2015年12月31日

【スピンオフ】魔道士「僕のお嫁さんを召喚するよ☆」

魔道士「僕のお嫁さんを召喚するよ☆」のスピンオフです。





魔道士「アッハァ~ン。町娘ちゃん見て見て、傑作が出来上がったよ!」

町娘「どうしたんですか、朝から晩まで仕事部屋にこもっていたと思ったら」

魔道士「大仕事を達成したのさァ! 見てよ町娘ちゃん、僕のチャーミーな発明品を☆」

魔道士さんがそう言うと、ドアの向こうからギシギシ音を立てて何かがやってきた。
手乗りサイズの木製人形だ。外見は小人さんのようで、可愛らしい。

町娘「動く人形が今回の依頼の品ですか?」

魔道士「甘い甘い、その考えはスウィートだよ町娘ちゃん! さぁ、その真価を発揮しなよ! ミラクル★イリューッジョンッ!!」

魔道士さんの掛け声で、人形の口がパカッと開いた。
そして――

ガタガタガタガタッ

町娘「ひいぃ!?」

口がガタガタ鳴りながら高速で開いたり閉じたりする姿は、かなりのホラーだ。

魔道士「驚くのはまだ早いよ!」スッ

町娘「それは昼のポテトサラダ…!」

魔道士「これを人形の口に突っ込んでッ!!」

ガタガタガタ…ピュッ

町娘「…」

魔道士「ハイッ☆ 見事、玉ねぎが分離されました。名付けて『玉ねぎ分離人形おにおん離んぐ』君!」

町娘「何の意味が?」

魔道士「依頼主さんは玉ねぎが嫌いなんだってさ~。だから、分離機★」キラーン

町娘「…魔道士さん」

魔道士「ン?」

町娘「偏食の片棒担ぐようなもの作るんじゃなああぁぁい!!」

魔道士「Oh!?」ビクゥッ





町娘(えーと、お客様用のお茶菓子は…)

魔道士さんは相変わらずの売れっ子魔道士で、ここの所ずっと忙しい。
収入は大分増えたことだろうけど、使う時間もない。まぁ、暇があるからって贅沢する魔道士さんじゃないのだけれど。

町娘「お茶をどうぞ」

客「どうも」

今日のお客様はどこかの町の町長さんらしい。
長い歴史を持つ魔道名家の当主だけあって、こういうお偉い方もお客様として来るのだ。

魔道士「ふむぅ…なかなか特殊な仕事だね」

町娘(今度はどんな仕事なのかしらねー)

お茶出しを終えて速やかに退室する。
まぁ町長さんからの依頼なら、この間みたいな変な依頼にならないと思うけれど。



魔道士「バーイ☆ この僕が依頼を受けたからには、最高の輝きをプレゼントするよ★」キラリン

1時間くらいしてお客様は帰っていった。

魔道士「町娘ちゃん。明日から1週間くらい家を空けるよ☆」

町娘「あら泊まり込みですか、珍しいですね」

魔道士「町長殿が作業場兼宿泊場所に空き家を貸してくれるんだ」

町娘「それは高待遇ですね」

魔道士「というわけで町娘ちゃん、その間は休みでいいよ。お家に帰ってあげたらどうかなぁ?」

町娘「そうですねぇ……」

叔父さん叔母さんの経営する食堂は、借金を返済してからは従業員を雇う余裕も出てきて、もうお手伝いの手はあまり必要としていない。
弟君もよくこっちに遊びに来るから、会えなくて寂しがっているということもないだろうけど…。

町娘(でも、私がこの家に残ってても仕方ないものね。汚す人もいないし……)

……汚す人?

魔道士「さーて、荷造りしなきゃ~♪」

これはまずい。

町娘「魔道士さん!」

魔道士「ン~? どうしたのかな町娘ちゃん」

町娘「私も行きます!」

魔道士「Why?」

魔道士さんは頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。
そして何を思ったか、ニコッと笑う。

魔道士「もしかして寂しいのかな町娘ちゃん? 君がデレるなんて、今日はハッピーデーだね★」キラリーンキラキラ

町娘「……から」

魔道士「え?」

町娘「魔道士さんのことだから借りた家を汚すでしょ!! だから私もついて行くんです、わかりました!?」

魔道士「Ohhhh!?」ビクウウウゥゥッ





>町


町娘「ここがその宿泊場所…」

ごく普通の一軒家に見えるが、看板が建っている。
どうやら、こういう宿泊施設らしい。

魔道士「こういう施設なら掃除する人もいるだろうし……」

町娘「魔道士さんの汚し方は尋常じゃないんですよ!」

魔道士「町娘ちゃん…そんなに僕のお世話をしたいのかな☆」

町娘「何かおっしゃいました?」ゴゴゴ

魔道士「ゴメン★」

早速中に入って設備を確認する。
台所には調理道具が一通り揃っている。掃除用具も、ちゃんと物置き部屋に必要なものはあった。

町娘「でも食材はないみたいですね。近くに市場があったから買ってきますね」

魔道士「町娘ちゃんはしっかりしているから頼りになるよ〜。いい奥さんになれるね☆」

町娘「あらそうですかー。結婚式にはお呼びしますよ魔道士さん」

魔道士「町娘ちゃん…君は本当に男心を弄ぶ小悪魔ちゃんだね★」

町娘「そういうことばかり言っているとどうなるかわかってます?」

魔道士「ごめんなさい…僕を捨てないで下さい…」ドヨーン

町娘「そこまで落ち込まないで下さい! だから何で中間がないんですか!?」

その後、何とか魔道士さんを宥め、魔道士さんは仕事の為に部屋にこもった。
私は食材の買い出しの為、市場に向かうことにした。


町娘(それにしても、ここはお洒落なお店が多いなぁ)

市場に行くまでの通りには、外観が洒落た雑貨屋さんや衣装屋さんがあった。
私の育った町も大きかったけれど、こんなにお洒落ではなかった。

町娘(あ、あれ素敵だなぁ)

衣装屋さんのショーウィンドウにある服に目が行った。
紺色の上品なワンピースで、私好みのデザインだ。

町娘(あー、でも高いなぁ。着て行く場所もないし、見るだけにしておこう)

自由になるお金はあるけれど、節約精神はきっちり身に付いていた。無駄遣いは敵である。

町娘(着てどこかに行くシチュエーションがあるのなら、無駄にはならないんだけどね)

一日中仕事をして、息抜きと言えば本やおやつ。休日も弟の相手をするとかお昼寝をするとか、そういう生活なのでお洒落な服は必要としていない。

町娘(って、私の生活かなり所帯染みてない?)

同年代の女の子達はお洒落をして、友達や恋人と色んな所に遊びに行くのだろう。
私には一緒に遊びに行く程仲のいい友達はいない。
恋人、は…。

町娘(魔道士さんは恋人未満。ていうか友達でもないし。一緒に遊びに行くか、というと…)

魔道士さんは毎日仕事で部屋にこもっている。
必要な用事以外で出掛けるとしたら、せいぜい風景画を描きに行くくらいか。

町娘(うん、やっぱり服はいらないわね)

すっぱり諦めて、私はそのまま市場へ向かった。





魔道士「イヤァ、ここでも町娘ちゃんのご飯が食べられるなんて幸せだなぁ~」

町娘「この町、外食屋さんも充実していましたよ。もし外で食べられるようなら、言って下さいね」

魔道士「ウゥン、外食屋さんは苦手なんだよねぇ」

町娘「そうなんですか」

そう言えば私が休みの時も外食している様子はない。
事前に私が作り置きしたものか、本人曰く激マズの魔法非常食を食べているらしかった。

町娘「外食嫌いだと、ますます出不精にな」

魔道士「デブ症!?」ガタッ

町娘「そんなこと言ってませんよ!?」

町娘(『デブ』に過敏な反応しすぎでしょ)

魔道士「外食屋さん以外もお店屋さんが充実していたでしょ。手が空いたら、好きに見ておいでよ★」

町娘「ちらっと見てきましたけど、欲しいものは無くて」

魔道士「服とかアクセサリーも?」

町娘「着て行く所がないので、必要ないですねぇ」

魔道士「ナルホド。町娘ちゃんのことがまた一つわかったよ☆」

町娘「…」

町娘(『一緒に出掛けよう』とかはないんだ)モヤッ

魔道士「? どうかした?」

町娘「いえ、別に」

町娘(って、これじゃあ魔道士さんとデートしたいみたいじゃない。どこ行くってのよ)


例えば買い物デート

魔道士「あれもいいね、これもプリティーだね」

町娘「物を増やしたら掃除の手間が増えるので」

魔道士「じゃあ必要なものを買おうか」

町娘「食材と洗剤とあとは」

これだとただの買い出しだ。


じゃあピクニック

魔道士「お弁当美味しいなぁ」

町娘「綺麗なお花が咲いてますよ魔道士さん」

魔道士「お花は家の周りに咲いているからねぇ」

そうだ。自然に囲まれた家に住んでるからか、魔道士さんはあまり自然に興味ないんだ。


それじゃあ観劇?

魔道士「おぉ月よ、僕らを照らしておくれ。彼女の姿が暗闇に溶けてしまえは、僕の心は潤いを失ってしまう…」キラキラ

影響されそうで鬱陶しい。却下。


魔道士「どうしたの町娘ちゃん、何か考え込んでる?」

町娘「いえ。魔道士さんは、今の生活がベストみたいだなって」

魔道士「? そう」

町娘(私も出不精だもんね。だから今のままで、一日中家に…)ハッ

町娘(…一日中一緒?)

魔道士「そうだねぇ、今の生活が最高かな」

町娘「そ、そういうつもりじゃなあぁい!!」

魔道士「What!?」





朝は最初に朝食の用意をする。魔道士さんは起きる時間が不規則なので、大体8時くらいに用意すると決めている。寝坊した場合は起こしに行く。

魔道士「チャオ☆ 今日もいい天気だね!」

町娘「今日は寝坊しませんでしたね」

魔道士「町の喧騒が目覚めの呼び声となったのさ、アハーン」

町娘「森と違って賑やかですからね」

食後、魔道士さんは仕事に戻るので、食後の後片付けと掃除、ベッドメイクをする。
今日は時間に余裕があるので、洗濯もしてしまおう。

町娘(やっぱりカゴに下着入ってないわね)

洗って物干しして、昼食を準備する。
魔道士さんはお昼を簡単に済ませて早く仕事に戻りたい人なので、品数は沢山は出さない。

魔道士「ご馳走様、美味しかったよ」

町娘「ちゃんと歯磨きして下さいね」

魔道士「仕事がいい所だから、歯磨きの時間も惜しいよ」

町娘「不潔な人は嫌いだなぁ」ボソ

魔道士「磨いてきまーす★」

町娘「よし」

後片付けをして、買い出しに行く。

町娘(あ、お肉が安い。昨日買った野菜と合わせれば、カレーもできるし肉じゃがもできるし)

帰ってきて夕飯を作り、夕飯後は後片付けをしてお風呂の準備をする。
お風呂にお湯を溜めてタオルと着替え(ただし下着は触らせてくれないので除く)をセットしたら、仕事中の魔道士さんを呼びに行く。

町娘「魔道士さん、お風呂の準備できましたよ」

魔道士「アハァン、今すっごくいい所なんだ! 町娘ちゃん、先に入ってて」

町娘「キリのいい所で止めて下さいね」

無精者の魔道士さんはお風呂に入らないこともある。
毎日お風呂に入るかどうかは人それぞれなので、それに関しては構わない。だけどお風呂をきっかけにでもしないと魔道士さんはノンストップで働き続けてしまうので、なるべく毎日お風呂の準備はしている。

町娘「ふぅー」

全ての仕事を片付けてから、お風呂で1日をしめくくる。
来客対応や魔道士さんのお手伝いをすることもあるが、大体これが毎日の仕事である。

魔道士「今日もお疲れ様☆ 僕も今からお風呂頂くね〜♪」

町娘「はーい」

雑誌を読んでいたところで、魔道士さんが声をかけてきた。毎日労いの言葉をくれる、こういう所はマメな人だ。

町娘(そういうのは結構嬉しいのよね)

町娘(ん、なになに。“奥さんの旦那さんへの不満特集。多く寄せられたのは『感謝の言葉をくれない』”)

町娘「…」

町娘(って、あくまで夫婦の話だから! 魔道士さんが良き夫とか、そういうんじゃないから!!)





町娘(それにしても、こっち来てからも生活はあまり変わってないわね)

買い出しの帰り道、ふとそんなことを考えた。
この生活習慣なら、どこで生活しても同じかもしれない。

町娘(それにしても、やっぱりここの通りはカップルが多いなぁ)


彼氏「あの服、君に似合いそうだね。プレゼントしたら着てくれる?」

彼女「えー、そんなの悪いよ」


町娘(あら仲の良さそうなカップル)

そのカップルは、前に私がショーウィンドウで見ていた服を見ていた。


彼氏「悪くないよ、俺が君に着てもらいたいんだから」

彼女「似合わないかもしれないよ」

彼氏「まずは着てみようよ。俺、君がお洒落してますます可愛くなった所が見たいなぁ」

彼女「もー、彼氏くんたら」


町娘(よくスラスラそんな言葉が出てくるなぁ。本当に思っているから出てくるんだろうな)

町娘(そう言えば私、着古した質素な服しか持ってないけど…)

町娘(魔道士さんは私の格好に興味ないのかしら)モヤッ

町娘(って何考えてるんだって!! もー、カップルにあてられて変なこと考えちゃった! 早く帰ろう!)


町娘「只今戻りました」

魔道士「お帰り町娘ちゃん。ちょっと僕は出掛けてくるね」

町娘「わかりました」

魔道士さんは手にスケッチブックを持っている。
仕事の小休止に絵を描きに行くのだろうか。

町娘(息抜きも『一緒に行こう』とかはないんだ)モヤッ

町娘(まぁ、絵を描くのに私がいても邪魔か)

魔道士「夕飯までには帰るね〜♪」

町娘「はい」

町娘(余計なこと考えないで、仕事仕事!)





魔道士「アハァ〜ン★ 帰ってきたらいい匂い☆」

町娘「お帰りなさい」

魔道士さんは丁度、夕飯ができた頃に帰ってきた。
ちゃんとうがいと手洗いを済ませて貰ってから、食事を提供した。

町娘「いい絵は描けました?」

魔道士「うん♪ これで仕事がはかどるよ」

町娘(絵と仕事に関係が?)

魔道士「それにしても、この町はカップルが多いねぇ。あてられてアチャチャーだよ」

町娘「お洒落なお店が多いですからね。魔道士さんは行かないんですか?」

魔道士「仕事で来てるからね、あまり寄り道はしていられないかな」

町娘「…そうですか」

町娘(そうよね、遊びに来たわけじゃないからね)

魔道士「さーて、仕事もラストスパート頑張るかな☆」

町娘「頑張って下さい」

町娘(仕事が終わったら真っ直ぐ帰るのよね)

町娘(…まぁ、仕方ないか)

遊びに行きたい、というわけじゃない。
遊びに行ってもすることがないのはわかっている。

でも、ここまで何もないと、何というか…。

町娘(魔道士さんは、今は私のことどう思っているんだろう)

そんなことを考えてしまう。

好きだ、と言われたことはある。
だけどその後は特に変わっていない。
魔道士さんは根は恥ずかしがり屋だから、ってのはわかっているのだけどーー

町娘「…うー」

町娘(何で魔道士さんのことで頭を悩ませないといけないのよっ!!)

もやもやしていた。




そして最終日。
今日の昼食におにぎりを持たせて欲しいと言われたので作って渡し、魔道士さんは朝から夕方まで帰ってこなかった。

町娘(夕飯には帰ってくるかしら)

いつでも温め直して出せるよう、今日のメニューはカレーだ。

町娘(明日の朝には家に戻るって言ってたし、この借家で過ごす夜も最後か)

町娘(…何か、味気なかったなぁ)

勝手に着いて来たのは自分。だから不満に思ってはいけないのだけれど。

町娘(…どうしたのよ、私らしくもない)

魔道士「只今のチャオ〜☆」

町娘「わわっ!? ま、魔道士さん、お帰りなさい…」

魔道士「驚かせちゃってソーリー★ お仕事、終わらせてきたよ☆」

町娘「そうですか、お疲れ様です」

魔道士「あぁ、いい匂いだ。帰ったら町娘ちゃんが料理して待っててくれているって、安心するなぁ♪」

町娘「えぇ、いつも通りですよ」

町娘(いつも通り…たまには違ってもいいのに)

魔道士「町娘ちゃん、お腹ペコペコ?」

町娘「お腹ですか? いえ、そこまででも…」

魔道士「そう。それじゃあちょっと、出掛けない?」

町娘「…えっ?」





魔道士さんに連れられてやって来たのは、町全体を見渡せる丘の公園だった。
もう薄暗くて、公園には人が少ない。

魔道士「ゴメンねー、急に連れ出しちゃって」

町娘「いえ…それより、ここで何をするんですか?」

魔道士「とっておきの魔法だよ、アハーン♪」

町娘「…?」

魔道士さんは時計を見た。時間を気にしているのだろうか。

魔道士「そろそろだ。カウントダウン、10、9、8…」

町娘「?」

魔道士「3、2、1…ハイッ!」

町娘「――!!」

カウントが終わったと同時、町全体が光を放った。
暗くなってきた町に色とりどりの光が映え、まるで星が地面に降りてきたかのようで、とても――

町娘「綺麗…」

魔道士「気に入って貰えて良かったよ、アハーン♪」

町娘「もしかして、魔道士さんの今回のお仕事って…」

魔道士「そ。この町でお祭りが近いからね、イルミネーション作りさ★」

家にこもって発光する飾りを作り、今日は夜まで飾りつけをしていたということか。

町娘「魔道士さんのことだから、飾りつけにこだわったでしょう」

魔道士「わかる? 町全体をスケッチして、どう飾ろうかとっても悩んだよ☆」

町娘「あ、その為のスケッチだったんですね」

仕事がはかどると言っていた意味がようやくわかった。
魔道士さんは芸術に関する仕事が大好きだから、スケッチを見ながら飾りつけの配置を考えたのだろう。
確かに町全体のイルミネーションを見れば、配色のバランスが良く、魔道士さんのセンスの良さが出ている。

町娘「きっと、沢山の人が喜ぶでしょうね」

魔道士「アハーン♪ それだと僕も嬉しいな★」

町娘(魔道士さんはこんな大仕事を抱えていたのに。私、くだらないことでもやもやしてたわね)

魔道士「あっ」

町娘「どうされました?」

魔道士「今思ったんだけど、この状況って…デートみたいじゃない?☆」

町娘「」

町娘「そ、そ、そんなわけっ!!」

魔道士「そっかぁ。『この仕事が済んだら町娘ちゃんとデートできるぞー』って、僕は楽しみにしてたんだけどなァ」

町娘「~~っ…」

魔道士さんは私の心を読んでいたのか。
ここ数日、私がもやもやしていたものをどうして…。

町娘「…男の人が考えるサプライズは、あまり女性に好まれないって雑誌に書いてありましたよ」

魔道士「Oh?」

町娘「そういうのはサプライズにしないで、事前に言っておいて下さい。…不安になるから」

魔道士「そっかぁ~…僕ってダメだなぁ」シュン

町娘「あ、いえっ、ダメとかじゃ…」

魔道士「…知っての通り、僕は根っこはダサい男だからさ。そういうの、わからないんだ」

町娘「あっ」

しまった。こちらがもやもやしていたからと、魔道士さんのコンプレックスを突いてしまったようだ。

町娘「ま、魔道士さん、でも私、このデートは嬉しいですよ!」

町娘(…って)

町娘(デートって言っちゃったああぁぁ!!)

魔道士「…ほんとに?」

町娘「えっ!? あ、その、えーと」

魔道士「町娘ちゃんがイヤじゃないならいいんだ。そっか、安心したよ」ニコニコ

町娘「…」

町娘(そりゃデートってのは口を滑らせて出た言葉だけどっっ!! 全く気付かないのもどうなのよ!!)

魔道士「アハァン、町娘ちゃん。良かったら教えてくれないかな」

町娘「な、何を?」

魔道士「僕はどう振る舞えば格好いいのか。町娘ちゃんの前では、ダサい僕でいたくないからさ」

町娘「…」

本当、こういう時は弱気なんだから。

町娘「…もっと私に要求してもいいんですよ」

魔道士「要求? ご飯のリクエストとか?」

町娘「違いますよ。…もっと可愛い格好して、とか……」

魔道士「Uh?」

魔道士さんはピンときてないようだ。

魔道士「町娘ちゃんは、もう充分すぎる位……。僕には、町娘ちゃんが……」

町娘「えっ?」

魔道士「~~っ…」

魔道士さんの顔は真っ赤になっていて…。

魔道士「ゴメン! やっぱ言えない!!」

町娘「ちょっと魔道士さん!? どう振る舞えばいいかって言ってたでしょ、言って下さいよ!」

魔道士「無理! ゴメン! 格好よくなるには時間かかる!」

町娘「待ちなさーい!」

不器用な私、シャイな魔道士さん。
この関係が進展するのは時間がかかりそうだけど――

町娘「待ってますからね! その言葉の続き!」


Fin





あとがき

魔王城執政官(見習い)様より、チャオさん達の日常ということで。
このカップルは不器用ですね~。そこがまたいいんですけどね。

ところで読者様から見ればどうでもいいことかもしれませんが、チャオさんが1回しかチャオって言ってない!( ゚Д゚)クワッ
posted by ぽんざれす at 18:23| Comment(2) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月28日

【スピンオフ】姫「魔王子との政略結婚」

姫「魔王子との政略結婚」(1/3) (2/3) (3/3)のスピンオフです





魔王子「イエエェェイッ、エクストリイイィィムッ!」ズザザザアァァッ

姫「ふふ。魔王子様、楽しまれていますね」

魔王子「だぁ~ってホラ、雪だよホラ!! うっひょおおぉぉ、テンションMAXだぜぇ!」ザックザック


季節は冬。
魔王子と姫は雪降る街へと旅行にやって来た。

魔王子「いよーっし、でっかい雪だるま作っちゃうもんねー!!」

姫(元気ねぇ)フフ

最近忙しかった魔王子は、久々の休日に物凄くハシャいでいた。

魔王子「できたっ!」

姫「まぁ大きい」

魔王子が作った雪だるまを見上げる。
かなり体を鍛えている魔王子だからこそ作れた、巨大雪だるまだ。

魔王子「フッフッフ。姫様~、見ててくれよ」

姫「?」

魔王子「魔王子エクストリームクラッシャー!!」ズゴオオオォォン

そしてその雪だるまは、魔王子の一擊によって粉砕された。

魔王子「この一擊、どうよ!」

姫「魔王子様はお強いですね!」

魔王子「こんな俺、どうよ!」

姫「素敵ですっ!」

魔王子「姫様ぁーっ!」ギュウッ

抱き合う夫婦。冷風も2人の周囲を冷やすことはできない。
その愛に満ち溢れた姿は、誰の目から見ても――

モブ「馬鹿だ」





姫「ふぅ、ふぅ…」

魔王子(寒さに身を震わせながらココアをフーフーする姫様も可愛いなぁ)

姫「ここはウインタースポーツが盛んみたいですねぇ」

雪山では観光客達がボードに乗って遊んでいる。
そういう遊びがあるのは知っていたが、箱入り娘の姫には馴染みのない遊びだ。

姫「魔王子様、ウインタースポーツのご経験は?」

魔王子「達人クラスよ。見てろよー!」ダダッ

姫「頑張って魔王子様ーっ!」


魔王子「ほれーいっ!」ザザーッ

姫「わぁ~、お上手!」


魔王子「でりゃーっ!」ジャーンプ

姫「まぁ凄い!」


魔王子「ほらよっとぉ!」クルンッ

姫「きゃー、素敵ぃ!」


姫「凄いですねぇ魔王子様」ニコニコ

魔王子「…あの、姫様」

姫「はい?」

魔王子「俺が滑ってるの見てるだけじゃ、つまんなくない?」

姫「いいえ? 魔王子様の素敵なお姿をずっと見ていられるんですもの、退屈なんてしません」

魔王子「」

魔王子「うらあああぁぁぁぁ!!」ズザザザザザアアアァァァァ

姫「魔王子様!? どこへ行かれるんですか!?」

魔王子(ニヤケが止まらねえぇ!! こんな気持ち悪いツラ、姫様に見せられるかああぁぁぁ!!)ズザザザザザアアアアァァァァァ

ズザザー…

魔王子「姫様、一緒に遊ぼう」キリッ

姫「どんな遊びでしょうか?」

魔王子「それは……」



姫「こ、怖いですね」ブルブル

魔王子「大丈夫大丈夫。坂もゆるいし、そんなにスピード出ないから」

姫と魔王子は2人でそりに乗り込んだ。
魔王子は平気だと言うが、坂を滑るなんて、経験のない姫には怖い。

魔王子「じゃ、行くよ」

姫「まま、待って下さい!」

魔王子「ん」

姫「……」ドキドキ

魔王子「……」

姫「い、いいですよ」

魔王子「それじゃ…」

姫「や、やっぱり待ってえぇ!」バタバタ

魔王子(可愛い)


そんなこんなで10分後…


姫「い、い、いいですよ!」

魔王子「ほんとにー?」

姫「ほ、ほんとにっ! 行きましょう、魔王子様っ!」

魔王子「そいじゃ」

そう言って魔王子は地面を思い切り蹴った。
そりはその勢いで動き、坂道の斜面を滑り始め……

姫「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁ」

魔王子(そ、そこまで!?)

姫「いやあああぁぁ、きゃあ、きゃあああぁ、ひゃああぁぁぁぁ」

魔王子「大丈夫だから、姫様、大丈夫だから!」

姫「いやぁ、いやぁ、きゃあああぁぁ、いやああああああぁぁぁぁぁぁ」

魔王子(聞こえてねぇ)

ザザー…

姫「」ドキドキ

魔王子「お、終わったね?」

姫「」ドキドキ

魔王子「姫様ぁ?」

姫「ふぅ、ふぅ…」ドキドキ

魔王子「ご、ごめんな? もうやめようか?」

姫「も……」

魔王子「も?」

姫「もう1回……」

魔王子(マジで!?)


姫「きゃああぁっ、きゃあっ、きゃあああああぁぁっ」

魔王子(…やっぱコレ、悲鳴だよな?)


魔王子(と、こんな感じで30回くらい滑った)

姫「ふぅふぅ…楽しいですね、魔王子様」

魔王子「こ、怖くない?」

姫「怖いから楽しいんですよ!」キラキラ

魔王子「あー…まぁ、そうだな」

姫「それに…」

魔王子「それに?」

姫「魔王子様が後ろからぎゅっとしてくれるから…安心できるんです」

魔王子「」

魔王子「うああああぁぁぁ!!」ズボオォッ

姫「ど、どうされたんですか魔王子様!? 雪山に顔を突っ込んで!?」

魔王子(言われたら意識しちゃうッ!! 顔があっちぃよおおぉぉ!!)ジタバタ





魔王子「あー楽しかった」

姫「雪の降る地方は、陽の落ちるのが早いですねぇ」

魔王子「宿屋に戻るか。行こう、姫様」スッ

姫「はい」

魔王子が差し出した手を取る。
手袋越しで体温はわからないけど、大きな手は包み込むようで安心できる。

姫(寒くてもポカポカだなぁ)

魔王子「姫様、雪道あんま歩いたことないんだっけ?」

姫「はい。旅行で雪のある地方へ行くことはありましたが、ほとんど室内にいたもので…」

魔王子「本当に箱入りのお姫様だなぁ。もー、守ってあげたくなっちゃう」

姫「ふふ、魔王子様った――……」

魔王子「!?」

体が傾いた。凍った道で足を滑らせたのだ――と気付いた時には遅い。

どすんっ

姫「~っ……」

魔王子「うぬー……」バタンキュー

姫「ま、魔王子様!?」

転んだ…と思ったら、何故か魔王子が下敷きになっていた。

姫(わ、私を庇って!)

姫「ご、ごめんなさい魔王子様! お怪我はありませんか!」

魔王子「はは、平気だよ。姫様は軽いしさ」

姫「でも…」

魔王子「気にするなって」

魔王子は姫の頭に手を置いて、ニッと笑った。

魔王子「守るって言ったじゃん?」

姫「魔王子様……」

魔王子「にひっ」

見つめ合う2人。街灯が照らす氷の舞台。
いつでも互いを思いやり、慈しみ合う、そんな2人が見せる夫婦の形は――

モブ「どいたどいた! 道の真ん中でボーッとしてんな!」

魔王子「わわっ、わりっ! 姫様、行こう!」

姫「は、は、はい!」





魔王子「ふぅー…」

宿屋に着くなり、魔王子は上着を脱いで布団に倒れ込んだ。
取った宿は王族御用達のVIPルーム…ではなく、ごく普通の宿だ。

姫「和製仕様とは、趣がありますねぇ」

姫にとっては、こういう質素な場所は新鮮で面白かったりする。
お忍びでなければ、絶対に泊まれなかった宿だろう。

魔王子「独身の頃はさ~、勝手に城を飛び出してこういう所に泊まったりしてたよ」

魔王子はケラケラ笑った。
独身の頃の彼はかなりの放蕩王子だったと聞いたことがある。
思えば結婚前の顔合わせの日も、顔合わせを忘れて遊びに行っていた程だ。自分の秘密基地を持っていた子供時代から、かなりのやんちゃ者だったのだろうと思う。

姫(でも…)

魔王子は大分落ち着いた、と城の者に言われている。
問題行動はしばしばあるが、それでも公務には真面目に取り組んでいるし、剣の鍛錬もサボらずに行っている。

姫(今日は魔王子様にとっては久しぶりの、お忍び旅行だものね。解放されたような気分だろうなぁ)

魔王子「見て見て姫様。お布団いもむし~」ゴロン

姫「まぁ魔王子様ったら」フフ

姫(はっ。お義父様に『あまり魔王子を甘やかさないように』って言われてたんだったわ!)

魔王子「い~も~む~し~、う~にうに~」

姫(ここは、心を鬼にして…)グッ

姫「魔王子様!」

魔王子「ん? どしたの?」

姫「お布団は、お風呂で体を綺麗にしてからです!」

魔王子「あー、そっか。そうだったな!」

姫(わかってくれたわ)ホッ



魔王「今、不意に突っ込み不在の恐怖を感じた」

側近「魔王様は気が高ぶっているのでしょう」



姫「ここのお宿は、お部屋付き露天風呂があるんでしたね」

魔王子「姫様、先いいよ」

姫「いえ。運動をしてお疲れでしょうし、魔王子様がお先にどうぞ」

魔王子「…ほんとにいいの?」

姫「はい。私はもう少し体を休めていますので」

魔王子「そっか。悪いね、それじゃあお先」

姫「………」



魔王子「ふぅ~」

魔王子(今日は楽しかったなぁ)

こんなに自由な日を過ごしたのは久しぶりだ。
公務で溜めていたストレスを、綺麗さっぱり吹っ飛ばせた。

魔王子(まさかこの俺が、こんなに真面目になるとはなぁ)

独身時代の自分には考えられないことだ。あの頃はよく公務をサボって遊びに行って、父親に叱られていたものだ。
きっと自分の性分は死ぬまで変わらない…そう思っていたのだけれど。

魔王子(やっぱ…俺がちゃんとしないと、姫様に苦労かけるしなぁ)

人間と魔物の間に今より壁があった頃嫁いできた姫は、きっと国に馴染むだけで苦労したことだろう。
それに嫁いできた直後に事件もあったし、それで大分心労もかかったと思う。
にも関わらず姫は自分を支えようとしてくれるし、当たり前のように尽くしてくれる。

魔王子(いい奥さんだよなぁ…俺には勿体無いくらい)

可愛らしくて、控えめで、品があって、けど芯が強い所もあって…夫の贔屓目にしても、良い所ばかりの妻である。
だから、こんな欠点だらけの自分には勿体無い…と時々思うのだけれど。

魔王子(でも姫様は絶対に手放さないもんね! 俺の力で姫様を幸せにするんだ!)

姫を幸せにする為の公務だと思えば、苦にもならなかった。

魔王子(よぉーし! リフレッシュしたら、また頑張りますかっ!)

姫「魔王子様」ガラガラ

魔王子「」

思考停止。

魔王子「ひ、ひ、姫様?」

姫「あのぅ…」モジモジ

姫はバスタオル1枚だけ巻いて、露天風呂に出てきたのである。

姫「ご一緒しても…よろしいでしょうか?」

魔王子「え、えーと……」タジタジ

姫「…へくしゅっ」

魔王子「あ、か、風邪ひいちゃうね! とりあえず入って!」

姫「では……」チャポン

魔王子「……」ドキドキ

姫「……」ドキドキ

魔王子(って、奥さんと風呂入ってるだけじゃねぇか!! 何緊張してるんだよ、俺っ!!)

姫「あのぅ、魔王子様…」

魔王子「は、はいっ!?」

姫「月が綺麗で」

魔王子「ストオオオォォップ!!」

姫「えっ?」

魔王子(うわああぁぁ!! それ位で照れてるんじゃねぇ、俺えええぇぇ!!)バシャーン

姫「大変、魔王子様が溺れてしまったわ!! 助けないと!!」

魔王子「だだ、大丈夫っ!!」ゼーハーゼーハー

姫「……?」

魔王子(タオル1枚の姫様に触られたら、俺マジで死にかねんから!!)

魔王子「……」ドキドキ

姫「……」

姫「ねぇ魔王子様」

魔王子「は、はい?」

姫「今日はとても楽しかったです。また、どこかに連れて行って欲しいな、って」

魔王子「そ、そうだな。楽しい所は沢山知ってるし、また休みが取れたら行こうか」

姫「えぇ。魔王子様といると、どこでも楽しいです」

魔王子「そっか。思い出、一杯作ろうな」

姫「はい。作りましょうね……家族での思い出を、沢山」

魔王子「うん。家族の……」

――ん?

魔王子(『家族』。俺と姫様は『夫婦』。『家族で』ってことは、俺と姫様プラス――……)

魔王子「」

姫「魔王子様?」

魔王子「うわあああぁぁぁぁ」バシャバシャッ

姫「魔王子様ぁーっ、どこへ行かれるんですか!?」



魔王子(これが成人済みの既婚者の反応かああぁぁ!! ヘタレ、このヘタレッ!!)ベシベシ

急いで寝巻きを羽織った魔王子は布団の上で悶絶していた。

姫「魔王子様、具合が悪いのですか?」

追いかけるように姫が来た。勿論、服はちゃんと着ている。

魔王子「ハハ、大丈夫だよ……」ドキドキ

風呂から上がり、ちょっとは冷静さを取り戻した。

魔王子(でも、そうだよなぁ…姫様も、新しい家族が欲しいよなぁ)

姫「?」

一応、夫婦生活はそれなりにある。勿論この魔王子のことなので、毎回極度の緊張に陥るわけだが。

魔王子(まぁ、まだ結婚して1年ちょいだし、授かりもんだとしか思ってなかったけど……)

魔王子(増やさなきゃ、駄目かな? 回数……)

魔王子「ウゥーン……」

姫「魔王子様? どうされたんですか?」

魔王子「姫様、ごめん!」バッ

姫「え? え?」

突然頭を下げたことに、姫は戸惑っているようだ。
だけど――魔王子は決心した。

魔王子「俺は――姫様を愛している!」

姫「――っ!」

魔王子「この気持ちに嘘偽りはない! だけど、その気持ちが大きすぎて…駄目なんだ、俺」

姫「え…っ?」

魔王子「姫様は何よりも大事で、尊い存在だから――」

いざという時に勇気が無くなる。
手を出すのが怖くなる。
心はこんなにも、情熱的に燃え上がっているのに――

魔王子「けど頑張るから、俺! ちゃんと『父親』になる覚悟も決める!」

姫「魔王子様……」

魔王子「だからっ、その――……」

魔王子「……」

魔王子(だあああぁぁ、何で夜の話に言及しようとすると言葉が出ないんだ、俺ええぇぇ!!)

姫「あのぅ、魔王子様」

魔王子「ハイッ!!」ビシィ

姫「すみません、魔王子様がそこまで考えていらっしゃるとは存じませんで……」

魔王子「……え?」

姫「やはり世継ぎ問題もありますし、お急ぎですよね…。悠長に考えていました、すみません」

魔王子「……あー、世継ぎ問題ね」

姫「え?」

魔王子「え?」

………

魔王子「あー…ちょっと噛み合ってないみたいだから、状況を整理しよう」





魔王子「えーとつまり、俺の早とちりってわけね」

発端は姫の言った「家族で」との言葉だったが、姫はそういうつもりではなかったらしく。

姫「すみません、紛らわしい言い方をして」

魔王子「いやー…まさか『家族』が親父のこととはね…アハハ……」

あの堅物親父と一緒に遊びに行くなんて考えもしなかった。
奥さんの方が、ちゃんと義父のことを考えているとは。これは参った。

姫「あ、で、でも」

魔王子「んー?」

姫「子供は沢山欲しいですね!」

魔王子(姫様の方がずっと決意できてるよ……)


魔王子「ま…とりあえず安心したら眠くなってきた。今日はもう寝ようか」

姫「そうですね」

灯りを消す。瞼が重くなりゴソゴソと――ゴソゴソ?

魔王子「ってええぇ姫様ぁ!?」

姫「寒いので一緒に寝たいなって…駄目ですか?」

魔王子「駄目じゃ…ない……」

姫「ふふ、良かったぁ♪」

姫は魔王子にぴったりくっつく。
寝づらくないだろうか…と思ったが、すぐにすぅすぅ寝息が聞こえてきた。

魔王子(姫様って積極的なのか、天然なのか……)

安心しきったような寝顔が愛おしい。
自分の側にいることで安心感を覚えてくれているようで、それが「愛されている」って実感になって――

魔王子(……)

魔王子(俺が寝れねぇ!!)ドキドキドキ


新しい家族を迎えられるのは…もっともっと、先になりそうだ。


Fin




魔王城執政官(見習い)様よりリクエスト、魔王子と姫の日常でした(´∀`*)
結婚して結構たつのに、今だにヘタレるって魔王子お前…w
しかしバカップルぶりが加速してて、魔王の言う通りツッコミ不在の恐怖でした。地の文でツッコみたい衝動に何度も耐えました(`・ω・´)
posted by ぽんざれす at 20:31| Comment(0) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月26日

【スピンオフ】奴隷少女「私を、守って下さい…」執事「それが貴方の願いならば」

奴隷少女「私を、守って下さい…」執事「それが貴方の願いならば」のスピンオフです。





ここは天界から繋がる異世界に存在する屋敷。
今日もいつも通り、主人と使用人によるティータイムが始まろうとしていた。

執事「お嬢様、本日のおやつで御座います」

媛「今日のおやつは…わぁ~、チョコレートケーキですね!」

犬男「それもチョコレートケーキの王様、ザッハトルテだぜ」

猿少年「いただきまーす!!」バクバク

雉娘「猿~、そんな食べ方する奴初めて見たわよ」

媛(えっ。…見てなかった)

媛(食べ方、ってあるの? 横に生クリームが添えてあるけど…)

媛(ケーキをクリームにつけて食べるの? それともケーキとクリームを交互に食べる? それとも…)

媛「…………」

執事「…? 召し上がらないのですか、お嬢様」

媛「い、いえ、食べます! どうぞ皆さんも召し上がって下さい!」

執事「では」

雉娘「口の中でとろけて甘~い♪」

犬男「執事も腕上げたなぁ」

媛「…………」ジー

媛(執事さんはケーキを生クリームにつけて、犬さんはコーヒーにクリームを入れて、雉さんはクリームに手をつけてない…)

執事「…お嬢様?」

媛「…ぐすっ」

執事「!?」

媛「食べ方が、わからないです…」グスグス

猿少年「だ、大丈夫だから! うるさいマナーとか何もないから!」

雉娘「すっごく甘いケーキだから、無糖の生クリームで好きに味を調整して食べればいいの! 私はほら、甘いの好きだからつけてないだけ!」

執事「お嬢様、ハンカチを」スッ

媛「はい…」グスッ

雉娘「犬、あんたがややこしいことしたせいだからね」ボソッ

犬男「……俺かよ」

天女の記憶もやや朧げで、優雅な風習に今だ慣れぬ媛にはこういった困難(?)もあったが、使用人みんなと過ごす時間を楽しんでいた。





執事「買い出しに行って参ります。この買い物メモ以外に必要なものはありますか」

犬男「えーと。あ、バニラエッセンスとドライフルーツがあと少しだから買ってきてくれ」

媛(一緒に行きたいけど…買い出し先は天界だもんね、私は行かない方が良さそう)

犬男「そーいや、お嬢様は何か食いたいもんあるか?」

媛「わ、私ですか?」

犬男「遠慮せず言ってくれ。何でも作れるぜ」

媛「そ、そのー…」

執事「?」

媛「あのぅ…サツマイモの味が懐かしいな、って」

執事「かしこまりました、買って参ります」

犬男「サツマイモ好きだったのか」

媛「ま、まぁ」

ちょっと嘘。奴隷時代に散々食べてきたものだ。
だけど屋敷に来てからご馳走続きで、舌がサツマイモを懐かしがってきたというか…。

媛「そう言えば天女の子孫の件は今、どうなっているんでしょう」

天界に来て半年。だが天界から隔離された世界にずっといた為、世論のことは全く耳に入らない生活だった。
久々に地上のことを思い出したのがきっかけで、魔王がいそしんでいるその件についてもふと思い出した。

執事「あの魔王のことです、上手くやっているのではないでしょうか」

執事はあからさまに態度には出さないが、その件に触れたくない様子だ。地上の件には関わりたくない、というのが本音なのだろう。

犬男「でも俺も気になるな。買い出しのついでに話を聞いてきてくれよ執事」

執事「犬。余計なことに首を…」

媛「わ、私からもお願いします執事さん…」

執事「…かしこまりました」

執事は媛のお願いには弱い。何せ媛はお願いする時に申し訳なさそうな気弱さが前面に出ていて、断るのに罪悪感を要するのである。

媛「ありがとうございます執事さん」ニコッ

執事「いえ」

その上、この極上の笑顔。これは断われという方が無理だ…と、執事は心の中で苦笑した。





猿少年「ウキー。庭の木から桃をもいできたよー」

雉娘「あらぁ美味しそう」

媛「このまま食べても美味しいですけど、犬さんはおやつを作ったりするんですか?」

犬男「あぁ。桃団子を作るぜ」

猿少年「何か執事が『貴方がた3人と桃の組み合わせを見たら団子が食べたくなりますね』とか、わけのわからないことを言ってたんだよな」

媛「げん担ぎでしょうかね??」


執事「只今戻りました」

犬男「お、帰ってきた。焼き芋の準備しとくか」

媛「執事さぁーん」トタトタ

雉娘「おやぁお嬢様ったら急いじゃってぇ、ほんっとーに執事が好きねぇ」

猿少年「あはは。いい奥さんになるよね」


媛「執事さん、お帰りなさい!」

執事「お嬢様…わざわざお出迎え、ありがとうございます。何か変わったことは御座いませんでしたか?」

媛「特には。それより執事さん、重いでしょう。半分持ちますよ」

執事「いえ。お嬢様にお持ちさせるわけには」

媛「気にしないで下さい、そんなの。私がお手伝いしたいんですから」

執事「そのご厚意に甘えるようでは、執事として、男としてすたります。お嬢様、貴方の前では格好をつけさせて頂きたい」

媛「執事さんたら…」キュン


猿少年「うわー。荷物持ち手伝おうかと思ったけど、何か行きにくい雰囲気」

雉娘「カッコつけさせときゃ良いんじゃなーい」





執事「お嬢様。例の件、聞いて参りましたよ」

媛「ハフッ、ハフッ。あ、ありが…あつっ!」

犬男「急ぐな急ぐな。で、どうだったよ?」

執事「はい。魔王は9人目の子孫を見つけたそうです。その子孫の方も奴隷の身分だとか」

雉娘「ふーん。それなら天界に来る方がマトモな生活できるわねー」

執事「ですがどうやら、その方の主人が引き渡しに応じられないらしく」

媛「えーっ。それは大変ですね」

猿少年「魔王相手に応じないとはなかなか度胸ある奴ウキー」

犬「まさか渋る素振りをして、引き渡し料を高値に吊り上げようっつー狡猾な奴とか」

執事「ありえますね」

媛「……」ウーン

執事「お嬢様?」

媛「え、あ、あっ! 執事さん、なな何でも」

執事「…気になりますか、お嬢様」

媛「あぅ。ご、ごめんなさい…」

執事は地上のあれこれに介入することを好いていない。
現状を聞いてきてくれただけでも有り難いのだから、これ以上のことは望んではいけないのだ――と思っていたが。

執事「…仕方ありませんね」

媛「え?」

執事「お嬢様の気がかりを払拭するよう努めましょう」ニコ





魔王「全く、困ったものだ」

魔王は玉座に座しながら、苦悶の表情を浮かべていた。
今月だけで、流行りの病で約300人が死んだとの報告があった。
世界が滅びに向かっている現状、一刻も早く天界の助けが必要だ。

にも関わらず、天女の子孫集めは9人目にして行き詰まっていた。

悪魔「魔王様、申し訳ありません。今日も門前払いでした」

魔王「そうか」

術師「魔王様、こうなれば強行手段に出ては」

魔王「それはいかん。本人を納得させて天界に送らねば、その者を不幸にするだけだ」

悪魔「ですがこのままでは地上の世界が滅びます」

術師「納得させようにも、聞く耳も持たないのです」

魔王「根気よく説得を続けるしかないか」

そう結論を出そうとした時だった。


媛「し、しし失礼しますっ!」ドキドキ

執事「失礼致します」

やけに緊張した様子の女主人は、対照的に堂々とした執事を連れてやって来た。


魔王「お主達か。どうした」

執事「事情は聞きました。9人目の方の説得が上手くいかないとか」

魔王「うむ。説得が難航している」

執事「先方に事情は説明したのか? お嬢様の時のように、強引なやり方で迫っていないでしょうね…」

魔王「もうあんなことはせぬよう部下にも伝えてある。だが、天界についての事情説明はしていない」

執事「ふむ…」

一部の権力者には、世界の現状をこのままでと望んでいる者もいる。悪知恵の働く奴なら、天女の子孫を人質に天界に交換取引を持ちかける奴もいる――魔王は以前そう言っていた。

執事「先方の者は、悪巧みを考えるような輩なのか?」

魔王「そうではない。…悪巧みをするような輩なら、まだ簡単だった」

執事「と言うと?」

魔王「…色恋沙汰だ」

執事「何と」

媛「まぁ」

つまり主人が奴隷に強い恋愛感情を抱き、手放そうとしないということか。
なるほど、これは確かに難しい話だ。

執事「それなら尚更、事情を説明する必要があるのでは」

魔王「情熱的な輩なら『世界がどうなろうと想い人とは離れたくない』と燃え上がるのではないか」

執事「ほう。魔王ともあろう者が情熱的な想像をするものだ」

魔王「お主ならそうだろうとな。なぁ?」ニヤ

執事「な」

媛「」カーッ

執事「と、とにかく! お嬢様、そういうことらしいので帰りましょう」

媛「あのぅ……」

執事「?」

媛「私達で説得に行ってみません?」

執事「!」





媛「私達なら立場も近いですし…。もしかしたら少しは耳を傾けて頂けるかも」

媛にそう言われたので、教えられた場所へ向かうが、執事は内心不服だった。
不服だが…

媛「執事さんごめんなさい…ご面倒おかけして」ジッ

執事「いえ。お嬢様の気がかりを払拭すると約束しましたので」

こう上目遣いで縮こまられては、執事としても従わざるを得ない。
行動が不服でも、媛が可愛ければそれでいい…と思ってしまう。



執事「ここがその方々の住処ですか」

執事は渡された地図を見て何度も確認する。
奴隷持ちの家というのはそれなりに裕福な層が多いのだが、この家はそんなに大きくはない。

媛「看板が出てますね。仕立て屋さんらしいです」

執事「とりあえず入りますか?」

媛「待って! 誰か出てきます!」


奴隷娘「では買い出しに行って参ります、ご主人様」

主人「待て隷娘。俺も行く」

奴隷の娘を追って出てきたのは、若い男だった。
やはり住んでいる家同様、身なりは富裕層のものとは違う。

奴隷娘「そんな、私1人で大丈夫ですよ」

主人「いや。魔王様がお前を見初めたようだからな、お前を1人にしておけん」

奴隷娘「ですが…」

主人「お前を奪われては、俺はきっと一生後悔する。お前は絶対に誰にも渡さないからな」

奴隷娘「ご主人様…」


媛「2人は両思いですね」

執事「そう…なのですか?」

媛「はい! あの目は間違いなく、恋する乙女の眼差しです!」

執事「…?」

媛(執事さんにそれがわかるなら、私の気持ちに早く気付いてくれてたもんね)

片思いだった頃は割と大胆にアプローチしてたと思うが、執事はそれでも気付かなかった程の天然だ。だから、仕方ない。

媛「とりあえず、お2人が帰ってきたら声をかけてみましょうか」

執事「そうですね」





奴隷娘「ご主人様、すみません…重い荷物を持たせてしまって」

主人「気にするな。男として当然じゃないか」

奴隷娘「で、でも」

<ざわざわ

主人「ん?」


媛「男として当然、かぁ。執事さんも同じようなことをおっしゃっていましたねぇ」

執事「それを当然としない男は恋などすべきではない。余程軟弱なのでしたら、仕方ありませんがね」

媛「執事さんは見た目は華奢だけど男らしいですよね」ポ

執事「男ですから」フ


主人「おい」

媛「きゃあ!?」

主人「なに、俺らをダシにしてイチャついてるんだよ。アンタらどこかの貴族の令嬢と執事か?」

媛「聞きました執事さん、私が貴族の令嬢ですってぇ!!」キャー

執事「お嬢様ほど可憐ならそう思われても仕方ありませんね。勿論、私にとっては地上の貴族ごときより、お嬢様の方が遥かに尊い存在でありますが」

媛「もうっ、執事さんったら」

主人「人前で堂々とイチャついてんじゃねええぇぇ!」

奴隷娘「ご、ご主人様、もう行きましょう」

媛「あ、待って下さい! 私達、魔王のお使いで来た者で…」

主人「…魔王様の?」

主人は警戒心を露わにした。
しまった、と媛は思う。しかしもう遅く、主人は奴隷娘の手を引いている。

主人「こいつを引き渡す件なら断ったはずだ。行くぞ、隷娘」

媛「あっ、待って下さい!」

媛は慌てて追ったが、主人はうんざりしたような表情で手を振り、拒否の仕草をした。

主人「帰りな、返答は変わらない」

媛「せめて話だけでも」

主人「しつこいな…!」

主人は足を止め、媛の手を払いのけ――ようとして、

主人「いででええぇぇ!!」

執事「いけませんねぇ、お嬢様に手をあげようなど」ニコニコ&ギュウウゥゥ

執事に腕を締め上げられていた。

主人「いだだだだああぁぁ!」

執事「私としては、貴方がたが地上と共に滅ぼうが興味ないのですが…」

奴隷娘「地上と共に滅ぶ…?」

執事「それではお嬢様の御心が傷ついてしまうのですよ。なので話を…」

主人「いやだああぁぁ、隷娘は渡さないいぃ!」

執事「…私は『話を聞いてくれ』と言っているだけですが」

主人「そう言って、いでで、俺から隷娘を騙し取るつもりだろおぉ…」

執事「どうしましょうねお嬢様、この者は話が通じません」

媛「そ、そんな痛めつけなくても」アワアワ

彼が媛の手を払いのけようとしたせいだと思うが、それだけで執事は過剰な敵意を抱いてしまったようだ。
こうなってはどう宥めようかと媛は慌てる。

奴隷娘「ご主人様、お話だけでも聞いてみませんか?」

主人「え?」ゼェゼェ

奴隷娘が説得に回ると同時、執事は攻撃の手を緩めた。

奴隷娘「魔王様なら強硬手段を取ることもできるでしょうに、この方たちにそのつもりはないようですし…」

主人「けど、お前が言葉巧みに騙されたら…。俺はお前の心が離れていくのが辛い」

奴隷娘「ご主人様が私を捕まえていて下さる限り、私はご主人様から離れませんよ」

主人「隷娘…俺は、俺は……」


執事「困りましたね。勝手に酔って勝手に燃え上がっています」

媛「……」

媛(身に覚えがある…恥ずかしい)カアァ

主人「いいだろう、話だけは聞いてやる! どんな障害も、俺たちを引き離すことはできないけどな!」キリッ

執事「ほう?」





主人「せ、世界が…!?」

家の中に通されて、執事は事細かに世界の現状や、魔王と天界の交渉について話をした。
地上の者には寝耳に水であろう話を聞き、2人とも目をぱちくりさせていた。

奴隷娘「では、私含む天女の子孫が天界へ行けば、世界は天界の祝福を得られると…」

主人「し、信じられん…」

執事「証明する手段なら幾らでも御座いますよ。かつて天女様がこの世界に祝福をもたらしたことが記述されている書物は地上にも存在するでしょうし、何でしたら直接天界のお偉い方々と話ができるよう取り持っても」

主人「う、うぅ」

執事の物言いが堂々としている為か、どうやら主人の方も信じ始めてきたようだ。
だけれど…

奴隷娘「そういう事情でしたら、私は…」

主人「い、いやだ!」

奴隷娘「え?」

主人「世界がどうなろうと、お前とは離れたくない!!」ギュゥ

奴隷娘「ご主人様…!」

媛&執事(魔王の予想していた言葉まんまだ…)

主人「この世界が滅ぶまで、俺はお前と共にいる! 俺は、俺は、お前のことが…」

執事「これは間違いなくラリっていますね。お嬢様、説得は諦めましょう」

媛「諦めが早すぎますよ!?」

媛(どうしよう、どうしよう…あ、そうだ)

媛「あのぅ…」

主人「何だ! 俺たちの愛を引き裂こうというのか、この悪m」

執事「お嬢様への暴言は許しませんよ?」ニコニコ&ギュウウゥゥ

主人「んぐーっ、んぐーっ!」←凄い力で頬を締められている

媛「し、執事さん、そんなにしなくても…。あ、あの、主人さんはこの世界に思い入れがないのですか?」

主人「ゼェゼェ…。そりゃ、富裕層や権力者でもない限り、ある奴の方が少ないだろ。こんな治安が悪くて、いつ死病に冒されるかわからん世界…」

執事「ほう。愛する女性をそんな世界に置いておこうとは、何という鬼畜」

主人「ウッ…」ガーン

執事「本当に愛しているのなら、その方の為にどうすればいいかを1番に考えるはずなのですがねぇ…」

主人「ウゥッ…」ガガーン

執事「正にエゴの塊。最低の男ですね」

主人「」ガーンガーンガーン

媛「し、執事さん、容赦なさすぎですよ」

奴隷娘「ご、ご主人様…」

主人「うぅっ、隷娘~」グスグス

媛「!?」

主人「やだよ~、隷娘と離れたくないよぉ~。こんな俺は最低だぁ~」グスグス

奴隷娘「ご、ご主人様、泣かないで、ね? 私もご主人様のお側が1番ですよ」ヨシヨシ

主人「隷娘~」グスグス


執事「えぇい苛立たしい男だ」

媛「執事さん、もうちょっと優しく。ね?」

執事「的確に指摘してやるのが同じ男としての優しさです」

媛(何か違う気が…)

執事(私は貴方にだから優しいのであって、これが私の平常運転なのですよ、お嬢様)


媛「あ、そ、それでですね」

主人「ん?」

ある程度の涙が収まってきた所で、媛は話を切り出した。

媛「隷娘さんと離れたくなくて、この世界に思い入れがないなら…こういうのはどうでしょう」

主人「?」

媛「主人さんも一緒に天界に来られてはどうですか?」

主人「なぬっ」

奴隷娘「まぁ」

執事「…」

媛(あ…)

微妙な表情の執事を見て、しまった、と思った。
事前にこの案を彼と相談しておかなかったのは、まずかっただろうか。

媛「もしかして…駄目、なんでしょうか?」

執事「いえ…。天界人の血を引かぬ者でも、住むこと自体は禁止されておりません。ただ…」

主人「ただ?」

執事「お嬢様ですら冷遇されているような現状ですので…。天界人の血を引かぬ彼は、更に冷遇されるかと」

媛「あぁ…」

媛にとって屋敷の生活は快適なものだが、それは屋敷が天界から隔離された世界にあり、執事ら使用人達がいてくれるからである。
天界人は地上の者を見下しているふしがある。無闇に暴言や暴力を振るってくることはないだろうが、それでも滲み出る差別的な態度が媛の心を傷つけるだろう、と執事は言っていた。だから買い出しひとつにしても執事任せで、媛はまともに天界を歩いたことがない。

執事「他の子孫の方々は、天界でも差別の少ない所で身を寄せ合って生活しているようですが…。天界人の血を引かぬ者は、そこでもあからさまな差別を受けるかと…」

主人「……」

執事「どうなるかは私にもわかりませんよ。あとはそちらの判断です」

主人「………」

奴隷娘「そんな、ご主人様が差別を受けるなんて…」

主人「…でも天界なら、隷娘は奴隷の身分から解放されるんだよな?」

奴隷娘「え?」

主人「あの執事に最低な男って言われて、頭が冷えたよ。隷娘、お前はこの世界では差別されている。それなら、俺が差別を受ける方がいいじゃないか」

奴隷娘「そんな! ご主人様が救って下さったから、私はこの世界で生きるのは辛くありません!」

主人「奴隷市場でお前に一目惚れしてから…俺、ずっとお前を幸せにしてやりたかった。今って、1番のチャンスじゃん」

奴隷娘「私の幸せは…ご主人様と共にあります」

主人「なら天界に行こう。お前が1番幸せになれる場所だ」

奴隷娘「そんなことない! ご主人様が幸せでないと…」


<あーでもないこーでもない


媛「愛し合ってますね…」ウルウル

執事(帰ってもいいだろうか)

媛「ねぇ、執事さん」ウルウル

執事「は、はい!」ドキッ

媛「ひとつ…ワガママを聞いて頂いてもいいでしょうか」

執事「何でしょうか」

執事(潤んだ目で見上げられては、何も断れませんよお嬢様……)

媛「あのですね……」

執事「……!」





>屋敷近く


猿少年「ウキー。こんなもんでどうかな」

雉娘「ふぅ、ひっさびさの大仕事だったねぇー」

媛「如何でしょうか?」

主人「俺には勿体無いくらいだ。大変ありがたい」

奴隷娘「えぇ、本当に」

犬男「しかし執事から聞いた時はびっくりしたぜ。『新しい家を建てなさい』とはな」

使用人達の手により、屋敷近くに2人が住む家が建てられた。
同じく隔離された世界なら、彼らも平穏に過ごせるだろうという媛の提案である。

執事「わざわざ建てた家です、大事に使うように」

犬男「しっかし、閉鎖的な執事が了承するとはね~」

雉娘「そりゃお嬢様からのお願い断れないよね~」

猿少年「執事はお嬢様に弱いウキー」

執事「黙りなさい」

媛「ご近所に新しいお友達ができて嬉しいです!」

奴隷娘「えぇ、私としても心強いです!」


主人「絶対に恩は返すぜ」

執事「貴方ごときに見返りなど期待していませんよ」

主人「俺は仕立て屋をやってたから、衣装作りくらいならできるんだが…」

執事「…オーダーメイドでも?」ヒソッ

主人「任せとけ」グッ

犬男(執事め。『私の理想の衣装でお嬢様を飾りたい』とか企んでやがるな)


猿少年「あ。どうせなら、他の子孫もこの辺に集めちゃえば?」

執事「!」

媛「いいですねソレ」

雉娘「他の子孫がいい奴ばっかとは限らないわよー?」

犬男「そん時ゃ追い出せばいいだけだよ、俺はかまわねーぜ」

媛「……執事さん」←上目遣い

執事「…えぇ、お嬢様がおっしゃるのでしたら」

媛「わぁ、執事さんありがとうございます! 優しい執事さん大好き!」ギュゥ

執事(…断れるか!)

犬男「執事の心臓バックンバックン言ってるのが聞こえる」

猿少年「顔は平静を装っているけどね」

雉娘「確信した。執事はムッツリだわ」


執事(全く…優しいのは貴方の方ですよ、お嬢様)

今回だって、媛が言い出さなければ自分は知らんぷりを決め込んでいた。
だけどこれが天女の生まれ変わりたる慈愛の精神か。

執事(…いや、違うか)

地上全体を包み込むような天女の包容力とは違う、媛の等身大の優しさだ。
その優しさは、時に執事を困らせたりもするのだけれど。

媛「えへへ~、執事さぁん」ギュウゥ

執事(…それが心地いい)

素直に甘えてくれる媛が、ただただ愛しく思えた。








執事「10人目の子孫が見つかったそうですよ」

雉娘「へぇ、順調ねぇ~」

猿少年「このペースなら年内には13人全員見つかるんじゃない?」

執事「ですが説得に難航しているそうで」

犬男「へぇ。今度はどんな理由でだ?」

執事「その方は既婚者で、両親の介護を抱えているとか」

雉娘「あらー。家族ごと天界に…って考えると腰も重くなるわねー」

猿少年「魔王は説得のやり方が下手だから、時間かかりそうだウキー」

媛「…」ソワソワ

犬男「どうした、お嬢様?」

媛「い、いえっ」

話を聞いて媛は行動したくてたまらなかった。
だけどそれは言えない。ただでさえ、散々皆を振り回したばかりだというのに。

執事「……」

媛「……」ウズウズ

だけどそれを見越したかのように――

執事「行きましょうか、お嬢様」

媛「え…っ!?」

執事「その一家への説得です。…気になっていらっしゃるように見えるのは、私の思い過ごしでしょうか?」

媛「!!」

地上の問題を避けている執事が、自分から行こうと言ってくれた。
それなら――

媛「はい! 行きましょう!」

それに思い切り甘えようと思った。


執事「では留守の間、頼みましたよ」

犬男「おう、任せとけ」

猿少年「行ってらっしゃーい」

雉娘「思わしくない結果でも泣かないでね、お嬢様」

媛「ふふ、大丈夫ですよ」


泣く時も、辛い時も、執事が一緒にいてくれるから――


媛「行きましょう、執事さん!」


彼と一緒なら、どこへでも行ける。何でもできる、そう思えた。


Fin





づっきーに様より執事ssの続編ということでした。リクエストありがとうございます!
本編は媛と執事の恋愛に焦点を絞っていたので「いや世界はどうなるんだよ」って疑問が残ったと思うので、そっちに焦点を当ててみました。まぁ作者は2人が幸せなら世界がどうなってもいry
執事がいくらかバカになりましたが、愛するお嬢様を思っての事なのでご愛嬌。
posted by ぽんざれす at 21:14| Comment(4) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月25日

バレンタインssアンケート

2月14日バレンタインにバレンタインのスピンオフssをうpしたいと思っています
何で今から来年のバレンタインの告知するんだよとか言わない。
ともあれ、恋愛モノss書くのが大好きな自分にとっては嬉しいイベントです

え? リアルでのバレンタインはどうなのって? 意味がわからないよ

というわけでクリスマスの時のように募集をかけます…と言いたい所ですが、正直「このssでバレンタインは無理だよ!!」ってのがあったりね(`・ω・´)キリッ
ってわけで作者が挙げた中からの投票制にします~

投票期間:1/20まで
投票は1人3票までです


上位3つの作品のスピンオフを書きたいと思います
作品の時系列? 無視だよ無視!

こちらからアンケートページに移動し、投票お願いします♪



↓エントリー作品とカップリング、ついでに「このssが選ばれたらこんな話になるかな~」っての(あくまで予定)↓

勇者「もう勇者なんてやめたい」
暗黒騎士×勇者
手作りチョコを作った勇者だが暗黒騎士に渡す勇気が出ずモジモジモジモジ…

勇者の娘「お父様の仇を討ちます」(1/2) (2/2)
暗黒騎士×令嬢(その他サブキャラ)
この手のイベントが苦手な令嬢と、いつチョコをくれるのかと待っている暗黒騎士

魔術師「勇者一行をクビになりました」
悪魔×魔術師
悪魔は魔術師にチョコを貰い、喜びのあまり国中に大迷惑をかけるのだった

姫「王子の代わりに戦う使命を負った」(1/2) (2/2)
飴売り×姫
モテ男の飴売りはチョコも沢山貰うのだろうと焦った姫は、手作りチョコで勝利を狙う

魔道士「僕のお嫁さんを召喚するよ☆」
魔道士×町娘
最近悩んでいる様子のチャオさん。バレンタインは彼にとっての「危険日」らしいが…。

姫「魔王子との政略結婚」(1/3) (2/3) (3/3)
魔王子×姫
チョコ作りからチョコを食べるまでひたすらイチャイチャしているバカップル

王子「囚われの姫君に恋をした」
王子×姫
バレンタインをよく知らない姫様は斜め上な奮闘をし、恐れを抱きつつもツッコめない王子であった。

女勇者「勇者よりも、お姫様になりたかった」
精霊×勇者
精霊の為にチョコを用意しようとする勇者だったが、周囲の好奇の目という難関があった。

魔王子「僕が美しすぎて世界征服とかどうでもいい」
魔王子×姫
姫からのチョコを期待する余り、服を着忘れる魔王子であった

魔女「不死者を拾いました」
不死者×魔女
手作りチョコを作ってみようと奮闘する魔女だったが、ドジるばかりであった

アラサー賢者と魔王の呪い
魔法戦士×賢者
バレンタインなんぞに浮かれるか!と力む魔法戦士だったが、どうしても賢者を意識してしまうのであった

魔姫「捕まえてごらんなさい、色男」
魔姫・ハンター・勇者・猫耳
魔姫から下僕(!)3名への施し。男3名それぞれの反応は…

奴隷少女「私を、守って下さい…」執事「それが貴方の願いならば」
執事×奴隷
執事に秘密でバレンタインのサプライズ計画を進めるが、執事に怪しまれてしまう
posted by ぽんざれす at 19:09| Comment(2) | 皆様へ募集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【頂き物】奴隷少女「私を、守って下さい…」執事「それが貴方の願いならば」【小ネタ】

ゴーン、ゴーン……


執事「お嬢様、0時の鐘が…」

媛「え? わあもうそんな時間? 寝なくちゃね。おやすみなさい」

執事「今夜は、おやすみなさいじゃないですよ」

媛(ええっ?! まさかの〝今夜は寝かせません”?!」

執事「メリークリスマス、お嬢様」

媛「あ」

執事「どうしましたか? なんだかがっかりしていますか?」

媛「そそそ、そんなことありません!」



生キャラメルさんより奴隷少女「私を、守って下さい…」執事「それが貴方の願いならば」のクリスマス小ネタを頂きました
執事ぃ、お前は何て鈍いんだああぁぁぁ!!
自分のキャラを他の方に弄って頂くと、何かこうニヤニヤしてしまいます
posted by ぽんざれす at 11:51| Comment(0) | 頂き物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月24日

【クリスマススピンオフ】魔術師「勇者一行をクビになりました」

魔術師「勇者一行をクビになりました」のスピンオフです。





悪魔「――魔術師ちゃん」

後ろから悪魔さんが私を呼び止める。
いつもと違う低い声が、私をその場から動けなくさせた。

振り返るのが怖い。こんな声を出す悪魔さんの目つきは、きっと――

悪魔「こっち向きな」クイッ

魔術師「!!」

――私の心を、魅了して離さないだろうから。

悪魔「魔術師ちゃん…チミは俺様のもんだよな」

魔術師「ぁ…や…」

悪魔「――愛してるぜ、魔術師ちゃん」

魔術師「―――!」



魔術師「ちょっ、悪魔さん、心の準備がああぁぁ……あれ?」

チュンチュン

魔術師「……夢、かぁ」ドキドキ

刺激の強い夢だった。あまりもの刺激に、余韻がまだじわじわ残っていた。


悪魔『こっち向きな』クイッ

悪魔『魔術師ちゃん…チミは俺様のもんだよな』


魔術師「……」ボッ

魔術師「違う違う違う違う、悪魔さんそんなことしない」ブンブン

悪魔「おっはよぉ~ん、魔術師ちゃぁん!」バァン

魔術師「きゃっ!? 悪魔さん!?」

悪魔「魔術師ちゃん、なかなか起きてこないからァん! 心配しちゃったんだぜぇ~」

魔術師「ぁのぅ…いつもより10分程度寝坊しただけなんですけど……」

こっちはまだパジャマのままだというのに…。
悪魔さんはあまり人の都合を考えない。

だけど…

悪魔「寝起きの魔術師ちゃんもカワイイぜェ~。あぁもう、ナデナデしたくなっちゃうゥ~ん♪」ギュウゥ

魔術師「もぉ~」

悪魔さんは甘えてくる人だ。さっき見た夢みたく、強引に迫ってくる人じゃない。

悪魔「魔術師ちゃ~ん、ちゅっちゅして、ちゅっちゅ~♪」

魔術師「……」

キスする時は、いつもこうやっておねだりしてくる。

魔術師「たまには悪魔さんの方から…」

悪魔「え?」


魔王「悪魔王様ーっ、どちらへ行かれたんですかーっ」

悪魔「あー、今行くー! チッ、あの野郎邪魔しやがって」

魔術師「ぁはい……」

悪魔さんは部屋を出て行った。
季節は冬、まだまだ布団の中が恋しい。

魔術師「…あ、今日はクリスマスイヴだった」

私はカレンダーを見て気がついた。





悪魔「イャハハハハ!! どぅお、この格好ォ~」

暗黒騎士「阿呆だと思う」

悪魔さんはサンタさんの格好をしていた。
と言っても前開きで袖まくりしてアクセサリーをジャラジャラつけて、サンタさんのイメージから遠くなっているのだけど。

魔術師「ぇと、悪魔さん、クリスマスパーティーをするんですか?」

悪魔「いやァ、国のガキどもに何かしてやろうかと思ってな!」

暗黒騎士「で…具体的に何をする気だ?」

悪魔「まず雪を全部生クリームにすンだろ? あと空からコンペイ糖を降らせてだな…」

暗黒騎士「国中の児童を糖尿病にする気か!!」

悪魔「ガキなんて甘いモン与えておきゃいいンだよ!!」

暗黒騎士「そんな思考でサンタを名乗るなあぁ!!」

魔術師(暗黒騎士さんの方が正論すぎるよぅ……)

悪魔「じゃあ、どうしろってンだー? ガキにプレゼントやるのは親の役目だろ~」鼻ホジホジ

暗黒騎士「そうだな…雪像造りなんてどうだ」

悪魔「あ? 雪像?」

暗黒騎士「児童の間で流行っているダークヒーローがいるのだ。この本なのだが…」

悪魔「デビルナイトォ~? ふーん、児童書のヒーローねぇ。ヘッ、ガキは単純でいいねェ~」ペラペラ


>10分後


悪魔「デビルナイト☆スラ~ッシュ、ズバババッ! おい魔王、倒れろよ!!」

魔王「ぐ、ぐはぁ……」

魔術師「すっかりはまっちゃいましたね……」

暗黒騎士「奴の脳みそは児童並か」

悪魔「おっしゃあ、国の村や町を回って雪像造りしてくンぜッ!! 悪魔サンタ、出動しまーっす☆」キラリン

魔術師「ぁ、悪魔さん! …行っちゃった」

暗黒騎士「国中を回ったら20近くは造らねばなるまい…。途中で飽きなければいいが」

魔術師「わ、私ちょっと悪魔さんを追っかけてきますっ!」





魔術師「ふぅー、寒いなぁ」

厚着をしているのに寒くて、息が白くなる。
私は悪魔さんの魔力を追っていた。

途中立ち寄った村では、悪魔さんが造ったという雪像が建っていた。
村の人に話を聞くと悪魔さんは雪をかき集め、自分の力で雪像を造っていったらしい。

魔術師「よくやるなぁ」

デビルナイト自体は割とシンプルなデザインなのだけれど、それでも綺麗に造られた雪像に私は感心した。


そして2件目の村。

魔術師「あれ、ここのは剣を持っていないんだ」


3件目

魔術師「ポーズがただの直立になってる」


4件目

魔術師「うーん…全体的にデフォルメされてきたなぁ…」

段々疲れてきているのが見て取れた。


魔術師「大丈夫かなぁ悪魔さん。…次は5件目だけど……あ、いた。悪魔さーん!」

悪魔「ザクザクっと。お、魔術師ちゃん。いよーっす!」

魔術師「あ、出来上がったんですね」

立っていたデビルナイトはちゃんと剣を持ってポージングしていて、最初のクオリティに戻っていた。
…ってあれ? だったら悪魔さんは今、何を造っているのか…。

魔術師「悪魔さああぁぁぁん!? な、な、何造ってるんですかあぁ!?」

悪魔「見てわかるだろ♪ 勇者だよ、ゆーしゃ!」

確かに、その見慣れた顔は、ちょっとデフォルメされてるけど勇者さんだ。
けど、その格好が…。

魔術師「どうしてその格好なんですか!?」

悪魔「イャハハハハ!! そりゃ全国放送された姿だしィ~!! あ、でもココはもっと小さかったな」

「キャハハ、フルチンだフルチンだ~」
「ちっせー! 勇者のちっせー!」
「チン丸出しィ~♪」

魔術師「ああぁ…子供達が悪い影響受けてる…」

悪魔「デビルナイトばっかで飽きてきたっていうかァ~」

魔術師「だからって何でよりによってこれなんですか!?」

悪魔「ガキなんてバカだから下ネタで喜ぶんだよ!」

魔術師「もうサンタさんなのは格好だけですねぇ…」

悪魔「そンじゃ次の村に行くかな~」バサッ

魔術師「あ、悪魔さん、私も行きますっ!」

悪魔「アラ魔術師ちゃんたら、俺様と一緒にいたいのねェん…キャッ♪」

魔術師「もぉ~……」





こうして私は悪魔さんと一緒に各地を飛び回った。

悪魔「見てろよガキども、テメーらの為に悪魔王様が立派な雪像造ってやっからよォ!」

ワーワー

魔術師「人気者ですねぇ悪魔さん」

悪魔「そりゃ俺様、魔物達のカリスマだしィ? イャーッハッハ、俺様に感謝しろよガキどもぉ!!」

魔術師(そうだよねー、悪魔さんは伝説の悪魔王なんだものね)

そんな悪魔王が、こうやって子供達の為に頑張っている。
悪魔さんは魔物の王になっても気取らないし飾らない。前と変わらず、自然なままだ。

悪魔「勃起の爪で雪を掘る~、前を後ろを掘る掘る~♪」ザクザク

魔術師「その歌やめて下さい!!」


とにかくそんな調子で順調に進み…。


悪魔「ヨッシャ、最後の雪像が完成したぜェ~」

魔術師「お疲れ様です悪魔さん」

「わーデビルナイトの像だー」
「悪魔王様ありがとー!」
「わーい、サンタさんからこの村への贈り物だー!」

魔術師「ふふ、悪魔さん。皆喜んでますよ」

悪魔「ちょい待って……今、賢者タイム…」

魔術師「何で!?」

悪魔「ふぅ…。ってもう夕方かよ! 今日はいつもより働いたンじゃね~」

魔術師「サンタさんも楽じゃないですねぇ。じゃあ帰りましょうか悪魔さん」

悪魔「ヤダヤダ、ただ帰るだけじゃつまんなぁ~い!!」ジタバタジタバタ

魔術師「えぇーと…」

ちょっと考える。…すぐに答えは出た。

魔術師「…デートして帰りましょう、悪魔さん」

悪魔「イエエエェイッ!! 魔術師ちゃんとクリスマスデエエェ~トッ!!」

悪魔さんの顔に元気が戻った。





私と悪魔さんは空を飛んでいた。

悪魔「寒くねーかァ、魔術師ちゃん」

魔術師「悪魔さんとくっついてるから、あったかいですよ」

悪魔「イャハハ、そりゃ良かったぜェ」

悪魔さんは私が凍えないように、大きな体で私を冷風から守ってくれていた。
さりげない優しさに、心も体もポカポカ。

悪魔「今日はイルミネーションやってるとこ多いから、上空からの景色が最高だなァ」

魔術師「えぇ、綺麗ですねぇ」

暗闇で光る様々な色が国中を照らしている。これがクリスマス独特の美しさ。今日だけの特別な景色。

魔術師「悪魔さんと一緒に見れて良かったです」

悪魔「そーだなァ。きっと一緒に見るから、特別なんだな♪」イヒヒッ

魔術師「ふふっ…特別ですね」

悪魔「魔術師ちゃ~ん♪」

魔術師「何ですか?」

悪魔「こういう雰囲気だからやっぱり…ねぇ? ンー、ンー」

魔術師「……」

キスをねだる甘えた声と仕草は、いつもと同じ。

だけど、今日は特別な日だから――

魔術師「たまには…」

悪魔「ん?」

今日の夢みたいに…

魔術師「悪魔さんの方から…して下さい」

悪魔「んへっ」

予想外だったのか、悪魔さんは呆気にとられていた。

悪魔「えーと…マジでいいの?」

魔術師「えぇ…お願いします」

私は目をつぶる。

悪魔さんがいつも受け身なのは、私のタイミングでさせてくれるように。
私の好きなキスでいい、私がイヤならしなくてもいい、って。そうやって気遣ってくれているのだ。

だけど、私は――


魔術師「悪魔さんのキスが、欲しいです」


好きな人には、奪われてみたいのだ。


悪魔「そいじゃ、遠慮なく…」

悪魔さんは私の頭に手を回す。いつも強引な悪魔さんだけど、こういう時は紳士的で優しい。
目をつぶっていても、悪魔さんとの距離がわかった。彼の吐息が頬を撫でて、私の気分を高揚させて――


悪魔「――っ」

魔術師「ん――」


いつもより強めのキス。ちょっと苦しいけど情熱的で、脳がしびれるくらいに刺激的。

魔術師(あぁ――)

私はきっと、これを望んでいたんだ。


悪魔「…ぷはっ。魔術師ちゃん、苦しくなかったか?」

魔術師「いえ。…良かったです、とっても」

悪魔「そっか」

悪魔さんは嬉しそうに微笑んだ。
滅多に見れない悪魔さんの健気な一面に、私はまたときめいた。


魔術師「さ…そろそろ帰りましょう。お城でパーティーの準備してますよ」

悪魔「そだな~。やっぱ悪魔王様がいねェと、パーチー始まらねぇだろうな」

魔術師「えぇ。今日の夕飯、私も下ごしらえ手伝ったんですよ」

悪魔「マジで!? 早く帰って食いてェ~、腹ペコペコ~」

魔術師「皆さんも待ってますよ、きっと」

特別な非日常から、日常へ。
この時間を惜しいと思いながらも、私達は帰る。特別な時間は貴重だから、特別たりえるのだから。

悪魔「そォ~だ。悪魔王サンタから下の奴らに言うことあったんだ」

魔術師「何ですか?」

悪魔「すうううぅぅっ……」

悪魔さんは思い切り息を吸い込んでから、叫んだ。


悪魔「メリークリスマス、ヤロー共っ!! 特別な日を楽しめよ、イャハハハ!!」



Fin





あとがき

というわけで悪魔サンタからのメリークリスマスでした。
本当このカップルはキスばっかして…いいぞもっとやれ(`・ω・´)
posted by ぽんざれす at 18:39| Comment(0) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【クリスマススピンオフ】女勇者「勇者よりも、お姫様になりたかった」

女勇者「勇者よりも、お姫様になりたかった」のスピンオフです。





精霊「メリークリスマス、勇者!」

勇者「……」

暖炉からサンタの格好をした精霊が出てきた。
体中ススまみれで、一瞬魔物が入ってきたかと思った。

勇者「何のつもり?」

精霊「ほらほらサンタだよサンタ! プレゼントしに来たんだよ!」

勇者「サンタが来るのは夜中ね。今、真昼間」

精霊「あ、そうなのか! ごめーん、俺、勉強不足で~」ハハハ

幼少期をぬいぐるみと過ごし、魔王の側で邪神をやって、長年封印されてきた…という経緯を考えると、精霊にとってこういうイベント事は身近ではなかったのだろう。

精霊「夜また来るねー! それじゃ」ソソクサ

勇者「いや暖炉から帰らなくても。普通にドアから出なさい、あとお風呂入って来なさい」





勇者「夜に来るのかぁ、精霊」

こちらの地方ではクリスマスは家族で祝う風習があるので、今日は使用人は帰らせている。
だけど帰る家のない精霊は勿論、この屋敷に残るのだ。

勇者(家の者は公務で忙しいけど、私は急遽お休みになったんだよねー…だから精霊と2人きりになるなぁ)

勇者「ってことは……」

勇者はクローゼットをガラガラッと開けた。

勇者「秘蔵、フリフリお洋服コレクション~っ!」

そこには家の者に内緒で買ったフリフリ服がずらっと並んでいた。
まだ外に着ていく勇気はなく、部屋で1人で楽しむのがほとんどなのだが。

勇者(精霊と2人きりなら、いいよね……)ドキドキ

勇者(着て見せたら、精霊何て言うかなぁ)


精霊『うわぁ、可愛いね勇者ぁ!』


勇者(って言ってくれるかなぁ。それとも…)


精霊『やっぱり勇者は俺のお姫様だよ』


勇者(それでそれで~…)


精霊『世界でたった1人の、俺のお姫様…もっと近くでその姿を見せて…。あぁ勇者、俺にその唇を……』


勇者(なんちゃってなんちゃってなんちゃってー!! きゃああぁぁ)ダンダンッ

勇者はベッドに顔を埋めて悶絶していた。

勇者(あ、そうだ。精霊に『これ』も渡さないと)

勇者(……)

勇者(まぁ後でいいか)


そんな感じで、勇者は久々の休日にゆっくり体を休めていた。


>夜


勇者「へ、変じゃないよね?」

悩みに悩んで選んだフリフリ服は、ひざ下までの丈のドレスだった。
白地にピンクの薔薇模様が刺繍してあって、袖にはふわっとした膨らみがある。勇者のお気に入りポイントは、3段フリルになっているスカート。
少し開いた胸元はシンプルなネックレス、まとめた長い髪は花飾りで留め、装飾をしてみた。
靴は精霊との身長差がこれ以上開かないように、ぺったんこのパンプスを選んだ。

勇者(うわー凄い、女の子みたい)

全身鏡を見て勇者はドキドキする。
こんな可愛い服を着た姿を精霊に披露するなんて…。

勇者(あああぁぁぁ、やっぱ恥ずかしいいいぃぃぃ!!)

トントン

その時、窓を叩く音がした。

勇者(も、もしかして精霊?)

勇者は恐る恐るカーテンを開けた。すると…

精霊「メリークリスマ…すぅっ!?」

勇者「め、めりー…くりすます……」

精霊「……」ハッ

精霊は3秒くらい固まった後、我に返ったようだった。

精霊「窓の鍵開けて、勇者!」

勇者「あ、うん」ガチャ、ガラガラッ

精霊「もう、勇者ぁ~っ!」ギュウゥ

勇者「わぁ!?」

部屋に飛び込んでくるなり、精霊は思い切り抱きついてきた。

精霊「どこのお姫様かと思ったら、俺のお姫様じゃ~ん! 俺の為に可愛くしてくれたの~? 嬉しいなぁ、もう~」

勇者「そ、そう?」

精霊「えへへ~、勇者ぁ~…って違った! デレデレしてる場合じゃないっ!」

勇者「?」

精霊は一旦、ピシッと良い姿勢になる。
そして跪いたかと思うと…。

精霊「お待たせ致しました、おれっ…我が姫君。今夜はおっ、私が貴方だけのサンタになります」シドロモドロ

勇者「……」

このグダグダっぷり、きっと本か何かの影響を受けて練習したセリフだろう。
だが、しかし…。

勇者(どうしよう…私の好み、どストライクなんですけど!!)キューン

勇者(って、ダメダメ、こんな単純なことでときめいてたら…)

精霊「私と共に参りましょう、お姫様」スッ

勇者「はいぃっ!!」ドキイイィィッ





勇者は精霊に手を取られ、食堂までやってきた。

勇者「真っ暗だね、灯りつけないと…」

精霊「ストーップ!」

勇者「え?」

勇者は動きを止める。
精霊はキザに笑うと、指をパチンと鳴らした。

するとぽやっとした光が放たれ――

勇者「…うわぁ」

勇者はその光景に目を奪われた。
聖職者の格好をした人形たちが灯りを持ち、並んでいる。
楽隊がクリスマスの曲を奏で、それに合わせて聖歌隊が歌う。雪だるまやサンタ、トナカイの人形がくるくる踊りだし、可愛らしい光景だ。

勇者「凄い…」

お伽話の世界に来たかのような、不思議な感覚だった。
勇者の目が、耳が、非日常を感じている。

勇者「最高だよ精霊! メルヘンチックで、こういうの大好き!」

精霊「そう、俺の作り出す世界はメルヘン…そしてメルヘンを完成させるには」グイッ

勇者「あっ!?」

勇者の体は精霊に引き寄せられた。そのまま体がふわっと浮く感覚があって、そして――

精霊「主役のお姫様が揃えば、完璧だよ~っ!」

精霊は勇者を抱えて、食堂の真ん中まで駆ける。

精霊「皆ぁ、お姫様がやってきたよ! 今日は存分に楽しんでもらおうじゃない!」

人形たちは祝福するように2人を囲み、拍手を送った。
踊っていた人形たちは、2人の周りをくるくる踊りながら駆ける。

勇者「に、人形相手とはいえ、照れるなぁ……」

精霊「奥ゆかしいお姫様だなぁ」ニーッ

勇者「ば、ばかっ。てか…あんたも……」ボソボソ

精霊「んー?」

自分が主役なら、彼だって主役のはずで――

勇者「あ、あんたも…王子様でしょ」

自分をお姫様扱いしてくれる、世界でたった1人の人。
お姫様の相手に王子様がいるのは、メルヘン童話のお決まりじゃないか。

精霊「困ったなぁ~。今日の俺はサンタでいこうと思ったんだけど……」

勇者「じゃあ、サンタで王子様ね!」

精霊「それ良い組み合わせだね~! わーい、サンタ王子だ~」

精霊は喜んでぴょんぴょん飛び回っている。彼はきっと深く考えていないだろうけど――追及されたら、自分が困る。

精霊「勇者、パーティーしよ、パーティー! コックさん人形に料理作ってもらったんだ~」

勇者「うん!」





精霊「うわぁ~、これがクリスマス料理かぁ! 見た目も綺麗で美味しそうだね~!!」

初めてクリスマス料理を見るらしい精霊は目を輝かせていた。
見た目より幼いハシャぎっぷりが、勇者には微笑ましく思えた。

勇者「カンパイしよ精霊」

精霊「はい、カンパ~イ! いただきまーす!」

2人ともお酒は飲めないのでジュースで乾杯。
精霊はニコニコしながら料理を口にして、とても美味しそうに食べる。

精霊「ぷはぁ~、サイコ~。クリスマスになったら、どこの家でもこんなご馳走を作るの?」

勇者「大抵はね。私もこんなに豪華なクリスマスは、子供の時以来だよ」

精霊「あ、そうなの?」

勇者「勇者一族は色々忙しくてね。ここ数年は、前日に使用人が作り置きしてくれたものを食べてたなぁ」

精霊「勇者は料理しないの?」

勇者「う゛」

痛い所を突かれた。
やっぱり自分の年頃になれば、女性は料理くらいできるようになっておくべきか…。

精霊「まぁ困らないんだったらしなくていいよね。料理って難しそうだし」

完全に押し黙ってしまった勇者の様子を察してか、精霊はフォローするように言ってくれた。

勇者「ぶ、不器用なんだ、私……」

精霊「そうなんだ~。まぁ勇者の育ちを考えたら、苦手でも仕方ないよね~」

勇者「えーとね、精霊!」

精霊「?」

勇者は立ち上がった。

勇者「ちょ、ちょっと待っててね!」

そう言ってダッシュし食堂から出ていき、少しして戻ってきた。
手にはクリスマス模様の紙袋を持っている。
顔は何だか…恥ずかしそうだ。

勇者「こ、これ…クリスマスプレゼント!」

精霊「おぉ~! ありがとう、勇者♪」

勇者「わ、笑わないでね!」

精霊「?」

精霊は首を傾げながら袋を開けた。そこに入っていたのは…。

精霊「わぁ~」

ウサギのぬいぐるみだった。精霊は袋から取り出すと、ギュッと抱きしめる。

精霊「可愛いね~。ふっかふかだし…」

勇者「気に入ってくれた…? 良かったぁ~、1ヶ月前から作った甲斐があったよ…」

精霊「えっ、このウサギさん、勇者の手作りなのォ! 全然不器用じゃないじゃん!」

勇者「も、もう作れないよ! 魔物と戦うより神経使ったよ~…」

精霊「そっか。それじゃこの子、特別な子なんだね」

精霊はウサギと目を合わせ、へへっと笑った。
そして――ウサギにキスをする。

精霊から命を与えられたウサギは、そこらをぴょんぴょん跳びまわった。そんな様子を精霊は嬉しそうに見ている。

精霊「ありがとう勇者。友達増えた」ヘヘヘ

精霊にとってのぬいぐるみは友達。
孤独を嫌う精霊にとって、友達とは特別なものなのだ。

勇者(良かった…喜んでもらえて)

精霊「それじゃお礼に勇者…俺からのプレゼント」

精霊はそう言うと、勇者の手を取って、指をくるっと回した。
手元でキラキラした光が、何かを形作った。

勇者「…わぁ」

光は雪の結晶をモチーフにした指輪となり、勇者の指に丁度よくはめられていた。

精霊「うーん、チョイス失敗したかな?」

勇者「な、何で!?」

精霊「だって。勇者が可愛いもんだから、指輪がかすんじゃって」

勇者「そ、そんなことないって!! もー…」

恥ずかしくて勇者は顔を真っ赤にする。

勇者「ありがとう精霊。宝物にするね」

精霊「へへ。クリスマスって特別なこと尽くしだね。衣装も、料理も、プレゼントも…俺、今日のことは、ずっと忘れないよ」

勇者「クリスマスは毎年あるよ、精霊」

精霊「なら、ぜーんぶ忘れない! 勇者と過ごす時間を忘れたら、勿体無いじゃん!」

勇者「精霊ったら…」

精霊は自分を大事に思ってくれている。自分と一緒にいる時間を大切にしてくれる。
それは精霊にとっての特別でいさせてくれるということだから。

勇者「うん、約束だね」

もう精霊を孤独にはさせない。
これから先は、ずっと自分が一緒だから。


精霊「ところでクリスマスって、他に何すればいいのかな?」

勇者「うーん。家族で一緒の時間を楽しむのが一般的だね」

精霊「じゃあ来年のクリスマスまでには、家族になろっか♪」

勇者「んなっ!」

…これから先、ずっと精霊に惑わされることになりそうだ。来年のクリスマスはどうなっているか…それは来年のお楽しみ。


Fin




あとがき

カップルってクリスマスどう過ごしてるんだ?(悲しい疑問)
とっても平和ないちゃラブスピンオフとなりました。爆発すれ。
posted by ぽんざれす at 18:38| Comment(0) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【クリスマススピンオフ】アラサー賢者と魔王の呪い

アラサー賢者と魔王の呪いのスピンオフです





もうすぐ聖夜祭。初めて都会で迎える聖夜祭はどんなものか…と魔法戦士は思っていたが。

王「聖夜祭の日は里帰りするが良い、魔法戦士よ」

魔法戦士「えっ!? 街が人々で賑わうから、我々騎士団による警備が必要なのでは!?」

王「賢者の魔法教室でパーティーが行われるらしいぞ」

魔法戦士「そ、そうなんですか…」

王「参加したいだろ? ん? ん?」

魔法戦士「あ、はい…ま、まぁ」

王「同級生とパーティーできる機会なぞ、これから先そうそうあるまい。楽しんでこい、魔法戦士よ!」

魔法戦士「……」


こうして寛容な王のはからいにより、魔法戦士は里帰りすることになった。





魔法戦士(田舎は雪がザックザクだなぁ…あぁ歩きにくい)

聖夜祭の日、実家に帰った魔法戦士は、聖夜にはさほど浮かれてもいなかった。
それよりも、1日も早く一人前の騎士になることの方が重要なのだが…。

魔法戦士(そんでも王様の言う通り、来年にゃ皆卒業してバラバラになるし…いい思い出になるかもな)

魔法戦士(それに……)


賢者『5年経っても私への気持ちが変わらないようなら、また言いに来て。それまで、待ってるから』


魔法戦士(せっかく先生と過ごせるんだ、こりゃもう楽しまないとバチが当たるってもんだ!)

やる気に燃えて、魔法戦士は魔法教室までの道を駆けた。


<ワイワイ

魔法戦士(よし、教室が見えてきたぞ。何か賑やかな声も聞こえるな)

魔法戦士「みんなー、久しぶ……」


生徒A「きゃーっ、先生可愛いーっ」

生徒B「本当、お持ち帰りしたーい」

賢者「こらっ、大人をからかっちゃいけません!」

生徒C「でも先生だってノリノリで着たじゃないですかーっ」

賢者「それは…可愛い教え子が用意してくれたのだから、無碍にできないもの」


魔法戦士「」アワアワ

生徒D「あ、魔法戦士じゃん」

生徒A「魔法戦士ぃ、どう? 先生可愛いっしょー」

魔法戦士「な、な、な……」


賢者は女子生徒達の手により、サンタドレスを身に纏っていた。


賢者「もぉー…恥ずかしいなぁ」モジモジ

魔法戦士「何やってんじゃーっ! 先生を着せ替え人形にするなーっ!」

生徒A「えーっ、可愛いじゃん」

そりゃ、子供が仮装してる姿は、ものっ…凄く可愛いけれど。

魔法戦士「あのなぁ、敬意を持て!! 先生は大人なんだからな!?」

賢者「そうよ~。子供の姿ではあるけど、おばさんなんだから…」シュン

生徒B「うわー。先生におばさんとか、魔法戦士サイテー」

魔法戦士「言ってなああぁぁい!!」

生徒C「まぁまぁ、聖夜の日くらい羽目を外してもいいじゃん」

生徒D「せっかくのパーティーなのに、先生ったら洒落っ気ないんだもん。ねー?」

賢者「着飾るのは苦手なのよ~…」

魔法戦士「……」

賢者は縮こまっているが、そんな恥じらっている姿も可愛らしい。
なかなか見られない賢者の姿を見れた…と思えばまぁ、得した気分にはなれる。

魔法戦士「先生、似合ってるよ」

賢者「あら本当?」

魔法戦士「うん。聖夜祭の主役は先生だ」

賢者「も~。皆の為に開くパーティーなんだから、先生が主役じゃダメじゃない」

魔法戦士「はは、そうか」

生徒A「もしもーし、魔法戦士ぃ?」

生徒B「私らもパーティードレス着てるんですけどー?」

生徒C「ま、仕方ないよ。魔法戦士は同級生に興味ないのよ」

生徒D「そうねぇ~。先生は小さくて可愛いもんね~」

魔法戦士「誤解を招くことを言うなああぁぁ!!」

賢者「ふふふ。E君達も来たらパーティーを始めましょうか」

一同「はーい」





やがて男子生徒たちも揃い、パーティーが始まった。
皆で持ち寄った料理を飲み食いし、ゲーム大会をやって…という、ごくごく質素なパーティーだ。

魔法戦士(まぁ、城のパーティーは豪華すぎて俺には合わんしなぁ…)

久々に素朴な故郷を感じ、魔法戦士は期待していたよりも楽しんでいた。

生徒A「はい、皆クジ引いて~!」

魔法戦士「えーと…中身は何だ」ゴソゴソ

プレゼント交換会、きっとやると思っていたので自分は財布を買っておいた。
果たして当たったプレゼントは……。

魔法戦士「…ん? 手編みのマフラーか…」

生徒E「あ、それ俺が編んだやつだ。大事にしろよな!」

魔法戦士「男の手編みかよ!?」

生徒F「俺に当たったのは…おぉっ、財布だ!」

魔法戦士「あぁ、それ俺が買った…」

生徒A「ハイカラだねー!」

生徒F「巾着袋と違って、ゼニ入れる所が一杯あるぞー! ウオオォォ!!」

ワーワー

魔法戦士「……」

魔法戦士(やべぇ…ハイカラだの巾着袋だの、こいつらが田舎モンに見える……)





そうして時間が経過し、パーティーはお開きとなった。
片付けは明日やることにして、今日は遅くなりすぎない内に解散することにした。

賢者「みんなー、気をつけて帰るのよ~」

魔法戦士「皆、相変わらず賑やかだね」

賢者「さ、魔法戦士君も帰りなさい」

魔法戦士「いや、俺は先生を送って行くよ。こんな時間に、女性1人で歩かせるわけにはいかないしな」

賢者「まぁ魔法戦士君たら。ふふ、お言葉に甘えちゃおうかしら」

魔法戦士「…ところで、その格好のまま帰るの?」

そりゃ今日は聖夜の日だから、サンタの格好をしていても変な目立ち方はしないだろうけど。

賢者「いちいち着替えるの面倒なのよね~。このまま帰ってパジャマに着替えた~い」

魔法戦士(相変わらずズボラだなぁ)

そんな所も、賢者らしいと思うが。

魔法戦士(できれば、あんま沢山の奴にこの姿見せたくないよな~…)

賢者「それじゃあ帰りましょうか」

魔法戦士「うん」





賢者「雪がベチャベチャで歩きにくいわね~」

魔法戦士「パーティーの間に降ったんだな。先生、転ぶなよ」

賢者「魔法戦士君も気をつけてね…あうっ!」ズボッ

魔法戦士「だ、大丈夫?」

賢者「えぇ、大丈夫よ。ちょっと足が埋もれただけ」

魔法戦士「危ないなぁ。…よっと」ヒョイ

賢者「あっ!?」

魔法戦士は軽々と賢者を抱え上げた。

魔法戦士「子供の足には歩きにくいだろ」

賢者「わ、私、最近雪のせいで出不精になってて~…前より重くなってるかもしれないわよ?」アセアセ

魔法戦士「大丈夫だって。今の先生は軽い軽い」

賢者「『今の先生は』って何よぅ」ムゥ

魔法戦士「あはは、ごめんごめん」

魔法戦士の力なら、元の賢者でもきっと軽く持ち上げられると思う。
…けど元の賢者なら恥ずかしがって、抱えさせてくれないだろうけど。

賢者「けど、こうしてると魔法戦士君、何か……」

魔法戦士「…んっ?」

賢者「トナカイさんみたいね♪」

魔法戦士「……はい?」

賢者「ほら、今の私はサンタだから。魔法戦士君はサンタを乗せるトナカイさん!」

魔法戦士「先生…サンタが乗ってるのはトナカイじゃなくて、ソリだからね……」

賢者「あぁ、そうだったわねぇ」フフ

魔法戦士(トナカイかよ……)

もうちょっとこう、王子様とまで言わなくていいけど、格好いい例えがあるんじゃないか…。
トナカイが悪いとは言わないけど、草食動物だし。

魔法戦士(つーか俺、完全に男として意識されてねーしっ!!)

賢者「くしゅん」

魔法戦士「あ、寒い? 先生」

賢者「そうねぇ~、ちょっと冷えてきたわね」

魔法戦士「なら…はい、これで暖まって」バサッ

先ほどプレゼント交換で当てたマフラーを賢者の首にかける。
長めのマフラーは、小さな賢者の体にはもふもふ感がある。

賢者「あら魔法戦士君、いつからそんな紳士になったのかなぁ? ふふ、王宮で開かれるパーティーで学んだのかしら?」

魔法戦士「からかうなよ…」

また賢者は、子供の成長を見守るような言い方をする。
自分は誰にでも紳士なわけじゃない。賢者が相手じゃなければ、こんなこと――

賢者「ほら、魔法戦士君も寒いでしょ」バサッ

魔法戦士「あ……」

賢者はマフラーの余っている丈を魔法戦士の首に回した。

魔法戦士(これ…恋人巻き…)

賢者「ふふ、これで魔法戦士君も風邪ひかないわねぇ~」

魔法戦士「……」

賢者「あ、家が見えてきたわ。降ろしてくれて大丈夫よ」

魔法戦士「あ、うん……」

賢者はマフラーを外して魔法戦士の手から降りた。

賢者「送ってくれてありがとう。少し暖まっていかない、魔法戦士君?」

魔法戦士「あ、いや……」

賢者「寒いでしょ。お茶くらいなら淹れるわよ」

魔法戦士「だ、だ大丈夫だから! それじゃあね、先生!」ダッ

賢者「あっ! 転ばないでね~」



魔法戦士「……」


賢者『ふふ、これで魔法戦士君も風邪ひかないわねぇ~』


賢者の様子に照れはなかった。魔法戦士1人で動揺して、意識してしまって。

魔法戦士(くっそ、何か悔しい~…)

魔法戦士は恥ずかしくてマフラーに顔を埋めた。
マフラーには、まだ賢者の温もりが残っている。

魔法戦士「……熱い」

魔法戦士(こんなザマじゃ、まだまだ胸を張って先生を迎えに行けないよな~…)

どうしようもない年齢差。
自分が「大人の余裕」を身につけられるようになるまで、まだまだ時間がかかりそうだ。

魔法戦士(…でも! 絶対に一人前の男になってやるからな!!)

魔法戦士「それまで待ってろよ、先生ーっ!!」



賢者「へくちっ」

賢者「うーん、風邪ひいたかしら? 今日は早く寝よう~っと…」

パジャマに着替えようとしたが、ふと思いついた。
せっかくサンタのコスプレをしているのだし、今日はクリスマスだし…。

賢者「上手くいくかしら…星空魔法っ!」



魔法戦士「……んっ」

魔法戦士「おぉ…すっげぇ、空がキラキラだ」

魔法戦士(先生と一緒に見たかったなぁ。先生も、この星空見てるかなぁ)



賢者「ふふ。上手くいったわ~」

クリスマスイヴを彩る星空魔法は上手くいった。
これが自分から皆に贈るクリスマスプレゼント…なんて、サンタを気取ってみる。


賢者「星空さん、どうぞ皆さんを照らして下さい…メリークリスマス♪」



Fin






あとがき

賢者サンタから皆さんへメリークリスマス♪
スピンオフより過去の話なので2人の距離感もこんな感じです。頑張れ魔法戦士。
posted by ぽんざれす at 18:38| Comment(2) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【クリスマススピンオフ】介護ヘルパーシリーズ

介護ヘルパーシリーズのスピンオフです。





今日はデイサービスでのクリスマスパーティー。

ヘルパー「皆さん、メリークリスマス!」

勇者「楽しみだなぁ」パチパチ

女騎士「性夜祭だと!? おのれオーク、一晩かけて女を蹂躙する気か…!」

魔王「あ、ああぁ~……」


新人ヘルパー(介護施設でのクリスマス…一体どんなことをやるのかなぁ)

新人ヘルパー(しかも集まったのは濃いメンツだし…何か心配だなぁ)





魔王「……」ボー

ヘルパー「魔王さーん! クリスマスだよ、ク・リ・ス・マ・ス!」

魔王「……」ニコ

ヘルパー「あらぁ魔王さん、いい笑顔ー! ほら見てー、クリスマスツリーもキラキラだー」

新人ヘルパー「介護職員皆で飾り付けしたんですよー」

勇者「ワシも飾り付けしたの」

ヘルパー「うんうん、そうだったねー。勇者さんありがとうねー」

勇者「ワシ若い頃はね、魔王討伐の旅しとったからクリスマスも関係なかったの」

ヘルパー「あらぁ苦労したんだねー。クリスマスでも休めなかったんだー!」

勇者「夜、宿についてね、簡単なパーティーをしようってことになったの。けどケーキ買うのに、えーとどれくらいだっけ…1時間かぁ、2時間くらい並んだかねぇ~」

ヘルパー「クリスマス当日だからねー!」

勇者「でね、寒いのを堪えてようやくケーキを買ってね、宿に戻ってパーティーしよう~ってなったんだけど、丁度そのタイミングで街にオークの襲撃があってね」

女騎士「何っ、オーク!?」

勇者「そうそう。オークがね、こう…大きなこん棒を振り回しとってー」

女騎士「おのれオーク…肥大化させたこん棒(意味深)を街中で振り回すとは、何たる破廉恥!」

勇者「それでね、ワシらケーキをほっぽりだしてオークを倒しに出たんだけど、その時にね、えーと…何だったっけ」

ヘルパー「うんうん、色々あったんだねー! それじゃあ今日は若い時の分まで楽しんじゃおうかぁ!」

魔王「ふがー!」

新人ヘルパー(話の続きが気になる……)





新人ヘルパー「今日は楽隊とか近所の幼稚園とかから人が来て、催し物をやって下さるんですよね」

ヘルパー「うん、お昼ご飯までは催し物だねー」

新人ヘルパー「その間は利用者さん達の見守りや、時間を見ながらのトイレ誘導をすればいいんですか?」

ヘルパー「大体そうだねー。あと、持病がある利用者さんもいるから気をつけてね」

新人ヘルパー「持病…女騎士さんが催し物をして下さる方々をオークと見間違えたり?」

ヘルパー「女騎士さんがオークに見えるのはヘルパーだけだよ。それよりも魔王さんを注意してて」

新人ヘルパー「魔王さん? …あ、手品ショーが始まります」


~♪


勇者「おぉー」パチパチ

女騎士「なっ…みかんがりんごに変わっただと!? バカな…何か魔法を使ったのか!」

新人ヘルパー「わぁ、皆楽しんでるなぁ」

魔王「ふっ…ふっ……」

ヘルパー「しまった、魔王さんが興奮し始めた! ”高血圧波”が発動してしまう!!」

新人ヘルパー「ええええぇぇ、皆逃げてえええぇぇ!!」

魔王「ふがあああぁぁ!!」

ぐぁんぐぁん

新人ヘルパー「うわあああぁぁぁぁ」



新人ヘルパー「」ピヨピヨ

女騎士「ふっ、この程度の振動魔法など、私にとって回避は容易い!」

勇者「魔力の流れを読むことが大事だねぇ」

新人ヘルパー(そうだった…この人たち、高レベルの猛者揃いだった)

ヘルパー「魔王さーん、深呼吸~。すー、はー」

魔王「すー、はー」

新人ヘルパー(何で先輩も無事なんだ)





その後これといった問題もなく催し物は進行し、やがて昼食時間となった。

ヘルパー「今日はご馳走だよー! どうぞ召し上がってくださーい!」

女騎士「ふん! オークの施しなど……」

勇者「ワシの好物だぁ」ニコニコ

女騎士「ど、どうせ媚薬でも入って……」

勇者「美味い美味い」ニコニコ

女騎士「……」グ-

勇者「食わんのかい?」

女騎士「くっ…本能を刺激するとは卑怯な……ッ!! あぁッ、手が止まらないっ!!」

新人ヘルパー「はい、魔王さん、あーん」

魔王「…」ブンブン

ヘルパー「あ、ごめんね。刻みにしておかないと食べにくいよね。今、切ってくるからねー」

魔王「…」コクリ


新人ヘルパー「せっかくのクリスマス料理も刻みにしたら見栄えが良くないですね」

ヘルパー「クリスマス仕様の紙皿に乗せるだけで大分違うよ」

新人ヘルパー「確かにクリスマス気分を多少は味わえますが…」

ヘルパー「要介護になると、あんまり自分から出歩けないからね。こういう行事の時に違う雰囲気だけでも感じてもらうのって、いいことなんだよ」

新人ヘルパー「なるほど」


ヘルパー「魔王さーん、お待たせしましたー」

魔王「…」ニコニコ

新人ヘルパー(この笑顔…もはや魔王ってのは名前だけだな)





勇者「ふぅ、食った食った」

女騎士「もう、らめ…ぇ」トローン

ヘルパー「3時のおやつにケーキ用意してるからね~。それまでの腹ごなしに、ゲームしよう!」

新人ヘルパー「風船バレーでーす。落ちないようにポンポンしましょう~」

ヘルパー「いくよー、勇者さん。はーい」ポーン

勇者「はいっ」ポーン

新人ヘルパー(ほのぼのしてるなぁ)

新人ヘルパー「女騎士さーん、そっち行ったよ~」

女騎士「覇っ!」シュッ、パァン

新人ヘルパー「」

ヘルパー「あら女騎士さん、見事な手刀だね~」

女騎士「勇者殿、貴殿の力はそんなものか? もっと本気で来るがいい!」

新人ヘルパー「いや本気って…勇者さん筋力も落ちてるし」

勇者「それっ」バチバチバリイイィィッ

女騎士「それが噂に名高い、雷鳴烈風波かッ!! だがッ!!」バッ

勇者「あー…割れた風船のゴムで雷を防いだんだねぇ」

女騎士「さぁ食後の腹ごなしだ…本気で来いッ、勇者殿ッ!!」バッ

勇者「仕方ないねぇ」バッ

シュバッシュバッドガガガガッ

ヘルパー「あらぁ、2人ともレクで興奮してるねぇ。血圧上がりすぎなければいいけど」

新人ヘルパー「レク!? あれがレク!? 血圧どころじゃないですよ!?」

魔王「すやすや」

ヘルパー「あらー魔王さん居眠りしちゃったねぇ」

新人ヘルパー「この状況で!?」

勇者「覇ぁっ」バリバリィッ

女騎士「なんのっ!」カキンカキィン

新人ヘルパー(女騎士さん、ついに箸で魔法を弾き出したよ…何なのこの高齢者)





>3時


女騎士「この、白くて口の中でとろけるぬるぬるが…っ、私の舌を犯していくううぅぅっ!」

新人ヘルパー「ケーキの感想とは思えない…」

勇者「美味しいねぇ」

魔王「ん~」コクッ

新人ヘルパー「皆さん食べ終わりましたね」

ヘルパー「そうだね。音楽を流して…っと」

♪じんぐるべーるじんぐるべーる

施設長「やぁ」

勇者「おや、サンタさんだ」

女騎士「真っ赤なオーク!? 新種かッ!!」

魔王「ん~」

施設長「今日は皆の為にプレゼントを持ってきたよ」


新人ヘルパー「中身はヘルパー皆で書いたメッセージカードと靴下ですよね」

ヘルパー「利用者さんごとに違ったプレゼントにしたら不公平だからね」

新人ヘルパー「メッセージカードなら心がこもっていて、いい記念品になりますよね」

ヘルパー「というか介護施設が増えすぎて施設同士で利用者さんの取り合いをしているせいで、うちの会社は年々利用者さんが減って赤字でね。だから経費節減の為にプレゼントもなるべく安く収めろという上からの指示で…」

新人ヘルパー「聞きたくない聞きたくない」


勇者「嬉しいねぇ」

女騎士「オークからのプレゼント…だと!? ま、まぁ今日は特別に休戦だ、受け取ってやろう!」

魔王「…」ニコニコ


ヘルパー「ほら見て、皆の顔を! 大事なのはお金をかけることじゃない、皆の笑顔だよ!」

新人ヘルパー「う、うーん? いいのかな、それで……」





こうして楽しいパーティーはお開きとなった。


勇者「ワシは風呂に入りたいのう」

女騎士「何っ…風呂!?」

魔王「ふ、ふろぉ」


ヘルパー「楽しかったなぁ。行事って利用者さんが喜ぶから、大事なことなんだよね~」

新人ヘルパー「イベントっていい刺激になるんですね」

ヘルパー「そう。さて、クリスマスの次はお正月だ、頑張ろう!」

新人ヘルパー「…利用者さんは楽しいと思うんですけどね」

ヘルパー「うん?」

新人ヘルパー「介護施設ってどこも人手不足だから、行事の時って基本的に職員全員出勤じゃないですか。利用者さんはイベントで楽しんでいるけど、介護職員はイベントの日に仕事だわ、行事は多忙なのに特別手当もないわ、大体基本的にブラックだから休みもろくに取れないですよね」

ヘルパー「うーん? まぁ、そういう考え方もあるけど…」

新人ヘルパー「私、今日でこの仕事辞めます」

ヘルパー「え?」

新人ヘルパー「やっぱり仕事内容が安月給に見合わないし、私この仕事合いません。それじゃあ」

ヘルパー「……」

ヘルパー「また人が辞めちゃったなぁ~」


介護業界の人手不足は、業界全体で深刻な問題となっている。
給料安い、汚い、きついの3Kと言われる仕事だが、労働力不足により現場は年々きつくなっている現状がある。
頑張れ介護ヘルパー、負けるな介護ヘルパー。お年寄りの老後の生活は、君たちにかかっているのだ!!


Fin




あとがき

何つーオチだ!
その介護施設によって待遇は全然違うので、新人の言うことは決して間に受けないように!
posted by ぽんざれす at 18:37| Comment(2) | スピンオフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月21日

奴隷少女「私を、守って下さい…」執事「それが貴方の願いならば」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1450089270/

1 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/14(月) 19:34:31.01 ID:4rPHk/l00
奴隷「はぁ、はぁ……」

この荒れた道を、どれくらい走っただろう。
両の手を戒める鎖が重く、体に負担をかけている。
何物にも保護されていない足裏は擦り傷だらけで、小石を踏む度に痛みがはしる。

それでも奴隷は足を休めない。だって立ち止まれば――


魔物「待てぇーっ!!」


奴隷にとって、地獄に等しい境遇に引きずり込まれるのだから。


2 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/14(月) 19:34:55.35 ID:4rPHk/l00
人間と魔物の対立…というのは何百年も昔に収束した。今は両種族は共存し、種族同士のいがみあいもない。
しかし世界が幸せなのかというと、そうでもなかった。

今、世界は飢饉に陥っていた。
作物はろくに実らず、死病が流行していた。
そんな世界に住む者の心は荒み、争い合う国、滅ぶ国、様々だった。

彼女の住む、魔王の国では争いこそ無かったものの、激しい貧困差があった。
彼女はその最下層、奴隷に生まれ、幼い頃より差別を受けて育ってきたのだった。

その奴隷は生まれて初めて自分の運命に逆らい、今まさに逃亡中であった。

3 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/14(月) 19:35:23.70 ID:4rPHk/l00
奴隷「はぁっ、はふっ……」

奴隷は伸びた草の中に身を潜め、ようやく体を休めることができた。
だが心は今だ休まらない。彼女を追う魔物は、すぐ側にいるのだから。

魔物A「チッ、見失ったか」

魔物B「まだ遠くには逃げていないはずだ! 探せ!」

奴隷「……」

口を抑え息を殺す。
心臓の音が彼らに聞こえないか、そんな心配をする程、心臓は大きく鳴っている。

魔物A「他の奴らと合流するか」

魔物B「あぁ。確か他の班には、足は遅いが鼻のいい奴がいたな」

奴隷(どうしよう……)

いくら気配を殺して身を潜めていても、匂いを消すことはできない。
もう自分はここまでなのか――不安と恐怖で涙が出てくる。

きっと逃亡は無駄なあがき。今の心境はまるで、死刑を待つ囚人。

奴隷(きっと、このまま捕まっちゃうのね……それならいっそ……)

自害でもした方がいいだろうか。
今、自害するとしたら――舌を噛み切るしかできないけど。

奴隷(怖い…けど…っ)

奴隷は上下の歯で舌を噛む。恐怖でなかなか力が入らない。
だけどこれから先に待っていることを想像すると――

奴隷(~っ!)

目をギュッとつぶり、顎に力を入れた。



“――お待ちしておりました”

奴隷「!?」ビクッ

頭の中で響いた男の声に、見つかったと思って悲鳴をあげそうになった。

4 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/14(月) 19:35:53.15 ID:4rPHk/l00
奴隷「……?」

魔物A「いたか!?」

魔物B「いない…もしかして、ここにはいないのか」


魔物達の声ではないし、彼らに声は聞こえていないようだった。なら、幻聴か……。


“ようやく、貴方を見つけました”

奴隷(えっ)

また声がした。今度は、幻聴じゃない。
周囲をキョロキョロ見るが、追っ手の魔物達の他には誰もいない。

奴隷(だ、誰?)

“私は天界の使いと申します”

奴隷(…っ、私の心を読めるんですか)

“失礼は承知の上です。ですが私は今、貴方から離れた場所に封印されているので、この方法しかなく――無礼をお許し下さい”

声の主は若い男性のようで、口調と声のトーンは紳士的だった。
その為か、心を覗かれても不思議と悪い気はしない…のだが、そんなこと言っている状況でもない。

“大変心苦しいのですが、貴方にひとつお願いが御座います”

奴隷(お願いっていうのは…?)

“はい。私の元に来て、封印を解いて頂きたいのです”

奴隷(無理です)

奴隷は即答した。

5 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/14(月) 19:36:23.04 ID:4rPHk/l00
奴隷(私は今追われているんです)

この場から動けない現状、何もできるわけがなかった。

“もしかして貴方の側に感じる、2つの魂が追っ手でしょうか?”

奴隷(は、はい。そうだと思います…)

“では、私から提案が御座います”

提案? この状況で何を提案しようと言うのか。
そして天界の使いを名乗る者が提案したのは――

“私が隙を作るので、貴方に私の所まで来て頂きたい。封印を解いて下されば、私は貴方を助けることができます”

奴隷(た…助けてくれるんですか?)

その言葉に一瞬、希望を持ちそうになった。
だけどすぐに考えを改める。その言葉を、そう簡単に信用していいものか。

“誓いましょう。貴方に辛い現状があるのなら、私は貴方を救い出してみせます"

奴隷「……」

その言葉を信じたわけではない。
だけど味方はおらず、このままでは捕まるか自害するかの二択しかない。それなら――

奴隷(…わかりました。ご協力お願いします)

新たな選択肢に賭けてみるしかなかった。

6 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/14(月) 19:36:48.76 ID:4rPHk/l00
"一瞬、彼らの動きを止めます。その隙に貴方は、そこからまっすぐ右に向かって下さい"

奴隷「右ですね」

"では、参ります――"

その言葉と同時、砂埃が舞い上がった。
目に砂埃が入ったのか、魔物達は「うわっ」と声をあげながら目を押さえた。
だけど不思議なことに、奴隷の目は無事だ。

"今です"

奴隷「は、はい!」

奴隷は立ち上がり、言われた通り右に向かって駆けた。
遅れて、魔物のどちらかが「あっ」と声をあげた。

魔物A「いたぞ、追えーっ!」

後方で声と足音がしたが、奴隷は振り返らずにひたすら走った。
走る先に、本当に救いがあるのかはわからない。だけど多分、捕まるより酷い目に遭うことはきっとないだろうから――

奴隷「~っ!」

足裏を刺す砂利道を駆けた。

奴隷「あっ!?」

そして、駆け抜けた先にあるものを見つけた。

奴隷「これは…祭壇?」

祭壇がぽつんと立っていた。
この人里離れた森の中で訪れる者もいなかったのか、コケがびっしり生えた、荒れた祭壇だった。

魔物A「いたぞ、捕まえろ!」

奴隷「あっ!?」

気付けば魔物達との距離は詰まっていた。

"ここまで来られたのなら、もうご心配はありません"

だが天界の使いを名乗る者の声は落ち着いていた。

"祭壇に刺さっているナイフを抜いて下さい"

奴隷「これ…ですか!?」

すぐにそれらしきものを見つけた。
刺さっているものは荒れた祭壇には不自然な程、綺麗でぴかぴかしていた。

"それです。さぁ早く!"

魔物B「覚悟しろ、この…っ!」

奴隷「えいっ!」

奴隷は躊躇せずに、鎖で繋がれた両手でナイフを引き抜いた。

7 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/14(月) 19:37:24.79 ID:4rPHk/l00
カッ――

奴隷「!?」

魔物A「な、何だ!?」

ナイフを抜くと同時、祭壇は強い光を発した。
その光は周囲を包む程だった。魔物達は目がくらんだのか、その場に立ち止まった。

あまりにも強い光――そのすぐ側にいるというのに、

奴隷(この光、何だか…)

奴隷は不思議と、安心感を覚えていた。
光に包まれることで、まるで、母の腕に抱かれているような――そんな不思議で、暖かい感覚があった。

「大変、お手数をお掛け致しました」

そして、そんな光の中から姿を現したのは――

天界の使い「後はこの私が貴方をお守り致します、お嬢様」

その華奢で長身な体を黒い執事服で包み、きっちり整えた髪、レトロなデザインの眼鏡――その男の外見は若いが、熟練の執事のような貫禄があった。
この荒れた地にその男が立つだけで、その場は天界の庭園になったかのような――そんな錯覚すら覚える。

天界の使い「お嬢様、ナイフを」

奴隷「は、はい…」

お嬢様とは自分のことか…と、ぽやっと考えながら、奴隷は差し出された手にナイフを渡した。
その直後、目の前でシュッと風が切られた。

奴隷「あ…っ」

奴隷の手から鎖が落ちる。
どうやら天界の使いのナイフが、鎖を切ったようだった。

天界の使い「貴方の小さな手に、その鎖は痛々しい。その様な戒めは解いて、貴方は自由を掴むべきでしょう」

8 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/14(月) 19:38:07.19 ID:4rPHk/l00
魔物A「何だ、貴様は!」

天界の使い「私は天界の使い。この方を守護し、奉仕する者」

魔物B「よくわからないが、俺らの邪魔をするならブッ殺すぞ!」

魔物達は天界の使いに飛びかかった。

奴隷「危ないっ!!」

天界の使い「おやおや…仕方ありませんね」

天界の使いは奴隷を庇うように前に出て、ナイフを構えた。
そして――

――ザシュッ

魔物A「が…っ!」

魔物B「なん、だと…」

一閃――軽々と、2匹の魔物の喉を切り裂いた。

天界の使い「当然の報いです」

天界の使いが眼鏡を直すと同時、魔物達は倒れ絶命した。

奴隷(この人、強い…)

その一連の流れに理解が追いつかないまま、事は終わっていた。

天界の使い「ご無事で何よりです、お嬢様」

奴隷「あ…っ」

声をかけられてハッとする。

奴隷「たたっ、助けて頂き、ありがとうございました!! 何とお礼を申し上げていいのか…」

天界の使い「そんなに畏まらないで下さい、私の方が恐縮してしまいます」

奴隷「いえっ、貴方は恩人ですから!」ブンブン

天界の使い「当然のことをしたまでですよ」

天界の使いはそう言うと微笑んだ。その表情は大人しくて、優しい。その顔を見て奴隷は、何だかホッとする。

奴隷(紳士的な人なんだなぁ)

執事の格好がそう見せているのもあるだろうが、天界の使いは最初に聞いた時からずっと柔らかい声で話してくれている。
奴隷には、人にこんなに優しく声をかけてもらった記憶はない。

9 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/14(月) 19:38:43.58 ID:4rPHk/l00
奴隷「何かお礼をしたいのですが…」

だが奴隷として育ち、最低限のものしか与えられず生きてきた彼女は、何も持っていない。

天界の使い「お礼などとんでもない。先ほども申した通り、私は当然のことをしたまでですよ、お嬢様」

奴隷「あのっ」

ところで、奴隷には先ほどから気になっていることがあった。

奴隷「わ、私、お嬢様なんて大層なものじゃ…それに私を守護し奉仕するっていうのは…」

天界の使い「あぁ、説明が遅れておりましたね。度々、申し訳ありません」

奴隷「あ、いえっ。それよりどういうことか…きゃっ」

急に、ふわっと体が浮いた。天界の使いに抱え上げられたのだ。

天界の使い「説明をお急ぎになるお気持ちはわかりますが…まずは御御足の治療を先に致しましょう」

奴隷(あっ)

天界の使いが見ている奴隷の足には、新しく出来た沢山の傷がついていた。
こんなもの、放っておけば治るのだが…。

天界の使い「自然治癒などはお勧めしませんね。菌が入ってはいけませんからね」

奴隷「……」

今まで自然治癒に任せてきた体だから、今更ちょっとの菌なんて、どうってことないのだけれど。

奴隷「はい…」

天界の使いの温和な笑みについ甘えてしまって、断れなかった。

10 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/14(月) 19:39:22.11 ID:4rPHk/l00
天界の使い「くすぐったくありませんか?」

奴隷「い、いえ。大丈夫です」

奴隷は切り株に座らされ、治療を受けていた。
天界の使いは薬草を採ると、煎じて治療薬を作り、奴隷の足の傷口に塗った。準備の良いことにポケットの中には包帯が入っていて、それを慣れた手つきで巻いてくれた。

奴隷「何から何まで、ありがとうございます」

天界の使い「いえ。私は貴方に奉仕する者ですから…あ、この説明がまだでしたね」

天界の使いはそう言って苦笑した。

奴隷「私に奉仕…って、どういうことですか?」

天界の使い「そうですね、一言で言えば…天命ですね」

奴隷「てん…めい?」

難しい言葉はよくわからないけど、何か大仰な響きに聞こえた。

天界の使い「貴方は私の声を聞き、私を封印から助けて下さった。ですから私は貴方にご奉仕する、そういうことです」

奴隷「でも助けて頂いたのは、私の方もですし…」

天界の使い「それは、私には貴方を守る義務があるからですよ」

奴隷「???」

よくわからない。

天界の使い「難しく考える必要はありません」

天界の使いはニコッと笑うと、跪いて奴隷の手を取った。

天界の使い「これからは…私が貴方に、ご奉仕させて頂きたいのです」

奴隷「私に…貴方が?」

天界の使い「はい。貴方の側に仕え、貴方が笑う時、喜ぶ時、楽しむ時…その時を貴方と共有したいのです」

奴隷「……」

奴隷の頭に今までの思い出がよぎった。

11 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/14(月) 19:39:51.09 ID:4rPHk/l00
いつの代からかはわからないが…母も、その母も、その母も…彼女の血筋は、代々奴隷だったらしい。
生まれてすぐに母と引き離された彼女には、温かい思い出がない。
幼い時から虐げられ、暴言と暴力に晒され、尊厳を踏みにじられてきた。

だが暴力といっても、彼女は他の奴隷のように傷跡がつく程の暴力には晒されていなかった。

『お前は美形の両親から生まれてきたそうだからな。見目よく育てれば、高く売れる』

主人の言う通り、奴隷は可愛らしく成長した。粗末な服しか与えられず、雰囲気は貧相なものだが、きちんと髪を整えて綺麗な衣装を着せれば、かなり変わるだろうと評判だった。

主人の妻は嫉妬深かった。そのせいで彼女は主人の妻に難癖をつけられたり、ぶたれたりしてきたが、その代わり、妻の嫉妬を恐れていた主人は、彼女に性的な奉仕をさせたことはなかった。
そのお陰で、彼女の体はまだ男を知らない。それが売る時の付加価値になるとは、彼女自身は知らなかったが。

奴隷(そして、ある日――)

その地方を収めていた権力者が、彼女を見初めた。

売買が成立し、権力者に引き取られる日――彼女は逃亡した。
何故ならその権力者が、恐ろしい目的で彼女を見初めたと知ってしまったから。

奴隷(誰も私を助けてくれない。私が何をされたって、誰も心を痛めてもくれない)

そう、思っていた。

12 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/14(月) 19:40:31.86 ID:4rPHk/l00
奴隷(だけど――)

これはまるで夢。
自分よりいい身なりをした男の人が奴隷の自分なんかに、奉仕させて欲しいと跪いている。

奴隷「……」

奴隷はもう一度、天界の使いの言葉を思い出す。


天界の使い『貴方の側に仕え、貴方が笑う時、喜ぶ時、楽しむ時…その時を貴方と共有したいのです』


笑う、喜ぶ、楽しむ…奴隷にはあまり縁のない感情だった。

奴隷「泣く時は?」

奴隷は疑問を口にした。

奴隷「辛い時、苦しい時は――」

天界の使い「この私が、貴方を泣かせはしません」

天界の使いは奴隷の言葉を遮る。

天界の使い「辛い思いからも苦しい思いからも、私がお守りすると誓いましょう」

奴隷「……」

優しい言葉。それは本当なのかわからない。
わからない、けど――

奴隷(優しくされたい)

例え、嘘だったとしても。

奴隷(騙されてもいい)

差し伸べられる手にすがりたい。強い背中によしかかりたい。
自分は1人で生きていける程、強くはない。
守ってくれる存在があるなら、守られ、頼っていたい。

奴隷「私を、守って下さい…」

天界の使い「それが貴方の願いならば」

天界の使いは、奴隷の手に口付けした。

こうして2人の間に、誓いが立てられた。

24 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/15(火) 18:22:12.57 ID:TEPnn0cy0
天界の使い「こちらです」

天界の使いに案内され、森の奥に進むと、平原があった。

天界の使い「今日からこちらが、お嬢様の住まわれる屋敷となります」

奴隷「屋敷…?」

キョロキョロ周囲を見回したり、目を細めてみたが、やはりここは平原。屋敷らしきものは見当たらない。

天界の使い「失礼。このままでは見えませんでしたね」

天界の使いはくるっと指を回し、奴隷に魔法のようなものをかけた。
次の瞬間、奴隷の目に入ったものは――

奴隷「…わぁ」

平原だったはずの場所に大きな屋敷が建っていた。
少し古風だが外観は綺麗なもので、庭園もきちんと手入れされている。

天界の使い「どうぞお入り下さい」

天界の使いに促され、奴隷が屋敷のドアを開けると大きな広間が広がっていた。そこだけで奴隷が主人の下で与えられていた部屋の、何倍もの広さがある。

奴隷「あの、天界の使いさん…」

天界の使い「あぁ。私のことは執事、とお呼び下さい」

奴隷「執事さん?」

執事「敬称は省いても宜しいのですが…お嬢様の性格上、難しいかもしれませんね」

天界の使い、改め執事は穏やかに笑いながら言った。畏まってはいるが、こちらがかえって萎縮しないように気遣ってくれているらしい。

25 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/15(火) 18:22:49.45 ID:TEPnn0cy0
奴隷「えっと執事さん。このお屋敷を、私と執事さんの2人だけで使うんですか?」

執事「いえ。他にも3名、私の使い魔がおります。その者達が使用人の役目を果たします」

そう言うと執事は、広間の中心に向き直った。

執事「只今帰りましたよ。姿を現して下さい」

執事がそう言うと…


「よぉ執事、久しぶり」
「ウキー!何百年ぶりだろうね!」
「執事不在の間も、ちゃーんと屋敷のお手入れしといたわよー」

3人の使い魔らしき者達が出てきた。
彼らは執事との再会を喜ぶ素振りを見せる一方で、後方にいる奴隷を訝しげに見ている。

執事「皆さん、彼女は今日から私どもが仕えるお嬢様です。挨拶して下さい」

犬男「これは失礼した。俺は犬、どうぞ宜しく」

猿少年「猿です、仲良くしてね~♪ ウキー」

雉娘「私は雉でーす。宜しくね、お嬢様」

奴隷「あ、その…。よ、宜しくお願いします、皆さん」

フレンドリーな出迎えに戸惑いながら、奴隷はペコペコ頭を下げた。
これではどちらが使用人だかわかったものではないが、慣れていないものは仕方ない。

執事「雉、お嬢様の湯浴みの世話を頼みましたよ」

奴隷「え、えぇっ!? ゆ、湯浴みの!?」

雉娘「そりゃ女は私だけですしー。ささ、浴室はこっちですよー」

執事「ではお嬢様、後ほど」

奴隷「あ、あのっ!?」

雉娘「さぁお嬢様ぁ、入りましょーかっ!」

奴隷(あわわ…)

26 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/15(火) 18:23:25.87 ID:TEPnn0cy0
奴隷(わぁー、凄いお風呂)

大理石で出来た浴室というだけで豪華に見えるのに、湯船には花が浮かんでいる。その花が浴室一杯に、いい香りを充満させていた。

奴隷(お風呂場全体があったかい)

奴隷がいた所の風呂とは、大きな釜に水を入れただけの粗末なもので、とても気持ちの良いものではなかった。

雉娘「体を洗わせて頂きまーす。痒いところありませんかー?」

奴隷「だだっ、大丈夫ですっ!」

つい力んで答えてしまった。人に体を洗ってもらうなんて、緊張してガチガチになってしまう。

雉娘「そんな緊張しなくていいのにー、お嬢様ったら可愛らしいんだからー」

奴隷「あ、あのっ」

雉娘「? 何ですかー」

奴隷「雉さんは納得されているんですか…わ、私のような、小汚い奴隷に仕えるなんて……」

雉娘「していますよ」

小汚い、という言葉にも、奴隷、という言葉にも否定も反応もせず、雉娘はケロリと答えた。

奴隷「ど、どうしてですか…? 私なんか…こんなことして貰える身分じゃないのに…」

雉娘「んー。確かに私はお嬢様のことよく知りませんよ。でも、私達が仕えるお嬢様だと執事が言っているんだから、それに従うまでです」

奴隷「……」

よくわからない。
他の2人もそうなのか。だとしたら、執事の発言はそこまで彼らの信頼を得ているのか。

奴隷「むふっ」

ザバッと体全体にお湯をかけられて、もやもやしてた思考が止んだ。

雉娘「体洗い終わりましたよー。ささ、湯船に入りますか」

奴隷「あ、は、はいっ!」

27 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/15(火) 18:24:09.16 ID:TEPnn0cy0
奴隷(はふぅ…)

雉娘は「ごゆっくり」と声をかけると、浴室から出て行った。
きっと他にも色々やることがあるのだろう。

奴隷(なんか……)

温かいお湯は気持ちいいけど、どうにも落ち着かない。
それにお湯の温もりを肌で感じて、今までのは夢じゃなかったんだ、って目が覚めたというか。

奴隷(私…本当にここでお世話になっていいのかなぁ……)

雉娘「お嬢様、そろそろ上がらないとお体に悪いですよー」

奴隷「は、はい、すみません!」ザパッ

雉娘「いえいえ、謝ることじゃありませんよー。平気ならもうちょっと入ってても」

奴隷「いえいえ、上がります! お風呂掃除が押しちゃいますものね!」

雉娘「そんなこと気にしなくていいのにー。あと…」フフフ

奴隷「?」

雉娘「いくら女同士でも、前、隠さないと」

奴隷「あ…っ、し、失礼しましたーっ!!」バッ

雉娘「フフ…もうお嬢様ったらー……」

奴隷(ううぅ~、恥ずかしいよぉ…)

雉娘が体を拭こうとしてくれたが、何だか悪い気がして、バスタオルを受け取って自分で拭いた。
そして浴室から出て、早く服を……。

奴隷「…あれっ」

さっき脱いだ服がない。

雉娘「あ、汚れていたので代わりのものをご用意しましたよー。ほら、これ!」

奴隷「…っ、こ、これは…!!」

雉娘が見せてきたのは、ドレスだった。
青地に白いレースが装飾されており、小さめのリボンは控えめな分、上品さを醸し出している。
裾の長さは引きずる程ではないので、着ても動きにくそうではないが…。

奴隷「む、む、無理ですっ! 着れません!!」

雉娘「あらー、お好みじゃありませんでした?」

奴隷「そうじゃなくてっ! ど、ドレスなんて、私には不釣り合いでっ!!」

雉娘「そんなことないですよー? お嬢様のような方にこそ似合うと思います」

奴隷「でも……」

雉娘「執事が悲しみますよー。自分のチョイスが悪かったのか、って」

奴隷「…執事さんが?」

雉娘「そ。このドレス、執事が選んだんですよー」

奴隷「………」

選んでくれた。執事さんが。私の為に。わざわざ。

奴隷「着ますっ!」

雉娘「あらそうですかー、良かった♪」

奴隷「で、でも、着方がわからないので……」

雉娘「はいはーい、お手伝いしますねー」

28 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/15(火) 18:24:51.98 ID:TEPnn0cy0
犬男「夕飯、あとは盛り付けるだけだぜー」

猿少年「ウキー、お嬢様のお口に合うかなぁ」

執事「犬の料理で駄目なら、どうしましょうかね」

雉娘「お嬢様が湯浴みを終えられたよー」

猿少年「おっ」

雉娘「お嬢様、ホラホラ」

奴隷「~っ、やぁ、いやぁ!!」

執事「?」

よく見えないが、どうやら奴隷は雉娘に腕を引っ張られ、抵抗しているようだ。

執事「雉、乱暴はよしなさい。お嬢様、どうなされましたか?」

奴隷「だ、だって…」

雉娘「もーっ。ほら、さっさと姿見せる!」

奴隷「きゃーっ!」

雉娘がドアを全開にしたと同時、奴隷の姿が露わになった。
雉娘の手できちんとドレスを着付けされ、髪の毛はいじられてふわっとなっており、先ほどまでの奴隷とは雰囲気がまるで違う。

犬男「へー、見違えたな」

猿少年「お嬢様、可愛い!」

奴隷「そ、そ、そ」

そんなことない…と言いたかったが、上手く口が回らない。

奴隷(もうやだぁ)

執事「お嬢様」

奴隷「わ、わ、執事さん…」

執事「奥ゆかしいお嬢様は、どのドレスなら着て下さるか悩みましたが…とてもお似合いで、選んだ甲斐がありました」ニコニコ

奴隷(んにゃあああぁぁ!!)

耳をとろけさせるような甘い声に、一瞬で打ちのめされた。
執事の喜ぶ様子を見て、それだけで後悔は消えた。

奴隷「え、選んで下さって…ありがとう、ございます」モジモジ

執事「私の方こそ、お嬢様が私好みのドレスを着て下さったことに感謝を申し上げたい位です」

奴隷(執事さんたら…)

犬男「おーい、飯は食わんのですかー?」

奴隷「は、はひっ! 頂きますっ!」

29 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/15(火) 18:25:34.85 ID:TEPnn0cy0
奴隷「……」モジモジ

犬男「どうしたお嬢様、食わないんすか」

猿少年「だからカレーはやめとけって言ったじゃん」

犬男「何だとー。俺は庶民派なお嬢様のお口に合うメニューを考えてだな」

奴隷「あ、いえ、その。大好きです、カレー…年に一度食べられるかどうかくらいのご馳走ですよね」

猿少年「いや、そんな、たかがカレー…むぐっ」

執事(黙りなさい猿)「何か気になることでもございますか、お嬢様」

猿少年「むぐー、むぐー」

奴隷「そ、その…皆さんは召し上がらないのですか?」

執事「我々は後で頂きますよ」

奴隷「あのぅ、そのぅ」モジモジ

執事「?」

雉娘「あ、わかったー。自分一人だけ食べるのに気が引けてるんでしょー」

奴隷「は、はい」

主人が食べた後に片付けをして、自分は残飯を貰う。それが以前の生活だった。
そりゃ今は自分が主人の立場かもしれないけど、どうも落ち付かないし、何より彼等に申し訳ない。

執事「気になさらないで下さいお嬢様、我々は使用人ですから」

犬男「カーッ。執事は鈍感で駄目だねぇ、ヤレヤレ」

執事「鈍感? 私が?」

犬男「お嬢様はお一人で食べるのが寂しいんだろ」

執事「寂しい? 我々がいるというのに?」

猿少年「見られてたら食べにくいだろ。バカ?」

執事「…そうなのですか、お嬢様」

奴隷「は…はい」

思っていたことは犬男と猿少年が言ってくれた。
一応主人である自分がこんなこと言うのは、おかしいかもしれないが...。

奴隷「皆さんと一緒に食べたいです…駄目ですか?」

執事「ふむ…」

30 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/15(火) 18:26:21.70 ID:TEPnn0cy0
その後執事は「使用人が一緒に食事を摂ってもいいものか」と渋ってはいたが、彼よりは柔軟なほか三名の賛成により、五人一緒に食事を摂ることとなった。

猿少年「サラダをカレーにぶっこみ~♪ ウキキッ」

犬男「あっ猿テメェ! 俺が綺麗に盛り付けたのを一瞬で台無しにしやがって!」

雉娘「トマトきらーい。執事、食べてー」

執事「了解を得る前に私の皿に乗せないで下さい」

食卓はとても賑やかだった。

執事「お嬢様、大変見苦しい所をお見せしてしまい…」

奴隷「ハフッ、ハフッ」モグモグ

雉娘「お嬢様ー、そんなにがっつかなくても大丈夫ですよ」

奴隷「ハッ! た、大変見苦しい所を…」カアァ

早く食べないと主人に怒鳴られる。そんな食生活で習慣となった早食いが、つい出てしまった。
それに、こんなに美味しいカレーは初めてで…何て卑しいのだろうと、奴隷は自分を恥じた。

犬男「ハハッ、美味そうに食べて頂いて、作った側としては嬉しいっすよ!」

猿少年「お嬢様、カレーにはバナナジュースが合いますよー。はい、どうぞ!」

雉娘「お嬢様、お代わりお持ちしましょうかー?」

奴隷(この人達…こんな無作法な私のことを寛容に受け止めてくれている)

彼等は元々仲間同士で、自分は今日初めて来た者だ。だけどそんな自分を、輪の中にすんなり入れてくれた。
こんなに優しくて温かい時間を、自分と一緒に過ごしてくれている。

奴隷「…っ」

執事「お嬢様?」

それが、たまらなく嬉しくて。

31 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/15(火) 18:26:55.37 ID:TEPnn0cy0
奴隷「皆さぁん」ボロボロ

執事「お嬢様!? どうされました、どこか痛むのですか!?」

奴隷「違うんです…」

奴隷の自分に尊厳なんて無かった。
居場所は主人の下だけで、そこでは誰もが冷たく、厳しくて、優しくなんかしてくれなかった。
それが生まれつき定められた自分の価値なのだと半ば諦めてすらいたのに…。

奴隷「私…本当に、ここにいていいんですか…」

執事「…えぇ。勿論ですよ、お嬢様」

執事はハンカチを取り出し、涙を拭いてくれた。その手つきから伝わる優しさが、余計に涙腺を刺激して。

奴隷「グスッ、ごめんなさい、ごめんなさい執事さん」

執事「何を謝ることがあるのですか」

奴隷「だって執事さん、私を泣かせないって誓ってくれたのに…私、バカだから」

執事「本当にこれは予想外ですよ」

執事は苦笑した。

犬男「そんな気に病まないで下さいよお嬢様、今日から俺らがあんたの居場所だ」

猿少年「本当良かったよ、執事の連れてきた人が、あなたのような方で」

雉娘「そーね。お嬢様になら気持ちよく仕えることができそうだわ」

奴隷「ありがとうございます、ありがとうございます…グスッ」

執事「こちらこそ、感謝しているのですよ。お嬢様」

奴隷「わ、私、執事さんの封印を解いたけど...他に何もしてませんし」

執事「いいえ」

執事は首を横に振った。
その目は憂いを秘めており、そして重く静かに、言った。

執事「私とお嬢様が巡り会えた…その運命に、私は心から感謝しているのです」

37 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/16(水) 20:55:40.67 ID:bAUypCwf0
その日から彼女は屋敷の一員となった。
広い屋敷で、使用人たちを従える女主人…というのは性に合わなくて、掃除や食器洗い等の仕事を引き受けていた。
彼女を働かせることに対し執事は最初は渋っていたが、活き活きと家事に励む彼女を見てからは何も言わなくなった。

猿少年「媛~」

使用人の中で最も幼い猿少年は、彼女のことを媛(ひめ)と呼んでいた。曰く、美しく、奥ゆかしい女性を指す意味らしい。
自分には勿体無い名前だと最初は遠慮したが、奴隷という名よりも遥かに相応しいと使用人達に押し切られ、今では彼女の名前としての役目を果たし ている。

媛「どうしたんですか、猿さん?」

猿少年「庭に花の苗木を植えようと思ってるんだけどさぁ。女の子のセンスを参考にしたくて」

媛「私のセンスで良ければ」

媛の驕らない性格は、使用人達から好感を持たれていた。

犬男「おっ、お嬢様! いいねぇ~、女の子と花の組み合わせは。癒されるなぁ」

雉娘「あんた、私が花飾りしてても何も言わないじゃないのさー」

犬男「そりゃお嬢様と花の組み合わせは可憐だけど、お前はケバ…ゲフォッ!!」

雉娘「ふんだ。お嬢様ー、後で女子会開きましょ♪」

媛(あ、あはは…)

媛の雰囲気がそうさせるのか、執事以外の使用人は割とすぐに敬語を使わなくなった。
そうなった初めの頃は執事から彼ら に叱責があったものの、媛自らが構わないと許しを出した。

媛(皆は使用人っていうより、お友達みたいだからなぁ)

彼らと過ごす時間に、媛は居心地の良さを感じていた。

38 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/16(水) 20:56:23.47 ID:bAUypCwf0
媛「執事さん、おやつの用意中ですか?」

執事「えぇ。今日は庭で採れたハーブの紅茶と、クッキーをご用意するつもりです」

媛「うわぁ、紅茶とクッキーだなんて貴族みたい!」

執事「お嬢様も、この屋敷の主人なのですから」

今でも奴隷育ちが抜けきっておらず、度々こういった発言をしてしまうのだが、執事は優しくフォローしてくれる。

媛「私もお手伝いします!」

執事「いえ、お嬢様にそんなことさせるわけには…」

媛「いいんですよ。その代わり、執事さんもご一緒して下さいね」

執事「…ふふ。かないませんね、お嬢様には」

こういう風に無理矢理借りを作らないと、執事はなかなか一緒におやつを食べてくれない。
別におやつの時間を共有せずとも、彼と過ごす時間は沢山あるのだけれど。

媛「美味しい~。サクッという食感と共に、口の中でぱらぱら砕けて甘さが広がって。クッキーと出会った時の感動は、今だに忘れません!」

執事「それは焼いた甲斐があるというものです」

媛は美味しいものを食べてる時間が1番好きだった。1番好きな時間だからこそ、執事と共有したかった。

媛「美味しかったぁ。そうだ執事さん、この後時間あります?」

執事「片付けがありますが、その後でしたら時間は作れますよ」

媛 「それじゃあ花を植えたので、庭園を一緒に散歩しませんか!」

執事「えぇ、よろしいですよ。ではすぐに片付けますので、少々お待ち下さい」

39 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/16(水) 20:56:58.31 ID:bAUypCwf0
庭園に出ると執事は日傘を差してくれた。
花の香りが漂う庭園を、二人肩を並べて歩く。

媛「私の部屋からよく見える位置に、チューリップの花壇を作って頂いたんです」

執事「おや、お嬢様はチューリップがお好きでしたか」

媛「好きというか、名前を知ってる花があまり無くて…」

花を綺麗だと思う気持ちはあるが、花に関しての知識は皆無に等しい。チューリップは、そんな媛でも知っている花だ。
特別好きというわけではないが、好きな花は、と聞かれた時、咄嗟に出てきた名前だ。
それに、チューリップを見て心が洗われているというのも嘘ではない。

執事「チューリップの花言葉は『思いやり』です。お嬢様に相応しい、優しい花ですね」

媛「詳しいんですか? 花言葉」

執事「いえ。私もチューリップが好きなので」

媛「まぁ」

執事の好きなものを見つけ、嬉しくなる。
自分が心ときめかせるチューリップの花壇を、執事も同じ気持ちで見てくれるのだろうか。

執事「また、チューリップは色ごとに分かれた花言葉もあるのですよ」

媛「へえぇ。私はピンクが一番好きですね」

執事「ピンクのチューリップの花言葉は『愛の芽生え』です」

媛「まぁ。チューリップの見た目通りの、可愛らしい花言葉ですね」

ピンク。女の子らしさの代表格である色。
その色が愛の芽生えなんて初々しくて純粋な花言葉を持つなんて、考えただけでニマニマしてしまうではないか。

媛「執事さんの好きな色は?」

執事「私は白ですね。花言葉は不吉なのですが…」

媛「どんな花言葉です?」

執事「『失われた愛』」

媛「まぁ」

純粋無垢な白色が、そんな意味を持つなんて。不吉というより、意外に思う。

執事「花を見る目が変わりましたでしょうか?」

媛「いいえ。花言葉がどうあれ、白のチューリップが可愛らしいことに変わりはありませんもの」

執事「ふふ、そうですか」

花言葉。素敵だと思うけど、深く考える気はない。
いい意味は大事にしておいて、悪い意味は適当に流しておけばいい。媛にとっては、そんなものだ。

40 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/16(水) 20:57:40.70 ID:bAUypCwf0
媛「ところで、ずっと聞こう聞こうと思っていたのですけど」

執事「どうされましたかな?」

媛「あの。私が初めて来た時、このお屋敷は見えなかったじゃないですか」

執事「あぁ」

最初見た時、ここには平原が広がっていた。
それが執事が何か仕掛けをして、自分にも屋敷が見えるようになったのだ。

執事「この屋敷は私達の魔力によって、入念に隠されているのですよ。平原も森の中から繋がっている異世界に存在していて、普通はこの場所に辿り着くことすらできない」

媛(あぁ、通りで)

森の奥にあるからだと深く考えていなかったが、媛がここに住むようになってから、屋敷に訪問客が訪れてきたことはない。

執事「迷いの魔法と、異世界への扉と、透明化の魔法。三重の仕掛けがされているお陰で、お嬢様も安心して生活できるでしょう」

媛「はい」

きっと彼等はまだ自分を探している。
だから、執事の言う通り、ここにいれば安心なのだけれど…。

媛「あの、何で何も聞かないんですか?」

執事「何も、とは?」

媛「私が追われていた理由です」

他の3名はともかく、執事は媛が穏やかじゃない連中に追われていたのを知っているはずだ。
普通なら、どうして追われていたのか、気になる所ではないか。

媛「気にはならないのですか?」

執事「ならない…と言えば嘘になりますが」

執事は少し考えて、続けた。

執事「私達は、あの世界との関わりが薄いのです。ですからお嬢様が追われていた理由が何であろうと構わない…という所でしょうか」

媛「それは例え、私が罪を犯していたとしても…?」

執事「お嬢様は悪人ではないでしょう」

媛「っ! こ、心を読みました!?」

執事「いえ。何となく、です。それに…」

執事は温和に笑った。

執事「貴方を守る、と約束したではありませんか」

媛「……」

それは出会った日に交わした約束。あの時の口付けは今なお、思い出すだけで手が痺れる程に記憶に残っている。

怖い。語ることで、彼等が自分の元からいなくなってしまうのではないか。

媛「…いつか、話します」

だけど、このまま黙っておくのは心苦しくて。

媛「それまで…私の覚悟ができるまで、待っていて下さい…」

執事「待ちますよ、いつまでも」

執事の迷わない返答は心強くて、だから彼を失いたくない。
いつか、必ずいつか話さないと…臆病な自分の心が強くなれるよう、媛は強く祈った。

41 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/16(水) 20:58:09.37 ID:bAUypCwf0
媛(愛の芽生え…かぁ)

夕食後、媛は庭に出てチューリップをボーッと眺めていた。
何の花が好きか、と聞かれた時に咄嗟にチューリップの名前が出たのは、果たして偶然か、それとも花言葉の導きか。


『貴方の側に仕え、貴方が笑う時、喜ぶ時、楽しむ時…その時を貴方と共有したいのです』

『この私が、貴方を泣かせはしません。辛い思いからも苦しい思いからも、私がお守りすると誓いましょう』


媛(執事さんは素敵だなぁ)

あの言葉を思い出すだけで胸がきゅんとして、脳に甘い痺れが走る。
あの時の執事の顔も、声色も、一言一句も、決して忘れはしない。何度も何度も頭の中で映像を繰り返して、甘い気持ちに酔って。

もしも、あの時の口付けが手でない箇所に交わされていたら――自分は拒んでいただろうか。

彼の顔が正面にあって、目と目が合って、息が頬を撫でて――そんな妄想に浸って、素直にときめくことができる。

媛(愛の、芽生え…)

自覚していなかったのは、芽生えたばかりだったからか。
だけど今なら、自分の気持ちがはっきりわかる。

媛(私は、執事さんのことを――)

42 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/16(水) 20:58:37.75 ID:bAUypCwf0
犬男「お嬢様」

媛「は、はい!」

犬男「あ、ごめんな驚かせて。至急知らせなきゃならんことが起こって」

媛「至急? どうしたんですか?」

犬男「誰かがこの屋敷に近付いてきてる。こちらが張り巡らせた仕掛けをかいくぐってな」

媛「!」

執事は言っていた。この屋敷の存在は入念に隠されていて、普通は近付くことすらできないだろうと。

犬男「その内、屋敷にやってくるかもしれねぇ。何があるかわからねぇから、お嬢様は屋内に入ってた方がいいんでないのか」

媛「……」

もし自分を追ってきた者だとしたら――姿を見られてはまずい。

媛「わかりました、部屋に戻ります。…あの、もし私のことを聞かれても、知らないと言って下さいませんか?」

犬男「はいよ。適当に誤魔化しておく」

犬男は理由を追求することなく答えてくれた。
媛もその後を追うように屋敷の中に戻る…が、戻ろうとして、足が震えているのに気付いた。

媛(もし、捕まったら…)

ゾクリと寒気が走る。
捕まれば地獄に等しい境遇に引きずり込まれる。今ある幸せを失ってしまう――それだけは、絶対に嫌だ。

媛(私は、何もできない…だから、皆の足を引っ張っちゃダメ…)

媛は震えを堪えながら、急ぎ足で部屋に戻った。

媛(怖い、怖い、怖い、怖い――)

部屋に鍵をかけ、へたり込んで震えた。
そして何事も起こらないことを、強く祈った。


49 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/17(木) 18:48:03.23 ID:YBBck8IZ0
執事「…何の御用ですかね?」

しばらくしてやって来た来客を、執事達は無愛想に出迎えた。
訪れたのは魔物2名。この屋敷を見つけたということは、相当の魔法力の持ち主だろう。

術師「失礼。人里から隠れて生活を送る君らにとって、我々は招かれざる客だったな」

猿少年「実際、招いてないからね」

悪魔「悪かったな。けど、こっちも切羽詰まっててな」

犬男「ふぅん。用件は手短に頼むぜ」


媛「……」

媛はドア越しに会話を聞いていた。
彼等が来る前に執事らが香水を振り撒いてくれたので、匂いでバレることはないとは思うが。


術師「我々が探しているのは、逃げた奴隷の小娘だ」

媛(やっぱり、私を探して…)

雉娘「全く心当たりがないわねー」

猿少年「僕らは、この屋敷の者以外とは極力関わりを避けているんだよね」

犬男「逃げた奴隷が、この屋敷を見つけられるわけねーだろ」

使用人らは誤魔化す。その言葉に不自然な点は見当たらない。

術師「…ふむ。知らないのなら仕方ないか」

悪魔「ホントか~? 嘘ついてんじゃねえだろうな」

執事「嘘などつきませんよ」

悪魔「…その奴隷を探してらっしゃるのは、魔王様だぜ」

執事「!」

犬男「はっ?」

猿少年「魔王?」

雉娘「何だって…」


媛「……」

50 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/17(木) 18:48:52.75 ID:YBBck8IZ0
使用人達の顔は見えないが、きっと驚いたことだろう。
魔王は媛のいた国を治める王だ。決して暴君ではないが、その強大な力は人々に恐れられ、魔王に逆らおうという者はいないという。

悪魔「いくらこの屋敷のあるのが魔王様の統治外で、あんたらはこっちの世界と関わりが薄くても、魔王様くらいは知っているだろう」

悪魔の言葉は脅しを含んでいるようだった。
すなわち、下手に逆らえば魔王が動くかもしれない、ということ。

だが。

執事「そうおっしゃられても、私どもにはわかりません」

執事ははっきりと言った。

執事「お帰り下さい。我々はそちらの世界と関わる気は一切ございません」

悪魔「そうか…」

媛「……」

諦めたような声に、媛は少しホッとする。
彼等が諦めずに無理矢理家探しでもされたらどうしようかと思ったが。

術師「そうだ。帰る前に一つ聞いていいか?」

執事「何でしょうか?」

術師「あんたら、天界の住人だよな?」

執事「…そうですが」

媛「…?」

術師「逃げた奴隷はな…天界の住人の血を引いているんだよ」

執事「…そうなのですか」

術師「話はそれだけだ。また来るかもな…ハハハッ!!」

媛「……」

媛にはそのやりとりの意図がわからなかったが、一つだけ察していた。
それは、魔王の使者達からの疑いは、晴れていないということだった。

51 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/17(木) 18:49:24.49 ID:YBBck8IZ0
執事「お嬢様、もう大丈夫ですよ。彼等はこの世界から抜けました」

少しして、執事がドア越しに声をかけてきた。
媛はすぐにドアを開け、彼を迎え入れる。

媛「執事さん…あの人達、また来るでしょうか」

執事「…恐らくは」

媛「……」

執事「ご心配なく。只今、使用人達で隠し部屋を片付けております。向こうが多少強引な手段を使ってきても、お嬢様の姿さえ見つからなければいずれは…」

媛「執事さんは、怖くないんですか?」

執事「はい?」

媛「魔王を敵に回すかもしれないと知って…怖くないんですか?」

執事「そうですね…怖くない、と言えば嘘になりますが」

執事の顔は落ち着いていた。

執事「私が怖いのは魔王そのものではなく、お嬢様の身の安全が脅かされることです」

執事はこんな時も、媛のことを考えてくれていた。

52 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/17(木) 18:50:03.32 ID:YBBck8IZ0
媛「執事さん…私が魔王に追われている理由、気になりませんでしたか?」

執事「…えぇ。気にならないと言えば嘘になりますね」

媛「私、色んな魔物の血を引く混血種なんです」

執事「ほう…」

今はどの種族も共存しているとはいえ、寿命差も身体能力の差もない同種族同士で結ばれるのがごく一般的だった。
媛は珍しいことに両親ともに混血種だったらしく、引いている血はどの種族のものも薄い為、外見に目立った特徴は表れていない。

媛「でも…魔王はそんな私の体に目をつけたんです」

執事「混血種の体に…ですか?」

媛「はい。魔王の子を産ませる為、らしいです」

媛の声は震え始めた。
これは直接聞いたわけではなく、主人が魔王の使者と話していたのを偶然聞いてしまったものだ。

媛「魔王の血筋というのは凄いらしくて…私に混じっている色んな魔物の力を引き出した子供を産ませることができるらしくって」

執事「それで逃げて来られたのですね、お嬢様」

媛「はい。…それで、話には続きがあって」

執事「?」

媛「魔王の子は胎児の頃から既に凄まじい力を秘めているらしく…強靭な肉体を持つ母体でないと、魔王の子は…」

媛はガタガタ震え始めた。
この先の言葉を言うのが恐ろしい。嫌でも自分が魔王の子を孕むことを想像をしてしまう。

執事「思い出しました…聞いたことがございます」

執事が言葉を遮る。その額には珍しく、動揺の汗が浮かんでいた。

そう、魔王の子は産まれる時――

母親の腹を突き破って産まれてくるのだ。

53 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/17(木) 18:51:00.64 ID:YBBck8IZ0
媛「奴隷は最下層の身分…私、自分は永遠に虐げられるものだと諦めていました。でも、そんな惨い死に方だけは嫌ですっ!!」

ぶたれて育ち、痛みに多少慣れていても、腹を破られるのは怖かった。
その話を聞いて、媛は逃げた。逃げ切れなければ舌を噛んで死ぬつもりだった。そっちの方が、遥かにマシだから。
何も持っていない奴隷なら、せめて死に方を選びたかったのだ。

媛「私、怖いんです…もし捕まれば、私は魔王の子を――」

執事「そんなことはさせません」

執事は強い言葉で媛の弱音を遮った。

執事「あの時の口付けに誓って、例え相手が何者であろうと、貴方を渡しはしません」

執事の目の光りは強い。
彼は初めて会った時も自分を守ってくれた。これからも守り続けてくれると約束してくれた。
相手が強大な力を持つ者だと知っても――

媛「…でも、執事さんの身に危険があるのでは。やっぱり、ご迷惑をかけるわけには…」

半分嘘をついてみた。

執事「危険など承知のこと。承知の上で貴方を守ると誓ったのです」

そうすると欲しい言葉を彼はくれる。

執事「私は命に代えても、貴方を守ってみせます」

彼は媛だけのものであると、誓いを持って証明してくれる――

媛「…執事さん」

自分はそんな彼によりかかってしまう。

執事「はい、何でしょう」

媛「今晩は――私の側にいて下さい」

54 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/17(木) 18:51:28.92 ID:YBBck8IZ0
執事「…お嬢様、ご心配されずとも大丈夫ですよ」

言葉の裏に隠された下心に気付いていない様子で、執事はニコリと笑った。

執事「寝込みをいきなり襲われる恐れはありません。この世界に誰かが足を踏み入れた瞬間、我々は察知し――」

媛「それでも…」

――あぁ、私はこんなにも計算高かったのか。

媛「怖いんです…側にいて下さい」

こう言えば、執事が何て言うかわかっている。
彼はきっと、拒まないだろう。

執事「…承知しました」

ほら。

執事「今夜は私が寝ずの番を致しましょう」

媛「ごめんなさい…」

執事「いえ。お嬢様の安眠をお守りするのも、私の務め」

媛(違う、そうじゃないの…)

――私はずるい。こんな状況すら利用して、彼を側に置きたいと思っている。彼に守られている状況に、快感を覚えている。

媛(私は、貴方を――)

だけどそれは越えてはいけないライン。
もし言葉にすれば、彼は離れてしまうような気がして。

媛「…私を、守って下さい」

そんな言葉でしか、側にいたいって気持ちを伝えることができなくて。

執事「それが貴方の願いならば」

――私は彼を騙す。
臆病な気持ちがずるい気持ちを隠して、怯える目で彼にすがって。

58 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/18(金) 18:41:18.69 ID:CjoMZL6X0
執事「お嬢様、白湯です」

その夜、執事は眠れずにいる媛に献身的に接してくれた。
媛の気を紛らわそうと物語の読み聞かせをしてくれたり、寝苦しいならと空気の入れ替えを定期的に行ってくれたり。

それが心地よいけど、足りない。
自分はいつから、こんなに贅沢になってしまったのか。

媛「…執事さん」

執事「何でしょう」

横になりながら執事に声をかける。

媛「手を、握って下さいませんか…?」

――眠れないのは胸がドキドキ言っているから。
だけど安心を欲しているのだと、私はまた嘘をつく。

執事「えぇ。…ご安心下さい、お嬢様」

彼の笑顔、暖かい手。罪悪感で心がぎゅっと締め付けられる。
だけど自分は確かに今、幸せだった。この時間を永遠にしたいと思える位に。

その日の夜は短かった。
彼と触れ合っている時間は、いくらあっても足りなくて。

59 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/18(金) 18:41:49.71 ID:CjoMZL6X0
猿少年「ここが隠し部屋だよ、お嬢様」

翌日、媛の生活する部屋は、絵画の裏側にある隠れ部屋に移された。
使用人達の勧めもあったが、何より媛自身も望んでのことだ。

犬男「一応掃除はしたけど、生活するにはやっぱなぁ…」

部屋の温度は丁度いいくらいだが、隠し部屋なだけあって陽の光が射さない部屋だった。
必要な家具は揃えたものの、何だか軟禁部屋に見えなくもない。

媛「いいですね、ここなら安心です」

雉娘「…本当にここでいーの?」

媛「以前いた所より立派なお部屋です!」

犬男「そっか。不便があったら何でも言ってくれ、できる限り叶えるから」

恐怖心が無くなったわけではないが、前よりは軽減された。
1日の多くをこの部屋で過ごしておけば、使用人達の心配も大分無くなるだろう。

執事「お嬢様、これを」スッ

媛「これは…」

執事「勝手ながら、花を生けさせて頂きました」

色とりどりの花。メインを飾るのは、1番好きなピンク色のチューリップ。

執事「これで部屋の景観も良くなるかと思いまして」

媛「…ありがとうございます」

愛の芽生え。そんな意味を持つ花を彼から受け取るのは、何て甘美なことか。
そんなことを密かに思ってにやけていると、猿少年が不思議そうに首を傾げた。

猿少年「あれー? 媛、そんなに花好きだったっけ?」

媛「はい、好きになりました」

彼への想いが込められた花だから。

媛「色々ご迷惑おかけしますが…皆さん、宜しくお願いしますね」

それだけで、とても元気づけられた。

60 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/18(金) 18:42:27.34 ID:CjoMZL6X0
媛は隠し部屋にいて遭遇しなかったが、何度か魔王の使いがやってくることがあった。

1度どうしてもとしつこく食い下がられたこともあったが、屋敷中を探させて証明したそうだ。
それで納得したのかは知らないが、それから使者が来なくなって一週間が経過した。

媛「スリルありますねぇ」

執事「楽しんでる余裕などありませんよ。こちらはヒヤヒヤです」

媛「ふふ、ごめんなさいね」

だけど彼らの対処法が完璧で、緊張感も抜けてくるというものだ。

媛はというと、部屋で過ごす時間を掃除や裁縫に費やしていて、この生活に順応していた。
使用人達が定期的に部屋に来てくれるお陰で、寂しくもなかった。

媛「でもどうしてここが目をつけられているんでしょうね?」

執事「天界の者は仲間意識が強いと言われております。ですから同じ天界人の血を引いているお嬢様を庇っている、と読んでいるのかもしれません」

媛「なら、他にいらっしゃる天界の方々も疑われているのでしょうか」

執事「どうでしょうね。まず天界を離れている天界人自体がそうそうおりません」

媛「そ、そうなんですか」

初めて知った。自分の無知が恥ずかしい。

媛「あ、なら何で執事さんは天界を離れられているんですか?」

執事「貴方に奉仕する為ですよ、お嬢様」

媛「まぁ」

執事の笑みは珍しくイタズラっぽさを含めている。
これは嬉しい冗談だ。

執事「お嬢様は気にはならないのですか。ご自分に混ざっている天界人の血のことが…」

媛「前にも言った通り、私は混血種ですから。天界人の血も、その中の一つですよね」

執事「…そうかもしれませんね」

媛「あ、でも。執事さん達と同じ種族の血が混ざっているのは嬉しいですよ」

執事「……」

媛は気が付かなかった。執事は笑顔の裏で、複雑な思いを抱いていたことに。

執事「…違う。貴方の血は、もっと尊い……」

媛「え?」

執事「いえ。それより紅茶のお代わりはいかがですか?」

媛「頂きますっ」

61 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/18(金) 18:43:01.12 ID:CjoMZL6X0
魔王の使者が来なくなって更に一週間が経過した。
この頃には当初のような緊張感も大分抜けてきていた。

媛(執事さん、お仕事中かなぁ)

媛自身も恐怖心が抜けてきて、執事が会いに来てくれるのを待つばかりだった。
最近は暇つぶしに編み物を始めてみた。そろそろ寒くなる時期だと思うが、この屋敷周辺にも四季はあるのだろうか。

媛「出来た。あったかマフラー!」

グレー地に、白や黒の縞模様を入れたデザインは男物。

媛(執事さん喜んでくれるかなぁ)


~妄想~

執事『ありがとうございます、お嬢様。お嬢様の気持ちがこもっている分、暖かいです』

媛 『喜んでくれて良かったです…へくしゅっ』

執事『お嬢様、まさか冷えましたか? これを』

媛『これは…マフラー恋人巻き!?』

執事『お嬢様の温もりをお守りするのも私の役目…』

媛『執事さん…熱いです』

執事『温もりを共有しましょう、お嬢様…』

~妄想終了~


媛(ってええぇ、私ったらはしたないっ! でも恋人巻き、いいなぁ)

執事「お嬢様」トントン

媛「きゃあぁ!?」

執事「…? 失礼致しました、出直しましょうか」

媛「いえいえっ! 入って下さい!」

執事「では…失礼します」ガチャ

媛「待ってました、執事さん!」

媛は笑顔で執事を出迎えた。

62 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/18(金) 18:43:39.30 ID:CjoMZL6X0
媛「これ、執事さんにプレゼントです!」

執事「マフラー…私にですか?」

執事はキョトンとしていた。

媛「これから寒くなりますから…あっ、気に入らなかったら犬さんか誰かにあげても」

執事「まさか。お嬢様が私の為に編んで下さったものが、嬉しくないわけないでしょう」

執事は温和に微笑んだ。そしてマフラーを首に巻き、嬉しそうに顔を埋める。

執事「暖かいです。これは重宝しますね」

媛(恋人巻き…は、できそうにないなぁ)

でも、執事の反応を見て、作って良かったと思えた。

媛「寒くなったら、花も枯れてしまうのでしょうか」

執事「そうですね。そして雪が降り花壇を埋めてしまいます」

媛「枯れる前にもう一度、庭園を散歩したいですね」

なんて、ワガママだけれど。執事がこうやって来てくれるだけでもありがたいのだから。

執事「そうですね…魔王の使者が来なくなりましたし、そろそろ出ても大丈夫かもしれませんね」

媛「本当ですか?」

執事「万が一やって来たとしても、この世界の入り口から屋敷までそれなりに距離がありますので、お嬢様が隠れる時間は十分にございます。…勿論、用心するに越したことはありませんが」

媛「でも、私も大丈夫だと思います。そろそろ、外に出てみたいです」

執事「では他の者にも伝え、外出準備をして参ります。少々お待ちを」

そう言って執事は部屋から出て行った。
久しぶりの庭園のデート…考えただけで心がウキウキした。

63 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/18(金) 18:44:23.14 ID:CjoMZL6X0
媛「以前より冷えてきましたね」

久しぶりに外の空気に触れ、季節の変わり目を実感する。
とはいえ、まだマフラーには早い時期だが…。

媛「…」

執事「?」

執事はマフラーを巻いてくれていた。こちらに気を使ってか、冷え性なのかはわからない。

媛(執事さんは痩せてるから、寒さに弱いだけよね。まさか私のマフラーをすっごく気に入ってくれたとか、そんな思い上がりはダメダメ)

執事「では少し散歩しましょうか。今、犬がアップルパイを焼いておりますので、散歩後にティータイムでも」

媛「わぁ、いいですね。アップルパイってサクサクした食感がクセになりますよね」

執事「猿は林檎をそのまま食べる方が好きなようで、摘み食いをして犬に叱られていましたね」

媛「あはは、猿さんらしいですね」

そんな他愛ない話をしながら庭園を歩く。
庭園の花は相変わらず美しいが、景色はあまり頭に入ってこない。

執事「そしてですね…」

場所は関係ない。執事と一緒に歩いていることが重要なことなのだから。

媛(手とか繋ぎたいなぁ)

執事は意識してか、媛と並びながらも一定の距離を常に保っている。
近づきすぎては無礼だ、という配慮が身に付いているのは、いかにも執事らしい。

媛(無礼でも構わないんだけどなぁ)

主人と執事――そんな距離感がもどかしく感じる。
彼は自分の執事だから側にいてくれる。側にいてくれる、それだけで幸せなことなのに、もっともっと近づきたいとも思う。

媛(我慢しなきゃ、我慢)

そんな、執事との距離が近づくなんて――

執事「――っ!!」バッ

媛「えっ!?」

急なことで、媛の頭は追いついていなかった。
だが――

媛「し、し、ししし執事さん!?」

執事は媛の体をその胸に抱きしめていた。

64 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/18(金) 18:44:52.40 ID:CjoMZL6X0
執事「クッ、油断しました」

媛「え…?」

だがロマンスとは程遠い、執事の緊迫した雰囲気を察し、その視線の先を見る。

媛「っ!?」

媛と執事が先ほどまで立っていた位置。そこには、何か黒い光の球が浮かんでいた。

「捕獲失敗…」

媛「えっ!?」

声と同時に球が消える。
執事が振り返り、その動作を追って媛も振り返る。

術師「ようやく姿を現したか。全く、ただ潜んでいるのも楽ではなかったぞ」

悪魔「やっぱりテメーら、隠してやがったんだな」

魔王の使者達がいた。

執事「気配を完全に消して屋敷周辺に潜むなど…まさか、地上の方々にそこまでの芸当ができるとは思っておりませんでしたよ」

術師「天界の奴はやっぱ傲慢だな。お前達が見下している、地上に住む者に欺かれる気分はどうだよ?」

執事「えぇ。最悪です」

悪魔「ケッ。見下していることを否定すらしねぇ」

早くも両者の間の空気は最悪だった。
かと言って、こちらが下手に出たところで何とかなる話ではない。

悪魔「その娘を渡して貰おうか」

執事「お断り致します」

術師「痛い目に遭いたいか」

執事「望むところです。お嬢様の居場所が知られた以上、貴方がたには口封じの必要がありますのでね」

執事はそう言うと懐からナイフを取り出した。

執事「お嬢様、屋敷の中へお逃げ下さい。ここは私が…」

術師「させるか!」

媛「っ!」

四方を囲むように、電気の壁が張られた。
先手を打たれた――これでは逃げるのは不可能。

執事「…仕方ありませんね。お嬢様、そこから動かないように」

67 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/19(土) 16:35:41.92 ID:7VLWIYLk0
術師「ハァッ!」

術師の手から大きな炎が放たれ、執事に襲いかかった。

執事「はっ!」

一閃、ナイフで炎を切る。
執事のナイフに何か仕掛けがしてあるのか、それで炎は消えた。

悪魔「さっすが天界人、芸達者だねェ!! そんじゃ、コイツはどーよっ!?」

執事「!」

悪魔は執事との距離を一気に詰め、長い爪で襲いかかってきた。
ナイフと爪での打ち合いにカンカンと高い音が響いているが、媛の目では追えない。

悪魔「そんじゃ、これはどーよっ!?」バサァ

悪魔は翼を広げ、高く飛んだ。そして――

悪魔「オラアアァァ!!」

超スピードで執事めがけて急降下する。

しかし執事は見切っていた。跳躍してかわし、悪魔は地面を大きくえぐった。

だが――

術師「ハアァッ!」

執事「くっ!」

回避と同時、術師が執事に向けて攻撃魔法を放った。
執事はそれをナイフで切って防御――したように見えたが、

執事「…っ」

媛「執事さん!」

タイミングがずれたのか、執事は肩に怪我を負った。

68 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/19(土) 16:36:13.47 ID:7VLWIYLk0
媛(2対1は不利なんじゃ…)

以前執事が助けてくれた時と数は変わらないが、相手は屋敷のセキュリティを欺く技量の持ち主だ。あの時の相手とは、比べ物にならない。

術師「行くぞ悪魔、こいつを倒し魔王様の願いを!」

悪魔「あぁ、こいつに邪魔はさせねぇ!」

執事「くっ」

術師と悪魔、それぞれの攻撃には対処できていた。
しかし2人がかりで来られると対処しきれず、わずかずつだが執事はダメージを受けていた。

そして――

執事「――っあぁ!」

媛「執事さん!!」

隙を突かれた悪魔の体当たりに、執事は体を吹っ飛ばされた。
ダメージが大きかったのか、すぐに起き上がらない。

悪魔「よし。あとは…」

媛「!!」

悪魔がこちらを睨む。
媛は硬直し、そこから動くことができない。

悪魔「手間かけさせやがって…さぁ、国の為に来い」

媛「い、や……」

後ずさりしようにも、後ろは壁。間違いなく、媛は追い詰められていた。

執事「させるか…お嬢様……」

媛「執事さん!」

執事は肩を押さえながらヨロヨロ立ち上がる。
しかし――

術師「お前は寝ていろ!」

執事「――っ!!」

術師の攻撃により、再び地面に身を叩きつけられた。

69 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/19(土) 16:36:43.82 ID:7VLWIYLk0
執事「くっ、お嬢様…」

それでもなお、執事は立ち上がろうとしていた。
いけない。このままでは、また攻撃を喰らってしまう。

媛(私がその身を差し出せば――)

少なくとも、執事の命は助かる。
だけど、踏ん切りがつかない。

媛(捕まってしまえば、私は逃げることも戦うこともできない…)

あまりにも無力すぎる。身を差し出すというのは、腹を破られて死ぬことに直結する。
執事を殺される位なら、命を差し出す方がマシ。なのにその末路を考えるだけで恐ろしくて、その足が前に進まなくて――

媛(執事さんを助けるには…)

媛は後ろを振り返る。あるのは電気の壁。身を投じれば即死は間違いないだろう。

媛(でも)

それは今自分に残された選択肢の中で、最良ではないか――

媛「…執事さん、今までありがとうございました」

執事「お嬢、様?」

媛の意図がわからなかったのか、執事は疑問符を浮かべていた。
だが、媛が後ろを振り返ると同時――その先を察したのか、声を荒げた。

執事「お嬢様! いけません、それは――」

媛「もう他に手段はないんです。執事さんに生きていて欲しいから」

卑しい奴隷である自分を主人として慕ってくれて、受け入れてくれた。楽しい時間をくれた。尊い思い出をくれた。
ほんの少しの期間だったけど、それだけで幸せなことではないか。

術師「自害か!? させるな!」

悪魔「くっ…」

感謝を述べたいのに、その時間すらない。
だけど、この言葉だけは。

媛「執事さん」

初めて会った時から、私は貴方が――

媛「――大好きでした」

執事「――!」

70 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/19(土) 16:37:16.60 ID:7VLWIYLk0
――私はまた、守れないのか

体がついてこず、執事はそれを止めることができなかった。
媛が電気の壁に身を投じる瞬間、執事の頭の中に様々な思い出が駆け巡った。


『執事、貴方がいるだけで心強いわ』

それは、遠い昔の記憶。

『貴方は私の大切な人』

かつて彼にとって大事な存在だった人。

『私を、守って下さい』

それは失われた愛――


また失ってしまう。
大事な人を、主を、守るべき存在を――


――貴方を、また失ってしまう


執事「お嬢様あぁ――っ!!」


執事は初めて取り乱し、叫んだ。

だが媛は吸い込まれるように、壁に身を投げていった――

71 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/19(土) 16:37:45.57 ID:7VLWIYLk0
「させないよ!」

執事「っ!!」

媛が姿を消した。
壁に焼かれたか――いや、違う。

悪魔「上空だ!」

執事は上を見上げた。すると、そこにいたのは――

雉娘「間一髪! あーヒヤヒヤしたー」

媛「雉さん…」

雉娘が媛の体を掴んで羽ばたいていた。
そして高い木から、何者かが壁の中に飛び込んできた。

執事「全く…遅刻は厳禁ですよ」

執事はその姿を認めると、ほっとしたように冗談めかして言った。

猿少年「ウキー、わっり! こいつらの気配は察知してたけど、こいつら、ここまでの道にも罠を仕掛けてやがって!」

飛び込んできた猿少年は執事を助け起こす。
その間に雉娘は、壁の外に媛を下ろした。

犬男「さて、俺をこん中に運ぶ番だぜー」

雉娘「アンタ重いから、イヤー」

犬男「んだとコラ! 俺は飛べねぇし木にも登れねぇから仕方ねぇだろ!」

雉娘「はいはい。高くツケとくよー」

そんなやりとりの後、犬男と雉娘も壁の中に入る。

72 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/19(土) 16:38:19.38 ID:7VLWIYLk0
猿少年「数ならこっちが有利だよ。まだやるつもりか?」

悪魔「数だけ揃えて何になるよ。テメーら、その執事ほど強くねぇだろ!」

雉娘「まぁねー」

術師「大人しく降伏しろ、そうすればお前達の命は…」

犬男「ハァ? 何でお前達みたいな卑しいのに命乞いしなきゃならねぇんだ?」

術師「何だと。死にたいのか」

執事「こちらの台詞です」

そう言った後、犬男、猿少年、雉娘が執事の前に出て、全員で手を重ねた。

犬男「コレも何百年ぶりだろうな。お前ら、やり方忘れてねぇだろうな?」

猿少年「まさかー。『本来の姿』を忘れるわけないじゃん」

雉娘「ここまでしておいて負けないでよ、執事」

執事「お任せ下さい。貴方がたの力は、きちんと受け取ります」

3人の重ねた手から魔力のようなものが溢れる。
何かが起ころうとしているのは、媛の目にも明らかで。

術師「何だかわからんが、させるか!」

術師は攻撃魔法を続けて打ち込んだが、

悪魔「ゲッ。何だと…」

その魔法は、3人の魔力によって打ち消された。


犬男「これぞ俺らの真の姿!」

猿少年「我らは天界の使いを守護する者!」

雉娘「今、擬人化の魔法を一時解除する!」

そして辺り一面は光に包まれ――

媛「何、あれ…」

そこに3人の姿はなく、代わりに執事の手に、荘厳な剣があった。

73 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/19(土) 16:38:56.51 ID:7VLWIYLk0
執事「この剣こそが3人の真の姿…普段は3つの使い魔に姿を変えていますが」

そう言っている間にも撃ち込まれる攻撃魔法を、剣はその光で打ち消していく。

執事「無駄ですよ。この剣は魔法効果を打ち消す盾にもなる」

悪魔「クッソ!」

今度は悪魔が飛び立ち、執事に向かって急降下していく。

悪魔「そんなデケェ剣、テメェの細腕で…」

執事「扱えますよ」

悪魔「っ!」

一瞬にして、剣は悪魔の喉元に突き付けられた。

執事「彼らは私の使い魔。剣となっても、私の手足としての力を発揮してくれるのです」

術師「反則だろ、それは…」

執事「あぁ。地上の方々には反則に感じるのですね」

執事は余裕すら浮かべて嘲るように笑う。
勝ちを確信したんだ――媛は悟った。

執事「終わらせて頂きます」

執事は剣を構え、敵に突っ込んで行った――

74 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/19(土) 16:39:24.56 ID:7VLWIYLk0
だが。

執事「――っ」

剣は途中で止められた。

術師「あ…」

悪魔「っ」

敵も剣に対する対処法がなく、執事の勝利は確定した――そう思えたのだが。

媛「え…っ」

執事は説明しなかったが、その剣は地上において切れぬものは存在しないとも言われていた。

その剣を止められる者がいるとすれば、それは――


魔王「…ふむ、見事な剣だ」


地上において最強に近い存在だけだろう。


77 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/20(日) 10:51:51.18 ID:HIzJBHQO0
執事「…魔王ですか?」

執事は動揺を見せずに言った。
目の前の相手の正体に気付いたのは、その者の放つ威圧感のせいか。

魔王「いかにも。勝手ながらこちらの世界に入らせて貰ったぞ、天界の者よ」

執事「魔王と言えど、不法侵入は許せませんね」

穏やかな様子の魔王とは対照的に、執事は殺気を隠しもしない。その様子が、2人の余裕の違いを表しているようだった。

魔王「まぁ待て。我は戦いに来たわけではない」

執事「戦わず降伏しろということか。お嬢様を貴様に渡しはしない」

魔王「ふぅ」

まるで聞き分けの悪い子供を相手しているかのように、魔王は困っている様子だ。

魔王「我もその娘を必要としているのだ」

執事「それはお嬢様の意に反します。何より、お嬢様に貴様の子など産ませるものか」

魔王「なら」

魔王は考える間もなく言った。

魔王「子を産ませなければ譲ってくれるか?」

執事「…何だと」

媛「はい…?」

その信じられない言葉を、頭はすぐに理解しなかった。

78 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/20(日) 10:52:20.62 ID:HIzJBHQO0
魔王「もう一度言う。我はその娘に子を産ませるどころか、一切手出しはしない」

執事「…何のつもりだ」

魔王「そもそも、どこからその様な話が出てきたのだ。我は元より、そんなつもりはない」

媛「えっ」

媛は思い返した。確かに直接そう言われたわけではないが…。

媛「ご、ご主人様が話しているのを偶然…」

魔王「なるほど。つまりお主の主人の妄言を真に受けたということか」

媛「妄言…えっ!?」

わけがわからなかった。

魔王「魔王自らが奴隷を見初め、買い取るとなっては、その様な誤解が生まれるものか。心外だな」

執事「だとしたら、貴様はお嬢様に何をするつもりだ?」

魔王「お主、天界を離れているのか?」

執事「…えぇ。天界を離れ300年になる」

魔王「…そうか。お主が、『天女の執事』か」

執事「…」

媛(天女の…?)

初めて聞く名に媛は困惑した。

79 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/20(日) 10:53:04.37 ID:HIzJBHQO0
魔王「300年前――この世界は今以上に荒れ果てていた」

魔王は突然話し出した。
世界の現状。飢饉と死病に侵された時代だというのは、無学の媛でも知っていた。

魔王「そこで天界より、この世界を救済すべく、1人の女が執事を伴って降りてきた。それが、天女だ」

媛「じゃあ、執事さんは…」

執事「…えぇ。天女様に付いて、私はこの地上へ降り立ちました」

今まであまり気にしたことも無かったが、執事がこの世界にいるのには理由があったのか。
だが、同時に疑問が生まれた。確か執事は、この世界に封印されていたはずだが――

魔王「天女の祝福により、作物は実り、死病は鳴りを潜め、世界には祝福がもたらされた」

執事「あの方は、この世界を想っておいででしたからね」

魔王「あぁ。天女がいなければ、世界は滅んでいただろう」

執事「…そんな天女様を」

一旦落ち着いたかに見えた執事の様子がまた変わった。
目は憎しみに染まり、今にでも目の前の魔王に飛びかからんばかりに。

執事「貴様等、地上の者は裏切った! 最悪の形で!!」

魔王「…」

媛「裏切った…?」

魔王「天女は地上の女には持ち得ない神秘性を秘めた、美しい女だったと聞く」

まさか。

魔王「時の権力者達は天女に欲情し――陵辱した」

媛「!!」

正に執事の言う通り、最悪の形の裏切りだった。

80 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/20(日) 10:53:53.07 ID:HIzJBHQO0
執事「天女様は心を壊し、そして亡くなられた」

執事は嘆く。主人を陵辱された彼の心の傷は、今なお癒えていない。

執事「私は天女様を守りきれず、地上の者らによって封印された。だが封印されている間も、貴様等地上の者への憎しみは収まらなかった」

魔王「…天女の祝福を失った世界は、再び荒んでいった」

執事「全て自業自得というものだ」

執事は冷淡に言い放った。
その言葉に、魔王は心を痛めたようにうつむく。

魔王「天女を率先して陵辱したのも、お主を封じるよう部下に命じたのも、我の先祖だ」

そう言えば、執事が封印された場所も魔王の国だった。
と考えた所で、媛の頭をピリッとした痛みがはしった。

媛(あれ…? 私、その話…)

執事「貴様は天女様を汚した者の子孫だ。天女様の次はお嬢様を奪って、何をしようと言うのだ」

魔王「我は、天界に許しを請うた。天界の祝福なくして、この世界はもう存続できぬ」

執事「調子のいい。地上などそのまま滅びてしまえば良いだろう」

魔王「同じことを言われた。だが我は何年もかけて嘆願してきた」

媛(魔王自ら?)

媛は魔王のことをよく知らなかったが、襲撃も裏切りも許さぬ程の力と威圧感を持つ王だと聞いていた。
だから魔王に対して恐ろしいイメージを抱いていだが、まさか魔王自ら天界に許しを請い、嘆願するとは…。

魔王「そして天界の者は、我らを許す条件を提示した」

執事「その条件とは?」

魔王「…この世界にいる、天女の子孫13人を集め、天界に返すことだ」

媛「!!」

確か、自分は天界人の血を引いているとの事だった。
では、魔王が自分を求めていた理由とは――

媛「私が天女の子孫…ということですか?」

魔王は頷いた。

81 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/20(日) 10:54:56.62 ID:HIzJBHQO0
魔王「我が見つけた天女の子孫はお主で6人目だ。なるべく穏便に連れてこいと部下には命じていたのだが…」

術師「申し訳ありません、魔王様」

悪魔「穏便に伝えても渡してくれそうになかったもので」

執事「…あぁ。貴様等は信用ならないのでな」

媛「あ、あのっ」

場違いかと思ったが口を挟む。
魔王の言っていることが本当なのか、執事同様、まだ信じられないのはあるが――

媛「それなら、そうと全世界に通達すれば良いのでは! そっちの方が絶対スムーズに…」

魔王「それこそ悪手だ」

魔王はきっぱり言った。

魔王「一部の権力者には、世界の現状をこのままでと望んでいる者もいる。悪知恵の働く奴なら、天女の子孫を人質に天界に交換取引を持ちかける奴もいるだろう」

媛「えーと…?」

執事「地上の者は救いようのない者ばかりということです」

それは違うのでは、と思うが、地上の者を憎む執事の気持ちを思うと、簡単に否定はできない。

魔王「こちらが勝手なことばかり申しているのはわかっている。だが我はそれでも、この世界を救いたい」

媛「わっ!?」

魔王はついに頭を下げた。
あの、恐怖の魔王が。奴隷の自分なんかに。

魔王「頼む…この世界を救う礎となってくれ」

媛「私…は…」

82 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/20(日) 10:55:35.08 ID:HIzJBHQO0
媛「――」

その時、媛の頭の中に映像が浮かんだ。
それは屋敷でもない、地上でもない、ここではない情景。


『地上の世界を救うべく、参りましょう』

懐かしい声がした。

執事『はい、天女様』

――執事さん?

天女『地上は荒れ果てていると聞きます…ですが必ずや、地上の人々を救ってみせましょう』

この声の持ち主は――

天女『執事、私には貴方だけが頼りです』

――あぁ、思い出した。


天女『私を、守って下さい』

執事『それが貴方の願いならば』

84 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/20(日) 18:11:58.67 ID:HIzJBHQO0
媛「あ、ああぁ…」

執事「お嬢様?」

全て思い出した媛は涙をぽろぽろ流していた。
信じられない話が全て事実だと、ようやく実感した。

媛「執事さん…貴方は前世でも、私を守って下さいましたね」

執事「お嬢様…! 前世の記憶が…」

媛「えぇ、思い出しました。私は地上を救うべく、天界より降り立ったんです」

天界の者達は、できるわけないと笑っていた。
だけどそんな仲間達を振り切り、自分は降り立った。

地上の世界での生活は決して楽ではなかった。
荒んだ心の人々に混じり、痛い目に遭うこともあった。
それでも世界を祝福し、人々に笑顔が戻るまで耐えることができたのも――

媛「私が笑う時、喜ぶ時、楽しい時、泣く時、辛い時、苦しい時――貴方は側にいてくれた」

執事「…貴方の側にいることが、私の幸せでした」

執事は哀しげに笑う。
その目は媛ではなく、天女を見ているのだろうけれど――

執事「私は――貴方を愛していました」

媛が最も欲しかった言葉を彼はくれた。

85 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/20(日) 18:12:35.11 ID:HIzJBHQO0
魔王「そうか、お主は天女の生まれ変わりでもあったか…我の先祖がすまないことをした」

媛「貴方のやったことではありません。気に病む必要はありません」

天女を陵辱した者を憎む気持ちがないと言えば嘘になるが、少なくともこの魔王のことは、許しておくべきだと思った。
そして、決断する。

媛「私が地上に降り立ったのは、地上を救う為――その力を失いはしましたが、礎のひとつとなることはできる」

執事「!」

魔王「では…」

媛「帰ります、天界へ」

執事「お嬢様、お待ち下さい!」

執事は焦った様子で媛を止める。

執事「地上の者はきっとまた天界を裏切る。救いなどくれてやる必要は…」

媛「地上は『私』の生まれた世界です」

執事「ならば尚更。地上の世界はずっとお嬢様を虐げてきたではありませんか。そんな世界でも救うと?」

媛「はい」

媛ははっきりと言った。

媛「私は決して、地上の世界が好きなわけではありません。最下層の奴隷に生まれ理不尽な目に遭って生きてきた。それでも…」

天女と媛。2人分の気持ちがごちゃまぜになって、考えはまだまとまっていないけど――

媛「見てみたいんですよ。救われたこの世界を」

執事「お嬢様…」

86 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/20(日) 18:13:00.90 ID:HIzJBHQO0
まだ地上に来たばかりの頃か。
その頃は、天女の話に耳を傾けず、石を投げてくる者も多かった。
執事は怪我を負った天女に、もう帰ろうと言ったことがある。

天女『いいえ、私は地上を救いに来たのだから』

だけど天女は考えを曲げなかった。

天女『彼らの心が荒んでいるのは、世界が荒んでいるからですよ』

天女『救われればきっと、世界は笑顔で溢れてくれる』

天女『私は、救われたこの世界を見てみたいのです』


生まれ変わっても、天女の魂は消え失せていない。
そればかりか、荒んでいた執事の心に、再び光を与えてくれた。

執事「貴方という方は、本当に――」

――本当に、誰よりも輝いているお方だ。


執事は媛に跪き、手を取った。

執事「天界の者は排他的な所があり、地上の者の血の混ざっていらっしゃるお嬢様を温かく迎えてくれるとは限りません」

天女の子孫を返せ、という要求も、決して彼らを天界の住人として受け入れるということではなく、魔王に対する重圧のつもりだろう。
天界に帰り、どんなことが待っているかは執事にもわからない。だが――

媛「私を、守って下さい」

彼女がそれを望むのなら――

執事「それが貴方の願いならば」

奉仕するのが、自分の役目だから。

87 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/20(日) 18:13:40.05 ID:HIzJBHQO0
それから媛は天界に帰ったが、案の定、天界は彼女を快く出迎えはしなかった。
彼女に与えられたのは天界でも郊外にある地。これは事実上の排他である。

執事はそこに屋敷のある世界への入り口を設け、媛は今まで通り、屋敷で生活することとなった。

猿少年「媛ーっ、おやつだぞー!」

犬男「ティータイムにバナナをそのまま出す馬鹿がいるかーっ!」

雉娘「その馬鹿におやつ係任せたのは誰だよ」

媛「あはは。バナナも好きですよ」

この程度の冷遇、屋敷での生活を満喫している彼らにとっては冷遇の内にも入らない。

執事「只今戻りました」

媛「あ、執事さん。どこ行ってらしたんですか?」

執事「庭園にあるものを倉庫に片付けておりました。雪の季節が近づいていますからね」

媛「寒い中、お疲れ様です。皆さんとお茶を頂こうと思っていたんですが、執事さんもいかがですか?」

執事「では、お言葉に甘えて」

猿少年「ティータイムの時はマフラーとれよー」

執事「あぁ。そうですね、これは汚してはなりませんからね」

媛「ふふっ」

彼らの生活は、以前と何ら変わらなかった。

媛(だけど…)

ひとつ、やり残したことがあった。

88 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/20(日) 18:14:08.19 ID:HIzJBHQO0
執事「ふぅーっ」

これから来る冬に備えて薪を集めていたら、すっかり遅くなってしまった。

媛「お帰りなさい、執事さん」

執事「お嬢様。まだお休みになられていなかったのですか」

媛「えぇ。何だか、眠れなくて」

執事「左様ですか。白湯でも淹れましょうか?」

媛「いえ、遠慮しておきます。それより…」

執事「それより?」

媛「私の側にいて下さいませんか?」

執事「…」

執事はキョトンとした。

執事「お嬢様、もうお嬢様を追う者はいないのですよ。ですから安心して…」

媛「執事さんに、お話があって」

執事「お話…ですか?」

媛「はい」

執事「ここでは出来ぬ話ですか?」

媛「私のお部屋で」

執事「かしこまりました。では、お部屋で」

89 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/20(日) 18:14:58.81 ID:HIzJBHQO0
部屋に入り、2人きりとなった。媛は何だか落ち着かなくてそわそわしているが、そんな様子を見て執事は首を傾げる。

執事「どうなさいました? お嬢様」

媛「あっ、あの……」

呼び出したはいいが何と言っていいのか。

話の切り出し方に迷って…あることを思い出した。

媛「こ、これ! 受け取って下さい!」

執事「これは…生け花ですね」

媛「庭園のお花はもうすぐ枯れてしまいますから…そうなる前に、生けてみたんです」

執事「赤いチューリップ…ありがとうございます。私の好きな花を生けて下さるとは」

媛「花言葉、調べてみたんです」

執事「……」

媛「執事さんなら…赤いチューリップの花言葉、知っていますよね?」

執事「……えぇ」

天界に来てからも、2人の距離感は変わらなかったけれど。

1度互いに言った気がするけど、うやむやになったままだ。

だから、改めて言わねばならない。

執事「『愛の告白』」

花の力を借りて、もう1度言う。

90 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/20(日) 18:15:27.64 ID:HIzJBHQO0
媛「いつからかはわからないけど――」


執事『後はこの私が貴方をお守り致します、お嬢様』


媛「貴方は私を初めて守って下さった方で」


執事『説明をお急ぎになるお気持ちはわかりますが…まずは御御足の治療を先に致しましょう』


媛「私に優しくして下さいました」


執事『貴方の側に仕え、貴方が笑う時、喜ぶ時、楽しむ時…その時を貴方と共有したいのです』

執事『この私が、貴方を泣かせはしません。辛い思いからも苦しい思いからも、私がお守りすると誓いましょう』


媛「貴方から誓いを受けた時、私は既に貴方に心を奪われていました」

目覚めた愛は自覚した後もなお、秘めていた。

だけどもう、想っているだけじゃ我慢できない。側にいるだけじゃ足りない。

媛「私は、執事さんが好きです」

執事「……」

91 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/20(日) 18:15:55.30 ID:HIzJBHQO0
執事「女性の口から言わせてしまうとは、一生の不覚――」

執事は苦笑した。

執事「1つ言い訳をさせて下さい。私は封印されていた時から、貴方が天女様の生まれ変わりであるとわかっておりました」

媛「えぇ」

そのことを今まで執事は語らなかったが、そうだろうと思っていた。

だから初対面の自分をお嬢様と呼び、守ると誓ったのだ。

執事「私はかつて、天女様を愛しておりました――ですが」

執事は真っ直ぐ媛を見据えた。

執事「お嬢様と生活を送る内、貴方は天女様ではない、天女様とは別の、お嬢様という存在であるのだと意識が変わっていきました」

赤いチューリップを媛に差し出す。執事もまた、花の力を借りていた。

執事「私もお嬢様をお慕いしております。主としてだけではなく、1人の女性として――」

媛「執事さん……」

92 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/20(日) 18:16:24.53 ID:HIzJBHQO0
執事「っ」

媛はそっと執事の胸に体を寄せる。

執事は恐る恐るといった様子で、彼女の体を抱きしめた。

媛「もっと強く抱きしめて下さい」

執事「心配なのです…繊細な貴方を壊してしまわないかと」

媛「私は壊れませんよ。貴方が愛して下さる限り」

執事「お嬢様……」

目と目が合う。2人の目は夢を見ているように朧げだが、確かに互いの想い人を見つめていた。

媛「誓って下さいますか、執事さん」

執事「貴方が望むことならば」

媛「私を――永遠に守って下さい」

執事「それが貴方の願いならば――いや、」

執事から媛に口付けを交わす。唇へのキスは愛の誓い。

触れるように優しくて、それでいて情熱を秘めている唇は、しばらくの間離れることはなかった。

情熱がまだ冷めぬ頃、執事の方から唇を離した。言わねばならないことが残っていた。


執事「永遠に貴方を守る――それは、私の願いです」



Fin

93 : ◆WnJdwN8j0. [saga]:2015/12/20(日) 18:16:51.16 ID:HIzJBHQO0
ご読了ありがとうございました。また機会があれば執事ものが書きたいです。

過去作も宜しくお願いします
http://ponpon2323gongon.seesaa.net/

94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/20(日) 19:09:21.93 ID:13T/hHgSO

途中ドキドキしたけどハッピーエンドでよかった

95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/20(日) 20:15:34.41 ID:l/NoxQSBo


96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/20(日) 20:22:23.95 ID:EV02faULo

現魔王サイドの話も見たかった気がする

97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/20(日) 21:06:49.10 ID:BbnvEZdvO
乙でした
後日談書いてもいいんだよ?(チラッ

98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/20(日) 23:52:48.60 ID:AnB2OyJX0



posted by ぽんざれす at 08:19| Comment(4) | ss | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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