


勇者「人として生きていく道だ」

その心臓を貫いた。

120 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:25:20.84 ID:ZUDFeiaJ0



王「よくぞやってくれた、勇者よ」

勇者「…どうも」

邪神を討った勇者は城に招かれ、英雄としてもてなされた。
だが賞賛の言葉も、人々の歓声も耳に入ってこない。

勇者(白々しいなオイ)

彼らは勇者が、邪神を討つ為に邪神の下へ潜り込んだ、と勘違いしてくれている。
とはいえ勇者も無駄に敵を作りたくないから、その誤解を解こうとは思わなかったが。

勇者「…じゃ、俺はもう行きますよ」

王「待て、どこへ行くのだ勇者よ」

勇者「すぐにでもやりたいことがあるんで」

褒美を受け取った勇者は、王からの言葉を途中で切り上げて立ち去った。

121 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:26:19.32 ID:ZUDFeiaJ0
踊り子「勇者…」

勇者「…踊り子」

廊下の途中で踊り子と出くわした。
何やら、しおらしい表情を浮かべているが…。

勇者「…じゃあな」

踊り子「ま、待って勇者!」

勇者「君と話すことは何もないな」

踊り子「でも、勇者……」

勇者「勘弁してくれ」

例え謝罪の言葉だったとしても受け取りたくはない。
何より、踊り子と顔を合わせるだけで自分の中に湧き上がる、醜い感情に耐えられない。

勇者「今後、俺の前に現れるな。じゃあな」

踊り子「う……」

踊り子も魔王を失って弱気になっているのだろう。もしくは、心の底から悔いているのかもしれない。
今や“英雄”である勇者にしたかつての仕打ちが知られれば、彼女もこれから制裁を受けるだろう。
だとしても――

踊り子「う、ううぅ…」

すすり泣く踊り子の声にすら反応せず、勇者はそこから足早に立ち去った。

122 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:26:47.64 ID:ZUDFeiaJ0
勇者(俺は…正しい道なんて歩けていない)

自分は没落した勇者から、本当の勇者として認められた。
だけど、歩んできた過程は以前より汚れている。

自分を受け入れてくれた邪神を裏切った。
人間と手を組み、"侵略者"である邪神を討とうとした魔王を利用した。
最愛の人を失い傷ついている踊り子を見捨てた。

勇者(…駄目だ。開き直れない)

勇者はその心残りをいつまでも抱えていくことになるだろう。
世界が勇者を認めようと、勇者は自分を認めることなんてできない。

勇者(…もうすぐ着く)

ずっと近くで勇者を見てくれていた彼女は、今の勇者をどう見てくれるか――

勇者(…怖いな)

いい予感はしなかった。それでも勇者は、彼女に会う為に足を進めた。

123 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:27:19.43 ID:ZUDFeiaJ0
勇者(…何か懐かしいな、ここに来るのは)

心が温かいのは雪溶けの時期だからか。
とにかく勇者は、邪神の神殿を出て初めて、和やかな気持ちを取り戻した。

勇者(会いたいな)

迷わずに進む。
今、どうしているだろう。きっとここにいるはずだが…。

勇者「…あっ!!」

勇者は声を上げた。
すると彼女はビクッと肩を鳴らし、こちらに振り返り――

村娘「…勇者さん?」

勇者「…やぁ、村娘ちゃん。久しぶり」

勇者を見ても村娘は笑わない。
どうしたものかと、勇者は苦笑した。

124 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:27:53.13 ID:ZUDFeiaJ0
村娘「勇者さん…話は聞いたす」

勇者「うん。倒したよ、邪神を」

村娘「…勇者さんは邪神を倒す為に、邪神の下に潜り込んだと言われてっすけど」

勇者「…」

やっぱり、村娘にはわかるか。

村娘「勇者さんは…この村の為に、本当に邪神についただす」

勇者「…うん」

言い訳するつもりはない。だって村娘の言う通りだ。

勇者「村を守る為とはいえ、俺は1度、人の道を捨てた。この村さえ守れれば世界がどうなっても良かったんだ」

村娘「…でも、心変わりしたんだすか?」

勇者「そんなとこだ」

心変わり――あの心境の変化は、その一言で済ませていいものか。
とも思ったが、反論しなかった。とにかく邪神についたけど、気持ちが変わって邪神を討ったのは事実だ。

勇者「俺は世界がもてはやすような英雄じゃない」

もっと汚くて、醜くて、卑怯な人間だ。

勇者「…ごめんな村娘ちゃん。君が抱いていた“ヒーロー”像を、俺は裏切った」

村娘「…」

勇者「やっぱ、こんな俺のことは嫌いになったよな…」

予想できていたとはいえ、少し悲しい。
嫌われてまで一緒にいるのは互いにとって望ましくないだろう。だからこの村から去ろうかと思うが…。

勇者「ひとつ言わせて、村娘ちゃん」

これだけは言いたくて。

勇者「俺――村娘ちゃんのこと、好きだよ」

村娘「!!」

勇者「それだけ。じゃあ…」

村娘「…待つだす」

勇者「ん?」

呼び止められて、足を止めた。

125 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:28:24.74 ID:ZUDFeiaJ0
村娘「なして返事も待たずに行くんすか。…怖いんだすか、勇者さん」

勇者「…そりゃ怖いよ」

自分だって踊り子に冷たくしたけど、自分がされるのは怖い。だからその前に去ろうと思った。

村娘「勇者さんは臆病者だす」

村娘は目に涙を浮かべていた。
その涙は、何の涙か――

村娘「勇者さんがあたしのヒーローだったことは変わらんす。だけど、それだけでねぇ。…勇者さんは優しくて、働き者で…臆病で、傷つきやすい、普通の人だす」

勇者「…」

村娘「けどもう、勇者さんは…普通の人でねぇ」

流れる涙を見せまいとしているのか、村娘は顔を手で覆った。

村娘「勇者さんは世界中の英雄になったす…もう、あたしが独り占めできる人じゃねぇす! 世界が救われた嬉しさよりも、そっちの悲しさの方が大きい…あたし、そんなに心が汚いだす!!」

勇者「――」

今、村娘は何と――つまり彼女は、自分のことを――

村娘「――あたしも、勇者さんが好きす」

勇者「――!!」

勇者は頭が真っ白で、しばしボケッとしていた。
鼻をすすった村娘は、首を傾げる。

村娘「…どしたんだすか、勇者さん」

勇者「そっか…そうだったんだ……」

村娘「へ?」

勇者「…村娘ちゃん」

村娘「は、はい?」

勇者「………結婚して下さい」

村娘「!!?」

126 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:29:01.65 ID:ZUDFeiaJ0
勇者「こんな弱くて、世界を裏切るような卑怯者の俺でも好きでいてくれると言うのなら…村娘ちゃんを幸せにする為に、頑張るから!」

村娘「ま、待って…そ、そんなん…」

勇者「……やっぱ、無理か?」

村娘「だ、だって…勇者さんはもう、世界の英雄で…あたしなんか…」

勇者「そんな事言わないで。俺は"英雄"なんかにとてもなれない。君がいて、ようやく"人間"でいられるだけの男だよ」

村娘「!」

勇者は村娘の手を握った。

勇者「…俺達の出会い、覚えているか? あの時の俺は生きる気力を失って、本当に駄目になっていた。そんな俺を救って、支えてくれたのは、村娘ちゃんじゃないか」

村娘「勇者さん…」

勇者「もう1度言う。…結婚しよう。俺は、村娘ちゃんじゃないと駄目だ」

村娘「え、ううぅ…」

勇者「村娘ちゃん?」

村娘「…浮気したら、許さんよ?」

勇者「しない。万が一したらチョン切ってくれていい」

村娘「あたし、尻に敷くすよ?」

勇者「俺は村娘ちゃんを守るよ」

村娘「…勇者さんっ!」ギュッ

勇者「っ」

村娘「その言葉、忘れんでね! あたし、勇者さんのお嫁さんになるだす!!」

勇者「…あぁ。幸せになろうな」ニコ

127 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:29:27.94 ID:ZUDFeiaJ0
月日は流れていく。
人々は平和に慣れていき、戦いの記憶を過去に置いていく。

村娘「こらぁ、起きるす!」

勇者「うー…眠い」

村娘「もう村の人達は外に出てんよ! ほらほら、早く顔さ洗ってご飯食べて、雪かきしてくるす!」

勇者「うぇーい」

世界は平和になり、かつての英雄は、村で平凡に過ごしていた。

勇者「あー、何か今日はねみぃなー」フアー

村人A「毎晩張り切りすぎなんでねぇのー?」ハハ

勇者「!!! そ、そそそげなこたありゃーしませんがなー!」

村人A「勇者さは動揺したら訛るから、わかりやすいべ」

村人B「若ぇってええなー。はよ子供が見たいべ」

勇者「~っ…」

128 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:29:54.10 ID:ZUDFeiaJ0
勇者「うー、さみさみ」

村娘「お疲れさんだす。お粥作ってっすよ」

勇者「この冷えた体には有り難い。頂きます」

村娘「お塩で味付けたす」

勇者「…塩粥食べたら思い出すな、君に拾われた時のこと」

村娘「あぁ…懐かしいだすなぁ」

勇者「これのお陰で今の俺があるんだなぁ」

村娘「んな大げさな」

勇者「大げさじゃないよ」

魔王との戦いを思い出す。
あの時、人間でなくなりかけていた自分を人に戻したのは――

勇者「この、内側から"温かい"って思える感じを思い出せたから、俺は戻ってこられた」

村娘「そうだすか」

村娘はニコニコと話を聞いてくれている。
彼女は今も昔も、自分に寄り添ってくれる良い妻だ。

129 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:30:30.73 ID:ZUDFeiaJ0
勇者「平穏てのはいいもんだね」

村娘「そうだすなぁ」

勇者「"ヒーロー"が必要ない、平和な世界が理想なんだろうな」

村娘「違うすよ」

勇者「?」

村娘「この平穏な日々の中でも、毎日一生懸命働いてくれて…。んだから、勇者さんはあたしのヒーローだす」

勇者「…そうか」ニコ

村娘「そうだす」ニコ

世界が自分を忘れたとしても、これからも村娘と支えあって生きていくことができる。
それだけで、この平凡な日々が幸せだった。

勇者「お粥、お代わりしてもいい?」

村娘「ええよ。一杯食べて、心さぽかぽかにするだす!」


Fin

130 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2016/03/08(火) 18:30:59.04 ID:ZUDFeiaJ0
ご読了ありがとうございました。
男主人公モノはギャグ以外だと久しぶりです。


過去作こちらになります。
http://ponpon2323gongon.seesaa.net/

131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/08(火) 18:32:13.17 ID:tox57Puio

posted by ぽんざれす at 19:10| Comment(10) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年03月03日

【ひな祭り】乙女ゲープレイヤー「魔王を攻略しよう」

乙女ゲープレイヤー「魔王を攻略しよう」のひな祭りスピンオフです。




乙女「このアングルで」パシャ

魔王「乙女、変わった衣装だな。和服のようなドレスというか」

乙女「お雛様をイメージしてデザインされた着物ドレスです。伝統の和服をかなり崩しているので、賛否両論ではあるんですけれど…」

魔王「可愛らしければそれで良い。似合っているぞ乙女」

乙女「ありがとうございます。ひな祭りイベントで着る予定です」

魔王「ひな祭り、か…」

魔王(ひな祭りとは、この世界に存在する行事。女子の成長を祈るのが目的で、雛人形や桃の花を飾って、行事食を楽しむそうだ)

魔王「雛人形は飾らないのか?」

乙女「あー…一人暮らしする際に処分したので持ってないんです」

魔王「若者の行事離れという言葉を聞くが、お前もか乙女。それではいかん、行事は意味があるから存在するのだぞ」

乙女「耳が痛いです…」

魔王「雛人形を飾らないからお前の胸は成長しなかったのだな!!」

乙女「関係ありません」

魔王(ひな祭り…乙女はさほど重視していないらしい。しかし、行事を体感してみたいものだな)

乙女「あ、そうだ。さっき撮った写真SNSにアップしよう」

===========
*乙姫*
3/3はひな祭りイベントです( ̄ー+ ̄)
ご主人様のご帰宅をお待ちしております(`・ω・´)ノ
===========

魔王(ほう。家ではやらないが職場でやるのか。これはチャンスだな)

魔王「乙女、3日は俺もお前の職場に行ってもいいか」

乙女「いいですけど…お客さんに見られたらまずいので、一緒には行きませんよ」

魔王「構わん。お前のシフトに合わせて客として行く」


魔王(異世界の行事を学ばせてもらおう)





>当日・冥土屋


乙女「お帰りなさいませ、ご主人様…」

魔王「今帰ったぞ、もてなせ」

メイドA(あ、乙姫ちゃんの彼氏さんだ)

メイドB(相変わらず俺様だな~)

乙女「本日はひな祭りということで、特別メニューでひな祭りセットが御座います」

魔王「じゃあそれで。指名はお前だ」

魔王(セット内容はフードとドリンク1品ずつ、ブロマイドに…チェキとは何だ?)


乙女「ではひな祭り限定メニュー、"ぐるぐるハートの手巻き寿司"を作らせて頂きます」

魔王「ほう、目の前で作るのか。これは見ものだな」

乙女「皆、行きますよ」

メイド達「「おーっ!」」

魔王「?」

♪あかりをつけましょぼんぼりにー

魔王(合唱が始まった!?)

乙女「♪お花をあげましょ桃の花~」グルグル

魔王(歌いながら手巻きを作るだと!? これは何かの儀式なのか!?)

乙女「できました、ご主人様」

魔王「…うむ、可愛らしい見た目もさながら、和風の味付けが口に優しい。正に女子の為の伝統行事食、だな」

乙女「光栄です」

魔王「あと…チェキとは何だ?」

乙女「あぁ、チェキですね。こちらへいらして下さい」

魔王「?」

乙女「はい、お内裏様のかんむりと笏をどうぞ」

魔王「???」

メイドA「2人並んですまし顔でー! はい、チーズ!」

カシャ

乙女「よく撮れてますね」

メイドA「きゃーん、美男美女で正にお内裏様とお雛様ーっ」

魔王「……」





>魔王の国


魔王「なぁ、こちらの世界でもひな祭りをしないか?」

側近「ひな祭りとは?」

魔王「あちらの世界で存分に学んできた。手順から説明するとな…」

悪魔「何それ、めっちゃ面白そうじゃん!!」


こうしてこちらの世界には間違ったひな祭りが浸透していくのであった。


終わり



あとがき

チェキとは、店員さんとのツーショット写真撮影のこと…でいいと思います。
ちゃんとしたひな祭りを書け? ひな祭りのことよく知らないから無理ですキッパリ
posted by ぽんざれす at 09:00| Comment(2) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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